法制審議会 国際裁判管轄制度部会 第8回会議 議事録 第1 日 時  平成14年3月12日(火) 自 午後1時30分                       至 午後3時56分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  裁判管轄・外国判決条約案の主要な問題点についての論点整理 第4 議 事 (次のとおり)               議         事 ● 時間になりましたので,国際裁判管轄制度部会を始めさせていただきたいと存じます。  最初に,資料の説明をお願いしたいと思います。 ● それでは,本日の資料について御説明申し上げます。  本日の資料は,事前送付させていただいたものが資料番号30から33までございます。30が,「裁判管轄・外国判決条約案の主要な問題点についての論点整理」というものでございまして,前回の当部会で事務局の方でお願いしました質問事項につきましてお寄せいただいた意見を,こちらの方で整理させていただいたものでございます。  資料31は「SOME REFLECTIONS ON THE PRESENT STATE OF NEGOTIATIONS ON THE JUDGMENTS PROJECT IN THE CONTEXT OF THE FUTURE WORK PROGRAMME OF THE CONFERENCE」というものでございまして,これはヘーグ国際私法会議の事務局の方で,4月に予定されております第19通常会期第1委員会での資料として作成して,当方に送付があったものでございます。  32,33も,どちらもヘーグ国際私法会議事務局作成のものでございますけれども,32が「The Impact of the Internet on the Judgments Project : Thoughts for the Future」というもの,33の方が「Choice of Court Agreements in International Litigation : Their Use and Legal Problems to Which They Give Rise in the Context of the Interim Text」というものでございます。  あと,席上に配布させていただいておりますのが,○○委員作成の意見要綱と,電子情報技術産業協会作成の,前回こちらがお示ししました質問事項に対してお寄せいただいた意見でございまして,これは御両者から特に席上配布の希望がありましたので,事実上配布させていただいておるものでございます。 ● 引き続き,事務局の方より,本日の審議につきまして御説明があるということでございますので,よろしくお願いいたします。 ● それでは,私の方より本日の審議について御説明申し上げます。  本日でございますけれども,4月の22日から24日まで開催されますヘーグ国際私法会議第19通常会期第1委員会において,この裁判管轄・外国判決条約に関する検討の進め方についての審議が行われますのに備えまして,我が国としてどのような大きさの条約を目指すべきかという点につきまして,最終的な御意見をいただきたいと思っております。  この点につきまして,前回の当部会において事務局から質問事項というものを出させていただきまして,一部の委員・幹事からは御回答をいただいております。これを取りまとめたものが資料30になるわけですけれども,そこからしますと,我が国として目指すべき条約の範囲というものは,B to Bの合意管轄のみの条約ということではメリットが少ないと,むしろブラック・リストを維持した99年草案のサイズの条約を目指すべきといったものに集約されるかと思われます。  しかし,他方,ヘーグ国際私法会議の事務局からは,資料31として本日配布させていただきましたペーパー,これによりますと,結論ということで書かれておりますのは,条約の大きさにかかわらず,B to Bの合意管轄から検討を始めるべきであると。一方,99年草案のサイズの条約を目指すのであれば,2003年までに条約を完成するということについては疑問が生じる。第20会期,2004年以降に先延ばしをする必要が生じるのではないかと。さらに,小さな条約を作成するということであれば,bilateralisationの問題,それから他の条約との関係については依然として検討が必要であるものの,第19会期中,つまり2003年中には外交会議を開催して,採択することが可能であるのではないかというような結論として示されているところでございます。  このようなヘーグ国際私法会議での事務局の方での検討というものもございますし,また現在のこの99年草案のサイズの条約を目指すということを主張するのに対しては,当然,そのような大きさの条約の作成が果たして実現可能なのかどうかということに関しての反論というものが予想されることでございますので,このようなヘーグ国際私法会議の事務局の見通しであるとか,予想される反論等も踏まえながら,なおこのブラック・リストを維持した99年草案のサイズの条約を目指すというような御意見でよいのかどうかという点につきまして,本日,御審議をお願いしたいと思っております。  なお,最終的にいただきました御意見につきましては,これを参考にしまして,法務省といたしまして,外務省において作成する第1委員会での対処方針にその意見を反映させていくというふうな方向になっていくかと思われます。  第1委員会におきましては,どのような大きさの条約を目指すべきかということを議論した上で,更に対立のある問題についてのアプローチの方法であるとか,あるいは多数決によるか,コンセンサスベースによるのかといった交渉方法の問題でございますとか,交渉スケジュール等についても話し合われることになりますけれども,これらの点につきましては,外務省におきまして我が国の意見をできるだけ反映させていくために,最良の方法を考えまして,交渉の中で柔軟に対応すべき事柄ということになろうかと考えております。 ● ただいまの事務局の説明につきまして,特に御意見ございませんでしたら,早速条約の大きさと申しますか,在り方につきまして検討をお願いしたいと存じます。  審議の便宜上,○○幹事にはこちらの方にお移りいただきたいと思います。  それでは,配布資料に基づきまして,事務局の方より御説明をお願いしたいと思います。 ● それでは,本日の配布資料につきまして,順に御説明申し上げます。  まず,資料30でございますけれども,これが本日最終的な御意見をいただくためのもとになる文書ということで,当方で準備させていただいたものでありますけれども,何人かの委員・幹事の方から御回答をいただきましたものを,当方でこのような意見が多かったとか少なかったとかというような形で論点整理という形で示したものでございます。  問は,前回の当部会で配布させていただいた質問事項のままのものでございまして,小さい字になっておりますのは,その紙で問のほかに書かせていただいた部分をそのまま載せてあるところでございます。  まず,問1,B to Bの合意管轄のみを対象とする条約案を作成するメリットがあるかという質問につきましては,意見状況としましては,否定的な考え方が多数を占めました。この点については余り異論がなかったところでございますけれども,その理由ということで,ここに書かせていただいたような合意管轄に関して問題となるのじゃないかと言われている①から⑦の問題については,実務上問題とならないというような理由,それから我が国企業と米国企業との契約においては,合意管轄先は米国となってしまうのが実情であるというようなところからすると,米国企業を利するばかりであるとか,ビジネスのみを重視するべきではない,あるいはこれまでの労力を考えれば,このような小さい条約ではなくて,国際的な民事管轄全般を対象とする条約を目指すべきであるというような理由が書かれておったところでございます。  また,ここには書いておりませんけれども,当方で指摘しました①から⑦の論点につきましては,B to Bの合意管轄のみでなくて,もっと広い条約を作成する場合でも,検討すべき問題であるというような御指摘もございました。  次に,問2でございますけれども,問2は第7条の消費者契約の条文につきまして,条約の対象外とすることについての御意見を伺ったものでございます。これにつきましては,意見が分かれたところでございまして,多かったのは(1),つまり質問事項中の③ということでございます。管轄合意のある消費者契約について,選択肢Cというのはある程度ミックス条約の構造を生かしまして,その消費者契約の管轄合意の取扱いについて意見が一致するところだけをホワイトにしていこうという方向で条文が作成されているものでございますけれども,これを更にリファインすることによって,妥協の成立をあくまで模索するというような方向を目指すべきであるというような御意見が強うございました。  一方,対立が激しくてなかなか解決できないというような観点から,管轄合意のない消費者契約というものをグレー化するというようなことでやむを得ないのではないかというような御意見もございました。  また,(3)でございますけれども,これは対立の激しいところからグレー化するということではなくて,グレー化すること自体により非常に複雑な状況が出てくるので,実務上の使用に耐えないということで,あくまで99年草案に2001年草案の第7条パラグラフ2ただし書,パラグラフ3,これはスモールショップの例外とか,ディスクレーマーのところでございますけれども,このような修正を加えるという形で条文を作成していくべきだというような御意見もございました。  問3につきましては,契約の条文のところでございまして,契約の履行地を管轄原因とすることと,インターネット環境での問題につきまして御意見を伺ったところでございます。こちらの問の下に,履行地をどこととらえるのが適当かということが明確ではないというような頭出しをさせていただいたところ,コンテンツを発信するサーバーの所在地,あるいはダウンロードしたコンテンツを受け取ったコンピュータの所在地と考えられるところでございますけれども,この両方につきまして,それぞれサーバーの所在地にすべきであるとか,コンテンツを受け取ったコンピュータの所在地とすべきであるというような御意見,両方ございました。  また,どちらかがいいという御意見ではなくて,解決策としての御意見としましては,まずディスクレーマーの規定で対応すればよいではないかというような御意見,あるいは契約の履行地という概念につきまして更にそれを解釈の余地が狭まるような形にするというようにする,あるいはダウンロードしたコンテンツを受け取ったコンピュータの所在地であるとか,あるいはコンピュータの所在地,サーバーの所在地も含めて契約の履行地に該当しないというような形を明確にすべきではないか,これはインターネットの場合においては契約の履行地で管轄を認めるという条文の適用をしないようにするということになると思いますけれども,そのような方向を目指すべきであるというような御意見がございました。  それから,問4のところは,不法行為にかかわるところでございまして,問としては不法行為につきましてインターネットを介した不法行為と,著作権侵害,インターネットを介しない場合を含む著作権侵害の場合と,どちらが10条について問題がある場合かと,あるいはこの二つが10条の問題であって,そのほかにはないかというようなことをお尋ねしたところでございますけれども,ここにつきましても意見が分かれまして,一つの意見としましては,そもそも問題として指摘されているような①,②,インターネットを介した不法行為あるいは著作権侵害の場合についても,現在の第10条を適用しても問題はないのではないかというような御意見,理由としましては,不法行為における損害発生地管轄というものにはインターネット,あるいは著作権侵害の場合であっても損害の有無の審理,あるいは被害者保護というような観点から合理性があるのではないかというような理由から,そのまま第10条を適用して問題がないというような御意見もございましたし,やはりインターネット,あるいは著作権の場合が問題ではあるとか,それに限られないというような御意見もございました。  著作権侵害の点につきましては,著作権の属地性ということから,損害発生地と侵害行為地もその著作権の法律に属する国と一致するはずであるということもありながら,そこが不明確である可能性があるので,この点を明確にしていくべきではないかというような御意見もございました。  また,インターネットを介した不法行為,著作権侵害について,準拠法の問題を含めた条約を,別途それぞれにつくることが望ましいとする御意見もございました。  問5も第10条の問題でございますけれども,今申し上げましたとおり,インターネットあるいは著作権の場合でも,第10条は問題がないというような御意見もあったところでございますけれども,問題がある場合にどのように対応するのかということで,アイデアとして適用対象を製造物責任によって物理的損害が発生する場合に限るという点についてはどう考えるかという問でございました。この点につきましては,インターネットを介した不法行為というものを第10条の適用から除外するべきであるという意見は,第10条について問題があると指摘する方々の中では多かったところでございますけれども,製造物責任によって物理的損害が発生する場合に限るというアイデアにつきましては,適用の対象が極端に狭くなって適切ではないというような御意見が多かったところでございます。  この場合,適当であるという御意見ももちろんあったわけですけれども,いずれにしてもこの意見としましては,インターネットを介した不法行為を除外するという点については,その方がいいという意見が多かったということでございます。  問6の第18条パラ2e,ゼネラル・ドゥイング・ビジネスをブラック・リスト化する点につきましては,これは原案を維持すべきで,妥協すべきではないということで御意見の一致を見ております。  問7の,知的財産権全般を適用対象から外すという点につきましては,一つその知的財産権全般を適用除外した上で,管轄,準拠法に関する条約を別途作成すべきであるという意見もございましたけれども,実務的観点からは,登録を要する知的財産権の侵害訴訟を登録国の専属管轄とするという考え方については,非常に望ましいということで,この条約作成の機会にその方向での合意の形成に努めるべきであるという意見が多かったところでございます。  なお,登録を要しない知的財産権につきましては,一定程度条約の対象外とするべきだというような御意見があったところでございますけれども,その範囲につきましては,登録を要しない知的財産権全般を除外するべきであるとか,あるいは著作権は不法行為の条項を適用して管轄を認めてよいけれども,営業秘密については対象外とするべきであるとか,そのような形でいろいろな御意見が分かれたところでございます。  資料30につきましては,意見の状況としまして,今申し上げたようなところでございますけれども,それに加えまして事務局の作成した資料31から33につきましても,簡単にどのようなことが書いてあるかということにつきまして御説明申し上げます。  まず,資料31は,今回の4月に行われます第1委員会での審議の方向性について,事務局の方でまとめた一番基本的なペーパーということになろうかと思いますけれども,ペーパーの目的としましては,これからの建設的な条約策定作業の進行の方法,それからタイムフレームについて考えたいということでございまして,条約の審議につきましては,六つの点につきまして大きな問題が生じていると。六つというのは,インターネットと電子商取引,それからactivity-based jurisdiction,消費者契約と雇用契約,それから知的財産権,それから他の条約との関係,bilateralization,この六つを挙げておりまして,逆に原則的に合意のある部分としましては,適用範囲,普通裁判籍,B to Bの合意管轄,管轄競合とフォーラム・ノン・コンビニエンス,承認執行の大部分の条項ということで掲げられております。  事務局の提案としましては,大きな問題点については後回しにしまして,段階的に審議を進めていくのはどうかということが提案でございまして,条約の大きさについての結論はどうあるにせよ,まずコア,中心部分のところから出発するのにメリットがあるということで,まずB to Bの合意管轄に関する第4条を出発点とするべきであると,その上で条約の範囲を大きくするということであれば,専門家,作業グループ等での検討を進めていけばよいのではないかというような形で書かれておりまして,結論につきましては先ほど申し上げましたように,大きな条約にするということになると,2004年以降になってしまうだろうというような見通しが示されているところでございます。  資料32につきましては,インターネットのインパクトがどのようなものかということにつきまして,事務局の方で検討した成果でございまして,いろいろと細かく書かれておるところでございますけれども,簡単に申し上げますと,インターネットにおける管轄についてはポリシー・イシュー,政策的な対立があるということで,送り手の国,country of originの方の管轄を認めるべきか,あるいは受け手国,country of destinationの方の管轄を認めるべきかという点で大きな問題があると。特に,ビジネスの側から見れば送り手国の管轄を認めるべきであるし,消費者の立場からすると,受け手国の管轄を認めるべきであるということで,両方の対立となっていると。  また,インターネットにおいては公序の問題,公序として掲げられておりましたのは,知的財産権,それから名誉毀損,わいせつの問題,プライバシー,人種差別,言論の自由といったものが掲げられておりましたけれども,これらの点についても各国の対立があると。  そのようなことから,結局この条約が作成されると締約国の各国で,ある国で出された判決が承認執行されることにより問題が生じるというような指摘がございまして,EUのことがいろいろ書かれておりましたけれども,準拠法の方が統一されないというような状況では問題が大きいというような指摘になっております。  あと,起草するのにいろいろドラフティングの問題があるということで,6条,7条,それから8条,9条,10条,13条といったところにつきまして問題点が指摘されておりまして,結論としましては,インターネット環境が生まれてきたことによりまして,政策的なシフトが生じたと,これが条約作成のチャレンジになっているけれども,これを乗り越えなければならない,解決策を見つけていくことに価値があるということで,最終的にどういう解決がよいのかというところまでは示されておりませんけれども,当部会でもいろいろと御議論いただいていたようなインターネット上の問題について,事務局の方で検討を加えてあるというものでございます。  資料33は,事務局の方で非常に方向性が出ていると思いますけれども,B to Bの合意管轄の条約を作成することの意味ということで検討を加えたものでございまして,現在でもB to Bの合意管轄でもこういう問題があるのではないかとうことで指摘をしております。その問題点というものは,今回の資料30でもございますけれども,問1の当方で①から⑦まで並べさせていただいたもの,こういう問題点がある,これに加えてもう二つ,「合理性の要件」と書いてありましたけれども,専属的管轄合意であっても強い理由があれば,他の国での手続を否定しないというようなものによって,専属的管轄合意の効力は破られることがあるというような問題,それから公序に反するとの理由で管轄が否定される場合があるという問題も更に指摘されまして,①から⑦プラス今申しました二つの問題点があるということで,B to Bの4条に関する条約の整備ということで意味があるのだということが示されている文書でございます。  資料につきましては,以上でございます。 ● お分かりになりましたように,各問について様々な意見が出されているわけですが,4月の第1委員会に臨むということに当たりましては,意見をまとめなければならないということだと思います。したがいまして,各問ごとに御議論をいただきたいと存じます。  それでは,問1,B to Bの合意管轄のみを対象とする条約を作成するメリットがあるかということでございますが,これについては前回も御意見をいただきましたけれども,この意見状況を御覧になりまして,御意見をいただきたいと存じます。  ただいま,①から⑦プラス2というのが出てまいりましたけれども,いかがでございましょうか。 ● この個別的な問題に入る前に,ちょっと素人的なことをお伺いさせていただきたいのですが。  もう既に御議論になったことであることと思いますが,ちょっと確認させていただきたいのですが。  この条約,ヘーグ国際私法会議が会期制で活動をしているということは十分承知していますけれども,2003年までという拘束力といいますか,それがどれだけ強いものなのかという,その絡みで条約の大きさというものも議論されてくるのじゃないかと思っていますけれども,つまり余り無理なことを要求しても,そちらの方の縛りが非常に強くて,今まで活動していたものが会期の終了によって全部もとのもくあみになるようなことなのかどうか,その会期と会期の連続性のことを,申し訳ありませんがちょっと私分かりませんので,教えていただければと思います。 ● 基本的には,この国際機関のスープリームボディはどこかという問題と関係してくる話でございますね,最高の意思決定機関は何かと。ちょっとややこしいところがあるのですが,基本的にはこれは締約国が,つまり時間がかかっても大きい条約をつくるべきだと決めれば,あとは会期の処理というのは何とでもなるのが原理的な姿だと思います。  事務局の方では,とりあえず資料の31番,そのパラグラフ15,16,17あたりで,つまりパラグラフ16とパラグラフ17で対比して,広い条約であれば2003年末より前には完成できないとしていて,パラグラフ17では,狭い条約であれば当初の予定どおりといいますか,20会期の前の19会期に完成できるのじゃないかという見通しを立てているだけでございます。  なぜ20会期かといいますと,要するに次にやる条約,扶養義務に関する条約だと思いますが,それが一応2004年の10月を予定しているわけです。したがって,19会期でやろうとする意味は,それより前に,20会期の前に19という会期が終わっていないとだめだ,それだけの話だと思います。 ● どうもありがとうございました。 ● よろしゅうございますでしょうか。  それでは,問1について御審議をお願いしたいと思います。  これは,こういうようなことでよろしゅうございますでしょうか。 ● 今日の御意見を伺う目的としては,一応4月の会期での方向性,つまり広いのを目指すかスモール・コンベンションを目指すかという,そういう大まかなところでございまして,ここに書いてあるいろいろな合意管轄の論点というのは,ある委員の御指摘もありましたように,広い条約をとった場合でも当然検討しなければいけない問題でございまして,それは実質的な論点はまた後で御議論いただくということで,むしろ意見が分かれている問題を中心にお願いできればと思います。 ● 問1は,B to Bの条約を作成するメリットがあるかということですが,日本として4月にいろいろな話が出てくるかもしれないので,そのときの方向を決めるということであれば,B to Bの合意管轄しか受け入れられないと言っている国が幾つかあるとして,それについて条約をとにかくそこはつくろうではないかと,大きくする分については彼らも反対はしないけれども,自分たちは入らないと言っているというときに,日本は小さな方にも入る用意があるのか,そういうものだったら入るのはデメリットばかりであって,入らない方がいいのかという点は,どうなんでしょうか。 ● ただいまの点はいかがでございましょうか。こういうものを中心とする条約では入るメリットがないというのか,あるいはこれでもいいと。 ● 問題の出し方が難しいと思いますが,小さい条約で締約国が多い条約が一つ,A条約ができます。他方,大きな,いろいろなことが書いてある条約だけれども締約国が随分少なくなりそうな条約,B条約もつくれます。一部重なっているけれども,二つの条約をつくりましょうとなったときに,日本はB条約だけに入るのがいいのか,AもBも両方入って,小さいけれども多くの国と,小さい範囲ではハーモナイズを達成した方がいいのか,それはいかがでしょうか。 ● 恐らく,そういう出し方ではちょっとお答えしにくいと思います。A条約,あるいはB条約を考えておられる国がどういう国であるのかということをもう少しお出しいただければ,多少意見が出るのじゃないでしょうか。 ● あくまでも仮定の話ということで。  小さい条約ということは,当然アメリカを入れるという前提でございます。大きい条約というのは,恐らくアメリカは入らない。  まだ非常に間接的な情報しか入っていませんが,中国もスモール条約がいいという立場かもしれないというふうに言われております。したがって,例えば中国とアメリカが入っている小さな条約と,それからそれ以外の国が入っている大きな条約というイメージでございます。 ● そういう前提で,いかがでございますか。 ● 両方がいいのじゃないかと思いますけれども。 ● 小さい条約をつくりたいということが大勢になってしまえば,これはできざるを得ないということでございまして,そしてできた場合にそれに日本が入れるか入れないかというのは,それは後の問題,内容を見てという話になるとは思います。 ● いきなり大きな問題に入ってしまったわけですけれども……。 ● 素人的な意見ですけれども,もちろん従来の経緯から見ると大きな条約がいいに決まっていると思っていますけれども,今,○○幹事から御質問のあった,小さな条約ができた場合,日本がそれに入るかどうかという点は,やはり日本企業の実力ということによると思うのですね。どんな国との間でも,取引の場合に管轄の合意の交渉について負けないのだということであれば,それは小さな条約だって法がないよりもあった方が望ましいとは思いますけれども,しかし一方的に不利な管轄を押しつけられる危険性があるかどうか,その辺の見通しをまず聞かせていただかないと,何とも判断のしようがないと思いますが。 ● 前回,○○委員の方からたしか合意管轄を中心とするのでは不十分であるというような御意見だったと思いますが。 ● 合意管轄のみに関しては,私は別途御意見を申し上げたのは,メリットがあるかどうかというと,大してメリットは感じられないということを申し上げただけの話で,じゃこれを日本が独自性を持って反対すべきかというと,ちょっとまた違うのですよね。  それから,企業といっても,毎回申し上げておりますように相手方にステイクを持っていると,すなわち相手方の国に進出している企業,子会社であれ支店であれ,何であれ--こういう企業が,要は相手方の国で商売させていただいているわけですから,その結果,交渉で個別の取引で相手との力関係で,相手方の国の裁判所で物事を決するというようなことをやった場合に,これを条約がないから否定するとか,それから裁判では負けて,日本に持ち帰ってもう一回執行で闘うとか,そういう発想というのは企業にはありません。基本的に力関係で決まろうと何で決まろうと,決まったことは守るし,相手の国で商売させてもらっているのだから,相手の国の裁判所でやるのは当然であるというのが基本なんですけれども,実は企業というのはそういう企業だけじゃないわけですね。相手の国には子会社もなければ,事業もやっていないと,特に日本の中小企業さんは大変優秀で,部品であっても何であっても,品質とか内容については世界一流であると,しかし企業のサイズからいったら日本にしか拠点はないと,こういう方がどういうふうな判断をするか,取引では納入後一方的に相手に押しつけられて,実際に訴訟が起きたときに条約がある,ないということとのかかわりで,どういうふうな判断をするかというのは,正直言って私が申し上げるベースがないわけでございまして,今日手元にいただいた社団法人電子情報技術産業協会さんの意見は,むしろ「B to Bの合意管轄のみを対象とする条約とすることは,交渉戦術上,適切でないと考えられるだけではなく,合意管轄の有効性を争うことができない状況となることは,更に米国企業を利することとなるばかりで,我が国企業にとって得るものは少ないと考えられる」と言っている,その我が国とか我が国の企業という方が,どこを対象にしているのかということが問題でございまして,しかもここで言っている交渉というのは,条約交渉のことをおっしゃっているのか,個別の事業の交渉なのか,ちょっと読み取れないところがあるのですけれども,条約の交渉の戦術上適切でないというふうな文章だとしますと,その判断は基本的にはこの場で,若しくは法務省,外務省がすればいいことであって,必ずしも決定的ではないかなというふうに思っています。したがって,結論から言うと,私はメリットはないけれども,独自性を持って反対するほどのものではないのじゃなかろうかと推測しています。 ● 意見状況の方では,このような合意管轄のみに限った条約の作成については否定的な考え方が多数を占めたということでございますが,ということは,より大きな条約をつくるという方向が出ているのではないかと思いますけれども,この点は正に今御議論いただきたいところでございます。 ● ちょっと○○委員の意見と似ているようですけれども,ちょっと違うかもしれません。  やはりこういう設問の仕方をされますと,メリットがないとは言えないと思うのですね。やはりこれだけ時間をかけてやってきた以上,何も生み出さないよりは何かを生み出した方がいいに決まっていますから。そういう意味からいえば,B to B合意管轄の条約しかどうしてもできないのであれば,それを推進するよりしようがないのじゃないかと思います。それは,全くなしという状況に終わるよりは,はるかにいいと思います。  それで,B to B合意管轄だけだとアメリカにとって一方的に有利かというと,必ずしもそうじゃないのじゃないかと思いますけれども,やはり合意管轄についての国際的な条約で一定のルールができれば,そのルールに従ってやっていくということになるわけですから,それは必ずしも言えないのじゃないかと思います。  それから,あと我が国との間でどうかということですけれども,私どもが扱う案件ですと,やはり日本で,例えば合弁やるとなれば日本を管轄にすることが多くなっていますし,余りそういうことは問題じゃないのじゃないかなと思いますけれども,ただ私どもがやるのは割と大きな企業ですから,本当に中小企業まで,例えば中小企業だったら弁護士にも頼まないとか,一方的に向こうの言うなりになって契約を結んでしまうとか,そういうことであれば,その辺我々は分かりませんから何とも言えないのですけれども,いずれにしても合意管轄のルールが条約でもってはっきりすれば,それははっきりするにこしたことはないと思います。もちろん,私は意見書に書きましたように,本来的には大きな条約を目指すべきだとは思います。 ● 裁判所の立場としては,別にどちらがということを言う立場にはないわけですけれども,我々は来た事件を審理するという立場だけなんですが,そういう意味では規定がないよりはあった方が,要するに解釈の基準が明確になっている方がいいという意味では--,そういう明確になっているものが多ければ多いほどいいという意味では--,大きな条約の方がメリットは大きいだろうというふうに思いますけれども,この設問では,B to B合意管轄しかできないのとどっちがいいかと言われれば,何もないよりは,B to B合意管轄だけでもある方がいいじゃないですかという答え方にならざるを得ないと思います。  ただ,今の事務局のお話を聞いていますと,いずれにしてもヘーグの事務局は,B to B合意管轄について最初に議論しましょうというようなお話ですので,冒頭の段階で大きな条約のか小さな条約のかという,そういう各国に対して踏み絵を踏むのかというような,そういう意思決定を迫られる場は本当にあるのかどうかというのが我々が分からないところで,もしそういう形でなければ,B to B合意管轄から始めましょうということ自体について,反対するという立場には恐らくないのだろうと思いますので,あとは時間切れでそこの段階で条約にするか,それともその段階での条約にするのは反対して,もっと継続審議をしましょうかという段階で恐らく踏み絵を踏まされるだろうと思います。  そのときの態度の決め方ということなんですけれども,どっちがいいのかという形で態度を決めさせられるのか,それとも仮にヨーロッパの側が大きな形で継続審議しましょうというふうに言ったときに,B to B合意管轄でもいいよというお立場の方は,アメリカがそれじゃ嫌だと言って抜けるとき,日本も同じように嫌だと言って抜けるのかというと,そういうことまでおっしゃった上で,B to B合意管轄に賛成しましょうというような意見の方は恐らくいらっしゃらないだろうと思いますけれども,もし事務局の方で,そういうことでヨーロッパとアメリカとどっちをとりますかというときに,アメリカと一緒に抜けましょうということを御提案になっているのであれば,それはどうかなという感じはいたします。 ● ○○委員が言われたことは,とりあえずは今,B to Bの管轄合意から始めろとパラグラフ15にも書いてあるので,いずれにしてもそこからやろうじゃないかと,つまり大きい条約か小さい条約かというのを最初に決める必要はないのだと。正にそこは,逆に言いますと,こういう前提で始めるのだということをあらかじめこちらの方で言う必要があるかもしれないということです。つまり,B to B合意管轄から交渉するのはいいのだけれども,うちの方では大きい方がいいのでそのワンステップなのだと,最初にそういうことを言っておかないと,逆になし崩しになるおそれがある,そういう問題だと思います。  それからもう一つ,そこで決めなければいけないというのは,やはりパラグラフ16,17にも書いてありますように,事務局の採用スケジュールとか,会合の開き方とか,予算とか,それに影響してくる部分があるのだろうと思います。そういう意味で,多分最初にそこは議論になるのだろうというふうには,今の時点で考えております。 ● 質問でございますけれども,前回か前々回か,B to B合意管轄だけだったら逆にヨーロッパは意味がないからおりるということで,もし大きな条約の一部という位置づけがはっきりしないのであれば,ヨーロッパがおりるという可能性は今もあるわけでございますか。 ● 現時点の情報では,EUの立場決定というのは今週中に行われるようですが,少なくとも今の時点ではまだ最終決定はされてないと。ただ,EUの中も,いろいろ国によっては,しようがないから小さい方でもいいかと言っているところもあるという程度の話は聞こえてきておりますが,まだ最終決定はしていないようです。 ● 私,個人的にその何人かとEメールで情報交換をしている感覚ですのでよく分かりませんが,どうもアメリカが抜け,中国も抜けたときに,ヨーロッパとして日本とかオーストラリアとかカナダのためにミックス条約をつくるメリットがどれほどあると考えるかは,相当疑問になってくると思います。ですから,日本としてもう一つ大きな条約をつくってくれといっても,労力のかけ方が--要するに非常に難しくなるわけですね,彼らにとっては。既にあるブラッセル・ルガノとの関係がそうでなくても難しいのに,そこをクリアしたときに得られるメリットが余り大きくないので,そこで個人レベルの話ではありますが,日本がルガノ条約に入った方が話は簡単ではないかということは,私が彼らの立場ならそう思うと思います。アメリカにとっては難しくて,ルガノ条約にはとても入れませんが,日本なら入れるのじゃないかと考えている節があることからすれば,そういう発想で,結局はヘーグ条約は小さい条約だけになるというシナリオはあり得るのじゃないかと思います。 ● 前回も前々回も申し上げたのですけれども,実はアメリカが抜けても中国さえ入ってくれれば13億人の人口で,あれだけリティージャスな国なので,我々の最大関心事は取り込めるからいいかというのが私の個人的な感想だったのですけれども,中国が先ほどアメリカと行動を共にする可能性もあるという,大変ショッキングな,私にとっては情報がありまして,そうすると考え方が根底から変わる,変えなければというふうな受けとめ方をしています。 ● 要するに,これからの作業として小さい条約を目指すか大きな条約を目指すかという問題と,仮に大きい条約にしろできたときに,中国が入るか入らないかはまた別の問題だと思います。  それから,ルガノ条約,日本が入るかどうかというのは,これはやはりいろいろなデリケートな問題というか,適用範囲が違いますから,そのサブジェクトマターには原子力も入っているし扶養義務も入っている条約ですから,これと完全に,--つまり今やっている条約と適用範囲が違いますから--,簡単に入れるとは言えないのじゃないかというふうに思っております。 ● 最終的な交渉につきましては,ただいま御指摘のあったようないろいろな事情が絡んで,まだ不確定な要素があろうかと思いますが,いずれこれはいつかの時点でまた御議論いただくことになるのでしょうか。 ● 次回,5月14日に予定されております法制審議会で,一応こういう方向で,4月の第1委員会で何かが決まるという前提ですが,報告をさせていただく場があるのではないかと思っております。 ● それでは,4月の第1委員会につきましては,とりあえずそういう前提つきで,この合意管轄から始めると。大きな条約か小さな条約かということについては……。どういうふうにすればよろしいですかね。 ● まとめますと,要するに現時点では,我が国は,最初から,B to B合意管轄の条約を目指せと,大きい条約をやめろということは言わないで,逆に,大きい条約を目指すべきだという主張をする立場をとる。そしてだめだった場合に,B to B合意管轄のみにするならやめろとは言わないというポジションなんだろうと思います。 ● そういうことで臨んでいただきたいということです。  それでは,問1の方はそういうことでよろしゅうございますでしょうか。なかなか微妙な問題ではありますけれども。  問2について。これは消費者契約の問題ですが,どうですか。 ● この問2につきましては,意見が分かれているということを確認させていただきました。この問題についてどうするかという議論をしますと,条文の議論をしないとだめになりますが,現時点ではちょっとできませんので,とりあえずここはペンディングという形で,仮に大きい条約をつくるということになった場合にまた条文の形で議論させていただければと思います。  むしろ今日は,意見が分かれております問3,つまりインターネットの環境における契約の履行地について,ここはいただいた御意見の中でもサーバーの所在地にすべきだという人もいるし,逆にコンピュータの所在地にすべきだという人もいるし,逆に機器の所在地はおよそ履行地と考えるべきでないという方もいらっしゃるという形で,非常に分かれている部分がございまして,インターネット関連の問題というのは事務局資料32に非常に詳しく各国の管轄の考え方も含めて記載しておりますので,そこをそれぞれのお立場から問題ないとおっしゃる方も含めて御意見を聞かせていただければと思っております。  これがどういう関連性を持ちますかといいますと,要するに我が国として大きな条約がいいというときに,じゃインターネットの問題はどういうふうに解決するつもりなんだということについて,一応考え方をある程度持っておきたいという,そういう趣旨でございます。 ● 契約の履行地とインターネットの関係でありますが,どのように考えればいいかということ,いかがでしょうか。 ● 関連する事務局の文書のパラグラフを申しますと,パラグラフ7でcountry of origin と,それからcountry of destination,それぞれのアプローチをしていまして,そこで企業間の契約管轄においても履行地の概念は電子取引で電子的な履行がされたときには適当でないかもしれないという,そういう記述がございます。  売主にとっては,買主の所在地を確認するのは困難であると,これは逆にoriginでとろうとdestinationでとろうと,サーバーの所在地とした場合でも確認が非常に困難ということは間違いないのだろうと思いますが,いずれにしてもそういう問題がある。  2001年の草案というのは,いわば被告側の方,企業側の方というのでしょうか,合理的なステップをとっていた場合にはこれを緩和したいとしていますけれどもコンセンサスが得られていません。 ● まず,インターネットといいますけれども,物の引渡しとかサービスの供給とそれ以外のデジタルコンテンツとは分けないといけないと思うのですけれども,物の引渡しとかサービスの供給だったら,これはメールオーダーなりファクスで注文するなりと変わりないと思うのですね。ですから,そういうのは除いていいと思うのです。そうすると,問題となるのはデジタルコンテンツのダウンロードだけじゃないか,そういうふうに思うのです。  そして,ではデジタルコンテンツのダウンロードが一体どれぐらい問題になるかということですけれども,理論的には問題になっても,現実的にはほとんど問題にならないのじゃないか,そういうふうに考えるわけです。といいますのは,せいぜい音楽をダウンロードするにしたって10ドルとか20ドルとか,そんなものじゃないかと,だったらそれでもって一々訴訟を起こすかと,そういうことですので,デジタルコンテンツのダウンロードでもここで大げさに考えるほど実際には問題にならないのじゃないかというふうに考えます。  前に,○○幹事の方から,金銭の支払いについては物の引渡しでもサービスの提供でもないということにされたという説明があったので,デジタルコンテンツのダウンロードについても,やはり物の引渡しでもサービスの提供でもないと,同じような取扱いにすればいいのじゃないか,そうすれば結局はそういったデジタルコンテンツを供給する人の普通裁判籍といいますか,そこになると,そういう結論でいいじゃないかと思っております。 ● インターネットにつきましては,問4についてもまた出てまいるわけですが,契約履行地とインターネットについては特に今御指摘のような考え方でいけば問題はないというふうにしてよろしゅうございますか。 ● 私も,今,○○委員がおっしゃったのと同じようなことでペーパーをお出ししましたけれども,要するに問題になるのはデジタルコンテンツ自体の提供だけだと思いますので,それが全体的な取引でどれだけの量を占めるかというと,そんなにそれによってインターネット全体を条約から外しちゃうとかいうほどの大きな量じゃないのじゃないかという気はしておりますので,○○委員のおっしゃるような形での提案を日本がするということでよろしいのじゃないでしょうか。 ● 賛成なんですけれども,確認ですが。ということは,逆にインターネットの取引については関連するサーバーなどがコンピュータというのは管轄の根拠にならないと。 ● そうですね。外しちゃうわけですね。 ● そういう否定の解釈なのかどうかは別にしまして,そうする必要があるという,そういうことですね。実は,私のペーパーもそういう考え方で出しているので。  私はITおたくの逆で分からないのですけれども,最近テレビ会議なんかが非常によくできるようになりまして,この間も米国の人についてテレビ面談で採用者を決めたのですけれども,弁護士なんかが立ち会ってリーガル・サービスをテレビ会議で他国に提供したら,向こうのテレビの受像機が履行地で,マルプラクティスがあったら向こう側の管轄があるかとは恐らく思わないのじゃないかなと,やはり普通裁判籍じゃないかと思うのですけれども,○○幹事,いかがでしょうか。 ● 不法行為の方の話ですね。 ● 恐らく,テレビに相手が映っているからということが管轄の根拠にならないと,これもサービスをそこで受けているわけですけれども。というアナロジーで考えると,デジタルコンテンツをこちらで,外国で聞いたことの1点をもっては管轄の原因にはならないと,むしろ逆に,積極的に否定する必要があるのじゃないかなというのを私は感じているわけですけれども,そういう発想で正しいかどうかということですけれども。 ● 分かりませんが,私は不法行為については受け取る側でも被害が生じている可能性があるのじゃないかと思うのですが。 ● 取引の。 ● 取引の履行の話だとまた話が……。今は履行に限った方がいいのじゃないかと思うのですが。  ただ,リーガル・サービスの提供は受けているのじゃないですか,日本で。 ● アメリカで弁護士に来てもらうと,実は非常に高いものですから,移動中もチャージするとかいうわけですね。  それで,こういうケースもあるのです。アメリカのいろいろな法律分野の専門家の先生をレクチャラーとして呼びたいと,だけど東京に来てもらうのは費用も高いし,お互いにむだだと。やはりテレビ会議方式で向こうでレクチャーして,生徒は日本側で会議室に集めてやると。そうすると,向こうからリーガル・サービスをして,我々はこちらで受け取っているわけですけれども,--法律の解説をしていただくわけですけれども--,その場合に,テレビの受像機で受けているから,ここが取引の履行地だという形でアメリカの弁護士を後で法律のアドバイスが間違っていたということで訴えることができるというのが今の現状の条約案の考え方かどうかということなのです。恐らく,そこまでいかないのじゃないかなというのが私のイメージなんですけれども。 ● エレクトリック・パフォーマンスの場合に,事務局のペーパーの前提ですが,何に問題があるかというと,要するに相手がどこにいるか分からないからだという議論をしているわけです。今おっしゃった事例というのは,日本に向けて送信している事例ですから,要するに思いもかけないところで訴えられるという問題は全く生じないケースでございますね。そういう意味では,日本に管轄を認めてもそんなに変ではないかもしれないですね。要するに,サービスを供給しているわけですから。  ですから,パフォーマンスがサービスも含むとすると,サービスのパフォーマンスがそこでされたのだという見方は可能なのじゃないかという気がしますけれども。 ● 今の問題は,例えば今までだって電話で法律相談したとか,ファクスで文書を送ってもらったとかという同じ問題がありますので,もし除かなければ今のようなものは履行は恐らく日本で受けたということになるのだろうと思うのです。  ただ,インターネットの場合は今言ったようなその場で消えてしまうような形ではなくて,結局サーバーがあれば,今の電話相談の話になれば,例えばうちの会社のテープレコーダーは例えばタイにあるから,タイの方のテープレコーダーに録音しておいてよというのと同じで,自分のサーバーの方に情報として蓄積されていて,後から何度でも見ますよというような言い方になると,どこなのという問題がやはりどうしても生じてしまうので,ですから現にサーバーのある場所にさえ送っておいてもらえば,○○委員が例えばヨーロッパに出張したときにヨーロッパからアクセスしてそれを読めばいいじゃないですかという話になって,どこでも見られることになるので,やはり同じ問題は出てきてしまう。ですから,そういう意味では電話会議とはちょっと違う要素が出てきてしまうだろうと思いますけれども。 ● ということは,○○委員の御意見を反映するためには,通常の相手がどこで受け取るか分からないような場合だから除外の解釈を入れて,今のテレビ会議とか電話とかによるサービスの提供というのは,これは履行地とみなされるという解釈ということで,違うのだということですね。 ● そうですね,私も最初に言いましたように,物の引渡しとかサービスの提供であれば,それはインターネットであろうとメールオーダーであろうと,同じに考えていいと思うのですね。 ● あいまいさを残さないのであれば,○○委員がおっしゃったように,全部そういうサーバーとか端末がある場所は履行地にしないのだという形の明文を置いておけば,普通のインターネットで物を送ってもらうという通信販売の場合には,もう全く通信販売で注文したものが着く場所が履行地になりますので,履行地概念ではサーバーも端末も出てこないということになりますし,今のデジタルコンテンツとか法律相談の場合は,その場合には履行地がどこになるのか,要するに履行地がない状態になりますけれども,むしろそうしておかないと,サーバーなのか実際にアクセスをした端末があったところなのかということで分からなくなってしまうじゃないですかということにはなるだろうと思います。  今の法律相談者の場合でも,東京の本社で受像機は見ているけれども,実際はプロバイダーの関係ではサーバーは日本にないかもしれない。それは分からないわけですね。そのあいまいさを残さないためには,もうない方がいいという○○委員のおっしゃるのは分かると思います。 ● そもそも契約の履行地管轄という一般条項は置かないということからしますと,すごく限定的に書いた方がむしろいいわけですね。有体物の履行地とか,物理的なパフォーマンスを伴うサービスの提供地とかですね。そうでないと,本来の,もともと管轄する原因として考えていた履行地というのは,そういう何かそこにお互い,--原告も被告も--そこで何か起こるということを期待していいし,逆に期待されても仕方ないような地だから訴訟の管轄があるはずなので,そうすると金銭の支払いと同じですが,電子的に行われるサービスの提供なり電子的な物の場合には,余り地との関係がなくなっているので,そういう意味ではもっともっと限定的に書いたらいいじゃないかという方向でよろしいのでしょうか。  そもそも,この文書をつくっている人はアメリカの人ですので,余り履行地管轄には好意的じゃない人だと思いますし,それから32と33は個人名が入っていますね。ちょっと紙の性質もやや事務局としては引いているところがあるので,余りこれが事務局の立場だと考える必要は必ずしもないのかなと思いますけれども。 ● そうすると,契約の履行地については,インターネットに限らずもう少し限定をするということ。 ● インターネットを念頭に限定するということですね。 ● 履行地の管轄だけだという前提ではそういう方法もあるということで,もちろん,activity-basedの条約の管轄というのが,実は2001年草案には残っておりますから,ディレクティッド・アクティビティーに入るかどうかとかといった議論はもちろん後でするわけですが,99年草案だけを前提とすればそういう解決もあり得る,そういうことでございますね。 ● では,問3につきましてはそういうことで,次の問4でございますが,これも不法行為について問題となるものとして,インターネットを介した不法行為,それから著作権侵害でございます。  ただいま出ましたインターネットの問題につきましては,不法行為概念をどう考えるかということとの関連でございますが,継続審議とするのであれば,それによるという御意見が出ておりますけれども。 ● この問題も,結局問題意識としてはもちろんここで全面的に解決をするという話ではなくて,不法行為にはこういう問題点があると,エブリルさんという事務局の個人名が入っている文書には書いているとか,そういうことについての議論に対して,大きい条約を目指すという以上は,こういう措置をすれば何とかなるのじゃないかという程度の反論はできるようにしておきたい,そういう趣旨でございます。ですから,いろいろなアイデアがあっていいのではないかと思いますし,いただいた御意見の中では,現在の10条で全く問題ないのだと,それを10条そのまま適用することも一つの見識だという御見解もございましたし,先ほど履行地の議論で,単にビデオ会議なんかで映っているだけで履行地と言えないのじゃないかとという議論に対して,不法行為の場合には単にアクセスビリティーがあるだけで管轄原因になる,それを不法行為地と見るのか,それとも損害発生地と見るかというのは一つの別の議論だと思いますが,そこもちょっと,議論を整理できればいいなと考えているところでございまして,例えば著作権について御意見いただいた中に,著作権というのは属地性がある権利だから,その属地性がある権利を侵害する行為は常に著作権,権利の存在国でしか起こり得ない,つまり侵害行為地と権利の所在地といいますか,それが必ず一致するのだという御議論があったと思うのですけれども,例えばそれを言い出すと物権だって何だってその国の属地性のある権利が侵害された場合には,--川の上流で例えば公害的な事例があった場合に,下流の国で権利の侵害が生じたときに--,属地性のある権利を侵害したから常に行為地と権利所在地が一致すると言えるかというと,そういう議論にはならないわけですね。行為地はやはり上流の国だと。そこら辺のところの差が,つまりある意味では観念的な議論なんですけれども,著作権なんかの場合に属地性がある権利の場合には,原理的に必ず侵害行為自体もその国でないと起こり得ないと言っていいのかどうかというところが,ちょっとよく分からなかったのですけれども。 ● 行為地概念をどうとらえるかという問題になってしまうのですけれども,今の川の場合も,最初から川が流れているという状況を認識しながら物を流せば,--下流に何らかの影響が生じることを認識しながらやれば,流域全体が行為地だという考え方もあるかもしれない。それは,例えば郵便で送るとき,ポストに入れたところだけが行為地だというふうには普通の人は言わないわけで,それは刑法の適用だって同じで,毒薬を送ったときに,毒薬を飲んだ人が日本にいれば,やはり日本で殺人罪を犯したじゃないですかという話になるのだろうと思いますので,どこが行為地かというのはある意味で物理的にその人が行動したところだけが行為地というふうには……。もう少し法的な概念が入ってくるという意味だろうと思うのですね。 ● 正にここでの行為地なり損害発生地というのは,管轄を決めるのに適当な原因という観点から決めているわけでございますね。権利侵害した地というものが常に行為地と一致すると,いわば価値的に侵害行為ととらえるみたいなイメージ。そうすると,行為地と損害発生地とを分ける意味というのは非常に少なくなってくるように思うのですが,枠組みとして,ですね。  要するに,こういうコネクティングファクターがあるからここで認めるというのが管轄でございますね。ですから,それは観念的に権利の属地性があるから侵害行為だという議論と,それが管轄原因として適当かという議論とは違うようにも思ったものですから。  要するに,インターネットの問題について,いろいろな侵害行為のとらえ方にしろ,損害発生地の問題にしろ,割といただいた御意見の中でもいろいろぶれがあったものですから,私の意見がどうかということではなくて,皆さんの御意見を伺いたい,そういう趣旨でございます。 ● 行為地に幅があるから損害発生地とどうしても一致させたいという議論をするのは,それは極端な場合で,典型的な場合は例えば特許権などの場合ですと,要するに外国から特許権侵害のようなものを日本に送ってきているというときに,アメリカのように域外適用があるようなそういう実体法を持っている国は別ですけれども,普通の国ですと,行為地は発送した地だというふうに言ってしまうと,侵害自体について損害賠償を取れないということになってしまいかねないわけですね。ですから,行為地が,要するに発送地でも着いた地でも,両方とも行為地だと言っても構わないですけれども,行為地自体一つでなければいけないとは私も思いませんが,少なくとも損害発生地で何らかの効果が発生するいうことを認識しながら発送していれば,着いたところもやはり行為地ととらえられてもしようがないのじゃないですかという考え方はしてもいいのじゃないかという気がするのですけれども。  その場合,発送した地が絶対行為地じゃないのですかといえば,そんなことはないのだろうと思いますので,そっちの方をとらえて行為地だと思って被害者の方が訴訟を起こしたければ,それはそういうふうにしても構わないと思いますけれども。 ● 管轄の原因として行為地を考えているときに,今の○○委員のお話は,要するに着くまで手が伸びているという解釈でしょう。そうすると,経由国があると全部管轄を認めるのかという話になるわけですね。もし,発送して,着くまでが行為だとすると,経由しているところもみんな行為地にならないかと。だから,管轄の原因として行為地を考えるというのは,別に損害発生地もまた当然考えるわけだから,管轄の原因として考えるときって,やはり無理にそう手を伸ばさなくてもいいのじゃないかなという感じがするのですけれどもね。 ● 損害発生地については,インターネットの場合も10条の規定でいいのではないかなというふうに私は考えています。といいますのは,結局なぜ損害発生地がぐあいが悪いかというと,行為者から見て予測が可能でないからだめなんだということですから,それはインターネットの場合,損害発生地がどこかちょっと分からないから,したがって行為者が予測可能ではないというのは,10条のbのただし書のところでその条件がかぶっていますから,そこで防げるわけですから,必ずしも別に考えなくて,これについてはそのままでいいというのがいいのじゃないかというふうに思います。 ● 10条の3項は必要ないですか。インターネットでは予測がついてしまうので,世界じゅう。それは保護にならないとすれば,そのつもりはなかったといいますか,そのことを思うだけではだめで,そうならないように努力はしているということがあれば,仮にはみ出して損害が起きても,それは損害発生地とはしない。  この条文ですと,「被告がその国で活動すること,又はその国に向けて活動することを避ける合理的な手段をとっていた場合には適用しない」と。これがどういう手段なのか,今そんな手段があるのかどうかも分かりませんが。 ● だから,それがうまく機能すればと思いますね。 ● そうすると,これも付け加えた上で。 ● はい,付け加えた上で。 ● これまで議論をされていた御意見としますと,結局インターネットを普及させたいとか,実務でインターネットを用いている方々の御意見というのは,結局今の10条の条文だと予見可能性のフィルターとかいうのが有効に働かなくて,結局は損害発生地というものの管轄が世界じゅうに広がってしまうということを問題視していると。  一方,今回いただいた御意見で,10条を適用して問題ないという御意見,それも見識だという御意見というのは,インターネットを用いて,言ってみれば便宜を受けているのであるから,その場合に不法行為があるかということが問題となっているような場合において,損害発生地,つまり被害者保護的な観点とか,あるいは損害自体が審理の大きな対象になったりするような場合の管轄の合理性とかいうことを考えると,管轄が世界じゅうに広がってもそれはやむを得ないのだというような観点で御意見をいただいたと思っております。  そこで,これまでのヘーグでの議論を考えますと,インターネットの場合に不法行為,今の10条の条文で世界じゅうに管轄が広がり得るということについては問題があるという点については,割とどこの国も認識しているというような状況ではあったわけですけれども,一方それでも構わないのだという意見は,余りまだ聞こえていなかったところだと思いますので,今回いただいた回答でも,広がってもいいという意見と,やはり問題があるのだという,かなり離れた御議論がありましたので,両方の点から,そういう前提でどうなるかという点について,もうちょっと議論がいただければなと思っております。 ● 私は,問題なかろうという意見を出したのですけれども,それは被害者が特定されているからですね。ですから,例えばあるホームページに私の名誉を毀損する記事が出たら,それはAからXまで26か国でダウンロード可能だと。だとしたら,私がAからXまで全部行って,訴訟を起こすわけはないわけです。それはやはりどこかの国で起こすわけですから,被害者が特定されているから,それは余り問題にならないのじゃないか,そういうふうに思います。  ですから,もし被害者が特定されていないという場合であれば,例えばジューイッシュ全体を誹謗するようにホームページを開くとか,そういうことになるかと思うのですけれども,そういう場合はどこでも起こせると。それはしようがない結論じゃないか,そういうふうに思いますけれども。  原告の方も大変なわけですよね,世界各国どこでもダウンロードできるから,どこでも訴訟起こすかとか,そんな100か国で訴訟起こすわけないわけですから,そういう意味で現実的には問題にならないのじゃないか,そういうふうに思います。 ● そうすると,26か国で映画に出ている映画スターだった場合には,いろいろな国での映画のお客さんが減りますね,それは。 ● 原告の方も,26か国で弁護士雇って訴訟起こさないといけないわけですから,原告の方も大変なわけですね。 ● ですから,その中で一番とれそうなところ幾つかを選んで。 ● それはいいのじゃないですか。 ● それは構わない。 ● はい。 ● ということは,見えている国ならどこでも,原告は選べるということ。 ● そうですね,原告の方も大変ですから。被告の方も大変でしょうけれども。 ● そういう意味で,すべてで起こすわけではないだろうから,被告になる側にとってもそう大変ではないということですか。 ● ○○委員の御意見は,結局,結論的には要するに複数の国で訴訟を起こすということはないわけで,被害者側がフォーラム・ノン・コンビニエンスでも訴訟提起できますよと,それぐらいのことは何らか人に被害を与えているのだから我慢しなさいということなんだろうと思いますけれども,私はそれはそれでも構わないというふうに思いますけれども。  逆に,何らかの悪意を持って侵害する場合の人間は,自分が都合がいい場所で入力をするとか,そういうことも可能なわけですので,被害を受けた人間がどこの訴訟提起地を選べるからといって,そんなに一般的な形で非難されるような話ではないだろうと思います。 ● 今のアプローチ自体,私も全然違和感はないのですが,それに対する事務局の方等で言われている意見が,一つには,ある国で保護された言論が,被害を受けた国では違法行為だと,ヤフー事件なんかを例として。そして,したがってそれで管轄が認められますと,これはホワイト管轄ですから,ほかの適法なところでも承認執行されるわけですね。つまり差止めとかですね。そうしますと,インターネットの場合にブロッキング・テクノロジーが未熟なので,結局全部のコンテンツを削ってしまわないと,いわば判決の履行ができないとか,そういういわば厳しいところの被害発生国の法制に合わせて,インターネットにおける活動の自由が制約されてしまうじゃないか,そういう反論があるのですね。それについてはどういうふうに考えればよろしいですかね。それは,技術が発達すればいい問題だというか,それとも今でもある問題だと。つまり,要するに保護されている言論だと思っている国は承認執行拒絶すればいいので,今でも同じだと。 ● 必ず承認執行しなければいけないということになってしまうと困るのですけれども,そうでなければ,今も同じ問題が確かに御指摘のようにあるわけで,世界じゅうに配信している新聞とか雑誌も同じことで,そういう国で読まれちゃったよと言われるとどうするのですかということになると思います。 ● 言論ですと公序良俗で相当なところができると思うのですが,いろいろなところで議論が出ていたのは,商標とか,そういうものをインターネットで掲示したい,しかしすべての国で権利者であるとは限らないというときに,普通のビジネスをしているのにどこかの国で侵害だと言われては危ないと。そうすると,じゃインターネットは使えないことになるのか,それは困るじゃないかという議論です。 ● その点は,一つは例えば商標法の関係などでは,要するに相手国で何らかの商業的な行為を行っていない場合は,これは見られても,それは商標権の行使じゃないとか,そういう実体法的な形での限定解釈をするような方向になってきていますので,それは余り問題ないのじゃないかと思います。 ● 付け加えて,音楽を配信していますなんていうビジネスを組み合わせますと,だれに行っているか分からない,インターネットでは世界じゅうから見られると。そういうビジネス,要するに反対する側ですから,ビジネスに悪影響を与えられるのは困るという議論です。 ● 商標とか,いわゆる未登録のトレードマークと著作権の問題はちょっと違うわけで,例えばトレードマークの場合には同じトレードマークがA国でAさんが持っているけどB国ではBさんが持っているということも十分ある,現にありますから,そういう意味で普遍的な権利ではないわけですね。  著作権の場合には,国別の立法で保護されなければいけませんけれども,今は条約が非常にカバーしていますので,そういう意味ではある程度普遍的な権利の形になって…… ● 私が申し上げたのは,ビジネスをしているという例で,配信会社であるマークをつけていて,そのホームページからダウンロードできますと。 ● マークの関係では,商標侵害にはならないということはあり得るだろうと思います。商標の使用じゃないというふうな実体法での絞りが一つ可能なのと,もう一つは今の仕向国を限定するという形で,要するにお金を取って配信させているわけですから,ある一定の国からは申し込みがあっても受けませんとか,そういう形で表示をしていれば,今の限定があり得るだろうと思いますけれども,著作権の場合にただでダウンロードさせて,どこからでもただでダウンロードさせますよというようなときにどうかというと,名誉毀損と同じような問題が出てこざるを得ないのかなという感じはするのですけれども。  ですから,商標はちょっと特殊なので,商標を持ち出すというのは余りいい議論にならないと思います。 ● 実体法の問題としては,そういう各国別の権利で,しかもインターネットで全世界相手にということがごく簡単にできるので,その調整をどうするかというのは,本当は相当大きな問題だと思うのですけれどもね。だから,それが実体法で適切に解決できないときに,管轄の方に持ち込まれているのじゃないかという印象を持ちますけれども。 ● それは,商標法の分野で調整すべき問題だろうと思いますよ。実体法の方で。 ● 資料32のパラグラフ8で,イタリアの「プレイメン」という雑誌を「プレイボーイ」雑誌が商標権侵害で訴えて,米国法上の禁止命令を得たと。米国からだけのアクセスを禁止するのは困難だから,イタリアではこれは適法らしいのですけれども,結局完全除去せざるを得ないというふうなことが例として挙がっているようですね。商標だと思うのですけれども。 ● それは,たしかそういう形での請求はできないようにしようという形で,今,実体法の関係では議論がされているはずですので,そちらの議論の進化に任せた方が……。むしろこちらに取り込むことはない議論だと思いますけれども。  例えば,日本法で商標権侵害なり不正競争防止法上の著名商標侵害をインターネットでしたときに,どれだけの不作為命令なり除去命令が出せますかというような議論をしているときに,そういう例が紹介されましたけれども,しかしそれはやはり実体法の問題に帰するのではないかなと思います。 ● 除去命令でなくて,損害賠償なんかでも同じことでございますか。 ● 損害賠償の場合は,結局その国に対して何らかの商業的行為をして,それとの結びつきで表示をしていれば別ですけれども,そうでなければ,要するに今の話ですと,アメリカで「プレイメン」とつけたものをイタリアの会社が売っていれば別ですけれども,そうでなければ損害が発生していないということになる。 ● そうしますと,実体法で解決できる分野もあるのかもしれませんが,そうでない分野もあるわけですね。要するに,country of destinationに管轄を認めて,そして準拠法の違いを通じて1国の政策が他国でも承認執行を通じて入ってくると,それが余りひどいときには承認執行の拒絶で抑えればいいじゃないか,今でも同じだと,そういう考え方でよろしいですか。  インターネットの属性として,1国だけからのアクセスを禁止するというのはなかなか難しいから,全体としていわば縮小均衡みたいになってしまうという問題に対しては,技術が進歩すれは解決できる問題だと,そういうことは言えるのでしょうか。ちょっとよく分からないのですが。 ● そうは言いませんけれども,今の商標のような形で非常に問題になるものについては,要するにそういう侵害行為に対して裁判所がどういう形での差止命令ができるかという形で,実体法上の差止請求権を限定的に統一しましょうというような形の議論は,WIPOとか--じゃないかもしれませんが,そういう国際的な形での議論がされているというふうに経産省などからは聞いておりますので,そうじゃないものであれば名誉毀損とか,そういう商業的な活動というよりも普遍的な利益の侵害ということになりますけれども,その場合はやはり極端な国で何らか宗教上の教えに反するようなことを言ったからだめだとか,そういうことはやはり今も同じ問題がありますけれども,承認執行しないということで対応するしかないのじゃないかと思いますよ。 ● よろしゅうございますか。  それでは,まだ御意見がおありになるかもしれませんが,ここで休憩を入れさせていただきまして,20分から再開させていただきますのでよろしくお願いいたします。           (休     憩) ● 時間になりましたので再開させていただきたいと存じます。  問4まで終わりまして,関連しているといえば関連しているわけですが,問5について御審議をお願いしたいと存じます。  10条を適用すると問題がある事例を除外する方法として,同条の適用対象を製造物責任によって物理的損害が発生する場合に限るというアイデアがあるが,どのように考えるかと。  これは,先ほど来出てきている問題でもあるわけですが,そうでない場合に,他のアイデアはあるかということでございます。  これについて,このような意見が出されているわけでありますが,どのようにお考えいただいたらよろしいでしょうか。これも,意見の方はインターネットを問題しているわけですけれども。 ● ペーパーにも書かせていただきましたけれども,例えば配信された音楽なりプログラムなりにウイルスがついていて,その結果サーバーとかあるいは端末がクラッシュしましたという場合には,やはりそれは製造物責任の問題にもなりますし,そういう使えなくなったという意味では物理的損害と言わざるを得ないのじゃないかという気がするので,それはインターネットの場合を除きましょうという御趣旨なんでしょうけれども,結局除けない場合が出てくるのじゃないかなという気がするのですけれども。 ● その点について,どのように対処するかということですが。 ● ですから,インターネットの点は除外するというふうにしても,製造物責任の場合だけという形を入れるからインターネットの点はうまく規制できるということにはならない,いずれにしてもそのインターネットがあっての製造物責任というのは,デジタルコンテンツの場合も出るのじゃないかと。 ● そういう考え方はいかがでしょうか。 ● ウイルスを世界じゅうにばらまくと,不法行為になるのでしょうね。 ● 意識的にやれば不法行為ですよ。ただ,自分のものについていると思わなかったという場合もありますので,それは故意・過失がなければ製造物責任みたいな話で責任とるしかないのじゃないでしょうか。 ● 製造物責任というよりは,製造しているわけではなくて,アドレスに入っている人皆さんに送ってしまったりするわけですね。 ● それは,結論的には自分の配ったコンテンツの中にウイルスが組み込まれていたわけですね。どこかの段階で。それをダウンロードしなければクラッシュしなかったし,自分のデータも消えなかったわけですから。 ● この問5というのは,この10条をそのまま適用した場合には問題があるという前提に立った場合の問でございまして,今の10条で問題がないという立場の方からすると,要するに問自体がおかしいということになるのだと思います。  要するに,10条の問題点というのは,繰り返しになりますが,例えば,インターネットに接続しているサーバーは,現段階の技術を前提とすると世界じゅうからアクセス可能だと,だからどこで訴えられてもしようがないと,そういう世界があるとして,他方ある種のブロッキング・テクノロジーなりこの10条の条文でいいますと3項のように,ある特定の国に対してアクセスができないように措置をとっていた人,その人であっても,たまたまアクセスされた場合には管轄がその国に認められてしまうのだろうとか,その点はいかがでしょうか。要するに,予見可能性との絡みの問題だと思いますが。それをどう限定すべきなのか,あるいはすることがいいのかどうかという問題なんですが。 ● 仕向国の限定は,物理的にはまだできていないというふうにお聞きしていますので,結局その場合は支払通貨を限定するとか,クレジットカードを一定のものに限定するとかいう形で,どこそこの地域のお客様には買っていただけません,御購入いただけませんよという表示をするというのは,仕向けの限定が具体的に今やられている形だろうと思いますので,それにもかかわらず買ったものにウイルスがくっついていたというのであれば,それはそういうふうに限定した販売なのに,それに反して買った人は,自分が買ったところがどうこうという問題,履行地だというふうには言えませんよというのは合理的だろうと思います。  確かに製造物責任という関係では,何らかの購入ということになるのでしょうから,そういう仕向地限定が有効に働くだろうとは思います。そういう,名誉毀損の場合とはちょっと違う形になるだろうと思いますけれども。 ● 今の議論は,例えば今の10条でいきますとリーズナブルステップだとか,そういうものを置いておけば,いわばそれを手掛かりにして,そういう場合は救えるからそれでいいじゃないかと。リーズナブルステップの内容自体は,事務局のペーパーだとそれ自体の解釈が分かれるからという議論もありますが,それもないよりましと,そういうことでございますかね。 ● 4月の第1委員会では,こういう問題も審議されるのでしょうか。 ● 直接の審議は,要するに大きい条約を目指すか,それをあきらめるかという問題でしょうが,大きい方を目指すというときに,ただ大きい方がいいと言ったのでは多分説得力がないので,つまりインターネットについてはこういう問題があるけれども,こういうふうに考えていると言わないとだめなんじゃないかという観点から,いろいろ御意見を伺っているということでございます。 ● ほかに何か御意見ございますでしょうか。  もしございませんようでしたら,問6の方に移りたいと思います。  問6は,従来から問題になっている点でありまして,第18条のパラ2eについてあくまで原案を維持すべきかどうかということでありますが,従来から現状を維持するという方向で検討するということであったわけですが,それでよろしゅうございましょうか。 ● 1点だけ確認でございますが,当然のことながら,フォールバックポジションとしてのスモール・コンベンションを策定することになった場合には,18条2項eという規定はなくなるわけでございますが,それでも明確なルールが全くないよりかはいいと,そういうことでよろしゅうございますね。  つまり,大きな条約がいいというわけですが,スモール条約になるという可能性もあるという場合に,ブラック・リストは当然スモール条約にはないということになりますが,それでも条約はないよりかはあった方がいいということでよろしゅうございますね。 ● 今おっしゃったのは,アルゼンチン等の共同提案という,そういう趣旨ですか。 ● B to B管轄合意のスモール・コンベンションになった場合には,当然のことながら18条パラ2eというのは多分なくなる。 ● そうですね,それはもうやむを得ないのじゃないでしょうか。 ● では,そういうことで問6は対処するということで,次に問7でございますが,知的財産権全般を適用対象から外すという考え方について,どのように考えるかということで,これも一つの大きなイシューになっているわけですが。 ● これもペーパーで書かせていただいたのですけれども,最初の予想と違って登録された特許権等については,登録国の専属管轄という議論が最初は望んでいなかったというか,あきらめていたものが,意外に割に大きな議論になってきているので,非常にそれは訴訟を受ける裁判所としてもやりやすいのですけれども,当事者的な意味での利用者の方々にとっても非常にやりやすい制度なんです。しかし,理論的に不法行為の中の特許権等だけどうして違うのですかというと,なかなか条約で決まっていれば別ですけれども,解釈からはなかなか出てこない管轄なので,ここでせっかくそういういい形での議論が出てきていますので,この機会に是非とも,少なくとも登録されている特許権とか商標権とか,そういうものについては専属管轄という,侵害訴訟も含めて専属管轄という形の条約ができればいいなということで,最初からおろしてしまうことはないだろうと思います。  ここで仮にこの機会を見逃してしまいますと,各国でそれぞれの裁判所で管轄についての判例が恐らく出てくるだろうと思いますけれども,その場合には,やはり一般不法行為と同じように,専属管轄という形の判決は恐らく出ないだろうと,解釈からすると。恐らく日本でも,一般不法行為と同じような形で管轄を認めるべきだという,同じような解釈になるだろうと思います。そうすると,この機会を逃しちゃうと,そういう形で各国で一般不法行為と同じですよという判決が,各国の最高裁とか,要するに最上級審の判決でぽこぽこ出てきますと,幾ら実務的には管轄を登録国に限定した方がいいですよと言っても,もうそういう流れには引き戻せないだろうと思いますので,そういう意味で千載一遇のチャンスという意味では,ここで少しあきらめないで頑張っていただきたいというふうに思うわけですけれども,それを言い出すと条約自体がつぶれてしまうからと言われますと,それはもうしようがないですが,その場合もここはできれば条約の性質上から外すものはちゃんと外縁が分かるようにしていただきたいということで,著作権も外すといわれればしようがないのですけれども,どうしても譲ってほしくないのは,登録されていないトレードマークとか,ノウハウとか,そういうものまで除くといいますと,そういうものは現に我が国でも訴訟になっているときには,例えば不正競争防止法と一般不法行為とどちらでもいいから請求を認容してくださいよという訴状が出てくることが非常に多いということから分かりますように,一般の不法行為と線引きができない,要するに非常に情緒的な部分が多い分野ですので,同じ社会的な事実について,それをノウハウだとかいうふうな言い方をすると,国際管轄の条約から外れてしまうけれども,不法行為という言い方をすると条約に入ってしまうとか,非常に適用関係があいまいになってしまいますので,ですからノウハウや登録されていないトレードマークについては,範囲を決めて除外するというのであればその範囲には入れないでいただきたい。除外するという部分を決めるのであれば,外縁がはっきりしている登録されている工業所有権と,譲ったとしても著作権までであれば,ある程度外縁がはっきりしますので,その限度にとどめてほしいと思います。 ● ちょっと確認なんですが,特許を始めとする登録される知的財産権の侵害事件について専属管轄でいくのがよろしいという御意見ですね。そうすると,日本の今までの裁判例とは違うということでいいのですね。 ● 違います。 ● 限度はしかしそこまでであって,ライセンス料の支払いを求めるとか,そのときに抗弁として特許が無効だとか……。 ● そういうものについては,前にも申し上げましたように,それはそういう専属管轄にする必要はありませんので。 ● そうしますと,ライセンスに入っているか入っていないかが争いになっているような権利について,第一次的にはライセンス料の請求,第二次的には侵害阻止請求というか,侵害訴訟ということもあり得るわけですが,侵害の方は……。 ● 普通の場合は,ライセンス料がよほど高額なものでなければ,アメリカでもそうですし日本でもそうですが,普通はそういう場合には必ず侵害訴訟をメインにします。というのは,なぜかというと,日本法の場合でも,侵害の損害賠償とライセンス料というのはイコール,解釈によってはイコールよりも損害賠償の方が多いという形になるでしょうし,アメリカなどであれば3倍賠償ですから,必ず多くなりますから,多い方を主にするのは当たり前ですから,必ず侵害訴訟で来ますので,それに対して被告の側で抗弁としてライセンスがあるじゃないかという形での抗弁になります。ですから,ライセンスがいきなり来るというものは,本当にライセンスがあってその支払いが滞っていたから金を払えという場合ぐらいですので,余り心配しないでも……。 ● 私が御質問申し上げているのは,侵害訴訟は専属で,ライセンスの方は専属ではない。その中には合意管轄条項があったりすることがあると。それは別のフォーラムに行かざるを得なくなると。 ● それは構わないと思いますけれども。 ● そうですか。 ● 結局,ライセンスが切れたか切れていないか分からないものは,実務的には必ず侵害訴訟で来ます。それは専属管轄になりますけれども,それはもうしようがないことだと思いますし,むしろその方が原告にとっても被告にとっても結局は早く解決できるということが多いので,そう心配することはないだろうと思いますけれども。  あと,登録の効力とか,そういうものについては専属管轄になるというのは,当然一番議論の初めからそういう形のペーパーでございましたし,それは解釈上もその点は争いがないだろうと思います。侵害訴訟の点についてだけ,条約で決めれば専属になりますけれども,解釈に任せておけば専属にならないということになると思います。 ● 問7につきましては,ただいまのような御意見ございましたけれども,このように考えさせていただいてよろしゅうございますでしょうか。 ● 知的財産権研究所と違うところの研究機関がございますが,そこでの産業界の方々の御意見は,今おっしゃったところを更に超えて,あらゆる知的財産権について,前提問題であろうとなかろうと専属がよいという御意見が相当有力なんですが。 ● それは,希望としてはそういう意見があることは分かりますけれども,ただ線引きはできないだろうと思います。要するに,争点の中に何か入ってくれば,要するに知的財産権の問題が入ってくれば,みんな専属にしてくれということですけれども,それは難しいのじゃないかと思いますけれども。 ● 難しさは,しかし程度の差でしかないのではないかと言われると……。  要するに,侵害事件は前提問題として出てくるにすぎないので,だから侵害事件を通常訴訟と同じで,有効性自体のものだけが専属ですという立場をとれば,結構はっきり分けられますが,侵害まで専属に取り込みますと,既に一歩踏み出しているわけですね。 ● ただ,侵害の場合は,結局侵害訴訟の中では権利の有効性が国によってはちゃんと成文法上解釈できるというふうになっている国もありますし,我が国でも一定の限度ではできるというふうに判例法上なっているわけですから,どうしても侵害訴訟のレベルでは有効性が入ってきてしまうわけですよ。ですから,そこを理由にして一緒に取り込みたいというのがニーズでして,ライセンス料が云々というときに,特許の有効性云々というのは--出てこないわけではないですよ,それは。無効な特許なのにライセンスを与えたのがどうこうと,それは言ってみれば契約の目的物がないのに契約しちゃったじゃないかとか,錯誤の問題とかと同じ問題のレベルの議論なので,それはちょっと線引きしてもいいと私は思いますけれども。  ですから,侵害訴訟の中でその基礎になった権利の有効性を争いますよというのは,判例法にしろ成文法にしろ,何らかのそういう手当てがあってやっていることですので,それは今の錯誤だとか目的物不存在とかいう,そういう一般的な民法の原則でやっているわけではないわけですね。 ● 同じお答えがいただけるのじゃないかと思いますけれども,たまたま日本であった事件は著作権の事件ですが,ある企業が他の企業の行為について,知的財産権の侵害をしているという誹謗,中傷をし,その対象になった企業からすれば,そういう警告状を送ったことが不法行為だというときに,前提問題として知的財産権侵害があったか否かが争われることがございますね。 ● ありますが,それは普通の不法行為ですので,それは普通の不法行為地とか被告の管轄地で構わないと思います。判例になった事件は,一審と二審が判決していますけれども,あれはその中に差止請求も一緒に入っていまして,実際上は差止請求の方がメインの訴訟なんですね。途中で変わってしまったかもしれませんけれども,訴えの変更で。ですから,そういう形でくっついているときに,そういう客観的併合のときにどれだけできますかというのは,ほかのところの条文で議論したということと同じ形ですから,それでとってくれるかという問題はありますけれども,純粋に名誉毀損の中に,あいつは著作権侵害している,あいつは特許権侵害しているという形での前提問題の場合は,その場合には専属管轄になる必要はないだろうと思います。  場合によっては,そこの要するに特許の侵害とか著作権侵害の点以前の問題として,別のところで勝負が決まってしまう場合もありますので,そういう場合まで全部専属管轄だというのは,余り実務上のメリットはないだろうと思います。 ● 結論はよく分かるのですが,前にも伺ったかもしれませんが,なぜ侵害訴訟が専属管轄でなければならないかという理論的な理由が,多分準拠法が外国であっても日本でやったとしても同じになるわけでございますね,そうすると,結局突き詰めると外国裁判所を信用しないということになるのですかね。 ● それと,もう一つは,今言った抗弁の中で特許の有効性が抗弁で出せるということがありますので,そこで無効だというふうに言われてしまいますと,今,契約の前提問題なんかとは相当違うレベルでの波及効果が出てしまいますので,そういう点で本来的に言えば権利の有効性については専属管轄だというのを前提にした場合は,すみ分けが非常に難しくなるので,そういう権利解釈とか法律条文解釈という便宜的な面プラス理論的には効力というのは,やはり付与した国の政策にかかわる問題ですので,それはやはり付与した国の裁判所が判断するのが適当でしょうということでの説明になるのだろうと思います。 ● 判決の主文の効力という面から見たときに,やはりしょせんは侵害訴訟の理由中の判断なわけでございますね。他方,それ自体の有効性が問題になるときには,正にそこが,権利の有効性に関する既判力が及ぶものだというところで,かなり違ってくるように思うのですが。 ● 我が国の場合ですと,例えば権利が無効だということで棄却された場合には,恐らく同じ製品についての再訴は,一部については既判力で,要するに差止めについては,ですね。損害賠償については,恐らく訴訟上の信義則という問題でできなくなるだろうと。それは,その当事者間での問題としてはそういうことになるかと思います。  アメリカの場合は,私が説明を受けているところでは,その当事者間ではもちろんなんですけれども,要するに一つの訴訟で有効性について無効だという抗弁を覆さないで負けたら,もうほかの被告もそれを援用して,あの訴訟では無効ということで棄却されるではないかというと,それと反する主張はもうできなくなるというふうに聞いていまして,実際上は対世効とほとんど同じ効力になってしまうというふうに,聞いておりますので,そういう意味ではアメリカの方が深刻な状況になると思います。  あと,日本の場合も,法律上の効力は当事者間に限るのですけれども,いったん無効だと,侵害訴訟やっても無効だと言われてしまうと,もうその業界ではちょっと使い物になりませんねというのが実際の企業の方の感想で,非常にリスキーなことに,これから訴訟を起こすのにリスキーなことになったというふうな感想を聞いております。 ● そうしますと,先ほど○○幹事が御質問されたうちで,専属管轄にする必要はないといわれたものに関しては,今のような問題は起きないのでしょうか。 ● そうですね,余り起きないと思いますが。事案が少ないという点もありますし,その中で判断されたといっても……。 ● 何を理由にして区別するかということなんですけれどもね。専属管轄にする必要があるかないかですね。今のお話ですと,場合によっては同じようなことも起きる場合もないことはないかなという気がするのですけれども。それは事実上ないだろうと。 ● そうですね,事実上の問題と,あとはやはり訴訟構造上,必ず有効・無効が入ってくるという構造になっていませんので,契約の解釈の中でそれが判断されたとしても,影響力は少ないだろうと思います。  何でですかと言われると,同じ裁判所の判断なのにどうしてですかと言われるとちょっと困るのですけれども,一般的な特許関係の人のとらえ方としてはそういう形での理解だと思いますけれども。 ● ここは,何か理屈で一貫はできない部分だろうなと思っておりまして,理屈を言えば,その国の権利をつくった国が一番よく判断できるという立場をとるのであれば,前提問題であれどんな場合だって専属管轄だという中国のような立場になるのですが,そうじゃなくて,やはり一種の妥協の産物みたいなところがあるのかなと思っております。侵害訴訟は,実質的には有効性のある訴訟だと,類型的に,ですね。そういう説明をするしかないのかなというふうに思っております。 ● 理論的にどうしても出てくるのであれば,やはり対世的に無効にするのはできませんよという,そこで線を引かざるを得ないと思います。 ● なかなか悩ましい問題が続いておりましたけれども,予定しました問につきましては,大体御議論をいただいたのではないかと思います。  以上,いただきました御意見をまとめますと,我が国として締結といいますか,合意を目指すべき条約の範囲といたしまして,まず第1点はブラック・リストを維持すると。それから,合意管轄のほか,普通裁判籍,契約保護行為に基づく特別裁判籍,それから知的財産権の侵害訴訟を含む専属管轄というものを含む,そういう条約にするのが妥当ではないか,こういうことになろうかと思いますが,それでよろしゅうございますでしょうか。--では,大きな方針としてはそのようにお願いしたいと思います。  以上で条約につきましての御審議はいただいたわけですが,次に議事録の取扱いに関しまして御了承いただきたい点があるということで,事務局の方より説明をお願いしたいと存じます。 ● それでは,私の方から若干事務的でございますけれども,議事録の取扱いということで御説明差し上げます。           (議事録の取扱いに関する説明略) ● ありがとうございました。  それでは,これで本日の部会を終わらせていただきます。長時間ありがとうございました。 -了-