法制審議会信託法部会 第38回会議 議事録 第1 日 時  平成29年2月21日(火)   自 午後1時31分                         至 午後5時37分 第2 場 所  東京地方検察庁会議室 第3 議 題 公益信託法の見直しに関する論点の補充的な検討 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○中田部会長 予定した時刻が参りましたので,法制審議会信託法部会の第38回会議を開会いたします。本日は御多忙の中を御出席いただきまして誠にありがとうございます。   本日は,能見委員,岡田幹事,渕幹事,松下幹事が御欠席です。   本日の会議資料の確認などを事務当局からお願いいたします。 ○中辻幹事 お手元の資料について確認いただければと存じます。前回,部会資料37「公益信託法の見直しに関する論点の検討(6)」を配布しております。また,今回,新たに配布する資料として部会資料38「公益信託法の見直しに関する論点の補充的な検討(1)」を事前に送付させていただきました。更に当日配布資料として参考資料5「公益信託の受託者の範囲に関する意見書」を配布しております。これは2月17日付けで中田部会長及び金田法務大臣宛てに日弁連から提出されたものです。   以上の資料について,もしお手元にない方がいらっしゃいましたらお申し付けください。よろしいでしょうか。   それから,前回の最後に深山委員からの御質問にお答えしましたとおり,理想的には第二読会はこの2月から4月までの3回の会議を充て,本日は公益信託の認定,3月は公益信託の監督・ガバナンス,4月は公益信託の終了などの論点を補充的に議論していただくことを予定しております。飽くまで予定ではございますが,第一読会よりも密度が濃くなるために,少しテンポを速めていくことが必要であることが予想されますので,どうぞ御協力をお願いいたします。 ○中田部会長 本日は前回,積み残しになりました部会資料37の「第5 その他の論点」の残りの部分を御審議いただいた後,部会資料38について御審議いただく予定です。具体的には途中休憩の前までに部会資料38の「第3 新たな公益信託の基本的枠組み」まで御審議いただき,3時半頃をめどに休憩を入れることを予定しております。その後,第4と第5を御審議いただきたいと思っております。   それでは,早速ですが,本日の審議に入ります。   まず,部会資料37の「第5 その他の論点」について御審議いただきます。事務当局の説明は前回,既にされていますので,最初から意見交換に入ります。まず,「2 公益信託の名称」について御発言をお願いいたします。 ○吉谷委員 提案については賛成なのですけれども,1点,気になっているところがありますので,質問と意見を申し上げたいと思います。   (1)のところで,公益信託には,その名称中に公益信託という文字を用いなければならないという規律を設けるという記載がございます。これは信託法でいいますと,218条の限定責任信託のところで名称を使うということとよく似た条項が書いてあるんだと思いました。限定責任信託の場合は,登記制度というものがございますので,登記するためにも名称が必要だということにもなりますし,それからすると,公益信託の登記制度を設けるということが前提になっているのだろうかということも想像できるものですから,そういう趣旨なのでしょうかというのが質問でございます。もし,仮にそうであるとすると,私どもといたしましては公益信託に登記制度まで設ける必要はないのではないのかなというのが意見でございます。 ○中辻幹事 御質問にお答えします。限定責任信託の名称の保護や登記の規定については,その受託者と取引関係に入る第三者の予見可能性を確保し,第三者に不測の損害を与えることを防止するためのものであり,その登記は株式会社や一般社団法人の登記と同じ性質を有すると説明されています。一方,部会資料37で提案している公益信託の名称の保護は,公益信託自体の社会的信用を保つことを目的とするもので,限定責任信託の名称の保護とはその趣旨を異にします。したがって,限定責任信託にそのまま倣い,公益信託にも登記制度を設けることが前提となるとは考えておりません。   もっとも,部会資料37の31ページに記載したとおり,法に反して公益信託の名称を使用した者に罰金などの制裁を課す場合には,公益信託の存在を公示する登記がされていることが必要であるという考え方もあり得るように思います。この点につきましては,皆様から御意見を頂いた上で,更に検討を深めたいと考えております。 ○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。特にございませんようでしたら,登記については更に御検討いただくということで先に進めさせていただきます。   次に,「3 新法施行時に存在する既存の公益信託の取扱い」について御意見をお願いいたします。 ○吉谷委員 これにつきましては乙案に賛成でございます。既存の公益信託は特段の問題なく運営されておりまして,新法の公益信託として認定を新たに受けることによる事務負荷のために信託財産が減少するとか,公益信託の担い手である受託者のリソースが割かれるとか,あるいは公益信託の普及の妨げになるとか,信託が終了するとかいうようなことが起きるようだと益はないということになりますので,乙案でお願いしたいと考えております。 ○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○長谷川幹事 先ほどの吉谷委員の御意見と同じでございますけれども,乙案ということでお願いできればと考えております。理由も同じでございます。 ○平川委員 甲案に賛成いたします。乙案の場合には長期にわたって異種の公益信託が併存することになり,社会的,行政的にも混乱する要因になると思います。一方,公益法人の移行の場合と異なり,既存の公益信託の内容は公益法人のように多様ではなく,おおむね同一であり,しかもプロである信託銀行が受託者であることから,一斉に新制度に移行するとしても,事務負担として過大なものとはならないと思われます。新法による公益法人制度への移行時において相当の混乱を生じましたけれども,一定の猶予期間2年等をもって徐々に新法へ移行することにより,混乱を回避できること,また,現在の公益信託は受託者が全て信託銀行であり,現行法下で何の問題も生じていないこと,また,新法への移行も一定の期間内に約束されていることなどから,実務的にも可能であると考えます。 ○林幹事 私も甲案に賛成です。既存の公益信託がどの程度の期間のものを想定して,あるいは存続しているのかによると思いますが,数十年先にまで,現行法と新たな公益信託法の両方の制度を併存させて,将来公益信託に関わる人たちに二重の手間を負担させるというのは,よろしくないと考えます。   先ほどは,乙案に賛成の意見もあって,事務負担を根拠とされるところでした。それはそれとして理解はできるのですが,それは具体的にどのような事務内容になるか,それをどう見極めるかによるかと思います。また,先ほどもありましたけれども,移行期間をどのようにとるかという問題もあると思います。現行の公益信託のうち,10年以上続くものもあれば,10年未満に終わることが予想されるものもそれなりにあるはずです。移行期間は5年が適当なのか,10年が適当なのか分かりませんが,移行期間中に終了するものについては移行しなくてもいいわけですから,そうしていけば移行手続をすべきものというのも絞られてくるはずであり,事務負担というのも軽減することができる,そういった工夫は十分可能ではないのかと思います。 ○中田部会長 今,それぞれお二人ずつ意見が出ましたけれども,ほかにいかがでしょうか。 ○新井委員 私は甲案に賛成したいと思います。既存の公益信託を受託している信託銀行の立場から見ると,もちろん,乙案の方が望ましい案ということですけれども,既存の主務官庁の許可制を廃止して,新しい認定機関がスーパーバイズするという方式に移り,それで,乙案を採ると既存の主務官庁の許可制と,新しいスーパーバイズの制度が両方並存するということになりますが,それが,新しい公益信託の改革の趣旨に本当に沿うのかという疑念があります。公益信託の数は既存のもので500ぐらいということで,公益法人の改革のときの数と比べても少ないので,信託銀行にとっては大変だとは思いますけれども,改革するのであれば,ここで思い切って甲案でいくという方がよろしいのではないかと考えます。 ○中田部会長 ほかにございますでしょうか。   それでは,今,頂きました御意見を基に,また,検討を進めたいと存じます。 ○道垣内委員 1つ,遡って大変恐縮なんですけれども,先ほどの名称の問題につきまして,罰則と登記の関係について中辻幹事が若干触れられたんですが,(2)と(3)はかなり性格の違う話だと思います。(3)は保護対象となる他の公益信託が登記をしていなければ駄目である,という規律もあり得ますが,(2)はおよそ公益信託ではないものが公益信託という名称を使ってはいけないという話ですので,別にこれは登記とは関係ないはずです。一言,付け加えておきたいと思います。 ○中田部会長 ありがとうございました。ほかによろしいでしょうか。   それでは,部会資料38に入ります。ここからいわゆる第二読会に入ることになります。   まず,「第1 公益信託の目的」について御審議いただきたいと思います。事務当局から説明してもらいます。 ○舘野関係官 では,御説明いたします。   まず,「第1 公益信託法の目的」について御説明いたします。本文では,公益信託法は,公益信託事務を適正に処理し得る公益信託を認定する制度を設けるとともに,公益信託事務の適正な処理を確保するための措置等を定めることにより,公益の増進及び活力ある社会の実現に資することを目的とするものとすることでどうかとの提案をしております。   今回の公益信託法の改正に際しては,公益法人,NPO法人等,公益信託と類似の法制度との比較を行った上で,各制度のメリットを活かした複数の選択肢が提供されるようにするべきと考えられます。そして,それらの法制度に目的規定が設けられているのと同様に,新たな公益信託法にも公益の増進に資することを目的とする旨の目的規定を設けることには意義があると考えられるため,このような提案をしております。 ○中田部会長 それでは,ただ今説明のありました部分につきまして御審議いただきます。御自由に御発言をお願いいたします。 ○深山委員 公益信託法に目的規定を設けるということには賛成いたします。その上で,どのような表現ぶりの規定が望ましいかということですが,締めくくりの言葉として公益の増進及び活力ある社会の実現に資することを目的とするという点も異論はないんですが,民間による公益の増進,あるいは民間による公益活動の促進とか,そういうことが推奨される,望まれるという趣旨をもう少し表現すべきではないかなという気がします。   参考にされている公益法人認定法においても,民間の団体が自発的に行う公益を目的とする事業の実施が公益の増進のために重要となっていることに鑑み,ということがうたわれていますし,あるいはNPO法の方でも,ボランティア活動を始めとする市民が行う重要な社会貢献活動としての特定非営利活動の健全な発展を促進し,というようなことがうたわれております。これらのような公益目的の法人とは別のメニューとして,民間による公益活動の推進を図ろうとしているんだというメッセージが伝わるような目的規定にしていただきたいと考えます。 ○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○平川委員 私も深山委員と同じくですが,目的を法の最初に規定するということに基本的に賛成いたします。公益法人認定法や特定非営利活動促進法第1条に規定するような民間公益活動を促進するための制度を拡充することを目的として,公益信託の適正な設定と運営を確保する措置を定めることに意義があると思います。飽くまで公益活動が国家独占の事業であり,民間が行うときは認可や許可が必要という意味ではなく,主体は民間で行う公益活動の促進のためであるという目的を冒頭でうたうことに意味があると思います。 ○小野委員 目的規定はもちろん賛成なんですけれども,目的規定は法律の性格を決める大事なポイントです。公益法人認定法の場合には一般社団法人法がありますが,公益信託法の場合には信託法という実定法があると言っても,公益信託法の中では一気通貫のように全てを賄えるような法律である必要があり,目的規定もそのような内容とすることが必要と思います。例としては,たまたま,すぐに思い浮かぶ例ですが,電子記録債権法があり,そこでは実定法と取締法規,認定手続が規定されており,公益信託法も同様な立て付けになると思います。実定法と取締法規その他手続等がこの法律だけで完結するような法律を目指してこれまでも議論してきたと思います。という観点からすると,信託事務の適正というあくまで事務の適正だけにポイントを置いたようなものではなく,全体像がこの法律だけで分かるようなものに目的規定をしていただければと思います。 ○道垣内委員 結論から言えば,目的規定を置く必要はないと思います。私は皆さんがこれまでおっしゃったことに完全には賛成できませんし,そのような中,目的についてコンセンサスが得られるのかは疑問です。 ○吉谷委員 御提案自体には賛成なんですけれども,コメントといたしましては,公益信託を認定する制度であるとか,公益信託事務の適正な処理を確保すると記載して,それはそのとおりであるのですけれども,改めて公益認定の申請者は受託者でありまして,監督を受ける主体は受託者であるということなど,受託者が公益信託の中心となるということを改めて強調しておきたいと思います。実施する主体が誰であるとかいうのは,非常に極めて重要な要素であると思います。   加えて,改正の基本的な方向性の話としては税制の優遇措置を視野に入れつつ,公益信託の認定と税制の認定が手続として一元化されることということ,あと,簡素な仕組みにするという以前から書かれていたことについては,引き続き基本的な方向性としてあるべきだと考えております。公益法人認定法では,58条に所要の税制上の措置を講ずるというような記載もありますので,同様の規定を設けることが期待されると考えております。 ○中田部会長 ただ今の御発言は目的の規定の中に,今,おっしゃったようなことを盛り込むという御趣旨でしょうか。それとも,目的は事務局の提案でよいのだけれども,方向として,今,おっしゃったようなことを十分考慮すべきであるというのと,どちらでしょうか。 ○吉谷委員 目的の規定としては,このような形で結構なんですけれども,方向性としては今のような趣旨で考えるべきではないかという主張です。 ○中田部会長 分かりました。 ○道垣内委員 目的規定を置かないというのが私の根本的な考え方ではありますが,多分,それは大方の賛同を得られないと思いますので,目的規定を置くとしたらどうするのかということについて,一言,申し上げたいと思います。今,吉谷委員がおっしゃったことは極めて重要な話だと思います。というのは,資料では,公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律と同じような言葉遣いがされているのですが,その法律では,「公益を適正に処理し得る」という言葉の後にある名詞は「公益法人」というものであり,それは法主体です。法主体だからこそ「適正に処理し得る」という連帯修飾句の意味上の主語になり得るのですね。これに対して,公益信託には法人格がありませんから,同じ構造の文にはなり得ないと思うのです。そして,そのような文法上の問題にセンシティブにならないまま,公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律と同じ言葉遣いをしますと,それは,ある一定の価値判断,例えば実質的法主体を認めるとか,そういうふうなところにもつながってきかねないという気がいたします。私は吉谷委員がおっしゃったことを十分踏まえた上で,全く異なる書き方をすべきではないかと思います。 ○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○吉谷委員 私どもの方で目的のところで特に考えておりましたのは,公益の増進及び活力ある社会の実現とか,そういったところに中心を置いて考えておりましたので,道垣内委員の御指摘のようなポイントにつきましては,私どもの方では検討していなかったということを申し上げておきたいと思います。 ○小幡委員 目的といいますか,趣旨でもよいのかもしれないと思いますが,何らかは置くと思いますが,公益法人の方は公益法人という法人についての法律なので,確かに道垣内委員がおっしゃるように,こちらはそうではなく,正に目的とするところが公益信託というものなので,そこに違いがありますから,必ずしも引き写す必要はないと思うので,公益信託というものの健全な発展を目的とするために,この法律があるということを明確にするのでよいのではないかと思います。 ○中田部会長 ほかにございますでしょうか。 ○深山委員 今,小幡委員なり,道垣内委員が指摘されたこと自体はごもっともで,私が申し上げたかったもう少しメッセージをということも,それに決して矛盾するものではなくて,確かに法主体が法人とは違いますから,それに応じた文章に改める必要はあると思います。しかし,大事なことは,表現もさることながら,その考え方だと思ったので,そこを申し上げました。表現については必ずしも法人の法律に準ずるのはかえってよろしくないということについては異論はございません。 ○中田部会長 よろしいでしょうか。公益法人認定法との関係,民間ということを入れるかどうかということ,法主体という面で違うのではないかということなど御指摘いただきました。あるいは全然違うような書き方を更に考えるべきではないかということで,これもまた,事務局の方で頭をひねっていただくことになると思いますけれども,御意見を踏まえまして更に検討を続けたいと存じます。   続きまして,「第2 公益信託の定義等」について御審議いただきたいと思います。事務当局から説明してもらいます。 ○舘野関係官 では,続いて「第2 公益信託の定義等」について御説明いたします。   まず,「1 公益信託の定義」について御説明いたします。本文では,公益信託は,信託法第258条第1項に規定する受益者の定めのない信託のうち,学術,技芸,慈善,祭祀,宗教その他の公益を目的とするものとして,新たな認定主体の認定を受けたものとすることでどうかとの提案をしております。   まず,公益信託法における公益の例示の在り方について,現在の公益信託法における公益の例示には,祭祀,宗教が入っているのに対し,公益法人認定法では,これらが入っていないという違いがありますが,信託法の分野では宗教法人法に相当する特別法が存在しないこと等に鑑みますと,現在の公益信託法の表現を変更するまでの必要性は見当たりません。また,公益信託を受益者の定めのない信託のうちの公益を目的とするものと定義する現在の立法技術上の取扱いを変更し,公益信託の定義を変更するまでの必要性も現時点では見当たらないことから,このような提案をしております。   次に,「2 公益信託の目的」について御説明いたします。本文では,公益信託の目的は,本部会資料第2の「1 公益信託の定義」に例示した公益に関する具体的な種類の信託事務を行うものであって,不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与するものでなければならないとすることでどうかとの提案をしております。   公益の概念は,社会情勢の変化とともにその具体的内容は変化し得るものですが,公益法人認定法は,同法第2条第4号別表第1号から第22号に掲げる以外の種類の事業を政令で定めることが可能となるように,別表第23号の規定を設けています。第一読会では,公益法人認定法の形式よりもオープンな形を採るべきとの御意見もありましたが,公益法人認定法の制定からそれほど長期間が経過したわけではない現時点では,公益信託においても公益法人認定法と同様の公益性判断の仕組みを採用することが相当と考え,このような提案をしております。   最後に,「3 公益信託法第2条第1項の削除」について御説明いたします。本文では,公益信託法第2条第1項は削除するものとすることでどうかとの提案をしております。   第一読会において,主務官庁による許可制の廃止については異論はありませんでした。また,公益信託の認定を受けていない公益を目的とする目的信託が有効であることを示す規律を定めるべきである旨の御意見がありましたが,その意図は公益信託法第2条第1項の削除により,明確に表現できることなどから,このような提案をしております。 ○中田部会長 ただ今説明のありました部分について御審議いただきたいと思います。三つ,関係はしているのですけれども,便宜,1と2を併せて御意見を頂戴したいと存じます。その後,3について伺います。いかがでしょうか。 ○新井委員 公益信託と目的信託の関係について発言したいと思います。4ページに2というのがありまして,目的信託のうち公益信託の認定を受けたものを公益信託と定義すべきであるとの意見が多数を占めたが,公益信託を目的信託の一類型と位置付けるべきではないという意見もあった。全くこれは正しい客観的な表現で,これでよろしいと思います。賛成しないという意見は私の意見であり,第二読会でも一応,発言して議事録にとどめておくべきだと思いますので,中辻幹事の「テンポを速めて議事進行を」という趣旨には反するかもしれませんけれども,できるだけ簡潔に意見を述べさせていただきたいと思います。   私は,公益信託は目的信託の一類型ではないと考えています。   まず,1番目に構造上の差異があります。公益信託というのは委託者が財産を公益のために出捐して,以後,原則的には委託者は権限を行使しないという制度です。それに対して目的信託は,委託者が財産を私益,共益,公益のために出捐して,以後も信託法260条により,極めて強い権限を行使するようになっています。私自身は,果たして目的信託というのはこれで信託と言えるのかという疑問すら持っているわけです。   2番目として受益者の不存在です。公益信託は不特定多数の者に経済的利益を付与する仕組みです。その者を受益者というか,受給権者というかは別にして,一旦,経済的利益を受けることが決定され,それが不履行となれば裁判所への訴えが可能です。私はこれ自体を受益債権と考えてもよいと考えています。これに対して目的信託は,証券化,流動化を促進することを主目的とした仕組みであり,意図的に受益者を否定しています。公益信託,目的信託ともに受益者は不存在といっても,その在り方は全く異なっているように思われます。   3番目に比較法上の異質性です。公益信託は公益のみを目的としていますが,我が国の目的信託は,私益,共益,公益を目的としています。比較法的には目的信託とは私益目的信託,すなわち,プライベート・パーパス・トラストが一般的であって,我が国の目的信託のような全ての目的をカバーする極めて特異なものは比較法的には存在しません。長い歴史を有する公益信託を証券化,流動化のためにごく最近,誕生した目的信託の中に位置付けることは妥当ではないように思われます。   もちろん,私も現行法上の目的信託を廃止せよと主張するものではありません。飽くまでも公益信託を目的信託の中に位置付けることについて反対しています。そう申し上げた上で,私もこの会議体の一員ですので,結果にはもちろん素直に従いたいと思っております。   5ページについて質問があります。第1行目ですけれども,宗教法人法に相当する特別法が信託法の分野では存在しないということの意味が必ずしもよく理解できないのですが,これを御説明いただきたいと思います。それから,2行目の宗教学の研究者への助成金の支給,これは学術に当たるのではないでしょうか。それから,3点目ですけれども,重要文化財に指定された仏像の保存については文化財保護法の規定によるわけでして,恐らく信託設定というのはまず難しいのではないか,ですから,事例としては妥当ではないように思われるのですが,この3点について質問したいと思います。 ○中田部会長 いかがでしょうか。 ○中辻幹事 御質問にお答えします。部会資料5ページの1行目につきましては,信託と法人を対比した場合に,法人では,基本法である民法の特別法として公益法人認定法や宗教法人法が存在する一方,信託では,基本法である信託法の特別法として公益信託法はあるものの,「宗教信託法」は存在しません。その違いを表現したかったという趣旨でございます。   2行目,宗教学の研究者への助成金の支給は,現在の公益信託の中に宗教史学の研究及び図書の刊行等を活動内容とし,人文科学の研究助成を目的とする実例があり,それを参考としたもので,御指摘のとおり,学術を目的とするものに当たると思います。   3点目の重要文化財に指定された仏像の保存を目的とする公益信託の設定の可能性については貴重な御指摘をありがとうございました。再度,検討したいと思います。 ○小野委員 先ほどの新井委員の御意見について逐一コメントをすると時間が掛かるので,第一読会の私のコメントを参照していただきたいと思います。私からの質問かつコメントですが,今までの部会でも目的信託を幾つか類型化すべきではないかと,新井委員の発言に関連付ければ,現行の目的信託の規定を変えるという発想もあるのではないかと議論されてきたと思います。そうすれば,新井委員も目的信託の一部ということを認めていただけるのではないかと思います。公益信託にならないときは目的信託になるということは,目的信託そのものについても,公益的または準公益的目的信託という類型を認めるという観点から見直すべきという議論につながり,これまでの部会でも議論されてきたと思います。そこで質問ですが,この点はまた違う回で議論するのか,本日の部会での議論なのでしょうか。いずれにしても是非,その辺ももう一度,検討していただきたいと思います。   特にといいますか,ポイントの一つとしては資産5,000万円以上の法人というところと,ここの場合での議論ではないかもしれませんけれども,法人課税信託であるという辺りも,目的信託の形を変えていくことによって,課税庁の判断も変わってくる可能性もあるかと思います。   それから,公益の内容について,従前のままの表現を用いるのでいいのではないかという議論なんですが,以前も議論したように,基本的人権のようなものをどこかで無理に読み取ることになるのかもしれませんけれども,何か一生懸命,担当官庁の方を説得して読み取っていただくというような作業をするよりも,特に公益法人認定法の方でいろいろ苦労した結果,うまく入りましたという議論がかつてありましたが,もう一回,そういう苦労を重ねる必要もなくて,この数年間の経過を踏まえて,これまでの規定ぶりを否定するのではなくて,更に発展形としてのものであってもよろしいのではないかなと思います。この他,バックアップチームでの議論では,基本的人権関連や,政治的あるいは社会的な活動についても読み取れないのではないかというような議論がありました。   次に,不特定多数の議論もしてよろしいですか。不特定多数,これも第一読会のときにいろいろ私も含めて皆さん発言されて,解釈の柔軟性うんぬんという議論もありましたけれども,まず,実定法なものですから,不特定多数という言葉の重みというのはなかなか大きいものがあります。特に特定されないものはこの世にないと思うので,不特定という言葉をどの範囲に考えるのかというのは,かなり裁量の余地があるかと思います。そのような趣旨で樋口委員も何度か発言されたかと思います。   地域とか,一つの集団がどこまでの集団であれば不特定になるのか。いずれにしても最後は特定がされることになります。ですから,大胆な議論をすれば多数というものを本当の意味での多数,決して二人という意味ではなくて,ある程度の多数で母体を捉えれば,不特定という概念はほとんど後退していくのではないかというような議論もございました。   なお,後の方の議論で特別利益の供与というのがありますけれども,見方によっては不特定多数でなければいけないというのは,ある特定のグループ,特定の人に対して利益を供与するために公益信託制度を用いるのは,よろしくないという一つの常識的な発想からきているのであれば,そちらとの代替的な議論ではないかと,こういうような意見も昨日のバックアップ会議で出ました。ということで,不特定多数の論点は,さらりと今まで使われてきた用語だからということで,議論されそうな雰囲気はなきにしもあらずかと思うんですけれども,公益法人における経験等を踏まえて,その現状を反映されたような条文化を是非,目指していただければと思います。 ○中田部会長 御質問が含まれておりましたので,それも含めてお答えいただけますでしょうか。 ○中辻幹事 御質問にお答えします。信託法附則3項で,目的信託の受託者の資格について定めがありますが,附則3項には,公益を目的とするものを除くと書かれており,公益を目的とする信託の受託者の資格等については,信託法ではなく公益信託法に委ねられているものと私は理解しております。   旧信託法の下では,受益者の定めのない信託については,主務官庁の許可を受けた公益信託のみが有効であるとする学説が多かったのですが,新信託法は公益信託以外の目的信託が先ほど述べた受託者の資格を満たすことなどの条件付きで有効とされています。その上で,公益信託をどのように定義付けるかということで,旧信託法の時代よりも考え込むべき要素は多くなっており,公益信託の定義を行政庁等の認定を受けた公益目的の目的信託とするならば,その認定を受けていない公益目的の目的信託や,公益目的以外の目的信託との整理についても検討する必要があると事務局としても考えております。 ○中田部会長 よろしいでしょうか。 ○平川委員 2の1につきましては,公益信託を目的信託の一類型とすることに反対いたします。それと,公益の定義から,祭祀,宗教をあえて削除する必要はないとする考え方には賛成いたします。2については賛成いたします。   1の理由なんですけれども,公益信託を目的信託という世の中でほとんど行われていない抽象的な類型をベースにすることは,一般の人の理解も得られないと考えます。その結果,公益信託の拡大や増大につながらない可能性が懸念されます。新しい公益信託は,法律の規定としては目的信託の一類型の例外を設ける必要が多々あると思われますが,そもそも,目的信託には一般の信託の例外規定として,信託法第261条1項に40もの読替規定が置かれています。目的信託の一類型と位置付けた場合には,立法技術的には必然的に,それをベースにすることになり,目的信託の読替規定の中から公益信託に適用があるものと,読替規定のそのまた読替規定を置くというような例外の例外という規定ぶりになることが予想されます。このような形は複雑,難解かつ煩雑であって,有識者の理解も得られないと思われます。   公益信託を設定して,世の中の役に立とうとする人が素直に分かる形式の立法の公益信託が望ましく,旧信託法時代の公益信託の規定ぶり,すなわち,正面から公益信託について規定する立法方法を採るべきと考えます。先ほど小野委員がおっしゃいました全体像がこの法律で分かるような法律にすべきであると,その意味は違う意味でおっしゃったのかもしれませんが,同様の思想がここにも当てはまると思います。   2につきましては賛成いたしまして,公益法人認定法別表に掲げる公益目的事業の種類と統一することで,公益事業の定義に混乱が生じませんし,また,具体的に列挙することで,公益目的の判断において認定基準が明確化されるメリットがあると思います。 ○林幹事 弁護士会の議論としては,定義についてはおおむねこれで賛成ですし,祭祀,宗教を追加することや,受益者の定めのない信託の一つと位置付けることについて特に反対はなかったところです。   2の公益信託の目的のところですが,まず,少なくとも不特定多数ということについて,表現はともかく,現行の公益信託だと公益性の認定が厳しいことから,公益法人のように柔軟にすべきだという問題意識があって,今回,それを前提に書かれているということについては,前向きに評価したいと思いますし,その点は今後も必ず維持されるべきと考えています。   あとは,(注1)に関してですが,公益法人認定法2条第4号の別表の列挙事由に関しては,まずは1から22まであって,それ以外のものも検討してはどうかと申し上げたのですが,なかなか,これといったものが出てきにくいところもあったというのが正直なところです。弁護士会の中の議論では,少なくとも人権擁護とか,貧困対策とか,犯罪者の更生とかを加えるべきではないかという意見もありました。これらは1号から22号のうちに書かれているとの考えもあるかもしれませんが,小野委員も言ったとおり,もう少し具体的に,あるいははっきり書くというか,現代的な表現ないしはストレートな表現に,表現を変えてはどうかという意味においても,こういうものがあってもいいのではないかとの意見がありました。   あとは,23号についてですが,前回,例示列挙かどうかというような形でも議論したかと思いますが,例示列挙というかはさておき,23号のような形式をそのまま残すのかという問題だと思います。この点,補足説明にあるような御趣旨は十分理解した上でですが,政令にてということであれば,若干,ハードルが高いと思いますので,政令がなくてもその他の新たな公益活動のためのバスケット条項的なものがある形式の方がよいと引き続き考えております。 ○深山委員 公益信託と目的信託の関係について,既にいろいろ議論がなされているところですけれども,私は一読会のときも積極的には余りどちらがいいということは申し上げなかったと記憶しています。というのは,技術的にはどちらも可能なのかなと。つまり,信託法を公益信託と私益信託の全体の法律という位置付けをして,その中に私益信託の規定も公益信託も置くようなイメージで,法律として一つにするかどうかは別にして,体系として,そういう体系的な整理をして,目的信託の中に公益信託を位置付けるというのも,一つの整理の仕方ではあるかなと思っています。   しかし,新井委員も御指摘のように,かなり公益信託というのは私益信託との違いもあるので,無理にそこに押し込めるのではなくて,むしろ,全く独立した形にするというのも体系の作り方としてはあるのかなという意味では,どちらもありかなと思っております。ただ,そういう意味では,ここは議論が今日の議論も含めて分かれているところなので,もう少し慎重に位置付けるべきかなと思います。その関係で,今は余り使われていない,ほとんど使われていない私益信託としての目的信託ですけれども,こちらの方にももう少し目を向けて,目的信託自体の規律についても見直すべきところを見直すということも含めて,この議論をしたらと思います。   それから,2の不特定多数のところについて,既に小野委員から指摘はありましたけれども,不特定多数という言葉は,あちこちの法律でも出てきたりするわけです。受益者ないし受給者が決まっていないという意味で不特定という面があるわけですが,その限度ではもちろん不特定ということにはなるんですが,一般的にいう不特定多数というのは,もうちょっと違った意味合いで使われていると思います。果たして不特定かつ多数というものを最後に「ねばならない」というようなマストな言い方で表現してしまうと,かなり窮屈になるのではないかという気がします。   地域であれ,何であれ,どこまで範囲を限定すると特定することになるのかどうか,例えば先ほどの例で宗教にしても,宗教全般ならいいんでしょうけれども,何々教と宗教を特定すると,それは不特定にならないのかとか,いろいろ考えると,ここで余り厳しいハードルを課すということについては,制度として使いにくくなることを懸念いたします。もちろん,解釈なり,適用のところで調整が可能だという考え方もあるのでしょうけれども,ここは特定の人なり団体に利益がいく制度として使われないというところが重要であって,その裏返しで,だから不特定多数でなければいけないかというと,それは違うのではないかなと思います。多数だけにするかとか,あるいは不特定又は多数にするかとか,表現としてはいろいろあるのでしょうけれども,不特定かつ多数というのは絞りすぎのような気がいたします。 ○小幡委員 この目的のところに,法律の中で不特定かつ多数の者の利益と書くということですか。そうすると,不特定かつ多数の者の利益の意義についてですが,現実には公益認定法の方でも「不特定」は非常に広がっているというか,緩くなっています。機会として不特定の人に機会が与えられていれば,あるグループの人の塊であってもよいということに実際はなっていますので,これを余り明確に書きすぎるといかがかと思うのです。例えば,ガイドラインで明らかにするといっても,そのガイドラインを作るかというのは以前も何か議論があったような気がしますので分かりませんが,いずれにせよ,そういう公益についての一つの考え方として,不特定かつ多数というのがあるにすぎないのではないかと思いますので,余り確定的に書くと狭くなりすぎるのではないかという感じがいたします。 ○佐藤関係官 目的信託と公益信託との関係について,平川委員と新井委員の御意見の趣旨を確認させていただきたいのですが,公益信託を目的信託の一類型とされるということについては反対と伺っているところではございますけれども,新たな公益信託制度において,受益者の定めのある信託を許容するという趣旨を含んでいるかどうかを念のために確認させていただきたいのですが ○平川委員 私はそれは含んでおりません。 ○新井委員 私も同じ意見です。 ○佐藤関係官 ありがとうございました。 ○中田部会長 よろしいでしょうか。ほかにいかがでしょうか。 ○吉谷委員 1,2につきましては,特段の異論なく提案に賛成であったということでお伝えしておきます。 ○中田部会長 今まで頂いた御意見について何かございますでしょうか。 ○中辻幹事 不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与するという文言は,公益法人認定法で既に使われているものを参考にして,それに沿い提案しているものです。この文言については,公益法人認定法が制定されたときに,それが公益性の認定に直結するものであることから,例えば一人の人間国宝に支援をし,それが回り回って不特定かつ多数の人の利益になるのであれば,それは公益性を有すると言えるのではないかということを含めて大議論がされています。そして,現在の公益法人の認定ガイドラインでも,不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与するか否かの事実認定に当たっての留意点について触れられておりますが,それは公益信託でも参考になりますし,実際の公益信託の認定でも柔軟に判断されることが望ましいと考えています。 ○中田部会長 1と2については大体よろしいでしょうか。 ○小野委員 先ほど目的信託も含めて議論していいと言っていただいたので,発言させていただきます。第一読会でも何度も発言しているのでポイントだけ申し上げますと,先ほどの新井委員がおっしゃったこととも関連するのかもしれませんけれども,純粋私益的なよくペット信託とか言われているような目的信託は別として,公益的目的信託というんですかね,公益認定は取らない目的信託又は準公益とでもいうのでしょうか,公益とまでは言えない,その中間的なものについて,新井委員からは,委託者が監督するというところがポイントだとおっしゃっていましたけれども,純私益的なものの場合は委託者が監督しても当たり前かもしれませんけれども,それ以外のものになると,委託者は別に監督したいと思っているわけではなくて,制度の立て付けとして委託者が監督ということになっているのであって,公益信託法と同じように信託管理人を置いて委託者の監督を外すような形の目的信託というのも十分あり得ると思います。ということで,是非,目的信託を幾つかの類型に分けていただいて,目的信託に落ちる場合の目的信託は広い意味では目的信託,受益者がいないという意味ではそのとおりかもしれませんけれども,実質まで含めて目的信託の一類型といったときには,準公益的で私益ではないような目的信託に落ちていく形を制度として検討していただければと思います。   新井委員がおっしゃったように,委託者の監督制度もないような目的信託であれば,そういう意味での目的信託の一類型として公益信託を取り上げれば,新井委員も特に反対はないかと思いますし,税法上の扱いも目的信託になった途端に法人課税信託になってしまうという扱いから開放されるのではないのかと思います。 ○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。よろしいでしょうか。   公益信託と目的信託の取扱いについては,第一読会以来,議論が重ねられてまいりまして,本日もまた,それを深めていただいたと存じます。ただ,だんだん,中間試案に向けて詰めていく必要がございますので,今日の御議論も含めて更に検討を続けていただきます。なお,目的信託の在り方についても御意見を今,頂きました。この部会でどういう形で具体化できるのかということは,また,別途,検討が必要かと存じますけれども,貴重な御意見を頂いたと存じます。それから,別表の記載の在り方あるいは不特定かつ多数という文言についてどうするかということについても,御意見を踏まえて更に検討を続けたいと存じます。   この第2については,あと,「3 公益信託法第2条第1項の削除」という点がございますが,これはいかがでございましょうか。 ○平川委員 削除することに賛成いたします。ただし,公益信託認定を受けていない信託は,たとえ目的が公益に資すると判断されるものであっても,公益という名称を用いることはできないという前回の公益信託の名称使用の話とつながるんですけれども,それについての規制が必要であると考えます。認定を受けずに公益目的信託であるとして,公益を標榜することにより,金銭を募集,査収するなどの悪用が考えられます。したがって,無効とするまでの必要はないけれども,何らかの名称使用規制に加え,公益信託の認定を受けていない信託であるということを明確にするとか,そういう積極的な誤認混同を防ぐような方策が採られるべきであると思います。   前回の公益信託の名称のところで,戻ってしまうんですけれども,2の(3)に何人も不正の目的を持って他の公益信託であると誤認されるおそれのある名称又は商号を使用してはならないとありますけれども,不正の目的を持ってという行為がなくても,うっかり使ったというものであったとしても,公益という文言を使ってはならないとすべきだと思います。 ○中田部会長 ほかにこの3についていかがでしょうか。   3については特に御異論はないと承りました。その上で,名称について先ほどの議論に付加する形で更に御意見を頂戴いたしました。   それでは,続きまして「第3 新たな公益信託の基本的枠組み」について御審議いただきたいと思います。事務当局から説明してもらいます。 ○舘野関係官 では,御説明いたします。「第3 新たな公益信託の基本的枠組み」について御説明いたします。   まず,「1 公益信託事務の範囲」について御説明いたします。本文では,公益信託の受託者が行うことができる公益信託事務は,当該公益信託の目的の達成のために(直接又は間接的に)必要な信託事務とすることでどうかとの提案をしております。   新たな公益信託の信託事務の範囲の検討に当たっては,従来の助成金や奨学金の支給を目的とするような公益信託,すなわち,助成型の公益信託は今後も当然に認められることを前提とした上で,美術館や学生寮の運営を目的とするような公益信託,すなわち,事業型の公益信託を可能とすることに,一定の社会的な需要が見込めることを考慮すべきであると考えられます。一方で,公益法人制度では公益法人が公益目的事業以外のいわゆる収益事業等を行うことが可能となっておりますが,収益事業等の実施が公益目的事業に悪影響を及ぼさないようにするために,公益法人の認定基準において複数の規律が設けられています。   公益信託の受託者が公益法人における収益事業等に相当する事業を行うことを認めた場合,これらの認定基準を公益信託にも導入しなければならない可能性があり,軽量・軽装備という公益信託のメリットが大きく損なわれるおそれもあることから,公益信託事務の範囲は,その目的達成のために直接又は間接的に必要なものに限定することが相当と考え,このような提案をしております。   その場合に,公益信託事務として具体的に許容される信託事務はどこまでかということをイメージしていただくために,具体的に許容される公益信託事務の範囲についてとして,部会資料の11ページに表を掲載しております。これと同じような表を第一読会でも提示させていただきましたが,助成型の公益信託と事業型の公益信託との違いも考慮して,再度,整理したものが今回の表でございます。   個別に見ていきますと,左の欄,助成型の公益信託における医学研究者への助成金支給は,公益信託の目的達成のために直接必要な信託事務であり,表①に該当することは明らかです。その右の欄,事業型の公益信託に関しては,美術館の運営費用に充てるための美術品の売却を以前の部会資料では,表③当該公益信託の目的達成のための必要性を欠く信託事務に位置付けておりましたが,美術品の売却の目的が美術品の入替えのためか,運営費用の捻出のためかは受託者の主観に属し,客観的に判断することが困難であることや美術館の運営費用に充てるために,当初,信託財産であった美術品を売却することは,当該公益目的の達成に間接的に必要とされる業務であることからすると,表③よりも②に位置付ける方が適切であると考えられることから,表③から②へと位置付けを変更するなどの修正を加えております。   本部会資料13頁のオにまとめを記載しておりますが,表①と②に位置付けた行為は,公益信託事務として許容されるべきであるもの,表③に位置付けた行為は,公益信託事務として許容されるべきでないものということになります。そして,表②と③のいずれに該当するかについては,個別具体的な事情に応じて認定行政庁等が有識者委員会の意見を踏まえて,柔軟に判断することが望ましいと考えられます。   次に,「2 公益信託の信託財産の範囲」について御説明いたします。本文では,公益信託の信託財産は,金銭に限定しないものとすることでどうかとの提案をしております。   公益信託の信託財産として金銭や,これまで運用対象として税法上,認められてきた国債,地方債等が拠出されることを否定する理由はないと考えられます。その上で,株式などの有価証券や不動産,知的財産権等の財産を公益信託に拠出することが認められるか否かが問題となりますが,適切な課税関係を維持し得るのであれば,それらの財産を公益信託の信託財産とすることを禁止する必要はないと考えられることから,このような提案をしております。   次に,「3 公益信託の信託財産の運用」について御説明いたします。本文では,甲案として公益信託の信託財産の運用は,預金又は貯金,国債,地方債,特別の法律により法人の発行する債券又は貸付信託の受益権の取得,合同運用信託の信託に限られるとする,乙案として甲案のような規律は設けないものとするとの提案をしております。   税法上,公益信託の運用方法が預貯金,国債等に限定されている趣旨は,信託財産を利用した継続的な安定収入の確保を図るものであり,公益信託の認定を受けた信託が税制優遇を受けることを可能にすることも視野に入れた場合には,運用方法を現行税法のように限定することが相当であるとの考え方があり得ることから,これを甲案として提案しております。   一方で,仮に公益信託の信託財産がリスクの高い投資商品により運用されるとしても,受託者又は受託者からの委託を受けた第三者が運用に関する専門的な知見を有するのであれば,適正な運用により信託財産の増加を図ることが期待でき,甲案のような規律を設けることは相当でないという考え方があり得ることから,これを乙案として提案しております。乙案を採る場合であっても,委託者が甲案のような運用対象の限定を望み,それが信託契約の内容とされているのであれば,受託者は当然にそれに拘束されるものと考えられます。   次に,「4 公益信託の受託者の資格」について御説明いたします。   本文では,甲案として受託者の資格として,公益信託事務の適正な処理をなし得る能力を有する法人であることを必要とする,乙案として受託者の資格として,公益信託事務の適正な処理をなし得る能力を有する者(法人又は自然人)であることを必要とする,丙案として受託者の資格として,自然人が公益信託の受託者となる場合には,公益信託の信託財産の適切な管理・運用をなし得る能力を有する法人と共同で受託者となることを必要とし,上記法人と共同で公益信託事務の適正な処理をなし得る能力を有することを必要とするとの提案をしております。   新たな公益信託においては,美術館や学生寮の運営のような事業型の公益信託も想定されるところ,そのような公益信託の受託者としては信託会社よりも,元々,それに類似する事業を行っている法人の方が受託者として想定しやすいため,受託者となり得る法人についてはより広がりを持って許容していくことが相当であると考えられます。他方,事業型の公益信託であれば,多くの場合は受託者がそれなりの人員や組織を有していることがその運営の前提となりますし,自然の受託者には,死亡,病気,老衰等,受託者としての能力が減退する等のリスクが存在します。そうすると,公益信託の受託者として自然人を許容することは相当でなく,公益信託事務の適正な処理をなし得る能力を有する法人であることを必要とすべきであるとの考えがあり得ることから,これを甲案として提案しております。   甲案を採用した場合,信託会社以外に受託者となることを許容すべき法人として,営利法人を除外する必要はないと考えられます。また,乙案や丙案を採った場合であっても同様のことが言えますが,税法や信託業法との関係も視野に入れながら,引き続き受託者の資格について検討する必要があると考えられます。   第2に,公益信託の受託者として重要なのは,公益信託事務の適正な処理をなし得る能力であること,また,公益信託の受託者が固有財産を有していなくとも,委託者から信託財産の拠出を受ければ公益信託事務を遂行することは可能であり,一定の経理能力を有していれば法人でなくとも受託者として認めてよいと言えることなどからすると,法人でも自然人でも公益信託事務の適正な処理をなし得る能力を有する者であれば,受託者として認めてよいとの考え方があり得ることから,これを乙案として提案しております。   第3に,自然人が公益信託の受託者となる場合には,公益信託の信託財産の適切な管理・運用をなし得る能力を有する法人と共同で受託者となることを必要とし,その法人と共同で公益信託事務の適正な処理をなし得る能力を有することを必要とするべきであるとの考え方があり得ることから,これを丙案として提案しております。   これらの受託者の資格を満たさない場合の効果については,本部会資料22ページから23ページに記載しております。仮に公益信託の認定時に受託者がその資格を満たしていない場合には,その信託は公益信託の認定を受けることができないようにすることが相当であると考えられます。また,公益信託の認定後に受託者がその資格を満たさなくなった場合には,受託者の任務を終了させることとし,当該公益信託の認定の取消しをしないことが相当であると考えられます。 ○中田部会長 ただ今説明のありました部分につきまして御審議をお願いいたしますが,4項目がございますけれども,三つに分けてお願いいたします。1の「公益信託事務の範囲」,その次に2と3,信託財産についてのテーマ,そして4と,この三つに分けてお願いしたいと思います。まず,「1 公益信託事務の範囲」について御意見をお願いします。 ○小野委員 まず,1のポイントなんですが,直接又は間接的に必要な信託事務ということで例示が書かれていますけれども,仮に美術館の事業型を考えた場合,建物として美術館がある場合と美術品だけがある場合とか,あと,今はネットの時代ですからネットでのそれの展示とか,また,一般的に美術館は美術品を貸し出すことによって収益を得るという構造もあり,物理的な形での間接の事例が書いてありますが,今の時代だと物理的というのは一つの要素であるけれども,もっと広がりがいろいろあるのではないのかと思います。受託者に対しては違反行為に対して単なる債務不履行にとどまらない非常に厳しいサンクションが予定されているようであり,一概にそのように考えること自体問題と思いますが,それ故,受託者としては恐らく行動としてはかなり保守的になってしまうのではないかと思います。という意味において,必要な信託事務という言葉が表現としても法律用語としても強い,普通だと付随,関連とか,何かもうちょっと広がりを持った形でいろいろとほかの法律でも議論されていますけれども,もうちょっと広がりを持った方がよろしいと思います。   受託者の場合は,善管注意義務と忠実義務を負っていますから,ある意味では,その枠を超えることはできないので,それをあえて更に狭める趣旨なのか,確認する趣旨なのか,どちらとも,又は全然違った趣旨なのかともとれますけれども,ある意味では,善管注意義務と忠実義務の範囲内で行動して,自ら責任をとって行動するということぐらいでよろしいのではないかと思います。いずれにしても,間接的という表現が入っているにしても,必要な信託事務ということで例示の中で物理的な枠を決めているというのは,いろいろな意味で狭すぎると思います。 ○神田委員 3点,質問させていただきたいと思います。  1点目は,11ページの表の読み方なのですけれども,美術館の運営と学生寮の運営の欄の読み方ですけれども,例えば二つ例を挙げますと,一時的な金銭の借入れというのは美術館の運営ではできるけれども,学生寮の運営では駄目という御趣旨なのか,それから,もう一つ例は,例えばミュージアムショップ,カフェの営業と(注)が付いていますけれども,美術館の中では一定の(注)を勘案した上でいいけれども,例えば留学生向けのショップとかカフェを置くことは駄目と読むのか,あるいは例示なのかということです。私は個人的には一時的な金銭の借入れも,必要であれば,その範囲では学生寮の運営の場合でもいいように思うのですけれども,表の読み方についての質問です。   それから,2点目は,後で申し上げることかもしれませんが,関係しますので発言させていただきますけれども,1と3の関係です。つまり,3にいう運用は1に含まれないという整理のようにも見えるのですけれども,例えば美術館を運営するのに半分以上の信託財産を国債や合同運用信託に運用しているというのはどうかと思いまして,つまり,3の方も待機資金ですとか,例えば美術品を購入するまでの資金ですとか,1の表現を使わせていただければ,当該公益信託の目的の達成のために必要あるいは有益な範囲で運用をということになるのではないかと思うものですから,1と3は関係するような気がするということです。   3点目の御質問は,一層,3なのですが,1にも関係しますので,ここでさせていただきます。1には(注2)があるんですけれども,(注2)の「また」です。つまり,違反した場合です。今,小野委員からも若干,指摘があったところかもしれませんが,1の範囲を逸脱した行為をした場合は,その行為の効力には影響がないと読めるのですけれども,それは信託財産に有効に帰属するという御趣旨で(注2)は書かれているかと思うのですけれども,3の方の(注2)については,3の運用規制というかに違反した場合の効果とより広く言っておきますけれども,どうなるのか。1と同じ整理でいいのか,別の整理なのかというのが3点目の質問です。3点目の質問は3のところで申し上げるべきかもしれませんけれども,1とも関係するので,ここで発言させていただきました。 ○中田部会長 ありがとうございました。3に関するところは,また,3のところでも御議論いただきますが,1に関連するということで3点について御説明をお願いいたします。 ○中辻幹事 まず,1点目ですけれども,部会資料11ページの美術館の運営の欄で,一時的な金銭の借入れや,美術館内でのミュージアムショップ,カフェの営業を取り上げました。後者の店の営業は美術館の運営に関連するものであることから,隣の留学生向け学生寮の運営の欄には入れておりませんが,学生寮の運営でも一時的な金銭の借入れは当然想定されますし,学生寮内における売店の営業も想定されますので,それらをあえて否定しようという意図は全くございません。この2つの欄は,パラレルに捉えていただければと存じます。   次に,2点目ですけれども,美術館の運営を目的とする公益信託であるにもかかわらず半分以上の信託財産を運用に回すようなことは神田委員の御指摘のとおり,認められるべきではないと事務局としても考えています。そのような運用は,1の表の③公益信託の目的達成のための必要性を欠く信託事務の中に位置付けられると言えるので,1と3が関係するというのも御指摘のとおりですが,今回の資料を作成した時点では,検討のための整理としては1と3で場面を分けた方が分かりやすいのではないかと考えておりました。なお,先ほど「必要な」という表現に関連して小野委員から御指摘がありましたけれども,信託法3条や26条で信託の目的の達成のために必要な行為というふうな文言が使われておりまして,1の「(直接又は間接的に)必要な信託事務」は,それを意識して提案したものです。   最後,1の(注2)で,公益信託事務の範囲を逸脱した受託者の権限外行為は,受託者の解任事由になり得ますし,公益信託の認定の任意的取消事由に該当するほか,受託者が信託財産のためにする意思を有していた場合で相手方に悪意又は重過失があるときは信託法27条による取消しの対象になると思います。また,3の(注2)でも,信託行為に甲案の運用方法が定められていることが公益信託の認定基準になり,認定後に受託者が違反した場合には受託者の解任事由となり得ますし,公益信託の認定の任意的取消事由に該当するほか,受託者の権限外行為は相手方に悪意又は重過失があるときは信託法27条による取消しの対象となるように思います。ただし,3の「公益信託の信託財産の運用」では,受託者とその取引の相手方がともに信託財産のためにする意思を有していることが基本的に想定されるのに対し,1の公益信託事務の範囲を逸脱した場合は,法人の目的を逸脱した場合とパラレルには論じられないですし,結局は個別具体の事案によることになると思いますけれども,受託者が信託財産のためにする意思を有していないとして,3の運用の場面よりは契約の効果が信託財産に及ばないことが多くなるのではないかと考えます。 ○中田部会長 神田委員,よろしいでしょうか。 ○神田委員 はい。 ○小幡委員 11ページの表に戻りますが,公益認定の方で収益事業か,公益目的事業かという分類をいつもやっていますと,②,③の辺りというのはミュージアムショップなどで,これを収益事業と分類してきているところも結構あります,いろいろなグッズの販売について。学生寮なども自動販売機,コインランドリーを置くというのを収益事業と分類してきたものもあります。申請主義なものですから法人の方が収益事業と言ってきている場合,それで,公益目的事業比率の問題もないのであれば,それで通るという場合が結構ございまして,そうすると,10ページのところの記述なのですが,10ページの最後から5行目ぐらい,事業型の公益信託についても公益法人の収益事業等に該当しない限度で許容することにより,一定のうんぬんとありますが,公益法人の収益事業というのは,今,申し上げましたように広めに収益と言ってきているところも多いので,余りそれと関連付ける必要はないと思っております。ここでは公益信託の目的の達成に直接又は間接的に必要ということになると,割と広くなるのかという感じが私はしております。   そこで,理解が難しいのは,本来の例えば美術館の運営の費用に充てるために,③のようなことをするという場合はどうかということでして,美術館にショップを作り,そこに来る客が美術館を見るかどうかは分かりませんが,たくさんの人が集まってお金をそこで落としてくださって,美術館の運営費用にそれを充てるというのは,ここでいう目的の達成に必要な信託事務と見てよいのかどうかということです。公益法人の収益事業の場合は,そのような収益でもうけたお金を公益事業に使うという形になりますので,公益法人のことは余り考えなくてよいと思うので,ここで言っている公益信託の目的の達成に必要なというのは,資金的に充てるということが目的の達成に必要ということに入れてよいという理解でよいのかということです。   もしそうであれば,かなり広くなるという感じがしますが,しかし,③のところが違うということであると,例えば美術館の建物での結婚式,ビジネス会議等への賃貸,これは公益法人でも明らかに収益事業ですが,これはできないと,この中でも仕切る考え方ですかね。本来は,目的の達成に必要なというのは,そういう意味では,結構,緩くもなり得ると思いますが,実際上は最初のところで,ここまでやるということについては,やってよいかどうかを審査し,次に出てくる認定のところでオーケーになればよいという,そういう理解ですかね。お金をその目的に回せればよいのかという話と,それから,私は学生寮の自動販売機などは②でよいと思うのですが,結構,公益認定の方では収益になっているのもあるものですから,余りそこと関連付けないほうがよいかという点です。 ○中田部会長 今の点について何かございますか。 ○中辻幹事 御指摘をありがとうございます。③については,考え方として二通りあり,結局,美術館の運営のために収益事業で稼いだお金が使われるのであれば,③も広く認めるべきであるという考え方は当然あり得ると思います。ただし,事務局としては②と③は差別化を図っておりまして,③まで広く認めることにすると,収益事業を公益信託の受託者が行うことが前提となり,そうすると,今まで助成型の信託事務に限定することで公益信託の認定基準や監督の仕組みもシンプルにされてきたというメリットが失われる可能性があると考え,美術館の運営のために③の収益事業で稼いだお金が使われるとしても,美術品の展示により文化芸術の普及向上に寄与するという目的から離れた行為である③は公益信託事務として受託者が行うことが許容されるものの範囲に入れない方が良いのではないかという発想で,この部会資料は作っております。 ○山本委員 目的達成のために必要な信託事務というような基準でよいのかどうか,仮によいとしても,その意味はどのようなものかという点について少し発言をさせていただければと思います。  目的に対して,手段が例えばA,B,C,Dとあるとします。Aをしないと目的は絶対に達成できない場合,あれなくば,これなしという不可欠条件にあたるとしますと,Aが目的達成のために必要な信託事務であるということは明らかでしょう。恐らく,これが①ではないかと思います。   しかし,必要不可欠ではないけれども,AとBでも目的が達成できる。しかし,AとCでも目的が達成できるという場合のBやCも,恐らく,目的達成のために必要な信託事務に入っているのでしょう。これが間接的といわれているものと重なっているかどうか,よく分からないのですが,恐らく,これらは入っているのだろうと思います。  Dは,してもしなくても目的達成に役に立たない,関係しないというものだとしますと,このようなものは,目的達成のために必要な信託事務に当たらないとされているのではないかと思いました。   ただ,これは,必要という概念ではなくて,目的達成に役に立たない,関係ない,適合しないということではないかと思います。それを必要か,必要でないかという言葉で呼び表すことが適切なのかどうかは,私にはよく分かりません。必要なという表現が広い意味でも,狭い意味でも使われる場合がありますので,これでカバーしているように思いますが,この辺りに何か判断のぶれが生じる原因があるのではないかと思います。ここで考えられているのは,目的達成のためにこれは無関係である,不適合であるということであって,そのような判断が行われているのではないかと思いますが,いかがでしょうか。 ○中辻幹事 御指摘をありがとうございます。ここは事務局として悩んだ点でして,必要という言葉で全てが言い尽くされるかといえば,そうではないようにも感じます。部会資料を作成している段階では,沖野幹事が以前おっしゃられていた必要性,相当性,関連性などの諸般の事情を考慮し,山本委員の言葉を借りれば公益信託としての適合性があるか否かを判断するというようなことも考えておりました。御指摘を踏まえ,信託目的の達成のために必要という言葉が適当なのかどうかも含めて,再度,検討したいと思います。 ○道垣内委員 再検討されるのは結構なのですが,信託法26条も「目的の達成のために必要な行為」という言葉を用いているわけですので,再検討の結果,公益信託法は書き方を変えるということは避けていただきたいと思います。信託法26条に関しても,必要性に照らして受託者の権限範囲か否かを判断する場合には,ある種の外形的な判断をせざるを得ず,そして,それは会社法の場合もそう解されていると理解しています。したがって,ここだけ動かしますと,ほかのところへも波及度合いが強いと考えられますので,余り触らないようにしていただければと個人的には思います。 ○深山委員 必要性という言葉なんですけれども,山本委員の整理の中で,私が一番微妙だと考えるのは,必要不可欠な行為ではないけれども,非常に有益,有用な行為という場合です。山本委員がいうDではなくて。Dは関係ない,余り益にならないということですから,それはむしろ外していいと思うんです。一番悩ましいのは,絶対にやらなければならないというわけではないけれども,やればそれなりに公益目的に資するというようなもの,これは結構,実はあるんだと思うわけです。そのときに,これは間接的に必要だという範疇に入るんだという解釈は十分成り立つと思います。   ですから,言葉としては間接的に必要というところで賄われるんだというのであれば,それでもいいのかもしれませんが,しかし,読みようによっては,やらなくても目的は達成するのだから必要な行為にはならないとして,その行為をすることが否定されるとなると,これは非常に使いにくくなる。これは先ほど道垣内委員から御指摘のあった26条でも同様に問題になることで,ここでいう必要というのはどのくらいの広がりを持つかという,もうちょっと一般的な解釈論なのかもしれません。一番気になるのは,必要不可欠ではないけれども,やれば有用という部分を取り込むためにどう表現したらいいかというところだと思いますので,そこはこの辺のことを踏まえて御検討いただければと思います。 ○樋口委員 今のお話と関連しないことだけを言おうと思っていましたけれども,一つだけ,関連することを申し上げます。信託法26条に受託者の,これは一般の信託ですけれども,信託目的の達成のために必要な行為をする権限,これはもちろん,日本の話としては私が口を出すことではないけれども,英米では現在のすう勢は,必要な権限というのはできるだけ広く,専門家としての判断で何でもできるというのがまず原則です。例えば,借入れなんかはしてくれるなといえば,今までは借入れなんかをするというのはリスクのあることだから,簡単にはできないという話だったのが,何も書いていなければ借入れもできるというような話になっているので,一般信託法のところで必要な権限というのは限定的な句ではないです,英米では少なくとも。日本でこれを何か限定的に解する必要があるのかどうかは,日本の問題だと思いますけれども,何だか日本にだけ特有の議論の仕方であるという感じがするということです。   その上で3点ですけれども,一つは小幡委員から公益法人の世界とそう軌を一にして考えるとかえって誤るよと言われたのに,こういうのがまず問題点としてですが,11ページの,つまり,私は小幡委員と違って公益法人の世界をよく知らないんです。だから,思うんだと思うんですけれども,11ページにこうやって具体例,正に例なので,これに限定されるわけではないけれども,いろいろ考えていただいて,それぞれについて,①,②,③,山本委員のAだかBだかとかいうようなことまで含めて,具体的にこうやって出してくれたのはすごく有り難いんですけれども,逆に今度の公益信託というのはこのぐらいの話なのかというので,この事例の提示が,非常に限定的に物を考えるような効果もありそうな気がするんです。   それで,公益法人と公益信託の関係というのは,なかなか,これが一番の難題だと思うんですけれども,それは,しかし,日本だけではないので,例えばアメリカだって法人組織もあれば信託組織もあって,しかし,アメリカの場合は区別を全然しないという話になっているとしたら,公益法人の世界で認められているような想定される信託事務というのは,この三つだけではなくて本当はどんどんあっていいのか,いやいや,今回は少し助成タイプだけではないので,ちょっと広げるというだけなのだから,この程度という話なのかということ,それは明らかにした方がいいと思うんです,どっちなのかという。   だから,公益法人でやっているのが,私は公益法人の世界は知らないけれども,もっといろいろなことをやっているんだと思うんですよ。それは信託という形だってやれますよという話なのか,いやいや,助成型プラス美術館と学生寮ぐらいの話なのかという,そういうことを明らかにしないと,まず,信託事務の範囲という点では抽象的にいろいろ言っているよりは,そういうことをはっきりさせてもらいたいなという,しかし,人に要求するのは簡単でいいようなことではあるんですけれども,それが第1点です。   二つ目は,9ページの「第3 新たな公益信託の基本的枠組み」で,公益信託事務の範囲というのが書いてあります。信託事務という,でも,これに公益を付けているから,こうやって範囲を限定しようという話になるんだと思うんですけれども,神田委員がおっしゃった後で出てくる15ページの3のところの「公益信託の信託財産の運用」も,正に信託事務なんです。それで,公益の受託者がやっている正に公益信託事務であって,こっちが公益信託事務で,こっちの運用は別ですよという,まず,そこの分け方が極めて日本的なような気がします。だって,信託事務の中に入っているに決まっている,信託財産の運用は信託法の中では。何でここだけ,こうして分けて議論しているのかなというのが二つ目。   三つ目は10ページ目の,つまり,収益事業は公益信託の方はやらないことにしようねということで,大方の賛成は得られているというんですけれども,どうしてかというのがよく考えるとよく分からないんです。それは第1番目の問題と絡んでくるんですけれども,公益法人だったらいいよ,公益信託は軽量・軽装備のメリットを維持するためだからと言われると,何かそんな気もしないではないけれども,例えば留学生向けの学生寮というのをずっときちんと維持していくためには,一定の収益を上げる必要があるわけです。   これは例えば示された事例でいえば,学生寮の1階部分をどうしたわけか分からないけれども,印刷会社に貸していますよね,11ページの③。私なんかは印刷会社に貸すということは考えないで,まず,コンビニを入れます。この建物にだって入っているのですもの。それで,そこからの賃貸料で2階,3階の寮の維持というのがきちんとできるのだったら,何でも構わないような気もするんですけれども,それは明らかな収益事業でしょう。でも,公益法人には認めて公益信託はそれはやらないというのは,だから,第1の信託をどこまで広げるかという,公益信託を広げるかという問題と直接の裏表の問題かもしれないんですけれども,収益事業はやらせないよということの正当化をもう少し私が分かるような形で言っていただくと有り難い。 ○中田部会長 この資料の作り方と,それから,ここでの御審議の頂き方というのは便宜的なものでして,最終的にどういう規律になるかというのはまた別です。論点ができるだけ出やすいように分けているというだけのことですので,最終的な形はまた変わってくると思います。それから,11ページの表は,これも皆様,御理解いただいていますとおり,具体例を挙げてイメージを明確にするとともに,最終的には何らの基準を設定する際に,どういう基準がいいのかを考えていただくための資料だと思っております。これは飽くまでも例ということです。その上で,3点について御質問がありましたが,いかがでしょうか。 ○中辻幹事 まず,1点目について,今回の公益信託法の見直しでは,主務官庁制を廃止するほかに,公益信託の認定を受けることによる税制優遇も見据えた検討が望ましいと考えており,基本的に現在税制優遇の対象となっている助成型を大事にしながら,それよりも一定の広がりを持った公益信託を,美術館の運営とか,留学生向け学生寮の運営とかというそれ自体が公益性を有する事業型の公益信託として構想しているわけです。もっとも,将来的に,樋口委員から御紹介がありました英米のように公益法人か公益信託かなどという法形式など余り意味を持たない形で同じように利用できる仕組みができるのが一つの理想像であるとは思います。   2点目,公益信託の信託財産の運用が公益信託事務の範囲に入らないと考えているわけではありません。第一読会のときも申し上げましたが,公益信託事務の範囲と運用を截然と区別することができないことは繰り返し感じておりますので,もう少し説明を工夫していきたいと思います。   3点目は,冒頭で答えたことと軌を一にしますが,助成型の公益信託について軽量・軽装備のメリットを維持しつつ,それと同様に,できれば一定の範囲の事業型の公益信託も公益法人ほどの認定基準を揃えることなく税制優遇を受けられるような形にまずは持って行けないかと,事務局としては考えております。ただし,そうではなく,一足飛びに理想の将来像,すなわち公益信託も公益法人と同じく収益事業をできるようにした方が良いというお考えもあろうかと思います。 ○小野委員 収益事業の考え方なんですけれども,通常,収益事業,特に法人の場合には課税所得かどうかで考える先ほどの小幡委員のお話もありました。ところが,ここでの議論は収益事業をやると受託者の解任とか,公益信託の終了とか,何か違った効果を伴う議論です。軽量・軽装備のためというには余りにも厳しすぎ,また議論の方向が違うのではと思います。例示の方はお金を取ることも可能のように書いてありますけれども,税法的には恐らくお金を取れば,例えば本の出版とか,有料のセミナーをやると収益事業になってしまうし,あと,第三者から業務委託を受ける,これも収益事業になってしまいますから,そういう観点から収益事業が必要不可欠に入らないとか,必要の方に入らないと言い切るのは議論にずれがあるように思います。   もちろん,営業的な意味での収益事業を念頭に置き今述べたような趣旨で書いたものではないようではあるので,表現ぶりと,あと,繰り返しになりますけれども,公益法人では単に課税されるだけであるところ,こちらは受託者の解任にもつながるわけで,例えば,子ども食堂でも大人から食事代を取っても別にそれは収益事業で全然構わなくて,材料費を引いて,もし,そこに収益が残れば課税されても構わないと思うんですけれども,より厳しい効果を伴う表現ぶりが,気になりましたので御検討お願いします。公益財団法人との間でできる範囲のメニューとしては同じとすべきで,その他の点において公益信託は軽量・軽装備であればいいと思います。 ○中田部会長 基準としては,9ページのゴシックで書かれたのが事務局の提案される基準でありまして,公益法人との関係については説明の中で触れているということですので,この基準と収益事業というのが当然に一致するわけではないのだろうと私は理解しております。 ○小幡委員 最初に認定のときに,こういう公益信託事務をやりますと言っておけばよろしいわけですね,それでオーケーであれば。つまり,例えば③の美術と無関係な書籍の出版と,無関係といっても来場者の皆さんが興味あるようなものを置くとか,そういうのはあると思うので,そういうこともやりますと。これは公益信託の目的の達成に必要な信託事務であるというオーケーがあれば,それで問題は起きないので。最初のところでどこまでこれが公益信託事務の範囲内でできるということになるかという,そういう範囲の問題ではないかと,そのような理解だったのですが。 ○吉谷委員 私どもは提案に賛成でありまして,私どもの理解としてはまず10ページの3の最終パラグラフで先ほどからお話が出ていた事業型の公益信託についても,公益法人の収益事業等に該当しない限度で許容するという一つメルクマールがあって,それについては13ページのオの真ん中辺りに書かれていますように,②か③の区別というのは個別具体的な事情に応じて認定行政庁が有識者委員会の意見を踏まえて判断すると,そこで,小幡委員が言われたとおりに,どういうことをやるのかというのを確認していくのだろうと理解して,それで,賛成ということでございます。   ただ,その上で若干のコメントを加えさせていただきますと,この事業の範囲について特に制限を課す必要は,公益の範囲においてはなかろうと考えておるわけですけれども,信託事務の裁量を大きくしすぎることによって,監督やガバナンスの強化が必要になるということは,軽量・軽装備ということの趣旨に反すると。軽量・軽装備というのは,会計面でも煩雑になったり,税制面でもそぐわなくなったり,監督面でも重装備になるということであると理解しておりますけれども,なので,信託事務の範囲が拡大されるからといって,受託者の裁量が極端に拡大することがいいのかというと,それは疑問なのです。特に事業型というのをやるということになりますと,認定段階で受託者の能力を勘案して,実現性の予測が可能な計画になるように,適切に事務の範囲であるとか,裁量の範囲であるとか,これを限定することで認定や監督のコストを下げるということ,そういうことに努めるということが必要なのではないかと思います。   そして,事業型という類型について更にコメントさせていただきますと,事業型の信託というのは私ども信託銀行でもさほど経験があるというような分野でなくて,一体,どういう実務が発生するのかということについては,まだ,これから検討しなければならないことだと考えております。部会資料は,非常にまとまった形の例を提供していただいておるわけなんですけれども,例えばもっと簡単な例というのがあると考えていまして,美術館の運営とありますけれども,著名な絵画をお持ちの方が信託をするのだと,それは例えば公益法人の美術館が受託者となって,公益信託やりますという申請をされると。当然に信託ですから,財産の分別管理はしますということが前提ですけれども,その上で,その次に受託者である美術館が行っているどういうことが信託事務処理で,どこからが受託者の固有の行動なのかということについては,はっきりと認定段階で分かれているべきであると思います。   もちろん,どの程度,具体的にというのはいろいろ程度もあるかもしれませんけれども,例えば美術館に美術品を提供すると。そうすると入場料がそれによって増えると。それは信託財産なんでしょうか。あるいは他の美術館へ美術品を貸し出すというときに,その賃貸料というのは信託財産となるのでしょうかとか,例えば信託財産と固有財産の間で美術品の賃借契約を結ぶのかとか,そういったことをみんな詰めて初めて事業というものが実現ができると考えております。ですので,公益事業を行うということと信託事務を行うということについて,よく自覚する必要があると。そうでないと,固有財産と信託財産が区別できなくなるというようなことも起こってくるわけですので,事業型を行う上では特にこういったことに留意する必要があると思いまして,こういう点は公益法人にない認定監督のポイントにもつながってくるだろうと考えるというわけです。 ○中田部会長 ほかによろしいでしょうか。なかなか,一つの基準で過不足なく示すというのは難しいことだなと改めて思っておりますが,頂きました御意見を踏まえまして,どういう形で基準を設けたらいいのかということを更に検討していきたいと存じます。   続きまして,公益信託の信託財産の範囲と運用について,2と3を合わせて御審議をお願いいたします。既に3についての御意見を頂いておりますが,それに加えていただくことでも結構ですし,新たなことでも結構でございます。 ○林幹事 2の財産の範囲については金銭に限定しないことで,弁護士会の中でも一致して賛成でございました。   問題は先ほど来ある運用ですが,運用というものをどう捉えて,ここの問題点をどう捉えるかについて,なかなか分かりにくいというところがあって,それは中辻幹事も先ほど言われたようなところに通じると思います。ただ,3で議論しているのは何かというと,恐らく信託行為の中で許されている運用のようなものは当然,許されるのだけれども,信託行為に明確には書かれていないけれども,それ以外の部分で運用的なことをやっていいのかというような論点のように理解したのですが,どうでしょうか。   助成型で金銭を受託されていて,それを管理として運用しているというような場合を,典型的に想定していると思われ,もちろん,その運用の仕方について信託行為に書かれる場合もあるのと思いますが,書かれないような場合においてどうしていいのかということを議論しているように思いました。ですから,信託行為に書かれている範囲のことは,当然公益目的なりによる限定がある前提で,許されると思われます。例えば株であったり,不動産の賃料収入から助成するというのは,当然,信託行為に書かれていれば許されていると。ただ,ここの論点はそうでないところにおいて,どういう運用をしていいのかというような論点のように考えたのです。その理解の下で,弁護士会なりの議論の結果としては,この二者択一だったら,甲案でなくて乙案の方が多かったというところです。   甲案の趣旨も,安定的にという趣旨も十分理解できたのですけれども,財産の管理というか,善管注意義務というような観点から考えたときに,甲案に限らずともよいのではないかと考えます。もちろん,リスクがある運用を無制限にやってよいということではなくて,しかるべき範囲の運用を行うのでしょうけれども,甲案のようなものに固定的ないし限定的に考えずとも,財産の管理方法として善管注意義務の範囲であればよいと考えます。例えば,全てにおいてリスクのある運用を行うのは妥当ではないのでしょうけれども,多少,それを一部には組み合わせるということもあってよいかもしれないし,むしろ,そういうことの方が現代的なようにも考えますので,乙案が妥当と議論しました。 ○樋口委員 先ほど15ページの3について,信託財産の運用について言いかけたことを申し上げます。今,林幹事がおっしゃったのは,多分,そういう趣旨ではなくて,私が答えるのはおかしいけれども,公益信託の信託の運用,甲案によれば強行規定として,この範囲に限るという趣旨にしか読めませんけれども,それで,16ページの一番上にリーガル・リスト方式と堂々と明示してあって,これは私もただ英米にかぶれているだけなので,本当にええっという感じです,これは。これは現在のプルーデント・インベスタールールに明らかに反していますから,もはや,これは違法行為です,アメリカでならですよ,もちろん。ただ,それこそ,林幹事がおっしゃったように,公益信託の委託者がこの公益信託については,こういう投資だけに限ることにしてくれというのなら,それはそれでしようがない。しかし,それもずっとこれでどんどん実質的にこのような運用では結果がマイナスみたいな話になっていったときに,おかしいではないかということを言わない受託者は,責任を問われるというようなものだと思います。   ここにGPIFの例がありますけれども,しようがないのではないんでしょうか。私はそれが本当に正しいのかどうか,よく分からないけれども,株式であれ,何であれ,結局,こういう形で,これだけが安定的な運用だよというのは幻想ですから,と言われているわけなので,プルーデント・インベスタールールがそのうち,ひっくり返る,トランプ政権でひっくり返るかもしれないので,何ごとも,そうしたら,樋口は先見の明が全くなくて,あのときの常識だけに捉われていたということになるかもしれないんですけれども,余計なことを申し上げました。そう言いながら,この21世紀に,すでに時代遅れとされているリーガル・リスト方式を堂々と採るというのは,何か本当に賛成できない。くどかったですね。すみません。 ○平川委員 私も樋口委員と同じような意見なんですけれども,乙案に賛成しまして,運用の対象財産の種類については特に法規制は設けず,公益信託内部のガバナンスにより運用方法につき,自己規制することとし,開示原則も徹底させ,第三者からの批判の目にさらすことにより,自己規制を徹底させることがプルーデントルールにも沿うものだと思い,乙案に賛成します。 ○道垣内委員 甲案,乙案のいずれに賛成するかという問題はおきまして,甲案について1点だけ伺いたいのです。合同運用信託の信託ということなんですが,当該合同運用信託はどのような方針で運用されていてもよろしいんですか。そうすると,合同運用信託を作れば実は自由のような感じがするのですが。これが第1点です。  第2点として,細かなことで恐縮ですが,ここにいう信託という言葉が動詞的に使われているのが気になります。「債券又は貸付信託の受益権の取得」という言葉と並べて,「合同運用信託の信託」としますと,後者の二つめの信託は前者の「取得」と並列になっており,動詞的な意味を持っていることになります。しかし,私は,信託法全体としては,「信託」という言葉は方向性のある,動作性のある名詞としては使われていないと思うのです。信託法11条1項・4項・5項,12条2項・4項,23条2項は,「信託をした」としていますね。これに対して,信託法152条5項・156条5項・160条5項は,「信託しなければならない」としており,これは動作性の名詞として「信託」という言葉を用いているのですが,会社法799条5項・810条5項などと併せたためであり,私は信託法の中では異質の用法となっていると思います。私は日本語として間違いだろうと思いますし,所得税法施行規則に併せなければいけないというのも分かるんですが,いかがなものかと思います。後半は何らかの参考にしていただければ結構なので,前半についてお答えいただければ幸いです。 ○中辻幹事 道垣内委員からの御質問ですが,税法の関係なので財務省の方に尋ねたいと思います。ただ,合同運用信託というのがこれに入っていることによって,預金又は貯金,国債とか地方債の運用という限定の意味がなくなってしまうことはないとは思います。 ○沖野幹事 確認を含めて何点か,申し上げたいと思うんですけれども,まず,先ほど来,問題となっております一つに運用という概念があり,1の事務の範囲との関係なんですけれども,次のような理解でよろしいかということです。ここの3の運用というのは,いわゆる投資運用,投資権限といった問題であって,そういう投資を行うかということ自体は事務の範囲の問題だけれども,必要以上の投資,財産の大半を美術館などに投資してしまうとか,そういうのであれば,そもそも,事務範囲としてどこまでできるのかという問題が出てくると。   投資については,次に林幹事がおっしゃったデフォルトルールなのかどうなのかということで,樋口委員が明確にされたことですけれども,16ページの解説などを見ますと,非常に限定されたリーガル・リストでいわゆるかつての安全方式を義務付けると書かれておりますので,信託行為でもっとリスキーな投資はできると書けばいいとか,そういうことではなくて,投資自体に対して公益信託であるからには,非常に安全な資産のみに運用しなければいけないと,そういう意味での中身であると。逆に,信託行為でよりもっと限るということは,目的に照らして適切かという問題はあるにせよ,そういったことはできるけれども,その意味で,信託行為に別段の定めがあれば,全く別であるということではないものだと理解しましたが,それでよろしいかということです。   それから,そういったものと考えた場合,運用という使い方なんですけれども,元々が所得税法の話ということで,2との関係ですと元々は金銭に限られて,その運用という問題設定になっているところ,財産はもっと広げていくということになると,信託財産の運用という言葉を使ってしまうと非常に混乱するので,むしろ,投資権限とか,そういう形にした方がよろしいのではないかということです。   投資権限と考えた場合ですけれども,樋口委員もおっしゃっていますけれども,リーガル・リスト方式でこういう中身が果たして現在,適切なのかというと合理的な投資の在り方に従ってということで十分ではないか,そういう意味では乙案でよろしいのではないかと思っておりますが,仮に甲案だと考えた場合に気になる点ですけれども,一つは貸付信託の受益権の取得とありますけれども,貸付信託は現在,募集を停止しているというものですので,かつては預金並びの安定性があり,元本補填があったということですけれども,これから書くのに貸付信託の取得でいいのだろうかというのが気になります。   それから,もう一つ,道垣内委員から御質問のあった合同運用信託の信託ということで,私もなぜ合同運用信託なのかが分からなかったんですが,金銭信託の分類を信託協会などが発行されているものによりますと,合同運用信託については元本補填特約があると,ほかの金銭信託についてはないというような区別がされているようでして,あるいはそういうところがここに出ている理由なのかなと憶測してまいりました。ただ,いずれにせよ,このままでは余りに今から書くにはどうなのかという感じがしております。 ○小野委員 今回の説明にも信託業法との関係で留意する必要があると記載されていますし,第一読会でも発言したかと思うんですが,金商法にも運用というのが出てきますので,運用という言葉そのもの,また,今まで金商法とか信託業法で議論している運用となるのではないかとの疑問が出ないように,林幹事やほかの委員の方もおっしゃったように信託契約に基づいてお金は使うのである,信託契約上ペティキャッシュはいいけれども,ある一定の金額は銀行預金にしなさいといえば,そのとおりするし,あと,次の不動産を買う場合,また,子ども食堂を運用する場合の運用資金として当面の間は銀行に置いて,そのほかはこうやって使いなさいといえば使うという,単に信託契約に従った信託目的に沿った形での資金の使用であって運用ではないことを明らかにしていただければと思います。それを人から預かったお金で運用ですといった途端に違った世界に入っていくことになります。自ら運用ですといって,これは金商法の運用ではありませんとか,業法上の運用ではありませんというわけにはいかないので,そこは概念上も截然と区別しないといけないと思います。   とはいっても,ある一定の金額を助成型で預かるような信託の場合にどうするんだという議論はあるかもしれませんけれども,それも信託契約に書けばいいかもしれませんし,財産の管理の仕方として預金に置けというのであれば預金に置けばいいのであって,いわゆる他人財産を扱って,それを何らかの形でまた運用という言葉を使ってしまいますけれども,そんな形で資金を増やすというような観点であると,業法,金商法の議論が出てきてしまいます。繰り返しになりますけれども,信託契約に沿って資金は利用するということで完結するのではないかと。そういう意味において乙案ですけれども,甲案については,預金に置くのは構わないので,それを運用と呼ぶこと自体が極めて違った規制に,違った法律に引きずり込まれていくのではないかと思います。 ○中田部会長 今の御発言の御趣旨を確認したいんですけれども,結論としては何らの規律も置くべきではないということでしょうか。 ○小野委員 規律を設けないというか,信託契約の中に,公益認定するときにその資金をどうやって管理するのかというところで,恐らく多額の資金をもしある受託者が預けられることになれば,そういう形でチェックしていく,通常であれば手元に置かずに預金に置くとか,又は投資型の預金ではなくて普通預金又は定期預金にしろとか,そういう形で,その信託行為に従った形での行動をするということになるのではないかと思います。だから,規律を設けないで自由に管理していいということにはならないと思います。しっかりと信託契約に書きましょうということで,野放図にしてほしいという意味での乙ではありません。 ○吉谷委員 まず,2番の「公益信託の信託財産の範囲」につきましては提案に賛成でございます。事業を公益信託でやるということを前提にしますと,金銭に限定されないのだろうということかと思います。ただ,財産の範囲を広げるということは,逆に言えば,その財産を管理する能力が必要で,財産を管理にするに当たって法定の条件とかを満たさなくてはならないということになりますので,そういうことについての認定実務についての手間も増えるということになるかと思いますので,そういうところの軽量・軽装備化というのは一つの課題かなと考えております。   その上で,信託財産の運用の3番との関係でいきますと,趣旨としてはどちらかといえば甲案なのではないかと考えておるんですけれども,その前提として,ここで書かれている意味について確認をさせていただきながら意見を述べたいと考えております。というのは,3番の甲案というのは,書いているところを素直に読みますと記載の財産の取得であると書いておりますので,これは元々金銭であるもの,金銭を元にして何を買っていいのか,何で運用していいのかという趣旨であると思います。そういう意味での売買を含む運用であるとすると,まず,リスクのある運用資産に投資する場合には専門的な知識も必要となってきますので,リスクの限定をする趣旨からすると,甲案の方が簡便ではないかと考えます。   先ほどの公益事業に必要かどうかというとの関連でいいますと,認定段階で金銭であるものを甲案の範囲内で運用するということは必要と認定しやすいと思われますし,それ以外のもので運用するということになりますと,その必要性についての議論が出てくるということになりますので,乙案の場合には認定実務にも影響が出てくるのではないかなと,軽量・軽装備との関係でいかがなものかというところもあるというわけです。甲案の理解としましては,記載の合同運用信託などというのは恐らく元本の補填契約のある,あるいは元本の確定した商品のことを指しているのだろうと理解した上で,甲案でしょうと考えておるところです。   その上で疑問なところがありまして,2番の「公益信託の信託財産の範囲」との関係でいいますと,例えば従前から当初信託財産が不動産でした,あるいは有価証券でありましたというときに,それを計画的に売却して例えば助成型の奨学金などに充てていくということは,許されてしかるべきであろうと考えておりまして,そういう売却行為というのも一般用語では運用ということもあるかと思うんですけれども,3番の甲案で限定しているのは飽くまで金銭をこれらの商品にするということで,当初信託財産を売却するというものについては2番で認めるのであれば,甲案は否定しているわけではないということでよろしいでしょうかということを確認したいと思っていまして,そのとおりであれば甲案賛成でございます。   もう一つの問題は,当初信託財産で不動産であるとか有価証券,例えば株式を受託しますと。不動産の場合ですと先ほどの留学生の寮に使うというようなものではなくて,普通に賃貸をしている投資物件であるというような場合には,これを保有し続けることは1番の収益事業の方に入ってくるのでできないので,計画的に売却しなければならないのだろうと思います。そういうふうな分類になるということでよろしいでしょうかというのが次の質問でありまして,更に株式の場合ですと株式をずっと保有し続けて配当で助成をするというようなパターンであれば,収益事業というには区分にも当たらず,3の甲案で否定されるわけでもないと考えておりますが,それでよろしいでしょうかということで,ただ,更にいろいろな財産が考えられて,2の場合ですと知的財産とかいうようなものも入ってくるので,これらのものについてもそれぞれ収益事業に該当するのかどうかというようなことで1個1個,個別に検討されていくことになるのだろうなとは思いました。 ○中辻幹事 御質問を何点か頂きましたのでお答えいたします。   まず,1点目,甲案における「運用」という言葉の意味ですけれども,事務局としましては,委託者から拠出された当初信託財産を用いて,受託者が新たに購入する信託財産の範囲を制限するものと考えておりまして,吉谷委員の御理解と共通していると感じました。   2点目,当初信託財産を受託者が売却して金銭化することは妨げられないと考えております。「2 公益信託の信託財産の範囲」という論点で,税法上のみなし譲渡課税等の問題は別として,当初信託財産は金銭以外に不動産や株式も許容すべきであるという提案をしておりますが,そこでは,受託者がそれを委託者から受け取った段階で売却することも想定していますので,「3 公益信託の信託財産の運用」における甲案というのは,ここで列挙された以外の財産を受託者は売却できないという趣旨ではないということになります。   3点目,当初信託財産として投資用不動産が委託者から受託者に拠出された場合に,それを保有して受託者が行う信託事務というのは,今の事務局の整理ですと,それが公益法人における収益事業等に該当するものであるならば,「3 公益信託の信託財産の運用」における甲案でも乙案でも,これは公益信託事務の範囲を逸脱するものであり許容されないということになります。吉谷委員は,仮に投資用不動産というのが当初信託財産とされた場合には,それを受託者がずっと持っていることは駄目なのだけれども,計画的に売却することは例外的に認められるべきであるという御意見であると理解しました。これについては,他の委員幹事には別のお考えがあるかもしれませんので,御意見があれば伺いたいと思います。   それから,当初信託財産が株式である場合において,個別の事案に応じて株式を受託者が保有し続けることが認められる場合はあり得るように思います。   最後にしますけれども,沖野幹事から先ほど御質問がございましたので,併せてお答えいたします。   まず,例えば美術館を運営するのに多くの株式を委託者から受託者が信託財産としてもらった場合に,受託者が株式を売り買いしてお金もうけばかりやっていると,美術館の運営は全然やらないと,そんなのはとんでもない話で,公益信託事務の範囲を逸脱する行為であると考えています。   また,甲案はデフォルトルールか,強行法規かという点については,樋口委員及び沖野幹事の御理解のように,事務局としては,甲案はこれよりも積極的な運用を禁止する強行法規として考えております。逆に乙案,これはプルーデント・インベスタールールを意識しているものですけれども,乙案を採った場合に受託者はどのような運用も許容されるのかといえば,そうではなく,部会資料の16ページにも書きましたが,信託行為に信託財産の運用方法についての定めがあれば,その範囲で受託者が運用するべきことは当然であると考えます。 ○吉谷委員 理解が深まりましたので,改めまして投資用不動産については計画的に当初信託財産であったものを売却すると。売却するまでの間はどうしても賃料とかが入ってきてしまうと。そこについてまでは収益事業で必要のないものだとされるのは,よろしくないのではないかと思っているということで,従来から申し上げておるんですが,改めて申し上げたいと思います。そういうところを法律に書き込むのはなかなか難しいような気もするんですけれども,何とかお願いしたいなと思うところです。   もう1点です。運用の乙案につきましては,私ども自身は運用を専門とする受託者でございます。ですが,受託者一般について幅広い運用ができるということ,リスク商品に対する投資を認めるということであれば,公益認定の審査において受託者又は運用委託先というものの運用能力であるとか,信託財産が運用報酬を負担してまでリスク資産で運用を行うことの妥当性であるとか,信託目的を踏まえた運用計画になっているかというようなことを個別具体的に認定あるいは事後の監督の段階で,チェックした方がよろしいのではないでしょうかと思う次第です。 ○中田部会長 ほかにございますでしょうか。 ○平川委員 今の御意見とも関連するんですけれども,先ほど2について意見を申しませんでしたので付け加えさせていただきます。2につきましては賛成いたします。より多様な民間による公益実現の制度の受皿の一つとして,公益信託がこれを担うべきという考え方から,当初の信託財産を金銭に限るべき理由はないと思います。しかし,受託者責任を果たすために金銭以外の信託財産につき,第三者に信託事務の委託が必要になってくる場面が考えられ,これは今の御意見の運用についても同じだと思うんですけれども,そういう運用や受託した信託財産を第三者に委託するという場合,委託先についての資質や受託者との利益相反関係にないものというような要件を定める必要があると思います。 ○神作幹事 15ページの3,信託財産の運用について申し上げます。信託財産の運用は,私の理解ではそれ自体が公益信託の目的になるということはあり得ないのではないかと思います。飽くまでも公益信託の目的というのは別にあって,運用というのは,言わばそれを実現するための手段であるという位置付けだと思います。信託事務の中にはいろいろなものが含まれており,グラデーションがあると思いますけれども,信託財産の運用は多くの公益信託においてきわめて重要であるけれども,それぞれの公益目的を実現するための手段という位置付けなのだと思います。   信託財産の運用をそのように理解しますと,例えば甲案を採りますと,樋口委員が言われたことかと思いますけれども,どのような目的の公益信託にとっても甲案のような運用をすることが適切であるということで相当程度の蓋然性をもって言えないとリーガル・リスト方式というのは説得力をもつことはできないのではないかという気がいたします。   もし,そうだとすると甲案は採用することはできず,恐らく信託財産の運用というのは先ほど申しましたように,結局,公益目的という目的の下にそれを達成するための手段的な位置付けになりますから,運用は飽くまでも公益目的に従って適切に行わなければならず,かつ,公益目的に従って運用方針等についても様々なバリエーションがあるという話になるのであって,むしろ,もし議論するならば,運用について何か特別のルールを設ける必要があるかが重要な論点になり得ると思います。マイナス金利のことを考えると,非常に難しいルール作りになるとは思いますけれども,分散投資等も含めて,むしろ,権限の問題というよりも,受託者が信託財産を運用する場合に,一般的にどのような義務が生じるのかというのが中心的な問題である気がいたします。したがって,私も15ページの3の乙案に賛成いたします。 ○中田部会長 第一読会で運用という言葉が説明の中に出てきて,議論がいろいろ出ましたので,今回,外に出して御議論いただきました結果,問題点がよりはっきりしてきたのだと思います。1の「公益信託事務の範囲」というレベルで規律すれば足りるのか,それとも,それに加えて特有のルールを求めるべきなのかどうかというような御議論の分かれ目があったと思います。仮に何らかのルールを置くとして,それをどのようなレベルで,どのような形で置くのが必要か,あるいは不要かと,こんなところがあったかと思います。今日,頂いた御議論を踏まえて更に検討するということにしたいと存じます。よろしいでしょうか。   それでは,時間が遅くなりましたけれども,この辺りで休憩を致します。15分後の4時10分に再開いたします。           (休     憩) ○中田部会長 それでは,再開します。   部会資料38の第3の「4 公益信託の受託者の資格」について御意見をお願いいたします。 ○林幹事 弁護士として,弁護士会の議論でもそうですが,ここでは結論としては乙案です。この点,本日,机上配布で日弁連の意見書を配布していただきましたので,それも御紹介しつつ意見を申し上げたいと思います。   それで,前提として意見書のポイントだけ申し上げたいのですが,意見としては,①自然人に受託者を拡大すべきである,②その中でも弁護士に拡大すべきという点と,③その際には信託業法に抵触しないように規律するべきだというのが結論です。  その理由につきましては,自然人に拡大すべきというところについては,軽量・軽装備の公益信託で小規模な信託財産も想定すると,自然人をあえて排除する必要もないというところで,ここは補足説明にも御紹介いただいたところと同じです。   次に,公益信託の受託者業務を考えますと,財産管理業務が含まれるところであり,その点はそれを行っている専門職があります。そういう点で弁護士を見てみますと,破産管財人や財産管理業務を行っていますし,弁護士の周辺には公益活動に関わる部分もあって公益信託にも親和性があるので,自然人に拡大するときには弁護士が受託者になるようにすべきだとしています。それから,その際の公益信託のニーズや,事業に関しましては意見書の3ページの3の辺りに書いてありまして,弁護士の中からアンケートで募ったりされたもので考えられる業務の具体例が書れています。   最後の4は業法に関してで,いずれにせよ,自然人なり,法人においてもですが,受託者の資格を拡大していくときには,業法との抵触の問題をクリアにしないといけません。そこについては,業法と抵触しない形で,適正に報酬を得つつ,反復継続して受託者業務を行えるような手当をすべきだという意見です。ここでは,信託業法を改正するという方法もありますが,立法の仕方には他の選択肢も考えられるように思いますので,そういう意味も込めて抵触しないことを明確にすべきだというふうな意見で書かれております。   それを踏まえまして,先ほど申し上げましたように乙案で,法人だけではなくて自然人も公益信託の受託者となれるようにすべきだという意見です。自然人につきましては,補足説明の中にも死亡等の場合の問題があるのではないかとの指摘がありましたが,この意見書にも書かれていて,また従前来申し上げているとおり,信託行為の当初から,第2,第3の受託者を想定しておく方法もありますし,もちろん信託法上は裁判所に新たな受託者を選任してもらう方法もありますので,その点は必ずしも自然人を否定すべき理由にはならないと考えます。   それから,(注1)に書かれてある点ですが,積極的要件というのは,それはそれとして理解できるのですが,消極的要件については,これはある種の叩き台であってもっと議論すべきだと思いました。特に一定の純資産を有する,有しないということがある種の消極要件になると,自然人が受託者になることに対してはハードルになりますし,法人においても信託会社ではない公益法人等の法人を考えたとき,こういうような純資産額等の要件があるとハードルが高くなると思います。特に目的信託の受託者となる法人にかかる附則3項等による制限と同様のものをスライドして持ってくるとなると,なお,「受託者の範囲を広げ,それによって公益信託をより使いやすくする」という,ここでの議論の趣旨にも反してしまうと思いますので,適正な要件を,消極要件も含め,検討すべきだと思います。 ○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。弁護士の委員の方でもし補足などがございましたら,併せてお出しいただければと思いますが,今の段階ではよろしいでしょうか。それでは,平川委員。平川委員も弁護士でいらっしゃいますね。大変失礼いたしました。 ○平川委員 私は,今日は公益法人協会の監事という立場で甲案に賛成しております。この場合,受託者の資格については,甲案による場合でも積極要件と消極要件を具体的に定め,要件が万人に明確になるようにすべきであると考えます。乙案ですけれども,自然人の場合には継続性において問題があると考えますが,例えば弁護士法人であれば法人であるから,甲案を採っても問題はないということになります。   乙案で自然人を可とするという場合には,受託者が自然人である場合には法人の意思決定や執行方法のように,少なくとも3名で,複数名で構成される受託者会が組成されて,受託者会が信託事務を行わなければならないというようにすれば可能性があると思います。米国では,このような複数個人によるトラスティボードによる意思決定により,信託事務が執行されているという例が多数あると理解しておりますし,日本が公益法人とか,公益について模範としていると考えられるイギリスの制度で,政府の機関であるチャリティコミッションが出しているモデルトラストディードにおきましても,受託者は少なくとも3名要るということが推奨されておりますし,信託財産の受領については2名が必要であるというようなモデルトラスト証書,信託証書が出されて,ここが認定しているということなので,そういう実務というのは一つ考えられるかもしれません。 ○島村幹事 弁護士会からの御指摘は,信託業法との関係についても御議論いただいております。また,平川委員からも甲案についての御意見を頂きまして,これを踏まえまして,御説明させていただいてよろしいでしょうか。   事務局の方からも御丁寧に資料で御説明いただいておりますとおり,信託業法につきましては18ページにございますような様々な規制を設けさせていただいております。また,この部会は信託業法の改正を議論する場ではないということは理解しておりますので,その前提で御説明させていただきますと,信託業法は信託の委託者及び受託者の保護を図るために,様々な規制を導入しておりまして,ガバナンスについても様々な有識者の御指導も頂いて作っております。特に参入規制,正に主体がどういう人であるのか,若しくは法人規制だとか,そういったものや行為規制,信託業務の委託の在り方だとか,あとは監督規制等を講じておりまして,営業目的で事業をされるのであれば,公益信託の受託者についてもこうした信託業法の対象とするような必要性は,変わらないのではないかというのは認識しております。   また,公益信託はそもそも営業目的の制度ではないということも,御説明いただいているとおりでございますので,営業概念を前提としたような信託業法の特例を措置する必要性はなかなか難しいのではないかというようなこともありまして,現時点では信託業法に特例を置くことは,考えていないというのが現状でございます。また,弁護士会からも御指摘いただいておりますとおり,現行の法制度でも信託法上の制約が乏しいということもあって,公益信託の引受け等を弁護士も含む個人の方々がなさることも,基本的には法制的に可能であると認識しております。また,運用上,いろいろ制約があるということも存じ上げておりますが,これはまた,別途の議論かなと認識しております。   こうした中で,どのような受託者が適切かというのは,いろいろ,御議論があるとは思いますけれども,信託業法のガバナンスの観点からいうと,どうしても法人である方が比較的,受け入れやすいのかなというのはございますので,比較的,甲案の方が望ましいのかなとは思っておりますけれども,いずれにいたしましても信託業法のガバナンスは,引き続きある程度,維持させていただくというのは前提としてお考えいただけますよう,よろしくお願いいたします。 ○小野委員 今の島村幹事の御発言を前向きに捉えますと,信託業法の守備範囲に入る信託会社,また,信託業法が多く準用されている信託銀行に関しては,引き続き信託業法,また,兼営法上のガバナンスに従うけれども,それ以外のところについて弁護士会としては自然人たる弁護士ということを申し上げましたし,場合によっては弁護士法人かもしれませんし,場合によっては社会福祉法人かもしれませんけれども,それ以外の法人に関しては,公益信託法の中でガバナンス規定をしっかり整えてもらうことによって,元々,公益目的の信託であり,営業目的はないので,本来,そういう法人にしろ,自然人にしろ,対象外になると。ただ,しっかりとしたガバナンスを持ってほしいと,こういう理解をいたしましたがよろしいでしょうか。   ネガティブに議論すると,本来,一般財団法人,また,公益法人と少なくとも同等,より軽装備と言っているにもかかわらず,信託業法上はより重装備になるということになってしまって議論自体が逆転するということもあるので,その辺は確約していただく必要はありませんけれども,前向きに理解した方の議論だと理解させていただきたいと思います。 ○島村幹事 前向きか,後ろ向きかというのはいろいろ考え方があると思いますけれども,営業目的での信託の引受けにつきましては,基本的には信託業法のガバナンスが掛かるということを引き続き申し上げたいということです。営業目的以外の信託業の射程を超えた範囲での信託の引受けというのは,当然,公益信託の中であり得るし,現在も社会福祉法人だとか個人とかでなさっていると思っております。そういったもののガバナンスの在り方というのは,別途,ここで議論していただいて,その射程で対応していただくということかなと認識しております。そこについては信託業法の射程からは外れておりますので,何らいいとか,悪いとかいうのはなかなか申し上げにくいと思います。 ○小野委員 一般に営業目的を商法的な概念に置き換えて,収支相償性と反復継続性と考える議論もありますけれども,ただ,今の島村幹事のお話を前向きに考えると,そう考えるのではなくて,いわゆる信託会社とか信託銀行が営業信託として公益信託の受託者となる場合は信託業法,兼営法の当然対象となり,公益信託の受託については,必ずしも収支相償性と反復継続性では捉えていない。だから,社会福祉法人でも自然人でも可能であると,そういう理解で捉えました。 ○島村幹事 個々の信託の引受けについて,そこは判断することになりますので,個別具体的に当てはめたときに,公益法人の受託者が収支相償性なり,反復継続性のあるような信託を引受けをされるということになると,当然のことながら信託業法の適用があり得るという認識です。そこの運用は個別具体的な話ですので,どれが具体的に当てはまるかというのはなかなか判断することは難しく,現在もそのための明確化を図るために,運用基準等をお作りになっていると認識しておりますので,その議論の中で具体的にどういうものが望ましいかというある程度の実務上の対応も含めて,そこは検討する余地があるのかもしれないなとは思います。 ○小野委員 信託業法の質問で,事業型の信託というのは運用業でも管理業でも当てはまらないし,また,一部,重複しているところがあっても形態として違うものになるかと思うんですけれども,先ほど信託業法の改正は考えていらっしゃらないという発言がありましたが,事業型についてはどうでしょうか。 ○島村幹事 事業型であっても助成型であっても,信託業法の引受けというのは,報酬と費用の収支相償性を基本的に見ておりますので,受託者の報酬がどのようなものであるのか,それが費用と照らしたときにどのような収支相償性があるのかというのを,事業型であっても報酬については信託契約なり,信託行為で規定していくことになると思うので,そこで個別具体的に判断していくことになるのかなと思います。 ○道垣内委員 嫌われるために発言する必要もないのですが,どうすれば,島村幹事のおっしゃっていることを前向きに捉えられるのかというのが,私にはよく分からなかったというのが第1点と,第2点は乙案というのにすることに私はそれほど異存はないのですが,弁護士を特別扱いすることには断固反対します。 ○平川委員 島村幹事に質問なんですけれども,信託業法の業に当たるかどうかというのは,公益信託が事業型だとか,営利目的が含まれているかとかということで判断されるのではなく,例えば弁護士が反復継続して報酬をもらう,それが業には当たらないという,公益信託であれば何度も例えば最近,弁護士はこういうのを募集しますみたいにして,1,000個ぐらい公益信託を受託して,報酬をどんどん取るというようなことがあっても大丈夫なんですか。 ○島村幹事 大丈夫かどうかというのは,最後は個別具体的な判断ですが,発言してもよろしいですか。 ○平川委員 つまり,信託の性格で判断されるのか,報酬を反復継続的に取るということが信託業法の業務に当たるのかという,どちらの性格で決まるんでしょうか。 ○島村幹事 おっしゃるとおりで,事務局から頂いております資料の18ページの一番下のところに書いてありますとおり,信託業は信託の引受けを行う営業と定義されておりまして,営業には営利の目的をもって反復継続をすると。それが両方,該当してしまうと信託業になりますと。そのうちの一つが営利の目的というところであって,営利目的のところは反復継続して行われる行為の全体について存在すればよくて,個々の行為について存在することは必要ではないということで,その内容が少なくとも収支相償うことを予定されているということと考えていますので,個別の信託の引受人が受託する行為全体を捉えたときに,そこが少なくとも収支相償う目的で報酬が支払われるというようなことになっていると,信託業法の信託業の引受けに該当し得ると。その水準や内容については,個別具体的に判断することになりますので,今,一律にこれは該当します,これは該当しませんというのは,申し上げにくいと,そういったような状況でございます。 ○中田部会長 島村幹事には御質問が続いておりますけれども,まず,法律を変えることは,今,当面,考えていらっしゃらないと。 ○島村幹事 現時点では何も申し上げられません。 ○中田部会長 その法律の解釈については18ページの下の方に出ているような一般的な解釈があって,これもこのように理解しておられ,具体的な当てはめの問題は個別的に考えていくと,こういうことでございますね。 ○島村幹事 おっしゃるとおりでございます。 ○中田部会長 ということですので,一応,それを前提に今の段階では御議論いただければと存じます。ほかにいかがでしょうか。 ○吉谷委員 「公益信託の受託者の資格」につきましては甲案に賛成いたします。更に資格の適切性の判断におきまして考慮すべき点としましては,先ほど美術品の信託の例を挙げさせていただいておりますけれども,一つには公益に担い手として能力というのと,もう一つには信託財産の管理を行う能力,信託事務処理として行う能力,この両面を充足するものであるべきであると考えております。   そのような条件を満たすというものが一定の法人という形に限られることになっても,認定をある程度,形式的に行うためにはやむを得ないのではないかなとも考えているところであります。仮に例えば公益法人であることとか,信託業の免許や認可があることというような形式的な能力を判断する基準を採用しないんだということであれば,受託者を選別する基準としては(注1)に書かれております①の積極要件,これが極めて重要であると思います。そういう意味で,先ほどの二つの能力を十分に審査すべきであると思います。   自然人につきましては,信託事務の適正な遂行につきまして,例えば自然人が一人の場合であると,受託者内部の牽制,役割分担が機能しないと思いますし,そのような体制で公益信託の受託者となれるかということについては懸念があります。一定の組織性というものがないと,適正な運営というのは担保されないのではないかなと考えます。そうすると,自然人,受託者を念頭に置いて公益信託法の中のガバナンスの規律でその懸念をカバーしようとすると,規律が重装備になって認定審査の段階,監督の段階で軽量・軽装備ということが実現できるのかという点について疑問があるところでございます。認定手続におきましても,自然人について形式的な基準を導入するということは,自然人の能力や適正が千差万別であることを考えますと疑問があると。実質的な評価をしようとすると,適切に判断できるかどうかということにも疑問があると思います。   あと,若干,補足説明の4のところで,信託事務の委託についても言及されているんですが,これは自然人に限ったことではないのかもしれないんですけれども,公益事業や財産管理というものを委託するような場合には,そもそも,受託者としての適正があると判断できるのかは疑問ですが,仮にそれを認めるのであれば,信託事務の委託を行うことを前提に委託先を含めた信託事務の執行体制というのを審査する必要があるし,報酬についても例えば受託者の見掛けの信託報酬が低くても,実質的な信託事務をする委託先が委託報酬の形で多額の報酬を収受するということがあってはおかしいということになりますので,そういった点も含めた審査が必要になってくるのだろうと思います。   あと,消極要件についてどのような資格を要求するかについては,別途,検討するということでなっておりますけれども,33回の資料では欠格事由の例として,その事業を行うに当たり,法令上,必要とされる行政機関の許認可等を受けることができない者が受託者であることというのが挙げられているわけです。先ほどから信託業の話が出るわけですけれども,営業として公益信託を行うことを前提として,受託者になる候補の方が申請されたということになると,信託業の免許がなければ欠格事由になるということになってしまいますので,すると,公益認定で信託業法に反していないかどうかということも事実上,審査されるということになるのかもしれないなと思っております。   そういう意味でも,法人の範囲についてある程度,形式的な基準で限定した方が恐らく審査がやりやすいのではないかなと考えております。具体的には株式会社で信託免許のない者が受託者となる場合には,先ほどの御説明のとおり,信託業に該当するかどうかについての個別の判断というのが必要になってくるというわけでありまして,やや大変かなというところは懸念するところです。 ○中田部会長 ほかにございますでしょうか。 ○新井委員 私は甲案に賛成します。私なりに信託の歴史を勉強してみると,受託者というのは当初,自然人であったのが徐々に法人に移行するという大きな流れがあったと思います。その理由は,信託事務というのが専門化し,高度化し,そして,非常に大きなリスクもはらむということだろうと思っています。それで,ここでは公益信託の受託者の議論をしているので,民事信託であれば,あるいは話は別かもしれませんけれども,公益信託というのは信託の大きな流れに沿って法人受託者でいいのではないかと思います。   その上で,林幹事の弁護士会の説明について質問させていただきたい。発言順が決まっていますので,そこでまとめていただければ結構だと思います。   まず,一つは能力担保というのはどうされるんでしょうか。自然人も受託者になれるということですけれども,能力担保,例えば弁護士に限定した場合,例えば認定弁護士などということを考えるのでしょうか,それとも,そういうことなしに弁護士であれば,全てこの能力は担保されていると考えるのかどうか。それと,弁護士ということだけだとすると議論はフェアではなくて,ほかにも財産管理を担っている専門職があるわけです。そういうところの関係をどう考えておられるのか。これが第1点目です。   2点目に,ここでは公益信託の受託者の議論をしているので,おっしゃっている議論は公益信託に限定して受託者は弁護士でもいいとお考えなのか,それとも,あらゆる種類の信託に弁護士がなれるということをおっしゃっているのかというのが2番目の質問です。   そして,3番目の質問は,丙案の可能性はないのでしょうか。丙案であれば,ある程度,弁護士会の主張も入れながら能力担保の問題とか,いろいろなリスクへの対応ということもできると思うんですが,それが3番目の質問です。 ○中田部会長 林幹事が先の方がよろしいですか。 ○林幹事 新井委員がおっしゃられた御質問のようなことを私も発言しようと思っていたところでもありますので,機会を頂きありがとうございます。   先ほどの御質問のうち,例えば弁護士以外の専門職のことはどうかとの点は,私の理解でもそうですが,この意見書としては基本的には受託者を自然人に拡大すべきだとしているところです。その中で我々も弁護士なので,弁護士のことしか言えないということの範囲において,弁護士会が出す意見書なので,弁護士が受託者になれるようにすべきとなっているというところです。それ以外の専門職を否定している意見書とは私は考えていません。ですから,同じようにふさわしいほかの専門職にも道は開かれるべきだと思います。   それから,公益信託以外の民事信託についてはどうかという御質問かと思いますが,それについては私個人としては非常に問題だと思いますが,少なくとも,今,ここでは公益信託の議論をしているので,意見書では公益信託について絞って議論されていると理解しています。個人的には更に民事信託にも広がればいいとは思いますが,今の時点では公益信託に関する意見というところです。   丙案についてですが,一つの形として,それがあってもいいということは全く否定していませんので,そういうものも当然あっていいと思いますが,意見としてどう在るべきかとなると,自然人が単独で受託者となれるようにすべきだと考えるので,意見書においてもそうなっていると理解していますし,私個人の意見もそうです。そういう意味において,共同受託も全く否定しているつもりはありません。 ○新井委員 能力担保の点はいかがですか。 ○林幹事 失礼しました。能力担保につきましては,従前来から申し上げていて,弁護士であれば誰でも信託事務に精通しているというわけでもなく,誰でもいいというものでは事実上ないという点は,私の理解もそうですし,ほかの弁護士の委員の方も同じ認識だと思いますけれども,意見書の中でも研修等を通じてしかるべく能力のある弁護士を供給できるという趣旨で記載されておりますので,そういう点の問題意識ももちろんある前提での意見書となっていると理解しています。 ○深山委員 多少,重複するかもしれませんが,まず,ここの議論については,私は一貫して自然人を当然に排除する必要もないし,そうすべきでもないということを申し上げてきました。この提案の中では乙案ということになります。逆に自然人を含めるべきではないという甲案の考え方が,なにゆえに自然人を排除するというか,不適切だと考えるのか,そこは私は一貫して納得がいっていません。補足説明の中にも幾つかその点について言及があって,自然人は死亡するとか,病気等で能力が減退するというようなことが書かれています。   しかし,法人は死亡ということはないにしても,経済的に破綻することもあれば,内部的に紛争が生じることもあるし,そういう意味では,自然人と法人をそこで敢然と区別するほどの理由にはならない。極端に言えば,信託銀行はともかくとして,法人一般でいえば破産することもあるわけで,法人格を失うこともある。そういう意味では死亡に匹敵する場合だってあるわけです。あるいはこの場ではない議論ですけれども,例えば自然人の財産管理において不祥事があるということが指摘されることもありますけれども,法人だって不祥事はあるわけです。ですから,そういうことで当然に自然人を排除する理由はないだろうと思います。   あるいは,法人と違って内部ガバナンスがないというような指摘が補足説明にもあります。確かに内部ガバナンスはないかもしれませんけれども,だからこそ,今回,信託管理人を必置の機関として信託の内部ガバナンスを作ろうとしていますし,更に外部のガバナンスも置こうとしている。そういう意味でいうと,公益信託全体の仕組みの中で,受託者を管理・監督するというガバナンスの機能を備えた制度を作ろうとしているわけですから,そこが決定的な違いになるとも思えない。   個々の公益信託によって,いろいろな信託財産のメニューも増えますし,業務も助成だけではなくていろいろ増えるわけです。そうなったときに,つまり,いろいろな信託が想定され,それにふさわしい受託者かどうかといったときに,必ずしもそれが法人でなければならないということではなくて,法人でなければならないような信託は法人が受託者になればいいわけですが,むしろ,自然人のほうがふさわしい場合,あるいは自然人でも何ら問題のない信託というのも十分想定し得る。美術館一つをとってみても,少なくとも今の信託銀行が受託者としてふさわしいとは思えませんし,信託銀行もそう思っていないと思います。一定の知識,経験のある人が当該信託に即した受託者としてふさわしいという場面は幾らでも想定できますので,メニューとして最初から自然人を資格から外すというのは,むしろ,公益信託の利用場面を狭めるということにしかならないだろうと思います。そういう意味で,最初から自然人を排除するというのは反対です。   あと,自然人なら誰でもいいのかというのは,これはまた別の議論で,弁護士に限る必要は全くないと思います。結局は個別に判断して,弁護士であるかどうかも一つの判断要素でしょうけれども,弁護士といってもいろいろな知識,経験は違いますから,ケース・バイ・ケースで認定段階で判断していくし,もちろん,弁護士でなくても別の資格でもいいし,あるいは別に国家資格に限らず,何らかの当該公益信託にふさわしい知見を有している人であればいいのだろうと思います。ですから,そこは個別の話として考えていくということで,少なくとも形式的に自然人を外さないということを申し上げたいと思います。   最後に1点,業法との関係は,後の論点で,受託者の報酬について高額にならない範囲で認めてはどうかという趣旨の提案がありますけれども,どうも先ほど来の議論を聞いていると,受託者が報酬をもらった瞬間に,それは営利だと判断されそうな気がして,それは違うだろうと思います。営利を目的としている信託の引受けというのと公益信託というのは,世界が違うのだろうと思います。   前半の議論で,一定の収益活動も視野に入れてということはありましたけれども,それはあくまで手段として収益活動をすることはあったとしても,目的は公益目的ですから,そういう公益を目的としている公益信託というのと,営利を目的としている信託業法が規制の射程にしている部分というのは場面が違うんだと私は思います。そういう意味で,私は手当をしなくても業法の適用はないと解釈すべきだと思いますけれども,そこは議論があり得るので明記した方がいいというのは,弁護士会の意見のとおりです。いずれにしろ,結果として特定の監督下にある法人だけが公益信託を担えるというような制度になるということは,非常に問題だと思います。 ○中田部会長 弁護士会の御意見については,意見書を敷衍する形で,林幹事,深山委員あるいは小野委員から御発言頂いておりますけれども,できましたら,ここに書いていないようなことも出していただけると,より議論が深まるのではないかと思います。 ○吉谷委員 2点だけなんですけれども,今,深山委員がおっしゃられた中で,美術館の信託はとおっしゃったんですけれども,先ほどの美術品の信託とかの例も出していまして,美術品の信託が一切できないというふうな趣旨ではないとは理解しておりますけれども,私どもは今後,新しい制度ができましたら,個別にまた検討していくことになろうかと思いますので,まず,それが1点。もう一つは,公益信託の受託者だから非営利という趣旨で,もしおっしゃられたのであるとしたら,私どもは公益信託の受託者なんですけれども,営利でさせていただいているとは理解しております。これも個別具体的に御判断される内容であるとは思いますけれども,付言させていただきます。 ○神田委員 1点,細かい点と,1点,大き目な点を申し上げます。   1点は,今,吉谷委員が最後におっしゃったことで,私も同じように理解します。私は誤解をしているかもしれませんけれども。つまり,現在,信託兼営金融機関が公益信託を取り扱っている場合にも,その引受け及びそれに関連する行為については,兼営法及び兼営法が準用する信託業法の適用はあって,それを受けて信託業務を行っているというのが私の理解です。ですから,言葉を換えて言えば,公益信託であるから業法の適用はないと,そういう話ではないということです。これは小さな点です。   それから,もうちょっと大きな点は,甲案,乙案,丙案なのですけれども,私は第一読会のときにも申し上げたのですが,甲案は最低限の案ですので,実際問題として甲案で困らないということかとは思うのですけれども,そしてまた,新井委員が御指摘のように民事信託一般の話をするのか,公益信託の担い手の話をするのかというと,後者がここでの議論ですので,それにも留意しなければいけないと思うのですけれども,私はできればそう何度も制度を変えることはできませんので,自然人にも公益信託の受託者となる道を開くということが希望です。どういう時代をこれから迎えるか分かりませんし,どの程度,コンピュータがやってくれて,人間のやる作業が減っていくのか,分かりませんけれども,自然人であるから欠格ということにはならないと思います。   ただ,反対が強いので,丙案的というか,第一読会で私が申し上げたことは,自然人が一人でやりますということに抵抗が強いのであれば,例えばですけれども,信託兼営金融機関と一緒にやる,金融機関が財産の管理を担当しますという形でも,自然人に受託者になる道を開いてはどうかと思います。ただ,それほどニーズが現時点でないということかもしれませんので,そういう意味では,余りこだわるわけではありません。   1点,それに関連して複数の人が受託者になった場合に,補足説明のどこかに書いてあったんですけれども,共同受託者は相互に業務執行監視義務を負うという記述があるのですけれども,今,申し上げたような形での複数受託であって,共同受託とは違って分担複数受託なので,仮にもし受託者が複数いるときには,常に相互監視義務があるというのが原則的な考え方だとすれば,今,私が申し上げたような形で仮に制度を設計する場合には,そこは少し緩和して分担的な仕組みにしてはどうかと思います。ただ,一番基本のところは,自然人にも道を開くということを御検討いただいていいのではないかと思うものですから,あえて第一読会と重複しますけれども,発言させていただきます。 ○小野委員 少し重複してしまうと思うんですけれども,弁護士会の意見書の4ページに,どういう公益信託があり得るかということを書いてあります。書いてあることを繰り返し読むことになり恐縮ですが,それを信託業法の対象になっている例えば信託銀行がそういう業務を例えば共同受託で担っていただけるのか,深山委員が言ったように,全然,フェーズが違うのではないかと思うんです。   早口で読ませていただきますと,遺児の支援事業とか,生活保護受給世帯,子ども食堂,性犯罪の支援事業とか,DV被害者の支援事業,シングルマザー,面会交流支援,離婚支援,心理的支援,高齢者対応,災害活動,空家対策,地域共生その他,環境もあるかもしれませんし,いわゆる社会的正義,社会環境又は基本的人権に関わるような,これだからこそ公益なのであって,何か中途半端な公益を考えたときには,又は金銭を預かって,それを単純に助成金のように払うということを考えれば,信託銀行のようなところが安全,確実かもしれませんけれども,あと,事業という言葉が美術館というと,何となく少し,そこで本の出版とか,何かお金が絡みそうな感じはするかもしれませんけれども,要はもっと純粋に弁護士会としては考えているのであって,ここに書いてあることの担い手というのは誰がふさわしいか。強いモチベーションに基づいてやる行為なものですから,それに対してどういう法人がふさわしいか,自然人は駄目だとかいう入口ではなくて,ある意味では,公益認定のときに,この受託者はできるのか,この受託者は誰と一緒にやるのがふさわしいのかという観点から考えるべきであって,はじめから枠を決めるような話ではないと思うんです。   ですから,公益認定のところで受託者としての適正性を全体の中で判断していただくということに尽きるのではないかと思いますし,そこで,報酬が欲しくてやるわけではありませんけれども,手弁当がどこまで限界があるのかという議論もあるのかもしれませんから,収支相償のような法律用語の問題ではなくて,それも全て公益の中で判断していただくということが,そういう意味で,今日の一番初めの議論で公益信託法一つを全体として完結した法律制度にした方がいいのではないですかという議論はそういう点とも絡むんです。こっちはあっちの法律で,こっちはこっちでみたいなことをいうと,何か全体が見えなくなってしまって,本来の法律の目的そのものが達成できなくなってしまうのではないかと思います。繰り返しになりましたけれども,弁護士がやりたいと思っていることは,こういうような社会正義に関連することであって,決して何か業務拡大とか金銭的に色気のある話をしたいと思っているわけではないということは理解していただきたいと思います。 ○林幹事 若干補足させていただきたいのですが,1点は,補足説明にも自然人が受託者になることのニーズがあるのかというトーンで書かれていて,先ほどもそういう御説明もあったのですが,日弁連の意見書を踏まえますとそういうニーズはあると考えます。吉谷委員も信託銀行も法が変われば事業型のことも考えるとおっしゃったのと同じで,法が変わって状況が変われば,新たなニーズが出てくる可能性がそれなりにあると思っていますし,そういう前提の下で我々も考えています。ですから,自然人に受託者の資格をというときに,ニーズがないからということを前提のように議論するのではなく,法が変わればニーズが出てくる,そういう前提で議論していただきたいと思います。具体的なニーズの中身は,例えば弁護士会の意見書にあるようなものです。   それから,本当に業法に関しては悩ましいのですけれども,島村幹事や神田委員がおっしゃったようなことは,それはそれとして理解しながらも,民事信託もそうですが,ここでいえば公益信託の受託者となることというのは,一般的にいわゆる信託業法が想定しているような業務の外なのではないのかと一弁護士としては思います。ですから,業法において懸念されていることがまた違う形でカバーされ,手当てされるのであれば,そういう形で受託業務を行うことも考えられるのではないかと思います。もちろん,その手段の一つが公益信託の今の法制審で議論している信託管理人だったり,第三者機関だったりもしますが,そうした別の方法で懸念をカバーすることができるのではないかと,あるいはそういう工夫をしていくべきではないかと思っているので,申し上げます。 ○中田部会長 ありがとうございました。弁護士会の御意見についてはよく承りましたので,それ以外の論点についてございましたらお出しいただければと存じます。 ○川島委員 まず,質問なんですけれども,17ページ目の(注1)のところに,①,②としてどのような資格を受託者に要求するかは,別に検討する必要があるという記述がございます。この点は後日,改めて議論するということなのか,あるいは意見があれば,今日,この場で話してもいいということなのか,まず,教えてください。 ○中辻幹事 詳細については後日,改めて議論していただければと思いますけれども,本日,意見を頂ければ,それを踏まえて検討しますので,意見を頂くことに支障はございません。 ○川島委員 ありがとうございます。   第一読会の中で,信託事務に関する認定基準を検討した際に申し上げたのですが,公益信託の受託者が社会的信用を維持する上でふさわしくない,又は公の秩序や善良の風俗を害するおそれのある事業を行っていることを不適格事由とすることを検討する必要があると思います。その理由といいますのは,公益信託の社会的信用を維持する,あるいは制度全体の信用失墜を回避するためにも,このような考えが必要だと思いますので,意見として申し上げます。 ○中田部会長 ほかによろしいでしょうか。大体,論点は明らかになっているかと存じますので,これを最終的にどのようにまとめていくのかということを次の段階でまた御検討いただくことになろうかと思います。   時間が足りなくなっていますが,それでは,続きまして「第4 公益信託の認定基準」につきまして,今日,どこまで御審議いただけるか分かりませんが,とりあえず,事務局からの報告は全体についてしていただこうと思います。 ○舘野関係官 それでは,「第4 公益信託の認定基準」について御説明いたします。   本部会資料23ページに,(前注)として記載しましたとおり,公益信託の認定基準としては,本部会資料で個別の論点として取り上げたもののほか,公益信託事務を行うことのみを目的とするものであることですとか,公益信託の名称中に公益信託という文字を用いること等の認定基準を設けることを暫定的な前提としております。他方,第一読会において公益信託の認定基準として設けるべきでないとの意見が大勢であった,公益目的の信託事務以外の信託事務による公益目的の信託事務に支障がないことですとか,公益目的の信託事務の比率,不可欠特定信託財産の処分制限については,公益信託の認定基準として設けないことも前提としております。   また,各論点に注記しておりますが,ここでは「1 公益信託事務を遂行することが可能な信託財産の保有」から「5 公益信託の受託者の報酬」と,五つの認定基準について論点を挙げておりますが,仮に公益信託がこれらの基準を満たさなくなった場合には,公益信託の任意的取消事由になることを想定しております。また,1以外の2,3,4,5の認定基準につきましては,公益信託の取消しがされる前段階として公益信託の受託者の解任事由となり得ることも想定しております。   それでは,まず,「1 公益信託事務を遂行することが可能な信託財産の保有」について御説明いたします。本文では,公益信託設定当初の信託財産に加え,信託設定後の信託財産の運用や,委託者又は第三者からの拠出による事後的な信託財産の増加等の計画の内容に照らし,当該公益信託の存続期間を通じて,公益信託事務を遂行することができる見込みがあること(信託財産の取崩しを内容とする場合にはその存続期間を通じて当該公益信託事務を遂行することができる見込みがあること)を認定基準とすることでどうかとの提案をしております。   今回の提案では,公益信託の認定の明確化,客観化の観点から現在の許可審査基準の表現をベースとした上で,第一読会でお示しした案に対する御指摘を踏まえまして,「公益信託の信託財産の運用」としていた表現を「公益信託設定当初の信託財産に加え,信託設定後の信託財産の運用」という表現に修正し,「追加信託及び寄附金等」という表現を「委託者又は第三者からの拠出による事後的な信託財産の増加等」という表現に修正しております。   次に,「2 関係者等に対する特別の利益の供与禁止」について御説明いたします。本文では,甲案として当該公益信託の信託行為が,「委託者,受託者及び信託管理人並びにその関係者に対する特別の利益を供与しないものであること」及び「特定の個人又は団体に寄附その他の特別の利益を供与しないものであること」を公益信託の認定基準とする,乙案として甲案のような規律を認定基準としないとの提案をしております。   ここでは特定の個人又は団体という簡略化した表現を用いておりますが,本部会資料25ページの(注1)に記載のとおり,これは公益法人認定法第5条第4号に規定される株式会社その他の営利事業を営む者又は特定の個人若しくは団体の利益を図る活動を行うものとして政令で定める者を想定しておりますので,その点だけ御留意ください。   関係者等に対する特別の利益供与は,公益信託の信託行為により行われるものであることからすると,部会資料33の第3の1及び2で提案した甲案における「受託者」は「信託行為」に修正し,公益信託の信託行為が特別の利益供与禁止規定に違反しないことが認定基準であることが明確になるようにすることが相当であると考えられます。また,部会資料33の第3の1で提案した甲案における「受託者等の関係者」をより具体的な表現に修正しております。一方,部会資料33の第3の1及び2で提案した乙案に変更はありません。   次に,「3 他の団体の意思決定に関与することができる株式等の保有禁止」について御説明いたします。本文では,甲案として公益信託の受託者が保有する信託財産に,他の団体の意思決定に関与することができる株式等の財産が原則として含まれないこと(例外として,当該株式等の財産の保有によって他の団体の事業活動を実質的に支配するおそれがない場合は当該株式等の財産が含まれることを許容する)を認定基準とする,乙案として甲案のような規律を認定基準としないとの提案をしております。   今回の甲案は,部会資料34の第1の3記載の甲案から実質的な変更はありません。今回は公益信託の受託者が信託財産として株式を無制限に保有することを認めた場合には,受託者が公益信託の目的達成のための必要性を欠く信託事務を行う可能性があることを甲案の理由として付加しております。また,今回の乙案も部会資料34の第1の3記載の乙案及びその理由から変更はありません。今回は委託者の関与が弱められる方向にある公益信託においては,受託者が株式を保有することによって委託者の支配権維持という不当な目的が直ちに実現されるとは言えないこと等を乙案の理由として付加しております。   次に,「4 事業型の公益信託に関する認定基準」について御説明いたします。本文では,甲案として事業型の公益信託について,収支相償及び遊休財産額の保有制限を認定基準とする,乙案として甲案のような規律を認定基準としないとの提案をしております。   まず,助成型の公益信託は,信託財産を取り崩しながら奨学金の支給等の公益信託事務を遂行するものであるため,収支相償や遊休財産規制が問題となることはほとんど想定できないことなどに鑑みると,これらの認定基準は美術館や学生寮の運営を目的とする事業型の公益信託について検討を要するものであると考えられます。そこで,部会資料33の第3の4の甲案及びその理由,部会資料34の第1の2の甲案及びその理由に変更はございませんが,これらを事業型の公益信託の認定基準とすることにしております。また,収支相償はフロー面から,遊休財産規制はストック面からの規制であり,これらは認定基準としてセットで考えられることから,今回は収支相償と遊休財産規制を併せて甲案として示しております。また,部会資料33の第3の4の乙案及び部会資料34の第1の2の丙案を統合したものを本部会資料の乙案としております。   最後に,「5 公益信託の受託者の報酬」について御説明いたします。本文では,受託者の報酬が不当に高額にならない範囲の額又は算定方法が信託行為で定められていることを認定基準とすることでどうかとの提案をしております。   現在の公益信託の許可審査基準において,公益信託の受託者の報酬を制限する旨の規定は存在するものの,採算を確保できないようなレベルの報酬を受託者に強いるのでは,公益信託の受託者の広がりにとって障害となる可能性があり得ることからすると,受託者の報酬に関する認定基準については,税法や信託業法等との関係も考慮しつつ,一定の柔軟化を図ることが考えられることから,このような提案をしております。また,「不当に高額」という用語の抽象性については,同じ用語が公益法人認定法第5条第13号でも使用されていることも踏まえ,その具体的なレベル感も踏まえて引き続き検討する予定としております。 ○中田部会長 それでは,今,説明のありました部分について御審議いただきますが,時間の関係もございますので,まず,1から3までについて御審議いただきたいと存じます。 ○深山委員 冒頭の(前注)のところについての質問ということなんですが,この中の前段でこれこれを認定基準として設けることを暫定的な前提としていると書かれている部分です。この中には余り異論がなかったものもあると思いますが,意見の対立があったものも含まれております。具体的には,信託行為で信託関係人による合意による終了ができないということについては異論もあったと思いますし,特にその次の信託終了時の信託財産の帰属については,元々の案も複数あって意見も分かれたと記憶しております。   これについて暫定的に設けることを前提としているというのは,今後,別のところで議論するという意味であるのか,そもそも,議論もしないでこう決めるということを想定しているのか,後者だとしたら非常に問題だと思います。こういう前提を置かなければ,これ以下のことが議論できないという性質のものであれば,一応の前提を置いた上で議論するということも議論の仕方としてはあると思うんですが,別にそういう論理的な関係はなくて,そういう前提を置かなくても1以下の議論はできると思います。しかるに,なぜ,こういう暫定的な前提を置くのかということについては疑問がありますし,その真意をお尋ねしたいと思います。 ○中田部会長 深山委員,ほかの点については大体前提としても大丈夫そうですか,今の2点以外は。 ○深山委員 具体的にはそれはそう思います。 ○中田部会長 では,今の2点についていかがでしょうか。 ○中辻幹事 御質問にお答えします。(前注)の趣旨ですけれども,信託行為で合意による終了ができないと定めていることや,信託財産の帰属先を類似の公益信託等とすると定めていることを必要とするか否かについて,部会での議論が分かれたことは事務局としても深山委員と同じ認識でして,これらにつきましては再度部会で御議論していただくことを考えておりますし,決してこれらを確定的な前提としているわけではございません。ただし,以前,山田委員から御指摘がありましたけれども,公益信託の認定基準を検討するに当たっては,まずは全体をひととおり並べてみて,その上で,これは要る,これは要らないというふうに検討することが有益ではないかと考えまして,ある程度全体のイメージを持っていただくために記載したものです。 ○中田部会長 よろしいでしょうか。   それでは,今の点でも結構ですし,それ以外でも,1から3について御意見をお願いいたします。 ○吉谷委員 まず,1につきましては提案に賛成でございます。   2の「関係者等に対する特別の利益の供与禁止」につきましては甲案に賛成いたします。関係者等に対する特別の利益の供与が禁止されるべきことは当然でありますし,認定の審査の段階におきましても,信託契約や事業計画で特別利益を行わないことを示すのみでありますので,さほど重い規律でもないと考えております。むしろ,特別利益の供与禁止をどう監督するのかということの検討の方が重要であろう。受託者の形態に応じた適切な監督が行われるべきなのであって,また,公益認定の段階で認定機関により監督でどういう手続が今後,必要になりますということまで予測させてあげるのがよろしいのではないかと思います。例えば役職員が数名の小規模な法人の受託者であれば,役員の三親等の親族に寄附されていないですねというようなことを確認しますよとか,そういうような具体的な今後の監督についても視野に入れておくべきかなと思うところです。   続きまして,3番の「他の団体の意思決定に関与することができる株式等の保有禁止」でございますけれども,これは甲案賛成でございます。乙案は収益事業を行わないという原則に反すると理解しておりまして甲案です。他の団体の意思決定に関与できるという基準につきましては,書きぶりとしては一つの公益信託を単位で認定することを念頭に置いていると思われますけれども,より実質的な審査というのが必要ではないかと思います。   第一読会では,受託者単位で考えるのがよいのではないかと申し上げましたけれども,例えば受託者が同じで三つの信託がありますと。三つの信託を作って,合計50%超の議決権を保有していますというような脱法的な形で会社を支配できるというようなことは,もちろん,認めるべきではないというのは明らかではないかと思います。なので,もし,これが逆読みで,そのような脱法的な株式の保有も認めるのだという趣旨なのであれば,それは反対するということになると思います。認定段階でそのようなことがないようにチェックをすべきであろうと思われます。 ○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○平川委員 1につきまして御提案に賛成します。公益信託の存続期間を通じて,公益信託事務を遂行することができる見込みがあるという積極要件を認定基準とすることは,健全な公益信託を促進する上で不可欠なことであり,何ら異論はございません。   2につきましては甲案に賛成します。また,特別利益の供与先として受託者等の関係者の定義の中に,先の論点でも申しましたけれども,信託事務の委託先や更にその再委託先も入れるべきであると考えます。また,運営委員会を設ける場合には運営委員も関係者に入るべきと思います。   3につきましては甲案に賛成します。公益法人とのバランスからいっても,株式等の保有制限について公益法人認定法と同程度の認定基準を設けることに賛成します。 ○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○林幹事 弁護士会の議論を申し上げますと,1の財産の保有の要件については御提案に基本的に賛成であります。1点,積極要件ではなくて消極要件にした方がよいのではないかと前回の議論のときに御提案して,それについては補足説明で書いていただいているのですけれども,補足説明の記述は理解した上で,なお,立法的には可能なのだから,消極要件にしたらいいのではないかという意見もあったことを申し上げます。   次に,2の「関係者等に対する特別の利益の供与禁止」ですが,私の感覚ですが,表現が「受託者」から「信託行為」というのに変わったことによって,甲案に賛成が増えたように思います。ですから,甲案の意見が強かったのですが,乙案もあったというところです。ただ,甲案にするとすれば,先ほど平川委員がおっしゃったように公益法人と同程度というか,公益法人以上の規制はされるべきではないというか,そういうような意見がありました。   3の団体の意思決定に関するところにつきましては,これも両案がありましたが,前回,申し上げたように乙案の方が意見としては多かったところです。こちらも甲案の意見の単位会もありましたが,それでも公益法人以上の制約はされるべきではないという意見でした。 ○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○深山委員 1については賛成します。   2についても甲案で基本的にはよろしいと考えます。補足的な意見のあった点についても,私も関係者のところは御指摘のあったようなものも含めて関係者に入れるべきだろうということも同意見であります。   意見を申し上げたかったのは3のところでして,甲案の意見が比較的目立ったような印象なんですが,一読のときも私は申し上げましたけれども,一つは形式的な理由かもしれませんが,意思決定に関与することができる株式というのが補足説明で公益法人のところでは50%超という説明がありますが,必ずしも明確ではない。括弧書きで例外のことも書かれると,なおのこと,何%だったら関与できるということになるのかということが非常に基準として不明確だろうなと感じます。もちろん,なかなか一律に何%と言えないということも一方にあるから,こういう抽象的な基準になっているのでしょうけれども,しかし,これでは抽象的にすぎて,規律としてといいますか,基準としてはふさわしくないという気がします。   もう一つは,そのこととも関連するのでしょうけれども,実質的な規律として考えたときに,議決権行使によりその他の団体を支配するような行動をとることが問題視されるべきであり,それを事前に抑止するためには保有そのものを禁止すれば,それは抑止されるわけですけれども,しかし,抑止手段として,そもそも持たせないというのは,そこまでする必要があるのかなと思います。このような規律を認定基準として置かなくても,実際に持っている株式等を通じて意思決定をして,他の団体に支配を及ぼす不適切な場面が生ずれば,その行為を捉えて善管注意義務違反なり,あるいは認定の取消しの要否なりを検討するということはあると思うんですが,保有そのものを禁止することによって事前にそういうことが起きないようにするというのは,やや規制としても行き過ぎのような気がいたします。それと基準として不明確という二つの理由から,一読と同じ意見ですけれども,この規律はちょっと難しいので乙案がよろしいのではないかという意見です。 ○山田委員 3項目が今,オンテーブルしていますが,2について申し上げます。「関係者等に対する特別の利益の供与禁止」は甲案が望ましいと思います。公益という評価を受けて,そして,最重要の効果としては税制上の優遇を受けるということをどうやって形作っていくかということをずっと議論しているわけですが,一番中核部分は委託者,受託者その他,その信託に直接関係している人たち,その人たちの利益にならないということだろうと思います。したがって,2について申し上げると申し上げましたが,例えば3というのは,そういう観点からすると少し遠いなと思うのですが,3で仮に株式保有で甲案を採ろうとすると遠いなという気がするんですが,2において甲案を採るというのは非常に中心的な要請に応えるものだろうと思います。そして,オンテーブルされていませんので,中身は挙げませんが,もう一つ,重要なのは5の受託者の報酬でないかなと思います。 ○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。   1から3につきまして,1についてはおおむねこれでよいということで,2についても弁護士会の中では乙案もあったということですが,ここでは甲案が全体としては一般的で多数であったと存じます。3については甲案を支持される方の意見が多かったように思いますけれども,基準の不明確性あるいは保有自体を規制対象とするのは過剰ではないかと,こんな御指摘もあったかと存じます。   そこで,あと時間は僅かしかございませんが,この後の予定も考えますともう一つだけ申し訳ございませんけれども,お願いしたいと存じます。4の「事業型の公益信託に関する認定基準」について御審議をお願いいたします。 ○吉谷委員 4番につきましては甲案の趣旨に賛成でございます。公益信託に財産が死蔵されるべきではないと,財産をため込むことが許容され続けるのであれば,その目的は公益目的とは言えないのではないかと思いました。ただし,事業型においても財産を取り崩すタイプというのが存在するのではないかとも思いました。要するに,事業資金として一定の金額が毎年必要な場合に元手を取り崩していって,お金がなくなったところで,財産がなくなったところで事業を停止するというタイプも考えられますので,そういうものは財産の死蔵ではないとも言えるように思えますので,どういうものが遊休財産,収支相償のところで規制されるのかということについては,もう少し明確にした方がいいと思います。また,事業型の公益信託というものについても明確に定義していただきまして,従来の助成型の公益信託にこのような規制が掛からないようにするということについても,明確化を図っていただければと思います。 ○中田部会長 事業型と助成型は一応,10ページに定義は書いていますけれども,これだとなお不明確で,もっと明確にという御趣旨だと理解いたしましたが,そういうことでしょうか。 ○吉谷委員 法律で明確にしていただきたいということで,どういう表現がいいかということについてはまだ確たるものがあるわけではありません。 ○中田部会長 分かりました。ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○深山委員 収支相償と遊休財産,従前は別の論点項目として分かれていたのを,今回はフローとストックの違いであって同じ趣旨だということでまとめられたということなんですが,まず,収支相償については第一読会の議論でも,仮にこれを1年という,年度単位で見るとしたら,非常に窮屈になって,使いにくくなるのではないかという意見が少なからずあったと記憶しています。私もそういう意味では,理念的には全く否定するものではないのですが,これを例えば1年単位でとか,短期間の単位で収支相償という物差しで計られると非常に使いにくくなるし,取り分け,事業型ということになりますと,収益が上がる年と,コストを掛けなければならない年とがいろいろあって,一定の期間を通じて収支が折り合うというようなこともあろうかと思いますので,そういう意味で,収支相償というのを基準として盛り込むことには,そういう不都合を感じるところです。   他方で,遊休財産の方は,確かに死蔵させてはいけないと思うんですが,それが死蔵なのかどうか,あるいは将来に備える備蓄なのかというのはなかなか捉えにくいといいますか,現実的には判別しにくいんだと思います。考え方として,死蔵させないという考え方には賛成ですが,それと備蓄とをどう区別するかというのは難しいところだろうと思います。そういう意味で,認定基準としてこれが前面に出てしまうと,使い勝手が悪くなるのではないかなということを懸念します。考え方については理解しつつも,基準としては難しいという意味で乙案を支持したいと思います。 ○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○道垣内委員 吉谷委員がおっしゃった事業型と助成型の区別とも関係するのですが,借上げ型学生寮,借上げ社宅みたいなものです,というのを考えて,例えば金銭が信託財産なのだけれども,しかしながら,給付内容は,安い家賃で学生に対して学生寮を貸すと,学生の住むところを貸すといった例を考えますと,それは役務の給付であり,10ページの定義からいうと,給付型になりそうです。しかし,念頭に置かれているのは必ずしもそういったものではないと思います。先ほどの借上げ型学生寮の例では,借上げ原資である金銭がなくなった時点で終了するということで,別に構わないのではないかと思うのです。   そうすると,助成型というのと事業型というのとの区分の基準がなお不明確ではないかという吉谷委員の問題にもつながりますし,仮に現在の基準で事業型と分類されても,なくなったら終わりというタイプのものはあってもよいような気がいたします。したがって,4のところで,「事業型の公益信託について」という括りにするのは,なかなか,難しく,また,妥当ではないような気がします。ただ,かといって乙案にするのかというと,それはそうではありません。信託財産が費消されていくのは構わないが,長期間にわたり蓄財をしていってはいけないという話ですよね。そうすると,蓄財をしてはならないということをもっと全面に出した形での基準というものの方が適切なのではないかという気がいたしました。 ○平川委員 助成型の公益信託はもちろんのこと,事業型の公益信託に限ったとしても,収支相償及び遊休資産の保有制限を認定基準とすべきではないということで乙案に賛成します。ただし,信託財産が不当に蓄積されることを防止するために,公益目的の信託事務による収益の一定割合を信託費用として支出することなどを認定基準とする規律を設けるというようなことは考えられるかもしれませんが,この規律の策定が技術的に難しい場合には,例えば毎年の公益信託事務の信託費用の支出の3年分程度の信託財産を遊休財産と認めるという規制が考えられると思います。 ○中田部会長 ほかにいかがでしょうか。   ここでは事業型と助成型の区分の仕方,それから,収支相償,遊休財産額の保有制限についての規律の具体的内容も含めた上での在り方というようなことを御議論いただいたかと存じます。 ○新井委員 時宜に遅れた発言で申し訳ありません。先ほどの公益信託の受託者の資格についてと認定基準の関係について,一言,意見を申し上げます。一般信託法においては,目的信託の附則を除いて自然人も受託者になれるという規定になっています。それとの平仄から考えると,公益信託についても自然人を排除するというのはなかなか難しいという考え方もあると思うのです。それで,公益信託の受託者の資格については公益信託法では触れずに認定基準に持っていき,認定基準として取り上げるという考え方もあるのではないか。そこで,能力担保をきちんと認定基準に定めておくという考え方もあるように思えますので,その点も論点として検討していただきたいと思います。 ○中田部会長 今の認定基準というのは法律には書かないで,別のところで誰かが決めるということでしょうか。 ○新井委員 受託者の資格要件については認定基準に任せます。 ○中田部会長 認定基準を誰が作成するかについては特に今の段階では。 ○新井委員 法人にするか,自然人にするかということを,公益信託法の本則の中に要件として規定するのは避けた方がいいのではないかという意見です。 ○中田部会長 ありがとうございました。   ほかに補足的な御意見などはございますでしょうか。   司会の不手際で積み残しが出てしまいましたけれども,本日の審議はこの程度にさせていただきます。   次回の議事日程等について事務当局から説明していただきます。 ○中辻幹事 次回は,本日,積み残しになりました「第4 公益信託の認定基準」のうちの「5 公益信託の受託者の報酬」以降について御審議いただいた後,「公益信託法の見直しに関する補充的な検討(2)」と題する部会資料を事務局の方で用意いたしまして,公益信託の監督及びガバナンスの論点について御審議いただくことを予定しております。次回の日程ですけれども,3月21日(火曜日)午後1時半から午後5時半まで,場所は法務省地下1階の大会議室で行います。 ○中田部会長 それでは,本日の審議はこれで終了といたします。   本日も熱心な御審議を賜りましてありがとうございました。 -了-