法制審議会 少年法・刑事法 (少年年齢・犯罪者処遇関係)部会 第2分科会第1回会議 議事録 第1 日 時  平成29年 9月26日(火)   自 午前 9時56分                          至 午前11時54分 第2 場 所  東京地方検察庁総務部会議室 第3 議 題  1 宣告猶予制度について         2 その他 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○羽柴幹事 ただいまから法制審議会少年法・刑事法(少年年齢・犯罪者処遇関係)部会第2分科会の第1回会議を開催いたします。 ○酒巻分科会長 本日は,御多忙のところお集まりいただきまして,どうもありがとうございます。先般の部会第5回会議におきまして,分科会の設置が決定されたところでございます。その際,各分科会長並びに各分科会に属する委員及び幹事の人選につきましては,井上部会長に一任がなされたところです。これを受けて,井上部会長において人選を進められ,委員である私が,この第2分科会の分科会長を務めることとされました。   議事が円滑に進みますよう分科会を運営してまいりたく存じますので,どうぞよろしくお願い申し上げます。   まず,議事の本題に入る前に,部会第5回会議以降に部会の幹事に異動がございましたので,御紹介申し上げます。   小西康弘氏が幹事を退任され,新たに滝澤依子氏が幹事に任命されました。田野尻猛氏が幹事を退任され,新たに保坂和人氏が幹事に任命されました。新たに吉田智宏氏が幹事に任命されました。   次に,第2分科会第1回会議の開始に当たり,当分科会の出席者について説明いたします。   第2分科会を構成する委員,幹事として,川出委員,山﨑委員,池田幹事,加藤幹事,滝澤幹事,福島幹事が選任されております。併せて,当分科会の事務当局としての役割を担っていただく構成員として,今福幹事,小玉幹事,羽柴幹事,保坂幹事が選任されております。以上の方々が,第2分科会を構成する委員,幹事となるわけですが,福島幹事におかれては,本日所用のため欠席されておられます。   なお,当分科会には,必要に応じて分科会長の要請により,構成員以外の委員,幹事,関係官に御出席いただくことができることとなっております。本日は,御欠席される福島幹事に代わって,吉田智宏幹事に御出席をお願いしております。   また,当分科会における審議の中で,家庭裁判所の実務の実情等について御質問があったとき等に適切に対応していただくために,最高裁判所の村田委員に出席をお願いしております。   それでは,異動によって新たに幹事になられた出席者の方から,一言ずつ自己紹介をお願いしたいと思います。 ○滝澤幹事 警察庁少年課長の滝澤と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 ○保坂幹事 9月11日付で東京地方検察庁から刑事法制管理官に異動になりました保坂でございます。どうぞよろしくお願いします。 ○吉田幹事 最高裁刑事局第2課長の吉田智宏でございます。どうぞよろしくお願いいたします。 ○酒巻分科会長 次に,事務当局から,本日配布された資料について御説明をお願いいたします。 ○羽柴幹事 本日資料といたしまして,配布資料1-1「主要国における少年事件の手続・処分の概要」,1-2「主要国における施設内処遇の概要」,1-3「主要国における執行猶予・宣告猶予制度の概要」,1-4「主要国における起訴猶予に伴う再犯防止措置の概要」,1-5「主要国における若年成人に対する刑事事件の手続・処分の特則の概要」,1-6「諸外国の制度概要」,配布資料2「法制審議会刑事法特別部会改正刑法草案及び附録(抜粋)」,配布資料3「宣告猶予制度(検討項目案)」を配布しております。   なお,前回までの部会の会議における配布資料は,ファイルに綴じて机上に置いてございます。   配布資料2及び3につきましては,後ほど御説明いたします。ここでは,諸外国の制度等に関する配布資料1-1ないし1-6について御説明いたします。   諸外国の制度等の概要につきましては,既に部会第1回会議において,資料6として,諸外国の制度概要という一覧表をお配りしていたところですが,事務当局といたしましては,その後,これらの国の制度について一層の調査を進めました。今回,その調査の結果を資料として取りまとめましたので,本日以降の議論の参考にしていただくため,配布させていただきました。   資料1-1から1-5までは,米国のニューヨーク州,カリフォルニア州,イギリス,フランス,ドイツ,韓国における制度について,事務当局の調査により判明した限りにおいて,各制度ごとに概要をまとめたものです。資料1-6は,これらの内容を一覧表に取りまとめたものです。既に部会の第1回会議の資料6として「諸外国の制度概要」を配布していたところですが,その後,諸外国の制度について一層の調査を進めた結果,一覧表の内容を一部更新いたしましたので,今回,改めて資料1-6として配布をいたしました。   資料1-1から順に御説明いたしますが,適宜資料1-6も併せて御覧いただきながらお聞き取りいただければと存じます。概要を御説明いたします。   まず,資料1-1は,主要国における少年事件の手続・処分の概要をまとめたものです。   いずれの国でも,少年については成人の刑事手続と異なる手続・処分が設けられておりますところ,刑事手続において,少年として扱われなくなる年齢は,ニューヨーク州の16歳,韓国の19歳の他は,いずれも18歳とされております。   また,ニューヨーク州,カリフォルニア州,イギリス,韓国においては,一定の重罪を犯した少年について,一定の要件の下で,当該事件を,成人事件を扱う裁判所で審理することができるものとされています。フランス,ドイツについては,基本的に少年事件は少年のための裁判所で扱われることとされておりますが,少年のための裁判所において少年に拘禁刑を言い渡すことが可能です。   また,いずれの国においても,少年の性格や生活環境等について,専門機関による調査が行われる制度が設けられています。   次に,資料1-2は,「主要国における施設内処遇の概要」についてまとめたものです。資料1-6の一覧表には,1枚目の下の部分に記載がございます。   まず,ニューヨーク州では,拘禁刑の受刑者について,行刑法により,日曜日及び祝日を除き,毎日8時間を超えない範囲で作業に従事させることができることとされています。また,各受刑者には,社会化と更生に最も資すると考えられる教育プログラムが提供されることとされています。   次に,カリフォルニア州では,刑法において,拘禁刑の受刑者は,州当局の規則で定めるところにより,できるだけ多くの時間,課業をすることが要求されております。また,受刑者は,割当てのあった課業に従事することが義務付けられており,これには教育,プログラム受講等が含まれています。   続いて,イギリスでは,拘禁刑の受刑者について,行刑規則により1日10時間以内の有用な作業を行うことが要求されています。また,全ての刑務所において,教育を提供しなくてはならないこととされており,また,特別な教育上の必要性を有している者への教育及び訓練には特別な注意を払うとともに,必要な場合には,通常は作業に割り当てるべき時間帯に教育を行うこととされています。   次に,フランスでは,拘禁刑の受刑者について,行刑法により,刑務所長等が提案した活動の少なくとも一つに参加する義務を負いますが,その活動には,作業,職業訓練,教育,スポーツ等が含まれています。   続いて,ドイツでは,自由刑として拘禁刑が設けられており,ドイツ連邦の行刑法において,受刑者には,割り当てられた作業に従事する義務があります。また,受刑者は,余暇時間においても,授業,通信教育,訓練活動,集団討議等の活動機会が与えられておりますし,中等教育未了者に対しては,中等教育と同内容の教育が作業時間中に提供されています。   最後に,韓国では,自由刑として懲役,禁錮,拘留が設けられており,懲役受刑者は,刑法により,定役に服務させられるほか,行刑法により,自身に賦課された作業その他の労役を遂行しなければならない義務があることとされています。また,刑務所長は,受刑者が健全な社会復帰に必要な知識及び素養を習得するように教育をすることができ,義務教育未了者に対しては,教育を行わなければならないものとされています。   次に,例えば,ニューヨーク州やイギリスでは,若年者について自由刑を執行するために収容する施設として特別の収容施設が設けられており,ニューヨーク州では,男性について16歳以上21歳未満の者のための収容施設が設けられているようですし,イギリスでは,18歳以上21歳未満の者は,若年犯罪者施設に収容されることとされています。   続いて,資料1-3は,「主要国における執行猶予・宣告猶予制度の概要」についてまとめたものです。このうち,刑の執行猶予に相当する制度については,資料1-6の一覧表2枚目に,宣告猶予に相当する制度については,一覧表3枚目に記載がございます。   まず,刑の執行猶予に相当する制度については,ニューヨーク州を除いて,カリフォルニア州,イギリス,フランス,ドイツ,韓国に存在しています。これらの国の刑の執行猶予は,いずれも保護観察に付し,あるいは遵守事項等の一定の義務を賦課し得ることとされており,裁判所は,対象者が執行猶予期間中に再犯に及んだ場合や,賦課した一定の義務に違反した場合に執行猶予を取り消し得ることとされております。   イギリス,フランス,ドイツでは,対象者が執行猶予期間中に再犯や一定の義務違反に及んだ場合,裁判所は,執行猶予を裁量的に取り消すこととされておりますが,イギリス,ドイツでは,賦課する義務の修正・執行猶予期間の延長等の措置を段階的に講じることができるとされ,フランスでは,執行猶予を取り消す際に,全部だけではなく,一部のみを取り消す等の措置を採ることが可能とされています。   韓国には,執行猶予期間中に故意に犯した罪で禁錮以上の実刑を言い渡され,判決が確定した場合に,執行猶予の言渡しが効力を失う旨の規定があります。   また,カリフォルニア州,イギリス,ドイツにおいては,再度の刑の執行猶予を制限する規定は存在していませんし,フランスでも,例外的な場合を除き,再度の刑の執行猶予を言い渡すことが法律上認められています。   次に,宣告猶予に相当する制度については,資料1-6の一覧表3枚目に記載してあるとおり,ここに掲げるいずれの国にも存在しています。各国において,その名称や制度の詳細は様々であるものの,いずれにおいても,いわゆる刑の宣告猶予に相当する制度として,裁判所は,一定の刑の言渡しを猶予した上で,一定の期間を定めて保護観察や一定の条件を賦課することとし,その間に対象者が再犯や条件違反に及ぶなどすれば刑が言い渡されますが,条件違反等がないまま期間を経過した場合には,刑は言い渡されないこととされています。   また,ニューヨーク州,カリフォルニア州には,いわゆる判決の宣告猶予に相当する制度もあり,ニューヨーク州における制度は,裁判所が有罪認定をせずに訴訟を延期し,その間被告人に条件を付すことを可能とするもので,訴訟の再開がないまま一定期間が経過すれば訴追は却下されたものとみなされます。他方,カリフォルニア州の制度は,一定の薬物犯罪について,被告人が有罪を認めている場合,被告人に薬物プログラムの受講を義務付けて,判決の宣告を猶予することができるというものです。   次に,資料1-4は,「主要国における起訴猶予に伴う再犯防止措置の概要」をまとめたものです。資料1-6の一覧表には,3枚目の下の部分に記載がございます。まず,ここに記載しているものは,いずれも制定法に根拠が明示されている代表的な措置に限られており,運用によってのみ行われているものは対象としておりませんので,その点には御留意ください。   まず,ニューヨーク州,カリフォルニア州には,起訴猶予に伴う再犯防止措置に相当する制度は,法律上見当たりません。他方で,イギリス,フランス,ドイツ,韓国には,起訴猶予に伴う再犯防止措置に相当する制度が明文で規定されており,いずれにおいても,訴追官が自ら,一定の期間を定めて,対象者に条件を付するなどして訴追を猶予し,その期間内に,条件違反があれば,訴追が行われるなどという制度が設けられています。   制度の対象事件を見ますと,例えば,フランス,ドイツでは,明文上,対象事件が軽罪以下の事件に限定されています。また,韓国には,家庭内暴力,児童虐待,少年事件に特化した制度が設けられています。   次に,資料1-5は,「主要国における若年成人に対する刑事事件の手続・処分の特則の概要」についてまとめたものです。資料1-6の一覧表にはこの点の記載はないので御留意いただければと存じます。   ニューヨーク州とドイツには,若年成人について,その他の一般成人と異なる特別な手続・処分が規定されているので,御説明いたします。   まず,ニューヨーク州においては,若年成人に当たる犯行時16歳以上19歳未満の者は,通常の裁判所において,基本的には成人に対する刑事手続の対象となります。ただし,裁判所は,一定の重罪等以外で有罪認定をした後,被告人である若年成人が過去に有罪判決を受けたことがない場合や,過去に有罪認定されていても,その者に前科の負担を負わせず,4年を超える不定期刑を科さなくても正義に反しないと考える場合等には,被告人である若年成人について,その有罪認定をなかったものとすることを宣言した上で,併せて4年以下の拘禁刑を言い渡すことができます。そのため,当該若年成人は,刑を言い渡されるものの,有罪判決を受けることがなかったと扱われることとなり,このような判決が資格制限事由とはなりません。   次に,ドイツの制度について御説明いたします。   ドイツでは,若年成人に当たる犯行時18歳以上21歳未満の者は「青年」と呼ばれ,少年裁判所において審理されることとなります。そして,裁判所は,有罪認定の後,当該青年の精神的成熟度が行為の時点で少年のそれと同等であったと判明した場合,又は当該行為の性質が少年の非行のそれと同等であったと判明した場合には,当該事件について,少年刑法,つまり,少年事件に適用される刑法の規定が適用されることとなります。青年の事件に少年刑法が適用される場合には,青年は,少年の場合と同様に,教育処分,懲戒処分,少年刑の適用を受けることとなります。他方,青年の事件について,少年刑法が適用されない場合には,一般の成人と同様の刑罰法規が適用されることとなりますが,終身自由刑の緩和,資格制限規定の緩和など,緩和措置規定が設けられております。   配布資料の説明は以上でございます。 ○酒巻分科会長 ただいまの外国法制に関する御説明について,何か御質問がございますでしょうか。   御質問はないようですので,続いて審議に入りたいと思います。   初めに,審議の進行についてお諮りいたします。当分科会は,部会審議を効率的に進めるために,論点表の大項目2に掲げられた論点のうち,宣告猶予制度,罰金の保護観察付き執行猶予の活用,若年者に対する新たな処分及びこれらの制度との関連で検討が必要になる少年鑑別所及び保護観察所の調査・調整機能の活用の各論点について,専門的,技術的な検討を加え,考えられる制度の概要案等を作成するとともに,検討すべき課題を整理するということが,役割とされております。   そこで,まず,今回と次回の2回程度にわたりまして,当分科会が担当する論点について,まずは1巡目の議論,意見交換として,それぞれの論点に関係する従来からの制度,運用,これらに対する評価・あるいは問題点を把握しつつ,各論点に掲げられた制度や措置の意義,新たな制度を構築するとしたらどのようなものがふさわしいかなどについて,大づかみの議論をしたいと思っております。   基本的には,論点表に掲げられた順序に従って,宣告猶予制度,罰金の保護観察付き執行猶予の活用,若年者に対する新たな処分という順序で議論を進めていきたいと思いますが,もちろん論点相互に関係のある事項に及ぶ場合には,他の論点に関しても適宜御発言をいただいてよろしいかと考えております。なお,「少年鑑別所及び保護観察所の調査・調整機能の活用」という論点につきましては,これら三つの論点を検討する中で,必要に応じて検討するということにしたいと考えております。   以上が,現在考えておる当分科会における審議の進め方ですが,このような進め方でよろしいでしょうか。この段階で,進行方法等につきまして御質問等があれば,承りたいと思います。              (一同異議なし)   それでは,早速宣告猶予制度についての検討を行いたいと思います。   初めに,宣告猶予制度につきまして,事務当局から,本日配布された資料の説明をお願いします。 ○羽柴幹事 配布資料2の「法制審議会刑事法特別部会改正刑法草案及び附録(抜粋)」について御説明いたします。   まず,宣告猶予に関する改正刑法草案の議論の状況につきまして,当時の資料に基づいて,御説明をさせていただきます。   宣告猶予に関する検討経過について簡単に御説明いたしますと,宣告猶予の制度につきましては,法制審議会刑事法特別部会における改正刑法草案では,判決の宣告猶予に関する規定を新しく設けることとされていましたが,総会において,採用しないことに決定されました。なお,刑事法特別部会における宣告猶予制度の要否に関する議論や,その基本的枠組みとして判決の宣告猶予とするか刑の宣告猶予とするかという点に関する議論につきましては,先日開催されました第5回法制審議会部会において配布させていただいた資料「改正刑法草案の解説(抜粋)」に記載されているところでございます。   次に,宣告猶予に関する刑事法特別部会改正刑法草案の規定について,御説明をさせていただきます。配布資料2を御覧ください。   配布資料2は,刑事法特別部会改正刑法草案の宣告猶予の規定を抜粋したものです。刑事法特別部会改正刑法草案につきましては,説明の便宜上,以後,単に「部会案」と呼称させていただきます。   「第10章 判決の宣告猶予」として,第74条から第77条までの規定がございますが,こちらが,部会案の宣告猶予の規定です。   「附録」「一 宣告猶予の手続に関する要綱案」は,小委員会において作成された,宣告猶予の手続に関する要綱案であり,部会案に附録として添付されていたものです。宣告猶予の手続法上の問題は,直接の審議事項には属さないものの,宣告猶予という新しい制度を採用するに当たっては,その手続をどうするのかという問題を併せて検討しておく必要があったことから,刑事法特別部会においてもこれを考慮した上で審議等が行われました。   それでは,第10章の規定について御説明申し上げます。   まず,第74条の規定について御説明いたします。   本条は,判決の宣告猶予の要件,期間及び執行猶予との関係に関する規定です。   宣告猶予の要件の第1は,「6月以下の懲役若しくは禁固,5万円以下の罰金,拘留又は科料を言い渡すべき場合」であること,すなわち,裁判所が被告人の有罪について確信を得た上でこれらの刑を量定した場合であることでございます。自由刑の上限が6月に限定されているのは,宣告猶予が犯情の軽微な場合に対する処分であり,また,我が国では初めての試みであることから,その適用範囲を狭く限定しておくことが望ましいとされたことによるものとされています。   要件の第2は,刑の執行猶予の場合と同じく,「刑の適用に関する一般基準」の趣旨から見て判決の宣告猶予を相当とする情状のあることです。   なお,「刑の適用に関する一般基準」とは,お手元の部会案の条文の一番下の※印部分にございます第48条に規定されているものです。第48条は,刑の適用の一般基準,すなわち量刑の基本原理とその考慮事項等を明らかにする規定であり,第1項において,刑の適用における最も重要な原理が,犯人の責任に応じた量刑という点にあることを宣言するとともに,第2項において,刑の適用に当たって刑事政策的な配慮をすることの重要性及び量刑上の考慮事項を明らかにしたものであると説明されています。   第74条に戻ります。本条の要件の第3として,前に禁固以上の刑に処せられたことのない者が罪を犯した場合に限定されています。この点については,前科による制限を加えるかどうか意見が分かれましたが,宣告猶予は執行猶予より軽い処分であるのに,執行猶予の場合より要件を緩やかにするのは適当でないこと,禁固以上の前科があるという事実は,それだけで宣告猶予に値する軽微な事案でないとするに十分であることなどから,このような要件を設けることとされたということでございます。また,宣告猶予の期間が6月以上2年以下とされたのは,執行猶予の場合に比べて軽い刑が宣告猶予の対象となることが考慮されたためでございます。   第2項において,「判決の宣告を猶予する場合には,その判決において刑の執行を猶予することはできない」とされておりますが,これは,後ほど詳しく御説明いたします第76条により,再犯又は遵守事項違反を理由として判決を宣告する場合には,必ず実刑を言い渡すものとする趣旨でございます。   宣告猶予の裁判に関する手続につきましては,「附録」「一 宣告猶予の手続に関する要綱案」を御覧ください。   まず,1の(1)及び(2)にありますとおり,通常の方法で判決書を作成した上,決定で宣告猶予の裁判をすることが予定されていました。また,(3)のとおり,判決書を当事者に閲覧させることとされ,その上で,2(1)及び(2)のとおり,宣告猶予の裁判又は判決書の内容に不服がある検察官又は被告人は,宣告猶予の裁判に対して異議の申立てをすることができ,異義の申立てがあると,宣告猶予の裁判は効力を失い,判決書に従って判決が宣告されることとなります。   ただ,異議の申立てによって,常に実刑が言い渡されることとなると,被告人としては異議の申立てをすることが困難となるので,2(2)ただし書のとおり,異議の申立てを理由として判決を宣告する場合には,刑の執行猶予の言渡しをすることができるものとされています。   また,2(3)のとおり,宣告された判決に対しては,通常の方法で控訴及び上告をすることができることとされています。   次に,第75条について御説明いたします。   本条は,判決の宣告を猶予する場合に,被告人を保護観察に付することができるものとする規定です。   次に,第76条について御説明いたします。   本条は,判決の宣告を猶予された者の再犯又は遵守事項違反を理由として,宣告を猶予された判決を宣告することができるものとする規定です。執行猶予の取消しの場合と違って,必要的な判決宣告は設けられておらず,判決を宣告するかどうかは裁判所の裁量によるものとされる一方,再犯として言い渡される刑の限定はなく,拘留又は科料である場合にも判決を宣告することができるとされています。   判決宣告の手続については,「附録」の要綱案の3(1),(3)に記載されておりますが,検察官の請求により,被告人の意見を聞いた上で,まず判決を宣告するかどうかを決定し,判決を宣告すべき旨の決定が確定した場合には,宣告猶予の裁判の際に作成されていた判決書に従って判決を宣告することが予定されています。また,要綱案の3(2)のとおり,判決の宣告をし,又はしない旨の決定に対しては,検察官又は被告人から即時抗告の申立てをすることができますが,2(1)のとおり,判決書の内容は既に不服申立ての機会が与えられているので,3(4)のとおり,宣告された判決に対しては,もはや控訴及び上告をすることが許されないとされています。   第77条について御説明いたします。   本条は,判決の宣告を受けることなく猶予の期間を経過したときは,免訴の言渡しが確定したものとみなすとしており,これにより,事件を完全に終結させようとする趣旨の規定です。免訴の言渡しが確定したものとみなすこととされた点については,単に再起訴禁止の規定を置けば足りるとする意見もありましたが,判決の宣告猶予を採用した趣旨から見て,免訴が最も適当であるとされました。   以上が,宣告猶予に関する部会案の規定の御説明です。   最後に,法制審議会総会において,宣告猶予制度を採用しないとされた議論の状況について御説明させていただきます。   法制審議会総会においては,宣告猶予の要否について,執行猶予や起訴猶予などの現行の諸制度の活用をすれば,宣告猶予の制度の目的は十分に達せられる,宣告猶予制度に不当な起訴に対する救済という効果があることは認めるとしても,そのための方法としては,公訴棄却等の形式裁判によって,公訴権の行使を厳しく規制するという行き方を採用すべきであり,手続上の疑問が多い制度を採用することは適当でない,という二つの異なった立場から宣告猶予制度の採用に反対する意見が主張されました。   これらに対しては,部会案を支持する立場から,判決の宣告猶予は,犯情の軽い犯罪者に対し,執行猶予よりも更に軽い処分を適用しようとするものであり,起訴猶予相当の事案が起訴された場合の救済措置となるだけでなく,犯罪者というらく印を押さないで犯人の社会復帰を促す点で刑事政策的にも大きな意味があることが主張されましたが,結論として,判決の宣告猶予に関する規定は設けないことと決定されました。   宣告猶予に関する改正刑法草案の議論の状況についての御説明は,以上でございます。   次に,配布資料3の「宣告猶予制度(検討項目案)」について御説明いたします。   宣告猶予制度については,ただいま御紹介したように,法制審議会においても検討がなされたことがございます。また,「若年者に対する刑事法制の在り方に関する勉強会」の取りまとめ報告書において,判決や刑の宣告を回避しつつ,司法判断を経た上で保護観察を行うことを可能とする制度として,宣告猶予制度の導入が考えられるとされました。さらに,部会での意見交換においても宣告猶予制度について御発言がございました。   詳細は,議事録のとおりですが,その要旨を御紹介いたしますと,「宣告猶予制度には魅力があるが,宣告猶予制度には色々な種類があり,また,宣告猶予に当たって裁判所の権限をどのように考えるか,裁判所は判断に当たってどの時点までの情報を利用可能とするのかといった理論的な問題が多くあるので検討が必要である」との御意見や「宣告猶予制度を導入することで,現在では起訴猶予などとなっている者のうち,再犯防止が必要な層について,起訴した上で判決ないし刑の宣告を猶予して,その猶予の期間,遵守事項を付した上で保護観察を行うようなことも検討すべきである」との御意見がございました。   配布資料3の「宣告猶予制度(検討項目案)」は,これらを踏まえて,飽くまで分科会における意見交換の御参考としていただくため,検討項目の案を事務当局において作成したものです。もとより,検討項目がこれに限られるとするものではありません。   検討項目を掲げた趣旨を簡単に御説明いたします。   「1 宣告猶予制度の要否」は,新たに宣告猶予制度を導入する必要があるのか検討する必要があると考えられることから,検討項目として掲げたものです。かつて法制審議会において宣告猶予制度についての検討がなされた際は,この点が主要な論点の一つでした。   「2 考えられる制度概要案の作成に向けた検討課題」に掲げている検討項目は,考えられる制度概要案を検討する上で課題となると考えられるものです。先ほど御紹介したとおり,かつて法制審議会においては宣告猶予制度についての検討がなされた際も,これらの点についての検討がなされています。   まず,「制度の基本的枠組み」は,有罪であること及び刑の宣告を猶予する判決の宣告猶予制度とするのか,それとも,有罪であることは宣告し,刑の宣告を猶予する刑の宣告猶予制度とするのかという点や,宣告猶予中の行状を刑の量定に当たって考慮するのかという点を検討項目とするものです。この点について,法制審議会刑事法特別部会においては,事実認定を行い有罪であることを宣告した上で刑の宣告を猶予し,宣告猶予中の行状を考慮して刑の量定を行うという案についても検討されましたが,先ほど御紹介した特別部会改正刑法草案において採用された判決の宣告猶予制度においては,事実認定及び刑の量定を行った上で,有罪であること及び刑の宣告を猶予することとし,宣告猶予中の行状は,判決を宣告するかしないかの判断に当たっては考慮されますが,宣告する刑の量定に当たっては宣告猶予中の行状は考慮されないこととされました。   次に,「対象者」は,仮に,宣告猶予制度を設けることとした場合,その対象者を特定の年齢層の者に限定するのか,又は全年齢の者とするのか,あるいは,現行法の下でどのような処分を受けている者を宣告猶予制度の対象者として想定するのか等を検討項目とするものです。   「宣告猶予の要件・手続」は,どのような要件を満たす場合に宣告猶予を行うのか,また,どのような手続で宣告猶予を行うのかを検討項目とするものです。   「宣告猶予中の処遇(保護観察等)」は,宣告猶予中の処遇の在り方を検討項目とするものであり,具体的には,宣告猶予中にどのような処遇を行うかや,仮に保護観察を行うこととする場合に,それを必要的なものとするか,裁量的なものとするか等を検討項目とするものです。   「宣告の要件,宣告する刑」は,どのような事情があったときに宣告が猶予されていた判決又は刑を宣告することとするのか,また,判決又は刑を宣告する場合に,刑の全部の執行を猶予することを可能とするのか等を検討項目とするものです。   「宣告の手続,上訴」は,猶予されていた判決又は刑をどのような手続で言い渡すのか,宣告された判決又は刑に対して上訴を可能とするのか等を検討項目とするものです。   「宣告猶予期間経過の効力」は,判決又は刑の宣告を猶予された者が,判決又は刑を宣告されることなく猶予期間を経過した場合に,どのような効力が生ずることとするかを検討項目とするものです。   「他の制度との関係」は,宣告猶予制度と他の制度との関係を検討項目とするものです。   「3 宣告猶予制度を検討する上で考えられる少年鑑別所の調査機能の活用」は,宣告猶予制度に関連して,少年鑑別所の調査機能を活用することが考えられるか,活用するとすると,どのように活用することが考えられるか等を検討項目とするものです。なお,ここでは,少年鑑別所の調査機能の活用だけを掲げていますが,「保護観察所の調査・調整機能の活用」については,2の「宣告猶予中の処遇」において検討することを想定しています。   「宣告猶予制度(検討項目案)」についての説明は以上です。 ○酒巻分科会長 ただいまの御説明についての御質問,あるいは,この段階で,ほかにも検討項目があるのではないかといった御意見のある方は,挙手をお願いします。いかがでしょうか。 ○山﨑委員 質問というよりは,論点として検討すべき項目として,3点ほど私が考えているところを申し述べたいと思います。   まず,宣告猶予というのは,裁判が係属してから,司法的な判断を経た上で社会内処遇を行うという観点で検討課題とされているかと思うのですけれども,そういう司法的な判断を経て社会内処遇を行うという意味でいいますと,必ずしも宣告猶予制度という形にこだわらずに,もう少し裁判所が簡易な手続で関与しながら,いわゆるダイバージョンの効果を生むようなシステムということを,幅広に考える余地を残しておいた方がよいのではないかということを考えております。   具体的に,これまで議論されてきたものとしては,公訴取消しの活用ですとか,略式手続,即決裁判の拡大といったようなアイデアですとか,さらには全く公判請求とは違う何らかの申立手続といったような行き方もあり得るのではないかなと考えておりますので,そういった余地を残しながら議論をしていくべきではないかという点が1点でございます。   2点目ですけれども,この制度を検討する上で,アセスメントの在り方ということが,やはり重要になるだろうと思っております。その点からしますと,論点に挙げられております少年鑑別所,さらには御説明にあった保護観察所の調査・調整機能ということに限定せずに,部会でも現行において有効に機能していると評価されておりました家庭裁判所の調査官による調査,さらには試験観察といったような機能の活用についても,検討の際には対象に挙げて検討するべきではないかという点が2点目でございます。   最後には,これらの制度を検討する際に,そもそも事件をどの裁判所で審理すべきか,裁判所の管轄についても,選択肢としては多く持って検討した方がよいのではないかということを考えております。 ○酒巻分科会長 いずれもかなり広範な内容に及び,この第2分科会だけでできるかどうか分かりませんが,今の御提案につきまして,事務当局から何か御意見はありますか。 ○羽柴幹事 事務当局の立場から若干確認をさせていただければと存じます。   いろいろな御提案がございまして,いずれもそれは考える余地があるのではないかという御趣旨の御発言かと思いますので,それがもちろん排除されるとは思っておりませんが,分科会長からも御指摘がありましたように,非常に広範な表現でのお話でございましたので,今後,制度概要案の作成ですとか,検討課題の整理等に向けて作業をする上で,確認をさせていただければと思います。   今,様々挙げていただきましたような制度を構築設計していくべきだという御趣旨も含まれているかと思われます。そういたしますと,より具体的な制度概要案ですとか検討課題等をお示しいただきますことが,今後の効率的かつ有意義な議論の進行に資するのではないかと感じるのですけれども,その点についてはいかがでしょうか。 ○山﨑委員 現時点で,私の方で,これがいいとか,こういった案が考えられるというところまで詰めているわけではありませんので,ただ,検討の視点として,かつて議論された宣告猶予という枠にとらわれずに,もう少し柔軟に様々考えてみてはどうかという趣旨でございます。議論していく中で,何か具体的にこういう制度が最も望ましいのではないかというのが出てくれば,またそれはそれでということになるかとは思います。 ○加藤幹事 今の山﨑委員の御意見で,3点おっしゃったうちの最後の部分について確認をさせてください。事件をどの裁判所で審理すべきかということについても検討の対象になるのではないかという御提案があったように承ったのですが,現実にそんなたくさんの種類の裁判所があるわけではないので,具体的に何かお考えの点があるのでありましょうか。 ○山﨑委員 これは,「若年者に対する刑事法制の在り方に関する勉強会」のヒアリングでも,若年者の事件が仮に18歳まで年齢が下がった場合ということで,研究者の方から家庭裁判所の専属管轄にするというような構想も出されておりましたので,主にはそういったところを念頭に置いて発言いたしました。 ○加藤幹事 それを伺った上で,山﨑委員の御提案に対する私の意見を申し上げます。最初におっしゃったダイバージョンの在り方を,宣告猶予に限らずに検討すべきではないかという点について,事務当局からもあったように,検討の対象になる事柄ではあろうとは思うのでありますが,第2分科会に役割として与えられているのは,まずは宣告猶予制度についての論点を整理して,あり得る制度を設計してみるということでありますので,宣告猶予制度の具体的な設計をする中で,今おっしゃっていただいたような御提案があるのであれば,議論の中でお出しいただき,一旦部会に戻して検討がなされることではないかとも思われます。   まずは宣告猶予制度について議論をするというのが,この部会の役割なのではないかと考える次第であります。   2番目のアセスメントの在り方につきましては,具体的にどのようなことをお考えになっているかは,より具体的に伺わないと分かりませんが,3番の少年鑑別所の調査機能の活用のところが,アセスメントの在り方についての議論に関係していると思いますので,その項目の中で必要な御発言をいただければよいのではないかとも思われるところです。   3番目のどの裁判所で審理すべきかというのは,宣告猶予制度を作るとして,どの裁判所で取り扱うのであるかということであれば,それは,宣告猶予制度の制度設計の一部だろうと考えられますので,適切なところで御発言をいただければよいのではないかと思われ,いずれの点からも,現在提案されている検討項目案に沿って検討していくのに差し支えはないのではないかと思われるのでありますが,いかがでしょうか。 ○酒巻分科会長 今,加藤幹事からも進行にも関わる御意見をいただきました。山﨑委員の御提案になられた論点も重要であり,それを排除するわけではありませんが,具体的な進め方としては,宣告猶予についての基本的な論ずべき事柄を議論する過程において,関連性があれば触れていただくという形で進めたいと思います。いかがでしょうか。             (一同異議なし)   それでは,宣告猶予制度について,意見交換を行いたいと思います。   配布資料3の「宣告猶予制度(検討項目案)」には,この制度の要否,考えられる制度概要案の作成に向けた検討課題,これを検討する上で考えられる少年鑑別所の調査機能の活用という順番で記載されています。もっとも,制度の要否の問題は,仮に宣告猶予制度を導入するとした場合にどのような制度を導入することが考えられるかによるとも考えられます。そこで,意見交換は,2の「考えられる制度概要案の作成に向けた検討課題」,次に,1「宣告猶予制度の要否」,それから「宣告猶予制度を検討する上で考えられる少年鑑別所の調査機能等の活用」の順番で議論していきたいと思います。2の「考えられる制度概要案の作成に向けた検討課題」につきましては,検討項目案に記載されている順番で意見交換を行っていくというのが,適切と思います。   そこでまず,この「制度の基本的枠組み」から意見交換を行いたいと思います。   「制度の基本枠組み」につきましては,先ほど御説明がありましたとおり,有罪であることとともに,刑について宣告を猶予する,いわゆる判決の宣告猶予制度とするのか,それとも,有罪であることは宣告して,刑の宣告それ自体を猶予する刑の宣告猶予制度とするのかという点,宣告猶予中の行状を刑の量定に当たって考慮するのかという点などを,主要な検討項目とするものです。以下の検討項目においても同様ですけれども,「制度の基本枠組み」に関連する御意見であれば,他の項目に関連する意見も含めて述べていただいて結構です。御意見がある方は,挙手をお願いしたいと思います。 ○加藤幹事 宣告猶予制度を構築するといたしまして,その制度設計の枠組みをどのように作るかということに関しては,既に改正刑法草案のときに御議論が多々あったように,理論的な観点も重要だとは存じますが,実務的な観点からも併せて検討する必要があるのではないかと考えます。その観点からいたしますと,従来議論されてきた観点の中で,宣告猶予期間中の行状を刑の量定に当たって考慮するのかどうかという点は,一つの重要な点だと思うのです。   諸外国では,刑の宣告猶予が採用されて,宣告猶予中の行状が刑の量定に反映されるという制度もあるようですし,そういった制度に意義はあるのだと考えられますが,我が国において刑の宣告猶予期間中の行状を刑の量定に当たって考慮するとすれば,宣告猶予期間中の行状を何らかの形で立証するということが必要になると考えられるわけです。そうした場合,どのような行状を立証することになるのかですとか,どのような手続でこれを行うこととするのか,あるいはどういう形でその資料を集めてくるのか,誰が集めるのかも含めまして,そういった資料収集の方法などについて,慎重に検討すべき問題点が多々あるのではないかと考える次第です。 ○池田幹事 今の観点に関連して申し述べます。   宣告猶予中の行状を考慮に入れ,それによって刑の量定を改めて行うという制度についてですが,我が国の刑法において科せられる刑罰というのは,行為にふさわしいものであり,犯情によって大枠が定められた範囲内で量刑が定められてきたところでありますが,行為後の事情を正面から考慮に入れるということになりますと,これまでの刑罰の意義との関係について検討を要する点があるのではないかと考えます。   また,加藤幹事から御指摘があった,どのようにその資料を収集し,どのように認定するかという事情につきましても,我が国の刑事裁判においては,事実認定手続と量刑手続が分離されておりませんので,量刑事情を主として検討の対象とするという手続を新たに設けることになるということも,併せて意味するのではないかと思われます。そのため,宣告猶予中の行状を考慮に入れるという際には,これまでの我が国の刑事裁判の在り方との関係も踏まえた検討が求められるのではないかと,考えております。 ○滝澤幹事 加藤幹事がおっしゃられたこととほぼ同じですけれども,どのような証拠をどのように収集するのかというところ,宣告猶予中の行状について,捜査の一環となるのかどうかというところもあろうかと思います。もし,捜査の一環で警察で行うということになりますと,果たしてどのように,どのようなことができるのかということも考えなくてはいけない,非常に難しい問題だなと思っているところでございます。 ○酒巻分科会長 今,捜査の観点から,御意見が出たのですけれども,裁判実務の観点からも,何か御意見,あるいは問題点の御指摘があればと思うのですが,いかがでしょうか。 ○吉田幹事 まだ制度の中身につきましては明らかにはなってはいない段階ではございますけれども,仮に宣告猶予中の行状を考慮して刑の量定を行うという制度であるということにいたしますと,その場合には,既に池田幹事から御指摘がございましたけれども,現行の刑事訴訟手続は事実認定手続と量刑の手続とを一体のものとしているという点,また,刑の量定につきましては,行為責任を基本として犯罪行為に見合った量刑判断を行ってきているという点,これらとの関係におきましても,検討すべき課題がいろいろとあるのではないかと思われるところでございます。 ○川出委員 制度の基本的な枠組みを検討するに当たっては,その前提として,宣告猶予制度を,何を目的としてどのような対象者に適用するかという点を考える必要があると思います。   宣告猶予制度を新たに設けるとして,その目的は,いくつか考えられます。一つは,先ほど指摘がありましたように,宣告猶予中の行状を考慮して量刑を行うことを目的とするものです。その場合に,広範な事件を対象として,一般的に宣告猶予中の情状を考慮するということになりますと,先ほど指摘があったような問題が出てきますが,制度としては,対象をより限定するということも考えられます。例えば,現在の実務では,行為責任を基本として量刑が決められるとされていますが,行為責任による刑の幅が実刑と執行猶予の両方にかぶるような事件については,特別予防上の考慮を踏まえて,実刑か執行猶予かが決められるのだと思います。そのような事例において,裁判所がどちらにするかを迷うような場合に,刑の宣告を猶予した上で,一定期間保護観察に付し,その間の状況を見て,実刑か執行猶予かを決めるといった制度として宣告猶予を導入するということは考えられるのではないかと思います。   イメージとしては,家庭裁判所で行われている試験観察のようなことを,刑事裁判で行うということになろうかと思います。そして,一定期間保護観察に付した上で状況を見て,実刑か執行猶予かを決めるということですので,行状一般を考慮するのではなく,保護観察中に遵守事項違反があったかどうか,あるいは再犯があったかどうかを見ればよいことになります。   新たに宣告猶予制度を導入する目的として考えられるもう一つのものは,仮に少年法の上限年齢が引き下げられたとした場合に,従来であれば家庭裁判所に送られて保護的措置等を受けていた18歳,19歳の者が,刑事手続において起訴猶予や罰金で処理されてしまうことになるので,そのような者について,積極的な再犯の防止のための措置を採るために宣告猶予制度を導入するというものです。このような制度の下では,従来の基準であれば,起訴猶予や罰金になるような者を対象として,起訴をして,宣告猶予中,保護観察に付し,問題なく保護観察期間を経過すれば,手続を打ち切るという形になろうかと思います。   その場合に,宣告猶予を言い渡す時点で量刑をしておくか,それとも遵守事項違反があったような場合に,そこで刑を決めるかはどちらもあり得ると思います。 ○酒巻分科会長 川出委員の今の設計についての御意見というのは,一般論としては,対象者は限定しない場合の話ですか。 ○川出委員 最初の実刑か執行猶予か迷うような事案を対象とした制度については,対象者を限定する必要はありません。後者については,今回,宣告猶予制度を検討することになったきっかけが,先ほど申し上げたようなことであったので,そうであれば,18歳,19歳の者が対象になるのですが,現在の基準の下で起訴猶予とか罰金になっているような人について,起訴した上で一定の処遇をすることが必要だということが,全ての年齢について妥当するのであれば,こちらについても対象者を限定する必要はないと思います。 ○酒巻分科会長 宣告猶予の場合には保護観察があるというのは,そのような必要的保護観察を前提としてお話しされたわけですか。 ○川出委員 今回は,対象者の改善更生を図り,再犯を防止するための刑事政策的措置の一環として,宣告猶予制度について検討するというものですから,保護観察は必要的とするのが筋ではないかと思います。これに対して,御紹介があった改正刑法草案の宣告猶予制度では,保護観察が裁量的になっていますが,その当時の議論を見ますと,そこでは,軽微な犯罪で本来起訴猶予になるようなものについて手続を打ち切る,つまり,不当な起訴に対する救済手段として利用するという発想も入っているので,そうなっているのだと思います。今回とは前提が異なりますので,それに従う必要はないと思います。 ○山﨑委員 私も川出委員と同じような問題意識を持っていまして,今日的にどういった犯罪,あるいは犯罪者に対して,この制度を適用すると考えるのかが重要だろうと思っています。   そういった意味で,今,処遇が必要なものと考えると,そうすると,アセスメントをそもそもどの段階でやるかということも関係してくるのではないかと感じております。刑法改正草案の頃は,裁判所が宣告猶予するかどうかを判断して,そこから保護観察という流れなんでしょうが,そうではなく,様々な処遇の必要性がある人に対して,どういった処遇が必要なのかということを判断してから猶予するというようなこともあり得るのではないか。つまり,裁判所の宣告猶予の前にアセスメントが来る場合というのは想定しなくてよいのだろうかということも考えておりますので,その調査の時期ということも検討すべき項目に入ってくるのではないかと思っています。 ○酒巻分科会長 前提となるアセスメントのお話でしたけれども,対象者につきまして,御意見がありますか。大きな枠組みとして,もし対象者について御意見があれば,先に承りたいと思います。 ○池田幹事 先ほど,川出委員から二つのカテゴリーが挙げられて,実刑か執行猶予か迷うような場合か,あるいは,この議論の出発点であります18歳,19歳の少年を念頭に積極的に運用するかという,限定的な文脈においては,現実的な制度も考えられるのではないかという御指摘をいただきました。私もそのとおりだと思うわけですが,他方で,論点となり得る点として,前者については,宣告猶予とするのではなくて,執行猶予において保護観察を付けるということも現行制度上は可能であって,その実刑とするかどうかというところは迷うというのがどの程度の規模であるかということとの関係で,適用されるべき範囲というものがあるかないかということが決まってくるのではないかなと思います。   また,18歳,19歳の少年について,処遇の充実を図るという観点から,手続に取り込んで改善更生の機会を与えることになるわけですけれども,他方で,これまで起訴されず,あるいは罰金で済んでいた方に,被告人としての地位の負担を一定期間与えることにもなることを念頭に,そのような範囲でも積極的に活用するということでよいかどうかということを検討すべきではないかと考えております。 ○山﨑委員 今の議論を私もお聞きしながら,例えば,薬物の犯罪については対象にならないのだろうかということも若干考えておりまして,成人の薬物使用事案で初回の裁判では執行猶予,2回目になると実刑というような現行の扱いで,本当に再犯防止としてよいのかどうか。諸外国ですとドラッグ・コートの例などもあるようですが,そういった方などを対象にした制度設計は考えてなくていいのだろうか,という点が1点です。   あとは,次の前科の有無とも関わるんですけれども,軽微な窃盗ですとか無銭飲食を繰り返してしまう高齢者なども想定するのだとすると,前科の制限が不可避なのかですとか,それに必要な処遇あるいは審理の手続,アセスメントも含めて,どういったものが必要なのかということが問題になってくるのではないかと考えています。 ○酒巻分科会長 今,宣告猶予の要件についての御指摘もありましたので,ここで次の論点である要件・手続についての意見交換に移りたいと思います。これは,先ほど説明がありましたように,どのような要件を満たす場合に,宣告猶予という制度を使うか,あるいはその手続,どのような手続で宣告猶予をするのか,それを検討項目とする論点です。御意見があればお聞きしたいと思いますが,いかがでしょうか。 ○加藤幹事 要件の方でありますが,宣告猶予の要件について考えてみますと,先ほど御紹介のあった改正刑法草案の段階では,6月以下の懲役若しくは禁錮ですとか,5万円以下の罰金でありますとか,あるいは前科要件といった形式要件のほかに,実質要件は,「刑の適用に関する一般基準の趣旨を考慮し,相当とする情状があるとき」となっていまして,余り具体的には書き込まれていません。   この要件を具体化しようといたしますと,先ほど川出委員から御指摘があったように,例えば,実刑か執行猶予か迷うようなケースに適用するというのが一つの考え方になるわけですが,実刑か執行猶予か迷うとは規定できないので,そうすると,犯罪者処遇を一層充実させるという趣旨に鑑み,今の刑事訴訟法第248条などを参考に,例えば,犯罪の軽重ですとか,被告人の年齢ですとか,そういった様々な事情を考慮して判決又は刑の宣告を猶予することが相当であるときに猶予するといったようなことになるのではないかと,一応想定されるわけです。そして,その場合に,被告人の改善更生,再犯防止のために保護観察を付するかどうかというのも,川出委員の御指摘のように必要的に付するという考え方もあろうかと思いますが,今のような事情を考慮して裁量的に付するという制度も考えられると思われます。   刑の一部の執行猶予につきましては,刑法の一部執行猶予の場合は,保護観察は裁量的となっておりますが,先般第1分科会で配布された資料によると,刑の一部執行猶予の場合には,ほぼ裁量的な保護観察が付されているという状況になっているようでありますので,運用上そのようになるということも考えられるのではないかと思われるところです。   もっとも,こういった要件を,いわば一般情状ですとか特別予防を重視した形で要件を設定する,あるいは犯罪の軽重まで含めて要件を設定するといたしましても,そうすると,結局,刑の全部の執行猶予,あるいは,その場合における保護観察を付する要件とどういう差異が出るのか,実質的な考慮で差異はあったとして,実際の要件を書いてみたときに,どのような差異があるのかということが,必ずしも明確でなくなってしまうというところはあるように思われますので,近い制度との要件の差異というところも,考慮に入れて検討する必要があるのではないかと考えます。 ○酒巻分科会長 実刑か執行猶予かの前に,そもそも起訴するか,起訴猶予かという手続段階があるわけですが,この点との関係についてはいかがですか。 ○川出委員 先ほど申し上げた後者の場合で,これまでであれば起訴猶予になっている者を対象とする制度の必要性については,起訴猶予の段階で何ができるかということが密接に関連してきます。この問題は,第3分科会で取り上げられることになっていますが,例えば,起訴猶予とする際に,先ほど御紹介があった諸外国で行われているような再犯防止のための措置を採ることができる制度が仮に導入されるとすれば,あえて宣告猶予という制度を導入する必要はないということにもなろうかと思います。   また,これまでの基準であれば罰金になっていた者についても,次のテーマになりますが,罰金刑についても保護観察付き執行猶予を積極的に活用するというのであれば,あえて宣告猶予制度を導入する必要はないといえますので,同じことが妥当するだろうと思います。 ○山﨑委員 検討する項目としては,これまでに出た以外に,ちょっと諸外国の例を見ましたところ,私もまだ理解不十分なんですが,被告人の同意を必要としている国もあるようですし,更に言うと,罪を自認しているときに限るのか,否認事件でも対象にするのかとか,あるいは判決猶予の決定に対する異議申立てとの関係も絡んでくるのだと思うんですが,被告人の同意といったものを条件にする必要がないのかどうか,という点が一つです。   もう一つは,宣告を猶予をする場合に,その期間が,草案ですと6月以上2年以下となっていますけれども,猶予期間中に行われる処遇との関係で,果たして下限,上限をどういうふうに設定すべきなのか。例えば,現行の家庭裁判所の試験観察であれば3か月程度というものもありますし,また2年という上限も,それが適当なのかどうかという点も検討する要素にはなるかなということを考えております。 ○酒巻分科会長 被告人の同意というのはありましたか。その点だけ確認をお願いします。 ○羽柴幹事 例えば,イギリスにつきまして,被告人の同意を要するという制度があると承知をしております。 ○酒巻分科会長 諸外国の例にもそういうのもあるようですけれども,今山﨑委員がおっしゃられた二つの点も,これは検討すべきことであろうと思います。   それでは,先に進みまして,宣告猶予中の処遇(保護観察等)について,保護観察に限らず,処遇の在り方を検討項目にするということでありまして,どのような処遇を行うか,仮に保護観察を行うとする場合に,それを必要的なものにするか,あるいは裁量的なものにするかなどを検討項目とするものです。   この点について御意見をお願いします。 ○池田幹事 先ほど,川出委員から関連する点で御指摘があったように,処遇の充実を図るという観点からは,宣告猶予に付随して,保護観察が必要的になるというのは,筋としてはそのとおりだとも考えられるところです。他方で,手続に乗せられるということの持つ意味というものが,これまでの少年審判の中でも言われてきて,不開始の場合であっても,その過程で更生に向けた気付きを得ることもあるということに鑑みますと,実態としてどうなるかということはともかくとして,制度として例外なく保護観察に付さなければならないとするのではなく,裁判所の判断で,保護観察に付するかどうかという判断の余地を残しておくという制度にすることも,考えられるのではないかと思います。   先ほど加藤幹事から御指摘があったように,刑の一部の執行猶予については,裁量的な保護観察であっても,運用の実態としてはほぼ全てに付いているということもあるやに聞いておりますので,制度設計として必ずそうでなければならないということにはならないのではないかということも,併せて御指摘をさせていただければと思います。 ○川出委員 保護観察という形でなくても,何か別の処遇を行うのであれば,保護観察にこだわる必要はないのですが,それもなしに,単に宣告を猶予して一定期間様子を見るだけということですと,そのような制度を新たに導入する意味がどこにあるのだろうかという疑問があります。先ほどの繰り返しになりますが,改正刑法草案における宣告猶予制度とは違って,今回の場合は,宣告猶予中に何らかの処遇をすることが前提になるように思いますので,保護観察に代わるような処遇手段がない現状では,保護観察が必要的ということになるのではないでしょうか。 ○酒巻分科会長 今の点で,お二方は,対象者として18歳,19歳の人のことを考えておられたのか,それとも一般論として述べておられたのでしょうか。 ○川出委員 宣告猶予をして処遇をすることが有効な者ということであれば,18歳,19歳に限られるものではないと思います。ただ,類型的に改善可能性が高いということで,若年成人に限定するという考えはありうるかと思います。特に対象者は限定しない前提で意見を申し上げました。 ○山﨑委員 正に,今の点に関連して,私は,家庭裁判所調査官の関与というものも,選択肢に入れて検討をした方がよいのではないかと思っているところです。当然,引き下げた場合の18歳,19歳をどうするかという是非論は別としても,少なくとも若い人たちに対する様々な調査と調整,試験観察等を加えた実績を持っている国の機関として,資源としてあるわけですので,それを家庭裁判所管轄の中でやるのか,あるいは,例えば地方裁判所に調査官として行かれるということも含め,宣告猶予の前のアセスメントにおいて,事実上のそういう働きかけをすることなども含めて検討していただいた方がよいのではないかと思っております。 ○酒巻分科会長 ほかに,この点について御意見がないようでしたら,先に進みたいと思います。   次は「宣告の要件,宣告する刑」です。これは,判決又は刑の宣告を猶予した場合に,どのような事情があったときに,その判決又は刑を宣告するのか,また,判決又は刑を宣告する場合には,刑の全部の執行を猶予することを可能にするのかなどが,技術的なところではありますが,重要な点かと思いますので,これを検討項目とするものでございます。   この点については,御意見がございましたら,よろしくお願いします。 ○加藤幹事 改正刑法草案を参照いたしますと,宣告猶予期間中に再犯に及んだ場合でありますとか,それから遵守事項の不遵守といったことが要件となっていると承知しておりまして,一応そのような要件とするということが考えられるのではないかと思われるのでありますが,検討すべきは,その上で,猶予期間中の行状が刑の量定に反映するということになりますと,宣告猶予期間中に再犯に及んだ,あるいは遵守事項を遵守しなかったという悪い方の行状を考慮するということに,ほぼ必ずなりますので,最初の裁判のときに宣告されるであったであろう刑よりは重くなるという問題が生じるように思われまして,それが適当なのであろうかどうかという点については,御検討いただきたいと思っております。 ○酒巻分科会長 今の点に関連してでも結構ですし,それ以外に考えられる問題点なり論点なり検討すべき事柄でも結構ですが,御意見がございましたら,お願いできればと思います。 ○山﨑委員 私も,過去の議論を勉強していて,自分の意見はまだ持てていないのですけれども,今は,量刑を先に決めておいた方がいいという御意見がほとんどかと思うのですが,一方で,そういう形にすると,一般的には,威嚇的効果を持たせるために最初の猶予する刑が重くなりがちであるといったような指摘もされている点をどう考えるかということと,もう一つは,保護観察の不利益処分的な側面に注目しますと,宣告を猶予して保護処分を受けて,遵守事項違反があったときに刑の言渡しをされるというときに,最初に決められていた刑がそのまま言い渡されると,その間の保護観察に加えて実刑で服役するという点で重過ぎはしないか,二重処罰かどうか分からないのですけれども,そういった問題を調整し切れないという問題はあるのかなと思いまして,一長一短かと思うのですけれども,そういった側面も含めて検討が必要ではないかと考えています。 ○川出委員 宣告猶予が取り消されるのは,再犯に及んだ場合や遵守事項違反があった場合になるというのは,そうだろうと思います。その上で,その行状を事後的に刑の決定に当たって考慮すると,最初の裁判のときに宣告されるであったであろう刑よりも重くなるという点ですが,その場合にも,刑の量定に当たって,再犯や遵守事項違反自体が直接に考慮されるわけではなく,それらが特別予防上の考慮要素になるということであって,基本的には,当初の犯罪についての行為責任による枠がはまります。そうであれば,当初,想定された刑より重くなるとしても,理論的には問題ありませんし,実際にも不当に重くなることはないように思います。その点からは,改正刑法草案の宣告猶予制度のように,比較的軽い事案を対象として想定しながら,再犯や遵守事項違反があって取り消されたら実刑にしかならないというのは説明が難しいように思います。 ○池田幹事 今の御指摘の点に関連して,宣告猶予が取り消されたときに実刑にしかならないというのは,確かに非常に過酷な帰結であるとは思います。他方で,例えば,実刑か執行猶予か迷うような事案で,社会内処遇に付してみたときに,それが功を奏さなかったということであれば,実刑になるのはやむを得ないのではないかとも考えられます。その意味で,改正刑法草案がそういう制度設計にしたことにも一定の理由はあるのかなとも思います。 ○酒巻分科会長 それでは,続きまして,宣告の手続と上訴について御意見を伺いたいと思います。   これは,猶予されていた判決又は刑をどのような手続で言い渡すことにするのか,宣告された判決又は刑に対して上訴を可能にするかどうかという設計に関わる問題ですけれども,これについて御意見のある方は,挙手をお願いいたします。 ○川出委員 この点については,改正刑法草案のように,最初に判決書まで作成しておき,その段階で,それに対して異議を申し立てることができるという制度であれば,その後に,宣告猶予が取り消され,判決が言い渡された場合に,それに対しては上訴を認めないというのも,一つの仕組みとしてあり得るだろうと思います。   それとは異なり,刑の宣告猶予の形にする場合には,有罪の認定の部分と刑の言渡しの部分,どちらについても上訴を認めるということにならざるを得ないだろうと思います。その上で,最初に有罪認定をした段階で,それに対して独立に上訴を認めるかどうかは考える余地があるだろうと思います。 ○酒巻分科会長 それでは,猶予期間が経過した後の効力について,御意見を伺いたいと思います。   これは,判決又は刑の宣告を猶予された者が,判決又は刑を宣告されることなく猶予期間を経過した場合には,どういう法的な効力が生ずるかはっきりさせておかなければいけないわけですけれども,これについて御意見がございますでしょうか。 ○加藤幹事 宣告猶予期間の経過の効力につきましては,以前の法制審議会の刑事法特別部会の案,先ほどの説明で部会案と呼ばれていたものですが,これでは,免訴の言渡しが確定したものとみなすとされていたと承知しています。   今般,その設計する制度が,部会案と同じように,いわゆる判決の宣告猶予で,事実認定と,それから刑の量定を行った上で,有罪であること,それから刑のいずれの宣告も猶予するという場合には,その猶予期間経過の効力についても,前の案と異なるものとする理由は必ずしもないのではないかと思われるところでございます。   ただ,一方で,事実認定を行って,有罪であることは一旦言い渡すけれども,その時点で刑の量定だけは行わないといったような仕組みにする,いわゆる刑の宣告猶予型にいたしますと,一度有罪が言い渡されているということを踏まえて,その期間経過の際に,その点がどうなるのかという点について,検討を加えておく必要があるのではないかと考えます。 ○川出委員 この問題は,制度の基本的枠組みのところで申し上げましたように,どういう事案を宣告猶予制度の対象とするかによって決まってくるものだと思います。前者の実刑か執行猶予か迷う事案を対象とするということでしたら,猶予期間が問題なく経過すれば執行猶予ということになりますし,後者の,従来の基準であれば起訴猶予や罰金相当の事案の場合は,無事猶予期間を経過すれば,免訴という形で手続を打ち切るということになろうかと思います。 ○酒巻分科会長 それでは,他の制度との関係について,これは,宣告猶予制度とほかの現行の制度との関係を検討項目とするものです。既にところどころ話題は出ていますけれども,御意見を頂ければと存じます。 ○吉田幹事 実際に裁判を運用する立場から一言申し上げさせていただきたいと思います。   仮に新たな制度を導入するという場合におきましては,どのような目的で,それからどのような事件を対象にするのかなどといった点を明らかにしていただきませんと,適切に運用することはできないということになります。   したがいまして,制度導入の目的や必要性,どのような事件を新たな制度の対象として想定するのか,あるいは,執行猶予など他の制度とどのように切り分けるのかといった点につきましても,しっかりと御議論いただきまして明確にしていただきたいということを申し述べさせていただきます。 ○加藤幹事 吉田幹事の御発言とも関係するのでありますが,正にどういう制度として組むのか,誰を対象にするのかというところが,今のところ議論の途中でありますので,そういう意味で,ほかの制度との切り分けというのが難しいところがございますが,仮に一つ,先ほどから議論に出ているように,現在,起訴猶予になっているものの一部が宣告猶予制度の対象になると,すなわち,宣告猶予期間を経過すれば,そのまま言渡しが免訴となって手続が終結するといったような制度で,改善更生や,あるいは再犯防止の必要があるときに,刑の宣告を猶予するといったような制度を考えるとすると,正に起訴猶予と宣告猶予をどうやって使い分けるのかという観点で,検察官においては,その点をどう振り分けるのかというのを判断しなければならなくなるわけです。   一方で,執行猶予と,それから宣告猶予というものが近しいというか,先ほどから川出委員が御指摘いただいているように,迷うケースも含めて,執行猶予と宣告猶予というのがどのように使い分けられることになるのかということが問題になるケースもありそうでありまして,その使い分け,振り分けをどのようにするかというのは,この場で議論しておかなければならない事柄だと思われます。 ○川出委員 最後の点ですが,執行猶予と宣告猶予をどのように使い分けるかは,宣告猶予をいかなる目的で使うかというところに関わってくる問題です。改正刑法草案のように,執行猶予と起訴猶予の中間的な処分として宣告猶予を位置付けるのであれば,行為責任によって宣告猶予と執行猶予が区分されるということになりますが,先ほど申し上げたように,実刑か執行猶予か迷うような事案において,言わば量刑のための資料収集のための制度として宣告猶予を位置付けるのであれば,宣告猶予と執行猶予の切り分けは明確にできます。ですから,何を目的とした制度にするかを検討する中で,他の制度との関係が決まってくるのではないでしょうか。 ○山﨑委員 私も,その制度の在り方を検討をする上で,例えば,犯罪白書などで再犯の対策の必要性がある犯罪類型が挙げられているわけですが,そういったものを例えば想定して,高齢者や障害者,さらに累犯であればどういう場面でこの制度を使い得るのか,若年者であればどうなのか,薬物事犯であればどうなのかという,必要とする対象者の方からも検討していかないと,どうしても議論が抽象的で整理がつかないような気がしておりますので,そういった観点からもちょっと検討したいと思っています。 ○滝澤幹事 先ほど来お話が出ているとおりなんですけれども,宣告猶予をどういう仕組みにするかということによって,また違ってくるだろうとは思っているんですが,改正刑法草案の部会案では,宣告猶予の対象6月以下の者と,比較的軽微なものということで想定されていましたですけれども,もしそうではなくて,実刑か何か迷うような罪種についても対象としていくということになると,被害者の方がどういうふうに思われるかということも踏まえるべきか,考えなくてはならないと思います。つまり,宣告猶予ということは,裁判の決着が着かないままにしばらくずっと時間が過ぎていくということにもなりますので,そういった点について,配慮というか,念頭に置くということもまた必要なのかなと思っております。 ○池田幹事 この議論の出発点が,やはり少年年齢の話でありまして,引下げに伴って処遇の充実をどのような手段で担保するかということであったことからすると,先ほど加藤幹事から最初に二つの視点が提示されましたけれども,その1点目であるところの起訴猶予と宣告猶予の振り分けというところも,大事な視点だろうと思います。   結果としては,従前起訴されていなかった人が手続に関与を迫られるということになるわけでありまして,一面において,処遇の充実を図る機会を提供するということではあるわけですが,他方で従前とは異なる負担が生じるということも踏まえた議論が必要でもあることについて,改めて申し上げておきたいと思います。 ○酒巻分科会長 個別の論点については,一通り議論したところでございますけれども,これを踏まえまして,宣告猶予という制度の要否ついて意見交換をしたいと思います。   これは,要するに,その制度を導入する必要があるのかどうかということを検討項目とするわけですけれども,まだ一巡目の議論でございますし,何か決めるわけでもありません。この要否について,基本的に考えるべき論点といいますか,それは2番目に,今まで議論したところでありますけれども,これを踏まえて,総括的な御意見があれば出していただきたいと思います。いかがでしょうか。 ○池田幹事 今日の議論を経て,どういう事案を念頭に置くかということ,かなりクリアに,私としても認識は整理できたところではあるのですけれども,若年者については,やはり手続の対象者をこれまでよりも拡張するという側面があるということの負担がどのように説明されるかということと,実際に起訴された方について,現状執行猶予制度がある中で,加えて宣告猶予という制度を設けて,できることが何か大きく異なってくるかというと,処遇の充実という観点から,現状の制度でも対応し得る部分はあるのではないかなと思われたところです。   ○加藤幹事 まず,以前の法制審議会の部会以来議論されてきていた,本来起訴猶予になっているものを保護観察にするために,宣告猶予として一定の処遇をするという点については,第3分科会の方の議論とも関係するので,直ちに結論めいたことを申し上げることは難しいとは思うのでありますが,本来起訴猶予だった者を,起訴して処遇するということについての何らかの抵抗感とかちゅうちょ感がないかどうかということは,一つ問題になるのではないかと思われます。   一方で,川出委員御提案の,執行猶予か実刑か迷う層というのは,従来の部会案とは異なる観点からの御提案だと思います。これについては,今の裁判で執行猶予なのか実刑なのか直ちに決められないというものがどの程度あるのか,特に,仮に少年法の年齢の上限が下がって18歳,19歳といったものが取り込まれた場合に,あるいは若年者の層に対する刑事手続の在り方として,そういったものが必要になるのかどうかというのは,これはまた,どのくらいの事件について,そういった必要性が感じられるのかという観点からの検討も必要になるのではないかと考えた次第です。 ○山﨑委員 今,両幹事も言われたように,従来起訴されていなかった者が起訴されて負担が増えるという観点は,これはしっかり考えなければいけないと思います。   一方で,やはり他の分科会の論点との兼ね合いもありまして,起訴猶予というのを従前どおりに考えるのか,もう少し広げようとされるのか,それに対して,司法的な判断が入るという意味で,処遇をするのであれば宣告猶予の方がふさわしいのではないか,といったような観点もあり得るところだとは思います。ですから,できるだけ分科会としても幅広に丁寧な議論はしておいた上で,部会において,他の分科会で検討されている論点との調整ということをしていった方がよいのではないかと思っております。その意味でも,冒頭に述べましたとおり,宣告猶予という形に限られてしまうとなかなか難しいというのであれば,もう少し柔軟な司法的チェックの制度というようなことを新たに考えることも含めて,対象者ごとに考えていったらよいのではないかなと思う次第です。   執行猶予ということになりますと,やはり,それはそれでスティグマですとか,資格制限という問題があり,第1分科会でどう議論されるのかということとの兼ね合いもやはり生じてきますので,一応幅広に検討しておいた方がいいのではないかなと思っております。 ○川出委員 今回は,処遇を充実させ,再犯を防止するという観点から,宣告猶予の導入の当否を考えるということですので,その前提として,現に存在する起訴猶予と執行猶予によっては賄えない場合があるのかどうかを考える必要があるだろうと思います。   起訴猶予に関しては,起訴猶予の際の再犯防止措置についての第3分科会における議論を見る必要があります。また,実刑と執行猶予を迷う事案で宣告猶予制度を使うということについては,先ほど加藤幹事がおっしゃったように,実務上そのような必要性が本当にあるのか,さらにはこういう制度を入れますと,有罪の認定から間を置いて量刑をするということになりますので,そういう量刑の在り方というのが,今の裁判所の実務の中で受け入れられるものなのかどうかというところも,是非お聞かせいただきたいと思います。 ○吉田幹事 結局,今の御指摘の部分というのは,宣告猶予中の行状をどう考慮するのかというところに関わってきたりするところだと思いますので,繰り返しということにはなりますけれども,現行の刑事訴訟手続の在り方ですとか,あるいは行為責任主義との関係をどのように整理するのかというところについて,検討すべき課題がいろいろあるのではないかなと考えられるところです。   制度の導入の目的,必要性,どのような事件を対象にするのか,執行猶予との関係など,どのように切り分けるのかといった点につきましては,やはりここはきちっと明確にしていただかないと,適切に運用することはできないということにつきましては,繰り返しになりますけれども,申し述べさせていただきたいと思います。 ○酒巻分科会長 ありがとうございました。   最後の点になりますけれども,「宣告猶予制度を検討する上で考えられる少年鑑別所の調査機能の活用」について御意見を承りたいと思います。   宣告猶予に関連して,少年鑑別所の調査機能を活用すること等が考えられるかどうか,どのように活用することができるかといったようなことについて御意見のある方はお願いいたします。 ○加藤幹事 少年鑑別所の調査機能の活用という点は,宣告猶予制度の対象とするか否かの判断も含めて,少年鑑別所の調査機能を活用するということは考えられるのではないかと思います。   ただ,少年鑑別所をどのように活用するかを検討する場合には,その対象となる者をどのように選ぶのか,あるいは,少年鑑別所という組織,機関が持っている技能や能力との関係で,どういった事項を調査事項とするのか,あるいは,刑事裁判との関係で,どのように手続を仕切るのか通常の当事者主義的な形で証拠請求をして,証拠として取り調べるということになるのかどうか,そういった手続の関係でありますとか,さらには,現在の少年法の手続でも,時に問題となりますが,その調査記録の記録として取扱いをどのようにするのかといった技術的な観点を含めて,検討する必要がある項目ではないかと考えております。 ○酒巻分科会長 少年鑑別所の調査については,裁判所が関係するところでございますので,裁判実務を担っている立場から,吉田幹事,御意見があれば,お願いします。 ○吉田幹事 現状といたしましては,前提となる制度の具体的な中身ですとか目的,対象となる事件などにつきまして,具体的な議論がなされていないというような状況にございまして,判断のための資料収集の一手段であります少年鑑別所の調査機能の活用の当否につきまして,これを殊更取り上げまして裁判所の意見を申し上げるというのは,難しいというところでございます。 ○山﨑委員 私も,基本的に加藤幹事がおっしゃったような点が問題になるのであろうと思っておりますが,付け加えて,調査の場所といいますか,身体拘束との兼ね合いで,それをどう考えるのかという点は関連して出てくるだろうと思っております。   御承知のとおり,今の少年は家裁送致後の観護措置決定を受けて,少年鑑別所にいる期間を使って調査をしておりますので,宣告猶予の前に調査をするのか,後なのかということも含めて,その間,対象者に対する調査をどういうふうな場所で行うと考えるのか,当然保釈の対象になり得る場合もあり得るでしょうし,そういった点も含めて検討する必要があるかなと思っております。 ○酒巻分科会長 一通り検討項目案記載の検討項目についての意見交換を行いましたが,その他,宣告猶予制度につきまして,現段階で御意見がある方は挙手お願いしたいと思いますが,よろしいですか。   宣告猶予制度について一巡目の議論を行いましたところで,本日の意見交換全体としてこの程度にいたしたいと思いますが,よろしいでしょうか。             (一同異議なし)   それでは,これにて本日の審議は終了いたしたいと思います。   今後の予定につきまして,事務当局から御説明をお願いいたします。 ○羽柴幹事 今後の予定について申し上げます。   次回,第2分科会の第2回会議は,10月24日火曜日午前10時から,法務省の建物の4階にあります東京保護観察所の会議室で行います。 ○酒巻分科会長 本日の会議の議事につきましては,特に公表に適さない内容に当たるものはなかったと思われますので,発言者名を明らかにした議事録を公表することとさせていただきたいと思いますが,よろしいでしょうか。             (一同異議なし)   それでは,そのようにさせていただきます。   本日はどうもありがとうございました。 -了-