法制審議会 民法(債権関係)部会 第98回会議 議事録 第1 日 時  平成27年1月20日(火)自 午後1時00分                      至 午後3後38分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  民法(債権関係)の改正に関する要綱案の原案(その2) 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○鎌田部会長 予定した時刻になりましたので,法制審議会民法(債権関係)部会の第98回会議を開会いたします。   本日は御多忙の中を御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   本日は安永貴夫委員,岡田幸人幹事,福田千恵子幹事,餘多分宏聡幹事が御欠席でいらっしゃいます。   では,本日の会議の配布資料の確認をさせていただきます。事務当局からお願いします。 ○筒井幹事 事前送付資料として,部会資料86-1,86-2,それから87をお届けしております。また,部会メンバーの皆様には,部会資料86-1について修正履歴付きのものもお届けしておりますが,これは事実上の配布物という扱いに,いつものようにさせていただこうと思います。   資料としては以上でございますが,前回会議では事務当局から要綱仮案からの部分的な修正案をお示しして御意見を伺いましたけれども,前回会議で頂きました御意見については,引き続き事務当局において検討中でございまして,次の機会にその検討結果をお伝えして,またお諮りしたいと考えております。本日の会議用の部会資料は,前回会議からの引き続きということではなく,専ら定型約款について御議論いただくという趣旨で作成いたしました。よろしくお願いいたします。 ○鎌田部会長 本日は,ただいま説明のありましたようなことで,部会資料86-1及び部会資料87について御審議いただく予定でございます。休憩を取ることは予定しておりませんので,御審議に御協力いただければと思います。   それでは,まず部会資料86-1の定型約款について御審議いただきたいと思います。事務当局から説明をしてもらいます。 ○松尾関係官 「第28 定型約款」は要綱仮案では保留とされておりましたが,その際にお示しした部会資料83-1の案を基に,これまでに頂いた検討課題についての検討結果を踏まえ,幾つかの点で修正をしております。そのうち重要なものについて御説明いたします。   部会資料83-1からの実質的な修正点として,「1 定型約款の定義」について,不特定多数の者を相手方として行う取引であることを独立の要件とした点が挙げられます。これは,労働契約のひな形が定型約款の定義に含まれないようにすべきであるとの指摘や,定型約款の定義をより分かりやすいものとすべきであるとの御意見に対応しようとするものです。   他方,部会資料83-1の案のうち,2,(2)については,信義則違反の有無ではなく,公序良俗違反の有無を基準とすべきであるという御意見がありましたが,部会資料86-2の補充説明に記載いたしましたとおり,事務当局において理論的な観点も含めて検討した結果,従前の案を維持することを提案しております。   また,「4 定型約款の変更」については,変更条項があることを変更の要件とするかどうか,及びこれを要件とする場合に,施行前に締結された契約に係る定型約款の変更をどのように扱うかについて,それぞれ御意見を頂いておりましたが,変更条項を変更の要件として維持した上で,施行前に締結された契約に係る定型約款については,施行日までの間に変更条項を設けることができる旨の経過措置を設けることで対応することを検討しております。   なお,部会資料83-1の2において,(注)で記載しておりました鉄道旅客契約等についての特例的な規定を設ける旨の記載を今回削除しておりますが,これは民法以外の個別法に規定を設けることとした関係で削除したものでありまして,このような規律を設けるという方針に変更はございません。   これらの検討結果を踏まえて,部会資料86-1の案の当否について御意見を頂けますと幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま説明のありました点について御意見を頂きたいと思います。御自由に御発言ください。 ○佐成委員 昨年8月に,仮案を取りまとめる際に私の方で異論を述べて,それに対して今回事務当局の方で御検討いただいたと,そういう点につきましては,非常に感謝を申し上げております。ただ,8月に御指摘した事項について,今幾つか重要な点ということで松尾さんの方から御説明いただいたんですけれども,内部でいろいろ検討はしておりますが,印象としては実質的にゼロ回答ではないのかと感じております。大変期待をしておりまして,その意味ではもうちょっと何とか踏み込んだ修正をしていただけないかなと期待していただけに,ちょっとがっかりしたというところが正直なところであります。そういう意味では,まだこの案で賛成だというふうに言うことはかなり厳しいかなと私自身は感じております。できればもうちょっと踏み込んだ修正をしていただけないのかなと思っております。先ほどの定義につきましても,かなり形式的な部分で修正されたものの,実質的な部分ではまだ十分に御指摘した点についての回答を頂いていないように感じております。   それはともかくといたしまして,内部でいろいろ議論をしておりますので,内部の状況についてまず御報告をしたいと思います。経済界は一体どういう状況に今あるかということについてです。そこははっきりとお伝えしておくのが私の使命だと思いますので,お伝えしたいと思います。   もちろん,今まで経済界ではかなり反対意見が相当強くあったんですけれども,何度もこの議論をしておりまして,今では我々のバックアップ委員会の中でも積極的に賛成する,そういう企業の方というのはいらっしゃいます。複数おられます。そういう業界の方もおられるということは事実でございます。それから,ある程度いろいろな手当をしてくれる,パッチワーク的ではありますが,いろいろな手当をしてくれる中で,やむを得ないのではないか,受入れ可能ではないかといったような発言をされている企業もおられます。他方,強硬な反対論,これは元々,そもそも反対だと申し上げている企業も含めてですけれども,これもまだ相当数強硬な反対意見というのは健在でありまして,企業あるいは業界も複数,相当数の所でまだ容認できないというところがあります。   先ほど容認論の所でも申し上げたんですが,ただ,この容認論に傾いている企業も,なかなか我々の内部の委員会の場で表立っていうのは厳しいみたいな感じで,「率直なところいかがですか」と会議が終わって聞いたりすると,「できれば」というような感じの本音も聞かれておりまして,嫌々ながらというような感じも受けておりまして,なかなかそういったところで本音が語りにくくなってきているというふうな感じは受けております。こういう言い方は余りよくないかもしれないですけれども,ここに来て,前の仮案のときのかなりごり押しされているような印象を受けている方もいらっしゃいまして,腰が引けているのではないかという気もします。諦めムードがかなり漂っているのも率直なところですが,ただ,まだ経済界の中では相当数の企業が強い懸念,反対を述べているというところでございます。   個別的な話ではなく,全体的な議論状況ばかりを申し上げても余り意味がないので,もうちょっと各論的なお話を差し上げます。まず定義でございます。いわゆる定義が一番気になるところで,これはいろいろな複数の方が意見を述べております。まず,定義を読んだだけでは,まだよく分からないという意見が出ております。我々は特にB to Bを排除してほしいということを強く申し上げておりますが,これはまた別に申し上げますけれども,その辺りが事務当局の御説明では,B to Bのある部分は排除されるということでございます。全部が排除されるわけではないけれども,ある部分はかなり,即ち,我々が懸念するようなものはかなり排除できるのではないかと。そういう御説明を頂いておるので,そういう意味では納得されている方もおられることは事実なんですが,ただ,やはり一問一答とかあるいは補足説明とかで説明するというのは,本来の我々のこの民法改正の目指していたところ,即ち国民に分かりやすい民法という中では,ちょっと筋が違うのではないかということでございます。独占禁止法はガイドラインが出ておりますけれども,基本法たる民法でそういったような形でないと分からないというのは,そもそもちょっと問題ではないだろうかと,プロ向けではないのかと,そういったような御指摘も頂いております。   それで,定義について特に内部で困るという意見をいただいているのがこのB to Bに関してなんですね。B to Bに関して何とかこれを排除してもらえないかというのは,これはかなり強い意見でございます。本当に強い意見でありまして,もちろんB to Bを入れてほしいという意見もないわけではないので,なかなかここは内部的にまとまらないところなんですけれども,どちらかといいますとB to Bは排除してもらいたいという意見が多いように思います。B to Bを絶対入れないということは書いておりませんし,元々この補充説明でも,こういったものは入りますよということで,それが例示されておりますから,それに類するものなどが拡張的にどんどん広まっていくと,一体どこまで入るのかというところで,企業実務は非常に保守的なので,含まれる範囲が非常に広くなってしまう。そうすると,今までB to Bで培ってきた運用の弾力性といいますか,そういったところが非常に毀損されて窮屈なものになる。それだけではなくて,B to Bというのはかなりプレーヤーとしていろいろな方がいらっしゃいまして,言い方は余りよくないかもしれませんが,魑魅魍魎が住んでいるというようなところもありまして,こういう規律が入ってしまうと,いたずらに駆け引きとか交渉のネタに使われるということを非常に懸念する企業の方もおられます。なので,ここは何とかやめてほしいということであります。   それから,定型約款に基本的にB to Bは含まれないということで,3要件をこの補充説明では書かれておりますが,その大きな枠組みは「補充する」ということですね。契約を補充するようなものとして3要件を書いているわけなんですけれども,ただ,我々の企業実務の中でよく出てくる,約款とは異なる名称で実務上処理されている基準とかマニュアルといったものの類いが,定型約款に含まれないという保証が全くないというところであります。通常,こういったマニュアルとか基準というのは,契約締結時点では一切相手方に開示されることはありませんので,後で補充される,言わば契約を補充するというような形になるものですから,その辺りが形式的には定型約款の定義に当たるのではないかという可能性があって,この辺りが本当に完全に入らないのかという点が気になります。マニュアルとか基準なんていうのがかなり弾力的に運用されるものですから,柔軟性が失われて窮屈になるというところもかなり懸念されているところかと思います。これまで問題なく行われてきた実務に影響を及ぼす,あるいは契約交渉の在り方に変容をもたらすのではないかと,そういう御指摘があります。   それで,もちろんここで事務当局の皆様が御説明し,補足説明あるいは一問一答で様々に解説をしたとしても,一旦,条文化すれば,条文は独り歩きしますので,幾ら起草者意思といっても,これは明治の時代の起草者が今日のこういう解釈論の状況なんていうのはとても想像できないのと同じく,やはり相当理解が変わってくるのではないかと思います。社会の変化に応じてその法律が変わるというのは分かるわけですけれども,法律を変えることによって,これまで問題なく行われてきた企業実務というのが変容されるということに対しては非常に強い懸念を抱いていて,ここは何とかB to Bを排除してほしいと。そういう強い意見がございました。   それで,そういったところもありまして,8月の段階で仮案取りまとめのときには,組入れのところを信義則ではなくて公序良俗違反を判断基準にして,これは適用するという意味ではなくて,基準にして組入れを判断するという,そういった形にしてもらえないかということを御提案させていただきましたが,退けられておりまして,この点についても非常に遺憾に感じております。特に,信義則と公序良俗というのは適用範囲も全く一致しているわけではなく,適用範囲は全然違うと思います。いずれにしても,それなりに違いますし,ここの部分を何とか手当してもらえれば,B to Bの問題点についての懸念も若干和らぐのではないかと,そういうような意見を述べられる方もいらっしゃいまして,ここは何とかしてもらえないのかなとは思っております。   要するに,ここは直接90条を適用するような場面ではなくて,判断基準として使う場面なので,できればここに90条を入れて,限定的な形で組入れの判断をしてもらいたいということでございます。組入れる範囲が拡大することについては,特に公共サービス系の方からは歓迎の声も出ておりまして,むしろ90条を判断基準にしたような形での組入れというのを是非考えていただけないかと思います。元々,ここについては組入れだけではなくて,不意打ち条項あるいは不当条項を一緒くたにしたようなこれまでの提案経緯もございますし,90条を入れることにそれほど理論的な差し障りがあるのかなというのは,かなり疑問に感じているところではあります。   それから,経済界から考えると,やはり信義則というのは非常に社会政策的な形で発展が遂げられてきたという経緯もありまして,戦後,明文化されたわけですから,そういったことも踏まえて考えますと,非常に適用範囲が広がってしまうのではないか,いろいろな配慮が働いてしまうのではないかということで,むしろ90条,公序良俗の中の市場公序という部分についてしっかり判断してもらうのが良いと思います。契約自由の原則をベースに考える,市場取引の自由をベースに考える中で,その中でやはりこれは市場公序としては,取引の悪性を考えたときに,これは排除しなければいかんというものを排除するという,そういう形で運用してもらうのであれば,ここは仮にこの約款規定を入れるにしても,まだ懸念は少なくなるということでございます。その辺りも是非もう一回御検討いただけないだろうかということを感じております。   約款変更につきましては,今ちょっと御説明がありましたけれども,この約款変更についても,この段階になっていまさらですけれども,やはり要らないのではないかといった意見もあったりしまして,むしろ窮屈になるので要らないのではないかといった意見もないわけでもないというところで,非常にちょっと意見自体は収束しにくい状況でございます。   大体こんなところがまず大まかなところであります。 ○鎌田部会長 恐縮ですけれども,大島委員の御意見もお伺いした後で,ほかの御意見を伺いたいと思います。 ○大島委員 よろしいですか。すみません。   定型約款の定義についてです。定型約款については,約款が広く使われている実態に鑑みますと,何らかの規定があった方が好ましいと考えていますが,一方において,事業者間取引で広く使われている契約書のひな形が約款に該当しないような定義にしていただきたいと申し上げてまいりました。それで,今回の提案では,事業者間取引で利用される契約書のひな形については,その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なものとは言えないため,定型約款の定義に該当しないことになると思います。したがって,よく練られた定義であると考えております。この方向で御検討いただければと思います。よろしくお願いいたします。 ○鎌田部会長 それでは,お二人から御意見を頂戴しましたので,ほかの方の御意見を。 ○加納関係官 ちょっとまた逆の方の観点からの意見になって大変申し訳ないんですけれども,変更の所の本日の配布資料で86-2で申し上げますと5ページの記述に関しまして,経過措置に関するお考えが示されているところでありますが,施行前に締結された契約についても,一定のルールの下で変更を認めましょうという考え方の下に,その考え方を整理していただいているということだと思いますが,特にいわゆる特定変更条項を一定の期間内には相手方との合意なく定めることができて,それに基づいて変更できるという点でありまして,まずここは率直に,どうしてここまでしないといけないのかという点について,疑問があります。   それと,もう一つ最後に,そういうことについて相手方が合意できないといいますか,納得できない場合は,取引の非継続を選択するなどの対応ということを最後の一文で書いていただいているんですけれども,ただ,契約を解約するとか,そういうことは,解約権が留保されていない限りは直ちにはできないということだと思いますし,そうしますと,特定変更条項を定めたことに基づく変更の内容がどうかということで,その内容の合理性は今回のルールで一定の歯止めが掛かっているのでいいんだということかもしれませんが,やはり契約当事者からしますと,変更された後の契約にずっと拘束され続けるということになるわけで,そうしますと,ほかの取引条件,それこそ対価であるとか,その他もろもろこれまでの契約してきた経緯に照らし,もうそういう契約内容であるんだったら,解約をしたいというふうに考える当事者が出てきてもおかしくはないと。取り分け消費者の場合にはそういうこともあり得るのではないかという気がしておりまして,取引の非継続を選択するということがあるんだったらまだしも,これは必ずしもあるわけではないと理解をしておりますので,そういう形でこの特定変更条項を定めてまで経過措置として対応することについては,ちょっと疑問がございます。 ○山本(敬)幹事 約款の定義,組入要件,内容規制などについては,これまでのこの部会でも何度発言したか分からないぐらい,繰り返し意見を述べてきていましたし,取り分け今回の原案は基本的には第96回会議で示された素案を基にしていますので,その折に申し上げた意見がほとんどそのまま今回にも当てはまるところです。余り同じことを繰り返すべきではないと思いますけれども,定義や要件の内容そのものはやむを得ないとしても,全体の構成の在り方については,言わずもがなとはいえ,やはり申し上げずにはおれないところがありますので,もう一度だけ御容赦いただければと思います。   これは私だけではなくて何人もの方が指摘されていたことですけれども,前回の素案も今回の原案も,2の(1)の要件を満たしたときは,定型約款の個別の条項についても合意をしたものとみなすとした上で,(2)の要件を満たす場合は,その条項は合意したものとみなされないという構成を採用しています。何が問題かといいますと,約款条項の拘束力の根拠をどのように捉えるかという点について,これは従来の少なくとも学界での一般的な考え方と違っているということです。従来の一般的な考え方は,拘束力が認められる根拠は強いて言えば二つある。一つは,個別条項の内容に関する合意で,これが基本である。しかし,約款に関しては,約款を包括的に契約の内容にするという合意も認めてもよい。ただし,この合意によって約款が包括的に契約の内容になるためには,特別な手続要件が必要であると考えられてきました。もちろん,そのような要件を満たして,約款が契約内容に組入れられたとしても,個別の合意が実際にあるわけではありませんので,特別な内容規制を行う必要がある。これが,過去50年以上に及ぶ約款法学の到達点であったと言っても過言ではないと思います。   これに対して,前回の素案も今回の原案も,拘束力の根拠は,強いて言えば個別条項の内容に関する合意であると,一元的に捉える。もちろん,そのままでは約款条項はこの意味での合意はありませんので,拘束力は認められないことになります。そこで,2の(1)の要件を満たすときには,この拘束力の根拠たる合意があると擬制する。ただ,(2)の要件を満たすときは,拘束力の根拠たる合意は擬制されないという構成になっています。結論は大きく変わらないのだから,それでよいではないかと思われるかもしれませんが,そう簡単ではありません。   約款法学がこれまで努力を続けてきたのは,一つには,組入規制と内容規制が融合したままでは,何が根拠になったのかが不明確な形で隠れた内容規制が行われることになったり,あるいは本来ならば内容規制を行うべきところが行われなかったりすることになる。それは適当ではないという考慮によります。しかも,現在では消費者契約法が制定されていますので,条項に関する内容規制が行われるべきであるということは,既に制定法上確立している。ならば,組入規制と内容規制は性格を異にするのだから,それぞれにおいて考慮すべき事柄を考慮して判断できるように,規律を整備すべきである。そうでないと,前回の会議でも出ていましたけれども,不当条項規制が明確に定められていないところでも,このような不当な内容の条項については合意したものとみなされないというような形で,不文の不当条項規制が広がっていくという可能性も否定し切れない。   部会資料では,幾つかの裁判例を示して,条項の内容だけではなく,ほかの事情も含めて合理的な解釈が行われる例があることが指摘されています。このような裁判例があるのは確かにそのとおりです。しかし,それらは,適切な組入規制と内容規制が整備されていない中で,裁判所が工夫を重ねながら,何とか適当と思われる結論を導き出してきたというものばかりだと思います。例えば,明確な不当条項規制が定められていれば,それによるということができたでしょうし,あるいは約款に対して個別合意の優先原則だとか,不意討ち条項,あるいは透明性原則や不明確条項準則に当たるものが定められていれば,それによることはできたということを指摘できます。これらはその意味では過渡期の裁判例であって,それを民法典の中に今固定するのは適当かという問題も出てきます。   しかも,約款に関する問題は,世界中で問題になっていることでして,取り分け国際的なハーモナイゼーションが必要になるものです。もちろん,組入規制や不当条項規制の個々具体的な内容は国や地域の実情に応じて違ってくることはあってよいことですし,必要なことでもあるわけですけれども,規制の基本的な枠組みは共通にしておく必要があるだろうと思います。その意味で,前回の素案や今回の原案は,コンセンサスを得るためにはやむを得なかったということは十分承知しているつもりではありますが,これまでの50年以上に及ぶ約款法学の努力と国際的な動向に対して,あえて目を閉ざしているという点で,一研究者としては大変残念であるという思いを禁じ得ないところです。   その上で,さらに申し上げますと,幾らコンセンサスを得るためだといっても,規定を置く意味が全くなくなるような提案は受入れられないと言わざるを得ません。先ほどの佐成委員が指摘されていたところですが,仮にこの2の構成を維持するのであれば,(2)で合意の擬制が認められないとするための要件を,民法第1条第2項ではなくて公序良俗に置き換えるのは,容認できません。公序良俗というのは,戦前の末川先生や我妻先生の時代では,全法体系を貫流する法の根本理念だとされていましたので,至る所で公序良俗の理念を押し出すことは考えられるかもしれませんが,現在の民法学では,法律行為に関する限り,公序良俗規範は法律行為の無効規範として位置付けられています。その点に異論はないと思います。基準を公序良俗にしたいというのであれば,効果は無効にしないと一貫しません。   もちろん,2の構成でも,結論は条項を無効にするのと同じだと言われるかもしれませんが,仮にこれを内容規制と同じものと見るとしても,その基準を公序良俗にしますと,規定する意味がなくなります。公序良俗に反するものは無効であるという規範は,法律行為一般に当てはまることです。しかし,今回の1で定義する定型約款は,不特定多数を相手とする取引であって,内容の全部又は一部が画一的なものであることがその双方にとって合理的な取引で,契約の内容を補充するために準備される条項ということになっています。このような条項は,原則として個々の条項について個別的に合意されることは予定されていませんし,その内容についても交渉の余地は通常ありません。確かに2の(1)の要件を満たせば,個々の条項の内容についても合意があったものとみなされはしますが,それを本当に全て個別条項の内容について合意があった場合と同じものと扱うことはできない。だから(2)で特別な規律を用意する必要があるという考慮に基づくと言えます。これは,内容規制そのものという構成が採られていませんが,いずれにしても,定型約款についてはこの意味での特別な規律の必要があるという考慮に基づいて定められているわけです。それを公序良俗にしてしまいますと,この趣旨と相容れない。したがって,これを公序良俗に定めるという提案は,規定の意味を失わせるものであって,やはり容認できない。少し長くなりましたけれども,そのような意見を申し上げておきたいと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。 ○松本委員 幾つか申し上げたいことがあります。一つは,加納関係官が先ほどおっしゃった変更の所での離脱との関係ですが,期間の定めのある契約をしている場合とない契約をしている場合と,二つパターンがあると思うんです。期間の定めのある定型約款による契約をしている場合に,期間内に変更をするというのは,よほどの場合でないと認められるべきではないだろうと。相手方一般に有利な場合であればいいだろうけれども,そうでない場合に諸般の事情に照らして合理的なものであるときという部分は,期間の定めのある場合は,基本的にこれは満たさないと考えるべきではないかと思います。期間の定めのない場合については,これは変更を認める必要は確かにあると思うんですけれども,その場合は正に離脱できるということが少なくとも新たに定められない限りは,やはり合理性の要件を満たさないと解釈すべきだろうと思います。   それから,補充説明の1ページの1についての説明の下の方の,事業者間でB to Bの約款については基本的に対象外なんだということを説明されている所の下から4行目から下から2行目辺りの叙述がちょっと気になりました。契約内容が画一的である理由が交渉力の格差によるものであるときは,合理的ではないんだと,だから定型約款に当たらず,約款規制の対象にならないと説明されています。B to Bの場合はそういうロジックで定型約款から落ちるという説明ができるケースがかなりあるのかもしれないけれども,B to Cの場合ははっきり言ってほとんどすべての約款が交渉力の格差によるものなので,もしこういう要件が定型約款の定義だということになりますと,交渉力格差から作られる約款というのは,民法の定型約款ではないんだという話になって,ではどうなるんですかと。そこは,消費者契約法だけが適用されるのですかって,すごく変な構造だと思います。   というふうに考えると,これは説明がおかしいのか,あるいは定義がおかしいのか,どっちかだと思うんです。そもそも,これは定型約款に当たらないんだから契約内容にならないんだと言い切れれば,それはそれでまたすごいことかもしれないですけれども,それではなかなか取引が機能しないところもございますから,普通に約款だと考えられているものは民法の約款規制の対象になるというふうに,多くの場合をカバーするような定義にしていただきたいということです。   それから,3点目ですが,前に私は特に変更の所で事務局に確認いたしました。すなわち,伝統的な学説では,中心条項と付随的条項とに分けて,約款規制の対象は中心条項ではなくて付随的条項だというふうに一般的には議論してきたと思います。しかし,ここで変更に関する規定がわざわざ入れられたのは,付随的条項の変更よりはむしろ中心条項の変更を時宜に応じて行いたいというビジネスのニーズに合わせたものだろうと思います。価格,料金だとかあるいはサービス内容を変えたいということを,これで正当化しようということだろうと思うので,一定のニーズはあるんだろうと思うんです。   そうなりますと,価格,料金も含めて定型約款なんだという説明でやれるのかというところでございまして,1の定型約款の定義のところで,定型約款というのは契約内容を補充するものなんだとされていますが,価格というのが契約内容を補充するものなのかという疑問があります。特に最初に取引をやろうという場合の価格というのが契約内容の補充なのかというと,それは契約の核心部分だろうと思うので,最初の契約締結段階における定型約款の問題と変更段階での定型約款の問題とで,同じ定義ではうまくいかないのではないかという気がしております。   最後,4点目ですが,消費者契約法との関係であります。これは山本幹事が先ほど言われたこととつながってまいりますが,消費者契約法のロジックは伝統的なロジックでしたから,一旦組入れられた条項について有効・無効を判断しようということです。ところが,今回はそうではなくて,それを一つのロジックでやってしまうおうとしています。そうなると,消費者契約において約款が使われた場合に,消費者契約法が優先適用されるのか,民法の組入れと有効要件とを交ぜたこの規定が優先適用されるのかというのが,私ははっきり言って分からなくなってまいりました。特別法が優先だということであれば,消費者契約法なんでしょうが,消費者契約法は消費者契約法に規定のないことは民法によると書いてあるわけで,民法を見ると,組入段階から含めたルールが書いてあるわけだから,そうなるとその点は民法の方が優先適用されるんだということになって,そもそも消費者契約法の適用はないということになってくるのではないかと。2つの法律は趣旨を異にするから消費者契約法には影響がないんだというふうに補充説明では書かれているんですけれども,本当にそうなのかというところで,ちょっと疑問がございます。   差止めの部分は,消費者契約法上の有効・無効かよりも前の段階の,現実として不当な約款を使った勧誘が行われているという行為を差し止めるというふうに,文言を少し変えれば何とかクリアできると思うんですが,効力の部分,とりわけ10条の場合は民法との優先適用の関係がたいへん難しい問題になってくると思います。 ○鹿野幹事 定型約款の1と2の(2)についてそれぞれ意見を申し上げたいと思います。   まず,1についてですが,2点申し上げます。   1点目は,佐成委員が先ほど,事業者間取引を明確にこの定義において外すべきだというような御趣旨の意見をおっしゃいましたけれども,私はそれには反対です。それは,資料の補足説明にも書かれているのですが,事業者間取引というふうに言っても色々とありまして,正に双方がその事業に関連するような取引をやるときには,ひな型があったとしても交渉によって内容を決めていくことが予定されているでしょうし,それが適用外とされることには問題はないと思うのですけれども,他方,事業者がたまたま一方の当事者であったとしても,消費者と全く同じような立場で契約をするというようなこともあり得ると思います。その例として,資料の補足説明では預金契約やコンピュータのソフト利用契約などの条項が挙げられているわけです。佐成委員の御意見が,このような場合においても事業者間取引であれば適用されるべきではないということまで意味するものであるのかは,よく分かりませんでしたが,私自身は,このような場合について適用を除外することには,およそ合理的な根拠はないと考えている次第であります。   それから,1に関する2点目ですけれども,恐らくは事業者間契約の条項の多くは実質的にこの定義に当てはまらないということを説明せんがための理由であると思うのですが,資料86-2の記載には疑問な点があります。具体的には,正に松本委員が今おっしゃった補足説明の1ページの下から4行目から2行目ぐらいにおける②に関する説明が,私にはよく分かりません。ここには,契約内容が画一的である理由が単なる交渉力の格差によるものであるときには,契約内容が画一的であることは相手方にとっては合理的なものであるとは言えない,だから定型約款の今回の定義には該当しないとされています。問題は,該当しない場合にどうなるのかということです。約款については,画一的にそれを用いることについてそれなりの合理性もあるので,個々の点についてまで合意はなく包括的な希薄な合意しかないとしても,個別の条項について合意したものとして取扱うということが,1と2を併せた趣旨だと私は思いますし,従って,②については,合理性のない場合は約款の定義にも入らないから,およそ2に定められている要件を満たしたとしても,それは直ちには合意内容にはならないということになるのではないかと思います。ところが,この資料の記載は,その前後の流れも影響して,合理性がおよそないものについては,あたかも組入要件が課されないかのような,逆の方向に働くような書き方のように見えます。そこで,この説明がどういう趣旨なのかということについて,疑問を持ちました。   以上が1に関する意見でございます。   次に,2の(2)の所ですけれども,この点については第96回の会議のときに意見が出されまして,私自身も少し発言をさせていただきました。つまり,「含まない」という表現と「無効」との間には違いがあるということを指摘したうえで,不当条項の効力に関する従来の理論や,不当条項の無効を定めた従来から存在する他の法律,取り分け消費者契約法との整合性などに配慮がなされるべきだという発言をさせていただきました。その発言は,先ほど山本幹事がおっしゃったように,組入れの要件と内容規制の問題を明確にそれぞれ規定するべきだという思いに基づくものであり,今もその思いに変わりはありません。   ただ,改めて部会資料の2の(2)の位置付けについて考えてみますと,不当条項の無効に関する規律が2の(2)に置き換えられているというよりも,この2の(2)というのは,不当条項の効力を問題とする以前の組入要件を定めたものであって,この組入要件を満たした場合であっても,別途,民法それ自体あるいは特別法の解釈適用によって,その効力が否定されることがあり得るという整理が可能なのではないかと思います。そして,そうであるとすれば,2の(2)は,不当条項の無効を定めた他の規律と矛盾はしないということになると思われるわけであります。   また,部会資料の説明でも掲げられていますように,既に従来から判例においても,広い意味での契約の解釈などを通して契約の成立を否定し,あるいは問題となった条項は合意されておらず契約には含まれないと判断したものがありました。補足説明にも幾つかの判例が挙げられていますが,例えば最高裁の平成17年12月16日の判決などもこの一つであります。これは御存じのとおり,賃貸借において建物の通常損耗についての原状回復義務を賃借人に負わせる旨の特約の成否と効力が争われたという事案に関するものですけれども,最高裁は,相手方に特別の負担を負わせる内容の特約の成立が認められるためには,それが契約締結時に明確に合意されていることが必要だという趣旨のことを述べており,つまり,契約時にその負担の内容範囲が明確に示され,又は説明され,相手方がこれを明確に認識して合意したということが必要なのだという考え方を採った上で,当該事件における問題となった特約の成立を結論的に否定したものであります。   この判決の意味を約款という問題に即して私なりに言い換えますと,相手方に特別な負担を課すような内容の条項というのは,資料の2の(1)におけるような一般的な組入要件を満たしただけでは,なお合意の内容にはならないというメッセージが,この判決に含まれているように思います。さらに言うと,相手方にとって特別な負担を課すような内容の条項を,相手方に明確に認識させないまま約款に潜り込ませるというような,一種,悪質な対応を否定するという意味では,不意打ち条項の排除の考え方とその核心部分においてつながっている考え方がここで採られていたのではないかと思われます。このような従来の判例の考え方を踏まえた規律が,2の(2)で示されているのだと思います。   もちろん,本来であればこの規律,つまり広い意味での組入れの規律とは別に,約款の不当条項規制に関する規律,つまり,条項の内容の当否ということを直接問題とする不当条項規制に関する規定が,民法にも設けられるべきだと私自身は思っておりましたが,恐らくこの点については部会のコンセンサスが得られないということで,今回は明文化が見送られたということなのだと思います。それ自体は,非常に残念なことではありますけれども,ただ,不当条項の無効の問題については,ここで議論してきました約款取引の特性ということを踏まえて,民法あるいは特別法の解釈が展開され,あるいは今後の立法が展開されるということに期待し,ひとまず委ねるということになろうかと思います。そうは思いたくはないのですけれども,この段階まで来ていますので,そういう捉え方をせざるを得ないのかもしれません。以上のことを踏まえ,今回の案では,組入れの一般的な要件が2の(1)で示されており,(2)では特別の場合について更なる組入れの要件が課されていると捉え,このような整理もあり得るものと思います。   なお,佐成委員が先ほどおっしゃったところの,2の(2)の文言を信義則ではなくて公序良俗にするべきだという御意見についてですけれども,これには反対であります。山本幹事も先ほど反対だとおっしゃいましたが,私も同じく反対であります。公序良俗というのは従来から,合意が成立した後の効力に関わる規律として主に位置付けられてきたのではないかと思います。しかし,今も申しましたように,2(2)で問題としているのは,そもそも当該条項が合意したものとみなされて契約に組み込まれるかという合意の成否です。そして,合意の成否の判断においては,先に言及した判例からも伺われる通り,契約締結時において,当該条項の内容に照らして約款使用者が尽くすべき行動をとらなかったということなどが,問題とされるのではないかと思います。   そしてこのように,当該条項を合意内容とするために,約款使用者が,契約締結時に,当該条項の中身にも照らして必要とされる行動をとったのかというような点の審査には,恐らく従来の理論の発展からすると,信義則がなじみやすいのではないかと思います。そういう意味でも,信義則という概念を用いるべきであり,これを公序良俗に置き換えるという佐成委員の案には反対であります。   それから,山本幹事もおっしゃったように,公序良俗という概念をここに用いると,実質的にも,90条とは別にここにこのような規律を設けるということの意味合いが不明確になってしまいまして,そういう意味でもこれには反対です。   以上,長くなりましたけれども意見を申し上げました。 ○佐成委員 幾つか私の発言に対するコメントがございましたので,若干感じているところを申し上げておきます。   まず,定義の所でこの預金規定やコンピュータソフトウェアの利用規約,こういったものが適用されることについて別に異論を申し上げているわけではなくて,一般的にB to Bが排除されないというところについて,B to Bで専ら取引されている業界の方とか,そういったところから非常に懸念の声が出ているということでございます。それから,別に預金規定やコンピュータのソフトウェアの利用規約といったものではなくて,先ほど申し上げたとおり,基準とかマニュアルと言われているものが,補充という言葉が今回使われておりますので,契約本体に補充する規定というふうな位置付けで,この定型約款の対象になってしまうということについて非常に懸念を抱いているというところがまずあるというところでございます。   それから,2の(2)の所の信義則に関してでございますけれども,別に90条をそのまま適用しろというわけではなくて,組入れに際して公序良俗に照らして判断してはどうかということです。公序良俗なら,取り分け市場公序というものについてならどうなのか,公序良俗に含まれているような市場公序に照らして判断したらどうなのかということを申し上げております。別に公序良俗が条項の内容だけを問題にしていると私は認識しておりませんで,やはり90条が適用される場面というのは,取引の悪性,取引経過も含めて判断されているのではないかと感じております。私は学者ではございませんから余りよく分かりませんけれども,ただ,内容だけを見て90条を判断しているとは思えない。むしろ,先ほど申し上げたようにB to Bをもし適用範囲から完全に排除できないんであれば,ここら辺を多少手当てしてくれることによって,実務界の懸念というのをできるだけ払拭したいという,そういうことでございます。   それから,消費者契約法との関係なんですが,前回,私,消費者契約法の改正論議が今スタートしているということで,そちらに委ねたらどうかという意見を申し上げたかと思います。ただ,内部でいろいろな議論を聞いておりますと,消費者契約法はかなり今いろいろな論点が出て,取り分けこの約款についても論点として取り上げるということを掲げられているようでありますが,ただ,民法で約款規制が入れば,消費者契約法では手心を加えてくれると,そういった悪魔のささやき,どこから聞いているのか分かりませんけれども,そういったものがあって,経済界の方は相当それによって動揺しているというのは,私は肌で感じております。非常にそこは本末転倒の議論,筋違いではないかなという気がしております。むしろきっちりやるならやるべきだろうと思っているんですが,民法に入れば,消費者契約法の約款の議論は進まないと。先ほど,ちょっと松本先生がお話しされておりましたけれども,民法でやっているのに,いきなり消費者契約法で上乗せ規制を掛けるとか,そういったことはしないだろうしと。そんなようなことも言われて,本当にそんなことを言っていいのかなというのは,ちょっと筋違いではないかというふうな感じも受けております。 ○鎌田部会長 鹿野幹事,補足がありますか。 ○鹿野幹事 では,一言だけ。   少々誤解を招いたのかもしれませんけれども,もちろん,一般的に言うと,公序良俗違反の判断においては,内容だけが考慮されてきたのではなく,行為態様も含めて考慮されてきたという点については,私もそのような認識を持っているところです。ただ,ここではそのような法律行為の効力というより,それ以前の段階の問題としてこれが取り上げられているのです。つまり,この「含まない」という表現は,その条項に関して合意したとはみなされないということを意味するのであり,合意の成否という次元の問題をここで取り上げているのでしょうから,公序良俗という概念をここに持ってくることは,従来展開されてきた議論との関係でも不整合となるのではないかということが主な趣旨でした。 ○佐成委員 今の点について補足的に。   別に鹿野先生に対して反論するとか,あえてそういうことではないんですけれども,消費者契約法が制定される過程の議論の中で,最終的にやはり消費者契約法10条が今回提案されている2の(2)とほぼ同じような形で制定されているかと思います。それの制定過程で,一旦はやはり公序良俗というのを基準にしてはどうかという議論があったと承知しております。ただ,最終的に現行法は信義則を基準にした形になっております。この点,「ジュリスト」なんかで読みますと,事業者と消費者との関係に照らすと,公序良俗よりも信義則の方が適当ではないかと,そういう配慮からそうしたというふうに書いてあったかと思います。ということで,民法に入れるのであれば,むしろ市場原理を制約する原理としての公序良俗を是非基準にしていただいて,やっていただきたいなというのが率直なところです。 ○大村幹事 定型約款による契約の内容の補充について2点と,それから変更について1点ございます。最初の2点は意見を申し述べますが,変更については確認をさせていただきたいと思います。   既に何人かの委員・幹事の方がおっしゃっているところと重複いたしますけれども,過去50年間の約款法学の推移という点については,山本敬三幹事がおっしゃったこととほぼ同じ認識を持っております。山本さんも鹿野さんも残念だとおっしゃっておらましたが,私もこの前のドラフトからさらに後退していることは残念であるのですけれども,これも山本敬三幹事が先ほどの発言の中でもおっしゃいましたのと同様に,ここに書かれていることは実質的には,約款の拘束力を認めるのと併せて適切でない約款条項を排除するということであろうと考えております。   「含まないものとする」という書き方は含みのある書き方でありますけれども,解釈の余地が残っているのではないかと思います。ここで我々が決めるのは,ここに書かれているのは,ブラックレターの部分,すなわち条文になる形で書かれている部分であろうかと思います。それがおかしいものでない,許容可能なものであるということであれば,それをどのように受け止めるかということについて,各人がそれぞれに知的な努力をするということになると考えております。それが第1点でございます。   それから,第2点は,直前にも出ておりました信義則か,公序良俗かということですけれども,ここもある程度の幅はあるのではないかとは思います。ただ,書き方としては,先ほど解釈論の幅はあるのではないかと申し上げましたけれども,公序良俗と書くとすると,これは無効規範であるという方向の解釈を誘発するということになるかもしれない。そのことは覚悟されて,そのように主張されるということならば,それはそれで結構だろうと思いました。私は,信義則を用いる考え方を特に変更する必要はないと思っております。   それから,定型約款の変更については,これは確認だけですけれども,今回の4の(1)の柱書きの最後のところでは,「ただし,定型約款にこの4の規定による定型約款の変更をすることができる旨が定められているときに限る」ということで,変更条項は必要だという前提に立っておりますけれども,その後で,イのところで考慮要素として,「定型約款に変更に関する定めがある場合にはその内容」という書き方になっております。そのため,少し読みにくくなっている気がいたしますけれども,変更条項があることは前提で,その内容ということだと思いますので,紛れがないように,書き方を工夫していただければと思います。   それから,これはかなり前に出ましたけれども,個別の合意の困難さというのをどこで読むのかということもあろうかと思いますが,それはその他の変更に係る事情で読む,そういう認識に立たれたのであろうと思っているのですが,そこも確認をさせていただければと思います。 ○岡田委員 まず,定型約款のこの定義のところ,大変今までの文章からすると分かりやすくなったなと思います。これに関して,B to Bはということに関しましては,私たち消費者には関係ないといえば関係ないのですが,私たちは本当に力の弱い事業者に対してどうかしてあげたいという気持ちが一杯です。近くの国の件ですが,「甲の横暴」という言葉があると最近聞きました。甲というのが約款の甲乙の甲だそうです。つまり約款を作った人間,その人間の横暴というのがここにきて,その国では問題にされるようになったということです。少なくとも日本はそこよりは進んだ国であってほしいと思います。今,佐成さんのおっしゃっていることはそれに通ずるのではないかと思いまして,消費者の立場ではありますが,弱い方のこともきちんと理解してあげてほしいなと思いました。   それから,補充説明の,(注)の旅客鉄道事業等法律が幾つか挙がっています。ここに電気通信契約が挙がっていますがこれはその前のものとは全然違うと思っていまして,今一番,消費者センターでトラブルになっているのがこの電気通信契約ですが,この分野は消費者契約法も特商法も適用がなくて,よりどころがない状況です。これは例示にしても外していただきたいと思いました。   その次ですか,B to Bの契約は適用がない場面があるということが補足説明に書いてあるのですが,私はこれを何回読んでもよく分かりませんでした。つまり,ある団体に対する法務省の涙ぐましい努力にしか思えないことを一言いわせていただきました。 ○佐成委員 岡田委員から厳しい御指摘をいただきまして,我々も別にB to Bで弱い事業者を保護する必要がないと申し上げているのでは決してなくて,このB to Bを排除してくれと言っているのは,先ほどちょっと言い方は適切でないと申し上げた,B to Bの中には結構,魑魅魍魎といいますか,巧妙にクレームとかを仕掛けて,交渉材料にしてくる方が結構おられて,それも消費者のように類型的に弱い立場ということではなくていらっしゃるということです。交渉力があるとかないとかいう構造的な問題ではなくて,非常にそういう方があって,それに対してちょっと懸念しているんであって,別に弱い方を保護しなければいけないとか,そういったところについては全く私も同意見ですけれども,ただ,それとは別にいろいろな方がいらっしゃって,契約の最終段階でちょっともめごとを起こすような方というのが結構いらっしゃいまして,その辺りでちょっと懸念をしているということで,B to Bを特に排除してほしいとおっしゃっている業界の方は,そういうことをよくおっしゃっております。 ○能見委員 私の基本的な立場は,先ほどの山本敬三幹事あるいは鹿野幹事と同じなのですが,先ほどから公序良俗という原理がどこで使われるべきかということについて議論がありまして,それについても,既に山本敬三幹事あるいは鹿野幹事によって言われていることですけれども,この問題について,私の言葉で意見を述べたいと思います。   佐成委員から,市場原理といいますか,市場において基本的に自由であるものを制約する原理としては公序良俗を考えるべきだ,自由を制約するのであれば公序良俗という原理がそこで使われるのだという説明があったわけですが,約款で問題にしているのは,市場における自由の制限ということではなくて,これはもう山本敬三幹事が言われましたけれども,約款というものが使われる場面では,必ずしも全ての条項について当事者の合意が及んでいるわけではないが,2の(1)に書いているような形で,約款が包括的に当事者間を拘束することをどう考えるかという点にあります。そういう意味では,約款が契約内容となることについて当事者の意思が薄いところがあるので,それに対するバランスをとるためにどういう原理を持ってくるかということが問題なのであり,自由とその制限という問題ではないということを確認することが重要です。したがって,薄い意思で契約に組み込まれる,当事者を拘束することになるような約款上の条項について,どういう形でその適切性を担保するかというと,それが皆さんのおっしゃっている信義則だということになるのではないかと思います。そして信義則を使う場合に,その効果については,ここで提案されておりますのは,信義則で当該条項の効力を否定するというのではなくて,鹿野幹事が指摘されたように,組入れを排除するという形にはなっており,それについてはいろいろ御意見があると思いますが,ここで使われるべき原理は,公序良俗ではなくて信義則であるということを強調しておきたいと思います。 ○潮見幹事 私も繰り返しここで意見を言っていますし,基本的に学者の委員・幹事の先生方がおっしゃったことにほぼ同調したいということを最初申し上げた上で,少しだけ私の意見を申し上げさせていただきたいと思います。   この間の約款の議論というものは,約款を民法に規定するときに理論的あるいは体系的に説明が付くようにしなければいけないという要請が一方にあり,他方,約款が直面するような様々な問題を処理するのに妥当なルールというものを民法の中に置くべきではないかと要請が他方にあることを意識して議論をしてきたと思います。その際に,約款という現在の契約法の中の中心的な地位を占める,正に契約法,債権法の現代化ということを考える場合に避けて通れない問題について,民法から外すというのは好ましくない。そういう現代的な諸問題を解決するためのルールが民法の中にしかるべく置かれるべきではないかという認識を持ちつつ,この間いろいろな議論をしてきたと思います。   私もその際に,どちらの方向からということで区別をしたわけではありませんけれども,第1ラウンドから最後,今日まで,それなりの言いたいことは言わせていただいたつもりです。恐らく,ここにいらっしゃる委員・幹事の先生方,もちろんこれは佐成委員を含めて,今申し上げた二つの要請の中でいろいろな意見交換をして,そしてできるだけ一致を採れるという方向で,何かそういう方向を探っていったような感じがいたします。   理論的・体系的な説明については,山本敬三幹事あるいは鹿野幹事が述べられた意見に,私も基本的にそれに賛成ですが,お二人も多分そのつもりだと思いますけれども,理論的・体系的な説明については,今後,解釈である程度処理をすることができるという部分については,正直言って,主観的には残念な所がありますけれども,ある程度今後の解釈に委ね,むしろ先ほどの2番目の要請,つまり約款が直面する様々な問題というものに対応できるようなルールというものを目に見える形で置くという方に重きを置いて立法をするということに対しては,足を引っ張るようなことはせず,むしろ積極的に推進するという方向で態度決定をするというのが,この時期に置かれたここの部会のメンバーの一人としては,目指すべき方向かなと思うところです。   そういう意味では,今の約款をめぐる問題というものを処理するのに妥当なルールというものが何かというところが,今回のこの今日示されたものの中に示されているのかというところを検証し,さらに,理論的・体系的な説明については,民法の基本的な構造に関わるような点について変更をもたらすような制度とか概念を,民法のルールの中で使ったり立てたりということについては,先ほど申し上げました今後の解釈というものも考えたときに,いろいろな矛盾をもたらすことがあり得るものですから,それは避けるような方向で立案されているかを検証するのが望ましいとも思います。   そういうふうに見ていった場合に,例えばこれも何人の方がおっしゃいましたけれども,約款による意思ということと個別合意擬制については何らかの形で今後解釈ということを通じて説明ができるかと思いますし,あるいは,組入規制と内容規制を融合するルールについても,これは先祖返りだと思っているんですけれども,後で理論的・体系的に何らかの形で組みほどくという形で議論していくことによって,対処することは可能であろうと思います。そこの部分が理論的に今後も対応が可能であるということであれば,もしここに書かれているルールというものが実践面で適切・妥当なものであるのならば,それは受入れた方がいいと思います。   他方,これも山本幹事,鹿野幹事,あるいは能見委員や大村幹事もおっしゃっていましたけれども,公序良俗については,ここにこれを持ってくるということは,今申し上げたような民法の基本的な構造に関わる問題に直結しますので,これは受入れられません。   あと,個別的な所を幾つか申し上げますと,先ほどのB to Bの所ですけれども,正にこれは先ほど直前の佐成委員自身がお認めになっていることであって,要するにB to Bを排除してくださいと言っておられますが,それは一般的あるいは一律に排除しろという,B to Bなら全てここに入らないというような硬直的な意見ではないと拝察しましたし,そうであるならば,今回,事務局の説明の所で書かれている点については受入れ可能ではないかと思いました。また,説明の部分は,先ほど何名かの方がおっしゃいましたけれども,ちょっと工夫をしていただかなければいけないと思いますけれども,しかし,その部分は先ほど鹿野幹事がおっしゃったような説明を加味しながら,少し検討していただくことで対処は可能ではないかと思います。   さらに,佐成委員は先ほど,最後の交渉のときにごねるという人たちが出てくるという趣旨のことをおっしゃられましたけれども,そういうものは恐らく事務局の理解からすると,こういうものは定型約款に入らないのでしょう。つまり,最後のところで交渉して,何かああしろ,こうしろというところが出てくるような可能性のあるようなものについては,画一的ほかの要件ので外れるという形で捉えることができるのではないかというような感じがいたしました。   それから,もう一つ,公序良俗の内容については,能見委員がおっしゃったことについて私は全面的に賛同したいと思います。さらに,佐成委員は消費者契約法の制定過程の所をおっしゃられたので申し上げますが,私も当時の国生審部会で末席に座っておったものですから,ある程度記憶はまだ少しは残っているつもりですけれども,そのときに一時期考えられていた公序良俗を入れるといった場合の公序良俗の意味は,佐成委員がおっしゃった意味の公序良俗とは違います。むしろ,現在,消費者契約法10条が信義則という言葉を使って表現しようとしていたものも含めた形で公序良俗なるものを使おうという形で,少なくとも私などは発言していたつもりです。   その上で,では,公序良俗という言葉をここでも使ったらいいのではないかということになると,それが佐成委員のおっしゃったような市場公序とか,あるいはある特定の場面に特化したような形で解釈されたり,あるいは佐成委員自身はさっきの発言からすると考えておられないでしょうけれども,これは内容規制なのであって,内容以外のプロセスについては,公序良俗判断に関係しないのだなどというような解釈が出てくる可能性もあるわけでして,それはそれとして非常に怖いところがあります。民法の基本的な制度とか概念,基本的な枠組みといったところに,そごするようなことがここで行われる可能性もあるものですから,ちょっとその意味も含めて付いていけないなという感じがいたしました。 ○佐成委員 すみません。何度も御指摘いただきまして,ありがとうございます。   先ほど,B to Bのある一部分について容認的な発言をしたのは,これはもちろんこういうものもありかなとは思っているけれども,要するにそこから拡張してしまって,いろいろなものが入ってくることについて非常に抵抗があるので,最大公約数としてはやはり全部排除してほしいというのが結論的な意見なんですね。私の意見です。ですから,こういった合理的なものはあるかもしれないけれども,それも含めて全部,合意形成を何とかするために,要するに経済界の中で,B to Bは入ってないよと明確に,あなたが懸念しているのは入ってないよということで合意を形成するためには,そこは何とかきちっとこれらも含めて排除してほしいと言っているということが一つでございます。   それから,もう一つは,確かに消費者契約法の所で実際に立法の場面に潮見先生がお立ちになっているので,私ごときが言うものではありませんし,「ベオチア人のたわ言(Geschrei der Böotier)」と思われてしまうかもしれないので,余り余計なことは言いたくないんですけれども,ただ,そこで議論されていたのは,恐らく消費者公序というものを前提に理解されていたと思います。でも,90条の中には消費者公序も入っているし,要するに市場公序も入っているし,いろいろなものが入っているのではないかと思います。だから,そういう意味では,柔軟性は90条にはあると私は理解しております。ただ私は学者ではございませんし,皆様方,偉い先生方を説得できるはずもありません。この先も,先生に議論で太刀打ちするなんていうことはとてもできません。私には全くできません。そういう意味では,早瀬主税の心境でありますけれども,嫌なものは嫌だと言いたいところであります。 ○沖野幹事 ありがとうございます。そのような御指摘を受けながら,同じ点について、しかも,屋上屋を架すようですけれども,この段階ですし,それに同じような意見であってもそれが重なるということは,それだけ普遍的な考え方だということを示すことにもなるかと思いますので,申し上げたいと思います。今の2の(2)の基準の点についてと,それからそれ以外についても2点申し上げたいと思います。   最初に,2の(2)の点ですけれども,佐成委員の御指摘にもかかわらず,やはりこれは公序良俗に置き換えるというのは非常に問題であると思います。消費者契約法の話をされました。そのときに基準をどこに求めるかという議論があったのは確かですけれども,その前提は契約の無効,消費者契約の条項の無効という効果をもたらすときの基準がどうであるのかということですので,飽くまで効果としては無効に結び付けられていたという点は改めて確認をしたいと思います。   それに対しまして,ここでの問題自体は,これも繰り返されておりますけれども,個別の条項を無効とするという話ではなくて,希薄な合意の中でその合意範囲の確定の基準をどこに求めるかという問題ですので,端的に無効にするという問題とはやはり違うものとしてここでは提示されています。佐成委員は当然その点は重々に踏まえておられて,無効の問題ではなくて,しかし基準としては公序良俗基準というのを入れることが適切ではないかという御指摘をされているということは理解しているつもりですけれども,これも何度も指摘されておりますように,公序良俗というのは民法ではやはり無効の問題と直結しているということです。   ですから,ここに公序良俗を入れるなら,効果はやはり無効ではないかと。無効であるならば,そもそもこの立て付けではないだろうということになると思われますし,そうであるにもかかわらず,ここの基準を公序良俗というふうにしてしまいますと,90条との関係で非常に説明に困難を来すのではないかと思います。これが何であるのかという理解は今でも多少困難になっていると思うのですけれども,一層,説明や理解は不分明になるということで,決して望ましいことではないと思いますし,在るべき規律であるとは考えられないと思います。   以上が2の(2)の基準をどこに求めるか,あるいはその表現をどうするかという点です。   それ以外の点として申し上げたい所ですけれども,一つは定義に関して,もう一つは2の(1)の方についてです。   定型約款の定義について,定型取引ということで一定の絞り込みを掛けるという考え方が出されているのですけれども,このような絞り込みというのは,一方で明確性を極力確保するという点があると思いますけれども,従来の約款の議論で言われていたものと比べると,範囲が狭くなっていると思います。そうしたときにどうなるのかということですが,先ほど来,50年の約款法学を無にするとは言わないけれども,それに目を閉ざすものではないかという指摘もございましたけれども,それが完全に否定されてしまうのかということです。解釈を通じて展開していくということはあると思いますが,それとともにこれを絞り込むと,定型約款についての規律と,それから従来それ以外についても含めて展開されていた約款法理なり約款についての数々の考え方とが併存することになる,少なくとも定型約款についての規律が設けられることで従来の考え方のすべてを打ち消すというものではないと思います。   おぼろげな記憶ではありますけれども,かつて,山下委員がその点の御質問と御指摘をされて,村松関係官がそれを打ち消すものではなくて,定型取引についての定型約款の規律がこれであるので,その外に広がっていくようなものについて,従来のものをおよそ打ち消すというものではないとお答えになりました。ですので,そういう意味では個別の合意,それから従来の約款で言われていたような議論は,なお解釈として展開する,一種の二層に更に定型取引に関する定型約款という三層目が付いていると,そういうものとして展開していくことになるのではないかと思います。   それから,2点目が2の(1)でして,2の(1)の特にイについては以前より,相手方に表示していたというだけで,異議を述べなかったというような要件がなくて本当にいいのかということを申し上げてきましたが,今回も従来と変わらない形で書かれているところです。様々な意見がある中で,何とか定型約款についての規定を設けようということで,様々な意見調整をして,努力をしてくださった結果の提示だとは理解しておりますが,アとイとを並べたときに,この両者の関係がどうなるのかというのは非常に難しい問題を生じるのではないかという気もしております。と申しますのは,アはイに吸収されないかという気もするわけで,内容の提示もあらかじめされなくて,それによるという合意があることがあるのだろうか。このような適用範囲の疑問を基礎とすると,イ1本でいけるのではないかという気もするわけです。それに対して,あらかじめかとか,そういう要件が違ってくるという議論があるのかもしれませんが,基本的にはそうではないと思います。   そうしますと,ここでもなぜ並列されているのかというのは解釈に委ねられることになりまして,積極的に合意があるという場合がアであり,イというのはそれに異議が述べられなかったという消極的な場面なのだけれども,それを要件として立てて証明等をしていくというようなものとしては,想定されていないのだといったような解釈や説明というのがされていくのではないか。さらには,ここには書かれていませんけれども,アやイとは違う類型として,鉄道ですとかバスとかいうような場合との3類型というのが想定された中でアとイが出ているというような,そういう説明になっていくと思います。ですので,今回の部会資料のような形でも,それはそのように解釈されていくだろうと理解しております。中心的に申し上げたいのは以上です。   変更については,変更条項を必要としているという点について,なお個人的には疑問は持ちますけれども,新たに申し上げることはございません。 ○岡田委員 先ほど言い忘れましたが,今の2の(2)のことに関して,合意するのは約款を使うということであるにも拘わらず,そこに書かれている内容についてまで合意したとのみなし規定になっています。私たちにとっては内容が重要であって,その重要な部分をみなしで決められてしまうというのは大変不本意で,当初からここの部分に関しては違うなと思っていましたが,でも,民法ということでこれも仕方がないと考えるとして,そうであれば,(2)の部分で相手方の権利を制限するとか,そういうことがあった場合は信義則が当たり前の話であって,それを公序良俗となりますと,私たちには90条の公序良俗と違う公序良俗といわれましても理解できません。その意味では契約に関することなので,信義則が私たちにはすんなり理解できると思います。専門家ではない私たちレベルの意見かなとも思っていましたが,研究者の先生方が同じような御意見なので,大変勇気を頂いてはおります。 ○山野目幹事 取り分け2の(2)に関しまして,佐成委員が,経済界においては恐らく様々な観点,考えあるいは利益をお持ちの多様な方々がいらっしゃる議論を取りまとめようとしてこられて,大変な御労苦がおありなのであろうということを,今日のお話を伺っていて感じました。昨年夏までに要綱仮案の取りまとめをした際の論議を私は随分,不勉強で忘れておりまして,公序良俗に変えてほしいという御意見が一体どういう根拠,背景を持つものであるかということを少し得心しかねる部分がありましたけれども,今日,佐成委員のお話を伺い,特に複数回の御発言で市場公序のようなものを考慮することができるように,というふうな御指摘をなさったことを伺っていて,御懸念というかお考えになっていることの本旨が分かってきた部分がございます。   その上で,現実的なことを考えたときに,2の(2)の現在の方向として示されている案文の,1条2項の基本原則の部分を「公の秩序又は善良の風俗」という言葉に変えるということは,今日の会議でも山本敬三幹事を皮切りとして,るる御指摘があったとおりでありますし,法制的に見ても,90条との関係について余りにも多くの困難な説明を要するというか,恐らく説明が困難な事項を抱え込んで,仮にここでこの会議でそういうふうにしようということにしたとしても,これは法制的に成り立ちにくいというか,成り立たない,そのような文言修正が話題になっていると受け止めざるを得ない部分があります。   加えて,佐成委員のお話を伺っていると,何が何でも「公の秩序又は善良の風俗」という,この言葉にピンポイントで変えてくださいとおっしゃりたいものではないであろうとも感じます。市場公序という言葉を伺っていて,私なりに考えましたけれども,おっしゃっているものは,日本の今までの法制における表現としては,公序良俗ではなくて公正という言葉で各種の法制が表現しているものに,恐らくニアリーイコールなのではないかということを感じました。   その上で申し上げれば,現在のこの2の(2)の案文も,むき出しの1条2項の基本原則というものが出ているのではなくて,定型取引の場面における取引の実情等を踏まえ,取引上の社会通念に照らして信義誠実の原則という,この前の「照らして」に至るまでの比較参照の対照物ということがそれなりにそれとして示されているものでありまして,ここで言われているものは,恐らく佐成委員のおっしゃる市場公序をかなり実質的には受け止めるものになっていると理解することができるというか,あるいは理解しなければならないのではないかということも自分なりには感じました。佐成委員のお考えの本旨というか御懸念も十分に理解することができたとともに,自分なりに今感ずるところでは,そういう意味では,佐成委員も含む委員・幹事の皆さんの意見を集約して受け止める法文案のテキストとして,2の(2)の現在の文章を育てていくということが最も望ましいところではないかということも感ずる次第でございます。 ○鎌田部会長 事務当局からコメントがあると思いますので,よろしくお願いします。 ○村松幹事 いろいろ御議論いただきまして,ありがとうございました。公序良俗か信義則かといった点につきましては,既に御議論いただいたところを踏まえて,こちらも更に検討するということになろうかと思ってございます。この間,それ以外の事務当局に対する質問がいろいろあったので,お答えさせていただければと思うのですけれども,もし漏れがありましたら,追加的におっしゃっていただければと思います。   発言順序に従って申し上げますと,まず,定型約款の変更に関する経過措置で,ここまでやる必要があるんだろうかというような御指摘がございまして,取引の非継続との対応も,結局のところ契約上採り得る措置には限界もあるだろうと,こういうようなことも含め考えるとどうなのだと,こういう御指摘だったかと思います。御指摘は確かにそのとおりに見える部分もあるのですが,そもそもこの部会における審議の過程におきましては,この変更条項を置くこと自体の意義について,今日も沖野幹事からの御発言がございましたけれども,そこまで必要なのかと,こういうような御指摘もあったところでしたけれども,諸般の事情を考慮しつつ検討したところ,少なくともこの変更条項が合意であって,その合意に基づいていろいろ正当化されるのだとそういうものとしてではなく,飽くまでも相手方に対する情報提供というようなことを主眼とした規定として理解するということは,あり得るという位置付けにしていました。つまり,変更条項が置かれていることで約款の変更自体を正当化するという意味は,必ずしも大きくないというのが共通の理解であったのではないかと思っております。   それに加えまして,これは御指摘いただいておりますけれども,結局は個別の変更の際に合理性の基準がかかる。正にここの部分で物事を整理しようというのが今回の考え方というところでございまして,松本委員が御指摘になりましたように,今回の改正においては,必ずしも中心条項,中核的な条項かそうではないかという部分で,約款の変更に関して切り分けてはおりませんので,場合によっては,例えば料金について変更があり得るかもしれないということも否定まではしていない。ただ,それが主眼かと言われると,必ずしもそうではございませんで,もっと些末な,約款の細目的な条項,典型的に想定されるような付随的な事項をいろいろと変更しているという実務が現に行われているところもあるということも含め,それらを無秩序ではなく枠をはめて,やっていただきたいと。   こういうことで今回は規定を設けているというところですけれども,そういった変更の合理性というものを最終的には個別の変更の際に見ることで,場合によっては,そこで例えば料金の変更という極めて重大なことを行うのであれば,それ相応の担保措置が必要になる,代償的な措置が必要になるということは当然の前提ともなっていまして,それらを考慮した上で,全ての事情を考慮した上で,その変更ということが合理的だと言えない限りにおいては,変更はできないというのが大前提ですので,そういう全体的な位置付けの下では,経過措置において変更条項は不要とする,ある意味,基本的なルールをひっくり返しておりますけれども,それも許容され得るのではないかというのが一つの考え方だということで,ここでは整理してございます。   今の点にちょっと関連して申しますと,大村幹事から御指摘いただいた読みにくさの点についてはこちらも認識しておりまして,単に変更条項がある場合に,その内容といいますと単純な変更条項のように見えますけれども,変更に関する条項の中に具体的にいろいろなことが定められていた場合には,その具体的な内容を考慮するということをここでは言わんとしているところでございます。条文化等の際にはより精緻に表現することを考えたいと思ってございます。   それから,もう1点併せて御質問いただいている点で,変更について個別同意が取りにくいといった事情等も考慮することになるのか,その考慮事情はこの合理性判断の中で受け止められるのかという御指摘,以前,御質問を頂いていた点ですけれども,従前どおりそこも変わっておりませんで,考慮すべき事情の中には当然入っているという整理をしてございます。   それから,これも松本委員ほか,もう皆様から御指摘を頂いてございまして,説明の仕方が悪くて申し訳ございませんとお詫びが必要な点ですけれども,定型約款の定義に関しまして,今回,新しく要件を一つ独立させたという関係で,部会資料の86-2の1ページ目の2の辺りで,これまでいろいろ説明していたところをもう一度,簡単に整理して記載しました。要件としては形式的には三つございますというような説明をしております。もちろん,従前から説明していましたとおり,我々として一番本質的な,コアな要件というのは,内容の全部又は一部が画一的であることがその契約当事者双方,特に相手方にとっても合理的だと言えるようなものであるということです。それに加えて,今回入れました不特定多数の者を相手方とするといった要件,こういった要件が係りますということをもう一回さらっと説明したというところです。   その中で,単なる交渉力格差によるものであるときには,それだけで直ちに画一的であるとが合理的であるとは言えませんということを記載しています。これは,佐成委員がずっとおっしゃっておりますように,経済界の御要望として,プロ同士の間でしか行われないような取引,そういった取引において使われるひな形が抜けるということを説明するために記載しておりますが,従前の説明資料ではもうちょっとこの辺りは丁寧に説明していた所なんですけれども,ここでははしょりぎみに説明しておりました結果,交渉力の格差による部分があれば,もうそれだけで約款ではないというようなイメージにも受け取られかねないような記載になっておりますが,もちろんそういうことではございません。つまり,消費者とそれから事業者との間の取引については,交渉力格差もあるのが典型例ですけれども,他方でこの定型取引でいいますところの画一的であることが合理的な取引も多数あるというのが大前提でございますので,そこは両立し得るのがもちろん大前提でございます。   それから,松本委員からの御指摘事項でもう1点,約款のこれも定義に関わる部分ですけれども,契約の内容を補充することを目的として準備された条項と,こういう言い方をしてしまうと,付随的な条項だけみたいな形になってしまわないかという御指摘でございますが,意図としては,もちろん契約条項の総体全体としてどういうつもりで準備したのか,その中で補充的に,つまり,当事者がよく読まないだろうということを想定しながら作りましたという,そういう契約書全体をここで定型約款と称しましょうと,こういうことを言うつもりでございますので,ちょっと説明がそういう意味ではよろしくないのかもしれませんけれども,「契約の内容を補充することを目的として」という言葉が付いているために,例えば一つの契約書のうち,ある一部分だけが急に約款ではなくなるということを想定しているわけでは,ありません。   それから,佐成委員からの御指摘で,ちょっと勘違いをしている部分があったら申し訳ないんですけれども,マニュアルとか基準とかで,確かにあれは画一的なので,これを使ってくださいと,これがどうしてもやはり入ってしまうように見えるのではないかと,合理的だしねと,こういうお話をされているんだと思うのがですが,飽くまでも定型取引という枠の中で,まずそこに入っているのかどうかが分析の順序としては先に来ます。ですので,その定型取引の枠の中に入らない,つまり,その内容の全部又は一部が画一であることが合理的かどうかという要件になっておりますが,そこで外れていくような,つまり,先ほどの例でいえば,大企業間あるいは企業とその取引先事業者との間でひな形的に使われるようなものの中に,当然こういったマニュアルには従ってくださいというものが入っているという場合であっても,それはまず取引に当たるかどうかというところで一度整理をされますので,そこで外れるという整理を一応こちらはしております。したがって,結論的には入らないということにはなっていくというふうには理解してございます。   それから,沖野幹事から頂いた指摘で,2の(1)のアとイの関係についてなんですけれども,確かに従前,各号方式にしていなかったのがこのような形になり,その結果,アとイで重なっている,つまりアを満たす場合にはイも常にやっているはずではないかと,こういうような御指摘があったかと思うんですけれども,イの中では「あらかじめ」という記載がありまして,この「あらかじめ」は何との関係であらかじめかといいますと,定型取引を行うという合意の時点,これとの関係では先に表示をしてくださいというのでイには入っておりまして,アの方はむしろ取引の合意の後に約款による補充の合意をすることもあり得るという前提だということで,一応,論理的には重なっていない部分があるのではないかなと思って作ったものと思います。御指摘いただきましたので,もう一度よく頭を整理したいとは思います。   それから,岡田委員から御指摘いただいた点で,電気通信事業の関係についてという所で,ここにも書いてございますように,検討中というところではあるんですけれども,考え方としましては,ここで特例を設けるといいましても,飽くまでも個別の表示はもうさすがによいかどうかと,その点だけでして,表示をしなくていいよということになったからといって,例えばみなしから規定からの除外規定が係らなくなるわけではもとよりございません。その他の規定も全部係ります。こういう話ではありますので,ちょっとトラブルがという点はございましたけれども,実際に紛争解決の際に指標となるものという点では,ほかの契約とは変わらないということがございます。あと,電話等との関係でも,結局,個別の表示をしてくださいというルールになっておりますので,そういった表示が困難かどうかというのをこちらでも検討をすることにはしておりまして,表示が困難ではないということになってまいりますと,そういう特例は不要になるということではあるのですが,ちょっとここでは詳しく申し上げるのは差し控えますけれども,やはり電話の契約も実際のところはいろいろと複雑な仕組みを採っているところがあるようでして,そういった表示が困難だということが現にあるという部分に関しては,考慮はあり得るのではないかということで検討はしているというところでございます。 ○佐成委員 基準・マニュアルについては一応含まれないと,定型取引に当たらないので,そこで排除されるのではないかということですけれども,果たして本当にそうなのかというところについてはまだ疑問を感じております。定型取引に当たってしまえば,当然そういった基準・マニュアルも入るわけですし,今,現行で約款という名称ではなくて使われているようなもののある部分が,この定型約款として取り込まれるということについては,まだ完全に納得できるものではないと思っております。その上で,さらに,先ほど申し上げたとおり,一度,条文化されてしまえば,条文は独り歩きしますので,幾ら村松さんが入らないとおっしゃっても,完全に入らないとまでは言い切れないと思いますので,恐らく世の中に存在するいろいろなそういったタイプの基準やマニュアルについて我々が懸念しているようなものも,取り込まれる危険性はあると認識しております。その意味でまだ納得できません,というところであります。それだけ一つ申し上げておきます。 ○鎌田部会長 マニュアルに関する議論が今一つよく理解し切れないんですけれども,どういう場面が想定されているんでしょうか。 ○佐成委員 基本取引とかそういったもので引用されているようなものとして,そういうマニュアルというのがあるわけです。企業間取引でマニュアルとかあるいは基準と言われているもので,購買関係とかそれから安全関係とか,そういったものなどにはいろいろなマニュアルとかそれから基準というものがあって,契約書そのものではなくて,後からいろいろ出てくるような,いろいろな類いのスタンダードがあるので,それらが後から提供されるということです。それらに拘束されるわけですけれども,それが定型約款に含まれるのではないかという懸念であります。 ○鎌田部会長 それに拘束される根拠は何ですか。 ○佐成委員 拘束される根拠は,現状ではそれについて従ってもらいますというふうに言っているだけであります。例えば取引基本契約書の中で引用されている場合もありますし,個別の発注書の中で引用されている場合もありますし,いろいろな場合があるんですけれども,そういったものの中で,世の中で約款と言われているものではないものでも,定型約款に取り込まれるのではないかという懸念があるということです。完全に可能性がなければ別に結構ですので,もしそういうふうに断言していただけるんであれば,その点の懸念については杞憂であるというふうに持ち帰ります。 ○鎌田部会長 どっちの懸念になるのかが今一つよく分からなくて,約款であると言われることによって,契約の条項として当事者に対して拘束力が生まれるというのは,歓迎すべきことではないのですか。 ○佐成委員 いや,契約の変更の方に効いてくるんです。この変更の問題が一番やはり実務的にも影響を及ぼしまして,この辺りで相当性だとか必要性だとかをぐちゃぐちゃ言われたりするのが,非常に大変だということなんですね。マニュアルとか基準とかについて変更の相当性・合理性を説明しろとか,あるいはコスト的な面がどうかとか,そういうことを徒に細かく説明しろと言われるのが,非常に大変だということなんですね。 ○鎌田部会長 しかし,約款には入っていないこちらの作った内部基準だけれども,相手方を拘束すると思っているというのは。 ○佐成委員 一応は相手を拘束する。だから,今はそこら辺について非常に柔軟な運用をしているというところなんですね。そこがちょっとこれを入れることによっていろいろ制約を受けるんではないか,制約されるんではないか,柔軟性が損なわれるのではないか,そういったことを言われているというところであります。ですから,なかなかちょっと説明しにくい所ではあるんですけれども,事業者間ではいろいろこっちで譲ってあっちはどうというような,そういったいろいろな柔軟性があるという,そういう話であります。 ○村松幹事 確かに,私もいろいろと御説明を伺っていて,最初はどういうことをおっしゃっているのかというのがよく分からない部分があったんですが,今現実に実務で行われている大まかな雰囲気といいますか,空気感といいますか,そういうものがこういうルールが民法に入ると,間接的ではあるけれども影響を受けて何か変わるのではないか,そういうことはもしかしたら杞憂なのかもしれないけれども,気にはなる。その中でも契約の変更といいますか約款の変更といいますか,その変更に関する部分については,何がしか影響を受けるような気がするということをよく話していただいておりまして,そういうことはあるのでしょうかねというディスカッションをさせていただいたりもするのですが,恐らくそこでおっしゃっている契約の変更というのは,ここで言うような一方的な変更を一定の枠の中で認めましょうという話では実はありませんで,基本的には個別の合意を採って処理をされているというので御説明になるのではないかというような実務の取扱いではあるんだけれども,今だったら個別の合意を何となく,先ほどの御指摘でいえば融通無碍に,うまいことやっていて,お互いに納得ずくで進めているではないかと。しかし,そういった実務が変わっていく契機になるのではないかと。恐らくおっしゃりたいのはこういう話だと思うんですね。   だから,そこの所に,間接的であるとはいえ民法の中にルールが入ると,何となく影響があるのではないかということです。ただ,もちろん二段階で違うと感ずるところもありまして,一つは,少なくとも定型約款や定型取引には該当しない分野における話なので,間接的ではあるとしても影響があるのかという問題があります。また,民法の中に入るのは,飽くまでも定型約款に関して,合理性の要件をクリアしたらこういうことができますよというルールですから,一方的にどんな変更もされてしまうということはない,その意味でも違う話ではあるんですけれども,しかし,影響がないかが懸念されるというふうにおっしゃっていると理解しております。 ○佐成委員 そこはかなりこの定型約款の変更に関しては,懸念を述べる方で強硬な方もいらっしゃいます。少なくとも我々の業界は業法があるのでそれでやりますから,こういう規制があるのは逆に硬直的な感じになるなという印象を受けるんですが,私の個別業界についてはともかくとして,一般的な経済界の中では,この条項が入ることによって,今まで問題なく行われてきた約款実務といいますか,そういったところの事業者間の取引,契約交渉とかそういったもろもろにやはり悪影響を及ぼすのではないかという強い懸念は受けておりまして,私もそれはおっしゃるとおりだなというところも感じているので,あえて申し上げているというところです。 ○中原委員 銀行の考え方を一言お話ししたいと思います。銀行界は,今回の提案に対して異論はありません。ただし,部会資料86-2の補充説明の中身について異論がありました。部会資料の2頁,上から2つ目の段落に例が挙げられていますけれども,預金取引やコンピュータソフト利用規約といった定型的サービスについての規定や規約については,相手方が事業者か非事業者かを問わず定型約款に含まれると考えるべきと思います。しかしながら,部会資料では,事業者間の取引を排除する理由として,1頁の(説明)の2以降,いくつか述べられています。たとえば,事業者間でおこなわれる取引は,相手方の個性に着目したものが少なくないとか,契約内容を十分に吟味するのが通常であるといえる場合には,「契約の内容を補充する」目的があるとはいえないという説明がされています。しかし,これには違和感があります。事業者間取引であったとしても,契約内容が画一的でないとサービスの提供ができないようなもの,あるいは画一的サービスが予定されているものは定型約款に該当すると端的に説明すべきであるという意見です。 ○岡委員 佐成さんが言うような大学者の議論ではなく,実務家としての感触というか,意見を申し上げたいと思います。   私及び日弁連サイドとしましては,若干の不満等はございますが,この機会に是非,原案のような約款の規定は置くべきではないかと,置くことが相当であるという意見でございます。細かい補充説明の書き方とか表現については,先ほど村松さんが説明されたような詰めはしていただきたいと思っておりますが,そのような全般的意見でございます。   その上で,佐成さんが実務家として懸念をいろいろ発言されて,まず私の理解だと,運用の弾力性が失われる,それから契約交渉の在り方に影響を与える,基準・マニュアル等が気になると,この三つを発言されたと思います。私も32年,弁護士をやっておりまして,佐成さんよりちょっと長いと自負しておりますが,経団連傘下の企業間契約がむしろメーンの仕事で過ごしてきました。その感覚からいきますと,さっきの三つについてはそう心配するには当たらないという意見でございます。   最初に,運用の弾力性が失われるということについてですが,今回の約款の規定に当てはまれば,この規律が通ると。この定義に当てはまらなければ,さっき沖野さんと村松さんの話にあったような,従来の考え方が多少変化した上で適用されると。そういう関係ですので,弾力性が失われるというのは,この約款の定義に当てはまった場合に不意打ち及び不当条項の規制が掛かる,変更について若干自由になる,そのことをおっしゃる,論理的にはそこに入っていくんではないかと思います。しかし,よくよく見ますと,内容を無効にする,合意成立とみなさないというところもかなりきちんとした要件がございますし,今の日本の裁判所の運用を見る限り,公序良俗の90条の運用を見る限り,それほど心配するほどではないというのが実感でございます。   変更のところを佐成さんはかなりおっしゃいますが,変更の在り方についても,自由に変更できるというようなことではなく,就業規則の不利益変更のような要件もかぶせて,かなりきちんとしたチェックが掛かっていますので,約款の定義に当てはまったとしても,それが運用の弾力性,あれが嫌だから逃げようとか,あの規律を受けると困るという感触は,企業間契約に携わっている者として,それほど思わない。それは思う人がいるのは否定はできませんが,私のような考え方をする企業家,実務家,法律家も相当いるんではないかと思います。   それから,2番目に,契約交渉の在り方に影響を与えるんではないかと。三菱商事の小林さんの論文等も読ませていただきましたけれども,こういう約款規律ができると,それに頼ってしまうというか,それに甘えてしまう人が出て,契約交渉の在り方がゆがむんではないかと,そのような問題意識かと思いました。しかし,それは一般的な企業の契約法務マンとして,そんなことはないと思います。そこの影響を与えるんではないかという不安については,私個人としてはそれほど理由がないんではないかという意見でございます。   それから,3番目に,基準・マニュアルの所ですが,確かに企業間契約で検査についてはこのマニュアルに,製品の最終検査についてはこういう検査をやってくださいよというのを,細かい話ですから,JIS何とかとかISO何とかとか,そういうマニュアル等を見ます。しかしマニュアルについては,その大元になる売買契約あるいは請負契約が定型取引に当たるかどうかでまず判断されるところでございますので,今回のように,相手方の個性に着目した取引,相手方の資力であるとか技術力に着目して結ぶ請負契約であれば,定型取引に当たらないということになると,その請負契約に伴う検査あるいは安全衛生あるいはその製品のスペックに関するものは,約款規律の適用を受けないんであろうと思います。なおかつ,スペックだとか安全保障に関するマニュアルというのは,それは企業間取引においていえば,中核事項ですよね。紙は渡しますけれども,しっかり読んでしっかり守ってくださいというふうに合意するそのものでございますので,私が今申し上げたようなマニュアルがここの約款,補充目的という条項には当たらないんではないかと思いました。   佐成さんの意見を聞いていて,私も東京ガスを利用させていただいておりますが,ガス器具はこんなふうに使ってくださいよと,検知器はこんなふうに扱ってくださいよと,そういうマニュアルは確かにもらいますが,それは契約内容の補充というのではないのではないかと思います。ガスを買います,売ります,これだけ払いますと。それに伴う安全配慮について説明義務は東京ガスにあるんだと思いますが,それは契約の内容の補充というのに当たるんでしょうか。それはそれこそ大学者の先生に,契約内容の内容というのはガス器具の取扱いまで含むのかどうか,そんなところは御説明いただければと思いますが,基準・マニュアルの中にもいろいろあるので,そこを理由に全般的に相当ではないというのはやはり行き過ぎ,もう少し細かい議論が要るんではないかというのが意見でございます。   それから最後に,先ほど嫌なものは嫌だとおっしゃいました。それは個人の意見としては十分分かります。保証の所で配偶者はいいという条文を入れることについて,嫌なものは嫌と正直におっしゃった人が何人かいましたけれども,やはり個人的な考えと,今この時期における,5年間議論してきて,この民法というのを今どういう改正をするのが現在及び将来にとっていいのかという判断をすべき立場及び使命を負っているのが,法制審の部会委員だろうと思います。そういう意味で,嫌な人がいるのは事実でございます。消滅時効の所でも弁護士会の中には嫌だといまだに言い続けている人はいますし,弁護士4人の委員の中にもそれぞれ意見は違っていると思います。ただ,これだけ議論をしてきて最終段階で,どういう法律を今の日本にもたらすのがいいのか。そういう観点に立って,嫌なものは嫌という気持ちをどうコントロールするかというのを是非,次回までに,私どもも考えますが,佐成さんにも考えていただければと思います。 ○佐成委員 大変厳しい御指摘を頂きました。   まず,岡先生は弁護士としての御経験というところからスタートされておりますが,日本のような「2割司法」と言われているような中で,裁判所に行き着く以前に我々は8割の部分をやっておりまして,そこの問題をまず指摘しているということでございます。   それから,契約とかそういったものについて,自由に変更しているわけでは全くございません。ただその交渉が非常に,ここは譲るけれども,次回はまた負けてねとか,いろいろ駆け引きが一杯あるわけなんですね。その辺りについて言っているんで,決して自由に強い者が変更しているとか,そういうものではありません。   それから,私は自分の業界,特にガスの業界については一切考えているわけではなくて,マニュアル・基準というのはどこの業界でもある話でありまして,それをちょっと申し上げているということであります。いろいろなものがあると。確かに,岡先生が前提にされるような本質的なマニュアルもあれば,付随的なものもある。いろいろなものがあると。ですから,定型取引に当たればもちろんこの規律になるし,定型取引に当たらなければそういう議論にはならないというのは分かります。   ただ,そこもやはり問題にしているわけでありまして,要するに,定型約款に当たるものとそれからそれ以外,従来の約款理論によって処理される部分,その二つが今後生まれてしまうという,実務的な混乱といったところについても非常に抵抗を感じて,反対をしている意見もございます。それについては,前回述べたかどうかちょっと忘れましたけれども,そういった意味で定型約款に入るもの,それから,それ以外の,定型約款に入らないけれども,契約が無効になるとまでは言えず,従来の約款法理で救済されるようなもの,そういったものが幾つか現れるといったことについて,やはり懸念を述べているということであります。   それから,私は別に嫌なものは嫌と言っているのは,個人的に言っているというわけではなくて,先ほど冒頭申し上げたとおり,経済界の中には賛成の意見ももちろんあるわけであります。それは複数ございます。それから,容認をしている方がいらっしゃるということは先ほど冒頭,申し上げてあります。ですから,その中でまだ強い反対の意見が個別企業あるいは個別業界で,私の業界だけではなくて,一杯あって,それで申し上げているので,別に個人的に反対しているというわけでは必ずしもないわけであります。   もちろん,この定型約款なるものが本当に日本の国のためになると私も信じるんであれば,別にどんなに反対する人が内部にいたとしても,もちろんそれは私も説得に回るんですけれども,私自身,かなりやはりいろいろ問題点が多いんではないかと感じておりまして,だから,問題点が多く,仲間がこんなにも反対している中でその人たちを説得するなどというのは,なかなか厳しいし,できないということなんですね。ですから,どういう判断を我々が,私というか,最終的にどうするかは別にしまして,現時点で賛成できないということはこれはしようがないのです。ここは賛成意見ばかりではなくて反対意見が複数あるという中で,私がこの間のバックアップ委員会で受けた意見なんかを踏まえつつ,今発言をさせていただいて,まだ懸念点が抜けないと,現時点では抜けてないんだということです。ただ,次回が最終取りまとめでありますから,そこをどうするかというのはまた別の問題だと思いますので,そこは別にして,十分考えたいとは思います,もちろん。皆様から厳しい指摘を受けておりますし,私も気が弱いものでございまして,余り強いことは言えませんので,じっくり考えて次回に臨みたいとは思います。 ○松本委員 佐成委員が今度新設される民法の定型約款に関する規定からB to B契約をいかに外すかという観点から主張されているわけですが,逆の観点から,つまり,いかにしてこの規定をかぶせるかという観点から考えますと,先ほどから私が問題にしております合理性というところ,全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なものをいうという定義,これは定義であるとともに,一種の要件だと思うんです。そうしますと,ここから外れるものについては,次の信義則による組入規制であるとともに内容規制,両方を兼ねた2の(2)が適応できないという話になってきて,これでいいのかというのが最初に発言したことの趣旨です。   合理性を欠くということであれば,そもそも契約内容にはならないんだと言い切れれば,それはそれでいいんだけれども,この今回の民法のルールでは,約款の内容は見せなくてもいいんだと。見せろという要求があれば見せないと駄目だけれども,見せなくても契約内容を補充するという大前提に立つので,それでかつ合理性がないのであれば,信義則の問題を議論するより前に契約内容にならないという議論はすごくよく分かるんです。ところが,消費者取引の場合の多くの約款では,詳細な文言がきちんと書いてあって,そこに署名・押印をさせられているわけです。したがって実質規制,内容規制が大変重要になってくるところがございます。   となると,そもそも定型約款に該当しないからもうそれ以上民法では議論しないということでどこまでやれるのかと。きちんと署名もあるという状況で消費者として闘わなければならないという場合に,従来の公序良俗論でやってくださいというようなことで果たしてよいのかというと,ちょっとそれは問題があるのではないかと思います。言い換えれば,合理性というのを要件事実的な意味の要件にしないで,教科書の叙述で約款というのは一般的にこういうふうに使われるんだ,確かに合理性があるから使われるんだということはいいんだけれども,要件としてぎちぎち詰めていって,この点がネックになるようなことはやはり望ましくないと思います。 ○中田委員 もう既に出ていることなんですけれども,一応意見を表明しておいた方がいいかと思います。   まず,公序良俗か信義則かについて,2の(2)ですけれども,私も信義則であるべきだと思います。   2番目に,今回の規律によってむしろ従来の裁判実務との連続性が保たれるのではないかとも思います。従来から契約解釈や信義則によって解決してきたのを引き継ぐという意味もありますので,その意味でもいい。それから,佐成委員が非常に心配されていることも,お教えいただいて分かったわけですけれども,現在でも無効なものは無効になるんだろうと思いますし,それが現在許容されているというのは,恐らく黙示の合意なりがあるということが前提になっているのではないかと思います。   3番目に,今の松本委員の御発言とも関係するんですが,この定義に当たらないものはどうなるかというと,それはさっき沖野幹事が指摘された,かつ山下委員が前におっしゃったように,それについては一般の約款法理が及ぶのではないかと私は理解しております。   最後,4番目ですけれども,佐成委員のおっしゃっている嫌なものというのは,個人の気持ちではないんだというのはそのとおりだと思います。ただ,佐成委員に近い業界を含む業界が反対しておられるということをお教えいただいたわけですが,しかし,この部会の議論状況を見ますと,客観的に見て,やはりこちらを支持するというのが圧倒的多数であるという,この状況を是非お伝えいただきたいと思います。決して主観的にどうこうというのではなくて,客観的に見てそれがいいだろう,研究者も,実務の方々もこぞってそういうふうにおっしゃっているということを,是非ともお伝えいただきたいと思います。 ○中井委員 一言だけです。研究者の皆さんの意見に私個人としては賛成をいたします。岡さんが先ほど企業間取引を行う弁護士として,佐成さん御指摘の懸念はない旨の発言があったわけですが,私はごく普通の弁護士として,特段この規定が実務に悪影響を与えるという懸念はない。それだけ申し上げておきたいと思います。 ○鎌田部会長 ほかに。 ○山下委員 繰り返しになることは避けまして,2の(2)は純粋理論的に考えると何となく違和感は消えないのではありますが,解釈の余地は我々研究者にも与えられているという了解の下で,こういう規定としてコンセンサスを得られるのであれば,それはそれで今回の解決としてはよろしいのかと思います。   あと,この(2)が結局,B to B,B to C両方に一応,条文としては適用されるということでしたけれども,これは以前の議論でやはりB to BとB to Cではおのずとこういう条項の適用の仕方も判断要素,判断の仕方というのは大分変わるのではないかということがあって,最初に出た案だともうちょっとシンプルに書いてあった所へ,当該定型取引の対応及び実情というのが加わっているわけで,そこら辺で企業取引のB to Bの取引の特殊性に応じて柔軟な扱いをする。もう少し明確に書いた方がいいとは思うのですが,そこは文言的には難しいということであれば,趣旨としては正にこの言葉でそういうことが書いてあるので,余りB to Bにこれが適応されることによって,現在特に問題もなく行われている取引が急に制約を受けるというふうなことにはならないように解釈できるのではないかないう感想を持っております。 ○松本委員 中田委員が,この民法の定型約款の定義に入らないタイプの約款が使われていた場合については,従来の約款法理で処理すればいいんだとおっしゃったので,もしそれでいけるのなら,それほど弊害はないということかもしれないんですが,一つは,従来の約款法理というものについてのコンセンサスできているのであればそれを民法に入れればいいと思うんです。それはおいておいて,コンセンサスがあるのだとすると,今回の立法の趣旨は,結局,最後の4の定型約款の変更をかなりやりやすくするというところにあるという結論になってくるのではないか。つまり,こういう厳格な定型約款という定義にはまる内容の約款であれば,変更がうんとしやすくなりますよというものになるんだとすると,これはもうビジネス促進立法だということになるので,産業界として反対する理由は何もないということだろうと思います。前の1から3の部分は言わば従来の民法理論のごく上澄みを書いた程度のものだと思います。 ○高須幹事 要するに,今日の議論でも両方からの立場からの意見というか,それぞれの立場から,この規律では不十分なところが残るという議論が出たような気がしています。そういう案というのは多分,悪い案ではなくて,良い案になりつつあるのだろうと思います。さまざまな立場の人がいるときに,その誰かだけが一方的にこうだという案であれば,残りの人に不満が残る。この審議の場で特定の人だけが不満が残るようなことであれば,おそらく,実際の社会でも特定の人だけの不満が残るような規律になってしまうんだろう。この場に集まっているそれぞれの立場を代表している皆さんから,こういう規律にしたい,いや,そうではなく,もう少しこうしたいというような意見が,次々に出るということは,結果的にはいろいろな要素を取り込んだ,よい案になっているのではないかと思います。社会が一枚岩で,全ての人の意見が一致するなどということは,現実社会ではあり得ないわけですから,そのことを前提として多くの人がそれぞれ応分に不満をもった規律というのは評価に値すると思います。   佐成さんの御懸念の中で,聞いていてなるほどと思ったのは,ビジネスの世界では魑魅魍魎がいるという話があって,規律を設けることによる悪影響ということを考えなければならないというお話しがありました。これは確かに大切なことで,きれいごとでは収まらないところだと思います。ただ,魑魅魍魎というのは私どももいつも相手にしておるところでございまして,魑魅魍魎だったら負けませんみたいなところなものですから,申し上げさせていただくと,やはりそういう人,つまり,何らかの法律を作ったときにそれを悪用しようとする人というのはどこにでもいて,多分,そういう人がいるということを恐れて立法を控えてはならないんだろうと思います。仮に,今回それをおそれて,立法を控えても,そういう人はまたそういう人なりに違う何かを使って健全な経済活動を阻害するということがあるんだと思います。ですから,その懸念は正に懸念としてはそのとおりだと思うのですが,ここではそのことを慮っての何かの発想をするということは,恐らく賢明ではないのだろうと思います。   引き続き,そういうことに対しては,また私どもも一生懸命頑張っていきたいと思いますが,そういうふうな懸念が今回の定型約款の規律の結論に何か影響を与えるべきものではないと思っております。やはり最終的には今回作られた案が事務当局の御苦労の末に,何か落ち着きがいいものになったのではないかと思っております。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   ほかには御意見は……。 ○山川幹事 申し訳ありません。簡単に申し上げます。   定型約款の定義につき,不特定多数の者を相手方として行うという形にされたことは賛成です。ただ,私の解釈ですけれども,取引である以上,労働契約でも最終的には特定の者が相手方になるものですから,これは言わば客観的な性質といいますか,不特定多数の者を相手方として行うのが通常であるような性質のものというふうに理解します。   それから,先ほどマニュアル等のお話がいろいろ出ていますけれども,実は労働関係においても,マニュアルと言うこともありますが,内規などとも言われる,性質がはっきりしないものがよくあるんですけれども,それは性質はいろいろで,情報提供的なものもあると思いますし,また,やや権利義務の細部に関わるものもあると思いますが,そこは労働関係でもある意味ではうまくやっているといいますか,テクニカルな問題で細かいことであれば,言わば黙示に合意することもあり,労働契約の場合,交渉力格差がありますので,合意の解釈・認定がいろいろ問題にはなりますけれども,B to Bでは別途,合意というものをどう捉えるか,あるいは黙示の合意で対処するのが通例であるとか,あるいは後に異議を述べたとしても,当初は黙示に合意をしていたではないかとか,そういう合意の解釈・認定という問題はまた別領域としてあり得るのではないかと思いますので,必ずしも定型約款として捉えることを前提にするということでもないのかなと,門外漢ながら思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   それでは,本日頂戴しました御意見を踏まえて,その中には説明も含めて修正を要するというふうな御意見もございましたので,事務当局におきまして次回までに改善の図れる所については改善をする,さらに,産業界の御懸念等を十分に理解し切れてない所があるとすると問題でありますので,また十分に御説明を頂き,御理解を頂けるような部分については,御理解を頂く努力を重ねていただいて,次回に最終的にこの問題についての結論を得られるようにしたいと思いますが,そういう進め方でよろしいでしょうか。   それでは,恐縮です,次に部会資料87について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○松尾関係官 前回会議の部会資料85においては,債権譲渡に関する規定のうち,譲渡制限の意思表示に関する規定については,施行日以後に譲渡制限の意思表示がされた場合について,改正後の民法の規定を適用し,施行日前に譲渡制限の意思表示がされた場合については,なお従前の例によることとする経過措置を設ける考え方を取り上げていました。この考え方は,経過措置の基本的な考え方には合致するものですが,これに対しては,特に施行日前に締結された基本契約において譲渡制限の意思表示がされていたような場合に,債権譲渡による資金調達の支障を除去するという改正の目的を早期に達成することが困難となるため,適当ではないとの指摘がありました。   このような御指摘があったことを踏まえて,今回の部会資料87では,代替案として,施行日前に債権が譲渡され,民法第467条に規定する通知又は承諾がされた場合については,なお従前の例によるとする経過措置を設ける考え方の当否を取り上げております。この考え方によりますと,新法の適用範囲が拡大するというメリットがございますが,債務者の負担が拡大する方向となることや,その点はさておくとしても,譲渡人及び譲受人としては,施行日前に債権譲渡がされた場合に,その後直ちに対抗要件を具備しようとすると旧法が適用されるが,施行日を待って通知をすれば,新法が適用され譲渡が有効になるということで,譲渡人及び譲受人の判断に余り合理的ではない場合はそう書けることになるのではないかといった御指摘があり得るところです。   今回の案を採ることの当否やその問題点の有無について御意見を頂けますと,幸いです。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま説明のありました部分について御意見をお伺いいたします。御自由に御発言ください。 ○道垣内幹事 内容の結論には異存がありませんが,現行法下では譲渡制限の意思表示に関する規定があった場合には,債権譲渡の効力が発生しないわけですから,「譲渡され」という言葉が少し気になります。細かな話ですが。 ○松尾関係官 分かりました。書きぶりについてはよく気をつけたいと思います。 ○大島委員 中小企業が債権譲渡により資金調達を行える環境を整備するためには,なるべく改正後の法律が適用されるように経過措置を定めていただきたいと考えております。今回の提案では,債権の譲渡時を基準に適用される法律を判断することとなっています。部会資料に記載されているとおり,譲渡制限の意思表示に関する今回の改正案は,債務者の立場を不利にするものではないため,債権譲渡時の法律が適用されるとしても,債務者保護が後退するとまでは言えないと考えております。是非この方向で経過措置を御検討いただきたいと思います。よろしくお願いします。 ○中原委員 中小企業等を中心とした債権譲渡の活用による資金調達の拡大という目的を果たすためには,債権の譲渡時あるいは譲渡登記の日にかかわらず,債務者への通知又は承諾を基準にして新法を適用する方が債権譲渡の流動性を促進することにもなるし,債務者の保護にも資するように思います。 ○佐成委員 我々の中でも若干議論をしましたが,当初案,譲渡制限の意思表示時という案も捨て難いところではありますが,ここで指摘されている問題点というのは非常に十分分かるわけで,こういった考慮が必要だということで,特段の異論はないという方向かと思います。今ちょっと中原委員がおっしゃっていました点なども御考慮いただきたいと思います。 ○中田委員 譲渡制限の意思表示が基本契約でされた場合についての御懸念というのは,もっともだと思います。ただ,ちょっと気になりましたのは,譲渡が禁止された既発生の債権について,施行日までは譲渡が禁止されて,施行日が来ると譲渡が制限されなくなるというのは,当初の当事者の意思からすると,説明が十分付くのかなという感じがします。譲渡制限の意思表示が施行日前であっても,施行日後に債権が発生し,かつ譲渡されたという場合であれば説明は通るんですけれども,既発生の分についてまで新法を及ぼすということが前提となっているとすると,もうちょっと説明が必要ではないかなと思いました。 ○鎌田部会長 ほかの御意見はいかがですか。 ○岡委員 第一東京弁護士会で議論した中で,特にどうしろという強い意見ではないんですが,今,中田先生がおっしゃったような,個別債権の発生時か成立時か,また微妙な問題が出るかもしれませんが,基本契約に織り込んだ譲渡制限の意思表示の譲渡禁止特約を施行日後に必ず書き換えろというのは,確かにかわいそうだと思います。しかし,新法が施行されると,譲渡人が倒産した場合に必ず供託しなければいけない。供託をしないで譲渡人に払うことができなくなるというのは,それなりに不利益なので,第三債務者の利益もやはり考えるべきだと思います。そういう観点から,個別債権の発生時,あるいは原案は,これは道垣内先生がおっしゃったように,通知・承諾を基準とするわけですよね,今のゴシック体は。そこまでいかないで,本当に譲渡の行為,譲渡時で規律するという案もあるんではないかと。その二つの意見が出ました。 ○鎌田部会長 基準はいろいろな採り方ができて,意見は多様に分かれ得るんですけれども,事務当局として何かお伺いしておいた方がいいような点がありましたら,お願いいたします。 ○村松幹事 一つは,今,佐成委員から御指摘いただきましたけれども,特に債務者サイドとして,こちらからはよく分からない実務的な問題がもしかしてあるかもしれないといった辺りも含めて,御確認さしあげないとまずいなということで今回は資料を出させていただいております。そういう意味では,大きな反対はなさそうであるというのは一つ検討の材料になるだろうとは思ってございます。その上で,どういう基準を採るのがよいのかという点については,もう少しまたよく検討させていただきたいと思いますし,中田先生の御指摘も,確かに,そういう面があるなというのは認識しつつ,それは決定的なものではないということになるのかどうかといったことについて,迷う部分もございます。   経過措置に関しましては,全体的なバランスといったところももちろんございまして,今回の改正では全般的に旧法の適用範囲が広くなっているというところではありつつ,ここの部分では債務者の負担はそれほど大きくないのではないかという分析をした結果,もう少し新法の適用範囲を広げてもよいのではないか。もちろん,改正趣旨を達成したいという思いも含めてということではありますけれども,そういったところを考慮して検討しておりますが,最終的に,岡先生がおっしゃいましたように,とはいえ,やはり理論的に分析して,債務者の負担も相応に大きいのであるとすると,債務者の負担をではこれで十分に軽減できたと評価できるのかどうかというところは,法制的な観点を含めて検討はしたいと思います。 ○内田委員 個人的な意見を追加的に申し上げますが,法律が成立して途端に施行されるとなりますと,これはかなり深刻ですけれども,成立してからかなりの周知期間が置かれるとしますと,その期間の長さというのも考慮要素として考えていいのではないかという気がします。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   では,今日頂戴した御意見を踏まえて,更に事務当局で検討を続けさせていただきたいと思いますので,この課題につきまして御意見がございましたら,御連絡を頂ければと思います。   ほかに御意見は。 ○中井委員 既に審議が終わっている部分ですが,ある弁護士会から問い合わせがあったので,確認させていただければと思います。今回,根保証について極度額規制が貸金等債権以外にも入ったわけですけれども,身元保証契約に関する質問です。身元保証契約,改めて文献を拝見すると,保証という形と損害担保契約という二つの類型があると教科書的には説明されているんですけれども,その保証パターンの場合に果たして今回の新法適用があって,今後,身元保証契約を締結するときは,極度額規制が働くという理解をしていいのかどうか,この点についてもし事務当局からのお考えがあれば,御紹介いただければと思います。 ○筒井幹事 今お尋ねいただいた点ですけれども,まず立法作業の途中経過として1点御報告をいたしますと,民法の保証について様々な改正項目が盛り込まれておりますが,これに伴って身元保証法について一定の整備的な改正をするということは現時点で予定しておりません。ですので,民法の保証について一定の改正が行われ,身元保証法については現状のままという前提で,先ほどのお尋ねについて考えているところを申し述べようと思います。御指摘がありましたように身元保証法の適用対象につきましては,規制法としての実効性を確保する趣旨だと思いますが,引受,保証,その他名称の如何を問わずと規定して,間口を広く取っております。ですので,これには民法における保証に該当するものと該当しないものの両者が含まれていると,まず理解できるのではないかと思います。その理解について異なる立場はあり得るとは思いますけれども,教科書類あるいは裁判例などでもそのような指摘をしているものがあると認識しております。   その上で,今回の改正で,民法の根保証について,貸金等債務が含まれるものに限らず極度額の定めがなければ効力を生じないものとした場合のその規律と,身元保証法の適用のある保証契約との関係ということですが,これは一般法と特別法という関係で見ることになるのではないかと思います。したがって,特別法である身元保証法の側に民法の規定と抵触する,それを排除するようなルールが定められているのであれば,民法のルールは適用されないことになり得るわけでございますが,極度額に関してはそのように抵触するルールは身元保証法には存在しないのではないかと認識しております。   したがいまして,身元保証法の適用のある保証につきましても,それが根保証に該当すればということですが,多くのものは該当するのであろうと思いますので,今回の民法改正が行われた後は,極度額を定めなければ効力を生じないことになるのではないかと思います。もし議論があり得るとすると,身元保証法の側には裁判所による責任の減免の規定がございますので,これが極度額の規定と抵触する関係にあるのかどうかという点は,議論の余地があり得るのだろうとは思いますけれども,しかし,極度額というものを定めた上であっても,一定の場面では責任の減免が行われるというルールの建て付けは,十分あり得ることではないかと理解いたしますので,先ほど申しましたような結論になるのではないかと考えております。   本日これから御意見を頂ければ,頂いた上で,そのような理解でよいのだとすると,この改正法が成立し,公布された後におきましては,身元保証の実務に混乱が生じないように十分な周知活動をしていく必要があるのではないかと認識しております。 ○鎌田部会長 関連して御意見をお持ちの方がいらっしゃいましたら,御発言ください。 ○中井委員 事務当局の見解はよく分かりました。ありがとうございます。その上で,今の御発言の中では,身元保証契約に関しては整備法的な整備は考えていないという説明は理解しますが,これはできないという趣旨でしょうか。整備法の範囲の問題なのかもしれませんけれども,今の御説明だと,今後,身元保証契約には二つの種類があり,保証のものと損害担保のものが。損害担保のものは従来どおり変わらない。保証という形を採った身元保証契約は,極度額の規制がかかると。これは非常に分かりにくいですよね。研究者の皆さんの著書を見ましても,損害担保契約だけという説明しかしていない教科書もあるように見受けられるんですが,むしろ今回の民法改正の趣旨をいかすなら,せめて保証の趣旨での身元保証契約については,極度額規制がかぶる旨を明記するということは困難でしょうか。教えていただければと思います。 ○筒井幹事 現時点の認識として申し上げれば,民法の世界においては,保証について一定の規律を設ける一方で,それ以外の保証に隣接するものとして,学説上はいろいろな議論があると思いますが,そういった保証以外のものについては特段のルールを設けないという選択をしております。そのときに,身元保証法の方は,先ほど申しましたように規制の実効性確保という観点から間口を広く取っておりますので,そのようなところに民法では保証というカテゴリーに当たるものだけのルールと整理されているものを対象を拡張して規定を置くということは,法整備の仕方として甚だ困難ではないかというのが現状認識でございます。その上で,今回の改正では,取り分け身元保証法との抵触関係が問題となり得る保証期間の制限に関しては,民法のルールの適用対象を広げておりませんので,民法上の保証に関するルールと身元保証法上のルールというのは,基本的にはすみ分けているという認識で,整備の必要はないという結論に至るのではないかと理解しております。 ○道垣内幹事 筒井幹事のおっしゃることに,私は全く同感なのですけれど,ただ,説明には,好ましくない点が含まれているような気がします。と申しますのは,身元保証法に関する身元保証契約というものには,保証以外の契約も含まれるというのは確かなのですが,例えば保証において極度額の定めを要求することの趣旨との関係において,保証の形式を採っていなくても,つまり損害担保契約の形を採っていても,なお民法の保証における極度額の定めの要求という規律は係ってくるという解釈が十分にあり得るのだろうと思います。しかるに,それを排斥する意味合いを有するような解説はどうかと思いますし,また,中井委員がおっしゃるような条文を置くということは,そのような解釈を排斥するという意味を持ちかねませんので,余り妥当だとは思いません。 ○松岡委員 私も概念的には少し難しい問題があるという気もいたします。いわゆる身元保証の中には狭義の保証と損害担保,更には身元引受けまで多様なものがあると『注釈民法』には書いてあります。保証に当たる部分にだけ根保証の極度額規制が及ぶとしますと,バランスが悪いことになります。すなわち,被保証債権がなく,場合によっては狭義の保証よりもより重い責任を負う損害担保や身元引受の場合に極度額の定めが及ばないのは,規律としてきわめて妥当でありません。最初は私も身元保証に保証の規定の適用が可能か躊躇を覚えたのですが,結果的には,道垣内幹事がおっしゃるように,適用するという解釈を排除するべきではないと思います。 ○中井委員 道垣内先生,そして松岡先生がそのような解釈論が十分あり得るというのであれば,私はその解釈論に全く反対するものではございません。 ○鎌田部会長 ただ,本当に解釈論で全部そこまでカバーしてしまうことが可能かどうかは……。 ○道垣内幹事 カバーできるかどうかは分かりませんが,あえて「保証の場合だけ」と書くと,カバーできないことを明確にしているような話になってしまいますので,余り妥当ではないと思います。 ○鎌田部会長 正直に申し上げて,従来からの議論の蓄積のある問題ではございませんので,委員会・幹事の皆様にも御検討を頂いて,御意見をお寄せいただければと思います。今日のところはそのようなことでよろしいでしょうか。   ほかに御発言ございますか。   ないようでしたら,本日の審議はこの程度にさせていただきます。   最後に,次回の議事日程等につきまして事務当局から説明してもらいます。 ○筒井幹事 次回会議の日程でございますけれども,来週の火曜日も日程を確保していただくようにとお願いしてまいりましたが,今日の段階で来週の会議開催は見送ることにしたいと思います。次回会議は2月10日,火曜日,時間は午後1時から午後6時まで,現時点ではいつものような時間帯で予定させていただきたいと思います。   今後のスケジュールを申し上げますと,来週1月26日から開会する今年の通常国会への法案提出を目指すという前提で考えますと,法制審議会の総会が2月24日に予定されておりまして,この部会に託された審議事項についての結論はそれ以前に出すことが必要になってまいります。ですので,この2月10日の会議では,これまでの議論を踏まえて,私どもとしてもファイナルのものとして要綱案の(案)というものを御提示することになると思います。それについて御審議いただいた上で,所要の修正をするのかどうかということも含めて御議論を頂いた上で,その日のうちに最終的な結論を得るという進め方をさせていただきたいと思います。資料は事前に送付するようにいたしますので,どうぞよろしく御協力を頂きますよう,お願いいたします。 ○中井委員 進行は理解いたしました。次回出てくる資料とすると,要綱案の案が出てくる。そのときに,前ありました84-2でしょうか,条文化の想定されるものを事実上の配布物として予定されているのかどうか,お教えいただけるでしょうか。 ○筒井幹事 現時点では必ずしも予定はしておりません。あの種の資料を現時点のものにアップデートするのはなかなか大変なものですから,現時点ではお出しするという約束はできません。検討させていただきたいと思いますし,個別に何か気になる点があれば,お問い合わせいただければ,できる限りのことはさせていただこうと考えております。 ○中井委員 御検討いただければと思いますので,よろしくお願いいたします。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。   それでは,本日の審議はこれで終了とさせていただきます。   本日も大変御熱心な御議論を賜りまして,誠にありがとうございました。 -了-