法制審議会 刑事法(性犯罪関係)部会 第1回会議 議事録 第1 日 時  平成27年11月2日(月) 自 午前 9時15分                       至 午前11時41分 第2 場 所  法務省第一会議室 第3 議 題  1 部会長の選出等について         2 諮問の経緯等について         3 性犯罪の実態に即した対処をするための罰則の整備について         4 その他 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○中村幹事 予定の時刻になりましたので,ただいまから法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会の第1回会議を開催いたします。 ○林委員 法務省の刑事局長の林でございます。本日は御多忙中のところ,朝早くから審議のためにお集まりいただきまして,誠にありがとうございました。部会長が選任されるまでの間,慣例により私が進行を務めさせていただきます。   まず,お集まりの委員や幹事の方々におかれましては,初対面の方も多いと思いますので,そこで,まず簡単にそれぞれの御所属,お名前等を伺えればと存じます。なお,本日は高橋宏志法制審議会会長にも御出席をいただいておりますので,まず御紹介いたします。   また,後ほど出席の承認の手続をお願いいたしますが,関係官の方にもお越しいただいておりますので,併せて自己紹介をお願いいたします。   それでは,恐縮でございますが,井田委員からよろしくお願いいたします。着席順にお願いいたします。 ○井田委員 慶應義塾大学で刑法を教えております井田と申します。よろしくお願いします。 ○今井委員 法政大学で刑法を教えております今井と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 ○小木曽委員 中央大学で刑事訴訟法を担当しております小木曽です。よろしくお願いします。 ○北川委員 早稲田大学で刑法を担当しています北川佳世子です。どうぞよろしくお願いします。 ○木村委員 首都大学東京で刑法を教えております木村でございます。よろしくお願いいたします。 ○小西委員 武蔵野大学で臨床心理学を教えております精神科医です。小西と申します。専門はトラウマと被害者心理ということで,よろしくお願いします。 ○佐伯委員 東京大学で刑法を教えております佐伯でございます。よろしくお願いいたします。 ○池田幹事 神戸大学で刑事訴訟法を担当しております池田と申します。よろしくお願いいたします。 ○岡本幹事 内閣法制局で参事官をしております岡本と申します。よろしくお願いいたします。 ○香川幹事 最高裁刑事局第一課長をしております香川徹也と申します。よろしくお願いいたします。 ○齋藤幹事 被害者支援都民センターで被害者支援をしております臨床心理士の齋藤と申します。目白大学にも勤めております。よろしくお願いいたします。 ○武内幹事 弁護士の武内です。よろしくお願いします。 ○田中幹事 警察庁の捜査一課長をしております田中と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 ○橋爪幹事 東京大学で刑法を担当しております橋爪と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 ○小林関係官 内閣府の男女共同参画局におります小林と申します。よろしくお願いいたします。 ○塩見委員 京都大学で刑法を教えております塩見と申します。よろしくお願いいたします。 ○田邊委員 東京地方裁判所で刑事事件を担当しております裁判官の田邊と申します。よろしくお願いいたします。 ○角田委員 第二東京弁護士会の角田由紀子と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 ○平木委員 最高裁判所事務総局刑事局長の平木でございます。よろしくお願いいたします。 ○三浦委員 警察庁で刑事局長をしております三浦でございます。どうぞよろしくお願いいたします。 ○宮田委員 第一東京弁護士会所属の宮田と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 ○森委員 最高検察庁検事の森でございます。どうぞよろしくお願いいたします。 ○山口委員 早稲田大学で刑法を担当しております山口でございます。どうぞよろしくお願いいたします。 ○松尾関係官 法務省特別顧問を務めております松尾浩也です。私が法制審議会の幹事に初めて就任しましたのは1965年のことでありましたから,ちょうど50年たちまして,いささかの感慨もございます。どうぞよろしく。 ○松下幹事 法務省刑事局で刑事課長をしております松下と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 ○上冨委員 法務省大臣官房審議官をしております上冨と申します。よろしくお願いいたします。 ○林委員 改めまして,法務省刑事局長林でございます。よろしくお願いいたします。 ○加藤幹事 法務省刑事局刑事法制管理官の加藤です。よろしくお願いいたします。 ○中村幹事 法務省刑事局刑事法制企画官をしております中村でございます。よろしくお願いいたします。 ○林委員 どうもありがとうございました。   次に,部会長の選任に移りたいと存じます。法制審議会令第6条第3項により,部会長は部会に属すべき委員及び臨時委員の互選に基づき,会長が指名することとされております。   そこで,早速,当部会の部会長を互選することといたしたいと存じますが,御質問等ございますでしょうか。   それでは,この互選に関しまして,皆様の御意見を伺いたいと存じます。どなたか御発言をお願いいたします。 ○井田委員 山口厚委員を御推薦申し上げたいと思います。山口委員は学識,経験ともに豊かな刑法学の第一人者であられますし,また,先般の「性犯罪の罰則に関する検討会」でもいろいろな意見が出る中,実に見事な交通整理役,また取りまとめ役を務めてくださいましたので,最適任であると確信しております。 ○林委員 ただいま,井田委員から山口厚委員を部会長に推薦する旨の御提案がございましたが,この御提案に対しまして御意見はございませんでしょうか。   御意見はないようでございます。部会長には山口厚委員が互選されたということでよろしゅうございましょうか。 (「異議なし」の声あり)   ありがとうございます。   それでは,ただいまの議事のとおり部会長には山口委員が互選されましたので,高橋法制審議会会長に部会長の御指名をお願いいたします。 ○高橋会長 ただいまの御説明のとおり,部会長につきましては互選に基づいて会長が指名するということになっております。   そこで,ただいま互選されました山口厚委員を部会長に指名いたします。山口部会長,御審議,よろしくお願いいたします。 (山口委員 部会長席に移動) ○山口部会長 ただいま,部会長の御指名をいただきました山口でございます。充実した審議を円滑に進めてまいることができますよう部会を運営してまいりたいと存じますので,皆様方にはくれぐれもよろしく御支援,御協力をお願い申し上げます。   高橋会長は,ここで御退室になられます。 (高橋会長 退室) ○山口部会長 まず,法制審議会令第6条第5項により,部会長に事故があるときに,その職務を代行する者をあらかじめ部会長が指名しておくこととされておりますので指名をさせていただきたいと思います。   井田良委員にお願いをしたいと思います。よろしゅうございましょうか。 (「異議なし」の声あり)   井田委員,どうぞよろしくお願いいたします。   次に,関係官の出席の承認の件でございますが,法務省特別顧問の松尾浩也先生及び内閣府男女共同参画局推進課暴力対策推進室長の小林明生氏にそれぞれ関係官として,当部会に出席していただきたいと考えておりますが,よろしゅうございましょうか。 (「異議なし」の声あり)   それでは,松尾特別顧問及び小林室長には,当部会の会議に御出席をお願いするということにしたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。   次に,当部会の議事録の取扱いについてでございますが,法制審議会の部会における議事録の作成,公表方法等につきましては,平成23年6月6日の法制審議会第165回会議におきまして,発言者名を記載した議事録を作成して,原則としてこれを公表することとするとともに,一定の場合には発言者名等を明らかにしないことができるとされております。   その法制審議会での議論の詳細等につきまして,事務当局から御説明をお願いしたいと思います。 ○中村幹事 法制審議会の総会におけます議事録の取扱い等に関する審議,決定の状況について説明申し上げます。   平成23年7月1日に公文書管理法が施行されたことに伴い,内閣総理大臣決定といたしまして,行政文書の管理に関するガイドラインが定められ,審議会の議事録につきましては発言者名を記載した議事録を作成する必要があるものとされました。   その趣旨からいたしますと,法制審議会総会及び部会のいずれにつきましても,発言者名を記載した議事録を作成すべきものとなります。その上で平成23年6月6日に開催されました法制審議会第165回会議におきまして,議事録の公開方法について改めて審議がなされました結果,その公開方法については次のとおりとすることが決定されました。   すなわち,まず総会につきましては,発言者名を明らかにした議事録を公開することを原則とする一方,法制審議会の会長において委員の意見を聞いて,審議事項の内容,部会の検討状況や報告内容のほか,発言者等の権利利益を保護するため当該氏名を公にしないことの必要性,率直な意見の交換又は意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれの有無などを考慮し,発言者名等を公開するのが相当でないと認められる場合には,これを明らかにしないことができることとされました。   また,部会につきましても,発言者名を明らかにした議事録を公開することを原則としつつ,それぞれの諮問に係る審議事項ごとに総会での取扱いに準じて発言者名等を公表するのが相当でないと認められる場合には,これを明らかにしないことができることとされました。   したがいまして,当部会におきましても,原則として発言者名を明らかにした議事録を作成するものの,部会長におかれて委員の御意見をお聞きし,ただいま申し上げたような諸要素を考慮して,発言者名等を公表することが相当でないと認められる場合には,これを明らかにしないこととすることができることとなります。 ○山口部会長 ただいまの御説明に対しまして,何か御質問等ございますでしょうか。   もし御質問がないようでしたら,ただいまの御説明を踏まえて考えますと,当部会における審議の内容を広く国民の皆さんに知っていただくという観点からも,発言者名を明らかにした議事録を公開することが相当ではないかと考えるところでございます。   そこで,私といたしましては,原則として発言者名を明らかにした議事録を作成いたしまして,法務省のホームページ上において公表するという取扱いにしたらよろしいのではないかと考えております。   もっとも,ただいまの御説明にもございましたが,審議事項の内容,その他の事項を考慮いたしまして,発言者の氏名を公表するのが相当でないと考えられるような場合は,その都度,皆様にお諮りして,部分的に公表しない措置を採ることとしたいと考えておりますが,いかがでございましょうか。よろしゅうございましょうか。 (「異議なし」の声あり)   ありがとうございました。   それでは,議事録につきましては,発言者名を明らかにしたものを作成して,これを原則として公開するという取扱いにさせていただきたいと思います。   それでは,先の法制審議会総会におきまして,当部会で調査,審議するよう決定のありました諮問第101号について審議を行います。まず,諮問を朗読していただきます。 ○中村幹事 朗読いたします。   諮問第百一号 近年における性犯罪の実情等に鑑み,事案の実態に即した対処をするための罰則の整備を早急に行う必要があると思われるので,別紙要綱(骨子)について御意見を賜りたい。   別紙 要綱(骨子)。   第一 強姦の罪(刑法第百七十七条)の改正。      暴行又は脅迫を用いて十三歳以上の者を相手方として性交等(相手方の膣内,肛門内若しくは口腔内に自己若しくは第三者の陰茎を入れ,又は自己若しくは第三者の膣内,肛門内若しくは口腔内に相手方の陰茎を入れる行為をいう。以下同じ。)をした者は,五年以上の有期懲役に処するものとすること。十三歳未満の者を相手方として性交等をした者も,同様とすること。   第二 準強姦の罪(刑法第百七十八条第二項)の改正。      人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ,又は心神を喪失させ,若しくは抗拒不能にさせて,性交等をした者は,第一の例によるものとすること。   第三 監護者であることによる影響力を利用したわいせつな行為又は性交等に係る罪の新設。    一 十八歳未満の者に対し,当該十八歳未満の者を現に監護する者であることによる影響力を利用してわいせつな行為をした者は,刑法第百七十六条の例によるものとすること。    二 十八歳未満の者を現に監護する者であることによる影響力を利用して当該十八歳未満の者を相手方として性交等をした者は,第一の例によるものとすること。    三 一及び二の未遂は,罰するものとすること。   第四 強姦の罪等の非親告罪化。    一 刑法第百八十条を削除するものとすること。    二 刑法第二百二十九条を次のように改めるものとすること。       第二百二十四条の罪及びこの罪を幇助する目的で犯した第二百二十七条第一項の 罪並びにこれらの罪の未遂罪は,告訴がなければ公訴を提起することができない。   第五 集団強姦等の罪及び同罪に係る強姦等致死傷の罪(刑法第百七十八条の二及び第百八十一条第三項)の廃止。      刑法第百七十八の二及び第百八十一条第三項を削るものとすること。   第六 強制わいせつ等致死傷及び強姦等致死傷の各罪(刑法第百八十一条第一項及び第二項)の改正。    一 刑法第百七十六条若しくは第百七十八条第一項若しくは第三の一の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯し,よって人を死傷させた者は,無期又は三年以上の懲役に処するものとすること。    二 第一,第二若しくは第三の二の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯し,よって人を死傷させた者は,無期又は六年以上の懲役に処するものとすること。   第七 強盗強姦及び同致死の罪(刑法第二百四十一条)並びに強盗強姦未遂罪(刑法第二百四十三条)の改正。    一 次の1に掲げる罪又は次の2に掲げる罪の一方を犯した際に他の一方をも犯した者は,無期又は七年以上の懲役に処するものとすること。ただし,いずれの罪も未遂罪であるときは,その刑を減軽することができるものとすること。     1 第一若しくは第二の罪若しくはこれらの罪の未遂罪又は第六の二の罪(第三の二の罪に係るものを除き,人を負傷させた場合に限る。)。 2 刑法第二百三十六条,第二百三十八条若しくは第二百三十九条の罪若しくはこれらの罪の未遂罪又は同法第二百四十条の罪(人を負傷させた場合に限る。)。 二 一ただし書の場合において,自己の意思によりいずれかの犯罪を中止したときは,その刑を減軽し,又は免除するものとすること。 三 一の1に掲げる罪又は一の2に掲げる罪の一方を犯した際に他の一方をも犯し,いずれかの罪に当たる行為により人を死亡させた者は,死刑又は無期懲役に処するものとすること。 ○山口部会長 では,次に事務当局から諮問事項について説明をしていただきます。 ○林委員 まず私から,諮問第101号につきまして提案に至りました経緯について御説明を申し上げます。   性犯罪の罰則につきましては明治40年の現行刑法制定以来,昭和33年の刑法改正により,輪姦形態による強姦罪等が非親告罪化され,平成16年の刑法改正により法定刑の引上げなどの改正が行われましたが,構成要件等は制定当時のものが基本的に維持されてまいりました。   しかし,近年,現行法の性犯罪に対する罰則は必ずしも近時の性犯罪の実態に即したものとなっていないのではないかなどの観点から,様々な指摘がなされております。例えば平成16年の刑法改正の際や平成22年の刑法及び刑事訴訟法の改正の際には,衆参両議院の法務委員会による附帯決議において,性犯罪の罰則の在り方について更に検討することが求められております。   平成22年に閣議決定された第3次男女共同参画基本計画においては,女性に対するあらゆる暴力の根絶に向けた施策の一環として,強姦罪の見直しなど性犯罪に関する罰則の在り方を検討することとされています。   法務省におきましては,これらの指摘等を踏まえ,平成26年10月から刑事法研究者,法曹三者,被害者支援団体関係者等からなる「性犯罪の罰則に関する検討会」を開催し,性犯罪の罰則の在り方に関する多くの論点について検討を行ってまいりましたところ,同検討会においては,強姦罪等を非親告罪化すること,肛門性交等を強姦罪と同等に処罰すること,地位・関係性を利用した性的行為に関する罰則を設けること,強姦罪等の法定刑の下限を引き上げること,強姦犯人が強盗を犯した場合も強盗強姦罪と同じ法定刑で処罰する規定を設けることにつきまして,法改正を要するとの意見が多数でございました。   法務省におきましては,この検討結果等を踏まえ,性犯罪被害の実態や事案に即した対処をするため罰則の整備を行う必要があると考え,今回の諮問に至ったものでございます。今回の諮問に際しましては,事務当局において検討した案を要綱(骨子)としてお示ししておりますので,この案を基に具体的な御議論をお願いしたいと思います。   その内容の趣旨等については幹事に説明をさせます。十分,御審議の上,できる限り速やかに御意見を賜りますようお願い申し上げます。 ○加藤幹事 続いて,要綱(骨子)の概要について説明いたします。   要綱(骨子)の各項目の趣旨の詳細につきましては,それぞれの項目に関して御審議をいただく際に説明申し上げますので,ここでは要綱(骨子)を作成いたしました際の考え方を中心に概略を申し上げます。   要綱(骨子)につきましては先ほど朗読いたしましたが,御手元の資料1,説明の際に出てまいります関係条文については資料9につづってございますので,適宜,御参照いただきながらお聞き取りください。   要綱(骨子)第一は,強姦罪について規定する刑法177条の改正に関するものであり,同条において処罰の対象とされている行為を拡張するとともに,その法定刑の引上げを行おうとするものです。   まず,対象行為の拡張について申し上げます。現行法において刑法177条の罪は,同法176条に規定する強制わいせつ罪に当たる行為の一部を特別に重く処罰する加重類型であると理解されており,その対象となる行為は「女子」に対する「姦淫行為」に限られています。要綱(骨子)第一は,その対象となる行為を拡張して,その客体を「女子」に限定しないことととするとともに,被害者の膣内に陰茎を入れることに加え,被害者の肛門内又は口腔内に陰茎を入れることをも含むものとし,更に行為者又は第三者の膣内,肛門内又は口腔内に被害者の陰茎を入れる行為をも含むものとしています。要綱(骨子)第一におきましては,このような行為を総称して「性交等」と表現しております。   このような改正を行おうとする考え方について申し上げますと,現行法において強制わいせつ罪に問擬されている行為の中でも,いわゆる肛門性交及び口淫は陰茎の体腔内への挿入という濃厚な身体的接触を伴う性交渉を強いられるものであって,姦淫と同等の悪質性,重大性があると考えられますことから,姦淫と同様に加重処罰の対象とすることが適当であり,また,このような行為により身体的,精神的に重大な苦痛を伴う被害を受けることは,被害者の性別によって差はないと考えられたことによります。   次に,法定刑の引上げについて申し上げます。現行法においては刑法177条の罪の法定刑の下限は懲役3年とされておりますが,要綱(骨子)第一においては,これを懲役5年に引き上げようとしています。これは,最近における性犯罪の法定刑に関する様々な指摘や現実の量刑状況に鑑みますと,強姦罪の悪質性,重大性に対する現在の社会一般の評価は,強盗罪,現住建造物等放火の罪に対する評価を下回るものではないと考えられたことなどから,その法定刑の下限をこれらの罪と同様に懲役5年に引き上げようとするものであります。   次に要綱(骨子)第二は,準強姦罪について規定する刑法178条2項の改正に関するものです。現行の同項の罪は刑法177条の罪と行為の手段,方法を異にいたしますが,女子を姦淫する行為を処罰する点では共通しており,その罪質も同様のものと考えられますので,刑法178条2項の罪についても要綱(骨子)第一におけるのと同様に,対象とする行為を拡張し,法定刑を引き上げようとするものです。 (齋藤幹事 退室)   次に要綱(骨子)第三の一から三までは,監護者であることによる影響力を利用したわいせつ行為及び性交等に係る罰則の新設に関するものです。具体的には,18歳未満の者を現に監護する者であることによる影響力を利用して,当該18歳未満の者に対し,わいせつな行為をし,あるいは当該18歳未満の者を相手方として性交等をした者について,強制わいせつ罪ないし要綱(骨子)第一の罪と同様の処罰の対象としようとするものであり,これらの行為の未遂も罰することとするものであります。   現行法においては,不同意のわいせつ行為又は性交であって,違法性が高く,かつ,悪質であると類型的に認められるものとして,暴行又は脅迫を用いてなされたもの及び心神喪失又は抗拒不能に乗じるなどしてなされたものを処罰の対象としています。しかしながら,被害者の意思に反して行われる親子間の性交が,強姦罪ではなく,より軽い児童福祉法違反等で処分されている現状等に鑑みますと,被害者の意思に反して行われる性交ないし性交類似行為等の中には,暴行又は脅迫を用いることなく,かつ,心神喪失又は抗拒不能に乗じるなどするものでなくても,現行法の強姦,強制わいせつに当たる行為と同様に悪質であり,同等の当罰性があるものが存在すると考えられます。   そこで要綱(骨子)第三の一及び二においては,行為者が18歳未満の被害者を現に監護しているという関係がある場合には,行為者が被害者に対して性交等を求めたときに被害者がその意思に反して性交等に応じざるを得なくなるという影響力が類型的に認められることに着目し,被害者を現に監護する者であることによる影響力を利用して行う性交等の行為について,強姦罪等と同様に処罰する規定を設けようとするものであります。   なお,ここで用いられております「監護する」というのは,民法に親権の効力として定められているところと同様に,「監督し保護すること」を意味しますが,法律上の監護権に基づくものでなくても,事実上,現に18歳未満の者を監督し保護する関係にあれば,要綱(骨子)第三の「現に監護する」には該当し得るものと考えております。   次に,要綱(骨子)第四の一及び二は,強姦罪等の非親告罪化に関するものです。そのうち,要綱(骨子)第四の一は現行刑法180条が同法176条から178条までの罪,すなわち強制わいせつ罪,強姦罪,準強制わいせつ罪及び準強姦罪並びにこれらの罪の未遂罪を親告罪としておりますところ,この規定を削除しようとするものです。   また,要綱(骨子)第四の二は同法229条において親告罪とされている略取・誘拐の罪のうち,わいせつ目的及び結婚目的の略取・誘拐の罪,並びにこれらの罪を幇助する目的で犯した被拐取者引渡し等に加え,これらの罪の未遂罪を非親告罪とするとともに,略取・誘拐等の犯人と被害者とが結婚した場合における告訴の効力に関する特例を定める同法229条ただし書を削除しようとするものです。   このような改正を行おうとする考え方について申し上げますと,現行法においては被害者のプライバシー等を保護する観点から,強姦罪を始めとする性犯罪を親告罪としておりますが,現状においては被害者において告訴するか否かの選択が迫られているように感じられる場合があるなど,親告罪であることにより,かえって被害者に精神的な負担を生じさせていることが少なくない状況に至っていると認められましたことなどから,これらの罪を非親告罪化し,併せてわいせつ・結婚目的の略取・誘拐の罪が親告罪とされていることを前提とする規定であると考えられる刑法229条ただし書を削除しようとするものであります。   次に,要綱(骨子)第五は,集団強姦等の罪及び集団強姦等致死傷の罪の廃止に関するものであり,具体的には集団強姦等の罪について規定する刑法178条の2及び集団強姦等致死傷の罪について規定する同法181条3項を削除しようとするものです。要綱(骨子)第一及びこの後御説明いたします第六の二のとおり,強姦罪の法定刑の下限を懲役5年とし,強姦等致死傷の罪の下限を懲役6年に引き上げることといたしますと,それぞれ現行の集団強姦等の罪,集団強姦等致死傷の罪の法定刑の下限以上のものとなります。その結果,集団強姦等の罪などを廃止しても,2人以上が現場で共同して行う強姦等については,引き上げられた法定刑の範囲内で量刑上考慮することにより適切な科刑が可能となりますことから,集団強姦等の罪などを廃止しようとするものです。   次に,要綱(骨子)第六の一及び二は,強制わいせつ等致死傷罪及び強姦等致死傷罪について規定する刑法181条1項及び2項の改正に関するものであり,要綱(骨子)第一及び第二における構成要件の変更,並びに同第三における犯罪類型の新設を反映させた上,要綱(骨子)第六の二において強姦等致死傷罪の法定刑を引き上げようとするものです。   そのうち,強姦等致死傷罪の法定刑の引上げについて申し上げますと,現行法における同罪の法定刑は,無期又は5年以上の懲役とされておりますところ,その下限を懲役6年にしようとするものであり,基本犯たる同法177条の法定刑の下限を引き上げることに伴い,結果的加重犯を規定する同法181条2項の法定刑も引き上げようとするものであります。   最後に,要綱(骨子)第七の一から三までは,強姦と強盗とを同一機会に行った場合の罰則の整備に関するものであります。そのうち要綱(骨子)第七の一は,同一の機会において強姦行為と強盗行為とを行った場合につき,現行法の強盗強姦罪と同様の法定刑で処罰できるようにしようとするものです。   このような改正をしようとする考え方を申し上げます。現行刑法241条前段におきましては,強盗犯人が強姦をした場合について,強盗強姦罪として無期又は7年以上の懲役という重い法定刑が規定されていますが,強姦犯人が強盗をした場合についてはこのような規定は設けられておらず,一般的な併合罪に関する規定に従って,その処断刑は5年以上30年以下の懲役となります。   しかしながら,同じ機会にそれぞれ単独でなされてもなお悪質な行為である強盗行為と強姦行為との双方を行うことの悪質性,重大性に着目いたしますならば,これまで強姦罪と強盗罪との併合罪が成立するとされていた場合についても,強盗強姦罪と同様の刑をもって処罰することができるようにすることが必要であり,また,相当であると考えられます。   現行法における強盗強姦罪については,判例上,強盗の機会に強姦を犯した場合に成立するものと理解されておりますが,要綱(骨子)第七の一の罪についてもこれと同じ範囲で,すなわち同一の機会に強姦行為と強盗行為とを犯した場合に,この罪の成立を認めようとする趣旨であり,「一方を犯した際に」の「際に」という文言は,その意味で用いております。   更に要綱(骨子)第七の一ただし書は,強姦行為と強盗行為とがいずれも未遂に終わった場合について,刑を減軽することができるとするものです。これは強姦行為と強盗行為のいずれもが未遂である場合については,刑法43条本文における未遂犯と同様に,刑の任意的減軽を可能とすることが適当であると考えられますが,この場合について,単に「第七の一の罪の未遂は罰する。」などと規定するのみでは,いずれの行為を基準に未遂か既遂かを判断するのかが判然といたしませんので,この点を明らかにするため,このただし書を設けたものでございます。   なお,要綱(骨子)第七の一においては,この罪を構成する強姦行為と強盗行為とのいずれか一方でも既遂であった場合には,刑の任意的減軽は認めないことといたしております。   次に,要綱(骨子)第七の二は,同一の機会になされた強姦行為と強盗行為とがいずれも未遂の場合において,いずれかの行為について自己の意思で中止した場合には,刑法43条ただし書のいわゆる中止犯におけるのと同様に,その刑を必要的に減免すべきものとしようとするものであります。   さらに,要綱(骨子)第七の三は,同一の機会に強盗行為と強姦行為がなされた上に,そのいずれかの行為を原因として死の結果が生じた場合について,現行刑法241条後段の強盗強姦致死罪と同様の法定刑で処罰することとするものです。現行法においては,一般に強盗の機会に行われた姦淫行為又はその手段である暴行・脅迫から死の結果が生じた場合に強盗強姦致死罪が成立するものと理解されておりますが,要綱(骨子)第七の三の罪は,強姦行為と強盗行為とが同一の機会になされた場合において,その行為の先後等を問わず,いずれかの罪に当たる行為から死の結果が生じたときに成立することとするものであります。   また,判例によれば,強盗強姦の機会に殺意を持って被害者を死亡させた場合には,強盗強姦致死罪ではなく,強盗殺人罪と強盗強姦罪とが成立し,それらの罪は観念的競合となるとされていますが,要綱(骨子)第七の三の罪は,殺意を持って人を死亡させた場合を含むものとしようとしております。 ○山口部会長 次に事務当局から配布資料についての御説明をお願いしたいと思います。 ○中村幹事 それでは,配布資料の説明をいたします。御審議の参考にしていただくために席上に資料27点を御用意させていただきましたので,その内容などにつきまして,ごく簡単ではございますけれども,御説明申し上げます。   まず,資料番号1は先ほど朗読いたしました諮問第101号でございます。   資料番号2は先ほど林委員からの説明でも触れました第3次男女共同参画基本計画の抜粋でございます。女性に対するあらゆる暴力の根絶に向けた施策の一環として,「強姦罪の見直しなど,性犯罪に関する罰則の在り方を検討する」とされております。   続いて,資料番号3でございます。資料番号3は男女共同参画会議の下に置かれております「女性に対する暴力に関する専門調査会」による報告書の抜粋でございます。先ほどの第3次男女共同参画基本計画の下における同専門調査会による調査,検討結果をまとめたものでありまして,5ページ以下におきまして「強姦罪の見直し」として,非親告罪化や構成要件の見直しなどについて指摘がされております。   次は資料番号4です。資料番号4は林委員の御説明にありました近年における性犯罪の罰則に関わる刑法,刑事訴訟法の改正経過やその際の国会での附帯決議についてまとめたものでございます。   資料番号5は国連の各委員会による我が国の性犯罪の罰則等に関する見解をまとめたものでございます。非親告罪化や法定刑の引上げなど,様々な指摘がなされております。   次に資料番号6は自由民主党の女性活躍推進本部が本年6月に取りまとめ,政府に提出した提言の抜粋でございます。強姦罪の保護法益や法定刑などについて検討を求める内容となっております。   次に,資料番号7は,先ほど林委員が説明の中で触れました「性犯罪の罰則に関する検討会」の取りまとめ報告書でございます。   資料番号8は,性犯罪の認知・検挙件数の推移に関する資料であります。赤色で示しておりますのが強姦,青色で示しておりますのが強制わいせつでありまして,実線が認知件数,点線が検挙件数を示しております。   資料番号9は,参照条文です。要綱(骨子)に関係する刑法の条文のほか,性犯罪に関連する特別法などの規定として,児童福祉法などの条文も記載してございます。   次に,資料番号10−1,資料番号10−2は,「性犯罪の罰則に関する検討会」におきまして,性犯罪に関する御知見や御意見をお持ちの方からヒアリングを行った際の議事録でございます。この部会におきましても御参考にしていただければと考えております。   資料番号11−1から11−7までは主要国における性犯罪に関する条文の和訳でございます。アメリカにおきましては州ごとに法律が異なっておりますので,代表例としてミシガン州,ニューヨーク州,カリフォルニア州の条文を挙げております。そのほかイギリス,フランス,ドイツ,韓国の条文を挙げております。   資料番号12からは,要綱(骨子)の個々の論点に関する資料となっております。まず12から15までは性犯罪の構成要件に関する資料であります。要綱(骨子)第一のほか,第二,第六に関係するものであります。資料番号12は主要国の法制度におきまして,強姦罪の行為者や被害者についてどのように規定されているのか,また,我が国でいうところの強姦罪と強制わいせつ罪のような分類がどのようになされているのかについて整理した資料でございます。   資料番号13は,我が国において強制わいせつ罪,強姦罪が制定された歴史的経緯に関する資料であります。我が国におきましては明治3年の新律綱領は強姦罪に相当する罪のみを規定しておりました。その後,明治13年の旧刑法におきまして,強制わいせつ罪が置かれ,以後,現行刑法においても強制わいせつ罪と強姦罪が規定されております。   次に,資料番号14でございます。資料番号14は,肛門性交や口淫を含む事例に関する資料であります。事務当局におきまして,平成25年1月から平成26年11月までの期間に公判請求された事件のうち,肛門性交,口淫,異物挿入の三つの類型について,それぞれの行為を含む強制わいせつの事案を調査して,把握できたものをまとめたものでございます。   資料番号15は女性が加害者,男性が被害者となった性交の事例に関する資料であります。事務当局において把握できた範囲ですが,平成26年1月から12月までの1年間に公判請求された事案で,女性を加害者,男性を被害者とする性交の事例について把握できたものが2件ございました。   次に,資料番号16からは法定刑に関する資料であります。要綱(骨子)の第一,第二,第五,第六に関係するものです。資料番号16は諸外国の性犯罪及び強盗罪に関する法定刑について,表の形式でまとめたものでございます。   資料番号17は,我が国における性犯罪の法定刑に関する改正経過をまとめたものであります。強制わいせつ罪や強姦罪などの法定刑は,明治40年の現行刑法制定時から平成16年の刑法改正までは改正がありませんでした。平成16年の刑法改正におきましては,強制わいせつ罪の法定刑の上限を7年から10年に,強姦罪の法定刑の下限を2年から3年に,強姦致死傷罪の法定刑の下限を5年に引き上げたほか,集団強姦罪,集団強姦致死傷罪を新たに創設いたしました。   次に,資料番号18は最高裁判所から提供していただきましたデータを基に,事務当局において作成した量刑に関する資料でございます。この資料の3ページ目を御覧ください。右下に3/16と書いているところです。強姦罪につきましては,平成12年から14年におきましては濃い青色の線で示しておりますとおり,懲役2年を超え3年以下の事件が50%を占め,最も多かったところですけれども,平成24年から平成26年におきましては水色の線で示しておりますとおり,懲役3年を超え,5年以下の事件が40%近くを占めて最も多くなっておりまして,全体として重い量刑の事件の割合が増加してきています。   次のページを御覧ください。強姦致死傷罪につきましては,平成12年から14年におきましては濃い青色の線で示しておりますとおり,懲役2年を超え3年以下の事件が40%近くを占めていて,最も多かったところですけれども,平成24年から26年におきましては水色の線で示しておりますとおり,懲役5年を超え,7年以下の事件が最も多く,約25%となっておりまして,全体として重い量刑の事件の割合が増加してきていることが見て取れます。   また,先ほど要綱(骨子)の御説明の中で触れました強盗罪や現住建造物等放火罪について御説明いたします。右下のページ番号で7/16を御覧ください。7ページです。強盗罪の量刑を見ていただきますと,平成24年から26年におきましては懲役2年を超えて3年以下の量刑が最も多くなっております。   次に,13ページを御覧ください。13/16と書いてあるところであります。13ページの現住建造物等放火について見ますと,これも懲役2年を超えて3年以下の量刑が最も多いことが見て取れます。   資料番号19から22までですけれども,資料番号19から22は要綱(骨子)第三に関する資料でございます。資料番号19は地位・関係性を利用した性的行為に関する主要国の法制度の概要をまとめた資料であります。地位・関係性を利用した場合の規定につきましては各国それぞれ様々な規定が設けられておりますけれども,その多くは地位・関係性がある場合には通常の強姦罪と比較して,成立要件を緩和した上で,より軽い法定刑を規定するという,いわゆる軽減類型として規定されております。   次に,資料番号20は我が国における地位・関係性を利用した性的行為に関する過去の議論の経緯をまとめたものであります。旧刑法制定前の日本刑法草案会議における議論におきましては,一定の地位・関係性がある場合には刑を加重するという案が検討されております。また,その後も改正刑法仮案,改正刑法準備草案,改正刑法草案におきまして,保護される者,被保護者の姦淫等の規定が検討されております。   資料番号21と22は,地位・関係性を利用した性的行為に関する事例集でございます。平成25年と26年の2年間に起訴又は第一審の判決宣告があった事件のうち,被告人と被害者との間に一定の関係性がある事案について事務当局において調査し,把握できたものをまとめたものでございます。資料番号21が性交を行った事例,資料番号22が口淫を含むわいせつ行為を行った事例をまとめたものでございます。   資料番号23から25までは要綱(骨子)第四の非親告罪化に関する資料でございます。   資料番号23は主要国における性犯罪の親告罪に関する法制度の概要をまとめた資料であります。そもそも親告罪制度がないという国もありますけれども,ここに挙げている諸外国におきましては,性犯罪は親告罪とはされておりません。   資料番号24は,我が国におきまして強姦罪などが親告罪とされた歴史的な経緯に関する資料であります。明治13年の旧刑法の段階から強姦罪や強制わいせつ罪については親告罪とされておりますけれども,立法時の議論を見ますと,被害者の名誉を害することがあり得るため告訴を待つべきなどとされております。   次に,資料番号25は親告罪の不起訴理由に関する統計の資料でございます。例えば,1枚目の強姦の欄の平成25年のところを御覧いただきますと,送致件数に対する不起訴率は48.8%でありまして,送致件数に占める告訴の欠如あるいは取消しを理由とする不起訴の割合が21.8%,嫌疑不十分を理由とする不起訴の割合が20.6%であったことが示されております。   また,この資料の2ページ目を御覧ください。2ページ目の下から二つ目の欄は強姦致死傷,それから一番下の欄が強制わいせつ致死傷でございますが,これらは非親告罪であります。「親告罪の告訴の欠如」,「親告罪の告訴の取消し」という理由による不起訴は,その罪が親告罪である場合にのみ行うものですので,強姦致死傷や強制わいせつ致死傷の場合には,これらを理由とする不起訴はございません。強姦致死傷などの事件で示談が成立して,被害者が処罰を望まないというような場合につきましては,起訴猶予などの理由で不起訴となることになります。   次に,資料番号26からでございますが,資料番号26からは要綱(骨子)第七に関する資料であります。資料番号26は我が国におきまして強盗強姦罪が設けられた歴史的な経緯に関する資料であります。強盗強姦罪は旧刑法において設けられたものですけれども,当時の史料で強盗強姦罪が置かれた理由について触れたものは当局においては見当たりません。   資料番号27は,強姦と強盗が同一機会に行われ,現行法では強盗強姦罪に該当しないため併合罪となっている事例をまとめた資料でございます。平成24年,平成25年の2年間に強姦罪と強盗罪とが同一の機会に犯されたものとして併合罪により起訴され,これと同一の罪名により判決が確定している事案として,事務当局において把握できたものが31件ございました。   最後に,席上にお配りしております資料について御説明いたします。席上配布資料と右上に書いてありまして,題名が「第175回法制審議会における諮問101号に関する御発言の概要」という2枚の紙を御覧ください。   こちらは,去る10月9日に開催されました法制審議会総会におきまして,この諮問第101号について御審議いただきました際の委員の皆様の御発言をまとめたものでございます。本来であれば,議事録の抜粋を資料として皆様にお配りさせていただくべきところでございますけれども,まだ議事録が出来上がっておりませんので,事務当局の責任においてまとめさせていただきました。各委員の御発言の詳細につきましては,後ほど公表されます議事録を御確認いただければと思いますけれども,ここにございますとおり,御発言された6名の委員からは,いずれも今回の諮問について御賛同される方向からの御意見などが述べられました。この部会での御審議に当たりましては,このような総会での委員の皆様の御意見も踏まえて,御議論を進めていただければと思っております。   以上,簡単ではございますけれども,配布資料の説明をさせていただきました。   なお,机上にこの部会の委員等名簿を配布させていただいております。御確認いただきますよう,併せてよろしくお願い申し上げます。以上でございます。 ○山口部会長 事務当局からの説明は,以上のとおりでございます。   諮問事項に関する審議の進め方につきましては,この後で皆様にもお諮りして決めていきたいと考えておりますが,この段階で,ただいまの事務当局の説明内容に関しまして質問等がございましたら,お願いしたいと思います。   特にこの段階で御質問はございませんでしょうか。また審議を進めながら,何か御質問がございましたら,随時お尋ねいただければというように思います。   それでは,諮問事項の審議に入りたいと思います。今回の諮問につきましては要綱(骨子)の案が付されておりますが,審議の進め方について事務当局の方で何かお考えがあれば,お示し頂きたいと思います。 ○上冨委員 審議の進め方につきましては,もとより,この部会において決定される事柄でございますけれども,事務当局の立場から1点お願いさせていただければ,まず初めに要綱(骨子)の案につきまして,どの部分からでも,あるいは全体についてでも構いませんが,委員各位の問題意識を共有することができますような形で御質問,御意見,御感想等の御発言をいただけますと,その後の審議をより充実したものにできるのではないかと考えております。   例えば「性犯罪の罰則に関する検討会」でも触れられておりました強姦罪等の保護法益などについても委員の皆様から御意見をお示しいただけますと,その後の審議の参考になるのではないかと思われますので,議事の進行を御協議いただく際にはそのような点も考慮いただけると幸いでございます。 ○山口部会長 私といたしましても,今後の進行にも有益であると考えられますので,もしよろしければ,概括的,総括的なもので結構でございますので,できるだけ多くの委員,幹事の方々から重要な論点はどこであると考えておられるのかということを踏まえた御発言,御意見,御疑問の点,あるいは御感想などの御発言を頂きたいと思いますが,よろしゅうございましょうか。  (「異議なし」の声あり)   それでは,要綱(骨子)全般につきまして,概括的,包括的な審議を行いたいと思います。どのような観点からでも結構でございますので,御発言を頂ければと思います。お願いします。 ○井田委員 先ほど御紹介もあったところですけれども,現行の刑法典の強姦罪,強制わいせつ罪の処罰規定は,1908年,明治41年に施行されて以来,基本的にはそのまま今日まで維持されています。既に100年以上の時間が経過しており,この間の時代状況の変化,社会意識の変化というものに鑑みれば,これはその事実からだけでもかなり根本的な手直しが必要ではないかという推測が働くと思われます。   これも先ほど御紹介がありましたけれども,諸外国の刑法を見ましても,戦後,特に1970年代以降ですが,かなり大幅に改正されてきているわけで,日本の性犯罪の処罰規定は国際水準から取り残されたものということも言えそうです。   先ほど御説明いただいた要綱の内容ですが,かなり大幅な改正を予定するものとしてお聞きしました。ただ,このぐらい大きな手直しをする必要性があること自体は,誰も否定できないのではないかと考えております。   少し具体的に申し上げますと,もし現行法の規定の中に処罰の空隙(げき)部分がある,つまり当罰的なのに可罰的になっていないという部分があるとすれば,それは埋めていかなければいけないでしょう。また,そうでなくても,ハードルが高くて適用が難しく,被害者に十分な保護が与えられていない規定になっているとすれば,それは補正していく必要もあるだろうと思います。   また,より根本的なことを申し上げれば,刑法というものを考えるとき,もちろん処罰されるべきものは処罰する,保護されるべきものは保護するということが大事なのですけれども,それだけに尽きるものではない。保護法益,言い換えれば,それは犯罪の被害の実質にほかならないのですが,それをその国が,その社会がどう評価しているかという,保護法益に対する評価ないし価値決定というものを示す,保護法益に対する尺度を与えるもの,それが刑法だと思うのです。刑法の規定の中に,その国が,その社会が,その犯罪とそこから生ずる被害をどのように見ているか,ということが示されている。そして,その評価ないし価値決定が国の刑事司法機関の活動のその基本に置かれなければいけないのです。   そうであるとすれば,現行刑法を見たときに,等しいものが等しく扱われているか,異なって評価されるべきものが異なって評価されているか,そういう規定になっているかどうかを検討して,手直しをしていく必要があるのではないかと考えるのです。こうした見地からしますと,先ほどの要綱の基本的な方向性を妥当なものだと見ておりますし,また,そういう観点からこれから審議を進めていくべきではないかと考える次第でございます。 ○山口部会長 先ほども言及がございましたけれども,「性犯罪の罰則に関する検討会」がございまして,委員,幹事の方々の中にもそれに参加された方々がおられます。その方々の御意見につきましては既に議事録でも明らかになっておりますので,特にその検討会に特に御参加されておられなかった委員,幹事の皆様から御意見をこの機会にお伺いしたいと思いますが,いかがでございましょうか。 ○森委員 私は長年,検察官として性犯罪の捜査,公判を取り扱ってまいりましたけれども,現行法の規定の在り方につきましては疑問に感じることも度々ございました。例えば男児が被害者の場合には強制わいせつでしか処罰できないですとか,親子間の犯罪の場合に非常に処罰が難しいといったことで苦慮したこともございました。更には性犯罪の被害者がいかに大きな精神的ダメージを受けるかということも目の当たりにしてまいりました。   そういった経緯に照らしますと,今回の改正というのは捜査,公判の実務の立場からも,よい方向であると考えております。今後の審議におきましては,捜査,公判に携わる検察官という立場から性犯罪の実態ですとか実務の現状に合った改正になるよう意見を述べてまいりたいと思っております。 ○小西委員 私は初めて今日,参加させていただいたので意見を述べさせていただきます。松尾先生には全く及ぶべくもないのですが,私も1993年からずっと性犯罪に関する被害者の支援,性暴力の被害者の支援を実際にやってまいりました。最初の頃は私の分野であるPTSDのことも,それからその被害者はどれくらい具合が悪くなっていって生活が侵されているかということも世の中が全く知らないという状態で仕事をしていたと思いますが,ようやくここまでたどり着いたかという感じは持っております。   ただ,実際にやっていますと,性犯罪に関しては理不尽だという言葉が一番当たると思いますが,そのように思わざるを得ないことがたくさんあります。理不尽だというのは,司法の関係者の方,検事さんも弁護士さんも言われたりするのですけれども,個人的には問題だと思いますけれども法律的にはこうしか扱いようがないのです,とおっしゃるようなケースもたくさんあったりします。   現在,私はレイプワンストップセンターから紹介される被害者の方を中心に診療しておりますが,ここ3年で大体40ケースぐらいの紹介を受けました。私のところまで紹介されて来られる方は,例えばPTSDがあることが疑われたり,裁判の中で診断書が必要だったりという方が多いわけですけれども,その中でPTSDになっている人が4分の3くらいおります。PTSDというのは本当に心身に大きな影響を与える障害です。40人の中で本人が結果について公表していいとおっしゃってくださった方が28名なので,その28人中でお話ししますけれども,警察に少なくとも相談できた人が10人で,被害届が出せた人が5人です。   ところが,多くの人は健康の問題だけではなく,経済的な問題,例えば引越ししなくてはいけなかったり,職業がなくなってしまったり,そういうことも含めて非常に具合が悪いです。そういう実情を皆様になるべくお伝えできたらと思って参加しました。   私が問題だと思っていることというのは幾つもあるのですけれども,今,特にということで申し上げますと,一つはやはり性的虐待に関して非常に理不尽な扱いになってしまうことが多いということですね。例えば,親から繰り返し被害を受けている子のほとんどはというか,全員はと言っていいくらいですけれども,抵抗なんか全く考えもしません。父親とそうやって接触することだけが虐待を防ぐ方法であったり,あるいはそうしないと非常にひどい行為をされたりするということがあるので,被害の最初はどうだったか分かりませんけれども,最後の頃になってくると当然,抵抗なんかしないわけです。   ところが,刑法でそのことが扱われるときには一つ一つの行為が扱われるので,最後の性行為だけ扱われて,それは抵抗がないから強姦とは言えないと。そうですねと私なんかは専門ではないので言うしかないのですけれども,非常に理不尽な構造になっているなと思うことがあります。   親だけではなくて,実際に臨床でほかにもたくさんの被害者の方を私は診てきましたけれども,祖父ですとかおじですとか兄からの被害も結構あります。それから学校の先生とかクラブ活動の指導者,長いことやっているクラブ活動の指導者なんかは同じ形になっていますけれども,そういう人たちからの被害がみんな同じような形で抵抗できないで,法律でもうまく扱えないということがあるなと思っています。   性犯罪の被害は,人の苦しみがうまく法律に乗っかっていかないものの最たるものではないかなと今は思っています。今後も何かそういうことがお話しできたらと思っております。 ○橋爪幹事 今の小西委員の御意見に関連いたしまして,要綱の第三の罪について若干,感想めいたことを申し上げたいと存じます。   要綱(骨子)第三の罪は,現行法の準強姦罪等の抗拒不能の要件では十分にカバーされない類型につきまして,18歳未満の者の性的保護を拡充するという観点からは,非常に重要な意義を有しているように思われますし,その方向性につきましては基本的に賛成したいと考えております。   ただ,刑法を勉強しておりますと,やはり処罰範囲をどのように明確に限定するかということに強い関心を持つわけでございます。本罪は具体的に申し上げますと,現に監護する者が影響力を利用することを要件としておりますが,どのような状況において影響力の利用が認められるかについては,具体的な事例を想定しつつ,慎重な検討が必要であると考えています。   例えば,同居の親族の提案によって,あるいは要求に基づいて性行為が行われた場合については,常に影響力の利用と言えるのか,それとも,なお影響力の利用の要件を充たさない場合があるのかにつきましては,おそらくいろいろな考え方があるかと思います。この点につきましては私も更に考えていきたいと存じます。   また,この問題に密接に関係しますが,13歳以上18歳未満の被害者の同意らしきものがある場合,その同意が果たして法的に有効といえるかという点につきましても,刑法理論的には更に検討する必要があると考えております。 ○松尾関係官 小西委員のお話を伺っておりまして思い出しましたのは,最高裁判所が憲法違反の判例を出した尊属殺事件であります。あれもまさにその発端は性犯罪なので,私どもは事件の原因にショックを受けたわけであり,それに対応して立法というようなことも当然考えるべきであったろうと思いますけれども,不幸にして,ある時期,日本の刑事立法は全く休眠状態に置かれておりまして,ピラミッドのように沈黙しているという批評もあったわけですが,そのような状況が昭和の終わり頃まで続いていたのが平成の時代を迎えて様子が変わってまいりまして,このように法制審議会も頻繁に開かれるようになったという経緯があります。   ただ,立法というのは複雑な視角を持って見なければならないという面がありまして,その意味で今日のテーマに関しても一つだけ付け加えさせていただきたいと思います。小野清一郎先生は法務省特別顧問として,ある意味で私の前任者でいらっしゃいましたが,小野先生は立法の美学ということを説いておられました。法律を作るときには美しいものを作るのが望ましいと。今回の要綱(骨子)を拝見いたしますと,これは検討会の慎重な議論を踏まえ,そして事務当局の方で苦心された言わば要綱(骨子)自体が一つの成果というようにも感じられるものでありますが,それにしましても,その個々の項目について審議を行い,このような立法が必要であり適切であるかということを判断されるのは,まさにこの部会でありますので,その意味でこの論点の一つとして立法の美学ということもあり得るということを述べさせていただいた次第です。 ○三浦委員 警察でございますけれども,今回の要綱案につきましては先ほど森委員からもございましたように,捜査をする立場からしても法定刑の問題でありますとか,あるいは要件の関係でありますとか,良い方向性であると考えているところであります。   先ほど橋爪幹事からもありましたように,特に要綱の第三に関しましては,これはこれまでこういった家庭内等における事案というものについて,なかなか対処が難しいという面があって,警察,捜査する側にとっても大きな課題でありましたけれども,こうした方向性で新しく規定がされるということについて,今後,被疑者に対する適正な処断ができるという意味において期待をしているという部分もございます。ただ,その分事例もかなり多いものですから,要件の明確性といいますか,構成要件として,実際に捜査する場合に曖昧な部分ができるだけ残らないようにということで,この点についても十分な議論をしていただけるということを期待しているものでございます。 ○今井委員 一言,総論的な感想を述べさせていただきたいと思います。私は検討会には参加しておりませんでしたが,いろいろと公表される資料を見ておりまして,先ほど来,皆様の御意見にあり,また,井田委員が適切におっしゃいましたように,ようやく社会の認識と犯罪とされるべき実態との間で調整がとれようとしているのではないかと思った次第であります。   具体的には従前の性犯罪のところでは,男女間の性差というものを当然の前提とした規定ぶりがあったわけですけれども,在外研究中に大きなショックを受けたことがありました。女性を被害者とするだけではなく男性も被害者とする解釈や,また,女性も加害者となり得るというふうな規定が多い国などで勉強していたものですので,日本の刑法の規定を報告する機会に,親告罪などの説明もしましたが,あまり理解が得られない状況でした。そのときには,日本国憲法の下で男女の平等を定めている以上は,この辺りも加害者,被害者間の性差をなくすような方向性がいいのではないかと思ったことがございました。   この度の要綱案等を見ますと,そういった部分がかなり入っているということで,私としては,やっと社会の実情に合った規定が整備されそうだなという感想を持っておりまして,今後の議論に期待しているところであります。 ○塩見委員 私も今回,法制審議会刑事法部会から初めて参加させていただきました。大学の教員という立場からは,井田委員が最初に言われたような印象を私も持っておりまして,基本的にはそういう方向で改正を行うというのが妥当なのだろうと考えています。今後の細かな議論についてはその都度,意見などございましたら申し上げさせていただきたいと思っております。   1点,形式的なことなのかもしれませんけれども,この部会の始まる前から既に検討会でかなり突っ込んだ議論をされていて,議事録も拝見させていただきまして,それを基に要綱(骨子)も作られているという印象を受けております。その検討会での御議論とここで行う議論との関係というのですか,一応済んだものというような印象を受けてしまうので,どのような位置付けにしたらいいのかということを最初に伺っておこうかと思います。 ○加藤幹事 ただいまのお尋ねの点について,事務当局の考えを申し述べさせていただきます。   「性犯罪の罰則に関する検討会」は,今お示ししているような要綱等を前提に議論をお願いしたものではなく,現在の性犯罪の実態等に鑑みまして,幅広い観点から,どういった事項について手当が必要であるか,あるいは法改正が必要であるかといったことを論点として洗い出し,必要な改正の方向性等についても御議論いただいたものです。ただ,検討会は,意思決定をする場ではないということが前提でしたので,取りまとめにつきましても意見の多少などについては,多数の意見と少数の意見があったということを併記するような形で取りまとめをしたというものでした。   その上で検討会の議論も踏まえて,法務省におきまして検討させていただいた上で今回の諮問に至っているというものですので,この法制審議会の部会の場におきましては,諮問の内容につき,改めて改正の要否,あるいはその内容などについて,特に専門的な御立場からも十分な御検討をお願いしたいと考えているところであります。   検討会におけます御議論というのはかなり充実したものであったと考えておりますので,その検討内容も御参照いただきながら,更に改めてどのような法改正が必要であり相当であるのかということについて,深く,具体的に御検討いただければと存じております。 ○塩見委員 どうもありがとうございました。 ○宮田委員 今,加藤幹事のおっしゃられました検討会での結果を踏まえてというのは,検討会の結果は当然に援用されないと理解してもよろしいか,お尋ね申し上げます。 ○加藤幹事 援用とおっしゃいますと,検討会での多数意見は結論として動かせないものかどうかというお尋ねでしょうか。 ○宮田委員 そうではなくて,そのときに発言した内容については,ここではそれがあったものを前提としてよいのか,それとも,そこでの発言なのだけれども,特に強調したい点などについてこちらで御発言の機会を頂戴できるかどうか,そういう趣旨でございます。 ○加藤幹事 進行に関する問題でございますので,もちろん部会あるいは部会長の御差配によるところだと思われますが,事務当局の立場で申し上げれば,検討会で御議論いただいた点については広く公開されておりますので,全くの重複にわたるというものであれば,例えば検討会での御議論を要約していただくなどして,議論を効率的に行うという観点も必要かとは存じます。ただ,また検討会とは異なる構成員で部会をお願いしているところでもありますので,必要な点については再度御発言いただくということも可能ではないかと考えております。 ○宮田委員 それでは部会長,発言をお願いさせていただきたいのですが,加害者側,弁護の立場からの意見というのは,今回,御提出いただきましたヒアリングの中には出てきておりませんので発言をさせていただければと思います。よろしいでしょうか。   再審事件二つを題材にして発言させていただきたいと思います。氷見事件という事件がございました。これは真犯人が出てきて再審無罪となった事件ですが,この事件の当初,被害者の方2人の,必ずしも明確ではない犯人の識別供述によって捜査が始まりました。性犯罪の被害者の方は何者かに襲われて犯罪の被害に遭ったということで,知覚的な条件,あるいは記憶をするための条件がよくない。そのために犯人を十分識別できない,あるいは事実に関して十分な記憶ができない,記憶が飛んでしまう,あるいは思い込みをしてしまうということもあります。   更にそれにとどまらず,先日,大阪で再審無罪の決定が出ました。この事件は被害者が明らかに虚偽の被害を申告していた事件でした。これは加害者とされた男性が14歳だった同居人への強姦と強制わいせつを働いたとされたものですが,この被害者とされた女性あるいは目撃者とされたこの女性の兄が虚偽を述べていたことを昨年認めて,この再審請求がされまして,再審請求後,地検の捜査で性的被害の痕跡がなかったという診断の記録も確認されるに至りました。   報道では,過去,この加害者とされた男性とトラブルのあった母親が被害者とされた女性に対して繰り返し何をされたかと詰問して,この女性が虚偽の供述をするに至った,また,目撃者の被害者の兄も母親の顔色をうかがって虚偽の証言をしたとされています。   私たちは,弁護の際,被害者の方が言う強姦神話とは逆に,被害女性が嘘を言うわけがないという逆強姦神話というべきものがあると考えています。この大阪の再審事件の弁護人は,記者会見のときに,被害者が嘘を言うわけがないという偏見はないだろうかと問題提起しています。   被害者の供述の吟味による苦痛というのは確かに大きいかもしれませんが,事実を認定していく上で被害者の供述の吟味をしなければならないのは当たり前だと思います。すなわち被告人は無罪の推定を受けています。検察官は主張立証の責任を負っています。検察官が犯罪事実の証明をするために最も重大な証拠である被害者供述の信用性が問題になるのは当然です。被害者の保護を目的として立証責任が転換されたり,検察官の立証責任が軽減されるようなことはあってはならないと思います。   そして,100人の有罪を逃しても1人の無辜(こ)を罰してはならないというのが刑事法の大原則であり,刑罰という手段は問題解決への最終手段であって,謙抑的な立法,すなわち必要最小限度性を考えていく必要があると思います。そして,その適用についても同様です。刑罰の手続は個人の権利を厳しく制約するもので,無辜(こ)にとっては耐え難いものです。   先ほど構成要件の明確という話がありましたが,検察官の立証責任が軽減されるような,あるいは被告人に立証責任が転換されるようなものであってはなりませんし,構成要件というのは明確でなければならないということは当たり前のことだと思います。   処罰の規定についても,手続についても,性犯罪が破廉恥罪中の破廉恥罪であり,その犯人として名指しされた人のマイナスというのは計り知れないということは常に認識しておかなければならないと思っています。今回の罰則の検討については平成16年の改正の議論も踏まえ,今回の改正の立法事実について十分に検討する必要があると思いますし,最終手段であるという刑罰の性格や刑法の謙抑性についても十分に,これは釈迦に説法かもしれませんけれども,考慮されながら議論が進められなければならないと思っています。申し訳ありません。今までの先生方の議論と若干違いますけれども,発言させていただきました。 ○小木曽委員 今の御発言,極めてごもっともなことであろうと思います。えん罪があってはならないわけで,これは当然,刑事法を語る上では前提となるべきことであろうと思います。ただ,そのことと,性犯罪の保護法益を時代の要請に合ったものにするとか,量刑の在り方を見直すということは,切り離して議論することができるのではないかと考えております。 ○山口部会長 ありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。   この段階での総括的,全般的な御意見は,大体,このくらいでよろしゅうございましょうか。 (「異議なし」の声あり)   それでは,ここで休憩にさせていただき,10時50分に再開するということにさせていただきたいと思います。 (休     憩) ○山口部会長 会議を再開いたします。   要綱(骨子)の具体的な内容に関する審議にこれから移りたいと思いますが,ここからの審議の進め方について事務当局の方でお考えがあれば,お示しいただきたいと思います。 ○上冨委員 今回の諮問につきましては,要綱(骨子)が示されておりますので,要綱(骨子)の第一から順に御審議いただくということが考えられるところでございます。もっとも,本日につきましては残りの審議時間との兼ね合いもございますので,要綱(骨子)の中でもほかの論点からある程度独立して御議論いただけるのではないかと思われる論点として,要綱(骨子)第四の強姦の罪の非親告罪化について御審議いただければよろしいのではないかと考えております。   また,次回以降につきましては第一から順に御審議いただくのがよいかと思われますが,その中で相互に関連する問題につきましては併せて御審議いただく方がよいのではないかと思われます。具体的には「第一 強姦の罪の改正」及びこれと関連性の強い「第二 準強姦の罪の改正」,「第五 集団強姦等の罪及び同罪に係る強姦等致死傷の罪の廃止」,更に「第六 強制わいせつ等致死傷及び強姦等致死傷の各罪の改正」を併せて御審議いただくのがよいのではないかと考えております。   その後,要綱(骨子)の順ということで「第三 監護者であることによる影響力を利用したわいせつな行為又は性交等に係る罪の新設」,「第七 強盗強姦及び同致死の罪並びに強盗強姦未遂罪の改正」の順に御審議いただくのがよろしいのではないかと考えております。 ○山口部会長 ありがとうございました。   私としましても,ただいま事務当局から御提案のありましたような順で御審議いただくのがよいのではないかと思いますが,いかがでございましょうか。よろしゅうございましょうか。 (「異議なし」の声あり)   それでは,本日はまず要綱(骨子)第四,強姦の罪の非親告罪化について御審議をお願いしたいと思います。   まず,事務当局から要綱(骨子)第四について,改めてその趣旨や検討経過等について御説明をお願いいたします。 ○中村幹事 要綱(骨子)第四について御説明申し上げます。   資料1の諮問第101号の別紙,要綱(骨子)第四を御覧ください。要綱(骨子)第四の一は刑法第180条におきまして,刑法第176条から第178条までの罪,すなわち強制わいせつ罪,強姦罪,準強制わいせつ罪,準強姦罪並びにそれらの未遂罪を親告罪としておりますところ,この刑法第180条を削除して,これらの罪を非親告罪としようとするものでございます。   現行法におきまして,強姦罪と強制わいせつ罪は親告罪とされておりますけれども,その趣旨は,一般に,公訴を提起することによって被害者の名誉などが害されるおそれがあることから,公訴の提起に当たって被害者の意思を尊重するためであると解されております。   しかし,この点につきましては,第3次男女共同参画基本計画におきまして,強姦罪などの非親告罪化が検討事項とされまして,「性犯罪の罰則に関する検討会」におきましても,性犯罪被害者やその支援団体関係者などからのヒアリングで,親告罪であることにより被害者に生ずる負担が大きい旨の意見が表明され,これを踏まえた検討会での御議論におきましても,非親告罪化に積極的な意見が多数を占めておりました。   これらを踏まえまして検討しましたところ,従来,強姦罪などは被害者保護の観点から親告罪とされていたものですけれども,現実には肉体的,精神的に多大な被害を負った被害者にとっては告訴するかどうかの選択を迫られているように感じられたり,告訴したことにより被告人から報復を受けるのではないかとの不安を持つ場合があるなど,親告罪であることにより,かえって被害者に精神的な負担を生じさせていることが少なくない状況に至っているものと認められます。   そうすると,もはや強姦罪などについて親告罪として維持するよりも,これを非親告罪化して,親告罪であることによって生じている精神的負担を解消することが相当であると考えられたことから,要綱(骨子)第四の一のとおり,強姦罪等を非親告罪化しようとするものでございます。   また,要綱(骨子)第四の二は,わいせつ目的及び結婚目的の略取・誘拐罪に関するものでありますけれども,現行刑法第229条において親告罪とされている略取・誘拐の罪のうち,わいせつ目的及び結婚目的の略取・誘拐の罪とこれらの罪を幇助する目的で犯した被拐取者引渡し等の罪,また,これらの罪の未遂罪を非親告罪とし,同法第224条の未成年者略取・誘拐の罪,未成年者略取・誘拐の罪を幇助する目的で犯した被拐取者引渡し等の罪及びこれらの罪の未遂罪のみを親告罪として維持することとするものでございます。また,併せて略取・誘拐等の犯人と被害者とが結婚した場合におけます告訴の効力に関する特例を定める刑法第229条ただし書を削除しようとするものであります。   現行法上,わいせつ目的又は結婚目的の略取・誘拐に係る罪が親告罪とされている趣旨は,一般に,強姦罪などと同じく,被拐取者の名誉の保護のためなどとされております。このため,今回の強姦罪等について,親告罪とされていることに伴う性犯罪被害者の負担などを考慮して非親告罪化しようとする以上,これと同様にわいせつ目的や結婚目的の略取・誘拐に係る罪についても非親告罪化しようとするものでございます。この結果,略取・誘拐の罪につきましては,未成年者略取・誘拐に係る罪のみが親告罪として維持されることになります。   未成年者略取・誘拐に係る罪が親告罪とされた趣旨には,略取・誘拐の被害に遭った未成年者のその後の成長に影響を与え得る犯人の処罰を求めるか否かの判断を被害者や監護権者の意思に委ねるべきとの観点が含まれていると考えられておりまして,その意味で親告罪を維持する独自の意義があると考えられます。したがいまして,未成年者略取・誘拐に係る罪,すなわち未成年者略取及び誘拐の罪,刑法第224条,それから未成年者略取及び誘拐の罪を幇助する目的で犯した被略取者引渡し等の罪,刑法第227条第1項の一部,及びこれらの罪の未遂罪につきましては,刑法第229条により規定される親告罪の対象として維持することとしているものでございます。   また,要綱(骨子)第四の二におきましては,被害者が犯人と婚姻した場合,婚姻の無効等の裁判が確定した後でなければ告訴の効力がないとする刑法第229条ただし書を削除することとしております。   先ほど御説明申し上げましたとおり,今回,未成年者略取・誘拐に係る罪のみを親告罪として維持するものとしておりますところ,仮に第229条ただし書を維持するとした場合,例えば未成年者を略取・誘拐した者がその後,被拐取者と戸籍上だけの形式的なものであっても婚姻したときは,被拐取者などから告訴があっても,その婚姻の無効又は取消しの裁判が確定するまで告訴の効力がないということになります。   しかしながら,そのような事態は今回の改正によって結婚目的で未成年者などを略取・誘拐した場合について,その後の婚姻の有無に関わりなく非親告罪とし,そもそも婚姻と告訴の効力に関係性がないものとすることと整合しないものとなります。また,刑法第229条ただし書が設けられている趣旨は,一般に法律婚の保護と考えられておりますけれども,略取・誘拐された未成年者が犯人と婚姻したにもかかわらず犯人を告訴する場合というのは,そもそも婚姻の届出はなされたものの被拐取者に婚姻する意思がなかったか,あるいは婚姻関係が破綻しているような場合であると考えられますから,そのような状況において告訴の効力との関係で法律婚の保護が図られるべきであるとも考えられません。   したがいまして,今回,結婚目的の略取・誘拐に係る罪などを非親告罪化するのに併せ,刑法第229条ただし書の規定を削除することとするものでございます。   なお,要綱(骨子)第四につきましては,先ほど御紹介いたしました席上配布資料にありますとおり,去る10月9日の法制審議会総会におきましても,「非親告罪化には賛成であるけれども,非親告罪化した場合には被害者の心情への配慮や捜査,公判の過程における二次被害の防止などが重要である」,また,「被害者の意思に反した起訴がなされないような仕組みについても考えていただきたい」という趣旨の御意見が複数の委員から述べられております。   この部会での御審議に当たりましても,このような総会での委員の皆様の御意見なども踏まえて,御議論を進めていただければと考えております。 ○山口部会長 ありがとうございました。   それでは,総会で御指摘のあった点も含めて,御意見を伺いたいと思います。御意見のある方,よろしくお願いします。 ○今井委員 この問題につきまして,要綱(骨子)に賛成する立場から若干意見を申し述べたいと思います。   今,御説明がありましたように,現行法が強姦罪等を親告罪としているということは,席上の資料ですと,例えば資料24等からも分かるわけですが,公訴提起することによって,被害者とされる方の,制定当時の理解でいいますと名誉,あるいは現在の理解によりますとプライバシーの保護という方が適切かと思いますけれども,そのような被害者の意思を忖度(そんたく)せず公訴提起することによるプライバシー侵害を防止するということが主たる目的であったと考えられるところであります。   しかし,資料7の「性犯罪の罰則に関する検討会」におけます議論,例えばその3ページなどに議論の要約が書いてありますけれども,そこを見ますと,先ほど御紹介もありましたように,現時点では,被害者にとって,あなたが告訴権者ですから告訴するかどうかを決めてくださいとお願いをするようなことによって,更に心理的な負担が大きいという場合も多々あるという御意見がございます。また,自分が告訴するかどうかということによって加害者とされる方から報復されるというおそれを持つことも十分考えられるところでありまして,実はこういった制度が被害者に更なる精神的な負担を課しているのではないかということが懸念されるところであります。   そのようなことを考えますと,被害者のプライバシー保護が図られている限りにおいては非親告罪化に進むべきではないかと思います。そのプライバシーの保護でありますけれども,近年の刑事訴訟法の改正等におきまして,様々な制度の工夫がなされているところは御案内のところであります。例えば証人尋問の際に遮蔽措置を採るなどということあるいは被害者特定事項の秘匿ということもありますが,そういったことによりまして,被害者のプライバシーを保護することは十分に考えられますので,現時点では,この犯罪が重大であるということも併せて考えますと,非親告罪にするという方向性が支持されると思います。   他方で今日,席上配布されました資料を拝見いたしますと,被害者のプライバシー保護について更なる御意見も出ているところであります。例えば被害者が積極的に処罰を希望しないという意思を明確にした場合には訴追しないとするような仕組みについて検討されてはどうかという意見もありまして,大変ごもっともなものだと思います。しかし,今回の議論の前提ですが,性犯罪が大変重大な犯罪であるということ,そして被害者のプライバシー保護も制度的に相当程度図られてきているということを考えますと,御提案のような制度を作った場合には,被害者の方の明確な意思を確認するということが制度的に困難になるのではないかと思います。   このような御要望についての対応につきましては,やはり適切な公訴権の運用,起訴裁量に任せる方がよいのではないかと思っていましたところ,資料で見ますと,今日の26番の資料で親告罪の不起訴理由等に関する統計というものがあります。その1ページ目には,強姦罪に関する不起訴のパーセンテージが挙がっており,2ページ目には現在でも非親告罪であります強姦致死傷,強制わいせつ致死傷の数が挙がっているところでありますが,この不起訴率を比較して見るに,強姦罪が非親告罪になった場合でも強姦致死傷,強制わいせつ致死傷等と同様に適切に,例えば被害者の意見を聞く,あるいは示談が成立して起訴不相当となるような事案について適切に裁量権を行使することによって,御懸念の点は解消されるのではないかと思っております。   そういったことを含めまして,結論を繰り返しますが,私としましては要綱(骨子)第四の提案に賛成したいと思っております。 ○池田幹事 私も今の今井委員の意見に賛成するものでございます。これまで,刑事訴訟法の改正が繰り返されてまいりましたが,これらは一貫して,被害者が手続に関与することに伴って受ける負担の軽減に向けられてきたものといえます。そして,親告罪という制度が手続に関与する被害者の負担となってきたという指摘に鑑みますと,この制度を廃止することによって被害者の負担を軽減するというのは,その線に沿うものと考えております。   翻って考えてみますと,先ほどプライバシーという言葉も出ましたが,事件を公にしたくないという希望は,それ自体が保護に値しないわけではないものの,従来の仕組みは,その保護を処罰の断念により担保しようとしてきたものだと考えられます。しかし,公にしたくないという希望と,処罰を断念しようという気持ちとは,必ずしもイコールではないのであり,また,これまでの議論によりますと,秘匿を望む方々が皆さん処罰を断念されているというわけでもないとするならば,適切な制度を通じて,その秘匿の希望に沿いつつ適正な処罰を図るということが考えられてよいのではないかと思います。   また,プライバシーを保護するための被害者の意思の尊重のための枠組みにつきましても,ただ今の御指摘に加えて申し上げるならば,被害者が明確に処罰を求めないということを述べている事件で検察が無理に訴追するということをしても,公判の維持というものは困難となるのではないか。そのような観点からも,事実上,被害者の明示の意思に反する訴追というものは行われにくくなるのではないかと思われ,あえて制度を設けて意思を確認することによって生じうるデメリットと比較いたしますと,特段の規定を設ける必要はないのではないかと考えております。 ○北川委員 今,今井委員と池田幹事がおっしゃったこと,非親告罪化すべき方向が支持されるということに対して,私は反対を述べるわけではないのですけれども,だからといってというところが1点,懸念が残っているということを正直に申し上げたいと思います。   先ほど宮田委員がおっしゃったこととも関係するのですけれども,えん罪を防止するために被害者の供述が吟味されなければならないということになっているはずです。だとすれば,被害者のプライバシーを保護しても,被害者で何度も同じ事を話したくないという人の意思は尊重されなくなってしまう事態も予想されます。また,強姦犯人と疑わしき人が捕まって複数の被害者が見込まれて,この被害者からも供述を得たい,裁判でも証言していただきたいとなってしまったときに,その方を対象から外すということになるのでしょうか,この点は実務の方々にお伺いしたいと思います。   被害者の何度も話したくない心情というのは大変分かりますので,申し上げた次第です。 ○森委員 今,実務の方にというお話がございましたので,検察の現場での運用について少し説明させていただきたいと思います。   御指摘のとおり,被害者供述の吟味がとても重要だというのは,当然のことでございます。先ほど宮田委員からお話がありました大阪の再審事件のような,被害者供述が虚偽であるのを見抜けずに起訴してしまうということは,あってはならないことだと思っております。   それで,性犯罪に関する検察の運用の現状でございますけれども,親告罪とされている強姦罪等につきましては,当然のことながら被害者の告訴意思を丁寧に確認しております。また,更に非親告罪であります強姦致死傷罪や集団強姦罪におきましても,起訴するか否かを判断するに際しましては,被害者の意思を丁寧に確認しております。   先ほど今井委員から,不起訴理由に関する資料を基にお話がありましたとおり,非親告罪とされております事件につきましても,示談が成立して被害者が処罰を望まないというようなときに,あるいは被害者が法廷への出廷を頑なに拒否しているというようなときには,それが不起訴理由の一つとして働くことになります。   その理由は当然ながら,被害者のプライバシー等の保護というのが性犯罪では取り分け重要になってくるということ,それから今も少し申し上げましたけれども,性犯罪におきましては,検察官の立証の中心,それが被害者の供述になることがどうしても多いものですから,被害者の意思に反する起訴をして被害者が法廷に出てくるのを拒むということになりますと,これはもう立証できないということになってしまいます。   そういったことから,非親告罪につきましても,被害者の意思というのは最大限尊重しているところでございます。ですので,強姦罪や強制わいせつ罪を非親告罪化した場合にも,これまでと同じように,被害者の意思というのは最大限尊重していくことになろうかと思っております。   もちろん,事案によりましては被害者の供述がなくても立証可能な事案もございますし,また,事案の悪質性ですとか再犯防止という観点から,被害者が処罰を望んでいなくても検察官が公益の代表者として処罰するべきであると考える事案も中にはあるかと思います。ですが,その場合におきましても,検察官としては被害者の方に対して処罰の必要性等を十分に説明することになりますし,また,被害者のプライバシー保護に関する制度につきまして丁寧に説明して,被害者の意思に反する起訴とならないよう努力していくことになると思われます。ですので,被害者が処罰を望んでいないのに被害者の知らない間に起訴されてしまうというようなことは通常,考えられないと思っております。   また,先ほど今井委員からも被害者のプライバシー保護に関する諸制度の説明がございましたので付け加えて申し上げますと,検察庁では平成26年10月に最高検から発出しました通達におきまして,被害者等から事情聴取するに当たっては,被害者等が受けた身体的,精神的被害等に十分配慮しつつ,被害者等との間のコミュニケーションをより一層充実させ,その声に真摯に耳を傾けるよう努められたいとしております。これはもちろん捜査等の過程で,いわゆる二次被害を被害者に与えてはいけないということを,検察官において,常に念頭に置いて,その心情に十分配慮した対応をとる必要があるという趣旨でございまして,これを全国の検察官に周知しているところでございます。   具体的な配慮の在り方として少し申し上げますと,まず捜査段階の事情聴取におきまして,現在,女性検察官も増えてまいりましたので,被害者の意思にもよりますけれども,女性検察官と女性事務官が立ち会って聴取を行うという配慮ですとか,あるいは一般の取調室ではなくて被害者専用に設けたちょっとリラックスできるような部屋,あるいは被害者の心身の状況によりましては自宅に伺って話を伺うということもやっております。更には被害者の体調や精神状態に配慮して,こまめに休憩を取るような配慮も各検察官がしているところでございます。   また,公判段階におきまして,先ほど今井委員の方から述べられた制度等がございますし,起訴段階において起訴状にその被害者が特定されるような事項が出てこないような配慮ということも今はしているところでございます。 ○北川委員 具体的な工夫といいますか,運用のお話を教えていただいてありがとうございます。   確認したかったのは,処罰は望むけれども,何度も供述させられたり,証言台に立ちたくないという被害者もおられる一方で,刑事事件である以上,裁判である以上,被害者の供述を吟味し,証言の信憑性を問題にせざるを得ないではないかというところのジレンマをどうやって解決していくのだろうかと,どういう工夫があるのだろうかということをお伺いしたくて,お聞きした次第です。ありがとうございました。 ○田邊委員 ただいまの北川委員の御質問につきまして,裁判所の立場からも少々申し上げさせていただきたいと思います。   私が申し上げるのは現行の法律上の運用ということになりますけれども,現在,このような犯罪が起訴されて公判になった場合,被害者とされる方の証人尋問というものは避けて通れない場合というのが多々ございます。そのような場合に,公判において被害者とされる方に対する配慮といたしまして,現行法上は,例えば公判でその被害者とされる方の人定事項など被害者を特定される事項,こういうものについては公判廷で秘匿して,それで審理を進めていくという制度がございます。そのほか,証人尋問という場面になった場合には必要に応じまして,また,当事者の意見も聞きながら証人への付添い,それから傍聴人,被告人などとの間に衝立て等を置いて見えない状態で証言をしていただく遮蔽の制度,また,別室に入っていただいてビデオリンクで証言をしていただく制度,また,これらを併用してなどということが具体的に規定もされておりますし,かなり広く運用されているところでございます。   このような現行法上の規定につきましては,これまでも当事者の御意見を聞きながら適切に運用してきたと考えておりますし,恐らく今後もそのように運用されていくと思いますので,一言付け加えさせていただきました。 ○小西委員 被害の当事者にこのことを,非親告罪がいいのか親告罪がいいのかと聞いてしまうと,どちらの意見も当然出てくると思います。検討会の議事録を読ませていただきましたが,当事者の方がそう言っている場面もあったように記憶します。   ただ,実際に更に,なぜ非親告罪が嫌だということを聞いたり,どうしたいかというのを詳しく聞くと,相手を罰したくない方というのはほとんどいません。ただ,自分が法廷でしゃべらなくてはいけない恐怖とか,相手にそういうことをやったときにどのような報復が来るか分からない不安,それからもう一つは,その時期は感情がなくなってしまったり,事件のことそのものを全く考えられない方もいるのですね。これは大体,被害の急性期にこういうことが起こります。その時期には捜査があったり,あるいは起訴,不起訴の問題があったりします。   ですから,その時期にどうしたいかと聞かれても,私は加害者のことは何とも思いませんというようなお返事を,その急性期の症状でなさる方もいます。そういうことをいろいろ考えると,基本はやはり罰したいし,普通の犯罪,暴力の犯罪として扱っていただくということが多くの方は思っていることなのだと思うのですね。   そうなると,ここはやはり実務の問題というところが非常に大きい。現に今,親告罪であっても二次被害はたくさん起こっていますし,また非親告罪になれば,またそういうことが起こるというのは現実としてあると思いますが,むしろそこの問題として考えていただく必要があるのではないか。   結論としては,自分の経験からすると,私は非親告罪化に基本的に賛成です。被害者の声というのも,声もうまく上げられない時期,それから考えることもできない時期ということも,もっと考えていただければなと思っております。 ○小木曽委員 御議論を伺っておりまして,結局,被害者の方にかかる公判や捜査段階の負担というのは,親告罪であるかないかということとは関係がないのだろうと思います。被害者への負担を減らしつつ,処罰されるべき者は処罰されなければならないでしょうし,一方で,これが刑事裁判である以上は,証拠の吟味ということは必要でありますので,被害に遭ったとされている方の協力も必要なのだと思います。そこで,いかにその負担を軽減するかという工夫はしていかなければならない。   しかし,被害者への負担軽減ということと,被害者の告訴を訴訟条件とするということについての理論的な関連は,冒頭,今井委員の発言にありましたように既に薄れているのではないかと考えます。 ○塩見委員 私も基本的には非親告罪化ということに賛成です。被害者について現場でも非常に慎重な取扱いをされているということで,運用は今後も改善の余地はあるのでしょうけれども,非常に気を遣ってされているということはよく分かりました。   その負担と親告罪にするかどうかとは直接には結び付かないだろうという御発言がありましたけれども,そもそも3年以上とか5年以上の有期懲役というような重い法定刑が規定されているということは,社会的に見て非常に重大な犯罪であるということが当然前提になっているわけで,それを親告罪という形で扱うということに理論的にも疑問があると思います。そういう表明をした以上はやはり国が責任を持って起訴をするという形をとるのが筋ではないかと。それで出てくる不都合は別途いろいろな形で調整を図る,被害者の方に負担が掛からないようにするというのがやはり基本的に在るべき姿ではないかと思います。では,どこからが親告罪としていいような法定刑なのかと言われると困るのですけれども,そういう面から非親告罪化ということに賛成したいと思っております。 ○佐伯委員 今,塩見委員から御発言があったわけですけれども,私自身は「性犯罪の罰則に関する検討会」でも申し上げましたけれども,先ほど事務当局から今回の提案の理由として御説明がありましたように,今回の非親告罪化の理由というのは,告訴権というのは被害者のために認められているにもかかわらず,被害者のためになっていないという点にある。そういう立法事実があることを前提として今回,非親告罪化を行うというふうに理解しております。   もし,重大犯罪であるから非親告罪にすべきでは本来ないということになりますと,被害者の方が大勢として親告罪を維持することを望んでいても,国家の立場から非親告罪化すべきであるということになるかと思いますけれども,今回の改正というのはそういう趣旨ではないというように理解して,賛成したいと思います。 ○武内幹事 基本的に非親告罪化することについて反対の立場をとるものではありません。ただ,被害者の負担という点について先ほど来お話が出ておりますので,主に犯罪被害者の支援を担当する弁護士の立場から一言,意見を申し述べさせていただきます。   確かに非親告罪化することによって,告訴をするかしないか,ないし一旦行った告訴を維持するか取り下げるかという点について,被害者の精神的負担は軽減されるものと理解しております。他方,処罰の意思がそれほど強固でなくても,捜査の負担を被害者が受けることになるという側面は,やはり否定できないのではないかと考えております。   ですから,今までであれば捜査の負担を考えて告訴をする,しないという選択肢を与えられていた性犯罪被害者が,今後は制度的にそれが担保されなくなる。確かに,公訴提起の場面では,被害者の意思に反した起訴というものはなされないでしょうが,被害者の意思に反した,ないし被害者の意思に沿わない捜査の開始というものがこれから起こっていくことになります。その部分の被害者の精神的負担をケアすることが考えられなければいけないのではないかと思っております。   冒頭に申し上げたとおり,性犯罪の非親告罪化そのものに反対する立場ではありませんが,被害者の負担が増すケースが十分考えられる。その部分のケアをこの先,我々が社会的に考えていかなければいけないと思っております。個人的にではありますが,そのような被害者ができるだけ早い段階で,無料で弁護士による法的な支援,あるいは心理士によるメンタルの支援を得られるような制度の構築というのを,併せて別途,国として考えていくべきではないか,そのように考えます。 ○角田委員 先ほど小西委員からお話があったのですけれども,PTSDの急性期の被害者というのは,つまり捜査が始まると,早く届出がされたらですけれども,捜査と急性期とが重なってしまうので,その段階で何か被害者に特別な支援が必要ではないかと私は今,聞きながら思ったのですね。   ですから,先ほどお話がありましたように,声を上げられないとか考えることすらできない段階に捜査がぶつかったときに,その被害者の意思というものが間違ってとられてしまうことが起きてくると思われますので,そこに何か特別な手当が制度的に必要ではないかと私は思っております。 ○小西委員 今の角田委員の御意見に賛成なのですが,ここはそういう実務的な支援をどうするかを話し合う場ではないのかなと,ちょっと自分でよく分からないでいたので申し上げなかったのですけれども,非親告罪化に伴って急性期の支援ということが非常に大事になってくると思っております。 ○武内幹事 先ほど森委員から,被害者のプライバシーへの配慮の一つとして,被害者の特定事項が起訴状に掲載されないように配慮することもあるというお話を御紹介いただきました。ところで,被害者の方からプライバシーに配慮してほしいという希望があったときに,そのことだけで起訴状に記載しないという運用は,現状で可能なのでしょうか。 ○森委員 今現在,現にやっております。もちろん公訴事実として被害者を特定することは必要ですので,それはその事案により様々な工夫で特定するのですけれども,例えばよくある名前でも漢字が特殊なので,漢字で名前を書いてしまうと特定されるようなときには片仮名表記にするとか,あるいは親の名前を記載して,その長女何歳とするとか,これは本当に事案によりますし,被害者の方の希望の有無のみで決める訳ではありませんが,そういう取組を始めております。裁判所の御理解もいただいているところです。 ○武内幹事 ありがとうございました。 ○平木委員 この点につきましての裁判所での議論を御紹介させていただきます。   平成25年9月に司法研修所で行われました研究会において,裁判官同士で議論がなされたわけですけれども,起訴状には原則として被害者の実名を記載すべきではないかという意見が多かったところではございますが,例外として再被害のおそれが高いような場合には,実名以外の記載をする必要性が高くなるということについては異論がなかったと聞いております。   もっとも,この問題につきましては裁判所のみで対応できるものではございませんで,公訴を提起する検察庁での議論や弁護士会における議論状況もお聞きした上で検討する必要があるものと考えております。そうした議論も踏まえまして,個別具体的な事案におきまして再被害のおそれが高いかどうかという観点なども踏まえて,起訴状に実名を記載すべきか否かということについて,更に検討していくということになると考えておるところでございます。 ○武内幹事 平木委員にお伺いしたいのですが,起訴状の記載に関してはそのような取扱いがなされておると伺っておりますけれども,例えば再被害のおそれがあるようなケースであっても,判決書に被害者のお名前を載せないということはあり得るのでしょうか。 ○平木委員 先ほど申し上げました司法研修所での研究会での議論を紹介させていただきますと,被告人には実名を知らせるべきではないと考えられる事案ではあっても,被告人の防御の観点から弁護人には被害者の実名をお知らせする必要があり,証拠上も実名が明らかになることが望ましいということを前提に,証拠上,実名が明らかにされれば,判決書にも実名を記載する方が望ましいという議論が多かったと聞いております。   その理由につきましては,判決書におきまして実名を記載しなかった場合には,後に同一の被告人について再度起訴がなされますと,それが前の事件の蒸し返し,重複起訴かどうか分からなくなってしまうのではないかという議論がなされていたと聞いております。 ○武内幹事 その場合,判決書に被害者の名前が出ていたとしても,被告人には謄本の交付請求が可能だと理解しております。   戻りますけれども,性犯罪の非親告罪化に反対する立場ではございませんが,そこでいう被害者のプライバシーといった場合,広く社会一般に自分の事件が知られるというプライバシーの側面と,もう1点,被告人に自分の氏名あるいは住所といった特定事項が知られてしまうというプライバシーの側面,二つの側面が考えられると思います。   非親告罪化がなされたとしても,被害者の明確な拒絶のある事案等での公判維持は相当困難であろうと思います。ですが,それでも被害者の意に反した捜査,意に沿わない公判請求ということは十分考えられます。その場合,特に被害者の被告人に対する関係での情報のコントロールという側面を,私を含めた関係者が,より考えていかなければならないと思っております。 ○山口部会長 ありがとうございました。   非親告罪化についてはいろいろ御意見をお伺いしておりますが,略取・誘拐罪の関係につきましても非親告罪化が問題になります。その点について何か具体的に御意見をいただけけることがあればお願いします。   強姦等と一括して同じに考えてよいと理解してもよろしいでしょうか。別に考える必要があるということであれば,何かその辺りの御意見を頂ければと思うのですが。 ○今井委員 私は先ほどの御説明で納得しているものでありまして,未成年者略取・誘拐罪については現行法を維持するということでありますけれども,その他の犯罪につきましては,先ほど来ここでも議論がありましたけれども,被害者のプライバシー保護ということと犯罪の重大性ということとの兼ね合い,あるいは池田幹事がおっしゃったように被害者の意思というものにも二通りあり,公にしたくないということと,しかし処罰を断念するわけではないということ,この調整を図っていった際の整理の仕方としては,未成年者に係るものであるという点,それから略取・誘拐という犯罪である点を踏まえますと,これについてはなお親告罪として残すということに合理的な理由があるように拝聴しました。 ○山口部会長 諮問自体は,親告罪を残すというよりも,非親告罪化する部分についてそれでよいかという問題ではあるのですが,ほかにいかがでしょうか。   大体,御意見としてはお述べいただいたと理解してもよろしゅうございましょうか。 ○宮田委員 略取・誘拐の場合はある程度被害の期間があるということになるかと思います。そうすると,被害者の方にとっては,その期間,自分が何をしていたか等についての情報のコントロールが必要な面がある程度出てくるのではないかと思います。   そういう意味で,強姦とはまた違った意味での被害者のプライバシーの問題は出てくるのではないでしょうか。特に反対という意味ではありませんが,被害者の保護すべき情報という問題は出てくるのではないかと感じた次第でございます。   また,先ほどから出ている強姦等の非親告罪化の問題ですが,捜査の端緒は被害者の被害申告だけではない。加害者の方が何十件もやっていますと自白したような場合,あるいは目撃者があそこで被害に遭っている人を見ましたというような形があります。捜査の端緒は被害者の意思にはかかわらしめられないものがある以上,先ほど小西委員がおっしゃったような,親告罪であることによって被害者が捜査をコントロールできていた部分が今後できなくなるという点についての配慮は,必要ではないかと感じた次第でございます。 ○山口部会長 ほかに御意見いかがでしょうか。   大体,今日のところは御意見をお述べいただいたということと理解させていただきました。   ありがとうございました。   本日の御議論では,要綱(骨子)第四の一及び二のとおり,強姦罪,強制わいせつ罪,及びわいせつ目的又は結婚目的の略取・誘拐罪等について非親告罪化すべきであるという御意見が多数といいますか,反対の御意見は述べられなかったと思います。その意味では皆様,賛成していただいたと理解できるように思います。   また,非親告罪化した場合について総会でも御指摘のあった点でございますが,被害者の意思に反した起訴ができないようにする制度的な担保を設けるかどうかという点につきましては,そのような制度を設けることは難しい上に,運用によって適切に対応が可能であるという御意見が多かったように思われます。運用についてもかなり御説明をいただきまして,理解を深めることができたのではないかと思います。   いろいろな御指摘がございましたが,非親告罪化するか否かにかかわらず,捜査,公判の手続において被害者に対する配慮が必要であるという御意見が複数述べられたところでございます。   本日の審議はこのような形でまとめさせていただき,これで終了するということにさせていただきたいと思います。   次回以降の予定でございますが,先ほど申しましたとおり,要綱(骨子)第一とそれに関連する事項から審議をお願いしたいというように考えております。次回以降の会場等につきまして,事務当局の方で御説明いただければと思います。 ○中村幹事 第2回会議は11月27日,金曜日の午前9時からを予定いたしております。場所は本日とは異なり,法務省地下1階の大会議室でございます。 ○山口部会長 それでは,次回は平成27年11月27日,金曜日,時間は本日より若干早くなりまして,午前9時からということで,地下1階の法務省大会議室で開催するということでございます。内容的には要綱(骨子)第一の強姦の罪の改正に関する事項と併せて,関連する第二,第五,第六に関する事項について議論したいというように思います。   なお,本日の会議の議事でございますが,これにつきましては特に公表に適さない内容に当たるものはなかったというように思われますので,発言者名を明らかにした議事録を公表することとさせていただきたいと思います。   なお,配布資料でございますが,資料番号14,15,21,22,27につきましては,具体的事例の内容に関するものでございますので,関係者のプライバシー等に配慮いたしまして,ホームページでの公表はしないことといたしまして,それ以外の資料は公表することにしてはいかがかというように思いますが,そのような取扱いでよろしゅうございましょうか。 (「異議なし」の声あり」)   ありがとうございました。それでは,そのようにさせていただきます。   それでは,これをもちまして終了とさせていただきます。   どうもありがとうございました。 −了−