法制審議会 商法(運送・海商関係)部会 第9回会議 議事録 第1 日 時  平成27年1月14日(水) 自 午後1時30分                       至 午後4時54分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  商法(運送・海商関係)等の改正について 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○山下部会長 それでは,予定した時刻でございますので,法制審議会商法(運送・海商関係)部会第9回会議を開会いたします。  明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。本日もまた御多忙の中を御出席いただきまして,誠にありがとうございます。本日は,石原委員,岡田幹事,谷口関係官が御欠席とのことです。  では,まず本日の会議の配布資料の確認をさせていただきます。事務当局からお願いします。 ○松井(信)幹事 それでは,お手元の資料について御確認いただきたいと思います。部会資料10「中間試案のたたき台」を事前送付いたしましたほか,参考資料24と参考資料25について日本船主協会様から意見書を頂いておりますので,これを席上配布しております。この部会資料10のうち,中間試案としてこの部会における取りまとめの対象となりますのは,太字ゴシックで書かれている部分でございまして,部会資料10の補足説明は今回の審議のために特に付したものでございます。  なお,旅客運送に関する項目につきましては,旅客運送分科会において取りまとめられた中間試案の原案を合体した上で,部会の皆様には中間試案の取りまとめの段階で後ほどお示ししたいと考えております。  また,部会資料10には【P】,ペンディングという意味の文字を付している箇所が幾つかございますが,これらの点につきましては,本日参考資料として配布いたしました日本船主協会様の意見書の内容も踏まえた上で,次回の部会資料においてたたき台をお示ししたいと考えております。 ○山下部会長 よろしいでしょうか。それでは,本日の審議に入りたいと思います。  本日は,部会資料10について御審議いただく予定でございます。具体的には休憩前までに部会資料10のうち第1部を御審議いただき,午後3時10分頃をめどに適宜休憩を入れることを予定しております。その後,部会資料10の残りの部分について御審議いただきたいと思います。  審議に当たってのお願いでございます。本日は,中間試案の取りまとめに向けた会議でございまして,基本的には,どのような形で最終的にパブリック・コメントに付すべきかという観点から御審議いただければと思っております。したがいまして,個々の論点についての実質的な議論は,本日のところでは,中間試案の取りまとめを考えるに当たり必要な範囲で適宜お願いできればと思っております。  それでは,審議に入りたいと思います。まず,部会資料10の「第1部 運送法制全般について」のうち,「第1 総則」から「第2 物品運送についての総則的規律」のうち「2 物品運送契約」までの部分について御審議いただきたいと思います。まず,事務当局から説明をお願いします。 ○髙橋関係官 御説明いたします。本日は,特に御説明申し上げた方が良いと思われる箇所に絞って御説明いたします。  「第1部 運送法制全般について」のうち,「第1 総則」では,これまでの審議を踏まえ,陸上運送と海上運送の範囲について,甲案と乙案を併記する形としております。甲案は,現行法どおり,平水区域内の運送については堪航能力担保義務などの海上運送の特則が及ばないとする案です。これに対して乙案は,船舶を用いて水上で行われる運送である限り,湖や川における運送も含め,海上運送の特則が及ぶこととする案でございます。  特に,今回の改正では,堪航能力担保義務に関する規律につき強行法規性を維持することとしておりますので,仮に平水区域内の運送に堪航能力担保義務に関する規律が強行的に及ぶこととされた場合に,実務上問題が生じないかどうかという点も含めて御審議いただけますと幸いです。  なお,甲案,乙案のいずれにおいても,商法第684条に規定する船舶の意義につきましては,特定の見解によらずに解釈に委ねることとしておりますが,海上運送の定義につきましても,具体的な規定振りについて併せて御示唆を頂ければと思います。 ○山下部会長 それでは,ただいま説明のありました部分についての御意見,御発言を御自由にお願いいたします。 ○鈴木委員 前の部会でもいろいろ話題に上った部分だと思うのですけれども,この運送人に関する定義で,陸,海,空と分けるというのは,要は,複合運送を新たに新設することとの兼ね合いで必要だというふうに理解をしております。個別で,部会資料10の第2の10番に複合運送の項目がございますけれども,これは,その前の総則の部分に新たに出てくるという理解でよろしいのでしょうか。  それと,前も申し上げましたけれども,ここに「平水区域」というのがあるのですが,これは船舶安全法上の規定であるのですけれども,商法にいきなり平水区域が出てくるというのもちょっとどうかなという気がしております。商法の中でこういう場所的な区分を設けるというよりは,あるいは乙案に近いのですけれども,輸送手段として,陸上であれば車両による運送,海上であれば船舶による運送,航空であれば航空機による運送というような定義の方がよろしいのではないかなという気はしております。  取りあえずその点だけ気付いたので,御説明いただければと思います。 ○山下関係官 複合運送につきましては,部会資料10の1ページの目次を見ていただければ分かりやすいかと思いますが,1ページの「第1部 運送法制全般について」の「第2 物品運送についての総則的規律」のところ,下をずっと見ていただきますと,10のところで「複合運送」が出てきますように,「物品運送についての総則的規律」の中で,複合運送が出てくるという扱いになっておりまして,基本的に複合運送の規律は,物品運送についての規律になりますので,「物品運送についての総則的規律」のうち,最後の方に複合運送の規律が出てくるというように考えております。 ○髙橋関係官 続けて,その他の点について申し上げます。  まず,運送人の用語につきましては,複合運送のところで必要だということもございますが,また,ちょうど9ページにございます相次運送に関する規律のところでも,陸上運送,海上運送,航空運送の別が必要になるということで,運送人の定義をこのような形で設けているという事情もございます。  それと,先ほどの,商法に平水区域という概念を入れるべきかどうかという点につきましては,現行法の法令を全体として見るとそのようになっているということもございまして,甲案ではそのような形を維持させていただいているのですが,もちろん乙案の考え方によれば,平水区域であるかどうかによっては陸上運送と海上運送の境目は区別されないこととなりますので,平水区域内の航行かどうかによって規律が異なることはないこととなります。  ただ,今御指摘のありました,車両による運送を陸上運送とする考え方につきましては,「車両」にも「航空機」にも当たらないような運送手段が生じてきた場合に,なかなか区別がしにくくなってしまわないかという問題がございまして,そのような観点からも,やはり総則的規律としては,なるべく陸上運送については陸上又は一定の範囲における運送とした上で,これに対して海上運送については船舶を用いた運送とか,航空運送については航空機を用いた運送という形にさせていただくのが良いのではないかと考えているところでございます。 ○鈴木委員 運送の定義をどう捉えるかについては,運送手段で捉えられるというのも,現行法では,水陸両用車も船であり,なおかつ車両でもあるということになっていますし,この平水区域の規定も,要はその船舶の航行が許容されている区域が平水区域であったり,あるいは沿海区域であったりということで,船の資格に関して区域が定められており,地理的な場所で定義されているわけではないですので,そういう面では輸送手段によって運送を定義していただく方がよろしいのではないかなとは思います。  それともう一つ,この一番肝心なところの平水区域まで広げた場合に,その堪航能力の保持義務が適用されるということに関してなのですけれども,頂いた補足説明の中で問題点が二,三挙げられておりますけれども,基本的に船舶において堪航能力というのは非常に重要なものでして,船舶検査とか各種の制度によって,必ず規制されている,あるいは基準が設けられているというものでございますので,これを平水区域を航行する船に適用するのはある面当然ではなかろうかなというふうに私も思っております。  御指摘いただいた満載喫水線の規制がないというこの部分なのですけれども,ちょっと細かい話なのですが,一応,表示の規制がないというだけで,満載喫水線自体の基準というのはございますので,当然,その船の構造上,これ以上荷物を積んだらひっくり返るとか,沈んでしまうとか,そういう設計の段階での構造的な規制はありますので,この部会資料のような表現だと,それすらもないのかというような印象を与えかねません。これは飽くまで表示が要らないというだけでありまして,要は,最大の載貨重量というのは必ず決められておりますので,それを超えて過積載なりをするようなことはできないと。もちろん,過積載をすれば罰せられますので,そういう面ではきちんと堪航性の基準というものを守るように規制がありますので,平水区域に堪航性担保義務を課すことに関しては問題ないというふうに理解しております。 ○田中幹事 私の方からも意見を申し上げます。今,鈴木委員がおっしゃったことは全くもってごもっともだと思います。陸上運送及び海上運送についての甲案,乙案の部分について,船舶の運航業務に携わる者の立場として,改めて少し意見を申し述べたいと思います。  甲案,乙案で中間試案とすることについて異論があるわけではありませんが,今,鈴木委員からも若干御指摘があったように,必ずしもこの言葉の中で全ての実態が網羅されているとは思わないわけで,そういう意味では,誤解のない中でこれらの案が審議をされていくということが望ましいと思っています。  運航従事者の素朴な疑問として,「平水」と「沿海」の航行区域の問題ですが,この商法上の取扱いについて,全国各地にいろいろな航路がありますが,その航路のそういう点からの問題指摘として実態としてはこういうことが起きる,こういう実態があるということを事例を掲げて御紹介したいと思います。  今回の甲案で,平水区域における物品や旅客の運送を商法上の陸上運送として取り扱うことが提起されています。仮に甲案が採用されますと,似たような航路が航路ごとに陸上運送であったり海上運送であったりする,こういうことが懸念されます。具体的な例を少し挙げていきたいと思いますけれども,例えば,名古屋港の入口に愛知県の伊良湖と三重県の鳥羽を結んでおります伊勢湾フェリーというのがございますが,伊勢湾フェリーは平水区域ですので,こういうことからしますと,これは陸上運送として取り扱われるということになります。ところが同じように今度は大阪の方ですけれども,和歌山と徳島を結んでいる航路で,こちらの方は南海フェリーが運航されていますが,ここは平水の区域外になっておりますので,こちらの方は甲案でいきますと海上運送というふうに分かれます。  このように輸送量の大きい主要なフェリー航路に関して,南海フェリーは商法上の海上運送,伊勢湾フェリーは商法上の陸上運送ということで,非常に似たような航行の形態を採っていても,ばらばらに区別をされてしまうということになります。  更にもう1点,非常に極端な例を披露いたしますけれども,四国松山市を起点とするフェリーであります。甲案によりますと,四国の松山から広島に行くフェリーは,これは陸上運送として取り扱われるのに対して,今度四国の松山から北九州の小倉に行くフェリーは海上運送の扱いとなります。同じ四国の松山を出る同じ船ですけれども,これが広島行きと小倉行きでばらばらに扱われる,こういうことになります。そもそも平水区域というのは船舶の安全確保のために,波の高さや潮の流れなど気象条件及び地形を考慮して船舶の建造技術及び運航技術の観点から定められたものであり,先ほど鈴木委員の方からも具体的な御指摘がありましたけれども,そういった観点での基準が別途設けられていると,このように考えますので,これを商法の中で陸上運送と海上運送の区別のために用いるのはやはり無理があるのではないかと,こういうことを申し上げておきたいと思います。 ○鈴木委員 あと,単純に疑問に思ったのですが,現行法では,この平水区域の航行うんぬんというのが省令で規制されていますね。これをあえて商法で明確に区分するという形を採られる必要があるのかどうかということなのですね。要は,現行法と同じように省令で平水区域を含めるか含めないかというような規定の仕方もあり得るのかなと思うのですけれども,その辺はいかがなのでしょうか。 ○髙橋関係官 論理的に必然というわけではないですけれども,陸上運送の範囲の点だけについて定めた省令が古いままずっと残されているという状況でございまして,今商法改正を行おうという段階でこれをそのままにしておいたのでは,この省令が埋もれてしまって,商法の規律が社会一般にとって非常に分かりにくいものになるのではないかという強い懸念がございますことから,やはりこれは法律の方でなるべくきちっと書くようにして,分かりやすい商法という形にした方が良いのではないかと考えた次第でございます。 ○藤田幹事 余り申し上げるつもりがないところだったのですけれども,鈴木委員の言われたことに関して少し申し上げます。今議論しているのは,平水区域を含めるか否かではなくて,こういう聞き方でパブリック・コメントを出していいかどうかということです。鈴木委員の意見の中でそれに関する意見として受け止める余地があるところは,特に海上運送,陸上運送の区別について,どこを運航しているかということ以外の要素を取り込んで定義すべきではないか,いわば質的に違った定義を提案できるものならしたい,そこでそういうものも選択肢に加えてそれも中間試案に入れてパブリック・コメントに出してくれということだと理解できると思います。  そういう提案は,もう既に事務局からお答えがあったとおり,技術的に非常に難しいと思います。海上運送の方について,確かに平水区域等といった地理的な範囲だけに依存する定義ということに違和感があるかもしれませんが,今度,陸上運送について運送手段を取り入れて定義してくれと言われると困ります。鈴木委員の言われたような車両を用いた運送という定義は駄目です。馬車だろうが人力車だろうが,観光客を乗せて輸送すれば旅客運送になることは間違いありませんし,それを陸上運送の定義から排除するつもりはないと思います。将来新しい運送手段が出てきた場合を考えると定義が難しいというのもそうなのですけれども,現在ある運送手段だけでもきっちり書き切るのは技術的に不可能だと思います。結局,どこかに不自然さは残るかもしれませんが,ある程度技術的な割り切りをどこかでしなければいけない。現在の平水区域という地理的な範囲で区切って,そこを運航できる船舶というのは国交省令などで決まって,実質的には運送手段とも連動があるということで,何とか海上運送が定義できているなら,その程度で満足せざるを得ないかなという気はします。ですから,中間試案としては,基本的にここで提案されている聞き方でいいのだと思います。  なお,この定義の存在意義ですが,事務局からは複合運送の点が指摘されましたが,商法に海上運送の特則規定を置く以上は,当然その運送について定義しなければいけないのは当然で,複合運送以前にこれが定義が要求される一番の理由だと思います。  そういうことで,基本的にこの案でいいと思うんですが,この案以前のところで1点だけ質問させてください。パブリック・コメントに出すのはゴシックで書かれたところだけで,補足説明はこの場の議論の便宜のためということだったのですけれども,通常,中間試案が出される場合には,詳細な補足説明を事務局が作成してくださって,それも併せて公表した上でパブリック・コメントに出されるのですが,それは今回も作ってくださるのでしょうか。ゴシックの提案だけを見ても,初めて見た人が議論のポイントが分かるとはとても思えないので,お伺いしています。 ○松井(信)幹事 法務省民事局における通例の立法と同様に,この中間試案をこの部会で取りまとめていただいたのと同時に,事務当局の文責におきまして,中立公平に補足説明を別途公表いたしまして,どの点についての改正を提案するものであるか,また部会でどのような議論がされたものか,このようなことを広く国民の方々に御理解いただけるように丁寧に書いていきたいと考えております。 ○山下部会長 平水区域の扱いについて幾つか意見が出ておりますが,この点いかがでしょうか。 ○鈴木委員 先ほど髙橋関係官から御説明いただいたんですが,省令が古すぎるんで,ここで商法で明らかにしたいという御意向を承ったんですが,こちらの方は一応,国土交通省さんとの御了解みたいなのは取れるんですかね。 ○髙橋関係官 当然ながら,一番重要な関係省庁でございますので,この省令をどうするかというところにつきましては,国土交通省と綿密に協議をしながら進めてまいりたいと考えております。 ○山下部会長 鈴木委員の今日の御意見が幾つかあったと思いますが,そういうことを踏まえて,提案としてはこの甲案,乙案という形で今回はパブリック・コメントに付すということでよろしいでしょうか。 ○鈴木委員 多分これは,甲案を出すと,前回も多分いろいろなところから,特に海事代理士協会さんの方から御意見とか出てきたと思うのですけれども,やはりどうしても陸上運送が,「その他の平水区域を含む」という書き方をすると,ちょっと違和感がありますので,例えば「陸上又は湖,川」ということで,括弧書きか何かで「いわゆる平水区域」というような書き方の方がよろしいのかなという気はいたしますが。要は,湖も川も平水区域になっていますので,湖,川で平水区域ということで。 ○髙橋関係官 ここの陸上運送の甲案の定義のところの読み方としては,「陸上」という用語とその後の「湖,川,港湾その他の平水区域」というところが「又は」でつながれているという関係になります。ここの「湖,川,港湾」というのは,「その他の」と次に続けてありますので,平水区域の例として掲げられているものでございます。したがって,この書き振りというのは,陸上か,若しくは平水区域。その例として,湖,川,港湾があるという,そういう読み方になります。 ○山下部会長 よろしいですか。 ○鈴木委員 それであれば。 ○山下部会長 補足説明の方でも,そこは誤解なきように書いていただければと思います。  この点の御意見は,そういうことでよろしいでしょうか。 ○箱井幹事 商法684条そのものにつきましては特段変更しないので議論しないと承っていますので,特に申し上げることはないつもりでおりました。今,このゴシックのところに加えて詳細な補足説明がされるということですが,部会資料5ページの4の(注2)ですけれども,果たしてこれが要るのでしょうか。(注1)では,「特定の見解を採る趣旨ではない」という断りがありますけれども,(注2)自体は商法684条の解釈と,それと関連付けられた船主責任制限法2条1項1号の解釈について,一つの考え方を示していると私には思えるのですが,このゴシック部分の説明で,この(注2)のような踏み込んだ書き方が必要なのかどうかという点,疑問に思いました。商法684条をめぐる解釈について特に触れないということであれば,この4の(注2)は必要ないように思うのですが,いかがでございましょうか。 ○髙橋関係官 この4の(注2)を入れた趣旨は,従前,船主責任制限法の適用との関係でこの問題について議論する話がございましたので,特に注意的に入れているということでございます。  また,この高裁判例につきましては,飽くまでも,こういったものがあるという一つの例として御紹介しているものでありますけれども,全くこういうものがあるということを無視するのもどうかというのがありましたので,一応参考のために掲げさせていただいているというもので,これをどう評価するかというのは,また別の話かなと思っております。 ○箱井幹事 ここでの議論で,「平水区域」という概念を使うか使わないかが先ほどから議論になっておりますけれども,それの一つの根拠としてこれは示されているわけですね。このところの書き振りとしては,今説明のあった趣旨とは若干違って,単に判例を紹介するという話ではなくて,この「平水区域」という概念を残す,またこの高裁判決のような解釈の手掛かりを残すのだという明確な意思が見え,結局,商法684条の解釈に関する議論に踏み込んでいるように私には思えたので,一言申し上げた次第です。 ○藤田幹事 事務局が答えることかもしれませんが,おそらく今箱井幹事が言われたように捉えるべきではなくて,ここで言いたいことは,この定義は飽くまで「運送」のために使われる概念であって,海商編の規定の適用範囲とは何の関係もありませんという趣旨の注だと思います。だから,むしろそういうふうに最初に書いた上で,そちらの海商編の適用の仕方というのはそちら側の条文の文言解釈で決まるというふうな記載があると,海商編あるいは船主責任制限法における特定の解釈を導くような趣旨の記載ではないかといった誤解がなくなるのではないかと思うのでけれども。 ○箱井幹事 それは684条について,書いてあるんですね。 ○藤田幹事 海商の方の適用は684条で決まる。 ○箱井幹事 (注1)だけで足りると思うんです。要するに,先生がおっしゃったのは(注1)ですよね。 ○藤田幹事 (注2)も同じ趣旨でしょう。 ○箱井幹事 (注2)は別に要らないかと思いますが……。 ○山下部会長 補足説明で書くときには,書いている趣旨を誤解されないように書いていただくということでよろしいでしょうか。  ほかに,その他第1の2までのところでいかがでしょうか。 ○清水幹事 すみません,甲案の定義の仕方で,先ほど田中幹事がおっしゃっていたことで気になったことがございまして,ささやかなことで恐縮なんですが,このような規定にした場合に,港を出て平水区域外を通ってもう一回港に戻るときが,この定義だと何となく複合運送的になってしまうということはないでしょうか。つまり,平水区域の運送は陸上運送であるという定義になっていて,それ以外のものが海上運送だという定義になっていますので,恐らくその平水区域外を通る船というのも,一旦は平水区域を通って,その後,外の区域に出て,もう一回戻るというので,それを複合運送だと考える考え方はもちろん採っていないのは了解していますけれども,この書き方によると,何かそういうような読み方が出てきたりはしないのかという点が,少し,ささやかなことで大変恐縮ですが,気になったので申し上げました。 ○髙橋関係官 御指摘のとおり,この甲案による場合には,全ての海上運送について平水区域内外の運送が両方あり得ることになってしまいますけれども,当然,その場合に全て複合運送と考える趣旨ではございませんで,この点につきましては補足説明等で明確にしていきたいと考えているところでございます。 ○清水幹事 これは何か自分に案があるわけではないです。括弧書きの書き方とかで何か明確化を図ったりとかは難しいですか。 ○髙橋関係官 具体的に,もしより良い案があったら御紹介いただければというところはあるのですけれども,その点も,御指摘も踏まえまして,条文化に当たっては更に検討させていただきたいと思いますが,現段階では補足説明を付すという前提で,このような形でお願いできればとは思っているところでございます。 ○山下部会長 ほかはよろしゅうございますか。もしないようでしたら,この第1の総則,第2の2までについては,補足説明の方の説明の仕方についてなお検討していただくことにして,中間試案としては,ゴシックのようなところで提案するということでよろしいでしょうか。  それでは,そういうことにいたしまして,先へ進みまして,第2の「3 荷送人の義務」と「4 運送賃及び留置権」につきまして御審議をお願いします。では,事務当局から説明をお願いします。 ○髙橋関係官 「3 荷送人の義務」のうち「危険物に関する通知義務」につきましては,これまでの審議を踏まえ,無過失免責のただし書を付すことによって過失推定責任とする甲案と,このようなただし書を付さずに無過失責任とする乙案を併記することとしております。なお,ここでいずれの考え方を採るかに応じまして,ヘーグ・ヴィスビー・ルールズの解釈によっては,条約との抵触が生じます。我が国として,現在における条約の解釈を決することができるのであれば,国際海上物品運送法で特則を設けるということも考えられますが,条約の解釈を決するのが困難であるとすれば,国際海上物品運送法第11条第2項の規定をそのまま維持せざるを得ないことも考えられます。  部会資料8の第6では,内航における危険物の取扱いに関し,国際海上物品運送法第11条を参考にした規律を商法に設けることを提案しておりました。しかし,荷送人の損害賠償責任に関する条約の解釈を確定することができないままでは,内航について外航に合わせた規律とすることができず,規律の在り方を決するのが困難という事情がございますので,このような危険物の取扱いに関する規律を商法に設けるのは難しいということとなる可能性もあります。  これらの点につきましては,総則的規律として甲案,乙案いずれの考え方によるのかという方向性が定まった後に引き続き検討することとさせていただきたいと思います。 ○山下部会長 それでは,ただいま説明のありました部分につきまして,御自由に御発言をお願いいたします。 ○柄委員 まず,危険物の定義でございますけれども,定義がなるべく広がらないようお願いしたいと思っています。「運送品が引火性,爆発性その他」というように,「その他」となりますと危険物の範囲がかなり広まってくるのではないかと懸念しております。「その他」の表現をもう少し工夫していただいて,余り危険物の範囲が広がらないような表現振りをお願いしたいと思います。   それから,これは中間試案の前で言うべきかどうか分からないのですが,「イ」での無過失責任についてですけれども,乙案は無過失責任を定めるものとの説明がございました。荷送人からすると,やはり無過失責任というのはかなり違和感がございまして,我が国の法制度下,無過失責任というのは極めて限定されていると思いますので,できれば無過失責任ではない案を取り入れていただきたい,というのが荷主の立場として従来から言っていることでございます。  また,危険物の通知義務に関して,「荷送人が知り,又は知ることができたものに限る」という別案の提示が前回ございましたので,私たちとしてはその案を是非お願いしたいと申しました。今回,それは取り入れられていませんので,できればただし書でも良いので,「荷送人が知り,又は知ることができたもの」ということをどこかで説明なり表現していただければ,有り難いと思うところでございます。 ○山下部会長 事務当局で何かありましたら。 ○髙橋関係官 まず第1点ですが,危険物の定義につきましては,この書き振りは国際海上物品運送法第11条の書き振りと全く同じということもございまして,基本的にはそちらと同じような考え方に従うということでございますけれども,補足説明での説明と,今後の条文としてどのような在り方が可能かというところにつきましては,引き続き検討させていただきたいと思います。   また,御指摘の第3点目の,前回の案に掲げておりました括弧書きの点でございますけれども,これにつきましては,現在の甲案の考え方による場合であっても,「過失がなかったときはこの限りでない」と若干書き振りが変わっているのですけれども,これも先ほどの前回の案の「荷送人が知り,又は知ることができたものに限る」というところと基本的な趣旨としては同じです。ただ,前回の括弧書きの案ですと,請求する側が立証責任を負うことになってしまいはしないかという懸念が若干ございまして,そういう場合には債務不履行に関する立証責任の一般原則とは違って,不法行為のような規律になってしまいますので,それが果たして適切かという観点も踏まえまして,今回甲案という形にさせていただいているということでございます。 ○柄委員 1点目の方の話ですが,「その他」の表現ではなく,例えば「引火性,爆発性及びこれに類する危険性」としますと,「その他」よりも大分限定されてくるのではないかと思います。「その他」の表現ですと,例えば毒物なども全て入ってきてしまうのかどうかということになるので,今回の場合は,例えば火災が起きたとか爆発したというものが危険物だというように,ある程度限定した方がよろしいのではないかと私たちは思っています。以上,参考までの意見です。 ○藤田幹事 国際海上物品運送法については,危険物の意義をめぐって様々な議論があります。ただ,今言われたように爆発物や引火性のあるものだけが危険物であるという発想は全く採られたことはないと思いますので,そんな限定の仕方は幾ら何でも乱暴だと思います。「類する」というところで広がるおそれがあるという懸念は分からないでもないですけれども,引火性,爆発性だけが危険であるといった切り方はどうかと思います。  もっとも,本来は危なくないのだが,一定の非常に特殊な状況下では危険性を有するとか,あるいはその物が持っている危険性ではないものと一緒になることで危険をもたらす可能性があるとかいったような場合等まで含まれると,広がりすぎる危険はあるかと思いますが,だからといって,「危険物」というのがあいまいだと言い出すと,「危険物」という概念をやめて,ありとあらゆるものについて適切な扱い方を通知しろとか,そんなルールになっていきかねません。「危険物」という概念に依拠してルールを作るのであれば,現在の提案の程度の書き方しか今のところはできないかというような気はします。ただ,ロッテルダム・ルールは,「物品が,その性質若しくは特性上(by their nature or character),人,財産又は環境に対して危険である」と若干限定する趣旨の表現は加えていますけれども,書けるのはその程度の一般的な制限だと思います。繰り返しですけれども,この種のものについて,引火性とか爆発性だけが危険物という発想は,少なくとも海上運送では国際的にもおよそ採られたことがないような発想だと思います。  なお,書き方として,中間試案の補足説明等で書いていただいたらいいと思うことですが,このいずれの案を採るにしても現行法よりは荷送人に対してやや厳し目の責任を課すことになるということをはっきり断った方がいいと思います。現行法は,危険物についての責任は不法行為で訴えられますので,過失等は原告側が立証しなければいけないのですが,ここでの提案は,危険物についてある種の義務を契約上の義務として課して,その違反があった場合には,仮に過失責任を取るにしても無過失の立証責任を荷送人が負うという形になりますので,少なくとも不法行為よりは責任は強化している。具体的な表れとしては,最高裁判決のように,「知り,又は知ることができる」みたいなことについては,原告側が主張立証しなくてはいけないような事実でないというふうなことになる。その限りでは,いずれの案をとっても,危険物の輸送というものについて,商法が新たに何らかの姿勢を示したということになるということは,はっきりさせておくべきだと思います。その上で,どこまで厳しくするかについて温度差があるのだという,議論の枠組みを示していただければと思います。 ○田中幹事 私からも危険物に関する通知義務に関して意見を申し上げます。  私は乙案が望ましいと考えているわけですけれども,今,藤田幹事からもお話がありましたように,危険物であるということを知らずに運送するということは大変事故を誘発しやすいわけですし,また,その荷物の危険度合い,そういったことは当然荷送人が一番良く承知をされていると思いますので,是非これは乙案にしていただきたいと思います。  また,今回その規律の中に危険物に関する通知義務が入れられるということについては,これは大変喜ばしいことだと思っております。危険物を,まず輸送するに当たってどういう運び方が最も危険を誘発しないか,それは中身がよく分からないとその運送に適した運送の仕方ができないわけですから,運送に携わる者として,荷送人による通知義務が完全に履行されるということは,非常に積荷の安全管理及び安全運航に大きくプラスに寄与するということで考えます。その義務の程度をより高い水準に設定するために,荷送人が危険物に関する通知義務を履行しなかった場合に,荷送人の過失の有無を問わずにその責任を認め無過失責任とする乙案の方が望ましいと思います。これは運航する立場からすれば当然の意見でございます。 ○増田幹事 先ほどの藤田幹事の御指摘の点に関連する部分ですが,危険物責任に関する現行法の理解としては,判例上は恐らく荷送人と運送人との間に直接の契約関係がなくて不法行為で訴えた事例しか出ていないかと思いますが,学説上は現在も危険物責任について債務不履行責任の枠組みで議論がなされている部分が相当あろうかと思います。補足説明を書く際には,債務不履行責任との関係では規律の内容を具体化する,あるいは確認するという立場になるという説明も,併せて書いていただいた方がより正確なのかなと思いましたので,この点だけ指摘させていただきます。 ○山下部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○道垣内委員 4も現在,議論の対象でしょうか。 ○山下部会長 はい。 ○道垣内委員 これまでも出てきたものでしょうし,現行法でもありますので,中間試案を決定しようという時点で発言するのはいかがかとは思うのですが,気になるので発言させてください。4の(2)の留置権に関して,「ついてのみ」とあるところの「のみ」なのです。恐らくこれは商人間の留置権のように,双方について商行為であるならば,そのような原因で生じた債権を被担保債権とする留置権を広く認めるというのではなくて,運送するという目的の性質上,これだけが被担保債権になるのだという意味であり,に商法521条を制限しているということなのだろうと思います。その意味で,「のみ」という言葉が存在する理由はよく分かるんですが,かと言って,民法295条による留置権の成立が否定されるわけではないと思うのです。例えば目的物から損害を受けた場合には,民法上の留置権は成立するのではないかと思うのですけれども,仮にその理解が正しいのであれば,商法521条は排除するとか,あるいは問屋のことは排除しなくてもいいのかもしれませんが,そのように何の成立が否定されるのかを明確に書くべきではないでしょうか。「のみ」ということになりますと,そこから損害が生じた場合でも,その損害賠償請求権につき留置権を主張できないというふうに読めてしまうような気がするのですが。 ○髙橋関係官 御指摘いただきました点につきましては,当然,何についての例外で,何を限定しているのかというところがはっきり分かるような形で条文を規定することができるかどうか,検討してまいりたいと思っております。 ○山下部会長 ほかに,3,4,全体についてございませんか。 ○山口委員 「3 荷送人の義務」のところ,「契約に関する事項を記載した書面の交付義務」のところでございますけれども,今回,貨物引換証を廃止するという方向で,また,旧来,商法上は運送状というものを出すということになっていたんですが,それをこういうことを記載した書面ということで,運送状より一段下がるようなものということになるのかもしれませんが,国土交通省から,昨年度でしたか,運送契約の書面化に関するガイドラインというのが出まして,このような運送契約を証する何らかの書面を荷送人と荷受人間で交換しましょうと,これ,飽くまでガイドラインですので,法律ではございませんのですが,推奨しているという状況がございます。その中ではもう少し内容が詳しく書いてあるんですが,この場合,運送契約の要素がこの中では欠けている部分がございまして,例えば荷送人の名前,住所,これは元々貨物引換証には書くことになっていたんですが,貨物引換証をなくすのであれば,荷送人の少なくとも名称ぐらいは入れる必要があるのではないかと思うのと,それから,運送の到達地は書いてあるんですが,発送地が抜けておるんで,運送の要素としては発送地,それから到達地,それで荷送人,荷受人,その程度の,この前の物品運送契約のところで,物品運送契約を特定していますから,その要素はやはり書面の中に少なくとも入れておく必要があるのではないかなと思った次第であります。もし可能であれば,当然運送人に送るわけですから,運送人の氏名あるいは商号というのも入れるようにしてはどうか。もちろん,商法でそう書いても全部が全部そう書かれるわけではないんですが,少なくとも運送契約というものを紙で特定して書面を出すというふうにしておるんであれば,少なくとも運送契約の要素はこの中に入れるべきではないか。国土交通省の先ほどのガイドラインは,それにもっと要素を加えておるんですけれども,少なくとも運送契約の要素は入れた方がいいんではないかなというのは,パブリック・コメントを出す上においては,運送状を廃止してこういう書面ということにするんであれば,その程度のものは入れるべきではないかと考えます。 ○髙橋関係官 ありがとうございます。今の点ですが,私どもとして,運送状を実質的に廃止するということを考えているわけではございませんで,ただ,運送状の名称が海上運送状とバッティングするということもありまして,こういう契約に関する事項を記載した書面という形で名称を変えていると,それとともに証拠書類にすぎないということに鑑みて,現在の法制との関係で署名を要求しないことにするとか,そういった若干の修正を加えておりますが,基本的には,これは運送状と連続性を有するものであると考えております。そうだとしますと,今の御指摘といいますのは,運送状の記載事項として現行法のものよりももうちょっと,そういった契約の要素について加えたらよいのではないかという御提案と承った方がよろしいでしょうか。 ○山口委員 さようでございます。それは,先ほど申し上げましたように,国土交通省の書面化のガイドラインというものが出ておりまして,それとの平仄を合わせるといいますか,そういう部分もございますし,やはり運送契約の要素は少なくとも法制化の段階では入れた方がよいのではないかと考える次第であります。  それから,もう1点質問なんですけれども,多分こういうものは電磁的方法でできるというふうに書いてあるわけですが,メールでやることと,それからよく行われているのはファックスで行われるということなんですが,この電磁的方法は当然ファックスも入るという考え方でございますでしょうか。 ○髙橋関係官 現在のところはファックスも入るようにしたいと考えておりますが,具体的な規定振りというのは非常に技術的なところがございますので,そういったものを含めるべく,そのような前提で十分検討してまいりたいと思っております。 ○山口委員 すみません,電磁的方法というと,メールとホームページにアクセスする方法というのが商法上の会社法のところで多く考えられているものですから,ファックスがどういう形で扱われるのか,抜け落ちると困るかなと思いましたので,御考慮いただければと思います。 ○藤田幹事 今,山口委員が言われたような点について併せて聞くということ自身に反対するわけではないのですけれども,国土交通省の書面化の話とこれが同じ話か否か,つまり,運送状というものを廃止して別の書面にするにせよ,名称を変えるにしても,今この商法570条で要求している書面の趣旨と,その国土交通省の書面化の趣旨が同じかどうかといったことがまず一番基本的なところで,仮に聞くのであれば,単純に事項を増やす,減らすというような聞き方ではなくて,書面を要求する趣旨をはっきりさせた上で聞いていただければと思います。  国交書の書面化の話について,私は詳細は存じておりませんけれども,通常書面化を要求するときには幾つか目的が考えられます。契約事項を形としてきっちり残して,事後の紛争防止などに役立てようというのであれば,契約の重要な要素はできるだけきっちり書かせるがいいということになります。しかし,この運送状の規定というのはそんな趣旨ではないのですね。例えば,発送地が書いていないという点については,そんなのは普通,引き受ければそこから発送するから運送人は別に言ってもらわなくても分かるから書かないということであれば,書かせないのも分かります。荷送人は契約相手方なので,契約相手方が誰か,それは運送人が聞けばいいことであり,またわざわざ書面を出させて言うようなことではない。つまり,ここで書かれているのは何かある種の情報であって,普通に運送人と荷送人で契約成立後に何かある種の追加的な情報が必要となる場合に,それを書面で出すことを一方的に要求することができるという話で,重要な契約条項についてできるだけ書面化して紛争防止しましょうという趣旨ではどうもなさそうです。ある種の追加的情報提供義務のようなものだとすれば,それにとって必要な情報は何か,それと国土交通省の書面化の話とはどんな関係にあるのかということまできちんと整理した上でパブリック・コメントに出していただければと思います。 ○山下部会長 よろしいですか。 ○道垣内委員 藤田幹事のおっしゃるとおりであり,そもそも契約の要素を全部書くという話になりますと,なぜ荷送人が交付義務を負うのかという問題から議論をすべきことになるよう気がします。契約当事者は二人いるにもかかわらず,なぜ一方だけに契約書の作成義務を負わせるのかということになりますので,これは契約の内容をそのまま書くという書面ではなく,契約書とは性格が異なり得るということは,まず押さえておく必要があるのではないかと思います。 ○山口委員 私が申し上げているのは,全部を全部書けと言っているわけではなくて,この記載の内容からいきますと,運送人が要求があったときは次のものを書いた書面を出しなさいと言っているわけで,別に分かっているものを全部書かなければいけないわけではないんですけれども,運送人から要求があったら,例えば発送地はどこですかと聞いたら,それはやはり書面化して送ってもらう方がいいんではないか。法律に書いていないからそれを書面化しなくてもいいという理由は,やはりないのではないかなと思っております。全部が全部書面化しなければいけないというわけではないだろうとは思うんですけれども,少なくとも運送人が要求したものについては出したらよいのではないか,少なくとも運送の要素に係る部分については出したらよいのではないかという,そういうことでございます。 ○山下部会長 よろしいですか。この部分は,幾つかの箇所で若干文言等を検討してはどうかという御意見もあったと思いますが,そういうことでございますので,なお次回に向けて検討していただくということにしてはどうかと思います。3と4につきましては,以上のようなところでよろしいでしょうか。  それでは,先に進みまして,「5 運送人の損害賠償責任」につきまして一括して御審議いただきたいと思います。まず,事務当局より説明をお願いします。 ○髙橋関係官 「5 運送人の損害賠償責任」に関しましては,これまで運送人の責任限度額に関する規律を新設することの当否が問題となっておりました。第7回会議においては国内海上物品運送について,1キログラム当たり2SDRという責任限度額を設けるとの御提案もいただいておりましたが,その後,鈴木委員からは,御提案を撤回する方向で検討されていると伺っております。   責任限度額に関する規律の新設を中間試案に掲げるためには,少なくとも具体的な責任限度額をどのように設定するのかについて一定の方向性を示すことが不可欠と思われますが,この点について現時点で具体的な御提案がないとすれば,今後成案を得るのはなかなか難しいものとして,中間試案には取り上げないこととせざるを得ないのではないかとも考えられます。 ○山下部会長 それでは,ただいま説明のありました5につきまして,どの点からでも御自由に御発言をお願いいたします。  特にないということでよろしいでしょうか。 ○柄委員 高価品に関する特則の適用除外の件ですが,前回の部会資料7のときに,「重過失」を「無謀な行為」に改めるという議論があったと思いますが,そのとき私たちとしては「反対」の意見を申し上げました。今回,両案出ておりますので,良い悪いという意見は控えさせていただきますが,私たちとしては「重過失」を「無謀な行為」に改めるということについて,実務的にどのような差があるのか,これがまだ認識できていませんし,分かりにくいと思っています。したがいまして,パブリック・コメントを実施されるときには,「重過失」から「無謀な行為」に改めると実務的にどのような影響が出るのか,又は,現在の運送約款を用いた場合に実務的にどのような違いが出てくるのかということを分かりやすく補足説明するよう,是非お願いしたいと思っております。 ○箱井幹事 この高価品のところで,甲,乙ということで出ております。私は乙が適当かなと思っておりますけれども,甲案につきましては,これは従来の裁判例でございます。現在の商法578条はそもそもこういうことを規定していないわけでございます。それが前提であって,ですから現行の規律というのはよく分からないわけです。ただ,学説ではこの場合に甲案とは違って,運送人に重大な過失があった場合でも商法578条の免責は認めるというのが相当有力にといいますか,多数意見といえるかもしれませんけれども,主張されてきています。これを踏まえますと,そういう従来学説で有力に主張されてきている考え方が甲案,乙案のいずれにも入らないことになるのが,気になっております。   それから,高価品について,学説は重過失があっても免責を認めるという相当特殊なことを言っているわけですけれども,これはやはり高価品特則というものが,運送人が運送品価格をベースにした損害賠償責任を負わざるを得ない点を考慮した,運送契約の前提そのものに関わる本質的な規定だという認識があろうかと思います。説明のところでも,この高価品特則が,運送人に有利な一般的な特則の一つだというようなことで理解されないような書き振りをしていただけたら有り難いと思っております。 ○山下部会長 今まで出てきた御意見を参考にすると,この甲案と乙案というところになるだろうというところだったかと思うのですが。 ○髙橋関係官 今の点は,「故意」のみに限ってはどうかという御指摘かと思いますが,この点につきましては,今現在,甲案を更に乙案に限定するのがなかなか厳しいという,どうなのかという意見もある中で,更にその限定を絞っていくということになるというのはなかなか難しいところがあるのではないかということと,国際海上物品運送法や船主責任制限法などの規定振り,また,イギリス法などではこの乙案と同様の明文の規定が設けられているようでございますけれども,そういった比較法的な観点も考慮に入れますと,そこまで限定してしまって良いのかどうかというのは若干ちゅうちょがあるものですから,ここでは,現在のところでは独立の案としては掲げていないということではございます。 ○山下部会長 ほかにいかがでしょうか。よろしいですか。  では,この部分は,今箱井幹事の御意見がありましたが,提案としては取りあえず甲案,乙案ということでよろしいでしょうか。そうすると,ほかに特に御意見ございませんか。では,この点は,今日の案で中間試案として提案するという方向で,次の準備を進めていただければと思います。  では,続きまして先に進んで,「6 荷送人の権利」から「8 運送人の損害賠償責任の消滅」まで,この部分についての御審議をお願いします。まず,事務当局より説明をお願いします。 ○髙橋関係官 この点につきましては「8 運送人の損害賠償責任の消滅」のうち,「(1) 運送品の受取による責任の消滅」について補足的に御説明いたします。  この点につきましては,運送品の延着による運送人の責任に関し,荷受人による運送品の受取から2週間以内に通知をしないと失権するとの規律を設けるかどうかが問題となっておりましたが,これまでにも御指摘いただきましたように,2週間で責任が消滅するというのは一般的な民事法制の規律の中では異例ですし,このような規律を新たに設けるということはちゅうちょされること,また,荷主側からも厳しいとの御指摘をいただいておりましたことから,中間試案としては取り上げないこととさせていただいております。 ○山下部会長 それでは,ただいま説明のありました部分につきまして,御自由に御発言をお願いいたします。 ○藤田幹事 非常に細かな言葉だけの問題ですが,7の供託権の(1)のイで,「受取を拒み,又は受取を怠ったとき」と書いてあるところの意味について質問です。「怠った」という表現だと何か義務があるのにそれをしていないかのようにも読めますが,そうではないですね。荷受人は受取義務を負っていないので,単純にこれは例えば荷受人が現れなかった場合とか,そんなことを想定されているのでしょうか。表現だけの問題ですけれども,基本的な理解が違っていると困るなということで質問させていただきました。取りに来て,受け取るのが嫌だといった場合が「拒み」の場合で,そもそも誰も受取に現れないといったような場合を含め,受取が行われないという事態を「怠った」と指していると理解してよろしいですか。 ○髙橋関係官 この規定は,現行法では海上運送だけに規定があるところではございますけれども,運送の場合は,単に運送品が目的地に到達したというだけでは足りずに,荷受人の側で運送品の引渡請求をしなければならないというところがございまして,その点で若干特殊な部分があるのかなと。その観点から,荷受人が何もしないで引渡請求もしないままずっと放置していたという場合をこの対象に含めるように「怠ったとき」という表現が用いられているのかというふうに認識しております。これは,海上運送についての立法担当者の説明では,海上運送においては荷受人が請求をしてこないまま港にとどめざるを得ないような場合には,非常に海上運送が遅滞してしまうというようなことからこのような規律が設けられているというふうに書かれておりますけれども,この点については,海上運送にとどまらず,運送について一般的に妥当し得ることなのではないかなと考えているところであります。 ○藤田幹事 つまり「怠った」というのは何か荷受人が義務を怠ったことを意味しているのではなくて,単に受取に来なかったり,通知してこなかったりということを指しているわけですね。 ○髙橋関係官 はい。義務を何か課すというわけではなくて,単に来なかったということだけで。 ○藤田幹事 それならむしろ,「受取を求めなかったとき」とか,何か表現を変えた方がいいような気もしたのですけれども,飽くまで表現だけの問題で,解説か何かで趣旨さえ明らかにしてくれればいいと思います。最終的な条文のときには「怠った」でいいかどうかというのは,もう一度今の趣旨との関係で検討していただければと思います。 ○山口委員 「運送人の損害賠償責任の消滅」についてでございますが,異議なくして,異議をとどめないで受け取ったとき,それから2週間の通知期間を経過すれば一応消滅するということだろうと思うんですけれども,この場合,現在の商法588条2項は残されるという前提ですか。要するに,運送人に悪意があった場合についてはこの限りでないという規定で,悪意の場合にも書面通知が必要なのかどうかということでございますけれども。 ○髙橋関係官 この点につきましては残す前提でございます。 ○山下部会長 よろしいですか。 ○山口委員 結構でございます。そのことを明確に書いていただければと思います。これだけですと完全に消滅するという航空運送の規定と同様に読めてしまいますので,やはり悪意の場合はその限りでないということが残るということは補足説明かどこかに書いていただきたいと思います。 ○山下部会長 ほかの点はいかがでしょうか。ございませんか。 ○道垣内委員 「異議をとどめないで受け取ったとき」という話なのですが,これは中間試案であり,要綱案ではありませんし,既に何回も発言しているので恐縮ですが,荷受人には調査義務があるという前提なのですよね。しかし,一般の荷受人に調査義務を課すことは可能なのでしょうか。 ○髙橋関係官 この点につきまして現行法を改めるものではありませんが,現行法においては売買との対比でいいますとそのような義務も一般的に負っているというふうに読めるように思われるのですけれども,この点については一般的な解釈としてはどうでしょうか。 ○道垣内委員 ここにおける荷受人というのは商人なのですか。 ○髙橋関係官 商人とは限らないのは確かに御指摘のとおりです。 ○道垣内委員 そうすると商法の商事売買の規定と対比しても無駄ですよね。そして,それでは民法において,売買において受取時に買主に調査義務があるのかといったら,ないわけですよね。そうすると,商法にありますというのは余り理由にならないのではないかと思います。 ○山下部会長 これをなくすと,もう全く何もない民法の世界になるということなんですかね。それでいいのかという。 ○道垣内委員 それで,どこがいけないのか。どこがいけないのかが明らかになれば,それで納得するのですが,代金の支払という要件を削るということになりますと,ますます荷受人の権利制限をしているということになって,2週間という期間制限を一度提案して,それを削ったからといって,決して荷受人の権利を保護する方向になっているわけではなく,現行法との対比においては荷受人の権利はより制限された形になっているわけですよね。その合理性がどこにあるのかというのが,私はよく分からないのです。 ○山下部会長 これは,調査をするという義務というのを道垣内委員はおっしゃっているんですが,そこはどういう観念で考えていますか。調査義務という,検査義務的なことを考えておられるんですかね。 ○藤田幹事 余り自信はないですけれども,現行法は一見して分からないものも2週間以内に通知しなければいけないから,正に調査義務そのものです。ところが,今提案されているのは,直ちに発見できるものなので,見て分かるものについてその場で言わないと駄目ということで,不満の意思を表明しなさいということだと思います。それはどういうことかというと,壊れている,壊れていないについて争いがあり得る,あるいはきちんとした状態かどうかについて争いがあるようなものについては,そう思っているならそう言ってくれないと困るという話だと思います。中を調べなければいけないような義務を積極的に課しているというよりは,見て分かるものは,意見の食い違いがあるならその場ではっきりさせるという性格の規定にむしろ近いのではないかと思います。  そういうふうに考えれば,売買の場合に調査義務がないこととは必ずしも矛盾するわけではないのかもしれません。「直ちに発見することができる」といっているところの「できる」というのは,調査すれば発見できると読まれたら困るので,その辺りの書き方はちょっと考える必要があるかもしれません。「直ちに発見できるものに限る」ということの趣旨について,事務当局としてはどういうものを想定されたのか,教えていただければと思います。 ○箱井幹事 やはり考え方は商事売買と似通ったものだと私は思っております。これは補助商として運送営業について規定が設けられた経緯からして,商法の中でのこの運送営業に関する規定というのは,やはり商人間の売買契約が基本的に前提にあって,売主が荷送人で買主が荷受人だと見ています。運送品が商品だということをほぼ前提にしたと思われるような規定がずらっと並んできているわけです。ですから,その解決で具合が悪い場合には,「商人の場合に限る」とか,そういった修正を加えていく必要を,今日的には検討する必要があるのかもしれません。正にこの特別消滅事由というのは,そういった運送の大量性とか定型性とかいうところから求められる運送営業主を保護する規定であり,相手方についても大方が商人だというような発想からの商法的な規定が作られて残ってきているのだと思います。これを見て妥当かどうかというのは,道垣内先生がおっしゃられるように,場合によっては相当合理的ではないと思うような結果になることもあろうかと思います。 ○髙橋関係官 先ほどの藤田先生の御質問の点なんですけれども,ここの括弧書きにございます「直ちに発見することができるものに限る」とある趣旨は,当然現行法の,単に現行法の588条の,現行法ですと後段の「直チニ発見スルコト能ハサル」という場合を除外するというだけの話でございます。それの場合分けを明確にしているというところでの括弧書きでございまして,特にそこに強い意味があるというわけではないかと思います。 ○山下部会長 宅配便で荷物を受け取ったときに,その場ですぐ開けて調べて文句を言っておかないと,以後賠償請求ができないとか,そのようなことを考えているわけではないと思うのですけれども,どうなのでしょうか。 ○道垣内委員 そのようなことを考えているわけではないとしまして,この条文は,そのようなことを考えているわけではないという趣旨で運用可能なのですか。 ○山下部会長 というような御意見が今いろいろ出ていますが,この点,ほかにはいかがですか。  それでは,ここはこういう文言で,趣旨がそもそも何かといったら,文言をもう少し整理していただくということでよろしいかと。 ○道垣内委員 整理をした結果,最終的にそのゴシック部分が,こういう形で,現行法を基本的に維持するという形の問い掛けとして,中間試案になるということについて,最後まで反対するというつもりはございませんが,しかしながら,補足説明におきましては,本当は合理性がないのではないかという強い意見があったということは是非とも書いていただきたい。 ○髙橋関係官 今,道垣内先生から強い御指摘をいただいているところでございますが,実務家の皆様の観点から,この点について何か御意見等ございませんでしょうか。そちらの点も是非伺っておきたいと思っているところでございますが。 ○山口委員 直ちに発見できるかどうかというのは結構難しい問題で,外から見えれば直ちに発見できるかというと,大量に運送品が運ばれてきますと,どんどん荷下ろしされますので,外から見えたら必ずすぐに発見できるというわけでもないものですから,実務的に申し上げますと,この後半の2週間というのがよく活かされていまして,やはり2週間以内に通知があれば何らかの形で運送人として対応しているというのがどうも現状のような感じでございまして,先ほど道垣内先生がおっしゃったように,そうまで言わなければ駄目なのかということが,現実的にはそれほど多くないような感じが私はしております。  もしその場で言うということが余り現実的ではないというのであれば,「直ちに」という部分を除いてしまって,単純に2週間以内に通知すれば権利が保全されるというような内容にするというのも,一つのアイデアかもしれないなと思います。 ○山下部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○箱井幹事 道垣内先生がおかしいとおっしゃられるのも,私はもっともだと思っております。国際海上物品運送法ではむしろこのような特約がされないようにという配慮から12条の2が置かれております。これは同法15条の特約禁止規定の対象になっておりますので,むしろ国際海上物品運送法が適用される場合には禁止されるような内容が商法588条に残っているというふうに考えれば,おかしいかなという気もします。 ○山下部会長 運送事業者の関係の方,特にございませんか。  そうしたら,この点は検討していただいて,また次の段階で御審議いただくことにしてはどうかと思います。  ほかの部分はいかがでしょうか,6から8まで。 ○道垣内委員 同じパターンなのですけれども,8の(2)のアであっても,1年以内に裁判上の請求がされないときは消滅するという規律が,商人間以外の場合に,どのように正当化されるのかというのは分からないままです。大量性といいますが,前回,分科会かどこかで発言しましたが,量販店は大量に売買をやっています。でも,売買ではそのような特則はどこにもないわけで,なぜ運送だけが大量だとかいう理由で,荷受人の権利が制約されることになるのか,私には全く理解できない。ですから,箱井幹事がおっしゃったとおりだと思うのです。暗黙裏に商人間で商事的な運送をしているというのがあって存在している条文だが,実はそのような限定のない形に法文上はなっている。ここに根本的な問題があるのであって,これをそのまま残すという形の中間試案には私は本当は反対したいですし,仮にそうでなくても,繰り返しになりますが,反対する強い意見があるということは是非お書きいただければと思います。 ○山下部会長 ほかはございませんか。よろしいですか。  では,今日出た御意見を参考に,更に検討していただくということにしたいと思います。  では,もう少し進みまして,「9 不法行為責任との関係」から,「11 貨物引換証」のところまでについて御審議をお願いします。  まず,事務当局より説明をお願いします。 ○髙橋関係官 このうち,「9 不法行為責任との関係」につきまして御説明いたします。  この点につきましては,我が国においては債務不履行に基づく損害賠償請求権と不法行為に基づく損害賠償請求権とが並存するのが原則であることを前提に,その例外として,運送契約に関する商法の規定の効力が一定の場合に不法行為に基づく請求にも及ぶことを定める規律でございます。このような効力を広く及ぼすこととしますと,その分だけ不法行為に基づく請求権が制約される範囲が拡大することとなりますので,どのような範囲の者に対して運送契約に関する規定の効力を及ぼすのが適切であるかという観点を踏まえて,御審議いただきたいと思います。 ○山下部会長 それでは,ただいま説明のありました9から11までにつきまして御意見,御発言を自由にお願いいたします。 ○遠藤委員 今の御説明にありましたように,御提案のところもよく分かります。一方で,民法では不法行為責任制度が認められています。なおかつ,判例でも請求権競合説が認められていますので,これを否定するのであれば,やはり権利の根本に関わる大きな変更になることから,ここは両論併記が適当ではないのかと考えます。 ○山下部会長 両論併記ということになると,この9のような規定は設けないという提案になるのでしょうか。 ○遠藤委員 そうですね。 ○山口委員 私も両論併記が適当かなと思います。というのは,ここは,もし変更するとすれば非常に大きな変更ですので,変更しないという案も書いた上でパブリック・コメントを求めた方がよろしいのではないかなと思います。 ○山下部会長 現行を大きく変えるからということなのですが,理由の方はどういうことになるのでしょうか。現行を変えるからだということはあるとは思うのですが,積極的に今の請求権競合説といいますか,そういう規律を廃棄することはしない方がいいという理由ですね。 ○遠藤委員 不法行為責任の場合は,荷主側に立証責任があり,荷主としては非常に重い立証責任を負っていますので,それが成立する場面であるにもかかわらず債務不履行と同様の責任減免を認めるというのはちょっと違うのではないかと思います。 ○藤田幹事 両論併記で構わないのですが,そのときに現行法を大きく変える提案だからというよりは,書き方としては,仮に何も設けないという場合には現行法そのままですが,提案のようにするとどこまで現行法を変えることになるかについて丁寧に書いていただけたらと思います。つまり既に最高裁判決があって,宅配便についてはこれが現行法なわけですね。したがって,宅配便の判決において採られた考え方を――判決は確かに宅配便についてはある種の宅配便の特質について触れた上で判示していますけれども――基本的には運送全般に当てはまるものと理解して一般化したものである,突然何もないところにこんなルールが出てきたわけではなくて,一応ある種の運送については最高裁判決が出したルールをベースとして一般化したものであるといった提示の仕方をすべきかと思います。書き方についてはいろいろな表現があるかもしれませんけれども,権利関係を突然大きく変えて不法行為訴権を奪うような現行法に他に例のない非常に特異な考え方であるという形で選択を示されるとちょっとどうかと思いますので,その辺り適切に,両論の性格付けをした上で提示していただければと思います。 ○田中幹事 私からも不法行為責任に関して意見を申し上げたいと思います。不法行為責任との関係について,これまで運送人の契約責任が減免される場合であっても,運送に携わった労働者の不法行為責任は減免されない場合がございました。しかしながら今回の提案では,運送人の契約責任が減免される場合には,実際に運送業務に携わった労働者に関しても故意又は故意に匹敵する重大な過失がある場合に限ってのみ不法行為責任が問われることが提案されております。運送業務に従事する労働者の立場としては積極的にこれには賛同したいと考えます。 ○石井委員 (2)に「運送人の被用者の故意又は重大な過失」というのが要件として出ています。先ほど高価品のところでこの重大な過失についてはいわゆる「無謀な行為」というような表現に書き換えるという提案もされていますが,この辺の関係はどうなっているのか教えていただければと思います。 ○髙橋関係官 高価品のところで,まず甲案,乙案を掲げておりますので,まず,こちらの方で甲案によるべきか乙案によるべきかというところを決した後に,それでは,これに合わせて,商法581条もそうですけれども,この9の(2)の規律につきましても,これは,例えば,仮に甲案だったら,現在の書き振りのまま,これは現行法を前提にこのような書き振りとさせていただいておりますけれども,現在と同じような書き振りになりますが,仮に高価品免責のところで乙案を採るのであれば,それとは別に,では,この9の(2)について乙案の書き振りに改めるべきかどうかというものを別途検討していくことになります。 ○石井委員 ありがとうございました。先ほど柄委員の方からもお話がありましたように,「無謀な行為」というのは,重過失に比べて判例とかこれまでの解釈の積み重ねというのが必ずしも十分になされていないところがあると思いますので,この辺についても同じく補足説明のところで周知していただくのが良いのではないかと思います。 ○藤田幹事 今言われた点ですけれども,9ページを見ますと,高価品の特則のところで乙案による場合には9の(2)における重過失の要件についても検討すると書いてあるのですが,これは,乙案を採ろうが採るまいが,こちらで仮に甲案を採っても向こうでは検討しなくてはいけないので,9ページで乙案を採ることを条件に検討するかのような書き方をしているのは適切ではないと思いますので,改めていただければと思います。 ○髙橋関係官 ここの(注)につきましては,前回までの審議の流れの中で,どちらかというとこの商法578条のところが一番対立が厳しくて,こちらを甲案としつつほかのところを乙案とするような組合せについて余り御意見を頂いていなかったように思われましたので,このような書き方になっておりますが,もし,やはりそうではないということでしたら,そういう御意見をいただければなと思っております。 ○藤田幹事 私が積極的に,高価品の方を重過失にして,こちら側を別にしろと言っているということではないのですが,これは論理的に独立の選択肢なので,それが論理的に何か条件付けられているような聞き方とするのは,少なくともパブリック・コメントの聞き方としては余り適切ではないと思ったから申し上げているだけで,結果的にそれが連動したりすることについては別に異を唱えているわけではありませんし,これまで余り主張されなかった組合せを積極的に支持したいから言っているわけではないです。飽くまで聞き方の問題として,論理関係はないはずですので,そういう前提で聞かれた方がいいかと思います。 ○山口委員 10の複合運送もよろしいでしょうか。 ○山下部会長 結構です。 ○山口委員 複合運送のところで,(1)と(2)の規定を設けることになるということで,(1)の方は非常にある意味分かりやすい表現だったんですけれども,(2)の方なんですが「(1)の規律の適用については,陸上運送,海上運送又は航空運送のうち商法以外の法令等の規定により運送人が運送品の滅失等についての損害賠償の責任を負うものごとに,それぞれ別の運送とみなす。」と書いてあるんですが,ぱっと理解できないんですが,どういうことを規定されているんでしょうか。 ○山下関係官 例えば,陸上運送のうち,トラック運送と鉄道運送の場合などでは,鉄道営業法で鉄道運送人についての責任の内容が定まることがあります。そういった場合には,これは複合運送になるという規律でございます。 ○山口委員 考えられているのは具体的には鉄道運送ということですか。 ○山下関係官 一つの例としてはそれがあるということかと思っております。 ○山口委員 ほかにありますか。国際運送は例えば条約ということになりますけれども,国内運送と国際商法の適用とか,国内航空運送と国際航空運送とか,そういうことも考えられる。 ○山下関係官 理論上は想定し得るかと思います。国際と国内の運送が含まれている場合にも同じ海上運送,同じ航空運送等となりますが,国際と国内で違う規律の場合には,この(2)の規律の適用になると思います。 ○山口委員 もうちょっと何か表現を考えていただかないと分かりにくいかなという感じはいたしますけれども。 ○山下部会長 ほか,この部分ございませんか。ないということでよろしいですか。  この部分について御意見をいろいろといただきましたので,なお事務局に検討いただいて,次回の審議に付していただければと思います。  そうすると概ねというか,ちょうど予定していた3時10分で11まで参りましたので,ここで15分ほど休憩し,3時25分まで休憩にいたします。          (休     憩) ○山下部会長 それでは,再開したいと思います。  続きまして部会資料10の「第2部 海商法制について」のうち,まず「第1 船舶」と,「第2 船長」につきまして御審議をお願いします。  まず,事務当局からご説明をお願いします。 ○宇野関係官 それでは,「第2 海商法制について」のうち,「第1 船舶」及び「第2 船長」について御説明いたします。  第1のうち「2 船舶賃貸借」につきましては,修繕義務を賃借人に課すという改正を行った場合に,賃貸者契約に基づく引渡しの時から賃貸物に欠陥があるときの法律関係につき,疑問を呈する意見がございましたが,部会資料14ページに記載しましたとおり,引渡しの時から船舶に欠陥があるときは,賃貸人に契約の内容に適合した船舶を引き渡す債務の不履行があり,船舶賃借人の修繕義務の範囲は,引渡し後に船舶に生じた破損等に限られると整理することが相当であると考えられます。  この点のほか,「第1 船舶」及び「第2 船長」の各論点につきまして,【P】,ペンディングとなっている第1のうち「3 定期傭船」を除き,御審議いただきたいと思います。 ○山下部会長 それでは,ただいま説明のありました部分について,御自由に御発言をお願いいたします。  この部分,特にはございませんか。 ○水口幹事 文章の書き方の問題なんですけれども,「1 船舶の所有」,「総則」のところの「差押え及び仮差押えの執行」,括弧しているところがありますけれども,「は,航海中の船舶に対してはすることができない」とあるんですけれども,これは執行は履行することはできないとか,何か言葉が抜けているような感じがするんですけれども。 ○宇野関係官 この案を作成をした意図としましては,実体的な規律として,航海中の船舶については差押え等をすることが許されないと。ただし,停泊中のものについては差押え等をすることができるというように,差押えに関する実体的な規律を設けるということを提案するもので,そのような趣旨を書き表したつもりでございます。 ○水口幹事 であれば,ここは「執行は,航海中の船舶に対してはすることはできない」というよりは,「履行する」などと言葉を補った方が私はいいと思うんです。ただ単に「することはできない」というのは,それだったら「差押え及び仮差押えは航海中の船舶に対しては執行することはできない」とか,何かそういうふうに持って行った方が言葉の収まりがいいような感じがします。 ○宇野関係官 法令上,差押えを履行するとか執行するという用語は用いていないところではございますが,実質的な内容に関するものではなく,書きぶりに関する点ですので,引き続き検討させていただきたいと思います。 ○水口幹事 お願いします。 ○山下部会長 その点,検討していただくということで,ほかの点はいかがでしょうか。 ○山口委員 これは執行することができないということですので,差押命令自体を取ることは可能というお考えで,執行だけができないという,そういうことでしょうか。それとも,そもそも差押命令なり船舶の国籍証書取上げ命令というのは出ないということなんですか。 ○宇野関係官 担当者としては,差押えについていえば,開始決定自体をすることができないというふうに整理をしていたところでございます。 ○道垣内委員 補足説明にある「船舶賃貸借の修繕義務の範囲は,引渡し後に船舶に生じた破損等に限られると整理することが相当である」というのは結構なのですが,しかし,それは本文から分からないままで我慢しろということですか。 ○宇野関係官 そのような整理を念頭に置いているということは,補足説明の中で説明させていただこうとは思っております。 ○道垣内委員 だけれども,中間試案のゴシックの文言には表れないで,分かりにくいままであるということですか。 ○宇野関係官 こちらから提案した趣旨としては,そのようなものでございます。何か対案があれば御教示いただければと思います。 ○道垣内委員 いや,対案は最初から申し上げているつもりです。「引渡し後に船舶に生じた破損等に限られる」と整理するのであれば,「引渡し後に生じた破損等について必要な修繕をする義務を負う」と書けば良いだけですよね。でも,それをあえて,先ほど述べたように整理するのだと補足説明の中では書きながら,なおゴシックのところにはそれを反映させないというのは,どういうふうなお考えに基づいているのかな,というのが気になったということです。 ○宇野関係官 すみません,作成の段階で考えていたところといたしましては,民法の賃貸借における修繕義務についても,修繕義務の発生する破損等が生じた時期に関する規定は置かれておりませんで,ここに記載させていただいた「時期を問わず賃貸人の修繕義務を肯定する見解が一般的である」というのは,解釈で導かれていた内容であったかと思います。その上で,商法においては時期を条文上明示するということになりますと,民法から見て特則性があるというふう受け取られ,民法では時期を問わずに修繕義務を肯定する見解を示唆するようなところもあるのかなと思いまして,解釈の中で説明させていただくということを考えておりましたが,御指摘を踏まえて,引き続き検討させていただきたいと思います。 ○山下部会長 よろしいですか。 ○道垣内委員 全く納得できませんが,結構です。理由になっているとはとても思えませんけれども。 ○山下部会長 ほかにこの部分,いかがでしょうか。よろしいですか。  それでは,この部分,いただいた御意見をなお検討していただくということで,次回また御審議いただければと思います。  それでは先に進みまして,「第3 海上物品運送に関する特則」のうち,「1 海上物品運送契約の当事者」,「2 航海傭船」,「3 個品運送」,この部分につきまして御審議をお願いいたします。この部分については特に事務当局から説明することはないそうですので,御自由に御発言をお願いいたします。 ○松井(秀)幹事 1点だけ,航海傭船の位置付けについてお伺いします。この部会の中では,航海傭船を裸傭船(船舶賃貸借)や定期傭船と並べて考えるという考え方が結構強く提示されていたように記憶しております。これに対して,こちらの資料では海上物品運送の特則の中に航海傭船が入っておりまして,基本的には定期傭船や船舶賃貸借と航海傭船とでは異なる位置付けがなされております。このような位置付けについては,今回のパブリック・コメントでは問わないという理解でよろしいでしょうか。 ○宇野関係官 現時点では,現行法の規律を特に変える必要性があるわけではないというふうに整理をしております。 ○松井(秀)幹事 もしそうであれば,やはり部会において異なる意見も強くあったところですので,補足説明でその旨を触れていただいて,パブリック・コメントに出す段階では,現行の位置付けを変えないことを前提にしているという旨,明らかにした方がよいかなという感じがしております。 ○山下部会長 ほかにいかがでしょうか。よろしいでしょうか。  それでは,この部分はゴシックのところは大体こういうようなところで提案するということとして,理由の書き方,補足説明の書き方辺りはなお検討していただく,そういうことでよろしいでしょうか。  では,先へ進みまして,「4 船荷証券等」及び「5 海上運送状」の部分につきまして御審議をお願いします。  まず,事務当局から説明をお願いします。 ○山下関係官 17ページの本文「(4) 船荷証券を発行する場合の荷送人の通告等」のアにつきましては,国際海上物品運送法第8条第1項の規律を維持するとともに,実務上,運送品の種類,数などに関する荷送人等から運送人に対する通知が電子メールなどによってされる例も少なくないことを踏まえまして,書面だけではなく電磁的方法による通知の規律を追加することといたしました。  以上の点を含めまして,本文「4 船荷証券等」及び「5 海上運送状」につき御審議いただきたく存じます。 ○山下部会長 それでは,ただいまの説明のありました部分につきまして,御自由に御発言をお願いします。 ○山口委員 また電磁的方法なんですけれども,やはりこれはファックス等でまだ現実的には行われている部分がありまして,これは書面に入るのか,電磁的方法に入るのか,いずれにも入らないのか分からないですけれども,余り法律的ではないのですが,ロッテルダム・ルールズは「電子的方法」という表現を使って,「エレクトリック」というものの訳ですけれども,ファックスを含まれるような表現になっておりますので,そういうところも少し考慮していただければと思います。 ○山下部会長 ほかにございませんか。 ○山口委員 船荷証券の文言証券性のところもよろしいですか。 ○山下部会長 はい,結構です。 ○山口委員 ここ,文言証券性とそれから補足説明のところで指図証券性のことが書いてあります。それで,これは指図証券性を現状のまま維持するという前提でございますよね。あと,法律としては受戻証券性の問題があるんですが,これも維持されるということでよろしいんでしょうか。 ○山下関係官 おっしゃるとおり,中間試案は改正についての案でございまして,ここに示していない受戻証券性については,これを維持する予定で考えております。 ○山口委員 そうであれば,全体像として,船荷証券の性質のうち維持されるものについては,その旨を明言して補足説明を書いていただきたいなと思います。 ○山下部会長 ほか,よろしいでしょうか。 ○箱井幹事 前回議論しました船荷証券の不実記載責任ですけれども,私もここで議論に加わりまして,その際に船主側から,先日付であるとか,それから最近では行われていないという空券も考えにくいというような意見はありました。しかし,部会全体として,そういった諸外国あるいは条約などにも関連した規定の見られるものの新設について,特に否定的な見解の一致がみられたとは認識していませんでした。今回跡形もなくというか,説明もなく消えておりますので,これはどうしたのかなと思っております。せめて中間試案としてパブリック・コメントに付すくらいまでは持っていってもらえたらという気持ちがございます。 ○山下関係官 以前の部会の中で,不実記載責任の議論をいたしました。結果としては,その議論の中でも,現行法では,不法行為責任の枠組で相当程度の解決が図られると考えられる中で,あえて我が国の法律において,不法行為責任とは別に不実記載責任という規律を設けるべき必要性,立法事実というものの有無につきまして,箱井幹事を含め,部会の皆様から,特に必要であるというような意見は出ていなかったものと認識しておりましたので,今回の部会資料には記載しませんでした。 ○山下部会長 いかがですか。 ○山口委員 複合運送証券と海上運送状は入っていないですか。 ○山下部会長 まず不実記載の点は,そういうことでよろしいですか。箱井幹事は何か御提案がありましょうか。 ○箱井幹事 現行法にないので知られていないところはありますけれども,条約や外国の立法例もございますので,その点をパブリック・コメントで問い掛けるというのは,私は意味があるのではないかと思っております。前回の部会で,特に否定された気はしなかったのですが,今日はここで一致して駄目だということであれば,特に抵抗するつもりはございません。 ○山下部会長 皆様いかがでしょうか。  一応そういう,少なくとも中間試案としては書かないということでよろしいでしょうかね。 ○山口委員 複合運送証券と海上運送状でございますが,複合運送証券の方は,記載方法として「「次に掲げる事項」とあるのは,発送地及び到達地並びに次に掲げる事項」と読み替える」」ということでありますけれども,記載事項の中に発送地と到達地を何か別途入れていただく方が分かりやすいかなと思った,記載方法の問題でございます。  あと,海上運送状の方ですが,前回,運送法制研究会のときには,海上運送状について文言性を認めてはどうかという議論があったかと思うんですが,今回その点については触れられていませんが,文言性を認めないという方向での御提案であれば,この議論があったこと,そして文言証券性を認める場合の利点等について,補足説明に置いていただきたいなと思っております。 ○山下部会長 この点はよろしいでしょうか。 ○山下関係官 補足説明の中で,海上運送状の文言性について触れさせていただこうと思っております。 ○山下部会長 ほかにございますか。 ○遠藤委員 1点,これは確認ですけれども,複合運送証券は,船荷証券と同様に,有価証券性を有するということでよろしいでしょうか。 ○山下関係官 事務当局としてはそのように理解しております。 ○水口幹事 先ほど山口委員のおっしゃられた電磁的方法ですけれども,電磁的方法のところをどこを見ても注釈とかもついていないので,電磁的方法で括弧して「ファックス,電子メール等」と入れていただくことは可能でしょうか。 ○山下関係官 基本的にこのゴシックにあるところに入れるというよりは,補足説明において,ファックス等も含む趣旨であるということを書かせていただこうと思っています。 ○水口幹事 分かるようにしていただければ十分です。  それから,電子的方法というのは,業界では今,山口委員がおっしゃったように,長年使われてきたんですけれども,これは変えるつもりですか。 ○山下関係官 基本的には,法律の世界では政省令の中で電磁的方法を具体的に定めているものが多いかと思いまして,その業界というのがどの業界を指すのかにもよるのかもしれませんが,基本的には,ここでいう電磁的方法を具体的に定める中で,具体的にファックスが含まれることを明らかにしたいということを考えております。 ○水口幹事 分かりました。ちなみに,電子的方法のようなものは,我々銀行の中でも使われているんですが,UCP600とか,そういったものにもそういう訳語を当てているので,御参考までに申し上げます。 ○山下部会長 ほかはいかがでしょうか。よろしいですか。  そうすると,補足説明についての御意見はいろいろいただいたかと思いますが,ゴシックの提案については基本的にはこういうところでよろしいということでしょうか。表現ぶりはなお検討していただくということにしたいと思います。よろしいでしょうか。  それでは次に進みまして,「第5 共同海損」について,ここは一括して御審議をいただきたいと思います。  まず,事務当局から説明をお願いします。 ○山下関係官 「第5 共同海損」のうち,21ページの本文ウの共同海損の分担額の算定に関する記述につきまして,以前に御提案いたしました部会資料5の記述と実質的に異なるものではございませんが,部会におきまして,実務上は,船舶,積荷,その他の船舶上の財産,運送賃の各利害関係人と並列的に共同海損に係る損害を受けた者を考慮するのではなく,当該利害関係人の財産の価額にその者が受けた損害の額を加算するという計算方法が採られている旨の御意見があったことなどを踏まえまして,これに沿う表現といたしました。   以上の点を含めまして,本文「第5 共同海損」につき御審議いただきたく存じます。 ○山下部会長 それでは,ただいま説明のありました部分について御自由に御発言をお願いいたします。  特にございませんか。大体,中間試案の提案としてはこういうことでよろしいということでしょうか。もし御異論がないようでしたらそういうことにさせていただき,次へ進みたいと思います。  次は「第6 船舶の衝突」につきまして一括して御審議をお願いいたします。この部分につきましては事務当局から特段の説明はないということでございますので,ご自由に御発言いただければと思います。 ○箱井幹事 衝突です。2点ございます。  1点は4の(2)のところの書き方ですけれども,「商法第684条に規定する船舶」というのが一つありまして,これは航海船ということで,航海船と内水航行船が衝突した場合を想定しているんだと思いますが,「湖,川,港湾その他の平水区域を航行区域とする船舶」と出てまいります。この「平水区域を航行区域とする船舶」を航海船と別に書くということは,商法684条について先ほど特定の解釈を採るものではないと書かれていた解釈上の議論そのものであろうかと思います。このように並べますと,平水区域を一般に航行する船舶は商法684条にいう航海船には入らないということを前提にしているかのように見えるのではないかということが1点です。  それから第2点は,括弧の中で,これは先ほど思い付いたので自信はないのですが,「商行為をする目的で航行の用に供する船舶に限る」と書かれている点でございます。この684条に規定する船舶の方については船舶法35条が効いてまいりますので,これは商行為をする船舶に限らないということになってまいりますが,この書きぶりですと,もう片方の内水航行船の方は,これは商行為船に限定するという趣旨になってしまいそうですが,そこのところを教えていただければと思います。 ○山下関係官 2点目の方からまず御回答いたしますと,内水航行船についても船舶法35条が掛かることを前提とすれば,「商行為をする目的」と書いていますけれども,非商用船についても準用されるということになろうかと思います。  1点目の684条の特定の解釈の点につきましては,すみません,前提としての補足説明が少し足りていないのかもしれませんが,まず商法684条の適用をこの4の(2)の規律については外すことを考えており,その上で,一般的な意味での船舶をこの「湖,川,港湾その他の平水区域を航行区域とする船舶」というように限定しています。このように,後者の「船舶」というのは,684条に規定する船舶ではないことからも,特に何かの意味を付加しているというようには読めないものと思っております。 ○山口委員 今の関係するところなんですけれども,平水区域のみを航行する船舶同士の衝突,これはこの前も議論したんですけれども,その平水区域のみを航行する船舶同士の衝突については,この衝突の規定は適用にならないという前提ですか。 ○山下関係官 厳密に言いますと,684条に規定する船舶の解釈如何により,そこに含まれる平水航行船と含まれない平水航行船があると思います。したがいまして,684条に規定する船舶に含まれる平水航行船と含まれない平水航行船とであれば,4(2)の規律が適用されることになりますけれども,684条の規定する船舶に含まれない平水航行船同士であれば,この規律は直接的には適用されず,解釈に委ねるということになろうかと思います。なお,この点は,先ほどの箱井幹事の御疑問に対する御説明ともなってこようかと考えます。 ○山下部会長 今の4の(2)の点,いかがですか,箱井幹事。 ○箱井幹事 よく分からないのですが,また念のため船舶法の附則の方を確認しないといけないものですから後ほど発言させていただきます。 ○山下部会長 確認して,先ほどの御意見を参考にしていただければと思います。  ほかにいかがでしょうか。 ○野村(修)委員 細かなところで恐縮なんですけれども,「船舶の衝突」の第6の2のところに積荷等の概念が出てまいります。ここに「船舶内に在る者の財産」という概念がありますが,共同海損等のところでは「船舶及び積荷その他の船舶上の財産」という概念が出てきます。この点,文言が何らかの理由で書き分けられているのか,どういうふうに整理されているのかだけ,御説明いただければと思います。 ○山下関係官 「船舶の衝突」の第6の2の乙案につきましては,これは条約の文言に従った書きぶりになっております。 ○野村(修)委員 趣旨は分かりましたが,中間試案が意図的に書き分けられているのであれば,どこかにそのことを注記しておいていただくか,概念を整理しておかないと,初めて見る方には分かりにくいと思います。船舶の上には積荷以外の財産もあると思いますが,それらについては船舶所有者以外の所有者がほかに存在している場合には不法行為責任が発生する場合があると思います。そのような場合等について,ここでは,この文言からいくと船舶の中にいる人の財産というふうに読めるので,その辺りがどういうふうに整理されているのか,ちょっともう一度御整理いただきたいと思います。今ここでお答えいただく必要はありませんけれども,パブコメに付するときまでには整理しておいていただいた方がいいかなと思います。 ○山下部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○箱井幹事 度々すみません。先ほどの4の(2)のところですが,この商法684条に規定する船舶でない方,こちらについて「商行為をする目的で航行の用に供する船舶に限る」と書いていながら,この場合の非商行為船についても船舶法35条によって対象が広がってくるという,そういう御説明でございましたでしょうか。 ○山下関係官 はい。 ○箱井幹事 そうすると,その理由がよく分からないのですけれども,教えていただけますか。船舶法35条というのは,商行為船,非商行為船に限らず,「航海船」であれば商法の海商編が適用されるということですよね。今回の前提は航海船ではないということですので,船舶法35条の対象外と思われますが,そのようになる読み方教えていただけたらと思います。 ○松井(信)幹事 今の点は,平水区域船の海難救助に関する部会資料10の第7の7を船舶法において非商用の平水区域船にどのように準用するかという問題とも関連し,船舶法をどう整備するかにもよると思いますので,法務省と国交省とで相談しながら適切に進めてまいりたいと考えております。 ○箱井幹事 船舶法は変えないという前提であると考えておりました。そういうことであれば,そういう趣旨で書き換えていただいた方がよろしいかと思います。特に,これは商法の本文で,わざわざ「商行為をする目的で航行の用に供する船舶に限る」と書いてあると,やはり船舶法35条との関係も出てこようかと思いますので,調整されて,暫定的には補足説明でも書いておいていただきませんと,先ほどの私のような読み方がむしろ普通なのではないかと思います。 ○山下部会長 そこは確認いただくということで,お願いいたします。  ほかにございませんか。よろしいでしょうか。  それではただいまのところはなお御検討いただくということにして,先へ進みたいと思います。  次は「第7 海難救助」につきまして,一括して御審議いただきます。  まず,事務当局から説明をお願いします。 ○山下関係官 第1に,25ページの本文「4 船長の法定代理権及び法定訴訟担当」の(1)ウにつきまして,任意救助の場合に,救助に従事した船舶の船長に救助料債権者についての代理権及び当事者適格を認めることにより,救助料の支払に関する法律関係を簡易・迅速に処理するという観点から,判例の考え方を明文化することといたしました。  第2に,同じ25ページの本文「5 海洋環境の保全に係る特別補償の請求権」の(1)の規律の地理的適用範囲につきまして,部会において,89年救助条約との均衡を図るべきとの御意見があったことなどを踏まえまして,部会資料5でブラケットを付しておりました「本邦又は外国の沿岸海域において」という部分を取り入れることといたしました。  第3に,27ページの本文「7 規律の適用範囲」につきまして,端舟やろかい舟が救護されるべきことは当然でございますが,商法第3編の海商の規定は,一般的に海上企業に関する法と言われ,これらの舟をその規律の対象としていないため,これを維持することいたしました。  以上の点を含めまして,本文「第7 海難救助」につき御審議いただきたく存じます。 ○山下部会長 それでは,ただいま説明のありました第7につきまして,御自由に御発言をお願いいたします。 ○川崎幹事 第7の「5 海洋環境の保全に係る特別補償の請求権」のところについて質問させていただきたいと思います。  本部会の御提案自体には,中間試案として取りまとめることについては格別異存ございませんので,そのような観点からすると大変恐縮ではございますけれども,以前この項目を取り扱った部会においても,5の特に(2)の請求権について質問させていただいたところがありますので,この点に関連して,また幾つか質問させていただきたいと思います。  まず,5の(2)に「裁判所が定める」とある請求権の位置付けについてですが,これは確認ということになりますけれども,この請求権は実体法上の請求権があることを前提として裁判所がその額を定める,そのような位置付けであるのか,それとも裁判所がこの額を定めて初めて請求権自体が発生する,そのような形成権のような位置付けなのか,この点についてはいずれとお考えでしょうか。 ○山下関係官 川崎幹事がおっしゃった前者の,実体法上の権利があることを前提として裁判所がその額を確定させるものというように,事務当局は考えております。 ○川崎幹事 ありがとうございます。今御回答いただいた理解を前提として更に質問させていただきたいのですが,その実体法上の請求権,こういうものは現在の我が国の実体法上,これでも既に認められているものを今般の提案はそれを明確にする,確認するという趣旨で規定を設けようというものであるのか,それとも今般の提案によって,創設的に認めようとするものなのか,この点はいかがでしょうか。 ○山下関係官 今の点につきましては,後者の,特に200%の範囲内で増額できるという部分がございまして,これは現行法上はない規定でございますので,そういう意味で創設的な規定というように考えております。 ○川崎幹事 ありがとうございました。今の御回答を踏まえて,更に意見ということで述べさせていただきたいのですけれども,そのような実体法上の請求権として,今般,創設的に認めるというのであり,またその額については裁判所が定めるというのであれば,現行法の救助料を参考にしますと,商法800条でまず請求権があることが定められていて,その上で801条で救助料の額について特約がなく争いがある場合には,裁判所が一切の事情を斟酌して定める,このような規定がありますように,この特別補償の請求権についても,まずは実体法上の請求権があることを確認する規定を置いた上で,一般的な考慮要素などを例示されるなどし,その上で,裁判所がその額を定める,そのような規律の置き方,設け方も検討に値するのではないかと考えるところです。  繰り返しになりますけれども,今の発言は中間試案における取りまとめ,その在り方について意見を述べているというわけではなくて,中間試案に対するパブリック・コメント後の審議においても本提案の規律について取り上げられるのであれば,そのような規律の設け方もひとつ検討していただいてはどうか,このような観点から意見を申し述べさせていただくというところになります。 ○道垣内委員 この辺りについて,何回か発言をさせていただいているのですけれども,なお分からないままなので,このまま中間試案として出たとき,例えば,私がパブコメに応じようとしても,よく分からないという感じがします。つまり,まず3の(2)ですが,前回も発言したのですが,誰が誰に請求をするということになっているのかというのが私には分からないままで,どういう手続がこれは予定されているものなのかというのが,なお分からないままでございます。  更にまた,5についても,以前,発言させていただいたのですけれども,5の(1)のアにおける「当該障害の防止又は軽減のための措置に要した費用に相当する額」というものの額の算定についてです。例えば,船舶が衝突して,それが沈没をすると,それによって油が大量に流れ出すというときに,その周りにフェンスを付けたと,そうしますと,そのフェンスは船舶を助けるための費用ではないわけですので,その救助料そのものには該当しないということになるのかもしれませんけれども,仮に「当該障害の防止又は軽減のための措置に要した費用に相当する額」というのがフェンスの費用だとするならば,なぜアに掲げる額からイに掲げる額を控除するのかというのが分からないままです。つまり,アに掲げる額というのは,船舶の救助料も含めて,そのプラスアルファも掛かった額というものを考えているので,通常の救助料として取れるものに関しては,通常の3の基準によって行うということなのだろうと思うのですが,それがアの文言によって表されているのかというと,どうも私は表されているように思えなくて,「当該障害」というのは,そういう海洋汚染障害みたいなものでありましょうから,そうなりますとその措置に要した費用ということになりますと,全体の費用のことではないというふうに私などは読んでしまいます。そして,そうするとイを控除する意味が私には分からないままです。  もし仮に,私の理解,第1点は,そもそも何も分からないということですが,第2点の5につきましては私の理解が正しいのであるならば,もう少しこれは書き方を工夫することはできないものでしょうか。 ○山下関係官 まず,第2点目からなんですけれども,こちらの費用,「当該障害の防止又は軽減のための措置に要した費用」というところに,先ほど道垣内委員がおっしゃったフェンスの費用というのが含まれるというのはおっしゃるとおりだと思います。それで,本文の「2 救助料の額」のところの(1)アのところで,救助料の額の決定に際しては「海洋汚染の防止又は軽減のための措置の内容を加えるものとする」としておりまして,救助が成功した場合には救助料というものが発生します,その救助料を算定する際の要素としては,この環境汚染の防止に掛かった措置の内容というのが加味されますので,救助料というもの自体にはそういった環境汚染の防止のための措置の費用も含まれて算定されることになります。それが算定された中で,仮に,財産救助に成功した場合に,例えば,環境汚染の防止のためのフェンスの費用等というのが一方で発生しており,救助料よりも防止のための措置の費用の方が低かった場合,これにつきましては救助料がそのまま支払われると,そういった意味で,このアからイをマイナスすることでゼロになるということでございます。  一方で,救助料よりもそのフェンス等々の費用が高かった場合につきましては,救助料は当然発生しますが,それでもまだ費用が高いということで,救助者は完全に費用倒れしていると,赤字になっているということで,それであれば,その費用部分,救助料の額を超えた費用部分については,特別補償として,しっかりと支払わないといけないという,このような事情を踏まえて,この5の(1)のア,イの規律になっております。この説明が26ページの補足説明の(注)のところの前段で書いたところでございます。 ○山下部会長 今の点,道垣内委員,御理解できたでしょうか。 ○道垣内委員 100%はできないままなのですが,つまり,おっしゃっているのは2の(1)のアのところで,「海洋汚染の防止又は軽減のための措置の内容を加える」となっているので,フェンスの費用も含まれた上で,救助料の額が決定されるので,それに含まれないものだけが特別な補償の請求権の対象になるということですね。 ○山下関係官 厳密にそこを分けられないというのが一番のポイントなのかなと思っております。フェンスの費用を全て救助料の算定に入れるというよりは,その措置の内容も加味して,一切の事情を考慮して救助料の額が定められますので,そこを明確に分けられない,フェンスの費用を幾ら幾ら加味して救助料がこうなりましたというのが,必ずしも出るわけではないので,そこは明確に分けられないという事情があろうかと思います。 ○道垣内委員 しかし,そうであるならば,そのときの5の(1)のアというものは,船舶そのものの救助に掛かった費用というものも含まれて算定されるというのが前提になるわけですか。例えば,その船自体を救うのに1億円掛かって,フェンスとかそういうのをするのに5千万円掛かったというときに,アは5千万円だとするならば,どうしてイを引くんですか。仮に,アを1億5千万円であるというふうに考えるならば,その救助料の額として評価された例えば1億2千万円分は救助料としてとれますので,差額の3千万円だけに特別補償の請求権を与えましょうというのは,それはよく分かるのですけれども,アが船舶そのものの救助の話ではなくて,海洋汚染等を防止するための費用であるというふうに考えたならば,なぜイを引くのかが私には今一歩よく分からないんですが。 ○山下関係官 イを引く理由は,環境汚染防止のための費用の一部ないし全部は,救助料の額に含まれているというのが前提になっておりますので。 ○道垣内委員 アからイを引いたことによって,なぜそこに含まれない環境汚染のための防止費用というのが算定できるのかというのが,私は算数の問題としてよく分からない。 ○山下関係官 仮に,その救助料というものが最終的に出たときに,引いて救助の額の方が多い場合というのは,それはもうゼロ円になるので,特別補償請求権というのは発生しないと,それは全て救助料の額の中で見られているということになります。 ○道垣内委員 しかし,そうなりますと,救助料の額の算定自体が考慮要素になっているだけですので,これは確実ではないわけですけれども,救助料の額を例えば1億3000万円というふうに算定したんだけれども,現実には通常の救助にプラスして海洋汚染のために5千万円の費用が掛かっているといったときに,どうして差額はとれないのでしょうか。 ○山下関係官 差額というよりは,それも含めて救助料の中に入っているという説明になろうかと思います。 ○道垣内委員 必ず入るのだったら,そもそもこんな規定は要らないではないですか。入らないかもしれないから,特別補償の請求権を認めるわけですよね。さらに,2の(1)のアは,その額を必ず含めて救助料を算定するというふうにはなっていなくて,その考慮要素の一つになっているわけですよね。そうすると,どうして引き算したらそれが出てくるのかというのが私にはどうしてもよく分からないのですが,これが一般的な規律で様々なところでそういうふうになされているのであるならば,私にどこか大きな勘違いがあるのだろうと思います。したがって,これ以上時間を取って私の疑問を晴らしていただく必要はないのですけれども,少なくともこのことの合理性について,数字を挙げてお示しいただきたい。 ○松井(信)幹事 今の点については,事務当局も実務家のこういう計算にお詳しい方ともう少し具体的にお話をさせていただきながら,道垣内委員の御疑問をもう少し晴らせるように努力してまいりたいと考えております。 ○山下部会長 お願いします。 ○山下関係官 あと,道垣内委員から御質問いただきました3の(2)のところです。船舶所有者と船員との救助料の分配の割合が著しく不相当な場合の増減請求が誰から誰へ,というところでございますけれども,例えば,この救助料がまだ被救助者から支払われていないという場面において,船員の側が3分の1では足りないと,すごく頑張ったからもっと必要だということになった場合には,船員が原告となって,被救助者や船舶所有者を被告として,給付請求や確認請求等をするということが考えられます。  一方で,他の場面としては,既に被救助者から救助料の総額を一時的に受領している場合には,被救助者を巻き込まずに,船員から船舶所有者に対して給付請求をするということもあり得るものと思います。 ○道垣内委員 そうかなと思いますが,かつ,事例がないということもあって,ファイトが湧かないというのはよく分かるのですが,どのような請求を誰についてするのかというのが分からないのはよくないのではないかという気がしますが。 ○山下部会長 そこは,確かに簡潔に書いてあるのは間違いないと思うのですが,では,どう書けるのかという問題もあろうかと思います。 ○道垣内委員 それは前回から私が申し上げている,現行法の「分配」という間違った言葉にいまだに引きずられているのではないかという気がします。 ○山下部会長 では,御意見を参考に,なお検討していただくということで,ほかの点はいかがでしょうか。 ○鈴木委員 救助料の分配なんですけれども,これは私の方で要らないのではないかという意見を出させていただいたんですが,これを削除するという案は全く眼中にはないということでございますか。 ○山下関係官 基本的には,任意救助という制度をなくすことは考えられないので,それを前提に,この規律は必要だなと思っております。 ○鈴木委員 すみません,分配の方です。3の「救助料の分配割合」のところです。もちろんそのほかは必要だと思いますけれども。 ○山下関係官 分配割合については,例えば,裁判所に一任するという例もイギリスなど諸外国の法制ではあろうかと思うんですけれども,我が国では,元々現行法で分配の割合を定めておりますし,全てを裁判所に一任するというのも当事者の予見可能性を欠いてしまうと思われますので,一定の指針ということで,また,最近改正をしたドイツや韓国等でも同様の規律が削除されていないことも踏まえまして,3(1)のとおり,示しております。 ○山下部会長 よろしいでしょうか。ほかにありませんか。なお少し分かりにくい点があるようでございますので,いただいた御意見を参考に検討していただければと思います。  では,先へ進みまして,「第8 海上保険」につきまして一括して御審議をお願いします。  まず,事務当局から御説明をお願いします。 ○宇野関係官 それでは,「第8 海上保険」について御説明いたします。第8のうち,「8 保険者の免責」につきましては,貨物保険契約の免責事由として「運送の遅延」を規定すべきであるとの意見があった一方で,法定免責事由の位置付けを検討すべきであるとの意見もありましたが,部会資料の29ページに記載しましたとおり,実務上,主に遅延免責が主張される損害は,そもそもデフォルト・ルールとしては貨物保険における塡補範囲に含まれていないものであり,商法第829条による免責の問題ではないと整理することが考えられます。この点のほか,「第8 海上保険」の各論点につきまして,御審議いただきたいと思います。 ○山下部会長 それでは,ただいまの説明のありました部分につきまして,御審議をお願いいたします。 ○野村(修)委員 海上保険と保険法の関係なんですけれども,27ページのところにも明記されていますように,海上保険については,保険法では片面的強行法規に関する規定が適用除外になるとは書いていますけれども,基本的には保険法が適用されますよね。そこで,その特則をやはり残しておこうという趣旨だということは分かるんですが,そうなりますと,第8のところの「2 告知義務」のところの書き方が気になります。保険法28条2項1号とか,4項とか,31条2項1号とかを(2)のところで「準用する」と書いてあるんですけれども,むしろこちらは放っておけば適用されるのではないでしょうか。要するに,28条とかは,別に4条の告知義務違反についての解除の効力を規定しているんではなくて,告知義務違反の解除の効力とか解除についての規定で,31条も同じような形であって,告知義務違反の根拠条文が別に設けられたとしても,保険法のこの終了・消滅に関するところの規定は適用されてしまうのではないかなと。そうすると,逆に,これとこれは適用しないというふうに書くべきなのではないかなと思うわけです。というのが,まず大前提です。もちろん趣旨は分かります。  そうだとすると,今度逆に今ここにまとめられているような形で,新たな告知義務を条文化したんだから,それに関連して「準用する」という書き方でもいいとは思いますけれども,もしそういう書き方をするんだったら,31条の1項は準用しておかないといけないのではないでしょうか。そもそも将来効だからこそ,31条2項1号があるので,31条の1項は,もしこの書き方をするんだったら準用しておかなければいけないと思うんですが,どうなのでしょう。それが当然に適用されるという理解で書いているんだとすれば,ほかのところは準用しなくても当然に適用されるんで,これとこれとこれは適用除外にしますというふうに書かないといけないような気がするので,何かちょっとうまく整理できていないような感じがするんですけれども,それは私の誤解なんでしょうか。 ○松井(信)幹事 今御指摘の31条1項は,その中に何ら条文が書いていないことになっておりまして,損害保険契約の解除は将来に向かってのみその効力を生ずると書かれています。ですので,これは総則的な規定として,海上保険にも直接適用があると考えております。これに対して,28条2項というのは「前項の規定にかかわらず」という言葉があって,28条1項,これは保険法にいう告知事項についての解除権の規定なんですが,それを全て受けてしまっている規定になっております。28条4項も,「第1項の規定による解除権」という形で,全て保険法の世界の中だけの規定になってしまっています。そのために,部会資料では,これらの規定を商法海商編にいう告知義務に違反した場合について準用するという,そういう操作をしているところでございます。 ○野村(修)委員 なるほど,理解はできたんですが,28条の1項の「告知事項」という概念は,保険法の定義をどこからか受けているということになっているんですか。 ○宇野関係官 保険法4条で,「告知事項」とは「重要な事項のうち保険者になる者が告知を求めたもの」という形で書かれていますので,質問応答義務を前提として書かれている告知事項,保険法の中でいう告知事項がここで定義されているかと思います。 ○野村(修)委員 ということは,ここで書いてあるのは31条1項は当然に適用されるという理解ですね。分かりました。ありがとうございました。 ○松井(信)幹事 分かりにくくて申し訳ありません。補足説明の中では,しっかりと書きたいと思います。 ○野村(修)委員 いや,むしろ的確に処理されていたことは理解できましたので。 ○石井委員 保険者としては,この海上保険についての提案については基本的に賛成をしております。ただ,前回も論議になりましたけれども,遅延免責については各国の立法例等もありまして,法定免責に入れてほしいという希望はあります。一方で,事務当局がただいまの御説明のように,それを法定化することは難しいというふうに考えられている点も理解できるところではありますが,ここに述べられている理由については,いろいろな考え方もあるようですので,今一度更に理由付けについて検討したいと思っています。 ○山下部会長 ほかにいかがでしょうか。この部分はよろしいでしょうか。  それでは,ゴシックの内容で中間試案として提案するという方向でよろしいということかと思います。  それでは,先へ進みまして「第9 船舶先取特権及び船舶抵当権等」のうちの「1 船舶先取特権を生ずる債権の範囲」から,「3 船舶先取特権の目的」までの部分について一括して御審議をお願いします。  まず,事務当局から説明をお願いします。 ○宇野関係官 それでは,「第9 船舶先取特権及び船舶抵当権等」のうち,「1 船舶先取特権を生ずる債権の範囲」,「2 船舶先取特権を生ずる債権の順位及び船舶抵当権との優劣」及び「3 船舶先取特権の目的」について御説明いたします。  まず,1のうち(3)の商法第842条第7号につきましては,乙案を更に限定する考え方として,時間的限定や労働債権の種類による限定を加えることも考えられるとの意見もありましたが,前者については,過去1年以内という時間的限定の根拠につき合理的な説明が容易ではなく,後者については,退職金は一般的に賃金の後払い的性格を有するものと指摘されていることや,他の民事法令における退職金債権の取扱いに照らしても,一律に除くことは相当でないと考えられます。  1のうち(4)の同条第8号につきましては,未発航船舶の売買等の船舶先取特権について,これを認める意議は,民法の動産売買の先取特権と同様に,目的物の引渡し後も債権者を保護する点にあると考えられますが,実務上,代金支払が未了のまま船舶の引渡しがされる例は多くはなく,また,上記の船舶先取特権は船舶の発航により消滅するため,債権保全の実効性に乏しいと考えられます。また,最後の航海のための艤装,燃料等の船舶先取特権については,船舶先取特権の目的から未収運送賃を除くこととすると,そもそも現在の立法趣旨が妥当しない上,同様に債権保全の実効性に乏しいため,同号を削除することが考えられます。  また,2のうち(1)の船舶先取特権を生ずる債権の順位につきましては,人命の保護という観点や,海難救助を促進するという観点,93年条約が定めている船舶先取特権相互間の順位等を踏まえますと,本文に掲げる順位とすることが考えられます。  最後に,2のうち(2)の「船舶先取特権と船舶抵当権との優劣」につきましては,先ほど申し上げましたように,商法第842条第8号を削除する場合には,燃料油供給業者等の保護は,同条第6号の船舶先取特権によって図られることとなりますところ,部会資料の33ページに記載しましたとおりの事情から,同号の船舶先取特権と船舶抵当権との優劣に関して両説あり得ると考えられますことから,本文の甲案及び乙案を併記しているものでございます。  以上の点のほか,1から3までについて,御審議いただきたいと思います。 ○山下部会長 ただいま説明がありました部分に関連いたしまして,国土交通省の白石関係官から,造船業界にヒアリングを行った結果について御報告があるということでございます。内容的には,商法704条2項の後で御審議いただく問題も含んでいるようですが,ここで一括して御説明,御報告をお願いいたします。 ○白石関係官 国土交通省海事局でございます。ただいま紹介にありましたように,事務局からの依頼を受けまして,所管しております一般社団法人の日本造船工業会と一般社団法人日本中小型造船工業会の二つの団体に,今般の商法改正の検討に関してヒアリングを行いましたので,審議に入る前に発言させていただきたいと思います。  ヒアリングの結果,2団体ともに文書での意見の提出を要しない旨連絡を受けておりますが,団体での取りまとめに当たりまして出た意見につきまして,商法部会に紹介するよう承っておりますので,当該団体に代わりまして,この場で御紹介させていただきます。  まず,比較的大規模な造船会社で構成されております日本造船工業会からは,新造船の取引の実態としては,基本的には入金を確認した上でドックから出している,出航させているところ,商法第842条第8号,未航海船舶の売買,製造,艤装,最後の航海のための艤装,食料,燃料の船舶先取特権の規定は,実務上は適用がないのではないかとの印象がある。また,動産保存の先取特権の主張に関して,その対象としては検査に関連した修繕費用の扱いが論点となっていると理解しているが,修繕を行った場合における基本的な考え方としては,各会社のリスク管理の範囲において費用の徴収の判断を行っているものと理解しているとの意見が出たと聞いております。  次に,中小規模の造船会社を中心に構成されております日本中小型造船工業会からは,修繕に関しては,ドック入り後に当初予定されていなかった修繕を追加で行うことも多々あるため,一般的な取引慣行としては,工事を終えた後に交渉を行って金額を確定する形式を採ることが多く,構造として債権を持ち越す事態が発生しやすい状況にある。また,団体としては,修繕を主として行っている造船者のほとんどが中小企業であり,経営基盤が脆弱であることを考えると,商法第842条第6号,「航海継続ノ必要ニ因リテ生シタル債権」の規定が存置されるとしても,船舶抵当権への劣後となることになれば,船舶の航海継続に必要となる修繕工事の円滑な実施に多大な影響を及ぼすこととなる。さらに,過去に民法の動産保存の先取特権に関する訴訟が,当団体の会員が当該先取特権を主張する形で存在してきた-平成14年の最高裁判例に係る事案の原告につきましてもこの中小型造船工業会の会員になっております-そういう状況から,一般論としては当該先取特権が維持されることが望ましいと考えているとの意見が出たと聞いております。  なお,造船業界における団体はこの2団体となりますけれども,造船業の大半がこの2団体の会員とはなっていない零細の造船業者でございますので,この2団体に所属していない団体が大半を占めるということにも御留意いただきまして,審議をしていただければと思います。よろしくお願いいたします。 ○山下部会長 ありがとうございました。  それでは,まず,ただいま白石関係官から御報告いただきましたことについて,御質問等ございましたらそれを伺いたいと思いますが,いかがでしょうか。  よろしいですか。 ○松井委員 今お話の中にあった704条2項のことについても伺ってよろしいですか。 ○山下部会長 白石関係官に御質問ということであれば結構です。 ○松井委員 先ほど中小の組合の方から「一般的に」ということで704条2項の動産保存の先取特権の適用があった方が望ましいというお話だったのですけれども,「一般的に」という意味がよく分からなかったのですけれども,補足いただけますか。 ○白石関係官 定量的に何かの資料をもってこう在るべきだというところの主張までには及ばないけれども,過去にそういうような訴訟等も起こっているので,という趣旨でございます。 ○松井委員 ありがとうございました。 ○山下部会長 よろしいですか。 ○松井委員 はい,結構です。 ○山下部会長 ほか,御質問等よろしいですか。  それでは,1から3まで,この部分について御自由に御発言をお願いいたします。 ○松井委員 すみません,引き続き発言させていただきます。4点ほどあるのですけれども,順番に発言させていただきます。  まず,最初は,842条7号の乙案についてでございます。私は乙案に賛成しているわけですけれども,この「乗組み」という言葉について,前回の部会では93年条約の「employment on the vessel」の意味するところを勘案して書いていただいているということであったと思います。すなわち,この「乗組み」というのが「雇入」と同じような意味ということで書かれていると思います。というのは,93年条約の交渉の代表であられた江頭先生の訳文では「雇入」とか「雇入契約」となっておりましたので,同じ意味と理解しております。この部会での意見は,私の意見書又は海法会の先生方の意見書も,前回お話ししたように「雇入契約」という言葉を基準に限定し,「雇入契約」を基準に考えるべきだという意見がベースだったと思うのですけれども,「雇入」という言葉,「雇入契約」という言葉は旧商法にあった言葉なので,「乗組み」よりも法的には分かりやすい言葉ではないかと思います。「乗組み」の方が良いということで,この乙案についてこの言葉を選ばれた理由について1点御質問させていただきます。  先に続けさせていただいて,2点目は,前回の部会で川崎幹事と私から質問させていただいた点で,退職金には給与の後払い的性格だけではなくて功労報償的な性格もあるので,個別具体的にその就業規則等を勘案して範囲は考えられると回答があり,これは,その時的限界だけではなくて,どの範囲の退職金を入れるかについても当てはまるというお話があったと思います。可能であれば,退職金に関して,乙案についても「これを一律に除くことは相当でない」とあるのですけれども,一律に除くことは相当でないというところに,この乙案を採ったからといって対象となる退職金の全部が入るのではないというところについても御説明いただいた方が,注記でも何でも良いので,案の説明としては正確かと思っております。ここは御検討いただければと思います。  3点目は,次の(注)ですけれども,これは704条2項との関係でお書きいただいている点なのですが,704条2項の議論の方が後ろの部分で確定していないので,ここでは削除して704条2項の方に書かれるか,それとも704条2項がどういう結論になるかによってこの(注)は変わってくるということが分かるように正確に書いていただいた方がよろしいかと思うのですが,これが3点目でございます。  4点目は,違うところなのですけれども,次の32ページの2の船舶先取特権を生ずる債権の順位の話でございます。日弁連の方でも話をしていたのですけれども,私も,個人的に第1順位,第2順位を現行法の規定から除きますと,「諸税」の船舶先取特権が一番上に行ってしまうのかと懸念していたのですけれども,人命の保護という観点からも,人命に係るものが第1順位,第2順位に上がって,これは昨日日弁連で話をしたんですけれども,皆さん異論なく,この方向に賛成ということでお話がありましたので,併せて御報告します。 ○宇野関係官 4点御意見いただいたうちの,補足説明の書きぶりの点,第2点目と,(注)をどこに書くかという第3点目については,中間試案の補足説明を作成する段階で検討させていただきたいと思います。  一番最初にいただいた御意見,部会資料30ページの乙案の「乗組み」という点について,「employment on the vessel」をこのように訳出した理由についてでございますけれども,江頭先生が作られた訳文に「雇入」という言葉が使われていることは,こちらとしても当然承知しております。その上で,乙案の趣旨につきましては,前回の部会資料で記載をさせていただいたとおり,船舶との牽連性を要求するということでございまして,それを表すときにどういう文言を使うかということについては,法制的な側面もあるわけですけれども,松井委員の方の意見書にもありましたとおり,旧商法にあった「雇入」という言葉は,現行商法になるときに「雇傭」と改められたという経緯がございますので,元々の文言をまた使うことがどうなのかというところもございます。また,船員法等でも現在使われている「雇入」という用語と全く同一の意味であるかは判然としないところもありまして,牽連性を要求しているということを直裁に表す書きぶりが何なのかということで,このような記載をさせていただいているということでございます。 ○山下部会長 よろしいですか。 ○田中幹事 私の方からも,船舶先取特権を生ずる範囲について意見を申し上げます。船舶先取特権,30ページのこれが生ずる範囲についてですが,まず今回の提案の中で,保護の対象となる労働債権の範囲に関して,過去1年分だけに限定するとの案を採用しないとされたこと,並びに退職金に関して,賃金の後払い的性質であり,保護対象とすることが明確にされたことについては,積極的に評価をしたいと考えております。その上で,同30ページの乙案ですが,乙案にあります「当該船舶への乗組みに関して生じたもの」という文言に関してですが,そもそも船員の雇入れ,雇止めについては,商法のみならず,船員法にも雇止め,雇入れに関する規律がございます。また,その中にも,一括公認制度と呼ばれる雇入れ,雇止めが実態的に行われておりまして,雇入れ,雇止めの形態にも様々なものが現にございます。また,実際に船員が有給休暇を取得し,下船中における給与などや,また乗下船の交代要員として陸上で待機している陸上待機員の給与などが存在をしております。このような実態を考慮すると,「当該船舶への乗組みに関して生じたもの」という範囲自体が曖昧なものであると考えられます。この点からも,私は甲案が望ましいと思います。 ○野村関係官 経済産業省の野村でございます。この部分に関しましては,前回の部会におきまして,参考資料の23といたしまして,具体的な協会の声といたしまして全国石油商業組合連合会,全石連の方からの意見を提出させていただいたところでございます。そういうところもございまして,今回お示ししていただきました部会資料10の33ページ目の補足説明文でございますけれども,配慮が必要な事項というところで御記載いただいたところは,有り難く思っております。現在,全石連の方におきましても,より具体的なところを考慮しまして,非組合員を含む全国の事業者に対しまして,ヒアリング及びアンケート調査を実施するところでございますので,船舶先取特権に基づきましてその債権を回収した,そういうような事例等は,まとめて何らかの形でまた状況を見つつ御報告をさせていただければと考えているところでございます。  今回のこのパブコメに向けた案につきまして,現段階で具体的に,特にゴシックの部分で何かというところは今日,異を唱えるものではございませんけれども,この船舶先取特権の扱いにつきましては,特に中小企業を中心といたしまして,燃料油供給事業者を含めた取引に関係する事業者に影響があるところという可能性がございますので,そこを幅広く見極めた上で,引き続き慎重に御検討を進めていただければと思いますので,何卒よろしくお願いいたします。 ○山下部会長 ほかにいかがでしょうか。よろしいでしょうか。  意見の異なるところがあることはあろうかと思いますが,取りあえずこの中間試案について,こういう形でゴシックの提案をするということではよろしいということかと思います。なお細かい点など,次回に向けて御検討いただければと思います。  それでは,もしほかにないようでしたら,次の「4 船舶賃貸借における民法上の先取特権の効力」につきまして御審議をいただきます。  まず,事務当局から説明をお願いします。 ○宇野関係官 それでは,「4 船舶賃貸借における民法上の先取特権の効力」について御説明いたします。この点については,部会資料の33から34ページに記載しましたとおりの事情から,本文の甲案及び乙案を併記しているものでございます。その前提といたしまして,34ページの(注)のところですが,一般的には,船舶先取特権も民法上の動産先取特権と同様に,債務者の所有物についてしか成立しないのが原則であり,その例外として,商法第704条第2項や,船主責任制限法第95条があるものと解し,例えば,定期傭船者が債務者となる燃料油債権等については,現行法では商法第704条第2項の類推適用により,債務者の所有する船舶に船舶先取特権が成立する余地があると整理することが考えられますところ,この点も併せて御審議いただきたいと思います。 ○山下部会長 それでは,ただいま説明がありました4の部分につきまして,御自由に御発言をお願いいたします。 ○小林委員 この甲案,乙案なんですが,いずれも現行の商法第704条2項をそのまま維持するという前提で,その適用の範囲を考えているということだと思うのですが,前回の会議のときにも発言させていただいたのですが,この商法第704条2項の基となっているドイツ商法第510条2項ですけれども,2013年の改正で大幅にその内容を変えていて,先取特権あるいは船舶債権者という要件を外していますので,その意味では,基となっている法律がある意味ではなくなってしまっている,そのような状況のときには,そもそもこの商法第704条2項を現在のまま維持するのが妥当かどうか,そこから検討する必要があるのではないかと思うわけです。それゆえ,まず質問としては,現在の条項を維持するべきか否か,あるいは削除してほかの規定に変えるかどうか,それをまず聞いた上で,現在の条文をそのまま維持するという場合に,その適用の範囲として,民法上の先取特権まで含まれるかどうか,そういう2段階の形で聞かれた方が私としては良いのではないかと思っておりますがいかがでしょうか。 ○松井(信)幹事 今御指摘のように,この704条2項に相当するドイツの商法の規定は削除されたわけですけれども,その立法趣旨について,今ドイツの方に確認をしている最中でございます。規定がなくても,これは当然の規律であるから削っているんだというふうな見方もあるところのようでございまして,何か小林委員の方でその辺り,もし情報をお持ちでしたら,また別途事務当局の方に教えていただければと思います。 ○小林委員 こちらも教えていただきたいのですが。 ○松井(信)幹事 実質改正をして削ったという情報までは,こちらとしてまだ入手しておりませんでして,もう少しこの点,次回までに調べさせていただければと考えております。 ○小林委員 もしその結果,そういう2段階的に聞く,すなわち,まずこれを維持するかどうかということを聞いた上で聞かれるということでしたら,あるいはその辺を,補足説明のところで何か少し説明していただいた方が良いのではないかという気がしております。 ○山下部会長 ほかにこの辺り,いかがでしょうか。よろしいですか。  では今の点,調査の結果も見た上で,次回更にということでよろしいでしょうか。  それでは,以上のところは,4はそういうことにして,最後に「第3部 その他」につきまして一括して御審議をお願いいたします。  まず,事務当局から説明をお願いいたします。 ○宇野関係官 それでは,「第3部 その他」について御説明いたします。「第1 国際海上物品運送法の一部改正」の「2 高価品に関する特則」につきましては,責任限度額の規律がある法制において,重ねて高価品免責の規律を設ける必要はないこと等を理由として,本文の乙案を支持する意見があった一方で,本来割増運送賃を支払って高価品として運送させるべきところを,普通品としての運送賃しか支払っていないにもかかわらず,常に最大で責任限度額までの賠償を認めることは不当であること等を理由として,本文の甲案を支持する意見があったところ,実務上,国際海上運送における高価品特則が現実に機能しているか否かという観点からの検討も必要であるため,両案を併記しているものでございます。  以上の点のほか,第3部の全体につきまして,御審議いただきたいと思います。 ○山下部会長 それでは,ただいま説明のありました第3部分につきまして,御自由に御発言をお願いいたします。  よろしいですか。 ○山口委員 国際海上物品運送法の限度額のところの規律ですけれども,「(1) 滅失等に係る運送品の包又は単位の数に1計算単位の666.67倍を乗じて得た金額」,「(2) (1)の運送品の総重量について1キログラムにつき」と,こういうふうに書いてあるんですが,この「滅失等」というのが元々(2)の方だけに滅失損傷に係る,あるいは遅延に係る運送品の総重量というふうになっていたのを,(1)の方に上げるということらしいんですが,なぜ「滅失等」だけにしたのか,「滅失,損傷又は遅延」という元々の表現を変えられたのはどういう理由によるものでしょうか。 ○髙橋関係官 これは形式的なものでございまして,この部会資料の中で,9ページのところで「滅失等」の用語について定義しております。9ページの(2)のイの甲案のところで,「滅失等」という言葉について定義しておりますので,以降ちょっと長いものですから,これを「滅失等」という形で置き換えているという,形式的なことによるものでございます。条文が実際どうかにつきましては,それぞれの場面に応じてきちんと検討してまいりたいと思います。 ○山下部会長 よろしいでしょうか。 ○山口委員 はい。 ○山下部会長 ほかにいかがでしょうか。よろしいですか。  それでは,もしないようでしたら,この第3部については,こういう提案をするということでよろしいという御意見かと思います。全体で何かその他,御発言ございますか。 ○山口委員 今回,提案の中に入っていない点で,運送取扱事業者のところの議論したところでありますけれども,介入権の問題について何らかの形で触れていただければと思う次第であります。今回は提案しないという結論であったかと思いますが,そういう意見があり,この点について説明か何かの中で取り上げていただければと思います。 ○山下部会長 ほかにございませんか。全体についてで結構ですが,よろしいでしょうか。  それでは,御意見がもしほかにないようでしたら,本日の審議はこの程度にさせていただきたいと思います。  最後に,次回の議事日程等について事務当局から説明をお願いします。 ○松井(信)幹事 それでは,次回の議事日程等についてご連絡いたします。次回は2月25日水曜日となります。時間は午後1時半から午後5時半までを予定しており,場所は追ってご連絡差し上げます。  次回におきましては,本日【P】とさせていただいた部分,これを中心に中間試案の原案をお示しするという形を予定しております。 ○山下部会長 それでは,本日の審議はこれで終了といたします。どうもありがとうございました。 -了-