法制審議会 商法(運送・海商関係)部会 第13回会議 議事録 第1 日 時  平成27年7月22日(水) 自 午後1時29分                       至 午後5時34分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  商法(運送・海商関係)等の改正に関する要綱案の取りまとめに向けた検討 (2) 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○山下部会長 それでは,予定した時刻でございますので,法制審議会商法(運送・海商関係)部会の第13回会議を開会いたします。   本日も御多忙の中,御出席いただきまして,誠にありがとうございます。本日は,真貝委員,菅原委員,岡田幹事,野村関係官が御欠席とのことです。   では,本日の会議の配布資料の確認をさせていただきます。事務当局からまずお願いします。 ○松井(信)幹事 お手元の資料について御確認いただきたいと思います。事前送付のものとして,部会資料15「商法(運送・海商関係)等の改正に関する要綱案の取りまとめに向けた検討(2)」と,参考資料27の日本船主協会作成の意見書がございます。そのほか,席上配布といたしまして,参考資料28の全国銀行協会作成の意見書,参考資料29の日本郵船株式会社作成の模式図,参考資料30の日本中小型造船工業会作成の意見書がございます。   そして,皆様の机の上に,古川弁護士作成の「調査検討結果報告書」,全体として128ページにわたる資料がございます。こちらについては,参考資料の番号を付しておりませんでしたが,皆様,参考資料31とこの場でお書きいただけますでしょうか。これを参考資料31とさせていただきたいと思います。 ○山下部会長 よろしいでしょうか。   それでは,本日の審議に入りたいと思います。本日は,主に部会資料15について,御審議いただく予定でございます。本日御審議いただく内容のうち,船舶先取特権につきましては,前回の部会におきまして,ヒアリングを行うことを御了承いただいております。多くの団体の方にお越しいただいており,お待たせするのも相当でないと思われますので,部会資料15の順番とは前後いたしますが,まず「第3 船舶先取特権及び船舶抵当権等」について御審議いただき,その後,「第1 定期傭船」に戻って,順次御審議いただくことにしたいと思います。   なお,ヒアリングの所要時間にもよりますが,午後3時20分頃をめどに,適宜休憩を入れることを予定しております。   それでは審議に入りまして,まず,部会資料15の「第3 船舶先取特権及び船舶抵当権等」について御審議いただきたいと思います。   この後にヒアリングがございますので,まず,事務当局から一括して説明してもらいまして,ヒアリングの後,各論点ごとに分けて御審議いただきたいと思います。   それでは,事務当局からお願いします。 ○宇野関係官 それでは,「第3 船舶先取特権及び船舶抵当権等」につきまして,一括して御説明いたします。なお,今回の部会資料で取り上げております論点は,いずれも中間試案において複数の案が併記されていたものでございます。   まず,「1 船舶先取特権を生ずる債権の範囲」につきまして,商法第842条第7号の船員の雇用契約債権の船舶先取特権の被担保債権の範囲に関し,これまでの審議では,船員の労働債権の回収を船舶抵当権者の貸金債権の回収等より優先させることが社会正義にかなうことなどの理由により,現行法の規定振りを維持する甲案を支持する意見と,船舶先取特権が特定の船舶と被担保債権との間に牽連性があるために認められるものであることなどの理由により,「当該船舶への乗組みに関して生じたもの」との限定を付す乙案を支持する意見とがありました。   パブリック・コメントの結果を見ますと,意見が分かれており,甲案を支持する理由としては,これまで指摘のあった点のほか,商法第842条第7号の船舶先取特権の趣旨は,従来,労働者としての船員を保護する点にあると説かれており,乙案の根拠として指摘される船員の労務による船舶価値の維持という点は強調されてこなかったこと,乙案のような限定を付すと,債務者の財産が船舶に限られる事例では,同じ船員でありながら,その平等な保護を達し得ないおそれがあることなどが挙げられていました。   これに対し,乙案を支持する理由としては,これまで指摘のあった点のほか,商法第842条第7号の船舶先取特権は,諸外国における船員の雇用形態として現在も支配的な特定船舶への雇入れの制度を前提とするものであり,我が国のように特定船舶からの下船後も雇用契約が継続する雇用形態を前提としていないこと,予備船員としての地位に基づく債権に特別の保護が必要であるとしても,それは船舶先取特権とは別個の問題であることなどが挙げられていました。   次に,「2 船舶先取特権を生ずる債権の順位及び船舶抵当権との優劣」につきまして,これまでの審議では,中間試案の第5順位の船舶先取特権と船舶抵当権との優劣につき,当該船舶先取特権を有する者は,船舶を差し押えることができる地位にあることを前提に,支払保証状を取り付けるのが通常であり,現実に船舶先取特権を行使して配当を受けるのはまれであることなどから,甲案又は乙案のいずれも,船舶抵当権がこれに優先するように改めることを提案するものとされましたが,船舶の価値が船舶抵当権の被担保債権額に満たないような場合に船舶の差押えが困難になるおそれがあり,被害者保護の観点から妥当でないなどの意見もあったことから,現行法の規律を維持するという考え方も注で紹介するものとされました。   また,中間試案の第4順位の船舶先取特権と船舶抵当権との優劣については,中小企業が多くを占める燃料油供給業者の企業経営への悪影響を防止することなどを理由に,現行法どおりの甲案を支持する意見と,船舶先取特権が認められれば船舶の差押えは可能であり,これによって船舶所有者は事実上弁済を強制されるから,燃料油供給業者等の保護に欠けることはないことなどを理由として,船舶抵当権がこれに優先するように改める乙案を支持する意見がありました。   パブリック・コメントの結果を見ますと,第5順位の船舶先取特権と船舶抵当権との優劣については,多数の漁業関係団体から意見が寄せられるなど,注の考え方を支持する意見が比較的多く,その理由としては,これまで指摘があった点のほか,漁業関係者は船主責任制限法により十分な補償を受けられないにもかかわらず,第5順位の船舶先取特権を船舶抵当権に劣後させるのは被害者の保護に欠けることなどが挙げられていました。   これに対し,民法上も財産上の損害に関する債権を登記された抵当権に優先させる規律はなく,船舶についてのみこれを手厚く保護する理由はないことなどを理由に,甲案又は乙案を支持する意見も複数ありました。   また,第4順位の船舶先取特権と船舶抵当権との優劣については,多数の燃料油供給業者から意見が寄せられるなど,甲案又は注の考え方を支持する意見が比較的多く,その理由としては,これまで指摘のあった点のほか,差押え権限が維持されても,中小規模の燃料油供給業者が船舶を差し押えるのはほぼ不可能であることなどが挙げられておりました。   これに対し,そもそも第4順位の船舶先取特権があることを前提に燃料油価格を割安にしているなどの実態があるのか不明であることなどを理由に,船舶抵当権に優先するように改める乙案を支持する意見も複数ありました。   最後に,「3 船舶賃貸借における民法上の先取特権の効力」につきまして,これまでの審議では,動産の保存行為による利益が帰属する船舶所有者が先取特権の負担を負うことにも相当の理由があることなどを理由に現行法を維持する甲案を支持する意見と,1年の経過により消滅する船舶先取特権と異なり,民法上の先取特権は長期にわたり存続するため,船舶所有者の負担が過大であることなどを理由に,船舶先取特権に限定する乙案を支持する意見がありました。   パブリック・コメントの結果を見ますと,意見が分かれており,甲案を支持する理由としては,これまで指摘のあった点のほか,民法上の先取特権が長期にわたり存続することが不都合なのであれば,短期消滅時効に服させるなどの対応も考えられ,船舶所有者に対して効力を一切認めないのは行きすぎであることなどが挙げられていました。   これに対し,乙案を支持する理由としては,これまで指摘のあった点のほか,船舶賃貸借は船舶を目的とする賃貸借契約の一種にすぎず,各種動産のうち船舶について賃貸借契約が締結された場合にのみ賃借人と賃貸人を同一視する積極的な根拠は見出せないことなどが挙げられていました。   以上の事情や,この後に実施されますヒアリングの結果等を踏まえた上で,船舶先取特権及び船舶抵当権等に関する規律をどのように考えるかにつきまして,御審議いただきたいと思います。 ○山下部会長 それでは,ただいま説明がありましたこの論点につきまして,議事次第にございますとおり,船舶先取特権に関係を有する各団体から,それぞれ10分程度,御見解を伺いたいと思います。   大まかな順序といたしましては,船舶関連の融資側,船舶先取特権者の側,船舶所有者の側の順としており,船舶先取特権者の間にありましては,関連の深いと思われます船舶先取特権の条文の順としております。   そこで,まず初めに,船舶金融の融資者,船舶抵当権者の立場といたしまして,三井住友銀行の髙梨部長代理,佐藤室長代理補のお二方から御見解を伺いたいと思います。   どうかよろしくお願いいたします。 ○髙梨参考人 三井住友銀行法務部の髙梨と申します。   今回の我々の意見については,ここで同じことを繰り返すことは省略させていただきますけれども,今回あえて申し上げたい,強調したい点というのは三つございます。   まず,その前に,我が国の融資実務において,こと国内法における船舶抵当というものが必ずしも有効に機能していないというのが実態ではないかと考えております。そして,その一因が,正に現行商法における船舶先取特権の地位というものがやや厚遇にすぎるのではないかと考えるところでございます。   まず一つ目でございますが,船舶抵当権に優先されるべき雇用契約債権につきましては,試案のように乗組みに関して生じたものとしたり,何らかの期間制限等を設けることによって,船舶金融をする者,すなわち船舶抵当権者の予測可能性の妨げとならないように,必要最小限に限定されるべきと考えます。   二つ目ですが,船舶先取特権と船舶抵当権の優劣でございますが,試案におきまして乙案と示していただいていますとおり,第4順位,そして第5順位の船舶先取特権につきましては,抵当権と競合する場合,これを抵当権に劣後する形にしていただくのがよろしいと考えております。   一部,燃料価格の引上げや支払猶予期間の短縮化などの動きがあるのではないかといった意見があったと理解しておりますが,ここは,意見の方でも述べさせていただきましたとおり,健全な商慣行に照らして考えれば,そのようなことは起こり得ないと我々は考えております。陸上における契約,一般的な契約と整合性を付けるべきであると考えております。   最後に,船舶賃貸借における民法上の先取特権に関しましても,試案において民法上の先取特権は船舶所有者に対しては効力を生じないものとするとされておる乙案を支持させていただきます。   試案においては,船舶賃借人が船舶賃貸借における修繕義務を負うという提言を頂いており,この点につき何ら異論が見られないものと理解しておりますが,その一方で,修繕業者が商人として通常自ら行うべき債権管理,債権回収のコストやリスクを本来修繕義務を負わない船舶所有者にこのような形で転嫁させるというのは許容されるべきではない,論理一貫性を欠くと考えております。   船舶金融を担う我々から見たときに,まず申し上げたい点は,以上3点でございます。 ○山下部会長 佐藤参考人は,よろしいでしょうか。 ○髙梨参考人 私は今,法務部として法的な観点から申し上げたところでございます。後ほど,委員の方から御質疑いただいた場合に,船舶実務に照らして佐藤の方から発言させていただきたいと思っております。 ○山下部会長 ありがとうございます。   それでは,今の髙梨参考人に対して,せっかくの機会でございますので,委員,幹事の皆様方から何か御質問があったら頂きたいと思いますが,いかがでしょうか。 ○山口委員 一つ質問をさせていただきます。今日頂いておる中間試案に関する意見のところで,2ページ目の左上のところ,2と書かれたところの少し上のところですが,「船員に係る債務については,P&I保険によってカバーされている部分(船員の死亡・傷害などの災害補償)もあるが,この点について船舶先取特権を認めることの必要性は小さいと考えられる。」と書いてあるんですけれども,これは何か特別な条文の中で除外するという御意見ですか。 ○髙梨参考人 ここで書かせていただいていることは,一般的な船舶ファイナンスの実務において,このような保険が付保されているという実態に鑑み,そういったものを先取特権であえて保護しなければいけないという政策的な必要,立法事実というのは,余り見受けられないのかという意味で,記載させていただいた次第でございます。 ○山口委員 特に立法政策上除かなければいけないというところまでは御主張なさらないということですか。 ○髙梨参考人 はい,そこまではいたしておりません。 ○山下部会長 ほかに,ございませんか。 ○増田幹事 全然法的な観点からではなくて,事実についてお伺いしたいのですが,船舶抵当権によるファイナンスが現代の日本では余り機能していないというお話だったかと存じますけれども,実際に船舶抵当権が利用されているケースは,数とか割合としては,どれくらいあるという感触なのでしょうか。 ○髙梨参考人 詳細は佐藤から申し上げますけれども,先ほど申し上げた船舶抵当が余り機能していないというのは,船舶抵当権を設定していないということではなくて,船舶が融資対象物件となる場合には,我々は,ほぼ100%抵当権を付けさせていただいております。   しかしながら,その抵当権を付けたことによって,若干乱暴なことを申し上げれば,融資がやりやすくなっているのか,あるいはその抵当権を付けることに,どれだけ与信上意味があるのかといったことに関してみますと,やはり余り有効には機能していないのではないかと考えております。   詳細は,佐藤から申し上げます。 ○佐藤参考人 佐藤と申します。   船舶融資の実務の立場から言いますと,船舶の担保というのは,銀行の中で担保の掛け目というものがございまして,それが不動産対比で,船舶の方は低く見積もられています。それは,金融庁のマニュアルでも同様に低く見積もられていると思うのですけれども,何が原因かというと,日本がグローバル対比で,先取特権が広いことによって掛け目が低くなって,そのために船舶をもって融資を受けられる方の調達コストがちょっと高くなっているのではないかということを,実務側としてはちょっと思っているところがございます。こういった調達コストというのはどこにはねていくかといいますと,当然のことながら運賃の方にはねていきますし,そうすると全国民の方の物資の調達の価格の方に反映していくのではないかと。先取特権の範囲を,もうちょっとグローバル・スタンダードに合わせることによって,もうちょっとその融資の幅というのが,間接的にではあるのですけれども,広がっていくのではないかということを考えております。 ○道垣内委員 意地悪な聞き方で申し訳ないのですが,融資の幅を広げなければならないという実態があるという御認識でしょうか。   先ほど,全国民に転嫁されているということなんですが,全国民に転嫁することによって,労働者を保護しているのは大変結構なような気もするのですが,なぜそのようなことをしないで,より船舶金融における担保掛け目というのを低くするということが現在求められているのかということに対しての御認識について,お伺いできればと思います。 ○佐藤参考人 先取特権が狭まることによって,船舶の担保掛け目が高くなり,調達コストが低くなるのではないかということを御説明しているのであって,船舶掛け目が低くなるというのは,まず御認識として,ちょっと間違えられているのではないかと…… ○道垣内委員 掛け目という言葉につき,高い低いの言い方を間違えたかもしれませんが,理解は全く間違えておりません。そうではなくて,銀行が船舶について抵当権を取得して,より安い金利で貸し出せるようにするということが,現在求められているということについて,その理由を御説明いただければと思うわけです。 ○髙梨参考人 現在の船舶金融,定義をするとなかなか難しいところはあるのですけれども,それを見たときに,我々が今どのような状況かということを一言で申し上げると,国内において,これは我々は内航船と呼んでいるのですけれども,内航船に関して,船舶抵当を取って,そして船舶の価値でもってファイナンスを起こすということは基本的に行われていません。我々が主に見ているのは,外航船と呼んでおりますが,これはパナマ法あるいはイギリス諸法に基づいた準拠法に基づいて行われている船舶抵当,これはモーゲージということになりますけれども,そういったもので融資がされているということでございます。   もちろん,国内の造船業者あるいは船主さんに対する融資の仕方として,船舶に抵当権を設定させていただくということは常態として行われていますが,これは我々の言い方からすると,コーポレート・ファイナンス,つまり船の価値を見てお貸出しをさせていただくのではなくて,その会社自体の企業の収益力あるいは資産全体を見て,お貸出しを差し上げているという状況でございます。   これは,もしのイフの世界の話なので,必ずそうなるとは申し上げにくいところがあって,大変恐縮ではあるんですが,もしこの船舶抵当に関する規律が現状より明らかになったとすれば,我々として,抵当権の価値を適切に見積もることがより可能になり,船舶自体のアセット・ファイナンスとしてのファイナンスの組み立て方も十分検討に値する余地が出てくるのではないかと考えておりまして,そういうことが可能になれば,よりお貸出しをしやすい環境,あるいはより低い金利でのお貸出しが提供できる要素が増えるのではないかと考えております。 ○山下部会長 よろしいですか。 ○道垣内委員 かみ合っていませんけれども,結構です。 ○山下部会長 ほかにはよろしゅうございますか。   それでは,三井住友銀行のお二方からのヒアリングは,この辺りで終了させていただきます。どうもありがとうございました。   それでは,引き続きまして,船舶共有建造制度の運営団体といたしまして,独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構の三浦審議役と菊池参与から御見解を伺いたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。 ○三浦参考人 それでは,私の方から見解を申し上げさせていただきます。   独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備機構でございますが,今般の商法等に関します中間試案のうち船舶先取特権に関しましては,主に商法842条7号関係の船員の雇用契約債権の船舶先取特権について,また,商法704条2項の船舶賃貸借における民法上の先取特権の効力の2項目について,意見を提出させていただいております。   まず,機構の概況をお話しさせていただきますと,当機構は,独立行政法人通則法及び独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構法に基づきまして,平成15年10月1日付けで,日本鉄道建設公団と運輸施設整備事業団,その運輸施設整備事業団の中に,いわゆる昔の船舶整備公団と申しておりましたけれども,そこの部分が入っておったわけでございますが,統合して設立された法人でございます。   統合から平成26年3月に至るまでの11事業年度におきます船舶の建造量は,旅客船,貨物船を合わせて298隻でございます。平成20年から25年までに建造されました船舶の国内シェアは,総トン数ベースで旅客船が42%,貨物船が49%となっております。   このように,当機構は,日本国内におきます船舶の建造に当たりましては,重要な役割を果たしておるところでございます。他方で,統合後の10年6か月におきます船舶先取特権を有します労働債権の申立て総額は約20億円でございまして,これは,当該対象船舶の売却代金総額約67億円の約30%もの割合を占めております。したがいまして,労働債権によります船舶先取特権が当機構にとって売船によります資金の回収の障害になっており,統合後の当機構にとっては大きな負担となっておる状況でございます。   当機構の船舶共有建造事業は,国内物流等の重要な基盤でございます内航海運業,それから国内旅客船業を対象といたしておりまして,このような主体は中小企業が大半でございます。このため,これらの企業独自による代替建造は困難で,公益性が強い事業だと言えると思います。   また,当機構の船舶共有建造事業は,国からの出資金及び財政投融資資金という公的資金に大きく依拠しているため,損失の計上は事実上国損を意味すると考えておりまして,当機構におきましては,国土交通大臣が独立行政法人通則法に基づきまして定めました中期計画に則りまして,平成25年度より繰越欠損金削減計画を策定しておりまして,未収金の発生抑止,回収強化等を行っているところでありまして,事業運営に大きな負担が生じることとなります船舶先取特権の範囲を適切に定めることは不可欠だと考えております。   概況としては,以上でございます。   機構の意見の概要ということでございますが,船舶先取特権につきましては,昨年,法制審議会商法部会第5回会議に参考資料14として提出されました公益財団法人の日本海法会商法改正小委員会の意見書がございます。この意見書には,1993年条約に倣い,当該船舶への雇入れに関して受領すべき船員の賃金その他の債権について生じ,二つ目として,債権者が船舶から下船したときから1年の経過により消滅するという規律にすることが妥当であろうとされているところでございます。   また,民法上の先取特権の効力につきましても,船舶の利用につきまして生じた民法上の先取特権は,船舶所有者に及ばないこととするのが妥当であるとの見解が述べられておるところでございます。   船舶先取特権は,債務者以外の所有者に対しまして成立するという海商法独自の法理でありますので,当機構としては,その対象範囲は極めて限定的に取り扱われるべきものと考えております。   まず,船員の労働債権についての当機構の意見でございますが,商法第842条第7号の船舶先取特権の対象となる労働債権には,特定の船舶との牽連性を有さない退職手当,賞与等は含むべきではないと考えております。したがいまして,中間試案については,雇用契約によって生じた船長その他の船員の債権であって,当該船舶への乗組みに関して生じたものとする乙案の規律を採用した上で,具体的な条文の文言としては,雇入契約によって生じた船長その他の債権とすべきであると考えております。   また,704条2項関係の船舶賃貸借におきます民法上の先取特権の効力につきましては,先ほど申し上げたとおり,船舶先取特権は海商法独自の法理でございますので,民法上の先取特権が債務者以外の所有者に対して成立することを認めるべき合理的な理由はないと考えております。中間試案につきましては,乙案の規律を採用すべきであると考えております。   労働債権につきまして,具体的に2件,それからあと動産保存の先取特権に関するものを1件,合計3件の具体例を紹介させていただきたいと考えております。   まず,船員の労働債権関係でございますが,1件は,フェリー2隻,貨物船1隻の計3隻により事業を営んでいる会社につきまして,破産手続開始決定がなされたところ,84名の船員が労働債権を被担保債権とする船舶先取特権に基づきまして別除権を行使しまして,優先的な債権回収を図ろうとした事例でございます。被担保債権として主張されましたのは,当該船員の対象船舶への乗組み期間とは牽連性がないものを含む全雇用期間分に相当する退職金債権等でございまして,金額にして合計10億円強に上ったわけでございます。退職金債権に対応いたします雇用期間は平均で22年,最長で40年を超える船員がいる一方,船舶先取特権の目的でございます対象船舶3隻の船齢は,一番長いものでも13年だということでございます。   当機構は,そもそも退職金債権は船舶先取特権の被担保債権とはならないと考えておりますが,係船等の諸経費の累積や,船舶の劣化によります売船価格の低下の懸念といった状況も考慮いたしまして,和解に向けた交渉を行いまして,当機構は福岡高裁昭和52年の判決に従いまして,1年間の乗船期間に対応する退職金債権相当額3500万円を和解案として試算し,結果として当機構が約3億円を負担するということで和解いたしました。これが1例でございます。   もう一つの事例は,これもフェリー会社の破産事例でございます。この会社につきましては,フェリー1隻により運航されておりましたが,自己破産の申立てがなされ,破産手続が開始されたところ,船員46名が退職金債権等を被担保債権として,当該船舶に対する船舶先取特権の行使を試みたという事例でございます。   被担保債権として主張されました退職金債権等は,対象船舶への乗組み期間との牽連性とは関係なく船員の全雇用期間分の債権に相当するもので,金額にして約5億円に上るものでございました。対象船舶の船齢は竣工後約4年11か月の新しい船舶でございました。それに対しまして,退職金債権に対応する雇用期間は平均で約17年半,最長の者は約33年6か月分に相当する労働債権の全てが船舶先取特権の被担保債権となると主張した船員もいらっしゃいました。   当機構といたしましては,前述事例と同様の理由から和解交渉等を行いましたが,船員の主張は,当該対象船舶の売船代金約15億円の約3分の1を占めるものであり,到底受諾できるものではなく,前述と同様の考えに基づきまして,乗船期間1年分に対応する退職金債権相当額約4300万円を和解案として提示して,結果として当機構が当初の和解額である乗船期間1年分に対応する退職金債権相当額4300万円に,今後見込まれる訴訟費用の試算額2900万円を加算した約7200万円を負担するという内容で和解を行ったところでございます。これが二つ目の事例でございます。   三つ目は,動産保存の先取特権の関係でございます。これは,動産保存の先取特権が含まれるかどうかという論点でございますけれども,一般的に,海運事業者が造船所で定期検査等を行う際には,前年の定期検査費用は完済しているというのが通常でございまして,仮に未払いの定期検査費用がある場合には,当該海運事業者の資金繰りが損なわれている可能性が疑われるわけでございます。そのため,この場合には,受け手の造船所としては,前年までの未払いのドック費用全額又は相当額を支払わない場合には,今回の検査を拒否するといった対応を行うことにより,海運事業者側の不払いのリスクに対しまして,最大限注意を払うのが通常でございます。   すなわち,定期検査費用には動産保存の先取特権が生じると考えられておりますが,通常の商慣行に従えば,長期間未払いが継続することは予定されていない債権であるということができます。公示のない強力な権利でございます船舶先取特権は,商法847条により,1年間の除斥期間の経過により消滅するものとされている一方で,民法上の先取特権については,1年間の除斥期間は存在せず,被担保債権の消滅時効は存在するものの,時効中断を繰り返すことにより,商事消滅時効の5年を超えて存続することとなります。このため,民法上の先取特権に船舶先取特権と同等の効力を認めてしまうと,民法上の先取特権が船舶先取特権よりも厚い保護が与えられるといった不均衡を招くこととなりかねません。そして,通常の商慣行に従えば,船舶の修繕費用に関わる債権は通常1年以内に決済をされるべきものであるため,民法上の先取特権につきまして船舶先取特権と同等の効力を認め,船舶先取特権さえも認められないような長期にわたる累積を許容することは,船舶所有者に不測の不利益を与えるものと言え,このような結論は不当と言わざるを得ません。   しかし,中にはこのような対応を行わなかったにもかかわらず,民法上の先取特権を主張して債権の優先的回収を図ろうとするケースもございます。今回は1例紹介いたしますが,4隻の貨物船を有しておりました破産会社の事例ですが,造船所3社などから定期検査代を含む修繕費約2億8000万円を被担保債権とする動産保存の先取特権に基づく優先弁済の主張がなされたわけでございます。この債務の内訳としましては,1年以上経過している債務が2億2200万円,そのうち5年経過している債務が1億1400万円ほどありましたが,一番大きな債権を有している造船所は,6年前の定期検査代を含む合計2億円以上の債権を修繕費に関わる被担保債権として優先弁済の主張をしており,この造船所については発生から1年以上経過している債務は全体の約9割,そしてそのうち5年以上経過している債務は約5割でございました。   なお,この件におきましても,早期解決のため,管財人と協力して各造船所と繰り返し協議を経まして,造船所に対して約4000万円を支払うことにより和解をしているわけでございます。   商法704条本文に規定いたします船舶の利用につき生じた先取特権に動産保存の先取特権が含まれないことが法文上明確ではないため,船舶所有者には不測の不利益を与えることとなり,実務上の混乱が生じておるところでございます。   結びといたしまして,船舶先取特権の問題は,十分な担保資産を有さない海運事業者に対しまして,船舶金融を供給する船舶共有建造制度に多大な影響を及ぼしかねないものであり,万が一,労働債権を被担保債権とする船舶先取特権が牽連性の認められる範囲を超えて認容されることになりますと,やはり船舶共有建造制度の存続に関わる大きな問題となるわけでございます。   その結果,中小内航事業者や離島航路事業者の船舶建造が困難となったり,あるいはこれらの事業者の事業継続に大きな支障が生ずることになるわけでございます。それは,地域の雇用不安,生活不安を招き,地域経済に甚大な影響を与えるのみならず,国内海運業の喫緊の問題でございます老朽船舶の代替建造に支障を来し,ひいては国内物流の根幹を担う内航海運の存続をも危うくし,我が国経済に深刻な影響をもたらすことにもなりかねないと考えております。   今日のように通信制度や送金制度及び代理店制度が発達している状況の下において,船舶先取特権を認めて債権者の保護を図るべき必要性は減少しておりまして,船舶先取特権が認められる債権の範囲は厳格に解釈すべきことは,昭和59年3月27日の最高裁の判例でも認められているところであります。   以上,船舶共有建造制度にとりまして重要な影響のある船舶先取特権の規律の取扱いにつきましては,極めて限定的な解釈にしていただきますよう,御配慮をお願いいたしたいということでございます。よろしくお願いいたします。 ○山下部会長 ありがとうございます。菊池参考人からは,よろしいでしょうか。   それでは,ただいまの三浦参考人の御見解に対しまして,せっかくの機会ですから,御質問がございましたら頂きたいと思いますが,いかがでしょうか。 ○田中幹事 私の方からは,国による船舶融資の制度がなぜ作られたのかというところから,歴史的なところも少しお話をしながら,質問をさせていただきたいと思います。   この制度は,国内旅客船公団法という昭和34年に作られた法律が基でございます。この法律の提案理由の説明は,昭和34年2月3日に開かれました衆議院運輸委員会で,運輸省からなされております。その議事録を読みますと,国内旅客船の老朽化が進んでいるが,運航事業者は全国で883あり,うち過半数の516が個人経営であり,会社は218あるが,そのうち資本金100万円未満の小規模会社が約半数の90もあり,事業者は極めて零細であること,そして事業者が零細であることが船舶の建造を遅らせる原因になっていること,及び公益を図る事業であるため収益性が低いことが指摘されています。そこで,国が出資をして公団を作って,建造費の援助を行う必要があると,当時このような説明がなされております。   この運輸省が当時作りました提案理由の説明を見ますと,国内の旅客船事業の大半は資本が小さく,収益性も低く,儲からない事業者が担っており,この零細事業者に対して民間の一般の金融機関が融資を躊躇するのは当然であるので,国が建造費の援助をせざるを得ないので,この制度が作られたという歴史的背景が分かります。   そこで,参考人に御質問ですけれども,第1に,国内の零細な旅客船事業は資本が小さく,収益性も低く,儲からない企業が担っており,この零細事業者に対して民間の一般の金融機関が融資を躊躇するので,国が建造費の援助をせざるを得ないという事情が50年前にあったわけですが,50年を経た後,今日もその事情に変化がないのかどうなのかということを質問させていただきたいと思います。   2点目の質問です。資本が小さく,収益性も低く,民間の一般の金融機関が融資を躊躇するような事業に融資をすることは,言わば国策融資であります。民間の一般の金融機関が行う融資とは比較にならないほど,貸倒れのリスクを積極的に引き受けているのではないかと思うわけですけれども,そうなのかどうなのかということを2点目の質問としたいと思います。   以上,御質問いたします。 ○山下部会長 参考人,いかがでしょうか。 ○三浦参考人 まず1点目ですが,国内の零細事業者が対象なので民間が躊躇するということでございますが,我々の融資は,確かに零細な事業者が多うございますし,そうでない事業者もいるというのが現状でございます。   最近の考え方からしますと,その辺りは必ずしも零細というよりも,政策的な金融というのですが,例えばCO2削減に非常に寄与するとか,あるいは離島航路であるとか,そういったような政策的な部分も出てきておると言えるのではないかと思います。   それからリスクを受け取るという点は,そのとおりではございますが,片や一方で,冒頭説明いたしました独立行政法人通則法の中期計画に基づいて,いわゆるその欠損金がかなり出ておったものですから,この削減計画を策定して,未収金が出ないようにということも併せて考えなければいけないということでございまして,リスクと言いましても,やはり審査をするときに,ある程度我々は使用料が確実に入るということは考えて融資はしておるという現状でございます。 ○山下部会長 よろしいでしょうか。 ○田中幹事 今の御説明では,50年前の融資の環境と既に異なる事情であって,融資の必然性は当時と違うという御説明だったと思います。   その上で,その債権の回収のために船員の労働債権の保護を削ってリスク回収を図るのはおかしいのではないかということについて,質問をいたしたいと思います。   今御説明があったように,民間の金融機関よりは高いリスクを負った船舶の融資で,この法律が策定された当時と若干状況が異なって,政策的な融資が必要だという理由で融資をしている。しかし,そういう状況の中で回収できない融資が出ているということで,その融資の回収に,船員の労働債権保護を削って融資を回収するということを望んでおられるのかどうか,それをもう1点質問いたしたいと思います。   それから,もう1点,これは質問の最後にしたいと思いますけれども,御主張にありましたような商法改正が仮に行われたとして,船員の労働債権の保護の分を削れば,一般の民間金融機関による船舶の融資が増えるとお考えなのかどうなのか,御意見を伺いたいと思います。 ○三浦参考人 最初の御質問の趣旨からすると,船員の労働債権を削ってというよりも,我々は今具体的な事例をお話ししたとおり,飽くまでも海商法なりの世界で牽連性があるかどうかということで純粋に法的に判断したいと思っております。   それから二つ目として,それによって融資が増えるかどうかという点でございますけれども,そこのところは正直,なかなかお答えが出しにくいかと思っております。 ○山下部会長 ほかに御質問ございますか。   もしないようでしたら,独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構のお二方の御参考人のヒアリングを,これで終えたいと思います。   どうもありがとうございました。   それでは,引き続きまして,燃料油供給業関係の団体といたしまして,全国石油商業組合連合会の坂井常務理事から,御見解を伺いたいと思います。どうかよろしくお願いいたします。 ○坂井参考人 ただいま御紹介いただきました全国石油商業組合連合会の坂井でございます。本日はこのような機会を頂きまして,大変ありがとうございます。   今,山下部会長から御指示がございましたものですから,燃料供給側からの意見として述べさせていただければと思います。   本日は資料は出してございませんけれども,私どもの意見につきましては,昨年12月10日に開催されました第8回部会におきまして,参考資料23ということで出させていただいております。当日は,私どもは当然出席しておりませんが,経産省の野村関係官から,この資料の概要について御説明をさせていただくとともに,若干この場でも御議論があったものと承知をしているところでございます。   また,本日の部会資料15にもございますけれども,パブリック・コメントにつきましても,全国の多くの燃料供給業者から意見を出させていただきましたし,私どもからも出させていただきましたけれども,12月10日に出しました意見書並びにパブリック・コメントで寄せられました皆様方,販売業者さんの意見を代表いたしまして,本日は資料もございませんので,あれかもしれませんが,口頭で御説明を申し上げたいと思います。   まず,この部会資料8ページ目のところの船舶先取特権と船舶抵当権との優劣につきましては,私どもは,注でございます現行規律を維持するという意見を支持するものでございます。   その理由といたしましては,5点ございます。   この下の8ページ目の一番下から,先ほど法務省様の方から説明がありましたように,「中小企業が多く」,次のページにいきまして,「を占める燃料油供給業者の企業経営に悪影響を及ぼす等を理由に」ということでございまして,これが正しく私どもの意見とするところで,最大のポイントでございます。   燃料供給業者につきましては,全国の石油販売業者のうち98%は中小企業あるいは小規模企業が占めてございます。取り分け,港などで,地方でございますと,地方の供給業者はほぼ中小企業者が占めていると言っても過言ではございません。したがいまして,ここにありますように,仮に,船舶抵当権に劣後し,燃油債権が回収できなくなるということになりますと,今私ども石油販売業者の半数は赤字経営ということでございまして,更に経営が厳しくなり,企業経営の存続すら厳しくなるということを大変危惧しているところでございます。ということで,1点目は,やはり中小企業が多いというところで,その企業経営に与える影響が大きいだろうということでございます。   2点目でございますけれども,同じく9ページ目の頭にございますけれども,2行目からありますように「第4順位の船舶先取特権が認められれば,船舶の差押えは依然として可能であり,これによって船舶所有者は事実上弁済を強制されるから,燃料油供給業者等の保護に欠けるところはない」というような御意見もあるというところでございますけれども,この下のパブリック・コメントの意見等にも書いていただいておりますように,私どもといたしましては,法律的にそういった整理がなされたといたしましても,実務上,そういった船舶の差押え権を行使することは,ほぼ不可能だと考えてございます。   中には差押えをして回収している業者もおりますけれども,中小企業が大半を占めるところにおいては,差押えをするのは非常に難しい。何となれば,有り体なお話で申し上げますと,特に地方では港社会は非常に古い社会といいますか,先祖代々からのお付合いが非常に多い方々が取引をしております。そうしますと,差押えをするとなりますと,言葉はあれですけれども,あそこの販売業者さんは差押えをするような冷たい会社なのかというような話で,特に地方では漁業関係とか中小の内航船業者さんに対して燃料を供給している方々が大半なのですが,そういった狭い世界の中では,逆に,そういうことをしますと,むしろあそことは取引をしないというようなことを言われたりするということもございます。ということで,実態としては,法律上そういうものが存置されるということになったとしても,実態として,実務上は,なかなかそれを行使するのは難しいだろうと思われます。   例えば,船舶抵当権者は大半が金融機関様が多いかと思いますけれども,金融機関様は我々燃料の供給業者の金融機関でもあるわけで,運転資金の借入先でもあるわけでございまして,非常に弱い立場にございます。   今,債権者集会等をやりますと,たまたま先取特権があるということをもちまして金融機関と対等といいますか,円滑に対話ができるというような実態でございまして,仮に船舶抵当権に劣後し,当然ながら金融債権を回収した後の残余のものから配当を受けるとなりますと,非常に少ない配当の中から燃油代金を回収しなければいけなくなりますので,非常に我々とすると不利な立場になっていくものと思っております。   それと,先ほどありましたように,先取特権を行使した事例というのは確かに少数例ではあるけれども,ございます。それによりまして,この間,全国の燃油販売業者にアンケートをさせていただきましたけれども,先取特権を行使しないケースにつきましては,大体1割ちょっとしか回収できません。ところが,先取特権を行使いたしました回収は,ほぼ6割ぐらいということでございまして,4倍ないし5倍程度,先取特権を行使することで回収率が高くなるという結果が出ております。   ということで,私ども先取特権を行使したケースにつきましては,そういったふうに,行使をしないケースに比べまして有効に機能していると考えておりまして,今後とも現行規律の中でやっていただければ,引き続きそういうケースで中小企業に与える影響は少ないだろうと思うところでございます。   また,最後のところで,回収リスクについて商人として通常負うべき云々というようなことも資料に書かれてございますけれども,私どもといたしましては,取引信用保険等も検討させていただきました。しかし,意見書にも出させていただきましたけれども,私どもの赤字が非常に厳しいということもあり,あるいは貸出先に対する信用等もあったのかもしれませんが,取引信用保険については,お断りされたというケースもございまして,私どもの回収リスクとして,そういった自助努力も努めてまいっているところでございますけれども,実態としては,やはり信用保険も使えないという実態がございまして,私ども中小の販売業界からいたしますと,現行の規律を維持していただくことが中小企業の経営にとって必要不可欠だろうというところを意見として述べさせていただきたいと思います。 ○山下部会長 ありがとうございました。   それでは,せっかくの機会でございますので,ただいまの坂井常務理事の御見解につきまして,御質問がございましたらお願いいたします。 ○道垣内委員 事実の問題ですが,先取特権を行使しないケースというのは,具体的にはどういう場面のことをおっしゃっているのでしょうか。行使するケースというのは,どういう場面のことをおっしゃっているのかが,ちょっとよく分からなかったのですが。 ○坂井参考人 行使しないケースというのは,やはり知ってても,先ほど申しましたように,やはり港の狭い社会の中で行使すると,取引先様との関係が非常に…… ○道垣内委員 そのことは伺って理解できましたが,行使をしないとかするとかいうのは,どのような状況を指している言葉なのかということなのです。どのような場合にしないのかとか,どのような場合にするのかというのではなくて,行使をしないとか行使をするというのは,どのようなことをおっしゃっているのでしょうか。例えば,抵当権が現実に実行されるということになりますと,行使をするということになるのか,それともその場合でも行使をしないということがあるのか,あるいは抵当権を実行するぞと銀行が言っていて,何とか話合いをしているときに,私は先取特権があると主張して先にお金をもらおうとすることを行使をするとおっしゃっているのか,そのときに,自分のところも銀行から借りているし,ちょっと黙っておこうかというのを行使をしないとおっしゃっているのか,行使をしない,行使をするというのは,それぞれ何なんですかということなんです。 ○坂井参考人 やはり,今先生がおっしゃられるように,銀行から借りているから黙っていようというところも,そういうケースもございますね。あるいは,変な話なんですが,逆に言いますと,先取特権をやはり行使をして,今おっしゃられましたように,金融機関さんとの関係も悪くしたくないというケースもあるようには聞いております。   一方で,行使するというのは,やはり自分の正当な権利主張で,しっかりとそこはやっていこうということで,やってきている方もいらっしゃるということだと思いますので,我々とすると,するしないというのは,その販売業者さんのそれぞれのお考えがあろうかと思うんですけれども,大体の方々は,やはり先取特権があるということは御承知されていて,それによって金融機関さんとの関係だとか取引先様の関係で,行使できるんだけれども,あえてしないというケースもあるやに聞いておりますし,そこは販売業者さんそれぞれのそのときの立場というか,取引先を考えた行為なのであると,アンケート等,あるいはヒアリング等を聞いていて,ちょっと思ったところでございます。 ○松井(信)幹事 法律的には,先取特権を行使するというのは裁判所から差押命令を得るなどといったことになるのですけれども,今,坂井参考人がおっしゃったのは,裁判所から差押命令を得るというところまでではなくて,主張するということをもって,行使するという趣旨なのでしょうか。 ○坂井参考人 ええ,そうです。全く私ども法律の専門家ではないので,今,松井(信)幹事がおっしゃったようなところでございまして,実際のそういうところまでいっている話ではないと私も承知しております。 ○山下部会長 道垣内委員,よろしいですか。 ○道垣内委員 はい。 ○柄委員 坂井常務の御見解を少し補足させてもらう話になろうかと思いますが,商工会議所としては,中小の企業の立場からこの件には大変注目をしています。現行の規律を守っていただきたいとの御意見に中小の立場としては同調させていただきますし,坂井常務の御説明に補足をさせていただきますと,恐らく中小では,そこまでの回収のノウハウを持っていない,場合によっては,弁護士の先生とのコンタクトがない,差押えの権利を行使したいけれども行使できないという現実があろうかと思います。ですから,中には中小でもしっかりした業者さんもいらっしゃいまして,ノウハウを持っているところはできるかもしれませんけれど,そこまでのノウハウがなくて,弁護士の先生もいないという場合には,権利を行使したくてもできないという現状があろうかと思います。   もう一つ,中小の立場で申しますと,当然やはり現状の規律を維持していただきたい。中小企業は経営が厳しいという現実がございますし,仮に乙案とするならば,中小としましては,事前の信用調査を要求されると思います。これも先ほどと同じ話になってしまいますが,信用調査をしっかりと実施できるだけのノウハウを本当に業者の皆さん全てが持っているのか。そのような信用調査は現実問題としては実施できないということですので,やはり中小の立場から考えますと,現行の規律を維持していただくことを,債権者保護の観点からお願いしたいと思います。 ○池山委員 池山でございます。   今の御説明で念頭に置かれている状況というのは,中小の燃料供給業者さんが特に地方の港で船舶所有者さんと燃料供給の契約をしている場合を念頭に置いて,その方々を是非現状どおり保護してほしいという御趣旨であったと理解を致しました。   他方で,外航海運等の立場からしますと,燃料供給契約の一般の形態としては必ずしもそれだけではなくて,いわゆる商社のような大手の燃料供給業者が船舶の定期傭船者と直接燃料供給契約を結んで,定期傭船者との契約に基づいて運航されている船舶に供給をすると,そして実際の港での燃料供給業者さんは,言ってみれば大手の商社さんとかの履行補助者として機能しているという状況もあるのではないかと理解をしているんです。   質問は,単純にそういう利害状況も一応あり得るということ自体についての参考人の御認識をお聞かせ願いたいと思うんですけれども。 ○坂井参考人 やはり実際として,そのオーナーではなくてオペレーターさんに燃料を渡して燃料代を請求するというのが常でございますので,そういった形で傭船をされている方々に対して当然ながら行使をするというか,我々の業界の中の方々では,そういうことをやっているというケースもあるやに聞いております。 ○池山委員 私が質問させていただいている趣旨は,法律論以前の問題として,燃料供給契約というか,あるいは燃料供給事業の事業形態の在り方として,今私が申し上げたような形態もあるという理解で正しいですよねということです。 ○坂井参考人 ええ,そういうことでございます。 ○池山委員 ありがとうございます。 ○山下部会長 よろしいでしょうか。   それでは,全国石油商業組合連合会からのヒアリングは,この辺りで終了とさせていただきます。どうもありがとうございました。   続きまして,船員を中心とする労働者の立場として,古川弁護士から御見解を伺いたいと思います。よろしくお願いいたします。 ○古川参考人 最初に申し上げますけれども,私は声を出す声帯の部分が左半分が麻痺をしておりまして,若干お聞き苦しい点があるかもしれませんので,御容赦ください。   私自身は,海員組合の顧問でもございませんし,それから先取特権の事件をやるような利害関係を持つ弁護士でもございません。連合の方から,理論的な問題の検討の依頼を求められて検討をした,そういう立場でございます。   今回,船舶先取特権を生ずる債権のうち,船員の雇用契約債権につきまして,被担保債権の範囲をめぐる議論がなされております。この点に関する私の結論は,本日の部会資料15の6ページ以下の論点の中の甲案を採用すべきであるというものでございます。その理由の詳細につきましては,今日この場でお配りさせていただきました調査検討結果報告書に詳しく書かせていただきました。それを前提にした上で,パブリック・コメントに寄せられている乙案支持の意見についての私の見解を述べさせていただきます。   乙案支持の意見の骨格的な部分は,第1に,諸外国において一般的な船員の雇用形態は特定の船舶への期間付きの雇入れであること,それで,この船員の雇用契約債権の先取特権については,この雇用形態を前提としているという指摘だろうと思います。また,第2に,退職金のような非常に高額な債権を保護対象とするのは不都合であるということ,そして第3は,乗組みによらない債権を被担保債権とするのは不都合である,この3点に集約されるのだろうと思っております。   これらの乙案支持の指摘事項は,一つにまとめることができると思っております。というのは,日本における船員の長期継続雇用の制度に基づいて船員に支払われる労務報酬には,3種類のものがある。1番目が船舶に乗務している期間の給与,2番目が予備船員として陸上勤務のときの給与,そして3番目は退職金,この2番目と3番目が海上労働とは無関係のものなのかというのが基本的な論点なのだろうと理解しております。   そこで,まず日本における船員の長期継続雇用の制度の沿革について,確認をさせていただきます。詳しいことは,私の報告書の44ページ以下に書いておりますが,その要点をかいつまんで申し上げます。日本では,欧米より遅れて明治時代に工業化が始まり,外国技術を導入して,一気に工場や船舶を造ることが始まりました。各種の技術者や船員の養成も行われるようになったわけですけれども,養成する数は圧倒的に不足しておりました。そのために,熟練した技能者の引き抜きが横行したわけでございます。そこで,その引き抜きを防止するために長期勤続者に退職金を払うという制度が,ヨーロッパにない日本特有の制度として,明治時代の中期にもう出来上がっているわけです。それが官営工場や海軍工廠だけでなく,日本郵船でも作られます。さらに,それらの長期雇用の制度が作られた後になって,明治32年に商法が制定されて,先取特権の制度が生まれています。   船員労働の分野を見ますと,日本では,江戸時代に大型帆船の建造が禁止をされております。そのため,ヨーロッパと異なり,海員の養成はなおのこと遅れていたわけです。そのこともあって,明治時代になって一気に海員を初歩から養成しなければならないという,ヨーロッパと全く違う事情があったわけです。   ですから,先ほど申し上げました引き抜き防止のために,日本郵船で見ますと,当時の日本郵船は日本の大型汽船の半分を持っているわけですけれども,明治21年に予備船員の制度を作ります。そして,明治27年に退職金の制度を作るわけです。ですから,日本で船員を長期雇用するというのは,正に日本の海運業の歴史の反映でございます。   その上で,このような長期雇用の下で退職金と予備船員の賃金を払うという制度ができたのは,実は海上労働に対する報酬の支払を引き延ばすことができる,遅らせることができるという意味で,経営者にとっても都合がよかったのです。そのことが,実は,今日持ってまいりましたけれども,昭和3年9月6日に作られた労働協約で物証として残っています。   具体的に言いますと,この労働協約では,船員の給料の最低月額を事細かに決めております。区域,トン数,それから職種などによって,事細かな表を作っております。この労働協約は,今日も委員の中にいらっしゃる日本船主協会と,それから日本海員組合との間で締結されたものです。この賃金表は前提がありまして,ヨーロッパ型の特定の船舶に乗務して,下船したときに全部精算をするというタイプの場合の最低賃金を決めるものでございます。   さらに,この賃金表には末尾に注意書きが書いてあります。それは,退職金を払い,予備船員制度を採り,その支払の総額が退職金や予備船員の給料を含めて総額が上回るときには,この賃金表を適用しなくていいというものです。つまり,支払原資は共通なんです。その船員が乗務している期間だけで精算するのか,それとも一生涯かけて精算するのか,とにかく後者が1円でも上回ればよいというのが当時の労働協約なのです。   ですから,この労働協約に照らせば,その報酬の中で退職金の部分と予備船員の部分の支払を後回しにできる。そういう意味で,海運業者にとって大変都合のいい制度だった。ですから,当時の記録を見ますと,山下汽船でありますとか,それから川崎汽船はヨーロッパ型の賃金だったのが,この制度になだれ込むんです。というのは,賃金部分の負担を後払いにできるからです。   ですから,乙案をもし採るとおっしゃるのであれば,この賃金表に出てくるような総額を乗務している間に精算する制度を前提にすることが合理的であると思います。しかしながら,退職金や予備船員の時代の賃金というのも,実は繰り延べされた賃金にすぎないということが,日本の労働契約,特に日本船主協会が結んでいた労働協約から見て,はっきりしているわけです。   ですから,私は,乙案については,全く合理性がなく,繰り延べされた支払を遅らせた労賃の部分は,やはり保護されなければならないというのが結論でございます。 ○山下部会長 ありがとうございました。   それでは,せっかくの機会でございますので,ただいまの古川参考人の御見解に対する御質問があれば,伺いたいと思います。 ○松井委員 まず,今回の資料を今日頂いたので,きちんと見てはいないのですけれども,幾つかだけ指摘をさせていただきます。   47ページのところで,先ほど退職金制度というのは,商法改正の前に出来上がっているというお話がありましたけれども,日本郵船の70年史という本を見ますと,これは,日本郵船で現代のような退職金ができるまでの制度について書かれた資料と読めます。その一番最初,前身の前身が,ここで書かれている高級船員に対する社員恩給規則であるということで,これがその退職金制度と同じものであるか,また,権利としての退職金,現在のような高額なものであるか,さらに,広く一般に認められているものであるかという論点が一つあることと,それから,仮に,この高級船員に対する退職金の恩給規程というものを退職金と考えたときに,これが商法の立法事実になっていたかという部分については,更に検討が必要ではないかと思います。   それから,退職金の船員の方の規程ですけれども,全日海の活動資料集を見ますと,昭和25年10月20日に退職手当に対する最初の暫定協定が成立したということが書いてありまして,現在のような恒常的な退職金に関する協定が成立したのは昭和31年6月であるというような記載もあるように思います。   それから,書いていらっしゃるすごく大事な点だと思うのですけれども,54ページ,55ページのところで立法直後の裁判例についての判例タイムズの雇用と雇入れは同じものであるという解説を引いておられて,これは大阪地裁の明治43年判決ということで,参考人の資料によると,これが雇用と雇入れは別のものだという根拠であるということで書かれています。判例タイムズの読み方は,沿革はともかくとして,「お粗末な指摘である」ということを書いていらっしゃるのですが,ここでは,その雇入れの事由を海員名簿に記載して公認の申請をするか否かという行政上の手続と,雇入契約が実体法上成立するかは関係がないということと,それから雇入契約が成立すれば,船員は雇入契約所定の給与について船舶先取特権を取得することが明確に述べられているところでございます。   何が言いたいかといいますと,参考人のお立場から,今回のような資料と御意見があるのはもちろんのことだと思いますけれども,立法の経緯については,いろいろ議論があるということです。   そこでお伺いしたい点なのですけれども,先ほどお話しのあった842条7号については,船舶への乗船又は牽連性が必要ないということでおっしゃっている御意見だと承っているのですけれども,842条のほかの各号については,特定船舶との牽連性のあるものしか認められていないのですが,100年以上たって,今後またこの改正をするに当たって,牽連性が必要ないという合理性はどこにあるのかという問いが1点目でございます。   2点目については,社会政策的見地というような言葉がよく使われているわけですけれども,社会政策的見地という意味においては,船員の方も含めて賃金の支払の確保等に関する法律,賃確法とか,破産法上の優先債権とかの取扱いがあるわけですけれども,その社会政策的見地の法律がカバーできなかった部分について,残りの雇用契約に関する全ての債権を特定の船舶なりその抵当権者が負わなければいけない理由,多分,社会政策的見地という言葉は,通常は多くの人が少数の人を救うという形で使われる言葉だと思うのですけれども,この点について,船員の方だけが,ほかの交通機関の従業員の方と異なり,今後も少数の人に保護されるべきだという合理性がどこにあるか,この2点について,教えていただければと思います。 ○古川参考人 御質問のあった牽連性の点につきましては,先ほど機構の方から御主張のあった船員の労働の二十何年分の退職金の請求がある,だけど船は造ったばかりのものであるという部分と同じ御主張なんだろうと理解いたします。   確かにおっしゃるとおり,二十何年間の退職金の分を何でこの最近造った4年の船で見なければならないのか。御主張は分かるのですけれども,私どもが考えますのは,元々その二十何年間払うものを積み残してきただけではないか,船はリプレイスされているだけではないか。ですから,その当時に船がなかったわけではなくて,かつてあった船の労働,その船の労働によって生じた賃金債権,それで船はリプレイスされているだけだと。だから,そこのところに何の不自然もないのではないかというのが私の考え方でございます。それが1点目でございます。   それから2番目,何でほかの職種の人と違って,船員だけ保護されなければならないのか。これはやはり,何といいましても,今回詳しく書きましたけれども,船員労働が過酷だからであると申し上げるべきだろうと思うのです。今日におきましても,船員で言いますと,日本の沿岸航路であっても2か月とか3か月間,長期拘束されます。休日が1日もありません。かつ,危険と裏腹の関係にあります。親の死に目にも会えない,そういうような労働がいまだに続いているわけです。それで,船員労働につきましては労働基準法の労働時間法制は全く効力を持たないような,そういう状況でございます。ですから,この船員労働の過酷さがあるが故に,明治32年にああいう条文ができたのだろうと思います。   明治32年で言いますと,民法で保護される先取特権,給与の関係は50円です。公務員の初任給の1か月分です。それしか保護しない時代に,あえてこういう制度を作ったというというのは,やはり船員労働の過酷さ,それに対する社会的な評価の表れだろうと私は思っております。そして,その過酷さは今も変わらないと考えております。 ○山下部会長 ありがとうございます。よろしいでしょうか。 ○田中幹事 私からも,古川参考人のただいまの意見陳述をお聞きいたしまして,船員労働に関する船舶先取特権制度の背景にある考え方につきまして,この場で改めて確認をさせていただきたいと思います。   船員の雇用契約に基づく労働債権につきましては,一般の陸上労働者と比べまして,労働者保護に重きを置いた手厚い制度になっているかと思います。今御説明がありましたように,当時,過酷であるということで,船員労働についてのみなぜ労働債権が特別扱いされたかという部分について,もう少し詳しく先生の調査とか実例とかもお教えいただければ有り難いかなと思います。 ○古川参考人 船員労働が過酷であるということは,別に私が言い出したことではございませんで,今回の調査の中にも書きましたけれども,当時の議会での提案理由説明の中で,船員労働が過酷という指摘がなされております。それは先取特権の部分の説明ではございませんで,船員労働の特徴に関する説明でございますけれども,その過酷だという大臣の認識,えらいものでございますという言葉を使っているんですが,それがやはり大前提にある。その「えらいもの」があって,それによって日本の産業がまた支えられている。特に,貿易なくして日本の国が成り立たないのは当たり前ですので,言わば長期間の拘束労働,普通の人がしないような過酷な労働で日本の産業が支えられているということに対する社会の側からの応答なのではないかというのが私の理解です。 ○松井(秀)幹事 いろいろと詳細な御説明,ありがとうございました。今,述べられた最後の点と関連して確認なのですけれども,船舶先取特権で非常に強い保護が船員に対して与えられている理由として,一つには労働条件の過酷さということを強調されたかと存じます。それと同時に,当時の明治時代等の政策的な意義,つまりある一定の保護を与えることによって海運業に一定の人員を誘導したいでありますとか,あるいは保護することによって海運業を産業を支える糧にしたいといったお話もあったのですけれども,この点も労働債権に係る船舶先取特権が特別な扱いをされることの一つの理由になるということで理解してよろしいのでしょうか。 ○古川参考人 おっしゃるとおりだと思います。 ○松井(秀)幹事 分かりました。ありがとうございます。 ○山下部会長 ほかに,よろしいですか。   それでは,古川弁護士からのヒアリングは以上とさせていただきます。どうもありがとうございました。   続きまして,漁業・水産業関係の団体といたしまして,明石浦漁業協同組合の戎本組合長から,御見解を伺いたいと思います。どうかよろしくお願いいたします。 ○戎本参考人 私は,兵庫県明石市の明石浦漁業協同組合の組合長をしております戎本と申します。本日はこのような場で発言の機会を頂き,誠にありがとうございます。資料はございませんので,口頭でお話しさせていただきたいと思います。   それでは,前段として,兵庫県瀬戸内海側で発生した2件の船舶事故について,お話ししたいと思います。   まず,平成20年3月5日に,明石海峡で2隻の貨物船と1隻のケミカルタンカーが衝突し,沈没した1隻の貨物船からの流出油が長期にわたり海を汚染したため,兵庫県の基幹的な漁業のノリ養殖やイカナゴ漁に総額39億3000万円にも及ぶ漁業被害を与える事故が発生いたしました。当時はノリ養殖の最盛期でしたが,生産を断念し,出荷直前のノリを漁業者が刈り取って,市が廃棄処分をしました。一方,イカナゴ漁でも,明石海峡周辺での操業を断念し,近隣の海域でも油の流出が認められたため,直ちに操業を中止し,油の回収作業を行いました。   このような甚大な被害にもかかわらず,総額39億3000万円の被害に対して,P&I保険により支払われた賠償金は僅か4億2000万円にとどまりました。水揚げによる所得が皆無の中,漁業を継続するため,当座の運転資金の借入れをした漁業者も多く,その借入金の総額は30億円にも及び,その返済はいまだに終わらず,漁業者の肩に重くのしかかっています。また,こうした負担に耐え切れず,廃業せざるを得なかった漁業者や,中には経営困難で自殺する漁業者も出ました。船舶の航行が輻輳する明石海峡では,いつ同じような事故が生じるか,瀬戸内の漁業者は不安に怯えながら操業しております。   一方,平成21年12月18日,カンボジア船籍の貨物船が播磨灘鹿ノ瀬海域のノリ養殖施設に侵入し,ノリ養殖の網やロープ等を破損したことにより,約3400万円の被害を与える事故が発生いたしました。当該船舶のP&I保険は中国の保険会社で塡補が期待できず,また,債務者が支払に応じなかったため,漁業者として唯一とり得る手段として,裁判所に対して船舶先取特権に基づき船舶競売申立てを行った結果,示談解決となり,約1500万円の賠償金が支払われております。   この事案では,船舶先取特権が抑止力として有効に機能し,結果的に賠償金が支払われました。このようなことから,漁業者にとって,船舶先取特権は自力救済の最後の手段と考えております。このように解決した事案はまれで,漁業者からすれば,中国船に漁具を傷められたときは,どうせ中国船の保険があっても,まず回収は無理だろうということで,ほとんどが泣き寝入りする状況にあります。   船主責任保険に加入していない船舶の緊急避難による加害の場合,また,加入していても,その付保額が少額あるいは油濁損害と船体撤去費用のみの付保である船舶が漁業被害を起こした場合,船舶を補償対象として差押えする以外に,被害救済の道はないと存じます。しかしながら,中間試案で示された抵当権を優先する法改正がなされれば,金融債権優先となり,船体の差押えの効果が期待できないことになります。   我々漁業者は,一定のルールに基づき,目の前の海を漁場として利用しており,自分の勝手で自由にほかの場所に移動して操業できるわけでもありません。目の前の漁場を奪われてしまうと,漁業生産する場がなくなってしまい,生業が立ち行かなくなります。加害船とは何の関係もない漁業者をまず救うのが先だと,私は思います。   我々漁業者は,重要な動物性タンパク食料である魚介類を安定的に国民の皆様にお届けする負託に応えるため,これからも頑張っていきたいと考えておりますので,漁業者の実情を御理解いただき,被害者救済の観点から,中間試案の注記にあるように,ただし書を設けず,現行法どおり,船舶抵当権に優先して物の損害に関する債権が位置付けられることを強くお願い申し上げます。   以上をもちまして,私の意見陳述を終了させていただきます。 ○山下部会長 ありがとうございます。   それでは,せっかくの機会でございますので,ただいまの戎本組合長の御見解に対する御質問があれば伺いたいと思いますが,いかがでしょうか。 ○水口幹事 今の話ですと,船舶抵当権に劣後しない船舶先取特権を認めてくれということなんですが,今のケースですと,船舶抵当権を優先させることによって船舶先取特権が害されるという,その根拠はどのような点にあるのでしょうか。今の二つの例だと,船舶抵当権は何の関係もないように思われるのですが。 ○戎本参考人 私の解釈が間違っていたらすみません。船舶先取特権があることが抑止力として,その船舶先取特権に基づいて競売申立てを行った結果,示談解決となった。やはりその船舶先取特権があるからこそ,そういう示談に応じた。船主責任保険に入っていても,たちの悪いところの保険屋さんはそういう交渉にも応じないということがあったので,そのときに船舶先取特権に基づいて申立てを行って,何とか示談にもっていけたというのが,その船舶先取特権の効果があったのではないかと思います。 ○水口幹事 ということは,船舶抵当権者は出てこなかったんですか。 ○戎本参考人 このケースでは,船舶抵当権者は出てきませんでした。 ○水口幹事 そうですよね。私たちは,抵当権者と先取特権者の順位について議論しているのですが,そうすると抵当権者が出てこなかったということは事実ですよね。 ○戎本参考人 このケースでは,そうです。 ○山口委員 今の議論は,ちょっと戎本参考人がおっしゃっていることとずれているだろうと思うんですね。戎本参考人は,抵当権に優先しないと差押えができない場合があるだろうとおっしゃっているのだろうと思います。本件の場合は,実際に抵当権があったかどうか分かりませんが,ほとんどの場合,船舶には抵当権が付いております。そうなってきますと,船舶先取特権が抵当権に後れますと,抵当権が船の価値一杯に付いていますと余剰がないということになりますので,民事執行法上,差押えができないということになる,それを恐れているということですね。   ですから,いわゆる被害者保護という観点から言うのであれば,当然のことながら,被害者が保護されるべきであり,そのようなP&I保険にも入っていないような船会社がこの中を横行しているかどうか分かりませんが,事故を起こしたときに払われないという実態があるときに,船が最後の回収の財産になるわけで,そのときに抵当権が付いているからといって差押えができなくなるということは耐え難いということをおっしゃっているのではないかと思うんですね。   本件の場合に,たまたま抵当権が付いていようが付いていまいが,それは余り大きな問題ではなくて,実際,多くの場合に抵当権が付いているところで,その抵当権が付いている船が入ってきた,その際に実際P&I保険が付いていたとしても船の差押えができないとなれば,被害者に対してP&I保険からは多分支払われないだろうと思われますので,そういうことを防ぐためにも,被害者保護の観点から,当然こういう漁業者の権利,物に対する損害については抵当権より上位にあるべきだということをおっしゃっているのではないかと思いますし,私はその考え方に賛成をいたします。 ○山下部会長 ほかに,いかがでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは,戎本参考人,どうもありがとうございました。   続きまして,造船業関係の団体といたしまして,一般社団法人日本中小型造船工業会の関元企画調査室長から,御見解を伺いたいと思います。よろしくお願いいたします。 ○関元参考人 日本中小型造船工業会の関元でございます。今御紹介がありましたように,私ども中小造船の修繕業者の立場から,コメントさせていただきたいと思います。私ども中小造工は,非常に小さな組織でございまして,メンバーが約50社ほどしかございませんが,それにも入れないような造船所が一杯ございます。そういう非常に零細なところが多いということも含めて,コメントさせていただければと思います。   参考資料30をお出ししており,2点コメントがございます。いずれも本年1月に,国土交通省を通じまして,こちらの方にコメントさせていただいた中身と変わってはおりません。   まず,第1点目が,中間試案の第4順位の船舶先取特権についてでございます。いわゆる航海継続の先取特権,商法第842条第6号の関係でございますけれども,この順位と申しますか,船舶抵当権との優劣につきまして,劣後させることのないようにお願いしたいということでございます。   一般に,船舶の修繕では,ドック入りした後に,当初予定されていなかったような修繕を追加で行うことが多々ございます。一般的な取引慣行としては,工事を終えた後に交渉を行って金額を確定するというような形式を採ることが多いことから,構造的には,債権を持ち越す事態が発生しやすい状況にございます。造船所の方としては,船舶先取特権によりまして,最終的には費用を回収できるということを前提に修繕を行っておりまして,修繕を主として行っている造船所のほとんどが中小零細であり,経営基盤が脆弱であるということを考えますと,航海継続の先取特権が存置されるといたしましても,先ほども議論にございましたように,船舶抵当権に劣後することになれば,回収できないということもあり得るかと思いますので,大きな影響が及ぶのではないかと心配しておるところでございます。   それから,第2番目は,商法第704条の第2項でございます。民法の先取特権が船舶所有者にも及ぶということに関するものでございますが,これについても,現行法の規律を維持する甲案に賛成ということでございます。   平成14年に最高裁の判例というのがございまして,これは当会のメンバー会社の修繕造船所が申し立てた船舶整備公団の共有船の競売の許可抗告審の事例でございますけれども,その結果として,法定検査でのドック入渠のための航行のような,本来の目的である商行為を行うことを目的としない航行は,先ほどの842条6号にいう航海に当たらないということでございますけれども,船舶も民法上は動産であるということで,船舶についても各種修繕費については,民法上の動産保存の先取特権が成立するとして,更に商法704条2項の先取特権には民法上の先取特権も含まれるとして,造船所の主張を認めたものでございます。   この解釈に反しまして民法上の先取特権が含まれないということになりますと,法定検査のような修繕工事等の受注につきましては,造船所としては慎重にならざるを得ず,社会的な影響が出てくるのではないかと思っております。例えば,船舶所有者以外の者が修繕発注者である場合,すなわち,船舶賃借人や管理会社といった者が発注者の場合,修繕によって船舶の価値が長期間にわたって高められ,あるいは維持されているにもかかわらず,5年の消滅時効である商事債権が船舶所有者には及ばないこととなると,内航船の修繕発注者は資本力の弱い一般の船主や管理会社が多いわけでございまして,その信用力のみに頼らざるを得ないことになれば,造船所としては債権の回収の懸念が大きくなるということでございます。   また,JRTTのみならず,いわゆる一般の民間も含めて,共有船舶というものにつきまして,例えば,持分1%という船舶所有者が発注した修繕工事につきましては,残りの99%の持分の船舶所有者に対しては先取特権を行使できなくなるということで,債権回収は困難となるというような状況も考えられます。   改めて申し上げますと,修繕工事によって価値を維持され,高められた船舶の債権につきましては,これは修繕業者に優先的に配分していただきたい。それから,それによって利益を受けた所有者については,そこからも債権回収するべきではないか。最後に,修繕造船所というのは非常に小規模なところが多いということで,是非とも配慮をお願いしたい。 ○山下部会長 ありがとうございました。   それでは,せっかくの機会でございますので,ただいまの関元企画調査室長の御見解について,御質問がございましたら伺いたいと思います。いかがでしょうか。 ○松井委員 ありがとうございました。704条2項について,ちょっとお伺いしたいと思います。   関元参考人のお立場からいけば,こういう御意見はもっともだろうと思うのですが,2点ありまして,一つは,参考資料30の①,②を通じてそうなのですけれども,修繕発注者又はその持分1%の船舶所有者が発注したケースで,契約相手がそういう人であるとすれば,本来は,その契約相手の信用力を確認をすると,仮にその所有者が別にいるのであれば,内航船が多分前提になっていると思いますので,内航船の所有者,99%の所有者の方にその意思を確認するということで,事実上の問題は解決するのではないかと思うのですが,この点はどのようにお考えになられるのでしょうか。   それから,船の場合で今お話があったように,価値が上がったということで,ドックの法定検査等の負担というのは所有者が負うべきであるというのも一つのお考えだとは思うのですけれども,商法842条6号によって,航海継続の必要により生じたるという部分は除かれるというか,事故とかそういう修理については,船舶先取特権で最優先で保護されているわけですよね。ここで問題になるのは,おそらく法定検査がほとんどだろうと思いますけれども,法定検査というのは元々日程も分かっていて,時間の余裕もあるようなものなのですけれども,その法定検査について,今申し上げたような時間的な余裕があることから,確認もできるのではないかというのが1点目です。   それから,賃貸借には船以外にもいろいろな賃貸借があって,建物の賃貸借から,ほかの乗り物の賃貸借もあるのですけれども,その場合にも内装を直したとかいろいろなケースがあって,必ずしも直した,修繕をした又は何か架装したという会社が優先するわけではないのですけれども,船の場合だけ,なぜこの動産保存の先取特権が所有者に及ぶということが合理的だとお考えになるか教えていただければと思います。 ○関元参考人 1番目の件でございますけれども,所有者に確認すれば良いではないかと,それもできる場合はやっているのだろうと思いますけれども,必ずしもいつでもそれができるというわけではなく,また,それが正確かどうかも分からないということではないかと思います。   それから,価値が上がったというのは船だけではないのではないかということですけれども,船の場合には,4年あるいは6年ごとに検査がございまして,これは誰が所有しようと必ず掛かるものでございますので,それは,所有者としてのメリットに,利益になっているのではないかと考えます。 ○山下部会長 ほかに,いかがでしょうか。 ○増田幹事 機構(独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備機構)の方と事実認識にどれぐらい相違があるのかをちょっと確認させていただきたいので,質問させていただきます。機構の方の御説明の中では,定期検査費用というのは通常は1年以内に決済されるべきもので,長期間の未払いというのは予定されていないものだという御趣旨でした。もしそういった事態が生じているのであれば,ドック側で適切に対応することが可能なはずではないかという御発言があったように記憶しております。   この点についての事実認識,すなわち,そもそもこういった累積,未払金がたまっていくようなことは予定されていない取引なんだという部分については,事実認識としていかがでしょうか。 ○関元参考人 もちろん,早く回収できるに越したことはないのですが,商慣習として延び延びになる,慣習というか,そういう場合もあり得るということではないかと思います。 ○増田幹事 そういう場合もあり得るというのは,どちらかというと,感覚的には例外的な場面ということなのでしょうか。 ○関元参考人 そういうふうに思います。 ○増田幹事 通常は,それほどたまらないと。 ○関元参考人 それほどためないのではないかと感覚では思うんですが,統計を取って調べたわけではないので何とも申せません。 ○山下部会長 ほかに,よろしいですか。   それでは,関元企画調査室長へのヒアリングは以上とさせていただきます。ありがとうございました。   それでは,最後でございますが,船舶所有者側の御意見といたしまして,日本郵船株式会社の志水グループ長代理から御見解を伺いたいと思います。よろしくお願いいたします。 ○志水参考人 日本郵船株式会社の志水と申します。本日は,船舶先取特権に関する審議に関し,日本船主協会の意見を申し上げる機会をお与えいただき,ありがとうございます。   この機会に,船舶の所有者あるいは運航者として申し上げたい点は,ある債権に船舶先取特権が認められるということは,実質的には,当該債権の債権者に対し,保全の必要性がなくとも,かつ,何らかの担保も立てずして,いきなり本船を差押えすることを認めるということになります。別言すれば,債権者の一方的な主張と証拠に基づいて,本船の運航が具体的な運航状況を無視して突然直ちに止められるということであって,これは,多くの関係者に対し深刻な影響を及ぼします。   したがって,船舶先取特権を認める債権というのは,その事態を招いても,なお保護するだけの理由のある債権でならなければならないはずだということを,今一度,御想起いただき,慎重な御検討をお願いしたいということです。   関係者への影響というものを視覚的に御理解いただくために,参考資料29というものを御用意させていただきました。お手元の資料を御覧いただきながら,話を進めさせていただきます。   まず,中心のオレンジ色の部分で,定期傭船者,Vessel Providerとあるところを御覧ください。これが当該船舶のいわゆる運航者になります。その左側の紫で記載されている部分でございますけれども,これは本船の手当てに関してということになります。運航者である定期傭船者は,通常,船舶の所有者とは異なります。運航者は定期傭船契約に基づいて,所有者から船舶を傭船しています。この図の左側の船舶賃借人,定期傭船船主との契約がそれです。しかし,この図で示されていますように,場合によりましては,定期傭船船主は文字どおり船の所有者ではなく,船舶賃貸借契約,別言すれば船のリース契約に基づき真の船舶所有者からリースを受けている場合もあります。   他方,定期傭船上の船主業務である実際の船への艤装や船員の配乗は,多くの場合,船主,この場合では船舶賃借人ですが,がいわゆる船舶管理会社と管理契約を結ぶことによって行われているというのが現状でございます。なお,この船舶所有者,船舶賃借人,船舶管理会社が定期傭船者の傘下の100%子会社であれば,この船舶は運航者たる定期傭船者の実質的自社船,いわゆる仕組船というものになります。一方で,文字どおり定期傭船者とは全く関係のない第三者の会社から船を傭船してくることも多々ございます。   次に,定期傭船者の右側の部分でございますけれども,コンテナ船の場合には,定期傭船者が単独で運航し,単独で全貨物に対して自社B/L,自社の船荷証券を出して運ぶということは余りございません。多くは共同運航契約に基づき,複数の運航者で船を出し合い,同一の航路に投入されています。そこでは,船ごとに当該船舶の提供者はVessel Provider,その提供を受ける者はSlot Chartererとなっております。その関係は定期傭船契約に準じたもので,Cross Charterpartyが結ばれております。そして,船荷証券は,Vessel Provider自身の引受け貨物についてはVessel Providerが,Slot Chartererの引受け貨物についてはSlot Chartererが出すということになります。ただ,いずれにいたしましても,それらの船荷証券は,船舶の運航者,正確に言えば共同運航者が発行するもので,これがいわゆるマスターB/Lと呼ばれているものになります。   このマスターB/Lの発行先,所持人が船舶の運航者から見た荷主になりますけれども,これも単純ではございません。まず,荷主がいわゆる実荷主だといたしましても,細かく言えば,輸出者である荷送人と輸入者である荷受人がいて,さらにここには書いてございませんけれども,銀行も介在し,それらの中をB/Lが転々流通しているというのが状況でございます。   さらに,実際には,マスターB/Lの発行先は実荷主ではなく,いわゆるNVOCC,すなわちフォワーダーさんであることも多々ございます。現在は,むしろその方が多数でございまして,フォワーダーは,自分が利用運送人としてさらに船荷証券,いわゆるハウスB/Lを荷主に発行しております。場合によっては,この図のように,更にNVOCCというような連鎖をすることもございます。   北米それから欧州に投入されているコンテナ船は,20フィートコンテナ換算で,数千から1万TEU以上というように,船の大型化が現在進んでおります。したがって,1船当たりのマスターB/Lの件数は,数百から数千に及びます。さらに,マスターB/Lに連なるハウスB/Lの件数は,それに数倍するという形になります。   これらが,当該船舶の当該航海に関する個品運送契約の数ということになります。これだけの関係者がいる船を止めるということが,今回の差押えの部分に関係してまいります。   なお,不定期船のバルク貨物の場合,船荷証券の件数はコンテナ船のようには多くはございません。NVOCCも通常登場しませんし,その代わり,定期傭船契約や航海傭船契約が三つ,四つと連鎖する形となっていることもままあるというのが実情でございます。   御理解いただきたいところは,船舶は,これだけ複雑な契約網の中で多数の貨物を運送しているため,ある荷主,例えばこの図の黄色の数百,数千のうちの荷主様の一人が,このマスターB/Lに係るカーゴクレームを理由に船舶を差し押さえて本船が止まってしまうと,これは実務の言い方ではアレストと申しておりますけれども,これが解放されるまで,この図の関係者全員に影響を与えてしまうこととなります。   一方,実際に本船がアレストされても,P&I保険のL/Gが提出されて,すぐに本船はアレストを解除されるから大した影響はないとの反論もございますけれども,これは,確かにある程度は事実でございます。しかし,そうだといたしましても,一方ではアレストが保全の必要性もなく,何らの担保も立てずしてできるにもかかわらず,他方ではアレストからの解除は必ずしも速やかになされる制度になっていないという点が次の問題となります。   以下,申し上げますところは,商法ではなく,民事執行法ですとか裁判所の運用の問題というところに掛かってくる問題ではございますが,せっかくの機会ですので,関連する点を3点簡単に申し上げさせていただきます。   第1に,船舶先取特権に基づくアレストは,仮差押えではなく本差押えですから,保全の必要性も担保を立てる必要もございません。民事執行法では,債権者がその存在を証する文書を提出すれば足りるとされていますから,債権者側が一方的に準備した証拠資料だけで,本差押えができることになります。船舶をめぐる事件,特にカーゴクレームであれば,堪航性に関する相当注意義務違反であるとか,航海過失免責など,成否が微妙な場合が多いのに,これらについて一方的証拠だけでアレストが認められてしまうのはいかがなものかというのが,クレーム担当者の実感でございます。   第2に,日本でのアレスト方法は,債権者があらかじめ船舶国籍証書等の引渡命令を取得しておき,船舶が入港し次第,執行官がそれを執行する,すなわち取り上げることで行われますが,この引渡命令に対して,既に御指摘があったと理解しておりますけれども,即時抗告の制度はありますが,執行停止の効力はなく,船舶の所有者や運航者が請求額相当の供託などの形で保証を提供して,船舶を即時に解放する制度はございません。   保証の提供による船舶の解放は,債権者が続けて船舶執行の申立てを行い,これを受けて裁判所が競売手続の開始を決定し,債務者がそれに直ちに異議を申し立ててから初めて可能となります。ところが,債権者は引渡命令の執行により本船をアレストしてから船舶執行の申立てまで,5日間の猶予がございます。要するに最大5日プラスアルファの期間,債権者が任意に申立ての取下げに応じなければ,債務者は,たとえ主張される債権の相当額を提供する用意があったとしても,船舶を解放する手段が制度的に保障されていないということになります。   第3に,仮に,債務者が準備していたL/Gを債権者が受け入れて,任意にアレストの取下げに応じるという場合におきましても,実務的によくあることですが,金曜日にアレストがなされ,例えばP&I保険が海外のものであった場合,P&I保険のL/Gが金曜日の夜に手配ができるというような場合もございます。このような場合に,裁判所が取下げを認めて取上命令を取り消し,更に執行官から証書返還を受けて船舶が解放される手続が土日に可能なのかどうか,この辺りは運用の問題ですが,執行官はともかく裁判所に土日に執務を求め得るのか,弁護士さん等々に頑張ってもらわなければならないことではございますが,微妙であるというのが現実でございます。   今申し上げたうち,後の2点につきましては,数日だからやむを得ない,週末だからやむを得ないとは絶対に考えていただきたくないと思います。鉄道やトラックが土日を含め24時間動いているのと同じように,船舶も24時間動いております。ちなみに,外航船のコストは,大ざっぱに言えば1日数万ドル,1日数百万円という単位でございます。この際,このことは,是非とも御留意いただければと思います。また,船舶所有者,運航者だけではなく,お客様も本船がアレストされることにより,海外工場における生産計画に影響が出る,販売商機を逸する等の経済的損失も発生することもございます。   船舶先取特権を認めるかということは,アレストしてこのような様々な経済的損失を発生させるだけの正当な理由があるかどうかというところを御検討いただければと思っております。   繰り返しとはなりますが,今申し上げたことは,確かに,商法ではなく民事執行法あるいは裁判所の運用の問題の部分もございます。しかし,実体法を考える上で,それが手続上どのように実施されているかは不可分の問題ではございますので,船舶先取特権の実体法の議論においても,それを認めるということは,手続的にアレストを認めるということであり,そして,それは今申し上げたような問題が付随するということを,この際申し付け加えさせていただければと思っております。   以上の観点から,当協会として特に要望を申し上げたいのは,次の2点でございます。これは,いずれも当協会からパブリック・コメントで申し上げた点ではございますが,第1に,船主責任制限法第95条第1項による船舶先取特権からカーゴクレームを外していただきたいと思っております。この点は,パブコメ前の審議でも議論され,残念ながら中間試案には採用されなかったと理解していますが,試案につき協会内で議論した折,改めて要望があった点でございます。   私どもとしては,契約債権の契約者は,契約の相手たる債務者に対してクレームすべきであり,かつ,契約に当たっては相手方を選んで契約するはずで,それを無視して船舶先取特権でいきなり船が差し押えられてしまうということには大きな抵抗がございます。この点については,カーゴクレームの場合,船舶先取特権によりアレストができることを前提に,P&IのL/Gが提出され,L/Gを担保としてクレームしていくのが実務であるとか,特にコンテナ船ではございませんが,不定期船で船舶所有者が直接荷主にB/Lを発行している場合に,船舶所有者が便宜置籍船国の会社であれば,アレストを認めないと債権回収ができないという指摘があることも理解しております。しかし,債権回収の担保取得のためにアレストをしようとしているのであれば,本来は,正に船舶所有者が直接B/Lを出すなどして直接債務者になっていると言える場合に,保全の必要性を疎明し,担保を積んだ上で,債務者の資産である船舶を仮押さえするというのが本邦の法律が用意した制度であって,それ以上に船舶先取特権という形でのアレストを認めるのは行きすぎではないかと考える次第です。   第2に,船舶賃貸借がある場合に,先取特権の効果が,船主すなわち船舶自体に及ぶということにつき,定期傭船にも準用するということは,船主責任制限法に規定する制限債権の場合を除き,反対であります。典型的には,特に燃料費が航海継続のための債権とされる場合において,燃料供給業者の取引相手が定期傭船者であると明確な場合には,先取特権によるアレストを認めるべきではないと考えております。この先取特権が燃料供給業者保護のために必要との趣旨は理解いたしますが,それは飽くまで船舶所有者と取引した場合であって,取引相手が定期傭船者とはっきりしている場合にも,なぜアレストを認めてまで保護する必要があるのかというところについては,御検討いただければと思っております。   繰り返しとなりますが,船舶先取特権を認めるべき債権というのは,その事態を招いてもなお保護するだけの理由のある債権でならなければならないはずということを今一度御想起いただき,慎重な御検討をお願いいたしたいと思います。 ○山下部会長 ありがとうございました。   それでは,せっかくの機会でございますので,ただいまの志水参考人の御見解について,御質問があったら頂きたいと思います。 ○石井委員 ただいまの御説明で,コンテナ船が差し押えられたときの影響が非常に大きいというお話があったのですが,定期船のコンテナ船で,日本で実際差し押さえられたような御経験というのはおありなのでしょうか。 ○志水参考人 過去3年間,いろいろなP&Iクラブさんの御協力も得まして調べましたところ,実際に差し押さえられた事例は,ほぼございません。ただ,日本での差押えを回避するために,2件ほどL/Gを提出したという事例はございます。 ○山口委員 今コンテナ船についての質問がございましたけれども,一般ばら積み船では,逆に言うと幾つかあるということでございましょうか。 ○志水参考人 今の申し上げました数字というのが,実は,コンテナ船,ばら積み船の区別がちょっと統計的に取れなかったものですので,過去3年間の間に2件ほどございましたというのが正しい言い方になります。 ○山口委員 結構です。 ○山下部会長 よろしいでしょうか。   それでは,志水参考人に対するヒアリングは,これで終了させていただきます。ありがとうございました。   これで,本日予定のヒアリングは全て終了いたしました。ヒアリングの各対応者の皆様方におかれましては,お忙しい中どうもありがとうございました。これから休憩をするところですが,ヒアリング終了ということで,御退席いただいても結構でございます。   それでは,3時45分まで休憩にしたいと思います。           (休     憩) ○山下部会長 それでは,再開したいと思います。   ただいま船舶先取特権に関するヒアリングを実施いたしましたが,船舶先取特権に関する部会資料15の項目について御審議いただきたいと思います。   ヒアリングは船舶先取特権について一括してお話を伺いましたが,これからの審議は,項目を分けて御審議いただきたいと思います。   まず,第3の「1 船舶先取特権を生ずる債権の範囲」についての御審議をお願いします。事務当局からの説明は既にありましたので,「1」につきまして,御自由に御発言をお願いいたします。 ○田中幹事 先取特権の範囲について,改めて今日,参考人の皆さんの御意見をお聞きした上で,私の意見も申し上げたいと思います。   特に,船員の労働債権の保護が過剰であるので,船舶の融資が難しいという主張もあったわけですけれども,そもそも国による船舶の融資の背景が立法化された50年前と既に状況が異なっていると,こういう説明もありました。零細な事業者を国策で維持するという当時の状況から,現在の状況というのは随分と趣きが異なってきており,政策的な融資を中心的に行っている,必ずしも零細企業だけに融資を行っているのではないという参考人からの説明がございました。   一方,そういった状況でありながら,船舶先取特権による船員の労働債権の保護が過剰だということが説明として出てきたんですけれども,少しその辺は論理的におかしいのではないかと私は思います。すなわち,そういう目的が変質する中で,言い方は非常にきついかもしれませんが,ずさんな融資を行った結果を船員の労働債権でもって解消しようというふうに私には聞こえたわけです。   そういう点からも,本件については,甲案,現状の維持をすべきだということを今日の参考人の御意見をお聞きしながら,改めて私としても考えた次第でございます。 ○松井委員 私も参考人の御意見をいろいろと伺って,大変勉強になりました。まず,パブリック・コメントについて,先ほど御説明のあった新たなものとして,乙案になりますと,同じ船員でありながら船舶を優先的な引当てとして期待できる者とそうでない者がいるというお話があるのですが,これは,動産に関わる権利としては仕方がないと思います。油屋さんも,どの船に入れたかによって,どの船に対しての請求ができるかが変わってくるということもありますし,船員の方との差異ということでいうと,陸上勤務の人との差異,公平性というのはどこかで線を引くものなので,これをもって船員の平等な保護を達し得ないということであるとすると,そういう意味では積極的な理由にはならないのではないかと考えております。   今日の御意見の中で,雇用契約というのは全体として入れるべきだという御主張の中で,仮に,明治32年の改正のときにそういうものであったとしても,その理由の大きなものとしてお話があったのが,過酷な船員の労働というお話と,それから国策的に船員を増やすということが背景の幾つかの主要な事情として挙げられているとすれば,現在交通機関の発達した中で,特に内航海運であるとすれば船を降りてどこかへ行くことも可能ですし,お話のあったような形で船員さんを増やさなければいけないという明治32年の改正の時と同じ国策的な理由もないので,今回の改正で,私の考え方は,元々乙案という,実質も乙案のものを乙案に変えると,表記の問題だけだと思っておりますけれども,そうでないとしても,立法事実として,それを支えるものはないのではないか。そういう意味において,乙案の考え方を採用すべきだと強く思っている次第でございます。 ○田中幹事 ただいま松井委員の方のお話の中で,若干,事実認識で異なる部分があるので御指摘をさせていただきます。まず,内航船の船員ですけれども,もちろん外航船であれ内航船であれ,下船をして休暇中に電車に乗ってどこかに出かけることは当然できるわけですけれども,乗船している間は拘束をされているわけですから,それができない。   外航船の場合は半年から8か月,内航船も平均的に約3か月,もちろんフェリーとかもう少し短い航路はありますが,ごく一般的な内航の貨物船でありますと,通常のローテーションは,3か月乗船をして1か月休みであります。少なくともこの3か月間は完全に拘束をされているわけでありまして,親の死に目にも会えない。職業的にもそれは当たり前ということで訓練は受けてきているわけですが,言ってみれば,そういう拘束をされるという,24時間拘束をされ,そして船長を筆頭に運命共同体というその環境が,陸上と比べて過酷な環境にあるということは,今日においても何ら変わりがないわけです。陸上にいたら全くここは揺れていないわけですが,一旦船に乗れば,下船するまで数か月間,船が揺れていないのは港に着いているその瞬間だけで,常にゆらゆらと揺れている。それが当たり前の環境であるわけです。   そういった意味では,明治時代の背景と世の中の状況は異なれ,陸上労働者と比較した船員労働の過酷さというのは,今もって変わりようのない環境下にあるということは言えると思います。   それから,船員を増やす国策がないということは,これは全くもって間違いでございまして,実は,今,国土交通省を挙げて,船員の確保・育成ということを国家戦略として挙げております。これは,海洋政策本部の本部長,内閣総理大臣ですけれども,そこの目玉として日本人船員を確保し,増やしていくということが非常に重要だということが,今,国の政策として挙げられていますので,事実関係として申し上げておきます。   ちなみに,外航の船員の数ですけれども,今は二千数百名しかおりません。約30年前は3万人以上,その前はもっといましたけれども,現時点で外航船員というのは二千数百名です。さらに,乗船中の人というのは千数百名にまで減っていて,これだけの四面環海の日本で,また,世界的に見ても海運産業がこれほど発展している国というのは希有な国なわけですけれども,その船舶の運航を技術的に支える海技者,船員がこれほどまでに減っている,そういう先進海運国というのもほかにはないわけで,これには我々船員自身もそうですし,国家として国土交通省が,大変な危機感を持って,これに向けた取組を今日も行っているということは,事実関係として申し上げておきたいと思います。 ○道垣内委員 私は,最終的に甲案になって,変えないという結論になっても,それに対してとくに異存を申し述べるつもりはありません。しかしながら,その際,船員労働が過酷であるということと,船員を増やすことが国策であるというのは,是非とも理由にはしないでいただきたいと思います。   過酷な職業は幾らでもあります。また,増やさなければいけないのは,介護労働者だって増やさなければいけません。そういった状況で,労働の過酷さと船員増加の必要性を理由にして,船員だから保護するのだという形でこの立法をすることには,賛成できません。 ○藤田幹事 細かなことですが,現在の乙案の内容を念のために確認させていただきたいと思います。これまでの議論の中で退職金が賃金の後払いであるということがかなり強調されたような気がするのですが,乙案では「当該船舶への乗組みに関して生じたもの」としており,飽くまで「乗組みに関して生じた」といっているので,仮に給与の後払いという形で退職金が支払われるとすれば,船会社に何十年か勤めていて,そのうち何年か特定の船に乗っていた場合には,その船に乗っていた期間に対応する退職金は,一応カバーされていると読み得るのではないかと思います。ただ,全期間ではなくて,その船舶との関係で按分した額になるのでしょうけれども,その範囲の退職金債権は,乙案でも,一応船舶先取特権の対象になり得るということでいいでしょうか。   もしそうだとすると,日本の特殊な雇用の仕方については,乙案のもとでも一定程度の配慮はされているとも読めます。もちろん下船後1年で切れるとしてしまうとまた変わってしまうでしょうけれども,その辺りは,別途手当てすることもあり得るかもしれません。いずれにせよ,現在の乙案はどういう提案だったのでしょうか。 ○宇野関係官 藤田幹事から御指摘があったとおり,退職金であるから一律に入らないということではなくて,当該船舶への乗組み期間に対応する範囲の退職金,その具体的な範囲は退職金の算定方法等にもよるかもしれませんけれども,その当該船舶への乗組みとの関係で牽連性が認められる範囲の退職金については,退職金だから一律に船舶先取特権が認められないということにはならないと,以前の部会で議論があったところかと承知しております。 ○藤田幹事 何か雇用形態が外国と違うといった点が非常に強調されているものですから,質問させて頂きました。日本的な雇用のあり方も踏まえて,牽連性も日本的に考えるという趣旨ですね。了解しました。 ○山下部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○池山委員 部会資料15の第3の1は,一方で「船舶先取特権を生ずる債権の範囲」と一般的な表題になっていて,他方で,実際に論点になっているのは商法842条7号の問題のみになっております。その意味で,今ここで申し上げるのが適切かどうか分かりませんけれども,逆に,ほかで申し上げる機会は恐らくないのではないかと思うので,少しだけ申し上げたいところがございます。   それはどこかというと,先ほど志水参考人からお話があった船舶先取特権の範囲からカーゴクレーム,いわゆる契約に基づく損害賠償請求権を除いてほしいという点についてです。その要望そのものについては,理由も含めて今お話があったとおりですから,私から繰り返すことはしませんが,ここでもう載っていないということは,部会の審議としてはもうそれは決着済みで,外すことはまかりならんというか,それはもう無理だよという結論が出ているという理解なんでしょうか。我々としては,最終的な結論が出ているのでなければ,そういう要望だけはやはり是非させていただきたいと思っているのですが。 ○松井(信)幹事 まだ中間試案を公表してパブリック・コメントの手続を終えたという段階でございますので,何ら最終的な決定には至っていないと認識しております。ですので,御意見が今ございましたので,その点も含めて,皆様に御議論いただければと考えております。 ○池山委員 ありがとうございます。中身に入って1点だけ申し上げさせていただくとすると,先ほど志水参考人から御意見があった中で,今までの議論の中に必ずしも出ていなかった点があるとすれば,カーゴクレームの場合は,アレストをしてL/Gをとって,それでクレームするのが実務だと。だから,その実務を変えるだけの必然性はないのではないかということで,従前は取り上げられなかったと理解しているんです。   ただ,日本ではアレストといっても船舶先取特権に基づく本差押えと,それから仮差押えと2種類あるはずで,今のカーゴクレームについてL/Gをとるという実務を変えたくないのであれば,それは仮差押えでやってください,保全の必要性があるというときに限ってやってくださいということであって,船舶先取特権に基づく本差押えを従来どおり認めるということには必ずしもならないのではないかと思っております。 ○増田幹事 船員の雇用契約によって生じた債権の方に少し戻らせていただきたいと思います。今日の参考人からの御意見についての感想としては,結局,立法事実が何だったのかというのは,正直よく分からなかったというようなところです。   商法制定当時に退職金制度があったというだけでは,乙案的な雇入契約の理解を採ることができないということの決定的な理由に多分ならないのではないかとやはり思います。というのも,フランス法とかドイツ法などを参照して継受してきたものであるとすると,恐らくもうちょっと狭いヨーロッパ的な,どちらかというと雇入契約的なものがむしろ立法時に考えられていたということも,調査してみないと分からないので,これは研究者の私自身の怠慢でもあって申し訳ないのですが,そう解釈すべき可能性もあり得るところなのではないかと思います。   もう1点,田中幹事の御意見に関してちょっと御教示いただきたいのですけれども,私は,どうしてもこの問題に関しては,ほかの雇用関係に基づく債権との比較で,船員の雇用関係に基づく債権に広く船舶先取特権を与えるという形で強く保護しなければいけないということの根拠が,やはりよく分からないのですね。明治時代にこの商法が制定された当時ですと,一般の雇用債権についての保護も比較的弱い状態であったんだろうと思いますけれども,今現在,一般の雇用債権については,比較的手厚く保護されているという状態にあるかと思います。そういう状態を前提としても,やはり船員については船舶先取特権で保護しなければいけないという根拠は,結局,船員労働の過酷さに尽きるということなのでしょうか,それとも,もっとほかに理由があるのでしょうか。   船員労働の過酷さについては,多分,賃金に反映されている部分もあり得るだろうと思われますので,船舶先取特権を付与するという形で保護するというのが必ずしも適切な方法なのだろうかという点も少し疑問に思いますので,その点について田中幹事の御意見をもう少し詳しくお教えいただきたいと思います。 ○田中幹事 当事者として,自身の職場環境が過酷,過酷というのは,日本人の文化としては余りに自己主張が過ぎると思っていますけれども,過酷か過酷でないかというと,過酷だと思います。陸上労働者と,もちろん今は宇宙船で宇宙に行く人もいますから,そういう人とは一緒にならないのですが,一般的な陸上労働者と比べて,とにかく洋上,海の上に拘束をされているわけで,何もできないわけです。   基本的に情報もないし,いろいろなことができないわけで,その中で,自らの権利をいろいろな行政的な手続とか,何かあればそれを物申すとか,そういったことも一切乗船者はできないわけですよね。雇止めをされて下船をする,そういう形をとらない限りは,陸上労働者と違って,自らの権利を主張する方法もないし,それから自らの状況を正しく知る情報すら洋上では持ち得ないというのが,陸上労働者とは根本的に異なると思っています。   あとは,明治時代と違うのではないかということ,それから,ほかの労働者と比較してというのはあるんですけれども,そういう基本的に大変厳しい状況に変化がない中で,あえて今回の商法改正時に,船員は過酷でないのでそういう特別な権利はもう認められないということは,そこまで言えるほど技術革新もしていないし,やはり長期間にわたって洋上で拘束をされているという状況に鑑みて,現行の規律をあえてこのタイミングで変えるということは避けていただきたいなという気持ちです。 ○増田幹事 もう1点,これは商法改正のところで議論する問題かどうかよく分からないのですが,この規定の渉外事案に関する適用範囲については,事務当局としてはどう理解されているのかということを,念のため確認させていただきたいと思います。 ○松井(信)幹事 渉外事案に関してというのは,具体的にいうと,例えばどういう法律関係についてか,もう少しお話しいただけますでしょうか。 ○増田幹事 雇用債権についての船舶先取特権ですので,今の国際私法の通説ですと,多分,被担保債権発生時の船舶の所在地法と被担保債権準拠法により船舶先取特権が成立して,かつ,船舶が日本に所在しているときはこの先取特権を行使することができると理解することになると思うのですけれども,そういう理解で良いですか。雇用関係についての先取特権は,どうしても社会政策的な要請で認められる部分もあるので,どうなんだろうと思った次第です。 ○松井(信)幹事 法定担保物権の準拠法については,恐らく先生の御専門の分野で,非常に学説が分かれているところであって,法の適用に関する通則法を制定したときにも,随分と議論があった中で,結局明文化されなかったところだと認識しております。   その状態というのが,その後,例えば,最高裁の判決が出たとか高裁に有力な判決が出たというような状態ではないという認識でおりまして,そのような様々な解釈が依然としてあり得るのではないかと考えています。 ○増田幹事 そこの部分の解釈論には影響を与えないという前提での議論ということですかね。一方的な処理,強行的適用法規的な処理をするということも,社会政策的な要請が強いものに関してはあり得るのかもしれないと思ったので,念のために質問させていただきました。 ○松井(信)幹事 恐らく今回の中間試案の甲案であれば,現行法と文言が変わらないので,国際私法的にも解釈は変わらないこととなると思います。乙案の立場に立ったとしても,現行法の読み方として乙案であるというふうな読み方をされる方も多くいらっしゃると思いますので,それによって直ちに国際私法に影響が出るということはないと考えております。 ○増田幹事 ありがとうございます。そうすると,基本的に日本に船があって日本法が雇用契約の準拠法として考えられるケースというのが,この規定の内容が全面的に適用される主な局面だということになるのかなと理解しました。 ○山下部会長 雇用契約の部分について御意見を先に伺おうと思いますが,ほかに何かございますか。雇用契約の部分については,今日のところは御意見が出揃ったということでよろしいでしょうか。   それでは,先ほど池山委員からありました点で,もし御意見がありましたらお願いいたします。 ○山口委員 カーゴクレームについて外してほしいという議論が新たに出たんですが,これは,一つには,船主責任制限法95条に基づいて船舶先取特権が認められている債権を途中で分断するという技術的にもかなりおかしな主張であり,認められないと考えております。もし認めるのであれば双方について認めるべきであるし,それが被害者保護という観点から必要だろうと思っております。   それから,先ほどおっしゃった契約があるから,その契約の相手方に対して通常の民事保全法に基づく仮差押えをしてはどうかということなんですが,元々この船舶先取特権が認められてきた一つの大きな理由として,船舶賃貸借があり,実際の運航を行っているのが船舶賃借人であるということが外から見ても分からないという事案が多くあるわけであります。そうなってくると,船舶賃借人が船荷証券を発行しているような場合,船舶賃借人の所有船舶でない場合,仮差押えはそもそも不可能ということになるわけであります。そうなってくると,今の池山委員の言った民事保全法で押さえればいいではないかという御主張は,そもそも成り立たない。   それから,このほかに,契約に基づく債権で船舶先取特権が認められているものとしては,例えば,先ほどの航海の継続に必要な燃料油の供給債権があり,これも当然のことながら契約で認められておりますし,それから,例えば救助料債権等々についても契約が前提としてあるわけなんですが,それでもなおかつ船舶先取特権を認めてきているということですから,契約があるから船舶先取特権は不要だというのは正に暴論でございまして,両方とも全く根拠はないだろうと思っております。   そういう意味で,単にカーゴクレームについて船舶先取特権を行使してほしくないと,単純にはそれだけの御意見にすぎないだろうと思いますので,採用されるべきでないと考えます。 ○池山委員 反対の理由を幾つかおっしゃられたかと思うんですけれども,そのうち,少なくとも幾つかは当たっていないところがあると思います。   理論的に分断するというのが技術的に難しい,おかしいということは,それはないんだと思います。現に,少なくとも順位については正に人損と物損で分けるかどうかというのは大問題になっているわけですから,理論的にそれを分けるというのがおよそできない,あるいは技術的に難しいということは全然ないと思っております。口頭での表現ではカーゴクレームという大ざっぱな言い方はしておりますけれども,書き方は工夫の余地はあると思います。   それから,もう一つ,裸傭船者のときにそれが分からないのではないかというところ,そこは正直申し上げて,そのとおりだと私も思います。ただし,結局これは利益衡量の問題であって,大前提として本船の運航を保全の必要性もなく止めるだけの要保護性があるかという問題なわけです。そのときに,仮差押えだけに限定すると,確かに裸傭船がされている場合には機能しなくなる。その限りでは,考慮要素として,では船舶先取特権を認めた方が良いということはあります。しかし,正直申し上げて,やはりそれは例外的な事態です。   他方で,カーゴクレームそのものは,それ自体は船舶の運航過程で,これは通常生じると申し上げてはいけないわけですけれども,しばしば生じる通常の契約違反の事例でして,契約違反一般において,こういう強い保護というのは与えられていないわけです。これが海上運送における契約違反のときにだけ,保全の必要性もなく船舶をいきなり押さえることができるという保護を与える,それだけの必然性はないと思います。   それから,最後に,契約上の債権であれば認めるべきでないという点については暴論だという指摘がございました。確かに,契約に基づく債権について,船舶先取特権を認める例は多々ございます。ただ,それは,一つ一つの契約の類型によって,この契約についてはそれだけの保護を与える必要があるという立法理由が個別にあるわけです。船員の給料債権なんていうのは正にそうなわけですよね。それを認めることを前提に,どこまで認めるかということが議論されている。   そういう契約債権と比べたときに,運送契約違反に基づく損害賠償請求権については,端的に言うと,そこまでの要保護性はなくて,やはり船舶の運航を止めることによる影響力の大きさという方が,法益保護の観点から勝っているというのが我々の意見です。 ○山口委員 今,止めるというようなお話がございましたが,先ほどの御意見では,ここ数年間そういう事例はなく,要求されたから保証状を出して終わったとおっしゃっていますけれども,正に我々は差押えをすることが目的ではなくて,最終的な債務不履行を立証できたときに回収が保障されるということが重要である。ですから,事故が起きた段階で保証状をとることが大きな目的になっておるわけです。   仮に,この先取特権が認められないと,結局,債務不履行にしたまま逃げるということを許すことになるわけです。要するに逃げたいというのがどうも今の御主張の裏にあるわけで,それは債務不履行を正当化するようなことではないかと思うんですね。実際上,日本の船舶が余り大きな問題になっているわけではなくて。   先取特権の話の中で,船舶賃貸借の問題を先ほど触れましたけれども,船舶賃貸借は例外であるとおっしゃいましたが,決して例外でも何でもなくて,非常に一般的に行われていることで,船舶賃貸借が行われるときに船舶先取特権がなければ船舶の差押えができないという状況になります。   それから,先ほど日本郵船の方がコンテナ船の場合の例を挙げられましたが,コンテナ船の場合,一つの貨物が損傷を受けたからといって差押えというような状況になることはなくて,かなり大きな事故,例えば船舶の上に積んである貨物が雪崩を打って何百個,あるいは何千個と流れ出したというような場合,そういう大きな損害が出たときに初めて船舶差押えの問題が生じているわけで,ただ一個の貨物に損傷が出たから差押えするとか,極端な議論をされておりますけれども,やはり経済バランスが当然ありますので,実際そういうふうな形では動いていない。   大きな船舶差押えが問題になるような事案は,ばら積み船で,貨物1船に,例えばトウモロコシであるとか,あるいは大豆であるとか,そういうものが積まれて,航行中に海水濡れを起こして億単位の損害が出る。そのときに船主がパナマ船籍であったりベリーズ船籍であったり,あるいはカンボジア船籍であったりというふうな場合に,日本にいるときに差押えをしなければ永久に回収ができないであろうと。   調べてみますと,そういう船というのは1社1船の形になっていて,なおかつ船舶賃貸借が入っていると,あるいは入っているか入っていないか分からないというような事案,そういうときに初めて効果を生じて,差押えをすることによって,あるいは差押えをするという主張をすることによって保証状をとることができるわけで,それを外すということになれば,日本における輸入者が大きな被害を受けるということになり得る。なおかつ,そういう仕組船といいますか,自分たちが責任を逃れるために1社1船に貸した形にしているような人たちを助ける。   例えば,日本郵船の方が日本郵船の船を持って,その船を運航していて日本郵船が責任を負うというような場合について,船舶先取特権を行使して船を差し押える理由はどこにもないわけで,正に船主等が信用できない,あるいは1社1船のために財産がない,そのために被害者が船の差押えをできなければそのまま被害を被るというような場合に初めて効果を生じるわけで,全く必要がないという池山委員の意見にはとても賛同ができないと思っております。 ○山下部会長 この点について,ほかにございますか。 ○石井委員 この問題についてはこれまで大分議論もされていますし,中間試案の補足説明の第2部第9の1の(5)にもまとめられていると思いますが,今日の参考人のお話を伺っていて,私も山口委員と同じように感じました。   定期船の場合には船社がしっかりしておりますし,カーゴクレームを提起する場合にも問題はないのですが,先ほど漁業協同組合の参考人の方もおっしゃっていたように,海外船籍の船で,P&Iもはっきりしない,支払能力もない,あるいは今山口委員がおっしゃったように不定期船で,貨物を揚げたらすぐいなくなってしまうような場合には,やはりこの制度はこれまで有効に機能してきたと思います。以前にも申し上げましたが,海外でも同じような法制やaction in remといった制度がありますので,やはり日本の荷主の権利を守るという意味では,カーゴクレームについても現行の規律を維持するのが妥当なのではないかと思っています。 ○遠藤委員 船主責任制限法95条1項の議論がちょっと差押えの手続論に終始している嫌いがあるのではないのかと思います。元々同項で,カーゴクレーム,物損に船舶先取特権が認められている理由というのは,積み荷主,制限債権者は船主等から責任制限の対抗を受けるのに,その他の債権者は無限責任を追及することができるということから,公平を図るために制限債権者に先取特権を認めたもので,きちんと95条で認められた先取特権であるというところが本質的なところではないかと思います。これは何ら現在でも変わりはないと思いますので,継続を前提に御議論をしていただければと思います。 ○山下部会長 なお審議項目が残っていますので,簡潔にお願いします。 ○池山委員 他の委員の方々の御意見は,船主協会としても,それはそういう利益衡量があるというのであれば重く受け止めなければならないと思っております。ただ,一点だけ,今あえて手を挙げさせていただいたのは,山口委員の御発言の中に,船主協会の発言というか意見の裏には,要するに逃げたいのではないかとか,そういう含意があるのではないかという御指摘がありましたので,そういう趣旨ではないということだけは,はっきりさせていただきたいと思います。クレームを受けている側からすれば,そのクレームを正面切って受け止めるだけの話で,それに対して船舶先取特権という制度が余りにも強力でミスマッチな場合が多々あるということを申し上げたいのです。   今,現実に船舶先取特権以外に債権回収のための有効な手段がないからやむを得ないんだと,甘受すべきだと言われたら,それは確かにそうかもしれませんが,決して逃げたいから言っているということではないということだけは,是非,議事録にとどめていただければと思います。 ○山下部会長 ほかにいかがでしょうか。   今日はこのぐらい御意見を伺ったということで,なお検討するということでよろしいでしょうか。   それでは先へ進みまして,「2 船舶先取特権を生ずる債権の順位及び船舶抵当権との優劣」につきまして,御審議をお願いいたします。説明は既にされていますので,御自由に御発言いただければと思います。 ○山口委員 継続してお話しいたしますと,船主責任制限法95条1項の物損について,抵当権に劣後するという考え方は採用しないでいただきたいと思います。先ほど漁業者の方がおっしゃったように,抵当権が付いておりますと実際の差押えができなくなる,できなくなるかどうかというのは難しいところで,裁判所の判断によるところが大きいのですが,法律上は抵当権が付いていて余力がない場合には却下できることになっておりますので,裁判所が,例えば抵当権の被担保債権の残債を立証しろと債権者に求めた場合,それは全く不能になります。   一方において,残債を明らかにせずに,差押えを認めたとしても,その後,債務者側が異議,抗告をして,抵当権が一杯付いていると,だから認められるべきでないということで却下になった場合に,結局は先ほどおっしゃった漁業者の債権あるいは我々が主張するカーゴクレーム等の債権について,最終的な回収が得られないことに変わりはないわけです。一方において,債権者であるファイナンサーをそれほど保護すべきか,あるいは,その被害者を保護すべきかという問題からいいますと,先ほどファイナンサーの方がおっしゃったように,船舶抵当権についてはコーポレート・ローンになっているんだと。要するに,債務者の財産,その支払能力あるいは営業能力等々を考慮して,全体として貸すか貸さないかということを決めているんだとおっしゃっているわけですから,船舶先取特権が出てくることは当初から予定されているわけで,そういうことからすると,目の前の被害者を保護する方が利益衡量からすると当然必要なことであろうと思いますので,甲案,乙案ではなくて,注の案を採用していただきたいと思います。 ○柄委員 私どもも,注の案にある,現状維持でお願いしたいと思っています。   第4順位の船舶の修繕や燃料については既に先ほどのヒアリングにもありましたし,商工会議所の意見でも出していますので,説明は省きますが,第5順位について考えますと,船舶の衝突によって荷主の運送品が損傷を受けた場合,この損害賠償につきましても,甲案,乙案では,回収の可能性が大きく低下してくる恐れがあると思います。   それをカバーするためにということで考えますと,保険を掛けるかということになりますが,前にも申しましたとおり,国内では保険を掛けることは,荷主はほとんどしていません。そういう現状を踏まえていただきまして,保険を掛けなくとも,荷主として安心のできる,現状維持の規律でお願いしたいと思っております。 ○藤田幹事 山口委員の意見に半分賛成という立場です。半分といいますのは,今の提案の甲案,乙案は,船主責任制限法上の物損全部について船舶抵当権に劣後するという扱いですが,確かに,現在の船主責任制限法は人損と物損という分け方をしています。ただ,物損の中にかなり性格の違ったものがあり,しかも,近年ではそれが非常に問題となっている。いうまでもなく汚染損害です。汚染損害は,人損か物損かどちらかという切り方をすれば物損なのですけれども,社会政策的にこういった損害については一定の保護を与えるということは十分考えられる,人損に近いような面もあるようなものではあると思います。   だから物損について当然抵当権に劣後するという扱いは問題だという意見が出てくるわけですが,それ以外の物損,たとえばカーゴクレームについてもと同じかと言われると,若干の違和感もないわけではない。保険が掛かっていないからという話はあるにしても,その種の債権を制限債権であるというだけの理由からどうして優先しなくてはならないのか疑問があります。   細かなことですけれども,船舶油濁損害賠償保障法という法律がありまして,そちらにも船舶先取特権の規定があります。恐らく現在の甲案,乙案のようなやり方をしますと,タンカーの引き起こした汚染損害について発生した先取特権についても,船舶抵当権に劣後するという扱いにしないと一貫しないと思うのですけれども,それが本当に社会的に良い扱いなのか疑問があります。   翻って考えると,そもそも船主責任制限法であっても,例えば,船舶油濁損害賠償保障法でカバーされている損害賠償請求権と同じような汚染損害については,物損の中でも切り分けて,若干きめ細かな扱いをすることも検討した方がいいのではないかという気がします。   そういう意味で,いきなり全ての物損について順位が当然に抵当権に優先しますというところまで現在の提案を全部ひっくり返す,つまり完全に現状維持とするというところまでいくのは若干抵抗があるのですけれども,一部異なる考慮をした方が良い債権がありそうだというのが,今日のヒアリングから受けた印象です。 ○山口委員 藤田幹事の御意見に対してなんですが,物損という意味では,第三者損害も船に乗っている貨物も,大きな差はないだろうと思います。全くの第三者が損害を受けているという点でも,契約の当事者である場合もあるんですけれども,契約の当事者でない場合もあります。そして,その運航されている貨物の価値というのは,近来,非常に大きな金額になっておるわけで,先ほど例で挙げましたコンテナ1個という例は全体としては小さいかもしれませんが,甲板に積まれているコンテナが全て流れるということになりますと,大きな金額になります。   それから,先ほど例に挙げましたばら積み船の場合,1船で積まれている穀物が何万トンというようなものであれば,30億とか40億とかという金額になる場合もあるわけで,それが当該船舶から回収できないとなれば,そのまま被害者の損害ということになるわけで,結局は,抵当権者とその貨物の損傷を受けた日本の荷受人あるいは保険者を保護するか,あるいはその船にお金を貸したファイナンサー,外国の船であれば外国のファイナンサー,どちらを保護するかという,そこの利益衡量になるわけで,その場合,ファイナンサーは先ほど申し上げたように,相手の会社を見て貸しているわけですから,あるいはその船だけではなくて,その船会社の親会社の保証をとることも当然あり得るだろうと思いますし,そういういろいろな保護が与えられる可能性,契約で自分で保護が与えられるべき可能性があるファイナンサーと,実際被害を受けている被害者とでいずれを保護すべきかといえば,やはり損害を受けている荷主を保護すべきであろうと考えるというところです。 ○山下部会長 ほかに,この点についてございますか。   今日のところは,以上のような意見を伺ったということでよろしいでしょうか。   それでは,この点もなお検討することとし,次に進みます。   「3 船舶賃貸借における民法上の先取特権の効力」についてでございますが,この点も御自由に御発言いただければと思います。 ○松井委員 先ほど,参考人の御意見に対して御質問した点と余り変わらないんですけれども,伺っている限りでは,やはり船舶先取特権,航海継続の必要性で保護される範囲と,それから留置権,主にドックの方の場合は留置権がありますので,そういう機会があった上で,なおかつ動産保存の先取特権を及ぼす必要があるのかというと,疑問なしとはしません。   先ほど,ドックの方は中小事業者なのでというお話がありましたけれども,日本国内に積み荷の需要がある限りは,日本国内にやはり船は回るので,当該ドックの方の仕事にはならないかもしれませんけれども,日本国内全体では同じだけの仕事の需要はあるはずなので,より健全な形で継続をするには,5年,6年とドックでの費用を積み上げるのではなくて,当該契約の相手方の回収可能性をきちんと考えた上で判断をすべきではないかなと思います。これは実質論でございます。   そういう前提で考えて,704条2項という海商法に極めて特殊な規定を動産保存の先取特権にまで及ぼす理由があるのかと言われれば,やはり疑問なしとはしないと思いますし,もちろん平成14年決定は重いと理解しておりますけれども,昭和59年のマグロ漁船の裁判例にもありましたように,最高裁としてはそういう条文がある以上,無視はできないということで,ある意味立法で変えてくれと,私には少なくともそう読めるのでというところであるとすれば,今のままという案は多分なくて,仮に,平成14年決定の趣旨を生かすのであれば,抵当権との優劣とか,執行法に至るまでの立法措置をきちんととらなければ,やはり我々部会としての責任を果たし切れていないのではないかと思います。決して後者のことをしてほしいという意味ではございませんけれども,そのように考えております。 ○山下部会長 ほかにございませんか。 ○宇野関係官 パブリック・コメントの中で出た意見ですけれども,商法704条2項によって動産保存の先取特権が船舶所有者に及ぶことの不都合性として,船舶先取特権であれば1年間の短期の除斥期間に服すけれども,民法上の先取特権となると,より長い期間にわたって存続して累積していくということがこれまでよく言われていたわけですが,確か大学からだったと思うのですけれども,その点が不都合なのであれば,消滅までの期間を同じく1年に揃えれば十分であり,船舶賃貸借の場合に,一律に船舶所有者に対して効力が及ばないとするのは行きすぎではないかという指摘がありました。やや中間的な感じにはなるのですけれども,この点について何か御意見があれば,是非お伺いしたいと思っております。よろしくお願いします。 ○山下部会長 この点,いかがでしょうか。 ○松井委員 以前からそういうお考えというのはいろいろなところで聞こえてきたものではあるんですけれども,本来的には,やはり先ほど申し上げたように,海商法独特の規定である704条2項に動産保存の先取特権を及ぼすということ自体に対しての違和感というのは拭えません。   それは,1年の除斥期間が掛からないということは大変大きな問題であることは間違いないのですけれども,船舶先取特権として保護される範囲というのは,これまで日本郵船の方,いろいろな御意見の中にありましたけれども,厳格に解釈すべきなので,ここで動産保存の先取特権というのが船舶に及ぶということになりますと,多分,国際的な日本の法制の説明,今までの説明とも一致しているのかどうかという疑問があります。もうちょっと勉強しないと,その辺は意見は言えませんけれども,軽々にその御意見を受けるということには私は賛成できないと考えています。 ○池山委員 「3」の注のところについても意見を申し上げてよろしいのでしょうか。定期傭船への準用という点でございます。ここも,先ほど志水参考人の方からお話がありましたけれども,裸傭船と定期傭船というのはかなり性質が違うということを今回の立法で新たに明らかにしようとしている中で,準用する必然性はないのではないかと思っています。   中間試案の補足説明を見ますと,75ページに理由が書いてありまして,定期傭船においては船舶所有者側は船舶の艤装や船員の指揮監督を行っており,船舶賃貸借の場合よりも船舶を用いた海上企業活動に関与する度合いが大きいから,その負担を軽減して債権者保護の程度を後退させることは相当でないと書いてあるんですけれども,この理由が正直,理解できなくて困っております。   というのは,元々,船舶賃貸借にも及ぶという今の規律の考え方は,船舶賃貸借の場合は正に賃借人が船主と同視できるからこそ,その同視できる者に対して契約をした人間を保護しなければいけないわけですけれども,船舶賃貸借と違って,定期傭船者は正に同視できない別個の企業主体でありまして,その別個の企業主体との契約による不利益を所有者が負わなければいけないという理由にはやはりならないのではないかとしか思えないんですが。 ○山下部会長 今,理由は理解できないという御意見がありました。いかがでしょうか。   今のところは御発言はございませんか。 ○松井(信)幹事 中間試案の項目についても,いろいろ御意見を頂いているところでございます。私どもの方も考えますけれども,特に理論面につきましては,学者の先生方を中心にまた御意見を頂ければ幸いでございます。よろしくお願いいたします。 ○池山委員 確かに,こういう段階ですから,というのは審議も後半に差しかかっておりますので,船舶所有者あるいは定期傭船者側としても,理論的にそれは負担を甘受しないとやむを得ないんだと,それがこの審議会での利益衡量の結果だという結論がきちんと出たのであれば,それは受け入れないといけないと思いますし,業界側での認識も改めていく必要が確かにあるとは思っております。ただ,この説明だけだと,まだ不十分なのではないかと思っております。 ○山下部会長 よろしいでしょうか。なかなか難しい問題なのですが,更に検討していただければと思います。   それでは,「第3 船舶先取特権及び船舶抵当権等」は以上にいたしまして,もとに戻りまして,「第1 定期傭船」についての御審議をお願いします。   まず,事務当局から説明をお願いします。 ○宇野関係官 それでは,「第1 定期傭船」につきまして御説明いたします。   まず,これまでの審議では,絶対的義務としての安全港担保義務に関する規定等を設けるかについては,パブリック・コメントの結果等を踏まえ引き続き検討することとされていました。この点について,パブリック・コメントの結果を見ますと,実務上,一般に課されるものであれば,当事者の予測可能性を確保するために規定を設けることが望ましいという意見があった一方で,船長も港の安全性に関する情報を容易に入手し得る立場にあることや,指定すべき安全な港が一義的には決まらないことなどを理由として,規定を設けることに反対する複数の意見もありました。   また,定期傭船契約に係る船舶により物品を運送する場合に堪航能力担保義務の規律を準用する点に関して,特に国際海上運送については,世界的に定期傭船契約及び航海傭船契約には契約自由の原則が妥当するのが一般的であることなどを理由として,堪航能力担保義務を強行法規とすべきではないという意見書が日本船主協会様から提出されました。   この点の議論の参考のため,定期傭船契約の標準書式における堪航能力担保義務に関連する規定を部会資料15の3ページの注1に掲げております。なお,この点に関連して,パブリック・コメントでは,国際海上運送における航海傭船契約について,堪航能力担保義務を強行法規とすべきであるとの意見もありましたが,これに関し,広く利用されているGENCON書式では,部会資料15の4ページの注2に記載したとおりの規定がありますところ,堪航能力担保義務を強行法規とした場合には,我が国の船主のみが当該書式を利用し得ないこととなり適切でないと考えられます。この点も含め,定期傭船契約の各規律をどのように考えるかにつきまして,御審議いただきたいと思います。 ○山下部会長 ただいま説明がありましたように,参考資料27として,日本船主協会の意見書が出ております。池山委員におかれましては,概要の説明をお願いできますでしょうか。 ○池山委員 ありがとうございます。池山でございます。   と申しましても,今,概要は実はほとんど説明してくださったとおりでございます。私どもの意見は,中間試案の中で,定期傭船に関して商法第738条,第739条の堪航能力担保義務,これは強行規定ということが前提になっておりますけれども,これを定期傭船契約に係る船舶により物品を運送する場合について準用するということにつき,そのこと一般については反対ではございませんけれども,定期傭船に係る船舶により外航運送に従事するときについては,準用する規定はこの738条,739条ではなくて,むしろ国際海上物品運送法5条であって,かつ,同法15条1項及び16条の趣旨に鑑みますと,5条と異なる特約を妨げないと明記する形になるのではないかということでございます。 ○山下部会長 ありがとうございました。   それでは,ただいまの事務当局及び池山委員の御説明のあった事項につきまして,御自由に御発言をお願いいたします。 ○山口委員 池山委員のおっしゃったように,外航海運と内航海運で堪航能力担保義務については違う規定をしておりますので,仮に,定期傭船契約に堪航能力担保義務を何らかの形で導入するというのであれば,やはり国際と国内で規定の仕方を分けるべきで,国際海上物品運送法が考えておる堪航能力担保義務で,なおかつ傭船契約についてはそれに反する特約は有効であるというのがやはり生きてくるのではないかと思います。 ○松井(信)幹事 国際海上物品運送法は強行法規性が前提なのに対して,商法の運送・海商の部分は基本は任意規定であります。そうすると,今の御意見につき,条文としてどうなるのかということを考えますと,商法738条の堪航能力担保義務だけを準用して,739条の強行規定の部分は準用しないという形が一つ考えられると思います。   内航と外航を分けるかどうかという点については,今までの議論では,定期傭船に係る船舶により事実上物品を運送する場合についてこの規定を準用するという形で考えておりましたが,一つの定期傭船の期間の中で,内航と外航をうまく法律上切り分けていけるのかどうか,その辺りの問題もあるのかという気がしております。そうすると,定期傭船に係る船舶を外航に供する場合だけでなく,内航に供する場合も含めて,任意規定としての堪航能力担保義務を課すにとどめるという可能性もあるかと思いましたが,このような考え方についての皆さまの御感触というのはいかがなものか,お話しいただければと思うのですが。 ○山下部会長 いかがでしょうか。 ○鈴木委員 ありがとうございます,大変うれしいお話と伺っております。双方で堪航能力担保義務を強行規定ではない形で改正されるという理解でよろしいでしょうか。 ○松井(信)幹事 今申し上げたのは,今までの議論によれば,個品運送や航海傭船の場合には,一航海当たりの契約単位になりますので,依然として強行規定として堪航能力担保義務が課せられることとなります。しかし,新たに設ける定期傭船については,事業者が対等な形で契約条項が決められることも多いと聞いておりますし,さらに,外航船については完全に任意規定として理解されているということを考えると,定期傭船に係る船舶によって内航や外航,様々な運送がされる場合には,任意規定としての堪航能力担保義務の規定を準用するということもあり得る選択肢かもしれないということでございます。   要は,定期傭船契約に係る船舶により物品を運送する場合について準用すると言っても,これは事実行為としての運送になりますので,どの範囲が一つの航海か,一つの運送かという点が,そして内航と外航との区別をうまくできるかという点が,法律的にはなかなか難しいかもしれない。そのために,定期傭船契約については,堪航能力担保義務を任意規定とすることもあり得るとは思いましたが,この点についての御意見があれば頂きたいという趣旨でございます。 ○山下部会長 御発言がないというのは,そういうことについて非常に反対であるという御意見は今のところないということでしょうか。 ○鈴木委員 実務の方で申し上げますと,定期傭船契約なんですけれども,ワントリップ,一航海の定期傭船契約というのもあるんですね。そういう場合はどうなるんですかね。 ○宇野関係官 実務で行われている契約の性質決定の問題だろうと思いますけれども,船舶の利用に関する契約ということで,定期傭船契約に関する規定を新たに設けることが検討されておりますので,名目が傭船料であるか運送賃であるかはともかくとして,その契約で支払われているものが期間に対応するもの,船舶の利用期間に対する対価という形で払われているのであれば,もちろん船員を乗り組ませるとかほかの要件はありますけれども,定期傭船契約と性質決定をされることがあり得ると思います。他方で,それが運送という仕事の対価として支払われているのであれば,運送契約と性質決定されるという,契約の性質決定の問題ではないかと思います。これまでの議論では,運送契約と性質決定されるものについては,内航であれば堪航能力担保義務は依然として強行法規として課されると。ただ,こちらも悩んでいますのは,船舶の利用契約という形で定期傭船契約を設けることが検討されているので,そこにおいて内航,外航というのがどういうことを意味するのか。   要するに,一つの定期傭船契約で船舶を引いてきて,例えば,それを内航にも外航にも使うといった場合に,どちらの規律になるのかということがうまく切り分けられるのかどうかというところをちょっと悩んでいるということで,先ほど事務当局から申し上げましたように,そうであれば,元々契約自由の原則が広く妥当すると言われている傭船契約の中では,準用する規律自体を商法738条だけにして,任意法規という形で準用するという方向性について,どのように考えられますかということで,今お聞きしているところでございます。 ○箱井幹事 定期傭船契約にもいろいろあるわけで,先ほど池山委員の704条2項の準用のところでも,ある種の定期傭船についてはそうだろうな,でも,別の場合については違うだろうなと思って聞いていたわけですけれども,今の性質決定の話が出てきますと,いわゆる積み荷指向型で,傭船者が完全に荷主という場合,これは運送契約と判断されることがあり得るという御趣旨の発言でございましょうか。今の確認なのですけれども。 ○宇野関係官 先ほど申し上げた趣旨は,契約の性質決定の問題として,対価として支払われている金銭,それが傭船料と名が付くか運送賃と名が付くかはともかくとして,それが船舶の利用期間に対応する対価として支払われていて,その他,船員の乗組み等の要件が満たされるのであれば,それは定期傭船契約と性質決定されると思いますし,その対価が,運送とという仕事,請負的な性質があると言われますけれども,運送という仕事の対価という形で払われているのであれば,それは運送契約と性質決定されることがあると考えているという趣旨でございます。 ○藤田幹事 解決の方向性として志向されているのは分かるのですが,理論的な説明がよく分からないところがあります。池山委員が最初に言われたような,国際海上物品運送法が適用されるような場合については,定期傭船についても準用するのは国際海上物品運送法,だから任意規定という整理ならまだ分かります。そして,それが技術的に難しい理由も分かったつもりなのですが,他方,商法について強行法規のところだけ外して準用するということがどう説明されるのかがよく分からなかったのですね。   つまり内航については,航海傭船も含めて堪航能力担保義務を強行法規と考えているというのが前提です。定期傭船でそれが外れるのは,定期傭船については当事者対等だからということでした。しかし,国際海上物品運送法の方では,航海傭船も含めて,傭船契約の場合には当事者は交渉力対等だから強行法規を外すということになっています。この辺りは傭船契約について,内航と外航では違う力関係を想定した理屈になっているのかよく分からないところです。そこのところの説明をしていただけないと一貫した理屈にならない気がしました。 ○松井(信)幹事 御指摘はもっともでして,むしろ先生としては,結論としてどういう姿がよろしいと思われますか。要は,内航で航海傭船契約をする場合に,パブコメの結果を見ますと,その場合も堪航能力担保義務が強行規定なのがいいのかどうかというところまで遡る議論になるだろうとは思っていますが。 ○藤田幹事 堪航能力担保義務について強行法規とする根拠というのが,荷主保護なのかどうかが,そもそも疑問なのですね。荷主保護だという理屈でいくと,当事者対等だから外れますという理屈になっていくと思います。それに対して,この種の安全性に係る義務は一種の公序で合意によって簡単に外してはいけないと考えているのであれば,当事者の交渉力が対等か否かという切り方はそもそもおかしかったということになる。そうすると,今言われている航海傭船についても強行法規性は外れない,定期傭船だって外れないということになると思います。ただ,国際海上物品運送法では,外航について傭船契約全般について堪航能力担保義務を含め任意法規とされるという仕切りをしていて,外航の傭船契約については安全性についても当然には介入しないというポリシーが別途あるということで,安全性に係る問題だから強行法規であるという,国内法上の扱いを超えるような要請があるという説明になるのではないかと思います。そもそも,一般的な運送契約の強行法規性の話と,堪航能力の強行法規性はその根拠が違いそうですので,当事者が対等だから強行法規は外れるといった理屈を簡単につなげると,どこかで一貫しなくなると思うので,注意していただきたいと思います。 ○山下部会長 ほかにございませんか。ここもまたいろいろ難しい問題があるということなので,なお引き続き御議論いただきたいと思います。 ○小林委員 今の論点と違うのですが,部会資料の2ページの枠囲いの中の(2),いわゆる定期傭船者の船長に対する指示権のところですけれども,「必要な指示(航路の決定に関するものを含む。)をすることができる。ただし,船長の職務に属する事項については,この限りでない。」という書き方をされていますが,これはもう,これで大体決まったということでしょうか。 ○宇野関係官 すみません,そういうことではありませんでして,今回の部会資料15で取り上げたのが,積み残しになっていた安全港担保義務の関係と,新たに御意見を頂いた堪航能力担保義務を強行法規とすべきかどうかという関係の意見であるというだけです。従前から議論があった「船長の職務に属する事項」という表現が相当かどうかという点については,もちろん引き続き検討させていただきます。 ○小林委員 何回か発言させていただいたのですが,やはり「船長の職務に属する事項」という表現は余り広範というか,そうとられる可能性があるので,私としては,船舶の運航とか航行に関する事項と限定した方がいいのではないかということで申し上げております。パブリック・コメントを読ませていただいて,やはり結論は賛成ということなんですけれども,その他の意見というところで,結構そういう御意見が船協とか日弁連の方からも出されていますので,その辺も御勘案いただければと,そういうことだけもう一回伝えさせていただければと思います。よろしくお願いします。 ○松井(信)幹事 池山委員に少し伺いたいのですけれども,先ほどの定期傭船契約と堪航能力担保義務の関係で,定期傭船契約に係る船舶は,その期間は,外航に使うのであれば常に外航のみに使うものなのでしょうか,それとも,あるときは内航に使ったり,ある時は外航に使ったりというのは自由に組み合せてやっているのでしょうか。 ○池山委員 基本的には外航と内航はやはり分かれていると思いますけれども,それは定期傭船うんぬんというよりは,その船舶自身が外航運送に従事できる船舶か内航運送に従事できる船舶かということで最初から分かれているのではないかというのが私の理解ですが,もし確認が必要であれば改めて確認はいたします。 ○松井(信)幹事 もし特定の定期傭船契約について,外航のみに使う,内航のみに使うというふうな実務がはっきり分かれているのであれば,先ほど私が申し上げたような一定の期間の中でどう使うか分かりにくいというのは実際には起こり得ない問題だということにもなるかもしれません。実際に,定期傭船に係る船舶が,その後,実荷主との間で運送契約を結んで利用されるというところで,外航のみに使われる,内航のみに使われるというところが決まっているのか,それとも全く決まらず,少し大きめな船舶が内航で使われることもあり得るということなのか,もし分かるようでしたら,追ってお話しいただけたらと思います。 ○池山委員 はい,取りあえず調べてみます。 ○端山委員 今の点ですけれども,確かに,外航と内航で使う船は普通は全然違うのだと思います。ただ,本来外航なんだけれども,内航で荷を積んで,1港だけではなくて複数の港を通って外航に行くというのも結構ありますので,鋼材なんかは正にそうなので,外航,内航で分かれているんですけれども,一律に全く内航を通らないというわけではないので,そこら辺も認識の必要があろうかと思います。 ○山下部会長 今の点,いろいろ事業関係の方,情報をお寄せいただければと思います。 ○遠藤委員 安全港担保義務について,一言述べさせていただきたいと思います。安全港担保義務に関しましては,定期傭船者が指定した港について,船舶所有者もその安全性に関する情報を入手し得る立場にあること,航海傭船契約の場合は特にそうであること,また,ドライカーゴの傭船契約書式では絶対的義務とされている一方,タンカーに関する書式では相対的義務とされているというようなことから,やはり一律に絶対的義務として法律に規定するのは相当ではないということでございます。   この点に関しましては,日本船主協会さんが今年の1月9日付けで提出された意見書,参考資料25で,「万が一,デフォルト・ルールとしては規定するが相当注意義務として規定するとか,定期傭船契約のみ規定して航海傭船契約には規定しないとかといった,言わば中途半端な立法をするとなれば,かえって現在の実務の太宗と明らかに齟齬のある立法をすることになるので,そのような立法であればすべきではない」という意見を出されておられまして,安全港担保義務に関する立法の難しさを端的に示されているのではないかと思います。基本的に,結論としては我々と同じ結論ではないのかと思っています。 ○山下部会長 ほかに安全港担保義務について,いかがでしょうか。 ○箱井幹事 安全港担保義務の実務が分かったら教えていただきたいのですけれども,NYPE書式などには一般的に入っているところは承知していますけれども,これもまた定期傭船契約を考えるときの難しさで,様々な類型がある。先ほど私が言いましたような,いわゆる積み荷指向型というか,完全な荷主さんの場合ですね。荷主さんが定期傭船者になったような場合,これは安全港についての情報なんか持ちようがないと思うのですけれども,そういった場合には安全港担保義務の条項を何らか修正するような形で運用しておられるのか,実務のところを教えていただきたいと思います。 ○池山委員 今,箱井幹事のおっしゃった趣旨は,港が特定しているような場合には安全港担保義務を免除するような特約もされているのではないかという御質問ですか。 ○箱井幹事 港が特定されていることがそういう場合は多いのでしょうけれども,いずれにしても,安全港についての情報なんか持ち得ないような,いわゆる自貨を積み込む定期傭船者というのも少なからずあろうかといったときに,安全港担保義務は何か特約をしているのかどうか知りたいという趣旨でございます。 ○池山委員 これは,事実認識の問題なので御異論はあるかもしれませんけれども,私どもの認識する限り,安全港担保義務をあえて免除する特約をする場合というのは,ほとんどないと理解しております。   仮に,港がAからBと決まっている場合であっても,1安全港,1安全バースA港というような表現をして,「A港」と港を特定しても,それが安全港であることを傭船者側に担保していただいている書きぶりになっていることが多いと思います。   今,遠藤委員の方から,私どもから出させていただいた意見書に対する言及がございましたけれども,私どもとしては,安全港担保義務は傭船契約の中で非常に基本的な義務の一つであって,タンカーについてはあえて申せば,私どもは例外であると考えていて,太宗は絶対的な義務であると思いますので,それを原則として,是非デフォルト・ルールについても定めていただきたいという意見を申し上げさせていただいた次第です。   ただ,確かに遠藤委員が正におっしゃったとおり,その立法への難しさというのがあるというのも理解しないわけではございません。 ○山下部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○鈴木委員 一応,定期傭船で船主さんと傭船者の間では安全担保契約というのもあると思うのですけれども,直接,荷主さんと御契約される場合に荷主さんの方で安全港を担保する義務を負わせることに抵抗はないのかなという懸念は少し持っております。   その辺,内航の方でもメーカーさんのバースに直接接岸して積んでいくというような輸送形態もございますので,その場合,メーカーさんの方で船を雇われるという可能性も全くないわけではないかなと思います。 ○山下部会長 ほかにございませんか。   ここも,なかなか難しい問題がいろいろあるようですが,引き続き検討して,次のラウンドで御審議をお願いしたいと思います。   それでは,先に進みまして,「第2 船舶の衝突」についてでございます。   まず,事務当局から説明をお願いします。 ○山下関係官 「第2 船舶の衝突」について御説明いたします。第1に,一定の財産の損害賠償責任につきまして,これまでの審議では意見が分かれており,被害者である積荷所有者から見て,2以上の船舶の各負担部分は明らかでなく,このような被害者が損害賠償請求をするに際し困難を強いるべきでないことなどを理由に甲案を支持する意見と,商法の国際化という観点から衝突条約と整合させるべきであることや,日本海運集会所作成の内航運送契約書において航海上の過失免責の約定があることから,内航運送においても積荷所有者から全額の損害賠償請求を受けた衝突の相手方が,運送船主に対し,自らの負担部分を超える部分を求償することで,この免責に関する約定の意義を没却しないようにする必要があることなどを理由に乙案を支持する意見とがありました。   パブリック・コメントの結果を見ますと,同じく意見が分かれましたが,甲案を支持する意見が比較的多く,弁護士会,大学,荷主団体,保険関係団体などからの支持がありました。その理由としては,商法が適用される内航運送においては,契約において航海上の過失免責に関する規定は定めていないこともあることや,運送船主と積荷所有者との間のいわゆる双方過失衝突約款等によって,衝突の相手方からその負担部分を超える部分として求償された運送船主が更にこれを積荷所有者に再求償することを認めることなどによって,この規定の空文化を防ぐべきであること,また,乙案のように積荷以外の船舶上の財産の損害についての船舶所有者の責任を分割債務とすべき合理的理由がないことなどが挙げられていました。これに対し,乙案は大学や運送事業者から支持があり,その理由としては,内航タンカー輸送においても航海上の過失免責の規定を有する海運集会所作成の内航運送契約書がベースとされることがほとんどであることや,人損における被害者保護の必要性のように,衝突条約と異ならせるべき特段の事情がない限りは,衝突条約の規律と商法の規律との齟齬をできるだけ避けた方が望ましいことなどが挙げられていました。   第2に,消滅時効につきまして,これまでの審議では,中間試案については特段の御異論がなく,パブリック・コメントの結果を見ましても,中間試案を支持する意見が多数寄せられましたが,中間試案の消滅時効の起算点を事故発生の日とすることについて反対する意見が一部見られました。その理由としては,加害船舶がいわゆる当て逃げをした場合であっても事故発生の日から2年で消滅時効が完成することになり,当て逃げを助長することになりかねないことや,最高裁平成17年判決の立場と同様に,被害者が損害及び加害者を知った時を起算点とすべきであることなどが挙げられていました。   このような意見に照らしますと,今後,当て逃げの被害の実態や保険給付の在り方などを踏まえた検討も必要であろうかと思われますが,ほかにどのような観点からの検討が考えられるか,御意見を頂戴いたしたく存じます。   以上の船舶の衝突に関する二つの論点につきまして,御審議いただきたく存じます。 ○山下部会長 それでは,ただいま説明のありました論点としては二つですが,一括して御審議いただきますので,御自由に御発言をお願いいたします。   特に今日のところは御発言はないということでよろしいでしょうか。 ○松井委員 お時間があるようなので,日弁連で出した意見の繰り返しになるだけでございますけれども,先ほど御説明いただきましたように,被害者保護の観点,それから航海上の過失免責は法律上にはないということに鑑みて,多分,裁判上の運用である程度のカバーはできると考えておりますので,甲案を引き続き支持して,御検討いただければと思っております。 ○山口委員 同じ意見でございます。パブリック・コメントの中にも,契約書上,航海過失免責が入っているものが当然ございますし,逆に言うと入っていないものもございまして,入っていないものについてはやはり自船求償というのは残りますし,双方に対して,つまり片一方に対して免責をしているから,相手方に対して,その過失割合しか請求できないという話があるんですが,自船に対して請求権を放棄していない場合は,やはり通常の不法行為と同じように,相手船に対しても全額に対する損害賠償請求を認めるという甲案のやり方で,法律としてはよろしいのではないかと思います。   先ほど松井委員からもありましたように,実際,その契約によって自船に対する航海過失免責をしているような場合には,裁判実務において別途な考慮をされる可能性も十分にあるだろうと思いますし,具体的な事案においてはそういう解決もあり得るだろうと思いますが,ただ,デフォルト・ルールということであれば,契約書上,どの程度航海過失を免責しているかはっきり分かりませんが,少なくとも免責にしているものと免責していないものが存在する実務において,しかも法律上,自船に対する航海過失免責がデフォルト・ルールとしてない以上は,原則に戻るべきではないかと思います。 ○鈴木委員 甲案の場合の確認なのですが,その他の規定(商法第797条)がございますよね,不明な場合は二分とするという。この規定は残るという理解でよろしいのでしょうか。 ○山下関係官 はい,その規定は残ります。 ○鈴木委員 分かりました。ありがとうございました。 ○山下部会長 甲案でよいという御意見がございましたが,乙案につき是非ともという御意見はどうでしょうか。 ○山下関係官 先ほどの一定の財産の損害賠償責任の甲案,乙案のところについては,皆様から御意見を頂いたところではありますけれども,新たにパブリック・コメントにおいて,消滅時効のところで,当て逃げについてケアすべきではないかという御意見が寄せられましたが,これについては,皆様,いかがでしょうか。   今回の中間試案は,現行法の1年を2年に延長しているというところもあるので,そういう意味では一定程度の被害者保護が図られるとは思うのですけれども,そういった点も含めて,この規律の内容について,それが当て逃げを助長したりとか当て逃げ被害者の保護にならないなど,何か御意見がございましたら,この場でもお寄せいただきたいと思いますが,いかがでしょうか。 ○山下部会長 この時効の点は,いかがでしょうか。 ○山口委員 元々,この規定を変えようかという話の出発点は,現在の時効が1年であって,通常,衝突条約は2年となっているということで,1年の方が短いので被害者保護の観点から延ばした方がいいのではないか,あるいは世界標準に合わせるという意味でも延ばした方がいいのではないかということで2年という話になったわけですが,ただ,その起算点については旧商法の場合は明確であるし,今の商法の場合は起算点が明確でないために起算点については解釈の余地がございまして,今,御紹介がありましたように,被害者及びその責任の相手を知った時からということになるわけですが,実はそちらの方が長い場合がやはり生じてくるということになります。   なかなか難しい問題で,世界標準に合わせるという意味では,正に衝突条約に合わせるという2年というのは意味があるんですが,一方において,先ほどの当て逃げの助長ということを考えますと,起算点については,やはりパブリック・コメントから出てきましたその起算点について,もう少しフレキシブルに考えて,衝突の時というだけで免責にしてしまうということの意味はなさそうな気もしますので,特に日本の商法ということは,日本の領海内,あるいはその衝突船舶は日本船舶同士であるときというような,日本と非常に関わりが深いときに日本法である商法が適用になるわけですから,そういうときはやはり日本の考え方であります被害者保護を考えて,起算点を少しずらしても商法についてはよろしいのではないか。つまり,明確に衝突の時からと書かなくてもよいのではないかという,パブリック・コメントを見た見解であります。 ○山下部会長 ほかに,今の点についていかがでしょうか。 ○箱井幹事 人身は除外して物損の話だと思いますけれども,これは画一的処理というところがやはり重視されて,一律に「事故ありたる日」,「事故があった日」ということになっておりますので,その点は一応考えた上で,どちらがよいかということを検討いただければと思っております。これまでの議論で起算点を一律にしようというのは,衝突の場合,これは利害関係者が非常に多くなってきて,被害者ごとにその損害及び加害者を知った日とすることへの懸念から,こういうルールになっているのだろうと思います。   あと,平成17年判例の事件も,先ほどから出ています当て逃げを助長するというのは相当気になる表現で,助長はしないと思うのですけれども。要するに,当て逃げというよりも,問題は加害者が不明,なかなか判明しないということですよね。平成17年判例の事件のときにもそれなりに時間が掛かって問題になったのは承知していますけれども,これは実際問題どうなのだろうか。我々理屈をやっている者ではよく分かりませんが,事故の場合には当局の捜査など入ってくると思いますし,GPSの航跡などの記録とかもあります。あのケースでも,加害船がほぼ特定されてからが長かったと思っております。そこで,やはり2年でも分からないケースがあるとすれば問題だという,そこからこの問題を考えた方がよいのではないかと思います。   今まで,諸外国でも同じ条約に合わせて2年でやっているわけですが,加害者不明で困ったケースがどれだけあるのかというところですね。そこのところは私も分からないので,なかなか今の御質問に対してはどう考えたらいいのか,お答えしかねるところでございます。 ○増田幹事 当て逃げ事件などで加害者不明で困ることがあるという点については,私も箱井幹事と大体同じような感覚でして,結局こういう事案が果たしてどれくらいあるのかということが分からないと,起算点をずらすことの合理性ということもよく分からないというのが率直なところです。   一つの解決策としては,最高裁判決は民法724条を適用したわけですけれども,それまでの学説では,民法166条1項の方で「権利を行使することができる時」を起算点として考えていて,大体それがニアリーイコール衝突時という理解がとられていたと思いますので,どちらかというと,ここの起算点を変えるのであるとすると,そちらの方がひょっとすると望ましいのかなというような感触は持っておるところです。   あと一点ですけれども,海運事業者側から特にコメントがない以上は,私がそれほどこだわるべきところではないと思っているのですが,やはり渉外事案の解決としては釈然としないと感じております。人身損害についてだけかなり長くなるというところは,本当に不都合はないのでしょうかということについて,一応,事業者側からのコメントを少し頂きたいなと思っているところではございます。   というのも,谷川久先生が提唱されて以来有力になっている法廷地法説で考えると,結局,日本に本拠を置いている事業者に関しては,法廷地法説で公海上での事故には日本法が適用されるということになりますと,ほかの国の事業者に関してはほぼ2年ぐらいで債権が消滅しているのに,20年くらいは請求に対応しなければならないリスクを考えておかなければいけないということになるのかという気もします。では仮に法廷地法説はやはりまずいかなということになって,旗国法累積適用説を採るとすると,結局,渉外事案では,この規定によって救済が認められるかどうかは,かなり偶然的に決まってしまう気がしております。この点,事業者側で特に不都合でないとお考えなのであれば特に私は反対しませんが,念のため御意見を頂けると有り難いと存じております。 ○山下部会長 ただいまの点,何かコメント等ございますか。 ○道垣内委員 事業者さんではなく,誠に申し訳ございませんが,発言させてください。まず,第一に,前半の民法の166条と724条の話に関しまして,現在の商法798条は,共同海損又は船舶の衝突によりて生じたる債権となっていますので,それは,実は契約上の債務不履行から生じる債権も含み得るのではないかと思うんですね。然るに,中間試案として出ているのは,船舶の衝突を原因とする不法行為による損害賠償の請求権ということになっているので,そうすると,民法で言えば,724条の方の話として議論される問題であるということが出発点となって,それほどおかしくはないのではないかと思います。   そして,そのときに,事故の時から2年間なのか,被害者が損害及び加害者を知った時からなのかという問題について,損害及び加害者がわからないときはあまりないのだからというご意見も出たわけですが,あまりないのだったら,損害及び加害者を知った時にすることが,なぜいけないのかという気がします。なぜここだけ,事故の発生の日からとなるのか,私は率直にいうと疑問です。   もちろん,衝突条約とか諸外国と合わせなければならないということでそうなっているということならば,それはそれでいいのかとは思いますが,箱井幹事と増田幹事がおっしゃった理由として,あまりないからというのは,逆に,あまりないのだったら原則通りでよいではないかという感じがするということです。   二番目の問題として,人身のときに,どれで不都合はないのか,事業者困らないのか,という話ですが,困っても全然構わないと思います。それは,人身の被害については保護するというのが日本法の態度であって,外国の企業が負わなくて済むのに日本企業が負うことになっていいのかと言われると,まったく構わない,それが日本法の人間尊重の態度なのですから。 ○箱井幹事 道垣内先生の最後の人間尊重のところは大賛成でございますので,同意見でございます。起算点ですけれども,分からないからというよりは,やはり,衝突損害の場合,これは被害者が時によっては何百人,何千人になるといったことを考慮して,画一的にというのが通常されてきた説明ではないかと理解しております。 ○道垣内委員 どうして画一的にしなければいけないのかが,よく分かりません。つまり,一般論としては,事故発生によって損害及びその加害者というのが分かるというときに,何千人の中に,特別な事情によりそれが分からない人がいるという特殊な事案のときに,その人については損害賠償債務の消滅が生じないとなるのがどうしていけないのかというのが,私にはよく分かりません。 ○山下部会長 ほかはよろしいですか。   では,この点も頂いた御意見を参考に検討していただきたいと思います。   時間が迫っているのですが,最後に,「第4 国際海上物品運送法の一部改正」についてでございます。   事務当局から説明をお願いします。 ○宇野関係官 それでは,「第4 国際海上物品運送法の一部改正」につきまして御説明いたします。これまでの審議では,本来,割増運送賃を支払って高価品として運送を委託すべきであるにもかかわらず,普通品としての運送賃しか支払わない場合に,責任限度額までの賠償を認めるのは相当でないことなどを理由に,現行法を維持する甲案を支持する意見と,国際海上物品運送法では責任限度額に関する規律が定められ,原則として運送人がその額を超えて賠償責任を負うことはなく,高価品免責の規律を併存させて二重に運送人を保護する必要がないことなどを理由に,高価品免責の規律を準用しないこととする乙案を支持する意見がありました。   パブリック・コメントの結果を見ますと,甲案を支持する意見が比較的多く,その理由としては,これまで指摘のあった点のほか,責任限度額と高価品免責の各規律は,その沿革及び趣旨を異にするから,前者があることが後者を削除する理由にはならないことなどが挙げられていました。これに対し,高価品免責の規定によると,オール・オア・ナッシングの結論になることの不合理性などを理由に,乙案を支持する意見も複数ありました。   以上を踏まえ,国際海上物品運送法における高価品免責の規律をどのように考えるべきかにつきまして,御審議いただきたいと思います。 ○山下部会長 それでは,ただいまの問題につきまして,御自由に御発言をお願いいたします。 ○野村(修)委員 かつても発言していますので,余り繰り返すつもりはありませんけれども,最後は決めの問題かなと思いますのでどちらでもいいかと思いますけれども,やはり気になりますのは,高価品であるということを申告しなかったことによって,一切損害賠償を取れなくなるという結論自体の正当性が一体どこにあるのかということが,やはり説得力ある形なのかどうかということだと思います。   既にお話がありますように,普通品であるということしか申告していないのに,その人に対してサンクションを与えられるべきだという議論があるのかもしれませんが,確かに普通品としての申告しかしていないのに高価品としての損害賠償が満額取れるというのであれば,それはやはり不合理だと思いますので,そのこと自体に対して申告を促す意味でもサンクションを与えられてもいいと思いますし,また,普通品としての評価が困難であるという説明もあって然るべきかもしれないという気がします。   しかし,普通品であったとしても,今の国際海上物品運送法では,このパッケージ・リミテーションの限度額については支払われても然るべきだという,そういう形で作られている以上は,この額自体が著しく普通品に対する賠償金から見て高額であるならば別ですけれども,そうでないとするならば,私自身としては,オール・オア・ナッシングの結論になるよりは,一定程度の損害賠償が払われるという規律の方が制度的には合理的なのではないかと考えている次第であります。 ○山下部会長 ほかにいかがですか。 ○山口委員 この問題については,当初,国際海上物品運送法というか,ヘーグ・ルールに違反するのではないかというお話もありましたが,増田幹事が御指摘になったように,各国の責任制限規定を害するものではないということになっておりますので,高価品特則というのは国際海上物品運送法で排除されていないという前提で,この法律ができてきたということでございます。   現在,これを改正するかどうかという問題なのですけれども,特に大きな問題が出ていなければ維持してもいいのではないかというところでございます。 ○野村(修)委員 大きな問題はないのかもしれませんが,実際の実務でどうなっているのかということを考えてみると,やや空文化しているのではないかという感じもしますので,その規範が残っていることによって,逆に,今度はそれであればということで主張がなされたときに,規範性が存在しているということを,ここの審議会で,ある意味では規範として再確認をするということが本当にいいことなのかどうかということです。ですから,条約に違反するというよりは,政策的な判断として,今ここで,この審議の中でこれを認めることになれば,この規範は国際海上物品運送法においても十分存在意義があるものとして再確認され,むしろ実務はそちらの方に誘導されていくということになることが望ましいのかどうかということだと認識しております。 ○山下部会長 いかがでしょうか。特に御発言ございませんか。   この点も引き続き,なお検討していただければと思います。   それでは,途中せかしたところがありますが,何か最後,言い足りなかったというようなことがございましたら伺いますが,よろしいでしょうか。   それでは,もしないようでしたら,本日の審議はこの程度にさせていただきます。   次回の議事日程等につきまして,事務当局から説明をしてもらいます。 ○松井(信)幹事 次回は9月9日水曜日,午後1時半から午後5時半までを予定しております。場所は,本日と同じく,法務省20階の第1会議室になります。   次回の議題は,前回と今回の御意見,ヒアリングなどを踏まえまして,「第1部 運送法制全般について」,要綱案の取りまとめに向けた全体的な検討というものを行ってまいりたいと思っております。 ○山下部会長 そういうことで,よろしくお願いいたします。   それから,次回の部会に関してなのですが,部会長であります私が,どうしても外せない用務のため,会議の冒頭から出席することができないことになると思われます。法制審議会令によりますと,部会長に事故があるときにその職務を代行する者をあらかじめ部会長が指名しておくこととされておりますので,ここでその指名をさせていただきたいと思います。   私自身,第1回部会におきまして,小林委員からこの分野における業績等を踏まえて御推薦いただいたわけでございますけれども,小林委員もまたこの分野における優れた御業績,御経歴をお持ちでございますので,小林委員を部会長代行に指名したいと思います。   小林委員,よろしゅうございましょうか。   それでは,よろしくお願いいたします。   では,本日の審議は以上でございます。どうもお疲れ様でした。 -了-