法制審議会 刑事法(性犯罪関係)部会 第6回会議 議事録 第1 日 時  平成28年 5月25日(水)  自 午後3時59分                         至 午後5時55分 第2 場 所  法務省第一会議室 第3 議 題  1 ヒアリング         2 意見交換 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○隄幹事 予定の時刻になりましたので,ただ今から法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会の第6回会議を開催いたします。 ○山口部会長 本日は御多忙の中お集まりいただきまして,誠にありがとうございます。   本日,木村委員,三浦委員におかれましては,御欠席と伺っております。   まず初めに,前回会議後に,幹事の交代がございましたので,新たに幹事になられた方から,簡単に,所属,氏名等の自己紹介をお願いいたします。また,関係官として御出席いただいております内閣府の男女共同参画局推進課暴力対策推進室長につきましても,人事異動により交代されたということですので,併せて自己紹介をお願いいたします。 ○鎌田幹事 警察庁捜査第一課長の鎌田でございます。よろしくお願いいたします。 ○福島幹事 4月1日付けで最高裁刑事局第一課長になりました福島と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 ○隄幹事 法務省刑事局刑事法制企画官を務めております隄と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 ○畠山関係官 畠山でございます。よろしくお願いいたします。 ○山口部会長 ありがとうございました。   なお,松尾関係官におかれましては,本年3月末をもちまして,法務省特別顧問を御退任されましたので,関係官としての御出席もされないこととなります。   それでは,事務当局から,資料の御説明をお願いいたします。 ○隄幹事 配布資料について,御説明をいたします。   お手元に資料5の更新版を配布しておりますが,これは,3月7日に,国連女子差別撤廃委員会の最終見解が示されましたので,第1回会議において配布しました資料5にその内容を追加し,更新したものです。   このほかに,本日行われますヒアリングにお越しいただく山本様及び中村様から提出されている資料を配布しております。   また,前回までの配布資料を机上に置かせていただいております。 ○山口部会長 それでは,本日の審議に入りたいと思います。   事前に皆様には御連絡いたしましたとおり,本日は,3名の方から,御意見を伺うこととしております。前回の最後に申し上げましたように,「性犯罪の罰則に関する検討会」のヒアリングでお聴きすることができていなかった観点からの御意見を伺える方ということで,皆様からの御推薦等を踏まえて,人選をさせていただきました。   ヒアリングの実施方法ですが,お一人ずつお入りいただきまして,20分程度御意見を述べていただきます。その後,5分程度,委員の皆様からの御質問にお答えいただくという流れで進めさせていただきたいと思いますが,よろしゅうございましょうか。 (一同了承) ○山口部会長 それでは,始めたいと思います。最初の方に御入室お願いいたします。 (山本氏入室) ○山口部会長 最初は,性暴力と刑法を考える当事者の会代表,性暴力被害者支援看護師の山本潤様です。山本様は,性犯罪被害の当事者であり,特に要綱(骨子)第三の類型に関し,御自身の経験を踏まえた御意見をいただけるものと伺っております。   本日は,お忙しいところ,お越しいただきまして,誠にありがとうございます。部会長の山口です。当部会におきましては,お手元に置かせていただいております諮問101号の要綱(骨子)について審議しているところですが,要綱(骨子)で示された内容に関し,御知見をお持ちの方から御意見をお伺いするために,本日お越しいただいた次第です。   これから20分間程度,山本様の方から御意見などをお述べいただき,その後,委員・幹事の方から御質問をさせていただきたいと思います。それでは,よろしくお願いいたします。 ○山本氏 初めまして。性暴力と刑法を考える当事者の会の山本潤です。よろしくお願いします。   9か月前にこの会を立ち上げ,被害者たちの声を伝えてきました。私がこの活動をしているのは,性暴力がどれほど大きい被害をもたらすのかということが伝われば,今の理不尽な状況を変えられると信じているからです。私の経験は1人の経験ですが,近親姦虐待被害者としての経験を,与えられた20分のうち,10分は私から,10分をSIAb.の進藤啓子さんと共にお伝えしたいと思っています。   私が初めて刑法177条強姦罪を読んだとき,絶望しました。ああ,この法律は私を救ってくれないのだなと思ったからです。構成要件として,暴行脅迫が必要だと言われます。今の諮問にも入っています。   想像してみてください。あなたは13歳です。家の玄関には鍵がかかっていて,あなたは安全な自分の部屋で健やかに寝ています。ある晩,誰かがあなたの寝床に入ってきます。私の場合,それは父親でした。暗闇でしたが,父親だということは分かりました。子供のときから一緒に過ごしてきた人です。頭をなでられたり,ふざけたり,笑い合ったりしてきた人です。その人が布団に入ってきて,体を触るようになります。初めはお腹や背中だったものが,次第に胸やお尻に移っていきます。なでられ,もまれ,性的な行為を強要されます。あなたに容易に接触し,侵入することができる力を相手は持っています。   そこに暴行脅迫は必要でしょうか。話したらひどい目に遭うよ,家族がばらばらになるよと脅す加害者もいますが,私の加害者はそうではありませんでした。   私に起こったことは,黙って入ってきて,黙って触られ,これから何が始まるのかも,何が起こっているのかも理解できない,混乱する経験でした。怖い気持ちが強すぎて,私は抵抗することもできませんでした。そういう経験をしたときに,傍目からはどう見えるでしょう。ああ,この子はノーと言っていない,受け入れているんだなと思われる。でも,心が耐えられず,例えて言うならば,ブレーカーが落ちてしまっただけで,私は絶対受け入れてはいなかったのです。しかし,法律では,暴行脅迫がないし,抵抗していないし,罪にはならないと言われてしまう。なので,自分で引き受けざるを得ませんでした。   20歳で,母が父と別れたので,私の被害は終わりました。その後は,次々とトラウマ症状が起こりました。18年間は,ほぼ抑鬱状態で過ごし,強迫症状やアルコール依存などがありました。今でもセラピーを受け続けています。   だから,諮問の要綱(骨子)第三で,「監護者であることによる影響力を利用したわいせつな行為又は性交等に係る罪の新設」が入ったことは,これまでに考えられない前進だと思いました。議論も前向きなもので,変化への希望を感じます。ただ,正直,監護者だけでは狭すぎると思っています。監護者ではなくても,子供を教育,指導する立場,親戚で目上の人であるなど,本来子供を守ってくれる立場の人だと逃げようがないからです。暴行脅迫がなくても性行為を強要できる力を相手は持っています。そのような地位,関係性という力関係を見てほしいと思います。   それは,子供に対してだけではなく,大人に対してもです。私の体は私のものです。その私の体が侵害されているのに,どうして私たち性被害者は,暴行脅迫を受けて,抗拒不能なまでに抵抗したかを問われるのでしょうか。理由の一つは,外から見ているからだと思います。例えば,仮に女性だとしますが,女性が強姦されている場面を思い浮かべてみてください。どんな映像が浮かびますか。   もし,剥ぎ取られた衣服,おびえた女性の姿が見えたとしたら,それは加害者の視線です。   私たちから見えるのは,ひょう変して襲いかかってきた相手の顔つき,顔にかかる生臭い息,押さえ付けられて動けない体,自分の運命が突然予測不可能な状態に陥ってしまった恐怖です。それは,人間としてではない,「モノ」として扱われる恐怖です。私は子供であっても,夢や希望,意思がある人間だった。なのに,性的な「モノ」として扱われました。そういった,人間を性的な「モノ」として扱うことを,相手の意思に反した性交として構成要件に入れる必要があるのではないでしょうか。   資料にあるように,欧米では,同意の有無,対等性の有無,強要性の有無を性暴力の判断基準として用いることが多いです。強要されているということは,選択の権利がないということです。私は彼を押しのけて,叩きのめして,家から追い出してやりたかった。でも,それはできませんでした。できないのです。被害を受けるということは,弱い立場に置かれることです。ささいな強要でも,抵抗できなくさせることが加害者には可能です。加害者の影響はすごく大きいということを理解していただきたいのです。自分の行為がどれほどの被害を与えているのかを理解することは,加害者にとっても重要なことだと私は考えています。   私の父は児童虐待の被害者でした。だからといって,彼が私に性加害をしていいという理由にはなりません。捕まえて罪を問う必要があったと思います。その中で,彼も自分の傷つきや自分の行動が何をもたらしたのか,気付くチャンスがあったかもしれません。真っ当な人間として生きられていたかもしれません。そういうチャンスもなく,私は父を死ねと呪い続け,私たちは親子のつながりを失いました。   私が被害に向き合えるようになったのは,36歳のときです。始まったときから,23年が経過しています。どうしてこんなに時間がかかってしまったのかと考えます。   我が子が被害に遭ったお母さんがこう言っていました。性暴力ってここまで人間を壊すのかと。   壊します。私たちが壊されたのは,私たちの人間としての存在そのものです。だから,声を上げられるようになるためにそれだけの長い時間を必要とするのです。   以上のような経験から,諮問の要綱(骨子)についての意見を,ここで述べさせていただきます。   1点目は,要綱(骨子)第一の法定刑についてです。加害者は刑務所に入るけれども,被害者は自由だと言われることがあります。でも,自由ではありません。人におびえ,物音におびえ,学校にも行けず,働くこともできず,食事も食べられず,眠れなくなる。そういう被害者がたくさんいます。こういう甚大な被害を受けているのだから,法定刑は5年以上に引き上げてくださることを望みます。   2点目,被害者の対象年齢は,最低限義務教育終了後と考えています。16歳未満に引き上げてください。   3点目,性交類似行為についてです。性別の記載をなくし,肛門性交,口腔性交を含んだことは大きな前進であると思います。そして,口腔性交は当然含まれる必要があると考えています。強要の結果,物が食べられなくなる,口が開けられなくなるということが起こっています。被害者の立場からは,身体的境界線を踏み越えられたということに変わりはありません。そして,それは物であっても,例えば,人工のペニスを挿入された場合でも,身体的境界線の侵害であり,性交類似行為になると私は考えています。   4点目は,要綱(骨子)第四の非親告罪化についてです。重大な犯罪なのだから,国が責任を持って立件,訴追をしてほしいと思います。また,法改正の前に行われた行為についても,非親告罪として取り扱ってほしいと思います。その日を境に,あなたは自分で決めてください,あなたの場合は私たちが立件しますというのは,被害者にとって平等ではないと思います。被害者は,被害に遭う日を選べません。   5点目は,要綱(骨子)第五の集団強姦の罪の廃止についてです。私の知人にも,集団強姦を受けた人たちがいますが,全く警察に届けられていません。輪姦されるということは強いショックをもたらします。その上,明るみなれば,何人もの男にやられた女という目で見られることもあります。それなのに,相手が1人の場合と同じ刑罰では到底納得できないと思います。別の類型として残して,法定刑は6年に引き上げてくださることを望みます。   最後にお伝えしたいのは,私たち被害者の立場から性加害を見てほしいということです。そうでないと,性暴力によって何が侵害されているのかということが分かりません。性犯罪被害者として認められず,この社会から見放された私たちの存在を,どうか認めてください。そして,それが社会的に,法的に許される行為なのかどうかということを判断してほしいと思います。   私にこう伝えてくれた人がいます。「社会が引き受けられないことを,個人が一人引き受けて苦しんでいる,そんな社会はおかしいでしょう」と。どうかこの審議会の議論が被害者や加害者だけでなく,この国に暮らす全ての人のための変化への希望につながることを願っています。ありがとうございました。 ○進藤氏 この度は,このような機会をいただき,どうもありがとうございます。進藤啓子と申します。   SIAb.という近親姦虐待被害当事者のための自助グループの活動をしております。お手元の私の資料の二つ目がその詳細です。   では,私の資料の一つ目を御覧ください。今日はここに挙げた三つの視点からお話しさせていただきます。   一つ,人間ひとくくり・弱者保護を基本とした刑法整備の必要性。二つ,性虐待被害はあらゆる社会問題や犯罪の根源の一つと捉えた刑法整備の必要性。三つ,「被害者が恥ずかしがることはない。恥ずべきは加害者」そして「家族は安全ではない」という社会認識を広げる必要性。   なお,諮問の要綱(骨子)に対する意見は時間の関係上,一つ目の資料に書いてありますので,御一読いただければと思います。   本題に入ります。私は,兄と父から,挿入を含む近親姦虐待の被害に遭っていました。ですので,今日は,要綱(骨子)第三の「監護者であることによる影響力を利用したわいせつな行為又は性交等に係る罪の新設」を中心に,私の被害体験や仲間の声を交えてお話しさせていただきたいと思います。   私の資料の三つ目には,SIAb.に参加している当事者の声をアンケートの形でまとめたものを添付させていただいていますので,こちらも是非御一読ください。   次に,私の体験をお話しさせていただきます。私は,兄に4歳くらいから,父に10歳くらいから,性虐待に遭っていました。子供が大人に性器を挿入されるということは,かなりの痛みを伴います。物を入れられて取り出せなくなっても,膣内に射精されたときにも,誰にも相談できず,不安に押し潰されそうでした。17歳から40歳くらいまで,下半身が性行為に対して不感症になりました。   身体症状は,小学生の頃から複数抱えていました。思春期の頃になると,「共犯者だろう」,「お前もあいつと同じ悪人なんだ」と思うようになり,加害者を訴える資格なんてないと自ら口を閉ざしました。その頃から,飲酒,泥酔状態での危険運転,有機溶剤吸引,自傷行為を繰り返していました。そこからはい出そうと,なかったことにして強く生きることにしたのですが,自分たちの店を持ってから仕事中にパニック障害を発症しました。不眠とアルコール依存で38歳で専門的な医療につながってからは,寝ているときに,何度かフラッシュバックを起こし体が硬直して動かなくなりました。専門医の治療を受けるまでに,最終被害から平均して20年から30年かかるという調査結果があり,私も24年かかりました。   被害者の中には,暴力や脅しで恐怖心から加害者に従うしかない人たちもいます。ですが,近親姦虐待の多くは,手懐けるような優しい暴力も多いのです。私は,誰かに気付いて助け出してほしい気持ちと同時に,世間にばれることで,私や家族がその先どうなるかが不安で,怖くて誰にも言えなかったのです。加害者になる前の,大好きであった父や兄が,処罰されるのも抵抗がありました。厳罰化を望んでいるのに,矛盾していると思われるかもしれませんけれども,それが私の正直な気持ちで,今も悩み続けている理由でもあります。   母は,自分が子供時代に持てなかった家族を作り上げ,必死で守ろうとしました。そのために,姉や私に我慢してほしいと頭を下げました。私が9歳の頃に,姉が父からの性虐待を母に告白し,私も一緒に大学病院の産婦人科に性病の検査を受けに連れて行かれ,私は兄からの性虐待がばれることをおびえていましたが,そのときも何も起こりませんでした。姉も我慢をしました。   なぜみんな苦しんでいるのに口を閉ざしたのでしょう。行く先が見えないからです。恥だからです。被害者も加害者も社会全体も性被害に遭うことを恥と認識しています。この認識を変えることで被害を訴えやすい社会になると思います。   SIAb.の参加者2人からも,症例としてお話しすることの許可をいただきました。   Aさんのケースは,父親が母親と一緒になってAさんに性虐待をしていました。中学生のとき,教師に勇気を出して告白し,Aさんが断ったのに家庭訪問をされ,教師がAさんの母親に近親姦虐待があったのか問い詰めましたが,母親はしらばっくれて否認。諦めた教師が帰ってしまった後,「こんなことをお父さんに言ったら殺される」などとAさんはお母さんから脅迫され,口止めをされました。妹さんからも「お父さんが自殺してしまうから黙っていた方がいい」と言われたそうです。   一方,Bさんは,日常的に母親からの暴力・暴言を受け,数日間御飯をもらえないなどの虐待があり,そんな母親よりは父親の方がましだと思っていました。幼い頃,性虐待のことを友人に話したら,それが大人に伝わり,ただならぬ大人の顔色から大変なことをしてしまったと被害について口を閉ざしたそうです。カウンセラーに相談したこともあったのだけれども,「犬にかまれたと思って早く忘れなさい」と言われ,母親からは「泥棒猫」と言われたそうです。Bさんは後に,警察介入,家族分離の措置がとられたのですが,「どうして被害者である私一人が罰せられるように家族から一人引き離されなければいけないのか」と言っていたことがあります。   以上,ここまでまとめると,子供は助けを求めたり,何らかのサインを発信していて,しかし,それをキャッチしたり安全に介入できるような知識や経験のある人たちにつながらなければ見過ごされ,状態を悪化させ,諦めてしまうのです。そして,善意や悪意,故意の隠蔽が繰り返されてしまうのです。せっかく性犯罪の規定を改正し,非親告罪化しても,私の資料一つ目の「視点」と「非親告罪化することについての担保条件」に挙げさせていただいたような周辺の整備をしないと意味がないのです。   参考までに,中学校1年生,つまり12歳のときから半年間にわたって,部活の顧問教員から肛門への陰茎挿入の性虐待を受け続けた被害者であり,その一方で痴漢行為で2度収監された加害者である男性の方からも,今回の性犯罪規定の見直しについて意見を伺いました。彼は現在,治療中です。彼は,「もちろん厳罰化によって根本的な問題が解決するかということに関して言えばノーですが,厳罰化によってもっと早期に加害者が治療につながることになるのなら良いことだし,被害を減らすという意味においては,厳罰化によって社会の目も厳しくなるので,少しは効果があると思う。その意味では有効だと思うが,懲役の期間を長くすることについては,被害者感情への配慮や物理的に再犯を防ぐという意味はあるものの,刑務所の更生プログラムが不十分であることなどから,加害者の治療,更生という意味においては,全く意味がないと思う。」と回答してくれました。加害者が再犯を繰り返さないよう,治療や教育などが必要なのです。   最後にもう1点,なぜ私たちは被害者なのに救済されないのでしょうか。子供の頃から被害に遭い,家族のために沈黙を強いられ,それでもやっと生き残って,危険な家から早く抜け出そうと努力し,自力で働いてきちんと税金を納め,やっと安心,安全を感じられる居場所が見つかったと思ったら,後遺症に苦しみ始め,自腹を切って治療費を払い続け,10年間で私の場合は治療費が約70万円に上り,精神状態が不安定で休業するなどの年間の損失が300万円以上に上ったときもありました。何年もかけて回復して,さあ過去と加害者と闘うぞと思ったら時効が来てしまっているのです。   どうか,時効撤廃と近親姦罪を検討していただきたいと思います。よろしくお願いします。 ○山口部会長 ありがとうございました。   それでは,御質問のある方はよろしくお願いいたします。 ○小西委員 山本さん,啓子さん,どうも本当にありがとうございました。   多分,同じような経験をした方がたくさんいらっしゃると思いますけれども,2点教えていただきたいことがありまして,今,近親姦が始まった年齢というのを教えていただいたんですけれども,実際に御本人あるいは周りの方で,どのくらいまでそういう状態が続いたか,被害が始まった年齢が,今例えば13歳と教えていただいたんですけれども,では終わるまでにどれくらいかかっていて,何歳ぐらいなのかということをちょっと教えていただきたいなということが一つです。   もう一つは,監護権者だけでは狭いということをおっしゃったんですけれども,お知り合いの方の中に,監護権者ではなくて,例えばどういう人がどういう被害に遭っているかということを少し教えていただければと思います。 ○進藤氏 御参考までになんですけれども,私の資料の三つ目なんですが,SIAb.に参加されている方にアンケートを急きょとらせていただいて,9名の方から回答をいただきました。三つ目の資料の2枚目のうち,現在の年齢が質問番号1で,御質問にあった最終被害を受けた年齢が質問番号5です。最後に被害を受けた年齢というところに年齢が書いてあるのですけれども,多いのが15歳から17歳,中学生の頃が多いと思います。   治療にかかるまでの年齢は,質問番号7の3行目ですね,そこに書いてありまして,早い方ではすぐにつながれる方もいたんですけれども,大体は20年から30年ぐらいになります。 ○山本氏 監護者ではない人たちということですけれども,私が聞くのは,教師からというのが多いです。あとは,親戚のおじさん,おじいさん,お兄さんたちということも多いです。 ○小西委員 そういう方たちの被害というのも,今,お話しいただいたような状況と変わりはないと思っていいでしょうか。 ○進藤氏 私の場合は,近親姦虐待被害当事者の会なので,そこに集まる人たちは,監護者以外というのが少ないのですけれども,症状は一緒です。 ○小西委員 ありがとうございます。 ○北川委員 今日は本当にありがとうございました。   中でも,啓子さんのお話をお伺いしたいのですけれども,大変具体的な話になって恐縮なんですけれども,お答えいただける範囲で構いません。   お兄さんから被害を受けたということをお伺いしました。お兄さんの年齢であるとか,お兄さんとの人間関係とか,家族内での関係などについて少し具体的にお伺いできれば大変有り難く思います。 ○進藤氏 先ほどの質問の返答で,近親者と監護者を間違えました。ごめんなさい。   兄は,私の4歳上で,私はとても兄が大好きで,小さい頃から仲良くしていまして,兄は,まず最初は,性器を見るなど,性器の違いに関心があったそうですけれども,だんだんいろいろな物を入れたり,性的な成人向け雑誌などを読むようになり,いろいろな知識が入ってきたせいか,そういうのを試したくなってきて,だんだん行為がハードになっていって,最後は挿入という感じで,兄とは治療段階で会って,お互いの本音を語り合ったんですけれども,兄も大体そういう流れで私に手を出して,最後には一人の女性として私を見ていたということで話してくれました。私も兄に対しては,そんなにすごい嫌悪感はございません。 ○角田委員 続けて,啓子さんにお尋ねしたいのですけれども,38歳のときに専門的医療につながれたということでした。そのきっかけはどういうことだったんでしょうか。専門的医療と言っても,なかなかすぐ目に付くところにないのではないかと思うのですけれども,どういうことがきっかけでつながれたんでしょうか。 ○進藤氏 まずは不眠外来に行ったんですけれども,処方だけで終わってしまって物足りなさを感じ,ちょっと悩んでいたら,ドラマで「心療内科医・涼子」というドラマを見まして,それでカウンセリングという存在をそのとき初めて知って,カウンセリング会社を探して,そこからの紹介で今の主治医と出会いました。 ○角田委員 ありがとうございました。 ○山口部会長 このあたりで終わらせていただきたいと思います。   山本様,本日はどうもありがとうございました。 (山本氏退室) (浅野氏入室) ○山口部会長 2番目の方は,大阪府立子どもライフサポートセンター所長の浅野恭子様です。浅野様は,児童相談所等で勤務された御経験から,児童の性被害,とりわけ男児の性被害の実情について御知見をお持ちと伺っております。   本日はお忙しい中お越しいただきまして,誠にありがとうございます。部会長の山口です。当部会におきましては,法務大臣から諮問された要綱(骨子)について,審議しているところですが,要綱(骨子)で示された内容に関し,御知見をお持ちの方から御意見を伺うために,本日お越しいただいた次第です。   これから20分間程度,浅野様の方から御意見などをお述べいただき,その後,委員・幹事の方から御質問をさせていただきたいと思います。それでは,よろしくお願いいたします。 ○浅野氏 大阪府立子どもライフサポートセンターの浅野と申します。現在勤務しています施設も児童自立支援施設になるんですけれども,以前に,主に非行行動をした子供たちを対象とした児童自立支援施設の方に6年間勤務していた経過がありまして,その頃から子供の性問題行動についての取組を始めました。その後,児童相談所の方に異動になってからも性問題行動のある子供たちの支援に心理職として約12年間取り組んできております。   職務上,被害だけ加害だけではなくて,私の場合は,加害行動をしてしまった子供たちと,被害を受けた子供たちの両方に関わることがありますので,その両方の子供たちの様子を見る中で,私が臨床的に感じたことを中心にお話しさせていただけたらと思っております。   守秘義務がありますので,個人を特定するようなことはお話しできないのですけれども,一定の事例を踏まえた発言の方が分かりやすいとは思いますので,その箇所については,議事録上非公開にしていただけたら有り難く思います。よろしくお願いします。   私の方は,主に男児の性被害の実情ということと,挿入させられる性被害についての精神的な影響のことと,それから監護者からの性的な被害について本当に抵抗できないものなのかというこの3点を中心にお話ししたいと思います。この要綱(骨子)で言えば,第一と第三に関わる話になるかと思います。   まず,男児の性被害の実情についてなんですけれども,例えば施設で,あなたが望まないのに体を触られるとか触らせられるというような性被害に遭ったことがありますかというようなアンケートをしますと,女子はあるか,ないかのどちらかに丸が付くのですが,男子の場合は,ある,ない,分からないの3択にしていると,分からないに丸を付ける子が大体2割ぐらいおります。   この分からないということの意味がどういうことなのかということなんですが,世間一般,社会常識的に,男の子は被害に遭わないという思い込みのようなものが非常に根強くありまして,男子が実際被害に遭っても,これは被害ではないんだというようなことを周りも強く思っていますし,本人も思っているという実情があります。ですから男の子は,これは被害ではなくて遊びだ,冗談だと考えたり,これは一種の同性愛だというような言い方をしたり,あるいは,据え膳だからいただかなければいけなかったのだというふうな説明で自分を納得させようとしていることが多いと思います。   男の子の被害ですけれども,男の子から男の子というような男同士の被害というのもかなりあるんで。小学校で言えばパンツ下ろしみたいなことから始まって,しこれ,なめろ,なめさせろみたいなことから,肛門に入れろ,入れさせろということに進むこともあります。これは,どちらかというと力の差のあるような者同士の間で行われることになります。女の子,女性から男の子への加害行動というのは,見せろ,触らせろ,それからなめろとかなめさせろということから,挿入の強要というようなこともございます。   挿入の強要ということがどういうことか分かりにくいかもしれないのですが,生理的反応というのは,簡単に起きるということで,刺激をされれば勃起をするということは自然に起こってしまうので,それで入れろということで,ここに入れなさいということの指示をされて挿入をさせられると。した後に,それも子供たちの年齢にもよるのですけれども,自分がやったかのように錯覚させられるようなことを言われる場合もあります。あなたが入れたのだから,私が「やられた」と言ったら誰の立場が悪くなるか分かるかと脅されるということもあり得ます。   ですから,この挿入させられるということが起こったときの男の子の非常に複雑な感じといいますか,自分が主体的にやっているような,でもやらされているような,被害なんだけれども加害と世間から見られそうな感じというのもありますし,もちろん,自分がやられたということ自体が受け入れ難いことでもあるので,基本的には自分が主体的にやったと思い込もうとするということも少なからずあります。 <以下,具体的事例に関わるため,概要を記載> ○ 姉弟間で性行為があった場合,関係者は,初めから男の子(弟)が加害者,女の子(姉)が被害者という見方を変えられず,男の子(弟)が被害を受けた可能性については,最初から検討もされなかった。姉は性的虐待も受けており,その影響から弟を性行為に巻き込んだ可能性を指摘したが,実際どのようにして性行為に至ったかについて再検討されることはなかった。こうした周囲の思い込みにより,一層男児の被害の可能性は検討もされず,したがって把握されにくくなっている。 ○ 幼少期に,複数の10代後半の女子から性被害を受けた男児。自分の体験を被害であるということを認識できず,大人になった今も,「自分は早熟であっただけ」と語る。しかし,本人が被害であることを否認していたとしても,思春期以降の不特定多数の異性との性交渉,成人後の実の娘への性的虐待は,その長期的影響の一つの現れだと考えられる。このように,本人も被害と認識できないままであっても,男児の性被害の影響もまた,長期にわたって続くため注意が必要である。   男の子の場合,被害体験が消化できないことによって,その後,加害行動に転じるという例は少なからずありまして,一旦抑え込んでも,数年経ってからそういう行動をしてしまうということも見られます。この要綱(骨子)の第一を拝見したときに,ものすごく中身がフェアな内容で男の子にも女の子にも同じようにこういう行動は人を傷つける行動だよということを教えやすくなるのではないかなと思いました。   一方で,女性も男性も被害者になり得るという視点への変化は天動説,地動説ぐらいの大きな変化なので,大人の方がついていけないかもしれないとも思います。ですから,こういう法律改正がもしなされたら,教育とか福祉とか,子供に日常的に関わる専門職の研修とか意識改革とかは法律の趣旨を社会に活かす上でもすごく重要になるのではないかと思いました。また,被害か加害か,させられたんだ,したんだという点では,かなり両者の言い分が対立するということも予想されるかなとも思いますので,性行動における同意とは何なのかということを子供たちにきちんと指導することがとても大事になってくるかなとも感じました。   もう一つが,監護者からの性加害の件です。監護者の範囲についてもこの部会で色々と議論があった経過を議事録で拝見させていただいたんですが,例えば,家庭に限らず,子供たちというのは自分にとって影響力を及ぼす人であるとか,受け入れてほしいとか評価してほしいと思っている大人に対しては,かなりぜい弱です。本当に,ある意味抵抗できないというか,逆に言えば,先生が好きだから,例えば,施設の先生とか学校の先生が好きだから,あるいは親戚とかであっても好きだからということで,被害に遭っているという感覚を全く持たないで応じるということは少なからずあると思います。   そのときは好きだからで終わっていた場合も,成人になってからそのことが非常に自分の重荷になってしまったという方もいらっしゃるので,力関係を及ぼせる関係性の中で行われたセックスとか性行為というものが子供たちに与える影響というのは非常に深刻なものがあります。この監護者の範囲については,子供に大きな影響力を及ぼす大人というような範囲で考えて,罰則の重さがどの程度が妥当なのか私には判断できませんけれども,親はもちろんですが,里親や施設職員や学校の教員といった子供に対して大きな影響力やパワーを行使する立場にある専門的な職種も,監護者に準ずると考えることも,子どもの相対的なぜい弱さという点からも重要ではないかと思いました。   それから,もう一つあまり触れられていないのですけれども,きょうだい間であってもかなりのパワーの差がありますので,ふだんはきょうだいでけんかをしたり,対等に意見を言っているような場合でも,性的なことをされた途端に本当に無力になるということがよくあります。抵抗できずに何回も何回もそれに応じてしまって,いけないことをされているという意識はあるものの,親に言われたら嫌だからということで甘んじているという例もあります。これは,ここの分類には入らないのかもしれませんが,それほど監護者であるとか近しいところにいる力関係で上にある人の影響力というのは大きいということもお伝えしておけたらなと思います。「影響力を利用して」わいせつな行為をしたということで言えば,かなり幅広い範囲がそこに入るであろうと思いますし,本当に抵抗するとか,「嫌だ」という一言を言うこと自体も非常に難しいというのが実情です。それはきょうだいでなくても,同じ施設で生活している子供たち同士であっても同じことが言えるかと思います。 ○山口部会長 ありがとうございました。それでは,御質問のある方はよろしくお願いいたします。 ○齋藤幹事 浅野先生ありがとうございます。   2点ほどお伺いしたいのですけれども,例えば,施設で自分の被害体験を遊びだとか冗談だと言って合理化しようとしている子供たちにもトラウマ反応といいますか,心身の反応が出るのかという点と,性被害を受けた,特に男児,小さい頃に性被害を受けた人たちが性加害に転換するということについてはよく聞くのですけれども,なぜそこで性加害に転換すると,浅野先生が今お考えになっているのかという点について教えていただければと思っております。 ○浅野氏 遊びとか冗談だと思い込んだとしても,結局自分の中で消化し切れないために,長い期間抑圧していても,そのことが話題に上がるだけで不安になったり,恥ずかしい気持ちでいっぱいになってしまって,誰かに対して同じことをしようとすることがあります。   パンツ下ろしは小学校の教室で起こっていることだと思いますが,例えばそんなよくあることであっても,ものすごく恥ずかしい体験です。ほかの子供たちがいる前で下半身を裸にされてしまう体験なんです。それを男の子同士がやっていると学校の先生は笑って見ている場合があります。もしこれが女の子がされていたらどうなるかというと,やはり女の子がパンツを下ろされるということが教室で起こったら,全然違う反応が多分出ると思うんです。本当はその恥ずかしさとか屈辱感というのは,男の子でも,女の子でも同じぐらいはあるはずなんですけれども,男の子だからということで遊び,冗談ということで終えられてしまいます。トラウマ反応という言葉が適切かどうか分からないのですけれども,かなり長期にわたって,恥辱感は続いていますし,辱められた怒りから機会を見つけて今度は自分がやる側に転じた例というのも少なからず経験しております。   性被害を受けて性加害に転じるというのは,私の経験では男の子にです。被害を受けたことによる怒りとか不安とか,あるいは「自分が弱い感じ」というものを払拭したくて,自分より弱い者に対して加害行動をしたと,自分の行動を振り返っている子供が少なからずおります。何らかの弱さを実感する体験,自分を駄目だと感じる体験,無力感のようなものを克服したくて加害に転じるのは私の経験上男の子の方が多くなっています。   女の子の方は,性化行動といいますか,性的な行動をとって更にまた被害に遭ってしまうというようなことが起こりがちなので,女の子の場合は,被害が被害を呼び込むと捉えられているのですけれども,中には自分が操作できる男の子に対して加害行動をしているけれども表沙汰になっていないという例もあるかもしれません。 ○宮田委員 先生の御経歴は,児童自立支援施設や児童相談所等での実務体験と伺いましたが,先ほど,子供のときの被害が影響する,あるいは施設や学校の先生などの影響力のある方を好きだと思ってした行為が,成人になってから影響してくるというお話がありました。後々になって影響が出てくるのは,小さな子供のときの被害なのか,それともある程度大きくなってからでもそういう例があるのか。先生の御経験ではなくても結構ですが,10代の後半の方でもそういう事例があるのかどうかについては御知見があれば教えていただきたいと思います。 ○浅野氏 10代に被害に遭って,そのときは先生のことを好きだと思っていたけれども,30代以降,要するに成人期になってから子どもの時に先生と性的な関係を持ったことがすごく負担になって,当時はそうは思っていなかったけれども,今やトラウマという感じになってしまったというような例もあります。被害に遭った当時は,先生が好きなので訴えない,被害届を出す気もないと言っていたとしても,それがずっと同じなのかということについては分からないということをそうした例から感じたところです。ですから,先生であるとかですね,そういう立場からの影響力を利用して子供と性的関係を持つということは,かなり責任の重い行為になるのではないかなと思います。男性にも,女性にも言えることだと思いますけれども。 ○角田委員 未成年の子供たちが,大人に対して性的な関係を持ったときには,好きだという思い込みがあるとおっしゃいましたよね。それは,本人としては主観的に好きだという感情を持っているんだけれども,本当の意味で,ややこしいんですけれども,その先生なり大人と性行為を持ちたいと自由な意思で思っているとは理解できないということでしょうか。 ○浅野氏 自由意思でやっているわけではないんです。学校の先生はどこまで分かるか分からないですけれども,施設の先生であれば,子供たちがこれまで体験してきた虐待,被虐待体験であるとか,被害体験といった,子どもの背景を知って処遇に当たっているわけです。人と関係を持つ手段として性的な行為をするという方法しか学んでこなかった子どももいるということを分かっておりながら性的関係を持つということもあるわけです。子供の方は先生が自分を大事にしてくれている,私だけを特別に思ってくれていると錯覚していく場合があります。ですから,全てと断言しきるわけではないですが,施設の先生と子供とか,学校の先生と子供というような,職業的な立場のある人と子供という関係の中で始まって起こっていることには,その影響力が随分入っているので,本当の意味での子どもの自由意思にはならないと思います。 ○角田委員 仮定の質問で申し訳ないのですが,それが親子関係だったらどうなんでしょうか。娘がお父さんに対して性的に誘いをかけるとか,あるいは義理のお父さん,養父とかそういう関係のときに,15歳ぐらいの女の子が大人のお父さんに当たる人に性的な関係を誘うということはあり得るというか考えられるのでしょうか。 ○浅野氏 誘いをかけるとしたら,身を守るためにかけるということが多いのではないでしょうか。もちろんそれは先んじてやることで,一方的に「やられてしまう」という事態から身を守るだけではなくて,暴力から身を守るということも含まれます。非常に暴力的であったりDVをするお父さんである場合に,自分や他の家族が暴力を受けないために,自分からお父さんに,性的な行為を持ちかけるということはあり得ると思います。 ○角田委員 それからもう1点なんですけれども,男の子の場合に,屈辱感,先ほどのパンツ下ろしもそうなんですけれども,本当は屈辱的な行為なんですけれども本人も周りも男の子にとってそれが屈辱的だとあまり扱わない,思わないとおっしゃいました。それは,どういう社会的な状況からそんなふうになっているのでしょうか。   とても屈辱的な行為なんだけれども,何か性的なことについて男は攻撃的でなければならないというようなそういう思い込みというか,社会的な規範とまでは言いませんが,そういう思い込みなんかの影響を受けて,本当は屈辱的な行為をそういうふうに別のものにしてしまっているということがあるのでしょうか。 ○浅野氏 これはパンツ下ろしだけの話ではないと思うんですけれども,やられている方は非常に嫌なことでも,「冗談じゃないか」とか,「遊びじゃないか」と言われると,それ以上怒ったりすると,「冗談が分からないやつ」と見なされて,かえって友達関係が悪くなるということが起こってくるので,何も言えないまま,被害を受けている子どもが笑って済ませてしまうということが多々あります。1回ではなくて何回もターゲットにされる子供たちにしてみたら,もう学校に行くのが嫌になるぐらいとてもつらいことなんですが。   こうした性的ないじめというのも実際には起こっていますが,反撃させないようにする周りの子供たちの言動があったり,先生が目にしても慌てて止めるということをしないで,笑って遊んでいるので,「やめておきなさいよ」というくらいの注意で終わってしまうことが多いのです。「男の子だから」とか「男の子ってそれぐらいするかな」と思われているところはあるかなと思います。 ○角田委員 結局,男の子は性的に女の子ほど傷つかないと何となく思われているのでしょうか。 ○浅野氏 思われているのかもしれません。 ○角田委員 ありがとうございました。 ○山口部会長 それでは,これで終了させていただきたいと思います。   先ほど,事例については非公表としたいという御発言がございましたので,議事録の取扱いにつきましては,それを踏まえて後ほど検討したいと思います。   浅野様,ありがとうございました。 (浅野氏退室) (中村氏入室) ○山口部会長 3番目の方ですが,立命館大学大学院応用人間科学研究科教授の中村正様です。   中村様は,加害者臨床に関する研究活動をされており,その御経験・御知見を踏まえてお話をいただけると伺っております。   本日はお忙しい中お越しいただきまして,誠にありがとうございます。部会長の山口と申します。当部会におきましては,法務大臣から諮問された要綱(骨子)について,審議しているところですが,要綱(骨子)で示された内容に関し,御知見をお持ちの方から御意見をお伺いするために,本日お越しいただいた次第です。   これから20分間程度,中村様の方から御意見などをお述べいただいた後に,委員・幹事の方から御質問をさせていただきたいと思います。それでは,よろしくお願いいたします。 ○中村氏 皆さんこんにちは。よろしくお願いします。中村と申します。   「加害者更生(更正)からみた今次改正について-暴力臨床・加害者臨床の取り組みをもとにして-」というようなタイトルで話をさせてもらいます。主に,いろいろな問題を持つ加害者との面談やグループワークなどをしています。1番の奈良少年刑務所での性犯罪者処遇,再犯防止プログラム,2006年から動いていますが,最初からスーパーバイズをしています。あと今回の監護者等などが入ってきますので,虐待,DVあるいはハラスメント加害者への面談指導,あるいは職場復帰,家族のやり直しなどに関わっていますので,ここは大阪の自治体と連携してやっています。その経験を反映させたいと思って用意してまいりました。あと幾つか高齢者虐待に関わるケアマネージャーへのスーパーバイズもしています。それから,最近増えてきた仕事は,地域生活支援の触法障がい者等の社会復帰です。ここについてどんな条件があればいいのかという,入口の問題と出口の問題両方ございますけれども,今日はそこまで時間がありませんので,こういうことをしている者だと御認識ください。   今次改正が,多様な議論があろうかと思うのですが,更生の取組から見てどうなのかという話をしたいと思っています。特に,今申した多様な加害者と接触していますと,性犯罪の加害者対策というのはどこの場面でも難題になってきます。それで,例えば最近の触法障がい者という場合の,知的障がいがあって性犯罪者になっている場合の方々の帰住とか社会復帰は受入れ先となるところを見つけることから再犯防止までトータルに難題になっているなと思っています。あるいは,その他,監護者,非親告罪化等々どんな課題を内包してるのかと私の話をしたいと思っています。最終的には,いろいろな改善をしていけば現行取り組まれている刑務所の中での性犯罪再犯防止プログラムの改善が必至になると思っています。そのこともお話ししたいと思っています。   また最後にもう一回戻ってきますが,根拠は依拠している認知行動療法それ自身が大変古くなっているということです。最近のものにバージョンアップした方がいいだろうなということです。カナダの矯正局モデルを使っているのですが,それのバージョンアップも要るなと思っています。   それから,下限を上げれば上げるほど,刑務所生活全体での彼の行動にどうフィードバックしながら点検できるかということと,出た後,社会内処遇との関係づけがますます必要になることと,入口時点での処遇している者から見たフィードバックが要るということです。防止的措置と言いますね。   基本的には,動機づけられていなくて,自発的でなくて,抵抗して時には狡猾さを含んだ加害者臨床となります。動機づけ問題がまずはハードルです。更に暗数のこともあって,再犯ではないのですね,再々犯なんですね。再々犯罪者として,つまりある種完成された加害者として我々は出会っていますので,そういうことにふさわしい更生のテーマがあり,重罰化すればするほど動機づけ課題が重くなるのです。   私は,大阪で虐待親への面談とグループワークをしています。性虐待の親も含みます。児童福祉法あるいは児童虐待防止法のスキームの中で加害者対策をしていることになります。これは,刑罰というよりも,親子を離すという一つの措置の中で,家族のやり直しにどう向き合えるかということですね。DVと虐待が重なる場合が多いので,更に性虐待の親となると離婚プロセスに入っていく可能性も高いのです。離婚をきちんとしてもらうという面もある面談となります。別々に暮らしていくことも含めた多様な家族再統合の取組になっていきます。   刑罰中心で効果があるのかという大論争,「What Works?」が今もずっと続いています。さらに,家庭内暴力等についていろいろな法律ができ,刑事罰以外にも更生的な介入の要請が高まっていきます。支援,回復,治療,復帰,再統合,再参入,つまり更生,リハビリのテーマが出てきます。親密な関係性における暴力について法律ができたのはいいのですが,どのようにしていけるかということが今次改正の議論でも問われるべきだと思っています。   例えば,DV,虐待,監護者等に対応する領域でもたくさんの法律ができて,センターができています。これらの中に,性犯罪者がどこに位置づくのだろうかということで吟味していきます。現在の性犯罪の再犯防止プログラムが5科あります。これは,いろいろアセスメントしていくわけですが,最長でも,高密度の人たちであっても大体1年未満なんですね。1年未満しかやっていないということです。ここについて,特に第5科の共感と被害者理解というのは相当難しいです。ここまで持って行くには,高密度の人たちほどここが必要なんですが,ここが十分できていないです。ここまでいくレディネスができないんですね。短すぎるということですね。ここについて先ほど述べたように,プログラムの改善が必要だということはここからも言えると思います。   全体的に男性の加害者なので,男性性についてどう扱うかを私はテーマ化してグループワークや面談で扱います。かなり連続線上にいろいろなテーマがあって,性化・ジェンダー化された加害ということになっているのですが,ここにどう焦点化するかというのは,立ち直り,リハビリのプログラム上は大事なテーマになっていますが,ジェンダーの暴力という視点は更生でも弱いです。   さらに,今次の改正は,法定刑の下限を引き上げるということなんですけれども,例えば,今でも7,8年の刑を受けて高密度で,強姦等でプログラムに入ってきます。懲役8年の者が1年未満のプログラムに入るわけですね。そうすると,出る頃にはもう忘れているということなります。そういうことについてどう考えるかということですね。   私としては,受刑生活の中で学んだことをどういうふうに汎化できているかどうかの行動的,心理的点検はした方が良いと思っていますが,プログラムはプログラムでやりっ放しという面があります。さらに,それが社会に出ていくときにどう接続されていくのかとかですね,持続的な更生支援のテーマが出てまいりますので,下限が引き上げられることについては,やはりもう少しケースバイケースでいろいろその人にふさわしく更生プログラムが組めるような柔軟性が要ると思っています。そうすると,5年以下の人は来ないとなると,その中で1年しかやっていないプログラム,つまり受刑生活の5分の1で再犯防止につなげるのは困難なので,プログラムの刑務所内での継続性をどうするかがますます問われます。   さらに,もともと小児わいせつ,集団強姦あるいは単独犯,いろいろな人たちがいる中で,さらに男性から男性へという犯罪も当然入ってきます。その中で,小児性愛それから性虐待の人も一部暴行等で入ってきますので,そうするといろいろなタイプの犯罪がそこにあるのにプログラムは一つなんですね。これは,「one size fits all.」として批判されてきていることですが,改善はされていません。しかし,個別的に全てをするわけにはいかないとすると,ある種行動別に,あるいは罪責別に,あるいは行動パターン別に,何らかの類型化をした方がいいのではないかなと思います。   さらに,監護者が入ってまいりますと,また違う類型がそこに発生します。見知らぬ者,見知った者というまたクロスすべき情報が入ってきますよね。そこについてワンサイズではあり得ないことでプログラムそれ自体を改善すべきだと思います。ワンサイズで間尺に合わせようとすると実に平均的な行動類型を想定することになってしまいます。しかし,ケースバイケースで個人カウンセリングをするわけにはいかないとなると,やはり,そこには一定のカテゴリー化が必要になります。監護者等の概念を広げれば広げるほど多様な犯罪についてのサイズ感が要るだろうと思っています。   このサイズというのは,質的にもそうです。質的というのは,認知行動療法だけではないという意味があります。それから,量的というのは,期間ですよね。刑務所の中でどのぐらい受刑生活の中で何年ぐらいやればそれは効果を持っていくのだろうか。あるいは,受刑生活それ自身に汎化していくためにはどうしたらいいのだろうかというようなことも考えていくことが今次改正を機に必要だと思います。もともと「one size fits all.」という批判があるので,サイズを広げようとする,あるいは5年で重たい人たちをそこに入れようとする,その重たさと罪種,行動別,そのことについてのサイズ感を広げなければならないなと思っています。その責任が,多分,重く措置したり,定義をしていけばいくほど出てくるかなと思っています。というのが7頁の①,②ですね。   さらに,先ほど紹介したDVとか虐待とかハラスメントの加害のことをやっている者からすると,監護者等について広げていくのは,「関係コントロール型暴力」となって,暴行や脅迫だけではない一定の関係性を基にした暴力を扱うことになります。DV法も虐待防止法もこの部会の課題ではないかもしれませんが,残念ながら,加害者対策が十分できていないのです。保護命令あるいは接近禁止命令を出して,とても危険な人たちを世にたくさん送り出し続けている面があります。このことについて,かねてより加害者対策をすべきだと発言や実践をしてきたのですが,このことについてここで監護者を入れて広げる以上は,このことのテーマがここの性犯罪にも出てくるということなんですね。ということについて,監護者等を広げるというのは必要だと思うのですが,そこに対してどんな手立てを設けていけるだろうかという刑事政策的な課題があります。そのことの理解がやはり要るかなと思います。   監護者による暴力は,大変複雑なものが入ってきます。見知った者同士,もちろん今でも暗数がありますので,知り合った者同士の,多少見知った者同士の性犯罪は浮上がなかなか難しいかもしれませんが,今でも本当は必要なことなんですよね。そういうことで,関係性の病理の認識がどうしても要って,詳細は時間がないので説明はできませんけれども,かなり独特な加害被害関係がそこに含まれてきています。ここを監護者による暴力は捕捉することになります。これをどう扱うかという意味ではやはり今のプログラムは全く間尺に合っていないということになります。それは,私はDVや虐待や特に性虐待も含んだ家族病理についての実践から知見を是非得た方がいいのかなと思っています。   例えばセクシャルハラスメントも同じです。「迎合メール」問題と言います。被害者が同意のように見える応答をしていくようなタイプのコミュニケーションもあり得るのだということです。一方的に支配コントロールというだけではなくて,非対称な関係性の中に入っていきますので,迎合するように見えるメールを送ったからといってセクハラを受けたことを単純に否定する理由にならないというようなセクハラ判決もありますので,性的被害者の行動パターンを一義的に経験則化し,それに合致しない行動がということにはならないだろうということで,つまり逃げたり声を上げたりすることが一般的な抵抗であるとは限らないというテーマを引き寄せるということなんですね。このことについて自覚が要ります。犠牲者非難と言います。監護者に拡大するとこうした関係性の中で発生するので,その他罰的な心理を扱うプログラムに再犯防止プログラムを改変すべきということになります。   あと,男性と男性の関係における事件はたくさんあります。裁判が男と男の強姦問題について情状としてもしんしゃくしなかった事件があり,意見書を書いたことがあります。お兄さんのように慕っていた男性に肛門性交をされたのですが,恨みが高まり,殺人をしてしまうのです。その裁判で,残念ながら肛門性交への恨みのことが中心には挙げられなくて,彼の怒りはそこにあったんですけれども,十分にそれが裁判のストーリーではしんしゃくされずにいたものだから,更生の手がかりがなくなりつつあったんですね。これは,そこがちゃんと裁判で裁かれないと彼の更生の手がかりへの動機づけができにくい。被害なんだけれども加害という面が大変強く出ているのです。そこが扱われないと,十分に更生に向かわないことです。男と男,肛門や口腔へと拡大をしていくことはいいのですが,そのことについて男性性を射程に入れていろいろな加害者更生のためのプログラムへとフィードバックすることが要請されます。   加害者への対応を,そういった諸相を幾つか見ていきますと,動機づけが決定的に大事となります。いずれ刑務所から出て行きます。その人たちが入ってきた時点では,初犯ではないわけなので,入ってきたときには完成された性犯罪者になっている人たちに更に重く罰を加えると,動機づけが拒否されていきます。そこについていろいろと働きかけをしなければならないので,動機づけ面接なんかがとても大事になっていますが,そこが十分できていません。   グループワークなどの中で限られたチャンネルを利用して,そのプログラムそれ自身は教育のプログラムなので,カウンセリングではないわけですね。矯正教育なので,幾つかの工夫をそれでもしていくことになります。やはりでも動機づけが十分できていないと,いろいろなプログラムをやってもなかなか入りにくい面があります。今は,リスクアセスメントでリスクを中心にいろいろ捉えています。当然と言えば当然なんです。   ところが,内実的にはリスクだけでは見えないものがあって,リスクは変えられるリスクを動的リスクと呼んで,変えることのできないリスクは過去の前科の話とか年齢とか幾つかスタティックなものがあるのですが,変えることができるものについて対象化をするためにアセスメントをする。これはリスク中心なんですね。   ところが,彼らは逸脱的ライフコースを歩んでいる面があるので,全体的に偶然ではなくてある必然のような人生の分岐点の中でいろいろな犯罪へと駆り立てる自分を作っていきます。その中には被害が出てくるのですが,あまり被害のことを言ってもこの部会の課題ではないと思いますが,取りあえずそのプロセスでは,ある種の情状みたいなものが出てきます。これは「非犯罪的ニーズ」と呼んでいます。「非犯罪的ニーズ」が大変強く大きく存在してきます。それは彼の不全感です。あるいは自尊心の低下,あるいは他者関係性の欠如など。ところがそれ自身が直接犯罪に結び付くわけではないのだけれども,彼の犯罪の大きな要因を成している背景事情のことです。   「非犯罪的ニーズ」があって,さらに「非性的ニーズ」もそこにあって,怒り,嫌悪,コントロール,統制感,満足感・充足感,嗜虐的な指向性などがあって,これを「非性的ニーズ」とそれが性化されて性犯罪へと至るという両面を見ながらプログラムでは対応することにしています。そうしないと,動機づけがなかなか難しいからです。さらに,性的欲求や性化された行動としての犠牲者を選択していく手段化がそこにありますので,女性,子供,ぜい弱な男性を選択して行動化していくというとこういうことになっているわけです。   加害者更生で,要するに何を対象化するかというのでいつも苦慮しているのが,彼らの他罰性です。これは,欧米なんかの性犯罪の先行研究からもかなり大きな要素として出てきます。他罰性です。この他罰性の中には刑事司法も入ります。裁判所も入ります。いろいろなことで他罰性をとても強化していくことになるのが重罪化のメカニズムだと思います。ですから,ここの他罰性をどう縮減するか。   「非性的ニーズ」は,必ずしも性欲のために性犯罪を犯すのではなく,怒りとか,パワーとか,嗜虐性を満たそうとする行動のことです。指向性としての虐待みたいなものが出てきますので,「非性的ニーズ」をどうアセスメントして対象にするか。それから,「非犯罪的ニーズ」という,彼らの持っているある種の情状をどう視野に入れるか。そして,ジェンダー暴力という点では,男性と女性,男性と男性の関係性にある,ある種の抵抗する,あるいは反抗する男性性と私は呼んでいますが,そのことについてどう視野に入れるか。これにケースに即した更生計画が立てられるようにどうしていけるかというのが,プログラムを実施している者からすると大きな関心になっていきます。   そういうことが可能なような今次改正になっていければ,それはそれで一つの手がかりなんですが,下限を大きく上げるということは,ここを難しくするとは思います。これが「非犯罪的ニーズ」の中身です。ですから,②の方に,十分プログラム上は視野が当たっていない。しかし,ここをうまくすくい取らないと更生の手がかりはつかめないという面をいつも感じています。   全体として,犯罪者の中の被害感情,これは勝手な主観的な被害感情です。ただ,それをもたらすような彼らの認識の仕方あるいは感じ方,現在までの不全感,あるいは言葉にならない,失感情的な心理と呼んでいますが,言葉にならない自分の感情とそれを行動化する傾向で問題解決をしようとする彼らのやり方などですね。ここにどう根ざしていけるかということです。非対称性を念頭に置いて「非性的ニーズ」を充足させる。他罰性があるのできちんと加害者になっていない。刑務所の中にいてもきちんと加害者になっていない面がありますので,ここについて,法的には処罰されているが心理的には加害者という自覚がない人たちに対して,どう扱えるかということに関心を持っています。   ここは強調しておきたいことなんですが,欧米のレイプ研究の一つで非性的ニーズ論です。何を随伴するか,あるいは何に随伴して性問題行動があるかということなんです。一つはパワー感ですよね。それからもう一つは怒り,あるいは恨み,つらみです。こういったものが随伴されている。それから,嗜虐的な,相手が苦しむことを見て快楽を感じるというタイプのもので一つの研究があるのですが,それらはまとめるとこういうことになります。性的欲望を満たすということではなく,何らかの心理的不全感を元にして,敵意・怒りを処理し,コントロール・パワーを発揮する。しかし,それが性化されていくプロセスにおいて,女性蔑視,女性嫌悪,弱い男性への暴力性が出てくるというこういう面が両方あるということです。   しかし,それは性的というだけではなくて,彼らは性的欲望を理由に話をしますが,その中にあるノンセクシャルニーズというものにも着目していければということで,補償的,報復的,劣位回復的,不全感を埋めるある種のコントロール感,満足感を達成しているので,性だけに焦点を当てるというよりも,そこにある擬似的性行動に焦点を当てたプログラムが必要なんですけれども,そこまで十分には行っていないのですね。しかし,それが性化されるプロセスでは,身近にいるぜい弱な者が選択されていくので,女性や子供が選ばれやすくなり,被害者の屈辱感を想定して征服感,達成感,充足感を得るというタイプになっていきます。   ですので,こういったことに対してどうするかについて,これも刑事政策的な課題かもしれませんが,「再犯Big Two」は,社会的孤立と感情的寂しさだと先行研究から指摘されています。2014年にイギリスに調査に行きました。例えば,性犯罪防止のための「Circles UK」です。これは一つの例ですけれども,出た後に真ん中の出所者を取り囲んだ数人の訓練を受けたボランティアたちが,いろいろサポートをしながら社会防衛のためにもサポートしていくという仕組みを作っているんですね。サークルズという発想は,カナダやイギリスで大変普及しています。   加害者の「非犯罪的ニーズ」,「非性的ニーズ」に対応するテーマをどうするかということで,再犯の防止に必要な視点として,九つばかりまとめてあります。今述べたことが大変大事かなと思っています。結局1人では不可能なので,刑務所の中で万能なプログラムというのはあり得ないので,これらのことを意識して,今回の改正の結果,何が必要になるかということを今述べた幾つかの点について速足でまとめさせてもらいました。足りないところは,またお読みいただければと思います。 ○山口部会長 どうもありがとうございました。それでは,御質問のある方はよろしくお願いいたします。 ○宮田委員 二つ質問させていただければと存じます。   先生の方がなさっている加害者臨床の分野ですが,弁護士会では,触法障がい者の社会復帰の支援のために社会福祉士,精神保健福祉士といった福祉関係者との協力関係を作ることができました。昨年度末からは東京臨床心理士会とも協力関係を作ろうとしているのですが,司法分野において,被害者臨床はやりたい方も多いのだが,加害者臨床については希望者が少なくて,経験のある人が少ないと伺っております。そもそも先生のような御研究をしている人の数はどのようなものかをまずお聞きしたいと思います。   2点目は,虐待に対する対策として,何が有効なのだろうかというところです。家庭裁判所の調査官である飯田邦男さんの「虐待親への接近」という本があるのですが,この中には,児童虐待に対する対応として,刑法の対応は問題であって,刑罰は親子関係を破壊することはあっても修復には結び付かないこと。あるいは,親が刑事罰を受けるということは,被虐待児童の利益になることは少なく,防止にもほとんど役に立たない。むしろ,子の監護者を新たに見つけなければならないことや子供の成育上あるいは経済上の問題が生じる。あるいは,加害者が被害者を監護養育していることでの加害者の処罰が子供への悪影響を及ぼすことなどを指摘しておられますが,このような指摘についての今まで加害者の臨床,特に親に対する臨床をされている先生の御見解をお聞かせいただきたく存じます。 ○中村氏 そうですね,最初の方は,司法臨床なり加害者臨床をしたくなる制度を作るべきだと思います。したくなるというのは,制度がないとこれはなかなかカウンセラー個人ではやりにくいことだと思います。   少年法領域ではそれはそれで加害者臨床や司法福祉的なアプローチがたくさんあるのですけれども,冒頭述べたような新しい行為類型が出てまいりますので,これについて受講命令とか幾つかの強制的な措置と自発的な内心の改善がセットにならないと難しいので。被害者はいろいろな意味でケアが必要な面がたくさん出てきたわけですけれども,加害者は自らが臨床に来ないので,そのことも含めてある種強制をする仕組み。強制はするけれども,それが内実的にどう動機づけられて変化していくかという両方で,最初の方は制度が要ると思います。保護命令とか最初に幾つか先ほど紹介したことは,分離をするという面はあるのですが,社会の中に再統合していくという意味での加害者臨床が弱いなと思っています。それをやりたくなるような制度がたくさん必要かなと思っています。   後半の方は,今回は監護者の性虐待を取り出すことになると思うんですね。ここは,既存の児童福祉のスキームとどう接合するかというのは,多分刑事政策的な課題だと思うのですが,もう一つ,そういう家族は大半,離婚というフェーズに入っていく可能性が高いので,そこのサポートという意味での家族福祉的なテーマがあるかなと思っていますが,性虐待だけが発生するわけではないので,当然前後には普通の暴力が発生しているはずなので,そこをセットにしていかなければならないと思います。ここだけ切り離すことになりますので,そのやりにくさ,難しさが発生すると思います。 ○今井委員 貴重なお話をありがとうございました。   1点だけ教えてください。最後に英国の動向についてお話がありまして,「Circles UK」という御紹介があったのですが,ここでは社会的な再統合を目指しておられるということでした。そこでは,被害者側の関与というものはどうなっているのか。つまり,広い意味での修復的司法ということと関連すると思いますが,御説明の中では,加害者の立ち直りの支援であって,被害者を含めたコミュニティでの包摂の仕方についてはよく分からなかったので,御存じであれば教えてください。 ○中村氏 バーミンガムのローカル支部にしかまだ行っていないのですけれども,そこでは被害者への手紙というのを想定して,直接渡すわけではなくて,ロールレタリングの手法を使ったりして,先ほど言った共感とか対人関係のところはレディネスを高めることをしておかないとほかの立ち直りに影響,そこだけ切り離すわけにはいかないので,そういうことをやっていました。最終的には,そこまでダイアローグしているところまでは私は確認していないのですが,そういう内部的な努力をしているということですね。 ○小木曽委員 かつて,ナッシングワークスと言われて,何をやっても効果がないと。ただ,少年の事案などでは,サムシングワークス,一定のプログラムを受けると再犯率が下がって効果があると言われるようになったことは承知しておりますけれども,先ほどのお話で受講1年未満ということでしたけれども,どのくらいの集中度といいますか,インテンシブに,このくらいの期間にこのくらいの処遇をするとどのくらいの成果というか効果が上がるとか,こういうプログラムをするとこういう行動変容があるのだといったようなポジティブな結果が,性犯罪についてはある程度示されているのでしょうか。 ○中村氏 それは多分法務省でも再犯の調査のプロセスでいろいろヒアリングをしていると思いますが,そこまで詳細は知りませんけれども,イギリスなんかでも「Circles UK」ができたし,カナダでも「CoSA」か何か類似のものがあるんですけれども,それができていくプロセスを見ると,やはり社会内処遇との関連が,接続が不可欠だろうということになっているはずなんですね。何をもって効果があるとするのかの定義によります。   刑務所プログラムの効果は既に検証され,公表されていると思います。これは法定刑の下限を5年に上げますので,5年以上の刑の中で大体7,8年の方々が高密度になっていくんです。高密度になっていけばいくほど,先ほど若干申したのですが,刑務所の中でどうそれが汎化されているかというのは,何を随伴している人たちなのかというアセスメントが要るんですね。受刑生活の中でも一般的に暴力的なのか,あるいは受刑生活の中でリストカットなどがあって,嗜虐的なんだろうかとか,幾つか今述べてきたことを付加するプログラムが今は十分にできていないんですね。さらに,第5科,共感のところまでは,低密度の人はやらなくていいことになっているんですよね。高密度の人はもう少しやった方がいいと思うので,受刑生活が長ければ長いほど,プログラムそれ自身の改変と点検ですよね。受刑生活の中でそれが活きているかどうかということについては,体制を作った方がいいなと思っています。それが出るところでつながっていく。出口につながっていく,そういうプロセスかなと思うんですね。だから,私もまだ再犯の調査の詳細を知りませんので,一般的な率は出ていますけれども,その内実はもっと欲しいなと思っているところです。 ○角田委員 父親から性虐待を受けた子供にとって,父を含む家族,大抵はある段階で,発覚してからというかかなり時間が経ってからお母さんが離婚するという形で家族としてはもう崩れていると思うのですけれども,そういう経過をとったときに,父を含む家族の再統合というのは被害を受けた子供にとっては,どういう意味というかメリットがあるということになるんでしょうか。 ○中村氏 それはないと思います。少ないと思います。今の児童虐待防止法に家族再統合という言葉が出てくるんです。私は,これは違うと思っています。あるいは誤解を与えるかなと思っていますので別の言葉に言いかえて,父へのパニッシュメントとその父がまた再婚したりすることがありますので,彼の行動修正をどう図るかということに焦点を当てるべきだと思っていますので,それにふさわしい言葉があり得るかなと思っています。 ○山口部会長 それでは,これで終了とさせていただきたいと思います。   ただ今の御発言の中で,プライバシー等の関係で議事録上記載せず非公表とすべきだという部分はございましたでしょうか。 ○中村氏 事件の内容だけちょっと削ってほしいところがあるんですけれども。 ○山口部会長 分かりました。   それでは,その議事録の扱いにつきましては,後ほど検討させていただきたいと思います。   中村様,どうもありがとうございました。 (中村氏退室) ○山口部会長 それでは,ただ今のヒアリングを踏まえまして,意見交換を行いたいと思います。どの点からでも結構でございますので,ただいまのヒアリングで述べられた御意見等を踏まえて,御意見のある方はお願いいたします。 ○橋爪幹事 ただ今のヒアリングを伺いまして,男性が性交を強いられるという事件が,表面化はしていないものの一定数起きていること,そして,その場合に男性の受ける精神的な被害も極めて深刻であるということを理解いたしました。このような認識を前提といたしますと,やはり,男性が性交を強いられる事例につきましても通常の強姦罪と同一の法定刑で処罰をする必要が高いように考える次第でございます。また,これを強姦罪の行為類型として規定することは,男性に対する性被害を厳しく処罰すべきであることを示すという点におきましても,言わば刑罰法規の宣言的な機能という観点からも重要な意義があるように考えます。 ○小木曽委員 今回のここでの議論は,刑罰法規をどうするかという話だったわけですけれども,最後のヒアリングでも明らかになりましたように,その後をどうするかということについて是非,これは法務省にお願いするということだろうと思いますけれども,継続的な調査なり研究なりをお願いしたいと思います。 ○角田委員 男性が被害者になる事件というのは,やはりこの日本の社会では無視されていたか,不当に軽く扱われていたと思うんですね。ですから,強制わいせつでいいんだとずっと扱われてきたわけなんですけれども,今回,要綱(骨子)第一で新しい類型としてそれも入れるということで,したがって法定刑も当然5年に下限を上げるということはやはり正しいことだったんだなと私は思っています。   今まで,私はどうして男の人が怒らないのかといつも不思議に思っていたんですけれども,男性の性的自由が非常に深刻に侵害されているにもかかわらず,何かそれはひどいではないかと男性自身が言わなかったし,男性にとって被害を受けることが何となく,それこそ変な言葉ですけども,女々しいというような形で,恥ずかしいことだと男性自身も誤解していたのではないかと思いますので,私は今度の改正というのは,法定刑を上げるところだけを見れば,「急に何で強制わいせつが5年か」と思われるかもしれませんけれども,今までがいかに実態を無視した不当な扱いだったかということを今日のヒアリングで,私は実感いたしました。 ○小西委員 私は実際に男性のケースも事実持ったこともございますし,男性の性的虐待の被害者が後に重大な犯罪を起こしているようなケースも見たことがあります。本当に,先ほどおっしゃったとおりですけれども,まず,発見しない限り出てこない状況にあると思うので,そういう点ではちょっと遅きに失したかもしれませんけれども,男女ともに被害の深刻さを知るというところから始めるというのは必要だと思います。   もう一つは,難しいとは思いますけれども,実際に被害を受けた人たちの話を聞くと,監護権者以外の人からの被害にも子供は非常にぜい弱だとおっしゃっていましたけれども,本当にぜい弱です。普通に大人がノーと言えるだろうと思うようなところでも全く言えない。それは被害を受けるパワーの弱い人はみんなそうなんですけれども,今日はそういうこともお話しいただいたと思うので,是非課題として考えていただければなと思います。 ○井田委員 今の小西委員の御発言につなげる形で一言申し上げたいと思います。今日のヒアリングでいろいろなことをお聞きし,いろいろなことを考えさせられました。とりわけ冒頭の山本様のお話で,父娘関係が核心になるとお聴きしたのですが,たとえ13歳になっていたとしても,やはりおよそ抵抗できない,言い換えれば,自由な意思決定ということがおよそ問題にならない状況に置かれることがあり,それによって生じた関係によって持続的な大きな精神的被害を受けることがあることが分かりました。それは刑法第177条の強姦罪の予定している被害に匹敵する被害,法的には同等と評価できる被害の実態があるということにほかなりません。およそ自由な意思決定が考えられないところにおいて性的行為が行われ,それにより大変な被害が生じているという点では,現在の第177条の予定しているものに法的には完全に匹敵する実態があるというのであれば,要綱(骨子)第三の罪を設けることには非常に合理性があるということになるのだと思います。 ○橋爪幹事 もう1点よろしいでしょうか。今,御議論がございました要綱(骨子)第三の罪についても,一点申し上げます。本日お話を伺っておりまして,例えば,教師であるとか,おじ,祖父母あるいは兄弟という関係にある者につきましても影響力を利用して性行為に至る場合が十分あるということは理解いたしました。これは,要綱(骨子)第三の罪では,主体には含まれておりません。   これをどうするかという問題は,極めて困難で深刻な問題であると思いますし,確かに,事案によっては,厳しく処罰をする必要がある場合もあるとは思うのですが,ただ,個人的な感想めいたことを申し上げますと,第三の罪の規定形式との関係では難しい問題があるような印象を持つ次第でございます。すなわち,要綱(骨子)第三の罪は,この点については議論があるかもしれませんが,監護者という身分,地位にある者については,言わば類型的に18歳未満の者に対して影響力が強いという評価を前提とした上で,個別の関係性や言動等がどのような影響を持ったかを具体的に認定することなく,言わば監護者としての地位と牽連性,関連性を持って性交等が行われた場合を処罰する趣旨の規定であると理解しております。   しかし,この罪の主体を,例えば教師,祖父母などを含める方向で,大幅に拡張した場合,類型的に影響力が強いという関係性までを認めることはできませんので,恐らく被害者の意思決定に瑕疵が生じているか否かを個別具体的に認定し,かつその点に関する故意を要求するという規定ぶりにならざるを得ないように思います。もっとも,このように具体的な影響力の内容やその点に関する故意について立証を要求した場合,これらの点の証明が困難であり,第三の罪では処罰できない場合が増えてくることを甘受せざるを得ないでしょう。すなわち,主体を拡張しますとその代わり本来絶対処罰しなければいけない核心部分についても,立証が困難になってしまい処罰ができないという処罰の間隙が生じるおそれがあることは,否定しがたいように思います。主体をいかに限定するかは困難な問題ではありますが,このような観点から,更に慎重な検討が必要であるように考えております。 ○武内幹事 ただ今橋爪幹事の方からお話しいただいたことと全く同じ方向の意見になります。この要綱(骨子)第三の罪の構成要件を考えるに当たって,当初,私は被害者の意思決定に関して構成要件の中に組み込む必要はないのかという考えも持っておりました。けれど,主体を限定する,つまり類型的に影響力の強い関係に限定することによって,被害者の意思決定の瑕疵を個別に問わないということは重要だと考えるようになりました。特に今日のヒアリングを通じて,非対称的な関係下における迎合的な行動といったものについても十分詳しく伺うことができましたので,現在の要綱(骨子)の立て付けは,やはり非常に合理的でかつ説得力があるものだなという思いを強くいたしました。 ○齋藤幹事 今のお話とは少しずれるのですけれども,今日のお話を聴いて,改めて,被害からの回復には自分の受けた被害をちゃんと認識し,そしてそこから回復について考えていくということが必要なのではないかと考えました。そうしますと,浅野先生から教育について御発言がございましたが,性犯罪の定義が変わることによって正しい性教育というか,性の同意というのはどういうことなのかとか,人の安全を害するというのはどういうことで自分が害されるというのはどういうことなのかということについての認識を広めるきっかけになるのではと思います。もう一つ,最初の御発言の中に,非親告罪とする場合に,いろいろな担保条件を必須条件として織り込んでほしいという御意見もありましたが,これについては今回話し合うということはなかなか難しいことだと認識しておりますけれども,非親告罪とした場合には,手続が進んでいく中で被害者が傷つくことのない環境を整えていただきたいと思っております。 ○池田幹事 今の点に関連して申し上げますと,男児の被害や,あるいは要綱(骨子)第三の類型の監護者による行為の被害というのが,被害者において被害を認識するのがなかなか困難であるという御指摘も本日あったように思います。そういう状況で,これらの罪も含めて非親告罪化されますと,他者からの介入ということの契機がこれまであまりなかったところに生じてくることになります。このようなことも考えますと,今,齋藤幹事からも御指摘があったことに関連いたしますが,被害者の意思に沿った形で適正な処罰を確保するためには,今後も被害の状況についての実相の把握に努めることが必要だろうと考えた次第です。 ○宮田委員 ちょっと異なった視点の印象を持ちました。二つですけれども,まず最初に御発言になった山本様の御発言ですけれども,177条を御覧になって絶望的な気分になったということをおっしゃいました。178条の問題についての言及はされなかったわけですが,例えば,先ほど出てきた教師のような事例,親子の場合について,新しく要綱(骨子)第三の類型を考えたその立法事由として法務省が挙げておられたのが,抵抗ができない,抗拒不能の状態について長い間そういう関係を持たされていたとか,そのようなことから抗拒できない状況にあるというようなことをおっしゃっておられたわけですが,比較的短い期間の中での関係について,もっと今の刑法の中でも柔軟な解決ができる部分があるのではないかという印象を持ったのです。   最も大切なのは,子供が受けている,10代の未成年も含めてですが,そのような被害をいかに早く見つけ出すのか,いかに親子の分離,被害を受けている状態からの回復を行うのかということなしに,次のステップには進めないのではないのかなということを感じた次第です。今,被害者の意思を尊重しながらというお話はありましたが,子供の性的被害に関しては,逆に子供が被害を被害と感じていないだけに,その被害が長期化してしまう危険が大きいように感じるのです。そうであるとすれば,早くそのような被害を我々がキャッチできるようなシステムを何らか考えなければならないのではないかなという印象を強く持った次第です。   もちろん,これは本法の改正とは直接関係あるところではありませんが,このような問題の解決のためには,そのような虐待する親の親権を停止したりあるいはその親子の分離を図ったりということが効率的かつ的確に早期にできるようなシステムが不可欠ではないのか。その中でそういうこともきちんと図られる状態なしに処罰の問題に持って行くということはなかなか問題があるというか,本来解決すべき問題が後回しになってしまうような印象を受けた次第でございます。若干,要綱(骨子)の話とは離れてしまいますけれども,付随した対策として必要なのはそういう点もあるのではないかということでございます。 ○今井委員 今の宮田委員の御意見は,誠にもっともだと私も思いました。今日のお話を聞いていましても,私たちはここで刑罰規定の改正ということを考えているわけですが,今日のヒアリングを通じて,性犯罪的行動の背景に,大変根深い家庭的あるいは社会的なミスジャッジメントもあるということが再認識されたわけです。そういう社会的な介入と言うのでしょうか,家族の立て直しあるいは分離を図ることが一方でありつつ,適切な刑罰の執行を通じて被害に遭った方の尊厳感を回復したり,性的自由が傷つけられたという被害者性を認識していただくということも,他方において重要なことだと思います。   先ほど,橋爪幹事からも要綱(骨子)第三の類型について意見が出されましたが,今いろいろな幅広い性被害があることを踏まえて要綱(骨子)第三のようなものを作ろうとしているのは,そういう形が明確に処罰でき,すべき分野であるという合意がとれつつあるからだと思うのです。つまり,宮田委員の御指摘のことと私たちが今考えていることは両立するものであって,決して委員のお考えにも反しないものではないかなと私は感じたところでございます。 ○井田委員 一つだけ補足したいと思うのですけれども,最初の山本様のお話の中に2回ほど出てきた点です。現在,性犯罪が親告罪になっているということが,被害者の方々の意識においては,国が自己の責任で訴追処罰するという体制になっていないと理解されており,そのことが被害者側の負担になっているという実態があることです。そのことが,私にはよく分かりました。非親告罪化が被害者の心理的負担を除くという意味を持ち得るとすれば,それは良い方向への変化を生じさせるものであろうと感じた次第です。 ○北川委員 二点申し上げます。非親告罪化することについて,今,井田委員の方からもありましたように,やはり被害者を一人にせず,国家の責任で訴追をして,許せない行為については明確な態度を示してほしいという気持ち,それが家族から被害に遭われた方でもそうだという気持ちがよく分かりました。もっとも,ただし担保条件付きでと,齋藤幹事も先ほど指摘されていましたけれども,担保条件を付けて非親告罪化してほしいという意見であるところが非常に心に残りました。既にこの会でも指摘されているところではありますけれども,被害者の心情を十分よく酌み取って訴追のときにいろいろ考えてほしいということと,あと,後々のケアについても,多機関の連携で支援をこれからも十分強化していって取り組むという担保付きでということ,ここが非常に重要だと思いました。   それからもう一つ,第三の類型の要綱(骨子)の罪について,「現に監護する者であること」というところが狭すぎるのではないかという意見が被害者の方からはあったということなんですけれども,非常に悩ましく,特に感じましたのは,お兄さんから被害を受けているという方の話です。やはり家族の中でそういうことをされると抵抗ができない,表立ってという非常に深刻な意見が述べられました。あとは親族,おじいさん,おじさんであるとかそうした方々からも同じような状況になるという非常に深刻な意見であると受け止めました。   ただ,一方において,親族関係であるとか兄弟関係は,親子関係以上に多様であるといいますか,家族関係の中でも非常に一律に断じ得ない難しい点があると思います。基本的に同居関係がありかつ監護されるという,被害者が保護監督されているという状況に乗じて暴行脅迫が行われずにされる性被害の中で重要なものを類型化して取り上げるということの困難さということについて非常に悩ましいものがあるかと思いましたけれども,明確な類型化という点では,要綱(骨子)のような形がまずは基本になるのではないかということを考えた次第です。ただし,非親告罪化に伴う効果も踏まえた後,今後必要があれば見直しを議論すべきではないかと思います。 ○山口部会長 ありがとうございました。ほかにないようでございますので,本日の審議はこれで終了としたいと思います。   次回以降の進行について申し上げます。前回の部会までに,要綱(骨子)の各項目につきまして,2巡目の検討が終わったところでございますが,前回の部会の御議論の中で,事務当局において更に検討していただく必要があるとされておりました,要綱(骨子)第四の時的な適用範囲の問題や,要綱(骨子)第三の文言などにつきまして,事務当局の検討結果を御報告いただき,それを踏まえた審議を行いたいと思います。   次回会議の場所等の予定につきまして,事務当局から御説明をお願いいたします。 ○隄幹事 次回は,6月16日木曜日,午前9時15分からです。場所については,追ってお知らせいたします。 ○山口部会長 それでは,次回第7回会議は,6月16日木曜日,午前9時15分から行います。   なお,本日の会議の議事につきましては,ヒアリングの際,浅野様及び中村様の御発言の中で,個別の事件関係者のプライバシー等に関わる事項について,非公表としてもらいたい部分があるというお申出がございました。その部分につきましては,議事録には記載せず非公表とする扱いとし,それ以外につきましては,いつもどおり,発言者名を明らかにした議事録を公表することとさせていただきたいと思いますが,そのような取扱いとすることでよろしゅうございましょうか。 (一同異議なし) ○山口部会長 それでは,そのようにさせていただきます。   では,これをもちまして終了いたします。本日は,どうもありがとうございました。 -了-