法制審議会 少年法・刑事法 (少年年齢・犯罪者処遇関係)部会 第2分科会第2回会議 議事録 第1 日 時  平成29年10月24日(火)   自 午前 9時54分                          至 午前11時28分 第2 場 所  東京保護観察所共用会議室 第3 議 題  1 罰金の保護観察付き執行猶予の活用について         2 若年者に対する新たな処分について         3 その他 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○羽柴幹事 ただいまから法制審議会少年法・刑事法(少年年齢・犯罪者処遇関係)部会第2分科会の第2回会議を開催いたします。 ○酒巻分科会長 本日は御多忙中のところ,お集まりいただきまして,どうもありがとうございます。   本日も当分科会における審議の中で,家庭裁判所の実務の実情等について御質問があったとき等に適切に対応していただくため,村田委員に御出席をお願いしております。   それでは,事務当局から,本日の配布資料について御説明をお願いいたします。 ○羽柴幹事 本日資料として,配布資料4「統計資料1(罰金の執行猶予関係)」,配布資料5「罰金の保護観察付き執行猶予の活用(検討項目案)」,配布資料6「若年者に対する新たな処分(検討項目案)」を配布しております。   なお,これまでの部会の会議及び前回の当分科会の会議における配布資料は,ファイルに綴じて机上に置いております。   配布資料4ないし6につきましては,後ほど御説明いたします。 ○酒巻分科会長 次に,前回宣告猶予制度について議論いたしました際に,宣告猶予を行うに当たり被告人の同意を必要とする諸外国の制度の有無についての御質問がありました。この点について,事務当局から更に補足の御説明があるということですので,お願いいたします。 ○羽柴幹事 前回の会議において,宣告猶予制度についての議論の中で,宣告猶予を行うに当たり被告人の同意を必要とする諸外国の制度の有無についての御質問がありました。   前回の会議では,事務当局から,「例えば,イギリスに被告人の同意を要する制度がある」旨お答えしたところですが,事務当局が把握する限り,宣告猶予制度あるいはこれに類似する制度のうち,被告人の同意を要するものとしては,イギリス,アメリカのニューヨーク州及びカリフォルニア州に確認できますので,補足的に,御説明いたします。   まず,イギリスにおける刑の宣告延期制度では,被告人の同意が要件とされております。 すなわち,裁判所は三つの要件として,①刑の宣告を延期することについて被告人が同意していること,②猶予期間中の行状に関するもので,裁判所がこれを課すのが相当と考える条件の遵守について,被告人が誓約していること,③裁判所において,犯罪の性質,被告人の性格や状況に照らし,刑の宣告を延期することが正義に適うと考えられることのいずれもが充足される場合でない限り,刑の宣告を延期することはできないこととされています。   続いて,ニューヨーク州における訴追却下を考慮するための延期においては,検察官及び被告人の両当事者の同意が必要とされています。   すなわち,裁判所は,一方当事者の申立てにより,又は職権により,訴訟を延期し,その間,被告人を釈放して,プログラム受講等の条件を定めることができることとされておりますが,一方当事者の申立てによる場合には他方当事者の同意が必要とされておりますし,裁判所の職権による場合には検察官と被告人双方の同意が必要とされております。   最後に,カリフォルニア州における判決の宣告猶予制度では,被告人の同意が要件とされております。カリフォルニア州における判決の宣告猶予は,一定の薬物犯罪により起訴された被告人が,同種前科がないこと等の実体的要件を満たした上で,被告人が判決の宣告猶予の手続によることに同意をし,かつ,被告人が迅速な裁判や予備審問を受ける権利を放棄している場合である必要があります。これらの要件を満たした場合に,裁判所は,保護観察所に宣告猶予のための調査を求めることができ,その調査結果や処遇勧告を踏まえて適当と認め,更に所定の要件を満たす場合には,判決の宣告を猶予しなければならないこととされております。   なお,裁判所は,一定の場合には,保護観察所に調査を求めることなく,即座に判決の宣告を猶予することもできることとされています。   宣告猶予制度の外国法制に関する補足説明は以上です。 ○酒巻分科会長 ただいまの説明に御質問がある方はいらっしゃいますか。   御質問はないようですので,本日の審議に入りたいと思います。   前回は「宣告猶予制度」について1巡目の議論を終えておりますので,本日は,残りの論点のうち,まず,「罰金の保護観察付き執行猶予の活用」についての検討を行いたいと思います。   初めに,事務当局から,配布資料4「統計資料1(罰金の執行猶予関係)」の御説明をお願います。 ○羽柴幹事 配布資料4について,御説明いたします。   配布資料4「統計資料1(罰金の執行猶予関係)」は,罰金の執行猶予に関する統計をまとめたものです。   まず,1-1は,平成18年から平成27年までの公判請求に係る通常第一審事件の罰金の言渡人員数や,そのうちの執行猶予言渡人員数などをまとめたものです。   次に,1-2は,平成18年から平成27年までの略式命令請求に係る事件の罰金の言渡人員数や,そのうちの執行猶予言渡人員数などをまとめたものです。   まず,公判請求に係る事件については,司法統計年報上,平成18年から平成27年までの10年間で,罰金の執行猶予言渡人員が合計54人であり,そのうち,保護観察に付された人員数は,平成21年の窃盗罪で公判請求された1人のみとなっています。   他方,略式命令請求に係る事件については,同じく司法統計年報上,平成18年から平成27年までの10年間で,罰金の執行猶予言渡人員が合計8人ですが,そのうち保護観察に付された人員数は不明です。   配布資料4の説明は以上です。 ○酒巻分科会長 ただいまの御説明について,御質問のある方は挙手をお願いいたします。   御質問もないようですので,引き続きまして,配布資料5「罰金の保護観察付き執行猶予の活用(検討項目案)」についての御説明をお願いいたします。 ○羽柴幹事 配布資料5「罰金の保護観察付き執行猶予の活用(検討項目案)」について御説明いたします。   罰金の保護観察付き執行猶予の活用については,「若年者に対する刑事法制の在り方に関する勉強会」の取りまとめ報告書において,「罰金を科される者について,社会内処遇を行うことが再犯を防止するのに有効な場合,罰金における保護観察付き執行猶予を活用することが考えられる」と記載されています。   さらに,部会での意見交換において,「罰金の保護観察付き執行猶予の活用」について,当分科会に属されていない委員の方からも御発言がございました。詳細は議事録のとおりですが,その要旨を御紹介いたしますと,「罰金の保護観察付き執行猶予の活用は,現行法上も可能であるところ,その活用については,現在の状況を踏まえつつ,どのような課題があるのか,当該課題の解消が現実的に可能であるのかを検討すべきである」との御意見がございました。   配布した検討項目案は,これらを踏まえつつ,分科会における意見交換の御参考としていただくため,検討項目の案を事務当局において作成したものです。もとより,検討項目がこれに限られるとするものではありません。   検討項目の趣旨を簡単に御説明いたします。   「1 罰金の保護観察付き執行猶予に適すると考えられる事案の存否」は,罰金の保護観察付き執行猶予の活用について検討する前提として,罰金の保護観察付き執行猶予に適すると考えられる事案があるのかどうか,あるとしてどのような事案であるのかという点を検討項目とするものです。   「2 現在の運用において罰金の保護観察付き執行猶予が活用されていない理由」は,仮に罰金の保護観察付き執行猶予に適すると考えられる事案があるとした場合,そのような事案がありながら,現在の運用において罰金の保護観察付き執行猶予が活用されていない理由としてどのようなことが考えられるかを検討項目とするものです。   「3 罰金の保護観察付き執行猶予の活用に向けた検討課題」は,1及び2の検討項目についての検討を踏まえて,実際に罰金の保護観察付き執行猶予を活用するとすると,どのような事項が課題となるのかなどを検討項目とするものです。   「罰金の保護観察付き執行猶予の活用(検討項目案)」についての説明は以上です。 ○酒巻分科会長 ただいまの説明についての御質問,あるいは今の段階でほかにも検討項目があるのではないかといった御意見がある方は,挙手をお願いいたします。   御質問・御意見はないようですので,当面は,配布資料5の検討項目案に沿って議論を進めることにさせていただきたいと思いますが,よろしいでしょうか。             (一同異議なし)   それでは,早速議論に入ります。まず,「罰金の保護観察付き執行猶予に適すると考えられる事案の存否」から,意見交換を行います。   統計資料によりますと,罰金の保護観察付き執行猶予の件数は少なく,現状では余り活用されているとは言えない状況と思われますが,それは,罰金の保護観察付き執行猶予に適すると考えられる事案が存在しないということなのか,そうではなく,適する事案も考えられるが活用がなされていないのかといった点について,意見交換を行いたいと思います。   なお,この先の検討項目においても同様ですが,「罰金の保護観察付き執行猶予に適すると考えられる事案の存否」に関連する御意見であれば,他の検討項目に関連する御意見も含めて述べていただいても結構です。   それでは,御意見のある方は挙手をお願いします。 ○加藤幹事 資料4「統計資料1」を見ますと,保護観察に付するかどうかという以前に,罰金の執行猶予そのものが数としては少なく,活用されているとは言い難い状態であろうと思われます。罰金の執行猶予が余り使われていないというのは,実務的な感覚にも合致していると思われます。   しかし,改めて考えてみますと,罰金刑が相当である事案の中には,起訴することそのものは必要であるけれども,比較的犯情が軽いという事案が含まれていますので,例えば,保護観察に服させて,社会貢献活動等を行うのであれば,実際に罰金を賦課するまでのことはなく,むしろ再犯防止の点からは,保護観察を活用した方が有用であると言える事案があるのではないかとも考えられるところです。   もっとも,現状で執行猶予あるいは保護観察が活用されていないことにも理由はあるのでしょうから,即断することは難しいのですが,現在議論の対象となっている少年法における少年の上限年齢が18歳未満に引き下げられた場合に,現行法の下において保護観察に付されている者のうちに,処遇を受ける機会を失う者が存在し得るとの問題意識からいたしますと,例えば,比較的犯情が軽く,同種前歴がないか,1,2件である若年成人の窃盗事件の中でも,本人の資質や本人を取り巻く環境等に問題があり,生活に困窮して犯行に及んだものなど,保護観察に服させて犯罪に至る問題の解決を図ることができるのであれば,罰金の保護観察付き執行猶予に適する事案というのはあり得るのではないかとも考えられます。 ○山﨑委員 考える前提での質問になるのですけれども,一つは,検察官が現行の事件を処理する上において,起訴猶予相当と考えるか略式の罰金相当を相当と考えるかの基準といいますか,どういった要素を考慮するのかというあたりを教えていただければということと,もう一点は,その罰金相当と考える事案であっても,略式手続を請求する場合と公判請求する場合との違い,罰金額の問題はあるとして,それ以外にも何か考慮するファクターがあるのかどうかといった点について,可能な範囲で教えていただければと思います。 ○加藤幹事 まず,起訴猶予にするか罰金にするかというのは,かなり大きな御質問になりまして,これは個別事件によるとしか言いようがありません。   特に,刑事訴訟法第248条に起訴猶予とするか否かを判断するに当たっての考慮要素が掲げられていますけれども,一般的には,ここに掲げられている諸般の事情を考慮して,起訴猶予にすべきときは起訴猶予にいたしますし,犯情に照らして罰金が適切であれば罰金にするということでありまして,具体的な事案を前提に考えませんと,どのファクターが強い考慮要素であるかということを具体的に御説明するのは難しかろうと思われます。一般的に申し上げれば,犯罪の軽重を一番最初に考慮し,その上で,事後的な状況を含めた一般情状的なものを考慮していくという思考順序になろうかと思われますが,それも事案によりけりです。   それから,もう一つ,罰金にするときに,略式請求を選択するのか,公判請求を選択するのかという問題です。   私個人の経験で申し上げますと,罰金相当の事案では,基本的に略式請求で処理できるものについては,略式請求を選択しているという傾向が強かろうと思われます。もちろん,形式要件に当てはまるかどうかというところは,最初の考慮要素でありますが,そのほかに,例えば,略式請求して略式命令が発令されたとしても,直ちには罰金の納付が難しいものというものが,現実にはございます。そのような場合には,一旦公判請求にして,それで罰金刑の執行を確保するといったようなことも,現実には考慮されているのではないかと考えられます。   まとめて申しますと,罰金刑に処するべきもので,略式請求がいろいろな事情を考慮して可能であれば,略式請求を第一選択としているというのが実情であると認識しています。 ○滝澤幹事 一般的なことになってしまいますけれども,罰金の保護観察付き執行猶予に適すると考えられる事案の存否ということについて申し上げますと,少年法を改正して18歳,19歳の者を成人とするかどうかというのは,まだこれからにはなりますけれども,今でも,例えば,20歳,21歳の者などは,大学生としてこういうものの対象になり得るだろうと思います。   大学生などの場合は,直ちに罰金を科すというよりも,学業を続けながら,その中で,例えば,保護観察の中で社会貢献活動をするということの方が,改善更生に資するというケースも考えられるのかなと感じております。また,大学生でないとしても,若年の者でまだアルバイトなどをしながら,経済的には親などに頼っているような者もかなりいるというのが実際だろうと思いますが,そうした場合,罰金を払うのも,実は懐が痛んでいるのは親であるというケースも多いと思います。   そういうような場合には,本人に対して,罰金を払うことの痛みというか感銘力というものが低いことになってしまいかねないというようなケースもあるのではないかと思っておりまして,そのような事案についても,保護観察に付すことで本人によく考えてもらうということが,むしろ処遇を充実させるという意味でも,意味があるケースもあるのではないのかと思っております。   それから,窃盗事案に罰金刑が用いられることが多いかと思いますが,それ以外にも,例えば,若者で,飲酒を過ごして暴行するというようなことがあったような場合,犯情自体は比較的軽微であったとしても,飲酒による問題についてよく考えさせるということも大変大きな意義があろうかと思いますので,こういうような場合も保護観察付きの執行猶予ということはあり得るのではないのかと思っております。   今,若年者を主に念頭に置いて申し上げましたけれども,罰金の額にもよろうかと思いますが,資力が大変乏しくて,罰金を払うこと自体がかえってその後の更生に向けた生活の基盤というものを失わせるようなケースというのもないわけではないと思っております。そういうような場合には,直ちに罰金を科すよりも,保護観察付きということにして,執行猶予をしながら更生に向けて努めるように機会を与えるということも考えられるんではないのかと思っておりまして,これは,若年者に多いようにも思いますが,ほかの年齢層にも言えるという面があるのではないかと思っているところでございます。 ○池田幹事 今,お話を伺ったところによりますと,罰金刑が相当である事案の中には,保護観察付き執行猶予の活用に資する事案が相応に認められるということですけれども,問題の解決を図るという観点から,保護観察に実際に付した場合に,改善更生に向けた処遇として,一般的にはどのようなものが用意されることになるのか,質問としてお伺いできればと思うのですが,いかがでしょうか。 ○酒巻分科会長 保護観察についての御質問ですので,事務当局から御説明をお願いします。 ○今福幹事 先ほど,配布資料4のところでも御説明がありましたが,現状では罰金の保護観察付き執行猶予はほとんど活用されておらず,経験の蓄積はございませんが,保護観察の基本的な内容は対象者の種別によって異なるわけではございませんので,一般的な処遇を念頭に説明をさせていただきます。   まず,保護観察の基本は個別処遇ですが,個別処遇というのは,要するに,その対象者の性格,年齢などを十分に考慮して,その者にふさわしい方法によって,改善更生のために必要かつ相当な限度で行うというものであります。   例えば,先ほど加藤幹事から,本人の資質や本人を取り巻く環境などに問題があることで,生活に困窮して及んだような比較的軽微な窃盗事案という事例が紹介されました。こういった事例においては,もちろん対象者ごとに処遇の中身は異なりますが,例えば,本人の問題性を考慮し,就労がその者の改善更生上特に必要な事案であるならば,就労意欲を高める指導のほか,様々な就労支援のメニューを活用した保護観察を行いますし,特に必要であれば,「労働に従事すること」について特別遵守事項を定めて指導を強化していくといった処遇をいたします。   また,犯行の背景に交友関係がある場合であれば,交際を禁ずべき範囲を特定して,その者との「交際を断って一切接触しないこと」などの特別遵守事項を定め,その問題性に対応した指導を行うほか,家族に働きかけを行うこともいたします。   また,滝澤幹事からは,若年者による暴行事件であって,比較的犯情が軽微であるが,暴行に至る経緯に飲酒による問題行動があるような事案の御紹介がありました。その場合に,例えば,暴行の背景に問題飲酒があるというようなことですと,アルコール依存に陥った背景についてカウンセリングを行ったり,その生きづらさの要因の解決に向けて保護司,保護観察官が様々な助言や指導を行い,必要であれば,特別遵守事項に「酒を一切飲まないこと」を定めて,これを遵守させるなどの問題改善のための指導も行います。   暴力が繰り返されるなど,粗暴の問題性が根深い場合であれば,暴力防止プログラムの受講を特別遵守事項で義務付けるということも考えられます。   また,罪名にかかわらず,本人の自己有用感のかん養,規範意識や社会性の向上を図ることが特に問題性の解決のために必要な場合であれば,社会貢献活動を行うことを特別遵守事項として設定することもあります。   このように,保護観察に付された者に対しては,本人の抱える問題を見極めて,必要な範囲で一定の期間の継続的な関与によって,行動の変化を図って処遇に当たっています。 ○池田幹事 冒頭にも御説明があったように,今は罰金刑の執行猶予自体が少ない状況ですので,罰金刑の方を対象として保護観察に付する例というのもほぼないということなのですけれども,今御説明いただいた内容というのは,このような罰金の保護観察付き執行猶予の場合であっても用い得るものなのでしょうか。 ○今福幹事 おっしゃるとおりでございます。先ほど申し上げたとおり,保護観察は個別処遇を基本にしていますから,罰金の保護観察付き執行猶予においても,個別具体的なケースを見て,必要があれば,先ほど申し上げたような事案に応じた処遇を行うことによって対応します。   ただし,罰金の保護観察付き執行猶予をより活用していくのであれば,衝動性が高く,生活状況も急激に悪化しやすいという若年者の特性のほか,遵守事項に違反した場合に採り得る措置の違いなども踏まえまして,保護観察の活用に適する事案を選別する必要がありますし,保護観察における具体的な処遇内容の在り方についても課題になり得ると考えております。 ○山﨑委員 まず,適すると考えられる事案については,先ほど滝澤幹事からも御発言ありましたけれども,若年者に限らず資力に乏しい者,これは,罰金の額をどうするか,納付できない場合の,あるいは遵守事項違反の場合の労役場留置との関係は考えつつも,余り年齢に限定されずに考えられる対象者ではないかというふうなことを考えているのが1点でございます。   それと,あと,質問を含むのですけれども,先ほどの,これも滝澤幹事から,感銘力が低い場合というふうな御発言があったのですけれども,やはり罰金刑という財産刑ですので,感銘力との兼ね合いでどういう事案が適するかということを考えることになると思うのです。この点,現行ですと,18歳,19歳の少年を,例えば道路交通関係の事件などで家庭裁判所が保護的措置を採るような際に,大人と同じように罰金で済ませてくれれば簡単なのに,といった受け止めをしてしまい,なかなか保護者とか本人が積極的に応じないケースもあるというふうなことを聞いたこともあるのですが,家裁の現場において,そういった事案というのがどのぐらいありそうなのかということについて,もし可能であれば裁判所の方にお尋ねしたいというのが1点です。   もう一つは,刑事裁判の場において,正にこの罰金を求刑されているのだけれども,むしろ保護観察を付けて執行猶予にしたいというふうな事案というのは,やはり事案がほとんどないと考えられるのか,あるいは,そういうことであれば,何かその理由といったのがどういうところにあるのか,これも難しいとは思うのですけれども,可能な範囲で教えていただければと思います。 ○酒巻分科会長 最後の点は次の論点でもありますので,まず1点目について伺いますが,御質問が家庭裁判所の実務に関わることですので,村田委員から御説明をお願いできればと思います。 ○村田委員 今,山﨑委員から御質問のあったような保護的措置,教育的措置に対して,消極的な姿勢をとるケースがあるというのは,現場の声としてお聞きすることはございますが,なかなか数や比率といった数量でお示しするのは,そのような統計を持っておりませんので難しいと思います。   そういった場合には,むしろ少年が消極的な姿勢をとるというよりは,保護者の方が消極的な姿勢をとることが割とあるというようなこともお聞きしますが,少年法上,第25条の2で保護者に対する必要な措置をとることも可能となっておりますので,親子併せて何らかの措置をとるということはあり,その中で家庭裁判所調査官が調整活動を行い,問題性に気が付いていただけるようなお話をするというのは,しばしば行われていると考えられるところです。 ○川出委員 ここまで,罰金の保護観察付き執行猶予に適する事案があるかどうかという点について,様々な御意見があったわけですが,その前提として,罰金の執行猶予というのが,どのような刑事政策的意義を持っていて,保護観察付き執行猶予というのが,その中でどう位置付けられるかということを確認しておいた方がよいように思いますので,それについて意見を述べさせていただきます。   まず,そもそも執行猶予については,その刑事政策的意義として,自由刑の場合は,おおむね三つぐらいのことが言われています。一つ目は,自由刑を執行して施設収容することによる弊害を回避するということ,二つ目は,再犯をした場合には取消しがなされて刑務所に収容されるという威嚇を背景として,犯罪者の自発的な改善更生を促すということ,それから,三つ目として,保護観察と結合させることで,社会内において対象者の改善更生のための積極的に処遇を行うことです。   これらが,罰金の場合に妥当するのかですが,一つ目の刑の執行による弊害の回避というのは,先ほど滝澤幹事からも御指摘がありましたが,罰金の支払により生活の糧が奪われてしまい,それが原因で再犯をすることを防ぐということと,それから,支払ができない場合に労役場留置になりますので,それに伴う弊害を回避するという意味で,内容は異なりますが,妥当する面があると思います。   それから,二番目の取消しによる威嚇を背景として改善更生を促すという点は,罰金の場合も,取り消されれば罰金を払わなくてはならなくなるという意味での威嚇はあるにはありますが,自由刑に比べれば威嚇の程度がはるかに低く,どれだけ実効性があるかは疑問があります。   最後に,三つ目の保護観察と結合させることで,社会内において対象者の改善更生のための積極的な処遇を行うという点は,これまで御意見があったとおり,罰金についても同様に認められるだろうと思います。   ただ,この三番目の刑事政策的意義につきましては,自由刑の場合は,元々施設内において改善更生に向けた処遇を行うことが予定されていますので,その執行を猶予して社会内で処遇を行うというのは説明がしやすいのですが,罰金刑の場合は,元々処遇を行うことが予定されていませんので,執行を猶予した場合であっても,積極的な処遇を行えないという制度設計も考えられるだろうと思います。   しかしながら,現行刑法は,罰金の執行猶予の場合にも保護観察に付すということを認めているわけですから,元々の刑罰の内容とは切り離して,執行猶予を社会内において積極的な処遇を行うために用いるということを想定していると考えられます。そうだとしますと,先ほどから出ていますように,罰金相当事案の中にも保護観察に服させて改善更生を図ることが有用と考えられる事案があるということであれば,刑事政策的な観点からも,罰金の保護観察付きの執行猶予を活用していく方向で考えるべきだろうと思います。 ○酒巻分科会長 「罰金の保護観察付き執行猶予に適すると考えられる事案の存否」についてほかに御意見がないようであれば,次に,「現在の運用において罰金の保護観察付き執行猶予が活用されていない理由」についての意見交換を行いたいと思います。   これまでの議論において,罰金の保護観察付き執行猶予に適すると考えられる事案は一定程度存在するという御意見がございましたので,この項目では,そのように適すると考えられる事案がありながら,現在の運用において,罰金の保護観察付き執行猶予が活用されていない理由としてどのようなことが考えられるかについての意見交換を行いたいと思います。   この点について御意見のある方は,挙手をお願いします。 ○池田幹事 制度上も認められており,また活用に資する事案もあるということであるわけですので,なぜ活用されていないかというのは,実務上の運用に帰するところも大きいのかと思われます。そのため,実務の観点から,これまでこのような制度の位置付けがどのようなものであったのかということについて,御説明を頂いた上で考えるのがよろしいのではないかと思います。 ○加藤幹事 検察官が求刑をしたり,科刑意見を述べたりするという立場から申し上げますと,まず,罰金刑について,保護観察付き執行猶予を被疑者被告人の改善更生のために積極的に活用しようという意識というか,発想自体が余りなかったのではないかというのが,正直なところだと思われます。   最近は少し違う傾向もございますが,従前は,公判請求した事件,自由刑を求刑する事件でも,検察官の方から積極的に執行猶予を求める,あるいは保護観察を求めるということが十分になされてきたかというと,そこは反省しなければならない点もあるのではないかと思われます。罰金については,なおそういったことが言えるのではないかというのが,まず第1点として実感です。もとより,全検察官を代表して申し上げられるほど全体を承知しているわけではありませんが,自らの反省を込めると,そのように言えるのではないかと考えられるところです。   それから,罰金刑というのは自由刑より軽い刑ですので,これに更に執行猶予を付するということになりますと,感銘力に欠けることになりかねない一方で,自由刑とは異なって,社会から隔離させる刑ではありませんので,実際に刑を執行することのデメリットも小さいと考えられてきたということも言えるだろうと思います。   また,改善更生の点でも,執行猶予を付す意味が乏しいという考えが背景にあったのかもしれないのでありますが,この点については,今御議論がありますように,単に執行猶予とするのではなくて,保護観察付き執行猶予とするのであれば,保護観察の中での指導等によって改善更生に資するという場合もあるのだろうと,改めて考えられるところです。   さらに,先ほど略式命令についての御指摘もございましたが,現在の実務においては,罰金刑相当の自白事件でありますと,大半は略式命令請求事件として処理されています。多くの事件を迅速に処理するという中で,保護観察の有効性を十分に検討する契機というのが乏しかったのではないかということも考えられるのではないかと思われるところです。 ○酒巻分科会長 弁護人としては,罰金になりそうな事案について,執行猶予を主張するようなことはありますか。 ○山﨑委員 公判請求をされた罰金の求刑事件で,執行猶予の意見を述べるということはあり得ると思うのですけれども,保護観察を付けるということになりますと,やはり,元々財産刑であり,自由刑よりは軽いとされている事案の刑が求刑されているにもかかわらず,それを執行猶予の方向で更に軽くしようとしているのに,保護観察が付くということになると,自由の制限がまた逆方向に行って自由刑に近づくというふうな,感覚的なものかもしれないのですけれども,やはり受ける側とすると,数年単位での保護観察という自由の制約を受けることは間違いないわけですから,その人権制約の度合いといいますか,受ける負担がいきなりそこで重くなってしまうということには,かなり違和感を持つのではないかなと思っております。   その点は,実は裁判官も同じような感覚を持っていらっしゃるのかなと思って,先ほどの質問をさせていただいたというところです。 ○酒巻分科会長 実務の実情について,お話を伺いましたが,これを踏まえて,池田幹事,御意見ございますか。 ○池田幹事 大量の事件処理の必要という御指摘もあったところで,そういう構造的な問題も検討課題としてはあるのだろうと思います。そういった現実も踏まえると,ただ活用せよと言うだけでは,なかなか活用にはつながり難いのでしょうし,被告人の側にもそのような処遇を求めるインセンティブが低いことも考え合わせると,先ほど川出委員からも御指摘があったような刑事政策的に積極的な意義が認められることも確認した上での議論が必要なのではないかと思いました。 ○福島幹事 幾つか御質問がありましたので発言させていただきます。ただ,この点について,何か裁判官の間で共通の議論なり認識があるというようなところではないので,飽くまでも私の個人的な感覚ということになります。   なぜ件数が少ないのかというところですが,この点は,先ほど川出委員からも御指摘がありましたように,懲役刑や禁錮刑と比較しますと,やはり罰金刑については,そもそも執行した場合の本人が受ける苦痛が大きく違うでしょうし,また,労役場留置という話はあるのかもしれませんが,いわゆる自由刑の弊害というようなことも違うと思われます。それから,仮に執行猶予とした場合の本人に与える威嚇力という点も,やはり違う。懲役刑などと比較すると,そもそも罰金刑の持つ違いというのが,やはりあるのではないかと推測されるところです。   それから,改めて言うことではございませんが,裁判は当事者の主張,立証活動に基づいて,それを踏まえて判断するということになりますので,現在の当事者の方々の主張,立証活動,この影響もあるのかもしれません。   ただ,いずれにしましても,今申し上げたことは私の個人的な感覚ですので,抽象論というような話になります。具体的に,なぜこの件数になっているのかということについては,それは,正にそれぞれの事件を担当した各裁判官の判断事項でありまして,各裁判体は,現行法の要件にのっとって,また当事者の方々の主張,立証に基づいて適切に量刑判断をしていると,その結果がこれであるということになるということでございます。 ○酒巻分科会長 それでは次に,「罰金の保護観察付き執行猶予の活用に向けた検討課題」について,意見交換を行います。   これまでの御議論を踏まえまして,実際に罰金の保護観察付き執行猶予を活用するとすれば,どのようなことを検討しておくべきかなどについて意見交換をしたいと思います。 ○山﨑委員 活用されていない理由のところで少し,申し上げようと思っていたところがあるのですけれども,一つは,やはり略式手続と公判請求の違いというのは意識する必要があろうと思っています。どうしてもやはり略式手続ですと,保護観察付き執行猶予というのは余り考えにくいといいますか,検察官が裁判所に送致する書類というのも非常に簡略化をされていると思いますし,その資料に基づいて,書面審理で裁判官が保護観察付き執行猶予の要否を判断するというのはちょっと難しかろうと考えておりますので,略式の手続と公判請求の手続は,一応区別して議論をする必要があろうと思っております。 ○滝澤幹事 先ほどから御指摘があるとおりですけれども,罰金刑で保護観察付き執行猶予になるとして,その保護観察の中で自ら更生をする努力の背景としての威嚇力という面では,罰金刑はやはり自由刑と比べれば低い面というのがあるということは否めないと思っております。やはりどのようなものが対象に適しているかということに留意をしていく必要があるのだろうと思っております。 ○池田幹事 今御指摘があったように,適切な事案を選別して,保護観察付き執行猶予の活用を図っていくということが必要なのだろうと思いますが,そのために,どのような対応の在り方が考えられるかが検討課題だと考えております。   その際は,先ほど御説明もいただきました保護観察の実情を踏まえて,処遇の在り方も念頭に置いた上で事案の選別を図る,検察官が事件を処分する際に,例えば,保護観察官と事前に相談して,処分に適する事件かどうかということを判断する機会を持つということも,具体的な運用の在り方としては検討に値するものと考えております。 ○山﨑委員 まず,威嚇力という問題が出ましたけれども,仮に保護観察を付して執行を猶予した場合に,遵守事項に違反した場合の不良措置ということを考えますと,最終的にはやはり労役場留置というところにつながるという,その問題はやはりしっかり考えておかないといけないだろうと。仮に検察官は保護観察相当の事案であるとして,裁判所もそういう判断をしたとしても,なかなかそれがうまくいかないときに,最後労役場留置という可能性があるということで,どういう事案を適正と考えるのかというところが慎重に判断をする必要が出てくるという意味では,非常に難しい判断なのではないかなという気がしています。   それと,もう一つは,検察官がやはりそういった対象者の選定をするということ,そういう意味で,きっちりやる必要があるとは思うのですけれども,それを捜査の期間中に,果たしてどこまで可能なのか,あるいは捜査機関による取調べと,仮に保護観察官の調査を並行するような場合に,それをどうやって切り分けられるのか,切り分けられないのか,そこで得た情報は,裁判上の証拠としても使い得るようなものというふうな扱いをするのかといったような,様々な課題が出てくるだろうと思っております。特にきちんとした調査をしないと,保護観察は有効性がないということだと思いますので,それをしようと思うと,どうしても捜査自体が長期化をして,身体拘束も長くなるという可能性も大きいと思いますので,そういった問題点も十分検討する必要があると思っています。 ○川出委員 私も,山﨑委員がおっしゃったように,検察官が対象者の的確な選別をすることが,罰金の保護観察付き執行猶予を機能させるために大前提になると思います。その上で,先ほど,現在,罰金の保護観察付き執行猶予が使われていない理由の一つとして,大部分の罰金事件が略式手続で処理されており,その際に,資料等の面で裁判所が保護観察の有効性を判断するような契機がないからだという指摘がありました。恐らく,大部分の罰金相当の事件が略式手続で処理されているという現状からすれば,罰金の保護観察付き執行猶予も,略式手続において言い渡される場合が大部分ということになるのだろうと思いますが,そのためには,裁判官が保護観察の要否について判断し,特別遵守事項の設定についても意見を述べることができる程度の資料を,検察官が揃えて提出する形にする必要があるでしょうし,さらに,検察官としてそれが望ましいと考えた事件については,保護観察付きの執行猶予の求刑をしていくことが必要になってくるだろうと思います。   これは,基本的には,運用上の工夫ということになるでしょうが,何らかの立法措置が必要ということであれば,それについても検討する必要があるだろうと思います。 ○山﨑委員 私もいろいろな略式手続で実際やったときにどうなるのだろうかとか,本当に略式手続がいいのか,別の手続がいいのか,起訴猶予に伴う再犯防止措置との兼ね合いも含めて,やはり全体的に見ながらどういう制度がいいのかというのを少し考えているのですけれども,少なくとも現行の略式手続を前提にしますと,書面審理で行われているという現状が簡易裁判所であるわけですので,その中で,今言ったようなことが本当にどこまで実効的にできるのだろうか,あと被告人の防御という点でも十分と言えるのだろうかといったところは,大変気になっております。   先ほど冒頭に御説明いただきましたように,宣告猶予に関しても諸外国でも被告人の同意を求めているというところもあったかと思いますが,保護観察なり社会内での処遇というのがより有効に機能するためには,やはり本人が積極的にそれを受け止め応じていくということが必要であろうと思いますし,もし失敗した場合の不利益ということも十分考えた上で,手続に乗る必要があるだろうと思っておりますので,そういった面からすると,略式手続の中でやっていくというのがどこまで可能なのかなというのは,ちょっと疑問に思っております。 ○加藤幹事 何人かの方から御指摘があったように,保護観察付き執行猶予に付する者の,どういうものが適するのかという,その選別の問題は非常に重要な問題だろうと思われます。それは,検察の立場からしても保護の立場からしても重要な問題であり,遵守事項に違反した場合の措置が罰金刑のみでも,保護観察が有効に機能し得る事案あるいは対象者であるかということについては,本人の改善更生の意欲などの事情に着目して的確に判断する必要がありましょうし,また,その判断の経過と検察官としての判断を適切に裁判所にお示しするということも重要なことだろうと考えられます。   一つ,山﨑委員の御指摘に質問をさせていただきたいのですが,最終的に罰金刑であっても,労役場留置になるという点は重い問題として考えなければいけないという御指摘があったのですが,その点は,執行猶予に付すかどうか,あるいは保護観察にするかどうかとか関わりなく,罰金が納付できなければ労役場に留置されることになります。そういたしますと,保護観察と労役場留置との関係というのは,どの辺に問題意識をお持ちなのかという点を教えていただけると有り難いのですが。 ○山﨑委員 私の考えがまだ足りないのかもしれないのですけれども,保護観察を付して遵守事項が設定された場合に,その遵守事項が遵守されないことによって執行猶予の取消しがあり得るということで,罰金が実刑を科される可能性がより高まるというのは変ですけれども,そういった事案というのがやはり出てきてしまうのではないかと,そういった問題意識がございます。   単純にその期間を,執行猶予期間を経過すれば,再犯とかがなくというよりも,被告人にとってはよりリスクが高まる可能性があるのではないかというあたりの認識です。 ○酒巻分科会長 ほかに御意見のある方いらっしゃいますか。 ○山﨑委員 先ほど,家庭裁判所での18歳,19歳の実情についてお伺いしたこととの関係なのですけれども,私たちが接している18歳,19歳の子たちを考えると,果たしてうまくいくのかなというのが,率直な気持ちとしてあります。先ほど裁判所の御説明にもありましたように,仮に18歳,19歳が少年法からは対象外となっても,実態自体は変わらないわけですので,まだ家庭で親に扶養されている子たちが非常に多い,あるいは周囲に経済的な援助をする関係者も多かろうという中で,保護観察が付いた執行猶予になるよりは,むしろ罰金を1回的に払って終わりにしたいというように考える当事者も相当数いるのではないかといったことも考えられます。これは,若年者に特有なのかもしれませんが,そういう対象者も想定しながら,慎重に議論をしたほうがいいのではないかと考えております。 ○酒巻分科会長 それでは,次に,もう一つの論点である「若年者に対する新たな処分」について検討を行いたいと思います。   初めに事務当局から資料の御説明をお願いします。 ○羽柴幹事 配布資料6「若年者に対する新たな処分(検討項目案)」について御説明いたします。   「若年者に対する新たな処分」については,「若年者に対する刑事法制の在り方に関する勉強会」の取りまとめ報告書において,要旨次のように記載されています。   すなわち,「18歳,19歳の者が保護処分の対象外となった場合には,自由刑の執行を受けるときであっても,少年院で実施されているのと同一の内容の処遇を実施することには限界があり,また,刑事処分においては,要保護性に応じて処分が決定されるわけではないため,特に,犯した罪が比較的軽微であるものについて,必要な処遇が行われないことがある等の理由により,取りまとめ報告書記載の他の刑事政策的措置では18歳,19歳の者を含む若年者の保護として不十分であるとする立場から,18歳以上一定年齢未満の若年者について,現行少年法の少年審判に準ずる調査,鑑別手続を経た上で,少年院送致に準ずる処分や保護観察に準ずる処分を行う制度を導入することが適当であるとの考え方もあり得る」と記載されています。   さらに,部会での意見交換において,「若年者に対する新たな処分」について,当分科会に属されていない委員の方からの御発言がございましたので,要旨を御紹介いたしますと,「現行の少年に対してなされている処分前の調査や少年院での処遇といった点は最大限いかすような方向で,少年法における少年の年齢が下がったとしても,処遇水準がそれほど変わらないような措置を考えるべきである」との御意見がございました。   配布した検討項目案は,これらを踏まえつつ,分科会における意見交換の御参考としていただくため事務当局において作成したものです。もとより,検討項目がこれに限られるとするものではありません。   検討項目の趣旨を簡単に御説明いたします。   まず,「目的」は,仮に,「若年者に対する新たな処分」を設けることとすれば,どのような目的で設けるのかについて検討する必要があると考えられることから,検討項目としたものです。   「処分の正当化根拠,法的性質」は,「若年者に対する新たな処分」を設けるとすると,その処分の正当化根拠や法的性質についての理論的な検討が必要であると考えられることから,検討項目としたものです。   「対象者」は,「若年者に対する新たな処分」を設けることとした場合に,どのような者を対象とするのか,例えば,対象者を若年者に限定するのか,その場合の若年者としては,具体的に何歳の者とするのかといった点等について検討する必要があると考えられることから,検討項目としたものです。   「処分,手続の基本的枠組み」は,「若年者に対する新たな処分」としてどのような内容の処分を設けることが考えられるのか,若年者に対する新たな処分をどのような手続で行うことが考えられるのかといった点について検討する必要があると考えられることから,検討項目としたものです。   「若年者に対する新たな処分」については,これからその内容の検討を開始するという段階にあり,まだどのような処分・手続とするのかの認識も共有できておりませんので,「若年者に対する新たな処分」の要否については,現段階で独立の検討項目としては記載していません。   なお,少年鑑別所及び保護観察所の調査・調整機能の活用については,これらの検討課題について検討する中で,必要に応じて御検討いただくことを想定しています。   「若年者に対する新たな処分(検討項目案)」についての説明は以上です。 ○酒巻分科会長 ただいまの説明に,御質問や,この段階で,他にも検討すべき項目があるのではないかといった御意見のある方は,挙手をお願いいたします。 ○山﨑委員 この点は,部会でも申し上げたことなので確認になりますけれども,この資料では,「少年鑑別所及び保護観察所の調査・調整機能の活用」とありますけれども,最後の項目の処分や手続の枠組みとの関係では,家庭裁判所調査官が調査・調整機能を担当するという選択肢も十分あり得ると思いますので,そういった前提での議論ということでよろしいかということを確認させていただければと思います。 ○羽柴幹事 事務当局としては,山﨑委員御指摘のとおりの認識で,検討項目案を作成しています。 ○酒巻分科会長 私もそのような認識で議論を進めたいと思っています。   それでは,この配布資料6の検討項目の順に議論を進めさせていただきたいと思いますが,よろしいでしょうか。             (一同異議なし)   それでは,初めに,「目的」について,意見交換を行いたいと思います。   この検討項目は,仮に「若年者に対する新たな処分」を設けるとすれば,どのような目的で設けるのかという点を検討項目とするものです。   この点について御意見のある方は挙手をお願いします。 ○池田幹事 ただいま御説明を頂いた中にも既に示されていたことでありますけれども,この論点の背景には,18歳,19歳の者について,保護処分が適用されないことになると,比較的軽微な罪を犯した者について必要な処遇が行われないことになるという懸念があるものと理解しております。と申しますのも,軽微な犯罪ですと,刑罰は行為責任の範囲内で科され,場合によっては起訴されない,罰金で終わらせられるということがあり得るのに対して,少年の保護処分でありますと,その他の要保護性の見地から,これを上回る処遇の対象となることもあり得るために,そのような軽微な事件において,少年であれば保護処分の対象となり得たものが,刑事処分の対象とならないということが起こり得る,そういった懸念があるものと理解しております。   したがいまして,この若年者に対する新たな処分,これを検討する,あるいは設けることの目的というのは,そのような,刑事手続に乗せられなくなることのあり得る18歳,19歳の者に必要な処遇を行うことを可能にすることにあるものと理解しております。 ○加藤幹事 「目的」に関しては,今池田幹事から御発言があったとおりだと,私も考えています。すなわち,18歳,19歳の者を今の少年法の適用対象から外すということになった場合,原則としては,通常の刑事手続の対象となるわけでありますけれども,そのようにした場合に,現在必要に応じて行われている働きかけでありますとか,保護的な措置というのが行われなくなることについて懸念を示すという御意見があるわけです。それにどのように対応するか,その18歳,19歳の者に対して,刑事処分あるいは刑事手続では行われないような,しかし必要な処遇を与えることができるようにしておくべきではないかというのが,この論点の検討課題であると認識しています。 ○酒巻分科会長 「目的」についてほかに御意見がなければ,次に,「処分の正当化根拠,法的性質」についての意見交換に移りたいと思います。   この項目は,「若年者に対する新たな処分」の正当化根拠や法的性質について,理論的な検討を行うことを内容とするものです。この点についての御意見をお願いします。 ○池田幹事 本部会に諮問がなされている少年の上限年齢の引下げというのは,既に議論がなされております公職選挙法の選挙権年齢の引下げでありますとか,民法の成年年齢に関する検討を踏まえたものと理解しております。   特に,これまでの部会においても御指摘があったところですけれども,民法の成年年齢が引き下げられまして,親権に服さない,あるいは取引に関する行為を行うことができると位置付けられた者について,保護処分の対象として残すのかということが,問題となり得るように思われます。親権に服さない者に対して,国が親に変わって介入をするということが,そもそも正当化されるのかということです。   これは,行為責任を上回る,要保護性の見地からの処遇の余地を認めるかどうかにもつながってくるものです。仮に親権に服さない者に対して,保護処分の対象とすることが適切でないとして少年年齢の上限を引き下げるということになった場合には,新たな処分の性質も,これまでの保護処分と同質のものと考えることは難しい,すなわち,行為責任の範囲内で課すということを前提とすることになるのではないかと考えております。 ○加藤幹事 池田幹事の御発言と同趣旨でありますが,現行の少年法の少年を対象とする保護処分については,いわゆる保護原理,パターナリズムによって正当化されるという部分があって,刑罰と同じ意味での罪刑の均衡は要求されないと考えられているものと認識しています。   このような保護原理による処分の正当化の背後には,「若年者に対する刑事法制の在り方に関する勉強会」の10回目で佐伯委員に御整理をいただいたところでもありますけれども,子供はまだ未成熟で判断能力が十分でないという社会的事実に加えまして,法的な理解として,子供は元々親の監護下にある自由の制約された存在であるという考え,すなわち,少年の自由は元々親の親権によって制限されているので,パターナリズムによる国の介入は,少年に対する親の親権を国が国親として代わりに行使するだけであるから,少年の自由が新たに侵害されるわけではないという考えといったものがあるように思われます。   このような考え方によれば,民法の成年年齢が引き下げられた場合,民法上成年者となり,親権にも服さないことになった18歳,19歳の者については,現行少年法の保護処分の正当化根拠がそのままは当てはまらないということになると考えられます。そして,その場合に,未成熟で判断能力が十分でないという社会的事実だけを根拠として,行為責任を超える処分を行うということは,過剰な権利制約・介入につながるおそれがあるということから,その点を慎重に検討すべきであろうと考えています。 ○山﨑委員 私も,今のお二方と,結論部分はほぼ同じ意見を持っておりますが,説明の仕方として,民法の親権に服さなくなるからという御説明には異論があります。   部会の方でも申し上げてありますけれども,端的に,国家が未成熟で判断能力がない者に対して,刑事手続上でどこまで保護原理に基づいて介入するかという問題ではあろうかと思うのですけれども,それは,民法上の親権と必ずしも連動しないのではないかという考え方でございます。   国親思想という説明も,当然歴史的にされてきたわけですけれども,保護原理イコール国親思想ではないのではないかと考えておりまして,親の代わりにという説明を通して,それ故に,親権の対象が変わるのだから,ということまでつなげて考える必要はないのではないかと。この辺は部会に戻して,また論点表の1の論点のところでしっかりやるという確認になっていたと思いますが,私はそういうふうな考えでおります。 ○川出委員 私は,基本的に,池田幹事と加藤幹事のおっしゃったことと同意見です。部会で申し上げたことの繰り返しになりますが,刑罰においては罪刑均衡が要求され,行為責任の範囲内で対象者の改善更生を図るための措置を行うということになっています。その上で,この新たな処分について,行為責任を超えた処分を行うということが認められるかが問題になりますが,それを考えるにあたっては,その処分が対象者の改善更生にとって必要かいうことだけではなく,行為責任を超える処分を正当化する根拠は何であるのかということを考える必要があるだろうと思います。   そうしますと,先ほど御指摘がありましたように,現行少年法の保護処分の正当化根拠となっている保護原理は,「若年者に対する新たな処分」には妥当しないことになると思いますので,結論としては,行為責任の範囲内で処分を行うということになるのではないかと考えております。 ○酒巻分科会長 これまでの御議論の中で,「行為責任」という言葉がしばしば用いられております。これは,条文上の用語ではありませんが,特に近年,行為責任の範囲内で刑を量定するという,量刑実務において意識的に使われている言葉だと思います。これについて,確認したいのですが,裁判所が,裁判実務において,「行為責任の範囲で刑罰を科する」と,特に裁判員にもそのような御説明をしていると思うのですけれども,この点についての実情やどのように考えられているかについて,よろしければお話しいただければと思います。 ○福島幹事 「行為責任」という言葉が何なのかという御質問ですが,平成26年の最高裁判決におきましても,「裁判においては,行為責任の原則を基礎としつつ,当該犯罪行為にふさわしいと考えられる刑が言い渡されることとなる」と判示されておりまして,裁判実務においては,行為責任の原則を基礎として,刑の量定がなされているというところでございます。   では,この行為責任とは何なのかということにつきましては,これはいろいろな説明の仕方があるんだろうとは思うのですが,例えば,数名の裁判官が行った研究報告においては,量刑の本質は,被告人の犯罪行為にふさわしい刑事責任を明らかにするところにあり,そのように考えるのであれば,刑量を決める基本は,犯罪行為そのものの重さでなければならないとされ,その犯罪行為そのものの重さとは,次の二つの要素,つまり,処罰の根拠となる処罰対象そのものの要素と,当該行為の意思決定への非難の程度に影響する要素からなる,などと説明されているところでございます。   ただ,では,この行為責任の範囲がどういうものなのかということを,定量的にお示しするのはなかなか難しいというところは御理解いただければと思います。 ○酒巻分科会長 御説明ありがとうございました。「処分の正当化根拠,法的性質」について,ほかに御意見がございますでしょうか。   それでは,御意見はないようですので,次に,「対象者」についての意見交換を行います。   この項目は,先ほど説明があったとおり,仮に,「若年者に対する新たな処分」を設けるとした場合に,どのような者を対象とすることが考えられるのか,例えば,対象者を若年者に限定するのか,その場合の若年者としては具体的に何歳の者とするのかといった点について御議論をいただければと思います。   御意見のある方は挙手をお願いいたします。 ○池田幹事 この論点自体が少年年齢の上限の引下げへの対応ということから始まっていることからすれば,新たな処分の対象者も,引下げの影響を受ける者,18歳,19歳の者をまずは念頭に置くということになるのではないかと思います。もちろん,20歳以上の者を積極的に除外するという趣旨ではございませんけれども,影響のある範囲を中心に考えていくということになろうかと思います。   また,処遇の充実を図るという点に鑑みましても,若年者には可塑性に富むことがあるという指摘もあるように,新たな処遇をもって対処するということの合理性も認められるものと考えられます。そのため,まずは18歳,19歳の者を念頭に置いて,制度の概要を策定することになるものと考えています。 ○加藤幹事 対象者の問題について,仮に「若年者に対する新たな処分」の対象となった者については刑事処分の対象とはしないという形で制度設計をするとしますと,そういう新たな処分の対象となる者の範囲については,一定の事件を起こした者を刑事処分の対象としないということになりますので,その点が正義に反することにならないかでありますとか,被害者を始めとする国民の理解を得られるかという観点からも,検討することが必要であると考えられます。   また,誰を対象とするかという観点で,手続の在り方にも関連するのでありますが,「若年者に対する新たな処分」の対象者と刑事処分の対象となる者を選別するというか,分けるという仕組みをとるといたしますと,誰がどのような基準でそれを振り分けるのかということが,大変大きな問題になるだろうと考えておりますので,その点についても御検討をお願いしたいと思います。 ○山﨑委員 今の加藤幹事の発言をお聞きしながら,ちょっと私もよく分からなくなっている部分があるのですけれども,新たな処分というのをどういう処分と考えるか,刑事処分とは違うことになるから,というふうな御説明があったのですけれども,新たな処分というのは,刑罰の一種として考えるのか,そうではなく刑罰以外のものと最初から決めて議論がされているのか,その辺りがちょっとよく分からなくなったのですが,どういうふうに考えたらよろしいのでしょう。 ○加藤幹事 私が発言した意図を申し上げますと,「若年者に対する刑事法制の在り方に関する勉強会」の取りまとめ報告書の17ページに,18歳以上一定年齢未満の若年者について,現行の少年審判に準ずる調査,鑑別手続を経た上で,少年院送致に準ずる処分や保護観察に準ずる処分を行う制度を導入することが適当であるという考え方もあり得るという記載があります。このような発想で若年者に対する新たな処分の導入という項目が設定されていたという経緯から見ますと,基本的には,刑事手続を経て確定される刑罰とは別のものを想定して議論がされていたのではないかと認識していたところです。   そういう手続を経ても,その処分の実質は刑罰であるという考え方も理論的にあり得るのかもしれませんが,今申し上げたような議論の経緯からいたしますと,少なくとも通常の刑事裁判を経て確定される刑罰が議論のそ上に上っているわけではないと認識していたところでございます。 ○山﨑委員 そうしますと,従来の保護処分でもなく,刑罰でもない処分という前提で,今おっしゃられているのだとすると,それの正当化根拠というのは,保護原理ではないだろうというだけでは足りずに,刑罰ともどこが違うのかということを議論しなければいけなくなってくるということのように思われるのです。   私は,保護処分とは違う処分だという理解で,刑罰の一種も含めた議論設定をされていたのかと思っておりまして,そうであれば,先ほど来の保護処分とは違うということでいいのかと思うのですが,刑罰とも違うとなると,行為責任主義に基づく現在の刑罰とどのように違う,それはどういう根拠で考える処分なのかというのを,更に詰めないといけないのかなということを,今ちょっと考えております。 ○加藤幹事 山﨑委員の御指摘は正にそのとおりであろうと考えておりまして,新たな処分を創設・構築する以上は,その正当化根拠が何であるかということについても,十分議論が必要ではないかと考えております。   恐らく,認識にずれはないだろうと考えております。 ○酒巻分科会長 山﨑委員,加藤幹事が御指摘のとおり,最も基本的な正当化根拠については,さらに議論を深める必要があろうかと考えます。   それでは,最後に,「処分,手続の基本的枠組み」についての意見交換を行います。   これは,先ほど説明がありましたとおり,「若年者に対する新たな処分」としてどのような内容の処分を行い得るとすることが考えられるのか,また,その処分をどのような手続で行うことが考えられるのかといった点等を検討項目とするものです。   御意見のある方は,挙手をお願いいたします。 ○池田幹事 新たな処分の中身に関わる部分なのですが,先ほどの「若年者に対する刑事法制の在り方に関する勉強会」の取りまとめ報告書の中に,少年院送致に準ずる処分や保護観察に準ずる処分を行う制度を導入するという考え方が示されておりました。   このうち,特に,少年院送致に準ずる処分は,介入の程度も高いものでありますので,それに見合う行為責任ということになりますと,相応の重い罪を犯した場合が念頭に置かれているのではないかとも思われます。他方で,そういう重い罪を犯した者を刑事処分の対象から外してよいのかどうかということは,裏腹の関係で問題になり得ると思います。そのため,どのような処分の在り方を想定するかという際には,刑事処分の可能性ということも念頭に議論されるべきだと思っております。 ○川出委員 先ほど山﨑委員が御指摘になった点にも関わるのですが,この新たな処分の内容は,最初の検討項目であった新たな処分を設ける目的に照らして考えてみる必要があると思います。その目的は,今までであれば保護処分になっていた18歳,19歳の者が,起訴猶予になったり罰金を言い渡されたりするにとどまることで,十分な処遇を受けられなくなるので新たな処分を作るということであるわけですから,そうすると,その処分は,対象者の要保護性に応じて決定されることになるのではないかと思います。そこが刑罰との違いで,先ほど御説明があった行為責任に応じて刑罰が科されるという場合は,上限だけでなくその下限も行為責任の枠内で設定されることになりますが,ここで想定されている新たな処分の場合は,上限は行為責任で画されますが,下限というのはなく,どのような処分を言い渡すかは,要保護性に応じて決定されることになるだろうと思います。   そうしますと,例えば,裁判所が送致された事件につき,新たな処分を言い渡すかどうかを決定するという仕組みにした場合には,対象者の要保護性に応じて,どのような処分を言い渡すかを決めることになりますが,場合によっては,そもそも処分の必要がないということで,現在の少年保護手続において家庭裁判所が行っている審判不開始とか不処分に当たるような決定をすることも考えられるだろうと思います。   そして,そのように,要保護性に応じて処分を決定するということになるとすれば,その判断のための資料を収集することが必要になってきますので,例えば,家庭裁判所の調査官や,少年鑑別所に関与していただいて,資料を収集する手続を考える必要が出てくるだろうと思います。その場合に,家庭裁判所調査官や少年鑑別所が手続にどう関わるのか,どの裁判所でどういう手続で資料収集のための調査を行うのかということも,検討課題となろうかと思います。   それから,もう一つ別のことなのですが,先ほど,新たな処分として,少年院送致と保護観察が考えられるということでした。仮に保護観察に準ずる処分を設けるとすると,その実効性を確保するために,遵守事項違反があった場合の措置を設けておく必要があるのではないかということも,検討課題として挙げられるだろうと思います。 ○山﨑委員 私も,本当に今考え始めたところですので,とんちんかんなことを申し上げるかもしれないのですが。   今,川出委員がおっしゃっていたように,行為責任は上限になるだろうという理解でよろしいでしょうか。だとすると,施設収容が必要とされるような事案がどれほどあり得るのかというのは,現在の少年院送致の対象とは大分変わってくるのではないか。それと,刑事処分との切り分けというのもどうなるかというあたりが,ちょっとよく分からないなと感じております。   そして,行為責任を上限として収容期間を決めたということになると,現在の当然保護処分としての少年院教育の効果というのが,果たして発揮できるかという問題に直面するというあたりを,どう考えたらいいのかなということが課題かなと,少なくとも私の中では感じました。 ○川出委員 新たな処分の具体的な中身に入ってしまいますが,私も,行為責任で収容期間の上限が画された少年院送致というのは,有効に機能しないように思いますので,そういう観点からも,新たな処分の内容を考えてみる必要があるだろうと思います。 ○加藤幹事 この議論の主な対象になっているのは,行為としては比較的軽微だけれども,いわゆる要保護性は重いというものを,どのような処遇をするのが適当かという観点からの議論が中心だと認識しています。川出委員の御意見のように,行為責任で上限が画されるとすると,そのような者に対して,現状の少年院送致と同様の施設収容処分が可能なのかどうかという観点からも,検討しなければならないだろうと,そこは同感です。   また,この処分を行う手続の過程では,様々な判断が行われることになりますが,その要保護性といったものも判断対象になるといたしますと,そういったものを判断するにふさわしい判断主体が誰なのかを考慮した上で,そういう者が判断を行うこととする制度を作らなければならないことになります。そして,こうした新たな処分の手続を検討する上では,判断者として,誰がふさわしいのか,あるいはどの裁判所で行う手続とするかという点のほか,裁判所で行う手続に検察官あるいは弁護人ないし付添人がどのように関与するのか,更に言うと,被害者等による傍聴ですとか,被害者の権利利益に関する手続はいかにあるべきかといった,この間,刑事手続等に関して議論されてきた問題がいろいろと考えられなければならないだろうと思われます。   また,裁判所がどのような判断を行うのか,処遇期間をどのように定めるのかを含めて検討が必要ですし,どの判断に対して誰が不服申立てを行い得るのかといった観点からの制度の設計も必要であろうと考えられます。   加えて,憲法が裁判の公開を定めていることとの関係で,これが少年審判と同様に非公開で行い得るものなのか,あるいは公開を要する裁判なのか,さらにはそれとの関係で,記録をどのように取り扱うことにするのかなど,多岐にわたる事項について検討が必要になると考える次第です。 ○山﨑委員 本当にまだ漠然とした中身なので具体像は見えないのですが,仮に今まで議論されてきたような意味での新たな処分を考えるのであれば,やはり保護原理ではないけれども,要保護性に配慮したような処分を,どうやって適切に決定し運用するかということになると思いますので,それを決める上での調査という意味では,やはりこれまで実績のある家庭裁判所の調査機能というのが活用されるべきではないかと考えます。   実際,私たちも少年事件を弁護士として担当している中では,やはり家庭裁判所調査官がされている調査,本人の調査のみならず,家族関係とか職場,学校含めた環境の調査,調整というところが,特にこの18歳,19歳の子を想定する場合には非常に重要になってくるだろうと思いますので,そこはなかなか,保護観察所とか少年鑑別所の関わりだけでクリアするというのは難しいのではないかというふうなことを感じております。 ○酒巻分科会長 ほかに御意見,ございますでしょうか。   これまで一通りこの「若年者に対する新たな処分」の検討項目について意見交換を行いましたが,さらに,全体につきましてもし御意見がございましたら,挙手をお願いいたします。   よろしいでしょうか。   それでは,「若年者に対する新たな処分」についても1巡目の議論を行いましたので,本日の意見交換としては,この程度にいたしたいと思います。             (一同異議なし)   それでは,本日の審議はこれで終了いたします。   今後の予定につきまして,事務当局から御説明をお願いいたします。 ○羽柴幹事 今後の予定について申し上げます。   次回の第2分科会の会議は,11月22日水曜日午前10時から,場所は東京地方検察庁の会議室で行います。 ○酒巻分科会長 本日の会議の議事につきましては,特に公表に適さない内容に当たるものはなかったと思われますので,発言者名を明らかにした議事録を公表することとさせていただきたいと思いますが,よろしいでしょうか。            (一同異議なし)   どうもありがとうございます。   それでは,本日はこれで終了いたします。 -了-