法制審議会 刑事法(性犯罪関係)部会 第4回会議 議事録 第1 日 時  平成28年1月20日(水)    自 午前 9時30分                          至 午前11時13分 第2 場 所  法務省第一会議室 第3 議 題  1 要綱(骨子)第四について         2 要綱(骨子)第一,第二,第五,第六について         3 その他 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○中村幹事 本日もお忙しい中お集まりいただきまして,ありがとうございます。予定の時刻となりました。   塩見委員は本日,新幹線が雪の影響で遅れており,御出席が若干遅れると伺っておりますが,ただ今から法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会の第4回会議を開催いたします。 ○山口部会長 おはようございます。本日は御多用中のところお集まりいただきまして,誠にありがとうございます。   本日,田邊委員,それから松尾関係官におかれましては,御欠席と伺っております。   まず初めに,事務当局から配布資料についての御説明をお願いいたします。 ○中村幹事 本日配布しておりますのは,資料29と資料30です。   資料29は,昨年12月に閣議決定されました第4次男女共同参画基本計画の抜粋でございます。第3次計画に引き続き,性犯罪の罰則の見直しについても盛り込まれております。また,これに関係して,小林関係官から参考資料も提出されております。これらの内容につきましては,後ほど小林関係官から御説明いただけると伺っております。   次に,資料30は,第2回会議の中で御指摘のありました性別適合手術に関する資料です。具体的な内容に関しましては,後ほど要綱(骨子)第一に関する御審議の際に御説明させていただきます。   また,第1回会議でお配りいたしました資料1から28までを机上に置かせていただいております。   それでは,小林関係官から,資料29の第4次男女共同参画基本計画の関係につきまして,御説明をお願いいたします。 ○小林関係官 資料29と,カラーのピンク色の絵がございますけれども,そちらが資料となりますので,見ていただきながら,適宜説明させていただきたいと思います。   資料29の冊子になっている方を2枚ページをおめくりいただきまして,まず目次でございますけれども,この計画は,冒頭言及いただきましたように,昨年の12月に閣議決定したものでございます。この計画を策定するに当たりましては,男女共同参画会議の方に総理大臣から諮問がございまして,それに対して,同会議から基本的な考え方ということで答申をいただき,それを踏まえて,関係省庁とも相談して策定したものでございます。   具体的内容としましては,今,目次を御覧いただいていると思いますが,「基本的な方針」という第1部と,あと,具体的な施策を記した第2部という形で構成されております。今日主に御説明申し上げますのは,第2部のローマ数字で政策領域ということで,Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ,Ⅳとそれぞれ書いてあるもののⅡの部分,「安全・安心な暮らしの実現」のところの「第7分野 女性に対するあらゆる暴力の根絶」ということで記載しております。その中に性犯罪の関係のことを記載しておりますので,そちらを説明申し上げたいと思います。   それでは,ページをめくっていただきまして,下にページ数が書いてございますけれども,6ページをお開きいただきたいと思います。   こちらは,今申し上げました「女性に対するあらゆる暴力の根絶」ということでございまして,先ほど申し上げました男女共同参画会議から答申いただきました基本的な考え方をまず記載しております。その上で,具体的な成果目標ということで,数値目標を四つ掲げております。   上の三つは,配偶者等からの暴力の関係の相談窓口等々の目標でございますが,四つ目に行政が関与する性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターの設置というものを掲げておりまして,これについては,各都道府県に最低1か所ということでございます。これは,被害に遭った方について,できるだけ1か所で,医療的な支援もそうですけれども,捜査機関との関係,あと,その後の精神的な中長期のケアなども含めて,できるだけ被害者の方に負担がないように支援できるようにということで,御案内のとおり,ワンストップ支援センター設置の動きがございますけれども,まだ今現状で,私どもで把握している限りで25か所という状態でございますので,これを全都道府県に最低1か所という目標としております。   続きまして,具体的な政策の中身ということで,7ページ以下に記載しておりますけれども,性犯罪の関係でございますと,15ページに飛んでいただきたいと思います。   15ページの下の方から始まっておりますけれども,こちらの方で,まず具体的な取組としては,「性犯罪への厳正な対処等」ということで,アで記載しております。このページの次のところで,16ページの上の方ですが,先ほども言及ございましたが,性犯罪に関する罰則の在り方について,法制審議会で今,正に御議論いただいておりますので,その結果を踏まえて,法改正を含む必要な措置を講ずるということで記載させていただいております。私どもとしましても,当部会の御議論には注目させていただいているところでございます。   そのほか,アの中では,今申し上げました「(ア)関係諸規定の厳正な運用と適正捜査の推進」「(イ)性犯罪捜査体制の整備・充実」「(ウ)性犯罪の潜在化防止に向けた取組」などを記載しております。次に,イのところで「被害者の支援・配慮等」ということで,この説明の冒頭に申し上げましたけれども,ワンストップ支援センターの設置促進ということを記載しております。   ページをおめくりいただきまして,17ページの方にも,被害者の支援の関係がそれぞれの項目を記載しておりまして,次に,18ページのウのところで,「加害者に対する対策の推進等」ということ,あと,エで「啓発活動の推進」ということで記載しております。   併せまして,「性犯罪への対策の推進」とはまた別の項目で立てておりますけれども,「5子供に対する性的な暴力の根絶に向けた対策の推進」ということで,性犯罪でもあるし児童虐待でもあるという観点で項目を掲げておりますけれども,その中で,アの部分でございますけれども,「子供に対する性的な暴力の防止,相談・支援等」ということで記載しております。具体的中身といたしましては,まず,特に発見がしにくいということもありますので,関係機関の連携等による虐待の早期発見等ということ,あと,性犯罪全般でもそうなんですが,特に児童に関しましては,事案が判明した後の対応というのに更に困難性がある部分もございますので,例えば事情聴取の仕方等々含めて,新たな取組をするということで記載しております。   計画の内容については以上でございますが,ずっとページをめくっていっていただきまして,ページは振っていないのですが,冊子としては後ろから2枚目の紙になりますが,男女共同参画計画のそのものではないんですが,「参考指標」の抜粋を付けております。この「参考指標」は,先ほどで御説明を申し上げた成果目標ではないのですけれども,施策のその後の推移をウォッチする際の参考ということです。1枚めくっていただいたところに,暴力の関係ですと,そこに掲げたような数値を毎年きちんと把握して,施策の参考にしていくという建て付けになっております。   大変簡単ではございますが,以上でございます。 ○山口部会長 ありがとうございました。   ただ今御説明いただきましたことについて,何か御質問等ございますでしょうか。よろしゅうございますでしょうか。 (一同 発言なし)   それでは,審議に入らせていただきたいと思います。   本日から2巡目の議論となりますが,本日はまず,要綱(骨子)第四について審議をいたしまして,その後に要綱(骨子)第一と,これと関連性の強い第二,第五,第六について審議を行いたいと思います。   それでは,まず,要綱(骨子)第四,すなわち,強姦罪等を非親告罪とすることについての審議に入ります。   要綱(骨子)第四につきましては,第1回会議におきまして議論を行い,強姦罪,強制わいせつ罪及びわいせつ目的又は結婚目的の略取・誘拐罪等につきまして,非親告罪とすることに賛成の御意見が多数述べられ,反対の御意見は特に述べられておりませんでした。もっとも前回,宮田委員からこの点について,改めて御意見を述べられたいという御希望がございましたので,まず,宮田委員の方からお願いしたいと思います。 ○宮田委員 機会を与えていただいて,ありがとうございます。   実は,非親告罪に反対してくれという年賀状をもらったりいたしましたので,機会を与えていただいたことに心から御礼申し上げます。   ヒアリングに出てこられた被害者の方たちは,非親告罪を求める意見が圧倒的に多かったわけですけれども,私どもが弁護活動をしていて,示談が成立する被害者の方たちは,示談で終わってよかった,裁判にならなくてよかった,早く済んでよかったというような御感想をお持ちになる方であるわけです。親告罪でよかった,親告罪であることを維持してほしいという意見の被害者の方というのは,公に意見として出てこず,どうしても潜在化しやすいのではないかと思うのです。   強姦罪の場合,例えば加害者と被害者とが知人同士であるような事件など,加害者側が逮捕勾留されて,弁護人が加害者側に付いた形で,加害者と被害者とが冷静に話し合い,このことによって問題解決ができて,それでよいと考える被害者がいてもおかしくはないはずだと考えます。個人法益を守る罪である強姦罪については,私的自治に委ねてもよい部分があるのではないかと考えるわけです。   非親告罪化の理由は,被害者の心理的負担の軽減など,被害者の立場に考慮するという観点であるわけですが,逆に,これが親告罪とされてきた理由も,被害者の名誉やプライバシーであるとか,あるいは心情の平穏といった被害者の利益を保護するために,立件や処罰の可否について,被害者の意思を尊重するというところにあったはずです。そして,親告罪であることで現にその機能を果たしてきたと言えるし,その機能が今後も果たし得る役割というのは大きいと考えます。   非親告罪化することは,このような被害者のそれらの心情の平穏等の利益を保護する目的や,それらを保護する機能を持った制度をなくするという意味です。つまり,被害者の処罰意思にかかわらず処罰することを法律的に可能にするというものです。被害者の心理的な負担を軽減するために被害者の意思を尊重する制度を撤廃するということに,そもそも理屈として疑問があるとも言えるわけです。   非親告罪化について,示談の圧力が掛かるという御意見がヒアリングの中でありました。しかし,資料25を見ていただければ,強姦致傷や強制わいせつ致傷のような非親告罪であっても,起訴猶予の案件が非常に多いことが分かります。つまり,示談の圧力というのは,別に非親告罪化したかどうかには関わらないということでございます。   示談ですら被害者にとって圧力となるとすれば,非親告罪になった場合に,被害者に対して,例えば事情聴取を受けてほしいとか実況見分に立ち会ってほしい,あるいは,更にその後,起訴されて証言に立ってほしいと言われたときの負担は,逆に大きくなるのではないかと考えます。親告罪であれば,今はとにかく混乱しているので,処罰してほしいかどうか判断が付かないという被害者の意思が表明されれば,捜査はそこでストップするわけです。しかしながら,非親告罪化された場合,特に被害者の被害申告によらない形で被害者の被害が判明した場合,加害者の自白であるとか,あるいは目撃者の存在,その他の事由によって,被害者の意思によらずに捜査が開始された場合に,果たして,捜査官の方から,正義のために協力してほしい,あるいは,こういう悪いやつは罰して,社会のために一緒に頑張ってほしいというようなことを言われた場合に,果たして,混乱している状態の被害者の方が,今は無理です,駄目です,もうちょっと後にしてくださいということが言えるだろうかということは,非常に心配に思われるわけです。   起訴されて,事実関係がもしも争われるということになれば,被害者の方はその意思に関わらず,証人尋問を受ける場合があり得るわけです。証人には証言拒絶権はありません。このような場合,被告人側が反対尋問しないということは,ほぼあり得ません。このようなことで,かえって被害者の負担は重くなるのではないかということも考えられます。   制度として非親告罪化して,運用として被害者の意思を尊重するために,被害者に対して処罰意思の有無を確認して事情を聴取するということであれば,これは非親告罪化しなくても,親告罪を維持した場合でも,被害者の心理的負担というのはほとんど変わらないということにはならないのだろうか。つまり,被害者が処罰の意思を表明したから捜査が進んだんだろうといって逆恨みされるだろうという被害者側の危惧が非親告罪の理由として出ましたが,結局は同じことにはなるのではないかと思うのです。   やはり被害者は,プライバシーを自ら守る権利はあるはずですし,放っておいてもらう権利は持っているのではないかと思います。   あと,強姦罪は重大な犯罪だということを国民に認識してもらうために非親告罪化が必要なのだという議論もありましたけれども,親告罪である理由というのは,例えば,器物毀棄などについては重大な犯罪ではないという場合ですけれども,名誉棄損などの場合には,プライバシーの問題もあったりします。性犯罪の場合には,被害者の心情的な平穏等を守りたいという被害者の意思を守るという趣旨であって,その制度の趣旨が異なるものを捕らまえて,非親告罪化することによって性犯罪が重大な犯罪であるということを国民が認識することになるという議論は,論理的にいかがなものだろうかと感じるわけです。 ○山口部会長 ただ今,宮田委員の方からは,親告罪という制度は,被害者の利益保護という観点から意味が大きいのではないか,特に放っておいてもらえる権利,プライバシーの権利という観点から意味がある,非親告罪化により,かえって被害者の負担が重くなる場合もあるのではないかといった御指摘がございました。この点につきまして,特に1巡目でお述べいただいた御意見に付け加えて述べていただけることがあれば,お願いしたいと思います。 ○角田委員 二つのことを申し上げます。まず,今,宮田委員から指摘されたいろいろな親告罪であることの利点についてです。立法例を見ますと,現在では親告罪にはなっていないし,元々,性暴力犯罪であっても,親告罪になっていないという国があるわけです。そういう国ではどういう議論になっているのかということを,ちょっと学者の方に教えていただきたいと思っています。   それから,もう一つは,被害者の負担の問題です。結局,被害者は現状では,刑事手続に関わることの負担があるので,ちゅうちょすることがあると思うのですけれども,でもその人たちが,加害者を処罰しなくてよろしいと,私はこのまま忘れて,それで平穏な生活が回復するのだと,そう思っている人は,私はほとんどいないのではないかと思うのです。処罰してほしいという意思は非常に強いけれども,もろもろのその後起こる厄介なことについて,自分がやっていけるかどうか自信がないので,関わらないでいようとなっていくわけですけれども,先ほど小林関係官からもお話がありましたように,ワンストップセンターのようなことが手当てされていくことによって,被害者についてもいろいろ,今まで以上に支援が強くなっていくということになってくると,被害者はきちんと,自分に対する加害者と闘うことで,本来の尊厳を取り戻すという,そういう道が開けてくるのではないかと私は思っております。特に日本においてだけ,親告罪にしておくことが被害者の利益を守るという議論は納得できないと思っております。 ○山口部会長 ただ今,外国ではどうなのかという御質問がありました。親告罪という制度がそもそもない国を含めて,何か御発言いただけることがあればお願いします。 ○今井委員 特に詳しく知っているわけではございませんけれども,今の角田委員の御理解のような国が多いと私も思っております。   例えば,イギリスなどでも,元々犯罪の処理というものが私的自治に委ねられるという歴史もあったわけですけれども,先ほどの宮田委員がおっしゃっていたような,性的自己決定権も個人的法益であって,私的自治に委ねる領域があるという議論もあったようではありますけれども,現在では,それは社会的な関心事項であって,被害者の方の個別的な意思というものを含めた社会全体の在り方として,刑事制裁の対象にするという方向で,大きく制度ないし認識が変わってきたと理解しております。   そういった意味では,今回の諮問の出発点であります,従来「強姦」と言われてきた類型を含め,周辺にも重大で大変悪質な類型があり,それを個人の処理に委ねるのはよくないという発想,ここから今回の議論もスタートしているわけですので,非親告罪にするという方向が正しいと思います。   現在でも,被害者の方のプライバシーを考慮した運用がなされているという話でしたが,今後も適切な訴追裁量権の行使等によって,同様の結果が期待できると思いますので,1巡目でも申しましたけれども,私はこの方向性に賛成でございます。 ○中村幹事 事務当局から,事務当局が把握している限りについて,若干外国の制度について御紹介したいと思います。   もとより,改正の経緯ないしは外国の制度について,網羅的に把握しているわけではございませんけれども,アメリカとかイギリスではそもそも,一般的には親告罪制度がないと考えられております。また,フランスにおきましては,かねてから性犯罪は非親告罪とされておりました。また,ドイツにおきましては,こちらは文献上の指摘ということでございますけれども,「刑法典は1871年の制定当初は強姦罪を親告罪としていたが,1876年の刑法改正で親告罪規定が削除されて,強姦罪が非親告罪となった。ドイツでは,この段階で既に,性犯罪を被害者の意思にかかわらず処罰することが重要だと考えられたといえる」旨の指摘がございます。また,韓国におきましては,刑法制定当初から,強姦罪や強制わいせつ罪などが親告罪とされておりましたけれども,被害者が被害申告及び告訴を敬遠することにより犯罪が隠蔽されることを防ぐことができ,犯罪予防の効果があるほか,被害者の意思と関係なく,加害者に対する厳正な対処効果が期待できるなどの理由から,2012年の刑法改正によって非親告罪化されたと,以上のようなところを承知しているところでございます。 ○小西委員 表面的に被害者の方に聞けば,どちらの案もある,年賀状に書いてあったとおっしゃいましたけれども,それはもちろんあると思うのですね。私は現状で,被害者の権利が適切に扱われているとは残念ながら思えないと思っていますが,ただ,ではなぜその機能を親告罪が果たしてきたのかと,もう1回問い直したいと思いますね。それは,親告罪でなければ被害者の権利は守れないものなのか。そうではないのだと思います。   表面的に,最初にイエスかノーかで聞いてしまえば,二つの意見はあると思うのですが,私は,幸いにと言いますか,法的な事件とならない被害者の方もたくさん見ております。むしろその方が多いです。そういうところで,どうして警察に訴えないのか,あるいは取り下げてしまったのかというお話も聞きます。もちろん,だから示談を受けてしまったという方もいるし,そもそも表に出ていくことが耐えられないと思ったという方もいます。いますけれども,ではその人たちが,相手のことを示談でよかったと思っているのかと,全く思っていないですね。心理的に言えば,被害を受けた方の相手を処罰してほしいという感情が非常に高い犯罪だと思います。   現状で,いろいろな不備がある状態で,その二つの意見に分かれるのは,むしろ被害者がどういう道を採ればいいかよく分からないからであるというのが,現場から見た状況だと思っています。   ただし,この前も申し上げましたように,非親告罪になるということは,やはり宮田委員が言われたようなおそれ,今のままでいけば,そういうことが起きないとは限らないというのもそのとおりだと思いますので,例えば,捜査に協力する,急性期に捜査に協力するということをするためには支援が必須だと思います。そういう点で,レイプ・ワンストップセンターの支援,あるいは各司法機関における専門的な支援というのを強化していかなくては権利が守れないということは,当然のことだと思っております。 ○齋藤幹事 小西委員に続けて,同趣旨で発言をさせていただきます。10年近く前になりますが,当時,私の関わっている被害者支援現場ではご遺族の支援が多く,性犯罪被害者の支援は件数が多くありませんでした。そのためもあり,どのように性犯罪被害者の支援をしてよいか手探りでやっておりました。そのときには,示談で済んでよかったとおっしゃる被害者の方も多くいらっしゃったと記憶しております。   しかし,ここ数年,性犯罪被害の受理件数が増え,かつ,警察や検察庁の方々,弁護士の方々と連携をとらせていただきながら支援に当たるようになって,連携の上での支援,早期からの支援の体制が整いつつあります。そうすると,示談で終わらせる,という被害者の方は以前よりも明らかに減っているということを感じております。もちろん,示談で終わらせたいと望む方もいらっしゃいます。しかし,きちんと早期から精神的なケアを受けている,そして,それぞれの段階に適切なケアを,民間支援機関やワンストップセンター,若しくは警察,検察から受けている被害者の方の中には,自分がきちんと守られ精神的なサポートも受けられるならば,加害者を罰したいという意向を示す方がとても多いと感じております。   したがいまして,大事なことはやはり,小西委員もおっしゃっていたようなケアの充実であるとか,被害者の心情に配慮した手続であると思います。非親告罪化した上で,更にそのケアをきちんと充実していただければと願っております。 ○小木曽委員 「性犯罪の罰則に関する検討会」におけるヒアリングで出たことですが,「あなたが望めば裁判になりますよ」と言われるのと,ほかの犯罪と同じように,「本来裁判になるのだけれども,あなたが望まなければ裁判にはなりませんよ」と言われるのとでは,出発点が違うという御意見がありました。そうすると,今まで出てきましたように,ケアの点をしっかりしつつ,しかし,ほかの犯罪と同じように扱うという方向が正しいように私も思います。 ○宮田委員 被害の初期の被害者が非常に混乱していて,意思をきちんと表明できないという場合もあり得るところですが,その点については,告訴期間を撤廃するというような形で十分な時間を与え,捜査機関がその間ストップするという法改正がなされたのは,それほど古い話ではありません。   また,示談の話です。示談が終了して,被害者の方は,もうこれで手続は終わったと思っている。それでも,被害者の処罰意思が起訴の要件になっていなければ,性的な犯罪ではなく,別な犯罪で現に経験したところですけれども,示談が終了して,それを検察官に提出したとしても起訴される事例もあります。   被害者の意思を尊重するというのはどういうことなのか。これは,性的な犯罪だけに限らず,話合いができる,そして,話合いをするときも,今,齋藤幹事から,センターでは処罰意思の強い方も多いという話がありましたけれども,私どもが示談をする場合に,最近は,被害者代理人の方が付いて示談する場合も非常に増えております。そのように,客観的なアドバイスを受けながら示談をし,問題を解決しているという場合もあります。そして,被害者の方も,処罰を望んでいるというよりは,その男性が自分のそばから離れてほしいと考え,話合いでうまく条件が決められるのであれば,そういう方がいいと考える方もいらっしゃいます。   もちろん,性犯罪については,私的自治の範囲ではないのだという考え方もあるかもしれませんけれども,その事件の個別の事情,例えば,過去からの被害者と加害者の関係などによっては,そのような解決が望ましい案件もあるように思われるのです。 ○井田委員 現行法を見ますと,御案内のように,強姦致傷の場合とか集団強姦の場合には非親告罪になっているわけです。今お伺いした宮田委員の御見解をそのまま当てはめれば,実は強姦致傷とか集団強姦,これらもまた親告罪にすべきだという考え方につながっていかなければいけないはずです。しかし恐らく,宮田委員もそこまで御主張はされないのだろうと思うのです。その意味で,現行法は,最初から非常に不徹底な立場に立っていると思うのですね。ですから,私は,ここは原則に戻って,こういう重大な犯罪なのだから国が責任を持って立件,訴追するという立場を明確にする。ただ,その際に,被害者の気持ちも十分考慮して,運用していく。先ほど小木曽委員がおっしゃったような考え方がよろしいのではないかと私は思います。 ○角田委員 今まで,被害者に対する支援が非常に足りなかった。というのは,被害者のプライバシーを守るということが,告訴をしないということと引換えになされてきたという歴史があると思うのです。ところが,だんだん被害者の意識も変わってきて,自分たちの権利を主張してもいいのだということが一方で起きてきているわけですね。そして,先ほど申し上げたように,国も一定程度被害者支援に乗り出してきている中で,親告罪を維持するということが起きるとすれば,ここまで積み上げてきたもろもろの支援などの政策が,やはりそれも後退するのではないかと思いますし,社会的にも被害者に対する認識が,やはり後退するのではないかと私は思っておりますので,親告罪を維持するということは非常に悪影響があると思っております。   それから,先ほどちょっと出てきたのですけれども,示談になっても起訴されることがあるということです。それはあると思いますけれども,強姦罪以外の多くの事案でも,具体的には,示談が成立すると,もちろん内容によるでしょうが,検察官は起訴という選択はされないと思いますし,それから,被害者が証人になるのは嫌だということを明確にしているのに起訴して,検察官御自身が公判の途中で立ち往生するような,そういう愚かな選択はあり得ないのではないかと私は思っております。 ○山口部会長 ほかに,御意見はございますでしょうか。   よろしゅうございますでしょうか。 ○宮田委員 井田委員が強姦致傷等について,これが親告罪でないことについての私の意見について,そん度した御意見を頂戴しましたけれども,私は親告罪の範囲は,性犯罪も含めて,もっと広くてもいいという考えを持っています。   ここの議論と関係ないと思ったので出していないだけです。一言付け加えます。 ○山口部会長 この点につきましては大体御意見をお述べいただいたのではないかと思います。   それをまとめさせていただきますと,要綱(骨子)第四につきましては,非親告罪化することに疑問があるという御意見が本日述べられたわけでございますけれども,多数の方は非親告罪化すべきだという御意見であったというように理解できるのではないかと思います。   それでは,次でございますが,要綱(骨子)第一,第二,第五,第六について,まとめて審議を行いたいと思います。 (塩見委員入室)   1巡目の議論を簡単に振り返っておきますと,まず,現行の強姦罪に当たる重い処罰の対象になる行為につきましては,現行法の「姦淫」よりも拡張することについては,反対の御意見はございませんでした。その上で,拡張する範囲につきましては,口淫や挿入させる行為は含めるべきでないという御意見があった一方,膣等への手指の挿入をも含めるべきであるという御意見もございましたが,多数の御意見は,要綱(骨子)のとおりとするのがよいというものでございました。   また,現行の準強姦罪につきましても,同じように対象とする行為を拡張することにつきましては,特に反対の御意見はございませんでした。   次に,法定刑の引上げについてでございますが,現行の強姦罪の法定刑の下限を引き上げる必要はないという御意見もございましたけれども,多数の御意見は,要綱(骨子)のとおり,強姦罪及び準強姦罪の法定刑の下限を懲役5年に引き上げるべきであるというものでございました。また,強姦致死傷罪の法定刑の下限でございますが,これを懲役6年に引き上げるということについては,反対の御意見は述べられておりませんでした。   さらに,要綱(骨子)第五の集団強姦等の罪の廃止につきましては,集団強姦罪を維持して,その法定刑の下限を懲役6年とするべきであるという御意見がございましたが,廃止するべきだという御意見が多数であったということでございます。   本日は,こうした1巡目の御議論を踏まえていただき,更に議論を深めていきたいと思います。   まず,1巡目の議論の中で,手術によって形成された膣や陰茎について,事務当局において,実情を把握した上で報告するということになっておりましたので,まず事務当局から,その点についての御報告をお願いいたします。 ○中村幹事 本日お手元にお配りしております資料30を御覧ください。   資料30は,第2回の部会におきます御議論を踏まえまして,性同一性障害者の治療及び性別適合手術によって形成される性器について実情を把握するため,性同一性障害者の治療を行っている岡山大学病院ジェンダーセンター長の難波祐三郎教授と,岡山大学ジェンダークリニックで治療を担当されている松本洋輔岡山大学病院精神科神経科助教に御協力をいただきまして作成していただいた資料でございます。   この資料の内容について御説明申し上げます。   資料の表紙をおめくりいただいて本文の1ページ目ですけれども,1ページ目の1のとおり,岡山大学病院では,「岡山大学ジェンダークリニック」と「岡山大学病院ジェンダーセンター」が一体となって,性同一性障害の診断から性別適合手術までの治療を包括的に行える体制を整えておりまして,岡山大学病院におきましては,これまでに,約2,000名の性同一性障害者の診察を行い,延べ約600件の性別適合手術を行った実績があるとのことです。   そのページの3のとおり,性同一性障害者の中で,生物的な性別は男性であるけれども,性の自己認知あるいは自己意識が女性である者を「MTF」と呼び,生物的な性別は女性であるけれども,性の自己認知及び自己意識が男性である者を「FTM」と呼んでおり,この資料の2ページ目以降の4のところに,岡山大学病院での性同一性障害者の治療の流れが書かれております。   この4の(1)に記載されているような経過を経て性同一性障害の診断がなされ,ホルモン療法等への移行が適当であると判断された患者に対しては,(2)のところに書いてありますけれども,MTFの患者の場合,女性ホルモンの投与が行われ,場合によっては,豊胸手術を検討することとなっております。また,FTMの患者の場合,男性ホルモンの投与がなされ,乳房切除術が行われることとなります。   そして,おめくりいただいて3ページですが,3ページの(3)のとおり,患者が,性別適合手術を希望する場合,性別適合手術適応判定会議で手術の適否が検討されることになります。性別適合手術は,外性器を反対性の形状に近似させることにより,性同一性障害者の性別違和を緩和することを目的として,治療行為の一環として行うものとのことです。   次に,3ページ以降,5におきまして,性別適合手術の術式と形成される性器について説明がされております。   まず,(1)のところですが,(1)はMTFの場合であり,その手術の術式が①のところに記載されております。MTFの手術では,まず,陰茎を切断し,精巣を摘出し,陰核,会陰及び外尿道口を形成することになります。膣を形成する造膣術の術式が複数記載されておりますけれども,いずれの術式でも,人工物によって形成するのではなく,患者本人の皮膚や結腸の一部を用いて膣腔を形成する点で変わりはありません。   形成された膣の特徴・機能につきましては,5ページの②の部分に記載されております。   いずれの術式によりましても,外観は女性生来の膣に近似しておりまして,形成される膣に陰茎を挿入することは可能であるとのことです。   また,いずれの術式によりましても,神経や血管をつなぐことになりますので,形成した膣や外陰部には感覚があるとのことです。   次に,6ページ以降ですが,6ページ以下の(2)のところでは,FTMの場合について記載されておりまして,その術式が①のところに記載されております。   FTMの手術では,まず,子宮卵巣を摘出することとなります。   その上で,立位排尿を行うことを目的とした陰核陰茎形成術や,尿道を延長した上で行う陰茎形成術があるとのことです。   陰茎形成術につきましては,複数の術式が記載されておりますけれども,いずれの術式でも,人工物によって形成するのではなく,患者本人の腹部,前腕部,前外側大腿部などの皮膚で陰茎部分を形成して移植する点では変わりはありません。   形成された陰茎の特徴・機能につきましては,7ページの②のところに記載されております。 陰核陰茎形成術によって形成されるミニペニスは,外観は生来の陰茎とは異なっており,通常,膣や肛門に挿入することは困難であるとのことです。   一方,陰茎形成術によって形成された陰茎は,いずれの術式によっても,その外観は生来の陰茎により近似しておりますけれども,色などの点で実物とは異なるとのことです。陰茎形成術によって形成された陰茎には,いずれも内部に尿道が通っており,神経を再建した場合には,尿道内を尿が通っている感覚もあるとのことです。また,形成された陰茎の皮弁の知覚神経と陰核神経を接合すれば,陰茎に知覚,性感を感じることができますが,性的に興奮しても勃起することはできないとのことです。そのため,形成される陰茎に肋軟骨などの支持組織を埋め込む場合があり,そのような場合には,膣などに挿入することが容易となるとのことです。なお,支持組織を入れるか否かにかかわらず,形成された陰茎を口淫することは可能であるとのことです。   以上のことを踏まえまして,事務当局として,性別適合手術で形成された膣又は陰茎についても,個別具体的な判断によることとはなるものの,要綱(骨子)第一の膣又は陰茎に当たり得るものと考えております。 ○山口部会長 ありがとうございました。   ただ今御説明いただきましたことを踏まえまして,御質問あるいは御意見のある方は御発言をお願いしたいと思います。 ○井田委員 今の中村幹事のお話ですが,お聞きしていてよく理解できました。性別適合手術によって形成された陰茎や膣,これらも,言わば生まれながらの陰茎や膣と同じに扱っていい場合があるということです。もちろん,いろいろな態様,形態があるようですので,そこは個別的判断によるというのは,確かにおっしゃったとおりだと思います。例えば,自分の組織,あるいは他人の組織を使ってそういうものを作った,あるいは何らかの物質を使って作ったというとき,最初からそれは条文の文言に当たらないのだというような判断にはならないであろうということです。   それは,保護法益の理解から来るもので,私は身体的内密領域ないし親密領域をその侵害から保護するのが性犯罪処罰規定による保護であると考えるのですけれども,同じ機能ないし作用を持ち得るものであるとすれば,同じように被害者をそれによる侵害から保護すべきだということになると思うのです。   ちなみに,傷害罪の場合の人の身体というときに,自分又は他人の組織や臓器を移植した場合や,あるいは一定の物質を埋め込んだというような場合でも,それが身体と切り離せないような形で結合しているのであれば,もはや身体の一部として保護すべきだというのは,恐らく一般的な見解だろうと思われます。それとパラレルに考えることができるのではないかという感じがいたしました。 ○小西委員 少し違う視点からになりますが,性の在り方というのは,身体的なレベル,それから心理的なレベル,それぞれに非常に多様ですよね。今,LGBTと言われていますが本当に多様です。その中で,性的な侵襲というのがどうやって行われるかと考えた場合に,すごく古典的な,女性と男性で陰茎が膣に挿入されるという,それだけでは考えられない,例えば,同性の間の性的な侵襲は結構たくさんあると思います。それも含めますと,むしろやはり,これは特に議論にはなかったと思いますけれども,男女含めて様々な性の在り方の人に適用できるようにしていくということは,やはり必要なのではないかなと思っております。 ○山口部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでございましょうか。特によろしゅうございますか。   手術によって形成された膣や陰茎につきましては,最終的には個別事案,個別のケースについての判断ということになるのではないかとは思いますけれども,要綱(骨子)第一の括弧内に書かれております「膣」あるいは「陰茎」に当たり得るという御意見が述べられまして,これに特に反対する御意見はございませんでした。   この点は,要綱(骨子)を修正する必要が生じるものではないというようには思われますけれども,法文化の際にどのような用語を選択するのかにも関わるところですので,事務当局におきまして条文作成の作業に当たる際には,ただ今の御意見を踏まえて,検討していただくようにお願いしたいと思います。   それでは,次に,「性交等」の範囲と法定刑の引上げについて,1巡目の議論を踏まえて,更に御議論をお願いしたいと思います。   1巡目の議論では,性交等の範囲につきましては,多数の方は,先ほど申しましたが,要綱(骨子)のとおりでよいとする御意見でございましたけれども,要綱(骨子)に含まれているもののうち,口淫,あるいは,いわゆる挿入させる行為については含めるべきではないという御意見もございました。他方で,要綱(骨子)に加えまして,膣等への手指の挿入も含めるべきであるという御意見もあったわけでございます。   法定刑につきましては,強姦罪の法定刑の下限を引き上げる必要はないという御意見もございましたが,引き上げるべきであるという御意見が多数でありました。   これらの点につきまして,1巡目の議論を踏まえていただき,更に御意見があればお願いしたいと思います。1巡目では,論点ごとに御意見をお伺いいたしましたけれども,本日は,「性交等」の範囲を拡張することと法定刑を引き上げることとの関係なども踏まえて,御意見をお伺いしたいと思います。   また,1巡目の議論では,要綱(骨子)第二の準強姦罪について,要綱(骨子)第一と同様に法定刑の下限を懲役5年に引き上げる点や,要綱(骨子)第六の強姦致死傷罪の法定刑の下限を懲役6年に引き上げる点につきましては,時間の関係等から十分に御意見をお伺いできなかったようにも思われますので,これらの点につきましても,御意見があればお伺いしたいと思います。 ○宮田委員 1巡目で,口淫やさせる行為についての拡大について,反対の意見を申し述べました。私は,膣や肛門への侵襲行為は,客観的な危険性が大きいと申し述べたわけですけれども,その危険性の問題については,子供の口淫の場合には危険である,あるいは,させる行為について,子供が非常に精神的に傷付くという形での小西委員の御意見も頂戴したとは思います。果たして,これが成人について,膣や肛門と同様の物理的・生物的な危険があると言えるのかどうか疑問に思っております。   口淫について,事務当局から18件の例が紹介されておりますけれども,紹介された例は,成人の被害者の例は18件中4件です。しかも,その被害者は全て20代の方ということでした。少なくとも,させる行為については全て未成年の事例でございます。このような,実際に事件となった例の実態を見ると,口淫,少なくともさせる行為の方は,これはむしろ未成年の保護のための規定と考え,およそ成人まで,させる行為を全て処罰の対象とするということは,現実に沿わないのではないかと感じられるのでございます。   それとの関係で,法定刑の問題ですけれども,要は肛門性交,口淫,させる行為,これは従来,強制わいせつとして処罰されてきたわけです。そうすると,強制わいせつから強姦と同等の処罰になるということ自体が重罰化だと思うのですけれども,その強姦の法定刑を更に引き上げるということになりますと,二重の重罰化ということが言えるのではないかと考えます。   第2回でも指摘しましたけれども,資料14や15を見ますと,肛門性交や口淫,させる行為は,3年以下で処罰されているものが非常に多い。これらを含めて懲役5年とするということになりますと,これらの行為は,現在よりも重く処罰されるようになることは明らかだと考えます。少なくとも口淫,させる行為については,従来,強制わいせつとか児童福祉法違反で処罰されてきたもので,これを取り込んで懲役5年とすることには非常に問題が大きいのではないか。強姦と同じにして3年以上にすることに加え,更に5年という二重の重罰化がされるということ自体,問題であるように思います。   そもそもが,基本的に第177条で従来規定されてきた強姦罪の認知件数自体が,少なくとも横ばいの状態であるわけですから,法定刑を引き上げる必要性というのは乏しいのではないかと考えます。そして,現に,現在の強姦罪でも,言い渡されている刑の7割は5年以下です。法定刑が引き上げられた場合には,量刑傾向は上がることになります。このような立法をしなくても,法定刑の範囲で十分に対処が可能であるところを,なぜ刑を上げる必要があるのかというところが,甚だ疑問に感じるところでございます。   そして,強姦罪が,懲役5年になったとしても,酌量減軽があるから執行猶予が付けられるではないかという議論がありますけれども,酌量減軽の議論を先取りして執行猶予が付けられるという議論は,倒錯した議論ではないかと思うわけです。法定刑の中で収まるような刑を言渡しできるようにするのが当然なのではないでしょうか。   今まで,検察庁の求刑基準は,法定刑が上がれば,それに連動して上がってきています。これは,私たちの感覚的な問題で,検察庁が違うと言ったら違うのかもしれませんが。そうすると,強姦罪では,特に事情がない限りは,原則として5年の求刑がされるということにもなり得ます。そこで,私たちが弁護するときに,どこまでを主張立証すれば執行猶予が付くのか,その予想は困難になります。また,裁判の適用にもばらつきが生じてくるおそれがあると考えます。そして,この下限5年というのは,殺人罪の法定刑の下限と同じです。   平成16年の刑法改正では,殺人罪の法定刑の下限を3年から5年に上げました。そして,強姦罪の法定刑の下限を2年から3年に上げました。この改正の時点では,強姦罪と殺人罪の評価基準は同じではない,そして,殺人罪の方が重いものだということが前提とされていたのではないのでしょうか。殺人罪の保護法益である生命というのは,全ての法益の中でも最も重要なものであることは言うまでもないと思いますけれども,平成16年以降現在までに,強姦罪を殺人罪と同等に評価しなければならないほど大きな価値観の変化が生じたのだろうかというのが大きな疑問です。   そして,この5年という法定刑,強盗だってそうではないか,ほかだってそうではないかという考えもあるかもしれませんけれども,強盗の法定刑がそもそも合理的なのかという議論をしないで,強姦罪だけ論じるということに果たして問題はないのでしょうか。   元々は,明治35年の草案の段階では,強盗罪は,僅かばかりのお金を取って逃げるというような事件もあるから3年とされていたものを,貴族院で,強盗というのは人が最も嫌がる罪だといって5年にしたという経緯と聞いております。強盗罪という財産罪の法定刑が何でこれほど重いのだろう。ここを議論せずに,性犯罪の分野のみを捉えて議論することは,こんなことを言っては申し訳ないのですけれども,場当たり的な引上げを招いて,ほかの分野とのバランスを欠いたままで,どんどん重罰化をしていくことにつながりかねないのではないかと思うのです。   性犯罪と財産罪という個別の問題を比較したときにも問題が起きると思いますし,放火については,個人的な法益ではなくて,これは公共危険罪である。家が燃えることによって社会全体に危険が起きるということで,5年の刑が下限ということになっていたのではないでしょうか。しかしながら,判決が非常に軽いのは,そういう危険は実際に生じないのだけれども,いわゆる独立燃焼説を採って,壁が燃えました,天井がちょっと焦げましたというような場合は,全て現住建造物放火で処罰しなければならない。そういうことで,かなり軽微な事案まで同罪に取り込まれるので,非常に軽い処罰もあるということなのではないのでしょうか。   そのようなことを考えますと,性犯罪の問題だけ3年を5年に引き上げるという議論が,果たして正しいものなのかどうかということを感じるものです。   刑の下限を引き上げるということは,量刑の裁量の幅が狭くなるということです。重い事件を重く罰するのであれば,今のままで何も支障はないわけですが,下限を引き上げるということは,現実に軽微な事件,類型的に軽く処罰できるようなものまで,酌量減軽しなければ重く処罰されるということになり,非常にやはり問題があるのではないかと考えるのです。   そして,傷害致死は3年以上,殺人は5年以上です。もちろん強姦罪というのが,魂の殺人と言われるほど,被害者に大きなダメージを与えるという犯罪であることは十分認識しておりますけれども,殺人と同等,生命を奪う場合と本当に同じにしてよいのかという疑問を持つのでございます。   前回も指摘しましたけれども,要綱案だと,強姦致傷は6年で,強姦が5年で,この二つの罪は,事務当局からいただいた量刑のグラフを拝見しますと,ピークは2年ほど離れているのに,1年しか法定刑の差がないということでいいのかということもありますし,生命・身体を害したものと刑が1年しか変わらないということは,生命や身体を軽視しているような誤ったメッセージをむしろ発してしまう危険はないのかということを感じた次第でございます。   準強姦についてですが,準強姦の裁判例の中には,例えば,家族や先生から嫌われたくなかったという,任意の意思に基づいているのだけれども,その関係から,同意に問題があるような事例であるとか,あるいは取引先の男性からの,いわゆるセクハラ的なようなものまで,かなり幅広に取り込んでいます。そうしますと,準強姦罪という条文は,強姦に準じるという形で,今は処罰しているものでございますけれども,この行為の悪質性とか危険性とかいうことを考えますと,暴行脅迫をもってする第177条とは異なった類型のものもあると考えられるのではないかと思うのです。   ですから,準強姦という言葉は,強姦に準じるという条文が第178条にあるから,今そうなっているだけで,実際の処罰されている抗拒不能の内容などを考えますと,別な類型と考えることが可能であり,少なくとも第177条の法定刑を上げるとしても,第178条を上げないという立法はあり得るのではないかと思うのです。   そして,この第178条の元々の要綱(骨子)の第二ですけれども,心神喪失や抗拒不能にさせて性交等をしたという規定の仕方なわけですから,例えば,頂戴いたしました資料の中でドイツの刑法を拝見させていただきますと,第177条はいわゆる強姦等,第179条では反抗不能な者への性的虐待ということで,後者の方が軽いという立法です。暴行脅迫によるものと抗拒不能や心神喪失に対するものについて,処罰を同じにしなければならない必然性はないように思えるのです。 ○木村委員 今,準強姦の話が出たので,その点だけちょっと触れさせていただきます。   おっしゃるとおりで,いわゆる薬物影響だとか睡眠中だとか,典型的に準強姦に当たるようなもの以外に,典型的なのは親子関係とか,あと教師・生徒関係とか,そういうのも入っているわけですね。親子関係みたいなものが,もし今度の法改正で,特別類型として,重く処罰されるということになると,教師と生徒関係って,これもやはりかなり悪質な例が多くて,それが特別類型から外れることになります。では,どこで拾うかということになるのですけれども,準強姦,準強制わいせつという,いわゆる「準」の規定で拾う可能性がかなりあるのではないかと思います。それはやはり,かなり重く処罰する必要があるものもあって,そうしますと,準強姦だけ軽いまま残しておくというのは,バランスがとれないのではないかと,強姦罪の法定刑を上げるのであれば,やはり準強姦も上げる必要があると思います。 ○今井委員 先ほどの宮田委員の御意見のうちの要綱(骨子)第一に関連するところだけ,意見を申し上げます。宮田委員は,口淫や挿入させる行為というものが膣性交や肛門性交と同程度の,これほど重く処罰する危険性あるいは実態があるのか,という疑問を提起されていたのだと思われます。   この点に関連しまして,本日も小林関係官からの資料の御説明がありましたし,また,小西委員,齋藤幹事からも現場の状況の御説明がありました。また,第1巡目のところでも,角田委員からも御指摘があったと思いますけれども,挿入する行為の場合でも,口淫の危険性が軽視できないという実態があること,また,挿入させる行為というものも,日本では統計の取り方,あるいは,正にそういった類型が犯罪とされていないがためにデータとして上がってこない可能性が高く,したがって,未成年を対象とした犯罪件数しか認知されていないと思われるわけですけれども,実態としては,ここまでの処罰範囲が,従来の膣性交と同程度の危険性あるいは悪質性,重大性というものを持っているということは,先の現状の御説明からも十分理解できるところであります。また,そうした行為が,今回考えております強姦等という罪の保護法益である性的自己決定権を強制的に侵害するという点では,何ら違いはありませんので,私は法定刑の話の前提といたしまして,この処罰範囲の切り口としては,これで妥当なものだと思っております。 ○北川委員 前にも申し上げたことと重複するのですけれども,今回,要綱(骨子)第一の強姦罪の改正のように,法定刑5年以上という刑に上げるということを前提に考えますと,性交等の範囲をここまで拡張していいのかということについては,慎重な議論が必要だと思います。   それとの関係で御質問させていただきたいのですけれども,正に口淫という事例と,それと手指であるとか,あるいは異物を挿入した場合の事例では現行法上同等に扱われているのか,資料14で両者の量刑の相違が実感値として把握できないので,事案の関係上,読み取れない部分もあるのですけれども,実務的な感覚として,口淫と手指及び異物を挿入した場合の量刑の,著しいというか,質的な違いというものはないのでしょうか。そこのところを教えていただければと思います。 ○山口部会長 御質問の点は,今確認しておりますので,先にほかの点についての御意見でも結構ですので,頂けませんでしょうか。 ○橋爪幹事 今,北川委員からも御指摘がございましたが,法定刑の引上げの問題と性交等の範囲の問題は,リンクして考える必要があると存じます。すなわち,姦淫行為と同等の当罰性を有する行為が何かという観点から処罰範囲を検討した上で,それについて一括して法定刑の引上げの当否を検討する必要があると考える次第です。   先ほどから,膣性交と肛門性交,口淫行為が同等の当罰性を有するかという観点から御議論がございました。この点につきましては,私個人の感覚なのですが,被害の現場から遠いところでの社会通念などのイメージによって,法益侵害の程度を推し量るべき問題ではなくて,むしろ被害者の方の被害感情やその心身の被害の程度という観点からのアプローチが重要であるように考えております。   また,膣性交につきましては,妊娠の危険性がある等の生殖行為としてのシンボリックな意味が認められますが,それのみによって,これを別個に扱うことには合理性がないように思います。むしろ,相手の性器が身体の開口部から強引に入ってくるところに重大な法益侵害性があるという観点からは,肛門性交と口淫行為には,膣性交と同等の当罰性があるとする要綱(骨子)には,十分な合理性があると思われます。   このように,「性交等」に該当する行為全てについて同等の当罰性があると考える以上は,その内部で区別をするべきではなく,包括的に法定刑の引上げの当否について検討する必要があると思われます。   そして,法定刑の引上げにつきましては,議論があり得るところかと存じますが,飽くまでも現在の量刑傾向に対応した法定刑を整備する必要があるという観点,また,やはり強盗罪との逆転現象の解消が重要であるという観点からは,法定刑を5年に引き上げるという要綱(骨子)にも一定の合理性があると考える次第です。 ○小西委員 最初に子供の例だけが挙がったではないかという御指摘を頂いたと思うので,それについて簡単にお答えしておきます。   多分,例えば,月経中の被害者がいるときに,それでも強姦,性交してしまう加害者もいるのですけれども,そういうときに口淫するというような形で,口淫だけの被害の人は経験したことがあります。さらに,いろいろな事情があって繰り返し,例えば,DVなんかもそうですけれども,繰り返し起こっているときの被害の一つの事件としての一つの被害が口淫であることは,それは非常にたくさんあると思うので,子供だけではないということは申し上げておきたいと思います。 ○角田委員 先ほど宮田委員のお話の中で,口淫の問題について,物理的危険性ということが出てきたと思うのですけれども,ここで考えるべきは,もちろん身体的な物理的な危険ということもあるのですけれども,それとともに,その人のセクシャリティーとか性的自己決定権とか性的自尊感に対する侵害というのが保護法益に含まれているわけですので,それは口淫であっても,被害者から見れば,そのことの自分に対する屈辱的な重大さという点については,何ら変わりがないと私は思います。   それから,現在より結果的には重く処罰するということになってきているのですけれども,それは今まで,性暴力犯罪というのは,この社会で非常に軽く見積もられてきて,被害者が軽くあしらわれてきた。そのことによって,今までの刑は,軽く設定されていたのだと思うのです。そこで,ようやく最近になって,被害を受けた人が,自分に何が起きたかということを自分の言葉で語ることができるような環境が作られてきたわけです。その中で,本当はこれは何だったのかということが,社会的にもそのことに対する理解が広がってきたことによって,今までの刑は低すぎたのではないかと,こういう議論が出てきたのだと思っております。   それから,もう一つ,他の分野とのバランスの問題は,確かにそうだと思うのです。私も,このように継ぎはぎだらけに刑法を改正していくと,必ずその問題は逃れられないということで,本当は全部,御破算で願いましてはと,最初から変えるというのが,恐らくアンバランスを避ける正しい方法だと思うのですけれども,多分この社会では,それは現実的ではないでしょうから,取りあえず問題がはっきりしているところからやるというのは仕方がないと思います。今,つまりここは性犯罪の問題を議論しているわけなので,議論していない他の犯罪とのアンバランスが多少生じても,それは次にそちらを改正してもらうという方向でやるしかないのではないかと私は思っております。 ○小木曽委員 今の角田委員の御発言と関連があるのですけれども,先ほど殺人との比較の話が出ました。確かに要綱(骨子)では下限は一緒になるかもしれませんけれども,刑の軽重は,上限も併せて見る必要があるのではないかという点だけ申し上げたいと思います。 ○香川幹事 先ほど北川委員から,量刑傾向についてお話がございましたので,裁判所の立場からお話しできることだけになりますけれども,少し発言させていただきたいと思います。   一般的に申し上げまして,量刑自体は,いろいろな要素を個別具体的な事案に基づいて決めておりますので,一概にこれとこれを比較してどうなのかというのは,なかなか申し上げにくいところでございまして,いろいろお話に出ました,例えば口淫などをとりましても,それを比べてどうかということは,なかなか言いにくいところがございます。   特に,口淫につきましては,これまで強制わいせつ罪で処罰されていたことと思われますので,これが強姦になったときに量刑がどうなるかという比較は,将来予測も入りますので,難しいかなとは思います。   ただ,お配りいただいた資料なども拝見いたしまして,実務家の感覚としては,少なくとも口淫については,強制わいせつ罪の中では重い類型として処罰されてきたのかなとは思います。けれども,繰り返しになりますが,それが強姦に含まれたときにどうなるかというのは,なかなか事案ごとの判断ということで,難しいのかなと思っております。 ○加藤幹事 先ほど北川委員からお尋ねのあった件について,現在把握できる範囲でお答えを申し上げます。   香川幹事から御指摘があったところとも関連するわけですが,資料14の中で,北川委員からのお尋ねは,②に分類されている口淫を含む強制わいせつというものと,③に分類されている異物挿入を含む強制わいせつの中でも手指の挿入という類型,その二つを比べて,どちらが重い軽いがあるのか,量刑傾向としてはどのようになっているかというものだったと認識しております。   香川幹事から御発言があったように,口淫を含む強制わいせつは,強制わいせつの類型の中でも比較的重い量刑傾向の類型だとは考えられます。②の資料を御覧いただきましても,強制わいせつ罪の量刑としては比較的重い方ではないかと考えられます。   一方,③の異物挿入類型という方は,ここに挙がっております例は,手指ではなく性具の挿入,性具を用いたものが挙げられておりまして,強制わいせつ行為の中で,手指を入れるのが中心的な行為になっているという類型については含まれておりませんので,手指の挿入がどの程度に評価されているかということが,資料からは十分に把握できないというのが現状でございます。したがいまして,もし香川幹事のほかにも,実務家の委員,幹事の方々から,その辺の御知見があれば更に伺いたいと思います。   加えまして,口淫をどう評価するか,あるいは異物をどう評価するかという評価の問題でもございますので,量刑傾向から直ちに結論が得られるというものでもないと承知しております。 ○山口部会長 ありがとうございました。   それでは,本日御意見を頂いていない点で,強姦致傷の法定刑の下限を6年とするという点につきましてはいかがでございましょうか。 ○橋爪幹事 この点につきましては,もちろん第一の罪の法定刑の引上げの問題が前提になりますけれども,強姦罪本体につきまして,法定刑を5年に引き上げるのであれば,それに連動しまして,強姦致傷の罪につきましても引上げが必要になるかと存じます。   もっとも,具体的事実関係によりましては,強姦致傷行為についても,執行猶予を付すべき事案があるようにも思われます。そのような観点からは,正に強盗致傷に関する議論と共通するわけでございますけれども,刑を減軽した場合,執行猶予を付す余地を認めるという意味において,法定刑の下限を6年とする要綱(骨子)が適当であるように考えます。 ○井田委員 この点についても何回か発言しているので,繰り返しになってしまうかもしれませんけれども,重い類型の範囲について,まとめてお話ししておきたいと思います。   やはり出発点は,被害の実態ないしは保護法益の内容だと思います。男性器の体腔内への侵入を伴うような非常に濃厚な身体的な接触の経験を無理やり共有させるというのが被害の実態であると考えれば,それが膣であろうと肛門であろうと口腔であろうと,濃厚な身体的接触という観点から見れば変わらないということで,それらは同じ評価に値するとすることに十分理由があると考え,この点では要綱(骨子)を支持したいと思っております。   それで,男性器の体腔内への侵入を基準にすることのもう一つの理由を挙げるとすれば,それは刑法という法律の本質的な機能に関わります。私は,強い衝動を持って行われる行為に対して,強いサンクション,制裁を道具としてこれで対応するのが刑法であると考えます。男性器の体腔内への侵入というのは,いずれも性的欲求の直接的な満足を目的とする行為という点で共通しています。強い欲求が働くところでは,その反面において,被害者を保護する必要がより強くなります。刑法は,他人の財産を侵害する行為の中で,領得目的による場合と毀棄目的による場合とを区別して,領得目的の場合は一般的にはより強い衝動に基づく形態なので,より重く処罰している。ちょうどそのことと関係は同じなのではないか。   つまり,より直接的に性的欲求を充足しようとする行為であるからこそ,その反面において被害者の保護の必要性も高まるという,そういう関係にある。そしてそのことは,被害者側に生じるダメージの大きさにも対応している。ここから,男性器の体腔内への侵入を伴う身体的接触の強制については,膣か肛門か口腔かを区別せず,同じように重く処罰してよろしいのではないかと考えるのです。   他方で,手指とか性具の挿入を除外するのは,今申し上げたような意味で,性欲の直接的な充足を目的とする行為ではないということが一つ,それから,もう一つの理由は,仮にそれらを入れるとすると,重い類型の外延がかなり曖昧になってしまうということです。手指を口に挿入するというような場合がそうですが,それは性犯罪ではなくて,暴行罪に当たる行為までこれに含まれることになりかねないという問題も生じてきます。5年以上20年以下という刑の幅に合うかどうかという観点から見れば,むしろ手指・性具の挿入は強制わいせつの枠内で場合により重く処罰することで足りるのではないかと考えます。 ○山口部会長 ありがとうございました。   先ほど,準強姦罪の法定刑に関しては,木村委員からも御発言がございましたけれども,この点につきまして,更に御意見があればお伺いしたいと思います。   現行法では,強姦罪と準強姦罪とが同じ扱いになっていて,要綱(骨子)は,強姦罪が上がるなら準強姦罪もそれに伴って上がるということでございますが,この点についてはいかがでございましょうか。 ○橋爪幹事 この点につきましては,やはり準強姦と強姦の同質性を十分に意識する必要があると思います。すなわち,準強姦は「準」と付いておりますが,これは別に準優勝や準特急のように「準ずる」という意味の「準」ではなくて,準用するという意味の「準」でございますので,現行法においても,これは全く強姦と同様に扱われてきた行為でございます。   また,実質的に考えましても,被害者の心神喪失状態を利用する姦淫行為というのは,年少者に対する姦淫行為と同等の当罰性があると思われますし,また,抗拒不能に乗ずる姦淫行為というのは,心理的な強制によって抵抗が著しく困難な状況を利用した姦淫行為でございますので,実際には,脅迫による心理的な強制の影響で姦淫をする強姦類型と共通する側面がございます。   このような観点からは,両罪は,実質的には同一構成要件に属するような実質があるといえますので,法定刑については共通の観点から検討する必要があると考える次第です。 ○山口部会長 ありがとうございました。   ほかに,御発言いただけることがあれば,いかがでございましょうか。   1巡目でも大分御議論を頂いておりまして,いろいろな論点は出ているように思うのですけれども,いかがでございましょうか。よろしゅうございましょうか。   ありがとうございました。それでは,この段階でまとめさせていただきますと,「性交等」の範囲につきましては,1巡目と同様でございまして,口淫や挿入させる行為については含めるべきでないという御意見もございましたけれども,多数の方は,要綱(骨子)のとおりでよいという御意見であったように思われます。   強姦罪の法定刑についてでございますけれども,これも1巡目でいろいろ御意見を頂きました。「性交等」の範囲を要綱(骨子)のように広げるのであれば,下限は引き上げるべきでないという趣旨の御意見もございましたけれども,多数の方の御意見は,要綱(骨子)のとおり引き上げるという御意見であったように思われます。   また,要綱(骨子)第二の準強姦罪につきましては,これも法定刑を引き上げるべきでないという御意見がございましたけれども,多数の方は強姦罪と同様に引き上げるべきであるという御意見でございました。   要綱(骨子)第六の強姦致死傷罪の法定刑の下限を懲役6年に引き上げるということについては,疑問を述べられる方もあったかと思いますけれども,多数の方は下限を6年とするということでよろしいという御意見であったように理解させていただきました。よろしゅうございましょうか。   次に,要綱(骨子)第五,すなわち,集団強姦等の罪を廃止する点についての審議に移りたいと思います。この点につきましては,1巡目の議論で,集団強姦の罪の悪質性に対する評価として,集団強姦罪を維持し,法定刑の下限を懲役6年とするべきだという御意見がございましたが,多数の御意見は,要綱(骨子)のとおり,廃止するということでよいという御意見でございました。   この点に関しまして,更に付け加えてお述べいただける御意見があれば,お伺いしたいと思います。特に,前回御意見をお述べいただいていない方で,要綱(骨子)と異なる御意見がございましたら,是非御発言をお願いしたいと思います。いかがでしょうか。   維持すべきだという御意見がありましたが,強姦罪の下限を5年に上げ,強姦致死傷を6年に上げるのだとすれば,その量刑の範囲で賄えばよいという御意見が多数だったということかと思うのですけれども,さらに,本日それに追加して御発言を頂けることがあれば,お願いしたいと思いますが,いかがでございましょうか。 (一同 発言なし)   1巡目の議論で大体尽きていると理解してよろしいでしょうか。   ありがとうございました。それでは,集団強姦等の罪につきましては,維持すべきだという御意見がございますけれども,多数の方は要綱(骨子)第五のとおりでよいという御意見であるというように理解させていただきました。   これで,要綱(骨子)第一,第二,第五,第六の内容面についての御意見はお伺いしたということでございますけれども,最後に,1巡目の御議論の中で,要綱(骨子)第一の罪の罪名や「性交等」の定義などの規定ぶりについて御指摘がございましたので,改めて事務当局から,検討の経過あるいは問題点についての御説明をお願いしたいと思います。 ○中村幹事 事務当局から,要綱(骨子)第一の中で用いられております「性交等」の用語や定義の書きぶり,それから強姦罪の罪名についての検討状況等について御説明いたします。   第2回会議におきまして,橋爪幹事から,要綱(骨子)第一のように改正し,肛門性交や口淫についても対象行為に含めるとした場合には,「強姦罪」という罪名は適さないのではないかとの御指摘がございました。   この点につきましては,事務当局といたしましても,仮に,この要綱(骨子)のとおりに御答申をいただいた場合には,罪名についても変更することを検討する必要があると考えております。この罪名につきましては,実務上用いるというのみならず,刑法の条文の見出しとして用いることが想定されます。   現行の「強姦」という用語は,男性器の女性器に対する挿入のみを意味するものと解されておりまして,肛門性交や口淫に拡張することとの関係でも,そぐわないものと思われます。   そこで,例えば,要綱(骨子)第一で用いております「性交等」の用語を使いまして,「強制性交等」とすることなどを考えておりますけれども,ほかによりよい案などがございましたら,委員,幹事の皆様の御意見を伺いたいと考えております。   また,これと関連いたしまして,要綱(骨子)第一におきましては,現行法で「姦淫」とされている対象行為を拡張することとし,それを「性交等」と呼ぶこととした上で,括弧内にその定義を置いております。この点に関しまして,例えば,フランスにおきましては,条文上は「性的挿入行為」とのみ規定しておりまして,その具体的な意味については定義規定などは置かず,判例によってその意味が明らかにされているようでございます。   そこで,今般の我が国の刑法改正におきましても,このような形での規定ぶりが可能かどうかということについて検討いたしました。この「性的挿入行為」のほかに,例えば「性的侵襲行為」「挿入行為」「性行為」などを考えてみたわけでございます。もっとも,どの用語を用いるとしても,それがどのような行為までを対象とするのかという点が一義的に明らかになるものではありませんので,その用語のみで処罰範囲を明確にすることは困難であって,構成要件の明確性の観点から,要綱(骨子)第一の括弧内のような定義を置く必要があると考えたものでございます。   この点につきまして,構成要件の明確性といった要請を踏まえつつ,括弧内のような定義を置く必要があるのか,また,定義を置くとしても,よりよい表現ぶりはないかといった点を含めまして,委員,幹事の皆様の御意見を伺いたいと考えております。 ○山口部会長 今の点につきましては,最終的に,この要綱(骨子)のとおり答申がなされたという場合に,事務当局において法案を作成する際に検討されることでございまして,当部会において結論を出すといった性質のものではございませんが,委員,幹事の皆様の御意見もお伺いした上で,それを参考にされたいという趣旨でございます。   ただ今の事務当局の御説明を踏まえまして,何か御意見がおありの方はお願いしたいと思います。 ○香川幹事 ただ今,事務当局から御説明のあった2番目の点につきまして,裁判所の立場から若干発言させていただきたいと思います。   以前,第2回であったかと思いますけれども,田邊委員の方から,裁判官としての観点から,次のように御発言があったかと記憶しております。すなわち,法律を適用する立場にある裁判官としては,構成要件の外延ができるだけ明確になってほしい,また,現在提案されている要綱(骨子)の記載については,明確性の観点からは,特段大きな問題は感じないという趣旨の発言があったかと思います。今,事務当局からもお話がありましたけれども,私も基本的には同じように考えております。   ただ,補足させていただくとすると,その趣旨は,今の表現でなければならないということまで申し上げるつもりはございませんで,また,こういう記載がいいのではないかと,こういう意見も特に申し上げるつもりはございません。明確性という観点を踏まえて,いろいろな表現を検討していただくことに,反対することまではいたしませんということを補足的に述べさせていただきたいと思います。 ○山口部会長 もしこれが法律になった場合に,実際に法の適用をされる立場からの貴重な御意見を頂きました。   ほかにいかがでございましょうか。 ○橋爪幹事 2点申し上げます。   まず,罪名でございますが,これは,第2回の部会で発言させていただきましたように,処罰対象を姦淫行為に限定しているわけではありませんので,「強姦」という名称を使うことは適切ではないと考えます。そして,第一の罪につきましては,行為態様が「性交等」と規定されておりますので,罪名につきましても,「性交等」という文言を用いることが好ましいように,個人的には考えておりました。   このような次第で今事務当局の方から御提案いただきました「強制性交等の罪」という御提案につきましては,「性交等」という表現が用いられている点,また,強制という表現につきましても,強制わいせつ罪とも平仄がとれる点から,賛成したいと考えます。   次に,「性交等」の具体的な定義の要否でございます。私も刑法の研究をしている身としまして,一応,刑法典に関する美学のようなものを持っておりますので,括弧書きでこのように具体的な性行為の内容について,詳細な定義を付すことについては,若干の違和感があることは否定できませんが,しかし,このような定義がなければ,「性交等」の具体的な内容が明確にはなり難いように思われます。   先ほど御紹介がございましたような「性的侵襲行為」や「性的挿入行為」という文言を用いた場合ですと,例えば,本日議論がありました指や異物等の挿入行為などが,これに該当するか否かが文言からは明らかにされません。やはり刑法の明確性の原則の観点からは,「性交等」の範囲や行為態様を限定するために,具体的な定義規定を置かなければ,安定した法適用は困難であると考えます。   このように考えますと,この要綱(骨子)どおり括弧書きにするか否かという点については,なお検討の余地があると思いますが,「性交等」につきまして,具体的な定義規定を設けるという要綱(骨子)の方向には賛成したいと存じます。 ○角田委員 私も要綱(骨子)に賛成です。   この書き方だと,別に法律家でなくても,普通の人が読んでも,何のことを言っているのかと分かるので,その点が非常に優れているのではないかと思います。現行の刑法だと,私も法律の勉強を始めたときに,いろいろ首をかしげることがたくさんありました。例えば「姦淫する」とありますが,これは日常用語ではありませんから,「姦淫」とは何かという解説をもう一つ言わなければいけないと。普通の人は,刑法の今の第177条を読んでも,「姦淫」というのは何のことかと,そう簡単には分からないということがあるわけですけれども,これからの刑法の在り方としては,誰が読んでも分かるということはとても大事なことではないかと思いますし,それから,裁判員裁判ということを考えても,普通の人に分かる用語を使うというのはいいことだと思っております。 ○北川委員 私も,特段の意見を持っているわけでもありませんし,強姦の罪が性交等の罪ということになるのであれば,「姦淫」という言葉を外して,このような平たい形に書く必要が出てきてしまうというのはよく分かるのですが,逆に,強盗強姦の罪なんかのときの見出しというのはどうなってしまうのかなと。長ったらしくなって,ややこしいなというような嫌いもあります。ということになりますと,「姦淫」という言葉を残しつつ,「姦淫を始めとした性交等」という書き方は,選択肢として中途半端かもしれませんけれども,なかなか名称は難しいですけれどもそうした工夫もあり得るのではないかと思い,あえて申し上げた次第です。 ○山口部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでございましょうか。   この問題は,事務当局の方で最終的に非常に悩まれることになる,そういう性質の問題ではないかと思いますが,何か御示唆を頂けることがあれば有り難いと思います。いかがでしょうか。特によろしゅうございますか。 ○小西委員 もう今の「姦淫」の議論に付いていけなくなってきていますが,やはり分かりやすくということは是非お願いしたいと思いますし,それから,美しくないといけないということを何度か,いろいろな方が御発言されてはおります。法律ってそういうものかなとは思って,素直に思おうと思っているのですけれども,でもやはり,被害者の権利ということがそもそもこの議論の初めであれば,きちんとそれを救うために,多少文言が非対称になっても,中に何か例示があっても,どうしていけないのかと,私の立場では思わざるを得ません。そういう点では,分かりやすく誤解のないようにと思います。 ○角田委員 今の小西委員の意見を聞きながら思ったのですけれども,私,随分前に,強姦の被害者の損害賠償請求の裁判をやったことがありました。裁判では,被害者本人が原告本人尋問で,自分がどういう目に遭ったかと答えるわけなのです。そのときに,どんな言葉を使って説明するかということで,その女性が望んだことは,私はできるだけ客観的に言いたいということで,ここにあるような陰茎とか性器とか膣とか,そういう言葉を,つまりこれ,解剖学的にそう言うしかないわけですよね。ほかの名前はないわけですから。そういう言葉を使って,彼女は話をしたいということで,そういうことを選択したことを思い出しましたので,被害者にとっても,実はそういう言い方の方が楽なのかもしれないと思います。 ○山口部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。よろしゅうございますか。   ありがとうございました。ただ今,貴重な御意見をいろいろお伺いいたしましたので,事務当局におきましては,これらの御意見を是非とも参考にしていただきたいと思います。   それでは,本日の審議はこれで終了とさせていただきたいと思います。次回は,要綱(骨子)第三及び第七について,2巡目の審議を行いたいと思います。   次回会議の場所等の予定につきまして,事務当局から御連絡をお願いします。 ○中村幹事 次回は,3月25日金曜日午前9時15分からです。場所につきましては,おってお知らせいたします。 ○山口部会長 それでは,次回第5回の会議は,3月25日金曜日の午前9時15分から行います。   なお,本日の会議の議事につきましては,特に公表に適さない内容に当たるものはなかったと思われますので,発言者名を明らかにした議事録を公表することにさせていただきたいと思いますが,配布資料のうち,資料30の最終ページの写真につきましては,ホームページでの公表に適さないものと思われますので,これにつきましては公表しない取扱いとさせていただきたいと思いますが,そのような取扱いということでよろしゅうございましょうか。 (「異議なし」の声あり) ○山口部会長 ありがとうございました。それでは,そのようにさせていただきます。   それでは,これをもって終了といたします。本日はどうもありがとうございました。 -了-