法制審議会 会社法制 (企業統治等関係)部会 第4回会議 議事録 第1 日 時  平成29年 7月26日(水)   自 午後 1時31分                          至 午後 4時59分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  会社法制(企業統治等関係)の見直しについて 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○神田部会長 それでは,予定いたしました時刻がまいりましたので,始めさせていただきます。   法制審議会の会社法制(企業統治等関係)部会,本日は第4回目の会議となります。皆様方には,いつも大変お忙しいところ,お集まりいただきまして,誠にありがとうございます。   それでは,まず最初に,事務当局から,本日の参考人の御紹介をお願いいたします。 ○竹林幹事 参考人の御所属等は,議事次第に記載のとおりでございますが,本日は,社債の管理の在り方の見直しに関する論点の検討の審議の関係で,河田様,山田様,小池様,田中様,潮田様,高島様に参考人として参加いただいております。   なお,参考人の皆様は,社債の管理の在り方の見直しに関する論点の検討の審議終了後,御都合により退席されると伺っております。どうぞよろしくお願い申し上げます。   また,人事異動の関係で,本日より新たに委員等として参加される方々についても御紹介させていただきます。   まず,当省民事局長の小野瀬が委員として参加させていただきます。 ○小野瀬委員 小野瀬でございます。どうぞよろしくお願いいたします。 ○竹林幹事 続きまして,御紹介のみにとどまりますけれども,前回まで幹事として参加しておりました当省大臣官房審議官の筒井が委員として参加させていただくこととなりました。また,経済産業省経済産業政策局産業組織課長の坂本様に幹事として参加いただくこととなりました。よろしくお願いいたします。   当省民事局法制管理官の堂薗が幹事として参加させていただきます。 ○堂薗幹事 堂薗でございます。どうぞよろしくお願いいたします。 ○竹林幹事 さらに,民事局付の福永が関係官として参加させていただきます。 ○福永関係官 よろしくお願いします。 ○竹林幹事 加えまして,調査員の飯嶋が関係官として参加させていただきます。 ○飯嶋関係官 どうぞよろしくお願いいたします。 ○竹林幹事 どうぞよろしくお願いいたします。   また,本日は,審議事項との関係で,金融庁総務企画局市場課長の小森様に関係官として参加いただいております。 ○小森関係官 よろしくお願いします。 ○竹林幹事 どうぞよろしくお願いいたします。   なお,本日は,川島委員,岡田幹事は御欠席でございます。   以上となります。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   それでは,次に,本日の会議の配布資料の確認をさせていただきたいと思います。   事務当局からお願いいたします。 ○竹林幹事 お手元には,配布資料目録,議事次第,部会資料といたしまして4及び5,参考資料といたしまして15から18まで,委員等名簿を配布させていただいておりますので,御確認いただければと存じます。   なお,部会資料4でございますが,こちらは前回配布しているものを再度配布させていただいたものでございます。   配布資料についての御説明は以上となります。 ○神田部会長 ありがとうございました。よろしゅうございますでしょうか。   それでは,本日の審議に入りたいと思います。本日でございますけれども,お手元の議事次第に記載のとおり,社債の管理の在り方の見直しについての御審議をお願いし,それから,前回の積み残し部分になっておりますけれども,会社補償についての御審議をお願いすることを予定しております。   参考人をお招きしていることとの関係で,順番としては,まず社債の管理の在り方の見直しの方の審議を先にお願いいたします。その後で,前回の積み残し部分である会社補償に関する規律の整備についての御審議をお願いしたいと思います。   それでは,社債の管理の在り方の見直しの審議に入りたいと思います。まず,部会資料5につきまして,事務当局に御説明をしていただき,その後,参考人の皆様方に順次プレゼンテーションをしていただきたいと思います。   それでは,まず,部会資料5の説明からお願いいたします。 ○邉関係官 それでは,私の方から,部会資料5について御説明いたします。   「第1 新たな社債管理制度」は,「1 新たな社債管理制度を設けることの要否」のとおり,会社が社債を発行する場合において,社債管理者又は受託会社を定めることを要しないときに,社債管理者及び受託会社よりも限定された範囲内において社債の管理を行うことを委託することができるよう新たな社債管理制度を設けることを提案するものです。   現行法上,無担保社債を発行する場合には,原則として社債管理者を定めなければならないものとされておりますが,実際には,我が国において公募により発行されている多くの社債については,例外規定に基づき,社債管理者が定められていないと言われております。もっとも,近年,このような社債についても,第三者に最低限の社債の管理を委託することができるようにすべきという指摘があるところです。   このような状況を踏まえて,社債管理者よりも限定された権限及び機能を有する社債権者補佐人という名称の社債管理機関を契約に基づいて設置する取組も進められているところ,限界があるとも指摘されており,立法による措置を講ずる必要性が指摘されております。   2ページ目の2以下では,仮に新たな社債管理制度を設けるものとする場合における具体的な制度内容について御議論いただきたいと考えております。   2(1)では,大きく二つの提案をしております。   一つ目は,新たな社債管理機関の権限をアからウまでのとおり,社債権の完全な満足につながる権限とし,社債管理者とは異なり,支払の猶予や和解といった社債権の処分につながる権限は有しないものとすることです。   最低限の社債の管理を委託することができるようにするという観点からは,社債権の処分につながる権限の行使を含んだ社債の管理についてまでを新たな社債管理機関に委託することができるようにする必要性というものは高くないと思われます。そこで,社債権の処分につながる権限は有しないものとし,そのような権限を含む社債の管理を委託しようとする場合には社債管理者を定めなければならないとすることによって,社債管理者と新たな社債管理機関との制度の違いを整理しております。   二つ目は,裁量の余地の乏しいア及びイの権限は,新たな社債管理機関が常に有する権限とするものの,裁量性のあるウの権限は,契約の定める範囲内において有する権限とすることです。仮に,新たな社債管理機関の権限の内容を完全に契約自由の原則に委ねる場合には,新たな社債管理機関の役割が社債ごとに大きく変わり得ることになってしまい,社債権者にとって分かりづらくなるということも懸念されるところです。そのため,裁量の余地が乏しく,必要最低限の社債の管理として実務的に主として念頭に置かれておりますア及びイの権限は,常に有するものとすることが相当ではないかと考えております。   5ページ目,2(2)は,新たな社債管理機関は社債権者集会を招集することができるものとすることを提案するものです。   続きまして,6ページ目の2(3)ですけれども,この(3)の本文は,社債管理者の規律を参考に,募集社債に関する事項としてアからウまでの事項を定めなければならないものとすることを提案するものです。また,(注)は,社債管理者の規律をこちらも参考に,新たな社債管理機関の名称,住所,委託に係る契約の内容を社債原簿記載事項とすることを提案するものです。   なお,社債が転々流通することを考慮しますと,社債を取得しようとする者が新たな社債管理機関の権限の内容等について知ることができるようにする必要があると考えられるところ,社債券が発行されている場合には社債券により,社債券が発行されていない場合には社債原簿記載事項を記載した書面等により,振替社債の場合には銘柄公示情報により,これらを確認することができるようにすることを前提としております。   銘柄公示情報については,後ほど,潮田参考人,高島参考人にプレゼンテーションしていただくことを予定しております。   7ページ目,「3 新たな社債管理機関の義務」は,社債管理者と同様に,新たな社債管理機関は公平誠実義務及び善管注意義務を負うものとすることを提案するものです。委託契約が,社債発行会社及び新たな社債管理機関となろうとする第三者が社債権者のために契約をするといった契約構造になっていることなどを踏まえますと,社債管理者と同様の義務を負うものとすることが相当ではないかと考えております。   このように,新たな社債管理機関が公平誠実義務及び善管注意義務を負うものとする場合には,社債管理者と同様に,新たな社債管理機関の設置に要するコストが高くなったり,新たな社債管理機関となる者を確保することが難しくなるなどしてしまうといった懸念もあり得ると考えられますけれども,新たな社債管理機関は社債管理者とは異なり,社債権の処分に関する権限を有していない上に,委託契約の定めにより権限の内容を限定し,裁量の範囲を限定することによって,公平誠実義務違反又は善管注意義務違反が問われ得る場面を限定することができるものと整理しております。   7ページ目,一番下の行,「4 新たな社債管理機関の損害賠償責任」の(1)は,新たな社債管理機関が会社法第710条第1項の規定による損害賠償責任と同様の責任を負うものとすることを提案するものです。   続いて,(2)は,新たな社債管理機関が,2ページ目,本文2(1)ウに掲げる行為をする権限を有する場合に限って,会社法710条第2項の規定による損害賠償責任と同様の責任を負うものとすることについて,どのように考えるかを問うものです。   新たな社債管理機関が,本文2(1)ア及びイの権限のみを有する場合には,その権限の内容からして,会社法第710条第2項の規定による損害賠償責任と同様の責任を負うものとすることまでは必要ないという考え方があり得るかと存じます。それを超えて,本文2(1)のウの権限を有する場合にも適用しなくてよいと考えることが可能かという点も含めて,是非皆様に御議論いただきたいと考えております。   続きまして,10ページ目,「5 社債管理事務の承継及び終了等」の(1)は,2以上の新たな社債管理機関があるときにおける権限の行使,義務及び責任について,どのように考えるかを問うものです。   社債管理者の場合には,2以上の社債管理者があるときには,これらの者が共同してその権限に属する行為をしなければならないといった規定や,社債管理者が弁済を受けたときは社債管理者は社債権者に対し連帯して当該弁済の額を支払う義務を負うものとするという規定があり,また,会社法第710条第1項の責任は連帯責任とされております。新たな社債管理機関についても,これらと同様の規律を設ける必要があるかどうかなどについて御議論いただきたいと考えております。   (2)は,新たな社債管理機関が選任された後において,社債管理者又は受託会社が定められたときは,委託契約が終了するものとすることを提案するものです。   (3)は,新たな社債管理機関の辞任,解任及び事務の承継に関して,社債管理者の辞任,解任及び事務の承継に関する規定と同様の規定を設けるものとすることについて,どのように考えるかを問うものです。   社債管理者の場合には,辞任に一定の制限が設けられており,また,社債管理者が不在となる場合の承継者に関する規律が設けられておりますが,新たな社債管理機関についても同様の規律を設ける必要があるかどうかなどについて御議論いただきたいと存じます。   この点については,社債管理者とは異なり,新たな社債管理機関は,その設置が義務付けられるものではないために,会社法第711条第1項のように,新たな社債管理機関が社債発行会社及び社債権者集会の同意を得て辞任する場合に,事務を承継する者を定めなければならないものとする必要はないという考え方や,同条第2項のように,委託契約に事務を承継する者に関する定めを置かなければ,委託契約に定めた事由により辞任することができないものとする必要はないというような考え方もあり得るかと存じます。   (4)は,社債権者と新たな社債管理機関の利益が相反する場合において,社債権者のために裁判上又は裁判外の行為をする必要があるときは,特別代理人の選任に関する会社法第707条と同様の規定を設けるものとすることを提案するものです。   (5)は,新たな社債管理機関の報酬については,社債管理者等の報酬に関する規定と同様の規定を設けるものとすることを提案するものです。   12ページ目,「6 新たな社債管理機関の資格要件」は,新たな社債管理機関の資格要件について,どのように考えるかを問うものです。   続きまして,「第2 社債権者集会」は,テーマが少し変わりまして,社債権者集会に関する規律の見直しに関するものです。   「1 社債権者集会の決議による社債の元利金の減免」は,会社法第706条第1項に掲げる行為として,当該社債の全部についてするその債務の免除を加えることにより,社債権者の決議によって,当該社債の全部についてするその債務の免除をすることができるものとすることについて,どのように考えるかを問うものです。   13ページ目,「2 社債権者集会の決議の省略」は,(1)のとおり,社債権者の全員の書面又は電磁的記録による同意の意思表示があった場合には,社債権者集会の決議があったものとみなすこと,そして,(2)のとおり,その場合には,通常の社債権者集会の決議とは異なり,裁判所の認可を受けなくとも決議の効力が生ずるものとすることを提案するものです。   (2)について補足いたしますと,現行法上,社債権者集会の決議は,支払の猶予や債権の一部放棄など,社債権者に譲歩を強いる内容であることが多いために,裁判所の強い後見的機能により社債権者を保護することが期待され,社債権者集会の決議は裁判所の認可によってその効力を生ずるものとされております。   (2)のように,社債権者の全員が社債権者集会の目的である事項に同意している場合には,あえて裁判所による認可を必要とし,後見的に社債権者を保護する必要まではないとも考えられます。   御説明は以上となります。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   それでは,続きまして,参考人として御出席いただいております皆様方から,順番にプレゼンテーションをお願いしたいと存じます。   まず,河田参考人と山田参考人からプレゼンテーションをお願いしたいと思います。どうぞよろしくお願い申し上げます。 ○河田参考人 それでは,お手元の参考資料16「新たな社債管理機関等について」を御覧ください。   まず,1ページ目のところですが,新たな社債管理機関の必要性を書いております。   先ほども話がございましたとおり,国内の社債,公募社債における75%が,社債管理者の不設置となっているという現状です。機関投資家向け,いわゆるホールセール債に限りますと,約8割が社債管理者不設置となっているのが現状というところでございます。   これは,日本の経済は比較的安定していまして,デフォルトが相次ぐなど,深刻なクレジットクランチに見舞われたことがほとんどなかったというところから,社債管理者の必要性が強く叫ばれたことが少なかったということは,理由として挙げられるのかなというふうに考えております。逆に言いますと,クレジットに不安のないような信用度の高い企業だけのマーケットになってしまっているというのも,一方の事実かと考えております。   かなり昔になりますが,発行体に制限がありました適債基準というのが平成8年に撤廃されたんですが,そこから20年たった今においても,いわゆる投資不適格,格付的にBB格以下の発行体がほとんどないということからしても,発行体の裾野の広がりが限定的となっているというようなことが,今の現状かなと考えております。   そういったことを考えますと,全ての会社に社債管理者を設置せよということは現実的ではないというのが,今の実態かと思われますので,社債管理者に代わる新たな社債管理機関を設置することによって,発行会社の裾野の拡大ということ,投資家にとっての投資対象の多様化ということにつながるのではなかろうかというふうに考えている次第です。   もちろん,新たな社債管理機関を設置すれば,直ちに低格付の発行が増えるという話ではないんですが,何もしなければ変わらないということもあろうかと思いますので,こういった機会に検討すべきではなかろうかというふうに考えております。   また,今は非常に環境がいいと言えるわけなんですが,また今後,昔のリーマンショックのような何らかの信用不安が起きたときのことも考えて,今のうちに制度改革というものを考えておく必要があろうかというふうに考えております。   2ページ目にいっていただきまして,新たな社債管理機関についての考え方ですが,先ほど御説明ありましたことと重なりますが,具体的な権限や範囲につきましては,なり手である銀行さん,主に銀行さんということで,後ほど全銀協さんの方からも御意見あろうかと思いますが,社債権者の権利の保全ということに重点を置きながら,権利ですとか義務の範囲ということを明確にすることが必要なのであろうというふうに考えております。   3ページにいっていただきますと,新たな社債管理機関の実際の運用というところでございますが,権限ですとか範囲といったことが多様化する,様々なものが出る可能性があるというところでございますので,実際に,この社債に関してはどのような権限がある,どこまでの範囲であるということが,発行時又はセカンダリーにおいて,投資家若しくは社債権者に周知される仕組みを作ることが必要であるというふうに考えております。   具体的な方法ということにつきましては,飽くまで実務の話ですので,発行会社及び引受証券会社などが議論の上で決めることになると思いますけれども,投資家,社債権者がしっかりとその内容が理解できるような仕組みを作ることが必要なんだろうというふうに思っております。   以下,4ページ以下のところは参考資料でございますが,4ページのところは御覧のとおりでございまして,アメリカと比較して,経済規模の違いということを考慮しましても,社債発行市場というところが,日本はまだまだ小さいと言えるところだと思います。   5ページ目のところでも,特に低格付,いわゆる投資不適格と言われるBB格以下の発行は,こちらのグラフの前まで遡っても,ほとんど発行がない,ほとんどといいますか,記録を見る限りは発行がないというのが現状だというところでございます。   もちろん,新たな社債管理機関というものを設ければ,直ちに増えるという話ではないと思いますけれども,そもそも投資家がいるのかという議論はあるんですが,これは鶏と卵の話であろうかと思いますので,まずはこういったものを考えていく必要があるのかなというふうに思っている次第です。   6ページ,7ページを飛ばしていただきまして,8ページのところですが,過去においてというところでございますが,2009年,今から8年も前というふうになりますが,リーマンショックが2008年に起き,その後もしばらく社債市場が混乱をしていたというときには,やはり債券への投資に当たって,社債管理者を設置してほしいということが投資家から求められたということが実際にありました。そういったものがなければ投資しにくいというような環境であれば,社債管理者設置という具体的な動きにもなってくるんですが,そういうようなことが,非常に特殊な環境だったということが言えるかもしれませんけれども,今後そういった環境が絶対に起きないとは言い切れないという中では,こういう平時において検討しておくことが有意義なんだろうというふうに思われます。   また,環境がいいときであれば,従来であれば,環境が悪いときのBBBというものが環境のいいときのBBというふうに,発行体の裾野が広がるようにつながっていけばいいなというふうに考えている次第でございます。   最後に,9ページでございますけれども,そういった新たな社債管理機関というものを設置した場合,その権限,その範囲といったものを,どのように投資家,社債権者に知らしめるかというところの考え方ですが,こちらについては,現行法,現在の金商法の中で十分に検討できる話だと思いますので,飽くまで実務という観点の中で,こちらに書いてありますように,例えば訂正発行登録書の中で,そういったものを知らしめるなどの方法も考えられますので,具体的なところは今後の検討に任されるのかなというふうに考えている次第でございます。   野村證券,河田の方からは以上でございます。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   それでは,続きまして,小池参考人と田中参考人からプレゼンテーションをお願いしたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。 ○小池参考人 ただいま御紹介にあずかりました,三菱東京UFJ銀行フィナンシャルソリューション部の小池でございます。   私ども三菱東京UFJ銀行は,全銀協において本年度,会長行を務めさせていただいております。今回は,全銀協会長行の立場から,今回の提案について,関係銀行の意見を聴取しましたので,そうした意見を踏まえて発言させていただきます。   それでは,お手元に配布させていただいております参考資料17に沿って,ポイントを申し述べます。   まず,2ページを御覧ください。   こちらの方は,新たな社債管理機関制度に対する銀行界の意見の総論でございます。   まず,今回の新たな制度提案につきましては,今度の社債市場の投資家の裾野や発行企業の拡大を目指す上で効果のある見直しではないかということが,銀行界の一般的な見方です。総論で賛同したいと考えております。   一方,下段にございますとおり,制度設計に関しては,業務・権限に幅がある中で,幅広い社債管理機関を確保して,円滑な管理業務を行っていく上では,新たな管理機関が社債権者に対して負う義務や責任は限定されたもの,明確なものでないといけないのではないかというふうに考えております。   3ページにお進みください。   こちらの方で,表は,新たな社債管理機関と現行社債管理者の権限と責任の幅をまとめたものです。新たな管理機関の権限は,非裁量的な業務の遂行にとどまる裁量の余地が乏しいものから裁量の範囲が限定されないものまで,個別案件ごとに幅が出てくると認識しておりますが,実際に業務権限を円滑に遂行していく上では,権限の範囲に応じて,誠実義務の範囲などが,ある程度明確にされることが必要と感じております。そうした中,裁量の余地が乏しい業務,すなわち非裁量的業務では,誠実義務も限定されることがポイントであるというふうに考えております。   次ページ,4ページを御覧ください。   ここでは,想定される非裁量的業務の内容をお示ししております。そもそも今回の提案における新たな管理機関の法定権限として,部会資料2ページで先ほど御説明がありましたが,アの債権の弁済を受ける権限と債権の届出をする権限を常に有しているとしておりますが,これらは裁量の余地が非常に乏しいものという認識でございます。一方で,ウで,債権の弁済を受け,債権の実現を保全するために必要な一切の裁判上又は裁判外の行為については,裁量の余地が限定されていると考えられるAからDの非裁量的行為案をここにお示ししております。   ちなみに,これらは以前,社債懇ワーキンググループで議論された社債権者補佐人として行う非裁量的業務に沿ったものです。   5ページにお進みください。   ここでは,4ページ,先ほど申し上げました非裁量的業務における誠実義務について,皆様にお諮りしたい考え方をお示ししております。非裁量的業務では,誠実義務は基本的には負わないとの点が明確であれば,新たな管理機関は,担い手の多様性,円滑な業務運営の観点で,有効なものになるのではないかというふうに考えております。   表のとおり,ケース1では,新たな管理機関の権限が弁済受領権限と債権届出権限にとどまる場合です。また,ケース2では,こうした権限に本資料4ページで申し上げました非裁量的と思われる業務のみが加わる場合,それぞれ①から⑤の行為について,誠実義務違反に当たらないと考えておりますが,このような論点を新たな管理機関への就任に際し,また就任後の実務を円滑に行う上で,あらかじめ明確化されておくことが必要ではないかと考えており,本日を含む制度検討の中で認識されることを強く希望しております。   次に,社債権者集会の見直しについてでございます。6ページにお進みください。   今回提案されています社債権者集会の見直しについてですが,既にABS,アセット・バックド・セキュリタイゼーション等で,全社債権者の同意による社債要項の変更等の手続,実務が行われていることを踏まえれば,提案内容に異論はなく,賛同したいと考えております。   最後に,7ページの社債市場の更なる拡大に向けてでございます。   河田参考人の御説明にもございましたが,現状認識,環境認識としましては,欧米の中低格付社債市場と比べると,本邦の社債市場には,発行体,投資家の裾野拡大の可能性があるのではないかというような認識を有しております。今回の制度検討において問題提起されている現在の社債管理者に係る様々な御指摘については,これまでは特に問題があるとの認識はしておりませんが,今後の発行体,投資家の更なる裾野拡大など,金融環境の変化を見越し,制度をあらかじめ改善しておく余地は十分にあるのではないかと考えております。   銀行界としましては,先ほど述べました論点を明確にし,実現される今回の制度設計を積極的に支援することで,発行体,投資家の裾野拡大に貢献していきたいと考えております。   駆け足で恐縮でございますが,本日申し上げた意見具申は以上でございます。発行体,投資家はもとより,管理者にとっても有効な制度検討をお願いいたします。   御清聴ありがとうございました。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   それでは,続きまして,潮田参考人と高島参考人からプレゼンテーションをお願いしたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。 ○潮田参考人 ただ今御紹介いただきました,証券保管振替機構の潮田と申します。   本日は,弊社の制度を御紹介させていただく貴重な機会を頂戴しまして,誠にありがとうございます。  それでは,御説明させていただきます。   お手元の資料,参考資料18番「振替社債に関する内容の公示(銘柄公示情報)について」を御覧ください。   1ページの目次でございますが,まず初めに,一般債振替制度の概要を御紹介させていただいた後に,今回の部会資料にも記載いただきましたが,弊社がホームページで公表しております銘柄公示情報というものにつきまして,皆様方にはなじみのないものと存じますので,その概要について御紹介させていただきます。   なお,証券保管振替機構そのものの御説明につきましては,本部会第2回会議で別の者がさせていただいておりますので,今回は割愛させていただきます。   それでは,2ページを御覧ください。   まず,一般債振替制度の概要でございます。  証券保管振替機構,ここでは保振機構とさせていただきますが,その保振機構は,上場株式や投資信託など,様々な商品の振替制度を運営しておりますが,その中で社債等を取り扱っているのが,一般債振替制度でございます。   この一般債振替制度は,社債,株式等の振替に関する法律,いわゆる振替法に基づきまして,社債等の加入者であります社債権者の権利を,振替機関であります保振機構,そして,口座管理機関と呼ばれる証券会社や銀行等が備えております振替口座簿において,電子的に管理している制度でございます。   左下の構成図を御覧ください。  一般債振替制度は,上の方から,振替社債を発行する発行者,その代理人である発行/支払代理人,振替機関である保振機構,口座管理機関,そして,社債権者である加入者によって構成されております。  実務的には,発行者が選任する発行/支払代理人が,保振機構と,例えば社債の新規発行や元利払いといった事務手続に係る電子的な情報の送受信を行います。   また,加入者は,保振機構に直接又は間接的に口座を所有している口座管理機関に口座を開設することにより,振替社債を保有する,という形になっております。   続きまして,右側の(3)で,御参考までに,その規模ということで,本年6月末時点の数値等を記載しております。  この制度で取り扱っている銘柄は,社債,特別法人債,地方債,投資法人債,外債等と多岐にわたっておりますけれども,銘柄数が全体で5万9000銘柄,残高が約258兆円,直接口座管理機関が71社,間接口座管理機関が442社,発行/支払代理人が195社となっております。   続きまして,3ページを御覧ください。  こちらで,銘柄公示情報について御紹介させていただきます。   会社法におきましては,社債券が発行される場合,社債券に一定の事項を記載することが求められておりますが,振替社債の場合には社債券がございませんので,振替機関は,会社法と同様に必要な事項を投資家に周知するということが,いわゆる振替法において求められております。  この振替法の規定に基づきまして,保振機構はホームページにおきまして,振替社債の銘柄の内容を銘柄公示情報として公表しております。   右側に,保振機構のホームページの画面をコピーしたものを張り付けておりますので,小さくて恐縮でございますが,併せて御覧いただければと存じます。   銘柄公示情報として公表している項目は,非常に多岐にわたっておりますけれども,主なものといたしましては,銘柄とその略称,ISINコードと呼ばれる国際的に統一された12桁のコード番号,そのほか,発行総額や社債管理者の名称,利払いや償還に関する情報などがございます。   ちなみに,仮の話になりますけれども,今後,本日の部会資料にありますように,銘柄公示情報を活用するということになるのであれば,新たな社債管理機関に関する情報を追加して記載していくことになるのではないかと存じます。   最後,4ページ目におきましては,御参考までに銘柄公示情報に関する法令を記載しておりますので,お時間のあるときにお目通しいただければと存じます。   御説明は以上でございます。御清聴ありがとうございました。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   それでは,これから御審議をお願いしたいと思いますけれども,いつものように,幾つかの部分に分けて,御審議をお願いしたいと思います。   部会資料5で申しますと,まず第1の「1 新たな社債管理制度を設けることの要否」から「4 新たな社債管理機関の損害賠償責任」までについて,皆様方から御質問,御意見をお出しいただきたいと思います。   なお,参考人の方々からのお話についての御質問とか御意見等も,併せて御発言いただければと思います。   それでは,どなたからでも,どの点についてでも結構でございます。いかがでしょうか。   それでは,古本委員,どうぞ。 ○古本委員 ありがとうございます。   第1の新たな社債管理制度についてですけれども,社債管理者よりも限定された権限を有する新たな社債管理機関による社債管理を可能とするという提案に賛成です。多様な資金調達手段の確保,社債権者保護の強化,いずれの観点からも適当であると考えております。   現状,社債管理者を設置しない社債が大半となっている理由が,御説明もあったと思いますけれども,社債管理者の義務,責任が厳格であるということにあると言われておりますので,新たな社債管理制度が十分活用されるためには,新たな社債管理機関が負うこととなる義務,損害賠償責任,これが適切に設計される必要があると思っております。   したがいまして,制度の詳細設計におきましては,新たな社債管理機関の担い手として期待される業界の意見も踏まえて,是非検討を進めていただきたいと考えております。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   藤田委員,どうぞ。 ○藤田委員 いろいろ意見もあるのですが,まず参考人に対する質問だけ切り出して,させていただければと思います。   河田参考人から先ほどお伺いした報告ですが,参考資料16の3ページの新たな社債管理機関の運用というスライドの一番下に,「デフォルト後は現行の社債管理者よりも限定された権限を行使する」とした上で,「その際,当該機関が単独で行う行為は債権届出等の定型的なものとし,裁量の範囲が広い行為は社債権者集会での決議を得て,その意思に基づき行う」と書かれております。   ここで,デフォルト後,社債権者集会の決議を得て行う行為として,どういうものを想定されているのでしょうか。例えば,会社更生手続において,更生計画への賛否について議決権を行使するといったこと,つまり会社法706条1項各号に基づく行為を社債権者集会決議に基づいて行うようなことを想定されているのかということです。   なぜ伺うかといいますと,部会資料5は,こういった行為をすることはおよそ必要がない,したがって,こういう行為をする権限を与える必要がないという前提で,書かれているからです。理論的には,別に権限を与えることに問題があるわけではありません。飽くまで社債権者の意思を踏まえて執行する行為の一種ですので,与えることに論理的な問題があるわけではないのですが,そういうことをするニーズがないということで除かれているわけですが,もしここで書かれているようにデフォルト後に社債権者集会の決議に従って706条1項1号,2号のような行為をすることが,新たな管理機関に期待されるというのであれば,部会資料の考え方を見直す必要があるということになります。   したがって,資料で書かれている御趣旨がどういうことなのかというのを確認させていただきたいという質問です。 ○神田部会長 ありがとうございました。   河田参考人と山田参考人,いかがでしょうか。 ○河田参考人 ここでは必ずしも,これをマストということよりは,飽くまで権限の範囲は限定すべきであろうということを申し上げているだけですので,特にこういうことを,ねばならないという意味で書いてあるわけではないという意味でございます。 ○藤田委員 社債権者集会の決議を経て行う行為をマストであるということを言う人は,誰一人いないと思います。そうではなくて,社債契約で書いても,こういうことをする権限は一切入れることはできないというふうにすべきか否かが問題点なのです。   新しい管理機関がこういうことをする可能性がおよそない,新しい管理機関になる人はこんなことを求めることはないというのであれば,権限から外すのも良いと思いますが,こういう行為をすることを求める可能性が少しでもあるとすれば,――レジュメの書き方だとそういうふうには読めるのですけれども――,そうであれば,部会資料の新たな管理機関の権限のところの書き方を変えて,社債権者集会の決議に基づき,706条1項1号,2号の行為をする権限を契約で与えることができるというふうにすることになると思います。ですから,マストか否かではなくて,およそ706条1項1号,2号の行為をする権限は全く要らないという趣旨なのか,それともそうではないのかという,そういう質問です。 ○神田部会長 いかがでしょうか。今日でなくても,また後日お答えいただくということでも結構ですけれども。 ○河田参考人 すみません,一度検討させていただきます。失礼しました。 ○神田部会長 必ずしも,恐らく706条のように限定する趣旨ではなくて,一般論として外の世界で2段階あり得るという趣旨だとは思いますけれどもね。   それでは,すみません,前田委員,どうぞ。 ○前田委員 この新たな社債管理機関の権限の範囲は,義務,責任と資格要件をどうするかに関わってくると思うのですけれども,もし社債管理者並みの義務,責任と資格要件を要求するのであれば,そして,私は基本的にそうすべきではないかと考えるのですけれども,約定権限をここまで狭くする必要はないのではないでしょうか。つまり,社債権の処分に関する権限であっても,委託契約で範囲を定めて,付与できることにしていいのではないかというように思います。   権限の最低限の方を定めるのはいいと思うのです。部会資料のアとイの権限すらないようなものなら,置く意味がありませんので,最低限の方はいいのですけれども,権限の最大限の方は,社債管理者の権限の範囲内で自由に定めることにしていいのではないでしょうか。   そこで,義務,責任,さらには,資格要件をどうするかが問題になってきます。先ほど来お話がありますように,新たな社債管理機関の責任面での負担を小さくすべきだというニーズはよく分かるのですけれども,責任の負担を小さくすべきだというのは,何も義務の水準を下げるとか,あるいは責任を軽くするというのではなくて,権限の範囲を狭くする,あるいは権限を裁量の小さなものにすることで,結果として,責任の生じる場面が限定されるという形で実現すべきものではないかというように思います。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   それでは,ほかに御質問,御意見,どなたでも結構です。   神作委員,どうぞ。 ○神作委員 ありがとうございます。   新たな社債管理機関について,規律を設けるという方向に私も賛成いたします。実際に社債管理者が設置されない社債の方が数多く出ている一方,社債権者の一定の保護と,それから,これは後ほど申し上げたいと思うのですけれども,今回の改正は,主として社債管理者を設置する必要がない社債を対象にしているため,単に社債権者の保護という後見的な観点から見直されるべきものではなく,むしろ社債権者集会がきちんと開かれるようにして,社債権者集会で社債権者による合理的な意思決定が行われるようにする,そのようなことを実現し促すような観点が重要であると考えます。したがって,社債管理の問題は後半の社債権者集会の権限とも密接に関係してきますけれども,そのような観点から考えていくべきであると思っております。   そのような観点からしても,新たな社債管理機関が発行会社と社債権者の間を取り結んで,社債権者がより合理的な意思決定が行えるような迅速な情報の伝達を考えるという制度設計を基本思想として考えていってはいかがかと考えています。そのような観点から,社債権者の権利実現を確保し,合理的な意思決定を可能にするという観点から必要な権限にデフォルトとしては限定した社債管理機関を想定することが,基本的な方向として望ましい立法の方向であると思います。   権限について,少し具体的に申し上げたいと思いますけれども,資料2ページの2(1)イと,それから,ちょっと飛びますけれども,5ページの(2)の社債権者集会の招集の権限,以上の2つの権限は,新たな社債管理機関の権限として,是非法定していただきたいと思います。2(1)イの権限は,社債発行会社がデフォルトを起こした場合に,全社債権について,いわゆる総額届出を可能にする権限であると思いますけれども,現行法の下では,社債権の総額について,破産債権として第三者が届出をすることが必ずしも常に可能であるというわけではありません。   もちろん,一定の要件を満たせば,できることはできると思いますけれども,迅速かつ的確に対応するためには,是非2(1)イの権限については,法定していただけると有り難いと思います。また,5ページの(2)で,社債権者集会を招集するようなときにも,新たな社債管理機関がそれに係る手続を行うことが,これも現行法の下では,弁護士資格を持っている場合には可能であると理解しておりますけれども,それ以外の場合には,やはり制約があると思いますので,この辺りは是非立法によって解決していただきたいと思います。   他方,権限が余り広がってしまうと,現在の社債管理者との違いがだんだん相対化して曖昧になってまいりますし,先ほど私が述べたような基本的な考え方からすれば,新たな社債管理機関には,裁量的な権限は必要とされていないのではないかと考えます。そのような観点からすると,例えば2(1)ウのような権限は,定め方によっては,裁量権を持つような権限になる場合があり得ると思います。   そこで,もし可能であれば,2(1)ウの約定権限について,類型化したり,あるいは,場合によっては限定するというようなことができ,かつ,そのことが,義務と責任の範囲の限定につながれば,社債権の行使の機会を確保し,発行会社と社債権者の間の情報の媒介の機能を果たすという新たな社債管理機関の制度設計に合致した制度になり得るのではないかと思います。   次に,義務についてでございますけれども,もし,今申し上げたような権限しかないと,例えば,権限として,2の(1)のイと,5ページの(2)の社債権者集会の招集が,社債権者集会を招集する権限のある一定の招集社債権者からの要請に基づいてのみなされるという場合には,新たな社債管理機関の裁量の余地はなくなるわけですけれども,そのように想定した場合には,善管注意義務はもちろんあると思いますけれども,誠実義務というのは課す必要がないのではないかと思われます。   確かに,本日提出された資料では,2ページの(1)ウの約定権限,あるいは,権利を実現するために必要な一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限といった非常に広い権限が想定されている以上は,7ページの3のような義務を課す必要がある,あるいは,4ページにありますような責任を課す必要があるということになると思いますけれども,もう少し権限の範囲を限定し裁量の余地がないような管理機関にすることができるのであれば,3ページの義務のうち,少なくとも誠実義務については,必ずしも課す必要はないのではないかと思うところでございます。権限の範囲と義務の範囲は,連動すると思いますので,併せて今後議論をしていただきたいと思います。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   それでは,稲垣委員,どうぞ。 ○稲垣委員 すみません,ありがとうございます。   基本的な方向性として,社債管理機関を設けるということについては,私自身も賛成ということで,その前提で,ちょっと質問をさせていただきたいと思いまして,手を挙げさせていただきました。   河田参考人への質問です。ここで頂いた資料の中で,米国と日本の社債の発行市場の規模を比較されて,日本の社債の発行額は米国の約17分の1とか,GDPの比率でも日本は非常に低いということで,大変興味深く拝見させていただきました。この中で,なかなか答えにくくて,難しい質問だと思うんですけれども,こういう社債管理機関みたいな制度がないということによって,このように日本の社債の発行市場が小さくなっているのか,それとも,基本的なところはもっとほかのところにあって,これは,いろいろな制度は作ってもらうにして,それは制度は整備した方がいいと思うんですけれども,かといって,それだけによって,社債の発行市場が大きく変わるというものでもないというふうに見られているのか,その辺の,ちょっと定性的な御意見だと思いますけれども,御意見を頂ければと思いまして,質問いたしました。 ○河田参考人 こちらにつきましては,新たな社債管理機関が設置されたからといって,飛躍的に社債の発行が増えるというものではないんだろうというふうに思います。   実際,日本の成り立ちといいますか,やはり銀行を中心とする間接金融が中心であるというところでありますので,そういったことが急激に変わるという話ではないんだろうとは思います。   ただ,やはり,社債発行市場に出てくることができないような低格付の会社さんが幾らかでも出てこられるようになってくれば,徐々に裾野が広がってくる可能性はあるだろうという意味で,やはり今までよりは,少なくとも対象範囲が広がってくるのではなかろうかということと,あと,今なら発行できるような企業であっても,今後発行しづらくなる環境もあるであろうと思います。そういった環境が厳しくなったときに,そのときに制度設計を考えても,実際には間に合わないだろうということもありますので,縮小しないようにするためにも,こういった制度が必要なのではなかろうかというふうに考えた次第でございます。 ○神田部会長 ありがとうございます。   稲垣委員,どうぞ。 ○稲垣委員 ありがとうございます。   そうしますと,今まで発行市場に出てきていない低格付の会社も,ある程度念頭に置く必要があると思いますし,それから,クレジットそのものが厳しくなったときに発行されるような,そういうときの状況を少し想定しながら,制度設計も考えていかないといけないという理解でよろしいでしょうか。 ○河田参考人 おっしゃるとおりです。 ○神田部会長 よろしゅうございますでしょうか。   ほかに,それでは,いかがでしょうか。   松井幹事,どうぞ。 ○松井(智)幹事 2ページ目から3ページ目の辺りで,どの業務を誰がどんなふうにするのかというイメージを少し,ちょっと作りたいと思いまして,幾つか事務当局に質問をお願いしたいと思います。   まず,2ページ目で,財務代理人と新たな社債管理機関が併存する可能性というのが書いてある一方で,3ページ目のところで,社債の弁済を受ける権限というのは必ず新たな社債管理機関にあるというふうにしているということとの関係で,想定されるのが,社債権者の代理機関として,弁護士などを管理機関にした上で,弁済受領権限を実際に実行する上では会社の代理人が行うみたいな,そういうことを考えるのか。そうだとすると,義務とかいったものの内容はどうなるのかというのが一つ目で,二つ目が,アの業務やイの業務を金融機関が実行している場合,ウの業務について,資格要件のようなものが出てくるかと思うんですけれども,法務が必ずしも強くないような金融機関がもしこれを受けてしまった場合,ウを弁護士に再委任するといったような契約を,この法律の構造上,認めていくかどうかという確認をお願いしたいと思います。 ○神田部会長 ありがとうございました。 ○竹林幹事 今の御質問でございますけれども,資格要件のところと関係しまして,どのように御議論いただくのがいいのかというのは,なかなか難しいところはあるかと思うのですが,現時点におきましては,私どもとしましては,社債管理者と同様の資格要件であるという前提で考えておりまして,もしこういう担い手があるという意見や,あるいは,新たな管理機関の担い手となりたいというような者が出てきたときには,資格を拡大することも検討したいと考えております。   FAとの関係でございますが,これは理屈の上では,併存することがあり得るというふうに考えてはおります。それぞれの位置付けについては,FAは社債発行会社の代理人,新たな社債管理機関は社債権者の法定代理人でございまして,弁済をする方と弁済を受領する方という区分で,私どもといたしましては考えているところでございます。新たな社債管理機関について金融機関が担うというようなことになっておりますと,余り併存というのは起きにくいのかなとは考えております。   再委任の関係でございますけれども,こういった制度を作ったときに,再委任が認められるかというのは,疑問も持っているところでございます。   ただ,また資格要件のところに戻って恐縮ですが,例えば,資格要件について弁護士等にも拡大するときには,どういう形で権限を行使していくのか,分掌のようなことがあり得るのかなど,共同しての権限の行使の在り方等について検討することが必要であると考えております。 ○神田部会長 ありがとうございます。   よろしいでしょうか。   それでは,藤田委員,どうぞ。 ○藤田委員 先ほどは純粋に,参考人に対する質問だけだったのですが,今回は意見を若干述べさせていただければと思います。   まず基本的にこういう新しい社債管理制度を作ること自体は,私もいいことだと思うのですが,規定の性格の理解の仕方について,まず一言申し上げたいと思います。   新しい制度として構想されている新しい社債管理機関は,置くか置かないかは自由です。なぜなら,対象となっているような社債については,社債権者は基本的には社債の管理ができるような能力やインセンティブがあるという建前だから,新しい社債管理機関を置くか置かないかは自由で,ただ置いた場合,最低限の権限,義務,責任については強行法的な規律を置くというものです。   問題はこういう制度が,どう論理的に説明できるのかということです。一つの徹底した考え方は,自衛能力ある投資家の話で,プラスアルファの保護を任意に導入するものだから,全部自由でいいのではないかという考え方です。社債権者全体に影響を及ぼすような権限は,法律上の規定がないと与えることが難しいから,それを可能にするための規定は必要だけれども,あとは権限も義務も責任も契約で自由に決めていいという考え方はあり得ると思いますし,むしろ理論的にはそれが一貫しているかもしれないような気もするのですね。   ただ,今回,事務当局がそうされなかった理由は,既に若干説明もあったかと思いますが,法定の機関を置く以上は,何らかの期待を社債権者は持つだろうから,法定機関を置いたのに義務も責任も空疎なこともあるというのだと,期待を裏切ることになるかもしれない。だから,最低限の権限と義務,責任を強行法として置く,最低限これだけは責任を持ってやってくれるという部分を作るということだと思います。ただ,他方,任意に設計することを妨げないように,過剰な介入を避け,デフォルトとしての権限は最低限のものにして,責任でそれに裏打ちを与えるという趣旨だと思います。   この発想そのものは,一応筋としては理解できないわけではないと思いますので,それでもいいかと思うのですが,他方,先ほど前田委員からもお話がありましたし,先ほど私がさせていただいた質問とも関係するのですが,任意に権限を広げることについて,禁止する必要があるかと言われると,余りないような気もします。つまり社債権者集会の決議を経てやる行為も含めて,権限に含められてもいいような気はします。実務的なニーズがおよそないというのであれば,こだわりませんけれども,どうも河田参考人からのプレゼンテーションを伺っていると,必ずしもそこまで言えるわけではないような印象を持っています。   その後,権限の範囲と義務,責任がどう関係してくるかという辺りが,実は制度設計の作りとしては,一番難しい論点だと思います。どこからお話ししていいか,よく分からないのですけれども,まず,神作委員,前田委員,事務当局及び小池参考人全ての方が,結論的には,そう違ったことを考えておられるわけではないと思います。それは,例えば,2の(1)ア,イのようなごく限られた権限だけしか与えられていない管理機関を置いた場合に,その機関が仮に金融機関だとして,危なくなった発行会社から自己の債権の担保を取るようなことをしたとしても,直ちに責任があるとは言えないということです。また,そういうミニマムな権限しか持っていないのに,一たび管理機関に就任してしまうと,債権の取立てや担保の取得などができなくなるようでは,とても引き受けられないというのは,私もそのとおりだと思いますし,この点の認識は,多くの方は共有されているのではないかと思います。問題は,それを実現するために,法制度として,どういう手当てをする必要があるかということに尽きると思います。   神作委員は明確な規制をすべきだということで,アとイの権限しかなければ誠実義務を課さないというような方向で,条文としてもそれを明示するということなのではないかと思います。これに対して,前田委員は,誠実義務,善管注意義務,両方とも当然に課せられるとした上で,ただし,恐らく今言ったようなことについて責任は発生しない,解釈としてそう言えるという前提で考えられておられるのではないかと思います。今回の部会資料に書かれた事務当局の考え方もそうです。   細かな議論は避けますけれども,私も後者の立場と同じでして,アとイのような権限しかないという場合には,担保の取得といったものが誠実義務違反になることはないと思うのですが,そういうために,新しい管理機関はおよそ誠実義務を負っていないとする必要はないし,また,それは適切ではないというふうに思っています。理屈っぽいかもしれませんが,例えば現在,社債管理者の規定は,704条1項,2項で,公平かつ誠実に社債の管理を行わなければならない,善良な管理者の注意をもって社債の管理を行わなければならないとしています。日本法は,社債の管理という自分の職務の遂行に当たっての行為規範として,善管注意義務,誠実義務を観念しているのだと思います。したがって,職務と無関係な行為によって,社債権者の不利益において利益を得たということがあったとしても,それが直ちに誠実義務違反になるというふうな建て付けにはなっていないのではないかと思います。   小池参考人のプレゼンテーションの中で,裁量がなければということを強く言われましたが,正確には,裁量の有無というよりは,裁量権を持って社債権者と利益の対立する行為を行う権限がある場合ということだと思います。利益の対立するような行為について裁量権を持って行える立場にあることが誠実義務違反を広く問われる前提なのではないかというふうに思っております。アとイのような権限だけだと,そういうことは原則としてはない。   ただ,それだったら,誠実義務を課していないのと同じではないかと言われるかもしれませんが,極端な場合には,アとイの権限しかなくても,やはり誠実義務違反は,あると思います。例えば,倒産手続における自分の配当を増やすために,あえて社債権について債権届出しないということをすれば,これは間違いなく誠実義務違反です。これは同時に善管注意義務違反でもあるので,誠実義務を課す実益はないと言われるかもしれませんが,このような行為を誠実義務違反と考える必要もない,誠実義務を課す必要はないという主張には,かなり違和感があります。そもそも善管注意義務は負っているけれども誠実義務は負っていない受任者というのを観念することにも,どことなく違和感があるような気がします。   そういう意味で,現在の感触としては,アとイの権限しかない場合も含めて,善管注意義務,誠実義務の両方を負う。ただし,アとイの権限しかなければ,現実に誠実義務違反の責任を問われる局面は相当限られるであろうという事務当局の整理を,基本的には支持したいと思っています。   最後に,今まで議論にはなかったのですが,710条2項の推定がかぶるのが,どういう範囲かということについて,現在のこの資料は,2(1)ウの権限を与えれば推定が及ぶとしているのですが,これはちょっと広過ぎるのではないかという気がします。ウの権限は,いろいろなものが含まれ得るのですね。逆に言うと,アとイが非常に狭いということなんです。先ほど申し上げましたように,社債権者の利益に反するような行為は,ある程度,裁量権を持って行えるような権限を持っていれば,710条2項の推定というのは掛かってもおかしくないのですが,例えば,ウの権限の中で,日本証券業協会の創設した社債権者補佐人のような権限,つまり発行会社に関する情報を社債権者に伝達する,これも自分で情報を集めるという権限はなくて,社債権者が言ってくれば,それをみんなに伝えますという,これだけの権限を与えるということも十分あり得るわけですが,それはウの権限に恐らくなると思います。そういった権限を有していても,恐らく710条2項の推定にはなじまないと思います。   ですから,ウの権限の中を更に絞るというのは,技術的には難しいのかもしれないんですけれども,現段階で,アとイだけで残りの権限を与えれば,何でも710条2項を適用するというのではなくて,もう少し工夫の余地があるのではないかというふうに思っております。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。   加藤幹事,どうぞ。 ○加藤幹事 1点,新しい社債管理機関と既存の社債管理者の区別の仕方について,意見を述べさせていただきます。   部会資料の1ページでは,新しい社債管理機関は限定された範囲内で社債の管理を委託される機関とあり,2ページでは,新しい社債管理機関に与えられる権限をアラカルト方式で列挙して,選択するとなっていますが,区別の仕方として,権限の違いで区別するのか,それとも,そもそも委託されている社債の管理の内容で区別するかによって,投資家側のイメージが,かなり変わるのではないかという気がしております。   本日,参考人から御紹介いただきました資料で,例えば,先ほど藤田委員がおっしゃった情報提供の話であったり,あとはコベナンツの管理などの話は,権限というよりは職務と位置付けた方が適切なようにも思われます。したがって,果たして権限という形で,既存の社債管理者と新しい社債管理機関を区別するのが適切なのかやや疑問があります。   権限という形で区別しますと,例えば,社債の管理を委託されているが,権限は限定されている機関という形になりますが,そのような機関は果たして,どういったことを投資家のために行う義務を負っているのかというのが不明確になるような気もいたします。ですから,どういった職務を委託されており,どういった権限を負うかということが,条文の構造上,明確になるような形で制度設計をすることが必要ではないかと思いました。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。   神作委員,それから,沖委員の順でお願いしたいと思います。   神作委員,どうぞ。 ○神作委員 先ほどの藤田先生の御発言に関連して,私も藤田先生の言われた解釈は,十分解釈論としてはあり得ると思うのです。けれども,現在の状況と,それから,これまでの沿革からすると,社債管理者の義務として課されている公平誠実義務というのは,基本的には担信法においての公平誠実義務の系譜に連なっているものと理解しております。担信法は明らかに,信託契約に基づいて社債の担保の管理を行うものですから,信託法理が適用されます。そうだとすると,公平誠実義務はどうしても,フィデューシャリー,契約責任よりも重い信認義務に整合的であり,その解釈も,信託法理に即して行われるという考え方が沿革からも出てくる可能性があるのではないかと思います。また,現在の社債管理者の誠実義務というのは,私の理解ですと,割かし広めと申しますか,社債管理者にとっては厳格に解されてきているのではないかと思います。   そうだといたしますと,解釈論として対応するということは十分あり得るかと思いますけれども,もし裁量がない場合には誠実義務は生じないという実質的な内容についてコンセンサスが得られるのであれば,立法によってそれを明らかにしておくということも考えられるのではないかと思います。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   それでは,沖委員,田中幹事の順で,沖委員,どうぞ。 ○沖委員 ありがとうございます。   部会資料を読んでおりまして,新しい社債管理機関の権限に含まれるかどうかについて,多少曖昧といいますか,分からない点がありましたので,その点を申し上げたいと思います。   4点ほどありまして,まず,委託契約に定めれば,社債に係る債権の実現を保全するために必要な一切の裁判上の権限は含まれるとされています。他方で,社債全部についてする訴訟行為等は除外されるとされています。後者は契約に定めても,できないということですので,そうしますと,訴訟行為について,どこまでの範囲が前者に含まれるか,例えば,時効中断を目的とするものとかに限られるのか,その辺りは多少曖昧なように感じました。   また,詐害行為取消権について,従来から社債管理機関の権限に含まれるかどうかが分かれていた,解釈が分かれていたように思いますが,これが含まれるのかどうかということです。   また,865条の取消しの訴えは,これは多分含まれないということになるかと思うんですけれども,社債権者集会の決議執行者になれば,これは行使できるのかどうかという,その辺りです。   また,最後に,破産等の倒産手続開始の申立て,これについても従来,社債管理者の権限として解釈が分かれていたようでありますが,これが行使できるのかどうかということです。   その辺りについて,今答えを出す必要はないかと思いますけれども,債権保全や回収の実務一般からいいますと,今言いましたような権限は,かなり必要性が高いのではないかと思います。   他方で,新しい社債管理機関に期待される役割の範囲は,おのずから限られていると思いますし,新しい社債管理機関と社債管理者との区別が曖昧になることとか,あるいは先ほど来御指摘があります,なり手を確保する必要があるということからすれば,政策的にどこまで,そういった権限を認める必要があるかということはあると思いますので,これは今後検討する中で御議論いただいて,明らかになっていけばいい問題かと思います。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   田中幹事,どうぞ。 ○田中幹事 誠実義務についてですけれども,私は当初は,新たな社債管理機関につきましては,設置しないということも許される以上,義務がないものとして設置することも禁止する必要はないのではないかと思っていたところでありまして,そのように考えると,誠実義務自体,任意法規にするという考え方が,一つの合理的なアイデアではないかという感じがしております。   どの程度の権限を付与すれば誠実義務が必要であるかということも,マーケットの判断に委ねるということも考えられると思います。再度申しますと,新たな社債管理機関は全然設置しないことも許されるわけですので,義務が小さいものとして設置することも許されると。この考え方は,もう少し検討されてもいいのではないかと思います。   ただ,もし,先ほど藤田委員もおっしゃいましたように,新たな管理機関を設置すれば,社債権者の期待が生じる,つまり,さもなければ社債権者は自分自身で権利行使をしなければならないと考えていたのが,社債管理機関が職務としてやってくれるだろうという期待が生じるのだから,新たな管理機関の義務について,全く任意法規に委ねていいかと,そういう問題も確かにあると思います。   ただ,これもちょっと段階を分けて考えるべきで,例えば善管注意義務まで含めて,全部任意法規にしてしまうということだと,事実上,何の権限も行使しなくてもいいということになりますから,確かに期待に反するかもしれません。しかし,710条2項の適用を排除するという限度であれば,権限のいかんにかかわらず,任意設置であるということからしてあり得る選択肢ではないかという気がしています。   一応それが,当初から考えてきたことですが,議論の状況を伺っていると,やはり,ある程度の裁量権限を与える場合は,誠実義務を強行法規にするべきではないかというお考えの方が多いようなので,仮にそのような立場を採る場合,どういう点が問題になるかと申しますと,一つは,例えば社債権者集会を招集するという権限を一般的に与えますと,現実的に,会議の目的事項なども設定することになりますから,かなり広い裁量権限が与えられるのではないかと思っておりまして,誠実義務を課すことなしに社債権者集会の招集権を本当に何の制限もなく付与していいのかどうかというのも,ちょっと考える必要があるかなと思います。   社債権者集会の招集とアジェンダの設定権を与えれば,倒産手続において新たな管理機関が議決権行使をするかどうかにかかわらず,アジェンダの設定を通じて,重要な部分を管理機関が決めることができますから,かなり広い裁量権を持つことになると思います。   一つの考え方は,例えば,現行法でいうと,社債権者の10分の1以上の大口社債権者が請求したときだけ招集権を与えると,こういう形に仕組んでおけば,誠実義務を排除することは許されると,そういう考え方が一つあり得るかなと思います。   逆に,そのような制限下であれば,場合によっては,処分を伴う行為を新たな管理機関に付与することも考え得ると思います。例えば,倒産手続における議決権行使というのは,基本的に処分を伴うことになってしまうので,今回の御提案ですと,契約によっても付与できないことになるわけですが,先ほど藤田委員から言われたように,日証協さんの提案でも,そういうものも想定した御提案になっていますし,それから全銀協さんの提案でも,4ページのDの議決権行使というのは,基本的に処分を伴うことになるので,実務のニーズが,果たして今回の提案でカバーできるかどうかというのも,ちょっと検討する必要があると思います。   様々申し上げましたけれども,新たな管理機関の誠実義務については,任意法規化するという考え方について,もうちょっと検討してもいいのかということと,もう一つ,一定の裁量が与えられたときは誠実義務を強行法規にするという考え方を採る場合には,裁量が実質的にどのくらいあるのかということを,もうちょっと考えた方がいいのではないかと思います。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   沖委員の御発言に関連して,事務当局から御説明があります。 ○竹林幹事 先ほど沖委員から御意見頂いた部分に関しまして,大きな私どもの整理の視点だけお答えさせていただきたいと思っております。   私どもが,新たな管理機関の権限,2ページの(1)ア,イ,ウと社債管理者の権限とをどのように対比しているかと申しますと,新たな管理機関の権限ア,イ,ウは,いずれも現行法の705条に基づく社債管理者の権限というふうに整理しておりまして,これは全て,社債権の完全な満足につながる権限というふうに言われているようなものでございます。そのため,訴えを提起する権限は,時効中断のためのものもこれに含まれると考えられますが,訴訟行為のうち,例えば,社債権者の敗訴の可能性を高めるような自白をする権限は含まれないというような,現行法の705条と706条の整理を前提にしております。曖昧な部分があれば,また整理が必要とは思いますけれども,新たな社債管理機関には,このような現行法の整理を前提として,705条の権限のみを付与することができるものということで,資料は作成させていただいております。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。   三瓶委員,どうぞお願いします。 ○三瓶委員 義務の話になっていたんですが,ちょっとそこからずれてしまって申し訳ないんですが,先ほど何名かの方から,社債管理者と新たな社債管理機関について,投資家がどう期待しているか,見ているのかというお話がありました。私が何人かの社債の投資家にヒアリングしてきましたので,彼らの考え方,感じ方について,共有させていただきたいと思います。   まず,今回の出発点ですけれども,社債管理者が,例外規定があるために多くの社債について定められていないということに関しては,彼らは一様に,そもそもその例外の適用が容易にでき過ぎるので,社債管理者の例外規定を見直すべきだというのがあります。ただ,そのときに,なり手がいるのかという現実的な問題があるので,そういう意味で,現実的にすぐにはできないだろうと。ただ,それで,なり手を探すために権限,義務の範囲を緩和するというところに余りにも走るのは,本来の目的と違うのではないかというような意見が多数ありました。   一方で,改めて整理をすると,今の例外規定がある中で考えると,社債管理者というのは一般社債権者の保護,新たな社債管理機関というのはプロ,機関投資家社債権者保護というような形で考えると,ある程度の権限が狭くても,理解はし得るということかなということです。   ただ,そういうふうにしたところで,なり手の確保が難しいというのは,しょせんあるんだろうという意味では,本当は本来の解決からすると,ドイツの90年代だったと思いますけれども,資本市場振興法ということで随分,間接金融から直接金融への流れを変えた,あのぐらいのことがないと,本来は,先ほども別の質問がありましたけれども,ハイイールドの市場が発達しないとかいうことにもつながってきますし,変わらないだろうというのがあります。   すみません,ちょっと大きな論点になってしまいました。具体的な意見としては,後半の10ページ以降のところに幾つかポイントがありますので,それは後ほど改めて述べさせていただきたいと思います。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。   どうぞ,齊藤幹事,お願いします。 ○齊藤幹事 ありがとうございます。   この度の社債に関する改正の御提案は,社債権者間のコーディネートの問題を改善し,新たな機関に法定の権限を与えることによって裁判内外の行為をしやすくするという,エネーブリングな性質のものだと理解しております。   頂いた御提案を見て,まず思いましたのは,先ほど来議論されているウの権限の有無が,例えば,損害賠償責任の特則の適用の有無などに直接つながっているのであるけれども,ウの権限の中身が実はまだよく詰められておらず,ウの権限に入るものと,約定権限に入るものが,よく分からないというところが,制度の全体の整合性がとれるのかなども含めて,理解を難しくしているように思いました。   この制度が,事務当局が想定されているような形で運用されるためには,ウの権限と約定権限,さらにア,イの権限の振り分けが,実務においても,制度が想定しているとおりに行われるということが前提であるとは思いますが,それがうまくいくのか,少し心配でございます。   原案のままでいくのであれば,ある権限がウの権限に該当するのかどうかが事前に明確であることが必要で,ある程度,立法段階で定型化する必要があるのではないかと思います。しかしながら,制度の運用に柔軟性を持たせるなどの観点から,定型化を見送るのであれば,例えば損害賠償責任の特則の適用の有無を,ウの権限のあるなしによらせるようなことはせず,田中幹事も示唆されたように,この機関の権限の設計はマーケットに委ねて,責任の在り方も解釈に委ねていくという道もあり得るのではないかと思います。   本制度は,自衛可能な社債権者を想定しておりますので,ある権限がある場合に,このようなシチュエーションで,こういうことをしなければ,あるいはこういうことをすれば義務違反になる,あるいは義務違反の事実上の推定が働くなどの形で,ケースごとの解釈を蓄積させるという道を選ぶ余地もあるのではないかと思います。 ○神田部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは,先へ進ませていただきますけれども,関連すれば戻っていただいての御発言でも結構です。   続きまして,部会資料5の第1のうち,「5 社債管理事務の承継及び終了等」と「6 新たな社債管理機関の資格要件」の部分について,御質問,御意見をお出しいただければと思います。どなたからでも結構です。いかがでしょうか。   三瓶委員,先ほど,資格要件について後ほどとおっしゃいましたが,ここでもし,御発言いただければ有り難いのですが。 ○三瓶委員 全体の中での投資家からの主な要点というのは二つで,一つが元利金減免と,もう一つが資格要件です。それで,資格要件なんですが,減免の話に比べて,はるかに単純というか簡単です。今の資格要件を広げたときに想定されるものというのは何かなと考えたときに,特に元利金減免等のことも絡めて想定したときに,金融の専門家であるというのが,かなり重要な必須条件ではないのかということからすると,これを広げる意義というのが,どのくらいあるのかということを一様に言っております。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。   沖委員,どうぞ。 ○沖委員 ありがとうございます。   新たな社債管理機関の資格要件について一言申し上げます。   この資格要件を現行の社債管理者に比べて拡大するかどうかというのは,新しい社債管理機関に認められる権限に応じて,適切な資格要件を御議論いただければいいということだと思います。   仮に,資格要件を広げてもいいということになった場合ですけれども,弁護士,弁護士法人というのは,当然社債,債権保全回収を業務にしておりますので,一つの候補者になり得るということは言えるのではないかと思います。   ただ,社債はこれ,償還までに長期間の期間があることが考えられますし,適切な業務を行う,確保する体制とか,あるいは弁護士会による監督体制,こういったものが課題になっていくことも明らかでありまして,そういったものを日弁連の内部で検討したいと思いますし,もし仮に資格要件が,弁護士,弁護士法人も認められるということになった場合は,一つの立候補といいますか,そういったことに向けて,日弁連内で意思決定をしたいと思っております。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。   神作委員,どうぞ。 ○神作委員 ありがとうございます。   いずれも,新たな社債管理機関が,どのような権限と申しますか,職務を負うのかということと密接に関連していると思いますけれども,もし何らかの形で法定する場合には,承継と終了の場合の手当ては是非法律でしておくと,いろいろな意味でよいと思います。   ただ,先ほど,現在の社債管理者の規律に基本的に倣ってというふうにおっしゃったと思いますけれども,例えば会社法709条には,2以上の社債管理者があるときには共同してその権限に属する行為をしなければいけないとか,同条2項の連帯責任ですとか,この辺りの規定は,例えば権限の分属を認め,そのことを前提に果たすべき機能を異なる者が担う場合の連帯責任とは異なる責任の構想があっていいと思います。   12ページの6の新たな社債管理機関の資格要件も,これまた権限,職務と密接に結び付いておりますけれども,もしミニマムなものを考えるということでしたらば,ここはむしろ,資格要件という形ではなくて,欠格事由と申しますか,そのような観点から考えていくこともできるのではないかと思います。典型的には,新たな社債管理機関には発行会社やグループ会社は除く等々,こういった形で欠格事由を考えていくということも,権限の範囲を限定する場合には,あり得ると思います。 ○神田部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。特に,よろしいでしょうかね。   それでは,先へ進ませていただきます。戻っていただいても結構です。   部会資料の第2になります,12ページの下ですけれども,「社債権者集会」,1と2があります。1が社債の元利金の減免,2が,13ページになりますが,決議の省略,これらにつきまして,御質問,御意見をお出しいただければと思います。どなたからでも結構です。いかがでしょうか。   古本委員,どうぞ。 ○古本委員 ありがとうございます。   一言だけですけれども,1の社債権者集会の決議による社債の元利金の減免,それから,2の社債権者集会の決議の省略,いずれにつきましても,部会資料の御提案内容に異論はございません。   経団連で議論をしたときに,関係する業界から,いずれにつきましても,解釈によって既に実務対応がなされていると伺っておりますので,規定化により,現行の実務とのバッティングが起きないように御検討いただきたいと考えております。 ○神田部会長 ありがとうございました。   三瓶委員,どうぞ。 ○三瓶委員 社債の投資家との意見交換では元利金減免に関連するところが,一番注目度が高い部分でした。   まず最初に,理解が正しいかどうかの確認をしておきたいと思います。例えば,元利金減免やリスケ等がある場合,これは期限の利益を喪失した状態での債務者の責任免除又は和解をする行為に当たると思いますけれども,これが新たな社債管理機関の権限としては与えられていないと。   そこで,一つ,社債権者集会の招集というのがここで書かれています。これができること。そして,二つ,社債権者集会で,減免等については特別決議があればいいということ。そして,三つ,ここは13ページに議論の余地がありと書いてあるんですけれども,先ほどの2の(1)ウの中での委託契約に当該行為をする権限が規定されている場合のみなのか,書いていない場合も含むのか。それと,四つ目の条件として,新たな社債管理機関を決議を執行するものと定めたときに,やっと減免についての手続ができる。3段階なのか4段階なのか,ちょっと分かりませんけれども,これをきちんとうまく綱渡りしていけばできると,そういうふうに読んでよろしいということで,いいでしょうか。   そういう理解に基づくとすると,まず,一つの意見としては,補佐人制度よりは前に進んでいると。というのは,社債権者集会を開催できるということで,大きな前進ではないか。ただ,今申し上げたようなステップを踏む必要があるということからは,先ほどから議論している権限,責任,すなわち,裁量の余地を非常に狭めることによって新たな社債管理制度を可能にしようとしているので,逆に,条件をクリアするステップは非常に煩雑な感が否めないというところです。   こういうステップを採らなければいけないとき,つまり,現実にクレジットイベントが起こったときに,一番関心が高まるのはこの手続ですね。実務上,能動的に社債権者集会が行われるかというと,その期待は低いです。現実的にありそうなケースというのは,新たな社債管理機関が音頭をとるわけではないですから,社債権者の誰かが草案を起案して,それについて,新たな社債管理機関が,その草案が適当かどうかということを聞いて回って,その後,決議を採るというようなプロセスになると思います。   ここで,社債権者は皆,同じような立場で,同じことを考えるかというと,そういうことはありません。昨今では,CDS(クレジット・デフォルト・スワップ),こういったものが使われますから,プロテクションを持っている人と持っていない人,クレジットリスクをヘッジしている人としていない人では,全く立場が逆になります。ですから,そう簡単に合意形成があるとは思えないので,それを誰かがリードしていこうとしない状態で,自然に合意形成ができるというのは考えにくいということです。   今,社債権者の話になっていますけれども,社債権者の更に下に劣後している株主からすると,状況が定まらない,先行きが見えない状況というのは非常に問題です。ですから,両方から考えた場合に,比較的速やかに問題解決の方向に向かうことを期待する上では,必要な手続が非常に煩雑なのではないかということが挙げられています。   一方で,先ほど,間接金融と直接金融のお話がありましたけれども,現実的にどのぐらいのパーセントで,こういうことが問題になるかというと,現実的にはメインバンクが仕切るケースが多いかもしれない。そうすると,そこについては大きな問題は起こらないけれども,メインバンクが付いていないところについては,やはり社債権者集会に委ねる必要があるので,そういうところこそ,問題は大きくなってきます。   そうなると,先ほど,ハイイールド市場が成長していないという御指摘もありましたけれども,そういった市場は,なかなか発展しにくいということになるのではないでしょうか。どうしたらいいかということを申し上げていなくて申し訳ないんですけれども,そういった市場の効率化・活性化の動機という現実的なことを考えたときに,法的には元利金減免の手段はあるけれども,それが行われるかという面で,クエスチョンマークが残ります。 ○神田部会長 ありがとうございました。   前提のところで,事務当局から。 ○竹林幹事 若干御説明といいますか,補足させていただきますと,ここでの見直しにつきましては,必ずしも新たな管理機関とセットというわけではございません。社債権者集会の見直しというのは,社債管理者が設置されているような場合についても妥当する見直しでございます。社債管理者が設置されている場合には,メインバンクでもある社債管理者が主導するという,先ほど三瓶委員がおっしゃっていたような流れのようなことになるかと思います。   新たな社債管理機関が設置されている場合には,元々のコンセプトとして新たな管理機関の場合は権限を限定しようということですので,確かに,なかなか社債権者集会での合意形成が難しい側面というのは出てくるかもしれないのですけれども,そこはやはり社債権者集会,社債権者の方々に主導していただくということになろうかと存じます。   仮に,社債権者集会での合意形成が難しいというような場合につきましては,少なくとも法的な倒産手続等の場面におきましては,例えば会社更生法ですとか民事再生法で,社債権者の合意が形成されない場合の手続の進め方等について,一定の手当てがされていると承知しております。社債権者の方の保護という形に直ちには結び付かないのかもしれませんけれども,全体的な更生計画案や再生計画案の可決を通じて,一定程度の手当てがされているのかなというふうに考えております。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。   神作委員,どうぞ。 ○神作委員 社債権者集会決議による元利金の減免についてと,それから決議の省略についても,それぞれ一言ずつ発言させてください。   まず,元利金の減免を多数決で行うということについては,これは,いわゆる集合行為の問題を対処するための方策としては有効であり,そういう意味では,立法論として議論するのであれば,確かに,現行法の下でも「和解」としてできるという解釈もありますけれども,明確に規定しておくのがいいのではないかと思います。   他方で,元利金の減免には,非常にドラスティックな面もございますので,何らかの合理的な制約を課すことが考えられます。私は,その点から,13ページの補足説明の最後のなお書きで書いていただいております,社債の元利金の減免ができるときには,その旨を社債契約に書いておくとすることが検討に値すると考えます。社債契約に明確に記載しておくことによって,債務者の側の機会主義的な行動を抑制したり,行動の予測を明確化するメリットがあり,社債のように市場で流通し得る金融商品については,そうすることが望ましいのではないかと思います。   ドイツが社債法を改正したときに,ドイツは従来,多数決による元利金の減免等を認めてこなかったのですけれども,いわゆるオプトイン方式と言っておりますが,社債契約にそれが可能であることが書いてあれば,多数決で減免できることにしましょうという制度改正を行いました。このような規律は,立法論としては十分に考慮に値すると思います。   次に,決議の省略についてでございますけれども,私も全社債権者が同意していれば,基本的には社債権者集会の決議があったものとみなすというのは,実質的には余り問題がないと思うのですが,例えば,そのような社債を,その後で,決議について,必ずしも知らない人が取得してしまう場合を考えると,その場合の手当てについて考えなければいけないのではないかと思います。   例えば,現行の会社法では,735条でしょうか,社債権者集会の決議の認可,不認可の決定があった場合には,公告が行われることになっておりますけれども,何らかの形で社債権者集会の決議とみなされるものの内容が投資家に分かるような手当てについて検討する必要があると思います。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   それでは,梅野幹事,どうぞ。 ○梅野幹事 この部会資料5の12ページ下の元利金の減免について意見を述べますが,これは認めてもいいのではないかと考えております。   この点に関しては,和解の要件である互譲があるのかどうかといった点のほかに,そもそも多数決によって,少数債権者の同意なくして,中心的権利である元金の減免をすることができるのかといった論点であるとか,あるいは,支払の猶予については706条1項1号で明確に定めているのに,元利金の減免について定められていないということは,反対解釈として認められないのではないかという指摘があるというように承知しております。   また,実務上も,この点が過去に問題になったことがあって,社債権者集会による決議をした上で認可まで受けたという事例もあるようですが,逆に,この点が問題であるということから,あえて決議をしないという形でこの問題を回避したという事例もあると聞いております。そういったことからすると,この点については,今回,立法できちんとできることを明言するということは,意義があるだろうと思っております。   特に,社債権者全体の価値の最大化,共通の利益という観点から,個別に権利行使をした結果,最終的に回収率が下がってしまうような場合であっても,集団的意思決定,多数決によって元利金の減免を認めることにより,最終的には社債権者全体として,より回収率が上がるという事態も想定されると思います。このように,特に,社債権者全体の価値の最大化,共通の利益という観点から,やはり元利金の減免は認めていくべきであると考えます。   ただし,当然のことながら,多数決の濫用であるとか,あるいは社債権者と社債発行会社の情報の非対称といった問題もある中で,特に少数の社債権者の利益をどうやって守っていくのかを検討しなければならないと思います。その点については,既に認可ということで,裁判所の後見的機能があると理解しております。その中で,例えば,清算価値を下回るような形での元利金の減免のようなものについては,社債権者一般の利益に反するということで,733条の4号の当てはめを行うということも可能だと思います。そのような認可,裁判所の後見的機能を期待した上で,元利金の減免を認めることを原則として認めるということには意味があると考える次第です。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   それでは,加藤幹事,大竹委員の順で,加藤幹事,どうぞ。 ○加藤幹事 ありがとうございます。   先ほどの三瓶委員の御質問に関連して,事務当局に質問というか,意見のようなものを述べさせていただきます。   先ほどの三瓶委員の御質問というのは,社債権者集会の決議によって元利金の減免ができるとしたとしても,実際に元利金の減免決議を成立させるためには,社債権者の中で意見調整をする,誰かリードする役が必要だということだったかと思います。その役を恐らく,社債管理者が設置されていなくて,新しい社債管理機関が設定されている場合には,新しい社債管理機関が担うであろうということだったかと思います。   そういった場合に,新しい社債管理機関がそのような元利金の減免に関する利害調整を行うことは,事実上行っているにすぎないのか,そもそも,やはり社債の管理として,契約で委託された職務として,何か根拠がなければいけないのかということだったかと思います。   具体的に申し上げると,先ほどの前半で問題となりました2ページのアからウの中の,ウとして定めなければいけないのかということだと思いますが,この点はいかがでしょうか。 ○神田部会長 ありがとうございます。   加藤先生の御意見を伺いたいくらいですけれども,事務当局,いかがでしょうか。 ○竹林幹事 私どもがこの資料を作っているときは,権限の内容として,今御指摘いただいたような行為まで新たな社債管理機関にさせるというようなことは念頭に置いておりませんでした。もし,それを仮に新たな管理機関がやるとしても,それはある意味,事実上といいますか,そういった形になるのかなというようなことを考えておりました。 ○神田部会長 よろしいでしょうか。御意見何かありますか。 ○加藤幹事 その場合,新しい社債管理機関は誰のために,そういった事実上の行為を行っているかということが,恐らく投資家側にとっては非常に重要なのではないかなと思うのです。それについては特に,事実上の行為だから会社法は関知しないということで済ませてしまってよいのかということも,恐らく三瓶委員の御懸念にあるのかなという気がしました。 ○神田部会長 ありがとうございます。 ○竹林幹事 この新たな管理機関の基本的なコンセプトとしては,やはりかなり限られた権限を付与し,そのほかの部分につきましては,ある意味,最初,冒頭で神作委員から御指摘いただいたような,社債権者が主体的に意思決定をしていくということを想定しておりました。確かに,意思形成が難しい側面が出てくるということはあり得るかとは思うのですけれども,そこは元々社債管理者を設置することを要しない場面であるということで,一定程度は社債権者側で自律,自衛ができるというようなことも併せて考える必要があるのではないかと思っております。実際にこういう制度が入ってきたときに,どこまで実務としてうまく回していけるのかというところについては,また御意見等を頂く必要があるかとは思うのですが,この資料は,今申し上げていたようなコンセプトで作成しております。 ○神田部会長 よろしいでしょうか。   それでは,大竹委員,お願いします。 ○大竹委員 御指名いただきまして,ありがとうございます。   冒頭の関係官の御説明にも,また梅野幹事の御発言の中にも,社債権者集会決議に関して,裁判所の後見的役割に期待するという,大変有り難い言葉を頂きましたので,その点に関連して,実情を御紹介するのと,それから,解釈論的な問題点を指摘させていただきたいと思います。   まず,実情の方ですが,社債権者集会決議認可の申立て事件自体,それほど多くありません。実際に事件が来たときに,裁判所的には,決議に反対した一部の社債権者が利害関係参加なりをしてくれて,2当事者対立構造になると,それなりに審理は充実したものになって,ついこの間もそういう決定で,不認可にいたしましたけれども,それは裁判所のチェック機能が働くと。ただ,そうでない,申立人が発行会社の認可申立事件については,資料も十分出てきませんし,なかなか突っ込んだ審理はできないというのが実情ということになります。   問題点の指摘としましては,今般,706条1項に掲げる行為として,当該社債の全部又は一部の債務を免除するという文言を加えるという御提案がなされております。この点は,解釈論的には疑義があったという点なのでしょうから,疑義を払拭するという意味で,そういう文言が明定されることは,方向としては賛成であります。   ただ,そうなった場合に,従前からあった議論ではあるのですけれども,社債の債務の全部又は一部の免除が条文上明記されるということになりますと,これと会社法733条4号の決議が社債権者の一般の利益に反するときという文言との関係をどう考えるんだろうというのが,改めて裁判所的には気になるところであります。   先ほどの梅野幹事の御発言にもありましたように,清算価値保障を下回る金額まで債務を免除することは,社債権者の一般の利益に反すると。それはそれで,一つ分かりやすい基準で,それでいいんですかと。あるいは,物の本の中には,清算価値を下回るまでにはいかないけれども,会社の再生とか更生とかに必要な限度を超えて,社債の債務の一部を免除することは,社債権者の一般の利益に反するんだという御見解もありまして,これはなかなか,基準としては難しいなと思いますけれども,それはそれで,やれというんであれば,それで判断もできると。   ただ,いろいろ御議論を聞いていますと,もっと社債権者は多様な意見と利害を持っていて,それが社債権者集会の中で意思決定に参加してくるんだというときに,裁判所はそういう多様な意見まで参酌するのでしょうかと,また,裁判所はできるんでしょうかと。そこら辺,裁判所に期待される役割が,免除の条文が明定されたときに,改めて733条4号をどう考えたらいいでしょうかということについて,解釈論的な指針のようなものを御議論いただけると,大変有り難いと思っております。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。   藤田委員,どうぞ。 ○藤田委員 1と2,各々について,若干コメントを申し上げたいと思います。   まず第1に,元利金の減免は,706条1項に掲げる行為として加えた方がいいと思います。今大竹委員からお話がありましたように,これを加えたときの認可の在り方が面倒な問題を引き起こす可能性はもちろんあると思います。ただ,それが今までの決議事項と質的に違うのかと言われると,ほかの債権者が全く譲歩していないのに,社債権だけ,例えば満期を5年延ばしてあげるという決議は現在でもできますが,これが社債権者の一般の利益に反しないのですかということについては,やはり同じ問題があったはずです。より先鋭な対立が問題となるかもしれませんが,認可の在り方についての考え方の基本的な発想そのものの整理が足りないという問題は,現状で既に存在しており,認可制度が維持される以上避けられない問題と言うべきであって,それは学説の怠慢なのか,実際の具体例がないから深まっていないのかはともかく,今後検討してゆかなくてはならない問題だと思います。したがって,確かに面倒なことを裁判所にお願いすることになるのは恐縮な点はあるのですが,認可の判断が難しい場合があるということは,それ自体としては,元利金の減免を決議事項に加えない理由,加えてはいけないという理由にはならないような気がします。   問題は,決議することができる条件として,神作委員の言われたように,社債発行契約に定めた場合に限定するか否かという点で,これがかなり難しいところです。私は,社債発行契約に書かせることが,どの程度,社債権者保護の役に立つのかというのが,余り納得がいかないところではあります。   確かに,元利金の減免ということを特別視する立法例は,比較法的にも見かけます。そういうこともあるので,元利金の減免は特別なんだという主張も分からないではないのですが,事前に発行契約に書いたら自由で,書いてなければ一切できないというふうな扱いが合理的なのかというと,ちょっと疑問な気もします。そもそも,社債権者の利益という観点から,減免とそれ以外の決議事項を分けることも,経済的には余り理解できなくて,支払を100年間猶予してあげますというのは,これは現行だってできるわけですけれども,1割だけ元本を負けますということは事前に契約に書かないとできないといったら,バランスがいかにも悪い気がします。したがって,事前に社債契約の発行契約に書くことを要求することが適切ではないような印象は持っております。   なお,細かなことですが,仮に社債契約に書くことを要求した場合は,産業競争力強化法の56条及び57条でする場合にも,その規制は適用されて,事前に社債契約に書いていない場合は,産業競争力強化法に基づく減免もできないということになるんだと思いますが,その辺りも,仮に社債契約の定めを要件として入れるのであれば,検討しておいてもらえればと思います。   社債権者集会の決議の省略については,内容的に異論がないのですが,その位置付けあるいは整理の仕方としては,部会資料の説明に書かれていない考え方で整理した方がいいのではないかと思います。部会資料の説明の仕方は,実は会社法研究会報告書も同じなのですが,要するに,会社法319条の株主総会の決議の省略の規定の発想で書かれていると思います。しかし,社債権者全員が合意して社債の内容に変容を加えるというのは,社債権者集会の外の話,債権者全員が合意すれば債権の内容は変わるという,それだけの話と考える方がいいのではないかと思います。したがって,社債権者集会という制度の外の変更ですので,社債権者集会の認可のような制度が適用ないのは当たり前のことですし,そう整理した方が説明はしやすいような気がします。社債権者集会というのは,本来自分が承諾しない限り影響を受けるはずのないような債権者の権利が多数決で変更されることを正当化するための制度であり,だからこそ裁判所の認可といったものがパッケージとなっている。そういう構造において,株主総会とは根本的に性格が違うと思っております。したがって,総債権者の合意による変更というのは,社債権者集会とは異なる制度だというふうに整理した方がいいと思います。   それなら,なぜ社債権者集会決議があったとみなすような規定が必要なのかというと,これは純粋に形式的な条文上の問題でして,現在の会社法の規定の中には,社債管理者は社債権者集会の決議に基づいて何々をするといったようなものが幾つかあって,総債権者の同意というものを社債権者集会の決議とみなさないと,その辺の規定がうまく働かないものですから,形式的に決議があったとみなすというわけです。そういったことから社債権者集会の決議とみなすことは必要かもしれないですが,それは飽くまで,ほかの条文をうまく働かせるための方便にすぎないので,本質はやはり,総債権者の同意という社債権者集会制度の外の話と説明してしまった方が分かりやすいのではないかと思います。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   中東幹事,どうぞ。 ○中東幹事    元利金の減免について,先ほど藤田委員も言われましたが,神作委員の御意見はやはり,妥当ではないのかなと思っております。   藤田委員が言われましたように,事前に社債発行契約に入れておくことで,どれだけ社債権者の利益になるのかという点が,理論的に最も重要な点だと思います。また,こういう規定を新しく設けるとして,これが現在の解釈,実務を明確にするものであるという立て付けであるとすると,既発行の社債についてはどうするのかの整理が難しいと思います。つまり,補足説明にもありますように,既発行のものについての実務との整合性について検討する必要があり,今までの解釈,実務をそのまま承継するものだという説明はなかなか難しいと思います。 ○神田部会長 ありがとうございました。   田中幹事,どうぞ。 ○田中幹事 社債権者集会の決議によって元利金の減免を可能にするということ自体は,多数の委員,幹事がおっしゃっているように,集合行為問題を解決する有力な手法であると思いますので,賛成したいと思います。   確かに,この点は,比較法的には,いろいろな立場があって,アメリカのように,そういう多数決による減免を認めていない国もあるわけですけれども,あの国ではちょっと,なまじそういう規制を課した結果として,強圧的な方法でエクスチェンジオファーが行われるとか,いろいろゆがみをもたらしていると私は認識していまして,端的に多数決による減免を認めるという方向で,結論的にはよろしいと思います。   問題は,神作委員がおっしゃるようなオプトイン方式によるべきかどうかということですが,これはなかなか難しい問題で,ドイツはオプトイン方式でうまくいっていると聞いておりますので,そういった制度も,一から制度を作るとすれば,あり得ると思いますが,既に何人かの方から御指摘がありますように,現行法の下で,既に元利金の減免はできるという解釈の下で制度ができてしまっていることから,今回の改正でオプトインをしなければ元利金の減免はできないという立法をした場合,既存の社債がどうなるかという,ちょっと難しい問題が出てくるように思います。   その点について,私は,強くそういう制度を推すわけではないのですが,一つの可能性として,オプトイン方式のほかにオプトアウト方式というのもあります。マーケットに任せるという考え方からすれば,オプトインだけでなくオプトアウト方式というのも可能です。オプトアウト方式を実現するには,社債権者集会の決議要件を社債発行契約で加重できるようにすればいいんですね。実際問題として,元利金の減免のところだけ,オプトインかオプトアウトかという形で選択を認める理由は,実は余りないわけでして,例えば,期限の猶予をするということも,猶予が非常に長期間にわたれば,実質的には,元利金の一部の減免よりも社債権者の権利を制限することになり得るわけです。そこで,もしもオプトアウトを可能にするとすれば,法制上は,端的に,社債権者集会の決議要件について,社債発行契約で加重することを認めればいいわけです。あとは,どういう事項について,決議要件を加重するか,例えば全員一致かそれに近いものを要求するのかは,マーケットに任せるということになります。   オプトアウト方式あるいはオプトイン方式を採用することについての問題点として,そのような制度の下では,市場に出回る社債が様々な形のものになるので,社債に投資する者にとって分かりにくくなるということがあります。契約による選択を認めるという法制度には,常にこういう問題が起きてくるので,これについては,市場関係者の御意見を聞いて,もし一律にしてくれというのが有力な意見であれば,オプトインやオプトアウト方式によるのではなく,一律に社債権者集会の決議で元利金の減免ができるという制度を採用するのでも結構です。ただ,規制の選択肢としては,こういったものもあるのではないかということで,ちょっと発言させていただきました。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。   いろいろ意見を頂きましたけれども,そうしますと,本日の部会資料5につきまして,更に何か言い残したこととかありますでしょうか。参考人の皆様方も,もし御発言があれば,遠慮なくしていただければと思いますけれども。   特に,よろしゅうございますでしょうか。どうもありがとうございました。   それでは,以上で,社債についての議論を終了させていただきます。参考人の皆様方には,大変お忙しいところを御出席いただきまして,どうもありがとうございました。   ここで15分間の休憩を取りたいと思います。よろしくお願いします。           (休     憩) ○神田部会長 それでは,再開させていただきたいと思います。   部会資料4という,前回取り上げました資料に戻っていただきます。前回の積み残し部分として,会社補償に関する規律の整備というテーマがあります。部会資料4の第3になるのですけれども,事務当局から御説明をしていただきます。よろしくお願いします。 ○邉関係官 それでは,部会資料4の14ページ目,「第3 会社補償に関する規律の整備」について御説明いたします。   第3は,会社補償に関する規定を設けることについて,どのように考えるかを問うものです。   会社法上,会社補償に関する規定も,D&O保険と同様に存在せず,どのような範囲において,どのような手続により会社補償することができるかについての解釈は確立されておりません。会社補償にもD&O保険と同様に,役員等として優秀な人材を確保するとともに,役員等がその職務の執行に伴い損害賠償の責任を負うことを過度に恐れることでその職務の執行が萎縮することがないように役員等に対して適切なインセンティブを付与するという意義が認められますので,会社法に会社補償に関する規定を設け,会社補償により生ずることが懸念される弊害に対処するとともに,会社補償をすることができる範囲や会社補償するための手続等を明確にして,会社補償が適切に運用されるように必要な規律を整備することが考えられるところです。   仮に規定を設けることとした場合の内容に関しては,1以下において御議論いただきたいと考えております。   「1 補償契約」では,株式会社は(1)及び(2)に掲げる費用等を補償することを約する契約を役員等と締結することができるものとすることについて,どのように考えるかとしております。(1)が,いわゆる手続費用を想定したものであり,(2)が,いわゆる損害賠償金を想定したものです。   本文は,(1)及び(2)いずれについても,いわゆる立替払をすることを内容とする補償契約を締結することも許容されることを前提としております。また,現行法上,役員等が職務の執行のために過失なく受けた損害については,特別な契約の締結を要しないで,会社法第330条及び民法第650条に基づき補償が認められるという解釈がありますが,本文は,このような解釈を否定するものではありません。本文は,役員等との間で補償契約を締結した場合には,役員等に過失があるときであっても補償をすることができるものとする一方で,補償契約を締結した場合であっても,一定の損害については補償することができないものとすることに意義があるものと考えております。   本文(1)では,役員等がその職務を行うについて,善意無重過失であるかどうかを問わずに会社補償の対象としております。これは,費用であれば,役員等に故意又は重過失がある場合を補償の対象に含めたとしても,職務の適正性を害するおそれが高いとまでは言えないことや,当該役員等が適切な防御活動を行うことができるように,それに要する費用を株式会社が負担することが,株式会社の損害の拡大の抑止等につながり,株式会社の利益になる場合もあると考えられることなどを考慮したものです。   他方で,本文(1)においては,補償の範囲を相当と認められる額に限ることで,補償の額が不相当に高額とならないようにすることとしております。また,本文(1)では,役員等に対して責任を追及する者について限定を付しておりませんが,取り分け株式会社が当該責任追及等の訴えを提起する場合をも対象とすることでよいかについては,検討を要するものと思われます。   本文(2)では,株式会社に対する損害賠償金や課徴金,罰金は対象としておりません。特別法に基づく第三者に対する損害賠償金については,補償を認めることで特別法の趣旨を損なうことになるかという観点からの検討が,別途必要になるものと思われます。   なお,和解金については,本文(1)ではなく,(2)に準じたものとして取り扱われることを前提としております。   本文(2)の括弧書き部分は,株式会社が自ら第三者に賠償するとすれば,役員等に対して求償権を有する場合であって,その求償権の法的根拠が会社法第423条第1項など,会社法上,その免除に関して厳格な手続を要するものとされているものである場合には,その求償権を有する部分については補償することができないものとすることを意味しております。   続いて,17ページ目,「2 補償契約の内容の決定及び補償契約に基づく補償の決定」では,補償契約の内容及び補償契約に基づく補償の実行を,取締役会設置会社においては取締役会の決定事項とし,取締役会設置会社以外の株式会社においては株主総会の決定事項とすることについて,どのように考えるか,としております。D&O保険の場合と異なり,ここでは,補償契約に基づく補償の実行についても,取締役会又は株主総会の決定事項としております。   続いて,18ページ目,「3 事業報告における開示」では,株式会社が当該事業年度の末日において公開会社である場合において,補償契約を締結しているときは,(1)から(3)までに掲げる事項を事業報告の内容に含めなければならないものとすることについて,どのように考えるか,としております。   最後に,19ページ目,「4 利益相反取引規制の適用除外」では,取締役又は執行役との間の補償契約については,利益相反取引規制を適用しないものとすることについて,どのように考えるか,としております。   この契約が直接取引に該当すると考える場合には,19ページ,補足説明2の①から④までに記載するような規制が適用されることになるところです。しかし,会社補償には,役員等として優秀な人材を確保するとともに,役員等がその職務の執行に伴い損害賠償の責任を負うことを過度に恐れることでその職務の執行が萎縮することがないように役員等に対して適切なインセンティブを付与するという意義などがあることに鑑みますと,株式会社にとって利益になる側面もあるといえ,先ほど御説明した17ページ目,「2 補償契約の内容の決定及び補償契約に基づく補償の決定」や,18ページ目,「3 事業報告における開示」の手当てがされるのであれば,ここまでの規制の適用は必要ないとも考えられるところです。   御説明は以上となります。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   それでは,今御説明いただきましたテーマについて,御質問,御意見,どなたからでもお出しいただければ有り難く存じます。いかがでしょうか。   まず,古本委員,どうぞ。 ○古本委員 ありがとうございます。   D&O保険の議論の時にも申し上げましたが,会社補償につきましても,「コーポレート・ガバナンス・システムの在り方に関する研究会」でまとめられた「法的論点に関する解釈指針」において,現行法の下でも一定の範囲で会社補償が認められることが明らかにされており,実務においては,これを基に検討が進められ,動いているという状況にあります。   この点を経団連で議論したところ,会社補償に関する規律を会社法に置くことを積極的に望む声は聞こえてまいりませんでした。むしろ,現行規定の下で行われている費用等の補償につきまして,実態的・手続的な制約が課されることにならないかといった懸念の声の方が多いということをお伝えしておきたいと思います。   部会資料の1を拝見いたしましても,今申し上げたような懸念がありまして,幾つか質問といいますか,確認をさせていただきたいのですが,まず費用についてですけれども,ここでおっしゃっていることは,補償契約がなくても補償し得る部分が残っているのか,それとも,この規律を導入すると,費用を補償するには補償契約を必須としているのかということを確認させていただきたい。損害については,契約がなくてもできるということは補足説明に記載されておりますが,費用については記載がないので,その点を確認させていただきたいと思います。   その次の2,3のところも全て,補償契約が締結されているということを前提に記載されておりますので,そもそも補償契約のないところでも,従前どおりの一定の補償可能な費用というのが認められるのか,ということです。認められるとすると,それはどこに線を引くのかという問題も出てまいりますし,もし補償契約がない場合は一切補償はまかりならない,費用の補償はできないということになりますと,実務への影響が非常に大きいと思います。   それから,文言的な,若干細かいことになりますけれども,費用の補償の範囲につきまして,1(1)イに「法令の規定に違反する疑い」と記載されておりますが,例えば事前の,法令の違反があったかなかったかを確認する前の,何らかの調査ですとか質問といったものも当然含まれるべきだと思うのですが,この文言だと,そういった点について若干の疑義が生じるのではないかという気がいたします。   また,アに「職務の執行に関し」という言葉がありますが,この文言ですと,例えば,職務の執行には直接関係なく,役員であったこと若しくは役員であるということのみをもって,いわれのない訴訟に巻き込まれたといった場合に,弁護士費用等の補償が受けられるのか,若干の疑義があるように思います。こういった点も明確にされるべきではないかと思います。   次に,(2)の損害のところですけれども,資料では,善意無重過失ということが要件とされておりますので,会社法429条の責任は結局補償されないことになります。また,対第三者責任のうち,会社と役員が連帯責任を負うものについては補償できないということが前提となっております。経団連としては,会社補償について規定化の必要はないという立場ですけれども,もし規定化されるのであれば,こうした難しい論点についてブレークスルーされるような議論を期待したいと思います。つまり,連帯責任の問題に関連して,業務執行取締役についての責任限定を認めるとか,補償を可能とするための何らかの手段の検討がされることを希望します。   それから,2の補償契約の内容の決定,それに基づく補償の決定・実行についてですけれども,部会資料ではいずれも,取締役会の決議によらなければならない,執行部門への委任はできないという御提案となっていますが,少なくとも補償の実行につきましては,取締役会の決定が常に必要であるとするのは,余りにもリジットなのではないかと思います。   金額の相当性の判断になりますので,かなりの部分は業務執行の問題として委任できることにして,例えば,必要な範囲で取締役会に報告するといったようなやり方もあるのではないかと思います。   例えば,国際カルテルの事件に巻き込まれた役員にアメリカ人の弁護士を付けようといった場合を想定しますと,事件自体は何年も継続しますので,弁護士費用も何年にもわたって発生することになります。それに対して,弁護士費用の請求は,原則毎月やって来ますが,支払を毎月取締役会で決議しなければならないとなりますと,恐らくこれは非常に形式的な決議になりますし,余りにも煩雑に過ぎるだろうと思います。仮にこれが形式的な決議でなく実質審議がされるとしますと,高額過ぎるとか相当でないということで,支払がなされないなどということになるかもしれません。そうなると,そもそもアメリカの弁護士が受任してくれないといったようなことにもなりかねませんので,実務では確実に決議が形式化されると思います。したがって,補償の実行については,もう少し柔軟に考えてもよいのではないかと思います。   3の開示については,開示することによるマイナス面も考慮すべきだと思います。例えば,費用の補償について開示が必要とされたときに,先ほど申し上げた国際カルテル事件,これに関して役員に弁護士を付けたような場合を想定しますと,適切な防御を行った結果,その役員に責任がないとなった場合でも,それまでの費用については開示がされることになり,少なくとも,その人が違法なカルテル行為に関与していたのではないかという疑い自体が公になってしまいます。そうなりますと,場合によっては,そうした役員が制度を利用すること自体を躊躇してしまうことにもなりかねませんので,そういったマイナス面も十分考慮すべきではないかと思います。   4の利益相反規定の適用除外については,特にコメント,意見はございません。   今申し上げましたように,実務からのお願いとしては,会社補償を規定化することによって,これまでできなかったことができるようになるということであればよいのですが,そうではなく,逆に,従来実務でできていた工夫が一部否定されてしまうというようなことになるのであれば,規定化には,にわかには賛成できないという立場でございます。   規定化するのであれば,先ほども申し上げましたが,対会社責任と併せた整理が必要であり,業務執行役員の責任限定といったことも含め,御検討をお願いしたいと思います。しかし,それがやはり難しいということであれば,あえて規定せず,解釈論に委ねる方が望ましいのではないかと考えております。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   幾つか御質問があったと思います。 ○竹林幹事 御質問があった点ですけれども,まず費用について,補償契約がなくても補償することができる部分があるのかという点につきましては,これは現行法の民法650条などの解釈を,この規定を設けることによって変更しようという趣旨ではございませんので,事前に契約がなかった場合であっても,民法650条に従って補償することができるような部分については,引き続いて補償することもできるのではないかと考えております。   ただ,私どもといたしましては,古本委員からの次の御質問に関わるのですが,民法650条でどこまでを補償することができるのかということにつきましては,やはり解釈上不明確な部分があるのではないかとも考えておりまして,そういった点から,少なくとも,こういう新しい規律に従って,一定の契約を結んでおけば,その範囲では補償することができるという規律を明確にしようというような考えから,御提案を差し上げているものでございます。   質問に対する御回答と併せてということになりますが,以上です。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   よろしゅうございますでしょうか。 ○古本委員 はい,ありがとうございます。 ○神田部会長 それでは,小林委員,どうぞ。 ○小林委員 どうもありがとうございます。   私ども日本商工会議所の方で検討,議論した結果ということで,現時点では全体についての感想,コメントということになりますが,やはり経産省から出されている法的論点の解釈指針というところで,適法に会社補償が,一定の条件に基づくことですけれども,可能とされているということであれば,わざわざ現時点で規律を設ける必要がそれほど高いのだろうかという,そういうところは感じております。   現時点でも上場企業で,それほどたくさんの会社は会社補償契約を締結していないのではないかというのは,会議所の検討会議でも声としてございまして,元々当然,中小企業は非常にたくさん,何百万社もあるわけでございますが,こちらにとっては,あえて立法措置を講じるような要請あるいは不具合があるのかどうかというところにつきましては,実態が見えていないし,逆にそういう実態もないのではないのかということを感じております。   そういう目で検討したところ,この部会資料を見る限りでは,私どもが考えているようなところでの会社補償が認められる範囲は,先ほどの御発言もありましたが,余り広げられるわけではなく,かなり限定的になってしまうのではないかという印象を受けます。   今回の資料では,頭に,役員に適切なインセンティブを付与するための規律の整備というふうに題してあるわけなんですけれども,そういうことであれば,会社が補償できる範囲を思い切って広げるべきではないかというふうに考えます。例えば,社外取締役の一般化ですとか,外部から経営のプロを招聘するという場合のインセンティブというような観点からいいますと,むしろ逆に補償できない範囲を,例えば相当ではない費用とか職務に関連性のない補償等に限るというぐらいにして,その他の補償は広く認めるというぐらいの考え方を採用するのであれば,意義があるのではないかなと考えられるんですけれども,そういう目で見た場合,今回の提案には,やはり相当に違和感があるところでございます。   手続面等を見た場合,取締役会設置会社の場合,補償契約そのものの締結とか損害賠償金等の補償みたいなものが取締役会の決定を経るというようなことは,確かに必要なのかもしれませんけれども,契約がある場合に,例えば一般的な費用の補償をする際にまで,取締役会の決定が必要ではないかというふうにも読めなくもないので,これだとやはり,今まで民法650条の範囲で当然に支払われてきたものまで,そこまで含めなければいけないのではないかというふうにも読めますので,もしそうだとすると,規制強化ということに逆になるかもしれないなという印象を持ちます。   もう一つ,取締役会設置会社以外の株式会社,多くの中小企業が該当するわけなんですけれども,例えば,これらに対して,会社補償について,必ず株主総会の決議が必要ということであれば,実際には会社補償については,契約の締結もそうですけれども,費用の補償等も,非常に困難になるというふうに考えられます。   もう一つ,中小企業に限りませんけれども,補償契約の金額に関する開示につきましては,企業の正当な補償を著しく萎縮させる懸念があると考えておりますので,適当ではないと考えております。   今回一読させていただいて,内部的に検討した結果では,全体として,インセンティブ付与という目的から見ますと,やはり提案内容には,賛成いたしかねるかなというところでございます。   付け加えていいますと,部会資料では,第三者の損害賠償した際の当該役員に対して求償できる場合が補償から除外されているというところがございますが,会社と役員の連帯責任については,内部での負担割合はなかなか不明確でございまして,どの程度役員に補償していいか,なかなか難しいということがありますので,例えば,攻めのガバナンスとかリスクテイクということを言うのであれば,特に業務執行取締役についても,責任限定契約を締結できるような前提がないと,なかなかそういう話も難しい,むしろそれを考えた方がいいというようなところがあるのではないかと考えています。   この会社補償とセットで考えるべきかということもあるんですけれども,よくよく考えてみると,責任限定とか責任免除の問題というのは,必ずしも補償の問題とは同一延長線上に全てがあるわけではないので,別途丁寧に議論いただいた方がいいのではないかと考えておりますので,必ずしも会社補償の問題と連動させずに,別項を設けて議論していただいていいぐらいの議題ではないかというふうに考えております。   意見としては以上でございます。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。   前田委員,どうぞ。 ○前田委員 この会社補償について,そもそも規定を設ける必要があるのかという問題については,確かに,解釈指針が示されているとはいいましても,現行法の下では,どこまで補償ができるのか,あるいはどういう手続が必要なのかということについて,明確に解釈が固まっているわけでは決してないというように認識をしております。この機会に,会社法に規定を設けるのがよいのではないかというように思います。   そして,今回の案で,私が気になりましたのは,1(1)の費用の補償のところについて,役員等の悪意重過失を問わないことで本当にいいのかということです。確かに,役員等が適切に防御活動を行えるようにするためには,取りあえず一旦は費用を会社が負担することにせざるを得ないとは思うのですけれども,悪意重過失ありとなったときには,後から会社が返還を求め得る制度にはしておく方がいいのではないでしょうか。   費用とはいいましても,悪意重過失の場合まで補償を認めることは,インセンティブ付与ですとか人材確保という理由では正当化できないと思うのです。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   どうぞ,北村委員。 ○北村委員 ありがとうございます。   会社補償についての規定を新たに設けるかどうかという問題につきましては,前回,D&O保険のところでも発言させていただきましたのと同じく,これについてはネガティブに捉えて規制を強化すべきという意味ではなく,むしろ積極的に,新たな規定を設けるべきだと考えております。   まず,会社補償についても,D&O保険と同じように,利益相反取引についてのルールとは違うルールが適用されるということを明らかにするということに意味があると考えております。次に,先ほどから話題になっております民法650条があるのに会社法に規定を設けることの意味についてですが,民法650条は,「委任事務を処理するのに必要と認められる費用」というように,必要性を要件にしておりますが,部会資料4の14ページの1の(1)ア,イでは,「職務の執行に関し」となっておりまして,要件が違っています。私の理解では,今回の御提案の方が要件が広いと考えております。つまり,職務の執行に少しでも関連していれば,補償の対象になると理解することができると考えられます。   このように,会社補償について会社法に規定を設けることに総論では賛成でございますが,各論的に,少し細かいことを何点か申し上げたいと思います。   先ほど前田委員がおっしゃったことと関連いたしますけれども,費用の補償について,悪意重過失であっても補償はできるということでございますけれども,それについては,部会資料4の15ページの下の方に,悪意重過失であっても一生懸命防御することで,会社の利益につながるという理由が示されております。そうすると,会社の利益にならないような場合は,補償の対象にならないことになりそうです。会社の利益と関連させるのであれば,会社から一旦は補償したけれども,会社の利益にならない場合には会社は返還を請求できるという規制の仕方もあり得ると思います。以上が1点目でございます。   次に,部会資料4の16ページに書かれているところでございますけれども,会社が役員に対して訴えた場合でも,その費用が補償されるか検討すべきということですが,これを対象としてしまうと,相手に塩を送るというか,相手方の費用を会社が負担して訴訟しているということになりますから,なれ合い訴訟的になってしまいます。したがって,これは対象にすべきではないと思っております。   最後に,部会資料4の18ページの第2段落で,補償契約の内容や補償をする旨の議案について各監査役等の同意が必要とされています。同じページの第4段落にも同趣旨の記述があります。これは,責任一部免除制度にヒントを得たものと理解いたしますけれども,会社補償は利益相反取引の変種であると理解しますと,責任一部免除とパラレルな規制というのは必要ないのではないかと考える次第でございます。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   それでは,梅野幹事,どうぞ。 ○梅野幹事 1点質問と,1点意見にわたる発言をさせていただきます。   1点目の質問ですが,部会資料4の14ページの一番下から2行目の(2)の記述に関するものです。この(2)の趣旨といいますか,帰趨についてお伺いしたいと思います。   例えば,役員と会社が第三者に対して,連帯して責任を負うような場面を想定していただきたいのですけれども,ここに書かれているのは,役員が第三者に損害賠償を支払い,会社に補償を求める場合ですけれども,逆に,会社が第三者に損害賠償金を支払って,役員に求償する場合というのがあり得ると思います。ここの記載で意図されているのは,いずれの場合であっても,結論として同じことになるということかと思うのですけれども,その点をお伺いしたいなと思った次第です。   例えば,役員が善意無重過失でも,過失があるような場合は,会社が第三者に全額払ったようなときに会社は役員に請求できますが,逆に,この括弧内等を見ると,役員から会社に対する補償は求められないということなのかなと思うのですが,そういった理解で正しいでしょうか。会社法研究会報告書のインターネットで出ているバージョンの23ページを見ると,求償するときと補償するときとでは,賠償額に差がないようにするという考え方が示されており,その考え方を承継されていると思うのですけれども,その理解が正しいかどうかということです。   また,それに付随する質問ですが,427条に責任限定契約の定めがございます。例えば責任限定契約により,社外の役員が2年分の報酬額相当分は免責されるといった場合,今述べたようないろいろな場面において,その2年分は会社に補償を求めることができるとともに,会社からは請求されないという,そういう構造が維持されているのでしょうか。理論的にはよく分からないんですが,補償とか求償とか責任との関係をどう整理するかという点について,御理解をお伺いしたいというのが1点目の質問になります。   次に,2点目の意見ですが,既に前田先生あるいは北村先生から御発言があったように,15ページの下に,役員に故意又は重過失がある場合であっても,費用については会社が負担することを認めていいではないかという記載があって,これについては,個人的にどうなのかなと思っております。   その理由として,まず,株式会社の損害の拡大の抑止につながって,株式会社の利益になるということと,2番目として,費用であれば,職務の適正性を害するおそれが高いとまでは言えないということが記載されています。   先ほど,国際カルテルの問題が指摘されましたけれども,そういった場面で,例えば役員に故意があるような場合であっても,会社としては,会社を防御するために,弁護士費用等を含む多額な費用を持たなければならない場合があると認識していますし,そのような費用を実際に会社が負担して,会社を防御しなければまずいという事例が存在するということは理解しております。   しかし,故意でやったような場合まで,最終的に会社が持つということになると,これは額的にも相当な額になり得ますし,費用だから職務の適正性を害するおそれがないとは言えないように,個人的には思います。むしろ,資料の16ページ,下の方から10行目ぐらいですが,損害について,「悪意又は善意重過失の場合にも補償の対象としてしまうと,職務の適正性を害するおそれが高く」という記載がありますが,それと同様に考えるべきではないかと思います。   つまり,先ほど御紹介させていただいた損害の拡大の抑止ということは非常に納得感があって,なぜこういった費用を会社が出さなければいけないかというと,会社の損害の拡大を防止するために,会社が会社の費用として出すという理屈はよく分かりますし,出すことは認めるべきでしょう。けれども,先ほどからも御指摘があったように,故意の場合等において,それを求償しないということまでも言ってしまうのは,やはりモラルハザード等を招くおそれがあるのではないかという問題意識です。   ただ,この点に関しては,会社法研究会の報告書を拝見すると,故意と重過失を区別してはどうかみたいな考え方も示されていて,そういう考えはあり得るのかなとは思いつつ,果たしてそこまで踏み込んで,重過失の場合まで免責していいかどうかというのは,今後よく検討しなければいけないと思っている次第です。   少し長くなりましたが,以上です。 ○神田部会長 ありがとうございました。   御質問があったと思います。 ○竹林幹事 御質問のうち,前半の方で頂きました,14ページの(2)の趣旨ですが,これは梅野幹事から御指摘いただいたとおりで,会社が賠償して会社が役員に求償する場合と役員が賠償して会社が役員に補償する場合とのバランスをとろうということでございます。   続きまして,責任限定契約が締結できる場合との関係ですが,こちらは,例えば,免除される部分については補償ができるということでございまして,最低責任限度額として定められる金額は役員の方に負担していただいて,それを超える部分については補償もできるというようなバランスのとり方を考えているところでございます。 ○神田部会長 よろしいでしょうか。 ○梅野幹事 ありがとうございます。 ○神田部会長 ありがとうございました。   それでは,経済産業省の坂本課長,どうぞ。 ○坂本幹事 どうもありがとうございます。   会社補償に関しまして,当省の意見につきましては,本日,参考資料15ということでお配りいただいておりますので,簡単に概要のみ申し上げさせていただきます。   先ほど,何人かの委員からもございましたように,弊省の研究会で取りまとめをいたしました解釈指針におきまして,一定の整理がされていると思っておりまして,現状,モラルハザードですとか解釈上の疑義によって,何か実務上混乱が生じているといったような,特段の問題は認識をしておりません。こういった中で,仮に会社法上,明文の規定を設けるということであれば,少なくとも,現状の適切に行われている実務を否定することにつながらないような内容に是非していただきたいということでございます。   グローバル競争の中で,中長期的な経済成長を実現するためには,事務当局の資料にも入れていただいてございますように,我が国企業において,役員等として優秀な人材を確保し,その職務執行が萎縮することのないように適切なインセンティブを付与するという観点から,会社補償の持つ政策的な意義は,極めて重要だというふうに考えております。   こういった中で,会社補償がされるか否かについて,予見可能性が十分に確保され,これによって役員等が適切なリスクテイクが行えるようになる仕組みとして,実際に機能するかという視点や,あるいは欧米における法制度や実務に照らしまして,正にグローバル競争の中で人材獲得をしていかなければいけないという日本企業にとって,海外企業との競争条件のイコールフッティングの確保といった視点も踏まえまして,詳細は参考資料15の2から3ページ目に論点ごとに入れさせていただいていますが,重過失要件ですとか求償できる範囲との関係,あるいは取締役会の決議事項としてどこまで求めるか,あるいは開示事項をどうするかといったような各論点につきましては,会社法上,一律に規制をすることによる実務への実際の影響というところにも是非御配慮いただいて,慎重に御検討いただければと思います。   1点だけ,重過失要件につきましては,例えば和解で決着をしたような場合において,必ずしも善意無重過失であったということが確定されないような場合も想定されるのではないかと思います。こういった中で,一律に善意重過失の場合には補償はできないということになりますと,会社法違反となるリスクを恐れて,実際にはどうしても会社の側が補償の実行を過度に抑制してしまうというようなことも考えられるのではないかと思います。こうした影響にも御配慮いただいて,慎重に御検討いただければと思います。   ありがとうございます。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。   どうぞ,沖委員。 ○沖委員 ありがとうございます。   会社補償について,会社法中に明文の規定を置くかどうかですけれども,これは必要な手続を定めて,適法性を明確にすると。そのことによって予見可能性を高めて,安定的な運用が可能になるということから,会社法に明文の規定を置くべきであろうと思います。ただ,経産省の解釈指針の下で現在実務が進行していることは事実ですので,そういった実務は阻害しないようにする配慮も必要ではないかと思います。   したがいまして,冒頭に法務省からも御説明がありましたけれども,民法650条に基づく会社補償には影響を与えず,会社法中の規定は,その要件を満たせば会社補償が有効になる趣旨のものとして定めるべきであろうと思います。また,改正法の施行前に締結された補償契約や補償の有効性には適用されないというような,遡及適用しないというような扱いの検討も必要ではないかと思います。   次に,会社補償契約の対象でありますけれども,責任の追及,法令違反の手続の対象となった場合の費用については,悪意重過失があるか否かを問わず,対象としてよいのではないかと思います。その理由としましては,責任や罰金等の本体は,これは免除されないわけですし,そういったことから,職務の適正性自体を害するということはないであろうということ,また,自分に責任がないと考えて,責任を争った場合の防御費用を補償するということは,仮に結果的に故意重過失が認定された場合を含めて補償しても,インセンティブという観点からは,やはり望ましいのではないかと考えられるからです。   実際,過去に,役員等の責任が認定された事案で,判例を見てみますと,故意重過失があるかどうかという判断は,判旨や事案からそう簡単に分かるものではないといいますか,違法性の認識まであったような場合は,これは問題ですけれども,善管注意義務違反が問われたケースで,結果的に故意重過失まであるという認定を受けたような場合でも,実際は補償の対象にしてもいいような場合もあるかと思いますので,そういった意味からも,除外する必要はないというふうに考えております。   また,同じ理由によりまして,会社が責任追及をする場合の費用も対象としてよいと考えます。そういった場合でも,株主の提訴によるかどうかを問わず,費用の補償をすることは,インセンティブの観点から,対等に評価していいと考えるからであります。   あと,第三者責任の場合で,会社が役員に対して求償できる部分について,補償の対象外とすること,これは現行法の424条から427条までの規定との整合性からいいますと,やむを得ないところであると考えます。ただ,この結果,どうなるかといいますと,会社補償が可能になる場合には,第三者責任を役員等と会社が連帯して責任を負う場合ですけれども,その場合は,負担割合を超える部分,役員等の負担割合を越える部分か,又は役員等が責任限定契約を締結している場合に限られてくると思われます。   そうしますと,先ほど小林委員からも御指摘がありましたが,内部負担割合の解釈はなかなか難しいので,実際は責任限定契約を締結しないと機能しないのではないかと。そういうことからしますと,やはり業務執行取締役について,責任限定契約の締結を認めるかどうか,これをこの際,やはり正面から議論することが望ましいのではないかと,このように考えます。   あと,手続の面ですけれども,会社補償について,会社法の利益相反規制の規定を適用除外とすること,これはやはり認めるべきではないかと思います。その理由としましては,仮にこれを適用するということにしますと,会社補償の契約と因果関係にある損害,これが会社に発生したときは,この損害を何と見るかということがありますけれども,例えば補償した額そのものが損害になる,あるいは,補償の事由になった職務執行によって会社が受けた損害がほかにある場合は,そういったものも因果関係があるというようなことになってきます。すると,あとは過失が推定されますので,取締役会決議に賛成した取締役が,そういった損害について責任を認められてしまうということになってしまいます。そうすると,これは実際,酷な結果になりますので,会社補償契約については,御提案のような手続を実行すれば,利益相反規定を適用除外にする,これは認めていいのではないかと思います。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。   どうぞ,齊藤幹事,お願いします。 ○齊藤幹事 ありがとうございます。   まず,手続費用の補償対象から悪意重過失の場合を除くかという点ですが,確かに,中には,補償を全く否定するべき場合もあるとは思うのですが,悪意重過失の場合で線を引くと,利害調整がうまくいかない場合もあるのではないかと思われます。例えば,裁判で悪意が認定をされて請求が認容されたとしても,それまでの訴訟活動が功を奏して,原告が主張していたよりもかなり狭い範囲で収まっているというような場合もございますが,手続に掛かった費用のどこまでが悪意と認定された部分に係るもので,どこからがそうでないかを算出することは必ずしも容易ではありません。相当と認められる額というキーワードで制約を設ける案がよいのではないかなと思われました。   もう一つは,業務執行権限を持つ者に責任限定契約の締結を認めることですが,学界には,反対のお考えをお持ちの方もいらっしゃることは承知しておりますが,私は,改正論議のアジェンダに載せることにつき,前向きに考えてもいいのではないかと思っています。現行法に425条や426条が設けられているのにもかかわらず,これがほとんど機能していないことについては,何らかの手を打つ必要があると思います。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。今日はまだ時間は十分あります。論客の皆さんが,ちょっと静かな感じがしますけれども。   田中幹事,お願いします。どうぞ。 ○田中幹事 先ほど来,意見が非常に分かれていて,果たして立法ができるかどうか微妙だなと思い,難しい問題ですので,発言を控えていたんですが,部会長から促されましたので発言させていただきます。   この問題について立法ができない可能性が出てきましたので,もし,立法できなかったときに,現行法の解釈としてどうなるかというのが,かなり重要になってくると思います。確かに経産省の解釈指針の下で,実務上はこういう契約をしているかと思いますが,あの解釈指針は,利益相反取引の規制の適用があるかどうか,それから,補償の範囲がどこまで認められるかなど,解釈上の重要問題が詰められないままに公表されているというふうに思っておりまして,もしこの問題について立法されない場合に,特段の制約もなくこうした補償契約を広範に結べるようになるというふうには必ずしも考えない方がいいのではないかと思います。   以下では,飽くまで私見ということで,現行法の解釈についての私の考えを申し上げます。私は以前から,民法650条によって会社が補償の義務を負う場合に加えて,会社は補償の義務を負わないんだけれども,職務遂行上,合理性のある支出については,会社がこれを費用と認めて支出することができる場合があると考えておりまして,それについては,商事法務のコンメンタールにも書いたのですけれども,そのような会社の判断によって支出できる費用については,会社が事前に補償契約をするということも認められるのではないかというふうに考えております。   ただ,その場合,費用として会社が支出するという判断が合理的である場合に限って認められると思っておりまして,具体的には,役員が軽過失によって第三者に対して責任を負う場合については,現在の高度に複雑化された会社業務においては,誠実に業務執行の判断をしても,なお軽過失による責任を負わされることはあり得ると思いますので,これを補償するのは,職務遂行上の費用として,補償をすることに一定の合理性があると考えますので,これはできると思っておりますが,そこまでしか私は考えておりませんで,重過失の責任についてまで補償ができるとは思っておりませんでした。既存の学説でも,重過失までできるとしている学説は,必ずしもなかったのではないかと思います。そういったことで,補償ができるとしても,軽過失による責任までではないかなと思っております。   それから,もう一つは,会社法423条との関係でありまして,会社は確かに軽過失に補償することはできるんですが,423条1項の責任が生じているときに,その責任追及と補償義務を相殺するということは常にできると考えておりまして,会社が相殺を主張しないで補償だけをすることは,それはもちろんできるのですけれども,その場合は,株主が代表訴訟で責任追及することは妨げられないと考えております。   このことは,現行法の解釈では,第三者に対する責任を負担した,その負担額だけではなくて,訴訟費用についても同じだと思っていまして,訴訟費用についても,契約上,会社がそれを負担した場合に,役員に重過失がある場合は,やはり重過失によって生じた会社の損害なので,現行法上は,役員に重過失があるときは,訴訟費用についても,最終的に会社が全部負担することは許されないのではないかと思っています。   それから,最後に,利益相反取引についてですけれども,私が現行法の解釈として考えていたのは,会社は補償契約をすることができるということだけであり,利益相反取引規制に掛からずにできるとは考えておりませんでした。やはり,会社が第三者に対して,本来取締役が第三者に対して支払うべきものを会社が支払って,取締役は負担を免れるわけですから,会社と取締役の利益は相反することは明らかだと思います。   確かに,補償することで有能な役員の登用が可能になるとか,業務執行上,萎縮効果が生じないとか,そういう会社にとっての利益になることはあり得ると思いますけれども,利益相反取引規制は,一般的に会社と取締役の利益が相反するときは全て適用されますので,そういうふうに,補償契約が会社の利益になることがあるというだけでは,この規制の適用を免れることはできないと考えております。したがって,会社が補償契約を締結する場合は,取締役会設置会社では取締役会の決議,非取締役会設置会社では株主総会の決議が必要になると思います。   補償契約は利益相反取引規制に掛かるわけですので,会社に損害が生じたときの任務懈怠の推定(会社法第423条第3項)も及ぶと言わざるを得ないと思っております。そのときに,補償契約により会社が支出をした場合に会社に損害が生じたと言えるかどうかということなんですけれども,補償契約をしなければ会社が支払わなくてよいものを,補償契約したから支払っているのだとすると,やはり会社の財産状態が,それによって減少していますので,損害があるというふうにやはり考えざるを得ないと思っていまして,任務懈怠の推定も及ぶと思っております。   もちろんそれは,常に責任を負うということではなくて,任務を怠らなかったことを証明すれば責任を免れることができます。具体的には,補償契約を締結する時点において,補償することが合理的であったということを主張・立証することで,任務懈怠の推定を破ることができると考えておりますが,ただ,これについては,補償契約は会社と取締役の利益が相反する契約であり,利益相反が存在する場合には経営判断の原則の適用はないというふうに思っておりますので,役員としては,補償契約が会社の利益になるということを主張・立証しなければならないということになるのではないかと思います。   これがちょっと,私が理解する限りでの現行法の解釈ですが,現行法の解釈を一応ベースにして,何らか立法した方がよくなるかどうかということを考えるべきかと思います。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。   野村委員,どうぞ。 ○野村委員 今日は黙っていようと思ったんですけれども,何か促されたので,時間があるということでしたので。   一つには,まず,手続費用に関してのところですけれども,重過失がある場合について,補償することが是か非かという問題がございましたが,この点に関しては,やはり費用に関しては,自分の負担をゼロにしようと思ったら,応訴費用を掛けないという選択肢もあるわけですね。要するに,認めてしまうという形で,実際,訴訟を真面目にやらないで,これはもう請求額も小さいし,相手方が請求しているのは,言わば,ある意味では,何というんでしょうか,世直し訴訟的な形で,実際に損害額をというよりは,会社のやった行為を裁判所で不当だということを認めさせようというような,そういう訴訟が起こっているときに,金額が小さければ,かえってそこは認めてしまって,私自身悪うございました,会社も悪かったですという形に収められてしまうという選択肢が残っている以上は,やはりある程度,重過失と言われる可能性があった場合であったとしても,きちんとした応訴をしてもらうというために,会社側の方が費用負担するという姿勢があってもいいのではないかなというふうに考えています。   それから,もう一つは,先ほど出てきました責任限定契約の話なんですけれども,確かにこの場面で議論をしていて,求償の話が出てくると,やはり求償の分担の話で,結局ゼロ,100になってしまったりとか,逃れられないという話が出てくるという,この議論は分かるんですが,もし責任限定契約という話になってしまいますと,一般論になってしまいますので,そもそも事後的な免責ではなく,事前に業務執行する人に,事前から責任が限定できますよということで行動してもらうという,そういう制度設計は,やはり望ましくないのではないかなというふうには思います。   今の段階でも,事後的に免責を受けたいということであれば,それなりの手続をきちんと踏むということになっていて,これは会社法研究会の最初の頃の資料にも出ていましたけれども,デラウェアの会社法の中でも,オフィサーにはそれは認められていないと,責任限定契約は認められていないという,確かそういう制度設計だったのではないかなと思います。それはやはり,業務を執行する人については,あらかじめ責任がまるっきり限定できるということを踏まえた上で行動してもらうというのは,不合理だという判断ではないのかなというふうに思いますので,その点は,そう軽々には認めない方がいいのではないかなというふうには思います。   一番の問題となっています,ルールを設けない方がいいのではないかという,この議論に関しては,私も田中さんが今おっしゃる前に,同じようなことを申し上げようかなというふうには思っていました。不明確な部分について,いろいろ田中先生がおっしゃった以上のことは,私は何も申し上げることはないんですけれども,私はやはり,今の現行の状態ですと,利益相反取引規制は掛かっているというふうに,多くの会社法学者は考えるのではないかなというふうに思っていて,それをやらずにいるというのは,非常に気持ち悪い不安定な状態ではないのかなというふうには思います。少なくとも,立法化するときには,利益相反取引規制というものは適用がないということは,きちんとどこかで書かなければいけないと思います。   そうなれば,手続の中に利益相反規制と同視したような形の意思決定手続というのが必要かどうかということは,当然議論しなければいけないでしょうから,重要な業務執行の一環として,取締役会の法定決議事項の中に記載するというようなことぐらいは,やはり一般的には求められてくるのではないかなというふうには思っているところではあります。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。   どうぞ,尾崎委員。 ○尾崎委員 私も少し黙っていようかと思っていたのですが,一言意見を述べさせていただきます。基本的に今日の前半と後半,私,賛成でございまして,あらゆる面で,提案されている方向性が大事だなと思って,法務省の方にもその旨伝えておりまして。   まず大事な話は,実務がこういう形で進んだとしても,それが本当に法的にいいんだろうかという点で,安心を与えないと,本当のリスクテイクもできないのではないかと思っております。これだけ解釈上のいろいろな対立とか考え方がいろいろとあるとするならば,やはりある一定のルールを設けておいた方が分かりやすい,つまり,会社補償に関する会社法の規定があった方がいいんだろうなということについては,私もそのとおりだと思っております。   そのときに,会社法の規制としては,先ほど来からの,野村先生もおっしゃったように,やはり利益相反の部分,どうしても引っ掛かってくる部分がありましょうし,例のモラルハザードの問題だとか,いろいろな形で思う人は,いろいろといらっしゃると思うんですが,その点において,手続規制を入れるということは絶対必要だろうと思っております。   したがいまして,こういう手続規制を入れて,これにおいて幾つかの疑義が解消できるならば,それで適切なリスクテイクをし,インセンティブを与えるという方針を安心して行えるのではないかということで,その背中を押すということにおいても,やはり立法化し,会社法に全く根拠がないというのではなくて,会社法の手続に従って,そういう行動をとればよろしいというふうにすればいいのではないかと思います。つまり民法の解釈だとか,いろいろな点で,様々な思い方があるわけでございますが,この立法の方向で進めていただければというのが,総論的には思っております。   費用の問題に関しましては,先ほど来から出ておりますように,応訴のメリットというのが私に大変響いております。やはりいろいろな点で,国際的な問題だとかいう,国際カルテルの話なんか出てきたわけですが,こういう場合に応訴するということは,個人の責任だけではなくて,会社のメリットにもなっており,そのための膨大な費用を払ってもらえるということは,一生懸命応訴するんだろう,ということだと思います。   また,不意に被告になってしまったりとかいう,巻き込まれたという言い方が出てきたわけでございますが,それも少し本人に過失があるのかもしれませんが,そういったときにも,やはりある程度,費用は負担してもらえるという制度をきっちりと作っておくということは,大変重要なことではないかというふうに考えております。   損害賠償の話,これはなかなか難しい部分がありまして,私自身は余り定見を持っておりませんが,そういった部分についても,この際,どこまでまとめて議論ができるか分かりませんですけれども,私としては,こういう,全く会社法に何もなかったものについて,明確な規定を置いていくという,この議題以外にも,この部会全体として,そういう方向性が幾つかあるわけですが,この部分についても,会社補償に関する部分,D&O保険に関する部分,やはりこういうものを表から正式に手続規制とか,こういった形,そして開示の問題も,一体どこまで開示すればいいのかと,それぞれ実務の方から議論がありましょうが,開示という方向は私も賛成でございます。ただ,どこまで開示するかは,それぞれいろいろな議論があるということで,提案を頂いておりますが,私としては,まだそこの具体的な定見はございません。ですけれども,方向性としては全面的に,こういう方向で行くべきだと思っております。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   加藤幹事,どうぞ。 ○加藤幹事 ありがとうございます。   既に事務当局の御説明にもありましたけれども,民法650条に基づく補償とは別に,会社補償に関する規律を整備する意義として,既に他の委員,幹事の先生方が御指摘のとおり,やはり会社法の利益相反取引規制が適用されないことを明確にするということがあると思います。   経産省の指針でも,実際に推奨されているのは,補償契約を締結して,それに従って補償するというものであったかと思います。しかし,補償契約というのは会社と取締役の契約であって,これは先ほど田中幹事から詳細な御説明があったとおり,日本の会社法356条は,会社と取締役の取引は原則として全て利益相反取引規制の対象となるとしているわけであります。   その内容が合理的であるとか公正であるとかということは,少なくとも,356条の取引に該当するか否かとは関係なくて,同条は非常に形式的に適用範囲を画していると考えられてきたと思います。そうしますと,補償契約というものを締結するということ自体,やはり356条又は365条が適用される可能性がある類型の取引なのだと思います。   しかし,356条や365条の取引に適用される規制が,会社補償の規制として,重過ぎる可能性があるように思います。したがって,結局,356条や365条の取引ではないとした上で,どのような制度を整備すべきかを検討することが必要なのだと思います。   そういった観点から,現在の利益相反取引規制と今回御提案いただいた制度案を比較してみると,例えば,利益相反取引の場合には,契約締結時に株主総会又は取締役会の承認がされれば,履行の際に改めて承認が必要であるとは解されてないように思われます。したがって,補償の場合に,なぜ,2回も承認決議が必要なのかということが問題となるように思います。   さらに,開示の話についても,全ての利益相反取引について開示が要求されているわけではありません。そうすると,なぜ補償だけ開示を要求するのか。それが356条や365条の取引を対象とする規制に代わる措置として必要なのか,そこまでする必要があるのかどうかということについて,いろいろと御意見があったということかと思います。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。なかなか難しい問題のようですけれども。   稲垣委員,どうぞ。 ○稲垣委員 すみません,法律論ではなくて,もっと一般論で,事業会社出身の者として,ちょっと一言申し上げたいと思います。会社補償とかD&O保険と同様に,役員等として優秀な人材を確保するためにということが一つ挙げられているんですけれども,こういったものというのは,今日,優秀な人材を確保するということよりも,そもそも,そういった人材を確保するために必須のものになっているという理解で捉えていく必要があると思います。   特に上場企業におきましては,社外の役員の方の数が増えてきて,これからも増えていきます。そういったときに,私もアメリカの企業の方と,いろいろと意見交換させていただくときに,やはりそもそも,なり手がいないと。それから,なっていただくにも,何年か掛けて会社を説明して,D&O保険とか会社補償を含めて説明していかないと,なかなかなってもらえません。そういった中でということになりますと,これはむしろイレギュラーな状態ではなくて,もう基本的なこととして,そういった制度を準備しないと,人材を確保できないという現状があると思います。   そういった考え方からいきますと,適切なインセンティブを付与するという意義が認められるとあります。そうなのかもしれませんけれども,これそのものはインセンティブではなくて,インフラそのものだと思います。   ですから,そもそも会社が補償できる,あるいはD&O保険を用意できるということは,これは当然のことであるべきであって,そういった中で,どういった場合には補償ができない,あるいは,どういったものだとD&O保険は掛けられないという,むしろそういう考え方で進めていかないといけないと思っております。将来の日本のガバナンスとか,そういった管理監督機能,あるいは将来の会社の成長性,収益性をもっと強化していくという意味においては,そういった考え方で会社の方の制度設計もしていかないと,やはりいい社会とか経済というのは作れないのではないかなと思っています。   すみません,非常に法律とはかけ離れた議論なんですけれども,ちょっとそういった考えを持っていますので,発言させていただきました。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   大分いろいろ御意見をいただきましたけれども,いかがでしょうか。なかなか難しい問題のようですので,できるだけ多くの方から御意見を頂けると有り難いとは思いますけれども。   中東幹事,どうぞ。 ○中東幹事    稲垣委員の会社法制はインフラであるという御発言は,これまでの様々な御意見を拝聴していると,議論のあるべき方向性を示すものであると理解しました。   その点で,解釈指針について,参考資料15では,「解釈上の疑義により実務が混乱していると言った特段の問題が生じているとは認識していない」とされていますが,解釈指針に沿った実務に対して委員・幹事から少なからず疑義が示されており,最終的には裁判所の判断によることになりますが,もしも裁判で否定されることになれば,かえって大きな混乱が生じてしまうと懸念しています。今は確かに特段の問題が顕在化していないかもしれませんが,みんながやっているからこのままやっていこうということにすると,最終的には大変なことになる可能性もあり得るかと思いますので,明文規定を置くという方向にしていくべきではないかと思っています。   明文の規律を設ける必要はないとの御意見の委員におかれても,安定的に運用できるインフラは何かという観点から,更に御検討いただくことができるのであれば,議論が深まると思います。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。   青委員,どうぞ。 ○青委員 この点に関しましては,D&O保険と同様のイメージで考えておりまして,会社補償というものは,取締役がリスクテイクをしながら,業務執行に専念できる環境を作るために重要な制度であると考えております。   先ほどから出ておりますように,会社法上の規定を設けた方が,より法的安定性があって,しっかりと補償がされるということが確保できるということであれば,取締役に適切なリスクテイクを促すことに役立つのではないかと考えられますので,立法化を目指す方向性が良いのではないかと思います。   ただ1点,その前提としまして,先ほどからございます利益相反取引規制の適用を外すという形になるということで考えますと,利益相反の懸念を克服するという観点からいけば,そうした懸念が克服されるかどうかという点が分かる程度の情報につきましては,対外的に開示していくことにより,モラルハザードが起きないように,あるいは正当な判断が行われているということが外部から分かるようにして,利益相反の懸念を克服できるよう担保するのが適当ではないかと思います。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。特によろしゅうございますでしょうか。   そうしましたら,いろいろ意見を頂きましたようで,どうも意見が収れんに向かっているとはちょっと思えないのですけれども,第一読会ということでもございますので,本日はこの辺りとさせていただければと思います。皆様方からは休憩前のテーマを含めて,大変多様な御意見をたくさん頂きまして,ありがとうございました。   それでは,次回の日程等につきまして,事務当局から御説明をしていただきます。 ○竹林幹事 次回の日程でございますが,平成29年9月6日水曜日午後1時30分から午後5時30分まで,法務省20階第1会議室を予定しておりますけれども,こちらにつきましては,もし変更等生じましたら,御連絡を差し上げるということとさせていただきたいと思います。   次回は,社外取締役を置くことの義務付け,その他の規律の見直しに関する論点について御議論いただきたいと考えております。   以上でございます。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   それでは,以上で,この部会の第4回会議を閉会いたします。本日も大変熱心に御審議いただきまして,ありがとうございました。これにて散会いたします。 -了-