法制審議会 第178回会議 議事録 第1 日 時  平成29年2月9日(木)   自 午後2時00分                        至 午後3時21分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題   1 少年法における少年の年齢及び犯罪者処遇を充実させるための刑事法の整備に関する諮問について   2 会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する諮問について 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○佐伯司法法制課長 ただいまから法制審議会第178回会議を開催いたします。  本日は,委員18名のうち17名に御出席いただいておりますので,法制審議会令第7条に定められた定足数を満たしていることを御報告申し上げます。  なお,本日はやむを得ない所用のため,金田法務大臣が当審議会に出席できませんので,大臣から託されております挨拶を井野法務大臣政務官が代読いたします。よろしくお願いいたします。 ○井野法務大臣政務官 法務大臣政務官の井野俊郎でございます。大臣に代わりまして御挨拶を申し上げます。  法制審議会第178回会議の開催に当たり,一言御挨拶を申し上げます。  委員及び幹事の皆様方におかれましては,御多用中のところ本会議に御出席いただき,誠にありがとうございます。また,この機会に,法制審議会の運営に関する皆様方の日頃の御協力に対し,厚く御礼申し上げます。  さて,本日は,御審議をお願いする事項が二つございます。まず,議題の一つ目は,新たに御審議をお願いするもので,少年法における「少年」の上限年齢の引下げ及び犯罪者処遇を充実させるための刑事法の整備に関する諮問第103号についてでございます。近時,少年法における「少年」の年齢に関して検討が求められておりますところ,この問題は,単に「少年」の範囲を現行法の範囲のまま維持するかどうかという問題にとどまらず,刑事司法全般において,成長過程にある若年者をいかに取扱い,改善更生,再犯防止を図るかという大きな問題に関わるものであると考えています。  そのため,法務省は,平成27年11月から平成28年12月まで「若年者に対する刑事法制の在り方に関する勉強会」を実施し,関連する多様な分野の有識者から御意見を伺うなど,この問題に関する検討に必要な基礎的知見の収集を行ってまいりました。そのような勉強会における成果をも踏まえ,今般,「少年」の年齢の在り方とともに,非行少年を含む犯罪者に対する処遇を一層充実させるための法整備の在り方についても,法制審議会の御意見を賜る必要があると考えるに至りましたので,御審議をお願いするものでございます。  議題の二つ目は,これも新たに御審議をお願いするもので,会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する諮問第104号についてでございます。会社法制については,社外取締役等による株式会社の経営に対する監査等を強化するとともに,株式会社及びその属する企業グループの運営の一層の適正化等を図った「会社法の一部を改正する法律」が平成26年6月に成立し,平成27年5月から施行されております。この法律の附則第25条においては,「政府は,この法律の施行後二年を経過した場合において,社外取締役の選任状況その他の社会経済情勢の変化等を勘案し,企業統治に係る制度の在り方について検討を加え,必要があると認めるときは,その結果に基づいて,社外取締役を置くことの義務付け等所要の措置を講ずるものとする。」と定められております。  また,この法律の成立後,会社法制については,例えば,インターネットを活用して株主総会に関する資料を株主に提供するなど,株主総会に関する手続を合理化することや,役員に企業価値を向上させる適切なインセンティブを付与するための規律を整備すること,そして,一定の社債についてより簡易な社債の管理を可能とするなど,社債の管理の在り方について見直しをすることなどを検討する必要性が指摘されております。  そこで,このような企業統治等に関する規律の見直しの要否を検討の上,その規律の見直しを要する場合にはその要綱を示されるよう,御検討をお願いするものでございます。  それでは,これらの議題についての御審議をよろしくお願い申し上げます。  以上です。 ○佐伯司法法制課長 誠に恐縮ではございますが,政務官は公務のため,ここで退席いたします。          (井野法務大臣政務官退席) ○佐伯司法法制課長 ここで,報道関係者が退室いたしますので,しばらくの間,お待ちいただければと思います。           (報道関係者退室) ○佐伯司法法制課長 では,高橋会長,お願いいたします。 ○高橋会長 会長の高橋でございます。本日もよろしくお願い申し上げます。  まず初めに,昨年9月12日に開催いたしました前回の第177回会議以降,本日までの間に委員の異動がございましたので御紹介申し上げます。異動内容につきましては,お手元にお配りいたしました参考資料にある人事異動表のとおりでございますが,新たに就任された委員の方が本日御出席でございますので,御紹介申し上げます。  早稲田大学特命教授,東京大学名誉教授の内田貴氏が委員に御就任になりました。どうぞよろしくお願いいたします。 ○内田委員 内田貴でございます。どうぞよろしくお願いいたします。 ○高橋会長 では,本日の審議に入ります。  先ほどの御挨拶にもございましたように,本日の議題は二つございます。まず,第1の議題であります,「少年法における少年の年齢及び犯罪者処遇を充実させるための刑事法の整備に関する諮問第103号」,これについての御審議をお願いいたします。  初めに,事務当局に諮問事項の朗読をお願いします。 ○羽柴刑事法制企画官 刑事局刑事法制企画官をしております羽柴と申します。どうぞよろしくお願いをいたします。  諮問を朗読させていただきます。  諮問第103号,日本国憲法の改正手続に関する法律における投票権及び公職選挙法における選挙権を有する者の年齢を十八歳以上とする立法措置,民法の定める成年年齢に関する検討状況等を踏まえ,少年法の規定について検討が求められていることのほか,近時の犯罪情勢,再犯の防止の重要性等に鑑み,少年法における「少年」の年齢を十八歳未満とすること並びに非行少年を含む犯罪者に対する処遇を一層充実させるための刑事の実体法及び手続法の整備の在り方並びに関連事項について御意見を賜りたい。  以上でございます。 ○高橋会長 続きまして,この諮問の内容,諮問に至る経緯及びその理由につきまして,事務当局から御説明をお願いいたします。 ○林幹事 幹事を務めます刑事局長の林でございます。  諮問第103号につきまして,諮問に至りました経緯及び諮問の趣旨などを御説明申し上げます。  まず,諮問に至る経緯でございます。近年における年齢に関わる主要な法律の改正等を概観いたしますと,まず,平成19年に成立した日本国憲法の改正手続に関する法律の本則におきまして,国民投票の投票権を有する者の年齢は18歳以上とされましたが,その附則におきまして,「国は,この法律が施行されるまでの間に,年齢満18年以上満20年未満の者が国政選挙に参加することができること等となるよう,選挙権を有する者の年齢を定める公職選挙法,成年年齢を定める民法その他の法令の規定について検討を加え,必要な法制上の措置を講ずるものとする」とされ,この法制上の措置が講ぜられ,年齢満18年以上満20年未満の者が国政選挙に参加すること等ができるまでの間,国民投票の投票権を有する者の年齢は20歳以上とされました。  その後,平成26年に同法律の一部改正法が成立し,平成30年6月以後にある国民投票から,その投票権を有する者の年齢は18歳以上とされ,改正附則に先ほど述べたのと同様の検討条項が設けられたところでございます。  次に,平成27年に成立しました公職選挙法等の一部を改正する法律において,公職選挙法の選挙権を有する者の年齢が18歳以上とされました。公職選挙法改正法の附則においては,「国は,国民投票の投票権を有する者の年齢及び選挙権を有する者の年齢が満18年以上とされたことを踏まえ,選挙の公正その他の観点における年齢満18年以上満20年未満の者と年齢満20年以上の者との均衡等を勘案しつつ,民法,少年法その他の法令の規定について検討を加え,必要な法制上の措置を講ずるものとする」とされております。  すなわち,これらの法令においては,他法における年齢に関する規定の改正等を踏まえて,少年法の「少年」の上限年齢について,検討が求められているものと理解できます。  また,平成21年に,民法が定める成年年齢を18歳に引き下げるのが適当であるとする当審議会の答申がなされており,この答申に基づき,民法改正についての具体的な検討が行われているところでもあります。  法務省としては,かねて,少年法における「少年」の上限年齢についての検討は,単に「少年」の範囲を現行法の範囲のまま維持するか,上限年齢を引き下げるかという観点のみから行われるべきものではなく,刑事司法全般において,成長過程にある若年者をいかに取り扱い,改善更生・再犯防止を図るかという大きな問題に関わるものであると考えてまいりました。  このような考え方に基づき,法務省では,平成27年11月から,少年法の適用対象年齢を含む若年者に対する刑事法制の在り方全般についての検討を行うため,「若年者に対する刑事法制の在り方に関する勉強会」を開催し,関連する多様な分野の研究者・実務家や一般有識者の方々からヒアリングを行うなどし,この問題に関して検討を行う上で必要となる基礎的知見を幅広く収集してきたところであります。  そして,昨年12月20日,その成果を取りまとめて公表し,その中では,少年法の「少年」の上限年齢の在り方とともに,犯罪者に対する処遇を一層充実させるための措置等を幅広く掲げたところであります。これは勉強会において実施したヒアリングにおいて述べられた御意見などを踏まえ,少年法における「少年」の上限年齢について検討するに当たっては,併せて,若年者に対して,どのような刑事政策的措置を採り得るのか検討することが重要であり,同時に,このような刑事政策的措置は,若年者,あるいはそれに限らず,全ての年齢の者の改善更生・再犯防止に資するものでもあると考えられたことによります。  そして,この報告書も踏まえ,更に検討を進めたところ,近時の犯罪情勢,再犯の防止の重要性等に鑑み,少年法における「少年」の上限年齢の在り方とともに,非行少年を含む犯罪者に対する処遇を一層充実させるための法整備の在り方について,専門家の知見を反映しつつ十分な検討を行う必要があると考えるに至り,本日,この諮問に及んだものでございます。  続きまして,諮問の趣旨でございます。今般の諮問は,少年法の規定について検討が求められていることのほか,近時の犯罪情勢,再犯の防止の重要性等に鑑み,少年法における「少年」の上限年齢を18歳未満とすること並びに非行少年を含む犯罪者に対する処遇を一層充実させるための刑事の実体法及び手続法の整備の在り方並びに関連事項について御審議をお願いするものであります。  近時の犯罪情勢について申し上げますと,刑法犯認知件数は平成15年以降減少傾向にあるものの,刑法犯検挙人員に占める再犯者の割合は平成9年以降高まっており,平成27年には48.0%に至りました。刑法犯検挙人員の推移については,後ほど資料に基づき御説明をいたしますが,平成27年の初犯者の刑法犯検挙人員が平成16年から半減しているのに対し,この間,再犯者の刑法犯検挙人員は約17%の減少にとどまっているなどの,こうした犯罪情勢によれば,再犯の防止の重要性は一層大きくなっていると考えられます。  また,少年の犯罪情勢についても,検挙人員に占める再犯者の割合が増加傾向にあるほか,振り込め詐欺の検挙人員が増加し,少年による殺人等の凶悪事件が発生するなど,依然として対策が求められる情勢であることに変わりはありません。  そこで,先ほど申し上げました少年法の規定について検討が求められていることのほか,ただいま申し上げました近時の犯罪情勢,再犯の防止の重要性等に鑑み,少年法における「少年」の上限年齢の在り方とともに,非行少年を含む犯罪者に対する処遇を一層充実させるための刑事の実体法及び手続法の整備の在り方並びにこれらの関連事項につき幅広く御議論いただきたいと考え,今般,御審議をお願いすることとしたものでございます。  諮問の趣旨は以上のとおりでございます。  十分に御審議の上,できる限り速やかに御意見を賜りますようお願い申し上げます。 ○高橋会長 ありがとうございました。  続きまして,配付資料につきまして事務当局から御説明をお願いいたします。 ○羽柴刑事法制企画官 配付資料の御説明をさせていただきます。資料番号刑1から刑9までの資料につきまして御説明いたします。  資料刑1は,先ほど朗読いたしました諮問第103号でございます。  次の資料刑2は,今回の諮問に至る経緯について2枚にまとめたものでございます。1枚目の一つ目の○,平成19年に成立した日本国憲法の改正手続に関する法律の附則におきまして,公職選挙法,民法,その他の法令について検討が求められておりまして,三つ目の○,平成26年の同法律の一部を改正する法律の附則におきましても同様に,公職選挙法,民法,その他の法令について検討が求められていたところでございますが,1枚おめくりいただきまして,2枚目の一つ目の○,平成27年の公職選挙法等の一部を改正する法律の附則におきましては,国民投票の投票権を有する者の年齢及び選挙権を有する者の年齢が満18年以上とされたことを踏まえ,「民法,少年法その他の法令の規定について検討を加え,必要な法制上の措置を講ずる」とされまして,少年法について,明確に検討が求められております。このうちの民法につきましては,1枚お戻りいただきまして,1枚目の二つ目の○にありますとおり,既に平成21年に法制審議会から答申を頂いております。  次に,資料刑3を御覧ください。これは,ただいま申し上げました「民法の成年年齢の引下げに関する諮問第84号に対する平成21年10月28日付け法制審議会の答申」でございます。  1枚目の下から4行目以下を御覧ください。この答申においては,民法の成年年齢について,「18歳に引き下げるのが適当である」とされています。ただ,その時期につきましては,1枚おめくりいただき,上から3行目以下にありますとおり,「民法の定める成年年齢を18歳に引き下げる法整備を行う具体的時期については,関係施策の効果等の若年者を中心とする国民への浸透の程度やそれについての国民の意識を踏まえた,国会の判断に委ねるのが相当である」とされております。  なお,この答申では,これ以上に少年法やその他刑事法制との関係については触れられておりません。  次の資料刑4は,先ほど諮問に至る経緯の説明の中で触れました「若年者に対する刑事法制の在り方に関する勉強会」の取りまとめ報告書でございます。この報告書中,まず,4ページから「1 少年法適用対象年齢の在り方について」という部分がございますけれども,ここでは,少年法における「少年」の上限年齢について,現行法,すなわち20歳未満を維持すべきであるという考え方と18歳未満に引き下げるべきであるという考え方のそれぞれの主な理由を整理してございます。  簡単に御紹介いたしますと,20歳未満を維持すべきであるという考え方の主な理由としては,法律の適用年齢は,立法趣旨や目的に照らして各法律ごとに個別具体的に検討するべきであり,少年法における「少年」の上限年齢は,必然的に公職選挙法の選挙権年齢や民法の成年年齢と連動しなければならないものではない,少年保護事件の手続及び保護処分に付された少年に対する処遇は,少年の再非行の防止と立ち直りを図る上で機能している,「少年」の上限年齢が引き下げられ,18歳,19歳の者が保護処分の対象から外れることになれば,再犯の防止に必要な処遇が行われなくなり,再犯の増加が懸念される等の理由が記載されております。  また,18歳未満に引き下げるべきであるという考え方の主な理由としては,一般的な法律において「大人」として取り扱われることとなる年齢は一致する方が分かりやすく,また,民法上の「成年者」を保護処分の対象とすることは過剰な介入である,犯罪被害者等から「少年」の上限年齢の引下げは犯罪の抑止につながる,選挙権年齢や民法の成年年齢が変わるのであれば,責任ある行動がとれると国によって認められた18歳,19歳の者が重大な罪を犯した場合に少年法が適用されて刑罰が減免されるなどということは許されない等の意見が述べられている,再犯の増加等の刑事政策的懸念には刑事政策的措置で対応できる等の理由が記載されています。  次に,8ページから「2 若年者に対する刑事政策的措置」という部分がございますが,ここでは,少年法における「少年」の上限年齢の引下げに対する刑事政策的懸念に対応し,同時に,若年者,あるいは全年齢の者に対する処分や処遇をより充実したものとする刑事政策的措置として考えらえるものを挙げています。  その内容を簡単に御紹介いたしますと,まず,8ページ(1)の「受刑者に対する施設内処遇を充実させる刑事政策的措置」としては,若年受刑者に対する処遇の原則の明確化や,懲役刑と禁錮刑を一本化した上で,その受刑者に対し作業を含めた各種の矯正処遇を義務付けることができることとする自由刑の単一化等の措置が記載されています。  10ページ(2)の「施設内処遇と社会内処遇との連携を強化するための刑事政策的措置」としては,施設外の機関等と連携した矯正処遇等の充実等の措置が記載されています。  11ページ(3)の「社会内処遇を充実させるための刑事政策的措置」としては,保護観察の活用のための刑の全部の執行猶予制度の見直しや保護観察・社会復帰支援施策の充実等が記載されています。  15ページ(4)の「罰金又は起訴猶予となる者に対する再犯を防止するための刑事政策的措置」としては,入口支援の充実等の起訴猶予等に伴う再犯防止措置が記載されています。  16ページ(5)の「若年者に対する新たな処分の導入」としては,18歳以上一定年齢未満の若年者につき,少年院送致に準ずる処分や保護観察に準ずる処分を行うことについて記載されています。  なお,この報告書には,運用によって対応可能な措置から法制上の措置を必要とする措置まで考えられる刑事政策的措置について幅広く記載しており,理論的な観点等からなお検討を要するものも含まれていることに御留意ください。  また,この報告書には,年齢別の処分状況,家庭裁判所の審判状況,少年院出院者及び刑事施設出所者の予後,保護観察処分少年の予後等について,調査の結果をまとめた添付資料を添付しております。  次に,資料刑5は,現行少年法における年齢による取扱いの差異をまとめた資料でございます。  少年法は20歳未満の者を「少年」としており,「保護処分」欄のとおり,処分時に20歳未満の者が保護処分の対象とされており,家庭裁判所における調査・審判を経て,保護処分等の処分が行われます。  もっとも,行為時14歳以上の者は刑事責任能力が認められており,刑事処分の対象とすることも可能です。  「刑事処分」欄のとおり,家庭裁判所は,調査の結果,刑事処分を相当と認めるときは,事件を検察官に送致します。これがいわゆる「逆送」です。また,故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件,例えば,殺人事件や傷害致死事件であって,行為時に16歳以上の少年に係るものについては,家庭裁判所は,原則として逆送することとされています。これがいわゆる「原則逆送制度」です。  逆送された事件は,刑事処分の対象となりますが,少年法は,少年に対する刑事処分について,成人に対する刑事処分とは異なる規定を設けています。「刑事処分」欄にあるとおり,処分時20歳以上の成人に有期刑を言い渡す場合には,その上限は20年,併合罪等の場合は30年とされているのに対し,処分時20歳未満の少年について有期刑をもって処断すべきときは,刑の長期と短期を定めた不定期刑を言い渡すこととされており,その長期の上限は15年,短期の上限は10年とされています。  また,「死刑・無期刑の緩和」欄のとおり,行為時18歳未満の者に対しては,死刑を科することはできず,行為時18歳未満の者に対して無期刑をもって処断すべきときであっても,有期刑を科することができるとされております。  次に,資料刑6は,日本,アメリカ,イギリス,ドイツ及びフランスにおける私法上の成人年齢及び刑事手続において少年として扱われなくなる年齢についてまとめたものです。これは,やや古くなりますが,2008年に国立国会図書館により発行された調査資料に基づくものであり,詳細については,現在調査中でございます。  資料刑7は,参考のために,少年法について,平成12年から平成26年までの改正経過をまとめたものです。少年法は,この間に4度にわたって改正されています。  次に,資料刑8は,統計資料です。  図1は,近時の犯罪情勢に関するもので,刑法犯検挙人員中の再犯者人員と再犯者率の推移を表したグラフです。先ほど諮問の趣旨で御説明いたしましたとおり,赤い折れ線グラフで表されている「刑法犯検挙人員中の再犯者率」は,平成9年以降高まっており,平成27年は,48.0%となっています。青い棒グラフで表されている初犯者の検挙人員は,平成16年に25万30人に増加した後,減少に転じ,その後一貫して減少傾向にあり,平成27年には12万4,411人となっています。この間の減少率は約50%です。赤い棒グラフで表されている再犯者の検挙人員は,平成16年に13万8,997人であったところ,平成27年は11万4,944人となっており,この間の減少率は約17.3%にとどまっています。  図2は,刑法犯少年の検挙人員中の再犯者人員・再犯者率の推移を表したグラフです。「刑法犯少年検挙人員中の再犯者率」は,平成10年以降高まっており,平成27年は,36.4%となっています。初犯者の検挙人員は,平成15年に10万4,023人に増加した後,減少に転じ,その後一貫して減少傾向にあり,平成27年は2万4,766人となっています。この間の減少率は約76.2%です。再犯者の検挙人員は,平成15年に4万381人であったところ,平成27年は1万4,155人となっており,この間の減少率は約65%となっています。  なお,年齢が異なる成人と少年とでは条件が異なり,同一には比較できませんので,図1と図2の数値を比較するという趣旨ではございません。  1枚おめくりください。図3は,平成27年における一般保護事件の終局総人員を,年少少年,中間少年,年長少年ごとに処分別に色分けして表したものです。左の棒グラフは14歳,15歳の年少少年,真ん中の棒グラフは16歳,17歳の中間少年,右の棒グラフは18歳,19歳の年長少年について,それぞれ,検察官送致,少年院送致,保護観察,不処分,審判不開始の処分別に人数を表しており,年齢区分ごとの処分状況が分かります。なお,年少少年,中間少年,年長少年のいずれにおいても,不処分と審判不開始の合計が全体の60%前後に達しています。  図4は,平成11年から平成27年までの各年における一般保護事件の終局総人員を,処分別に色分けし,その推移を表したグラフです。一般保護事件の終局総人員は平成14年に8万3,676人であったのが,平成15年以降おおむね減少を続け,平成27年は3万2,741人となっています。  1枚おめくりください。先ほどの図4は終局処分別に色分けしておりましたけれども,これに対しまして次の図5は,各年における一般保護事件の終局総人員を年長少年,中間少年,年少少年等の年齢区分別に色分けし,その推移を表したグラフです。緑色の棒グラフは年長少年,赤色は中間少年,青色は年少少年を表しております。  次の図6は,図4のうち「検察官送致」部分を抽出し,これを年齢区分別に色分けし,その推移を表したものです。  次のページの図7は,同様に,「少年院送致」とされた人員を,図8は,同様に,「保護観察」とされた人員を,年齢区分別に色分けして推移を表したものです。  最後の資料刑9は,参照条文でございます。  配付資料の御説明は以上です。 ○高橋会長 ありがとうございました。  では,説明のありました諮問第103号につきまして,御質問及び御意見を承りますが,御質問と御意見を分けまして,まず御質問がございましたら承ります。 ○高山委員 丁寧な御説明ありがとうございます。  この「若年者に対する刑事法制の在り方に関する勉強会」の報告書を読ませていただきましたけれども,年齢の引下げに伴う懸念事項について,しっかりいろいろな対応策を検討いただいたということを大変評価しております。これらの取組は,大変よい対応策と考えられるのですけれども,実際に法律を変えたり,あるいは体制を整えたりということで,実効性を上げられるまでには時間的に相当掛かるものではないかと理解しております。その際,こういった刑事政策的措置の実施と年齢の引下げの時期のタイミングということにつきまして,この勉強会の中では何か議論があったのかどうか,あれば教えていただきたいと思いますし,その点について事務局等々でお考えがありましたら,お聴かせいただきたいなと思っているところです。 ○加藤関係官 刑事局からお答え申し上げます。  まず,勉強会の中で年齢の引下げの時期と刑事政策的措置を採るべき時期について議論があったかという点ですが,もとより勉強会そのものが年齢の引下げを前提として議論をしていたわけではなく,その当否を含めて議論していたということもございまして,引き下げることを前提にその時期の議論をしていたというわけでもございません。また,年齢を引き下げる場合には,いかなる刑事政策的措置を採ることが必要かという観点からの御意見はたくさん出ておりましたが,特に時期を一致させるべきであるか,あるいは,ずれてもよいのかに焦点を当てた御意見というのは,少なくとも,意識的に出ていたものではないと認識しております。  今後の検討に当たりまして,この点についての事務当局としての考え方でございますが,もとよりこの後,この諮問に応じて法制審議会において検討していただく事項に含まれていると思いますので,この時点で事務当局として定見があるわけではございません。ただ,少年法の「少年」の上限年齢を引き下げるときに刑事政策的措置が必要であるということになるのでありますれば,論理的に時期は一致すべきだという御意見もあるかと思われますし,それは論理的に一致する必要はなくて,いずれそれぞれその時期を選んで,それぞれ適切な時期に実施すればよいのだという考え方もあろうかとは考えられます。この点も含めて審議会で御検討を頂きたいと考えております。 ○高山委員 ありがとうございます。  こういった刑事政策的措置をしっかり進めて,きちんとそのような土台を用意した上で,引下げをするというような考え方もあるのではないかと思いましたので,質問をさせていただきました。 ○高橋会長 ほかに御質問,いかがでしょうか。 ○白田委員 細かい御説明ありがとうございました。  言葉の使い方かもしれないのですけれども,選挙ができる年齢という意味の例えば「成年年齢」という言葉,それから検討の中に出てきました「大人になる」という言葉ですね。「大学を卒業し親から自立したとき」というような御意見も記載されておりました。一方で,大学へ進学しない子供たちも相応の数おりまして,そういった年齢で社会へ出ていく者たちは,大体は家庭の事情等から家族を支えていくであるとか,そこの場で自立をしていかなければならないという環境に置かれているからこそ進学をしないで社会へ出ていくのだと思います。そうしますと,そういった社会へ18歳で出ていく者たちは大人なのか,大人ではないのか。選挙権をある年齢ボーダーラインで与えるという話と,「大人」として扱うとか,また,ここにあります「成年」という言葉で表すことは同じではないのでしょうか。これを例えば18歳にそろえるのであれば,日本は大人という言葉の意味,また,成年という言葉の意味を下げるということになろうかと思います。ですので,大人であれば何をしていいのかというのは法律に定められない部分でも様々あろうかと思いますので,その辺の整合性とか,調整というわけではないのですが,これは広く社会から合意を得られないと難しいのではないかなと感じております。特に飲酒の問題とか,様々な問題が出てくると思いますので,その辺のところの御意見というのは大分議論されたのではないかと思いますが,もし出た御意見があれば教えていただければと思います。 ○加藤関係官 まず,冒頭に御指摘いただきました選挙権の年齢は報告書の中でも選挙権年齢と表記しておりますし,「成年」という場合,これは通常,民法上の成年の意味で用いられていることが多いかと思われます。そのほかもちろん「大人」として扱うとか「自立」をするという言葉で表現される言わば境目というものもあるわけでございますが,これは社会的実態としてそういうものがあるということであり,正に多様な意味で用いられている言葉であると考えています。  勉強会の中でも,制度としての選挙権年齢や成年年齢,あるいは少年法の「少年」の上限年齢と,それから社会的実態としての大人として扱われる年齢等の関係が様々な角度から多様な分野の専門家からの御意見として表明されております。ここで一度に御紹介できないほど,多様な意見が出ていたと認識しておりますので,詳細は報告書を御覧いただきたいと存じます。  今後の御検討に当たりましても,そういったヒアリング等で示されました御意見を踏まえまして,更に御議論を頂きたいと考えております。 ○白田委員 ありがとうございます。 ○岩間委員 すみません,言葉の使い方でちょっと関連しておりますので併せて伺いたいのですが,成年年齢の引下げということで,そこに達していない者の呼び方なのですけれども,刑法上は「少年」という言い方が定着していますね。ただ,一般の用法では「少年」というのは男の子に使う言葉であって,女の子が入っているという感覚が普通の国民はないと思います。民法上は「未成年者」という言葉が使われているということで,この辺り,幾つかの言葉があって,それをどういうふうにしていけばよいかというようなことに関する意見というようなものは出たのでしょうか。 ○加藤関係官 刑事局の方から御説明いたしますが,ただいまの言葉の使い方,特に少年法におきます「成人」と「少年」,それから民法では恐らく「成年」と「未成年」になるのだと思いますが,この辺りの言葉遣いというのは,言わば制度上決まっていますので,それを前提として御議論いただいた形になっております。言葉そのものについてどうあるべきかということについてまで御議論が及んだというものではなかったように記憶しております。 ○岩間委員 一言意見をそこの辺りに申し上げさせていただければ,昨今いろいろジェンダーが問題になっていることもありますので,この際,「少年」という言葉が適切であるかどうかというのは検討してみてもよいのではないかという気がいたします,ということを申し上げておきます。 ○高橋会長 ありがとうございます。  続けて御質問いかがでしょうか。 ○井上委員 確認なのですけれども,諮問の4行目の下の方に,「非行少年を含む犯罪者」という言葉が出てきます。「含む」ということは,非行少年に当たらない犯罪者もここに入っているということで,成人の犯罪者という意味だと思うのですけれども,その成人の犯罪者というのは,仮に少年法の適用年齢上限を18歳未満に下げた場合に新たに成人になる18,19歳の人たちに限らず,現在,現行法の下でも成人とされている20歳以上の人も含むという理解でよろしいのでしょうか。もしそうだとすると,現行法下でも成人の人たちの処遇をも一層充実させる必要があるという観点も含めて諮問がなされたということですが,その趣旨は恐らく,その前の行の,「近時の犯罪情勢,再犯防止の重要性等に鑑み」,必要があるということだろうと思います。そこのところの趣旨は,私は専門が近いのでそれなりに推測できるのですが,そうでもない方には分かりにくいかもしれませんので,例えばということでも結構なので,こういう必要性が出てきているとか,こういう観点が出てきているということがあれば補足して説明をしていただければと思います。 ○加藤関係官 まず,諮問の読み方についての御質問についてですが,いずれも委員御指摘のとおりです。すなわち,「非行少年を含む犯罪者」の「犯罪者」には,仮に少年法の「少年」の年齢が18歳未満に引き下げられた場合における18歳,19歳の者が含まれるのみならず,それより上の一般の成人の犯罪者も含む趣旨でございます。また,その次の「処遇を一層充実させるための刑事の実体法及び手続法の整備」につきましては,一般の成人に関する処遇の充実という観点を含むものでございます。  そして,「近時の犯罪情勢,再犯の防止の重要性等に鑑み」の部分でございますが,先ほどお示しをいたしました資料の中で,資料刑8の統計資料を御説明申し上げておりますが,例えばその図1を御覧いただきますと,この間,平成16年をピークとして検挙人員中の再犯者の人員,再犯者率の推移を示しておりますが,赤い折れ線グラフで示されております再犯者率というのが増えているわけでございます。全体として検挙人員は減っているわけでありますが,その中に占める再犯者の割合は増えているという状況にございます。ほかの資料からも見てとれますが,このような観点から再犯防止の重要性というものが言えるのではないかと考えられます。そのような再犯防止の重要性等に鑑みて,再犯防止を効果的に行うためにどのような処遇を,そのような犯罪者に対してするのが有効かつ適切であるかという観点からも御審議を頂きたいというのがこの諮問の趣旨でございます。 ○内田委員 単純な質問なのですが,先ほど御説明の中で,若年者に対する新たな処分の導入という御説明がありまして,その勉強会の報告書を拝見すると,26歳未満というのが一つの基準として挙げられています。この26という数字がどういう根拠で出てきたのかを教えていただけますでしょうか。 ○加藤関係官 勉強会の報告書の中では確かに26歳未満という数字が,若年者に対する施設内処遇を充実させる措置の対象とする「若年者」に関して,一つの数字として示されております。もちろんこれは,26歳未満で切らなければいけないという趣旨で示されたものではないのですが,矯正施設における処遇上の年齢の境目の一つとして26歳というものがあると承知しておりまして,そういったものを参考に26歳というのが若年者と言われる層の一つの境目として考えられるのではないかとして示されたものだと認識しております。 ○内田委員 ありがとうございます。 ○高橋会長 ほかに質問はよろしいでしょうか。それでは,御意見の方に移りますが,先ほど岩間委員から頂きましたが,ほかに御意見がある方,お願いいたします。 ○山根委員 非行少年に対しては,教育のし直しこそ必要で,その機会の充実が求められると思っています。少年法の目的や性格から考えても,単に選挙権等の年齢と合わせれば分かりやすいといったものではないということも強く感じています。これからいろいろ議論が進むと思うのですけれども,勉強会の方の資料を見ますと,少年院と少年刑務所を併せたような新しい施設の創設も考えてはどうかというような意見も幾つか出ていたように拝見しまして,検討の価値もあるのだろうと思います。刑事法制の在り方全体の議論,検証ということになりますと,相当な量や年月を有する取組になると思いますが,そういう深い議論が成果を上げればよりよいことになるとも思いますので,是非今後の検討につきましては,年齢引下げありきではない丁寧な透明性を持った検討を進めてほしいと思っています。一番には,国民がよく理解をしていないといいますか,少年法というのは少年を甘やかすものだといった考えも誤解が多いのではないかと思いますし,どういう矯正とか教育が実際行われているかということも国民の理解は少ないと思っていますので,またそういったことで社会の受け皿も不十分で,いろいろ再犯ということもあるのかと思っておりますので,是非全体を幅広くじっくり検討をしていただきたいと要望します。 ○高橋会長 ほかに御意見いかがでしょうか。 ○神津委員 少年法における「少年」の年齢を引き下げることについて検討する際は,単に公職選挙法や民法に連動させるということではなく,少年法の立法趣旨等に照らして個別に検討することが重要だと思います。引下げの必要性を根拠付ける現行法の課題について明らかにするとともに,引下げによる効果だけでなく,懸念点等についても十分に議論する必要があると思います。現行法において,少年院出院者の再犯率は,刑事施設出所者の再犯率と比べて低くなっているということから,現行法下における再犯防止に向けた処遇等については有効に機能していると考えられます。少年年齢引下げにより,保護処分の対象外となる18歳,19歳について,そのことによって再犯防止,改善更生がおろそかになるようでは元も子もないと思います。現状の20歳以上の者に対する再犯防止策の強化も視野に入れて,具体的対策を講じることを前提とした検討を進めるべきだと思います。 ○小杉委員 私の専門は教育社会学という分野で,特に学校から職業への移行を研究テーマにしています。学校を離れた後,職業的自立に至る過程を研究しており,実態調査を毎年のように行っています。その中で若者が職業的に自立に至るプロセスがどう変わってきたのかを見ているのですが,かなり複雑になってきています。学校を卒業して,就職して,定着して,結婚してというようなこれまでの常識的なプロセスがかなり崩れているといいますか,非常に多様になってきています。いろいろトライ・アンド・エラーをしながら,もう一回大学に行き直してみたりしながら自立していくというふうに変化が非常に大きくなったなと思っています。若い人たちの自立プロセスが大きく変化しているという状況を考えますと,今回少し幅広く「若年」という時期を捉えて,その全体に対してその特性に応じた矯正処遇をするという考え方を出されたのは大変意義があることだと思います。今回の検討された報告書の中で,その点をはっきりされたことは大変よかったのではないかと思います。 ○大塚委員 事務局の方から説明いただきました再犯対策,この重要性は私も全く同感であります。良好な治安を維持していくためには,これから再犯をいかに減らしていくかというのが一つの大きな鍵になると思います。その一方で,少年法の対象年齢引下げと再犯対策というのは,ある面では相反する部分があると思うのです。これを両立させていくというのは非常に難しい部分があるかなと思います。というのは,例えば18歳,19歳の年長少年が軽微な罪を犯した場合に罰金刑になる。そういう場合には,その年長少年に対して更生を促す機会というのは与えられない。いかに再犯を減らすかという観点で,再犯防止の手助けをすることがないまま罰金刑で終わらせるというような状況は非常に好ましくないのかなと思います。そういうことから,仮に対象年齢を引き下げるという措置を講ずるにしても,18歳,19歳の若者たちにいかに更生の機会を確保するか,そこを重点的に議論すべきではないかと個人的に思います。 ○高橋会長 ほかに御意見いかがでしょうか。 ○木村委員 今回の勉強会の報告は,いわゆる両論併記という形で出していただいていて,私,個人的には現行法を維持するという考え方を持っているのですけれども,それはそれとして選挙権年齢とか民法との関連,更には諸外国のすうせいなど,18歳に引き下げるべきだというような大きな流れも確かにあるのかなという気はします。しかし,先ほど加藤さんのお話にもありましたけれども,引下げありきの議論ではないのだということも,それを今後の議論の中でも十分勘案して,丁寧な慎重な議論をしていただきたいなというのが一つ。  もう一つは,同時に検討されるべき刑事政策的な措置について,その再犯防止をメーンとする様々な提言がなされているということで,これ自体は基本的に大変結構なことだと思いますが,いわゆる保護処分の拡大ということが実質的な保安処分への道を開くようなことになってはもちろんいけないわけですから,そういう点への配慮,これも十分していただいて拙速にならないよう,飽くまでも慎重かつ丁寧な議論を進めていただきたい,こう考えます。 ○岩間委員 先ほどの意見に一言だけ付け加えさせていただきたいのですが,やはり「少年」という言葉でくくってしまうことで,性差によって必要な対応という視点が抜け落ちてしまうおそれがあるのではないかと思います。拝見しておりますと,民法の方の婚姻年齢を18歳に男女ともに引き上げるという意見が出されているようですけれども,婚姻年齢を引き上げたとしても,望まない妊娠をしてしまう少女というのは一定数,出てくる可能性があると思います。そういう背景と犯罪の問題が絡んでいる場合もあると思いますので,そのような社会問題に対する,これはもう法律問題ではなくて社会の受入れ体制ということになると思いますけれども,今回そのような検討も併せてなされているようですので,やはり性差によって必要になってくるケアというのもあるのではないか,ということも考えていただければと思います。 ○高橋会長 御意見,ほかにいかがでしょうか。  それでは,ここで2番目の議題に移らせていただきます。「会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する諮問第104号」についての御審議をお願いいたします。  初めに,事務当局に諮問事項の朗読からお願いいたします。 ○竹林参事官 民事局参事官の竹林でございます。諮問第104号を朗読させていただきます。  近年における社会経済情勢の変化等に鑑み,株主総会に関する手続の合理化や,役員に適切なインセンティブを付与するための規律の整備,社債の管理の在り方の見直し,社外取締役を置くことの義務付けなど,企業統治等に関する規律の見直しの要否を検討の上,当該規律の見直しを要する場合にはその要綱を示されたい。  以上でございます。 ○高橋会長 続きまして,この諮問の内容,諮問に至る経緯及びその理由につきまして,事務当局から御説明をお願いいたします。 ○小川幹事 幹事を務めております民事局長の小川でございます。よろしくお願いいたします。  それでは,会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する諮問第104号につきまして,提案に至りました経緯及び諮問の趣旨などを御説明申し上げたいと思います。  会社法制につきましては,社外取締役等による株式会社の経営に対する監査等を強化するとともに,株式会社及びその属する企業グループの運営の一層の適正化等を図った「会社法の一部を改正する法律」が平成26年6月に成立し,平成27年5月から施行されております。そして,この法律の附則第25条におきまして,「政府は,この法律の施行後二年を経過した場合において,社外取締役の選任状況その他の社会経済情勢の変化等を勘案し,企業統治に係る制度の在り方について検討を加え,必要があると認めるときは,その結果に基づいて,社外取締役を置くことの義務付け等所要の措置を講ずるものとする。」と定められております。  このように,この附則におきましては所要の措置として社外取締役を置くことの義務付けが例示されておりまして,本年5月にはこの法律の施行後2年が経過することになります。したがいまして,社外取締役を置くことの義務付けの要否について検討する必要がございます。  また,このほかにも,現在,会社法制については幾つかの検討課題が指摘されております。  第1に,株主総会に関する手続の合理化として,株主の個別の承諾を得ることを要せずに,インターネットを利用して事業報告や計算書類等の株主総会資料を株主に提供することを可能とするための制度を新設する必要性等が指摘されております。また,近年,株主提案権が濫用的に行使される事例が見られるようになったことを受けて,株主提案権の濫用的な行使を制限するための措置の導入を検討すべきではないかという指摘もございます。  第2に,役員に企業価値を向上させる適切なインセンティブを付与するための規律の整備として,役員報酬の決定方針等について透明性を高め,あるいは株主の関与を可能とすべく役員報酬に関する規律を見直すことが相当であるという指摘等がございます。また,役員に対する責任追及等に関し役員が要した費用等の株式会社による補償や会社役員賠償責任保険につきまして,現在の会社法には規定がございませんので,これらに関する規律を整備する必要性等が指摘されているところでございます。  第3に,社債の管理の在り方の見直しとして,社債管理者の設置を要しない社債を対象とした管理制度を新設する必要性等が指摘されております。社債を発行する場合には,原則として社債管理者を設置し,社債の管理を社債管理者に委託しなければならないこととされておりますが,実際には我が国で公募されております多くの社債については,例外規定を利用することにより社債管理者が設置されていないのが実態であると言われておりまして,このような社債管理者が設置されていない社債について,社債管理者よりも簡易な形で管理を第三者に委託することができるような制度を設けるべきであるという指摘がございます。  そこで,以上のような会社法制をめぐる諸事情に鑑みまして,株主総会に関する手続の合理化や,役員に適切なインセンティブを付与するための規律の整備,社債の管理の在り方の見直し,社外取締役を置くことの義務付けなど,企業統治等に関する規律の見直しの要否を検討の上,その規律の見直しを要する場合には,その要綱を示されるよう法制審議会の御検討をお願いするものでございます。  諮問第104号についての御説明は以上のとおりでございます。 ○高橋会長 ありがとうございます。  では,諮問第104号につきまして,御質問及び御意見を承りたいと存じますが,ここもまず御質問から承りたいと存じます。御質問,何かございませんでしょうか。 ○白田委員 社外取締役を置くことの義務付けの中で,社外取締役の中でも独立役員とそうではない役員というような,社外取締役の概念といった細かい議論はあったのでしょうか。そこだけ教えていただきたいと思います。 ○小川幹事 お答えいたします。  今回の諮問につきましては,先ほどの刑事局と若干違いまして,事前に研究会を開催して議論をしているというわけではございません。担当者が参加している民間の研究会で今回の論点についての論点整理などをしておりますが,この研究会の報告書もまだ取りまとめられている状況ではございません。今の独立役員のお話でございますが,会社法は社外取締役を定め,平成26年の改正では社外取締役の要件を厳格化するなどしておりますが,他方で証券取引所の規則では独立役員といった概念も用いられているかと思いますので,そういったものとの調整というのも一つのテーマになり得るのではなかろうかと思います。 ○白田委員 分かりました。ありがとうございます。 ○高橋会長 御質問でございますが,ほかにございませんか。  では,続いて御意見の方を承りたいと存じます。 ○佐久間委員 この諮問事項について,これから要綱案を検討するに際し,是非現場の声を吸い上げて,いい要綱を作っていただきたいと思います。その意味で,これから検討する体制作りにおいても是非現場,特にそのプレーヤー自身の事情がよく反映されるような配慮をお願いしたいと思います。 ○八丁地委員 今回の諮問は,ただいま御説明がありましたように,平成26年の会社法の一部を改正する法律の附則に基づいてなされるものでありまして,そのとおりだと思います。  お願いが何点かございます。まずは社外取締役の義務付けについてでございますけれども,これは既にいろいろな形で開示をされており,社外取締役を選任している企業は,全上場会社で96%という非常に高い値になっております。一方,事業特性等の理由から,あえて社外取締役を置いていない企業,若しくは社外取締役として適切な人がいないという理由等々もございまして,そうした企業に対しても社外取締役の設置等を一律に義務付けましても,企業の成長でありますとか企業価値の向上を妨げることにもなりかねません。従って,社外取締役を置くことの義務付けに関しましても,企業の声を聴いていただきまして,慎重な検討をお願いしたいという点が1点目であります。  それから,株主総会の合理化につきましては,企業側にはコストとか時間の削減という意味があると思いますし,株主側にとりましても議案の検討の期間が増えることや,建設的な対話ができるというメリットがありますので,ここは大いに期待するところであります。そうしたことを含めまして,より多くの企業が使いやすいものとなるように,これも現場の声を聴いていただいて,総会の実務への御配慮をお願いしたいという点が2点目であります。  また,役員へのインセンティブの付与ということでございますけれども,それによって過度な手続が必要になることや,開示の負担が増えることで,この制度の利用が進まないことがないように,インセンティブの付与という趣旨を十分に踏まえて検討を進めていただきたいと思います。  あわせまして,株主代表訴訟等につきましても,会社の利益とならない訴訟による経営者への萎縮効果が懸念されますので,こうしたところへの対応も,是非実務的な検討をお願いしたいと思います。  今回のこうした検討については,是非,企業の現場の声を聴いていただき,実務的な意見も十分に採り入れていただきながら,検討を行っていただくことを期待します。 ○神津委員 2点について申し上げたいと思います。  一つは株主総会に関する手続の合理化についてであります。電子提供制度を新設する際には,株主の利益保護の観点からデジタルデバイドの問題等を踏まえて,情報弱者への配慮についても十分に議論する必要があると思います。  それから,2点目は社外取締役を置くことの義務付けについてですが,現在の形が2015年6月に東京証券取引所に上場する全ての会社に適用されたばかりでありますから,社外取締役設置による効果あるいは課題,これらについて十分に検証した上で,丁寧に検討を進めるべきであると考えます。 ○岩原委員 今回御提案いただきました会社法改正の検討事項は,現在,正に実務的にも問題になっている点を取り上げるものです。このようなテーマについて取り上げて会社法改正の検討を行うということは大変有益なことだと思います。特にその中でも,今まで御指摘のなかったところで言えば,会社補償やD&O保険の保険料負担等の問題というのはかなり現実の問題です。なぜかと申しますと,一昨年,経済産業省の「コーポレート・ガバナンス・システムの在り方に関する研究会」が法的論点に関する解釈指針という文書を出していまして,会社法の解釈指針を経産省の研究会が出すという異例なものですが,その中で会社補償やD&O保険の保険料負担等の問題について一定の解釈指針なるものを提案されています。それが実務に影響を与えて保険会社などでそれに従った対応をされているところもあると聞いております。実務にそういうものが影響を与えている中で,きちんとこの問題を考える上では,役員の責任の根本問題,責任の免除の会社法の規定との整合性,法政策的な観点等を含めて,相当幅広い観点からよく考えて対応する必要があります。また,解釈論,立法論としてよりきめの細かいルールを考えていく必要があると思いますので,是非そういう方向で法制審では検討していただきたいと思います。  同じように,株式報酬等については正に海外などで今いろいろな提案があるところであり,日本の経済をより活性化するという意味で,株式報酬制度の改革を是非,進めていただきたいと思います。  そのほか社債制度の改革は,長年の懸案で,なかなか改善が進んでいないところでして,非常に難しい問題だと思いますけれども,先ほどお話がありましたように,社債管理者の制度が余り機能していないということを踏まえて,実務を1歩でもよくする提案を考えていただきたいと思います。  最後に,先ほど佐久間委員と八丁地委員から現場の声をよく聴いてという御希望がございました。それはそのとおりなのですけれども,そのときの現場が何かという問題があります。現在の経営者の声だけを聴くのではなくて,そこで働いている従業員,それから何よりも株主の声等を聴いていただきたいと思います。株主の中でも機関投資家やその背後にいる資金提供者,信託の委託者や受益者,年金基金ですとその受益者の人たち,そういういろいろなステークホルダーの声を聴いた改正をしていただきたいと思っております。 ○高橋会長 御意見,ほかにいかがでしょうか。よろしいですか。  では,ここで先ほどの諮問第103号と第104号の両方について,審議の進め方についての御意見を承りたいと存じますが,いかがでしょうか。 ○早川委員 本日の2件の諮問でございますけれども,これはいずれも専門的,それから技術的な問題をたくさん含んでおります。したがいまして,通例に倣いまして,それぞれ新たに部会を設置して,そこで調査審議を行い,その結果を受けて総会で更に審議するというふうにするのがよろしいのではないかと考えておりますがいかがでしょうか。 ○高橋会長 早川委員から,部会設置という御提案がございましたが,いかがでしょうか。  皆さん,部会設置に御賛成のようでございますので,改めてお諮りいたしますが,諮問第103号及び諮問第104号につきましては,新たに部会を設けて調査審議するということでよろしいでしょうか。           (「異議なし」の声あり) ○高橋会長 ありがとうございます。  それでは,次に,新たに設置する部会に属すべき総会委員,臨時委員及び幹事に関してでございますが,これらにつきましては,通例だと存じますが,会長の私に御一任いただくということでよろしゅうございましょうか。           (「異議なし」の声あり) ○高橋会長 ありがとうございます。  では,この点は私に御一任いただいたということでございますが,次に部会の名称でございます。諮問事項との関連から,諮問第103号につきましては「少年法・刑事法(少年年齢・犯罪者処遇関係)部会」,諮問第104号につきましては「会社法制(企業統治等関係)部会」という名称を考えておりますが,いかがでしょうか。よろしいでしょうか。           (「異議なし」の声あり) ○高橋会長 それでは,特に御異議もないようでございますので,それぞれ部会を設置いたしまして御審議いただき,その結果を受けて総会において更に御審議願うということにいたしたいと存じます。  本日の議題はこれで予定したものは終了でございますが,せっかくの法制審議会の総会の場でございますので,何か全般的に御意見を頂ければ有り難いと思いますが,いかがでしょうか。  それでは,最後の事務的なことでございますが,本日の会議における議事録の公開方法についてお諮りいたします。  審議の内容等に鑑みまして,会長の私といたしましては議事録の発言者名を全て明らかにして顕名で公開してはどうかと存じますが,いかがでしょうか。           (「異議なし」の声あり) ○高橋会長 それでは,本日の会議における議事録につきましては,議事録の発言者名を全て明らかにして公開することといたします。なお,本日の会議の内容につきましては,後日,御発言を頂いた委員の皆様には議事録案をメール等にて送付させていただき,御発言の内容を確認していただいた上で,法務省のウェブサイトに公開するという手順にしたいと存じます。  それでは,最後でございますが,事務当局からの事務連絡事項がございましたら,小山関係官,お願いいたします。 ○小山関係官 次回の会議の開催予定について御案内を申し上げます。  法制審議会は2月と9月に開催するのが通例となっておりまして,次回の総会の開催日程につきましても,現在のところ例年どおり本年9月に御審議をお願いする予定でございます。具体的な日程につきましては,後日改めて御相談させていただきたいと存じます。委員・幹事の皆様方におかれましては,御多忙とは存じますが,今後の御予定につき御配慮いただきますようお願い申し上げます。 ○高橋会長 ありがとうございました。  それでは,これで本日の会議を終了いたします。  本日は御多忙のところお集まりいただきまして,熱心な御議論を頂き,誠にありがとうございました。 -了-