法制審議会 民法(相続関係)部会 第21回会議 議事録 第1 日 時  平成29年5月23日(火)自 午後1時30分                      至 午後5時49分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  民法(相続関係)の改正について 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○大村部会長 それでは,定刻になりましたので,法制審議会民法(相続関係)部会第21回会議を開催いたします。   まず,最初に事務当局より配布資料の説明をお願いいたします。 ○神吉関係官 それでは,本日の配布資料について御説明させていただきます。机上の配布資料目録のとおり,本日の資料は2点ございまして,事前に送付させていただいた部会資料20-2,「積残しの論点について(1)(補論)」と題する資料と,部会資料21,「積残しの論点について(2)」と題する資料となっております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   本日は,今,御説明がありました「積残しの論点について(2)」を検討していただきますけれども,その前に「積残しの論点について(1)(補論)」と,それから,前回,最後に時間が足らなくなった遺留分に関する部分がございます。この遺留分に関する部分をまず終えまして,その後に本日の中心の話題である「積残しの論点について(2)」の方に入りたいと考えております。   前回の続きの議論ではございますけれども,(補論)につき新しく資料が出ておりますので,その点につきまして事務当局の方から御説明を頂きます。 ○神吉関係官 引き続きまして,関係官の神吉から部会資料20-2につきまして御説明させていただきます。   こちらは前回の議論の補足という位置付けの資料でございますが,第16回部会及び前回の部会におきまして,指定財産の放棄を認める制度を設けるべきではないかという御意見を頂きましたので,事務当局において,その検討結果をまとめさせていただいたというものでございます。   基本的な考え方ですが,甲-3案の考え方によりますと,受遺者又は受贈者の現物給付の意思表示により,目的財産の権利が移転すると同時に,金銭債務の全部又は一部が消滅することとなりますが,遺留分権利者がその意思表示を受けた時から2週間以内に当該目的財産の権利を放棄する旨の意思表示をしたときは,目的財産の権利移転のみが遡及的になかったことになる,金銭債務が消滅したという効果自体は覆らないという考え方となります。   このような考え方を採用いたしますと,請求の放棄に条件を付することができるか否かという理論的な問題は生じないことになりまして,また,遺留分権利者が不要なものを押し付けられるリスクは少なくなると言えるかと思います。   以上が部会資料20-2の御説明となります。   引き続きまして,前回,御質問がありました何点かの御質問について,この場で御回答させていただきたいかと思います。まず,増田委員から,受遺者等による現物給付に関しまして,遺留分権利者との事前交渉におきまして,これで返す,あれで返すなどと話がされることが想定されるところ,どの段階で指定権の行使があったと考えるのか,そのような御質問を頂いたかと思います。   この点につきましては,部会資料16の11ページ以下で検討を行っているところですが,考え方といたしましては,相殺の抗弁における考え方と同様に考えることができるのではないかと考えております。すなわち,相殺におきましては金銭債務の額等について当事者間で争いがある場合に,反対債権による相殺を前提とした協議をしていたといたしましても,実体法上,相殺の意思表示をしたことにはならないとの解釈がされることになるのではないかと考えられることから,現物給付の目的財産について協議を行っている段階では,現物給付の意思表示をしたことにはならないという柔軟な解釈をすることもできるのではないかと考えているところでございます。   また,現物給付の指定の意思表示について,予備的抗弁として行使が可能かどうかという御質問を頂いたところでございます。この点につきましても相殺の抗弁と同様に,現物給付の抗弁につきましては予備的抗弁として行使することも可能であると考えております。すなわち,主位的には遺留分減殺請求権から発生する金銭債権の存在・額を争うとともに,予備的に現物給付の意思表示をするということも可能ではないかと考えております。この場合における現物給付の効果が生じる時期につきましても,相殺の抗弁を予備的に行使した場合と同様であるものと考えられ,基本的には金銭債務に係る訴訟の口頭弁論終結時に効果が発生するのではないかと考えているところでございます。   また,山本幹事から部会資料20の45ページの(注2)に関しまして,A説,B説があるが,この点はどう考えるべきかという御質問を頂いたかと思います。この点につきましては,基本的には遺留分減殺請求権の行使により生ずる権利を金銭債権化した場合には,特段の規定を設けない限り,B説のような帰結になるのではないかと考えているところでございます。部会におきましては,実質論としてA説がよいのか,B説がよいのかということを御議論いただきまして,なお,A説がよいということのコンセンサスが取れるのであれば,A説が採用できるような規定を考えると,そういったことになるのではないかと考えているところでございます。   以上,前回の御質問につきまして簡単に御説明させていただきました。御議論をよろしくお願いいたします。 ○大村部会長 ありがとうございました。   前回,積み残しになっておりました放棄に関する点の補足及びそれに伴う御説明と,増田委員,それから,山本幹事から御質問が出ていた点についてのお答えを頂きました。順番を設けるわけではございませんが,中途で終わっておりました放棄に関する点につきまして,先ほどの御説明を踏まえまして更に御発言を頂ければと思いますが,いかがでございましょうか。前回,時間が足らなくて発言しようと思っていたけれども,発言できなかったという方もいらっしゃるかと思います。どうぞよろしくお願いいたします。 ○中田委員 放棄についての御議論が終わってからと思っていたんですけれども。恐らく今回の放棄の修正案については,御賛同される方が多いのかなと想像しておりまして,甲-3案プラス放棄を認めるという修正案で収束していく方向かなと思っております。ただ,なお,私自身は不安を感じておりまして,それは制度趣旨の理解と,それから,現実の利用のされ方の面と,この両面で不安がございます。   制度趣旨の理解についての不安というのは,一つは甲-3案あるいはその修正案ですと,遺留分減殺請求権の性質をどう理解すべきことになるのかということでございます。法定相続分の最小限の保障といっても,この制度では形骸化されるだろう,それから,遺留分減殺請求権者の生活保障といっても,それは実現できないことになるだろう。そうだとすると,今回の新たな遺留分減殺請求制度というのは,どのような目的で,どのような制度のものとして理解したらいいのかというのは,十分,まだ理解できていないということがございます。   それから,もう一つの不安は特に高齢の配偶者の保護という,この部会の基本的な考え方と衝突する場面が出てくるのではないかということでございます。被相続人が配偶者以外の者に全財産を与えた場合に,高齢者の立場は現在よりも弱くなるのではないか,改正の方向について一貫性があると言えるのかどうかという点でございます。これが制度趣旨の理解についての不安です。   現実の利用のされ方についての不安は,不要なものを押し付けるという行為が増えるのではないかということです。また,そのことを制御しにくくなるのではないかということです。もちろん,現行法の下でも同じように遺留分権利者が害される状態が生じ得るというのは,御指摘のとおりだと思うんですけれども,しかし,それは余り一般的に多いことではないですし,だからこそ,最終的には権利濫用で対応できると思います。   しかし,今回の甲-3案あるいはその修正案ということですと,不要な財産を遺留分権利者に与えて嫌だったら放棄させる,しかし,金銭は与えないということになりますと,不要な財産を遺留分減殺請求をした者に与えることは,むしろ,正当な態度だというように評価されて,権利濫用となる可能性は極めて少なくなるのではないか。特に今回の修正案のように,更に制度が精練されていけばいくほど権利濫用ということはなくなると思います。そうすると,結果として受遺者や受贈者の行動に自制心を働かせる余地が少なくなって,より苛烈な態度をとることを助長して,紛争を激化させるおそれはないだろうかという不安がございます。   ただ,私自身に自信がないのは,そういった不安は私の個人的な主観的なものにすぎないのではないかなと思うことにあります。多分,根本は前に西幹事がおっしゃったと思うんですけれども,法定相続分を原則と考えているのに対して,むしろ,遺言による相続の方を原則と切り替えた場合には,別におかしくも何ともないではないかということになるかもしれないんですが,ただ,そこの切替えについて果たして一般にそのような意識が伴っているのだろうかということがよく分かりません。ですから,できましたら,パブリックコメントをもう一度,なさるということですので,そこでどう聴いたらいいのか分からないんですけれども,遺言相続を原則にすることとか,あるいは今回の遺留分減殺制度の見直しについて意見が出るような形でお聞きいただければいいかなと思っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   事務当局の方からいかがですか。 ○堂薗幹事 御指摘のような面はあろうかとは思いますが,ただ,こちらとしては遺留分制度の趣旨自体を,これによって根本的に変えるということにはならないのではないかという認識を持っております。現行法の下では,例えば,遺贈の対象となる財産がたくさんあった場合には,それらの財産の全てについて共有になるわけですが,生活保障の観点からしますと,非常に換価が難しいということにもなりますので,現行法においても,一般に,遺留分権利者の生活保障という趣旨が含まれていると理解されておりますが,今回の見直しによって,遺留分権利者が取得する権利が原則金銭債権化され,そうではない場合にも,共有ではない形で現物給付を受けるということになりますので,一概に現行法と比べて生活保障という側面が弱くなるということにはならないように思われます。また,最低限の取り分の保障というところにつきましては,中田委員もおっしゃっていたように,現行法の下でも,例えば,受遺者が一部要らないものについて最初から遺贈の放棄をしていたとか,あるいは,被相続人の方で,遺留分権利者はあまり欲しくないけれども,一定の価値のある財産を残していて,それで遺留分の侵害はないというような場合には,それで満足せざるを得ない地位にあるということでございますので,遺留分制度の趣旨を根本から変えるということではないのではないかと考えております。 ○神吉関係官 若干,補足して御説明させていただきます。先ほどの中田委員の御疑問というのは,そもそも,遺留分減殺請求権から発生する権利を物権的効果から金銭請求権にすると改めることによって,遺留分権利者の権利が弱まることについて,どのように考えるべきかということになるかと思います。そのことについては前回の中間試案の際のパブリックコメントにおいて,同じような考え方をお示ししておりまして,国民の意見を聴いているわけでございますが,その点については国民の寄せられた意見でも,大半は金銭請求権化に賛成しているということからすると,この点については,それほど懸念が示されているというわけではないのかなと,そんな認識でおるところでございます。 ○中田委員 前回,甲-2案と甲-3案を御提示いただきまして,甲-2案の方はまだ裁判所のチェックが働く余地があるのに対して,甲-3案はむしろ思い切った非常にはっきりした案になっていると。これに伴う現実の使われ方ということからいうと,単に物から金銭にというだけではなくて,より大きな影響が出てくるのではないか。それが何か落ち着かないと感じるのは,多分,最終的には遺言による相続を主として考えるというところに,実はシフトしているのではないかなと感じたからです。ですので,単に現在の物を中心にして金銭を補充的にという,それを逆転するということについての賛同は得られたからといって,その先については必ずしもはっきりしていないのではないかなと感じた次第です。 ○大村部会長 ありがとうございます。   この点につきましてほかに御意見はございませんか。 ○増田委員 遺留分減殺請求権の金銭債権化という点につきましては,パブリックコメントで賛同が得られたと思いますが,中田委員のおっしゃるとおりで,その先のことです。不要な物の押し付けにより,紛争が激化するだろうと予測されることは正にそのとおりだろうと思うんです。かつて,純粋に金銭債権にしたらどうかというような考え方もあったかと思うんですが,パブリックコメントの段階では裁判所が選択する制度にするのか,現物返還と金銭による補償とを現行法と逆転するかという二者択一の中で消えていたわけです。けれども,ここまで進んだ制度にするのであれば,むしろ純粋金銭債権という考え方もあり得るのではないかと,そうしたところで,それほど不都合はないのではないかと思うんです。物を代わりに指定することができるということによって,遺留分権利者とすれば金銭債権よりも不利な立場に置かれていることになるのではないかという気がするので,そういうのも改めて考えていただいてもいいのかなと,ここまでくるのであればという気がしております。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○潮見委員 増田委員がおっしゃったことと全く同じようなことを申し上げるつもりでした。今回の甲-3案の修正案というのが出て,基本的にこの考え方を私は理解できます。ただ,ここまでやるのであれば,当初の案のように完全に金銭債権化してしまうという選択肢もあっていいのではないかと思います。先ほど堂薗幹事がおっしゃられましたように,現物というところに注目した主たる理由というものは,基本的に遺留分減殺請求の相手方が,金銭請求権ということにした場合には,渡すべき金銭を調達しなければいけない,その部分についてのコスト等が掛かるから,それを手元にある現物を渡すことによって回避するという,そういう側面があったと思うのですが,今回の特に甲-3案の修正案でいけば,それに対して遺留分減殺請求権者の方がノーと言えると,ノーと言ったら金銭債権という形で処理していくということに進むと思うんですよね。   そうなってきたら,基本的にこういう迂回路というか,迂遠なルートを使うよりは,一律に金銭請求という形で処理してもいいのではないかと。微妙なところの違いは分かりますけれども,ここまでくるのであれば,金銭債権にしたらどうですかとも思ったところです。いずれにしても,遺留分減殺制度をどう捉えるのかという観点からは聴く必要はないと思いますけれども,結構,今回の議論の中で変わったところが出てきますので,何らかの形で個別のルールでもいいと思うので,パブリックコメント辺りに掛けていただくことが望ましいとは思います。 ○堂薗幹事 パブリックコメントにつきましては,前回も増田委員の方から御指摘がございましたので,事務当局で現在検討しているところではございます。また,従前の案との関係からいきますと,元々,単純に金銭債権化すると,受遺者又は受贈者が金銭を用意できない場合に困るのではないかということで,現物での返還を可能にするという考え方をお示ししていたわけですが,そういった意味では,中間試案の案よりも,更に受遺者,受贈者側の権利を保護する形にしているわけです。他方,単純に金銭債権化するということになりますと,今度は方向としては逆になり,中間試案よりも受遺者,受贈者側の利益をより考慮した制度設計だったのが,逆に,むしろ中間試案よりも遺留分権利者の保護を強く図るという制度になるのではないかと思いますので,流れとしては中間試案以降の議論とは,むしろ,逆の方向にいくのではないかと思います。   今回の甲-3案では,遺留分権利者が指定された財産の放棄をした場合も,先ほど御説明しましたとおり,金銭債権は消滅したままということになりますので,そういった意味で,今回の甲-3案というのは,受遺者側の利益に配慮したものとなっておりますので,今回の案にするぐらいであれば,金銭債権で例外をなくした方がいいのではないかというのは,若干違和感があるところでございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   そのほか,いかがでございましょうか。 ○南部委員 関連しないのですが,よろしいですか。甲-3案なのですけれども,⑤にありますように移転した目的財産に関する権利を放棄することができる期間が,現物給付の意思表示を受けてから2週間以内ということで限られております。この期間が妥当かどうかについて少し疑問を持っておりまして,基本的な考え方では,指定された財産が不要か否か,さほど時間を要さずに判断することができると書かれております。しかし,一般に働いている人で2週間以内に物件を見に行く場合,遠いところであれば休暇を取らなければならないとか,土日に行かなければならないという制約がある中で,指定された財産の価値を見極めるのに要する時間が2週間というのは本当に妥当かどうか,そして,価値を判断するには専門家の意見など,いろいろな方々に相談する時間も加味していいのではないかと一般的には思うのですが,それについてもここで議論されるか,それともパブリックコメント等で聴いていただけたらと思っております。 ○神吉関係官 この期間については,さほど2週間にこだわる趣旨ではなくて,別の考え方もあるのだろうなとは思いますけれども,ただ,遺留分権利者としましては,当初の金銭請求をする段階で受贈物の価値とか,特別受益の価値についてはそれぞれ把握して請求することになるかと思いますので,受遺者側がこれで返したいと言ってきた場合には,その物の価格がどれくらいなのかというのは,自分で取りあえずは算定しているということが前提となっているのではないかと思います。その価値が著しく低いのか,それなりに価値があるのかということは,遺留分権利者としてはある程度は分かっているだろうという前提で,一応,2週間という期間はそれほど短くないのではないかということで考えているところではございますが,ただ,それについては,いろいろもう少し慎重に検討する必要があるということであれば,もうちょっと,例えばそれを1か月にするとかいうことは,あり得るかもしれないとは思っているところでございます。その点についても御意見があれば,もちろん,遠慮なくおっしゃっていただければと思います。 ○南部委員 今,おっしゃったように受贈者が受けた価値や特別受益の価値について把握した上で請求される方はいらっしゃると思うのですけれども,一般的には相続できる財産がなくてびっくりしたから請求するという方もいると思うので,そこは慎重に検討していただいた方がいいかなと思います。2週間は一般的に見ると非常に短いような気がします。 ○大村部会長 ありがとうございます。   中田委員の御発言から始まった一連の議論ですけれども,考え方としては甲案ないしそれに一定の修正を加えたような案に落ち着くのではないかということを前提にした上で,これがどう機能することになるのか,要らないものを押し付けるということが頻繁に生ずるようであると,遺留分権利者の地位は,我々が考えているのよりも,もっと不利なことになるのではないか,それは当初の意図から外れていくことになりはしまいかという問題提起をいただいたと思います。   弊害がどのくらい生ずるのかというのは,なかなか,予想し難いところがあるわけですけれども,予想し難いということであれば,こういうことが起こり得るということを示して,もう少し意見を聴いてみたらどうかというのが中田委員のおっしゃったことかと思います。南部委員は,遺留分権利者が不利になることがあるのだとしたら,仮にそうならざるを得ないとして,手続についてもう少し余裕を持たせることによって,せめて何とかできないかという御趣旨だと伺いました。   ほかに何かこの点につきまして御意見がありましたらいかがでしょうか。 ○増田委員 南部委員のおっしゃることはよく理解できるところでして,2週間というのは恐らく一般的に働いている方から考えれば短いのではないかと,何も理論的な根拠はなく,感覚的な話ですが,せめて1か月くらいにするのが妥当かと感じます。   それと,先ほど南部委員に対する御回答の中で,あらかじめ相続財産について調査した上で遺留分減殺請求権を行使するというお話がありました。それはそのとおりだと思いますが,抽象的に行使する段階と具体的な金銭の請求をする2段階が予定されていますが,2段階目の後でないと目的物の指定権は行使できないという趣旨なのだろうと思うので,そこは明確にしていただく必要があるのではないかと思います。2段階目のときには神吉関係官がおっしゃったとおり,遺留分減殺者側は一定程度の見通しを立てているだろうと思いますが,漠然と抽象的に行使したという状況では,まだ,財産の状況を把握していないわけです。その段階で目的物の指定権を行使された場合には,仮に1か月にせよ,その期間内で相続財産全部を調査するということは不可能に近いのではないかと思いますので,そこは案の中で明示する必要があるのではないかと思います。 ○堂薗幹事 こちらの趣旨としては,甲-2案の①,②を甲-3案でもそのまま引用しているわけですが,遺留分侵害額に相当する金銭の支払というのは,基本的には,具体的な金額を明示したものを想定しております。御指摘の点については,引き続き検討していきたいと思います。 ○増田委員 内容的にはよろしいんですよ。2段階目の金銭請求の後でないと指定権の行使はできないということであれば。 ○窪田委員 中田委員の問題提起のところに戻ってということになるのですが,中田委員の問題提起というのは,単に金銭債権化するということだけではなくて,代替のものを提供されたときに,それが本当に不要なものであったら,結局,放棄につながることになって,そういった行動を導いてしまうのではないかという点で,重要な問題提起なのだろうと思っております。ただ,その上で前提として確認したい点がございまして,遺贈された財産の中には,良い不動産もあれば,山の中の価値のない土地のようなものもあって,こんなものをもらっても仕方がないという場合,それによって金銭債務が消えるのは,飽くまでその部分の価値だけということで,それはよろしいでしょうか。つまり,その部分については要らないよということで放棄をしたとしても,残りの部分についての金銭債権は,そのまま生き残っているという理解でよろしいですよね。 ○神吉関係官 はい。御指摘のとおりの理解です。 ○窪田委員 そのことを確認いたしましたのは,受遺者が持っている財産の中でも何でもいいから提供すれば,それによって金銭債務を免れるという形になりますと,単なる押し付けの問題ということになるのかもしれませんが,ここでは飽くまで甲-2案と同じで,遺贈又は贈与の目的である財産のうちから選ぶという形になると,不要で意味のない財産だとしても,それは飽くまで遺贈や贈与の中に含まれていたものだということになりますので,その押し付け合いが,結局,どっちにいくのかという問題だということに尽きるのかなという感じもしたからです。   中田委員がおっしゃるように,確かに不要なものをぼんと押し付けて権利を失わせてしまうということが全面的に権利の喪失につながるのだったら,確かに深刻な問題になるのですが,不要なもの,誰が見てもそれほど価値のないものだとすると,それなりに金銭的な評価も低いものだということになりますと,その範囲でしか効果は生じないということになるだろうと思います。その点も踏まえて,中田委員からの問題提起は重要だということを踏まえつつ,もう少し具体的にまた検討がなされてもいいのかなという気がいたしました。私自身は,結局は要らないものの押し付け合いというのはどういう制度を作ったとしても,結局,残ってしまうのではないかという感じは持っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   今の点につきましてほかにいかがでございましょうか。窪田委員のようなお考えも示されておりますけれども,また,中田委員がおっしゃった中には最後は権利濫用で処理するとして,それがやりにくくなるのではないかという御指摘もありました。権利濫用が全くなくなるというわけではないとしても,全体として生ずる状況をどう評価するのかということかと思います。ほかに何か御指摘,御意見はございますでしょうか。 ○西幹事 まだ,十分に頭の整理ができていないのですが,いろいろなところで迷いと申しますか,揺れが事務局の案には見られるように感じています。今,要らないものを遺留分権利者が押し付けられるのがいいのか,悪いのかという話になっていますけれども,それも結局,軸が決まらないためではないでしょうか。遺留分を考えるときに軸が大きく分けて三つぐらいあると思います。まず,法定相続を原則と考えるか,遺言相続を原則と考えるかというのが一つ。二つ目に遺留分制度の趣旨をどう考えるのか。今回の案では生活保障というのが前面に出ていますが,以前は,潜在的持分の精算というような話も出ていたように記憶しています。三つ目に遺留分の性質をどう考えるか。一般に,日本では,単なる遺留分権利者固有の権利というよりは相続財産の一部と考えられてきたと言われています。そこを今回の改正では捨てるように見えて,でも,どこか捨て切れていないようにも見えます。この三つの軸がそれぞれ揺れているような感じを受けます。   原則を決めればドイツのように金銭債権一本ということでいけるはずですけれども,今回の場合には原則が定まらないので,原則から何かを導くということはできないのかもしれません。それでもなお,現実の分かりやすさとか,実際にどう機能するかということを考えたとき,私は金銭債権一本でいいという考え方も,先ほど御発言がありましたように,あり得ると思います。金銭債権一本ではいけない,それでは困るので現物返還を認めるという話が出ている理由が,先ほどから御説明があったように,お金が用意できない場合には,受遺者,受贈者が困るということであれば,それは結局,売る手間を遺留分権利者が負うのか,受贈者,受遺者が負うのかという話だと思います。私はそれを受遺者,受贈者が負うことにしても,それほど問題はないと考えています。   それよりもむしろ気になるのは,恐らく多くの人の発想の背景には,本当にそこまで受遺者,受贈者がやらなければいけないのか,それはおかしいのではないのかという感覚があるのではないか,その更に背景に何があるのかを考えると,そもそも,遺留分侵害額を払わなければならないのはおかしいとか,それほどたくさん払わされるのはおかしいという意識があるのではないでしょうか。そうであるとすれば金銭債権一本にした上で,受遺者,受贈者の側から例えば減額請求を裁判所に求めることができるとか,あるいはもう少し現実的なところでは期限の許与を求めることができるということにして,その期限の幅をかなり大きくするというようなことも考えられると思いますし,金銭債権では不都合があるから,その場合には現物返還を認めるという方法以外にも,もう少し考えられる方法があるのではないかという気がしています。 ○堂薗幹事 元々,金銭債権化する場合に,期限の猶予を認めるような規律を設けることも考えられるのではないかということで,議論があったところではありますが,現行法上,遺留分の権利というのは実体法上の権利として認められている中,裁判所の裁量で期限を猶予するとか,そういった規律を設けると,非訟的な性質を有することになって,問題ではないかかという議論もあったかと思います。   先ほどのどちらが売るのが妥当なのかというところですけれども,個人的には,遺留分権利者の権利行使がされるかどうか分からない,要するに,遺贈とか贈与を受ける時点では,現実に権利行使されるかどうか分からないというところがあって,もし権利行使されると分かっていれば,この部分については遺贈の放棄をしたのにということも普通にあり得るのではないかと思います。   遺贈を承認するのか放棄するのか,あるいは,贈与契約を締結するか否かという判断をする時点では,遺留分権利者が権利行使するかどうかは分からないことからすれば,遺留分権利者から実際に権利行使を受けた時点で,いわば事後的に遺贈等の放棄を認めるという考え方というのは,十分にあり得るのではないかということで,甲-3案のような考え方をお示ししたということでございます。そういった意味で,三つの軸ということを言われましたけれども,必ずしも現行法からその点を変えるということではなく,今のような考え方の下で現物返還を認めるということは,十分に考えられるのではないかと思います。   そもそも,現行法のように,遺贈の対象となる財産がたくさんある場合に,その全てについて共有となるというのが遺留分権利者の保護という観点からも,実際上の紛争を複雑化するという面からも相当なのかというところが問題意識としてはあるわけですが,その上で,今のような規律を設けることにより,遺留分権利者の利益と受遺者又は受贈者の利益のバランスをとっているという趣旨でございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。ほかにどうでしょうか。 ○上西委員 給付する目的財産の価額の限度で金銭債務は消滅し,その目的財産に関する権利が移転するとして,遺留分権利者は2週間以内にその目的財産に関する権利を放棄する旨の意思表示ができるとしています。この2週間は熟慮期間であると思います。先ほど南部先生が見に行くことも難しい旨の御発言をされました。実際に,目的財産の価額の限度で金銭債務が消滅する以上は,その目的財産を評価しなければなりません。   評価が2週間でできるかどうかです。例えば税の世界でしたら,税務署長等による更正処分等があった場合,その通知を受けた日の翌日から3か月以内に再調査の請求ができることになっています。もちろん,手続の手間のほかに,評価が複雑な事例も単純な評価の事例もあります。更に不服申立てをするに当たっては,不服審判所に審査請求するのは1か月です。一般的に行政不服審査法でも,請求者自身が分かっている内容についての申立てでも1か月の期間があります。ましてや,どこの土地か,土地とは限らないですけれども,知らない目的財産もあり得るのです。2週間というのは,評価する立場から見れば短いと言えます。もう少し弾力的に幅を広げていただいた方が実務的かなという気がいたしました。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○堂薗幹事 今の点も先ほどの増田委員の冒頭の御質問と若干関係するところではあるんですが,遺留分権利者が金銭請求をする場合にその金額を特定するということになりますと,遺留分算定の基礎となる財産について遺留分権利者の方で評価し,その評価を前提とした上で請求するということになりますので,遺留分権利者としては,その評価が客観的に妥当なものなのかどうかというところはございますが,一応その評価をした上で金銭請求をし,それに対して現物返還,評価の対象となった財産の一部を返還するということになりますので,遺留分権利者においてもある程度判断はできるのではないかという前提でございます。   ただ,先ほどから2週間は短いのではないかということでございますので,その点は再度,検討したいと思います。ここでこの期間をかなり短くしているのは,遡及効を徹底させるためでございます。すなわち,ここで遡及効を認めつつ,第三者保護規定のようなものを設けるということになりますと,法律関係がかなり複雑になりますので,遡及効を徹底させた方が良いように思いますが,そうであれば,法的安定性を図る観点から,その熟慮期間はある程度短い期間にする必要があるのではないかということでございます。そういう意味では,限界があるかもしれませんが,期間の相当性については検討したいと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   その他,いかがでしょうか。途中で窪田委員がおっしゃいましたが,要らないと言われるものの限度で権利がなくなるということにすぎないとすれば,それはそれであり得る考え方ではないかということでしたけれども,その限度でということが十分に明らかになるだろうかというのが何人かの委員からの御指摘だったかと思います。そこのところで遺留分権利者が更に不利な状況に陥るということになりますと,中田委員が最初にお示しになった危惧が,大きなものになってくるということになろうかと思いますので,手続の面について更に御検討いただきまして,次の機会に,また,御議論いただくとさせていただくということでよろしいでしょうか。   それと関連するかもしれませんけれども,増田委員の御質問,それから,山本幹事の御質問についてお答えがありましたけれども,それについて増田委員や山本幹事の方から何かありますか。 ○水野(有)委員 山本幹事の質問に対する御説明のところなんですが,私はどちらがいいという意見を持っているという意味ではなくて,何も書かないと理論的にはB説ですか,になるのではないかという御説明のところが私は理解ができていなくて,相続分の指定自体の性質をどう考えるかで変わってしまうのではないかなと思わなくもなくて,もし,相続分の指定自体が遺産分割の先取り的な意味を持つものとするのであれば,当然,B説と読めるとなるのかどうかが私が理解できていないものですから,その辺りをもう少し教えていただければなと思うのですが。B説みたいに考えると,元々,相続分の指定自体の性質自体が遺贈に近付いていくような印象もあって,整理できていないんですけれども,その辺りを御説明いただければなと思うのですが。 ○神吉関係官 改正したら法文の全体像がどういう形になるのかというのは,今後,詰めていかなければいけないかと思っておりますが,現時点では,1031条を改正して,遺留分権利者は遺留分侵害額に相当する金銭を請求することができるというのが基本的な構造ではないかと考えております。そういった条文を仮に設けたとしますと,それ以外の手段,相続分に対する減殺はできないという結論になるかと思いますので,現行法のように相続分の指定に対して減殺し,遺産分割に加わるということは基本的にはならないのではないかと。ただ,その点については組み方にもよりますので,実質論として,なお,遺産分割に参加させた方がいいと,A説的な結論の方がいいということであれば,そういった規律を設ければよいということになるかと思いますので,本日は,実質論についてどうすべきか御議論いただければと考えているところでございます。   それと関連して,現行の902条をどう考えるのかということもあるかと思います。902条ただし書では遺留分に関する規定に違反することはできないと,相続分の指定がされた場合に書いてあるわけですけれども,その規定を維持するのかどうかということについては,まだ,事務局でも検討しているところではあるのですが,この規定があることによってA説的な解釈になってしまうということであれば,そこは削除も含めて,また,検討することになるのかなと,今のところはそのような印象でいるというところでございます。 ○水野(有)委員 そういうお話ですと,むしろ,今の規定とか,今の最高裁の判決を前提としてというよりも,金銭債権化するという見解を採るのであれば,B説にするのが自然であるし,逆に言えば,それに関連する規定で仮にニュアンスが違うものがあれば,それ自体,修正すべきではないかという御提案という御趣旨でしょうか。 ○神吉関係官 そのとおりでございます。 ○水野(有)委員 とてもよく分かりました。ありがとうございました。 ○大村部会長 そのほかはいかがでしょうか。 ○山本幹事 今の点に関連してなんですけれども,結局,相続分の指定がこれからどう捉えられていくのかよく分からないところがありまして,少なくとも従前の判例の理解ですと,法定相続分を変更するものであるということで,遺留分減殺の場面でも対象になっているものは遺産から外れるわけではなくて,遺産分割の対象になるんだという説明になっており,そこの実質を変えるのかどうなのかという問題のような気がしております。この辺も含めて,検討する必要があるのではないかなと思っているところです。 ○大村部会長 御指摘を踏まえて更に御検討いただきたいと思います。   そのほか,いかがでございましょうか。前回の積み残しが遺留分制度に関する見直しということで,今日,補論で出ているのは「遺留分減殺請求権の効力及び法的性質の見直し」という項目でございますけれども,もう一つ「遺留分の算定方法の見直し」というのが前回の資料に出ております。この点についても何か御意見があれば承りたいと思います。民法第1030条の規定にかかわらず,という部分でございますけれども。 ○金澄幹事 47ページの特別受益の取扱いのところですけれども,これについてはいろいろ弁護士会でも議論はしておりますけれども,私としては別案を採るべきではないかなと思っております。遺留分算定の基礎となる財産の計算で,相続人に対する生前贈与を10年ということで限定したのは,はるか過去まで遡って争いをするということで長期化するということを避けて,法的安定性を図るということだったと思うんです。相続人間の公平の徹底は,その限度で後退しているということになって,被相続人の財産処分の自由を尊重するという面ももちろんあるわけなんですけれども,とすれば,同じように遺留分権利者の生前贈与等の特別受益の額についても,相続開始前の10年に限定するということが筋なのではないかなと思っています。そのようにすることが両方とも共通するということで,分かりやすいということになるのではないかと思っています。何より被相続人から生前に受けた贈与であるという点は同じなのですから,統一的に解釈した方が分かりやすくて,一番簡明になるのではないかなと思っています。 ○神吉関係官 今の金澄幹事の御意見なのですが,それも十分あり得ると思い検討をし,部会資料の48ページ目で別案としてお示ししております。ここにも記載しておりますが,別案を採用した場合,第三者,この場合はAということになりますけれども,自分にとっては知り得ない古い贈与の存在によって自分の負担が大きくなってしまうという結論になります。そもそも,1030条の改正の趣旨というのは,第三者にとって知り得ない古い贈与の存在によってその負担額が変わるのはおかしいのではないかと,そういう問題意識から出発して検討しておりますので,これとの関係をどう考えるのかという問題があるとは考えております。   遺留分の算定方法について,これまでは第三者と相続人を分けた方がいいのではないかとか,いろいろな議論をしてきたかと思うんですが,それはなかなか難しかろうと。そうすると,第三者の利益保護の問題と相続人間の公平といった2つの要請について,バランスのとれた制度にすべきだということで,これまで御議論いただいてきたわけですが,このようなことも考えますと,別案ではなくて,ここで御提案させていただいたような案の方がいいのではないかなと,事務局としては思っているということでございます。 ○金澄幹事 おっしゃることもとてもよくもちろん分かっておりまして,弁護士会で議論したときも意見が分かれているところでございます。考え方ということで,事務当局のおっしゃることもよく分かるんですけれども,同じ被相続人から生前に受けた贈与であることには変わりはないのですから,具体的な公平というところを目指すことによって,ここまで大きく違うような形にしていいのかどうかというところの説明の仕方だろうなとは思っております。 ○大村部会長 ありがとうございました。   事務当局の方でも,御指摘の案も含めて検討しているということでございますので,解説の仕方も含めて,更に詰めた考え方を示していただくということで引き取らせていただきたいと思います。ほかはいかがでございましょうか。 ○窪田委員 一つ前のところに戻ってもよろしいでしょうか。既に水野(有)委員,それから,山本幹事に対する御説明の中で尽きていたことなのかもしれませんが,余りにも初歩的なことですから,質問するのが恥ずかしくて遅れてしまいました。相続分の指定があった場合に,一体,どういうふうな法律関係になるのかというと,恐らくそれも先ほどお話がありましたが,現在は相続分の指定が一定の割合で多分,減殺されるということを前提として遺産分割に乗るということだったのですが,ここの45ページの下の方の例では,本来,3分の1ずつだったのだけれども,それぞれ,ゼロ,2分の1,2分の1と指定したものとするという例が挙げられています。ただ結論から言えば同じになるのかもしれませんが,Aには相続分はないものとするという遺言だけがあった場合,反射的な形でBとCの相続分は増えるのですが,この場合に減殺の対象となる行為はいったい何なのかということが問題となります。こうした減殺の対象となる行為は何なのかという問題の立て方自体が今の制度を前提としたものであって,金銭債権化した場合にはそうではないということなのかもしれませんが,そうだとすると,金銭債権の生まれる前提となるものは,一体,何なのかが問題となります。   要するに,この者の相続分はゼロとするということだけを言っているという場面においては,その者に遺産はやらないということははっきりしているわけですし,遺留分制度との関係で明らかに,一定の範囲でその効果は否定されるべきだろうとは思うのですけれども,それが金銭債権化するということの説明が,私の中で,まだすとんと落ちてきていないということがございます。   最後は文言は作るだけなのかもしれませんが,37ページ,甲-2案でも甲-3案でも最初の部分は同じなのですが,「遺留分を侵害された者は受遺者又は受贈者に対し」という形になっていますが,今のような形で相続分をゼロとして,反射的にほかの人の相続分は増えるにしかすぎないという場合に,本当に受遺者とか受贈者という概念が成立するのか,更に言うと,遺贈又は贈与の目的であった財産のうちというわけですけれども,この場面では相続分が変わっているだけであって,最後,どの財産がいくかは遺産分割を経てみないと分からないとかという形で,B説にいくという一般的な説明としては分からないわけではないのですが,具体的に考え始めたときに,どうも相続分の指定における問題というのが,本当に遺贈と横並びになるのかどうなのかというのは分からない感じがいたしました。   最初の部分だけでもいいので,何かお考えがあったら,つまり,Aの相続分をゼロとするという遺言があった場合,これも結局は同じことになるのかどうなのかという辺りだけでも,お伺いできればと思いました。 ○堂薗幹事 それは,正に遺言の解釈ということにはなるんだと思いますが,それ以外の二人で,2分の1,2分の1ずつだということになりますと,それは相続分の指定ということになるかと思いますので,相続分の指定について減殺をするということになるのだろうと思います。相続分の指定の場合にどうするかというのは,なかなか,難しい問題ではありますが,原則として金銭で解決しましょうと,そうでない場合については,受遺者側,受贈者側に選択権を認めましょうという規律を前提にしますと,もちろん,相続分の指定の場合には受益相続人に選択権を認めるということになりますが,それは,いわゆる相続させる旨の遺言については,遺留分の計算のところでは遺贈にも贈与にも当たらないというのと似たような話なのではないかと思うんですけれども,一応,相続分の指定の場合も基本的には贈与とか遺贈と同じように考えた上で,ただ,返還すべき現物というのは決まっていないということになりますので,それからすれば,遺産分割における地位を付与するということにしかなり得ないのではないかということでございます。ほかにも考えられる構成があるのではないかということであれば,御指摘いただければと思います。 ○窪田委員 1点だけ補足で,私自身も定見があって特に申し上げているわけではないのですが,ただ,今回,遺留分制度に関する見直しの中で,今まで現物返還で遺贈とか,そういう行為自体の効力を否定するというのに対して,むしろ,その効力自体は全面的に肯定した上で金銭債権化するという場面では,遺言の趣旨をより実効化するとか,そういう説明が可能なのだろうと思うのです。ところが,相続分の指定というのはある特定のものがいくということではなくて,単に相続分が本来の法定相続分とずれる形になったということだけなのだとすると,本来,修正されるべきなのは相続分の指定の割合,それが既に現在の見方にものすごく強く拘束されているのかもしれないのですが,特定の遺贈であるとか,そうしたものとは少し性格が違うのかなという気もしたものですから,どうなのかなと思ったということです。 ○潮見委員 窪田委員がおっしゃっているのも分からないではありません。つまり,相続分指定の減殺といった場合に,今の裁判例は遺留分減殺請求という枠を採っていますけれども,学説の中では,これは遺留分減殺請求の問題ではなくて相続分指定の効力,正に一部を無効にするかどうかという,そういう枠組みだともいえます。そういうときに窪田委員のお話をそん度すれば,そもそも,相続分指定というものを遺留分減殺という枠に乗せるのではなくて,むしろ,相続分指定の効力という観点から捉えることもあり得るのではないかという方向にも進むと思います。   更にその上で,これを遺留分減殺請求の問題,ここでの問題だとした場合には,金銭債権か,現物返還かというよりは,むしろ,先ほど西幹事がおっしゃったところにつながるのですが,基本的に今回の改正の方向というのは,正に遺留分減殺請求といった場合に請求をする固有の権利者,その人の固有の権利として一定のものの交付請求権を認めてあげよう,それが基本は金銭請求権であると,こういう枠で考えていき,更にそうであるならば,その後の処理の問題についても,基本的に遺産分割とは違う枠組みで考えていこうということに進んでいくというものです。そうであれば,ここのA説か,B説かといった場合にはB説ですかね,基本的にB説の枠を採った上で,更にそこに現物返還というのに類似するものをかぶせるとしたらどうなるのかという方向に進んでいくと思うのです。   他方,こういう遺留分減殺請求というものをそうではなく,何らかの形で将来,遺産共有あるいは遺産分割というところにも進み得る余地を残すということであれば,A説の方向に進むのではないかと思います。ただ,A説を採った場合には,先ほどの性質論ではありませんけれども,今回の改正によって減殺請求権を固有の請求権という形で基本的に考えていこうと構成することと,矛盾あるいはそごするような枠組みがここで予定されることにはなりはしないかと思います。もちろん,それは現在の裁判例の下での相続分指定の減殺とはかなり違ったことになりますけれども,基本的な出発点が変わる以上はやむを得ないというのであれば,A説ではなくてB説だというのも私はあっていいと思います。 ○堂薗幹事 私が申し上げようとしたのも,似たような話になるのかもしれませんが,今回の改正は原則として遺言の効力を維持した上で,金銭で遺留分に相当する価値を返せるのであれば,遺言の効力自体はそのまま維持しようという発想だと思いますので,それを相続分の指定について当てはめると,素直に考えれば,遺留分を侵害するような相続分の指定であっても金銭で填補できる以上は,遺言をそのまま有効なものとして維持した上で,受贈者側で金銭での返還が難しい場合には現物返還を認めるということですので,その場合の現物は相続分の譲渡ということになるのではないかという整理をしているところでございます。 ○潮見委員 1点だけ,時間的に遅れてしまったのかもしれませんが,相続分指定という制度を仮に残して遺留分を害することができないということであれば,別に減殺請求の枠に乗せなくてもいいという一部無効という処理,そういうものも個人的にはあっていいのかなとは思うところがあります。それ以上は申し上げません。 ○大村部会長 先ほどの金銭債権原則化という話もありましたけれども,これまでの議論を踏まえてどんな形で御意見に応ずることができるかということを含めて,説明等をお考えいただきたいと思います。そのほか,いかがでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは,積み残し分につきましては以上で御意見を伺ったということにさせていただきまして,本日の固有の検討部分に入らせていただきたいと思います。本日の分は部会資料21,「積残しの論点について(2)」でございますが,第1が10ページまで,そして,第2が11ページから始まりまして25ページまで,第3が26ページからその後ということで3項目がございますけれども,第1の「配偶者の居住権を保護するための方策」につきまして御意見を頂き,これが終わったところで休憩を入れさせていただこうと思っております。まず,第1の「配偶者の居住権を保護するための方策」という部分につきまして,事務当局の説明をお願いいたします。 ○宇野関係官 それでは,部会資料21,第1の「配偶者の居住権を保護するための方策」について御説明いたします。   まず,短期居住権の点ですが,本部会資料では,配偶者以外の者が無償で配偶者の居住建物を取得した場合,短期居住権の存続期間を,建物の所有権を取得した者から明渡しの催告を受けた時から6か月を経過するまでの間としております。これは,相続開始から相当期間経過後に遺言が発見された場合などに,配偶者にそれまでの使用利益の支払義務を負わせるのは酷である一方,居住建物の所有者は無償で所有権を取得したわけですし,遺言が発見されるまでは権利者であるとの認識もなかったのですから,それまでの使用利益を回収できなくても不測の損害を受けるわけではないことを理由とするものです。この点につきましては,第15回部会で同様の規律について肯定的な指摘がある一方で,居住建物について遺産分割が行われる場合とのバランスについて疑問があるとの指摘もありましたので,改めて御意見を頂ければと思います。   また,第15回部会では,短期居住権に第三者対抗力を付与することを検討してみてはどうかとの指摘もございました。しかし,短期居住権は判例で認められた使用借権と同様の性質のものとして構成しておりますので,第三者対抗力を付与するのはその基本的な性質にそぐわないものと考えられます。ただし,配偶者に居住権を認める以上は,第三者対抗力までは認めないとしても,その使用利益の回収は認めるのが相当であると考えられます。   そこで,本部会資料では,短期居住権は原則的に債務者との関係でのみ効力を有する法定債権であることを前提としつつ,短期居住権の効力を当事者に限定する旨の規定は置かないこととしております。そうすることで,配偶者以外の相続人が建物持分を失った場合,配偶者が当該相続人に対して債務不履行に基づく損害賠償請求ができることについて解釈上の疑義がなくなる上,悪意の第三者が当該建物を譲り受けた場合には,債権侵害による不法行為が成立すると解する余地もあると考えられます。ほかに,部会資料5ページ以下の補足説明3と4に記載のとおり,やや細部にわたる修正を加えてございます。   次に,長期居住権についてですが,まず,第15回部会で指摘を頂きましたとおり,民法第995条の適用除外の規定を設けることとしております。また,長期居住権が設定される建物の所有者に,長期居住権設定の登記義務を負わせることとしております。この点につきましては,第15回部会で,一般的に配偶者による単独申請を認めるのは,不動産登記法の基本的な考え方と整合しないのではないかとの指摘があったところです。長期居住権は建物の所有権を制限する性質を有する権利で,その登記は所有権に係る登記をした上で行うこととなると考えられます。その意味では,居住建物の所有者が登記義務者になると考えるのが素直ですので,配偶者に建物所有者に対する登記請求権を認めることとしております。そのほか,こちらも部会資料9ページ以下の補足説明3のとおり,やや細部にわたる修正を加えてございます。   以上の点につきまして,御審議いただければと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   配偶者の短期居住権,長期居住権につきまして,前者につきましては存続期間の問題と,それから,第三者との関係の問題が主な問題である。それから,後者につきましては長期居住権の登記手続について,配偶者にどれだけのものを認めるかということについて主として御説明がありました。その他の細かい点もございますけれども,一括して御意見を伺えればと思います。いかがでしょうか。 ○潮見委員 基本的には方向については理解したつもりです。その上で,ちょっとだけ私の感覚がずれているのかどうか分からないという,財産法の観点からの御質問です。第三者との関係に関わることですけれども,4ページの「そこで」というところで㋐と㋑がありますが,㋐の場合の損害額や期間をどのように算定するのですかというのが,第一の質問です。   それから,㋑の方ですけれども,意見と質問があります。まず,意見の方は㋑のところの本文で書かれていることと(注2)に書いていることとの関係です。(注2)の方では,伝統的にはこれこれ,これの考え方があったが,最近の考え方ではこれこれ,これの考え方があり,多分,これもそん度すれば,これこれ,これの最近の考え方によるのであれば,こういう債権侵害の不法行為の成立を認める解釈論もあり得るとお書きになられています。   それで本文を見て㋑を見たときに,若干,違和感を覚えましたのは,本文で書かれている悪意で当該建物を譲り受けた第三者との関係では,配偶者に対して債権侵害の不法行為が成立すると解釈する余地があるという,この説明というのはむしろ伝統的な第三者の債権侵害論をここに書いているにほかならないと私は理解しました。つまり,故意あるいは悪意の者との関係で不法行為責任が成立するという枠組みがここに表れているのではないかという感じがしました。私自身も最近の考え方を支持している人間ですが,最近の考え方がこのような考え方であるという趣旨でお書きになられているとしたら,少しここは工夫していただきたいなと思いました。これが意見です。そうしないと,債権総論のところの説明とそごが生じます。   それから,質問の方ですが,㋑の場合も損害は何かという話もありますし,それから,お尋ねしたいのは配偶者以外の共同相続人が,例えば兄弟姉妹相続で一番年をとった方が住んでいるとかいうような場合に同様の状況が生じたとき,第三者の債権侵害という枠組みが生じるとお考えなのかどうか。今回の提案ですと,この部分は使用貸借という枠で処理するという前提ですよね。   そうなると,配偶者以外の共同相続人が居住しているような場合に同様の目的建物の処分がされた場合,しかも,その人が本文をそのままいかして言えば悪意であった場合,その場合に債権侵害の不法行為は成立するのかしないのか。するとしたらなぜであり,しないとすればなぜなのか。それから,ついでにもう一つ,普通一般に売買は賃貸借を破ると言われています。そういうときに,賃貸目的物の賃貸不動産の買主や譲受人が賃貸借について悪意で当該不動産を買い取った場合には,債権侵害の不法行為は成立すると考えておられるのか,おられないのか。ここに特殊な債権侵害の不法行為の損害賠償という枠組みなのか,その辺りを知りたかったものですから,質問させていただいた次第です。 ○宇野関係官 何点かございましたので,全部について完全に御説明できるかどうかというところはございますけれども,今回このように書かせていただいた趣旨ですけれども,元々,一つ前の部会資料のときに短期居住権の効力について,原則的な類型の場合でいえば,相続人の間でしか効力を有さないというような規律を設けるということを提案してございました。   それに対して,このような規律を置いてしまうと,そもそも,債権なのだから債権関係にある者の間でしか効力を有さないのは当然であるにもかかわらず,そういう規定があると,逆に,例えば第三者との関係で不法行為が成立しないと,この場面では特にそう言っているかのように読めるというような御指摘もあったので,その部分を今回削除したというところの理由の説明で,ここを書かせていただいているものでございます。ですので,殊更,この場面で特にこういう法定債権だから,こういうような形で特殊の債権侵害の類型を設けたというよりは,元々,そういう議論の経緯がございましたので,前回提案しておりました相続人間の間でしか効力を有さないという規律を削ることの説明として,このように書いておるものでございます。   それともう1点,先ほど損害がどのようになるかというようなお話だったかと思うんですけれども,基本的には,使用貸借をしていた場合に,その使用貸借でやらなければいけない債務を履行できなくなった,それが債務不履行になる,使用借人に対して損害賠償義務を負うという場合と同じではないかと,それがこの場合でいえば,原則的なパターンの場合でいえば遺産分割時まででございますし,そういうような期間の定めがあった使用貸借について持分を譲渡してしまったりして債務を履行できない状態になった,その場合に債務不履行としてどの程度の損害賠償責任を負うのかということと,そこは違わないのではないかと,こちらとしては整理しております。 ○潮見委員 1点目については,そうであれば,どうしてそうお書きにならないのかということです。こう書けば,これができると積極的な意味として捉えてしまう可能性があるように思われます。そのときには,一体,その後,どのような場合に,どのような要件の下で,どのような効果として,どれだけの損害賠償が請求できるのか,そういうことが問題になり得るのではないかというか,そういう捉え方をされても仕方がないと思います。   特に債権侵害の不法行為というものは,お書きになられているとおりで,なかなか,認められないというのがこれまでの多くの人たちの理解ではなかったかと思います。そうした中で,積極的にここに債権侵害の不法行為が成り立つように,あり得るように思われると書いたら,従前の債権侵害の不法行為論を前提にこれを読みますと,むしろ,積極的にこれができるという方向にも読み取られかねないところがあるので,若干,そこは御注意された方がいいと思います。   それから,損害賠償の方ですけれども,普通の使用貸借の場合には規定もありますし,何とかなるのですが,今回の場合は遺産分割前という区切りをしているわけです。遺産分割がいつ行われるかというのは,まだ,将来の話という形で残る場合があります。典型的にいつ終わるかなんていうことは,恐らく遺産分割の場合に判別できないのではないかという感じがいたします。そういう場面で仮に紛争が起きたときに,どこまでの期間の相当額の賠償を認めるのかということについては,そう単純にいかないのではないかという感じがします。私の意見ですから,答えていただく必要は全くありませんから。 ○堂薗幹事 ただ,損害がある方でいいますと,他の相続人が建物の持分を譲渡したとしても,配偶者も持分を持っていますので,基本的に居住を続けられることにはなりますが,第三者との関係では,持分に応じた使用利益を払わなければいけないことになりますので,実際,第三者に払った分については損害として賠償請求ができるということになるのではないかと思います。 ○潮見委員 現実に払った分を損害と見ているんですか。将来の分は置いておくと。 ○堂薗幹事 将来の分は,将来請求をする利益があるかどうかということだろうと思いますが,少なくとも,第三者に支払った分については,相続人に対して損害賠償請求をすることができるだろうと,そういう趣旨でございます。 ○大村部会長 潮見委員の最初の根本的な御疑問は,ここに債権侵害についての特殊な法理を樹立する意図があるのかどうかという点だと思いますが,その意図はないというお答えでしたので,そのことが分かるような説明をしていただくことにしたいと思います。従前の解釈の延長線上で考えるということで,何か特別な方向付けをしているというわけではないということが分かる例示にするということでよろしいでしょうか。 ○潮見委員 結構です。 ○大村部会長 そのほか,いかがでございましょうか。 ○中田委員 今のと関連する点が一つと,そのほかに短期居住権について二つ御質問がございます。   関連する点というのは,今,潮見委員の御質問に対するお答えの中で,損害は何かというのは使用貸借の債務不履行に基づく損害だとおっしゃったんですが,それは使用貸主の債務ですよね。そうすると,賃貸人の債務と使用貸主の債務は内容が違っていると思うんですけれども,その場合の損害をどうお考えなのかということが関連する質問です。   それから,別の質問は,今回,短期居住権の性質を使用貸借の規律でそろえたということで非常に明快になっていると思うのですが,第1の1の(1)ウの④,2ページの真ん中より下辺りですが,そこで「相続開始の後に居住建物に生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた損耗及び経年変化を除く。)を原状に復する義務」と,こうありますが,これは改正民法の下では賃貸借の規律であって,使用貸借の規律ではないわけです。このことについての議論はあったんですが,結論的には④で私はいいと思っているんですけれども,使用貸借にそろえたという御説明との関係で,ちょっと舌足らずではないかと感じました。   それから,最後は先ほど差し上げた御質問との関係で,単に確認的なことだけなんですけれども,配偶者以外の相続人に全て相続させるというような遺言があった場合に,配偶者が遺留分減殺請求をしたとしても,短期居住権は認められないという理解でよろしいのかどうかです。 ○堂薗幹事 最後の御質問は,配偶者以外の相続人に全財産を相続させる旨の遺言がされた場合に,1の(1)の①では要件に該当しないのではないかという御趣旨ですか。 ○中田委員 ここでは遺産分割が前提となっていて,それまでの間は認められるということですよね。それと遺留分減殺請求で内容を金銭債権化するということとの関係です。 ○大村部会長 ここで想定している場面から外れてしまうということをおっしゃっているわけですね。 ○中田委員 単に確認だけなんですけれども。 ○神吉関係官 一応,配偶者以外の人が建物を取得した場合にどうなるのかというところで,2ページ目の(1)の①で別の規律を設けております。この規律によると,全財産を第三者に遺贈する,若しくは特定相続人に相続させる旨の遺言をした場合には,配偶者以外の者が遺言によって建物所有権を取得した場合に当たるんだということで,この明渡し猶予期間ということになるかと思いますが,6か月間は無償で使用できることになるかと思います。 ○堂薗幹事 御質問の場合に,どの規律で保護されることになるのかという点につきましては,御指摘を踏まえて検討したいと思います。それ以外の点につきましては,使用貸借では,貸主は無償での使用を受忍する義務があるということだと思いますが,本方策においても,他の相続人は同様の義務を負うという前提です。すなわち,他の相続人が持分の一部を第三者に譲り渡した場合には,その第三者には居住権の効力は及びませんので,第三者からはその分の求償請求を受けると,要するに使用利益の請求を受けることになりますので,そういった使用利益の請求を受けること自体が債務不履行によって生じた損害ということになり,債務不履行の内容は,無償での使用を受忍する義務に違反しているという理解です。   それから,使用貸借についての債権法改正とは違って,通常損耗なども一応原状回復の対象から除いている点につきましては,そもそも,短期居住権では非常に使用期間が短期間に限定されているというところもございますし,現行法の下で,判例により使用貸借契約の推認がされる場合も,通常損耗の原状回復まで負わせることということは恐らく考えていないのではないかと思います。また,そもそも,遺産分割の場合には,経年変化等により,相続開始時の評価額と遺産分割時の評価額が違っている場合も,遺産分割時の財産評価額を基準に分配するわけですので,そういった意味では,遺産分割においては経年劣化分については当然,相続人が全員で負担するというのが当然の前提になっているのではないかというところもございまして,ここでは債権法改正の使用貸借契約とは違って,当然に原状回復の対象から除くというような形にしているということでございます。 ○中田委員 ありがとうございました。   第1点というか,損害論についての御説明は理解いたしました。それから,第2点についても結論自体は,私はもちろん,これでいいと思っておりますが,ただ,御説明の中で使用貸借にそろえたというような書き方をしていらっしゃるので,ただいまの堂薗幹事の御説明をメンションしておかれた方がいいのではないかなと思った次第です。それから,第3点については配偶者と,それからもう一人,相続人がいてもう一人の相続人に全財産を相続させるとした場合にどうなるのかという点を中心に,お教えいただければと思います。 ○堂薗幹事 配偶者とほかの相続人しかいなくて,その相続人に全財産を相続させるという前提であれば,(2)の①で読めるのではないかとは思うんですが,先ほど私が申し上げたのは,配偶者以外に複数の相続人がいる場合に(2)になるのか,(1)になるのか,検討する必要があるのではないかというところでございますが。 ○中田委員 多分,私がすごく初歩的なことを理解していないからの誤解だと思うんですけれども,配偶者ともう一人の相続人がいて,もう一人の相続人に全ての財産を相続させるという遺言があって,配偶者が遺留分減殺請求をしたというときの関係がどうなるのかというのがよく分からなかったということです。 ○堂薗幹事 特に遺留分減殺請求について金銭債権化をし,例えば現物返還で相続分を譲渡したような場合には,別途遺産分割が必要な状態になるので,その場合に(1)のような規律に戻るのか,それとも,そうではないのかという御趣旨の質問かと思っておりました。いずれにしても,先ほどのB説のような考え方を採って相続分について現物返還をした場合には,遺産分割が必要になりますので,その辺りとの関係を整理する必要があろうかと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   そのほか,いかがでしょうか。 ○増田委員 もっと簡単な質問なんですけれども,今回,建物の使用及び収益となっており,「及び収益」が加わっております。一方で既に,短期居住権の及ぶ範囲は居住していた建物部分のみ,長期居住権の場合は居住していた建物全部だということが確認されているところです。   通常,不動産について,単に収益といった場合には,賃料のことをいうことが多いと思うんですが,そうなってくると,短期居住権の方で収益を得られるケースというのはほとんどないだろうと,長期居住権の方は収益不動産であれば,その収益性も権利の評価に含まれるので,それは入っても当然であろうと思うのですが,そこのところを誤解がないようにするには,短期の方は「収益」を削ってはどうでしょか。使用貸借の場合は所有者との合意によって収益権があるかどうかは,所有者が収益権を与えるか否かによるわけで,そこは契約に基づくものですが,この場合は契約に基づかないわけだから,必ずしも使用貸借と同じ文言を使う必要はないだろうと思います。デフォルトとしては短期の場合は収益権はないという理解だと思いますのでいかがでしょうか。 ○堂薗幹事 御指摘のとおり,建物ですので,そもそも第三者に貸すという形式以外での収益というのは,実際上は考えにくいのだろうと思います。その建物で仮に営業していても,それは基本的には建物の収益とは言わないのではないかと思いますので,実際上は御指摘のとおり,特に短期の場合に収益をするということは,第三者に貸す以外には考えにくいのではないかと思っております。他方で,使用貸借でも基本的には第三者には貸主の同意がないと使用収益させることはできないわけですが,一応,権限としては収益が入っているので,短期居住権においても,あえてそこを除くまでの必要はないのではないかという理解でございます。御指摘の点については,法制上の観点も含めて,検討させていただければとは思います。 ○宇野関係官 判例の読み方にも関わるかもしれないので,可能であればこの場で御意見を頂きたいと思うのですけれども,基本的に,短期居住権は,大部分が判例法理を明文化したという側面が恐らくあって,判例法理の中では使用貸借契約を推認するというような手法を採っていますので,ここで使用貸借の要素の中に使用と収益が入っている中で,短期居住権についてはその収益の部分を認めないということになりますと,これまで判例上で認められてきたルールから,多少後退している感もなくはないというところもあります。ただ一方で,元々,使用貸借を推認した判例の中で,どこまで実際に使うことを想定していたのかというところの問題もあろうかと思いますので,短期居住権について配偶者ができることの範囲を使用だけにしておくべきか,あるいは使用貸借と並べて,現実的に具体的に余り想定されないというのは増田委員の御指摘のとおりだと思うんですけれども,そこは使用貸借と並べて使用及び収益ということにしておくかということについては,是非,御意見を頂ければと思います。 ○大村部会長 何かありましたら伺いますけれども,いかがでしょうか。問題の御指摘は,増田委員のおっしゃったところで明らかになっているかと思いますけれども,あとは書きぶり,特質をどう考えるのかということで,何かございますか。 ○増田委員 債権法の考え方でも,よく一般人にも誤解がないようにと,法律家だけが読むものではないとかいうような考え方が示されているところですので,ここに収益を入れるということは何か人に貸してもいいのではないかとか,そういう誤解を生じかねないのだろうと思いますし,そこはいかがでしょうかということです。御検討いただければ結構です。 ○大村部会長 御指摘を踏まえて,法制上の問題も含めて検討いただくということにさせていただければと思います。ありがとうございます。 ○浅田委員 素朴な質問で,また勉強不足で恐縮ですけれども,第三者対抗要件に関してです。先ほどの増田委員の御発言の中の,長期居住権においては賃貸借を設定することが考えられるということに触発されての質問であります。仮に長期居住権を設定し,そして,その一部の建物について第三者に賃貸した場合に,その賃貸借に関しては借地借家法の引渡しによる対抗力というのは認められるのでしょうか。つまり,長期居住権だけの話であれば,第三者対抗要件については,長期居住権というのは借地借家法上における借家権ではないと考えておりますので,まさしくここで規律される登記が,対抗力の有無に関する一義的な基準だと理解しました。それが長期居住権の上に賃貸借が乗った場合に,賃借権の保護と譲受人等の物権を有する者との関係で,どういう規律関係になるのかというのが今は分からないものですので,せっかくの機会ですからお考えがあれば教えていただければと思います。 ○堂薗幹事 その場合,当然,建物所有者の同意を得て賃貸借しているということになると思いますが。 ○浅田委員 それとは限らないと思いまして。 ○堂薗幹事 同意を得ていない場合も含めてですか。 ○宇野関係官 長期居住権について,長期居住権者がその建物について賃貸借でいえば転貸みたいな形で賃借権を設定するということだろうと思いますので,長期居住権の規律でいうと,居住建物の所有者の承諾を得なければ,長期居住権を譲渡し,又は第三者に居住建物の使用又は収益をさせることはできないという形になっておりますので,適法に賃貸借が締結されているということは,その前提として建物所有者の承諾があるということになるのではないかと思っておりまして,そうであるとすると,そちらは普通に適法に賃貸借契約が締結された場合でございますので,検討はしたいと思いますけれども,借地借家法の適用はあるということでもよいのではないかと第一感としては思っています。 ○浅田委員 ありがとうございます。第三者にとって転貸借が現れた場合に,取引の安全性がどれだけ確保できるのかということの整理をしたかったという趣旨でございますので,ありがとうございました。 ○大村部会長 借地借家法の適用があるということの意味がどういうことになるのかということも含めまして,必要な検討をしていただければと思いますけれども,それで,浅田委員,よろしいですか。 ○浅田委員 はい。 ○大村部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○石栗委員 長期居住権の規定は,遺産が建物の持分であった場合も特に区別せずに適用されるのでしょうか。実際に,建物持分が遺産であった場合に,当事者間で長期居住権の設定をする合意をしたり,あるいは,審判で長期居住権の設定をしたりするような状況があり得るのかという問題はありますが,規定自体は,建物の持分であったとしても,適用されるような規定を置かれるということでよろしいのでしょうか。 ○堂薗幹事 そこは要検討ではあるんですが,こちらとしては長期居住権というのは無償で使用できる権利でありながら,建物全体について対抗力があって,排他的な使用権を取得できるというところに存在意義があると考えておりますので,そういった意味では,建物の持分について長期居住権を設定するということでは,その趣旨を実現できないので,そこは対象外とした方がいいのではないかと考えているところでございます。 ○石栗委員 分かりました。ありがとうございます。 ○大村部会長 そのほか,いかがでございましょうか。 ○水野(紀)委員 今の御質問と若干,関連する質問です。今回の居住権の改正が果たして本当に配偶者の保護になるのかという問題をずっと考え続けておりまして,ワンパターンの危惧で恐縮です。1ページ目のアの①のただし書も,また,これもますます配偶者に不利になるように思います。被相続人が自分の妻には死ぬまで住まわせたいけれども,妻の死後,財産が妻の側の血族にいくのではなく,自分の側の血族の方に流したいという一般的によくあるパターンの希望ですが,そのニーズが可能になればいいなという発想で改正の経緯をみておりました。長期居住権を妻に認めるという遺言をもし仮に残したとしますと,その結果,配偶者は長期居住権を得るわけですが,長期居住権は随分と高く付く計算になりました。そうなると配偶者が結局は遺留分減殺請求を受けて,払い切れずに出ていかなくてはならなくなることがありそうです。ここでまた,当初の短期居住権の期間は少なくともただで住めるのだろうと思っていたのですが,それもなくなってしまうとなりますと,ますます,長期居住権を得た生存配偶者は,非常に高価なものをもらったことになってしまうように思えます。   そうだとすると,ほかの相続人と共有に,例えば夫側の甥と一緒の共有の相続にしておく方が,実際には配偶者がそのまま住み続けられる期間が長いでしょう。遺産分割が成立するまでもめて時間がかかったりしますから,半年よりもずっとかかったりすることになりますと,トータル,その方が被相続人としては配偶者をそのまま住み続けさせられることになります。ただし,そうすると配偶者の持分にした部分は配偶者の側の血族にいってしまい,被相続人の希望するニーズを実現することができなくなってしまいます。 ○堂薗幹事 もちろん,長期居住権を配偶者に遺贈したことによって,ほかの相続人の遺留分が侵害されるというところまでいくと,そういう事態が出てくると思いますが,その点は,遺留分制度において最低限の取り分が保証されている以上はやむを得ないのではないかと考えております。それを超えるような保護,要するに遺留分権利者の遺留分を侵害するような場合まで,配偶者の保護を図るというのは困難ではないかということですので,このただし書があることによって,配偶者の法的地位が低くなるということにはならないのではないかというのがこちらの考え方でございまして,飽くまでここは長期居住権が取得できる以上は,短期居住権を認める必要はないだろうという趣旨でございます。 ○水野(紀)委員 所有権つまり底地権を血族相続人に与えておいて,そして,その上に配偶者が生きている間,住めるというようなシチュエーションで,長期居住権の値をすごく安くカウントできる制度を考えていたのですけれども,賃借の市場価格で居住権を計算しますと,所有権の価格よりも居住権の価格の方が高くなる計算にさえなってしまいそうで,その結果,当初に考えていたのと逆転現象が起きるような気がするのですが。 ○大村部会長 御指摘は先ほどの中田委員の御指摘とも関わっているのだろうと思います。遺留分減殺請求の方について一定の手当てをしたことによって,配偶者の保護が弱まりはしまいかというのが出発点なのではないかと思います。今,事務当局の方から御説明がありましたけれども,1ページの第1の1の(1)ア①のただし書は,この場合にまで特に保護する必要はないだろうということで書かれていますが,むしろ,その場合もありはしまいかということを意識的に検討する必要があるのではないかという御指摘と受け止めていただいて,御検討いただくということかと思って伺いました。   委員・幹事からは,配偶者を保護するというところから出発したのにもかかわらず,そうではない結果が出てくるのではないかという御指摘が幾つか続いておりますけれども,今回,遺留分減殺請求の問題を併せて検討していて,そのことによって遺留分権利者の地位が弱まっているわけです。およそ遺留分権利者の保護が弱まるということと,共同相続人間で配偶者の地位がより厚く保護されるのかという問題は区別して議論する必要があるように思います。それを組み合わせた結果として,現象としては配偶者の保護が弱くなったように見える場面が出てきますけれども,これはこの部会の中で遺留分権利者の地位を従前よりも弱めるという判断をした結果として表れていると捉え方になるのかと思って伺っております。   ほかはいかがでございましょうか。 ○西幹事 非常に初歩的な質問で恐縮ですが,長期居住権のところで8ページの(3)の①のところですけれども,長期居住権がある種の債務不履行のようなことがあった場合には消滅するという規律になっています。消滅するということの基本的な意義・効果がまだ十分に理解できていないのですが,例えば終身とか10年の長期居住権が設定されていたけれども,(2)のアの規律に違反したようなことがあった場合には,例えば2年目でも消滅してしまうと。   そうすると,最初の遺産分割のときには終身分あるいは10年分などの長期居住権を取得したものとして相続分が算定されているわけですけれども,2年で消滅した場合でも,あとの分は返ってこないというのが消滅の意味ということになるでしょうか。例えば賃貸借の場合には債務不履行で解除された場合には,それ以降は払わなくていいということになりますので,そうなると,こちらの方がかえって不利な気がするのですけれども,消滅の捉え方としては,そういうことでよろしいのでしょうか。つまり,終身あるいは25年などの期間が予定されていた場合でも,一切,それについては1円も返ってこないということでよろしいのでしょうか。 ○堂薗幹事 そういう義務違反を理由に消滅請求が認められた以上は,それでやむを得ないのではないかというのがここでの考え方ということでございます。 ○西幹事 ありがとうございます。 ○大村部会長 ほかにいかがでございましょうか。   長期居住権の登記について事務当局の方から問題提起がございましたけれども,その点については何か御意見はございますでしょうか。 ○沖野委員 意見ではなく,確認させていただきたいのですけれども,一つは登記請求権ということで登記義務が居住建物の所有者にあるということです。このときに単独ではなくて共同申請になるということなのですが,長期居住権の取得というのが審判によって確定したというような場合には,ただ,それをもって登記ができるということになるのでしょうかというのが一つです。   それから,前からあったのかもしれませんが,居住建物の所有者というのが確定しない限りは,およそ登記なり,何らかの保全的な処置というのはできないのでしょうかということで,特に被相続人の処分行為によって長期居住権自体は取得することが決まっていると,場合によっては所有者も決まっているけれども,その人は先に亡くなってしまったとか,いろいろな場合があるかと思うんですけれども,とにかく長期居住権を取得するということは一応,被相続人の処分によって決まっているんだけれども,誰が所有権を獲得するかについては決まっていなくて,遺産分割まで結構,長くかかったりというようなときには,長期居住権についてその対抗力を備えるなり,あるいは保護のための措置をとるということはできるのかできないのかということでして,それで,後の点について関連するかもしれないと思いますのは,先ほどの水野(紀)委員の御指摘の短期居住権について,ただし書で長期居住権を取得した場合はこの限りではないというのは,長期居住権を取得するというのが被相続人の処分によって決まっているときは,最初から長期居住権を取得しているからということなんですが,確かに御指摘のように無償性かどうかという点が違うので,無償のことを考えてというときに,例えば長期居住権の取得を遅らせるとかいうことになると,今度はその保護のための措置というのがいつからとれるかということが問題になりますので,併存して走るならばまだいいんですけれども,その点も考える必要があるのかなと思いました。   最後の点は感想なんですけれども,登記の関係について例えば所有権については遺産共有の段階で共有の所有権登記なりをし,長期居住権は登記するというようなこともできるのか,建物所有者の意義かもしれませんけれども,具体的に何かお考えのところがありましたら教えていただければと思います。 ○堂薗幹事 登記のところは民事二課とも相談の上で,最終的に決めるということになりますので,十分な検討ができているわけではありませんが,基本的には所有者が登記義務者になるということになりますと,先ほど御指摘がありましたような事例で,建物については遺産共有だというような場合には,相続人,要するに共有状態にある相続人が登記義務者となって,長期居住権の登記をするということはできるようにする必要があるのではないかと思います。   また,長期居住権設定の審判をしたときに,それを持って行って登記できるようになるかどうかという点については,その審判の中で建物所有者の登記申請の意思表示を擬制するような文言が主文の中に入っていれば,問題なくできるんだと思いますし,そういう形にしないと登記できないのかどうかという辺りについては,少し検討する必要があるのではないかと考えているところでございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   そのほか,いかがでございましょうか。よろしいでしょうか。   それでは,幾つか問題点の御指摘がございましたので,その点につきましては更に御検討いただくということにいたしまして,第1につきましては御意見を頂戴したということにさせていただきたいと思います。   ここで10分ほど休憩しまして3時半に再開したいと思います。           (休     憩) ○大村部会長 それでは,再開させていただきます。   部会資料21のうち,第1につきまして御意見を頂きました。第2,第3と大きな項目で二つ残っておりますけれども,第2の「遺産分割等に関する見直し」の部分につきまして事務当局より御説明を頂きます。 ○神吉関係官 それでは,関係官の神吉から第2の「遺産分割等に関する見直し」について御説明させていただきます。   まず,4の「一部分割について」を御説明いたします。   こちらは,部会資料におきましての〔参考〕として,部会資料18において掲げていた考え方も記載しておりますが,従前の提案に対しましては消極的な御意見が多かったことから,今回の部会資料においては,これまでと少し異なる考え方を提案しております。   すなわち,当事者が遺産の一部分割をすることができること,また,協議ができない場合に,裁判所に対して一部分割の請求をすることができることについて,それぞれ,明文上の規定を設け,ただし,その一部分割をすることによって共同相続人の利益を害するおそれがあるとき,すなわち,特別受益等について検討し,代償金,換価等の分割方法をも検討した上で,最終的に適正に遺産分割を達成し得るという明確な見通しが得られない場合には,一部分割の請求をすることができない,その請求を受けた裁判所としては却下の審判をすること,こういったことを提案しております。   基本的には現在,実務上,行われているのではないかと思われる一部分割を明文化したものであると考えておりますが,16ページの3においても記載しておりますが,幾つかの懸念点もあるように思われます。この点についてどのように考えるべきか,御意見を頂ければと思います。   引き続きまして,18ページ目の5の「相続開始後の共同相続人による財産処分について」を御説明いたします。   前回の部会におきまして,相続開始後の共同相続人による財産処分が行われた場合の規律について提案を行いましたところ,相続開始後に共同相続人が財産処分を行ったことにより,処分を行った者が処分をしなかった場合と比べて利得をするという不公平が計算上,生じ得るという点につきましてはおおむね理解が得られましたが,そのような不公平を解消する方策を設けた場合の影響等につきましては,様々な御意見や懸念が示されたところでございます。   確かに,このような方策を導入いたしますと,紛争が一定程度長期化・複雑化することは否定できないものの,他方で,相続開始後に遺産が処分された結果,生じる不公平を不満に思い,これを是正したいと考える相続人がいる場合に,民事訴訟による場合を含め,これを適切に救済する手段が見当たらないというのは問題であると考えられ,公平かつ公正な遺産分割を実現するため,何らかの救済手段を設ける必要性は高いのではないかと考えております。   そこで,今回の部会資料におきましては,前回の部会において示された懸念を可能な限り解消する方向で検討を行い,前回の部会における提案から,処分された財産を遺産分割の際に遺産とみなすか否かは家庭裁判所の裁量に委ねる点,また,分割すべき遺産が現にない場合については,償金請求をすることができる旨の規定を設ける点で変更を加えております。   以下,変更点について簡単に御説明いたします。   まず,1点目の遺産とみなすか否かを家庭裁判所の裁量に委ねる点についてですが,従前の提案におきましては共同相続人が遺産を処分した場合に,その処分した財産については,遺産分割のときにおいて遺産としてなお存在するものとみなすという規定であったことから,処分された財産が共同相続人によって処分されたか否かによって遺産分割の対象となるかどうかが決まり,これについて争いがある場合には,その審理に時間を要することになりかねないという懸念があったところでございます。   そこで,今回の提案におきましては,遺産としてなお存在するものとみなすか否かについては,家庭裁判所の裁量に委ねることとしております。これにより,共同相続人が処分したか否かについて争いがあり,その審理に時間を要するような場合には,必ずしも遺産分割の対象財産に含めなくてもよいということになりまして,その場合には,遺産分割時に実際に存在する財産を基準に,遺産分割における取得額を定めれば足りるということになるかと思います。したがいまして,共同相続人が遺産の一部を処分したことが当事者間で争いがない場合や,客観的な証拠によって明らかである場合などに,①の規律が適用されることになりまして,これについて争いがあり,証拠上,明らかでないようなケースにつきましては,家庭裁判所の裁量で遺産分割の対象財産に含めなくてもよいこととしております。   なお,実務上の運用として,20ページの(注1)で東京家裁における運用ということで論文を紹介させていただいております。もちろん,当事者の同意がある場合ということで,本方策が対象としている場面とは異なりますが,実務上も処分された遺産も含めて遺産分割を行っている,又は既に取得したものとして相続分,具体的な取得額を算定しているという運用が行われているようであります。このように相続開始後に処分を行った者が不当な利得をしないように,公平な結果が得られるように実務上,調整が行われているように思いますが,その実現したい結果・価値観自体は今回の提案内容とさほど異なるところはないようにも思います。   次に,22ページの3の「償金請求の規律」につきまして御説明いたします。   今回の提案,ゴシック部分の②では分割すべき遺産が現に存在しない場合には,①の規律は適用しないこととしておりますが,共同相続人の一人が遺産の全部を処分した場合や,共同相続人によって遺産の一部は処分されたものの,この点については当事者間で争いがあり,家庭裁判所が①の規律により遺産とみなさず,現に存在する遺産のみで遺産分割の審判を行い,その結果,分割すべき遺産が現に存在しない場合,こういった場合を念頭に置いた規律となります。   このような規律を設けることによりまして,遺産分割後に財産処分が判明したようなケースにつきましては①の規律は適用されないことから,更に分割すべきとみなされる遺産は存在せず,遺産分割を行ったが,更に事後的に遺産があることが判明したため,当初の遺産分割が錯誤により無効となるリスクがあるといった懸念は,解消されることになるものと思われます。   ところで,①の規律を適用しないと相続開始後に特別受益のある者が遺産を処分した場合には,処分を行った者の最終的な利得額が多くなるという不公平が生じることがありますが,裁判所の裁量的な判断の結果によって,このような事態が生ずるのは相当ではないと考えられることから,②の後段において損失を受けた共同相続人が,その処分をした共同相続人に対して償金請求をすることができる旨の規定を設けることとしております。これによりまして,相続人間の実質的な公平が図られることになるかと思います。   なお,①の規律を適用しない結果,損失を被った共同相続人が償金請求をすることができる旨の規定を設ければ,償金請求をすることができる金額はその損失額,すなわち,①の規律を適用した場合と適用しない場合との差額であることは明らかではないかと考えられるため,計算式等を法文の中に書き込む必要はないのではないかと,今のところ,考えております。   以上につき,どのように考えるべきか,御意見を頂ければと思います。以上,よろしくお願いいたします。 ○大村部会長 ありがとうございます。   第2の4の「一部分割について」,それから,5の「相続開始後の共同相続人による財産処分について」の2項目についてございますけれども,従前,頂きました御意見・御質問等を踏まえまして,一定の場合に一部分割ができる,それから,遺産がなお存在するものとみなすことができるという規律を設けるということが,基本的には提案されているかと思います。それに伴う幾つかの懸念や考慮事項もございますけれども,それらも含めまして御意見を頂ければと思います。どうぞよろしくお願いいたします。 ○石井幹事 一部分割のところについて申し上げます。規律の明文化をされようという御尽力を多とするところですけれども,先ほどの御説明の中にもありましたように,懸念点として示されているところについては,正にそのような懸念があるのかなと考えております。具体的には,資料の16ページの3に懸念点として書かれているところですけれども,一部分割が何回か繰り返される可能性がありまして,その判断について審判でした場合に,審判は既判力がないため,それぞれ,判断が食い違うという可能性がありますので,法律関係が複雑化してしまう懸念があるというところについてはそのとおりかなと思います。   もう1点,経済的な価値が低い財産について分割がされないまま取り残されてしまう懸念があるというところについても,正にそうだなと思うところでありまして,実際,実務上,遺産分割の事件でも価値のある財産をどう分けるかといったところでもめるということはもちろんあるんですけれども,価値が低いというか,管理コストが高いような不動産を誰が取得するかということでもめる事件というのが相当数あるという実感がございますので,一部の遺産を取り残すという事態が生じるという懸念は現実のものとしてあるのかなと思っております。   特に今回の御提案ですと,③というところで一定の歯止めになるような規律がありますけれども,そういった経済的な価値が低いような不動産が残るという問題については,なかなか,③の規律でも制御し切れないというところがあると思いますので,こういった懸念については慎重に検討する必要があろうかと思っております。元々,一部分割の検討につきましては,可分債権を広く取り込んだ場合に,その問題点をどうやって解消するかといった観点で御検討されていたところでありますけれども,今部会では,そこの点については預貯金債権を基本的には対象とするという方向で議論が収束しつつあるのかなと思いますので,いろいろ,懸念がある中で一部分割に関する規律を設ける必要性というのは,必ずしも高くないのではないかなと考えております。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○神吉関係官 先ほどの懸念点ということで御指摘があった点をどのように考えるべきかということなんですけれども,特に価値のないものが放置されてしまうのではないかという点について確かにそういう懸念もあるかもしれないなと考えております。現在,社会問題化しているところもございますので,そういった懸念はもっともだなと思う一方で,民法自体の立て付けは共同相続人はいつでも遺産の分割をすることができるとなっていますので,いつまでもしないこともできるという立て付けになっておりますので,そうすると,放置するということも一応,制度上,可能となっていると。   そうすると分割協議をする場合に全部分割をするというのが大前提なのかどうかというのは,そこはいまいち,民法の立て付け自体はよく分からないなと思っているところなんですけれども,いつまでも分割をせず放置できるのであれば,分割をする場合には一部でも分割してもいいのではないか,また,実際に一部分割をやっている現状もあるのではないかというところで,制度としては十分あり得るかと思っているところでございます。ただ,こういった規律を設けることによって,社会問題がより進んでしまうのではないかとか,難しい問題が生じるのではないかということであれば,そこは皆さんの御意見を伺った上で,また,どうするかを決めるということになるのかなと思っているところでございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○浅田委員 私は,①の規定は銀行実務に関していうと,あった方がいいと思っております。昨年の大法廷の決定の中でも,分割協議を経ない支払は無効となったわけですけれども,全ての財産について全ての協議がなされるまで預金支払が出せないということであると,いろいろな問題が起こると思います。これについては,仮払い制度等の議論がされているわけですけれども,一方で,現時点における対応として,特定の預金に関して全共同相続人から払戻しの請求を行うという実務があります。これは,私どもは,対象遺産が一部であったとしても分割協議ができるという考えの下でやっております。御提案のこの規律は,それをある意味,法律上,明確化したということだと認識しておりますので,銀行にとっては,ないしは取引安全上からも,良いのではないかと思っています。一方で,先ほど石井幹事からの議論というのがあったわけでありまして,そこは形骸事象をどう手当てするのかというようなことだと思っておりますので,そこはある程度,両立し得る問題だと思っております。   1点,技術的な質問ないしは確認なのですけれども,①の提案の中で「被相続人が遺言で禁じた場合を除き」という文言があります。これは,前回の部会資料18の文言に付加されたものだと認識しているわけですけれども,趣旨としては理解できるところではあります。私の質問は,仮に共同相続人の遺言の存在を知らなかった場合で一部分割をした,その後,遺言の存在が発覚して,そこの中に,こういう禁ずる文言があったという場合に,その効果についてはどうお考えなのか。ちなみに銀行においては第三者債務者の関係においては準占有者の弁済によって律されると思っていますので,必ずしもその議論と弁済の有効性とはリンクしないという認識はしておりますけれども,そもそもの規定趣旨を確認する意味で質問をしたいと思います。 ○神吉関係官 御説明させていただきます。今回の御提案は現行の907条1項,2項を改正するという前提で案文を考えてみたということで,改める部分に下線を引かせていただいたということになります。現行の907条1項は,被相続人が遺言で禁じた場合を除き,いつでも協議で遺産分割することができるとなっておりますので,そこをそのまま記載したというもので,特に実質を変更するものではございません。   二つ目の御質問で,遺言者が分割を禁じたにもかかわらず,遺言に反して分割をした場合その遺産分割の効果はどうなるのかという点については,現行法でもある問題かとは思います。例えば,被相続人が分割を何年か禁じるという遺言をしたときに,共同相続人が遺言の存在を知らずに遺産分割協議をした場合,どうなるのかという問題は今でもあるかと思います。現行法の解釈自体は確認はしていないのですが,そこでの解釈論とパラレルに考えることができるのではないかと思っております。 ○浅田委員 ありがとうございました。 ○大村部会長 そのほか,いかがでございましょうか。 ○増田委員 従前から,現在の裁判所の実務で一部分割がなされているかどうかについては,人によってかなり認識が異なる部分がありますが,私は現在,一部分割が積極的になされているという実態はないように思います。どちらかというと裁判所が全部分割の方を中心に考えられる結果,遺産分割全体の審理が遅延する傾向にあり,一般の国民にとって看過できないほどに進まないという事態が発生していると考えております。   したがって,従前から部会資料18にあったような一部分割に賛成していたところで,部会資料18のような規定をできれば入れていただきたいところなのではありますが,少なくとも一部分割が明文で認められるということであれば,少しでも遺産分割の迅速化に資することになろうかと思いますので,このような一部分割が許容される旨の規定については是非入れていただきたいと考えております。また,浅田委員も言われたように最高裁の平成28年12月19日の決定により,全体の分割に先行して先に一部を分割する実際上の必要性は高まっていると考えられます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   今の点につきまして,そのほかに御意見があれば,是非,伺いたいと思いますが,いかがでございましょうか。 ○石栗委員 一部分割が行われているかどうかという点ですけれども,基本的には遺産性に争いがある財産を当事者の合意によって遺産の範囲から外すことによって,全部分割の形となっているという意味で一部分割でなくなっているだけで,このような場合には,現実的には一部分割が行われているものと思っております。裁判所としては,遺産分割事件の審理期間を短縮することについて,非常に一生懸命,努力しているところでもございますので,裁判所が全部分割を中心に考えているために審理が遅延しているとの御指摘は非常に残念なことでございます。   特に③の規定がございますと,結局,ほかの財産の全部を評価した上で,一部だけの分割による影響があるのかどうかということを判断しなくてはいけなくなりますので,結果的には全体を審理の対象にするということになるのではないかと思います。③の規定の存在によってある程度の歯止めが掛かるというよりは,かえって当事者の御負担になるという懸念もあるのではないだろうかと思っておりまして,その点も御検討いただければと思っているところでございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   現状について正確な認識をするというのは,なかなか難しいところがあろうかと思います。そのことは踏まえて,今後,どういう実務が形成されるのが望ましいと考えるかという観点から,立法していくことになろうかと思いますが,それにしても出てきそうな懸念についてはできるだけ対応して,立法するならばするということかと思います。今,賛否両論を頂いておりますけれども,現段階でこういうことを考えるべきだという御指摘があれば,是非,承りたいと思いますが。 ○窪田委員 全然,中心的ではない周辺的なことで大変に申し訳ないのですが,先ほど浅田委員から「被相続人が遺言で禁じた場合を除き」という現行法にも入っている部分ですし,遺産分割の禁止という規定はあるんですが,私自身が家族法とかを教えていてもよく分からないのは,遺産分割の禁止は一体何のためにあるのかということです。注釈民法などを見ても余りはっきりとしたことは書いてありませんし,その趣旨も余りはっきりしないというときに,本当にこれを維持する必要があるのかなという気がします。正しく分割保護の指定であるとか,そうしたものであれば,被相続人の意思を実現するものということで積極的な位置付けが可能なのですが,この機会に周辺的なのかもしれませんが,見直してもいいのではないか。というのは,そもそも,遺産分割に関していうと,むしろ,遅れるということが望ましくないという点が意識されるようになっているときに,あえて,こういうものを積極的に残す必要があるのかなという気がいたしましたので,余計な部分かもしれませんが,発言させていただきました。 ○大村部会長 ありがとうございます。   先ほど出ておりましたけれども,全体を早く分割するということを民法は求めているのか,求めていないのかということとも関わる問題かと思いますが,それも含めて御検討いただければと思いますが,そのほか,いかがでございましょうか。 ○山本(和)委員 特段の定見があるわけではありません。若干,コメントですが,16ページの懸念で大きく二つのことが書かれていると思うんですけれども,上の方に書かれている手続的な懸念,既判力等が及ばないので新しい証拠が出てくるとか,異なる主張・立証がされるというようなこと,これ自体は訴訟上の一部請求でも恐らくあり得る問題で,一部請求で現在の理解はその部分についてのみ既判力が及んで,残部については既判力は及ばないとされていますので,最高裁は一部,それを信義則で調整しようというか,整合性を持たせようとしているのだろうと思うんですけれども,ただ,そこで一定の食い違いとか複雑化というものが発生するということは,あり得ない話ではないのかなとは思っています。これで決定的にそれで駄目ということになるのかなという印象を持ちました。   後段の方に書いてあることは政策判断の問題かなと純粋に思います。ですから,その関係では今回の③の要件が純粋に私益保護というか,共同相続人の利益の保護ということだけが要件になっているので,ここに書かれてある公益的なことは組み込めない要件になっているということかと思いますが,もし解決というか,あれするのであれば,もう少し要件を緩めて,そういう公益的なものも取り込めるような要件を作るというのは,どうしても作るということであればあり得るのかなと。   元々,前回の提案は結局,必要性の部分は詳しく書いてあったわけですが,ここで問題になっている許容性については相当と認めるときという,非常に茫漠とした表現が書いてあるだけだったわけです。今回は共同相続人の利益ということになっていると思うんですが,相当でないと認めるときは,その請求を却下しなければならないというのが,法的ルールとして成立するのかどうかというのはよく分かりませんが,もう少し,あるいは要件を緩ませるということは,選択肢としてはあり得るかなと思いました。コメントです。 ○大村部会長 ありがとうございます。   賛否両論があるわけですけれども,ほかに何かございますか。 ○村田委員 懸念点として16ページに書かれているところの後段について,今の山本委員の御指摘と基本のところでは共通する認識を持っておりまして,③の立て付けで正に今,私益と御指摘のあったことだけで判断すると,公益的な部分の障害を取り除くことができないという懸念があります。一部の経済的な価値の低い財産が放置される実態,すなわち,これによって恐らく相続人の方々は,この厄介なものに誰も手を付けず,ふたをしておくという形で,相続人間ではみんなハッピーなんだけれども,社会的には不利益な状態がそのまま放置されると,こういう実態はあり得るのかなと思いますので,それは必ずしもよろしくはないのではないかと思うわけですが,他方で,③の私益的な要件のところだけでも先ほど石栗委員が言われたように,なかなか,判断が大変な部分があるのではないかということとともに,公益的な観点からこの請求をとりあえず却下すべきか,認めるべきか,あるいは何がしか分割せよという辺りを裁判所で判断しろと言われても,これは的確に具体的な要件を書き込んでいただければできるかもしれませんが,先ほどの相当性といったような漠とした要件で裁判所に投げられると,これまた,今,苦しんでいるのと余り変わらないといいますか,一部分割がより勧奨されることになり得る反面,難しさはより顕在化するという面もあるのかなというような難しさを感じるところです。 ○垣内幹事 私自身は,余りこの問題について確たる定見があるということではないんですけれども,今,少し話題になっておりました③のところの却下事由の内容に関してですが,これは少なくとも山本先生のようなお考えを採れば,もう少し広がるということになるのかもしれませんが,この資料に書かれている内容としては,飽くまで共同相続人の利益を害するおそれがあるということで却下できるということになっていて,資料でも説明されておりますように,基本的には①の規律によってみんなで合意をするのであれば,全部又は一部は自由に分割できるという意味では,完全に共同相続人が処分できる事項であり,その一部について申立てをしようが,全部についてしようが,それも通常の民事訴訟のような考え方でいけば,基本的に自由だということになりそうなわけです。しかし,③のところはそこを少し裁判所が公権的に介入するという道を認めているという,そういう意味では,処分権を制約するものだということになるわけですけれども,処分の制約という観点からいきますと,現行の907条3項の規定で,特別の事由があるときは全部又は一部について分割を禁ずることができるという規定も置かれているところですので,③の共同相続人の一人又は数人の利益を害するおそれがあるときという要件と,現行907条3項の特別の事由というのがどういう関係に立つことになるのか。そもそも,禁ずるというのは協議でもできないようにするということで,より強い介入だということはなるんだと思うんですけれども,もし,立法される場合には,その辺りについても整理しておくことが望ましいのかなという感想を持っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   賛否両論の間で,③の要件を工夫することによって着地することはできないかということで,何人かの委員・幹事から御指摘を頂いているところかと思いますけれども,更に何かございましたら,是非,お願いいたします。双方のお立場から御意見が出ていますので,うまくこれを折り合わせることができるかどうか,もう少し事務当局に御苦労いただかなければならないのかなと思って伺っていますけれども,それでいいですか。   それでは,差し当たり,そのようにさせていただいて,もう一つが前回出て,様々な意見を頂戴したところでございます。18ページ以下の5の問題ですけれども,これも家庭裁判所が相当と認めるときは,当該処分された財産が遺産分割のときに遺産としてなお存在するものとみなすことができるという提案されていますけれども,この点につきまして,是非,御意見を頂ければと思いますが,いかがでございましょうか。 ○山本幹事 部会資料18ページの「基本的な考え方」で,「処分を行った者が処分しなかった場合と比べて利得をするという不公平が計算上生じ得るという点については概ね理解が得られた」とされている部分についてですけれども,計算上,確かに財産処分をした特別受益者の方が結果的に多くの額を得る場合があり得るということは,御指摘のとおりですが,これを法的な手当てが必要な不公平と見るかというところが一つ問題かと思っております。   この点,現行法上も他の相続人の法定相続分を侵害するような形で財産処分が行われれば,これは不法行為等ということで救済が認められているかと思いますが,他方で,法定相続分の範囲内の処分について不法行為や不当利得が認められていないということだとすれば,それは恐らく平成12年の最判などで,具体的相続分自体を実体法上の権利関係であるということはできないとされていることによるものではないかと思われるところであります。仮にそうだとしますと,前回,潮見委員からも御指摘があったところと共通するかと思いますけれども,そういったものにすぎないとされている具体的相続分について,様々指摘されているような手続的な無理をしてまで,重たい意味を与えるということについて,コンセンサスが本当にあるのかというところは御検討いただく必要があるのかなと思っております。   また,更に申しますと,ここでいう具体的相続分というのは,恐らく特別受益のみを考慮しており,寄与分の方は考慮しないというものだと思われます。地裁では多分,そういう計算ができないので,そういうことになると思いますけれども,そうだとしますと,今回の御提案のような手当てを仮にしたとしても,寄与分まで考慮すると結局のところ計算上は不均衡が残っているということは,十分にあり得るような気がしておりまして,そうすると,特別受益のみを考慮して手当てをするというのが果たして一貫した考え方なのかどうなのかというところも,併せて,是非,御検討いただきたいと思っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   今のような御指摘をいただきましたけれども,ほかの委員・幹事,いかがでございましょうか。 ○潮見委員 今,山本幹事がおっしゃったような方向で,是非,検討していただきたいと思いますし,私自身は前に発言した内容を変えるつもりはありません。考慮要素の一つとしては考えていただきたいなと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   慎重論が二つ続きましたけれども,そのほかはいかがでございましょうか。 ○石井幹事 慎重な意見が続いてしまって恐縮なんですけれども,実体法的なところについては,今,山本幹事や潮見委員から御指摘があったところですけれども,手続なところとしまして,前回の御提案については処分を遺産分割に取り込むことによって紛争が複雑化する,あるいは長期化するというような懸念を申し上げて,その点については裁判所の裁量に委ねるという形で,一定程度,御配慮いただいたのかなと思っておりますけれども,他方,今回の案で実際にどうなるか考えてみますと,ある程度,客観的に証拠等で明らかだといった場合については,通常,当事者間で遺産分割の対象に取り込むという合意ができてしまうということかと思いまして,そこについては現在も合意ができれば取り込めるということですので,変わらないということになりましょうし,何らか争いがあり得るというところですと,そこは遺産分割手続の中だけで決めても,後で結局,覆る可能性もあるというところもあって,裁判所としては慎重にならざるを得ないというところで,実際,この規律を用いて相当と認める場合という形で取り込める場面というのはかなり限られてきて,実効性が少しどうなのかなと思うところがございます。先ほど来の御指摘で,公平を図るといっても相対的なところにならざるを得ないといったところがある中で,この規律を検討するというところについては,少し慎重に考えていただく必要もあるのではないかと考えているところでございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○神吉関係官 そもそも,特別受益がある人が自分の法定相続分を処分したときに,計算上,不公平が生じるということは前回の部会資料でもお示ししたところですけれども,それでもやむを得ないんだというのが,特に救済する手段がなくても構わないんだというのが皆さんのコンセンサスということであれば,やむを得ないかなという気はするんですけれども,果たしてそれが本当にどうなんだと,今まで余り意識されていなかったところではないかなという気がいたします。実際,家裁の実務でもできる限り,客観的証拠が明らかで同意がある場合については,処分された財産も含めて計算をされているわけですが,そういった形で公平かつ公正に遺産分割を実現しようと努力されているのだと思います。共同相続人の一人が処分したことが明らかであるときに,その者の合意がないということもあるわけですが,合意がとれないという一事をもって,公正さ,公平さを徹底しなくていいのかと,民事訴訟でも救済する手段がない中で,救済する手段を設けなくて良いのかというと,果たしてどうなのだろうか,それは法の欠缺と言われても仕方がないという問題意識を有しております。一方で,そもそも,相続というのは棚ぼた的なもので仕方ないんだと,不公平が生じても仕方ないんだという考え方もあるとは思いますが,ただ,法律によって,本来,遺産分割で取得できる金額というものが決められていて,相続開始後に共同相続人の一人が処分したことによって,他の共同相続人が不利益を受けると,それを正当化するのは困難ではないかと考えております。手段については様々な方策が考えられますが,まずは不公平を是正すべきかどうか,この点につき,まずは御議論いただければと思います。 ○石栗委員 共同相続人による処分が明らかであるにもかかわらず,遺産分割において考慮できないという事態は,実はそれほど多くはなく,遺産分割において考慮できないというのは決してそのような場合ではなくて,共同相続人による処分であることが明らかではない場合だと思います。前回も申し上げたように,相続人が処分したものとして相当と認めて遺産分割の際に存在するものとみなしたときに,後で償金請求や,あるいは第三者に対する不法行為の損害賠償請求などの訴訟手続において,既判力を持って実際,処分したのが相続人以外の者であったことが確定しますと,遺産分割自体の効力が覆るという事態が避けられないことにはならないだろうかということを非常に懸念しております。   現在,遺産分割事件の審理で,一生懸命努力していることを評価していただいていることは,非常に有り難いことと思っておりますが,現在行っておりますのは,既に存在していない遺産を存在するものとみなして遺産分割を行うというものではありません。現在行っている手続では,主文で命じている遺産分割の範囲と,遺産目録で分割時に存在している財産が一致しておりますので,主文で明確に誰が何を取得するかを書くことはできますが,分割時に既に存在していない遺産を存在するものとみなすということになりますと,その時点では存在しない遺産についても主文で誰かが取得するものと記載することになります。例えば第三債務者がいるような債権などの場合に,審判書を見た第三債務者は,理由まで読めばお分かりになるとは思いますが,そのような第三者が,現存している遺産について,主文だけで誰が何を取得したのかが明確にわかるように書けるかというと,それほど簡単ではない場合もあり得るのではないかという点も懸念しております。   それは技術的な問題として,実際にこの制度が決まった場合に,具体的に検討すればいいことかもしれませんが,審判は,明確に誰が何を取得したのかが第三者にも分かる形でされるべきだと思います。現在行っている手続では,存在しないものを存在するものとみなして主文の記載をしているのではありませんので,その辺りも御配慮いただけると有り難いかと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○浅田委員 慎重な意見が続く中で,違った向きの意見を申し上げたいと思います。預金実務に関していえば,私どもが勝手払いの処理について,特に銀行の免責の観点から立法をお願いしていたという経緯がございます。本規律というのは,免責という第三債務者に対する関係ではなくて,正しく相続人間の調整であることということは理解しております。ただ,相続人間で公平な調整がなされるということは望ましいと思いますし,私は,22ページで正しく勝手払いについての計算ということが書いてありますけれども,このようなことがされるということであれば,予見可能性という観点からも望ましい規律だと思います。   一方で,先ほどの議論を聴いておりますと,詰めるところといいましょうか,技術的な問題かもしれませんけれども,なお,検討課題があるのかなと思っております。先ほどの石栗委員の意見に触発されての感想でありますけれども,第三債務者としては,みなすという主文中に記載された預金残高が現状の預金残高と違った場合に,銀行がどう対応するのか。これは解釈問題なのかもしれませんけれども,その解釈指針というのが明確にならない限りにおいては,実務としては負担が出てくるのかなと思います。   そもそも,①の家庭裁判所がみなすということの規律というのが,家庭裁判所が財産があるものとみなして判断を下せるという規律にとどまるのか,そうではなくて,主文となされたからにはみなすというのは,法的に正しいかどうか分かりませんが,対世効みたいなのがあって,銀行に対する提示においても財産が存在するということを前提として求められているということであれば,先ほどの懸念というのが出てくるのかなと思っております。いずれにしても,前向きな方向で詰めていただければとは思っています。 ○大村部会長 ありがとうございます。   そのほか,いかがでしょうか。 ○水野(有)委員 いろいろ,御検討いただいてありがとうございます。おっしゃるとおり,分かることはできるだけきっちりと精算すべきだというのは,正におっしゃるとおりだと思います。ただ,一つ申し上げたいのは,分かる事案というのは,多分,事務当局の方が想定されるほどはないのではないかというのが1点でございます。   そのところは,また,皆さんがお話したとおりなので割愛させていただきますが,あと,目的はよくても手段として,こういう構成がいいのかが一番問われるべきところかと思います。浅田委員が御指摘のとおり,主文のところが動くというのは裁判においてはとても重大な問題でして,ないものをみなすということがほかの場面での裁判との一貫性があるのか,ないのかというところが多分,理論的には一番問われるべきなのではないかと思いまして,私は裁判官ですので,その辺りは明るくないのですが,それが少なくとも私の経験上,難しい構成かなというのが1点,あと,今までの議論で,前提として①は家裁,②は地裁ということが多分,前提になっているかと思いますが,家裁が相当と認めるかどうかで同じタイプのものが家裁と地裁に分かれるというのは,手続として私としては違和感があるかなと思います。   元々,②を地裁にするのであれば,地裁にできるということは具体的相続分が具体的権利として発生しているということを前提としなければ,多分,②を地裁に取り込むことはできない。そうなりますと,もうちょっと詰めていけば,②の要件事実は何かという論点になりまして,②の要件事実が果たして費消されたことなのかとか,元々,遺産分割の対象財産となった時点で発生していたのかとか,それとも,家裁が相当と認めなかったということが実体的要件なのかとか,その辺りがまだ,目的はすばらしいにしても整理がされていないものなのかなという印象を受けてございます。   そうなりますと,あと,①が審判でされることのみを想定されていると思うんですが,現実の遺産分割はほとんどが協議です。その上,協議がない黙示の協議です。いつの間にか分かれているというようなこともほとんどございますので,そのようなことも御推定いただいて,②のところをもし実体的要件を前提とした具体的権利として構成されるのであれば,相当,洗練していただかないと,なかなか,地裁では一体,何を審理していいのか,よく分からないと。   算数はすぐ出るとおっしゃいましたが,算数も引き算だけにするのか,その物件について,そのものについて具体的相続分という構成にするのかも全く違いますし,もし,引き算にするとすれば,従前,どういう分け方をしたかを全部調べないと引き算ができないということになりますので,それもとても難しい。ですから,すばらしい目的だと思いますので,その目的に合ったいい感じの制度を御提案いただければなと思いますので,よろしくお願いいたします。 ○堂薗幹事 いろいろ,御指摘を受けているところではあるんですが,元々,この議論を始めたのは預貯金債権のところで当然に払戻しを認めるという制度が必要ではないかと,払戻しをした場合に,どのような事後処理をするのかという点については手当てが必要だろうということで,我々としては検討を始めたわけですが,預貯金債権について払戻しがされた場合の規律と,それ以外の財産について相続人が処分した場合の規律,それが違うということ自体,なかなか説明が難しいのではないかという問題意識がまずございます。つまり,仮に預金について,このような形で存在したものとみなすという取扱いをするのが相当だということになった場合に,何故,それ以外の財産について処分した場合にそれと違う取扱いをするのかという説明は,なかなか難しいところがあるのではないかというのがこちらの問題意識であり,それが本方策の検討のきっかけでございました。   それと,具体的相続分に権利性があるかどうかという話は,取りあえず,置いておくといたしまして,少なくとも相続人間では特別受益ないし寄与分を考慮した上で分配するのが公平だというのは,法律でそういう形で価値判断をしているということだろうと思いますので,そうであるにもかかわらず,相続開始後に処分した場合にそこを調整する手段がないというのは問題ではないかというところがございまして,もし,そこの調整ができないということであれば,本来は任意の処分を禁止するとか,そういうことが,本来必要になるところ,任意の処分が認められているにもかかわらず,そこで任意の処分をしたときに調整する手段がないというのが,法制度全体として本当に合理的な説明が付くのだろうかというのがこちらの疑問ということになります。   先ほどから相続財産とみなすというのはどうなのかという御指摘を頂いておりますが,ただ,この点は,特別受益も,計算上は遺産とみなされるわけですので,それとほぼ同じような取扱いをするわけでございまして,特別受益との違いは,特別受益の場合は,計算上超過特別受益が生じても,それは返さなくていいのに対し,この方策では実際にその場合も返すというところに違いがあるだけですが,その点については,相続開始前の話と相続開始後の話とで,その点に違いがあるというのは,それなりに合理的に説明が付くのではないかと考えております。   それから,誰が処分したのか分かる事案が少ないというのは確かにそうかもしれませんけれども,誰が処分したのか分かる事案が少ないから何も制度を設けなくていいということには必ずしもならないのではないかと思います。もし,分かる事案が少ないので,家事審判の方でそれをやるのが難しいということであれば,その場合に常に民事訴訟で解決できるということであれば,それは一つの選択肢だとは思いますけれども,そのどちらも道がないというのは看過し難い問題なのではないかというのがこちらの問題意識ですし,寄与分との関係につきましても,何度か,これまでも規定を出しておりますが,例えば民法910条の価額支払請求権,これは地方裁判所でやるということにされておりますが,そこでは,同じように特別受益も考慮し,寄与分についても家庭裁判所の方の審判があれば考慮するという形になっておりますので,仮に寄与分までこの制度の中で考慮するようにすべきだということであれば,それは制度としては恐らく仕組めるのだろうと思いますので,特別受益だけではなくて寄与分もということであれば,それを含めた制度設計は可能だと思います。また,具体的相続分に権利性がないという点についても,あの判例は飽くまで具体的相続分は幾らかということについて確認の利益がないということを言っているだけであって,一切,民事訴訟における裁判としての規範性を持たないというところまで,本当に言っているのだろうか,という疑問もございます。   910条の請求のところもそうですし,遺留分減殺請求においても,言わば特別受益の価値を計算した上で,民事訴訟で請求するということにはなっておりますので,その辺りをいろいろ考えた場合に,ここについて何も規律を設けない,他方,預金債権について乙案を採用して,そこについてだけ権利行使した場合の規律を設けるというのは本当に可能なのだろうかというところが,こちらとしては一番疑問に思っているところでございまして,その点についてもし御意見があれば,頂きたいと考えているところでございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○増田委員 本当に思い付きなんですけれども,償金請求だけを決めるというのはどうなんでしょうか。 ○堂薗幹事 それは一つの手段としてはあると思うのですが。 ○増田委員 飽くまで,平成12年2月24日の最高裁判例を変更して具体的相続分を権利に格上げするということが前提です。私が以前にも申し上げたとおり,非訟手続というのは事実認定の手法に限界を持っています。遺産分割では分割の対象物というものが現実にあって,その存在を前提に,具体的な取り分だけを決めるということが前提で,非訟手続であることが許容されているということだと思います。現行法上,みなし相続財産という概念がありますけれども,みなしというのは遺産目録には表れません。それは基準として示されるだけのことです。非訟手続の中で既に処分された,現在,存在しない財産を含めるということは,権利の内容のみを決めるという非訟手続の本来の枠を超えているだろうと思うんですね。これを踏まえて,どうしても具体的相続分を基準に権利関係を決めたいとおっしゃるのであれば,現在も法定相続分が侵害された場合は不法行為とか,不当利得とか,そういう請求が成り立つわけだから,その基準を具体的相続分に変えて,償金請求だけというのもあり得るのかなとは思いますけれども,いかがなんでしょうか。 ○神吉関係官 償金請求だけということも,一応,考えたのですけれども,そうすると,遺産分割の中で処理できる場合に,同意がある場合には今は処理しているということですけれども,処理したいという場合にもできなくなるのではないかというところで,一回的な解決を希望される方は,そちらでもできるようにした方がいいのではないかという問題意識だったのですけれども,そこを償金請求だけのルートにしてしまうと,必ずしも一回的解決にはならないのではないかと。 ○増田委員 それは,できるということが合意を促進するということもありますので,必ずしもそうは言えないと思いますけれども,ただ,具体的相続分を権利に格上げするのがいいのかどうかというのは,私は保留しておきますけれども。 ○潮見委員 多分,増田委員がおっしゃっているのは,全員が同意すれば,別にそれは遺産分割の手続の中に入れて考慮してもよいという,そういう趣旨ですよね。その上で,増田委員に確認ですけれども,遺産分割が終了するまでの間に共同相続人の一人又は数人によって遺産が処分された場合において,損失を受けた共同相続人は,その処分をした共同相続人に対して,その償金を請求することができるという,そういうルールをイメージしているということでよろしいのでしょうか。それでも,そこまででも書く価値はあると。それとも,あるいは具体的相続分といったけれども,その辺りを権利に格上げするということであれば,それが分かるような,そういうルールを書いてくださいという,そういう御趣旨も含まれているんですか。 ○増田委員 そうです。その前提を採るのであればということです。 ○垣内幹事 非常に難しい問題で,私は全くこの点について深く検討できていないんですけれども,今,増田委員の方から償金請求に絞ってはどうかという御発言があったんですが,それはかなり現在の具体的相続分等についての考え方を変えることになるのかなという印象を取りあえずは持っておりまして,仮に御提案のような調整と申しますか,不公平の是正ということを考えたときに,私自身としてはむしろ①のみに絞って考える,これは遺産分割の枠内だけの問題ということで,完結させざるを得ないという見方もあるのかなという気もしております。ただ,いろいろ,手続的な問題があるというのは既に御指摘があるとおりかとは思うんですけれども,そう考えたときに,今日の御提案というのは,相当と認めるときはということで,先ほど水野(有)委員からも御指摘がありましたけれども,実体的な基準を定めているのではなくて,つまり,実体法として遺産分割全般の基準として,遺産として存在するものとみなすという規律なしに,相当と認めたら家裁が加えていいという,そういう規律を設けるということです。その必要性そのものは御説明のようなことがあるので分かることは分かるんですが,しかし,結局のところ,本当にそういう処分があったと認められるのであれば,それは存在するものとみなすべきでしょうし,認められないのであれば,認めるに足りる認定ができない以上,みなすことはできないのではないか。これに対して,「相当と認めるとき」というのは,審理が難しいので,もしかしたら,これ以上,調べていけば分かるかもしれないけれども,そこは調べずにやめておこうというような裁量を認めているように見えるんですが,遺産分割の結果,それで決まるという当該基礎となる財産の認定に際して,そういう裁量を認めて本当にいいのだろうかというのは,やや私自身は引っ掛かるところがあるところで,そうであれば,前回の御提案の方がまだしも理解できるのではないか,という感じも持っているところです。 ○大村部会長 ありがとうございます。   ①だけでいく,②だけでいくという案も出ておりますけれども,それぞれについて難点も指摘されているという状況かと思います。ほかに御発言はございますでしょうか。しかし,事務当局としては何か手を打っておかなくてよいのかというところから出発してお考えになっていることですね。 ○堂薗幹事 ですから,預貯金で乙案のような考え方を採って,そこで調整規定を設ける場合に,それが遺産分割の本則的な規律の特則なのか,それとも,そうではないのかというところから決まらないことになってしまいますので,そこはなかなか難しいのではないかと思います。それから,先ほど申し上げましたように,こういった不公平をそのままにしておいていいのかというところはもちろんあるわけですけれども,今回の案は少なくとも,①で解決できるものはそこで一回的に解決をし,それが難しいのなら,②の方でやってくださいというものですので,その意味では,増田先生が言われたような具体的相続分での償金請求を基本的に認めるという考え方に近いのかもしれません。   ここで全員の合意がなくても,少なくとも処分をした人が認めていると,自分が処分したという不利益な事実を認めているというような場合は,仮に全員の合意がなくても,それで遺産とみなしてしまって,その後,客観的には違ったということが仮に分かったとしても,それは基本的に自分で不利益な事実を認めていた以上,遺産分割は有効なものとして取り扱われることになるのではないかと思います。それ以外の場合について,その人が不利益を受けたからといって,不当利得返還請求などができるかどうか明らかでないというところもあって,一回的解決が可能なものは①でやるけれども,それが難しいときは②でやるという基本的な考え方に立っているのだと思います。 ○潮見委員 考え方は理解できます,賛否は別として。むしろ,今日,問題になっているのも,前回もそうだったと思うのですが,大変な問題は手続法上の問題と正にお書きになられているこれで,しかも,それは理論レベルの話と,それから,実際の運用レベルの話と,この二つにも係っていると思うんです。もちろん,要件事実は前者の問題に入れたという前提ですけれども,いろいろな御意見が今日も出ましたので,それを基に,少し手続的な問題に絞った形で見えやすいものを説明でお示しいただけないでしょうか。   席上資料の記述ですと,要するに,不公平があるということで前の案を出したけれども,前のところで手続法上の問題もそうだけれども,それ以外のところでいろいろ御批判があって,不公平感というものを何とか処理しなければいけないんだけれども,前のでは少し問題があるから,こうしましたという形で整理されています。その部分についての事務当局の対応というのは理解できましたが,肝心のといったら言い方が悪いんですけれども,基本になるところの手続的な理論面での説明と,実際に今日出てきたような実務上の問題をどうクリアするのかということと,それから,先ほどの垣内幹事と増田委員のお話もございましたが,①だけに絞る,②だけに絞った場合に,一体,どうなるのか,あるいは特に増田委員が言われたようなことがルール上,書けるのか,書けないのかとか,その辺りまで,まだ,半年延びたということもありますから,精査していただいた方がいいと思うので,お願いできないでしょうか。 ○堂薗幹事 もちろん,検討いたします。 ○村田委員 今の潮見委員の御意見に賛成なんですけれども,その際に検討の一つの視点として,現行の遺産分割のこの局面に関していうと,前に水野紀子委員がおっしゃったことに関連しますが,現行法は,相続開始時の財産で固定し,それを概念的だけではなくて,処分も完全に禁じた形で,一旦,フリーズした上で分割するという形をしておらず,時間の流れの中で,いろいろな考慮要素を含めて解決していく仕組みを手続法的にも,実体法的にも採っていると思うんです。   特別受益,寄与分という意味では過去に遡ったことも考えるし,その後の解決方法としては協議もあれば,審判もありという時間が流れていく中で,物の評価だって動き得るという前提の中で,一部については名義が変わり得る財産もあり得るかもなというところも許容した中での,そういう全体の流れの中での相対的な公平というのを一定程度,追求できる制度を今は作っていると思うので,どの程度の客観的な公平というのを,手続法も含めて求めるのかというところのコンセンサスがないと,なかなか,作りにくいのではないかなと思いますので,そこら辺も含めた検討をお願いできればと思います。 ○大村部会長 様々な御指摘を頂きましたので,それを踏まえて更にもう少し練って,また,御提案いただきたいと思います。   ほかはよろしいでしょうか。   それでは,最後の項目になりますけれども,資料でいいますと26ページになります,第3の「相続の効力等(権利及び義務の承継等)に関する見直し」という部分ですけれども,この点につきまして事務当局の方から御説明を頂きます。 ○満田関係官 それでは,関係官の満田の方から御説明させていただきます。   まず,26ページのゴシック部分の「1 権利の承継に関する規律」についてでございます。   これまでの部会におきましては,対抗要件に関する規律につきまして,第2の「遺産分割に関する見直し」と第3の「遺言制度に関する見直し」というところで分かれて記載されておりましたが,これが分かりにくいものとなっておりましたので,本部会資料では「権利の承継に関する規律」というところで,この規律をまとめて記載いたしました。   続きまして,基本的な考え方について簡単に説明いたします。   そもそも,相続人との関係では,遺言がある場合に相続人が相続を承認した以上,基本的には被相続人の意思というものを相続人は尊重すべき立場にありますので,法定相続分による権利の取得があったとの期待を保護する必要性はないと考えられますが,他方で,被相続人に対して権利を有し,義務を負っていた者,具体的には相続債権者や被相続人の債務者という人たちになると思われますが,これらの者との関係では,相続の包括承継という法的性質に照らしますと,これらの者の法的地位が相続の前後でできるだけ変動が生じないようにするということが相当であると考えられます。   現行法におきましても遺言がない場合には,第三者との関係では具体的相続分がない者であったとしても,法定相続分による権利の承継があったものとして取り扱われておりまして,このような観点を踏まえたものと思われます。これに対して,相続させる旨の遺言があった場合に,現行の判例を前提といたしますと,遺言がない場合に比べて相続債権者や被相続人の債務者の法的地位が不安定になるのではないかというところを,基本的な考え方のところに記載しております。   今回の見直しではこれらの点を考慮しまして,相続による権利の承継についても対抗要件主義というものを提案させていただいておりますが,後に述べますように,遺言執行者がいる場合においても,これらの視点を踏まえて新たな検討をさせていただいておるというところでございます。   続きまして,本部会資料における修正点でございます。   従前の部会資料におきましては,対抗要件主義を適用する範囲につきまして特段の限定を付さず,登録等を含めて記載しておりましたが,民法におきまして対抗要件に関する根拠規定が置かれているものが物権と債権というところでありましたので,本部会資料においても,その範囲に限定するということで規定の修正を図っております。   次に,対抗要件が生ずる範囲についてですけれども,従前は「法定相続分を超える部分の取得については」と記載しておりましたが,受益相続人が権利を取得する場合,法定相続分につきましては,それ以外の相続人が権利を取得する余地はありませんので,この点について二重譲渡というものが生ずるおそれはないということから,本部会資料におきましては表現の適正化の観点も踏まえ,遺産分割方法の指定等により取得する権利の範囲については,特段の限定を設けないということにしております。   続きまして,債務者対抗要件についての規律についてでございます。部会資料18におきましては,その9ページのところで相続一般について権利行使要件として,相続人たる資格等について書面の交付をすることと記載しておりましたが,相続による権利の承継があった場合に,どのような資料でそれを証明するのかという問題については,債権の場面に限って生ずる問題ではありませんので,全ての権利に共通する問題ということを考えますと,法制的な観点から債権の場合に限って記載するのはどうかというところもありましたので,削除という形でさせていただいております。また,遺産分割や遺言の内容を明らかにする書面というものを従前の部会では具体的に書けるかというお話がございましたけれども,これらの具体的な書面について民法において全てを過不足なく列挙するということも困難であると思われますので,今回はこれを記載しないということとしております。   続きまして,第三者対抗要件についてでございます。従前の部会資料におきましては,債務者対抗要件と第三者対抗要件につきましては,確定日付ある証書の要否を除き,同じ要件としておりましたが,第三者対抗要件につきましては,対抗要件の具備の先後の関係によって優劣が決せられるということになりますので,債務者においても明確にその時期を判断できる必要があると考えられます。そこで,本部会資料におきましては,この点につきまして債務者対抗要件と第三者対抗要件の規律を分け,第三者対抗要件については書面の交付を要求せず,単に確定日付ある通知がされたときとすることを提案しております。   32ページ以下では,本部会資料の規律の具体的な適用場面を整理させていただいておりますが,時間の関係上,この説明は割愛させていただきます。   続きまして,36ページを御覧ください。2の「義務の承継に関する規律」について御説明いたします。   義務の承継につきましては,基本的には判例の考え方の明文化であるところ,今回,改めて現行民法との連続性という観点から考えた場合に,現行法の規律を維持する場合には共同相続人の内部的な負担割合の規律を民法上,設ける必要はなく,相続人との関係のみを規律すれば足りるとも思われましたので,そのような観点から本部会資料のような案を提示させていただいております。   なお,従前,義務の承継に関する規律に関連して,相続分の指定と遺産分割方法の指定との関係についても取り上げておりまして,これについては甲案と丙案,それぞれを支持する意見がございました。この両案の違いについては,相続分の指定について,その承継割合を明示する必要があるかどうかというところであると思われますけれども,この点については現行法上も解釈に委ねられておりまして,学説も一致を見ない状況でございますので,この部会においてコンセンサスが得られない場合には,相続分の指定と遺産分割方法の指定との関係については,これまでどおり,解釈に委ねるほかないものとも思われますので,今回の部会資料におきましては,参考として両案を併記させていただいているというところでございます。   最後に,3の「遺言執行者がある場合における相続人の行為の効力等」について御説明いたします。部会資料では38ページからとなっております。この点については前回,ペンディングにしていた部分です。   これまでの部会におきましては,パブリックコメントの結果等を踏まえまして,遺言の執行を妨げるべき行為があった場合には,この行為については原則として行為を無効とした上で,善意の第三者を保護する乙案を採用する方向で検討が進められてきたところです。もっとも,このような考え方を前提としますと,遺言執行者の有無によって,その法的効果が大きく異なるということにもなりますので,このような点について合理性があるのか,本部会資料において再度,検討しております。   今回,机上に配布した参考資料,1枚物の表を御覧ください。この表は,相続させる旨の遺言があった場合の対抗要件に関する規律についてのものでございますが,事例としましては上の四角に書いてありますように,被相続人のAから相続人Bに対して相続させる旨の遺言があった場合についてのそれぞれの第三者との関係を表にして記載しているものでございます。   その下の縦の行は三つに分かれておりまして,1行目は相続人Cが第三者Dに自己の法定相続分を処分した場合,2行目は被相続人の相続債権者であるEが相続人Cに対して法定相続分で差押えをした場合,3行目は相続人の債権者Fが相続人Cに対して法定相続分で差押えをした場合についての表となっております。他方で,列の方でございますけれども,左から遺言がない場合,通常の遺産共有の状態になると思われますが,遺言がない場合でございまして,それ以降は基本的には相続させる旨の遺言があった場合について,更に場合分けをしているというものでございます。現行法と記載されているのは現行法の規律を前提とした場合でありまして,その更に右には遺言がある場合に対抗要件主義を採用した場合の帰結等をそれぞれ記載しております。甲案とありますのは,中間試案で取り上げられていたもので,基本的には対抗要件主義を採用するという形になっております。   なお,列の右端には,参考として組合に関する規律も記載しております。この組合に関する表に書いてある数字については,民法及び債権法の改正の条文の番号となっております。この表で,乙-1案のところに「×(?)」と書いてあるところがあると思いますが,これについては解釈がどうなっているかが不明であるという趣旨でございます。乙-2案の表で「○〔or ×〕」と書いておりますけれども,これは乙-2案を採用した場合の権利を行使できる範囲を変えた場合にどうなるかというところで,部会資料のゴシック部分と亀甲括弧を照らし合わせていただけると分かりやすいかなと思っております。   それでは,更に部会資料の説明に戻らせていただきますけれども,遺言による遺産分割の指定や相続分の指定があった場合に,対抗要件主義を採用することとした理由のうち,相続の開始によって被相続人の相手方当事者の法的地位に著しい変動を生じさせるのは,相当でないとの点につきましては,遺言執行者がいる場合にも同様に当てはまるものと考えられますので,少なくとも相続債権者との関係では,遺言執行者がいる場合についても対抗要件主義を採用し,相続債権者は法定相続分による権利取得を前提として,強制執行することができるようにすることが相当と考えられます。   そこで,乙-2案ではこの点を明らかにするために,②のような規律を設けることといたしました。なお,②の範囲につきましては,相続人の債権者も含めるべきかどうかという点が問題になります。相続人の債権者は,相続開始前には被相続人との間に法律関係を有していたわけでありませんので,相続開始前後での法的地位の変化という問題は生じませんが,遺言がない場合との平仄を考慮しますと,遺言執行者がある場合においても相続債権者と同様,権利行使を認めることも相当であるように思われます。以上のような観点から②の部分について亀甲括弧を付して,その両方の考え方を併記しております。   なお,このような乙-2案の考え方につきましては,乙-1案を採用した場合であっても,解釈により導き得るものと考えられますが,債権法改正等において,組合の条文等においても権利行使の範囲を明確化しておりますので,乙-2案についても,このような観点から規律を明確化しているということでございます。また,乙案を採用した場合には,被相続人の債務者との関係でも問題が生じると思われますので,この点も含めて皆さんで御議論いただければと思います。   以上で説明を終わります。 ○大村部会長 ありがとうございました。   26ページの第3の「相続の効力等に関する見直し」というところですが,その中は権利の承継に関する規律と義務の承継に関する規律,そして,遺言執行者がある場合における相続人の行為の効力等,の三つに分かれておりますけれども,1の権利の承継,2の義務の承継については従前の考え方から出発しつつ,細かい調整を図っていただいたということかと思います。3につきましては,考えられる問題についてかなり立ち入った比較検討をして,御提案を頂いていると理解いたしました。前の方から,順次,御意見を頂ければと思います。「権利の承継に関する規律」辺りからまず御意見を頂ければと思います。 ○浅田委員 第3の1の「(2)債権の承継」について,特に預金債権の取扱いを念頭に質問と意見を申し上げます。   本規律は権利者を明らかとし,誰に払戻しをすればよいのか,分かりやすくするという方向性の制度だと理解しており,また,その帰結として遺言や遺産分割の際の規律を整えることになるというものと理解しております。かかる方向性での制度導入については,第三債務者としての銀行としても非常に有用であり,受け入れやすいものと考えております。また,27ページの第2段落目にありますように,相続債権者や被相続人の債務者に対する考え方は,少なくとも相続開始前後で,できるだけ変動を生じないようにするという考え方に基づくものであり,この論点を離れて差押えとか相殺という議論にもつながるということでございますので,この方向性の議論というのも有り難いと思っています。この観点では事務当局の提案については感謝したく存じます。   一方で,その方向性を実現する手法,これは権利者を特定する手法とも言い換えられると思いますけれども,その設計においては,私はその制度運用まで見据え,一義的に明確になるような制度設計としてほしいと述べてきました。例えば遺産分割に関する従前の御提案,これは第18回会議での提案をベースにしておりますけれども,相続人の範囲や遺言の内容を明らかにする書面が第三者対抗要件に含まれていたわけですけれども,この際,明らかにする書面は一義的に明らかにしてほしいといった要望を述べてきた経緯だと思っています。かかる経緯を踏まえ,今回の御提案を見ますに,本点の権利特定の手法部分の制度がかなり変更されていると思われます。   今回変更部分を見ますに,第三者対抗要件の規律については,例えば法定相続人が遺言の爾後の発見や受遺者の権利主張をおそれて,それが妥当な行動かどうかは別として,取り急いで通知により,対抗要件を具備してしまうという行動をとるようなことになるかもしれません。そうした場合に,かかる通知が多発されてしまうことも想定されなくはありません。また,債務者対抗要件を含めて,特に預金債権について考えますと,平成28年12月19日付け最高裁決定との関係や,特定遺贈においては預金規定における譲渡禁止特約との効果を踏まえて,銀行界との対応がどうなっていくか,整理が必要と思います。   例えば部会資料の34ページの(2)においては,貸付債権のケースで整理いただいておりますけれども,預金債権の場合については遺産分割前の時点のCからDの譲渡というのは,大法廷決定を前提にすれば,Cの金銭債権ではなく,せいぜい,その持分についての譲渡を前提に対抗問題を考えなければならないと思います。そうすると,持分の譲渡と金銭債権の譲渡の対抗問題はどういうことなのかということも,非常に難しい問題として理論的な問題が残るかと思います。   かように銀行界としても再度,精緻に検討していかなければならない状況になっていると理解しております。この意味において,いまだ銀行界として十分な検討ができている状況ではございません。もちろん,次回以降の審議において必要があれば,銀行界の意見をまとめて意見具申を行おうと存じますが,そういう事情もありますので,今回は想定される論点を述べさせていただくにとどめたいと思います。   さて,前置きが長くなりましたが,これらの背景を前提にまずは以下の2点を質問させていただきたく存じます。なお,御回答いただいた後,次いで意見というか,コメントをさせていただければと思います。   一つ目の質問は,債務者対抗要件の具体的な対象を明らかにすることは困難とありますが,この意味するところは,遺産分割又は遺言の内容が明らかか否かは,債務者が独自に判断するということを意味するのか,つまり,債務者としては明らかだと判断したが,真実は間違っていたというときに,債務者はその責任を負うことになるのかということです。私見では,この規律が導入された場合には,それは債務者の責任であるということになりそうであります。ただし,準占有者に対する弁済で保護される場合はあり得るということと考えていますけれども,この理解でよろしいかどうかということの確認でございます。   二つ目の質問は,(2)①のアの相続人の全員が債務者に通知した場合の債務者対抗要件がどうなるのかということであります。ここでは(2)②のように,それを明らかにする書面という規律がありませんので,その反対解釈として以前の部会資料18の提案と異なって,第三債務者にとっては相続人の範囲がその時点では明らかでない事から,債務者対抗要件が相続人の通知が来た時点で具備されていたんだと素朴に思ってしまう,ないしは素朴にそういう規律であると考えられなくもないと思いました。   そうしますと,(2)①のアの通知は相続人の範囲を特定する資料の交付なしの通知でもよいものと考えられますので,例えば考えますと,相続人がA,B,Cと三人いる事例において,Cを除いたA,Bから相続人全員による通知だとして通知がなされた場合には,債務者対抗要件が具備されてしまうようにも思えました。この点,どう考えたらよいのか,教えていただきたいと思います。私見としては,結論としては相続人の範囲を明らかにする書面がないと,債務者対抗要件は具備されないと考えておりますが,この理解でよろしいでしょうかということでございます。まず,質問をさせていただきたいと思います。 ○堂薗幹事 まず,第1点目でございますが,基本的には1(2)の②によりますと,遺産分割又は遺言の内容を明らかにする書面を交付してということになっていますので,この内容を明らかにするに足りる書面であるかどうかというのは,基本的には債務者の判断にならざるを得ないと考えております。ただ,そこは必ずしも一義的に明確ではないというところもございますので,そこの判断を誤った場合についても,当然,準占有者の弁済の対象にはなるということでございます。   この点については,従前から一定の方式を満たしたものに限り,この書面に該当するものとすると,それを法律上,明らかにするということも一応,検討対象になるのではないかということで,一部部会資料の(注)でも書かせていただいたことがあったかと思いますが,それを限定列挙する形で法律上明確にするということ,その証明手段を限定するということについてはかなりハードルが高く,難しいのではないかというところがございますので,今回はこのような形にさせていただいております。そういった意味では,法律で書くことは難しいところがあるんですけれども,遺産分割又は遺言の内容を明らかにする書面の方式について,例えば約款なり何なりで一定のものに限定するとか,そういったことは十分に考えられるのではないかと思います。   それから,(2)①アのところの相続人全員の通知ですけれども,ここは要するに相続が開始して,相続人が法定相続分の権利を承継したという場合に,それを相続人側で証明するというのは,この債権の承継の場面に限らないですし,当然の前提として,債務者も含めて,それ以外の第三者というのはそういった要求ができるのではないかと,法律に書くまでもなく,そこは自分が相続人で,相続人の範囲はこういう人たちですということを債権者の方で証明しない限りは,債務者は応じなくていいというのは書くまでもないのではないかという前提です。それをここだけ書くというのは,ほかの権利との関係で平仄がとれないので,ここでは落とさせていただいたということでございますので,先ほどのように,本来はA,B,Cが相続人なのに,A,Bで自分たちは相続人全員だからということで通知したとしても,そうであれば,それを証明する文書を出してくださいということを債務者が言い,それを出さない限りは債権者として取り扱わなくていいということを前提にしております。 ○浅田委員 ありがとうございました。   つきましては,今回,頂きました回答を踏まえ,意見,コメントを述べさせていただきたいと思います。   先ほどの1番目の質問について,債務者対抗要件具備の判断は債務者の判断となり,仮に判断を間違えた場合には,準占有者弁済で保護されるとのことでした。この点,そもそも,対抗要件というものの具備を複数の方法で許容するということは,現行民法における債権譲渡制度でも,通知,承諾,それから,登記と複数が存在しておりますし,また,対抗要件具備の充足の有無についても,例えば譲渡人からの通知を受領した債務者において,当該通知が真に譲渡人からの通知かどうかの判断を行わなければならないなど,一定の負担を負わされなければならないということは承知しております。   もっとも,本提案の場合において,その債務者が判断するという内容や負担の大きさは,慎重に分析・認識されなければならないと思っております。すなわち,例えば現制度では対抗要件は先ほど申し上げた3種類でありますし,また,債権譲渡登記制度では登記事項証明書の交付が対抗要件具備の方法であるので,その書式や記載内容は一義的に定まっているということでありますけれども,本件の債務者対抗要件は自筆証書遺言であったり,公正証書遺言であったり,遺産分割審判であったり,遺産分割協議などとバリエーションがあり,更に複数の遺言がある場合には,複数の遺言が次々に現れるというパターンもあり得ると思います。   また,26ページの(2)①イの債権を取得した相続人等の通知について考えますと,通常の民法の債権譲渡通知においては譲渡人からの通知ですので,同人の本人確認及び意思確認ができればよいと考えられますけれども,本提案では,言わば譲受人に相当する相続人も通知が可能となりますので,故意又は思い込みによって当該相続人が言わば勝手に通知するという状況もあり得ると思います。   こうした通知が来た場合に,しかも複数が来た場合には,特に債務者において適正な通知は何かということを判別,判断するという規律になるということを意味していると思います。考えようによっては,それは現状対比,債務者にとって負担が多くなるということもあり得ると思います。したがって,その点についても十分,御検討いただいたとは思いますけれども,もう少し債務者にとって負担のないような仕組みがなおあるかどうかということを御検討いただければ有り難いと思います。   それから,約款について先ほど回答から出ましたけれども,確かにかかる整理というのは検討に値すると思いますので,銀行界としてもその立案内容に従って必要ということであれば,検討し得るものとは思っております。しかし,この点についても私見でありますけれども,その際には大きく二つの論点があるのではないかと思っております。一つ目ですけれども,約款の規定内容についての各種論点があり,二つ目については,その約款の国民への周知徹底だと思っております。   一つ目の約款の規定内容でありますけれども,これも従前,申し上げたかもしれませんけれども,約款の相続人による承継というのは,現時点においては余り検討されている状況ではないと思います。考えてみますに,被相続人の属人的な条項というのもあるのかもしれない,又は包括的な承継といった場合に,例えばそのうち全ての条項が包括的に承継されるのかどうか,ないしは遺贈があった場合に特定承継があった場合はどうなのかという問題もあろうかと思います。   加えて,現在,国会で議論されています債権法改正で定型約款というものが議論されておりますけれども,その中でも不意打ち規制では不当条項の点からの整理というのも必要だと思っております。したがって,約款での手当てというのは,正直,私の個人的な認識としては余り今まで議論されていなかったことでありますので,よく検討がなされる必要があるのではないかと思っております。   二つ目に周知の点でございますけれども,言うまでもなく仮に約款に規定するということは,一律,ユーザーに適用するということになるわけでありますけれども,果たしてこれを安定的に運用するためには,約款のユーザーである国民に周知されている必要があると思います。これは銀行界だけでは足りず,ここにいる皆さんの各団体から周知活動ということも必要ではないかと,個人的には思うわけでありますけれども,この周知をスムーズに行うに当たっては,銀行ごとにばらばらに規定が違うということも,国民の利便性や予想可能性の観点から考えますと得策ではないと思いますものですから,新たな課題でありますけれども,独占禁止法等にも配慮しつつ,規定を標準化する作業も必要ではないかと,個人的には考えた次第であります。   いずれにしても,約款に対する検討というのは,ある程度の目線を持って慎重かつ多角的な検討が必要だと思います。その際においては,例えばこういった審議会の場で共通認識化されるということも非常に有用かと思います。   以上を踏まえて御検討いただければと思います。 ○大村部会長 ありがとうございました。 ○堂薗幹事 検討させていただければと思います。 ○大村部会長 ほかにいかがでしょうか。債権の承継について御発言を頂きましたけれども,そのほか,不動産,動産とございますけれども。 ○窪田委員 以前にも同じことを御質問したような気もします。ですから,議論が終わって既にその点については過去の審議の中で御説明があったということでしたら,それを確認していただくだけで結構なのですが,基本的には第3の1の「権利の承継に関する規律」に関しては,不動産,動産に関しては177条,178条と,債権の承継に関しては三つのものを挙げているわけですが,ただ,このうちのアとウは基本的に債権譲渡についての対抗要件ということになりますし,イはそれとは別に正しく遺産分割等によって権利が帰属したということを証明するものだということで,かなり性格の違うものが並んでいるということなのだろうと思います。   ただ,もちろん,性格が違うものが並んでいても,別にそれはそれで構わないのだろうと思いますが,ただ,先ほどから御説明があったことからいっても,イのものというのは正しく遺産分割によって権利を取得したということになりますし,遺産分割協議の前提として,どれだけの人間がそもそも相続人であるのかとか,そうしたものがあって初めて実効性を持って担保されるものだということになるのだろうと思います。   おそらく従来も相続に際して,最高裁の判決はありましたけれども,銀行実務は長いこと,こういった書類を出さないと預金の引き出しに応じなかったと聞いておりますので,そういうことにも対応するものなのだろうと思うのですが,それに対してアとかウというのは,確かに債権譲渡の対抗要件として一般論としてはあるのですが,この場面において,なお,維持するというのにどれだけの意味があるのだろうなという点がよく分からないと感じています。相続人全員が債務者に通知したことといっても,ある意味で相続人の全員だということを明らかにするための書類というのは必要であって,しかし,遺産分割の話は要らないのでしょうか。でも,この債権については,この人に遺産分割で帰属したということが結局,内容としては入るわけですよね。そうすると,アとイは本当にそれほど違うのだろうかということが一つあります。   その上で,ウについてはまた別の観点から,なお,債務者の承諾というのがこうした場面で本当に必要なタイプのものなのかという観点で,議論の余地がひょっとしたらあるのかなという気がしたものですから,感触というか,過去に既に議論があったかもしれませんけれども,教えていただければと思いました。 ○堂薗幹事 まず,債務者の承諾は,実際上は①のイのような規律で②の適用があることになった場合に,対抗要件を具備しているのかどうかというところの判断が必ずしも明確にされないような場合が出てくると,それに対して承諾ということであれば,そこは明確なので,実際上の運用としては債務者の承諾で行う場合が多いのではないかということで,①のウというのは有用だろうという整理です。   他方,かといって債務者が承諾しない場合に,何らかの手段がないとまずいだろうということでアとイを設けているわけですが,事務当局内部でも検討したところではあるんですが,相続人全員の通知というのをあえて書く必要があるのかというところは議論の余地があるのではないかと思います。特に特定承継の場合とは違って,包括承継の場合に包括承継で例えば債権を取得した人がいる場合に,それ以外の相続人がこういった対抗要件を具備させる義務まで負うのかというと,そこは特定承継とは違って必ずしも負うわけではないのではないかというところもありますので,そういった意味で,仮に相続人全員がそういった義務を負わないのだとすると,こういった形で規定を設けても,意思表示の擬制を求めるようなことはできないということで,余り意味がないですし,むしろ,相続人の範囲を示した上で相続人全員が通知しているということであれば,あえてアに書かなくても,②の遺産分割の内容を明らかにする書面に当たり得るのではないかという整理も十分可能だとは思います。①のアについては,実は事務当局内部でもどうしようかというところで悩んでいるところでございますので,この辺りにつきましてもし御意見がございましたら,頂きたいと考えているところでございます。 ○大村部会長 ありがとうございました。   窪田委員からは,一定の御意見を承ったと思っておりますけれども,ほかにその点に関連して御発言があれば頂きたいと思いますが。 ○増田委員 別にこだわるわけではないんですが,あえて債権譲渡の対抗要件にあるものを外す必要があるのかどうかということです。現実に使われるかどうかは別として,皆無ではないと思いますので,入れておいてもいいのではないかと思いますが。 ○大村部会長 ありがとうございます。   このままでもいいのではないかという御意見もいただきましたけれども,どちらも今のところはあり得るというところでしょうか。あるいはほかの点を含めてでも結構ですので,御指摘があれば頂きたいと思いますが,いかがでしょうか。 ○潮見委員 今の増田委員のおっしゃった話で,私もそれでいいとは思うんですが,先ほどの浅田委員の話もありましたが,(2)の①のアについても②に相当するような書面,そういうものがもし必要である,実際に先ほどの話ではありませんが,誰が相続人かとかいう辺りのところは明確に記しておいた方がいいということであるならば,そういう何らかの書面要件というようなものをアにも課すと,最初から債務者対抗要件がいいですよというようにするというのも,方法としてはあるのかもしれません。それは②をどう組むか次第だと思いますけれども,そのような感じがいたしました。   今は権利と義務の承継のところまでですか,遺言執行者はまだですか。 ○大村部会長 遺言執行者については,後でお願いします。 ○潮見委員 一言で済ませます。一番最後のところでも「また」ということで,42ページのところに書いていることなのですが,今回の資料をずっと見ていて,確かに中間試案があって乙案というものをベースにすべきであるという考え方が結構あったということで,この間,乙案の方に傾いた議論をされてきたのではないかと思うんですが,これも同時にこの間,先ほどの権利の承継等の議論を重ねる中で遺贈だとか,あるいは相続させる遺言だとか,相続分指定だとかいうものを含めて一定の特定の承継というものがあり,それから,対抗という構成を採っていくんだという方向が固まってきた段階において,果たして乙案というものが基礎にしている考え方と,ここでの部会の議論で出ている対抗構成というものが両立するのか,両立させようとしたら余りにも技巧的になって,その技巧的なものである程度,落ち着き所のよい結論を導き出そうとして,乙-2案みたいなようなものが出されてきたのかなというような感じもしないわけではありません。   むしろ,今のような形で権利の承継のところについてある程度,一定の考え方に沿った形での方向性が見えてきた段階,今の段階になってもう一度,振り返ってみたら,よその遺言執行者のところでの処理も,むしろ,中間試案に対するパブリックコメントの一部の有力な意見と外れることになりますけれども,甲案ということで考えていく方が自然なのではないかという感じが個人的にはいたします。今回,お配りいただいた表も見て,余計にそのような感じがしたということです。 ○大村部会長 その関係ですね。 ○増田委員 その問題へ入るのでしたら,まず,いいですか。 ○大村部会長 今のような御発言がありましたので,遺言執行者について入っていただいても結構です。 ○増田委員 まず,この表なんですけれども,左から3列目の現行法の理解なんですが,私の理解では,×,○,×なんです。真ん中の被相続人の債権者との関係は,被相続人を譲受人とした二重譲渡と同じですから,遺言があろうとなかろうと対抗問題であると考えております。だから,ここは,×,○,×なのではないかと思うんです。   次に,遺言執行者なしとありの場合にどう違うかということなんですが,遺言執行者がなしの場合には目的物の管理処分権は相続によって相続人に移るということになりますが,遺言執行者ありの時は,遺言者がその意思で管理処分権をあえて相続人に渡さずに,遺言執行者の方に委ねたものだと考えられると思うんです。ということになると,遺言執行者なしの場合には,被相続人イコール相続人からの二重譲渡関係が発生するので,対抗問題と考えられるのに対し,遺言執行者ありのときは被相続人イコール遺言執行者という関係にあるので,相続人には管理処分権はいかず,相続人からの取得者は無権利者であるという考え方も十分成り立つだろうと考えております。したがって,遺言執行者なしとありとで分けることについては十分合理性があると考えます。   その中で,遺言執行者ありのときにどうするかということですけれども,結論が私が理解する現行法と同じ×,○,×でいいのかということになりますと,乙-1案でも構わないと思っております。つまりは被相続人の債権者に関しては,遺言があろうとなかろうと,執行者がいようといまいと,その権利行使が妨げられるはずはない。だから,そこは乙-1案であっても当然対抗問題だという理解になるだろうと思います。   これに対し相続人の債権者,これは先ほどのように遺言執行者なしの場合には対抗問題になるけれども,遺言執行者がいる場合には相続人は無権利という考え方でいけば,善意者保護の規定によらなければならないし,また,実質上も自分の債務者がその権利を取得していないと知っている債権者,こういう人を保護する必要があるのかというのは極めて疑問です。元々,その権利は債務者に帰属していなかった,取得もしなかった,そのことを知っている,そういう債権者を○にすべきかどうかというのは極めて疑問だと。だから,改正法でも,×,○,×にするのが結論的には妥当だと考えますので,私は乙-1案でいいのかなと思っております。 ○山本(和)委員 現行法が×,○,×というのを聴いて,やや私は衝撃的だったんですが,増田委員にお伺いしたいんですが,仮にそういう考え方を採った場合に,相続債権者が持分を差し押さえて,相続債権者との間は対抗問題なので,2分の1,2分の1が法定相続分なら2分の1について強制執行手続が行われると。その後,相続人の債権者が配当要求をしてきた場合には,その相続人の債権者が善意か悪意かによって,2分の1がその人にとって配当財団になるか,4分の1,4分の1というのは少なくなった分が配当財団になるかというのが決まってくるということなんですか。 ○増田委員 一旦,対抗力を取得した最初の差押債権者のところで権利関係が確定しているので,それに乗っかったということでいいのではないかと思います。 ○山本(和)委員 そうすると,相続財産についてその権利を行使することを現在の書き方だと妨げないと書かれていて,仮にこれを相続債権者だけにすると,相続人の債権者は①本文の規律によって権利を行使しなければならないように見えるけれども,配当要求も権利の行使だと思うんですが,しかし,それはそうではないということなんですか,権利が確定するということの意味ですが。 ○増田委員 相続債権者のところでは対抗問題だということは,要は被相続人から譲り受けた譲受人と一緒ですよね。そこで,その人が受遺者より先に登記を備えれば,被相続人から譲り受けた譲受人の権利は確定しますから,それと同じように確定すると。 ○山本(和)委員 しかし,当該相続債権者との関係で確定するのではないんですか。なぜ,ほかの相続人の債権者がそれを援用できるんですか。 ○増田委員 それは,一旦,確定した権利だからだと思っているんですが,そこは疑問がありますか。 ○山本(和)委員 そこが私の理解では,はっきりしなかったんですけれども。 ○増田委員 私は乙-1案で十分だと思っていて,乙-2の②は相続債権者については当然だから要らない,これに対し相続人に対して権利を有する者は,要するに相続人の債権者は権利行使させる必要がないと考えているので,乙-1案なんですけれども。 ○山本(和)委員 実質論としては,私もそういう考え方は十分あると思うんですけれども,それでうまく執行手続とかはできるのかなというのがやや疑問だったんですが。 ○増田委員 今,言われたことはもう少し検討してみます。 ○堂薗幹事 増田先生の考え方だと,乙-1案で書いたとしても乙-2案の亀甲の案の考え方を採ったのと同じ結論になるだろうと。 ○増田委員 私は現行法の真ん中の×というのが理解できなくて。 ○堂薗幹事 遺産分割方法の指定がされた場合には,少なくとも現行法上は法定相続分での権利移転はない,要するに遺言での権利変動しかない,したがって,二重譲渡は生じないという考え方なんだと思いますので,そこは差押えの場合でも同じではないだろうかというのが事務当局の整理です。 ○増田委員 被相続人から譲り受けた譲受人はどうなるんですか。 ○堂薗幹事 それは特定承継ですので,それは対抗要件になりますけれども。 ○増田委員 それは対抗要件主義でしょう。それなら,差押債権者も対抗要件であるはずですよね。そこと実質的に区別することは考えにくいと思いますけれども。 ○堂薗幹事 そこは民法の学者の先生で御意見がございましたら,おっしゃっていただければと思いますが,ここで問題にしているのは,正にこの図のように遺言で,しかも,相続させる旨の遺言,要するに遺産分割方法の指定という形でAからBへの遺言があったと。その場合に,相続債権者がCに対して法定相続分で差し押さえたという場合に,Cには法定相続分での権利移転はないのだから,そもそも差押えは空振りといいますか,実体法上,有効な差押えにはならないのではないかという趣旨です。 ○増田委員 そうすると,Bの法定相続分に対する差押えだけが有効になるんですか。 ○堂薗幹事 遺言に伴った権利変動を前提とした差押えをしないと,有効にならないのではないかということです。 ○増田委員 Aの債権者ですよね。Aの債権者は,要はB,Cに対しては当然に債権者になりますよね。そうすると,普通に考えるとB,Cに対して各2分の1の持分を差し押さえると。そうすると,言われるように……。 ○潮見委員 そこが違う。私は堂薗幹事と全く同じことを考えているわけで,現行法上の判例を前提とした場合には,それ以外の説明の仕方はないと思います。 ○増田委員 そうなんですか。Bの持分も有効ではないんですか,Bの持分に対する差押えも。 ○堂薗幹事 ですから,この場合はBが全部持っていますので,法定相続分以上のものを持っているので,当然,それは全体として有効になるということです。 ○窪田委員 Bが全部を持っている。 ○増田委員 だから,B,Cが2分の1で差し押さえられた場合に,先にですよ。 ○堂薗幹事 だから,Bに対する2分の1は全体を持っている以上,2分の1の差押えも有効ですが,Cについては2分の1を元々持っていないので,差押えはできないのではないかということです。 ○増田委員 分かりました。それは理解しました。   それで,今回の改正では×,○,×になればいいのかなと思っているんですけれども,すみません,それは相続させる遺言についての従前の判例法理ですよね。対抗問題の話ではないということですね。 ○堂薗幹事 ですから,対抗要件主義を採用した後の現行法という意味ではそうなのかもしれないんですが,ここでの現行法というのは,そもそも,相続させる旨の遺言については対抗要件主義の範囲外だという判例を前提とした現行法という意味ですので,増田先生がおっしゃっているように,ここが×,○,×ということで実質としてはいいのではないかということでコンセンサスが得られるのであれば,それは一つの解決の仕方だと思いますし,ただ,他方,その場合に債権法改正のときには,先ほど御説明しましたとおり,組合については組合債権者の権利行使はできるのか,組合員の権利行使はできるのかというところも明確に書くようにしていますので,反対解釈ではないですけれども,そういう解釈の余地を封じる意味では,もし,そういう規律を採るのであれば,きちんとそこは明確にした方がいいのではないかというのがこちらの考えでございまして,まず,×,○,×がいいのか,あるいは甲案のような考え方がいいのかという,その辺りのところから御議論いただければとは思っておりますけれども。 ○大村部会長 先ほど潮見委員から,ここまできたら甲案でいいのではないかというような御発言もありましたけれども,事務当局からは実質について御意見を伺いたいということでございますので,他の委員・幹事からの御意見も伺えればと思いますけれども,いかがでしょうか。 ○潮見委員 甲案ではないということであれば,先ほど増田委員が言われたような説明を理論的にするしかない。要するに被相続人から財産は相続人にいくけれども,しかし,財産管理権というものは遺言執行者に排他的に帰属しているのであると,相続人についてはそういう財産管理権はないということをむしろ明確にし,あるいはそこをブラッシュアップして書いていただいた方がいいと思うのです。どうしてかというと,今までのところは基本的に1013条があったから,相続人の代理人とみなすとかいうものがあり,更に無効ということを前提に判例法理等が展開されていましたから,何も書かなければ従前の学説あるいは実務,それを前提に今回の提案というものがされたのだと受け止められる可能性があるので,それ自体は私は余りよろしくないのではないかと思いますものですから,是非,そこはお願いします。 ○大村部会長 ありがとうございます。   明確化した方がよろしいだろうという点については,どういうルールであるかということと別に議論は可能かと思いますけれども,実質についての御発言を更に頂ければと思いますが,いかがでしょうか。 ○山本(和)委員 先ほどのあれは,その執行手続は大丈夫だということなんですか。つまり,全員が悪意で,どの範囲で配当要求ができるかどうかということを分けるというのは,余り現行の民事執行法は想定はしていないと思うんですけれども,あるいは何か執行法の方で手当てをしないといけないのか。 ○増田委員 その問題なんですけれども,例えば虚偽表示の94条2項の第三者から第一の差押えがあって,それに対して配当要求した場合にどうなるかということですよね。それと同じですね。それがどっちか。つまり,悪意の債権者が配当要求したとき,それはどっちなんでしょうという問題と同じなので,別に特異な問題ではないですね。 ○山本(和)委員 だから,特異性と,組合の規律はそうかもしれませんけれども,配当要求できるか,できないかというのであれば,それはできるような気がしなくはないんですが,この部分,4分の1について配当は有効で,残りの4分の1は無効だとか,そういうことになるわけですよね。もちろん,完全にできないわけではないとは思うんですけれども,何も規定がなくてうまくできるのかなというのが。 ○大村部会長 手続の問題として少し検討いただいた方がよろしいですね。今の点は御検討いただくとして,ほかに御意見はいかがでございましょうか。 ○増田委員 義務の承継に関する規律の②というのが新しく入っているんですけれども,これは遺言についての善意,悪意は問わないのでしょうか。特にこだわるつもりはないんですけれども,遺言を知らないで,ある相続人に対して法定相続分で払ってくださいといったん請求したら,遺言の内容が判明した後においても相続分の指定割合による請求ができないというのは,ちょっと酷なような気がしないではないんですが。 ○堂薗幹事 そこで,善悪で規律を変えるのは法的安定性の観点からどうかというところもあって,法定相続分での権利行使を一旦した以上は,そこで確定させるという方がむしろいいのではないかという趣旨ではあるんですが,当然,議論の対象にはなるのだろうと思います。ただ,その点は,一応,部会資料19-1でも従前,ただし書として書いていたものを今回,表現の仕方を変えたことに伴いまして②になったというだけで,実質的には19-1でも同じような規律は設けております。そこで,その趣旨について一応,説明はしているところではございます。 ○中田委員 別のことでもよろしいですか。 ○大村部会長 どうぞ。 ○中田委員 権利の承継の「不動産又は動産に関する物権の承継」というところで,従来あった「法定相続分を超える部分の取得については」というのを削除したということについての御質問です。その結果として,第3の1の(1)で物権の承継とあるのですけれども,この物権の承継というのは法定相続分を含む全体についての物権の承継なのか,それとも,法定相続分を超過する部分だけの承継なのかについて,お考えをお聞かせいただきたいと思います。   仮に全体の承継だとしますと,法定相続分の部分についても意思表示による承継のような印象を与えますし,他方で,超過部分だけだとすると,一つの権利の移転について二つに承継の原因が区分されるというのも何か不自然だなと思って,どちらにしても落ち着きが悪いなと思っています。そこをどうしたらいいかということと,それから,関連してですが,法定相続分については登記なくして対抗できるという,言わば当然のことなんですけれども,それを明示するということが可能かどうか,以上についてお教えいただければと思います。 ○堂薗幹事 ここの(1)の規律は,部会資料でも御説明させていただいておりますとおり,従前の実質的な内容を変えたものではないという理解でございまして,法定相続分の部分については,それについて登記の欠缺を主張するに足りる正当な利益を有する者が出てくる余地がないので,対抗関係にそもそも立たないのではないかという前提で,したがって,あえて法定相続分を超える部分はと書かなくても,当然にそうなるのではないかという前提です。実質的には法定相続分を超える部分についてのみ,二重譲渡類似の関係が生じるという前提で,したがって,そこの部分については対抗要件が必要だという理解をしております。 ○中田委員 ということが書かれているのですけれども,表現だけを見ますと,これこれに関する物権の承継はとありますので,全体に及んでいるように読めてしまうことの問題はないだろうかということです。これが更に波及してしまって,虚偽の遺産分割協議書を作成して譲渡したとしても,それは無権利なんだとか,そこら辺の一連の判例法理に誤解を及ぼさないだろうかという懸念でございます。 ○堂薗幹事 こちらが意図しない解釈がされるおそれがないかというのは,こちらも懸念を持っているところではございます。その意味で,30ページの(注)でも書かせていただいているところではあるんですが,考えているのは先ほど申し上げたとおりですので,その点について,それ以外の解釈がされないような規定ぶりにするための工夫というのは検討したいと思っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   書きぶりについては,誤解が生じないように工夫いただくということになろうかと思いますけれども,そのほかにいかがでしょうか。何についてでも結構ですけれども,よろしいでしょうか。 ○沖野委員 どうしようかと思ったんですけれども,これが最後の機会かもしれないので,二つあります。   一つは,「権利の承継に関する規律」の「債権の承継」の債務者への対抗要件のところなんですけれども,とりわけ,(2)の②で通知自体については一定の書面を交付してしなければ,債務者に対抗することができないとされている点で,債務者以外の第三者には,そのような書面を交付しなくても対抗できるとされています。これは時期を明確にする趣旨である,いつの時点が基準になるのかを明らかにするとのことです。   債務者にとっては,自分が拒絶できるかどうかさえ分かればいいからということなんですけれども,確かに債務者以外の第三者に対する対抗要件と,債務者に対する,対抗要件という言葉を使うとすると,対抗要件がずれるということは,債権譲渡登記のようにもちろんあるんですけれども,一方で,登記所をそこでインフォメーションセンターにするんだという制度を採っているならともかくとして,ここではなおも債務者の認識を通じて情報を提供するというか,情報センターにするという考え方を維持するときに,債務者との関係では,結局,はっきりしないというか,権利行使ができるような人かどうかが分からないという状況で,例えばここで第三者からの照会があったら,書面が来ていないから分からないけれども,確定日付のある証書があるから,そちらが優先しますと債務者は答えることを期待されているのだろうか。もちろん,答える義務はないわけなんですけれども,債権譲渡の対抗要件のシステムと合うのだろうかというのが気にはなっておりまして,そこは大丈夫なのだろうかということです。   それは気掛かりだというだけなんですけれども,もう一つは義務の承継の方のところで,今回,36ページで,前回は幾つかの案を甲,乙,丙と出していただいて,なかなか,この辺りまで決めるのは難しいということで,しかし,少なくともこの限りではというところを今回はエッセンスとして出していただいたと思います。それで,それはその辺りかなと思う反面,若干,気になっておりますのは前回の丙案の①というところで,相続分の指定をする場合には遺言にその割合を明示しなければならないという点です。   私は前回,丙案は採れないのではないかと申し上げて,それは相続分指定において,積極財産と消極財産で食い違うということを正面から認めるという限りにおいては難しいのではないかと,説明のところを特に考えていたんですけれども,他方で,指摘されました例えば財産ベースでの相続分指定を考えざるを得ないということに伴う複雑な問題,基準時だとか,評価がかなり分かれるときに相続分指定がどういう形になっているのか,よく分からないという,そこの問題はそもそも相続分の指定という制度に対する懐疑的な見方も踏まえますと,何とかした方がいいのではないかという面はあるように思いますので,積極財産,消極財産で相続分指定を分けるというか,相続分指定で積極財産だけを動かせるというようなことは認めるべきではない,それは遺贈と考えるべきだと思っているんですけれども,しかし,相続分の指定をやるからには明確にしてほしいということは,一種の合理化としてあり得るのではないかと,丙案の①についてはもう少し検討する必要はないだろうかと思うものですから,ここで捨て切っていいかということだけは,それはしようがないので,そこは諦めるというか,置いておいていいということで次に進むということでいいのかだけは,御意見を確認した方がいいのではないかと思うものですから。すみません,最後にお願いしたいと思います。 ○堂薗幹事 まず,第1点目ですが,確かに債務者にとって第三者対抗要件として有効なのかどうか分からない通知が来るということで,その場合,債務者としてどう対応するのかというところはあるわけですが,ここで考えているのは,債務者対抗要件を満たしていない形で第三者対抗要件が仮に来たとしても,債務者としては,その人を債権者として扱わなくていいという前提です。要するに,訳の分からない通知が来たのと同じように考えておけばよく,少なくとも債務者の行動としては,飽くまで債務者対抗要件を満たした人が二人以上出た場合に,初めて確定日付がある人に支払わなければいけないという規律が生じるだけだということです。   ですから,結局,第三者対抗要件でどちらが早いかというのが問題になるのは,債務者の弁済において問題になるのではなく,要するに第三者対抗要件で優先する人ではない人に弁済してしまった場合に,不当利得返還請求等をする上で,実は第三者対抗要件としては,こっちで勝っていたので二重譲渡類似の関係に立つ債権者同士では,こちらの方が優先しますという限りで意味を持つというように考えております,ただ,そういうことであれば,そもそも,債務者の認識を一種の公示とするということになっていないのではないかという御指摘は,確かにそういった問題点はあるんだとは思いますが,そこはそういう形で割り切らざるを得ないのではないかというのが今回の考え方でございまして,そこについて問題があるということであれば,再度,検討いたしますけれども,なかなか,これに代わる案というのも正直,難しいなというところがございます。   相続分の指定につきましては,事務当局としても丙案のような形で,この部会でコンセンサスが得られるのであれば,それを明確にするというのは十分あり得ると思うんですけれども,債権者の立場からするとなかなか難しいという御意見もございましたので,そこについてコンセンサスが得られない場合には,法制化は難しいのではないかということです。ただ,今回も書いておりますように,対抗要件主義を採用しますと,従前,丙案について指摘されていた問題点というのは,現行法に比べると軽減することにはなると思いますので,それを踏まえても,なお,債権者の立場では難しいということなのかどうかということだと思います。その点については,御意見があれば是非お伺いしたいと思っております。 ○沖野委員 1点目は,対抗要件制度の在り方そのものに関わるので,機能的にどうかということではないですが,しかし,問題意識は共有しているということだと思います。   2点目の方は,相続分指定をする場合には,そこは明確に書くということだけを要請することが債権者保護に欠けるのかというのが,私にははっきりとは分からないところで,積極財産を動かすだけのときは遺贈でいくしかないという考え方を仮に採るとすると,そこは債権者保護に関わるのだろうかというのが理解できていないんですけれども。 ○堂薗幹事 飽くまで割合が明示されていなくても,相続分の指定だということであれば,正に財産を多く取得した人に対しては,その分を多くかかっていけるという意味で,債権者としては権利行使がしやすいわけですが,そこは必ずしも連動しないということになりますと,たくさんもらった人がいるにもかかわらず,その人に対しては法定相続分の限度でしか権利行使ができないという場面が出てくるということでございます。 ○沖野委員 遺贈の範囲が広がるということですね。 ○大村部会長 よろしいでしょうか。 ○沖野委員 そこは分かりましたが,それでも,この程度,明確にしたことにはそれなりの意味があるように私は思ったものですから,ただ,そうこだわることではありませんので,特に賛同の意見がなければ,このままの形で結構かと思います。 ○大村部会長 御意見として承ったということで,検討の余地があるかどうかをお考えいただくということでよろしいですか。 ○堂薗幹事 従前,どちらかというと丙案に反対されていたのは,債権者側の立場になられる方ですので,それらの方々の御意見がどうなのか,対抗要件主義を前提とした上でも,それだと難しいということなのかどうかという辺りに係ってくるのかなとこちらでは思っております。 ○大村部会長 ほかに何かございますでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは,第3の「相続の効力等に関する見直し」についても,御意見を承ったということにさせていただきます。   最後になりますけれども,今後の日程等について事務当局の方から御説明を頂きます。 ○堂薗幹事 本日も熱心に御議論いただきましてありがとうございました。   次回の日程でございますが,御案内のとおり,6月20日(火曜日)の1時半からを予定してございまして,次回はこれまでの論点の全体像と申しますか,全ての論点について取り上げることを予定しております。場所でございますが,本日と同じ法務省20階第1会議室になりますので,次回もどうぞよろしくお願いいたします。 ○大村部会長 ありがとうございます。   それでは,これで本日の審議を終わらせていただきたいと思います。   本日も熱心な御議論を頂きましてありがとうございました。閉会いたします。 -了-