法制審議会 民法(相続関係)部会 第11回会議 議事録 第1 日 時  平成28年4月12日(火)自 午後1時30分                      至 午後5時51分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  民法(相続関係)の改正について 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○大村部会長 それでは,定刻になりましたので,法制審議会民法(相続関係)部会第11回会議を開催いたします。   新年度になりましたのでので,まず,新しい幹事の方あるいは関係官の方々の御紹介させていただきたいと思います。   山本幹事から自己紹介をお願いいたします。 ○山本幹事 このたび,幹事を仰せつかりました最高裁民事局第二課長の山本でございます。どうぞよろしくお願いいたします。 ○大村部会長 ありがとうございます。どうぞよろしくお願いいたします。   それでは,関係官の方に移りますが,下山関係官。 ○下山関係官 関係官の下山でございます。昨年9月から半年間,在外研究に出ておりましたが,先月末に帰国いたしまして,今回からまた参加させていただくことになりました。よろしくお願いいたします。 ○大村部会長 ありがとうございます。   満田関係官。 ○満田関係官 合田関係官の代わりに異動になりました満田と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 ○大村部会長 ありがとうございます。   そして,羽生関係官。 ○羽生関係官 このたび,調査員を仰せつかりました上智大学の羽生でございます。どうぞよろしくお願いいたします。 ○大村部会長 よろしくお願いいたします。   もう一人,神吉関係官がいらっしゃいますが,次の機会に自己紹介をお願いしたいと思っております。   それでは,本日の議事に入りますが,本日から中間試案の取りまとめに向けた議論に入らせていただくことになります。それに先立ち,部会資料の説明をさせていただきます。よろしくお願いいたします。 ○大塚関係官 机上に配布させていただきました資料について御説明申し上げます。1枚物が三つございます。1枚目が議事次第,2枚目が配布資料目録,3枚目が今回,新たにお配りするもので,「自筆証書遺言の方式(全文自書)の緩和方策として考えられる例」というものです。これにつきましては第3の「遺言制度の見直し」のときに詳しく御説明申し上げます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   部会資料11「中間試案の取りまとめに向けた議論のための叩き台」,この資料に基づきまして本日は御審議を賜りたいと存じます。この中を御覧いただきますと,第1の「配偶者の居住権を保護するための方策」から始まりまして,「第5 相続人以外の者の貢献を考慮するための方策」まで,それに最後に「その余の検討課題について」が加わって,都合6項目に分かれております。全体で30ページほどございます。本日はこれの全体について御意見を頂戴するということを考えております。   これまで各方策の内容について様々な御意見を頂戴してまいりました。本日からの中間試案の取りまとめに向けた議論におきましては,中間試案として何を掲げることが妥当であるか,中間試案についてはパブリックコメントをお願いすることになりますけれども,パブリックコメントで意見を聴取すべき項目として,どのようなものを掲げることが適当であるかという観点から御意見を頂戴できればと存じます。実質についての議論まだ多々あろうかと思いますけれども,それはまた次の段階でお伺いするということにいたしまして,このような観点で御議論いただければと存じます。   先ほど申し上げましたように,第1から第5,これに「その余の検討課題について」を加えますと6項目がございますが,項目ごとに御意見を伺ってまいりたいと思います。第3の「遺言制度の見直し」という項目の途中ぐらいで,休憩を挟ませていただきたいと考えております。   それでは,早速,第1の第1の「配偶者の居住権を保護するための方策」というところから始めたいと思います。この点につきまして事務当局より御説明を頂きます。 ○大塚関係官 では,「第1 配偶者の居住権を保護するための方策」につきまして,変更点を中心に簡潔に御説明申し上げます。内容といたしましては,1が短期居住権,2が長期居住権でございます。1の短期居住権につきましては,従前,お示しておりました案からの実質的な変更はございませんので,内容の説明は割愛させていただきます。   2ページにお進みいただきまして,長期居住権についてでございますが,こちらについては変更点が2点ほどございます。一つは2ページ目にお戻りいただきまして②でございますが,こちらでは長期居住権をどのような場合に取得することができるかというのを明記したというところが変更でございます。具体的には,アは相続人間で合意が成立した場合,イは裁判所が配偶者の長期居住権を取得させるのを相当と認めた場合,ウは被相続人の遺言がある場合,エは被相続人と配偶者との間に死因贈与契約がある場合ということになっております。   もう一つの変更点は次ページの⑨以下の記載ということになります。こちらは配偶者が長期居住権を取得した後に,例えば介護施設への入所を余儀なくされるなど,当該建物を使用することができなくなったことについてやむを得ない事由がある場合には,配偶者が建物所有者に対して残りの期間の長期居住権の買取りを求めることができるとしたものでございます。これを新たに加えております。   続けて⑩でございますが,こちらでは買取りについて当事者間で協議がまとまらなかった場合にも,裁判所で適宜の買取り金額を定めて買取りを認めることができるとしてございます。   次に⑪では,長期居住権の残存期間が例えば余りに長いといった場合におきましては,その分,買取金額も通常は高くなるということが想定され,建物所有者の負担となることも考えられますことから,そういった場合に裁判所が買取金額を定めるという場合には,買取り金額に反映させるのは一定の期間,例えば5年間に限定するというものを提案してございます。このような限定を設けること自体,あるいは5年という期間の相当性につきましても御意見を伺えればと存じます。   次に⑫におきましては,長期居住権の買取りに際して建物所有者からの分割払などを可能とするものでございます。   次に⑬におきましては,裁判所が買取り金額等を定めるに当たり,こちらに記載されておりますような建物の状況などの一切の事情を考慮するものということを定めたものでございます。   続きまして,資料4ページの下の方にあります2の「(1)法的性質」についてでございます。こちらについては,従前は長期居住権を用益物権という位置付けをしておったところでございましたが,これに対しましては,例えば不動産の流通を阻害するおそれがあるといった御指摘などを頂いたということがございましたので,それを踏まえまして今回は長期居住権を賃借権類似の法定の債権と位置付けることを御提案申し上げております。   5ページにお進みいただきまして,(2)の「長期居住権の財産評価」について最後に申し添えます。財産評価に当たりましては,相続税制との整合性も考慮する必要があると考えられます。そのような財産評価を長期居住権についてするに際しましては,例えば相続税の課税実務を参考にして,長期居住権自体の評価額はゼロとした上で,当該建物の適正賃料額から評価額を算定することも考えられるのではないかと,そういった旨を記載しておるところでございます。   御説明は以上です。 ○大村部会長 ありがとうございます。   資料の訂正がございましたが,その上で,第1点につきましては短期居住権保護と長期居住権保護の二つに分かれていますが,前者,すなわち短期の保護方策についてはこれまでの議論をまとめたもので,特に変更はないという御説明でした。後者につきましては,具体的な提案部分について二つ大きな変更があるという御説明があったかと思います。2の②で次に掲げる場合という形で,長期居住権を取得することができる場合を具体的に列挙しているということと,⑨以下で買取りについてのかなり詳しい規定を置いているということかと思います。その他,4ページ以降の法的性質に関する取扱い,あるいは財産評価についての考え方などについても説明を頂いたと理解しております。以上につきまして,皆様の方から御意見を賜れればと思います。   先ほど中間試案として何を提案するのかという点に重点を置いていただきたいとお願いいたしましたけれども,当然ながら,その際に内容に関わる問題も出てまいりますので,今のような観点から,もちろん,内容について触れていただくということもあるべしということで,御意見を頂戴できれば幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。 ○窪田委員 それでは1点,内容に係る実質的な話ではないと思いますが,一つ質問させてください。   2ページ目の配偶者の長期居住権に関して②のアの部分なのですが,私自身意味がよく理解できないところがあります。「遺産分割(遺産分割の審判を含む。)において,配偶者に長期居住権を取得させることについて,配偶者と①の建物を取得する相続人との間で合意が成立した場合」となっているのですが,読んでよく分からないのは,これは遺産分割において,そういうふうな合意が成立したのか,遺産分割に際して,遺産分割自体とは別のものとして配偶者と建物を取得する相続人との間で合意があるのかという点が,これだけを読むとよく分からないなという気がします。本来,遺産分割それ自体は相続人全員の合意によるものですから,そうであるならば,遺産分割の合意で説明することもできるではないかという気もします。ただ,一方で審判を含むとなっていますから,審判の場合には合意というプロセスは入ってこないのだろうと思うのですが,そこの部分がこれだけを読むとよく分からないものですから,この点について御説明いただけたらと思います。 ○堂薗幹事 この点は,遺産分割の中で合意をするということで,遺産分割に際してというわけではないという理解でございます。基本的に,遺産分割協議の成立には相続人全員の同意が必要になりますので,その中に配偶者と建物所有者の合意も含まれてくるんだと思いますけれども,全体について相続人間で協議が成立しない場合であっても,建物を所有することになる人と配偶者との間で長期居住権を設定することについて合意が得られているという場合はあるのではないかと思いますので,そういった場合には,イのような加重した要件によらずに,裁判所としても長期居住権を遺産分割審判の中で認めていいのではないかという観点から,こういった記載にしているということでございます。 ○窪田委員 余り頑張るような話ではないのだろうと思いますが,①の建物を取得する相続人という部分は,多分,遺産分割から出てこざるを得ないですよね。ですから,遺産分割の合意は成立していないのだけれど,こういう合意はできるという場面というのはよく分からないような気がします。 ○堂薗幹事 裁判所が遺産分割の審判をするに当たり,長期居住権が設定された建物の所有権を取得してもいいという相続人がいる場合に,裁判所がその相続人に建物の所有権を取得させる形で遺産分割の審判をするのであれば,生活の維持を図るために必要があるという要件を満たしていなくてもよいのではないかという考え方に基づくものでございます。 ○窪田委員 まだ十分に理解できていないような気がするのですが,以上で結構です。 ○大村部会長 今の点でほかに何か御意見はございますか。 ○石栗委員 そうすると,実際に不動産を誰が取得するかが分からない段階で,仮定的な合意があったら,その合意の時点で長期居住権が成立するんですか。それとも,その後の遺産分割が成立したときに長期居住権が成立するということですか。 ○堂薗幹事 建物を取得することになる人と配偶者がどちらも,自分は長期居住権付の所有権を取得してもいいし,配偶者も長期居住権の取得を希望するというような場合には,緩やかな要件の下での取得を認めるということですが,飽くまでも相続人の一人が建物の所有権を取得し,あるいは配偶者が長期居住権を取得することになるのは,審判の確定によってということになります。 ○石栗委員 アは審判の場合を想定しているんですね,調停が成立する場合ではなくて。 ○堂薗幹事 調停や協議の場合も念頭に置いております。調停や協議の場合は,相続人全員の合意が成立しているわけですので,当然この要件も満たすことになるわけですが,遺産分割審判のうち,このアの要件を満たしているものについては,イの要件を満たしていなくても遺産分割の審判で長期居住権の取得を認めてもいいのではないかという,そういう趣旨でございます。 ○垣内幹事 今の御説明は理解したように思うんですけれども,整理の仕方として,そうだといたしますとアの内容のうち,配偶者と①の建物を取得する相続人との間で合意が成立した場合というのは,専ら裁判所が分割審判の中で合意があるので,居住権を認める場合だということかと思いますので,そうしますと,この部分はアに規定するよりも,イの一つとして,取得する相続人と合意がある場合,それから,必要性が高い場合ということで,裁判所が審判で長期居住権を認めることができるという整理もあり得るかなという感じがいたしました。 ○大村部会長 実質は,今,皆さんから御意見を出していただいて,明らかになってきたと思いますけれども,あとは整理の仕方を更に考えていただくということで,窪田さん,よろしいですね。   それでは,その件につきましては今のように整理していただくことにいたしまして,浅田委員,どうぞ。 ○浅田委員 意見が一つと照会が1点です。   意見は長期居住権の法的性質について,部会資料で5ページの上段で,その性質についてどのように考えるかという御照会がありますので,私どもの意見を述べさせていただきたいと思います。この点につきましては従前から私どもが申し上げておりますように,抵当権者の立場からすると対抗力の面で抵当権者が先行優先していた場合において,その地位の法的安定性を維持するという観点から,この案のとおり,用益物権ではなくて債権的な位置付けとするという案,すなわち,登記を対抗要件とするという案に賛成です。   それから,御質問でありますけれども,第6回の部会でもお伺いしたところで,細かい話ですが,配偶者が死亡したときの居住権の消滅の場合の登記上の取扱いについて,所有者の単独申請で足りるのか,それとも,相続人等の共同申請まで必要なのかどうかということについては,実務上,重要な点でもありますものですから,この場でお教えいただくか,それか,補足説明の段において何らかの方向性を示していただければと思います。 ○大村部会長 第1点は御意見として承るということで,第2点につきまして事務当局から。 ○堂薗幹事 第2点につきましては,まだ,現段階で具体的な考え方をお示しすることはできないのですが,3ページの(注3)のところで,長期居住権に関する登記手続をどのように定めるかについては,なお検討するという記載をしており,ここで今後の検討課題であることを明らかにする趣旨でございます。したがいまして,そもそも,対抗要件具備のための登記手続において単独申請を認めるかどうかということと併せて,消滅の場合,特に死亡した場合には客観的に消滅事由が明らかになっていますので,単独申請を認めることができるかどうか引き続き検討していきたいと考えております。 ○大村部会長 よろしいでしょうか。   では,そのほか,いかがでございましょうか。 ○増田委員 若干,気付いた点を申し上げますので,本文もしくは補足説明で御検討いただきたいと思います。   まず,1(1)の③ですけれども,善管注意義務となっておりますが,1(1)の場合は共有者の一人が共有物を占有している場合なので,ここでは一般的に善管注意義務まで要らないのではないかと思いますので少し御検討をお願いします。   それから,⑦ですが,ここは原状回復義務のところが前回の資料までと表現が変わっていまして,恐らく民法改正案599条3項ないし621条の表現に変えられたのだと思いますが,599条1,2項に当たる附属物の収去義務が消えています。これについては賃貸借にも622条で準用されていますので消す理由はないと思いますので,ここは元に戻された方がいいのではないかと思います。   それから,必要費について誰が負担するかという点は明記されていませんが,1の短期居住権の方については恐らく居住者の負担であるということで,従来からそういう議論だったかと思いますが,これも法定債権ということですので,債権債務の内容は契約規範が働かない以上は,法で定める必要があるかと思いますので,明記していただいた方がよいのかなと思います。   それから,2の長期居住権の方です。   長期居住権の2の②のイですけれども,要件と言われていますが,配偶者の生活の維持を図るために配偶者に長期居住権を取得させる必要性が高い場合においてというのが,要件としての絞込み機能があるのかどうかというはかなり疑問ですので,ここは何か工夫いただくか,例えばやむを得ない場合とか,持分を取得することが相当でない場合とか,そういう形の何か絞込み文言を入れていただくか,あるいは要件については引き続き検討するとか,そういう聴き方にするかというのがいいかと思います。   それから,⑤で承諾を得た譲渡は認められるわけですが,その場合も恐らく⑦で死亡した場合には,要するに前権利者が死亡した場合には消滅するという話だったと思いますので,これは補足説明でもいいので補充していただいた方がいいと思います。   それから,買取請求権なんですが,私はこの手続とか,法的な権利がどう動くのかというのが直ちには分からなかったのですが,普通は建物買取請求権とか,株式買取請求権などでは,買取りの意思表示をした段階で売買契約が成立する形成権という構成を採って,株式などではその対価について裁判所が判断するという仕組みになっています。ここでは裁判所が対価だけではなくて,先ほどの御説明だと認めるかどうかも裁判所が判断するということだったと思いますので,少し,それはほかの類似の買取請求権とは性質が違うのではないかと思います。したがって,私はこれを認めるのであれば,ほかのと合わせた方がよいのではないかと思いますし,この点手続も含めて御検討いただければと思います。   それとともに⑬のような考慮要素というのは,この種の権利の中では見たことがないもので,当事者の年齢,職業とか,心身の状態とか,そういう要素が権利の実価を算定する基準として,妥当なのかどうかというのをお考えいただきたいと思います。私は,そもそも,この買取請求権までは必要ないとは思っていますが,とりあえず聴いてみるとしても,抽象的に(注)で買取請求権を設けるという考えがあるが,どうかというような聴き方というのも考えられるのかなと思っています。 ○大村部会長 ありがとうございます。   短期の方について3点,それから,長期の方についていくつか御指摘をいただきましたが,特に,最後の買取請求権を一まとめにするという点につき,御指摘・御意見を頂いたと思います。特に買取請求権については今回,こういう形でまとまった規定を置いて,増田委員がおっしゃったように皆さんの意見を伺ってみようということを御提案いただいているかと思います。これは,これまでの審議で買取請求権を認めるべきではないかという御意見があったのを受けて,このような形になっているかと思います。増田委員からはこの点について必ずしも賛成ではないという御意見をいただき,また,聴くとしてももう少しシンプルに聴いてもいいのではないかという御指摘もいただきました。事務当局から今の御質問についてお答えを頂きますけれども,その後で,他の方々から買取請求権をどうするかということにつきましても,御感触を伺えればと思います。 ○堂薗幹事 それでは,お答えいたしますが,まず,短期居住権の善管注意義務ですが,共有者間で共有者が目的物の全部を使う場合に,善管注意義務なのか,通常の自己の財産と同様の義務なのかというのは,必ずしもはっきりしないところがあるのですが,ただ,少なくとも短期居住権の場合は共有物の使用の場合とは異なりまして,使用の対価を共有持分者に払わなくていいと,要するに共有物の全部を使用する場合には,通常は持分権者にその分の使用の対価を支払うという前提だと思いますけれども,ここでは無償で使えるという前提ですから,そういった意味では,使用貸借と同じように善管注意義務を課すことにも合理性があるのではないかというのがこちらの整理でございます。   それから,2点目の原状回復義務につきましては御指摘のとおりでございまして,今回の案は債権法改正で条文になっているものを参考にしたものですが,使用貸借の規定の準用部分が抜けておりますので,ここについては,従前のような形で,ざっくりと原状回復義務を負うというような形に戻したいと考えております。   3点目の必要費につきましては,従前どおり,こちらとしては短期居住権の方は使用貸借並びで考えておりまして,通常の必要費は配偶者の負担ですが,臨時の必要費については相続人が負担するということを考えております。長期の方は,前回は用益物権であることを前提として,地上権と同じような規律にしており,必要費についても配偶者が負担するということで考えておりましたが,今回,法的性質のところは若干変えておりますけれども,長期居住権の方も必要費を建物所有者が負担しなければならないということになりますと負担が重くなりますので,その点は従前どおりでいいのではないかと考えているところでございます。その点についても中間試案の中で取り上げた方がいいということであれば,そういった方向で考えたいと思います。   それから,次に長期居住権の方でございますが,まず,②の要件のところですけれども,②のイは,基本的には遺産分割でどう財産を分けるかというところの判断基準を示したもので,通常の遺産分割の判断基準に加えて,長期居住権の場合には更にこのようなことも考慮してくださいという趣旨のものです。現在の案は,若干抽象的な表現になっておりますが,この辺りの要件をどのように定めるかというのは今後の検討課題だと思いますので,その旨を(注)で示すなど,何らかの工夫をしたいと思います。   それから,⑤のところは補足説明の中で説明をしたいと考えております。   買取請求権の話ですけれども,御指摘のとおり,通常の建物買取請求権ですとか,株式買取請求権の場合は形成権の行使時に権利が移転するということだと思いますが,ここでは少なくとも買取価格の判断基準時については裁判時にすべきではないかというのがこちらの考えでございます。といいますのは,御指摘の建物買取請求権などは要件がかなり明確になっているわけですが,この場合は使用できなくなったことについてやむを得ない場合ということで,かなり抽象的な要件であり,実際に買取りが認められるかどうかというところは,裁判所の判断を待たないと建物所有者としても分からないというところがあると思います。長期居住権の買取価格については,基本的には残存期間の賃料相当額が基準になってくると思いますので,買取請求権の行使時でその価格を決めてしまいますと,裁判確定時までの間のリスクを建物所有者の方で負担しなければいけなくなります。   要するに建物所有者としては要件を満たしていないと考える場合は,その建物は使わないということになるわけですが,最終的に買取りが認められた場合には,その間の使用利益も負担しなければいけないということになりますので,そういった意味で,建物買取請求権とは違って少なくとも買取価格の基準時については,裁判時にしなければいけないのではないかと考えております。そうしますと,買取りによる権利移転の時期も別に裁判時でも問題ないのではないかということで,ここでは御指摘のあった買取請求権とは違う枠組みにしているということでございます。   それから,⑬の考慮要素のところですけれども,これも基本的に各当事者の年齢とか職業,心身の状況あるいは生活の状況などにつきましては,対価というよりは支払方法を定めるに当たって考慮すべき要素だと考えておりまして,建物所有者の方としては,いきなり買取請求権を行使されることになりますので,一括でいきなり買い取れと言われても難しい面があるのではないかと思います。その点を踏まえて,⑫で分割払などを認めておりますので,分割払で支払わせるかどうかという辺りの考慮要素として挙げているという趣旨でございます。   私の方からは以上でございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   増田委員が御指摘のとおり,通常の買取請求権のモデルからは離れたものが提案されているけれども,むしろ,そういうものが妥当なのではないかということで,御提案がなされているという御説明だったかと思います。増田委員,今のお答えにつきまして何かありましたら。 ○増田委員 今回,いきなり出てきたものですので,まだ,中間試案にこれを盛り込むには内容についての議論が不足しているのではないかと思います。 ○大村部会長 買取請求権についてですね。その他の点についてはよろしいですか。 ○増田委員 その他の点は今のお答えで結構です。 ○大村部会長 分かりました。今,御指摘がありましたように,買取請求権については今回,このような形で御提案いただいているところでございます。先ほども申しましたように,買取請求権については賛成論,反対論があろうかと思います。どちらの立場にも配慮した形で事務当局からは御提案がされたものと理解しておりますけれども,委員,幹事におかれましては,様々なお考えがあろうと思います。提案の仕方をどうするかということに集約されるような形で御意見を頂戴できればと思いますが,いかがでしょうか。 ○南部委員 まず,短期居住権の件につきまして,これについてはこの間,議論された中で判例もあるということですので,私たち市民というか,一般人にとっても必要であるかなということで,中身の細かなところは皆さんで御議論いただいたらいいかと思うんですけれども,短期居住権についてはしっかりとパブリックコメントのときに出していった方がよいと思います。   ただ,長期なんですが,ここまで複雑に書かれますと非常に長期居住権がそもそも何かということの理解が一般国民には難しいのかなということですので,まず,最初に2番の初めには書かれているんですけれども,ここをもう少し分かりやすく,是非,書いていただきたいなということです。その上で,どれくらいのニーズがあるかということも知っておく必要があるかと思いますので,それも考慮いただけたらと思います。   また,今,議論になっております買取請求につきましては,更にややこしくなるかと思います。例えば終身の長期ということで権利を発生された方が途中で施設に入ると,いつまでか分からないのに5年というのも想定ができないし,5年になるかどうか分からないんですけれども,そういったことを考えますと,買取請求についてはもう少し慎重な議論が必要かなと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○上西委員 短期居住権については記載のとおりでよろしいかと思います。   長期居住権についてです。南部先生の御指摘のとおり,複雑にすぎるのもいかがなものかと思います。そして,この部分についての論点は,長期居住権の財産評価をどうするかということと買取請求権を認めるかどうかの2点であると考えます。   まず,長期居住権の財産評価ですが,第三者に建物を賃貸する場合とは相当に異なります。通常は親族間が想定され,親子であるのがほとんどであろうと思います。そうした場合に,第三者に賃貸する場合の建物賃借権の評価額と同様の金額とすることには疑問です。例えば,通常の評価額の2分の1にするなどの一定の割り切りで簡素な方法も検討してはどうかと思います。   そして,その評価については,相続税制との整合性を考慮する必要があります。そして,第三者に賃貸借を行う場合には,土地の部分については賃借人の有する権利部分を土地の評価額から控除することになります。すなわち,借地権割合と借家権割合を用いて算術的に,土地所有者の土地の評価額,建物所有者の建物の評価額,賃借人が有するとして計算される建物と土地の評価額を計算することになります。長期居住権の場合は,第三者への賃貸借と違いますので,土地部分には影響を及ぼさずに建物部分だけで考えるという簡便な方法もあります。それと長期居住権を生存配偶者に取得させずに,そのまま居住を認めるケースも想定されますが,その場合と個別の部分の評価額が変わることについては説明が必要となります。   次に,長期居住権の買取りについてです。買い取るとしても長期居住権を有する者がノーと言えば取引が成立しないわけですので,価格を設定する必要があるのかどうか疑問です。当事者間で合意をすれば足りるかと考えます。ただし,長期居住権について評価を認めるのであれば,その金額をベースに譲渡することになりますが,その点は積極的に書かなくてもよいのではないでしょうか。実際に何らかの形で長期居住権を消滅する行為があった場合に金銭が動いたりしたときは,税については税の分野で考えればよいので,余りここをルール漬けにすると実態から離れる危険性もあります。 ○大村部会長 ありがとうございました。   南部委員と,それから,上西委員とが共通に,余り複雑な制度を作るのは理解あるいは普及の観点から望ましくないという御注意・御意見を頂いたものと認識いたしました。条文を作るときにはもう少しめり張りを付けて,原則部分と手続部分とに分けて書くということになりますが,現状では⑬まで列挙されている形になっておりますので,分かりにくくなっているという面もあろうかと思います。さはさりながら,シンプルな制度ができるのであれば,それに越したことはないということで,上西委員からは余り立ち入った制度を作らずに余裕を残しておいた方がよろしいのではないかという意見を,買取請求権について頂きました。それから,財産評価の方法については,ここに書かれているのとは違う可能性について御示唆を頂いたと理解しております。この点についてはなお御意見を参考に検討するということかと思います。   その他,御意見はいかがでございましょうか。 ○山本(和)委員 買取請求権の部分ですけれども,この買取請求権を認めるかどうかについては特段,定見はないんですが,手続について増田委員から通常の買取請求の法律構成とはやや違ったものになっているということで,私自身はこれは基本的には政策判断の問題で,どの時点で売買契約を成立させ,代金をどの時点を基準時にするかというのは,判断の問題かなと思っています。   実質的には,事務当局が先ほど説明されたことは理解できるような気がしますし,売買契約自体が請求時に成立してしまうということになりますと,その時点で配偶者は不法占有の状態になるのではないかと思いますけれども,その後,実際に代金額が確定して代金を取得するまで一定の時間が経過する,その間,不法占有状態になっているというような法律構成というのもいかがなものかなという観点もしますので,建物買取請求とかとは法律構成が違うのかもしれませんけれども,それを実体法的にどう説明するのか,停止条件付きの売買が成立すると説明するのか,あるいは裁判所の裁判あるいは協議で代金が確定したときに初めて売買契約が成立するのかとか,いろいろな説明の仕方はあるのではないかと思いますけれども,そういうやり方というのは十分あり得るのかなと思いました。   中間試案としての提示の仕方ですけれども,何人かの委員の御指摘のように一つの項目で⑬まであるというのは,そもそも,それ自体,いかがなものかという感じがしなくもありませんし,買取請求については今までの御議論を伺っている限りでは,そもそも,入れること自体にかなり賛否のあれがあるようなので,ただ,全部,単に買取請求権を入れますかみたいな形で聴いても,入れないというのが多数の意見であれば,それはそれで問題ないと思うんですが,入れるという意見が多いような場合に,一からどういう手続をまた考えてくるか,その手続の作り方にも恐らくいろいろな意見の分かれがあると思いますので,一応,中間試案提示としては入れるとすればこういう手続が考えられますよと,入れるという場合には手続の組み方についても意見をお願いしますというような提示の仕方をした方が,より中間試案後の審議が充実するのではないかなと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○沖野委員 今の建物買取請求権のところです。私自身はこういう制度があってもいいのではないかという考え方を持っておりまして,中間試案では是非聴いていただいたらと思っております。それで,今,不法占有にいつからなるかというお話がありましたが,そのほかに,対価の遅延損害金がいつから発生するのかとか,そういったことも関係してまいりますので,明らかにできるものなら補足説明などで,それらの点も明らかにしていただいたらと思います。   それから,提示の仕方ですけれども,1項目について13まで付いているうちの,そのうちの五つが買取請求だと,非常に何か,これが重い制度で,3分の1ぐらいはこれで占めるというような感覚を持ちますが,それもどうかという感じが致しますので,例えば,一つはゴチックで見出しを付けまして,成立の要件とか権利義務とか,あるいは買取請求とかぐらいにするとしてはどうでしょうか。そのようにしますと,意見も(1)についてとか,2についてとかいう形で出しやすいと思います。それでも13のうちの五つを占めてしまうということを考えますと,例えば柱としては,これこれ請求することができるものとする,買取請求権と呼ぶとかして,その細目は次のとおりということで,補足説明のところで,こういった制度であって通常のものとは違うと,こういった諸点についても意見を出されたいというような説明の仕方もあるかと思います。   確かにこのままだと,ここがものすごく厚いという感じがするのが少し嫌みなところもあるのかなと思われ,意見としてもどうかなと。ここままだと1について,2についてとかいうのも意見も出しにくいようにも思いますので,説明のところの見出しがあれば,それで十分かもしれませんけれども,提示の仕方は工夫があるように思っております。   それから,あと1点はやや別の点です。短期の方策と長期の方策との関係に関しまして,資料を訂正されたところと関わるのですが,例えば遺言によりまして所有権は子どもに,しかし,長期居住権は配偶者に与えるという遺言をしたときには,どのように発動するのかということです。特定の遺贈ないし相続させる旨の遺言の両方あるかと思いますけれども,短期居住権がまずは例えば6か月は働いて,その後,長期居住権ということになるのか,最初から長期居住権ということになるのかというのが一つです。   そして,いずれの場合にあっても訂正された2の⑧は遺産分割後にはならないのではないかと思われまして,所有権は端的に子どもに行ってしまって,長期居住権は配偶者に行っているとなると,ここは長期居住権の発生のときからとか,そっちになるのではないかという感じがしますので,訂正の趣旨がそれでいいのかということも気になりましたものですから,併せて御説明いただければと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   最初の方の御指摘についてですけれども,山本委員からも御指摘がありましたけれども,可能ならば2の中を少し区切っていただく方向で分節化していただくというのが皆さんの御意見ではないかと思います。それから,⑨以下の買取請求権については,一定程度の内容を持ったものを提案した方がよろしいのではないかという御意見を頂いたと理解しました。ただ,余り詳しすぎるのも適切ではないので,もう少し整理が必要なのではないかというのが,皆様の平均的な御感触なのかと思って伺いました。   第2点についてはお答えをお願いします。 ○堂薗幹事 まず,短期居住権と長期居住権の関係については,まだ,十分整理ができていないところがあるかと思いますけれども,基本的に短期の1の(2)のところは,明渡猶予期間的なものとして考えていますので,遺言で長期居住権を取得させるということであれば,この規律を発動させる必要はないということになるのではないかと考えております。   それから,⑧のところはおっしゃるとおりで,ここは,基本的に遺産分割で配偶者が長期居住権を取得した場合を想定しており,その場合には遺産分割後の損傷ということだと思いますが,②ではそれ以外の発生根拠も書いていますから,それを包含するような形で書く必要があるかと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   そのほか,では,中田委員,石井幹事の順番で伺います。 ○中田委員 3点あります。   第1点は短期の1の(1)の⑤の消滅請求ですが,配偶者以外の相続人とありますが,これは相続人のうちの単独なのか,過半数なのか,全員なのかというのがいずれもあり得ると思うんですけれども,そこは説明を付加していただいた方がいいのではないかと思いました。   次に長期居住権ですが,上西委員,沖野委員からも関連する御意見,御質問があったんですが,長期居住権の認定をどうするのかということです。ほかの法律関係,例えば契約による賃貸借ということもあり得ると思うんですが,契約による賃貸借と長期居住権とでは効果が相当違ってくるのですけれども,そのために紛争が生じる可能性がある。そうすると,長期居住権であるということの決定をどのようにしてするのかということで,もしお考えがおありでしたらば,何らかの形でお示しいただいたらいいのではないかと思います。   3点目は買取請求権ですけれども,細部はともかくとして,こういったアイデアについて中間試案で広く聴いてみるというのは結構なことかと思います。その際に,余り細部に立ち入らないでというのもそうだと思うんですが,この請求権の基本的な性質がよく分かっておりませんので,御説明いただければと思います。つまり,形成権ではないのかということです。建物所有者の承諾がない限りは成立しないというような御理解の御意見もあったように思ったんですが,そうではないのではないかと思うのです。   そうすると今度は契約がいつ成立するのか。これも先ほど山本委員でしたか,全て後になるんだと,裁判時になるんだということだったんですが,そこは必ずしもはっきりしていなくて,契約が成立して,その後,対価だとか権利移転時期が決まるということもあり得ると思います。不法占拠になるということについても,例えば留置権みたいなものを認めれば,クリアできると思います。そこのコンセプトが人によって理解が違うようですので,できれば何らかの形で御説明いただければと思います。 ○堂薗幹事 まず,最後の点ですが,こちらで考えているのは形成権ではなくて,形成の裁判によって買取りの効果が生ずるということでございます。すなわち,裁判による場合には裁判の確定によって長期居住権が移転するということで考えておりますので,買取請求によって権利自体が移転するということまでは考えていない。そこは要件もかなり不明確ですので,そうした方がいいのではないかと考えているところでございます。   それから,長期居住権と類似の権利との区別という点については,今後,検討していかなければいけないと思っておりますが,この点については長期居住権について使用の対価を支払うような形での設定を認めるかどうかというところにもよってくると思いますが,そこを認めないということに致しますと,相続財産の中で使用の対価は支払済みであるということになり,存続期間中は無償で使用することになりますが,それにもかかわらず第三者に対抗できるというような内容になりますので,その辺りでほかの権利との区別が付けられるのではないかと考えております。もっとも,その辺りについては引き続き検討したいと思います。   それから,短期の⑤の消滅請求のところは,相続人が各自できるという理解ですので,その辺りについても明確にしたいと考えております。 ○大村部会長 よろしいでしょうか。 ○石井幹事 長期居住権の買取請求については余り複雑な規律にしないでほしいという御指摘もあったところですが,具体的にどのような手続が想定されているのかということについて,ある程度,明確にしていただくと,意見が言いやすいかなと思いますので,そこはお願いということで申し上げておきます。   あわせて,買取請求が認められる場合として,部会資料でいくと⑨のところで,「建物を使用することができなかったことについてやむを得ない事由がある場合」とされておりまして,資料などを拝見すると,施設に入居した場合というのが念頭に置かれているのかなと思うんですが,「やむを得ない事由」として,これ以外に具体的にどのような場合が想定されるのかというところについても,補足説明等で明らかにしていただけると有り難いなと思っております。 ○大村部会長 御指摘を踏まえて,更に検討していただきたいと思います。   ほかはよろしいでしょうか。 ○西幹事 質問ないし確認3点とお願いが1点ございます。   1点目の質問は,先ほどの建物買取請求のところですけれども,「建物所有者」の中には,建物所有者が相続人である場合も,相続人でない場合も含まれるのでしょうか。恐らくこの書きぶりでは,相続人でない場合も入るということだと思いますけれども,その場合に⑩以下の規律が相続人である場合と全く同じになるのかという点を確認させていただきたいと思います。海外では建物所有者に対する買取請求についても,建物所有者が相続人である場合という限定を付しているところもあるようですので,そこをどのように考えるのかというのが買取請求を認めるべきかどうかを考える上でも少し関係するような気がしました。   2点目の質問です。3ページの(注1)に「長期居住権を取得した場合には,配偶者はその財産的価値に相当する金額を相続したものと扱うことを前提としている」と書かれていますけれども,配偶者が長期居住権を取得する場合,飽くまでも法定相続分の範囲内でというのが前提になっているということなのでしょうか。2ページの②のアのように,合意によって長期居住権を認める場合やウ,エのような場合には,特に法定相続分というのは問題にならないのかもしれませんけれども,イのような裁判所の審判でということになりますと,法定相続分を超える分を取得して代償金を支払う方法もありうるのでしょうか。   3点目の質問は,短期,長期の両方に関わることです。今まで賃貸物件である場合の扱いについていろいろ御議論がありましたが,今回の書き方では賃貸物件である場合については,特に考慮しないということかと思います。ただ,都市部では50%以上が賃貸物件という現実もありますので,なぜ,考慮しなくていいのか,それについては除外するのかということを中間試案の中で説明を入れていただくわけにはいかないでしょうか。居住が保護されるから問題ないというのは分かるのですけれども,居住が保護されるとしても,ずっと賃料は配偶者の負担になるわけで,その点,配偶者が支払うべき賃料の一部の相続財産での負担について多少,考慮している法制もあるようですので,それについては日本は考慮しないということでよろしいのでしょうか。   お願いですけれども,長期居住権について一見しただけでは,これは賃借権「類似」というよりも賃借権の一部ではないか,一類型ではないかという気がしてしまいました。恐らくそう思う方もいらっしゃると思いますので,賃借権とどう違うのか,どのようなメリットがあるのかというのをもう少し分かりやすく書いて説明していただきたいと思います。算定額が安くなるとか,合意がない場合でも成立しうるとか,その程度のことは分かるのですけれども,それ以上にどういうメリットがあるのかというのがよく分からないと使いにくいと思いました。と申しますのは,海外では長期居住権を死亡後に認めている国では,離婚後についてもそのような居住権保護制度があったり,婚姻中についても居住不動産については特別な扱いがなされていたりということがありますので,日本にとって,こういう初めての制度を入れる場合には,その必要性やメリットがあるのかという疑問が当然,出てくると思いますので。御配慮をお願いできたらと思います。 ○大村部会長 最後の御説明については御工夫を頂くということでお願いしたいと思いますが,御質問について,さらに検討するということ以外にお答えがあれば伺います。 ○堂薗幹事 相続人だけに限るか,相続人以外の者も含めるかというのは検討したいと思います。3ページの(注2)のところは,基本的には当然,配偶者の具体的相続分の中でそこを考慮するという前提です。具体的相続分の中で取れるものを取るということですので,そういう前提でございます。その辺りも補足説明などで触れたいと考えております。 ○大村部会長 賃借権の場合の扱いも併せて御検討いただくということで,お願いいたします。 ○八木委員 基本的には西幹事の第1の御質問と同じことをお聞きしようと思っておりました。つまり,被相続人から第三者に所有権が移転された後,そこに設定されている長期居住権を買い取らせることを想定しているのかどうか,それとも長期居住権を設定した場合には,被相続人の所有の建物の売却自体ができなくなるという意味なのかどうか,そこをお聞きしようとしていたということです。 ○堂薗幹事 基本的に長期居住権があっても,長期居住権が設定されているものとして売却すること自体はできます。売却した場合に建物の所有権を取得した第三者に対しても買取請求を認めるというのは難しい面があろうかと思いますので,基本的には相続人を念頭に置いておりますが,その辺りも今後検討したいと考えております。 ○大村部会長 よろしいでしょうか。 ○水野(紀)委員 今まで用益物権のようなものとして考えてきたのですが,賃借権類似の法定の債権と設定されることになりました。その結論を前提とすると,説明が今ひとつよく分からないところがございます。2ページの②のウとエの書きぶりです。配偶者に長期居住権を取得させる旨の遺言がある場合は,そういう債権を取得させる旨の遺言がある場合と解釈されることになるかと思うのです。そうすると,エの場合に被相続人と配偶者との間に,配偶者にその債権を取得させる旨の死因贈与契約という書きぶりですが,法定債権を贈与するというのはやや違和感があります。むしろ,典型的に考えられるのは死因贈与契約で所有権をほかの者に与えるときに,負担付きという形で配偶者の法定債権を設定するというようなケースでしょう。そのような場合をお考えなのか,それとは全然違うパターンなのでしょうか,いずれにせよ,この書きぶりですと足りないものがあるような気がします。また,贈与という性質決定にふさわしい場合があるのか,ないのか,その辺りも気になります。その点を少し説明いただければ,あるいは整除していただければと思います。   それから,配偶者が長期の療養で施設に入ってしまうような場合,この説明ですと,転貸してその代金で施設に入ることは難しくなるように思います。買取請求権の代金で施設に入るということは駄目なのだろうかという疑問が出てきそうです。もし用益権的に考えれば,そういうこともあり得ると思いますが,転貸を封じることになりますと,当然,出てくる質問だろうと思われます。これは選択肢に入れないということをどう説明になさるのか,伺わせていただければと思いました。 ○大村部会長 書きぶりについては御検討いただくということで,転貸なのか,それとも転貸で回収するのか,それとも買取りなのかというところについては,お考え方はいろいろあろうかと思いますけれども,少なくとも一定の説明をすることは必要であろうという御意見だと承りましたが,何かありますか。 ○堂薗幹事 ここでは基本的には長期居住権の譲渡の相手方を建物所有者に限っていると,強制的に買い取らせる場合には建物所有者に限っているという趣旨でございます。 ○大村部会長 様々な御意見を頂戴いたしましたが,第1の「配偶者の居住権を保護するための方策」につきましては,短期の方についてはおおむねこのようなことでよいが,細部について更に補足説明を工夫する必要があろうということだったかと思います。2の長期の方につきましては,全体をもう少し分節化する必要があるのではないかという御指摘がございました。それから,2の②の次に掲げる場合ということにつきまして,その表現に更に工夫を要する点があるのではないか,そして,買取請求権につきましてはある程度の具体性を持ちつつ,しかし,ここに書かれているのよりは少し簡略化した形で再度,整理をする必要があるのではないか。このような御意見を伺ったかと思います。その他にも補足説明で対応すべきことの御指摘がありましたけれども,取りあえず,今のようにまとめさせていただきまして,御意見を承ったものをまた次回に御提案を頂くということにしたいと思いますが,よろしゅうございますでしょうか。ありがとうございます。   それでは,同様に次の項目についても御意見を賜りたいと思います。次は資料の6ページ以下,「第2 遺産分割に関する見直し」という項目ですが,事務当局より御説明を頂きます。 ○下山関係官 では,資料の御説明をさせていただきます。   まず,1点,訂正がございまして資料の6ページ,甲案の計算式のうち,aとbの数値を求めるbの方の式,「b=(遺産分割の対象財産の総額-a)」とありますが,このaというのは婚姻後増加額の誤記でございますので訂正させていただきます。大変申し訳ございません。   では,資料の説明をさせていただきます。   6ページ,「1 配偶者の相続分の見直し」につきましては,甲案として配偶者固有の寄与分の制度を新設する考え方を,乙案として婚姻成立後,一定の期間が経過した後に法定相続分の変更を認めるという考え方をそれぞれ紹介させていただいております。甲案につきましては,第7回会議において提案させていただきました案から特段の変更はございません。なお,計算式にあります被相続人が婚姻時に有していた純資産の額につきましては,婚姻後,長期間が経過している場合に,これを立証することは困難であるという御指摘を頂いたことを踏まえまして,例えば婚姻後,一定期間を経過した場合には,これを0円とみなして,婚姻後増加額の算定をするということも考えられるところでありまして,この点を(注4)に記載してございます。   なお,甲案につきましては第7回会議におきまして,配偶者固有の寄与分を算定する際に相続債務の額を考慮するのであれば,現行の寄与分において相続債務の額を考慮していないということとの関係を整理すべきであるなどの御指摘を頂きました。この点につきましては,配偶者固有の寄与分について寄与分という名称を用いている理由としましては,その額が決められた場合には現行の寄与分と同様の取扱いをするという点にありまして,その法的性質といたしましては現行の寄与分とは相当程度,異なるというものを考えております。そして,配偶者固有の寄与分は配偶者の貢献を実質的に考慮して,その額を決めるのは困難であるということから,ある程度の割り切りをして形式的にこれを算定するということとした結果,相続債務の額を計算式に組み込むということとしたものでございます。   他方,現行の寄与分におきましては,裁判所は寄与分の額を定めるに当たり,配偶者の実質的な貢献の程度のほか,相続財産の額など一切の事情を考慮すべきということとされていることから,この中で相続債務の額も当然に考慮され,相続債務が債務超過になっているような場合には,基本的には寄与分は認められないということになるのではないかと考えられるところです。   続きまして,乙案について御説明いたしますが,乙-1案及び乙-2案は第7回会議における案を踏襲したものとなっております。ただ,第7回会議におきまして,被相続人や配偶者の意思によって相続債務の承継割合の変更を認めるのは相当ではないという御指摘を頂いたことなどを踏まえまして,前回の案を一部修正いたしまして,一旦,法定相続分を変更した場合には,その後,これを撤回することは認めないということとしております。乙-3案,これは乙-1案及び乙-2案と異なりまして,婚姻成立の日から一定期間が経過した場合には,当然に配偶者の法定相続分が引き上げられるというものとなっておりまして,これは第7回会議における御議論を反映したものとなっております。   続きまして,資料9ページの最下段,「可分債権の遺産分割における取扱い」についてでございます。第9回部会におきましては,相続の開始によって可分債権が当然に分割承継されるということを前提としつつ,これを遺産分割の対象に含めることとする考え方として甲案を,可分債権を遺産分割の対象に含めることとしつつ,かつ遺産分割が終了するまでの間,可分債権の行使を禁止する考え方として乙案を,それぞれ提案させていただきました。   この甲案及び乙案につきましては,それぞれに対してこれを支持する御意見とともに問題点についての御指摘もありましたことから,本部会資料におきましては要は折衷的な考え方といたしまして,相続開始により可分債権は法定相続分に応じて分割承継されるが,各相続人は分割された債権のうち一定割合,例えば法定相続分の2分の1を超える部分については,原則として遺産分割の場合には,これを行使することはできないこととするといった考え方を提案させていただいております。   もっとも,この論点につきましては従前の甲案及び乙案を併記という形で,中間試案としてお諮りするということも十分に考えられると思っておりますので,この点について中間試案としての出し方について御意見を賜れればと思っております。また,対抗要件につきましては第9回会議における御指摘を踏まえて,対抗要件を具備する場合ということを整理いたしまして,これを⑦の部分に記載しております。   なお,遺産分割の対象とすべき可分債権の範囲をどのように考えるべきかにつきましては,これを現金類似の性質を有する預貯金債権に限定すべきであると,こういった御指摘を頂いたところであります。ただ,この点につきましては,資料の12ページ上部に記載されているような問題点があると思われること,また,その後,3に書いてあります一部分割の要件及び残余の遺産分割における規律の明確化等の問題,これをどのように考えるかという点も関連する問題であると思われるため,本部会資料におきましては,この点は引き続き検討すべき課題であるという整理をさせていただいております。   次に資料の12ページ中段,「一部分割の要件及び残余の遺産分割における規律の明確化等」について御説明いたします。第9回会議におきましては,特別受益については原則として一部分活の中で,その全てについて考慮することとする一方で,寄与分につきましては一部分割と残部分割とを切り離すという考え方,これを提案させていただきました。この点につきましては,一部分割においても残部分割の対象となる財産の維持又は増加についての寄与を考慮することも可能であるといった御指摘等がありましたことから,これらの御指摘を踏まえまして残部分割において寄与分を考慮しなければならない場合,これをより具体的に規定するなどの変更を行っております。   次に「(2)遺産分割の対象財産に争いのある可分債権が含まれる場合の特則」,これにつきまして仮に一部分割の要件及び残部分割における規律について部会資料(1)のように整理いたしますと,一部分割が可能かつ相当である事案の多くというのは,残部分割において特別受益及び寄与分を考慮する必要がない事案,すなわち,残部分割を法定相続分に従って行うこととなる事案ということになるものと思われます。そういたしますと,遺産分割の対象となる可分債権の有無及び額について争いがあるために,全部分割をすることができない場合であっても一部分割をすることが可能,かつ相当である事案においては,結局のところ,残部分割たる可分債権の分割というのは法定相続分によって行うこととなりますので,あえて残部分割を別個に行うまでもなく,可分債権を法定相続分に従って分割する旨の審判をすると,こういったことを認めてもよいものと考えられます。   資料(2)の特則は,このような考え方に基づいて設けたものでございます。また,仮にこのような考え方を採用することができるのであれば,遺産分割の対象となる可分債権について,その範囲を預貯金債権に限定しなくとも争いがある不当利得返還請求権等については,法定相続分において分割をするといった形での対処が可能となると思われますので,遺産分割の遅延等についての問題点もある程度,解消することができるのではないかと,このように考えております。   説明は以上です。 ○大村部会長 ありがとうございました。   従前,別個の項目として検討してきましたものを,今回,「第2 遺産分割に関する見直し」ということで一括した結果,ここには三つの問題が含まれております。一つ目は「配偶者の相続分の見直し」と題されておりますけれども,このうちの甲案は基本的には,従前,議論してきた配偶者固有の寄与分の制度を新設するという考え方を表したものである。乙案につきましは,前回,出た二つの選択肢について一定の修正を加えるとともに,乙-3を新たに加えたという御説明だったかと思います。   2番目の大きな項目である「可分債権の遺産分割における取扱い」,9ページでございますが,これは従前,甲案,乙案というのが併記だったものを一つの,先ほど御説明がありましたけれども,折衷的な案として取りまとめたというものです。このような形で折衷案を出すのがよいのか,それとも甲・乙併記に戻して意見と問うた方がいいのかという点につきまして御意見を賜りたいと思います。   そして,最後に3番目,一部分割の点につきましては,(1)につきまして従前の議論を踏まえて修正を加えたということがございますが,(2)で特則を設けることが今回,提案されております。これは可分債権の取扱いとも関連するということで,このようなものの当否について御意見を伺いたいということかと思います。   1,2,3の性質は違いますけれども,皆様から御意見を頂ければと思います。 ○浅田委員 まず,一つ目の「配偶者の相続分の見直し」から意見を述べたいと思います。中間試案における案の見せ方といいますか,表示の仕方といいましょうか,絞込みということと,それから,補足説明で書いていただきたいことのお願いということであります。すなわち,特に(2)の乙案になりますと,その中の枝分かれが多く,一見して分からないというのがありまして,かつ,ア,イ,ウについては恐らく同じことが書いてあると思います。これを読んだ人はどこが違うのかということが分かりづらいと思いますので,そこがよく分かるように,取捨選択していただければ分かりやすいのではないかと思います。例えばア,イ,ウについては以下同じとするとか,そういう見せ方の問題であります。   次に中身の話で,補足説明にも書いていただきたいことですので申し上げますと,乙-1案,乙-2案,乙-3案の差異というのがどこにあるのかということを明記される方が良いだろうと思います。これは二つの視点,つまり,国民の立場からしてどれがいいのかという視点これはある程度,分かりやすいことだとは思いますけれども,それに加えて取引第三者から見てどういう違いがあるのかという視点からの検討に有用と考えます。そこで,差異につきまして,ここでの議論を踏まえて補足説明等で分かりやすく整理していただければと思います。   差異を整理する際の視点としては,取引第三者に対する公示手段との関係で,それぞれが一体どうなるのかということ,それから,特に乙-1案,乙-2案に関しては届出というのがありますけれども,その場合における問題点として,意思能力の問題をめぐって争われるのではないかということが指摘できるかと思います。こういったデメリットがあることからすると,乙-3案になると,多分,そこは解消されていると思いますので,取引第三者からすると乙-3案が一番安定的なものだと評価されるとは思います。こういった整理というのをしていただければ,パブコメする方々にとってもよりよい適切な意見発出ができるのではないのかと思いました。   あと,乙案に関してありますけれども,これも若干,私の理解不足であるところもあるわけですが,先ほどの寄与分に関しては法的性質については通常の寄与分とは違いながらも,計算においては同じもの……。 ○大村部会長 甲案に関してですね。 ○浅田委員 甲案に関してです。甲案に関しての話ですけれども,これも見せ方の問題でありますが,現行の寄与分とは違いがありながら,計算上の関係から寄与分という言葉を使うということがあります。そうであれば,(1)の甲案の配偶者固有の寄与分の制度を新設する考え方の寄与分という言葉は,若干,そこを変えるか,ないしは9ページの説明にあるように「寄与分」というふうな表示をしていただいて,一見,違うものだということを分かりやすいようにしていただくという工夫も必要ではないのかなと思います。もちろん,補足説明において法的性質がどう違うのかということも記載していただければと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   甲・乙,それぞれについてプレゼンテーションの仕方について御注意を頂いたと思います。寄与分という言葉については先ほど事務当局から説明がありましたけれども,これを使いたいという要請もあるということでしたので,しかし,どこが違うかということを分かりやすく示す必要があるとの御指摘だったかと思います。乙は三つ並んでいて,それでいいかという御意見もあったと思いますけれども,並べるのであれば,どこが同じで,どこが違うのかということを明確にしてほしいという御要望だったかと思います。御意見として伺いたいと思います。   ほかにいかがでしょうか。 ○増田委員 まず,1の乙案についてです。前回にあった撤回の話が消えているという,その御説明として今回の資料に書かれているのは,要は意思によって変更を認めるのは相当でないということだと思うんですが,その論理だと,元々,法定相続分を意思により変更するということ自体が相当でないことになって,案自体が成り立たないと思うんです。撤回を認めるかどうかについても聴いてみたらいかがかと考えます。   それから,先ほど浅田委員のお話にもありましたが,公示の問題ですが,これは少なくとも相続開始後はどこの誰でもそれを見ることができるようなものでなければならないだろうと思いますので,具体的にどういう方法をお考えなのかということは,是非,示していただく必要があるかと思います。   それから,乙-3なんですけれども,今回,これも初めて出てきた案でして,理屈の上では余り問題はないだろうけれども,価値判断としてどうかという問題はかなりあるだろうと思いますし,若干,意見にわたりますけれども,長期別居の場合,財産形成に全く寄与していないとか,長期にわたって寄与していない人も法定相続分が上がるということになりますので,これは離婚法が完全破綻主義になっていない以上は少し難しいのではないかと思っています。   もう一つは,仮にこういうのを認めるとして,20年,30年という期間について考えてみたんですが,高齢化社会で,男62歳,女68歳で平均余命は20年を上回ってしまいます。これを30年に設定しても,男50歳,女57歳で平均余命は30年を上回っています。   ということになると,50歳になれば普通は大半の財産が形成されていて,人生一発大逆転という可能性は残るとしても,一般的にはそのぐらいの年齢で結婚すると婚姻後増加額の方の少ないだろうと思いますので,20年,30年は乙-3については特に短すぎるのかなと思います。だから,例示としてもう少し長いのも入れていただいたらどうかと。例えば50年ぐらいだったら,結構,若い頃から結婚していて,夫婦で一緒に財産を形成してきたというイメージにはなるかと思います。50歳からともに財産を形成してきたというのは一般の考え方からしてもずれが出るのかなと思いますので,たとえば婚姻期間50年というのもひとつ御検討いただければ。2,3についての意見は後で述べることにします。 ○大村部会長 では,いったん,ここで切っていただきたいと思います。   撤回をもう一度選択肢に加えたらいかがかということと,公示について御意見がありました。それから,期間も違う選択肢を示してみたらどうかということでしたけれども,事務当局の方で,何かありますか。 ○堂薗幹事 撤回を認めないのであれば,そもそも,乙-1や乙-2は成り立たないのではないかという点につきましては,乙-1,乙-2というのは,基本的には一定期間の経過で法定相続分を引き上げるだけの実態はあるんだけれども,従前どおりの法定相続分で構わないと言っている人や,あるいは,むしろ従前どおりの方がいいと言っている人との関係でも,自動的に上がるというのは,やや問題があるのではないかということで,その点について選択権を認める,要するに従前どおりの法定相続分でいいのか,あるいは一定期間が経過したので引き上げるのかという点については選択権を認めるもので,その限度で配偶者あるいは夫婦の意思を尊重するということですので,撤回について認めないというのも制度としてはあり得るのではないかとは思っております。ただ,中間試案としてはその点についても聴いた方がいいのではないかというのはよく分かりますので,そういった点を(注)で書くのか,あるいは,そのような案を復活させるのかという点につきましては検討したいと思います。それ以外の点についても,検討して次回にお示ししたいと考えております。 ○大村部会長 よろしいでしょうか。   それでは,今,三つの項目のうち,第1点について御意見が出ておりますので,まず,第1点について御意見を伺ってしまいたいと思いますが,窪田委員,南部委員の順番でお願いいたします。 ○窪田委員 まず,一つは本当に小さいことなのですが,先ほどから出ていることですが,乙-1,乙-2,乙-3については,何でここまで細かく分けて示すのかなという感じがします。基本的には乙-1,乙-2というのは当事者の一方的であるか,合意であるかはともかく,選択によってこういう変更を認めるというもので,一まとめにしてしまえばいいのではないかという気がします。それに対して乙-3というのは時間の経過によって機械的にということですので,性格が違うということで区別するということでよろしいのかなと思います。   ただ,その上で別のところで正しくこうした案について少し議論することがあったときに出ていた議論だったのですが,乙-3のような考え方を採った場合に,適用除外についてのルールを全く設けなくて構わないのかどうかというのは,かなり深刻な問題なのではないのかなという感じが致します。もちろん,乙-3の考え方を貫くのであれば,本当はそんな例外は認めずに規律するのがきれいではあるのですが,しかし,本当にそれでいいのかと思われるような事案が出てくるのではないかという気も致します。案に加えてくれということではないのですが,適用除外のルールを組み込むかどうかというのは,少なくとも論点の一つにはなるのかなという気が致します。 ○大村部会長 ありがとうございます。   整理が必要だという点については御検討いただきたいと思います。それから,選択肢を更に加えるかということも御検討いただけるかと思います。 ○南部委員 まず,すごく国民の関心が高いということだと思いますので,慎重に検討が必要かと思っております。その上で甲案なんですけれども,いろいろ,議論があってこういうふうにシンプルにされたのは理解できるんですけれども,これそのものが計算式が複雑というのもありまして,パブリックコメントで聴くのはいいと思うんですけれども,まず,最初に持ってくる方がいいかどうかと,並びの順番を少し工夫されたらいかがかということでございます。   その上で,乙案は先ほど窪田委員がおっしゃったように,もう少し整理をしていただけたらということと乙-3なんですけれども,これも別居中であったとしても,例えばこれが自動的に発生するということは非常に問題のある御夫婦もいらっしゃると思います。そういったことを考えると,自動的というのは非常に問題が残るかと思いますので,適用除外という案もありましたので,そういったことの検討も必要になるかなと思います。   乙-1,乙-2に戻るんですけれども,これについても裏に撤回ができないということで書かれておりました。これについても途中で意思が変わることも多分,あるかと思いますので,撤回ができないということも少し柔軟にお聴きになった方がいいかと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   乙-3案につきましては,先ほどの増田委員の発言以降,シンプルであるけれども,これでよいかどうかということについては疑問があるという御発言が続いているかと思います。乙-1,乙-2と対照する意味で,乙-3が出てきているという面もあろうかと思います。具体的な妥当性を追求すると,ある程度の不安定さを抱え込むことになるのに対して,簡明なものを作ると,実際上の問題が生ずることもあるかもしれない,そのバランスの中でどうするかというところもあろうかと思いますが,頂いた御意見を踏まえて,更に調整をしていただきたいと思います。   それから,南部委員から御指摘があった,この順番がいいかどうかということけれども,これまでの審議の経緯に基づいて,このような形になっているということかと思います。ただ,甲案については様々な経緯があって,今,こうして取りまとめられているわけですけれども,その経緯を知らずに甲案だけを見ますと,なかなか,理解が難しいところがありますので,順序がどうするかということにつきましては事務当局にお任せするとして,甲案についてより分かりやすくするという工夫をしていただくということが必要かと思いますが,そのようなことでよろしいですか。 ○上西委員 乙-3案につきまして,窪田先生を始め何人かの先生がおっしゃったように,適用除外の要件の要否については検討すべきだと思いますが,実務上,適用除外の要件への該当性をどうやってそれを判断するのでしょうか。これも本人からの申立てや届出にならざるを得ないとなれば,乙-1,乙-2に吸収されるのかなと,こう思いますので,手続についてどうするのかについても考えていただければと思います。 ○大村部会長 水野委員。 ○水野(紀)委員 その議論が出たときにも申し上げた記憶があるのですが,一律にした場合も,それなりに説得力がある,一つの説明ができると思います。つまり,そういう場合には遺言で対処する,そして,配偶者の相続分については,配偶者という地位そのものを根拠として一定の取り分を決めてしまうという考え方も,それなりに合理的なものだろうと思います。財産形成に寄与したというだけが配偶者相続分の存在意義の理由ではありません。難しい新しい適用除外を設定するよりも,遺言で対応するという考え方の下に,乙-3を提案するという説明ぶりもありうると思います。 ○窪田委員 よく分かります。よく分かるのですが,法的相続分を変更していますよね。そうすると,その影響で当然,遺留分も変更されることになりますよね。3分の2の法定相続分が認められると,3分の1の遺留分が認められるということになり,遺言ではその部分は修正できませんよね。これは実際上も大きい意味を持っているのではないのかなという気がします。一方で適用除外の点については,私自身も適用除外をそれほど簡単に定めることができるとは思っていません。思っていないからこそ,実は乙-3というのは大変難しいのではないかなということは思っているのです。 ○大村部会長 ありがとうございます。   乙-3については様々なお考えがあるということが分かりましたので,それらを勘案した説明をお考えいただくということになろうかと思いますが,その他,1の「配偶者の相続分の見直し」につきまして御意見はございますでしょうか。 ○西幹事 乙-3案が余り人気がないようですので,私は乙-3案が意外とよいと思うということを一言だけ,申し上げたいと思います。乙-1案と乙-2案は当事者に法定相続分の選択を認めるということで,実際上の妥当性という点では妥当な結論が導けるのかもしれません。ただ,法定相続分というのは飽くまでも法律が定めるもので,遺言のように当事者の意思が入らないからこそ,「法定」相続分なのだと考えますと,乙-1案,乙-2案が法定相続分の意思表示による選択を認めるという表現を使う時点で,既に概念矛盾なのではないかという気が致します。そうなりますと,乙-3案の方が法体系の安定性という意味ではよいのではないかと思いました。   先ほど水野先生からも御意見が出ましたけれども,今,適用除外を設けるかというような話が出てくるということにも示されていますように,結局,今回の改正では配偶者の相続分は潜在的持分の清算という側面が非常に強く出ていると思います。ただ,本当にそうなのかというのは一度,御検討いただいた方がよいのではないかと思います。生存配偶者の生活保障というのもありますし,いろいろな側面があると思います。現行法でも例えずっと別居していても長年連れ添えば,それだけで2分の1をもらえるというのが一定の合理性があるものとして国民に受け入れられている以上,今回も潜在的持分の清算という側面を強く打ち出しすぎるのはどうなのかなという気が致しました。 ○大村部会長 ありがとうございます。   乙-3について,配偶者の寄与の勘案というのとは違う形で理由付けることもできるという御意見だったかと思います。法定相続分という言葉遣いの問題については,二つあっても法律で定まっていれば,それは法定相続分だということも言えるかもしれませんが,なお検討いただきたいと思います。   その他はいかがでしょうか。 ○窪田委員 既に先ほど座長からも御指摘があった部分ではあるのですが,甲案,乙案の見せ方の問題についてです。ずっとこの議論に携わってきますと,甲案を見るとなるほどなと思うのですが,そうした前提になしに,これを見たら何と分かりにくいのが最初に示されて,その後に分かりやすい乙案が三つ並んでいるというイメージなんだろうと思います。甲案に至るまで確か三つ案があったと思いますけれども,いずれも基本的なコンセプトの点では基本的には配偶者の具体的な貢献というのを踏まえて,実質的夫婦共有財産の清算という,そういう性格を有するものをどうやって実現するのかということに向けてのアプローチだったと思います。ですから,配偶者固有の寄与分の制度を新設すると急に言われてもぴんとこないわけですが,甲案は具体的な配偶者の貢献を踏まえて,その清算という要素を取り込んだ案というのを示すことによって,当事者の合意によって,あるいは時間の経緯によって法定相続分が機械的に変わるんだという枠組みとは違うのだということ,その点をきちんと示す必要があるのかなという気は致します。 ○大村部会長 ありがとうございます。   具体的な貢献の考慮からだんだん離れて,乙-1,乙-2というのが出てきて,乙-3になるとそれが非常に希薄になるというのが,今の皆さんの御意見かと思いますけれども,そうしたことが伝わるような見せ方をするということが必要なのではないかという御指摘として承りました。   ほかに「配偶者の相続分の見直し」につきましていかがでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは,特に案の示し方につきましては,かなり工夫が必要なようでございますので,その点は御検討いただきまして,再度,御提案を頂くということにさせていただきたいと思います。   それでは,続きまして「可分債権の遺産分割における取扱い」ですけれども,これと3番目の一部分割の問題は関連するところがございますので,併せて御意見を頂戴したいと思います。 ○浅田委員 2番目の「可分債権の遺産分割における取扱い」について,折衷案が今回,出たわけでありますけれども,折衷案のみ提示することについての意見を述べたいと思います。従前来,私はこの論点については,銀行界からの提案として2つの案,これを「案1」,「案2」と呼んでおりますが,これは甲案,乙案に類しているものだとは評価できると思っていますが,そういう2案を,提案させていただいたところであります。今回の事務当局の提案というのは,甲案,乙案の折衷案ということでありますけれども,一見,両案の利点を取り込む形でいい案が出ると見えるかもしれませんけれども,逆に見ると,両案の問題点というべきものが内包されたまま,一つに合わさってしまうようにも見えると思います。   この点についてはなお検討する必要があろうかと思いますけれども,ただ,私としては折衷案を見まして以下の五つの問題点が指摘できると思っています。一つ目として,相続事案の最終解決まで当該預金に関する情報を銀行としては管理し続けるコストを負う結果になるのではないかということです。二つ目に,銀行としては,常に一定の割合を,例えば2分の1ということでありますけれども,超える支払いになっていないか管理し続けるコストも更に負い続けるという懸念があると思われます。三つ目に,一部の相続人が一定の割合を超える払戻しを他の相続人に無断で行ってしまった場合など,甲案の問題として指摘した,いわゆる勝手払いの問題もなお解決されないまま残り続けるのではないかと思います。四つ目として,他方で例えば一定の割合,例えば払戻し可能な金額を法定相続分の2分の1に限定してしまいますと,被相続人の預金が少額であったときに,十分な相続費用の払戻しに対応できるのかどうかという,国民一般生活に影響を与えうる問題も惹起されると思います。加えて,五つ目として,一部払戻し可という,2分の1とかという制度自体が国民にとって分かりやすい制度なのかどうかという意見も,銀行界にはあったということを付言いたします。   したがいまして,今回,提案されています折衷案というのが,この時点で限定するのはどうなのかと,少なくとも従来から私が申し上げていますように,当該提案は,国民一般にも大きな影響を与えるということでありますので,この時点で一つの案に限定するのではなくて,引き続き甲案,乙案の両論併記等としてパブリックコメントにおいて国民に諮るべきということを強く要望したいと思います。また,その際に甲案,乙案で論点とされていました仮払いの制度,それから,銀行界からも要望しています免責制度の立案の可否,ないしはその問題点というものについて,一応,私としてはこれらにつき示したつもりではありますけれども,もし,そういう問題の整理が事務当局にあるということであれば,その内容を補足説明等で丁寧に御説明いただきまして,国民にどの案でいいのかということの検討材料を十分に与えていただければと思います。   それから,時間を頂きまして補足説明をさせて頂きたく存じます。若干,意見に関係することであります。第9回会合において私が「相続預金に関する各国法令・制度」と題する参考資料とともに,相続預金の各国の制度を紹介しました。その際,我が国の仮払い制度への示唆として,フランスにおいては5,000ユーロの少額払戻し制度があると記載して説明いたしました。その後,当方でフランスの制度を更に調査いたしましたところ,当該少額払戻し制度においては,公正証書又は相続人全員による相続人たる地位の証明が必要であるということが判明いたしました。そして,公正証書を選択された場合においては,法令上,必ずしも全相続人の同意が必要とされていないということでありますが,実務上,公証人は公正証書作成に際して全相続人の署名等を要求しているとのことです。したがいまして,一部相続人が協力しない場合において,公正証書を作成するというのは例外なケースだということが分かりました。   また,他方で,公正証書でなく,相続人全員の証明書であっても払戻しは可能ですけれども,それは我が国においては一部分割協議と同様の取扱いであって,私が述べていた一部相続人からの払戻しができるという仮払いとは若干異なるということでございます。法制度の運用面を勘案すると,前回,ミスリーディングな説明を与えたかもしれませんので,この点を補足して説明差し上げたいと思います。ただ,ここで申し上げたいのは,慎重な手続による全相続人の保護と,簡便な手続の費用を低廉化するという,相反する二つの要素をいかに調整するかということが検討された結果が先ほど申し上げた制度だということでありまして,このような困難な利害調整を図る議論が必要であるということは,正しく本法制審議会で我々が経験しているところだと認識するわけであります。   先般,御紹介したとおり,フランスでは細かな法制度を導入したということには変わりがありませんので,引き続きこの点については他国の知恵,経験も参考にしつつ,よく検討する必要があろうかと思います。長く述べましたけれども,甲案,乙案も引き続き残していただいた上で,いろいろな案があると思いますので,パブリックコメントの意見も参考にしつつ,検討をお願いしたいというところでございます。   今のが意見でございますけれども,若干の質問を2点,お聞きしたいと思います。   一つは今回,提示された折衷案でありますけれども,繰り返しの論点でもありますけれども,相続人は法定相続分の債権のうち,一部割合を超える部分について遺産分割前にこれを行使することができないとされております。この折衷案では,当該権利行使制限は飽くまでも相続人を対象とするものと考えてよろしいのでしょうか。私どもが従前から関心がありますのは,銀行が被相続人に対して貸金等の債権を有するときに,法定相続分の預金と法定相続分の貸金債権を対当額で相殺することがあります。このような債権回収上の権利が妨げられることにならないかどうかということについて,従前は差押え等ができるというお答えを頂いたと記憶しておりますけれども,この折衷案においても,このような認識でいいのかどうかということについて念のために確認させていただきたいのが一つでございます。   二つ目は若干の関心事でありますけれども,3月24日の報道だと思いますが,預金の相続財産該当性に関する遺産分割審判が大法廷に回付されたという報道に接しました。この報道自体はパブリックコメントを行う我々も知るところであると思いますけれども,私自身はどういう事案で,どういう方向で議論するのかというのは承知してはおりません。しかしながら,最高裁の動向とこの法制審議での議論というのは,どのような影響を与えるのかどうかというのは多分,皆さんの関心があるところだろうと思います。関係するのか,関係しないのか,それか,分からないか,いろいろあると思いますけれども,この点について事務当局の方で何かお考え等分析があれば,御示唆を賜れればと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   御意見と御質問を頂いたかと思いますけれども,御意見の方は現在の折衷案の難点の御指摘がありましたけれども,結論としては甲案,乙案の両論併記で意見を問うのがよろしいのではないかというだったかと思います。それに伴って生ずる仮払いにつきまして,フランスの制度を以前に御紹介いただきましたけれども,それにはフランスの特有の制度的な背景があるという御指摘をいただき,それを勘案した上で,具体的な制度はどのようなものかというのを細かく検討する必要があるのではないかという御意見をいただいたものと承りました。   質問の2点につきまして,何かございましたらお答えをお願いします。 ○堂薗幹事 まず,1点目ですけれども,②は飽くまで相続人側からの権利行使を禁止するということでございますので,債権者側の相殺権の行使とか,そういったものは一切妨げられない。これは飽くまで遺産分割を円滑に行うために,一定の範囲で相続人の権利行使を制限するという趣旨のものでございます。   それから,大法廷に回付された事件との関係につきましては,最高裁で正にどういう判断がされるか次第でございますので,何とも言えないところはあるんですけれども,ただ,どのような判断がされても,ここで御指摘いただいているように,全て権利行使を認めると問題があるし,かといって,全く権利行使できないということだと,また,それはそれで困るという問題はあろうかと思いますので,どういった判断がされても,その点について立法的に手当をするということは,十分に考えられるのではないかと考えているところでございます。 ○大村部会長 よろしいでしょうか。   そのほか,第2項目,第3項目につきまして。 ○水野(有)委員 従前も多少,同じようなことをお聞きしたかもしれないのですが,細かいことかもしれませんが,訴訟中に当事者が亡くなった場合の帰すうというのが職業上,とても興味のあるところでして,それはひいて言えば,元々,誰が訴訟の訴えができるのかとか,執行の申立てができるのか,破産において債権届出ができるのかとか,あらゆるところで多分,問題になることとパラレルに考えるべきかどうかというところの問題があるのかなと思いまして,従前ございました甲案ですと多分,分割債権として行使できるということになるんですけれども,乙案のときにどうなるのか,よく理解ができないなと思っていたところ,折衷案になりますと,ますます,理解が難しくなりますので,その辺りについてどういうお考えかについて,是非,補足説明か何かには書いていただかないと,なかなか,意見自体が出しづらいのかなと思いましたので,よろしくお願いいたします。 ○堂薗幹事 正に御指摘のとおりだと思いますので,そこは十分考えたいと思いますが,一応,ここでお示ししているのは,②で書いてありますように,原則として分割して承継されるんですが,一定の範囲で権利行使は禁止されるという理解でございまして,ですから,ここの部分に限っていうと,甲案的なことになるのではないかと思いますが,十分にまだ詰めた検討ができておりませんので,検討したいと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○窪田委員 同じことになるのですが,基本的には浅田委員から御指摘があったとおり,甲案,乙案を維持していただいた方がよろしいのではないかなという気が致します。甲案,乙案の考え方は基本的には遺産共有の段階でどういうふうな法律関係が成り立つのかという部分で,かなり基本的な立場で異なっているのだろうと思います。もちろん,立場の違いを前提としても,甲案を採った場合に,そこで生ずる問題をどう修正するのか,乙案を採った場合に,どう修正していくのかというのは,それぞれ,考えられるとは思うのですが,その場面で折衷説というのを出すと,かえっていろいろなことがよく分からなくなるのではないかという気がします。私自身は分割承継されるとしつつ,権利行使は制限する,それも2分の1に限るというのは,一体,どう説明するのだろうという点が気になります。最後の落ち着き所としてはあるのかもしれませんが,理論的な説明はかなり困難ではないかと思います。それよりはむしろ,甲案,乙案というのを考え方としては出して,それで御意見を伺う方がいいのかなと思っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   経緯が見えた方がよろしいのではないかという御指摘かと思いますが,浅田委員,それから,窪田委員から,甲・乙併記の方がよいのではないかという御意見が出ております。これは事務当局の方もそういう御意見はあるべしということで,意見を伺いたいということでしたけれども,他の委員・幹事の方々はいかがでございましょうか。 ○増田委員 今回の案なんですけれども,多分,いずれにしても欠点を引き継いでしまうと,保全処分をする場面は事実上,少なくなるかもしれませんが,誰かに対して債権の行使を差し止める場合も,あるいは仮払いが必要になる場合も,どちらも残ってしまうということになりますので,我々の中でも検討したけれども,今回の案の支持者というのはいなかったように思います。甲案,乙案はそれぞれに理屈の上であると思うんですが,そこは前に戻して,甲案,乙案の両論で聴かれるのがいいかと思います。   ほかのことはいいですか。後にしますか。 ○大村部会長 どうぞ,おっしゃってください。 ○増田委員 2なんですけれども,私は預貯金債権に限定した方がいいと思っています。というのは,ほかの債権について遺産分割の対象に含めるというニーズがない,これは余り聞いたことがないです。預貯金につきましては前にも出ていますが,一般の方からいえば,現金と同じようなものという意識を持っているということと,それから,客観的に見て存否とか,額の争いがない,それから,債務者の資力のリスクが少ないということで,債権の実質上の価値,実価の算定が容易であるという特徴があるので,これは遺産分割の中に入れるということに合理性があると思うんですが,その他の債権,つまり額も争いがある,あるいは債務者の資力も頼りない,全額が返ってくるかどうか分からない,そのような債権一切を含めて,遺産分割の中に入れようとすると,債権の評価の問題等が出てきてかえって遺産分割がしにくくなるし,長期化する。それについては後の3(2)という手当もあるんですが,これとて遺産分割の審判においてと書かれているので,なかなか,それでは使いにくかろうと思います。   3についてはまた後で申し上げますが,取りあえず,2については以上です。 ○大村部会長 ありがとうございます。   上西委員,関係の発言ですね。どうぞ。 ○上西委員 乙案は可分債権の行使を禁止するので疑問に思います。もっとも,両方の意見があったかと記憶しておりますので,両案を併記してはどうでしょうか。また,折衷案である丙案も付記してはどうかと思います。それと,現金類似性ということで預貯金債権と広げておられますけれども,預貯金債権を限定的に捉えるのか,更に類似の金融商品もどこまで入れるかについても議論が必要です。よろしくお願いします。 ○大村部会長 ありがとうございます。   甲・乙につきましては皆様のお考え方はおおむね今のところ,甲案・乙案併記に戻した方がいいのではないかということかと思います。その上で,今,上西委員が丙案とおっしゃったのは,ここにあるようなものを丙案とするという御趣旨ですね。中間的な考え方もあり得るかもしれないことをどこかに書くことはあってもよいのではないかという御指摘かと思いました。   この点についてはどうですか。折衷案がよいというサポートがなければ,甲・乙に戻していただくという方向で整理したいと思いますけれども,よろしいでしょうか。そうしましたら,これは甲・乙に戻した上でないと,それ以上,議論しにくいところもございますので,これにつきましては甲・乙に戻していただいて,その上で改めて議論をするということにさせていただきたいと思います。   もう一つ出ました可分債権の範囲につきましては,預貯金に限るべきだという御意見があり,限るとして,それに類するものがあるかもしれないという御指摘があったかと思います。その御意見自体は従前からあるところで,この中にも取り込まれているのですけれども,増田委員は,書き方としてもう少し書いた方がいいという御趣旨でしょうか。現在は10ページの補足説明のすぐ上に,(注)の形になっておりますけれども,ここをもう少し詳しく書いた方がいいというような提案に結び付きますでしょうか。 ○増田委員 ということなんですが,つまり,「預金債権等の可分債権」というのが冒頭にありますと,みんな,預金債権をイメージすると思うんです。しかしながら,実際にはほかの可分債権というのもたくさんあるのはあるわけです。だから,ほかの可分債権にも目を向けて,ほかの可分債権も一緒でいいのかなという論点が分かるような書き方を望んでおります。 ○大村部会長 分かりました。預貯金等の等の中身が見えにくいので,そこに意識がいくような見せ方をして,そこについて意見が出てくるような形が望ましいという御意見であると受け止めましたけれども,そういうことですね。そのような配慮をしていただきたいと思いますが,そのほかはいかがでございましょうか。   先ほど3の(2)についての言及もありましたけれども,2は先ほど申し上げましたように,甲・乙併記の形でまた整理していただきますので,3の一部分割につきまして御意見を頂ければと思います。 ○増田委員 プロ的な話なのかもしれませんが,もう少し一部分割審判の性質について補足説明でもいいんですが,明らかにしていただければと思います。遺産分割というのは審判物は1個だと理解するのが一般的な考え方だろうと思いますが,そうなってくると,これは一部審判ということではなくて全部審判になるわけです。全部審判なんだけれども,申立ての範囲に含まれているものが除外された上での審判になってきます。これを終局裁判として行うのであれば,除外されたものについてはどういう判断が終局審判でなされるのか,そこに明示されるのかどうなのかというのがまず分からない。恐らく中間決定ということではなく,これは終局だとされるのだろうと思っているんですけれども,例えば一部分割の要件について争う場合の不服申立ての方法というのはどうなるのかといった辺りも,この案を見ているだけでは分からないので,その辺りは何らかの形で示していただければと思います。   それから,(2)については先ほど申し上げましたけれども,遺産分割の審判において,それは取得させるということですが,こういうものについて,例えば不法行為に基づく損害賠償債権などについて遺産分割の審判を待っていなければいけないのか,その辺りを疑問に思ったもので,遺産分割の審判においてと決め付けるのはどうかと。何らかの形で除外するような決定を早目に出せるような方策も考えられるので,その辺りは少し柔軟に示していただけた方がいいかと思います。 ○堂薗幹事 2点目のところですが,当然,遺産分割協議でやる分には,それを否定する趣旨ではないんですけれども,ここでは,遺産分割の審判において,額が決まっていない可分債権も含め,遺産全体の分配をすることを認めるということを考えておりますが,その前の段階というと,中間的にその部分を排除できるようにすべきではないかという御趣旨ですか。 ○増田委員 そういう考え方もあるのではないかということです。 ○堂薗幹事 どちらかというと,最初の質問と関係するのかもしれませんが,この一部分割で考えているものは,申し立てられた審判事項のうち,一部についてはまだ額等が決まっていないので,未だ遺産分割の判断をするに熟していないということで,その部分を除外して,その余のものについて判断できるということでございまして,現行の一部分割だと残部について更に判断しなければならないということになるのかもしれませんが,ここで考えているのは一部を除外して,その事件についてはそれで終結させることができるというものです。その後,除外されたものについて権利内容が確定した場合には,その段階で改めて必要があれば遺産分割の申立てをしていただくというようなものを考えております。ですから,(1)の方があらかじめ除外するパターンでございまして,(2)の方がまだ額が確定していない時点で,一括して全体について遺産分割をしてしまうということを考えているということでございます。 ○増田委員 イメージとして遺産分割の審判をする前の段階で,一部の財産を除外するなどの裁判があるということなんでしょうか。そこが大きくイメージとして変わってくるんですよね。 ○堂薗幹事 こちらで考えているのは,(1)も(2)も中間的に判断をするのではなくて,全体について判断をするというものです。ですから,一部分割をする場合も一部の財産を除外した上で,その余の財産についての分配方法を定める審判をするわけですので,遺産の一部が除外されたことについて不服があるとして不服申立てがされた場合でも,それによってその事件全体が移審するということにならざるを得ないのではないかと考えているところです。 ○増田委員 それであるならば,その旨を補足説明で明確にしていただくとともに,途中で除外するというような選択肢はないでしょうかね。少し検討していただいて,私も余りまだ詰めて検討したわけではありませんので,その点は考えたいと思います。 ○堂薗幹事 中間確認的なものはあり得るのではないかと思いますので,そこは将来の検討課題ということにさせていただければと思います。 ○大村部会長 今の点も含めまして,第3につきまして御意見がありましたら,更に承りたいと思いますが,いかがでしょうか。 ○石井幹事 今,御提案されている一部分割の主な活用場面としては,残部分割の中で特別受益や寄与分について考慮する必要がない場合が想定されているのかなと読んでおったんですけれども,仮にその場合以外は一部分割を活用できないということになれば,一部分割を活用することによって存否又は範囲等に争いのある可分債権を遺産分割の対象から適切に除外し切れるのかという懸念が出てまいりますので,そうではないということであれば,その旨を補足説明の中で記載していただけば有り難いなと考えております。   また,今回,新たに御提案いただいた(2)のところにつきましても,対象となる債権については,何らかの形で特定する必要があると思うんですけれども,どの程度,特定が必要で,どういった主文になって,審判がなされた後にどういった形で権利行使がされるのかといったことについてもある程度,補足説明等で明らかにしていただくと,より意見が申し上げやすいのかなと思っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   補足説明の方で工夫をしていただきたいと思いますが,その他,御意見,御要望はございませんでしょうか。 ○垣内幹事 (2)の部分の説明の仕方についてのお願いということになるかと思うんですけれども,私が理解しましたところでは,(2)が活用される事例というのは,結局,タイトルにある一部分割,それから,残部分割がされるのではなくて,最初の審判で全て分割したことになるという,ですから,全部分割をするということかと思いますので,今,現状での14ページの御説明を拝見しますと,1行目の全部分割をすることができない場合とか,あるいは2段落目のところの4行目の,このような取扱いは残部分割の対象財産がうんぬんとなっておりまして,これだけ卒然と読むと,この場合でも全部分割はできないので,残部分割はあるんだけれども,その残部分割の対象が可分債権であるというような場合を,何かそういう規律を想定されているようにとれなくもないような感じが致しまして,仮にこの制度がなかったとすれば全部分割ができない場合とか,この制度がなかったとすれば残部分割の対象として可分債権等がある場合という御趣旨かなと思いまして,その辺りを少し説明を工夫していただくとよいのではないかという感じが致しました。 ○大村部会長 御指摘を承って,工夫をお願いしたいと思います。   そのほか,いかがでございましょうか。   それでは,この点につきましては,主として補足説明の方を工夫していただくということで,更に御検討いただきたいと思います。   続きまして,第3という大きな項目の「遺言制度の見直し」という部分になります。資料では14ページ以下です。ここには4項目がございますけれども,一括して説明を頂きまして,説明を頂いたところで休憩を挟ませていただきたいと思います。では,事務当局の方から説明をお願いいたします。 ○大塚関係官 「第3 遺言制度の見直し」についてでございます。大きな柱が四つございまして,一つ目が14ページ以下の「自筆証書遺言の方式緩和」,二つ目が15ページ以下の「遺言事項及び遺言の効力等に関する見直し」,三つ目が17ページ以下にあります「自筆証書遺言の保管制度の創設」,そして,四つ目が18ページ以下の「遺言執行者の権限の明確化等」ということでございます。順次,御説明申し上げます。   14ページ以下でございますが,「自筆証書遺言の方式緩和」についてであります。(1)の自書を要求する範囲の緩和についてでございますが,これは従前の考え方を踏襲しつつ,新たに②の中で押印をしなければならないというところが変更箇所なんですけれども,遺言書のうち,自書でない部分があるページには,その全てに遺言者の署名だけでなく,押印をも必ず要求するということにしたという変更でございます。   次に,冒頭で配布資料として御説明いたしました裏表で記載しております「自筆証書遺言の方式の緩和方策として考えられる例」を取り出していただけますでしょうか。こちらについて若干,御説明申し上げます。こちらは,この方策を講ずるとした場合に,具体的にどのような遺言書となり得るかについて一つのイメージを御提示申し上げたものでございます。   まず,1ページ目の遺言書本文につきましては,従前どおり,全て自書を要求するものとしております。その中で例えば1項におきまして,別紙目録第1記載の不動産を長男,甲野一郎に相続させると記載しておりますけれども,ここの別紙目録というものに対応するのを裏面の2ページとして添付するということを想定しているものでございます。この物件等目録につきましては,こちらは基本的に自書でなくても例えばパソコンで作成してもよいとした上で,右下にある署名につきましては自書を要求すると,そして,押印をするということを想定しているものでございます。なお,1ページと2ページ,今回は裏表ということになっておりますけれども,どのように結合させるのかということにつきましては,明確には記載しているものではございませんが,基本的には従前の実務運用と同様に一つにとじて契印,押捺するなりということを想定しているものでございます。(1)は以上です。   (2)の加除訂正の方式につきましては,特段の変更はございません。   続きまして,15ページ以下,資料の方にお戻りいただきまして,「2 遺言事項及び遺言の効力等に関する見直し」でございます。(1)の「権利の承継に関する規律」におきましては,お進みいただきまして16ページの②におきまして,上から3行目ですが,こちらで遺言によって法定相続分を超える債権を取得した相続人につきまして,債務者及び第三者対抗要件の定めを加えてございます。内容としては遺産分割における可分債権の債務者,あるいは第三者対抗要件と基本的には同じでございますが,遺産分割の場合と異なり,権利者が単独で対抗要件を具備できるようにはしておりませんで,これに代わるものとして,遺言執行者が選任されている遺言執行者が遺言の内容を明らかにする書面を示して債務者に通知する方法によりまして,債務者等の対抗要件を具備し得るということとしてございます。   (2)の「義務承継に関する規律」についてですが,以前の部会資料9におきましては,相続人から債権者に対しての催告の定めを盛り込んでおりましたけれども,これにつきましては濫用的な利用のおそれがあるといった御指摘を頂いたところでもございますので,今回はその記載は削除させていただいております。   2についての御説明は以上でございまして,続いて17ページ中段の「3 自筆証書遺言の保管制度の創設」についてでございます。こちらも基本的は従前の部会資料の内容を踏襲しておるものでございますが,これまで頂きました御指摘を踏まえて,新たに②と④を明文で加えてございます。②と申しますのは,遺言の保管の申出を遺言者本人に限りすることができるとしたものでございます。④の方は相続人であれば,相続開始後に公的機関に保管されている遺言書の原本を閲覧することができるとしたものでございます。なお,公的機関をどこにするか,あるいは公的機関に保管された遺言について検認を不要とするか否かにつきましては,今回の段階では今後も引き続き検討ということにさせていただいております。   3についての御説明は以上で,続いて18ページ目以下でございますが,「4 遺言執行者の権限の明確化等」でございます。   (1)の「遺言執行者の一般的な権限及び義務等」の項目は,新たに設けたものでございます。これは前回までの会議におきまして,遺言執行者は相続人の代理人としてではなく,専ら遺言者の遺志の実現のために職務をすべきであるといった御指摘を頂いたことを踏まえたものでございます。具体的には,①におきましては民法第1015条を削除し,その代わりとして,こちらの遺言執行者は遺言の内容を実現することを職務とし,その行為の効果は相続人に帰属という規律を盛り込んだものでございます。また,従前の御指摘で相続人が遺言執行者の存在あるいは遺言の内容を認識することができるようにすべしという御指摘もあったことも踏まえまして,②としてその通知に関する定めを設けてございます。   次に,(2)の「個別の類型における権限の内容」についてですが,こちらはこれまでの会議におきまして,例えば預金債権が遺贈されるなどした場合に,現行の銀行実務では遺言執行者に払戻し権限を認めるという取扱いがされているので,その旨を明文化すべきといった御指摘がございました。これを踏まえましてイの③,これは19ページ目になりますが,こちらを新たに設けてございます。他方,前回の会議では預金の引出しに関して遺言執行者が引き出した預金を不適切に処理することによって,受贈者などが損害を受けるおそれは否定できないといった懸念も示されたところでございますので,それに配慮いたしまして,③におきましては,括弧書きではございますが,遺言執行者が利益相反的な相続人の場合には,これを認めないものとするということも考えられる旨をお示ししてございます。   それから,20ページにお進みいただきまして,下の方にございます2の「第10回会議で受けたその他の指摘について」でございます。前回におきまして,仮に,15ページの①の方策,具体的には遺言によって権利取得した相続人は,その法定相続分に相当する場合を超える部分については,対抗要件を備えなければ第三者に対抗できないものとするという方策を講ずるのであれば,18ページの③の案1の方策をあえて講ずる必要はないのではないかと,こういった御指摘を頂いたところでございます。   しかしながら,例えば同一の不動産について遺贈と相続人による売却等の処分がされた場合につきましては,判例によりますと原則として受遺者と相続人からの譲受人とは対抗関係に立つことになりますが,遺言執行者がいる場合には対抗関係は生じないとされてございます。そうしますと,15ページの①の方策によって対抗問題として一般的に処理する旨,明確にしたとしましても,1013条の規定が存続する限りは遺言執行者がいる場合について対抗関係は生じないという判断がされる可能性は,いまだ否定はできないのではないかと思われます。そこで,今回の18ページの③の案1は遺言執行者の有無にかかわらず,全てを対抗問題として処理することを明確にする趣旨から,民法1013条の見直しを御提案申し上げているものでございます。   この下の案2でございますが,こちらは前回,複数の委員から相続人の譲受人が悪意であるような場合まで,遺言に反した権利取得を認める必要はないのではないかという御指摘を頂いたことも踏まえまして,こちらは1013条の枠組みは残しつつ,善意者保護の規定を創設するとしたものでございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   それでは,先ほど申し上げましたように,ここで一旦,休憩させていただきまして,4時から再開いたしまして,その後に御意見を伺いたいと思います。一旦,休憩いたします。           (休     憩) ○大村部会長 それでは,4時になりましたので再開させていただきたいと思います。   14ページ以下の「第3 遺言制度の見直し」という点につきまして,先ほど事務当局から御説明を頂いたところでございます。四つの項目が立っておりますので,順次,御意見を頂ければと思います。   まず,一つ目が「自筆証書遺言の方式緩和」ですけれども,この点につきましては参考資料として遺言書のひな形が配布されているかと思いますが,1の(1)の②で,遺言者は,その事項が記載された全てのページにその氏名を自書し,これに押印しなければならないものとするということ,それから,(2)で変更箇所に署名及び押印が必要とされていた点を改め,署名又は押印のいずれかがあれば足りるものとするということ,これらの点が主要な変更点かと思いますが,これらにつきまして御意見を頂ければ幸いです。 ○南部委員 まず,遺言の書面ですが,これはこれでよいかということで思っております。その上で,(2)の加除訂正の方式でございます。実はこのときの議論に私は少し中座させていただきましたので,参加できていないということも含めて意見を言わせていただきます。簡素化されるはよいかと思いますが,署名又は押印ということで,署名は必ずしも本人がしなければならないのはよく分かると。でも,押印というのはいろいろな形が今,あると思いますので,ここは署名を重視した形がよいかということの意見が一つです。その上で,パブリックコメントでここを選択肢として聴くのはいかがなものかとは思うんですけれども,もし仮に署名又は押印ということで,ここで決め打ちでパブリックコメントをするか,それとも選択肢の中にいろいろなものを入れて,パブリックコメントをするかということも含めた議論を深めていただければと思っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   (2)について御意見を頂きました。慎重に考える必要があるのではないか,それを選択肢の中に含めた方がよいのではないかという御指摘だったかと思います。   そのほかの皆様,いかがでしょうか。 ○垣内幹事 提示に関する御質問が1点と,あと,それから,若干の感想が1点ということなんですけれども,この論点そのものについて私は必ずしも定見等があるわけではないんですけれども,提示の仕方に関して御質問というのは,今日,お配りいただいている遺言書の書式というのがございますけれども,これも何か補足説明の添付資料みたいな形でお付けになるのかどうかということ,あった方が分かりやすいという考慮はあるかと思いますけれども,その点のお尋ねが一つで,あと,関連いたしまして,この書式例を拝見して思ったのですけれども,14ページのところで自書以外の方法で記載できる事項というのが対象となる財産の特定に関する事項だと。(注1)で不動産の表示,預貯金の表示等となっております。   この書式例ですと,遺言書の第1項で別紙目録第1記載の不動産と不動産が表示されておりまして,裏の目録で,土地,建物,区分所有権と並んでいて,この書式例を見ますと,自書の遺言書の本文では別紙目録何とか記載の不動産と書いておけば,自書でない目録で不動産が何百個も並んでいても,それはそれで別に構わないという趣旨なのかなと読めますけれども,その辺りが自書の遺言書本文でどの辺りまで特定するか,例えば別紙目録第1記載の不動産1,2,3,4とか,そう書かなければいけないのかどうかといった,細かい点かもしれませんけれども,問題点もあろうかと思いますので,もし,こういうものをお示しになるようであれば,その点についても若干の考慮を要するのかなと思います。それによって大分,制度のイメージが変わってくるところがあろうかという気が致しました。 ○大村部会長 ありがとうございます。   今の点について,いかがですか。 ○堂薗幹事 中間試案の補足説明で,どのようなものを載せるかという点について,まだ,全く検討ができておりませんので,今後検討していきたいと思いますが,この部分については,なかなか,文字だけを見てもイメージがしにくいという御意見は従前からあったかと思いますので,こういった形でイメージを持っていただけるような形に工夫をするということは十分に考えられるのではないかと思います。その辺りは検討していきたいと思います。 ○大村部会長 第2点として御指摘された点は,別紙というものがどのくらいの規模になるのかということにも関わっているかと思いますけれども,提案の中では,その事項が記載された全てのページに氏名を自書する,押印するということになっていますので,ページのごとに署名,押印がされるという形で区切られていくのだろうと思いますけれども,垣内幹事がおっしゃった問題はなお残っていると思いますので,その点もさらに整理していただきたいと思います。   ほかに何かございますか。 ○中田委員 今の点なんですけれども,二つあります。   まず,1(1)の②で全てのページにその氏名を自書しとあるんですが,氏名を自書するということと署名とが同じなのか,違うのかということです。説明の中では署名と書いておられて,ほかのところでも署名という表現があるものですから,氏名を自書しというのが何か別のものであるかのように読めてしまうかもしれませんので,御検討いただければと思います。   それから,もう一つはこれによって改ざん等が防げるということだと思うんですけれども,複数の目録があるときに,一部が欠けてしまうということについては,どのようにして防げるのだろうかということについてお考えがあれば教えてください。 ○大村部会長 第1点は表現の問題として検討していただくということで,第2点について何かありましたらお願いします。 ○堂薗幹事 その点は御指摘を踏まえて検討させていただければと思います。 ○大村部会長 そのほか,いかがでしょうか。 ○増田委員 ほかではなく,先ほどの南部委員の御意見と同じなんですけれども,前回の議論では,押印のみは偽造防止の観点から避けた方がいいという意見が複数あったと思います。ですから,聴くときには署名又は押印ではスルーしてしまう可能性があるので,押印のみ,署名のみでもいいのかというような形で意識的に書き分けていただければと思います。 ○大村部会長 その点につきましては,事務当局の方で御検討いただくということにさせていただきたいと思います。   その他の点についていかがでしょうか。 ○上西委員 15ページの注書きで加除訂正のために押印する場合について,印の同一性が書かれてあります。加除訂正は遺言書作成時にする場合も,後日にする場合もあります。作成時についての加除訂正は同じ印であるべきですが,後日に加除訂正する場合について,その印を紛失していることもあります。そうした場合については実印に限るといったような考え方もあります。 ○大村部会長 その点も御検討いただくということにさせていただきたいと思います。   そのほかについてはいかがでしょうか。   それでは,この件につきましては,皆様,(1)の大筋については御異論はないということで,しかし,1の②につきましては,細かい点が幾つか不明瞭になっているようなので,そこにつきましては説明を工夫していただく,それから,(2)につきましては,選択肢はこれでよいかどうかということにつき複数の御意見がありました。また,従来の議論の経緯も含めまして,もう少し,ここのところを膨らませていただくという方向で御検討いただく。以上のようにまとめたいと思いますが,よろしいでしょうか。では,この点につきましては,そのようにさせていただきます。   では,引き続きまして,2の「遺言事項及び遺言の効力等に関する見直し」という部分について御意見を伺いたいと思います。16ページの(1)の②で,対抗要件につき整理したということ,それから,補足説明に出てまいりますけれども,催告制度というのが,従前,取り上げられておりましたけれども,これを今回は削除しているといった修正がなされておりますけれども,「2 遺言事項及び遺言の効力等に関する見直し」という項目につきまして御意見を頂ければと思います。 ○浅田委員 今回,整除された2点についての意見と,それから,それに関連する質問ないしは御依頼事項を申し上げたいと思います。   まず,(1)②でありますけれども,遺言によって権利を取得した場合でも,法定相続分を超える部分について,対抗要件を具備するまで第三者対抗力を有しないという整理になったということについては特に異論はありませんので,この見せ方でよろしいかと思います。また,催告制度に関しても議論が若干ありましたけれども,私どもとしてはこういう形で削除したということであっても別に異論はございませんので,この提案ということについてはこれでよろしいかと思います。   一方で,質問でありますけれども,(1)②に関することで,新たにウとして規律される債務者の承諾についてです。これは単なる事実を確認するにとどまらず,正に債務者としての銀行が承諾の可否を決するものということでありますけれども,承諾するかしないかというのは当該債務者の裁量によるべきものと思われます。つまり,承諾する義務があるとか,そういうものではなくて,するかしないかという裁量権を持った債務者が承諾した場合という理解でいますけれども,その理解でよいかということであります。   なぜ,そのような意見を申し上げる,ないしは質問するかということを申し上げますと,例えば銀行窓口を考えますと,銀行窓口において当該承諾を行う場面が出てくるものと思いますけれども,その是非をめぐって相続人等との間で何らかのトラブルが生じないかということが懸念されるわけであります。実務にも配慮し,承諾の対象が何なのかと,これは銀行実務サイドの問題でもありますが,今回の立案の趣旨として,どのような書類等が提示されるのか,また,どのような場合に承諾すべきなのか等について,できる限り明確化を補足説明でしていただければと思います。   それを受けまして銀行窓口でも預金払戻しを念頭に,今後,細かな点で詰めておく必要もあろうかと思います。一例を挙げますと,銀行預金というのは支店毎に取引がされているというのが実情でありますけれども,したがって,預金債権も支店毎に発生する立て付けで管理しているということであります。すると,支店毎に当該支店にある預金について承諾するという場合もあろうかと思います。A支店では承諾するけれども,B支店は管轄外ですので知りませんというようなこともあります。このような一部承諾というものが許容されるかどうかということについては,この立案の趣旨等を確認しながら,それを受けて銀行でも議論しなければならないという状況も出てくるということも御勘案の上,補足説明については十分,御留意いただければと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   全体についてはこれでよろしいのではないかという御意見だと承りました。それから,(1)の②のウの承諾について,補足説明の中で一定の説明をしてほしいという御要望だと承りましたけれども,検討するということでよろしゅうございますか。今,先ほど御質問というのもございましたけれども。 ○浅田委員 もし御回答があれば,ここでお願いしたいと。 ○堂薗幹事 この承諾につきましては,債務者の裁量で承諾するかどうかが決められるということでございまして,ですから,債務者が承諾しない場合は権利者側としては,アかイの形で対抗要件を備えない限りは第三者には対抗できない,あるいは債務者には対抗できないという整理でございます。 ○浅田委員 お願いですが,簡単でいいので,その点について補足説明で書いていただければ有り難いと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   そのほか,いかがでございましょうか。 ○南部委員 少し今の意見とは逆になるかも分からないんですけれども,相続人が登記しなければ法定相続分を超える部分について第三者に対抗することができないこととすることについてなんですが,一般的な感覚というか,今の現状の法律でいくと,相続になれば登記をすぐにしなくても,そのままというように聞きました。なので,今,もし仮にすぐに登記が必要であるということの法律を変えることが必要であれば,その周知というのがすごく必要になるかと思います。なので,パブリックコメントをする際に当たってはできれば,ここに現行法であればこうだけれども,今回,こういう変更も考えられるというような併記で書いていただければ,非常に私たち一般人にとって分かりやすいのではないかということでございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   御意見として承りました。今回の資料には補足説明がございますけれども,これは委員・幹事の先生方に宛てた補足説明でございますので,これまでの議論の経緯を御存じであるいうのが前提で,その上で,前回,議論したときの資料とどこが違うかという説明になっているかと思います。パブリックコメントに当たりましては,現行法との違いから始まりまして,これまでの議論の経緯も一定の形でまとめて記載していただくことになろうかと思います。今,御指摘の点は,その中で勘案していただくということになろうかと思いますが,それでよろしゅうございましょうか。   その他,いかがでしょうか。 ○中田委員 (1)(2)以外でもよろしいでしょうか。(3)についてですが,内容はこれで結構なんですけれども,確定という言葉が使われております。これは贈与についての551条の改正に当たって,民法(債権関係)部会の方では途中まで確定という言葉が使われていたんですけれども,最後の段階で特定という言葉に統一するようになったと思いますので,御検討いただければと思います。   それから,今,申し上げた551条については債権関係部会ではどのような性質のものかということが結構,議論になりまして,最終的に推定するという表現になっているわけですが,(3)の①もコンセプトは新しい551条と同じようなものだという理解でよろしいんですね。つまり,特定物ドグマを前提とはしていないという理解でよろしいかという確認ですけれども。 ○堂薗幹事 基本的に御指摘のとおりでございまして,ここで推定すると書かなかったのは,現行法の下でも,遺言については基本的に原則な規律を設けた上で,ただし書において,遺言者がその点について別段の意思を表示しているときは,その意思に従うというような規定ぶりになっているので,それに合わせたということでございまして,基本的には贈与と同じ並びでこちらも考えているということでございます。したがって,特定物に限るとか,そういうものではないという理解です。 ○中田委員 分かりました。 ○大村部会長 文言の点は御指摘を踏まえて検討していただくということにしたいと思います。   そのほか。 ○窪田委員 大変小さいところなのですが,少しだけ言葉が気になったものですから。16ページの「(2)義務の承継に関する規律」の①の部分なのですが,2行目から「遺言により相続債務について各相続人の承継割合が定められたときであっても」という言葉が入っております。そういうふうな割合を定めてあって,基本的には法定相続分で承継するのだとした上で,②の方で更に遺言による場合であったとしても,相続分の指定,包括遺贈の場合にのみ,言わばそれが負担部分を決定することにつながるという枠組みなのだろうと思いますが,その意味では,遺言による相続債務について各相続人の承継割合が定められたときであってもというのは大変に居心地の悪い,なくてもいいのではないかという感じが致します。つまり,相続分の指定にも包括遺贈にも当たらなくて,お前,債務だけはこれを引き受けろというような遺言なんていうのは,そもそも,意味があるのかという点を考えたときに,こうした規定を置くとかえって疑義を生じさせるような気がします。このことはとってしまった方が分かりやすいのかなという気が致しました。この点は,意見です。 ○大村部会長 ありがとうございました。   御指摘を踏まえて整理をしていただきたいと思います。   ほかにいかがでしょうか。   それでは,今のような御指摘を踏まえて少し修正をしていただくということで,先に進ませていただきたいと存じます。3番目は17ページの「自筆証書遺言の保管制度の創設」という項目でございます。これにつきましては,②と③を明確化したという御説明があったかと思いますけれども,御意見を頂ければと思います。 ○上西委員 検認手続を不要とすることが考えられるという書きぶりです。元々は検認手続きをなくすための制度の設計だったので,これでよいと思います。   公証役場では謄本を作成してもらえます。今回の場合は自筆証書遺言ですので,謄本は普通ないわけです。閲覧することができることになるかと思いますが,閲覧の次にくる要望は謄写できるかどうかなんです。コピーをして謄本である旨を記載することになるかと思います。その理由は,自筆証書遺言であるがゆえに,記載がされている内容を確認すると同時に,どのような書きぶりであるのかを当事者が見たいということもあるからです。閲覧だけではなく,謄写等を認めることは,現場に負担を掛けることは重々承知していますが,検討していただきたいと考えます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   検討いただくということにさせていただきたいと思います。 ○水野(紀)委員 実は先ほどの「権利の承継に関する規律」の①のところで発言しようかと思ったのですが,全体の制度設計のイメージの問題をお伺いしたいと思います。今の自筆証書の保管制度の創設も,これによって遺言の存否がどれくらい分かるようになるかが,後の全体の制度設計に影響してくるように思います。つまり,第三者が遺言の存在を簡単に知ることができるのか,第三者本人は分からなくても相続人に確認しないといけない義務をどの程度,第三者に,取引相手に負わせるのか,そんなことのイメージも,全部,絡んでくるように思うのです。   そして,相続人が遺言によって取得しても対抗要件を設定しなければ,第三者に対抗できないという,先ほどの制度設計そのものの評価にも,また影響してくるように思います。相続法改正の範囲がどんどん余りにも広くなっておりまして,私の非力ゆえではあるのですが,なかなか追い付けておりません。民法学者がこれまで十分に相続法の議論をしてこなかったことがあり,その一員としての責めも十分感じつつなのですけれども,少し大きな話をさせていただきます。その次の遺言執行者の1013条そのものを削除する,あるいは1013条をどのように見直すかという議論にも絡んでくるのですが,1013条というのは本来,遺産分割とか,遺言執行をどのように設計するかによって,その重要度は全然違ってくるものだと思います。現状の相続法運営では,削除した方がよいだろうとは思うのですが,全体に手を入れるとなると,評価も揺れてきます。   フランス法の場合には公証人が,そして,ドイツ法の場合は遺言執行者や遺産裁判所が,公的アクターとして関与して遺産分割の手続を束ねているわけですが,日本はそこのところが完全に遺族に委ねられていて,家族の私的自治に任され切っている国です。その代わりに戸籍と不動産登記がある国なので,この両者を利用して,最高裁判例が法定相続を中心にした形の取引安全を図ってきました。そして,21ページに最高裁の判例を挙げてありますけれども,これらもそういう遺産分割や遺言執行がきちんとなっていない中で,最高裁が,登記と戸籍に依存しながら,言わば場当たり的にじたばたやってきたということなのでしょう。そして,このような全体をどちらの方向に整除しようとされておられるのか,そのイメージをお伺いしたいなと思います。   もし,これから本当に遺言をどんどん活発化させるということですと,本当は相続の過程を改革する必要があろうと思います。取引相手としては遺言の有無を確認し,そして,遺言の実行を相続開始後,ある程度,早期に安定した形で行わせ,それに伴う遺産分割まで行わせるというイメージだったとすると,遺言執行者がいる場合には相続人の処分権を奪う1013条は重要な規定になってくるだろうと思います。そして,それを本来の在るべき姿として設計しておいて,そちらの方向へ誘導していきながら,ただ日本はこれまでそういう姿ではなかったので,そのギャップの弥縫策をとっていくという,そういう制度設計になるのでしょうか。それとも,そうではなくて従来の私的自治に完全に任せておいて,戸籍と登記で法定相続中心に回ってきた最高裁の判例の線を少し微調整しながらいくのでしょうか。そのどちらのほうをイメージとして抱いて設計しておられるのでしょうか。   これはもっと先のところで申し上げるべきことなのかもしれないのですが,遺言執行者の復任権・選任・解任等のところも,これも遺言を活用するとなると,本当はすごく議論が必要なはずです。このあたりはドイツ法の影響を受けた条文ですが,日本でこんなことができるのかと私はかねてから疑問でした。現在の数字はわかりませんが,「注釈民法」では,大体,年間数十件のオーダーで選任・解任と書かれています。これから遺言を盛んにして使いやすくするのなら,遺言執行者はもちろん付くでしょう。遺言執行の内容がよく分からない人が親族から頼まれたので引き受けたが,引き受けてみたらものすごく大変だった,でも,家庭裁判所へ行かないと辞任できないことになると,困ったことになるでしょうし,家庭裁判所がそれだけの負担に耐えられるのかも,また,考えなくてはならないだろうと思います。   この辺りまで手を加えることになると,また,本来は手を加えなければいけないとは思うのですけれども,母法国と日本とでは,日本の裁判官の数が圧倒的に少ないという司法インフラの違いがあり,その前提の相異という難題も考慮に入れた上で,設計しなくてはいけません。そういう制度設計全体についてのイメージは,細部の議論にもかかわってくるだろうと考えております。なんだか非常に大きな話になって申し訳ありませんが,こちらの方向で整序したいというイメージがおありでしたら,御教示いただければと思うのですが。 ○大村部会長 非常に大きな問題で,今,イメージを示してほしいということでしたが,水野委員がお持ちになっている対照軸というのでしょうか,こういう方向にいくのか,あういう方向にいくのかという対照軸があると思います。私的自治という言葉も使われましたけれども,何と何を対比されているのかというのをもう少し特定していただくと,その間にあってこの提案のポジションはここですとお答えいただけるかもしれないと思うんですけれども,その辺りはいかがでしょうか。 ○水野(紀)委員 法定相続分通りの法定相続を原則にして,かつ,法定相続分で基本的に取引安全を維持するという方向になりますと,遺言という存在は,それに例外的に加わるものなので,遺言の受益者の側で,一生懸命,自衛しないと実現できないようなものであって,第三者は法定相続を頼りにして取引をしていけばいいというのが,昭和時代の最高裁判所が築き上げてきた日本の戸籍と登記に依存した形の制度設計でした。指定相続分や相続させる旨の遺言についての判例は,この設計を一部壊してしまいましたが。いずれにせよ,この制度設計はリスクを抱えていて,そのリスクはときとして受益者が,あるいは場合によって共同相続人や第三者が負うのです。ですから,このような制度設計がよいとは私は実は思っていません。本当は1013条が体現しているような,遺産分割や遺言実行前の取引を禁止して,遺産分割や遺言実行がきちんとまんべんなく安定的に行われる制度設計の方が本来の筋だとは思っているのですが,そちらを目指すというのは本当に大改革になり,相当の力業であることは確かだと思います。現状からの大改革になりますので,難しいでしょう。   でも今回の改正が,自筆遺言証書も簡単にできるようにして,遺言執行者の権限なども整除して遺言を実行しやすくし,遺言をこれから活用してもらう方向に舵を切るのなら,1013条を手がかりに,法定相続を漫然と信頼した人は必ずしも救出されないという方向で制度設計を組むという方向はありうると思います。つまり全体として相続開始から間もない時期に遺言も実行され,遺産分割も実行されるべきだという方向に誘導するような,そういう制度設計をお考えなのでしょうか。そちらの方が本筋だとは思っているのですが,そうだとすると,相当にあちこち手当が必要になることは間違いありません。 ○大村部会長 ありがとうございます。   現行の制度がどういう前提に立っていて,それに修正を加えたときに,それがどういう判断をしたことになるのかという問題設定については,計画に基づいて設計できるようなことがらなのかという問題はあろうかと思います。その点は留保した上で,もし,今の点につきまして事務当局の方から何かお答えがあれば頂きたいと思います。 ○堂薗幹事 基本的に今回の方策の中で遺言をできるだけ使いやすくしようですとか,第三者にも閲覧を認めようとかいうのはあるんですが,ただ,制度として,それできちんと問題なくできるような制度を仕組めるというところまではいかないだろうと思います。この遺言保管制度につきましても,どの程度利用されるかというのは未知数ですので,結局,遺言があるかどうかが分からないために第三者の取引の安全が害される場面というのはどうしても出てくるものと思います。そうだとすると,1013条のような形で遺言があれば,基本的には遺言どおりに清算をするというところまではなかなかいかないのでないかと。したがって,ここで考えているのは,第三者からしますと,遺言によって法定相続分を超える権利移転があったかどうかを把握することは通常できないので,そこは対抗問題として処理してしまった方がいいのではないかということでございます。   現行の判例では,相続させる旨の遺言と遺贈とで取扱いを変えており,両者は承継原因が包括承継なのか,特定承継なのかという点で違いがあるとは思いますが,相続させる旨の遺言については対抗関係に立たない,遺贈については対抗関係に立つということになっているんですけれども,少なくとも法定相続を超える部分については,意思表示によって権利変動が生じるので,そこについては同じように対抗関係で決してしまうという方がいいのではないかという前提で考えておりまして,したがって,この遺産分割のところもそうですし,遺言のところもそうですが,原則としては法定相続分を超える部分については全て対抗要件で決するということで整理しているというところでございます。 ○大村部会長 水野委員,いかがでしょうか。 ○水野(紀)委員 1013条がかなり大きな意味を持ってくるのだろうと思います。1013条が生きていれば,こういう対抗問題も遺言執行者を付けると,全て飛んでしまうということになります。 ○大村部会長 今の御指摘のとおりだと思いますので,ここの問題は後ろに跳ねるというか,後ろが本丸であるとも言えますので,そちらで改めて御議論いただくということで進めさせていただいてよろしいでしょうか。 ○八木委員 遺言制度見直しと,タイトルはなっているのですけれども,前の配偶者居住権だとか,遺産分割の見直しという点については,何のための見直しなのかということが大体分かるわけです。すなわち,配偶者保護というところが出ているのだと思うのですけれども,パブリックコメントということになってくると,ここも何のための見直しなのかという部分が問われると思うんです。これは方式の緩和,それから,保管制度の創設,遺言執行者の権限明確化と並んでくると,遺言相続を政策的に促していると一般的にはとられると思うのです。しかし,今のお話を聞いていますと,その辺は価値中立的な感じがするので,その辺の表現を工夫された方がいいのではないかと思いました。 ○大村部会長 御指摘を踏まえて表現は考えていただきたいと思います。確かに全体として,遺言というものを使いやすい制度にしようという,そういう志向性がここにはあると思うのですけれども,では,遺言で全てをやれるかという先ほどの水野委員の根本的な御質問との関係でいうと,それでできるとは事務当局としては考えていないということだろうと思います。ですから,遺言制度を見直して,従来よりは遺言を使いやすいようにしようという方向に一歩を踏み出すというのがこの提案かと思いますけれども,そうした趣旨が十分に伝わるような形で説明していただくということにしたいと思います。 ○浅田委員 先ほどの点に関連して意見を述べたいと思います。そもそも,自筆証書遺言の保管制度の創設というのは,銀行界から提案させていただいたものと認識しております。これにはいろいろな論点等があるかと思います。また,水野先生から御提起されました,そもそも,相続法規全体像の中でどういう位置付けになるのかということも大きな議論だと思います。ただ,私どもとしては,基本的に実務を取り扱う者として,今ある遺言というものの信頼性を,また,利便性を向上していく観点から,有益ではないかという問題意識で提案しているわけです。従前,申し上げていることの繰り返しになるかもしれませんけれども,現在の遺言というものをなるべく簡易に探知できるように,また,保存できるようにする制度は,例えば一人きりの老人ということが多くなっているという社会情勢に鑑みても,非常に有益ではないのかなと思います。   それに加えて,私どもとして希望しているのは,このような保管された自筆遺言に対して何らかの法的な信頼性を向上するための一定の推認力であるとか,あとは受理するときの形式要件のチェックであるとか,そういうことは検討点として御依頼したところであります。これはなかなか難しいという話でありますが,ただ,私は現在の提案というのは,それを今後,検討することができるための第一歩だと思っております。したがって,取りあえず小さく始めて,今後,言わば実質的な,または事実上の遺言に対する信用力というのが高まってきて,それによって遺言が活性化するということになれば,更なる法政策というのも考え得るのではないかと,その一歩として,この制度というのを考えればいいと思っているわけであります。   もちろん,この制度を導入するからには,相応のコストというのも掛かるということは認識しておりますので,国民にてかかるコストを負担してまで,その利便性を享受することを選択するかということについて,是非ともパブコメで諮っていただきたいな,というのが意見でございます。   あと,別の観点からのコメントでありますけれども,18ページの上のところで検認の不要の是非について問題提起がされているところであります。若干,上西委員の発言の趣旨とずれるところがあるかもしれませんけれども,私としては現状の検認制度というのは,相続人の範囲を確定させる手続を経るというものでありますので,保管制度を利用する遺言についても,相続人間で遺言に争いがないことに対する一定の牽制効果というのは残ると思われます。だからといって,直ちにマルか,ペケかということではないわけですけれども,この点も踏まえ,検認を不要としていいかどうかということは,慎重に検討していただければと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   最後の点,検認につきましては御意見が分かれ得るということで,それも踏まえまして補足説明を検討していただきたいと思います。 ○南部委員 質問です。ここの(注)に書いてある公的機関は,どこをイメージされているかという質問が1点です。例えば市町村が全国に点在する公的機関の一つであると思うんですけれども,そこをイメージされているのであれば,保管,セキュリティの問題で例えば転居したときの問題等々をどう考えていらっしゃるかということ,例えばマイナンバーの活用も含めて今後,検討されるのかということも含めてお聞きしたいのが2点目です。そして,3点目は先ほども出ましたように,閲覧だけではなかなか厳しいものがあるかと思います。となれば,複写コピーということについてのお考えはどうなのかということと,あと,相続人本心だけではなくて,遺言執行者との関係をどのように,これからここの創設の中に入れていくかというお考えがもしあれば,お聞きしたいということの質問ばかりで申し訳ございませんが,よろしくお願いいたします。 ○大村部会長 ありがとうございます。   謄写の件は先ほど御検討いただくということでしたので,そのほかの点につきまして。 ○堂薗幹事 公的機関につきましては,正にこれから検討するということでございます。候補としては御指摘のあった市町村ですとか,あるいは法務局ですとか,あるいは今,現に保管を行っている公証役場などが考えられるように思いますけれども,それをどこにするかという点も含めまして,パブリックコメントにかけるということで考えているところでございます。したがいまして,結局,そこが決まりませんと,管理方法をどうするかという辺りは決まってきませんので,その点については将来の検討課題であると考えております。   遺言執行者とのリンクにつきましては,こういった制度がありますと自筆証書遺言があるかどうかというのはある程度分かりやすくはなるかと思いますし,そういった意味で,遺言があるにもかかわらず,相続人が遺言執行者の職務を妨害するような形で相続財産の処分をするという事態は少なくなってくるのではないかと思いますし,遺言執行者がこの制度を利用して,どういう形で効率よく事務を進めていけるようにするかという辺りについても,引き続き検討していきたいと考えております。 ○大村部会長 よろしいでしょうか。 ○増田委員 制度の設計について3点,お伺いします。まず,いつまで保管するのですか。それから,二つ目は誰が遺言書原本を受領するんですか。三つ目は,その受領権と④の閲覧権との関係です。閲覧しようと思ったら,誰かが持っていってしまっていたというような事態もあるかもしれません。その3点を解決しないと制度自体が完結していないと思いますので,よろしくお願いします。 ○大塚関係官 お答えいたします。   いつまで保管するのかということについては,今のところ,こちらとして腹決めしているものではございませんが,少なくとも御本人が通常は生きていらっしゃるであろう平均寿命前後のところを大きく超えるような保管年数は必要ではないかと思っております。定め方としては,例えば,遺言者が120歳に達する時までとする,あるいは保管のときから50年あるいはその他の年数とするなど,いろいろ,定め方はあろうかと思いますが,イメージとしては,そういったものを考えております。   それから,原本を受領するのか,誰がするのかといった問題は,御指摘のように非常に重大な問題と考えています。ここにつきましても,そもそも,原本をお返しすることを認めるのかどうかも含めて,ひとつの検討課題かとは思っていますし,公証役場ですと公正証書遺言を基本的にはお返ししないのではないかという認識もあり得るところですので,特に相続人が多数いらっしゃるときに,そのうち一人に返すことについての公平性の問題ということも考えると,原本を返してよいのかというのは慎重に検討する必要があると思います。返すとしても誰に返すのか,返すときにどういった書類を要求するのかといったところも,次の問題として出てこようかと思います。 ○大村部会長 制度の具体化については,なお検討しなければいけない問題は多そうですけれども,今ここで何かあればどうぞ。 ○増田委員 原本が返還されないとすれば,それを受遺者等が執行するときに,つまり,預金の払戻し一つにしても何か遺言内容の証明が必要なんですよね,登記をするにしても。だから,その辺の制度設計も考えていただかないと,意見が述べられないのではないかと思うんですが,いかがでしょうか。 ○大塚関係官 その点もはっきりと腹決めしたものではございませんが,名前をこのように呼ぶかどうかはさておき,正本,あるいはそれに類似するものを原本の代わりに交付するのか,そして,交付するとした場合に,それをそのまま登記手続の書類として使うことができるのかといったところが次の問題として出てくるかとは思います。 ○大村部会長 よろしいですか,増田委員。更にいろいろあるかと思いますけれども,この段階では,今,増田委員がおっしゃったように,基本的な骨格として,こういう方向のものを作ることがいいかどうかということが判断できる程度のものを提示して,細部については以後,詰めていくということになろうかと思います。御指摘いただいたもののうち,この段階で触れておかないと意見の言いようがないというようなものにつきましては,もう少し詰めていただくということで,また,次回に御提案いただくということにさせていただきたいと思っております。 ○金澄幹事 今,部会長がおっしゃってくださったように,初めて作る制度ですので,もう少し制度が具体的に詰まっていかないと意見の言いようがないかというように思っています。審議会の最初の頃に議論になりましたとおり,物としての遺言を保管するか,データとしてなのかというところがそもそもの問題になってきますし,それもきちんと書いていただかないと意見が述べられないかなと思っていますし,あとは相続人が被相続人の死後,遺言の保管の有無を自ら保管機関に問い合わせるのか,若しくは保管機関から通知が来るのかということも大きな問題で,自ら問合せをするというのであれば,公正証書遺言の検索のシステムとリンクさせる可能性があるのではないかと思います。一方で,保管機関から通知が来るというのであれば,遺言者が亡くなったことが分かるような機関を想定しているのではないかと思いますが,そうであれば,そのように明示していただきたいと思います。あとは相続人全員に遺言の保管についての通知が来るのであれば,結局は保管機関が相続人調査をやっていただけるようなものだと思うのですけれども,そのようなことまでお考えになっていらっしゃるのかということ。さらに,検認の要不要のところなですけれども,今は遺言書で遺贈がなされていると裁判所から受遺者に対して検認済み通知書というのが送られて,遺言書にあなたが受遺者として書かれていますよというような通知が送られてきたりするんですけれども,今回の制度であれば,そういうことまで公的機関にやっていただけるようなことまで考えているのかというのも,また,大きな問題になってくるかと思います。   家庭裁判所が検認をすることによってきちんと遺言が実効性あるものになっているということが,検認の意義ですので,保管制度と検認の関係というのも大きな問題になってくると思います。あとは増田委員がおっしゃったように,原本を誰に返すのかというのも本当に争いになるところだと思いますので,その辺りのもうちょっと制度を書き込んでいただけないと,なかなか,意見は言えないかなと思っているところでお願いでございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   今,御指摘の諸点,それから,増田委員が御指摘の諸点も含めまして,どのくらいのことをどのくらいの責任を持ってしてくれる制度なのかということによって,先ほど水野紀子委員がおっしゃった問題に対するスタンスも分かれてくることになるのかと思いますが,今日の段階で今の御質問に答えるのは難しいのではないかと思いますので,事務当局に持ち帰っていただきまして,もう少し具体化したものを次回に御提案いただくということにしたいと思いますが,よろしゅうございますでしょうか。 ○堂薗幹事 ただ,一定の公的機関がどこかが決まらないと,どこまでのサービスが可能かというところは決まりませんので,次回にどの程度,具体化できるかというのはこちらでも検討いたしますが,ほかのところと違って,この点について詳細に書くというのは難しい面があるのは御理解いただければと思います。 ○大村部会長 そういう事情もありますけれども,それを踏まえつつ,再度,御提案いただくということでよろしゅうございますか。   では,先に進ませていただきます。18ページ,4の「遺言執行者の権限の明確化等」ということでございます。これは2ページにわたって御提案がありますけれども,(1)の①で原則を明示するということ,それから,③につきまして先ほどから話題になっておりますけれども,現行の1013条に関わる問題をどうするかということにつきまして,両案併記の形になっております。そして,(2)の③で預貯金の場合に遺言執行者にその債権の行使の権限を認めるということが出てきている。こうしたところが主な点かと思いますが,この点につきまして御意見を伺えればと思います。 ○村田委員 質問とそれに付随しての意見なんですけれども,18ページの4(1)の③には,案1,案2という二つの案が記載されています。そこでの記載の仕方からすると,両案は前提とする根本の思想を異にする二者択一の関係にあるようにも読めますが,他方で,後で出てくる補足説明を踏まえると,例えば,案2に従い,遺言執行者がある場合には相続人の処分は無効であるとしつつ,それと相反する外観なり,事実行為が積み重なっていって,それを排除する必要が生じた場合には,案1に従って,遺言執行者はそうした外観なり事実行為を排除できるとすることも十分あり得るところであり,その意味で,両案は両立する関係にあるようにも思うんです。   ですので,規律の仕方としては両案を両立するものとして併記することだって考えられなくはないように思うものですから,両者の関係をどのようにお考えになっているのかというのをお聞きしたいと思います。また,それに付随した意見なのですが,案1と案2の関係性をより説明した上で意見を求めた方が分かりやすいようにも思いますので,見せ方については工夫をしていただきたいと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   ③の併記についてはいろいろ御意見があろうかと思いますが,今の点についてお答えを。 ○堂薗幹事 こちらでも御指摘のような問題があるのではないかと思っておりまして,案1の方は現行の1013条を削除するというのが基本的な考え方でして,ただ,完全に削除するのではなくて,この程度残すというところに趣旨があるんですけれども,③のような規律を必ず残さなければいけないかといえばそうでもないと思います。その意味では,対比を明らかにする観点から,1013条を完全に削除するという案,すなわち,1013条を完全に削除しますと遺言事項のところで書いてある規律が適用になることになりますので,遺言執行者がいてもいなくても,対抗関係で決することになりますが,そのような考え方と,案2のように遺言執行者がいる場合には対抗関係ではなくて善意者保護の規定で対応するという考え方,比較としては恐らくその二つを比較した方が分かりやすいのかなという気がしますので,そういう形で整理したいと思います。 ○大村部会長 今のような整理をということですけれども,それも踏まえまして,この点につきまして御意見がありましたら伺いたいと思います。あるいは,ほかの点でも結構です。 ○浅田委員 違う点でございますけれども,4の(2)のイの③預貯金債権に関する点について意見を二つと,それから,その前の(2)イの②について質問を一つしたいと思います。   まず,前者の③の点でありますけれども,まず,第一にですが,この提案において預貯金債権について遺言執行者に払戻し権限,解約権限が認められた点は,従前の銀行界の提案をお聞きいただいたものと理解しておりまして感謝をしております。もっとも,括弧というところで,ただし,遺言執行者が相続人である場合は,この限りではないものとする,という括弧付きの提案となっております。この点,趣旨は理解するところでありますけれども,実務を考えますと,このような権限を遺言執行者が相続人である場合に限る必要はないように思われます。   すなわち,公正証書を含め,遺言を作成する者が増加している今日,例えば夫婦がそれぞれ遺言を作成し,互いを遺言執行者としている場合や,費用節約を機とした場合など相続人が遺言執行者に選任されている事例は相当数あると理解しています。このような場合,銀行の対応は個別行によって異なると思いますけれども,私が理解するところでは遺言執行者兼相続人に対する払戻しを許容している銀行が多いと聞いておりますし,また,信託銀行等が受任する遺産整理業務においても,信託銀行や弁護士,司法書士等が遺言執行者の履行補助者として払戻し,解約手続等を行っているのが実情と思われます。これらの遺産整理業務において,預金払戻しや解約手続が許容されないとすると,相続手続を円滑に行いたいという国民のニーズに応じられないのではないかと思います。   考えますに,遺言者は第三者を遺言執行者に指名することができるわけですから,それにもかかわらず,あえて相続人を遺言執行者に指名しているわけなのでありますので,遺言者の意思の尊重という観点からも,相続人を遺言執行者に選定する場面は通常,一般の利益相反事象とは状況を異にするのであり,厳格な規律になじまないという説明も十分,合理性があるのではないかと思いました。   それから,意見の二つ目として同じく③のところで(注2)として③により遺言執行者に権利行使を認める債権の範囲については,なお検討するものとすると書いてありますけれども,それについての意見でございます。預貯金の特則を従前から示唆しておきながら,追加的な提案で恐縮でありますけれども,投資信託や株式などの預貯金以外の債権も,経済的な機能や遺言者の一般的な意思においては,預貯金と同様の財産ではないかと思います。よって,このような金融商品の現金化に関する権利行使まで,遺言執行者の権限に含めるニーズもあるのではないかと考えられるところであります。   もちろん,細かいところを詰めますと,例えば,金融商品取引法上の観点から考慮した相続人への説明義務などの規律との関係であるとか,また,債権法改正で民法条文上,預貯金の文言は加わりましたけれども,投資信託とかの金融商品は加えられていませんので,これらを法制上,どのように扱うかという検討はあるとは思います。しかしながら,先の実務上のニーズを踏まえ,検討していただければと存じます。したがいまして,(注2)ということについては存置していただければと,パブコメの対象にしていただければと思います。これが意見でございます。   続きまして,質問でありますけれども,「遺言執行者の権限の明確化等」の(2)イ②に関してです。19ページでありますけれども,遺言執行者は,受益相続人に対してその特定物を引き渡す権利及び義務を有しないものとすると,ただし,その特定物の引渡しが対抗要件となる場合は,この限りではないと記載してあります。お尋ねしたいのは,ここでいう「この限りでない」という部分が具体的にどういうことを意味しているかということであります。この意味するところが例えば,引渡しが対抗要件である場合,遺言執行者は引き渡す義務を負うということになりますと,実務上,全ての物の所在を遺言執行者が確知することは困難でありますので,信託銀行のように遺言保管,遺言執行者への就任業務を行う銀行においては,遺言執行者への就任時の判断,是非の判断において,非常に重い制約になりかねないと思います。そこで,引渡しは義務でないということが確認されることを望みますけれども,この点について事務当局の御見解をお尋ねしたいと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   2点の御意見は御意見として承りたいと思います。最後の御質問につきましてお答えを。 ○堂薗幹事 ここは特定の財産について相続させる旨の遺言をされた場合に,遺言執行者がどういう権限を有するかということですので,このただし書は基本的には動産を念頭に置いておりますが,動産の場合は引渡しが対抗要件になるので,②の規律ではなくて①の規律が適用されるという趣旨でございまして,したがって,この動産については誰々に相続させるという遺言がされた場合には,その中で動産は特定されているはずですので,遺言執行者はそれを相続人に引き渡す義務があるということになります。 ○浅田委員 義務があるということであるということですか。それは正に執行者としての義務であると,善管注意義務の一環としてではなく,正しく本旨たる義務であるという理解で。 ○堂薗幹事 ①でいう対抗要件具備行為に必要な権限ということですが,この権限行使に当たっては当然,善管注意義務を課されるということですので,そういった意味では一定の義務を伴うということだと思います。 ○浅田委員 私としては,先ほど申し上げた意見を持っているところでありますけれども,本規定の趣旨につき事務当局の意見は理解いたしました。 ○大村部会長 ありがとうございます。   そのほか,いかがでございましょうか。 ○中田委員 4の(1)の①ですが,これと現在の1012条,遺言執行者の権利義務の規定との関係がどうなのかを知りたいと思います。また,それについて説明する方が親切なのではないかと思います。①について今の浅田委員の御発言とも関係するんですが,遺産の換価や処分の権限が一般的な権限の中に入っているのかどうかということも,明らかな方がいいのではないかと思います。   次に同じ①の効果のところなんですが,行為の効果が相続人に帰属するということですが,遺言で財団を設立する場合ですとか,遺言信託の場合に,この規律との関係をどう理解したらいいのかということの説明があればいいなと思います。   最後に,1015条を削除するということですが,そうしますと,ますます,委任における本人に形式的にも該当するのが誰かというのが不明確になってきまして,従来から言われていることですけれども,遺言執行者がむしろ信託の受託者に近いという存在になるように思います。そうすると,信託法にあるような忠実義務ですとか,公平義務のようなものを課するかどうかについて,聴いてみるのはどうでしょうかということです。それは先ほどの財産の換価・処分権限があるかないかということとも関係してくることです。 ○堂薗幹事 まず,1012条との関係ですが,似たような規定にはなるかと思いますけれども,1012条の方は権利義務を定めているものであるのに対しまして,4(1)①はどちらかというと1015条に対応するもので,遺言執行者がどういう法的地位を有しているかということを定めたものです。かねてより,弁護士委員の方から,この規定があることによって,遺言執行者は相続人全体の利益に配慮して,公平に職務を執行する義務を負っているという誤解を与えているとの御指摘がありましたので,遺言執行者というのはあくまでも遺言者の意思を実現することを職務とするものであり,例えば,遺留分減殺請求がされたような場合も,基本的には遺言執行者の立場としては,遺言の内容を実現するという観点から行動すれば足りるという点を明らかにしたということになります。   そういった意味で,相続人の代理人とみなすという規定がなくなりますと,正にここでいう本人の立場に立つ者が誰であるかというのが必ずしも明確でなくなってしまいますので,それに代わるものとして,その行為の効果は相続人に帰属するという規定を置くことによって,1015条と同じ内容を明らかにしているという趣旨でございます。信託との関係などにつきましては,十分な検討ができておりませんので,事務当局において検討したいと思います。また,忠実義務についても十分な検討はできておりませんが,基本的には,ただ今御説明したとおり,遺言の内容を実現するという観点から職務を行えば足りるということであるとすれば,別途忠実義務について規定する必要があるのか,その必要性について疑問を持っているところでございます。その点について何かございましたら,御教示いただければと思います。 ○中田委員 1点目については,1012条と4(1)①が両立てになるということであれば,そこを示しておいていただいた方がよろしいのではないかと思います。   それから,3点目で先ほど忠実義務,公平義務と並べて言いましたけれども,確かに公平義務というのは難しいかもしれませんが,忠実義務というのは財産の換価・処分権限を持つのだとすると,自分で買い取るという場面があり得るわけです。それをどう考えるのかということです。 ○堂薗幹事 財産換価・処分権限につきましては,明確にはこの中に書いていないんですけれども,基本的には預金債権の場合を除き,そこまでの権限は認めないという前提です。もちろん,遺言者がそういう権限を付与することはできるんですが,原則としては認めないということです。ここで取り上げた考え方は,その例外として預金債権については別の取扱いをするということでございます。 ○大村部会長 よろしいですか。 ○中田委員 ただ今の御説明は理解しましたが,ただなお,忠実義務については問題となり得る場面があるのではないかと思いますので,私の方でも考えてみますけれども,御検討いただければと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   これは先ほど来の水野紀子委員の御指摘とも関わりますけれども,遺言執行者の制度を現在あるものをスタートラインとして,どのくらい作り込むかということにも関わっているのだろうと思います。現在は現在の制度の下で運用しているわけなんですけれども,出てくるであろう様々な疑義に立ち入った,整った制度を作るということは一つの方向に踏み出すということかと思いますが,そうしたことの当否も含めて,更に御検討いただきたいと思います。 ○増田委員 我々が提出した意見をおおむね取り入れていただきましてどうもありがとうございます。   1点ですが,相続人等を欠格事由にするという話は落ちているんですけれども,この点については一般の方からもアンフェアではないかという意見を多く聞くところですので,(注)で結構ですので,一般の方の御意見を聴いてみたいなと思っております。検討しますというお答えで結構です。 ○大村部会長 今のところは考え方は分かれ得るところなので,だから,意見を聴いてみようという御趣旨かと思いますけれども,御検討いただきたいと思います。増田委員,それでよろしいですね。   そのほか,御発言はございますでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは,今,頂きました御意見を踏まえまして,更にこの点についても御検討いただくということにいたします。 ○浅田委員 第4に移る前に,ここに書かれなかったことについて御質問を差し上げたいと思います。従前来,銀行界からの提案として,公正証書遺言の撤回は公正証書のみとする規律や,公正証書遺言について,公証人という言わば公的機関が関与した手続ゆえに法的な安定性を付与する,ということが考えられるのではないかということを申し上げています。前回の第10回会合においては,この法制審では無理にしろ,将来の改正議論にも関係し得るので,この点についての事務当局における現在の検討というのをお聞かせいただきたいと申し上げました。本資料に言わば書かれていないということで,パブコメには付さないということだと理解しておりますけれども,この点について何らかの整理があるのであれば,この場でないしは補足説明でお聞かせいただければ大変助かります。 ○堂薗幹事 この点につきましては御指摘を踏まえて,こちらでも何らかの方策が考えられるか検討したんですけれども,法的安定性の付与という観点から問題になるのは,遺言能力がなかった場合に遺言が無効になってしまうので,その信用性をどう担保するかという辺りかとは思いますが,現行法の下でも,遺言能力を争う場合には,争う側において,その当時意思能力がなかったということを主張立証しなければならないということになっておりますので,それについてこういった行為をした場合には法律上の推定を及ぼすとか,そういった形で解決することはできないという面がございます。   それから,民法478条や480条のように,公正証書遺言を信用して弁済するなどした場合に,免責規定を設けるということは考えられるのだろうとは思うんですけれども,逆に公正証書遺言についてだけ,そういった形で規定を設けますと,そのほかの遺言を信用して弁済等をしたような場合に,解釈としては免責を認めにくくなる方向につながっていくおそれがあるのではないかという問題もございます。したがいまして,こちらとしては問題点の御指摘は非常によく分かるんですけれども,それに対応するような形で何らかの方策を講ずるのは難しい面があるということでございます。したがって,今回の部会資料にもその点については取り上げられなかったということでございます。 ○浅田委員 説明は分かりました。ありがとうございました。 ○大村部会長 ありがとうございます。   それでは,第3の「遺言制度の見直し」について御意見を伺ったということで,先に進みたいと思いますが,予定していた時刻が近付いている一方で,まだ,御意見を頂くべき項目がかなり残っております。それで,お許しを頂けば次のようにさせていただきたいと思います。まず,最後の「(後注)その余の検討課題について」は,次回に改めて御意見を頂くということにさせていただき,残った第4の「遺留分制度の見直し」につきまして30分程度,そして,第5の「相続人以外の者の貢献を考慮するための方策」につきまして15分程度,御意見を頂くということで,30分ほど延長させていただくことをお願いできれば幸いです。よろしゅうございますか。それでは,そのようにさせていただきたいと思います。   第4の「遺留分制度の見直し」につきまして,事務当局より御説明を頂きます。 ○神吉関係官 それでは,関係官の神吉から第4の「遺留分制度の見直し」について御説明させていただきます。   まず,1の法的性質について御説明いたします。従前の部会資料からの変更点につきましては,部会資料の22ページの補足説明に記載させていただきましたとおりでございますが,2点ございまして,1点目といたしましては遺留分減殺請求とそれに基づく金銭支払請求について別個の規律を設けていた点を改めた点,2点目といたしましては現物返還の抗弁がなされた場合に,いつまで金銭支払義務の履行を認めるかという点を明確にした点でございます。   まず,遺留分減殺請求とそれに基づく金銭支払請求につきましては,複数の委員から必ずしも分ける必要はないのではないか,分けることのメリットと比較するとデメリットの方が大きいのではないかという御指摘を頂きましたので,それらの御指摘を踏まえまして,遺留分減殺請求とそれに基づく金銭支払請求を分ける規律を改め,遺留分減殺請求をすることにより,受贈者又は受遺者に金銭債務が当然に発生するが,これについて履行遅滞責任が発生するのは,減殺請求をしたときから3か月を経過した後としております。   引き続きまして,現物返還の抗弁がなされた場合に,いつまで金銭支払義務の履行を認めるかとの点についてでございますが,この点につきましても前回の部会におきまして,例外的に現物返還を認める場合にも現実に現物の返還義務を履行するまでの間は,受遺者等に金銭支払義務の履行を認めてよいのではないかとの御指摘を頂いたところでございます。本点は部会資料で申し上げますと,(1)の⑤の部分に当たりますが,前回部会における御指摘を踏まえまして,受遺者等が現物の返還を希望する場合には,その旨を抗弁として主張することはできるが,現物返還は飽くまで代物弁済として行うものであり,受遺者等が現実的に現物返還をするまでの間は,金銭支払債務をすることはできることとしてあります。   また,部会資料の22ページの末尾から23ページにかけて記載してありますとおり,上記のような提案に対しまして現物返還の目的物の協議が成立し,又は裁判が確定した場合には,それによって金銭支払債務は消滅し,その後は現物での返還しか認められないというような規律もあろうかと思いますが,併せて各委員の御意見を賜れればと存じます。乙案につきましては前回からの変更点は特段ございません。   併せまして部会資料23ページ目の2の遺留分の算定方法につきまして御説明させていただきます。基本的には前回の部会資料で提示させていただきましたA案,B案と今回の部会資料で提示させていただきます甲案と乙案は対応しておりまして,内容としてもほぼ同じということでございますが,前回部会における御議論を踏まえまして若干の修正を加えております。   まず,甲案についてですが,部会資料25ページの補足説明に記載させていただいたとおりでございますが,前回の部会におきまして相続法規がされた場合の規律や包括受遺者について最低限相続分の規律が適用されるのか,若しくは遺留分の規律が適用されるのか,明確にすべきではないかという御指摘を頂きました。そこで,本提案では相続や遺贈の法規の有無にかかわらず,それぞれの制度の対象となる者を固定するため,相続の放棄をした者は最低限相続分制度の規律が適用されることと致しまして,また,相続の放棄によって相続人となった者及び包括受遺者については,遺留分制度の対象に含めることと致しました。   もっとも,このような考え方を採用いたしますと,相続の法規がされた場合や割合的包括遺贈がされた場合につきましては,医療分と遺産分割に関する紛争を柔軟かつ一回的に解決することは困難となりまして,甲案のアで目指していた理念が若干,後退することになりますが,この点につきましてどのように考えるべきか,併せて御議論いただきたいと思います。   引き続きまして,乙案について簡単に御説明いたします。乙案は前回の部会資料のB案と対応するものですが,前回案とは異なりまして,遺留分算定の基礎となる財産に含まれる贈与につきましては,第三者に対するものと相続人に対するものとで,その対象となる期間を変えることを前提とした記載にしております。すなわち,第三者に対する贈与につきましては現行法と同様,民法1030条の規律に負うこととしているのに対しまして,相続人に対する贈与につきましては現行の判例の考え方とは異なる規律を採用し,その対象となる機関につきましては民法1030条よりも長い期間にすることを想定しております。   なお,乙案の基本的な考え方は現行法をベースとしつつ,判例によって規律が補充されている点などにつきまして,部分的に見直しをするものですが,前回の部会におきまして委員から現行法とどれだけ違うのかという御指摘がございましたので,現行の規律を変更する部分に限定して記載させていただいております。なお,見直しを提案させていただいております各論点は,別個に採用することが可能なものですので,セットで採用することの是非及び各論点ごとに採用することの是非,若しくは前回部会において委員から御指摘がありましたとおり,算定方法についてはあえて改正する必要はないのではないか,現行法の規律で十分だという見解もあろうかと思いますので,この点につきましても併せて御議論いただければと思います。   なお,26ページの3につきましては,部会資料8からの変更点は特段ございません。 ○大村部会長 ありがとうございます。   「遺留分制度の見直し」には3項目がございます。1の「遺留分減殺請求権の法的性質の見直し」には,甲案,乙案がございますが,乙案については変更なしということでございました。甲案につきましては,前回,指摘された何点かについて対応する修正をしているという御説明だったかと思います。2の「遺留分の算定方法の見直し」につきましても,甲案,乙案は基本的には従前はA,Bとなっておりましたけれども,これらの案を踏襲しているということでした。ただ,甲案については若干,修正がされている,乙案については贈与の取扱いにつき修正の提案がされている,なお,3は変更はない。以上のようなことかと思います。   それぞれの制度はかなり複雑なものでありまして,先ほどから出ておりますけれども,パブコメに当たりましては丁寧な説明をして,何が問題であるのかということを理解していただくということが前提になろうと思います。そのこと踏まえた上で,今の修正点を含めまして御意見を頂戴できればと思います。いかがでしょうか。 ○山本幹事 意見というよりはお尋ねしたい点が1点ございます。1の甲案について,部会資料22ページの④を見ますと,裁判所が返還すべき目的財産を定めるものとするという記載があります。この部分につきましては,従前,形式的形成訴訟であるという御説明があったと記憶しているところですが,今回の御提案の③を見ますと,遺留分侵害額を請求する訴訟ということで,これは普通の給付訴訟というように見えるのですけれども,そういう理解でよろしいでしょうか。仮にそうだとしますと,④で裁判所が当該訴訟において目的財産を定めるというのがどういう位置付けになるのか,あるいは定めた場合にどういう主文の裁判をすることになるのかといった点がよく分からないところで,お尋ねしたいと思います。   この点,補足説明を拝見しますと,現物返還を希望するというのが抗弁であるということで,かつ現物返還というのは代物弁済であるという御説明になっております。これは当該訴訟の外で協議ができて現物が返還された場合は,恐らく代物弁済ということで,それに対応する部分の金銭債権は消滅するということで,これを抗弁として主張すれば一部棄却の判決になるという説明ができそうな気がしているのですけれども,訴訟において当該裁判所が裁量的に目的物を定めた場合には,この点はどう説明されるのかというところを明らかにしていただければと思います。よろしくお願いいたします。 ○堂薗幹事 御質問の点につきましては,確かに現行法上これに類似する制度があるのかという問題はあるんですけれども,基本的には③で遺留分侵害額請求訴訟,本来的にはここの遺留分侵害額請求訴訟は,遺留分侵害額に相当する一定の価値を遺留分権者に返せばいいんですが,それを原則金銭債権にしている結果,③の場面では金銭債務の履行になるということでございまして,現物返還の内容を裁判所が定めるという点と今の金銭債権の関係ですけれども,要するに裁判所が現物返還の内容を定めれば,それによって金銭債務は当然に一部消滅するということであれば主文も比較的単純なものになり,金銭として幾ら返せ,現物としてこれこれを返せという形になると思うのですが,前回の御議論の中で,少なくとも現物返還するまでの間は,金銭債務として弁済できてもいいではないかという御意見が多かったので,今回の部会資料では,このような記述にしたものです。その結果として裁判所で定める内容としては,代物弁済としてこういうものを引き渡せば金銭債務を免れられますよと。  要するに代物弁済でいう債権者の承諾に代わるものとして,こういったものであれば代物弁済が可能だということをお示しすることになるわけですが,その場合の主文につきましては,現行法の下で,価額弁償の主張がされ,裁判所が決めた額を弁済するという主張を当事者がした場合に,どのような主文になるかという点に関する判例が平成9年に出ているかと思いますが,それを逆転させたような主文になるのではないかと考えております。具体的には,現物返還として裁判所が定めた財産を返還しないときは,幾ら幾らを支払えというような形の主文になるのではないかと今のところは考えておりますが,この辺りは今後,更に慎重に検討したいと思います。そういった意味では裁判所は現物返還の内容を定めた場合には,その部分はそれでしか返還できないとした方が規律としてはすっきりするのではないかなと,こちらでは考えているというところでございます。 ○山本幹事 ありがとうございました。   いずれにしてもパブコメの時点では,どういう具体的なイメージの訴訟になるかという辺りを明らかにしていただければと思っておりますので,どうぞよろしくお願いいたします。 ○大村部会長 ありがとうございます。   そのほか,いかがでございましょうか。 ○増田委員 まず,甲案,乙案ともに金銭請求ということになっておりますが,2の「遺留分の算定方法の見直し」で甲案を採った場合に,相続人に対する請求はどうなるのか。それは金銭請求なのかどうなのかという点を明らかにしていただきたい。今回の案では2(1)④というのが入っていますので,多分,金銭請求ではないのだろうと考えておりますが,それを入れるかどうか,それが妥当かどうかはまた後で意見を申し上げますけれども,もし仮に甲案で分けた場合には,そこは必然的に金銭債権にはしないことになるのかどうかというのを明らかにしてほしいというのが1点です。   それから,2点目ですけれども,私は基本線としては甲案でいいと思っているんですけれども,この裁判手続については疑問に思っていまして,そういう観点から,甲案で受遺者側から抗弁が出た場合には,裁判所はその抗弁の当否,つまり,その物件をもって返還するのが相当かどうかだけを判断すれば足りると。代わりに別の物件を,この目的物を返還せよとまでは決める必要はないというような手続はどうかと。つまり,当事者が主張していないような物件の返還を命ずるような裁判は,民事訴訟という枠組みにはなじまないのではないかと思いますので,そういう仕組みも甲案のバリエーションとして入れていただいたらどうかということです。つまり,被告側が抗弁を出して,裁判所がその物の返還が相当であると判断すれば,当該物件の引渡等を命ずる判決をすればいいし,相当でないと判断すれば,もとどおり,金銭の請求を認容すると。その二者択一というようなシンプルな制度も考えられるのではないかということです。 ○大村部会長 ありがとうございます。   2点,御質問がありましたけれども,お願いします。 ○堂薗幹事 まず,2の甲案を採った場合ですけれども,相続人に対する請求は④に書いてあるとおり,基本的には最低限相続分侵害額に相当する価値をどのようにして返すかという点を裁判所が決めるということになりますので,当然に金銭債権ということにはならない。実はこの甲案というのは,従前,1の法的性質の見直しのところで従前丙案として書いていたものに近い考え方なのですが,相続人に対するものについては,そういった形で裁判所が内容を定めて初めて返還する内容が定まると。第三者については金銭請求ということを考えておりますので,第1点目につきましては,④は必ずしも金銭債権になるものではないと考えております。   それから,2点目の御質問ですが,御趣旨はよく分かりまして,要するに代物弁済の内容については受遺者側で特定すればいいではないかと。そうしますと,正に裁判所が判断すべきことは,債権者に代わる代諾をするかどうかという点に限られますので,そういった意味で制度としては非常にすっきりするのだろうとは思います。もっとも,現行法の下でも基本的には受遺者又は受贈者は現物を返せばいいということになっているところ,要するに代物として適当なものを選択したかどうかという点についてのリスクを受遺者側,受贈者側に負わせるのは酷なのではないかという問題があるように感じておりまして,その内容として受遺者側が示したものが不適切な場合には,裁判所がその内容を定めるという形にしているものでございます。ただ,もちろん,増田先生が言われたような考え方を採ることもあり得るのだろうと思いますが,その場合には受遺者側,受贈者側に酷な結果にならないかどうかという辺りについて慎重な検討が必要となるように思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   第2点につきましては,今,御説明がありましたけれども,増田委員のような考え方もあり得るということで,説明の中で何らかの対応をしていただくかどうか,御検討いただきたいと思います。第1点についてはお答えがあった後に,増田委員から意見を申し述べるという御発言があったように思いますけれども,いかがですか。 ○増田委員 それは2の④を入れるかどうかについてです。2のところでお話しします。 ○大村部会長 2の(1)の④についてですね。それも今おっしゃっていただいて結構ですけれども。 ○増田委員 2の④が甲案の提案の中で必須のものなのかどうなのかということです。前の部会での提案のときにはこれはなかったと思うんですが,つまり,甲案というものについて実体法上の要件を相続人と第三者とで分けるということと,手続を分けるということは全く別の問題だと思うんです。ここで④を必須のものとして放り込んでしまうと,早い訴訟手続よりも遅い審判手続の方が先行することになり,第三者になる受贈者の地位が不安定になるなどの弊害がありますし,更に前も申し上げましたけれども,1個の遺言で相続人に対する請求と相続人に対する遺贈と第三者に対する遺贈があった場合に,紛争が一回的に解決できないというような弊害もありますので,実体法上の要件の変更と手続を変えるということとは分けて考えていいのではないかと思っております。したがって,甲案のアから④を除外して,別途,④については聴くというのでどうかというのが意見です。 ○堂薗幹事 検討いたします。 ○大村部会長 今の点については御検討いただくということにしたいと思います。   1と2と両方について,今,御意見を伺っております。両方を含めまして御意見を頂ければと思いますが,いかがでしょうか。 ○山本(和)委員 余りこの段階で申し上げても仕方ないのかもしれません。先ほどの甲案で訴訟手続をどうするかということですけれども,確かに抗弁のところで,こういう裁判所が一切の事情を考慮して定めるという一種の非訟的な手続構造にするというのは,かなり異例であるということは恐らく確かで,これでできないかどうかというのは考え方はあるのかなと思いますが,もう一つ,選択肢としては,もちろん,増田委員が言われたような形にすれば弁論主義ではっきりする通常の訴訟になるわけですけれども,これをもし維持する必要があるのだとすれば,これ自体を反訴的なものにして,最初からずっと言われた形式的形成訴訟のような形で代償物確定の訴えみたいなものを反訴として定め,それを本訴と連携させて考えていくというような選択肢もあり得るかもしれません。もし,補足説明等でその辺りをあれされるのであれば,いろいろな選択肢があり得るということを示していただければと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。御意見として承りました。   そのほか,いかがでございましょうか。 ○中田委員 1(1)の①ですが,遺留分減殺請求と金銭支払請求を一本化した今回の案は結構なことだと思います。ただ,その上で,この文章ですと遺留分減殺請求をしたということが一見すると明らかではないので,それは入れておく必要があるのではないかなと思いました。 もう一つは訴訟との関係にもなるんですけれども,金銭請求訴訟で現物返還の抗弁を出したとしても,遅延損害金自体は発生し続けるわけですよね。それで,最終的に返還の時点で元本プラス非常に膨れ上がった遅延損害金が一挙に消えてしまうと,こういう仕組みだと思うんですが,ちょっと不安定な印象を受けます。 裁判が長期化すればするほど,膨れ上がった遅延損害金と現物とのバランスがずれてくるような感じがします。先ほどの主文の記載の仕方でも現物を返還しないときは○○円を支払えというお話だったんですが,恐らく○○円プラス年何%ということになると思うんです。そうすると,その主文も何か気持ちが悪くて,むしろ,山本委員がおっしゃったような反訴のようにすれば,ひょっとしたら,その問題はクリアされるのかなとも思ったんですが,いずれにしても遅延損害金の扱いについてもうちょっと検討する必要があると思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   では,それも含めまして訴訟の仕組み方を更に検討していただく,それから,第1点,御指摘の点は表現を見直していただくということにしていただきたいと思います。 ○増田委員 2のその他の点です。まず,前回,参考資料としてお付けいただいたような具体例を補足説明で入れていただきたいというのが1点です。   それから,これも前回の話であったんですけれども,甲案については減殺の順序,1033条から1035条のところを変えるということだったと思いますので,その点も明確にしていただきたいということです。   それから,遺留分を変えるという場合に,経過措置を一緒に議論する必要があるのではないかと思っていまして,遺言時法が適用されるのか,相続開始時法,つまり,遺言であれば効力発生時法が適用されるのかというのは,一つ重大な問題であろうかと。それも聴いてみないといけないのかなと思っています。普通と違うのは遺言は撤回できない場合があるんです。既に能力を喪失していれば撤回できないので,そこのところも考慮した上で考えなければいけない問題かと思います。   もう一つは,先ほど関係官の方でもおっしゃいましたように乙案の方ですが,1,2,3というのはそれぞれ独立に聴いていい話だと思うんです。乙案として全部まとめて聴く必要はないのかなと思いましたので,その点は工夫いただいたらと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   幾つの問題を御指摘いただきましたが,最後の聴き方の点は事務当局の方も意識されている点ですので,工夫をしていただきたいと思います。それから,補足説明の内容としては,この制度もかなり難しい制度ですので,増田委員がおっしゃるように例を挙げて分かりやすい説明をしていただくことが必要かと思います。八木委員が先ほどおっしゃっていた,なぜこういう変更を加える必要があるのかというところから説き起こして,順次,説明していただくという必要があろうかと思います。そして,経過措置はいろいろなことに関わる問題ですけれども,この段階で聴いておくべきものがあれば,それは聴いていただくということで,いずれにしてもどこかで対応するということになろうかと思います。   2の乙案の中で前回の案に修正が加えられた部分がございます。それから,3については前回どおりで特に変更点はないということですけれども,これらにつきまして,このままでよろしいかということにつきまして何か御意見があれば頂きたいと思いますが,いかがでしょうか。 ○水野(紀)委員 その部分ではなくて申し訳ありません。乙案の部分ではなくて甲案の部分について確認をさせていただければと思います。24ページのイの「第三者に対する請求(遺留分)」で,1030条の現行法は害意がある場合は,それ以前のものでも加えられるということになっていますが,それは削除されるということでしょうか。 ○堂薗幹事 そこは従前から御指摘いただいているところで,こちらとしては削除してもいいのではないかと考えておりますが,その点については表現ぶりも含めて検討したいと思います。 ○水野(紀)委員 具体的には娘婿を跡取りにと考えて,全財産を娘婿に贈与してしまったという場合,これだと1年以上たっていると,遺留分の対象にならないということになりますので,それはかなり思い切った改革で,遺留分の意義を相当に失わせるだろうと思います。それから,これまでの減殺の順序は,まず,フランス法的に自由分を贈与ないし遺贈に充てていって,自由分が終わって遺留分まで侵害しながら遺贈や贈与を始めたときに,それを減殺するという発想を受けたものでした。その減殺の順序を変えられる場合には,それなりの説明は必要かと思っております。 ○堂薗幹事 従前は,その点を見直す考え方をお示ししておりましたが,甲案の②は現行と同じ規律ですし,乙案もそこは現行と同じ規律にしておりますので,今回の部会資料では,その点は触れていないということでございます。 ○水野(紀)委員 分かりました。ありがとうございました。 ○大村部会長 よろしゅうございましょうか。   そのほか,いかがでございましょうか。 ○石井幹事 乙案の①~③はそれぞれ独立のものということですけれども,現行法と組み合わせることが容易なものとそうでないものとが混在しているように思いますので,その辺が分かるように記載していただけると,これらの案を採用した場合に現行法の規律をどの程度変える必要があるのかといった観点からの検討がしやすくなり,より意見が述べやすいのかなと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。御指摘を踏まえてと思います。   そのほか,いかがでしょうか。   それでは,「遺留分制度の見直し」につきましては,今,頂きました御意見を踏まえまして,更に検討いただくということにさせていただきたいと思います。   本日の最後になります。進行の手際が悪くて申し訳ありませんが,第5の「相続人以外の者の貢献を考慮するための方策」ということで,資料26ページ以下でございますが,事務当局より説明を頂きます。 ○下山関係官 では,資料26ページ以下の「第5 相続人以外の者の貢献を考慮するための方策」につきまして御説明させていただきます。   部会資料10では,本部会資料の甲案とほぼ同様の考え方を提示しつつ,請求権者の範囲については様々な考え方を取り上げておりましたが,前回の部会では請求権者の範囲について,その範囲を相続人に準ずる身分関係を有する者に限定すべきであるとする意見と,請求権者の範囲を限定する合理性に欠けるとして,請求権者の範囲には特段の制限を設けるべきではないとの御意見や,請求権者の範囲については相続人以外の者に請求権を認める法的根拠と密接な関連を有するので,その点の検討を詰めるべきであるとの御指摘もありました。   そこで,本部会資料におきましては,これらの御指摘を踏まえ,まず,甲案として請求権者の範囲を二親等内の親族に限定し,かつ相続人に対する請求を認める要件については現行の寄与分を参考にした考え方,これを取り上げております。甲案は飽くまでも相続財産の分配の在り方として,相続人に準ずる身分関係を有する者については,例え現行の相続人の要件を満たさない場合であっても,相続財産の維持又は増加について特別の寄与があったときには,その限度でその分配を認めるのが相当であるという考え方に基づくものであります。   ただし,これらの者を遺産分割の当事者とすると,遺産分割に関する紛争が一層複雑困難化することを考慮して,政策的に遺産分割手続とは切り離して,相続人に対する金銭請求を認めることとしております。このような考え方によれば,この制度に基づく請求権は実質的には遺産について相続人が有する権利と同等の法的地位に立つと見るのが相当であって,相続財産が債務超過となっており,又はそのおそれがある場合には,相続債権者や受遺者の権利よりも劣後すべきものであると考えられます。そこで,本部会資料におきましては,このような趣旨を明らかにするために,限定承認,財産分離及び相続財産破産の各手続が開始された場合には,これらの手続の終了後に相続財産が残存する場合,すなわち,相続財産が債務超過の状態になかった場合を除いて,この制度に基づく請求をすることはできないこととしております。   なお,本文の②におきまして,本提案では①の金額についてまずは協議をし,協議が調わないとき,又はできないときは,家庭裁判所がこれを定めるとしております。これは前回の部会におきまして御指摘がありましたとおり,まずは当事者間の協議を行い,その協議が調わなかったとき,又は協議ができなかったときに家庭裁判所の手続に乗せるということで,現行の寄与分と同様の規律を想定しております。   次に乙案について,乙案は前回部会における議論を踏まえ,請求権者の範囲に限定を加えないこととしつつ,相続人に対する請求を認める要件を無償の労務の提供により,相続財産の維持又は増加に特別な寄与があった場合に限定することとしております。乙案は無償の労務の提供に限り,相続開始後にその清算を認めるものであり,請求権者の範囲には限定を加えておりませんが,一般に被相続人との間に密接な関係がある者でなれば,この要件を満たすことは考えにくいと考えております。その他の点については基本的には甲案と同じでございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   「相続人以外の者の貢献を考慮するための方策」ということで,今回は甲案,乙案を併記という形で御提案を頂いております。甲案は二親等内の親族という形で人の方で線を引くと,乙案は人の方では線を引かないけれども,無償の労務提供に限るという形で対象の方に線を引くということで制度を仕組むというものかと思います。②以下は共通の制度として提案されておりますけれども,⑤のようなものが具体的に示されております。基本的なポリシー,甲案,乙案のどちらにするのかという点は意見が分かれるところかと思います。これについて今は決着が付かないと思いますが,このような形で甲・乙両案を示すということにつきまして御意見を頂ければと思います。いかがでしょうか。 ○中田委員 甲案について二親等内の親族で相続人でない者というのは,具体例を挙げていただいた方が分かりやすいのではないかと思います。例えば妻子を残して亡くなった人の父親だとか,あるいはきょうだいですとか,あるいは被相続人の息子の妻ですとかというのがあると思います。それぞれにおいて考えられる貢献というのはあると思うんですが,例えばお父さんが被相続人の商売が危ないときに援助した,財産上の給付だというようなことですが,それぞれについていいこともあるんですが,課題もあるのではないかと思うんです。例えば今の例で父親が被相続人の妻と子どもの遺産分割に対して口を出していくことになるのではないかですとか,あるいは被相続人の息子の妻に療養看護ということで事実上,それを強制するきっかけにならないかとか,いろいろな懸念もあります。具体例を挙げた上で課題とされている問題といいますか,懸念についてもお示しいただいたらいいのではないかと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   補足説明の中で,今,御指摘のような具体的な状況について一定程度の説明をしていただくというのが適切かと思いますけれども,その方向でお考えいただけるかと思います。   そのほか,いかがでしょうか。 ○山本(和)委員 今回の補足説明を読んで,よく分からなくなったんですけれども,⑤に関する補足説明ですけれども,相続債権者あるいは受遺者に後れるということはそのとおりだと思いまして,補足説明では相続人が有する権利,多分,寄与分の権利だと思いますが,と同等の法的地位と書かれているんですが,現在の構成だと各相続人に対して請求するので,相続人の中に債務超過の相続人がいた場合には,結局,全額を回収できない場合というのがあるように思うんですけれども,相続人であれば他の相続人が債務超過でも,寄与分には全く関係ないはずなので,そこは全額を回収できるわけですよね。   それとの関係で,何となく普通に考えれば相続人の債権者というのは,その分,棚ぼたなので,①のように寄与した人がいるのであれば,寄与した分は相続人の債権者より先に持っていけてもしかるべき感じもするんですが,いずれにしろ,政策判断でそうするというのは構わないと思うんですけれども,補足説明等でその辺りの考え方は示した方がいいのかなと思います。 ○堂薗幹事 御指摘を踏まえて,その辺りについて何か手当をする必要があるかどうか検討したいと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   そのほか,いかがでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは,この件につきましては,甲・乙両案で基本的な考え方としてどちらを採るかという形で聴くと,そのイメージが伝わるような説明をしていただくということと,⑤のような規律につきましてなお検討する余地がないかということを更に事務当局には御検討いただくということにさせていただきたいと存じます。   (後注)は先ほど申しましたように,次回以降の検討の中でまたお諮りしたいと考えております。   そこで,本日はここまでということにさせていただきまして,最後に,次回の議事内容あるいは日程につきまして,事務当局の方から御説明を頂きます。 ○堂薗幹事 それでは,次回ですけれども,次回は御案内のとおり,5月17日,火曜日の午後1時半から5時半までということで,場所は東京地検を予定しております。次回は隣の建物の15階の1501号室で行う予定ですので,場所をお間違えにならないよう,お願いいたします。   次回は本日の議論を踏まえて修正した案をお示しして御議論いただき,可能であれば中間試案の取りまとめまでできればとも考えておりますが,本日も多数の問題点の指摘を頂きましたので,次回に取りまとめることが難しい場合には,お忙しい中,恐縮ですけれども,6月にもう一度,部会を開かせていただいて,できれば6月には取りまとめたいと考えているところでございます。   それでは,次回もどうぞよろしくお願いいたします。 ○大村部会長 本日は私の進行の不手際で時間を超過してしまいまして大変申し訳ございませんでした。皆様には非常に活発に御議論いただきましたことに改めてお礼を申し上げます。本日はこれで閉会いたします。 -了-