法制審議会 民法(相続関係)部会 第12回会議 議事録 第1 日 時  平成28年5月17日(火)自 午後1時29分                      至 午後5時49分 第2 場 所  東京地方検察庁総務部会議室 第3 議 題  民法(相続関係)の改正について 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○大村部会長 それでは,定刻になりましたので,法制審議会民法(相続関係)部会第12回会議を開催いたします。   本日は,まず,最初に新しい関係官の方がおられますので,自己紹介をお願いしたいと思います。 ○神吉関係官 関係官の神吉でございます。どうぞよろしくお願いいたします。 ○大村部会長 どうぞよろしくお願い申し上げます。   続きまして,本日の配布資料の確認をお願いしたいと思います。事務当局の方からお願いいたします。 ○堂薗幹事 それでは,本日の配布資料ですけれども,まず,事前に部会資料12「中間試案のたたき台」と,それから,もう1点,「遺留分の算定方法の見直しに関する参考資料」というものをお配りしているかと思います。   それから,前回の会議の最後に,場合によっては今回の会議で中間試案の取りまとめをすることもあり得るというようなお話をさせていただきましたが,前回の会議の後,事務当局の内部で検討しましたところ,更にいろいろな問題点が見付かりまして,特に遺留分の見直しにつきましては様々な事例を基に検討いたしましたところ,それぞれの案についての問題点がより明らかになったところもございます。   本日は,そういった問題がある案をこのまま中間試案に上げていいかというところにつきましても,御議論いただく必要があろうかと思いますし,前回の部会資料では可分債権のところにつきまして,一つの案に絞った案を提示しておりましたけれども,今回は,前回の御議論を踏まえまして従前の甲案,乙案という形に戻させていただいたわけですが,その関係で特に乙案の仮払いの制度につきましては,具体的な中身についてまだ全く議論がされていないという状況でございます。したがいまして,本日はその具体的な中身についても御議論いただく必要があるのではないかと考えているところでございます。そのような状況でございますので,本日,中間試案を取りまとめるというのは難しいのではないかと考えております。本日はそういう前提で御議論いただければと考えているところでございます。 ○大村部会長 ありがとうございました。   なお御意見を賜りたい点があるということで,本日,御議論いただいた上で,次回以降に取りまとめをさせていただきたいということでございます。そういうことで,本日は先ほど御説明がありました資料12に従いまして,全体につき前回の修正点を中心に御意見を頂いていきたいと思います。それから,前回,積み残しになっておりました「その余の検討課題について」がございますけれども,これは本日の一番最後に扱わせていただきます。できるだけ,そこまで行き着きたいと思っておりますので,どうぞよろしくお願い申し上げます。   そこで,資料でございますけれども,第1から第5までに分かれておりまして,それに「その余の検討課題について」が付いているという形になっております。順番に,「その余」を入れますと六つに分けまして御意見を賜りたいと思います。   まず,最初の「第1 配偶者の居住権を保護するための方策」という点につきまして,事務当局の方から御説明を頂きます。 ○大塚関係官 「第1 配偶者の居住権を保護するための方策」につきまして,前回からの変更点を簡潔に御説明申し上げます。   早速ですが,1の短期居住権についてでございます。こちらにつきましては,形式的に各項目に見出しを付したという変更を施しましたほか,前回会議における御指摘を踏まえまして,必要費及び有益費の支払義務についての記述を整序したというところでございます。また,短期居住権の消滅請求につきまして,各相続人が単独で消滅請求をするということができる旨を,御指摘を踏まえて明示したというところでございます。   短期居住権については以上です。   続いて,2の長期居住権でございますが,まず,5ページ下段の「法的性質について」でございます。長期居住権の法的性質を賃借権類似の法定の債権と位置付ける場合には,長期居住権の設定をする際には,そちらの債務者も併せて確定する必要があると考えられますことから,遺言や死因贈与によりまして配偶者に長期居住権を取得させるという場合には,これと合わせて居住建物の所有者,債務者に当たる側を定めることを要することとしたものでございます。   次に,⑵の「裁判所が遺産分割の審判によって配偶者に長期居住権を取得させる場合について」でございます。こちらは前回会議における御指摘を踏まえまして,結論として遺産分割の審判によって配偶者に長期居住権を取得させることができる場合の要件についての記載を改めたところでございます。   続いて,⑶の「必要費及び有益費について」でございます。長期居住権につきましては,費用の負担は結論として建物について生じた必要費は配偶者が負担するとし,有益費については民法第196条第2項本文と同様の規律によるものという旨を方策で改めて修正を施したということでございます。   ⑷の「長期居住権の買取請求権について」ですが,これは設けること自体についても賛否の御意見が分かれたところでございましたので,それを踏まえまして,買取請求権については後ろの(注)で取り上げるという扱いにいたしまして,その中である程度,具体的な考え方を示すこととしたということでございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   長期居住権の法的性質に関連して,実質的に規律が改められている点があるようですけれども,その他,頂いた御指摘に応じて修正を加えていただいているということかと思います。御質問,御意見等を頂ければ幸いです。 ○増田委員 前回の意見を踏まえて御修正いただいてありがとうございます。   1点,ワーディングの問題ですが,この第1のところの「第三者」というのは配偶者以外の者全て,相続人を含むということなんですが,資料のほかのところでは違った意味で「第三者」が使われている場合もあります。もちろん,民法自体,「第三者」の示す範囲が統一されているわけではなくて,条文ごとの趣旨に従った解釈問題ではあるんですけれども,中間試案とする場合には,ここでの「第三者」は相続人を含む配偶者以外の全ての者というぐらいの注釈を入れていただく方が適切かと思います。 ○堂薗幹事 御指摘を踏まえて修正したいと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   その他,いかがでございましょうか。 ○中田委員 短期,長期を通じてですけれども,配偶者の原状回復義務の規定の内容が資料11に比べて簡潔になっています。しかし,その趣旨は変わらないのではないかと理解しておりますけれども,そういう理解でよろしいでしょうか。もし,よろしければ補足説明の方では,そのことを書いておいた方が疑義が出ないのではないかと思いますけれども。 ○堂薗幹事 従前の書きぶりは,現在国会に提出されている債権法改正法案の条文に合わせたものですが,債権法改正法案では,目的物を毀損した場合の原状回復と,物などを取り付けた場合の原状回復の二つの場合について規定が設けられているのですが,それを二つともここに盛り込むと,若干,長くなってしまうということもあって,今回の部会資料では,元の記載に戻しております。その点については補足説明において説明したいと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   そのほか,いかがでございましょうか。 ○石井幹事 長期居住権について2点ほど,御質問と意見のようなことを申し上げさせていただきます。   まず,1点目は裁判所が審判で長期居住権を設定するときの要件に関することでございます。資料の2⑵②では,配偶者が長期居住権の取得を希望した場合であっても,「建物の所有権を取得することとなる相続人」の意思に反するときは,特に必要と認められる場合に限り,裁判所は審判で長期居住権を設定できると書かれております。このような規律自体はあり得るのかもしれませんが,どなたが建物の所有者になるかは審判がされるまで分かりませんので,審判に先立って「建物の所有権を取得することとなる相続人」に長期居住権の設定についての意思を確認するといっても,具体的に誰に対してどのような形で確認すればいいのか分かりにくく,その点をもう少し明確にしていただけると有り難いのかなと思っておるところでございます。   それから,もう1点は買取請求に関することでございます。(後注)では,例えばという形で規律のイメージを㋐から㋔という形で書かれているところですが,従前の部会での議論ですと,買取請求を認めるかどうかというところも含めて,裁判所が判断するというような議論がされていたと認識しておったんですけれども,今の案ですと,裁判所は基本的には価格のみを定めるといった規律のようにも読めるように思います。いずれかの制度設計もあり得るということであれば,(後注)でいずれかの制度設計によった具体的な規律内容まで書くのが良いのか,あるいは(後注)ではそこまでは書かずに,具体的な規律内容については補足説明での記載にとどめる方が良いのかといったことも含めて,見せ方というか,出し方についてはなお検討していただく余地もあるのかなと思っております。 ○堂薗幹事 まず,4ページの②の裁判所がどのようにして意思を確認するのかという点ですが,基本的には裁判所が審判で遺産を分ける場合には,各相続人の意向なども聴くことになるのではないかと。特に長期居住権を取得させる場合には,他の相続人に対して,それについての意見を聴いて,それに反対していない人がいるのであれば,その人に建物所有権を与えるということも十分考えられるように思います。このように,裁判所は,基本的には他の相続人の意見も聴いた上で,最終的に長期居住権を取得させるかどうかを判断することになるのではないかと考えております。その点について手続法上,必ず聴かなければいけないことにするかどうかという辺りは,今後の検討課題ではないかと思います。   それから,買取請求権につきましてはある程度,中身も(後注)の中では挙げた上で,それについて御意見を伺う方がいいのではないかというご指摘が前回の部会でございましたので,それを踏まえたものです。ほかの考え方もあり得るということであれば,それを更に(注)の中で書くということはあるのだろうとは思いますが,事務当局としても,買取請求権についてはなお検討するというだけではなくて,中身についても記載した上でパブリックコメントに付したいと考えているところでございます。 ○大村部会長 よろしいですか。 ○石井幹事 ある程度具体的な内容を案で示すことについては反対することはございませんけれども,いろいろ,選択肢があり得るということについては明確にした方がいいのかなという趣旨でございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○沖野委員 資料の5ページの長期居住権というのを死因贈与ないし遺言で定める際の所有者となる者についても確定させるという点ですけれども,法律関係を安定させるためにという点からはそうかなと思う反面,このような契約や遺言をした場合に,所有権を取得するべきとされた主体が被相続人より先に死亡したというような場合については,死因贈与の効力あるいは長期居住権取得の効力や,遺言についての効力には影響しないという趣旨でしょうか。また,贈与については亡くなった者の相続人にいくのか,それとも,それは所有者がいないということで,その部分は遺産分割にいくのかといったような問題も出てこようかと思いますけれども,それはそれぞれの解釈等を通じて解決されるのであって,当初の意思決定のときにさえ決めていれば,実際に効力が発動するときに所有権取得者として指定された主体は存在しなくてもいいと,そういう理解でよろしいんでしょうか。 ○堂薗幹事 御指摘のような問題はあるかと思いますが,基本的には併せて決める必要があって,その後,その建物について贈与を受けた人が亡くなった場合の取扱いについては,更に検討する必要があると思いますが,そこで先に所有者が亡くなった場合に遺贈そのものが無効になるとか,そういったことはないようにする必要があるのではないかとは思っております。その辺りは更に検討したいと思います。 ○沖野委員 これが入ることによって,一方ではかえって複雑になることがあるかもしれないという点が気にかかっておりますが,例外的な事情かもしれません。 ○堂薗幹事 今回は法定の債権という性質決定をした上で,こういう形にしているわけですが,論理必然的に法定の債権だからこうだということではないと思いますので,前回お示ししていたように,取りあえず,配偶者に長期居住権を渡すということだけ決めていればそれはそれで有効で,その場合に建物所有者が決まっていなければ,遺産分割なり何なりで決めてもらい,決まった段階で債権者,債務者が確定するというような仕組み方もあり得るんだと思いますので,そのどちらがいいのかという辺りについて,是非,御意見をお伺いしたいと思っているところでございます。 ○大村部会長 沖野委員,何か,今の点についてございますか。 ○沖野委員 私自身は,建物所有者を併せて決めることがどのくらい法律関係を安定させることにつながるのか疑念を持っております。逆に,決めなかった場合とか,あるいは遺贈で受遺者が放棄をした場合だとか,そういう派生的に出てくる問題がかえって多くならないかなと。そして三者で決めるならば,それはもちろん決められるわけで同じような問題は出るわけなんですけれども。そうはいっても,どのくらいその趣旨として,このような形で要求することが趣旨にかなうのだろうかという気がしておりますものですから,強い意見ではないのですけれども,前の案でも良かったのではないかなという印象は持っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   ほかにもし,今の点につきまして御意見がありましたら承りたいと思います。前回の案から改めた点でございますので,今の沖野委員のように前の方が良かったという御意見の方もいらっしゃるかと思います。 ○窪田委員 今,沖野委員から出たことで尽きているとは思いますが,こういうふうな形で居住建物の所有者をあらかじめ定めておかなければいけないとしますと,仮にこれを定めていないと,長期居住権を設定するという遺言自体が全体として無効になってしまう可能性があるのだろうと思います。ある意味で誰のところにその建物がいこうが,その建物についてはそういう負担を負っているのだというのが真意であると考えるのであれば,そこまで強い形で縛る必要はないのか,実質的にもそうなのではないのかなという気がいたします。 ○大村部会長 ありがとうございます。   沖野委員と窪田委員から,御意見を承りました。今の点でも結構ですし,それ以外の点でも結構ですので,更に御意見があったら承りたいと存じます。 ○西幹事 ほかの点になりますけれども,質問ないし疑問2点と確認させていただきたいこと2点がございます。   非常に細かいことばかりで恐縮ですが,1点目の疑問は,短期居住権の消滅のところで,1ページの下から4行目になりますけれども,配偶者以外の相続人が消滅請求できると書かれていまして,これが2ページの⑵の②で,配偶者以外の者が居住建物を取得した場合にも準用されるという形になっていますけれども,ここでも相続人が消滅請求できるという理解でよいのか,あるいはこの場合には建物所有者が消滅請求できるということになるのかという点です。   2点目は,長期居住権の価値に関する5ページの一番上の(注1)のところで,長期居住権が相続分の中に含まれるということが書かれていますけれども,これが(注1)で書かれているのに対して,短期居住権の方は1の⑴のアの②のところで,つまり(注)ではなくて本文の中に,相続分に含まれないということが書いてありますが,バランス的にはこれでよいのでしょうか。   確認させていただきたいことの1点目は,既に出てきたような気もいたしますが,2ページの上から4行目の③のところ,配偶者が原状回復義務を負うというところで,これは配偶者が死亡によって居住権を失った場合には,配偶者の相続人が原状回復義務を負うという理解でよろしいのでしょうか。これは長期居住権のところでも同じです。   あと,もう1点はその少し上です。②の「占有を喪失し」というところで,前にも確認させていただいたかもしれませんが,例えば入院したとか,そういう事情で一時的に占有状態がなくなったという場合は当然含まれないという理解でよろしいのでしょうか。 ○堂薗幹事 ただいまの点ですが,まず,2ページの⑵の②のところですけれども,その余の規律は同じと書いてしまっておりますが,当然,この場合は建物所有者が決まっておりますので,消滅請求できるのは建物所有者という前提です。   それから,短期居住権と長期居住権で相続分に入れるかどうかの記載について平仄がとれていないのではないかという点でございますが,長期の方は遺産分割においてそういう権利を取得させることができるということですので,通常,何も書かなければ相続分でその分を取得するということになるのではないか,逆に言うと,短期の方は,これによって得た利益を相続分に含めないということですので,その点は明示的に書かないと,そのような規律にはならないのではないかという理解の下にこうしているんですが,ただ,分かりやすさとかいう観点もありますので,中間試案の段階では,長期の方も,(注1)の記載を本文に持ってくるということは十分に考えられるのではないかと思います。   それから,配偶者が死亡した場合に誰が原状回復義務を負うかという点ですが,これは相続人が負うという前提でございます。   それから,短期の場合の占有の喪失ですけれども,例えば,配偶者がほかの施設に移っていても従前の居住建物に荷物を置いているというような場合には,占有の喪失はないということになるのだと思います。また,占有訴権により占有の回復がされれば,当然,短期居住権も消滅しなかったという扱いにはなるのだろうとは思いますけれども,ただ,実際にはそのようなことはほとんどないのではないかと考えているところでございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。よろしいでしょうか。 ○西幹事 ありがとうございます。 ○大村部会長 そのほか,第1の項目につきまして何かございましたら伺います。 ○上西委員 教えていただきたい点があります。4ページの第三者対抗要件の箇所です。「配偶者は,長期居住権について登記をしたときは,長期居住権を第三者に対抗することができるものとする」とあります。登記の本質からすれば,これでよいと思います。ただし,同じ建物について所有権と長期居住権があることになり,登記が任意であることは重々,承知しておりますが,今まで議論がなかったので,義務化することの是非について検討していただきたいのです。未登記の長期居住権が増えると,紛糾事例が増えるのではないかと懸念するからです。それと,念のためですけれども,1ページで⑴の②で,「短期居住権の取得によって得た利益は,配偶者が遺産分割において取得すべき財産の額(具体的相続分額)に算入しないもの」とあります。算入しないということと評価の有無は全く別ですので,注釈的に5ページの上の(注1)(注2)のように,短期居住権の財産については評価しないとか,登記対象となるものではないという注釈があってもいいのかなと感じました。御検討いただければと思います。 ○堂薗幹事 長期居住権の登記ですけれども,この点については賃借権とは異なって,配偶者からの登記請求権を認めると,ですから,配偶者の方で登記を備えようとすれば,備えることができるようにする必要があるのではないかと考えておりまして,その辺の手続についてはまだ具体的に記載していないんですけれども,5ページの(注2)で「長期居住権に関する登記手続をどのように定めるかについては,なお検討する」と,ここで検討課題として挙げているという認識でございます。義務化と言われたのはそういう趣旨でよろしいでしょうか。 ○上西委員 そういう趣旨でもあり,また,一つのものに複数の権利が併存するわけですので,将来的な紛糾防止のためにも何らかの明示があってもいいのかなという趣旨です。 ○堂薗幹事 分かりました。   それから,短期居住権の点につきましては,御指摘の点を補足説明で説明するのか,あるいは(注)に記載するのかという辺りについては検討させていただければと思います。 ○大村部会長 上西委員,よろしいでしょうか。 ○上西委員 ありがとうございます。 ○大村部会長 御質問が出ましたけれども,具体的な登記手続をどうするかという問題はなお検討を要するかと思いますが,登記請求権があるのかないのかということについては考え方をお示しいただいて,御意見を聴いていただいた方がいいかと思います。 ○堂薗幹事 分かりました。 ○大村部会長 そのほか,いかがでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは,第1点につきましては,今,頂いた御意見を踏まえまして,取りまとめをさせていただくということで事務当局の方にお願いをしたいと思います。   続きまして,第2の「遺産分割に関する見直し」というところに進ませていただきます。資料6ページでございます。事務局の方からの説明をお願いいたします。 ○満田関係官 関係官の満田の方から説明をさせていただきます。資料6ページ,「第2 遺産分割に関する見直し」ということになります。   まず,「1 配偶者の相続分の見直し」につきましては,甲案については前回会議における御指摘を踏まえ,表現ぶりを一部修正いたしましたけれども,実質的な変更点はございません。   乙案についてですが,前回会議におきまして乙案について乙-1から乙-3までの三つの案を提案しておりましたけれども,中間試案として乙案のみで三つの案を提示するのは適切ではないとの御指摘を頂きましたので,前回資料における乙-1案と乙-2案を本部会資料における乙-1案として整理しました。乙-1案については届出の有無についての公示方法として,例えば戸籍にその旨を記載することなどが考えられますけれども,身分関係を公証する手段である戸籍にこのような記載をすることが可能かといった理論上の問題点もありますし,現時点でその手段を明記することは困難と考えましたので,本部会資料では今後の検討課題である旨を注記するにとどめております。また,前回会議では乙-1案について撤回を認めるか否かについても,パブリックコメントで意見を聴くべきであるという御指摘を頂きましたので,届出の撤回を認めるかどうかは今後の検討課題である旨を(注)に記載しております。   乙-2案については前回会議におきまして,例えば夫婦が長期間別居していた場合など,配偶者が夫婦の財産形成に貢献したとは言えないような場合に,当然に法定相続分を引き上げることの相当性について疑問が呈され,適用除外を定める必要があるのではないかという御指摘も頂きました。他方,配偶者の生活保障という観点を重視しますと,一定の期間の経過をもって配偶者の法定相続分を引き上げるということにも一定の合理性があるという指摘も頂きました。また,乙-2案は乙-1案とは異なり,一定の期間の経過だけで当然に法定相続分が引き上げられるという基準の明確性がメリットであると考えられますので,これに適用除外を設けるとしますと,そのメリットが相当程度減少することになり,乙-1案よりもむしろ基準が不明確になるという不都合性があると考えられます。また,適用除外を認めることとした場合には,その要件をどのように設定するかという点も問題になります。   ①の規律の適用を除外する場合を適切に判断しようとしますと,別居中の婚姻関係が実質的に破綻していたか否かといった実質的な要件を付加しなければならないことになるとも考えられますが,このような実質的要件を設ければ,その有無をめぐって配偶者と他の相続人と間で主張立証が繰り返され,遺産分割の手続が長期化,複雑困難化するおそれがありますし,適用除外の有無につきまして裁判が確定しない限り,法定相続分が定まらないということになりまして,相続債権者の利益を害することにもなるのではないかと考えられます。このため,本部会資料では適用除外事由を具体的に示すことはせず,問題点のみを注記することといたしました。   続きまして,2番,10ページになりますけれども,「可分債権の遺産分割における取扱い」について説明させていただきます。部会資料11では,部会資料9において提案した甲案と乙案との折衷的な案を提案させていただきましたけれども,これに対しては甲案と乙案双方の問題点を引き継いでしまうというおそれがあるなどの御意見がありましたので,本部会資料では従前の甲案と乙案を基本にした案を再度,提案させていただいております。   まず,甲案につきましては第9回会議での御指摘を踏まえまして,相続人が遺産分割により法定相続分を超える割合の可分債権を取得した場合に,対抗要件を具備する場合を整理いたしました。また,甲案を採用した場合には多額の特別受益がある相続人が遺産分割前に可分債権の弁済を受け,その弁済受領額が当該相続人の具体的相続分を上回ることがあり得ます。甲案は,このような場合には遺産分割において当該相続人に金銭支払債務を負担させることとしております。ただし,それ以外にも審判前の保全処分を活用することも考えられます。もっとも,現行法の審判前の保全処分では本案事件の係属が要件とされておりますので,この場合には遺産分割前の処分さえ禁止すれば,遺産分割の協議がまとまる可能性も高く,本案の申立てをする必要はない場合もあり得るのではないかと考えられましたので,本部会資料では可分債権の権利行使を禁止する仮処分につきましては,本案係属要件を不要とする考え方を提示させていただいております。   続きまして,乙案についての説明ですが,乙案については従前から預金債権等の可分債権は,相続によって当然に分割承継されるという判例理論を前提としながら,例外的にその権利行使を制限する制度を設けるという前提で議論してきたところです。ただ,この判例理論につきましては,今後,最高裁大法廷において変更される可能性がございますので,その内容次第では当部会における見直しの内容も変わる可能性がございます。   そこで,最高裁の判断を注視する必要があるものと考えております。例えば可分債権であっても相続の場合には当然に分割承継されるわけではなく,遺産分割が終了するまでの間は準共有の状態になるという考え方が最高裁で示された場合には,乙案に示されている①及び②はその点の確認規定にすぎず,仮払い制度がそれに対する例外を設けるものという位置付けに変わることになり,遺産分割が終了するまでの間の法律関係,例えば可分債権を有する者が死亡した場合の受継の方法や,相続債権者による差押えの対象も変わることになるのではないかと考えられます。これに対し,例えば預金契約上の地位が不可分であることを理由に,預金債権の当然分割を否定するという判断が示されたような場合には,遺産分割の対象に含める可分債権の範囲を検討するに当たり,その判断を十分に考慮する必要が生じることになるものと考えております。   更に乙案についての仮払い制度についても御説明いたします。乙案を採用する場合には,例外的に可分債権の一部行使を認める制度を設けるべきであるとの指摘が従前からされておりますので,この点について検討しました。預金債権を個別に行使する場合に,必ず裁判所の判断を経なければいけないこととしますと迅速な払戻しが困難となり,相続人に大きな負担を強いることになり,相当ではないという指摘もされております。そこで,裁判所の判断を経ることなく,預金の払戻しを受けることができる場合の要件設定をする必要がございますが,この点,まず,㋐として払戻しを受ける目的に応じて払戻しを認める金額を定めることも考えられます。ここでいう目的及び金額については一義的に明確な基準を定立することは困難であると考えます。そうすると,金融機関としましても払戻し請求が正当なものであるか否かについて慎重に審査せざるを得ないこととなり,結局,相続人が迅速に必要な払戻しを受けることが困難になるおそれがあると考えております。   そこで,㋑としまして払戻しを受ける目的を問わずに,一定の金額について当然に払戻しを認めることとすることが考えられます。その場合には一定の金額について,例えば相続開始時点における口座残高に払戻しを求める相続人の法定相続分を乗じた額以下であれば,当然に払戻しを認めることとするという制度も考えられるところであり,このような要件であれば先ほどの払戻しの目的に応じて払うという㋐と比較しまして,払戻しを認める要件が明確となり,相続人も迅速な払戻しを受けることができることになると考えられます。そこで,これらの点についても御意見を頂ければと存じます。   もっとも,前記の規律によりましては,例えば相続人の一人が被相続人から扶養を受けていて,遺産分割が終了するまでの間,生計を維持することができない場合などに対処することは困難であると考えられます。この点に関して現行法上は,審判前の保全処分としまして,申立人が当該遺産を取得する蓋然性があり,申立人が当該遺産を緊急に取得する必要性がある場合には,遺産の仮分割を行うことが可能とされておりますが,この特則として預金債権の仮分割に本案係属要件を不要とするということも考えられます。   また,現行法上,家庭裁判所が審判前の保全処分として財産の管理のため必要があるときには,財産管理者を選任することができるとされておりますので,財産管理者制度について特則を設け,家庭裁判所が財産に関する預金を管理する権限を有する者,ここでは預金管理者と言わせていただきますけれども,この預金管理者を選任した場合には,預金管理者が家庭裁判所の許可を得ることなく預金の払戻しを受け,又は預金管理者の名義の口座において管理し,相続債務の弁済や相続人の生計維持のための支出をすることができるという方法も考えられます。これらの点について御意見を賜れればと存じます。   最後に3番,「一部分割の要件及び残余の遺産分割における規律の明確化等」についても説明をさせていただきます。前回会議では本部会資料3⑴及び⑵記載の各審判の法的性質や不服申立ての方法をどのように考えるべきか,整理する必要があるとの御指摘を頂きました。   この点,⑴の審判は一部分割の対象となる遺産については通常の遺産分割と同様に分割することとしながら,残余の遺産については当該遺産分割の対象から除外するが,分割禁止の効力までは生じさせないことを想定しておりまして,その意味では遺産該当性について争いがある財産につきましては,遺産分割の審判をするのに熟した状態になっていないとして,その部分を却下するという性質のものと見ることも可能であると考えられます。他方で,⑵の審判につきましては,争いがある可分債権についても法定相続分に従って各相続人に取得させることを認めることによりまして,全ての遺産についての分割を終えるということを想定しております。   以上のとおり,⑴及び⑵のそれぞれの審判はいずれも遺産分割の申立てに対する全部審判であり,一部分割をすること又は争いのある可分債権を法定相続分で分割することの相当性に関する不服申立てについては,即時抗告によって行うことを想定しております。このような見解に対しては,遺産の一部を遺産分割の対象から除外し,又は争いのある可分債権を法定相続分で分割することについて,分割禁止の審判と同様,独立の審判であって,その判断のみを対象として不服申立てをすることができるとすることも考えられるところではございますけれども,これらの事項のみを早期に確定させる必要性がどれだけあるかについては疑問があるように思われますので,この点についても御意見を頂ければと存じます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   三つの項目がございますので,順次,御意見を頂ければと思います。最初に,「配偶者の相続分の見直し」についてでございますけれども,甲案については特に変更はないということでございました。乙案につきましては,前回は,三つの案が提案されておりましたけれども,そのうちの二つを乙-1という形でまとめて,その中に選択部分が残るという形でまとめている。乙-2はいろいろな御意見がございましたけれども,ここにお示ししたような形でまとめさせていただいているということかと思います。この点につきましていかがでございましょうか。 ○増田委員 乙-1と乙-2をまとめて乙-1にされていますが,非常に分かりにくくなっております。この部会にずっと参加していた者にとっては,前回の乙-1と乙-2をまとめたんだなというのは分かりますが,これでは括弧の書き方が分かりにくくなっておりますので,要は意思表示による場合の中に,合意による場合と単独行為による場合との二つの考え方があるということが,分かるような書き方にしていただければと思います。「その夫婦〔一方の配偶者〕が配偶者〔他方の配偶者〕」という,それで読み切れるかどうかというのは非常に疑問がありますので,よろしくお願いします。 ○堂薗幹事 その点については,こちらも気になっているところなんですが,乙-1案のどちらの考え方も本文に上げて,もう一つの考え方を(注)で挙げるということもあり得るのではないかなとは思っているんですが,その辺りについて御意見を頂ければとは思います。 ○増田委員 それであれば,旧乙-2,つまり自分のものを自分で処分するというのが恐らく原則だと思いますので,単独行為の方を本文にして,合意の方を(注)にした方がいいと思いますが,仮に併存させる場合でも括弧のところをもう少し長くとって,「その夫婦が配偶者の法定相続分を引き上げる旨〔一方の配偶者が他方の配偶者の法定相続分を引き上げる旨〕を」とか,そういう書き方もあるかと思います。先ほどのように本文と(注)というと,また,この部会の中でもいろいろな議論があるかと思いますので,私個人は旧乙-2の方が原則であるべきであろうと思っておりますが,そこの辺りはこだわりません。 ○大村部会長 増田委員から,今,二つの御提案を頂きましたけれども,最初の方はおっしゃるように,これを議論するとまたいろいろなお考えがあるような気もいたします。他方,括弧の幅を広くとって,何と何が対比されているかということをより明らかにするという点につきましては,多分,御異論はないのではないかと思いますので,そちらで処理していただく方が良いように思いますけれども,いかがでしょうか。 ○沖野委員 それで結構だと思います。その際にタイトルの方ですが,今もちょうど御指摘があったように,合意により,又は一方的な意思表示によりというようなものがタイトルに入ると,一層,分かりやすくなるかなと思いますので,それも御検討いただければと思います。 ○大村部会長 では,それも含めて御検討いただくということでお願いしたいと思います。   その他,第2の1の「配偶者の相続分の見直し」につきまして御意見等はございますでしょうか。 ○石井幹事 案の示し方についての意見になりますが,乙-2案については,前回までの議論を踏まえて(注)の適用除外について記載されたという御説明があったところです。しかし,先ほどの御説明の中でもありましたとおり,乙-2案の長所は,言ってみれば割り切りが非常に良いところにあるのだろうと思います。そのため,(注)の適用除外が案本体と一緒に記載されると,乙-2案の長所が分かりにくくなってしまうように思います。そうであれば,案の示し方としては,まず,乙-2案は割り切った案であるということを示した上で,適用除外については本文に記載せず,補足説明の中で説明することにとどめるということもあるのかなとも思いますので,御検討いただければと思います。 ○堂薗幹事 そこは,もちろん,そういう考え方もあるのだろうと思いますが,ここで(注)を設けたのは,乙-2案についてそのような問題点の指摘があるということは(注)の中で記載した方がいいのではないかという前回部会での御議論を踏まえたものです。この点の取扱いを変えた方がよいのではないかというご趣旨であれば,ほかの方の御意見も聴いて考えたいとは思いますけれども,ただ,乙-2案の最大のメリットとしては,今,御指摘があったように基準が明確であるというところかとは思いますが,逆にその点が問題点を含んでいるということだろうとも思いますので,その点を本文の中で明らかにするということには,それなりの意義はあるのではないかと考えているところでございます。ただ,そこはこの場での御議論に従いたいと思いますので,ほかの方の御意見をお伺いしたいと思います。 ○大村部会長 今の点につきましては何か特別な御意見はございますでしょうか。 ○沖野委員 提案自体についての意見ではないのですが,試案として聞いたときに意見が出やすいかという観点を考えると,割り切り型でやってしまうよりは(注)のところにある程度このような記述でもあった方が,例えば,乙-2がいいけれども,適用除外のこういうことを設けるべきだというような意見が出やすいのではないかという感じがします。それを考えると今のような形で更にブラッシュアップしていくというのが,聞き方としてはよろしいのかなと思っております。その場合に(注)にあるように,適用除外事由を設けるべきか否か,設けるとすれば,その内容について,という辺りまで書いた方がより意見は出やすいかもしれないと思います。 ○大村部会長 そのほか,今の点について何か。 ○南部委員 (注)の取扱いが分かりませんでしたが,今,議論になったので参加させていただきます。どの項目についてもなお検討するということで終わっています。ここについての意見を聴くのであれば,そのような書きぶりにされた方が良いかと思っております。(注)についても意見を聴くのかどうか,というのは皆さんの御意見なので,決めていただければいいと思いますけれども,今のままだと(注)が聴かれたと思われないのではないかという心配があります。私としては明らかに,これも聴くか,聴かないかも含めて決めていった方がいいのではないかということでございます。 ○大村部会長 本文にと南部委員がおっしゃったのは,説明の方にということですか。 ○南部委員 このまま見ていると(注)は例えばパブリックコメントで意見を聴かれているかどうかということが分かりにくいと思っております。例えば(注)で残してもいいとは思いますけれども,残すのであればもう少し問うような書きぶりで,(注)については例えば本文についてのこういう注意点については,こういう問題点も考えられるので,それについてどのように考えるかというような聴き方を是非していただいた方が分かりやすいのではないかという意味でございます。それを本文に取り込んでもらっても構わないし,書き方は工夫が必要かと思います。 ○大村部会長 分かりました。部会での検討状況を論点整理という形でお示しして,それについてパブリックコメントを行うということなので,こういう書き方になっている。しかし,(注)についても意見を求められているということがなかなか分かりにくいという御指摘だったかと思います。「」という表現はこの文書の性質としてなかなか変えるのが難しいところがあるのかもしれませんが,この部分も質問の対象になっているというのを,可能ならばどこかに書いていただくというように工夫してほしいということですね。それはまた御検討いただくということにしたいと思います。   先ほどの乙-2案に付いている(注)をどうするかということですけれども,石井幹事の御趣旨は,乙-2のメリットがよく分かるような形で示す必要があるということかと思いますので,(注)が付いていることによって,そのメリットはどういう影響を受けるのかということにつきまして,もし(注)を残すのであれば補足説明の中で,そのコントラストが際立つように説明をしていただくということで更に検討いただく。こういうことでよろしゅうございますか。 ○石井幹事 そのようにしていただければと思います。 ○大村部会長 それでは,そのようにさせていただきます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   その他の点はいかがでございましょうか。 ○中田委員 甲案の方なのですが,甲案の(注4),7ページにございますけれども,婚姻後一定期間が経過すると,婚姻時の純資産額をゼロとみなすという点についてです。これによりますと,例えば先祖伝来の田畑がある場合も,その対象になるのだろうと思います。他方で,その次の(注5)ですけれども,婚姻後に相続によって財産を取得した場合については期間制限がないのだろうと思います。そうしますと,父親が所有していた田畑を相続した息子が婚姻をして20年が経過した場合と,父親の存命中に息子が婚姻して,その後に父親が死亡して相続した場合とで大きく結果が違ってくることになります。そうしますと,(注4)の規律の在り方について,もう少し詰めた検討の余地があるように思われます。こういった留保を補足説明で示すか,あるいは(注4)をむしろ補足説明の方に移すか,いずれにしても,もう少し検討を要するのではないかと思いました。 ○大村部会長 ありがとうございます。(注)とするか補足説明とするかということも含めて,再度,御検討いただくということでお願いしたいと思います。   そのほか,1の「配偶者の相続分の見直し」につきまして御意見等はいかがでございましょうか。よろしいでしょうか。   それでは,次へ進ませていただきますが,2の「可分債権の遺産分割における取扱い」についてでございます。これは事務当局の方から御説明がございましたけれども,前回,甲案と乙案を折衷するような案が出ましたけれども,委員の皆様から,従前の甲案,乙案の方が良かったという声が多数寄せられましたので,甲・乙併記という形で,再度,書いていただいたものでございます。これは元に戻しましたので,この内容につきまして御意見を頂きたいというお話が先ほどございました。乙案の仮払いをどうするかということについて,幾つかの選択肢があるわけですけれども,そうした点も含めまして御意見を賜れればと思います。 ○浅田委員 まず,前回,当方から提案させていただいたことを踏まえまして,今回,甲案,乙案の両論併記としていただいた点について御礼を申し上げます。更に乙案につきましては仮払いを可能とする考え方について,複数,具体的な案の記載を頂いており,広くパブコメを付すに当たり,とても有意義なものになっていると認識しており,重ねて御礼を申し上げたいと思います。   一方で,補足説明において追記していただきたいこと等について,大きく2点ばかり意見を申し上げたいと思います。   まず,第1点目でございますけれども,甲案に関して,第9回会合でも述べさせていただいたとおり,甲案においてはいわゆる勝手払いのリスクが残ると思っております。これは同会合において配布させていただいた「可分債権の取扱い等に関する意見」を御想起いただきたいと思いますけれども,簡単に再度,申し上げますと,相続開始後,ある相続人が銀行に当該事実を通知する前に,むしろ,それを秘して払戻しを受ける事例において,その後,当該相続人の各人が勝手払い後の現在残高基準ではなく,甲案に基づいて相続開始時残高を基準に法的相続分の払戻しを求めることになれば,係る場合の弁済ルールの確立がない限りにおいては,銀行側とすれば二重払いを負うリスクが生じたり,そのために支払いを拒絶せざるを得なくなったり,また,早い者勝ちになったりするような弊害が想起されるということでございます。そのために,第5回,第9回において提案させていただいた経緯もございました。   本点においては,パブコメにおいても甲案,乙案の選択,甲案選択時の制度設計や解釈形成において重要な考慮要素であると思います。したがいまして,私どもとしては可能であれば,これら当方案をパブコメ等に掲載していただくのが私どものベストなものでございますけれども,現時点の議論状況に鑑み,それが難しいのであれば,今,述べました考慮要素について補足説明等に記載していただき,広く国民の声の対象に付け加えていただければと考えております。是非とも御検討いただきたいと思います。   次に,第2点でございますけれども,乙案に関してのことでございます。部会資料13ページ,14ページの3⑵ア,イにそれぞれ,これらについてどのように考えるかと記載しておられますので,パブコメ案の記載方法に加えて内容について若干,意見を申し上げたいと思います。前者アにつきましては,仮払い制度について具体的な2案をお示しいただいたことによって,今後の議論が進展することが期待できると思います。本点は相続人の保護,利便性や,また,他の相続人の資産保護とのバランスをどう図るかといった社会的な観点と,他面で,預金受入れ銀行の事務対応の可能性という両面を考慮する必要があると考えています。   ここでは銀行の立場から,後者について述べさせていただきたいと思いますけれども,銀行としましては事務処理が明快で画一的に処理できる内容であれば有り難いと考えております。その観点からは,現時点で2案をいずれも排するというわけではございませんけれども,補足説明にもありますとおり,比較においては仮払い金額が明確な㋑案,一定金額の方がベターということになるのかもしれません。   もっとも,いずれにしろ,この制度については例えば仮払いの基準単位に考えますと,政策的には1口座とするのか,支店ごとに考えるのか,金融機関ごとに考えるのかという選択肢も考えられます。また,法制度上はもとより,銀行実務対応の可能性や,特に仮払いが一部金額にとどまる場合は,仮払い実行後の管理コストなど,事務面,技術面の検討が必要となります。   その際には仮払い払戻し後の処理は,具体的相続分において処理するものと考えますけれども,複数の相続人から多様な名目で複数にわたって,事後的に払戻し請求があり得るということも想定しなければならないと思います。要はいろいろ実務面の実態面も鑑みた検討が必要だと思います。これらの詳細な検討は,パブコメ案策定時点ではできないと思いますけれども,今後の検討事項と思いまして,その検討課題の所在の指摘と,その際に銀行の管理コストや管理可能性についても御考慮いただきたいと思いまして付言する次第であります。   また,イの裁判所の仮分割の決定の要件緩和や預金管理者の提案については,更に詰める点が多々あろうかと思いますけれども,相続人の経営維持等を実質的,柔軟に対応する制度として,また,預金払戻し等の実務を行う銀行にとって十分考えられる制度だと思います。ただし,銀行としては円滑,迅速な払戻しのために払戻し手続において,手続実施者に権限があることが明確になる必要があると思います。例えば仮分割決定であれば,誰に,どの口座から,幾ら払戻しがあるのか,明確であること,また,預金管理者であれば,当該払戻しが同人の権限内であることが明確になるよう,できれば包括的な権限を授権する制度や運用になるように御顧慮いただければと思います。   なお,制度設計における今後の検討事項になろうかと思いますけれども,預金管理者につきましては社会的見地からも,その制度の適正運用の観点から,担い手の信頼性担保の要否のための就任要件の有無とか,家庭裁判所に対する定期報告義務の設置や解任権限時における金融機関等の制度や,善意の金融機関の免責の制度も併せて検討いただければと思います。   加えて,補足説明記載上での御検討のお願いなのですが,乙案については行方不明者が出た場合に処理できず,問題ではないかという懸念にしばしば接することがあります。この点については今後の検討事項なのかもしれませんけれども,少なくとも現行制度では不在者管理人の選任を得て,同人との間で分割協議を行っていると認識しておりますので,これと同様の対処により解決することが可能ではないかと思っております。また,可能であるかは別途確認する必要があろうと存じますが,審判を公示催告によって行うとか,その他の法制度の利用創設によって解決する方法もあるかもしれません。いずれにせよ,取りあえず,先ほど述べた懸念に対しては,かような不在者財産管理人の制度の活用等による解決策があるという点を補足説明で記載していただければ,より深まったパブコメの意見が期待できると思いますので,記載の御検討をお願いしたいと存じます。   後で細かい質問をさせて頂こうかと存じますが,意見としては以上でございます。 ○堂薗幹事 御指摘を踏まえて検討させていただければと思います。1点ですが,甲案を採った場合に従前から問題が生じると言われている勝手払いの点なんですが,この点は,例えば,預金者の生前に権限がない人に預金の払戻しがされた場合については,基本的に478条の準占有者に対する弁済で処理されているんだろうと思います。そうだとしますと,預金契約上,死亡した場合に金融機関に通知が行くまでの間は,相続人は勝手に引き出せないということにした上で,通知をせずに払い出した場合には,権限なく払い出したということになろうかと思いますので,その点については生前に勝手に引き出された場合と同様,準占有者に対する弁済で処理をするということが考えられるのではないかと。   そして,それが弁済としては免責されるということになりますと,通知後の残高しか,結局,債務としては残っていないという状況になりますので,法定相続分に従って弁済に応じれば,基本的には有効な弁済になるということになるのではないかというようにも考えられるところでございまして,その辺りについては,そちらでも御検討いただいた上で,最終的にどういう形で解決するのが妥当なのかという辺りについて,この場でも御議論いただければと考えているところでございます。その余の点については検討させていただければと思います。 ○浅田委員 繰り返しになりますけれども,そのようないわゆる準占有者に対する弁済のルールが解釈上も明確にならない限りにおいては,実務上,相続預金の払戻しの場面では判断に困る場合がありますので,解決が図られるのであれば,その問題の所在及びその解釈による解決を補足説明で書いていただくということが,パブコメに対する意見の参考に資するのではないかと思った次第でございます。 ○大村部会長 浅田委員,その他の御質問も,あわせてどうぞ。 ○浅田委員 細かい話ですが,預金管理者なんですけれども,財産管理者,家事事件手続法に基づくものを想定されているのだと思いますので,遺産分割の審判又は調停の申立てがあった場合に,必要に応じて選任されるものだと思います。すなわちこれは,概念上は遺言がない場合の制度と思われ,預金に関する遺言があり,遺言執行者がいるという場合には利用されない制度ではないかと思いました。ですから,預金管理者と遺言執行者というものは,併存することはないと概念整理されているのですかという質問です。 ○堂薗幹事 ここで考える預金管理者の方は遺産分割をする前提として,仮払い等に対応する権限を持つ人を別途設けるということでございまして,基本的には遺言執行者とは違って,それこそ,中立的な立場で権限を行使することを想定していますので,適用場面も違いますし,その法的性質は大分異なるのではないかと考えているところでございます。 ○浅田委員 ありがとうございました。 ○大村部会長 ありがとうございます。   そのほか,いかがでございましょうか。 ○南部委員 今の預金管理者についてですが,イメージができないので,遺言執行者とは別ということですが,例えばどういった人を預金管理者としてイメージしているのかということが一つと,預金管理者を選任するということは誰かが亡くなった後に選任するのか,それともその前に決めておくのか,それには報酬などが発生するのかとか,そういったところをお聞かせいただけたらと思います。 ○堂薗幹事 この辺りについては,こちらの検討もまだ不十分で,十分な御説明ができる段階にはないんですけれども,預金管理者は遺産分割が終了するまでの間,預金を管理して必要な人に仮払いができるようにするという前提でございますので,そういった意味では,預金管理者を選任するような場合には,そういった法律にある程度詳しい方になっていただく必要があるのではないかという感じはしております。したがいまして,そういった意味で第三者が預金管理者に選任されるということになるといたしますと,報酬もお支払いするということにはならざるを得ないと思いますので,そういったコストがかかるところをどう見るかという問題はあろうかと思います。 ○大村部会長 よろしいですか。 ○南部委員 ありがとうございます。 ○大村部会長 そのほか,いかがでございましょうか。 ○山本(和)委員 この段階で伺う必要はないかもしれませんけれども,可分債権の行使を禁止する仮処分の性質ですけれども,本案係属要件を不要とするということが書かれているんですが,本案係属要件のない審判前の保全処分というように理解すればいいのか,あるいは何か全く異なる性質の仮処分がイメージされているのかということをお伺いできればと思ったんですが。 ○堂薗幹事 ですから,この場合は必ずしも審判前に何か保全するというものではなくて,遺産分割協議を円滑に進めるためにも利用できるということだと思いますので,そういう意味では,審判前の保全処分ということでは必ずしもないのかなという感じもしておりますが,いずれにしても本案あるいは調停の申立てをすることなく,こういった申立てをして権利行使を禁止するというものを想定しております。 ○山本(和)委員 ただ,本案が全く想定されないということは多分,あり得ないと思うので,保全処分である以上は,ですから,どういう形で取り消すかとか,何が本案になって,それについて例えば起訴命令的なものがあり得るのかとか,かなり手続的には恐らく詰めないといけない問題はあるのだろうなとは思いますが,そういう本案係属要件がないような家事事件上の保全処分を認めること自体は私は賛成ですので,今後,詰めていただければとは思いますが。 ○堂薗幹事 もちろん,話合いがまとまらなければ最終的には遺産分割の審判になりますので,全く本案が想定できないということではないんですけれども,ただ,遺産分割協議がまとまれば,そこで終わるということにはなりますので,本案係属要件を不要とすることも考えられるのではないかという問題意識を持っているということでございます。御指摘のような問題点については,今後,検討してまいりたいと思います。 ○大村部会長 山本委員,よろしいでしょうか。   そのほか,この可分債権の取扱いにつきまして。 ○石井幹事 今の仮処分の点についてですけれども,甲案,乙案のいずれの制度設計を採るかというところは御議論いただくとして,例えば,甲案で検討されているような仮処分について,これを簡易に認めるとなると,甲案自体が乙案に接近することになりますし,逆に仮処分の審理の中で本案と同じような判断まで要するということになりますと,本案係属要件を外したところで,さほど要件が緩和されることにはならないように思います。このように,仮処分の要件立てや審理のイメージによっては制度設計全体に大きな影響を及ぼすことになると思いますので,そういったことも補足説明で記載していただくなり,今後の検討課題ということで御認識いただければなと思っているところであります。   もう1点,乙案の関係で預金管理人について御指摘があったところですけれども,この制度については私も預金管理人の権限や義務が必ずしも明確にはなっていないと思っております。現状では,預金管理人になる方がどういう行動指針に基づいて行動するのか分かりませんので,このままの状態でパブコメに付すということは,適当ではないのではないかなとも思っているところでございます。 ○堂薗幹事 まず,甲案の仮処分の方ですが,要件によっては乙案を採ったのとほぼ同じ形になるのではないかということでございますけれども,少なくとも相続人が相続分を保全するために必要があるときという要件がございますので,甲案では,各相続人の具体的相続分を超えて権利行使がされるようなおそれがある場合に権利行使を禁止できるという前提でございます。ただ,要件については更に検討したいと思います。   それから,預金管理者の方は,まだ,こちらも十分な検討ができていないところがございますので,少なくとも次回の部会資料では,もう少し具体的にこちらの考え方をお示しした上で,最終的に(注)で残すことが相当かどうか御議論いただければと考えております。 ○大村部会長 預金管理人についてはいろいろ御質問もありましたけれども,今のような対応でよろしゅうございますでしょうか。   そのほか,いかがでございましょうか。 ○中田委員 一般的なことなんですけれども,二つあります。   一つは最高裁判決との関係ですが,12ページの御説明の書きぶりだけなんですけれども,最高裁判決があれば当然にここでの内容は変わるというのは行きすぎではないかという気がします。立法しようとしているわけですので。最高裁判決を,十分,考慮すべきことは当然なんですけれども,表現に御注意いただければと思いました。   それから,もう一つは先ほどの浅田委員の御発言についてですが,銀行の観点からの検討は,非常に貴重で重要なものだと思いました。ただ,ここでは例えば不法行為債権なども含めた可分債権一般について,より広い観点から検討しておりますので,何か預金だけに絞って検討するというのは,少し狭くなってしまうのではないかと思います。バランスの良い書きぶりにしていただければと思います。 ○大村部会長 御指摘の2点は御考慮いただくということでお願いしたいと思います。   そのほか,いかがでしょうか。 ○堂薗幹事 実は可分債権のところにつきまして,本日,御欠席されておりますが,潮見委員の方からこの場で御議論いただいた方がいいのではないかということで,御意見を頂いていることがございます。具体的には,甲案あるいは乙案を採った場合に,差押えがどうなるのかという辺りでございます。元々の御疑問は,乙案を採った場合には相続人は権利行使が原則としてできないことになるわけですが,そうであるにもかかわらず,差押えができるというのは理論的に整合しないのではないかという点でございます。   その点につきましては,従前は現行の判例を前提にしていて,本来的には可分債権については当然に分割されると,ただ,遺産分割を円滑に行うという政策目的のために,遺産分割がまとまるまでの間は権利行使を制限したということで,政策的に相続人による権利行使だけを禁止するという考え方をとっていたところでございますが,その点については最高裁の判決で従前の判例の考え方が変更になった場合には,これまで御説明していた内容とは異なる形になるのではないかとも考えているところでございまして,補足説明の中でも若干書いておりますが,例えば可分債権であっても相続の場合には準共有の状態になるとかいうことになりますと,飽くまでも差押えができるのは持分に相当する部分ということになろうかと思いますし,仮に不可分債権のような形で,要するに預金契約上の地位が不可分なので,不可分債権と同様に取り扱うということになりますと,今度は逆に全額について相続人の債権者が差し押さえることができることになるのかとか,そういう議論になってくる可能性がございまして,その辺りについて部会の中でもう少し御議論を頂いた方がいいのではないかという御提案でございます。その辺りにつきまして,何か御意見がございましたらお願いいたします。 ○大村部会長 ありがとうございます。   潮見委員が欠席ということで今のような御意見を承っております。差押えとの関係について,もう少し議論をしておいた方がよろしくないかということでございましたけれども,何か御意見があれば伺いたいと存じます。 ○増田委員 分かりにくいんですけれども,債権の行使をすることと債権自体を処分することとは全く別の話だと思うんです。だから,差押えの対象が分割された債権から債権の持分に変わる可能性はあるかもしれないけれども,差押え自体が制限されることはないだろうと思います。譲渡禁止債権でも差押えすることは可能ですから。自分が行使できないということと,その債権の帰属者が自分になるというのは全く別の話だと思うので,問題意識がいまいち分からないところがあります。債権者は当然,差押えができると考えていますけれども。 ○大村部会長 処分禁止がされていても,差押え等はできるという考え方で特に問題はないという,そういう御意見ですね。 ○浅田委員 学理的な解決を思っているわけではないのですけれども,問題提起だけでありますが,従前から申し上げているとおり,この問題は,差押えに加えて相殺可否についても,関係し得ると思っております。銀行界としては,被相続人の債務と相続預金とを相殺できるようにしていただきたいということは当然ございます。その考え方としては,相続分の範囲で相殺すること,ないしは不可分債権との構成で全額相殺ということも,あり得るのではないかという認識を持っておりまして,こちらも検討を頂きたいと思います。 ○大村部会長 そのほか,今の点につきまして何かございましたら承りたいと存じます。処分は禁止されているけれども,差押えはできるという状態はあるのだろうと思いますけれども,そうなっているということで本当によいのかということを問いたい,そういう御趣旨なのかもしれませんけれども。 ○山本(和)委員 今,聞いた瞬間なので自分で全く分からないんですが,増田先生が言われた遺産分割の当事者はその相続人であるということでいいということなんですか。差し押さえられた債権も遺産分割の対象にはなるという前提ですね。 ○増田委員 遺産分割手続の当事者は相続人ですよね。差し押さえした債権者とは関係がないわけです。差し押さえされてしまえば遺産分割ですから,差押えの処分禁止行為によって処分することはできなくなるのではないですか。 ○山本(和)委員 処分することができなくなるということの意味は,その相続人に帰属させるしかなくなるという。 ○増田委員 私はそう思いますけれども。正確には,帰属をどのように決めても対抗できない,ということですが。 ○大村部会長 山本委員がおっしゃっているのは,そういう問題も含めて問題提起がされているのではないかという受け止め方ですか。 ○山本(和)委員 私も御趣旨は必ずしも分かりませんけれども,確かに問題が全くないわけではなさそうな感じもしますけれども。 ○増田委員 遺産の不動産の持分を差し押さえた場合に,遺産分割でそれに反する処分をしたって差押債権者には対抗できないわけです。それと全く同じ話だろうと思っているんですけれども,いかがでしょうか。 ○窪田委員 私も正確に問題状況が理解できているかどうか分かりませんが,増田委員のおっしゃるのはそのとおりなのだろうとは思いますが,恐らく今回,預金債権について法定相続分に当たる部分であったとしても,行使できないというのは,遺産共有の不動産の場合であれば持分も処分できないというのに近いイメージなのではないかと思います。要するに遺産分割をきちんと実現させるためには,それまでの処分を許さない,それまでに遺産分割の対象となる遺産が流出することを許さないという理念があるのだとすると,それと実質的に抵触してしまうということだろうと思います。山本委員から御指摘があったように,結局,そこの部分の処分を許してしまうと,その者に属させるしかないし,実質的に遺産分割の対象とすることができないということになるということだろうと思います。   ただ,恐らくその問題は遺産共有における不動産も含めての問題一般に関わる問題なのだろうと思いますが。その点では仮にそういう理解ができるのだとすると,問題の指摘はよく分かるのですが,この中でこの問題に限って扱うことができる問題なのかという点については,よく分からないなという気がいたします。その意味では債権をどう扱うかという問題だけではなくて,遺産共有の問題一般なのではないかなという気がいたします。 ○水野(有)委員 従前に再々,お聞きしていたことと今の御質問と関連すると思ったので,前提を確認したいのですが,今の増田委員の御発言とか,窪田委員の御発言は,従前の遺産共有のときにされていた議論は前提とした上で,それを可分債権についてどの程度,修正するかですから,従前の議論を前提とすると,もちろん,処分は逆に言えば不動産と同じようにできて,ただ,中でどう分けるかとかいう話だったので,問題となるのは行使だけの問題ではないかという御指摘かなと思ったのですが,そこで私は前提として,実は従前からお聞きしたかったのがうまく聞けていなかったんですけれども,これは従前の遺産全体に対する遺産共有の考え方は変えないことを前提としてという議論でよろしいのですよね。 ○堂薗幹事 可分債権のところですか。 ○水野(有)委員 はい。ですから,乙案についても言ってみれば,乙案,甲案というのは当然分割になるのか,遺産の準共有になるのかという,そのいずれかだということで,遺産の準共有以上に強くするということは,御想定されていないのかどうかが前からよく分からないなと個人的に思っていたのですけれども,ここら辺は。 ○堂薗幹事 従前は可分債権は当然に分割されるという判例の考え方を前提にしつつ,ただ,先ほど申し上げたように一定の政策目的から権利行使を禁止すると,そういう前提です。ですから,そういった意味では,遺産分割の対象財産に共有状態でないものも含まれることにはなるんですけれども,こういった見直しをすると,被相続人の死亡によって暫定的に生じた権利関係を清算するのが,確定的な権利関係にするのが遺産分割だという整理で考えておりました。もっとも,その前提自体が今後変更になりますと,それに従って甲案とか乙案の背景となるものも変ってくるので,その場合には判例との整合性などについても検討していく必要が出てきているのではないかということでございます。   それと,基本的には準共有より強くてというのはどういうことでしょうか。 ○水野(有)委員 もうちょっと言えば,差押えの場合の債権の特定をどうするかとかなんですけれども,法定の割合で特定するのですか,債務者はとか,そういう基本的なところなのですけれども,ですから,形としては従前と同じ形を採るけれども,ただ,行使がある程度,制限されるとか,そういう発想でよろしいかどうかという,そういうことでよろしいんですか。 ○堂薗幹事 基本的にはそういうことで考えてきたということです。 ○水野(有)委員 そうだとすると,増田委員や窪田委員がおっしゃったように,差押えとかはできるということに当然なるのかなと,今,ちらっと思ったのですが,そういう理解でよろしいかどうかなんですが。 ○堂薗幹事 こちらはそういう認識でございます。潮見先生のそういった御疑問に対して,こちらとしては差押えと遺産分割の関係は対抗問題として処理するということを考えていると。特に今回の見直しでは,債権についても法的相続分を超えるものについては,対抗要件がなければ第三者に対抗できないという規律を設ける前提ですので,そういう御説明をしたところ,それであれば考え方は分かったというような御回答を頂いたところです。 ○水野(有)委員 ありがとうございました。とてもよく分かりました。 ○中田委員 潮見委員の御提案の内容がまだ十分よく理解できていないのですけれども,今の水野委員の御発言との関係からいうと,遺産共有の状態について共有説とか合有説とか,そこは関係がなくて,今の議論は,その上で金銭債権について株式と同じように準共有とするのか,それとも分割債権が遺産分割の対象になっているにすぎないのかというところが変わってきて,それについて差押えをする場合には対象が変わってき得るだろうということが(注)で書かれているのだと思います。潮見委員の問題意識を反映するとすれば,12ページの(注)とある部分について,それを反映するような形で若干,補充するということもあり得るのかなと,その程度かと思いました。 ○大村部会長 ありがとうございます。   今の中田委員の御指摘は,遺産の状態について全体に影響を及ぼすというようなことが意図されているわけではないということは確認しておいた方がいいという御趣旨でしたね。   そのほか,いかがでしょうか。   それでは,今の点,もしどこかで対応があり得るということでしたら,お考えいただくということで,先に進みたいと思います。「可分債権の遺産分割における取扱い」はよろしいでしょうか。それでは,3番目になりますが,「一部分割の要件及び残余の遺産分割における規律の明確化等」という部分についてですが,御意見を頂ければと思います。 ○増田委員 前回も申し上げたところではあるんですが,この案は遺産分割の手続を迅速化しようという考え方に出たものだろうと思いますし,その方向性については私もそうすべきだろうと思います。ただ,終局決定において初めて除外されるということでは,分割の審理の中で,なお,当該対象物が遺産であるかどうかという主張立証が行われる可能性があります。つまり,必ず終局決定で判断するということになりますと,迅速性が必ずしも確保されるかどうか分からないと思います。したがって,基本的には中間審判等,審理中の何らかの裁判で除外すると,あるいは合意ができた場合に除外できるかどうかがこの案では明確ではないんですが,合意ないし中間審判で除外するという方向を作っていただかないと,つまり,特定の対象物については,ここの手続ではやりませんと,別のステージでやるということが手続的に明確にならないと駄目だと思うんです。そういう方法も,この中で(注)とかいう形で提案していただきたいと思うんです。   最初は当該物は除外してやろうということで進んでおっても,途中で別の裁判官に代われば心証が変わるということもありますし,裁判所としてはほぼ除外の方向で考えていても遺産性を主張する側が訴訟を起こさないで,相変わらず,審判の中で一緒にやってくれという内容の主張立証を繰り返している可能性もあります。そうなると,せっかく新しい手続を作っても収拾がつかないわけで,繰り返しになりますが,特定の財産については当該遺産分割手続を離れて,取りあえず,別の手続でやりましょうということが明確になるような手続がないと,実質化は望めないのではないかと思っておりますので,御検討いただきたいと思います。 ○堂薗幹事 従前から御指摘を頂いていたところだと思いますので,最終的に(注)で載せることを含めて検討したいと思いますが,その場合は中間的に行った裁判について,それを対象として不服申立て等もできるという前提でお考えでしょうか。 ○増田委員 私は独立にはできないと考えてもいいのかなとは思っています。それに対する不服申立ては,終局審判に対する不服申立てで一緒に行うという形でもいいのかなと思っていますが,取りあえず,当該手続からは除外されますから,それで当事者の選択に従って別のステージに進むということが可能になると思うんです。 ○堂薗幹事 分かりました。今の増田先生の御意見について何か更に御意見などがございましたら,御指摘いただければとは思いますが。 ○石井幹事 増田委員の御意見の中で,迅速に手続を進めるような手法を設けておくべきだというところについては,意見を同じくするところです。他方で,今の御発言の中には,中間審判による除外について不服があれば,終局審判に対する不服申立てを認めるという御提案もあったんですけれども,そうした制度設計をするとなると,抗告審において,分割対象から除外する旨の判断が覆った場合には,遺産分割の対象財産は何かといったところから審理を全面的にやり直す必要が出てくる可能性もあり,迅速な審判という要請からはずれてくるような気もいたします。   特定の遺産を分割対象から除外しても,除外された遺産については,いつでも遺産分割の申立てをすることができることも考えますと,特定の遺産を分割対象から除外するという判断を不服申立ての対象自体から外すというような考え方もあり得るのではないかなとは思うので,御検討いただければなと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   そのほか,いかがでございましょうか。 ○山本(和)委員 今の石井幹事のあれは,対象にしないという裁判の性質は何なんですかね。不服申立てを認めないというのは,やや理解が難しいところで。 ○石井幹事 裁判所の判断である以上,一種の審判になるのかなとは思います。他方で,理論的に詰めて考えたわけではないのですが,先ほども申し上げたとおり,分割対象から除外された遺産については別途の遺産分割手続で審判を受ける機会が常に保障されていることからしますと,除外前の手続の中で審判を受ける機会が常に保障されなければならないわけでもないように思えたため,除外されたこと自体については不服申立ての対象にはしないという考え方もあり得ないではないかなと考えた次第でございます。 ○山本(和)委員 私も理論的に詰めているわけではないですが,係属はそのまま残るということなんですか。裁判を受ける権利というか,審判をしてもらうという申立権が認められている以上,審判をしないという裁判に対して,それがされたら何の手も出せないというのは,やや理解が難しいような感じはするという印象です。 ○増田委員 私も不服申立ては何らかの形で必要かと思うんです。本当に実務的に考えた場合には,独立の不服申立てというのがあるのが一番いいのかなとは思っているんですが,理論的に考えると,この除外の裁判は手続上の裁判ではなくて申し立てられた審判物の一部を除外するという裁判になってしまうので,それで独立の不服申立てを認めることが理論上,可能なのかなというのが引っ掛かっております。もし諸先生方で独立の不服申立てでもできるではないかという御意見をいただけるのであれば,独立の不服申立てをするというのが一番いいのかなと思っております。 ○大村部会長 何か今の点につきまして御意見をいただけるでしょうか。幾つかの御指摘がありましたので,また,各委員の御意見を踏まえて更に検討いただくということで,この場は引き取らせていただきたいと思いますが,増田委員,よろしいでしょうか。 ○窪田委員 今の大きな話ではなくて小さな話で,今,このような質問をすること自体が大変にお恥ずかしいのですが,14ページの3⑴の②の㋐の部分について,私はまだ十分に理解できていない部分があります。㋑の方は②の柱書きでいうと一部審判をしたときは,残余の遺産分割に関しては特別受益に関する規定を適用しないと,一部分割の審判の中で特別受益に該当するものを考慮することができなかった場合という㋑については大変によく分かるんですが,㋐の「一部分割において,相続人の中に民法第903条第1項の相続分(具体的相続分)に相当する額を取得することができなかった者がいる場合」というのは,十分,理解できません。というのは,具体的相続分を取得することができない者がいるのは,ある意味で一部分割だったら当たり前なのではないかという気もするので,㋐の趣旨についての説明をお願いできますでしょうか。 ○堂薗幹事 一部分割の対象財産を前提に具体的相続分を算定する際に相続人の中に超過特別受益になっている人がいて,それに伴って相続人の一部が具体的相続分に相当する額をとれないという場合を想定しておりますが。 ○窪田委員 一部分割の財産を前提とした上で超過特別受益をということですね。分かりました。 ○増田委員 先ほどのとは別の話なんですけれども,⑴③で,②本文の規律は,協議のときにも適用されると書かれているんですが,ただし書の部分は協議のときには適用されないという理解でいいのか,そうだとすると,審判の場合に比べて厳しくなっているのはなぜなのかというのをまず,お伺いしたい。それと,これも多分,協議のうちに入るのかと思いますが,調停の場合は協議のうちに入るのか,審判の規律になるのかというのを伺いたいとともに,どこかに明示していただければと思います。 ○堂薗幹事 こちらの前提としては,調停の場合は③の方の規律を適用すべきではないかと考えております。要するに調停あるいは協議でやる場合は,特別受益の取扱いについて必ずしも明確になっていない場合も多いかと思いますので,②のような形で書くことは難しいわけですが,ただ,一般的にはそういう形で一部分割の協議が成立したということは,②の㋐とか㋑のような事情がない場合が多いのだろうと。逆に言うと,そこについて㋐とか㋑のような状態が生じていることを前提に,協議とか調停がされた場合は,当然,相続人間でそういった意思が表示されているだろうと思いますので,そういった場合には②の規律を適用しないという趣旨でございます。 ○増田委員 完全に相続人の私的自治の中に委ねるというのは,それはそれで理解できるのですが,協議に弁護士が入れば状況により別段の意思表示を入れておくのは当然としても,一般の方だけで分割している場合に,残りの遺産がどれだけあるのかとか,当該遺産に関する寄与とか,特別受益とかいうことを必ずしも意識せずに,一部だけ,取りあえず,これだけを分割しておこうねという形でされる場合もあるのかなと思いますので,必ずただし書の適用がないということまで言う必要があるのかどうか,疑問に思った次第です。 ○堂薗幹事 その点は御指摘を踏まえて検討したいとは思いますが,相続人間の協議あるいは調停で行う場合の規律として,特別受益に関する規律が残部の分割の際に適用すべき場合を具体的に書くのは難しい面がございますので,現段階ではこういう形になっているわけでございます。 ○増田委員 必ずしも僅かなものを残すというばかりではないんですよ,一般の方がする場合は。取りあえず,必要に迫られて一部の分だけ分割するというケースというのはあり得るんです。例えばゴルフ会員権のように権利については分割しないと行使できないということで,それだけ取りあえず,分割して,残りのものは別途やるということだけを決めておくということがあり,その場合に必ずしもこのただし書を意識した反対の意思表示が表示されるかどうかは疑問に思いますので,その点も踏まえてよろしくお願いします。 ○窪田委員 増田委員のような大きな話ではなくて,細かいところをもう一回だけ確認させていただきたいと思います。先ほどの御説明で㋐の意味は分かったんですが,だとすると,㋑のところで一部分割の審判の中で,特別受益に該当する特定の遺贈又は贈与の価額の全部又は一部を考慮することができなかった場合と書けば,実は同じなのではないかなという気がします。つまり,一部分割だから超過特別受益の話が出てきてしまう。しかし,それを後ろの方まで入れていったら処理ができるということは,要するに特別受益の一部を考慮することができなかったという問題にしかすぎないのだとすると,㋑は全部が考慮できない場合,一部が考慮できないという場合と書けば,かえって趣旨が分かるのかという気がします。他方,何も説明なしに見て分かる人はそんなにいないのかなという気もするものですから,それについては御検討いただいたらと思います。 ○堂薗幹事 確かにその点はおっしゃるとおりかなという感じもしますので検討します。   また,③のただし書の別段の意思なんですが,これは当然,黙示的な意思でも構わないので,一応,こちらの理解としてはほんの一部の財産について分割しただけであるということであれば,当事者の合理的意思としては,ただし書に当たるという認定はできるのではないかということでございまして,ただ,そこは最終的には裁判所の判断ということにはなってしまいますので,もう少し明確にすべきではないかという御指摘かとは思いますので,その点は検討したいと思います。 ○水野(有)委員 すごく技術的なことを聞かせていただくので恐縮なのですが,3の⑴の②の㋐,㋑の要件は,実体的要件ということでよろしいのでしょうか。実体的要件だということになりますと,一部分割の審判をしたときの最初の審判で何がどこまで考慮されているかというところを後の審判をする人が,一から実体的に判断すればいいということでよろしいのでしょうか。 ○堂薗幹事 一部分割の審判についても特に拘束力はないことになると思いますので,もちろん,それを前提にはするんだと思いますが,後の審判を行う裁判官がそれに法的に拘束されるというわけではないという理解です。 ○水野(有)委員 というのは,ただ,制度の作り方としては一部分割と残部分割というものを手続的に連動したものとして,その前提とされた判断は前提としなければいけないという形もあり得なくもないと思うのですが,ここで書かれているのはそうではなくて,普通の実体的要件という形にされたものを御想定されているという御趣旨でしょうか。 ○堂薗幹事 はい。 ○水野(有)委員 どうもありがとうございます。 ○大村部会長 よろしいでしょうか。   それでは,この一部分割の問題につきましては,御指摘があった点を更に検討していただくということにしたいと思います。水野委員,何かありますか。 ○水野(紀)委員 どうも基本的なところがよく飲み込めていなくてお恥ずかしいのですが,ご教示ください。特別受益性が争われているときに,前提となる遺産の一部分割をすると,遺産の中の具体的相続分そのものが全く分からないことになりますね。考えておられるのは,ある財産の遺産性が争われて,その財産が長男の所有物なのか,それとも,遺産に含まれるのかが争いになって,ともかく地裁に行ってその財産について,遺産確認の訴えで決着をつけようとなったときに,残りの部分だけでも一部分割したいという場面でしょうか。そういう場面のニーズは実際に多いだろうと思います。この問題はそもそも家裁の審判に既判力がないのがいけないせいだと思うのですけれども,そんなことをここで言ってもしようがありません。その場合に一部分割をするとなると,一部分割であってもその基準は具体的相続分になると思いますが,みなし相続財産の範囲が決まらないと,具体的相続分は決まってこないのではないでしょうか。争われている財産は,遺産に含めないで,仮のみなし相続財産を算定して一部分割をするのか,あるいは遺産に含めて一部分割をするのか,いずれにせよ,遺産性の決着が付いたら,残りの分割をするときに,その計算をし直さなくてはならないと思われます。それにもかかわらず,残りの分割をするときには具体的相続分を決めるに当たっての903条,904条の適用がないという,この書きぶりが,構造的によく分からないのですが。一部分割をどういう基準でなさるのだろうというところから,そもそも分からないものですから,御教示頂けると幸いです。 ○堂薗幹事 基本的には,今,水野先生がおっしゃったように,争いがある部分があって,それが債権としてあるのかどうか分からないというもの以外は,一部分割のところで特別受益が幾らなのかという点も全て判断した上で具体的相続分を定め,それに従って一部分割を行うという前提ですので,②の㋑で特別受益を残部分割で考慮すべき場合というのは,争いがあった債権に関するものに限られるという理解ではあるんですが,ただ,そこがこういう書き方できちんと書けているのかという点は問題だと思いますので,そこはまた検討したいとは思います。 ○大村部会長 では,その点を更に検討していただくということでよろしいでしょうか。   それでは,次の第3の「遺言制度に関する見直し」につきまして,事務当局の御説明を頂きたいと思います。 ○大塚関係官 「第3 遺言制度に関する見直し」,ページでいいますと16ページ以下ということになります。   順にまいりますが,「1 自筆証書遺言の方式緩和」についてでございます。⑴の自書を要求する範囲の緩和につきましては,方策の本体そのものは前回とほぼ同じということになります。加わりましたのは(注3)でございまして,この方策を講ずる場合に,これに加えて遺言書に押印する際には,全て同一の印を押捺しなければならないものとすることも考えられる旨を付記したということでございます。   次に,⑵の「加除訂正の方式について」でございますが,こちらにつきましては前回会議におきまして,押印は遺言者以外の者によっても押捺することができてしまうので,署名を外して押印のみで足りるということには慎重であるべきとの御指摘を頂いたところでもありますので,署名及び押印を署名のみで足りるものとするという内容とした,つまり,押印だけで良いというものは削ったということでございます。   なお,前回会議におきまして,若干,戻りますが,第3の表題,今回は「遺言制度に関する見直し」としておりますけれども,これにつきまして見直しの方向性が分かるように,表現ぶりを検討する必要があるのではないかという御指摘を頂いて,当方で検討してみたところなのですけれども,資料全体を御覧いただいてお分かりのとおり,第3の中には1の遺言書に関するものから,後に出てきます遺言執行の実務に関するものまで,かなり幅広い内容の方策が含まれているということがございましたので,なかなか,これを包括して一定の方向で共通する表現というものは難しいところもあったものですから,今回は「遺言制度に関する見直し」という微修正にとどめさせていただいております。   次に,2の「遺言事項及び遺言の効力等に関する見直し」でございます。17ページの下段になりますけれども,こちらについては一部文言を修正いたしましたけれども,実質的な変更はございません。   更に,続きまして18ページの一番下から19ページにかけての「3 自筆証書遺言の保管制度の創設」でございます。こちらにつきましては,具体的な方策を幾つか追加してございますので,内容について御説明を申し上げます。   まず,⑴の「保管の対象等について」でございますが,これは方策の①に遺言書の原本を保管すること,これを明記した上で,災害等による滅失のおそれというものは,保管の際にはつきものでございますので,原本に加えて原本の画像データを別途保管するということを(注2)として記載させていただいたというところでございます。   続いて,⑵の「遺言書の保管の有無の確認について」でございますが,該当部分は方策の③でございまして,確認することができるものを従前,相続人としておりましたけれども,これだけではなくて,受遺者と遺言執行者にも広げたということでございます。   更に⑶の「遺言書の原本の閲覧等について」でございますけれども,これにつきましては,前回会議におきまして,遺言書原本の閲覧だけではなくて,謄写をも認めるべきであるという御指摘を複数頂いたことも踏まえまして,方策の④におきましては原本の閲覧だけでなくて,遺言書の正本の交付を受けることができるということを加えてございます。また,相続開始後に遺言書原本を相続人等に交付するか否かという点についてでございますけれども,仮に交付を認めるとしますと,複数の相続人がいる場合には誰に原本を交付するのかという判断が相当難しいところがございましたことなどから,今回の方策の(注4)におきましては,原本を相続人などには交付せず,当該公的機関で引き続き一定期間,保管するということを想定している旨,新たに記載をしたというところでございます。   続きまして,⑷の「検認手続の省略等について」でございます。本部会資料では方策の⑤でございますが,こちらで公的機関に保管された遺言書については,検認手続は不要とする旨を新たに記載しております。これは遺言書の原本を相続人等に交付しないという先ほどのお話を前提としますと,現行法のように相続人等が家庭裁判所に原本を提出して検認手続を請求するというのは,事実上,難しいということとなるためでございます。ただ,現行の検認手続におきましては,家庭裁判所が相続人,受遺者その他の利害関係人の検認の事実などを通知すると,これによって利害関係人が遺言書の存在を知る機会というものが事実上,与えられているという状況にあるようでございます。   そうしますと,本方策を講じました場合にも,これと同様の機会を確保するという必要はあるのではないかと,ついては,新たに⑥で,公的機関が相続人等から遺言書の閲覧等の請求を受けた場合には,他の相続人及び受遺者等に対して遺言書の保管事実を通知すると,こういう規律を新たに設けたところでございます。ただ,前回の会議におきましては,そもそも,検認手続を省略するか否かというところについて意見が分かれたという経緯もございますので,新たにこの旨,記載はしてございますけれども,是非,御意見を拝聴したいと考えているところでございます。   ここまでが遺言保管制度についてでございました。   続きまして,21ページ以下ということになりますけれども,「4 遺言執行者の権限の明確化等」についての御説明に移らせていただきます。   まず,⑴の「遺言執行者の一般的な権限及び義務等」につきましては,前回会議の御指摘を踏まえまして表現ぶりを一部変更したほか,①につきましては遺言執行者の一般的な権限の例示を変更し,⑵については民法第1013条との関係に絞りまして,整理を加えさせていただいたということでございます。   なお,これとは別に前回会議におきましては,遺言執行者の義務に関して,信託法における受託者と同様の忠実義務を定めるということが考えられるのではないかという御指摘を頂いたところではございますが,今回,結論としてはその明文化には至ってはございません。当方としても検討させていただいたところではございますけれども,理由としては,遺言執行者が本来的には遺言者の代理人であって,通常は遺言の中で遺言執行者がすべき行為の内容が具体的に定められていて,その権限の行使について遺言執行者に裁量の余地がない場合が多いことなどを考慮したというところにございます。この点につきまして,なお御意見をお伺いできればと思います。   次に,預貯金債権について遺産分割方法の指定がされた場合の規律についてでございますが,前回の部会資料におきましては,遺言執行者にその行使権限を認めるとしつつ,括弧書きがございました。これは相続人が遺言執行者となる場合を除外するという考え方を提示しておったところでございますが,これは今回削除してございます。前回の会議で現実には相続人が遺言施行者となる例が多いと,銀行実務でも払戻しに,そういった場合でも応じているという御指摘があったことなどを踏まえたものでございます。   更に前回会議におきましては,遺言執行者に原則的に権利行使の権限を認めるべき債権の範囲,先ほど預貯金債権のお話をしましたが,預貯金債権に限られず,投資信託などの金融商品に基づく債権についても同様の取扱いをするべきではないかといった御指摘を頂きました。ただ,金融商品に基づく債権を逐一列挙していくというのは法制上も難しい面があるように思われます。   そこで,例えばということで新たに御提示を申し上げているのが,24ページの中段,「また」の段落の少し下に下がっていただいて,「例えば」でかぎ括弧で始まっているところなのですけれども,読みますと,「遺産に属する債権について遺産分割方法の指定がされた場合において,その債権が継続的に取引を行うことを内容とする契約に基づいて生じたものであって,遺言者がその契約を解約することができ,又は遺言者の死亡がその契約の解約事由となっているときは,遺言執行者は,その解約に関する手続をする権限を有する」と,こういうような規定を設けて,解約に関する手続の一環として払戻しを受けることができることとすることも,考えられるのではないかということを御提示いたしたものでございます。この点につきましても御議論いただければと存じます。   なお,遺言執行者の復任権,選任・解任等につきましては,変更点は特にございません。 ○大村部会長 ありがとうございました。   4項目に分かれておりますけれども,第1項目の「自筆証書遺言の方式緩和」,それから,第2項目の「遺言事項及び遺言の効力等に関する見直し」につきましては,(注)に若干の修正がございますが,おおむね,前回の資料どおりということでございますので,ここまで1と2を一まとめにして御意見を伺います。それが済んだところで休憩ということにさせていただきたいと思いますが,1,2につきまして御意見を頂けますでしょうか。よろしいでしょうか。 ○大村部会長 1,2には,特に御異論はないということでよろしゅうございますか。   それでは,1,2については特に御意見はないということで,3以降につきまして休憩の後に御意見を賜りたいと思います。現在,この部屋の時計で3時35分を少し回ったところですので,3時45分に再開させていただきたいと思います。           (休     憩) ○大村部会長 それでは,再開をさせていただきたいと存じます。   先ほど18ページの3の「自筆証書遺言の保管制度の創設」という前まで御意見を伺いました。3と,それから,4の「遺言執行者の権限の明確化等」というところが第3の中では残っております。まず,最初に3の「自筆証書遺言の保管制度の創設」というところについて御意見を伺いたいと思います。 ○南部委員 19ページにあります公的機関でございますが,これは一般の方々が見ると,市町村が一番身近な公的機関というイメージがどうしてもあるかと思います。その点も含めて,今後の議論になるかと思いますが,パブリックコメントを行うときにこれだけの表記だと色々想像を膨らまされて,結果として想像と異なっていたということになってもよろしくないかと思いますので,ここはもう少し丁寧な議論が必要かと思います。   併せまして遺言制度について以前,他の委員から発言がございましたが,本当にどの方向に向かわすのかという根本的な議論があってこそ,保管の期間がどこまで要るかとかいう議論が発展するのかと思います。遺言制度をもっともっと日本の国として進めていくという方向でやるのか,それとも,今回の全体の見直しの中でより活用しやすいものにとどめておくのか,その辺りがまだ参加していて分からないところですので,教えていただけたらと思っています。また,保管制度を創設するということになりますと,費用面とか,そういった細かなことが出てくるかと思いますが,それについて,今,お考えがもしございましたら,教えていただけたらと思います。 ○堂薗幹事 正に全体の方向性については,この場で御議論いただければとは考えているところですけれども,こちらといたしましては遺言制度に関する見直しのうち,①の自筆証書遺言の方式緩和ですとか,③の保管制度は正に遺言の利用を促進するという方向性を志向するものであると思いますが,この場でも御議論がありましたように,自筆証書遺言の利用を促進するというだけでいいのかという御議論はあろうかと思います。   それから,費用の点については大塚の方からご説明いたします。 ○大塚関係官 二つの面があろうかと思いまして,設置あるいは保管に係る公的機関側の費用が一つと,もう一つは利用者側から見たときの,保管をお願いするときにどのくらいの費用が掛かるのかというところの二面があろうかと思います。一つ目については確かに御指摘のとおり,全国規模で整備をするということになりますと,保管施設等の設備投資というものは相当な額が発生するであろうとは思います。   他方で,利用者面からしますと,公正証書遺言という別のインフラがある中で自筆証書遺言の保管ということになりますと,その利用料が公正証書遺言より高いということですと,それが果たして適切なのかというのは相当な疑問がありますので,そういう意味からすると,より気軽に,むしろ,身近に使える制度という意味では,公正証書遺言と比べて安価なものが方向性としては志向されるのではないかというぐらいのイメージはありますけれども,公的機関のコスト面としていう点は,パブリックコメントにおける御意見も踏まえながら,具体的なイメージを今後,持っていきたいと,このように考えております。 ○大村部会長 一番最初に御質問があった市町村というのが一般的な認識になるのではないかという点と,そのことの書き方がこれで適切かという点については,いかがですか。 ○堂薗幹事 その点は微妙な問題もありますので,この場で次回の部会資料ではこのように書きますということは申し上げられないんですが,御指摘の趣旨は非常によく分かりますので,その辺の誤解が生じないような書きぶりになるように工夫したいと思います。 ○大村部会長 よろしいでしょうか。   そのほか,いかがでございましょう。3の「自筆証書遺言の保管制度の創設」についてでございます。 ○西幹事 単純な質問が1点と,教えていただきたいことが1点ございます。一つは,もう少し早い段階で伺えば良かったのですが,タイトルに「自筆証書遺言」と付いていますが,秘密証書遺言は適用対象でしょうか。   もう一つは,今回の(注2)などを拝見していますと,かなり手厚い保管ではないかという気がいたします。オンラインで結ばれていない点などは公正証書遺言を公証役場で保管する場合と違うのかもしれませんけれども,先ほどの費用のところで公正証書よりも安価なというお答えがございました。公正証書は確か今,保管自体は無料でしょうか,もちろん,作成にはお金が掛かりますけれども。そうなりますと,この制度も無料ということになるのかもしれませんが,その場合,位置付けとしては,この制度は公共サービスの一環と考えてよろしいのでしょうか。今回のこの制度がどういう意味を持つのか気になりましたので教えていただければと思います。 ○大塚関係官 一つ目の秘密証書遺言への適用ということについては,結論としては,否定せざるを得ないと思います。というのも,現状では秘密証書遺言は公証役場に行かなければいけないというのがあったり,あるいは封印をするということ,あるいは誰にも知られないということにメリットがあるということがあるかと思いますので,そこを踏まえると,最初には秘密証書遺言も含めることを考えてみたこともあったのですが,なかなか,そこは難しいところもあるのかなというのが現状の理解です。もし,秘密証書遺言も含めた方がいいのではないかという御示唆があるようであれば,是非,お伺いできればと思っています。それが1点目です。   もう1点は,公正証書遺言との違いを見た上での位置付けということでございますが,基本的には御指摘のとおり,新たな公共サービスという位置付けになるのではないかとは思います。ただ,公正証書遺言の中で保管の機能のみを取り出して,それを無料というのが適切なのかどうかというのはいろいろ考える余地がありまして,公証人が関与して専門的な知見を述べ,公証人の判断と責任において公正証書遺言を作り,その結果として保管というものがあるわけでございますので,それはそれなりの費用が掛かると。それと比べたところで自筆証書遺言の保管制度を見たときに,どういう費用が妥当なのかという,ある意味では別の観点からの検討が必要になるのかなと,今の時点ではそのように考えております。 ○大村部会長 よろしいでしょうか。 ○西幹事 ありがとうございます。 ○大村部会長 そのほかはいかがでございましょうか。よろしいでしょうか。   具体的な制度を仕組むということなりますと,更に検討すべきことが多々残されていると思いますけれども,論点整理の段階でということで,この程度で先に進ませていただきたいと存じます。   次は4の「遺言執行者の権限の明確化等」,21ページ以下です。 ○水野(紀)委員 今の御発言にもありましたように方針として遺言の利用をしやすく勧めていくということになりますと,相当,いろいろと考えなくてはならないと思います。特に23ページの「遺言執行者の復任権・選任・解任等」のところですが,遺言執行者に関しましては,ドイツ法の影響をかなり受けて起草されています。そして,日本人は遺言を余り残さない民族だったから何とかなってきたところがあるのですけれども,遺産裁判所が基本的に幅広く相続や遺産分割に関与するという前提のドイツ法の影響を受けて,こういう書きぶりになっておりますが,遺言執行者が復任,選任,解任等のときに家庭裁判所に行かないといけない,たとえば辞めることもできないというのは,少し手続きとして重すぎるような気がしてなりません。   遺言執行者と指名される方は,素人の親族であることも多いと思うのですけれども,あなたが執行者だからと言われて,そうかと思って承知したものの,いよいよ執行が始まってみますととても大変で,こんなことを僕はとてもできないと思ったときに,しかし執行者を辞めるためには家庭裁判所に行かなくてはならないことになります。これは,相当,御本人に負担が大きいのではないかと思うのです。そして,家庭裁判所の方でも大変ではないでしょうか。家庭裁判所は今,成年後見などでパンク状態ですから,こういうことで全部来られても困るだろうと思います。だから,遺言の利用を増やすという方針でしたら,遺言執行者の復任,選任,解任等についての手続が全部,家庭裁判所を経由するは少し重すぎるように思いますので,お考えいただけないかと思うのですが。 ○堂薗幹事 御指摘を踏まえて検討したいと思いますが,まず,復任のところは自己の責任で第三者にその任務を行わせることができるということですので,家庭裁判所に行く必要はないということかと思います。これに対しまして辞任をする場合には,家庭裁判所の許可が必要ということでございますので,この点の手続が重いのではないかという御指摘かと思いますが,仮にこの点について家庭裁判所の許可を不要ということにいたしますと,それに代わる要件としてどういったものが考えられるのか,この点につきまして何かお考えがございましたら,教えていただければと思いますが。 ○水野(紀)委員 にわかには思いつかないのですけれども,相続人の同意を得るとか,今度できる予定の保管機関に登録するとか,いろいろな可能性があり得るように思います。   裁判官の数が母法国より圧倒的に少ない日本では,裁判所の関与を定める民法の手続きが重すぎるという問題は,いろいろあって,たとえば相続財産管理人のところでも,最近,マスコミが取り上げて報道しておりました。あまり価値のない遺産があるだけというよくある場面で,相続人がいないとか,さらに相続人がいても面倒なので放置しているという状況のときに,それを処分するためについに市町村が動かざるを得ないことがあります。本来の手続だと,相続財産管理人を家庭裁判所に頼んで選んでもらって,処分をしなければならないわけですが,そんな費用はとてもかけていられないので,市町村限りで後見的にやってしまったことを,ある種のスキャンダルとして,マスコミが取り上げていました。それはスキャンダルとして取り上げる方が酷だと思いながら,そのニュースを読んでおりました。民法が家庭裁判所を必ず経なければならないとしていることが,現在の日本の実際実用にとっては重すぎるということが幾つかあり,これもその一つのように思いますので,この際,もし手を入れられるのならばお考えいただければと思います。   民法の手続きが重すぎて,相続財産管理人選任の手続きを,事実上,省略しているようなことは,ほかにもあるのだろうと思います。今回はそれを変える機会ですので,お考えいただければ有り難く存じます。 ○堂薗幹事 御指摘を踏まえて検討してみたいと思います。 ○大村部会長 そのほか,この第4項目につきましていかがでございましょうか。 ○増田委員 ⑵のイの乙案のところが「善意の第三者に対抗することができないものとする」となっていますが,先般の民法改正の流れからいくと,善意者保護は善意無過失者保護という流れになっていますので,善意無過失の方が民法改正と平仄を合わせる意味ではいいのではないかと思うのですが,いかがでしょうか。 ○堂薗幹事 検討したいと思いますが,もし,この点について御意見がございましたら,この場で御指摘いただければとは思いますけれども。 ○窪田委員 一般的な表見法理で善意無過失保護という説明をする場合もあるとは思いますが,民法94条を含めて善意者,善意要件だけれども,保護というパターンは残っているのだろうと思います。このパターンに関していうと,遺言執行者はあるけれども,相続人がやった行為でその相手方になった者,つまり,善意無過失というのを要求すると相手方が相続人ということを分かっているだけではなくて,相続人であるけれども,更にほかに遺言執行者がいるのではないかということの調査義務を課すことになるのだろうと思います。それはちょっと重いのではないかなという気がしますし,一般的な表見法理から当然にはそうなるわけではないようにも思います。 ○大村部会長 今の点につきまして何かほかに。 ○増田委員 (注)として「無過失を要件とするかどうかはなお検討する」でいかがですか。 ○大村部会長 では,(注)にするか補足説明にするかを含めて,御検討いただくということにさせていただきたいと思います。   ほかはいかがでしょうか。 ○浅田委員 4の論点については大きく分けまして,一つ目,遺言執行者の義務に関する御提案の内容確認と,二つ目に部会資料の24ページで,どのように考えるかという問題提起についての意見があります。二つ目遺言執行者の払戻し権限に関する対象財産の範囲については,更に大きく二つに分けて申し上げたいと思います。   第1の点の遺言執行者の義務に関してですが,前回,私が質問した点の続きの関連で恐縮でございますけれども,パブコメ案の内容の確認のためにも三つの質問がございます。まず,今回の部会資料で修正点があるようでございまして,4の⑴の①であるとか,⑶の②ですけれども,遺言執行者の権利及び義務ということが権限という文言に変わっておりますけれども,この変更の理由は何なのか。とりわけ,権限という内容に遺言執行者の義務というものが含まれるのか,含まれるとするならば,その内容の変容というのがあるのかどうかということをまずはお尋ねしたいと思います。   その上で,⑶イの②,22ページですけれども,読み上げますと,「遺言執行者は,受益相続人に対してその特定物を引き渡す権限を有しないものとする。ただし,その特定物の引渡しが対抗要件となる場合は,この限りでないものとする」との規律が設けられています。二つ目の質問ですが,この点については前回会合で私から,この限りでないものとする,というのは遺言執行者に引渡しの義務を課すものかという質問をさせていただき,事務当局から,課すものであるとの御回答を得たものと認識しております。追加質問で恐縮ですけれども,ここでいう引渡しの義務とは現実の引渡しを意図しておられるのか,これが二つ目でございます。   なお,付言させていただきますと,仮にそのような意図があるのであれば,実務上,相続の場面で物の所在が不明な事態はしばしばあることでございますので,それに鑑みますと,かような現物の引渡しを行う義務というのは遺言執行者にとって過大なものになりかねないと存じます。そうすると,ひいては利用促進への阻害要因になりかねないと思いまして,実務上,重要な点ですので申し上げました。   三つ目の御質問でありますけれども,引渡しの義務について現実の引渡しまでは求めない趣旨,すなわち,対抗要件としての引渡しのみを義務化するものだとされる場合には,そもそもの話でありますけれども,相続開始とともに占有権が移転すると解されることに鑑みますと,当該条項が適用される場面は余り観念されないものとも思えます。具体的にどのような場面をお考えか,教えていただければと思います。   まず,前半について,以上の3点について御回答いただければと思います。 ○堂薗幹事 まず,今回の部会資料で修正をさせていただいた趣旨ですが,従前,この点について権限と書いているものと権利及び義務と書いているところが混在しておりまして,平仄がとれていないというところがございましたので,権限でという形で統一をさせていただいたということでございます。基本的に権限という場合には,権限の行使について一定の義務を伴うということではないかと,具体的には善管注意義務等を負うわけですので,そういった意味で,ここでは基本的に同じ意味として使っているということでございまして,実質的に何か変更したということではございません。   それから,2番目の動産の対抗要件のところでございますが,22ページのイの②のところですけれども,原則として引渡しの権限はないと,ただ,その特定物の引渡しが対抗要件となる場合は,この限りでないということですので,②の本文の規律は適用されませんと。その場合にどういった規律が適用されるのかという点については,前回,申し上げましたが,①のところが適用になるという前提でございまして,動産について対抗要件を具備させるために必要な行為をすれば足り,必ず現実の引渡しをしなければいけないということではございません。   具体的には例えば第三者が占有しているような場合ですと,もちろん,第三者から実際に返還を受けて相続人に渡してもいいわけですが,指図による占有移転による方法で対抗要件さえ具備できれば,それで遺言執行者としては義務を果たしたということになりますので,民法の対抗要件具備の方法として書いてある四つの方法があるかと思いますが,そのいずれかをすればいいということでございます。ただ,現実に誰が占有しているか分からないという場合も当然あろうかと思いますが,それは善管注意義務の範囲内できちんと調査して,ただ,それでも分からないという場合はやろうと思ってもできないわけですので,そういったときにはやむを得ないということになるのではないかということでございます。 ○浅田委員 占有が相続によって当然承継される場合には,あえてする必要はないということですか。 ○堂薗幹事 死亡によって相続人に当然に移転したと見られるような場合は,それで終わっているということだと思いますので。 ○浅田委員 どこにあるか分からないものについての善管注意義務につきどこまで高度な注意義務を求められるかというのは,多分,解釈問題だと思いますけれども,どこまで引渡し義務を履行すべきかは,実務上,善管注意義務の範囲の議論になるという点は,分かりました。   引き続きまして,大きく分けて二つ目の意見でございますけれども,払戻しの権限の範囲でございます。資料でいきますと24ページの第1行目の2のところでございますけれども,まず,前回,当方から提案させていただきましたことを踏まえ,預貯金債権等から広い方向で検討を行っていただいておりまして,御礼を申し上げたいと思います。明確化のために補足説明に記載していただきたいことに関連して,2点,質問と意見がございます。   一点目は補足説明における権限の定義案では,「遺言者がその契約を解約することができ」と記載されております。これについて,1点,確認したいと思っております。といいますのも,とりわけ,デリバティブ組込み預金など運用承認においては,中途解約を禁止する取引類型の商品が散見されるということでございます。本定義により,本定義といいますのは24ページの2段落目の「また」の「例えば」というところのかぎ括弧の中にあるものでありますけれども,この定義により,預金者が解約請求をし,相手方がこれを認めたときは解約される類型も,中途解約を禁止するようなデリバティブ預金も含まれるという意図でお考えなのかということについて,まずは確認したいと思います。   すなわち,前回は預貯金というものに限定されていましたけれども,私どもから投信とか,そういうものに広げていただきたいという御提案をしまして,その結果として「例えば」という文言に修正,御提案を頂いたということでございますけれども,そうした場合に今度は中途解約禁止型のデリバティブ預金みたいなものが入るかどうかということが論点になり得るということです。まず,御提案の意図として,そういう中途解約禁止のものも入るかどうかということをお尋ねする次第です。ちなみに中途解約禁止条項があったとしても,通常であれば約款の中に,中途解約はできません,ただし,銀行がこれを必要と認める場合には,特定の清算条項が必要かもしれませんけれども,解約することができるものとするという定めがありまして,実際上は解約できる場合が多いけれども,一応,建前としては原則,中途解約禁止,例外として解約できるというものが実際に多いとの認識でございます。 ○堂薗幹事 ここで念頭に置いているのは遺言者の方で一方的に解約することができる場合,この前段で書いてあるのはそういったものを想定しておりまして,それ以外で遺言者が一方的に解約できないような場合は,遺言者の死亡が解約事由となっている,この解約事由となっているというのは,遺言者が死亡すると当然に解約されるという場合だけではなくて,どちらかが解約することができるという場合を想定していますので,後半の部分は遺言者の相続人あるいは遺言執行者が一方的に解約できるというような状態になっているかどうか,あるいはその契約の相手方から一方的に解約できる場合も含むわけですが,いずれにしても合意で解約する場合は,ここでは想定していないということになりますので,そうだといたしますと,今,浅田委員が言われたようなものについては,ここには入ってこないのではないかということでございます。   この点については検討が十分にできておりませんので,そもそも,これらの債権について,ここにも書いてありますが,権利行使を認める必要性が高い理由がどこにあるのかという辺りも含めて検討した上で,それに対応する要件を設ける必要があるのではないかと思っておりますので,その辺りの必要性につきましては,今後もいろいろ教えていただければと考えているところでございます。 ○浅田委員 承知しました。その点について意見を含めて述べさせていただきたいと思います。実務的なニーズとしては,遺産の円滑な分配ということの必要性から,たとえ一定の期間の運用等を予定しているものだとしても,途中で全部現金化して分配するというのが遺言執行者に対する要請の一つだと思います。そうした要請を踏まえますと,形式上,中途解約が禁止されているのが原則である商品についても,銀行はそれを認めて解約するという約定になっている,又は実際上もそうなっているものについては,対象にしていただきたいというのがあります。   その是非,それから,そうした場合の法制度上の条文文言の在り方というのは今後の検討だと思いますけれども,その点で1点,御提案というか,御参考にしていただきたいということで申し上げますけれども,現在の国会に提出済みの債権法関連の民法改正に附則33条というのがございます。これは定型約款の経過措置を定める条項ということでございますけれども,その中に,読み上げますと「契約又は法律の規定により解除権を行使することができる」という条文がございます。   これは私どもとしては,解除権を行使できるというものが,解除を申し出て相手が解約に応じる場合を含むものを意図しているものと理解しております。したがって,こういう文言を使うということであれば,先般,申し上げた中途解約禁止条項付きの商品であったとしても,かように銀行が認める場合には解除できるというものでありまして,それは解除権が遺言者に設定されているということでございますので,本件の条文にも使えるのではないかと思っております。また,もしそういう文言というのがいろいろな理由で難しいということであれば,例えば直裁に遺言者が契約の解約,中途換金の請求その他の方法により現金化できる債権といった表現ぶりもあるのではないかということでございまして,併せて御検討していただければと思います。これが一つ目でございます。   二点目の意見といいますか,お願いでございますけれども,遺言執行者の払戻し権限のパブコメ案に関するものでありますけれども,現状,補足説明において遺言執行者の行使できる権限の一つとして払戻しというのがありますけれども,払戻しに加えて解約に関する手続を例示いただいていると思います。これは有り難いことだと思いますけれども,解約する手続には解約の申込み,指示をする権限のみではなくて,解約金を受領する権限も含まれていると認識しております。そうでなければ,実際上,遺言執行者の業務が遂行できないと思っております。そうであれば,明確化の観点からパブコメに付す場合には補足説明において,解約金を受領する権限も解釈上,含まれるんだということを記載,検討いただければと思います。 ○堂薗幹事 御指摘は非常によく分かりましたけれども,他方で,逆にこういう形でかなり広く書いた場合に,本来,遺言執行者に権限行使を認めると問題がある事案も含まれてくる可能性がございますので,その辺りについては慎重に検討する必要があるのではないかと考えております。逆に言いますと,なぜ,こういうものについては遺言執行者に権利行使が認められるかということだと思うんですが,それについては遺言者の通常の意思として,こういうようなものについては,これを誰かに相続させるという遺言をした場合に,その契約を引き継がせるのではなくて,それを清算した上で,解約した上でそれに基づいて生じた財産を受遺者なり,相続人に渡す趣旨であろうと思われるものにしなければいけませんので,そういった意味で,その要件をどう設定するかというのは非常に難しいと考えております。中間試案に具体的にどこまで盛り込めるかという点も非常に問題だと思いますので,その辺りについて内部でももう少し詰めて検討した上で,更に具体的な御提案ができるかどうか,考えてみたいと思います。 ○浅田委員 よろしくお願いしたいと思います。遺言者の意思ということを基準に御提案を申し上げたとおりでございますけれども,いろいろな問題点があるということで,この時点ではそれについては十分,議論する時間もないと思いますけれども,そうであるのであれば,例えばそういう一つの提案をした上で,また,議論が分かれているところについては議論の余地がある,ないしはその別案という形で御提案いただくということも御検討いただければと思います。 ○沖野委員 今の部分ですが,もちろん,より良い表現があれば,それで聞いていただいたらいいと思いますし,対案がないので,このような形で聞いていただければ,こういうような表現があり得るということで意見も出やすいかと思います。ただ,少し気になっておりますのは,例として挙げられているのが投資信託等の金融商品に基づく債権となっている点です。投資信託というと,直ちには受益権が思い浮かぶわけで,受益権の共同相続などのところでも債権だけではなくて,それを含めた受益権なので当然分割とはならないというような性質決定がされているかと思います。   そうしたときに遺産に属する債権について遺産分割方法の指定がされた場合というのが,これを働かせようと思ったら,受益権は誰々にということではなくて,当該受益権から発生する受益債権は誰々にと書くことになるのか,受益権は誰々にと書いておけば,この規定の解釈としては債権について指定がされたという趣旨なのか。ただ,そうしますと元々の受益権の性質決定などと少しずれてきたりするような気がしまして,非常に悩ましいという感じがしているところです。だから,どう書けということではないのですけれども,なかなか,妙案はないのかなという感じが一方でしているというところだけ申し上げたいと思います。 ○堂薗幹事 御指摘をありがとうございました。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○中田委員 忠実義務について御検討くださいましてどうもありがとうございました。意見を申し上げる前に,二,三,確認的な御質問をしたいんです。   一つは現行規定との関係ですが,1012条,1014条,1016条は,それぞれ,どうなるのかということを教えてください。1012条については21ページの4の⑴の①の規律との関係がどうかということです。それから,1016条は多分,23ページの⑷との関係で改正される対象になるのではないかと思うんですけれども,ほかでは書いているのに書いていないのはなぜかということです。以上が第1点です。   第2点は,先ほど大塚関係官から遺言執行者は遺言者の代理人であるというような御説明があり,また,資料にもそう書いてあるんですが,これはどこから導くことになるのかということです。   それから,3点目はちょっとずれた話なんですが,22ページの⑶イ②,先ほど浅田委員との間でお話のありました特定物の引渡しについて,「特定物を引き渡す権限を有しない」という表現になっているんですけれども,そうすると,事実として引き渡した場合には,それはどういう法的効果を持つのでしょうか。   以上,3点についてまずお教えください。 ○堂薗幹事 まず,1012条につきましては,21ページ4⑴の①のような形にするということでございます。それから,1016条につきましても御指摘のとおり,23ページの⑷の①のような規律に見直すということでございます。ほかのところで,例えば⑵では「民法第1013条の見直し」という見出しを付けておりますが,ここはこの点に限った見直しなので,こういう形で書いておりますが,部会資料でも,例えば乙案については,見直しの内容から当然に1013条を見直すことが分かるのではないかということで1013条自体については言及しておりません。それと同じような趣旨で1012条,1016条を見直すという点は明示していないということでございます。もっとも,この点については,補足説明などで説明したいと考えております。   それから,遺言者の代理人というのは飽くまでも誰のために行動すべき人なのかという意味で使っているものでございまして,もちろん,その時点では遺言者は既に亡くなっていますので,理論上,遺言者の代理人ということはあり得ないわけですが,ただ,実質的には飽くまでも相続人のために活動する者ではなくて,遺言者の意思を実現するために活動すべき者だという趣旨で,こういう形で表現をさせていただいているということでございます。   それから,引き渡してしまった場合は,遺言執行者の事務としてやったのではなくて,他人の事務としてやったのかどうかというところが問題になるかと思いますが,少なくとも遺言で明確に書いてあれば別ですが,そうでない以上は仮に引渡しをしたとしても,遺言執行者の事務としてやったということにはならないのではないかと思います。 ○中田委員 ありがとうございました。   それでは,今の御回答を踏まえて,2点,申し上げたいと思います。   第1点は1012条が21ページの4⑴の①のようになるということですと,現在の1012条にあります義務の規範が落ちてしまうのではないだろうかという気がします。もちろん,権限に義務が伴うということはよく分かるんですけれども,もしそうするのであれば,義務についても含めて1012条をこう変えるんだ,あるいは1012条のうち,これは残すんだということをはっきりさせていただいた方が明確になるのではないかと思いました。   それから,忠実義務について遺言執行者の権限行使に裁量の余地が余りないということと,それから,事実上,遺言者の代理人であるというようなことでの御説明で理解はしたんですけれども,実際にどのくらいあるかどうか知らないんですが,清算型の包括遺贈や不特定物遺贈で執行のために財産の換価を要する場合があって,その場合に遺言執行者が相続財産を処分すべき場合があると,この指摘があるわけでございます。先ほどの浅田委員の御発言の中でも,遺言執行者が処分あるいは換価するというような例も挙げられていたと思います。   そうしますと,相続財産の処分や管理について利益相反の問題が生じるということがあるわけで,特に1015条の削除に伴って遺言執行者が誰かの代理人であるということが余りはっきりしなくなる,先ほどの遺言者の代理人というのも比喩的な表現のように思いますので。そうしますと,例えば民法108条という現行法ですと自己取引,双方代理の規定で,改正法案ですともっと広くなるわけですけれども,それが当然に適用されるかどうかも余りはっきりしないような感じもいたします。そこで,仮に忠実義務を書かないのだとしても,例えば民法108条が及ぶというようなことを明らかにするか,あるいは先ほどの1012条も併せて遺言執行者の義務についてもう一度,整理するということもあり得るのかなと思いました。 ○堂薗幹事 御指摘を踏まえて検討したいと思います。1012条のところは,中間試案としては権利・義務と書くよりは権限と書いた方が分かりやすいのではないかということで権限に統一したんですが,条文にする場合にどちらを使うかというのはまた別問題だと思います。   それから,忠実義務のところですけれども,確かに誰の代理人というのは明確には書いていないことにはなるんですけれども,ただ,遺言執行者の行為の効果は相続人に帰属すると書くことによって,現行の1015条と同じことを規定しているという前提ではあります。   それから,遺言執行者の場合にはいろいろな事務があるので,相続人の利益を図るような形で事務を行う必要がある場面もあれば,相続人の一人を廃除する場合もあるので,その辺を具体的に書くのは難しいようなところもあって,明確に忠実義務という形で規定を設けるということにはしなかったというところがございます。他方で,108条との関係などを明確にすることによって,その辺を明確にするということもあるのではないかというご指摘を頂きましたので,その辺りについては検討させていただければと思います。 ○中田委員 是非,御検討いただければと思います。と申しますのは,復任権については総則の規定と別の規定を別途設けることになりますので,そうすると,108条が当然に適用されるかどうかというのはより不明確になると思いますので,御検討いただければと思います。私が一番考えていますのは,遺言執行者が自己取引などをして自分あるいは第三者の利益を図るという場面です。それはまずいということを明らかにした方がいいのではないかということです。 ○大村部会長 ありがとうございます。   ほかに御意見がありましたら伺いますが,よろしいでしょうか。   それでは,次の項目に移らせていただきます。次は第4の「遺留分制度に関する見直し」ということになりますが,最初に事務当局の方から御説明を頂きます。 ○神吉関係官 それでは,関係官の神吉から第4の「遺留分制度に関する見直し」について御説明させていただきます。   まず,1の「遺留分減殺請求権の効力及び法的性質の見直し」について御説明させていただきます。本文では,甲案,乙案,丙案と御紹介させていただいておりますが,本文につきましては甲案と丙案,これは従前の乙案になりますが,こちらは変更はございません。新たに付け加えたのが乙案ということになります。   乙案について御説明する前に甲案について若干,補足して御説明させていただきます。詳細につきましては補足説明に記載したとおりですが,前回会議におきまして受遺者又は受贈者から代物弁済の主張がされた場合に,どのような訴訟形態となるのか,明確にする必要があるとの指摘がございました。この点,代物弁済の主張は金銭請求に対する抗弁と言う位置付けを想定しておりまして,代物弁済の具体的内容は裁判所の裁量により定めるということを想定しております。これによれば,抗弁につきましては非訟的な審理を行うこととなりますが,このような訴訟形態はほかに例を見ない特殊なものであるため,法制上の問題点も含めて,今後,更に慎重に検討する必要があるものと考えております。   なお,委員から御提案がありましたように,受遺者又は受贈者が代物弁済の主張をしたい場合には,対象物確定訴訟を提起することができることとすることも考えられます。この場合,甲案のように金銭債務は実際に代物弁済がされるまでの間,又は裁判が確定するまでの間は消滅をしないという規律を採用いたしますと,金銭請求も対象物確定請求もいずれも認容され,その調整は執行段階で行うことになるものと考えられます。   引き続きまして,乙案について御説明させていただきます。甲案は受遺者又は受贈者が訴訟において現物での返還を希望する旨の主張をし,裁判所がこれに応じてその内容を定めた場合においても,その後に金銭での弁済を許容する規律ということになりますが,これはある意味,受遺者又は受贈者の意思によって裁判所の判断内容を意味のないものにすることを認めることになりまして,訴訟経済等の観点から問題がないとは言えないように思われます。そこで,受遺者又は受贈者が現物の返還を希望し,裁判所がその内容を判断し,その内容が確定した場合には,それによって受遺者又は受贈者が返還すべき財産はそれで確定いたしまして,現物返還に代えて金銭による返還をすることは当然には認められないとすることも考えられます。これが今回の乙案の提案ということになります。   なお,甲案,乙案を採用した場合の判決主文の在り方ですが,こちらは今後,更なる見当が必要になるかとは思われますが,部会資料の27ページの(注)で記載したような主文が考えられるのではないかと思われます。このように甲案を採用した場合には,金銭債務に遅延損害金が発生するため,かなり特殊な主文にならざるを得ないように思われます。   以上が第4の1に関する主な説明となります。   引き続きまして,第4の2の「遺留分の算定方法の見直し」について御説明させていただきます。   まず,甲案につきまして御説明させていただきます。甲案の本文そのものは従前の部会資料からの変更はございませんが,幾つか(注)で考え方の補足をしております。まず,30ページの(注2)でございますが,こちらは遺留分侵害額の計算におきまして,最低限相続分侵害額の請求を受けたものにつきましては,民法第903条の規定によって算定した相続分の額から,最低限相続分において請求を受けた額を控除する必要がある旨の記載を追記しております。こちらは言葉で言われるとなかなか難しいかと思いますので,参考資料を御用意いたしました。本日,机上で席上に配布しているものでございますが,そちらを見ながら説明をお聞きいただければと思いますが,参考資料の事例Ⅰを御覧ください。   こちらは(注2)のような調整規定を置かないと,被相続人が第三者に多額の遺贈又は贈与をし,更に相続人のうちの一人だけに少額の遺贈又は贈与をしたという事案では,遺贈又は贈与を受けた相続人が遺贈等を受けていない相続人より最終的な取得額が少ないという逆転現象が生じてしまうことを考慮したものです。参考資料の事例Ⅰでは,1,000万円の遺贈を受けていたYが,何も遺贈を受けていないZよりも最終的な取得額は少ないという逆転現象が生じてしまっております。   もっとも,このような調整は最低限相続分の処理が確定した場合に可能となりますが,最低限相続分の手続と遺留分の手続は別個独立で行うことを想定しておりまして,必ずしも最低限相続分の手続が先に終わることが担保されたものはないこと,また,係る調整があり得るとすると,少なくとも最低限相続分の請求をするかどうかが確定するまでの間は,遺留分の手続を集結することができなくなる,そういったことも予想されます。   甲案につきましては,これまでの部会におきまして計算が複雑であり,分かりにくいという指摘がされているところではございますが,このような調整規定を置く場合には更に計算が複雑となること等を考慮いたしますと,中間試案の段階で甲案を維持すべきかどうかにつきましても疑問が残るところでございます。本部会におきましては,委員等の皆様に甲案について維持すべきかどうか,特に御議論いただければと思います。なお,仮に甲案を維持する場合ですが,前回部会における委員からの御指摘を踏まえまして,本文の(注1)及び32ページの補足説明におきまして,更なる検討課題がある旨の記載は付記しております。   引き続きまして,乙案について御説明させていただきます。乙案については前回会議におきまして,乙案の各提案が独立のものであり,それぞれ,現行法とどのように異なるのか,明示すべきであるとの指摘がされたことを踏まえ,それぞれの項目に見出しを付けたほか,幾つか修正を加えております。順に御説明いたします。   まず,本文アの規律ですが,遺留分算定の基礎となる財産の範囲に関する規律でございまして,これに相続人に対する生前贈与をどこまで含めるべきかを問題とするものでございます。この点につきまして,現行法の下では判例によって規律が補充され,相続人に対する贈与は原則として全て遺留分算定の基礎となる財産の価額に算入するものとして扱われておりますが,これを相続開始前の一定期間,例えば5年間などに限定するものでございます。なお,この期間をより短い期間,例えば1年間などに限定した上で相続人間の不公平を是正する観点から,遺産分割の手続等におきまして,いわゆる超過特別受益の一部を現実に返還させる制度を設けることも考えられる旨を(注)として記載しております。   次に,本文イの規律について御説明いたします。これは遺留分減殺の対象に関する規律でありまして,この点,現行法の下では遺留分減殺の対象となる財産については特段の限定はされておりませんが,本提案は遺贈又は贈与された目的財産のうち,当該相続人の法定相続分を超える部分のみを減殺の対象とするものでございます。もっとも,このような考え方に立ちますと,遺贈等を受けていた相続人の方が遺贈等を受けていない相続人よりも最終的な取得額が少ないという逆転現象が生じることを考慮いたしまして,本文ただし書におきまして,その者の遺留分を侵害することはできないとの規律を設けることとしております。   こちらも具体的にどのような事案の逆転現象が生じるのか,具体的な事案を見ていただいた方が分かりやすいかと思いますので,参考資料の事例Ⅱを御覧ください。こちらも調整規定を置かない場合,遺贈を受けているYの方が遺贈を受けていないZよりも,最終的な取得額は少なくなるという逆転現象が生じてしまっております。なお,厳密に申し上げれば,遺留分減殺を受けたYが更にAに対して遺留分減殺請求をすることにより,最終的な不足額は調整され得ることになりますが,こちらも求償の循環が生ずるということになりまして,相続をめぐる紛争の拡大,長期化につながるおそれがあるように思われます。   引き続きまして,本文ウの規律について御説明いたします。こちらは「遺産分割の対象となる財産がある場合に関する規律」で,三つの考え方を御紹介しております。最初の考え方と残り二つの二つの考え方は,後に説明するように考え方の発想が異なるため,A案,B案という形で御紹介させていただいております。すなわち,現行法の下では遺産分割に関する手続と遺留分減殺請求に関する手続とは,それぞれ,別個独立に進行させることができ,一方の手続が終わるまで他方の手続を終わらせることができないという関係にはありませんが,両手続における取得額を調整する必要があることから,論理的には両手続の先後関係を決める必要がありまして,それに従って後の手続における取得額を算定する際に,前の手続における取得額を控除するということが必要となるものと思われます。   現行法上,遺産分割に関する手続と遺留分減殺請求に関する手続の論理的な先後関係は必ずしも明確にされておりませんが,学説及び実務上は,遺産分割に関する手続が遺留分減殺請求に関する手続に先行することが当然の前提とされておりまして,したがいまして,遺留分減殺請求に関する手続におきまして遺留分侵害額の算定をする際に,遺産分割における取得額を控除する取扱いがされているようでありまして,B案,こちらは従前の実務慣行を前提とした考え方ということになります。   これに対しましてA案は,総体的遺留分の意義につきまして遺留分権利者に残すべき財産の総額であるという理解を前提としまして,遺産分割の対象財産がある場合には,その限度では総体的遺留分は侵害されていないものと見まして,総体的遺留分の計算過程で遺産分割の対象財産の総額を控除するという考え方で,両手続における論理的な先後関係としましては,遺留分減殺請求に関する手続が遺産分割に関する手続に先行するという考え方に立つものでございます。したがいまして,A案,この考え方に立つ場合には,遺産分割の手続におきまして,遺留分減殺請求に関する手続の結果を反映させる必要があることになりまして,その結果,遺産分割の手続において特別受益の算定をする際に,遺留分権利者については減殺請求によって取得した財産をこれに計上し,減殺請求を受けたものについては,その特別受益額から減殺請求によって効力が否定された部分の価額を控除することが必要となります。   具体的な調整規定につきましては,本文の(注1)で記載したとおりですが,こちらも具体的な事例を御覧いただいた方が分かりやすいかと思いますので,参考資料を御用意いたしました。参考資料の事例Ⅲを見ていただければと思います。こちらはA案を採用した場合に,調整規定を設けない場合と調整規定を設けた場合の比較をしたものでございますが,調整規定を設けない場合には,これまでの事例と同じように遺贈を受けているYが遺贈を受けていないZよりも最終的な取得額が少ないと,そういった逆転現象が生じてしまうこととなります。このようにA案を採用した場合には,(注1)のような調整規定を設ける必要がありますが,遺留分の計算につきましては比較的計算が容易になる一方で,遺産分割の手続において遺留分減殺請求の結果を反映させなければならず,かなり計算が煩雑になる,そういったデメリットがあるように思われます。   B案について御説明いたしますが,こちらはこれまで講学上,法定相続分説,具体的相続分説などと呼ばれてきたものでございます。   まず,B-1案,こちらは法定相続分説ですが,こちらは遺産分割の対象財産がある場合には個別的遺留分侵害額の計算におきまして,法定相続分に応じた遺産額を控除するという考え方でございます。遺産分割,遺留分の各手続における計算は比較的容易なものでございますが,論理上の先後関係として遺産分割に関する手続を先行させるにもかかわらず,遺留分減殺請求事件における計算では法定相続分を前提として遺産分割における取得額を計算し,特別受益の額を考慮に入れないということになるため,遺産分割における実際の取得額と計算の取得額との間に大きな差異が生じ得ることになりまして,結果的に遺贈等を受けていた相続人の方が遺贈等を受けていない相続人よりも最終的な取得額が少ない,そういった事例も生じることになります。   次にB-2案でございますが,こちらは具体的相続分説ということですが,こちらは遺産分割の対象財産がある場合には,個別的遺留分侵害額の計算におきまして,寄与分による修正を考慮しない具体的相続分に応じた遺産額を控除する,そういった考え方でございます。なお,この考え方に立った場合,遺産分割が既に終了している場合に,現実の遺産分割における取得額を控除するのか,それとも,計算上,算定される具体的相続分を控除するのか,考え方が分かれ得るところでございますが,遺産分割が終了していない場合との差異を生じさせないためには,遺産分割が既に終了している場合であっても,計算上,算定される具体的相続分を控除する方が良いように思われますし,手続としてもすっきりするような気もいたします。   こちらも事例を見ていただければと思いますが,参考資料の事例Ⅳを御覧ください。こちらはB-1案とB-2案の比較ということになりますが,法定相続分説を採用すると,最終的な取得額が遺贈をもらっているYの方がもらっていないZよりも少ない,そういった逆転現象が生じる事例ということになるかと思います。   なお,35ページの3の「遺留分侵害額の算定における債務の取扱い」,こちらにつきましてはこれまでの部会資料と変更点はございません。   第4の御説明は以上となります。 ○大村部会長 ありがとうございました。   3点ございますので,順次,御意見を頂いてまいりたいと存じます。最初は「遺留分減殺請求権の効力及び法的性質の見直し」でございまして,甲案,乙案,丙案と3案が併記されております。案そのものが変わったのは乙案で,あとは補足説明で,前回,挙げられた様々な御疑問に対する応答がされているということだと伺いました。これにつきまして御意見を頂ければと思います。 ○垣内幹事 甲案について幾つかお伺いないし若干の意見を述べさせていただきたいと思うんですけれども,まず,第1点ですけれども,当日配布の方の資料で申しますと26ページのところで,代物弁済の主張があった場合に代償物確定訴訟の提起が考えられるということとの関係で,「金銭請求も代償物確定請求も認容され,その調整は執行段階(請求異議)で行うこととなる」という記述に関してなんですけれども,ここでおっしゃっていることの内容というのは,金銭請求の方は給付判決がされて債務名義ができるわけですけれども,代償物確定請求の方は形成ないし実質確認的なものであって,いずれにせよ,給付の訴えではないと思いますので,債務名義ができるということではないので,二重に債務名義があって,両方執行できてしまうという問題の調整を言われているのではないと理解いたしました。そうすると,ここで言われているのは,結局,代償物が確定されて,かつ,それが実際に返還というか,引渡しがされたにもかかわらず,金銭請求の債務名義に基づいて強制執行するということを止めるためには,請求異議の訴えを提起しなければいけないはずであるという問題を指摘されていると理解したんですけれども,そういう理解でよろしいかというのが1点目です。  それから,2点目なんですけれども,先ほどの例はそういうことで債務名義は二つということではなかったんですが,受遺者の方が代物弁済というか,現物で返還すると言っていて,しかし,遺留分権利者の方は金銭請求の訴えを提起したと。そこで,現物は返しますという主張をしているというときに,遺留分権利者の方に例えば不動産であれば移転登記手続請求権のような実体法上の権利が成立するのかどうか。するとすれば,どの段階で成立するということなのかということで,例えば現物返還ということであれば,移転登記してくれれば,それでも自分は構わないといって,それを求める意思を表示したときに,そういう請求権を遺留分権利者の方で取得するというようなことだとしますと,今度は訴えを金銭請求から追加的に変更して移転登記手続請求も立てて,ということが考えられるかと思います。   この場合には,甲案の前提からいきますと両請求とも一応,認容ということで,ただし,金銭請求の方については移転登記手続がされないときはというような主文を書くことが考えられるかと思います。ただ,この主文は執行手続上は余り意味がない主文で,専ら既判力との関係だけで,そういう解除権付きの請求権だということが確定されるということになるのかもしれませんので,そういう主文にしたところで,金銭執行を止めるのに請求異議の訴えが必要になるという自体は変わらないのかなと理解しておりまして,他方,移転登記手続請求の方については,従来,価額償還が認められる場合とほぼ似たような金銭が幾ら幾ら払われないときは,その移転登記手続をせよというようなことにすることが考えられるように思いまして,そうすると,そちらの方は執行手続的な処理が可能だということになるかと思いますが,いずれにしても,金銭請求の方の債務名義は請求異議が立たないと執行力を排除できないということになりそうで,そうなりますと,甲案というのは現物返還を申し出て,しかし,実際に現物が返されるまでは金銭支払もできるというオプションを何か受遺者等の側に与えているという点では,受遺者等にメリットのある制度のようにも見える面がありつつ,他方,実際訴訟でどうなるかということを考えますと,何か受遺者には請求異議の提訴の負担を課すというような面もあるように感じられます。その辺りが実体法上,こういう制度を仕組む強い理由があるのであれば,それはやむを得ないということがあるのかもしれませんけれども,特にそういう強い理由があるということでないのであれば,あえて,こういう制度設計をすることの合理性というのが問題になり得るところかなというような考えを持った次第です。 ○堂薗幹事 それでは,御質問についてお答えしますが,まず,1点目に御指摘いただいた点は,部会資料でいいますと26ページですけれども,今,垣内先生からご指摘いただいたとおりの理解でございまして,いずれにしても,金銭請求で執行してきた場合には,こういった形で請求異議を提起しない限り,それは止められないことになるのではないかという趣旨でございます。だから,代償物確定の内容を反映させようとすれば,そういった手続が別途必要になってくるという趣旨でございます。   それから,甲案を採った場合に,受遺者側から移転登記請求ができるかという点でございますは,これはできないことになるのではないかという点が一つ問題点としてはあるのではないかと考えております。遺留分権利者側としては,強制執行でできるのはあくまでも金銭請求の履行であって,向こうで現物返還をしてきた場合には現物を受け取ることになるわけですが,少なくとも,甲案を前提とする限り,遺留分権利者側から積極的に現物の返還を請求して,それについて債務名義を取得するということは,①から⑤の中には出てこないと。   ただ,現行にも同じような問題があるわけですけれども,現行の遺留分においても遺留分権利者の方が金銭での請求を求めて,受遺者あるいは受贈者側もそれに応じるというような場合は,金銭請求をすることができるかと思いますので,それとパラレルに考えますと,双方とも現物での返還を希望しているというような場合には,甲案のような規律を採った場合にも,そういった請求が認められるという解釈がされる余地はあるのではないかとは思っておりますが,少なくとも①から⑤のような規律で,これを前提とした27ページの判決主文を前提とする限りは,現物についての債務名義とはならないということになるのではないかと思います。   今回,乙案を出した理由ですけれども,甲案にはいろいろと問題があって,主文も非常に複雑になりますし,前回,御指摘いただいた遅延損害金の関係でも非常に権利関係が複雑になるというようなところがございまして,なおかつ,現物での返還を受遺者側が希望しておきながら,それで裁判までやって,そこで内容が決まったにもかかわらず,金銭債務での弁済を認める必要性があるのかという疑問もありますので,今回,乙案を提案させていただいたということでございます。もっとも,基本的に甲案と乙案というのは非常に近い考え方で,違いは現物の内容が確定した後にも金銭での弁済を当然に認めるかどうかという,そこだけの違いですので,可能であれば中間試案に盛り込むのはそのどちらかという方がいいのではないかという印象を持っておりますので,是非,この場でその辺りについて御議論を頂ければと考えているところでございます。 ○大村部会長 垣内幹事,いかがですか。 ○垣内幹事 私は,甲案の前提を必ずしも共有していなかったことが分かったんですけれども,何らかの段階で移転登記手続請求権というのは成立するのかなと考えていたもので,そうでないといたしますと,飽くまで代物弁済的な効果というのは現物が実際に返ってきたときに生ずるのであるということなんですね。それはそれで理論的にはすっきりしている面があり,乙案ですと返ってきてはいないんだけれども,何を返すべきかが確定した時点で金銭請求権の方は消滅してしまうということになるわけです。   この場合に,実際にそういうことがあるのかよく分からないですけれども,27ページの乙案を前提とした場合の主文で,これは一部が現物で一部が金銭という形になっていますけれども,全部が現物ということになりますと,現物のこれこれの移転登記手続をせよというのだけが主文としてされるということになるのだろうと思いますけれども,それはそれでシンプルで魅力的だという感じがしたのですけれども,他方,何かの理由でその登記が実際にされないような場合というのが絶対にあり得ないとも言い切れない。教室設例かもしれませんけれども,そのときに,それに備えて代償請求的な損害賠償請求なのか分かりませんけれども,そういう金銭請求も併合するとか,そういった話もあり得なくもないようにも感じまして,そうすると,乙案でいってもいろいろ複雑な問題というのは,それはそれで生ずるところもあるのかなというような感想を持ちました。 ○大村部会長 事務当局からは,甲,乙が絞れれば,という話でしたけれども,今の御発言は必ずしもそう容易ではなさそうだということですね。 ○増田委員 乙案については,かなり問題があるだろうと私は考えておりまして,乙案では現実に履行を受けないうちに金銭債権を失ってしまうということになります。今,垣内幹事のお話にもありましたように,現物が履行を受けるまでに滅失,毀損してしまうとか,あるいはもっと悪い話で言えば,現物を他に譲渡してしまうとか,所有権移転登記をしてしまうというようなことがあったときに,改めてまた損害賠償請求訴訟を起こすというようなことにもなりかねないわけで,飽くまで代物弁済というのであれば,履行が完了した段階で金銭債権は消滅するのが原則と考えます。民法改正案は代物弁済契約というのを認めて要物性を外しておりますが,それは飽くまで契約であって,その中で債権の消滅時期については私的自治に委ねるということになっており,なおかつデフォルトは代物給付時の債権消滅となっている(482条)ので,遺留分減殺の場合に,当事者の意思と関係なく履行前に金銭債権を消してしまうというのは問題があろうかと思います。どちらかということであれば,是非,甲案の方を残していただきたいと考えます。 ○大村部会長 この点についてほかに御意見を伺えますでしょうか。 ○山本幹事 今の増田委員との御発言とも若干,関連するかもしれませんが,乙案の前提として,物で返す場合は,目的財産の価額の限度で金銭債務が消滅するということですけれども,この場合の目的財産の価額はどうやって決まるのか,特に協議で一部を返しますといったときに,それで幾ら消えたのかが問題となることはないのかについてお聞かせいただければと思います。 ○堂薗幹事 乙案の場合は,元々,基本的には遺留分権利者は一定の価値を有する財産を取得できるということでございますので,協議であっても最終的には,一部現物,一部金銭というような場合は,金銭として幾ら,現物として幾らという形で協議がまとまるという前提ですので,逆に言うと,遺留分減殺請求権について,それで終了させるという前提で協議が成立していれば,金銭債務として幾ら消滅したかということについては,特段,問題にならずに,結局,金銭として幾らの支払義務を負い,現物としてどういう返還義務を負うのかということだけ確定すれば良いのではないかという前提です。 ○山本幹事 一部だけ合意が成立したという状態は想定しなくて,いずれにせよ,現物と金銭で全部解決したという合意が成立しないと消滅しないということでしょうか。 ○堂薗幹事 仮に一部だけやるのであれば,その場合は当然,現物の返還によって幾らの金銭債務が消滅するかというところまで決めないと,最終的に解決しないということになるかと思いますが,通常は全体として解決することになるでしょうから,その場合は飽くまでも金銭幾ら,現物として何ということさえ決めれば,特に現物の返還によって幾らの金銭債務が消滅したとか,そういう点まで決める必要はないのではないかということです。 ○大村部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○山本(和)委員 私も定見があるわけではないんですけれども,中でも甲案は先ほど堂薗さんの説明で裁判所がかなり苦労されて,どの財産が適当かということをいろいろ審理して,相手方もその審理に応じて,この財産でというのが決まった後で代物弁済はしませんと,結局,金銭で支払いますということになると,その審理は一体何だったんだという,どうもそこは気になるところです。そういう意味で,乙案はその意味では単純になるのではないかという感じがしておりまして,そういう意味では,確かにその履行がされない場合にどうなのかということはあるわけですけれども,この場合,判決主文としては,だから,不動産の移転登記手続請求というのも主文に掲げながら,それが履行されない場合には金銭の給付請求も併せて掲げておくと。不動産の登記がされた場合には,金銭の部分は消滅するというような,そういう形の工夫というのは,だから,垣内さんが最初に言われたような理解の制度みたいなものはできないのかなというのを思ったんですけれども。 ○堂薗幹事 代償請求的なものも併せてできるというような形にするというのも考えられると思いますので,その辺りも含めて,それぞれ,甲案,乙案についてなかなか絞るのは難しいようでございますので,更に問題点を整理したいと思います。ただ,甲案を採った場合に遅延損害金との関係をどう整理するかとか,その辺りは非常に難しいなというのが正直なところでございまして,その辺りについて何かご示唆等がございましたらご教示いただきたいと思っております。   今,山本先生が言われたように,現物を確定したにもかかわらず,金銭での返還を認めますと,遅延損害金の損害を免れるために,現物返還の主張をするということがあり得るため,それを防ぐために一定の遅延損害金は発生させざるを得ないと。ただ,遅延損害金が発生するということになりますと,一部現物,一部金銭で返すような場合に,そこをどう調整するかというのは非常に難しい問題でございまして,27ページの判決主文のところでも,遅延損害金については別途規定して,実際に返す200万円とは別に1,000万円について遅延損害金について支払を命じた上で,その調整をする必要があるというようなところがございますので,その辺が非常に複雑になってしまうのではないかという点がこちらの問題意識でございます。 ○石栗委員 甲案のときの主文の書き方についてお聞きしたいんですけれども,部会資料27頁の主文例では,①所要の移転登記手続をせず,「かつ」200万円等を支払わないときは,②1,000万円等を支払えということになっているので,所要の移転登記手続しかされず,200万円等の支払に不履行があっても,②については一切強制執行できなくなってしまいますが,それでよいのでしょうか。 ○堂薗幹事 御指摘の趣旨はよく分かりました。書かなければいけない内容は,御指摘いただいたとおり,両方をした場合を除いて,1000万円支払えと。 ○石栗委員 他方で,片方の履行はしているのに,1,000万円の執行を全く止められなかったら,それはそれで,困ると思うんですよね。 ○堂薗幹事 ですから,そのような条件付の判決主文になってしまって,なおかつ,現物と金銭の両方が出てきてしまうので,非常に難しいのではないかというのがこちらの考えです。 ○石栗委員 非常に複雑な主文を書かなくてはいけないような気がするので,御検討いただければと思います。 ○堂薗幹事 正におっしゃるとおりかなと思いまして,乙案を考えてみたというところでございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○垣内幹事 主文の書き方は,確かに非常に難しいところがあるのだろうと思いまして,そこがネックなのだろうと思います。ただ,現行法の価額弁償についても平成9年の最判があり,あの最判の趣旨を考えてこの主文を読めば,こういうことなんだと理解はできるところでしょうけれども,普通にあの文章を読んで当然にみんながそう理解するかというのは,よく分からないところもありますので,仮に甲案を採る場合には,その辺りはきちんと認識を共有する努力というのが何らかの形で必要なのだろうという感じがいたします。そういう意味では,追加的なコストが掛かるということなのかもしれません。遅延損害金がネックというのは全くそのとおりで,仮に甲案を採ったときにはお示しのように遅延損害金の部分については,別に金銭請求としての債務名義を必ず付けるということにならざるを得ないのではないかと,その限りで複雑になるということかと思います。   それから,訴訟経済の点について山本先生からも御指摘がありましたけれども,確かにそういう面はあると思いますが,ただ,その点は平成21年の最判で弁償すべき価額の確定の訴えの利益を認めたということがあるわけですけれども,あちらの方も額が決まっても,結局,現物で返してしまうと,その点については無駄になったということがあり得ないではないことで,それに関して確認の利益を認める前提として,時期的にすぐにその金額の支払いが期待できるというような附随的な事情を幾つか述べた上で,確認の利益を認めているということかと思いますので,問題はそういった,これができるだけ無駄にならないような条件というものを例えば条文に書くということが容易にできるのか,それが難しいとすると,問題はやや21年最判に比較しても大きいと。その辺りをどう評価するのかというところが甲案を評価する際に問題になるのかなと感じております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   様々な意見を頂きまして,甲,乙の両論がまだあるように思いますので,頂いた意見を勘案していただきまして,再度,整理させていただくということにさせていただくということで,よろしいですか。   ほかに1の点につきまして御意見はございますでしょうか。 ○水野(有)委員 丙案についてもお話ししてよろしいんでしょうか。丙案につきまして,もし前半については甲案と同じというところを書いていただいているかと思うのですが,そうだとすると,甲案で生ずる主文が難しいとか,遅延損害金をどうするのかとか,そういう問題も全て丙案にも残っているという理解でよろしいのか,それとも,丙案にしたら,そこは解決しているということになるのか,そこはいかがなんでしょうか。 ○堂薗幹事 丙案の場合は,現物での返還を求めた場合は現物だけで,しかも現物は現行と同じような規律で決まるので,甲案のような問題は生じないのではないかということです。 ○水野(有)委員 どうもありがとうございました。 ○山本幹事 今の点についてなんですが,丙案では遅延損害金は甲案と同じ規律ということなので,3か月経過後は現物で返すまで発生する前提と考えていたのですけれども,更に前の部会資料では,遺贈等が複数ある場合には,それぞれについて選択し得るというような御説明があったように記憶しておりまして,もし,そうだとすると,正に一部が金銭で一部が現物というようなことがあり得て,甲案と同じ問題を引き継いでしまうのではないかなという気もしていました。その辺りはいかがでしょうか。 ○堂薗幹事 丙案の場合は3か月の間に,現物にするのか,金銭にするのかを決めてもらうという前提なので,3か月が経過したら現物返還の抗弁は出せなくなるという前提です。したがいまして,一部現物,一部金銭ということは想定してないということになりますので,この3か月間は遅延損害金が生じませんから,甲案で生じたような問題は生じないのではないか。そういう意味では,②の3か月を経過するまでの間に,現物返還を申し出るなら申し出てくださいと,現物返還の申出をした場合には,現行の遺留分と同じ規律で物権的効果が生じて,それだけの返還ということになりますので,甲案で生じる問題は生じないのではないかというのがこちらの理解ということになります。 ○山本幹事 内容としては理解いたしました。 ○大村部会長 案自体とそれから説明と,更に整理をしていただく必要があろうかと思います。   よろしいでしょうか。次に進ませていただいていいでしょうか。では,次の2の28ページ以下の「遺留分の算定方法の見直し」について御意見を賜りたいと思います。事務当局からは甲案について30ページの(注2)を加えて,調整をしているというお話がありました。しかし,甲案全体としてこれを加えると,一層複雑な案になるのではないかという指摘もありました。他方,乙案につきましては挙げられているそれぞれの規律が独立のものであるということを明らかにした上で,それぞれについて更に詰められたということだろうと理解しております。直前に,甲案,乙案の併記の状態をどうするかということが1で問題になりましたけれども,2につきまして事務当局の方からは,甲案を削除するということが考えられないかという問題提起もございました。この点も含めて御意見を頂ければと思います。いかがでしょうか。 ○石井幹事 甲案については,従前から非常に処理が複雑になって,甲案の考え方に則った実務というのはなかなか困難が多いということを申し上げておったところですけれども,今回の御提案で更に調整が入るということになりますと,ますます困難な面が増長されてしまうように思われます。また,相続人を相手方とする手続と相続人以外の者を相手方とする手続とを分離することに甲案のメリットがあったように思いますので,両者の間で調整が必要になるということになると,甲案のメリットがかなりの程度,減殺されてしまうように思います。そうしますと,もはや,甲案を維持しておく必要性自体が大分なくなってきているのかなというふうに思いますので,部会資料にもございますように,この際,甲案については検討対象から落とすという選択もあり得るのではないかなと認識しております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   今のような御意見を頂きましたけれども,いかがでございましょうか。 ○石栗委員 裁判実務的に申し上げましても,ここまで複雑になりますと調停手続の運営が極めて困難になる可能性があります。また,調停委員の先生方に規律内容を理解していただくことも難しいかもしれません。 ○大村部会長 削除論が二つ続きましたけれども,他の委員,いかがでございましょうか。 ○西幹事 実務的な観点からのご発言が続いておりますので,違う観点から一言申し上げたいと思います。ずっと議論を聞いてきた我々はどのような流れで甲案がでてきたのか分かっておりますので,その意図もよく理解できるのですが,ぱっとこれを見たときに多くの人は,相続人間では遺留分がなくなると思うわけで,実際そのとおりなのですけれども,最低限相続分という概念が理解されずに,その事実だけが一人歩きして何らかの誤ったメッセージとして伝わる可能性もあるのではないでしょうか。それは望ましくないと思いますので,その意味では削除論に賛成です。ただ一応,今回の遺留分の算定方法の見直しが一体何のために求められて,一体何を目的としているのかということをもう一度,確認させていただければと思います。 ○堂薗幹事 元々の問題意識は,相続人が受遺者,受贈者になっている場合に第三者の場合とは違う規律になっている部分があり,そのために非常に計算方法が複雑になっているというところがあるので,第三者と相続人を分けることによってきれいに分けられないかと,なおかつ,相続人間の遺留分については遺産分割との関係がありますので,どちらかというと遺産分割とも一体的に解決できるようにするために,第三者のものと相続人のものを分けられないかということで,検討を始めたわけですが,結果としては逆に今よりも難しくなっているという面があるので,今回の部会資料にそのような記載をさせていただいたということでございます。現行制度も,遺留分の手続と遺産分割の手続が別になっていて,そこの調整をどうするかというのが非常に問題を複雑にしている原因ではないかと思うんですが,結局,甲案の場合,第三者と相続人を分けたんですけれども,この間の調整が必要だということになると,それに更に遺産分割もありますので,三つの手続の調整が必要になってしまうというようなところがあります。受遺者等が相続人の場合と第三者の場合の両手続を完全に切り分けることができるのであればメリットがあるかなとは思っていたんですが,両手続の調整をする必要があるというところで,なかなか,初期の目的が達成できていないというところでございます。 ○大村部会長 ありがとうございました。   西幹事も結論は削除論のように伺いましたので,やはり乙案だけということになるのかもしれません。その場合にも,今のやり取りにあったように,なぜ,こういうことが考えられたかという経緯については補足説明に残していただいた方がよいでしょうね。ある方向で考えてみたけれども,しかし,そのような考え方は様々な困難を抱え込むので,最終的に提案できるのはこの案なのだということを説明していただくことは必要でしょうし,甲案が難しいということ,我々はこの案を検討した上で,乙案にたどり着いたということもどこかに残した方がいいのではないかと思います。そのようなことを補足説明に書いていただくことを含めて,甲案を削除するという方向で,今,意見がまとまりそうな気配ですが,何か御発言はございますでしょうか。よろしいですか。 ○窪田委員 最初から反対だったというのではなくて,ある時期まではむしろ甲案はよいのではないかと思っていた人間が多分,やめると言った方が話がまとまりやすいのかもしれませんので,一つだけ発言させていただきます。   私自身は遺留分制度というのはよく分からない制度だなと感じています。現実に第三者との関係で問題となる遺留分と,共同相続人間の問題となる遺留分とは全く性格が違うような紛争ではないか,また,審判の中でどう扱われるのかという点でも遺産分割の関係も違うし,ということで分けてみるというのは一定の分かりやすさにつながるのかなと思っておりました。ただ,結果として出てきたものは収拾がつかない状況をもたらすということだったと思いますし,特にまだ現在の甲案だったらともかく,これまでも許容できないという人は大勢いるんだろうと思うんですが,これに修正を加えてしまったら,もはや説明がつかない制度になってしまうのだろうと思います。その意味でも維持はできないということだろうと思います。ただ,今,申し上げたような出発点となる問題というのは,ある程度までは共有されているということではないかと思いますし,それでやってみたのだけれども,駄目だったということは記録としてはむしろ残して,何も検討せずに乙案が残ったのではないよという趣旨の形にしていただければ十分ではないかなと思います。 ○大村部会長 では,甲,乙問題につきましては,今のような趣旨が分かる形で乙案に統一するということにさせていただきたいと存じます。乙案そのものについてもいろいろ御意見があろうかと思いますので,それにつきましても何かございましたら承りたいと存じます。 ○増田委員 ここは,裁判所の方にお伺いしたいんですが,B-1案の考え方は現在も実務上,採られているのかどうかということです。判例タイムズで裁判所の方が立て続けにB-2案で実務は動いているという論文を書かれております。かつては多分,B-1案が多数説だったように思うんですけれども,現在では多分,B-2案で裁判実務は動いているのではないかと想像しているんですけれども,いかがでしょうか。もし,そうであるならばB-1案は削除してもいいのかなと思っているんですが。 ○大村部会長 今のような御意見が出ておりますけれども,いかがでございましょうか。 ○石井幹事 B-2案の考え方を支持する実務家の文献があるというのは承知しておりますけれども,B-1案の考え方を支持する実務家の文献もあるところであり,この点については実務において議論が分かれているものと承知しております。そのため,現時点で,B-1案を検討対象自体から落とすということまでは必要ないのかなと思っております。 ○増田委員 であれば維持で結構です。 ○大村部会長 分かりました。   そのほか,いかがでしょうか。事務当局の方から何か乙案の方について,特にここを聞いておきたいということはございますか。 ○堂薗幹事 乙案の方もウのところでございますが,ここも一応,A案とB案ということで書いているところですが,A案を採ると遺留分の方は,実はB-1案と同じ結論になるんですけれども,他方でA案の考え方を採る場合は,遺産分割のところで,減殺がされた部分についてはその評価額を特別受益の額から控除し,新たに遺留分減殺請求により財産を取得した人については,それを特別受益として考慮するということが必要になりますので,そういった意味で,ここも現行の手続に比べて複雑になる面があるのかなという問題がございます。ここも先ほどの甲案と同じように,中間試案にこの案を残すかどうかという点について御議論を頂いた方がいいのかなという気がしているところでございます。 ○大村部会長 今の点につきまして何か御発言があれば承ります。いかがでしょうか。 ○石井幹事 ウのA案というのは,遺産分割手続と遺留分の手続を明確に分けるというところにメリットを見いだしていた案だと認識しているんですけれども,今,堂薗幹事の御説明にあったように両者間で調整をする必要が出てくるということであれば,A案のメリットというはかなりの程度減殺されてしまうように思います。それにもかかわらず,総体的遺留分に特別に意味を持たせるという,必ずしも現在の実務で採られているわけではない考え方を採ってまでA案を採用することの意義はどこにあるのかというのは,実務をやっている者からすると,若干,疑問が残るところです。A案の結論がB案と余り変わってこないということであれば,A案を検討対象に残しておく意義というのは相当に小さくなっているのかなと認識はしておるところであります。 ○大村部会長 今のような御意見もあるということで,更にお考えいただいて次回に御提案いただくということにさせていただきたいと思います。乙案につきましてほかはよろしいでしょうか。   それでは,第4の最後になりますけれども,35ページの「3 遺留分侵害額の算定における債務の取扱いに関する見直し」ですが,これは変更点なしということでございますので,特に御意見がなければ先に進みたいと思いますが,いかがでしょうか。ありがとうございます。   それでは,定刻に近付いているのですけれども,残りは第5と(後注)だけですので,15分ほど延長させていただきたいと存じます。第5の「相続人以外の者の貢献を考慮するための方策」につきまして事務当局の御説明を頂きます。 ○神吉関係官 第5の「相続人以外の者の貢献を考慮するための方策」につきましては,前回の部会資料から特段の変更点はございませんが,補足説明におきまして,前回の部会において委員から御指摘がありました事項について説明をしております。具体的には本文の⑤の規律に関しまして,本方策の請求権者と相続人の債権者の優先順位についてどのように考えるべきか,検討すべきであるとの指摘がございました。本方策は政策的にその請求権者を遺産分割の当事者に含めない代わりに,相続人に対する金銭請求を認めるものでございますが,委員からの御指摘は相続人の中に無資力者がいる場合に,遺産分割の当事者とする場合に比して,本方策の請求権者が不利な地位に置かれることになる点に疑問を呈するものでございました。   このような疑問を解消しようとすれば,本方策の請求権者に無資力の相続人が遺産分割で取得した財産に優先権を認めることなどが考えられますが,本方策は,現行法の下では一切,権利行使が認められていないものについて新たな権利行使を認めるものでございまして,相続人の寄与分と全く同一の法的地位を付与すべき必然性まではないと考えられることから,これらの規律を設けることとはしておりません。   以上,第5についての御説明を申し上げました。 ○大村部会長 ありがとうございます。   第5の提案部分は,前回の資料と変わらないということでございましたけれども,前回の会議において出された御疑問について検討し,それについての説明が補足説明というところに書かれているということでございます。いかがでございましょうか。 ○増田委員 純粋に質問なんですが,甲案と乙案の要件の書きぶりなんですけれども,違っているのは,乙案の場合は無償性が要件になっているということと,財産上の給付による財産の維持又は増加が除外されていること,この2点が違っているという理解でよろしいでしょうか。 ○堂薗幹事 当然,寄与行為の対象も違いますけれども,甲案の場合は現行の寄与分と同じものが寄与行為の対象として挙がっているのに対しまして,乙案の方はそのうちの事業に関する労務の提供,あるいは療養看護が対象となっていて,それを無償で行った場合が対象となっているというところで,対象となる寄与行為がまず違うと。それから,当然のことながら,請求権者の範囲も違うということでございます。 ○増田委員 寄与行為の対象というのが,私が今,言ったこととどう違うのかがよく分からなかったのですが。 ○堂薗幹事 事業に関する財産上の給付を除外し,甲案の方はその他の方法により財産の維持又は増加について特別の寄与というのがあるんですが,そこも除いていますので,それを除いた部分で,なおかつ,先生が御指摘のように乙案の方は無償性を要件としているということでございます。 ○増田委員 了解しました。 ○大村部会長 よろしいですか。   そのほか,この第5について。 ○南部委員 「無償で労務を提供」と記載がありますが,何となく意味は分かりますけれども,具体的にその内容を明らかにしておく方がパブリックコメントのときによろしいかと思いますので,もし,今,お考えがあればお聞かせいただきたいなと思います。 ○堂薗幹事 ここで無償の労務の提供と言っているのは,甲案でいいますと事業に関する労務の提供,ですから,例えば農作業を無償で手伝った場合ですとか,あるいは療養看護を典型例として考えておりまして,それを無償で行った場合ということでございますので,確かに甲案と乙案を比較した場合に,療養看護が入ってくるのかどうかといった点など,若干,分かりにくいところがあるのではないかと思いますので,その辺りの表現については本文で工夫するか,あるいは補足説明できちんと説明をしたいと考えているところでございます。 ○南部委員 もう一つですけれども,例えば甲案でいえば,子どもの配偶者,孫,乙案でいえば内縁関係や,いわゆるLGBTのパートナーについても,その範囲に入っているとした上で問うのかどうかということも御議論いただけたら有り難いかなと思います。 ○堂薗幹事 乙案については請求権者の範囲を限定していませんので,特に身分関係があろうとなかろうと入ってくるということですが,甲案は法律上の身分関係で区切っていますので,そこは限定があるというのがこちらの理解ですが。 ○大村部会長 よろしいでしょうか。   そのほか,いかがでしょうか。 ○中田委員 今の南部委員の御発言とも関連するんですけれども,前回,私は甲案について具体的な例を補足説明で挙げていただいたらいいのではないかと申し上げましたが,乙案についても同じでございます。今,挙げられた例のほかに例えばお隣の人が療養看護をしたというのも多分,入るんでしょうね。様々な例を挙げられた上で,そのメリットと課題といいますか,両方を示していただければいいかなと思います。 ○大村部会長 南部委員,中田委員が御指摘の具体的な例を補足説明で書いていただくということで御対応いただきたいと思います。   そのほか,いかがでございましょうか。 ○水野(紀)委員 本当に純粋な質問なのですが,甲案では財産上の給付が入っていて,乙案では抜けているということですが,財産上の給付は割合と明確な形になるのだろうと思うのです。例えば創業資金のために1,000万円を渡したとします。そういう場合には乙案では入ってないけれども,それは返せという請求が不当利得で別に立つという前提で抜かれたのでしょうか。 ○堂薗幹事 通常は完全に贈与で金銭の供与をしたということであれば,返せとは言えないという前提だと思いますので,逆に言うと,少なくとも請求権者の範囲を限定しませんので,そういう財産上の給付などについては,回収したいのであれば契約等で手当てしてくださいという前提でございます。ですので,あえてこの制度の対象とする必要はないのではないかということです。 ○大村部会長 よろしいでしょうか。   そのほかに,何か。 ○窪田委員 今,水野委員から御指摘があった部分は,より詳しく書いていただいた方がいいのではないかという気がします。つまり,乙案と甲案の違いというのは,甲案は今までもあった息子の妻とか嫁とか,そういったタイプのものに対応するものに対して,乙案というのは多分,もう少し射程が広くて,不当利得とか,事務管理に対するある種,特則みたいな形で入ってくるという点にあるのだろうと思います。ただ,これは潮見委員からの御指摘も何度もあった点にも関わると思いますが,本来,財産法で処理できる部分であれば,財産法で処理するというのが筋なのだろうと思います。   ただ,無償で労務を提供して親切でやったというようなことについて,本当に事務管理の費用償還請求権によって対価に当たるようなものとかというのを請求できるのかというのは,必ずしもはっきりしていないだろうと思います。その意味で仮に介入するとしたら,その部分に限られているのだという意味で説明していただいた方がいいと思いますし,そうだとすると,今,水野委員からあった財産上の給付というのは,本来,財産法上の問題なんだからということもクリアになるのかなと思いました。これは感想です。 ○大村部会長 ありがとうございます。   以前の資料には,御指摘の点についての補足説明があったかと思いますけれども,今回のものは前回出された御指摘を取り上げて,それに説明を付けているというものですので,このようになっているのだろうと思います。全体として中間試案の補足説明を付けていただくときには,従来,話題になったこと全てを対象として,それを集約した形で御説明いただくことになろうかと思います。その中で,今,水野委員や窪田委員が御指摘になった点,あるいは中田委員がおっしゃった例示の点などについての御対応いただくということになろうかと思います。   そのほか,いかがでしょうか。よろしいですか。   それでは,最後になりますけれども,前回からの積み残しですが,「(後注)その余の検討課題について」ということにつきまして,事務当局の方から御説明を頂きます。 ○神吉関係官 最後に資料の37ページ,「その余の検討課題」について御説明いたします。   まず,寄与分制度の見直しにつきましては,現行の寄与分制度の特則といたしまして,被相続人の療養看護や扶養による寄与につきまして,寄与者とほかの相続人との間でその程度に著しい差異がある場合には,その寄与が特別の寄与と言えない場合であっても,寄与分を認める制度を提案させていただいておりました。しかしながら,この点につきましては,実際には相続人全員の寄与の程度が審理の対象とならざるを得ないのではないかなどの問題点の御指摘をいただいたところ,これらの問題点を解消ないし軽減する方策を見いだすのは困難であったことから,本部会資料におきましては,寄与分制度の見直しに関する方策を削除させていただいております。   次に,遺産分割における相続人の担保責任について御説明いたします。この点は第10回会議におきまして,遺贈の担保責任と併せて検討すべき事項として御指摘いただいたところでございます。もっとも,民法911条によりまして売主の担保責任を定める民法560条から572条までの規定のうち,どの規定が実際に準用されるかという点につきましては,学説上も見解が一致していないように思われ,また,この点を明確に判示した判例も見当たりません。   他方,仮に民法911条が民法560条から572条までの規定を準用する趣旨であるとすると,遺産分割の対象に瑕疵等があった場合には,それを取得した相続人は他の相続人に対し,損害賠償請求や遺産分割の解除ができることになりますが,遺産分割の対象財産に瑕疵等があったことに気付かなかったことについては,これを取得した相続人も他の相続人と同様の立場にあったと考えられることなどを考慮すれば,民法912条,913条と同様に,瑕疵などが存在する財産を取得した相続人が受けた損失について,各相続人にその相続分に応じた責任を負わせることで足り,その余の損害賠償や解除まで認める必要はないように思われます。民法911条において売主と同じくと規定したのは,売主の担保責任に関する規定をそのまま準用することまで意図したものではなく,このような趣旨を明らかにしたものにすぎないとも考えられるところでございます。   そういたしますと,今後,法制審議会の答申に基づき,売主の担保責任に関する規定の見直しがされたとしても,民法911条の解釈に直接影響を及ぼすものではないことから,今回の相続法制の見直しにおいても,民法911条については特段の手当はしないこととし,現行法と同様,相続人が負う具体的な責任の内容については,解釈に委ねることが考えられます。この点につきましても御意見をいただければと存じます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   「(後注)その余の検討課題について」は,今まで話題になった二つの事柄について規定を置くことは提案しないということを記して,それについて御意見を頂くという趣旨かと思います。こういう形で,「その余の検討課題について」を掲げるということについて,皆様の御意見を頂戴するということになりますが,内容も含めて何か,今,ございましたら承りたいと存じます。 ○増田委員 (後注)にも書かれていないことなんですが,直系尊属の遺留分を廃止するということについては,以前,話題になったときに,それほど異論はなかったように思うんですけれども,今,(後注)にも書かれていないので,これは何らかの形で,私は(後注)ではなく試案の中に入れていただきたいぐらいなんですけれども,何でなのかというのをお伺いしたい。遺留分の廃止に積極的な理由としては,前から申し上げていたように,本来自分の子の財産というのを期待すべき地位にはない,それから,配偶者の保護という本来の目的からすれば,それには反することになるということですよね。それから,もう一つ,最近,気付いたんですけども,以前,DINKSという生き方が流行った時代があって,その世代の方が今は60代だと思うんです。ということは,そろそろ,これが問題になってきそうな感じがします。高齢化社会でその親が生きているという可能性がありますので,そういう点からも直系尊属の遺留分の廃止というのは,ある意味,現実にもう少しきちんと検討して良かった話題だと思うんです。 ○堂薗幹事 特に非常に問題があって載せなかったということではありませんので,載せる場所も含めて検討させていただいて,次回にお示ししたいと思います。 ○大村部会長 増田委員,よろしいでしょうか。   そのほか,いかがでございましょうか。 ○中田委員 911条の改正の要否について検討してくださいましてありがとうございました。結論として手直しをしないということでよろしいかと存じます。ただ,理由付けとして38ページの第2パラグラフに,仮に911条がこれこれを準用する趣旨であるとすると,という文章がありますが,これは一つの説明の仕方として十分あり得ると思うんですが,これで決めたというのも決めすぎかなという気もします。結論として,売主の担保責任の規定を共同相続人の担保責任にそのまま準用するのではなくて,遺産分割の性質に照らして必要な変更を加えた上で及ぼすと,こういうことだと思いまして,そこは異論はございませんので,余り理由を限定しない方がいいのではないかと思います。と申しますのは,911条自体,非常に古い沿革のある規定ですし,それから,261条という共有物の分割の場合の担保責任の規定を今回,債権法改正に関する整備法でも対象としなかったということもございますので,様々な理由があって,こういう結論に至ると思いますので,説明の部分を少しやわらかくしていただければと思います。 ○大村部会長 今の点は更に再考していただいて適切な説明に改めていただきたいと思います。   そのほか,いかがでしょうか。 ○南部委員 寄与分制度の見直しについての部分を削除していますが,パブリックコメントでは全く載せないという理解でよろしいでしょうか。 ○堂薗幹事 こちらはそういう前提です。 ○南部委員 そもそも,この部分が議論のスタートだったような気もしますので,例えばパブリックコメントで何か意見を聴くということをお考えになっていないのでしょうか。 ○堂薗幹事 特に具体的に考え方を示さずに,例えば寄与分制度について見直しをすべき点があるかという注記をすることは考えられるのかもしれませんが,こちらとしては具体的な案もなく,そういう形で抽象的に聴いてもどうかというところがありますので,事務当局としては中間試案に載せることは考えていなかったというところでございます。その辺りについても御議論いただければとは思いますけれども。 ○南部委員 分かりました。 ○沖野委員 中身ではないのですけれども,補足説明にどこまで載っていくのかという点です。例えば今の寄与分については具体的な提案も,あるいは個別の問題として(後注)の形でも聞くことはしないんだけれども,そういう問題を全く扱わなかったわけではなくて,こういう判断の下で,このようになったというのはあちこちにあると思うんですが,その記載は残るし,また,残すべきだと思うのですけれども,そういう理解でよろしいですか。 ○堂薗幹事 それは十分考えられると思います。今,申し上げたのは飽くまでも本文には記載しないということでございますので,遺留分の甲案もそうですけれども,本文に載せなかったものについて,こういう経緯で提案から落ちたという辺りについて,必要な説明をすることは可能ではないかと考えております。 ○大村部会長 そのほか,いかがでございましょうか。よろしゅうございますでしょうか。   それでは,本日,頂きました御意見を踏まえまして,更に事務当局にはこのたたき台の改めたものを次回に御用意いただくということにしたいと思います。次回以降の予定等につきまして事務当局の方から御説明を頂きます。 ○堂薗幹事 次回は既に御案内のとおり,6月21日(火曜日)の午後1時半から5時半までを予定しておりまして,場所は法務省20階第1会議室というところになります。次回は本日の議論を踏まえて修正した案について御議論いただき,できれば,中間試案の取りまとめまでしたいと考えております。次回もどうぞよろしくお願いいたします。 ○大村部会長 本日は,予定した時間を超過いたしましたけれども,非常に熱心な御議論を頂きまして誠にありがとうございました。これで法制審議会民法(相続関係)部会第12回会合を閉会させていただきます。どうもありがとうございました。 -了-