法制審議会 少年法・刑事法 (少年年齢・犯罪者処遇関係)部会 第4回会議 議事録 第1 日 時  平成29年 6月29日(木)   自 午後1時29分                          至 午後4時57分 第2 場 所  東京地方検察庁総務部会議室 第3 議 題  1 家庭裁判所における少年保護事件の取扱いについてのヒアリング         2 少年法における「少年」の年齢を18歳未満とすること及び非行少年を含む犯罪者に対する処遇を一層充実させるための刑事法の整備の在り方について         3 その他 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○羽柴幹事 ただいまから法制審議会少年法・刑事法(少年年齢・犯罪者処遇関係)部会の第4回会議を開催いたします。 ○井上部会長 本日も御多用中のところ,お集まりいただきましてありがとうございます。   本日,大沢委員及び中里委員におかれましては,所用のため欠席されておられます。   まず初めに,事務当局から資料について説明をお願いします。 ○羽柴幹事 本日,新たな資料といたしまして,配布資料13「微罪処分・簡易送致関係資料」を配布しております。内容は,後ほど御説明いたします。   また,参考資料として,最高裁判所事務総局家庭局作成の「家庭裁判所における少年審判手続について」を配布しております。こちらは,後ほど内容の御説明がございます。   さらに,ヒアリング資料として,「家庭裁判所調査官の業務について」を配布しております。   また,前回配布済みのものですが,本日の意見交換において使用いたしますので,資料12「論点表(案)」を改めてお配りしております。   最後に,本日御欠席の大沢委員から,本日の意見交換に関しまして御意見の送付がございましたので,席上に配布させていただいております。    なお,前回までの配布資料は紙ファイルにとじて机上に配布しておりますので,適宜御参照いただければと存じます。   それでは,配布資料13の「微罪処分・簡易送致関係資料」について御説明いたします。   配布資料13は,微罪処分・簡易送致に関する統計,参照条文及び書類の様式です。   まず,微罪処分について御説明いたします。   刑事訴訟法第246条本文により,「司法警察員は,犯罪の捜査をしたときは,この法律に特別の定のある場合を除いては,速やかに書類及び証拠物とともに事件を検察官に送致しなければならない」とされておりますが,同条ただし書において,「但し,検察官が指定した事件については,この限りでない」とされています。検察官が指定した事件については,各地方検察庁の検事正が指定しています。   そして,犯罪捜査規範第198条においては,「捜査した事件について,犯罪事実が極めて軽微であり,かつ,検察官から送致の手続をとる必要がないとあらかじめ指定されたものについては,送致しないことができる」とされています。   この規定により送致しない事件については,犯罪捜査規範第199条により,「その処理年月日,被疑者の氏名,年齢,職業及び住居,罪名並びに犯罪事実の要旨を一月ごとに一括して,微罪処分事件報告書により検察官に報告しなければならない」とされています。微罪処分事件報告書の様式は,5ページの様式第19号です。   また,犯罪捜査規範第198条により事件を送致しない場合には,第200条により,被疑者に対し厳重に訓戒を加えて,将来を戒める,被疑者を監督する地位にある者等を呼び出し,将来の監督につき必要な注意を与えて,その請書を徴する,被疑者に対し,被害者に対する被害の回復,謝罪その他適当な方法を講ずるよう諭すという処置を採ることとされています。   次に,簡易送致について御説明いたします。   少年の被疑事件については,全ての事件を家庭裁判所に送致すべきものとされています。   もっとも,最高裁判所,最高検察庁及び警察庁の間で行われた協議に基づき,犯罪捜査規範等で,簡易送致書により送致を行うことができる事件が定められています。   具体的には,3ページの犯罪捜査規範第214条第1項において,「捜査した少年事件について,その事実が極めて軽微であり,犯罪の原因及び動機,当該少年の性格,行状,家庭の状況及び環境等から見て再犯のおそれがなく,刑事処分又は保護処分を必要としないと明らかに認められ,かつ,検察官又は家庭裁判所からあらかじめ指定されたものについては,被疑少年ごとに少年事件簡易送致書及び捜査報告書を作成し,これに身上調査表その他の関係書類を添付し,一月ごとに一括して検察官又は家庭裁判所に送致することができる」とされています。このような送致は,実務上,「簡易送致」と呼ばれています。少年事件簡易送致書及び捜査報告書は,8,9ページの様式第22号,身上調査表は6,7ページの様式第21号です。   犯罪捜査規範第214条第2項では,簡易送致を行うに当たっては,微罪処分の際の処置を定める犯罪捜査規範第200条の規定に準じて処置を採ることとされています。   微罪処分・簡易送致に関する参照条文及び書類の様式については以上です。   次に,1ページにお戻りください。統計について御説明いたします。   1の表は,平成27年における刑法犯罪種別検挙人員のうち,微罪処分又は簡易送致とされた人員に関するものです。一番上の刑法犯総数の欄にあるとおり,平成27年における交通業過を除く刑法犯の検挙人員は23万9,355人であり,そのうち成人の検挙人員は20万434人でした。この20万434人のうち,微罪処分とされた人員は7万1,496人であり,成人の検挙人員に占める微罪処分とされた人員の割合は35.7%となっています。また,平成27年における少年の交通業過を除く刑法犯検挙人員は,3万8,921人でした。この3万8,921人のうち,簡易送致された人員は1万2,154人であり,少年の検挙人員に占める簡易送致された人員の割合は31.2%となっています。   2の表は,少年の交通業過を除く刑法犯検挙人員を年齢層別に表したものです。検挙人員に占める簡易送致された人員の割合は,年少少年が31.4%,中間少年が29.2%,年長少年が34.1%となっています。   配布資料13の説明は以上です。 ○井上部会長 ただいまの配布資料13についての説明内容について,御質問等はございますか。特に御質問等はないようですので,審議に入りたいと思います。   本日は,家庭裁判所における少年保護事件の取扱いのうち,家庭裁判所調査官の調査についてのヒアリングを予定しております。まず,ヒアリングに先立ちまして,全国的な統計等について最高裁判所事務総局家庭局から御説明を頂きます。続きまして,ヒアリングを行い,その後,一旦休憩を取らせていただきます。そして,休憩後,前回の会議の最後にお配りした資料12「論点表(案)」につきまして御説明をし,質疑,意見交換を経て,論点表を確定し,その後,確定した論点表に沿いまして,各論点について意見交換を行っていただきたいと考えています。   それでは,初めに,最高裁判所事務総局家庭局の澤村幹事から,家庭裁判所における少年審判手続について御説明いただきます。 ○澤村幹事 最高裁判所事務総局から,少年保護事件について御説明いたします。   まずは,手続について簡単に御説明いたします。「家庭裁判所における少年審判手続について」と題しました資料の1枚目をおめくりください。御覧いただいています図は,家庭裁判所に送致された後の少年保護事件の基本的な流れを簡略化したものです。少年事件は,犯罪の嫌疑があると思料される場合には全て家庭裁判所に送致されますが,その後,おおむね調査,審判という過程を経て終局的な決定に至ります。この手続の流れは,図の黒い矢印で示しており,終局的な決定としては保護観察や少年院送致といった保護処分と呼ばれるもののほかに,検察官送致,不処分などがあります。   ただいま御説明した流れとは違い,審判を経ずに家庭裁判所の終局的な決定がされる場合があります。こちらは,青い矢印で示していますが,審判不開始のほかに検察官送致についても審判を行わずにされることがあります。   続いて,家庭裁判所が事件を受理した後の手続を簡単に御説明します。家庭裁判所が事件を受理いたしますと,通常必要な受付処理を行った後,まず書記官が記録の点検を行い,その後,家庭裁判所調査官によるインテークを経て,裁判官が事案を検討し,調査命令を発令します。   ここで,家庭裁判所調査官によるインテークについて御説明いたしますと,主任家庭裁判所調査官以上の経験を有する家庭裁判所調査官が,事件に応じた効果的な事務処理のために,非行事実の内容や少年の前歴等から判断し,調査についての意見を付すというものです。インテークは,裁判官が家庭裁判所調査官に対して調査を命じるに当たり,これを補佐するという役割を担っています。   また,今の図を御覧いただきますと,左側の方に少年鑑別所という記載がございます。調査・審判に当たって,少年の身柄を保全し,心身鑑別を行う必要がある場合には,観護措置決定により少年の身柄が少年鑑別所に送致されることがあります。観護措置決定の判断は,逮捕・勾留により身柄が拘束された少年について,家庭裁判所が事件を受理した際にされることが通常ですが,家庭裁判所に事件が送致されたときには少年の身柄は拘束されておらず,事件記録のみが送致されてきた事件であっても,その後の調査を経て少年の身柄を保全し,心身鑑別の必要性があると判断された場合には,手続の途中でも観護措置がとられることがあります。少年鑑別所による少年の心身鑑別の結果は,鑑別結果通知書にまとめられ,審判に当たっての重要な資料となっております。   なお,少年について観護措置がとられている事件を身柄事件,それ以外の事件を在宅事件と呼ぶことがあります。   さらに,図を御覧いただきますと審判の横のところに試験観察という記載がございます。試験観察は,少年に対する処分を決めるに当たり,少年の社会内での生活状況,行動等を観察し,更生に何が必要であるかを見極めるために,終局的な決定を一旦留保して,相当の期間,少年を家庭裁判所調査官の観察下に付すという中間的な決定のことです。試験観察の具体的な内容については,この後行われますヒアリングに委ねることといたします。   次に,審判について御説明いたします。2ページを御覧ください。審判は,少年が非行事実を否認している場合や,少年を試験観察に付す場合などを除き,1回の期日で終了することが一般的です。1回の審判期日の時間は,事案によって異なりますが,事実関係に争いがない在宅事件など30分程度で終わるものもあれば,事実関係に争いがなくても,少年や保護者に少年の問題性を自覚させたり,更生に向けた働き掛けなどを行うため1時間以上掛かるというものもあります。   審判期日は,非公開の手続で行われており,主な出席者は裁判官,書記官,家庭裁判所調査官,少年,保護者,付添人でありまして,少年が非行事実を否認している事件では,非行事実が認められるかどうかの審理に検察官が関与することもあります。   審判期日の流れはこの図のとおりです。手続の冒頭で,少年に対して本人確認,供述を強いられることはないことの告知,送致事実についての意見聴取を行った後,非行事実が存在するかどうかについての審理を行い,非行事実が認定できれば,その後,要保護性についての審理に移ります。   要保護性といいますのは,端的に申しますと,少年に対してどのような保護,教育がどの程度必要であるかというものでして,その少年が悪いことを繰り返す傾向の強さ,その傾向を取り除くことができる可能性,保護観察や少年院送致などの保護処分という手段により矯正することができる可能性などが考慮されます。   要保護性の審理の具体的な内容としましては,非行に至った原因や資質,環境などの少年の抱える問題,その問題に対する解決策等について少年,保護者に対して問い掛けを行い,少年の更生に何が必要であるかを考えていくということになります。   なお,刑事手続は,検察官が立証し,被告人及び弁護人がこれを争うという当事者主体の対立構造を採っていますが,少年審判手続では基本的にこのような構造は採っておらず,裁判官が職権で手続を行います。具体的には,非行事実の審理及び要保護性の審理のいずれにおいても,原則としてまずは裁判官が少年及び保護者に対して質問や訓戒などを行い,その後,付添人,家庭裁判所調査官が補充的に質問などを行うこととなっています。   ただいま御紹介した審判は,少年ごとに個別で行う通常の手続で一般的なものとなりますが,他に集団審判というものもございます。少年保護事件は,少年ごとに非行に至った原因が様々で,手続も非公開であることから,個別に審判を行うことが通常ですが,交通事故,速度超過などの道路交通法違反といったような事件の場合,非行の内容が同種で要保護性の点で共通性を有する少年も多く,そのような場合には個別に対処することや非公開性への要請は低くなることから,何人かの少年をまとめて審判を行うことがあり,これが集団審判と呼ばれるものです。   もっとも,審判を行う上で,各々の少年のプライバシー等に配慮は必要となりますから,本人確認や非行事実の確認には注意をしております。   交通保護事件の集団審判では,審判前の調査において,少年に交通ルールについてのDVDを見せたり感想文や反省文を書かせるなど一定の教育的措置を施し,最終的に不処分や短期の交通保護観察といった終局決定がされることになります。   なお,調査審判に至る過程で少年が非行事実を否認したり,少年について要保護性の高さがうかがわれる場合には,一括での審判になじみませんから,個別の手続に切り替えて,通常の少年保護事件と同様の手続を行うこととなります。   最後に,簡易送致事件の御説明をいたします。3ページを御覧ください。冒頭で事務当局から説明がありましたが,簡易送致事件は一定の基準を満たす軽微な事件について,警察から直接,あるいは検察庁を経由して家庭裁判所にまとめて事件が送致されてくるものです。簡易送致事件は,事案が軽微であり,警察の段階で少年,保護者に訓戒等の措置等が施されることで少年が再非行に及ぶ危険性が低減していると考えられることから,家庭裁判所では原則として調査命令を出さずに,審判不開始決定により終了しています。   簡易送致事件を家庭裁判所が受理した後の流れですが,受付処理後,書記官が記録の点検を行い,その後,庁の実情に応じて家庭裁判所調査官によるインテークを経た後,裁判官が事案の検討を行います。この事件受理後の検討において基準を満たしていないことが判明した場合や,少年の要保護性が高く,社会調査が必要であると判断される場合には調査命令が出され,通常の事件と同様の取扱いがされることになります。調査命令が出された事件については,最終的に調査,教育的措置を経て,改めて審判不開始となるものもあれば,審判が開かれて保護処分となるものもあります。   以上,簡単ではございますが,少年保護事件の手続についての御説明をいたしました。   では,ここから少年保護事件の統計資料について御説明いたします。4ページを御覧ください。こちらは,平成18年から平成27年までの新受人員を示したものです。一般保護事件,道路交通保護事件,いずれについても減少傾向にあります。平成27年の一般保護事件は,前年と比べて1割以上の減少となっております。   次に,5ページを御覧ください。家庭裁判所及び裁判所職員の数を示したものです。少年事件を取り扱う家庭裁判所は,本庁50庁全てと支部203庁のうち102庁の合計152庁です。少年を担当している職員の延べ人数は,他の事件も併せて担当している者を含めて,裁判官が約430人,家庭裁判所調査官が約780人です。ただし,担当者の人数については,例えば1人の職員が二つの庁でそれぞれ事件を担当している場合には二重に算入されていますので,単純な担当者の人数を反映したものではないことを御注意ください。   続いて,6ページを御覧ください。こちらは,平成27年に終局した一般保護事件の審理期間を観護措置の有無別に示したものです。中央のグラフを見ていただきますと,観護措置がとられた事件については約7割の事件が1月以内に終局しており,1年以内にほぼ全ての事件が終局しています。観護措置の期間は通常4週間ですから,おおむねこの期間内に終局していることが分かります。1月を超えるものについて,詳細な理由は把握していませんが,終局までに試験観察の期間があったもの,事件係属後に観護措置がとられたものなどが含まれているものと推察されます。一方,観護措置がとられていない事件については,7割近くの事件が3月以内に終局しており,6月以内にはほぼ全ての事件が終局しています。   7ページを御覧ください。ここからは,終局事件についての統計を御紹介いたしますが,終局事件数や終局処分の統計については,第1回会議において事務当局から統計が提供されておりますので,重複するものは割愛し,提供されていない統計を御紹介いたします。御覧いただいておりますのは,平成18年から平成27年までに終局した簡易送致事件の数を示したものです。終局した簡易送致事件の数は,10年前から減少しており,平成27年は10年前と比較して4分の1程度となっています。   次に,8ページを御覧ください。こちらは,平成18年から平成27年までに終局した一般保護事件のうち,試験観察に付した者の人員を年齢層別に示したものです。一般保護事件の総数に対し,試験観察に付された事件の割合は3%前後で推移しています。また,試験観察に付された事件の総数に占める年長少年の割合は,この10年間を通じておおむね20%となっています。   9ページを御覧ください。こちらは,平成18年から平成27年までに終局した一般保護事件のうち,試験観察に付した事件の終局処分を示したものです。下のグラフは,10年間の累計をグラフにしたものであり,約7割が保護観察となっています。少年院送致は1割を超える程度となっています。   次に,10ページを御覧ください。ここからは,終局処分についての統計をお示しします。こちらは,平成27年の一般保護事件及び道路交通保護事件の終局処分を示したものです。一般保護事件の終局処分に注目いただきますと,審判不開始が約4割,不処分が約2割であり,合わせると全体の6割を超えています。審判不開始,不処分は,審判期日を開くかどうかという違いはありますが,いずれも裁判所から特に処分するものではありませんから,半数以上の少年について,何もせずに放免しているかのような印象をお持ちになるかもしれません。しかし,下の円グラフにありますとおり,審判不開始,不処分の理由の8割以上が保護的措置,すなわち家庭裁判所調査官による教育的な働き掛けや審判期日での裁判官による直接の指導,訓戒により改善,更生の手立てがされたことを理由とするものとなっています。   なお,家庭裁判所調査官による教育的な働き掛けについては,この後のヒアリングで詳しく説明いたしますが,社会奉仕活動や被害を考える教室などに参加させるものもあれば,家庭裁判所調査官が調査を通じて少年に内省を促すことなどで十分であると判断することもあり,事案の軽重や少年の問題によってその程度は様々となっています。   次に,11ページを御覧ください。こちらは,平成23年から平成27年までの原則検察官送致対象事件の終局処分を示したものです。ここ5年間で大きな件数の増減は認められません。また,検察官送致の割合は,おおむね6割を超えており,5年間の累計を見ましても65%程度となっています。   12ページを御覧ください。こちらは,平成27年に終局した原則検察官送致事件について,非行名と終局処分の関係を示したものになっています。   13ページを御覧ください。こちらは,平成23年1月から平成27年12月までに終局した原則検察官送致事件の累計について,非行名と終局処分の関係を示したものです。   最後に,14ページを御覧ください。こちらは,平成18年から平成27年までに終局した一般保護事件の終局人員に占める再非行少年の人員を示したものです。7-1の表は,全年齢のものです。1枚めくっていただきますと,7-2は年長少年のものとなっています。御覧のとおり,一般保護事件の終局人員に占める再非行少年の割合は,全年齢,年長少年とも減少しています。   以上が最高裁判所事務総局からの御説明となります。 ○井上部会長 ただいまの御説明に対する質問等がございましたら御発言をお願いします。特にございませんでしょうか。   それでは,予定しておりますヒアリングに移りたいと思います。   家庭裁判所における少年保護事件の実情につきまして,東京家庭裁判所次席家庭裁判所調査官の小野理恵子さん,裁判所職員総合研修所家庭裁判所調査官研修部上席教官の西川裕巳さんのお二人にお出でいただいております。本日はよろしくお願いします。   早速ではございますが,御説明をお願いいたします。 ○小野参考人 本日は家庭裁判所が行う少年審判において,家庭裁判所調査官がどのような業務を担っているかについて説明いたします。   説明は,資料1ページ,下段に示したとおり,大きく三つのパートに分かれています。なお,これからの説明では,家庭裁判所調査官のことを調査官,少年保護事件を少年事件と言わせていただきます。   では,お手元の資料2ページにまいります。調査官に関する法的な根拠を下段に簡単に示しておりますので,説明いたします。調査官については,裁判所法に根拠がございまして,少年事件においては審判に必要な調査,その他,他の法律に定める事務を行うとされています。そして,少年事件における調査官の職務内容につきましては,資料の末尾に添付しました別紙1のとおり,少年法において更に具体的に定められております。   調査官は裁判所職員ですが,法律とは異なる領域の専門的知識が求められておりますので,それに応じた特別な養成及び研修を行っております。 ○西川参考人 調査官の養成,研修については,裁判所職員総合研修所から御説明をさせていただきます。   3ページを御覧ください。裁判所職員総合研修所は,裁判官を除く職員の養成と研修を行っております。私は,ここで調査官の養成と研修を担当しております。まず,調査官になるには,裁判所職員採用総合職試験(家庭裁判所調査官補)という試験を受験します。総合職の試験であり,受験科目は心理学,社会学,教育学,法律学等の科目から選択することとなります。出身学部としては,心理学関連の学部のほか,法学部や教育学部等も含まれています。   この総合職試験に合格した後,調査官補として各地の家庭裁判所に採用され,その後,約2年にわたる養成を経て,調査官に任官します。また,調査官となった後も,職場での指導に加え,経験年数に応じた体系的な研修や少年事件等の喫緊の課題を取り上げた研修など,様々な研修を用意しております。   調査官の養成について話を移します。先ほど,約2年にわたる養成と説明した部分について,詳しく御説明をいたします。   下段を御覧ください。採用試験に合格して調査官補として採用されますと,まず,予修期と呼んでおりますが,採用された家庭裁判所において,見学等を通じて初歩的な知識を習得します。その後,全員が研修所に集められ,約3か月間の前期合同研修を受けます。研修所での合同研修では,法律科目,心理学,社会学,教育学などの人間の行動に関する科学分野の知識や理論といった行動科学の科目のほか,調査事務や面接技法などの実務科目も学びます。行動科学等の分野の第一線で活躍している大学教授を招くこともあります。   前期合同研修後,再び,採用された各地の家庭裁判所に戻って体系的な実習を受けます。この期間を実務修習と呼びます。約1年1か月のこの実務修習では,少年や保護者との面接調査,関係機関との調整や少年調査票の作成などを実践します。指導担当者の下,同期採用の3人が一組となって切磋琢磨しながら実務を学び,実践的な知識,技法等を習得していきます。家事,少年の両方を学びますので,少年の修習は約半年間ということになります。そして,最後に仕上げとして,全員が再び研修所に集められ約6か月間の後期合同研修を受け,より高度な知識,技法等を習得して調査官となっていきます。   資料4ページの上段は,調査官になった後の研修について示したものです。具体的な説明は省略しますが,調査官となった後も,経験年数や課題等に応じた各種研修等を随時行っています。 ○小野参考人 では,ここから調査官の職務について説明いたします。   資料5ページにまいります。少年事件における調査官の職務ですが,少年事件の審理における調査官の役割というのは極めて重要で,その業務内容も多岐にわたっておりますが,主要な業務として,1,審理に必要な調査を行うこと,2,審判への出席,3,試験観察がございます。本日は,これらについて説明させていただきます。   下段は,調査の目的と調査官の専門性についてです。調査官は,専門的知識を活用して調査を行います。その目的を,このスライドには「具体的には」という形で三つ示しております。調査官が行う調査の流れに沿って具体的に説明した方が分かりやすいと思われますので,次の資料6ページにまいります。   調査官が行う調査の流れです。上段の図にお示ししたように,調査官は少年事件が家庭裁判所に係属しますと,裁判官から調査をするように命じられます。そして,まず必要な事前準備を行い,その後,実際に少年や保護者に面接するなどして調査を進め,最終的には裁判官に対して結果報告を行うというのが大きな流れになります。   ここからは,この流れに沿って更に説明いたします。   まず,事前準備です。調査官は,少年や保護者と面接する前に,まず担当する事件の記録を丁寧に読み込んでまいります。送致機関から家庭裁判所に送られてきた記録には,非行に関する様々な記録がつづられていて,少年や関係者の供述調書や警察官が作成した捜査報告書などもつづられております。その中には,青い矢印で示したように,非行の経緯や態様,少年の生活状況や家族状況などの情報があります。調査官はこれを基に事前準備を行うわけです。   ところで,少年の再非行を防止するためには,少年がなぜそのような非行に至ったのかを解き明かすこと,これを「非行メカニズムの解明」と呼んでおりますが,この非行メカニズムの解明を行った上で,今後また非行に至る危険性がどの程度あるか,すなわち再非行危険性を予測し,必要な働き掛けを行っていくということが求められます。   調査官は,事前準備の段階から記録を単に読み物として見るわけではなく,専門的な見方で読み込んでまいります。その際,この青い矢印内の情報を,心理学や教育学などの行動科学や犯罪等に関する各種研究の知見等に照らして読むことによって,少年がなぜそのような非行をしたのかについて仮の見立てを立てます。我々の言葉では,これを調査仮説と呼んでおります。   ごく大ざっぱな例なのですが,性非行を行った少年であれば,性に関して何らかのゆがみがあると一言で言えそうなのですが,例えばそれが女性を屈すること,あるいは暴力的に振る舞うことに快感を覚えているのか,あるいは温かさとかやわらかさとか,そういったものに執着があって接触しているのかとか,いろいろな視点から仮説が考えられます。我々が供述調書を読むときは,こういった点を意識して,本件に関連する部分はもとより,これまでの性行動歴ですとか異性との交際歴ですとか,あるいは粗暴歴,そういったものに関連する部分を読み込んでいくわけです。   これらの作業を経て,非行を理解するためには更にどのような情報を収集する必要があるのか,あるいは少年や保護者に,より深く確認すべきことは何かといったことが見えてまいります。そして,どのような事項を,誰からどのような方法で調査するかという具体的な調査計画を立てます。   なお,調査を行う期間というのが身柄事件では3週間余り,在宅事件では通常1,2か月ですので,この事前準備の段階で的確な調査仮説を踏まえた調査計画を立てるということが,適切かつ効率的な調査を行うためには重要になってまいります。   では,次の調査について具体的に説明します。資料は7ページにお進みください。まずは,調査事項,何を調査するかです。少年や事件の個別性によりますので,一概に調査項目を定めることはできませんが,多くの事件に共通する調査事項は上段にお示ししたものになります。かなり幅広い内容を対象としております。これらは決してチェック項目的に確認していくようなものではありません。家庭を例に挙げますと,家族構成や職業,経済状況等も単に聴くということではなく,家庭の状況やその変化が少年に与える影響,あるいは少年の変化が家庭に与えている影響等を意識し,少年に問題行動や非行がない時期には家庭がどのように機能していたのか,その機能が非行等の生じた時点ではどうなっていたのか,家族の間で何が起きていて,家族を取り巻く状況はどうであったのかなど,様々な情報を複雑に織り込みながら確認してまいります。   少年が,自分の家庭のことを最初は一言「普通」というふうに述べるだけであっても,少年の気持ちを追いながら掘り下げて聞いてまいりますと,保護者の離婚や再婚あるいは失業等による家族の変化,あるいは自分への関わり方や見方の変化など,家族関係や家庭の状況を理解するための多くの情報が得られます。   次に,下段にまいります。調査の対象及び方法,誰をどのように調査するかという点です。これについても事案ごとに異なりますが,一般的には御覧のような対象と方法が想定されます。このとおり,調査の対象は多岐にわたっておりまして,また,調査の方法については面接を想定される方が多いかと思いますが,面接だけでなく,書面での照会,家庭や学校への出張調査なども行います。内容につきましては,この後,説明いたします。   8ページを御覧ください。この画像は,調査官が家庭裁判所の面接室で少年及び保護者に対して同席で面接調査を行っているところです。聴取内容に応じまして,少年と保護者をそれぞれ個別に面接するなど様々に工夫しております。面接は,調査の中心的な方法で,我々が行う調査の要であると言えます。   図の右に,場所,回数について触れてございます。これは,ここにお示ししたとおりなのですが,在宅事件であれば少年と保護者を同じ日時に家庭裁判所に呼んで1回から数回お会いしますし,身柄事件であれば少年鑑別所で少年と3,4回,家庭裁判所で保護者と1,2回の面接を行います。各1回の面接時間は,事案にもよりますが,おおよそ90分から120分程度と思われます。   次に,面接調査の特殊性について説明させていただきます。面接には,高度な技法が求められるだけでなく,先ほど申しましたように把握する事項が多岐にわたっておりますことから,臨床心理学等の分野で研究されていた心理面接の技法をベースに,我々調査官の中で更に工夫が重ねられてきております。   少し具体的に説明していきます。改めて左の画像を御覧いただいて,仮にこれが在宅事件で,スーパーで単独で食品を万引きした女子少年の例だとお考えください。調査官は,事前準備の段階で記録を読んで,少年は動機について「空腹でいらいらしている。」と説明しているということ,しかし,一方,万引き後は自宅に帰って夕食を取っていること,すなわちすぐに帰れば食事が取れたこと,ただし,家庭には継母がいて,継母は義理の妹の世話に追われていることなどを把握していたとします。調査官は,少年に家庭に帰りたくない何かがあったのか,あるいは万引きが家庭内あるいは学校内の何らかのストレスの発散機能を担ってはいないか,空腹の程度に摂食障害などの病的な要因はないかなどと考え,様々な仮説を検証する姿勢で面接に臨みます。   そして,この場面で調査官が少年に動機を尋ねたところ,少年が,「放課後,おなかがすいていて,何となく。」と答えたとしましょう。調査官は,さらに,「おなかがすいていて?」と繰り返します。少年にとっては警察で話したとおりであり,調査官がどうして更に尋ねてくるのか分かりません。でも,調査官は,非行につながった要因が単純に空腹と考えているわけではありませんので,更に質問を重ねていくわけです。   また,この面接の場面で,例えば隣にいる保護者が介入してきて,少年に「きちんと答えなさい。」と言ったとします。少年は,むすっとはしませんでしたが,ちらっと親を見て,言わば親の顔色をうかがうような態様を示します。そうすると,背後にある親子関係の一面が見え始めます。我々は,このような非言語的な表現も含め,面接場面で起きていること全てに着目し,こちらの把握したい様々な調査事項に結び付けながら情報を収集するわけです。   このような作業を通じて,調査官は限られた面接時間の中で非行が発生したメカニズムを理解し,また,少年自身も非行時の状況などを自分の言葉で話すうちに,何が自分の非行につながっているのかに対する理解が進むということで,調査官が行う面接調査そのものが再非行防止に向けた有効な働き掛けになっていることが多いのです。   今の例で言えば,少年は本件前に友人から万引きの話を聞いてやってみたところ,すっとして何度か繰り返していたと。これまで自覚はしていなかったのですが,面接時に調査官が事実を丁寧に確認し,明確化しつつフィードバックしていく中で,家庭内で多くのストレスを感じていたことや,学業不振から学校への不適応感が高まっていることが分かったとします。そうしますと,最終的には食品の万引きによってストレスを発散させていたことが非行のメカニズムとしてあり,その要因として家庭や学業における不適応,ストレスが認められるといった具合になるわけです。   では,ここで資料を1枚戻っていただいて,7ページ下段を再び御覧ください。様々な調査方法について,更に説明いたします。出張調査ですが,調査官は少年の生活状況を直接確認するために出張して家庭を訪問することがあります。その際,住居周辺の環境ですとか,住居の構造,間取り,室内の整理状況等,様々な点に着目して見るわけですが,そうすることで,例えば少年鑑別所の中ではおとなしく見えた少年の部屋やふすまが少年が殴ってできた穴だらけで,家庭内では衝動を抑えることができずに過ごしているということが判明することもあります。   また,家庭訪問の際,保護者に会いますが,家庭という日常生活を過ごす場で話を聴くことで,保護者から少年に対して抱えていた不安や期待などが吐露されることも少なくなく,裁判所で聴取するだけでは把握できなかった課題に対する理解が進み,非行につながった要因がよりクリアになっていくということがあります。調査官は,そうやって理解したことを,面接技法を用いて保護者に適切にフィードバックしまして,そういったことによって保護者と,家族の持ついろいろな課題について共通認識を持つようにしております。   次に,学校訪問です。少年が現に所属している,あるいは卒業した中学校に対してはほとんどのケースで書面による照会を行いますが,学校からより詳しい情報を得たり,あるいは学校と連携して少年や保護者に適切に働き掛けたりするために学校を訪問するということがあります。担任の教諭ですとか生徒指導担当教諭と面接しまして,少年の学校への適応状況や学校における指導体制,今後の指導方針等を調査し,その情報を踏まえて,少年の社会資源として学校がどの程度期待し得るかを検討いたします。学校における面接を通じて,学校も少年の課題等について理解を深め,先生方の姿勢に変化が生じるというふうなこともよくあります。   それから,左側に書いております調査の対象についても一部説明いたします。事件で被害に遭われた方を調査の対象とする場合もございます。被害の程度が大きい場合など,事案に応じて被害者の方に手紙を差し上げて照会を行ったり,あるいは被害者御本人の意向も踏まえて面接を行ったりしております。被害者から得られた被害の実情に関する情報は,単に少年が行った行為,事案の解明に役立つというだけではなく,少年に被害者の立場から語られる被害の実情,実態を伝えることによって,被害の重大性,深刻さを考えさせたりするということにもつながってまいります。   なお,この被害に遭われた方の調査を行うに当たっては,被害者の方の希望等の事情に十分配慮して実施しております。   では,一通り調査の対象,方法について御説明しましたので,次に,調査官が行う評価,分析の話を進めます。資料は,今一度8ページの下段を御覧ください。調査官は,一連の調査によって得られた情報を様々な視点から総合的に検討した上で,その少年がなぜ,どのようにして非行に至ったのか,非行発生のメカニズムについて,より精緻に検討します。資料には,生物,心理,社会モデルを踏まえた分析と記載しております。調査官は,そもそも面接等で必要な事実を確実に収集するに当たって,あるいは収集した事実から非行を評価・分析するに当たって,この生物,心理,社会モデルを踏まえております。   非行は,何か単一の要因によって引き起こされるわけではなく,生物学的要因,疾病ですとか障害ですとか,それから心理学的要因,性格,行動傾向ですとか,それから社会学的要因,家族関係,交友関係,こういったものが互いに影響し合っているという考え方なのですが,こういった観点から多角的な分析を行っております。   このようにして非行メカニズムを解明しますと,資料の下の方に進みまして,何が結局その少年の非行につながっているのか,非行の促進要因ですね,それから,何によって非行を防ぎ得るのか,非行の抑止要因ですが,これを特定していくわけです。そして,その少年が再非行に至る危険性の評価につなげるわけです。   ただ,その前に,ここまでの評価や分析の結果を踏まえて,非行の促進要因を解消するために,あるいは非行を抑止してくれる要因を強化するために,教育的な働き掛けを行うというのが一般的です。   では,資料の9ページにまいります。教育的な働き掛け,教育的措置について説明いたします。資料の上段を御覧ください。教育的措置の目的は,ここに示しましたとおり,少年の反省や少年の非行への認識を深めさせること,自己理解を深めさせること,問題解決能力を高めること,その変化の可能性を見極めることであります。これらは,先ほど説明した評価・分析の結果に基づいて行うわけなのですが,少年の再非行危険性を見極め,適切な処遇を選択するためには,家庭裁判所で少年審判手続が行われている間に,すなわち調査官が行う調査や裁判官が行う審判の機会に,少年や保護者が抱えている問題に対して様々な教育的な働き掛けを行い,それに対する反応を踏まえ,今後の変化の可能性を見極めた上で処遇選択を行うということが重要です。こうした少年の健全育成と再非行防止に向けた働き掛けを教育的措置と呼んでおり,この教育的措置においても調査官が大きな役割を果たしております。   教育的措置としては,先ほども説明しましたように,そもそも調査官が行う面接調査の際に,臨床心理学等の分野で開発された技法を活用して少年や保護者に働き掛けるということも重要です。また,近年は各庁でそれぞれの実情を踏まえて多様な措置を行っており,その中で様々な体験型と言えるような措置を実施しております。少年や保護者が参加する体験学習やグループワークなど,より高い効果が得られるよう様々な工夫をしております。このように少年の抱える問題に即した面接等で行う個別の働き掛けと,体験型の措置,これを適切に組み合わせることにより,再非行防止の効果は格段に高まると実感しております。   教育的措置は,下段のように分類することができます。ここでは時間の関係で詳細を説明するのは省略いたします。なお,参考として東京家庭裁判所で実践している教育的措置の種類と内容,目的を,資料末尾の別紙2に付けておりますので,御覧ください。   さて,1ページ進みまして,資料10ページの上段にまいります。ここは,教育的措置の実践例として,実際にどのような教育的措置があり,それぞれの活動の目的が何であるかを,一部になりますが,示しております。ここに挙げたように保護者の会,老人ホームでの対人援助,清掃活動,万引き被害を考える教室,親子合宿など,実に様々な種類の措置があり,その目的に応じて適切な措置を積極的に実施しております。   同じページの下段に示したものは,教育的措置の効果,気付きや認知の変化を示したものです。万引き被害を考える教室の前後での少年や保護者の変化を示しております。万引き被害を考える教室というのは,万引きで検挙されて,家庭裁判所の調査を初めて受ける少年とその保護者を主な対象とし,万引きの問題性を深く理解させることを目的に実施しております。講師として,コンビニや書店など小売店の販売責任者の方などを招き,万引きによってお店がどのような損害を受けているのかといったようなことを具体的に語ってもらうものです。   資料の右側は,その教室終了後,少年や保護者が記載する感想文からの引用になります。私自身の体験としても,非行性の進んでいない早期の段階では,こうした教育的措置を受けることによって多くの少年や保護者に変化が見られます。   では,11ページに進みます。これは,先ほど説明した評価・分析(1)とほぼ同じ内容になっていますが,ここでは調査の最終段階に向けた評価・分析について説明いたします。   先ほどの段階では,非行メカニズムを解明し,非行の促進要因の解消,非行の抑止要因の強化のために教育的な働き掛けを実施すると説明しましたが,その効果について更に検証する必要があります。資料に挙げましたような教育的措置については全て,その措置の効果や定着を図るために,また働き掛けによってどのような効果が得られたか,仮に得られていないとすれば,その事実を含めて更にどのような働き掛け,処遇が相当であるかを検証,検討するために,教育的措置の実施時には必ず感想文あるいはワークシートなどを作成させています。さらに,調査官はその内容を確認して,少年や保護者と振り返りのために面接を行い,定着度や理解度を確かめて,更なる働き掛け,指導を行うこともあります。   このようにして非行メカニズムを解明し,教育的措置の効果検証も踏まえつつ,その非行を促進した要因の変化,あるいは抑止する要因の変化,その可能性を見極めるといった分析の過程を経て,少年が再非行に至る危険性を評価しているわけです。   次に,結果報告にまいります。下段を御覧ください。調査官は,調査を終えると,その結果を少年調査票と呼ばれるレポートにまとめます。少年調査票には,調査官の意見を記載しますが,選択する処遇そのものについて記載するだけでなく,どうすれば少年を非行に向かわせている要因を除去あるいは緩和し,少年を非行から遠ざける要因を強化することができるのかについての分析を踏まえて,処遇機関が行う処遇や保護者への働き掛け,あるいは環境調整に関する意見も記載することになります。   その後,審判になります。審判は裁判官が主体となって運営するものですが,審判には調査官も出席し重要な役割を果たしております。審判における調査官の役割としては,その場で少年の処遇に関する意見を述べるというふうなことが浮かぶかと思いますが,そのほかにも,少年が裁判官の質問を正しく理解できていなかったり,あるいは思っていることをうまく言葉にできないようなときに,裁判官と少年の意思疎通を助ける役割を取ったり,あるいは裁判官の問い掛けを補足し,少年の問題点を取り上げて内省を深めさせたり,あるいは少年の長所を取り上げて更生の意欲を高めたり,そういった働き掛けを行うなどして円滑な審判運営に貢献しております。   では,ここからは試験観察について説明いたします。資料12ページに進みます。試験観察の制度の概要は,先ほどの説明にあったとおりなのですが,試験観察の目的は,家庭裁判所が更なる働き掛けや観察を通して情報を収集し,非行につながった要因が何によってどのように変わり得るのか,言わば,非行要因の改善可能性を見極めた上で,予後に見通しをつけ,より適切な処遇選択を行うということになります。   下段に進みます。試験観察は,運用上,①の在宅試験観察と②の補導委託に大別されます。   在宅試験観察では,少年を保護者等に引き取らせ,担当調査官が少年及び保護者と定期的に面接を行って,直接,観察及び指導いたします。その間に,先ほど言いましたような清掃活動や老人ホームでの対人援助活動など,体験学習型の教育的措置を行うことも一般的に広く行われています。   補導委託とは,適切な施設や団体又は個人に補導を委託し,委託先の指導を受けさせながら少年を観察する方法です。補導委託は,さらに,少年の身柄を保護者等から離して補導委託先に預ける身柄付き補導委託と,在宅のまま補導委託先に通わせる在宅補導委託に分かれます。身柄付き補導委託は,少年に居住場所を与え,家庭的な生活環境に置き,あるいは生活環境を変えて規則正しい生活習慣を身に付けさせることにより,少年の健全育成を図ろうとするものです。   また,補導委託は,委託先にお願いする指導の内容からは,資料にあるとおり大きく三つに分けられます。   では,資料13ページに進みます。ここからは,調査官は実際に日々どのように執務しているかについて説明いたします。   下段を御覧ください。調査官の1週間のスケジュール(例)としております。執務内容をより具体的にイメージしていただけるよう,調査官の1週間のスケジュールを例として示してございます。例では,1週間のうち月曜午前に在宅のA事件の記録を精査し,調査期日通知書や学校照会書を発送しております。午後には,在宅のB事件,別の事件の調査,それから報告書作成のほか,交通講習の講師も担当しております。火曜の午前にはC事件の審判出席の後,D事件の継続面接,継続面接というのは一度では調査が終わらず,二度目の調査呼出しをした場合の調査のことをいいます。午後にはE事件の調査と,こういった具合で,同時に複数の事件の調査を進行させながら執務しております。   14ページにまいります。先ほどの1週間から特定の1日,木曜日を抜粋して,更に詳しく説明いたします。9時10分から事例検討会議となっておりますが,これは各調査官が担当している事件の調査方針や処遇の方向性など,いろいろなテーマについて複数の調査官で議論しているものです。おおむね週に1回程度こうした会議を実施しておりますが,これは複数の視点で事件を見て,個々の調査の質を高めるための仕組みです。調査官の間では,全国的にこのような会議が実施されております。   会議後は,身柄事件の保護者の面接調査です。既に事前に少年鑑別所で少年と面接しておりますので,その結果を踏まえて必要な情報の収集,保護者に対する働き掛けなどを行います。午後には,午前中の調査の結果をまとめ,少年調査票を作成します。夕方には,また別の事件で在宅試験観察になっている少年保護者と面接を行います。この面接が終わりましたら,この事件についても裁判官への報告のための報告書を作成すると,ざっとこんな感じになっております。   では,下段に進みます。ここからは,個別の事件において調査官がどのような調査を行っているか,事例を基に御紹介いたします。全体で身柄事件を1件,在宅事件を1件御紹介いたします。なお,事例は匿名性を担保するため,事例の本質を損なわない範囲で改変を加えております。   まず,身柄事件の例です。行為時18歳6か月の男子少年による傷害事件を挙げさせていただきました。この少年は,16歳時に中学時代の友人との万引きで初めて家庭裁判所に係属しております。このときは,その後,高校にも通い,生活の乱れ等も認められない状態であったこと,調査官による面接時の指導に加え,先ほど述べた万引き被害を考える教室を受講して,窃盗という罪の問題性についても理解が進んだこと,その後,審判において裁判官による訓戒を受けたことから,再非行に至る危険性は低いと判断され,不処分となっております。   しかし,18歳時に今度は傷害事件を起こしてしまいます。不良グループ内の後輩が自分をなめた態度をとったというふうなことに腹を立てて暴力を振るい,全治約2週間のけがをさせたという事件です。結果,少年は逮捕され,家庭裁判所に身柄付きで送致されます。その他の少年の状況については,この14ページに記載したとおりです。   15ページに進みます。観護措置決定後,担当の裁判官から調査が命じられ,記録は調査官の手元に来るわけです。調査官は記録を受け取った後,しっかりと目を通して,先ほども言いましたように,なぜ少年が今回のような事件を起こしたのか,それを踏まえて調査仮説を立て,それを検証するためにどのような調査が必要か計画を立て,まず保護者に対する調査期日通知書を送付します。   少年に関する社会調査の記録,これは少年単位で作成されております。本件のように,前件がある事案では既にこの少年調査記録はできておりまして,前件の資料,学校照会書あるいは前件の少年調査票なども記録につづられているということになります。   本件のように傷害事件など被害者がある事件の場合は,裁判所としても被害の実態を知り,少年にもそれを十分理解させる必要がございますので,けがの程度等に応じて被害者の方と面接することがあります。この事例でも,被害者の方に調査をお願いする書面を送った後,被害者の了解を得て面接調査を設定しています。   本事例では,その後,少年鑑別所で2回少年と面接を行い,どのような事情で事件が起きたのか,傷害事件を起こすに至った少年の問題はどこにあるのかといった点について調査を進めていきます。その後,被害者と面接し,こうした調査を行った後,保護者から事情を聴いています。「かっとなって暴力を振るった。」と一口に言っても,自らのコントロールを本当に失ってしまって衝動的に暴力に至る場合と,例えば近くにいた不良仲間からの目が気になって,より強くというか悪く見せようとして,言わば不良顕示的に振る舞おうという考えから暴力に至った場合とでは,暴力に至る機序はかなり異なります。その他にも,暴力への抵抗感の程度,どのような刺激に反応しやすいかなど,調査官は,暴力や攻撃行為の発生に関するモデルといったような行動科学の知見を念頭に置きまして,かっとなって暴力を振るうという短い発言からだけでも様々なことを考えながら面接を進めるわけです。   そのようにして調査仮説を形成し,その他に,保護者や関係者から得られた情報も踏まえ,少年との面接においては少年が答えやすいような面接技法上の工夫を加えながら,少年に対して質問を重ねていくわけです。そうすることで,調査において様々な事情が明らかになります。   この事例では,少年は単位を取得できずに高校を中退した後,建築現場でのアルバイトを始め,当初は仕事中心の生活を送っていた。少年に分かりやすい指示をして,きちんとできれば褒めてくれる,少年にとって尊敬できる上司がいたことも励みになって仕事は続いていた。ところが,その上司が代わると,新しい上司の指示が理解できずに失敗して叱られることが増え,やる気が出ずに自暴自棄になっていた少年は不満を募らせて,結局仕事を辞めていった。母親は,収入を得るための仕事が忙しく,少年の状況を把握し関わるだけの余裕が持てません。また,離婚後,幼少時に寂しい思いをさせたということの引け目から,18歳を子供扱いしてもよくないという理由付けをして,非行化を防ぐ役割を十分に果たせていませんでした。仕事を辞めた少年は,結局その後,誰からの規制もなく,時間を持て余して地域の不良仲間と行動を共にするようになり,昼夜も逆転しといった具合で,急激に不良交友中心の生活に陥っていきました。仲間内では,暴力を肯定するような価値観が広く共有されていて,少年の方もトラブルが起きたら1対1のタイマンで決着を付けても当たり前といったような考え方を急速に身に付け,仲間内でのいざこざ,けんかが増加するといったような状況になっていました。今回の傷害事件は,こういったことを背景に起こっているということが分かってきます。   少年は,調査面接を通して過去の状況や非行に至った経緯を振り返るようになり,自分がなぜ今回のような粗暴な事件に至ったのかについても振り返ろうという真摯な姿勢を見せ始めました。調査官は,被害者の調査の結果として,幸いけがは治っておられたのですが,今でも恐怖感や悔しい思いが残っているといったようなことを聞いておりますので,被害者がどれほどの思いをしたか,現時点でも恐怖感や悔しさが消えないでいることなどを少年の理解を確かめながら伝えていきます。そうすると,少年はタイマンだからお互いさまと思っていたけれども,実は自分が一方的に吹っ掛けた暴力で,全然タイマンとかではなかった,きっと怖いという一言では言えないほどの恐怖感を感じていたと思うとか,本当に大変なことをしてしまったと思うというふうに被害の大きさを捉え,自分の行為を振り返り始めるようになります。   さらに,その後も調査官が面接時に少年の課題を適切にフィードバックすることなどを通じて,少年は自分が暴力を肯定する考え方に染まっていたこと,その背景として仕事もせず四六時中不良仲間と過ごしていたこと,そのことにも問題を感じていなかったことなどを理解するようになります。   こういうふうに,少年なりに問題は理解するようになったのですが,一方で,親が多忙で少年をきめ細かく指導することができない状況というのはそうそうには変わりません。保護者も,初めて少年と離れて生活したことで,これまでの親としての姿勢を振り返り,被害者の方にも謝罪に行き,弁償もして,少年との少年鑑別所での面会時にはその結果を伝えて注意をするとか,そういうことはできるようになっていました。   しかし,不良仲間との交友については,保護者も問題意識を持つにとどまっていますし,何か具体的な指導策までは浮かばない状態。少年自身も,不良仲間とは付き合わないというのですが,実効的な方策までは浮かんでいない,そのような状況だったとします。   調査官は,これまでに得た情報から,少年が信頼できる上司といたときは落ち着いた職業生活を送っていたことを踏まえて,少年を自宅とは離れた別の場所で生活させて,不良仲間との関係を絶ち,かつ安定した就労経験を積ませて社会適応を図ることでその問題性を解消できることが可能かどうか,それを見極めるために補導委託を活用することを考え,裁判官にもそのことを報告いたします。   ここから下段にまいります。そのようにして,裁判官の了承を得て受入れ等の打診をした結果,補導委託先に少年を委託できる見通しが立ちました。調査官はその後,再び少年と面接し,また付添人とも協議をして,少年に不良交友を絶ち,環境を変えて生活を立て直す気持ちがあるかを確認したり,付添人の協力が得られるかを確認したりして,最終的な調整を行います。   少年に対しては,この他にも実施した心理テストの結果を踏まえて,物事の全体を統合して捉える力が弱く,細部ばかりを認知しがちであるといったような少年の特性をフィードバックします。少年は,確かにそういう面があると,上司が代わった後,仕事がうまくいかなかったことにも自分でも合点がいくというふうに自分に対する理解を深めていきます。   また,身柄事件ですので,調査官は少年鑑別所の心理技官とも心理技官が実施した知能検査等の結果や面接結果を含め,双方が得た情報を交換し合って,少年の処遇について意見を交換します。その後,こうした一連の調査を通じて得た情報を少年調査票に記載し,裁判官に提出するということになります。   16ページにまいります。審判で試験観察(補導委託)の決定がなされた後は,調査官は一定期間,補導委託先の担当者や少年,保護者,付添人と繰り返し面接を実施し,少年が少年鑑別所で気付いた自己の問題点について更に理解を深めているか,すなわち非行につながりやすい要因が低減しているか,具体的には,例えば,以前であれば周囲の目を気にして,不良顕示的に振る舞うような場面でどのように抑制が働くようになったか,また,不良交友から離れて就労を中心とした健全な社会生活ができているかといったことの経過を観察します。   この件では,その後,母親が定期的に委託先を訪問し,少年の落ち着いた生活を確認し,環境を整えるということの重要性を実感するようになりました。また,委託の後半には週末帰宅をさせてもいますが,その際にも,少年が不良仲間との関係を再開するということはありませんでした。   少年自身も,そういった就労を中心とした落ち着いた生活の中で自分自身の問題への理解が進みました。もちろん少年鑑別所に入っていた段階でも先ほど述べたような問題点は考えていたのですが,結局仕事もうまくいかず,無為な生活を送っていることへのいらだちとか,そういったことを暴力,それも被害者への暴力で紛らわそうとしていたと,そういう自分の弱さとか,あるいは卑劣さといったようなことにも気付くようになりまして,付添人の指導もあって,自分の言葉で被害者に対して謝罪の手紙を書いたりしております。   こういった経過を踏まえて,調査官は最終的な意見を提出します。本事例では,少年は補導委託先での健全な社会生活を続け,自分自身の問題に対する自覚が進んでいったこと,母親の努力で新たな就労先も決まったことなどから,適切な指導体制が整っていれば社会内での更生が可能と判断され,最終的には保護観察決定となっております。   下段に進みます。この事例で調査官が調査で把握した少年の問題点や補導委託の狙い,それから,その結果等を簡単に図に示しております。   資料17ページを御覧ください。ここから在宅事件を一例説明いたします。事例は,19歳2か月の大学生です。いわゆる客引き,つきまとい等の行為をして,条例違反で送致されたものです。この少年は,先ほどの少年と違って,過去に家庭裁判所に来たことはなく,高校卒業まで目立った問題を起こしていません。事件を受理した後の調査のプロセスは下段に示したとおりです。   本事例では,詳細は時間の都合で省略しますが,調査官が行動科学の知見を踏まえて調査仮説を持って面接に臨み,適切な面接技法を活用し,少年に事実関係を丁寧に聴取する。その中で,これまでのことを真摯に振り返らせる,そういったところは同じです。在宅事件ですので短時間の面接にはなりますが,先ほど言いました生物,心理,社会のそれぞれの視点を意識し,情報を抜け漏れなく,かつ効率的に収集してまいります。   そして,このような調査を通じて,少年は大学に進学して初めて地方から東京に出てきたのですが,大学の同級生たちの輪の中に入れず,SNSで知り合った友達との付き合いを保つために,高いお金を払って飲み会その他に行っていたこと,そういう生活に満たされない思いもあって孤独感を抱えていたこと,地方出身者であることにちょっと引け目があり,スカウトされた客引きのアルバイトで金銭的にも気持ち的にも満たされていったこと,喫煙や飲酒なども始めて規範を破ることへの抵抗感も弱まっていたこと,そういったことを調査官が把握するとともに,少年自身にフィードバックすることで少年自身も自らに関する理解が進んでいくというふうな具合になります。   18ページを御覧ください。この事件では,少年の劣等感や孤独感が非行の要因につながっていたことを踏まえて,教育的措置として,車椅子清掃というボランティア活動に従事させることになりました。調査官としては,少年に車椅子清掃を通じて,自分が役に立つ存在であることを認識させるとともに,社会の一員であることを意識させ,社会とのつながりを実感させること,それから,自分の行為が社会の中でどのように捉えられるものなのか,本当に意義のある活動とはどのようなものなのか,実際の経験を経て視野を広げさせるということが必要だと考えて,この措置を選択しております。   車椅子清掃は,御協力いただいている老人ホームの浴室で汚れた車椅子を磨き上げるもので,これは結構ハードな作業ではありますが,やり遂げることで達成感や,あるいは感謝されるということによる自己高揚感などを高められるという効果があります。このケースでも,少年は1台1台手を抜くことなく車椅子を磨き上げておりまして,施設職員からも真面目にこつこつと取り組む姿勢を評価され,そのことがしっかりフィードバックされております。こういった経過を経て,少年に健全な社会参加に向けた感覚が喚起され,感想文にもそれが表れております。   調査官が狙いとしていた気付きが得られ,実際の生活面でも健全なサークル活動を始めるなど,大学生活への適応が着実に進んだことから,最終的には審判不開始で終局しております。   このように,在宅事件であっても少年の非行化を促進した要因がどこにあるのか,調査時点でそういった問題は解消されているのか,それともいまだに問題が残されているのかを把握し,少年に必要で最も適した教育的な働き掛けを行って,その結果も踏まえて処遇意見を提出する,それが調査の流れになっております。   以上のように調査や教育的措置,教育的な働き掛けを日々行っているというのが我々調査官の職務の実態です。   説明は以上になります。 ○井上部会長 ありがとうございました。   それでは,ただいまの御説明につきまして,御質問がおありの方は御発言をお願いしたいと思います。   本日は,現場で働いておられる方々に質問できる貴重な時間ですので,できるだけ端的に御質問していただくようお願いしたいと思います。御質問のある方は挙手をお願いします。 ○山﨑委員 詳細な御説明ありがとうございました。   資料の8ページになりますが,面接調査と評価・分析のことで質問させていただければと思います。一つは,面接調査をする際に,少年とか保護者が必ずしもそれに協力的でなかったりとか,しゃべりたくないことがあったり,かえって裁判所に反発をしたりというようなこともあろうかと思うのです。付添人である弁護士,私たちは信頼関係の構築というのをよく言うのですけれども,裁判所の調査官はどのようなスタンスで対象者との関係性を作られているのかという点が一つです。その面接調査の結果として,先ほども学校訪問のことで言われていましたけれども,例えば環境調整的な効果が生じるというような場合が,親子関係ですとか学校との関係であるかどうか,どういった例があったかというのを御紹介いただければと思っております。   あともう一つは,この評価・分析の観点で,非行メカニズムの解明ですとか,再非行危険性の予測という点について,裁判所内での過去の事例などがどのようにそれに活用されているのか,その当該調査官以外の調査官の方々とのディスカッションですとか検討といったようなものも含めて,どのような形で行われているのかという点がお聴きできればと思います。 ○小野参考人 まず,調査の構造といいますか関係性のところですけれども,確かに我々の調査では成育歴等を含めたかなり高度なプライバシーに関わる情報を扱っていると。そういった調査を行うに当たっては,やはり面接の冒頭に少年や保護者に少年審判の手続や,あるいは調査の枠組みについて説明する中で,もちろん少年審判が非公開の手続であることも伝えておりますし,その上で結局少年が再非行に至らず健全な生活をしていくために,その少年にとって何ができ,あるいは逆にどのようなことができない,つまり課題があるのか,そういったことを始めとして,これまで少年の生活ぶりも含めて十分に確認する必要がある,そういったことを丁寧に説明しております。そのためには,成育歴等も含めた踏み込んだ話を聴かせてもらうことが必要だということを説明しておるわけです。こういったことで,ほとんどの少年や保護者の理解は得られて,円滑に面接に導入していけるということが実態です。   もちろん,調査の中では,少年にとってトラウマになっているエピソードですとか,保護者にとって語りたくないことというのは多々出てくるわけですが,それにつきましても,少年や保護者が感じている心情ですね,言いにくい,苦しいとか,いろいろあるのですが,それを丁寧に聴きながら話を進めていきますし,語りたくないとか抵抗があるというその気持ちそのものをまた面接場面で取り上げるといったような配慮をしながら話を聴いていきますと,ほとんどの少年や保護者は自然と内省的な姿勢になって,過去のエピソードを真摯に振り返り,例えば過去にいろいろな性的な虐待を受けていたといったようなエピソードが語られたり,保護者が離婚した理由について,少年には言っていない真の理由を話してくれたり,そういったことが多いかなと思っております。   そして,面接によって環境調整的な効果が得られるかということなのですが,先ほどちょっと親子のやり取りの様子とかをこちらは見ていると言いましたが,そうやって理解したことを少年や保護者にこちらの気付きとして伝えることで,少年や保護者の気付きにつながると,そういう意味での調整効果はあるものと思われます。   学校の先生との関係についても,その場で同時にというのは少ないのですが,学校を訪問したりして先生とお話ししたりすることもありますので,同じように双方に伝えるということで双方の気付きが生まれるということはよくあるかと思います。   あと,非行のメカニズムや再非行危険性の予測ですけれども,先ほど説明したような考え方,枠組みが今の実務のメインなのですが,そういった枠組みは皆共有しておりますので,先ほどスケジュールの中でケースのことを検討する会議があると言いましたが,これが本当に週に1回程度確実に行っておりまして,そこで調査進行中の調査について複数の調査官が議論するといったような形で,単に個人の理解だけではなく,より多角的に検討するといったことが日々なされております。 ○西川参考人 学校との環境調整について少し補足いたしますと,やはり中学生の事例が非常に多くございますので,例えば試験観察中に調査官が学校と連携を取っていくというケースがよくあります。往々にして,少年や少年の保護者が学校と対立しているようなケースもあるわけでして,そこに家庭裁判所,家庭裁判所調査官が入ることで,その関係の調整を行い,対立を緩和していくというようなことや,また,少年が中学生ですと進学というのがあるということで,進学指導,進路指導も含めて,少年の立ち直りには極めて大事な指導になりますので,その辺りの連携を図っていくということ,試験観察の中で学校と家庭裁判所調査官とが役割分担をしながら,少年,保護者に関わっていくといったことがされているものと思っております。 ○今井委員 詳細な,貴重な御説明ありがとうございました。   ただいまの山﨑委員の御質問とも関連することなのですけれども,再非行の危険性ということがヒアリング資料の6ページ,8ページの辺りで説明されておりますが,これを最終的に判断されたときには,再非行の危険性がどの程度高い,低いというように定量的に示されるのでしょうか,それとも定性的に判断されるのでしょうか。つまり,例えば,御紹介があった仮想の事例では,再非行のリスクが非常に高いというものではないと思うのですけれども,どの程度のリスクが予見されたときに一定の措置を採られるのかという点を,もしも差し支えなければ教えていただければと思います。 ○小野参考人 再非行危険性の予測という点なのですけれども,先ほど説明しましたように,調査で判明したその子にとっての非行を促進している要因,それが改善する可能性といったようなところを踏まえて評価しております。この将来を予測する作業はかなり難しい作業になりますので,何%程度とか,そういう数量化できるようなもので予測しているわけではありません。ただ,この要素ではないか,この要因が非行を促進しているのではないかという,その調査官が見立てた要因に関しては,先ほど言いましたような教育的措置を施して,それに対する反応性ですね,効果,そういったところを見極めた上で,最適な評価ができるように努めているというところです。 ○西川参考人 再非行危険性の評価というのが調査官の専門性を発揮する重要な部分かと認識しております。これは極めて困難な作業でありますけれども,具体的に申し上げますと,まず本件非行,本件事案に着目をいたします。この非行行動がなぜ起きたのかといったことに着目をし,その非行につながる要因を洗い出します。例えば,なぜそのように少年が被害者との関係で被害者に敵意を抱くような受け止めをしたのか,なぜ少年が困っているときに誰にも相談することができなかったのか,また,なぜ少年はそのように衝動的な態度をとったのか,そういったことが仮に非行につながったと考えたときに,次に本件非行,当該事案から離れて,そういった本件非行に見られる,非行につながるような要因が,その少年の成長,発達の過程でどのようにして形成されていったのかと,端的に言うとどの程度根深い問題があるのかを見ていきます。また,家族の関係や少年の性格,行動傾向,少年の補導歴,非行歴,問題行動歴を見ていくということになろうかと思います。   そういった少年の成育歴も踏まえて分析をした上で,先ほど申し上げたような非行を進めている要因は何か,そして非行を押しとどめる,抑止する要因がなぜ機能しなかったのかということを総合的に判断し,さらに,家庭裁判所は調査審判の過程で教育的な働き掛けを行いますので,そういった教育的措置の結果も踏まえて,その少年の変化を検討し,また,どの部分に働き掛ければ少年の更生につながるのかなどを検討の上,処遇意見を書くということになります。そのような意味においては定性的な評価といえます。再非行率が何パーセントといった定量的な評価ということにはならないと思います。 ○山下(幸)幹事 2点質問したいと思います。   一つは,今日は教育的措置ということで御説明を,例えば9ページ以下にされていますけれども,保護処分の中に通常は不処分の中に保護的措置を採られて,もうそれ以上保護処分を採る必要がないということで不処分になるケースが多いと思うのですが,通常そこでは私どもの言葉遣いでは保護的措置という言葉をよく使うのですけれども,ここで言う教育的措置もこの保護的措置と同じ意味と理解してよろしいのか。また,皆さん家庭裁判所調査官の間で,これはむしろ教育的措置という言葉が普通に一般的に使われているのか,保護的措置という言葉が使われているのかということを教えていただきたいというのが第1点でございます。   第2点は,今日試験観察について非常に詳細に御説明いただき,私自身も付添人として試験観察をされる少年に関わることも多いのですけれども,本日,特に18歳,19歳という年長少年に対する例を二つ挙げていただいたのですが,非常に少年事件の中で特色のある試験観察について,18歳,19歳という年長少年に対する場合と,それよりももっと若い16歳とか17歳という年齢の少年に対する試験観察という,何か効果とか,やはり年齢に応じた試験観察の効果とかが違いがあるのかないのかということについて教えていただければと思います。 ○小野参考人 まず,教育的措置と保護的措置なのですが,同じものを指しております。より法律の条文に沿った言葉で言うと保護的措置ということなのですが,教育を行っている,そういう働き掛けをしているといったことがより分かりやすい表現ということで,教育的な働き掛けあるいは教育的措置と言っておるのが今は一般的かとは思います。 ○西川参考人 そのとおりでして,同義と考えていただいて結構かと思います。保護者には保護者に対する措置というものもございますが,実務的には教育的措置というもの,広い意味の教育的措置は保護者に対する措置も含んでおりまして,また,試験観察の中での観察指導といいましょうか,試験観察の中での指導も教育的措置と言われていると思います。 ○小野参考人 試験観察の効果,18歳,19歳とそれより年少の者でということなのですけれども,飽くまでもこれまでの実務経験に基づくものなのですが,やはりどこに活路といいますか,その要因の改善とかの道筋を見付けるかというふうなところで,この例にも出てきておりますように,18歳,19歳になりますとやはり就労といったようなところをきっかけに更生のきっかけをつかんでいくことが多いのかなと思います。それより年少になりますと,高校生だったり,特に中学生だったりしますと,学業の方,学校での適応といったことが大きいですので。やはり,先ほど学校の教諭との連携のような話もしましたが,非行を促進している要因を低減させるために働き掛ける領域が少し違うといったようなところはあるかと思います。   効果については,よりこちらの方がという数字を今持っているわけではありません。ただ,就労というのは成人の場合でも非常に再犯に影響すると言われておりまして,やはり就労をきっかけに健全な社会生活をつかむ,そういったことでまたやっていけるというふうな感覚を持つことは非常に再非行の抑止につながっているという感じはいたします。 ○太田委員 非行少年の中には,保護処分歴を持っている者がかなりいるかと思います。特に年長少年になれば,保護観察処分歴はもちろん,少年院送致歴1回,2回はある,要するに今回が場合によっては3回目になるというような少年もいるわけです。そういう場合には,過去に社会調査も何回も行われ,保護観察なり,少年の矯正教育も行われているわけですけれども,調査に当たっては,過去の調査ももちろん,保護観察とか少年院での教育の中でどこが効果があったのか,若しくは効果がなかったのか,それから,若しくは効果があったのだけれども社会の中でそれを打ち消すようなものがあったのかという,その処遇との関連での調査というのはどういう形で行われているのでしょうか。 ○小野参考人 まず,年長になってくると保護処分歴のある者も多いということなのですが,そこについては正確な数値を把握しているわけではないのですが,家庭裁判所に来る18歳,19歳の少年全般を見ますと,先ほどの統計にも出ていましたが,年少に比べて前処分歴が特段高いという感じは必ずしもないかなと思っております。   ただ,何度も非行を繰り返す者は,年齢が上がる分,前処分歴というのが幾つかありまして,それについては前の事件の段階で非行のメカニズムの解明やそのときの状態を踏まえた処遇の選択はなされておりますので,それがうまくいっていない,また再非行に至ったということは,その処遇のどの部分が効果があったのかなかったのか,そういったことを踏まえて,さらに,係属した段階での今の非行を促進している要因や,あるいは抑止している要因,それは背景に,どうしてまたこういうことになったのかということの分析があるわけですが,それを踏まえて再度判断しているということになります。 ○西川参考人 前件の社会調査の結果を踏まえて,前件終局後の事情の変更,家族や少年にどのような変化があったのかということを調査の中で押さえながら,その後の少年の再非行の危険性がどのように変化したのかを理解するように調査を行っていると思われます。 ○小野参考人 補足しますと,やはり少年の場合,環境が変化することによって変化するという要因がまだまだ多いですので,個人的な感想になるのですが,やはり前件の処分があってから,その後,また周囲の環境,就労ですとか家族ですとか,そういった環境が変わり,また少年を取り巻く状況,非行に影響する状況が変わっているということは多いなと思います。 ○武委員 せっかくの機会なのでお聞きしたいのですが,この業務について話を聞いていると,とても詳しく,とても丁寧にされているなという印象なのですが,うちの事件というのはものすごく古いので21年前になるのですけれども,そのときの家庭裁判所調査官の方はこうおっしゃいました。ここは事実関係をどうのこうのするところではない,これから加害少年がどうやって生きていったらいいかを考えるところだと言われたのです。その頃は,そう言われてもよく理解ができなかったのですが,事件のことを余り重点というか中心に置かれていないのだなという印象を受けたのです。その後,もう本当に早い段階で処分が決まって少年院送致になりました。それから少年法が何回か改正されました。だから,今は事実関係にも力を入れるようになったのか,とてもそこが気になるのです。   私,やはり生い立ちとか,そういうこともとても大事だと思うのです。加害少年たちを見ると,家庭環境がとても悪い子たちが多いからです。だけれども,生い立ちとかそういうのを引き出すにはとても時間が掛かると思うのです。それに,再犯防止に力を入れている事にも,またそれも大変な業務だと思うのです。   そうなると,今も事実関係を丁寧に一つ一つ確認することができるのか心配になります。例えばうちの場合で言いますと,後で分かったのですが,けんかだと言い切っていました。それを家庭裁判所ではどう扱っていたかは分からないです。追及していたのかどうなのか分かりません。例えばそのときに,そこで本当にそうなのかどうなのか事実関係をしっかりやってさえいてくれていたならと今も思えてならないのです。民事裁判を起こしたときに,一方的な暴力であってもあれはけんかだったという主張は,最後まで変わりませんでした。そういう嘘が通るということを学んでいるような気がしてならなかったです。   だから,今は犯罪を犯した少年が家庭裁判所に送致されたときに,どこに軸を置くのかお聞きしたかったのですが。 ○小野参考人 少年の問題性を表す言葉に要保護性という言葉があるのですけれども,非行事実は要保護性を最も推測させるものであると言われております。結局いろいろ内面的に,我々が解き明かすようなメカニズムがあるとしても,それは虐待を受けているとか,つらい成育史があるということがあるにしても,それだけでは即違法行動を起こすということにはつながりません。ですので,なぜその少年は違法行為を起こすということになったのかを解き明かすといったところを非常に重視しております。   今日,後で記録を御覧いただくということですが,見ていただくと分かりますが,我々が記載する少年調査票で,一番最初に来るのがやはり非行事実に関する部分ということで,やはりなぜそういった行動を起こしたのかということがまずあって,その背後に成育史,資質などと言いましたが,どうしてそんな事件を起こすようなことになったのかということがあるというふうに考えております。 ○西川参考人 非行発生のメカニズムを解明するということが大事です。本件非行についてしっかりと調査をしていくということは大事な調査の一つになっております。 ○井上部会長 御質問も尽きないと思いますけれども,後の予定もございますので,ヒアリングにつきましてはこれで締めくくらせていただきたいと思います。   今日は,小野さん,西川さん,お忙しいところ,お出でいただきましてありがとうございました。   それでは,ここで休憩を取らせていただきたいと思います。再開は午後3時30分からということにさせていただきます。           (休     憩) ○井上部会長 再開させていただきます。   ここからは,論点表(案)についての審議に入りたいと思います。   まず,資料12「論点表(案)」につきまして,事務当局から説明をしていただきます。 ○羽柴幹事 論点表(案)について御説明いたします。   この論点表(案)は,第2回会議において部会長から御説明がありましたとおり,部会長の御指示により事務当局が作成作業を行いまして,部会長作成のものとしてお示しするものでございます。   論点表(案)には,これまでの当部会における意見交換を踏まえ,本部会において検討すべき論点を掲げております。本部会において調査,審議すべき事項は,少年法における「少年」の年齢を18歳未満とすること並びに非行少年を含む犯罪者に対する処遇を一層充実させるための刑事の実体法及び手続法の整備の在り方並びに関連事項とされています。   そこで,大項目として,「1 少年法における「少年」の年齢」及び「2 非行少年を含む犯罪者に対する処遇を一層充実させるための刑事の実体法及び手続法の整備」を掲げました。なお,各大項目は,それらの関連事項を含んでいるものでございます。   各論点の記載について御説明いたします。   まず,大項目1では,少年法における「少年」の年齢を18歳未満とすることを論点としています。この部分は,諮問が具体的であるため,諮問事項自体を論点としたものです。なお,この大項目1については,部会のこれまでの意見交換において検討の観点として述べられた意見を参考のため「検討の観点」として記載しております。   次に,大項目2の非行少年を含む犯罪者に対する処遇を一層充実させるための刑事の実体法及び手続法の整備につきましては,部会のこれまでの意見交換における御意見を踏まえ,12の論点を掲げています。論点は,おおむね手続順に並べていますが,捜査手続と公判手続の双方で問題となり得る論点について同じ論点を繰り返し掲げるといったことはしておりません。この並び順には,特に意味を持たせたというものではございません。   各論点の概要につきましては,これまでの意見交換の中でも述べられておるところでございますし,また,若年者に対する刑事法制の在り方に関する勉強会の取りまとめ報告書に記載がございまして,これにつきましては第1回会議においてその内容を紹介させていただいているところでございます。   なお,この論点表(案)には若年者の範囲といったものを論点として掲げてはいません。これは,論点である各措置の対象者の範囲は,各措置ごとにその目的,内容等を踏まえて検討されるべきであると考えられたためでありまして,各論点の検討の中で,それぞれの対象者の範囲を検討するということを想定しているものでございます。   また,手続の在り方についても,それを論点として掲げてはいません。これは,手続の在り方は各措置ごとに当該措置の趣旨,内容,法的性質等を踏まえて検討されるべきであると考えられたためでありまして,各論点の検討の中で必要に応じて手続についても検討するということを考えています。   論点表(案)についての御説明は以上でございます。 ○井上部会長 論点表(案)につきまして,御意見を伺う前に,まず今の説明につきまして御質問のある方は御発言を願いたいと思いますが,御質問がございますでしょうか。 ○青木委員 今の御説明の中に含まれていたのかどうかがちょっと分からないので,確認したいのですけれども,2の非行少年を含む犯罪者に対する処遇を一層充実させるための刑事の実体法及び手続法の整備ですけれども,この論点に関して,例えば裁判所がどのように関与するかということについてはいろいろなところで問題になるかと思うのですね。それで,例えば宣告猶予制度というのは裁判所が関与するに決まっていますけれども,その他の部分についても裁判所の関与の在り方とか,あるいは関与すべきかどうかとか,そういうことについては今の御説明の中の手続的なところということで議論できるという理解でよろしいのでしょうか。 ○羽柴幹事 先ほど申し上げました手続の在り方というところには,裁判所等の機関がどのように関わるのかということも,それぞれの論点の検討の中で,検討するに当たって必要な範囲で併せて検討されるものであると理解しています。 ○羽間委員 取りまとめの報告書にも記載のあることですので,念のため確認の趣旨で聞かせていただきたいのですけれども,論点表2の二つ目の「少年鑑別所及び保護観察所の調査・調整機能の活用」についてですが,例えば起訴後,判決前の段階において,裁判所が少年鑑別所や保護観察所等に行わせる調査・調整ということもこの論点の対象として含まれているという趣旨なのかどうかを教えていただきたいと思います。 ○羽柴幹事 この点につきましては,捜査段階でどのように活用が考えられるかということと,公判段階でどのように活用が考えられるかということがあり得るかとは思いますけれども,これは段階を特に限定したものではなく,少年鑑別所及び保護観察所の調査・調整機能の活用についてを掲げたものでございます。   先ほど手続的に前の段階から並べて記載していると申し上げましたけれども,必ずしもこの段階に限られるものではなく,後の段階で論点となるものを再び繰り返して記載するという構造にはしていないということでございます。 ○井上部会長 御質問は他にございませんでしょうか。   それでは,論点表(案)の中身について意見交換を行いたいと思います。論点として,追加すべき項目など,御意見のある方は挙手の上,御発言をお願いします。なお,それぞれの項目についての実質的な意見交換はこの後に予定していますので,ここでは,各事項を論点表の項目として掲げることについて御意見を伺いたいということでございます。 ○田鎖幹事 大きな項目の2の上から三つ目に,「宣告猶予制度」がございます。これはピンポイントで宣告猶予制度というふうに掲げられているわけなのですけれども,取りまとめの報告書にも宣告猶予制度が出てくるわけなのですけれども,そのように出てきている,取り上げられている趣旨というものを考えましたときに,それは事案の軽重という観点からは正式裁判の請求はやむを得ない,そういった事案ではあるものの,有罪判決によるスティグマを避けることが本人の更生,あるいは円滑な社会復帰に有用な場合にどのような対処をすべきかという問題意識から宣告猶予制度というものが掲げられているのであろうと理解しております。   そのように理解いたしますと,確かに宣告猶予制度というものはそうした場合に対処する一つの有力な考え方ではあると思われるのですが,必ずしも宣告猶予制度に限らず,広くそういった問題意識に対応する制度,つまり新たな制度を考えるということであれば,もう少し含みを,他の可能性も含めた上で論点として掲げるというようにしていただければと考えます。 ○井上部会長 田鎖幹事は,何か具体的なアイデアをお持ちですか。 ○田鎖幹事 そこまではまだまだ勉強不足で,先生方のお知恵を借りながら議論させていただきたいと思うのですけれども,ただ,その趣旨としては,その宣告猶予制度に限らず,起訴後,第一審判決までの間に実施可能なもので,本人の再犯防止等に資する方策といった,今の段階では漠然としたものですけれども,そこには当然訴追裁量に絡むような方策というものも出てくる可能性もありますでしょうし,そこはいろいろ勉強させていただきたいと考えております。 ○井上部会長 この表に記載してあるのは,今後の検討の範囲をそれらに限定するという趣旨ではなく,まずそこに挙げてある項目を中心に検討していくことにし,その検討の進展状況によっては,御意見のような方向を含め,当初記載されていないような事項や制度に拡がって行くということはあり得る。そのような趣旨だと思います。そのような可能性を含めてあえて表現するとすれば,「等」と書くことになるのでしょうけれども,今申したような意味での項目にすぎないと理解すれば,御趣旨にも沿うのではないかと思われます。 ○山﨑委員 大項目の2に関する意見なのですけれども,法務省の勉強会の取りまとめ報告書においては,現行の少年審判手続における調査機能等の活用という項目があったかと思いますが,今回の論点表(案)にはこの記載がありません。この点は他の論点に含まれているという趣旨で記載されていないのでしょうか。もしこれが含まれていないということであれば,そこはやはり論点として加えるべきではないかと考えています。   と言いますのも,初回の会議で酒巻委員や廣瀬委員からも御指摘がありましたけれども,この間,少年法の運用を支えてきた家庭裁判所調査官による調査・調整機能の有効性について,今日のヒアリングでも,調査自体,更にはその過程での働き掛けが有効であることがはっきりしたところかと思います。したがって,そういった重要性に鑑みますと,やはり「現行の少年審判手続における調査機能等の活用」ということもしっかり論点としてお示しいただいた方がいいのではないと考えましたので,意見として申し上げます。 ○井上部会長 事務当局から何か補足説明はありますか。 ○羽柴幹事 論点表に今御指摘のような記述が一つの丸として書いていないことについての御説明を念のためにさせていただきたいと思います。   既に,御指摘の中でもおっしゃっていただきましたとおり,家庭裁判所調査官の調査というものはもちろんございますけれども,家庭裁判所調査官は家庭裁判所に置かれているものでございます。それを含めて,家庭裁判所の関与につきましては,先ほど申し上げたようにその関与の有無を含む手続の在り方につきまして,それぞれの処分,措置などの在り方について検討する中で,当然必要に応じて検討をされるものであると理解をしております。そういった観点から,この論点表(案)のつくりといたしましては,現時点では家庭裁判所調査官ですとか,その審判における調査機能というような表現での調査機能の活用について掲げていないというのがまず前提としての御説明でございます。 ○廣瀬委員 今の御説明に関連してなのですけれども,先ほど少年鑑別所及び保護観察所の調査・調整機能の活用というのが捜査,公判通じてのものだという御説明はあったのですが,これはどのくらいの規模で何をやるかということにも影響してくると思うのですけれども,全般にわたって保護観察所等だけで調査・調整機能が十分果たせるということならばそれはいいのでしょう。けれども,事件の数とかこれまでの運用とかを考えていくと,かなり難しいだろうと思うのです。   そうすると,家庭裁判所調査官という形になるのかどうかは別として,やはりそういう調査・調整の機能を担う組織・役割,その在り方をどうするかということは検討する必要が出てくるのではないかという気がするのです。特に,いろいろな新しい処分を検討して,実現するということになった場合に,やはり大事なのは,良い処分を幾ら作ってもきちんと割り振られる,適切に活用されなければ意味はないわけですから,そこにきちんと持っていけるようにしていくということが非常に大事だと思うのです。やはり調査・調整機能というのは,あるいは振り分けと言ってもいいかもしれませんが,非常に重要なところだと思うのです。   ある意味で,今回の改革の一番重要なところになるかもしれないという気もするわけです。ですから,そこは少年鑑別所,保護観察所と限定してしまわないで,広げていただければよいと思います。もし,これがもうこれ以外入らないということだとすれば,今,山﨑委員がおっしゃったような,例えば「処遇等の判断に必要な調査・調整の在り方」というようなことで別項目を立てていただくという方がよろしいのではないかと思いますが。 ○井上部会長 御指摘はごもっともだと思うのですけれども,それはこの項目だけに限らず,他の項目についても,中身に応じて,それを実施するためにどういう体制をとるべきかということが当然問題になるのだろうと思われます。つまり,全ての項目について,何らかの措置なり方策なりを採用するとするならば,それを実施するためにどういう体制を整備するかということは当然議論する必要が出てくるのではないかと考えます。   先ほど申したのと同じですけれども,御指摘の点も,それに限定するという趣旨ではなく,まずは主要な論点を挙げてみませんと今後の審議全体の計画とか進行予定というものが組めない。論点表(案)の項目の多くをかなり概括的なものにとどめたのも,そういう趣旨によるもので,そういうことで御了解いただければと存じます。今の御発言や山﨑委員の御発言で示されていたような可能性を別に排除するというものではないと御理解いただければとは思うのですけれども。 ○廣瀬委員 分かりました。ただ,そうだとすると,少年鑑別所と保護観察所だけを具体的に書くという書き方は少し,いかがかなという気もするのですが。 ○井上部会長 それらは,現在でも重要なものとしてあるわけですよね。それを例として挙げているわけですが,今ないものを,あるいは今別の形で機能しているものについては,この段階では書けないわけです。ですから,それぞれの項目の中身について議論をし,ある方策なり措置を採用するということになった場合,それを実施するのにふさわしい組織や機関として何を当てていくのかという形で検討がなされるべきもので,そういった中身の議論が先行するのではないかと思うのですね。 ○廣瀬委員 いや,お言葉を返して恐縮ですけれども,家庭裁判所調査官というのは今あるわけですよね。 ○井上部会長 それは分かるのですけれども,先ほど事務当局から説明がありましたように,家庭裁判所調査官の場合,飽くまで家庭裁判所に属する職なわけですから,いきなりその調査官だけ切り出して議論するわけにはいかないのではないでしょうか。それぞれの項目なり方策なりに関して家庭裁判所ないし裁判所が,果たして,そしてどういう形で関与すべきかという議論をしなければならないはずで,それを抜きに家庭裁判所調査官の役割だけを議論するわけにいかない。検討事項の多くにわたってそうであるので,各項目の中身として議論すべき事柄に含まれているというのが,先ほどの事務当局の説明だったと思うのです。 ○廣瀬委員 そうすると,実質においてはその点の議論は十分できるという理解でよろしいのですね。 ○羽柴幹事 事務当局としては,そのように考えておりました。 ○山下(幸)幹事 ずっと今のやり取りを聞いていると,結局のところ,この論点表(案)に書いていないことは議論していないというわけでもないし,この論点項目は非常に抽象的に書かれていますので非常に幅広く議論ができると,だから制限されることはないという理解でよろしいということですかね。 ○井上部会長 それは,事務当局に説明していただきますけれども,私としてはそのように理解しています。 ○羽柴幹事 この論点表(案)は,それらの項目と更により関わらないような多種多様な施策というのももしかしたらあり得るのかもしれませんけれども,余りにも広げ過ぎますと議論も拡散してしまいますので,論点に関する必要な検討が深まらないということがないように,現時点で検討すべき論点を確定して,それについて充実した審議を行っていくというのが進め方として適当なのではないかという考えで書いております。   その上で,記載するものとしては,広めの表現で書いていますが,それは,部会長からも御説明を頂きましたとおり,それぞれの中で検討が当然必要になってくるものが含まれつつ御審議いただくというものとして,この論点を書いていると,そういう理解で作っておりました。 ○廣瀬委員 これは,項目というよりは確認なのですけれども,第1項目ですね,少年の年齢というところで18歳未満というのを書いてあります。20歳から18歳に下げるか下げないかという議論ですから,論理的には当然入ってくるだろうと思っているのですけれども,私が最初に申し上げたように,例えば全面的に一律に下げるという形でやるのか,それとも罪名とか法定刑とかで一部限定を加えるのか,それから,18歳というのが,今の少年法は基本的には処分時,裁判時の年齢ですけれども,例えばそれを行為時にするとか,要するに全面的に一律に下げるというよりは,何らかの中間的なというか,多少バリエーションを加えていくこと,それが当然この検討の中で議論として含まれ得る,含まれているという理解でよろしいのでしょうか。 ○羽柴幹事 今回の諮問事項は少年法における少年の年齢を18歳未満とすることと,大項目2番の方とがございます。むしろ,御指摘いただいたのは2番の方のことなのではないかと思いますけれども,これから各措置,処分等を検討していく中で,冒頭申し上げましたとおり,若年者ですとか,そういったような範囲というのを別途掲げていないのは,それぞれの措置,処分について対象とすべきものというのの範囲を考えていくからであるという理解でございます。   ですから,一定の措置,処分について,少年の18歳あるいは20歳なのかもしれませんが,その年齢を超えるある一定の若い人たちについて,それとは異なる年齢の者と比べたところでの特則,各措置の採り方として特則に当たるようなものが位置付けられるのか,入ってくるのかというのは,それぞれの論点のところで対象を考えますので,結果としてそれが一定の層になるのか,あるいはそうではなく,全体として処遇のバリエーションが増えて結局は特別の層ということにはならないということも論理的にはあり得るというところも含まれると思いますけれども,そういった意味でそれぞれの論点の中で対象者を考えていくところで,当然議論の対象になると考えています。 ○廣瀬委員 大体分かったのですけれども,要するに含まれているという理解でよろしいのですね。今の御説明だと,例えば全部いろいろな処分について検討して,共通してということになれば1に近くなるということなのですかね。 ○井上部会長 今の御説明はそうであったと思いますが。 ○羽柴幹事 恐らく2の中のいろいろな措置があり得ますが,その対象を考えていったときに,もしかしたら特定の措置について少年の年齢を超えるある一定の若い層が対象となるということになるかもしれませんし,それが一つの措置ではなくて複数の措置についてそういうことになった結果,それを集積してみると,そこが層のように見えるという可能性もありますでしょうし,あるいは層ではない形なのかもしれませんけれども,そういった意味で各論点の中でその対象者を検討していくことの集積について御指摘いただいているものと理解をいたしました。 ○加藤幹事 今羽柴幹事から申し上げましたように,元々の1番と2番の関係は,勉強会の時期から,1番の少年法における少年の年齢を検討するには,まず中身の検討,その後にできる制度がどういったものになるのかということを検討してみないと,翻って年齢の検討もできないのではないかという観点から,2番の検討が多様な観点からなされてきたというものです。   したがいまして,例えば,2番の検討をしていった結果,1番に返ったときに,廣瀬委員御指摘のとおり,18歳未満で一律に切ってしまうということが適当ではなくて,もう少し別のバリエーションを持った制度があり得るのではないかという御提案がなされることはあり得ることだと考えておりますので,そういう意味で,委員御指摘の観点もこの1番の論点の中には含まれているとお考えいただいて結構かと存じます。 ○廣瀬委員 分かりました。ありがとうございました。 ○井上部会長 論点表(案)につきましては,今まで伺った範囲では,特に新たな項目を付加すべきだというほどの強い御意見はなかったのではないかと思われます。ここに挙げた項目も,検討の範囲をそれらのみに限定するというものでは必ずしもなく,各項目についての議論の発展の仕方によっては,そこに明示されていること以外にも拡大していく可能性を含んでいる。そのような理解の下で,当面,現段階では,この論点表(案)を成案として御了承いただき,今後の議論の出発点とするということでよろしいでしょうか。              (一同異議なし)   では,御了承が得られましたので,この論点表に沿って,以下,意見交換を進めたいと思います。   それでは,論点表の大項目1「少年法における『少年』の年齢を18歳未満とすること」という点から御意見を伺いたいと思います。この論点につきましては,既にこれまでの意見交換においても様々な意見が皆様から表明されておりますし,論点表にもそれを踏まえて,これまでに出された検討の視点というものを記載してあるところですので,そのようなこれまでの議論を踏まえた上で,特に,更なる御意見とか,あるいはそれらとは全く別の新たな視点からの御意見でも結構ですが,いかがでしょうか。 ○山﨑委員 まず,検討の観点で挙げられている点に関してなのですけれども,非行少年に対する現行の手続と処遇が有効に機能しているという,一つ目の点との兼ね合いになりますが,やはりそれとの関係では,現行の少年法が第1条で少年の健全な育成を期するということを法の目的として掲げているというところを十分に踏まえて検討していく必要があるだろうと感じております。   それとの関係で,仮に18歳,19歳に対して刑事処分しか科し得ないというような制度を考える場合には,現行法下で行われている,一つは手続の面,それと処遇の面,この両面においてそれぞれ採ることができなくなるものがあるのではないか,替わり得るものがあるのかという観点が必要ではないかと思っております。   更に言いますと,少年法の適用年齢は対象者の未成熟性を考慮したものと理解していますので,そもそも今日の18歳,19歳の成熟度というのがこれまでと果たして変化があるのかどうかという観点は必要ではないかなと考えています。   最後に,検討の観点の中でも民法の年齢引下げとの関係で親権との関係ということが出ていますけれども,少年法上の保護処分は国家による保護主義的な介入と言えるとしても,それは正に対象者の未成熟性そのものに着目していると考えられるのであって,民法上の親権概念と関係するものではないのではないか,ということを今考えております。   この辺りは,この後の議論で是非深めたいところでありますが,現行でも民法上の親権が及ばない者に対しても少年法は適用されておりますし,今般の民法の年齢引下げ,成年年齢引下げの議論というのも,報告書等を読みますと,主に取引場面での自立した活動という点を中心に議論されているのではないか,必ずしも親権に注目したものではなくて,さらには,対象者の成熟度が上がったということを理由とするものではないという点については十分に留意されるべきではないかと考えております。 ○川出委員 私も,ここに検討の観点として挙げられている点について意見を述べさせていただきたいと思います。   まず,第1点については,今,山﨑委員がおっしゃいましたように,今回の議論というのは,現行少年法の下で18歳,19歳の年長少年に対して行われている手続や保護処分が有効に機能していないので,少年法の適用年齢を下げることを検討しようとするものではないのだということについては,意見の一致があると思います。ですから,この第1点について言えば,現行法の下での年長少年に対する手続や処遇の有効性という観点からは,少年法の適用年齢を引き下げる必要性はないということになりますので,それ以外の理由があるのかということを検討する必要があるということになろうかと思います。   次に,第3点と第4点については,評価や予測に関わるものですので,正直なところ何とも言い難いのではないかという印象を持っています。   それから,最後の点は,次の2の論点に関してどのような制度設計をするか次第ですので,その検討を抜きに結論が出せるものではないというのは,先ほど加藤幹事からの御意見があったとおりだと思います。そうしますと,1の論点についての結論の分かれ目は,第2の観点についてどのように考えるかにあるということになるように思います。   そこで,第2回会議で申し上げたことの繰り返しになる部分もありますが,なぜ,この第2点を検討することが必要と考えるかということについて改めて意見を申し上げたいと思います。   ここでは民法の成年年齢と少年法の成人年齢を一致させるべきか否かが問題とされています。これについては,法律の適用年齢というのはそれぞれの立法趣旨や目的に照らして,法律ごとに個別に決定されるべきものであるので,それを統一する必要はないという意見がございます。そのこと自体はそのとおりだと思うのですが,そうであるとしても,各法律の制度の根拠に共通する部分があるとすれば,その点についてはやはり法制度全体としての整合性が図られるべきであると思います。   その観点から,民法の未成年者に対する制度と少年法に基づく少年保護手続を対比してみますと,どちらも,対象者が未成熟であって判断能力が不十分であるということから,その利益を保護するために,つまり,究極的にはその者の利益のために,その意思に反してでも権利を制限することを認めているという点では共通しています。   ただ,これに対しては,同じく未成熟な者の保護といっても,民法と少年法では保護の趣旨が異なるから,両者の成人年齢を一致させる必要はないという意見もございます。確かに,民法と少年法とで保護の趣旨や内容は全く同じではないのですが,いずれも未成年者あるいは少年の健全な成長,健全な育成のためにその者を監護あるいは監督し,その際に一定の権利制約を行うことが認められているという点では共通しています。   そうしますと,民法の成年年齢が引き下げられて,親権,そのうちでも財産管理権ではなく身上監護権の方が主として問題になると思うのですが,その親権に服すことがなくなる18歳,19歳の者に対して,その健全育成を理由として,究極的な目的はその者の利益を図ることにあるからといって,意思に反した権利制約を行うことが正当化されるのかということを検討する必要が出てくると思います。   そのことは,具体的には,論点表に記載されていますように,18歳,19歳の者について,その要保護性に応じて,行為責任に照らせばそれを上回るような不利益性を伴う保護処分に付すことができるか,よく出される例ですと,軽微な万引きで少年院に送致できるかという形で表れてきます。   もちろん,民法と少年法において,先ほど申し上げました共通性はあるにしても,それは本質的なものではなくて,むしろ両者では差異の方が大きいから,民法の成年年齢が引き下げられたとしても少年法の適用年齢はこのままで良いのだという議論もあり得ると思います。その点も含めて,この第2の観点は掘り下げた検討が必要であるということを改めて申し上げたいと思います。 ○山下(幸)幹事 今,川出委員から,今の1番の一番最初のポチの点について争いがないというような話もあったのですが,私はそうではないと思っております。一つは,現在,年長少年に対して,ここに書いているように有効にいろいろ調査とか処遇がなされているということなのですけれども,これはやはり少年法第1条の健全育成の目的に基づいて,そしてかつ,検察官は全件送致をして,家庭裁判所が主体的にその処遇を決めているという現状の中で,それが非常にうまくいっているということであって,これが今後年長少年が成人になって,18歳以上が成人になったときには,今度は検察官が処分をどうするか決めるということになるわけでして,家庭裁判所がこれまでやってきたようなイニシアチブではなくて検察官が処分を決めるというような形で行うことが果たして可能なのか,それから少年法第1条の健全育成の目的も外れるという中で,年長少年だった層に対して現在のような有効になされている調査や処遇というものが果たして本当に可能なのか,できるのかということについては,もちろんそれをこれから2番で検討するわけではありますけれども,やはりそういう少年法第1条の健全育成の目的,そして家庭裁判所が主体的にそれを行っていたということが変わるということによって,果たしてこれまで行われてきたように有効に機能してきたものが本当にそのまま維持されるのかということについては疑問があるので,だから当然のようにこの1番について争いがないわけではなくて,そこはやはり疑問がありますので,1番についても一つの論点としてきちんと議論をすることが必要ではないかと思っております。 ○廣瀬委員 川出委員がおっしゃったのは,要するに処遇の有効性があるということ自体は争いがないということをおっしゃったのだと思うので,ちょっと観点が違うと思うのです。けれども,それは置いておいて,先ほどの保護処分の正当化根拠の問題です。これを本格的にやると,それこそ少年法の根幹の論争になってしまうので,僕は余り実益がないと思っているのです。要するに要保護性概念をどう捉えるか,それから保護処分概念をどう捉えるかも,佐伯委員がおっしゃっているような制裁論的に捉えるというような捉え方もあり得るわけです。その観点での検討はもちろんそれはそれで結構だと思いますが,少なくも親権を離脱したというか,成人年齢に達した者に対しても,今日,大沢委員がドイツを紹介された御意見を出されていますけれども,正に民法もあり,親権もある国,欧米諸国はほとんど成人の年齢に達している者に対しても特別な教育的な処分をやっているわけです。   それは恐らくそういう後見・保護的な観点よりは,刑事政策的な合理性,再犯防止の可能性,矯正処遇の有効性というような観点だと思うのです。そして,これはほとんど限りなく日本の少年法にも重なると僕は思っているのです。先ほどおっしゃったような極端な事例の処分は確かにできなくなると思います。それから,親権に基づくぐ犯の問題などには差が出てくると思います。ドイツでも教育権者の条項だけは準成人から外すとか,そういうことはやっているわけですから,それはおっしゃるとおりだと思うのです。けれども,それで大勢が違ってくるかというと,そうではないのではないか,やはりこの2番の中身の問題如何でかなり違ってくるのではないかという気がしているので,余りそこを突っ込んでとことんやるというのはいかがかなという気もするのですけれども。問題意識は非常によく分かりますが。 ○井上部会長 法制審議会は基本的な法制を審議する場ですので,やはり理論的な正当性の有無についても突っ込んで議論していただき,考え方をまとめる必要があると思われます。どこまで議論しても結論が出ないので無益だという御趣旨なのかもしれませんけれども。 ○川出委員 民法の成年年齢が引き下げられて,18歳,19歳の者が親権に服さなくなった場合には,刑事司法においてもそれ以外の20歳以上の成人と全く同じ処遇をしなければならないという帰結が導かれるわけではありませんで,18歳,19歳の者を含む若年成人については,教育的な観点から刑罰を軽減するとか,処遇内容を多様化するといったことは,もちろんやっていいし,むしろやるべきだと思います。ここで問題とすべきなのは,後見的な観点から,行為責任を上回るような不利益処分を科せるかということでして,民法の成年年齢が下がっても少年法の適用年齢はそのままにしておくということは,18歳,19歳の者に対しても既存の少年法がそのまま適用されるわけですから,それを認めることになります。御指摘のように,実際の運用では,少年法の適用があるかどうかによって,それほど結論は変わらないということになるのかもしれませんが,理論上それが可能かどうかということは,やはりこの場で議論して,結論を出す必要があるのではないかと思います。 ○廣瀬委員 挙げられているような極端な事例というのは,確かに講学上議論しているのですけれども,実際の少年審判実務でそのようなことをどれほどやっているかということです。それから,要保護性の理解自体,中核は再犯の危険性,矯正可能性,それが中核なわけです。そこの理解がもう少し共有されれば,あえて佐伯委員のお考えを申し上げますけれども,そのような理解にしていけば,ほとんど整合性を保てると思うのです。では,そういう議論が間違いかというと,僕はそうは言えないのではないか,確かに,ぐ犯のある今の少年法との整合性が悪いというのは,それは川出委員の御指摘のとおりです。しかし,取れない考え方かというと,それは少年法の理論としても僕は取り得るのではないかと,ここは正に研究者として言いたいところなのです。 ○酒巻委員 私は川出委員のおっしゃっている法的な整合性というのは,国家全体の法システムの中で,やはり根本的に詰めて整理しておかなければいけない非常に重要な問題だと思っているのです。民法の成年年齢が下がるというのは,効果としては親権から離脱するということを意味するのであり,これと同じ保護という観点を共通にしている少年法のシステムとの整合性が十分に取れるのか,取るためにはどうしたらいいのかということは基本的な問題なので,これを軽く扱う,あるいは詰めた議論を回避することは,私は法律学者としては耐えられないというか,そういう問題だと意識しています。川出委員は表現方法が丸いので,それが伝わっていないのかもしれませんけれども,これは非常に根本的な問題だと私は理解しております。 ○井上部会長 今の点は,最も根本的といえば根本的な問題でありますので,今日の段階ではこのくらいにさせていただけますでしょうか。 ○羽間委員 第2回の会議でも申し上げたのですけれども,少年法の適用年齢が引き下がった場合に,現在18歳,19歳で少年院送致や保護観察になっている,そういう少年のうちどれくらいの人が単純執行猶予,罰金,起訴猶予などとなって,何ら処遇を受けないことになるのかということについて,大まかでもよいので,ある程度の予測ができるのかということが気になっております。   同じように,大項目の2の,刑事政策についての制度を議論するにしても,各制度を導入ないし活用することによって,これまで単純執行猶予や起訴猶予等になっていた人たちのうち,どの程度の割合の人がその処遇を受けることができるようになるのか,こういう予測がなければ各制度の必要性の判断が難しいかなと思っております。そこで,こういう予測は,是非とも各制度の議論と並行していっていただけないかなと考えております。 ○井上部会長 そういう予測を視野に入れながらというか,ある程度の数字をにらみながら議論した方がいいという御意見ですね。予測ですので,御趣旨に適うような数字が出せるかどうかは分かりませんけれども,事務当局でも検討していただければと思います。   大項目の1につきましては,今日の段階ではこのくらいにして,大項目の2についての意見交換に移らせていただきたいと思います。   そこでは12の項目が挙げられておりますが,本日の残り時間を考えますと,全てについて御議論いただくことは無理ですので,本日は,まず1枚目の五つの論点を取り上げたいと思います。   個別に一項目ずつではなく,これら五つの論点をまとめて議論することにしたいと思います。   その議論の手がかりとして,各論点の概要について,事務当局から補足説明をしていただきます。 ○羽柴幹事 論点表1枚目の五つの論点について,その概要を御説明いたします。   一つ目の「起訴猶予等に伴う再犯防止措置の在り方」は,比較的軽微な罪を犯し起訴猶予等になるようなものに対する再犯防止措置の在り方を論点とするものです。若年者に対する刑事法制の在り方に関する勉強会の取りまとめ報告書には,具体的な措置の例として,更生緊急保護について検察官による起訴猶予の処分前にも実施し得ることとするなど,その対象範囲を拡大し,あわせて,検察官は起訴猶予等とするときは被疑者に訓戒,指導等をすることができる旨を明文化することや,被疑者の生活環境や生活態度の改善状況等により検察官の終局処分の内容が変わり得る場合に,検察官が処分の決定に際して,その改善状況等を把握するため,被疑者の意思に反しないことを前提に,終局処分前に保護観察所その他の公私の団体に対し,帰住先の確保を含めた生活環境の調整等を依頼することを可能とする仕組みを導入することが記載されています。ただ,これらに限定されるものではないと考えられます。   二つ目は,「少年鑑別所及び保護観察所の調査・調整機能の活用」ですが,これは起訴猶予等の処分,あるいはそれに限らず様々な措置等を行うに当たり,少年鑑別所や保護観察所の調査・調整機能を活用することを内容とするものです。若年者に対する刑事法制の在り方に関する勉強会の取りまとめ報告書には,具体的な措置の例として,検察官において,より適切な措置を採ることを可能にするため,少年鑑別所の心理技官等が被疑者と面接した結果や保護観察所の保護観察官が家族等との調整を行った結果を活用することや,若年者に対する刑事裁判の審理の過程で,少年鑑別所の鑑別機能や保護観察所の調査・調整機能を活用することなどが記載されていますが,これもこれらに限定されるものではないと考えられます。   三つ目の「宣告猶予制度」は,判決や刑の宣告を回避しつつ,司法判断を経た上で保護観察を行うことを可能とする制度として考えられるものです。具体的には,裁判所が審理の結果,有罪であると認めた場合において,有罪判決の宣告を一定期間行わないこととする判決の宣告猶予制度や刑の宣告のみを一定期間行わない刑の宣告猶予制度を導入し,宣告猶予の間,保護観察や保護観察所その他の公私の団体に対する補導委託などの社会内処遇を行うとともに,保護観察官による調査・調整を行うといったことが考えられますが,これもこれに限定されるというものではないと考えられます。   四つ目の「罰金の保護観察付き執行猶予の活用」は,比較的軽微な罪を犯した者に対する再犯防止措置として考えられるものであり,罰金を科される者について,社会内処遇を行うことが再犯を防止するのに有効な場合,罰金刑の執行を猶予し,猶予の期間中,保護観察に付し,社会内処遇を行うものです。罰金刑の執行を猶予して,その猶予の期間中,保護観察に付することは現行法上も可能ですが,その活用について検討するというものです。   五つ目の「刑の全部の執行猶予制度の在り方」は,刑の執行猶予が言い渡された者に対する社会内処遇を充実させる刑事政策的措置の一つとして考えられるものです。若年者に対する刑事法制の在り方に関する勉強会の取りまとめ報告書には,まず,刑法第25条第2項ただし書の規定により,保護観察付き刑の全部の執行猶予の猶予期間中の再犯については,再度の刑の全部の執行猶予を言い渡すことができないとされているところ,このことが初度の刑の全部の執行猶予を言い渡す際に保護観察に付することをちゅうちょさせているという指摘がなされていることから,保護観察に付することが必要かつ適切な事案について保護観察を活用しやすい状況を整えるため,保護観察付き刑の全部の執行猶予の猶予期間中の再犯であっても,一定の要件の下で再度刑の全部の執行猶予を言い渡すことができる仕組みを導入することが記載されており,その他の措置として,再度の刑の全部の執行猶予を言い渡し得る刑期の上限を引き上げることが記載されています。   また,執行猶予についてこのように柔軟な措置を可能とする場合,心理的強制による再犯防止の担保機能が低下するおそれがあることから,保護観察の遵守事項の遵守を強く促す等のため,執行猶予の取消し要件を緩和すること,執行猶予期間中に罪を犯して公訴提起された場合であっても,公判が長期化して執行猶予期間が経過すると執行猶予が取り消せなくなるため,このようなときに一定の条件の下で執行猶予を取り消すことができる仕組みを導入することが記載されています。   五つの論点の概要についての御説明は以上です。 ○井上部会長 以上の五つの点ですけれども,これはそれぞれもちろん御意見があるかと思いますが,同時に,相互に関連するところもかなりあることから,全体をまとめた形で御意見があるかもしれません。いずれの形でも結構ですので,御意見のある方は挙手をお願いします。 ○太田委員 1番の起訴猶予等に伴う再犯防止措置の在り方と,それから若干2番目のテーマにも係る内容でございますけれども,御存じのように,現に検察庁によって様々な再犯防止措置が講じられておりまして,その中では起訴猶予等の対象者に対して,福祉的な支援につなぐという入口支援といったものも行われております。ですが,こうした取組は法的には純然とした任意の働き掛けのために,対象者がこれに従わないということも考えられます。例えば,適切な福祉的な支援がなされれば更生と再犯防止の上で有効であると検察官が判断して,本人もそうした福祉的な支援に同意したことから起訴猶予にしたにも関わらず,実際に起訴猶予になって身柄が釈放されるや,福祉的支援に応じずに結果として更生が危ぶまれるような事態になるようなケースもあると聞いております。   もちろん,罪を犯した者の更生には,本人の自発的な更生意欲というのは不可欠ではありますけれども,罪を犯した者にはその者自身の犯罪性ないしは問題性があるのでありますから,単に本人に福祉的な支援を促せばそれで足りるというものではないと思います。より確実な改善更生と再犯防止のためには,国による一定の働き掛けというようなものが必要な場合もあると思われます。   そこで,この1番目の起訴猶予等に伴う再犯防止措置の在り方の検討に当たりましては,被疑者の方に前言を翻されれば如何ともし難いというような仕組みではなくて,より確実に更生を図れるような仕組みにする,それについても検討する必要があるように思われます。   それとの関わりで,もし仮に18歳,19歳の者が少年保護対象から外れるということになった場合には,微罪処分の対象になり得るのか,従来の簡易送致の扱いも含めて,その是非について検討する必要があると思いますし,もし原則として微罪処分はやはり18歳,19歳はしないんだということになりますと,通常のケースなど検察官に通常送致されることになるわけでありますので,検察官において単純に起訴猶予にするという場合だけでなくて,起訴猶予にする場合において一定の再犯防止措置を取ることで,そういった若年者の更生を確実なものにするという仕組みも併せて検討する必要があるように思われます。 ○田中委員 今の御発言と同じような趣旨なのですけれども,現在,地方検察庁では起訴猶予者等を対象に様々な社会復帰支援を行っているところなのですけれども,今もお話がありましたとおり,釈放前はそのような支援に同意していても,釈放されるとそれを拒んで,職員が一生懸命説得しても,それを振り切って逃げてしまう,もうホームレスに戻ってしまうというようなこともあると聞いております。ですので,今後の検討に当たってはそのような実態も踏まえたような検討が必要と考えております。 ○青木委員 まず,意見の前にお願いが一つあるのですけれども,法制審議会の過去の部会で,被収容者人員適正化方策に関する部会というのがありまして,そこで今日出ているような問題についても関連する議論が行われていると思うのですね。もちろん,その当時と今の状況が変わっていまして,その後,そこで決まった一部執行猶予も始まっていますので状況は変わっているのですけれども,かなり参考となる部分があると思いますので,できましたら事務当局で参考になりそうな部分についてピックアップしていただいて,議事録を皆さんに提供していただけると有り難いなと思っています。   というのがお願いで,今のお二人の御意見に関するところなのですけれども,この再犯防止措置の在り方の措置というものにどういうものを想定しているのかによってその手続の在り方が違ってくるのではないかという気がしていまして,例えば訓戒をするというのも一つの措置なのでしょうけれども,どういうものを想定して議論するのかということについても,考えながらというか射程を決めながら議論していった方がいいのではないかと思っております。 ○井上部会長 最初の点については検討させていただきます。2番目の点は,最初に抽象的に定めてかかるのではなく,それぞれの御発言の中で,できるだけ具体的にこういうものだと明示して意見を言っていただき,その上で相互の意見調整をしていくというのが生産的な議論の仕方ではないかと思われます。 ○佐伯委員 2番目の「少年鑑別所及び保護観察所の調査・調整機能の活用について」ですが,これまでのヒアリングで少年鑑別所と保護観察所が,様々なノウハウを蓄積され,非常に重要な機能を果たしておられるということが分かりましたので,これを先ほど事務当局から御説明がありましたが,捜査段階,公訴の段階,それから公判の段階等で活用していくことを検討すべきかと思います。また,ヒアリングで少年鑑別所の鑑別結果が保護観察で有益であるという御指摘もありましたので,そういう活用についても検討していくべきだろうと思います。   関連した質問なのですけれども,検察官が現在処分前に少年鑑別所や保護観察所の調査・調整機能というものをどのくらい活用されているのかということについて,可能であれば教えていただければと思います。 ○羽柴幹事 全国の検察庁におきましては,各庁の実情に応じまして保護観察所と連携をして,釈放される見込みの起訴猶予者について,起訴猶予処分前に検察庁から一定の情報を保護観察所に提供して,保護観察官の調査・調整機能を活用し,対象者の特性に応じた更生緊急保護の措置が適切に講じられるように取り組んでいると聞いております。   平成27年度におけるこのような取組の件数は,全国で342件でございました。   また,少年鑑別所の鑑別機能の活用につきましては,こちらは全国の検察庁の取組を網羅的に把握しているというものではないのですけれども,東京地方検察庁におきましては,まず刑事事件としての責任能力に関する事項として,知的障害の程度等を一時的には判断し鑑定を実施するか否かの判別をするための資料を得るためということですとか,それから社会復帰支援をするに際して,対象者の障害の程度を見極め,その者にふさわしい福祉的支援を見極めるというために,少年鑑別所法第131条に基づく地域援助業務として,少年鑑別所に協力を依頼して少年鑑別所の心理技官による知能検査等の実施を行っていると承知をしています。   東京地検本庁におきまして,この少年鑑別所法第131条に基づく地域援助業務を活用いたしましたのは,平成27年に15件,平成28年には少し増えましたけれども,35件であったと承知をしております。 ○奥村委員 それに関連して,2番目の少年鑑別所の調査・調整機能ではなく,先ほどの家庭裁判所の少年調査票の関係ですけれども,逆送され刑事裁判になった場合,検察官は公判廷において裁判官から取り寄せた少年調査票に基づいて処遇について意見を述べるということですけれども,逆送事件の中には裁判員裁判にもなり得るわけですので,裁判所はどのような基準で検察側や弁護側に開示されるのか,少年のプライバシーの保護はどのように担保されているのか,それから,それが家庭裁判所での少年審判のときの場合と逆送され刑事裁判になった場合の取扱いの違いについて,もし分かれば教えていただきたいと思います。 ○加藤幹事 まず,その少年調査票は検察官に逆送され,検察官送致になる段階では検察官の手元にはまいりません。したがいまして,検察官が持っている事件記録には少年調査票は含まれていないという形になります。その後,起訴されて,公判廷においての取扱いということになりますと,少年調査票を含む社会記録は裁判所の御判断で取り寄せていることがあるのではないかと認識しています。 ○福島幹事 最高裁判所刑事局の福島でございます。刑事裁判になったときにどのような審理をするかというのは,改めて申し上げるまでもなく,個々の裁判において裁判体が判断するということになるわけでございますが,一般的なことを申し上げますと,多くの事例では刑事の裁判所から家庭裁判所に対して社会記録の取寄せを行っているのではないかと考えております。そして,社会記録を検察官,弁護人にも閲覧していただいた上で,その中で必要なものについて証拠として採用して取り調べるというのが多いのではないかと思います。証拠として採用する範囲については個々の事件ごと,また裁判体あるいは検察官,弁護人の御意見によって変わってくるのだろうと思いますが,例えば社会記録の中でも重要な家庭裁判所調査官の意見が書いてあるようなところなどを取り調べる例も少なくないのではないかと認識しているところでございます。 ○澤村幹事 先ほど御説明がありましたとおり,検察官に送致する段階では法律記録だけを送付する形になっていますので,社会記録の方は家庭裁判所の方にとどめ置かれています。したがって,検察官が逆送された事件について社会記録を御覧になるということは基本的にはないということになっております。 ○山﨑委員 今のお二方の委員の御発言とも関連するのですけれども,少なくとも今の少年審判手続において行われている少年鑑別所での鑑別というのは,言うまでもなく,捜査機関の手を離れて事件が家庭裁判所に係属した後に行われているものであり,裁判官による観護措置決定,調査命令を踏まえてなされています。しかも,身体拘束期間がおおむね3,4週間,その中で行動観察を毎日行うなど,ヒアリングでも出てきたようにかなり綿密に調査をしているわけですので,先ほど御説明があった,特に高齢者,障害者の方を対象とした,保護観察所ですとか少年鑑別所の心理技官の方が今行われている援助とは,大分質的に違うのではないかと感じています。   ですので,対象者をどのように考えるのか,どういう問題性を持っている人を対象とした議論をするのかということを,やはり個別に考えないといけないのではないか,高齢者,障害者を対象とする場合と,若年者,さらには,今の少年のうち18歳,19歳について考えるときには,また違った観点が必要なのではないかと感じております。   それとともに,今申し上げたこととの関係で言いますと,調査をする段階が捜査段階なのか,裁判所に行った後なのか,あるいはその調査のときに身体拘束についてどのように考えるのか,調査で取得された情報について秘密はどこまで守られるのか,公開の手続でも利用されるのか,非公開のままでとどまるのか,そういったことも関係してくると思いますし,仮に捜査段階でということになりますと,黙秘権の対象になるのか,犯罪事実,特に情状事実との関係がどういうふうに理解されるべきかといったような様々な問題があるかと思いますので,その辺は丁寧に検討していく必要があるのではないかと考えています。 ○今井委員 三つ目と四つ目の項目について意見を申し上げたいと思います。   宣告猶予制度と罰金の保護観察付き執行猶予の活用ということなのですけれども,まず宣告猶予の方は,先ほどの報告書では保護観察が必要,適当とするような制度の御提案があったかと思いますけれども,こちらの制度は大変魅力的なもので,是非この部会でも可能な限り理論的な検討を尽くすべきだと思います。その点では,先ほど青木委員もおっしゃったように,被収容者人員の適正化方策に関する部会においてもある程度の議論はしていたように記憶しておりますので,その辺の知識も使えばいいと思うのですが,宣告猶予にはいろいろな種類がありますし,また,宣告猶予に当たって裁判所の権限をどう考えるか,裁判所の手持ちの情報を時間的にどこまで区切って利用可能と考えるかといった理論的にも多くの問題がありますので,日本の現行法制度とのすり合わせということで慎重な検討が必要ではないかと個人的には思っております。   他方で,罰金刑の保護観察付き執行猶予は現在でも可能なところでありますけれども,これは2の大枠で書いてありますように,それほど犯罪性向が進んでいない,ここに今の年長少年を含めた方々が対象として考えられていると思いますけれども,そうした方に対して罰金刑が選択されたということで,実体法的には犯情がそれほど悪くはないということ,しかも,執行猶予が付けられるということで,今後の再犯可能性が高くないと予見される対象者についての措置だと思いますし,また,裁判所が判断してこの措置を選択しているということは,手続法的な手当も充たされていると思いますので,個人的にはまずこの制度の活用が,今後どのようにあり得て,現在の状況と比較しながら,どういうふうな改善等があり,その解消が現実的に可能かを検討すべきではないか,と思っているところです。 ○池田幹事 3番目,4番目,5番目について意見を申し述べます。これらは,先ほど田鎖幹事からも御指摘があったように,起訴された事件についての柔軟な対応を可能にするための方策であると考えられます。その中でも宣告猶予制度は,ただいま今井委員から御指摘がありましたような問題もあり,検討を要する課題であろうと思っております。   他方で,猶予という言葉は,1番目,4番目,5番目にも並んでおりますが,手続を打ち切るいろいろな方策が考えられる中で,どういう場合に宣告猶予制度を使うのか,起訴猶予,執行猶予との兼ね合いで,その対象範囲などについても問題になります。先ほど羽間委員からどういう予測が立つかということについても留意されたいという御指摘がありましたけれども,その点も踏まえながら,制度の在り方について検討しておくべきであろうと考えております。 ○山下(幸)幹事 2点ございまして,宣告猶予制度に関してですけれども,先ほど青木委員や今井委員からもありましたが,過去の法制審の議論を参考にということがあったのですが,相当大昔のことですけれども,刑法の全面改正が議論された刑法改正草案のときも宣告猶予制度というのは一応議論されて刑法改正草案に入らなかったわけですけれども,そのときの議論もできれば御紹介いただきたいと。   それで,これは次回にはなるのですけれども,自由刑の在り方も実はそのときかなり自由刑の単一化ということで議論されているので,是非それもできれば資料として御提供いただきたいというのが1点でございます。   もう1点は,今回かなり保護観察制度を活用するということがかなり前面に出ているのですけれども,現在,保護観察制度の中で特に保護司のなり手が最近いないというような議論の紹介がよくあるのですけれども,果たして保護観察制度というのが現在日本においてどのように運用されて,将来的にこれを活用するということは非常に広くそれを運用していくと,これはこの間の一部執行猶予のところも実は保護観察制度の活用というのがあったわけですけれども,保護司とかそういうことも含めて,保護観察制度が果たしてきちっと機能しているのかどうか,そして,これが今後活用するだけの体力といいますか,そういう制度としてきちんと保護司が確保されているのかということについての現状を是非ともちょっと教えていただいて,それも踏まえて議論をしていかないと,制度を作っても,それを担う保護司がいないとか,保護観察制度がうまく活用されないということであれば問題ですので,その点についても是非資料等とか御説明等頂ければと思います。 ○井上部会長 2番目の点については検討させていただきますが,1番目の点については,私の知る限りでも,膨大な資料がありますので,それを全部コピーして皆さんにお配りするということが果たして意味のあることでしょうか。 ○山下(幸)幹事 事務当局で整理していただければ。 ○井上部会長 整理するといいましても,先ほど青木委員から御要望があった範囲でもかなりの資料があり,それを整理するだけでも事務方の方々にとってかなり大変な作業ですので,まずはそれを手がかりにしていただき,刑法の全面改正については,御希望は御希望として伺って,どういうことが可能か,検討していただくことにしたいと思います。   他に御意見等ございますでしょうか。 ○羽間委員 社会内処遇を充実させるという観点から幾つか申し上げたいのですが,第3回に前橋保護観察所の所長の古山氏が指摘されていた少年に対する保護観察制度の特徴,これをいかす制度や取組を検討していく必要があると考えています。具体的には,論点表のまず一番初めの起訴猶予等に伴う再犯防止措置の在り方についてですけれども,保護観察所が起訴猶予者に対して再犯防止措置を行う場合は更生緊急保護の枠組みで行うことになるのですが,この場合,処遇に際して遵守事項を付すことができないということがございます。古山氏が指摘されていたとおり,その少年や若年者の処遇においては,遵守事項を遵守させながらの処遇というのは極めて重要である,有効であるということから,若年の起訴猶予者等に対する再犯防止措置においても遵守事項を付す,その上での処遇が行われるようにすべきではないかという観点での検討も行う必要があるのではないかと思っています。   また,起訴猶予の制度の枠組みでは遵守事項を付けるということが難しいということであれば,宣告猶予制度の導入をすることで,現行では起訴猶予などとなっているもののうち,再犯防止措置が必要な層について,起訴した上で判決ないし刑の宣告を猶予して,その猶予の期間,遵守事項を付した上での保護観察を行うようなことも検討すべきではないかと考えます。 ○橋爪幹事 論点表のそのページの一番末尾ですが,刑の全部の執行猶予制度の在り方でございます。これにつきましては,前の部会のときにも,刑の全部の執行を猶予する際には,保護観察を付すことが改善,更生の観点から有益である場合が多いことから,刑法第25条第2項の規定の改正を含めた上で,保護観察制度の積極的活用を検討すべきであるという趣旨のことを申し上げました。   このような意見それ自体は変わっていないわけですが,改めて考えてみますと,更に検討すべき点があるような気がいたします。仮にですが,保護観察付きの執行猶予期間の再犯であっても,一定の要件の下においては再度刑の執行猶予が可能であるという制度を導入しますと,再犯を犯してももう一回執行猶予が付くという不当な期待が生じてしまい,執行猶予制度が有する心理的な強制による再犯防止の担保的機能が大幅に低下するおそれがあるように思います。もしこのような弊害が生ずるのであれば,執行猶予の取消し要件の緩和も含めて,執行猶予の再犯防止に係る担保的機能の維持に関する方策を検討する必要があると考えます。   さらに,これに関連することを1点申し上げますと,従来から実務におきましては,執行猶予期間中に罪を犯して,公訴を提起された場合であっても,刑の確定が遅れ,執行猶予期間経過後に至った場合につきましては,執行猶予を取り消し得ないという弊害が生じていると伺っております。   執行猶予の取消しの判断におきましては,執行猶予期間中に再犯を犯したという事実が決定的であり,刑の確定時期それ自体は重要ではないようにも思われますので,この点につきましても,あわせて検討することが適当であると考えております。例の改正刑法草案でもそのような趣旨の規定があったと記憶しておりますので,その点も含めた検討が必要かと考える次第です。 ○廣瀬委員 先ほどの論点のところでも申し上げたのですけれども,それぞれの例えば起訴猶予の問題についていろいろ御意見がありましたけれども,充実した処遇をできるようにするということは私も結構だと思うのですけれども,やはり的確な判断をするためにはきちんとした材料がないといけないし,調査や選別ということが非常に大事だと思うのです。   ですから,起訴後の処分をどう決めるかというところで専門家が関わっていろいろ判断資料を提供するというのも非常に大事ですし,結構だと思うのです。けれども,起訴猶予とかそういう処分をするところ,欲を言えばもっと捜査段階も含めてなのですけれども,早めに少年に関わる専門家たちが入って,まず重大な犯罪を犯す少年とか,あるいは非行を繰り返していく少年というのは非常に数は少ないけれども,数は少ないということも明らかになっているわけですが,早期の手当が非常に有効だということも明らかになっているわけですから,それを調査,選別する機能という観点を是非入れていただきたい。この議論の取掛かりとしては,例えば起訴猶予のところでもいいと思うのですけれども。 ○井上部会長 少年に限って,という御趣旨ですか。 ○廣瀬委員 若年者まで広げていいと思います。理想を言えば,それは成人全部なのでしょうけれども,一番教育可能性が高くて,費用対効果,コストパフォーマンスがいいという意味で考えていくと,やはり年齢の低い可塑性のある人たちということになってくるのではないかと思うのです。 ○田鎖幹事 1番目の起訴猶予等に伴う再犯防止措置の在り方に関してなのですけれども,確かに早期の段階において検察官において罪を犯したと認めたものに対して,その問題性に応じた一定の働き掛けをすると,そういうことの有効性が現場でも言われて実践されていると,それはそのとおりなのですけれども,先ほど青木委員からもその措置をどこまで,具体的にどういうものを考えるのかということを考えたときに,やはり裁判所による有罪の認定というものを経ていない人たちに対してできる働き掛けというものは,やはりおのずと限界があるわけでして,実際に現在は同意を得た上で飽くまで任意という形で行われているということですので,起訴猶予に必ずしも絡めない形ですとか,あるいは裁判所がどう関わっていくのかということも含めて議論をしていただければと考えます。 ○井上部会長 ありがとうございました。   今日のところはこのぐらいでよろしいでしょうか。それでは,本日の意見交換はこの程度にさせていただきたいと思います。   次回は論点表の大項目2に掲げられている残りの七つの項目について意見交換を行わせていただきたいと思います。   次回の予定につきましては,事務当局から説明をお願いします。 ○羽柴幹事 次回第5回会議は,7月27日木曜日,午前9時30分からです。場所は,法務省地下1階の大会議室を予定をしております。 ○井上部会長 それでは,確認しますけれども,次回は7月27日木曜日,時間は午前9時半,場所は法務省地下1階の大会議室ということです。   なお,本日の会議の議事につきましては,特に公表に適さない内容に当たるものはなかったというふうに思われますので,発言者名を明らかにした議事録を公表することにさせていただきたいと思いますが,よろしいでしょうか。             (一同異議なし)   では,そのようにさせていただきます。   もう一つ,視察の予定について事務当局から説明があります。 ○羽柴幹事 それでは,期日外視察の予定について御説明をいたします。既に御案内をしているとおりでございまして,7月21日金曜日午前中に東京家庭裁判所及び東京保護観察所の視察を予定しております。また,7月31日月曜日には川越少年刑務所,多摩少年院,八王子少年鑑別所及び更生保護施設の視察を予定しております。この件の詳細につきましては追って御連絡をさせていただきます。 ○井上部会長 以上でございます。本日はどうもありがとうございました。 -了- - 41 -