法制審議会 民法(相続関係)部会 第16回会議 議事録 第1 日 時  平成28年12月20日(火)自 午後1時30分                       至 午後4時27分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  民法(相続関係)の改正について 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○大村部会長 それでは,定刻になりましたので,法制審議会民法(相続関係)部会第16回会議を開催いたします。   議事に先立ちまして,まず,配布資料につきまして事務当局の方から説明を頂きます。 ○下山関係官 それでは,本日の配布資料につきまして御説明させていただきます。本日の資料は全部で3点となっております。まず,一つ目が事前に送付させていただいた資料番号16,「遺留分制度に関する見直しについて(三読)」というものになっております。それから,参考資料といたしまして机上配布のものが2点ございます。1点目が横長のもので,「遺留分制度に関する見直しについて(三読)」と書かれているものでございます。こちらは,本日の資料の説明の便宜のために取り急ぎ作成したもので,誤字・脱字等のチェックも十分ではない可能性もありますので,その取扱いには御留意いただきますようお願い申し上げます。それから,平成28年12月19日,昨日の最高裁大法廷決定,こちらは最高裁判所のホームページからダウンロードしたものとなっておりますが,これを本日,配布させていただきました。   この点,既に報道などによって御存じの方も多いかとは思われますけれども,昨日,預貯金債権が遺産分割の対象となる財産に含まれるかが争われた裁判について,最高裁大法廷の決定が出されております。本日,机上にお配りしたのは,最高裁のホームページに掲載された当該決定ということになってございます。本日の会議の議題とは異なりますが,せっかくの機会ですので,本決定の内容についてごく簡単に御説明させていただきたいと思います。   従前の最高裁判例によれば,相続財産中に可分債権があるときは,その債権は相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割され,各共同相続人の分割単独債権となるものとされており,したがって,実務上の原則として遺産分割の対象に含まれないものとされておりました。これに対しまして今回の決定は,決定書の6ページにありますように,預貯金一般の性格,各種預貯金債権の内容及び性質から共同相続された普通預金債権,通常貯金債権及び定期貯金債権は,いずれも相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく,遺産分割の対象となるものと解するのが相当であるとして,これとは異なる従前の判例を変更すべきものであるとしたものとなっております。この考え方によりますと,可分債権のうち,預貯金債権については遺産分割終了までの間は,各共同相続人は単独でこれを行使することができないものと考えられることから,本決定は言わば中間試案における乙案,これに近い考え方に立っているものと考えられるところです。   また,本決定におきましては,各裁判官による補足意見等が付されているところ,その中には多数意見の結論には賛成しつつ,多数意見が預貯金債権を準共有債権とすることには反対であると,こういった意見があったほか,補足意見といたしまして,本決定によれば預貯金債権については遺産分割までの間,共同相続人全員が共同して行使しなければならないこととなるが,これによる不都合については,現行法の下では遺産分割の審判事件を本案とする保全処分,これを活用することが考えられるといった意見,また,相続開始後に預貯金口座に入金された金員についても,遺産分割の対象に含まれることになるものと考えられるが,その際の具体的相続分の算定の基礎となる財産の考え方については,検討する必要があるであろうといった意見など,様々な意見が付されております。   可分債権の遺産分割における取扱いにつきましては,来年開催予定の会議において御議論いただく予定となっております。もとより,本会議における議論の内容がこの決定に拘束されるものではないということは当然でございますけれども,特に遺産分割の対象に含まれる可分債権の範囲を預貯金債権に限定するのか,それ以外に可分債権を含めることとするのかという点につきましては,本決定の判断が他の可分債権とは異なる預貯金債権の特殊性,ここに着目してされたものであると考えられることから,その判断内容を踏まえた上で検討する必要があるものと考えられるところです。   また,本決定によれば現行法上,少なくとも預貯金債権については,相続開始によって各相続人が個別に権利行使をすることはできないものと考えられることから,その対応策といたしましては,家事事件手続法に規定されている保全処分,これを用いることで足りるのか,当面の相続人の資金需要に対応する方策についても,検討する必要があるものと考えられます。 ○大村部会長 ありがとうございました。   これは今日は御紹介だけということでよろしいですね。   今,御紹介がありました大法廷決定は,私どもの審議の過程でも最高裁の判断が示されるのを待って,これを参照して更に議論することが予定されていたものでございます。今のお話の中にもありましたように,年が明けまして,この問題について検討する際に,改めてまた,そこで出てきている論点について御意見を伺うことになろうかと思いますが,本日のところは御紹介にとどめさせていただきたいと思います。   それでは,本日の議事に入りたいと思いますが,本日は部会資料16,「遺留分制度に関する見直しについて(三読)」というものに従いまして,御意見を賜れればと思います。第1の「遺留分減殺請求権の効力及び法的性質の見直し」という項目から始まりまして,13ページに第2の「遺留分の算定方法の見直し」というのが出てまいります。そして,18ページに「第3 遺留分侵害額の算定における債務の取扱いについて」という項目がございます。三つに分かれますので,第1が終わった辺りで休憩を入れさせていただくということを予定しております。   それでは,まず,第1の「遺留分減殺請求権の効力及び法的性質の見直し」という部分につきまして,事務当局より御説明を頂きます。 ○神吉関係官 それでは,関係官の神吉の方から御説明させていただきます。   本日は「遺留分制度に関する見直しについて(三読)」という部会資料16に基づき,御議論をいただきたいと思いますが,まず,第1の「遺留分減殺請求権の効力及び法的性質の見直し」につきまして御説明させていただきます。   部会資料のポイントでございますが,本日の部会資料におきましては,甲-1案から甲-3案まで三つの考え方をお示ししております。遺留分減殺請求権の行使により,そこから生ずる権利を原則金銭債権化すること,そして,金銭債務の全部又は一部の支払に代えて,受遺者又は受贈者が現物による返還を求めることができるようにすること,これらの点はいずれの案も共通しております。どこが違うのかという点ですが,受遺者又は受贈者の現物による返還の請求の効果をどのように考えるかという点で,従前の甲案,こちらは甲-1案に対応するものでございますが,甲-1案から甲-3案まで三つの考え方を提示させていただいているということでございます。   まず,その考え方の相違点を簡単に御説明させていただいた上で,それぞれの甲-1案から甲-3案までの考え方の骨子,それから,論点について順に御説明させていただきたいと思います。  まず,考え方の相違点でございますが,現物による返還の請求がされた場合に,裁判所の判断により現物返還の効果が生ずると考えるのか,これが甲-1案と甲-2案の考え方ですが,それとも現物による返還の請求がされた時点で現物返還の効果が生ずると考えるのか,これが甲-3案の考え方となります。また,2点目の相違点ですが,現物返還の目的財産の指定権を裁判所に与えるのか,すなわち裁判所の裁量に委ねるのか,こちらが甲-1案の考え方ですが,それとも,受遺者又は受贈者側に与えるのか,こちらが甲-2案の考え方となります。   それでは,順に甲―1案から甲―3案まで,それぞれの考え方の骨子,それから,それぞれの考え方に関連する論点につきまして御説明させていただきます。   まず,甲-1案についての考え方の骨子でございますが,減殺請求権の行使により金銭債権が発生すること,そして,受遺者又は受贈者が現物による返還を求めることができること,こちらは甲-1案から甲-3案まで共通しております。そして,当事者間で基本的には協議をまずしていただくことになりますが,当事者間に現物返還の目的物について協議が調わない場合,この場合には受遺者又は受贈者が訴えを提起し,裁判所がその内容を定めること,そして,その訴えの提起は金銭請求訴訟の事実審の口頭弁論終結時までに行わなければいけないこと,また,金銭請求訴訟と現物返還目的物確定訴訟,これが同時に係属する場合については,併合して審理しなければならないこと,また,裁判所がその内容を定める際の判断の考慮要素につきましては法律上,定めることを予定しております。また,現物返還目的物確定訴訟,この判決が確定した場合には,減殺請求時に遡って金銭債務が消滅し,また,目的財産の所有権,権利が移転すること,以上が甲―1案の考え方の骨子となります。   それでは,甲-1案に関連する論点について見ていきたいと思います。ここでは4つの論点を提示しておりまして,1点目が減殺請求権の意思表示について,2点目が金銭債務の遅延損害金について,3点目が当事者の協議の内容をどのように考えるのかについて,4点目が現物返還目的物確定訴訟の訴訟構造等について,となります。それぞれ,順に各論点について御説明させていただきます。   まず,1点目の論点,減殺請求権の意思表示について,これをどのように考えるのかということでございます。遺留分減殺請求権の行使により生ずる権利を原則金銭債権化した場合に,減殺請求権の意思表示の際に金額を明示して行う必要があるのか,また,金額を明示して行う必要があるとすると,時効中断効との関係をどのように考えるべきか,このような指摘がパブリックコメントにおいてなされたところでございます。   この点につきましての基本的な考え方ですが,減殺請求権の意思表示と,それによって生ずる金銭債権に係る履行請求,これは観念的には別の意思表示であると整理しております。そういたしますと,遺留分減殺請求権の意思表示により客観的には1,000万円の金銭債権が発生している場合に,遺留分権利者が当初は相続財産の全体像が分からなくて500万とか,そういった少ない額を請求している場合のこともあろうかと思いますが,そのような場合につきましては,いわゆる一部請求の問題であると処理ができるかと思います。そういたしますと,これまでの最高裁の判例などに照らしますと,時効中断効につきましては金銭債権の全体に及ぶと考えることができます。   次に,金銭債務の遅延損害金について御説明させていただきます。   こちらは中間試案の考え方から変えた点ということでございますが,これまで中間試案におきましては,遺留分減殺請求権の行使から3か月間は遅延損害金は生じない,また,現物返還の意思表示があった場合については,その裁判等が確定するまでの間は遅延損害金は生じない,そのような規律を提案しておりました。   この点につきましては,パブリックコメントにおきまして,一般の金銭債権との整合性に欠けるのではないか,また,中間試案のような考え方を採用すると,現物返還の意思表示が濫用的に使われるおそれがあるのではないか,そういった指摘がされたところでございます。   そこで,今回の提案におきましては,一般の金銭債権と同様に請求時から履行遅滞に陥るものと整理いたしまして,中間試案における「①の後段」,「②の後段」の規律は削除することとしております。   また,現物返還の効果につきましては,大きく分けると二つの考え方があろうかと思いますが,判決確定時に生じるという考え方と,減殺請求時など過去の一定時点に遡らせて生じさせるという考え方があろうかと思います。この点につきましては判決主文の簡明さ,また,執行段階における処理などを考えますと,一定の時期に遡らせて生じさせるべきではないかということで,今回の部会資料におきましては,減殺請求時に遡らせて現物返還の効果を生じさせるという考え方を採用しております。そのような考え方を採用いたしますと,現物返還の目的財産の価額に相当する金銭債務につきましては,減殺請求時に消滅することとなりますので,消滅する金銭債務については遅延損害金は生じないこととなり,一方で返還に係る目的財産について生じた果実につきましては,遺留分権利者が取得することとなる,そのような整理が可能ではないかと考えております。   次に,部会資料6ページの当事者間の協議について御説明させていただきます。   こちらは第14回の部会におきまして,委員から御指摘があった点に関係するものですが,現物返還の目的物につき,当事者間に協議が成立したときに金銭債務の全部又は一部が消滅する,そのような規律を採用しておりますが,その協議の内容をどのように考えるのかということでございます。考え方といたしましては,㋐目的物についての協議が調った段階で,ここにいう協議が調ったというのか,㋑目的物とその価額についての協議が調った段階で,ここにいう当事者間の協議が調ったというのか,考え方としては二つあろうかと思います。   この点につきましては,立法論としては両論あり得るかとは思いますが,協議が調った段階で債務が消滅するという整理をしておりますので,㋐のような考え方を採用いたしますと,消滅する債務の範囲が明確にならないこととなり,そういたしますと,遺留分権利者の債権者などの立場に立ってみると,権利関係がやや不明確,不安定になるおそれがあるのではないかということで,㋑の考え方,目的物とその価額について協議が調った段階で債務が消滅する,ここでいう協議が調ったと扱うべきではないかということで,部会資料ではその考え方を提案しております。   そういたしますと,判決主文につきましても消滅する金銭債務の範囲を明らかにした方がよいのではないかということで,例えば第14回の部会資料におきましては,18ページ目に,1,000万円の金銭債務があって,そのうち600万円分をC土地で弁済する場合ということで主文例を掲げておりましたが,この場合につきましては,主文例の2(1)の部分,「YがXに対して〔600万円の支払いに代えて〕返還すべき財産をC土地と定める」とありますが,ここでいう「600万円の支払いに代えて」ということは,明示して書いた方がよろしいのかなと考えているところでございます。   引き続きまして,部会資料7ページ以下の現物返還目的物確定訴訟の訴訟構造等について御説明させていただきます。   まず,⑷の受遺者又は受贈者に訴え又は反訴の提起をさせることについてということでございますが,こちらは部会資料14におきましては,受遺者又は受贈者が現物による返還を主張した場合については,反訴の提起を擬制するなどの規律を設けたらどうかという提案したところでございます。この点につきましては,部会におきまして皆様に御議論いただきましたところ,手続的に煩わしいという理由で民事訴訟法の大原則を変えるのは適当ではないのではないか,また,反訴という手続を踏ませること自体は大した手間ではないのではないか,そういった御指摘があったところでございますので,今回における部会資料におきましては,原則として受遺者又は受贈者に現物返還目的物確定訴訟を,訴え又は反訴という形で提起させることとしたらどうかという提案をしております。   また,⑸の訴えの出訴期限についてですが,中間試案におきましては,現物返還の意思表示は減殺請求時から3か月という限定を設けていたところでございます。この点におきましては,パブリックコメントにおきまして相続財産の全体像が把握し難い時期に現物返還の判断は不可能ではないか,また,3か月という期間は不当に短いのではないか,そういった指摘がされたところでございます。   今回,⑷で御説明したとおり現物返還目的物確定訴訟につきまして訴え又は反訴を提起させる,そのような規律を採用する場合につきましては,この訴えの出訴期限を設けるかどうかということが問題となってまいります。この点につきましてはパブリックコメントにおける指摘を踏まえまして,基本的には3か月という限定はなくすことといたしましたが,ただ,いつまでも訴えの提起ができるとすると,金銭請求訴訟が確定した後もできることとなり紛争が再燃し,長期化するおそれがあるということで,基本的には金銭請求訴訟の事実審の口頭弁論終結までに限定するのが相当ではないかということで,今回の部会資料では提案しているところでございます。   また,部会資料8ページ目の⑹,金銭請求訴訟との関係についてですが,金銭請求訴訟と現物返還目的物確定訴訟,こちらが同時に係属している場合につきましては,基本的には密接に関連した訴訟ということになりますし,また,金銭請求訴訟においては,現物返還目的物確定訴訟が確定したということは債務の消滅原因となりますので,実質的には抗弁と位置付けられるものでございますので,一緒の裁判所で審理した方が適当ではないかと考えられます。その方策として,一つとしては反訴を強制する,すなわち金銭請求訴訟が係属している間は現物返還目的物確定訴訟は反訴の方法によらなければならないこととするということが考えられるところですが,部会資料3ページの末尾以下でも検討しているとおり,金銭債権が差押えされた場合など,いろいろ事例を考えていきますと,必ずしも反訴ができない場合もあるのではないかということを考えますと,反訴強制ではなく,できる限り併合して審理をすべきという規律で対応すべきではないかということで,併合強制の規律を設けたらどうかということで提案しているところでございます。   ただ,この場合のように密接に関連しているとか,訴訟経済の観点から併合すべきだというものは,遺留分に関する訴訟に限らないという批判も考えられますので,現行法どおり,裁判所の裁量権の行使による弁論の併合に委ねるのが適当ではないかとも考えられるところでございます。   引き続きまして,部会資料9ページ以下の甲-2案について御説明させていただきます。こちらも考え方の骨子を御説明させていただいた上で,それぞれの論点につきまして御説明させていただきます。   まず,考え方の骨子でございますが,遺留分減殺請求権の行使により金銭債権が発生すること,また,受遺者又は受贈者が現物による返還を求めることができる点,こちらは甲-1案と同じでございます。そして,2点目,現物返還の目的物についての指定権ですが,甲-1案では裁判所の裁量に委ねていたところ,甲-2案では受遺者又は受贈者がその指定権を有することとしております。また,裁判所は指定権の行使が遺留分権利者の利益を害する目的でされた場合,そのほか当事者間の衡平を害することとなる特別の事情があると認める場合には,その請求を棄却できること,そのような規律を設けることも予定しております。そのほかの訴えの提起の時的限界や併合審理の規律,また,債務の消滅時期などにつきましては,甲-1案と同様でございます。   それでは,甲-2案における論点について見ていきたいと思います。   まず,⑴の受遺者又は受贈者に指定権を与えることについてどのように考えるべきかということですが,その必要性と理論的な許容性についてそれぞれ検討していきたいと思います。   まず,受遺者又は受贈者に指定権を与える必要性ということですが,こちらは甲-1案について指摘されている問題点がそのまま当てはまりますが,甲-1案のように裁判所の裁量に委ねますと,一体,何が現物で返ってくるのか分からないということで,現物返還の内容につきまして予測可能性が低い,また,受遺者側はこれが欲しい,遺留分権利者はこれが欲しいという形で,当事者間に争いが生じる可能性があるので,紛争が長期化するおそれがある,そのような指摘がされているところでございます。   また,理論面における許容性ということでございますが,受遺者が遺贈を放棄した場合には,遺留分権利者としてはそこから満足を得なければいけない地位にありますので,遺留分権利者が権利行使をした時点で再度,事後的な放棄を認めるのと同様の権利を付与したとしても,相応の合理性があるのではないかと考えられます。少し分かりにくいかと思いますので,部会資料の10ページの(注1)の事例を御覧ください。この事例におきましては,相続人がX,Yの2名で,被相続人が全財産,甲土地2,000万円,乙土地1,000万円,丙土地1,000万円,これをXに遺贈したという事例でございます。この場合,Yが遺留分減殺請求権を行使した場合に,Yの遺留分は1,000万円ということになりますが,この場合,Xが丙土地の遺贈を放棄した場合につきましては,Yとしてはそこからまずは満足を得なければいけないこととなりますので,そうすると,Yは丙土地の価値1,000万円で満足を得なければならず,その後は遺留分減殺請求をすることができないことになります。そういたしますと,Yとしてはほかの土地が欲しいと思ったとしても,丙土地で満足を受けなければいけない地位にあると,そういった意味で,受遺者が遺贈を放棄した場合には遺留分権利者としてはそこから満足を得なければならない地位にあるということでございます。   次に,⑵の論点に移りたいと思います。このように受遺者又は受贈者に指定権を与えるとしても,一定の場合には指定権を与えるのが相当ではない場合もあるのではないかということでございます。例えば受遺者又は受贈者が遺留分権利者を害する目的で,嫌がらせの目的で価値のない山林を指定した場合や,また,環境汚染若しくは産業廃棄物などがある不動産を指定した場合,そういった場合には指定権の行使を認めない必要があろうかと思います。   また,ほかにどのような事情が考えられるのかということですが,部会資料におきましては,例えばということで遺留分権利者が生活に困窮しており,流動資産,金銭を必要とする,そういった事情がある一方で,受遺者又は受贈者には指定した財産以外の目的財産を必要とする事情は特にない,ほかにもたくさん財産を持っている,そのような場合につきましては,そのような指定については認めないということも考えられるのではないかと思います。この点につきましては,裁判所の裁量をどこまで認めるのかということになりまして,また,その裁量の幅を広くいたしますと,甲-1案で指摘された問題点が再び生じてきますので,この点につきましては甲-2案を採用する必要性などを踏まえて,慎重に検討する必要があると考えられます。  また,⑵の末尾でも言及しておりますが,甲-2案における規律におきましては,遺贈又は贈与の目的財産であれば,受遺者又は受贈者はいずれも指定できることとしておりますが,その指定権をもう少し狭めるということも考えられるのではないか,例えばとして現行法において減殺の対象となっている財産に限るとか,そういった限定もあり得るのではないかということで,本文とは異なる考え方も一応お示ししております。   以上が甲-2案における論点ということでございます。   続きまして,11ページ以下の甲-3案について,考え方の骨子及び各論点について御説明させていただきます。   甲-3案につきましては,減殺請求権の行使により金銭債権が発生すること,また,受遺者又は受贈者が現物による返還を求めることができること,また,現物返還の目的物についての指定権を受遺者又は受贈者が有すること,これらの点につきましては甲-2案と同様でございます。甲-2案との相違点ということですが,甲-2案では裁判所の判断により金銭債務が消滅することとしていましたが,甲-3案では,受遺者又は受贈者が指定権を行使したときに金銭債務が消滅し,また,目的財産の所有権,権利が移転することとしております。このように受遺者又は受贈者が目的物の指定をしたときに,実体法上の効果が生じるとすることによりまして,受遺者又は受贈者に現物返還の目的物確定を求める反訴などを提起させる必要がなくなりますので,規律自体は他の案と比べて非常に簡明になるかと思います。   引き続き,甲-3案における論点について御説明させていただきます。   まず,現物による返還を求める権利行使の時的限界についてということですが,こちらは受遺者又は受贈者が現物による返還を求めることができる時期をいつまでとすべきかという論点です。時的限界を設ける必要性自体につきましては,甲-1案,甲-2案と同じでございまして,いつまでも受遺者又は受贈者側に現物による返還を認めるとなると,紛争が再燃するおそれがあるということは同じとなりますので,甲-3案を採用する場合におきましても,金銭請求訴訟の事実審の口頭弁論終結時までには,この権利行使をさせるべきではないかと考えているところでございます。   ただし,特別の規律を設ける必要性があるかどうかにつきましては,慎重な検討が必要と考えているところでして,こちらは金銭請求訴訟の既判力により,現物による返還を求める権利,その抗弁が遮断されるかどうかということで決まってくるものかと考えられます。詳しくは,部会資料の13ページ(注2)において検討しておりますが,検討に当たって参考になりますのが,これまでの取消権,解除権,相殺権,建物買取請求権についての最高裁の判例があり,これらの最高裁の判例に照らして,いずれの例に最も本件に近いのかということによりまして,特別の規律を設ける必要性があるのかどうかということが決まってくるかと思います。繰り返しになりますが,時的限界を設ける必要性があるという,実質論につきましては,甲-1案,甲-2案と同様に金銭請求訴訟の事実審の口頭弁論終結時までにさせる必要があるという点は共通でございます。   また,甲-3案のデメリットとしては,指定権の行使に実体法上の効果を付与するとなると,現物返還の対象物を事後的に変更したい場合に対応することができなくなるのではないか,そのような問題があるのではないかとも考えられます。この点につきましては,訴訟外で協議をしているような段階におきましては,飽くまで協議の段階ですので,指定権を未だ行使していないと考えることもできますし,また,訴訟において指定権の行使がされた場合につきましては,こちらは訴訟における形成権の行使と私法上の効果についてどのように考えるべきかという論点と関連してきますが,多数説によれば,形成権の行使についての判断がされない場合には,実体法上の効果も生じないと解されておりますので,そういたしますと,裁判所の判断が出るまでの間は抗弁の撤回,変更も可能ではないかと考えられます。そういたしますと,目的物の指定権に実体法上の効果を与えたとしても,柔軟な対応が可能になる場合も多いのではないかと考えているところでございます。   以上,甲-1案から甲-3案における考え方,それから,各論点について御説明させていただきました。 ○大村部会長 ありがとうございました。   第1の「遺留分減殺請求権の効力及び法的性質の見直し」につきまして,御説明を頂きました。今回は,甲案を中心に検討するということですけれども,そのうち,甲-1案から甲-3案までを出していただきまして,それぞれの主要な違いを御説明いただきました。これらにつきまして御意見を頂ければと思います。いかがでしょうか。 ○増田委員 前回,申し上げた内容を甲-2案として検討の対象に取り入れていただいて,ありがとうございます。   そこで,まず,甲-2案を中心に質問しますが,まず,甲-2案の場合の受遺者側の権利の性質論なんですけれども,訴えによってのみ行使できる形成権という理解でよろしいのかどうか,そうなると,離婚請求権と同じような性質のものになると思うんですが,それでいいのかどうかというのが一つ目です。   それから,二つ目は甲-1とも共通するんですが,遅滞の発生時点あるいは効果遡及の時点を減殺請求時とされていますが,これは減殺請求の二段階のうち,一般的に減殺請求するという意思表示ではなくて,具体的に金銭債権額を明示した請求時という理解でいいのかどうかというのが二つ目です。  三つ目は,甲-1案では裁判所が目的物の選定に当たって,遺贈又は贈与がされた時期というのが最も重要な要素になっているので,まず,遺贈から選択し,贈与は新しいものからということになるんだと思うんですが,甲-2案の方の受遺者・受贈者側の選択の場合には,その原則は適用されないのか,また,適用されないとすればなぜなのか,つまり,古いものを出してもいいのかということです。   それから,もう一つは,これも甲-1案と共通になるんでしょうけれども,遡及効を認めた場合に遅延損害金と果実をパラレルに考えることについてはそのとおりだと思うんですけれども,管理コストなんかはどうなるんだろうと,果実収集コストとか,そういうのも入ってくるのか,それはまた精算になるのかどうか,これも確認的な話なんですけれども,以上,お伺いしたいと思います。 ○大村部会長 ありがとうございました。   甲-1に関わる問題もございましたけれども,主として甲-2についての御質問ということでございました。 ○神吉関係官 では,事務当局の方から簡単に御説明させていただきます。   まず,1点目の甲-2案の性質論ということでございますが,基本的には増田委員から御指摘があったとおり,離婚訴訟と同様に訴えをもって形成権を行使するものである,ただし,訴外で協議により効果が生じる場合もあり得るということになろうかと思います。   2点目の遡及効を認める場合に,さきほども部会資料の説明の中でも簡単に触れましたが,いつまで遡及をさせるのか,すなわち減殺請求時なのか,金銭の履行請求時なのか,現物による返還請求時なのかという点でございます。ここはいろいろ考え方があろうかと思いますが,一番簡明なのは減殺請求時ではないかということで今回御提案しているところでございます。   3点目の時期の関係でございますが,甲-1案では一つの考慮要素として⑥のような規律を設けていたところでございますが,この点につきましては,部会資料の11ページ目の(注2)で検討を加えておりまして,古い贈与であったとしても当該目的物に市場価値があって,金銭評価も可能なものであれば,現物返還を否定すべき理由はないのではないか,それが古くて価値がないという話であれば別だと思うんですけれども,価値があるものであれば,受遺者又は受贈者が指定してもよいとすべきではないかということで,今のところは考えていることでございます。ただ,時期が重要であるということであれば,先ほども説明の中で触れましたが,受遺者又は受贈者が返還することができる範囲を,現行法上減殺の対象となっているものに限るということも考えられるかと思います。   最後の遡及効を認めた場合の管理コストがどうなるかということでございますが,こちらは詳しく検討しているわけではないのですが,現行法でどう扱われているのかということだと思います。現行法も1036条で,果実は遺留分権利者が取得することとなっておりますが,その場合に果実を返してくださいといったときに,果実の収集コストを差し引くかどうか,という現行法の解釈にかかわってくる点だと思いますので,そこは現行法どおりになるのかなと考えております。 ○大村部会長 増田委員,よろしいでしょうか。 ○増田委員 また,意見は後で述べさせていただきますけれども,2点目の点ですが,金銭債権の具体的な金額が示されていないのに遅滞に陥ることになると,遅滞に陥らずに払うということはあり得ないことになるわけで,それは違和感があるように思います。 ○堂薗幹事 今の点は,結局,現物での返還をする場合に,遅延損害金と果実の差引きをしなくていいようにするということで,法律関係を明確にする観点から,その場合には減殺請求時に遡って最初から遅延損害金は発生せず,果実は元々遺留分権利者に帰属していたという取扱いをするだけでございますので,そういった取扱いをする時点は減殺請求時であって,それ以降の精算をしないということでございます。ただ,増田委員が言われるように,実際に金銭について遅延損害金が発生する時期は,金額の明示があって,その請求をした時ということになるものと思っていますが,その時点と遡及効が生じる時点とは必ずしも一緒でなくてもいいのではないかという理解です。 ○増田委員 そうなると,目的物指定権を行使しなかった場合の遅延損害金の発生時点と,行使した場合の遅滞時とは違うということになるんですかね。 ○堂薗幹事 ですから,権利を行使した場合に消滅した金銭債権部分については,そもそも,遅延損害金も含めて発生していなかったという取扱いをするということですので,実体法上は,金額を特定して請求した以上,一旦は遅延損害金が発生することになるわけですが,現物で返還する場合には,遡及的に最初からその部分については金銭債権が発生していなかったという取扱いをするということでございます。 ○増田委員 目的物指定権を行使しなかった場合は,どうなりますか。 ○堂薗幹事 行使しなかったら全額について遅延損害金が発生するということです。 ○増田委員 どの時点から発生するということでしょうか。 ○堂薗幹事 それは金額を特定して請求した時だと思いますけれども。 ○大村部会長 今の点について何か。 ○山本幹事 今の増田委員の御疑問は,そもそも,遅延損害金がいつから発生すべきなのかということで,可能性としては遺留分減殺請求をした時点と,それによって抽象的に発生した金銭債権を行使した時点という二つが考えられ,結論としてはどっちかにそろえて,それと平仄をそろえて消えるようにすればいいんだと思うんですけれども,どちらとお考えなんでしょうかという,そういう御質問だったのではないでしょうか。 ○堂薗幹事 結論的には,遡及する時点を遅延損害金が発生する時点としても同じなのかもしれないんですが,果実の返還も含めて,減殺請求の時から返還すべき目的物が確定するまでの間の精算はしないということを明らかにする上では,遡及効が生じる時点はむしろ減殺請求時の方がいいのではないかということです。結局,遅延損害金が発生する時点,すなわち請求時まで遡ることとした場合でも,当然,それまでの間の果実も含めて返還させるということですので,結論は同じだと思います。ですから,法律でどう書くかというだけなのかもしれませんが,法律関係を明確にするという観点から遡及効を認めるということだとすると,減殺請求時まで遡るという方がより明確ではないかという印象を持っているということでございます。 ○神吉関係官 1点,補足させていただきます。先ほど御説明したとおり,遺留分減殺請求権の意思表示と金銭債務の履行請求と二つの意思表示があると整理しております。そして,遺留分減殺請求権の行使によって金銭債権が発生する,それは民法412条3項でいう期限の定めのない債務であると考えられます。普通は,減殺請求とともに,金銭を払えという履行請求もするので,減殺請求時に履行遅滞に陥ることになる,そのように整理ができるかと思います。増田委員の御指摘は,遺留分減殺請求権の行使をまず一回すると,その後に金銭の履行請求をすると。そのときに金銭の履行請求をしたときから遅延損害金は発生するのだけれども,現物返還の効果を最初の時点に遡らせると,そこの時点から果実の収受権を取得することになるので,そこはおかしいのではないかと,そういう御疑問でしょうか。 ○増田委員 それがおかしいと言っているのではなくて,返還目的物の指定をしたときと指定をしなかったときで履行遅滞に陥る時点が異なるのがおかしいと言っているわけです。 ○堂薗幹事 ですから,履行遅滞が生じる時期は変わらないんですが,この遡及効は,現物で返還した部分については,最初から金銭債権が発生していなかったという取扱いをしようということでございます。この点は遺産分割などでも同様の取扱いがされているかと思いますが,法律上,最初から一部金銭,一部現物で返すということになっていたのと同様の取扱いをするという趣旨でございます。 ○増田委員 余り本質的な部分ではないので次にいってください,細かい議論ですから。 ○大村部会長 取りあえず,では,今のような御議論があるということで,更に説明等を詰めていただくことにしたいと思いますけれども,増田委員,ほかの点についてはよろしかったですか。 ○増田委員 結構です。 ○南部委員 議論が難しくなる前に発言させていただきたいと思います。一つは遺留分減殺請求権による共有状態の回避をするための方策として,金銭債権化することについてはよいかと思っております。甲-1,甲-2は手続というのが非常に煩雑かと思われますが,ただ,指定権を受遺者等が有するということで限定されていることはいかがなものかということで,甲-1の場合は裁判所の判断ということなので,一般的に見たときに答えがどうであろうが,最終的に納得がいくかなという気がします。甲-2,甲-3は受遺者等の希望が非常に高く出るので,それは遺留分権利者にとってはメリットがあるのか疑問に感じますので,公平性,納得性も踏まえた御議論を是非,先生方にお願いしたいなと思っておりますので,意見として取り上げていただけたらということでお願いいたします。 ○大村部会長 ありがとうございます。   甲-1と甲-2,甲-3で指定権をどこに帰属させるかということにつきまして,裁判所に判断をしていただいた方が納得できるのではないかという御意見を頂きました。これについていろいろお考えがあろうかと思いますけれども,何かございましたら伺いたいと思いますが,いかがでしょうか。 ○垣内幹事 遺留分を侵害するような遺贈等がされた場合に,今回の御提案というのは基本的には金銭で解決をするということですので,何か特定の遺贈等の目的財産を返還することによって解決するのは本則ではないと,物が戻ってくるのは飽くまで遺贈等を受けた,ですから,減殺の義務を負っている者がその旨の意思を持っているだけであるというところで,出発点として現行法とは異なりまして,個別のこういう時期にされたこういうものについて,最初に返すべきであるというような出発点を採っていないということになると思います。   それは受贈者等の意思に委ねられているという出発点であって,その上で,更にしかし現物でも返していいという意思があったときに,そこで,裁判所が公益的あるいは様々な事情を考慮して,どれが一番適切なのかというのを決めるという要請がこの遺留分の制度という観点から見て大きいのか,それとも,それについては基本的には受贈者等の意思を尊重するので,そちらの方での選択を第一次的なものとして尊重するということなのかというのは,優れて実体法的な政策判断だと思うんですけれども,私自身は後者のような受贈者側の意思を尊重するという考え方も十分あり得る選択肢なのではないかなと,仮にこういう制度を導入した場合にはあり得るのではないかなと感じております。   関連して,手続法的な観点から申しますと,基本的には実体法はどうかということに従って,それで手続法を組み立てていくということになるかと思いますが,甲-1案のように非常に裁判所の裁量が大きいということですと,若干,文脈が違うかもしれませんが,部会資料の中でも言及がありましたように,手続進行上は釈明権の行使等について非常に配慮を要することになるだろうと思われますので,その辺りが手続進行としてはやや負担が大きい手続にはなるのかなという感じがしております。   もう少し付け加えて申しますと,仮に受贈者側の返還目的財産選択権を尊重するという立場に立った場合に,そうすると甲-2案か甲-3案かという話が出てくるわけですけれども,この場合に甲-1案であれば,様々な事件において返還対象とすべき財産が一義的には定まらないので,それを裁判所の一種裁量的な判断で定めるということですから,これを形成的な裁判として構築することには必然性があると思われるわけですけれども,一度,目的物が受贈者側の選択で決まるという前提を採ったときに,なお,その協議が調わないときの効果発生を判決に委ねるということが必然的なのかどうか,形成訴訟構成を採ることが必要なのかというと,そこは必ずしもそうではないのかなという気もするところでありまして,局面は違いますけれども,例えば借地借家法で賃料額の増減請求等がありますが,あれも実体法上の形成権として増減請求があれば効果が発生すると,しかし,金額等について争いがあれば,それは訴訟において確認訴訟等の形で判断がされるということでありまして,甲-2案の場合にも専ら金額,それから,そういった形成権の要件が本当にあるのかどうかと,これはただし書等をどうするかというところと関係するかと思いますが,その辺りが審理の対象になるのであるとすれば,これは必ずしも形成訴訟と考える必然性もないのかなという気が私自身はしておりまして,そうなると甲-3案というのも非常に明快で魅力的な選択肢かなと現時点では考えております。 ○大村部会長 ありがとうございました。   受遺者側に選択権,指定権があるというのには一定の合理性があるのではないかということを踏まえた上で,甲-3案を採る可能性について御意見の開陳があったと承りました。   そのほか,この点についていかがでしょうか。 ○山本幹事 主として甲-1及び甲-2案について申し上げたいと思います。まず,甲-1案についてですが,⑥という基準で裁判所が裁量的に判断するということになっているわけです。先ほど甲-2案との関係で遺贈の時期とかは特に問わなくてもいいのではないかという判断をされたこととの関係で,⑥が維持されるのか自体一つ疑問としてはあるところでありますが,いずれにしましても,最終的に裁判所が一切の事情を考慮し得るということになりますと,主張立証の範囲が非常に広範に及び得るということで,当事者の予期に反する指定についての不服申立てによって更に審理が長期化するおそれも否定できないと考えているところです。   次に,甲-2案についてですが,先ほど御説明いただいたところでは,離婚訴訟と同じく訴えによってのみ行使し得る形成権というものを想定しておられるんだということでしたけれども,その場合の形成権の発生要件がよく分からないように思われます。特に⑤の棄却の要件というものがどう位置付けられるのか。あるいは離婚訴訟におけるいわゆる有責配偶者の主張のようなものとか裁量棄却の要件のようなものを考えておられるのかもしれませんけれども,この辺りの理論的な説明がどうなるのかというところが疑問としてございます。   その上で,いずれにしても今回,⑤は,「遺留分権利者の利益を害する目的でされた場合その他当事者間の衡平を害することとなる特別な事情があると認めるとき」ということなんですけれども,これがどのような基準あるいは要素によって判断されるのかというところが疑問としてございます。これに様々な要素が含まれるということになりますと,先ほどの甲-1案と同じく主張立証の範囲が無限定となり,審理の長期化,複雑化といったような支障が生じることが懸念されるわけであります。特に部会資料の10ページの(2)の2段落で御紹介いただいているような事例になってきますと,現物返還を認めないことが衡平にかなうことについてコンセンサスがあるのか疑問があり得ると思っているところであります。   更に甲-2案につきましては,現物返還を別訴によって求めることができるということですと,審級を異にしてしまっている場合のように必ずしも併合ができないこともあり得,そういった場合はそれぞれ判断が異なる可能性が出てくるということで,こういった場合も全て請求異議で事後的に調整すればよいという話で済むのかといったところが疑問としてあるように思われます。   他方,甲-3案は意思表示によって所有権移転と金銭債権の消滅の効果が実体的に生じ,これは抗弁になるということで理屈的にも無理はないと思われるところであり,現物返還を認めた場合の不都合については,実体法上も権利濫用といった規律で対応することが可能と考えられるように思われまして,その辺りを考えますと,複雑でよく性質が分からない部分もある甲-2案を採るメリットというのがどれぐらいあるのかについては,慎重に御検討いただく必要があると考えているところです。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○沖野委員 質問ですけれども,2点あります。   一つは,甲-2案の場合についてです。協議が調わないときの問題なので,相手方と争っているということだと思うんですけれども,受遺者等が指定した財産が例えば公平に反すると判断されるときに,別の財産であったならば公平に反しないのにということがあるのではないかと思われるんでけれども,そういったときは,結局,具体的にどのような経過をたどるのかということです。裁判所としては,このままだとただ棄却して終わるけれども,別のものにしてはどうかと示唆することになるでしょうか。これを言ってあげないともはやできなくなるということがあるので,結局,甲-2案の下でも一定の裁判所の何らかのアクションなりが考えられるのかというのが一つです。   もう一つは,甲-2案で出されているところの衡平を害するのではないか等々の配慮は,甲-3案には掛からないのかということです。一般的には権利濫用ではないかという御指摘を受けて,そうかなとも思うんですが,単純な権利濫用とはかなり違うような性格があり,あるいはこの局面において具体的に判断すべき内容を含んでいるようにも思われるところで,そうだとすると,指定権の行使について,この局面において濫用と考えられるような具体的な基準というのは,結局,甲-2案で出されているようなものがここにも入ってくるのだろうかと思われまして,そうだとすると,そのような基準を明示しなくてもいいのかということのほかに甲-3案で,これもまた当事者が争っていることが前提になるでしょうから,当事者が争っていますと,その指定はおかしいというような話になって訴えになると,その指定権の行使が適切であるのかという判断をせざるを得なくなるように思われるのです。そうすると,甲-1,甲-2,甲-3で,とりわけ甲-2,甲-3でそこまで違うのだろうかと,性格はもちろん違うのですけれども,判断内容がそんなに違ってくるのだろうかというのが分からないものですから,そこをお聞かせ願えればと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   最初の南部委員の御発言は,直前に話題になった衡平を害するということについて,配慮する必要があるだろうというところから始まったのではないかと思いますが,裁判所の関与の仕方が甲-1,甲-2,甲-3で違うけれども,しかし考えてみると,その差は相対的なものなのではないかというのが今の沖野委員の御指摘だったかと思います。御発言は質問の形になっておりましたので,事務当局の方から。 ○堂薗幹事 こちらも前回の増田委員の御指摘を踏まえて,まず,甲-2案を考えてみたところ,いろいろ,突き詰めていくと甲-3案のような考え方も十分あり得るのではないかということで,今回,甲-2案と甲-3案をお出ししたということでございます。ただ,甲-2案による場合には,受遺者等が指定したものについて裁判所が不適切だと思う場合は,当然,釈明権の行使ということも考えられますし,また,裁判が確定して初めて効力が生じますので,当事者としては第一順位としてはこれ,第二順位としてはこれという主張の仕方もできるという面があろうかと思います。考慮要素につきましても,こちらの考え方としては甲-2案の方が,裁判所が裁量で棄却できる場面が大きいのではないかという整理です。   甲-2案に立った場合に,⑤というのは,一体,どういう性質のものなのかというところが問題になりますが,甲-2案につきましては,一応,受遺者側に指定権はあるんですけれども,その指定の効力について裁判をすれば,それを無効にできるといいますか,若干,詐害行為取消しに近いところがあるのかもしれませんが,受遺者側に指定権はあるけれども,⑤のような抽象的な要件の下で,裁判所がその効力を否定できるという点で,甲-3案とは違うのではないかということです。   甲-3案の場合も当然,権利濫用に当たるような場合は元々無効なわけですが,甲-2案では,要するに権利濫用に当たらないような場合でも,すなわち単に当事者間の衡平を害するという場合でも効力を否定できますので,甲-3案よりは当事者間の指定権を無効にできる範囲が広くなるのではないかという整理でございまして,ただ,そういった意味で,甲-2案と甲-3案の違いは相対的なものにすぎないというのは御指摘のとおりかと思います。 ○大村部会長 沖野委員,よろしいですか。 ○沖野委員 内容は分かりました。甲-2案と甲-3案で,指定権の範囲というかが違うというところは想定していなかったものですから。しかし,そういうものだとして案は組んであるということは分かりました。 ○大村部会長 ほかはいかがでしょうか。 ○山本(和)委員 手続的なところで質問と,若干,コメントも入るかもしれませんが,甲-1案,それから,甲-2案に共通のところですが,甲-1案の⑤の先ほど来,出ている併合強制ということで,先ほど山本幹事から審級が違ってくる場合は難しいではないかという御指摘があって,私もそうかなと思ったんですが,①の請求が既に控訴審に係属している場合には,仮にこの規律を置いたときにはどうなるという前提でお書きだったのかということを御質問したいと思います。 ○神吉関係官 御質問にお答えいたします。基本的には⑤の併合強制の規律というのは,できる限り併合して審理をすべきということで,審級が違う場合,併合ができない場合までに強制するものではないということで考えております。会社法などでも併合強制の規律がありますけれども,訓示的な規定だと言われておりますので,どちらかというと,そちらに近いようなものとして考えているということでございます。 ○山本(和)委員 分かりました。ただ,私も会社法あるいは倒産法の債権確定の規律で,同様のものがあると承知していますけれども,あれらは多くの場合は提訴期間の制限があり,かつ,管轄も専属管轄になっていて,基本的には大体同じ時期に同じ裁判所に来るということを前提として,こういうのを置いていて,それで,しかし,非常に例外的な場合にそうではないときは別々でもしようがありませんねという規定だと思っていますので,これは,しかし,そういう前提が余りない場面ですので,全く違う裁判所に行く可能性が,全然,時期も違う可能性もあるということですので,少し趣旨が違ってくるかなというのが一つです。   それから,コメントですが,今,別々に裁判所に行く場合があり得るということを前提としたときに,④の規律,口頭弁論終結時までにしなければならないということなんですけれども,そうすると,①の方の訴えが控訴審とかで終わりかけているというところで③の訴えが提起されたと。すると,①の方が先に確定するということが当然,考えられると思うんですけれども,その場合に③の訴えというのは,どうなるということが前提になっているんでしょうか。 ○堂薗幹事 甲-1,甲-2の場合は,結局,①の金銭請求訴訟の既判力で,それを遮断することはできないだろうという前提ですので,結局,実体法上の時期的な制限を掛けただけで,別訴は引き続き係属して,そこで判断が出された場合には,金銭請求訴訟と矛盾する場合は請求異議等で対応するということになろうかと思います。そういった意味で,事務当局としても,甲-1案,甲-2案を採った場合には,現物返還の権利行使の時的限界を金銭請求という別の手続のある一時点で切るという点について,理論的にうまく説明ができるのだろうかという疑問を持っております。これに対し,甲-3案を採用しますと,正に前訴の既判力で遮断したのと同じ効果がこれによって生じるというところがあろうかと思います。甲-1案,甲-2案だと若干説明が難しい点があるのではないかという印象は持っております。 ○山本(和)委員 そういうことであればということなんですが,結局,今,請求異議と言われましたが,強制執行の前であれば,あるいは金銭が支払われる前であれば,請求異議ということになると思うんですが,支払われた後もなお係属し得るのか。これは遡及効を認めるということになっているので,仮にその後も③の訴訟が係属して,このものでということになった場合に,それが遡及的効果を生んで,金銭を支払っていたのが不当利得になるとか,そういうことまであり得るのかどうかということを考えると,なかなか,これの規律ではうまくやっていけるのかなというような印象は受けます。 ○堂薗幹事 これでいくと遡及しますので,権利行使する以上は,普通は払わないということになろうかと思いますが,仮に払った場合は不当利得で解決するということになるのではないかと思います。ただ,御指摘のような難しい問題があるとは思いますので,そういった意味でも,甲-1案,甲-2案を採ると,手続を含め,難しい面がいろいろと出てくるかなという印象を持っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   前回,増田委員からの御発言もありましたけれども,それも踏まえまして甲-2案を検討されたということだと思いますが,それならば甲-3案はどうかということで、さらに甲-3案が出てきているということかと思います。今,この席上では甲-3案がよいのではないかという御意見が複数出されておりますけれども,この辺りにつきまして他の委員・幹事から御発言を頂ければと思います。 ○中田委員 私も甲-3がすっきりしていて分かりやすいなという気がいたします。ただ,他方で甲-3というのは現行法からの乖離という意味では,一番大きいのではないかと思います。とりわけ,遺留分権利者の立場を単に金銭債権化するだけではなくて,自分の求めないものを押し付けられる可能性が最も高くなる。それに対して権利濫用ということで対応しようということですが,果たしてそれで十分機能するだろうかということに実質的には不安を覚えておりまして,明快だから甲-3にいきたいんですけれども,そこにためらいがあるところでございます。そこで,実務的に甲-3を採った場合のあり得る紛争態様あるいは頻度といった辺りについてお教えいただければと思います ○大村部会長 今のような御発言がございますけれども,いかがでございましょうか。 ○増田委員 私は甲-2案を提案していたのですが,さらに進んだ甲-3案は明快で魅力的だけれども,どうかなと,割り切り過ぎではないかなという気がしているのですが,その理由は,今,中田委員がおっしゃったように減殺者の権利が弱くなりすぎて,要らないものを押し付けられる可能性があるということです。実務的にと,今,言われましたので,要らないものはどんなものだろうと考えてみました。   まず,明らかに要らないものは山崩れが起きそうな山林とか,崩壊寸前の建物が建っている土地やその建物など,これは危険が大きいし,第三者に対して損害を与えたときに賠償責任まで発生する可能性があるというものです。ただ,これは多分,価額を基準に考えたときに非常に価値の低いものとして算定されるから,こういうものを押し付けられる可能性というのはまだ少ないのではないかと思います。   ただ,価額を基準に収れんできないもの,すなわち価額はゼロにならないが,要らないと思われるものがいろいろと存在する。一つは土壌汚染があるが,汚染物質を除去する先行投資をすれば価値が出てくるというような土地が考えられる。これは価額は間違いなくあるんですが,個人の力で先行投資をするのは非常に難しいというようなものです。また,今,建っている建物が古くなっていて再築ができない土地,行政上の規制,たとえば市街化調整区域であるとか,接道要件に欠けているとかいったことがあって,古い建物が建っていて今のところは使えるが,ただ,再築はできない,こういう物件。これも間違いなく価額は付きますが,余り欲しくはないだろうと。それから,在外資産,ハワイのコンドミニアムとか,こういうものは間違いなく価値はあるんですが,所有権を確保するのに特別な現地での手続が必要だろうし,売却に関しても非常に困難であろうと思われます。  もう少し程度を下げると数多くあって,管理コストが掛かるとか,所有リスクがある物件は一般に要らない場合もあると思います。ただ,私は,これらのもの全部について,指定するのは駄目だと言っているわけではなくて,こういう要らない物件が存在することを前提にそれぞれの案の基準で,これらをどう判断するかを検討しておくべきだと思うんです。私見では,最後のコストだけというのはともかくとして,最初に言ったような例えば在外資産だとか汚染物質があるような物件は,甲-2だとはねられる可能性があるけれども,甲-3だと難しいというような話かなとは思っています。   本当は,これらのコストとかリスクを加味したような価額算定方法が一般的にあるのだったら,全て価額の問題に収れんすることができるので,甲-3案の考え方は魅力的なんですけれども,しかし,現在,そういう不動産の鑑定方法というのは少なくともないんです。一般的には採られていない。そこで,裁判所の判断を入れた方がいいのではないかなというのが私の考えであるんです。裁判所の判断で棄却リスクがあるとすれば,受遺者側としても余り変な物件は指定しづらいだろうと思いますが,物件を指定すれば自動的に所有権が移ってしまうという甲-3案であれば,取りあえず,移してしまえと,押し付けてしまえというようなこともあり得るのかなと思っております。   甲-3案というのは非常に割り切った考え方で,遡及効によるややこしい問題もないし,第三者,差押債権者とか,そういうものが出てくるときも非常に法律関係が明確になって魅力的だというのは,皆さん,おっしゃるとおりではあるんですが,しかし,現実を見たときに私としてはためらいがあると,そういう割り切り方をするのだったら,むしろ,純粋金銭債権にして,物での返還請求権は認めないという考え方もあるのかなと思ったりもしております。 ○大村部会長 ありがとうございました。 ○窪田委員 今,増田委員から御説明がありましたが,先ほど沖野委員からも御指摘があったと思うのですが,甲-3案を採ったとしても実体法上の要件として,甲-2案における⑤の部分でしょうか,これを反映させるような規定を置けば問題は対応できるのではないかと思います。ただ,その上で甲-2案の⑤自体がよく分からないところがありまして,今,要らないものを押し付けるというようなお話がありましたが,何でも自分が好きなもの,自分が持っているものを指定できるわけではなくて,贈与とか遺贈の対象になったものの範囲の中で,その指定ができるという意味かと思っております。   その中で不要なものがあったときに,これは不要なものだから要らない,有用なものだったらもらうということについては,そうした主張がそれほど合理的なものなのかなというのが私自身はよく分からないところがあります。つまり,海外のコンドミニアムなんて面倒くさいから,もらったって仕方がないから要らないよと言ったとしても,受遺者とか受贈者の方でもそういう可能性はあるわけですよね。なぜ,そのときに受贈者の方があるいは受遺者の方がそういう指定をすると権利の濫用だとか,詐害的だとかというような評価をされてしまうのかというのは,必ずしもそれほど自明ではないのではないかという気がします。   それから,部会資料に示されている中で先ほども御指摘があったんですが,10ページの中ほどに「また」ということで,遺留分権利者が生活に困窮しているとかの説明がありました。この話は確かに心を打つところはあるのですが,果たして遺留分という制度が目的とするものなのだろうかという気がいたします。つまり,遺産分割等において,言わば対等な共同相続人間でどう分けようかという場面では,こういうことを考慮するというのはあるとしても,言わば本来の相続分としてはなくなったけれども,最後のとりでのような形で法定相続分の最小限の法定相続分と言われるような形で権利を行使する,そのときに,今,生活に困っているのだから現金が欲しいとか,そういった話は,本来,遺留分に当然に組み込まれるようなものではないのではないかという気もします。最終的には,甲-1案を採った場合でも,裁判官の裁量をどういうふうな判断でやるのかという点などを考えると同様の問題がありそうですが,甲-2案で示された⑤の部分というのがうまく機能するのだろうかというような気がいたしております。   極端なことを言うと,そういうふうな裁量ということを捨てるのであれば,現行法と同じように直近のものからだんだん遡っていくとかという形のことはあり得るのだろうと思うのですが,そうでなくて,もらったもの,遺贈されたもの,贈与されたものの中から特定のものを選んで返すということができるという仕組みを設計する際に,甲-2案の⑤のようなものを余り幅広く認めると,制度の全体の趣旨と整合するのかなという点が気になっております。 ○大村部会長 ありがとうございました。   甲-2案の⑤は,一方で甲-3案にも設けることができるのではないか。他方で,しかし,甲-2案,甲-3案のいずれについても⑤のようなものを設けなければいけないというのは必然的な判断ではない。こういうような御指摘だったかと思います。 ○浅田委員 銀行等の第三者の立場から,本点,つまり,甲-1案から甲-3案までに関する若干の意見と,それから,先ほど来から問題になっています財産の適格性に関するものについて幾つか質問をしたいと思います。   まず,若干の意見ですけれども,銀行のように受遺者等や減殺請求権者ではない,直接の当事者でない者からすると,つまり,取引債権者からすると,今回,提示いただいている甲-1案から甲-3案までについては,いずれも従来から申し上げているとおりでありますけれども,現物返還について物権的効力ではなく,債権的効力として構成をいただいていると思っておりますので,そのような前提に立つ限りにおいては,どの案であっても違和感はないと思っております。もちろん,当事者にとって紛争解決のための社会経済的な,また,手続の重さ等との議論というのはあろうと思いますけれども,第三者から見ると,どれも違和感はないと思っております。   その上で幾つかの質問であります。主に銀行預金を念頭に置いての御質問ですけれども,受遺者等が預貯金債権や投信受益権を目的財産として現物返還を行おうとする場面を想定するに,当該目的財産に関する第三債務者となり得る銀行としては,権利義務関係を明確にしておくべきだと考えますし,これはひいては当事者間における減殺対象の指定におけるメルクマールにもなり得ると思います。   この観点から今回の御提案を見ますと,目的財産に関する権利が移転するというような言葉が書かれております。例えば甲-1案の⑦にありますけれども,その点について前提の質問として二つ御質問したいのですけれども,まず,一つ目の質問は,目的財産というのは預金債権等の金銭債権又は投信受益債権等も含まれるのかということです。これは多分,そのとおりだとは思っていますので,確認かもしれませんが。   二つ目の質問は,本規律において目的財産の権利が移転すると記載されている点でございますけれども,この権利の移転の効力は当事者間においてのみの規律であって,したがって,遺留分権利者が第三者にその権利移転を主張するためには,これに加えて第三者対抗要件又は債務者対抗要件を具備する必要があるかという理解について,御確認させていただければと思います。また,その上で更に若干の御質問をさせていただければと思っています。 ○神吉関係官 お答えいたします。預金債権は含まれるのかという御質問と,その権利移転の効力について,第三者に対抗するには対抗要件を要するのか,この2点の御質問を頂いたかと思うんですけれども,いずれもそのとおりと理解しているところでございます。 ○浅田委員 ありがとうございます。   それでは,これを前提に目的財産に関する権利に関して,更に4点,質問させていただきます。なお,預金債権が目的財産になる場合,現行は,受益者等としては払い戻した手元現金で金銭債権を弁済するというのが一般的なのかもしれません。けれども,ここでは規律を検討しているわけですから,この預金というかたちで減殺対象が指定された場合にどうなるのかというようなことを考えている上での御質問であります。   まず,第1点目ですけれども,預金債権には譲渡禁止特約が付されているのが通常であります。ここでの権利移転の対象たる目的財産に,譲渡禁止特約が付されている場合にはどうなるのかということです。現行法であるということが前提ですけれども,すなわち,当該特約を主張して権利の移転を否定できるのかということです。この点,例えば遺贈等の対象に預金債権が含まれていた場合,実務上,銀行としては遺贈等については承諾をするという実務的な取扱いを行うことが多いという認識であり,この承諾には譲渡禁止特約を解くという意味も含まれているんだろうということになります。   そうしますと,更にもう一度,相続とは直接関係ない,このような場面での承諾を行うことというのはまだ,もちろん,実例がないわけでありますので,一般的であるとは限らないわけですので,譲渡禁止特約を解くための承諾がないとした場合に,この規律における権利の移転というのがそもそも生じ得るのかどうかということが質問です。   次に,第2点の質問ですけれども,遺留分権利者による減殺請求がなされた後で,かつ,目的財産に関する権利の移転がなされる前において,銀行が遺言に従って受遺者等に預金の払戻しを行うこともあろうかと思います。これは本規律とは余り関係ない話かもしれませんけれども,銀行実務にとって重要でありますから申し上げるわけです。この場合には銀行としては既に債務の本旨に従った弁済を行っていると私は理解するわけでありまして,そうしますと準占有者弁済等の議論を持ち出すまでもなく,免責されるという理解でよろしいのかということです。すなわち,そうならないと取引の円滑性というのが担保できないのではないかという話です。   更に3点目ですけれども,甲-3案を前提とした質問でして,申し訳ありませんが,次の事例を設定します。まず,受遺者等が預金債権の遺贈を受けたとします。受遺者等が遺言に基づき銀行に当該預金債権が自らのものだと主張しながら,他方で,遺留分権利者に対しては当該預金債権を目的財産として現物返還の請求をしたとします。この場合,甲-3案によれば,当該現物返還の請求時点で当該預金の権利,債権の権利が遺留分権利者に移転することになりますが,受遺者等が現物返還を秘して,すなわち黙って銀行に対して払戻し請求を行った場合,銀行はそのような現物返還の事実を知りませんので,遺言に従って払い戻すことになると思われます。このような事例で銀行が払い戻した場合も,先ほどの債務者対抗要件の議論からしますと,同様に準占有者弁済の議論を持ち出すまでもなく,有効な弁済を行ったとして免責されるということでよろしいでしょうかということです。   最後に4点目ですけれども,これはお願いであります。権利の移転に関しては,債務者対抗要件の具備が必要であるとのことでしたので,何らかの通知が銀行にも送付されるということとなろうかと存じます。この通知の場合に,可分債権の取扱いのところと同様の議論でありますけれども,遺産分割協議の内容を明らかにする書面等の添付の上,通知をするものとする規律などを設けるなどして,銀行にとって判別のしやすい規律にすることを検討していただければと存じます。   以上,様々な意見等を申しましたけれども,要は預金債権という特殊な金銭債権かもしれませんけれども,譲渡禁止特約が付いていて,債務者対抗要件,第三者対抗要件というのが制度として権利の移転に関して必要な財産があると,これについて,この相続の規律だけで解決できるのか,その場合における第三者債務者の保護との関係はどうなるのかということについて,御検討いただいている点がありましたら,その範囲において御教授いただければと思います。ありがとうございました。 ○堂薗幹事 今の御質問の点ですが,基本的には当事者間で権利移転の効果が生じるということだと思いますので,譲渡禁止特約がある場合に,当然に遺留分権利者が権利行使できるということにはならないのではないかということでございます。   それから,減殺請求をした後,遺留分権利者側が余計な払戻しをしていた場合,これは当然,現物を指定する前に目的物がなくなっているということでございますので,債務者としては何ら問題なく,弁済によって消滅していると主張することができると思います。その場合には,本旨弁済によってその債務は消滅していることになりますので,当然,指定はできないということになるのではないかと思います。   それから,受遺者が目的物として指定したにもかかわらず,まだ,自分が預金者だということで払戻し請求し,それに応じた場合ですが,それも御指摘のとおり,債務者対抗要件を備えない限りは準占有者弁済を持ち出すまでもなく,有効な弁済として消滅しているということだろうと思いますので,特段の問題は生じないのではないかと思います。   それから,債務者対抗要件を具備するための要件について,遺産分割や遺言の場合と同じように検討した方がいいのではないかという点ですが,ただ,この場合は,一旦,受遺者側に権利が移転していますので,受遺者から通知があれば,銀行側としては元々権利者であった人から通知が来ているわけですので,それに従ってお支払いただくということで,特段の問題は生じないのではないかと思います。遺産分割ですとか,遺言の場合は,相続人が誰かが債務者にとって明らかでないので,通知が来ても,本当に元々権利を持っていた人からの通知なのかどうか分からないという問題があるので,あのような規律を設けておりますが,この場面ではそういった必要はないのではないかという印象を持っております。 ○浅田委員 ありがとうございました。 ○大村部会長 ありがとうございます。   そのほか,いかがでございましょうか。 ○西幹事 1点,感想ないし意見を申し上げた上で,1点,質問させてください。   まず,私は甲-3案が現行法との関係では,一番乖離が少ないと思います。その理由は,現行法でも,1041条において,現物減殺を原則としつつも,価額弁償を受贈者又は受遺者の側が一方的に選択できるということになっていまして,一部の財産についてだけ現物減殺ではなく,価額弁償にするということも認められています,判例で。それに対して,よい財産のつまみ食い的独占というような批判がありますけれども,現行法,判例はそれで動いているということになります。今回,改正によって現物減殺と価額弁償の原則と例外を逆にするという扱いにするのであれば,正にここも逆ということで,甲-3案のような考え方が一番素直に出てくるような気がいたしました。   ただ,それは現行法の下で遺留分権利者に与えられた権利との関係では,ということです。先ほど南部委員から御指摘がありましたように,甲-3案は不公平だという印象を多くの人が受けるのであるとすれば,それは遺留分制度に対する一般的な共通認識がないことと,関係するのではないかと思います。   つまり,遺留分制度というのは,本来は被相続人の意思に従った相続である遺言相続が原則だけれども,一定の場合に遺留分権利者の利益のために減殺するという形で制約を認める制度と考えるのであれば,今回のように受遺者と受贈者だけに選択権を与えるという考え方も素直に出てきます。反対に遺留分制度というのは飽くまでも前提というか,本来,原則に読み込まれるべきことで,遺留分制度をふまえた相続こそが本来の相続であると考えるのであるとすれば,それを侵害した恵与に対して遺留分権利者等の多くの関係者が平等な権利を持つという考え方の方が自然に感じられるのだと思います。国民一般が後者の考え方を採っているのであるとすれば,甲-3案の受恵者だけに選択権を与えるというのは,もしかしたら違和感があるのかもしれません。ですので,その辺りのことに対して,遺留分制度というものが現在,どのように認識されているのか見えないまま考えていくのは,不安だと思いました。   もう1点は,単純な質問です。先ほど中田先生の方から金銭債権化ということだけでも,遺留分権利者の権利は弱まることになるのだからというお話がありましたけれども,現実の利用価値という意味では,そういうものなのかなということも最近,思っております。と申しますのは,不動産なんて要らない,田舎の土地なんてもらってもしようがないから,ということで今は遺留分減殺請求をしないけれども,お金をもらえるということになったら,多くの人は遺留分減殺をするようになりますよというお話をされている実務家の方もいらっしゃいましたので。そうであるとすれば,一概に遺留分権利者の権利を弱めるのが価額弁償の原則化だとも言えないような気がしてきましたので,今回の改正案で金銭債権化というのが遺留分権利者の権利を弱めるものとして位置付けられているのかという,その前提を教えていただければと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   今の第1点の御指摘は,なかなか判別するのは難しいことだろうと思いますけれども,公平感の観点から問題があるのではないかという考え方には,背景があるのかもしれないという御指摘だったと理解いたしました。それから,金銭債権化されることが遺留分権利者にとってどうかという点は,見方が分かれるところかと思いますけれども,中田委員,何かございますか。 ○中田委員 特にございませんけれども,現物か金銭かという法律上の権利の評価の問題と,当事者にとって実際上どう考えられるのかということとのギャップが多分,あり得るということなのではないかと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○上西委員 質問と感想です。まず,甲-3案によった場合に,受遺者が指定した財産について,遺留分権利者がそれを減殺の対象として適切でないとすれば,当然のことながら拒否すると考えてよろしいでしょうか。そして,遺留分減殺請求はその段階で終わるという形になるのでしょうか。 ○堂薗幹事 拒否するというのは,拒否した上でその分を……。 ○上西委員 例えば山林が指定されたときに,それでは納得できないからと拒否すれば,この話は,一旦,終わるということになるのでしょうか。 ○堂薗幹事 その場合に金銭請求はするという前提ですか。 ○上西委員 つまり,金銭請求の方にまた戻ると考えてよろしいのでしょうか。 ○堂薗幹事 これは指定した以上……。 ○上西委員 そこで終わりですね。 ○堂薗幹事 金銭債権が消滅することになります。 ○上西委員 山林が指定された財産であったとした場合で,遺留分権利者が納得しないときは,当然に拒否できるとした方がよいのではないでしょうか。 ○堂薗幹事 それは所有権を放棄するということですか。 ○上西委員 そういうことです。 ○堂薗幹事 ここでは,そこまで明確に規定はされていないということになるのではないかと思います。 ○上西委員 押し付けられると困るケースが非常に多く出てくるかもしれません。甲-3案は非常にエッジが効いていて,分かりやすくて私もいいかなと思っています。しかし,もし甲-3案になれば,今後,どのような遺言実務が行われるのかといいますと,例えば,遠隔地である海外のリゾート施設であるとか,上に高圧線が通っている山林などのように固定資産税の評価額があるものの,実際の市場価値がほとんどないような物件を含めて,一人の人に片寄せした遺言を作りましょうと。そして,遺留分の減殺請求がされたら,それらの部分を差し出せばいいですよと。このような実務が一部で行われるかもしれないことを懸念します。そうなると,今度はその財産を指定された遺留分請求権者が受遺者に対して,その財産であれば要らないから減殺請求はなかったことにしたいというように,元に戻すようなことを保証しておかないと,不要な財産だけを押し付けられて終わってしまうような結果になる危険性があると感じました。 ○窪田委員 今,おっしゃられたことはそのとおりなのだろうと思いますし,増田委員から御指摘があった背景にも,そうした問題というのがあったと思います。先ほどの西幹事の御発言にも関わるのですが,遺留分権利者が持つのは特定のものについての取消権ではなくて,金銭債権化されたものだというのは,恐らく物権的な権利に比べると弱まったという部分はあると思うのですが,金銭で得られるという点ではずっと有利になったという見方もあるわけです。邪魔になるようなものを押し付けられたというわけですけれども,邪魔になるようなものも例えば遺贈の場合,その人のところにいっているのだとすると,ある意味で押し付けられた人がいるわけですよね。   それに対して遺留分権利者は,取りあえず,金銭債権という形で権利行使することができる。これはある意味ですごくニュートラルな形で,金銭債権ですから弱いかもしれないけれども,いろいろな厄介なものはくっ付いていないという点では有利なわけです。にもかかわらず,物というふうな形の問題が出てきたときに,厄介なものだったら遺留分権利者の方は拒むことができる,それに対して受遺者の方は,取りあえず,それが押し付けられた状態がデフォルトになって始まるということを考えると,先ほど既に申し上げた問題なのですが,結局,甲-2案における⑤の問題というのは,それほど簡単にどっちがいいというような話で言えるようなものではないのかなという気がいたします。もちろん,受遺者の方が厄介なものを選んだということで,そうすると,遺留分権利者の方としては文句を言いたいということになるのかもしれませんけれども,文句を言った場合には,また,金銭債権に戻るのだというのは,本当にそれが適切な解決で公平だということなのかという点も気になるなという気がいたします。   なお,余計なことを1点,申し上げますと,甲-2案について細かいことなのですが,「衡平」という字を使われているのですが,これについては何か特別な意味はあるのでしょうか。多分,ここでは二人の間の単なる公平を問題としているのではないかと思ったものですから。 ○堂薗幹事 ここは民事訴訟法の用例から採っており,余り十分に考えておりませんので,検討させていただきます。  また,先ほどの上西委員の問題提起は,要らないものしかもらえないのであれば金銭も要らないし,現物も要らないという場合に,遺留分権利者にも放棄の機会を与えるべきではないかという御趣旨だろうと思います。受遺者側には,遺贈の放棄をするかどうかの選択権があるのに対し,遺留分権利者にそういった放棄の機会がないというところが問題ではないかという御趣旨だと思いますので,こちらでも検討させていただければと思います。 ○上西委員 御指摘のとおりです。甲-3の場合は遺留分権利者に指定された財産を放棄する機会があるかどうかも検討していただきたいという趣旨です。 ○大村部会長 ありがとうございます。   物をもらうということは,従来はプラスのことだと一般に考えていたわけですけれども,物がプラスではなくてマイナスで評価される場合だというのが,ここに出ている話題かと思います。それをどのくらい重視して考えるべきなのかということで,先ほど増田委員からは価額の計算に還元できるならば,それはそれでいいのではないかという御趣旨の御発言がありましたけれども,しかし,実際に押し付けられたものが更に負担を生み出すというようなこともあり得るという御指摘も,何人かの委員の御発言の中には入っていたように思います。これをどの程度,評価するのかということも,この選択に関わってくるように思いますけれども,その他,甲-1,甲-2,甲-3について、どのような選択をすればよいかということにつきまして,これまで出ていない論点も含めて御発言がございましたらお願いいたします。 ○山本(和)委員 必ずしもどの案を選択するかということについて私は定見はないんですけれども,資料に出ている13ページの(注2)の甲-3案を採った場合の指定の時的限界の話ですけれども,資料に書かれてあるのはこのとおりで,形成権行使と既判力の時的限界の問題というのは,法科大学院で授業をやっていても非常に盛り上がるテーマで,それは判例が比較的個々に分かれていて,学説もその評価が非常に分かれて,判例をどう読むかについてもいろいろな意見があるということなので,そういう意味では,ここで一つの方向性を決め打ちをして規定を置くということはなかなか難しいのかなというのが私の印象であります。   そうだとすれば,仮にこの指定には時的限界があるんだというルールを妥当させるということを前提にすれば,明文の規定を置くしかないのかなと思っています。その場合は既判力でも遮断されるかもしれないんですけれども,そうだとすれば,それは一種の確認規定という形の説明になると思いますし,遮断されないという見解も成り立ち得るとすれば,規定を設けるということにならざるを得ないのかなというのが私の印象です。 ○堂薗幹事 甲-3を採った場合に,甲-1の④のような規律を設けますと,基準時より前に実体法上,権利行使している場合は,正に既判力で問題なく遮断されると思いますし,時的限界より後の時点では行使できないということになりますので,④のような規律を設けることで実質的には既判力で遮断されるのと同じ結論が得られるのではないかという印象を持っているところでございます。 ○山本(和)委員 だから,恐らく甲-3案のような形成権の行使ということになった場合には,訴えの提起をここまでにしなければいけないというよりは,指定権の行使をしなければならないという趣旨になるのだろうと思います。それは実体権の時的限界を定めたものとして,あり得る話だろうと思っています。 ○大村部会長 御指摘をありがとうございました。 ○浅田委員 細かい話で恐縮ですけれども,遡及効に関する追加的な御質問です。甲-1案,甲-2案では減殺請求時に遡って効力を有するとされております。請求時以降に発生した果実についても,減殺請求権者に返還するということになりそうです。これに関して2点,質問させていただきたいのです。技術的な問題です。   まず,1点目ですけれども,例えば株式とか投信受益権とか,それから,不動産の賃料とかが目的財産となっていて減殺請求権の行使がありましたと。相続開始以降に発生した配当金が既に受遺者等に支払われていたという場合は,それで遡及効が生じた場合は,解釈問題になると理解しているわけですけれども,これは,あと,不当利得返還請求権で処理されるというべきものなのかということが第1点目でございます。   次に,2点目ですけれども,それに差押えがあった場合に,つまり,配当金に差押えがあったと,第三者が出てきたと。その第三者が取立権を行使して受領したという場合に,遡及効が発生しましたといったときの第三者保護規定というものが生じるのかどうか,訴求であって取立てが言わば原因がないので,不当利得返還請求権の対象となって返還しなければならないのか,それとも第三者保護規定を設置するないしは解釈上あると考えて,差押権者が受領のまま,抹消できるのかどうかということについて何か御検討があれば,教えていただければ幸いです。 ○堂薗幹事 検討させていただきますが,基本的には果実について差押えがされるなどして返還できない,要するに債務者の方で返還できないという場合は,それに代えて価額賠償を認めることにすべきだとは思いますけれども,御指摘のように,ここでの遡及効に対して第三者保護規定のようなものを設ける必要があるかどうかという辺りについては慎重に検討したいと思っております。更に申し上げますと,実はここで遡及効を設ける趣旨は,飽くまでも遅延損害金と果実の精算方法を明確にして,法律関係を複雑にしないというところにあるんですけれども,それを実現するためにわざわざ遡及効という法技術を使う必要があるのかどうかという辺りについても検討したいと思います。特に第三者保護規定を設けなければいけないのであれば,なおさら,そこは慎重に検討する必要があると思います。 ○浅田委員 ありがとうございました。 ○神吉関係官 1点目の御質問についてもお答えします。株式の配当金があり,受遺者側に支払われた場合にも返金する必要があるのかという点につきましては,これは現行法における処理と同じかと思います。すなわち,減殺請求による株式について物権的効果が生じ,それについて配当が支払われた場合につきましては,基本的に遺留分権利者に果実の取得権限があるので,その配当の支払を受けた受遺者については,不当利得ということでこれを返す義務があると,そういった整理になるかと思います。 ○浅田委員 ありがとうございました。 ○大村部会長 ありがとうございます。   そのほか,いかがでございましょうか。 ○山本幹事 今後,甲-2案と甲-3案を比較検討していく上での一つの視点ということで申し上げたいと思います。先ほどの窪田委員の御発言にも関係するところでありますけれども,甲-2案のいわゆる棄却要件のようなものを考えた場合に,この局面でいうところの当事者間の衡平というものが一体,どういうものを指しているのかが明らかではないように思います。このままですと,裁判所でどう裁量権を行使していいのかという指標自体がないことになりかねませんので,この辺りは一定のコンセンサスが得られることが必要であると思っているところです。   他方で,甲-3案を前提に,別途の規律を設けるかどうかはともかくとして,少なくとも権利濫用のようなものが考えられるとすると,先ほどいろいろ不当な例として挙がっていたものについても,殊更,そうしたというような主観的要素がくっ付いているような事例ですと,権利濫用という余地もあるようにも思われるところで,不都合を防ぐためには,権利濫用の理屈だけでは足りないのかというところについても,整理していただきたいと思ったところでございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   今,山本幹事にまとめていただいたようになりましたけれども,甲-1から甲-3までありますが,甲-1が積極的によいという御意見は余りなかったように理解しております。甲-2か甲-3かということについては,特に甲-2の⑤の規律をどう考えるのかによって,甲-2でいくのか,甲-3にこれを付け加えることができるのかといったことが更に議論になろうかと思います。甲-2を支持する方からも,甲-3を支持する方からも,ここのところをより明らかにすべきだという御指摘が出ているように思いますので,この点について更に議論して,それで成案を探るというようなことになろうかと思います。事務当局の方で,この点について何か更にコメントはありますでしょうか。 ○堂薗幹事 1点だけです。先ほどの甲-3案を採った上で⑤のような規律を設けるという考え方なんですが,実体法上の考慮規定としますと,裁判所の判断をかませずに,こうこう,こういった場合には指定権は無効であるというような形になるのではないかと思いますので,そういう規定を設ける場合にかなり明確な要件を設けないと難しいのかなと思います。あるいは,甲-3案であっても,裁判所の判断を経た上で効力を否定するということを考えておられるのであれば,その辺りについて是非御教示いただければと思いますけれども。 ○窪田委員 私が発言するのが適当かどうか分からないですし,沖野先生に後でお尋ねいただいたらよろしいと思いますが,例えば極端なことを言って,それがいいかどうかはともかく,⑤のような形で,ただし,遺留分権利者の利益を害する目的でされた場合その他当事者間の衡平を著しく害することとなる特別の事情がある場合には,この限りではないといったようなただし書を付けた上で,それについて当事者が明らかに見て分かるわけではないので,最後,その点が争いになったら裁判所に判断を求めるしかないということにはなるのだろうと思います。ただ,その種の実体法上の要件というのはあり得ないわけではないので,不可能だというわけではないだろうと思います。 ○大村部会長 沖野委員,何かございますか。 ○沖野委員 同じ考え方でおります。 ○大村部会長 ありがとうございます。   今の点について更に御検討いただくということで,第1についてはよろしいでしょうか。その他,御指摘があれば承りたいと思いますが。 ○増田委員 今の⑤の要件なんですが,当事者間の衡平というところが非常に強調されているようですけれども,基本的には価額の問題ではないかと私は思っていまして,価額の問題だけれども,価額の問題に収れんできないような先ほど言ったような事案をどう扱うかというような問題ではないかと思いますので,その点も表現等をお考えいただいたらどうかと思うんです。当事者間の衡平といっても,ひどい物件ばかりだったら,そういうものでしか渡せないわけですから,ここでの問題は鑑定価額という意味では同じ価額でありながら,換価性が大きく異なるものが同じように扱われるのはどうかという物的な話として考えることも可能ではないかと思いますので,その点を申し上げておきたいと思います。 ○大村部会長 御指摘をありがとうございました。   そのほかの点についていかがでございましょうか。 ○村田委員 今の増田委員が御指摘された点を更に事務当局で御検討いただく際に,御検討いただければと思うんですけれども,甲-2案では,受贈者又は受遺者が指定した目的財産の価額については当事者間に争いがないものの,それを押し付けられるといいますか,受領させられるということについては,当事者間の衡平を害するとして遺留分権利者から異議が述べられて争いになるケースというのをどの程度想定しているのでしょうか。この点は「価額の問題に収れんできないような事案をどう扱うか」という増田委員の問題意識と関連するのかなと思います。そういう事案が仮にあり得るとした場合に,甲-2案ですと,③の文言からは,訴えの提起はできないように読めるんですけれども,甲-2案はそういう割り切りをした案ということでいいのかどうかということも御検討いただければと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   中田委員が先ほど途中でおっしゃっていましたけれども,どういう事例が問題になるのかということにつきまして,少し幅広く御検討いただきまして,それをうまく処理できるようなものを考えるということになろうかと思います。今日の時点で更に御指摘があれば承っておきたいと思いますが,いかがでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは,今の点を中心にいたしまして,第1につきましては事務当局の方で更に御検討いただきたいと思います。   ちょうど,中間の時間ですので,10分ほど休憩させていただきまして,後半は35分から再開させていただきたいと思います。           (休     憩) ○大村部会長 それでは,再開させていただきたいと思います。   部会資料のうち,第1の「遺留分減殺請求権の効力及び法的性質の見直し」という部分について御意見を承りました。後半は、残る第2と第3について御議論いただきたいと思います。   まず,事務当局の方から御説明を頂きます。 ○神吉関係官 それでは,第2の「遺留分の算定方法の見直し」につきまして,関係官の神吉の方から御説明させていただきます。   第2の「遺留分の算定方法の見直し」につきましては,第1の論点にも増して複雑で,また,計算式も多く,大変恐縮をしているところですが,遺留分の計算方法におきましては二つの重要な計算式,1点目が遺留分侵害額の計算式,そして,2点目が遺留分の算定の基礎となる財産を求める計算式,この二つの重要な計算式がございます。すなわち,遺留分侵害額は,「(遺留分の算定の基礎となる財産の額)×(総体的遺留分率)×(法定相続分率)―(遺留分権利者の特別受益の額)―(遺留分権利者が相続によって得る積極財産の額)+(遺留分権利者が相続によって負担する債務の額)」によって求められ,また,遺留分の算定の基礎となる財産の額は,「(相続時における被相続人の積極財産の額)+(相続人に対する生前贈与の額)+(第三者に対する生前贈与の額(原則1年以内))―(被相続人の債務の額)」によって求めることができますが,これから御議論いただく各論点につきましては,これらの計算式のいずれかの計算式のうち,いずれかの要素が問題となっておりますので,その点を明確に意識していただき,御議論いただくと分かりやすいのではないかなと思っておりますのでよろしくお願いいたします。では,早速,中身について御説明させていただきたいと思います。   まず,部会資料の14ページ目の1,相続人に対する生前贈与の範囲に関する規律につきまして御説明させていただきます。この相続人に対する生前贈与に関する規律につきましては,遺留分の算定の基礎となる財産の計算式のうち,相続人に対する生前贈与の額,この要素を何年前までの生前贈与を算入するかという論点です。   現行法は,第三者に対する生前贈与につきましては,相続開始1年前のものに限定するということになっておりますが,相続人に対する生前贈与につきましては原則,全て過去のものに遡って算入されると,そういったことになっております。この点につきましては,相続人に対する古い贈与が算入されることによって,その存在を知り得ない第三者である受遺者に対する減殺の範囲が変わり得るということで,第三者の法的安定性を害する,そういった問題点が指摘されているところでございます。   このような問題点の指摘を踏まえまして,中間試案におきましては相続人に対する贈与につきましても一定の範囲,例えば5年間に限定する,そういった提案をしていたところでございます。この点につきましては,パブリックコメントにおきまして賛否両論の御意見が寄せられまして,反対する意見としましては,このような規律を採用すると相続人間の公平に反するのではないか,また,5年間は短すぎるではないか,そういった御意見が寄せられたところでございます。   そこで,今回の提案につきましては第三者の法的安定性と相続人間の公平の要請,この二つの要請を踏まえまして,相続人に対する生前贈与の範囲は10年間に限定することとしたらどうか,そういった御提案をさせていただいているところでございます。  また,民法第1030条後段,こちらは害意がある場合の規律でございますが,こちらの規律自体は維持することとしたらどうか,そういった御提案をさせていただいているところでございます。   続きまして,15ページ目の2の負担付贈与に関する規律につきまして御説明させていただきます。こちらは,遺留分の算定の基礎となる財産を求める計算式のうち,「相続人に対する生前贈与」,または,「第三者に対する生前贈与」,これらが負担付贈与であった場合にどのように算定するかということに関する規律,ルールということでございます。   現行法は,減殺の対象は負担部分を除いた部分に限定することとされておりますが,遺留分の算定の基礎となる財産を求める計算式に算入する遺留分の算定の基礎に加えるのが,負担部分も含めた全体なのか,それとも負担部分を控除した部分なのかということにつきましては,学説上,対立があるところでございます。この点につきましては,部会資料13におきまして詳しく検討したところでございますが,今回,改めて提案という形で,一部算入説を採用したらどうかということで提案させていただいております。   その理由としましては,簡単に述べますと,全額算入説を採用いたしますと贈与をもらっている人の方が最終的な取得額が少ない,そういった逆転現象が生じること,また,負担部分とされる部分が負担付贈与でいう負担なのか,それとも費用の前払いとして考えられるのか,そういった微妙なケースにおける事実認定次第で結論が変わり得るということで,一部算入説を採用するのが相当ではないか,そういった提案をさせていただいているところでございます。   負担付贈与における細かい問題点については,(注1)から(注3)までで検討しているところではありますが,本日は(注3)で記載している問題点につきまして口頭で御説明させていただきます。この問題は,特に一部算入説を採用すると顕著となるのでございますが,この負担部分の価額が大きい場合につきましては,遺留分の算定の基礎となる財産の価額が小さくなり,そういたしますと,遺留分権利者の遺留分額が計算上,小さくなる,そういった問題点がございます。   例えば事例として見ていただくと分かりやすいのですが,相続人がXのみで,被相続人が第三者Aに対し,9,000万円を贈与した。ただ,その条件として8,000万円を第三者Bに対して渡すと,そういった負担付贈与をしたものといたします。そして,XがAに対して減殺請求したということで考えてみたいと思います。   この点,一部算入説を採用いたしますと,Xの遺留分は「(9000万―8000万)×1/2」ということで500万円ということになりまして,XはAに対して500万円しか減殺請求することができないということになります。また,ちなみに全額算入説を採用した場合ですが,Xの遺留分は4,500万円ということになりますが,飽くまで減殺の対象は負担部分のみということですので,1,000万円しか減殺請求することができないこととなります。このように,一部算入説を採用した場合も全額算入説を採用した場合も,負担部分を大きくすることによって遺留分減殺請求の額を小さくすることができる,そうすると,遺留分制度を潜脱することとなるのではないかという問題意識でございます。   このような場合につきましては,実質的な第三者Bも受贈者であると考え,計算することによって適切な解釈ができるのではないかということで考えているところでございまして,Bも受贈者であると考えた場合につきましては,Xの遺留分は4,500万円となりますので,XはAに対して500万円を請求できるとともに,Bに対して4,000万円を請求することができると,こういったように解釈できるのではないかということで考えているところでございます。   続きまして,17ページの3の不相当な対価による有償行為に関する規律について御説明させていただきます。現行法は遺留分の算定の基礎となる財産には対価を控除したものを加算すると,ただし,減殺の対象は全額,その代わりに対価を償還する,そういったルールとなっております。   問題点としましては,遺留分減殺請求権から生ずる権利を金銭債権化する場合につきましては,全額を減殺の対象とし,対価を償還させる,そういった仕組みを採用する必要性は乏しいのではないかということで,今回の提案におきましては,遺留分の算定の基礎となる財産には対価を控除したものを加算,こちらは現行と同じですが,かつ,減殺の対象は控除した後のものとする,そういった提案をさせていただいているところでございます。   18ページ目の4は,遺産分割の対象となる財産がある場合に関する規律ということでございます。こちらは遺留分侵害額の計算式のうち,遺留分権利者が相続によって得る積極財産の額,こちらをどのように算定するかに関する規律でございます。こちらは中間試案におきまして提案していたとおり,具体的相続分説を採用したらどうかということで,改めて今回の提案をしているところでございます。ただし,寄与分については考慮せず,また,既分割の場合も含むということで,こちらも従前のとおりということでございます。   続きまして,第3の「遺留分侵害額の算定における債務の取扱い」につきまして御説明させていただきます。   こちらは遺留分侵害額の計算式のうち,「遺留分権利者が相続によって負担する債務の額」,これをどのように定めるかに関するルールということでございます。遺留分権利者が相続によって負担する債務がある場合につきましては,遺留分侵害額の算定におきまして,その債務の額を加算するという取扱いをしておりますが,今回の提案はいずれもその加算の額をどう定めるかに関するルールということでございます。   まず,1の受遺者又は受贈者が遺留分権利者の債務を消滅させる行為をした場合に関する規律につきまして御説明させていただきます。こちらは,中間試案におきましては遺留分権利者が承継した相続債務について受遺者又は受贈者が弁済をし,又は免責的債務引受をするなど,その債務を消滅させる行為をした場合には,遺留分権利者の権利は消滅した債務額の限度で減縮する,そういった提案をしていたところでございます。   この点につきましては,特にパブリックコメントで大きな指摘があったところではございませんが,その後,事務当局において検討しましたところ,二つの問題点があることが判明いたしました。まず,1点目が,この中間試案の考え方を採用いたしますと,弁済など債務を消滅させる行為をした場合には,遺留分権利者の権利の内容が当然に減少されることとなること,また,2点目が,弁済等を行った受遺者又は受贈者以外の受遺者又は受贈者に対する金銭債権についても減縮されることになる点,このような結果,求償債権の処理につき困難な問題が生じるということが分かりました。この点は,詳しくは部会資料20ページの(注1)(注2)におきまして事例を掲げ,また,計算例を掲げておりますが,やや複雑でございますので,口頭での詳しい説明は割愛させていただきますが,要旨としましては,上記のような問題点がある結果,求償債権の処理につき困難な問題が生じるということでございます。   このような問題点を解消するため,今回の提案におきましては,この2点の問題点に対応いたしまして,当然に権利の内容が減縮することとなる点を改めまして,受遺者又は受贈者の請求により減縮する,また,消滅する範囲につきましても弁済を行った受遺者又は受贈者に対する権利が減縮される,このような修正を加えているところでございます。   そういたしますと,このような規律を設ける意義は何なのか,相殺との違いは何なのかということが問題となってくるかと思います。詳細につきましては,部会資料22ページの(注4)で場合分けをして検討しているところでございますが,まず,1点目の違いといたしましては,受遺者又は受贈者が免責的債務引受をした場合が上げられるかと思います。免責的債務引受をした場合につきましては,求償債権は発生しないと解されておりますので,相殺での処理はできないということとなります。ただ,免責的債務引受をして遺留分権利者が支払を要しないということになっておりますので,そのような債務について加算をする必要はないということが言えるかと思います。   また,2点目として上げられるのが,減殺請求権を行使した後に弁済期未到来の相続債務を第三者弁済した場合というのが上げられるかと思います。この場合は弁済期未到来でございますので,相殺で処理することはできませんが,遺留分権利者が支払を要しない債務につき加算をする必要はない,その分につき加算する必要はないということになります。以上のとおり,相殺等によって処理することができない場合もありますので,今回の提案のような規律を設ける必要性自体は,認められるのではないかと考えているところでございます。   最後に,部会資料24ページ目の2の相続分の指定や包括遺贈により,内部的な債務負担割合が定められた場合に関する規律につきまして御説明させていただきます。まず,この問題の所在といたしましては,相続分の指定又は包括遺贈があった場合につきましては,被相続人に債務がある場合につきましての債務の内部的な承継割合も変更されることとなります。こちらは判例のルールでございまして,また,中間試案の第3の2(2)で提案しているルールでございますが,相続分の指定や包括遺贈に伴って債務の内部的な承継割合が変更されることとなります。   そういたしますと,遺留分侵害額の計算式のうち,遺留分権利者が相続によって負担する債務の額,こちらをどのように算定すべきなのか,対外的な負担割合で計算すべきなのか,対内的な負担割合で計算すべきなのかということが問題となってまいります。   考え方といたしましては,三つ説を掲げておりますが,対内的な負担割合で計算するというA説,債権者の承諾があった場合は変更後の負担割合で加算し,承諾がない場合は法定相続分の割合で加算するというB説,そして法定相続分の割合で加算するというC説,三つの考え方があろうかと思います。   今回の提案におきましては,A説,対内的な負担割合で計算するのが相当ではないかということを提案しております。その理由といたしましては,最高裁の平成21年3月24日の判決,こちらは全部相続させる旨の遺言があったケースにおきましてA説を採用したものでございますが,こちらの考え方や,また,B説及びC説を採用すると,指定相続分の少ない者の方が最終的な取得額が多いという逆転が生じるということがあり得るということでございます。   以上,細かい論点もありますが,御説明させていただきました。 ○大村部会長 ありがとうございました。   後半は三つの項目のうちの二つの項目,今,御説明いただいた遺留分の算定方式の見直しと,それから,遺留分侵害額の算定における債務の取扱いについてでございますけれども,これらについて御意見を頂きたいと思います。まず,第2の「遺留分の算定方法の見直し」の方から伺えればと思います。 ○窪田委員 遺留分の算定方法の見直しということで,遺留分侵害額,それから,遺留分の算定の基礎となる財産ということでお示しいただいていて,これ自体は大変に分かりやすかったように思います。やや特殊な問題として負担付贈与とか,これとは異なる問題についてもこれで対応できるということが大変によく分かりました。この部分について何か異論があるというわけではございませんが,前提として私自身,まだ,十分,理解できていないところもありますし,あるいは全員で共有していた方がいいかなという気もいたしますので,一点,確認をさせてください。遺留分侵害をめぐる問題というのは,ある法定相続について遺留分侵害が発生しているかどうか,そして,遺留分侵害額が幾らであるかということもありますけれども,同時に誰に対して遺留分侵害の権利を行使するのかという問題が当然にあるのだろうと思います。   この部分に関しては,必ずしも今まできちんとまとまった形では御説明を頂いていないのではないかと思います。現行法では新しい方からだんだん遡っていって,どの贈与が遺留分侵害を生じさせたかという問題の捉え方をしますから,同時に相手方も分かるという形になるわけですが,先ほどもお話があったように,むしろ,トータルとして四つの贈与があるのだったら,四つの贈与の中のどれについて現物で返還するかということを決められるという発想の前提として,そもそも,四つというのはどうやって決まったのかという問題があるのだろうと思います。   現行法を前提としますと,例えば遺留分減殺の順序に関しての規定というのは多分,適用されないということになるのだろうと思いますけれども,どこまでが現行法と変わって,どこは維持されるのかというのが必ずしもまだ私自身で十分できていないところがあります。例えば具体的に言うと,民法1031条において,遺留分権利者は遺留分を保全するのに必要な限度で減殺を請求することができるということがあるのですが,減殺の順序についての規定は廃するとしても,この部分は生きるということでよろしいのかどうなのかということです。これは単なる確認ということなのですが,一度,伺っておいた方が先ほどの第1の論点にも関わるかなと思いますので,御説明いただけたらと思った次第です。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○堂薗幹事 今の遺留分侵害額について誰に請求するかという点につきましては,現行法と同じように,新しい遺贈あるいは新しい贈与が遺留分を侵害しているという理解を前提として,現行法と同じ基準で請求の相手方を決めるということを考えております。ただ,今までは現物を返していたのが金銭でもよくなり,更に現物で返す場合も,遺留分を侵害している遺贈や贈与の目的物でなくてもよくするという御提案をさせていただいているということでございますので,そういった意味で,民法1031条につきましては,基本的にはこのまま維持するという理解でございます。 ○窪田委員 今,聞き逃してしまったのですが,遺留分を侵害しているのではない贈与もとおっしゃいましたか。 ○堂薗幹事 直接には遺留分侵害の原因となっていない贈与の目的物も,現物返還の選択の中には一応,含まれるという前提です。 ○窪田委員 分かりました。 ○堂薗幹事 そこは,ただ,部会資料の中ではどちらも考え方としてはあり得るのではないかということで,問題提起をさせていただいているというところです。 ○大村部会長 今の点はよろしゅうございますか。 ○窪田委員 今の堂薗参事官の御説明ですと,遺留分の算定の基礎となる財産に関していうと,相続人に対するものとしては過去10年間のものの贈与で,それ以外は1年間ということですが,その1年間あるいは10年間の範囲の中に入るものであれば,遡っていってから本当は遺留分減殺の話としては,遺留分侵害の話としては途中で終わっていたとしても,9年前の贈与の現物という形で対応してもいいという,そういう御説明だということですね。 ○堂薗幹事 そういう趣旨でございます。 ○窪田委員 承知しました。 ○大村部会長 遺贈,贈与の対象になっているものの中で,その選択ができるという趣旨かと思いました。 ○窪田委員 ちなみに,11年前のはもう駄目だということでよろしいですね。遺贈,贈与というと贈与だと入るのですが。 ○堂薗幹事 そこはそういう趣旨です。 ○大村部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○石井幹事 遺留分の算定基礎となる生前贈与の範囲に関して民法1030条後段の規律を維持するという御提案がされておりますが,二読目までの議論では,相続人に対してされた生前贈与については1030条後段の規律は適用されないという前提で議論がされていたように受け止めておりました。もっとも,この点はこれまで明確になっていなかったところなのかもしれません。   ただ,相続人に対してされた生前贈与について民法1030条後段の規律を維持して,害意があるものについては時期にかかわらず昔に遡って遺留分の算定基礎に含めるということになりますと,遺留分の算定基礎に含める生前贈与の範囲を時的に限定して法的安定性を維持するというメリットが減殺されてしまうのではないかと感じております。実際の問題としても,今回は10年ということで御提案があるんですけれども,相続開始から10年以上前にされた生前贈与について害意があるかどうかということを立証することは現実的には非常に困難だと思います。また,それほど前に遡った贈与ということになりますと,被相続人が,お亡くなりになることを見越して贈与がされたということも実際上,想定しにくくなってくると思いますので,そのような生前贈与を遺留分の算定基礎に含めることになるケースというのは現実的には余りないのかなと感じております。そういう意味では,少なくとも相続人に対してされた生前贈与について1030条後段の規律を維持する必要性は,それほど高くないのではないかなと感じているところでございます。 ○神吉関係官 補足して御説明させていただきますが,その前提として,石井幹事の御提案は,第三者に対する贈与については,1030条後段の規律は維持するけれども,相続人に対する生前贈与については外すべきではないかと,そういった御提案ということでしょうか。 ○石井幹事 少なくとも相続人に対する生前贈与については外してはどうかということでございます。 ○神吉関係官 理論的にどうして相続人であれば外して,第三者であれば外せないのかというのは,なかなか,説明ができるかというと難しいかなと思ったりもいたします。これまでの部会におきまして,例えば全ての財産を上げるといった場合について,そこは10年以上前であっても救済できるような仕組みを設けた方がいいのではないかと,水野紀子委員から恐らく御指摘があったかと思うのですが,そういった御指摘を踏まえると,1030条後段の規律というのは一定の意味があるのではないかなと思っているところではあります。ただ,この点は,これまでそんなに議論がなかったところではございますので,せっかくの機会ですので皆様から御意見を頂ければと思っているところでございます。 ○水野(紀)委員 名前を出していただいたので,発言いたします。遺留分権利者に害を与える自覚があって贈与するのは,むしろ相続人の場合の方が圧倒的に多いであろうと私は考えております。つまり,後継ぎへの継承,家督相続を贈与という形で再現する意図とニーズを持つ被相続人はまだまだ多くおられるだろうと思います。10年前に贈与という生前相続で後継ぎ遺贈を実現してしまえば,遺留分を潜脱できる形になるのはいかがなものかというのが私の従前の発言の趣旨でございました。 ○大村部会長 今の点につきまして何かほかに御発言があれば、伺います。 ○村田委員 遺留分の算定基礎となる財産に関する規律に関しては,今の時代に合わせて何が公平かという価値観を御議論いただいて,多数の考え方というのを確認していくというのが基本的な議論の方向性だとは思うんですけれども,他方で,冒頭の事務当局の御説明にもあったとおり,遺留分に関しては,解釈も含めて,現行法の規律が非常に複雑になっているため制度が思うように使われない,あるいは使われたとしても紛争として非常に長引くという問題もあるのだろうと思いますので,ここの検討の場においては,そうした問題をなるべく解決するということも一つの使命になっているのかなと考えられます。そして,この点は遺留分の算定基礎に含まれる生前贈与の範囲に検討を加える際にも重要な考慮要素になってくるのかなと思われます。   先ほど窪田委員もおっしゃいましたとおり,現行法ですと減殺の順序の規律がありますので,新しいところから遡っていくと,実際上は,すごく昔にされた贈与まで遺留分の算定基礎に含まれるというケースは多くないのかなとも思うんですけれども,他方で,そこの順序のところを取っ払って,どこでも選べるというようなことになると,紛争解決の場において,すごく昔の話が持ち出される可能性が一気に高まり,争われる範囲がむしろ今よりも拡大する,あるいは解決が非常に難しくなるということも懸念されるところであります。   もちろん,相続開始の10年以上前にされた贈与に害意があることなどおよそ立証できないのだから,このような贈与を遺留分の算定基礎に入れたからといって実際上の支障はないと考えることもできるかもしれないんですけれども,調停の場面では,証拠がどのぐらいあるか,ないかというよりも,とにかく昔話を聞いてくださいという類いの主張が延々と繰り広げられることもあるわけで,遺留分の算定基礎に含まれる生前贈与の範囲を広げれば,遺留分に関する調停でも,その分,こうした主張が繰り広げられることに伴って紛争解決が困難になるという実情もあることは,十分,御考慮いただきたいなと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   今の点,ほかに御意見はありませんか。 ○石栗委員 確かに受遺者・受贈者が相続人である場合の方が害意を認められる場合が多いというのは,おっしゃるとおりなのかもしれないんですけれども,相続人に対してされた生前贈与については,害意の有無を問わず,相続開始前10年間にされたものを遺留分の算定基礎に含めるというのであれば,それより前にされたものを一律に遺留分の算定基礎から外すと考えることも,一つのバランスの取り方としては十分あり得るのではないかという気がいたします。相続人以外の者に対する生前贈与については,遺留分の算定基礎に含める範囲を相続開始前1年間にされたものに限定しつつ,害意があるものについては,それ以前にされたものも算定基礎に含めるという規律が採られているわけですが,これとの関係でも,それほどバランスを欠いているわけではないのではないだろうという気もいたします。また,このように考えることができれば,今,村田委員がおっしゃった調停などの場合でも,相続開始から10年以上前の紛争については,一律に遺留分の算定基礎に含まれないことを理由に,昔話を打ち切って前に進んでいただけるという意味でもメリットはあるのかなと思います。こうしたことからしますと,相続人に対してされた生前贈与については民法1030条後段の規律を適用しないと考えることも,一応,検討の余地はあるのではないだろうかと思いますので,御検討いただければと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   実質的な公平ということと,それから,紛争の長期化,複雑化を避けるという二つの点について御発言があったかと思います。 ○増田委員 害意を入れると,現在と変わらなくなるというのは賛同しかねるので,一言,申し上げますけれども,現在は大学の学費だとか,要するにおよそ遺留分を侵害するとは思えないような些細な特別受益も理屈の上で計算の中に入ってくるわけですが,それが今回,害意に限るということになると,10年以上前のものというのは,贈与当時も少なくとも全財産の2分の1を超え,かつ,その10年以上の後の将来においても2分の1を超えるだろうといったような贈与だけが対象になるわけですから,金銭的に低いものは全部省かれるということになるので,紛争になるケースは相当に減少することが考えられます。むしろ,水野委員が言われたように,あらかじめ全財産に近いものを贈与するようなケースでは,相続人間の方が害意がある場合が多い。したがって,残すべきかなとは思います。 ○窪田委員 私はそれほど強い思い入れはないので,どちらもあるではないかと思って伺っていたのですが,ただ,私は死亡する10年前の害意というのはよく分からないところがあります。全ての財産を特定の者に上げたといったら,ほかの人がもらえなくなるのは確かですし,10年前のその時点ではそうなのですが,10年間も生きていれば身分関係が新たに発生するとか,再婚するとか,養子をもらうとか,いろいろなことがあり得るわけですよね。そうすると,相続分は変わるのだろうと思いますが,そういうことが別に対象になるわけではないだろうと思います。先ほど思い入れがないので,どちらでもいいだろうというのは,実際に,そうは思っているのですが,10年間というのは,それなりに長い期間なのではないのかなという感じがいたします。   一番よく分からないのは,自分がいつ死ぬか分からないわけですから,10年前のときには明日の命も知れないと思って誰かに全部上げたのかもしれませんが,それから10年間,生き残っていたら,それはそれで構わないという考え方もあるのかなという気はいたします。増田委員の揚げ足を取るつもりではないのですが,大した問題にならないのだったら,こんなのは外してしまったらというのもあるというのはあるかなと思いました。ただ,残っても別にさほど差し支えがあるとは思っておりません。 ○増田委員 その後,多分,積極財産が増えないだろうというような年齢の方が全財産を贈与する場合には害意があるのではないか。つまり,80歳から90歳の10年と,40歳から50歳の10年とは全然違う話であって,40歳の人が全財産を贈与したところで,その人はその後,死ぬまでには財産を積み重ねるだろうと思われるので,害意が認められるケースというのは非常に少ないだろうと思うんです。しかし,80歳の年金しか収入がないような人がほぼ全財産に近いのを贈与したというようなときは,その後はそれほど積極財産が増えないだろうと想定され,害意が認定されやすいということになるのではないかと思うので,その人が91歳とか100歳まで生きたとしても,それは遺留分侵害と見ていいのかなと思っているんですけれども。 ○窪田委員 私は,そこの部分に関しては,90歳の人の人生はその時点で凍結してしまってというふうなことなのかという感じもしますし,その年になってみたら,配偶者がいる場合でもどっちが先に死ぬか分からないとか,相続の順序の問題だってあるわけですし,養子をもらったって構わないわけですし,いろいろなことを考えたときに増田委員のおっしゃることはよく分かります。30歳の人だったら,これからまた財産が増えるのだからというのが,90歳,80歳の人だったら違うだろうというのは,そうなのかもしれません。にもかかわらず,それを表に出して言えるのかというのは少し違和感はあるという気がします。この規定について,ただし,90歳以上の者に関してはとか書けるかというと書けないわけですよね。   私が伺っていて思いましたのは,前提にあるのは恐らく害意の問題と同時に,遺留分権利者の権利をどのぐらい強いものとして思っているのかなということが潜在的にあるのではないかという感じがいたします。お話を伺っていると遺留分権というのを強い権利として考えていると,その侵害というのは深刻な問題だし,実際上の家督相続的な形で全財産を譲るというようなことは,許すべきではないということになっていくと思います。一方,そこまで強い権利なのだろうかという点で,先ほど西幹事が二つの考え方を御説明いただきましたけれども,例外的に認められた最小限の権利にしかすぎないのだとすると,言わば10年間の害意というのはすごく長い怨恨の歴史だと思うのですが,そんなものまで認めなくてもいいのかなという考え方が一方であるのではないかと思いました。 ○大村部会長 今,窪田委員が御指摘のように,基本的なスタンスにも関わるところもございますし,それから,挙がっている例として,どういうものを主として想定するかによって,皆さんの判断が分かれてくるように思いますけれども。 ○水野(紀)委員 贈与につきましては,本当は,もっと民法学の研究が深められていてしかるべきだったでしょう。旧民法の段階では,贈与も全部,公証人がすることになっておりました。そういう制度的な相違が意味することは大きくて,贈与契約は公証人が行う重い手続であることが,母法では前提とされています。母法では,遺産分割も公証人が行いますし,公証人は特別受益を計算するときに,全部,自分の手元にあらかじめ資料があるのです。日本民法の相続法もそういう前提で出来上がっています。民法の典型契約には日本ではまず使われない689条の終身定期金契約がありますが,被相続人が生前贈与を行った場合にその対価として受贈者が負担する一番典型的なものとしてフランスではよく用いられています。   贈与については,公証人が遺留分を害さないかということを考慮しながら,贈与契約を公証人のところで締結するという仕組みになっていたものを,日本の場合にはその仕組みが,明治民法の段階で落ちてしまいました。戦後,遺産相続になった結果,特別受益を争い始めると,どれだけ介護をしたかとか,嫁入り支度をどれだけもらったとか,過去の全部の家族の歴史を掘り返すというおかしなことになっています。そういうおかしな構造ゆえの実務の御苦労から,こんなものは封じてしまいたいという要求も出てくるのだろうと思います。しかし,全財産を70歳,80歳で与えてしまう,あるいは60歳のリタイア時期に代替わりということで後継ぎに与えて隠居して,10年隠居生活を過ごしたら,それが全部,遺留分減殺請求の対象にならないというのは,この間まで家督相続だった国としては問題があるように思います。   それから,もう一点,ついでにですが,贈与法の研究が非常に遅れておりますので,(注3)に挙げられたケースのような負担付贈与で,第三者に中抜きで渡してしまうものがそもそも負担付贈与と性質決定ができるのかというのも,大いに議論の余地があるところだろうと思います。また,最高裁が負担付死因贈与契約と性質決定したケースで,先に負担の先履行があるので,その結果,本体の贈与契約に拘束が及ぶという判例がありますけれども,あれもおかしな判例だと思います。贈与法の発想からいうと,まず,贈与の履行があって,それに負担が乗っているということでないとおかしいはずで,贈与物をもらう前に負担を先履行したために,贈与本体についての拘束力が生ずるというのは,本当はおかしい話であったように思います。でも,それも贈与法についての民法学の研究が足りなかったため,判例がたまたま,負担が乗せられていることから双務契約の規定を適用してしまったのでしょう。  生前相続という観点から贈与法を考えると,遺言の自由な撤回と平仄をとった,忘恩行為による取消権という,母法にあった制度が落ちたことも考えなくてはなりません。贈与法についてはまだまだいろいろな議論をしなくてはならないことがあり,(注2)にも先に延ばすと書いてくださいましたけれども,(注3)についても,これも相当,注意深く書かないと,もしかすると将来の議論を拘束してしまう可能性があるような気がします。(注3)が書かれた価値判断に反対という意味では全くないのですが,これをそもそも贈与と性質決定できるかということから,かなり留保を付けた書きぶりにしていただく方が安心かと思いました。 ○大村部会長 ありがとうございます。   実質的な問題と,それから,今の(注)の書き方の問題,こちらは理論的な問題が入っているかと思いますけれども,御指摘を頂いたと思います。   ほかにいかがでございましょうか。 ○上西委員 14ページのところです。平均寿命の伸長や節税対策の普及と共に,10年くらい前から計画的に遺産分けを実施する例もあり,と記載されています。事業承継税制を用いての計画的に事業承継している事例や,特別な節税対策をしているような場合は別として,10年より前の時点からの財産の変動を適確に把握することは相当に困難です。私どもの実務の感覚からすれば,困難の程度は年数の2乗に比例するぐらいの感覚を持っております。   中間試案として例示した5年間が短いのではないかという指摘が寄せられたところから,今回は10年を示されておられます。この10年は,確実な資料に基づいて交渉や訴訟をするに当たっての恐らく限界ラインに近いと思います。ですから,この後に20年間の記載もありますが,検証することは相当に困難ですので,上限は10年かなという気がしております。もっとも,5年と10年の間で適切な年数を出せるかというとアイデアは持っておりません。10年が限界であろうという意見です。 ○大村部会長 ありがとうございます。   なかなか,数字は難しいですけれども,5年でなければ次は10年であろう,20年では意味がないという判断かと思います。ほかはいかがでございましょうか。先ほどの害意のところは,御意見が拮抗しているように思いましたけれども,その点でも結構ですし,他の点でも,御指摘を伺えればと思います。事務当局の方で,ここについて御意見を頂きたいというところはありませんか。いいですか。   特に御発言がなければ,もう一つの債務の取扱いについて御意見を頂きまして,その過程でもし第2について何か出てきましたら,その段階で御発言を頂いても結構です。 ○増田委員 かなり細かいですが,いいですか。 ○大村部会長 第2ですね。 ○増田委員 先ほどの1044条の準用規定はどうなるんですか。 ○堂薗幹事 現行の遺留分に関する規定が分かりにくい原因の一つとして,1044条でいろいろな規定を準用しているというところがあるのではないかという気はしておりますので,最終的には条文化する際にどうするかという話ですので,我々の一存で決められる話ではないんですけれども,できる限り,必要なところは書き下ろすなどして分かりやすい形にしたいなと思っております。第2の1のところも,正に1044条で903条を準用している意味がどこにあるのかという解釈上の争いだと思いますので,その点は西先生の方でも詳しく論文等を書かれているかと思いますが,今回こういう形で見直しをする場合には,そこもきちんと分かるような形で規律を設ける必要があるのではないかと考えているところでございます。 ○大村部会長 中身ではなくて,個々の問題に応じて規律の内容を確認していくことになるだろうとのお返事を頂いたかと思いますけれども,増田委員,それでよろしゅうございますか。   では,第3も含めまして御意見を頂ければと思いますけれども,いかがでございましょうか。 ○増田委員 これも細かいことなんですが,第3の1の減縮請求,これの時的限界というのは,いつぐらいを想定されているのでしょうか。というのは,相殺だと相殺適状がある限り,いつでもできてしまうんですよね。その先,相殺の代わりというようなことで御説明があったかと思いますが,これはどうなのかということです。 ○神吉関係官 十分に検討できているわけではないのですが,遺留分減殺請求権の行使により生ずる金銭債権を減縮させる形成権,抗弁ということになりますので,基本的には金銭請求の訴訟の口頭弁論終結時までにしなければいけないという整理になろうかとは思います。ただ,相殺権の行使自体は,金銭請求訴訟の既判力では遮断されませんので,いつまで行使できるのかという点については別途検討が必要になるかもしれません。 ○大村部会長 よろしいでしょうか。 ○中田委員 今のと若干,関連するかもしれないのですけれども,中間試案から今回の御提案で変わったのかどうかも理解できていないんですけれども,受遺者などの弁済や免責的債務引受がある場合に,当然に消滅ではなくて請求によって減縮するという規律ですが,これは遺留分侵害額の算定についてのみのことなのか,それとも,実体的に縮減するというのが中間試案の考えだったのかということを知りたいんです。と申しますのは,仮に実体的な問題だとしますと,今回の規律に改めることによって,遺留分減殺請求権の方が期間制限に掛かってしまったあと,求償権の方はまだ残っているので,それを請求することができてしまうのではないか。   20ページの(注1)のケース,つまり,Bに生前贈与3,000万円があり,しかし,相続債務3,000万円があったので,Bが全部,済ませているだろうとAの方は思い込んでいて何もしなかった。ところが,1年たって1,500万円を請求されたら,どうもバランスが悪いようにも思います。他方で,今,増田委員もおっしゃったように,相殺ということがあるのかどうかなんですが,ただ,508条でしたか,相殺の時効にかかった債権でも相殺できるという規律がここで及ぶのだろうかと,遺留分減殺請求権によって金銭債権が発生するのだとすると,当然に及ぶかどうかということも若干,疑問に思いますので,その辺りをお教えいただければと思います。 ○大村部会長 お願いします。 ○神吉関係官 508条との関係ですけれども,時効にかかった債権であっても相殺に供することができるという条文かと思いますが,ただ,遺留分減殺請求権を行使していない場合には,そもそも,金銭債権は発生していないということになろうかと思います。その後に,遺留分減殺請求権の時効期間が過ぎてしまった後に,508条を適用又は類推適用して本来あったはずであろう遺留分減殺請求権から生じる金銭債権と相殺することはできないのではないか,求償だけを受ける関係にあるのではないかと,そのように考えているところです。部会資料の20ページ目の(注1)では,現行法における処理として,AがBの債務を弁済し,かつ,Aが減殺請求をしなかった場合については,Aは1,500万円の損をするという形になりますけれども,それはやむを得ないのではないかなと,そう考えていたところです。この点は現行法で素直に考えると,このようになるのではないかと思ったところですけれども,何か御示唆があれば頂けると有り難いと思います。 ○中田委員 私は多分,508条は適用されないんだろうなと理解しておりました。ただ,このケースで先ほど申しましたように,Aは何もしないまま,終わったものだと考えていて,それが後になって請求されるとすると,どうも適当ではなくて,その場合に例えば期間制限の特則を置くなどして,求償権の行使があった場合には遺留分減殺請求権との間の相殺といいますか,消滅が生じ得るようにするという何らかの手当があったらいいかなと思いました。 ○堂薗幹事 検討いたしますが,ただ,現行法でもそこは遺留分権利者が権利行使しないまま,受遺者などが第三者弁済した場合に,その後,求償権の行使を受けるのはやむを得ないという理解がされているのだと思いますので,金銭請求化することによって,その点を緩める必要があるのかという辺りについては,慎重な検討が必要なのかなという印象は持っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   現行法の理解も含めて,更に検討していただければと思います。   そのほか,いかがでございましょうか。よろしいでしょうか。   それでは,第2,第3について御意見を承りましたが,第2の最初の期間の問題について,害意の場合はどうするのかという点につきましては,両論があるという状態でありましたけれども,それを踏まえて更に事務当局の方で御検討いただくということにさせていただきたいと思います。   そのほか,何か御発言がありましたら伺いますけれども,いかがでございましょうか。 ○石栗委員 25ページの(注2)のところで,審判で債務の対内的な負担割合を変更する場合があるのかということをお尋ねになられているように思いますので一言申し上げますが,審判手続の中で,仮に債務について遺産分割の対象とするということを相続人間で合意していたとしても,債権者を拘束するものではございませんし,本来,可分債務であって遺産分割の対象ではないという法的な性質もございますので,基本的に債務について審判することはございません。審判手続における債務の取扱いの実務については,そういう御理解で御検討いただければと思います。 ○神吉関係官 その点は,私どもも石栗委員と同じ理解ではあるのですが,この点に言及している文献もございましたので,こういう見解もあり得るけれどもどうかということで一応触れさせていただいた次第です。御指摘ありがとうございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   その他,いかがでございましょうか。   予定した時間よりも前に御意見を頂くことができたことになりますが,年末でもございますので,早く終わるということで結構かと思います。最後に,次回の日程等につきまして事務当局から御説明を頂きます。 ○堂薗幹事 それでは,本日もどうもありがとうございました。   次回の日程でございますが,既に御案内のとおり,1月24日(火曜日)の午後1時半からを予定しておりまして,次回は遺言制度の見直しについて御審議をお願いしたいと考えております。可分債権の取扱いについては,2月の法制審で御議論いただければと考えているところでございます。次回の場所でございますが,次回は本日とは異なりまして地下1階の大会議室になりますので,どうぞよろしくお願いいたします。 ○大村部会長 ありがとうございます。   本日も大変熱心な御議論を頂きましてありがとうございました。これで閉会させていただきます。 -了-