法制審議会 民法(債権関係)部会 第99回会議 議事録 第1 日 時  平成27年2月10日(火)自 午後3時00分                      至 午後4後23分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  民法(債権関係)の改正に関する要綱案(案) 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○鎌田部会長 予定した時刻になりましたので,法制審議会民法(債権関係)部会の第99回会議を開会いたします。   本日は御多忙の中を御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   本日は能見善久委員,村上正敏委員,岡田幸人幹事,福田千恵子幹事,餘多分宏聡幹事が御欠席です。   本日の会議の配布資料の確認をさせていただきます。事務当局からお願いいたします。 ○筒井幹事 事前送付資料として,部会資料88-1の要綱案(案)と,88-2,その補充説明を配布させていただいております。   このほかに,88-1につきましては,前回のものからの修正履歴付きのものを部会メンバーには事実上配布しておりますけれども,これは飽くまでも事実上の配布資料ですので,いつものようにページ数等を引用する場合には正規の88-1の方での引用をお願いしたいと思います。 ○鎌田部会長 本日は,部会資料88-1の「要綱案(案)」について御審議いただいた上,この部会における最終的な審議結果としての要綱案の御決定をお願いしたいと考えております。   本日の審議の進め方ですが,昨年12月以降の要綱案の取りまとめに向けた審議では,まず,昨年8月の要綱仮案で保留とされました「第28 定型約款」を除いた項目について御審議いただいて,その後に,「第28 定型約款」について御審議いただくという手順で進めてまいりましたので,本日も同様の順で御審議いただきたいと思います。   したがいまして,まず部会資料88-1のうち,「第28 定型約款」以外の全ての項目について御審議いただきたいと思います。   この部分につきましては,昨年12月の第97回会議で御審議いただいたところですが,その結果を踏まえた修正等の理由については,部会資料88-2の「補充説明」に記載されていますので,事務当局からの冒頭の説明は省略させていただきまして,直ちに議論に入りたいと思います。御自由に御発言お願いいたします。 ○岡委員 部会資料88-2の8ページの「請負」について,条項を削除するというところでございます。   634条2項を削除するという提案を維持するということが書かれております。この点について,沖縄弁護士会の方から質問がございまして,それに基づいて質問させていただきます。   現在の634条2項は,修補が可能であっても,直ちに損害賠償請求できると明示してあります。判例はないようですが,我妻先生によりますと,条文どおり直ちに填補賠償請求ができるけれども,信義則により,修補請求をまずせよという場合はあり得ると解釈しているようであります。この634条2項が削除され,現在の要綱によりますと,この規律がどうなるのかという質問でございます。   売買の担保責任の規定が包括準用されますので,請負に不適合があった場合,修補請求ができる。修補請求ができる場合の填補賠償請求の規律は,新しい415条2項にいくのではないか。そこにいった場合,填補賠償ができる場合が限定的に書かれておりますので,相手方が修補を明確に拒絶した場合か契約解除した場合にのみ修補請求の填補賠償請求ができるように読めます。これだと,現在の請負の規律である,直ちに填補賠償請求できるという条文あるいは解釈が変わるように思いますが,変わるのかどうかという点が最初の質問でございます。   変わるとしても,こういう解釈で,それほど大きくは変わらないという解釈が可能なようにも思いますが,その場合の解釈の一つとして,現行634条2項が今回削除されるけれども,その価値観は否定したわけではない。売買の担保責任の規定を包括準用するという形に場を譲っただけであるので,新しい法律の解釈において,旧634条2項の考え方を参考にして修補請求の填補賠償請求は緩やかにできる,415条2項の解釈が緩やかになり得るという方向性があるのかないのか,こういう点について御見解をいただければと思います。 ○鎌田部会長 それでは,事務当局から説明してもらいます。 ○村松幹事 今の御質問のあった点ですけれども,基本的には御指摘のとおりという方向でございまして,瑕疵担保責任に関しては,その規律の在り方を変えるということになっておりまして,その点は売買と基本的に同じ考え方,つまり,債務不履行の一般原則,あるいは解除の一般的な規定,これらを受けて処理していくということになりますので,それらの整理に従っていくということになっております。恐らく中間試案以来そういう整理になっておったものと思っております。したがいまして,第634条の存置に関して,現行ある条文を残すまでの必要があるのかどうかという議論はございましたけれども,先ほど申し上げた全体像の中でどうするのかという議論であり,したがって,今般,そういった規定は残さないほうが,むしろ全体の整合的な理解に資するのではないかと,このような理解にたっているのだと理解しております。   他方で,今,後段で御質問がございましたように,では,若干立て付けが変わり得るというところがあるとした場合に,その理解としてどういう解釈論を展開することになるのかという部分につきましては,部会資料に若干記載してございますけれども,包括準用規定によって処理されるということでありますので,その契約の特質に応じた解釈の余地というのはもちろん否定されないというところであろうと考えおります。   また,この修補の問題と損害賠償請求の問題について,現実の実務ではまず不具合があればちょっとおかしいのではないかというような話合いがされて,その上で,いや,瑕疵があるとかないという話がされ,あるいは,では,この範囲内で修補いたしましょうというような話合いがされるんだろうと思いますので,そのような話合いの過程で修補を請求したんだけれども,きちんとした履行がないといったような状態に立ち入たり,損害賠償なり解除なりというものはやっていけるのではないかと考えております。ともあれ,包括準用規定になりましたし,契約の類型に応じて解釈論の余地が発現し得るというのは,それは多分そのとおりなのではないかと考えております。 ○鎌田部会長 よろしいでしょうか。   ほかにはいかがですか。 ○潮見幹事 細かいところで申し訳ありません。この期に及んでということの確認のために質問を1点させてください。   部会資料88-1の15ページに,「第14 受領遅滞」の「4 受領遅滞中の履行不能」という部分がございます。   そこに,「債権者が債務の履行を受けることを拒み,又は受けることができない場合において,履行の提供があった時以後に当事者双方の責めに帰することができない事由によってその債務の履行が不能となったときは,その履行の不能は,債権者の責めに帰すべき事由によるものとみなす。」と示されています。   ここの部分の細かい言葉ですけれども,「以後に」という言葉の確認をさせていただきたいんです。「以後」と書いた場合には,解釈の余地としては,履行の提供と同時に不能になるという場合も,債権者に帰責事由があるものとみなして,そのリスクを債務者ではなくて債権者に負担させるという解釈しかできなくなるというように理解するべきなのでしょうか。個人的には,同時の場合に,債権者がこの場合のリスクを負担しなければいけないのかについては若干どうかと思うところもあります。「以後に」と書いた場合に,同時の場合には債権者に帰責事由があるとみなされてリスクを負担しなければいけないという以外の解釈論は採れないのかという質問です。さらに言えば、ほかのところでも言葉は使われていますけれども,「時より後」とかいうような言い方もあり得るのかなと思ったものですから,どうお考えになっているのかということだけでよいので,簡潔にお答えいただければ有り難いです。 ○村松幹事 御指摘があった点ですけれども,「履行の提供があった時」ということで若干膨らみのある表現にはなっているような気はしておりまして,今御指摘の点は,余りこれまで微細に検討されていなかった点ではないかと思いますけれども,解釈論の余地はそういう意味ではあり得るのではないかなという気がいたします。   全体的に時制に関して,文脈に応じてどこまで精細に条文化できるかというのは,ちょっとまた別の問題がございますので,そこはこちらの方で条文化に際して検討させていただきたいと思います。 ○潮見幹事 ありがとうございます。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。 ○岡委員 細かい話ですが,88-1の32ページの「(4)譲渡制限の意思表示が付された債権の差押え」の「イ」の表現でございます。   2行目の「重大な過失によって知らなかった第三者の債権者」という,この「第三者」というのがぽんと出てきておりまして,ちょっと分かりにくい印象を持ちました。これは,その前の「第19」の「1」の「(1)」の「イ」の「譲受人その他の第三者」と同じであると思います。そうだとすると,この「(4)」の「イ」のところも「譲受人その他の第三者」と書いていただいた方が国民には分かりやすいかと思います。 ○村松幹事 御指摘は理解いたしました。今回の改正を含め,例示的な意味での繰り返しは2回目以降は省くというような形で条文化していくのかどうかということもございますけれども,御指摘を踏まえて,条文化の際には検討はさせていただきたいと思います。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○中井委員 同じところですが,そのような疑問をもった理由を付加しておきますと,「第19」の「(1)」の(イ)では「譲受人その他の第三者」,次の「(2)」では「(1)イに規定する第三者」となっています。「(4)」の第三者が出てくるまでに他の第三者が出てこなければいいんですが,「(3)」の「(イ)」で,鍵括弧の中ですけど,「債務者その他の第三者」となっています。条文はこの順序どおりになるとは限らないので,そのまま当てはまるわけではありませんけれども,前のものを簡略化して「第三者」といって通じる場合と通じない場合もあると思います。ここだけに限りませんが,同じような点検をお願いできればと思います。 ○鎌田部会長 その点はよろしいですね。 ○村松幹事 はい。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。 ○中田委員 4点あってばらばらなんですが,まとめて申し上げてよろしいでしょうか。 ○鎌田部会長 はい。 ○中田委員 第1点は,「第8 債権の目的」に関してです。401条2項の「債権者の同意を得てその給付すべき物を指定したとき」について,前回,意見を申しました。この規定と合意による指定との関係について解釈が分かれ,現行規定だと規律の内容を読み取りにくいけれども,合意による指定が可能であること自体には異論がないと思われるので,そのことを端的に示すのはどうだろうかということを申し上げました。例として,「当事者の同意により給付すべきものを指定したとき」といったことも申し上げました。そこで,御検討いただけるということでしたが,今回,表されていないということは,結局は条文化が難しいという御判断だったのだろうと思います。それについてはもうこの段階ですので,これ以上申し上げませんが,改正しないということは,現在分かれている学説のどれをとったということではなくて,引き続き解釈に委ねられていると理解したいと思いますが,それでよろしいでしょうか。これが一つ目です。   第2点は,「第21 債務引受」についてです。今回,「債務の履行を免れる」というのを「債務を免れる」と改めました。これは用語の統一のためだということだと理解しております。ただ,この規定をそのまま読みますと,解除権の行使によって,債務者は債務を免れるということになります。しかし,それは解除の効果について,直接効果説,間接効果説あるいは原契約変容説などのどれかを採るということを前提としているものではないと理解しておりますけれども,その理解でよろしいでしょうか。これが第2点です。   それから第3点ですが,「第23 弁済」の中の「担保保存義務」について,「第23」の「10」の「(5)」の「イ」の書き方ですと,債権者側からの合理的理由という面が強調されていて,現在の民法第504条における保証人保護の考え方が見失われるように思うということを前回も申しました。しかし,それが取り入れられておりませんので,検討の結果難しかったのだろうと理解しております。ただ,やはり504条には保証人保護という考え方があると思いますので,疑義のないように,条文化の際にでも,そういった懸念について御配慮,御考慮いただければと思います。   最後ですけれども,「第31 贈与」についてです。   「書面によらない贈与の解除」と548条との関係について前回の会議で発言しましたところ,今回御検討いただきまして,88-2で説明をいただいております。7ページのところです。   ここにありますように,548条について,現行法の下で昭和50年7月17日の判例があって,資料に記載されているように述べている。したがって,「贈与」のように,まだ給付されていない契約の目的物については,548条は適用がないんだという説明だと理解いたしました。   この判決自体は,契約の変更があって,変更後の契約の目的物ではなくなった建物を取り壊したというケースであって,給付前の目的物について述べているわけではありませんけれども,この一般論自体は理解することができます。実際,民法の起草者も,548条は解除による原状回復として目的物を返還する場面を想定しておりまして,解除権者が目的物を滅失させたときは,損害賠償では不十分であって,解除権の放棄とみなすべきだという説明をしていたわけですので,理解はできます。   ただ,今回二つの問題が生じています。一つは,今回の改正で,贈与のほかに使用貸借や寄託などにおいて,引渡し前の解除という制度が新たにできたということです。もう一つは,548条については,中間試案では一旦削除するということになっていたんだけれども,それが後に復活し,かつ一部修正がされているという経過があります。そうしますと,引渡し前の解除について新たな解釈問題が生じる可能性があると思います。本来は,解除と撤回の関係を整理するか,又は548条の規律自体を,例えば,「債務の履行として給付された契約の目的物」というようにして明示することが望ましいと思いますが,今はもうこの段階ですので,それが難しくて解釈問題にするしかないということも理解できます。ただ,少なくともこの部会における認識としては,この資料にもありますように,「書面によらない贈与の解除」には548条は及ばないという前提だということであれば,それ以上は申し上げることはいたしません。 ○鎌田部会長 それでは,事務当局から,今の4点についてお願いします。 ○村松幹事 中田先生の御質問いただきました1点目と2点目は,特定の解釈論を前提にするものではないという理解でよろしいかという点だと思いますけれども,それはおっしゃるとおりでございます。   それから,第504条につきまして,債権者の立場というのが強調されすぎているような表現に見受けられるので,条文化の際には何とかできないかという点ですが,こちらも認識いたしましたので,できる範囲内で条文化に際して表現を工夫してみたいとは思います。   最後に4点目ですけれども,第548条の理解に関しましては,事務当局としましては,御説明いただきましたように,昔の制定当時の考え方でありますとか判例を参酌しますと,基本的には履行前には適用がないという前提で,今回の改正については問題がないと理解できるのではないかということで資料をお出ししておりますので,そういった前提で御理解いただけるのであれば,それを前提にこの立法はされているということを御説明していくということかなと考えてございます。 ○鎌田部会長 よろしいですか。   ほかに御意見ございますか。 ○山本(敬)幹事 最後に申し上げようかと思っていたのですが,「第2 意思能力」については,第97回会議で,この規定をどこに配置するかということが議論されました。もう最後の機会ですので,改めてその点について一言だけ意見を申し上げておきたいと思います。   第97回会議では,意思能力の規定は,総則の第2章「人」の第1節「権利能力」の次に,第2節「意思能力」を設けて,そこに規定することが提案されていました。そのときの事務局の説明では,この点については必ずしもコンセンサスがあるわけではないけれども,多くの教科書などでは,意思能力は行為能力と並んで解説されていることなどから,一般的な理解のしやすさに鑑みてこのような位置付けをすることにしたという説明がされていたと思います。この点については,中田委員が,そのときだけではなくて,それ以前から何度か発言をされていて,問題は,意思能力を法律行為レベルの問題として捉えるか,それとも,継続的に意思無能力状態にある人の保護の問題として捉えるかという見方の違いの問題であるということを指摘されていました。しかし,もしそうだとしますと,意思能力は,やはり継続的に意思無能力状態にある人の保護の問題ではないということは明らかにしておく必要があると思います。意思能力は一時的に欠如する場合も含むものでして,人について定型的に設定されるものではありません。そして,意思能力自体の捉え方についても,そもそも人の行為と言えるための不可欠の要件だという考え方もありますし,そうではなくて,それはその行為をする資格要件であるという考え方もありますが,そのいずれにしましても,それはやはり人の要件の問題ではなく,法律行為の要件の問題であることに変わりありません。そうしますと,これはやはり「人」のところではなくて,「法律行為」のところに配置すべきだと考えられます。   第97回会議では,中田委員が,意思能力に関する規定はほかにもあるので,それらの上位規範として,意思表示とは独立の規定として位置付けられるという見方も示しておられましたが,意思能力の定義の規定であれば,それも理解できるのですけども,ここにありますように,「法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは,その法律行為は,無効とする。」と定める規定が,上位規範として意思表示とは独立の規定として位置付けられるというのは,やはり無理があるように思います。   というわけで,規定の内容ではなくて配置についてなのですけども,本当の最後の機会ですので意見を述べさせていただきました。条文化をされる際に,是非考慮していただければと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。 ○中田委員 繰り返すことはいたしませんけれども,山本幹事の御発言の中で二つ目の言い方として,継続的な状態にある人の保護ということをおっしゃいましたけれども,私は必ずしも継続的ということは申し上げたつもりはございません。取消しか無効かについてを始めとして,意思能力については随分議論があったわけですけれども,どうしてそのような議論が生じるのかという,その基本的な考え方,あるいはその見方について考えてみますと,意思表示の効力の問題として捉えるのか,意思能力を欠如している人の意思表示であることに着目するのかという対立があるのではないかと思いました。それは必ずしも要件にそのまま反映するというわけではありませんで,もちろん一時的な意思無能力の場合も対象となっていることはもう自明であります。そのもっと基本的なところで,無効か取消しかの対立の原因を考えた結果であります。それらのことについては,もう既にこれまでの2回の会議で申し上げたことですので,繰り返すことはいたしませんが,今の点だけ補足させていただきます。 ○鎌田部会長 よろしいですね,事務当局からは。   では,ほかの点についての御意見をお伺いします。   特にないようでしたら,次に,「第28 定型約款」について御審議いただきたいと思います。御自由に御発言ください。 ○鎌田部会長 よろしいですね,事務当局からは。   では,ほかの点についての御意見をお伺いします。   特にないようでしたら,次に,「第28 定型約款」について御審議いただきたいと思います。御自由に御発言ください。 ○佐成委員 前回,大分反対意見を申し上げたものですから,それとの連続性といいますか,前回と今日との連続性を考えてちょっと発言をさせていただこうかと思います。特に今日も縷々まだ反対を述べるとかそういうことをするつもりは全くございません。それは冒頭にお断りしておきます。   定型約款につきましては,私,前回非常に反対意見をずっと述べさせていただいたんですけれども,その後,事務当局の方で,規定について検討していただき,例えば「補充」という言葉ですね,これは実務界では余り評判がよくなかったんですが,それを取り除いていただいたとか,あるいは最も評判が悪かった約款変更の規定の特定変更条項に関するただし書,これを削除された点,これらは非常に経済界の中では高く評価されております。   ただ,この間,本日に至る間にバックアップ委員会で議論をしておりますが,依然としてやはり内部では賛否両論ということでございまして,最終的には意見が内部で集約できなかったというのが実態でございます。それをまず御報告したいと思います。ですから,経済界の中では,最終的に賛否両論あって,意見の集約ができなかったということでございます。もちろん私自身は,当初から一貫して,約款規制を民法に取り込むことについては反対しておりますし,それは個人的には,その点については今も変わりはないところなんですけれども,ただ,一部分が反対だと,要するに,要綱案というのは,定型約款を含む全てのものが要綱案と私は理解しておりますが,その一部分だけ反対だからといって,全体の取りまとめに反対するというのは,それはさすがに行き過ぎだろうと私も率直に感じております。そういうことで,結論的には,全体としての,定型約款を含む取りまとめには反対しないというところでおさめたいと思います。積極的に賛成ということはちょっと言いにくいところがありますけれども,全体としての取りまとめには反対しないということで,この場をおさめさせていただければと考えております。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   ほかに御意見ございませんか。 ○中原委員 銀行界は,今回御提案いただいた「定型約款」については賛成という立場です。   2点だけ確認してほしいという点がございましたので,そこを確認させていただきます。   48ページ「4 定型約款の変更」の「(1)」の「イ」の「定型約款の変更が,契約をした目的に反せず」という箇所です。契約をした目的に反しないという意味ですが、一つは,具体的な個々の契約の相手方の契約をした目的に着目するのではなくて,抽象的,一般的な契約相手方を想定していると理解していいのか。もう一つは、当該契約の本質的要素の大部分が,契約相手方に著しく不利益に変わってしまうほどの重大な変更が想定されていると理解すればよいのか、という点について御見解をお聞かせいただければと思います。 ○鎌田部会長 それでは,事務当局からお願いします。 ○村松幹事 今御指摘がございました「4 約款の変更」の「(1)」の「イ」の「契約をした目的に反せず」,この要件でございますけれども,「契約をした目的」と書いてございますが,その一方当事者,特にここでいいますと相手方,顧客側になりますけど,相手方の主観的な目的というもののみでこれを判断するわけではない,そこを御確認されたいということだと思うんですけれども,それはそのとおりでございまして,客観的にこの契約の目的はどういうものであるのかというのを判断されます。   それから,どういう場合に契約目的に反するのかというのは,なかなか一概に言いにくいところのある問題ではございますけれども,今おっしゃいましたように,契約条件の重大な部分が変更するというようなことになってまいりますと,それはここの要件に当てはまるということによりなり得るということでございます。もちろん仮にこの要件をクリアしたといたしましても,後段の合理性の要件というものが係ってまいりまして,この要件の充足という観点で申しますと,従前の部会でも何度か議論があったかと思いますけれども,例えば,利用料金など契約の中心部分を変更せざるを得ないということであったとしても,それは客観的には相応に合理性があるということが言えるのかどうか,こういった判断を行うことになりますが,相手方に与えられる不利益の程度に応じまして,場合によっては,その契約から離脱する自由を与える等々,そういった補償的措置も含めて判断して合理的と言えなければならないだろうということが想定されているということでございますので,併せて申し上げさせていただければと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。 ○鹿野幹事 約款の規律についてですが,前回申しましたとおり,これがベストとは思っておらず,なお課題があるとは思いますけれども,現時点までのこの部会の議論の結果として受け止め,議論を蒸し返すことはせずこれを基本的に支持したいと思います。   ただ,1点だけ新たに疑問を述べさせていただきたいと思います。今回,部会資料88-1の49ページのところ,つまり「4 「定型約款の変更」」のところで,「(4)」の規律が加えられております。その理由については,部会資料88-2の6ページのところに説明がされておりまして,要するに相互の関係を明確にするためにこれを加えたということのようです。けれども,この「(4)」をここに置く必要が果たしてあるのかが,なお私には分かりません。今回の資料のように,「(4)」を置いて,「2(2)の規定は,(1)の規定による「定型約款の変更」については,適用しない。」と書くとしますと,結局,「2」の「(1)」だけが除外されずに残るというようにも見えます。そうすると,変更条項については,いかにその内容が不意打ち的なものであり,信義則に反して相手方の利益を一方的に害するというものであっても,それについて相手方が合意をしたものとみなされ,契約の中に組み入れられるということになってしまうのではないかいう心配が生じます。もちろん,仮に組み入れられたとしても,その条項に従った変更ができるのかというと,そうではなくて,最終的には,「4」に定められた,より厳しい要件が満たされない限りは変更ができないということでしょう。それでも,「4」の方が厳しいということを理由に,「2(2)」の適用を外すという必要性はないように思われ,その点が私にはよく分からないのです。また,前回の案では,「4(1)」のただし書で,約款を変更する要件として何らかの変更条項の存在が必要とされていたので,変更条項が「2」で組み入れから外れてしまうと,およそ変更ができないということになりかねず,少々問題だということもあったのかもしれません。けれども,今回の案では,変更条項がなくても,一定の要件が備われば変更ができるということになっているので,その点に関する心配もないように思います。そうすると,「2(2)」に該当するような変更条項はそもそも合意したものとはみなされず契約に組み入れられないとして問題はなく,むしろ変更条項について「2(2)」の適用を除外するべきでないと私は考えております。この点について御説明をいただければと思います。 ○鎌田部会長 それでは,事務当局からお願いします。 ○村松幹事 すみません,ちょっとうまくお答えができるのかが自信がない中お話を始めてしまいますけれども,「4」の「(4)」で申しておりますのは,「2(2)」の規定は,「定型約款の変更」この行為自体について,「4」の「(1)」が実質要件になりますけれども,この「4」の「(1)」の実質要件と別に「2」の「(2)」が適用されることはないと,これはある意味,当然といえば当然のことではございますけれども,確認しようというのが「4」の「(4)」を置いた趣旨ということでございます。したがいまして,「定型約款の変更」をする局面での適用関係の整理が「4」の「(4)」に書いてあります。恐らく今,鹿野先生がおっしゃいました部分は,一番は,冒頭の,契約の組み入れの段階の話ですので,組み入れの段階の話は組み入れの段階の話で,仮に「定型約款の変更」を行うことが予定される約款に係る契約についても,「2」の「(2)」はもちろんかかっておりますので,そこで全ての約款中の条項については「2」の「(2)」の規定による振り分けが形式的には係るというのが前提にはなります。   その上で,「定型約款の変更」をするかしないか,どういう要件の下でするのかどうか,それを,また更に申し上げれば,実は顧客に対してどの程度説明していたのかどうかといった辺りも含めて,変更条項の位置付けについて勘案し,より約款の変更が合理的なものと認められやすい事情としては考慮され得るという理解は十分にあり得るのではないかということで,「4」の「(1)」の「イ」は御理解いただいてよろしいのではないかと思います。   この間の議論を伺っておりますと,4(1)ただし書にあった変更条項を置かなければならないというルールについては,特に学者の方々,あるいは経済界の事業者側の方々からは非常に評判が悪かった部分もございますけれども,他方で,相手方・顧客サイドに立つ方々からすると,そのぐらいは書いてあってもいいのではないのかという御指摘も実はあったところもございまして,そこの評価は,もしかしたら多少分かれ得るのかもしれないのですけれども,少なくとも変更条項の内容やその説明ぶり等々如何では,約款の変更の合理性を高める要素になり得るのは間違いないのではないかということで,「4」の「(1)」の「イ」には規定しているところでございます。   繰り返しになりますけれども,最初に申し上げましたように,「4」の「(4)」に書いてあります「2」の「(2)」の規定は「定型約款の変更」については適用しないというのは,飽くまでも変更の場面で,このルールに従って実質を審査するということではなくて,「4」の「(1)」の「イ」の要件で変更にまつわる事情をもろもろ考慮して合理的と言えるかどうかというのを具体的に判断していく,それから先ほど議論のあった契約目的に反しないという要件を検討していくと,こういう枠組みだということを確認的に規定していく必要があるだろうという指摘を踏まえてこのようにしています。 ○鎌田部会長 非常に俗っぽい言い換えをしますと,「2」の「(2)」に書いてあるような意味での相手方の利益を一方的に害するような,そういう変更は「4」の「(1)」の「イ」の要件ではじかれてしまうという趣旨で理解しても間違いではないですね。 ○村松幹事 はい。部会長御指摘のとおりでして,私どもとしては,「4」の「(1)」の「イ」の要件というのは,よりハードルが高いものだということでございます。適用関係について確認する理由を言えば,今申し上げたとおりではないかなという認識です。 ○鹿野幹事 「4 定型約款の変更」の「(1)」の方が厳しい要件が定められているということについては,私もその通りだと認識しております。ですが,再度確認させて頂きますと,約款の中に変更条項があって,その条項それ自体が「2(2)」に該当するときには,その条項は契約に組み入れられないという理解でよろしいでしょうか。 ○村松幹事 「2」の「(2)」は先に,つまり,その契約についての組み入れの時点での議論になりますので,その「2」の「(2)」によるスクリーニングは全部について係るという前提です。それは先ほど申し上げたとおりです。 ○鹿野幹事 なるほど。4(4)はかえって紛らわしいと思いますが,趣旨は分かりました。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。 ○中田委員 確認だけですけれども,「2」の「(2)」で前回と表現が変わっておりまして,「合意をしなかったものとみなす。」という表現になっています。この表現ですと,外形的には合意はあったんだけれども,それをなかったものとみなすというようにも読めなくはないのですが,しかし,そうではなくて,この「(2)」というのは,「(1)」の例外を示すものにすぎない,つまり,合意があったものとみなすことをやめるという趣旨であって,前回の表現である「含まれない」の実質を変更するものではないと理解しました。それでよろしいでしょうか。 ○村松幹事 御指摘のとおりです。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがですか。 ○山本(敬)幹事 「定型約款」については,前回も含めて何度か意見を申し上げてきましたけれども,21世紀に民法を改正するのに,約款に関する記述が全くないというのでは,それだけでも日本民法の質を落としてしまうことになりかねない。それだけに,先ほど佐成委員から御説明ありましたけれども,経済界の側で「定型約款」に関する記述を定めることに反対しないという決断をされたのは,今回の改正全体にとっては大きな意味があったと思います。   ただ,規律の内容については,経済界の側でも,本当にこれで問題がないのかどうかについていろいろな意見があるということを御紹介いただきましたけれども,同じことは,約款に関する規律の明文化を支持してきた側にも言えることです。今回は,全体のコンセンサスを得るためにやむを得なかったとはいえ,本当にこれで問題がないのかどうか,近い将来にもう一度見直すことが必要であるということは申し上げておきたいことです。規律の構成の仕方に関する問題は前回でも申し上げましたけれども,やはりとりわけ約款の組入れ規制に関しては,そうした見直しの必要が高いのではないかということを指摘しておきたいと思います。   2の(1)のイも問題ですが,とりわけ「3 定型約款の内容の表示」を2の組入れ要件から基本的には切り離したというところがやはり大きな異論の余地のある部分ではないかと思います。これによりますと,定型約款準備者が,あらかじめ定型約款を契約内容とする旨を相手方に表示したときは,何もしない限りは,そのまま定型約款が契約の内容になりますので,相手方は少なくとも定型約款準備者に定型約款の内容を示すように請求しないといけないということになります。それは,いわゆる間接義務のようなものに近いのですが,それを怠ると,定型約款が契約の内容になるという負担が課せられる。これは事業者には要求できることかもしれませんけども,消費者一般に要求してよいかどうかというと,やはり問題もあるだろう。その意味では,見直しが必要になるポイントではないかと思います。   ほかにも申し上げたいことはたくさんあるわけですけども,前回も申し上げましたが,約款に関する問題は,世界中で問題になり得るものでして,とりわけ国際的なハーモナイゼーションが必要になるものです。日本法の内容が国際的に見て疑問を持たれないかどうかということも考えないといけないポイントだと思います。国際的といいますと,「欧米の先進的なルール」というものがイメージされるかもしれませんけども,アジアでも,例えば韓国では,既に30年ほど前から約款規制法を制定して,約款を交付する義務だけではなく,重要な内容について説明義務も課して,事業者がそれに違反したときは,約款は契約内容にならないとしています。それで30年近く経済活動が問題なく行われているとしますと,日本でも実は問題は生じないのではないかという推測もしたくなるところです。話し出すと切りがありませんけども,この定型約款の規律については,今回はやむを得ないとしても,それでよしとするのではなくて,近い将来に見直すことを是非していただきたいというのが私の意見です。   その上で,1点だけ,今後の理解のために確認をさせていただければと思います。   2の(2)の部分なのですが,「(1)の規定にかかわらず,(1)の条項のうち,相手方の権利を制限し,又は相手方の義務を加重する条項であって,」とされています。これについては,中間試案までは,「当該条項が存在しない場合に比し」という文言が入れられていました。これは,現在の消費者契約法第10条の前段で「民法,商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し」とされているのは,明文の規定がある場合だけを指しているように見えるけれども,そうではなくて,不文の任意法規を含めて当該条項が存在しない場合と比べてという趣旨であることを明確化しようという考慮に基づくものでしたが,それが第三読会に入って,といいますのは,今回,部会資料を調べて,実は先ほどの中田委員の発言も議事録にあったのをそのまま使ったつもりなのですが,もう一度確認してみたのですけれども,部会資料75B以降で,これが削除されているのですが,部会資料や議事録を見返しましても,なぜそれが削除されたのかについての説明がありませんでした。不文法を含めた任意法規が基準になるのは当然だから書いていないだけであって,基準は変わらないということでしょうか。相手方の権利を制限し,又は相手方の義務を加重する条項といいますと,何を基準として制限ないし加重すると見るかという問題が出てきますので,本来は明文化したほうがよいと思いますけれども,ともかく削除した理由と,これを今どう理解すればよいかという点を確認させていただければと思います。 ○鎌田部会長 では,事務当局からお願いします。 ○村松幹事 御指摘の点は,そのまま文理に忠実に読みますとちょっと限定的に理解され得るというところもございますので,御指摘のとおり,不文のものも含めて理解するという理解があるとは思いますけれども,改めて民法の方に規定を設けるに当たりましては,限定的なニュアンスの強い文言とも受け止め得るものですので,特にそのような文言を挿入していないということです。実質的に違いがあるかと言われますと,基本的に違いはないと理解しております。 ○山本(敬)幹事 先ほども言いましたように,制限しているか加重しているかは,何か基準があって,それから制限している,あるいは加重していると考えられるわけですけども,恐らく一般的な理解では,もしその条項がなければ,法によりこうなったはずであるというところが基準になって,それよりも制限している,あるいは加重していると理解するのではないかと思います。それは,必ずしも限定しているものではなく,むしろ当然のことではないかと思うのですが,いかがでしょうか。 ○村松幹事 このような文言まで書かなくても,その何もない状態と比べまして権利を制限し,義務を加重するというのでも意味は同じになるであろうということで,そういった表現を入れない形で提案してございます。信義則に反するかどうかの理解に当たっての考慮要素を書き込むフレーズがその前に入ってございますけれども,そういったものを入れる反面,かなりくどくなりますので,削られたということです。 ○鎌田部会長 それほど変わらないというよりも,考えていることは同じだろうと思います。 ○山本(敬)幹事 今のご説明を聞いて,私も同じだと理解しました。 ○岡田委員 今,山本先生からも御意見がありましたが,消費者側としては,約款規定が入るだけでもいいのかなとは思っているのですが,はっきり言いまして,約款を使うことを合意しただけで,内容つまり契約の条項まで合意したとなってしまうのは大変不本意だと前々から申し上げているところです。   それから,変更する旨の条項を入れないということもやはり消費者からすると大変不本意です。ですが,今までの審議を踏まえて,ここで落ち着いたということであれば,是非とも消費者側に対して理解できるような説明の機会をつくってほしいというのが一つと,間近に迫っています消費者契約法の見直しで是非とも約款規定を充実していただきたい。これは消費者庁ないしは消費者委員会に対してお願いしたいと思います。 ○松本委員 私も何も言わないでおこうかと思っていたんですけど,山本幹事がおっしゃったので,その尻馬に乗って山本幹事の一つ目の方の発言,定型約款の内容の表示の部分のルールが,やはり従来の一般的な理解に比べると甘すぎるのではないかと言わせていただきます。典型的な例としてシュリンクラップ契約というのがございます。多くの学者の意見や海外の裁判例では,CDやDVDで供給されるソフトウエアについて,その製品の包装を破って中身を取り出したら,それだけでその包装の中に書面の形で入っているライセンス条項に完全に拘束されるというのは,やはり不当ではないかという考え方が強いと思うんですね。ところが,今回の「3」は,そのシュリンクラップ契約を完全に有効化しようとすることになりかねないという点で,国際的に見ても,なぜここまでやらなければならないんだという批判が出てくるという感じがいたします。したがって,岡田委員がおっしゃったように,消費者契約法においては,少なくともシュリンクラップ契約を完全に有効とするようなものにならないような特則を置かなければならないのではないかと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。 ○中田委員 定型約款以外の話でもよろしいでしょうか。 ○鎌田部会長 取りあえず定型約款で。   定型約款について特に御意見がないようでしたら,それ以外の点についてお伺いします。 ○中田委員 先ほど,山本敬三幹事から,私が意思無能力について継続的な意思無能力状態の人の保護ということを発言したではないかというご指摘をいただきました。手元に議事録がないのですけれども,4年ぐらい前の会議の際にそういう発言をするというメモがありますので,それを指しておられるのかもしれません。ただ,趣旨としては,先ほど申し上げたようなことでして,意思表示がされたその時点にだけ着目して,意思表示の効力の問題として捉えるという見方と,意思能力を欠如している人の意思表示であるということに着目して,もう少し幅広く捉えるという視点の違いが取り消しと無効の違いを引き起こしているのではないかということを考えております。前者の視点ですと,意思能力の欠如は錯誤と接近して,更に詐欺と併せて統一的に理解するということになると思いますし,後者ですと,意思能力を欠如している人の行為をどう考えるのか,意思無能力者の保護をどう考えるのかということも含み得るのではないかということを申し上げたつもりであります。   以上,補足です。 ○筒井幹事 安永委員から前々回,第97回会議の際に,第三者のためにする契約についての御質問をいただき,改めて回答すると申し上げていた点について,回答させていただこうと思います。   御質問がありましたのは,「第29,2」の,第三者の権利が発生した後に不履行があって解除する場合にその第三者の承諾を得なければならないという規定について,これが任意規定かどうかというお尋ねでございました。   任意規定という言い方になるのかどうかはともかくといたしまして,解除についての受益者の承諾を不要とする旨を要約者と諾約者との間の合意ですることができるのかということに関しては,そのような合意は可能であろうと考えております。   もっとも,この点については,受益者の合意も必要だという異なる考え方もあり得るとは思います。ただ,その場合でありましても,通常は受益の意思表示に先立って,要約者と諾約者との間でそのような合意がされているということですので,受益者は,そのことをも理解した上で受益の意思表示をすることになると考えられますので,結論としては,いずれにしても,そのような合意が効力を持ち得ることについて御心配は不要ではないかと考えられると思います。 ○鎌田部会長 ほかに全体を通じて御意見はありませんか。   ないようでしたら,この辺りで本日の会議のまとめをさせていただきたいと思います。   本日の会議でいただいた御意見のうち,「第28 定型約款」に関しまして,佐成委員からは,個人的には賛成できないという御意見がありましたし,岡田委員からも,不本意であるというふうな御指摘もございましたが,全体として,部会資料88-1の内容で要綱案の取りまとめをするということには反対しないというものであったと理解いたしております。これ以外にも,本日の会議におきまして,部会資料88-1の案文に関しまして幾つかの御指摘を頂戴したところでありますが,細部の形式的な手直しについては引き続き事務当局に御検討いただくということで,この88-1記載の内容で要綱案の取りまとめを行うということについては特段の御異論はなかったと理解しておりますが,そのような理解でよろしいでしょうか。   そういたしますと,この部会における審議結果としての民法(債権関係)の改正に関する要綱案につきましては,部会資料88-1の内容で取りまとめるということにしたいと思いますが,いかがでしょうか。 ○鎌田部会長 それでは,御異論がないようですので,民法(債権関係)部会として,全会一致をもって,部会資料88-1の内容で要綱案を決定したということにさせていただきます。どうもありがとうございました。   この要綱案につきましては,今後,法制審議会総会に報告することになりますが,それまでの間に誤字等の修正,その他,実質的な内容の変更にはわたらない細かな表現や字句等の修正がなおあり得ると思います。今日御指摘いただいたものも前向きに検討したいと思っておりますが,そのような意味での形式的な修正につきましては,恐縮でございますが,部会長と事務当局に御一任いただきたいと思いますが,よろしいでしょうか。   ありがとうございました。そのようにさせていただきたいと思います。   それでは,今後の予定について事務当局から説明してもらいます。 ○筒井幹事 本日の会議で御決定いただきました要綱案を報告する法制審議会の総会は,今月2月24日に開催される予定です。この総会におきましては,鎌田部会長から要綱案の御報告をしていただき御審議いただく予定です。総会における御審議の結果,要綱の決定がされますと,直ちに法務大臣に答申される運びとなります。   なお,この民法(債権関係)部会で御決定いただきました要綱案や総会で決定される要綱につきましては,いずれも必要な点検の作業などを行った後,速やかに法務省ウェブサイトで公表したいと考えております。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   以上でこの部会の議事を終えることができましたので,最後に事務当局を代表いたしまして,民事局長,深山委員に御挨拶をお願いしたいと思います。 ○深山委員 急な官邸の会議があって,先ほどまで席を外しておりましたが,無事に要綱案の取りまとめを頂いたということで,誠にありがとうございます。事務当局を代表して,委員,幹事の皆様に心より感謝を申し上げます。   この部会では,民事基本法である民法のうち,その中核部分である債権法の分野について,制定以来初めての全般的な見直しを行うという大変困難なテーマに取り組んでいただきました。このため,平成21年10月の諮問を受けて,この部会が設置されて以来5年余りの間に,実に99回にも及ぶ部会全体の会議に加えて,合計18回の分科会も開催され,毎回おおむね5時間もの長時間にわたって大変熱心に議論を重ねていただきました。この会議の開催数は,包括的な諮問を廃止して個別諮問の方式に移行する法制審議会の改革が行われた平成13年以降を見ますと,当然のことですけれども,最も多い回数です。委員,幹事の皆様におかれては,それぞれ御多忙な中,このようなハードの日程の部会審議に御協力いただき,そのおかげをもちまして,本日,要綱案の決定に至ることができました。   また,部会の取りまとめ役を担っていただいた鎌田部会長におかれては,その卓越した御見識と周到な心配りによって適切な議事の運営に当たっていただきました。心より御礼を申し上げます。   この間の議論におきましては,結果的に要綱案に盛り込まれなかった論点も少なくございませんが,そのような論点をめぐる議論も含めて,この部会において展開された議論というものは,全て公表されているところでございますし,この要綱案が法律として結実した後の実務あるいは解釈学の発展に大いに寄与するものと確信しております。   今後は,これは先ほど筒井幹事から既に説明をしたとおり,今月24日開催の法制審議会の総会における要綱の決定と,法務大臣への答申というスケジュールが予定されておりますけれども,私ども事務当局としては,その後,関係法案をできる限り速やかに国会に提出するとともに,早期の成立を目指して頑張ってまいりたいと思っております。もっとも,この通常国会では,法務省からは極めて多数の法案を出すことになる関係で,審議日程もなかなかタイトになりますし,何といってもこの法案は巨大な法案ですので,その国会提出,更には成立までを考えますと,様々な紆余曲折があるのではないかと思っております。皆様方には,是非引き続き,この法案について御支援,御協力を賜りますようお願いいたしまして,事務当局を代表しての私の挨拶とさせていただきます。どうもありがとうございました。 ○鎌田部会長 どうもありがとうございました。   それでは,私も最後に一言だけ御挨拶申し上げます。   ただいま民事局長から御紹介がありましたように,平成21年11月に第1回会議を開催してから5年余りの長い間,大変充実した御議論をいただきました。私の不手際とか配慮が行き届かなかった点も多かったと思いますけれども,委員,幹事,関係官の皆様の大変な寛容さと御協力とによりまして,本日,非常に優れた内容の要綱案を決定させていただきましたことに,まずは心より御礼を申し上げます。   委員,幹事,関係官の皆様におかれましては,分科会をあわせると100回を超える会議,それぞれが長時間であっただけでなく,バックアップ委員会での審議であったり,また個人的な様々な準備で大変多くのお時間を費やしていただいたと思います。その上で,できるだけ早期に優れた要綱案をまとめるためのコンセンサスの形成のためにも,大いに力を尽くしていただきましたことにも重ねて深甚なる敬意を表したいと思っております。平成21年10月の諮問第88号では,民法制定以来約120年の間の経済・社会の変化に対応すること,そして国民に分かりやすい民法にすることを大きな目標にして,この審議をするようにという注文を頂いたわけでありますけれども,これまでの判例,学説,実務の到達点をできるだけ盛り込んでいくという点,そしてまた,透明性を高めていくという点については,現時点では考え得る限りの最良の内容になったのではないかと自負しているところでございます。とはいえ,この民法は司法のみならずかなり幅広い分野に影響を及ぼすものでございますので,この改正の趣旨を最大限に生かしていくためには,今後の裁判実務,取引実務,あるいは学説等々でその趣旨を十分に理解した適切な運用を図るとともに,理論面でも一層の精緻化を図っていくべきではないかなと思います。先ほど来の御意見の中にもありましたように,これは120年ぶりの改正でございますが,今後120年生き延びられるかというと,なかなか現代では難しいところがございますので,この部会で要綱案には結実しなかったような課題も含めて,次のステップの立法論あるいはここでの部会の議論を踏まえた,より優れた解釈論の形成というようなことで部会の委員,幹事,関係官の皆様方に,更にお力を尽くしていただきたいと思います。   深山局長からもお話ありましたように,この後,法案を決定し,関連法令の整備とか経過規定も作成して国会に提出し,国会での審議をしっかりと乗り切っていくためには非常に難しい課題がまだまだ残っておりますので,この成立に向けても皆様の御協力をお願いしたいと思います。また,先ほど申し上げましたように,成立後も更にこの要綱案に基づく改正法が大きく育っていくように,委員,幹事,関係官の皆様方のさらなるお力添えをお願い申し上げて,私からの御礼の挨拶とさせていただきたいと思います。   本当に長い間ありがとうございました。 ○鎌田部会長 それでは,以上をもちまして法制審議会民法(債権関係)部会の審議を終えることとさせていただきます。   長い間本当に御苦労さまでした。また,ありがとうございました。 -了-