法制審議会 第175回会議 議事録 第1 日 時  平成27年10月9日(金)   自 午後2時00分                         至 午後3時30分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題   1  国際裁判管轄法制(人事訴訟事件及び家事事件関係)の整備に関する諮問第98号      について   2  性犯罪に対処するための刑法の一部改正に関する諮問第101号について 第4 報告事項    商法(海商・運送関係)部会における審議経過に関する報告 第5 議 事 (次のとおり) 議        事 ○西山司法法制課長 ただいまから法制審議会第175回会議を開催いたします。   本日は,委員20名及び議事に関係のある臨時委員1名の合計21名のうち17名に御出席いただいておりますので,法制審議会令第7条に定められた定足数を満たしていることを御報告申し上げます。   初めに法務大臣挨拶がございます。 ○岩城法務大臣 このたび法務大臣に就任いたしました岩城光英と申します。どうぞよろしくお願いいたします。   それでは,法制審議会第175回会議の開催に当たり,一言御挨拶を申し上げます。   委員及び幹事の皆様方におかれましては,御多用中のところ本会議に御出席いただき,誠にありがとうございます。   また,この機会に,法制審議会の運営に関する皆様方の日頃の御協力に対し,厚く御礼を申し上げます。   本日は,御審議をお願いする議題が二つ,部会からの報告事項が一つございます。   まず,議題の一つ目は,平成26年2月に諮問いたしました「国際裁判管轄法制(人事訴訟事件及び家事事件関係)の整備に関する諮問第98号」についてであります。   この諮問につきましては,国際裁判管轄法制(人事訴訟事件及び家事事件関係)部会において調査審議が行われました結果,「人事訴訟事件及び家事事件の国際裁判管轄法制に関する要綱案」が取りまとめられ,本日,高田部会長から報告がされるものと承知しております。   この諮問事項につきましては,国際的な要素を持った人事訴訟事件及び家事事件に関して,我が国の裁判所が裁判管轄権を有する場合についての規定を整備する必要がありますことから,部会におきましても精力的に調査審議をしていただいたと伺っております。委員の皆様方には,慎重に御審議の上,速やかに御答申くださいますようお願い申し上げます。   議題の二つ目は,新たに御審議をお願いするもので,性犯罪に対処するための刑法の一部改正に関する諮問第101号についてであります。   性犯罪の罰則につきましては,平成22年に閣議決定された第3次男女共同参画基本計画において,強姦罪の見直しなど性犯罪に関する罰則の検討が求められているほか,各方面から様々な御指摘がございます。これらの問題について検討するため,平成26年10月から,法務省において,有識者により構成される「性犯罪の罰則に関する検討会」を開催し,検討を行っていただいたところ,平成27年8月,その検討結果として報告書が取りまとめられました。   法務省におきましては,同報告書等を踏まえて検討した結果,要綱(骨子)記載のとおり法整備を行う必要があると考えるに至りましたので,法制審議会の御審議をお願いするものであります。   最後に,部会からの報告事項でありますが,商法(運送・海商関係)部会における部会審議の途中経過でございます。商法(運送・海商関係)部会におきましては,平成26年2月の諮問以降,積極的な調査審議がなされ,中間試案の取りまとめ,パブリックコメントの手続を経て,現在は要綱案の取りまとめに向けて審議を進められていると伺っております。   本日は,これまでの審議の経過について,同部会の山下部会長から報告がされるものと承知しておりますので,これに関しましても,委員の皆様方から御意見をお伺いしたいと存じます。   それでは,これらの議題等についての御審議,御議論をどうぞよろしくお願い申し上げます。 ○西山司法法制課長 誠に恐縮ではございますが,大臣は公務のため,ここで退席をさせていただきます。           (岩城法務大臣退席)    ここで報道関係者が退室しますので,しばらくお待ちください。           (報道関係者退室) ○西山司法法制課長 では,高橋会長,お願いいたします。 ○高橋会長 高橋でございます。本日もまた,よろしくお願い申し上げます。   まず初めに,本年2月24日に開催しました前回174回会議以降,本日までの間に委員の異動がございましたので,御紹介いたします。異動内容の詳細につきましては,お手元にお配りしております人事異動表のとおりでございますが,新たに就任されました委員の方々が本日御出席でいらっしゃいますので,御紹介いたします。   まず,横浜弁護士会所属の木村良二氏でございます。よろしくお願いいたします。 ○木村委員 よろしくお願いします。 ○高橋会長 東京高等裁判所長官の倉吉敬氏でございます。 ○倉吉委員 倉吉です。よろしくお願いします。 ○高橋会長 読売新聞東京本社論説副委員長の大塚浩之氏でございます。 ○大塚委員 大塚でございます。よろしくお願いします。 ○高橋会長 よろしくお願いいたします。   本日の審議は,先ほどの法務大臣の御挨拶にもございましたように,二つございます。そのうちの第1「国際裁判管轄法制(人事訴訟事件及び家事事件関係)の整備に関する諮問第98号」,これについての御審議をお願いいたします。   まず,国際裁判管轄法制(人事訴訟事件及び家事事件関係)部会における審議の経過及び結果につきまして,同部会の部会長を務められました高田裕成部会長から御報告をお願いいたします。   それでは,高田部会長,報告者席までお移りください。   では,よろしくお願いいたします。 ○高田部会長 国際裁判管轄法制(人事訴訟事件及び家事事件関係)部会の部会長を務めております高田でございます。どうぞよろしくお願いいたします。   この部会では,諮問第98号につき,調査審議を行ってまいりましたが,本年9月18日に開催されました第18回会議におきまして,「人事訴訟事件及び家事事件の国際裁判管轄法制の整備に関する要綱案」を決定いたしましたので,その審議の経過及び要綱案の概要について御報告を致します。   まず,部会におけるこれまでの審議状況等について御報告いたします。   関係者に外国人を含むなど,国際的要素を持った紛争の解決におきましては,我が国の裁判所が管轄権を有するかという国際裁判管轄が問題となります。財産関係事件の国際裁判管轄につきましては,平成23年に民事訴訟法及び民事保全法の一部を改正する法律が成立したことにより,規定の整備を完了しております。   他方,人事訴訟事件や家事審判及び家事調停を含む家事事件につきましては,いまだ国際裁判管轄に関する規定の整備がされておりませんでしたが,昨年2月,法制審議会第171回会議におきまして,法務大臣より人事訴訟事件及び家事事件の国際裁判管轄法制に関する規律等を整備する必要があると思われるのでその要綱を示されたいとの諮問が行われ,その調査審議のため,国際裁判管轄法制(人事訴訟事件及び家事事件関係)部会が設置されました。   部会では,平成26年4月から本年9月までの間,約1か月に1回のペースで合計18回の会議を開催いたしました。本年2月開催の法制審議会総会の前回会議におきましては,それまでの審議状況につきまして御報告いたしましたが,その後,国際裁判管轄法制に関する中間試案を取りまとめ,公表いたしました。   この中間試案につきましては,事務当局において本年3月から5月までの2か月間,意見募集の手続を実施し,13件の意見が寄せられました。その後,中間試案に対して寄せられた意見も含めまして審議を継続し,本年9月18日の部会第18回会議におきまして,「人事訴訟事件及び家事事件の国際裁判管轄法制の整備に関する要綱案」の取りまとめに至ったものでございます。   次に,要綱案の内容につきまして,要点に絞ってその概要を御説明いたします。   諮問において検討が求められているのは,国際的な要素を持った人事訴訟事件及び家事事件について,具体的かつ明確なルールを規定することで当事者の予見可能性を高めるとともに,法的安定性をより向上させ,紛争の適切かつ迅速な解決に寄与することであると考えられます。部会におきましても,このような観点から調査審議が進められました。   人事訴訟事件及び家事事件には,離婚の訴えなど人事に関する訴え,遺産の分割に関する審判事件などの相続に関する審判事件などなどと,異なった特色を有する様々な事件類型が含まれておりますので,今申し上げた観点から分かりやすい規律とするため,まず,様々な事件類型を共通の特徴に着目してくくり出して,一つの単位としてまとめ,これを便宜的に単位事件類型と呼んでおりますが,その単位事件類型ごとにどのような場合に我が国の裁判所が管轄権を有するものとすべきかを個別に検討してまいりました。   そして,我が国の裁判所が管轄権を有する場合についての具体的な要件,これを管轄原因と呼んでおりますが,この管轄原因を定めるに当たっては,諸外国の法制を参照しながら,各事件において想定される証拠や関係人の所在等も含めた事件と日本との関連性に加え,手続に巻き込まれる被告の応訴の負担等を考慮した検討を行ってまいりました。要綱案はこのような観点から,単位事件類型ごとの管轄原因を定めております。   また,財産関係事件の国際裁判管轄に係る法整備の際と同様に,要綱案によれば,ある事件について管轄原因が認められる場合であっても,事案の性質などを考慮して,当事者間の公平に反し,又は適正かつ迅速な審議の実現を妨げることとなる特別の事情がある場合には,訴えを却下することができるという規律も設けております。   まず,要綱案1ページの第1の部分を御説明いたします。   要綱案の第1におきましては,人事に関する訴えの国際裁判管轄の規律を明らかにしております。   人事に関する訴えには,離婚の訴えや認知の訴えなど様々な訴えが含まれておりますが,いずれも身分関係の形成又は存否の確認を目的とする事件で当事者間の争訟性がある事件であるという共通の特徴があることを踏まえ,要綱案ではこれらを一つの単位事件類型としてまとめて規律しております。   人事に関する訴えにつきましては,原告の住所が日本国内にあることのみを理由として,日本の裁判所の管轄権を認めてよいか否かという点が最も大きな問題となりました。   中間試案では,応訴を余儀なくされる被告の負担を考慮して,これを否定する考え方と,原告被告間の身分関係を確定するために,より原告の利益や利便性を考慮してこれを肯定する考え方とが対立しておりました。その後,意見募集の結果も踏まえて部会において議論した結果,応訴を余儀なくされる被告の負担などを考慮し,被告の住所が日本国内にあるときに日本の裁判所の管轄権を認めるという考え方を基本としては採用いたしました。これを示しているのが要綱案の第1の1(1)でございます。   その上で,要綱案におきましては,被告の住所が外国にある場合には,およそ我が国の裁判所の管轄権を認めないとするのではなく,要綱案の第1の1(3)から(7)までにありますとおり,身分関係の当事者,すなわちその事件において形成又は存否の確認を求められている身分関係を構成する当事者の双方が日本国籍を有している場合や,身分関係の当事者の最後の共通の住所を日本国内に有していて,原告の現在の住所が日本国内にある場合などにも,我が国と事件との関連性が十分に認められるものと考えられますことから,日本の裁判所の管轄権を認めることとしておりますし,被告が行方不明である場合などにも,日本の裁判所の管轄権が認められることとしております。   以上のことにつき,人事に関する訴えの代表的なものである離婚の訴えを例に説明いたしますと,例えば外国の国籍を有し外国に居住する夫が,日本の国籍を有し日本に居住する妻に対して離婚の訴えを提起しようとする場面が考えられます。このような事案においては,被告である妻の住所は日本国内にありますので,要綱案によれば日本の裁判所の管轄権が認められるということになります。外国に居住する妻が日本に居住する夫に対して訴えを提起しようとする場合も同じです。   また,例えば,日本の国籍を有し日本に居住する夫が外国の国籍を有し外国に居住する妻に対して離婚の訴えを提起しようとする場面もあるかもしれません。この事案におきましては,被告の住所は日本国内にはございません。しかし,そのような場合であっても,別居直前まで夫婦が日本国内で同居していたというような事情があれば,身分関係の当事者の最後の共通の住所が日本国内にございますので,要綱案によれば,夫の住所のある日本の裁判所の管轄権が認められることになります。   続きまして,要綱案3ページの第2の部分について御説明いたします。   要綱案の第2におきましては,家事事件についての規律を明らかにしております。   先ほど申し上げましたとおり,家事事件には様々な事件が含まれておりますので,要綱案におきましては,養子縁組をするについての許可の審判事件,夫婦,親子その他の親族から生ずる扶養の義務に関する審判事件,相続に関する審判事件などの幾つかの単位事件類型に分け,それぞれの単位事件類型ごとに管轄原因を規律しております。   ここでは6ページの11,相続に関する事件についての規律を御説明いたします。   若干長い文章になっておりますけれども,要綱案では,相続に関する審判事件については,被相続人の死亡時の住所が日本国内にあれば,主な相続財産が日本にあることが多いと考えられることに着目しまして,日本の裁判所の管轄権を認めることとしております。   そのため,例えば被相続人が死亡したときに日本国内に居住していたのであれば,相続人の一部が外国に居住しているといった事情がございましても,相続人は日本の裁判所に遺産の分割の審判の申出をすることができます。これにより全ての遺産を日本の裁判所で分割することになります。   また,要綱案では,被相続人が死亡した際に外国に居住していたとしても,相続人全員が日本に居住しているなど,日本で遺産の分割をすることを望む場合があることに備え,日本の裁判所で審理することを全ての相続人が合意したときも,日本の裁判所の管轄権を認めることとしております。   その他関連する事項といたしまして,要綱案8ページの第3におきましては,外国裁判所の家事事件についての裁判について,どのような場合に我が国においてその効力が認められるかといった問題などについても,その規律を明らかにしております。   以上,甚だ簡単ではございますけれども,要綱案の主な項目につきまして御説明をさせていただきました。よろしく御審議のほど,お願い申し上げます。 ○高橋会長 ありがとうございました。   それでは,ただいまの御報告及び要綱案の全般についての審議をお願いいたしますが,まず,質問と意見に分けまして,中身に関する質問がございましたら最初に質問をお受けしたいと思いますが,いかがでしょうか。質問と意見を混ぜ合わせても結構でございますが。   それでは御意見の方に移ります。御意見を伺えればと存じますが。 ○木村委員 このような要綱案を作成していただきましたことに敬意と感謝の意を表して,意見というよりも感想めいたことを一言申し上げたいと思います。   財産の所在地ですとか管轄の合意に関する取扱い等に関しましては,必ずしも全てが網羅的に規定されているとは限らないという点,また,外国判決の執行に関する取扱いにつきましても,今後,実務に委ねられる課題もあるように感じております。   もとより,これらの案件を担当することになりました代理人として真摯に取り組むと。これは当然のことではありますが,例えば渉外に関する民事訴訟,民事執行手続に関しましては,通常,大企業がその当事者であるということと比べますと,人事訴訟は貧困層も含む一般市民がその当事者ということになりますので,その立証方法ですとか立証の程度,これらに関しましては,裁判実務の運用上,十分な配慮がなされるべきであると,そんなふうに感じております。   実務法曹として感想めいたことを申し上げさせていただきました。ありがとうございます。 ○高橋会長 ありがとうございます。   特に御感想ということでございますので,何かお答えすることがあればということですが,いかがですか。 ○高田部会長 委員御指摘の外国裁判の執行につきましては,現行の民事訴訟法と同様に一定の要件があった場合のみ執行ができるという構造になっておりまして,かつその要件につきまして,一般国民からしますと若干難しいといいますか,直ちには資料提供しにくい要件があるとのご評価がありうるということは御指摘のとおりかと思います。   ただ,外国裁判を日本で執行するということでございますので,それなりの要件審査というのは不可欠ではないかということを前提に,従前の考え方を踏襲したところでございます。ただ,御指摘を踏まえまして今後実務として配慮すべきことがあるとすれば御検討いただきたいと存じております。 ○高橋会長 ほかにいかがでしょうか。   私から何か申し上げるのもおこがましいのでございますが,国籍が人事訴訟事件の管轄原因になっておりますけれども,私が学生の頃は国籍を管轄原因にするのは遅れた法律であるというような,そういう意見が強かった,そういう時代があったかと思いますが,今回も国籍は残したということですね。ただ,何か昔言われたものと時代背景が違うような気もするのですが,国籍を残された理由のようなものがあれば。 ○高田部会長 その点も,部会では議論の対象となった点でございました。   御指摘のとおり,身分関係の当事者と裁判所を結び付ける,裁判所に密接な関係性があるということを肯定する際に,国籍という要素と住所という要素がありまして,いずれの観点をより重視するかという点につきましては,従前議論があり,今日でも議論の分かれる点ではないかと存じます。   国際管轄の意義についてもいろいろな考え方があるのかと思いますが,ただ,実際問題として,要綱案では,被告の住所地管轄を認めておりますので,国籍というものが生きてまいりますのは,被告の住所が日本国内にないような場面だと思います。その上で,例えば,人事に関する訴えを原告の住所地で行おうとする場合において原告が日本人である場合が考えられるわけでありますけれども,実質的に見まして,日本人が日本人に対して訴えを提起するという場合には,原告の住所地で訴えを提起することを認めてもよいのではないかという考慮がございます。また,原告被告とも日本に住んでいない場合においても,日本で例えば離婚を求めるという場合を想定いたしますと,多くの場合は,原告が近い将来日本に帰ってきて,日本で生活するということを想定している場合だろうと思います。   そうした実際上の観点から見ますと,管轄原因として明確な基準を設けるということで議論してまいりましたので,当事者双方の日本国籍という明確な基準を捉えてひとまず管轄原因として肯定した上で,不適切な場合におきましては,先ほど来出てまいります特別の事情による却下というもので調整するという考え方も十分あり得るのではないかという最終的な判断ということになったものと私自身は理解しております。 ○高橋会長 ありがとうございます。   ほかに御意見は。   意見がないようでしたら採決に移りたいと思いますが,よろしいでしょうか。   それでは,諮問第98号につきまして,つまり,国際裁判管轄法制(人事訴訟事件及び家事事件関係)部会から報告されました要綱案のとおり当法制審議会が答申することに賛成の方は挙手をお願いたします。 (賛成者挙手) ○高橋会長 どうもありがとうございます。 ○西山司法法制課長 採決の結果を御報告申し上げます。   議長及び部会長を除くただいまの委員数は15名でございますところ,全ての委員が御賛成ということでございました。 ○高橋会長 採決の結果,全員賛成ということでございましたので,国際裁判管轄法制(人事事件及び家事事件関係)部会から報告されました要綱案は,原案のとおり採決いたしました。採決されました要綱案につきましては,この会議終了後,法務大臣に対して答申することといたします。   高田部会長におかれましては,約1年半もの間,多岐にわたる論点につきまして調査審議をしていただきました。誠にありがとうございました。   第2の議題に移ります。   性犯罪に対処するための刑法の一部改正に関する諮問第101号について審議をお願いいたします。   初めに,事務当局に諮問事項の朗読をお願いたします。 ○中村刑事法制企画官 刑事局で刑事法制企画官をしております中村でございます。どうぞよろしくお願いいたします。   諮問を朗読させていただきます。   諮問第101号   近年における性犯罪の実情等に鑑み,事案の実態に即した対処をするための罰則の整備を早急に行う必要があると思われるので,別紙要綱(骨子)について御意見を賜りたい。   別紙 要綱(骨子)  第一 強姦の罪(刑法第百七十七条)の改正     暴行又は脅迫を用いて十三歳以上の者を相手方として性交等(相手方の膣内,肛門内若しくは口腔内に自己若しくは第三者の陰茎を入れ,又は自己若しくは第三者の膣内,肛門内若しくは口腔内に相手方の陰茎を入れる行為をいう。以下同じ。)をした者は,五年以上の有期懲役に処するものとすること。十三歳未満の者を相手方として性交等をした者も,同様とすること。  第二 準強姦の罪(刑法第百七十八条第二項)の改正     人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ,又は心神を喪失させ,若しくは抗拒不能にさせて,性交等をした者は,第一の例によるものとすること。  第三 監護者であることによる影響力を利用したわいせつな行為又は性交等に係る罪の新設   一 十八歳未満の者に対し,当該十八歳未満の者を現に監護する者であることによる影響力を利用してわいせつな行為をした者は,刑法第百七十六条の例によるものとすること。   二 十八歳未満の者を現に監護する者であることによる影響力を利用して当該十八歳未満の者を相手方として性交等をした者は,第一の例によるものとすること。   三 一及び二の未遂は,罰するものとすること。  第四 強姦の罪等の非親告罪化。   一 刑法第百八十条を削除するものとすること。   二 刑法第二百二十九条を次のように改めるものとすること。      第二百二十四条の罪及びこの罪を幇助する目的で犯した第二百二十七条第一項の罪並びにこれらの罪の未遂罪は,告訴がなければ公訴を提起することができない。  第五 集団強姦等の罪及び同罪に係る強姦等致死傷の罪(刑法第百七十八条の二及び第百八十一条第三項)の廃止     刑法第百七十八条の二及び第百八十一条第三項を削るものとすること。  第六 強制わいせつ等致死傷及び強姦等致死傷の各罪(刑法第百八十一条第一項及び第二項)の改正   一 刑法第百七十六条若しくは第百七十八条第一項若しくは第三の一の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯し,よって人を死傷させた者は,無期又は三年以上の懲役に処するものとすること。   二 第一,第二若しくは第三の二の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯し,よって人を死傷させた者は,無期又は六年以上の懲役に処するものとすること。  第七 強盗強姦及び同致死の罪(刑法第二百四十一条)並びに強盗強姦未遂罪(刑法第二百四十三条)の改正   一 次の1に掲げる罪又は次の2に掲げる罪の一方を犯した際に他の一方をも犯した者は,無期又は七年以上の懲役に処するものとすること。ただし,いずれの罪も未遂罪であるときは,その刑を減軽することができるものとすること。    1 第一若しくは第二の罪若しくはこれらの罪の未遂罪又は第六の二の罪(第三の二の罪に係るものを除き,人を負傷させた場合に限る。)    2 刑法第二百三十六条,第二百三十八条若しくは第二百三十九条の罪若しくはこれらの罪の未遂罪又は同法第二百四十条の罪(人を負傷させた場合に限る。)   二 一ただし書の場合において,自己の意思によりいずれかの犯罪を中止したときは,その刑を減軽し,又は免除するものとすること。   三 一の1に掲げる罪又は一の2に掲げる罪の一方を犯した際に他の一方をも犯し,いずれかの罪に当たる行為により人を死亡させた者は,死刑又は無期懲役に処するものとすること。   以上でございます。 ○高橋会長 続きまして,諮問の内容,諮問に至る経緯及びその理由につきまして,事務当局から説明をお願いいたします。 ○林幹事 幹事を務めております法務省刑事局長の林でございます。   私から諮問第101号につきまして,提案に至りました経緯及び諮問の内容等について御説明を申し上げます。   性犯罪の罰則につきましては,明治40年の現行刑法制定以来,昭和33年の刑法改正によってその輪姦形態による強姦罪などが非親告罪化され,また,平成16年の刑法改正によって法定刑の引上げなどの改正が行われたわけでございますが,構成要件などにつきましては制定当時のものが基本的に維持されてきました。   しかし近年,現行法の性犯罪に対する罰則は,必ずしも現代の性犯罪の実態に即したものとなっていないのではないかなどの観点から,様々な指摘がなされているところでございます。   例えば,平成16年の刑法改正の際や,平成22年の刑法及び刑事訴訟法の改正の際には,衆参両議院の法務委員会による附帯決議におきまして,性犯罪の罰則の在り方について更に検討することが求められておりますし,平成22年に閣議決定された第3次男女共同参画基本計画においては,女性に対するあらゆる暴力の根絶に向けた施策の一環として強姦罪の見直しなど,性犯罪に関する罰則の在り方を検討することとされております。   法務省におきましては,これらの指摘等を踏まえまして,平成26年10月から,刑事法研究者,法曹三者,被害者支援団体関係者等からなる「性犯罪の罰則に関する検討会」を開催し,性犯罪の罰則の在り方に関する多くの論点について検討を行ってまいりました。その結果,本年8月に報告書が取りまとめられましたところ,その中におきましては,強姦罪等を非親告罪化すること,肛門性交等を強姦罪と同等に処罰すること,地位・関係性を利用した性的行為に関する罰則を設けること,強姦罪等の法定刑の下限を引き上げること,強姦犯人が強盗を犯した場合も,強盗強姦罪と同じ法定刑で処罰する規定を設けることについて,法改正を要するとの意見が多数であったものとされました。   法務省におきましては,こうした検討結果等を踏まえまして,性犯罪被害の実態や事案に即した対処をするため,罰則の整備を行う必要があると考え,今回の諮問に至ったものでございます。   次に,諮問の内容について御説明いたします。配付資料番号刑1を御覧ください。   要綱(骨子)第一でございますが,これは,刑法第177条の強姦罪の改正に関するものでございます。現行法の強姦罪においては,女子に対する姦淫行為のみを対象とし,強制わいせつ罪により処罰されるわいせつ行為より重く処罰することとしています。しかし,現行法では強制わいせつ罪により処罰されることとなる肛門性交及び口淫についても,姦淫と同等の悪質性・重大性があると評価し得るに至っていること,また,被害者の陰茎を行為者の膣等に入れる行為についても,現行法における強姦行為と同等の悪質性,重大性があると考えられることから,これらの行為をいずれも現行法における強姦罪と同様の重い類型の犯罪として処罰することとするものでございます。   また,現行法においては,第177条の強姦罪の法定刑の下限は懲役3年とされておりますが,「性犯罪の罰則に関する検討会」等において法定刑の引上げが必要であるとの指摘がなされ,実際の量刑におきましても,強姦罪について,強盗罪や現住建造物等放火罪よりも重い量刑がなされる割合が多くなっている状況等に照らすと,強姦罪の悪質性・重大性に対する現在の社会一般の評価は,強盗罪や現住建造物等放火等の犯罪に対する評価を下回るものではないと考えられることから,要綱(骨子)第一の罪の法定刑の下限を懲役5年に引き上げることとするものであります。   次に,要綱(骨子)第二は,刑法第178条の準強姦罪の改正に関するものであり,要綱(骨子)第一と同様に,対象とする行為を拡大し,法定刑の下限を引き上げることとするものです。   次に,要綱(骨子)第三は,監護者であることによる影響力を利用して行うわいせつ行為及び性交等に関する罰則の新設です。   現行法においては,不同意のわいせつ行為又は性交であって,違法性が高くかつ悪質であると類型的に認められるものとして,暴行又は脅迫を用いてなされたもの及び心神喪失又は抗拒不能に乗じるなどしてなされたものを処罰の対象としています。しかしながら,被害者の真意に反して行われる親子間の性交が,強姦罪ではなく,より軽い児童福祉法違反等で処理されている現状等に鑑みると,被害者の真意に反して行われる性交等の中には,暴行又は脅迫を用いることなく,また,心神喪失又は抗拒不能に乗ずるなどするものでなくても,現行法の強姦罪等と同様に悪質であり,同等の当罰性があるものが存在すると考えられます。   そこで,行為者が18歳未満の被害者を現に監護しているという関係がある場合には,行為者が被害者に対して性交等を求めたときに,被害者がその真意に反して性交等に応じざるを得なくなるという影響力が類型的に認められることに着目して,被害者を現に監護する者であることによる影響力を利用して行う性交等について,強姦罪等と同様に処罰する規定を設けることとするものであります。   次に,要綱(骨子)第四は,強姦罪等の非親告罪化に関するものであります。   現行法におきましては,強姦罪及び強制わいせつ罪は,被害者のプライバシー等を保護する観点から親告罪とされております。しかし,現状においては,告訴するか否かの選択が迫られているように感じられる場合があるなど,親告罪であることにより,かえって被害者に精神的な負担を生じさせていることが少なくない状況に至っていると認められたことなどから,これらの罪を非親告罪化しようとするものであります。   次に,要綱(骨子)第五は,集団強姦等の罪及び集団強姦等致死傷の罪の廃止に関するものです。   現行法では,集団強姦等罪の法定刑の下限は懲役4年,同罪に係る致死傷罪の法定刑の下限は懲役6年とされておりますが,要綱(骨子)第一のとおり,強姦罪の法定刑の下限を懲役5年に引き上げることとすると,集団強姦等罪の法定刑の下限を上回ることとなります。また,後に御説明するとおり,強姦等致死傷罪の法定刑を懲役6年に引き上げることとすると,集団強姦等致死傷罪の法定刑の下限と同じとなります。したがって,集団強姦罪等を廃止しても,2人以上が現場で共同して行う強姦等については,現行法以上の刑を科すことが可能となり,集団による強姦という悪質性については,引き上げられた法定刑の範囲内で量刑上考慮することにより適切な科刑が可能となることから,集団強姦罪等を廃止することとするものであります。   次に,要綱(骨子)第六は,強制わいせつ等致死傷の罪及び強姦等致死傷の罪に関するものであります。   第一,第二において強姦罪の構成要件を変更したことや,第三において新たな犯罪類型を設けたことから,これらを反映させるとともに,強姦等致死傷罪の法定刑の下限を現行の懲役5年から懲役6年に引き上げることとするものであります。   最後に,要綱(骨子)第七は,強姦と強盗とを同一機会に行った場合の罰則の整備に関するものであります。   現行法においては,強盗犯人が強姦をしたときについては,強盗強姦罪として無期又は7年以上の懲役という重い法定刑が規定されていますが,強姦犯人が強盗した場合にはこのような規定がなく,一般的な併合罪の規定に従って,その処断刑は5年以上30年以下の懲役となります。   しかしながら,同じ機会にそれぞれ単独でなされてもなお悪質な行為である強盗行為と強姦行為との双方を行うことの悪質性,重大性に着目するなら,これまで強姦罪と強盗罪との併合罪が成立するとされていたものについても,強盗強姦罪と同様の刑をもって処罰することができるようにすることが必要であり,また,相当であると考えられます。   そこで,同一の機会において強姦行為と強盗行為とを行った場合につき,現行の強盗強姦罪と同様の法定刑で処罰できるようにするとともに,強姦行為と強盗行為とがいずれも未遂に終わった場合についての刑の減免に関する規定の整備や,死亡の結果が生じた場合について,現行の強盗強姦致死罪と同様の法定刑で処罰できるものとする規定の整備を行うものであります。   要綱(骨子)の概要は以上のとおりでございます。十分に御審議の上,できる限り速やかに御意見を賜りますようお願い申し上げます。 ○高橋会長 ありがとうございました。   続きまして,配付資料につきまして,事務当局から説明をお願いいたします。 ○中村刑事法制企画官 配付資料の説明をさせていただきます。   まず,資料番号刑1は,先ほど朗読いたしました諮問第101号でございます。   資料番号刑2は,平成22年12月に閣議決定されました第3次男女共同参画基本計画の抜粋でございます。女性に対するあらゆる暴力の根絶に向けた施策の一環として,「強姦罪の見直し(非親告罪化,性交同意年齢の引上げ,構成要件の見直し等)など性犯罪に関する罰則の在り方を検討する」とされております。   続いて,資料番号刑3でございます。近年における性犯罪の罰則に関わる刑法等の改正経過や,その際の国会での附帯決議についてまとめたものでございます。   平成16年の刑法改正におきましては,強制わいせつ罪の法定刑の上限が懲役7年から10年に,強姦罪の法定刑の下限が懲役2年から3年に,強姦致死傷罪の法定刑の下限が懲役3年から5年にそれぞれ引き上げられたほか,集団強姦等の罪が新設されました。   この平成16年の法改正の際の衆議院及び参議院の各法務委員会における附帯決議においては,性犯罪の罰則について更に検討することが求められております。   また,平成22年の刑法及び刑事訴訟法等の改正におきましては,公訴時効の改正が行われましたが,このときの衆議院及び参議院の各法務委員会における附帯決議におきましても,性犯罪の罰則等について更に検討することが求められております。   資料番号刑4は,国連の各委員会による我が国の性犯罪の罰則等に関する最終見解をまとめたものでございます。非親告罪化や法定刑の引上げ等,様々な指摘がなされております。   続いて,資料番号刑5でございます。先ほど林幹事が御説明の中で触れました「性犯罪の罰則に関する検討会」の取りまとめ報告書でございます。   資料番号刑6は,性犯罪の認知・検挙件数の推移に関する資料です。赤色で示しているのが強姦,青色で示しているのが強制わいせつでありまして,実線が認知件数,点線が検挙件数を示しております。   資料番号刑7でございますが,最高裁判所から提供いただきましたデータを基に事務当局において作成した性犯罪の量刑に関する資料でございます。   この資料の3ページ目を御覧ください。強姦罪につきましては,平成12年から14年におきましては,濃い青色の線で示しておりますとおり,懲役2年を超え3年以下の事件が50%を占め最も多かったところですが,平成24年から26年におきまして,水色で示しておりますとおり,懲役3年を超え5年以下の事件が40%近くを占め最も多くなっておりまして,全体として重い量刑の事件の割合が増加してきております。   また,次のページを御覧ください。4ページ目でございます。強姦致死傷罪につきましては,平成12年から14年におきましては,濃い青色で示しておりますとおり,懲役2年を超え3年以下の事件が40%近くを占め最も多かったところですが,平成24年から26年におきましては,水色で示しておりますとおり,懲役5年を超え7年以下の事件が最も多く,約25%となっております。全体として重い量刑の事件の割合が増加してきていることが見て取れます。   続いて資料番号刑8でございます。刑8は,諮問第101号に関連する刑法の条文の抜粋でございます。   以上,甚だ簡単ではございますが,配付資料の説明をさせていただきました。 ○高橋会長 それでは,ただいま説明のありました諮問第101号につきまして,ここでもまた質問と御意見を分けますが,質問がございましたらお願いいたします。   では,御意見の方を伺いたいと存じますが。 ○小杉委員 小杉と申します。私は,労働関係の研究者で,ここしばらく若い女性の非正規雇用化と貧困といったようなことをテーマに少し研究してきたことがあるのですが,その過程で明らかになってきたのが,こうした貧困化する女性の場合,家族の役割が,普通の家族ですと若い人たちの自立を支えるという側の役割を果たしてくれるのですが,こういう人たちの場合には,むしろその足を引っ張るといいますか,桎梏というような形で家族がかなりマイナスに働くことがあると。その中で幾つか出てきた例では,この中で出されたような,性虐待というのがそこに伴うという例が幾つもございました。   そういうことを考えますと,正にここで示された方向性ですね。大変必要なことで,すごく賛成です。特に,関係性ということに着目していただいた。本当に関係性があるから断れないという感じに陥ってしまうと。   かつ,この検討会報告書に書かれたことで非常にすごくそうなのだよなと思ったのが,やはりその犯罪の性質が,性的自由に対する罪ではなくて,それもそうなのですが,それ以上にやはり人格や尊厳を著しく侵害する,正にそういう状況に陥ってしまっているから声が上げられないという人たちだったのですね。このところに着目していただいて,この犯罪がそういう性質の犯罪であるということをはっきり言っていただいたこと,だからこそその関係性みたいなところをきちんと捉えなければいけないし,また,非親告罪化するということも本当にそういう今後,大事なことだと思いました。   それで1点,この検討会報告書を見せていただいて,この検討の中で時効の停止というようなことについては見送られたような書き方がされていました。やはり,小さい頃から侵害に遭った方というのは,なかなかその事実に気が付かないといったら変ですけれども,はっきり認識できないまま自尊感情を失っていくという過程にあるのですよね。そのことを考えると,何らかの支援が必要だと。この検討報告書の中では,別の支援という形の方が妥当だというような,そういう方向があるのですが,ただ,その別の支援のようなものが十分に行き届いていなくて,やはり孤立化してしまってどうしようもない状態に陥るということがあるので,これは多分この審議会とは別のもの,域を離れてしまうことだと思うのですが,その別の支援というところがしっかり本人に届くようにするにはどうしたらいいかということも政府としては考えていただきたいなと思います。   以上で,基本的には,この方向は大変支持するところです。 ○高橋会長 最後の時効の点について何かありますか。 ○林幹事 御指摘のとおり,性犯罪について公訴時効の撤廃又は停止をすべきかということが「性犯罪の罰則に関する検討会」では議論されまして,その点については検討会の取りまとめにございますけれども,様々な問題があって,公訴時効の撤廃又は停止をすることについては慎重な検討が必要であるということから,今回,諮問の内容とはしていないわけでございます。しかし,やはり御指摘がありましたように,それとは違う形で政府として取り組むべきであるという御意見がございまして,特に言われておりますのは,結局,時効の問題として捉えるよりも,家の中で起きているあるいは隠れてしまっている虐待や性犯罪というものを早い段階で顕在化させ,それを関係機関がしっかりキャッチしてそれに対応すると,これが最も大事ではないかということです。そのことから今回,この法制度の改革以外のところで,関係機関例えば,児童相談所だったり警察であったり,また検察庁であったり,そういったところが相互に連携することによって,そういった隠れてしまっている部分を早い段階で,証拠等が散逸する前に顕在化させること,それをきっちりキャッチして取り組んでいくことが重要であるということで,現在その方向に向けて,この法改正とは別のところで議論しているところであります。 ○高橋会長 ほかに御意見。 ○引頭委員 ありがとうございます。私は,法曹界に身を置いていませんので,一般人として意見を述べさせていただきたいと思います。   今回の諮問101号を伺っていて最も驚きましたのは,別紙第1の強姦の罪におきまして,加害者は男性であり被害者が女性であると,明治40年制定の刑法以来そのように規定されており,今回はその改定であるということでございます。   最近の社会の様子を見ますと,先ほど御説明いただいたように,必ずしもそれが一般人の感覚と合致していないということもありまして今回の諮問になったということだと思うのですが,先ほどの小杉委員の御意見と同じように,正しい方向と思っております。   今回,強姦の罪に関しては,むしろ男女の差をなくして等しく人として捉えていくという方向性が打ち出されたと考えておりまして,大変重要だと思っております。   性犯罪というのは,物理的な不法行為もさることながら,人間の尊厳の根幹にも関わることでもあり,被害者にとっては不法行為をされた後の精神的なダメージも大変大きいと理解しています。   いろいろな性犯罪の類型もあり,先ほど御説明いただいたように,その犯罪の数も増えてきているということですが,例えば家庭内で起こったケースの一部では,強姦罪ということはなく,児童福祉法の違反案件になってしまうということも伺いました。一般の人から見ると,現在の法の整理は,少し納得がいかないといいますか,理解が難しくなっているのではないかと思います。そうした中で,繰り返しになりますが,いろいろなケースがあるとは存じますけれども,できるだけ一般の方々から見ても,その罪の類型であるとか量刑であるとかが分かりやすいように,そして納得がいくように立て付けを進めていただきたいとお願い申し上げたいと思います。 ○高橋会長 ありがとうございます。 ○佐久間委員 ありがとうございます。本件の諮問については,適切な内容だと思います。ただ,反省としては,もっと早くこういう諮問ができなかったのかという気がいたします。その意味で,この諮問がされた後は,速やかな立法に向けての作業というのがされるべきだと期待しております。 ○大塚委員 私も内容について,全体的には賛成です。   その中でも非親告罪化,この点においても加害者のいわゆる逃げ得を許さない,被害者から見れば泣き寝入りを防ぐという,そういう観点からも,非親告罪化というのは方向性としては賛成です。   ただ,1点申し上げたいのは,この非親告罪化に伴って,被害者の自らの意思に関わらず事件化されるということが可能になるわけであって,そうなった場合,被害者の心情にどのように配慮するのかというところが大事になってくると思います。   それに加えて,捜査過程や公判過程で事件がつまびらかにされることによって被害者が更に傷付くといった二次被害への対応,配慮というのをどのようにするのか,その辺が大事になってくるのではないかと思います。 ○高山委員 私も同じ意見を申し上げようと思っていたところでございます。   非親告罪化は,大多数の被害が届けられていなくて潜在化するケースが多い中で,加害者が処罰されずに犯罪が繰り返されているという実態に対して,厳正な対処という意味,それから被害者保護を図るという意味でも正しい方向であり,有意義だと思います。   ただし,非親告罪化するからには,やはり被害者のプライバシーの保護というところを何よりも配慮していただきたいと考えています。   被害者は,この被害を受けたということだけでも十分に,大変大きな精神的ダメージを負っているという状況の中で,更にそれが公になってしまう,そして,今の時代ですので,SNS等々を通じてあっという間にその情報が広がりかねないという状況にある中で,また更に精神的な,そういった傷ついたところに更に二重三重に苦しみを与えてしまう,そういう事態も起こり得るということが想定されるわけです。この報告書によりますと,新たな制度的なものは考えないという結論になっておりますけれども,例えば被害者が積極的に処罰を希望しない場合,そういう意思表示を明確にした場合においては訴追をしないとか,その辺などの仕組みももう一度再考いただけないかと思っております。   また,併せて,警察,検察,裁判といった一連のプロセスの中で,被害者の精神面に配慮される仕組みについて被害者の権利の尊重という観点から,是非手続等においても検討していただきたいと考えているところでございます。 ○高橋会長 ただいまの点,非親告罪にすることのカウンターとしてのケアの点ですが,何か事務当局で御説明いただけることはありますか。 ○林幹事 この非親告罪化をすべきであるということは,検討会の議論の中でも,犯罪被害者の方あるいは犯罪被害者を支援する関係の団体の方から多くそういった意見が出ていたわけでございます。当然,その意見につきましては,非親告罪化するときには,被害者のプライバシーの問題といったものを十分に図っていくことは当然の前提としての御意見でした。   結局のところ,親告罪であろうと非親告罪であろうと,その類型を超えて,広くその犯罪被害者の保護あるいはプライバシーの保護ということにつきましては,十分に施策を進めていくべきであるといったことで議論が整理されていたと考えております。そういった意味で,非親告罪になるからという問題を超えて,特に性犯罪のような被害者に非常に深刻な問題を与えている犯罪についてその犯罪被害者の保護をどういうふうに図っていくかということについては,それとは別の問題として議論していこうということになっておりました。 ○高橋会長 ほかに御意見。 ○山根委員 ありがとうございます。私も,性犯罪の悪質性とか重大性の理解が進んだものとして,改正案には賛成を致します。   感想ですけれども,今も出ていますし,この取りまとめ報告書の最後,終わりににも出てまいりますけれども,被害者の二次被害の防止のための施策であるとか,再犯防止のための施策ですね。これらは必ず充実が強く求められると思います。   それと,とにもかくにも,この取りまとめに当たってこれまで御協力を頂いた方々,特に被害者御本人,支援者の方々,大変な御苦労や御努力があったと思いますので,心から敬意を表したいと思います。 ○高橋会長 ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。   頂きました御意見を踏まえましても,大体諮問の方向性については委員会,この総会,賛成のようでございますが,そこで1歩進みまして,諮問第101号の審議の進め方についての御意見を賜りたいと思いますが,いかがでしょうか。 ○井上委員 井上でございます。ただいま会長の方からのお諮りのあった審議の進め方ですけれども,先ほど御紹介いただきましたように,今回の諮問事項については,かなり専門的あるいは技術的な点にわたる事項が少なからず含まれておりますので,これまでの通例に倣い,新たに部会を設けまして,そちらの方でまずは調査審議をしていただき,その結果を受けて,本総会でまた審議させていただくというのがよろしいのではないかと思いますので,そのように御提案申し上げます。 ○高橋会長 ただいま井上委員から部会設置という御意見を頂きました。いかがでしょうか。   特に御異議もないと認識いたします。   それでは,諮問第101号につきまして,新たに部会を設置して調査審議する,これでよろしいでしょうか。           (「意義なし」の声あり) ○高橋会長 ありがとうございます。   そこで,新たに設置する部会に属すべき総会委員,それから臨時委員及び幹事に関してでございますけれども,これらにつきましては,恐縮でございますが,会長に御一任いただきたいと思います。よろしいでしょうか。           (「意義なし」の声あり) ○高橋会長 ありがとうございます。   それでは,人選につきましては当職に御一任いただくということにいたします。   次に,部会の名称でございます。諮問事項との関係から,刑事法(性犯罪関係)部会という名称がいかがかと思いますが,いかがでしょうか。           (「異議なし」の声あり) ○高橋会長 よろしいでしょうか。   それでは,そのように取り計らわせていただきます。   部会で審議していただくということでございますが,部会における審議の進め方につきましても,何か御意見,御注文があればと存じますが,いかがでしょうか。   それでは,特段の御意見はないということで,諮問第101号につきましては,刑事法(性犯罪関係)部会で御審議をいただき,部会での調査審議に基づき,総会において更に御審議願うことにいたしたいと存じます。   それでは,本日審議していただく議題は以上でございます。   引き続き,法務大臣からもございましたが,現在調査審議中の部会から,その審議状況等の報告をしていただきたいと思います。本日は,商法(運送・海商関係)部会からの御報告がございます。部会長の山下友信臨時委員にお越しいただいておりますので,部会における審議状況等の御報告をしていただき,御報告後,委員の皆様から御意見を伺いたいと存じます。   では,山下部会長,報告者席までお移りください。   それでは,お願いいたします。 ○山下部会長 商法(運送・海商関係)部会の部会長を務めております山下でございます。よろしくお願いいたします。   商法(運送・海商関係)部会におけるこれまでの審議状況等につきまして御報告いたします。なお,海商とはなじみの薄い言葉かもしれませんが,商法第3編に定められている海上運送,船舶の衝突,海難救助などの規律でございます。 運送及び海商に関する規定の見直しについては,昨年2月,法制審議会第171回会議におきまして,商法制定以来の社会経済情勢の変化への対応,荷主,運送人,その他の運送関係者間の合理的な利害の調整,海商法制に関する世界的な動向への対応等の観点から,商法等のうち運送・海商関係を中心とした規定の見直しを行う必要があると思われるので,その要綱を示されたいという諮問が行われまして,商法(運送・海商関係)部会が設置されました。   部会では,物品運送及び海商に関する事項を中心に調査審議を行いまして,並行して旅客運送に関する事項につきましては,旅客運送分科会を設置して調査審議を行うこととし,これまで部会を14回,分科会を5回開催いたしました。   この間,本年3月11日の第11回部会会議におきまして,商法(運送・海商関係)等の改正に関する中間試案を取りまとめ,本年4月1日から5月22日までの間,事務当局においてパブリック・コメントに付す手続を行いました。中間試案は,お手元の資料のうち,民2-1という所にございます。   パブリック・コメントの手続では,団体から135件,個人から8件の意見が寄せられております。部会及び分科会では,本年6月以降,パブリック・コメントの結果を踏まえ,更に調査審議を行っており,本日は,これまでの調査審議の内容について,中間試案とパブリック・コメントの結果を中心に,意見の対立する箇所を含め御紹介させていただきます。   中間試案でございますが,これを御覧いただきますと,「第1部 運送法制全般について」,「第2部 海商法制について」,「第3部 その他」の3部構成になっております。   中間試案1ページ以下の第1部では,まず商法に各種運送に関する総則的規律を設け,現在は規定を欠いている航空運送にもこれを適用することや,陸上,海上,航空を組み合わせた複合運送に関する規律を設けることを掲げています。これらにつきましては,部会及びパブリック・コメントのいずれにおきましても,ほぼ肯定的な意見で一致しております。   また2ページの3(2)につきまして,現代社会における危険物の多様化に対応する等の観点から,運送品が危険物である場合に,荷送人に危険物に関する通知義務を課す規定を設けることを検討しております。ここで言う「危険物」とは,引火性,爆発性などといった危険性を有する物質を意味するものでございまして,典型例としては,ガソリンや化学薬品などが挙げられるところでございます。   この点につきまして,荷送人に危険物に関する通知義務を課す規定を設けること自体に関しては,ほぼ肯定的な意見で一致しておるのですが,その義務に違反した荷送人の損害賠償責任の在り方に関しては複数の考え方があり,中間試案では両論併記としております。   甲案は,現代では,荷物の所有者から運送の委託を受けた元請運送人が下請運送人に運送を再委託する利用運送という業態が一般的になっておりますが,この下請運送の部分につきましては元請運送人が運送の委託者として荷送人の地位に立つのですが,荷物が封印されたコンテナである場合など,元請運送人がその中身を知り得ないこともあるということなどを踏まえまして,荷送人は過失がある場合に責任を負うべきだというものでございます。   他方で,乙案は,過失のない荷送人も一律に責任を負うものとされている航空運送における実務などを踏まえ,荷送人は過失がなくても一律に責任を負うべきであるというものでございます。   パブリック・コメントでは甲案,乙案のいずれについても多数の支持の意見がございました。甲案を支持する意見は,危険物の定義には曖昧な点もあり,個別事情に応じて弾力的な判断ができるようにすべきことなどを理由としており,乙案を支持する意見は,実務上,鉄道運送の約款でも過失のない荷送人も一律に責任を負うものとされていることなどを理由としておりました。この点は,部会におきましては,今でもなお意見が大きく分かれている状況でございます。   次に,旅客運送の分科会におきましては,旅客に対する運送人の責任についても議論しております。7ページの3(1)につきまして,人命尊重の観点から,運送人の過失により旅客の生命,身体を侵害した場合に,運送人の責任を免除するような特約は無効とする旨の規律を設けるべきか否かについて,中間試案では両論併記としております。   この点について,パブリック・コメントでは,両案のいずれについても多数の支持意見がございました。新たな規律を設けることに反対する立場を支持する意見としては,このような規律があることにより,被災地への緊急の輸送などの局面で運送の引受けをちゅうちょするおそれが生ずることなどを理由としており,このような規律を設けることに賛成する立場を支持する方の意見は,旅客の生命,身体を最大限保護すべきことなどを理由としておりました。この点も,部会においてもなお意見が大きく分かれている状況でございます。   次に,7ページ以下の第2部では,海商法制に関し,全体として明治32年という商法が制定された時代から現在までの間に成立した国際条約の内容などを踏まえて,商法の規律を現代化することを掲げております。   これらのうち,船舶の衝突や海難救助に関して成立した国際条約の内容を踏まえまして,18ページの3及び21ページの6のとおり,消滅時効の期間を国際条約と整合的なものとしたり,20ページの5のとおり,環境損害の防止に配慮した規律を設けるなど,その規律を現代化する点については,部会及びパブリック・コメントのいずれにおいても,ほぼ肯定的な意見で一致しております。   他方で,23ページ以下の船舶先取特権につきましては,先に設定された抵当権にも一律に優先するという強い効力があり,そのことが抵当権者である金融機関の予測可能性を害し,船舶金融を阻害しているという指摘があることから,その範囲を限定的なものとしたり,その効力を抵当権に劣後させるなどの見直しが検討されており,この点につきましても様々な利害関係人の意見を踏まえ,中間試案では複数の考え方を掲げておりました。この点につきましても,パブリック・コメントにおきましては,船舶先取特権に関する様々な利害関係団体から多くの意見が寄せられておりまして,中でも現行法を維持すべきであるという意見が多数寄せられました。   最後の26ページの第3部では,商法の特別法として,国際海上物品運送に適用される法律であります国際海上物品運送法等に関しまして,その基となっている国際条約の解釈の変化に対応する必要があるなど,その見直しの必要性が指摘されている論点を掲げており,パブリック・コメントにおきまして意見が分かれた点も一部にございました。   先ほど申し上げましたとおり,幾つかの箇所でなお意見が分かれている状況ではございますが,パブリック・コメントの結果も踏まえ,また,皆様の御意見を十分に伺いながら,引き続き調査審議を継続してまいりたいと考えております。   私からは以上でございます。 ○高橋会長 どうもありがとうございました。   それでは,ただいまの山下部会長からの審議経過報告につきまして,御質問,御意見がございましたらお願いいたします。   諮問のときに既に話が出たはずでありますが,もう一回リマインドする意味で,商法制定以来,片仮名の法律ということなのでしょうか。会社法はしょっちゅう変わるのに,なぜこうなっているのかということとか,あるいは約款との関係ですか,要するに法律以外のところで実質の対処が進んでいる,あるいはなされている,そのようなところの関係をもう一度リマインドしていただくと,我々,総会のときに審議がうまくいくと思うのですが,ちょっと抽象的な質問で恐縮でございますが。 ○小川幹事 幹事の民事局長の小川でございます。よろしくお願いいたします。事務局の方からお答えいたします。   今,会長のお話がありましたように,商法の分野は,これまで会社法を中心として,社会経済情勢の変化に対応する課題をこなしてまいりました。御承知のとおり,会社法の制定を始めといたしまして,幾度も大きな改正が行われてまいりました。   他方で,運送ですとか海商の関係につきましては,これも御指摘いただきましたように,約款などによって対応が進められていたという状況だろうと思っています。その関係もあって見直しの着手が遅れてしまったというところを認めざるを得ないと考えております。   しかし,やはり運送といいましても,国民にとって非常に身近なルールであるわけで,それが旧態依然のままであるということは相当ではございませんので,やはり現代社会に適合したルールを明確化する必要があると考えられるわけでございます。そこで,法制審議会の調査審議をお願いしたわけでございまして,この調査審議の結果を踏まえまして,事務当局といたしましても,可能な限り速やかに規律の現代化を図っていきたいと考えております。   以上でございます。 ○高橋会長 ほかに御質問,御意見はいかがでしょうか。   よろしいでしょうか。   それでは,山下部会長,どうもありがとうございました。商法部会では引き続き御審議のほど,お願いいたします。   こちらで予定しておりましたものは以上でございますが,せっかくの機会でございますので,何か法制審議会全般につきましての御意見がございましたら,お伺いしたいと存じます。   よろしいでしょうか。   それでは,最後に議事録の点でございます。本日の会議における議事録の公開方法につきまして,審議の内容等々を考えますと,会長の私といたしましては,議事録の発言者名を全て明らかにして公開するということでよろしいのではないかと思っておりますが,いかがでしょうか。           (「異議なし」の声あり) ○高橋会長 ありがとうございます。   それでは,本日の会議における議事録につきましては,発言者名を全て明らかにして公開することといたします。なお,もちろんのことでございますが,本日の会議の内容につきましては,後日,御発言を頂いた委員等の皆様には議事録案をメール等にてお送りいたします。御発言の内容を確認していただいた上で,法務省のウェブサイトに公開するということにいたします。   それでは,最後に,事務当局から事務連絡をお願いいたします。 ○萩本関係官 次回の会議の開催予定について御案内申し上げます。   法制審議会は,2月と9月に開催するのが通例となっておりまして,次回の総会の開催日程につきましても,現在のところ,例年どおり来年2月に御審議をお願いする予定でございます。具体的な日程につきましては,後日改めて御相談させていただきたいと存じます。委員・幹事の皆様方におかれましては,御多忙とは存じますが,今後の御予定につき御配慮いただきますようお願い申し上げます。   以上でございます。 ○高橋会長 それでは,これで本日の会議を終了といたします。本日は熱心な御論議をいただき,誠にありがとうございました。 -了-