法制審議会 少年法・刑事法 (少年年齢・犯罪者処遇関係)部会 第1分科会第3回会議 議事録 第1 日 時  平成29年11月14日(火)   自 午前 9時56分                          至 午前11時36分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  1 若年受刑者に対する処遇原則の明確化,若年受刑者を対象とする処遇内           容の充実,少年院受刑の対象範囲及び若年受刑者に対する処遇調査の充           実について         2 刑の全部の執行猶予制度の在り方について         3 自由刑の在り方について         4 社会内処遇に必要な期間の確保について         5 その他 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○隄幹事 ただいまから法制審議会少年法・刑事法(少年年齢・犯罪者処遇関係)部会第1分科会の第3回会議を開催いたします。 ○佐伯分科会長 本日は御多忙のところ,お集まりいただきましてありがとうございます。   まず,議事に入る前に,前回の本分科会以降,部会の委員に異動がございましたので,御紹介いたします。   中里智美氏が委員を退任されまして,新たに伊藤雅人氏が委員に任命されました。   委員の異動は以上です。   次に,事務当局から,資料の説明をお願いいたします。 ○隄幹事 本日,配布資料として,配布資料10「統計資料4(確定裁判の宣告刑の刑期に関するもの)」,配布資料11「統計資料5(保護観察付執行猶予者の刑の執行猶予の取消し状況に関するもの)」を配布しております。   また,参考資料として,「刑の全部の執行猶予制度の在り方」についての意見要旨,「自由刑の在り方」についての意見要旨,「社会内処遇に必要な期間の確保」についての意見要旨,「若年受刑者に対する処遇原則の明確化,若年受刑者を対象とする処遇内容の充実,少年院受刑の対象範囲及び若年受刑者に対する処遇調査の充実」についての意見要旨を配布しております。   これらの資料は,ファイルにとじずに平積みしています。資料に不足がある方はいらっしゃいますでしょうか。   配布資料については,後ほど意見交換の際に御説明いたします。   参考資料については,これまでの分科会第1回及び第2回会議での御意見を事務当局においてまとめたものです。本日の会議における意見交換の御参考としていただくため,事務当局の責任において,各委員・幹事の御意見の要旨をまとめたものでございます。 ○佐伯分科会長 ありがとうございます。   ただいまの御説明に何か御質問等ございますでしょうか。   それでは,審議に入ります。   初めに,本日の審議の進行についてですが,前回の会議では,論点表の大項目2に掲げられた4つの論点のうち,「自由刑の在り方」,「社会内処遇に必要な期間の確保」及び「若年受刑者に対する処遇原則の明確化,若年受刑者を対象とする処遇内容の充実,少年院受刑の対象範囲及び若年受刑者に対する処遇調査の充実」について,1巡目の意見交換を行いました。このうち最後の論点については,意見交換の途中で会議を終わりましたので,本日は前回の会議で触れられなかった「若年受刑者に対する処遇調査の充実」について意見交換を行い,その後,1巡目の議論を踏まえて,各論点について,2巡目の意見交換に入りたいと思います。   各論点について,これまでの分科会で配布した4つの論点に関する検討項目案,配布資料3,4,6及び9をそれぞれ再度配布しております。   前回も申し上げましたが,論点相互に関係のある事項に及ぶ場合には,ほかの論点に関して適宜御発言いただいて結構です。   なお,今後の予定として,12月19日に,部会第6回会議が予定されております。部会第5回会議において,分科会における検討状況は,逐次,部会に報告することとされており,部会第6回会議においては,本日までの分科会での議論について中間報告を行うこととなります。本日の会議では,中間報告に向けて,検討すべき論点が適切に顕出されるようにする観点からも,御意見をお願いいたします。   それでは,前回の会議の続きとなります,配布資料9の検討項目案の3の「若年受刑者に対する処遇調査の充実」の中の「処遇調査の実状と充実のための方策」について,意見交換を行います。   御意見がある方は挙手をお願いいたします。 ○加藤幹事 まず,若年受刑者に対する処遇調査の充実の検討の前提として,2点ほど事務当局からの説明をお願いしたい点があります。   1点目は,現在も受刑者に対する矯正処遇は,資質及び環境の調査の結果に基づいて定める処遇要領によって行うこととされており,特に少年受刑者や若年受刑者については,調査センターとして指定された刑事施設において,通常よりも時間をかけた精密な調査が実施されていると伺っています。そこで,現在の処遇調査の対象,あるいは内容の詳細について,事務当局からの説明をお願いしたいと思います。   それから2点目として,現在も少年受刑者に対しては,少年鑑別所による鑑別を実施することが可能となっていると承知しています。この鑑別の実施状況と,それから処遇調査と鑑別との相違点についても,併せて説明をお願いしたいと思います。 ○大橋幹事 現在刑事施設のうち調査センターとして指定されている施設で,精密な処遇調査を行っておりますけれども,その主な対象者としましては,男子の少年受刑者,それと,執行すべき刑期が1年6月以上である20歳以上26歳未満の男子で,日本人と異なる処遇をしようとする外国人あるいは暴力団員を除いた者,それから,性犯罪再犯防止指導の対象となると考えられる者などとなっております。   調査センターにおける精密な処遇調査におきましては,刑事施設における処遇に必要な基礎資料を得るということを目的としておりまして,約2か月間をかけて,対象者との面接,心理検査,改善指導の受講の必要性等を判定するためのアセスメントツール,工場における作業態度の行動観察などによって,心身の状況,生育歴,犯罪歴,職業の適性及び志向,それから保安上の留意事項など,刑事施設での処遇に必要となる具体的な事項について綿密に調査を行っております。   この精密な処遇調査と少年鑑別所における鑑別の違いについて御説明いたしますと,少年鑑別所の鑑別では,非行の動機や背景にある資質上,環境上の問題等の分析は,全ての対象者につきまして,要保護性に密接に関連する事項として精密に行っておりますところ,調査センターにおける精密な処遇調査におきましては,性格や犯罪性等の精密な分析は,少年受刑者,性犯罪受刑者,長期刑受刑者等の一部の受刑者を除きまして,省略するということが多くなっております。   また,行動観察につきましては,少年鑑別所の鑑別では,対象者の日常的な生活場面,課題への取組など,各場面での行動傾向や変化に着目した観察を行っておりまして,その結果を記録していることに加えて,把握すべき行動特徴に応じて,複数の課題を設定するなど,極めて密度の高い行動観察を行っておりますが,他方,調査センターにおける処遇調査であっても,対象となる受刑者全てに同様の密度の高い行動観察は実施しておりません。考査工場での作業態度など,限定的なものになっております。   次に,少年受刑者に対する少年鑑別所の鑑別の実施状況について御説明いたします。   平成27年6月1日に施行となりました少年鑑別所法第17条におきましては,少年院の長や刑事施設の長からの求めによる鑑別ができるということになっておりまして,この刑事施設の長からの依頼による少年受刑者の鑑別につきましては,少年鑑別所法施行から本年9月30日までの間,全国の少年鑑別所において合計8件の鑑別が実施されております。 ○佐伯分科会長 今の御説明あるいはその他の点について,御意見があればお願いいたします。 ○橋爪幹事 1点申し上げます。   若年受刑者に対する処遇の充実を図るためには,処遇内容を選択するための判断資料を提供する処遇調査についても一層の充実を図る必要があると考えております。ただいま,現在も調査センターで精密な処遇調査が行われているという説明がございました。もっとも,刑期や性別による制限があり,全ての若年受刑者について精密な処遇調査が行われているわけではないと理解いたしました。   この点につきましては,人的・物的資源の制約という問題があるかとは存じますけれども,対象者の拡大の可否は,検討課題かと存じます。また,仮に対象を拡大する場合には,それに対応して,調査の内容についても再検討する必要があるように考えております。 ○今井委員 大橋幹事のお話を聞いて,橋爪幹事と同じような感想を持ちました。   調査センターにおきましては,現在も2か月という限定されたものではあるということですが,精密な処遇調査を行っておられるということでしたけれども,やはり少年鑑別所における鑑別というものは,手法においてもまた人的な体制も,少年に特化したものがあるように思われますし,これまでの経験から,どういう少年にはどういうふうな処遇をしたらいいのか,どこにポイントを当てて行動観察をしたらいいのか,いろいろなノウハウがあると思います。そういたしますと,現在は少年受刑者に対して鑑別が可能になっていて,8件ということだったわけですけれども,今後若年受刑者に対する処遇内容の充実と併せて,成人であるところの若年受刑者に対しても,少年鑑別所による鑑別と同様の観察を実施することが望ましいのではないかと思った次第です。 ○青木委員 質問なのですけれども,先ほど処遇調査の対象として女子の少年は入っていないということでしたけれども,女子は少年刑務所というのはないので,その関係で入っていないのだと思いますけれども,少年鑑別所での鑑別ということは,女子少年についてはあり得るという前提で考えてよろしいのでしょうか。 ○大橋幹事 刑事施設の長の求めに応じた鑑別という点でございますと,女子に対する少年鑑別所の鑑別ということもあり得ると思います。 ○青木委員 実際にそれは行われたことはあるのでしょうか。 ○大橋幹事 承知しているところでは実例はございません。 ○佐伯分科会長 ほかにはいかがでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは,ここまでで「若年受刑者に対する処遇原則の明確化,若年受刑者を対象とする処遇内容の充実,少年院受刑の対象範囲及び若年受刑者に対する処遇調査の充実」の検討項目について一通りの意見交換を行いました。   これで,本分科会が担当する4つの論点についての1巡目の意見交換が終わりました。   これまでの議論で指摘された論点については,ここまでの議論を踏まえて更に議論を深めるべき点や事務当局において検討することとされた点などもございましたので,ここからは,引き続き,各論点について2巡目の意見交換を行いたいと思います。無論,各論点について,これまで述べられていない御意見等を追加的に御発言いただくことも差し支えないと考えています。このような進め方でよろしいでしょうか。                 (一同異議なし)   それでは,2巡目の意見交換を行いますが,「若年受刑者に対する処遇調査の充実」について,先ほど意見交換を行いましたので,引き続き,この論点を含めた「若年受刑者に対する処遇原則の明確化,若年受刑者を対象とする処遇内容の充実,少年院受刑の対象範囲及び若年受刑者に対する処遇調査の充実」について,2巡目の意見交換を行いたいと思います。   前回から今回にかけての1巡目の議論では,法令上,若年受刑者に対する処遇原則を明文化する意義・必要性に関する御意見,少年院の取組を活用するなどして,若年受刑者に対する処遇内容の充実を図るべきとの御意見,少年院受刑についての賛否や検討課題についての御意見,若年受刑者に対する処遇調査の充実を図るべきとの御意見などがありました。お手元に,前回までの御意見を事務当局が取りまとめた意見要旨が参考資料として配布されていますので,それも参考にしつつ,更に検討課題や問題点などについて議論を深めていきたいと思います。もちろん,それ以外の新たな御意見があれば,更に御発言いただきたいと思います。   御意見がある方は挙手をお願いいたします。 ○加藤幹事 1巡目の議論を踏まえまして,検討項目案で申しますと2番目の「若年受刑者を対象とする処遇内容の充実」の点について,若干追加的な意見を申し上げます。1巡目の議論で,現在少年刑務所で少年受刑者に対して行われている処遇内容や少年院で行われている取組を,刑事施設における若年受刑者に対する処遇にも活用すべきであるという御意見がありました。これについては,もう少し具体的にどのようなことが検討されるべきかを考えてみる必要があるように思われます。   すなわち,部会の第2回で行われたヒアリングですとか,施設視察の際にも説明があったように,少年院は,教育学等の専門知識を有する法務教官を中心にした手厚い職員体制の下で,社会生活を営むための基本的な生活訓練や自尊感情の醸成等が必要な青少年期の者に対する処遇のノウハウを有しており,少年を対象とした指導プログラムですとか,修学支援,就労支援などにおける実績もございます。   こうした少年院のノウハウや実績を,刑事施設における若年受刑者に対する処遇でも積極的に活用することが検討されるべきであろうと考えられます。例えば,まず,少年院で実施されている少年が有する問題性,すなわち暴力事犯や不良交遊などの改善に着目したプログラムを刑事施設でも実施することは考えられないか,2番目として,中卒や高校中退の者が多いわけでありますが,基礎的な学力や高校卒業程度の学歴は,社会生活あるいは就労において必要となることから,教科指導,高卒認定試験受験希望者に対する指導などの取組を,少年院の豊富な指導実績を参考としつつ,より一層充実させていくことも考えられるのではないかという点であります。さらに,3番目として,若年受刑者については就労能力を習得することで更生が期待できる者が比較的多いと考えられますことから,職業訓練を充実させ,受講機会を増やすこと,就労支援指導を充実させることなども考えられるのではないかといったことが検討されるべきではないかと考えます。   また,現在の刑事施設においても,少年受刑者については20歳になるまで,あるいは3年間,一般の受刑者よりも詳細な処遇計画を策定して,個別担任を指定し,個別指導などを実施していると伺っておりますが,こうした処遇が有用だと考えられる若年受刑者について,対象を拡大することも考えられるのではないかと思われます。   さらに,少年院は,小規模の集団において,少年の問題性の改善あるいは社会生活上の課題解決に向けた指導をきめ細かく行っているという体制になっておりますので,刑事施設においても受刑者の特性に応じて,この少年院のような設備,職員体制,処遇方法といったものを取り入れて,処遇の充実を図ることが考えられるのではないかと考えるところです。 ○佐伯分科会長 ほかにはいかがでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは続いて,「刑の全部の執行猶予制度の在り方」について,2巡目の意見交換を行いたいと思います。まず,事務当局から「刑の全部の執行猶予制度の在り方」に関する資料の説明をお願いいたします。 ○隄幹事 本日,「刑の全部の執行猶予制度の在り方」に関する資料として,配布資料10「統計資料4(確定裁判の宣告刑の刑期に関するもの)」,配布資料11「統計資料5(保護観察付執行猶予者の刑の執行猶予の取消し状況に関するもの)」を配布しております。   まず,配布資料10について,御説明いたします。   第1分科会第1回会議において,「再度の刑の全部の執行猶予を言い渡し得る刑期の上限を引き上げること」を検討するに際しては,昭和28年の刑法改正により再度の刑の執行猶予が可能なものとされた当時と現在の犯罪情勢あるいは量刑事情を踏まえることが必要であるとの御指摘を受けたことを踏まえ,確定判決の宣告刑の刑期についてまとめました。   刑期について細分化されている統計のうち最も古い年次である昭和32年のものから,平成28年に至るまで,約20年間隔で各年次のものを記載しています。   まず,表の「執行猶予」欄を御覧いただくと,宣告刑が6月以下のものと6月超1年以下のものの合計,つまり1年以下のものは,昭和32年においては約40%となります一方,平成28年においては約25%となっています。   また,宣告刑が1年超2年以下のものは,昭和32年は約6%ですが,平成28年は約30%となっており,また宣告刑が2年超3年以下のものは,昭和32年は約1%ですが,平成28年は約7%となっています。   次に,実刑についてみますと,宣告刑が1年以下のものは,昭和32年は約30%ですが,平成28年は約10%となっており,また,宣告刑が1年超3年以下のものは,昭和32年は約20%ですが,平成28年は約22%となっています。   なお,1枚資料をおめくりいただきまして,グラフの方でございますけれども,グラフの真ん中辺りに破線が引かれておりますが,この破線よりも下の部分が執行猶予でありまして,破線より上の部分が実刑のものでございます。   配布資料10の説明は以上になります。   次に,保護観察付執行猶予者の執行猶予の取消し状況に関する統計資料である配布資料11については,今福幹事から御説明いたします。 ○今福幹事 配布資料11につきまして,御説明いたします。   配布資料11のうち,「再犯あり」と「再犯なし」の欄以外は,第1分科会第1回会議において配布しました統計資料1-3,「刑事処分に基づく保護観察の終了事由別終了人員」と同一でございます。   第1回会議において,「『遵守事項違反』による取消しの中には,再犯がなされたものの判決確定に至っていないという事件について,『犯罪』による取消しではなく,『遵守事項違反』による取消しとして処理されているものも含まれているのではないか」,といった御質問を頂きました。   その際,事務当局から,「遵守事項違反」による取消しのうち,9割程度が再犯に及んだことを理由とするものではないかと実務感覚に基づいて申し上げました。その後,事務当局において平成25年から平成27年までの事件を調査し,遵守事項違反による刑の執行猶予の取消しのうち,再犯に及んだことにより,更生保護法第50条第1項第1号違反として取り消されたものと,再犯に及んだことを理由とせずに取り消されたものとに分類しました。配布資料11はその分類した人員数を記載したものでございます。   「遵守事項違反」による取消しのうち,「再犯なし」のものの割合について申し上げますと,平成25年が約10%,平成26年が約12%,平成27年が約7%となっております。   次に,「再犯なし」欄に計上されている事例について具体的に申し上げますと,保護観察所の長に届け出た住居に居住することという一般遵守事項に違反し,住居や更生保護施設から無断で出奔し,長期間所在不明となったケース,あるいは保護観察官及び保護司による指導監督を誠実に受けることという一般遵守事項に違反し,保護観察官による度重なる呼出しや往訪に応じず,保護観察を忌避したケース,また,特別遵守事項として定められた飲酒の禁止や飲酒運転防止プログラムの受講義務等に違反し,同プログラムの受講を複数回無断欠席し,欠席理由についても虚偽の事実を申告した上,飲酒についても複数回繰り返した挙げ句,飲酒した上で自転車を運転して転倒し,救急搬送されたケースなどが挙げられます。   これらの事例のとおり,保護観察対象者が単に遵守事項に違反した事実のみではなく,保護観察の枠組みそのものを受け入れない傾向が顕著であったり,複数の遵守事項に違反したなどの状況にまで至って「情状が重いとき」として執行猶予の取消しとなっているところです。   他方で,分科会の第1回会議で申し上げましたように,保護観察官や保護司による繰り返しの指導にもかかわらず遵守事項違反を繰り返す事案や,保護観察当初から保護観察官との接触を避け続けている事案について,裁判所が「情状が重い」とは認めずに請求を棄却した事例もございます。   そこで,保護観察所としては,遵守事項違反があり,保護観察を続けることや,それによって改善更生を望むことが困難と考える事案であっても,「情状が重いとき」に当たるとまでは言い切れないと判断し,引き続き保護観察の枠組みの中で実施可能な範囲での方策を試みているなど,相当慎重な検討をしているというのが実情でございます。   配布資料11の説明は以上です。 ○佐伯分科会長 ただいまの御説明に何か御質問はございますでしょうか。 ○福島幹事 統計の確認ですが,この遵守事項違反で「再犯なし」で取り消されたのは,取消しが認められた件数ということだと思うのですが,請求した件数が幾つなのかというのは,分からないのでしょうか。 ○今福幹事 その点は承知しておりません。 ○福島幹事 結構です。 ○佐伯分科会長 ほかにはございますでしょうか。   「刑の全部の執行猶予制度の在り方」につきましては,分科会第1回会議において,青木委員から資格制限の排除に関する御提案もありました。その検討に当たっては,資格制限としてどのようなものがあるのか理解しておくことが有益と考えられますので,事務当局から御説明をお願いいたします。 ○隄幹事 前科による資格制限について,法務省として網羅的に把握しているものではありませんが,前科により制限される資格は多数あり,制限される対象としても,免許の取得や官職への就職など様々なものがあります。また,資格制限を生じさせる前科の内容である罪については,罪に限定のないものと,特定の罪に限定されているものとがあり,その上で,前科の内容である刑の種類についても,罰金以上の刑とされているものや禁錮以上の刑とされているものなどがあります。さらに,資格の制限の在り方については,前科により必要的に制限されるものと,行政庁等により裁量的に制限されるものがあります。   まず,前科により制限される対象としては,大麻取扱者や医師などの免許,地方卸売市場の卸売業者や一般貨物自動車運送事業者などの許可,貸金業者や気象予報士などの登録,国家公務員や地方公務員などの官職への就職,弁護士や税理士など当該資格への就職などがあります。   次に,資格制限を生じさせる前科の内容である罪については,大麻取扱者,医師,一般貨物自動車運送事業者,貸金業者,国家公務員,地方公務員,弁護士や税理士などのように,罪に限定のないものと,卸売市場法に規定する罪に限定されている地方卸売市場の卸売業者や気象業務法に規定する罪に限定されている気象予報士などのように,特定の罪に限定されているものとがあります。   その上で,前科の内容である刑の種類については,医師や気象予報士などのように,罰金以上の刑とされているものや,国家公務員や地方公務員,弁護士などのように,禁錮以上の刑とされているものなどがあり,さらに,貸金業者など,貸金業法等の一定の罪については罰金以上の刑とされている一方,その他の罪については禁錮以上の刑とされているもののように,前科の内容である罪に対応して資格制限を生じさせる刑の種類を定めているものもあります。   次に,資格制限の在り方については,大きく分けて,「免許を与えない」などと規定され,前科により必要的に制限されるものと,「免許を与えないことがある」などと規定され,裁量的に制限されるものとがあります。   これらの例を挙げますと,まず,必要的に制限を受ける資格としては,地方卸売市場の卸売業者,大麻取扱者,貸金業者,気象予報士,国家公務員,地方公務員,弁護士や税理士のほか,株式会社の取締役や学校法人の役員などがあります。そして,裁量的に制限される資格としては,医師のほか,調理師,看護師,栄養士,はり師などがあります。裁量的に制限される資格については,制限を課すか否かを判断する主体は個別法に定められています。例えば,医師については,免許を付与しない処分又は取消しの処分をする主体は,医師法により厚生労働大臣とされており,厚生労働大臣が免許の取消処分をするためには,日本医師会の長や学識経験者らの中から任命された者で構成される医道審議会の意見を聴くこととされています。   資格制限の在り方について別の観点から分類しますと,資格の取得制限事由とされているものと,喪失事由とされているものとがあります。そして,弁護士や税理士のように,資格の取得と喪失のいずれも必要的とされるものがある一方,医師や調理師のように,いずれも裁量的とされるものもありますし,一般貨物自動車運送事業者や通関業者のように,資格の取得については必要的とされているが,喪失については裁量的とされているものなどもあります。 ○佐伯分科会長 ありがとうございました。   ただいまの御説明につきまして,何か御質問等はございますでしょうか。   それでは,以上の御説明を踏まえまして,「刑の全部の執行猶予制度の在り方」について,意見交換を行いたいと思います。   1巡目の議論では,保護観察付き執行猶予を活用して社会内処遇の充実を図るという観点や,社会内処遇によって改善更生を図ることと執行猶予の取消し等の心理的強制による再犯防止の担保機能を確保することとのバランスという観点が重要であるとの御意見があり,その上で,考えられる制度の概要や青木委員からの御提案についても御意見を頂きましたが,これらの御意見を事務当局からまとめた意見要旨も参考にしつつ,各制度の必要性や内容について,更に議論を深めていきたいと思います。もちろん,それ以外の新たな御意見があれば,更に御発言いただきたいと思います。   御意見がある方は挙手をお願いいたします。 ○加藤幹事 幾つかの点で申し上げたいのですが,まず検討項目案の2番目にあります「考えられる制度の概要」のうち,「再度の刑の全部の執行猶予を言い渡し得る刑期の上限を引き上げること」について申し上げたいと思います。   この点については,意見要旨の「2 再度の執行猶予が可能な刑期」の二つ目の○にもございますが,分科会第1回会議におきまして,事務当局から,再度の刑の全部の執行猶予を言い渡し得る刑期の上限が1年とされた趣旨について,これを超えるような悪質・重大な罪についてまでも,再度の執行猶予を付し得るとするのは,刑罰に求められる応報及び一般予防,特別予防の観点から適当ではないと考えられたことによるとの説明があり,それに対して,そのような趣旨が現在でも妥当するか否かの検討が必要であるという御指摘があったところです。   そうした観点で資料10の2枚目にある色付きグラフを見てみますと,顕著な傾向として,懲役・禁錮1年以下の刑の割合というのは,実刑,執行猶予を通して全体として大幅に減っているということがいえます。それからもう一つ,それに対して執行猶予となる事案の中で,その刑期を見てみると,このグラフの黄色で示された1年を超えて2年以下の刑期のものの割合は大幅に増えているわけですが,赤とピンクを足したものというのは減っているという傾向にあります。特に執行猶予事案の内訳で見てみますと,昭和32年には刑期1年以下のもの,このグラフの赤とピンクを足したものになりますが,これが黄色の部分の6倍程度あったと見てとれるのに対して,平成28年を見てみると黄色の方が多いという状況になっています。   こうした量刑分布の変化というのがなぜ生じたのかは,これは具体的な事件の積み重ねでもありますので,更に分析の必要があると思われるところではありますが,感覚的に申し上げれば,窃盗や覚せい剤取締法違反で,1年か2年の刑期になろうという事案について,執行猶予となる事案の宣告刑が上がってきたことなどが一つの理由だとすると,こういう統計になっていることに実務的な違和感はないと考えられます。   いずれにいたしましても,1年を超えて2年以下の懲役刑が言い渡される執行猶予事案が,直ちに悪質・重大であるといえるかというと,最近の量刑分布を見る限り,昭和28年当時と同様の評価はしづらくなっているのではないかと思われ,再度の刑の全部の執行猶予を言い渡し得る刑期の上限を,現在の1年から2年に引き上げることについては,この統計だけを見る限りでは説明が可能なように思われます。   その上で,3年にまで引き上げるということになりますと,特にその必要性については更にもう一段の検討が必要なのではないかと考える次第です。 ○今井委員 関連した意見でございます。   私もこの資料10の色がついたグラフというのは,大変示唆的だと思っておりまして,ただいま加藤幹事の御説明にもありましたように,現在この黄色の部分とピンクと赤の部分が大体拮抗し,黄色の部分が少し大きいということは,昭和28年,あるいはこの統計でいうと昭和32年ですけれども,その辺りと顕著な量刑分布の相違が示されているのだろうと思います。   そのことを踏まえまして,刑法第25条第2項が1年と規定している趣旨を考えていきますと,第25条第1項が3年以下とし,第25条第2項が1年としている趣旨を考えますに,どちらの場合でも執行を猶予するということは,一定の刑期の宣告をした上で,社会内にその対象者を置くことによって,執行猶予が取り消されるという心理的な拘束をかけながら,自律的な更生改善を図る制度である点では共通していると思いますから,理論的には,例えば現在の規定を前提にいたしますと,再度の執行猶予を付けるときでも3年という要件を設けることは可能であろうとは思います。ただし,その際には検討要素として加藤幹事もおっしゃったように,2年を超えて3年未満という量刑の実情との比較も必要だと思います。いずれにせよ,この問題を考えるには,執行猶予に付すということの理論的なバックグラウンドを確認する必要があるだろうと思います。   繰り返しになりますが,宣告された犯罪の重さと,そのような刑を宣告された対象者が,社会内でどのような改善更生が期待できるかということ,その双方のバランスをとりつつ,対象者の選別として宣告刑1年,2年,3年という辺りを検討するのがよいのではないかと思います。   ですから,理論的には刑法第25条第1項,第2項を共通して3年と整理することは,可能だと思いますけれども,統計資料を踏まえますと,まずは2年に上げるようなことが正当化され得るのではないかと思った次第であります。 ○橋爪幹事 意見要旨4番の点について,若干思うところを申し上げたいと存じます。   以前から何度も申し上げておりますけれども,執行猶予の取消しの問題につきましては,執行猶予期間中に再犯を犯したという事実が決定的でありまして,判決の確定の時期それ自体は,あまり意味があることではないと思います。具体的には執行猶予期間中に再犯を犯し,かつその事実について執行猶予期間中に公訴提起が行われた場合については,判決確定が執行猶予期間経過後であっても,執行猶予を取り消し得るような制度を設ける可能性については検討する必要があると考えております。   もっとも,公訴提起が行われましても,判決確定までは無罪推定原則が及んでおりますので,無罪推定原則との関係で,公訴提起を要求する点については理論的な検討が必要であると個人的には考えておりまして,第1回の分科会でもその旨申し上げたところでございます。   その点について,私なりに改めて考えてみたのですけれども,次のような理解からは,正当化が可能であるように思われますので,若干思うところを申し述べたいと存じます。   飽くまでも執行猶予の取消しにおきましては,執行猶予期間中に再犯を犯したという事実,そして,その事実が執行猶予期間の経過の前後を問わず,刑事裁判において認定され,確定したという事実が決定的に重要であるように思われます。   したがいまして,理論的には,執行猶予期間中に公訴の提起があったことは,本来要件とする必要がないはずです。しかしながら,この要件を外しますと,執行猶予期間中の再犯については,公訴時効が完成しない限り,いつになっても執行猶予が事後的に取り消される可能性が残ることになりますので,対象者の法的地位が極めて不安定になります。   そこで,言わば政策的な観点から,時間的な限定を設定すべく,執行猶予期間中に公訴の提起があったことを要件とするという理解が考えられるように思われます。つまり,本来必要でないところを,政策的な観点,あえて申しますと,対象者に対する恩恵的な観点から要件を科すと考えますと,無罪推定原則との関係で抵触は生じないと考える余地があるように思います。 ○今井委員 今の橋爪幹事のお話も含めまして,ただいま「刑の全部の執行猶予制度の在り方」の2巡目として,いろいろな御意見を伺っているわけですけれども,私なりにそれを聞いておりますと,ここで挙がっているのは,若年者に対する刑事処分ということをきっかけにして議論はしているのですけれども,広くそれがどれも刑事政策の基本に関わっているような気がいたします。例えば,これまで挙がったものといたしましては,保護観察中の再犯について執行猶予を可能にするということ,あるいは私や,そして加藤幹事も発言されましたけれども,再度の執行猶予が可能な刑期についての検討でありますとか,あるいは執行猶予の取消し事由を緩和すべきではないかということ,また執行猶予期間経過後の執行猶予の取消しなどという問題は,いずれも刑事政策の基本に関わるものでありまして,その際には先ほども申し上げましたけれども,宣告され確定した裁判の持つ重みということと併せて,社会内処遇を通じて対象者の改善更生を図るという面が共通した課題として存在しております。そこで,ここでの議論の結果得られた方向性は若年者に限定される必要はないのであって,全ての年齢の受刑者を対象にした刑事政策の在り方として検討することが有意義ではないかなと思った次第であります。 ○加藤幹事 前回青木委員から,裁判所が執行猶予判決を宣告する際に,資格制限の排除を言い渡し得るものとしてはどうかといった御発言があったと思います。意見要旨の一番最後に書かれている御意見ですが,この点について御説明をお願いしたい点がございます。   先ほど事務当局から前科による資格制限について説明がありましたが,前科により制限される資格の中には裁量的に制限できるにとどまるものも含めて様々なものがあるということでございました。   そこで,執行猶予を付されて資格制限の効果が生じることによって,例えば就労できなくなるなど,改善更生の妨げになり得るような事例として具体的に想定されるものがあるか,あるいは想定されているものがあるかを,可能であれば御教示いただきたいと思います。 ○青木委員 ちょっと観点が違うかもしれませんけれども,資格制限の排除という,裁量的に排除するということを入れたほうがいいのではないかと思ったきっかけは,改正刑法草案の解説を頂きましたけれども,その中にその趣旨が書かれているわけですね。一番具体的には,その資格を取得できないということよりは,資格を喪失してしまって職がなくなってしまうというところに問題があるような気がしまして,この解説にも書いてあるのですけれども,公務員などの場合に,当然に身分を失うということになるということがあって,それは一律にそうなるわけですので,そのことによってちょっとゆがんだ形が生じている部分は体験したことがあります。   それはどういうことかというと,禁錮以上だったら職がなくなってしまうと。だから本来であれば禁錮以上の量刑をすべきものを,罰金に落としてしまおうというような考慮が働いたりですとか,あるいは,実際にはやっているにもかかわらず,認めてしまうと職を失ってしまうので,頑強に否認をするというようなこともあるように思います。   ですから,一律にどんな場合であってもこの量刑以上であると資格を失ってしまうというのは,やはりどこか問題があるのではないかと思います。もちろん職を失うという制裁を受けるべきものも多いのでしょうから,資格制限は一切要りませんという話ではないと思いますけれども,あえてそこで職を失わせるまでの必要がないような場合について,禁錮以上だと職を失わせてしまうから,本来量刑上,禁錮とすべきものを,そうではない形にするとか,その資格を失うことが怖いからということで,余計な回り道をするというのですかね,本人にとってもよくないし,周りにとってもよくないような状況というのもあるように思います。   それと,もちろん再犯防止ということで考えたとしましても,やはり職についているということが,犯罪を行わないために非常に必要なことなので,それとの関係で資格がなくなってしまうということを防ぐ必要があるものというのはあるのではないかと思います。   先ほど,資格制限についての御説明がありましたけれども,とにかくたくさんの法律に資格制限が載っていますので,もう山のようにあるわけですね。それが本当に全部必要な制限なのかどうか,個別にその人にとって必要な制限なのかどうかというのは,多分その人というか,その資格を,あえて一定の,罪種もいろいろあるわけですから,全ての罪種について,それがその資格制限が必要なのかどうかという判断はしなくてはいけないのだろうと思いますけれども,そういう意味で,全ての法律を見直して,その資格制限についてもう少し見直そうという方向もあると思いますけれども,それはそれでやるとしても,個別個別のその人の犯した罪との関係で,本当に資格制限が必要なのかという観点で,その再犯の問題とかも含めて裁量的に判断できる仕組みはあってもいいのではないかと,そういう趣旨です。   あとついでにというか,この分科会の持ち方というか趣旨なのですけれども,私の意見はこうですということで,それぞれの意見を出し合って,ここで何らかの意見をまとめるということではないと理解しているのですけれども,それはそれでよろしいわけですよね。   そういうことでいうと,こういう制度も考えられるのではないかという趣旨で発言しているという部分も相当程度ありますので,今の資格制限に関しては,私の意見でもありますけれども,必ずしも全ての点において,私の意見がこうですということで言ったわけではないので,そういう意味で,このまとめ方の意見というのは,制度案についての意見という意味では別に問題ないのですけれども,その意見集約をする場所ということで,この分科会を捉えることではなく,こういう考え方も,もしこういうことをやりたいのであればこういう制度案もあり得るということを出し合うのがこの分科会だという理解で話しておりますので,そういうことでよろしいのかどうかというのも,ちょっと念のため確認しておきたいと思います。 ○佐伯分科会長 私はそういう趣旨であると理解しておりますが,事務当局,よろしいでしょうか。 ○保坂幹事 事務当局の方で作成した意見要旨に,意見としてこうすべきではないかと書かれているところを御指摘いただいたと思うのですが,表現に意を尽くせていなかったとしたらおわびを申し上げなければいけないのですが,こういう議論をしていくときに,論点になるようなところが浮き彫りになったほうが議論が進むだろうという考えから,そのように記載したという趣旨でございますので,その点も御理解いただければと思います。 ○佐伯分科会長 今の点については,資格制限の排除についての意見要旨が,「すべきではないか」という形になっていますけれども,どちらかというと,その点も「検討すべきではないか」という形にすべきということでしょうか。 ○青木委員 これも検討課題としてきちんと入れるべきではないかと,そういう意味では,べきではないかですけれども。 ○佐伯分科会長 ほかにはいかがでしょうか。 ○橋爪幹事 私も検討課題として1点申し上げたいと存じますけれども,資格制限につきましては,確かにこれが場合によっては社会復帰のハードルになることは,青木委員の御指摘のとおりかと存じます。ただ1点,理論的な問題を申し上げますと,これはそもそも刑事裁判で解決可能な問題か,という疑問が生じます。飽くまでも行政処分として資格制限を行っているところ,刑事裁判の手続において,裁判所が資格制限の排除を決定することが可能かということが,理論的に問題になるような気がいたしました。   個別の行政法規において,一定の場合については,資格制限が相当であるという価値判断がされているわけです。それを刑事裁判所が言わば上書きするかたちで,そのような判断が妥当ではないという意思を示すということは,行政官庁と裁判所の権限分配との関係で,なお検討すべき課題があるような気がいたします。 ○福島幹事 今の点に関連して,資格制限の問題については,今御指摘のような問題があるほかに,考えてみますと,資格制限はそれぞれの法律ごとにその資格制限規定を設けた趣旨,目的があると思いますので,本来その被告人について,資格制限を排除すべきかどうかということを判断するためには,それぞれの法律ごとに,その目的や趣旨まで遡って検討しなければ判断できないのではないかと思います。   現在資格制限規定を設けられている法律がどれほどあるのか正確には分かりませんが,仮にそれを一律に判断するというようなこと,そういう御提案であるとすると,刑事裁判の中で行おうというのは,現実的ではないのではないかという感じがいたしますし,また特定の法律だけということであるとすると,果たしてそのような取上げ方が許されるのかというような問題もあるように思います。   ですので,この問題については,そのような現実的な問題といいますか,実際の運用を見据えた検討も必要なのかなと思います。 ○加藤幹事 確かに今の御指摘があったように,個別法の趣旨,目的を考慮しないで裁判所が資格制限の適否を一律に判断するというのが適切であるとは思われません。   しかし一方で,個別の事案において,資格制限の配慮をすることによって,就労を促進するとか,あるいはその刑事政策の目的に資するという場合もあるという御指摘もございましたので,個々の資格制限規定の趣旨等に即して,やはり具体的に検討することが必要になるのではないかと感じた次第です。 ○佐伯分科会長 ほかにはいかがでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは続きまして,「自由刑の在り方」について,意見交換を行いたいと思います。   1巡目の議論では,自由刑を単一化する方向の意見や,その際の作業や各種指導といった処遇の在り方について,義務付けの是非や,義務付ける処遇の内容,義務の履行を担保する方法などについて御意見を頂きました。これらの御意見を事務当局がまとめた意見要旨も参考にしつつ,自由刑を単一化するとした場合における理論的な問題点や,一定の処遇を義務付けるとした場合の正当化根拠や処遇の内容などについて更に議論を深めていきたいと思います。もちろん,それ以外の新たな御意見があれば,更に御発言いただきたいと思います。   御意見がある方は挙手をお願いいたします。 ○橋爪幹事 意見要旨の冒頭でございますけれども,破廉恥犯,非破廉恥犯の区別は意味がないという点は,おそらく私が前回の分科会で申し上げたことかと存じます。   このような理解につきましては,それほど異論はないと思うのですが,場合によってはあり得る異論を想定しまして,更に思うところを申し上げたいと存じます。   非破廉恥犯の典型の一つとして,「政治犯」が挙げられているところでございます。政治犯につきましては,本人の思想信念に従って犯罪を犯したことから,刑務作業を課すべきではないという発想が,これに禁錮刑を科すべきという理解の前提にあるかと思います。   もっとも,このような理解にも十分な理由はないと考えております。以下2点,理由を申し上げます。まず第1点ですが,政治犯という概念の曖昧さです。特定の犯罪類型が政治犯に該当するという明確な定義が存在するわけではございませんので,一定の犯罪類型について,それが政治犯であるとして特別な取扱いをすることは相当ではないと思います。   第2に,政治犯については刑務作業を課すべきではないという理解は,恐らく刑務作業は苦役であり,言わば卑しい刑罰であるという発想を前提にしているように思われますが,そもそも刑務作業をこのように位置付けるべきではないことは,既にこれまでの分科会の議論からも明らかであるかと思います。このような観点からは,政治犯について特別な対応をするために禁錮刑を存置するという理解には十分な理由がないと考えます。 ○今井委員 今の橋爪幹事の御発言に引き続いて思うところを述べたいと思いますが,自由刑を一本化するという発想の対極にありますのが,懲役と禁錮をきちんと分けて,禁錮刑は,より軽い非難等が妥当する犯罪に相当し,そうした犯罪に属するものとして,非破廉恥罪や,橋爪幹事の御指摘の政治犯,これらに加えて,過失犯を想定する,という理解があり,従来は,こうした考えが示されてきたと思います。   しかし,そもそも破廉恥犯,非破廉恥犯か,あるいは政治犯かという観点から刑罰を区別すること自体,私も維持できないものだと思います。また,過失犯に想定される法定刑を見ましても,確かに,従前は,過失犯について禁錮刑が予定されるものが多かったわけですけれども,それも必然的なものではないと思います。典型的な過失犯としてよく報道等もされており,あるいは運用されているところでありますが,例えば過失運転致死傷罪などは,結果については過失犯でありますけれども,大変重たい懲役刑も選択刑として定められているわけであります。   そういたしますと,結果との関係で過失犯だとしても,どのような法定刑を制定するかは,個々の犯罪のタイプに応じた悪質性を勘案したものとして,立法者が,それぞれ考えているものだと思いますから,過失犯,あるいは,非破廉恥罪,政治犯だから禁錮刑を残すというふうな単純な図式では整理できないであろうと思います。   そういたしますと,刑事裁判の場におきまして,結果については過失であるけれども,そのプロセスにおいて,悪質なものがある場合等について懲役刑の選択の余地を残すということは正当なのですが,刑の執行の場面におきまして,つまり処遇の面では,懲役刑と禁錮刑とを区別し,それらが相互に共通点を持たないような枠組みを今後も維持していくことは,必ずしも合理的ではなく,理論的にも正当ではないと思いますし,また実際の状況にも合っていないものではないかと思うところであります。 ○加藤幹事 今井委員から御指摘のあった点に関連して申し上げたいと思います。過失運転致死傷罪は,改正前は業務上過失致死傷罪だったわけでありますが,その昭和43年の法定刑の引上げに関する経緯というのが参考になると思います。昭和43年の改正は,高度の社会的非難に値する悪質重大事犯に対して,より厳正に対処するための改正ということでございましたが,業務上過失致死傷罪の法定刑のうち,自由刑の部分が「3年以下の禁錮」から「5年以下の懲役若しくは禁錮」と改められて,懲役刑が選択刑として加えられたというものだと承知しております。   この改正は,過失犯であっても懲役刑を科して厳正に対処すべき場合があるということを積極的に示したものだといえます。今の実務感覚としても,行為の悪質性を加味した量刑の問題として,懲役刑を科すか禁錮刑を科すかということを選択しているように思われることからいたしますと,今御意見にあったように,刑事施設における処遇の面で区別すべきであるから,その禁錮刑を存置するという御意見の妥当性は乏しくなっているように感じられます。 ○今井委員 それでは,もう少し続けて意見を述べさせていただきたいと思います。   今,刑事施設における処遇という方向に話が移っているかと思いますけれども,前回の会議で,私の方からも受刑者の方に対しては,彼らにどのような適切な処遇をしていくのがよいのかという観点からスタートして,作業と指導というものの役割分担を考えてはどうかということを申し上げましたけれども,もう少しその点について触れさせていただきたいと思います。   御案内のとおり,刑罰の目的については,いろいろな考えがありますけれども,現在の通説的な考えでは,その配分の比率については意見が分かれますが,過去に行った行為についての応報非難の伝達と再犯予防ということ,特別予防を通じて一般予防にも留意するということで,最大公約数的な理解は保たれていると思います。そういったことを考えますと,有罪判決が確定し受刑している方については,そういった刑罰の目的をいずれも達成するために処遇が義務付けられていて,その中には,まず基礎的な作業というものと,個々の受刑者の特性,あるいは犯した犯罪に応じた指導というものを位置付けて役割分担をすることが可能であろうと思います。   まず,指導の方について考えてみますと,一般的に改善指導ということがなされているわけですが,犯罪を犯した方でありますので,改善指導が不要であるという方は,なかなか想定しづらいと思います。社会に戻っていかれる方ですので,まずは社会の適切な一員として,どのようなことをすべきか,してはいけないかということの改善指導を受けることは義務であろうと思います。   他方で,刑罰の効果として現在課される作業につきましても,これは正しく労働の意味を理解するという意義,社会に戻ったときに自立し,活動していくための前提として労働の意義を再確認する意義を持っておりますので,作業についても基本的に皆さんに義務付けることは正当であろうと思います。   ただ,実際にはもう少し細かく,これはこれからの個別の議論のテーマになろうかと思いますけれども,対象者に応じた目配りが必要であろうと思います。例えば,作業というものが適するかということを考えますと,適さない方もいらっしゃるかもしれません。具体的には特にここで問題となっております若年者等には,そういう方がいらっしゃるかもしれないのですけれども,学力の不足等によりまして,そもそも社会生活に支障があり,いろいろな社会生活を営む上での基本的なルールが身に付いていないという方には,まずは矯正処遇として,教科指導,改善指導を十全に行っていくということが大事な場面も,考えられるところです。   他方で,高齢者あるいは障害をお持ちの方というのは,他の方と同じように集団で作業をといいましても,なかなかそれを強いることが適切でないということもあるでしょうから,そういった個々の受刑者の特質に応じて,作業の割合を適切に配分する,大幅に減らすあるいは作業させないということも今後は検討されてしかるべきではないかなと思うところであります。 ○加藤幹事 法律を適用する立場からの論点提起なのですが,今御発言になったように,仮に自由刑を単一化して作業及び各種指導を義務付けた上で,受刑者の特性に応じて作業あるいは各種指導を行わせるという新たな自由刑を創設するとすると,その刑は今の懲役刑とも禁錮刑とも異なる,第三の種類のものとなるということになると思われます。   そうすると,その施行前後において刑の変更が生じるということになるのかというところが問題になって,刑法第6条により,軽い方を適用することとなるという関係等においては,新たに設けられる自由刑と懲役刑,禁錮刑との軽重が問題となるのではないかと考えるところです。また,その点は,新たな自由刑を設けたとして,その各罪の法定刑をどのように定めるのかという問題とも関係してくると思われます。   現行の懲役刑,禁錮刑及び新たに設けられる自由刑の3種の間で,軽重を定める必要が生じるという点は,その新たな自由刑における作業あるいは各種指導の位置付けあるいは義務付けの在り方とも関係すると思われますので,それらの点に併せて,今申し上げた点も検討に加えていただきたいと考えます。 ○今井委員 今,加藤幹事がおっしゃった点は,実務的にも大変重要な問題だと思いますし,理論的に考えましても,その第三の新しい自由刑というものを,懲役,禁錮とどういうふうなバランスをとって評価するか,極めて難しい問題だと思うのですけれども,その前提といたしまして,今後検討されていくべき一つの対象としての新しい自由刑というものも,やはり理論的には従前の刑罰の目的というもので説明できるものですし,またできなければいけないと私は思っております。   先ほども申しましたけれども,刑罰を科す目的としては,応報と,応報非難が伝達される人の再犯防止という特別予防と,それを通じて一般予防という効果が社会全体に及ぶべき点にある,ということで合意があるわけであります。その上で,新しい自由刑というものを考案したとしても,その中核に入るのは,現在行われている作業と各種指導の組合せでしか当面はないと思います。そのいずれも応報的な側面と予防的な側面を持っているだろうと考えられるところです。   そもそも刑事施設において自由を拘束されているということが,本人にとっては,したくないことを強制されているわけでありますので,応報刑の典型的な発現であると思えるわけであります。   他方で,受刑者の方は,いろいろな指導を受けます。改善指導を受けたり,あるいは教育的な指導を受けたりするということは,先ほど橋爪幹事からも御発言があったと思いますけれども,恩恵的な面というものもあり,その受刑者が出所した後の自立更生を助けるという面がありますけれども,今までの御紹介でもあったと思いますが,対象者によっては,そんなものは受けたくないという方もおられるかもしれませんが,そこはそうは言っても将来あなたのためになるのですということで,例えば教育的な面が足りていない方には教育を受けさせ,グループ討議も行い,社会生活に慣れさせていくというふうなことを義務付けているわけでありますから,各種指導の中にも応報的な面があるということは否定できないと思います。   ですから,そういったような先ほど刑法第6条との関係で,新たな刑罰の重みを比較する際にも,その中核にある作業及び指導というものに,いずれもいろいろな面で移動の自由を拘束することからスタートして,本当はしたくない,いろいろな作業を受けさせる,指導を受けさせるということで,強制的な義務付けという意味では応報的な側面もあり,また,作業においても,出所後の自活を目指すことで再犯予防に資する効果もあるということを踏まえた上で,慎重な検討が必要ではないかと思った次第であります。 ○橋爪幹事 今の点に関連して申し上げたいと存じますけれども,やはり指導を受けることが刑罰の内容かということについては議論があり得ると思います。理論的にも,言わば本人にとってプラスになることを刑罰として位置付ける根拠については,考えておく必要があると思います。   この点について,私なりの理解を申し上げますと,刑罰を本人に不利益・苦痛を与える処分と考えるべきではなく,むしろ本人の意に反しても一定の作為・不作為を義務付けるということ,すなわち意思に反する措置という観点が,刑罰の本質をなすという整理が可能であるように思います。そして,本人にとってプラスかマイナスかということは度外視した上で,意に反しても一定の処分を科すということが刑罰の本質と考えるならば,作業と指導を刑罰の内容として,統一的な観点から説明することが可能であるように思います。   現行法におきましては,刑務作業は懲役刑の内容をなすのに対して,指導については刑罰の一般原理に従って,義務付けが正当化できるという整理がなされていると理解しておりますが,先ほど申し上げたような理解からは,両者をともに自由刑の内容として,一元的に把握することが可能であり,また,そうすべきであるように思います。   刑罰の本質につきましては,それが応報か,あるいは犯罪予防目的かという観点から,見解の対立があるわけでございますけれども,いずれの観点からも,作業や指導を課すことによって,犯罪予防の効果もあり,かつ意に反するという観点が応報という契機に対応すると考えるのであれば,作業と指導を統一的に理解することができると考えております。 ○加藤幹事 今の橋爪幹事の御指摘に対して一つ教えていただきたいのですが,意に反する何らかの行為の義務付けが刑罰の本質だといたしますと,例えば,現行の少年に対する保護処分も,少年の意に反して一定の義務を課しているといえると思われるわけでありますが,それと刑罰との違いというのは,どの辺りにあると考えたらよいかということを御教示いただければ有り難いのですけれども。 ○橋爪幹事 非常に難しい問題でございますけれども,あえて思うところを申し上げますと,刑罰には非難という契機が不可欠なのだと思います。つまり,一定の処分を課すという事実が,本人の犯罪に対する否定的評価を示しており,その処分が非難,制裁としての意味を有するというところに,刑罰の独自性があり,保護処分との基本的な相違を見いだすことができると考えております。このような観点を応報と呼ぶかについては議論があり得ると思うのですけれども,いずれにしましても,否定的評価に対応する非難という観点が,刑罰と保護処分の区別としては意味があると考えております。 ○加藤幹事 ありがとうございます。 ○青木委員 論点という意味で申し上げますけれども,今,作業とその他の改善指導等について,いずれも刑罰の内容という考え方が示されましたけれども,一方で拘禁そのものが正に応報であって,その作業とか各種指導については,それは必ずしも刑罰の内容ではないという整理の仕方もあると思うのですね。ですので,義務付けをするかどうかというのは,必ずしも刑罰であるから義務付けになるという関係でもないと思いますし,前回も出ておりますように,仮にそれで義務付けをしたとしても,その義務履行を担保するためにどうすればよいのかというのは,また別の問題として考えるべきだろうと思います。   それで,今,意に反してもという話がありましたけれども,本当の意味で,本人が社会復帰をして再犯をしないためには,最初は意に反するようなことももちろんあるのかもしれませんけれども,基本的には本人も納得をして,本人もその気になってやるというのが非常に重要なわけで,例えば,作業とその他の改善指導についても,改善指導はほとんど受けたくなく,作業だけをやりたいという人に無理やり改善指導を受けさせるのかとか,そこら辺も含めてどういうバランスでどういうふうにやっていくのが一番よいのかというのは,やはり検討しなければならないと思います。 ○加藤幹事 今の青木委員の御意見に対して,議論のための議論になってしまうかもしれないのですが,今の御趣旨というのは,例えば作業だけをやりたくて改善指導を受けたくないという人が仮にいたとして,そういう者に対する一つの方策としては,本人の希望に従って,それではその作業だけをさせるということも,制度としてはあり得るのではないかという御指摘であったのでしょうか。あるいは,そういう者がいたときに,そういう者に対してどういう処遇をするのが効果的であるかという観点からの御発言と承ればよろしいのでしょうか。 ○青木委員 余り整理できてはいないのですけれども,例えば今は,懲役の場合,作業は正に刑罰として行っているわけですから,義務であるということははっきり言いやすいのだろうと思いますけれども,今の改善指導について,その義務というのをどういうふうに理屈付けるかというのは,今でも問題としてはあるわけですよね。それで,例えば改善指導の中身とか作業を受けるか受けないかとかも含めて,処遇計画があるのでしょうけれども,その処遇計画に本人がどう関わるかという問題とも絡むのだろうと思うのですね。   理屈の問題と実際の問題とちょっとどういうふうに整理したらいいのかというのはあると思いますけれども,例えば今の禁錮の人の場合の作業に関しては義務ではないわけですけれども,作業を受けたいと言って作業を受けることにした上で作業をしなかった場合には,やはりその作業を受けますと言った時点で,少なくともその範囲では,ある種の義務になっているわけですよね。そういういろいろな義務の段階もあるのだろうと思いますので,理論的な問題ともう一つは実際に改善更生にとってどちらが効果があるのかという両面で,そういう検討が必要なのではないかと思います。 ○佐伯分科会長 ほかにはいかがでしょうか。この程度でよろしいでしょうか。   それでは続きまして,「社会内処遇に必要な期間の確保」について,意見交換を行いたいと思います。   1巡目の議論では,社会内処遇に必要な期間を確保する必要性や,その手段として,刑の一部執行猶予制度,仮釈放制度及び考試期間主義を活用するとした場合の検討課題や問題点などについて御意見を頂きましたが,これらの御意見を事務当局がまとめた意見要旨も参考にしつつ,更にこれらの制度の意義や検討課題などについて議論を深めていきたいと思います。もちろんそれ以外の新たな御意見があれば,更に御発言いただきたいと思います。   御意見がある方は挙手をお願いいたします。 ○加藤幹事 質問ですが,前回,青木委員から,考試期間主義についての議論の中で,仮釈放ではなくて,刑の執行猶予と捉えることも考えられるのではないかという御発言がございました。この関係で論点を明らかにするために,その御提案の趣旨というか,意味合いについて1点お伺いをしておきたいのですけれども,仮釈放ではなくて執行猶予と捉えるという見解は,結局その再犯の危険性を基準として仮釈放の期間を定めて,その間,保護観察に付するという考試期間主義とどういう点で異なることになるのか,あるいはそう捉えることによって,仮釈放に対して指摘されているその問題点を,どういったふうに回避できるとお考えになっているのか,それらの点について,もし御教示いただけるようであれば,教えていただきたいのですが。 ○青木委員 これも制度とするべきではないかとまとめられているのですけれども,そういう趣旨で言ったわけではございませんし,しかもほかの制度との関係の整合性だとか含めて,厳密に考えたわけではないのですけれども,どちらかというと,一部執行猶予の拡大という観点で考えたほうがいいのかもしれません。   どんなことを考えたか申し上げますと,今,一部執行猶予がありまして,例えば薬物が多いのですけれども,例えばということで性犯罪の例で申し上げると,性犯罪について一部執行猶予というのもできるわけですね。例えば今の一部執行猶予であれば,懲役2年6月,その一部の懲役8月の執行を3年間猶予して,その期間保護観察に付するというような判断を判決言渡し時にできるわけです。そういう判断をするという理由として,その被告人が更生について意欲がある,あるいは社会内で更生できる条件が整っていて,なおかつ一旦刑務所に入った後に,引き続いて性犯罪者処遇プログラムを受けるということが非常に有効であると考えれば,そういう一部執行猶予を言い渡して,刑務所に一旦入った後,そこで性犯罪関係のプログラムを受けて,なおかつそれを社会で一定期間,これでいえば最大限3年間プログラムを受けるということができるわけです。   一部執行猶予は,今,懲役・禁錮3年以下の場合にしかできません。3年までの話ですので,それを拡大してもう少し幅広くできるようにするということもあり得るでしょう。例えば今2年6月の例で申し上げましたけれども,例えば4年までオーケーということになれば,懲役3年6月の例えば10月分の執行を3年間猶予して保護観察に付するというようなことも,拡大すればできることになると思います。   ただ,その判決の言渡し時点では,その更生意欲というのもよく分からないし,刑務所に入って,何年か経った後に実際にそういう体制が整うかどうかも分からないけれども,この被告人にとっては継続したプログラムを受けさせるのが再犯予防,社会復帰に非常に役立つという判断があるような場合に,その判決の言渡し時点で一部執行猶予を言い渡すのではなくて,例えばですけれども,刑期の半分とか3分の2とか経ったところで,裁判所がもう一度判断をする機会を設けて,そういうふうなことをやりますということを,その判決の言渡しに例えばですけれども,言い渡すようなことができるようにしておいて,例えば刑期の半分なり3分の2なりを過ぎたところで,その判断をすると。   例えば,その時点では施設内でプログラムを非常に真面目に受けていて,実際に社会に出たところで,そういうプログラムの効果を発揮するには,社会内でもそういうプログラムを受けさせることが非常に重要なわけですから,それを残りの刑期のうち,先ほどの3年6月の例でいえば,10月分の執行を3年間猶予して保護観察に付するという判断を裁判所がするというふうな仕組みにすれば,仮釈放は併存していいわけですから,仮釈放になって一定の期間保護観察ができるのであれば,その必要はなくなるわけですけれども,そういうような形で実際に,そういう継続的な社会内処遇が必要なものについては,一定の時期に見直しをして,早く社会に出して,そこで保護観察期間を設けるというようなことは,制度としてあり得るのではないかと考えたということです。 ○加藤幹事 お考えはよく分かりました。確認をさせていただきたいのですが,刑の一部の執行猶予を,判決時ではなくて,受刑が始まってから判断するというお考えだとすると,やっていることは現在の仮釈放制度とかなり似ているのではないかと思われます。刑の途中で社会内処遇に移行するという意味では仮釈放制度と似ていて,期間の問題については,考試期間主義といわれるものであれば,いわゆる残刑の執行に限られないので,その考試期間主義と類似するように思われるわけです。   そうすると,判断者が裁判所であるという点,すなわち,仮に仮釈放について考試期間主義をとったとしても,現在の制度を前提にすると,判断者は行政機関なので,判断をするのが裁判所である点が一番の相違であると承って間違いないでしょうか。 ○青木委員 裁判所が判断するというのが大きな違いだというのが一つと,それと仮釈放というのは,必ずしも本人の社会内処遇,その社会復帰にとって必要かどうかという判断だけでやるわけではないですよね。だから,そういう意味でいうと,先ほど申し上げましたように,一部執行猶予の制度趣旨を少し広げて判断時期をずらしたというふうな感覚です。仮釈放がそのまま存在した上での話ということになります。 ○加藤幹事 ありがとうございます。 ○今井委員 青木委員に御質問ですが,御趣旨は私も大変よく分かりまして,一部執行猶予の制度趣旨をどこまで広げるかという御発想というのは分かったのですけれども,ただ,刑の一部執行猶予を検討する際にも,同じようなアイデアは出ては消えていたのだろうと思います。その際にはやはり一番大きく問題となりましたのは,裁判所という概念をどこで使うかということでありまして,前回も申し上げましたけれども,刑罰適用裁判官のような制度を作りまして,事後的にも刑の執行全般にわたって,裁判所が責任を持つのであるという枠組みであれば可能だと思いますけれども,やはりそこまでいくには,日本の法制度の下ではいろいろとクリアすべきものがありますし,他方で現在の仮釈放の実施が,特に問題がないということであるならば,既存の制度を活用しつつ,例えば青木委員の言われたようなアイデアをどこかに組み込むことができないかということを考えたほうがいいのかなと思って伺っていたのですけれども,そういう理解でもよろしいでしょうか。今何かその青木委員の御意見についてコメントがあるわけではないのですが,全般的な感想を持ったので,確認させてください。 ○青木委員 先ほどから申し上げてきましたのは,私がこの制度が是非やりたいとかという趣旨で申し上げているわけではなくて,いろいろな枠組みを考えたときに,一つの制度としてそういう形もあり得るのではないかと。それで,今,裁判所が執行に関わる制度にはなっていないというお話でしたけれども,どちらかというと,執行に関わるというよりは,先ほど申し上げましたように,言渡し時点での材料がある意味乏しい場合に,それをちょっと待っていていただいて,その延長で,そのときそろった材料に基づいて,その言渡し時と同じような枠組みの中で判断をするという程度の話なので,仮釈放全般について,その刑の執行全般について裁判所が関わるというほど大掛かりなことではなくできるのではないかと考えたということです。 ○今井委員 分かりました。 ○橋爪幹事 考試期間主義について若干思うところを申し上げたいと存じます。   考試期間主義につきましては,保護観察の期間を柔軟に定めることができ,社会内処遇によって受刑者の改善更生を図る手段として,大きなメリットがあると思われますし,学説上も有力に主張されており,個人的にもシンパシーを感ずるところはございますが,改めて考えますと,これを導入するためのハードルは相当に険しいと思うところがございます。   仮釈放期間を残刑期間に対応させないということは,前にも申し上げましたけれども,刑の事後的変更を意味しますから,これを正当化するためには裁判所が関与することが必要であると考えますが,具体的に裁判所がどのように関与すべきかという点について,私なりに考えてみますと,検討課題は多岐にわたるように思います。幾つか思うところを申し上げたいと存じます。   まず,誰が裁判所に対して申立てをするのかについては検討する必要がありますし,その際に誰が資料を提出するか,また,どのような資料が必要かについても,検討が必要かと思います。   また,裁判所が判決後に生じた事情に従って実質的に刑の変更を行うわけでありますので,事実認定の在り方や証明責任についても,検討する必要があるでしょう。また,本来,刑事裁判所は,行為責任に従った判断を下すわけでありますので,裁判所が本人の改善更生の状況や,再犯の危険性を判断するということは,一般的な刑事裁判における判断とは異質な内容が含まれておりますので,現実的にこのような判断が可能かという点についても検討が必要と思われます。   更にもう1点申し上げますと,飽くまでも裁判所は実行行為の責任に従って刑を科すわけですので,事後的に刑期を超える仮釈放期間を設けるということは,刑を加重する方向で変更するということを正当化することになります。これは場合によっては行為責任の範囲を逸脱する危険があるように思いますので,責任主義との関係で,これが正当化可能かについても考えてみる必要があるかと存じます。   このような次第で,検討事項は多数ございます。考試期間主義の導入については,これらの点を踏まえた慎重な検討が必要だと考える次第です。 ○福島幹事 2点申し上げたいと思います。   1点目は,橋爪幹事がいろいろと御指摘になったことは,私もそのとおりだと思いまして,それに追加して,こんなこともあるのではないでしょうかということを申し上げたいと思います。   考試期間主義は刑の事後的変更だが,そこは裁判所が関与すればクリアできるのではないかという指摘もあるのかもしれませんが,果たして本当にそうなのかということは,よく考えたほうがいいのではないかと思った次第です。   実務を考えてみますと,例えば,被告人の立場からしますと,刑事裁判である刑を宣告されて,その刑ならしょうがないかということで上訴をしなかったところ,その後,事後的に刑が変更されてしまうと。そうすると,こんな刑になるのだったら,刑事裁判のときに事実関係も含めて本当はいろいろ言いたかった,そういう機会は今からでも与えられるのだろうか,刑事裁判でも本当は言いたかったというようなことはないのでしょうか。   つまり,何が申し上げたいかというと,裁判が確定する,あるいは刑が確定するというのは,理論的にはもちろんですけれども,実際の裁判実務においても,とても重要な意味を持っていると思います。どのような刑で確定させるのかということに向けて,両当事者は攻防を尽くしていると言ってもいいのではないかと思います。   そのような中で,一度確定した刑を事後的に変更するということについて,本当に問題がないのかということは,よく考えたほうが,慎重に検討したほうがいいのではないかと思いましたので,その点を追加させていただきます。   2点目ですけれども,この分科会等の議論でも,刑の一部執行猶予制度の拡大・活用に関する議論においては,その刑の一部執行猶予制度はまだ開始されたばかりの制度なので,今後の運用の実績を慎重に踏まえて検討するべきではないかという指摘がされているところでございますが,このことは考試期間主義についても当てはまるのではないかと感じているところです。   つまり考試期間主義が提案されているのは,現行の仮釈放制度では残刑期間に限られますので,十分な社会内処遇の期間が確保できないという問題意識からなされていると理解していますけれども,この問題意識は,正に刑の一部執行猶予が導入された際の問題意識と全く同じであると思います。   改めて申し上げるまでもありませんが,法制審議会「被収容人員適正化方策に関する部会」において,施設内処遇の後,一定の期間の社会内処遇を確保するための制度として,刑の一部執行猶予制度のほかにも必要的仮釈放制度,あるいは分割刑制度,あるいは考試期間主義なども検討の俎上に載って議論した結果,刑の一部執行猶予制度を導入するということになったわけでございまして,現場でも準備に準備を重ねて,ようやく新たな制度をスタートさせたところです。   このように同じ問題意識の下,新たに導入された制度の運用を見守ったり,あるいは分析したりすることなく,また新たに別の制度を導入するというのは,検討の手順といいますか,方法としてどうなのかという気がいたします。   考試期間主義の導入は,実務にも極めて大きな影響を与える制度でございますので,それだけに慎重で丁寧な検討が必要ではないかと思う次第です。 ○今井委員 今の福島幹事の御発言を踏まえてでありますけれども,刑の一部執行猶予制度を導入した際の議論,あるいは考試期間主義というものが主張されている理論的な背景というのは,御指摘のとおりだろうと思います。そういうことを踏まえまして,現在の制度をよりうまく活用していくという際には,あるいはそういうことを考える際には,前にも伺ったわけですけれども,現在の仮釈放期間,保護観察期間が短過ぎて十分な社会復帰の援助期間となっていないのではないかという問題意識があるのではないかということを指摘させていただきました。   この点につきまして,改めて事務当局に伺いたいのですけれども,仮釈放の期間が短いために,具体的な処遇において困難を生じている場合や,あるいは期間を確保することで一定の効果を上げると期待されているのかというところを,御経験あるいは実務的な知見を基に少し情報提供をしていただければと存じます。 ○今福幹事 前回私から,仮釈放者の資質や環境の特性あるいは問題性等は様々であり,社会復帰に必要とされる条件や関わり方も異なりますことから,現在の保護観察の期間が社会復帰に必要な期間となっているのかについては,一概にお答えすることは困難という趣旨のことを申し上げました。その上で,仮釈放の期間が短期間である者に対する保護観察の実情について申し上げましたが,その点について,もう少し補足して説明させていただきます。   最初に,本人が刑事施設に収容されますと,刑期の長短にかかわらず生活環境の調整のプロセスを開始いたします。具体的には保護観察所から指名した担当保護司が,対象者の家族等の引受人と接触して,出所後の生活,例えば就労あるいは住む場所について相談に応じながら,社会復帰の準備を進めてまいります。また,中には高齢者あるいは障害を有する受刑者がおりました場合に,福祉的支援が必要ということになりますと,刑事施設収容中から刑務所に配置されております社会福祉士や,あるいは帰住先の市町村担当者などの協力も得ながら,出所後のグループホーム等への入居調整などの準備を始めたり,仮釈放期間中に生活保護の受給手続を助けることなどをいたしまして,仮釈放期間満了後も引き続き福祉的支援が受けられるような支援を実施しているという状況にございます。   このように生活環境の調整をあらかじめ行い,出所前から社会復帰に必要な準備を進めることで,仮釈放期間が短い者に対しても,釈放後に効果的な処遇を行えるようにしていると,これがまず第1点でございます。   次に,仮釈放期間が短い者で,頼れる家族などがいないという場合がございます。こういった場合は,更生保護施設に短期間帰住させ,その間に次の居住先の調整として,公営住宅などへの入居の橋渡しをすることもございます。また,仮釈放期間が満了した後でも保護が必要な場合ですと,引き続き更生緊急保護によって更生保護施設に必要な保護を継続するということもございます。   さらに,仮釈放期間が短くて専門的処遇プログラムの実施期間に満たないために,特別遵守事項としてプログラムを義務付けて実施できないという場合がございます。こういう場合でも,プログラムの一部を任意で実施して,本人の問題性への気付きを促し,再犯防止のための行動を本人自身に考えさせて,その結果を再発防止計画としてまとめさせるなどの必要な指導も実施しているところです。   このように仮釈放期間が短い場合でも,これらの方法を組み合わせて実施することにより,本人の問題性に応じて犯罪傾向の改善を図っているところでございます。   冒頭にも申し上げましたとおり,処遇に必要な期間は対象者によって異なるため,現行の仮釈放期間の中で行われているこれらの処遇による効果が十分であるか否か,あるいは仮釈放期間をより長く確保することが,どの程度処遇効果を上げることにつながるのかなどといった点については,一概に申し上げることは難しいと考えております。 ○今井委員 どうもありがとうございます。   実務でどういうことをなさっているか,改めて理解が深まったと思います。今伺っておりましても,個別の対象者の処遇の必要性,あるいは保護の必要性というものが時間的にも変わってくるのではないか,仮釈放の期間が短いからといって十分なケアが必要でないとは必ずしもいえないのではないか,と思われるわけでありまして,機動的で適切な処遇をしていくためには,やはり現行制度のように行政官庁が責任を持って対応なさるのが適切なのではないかなという感想を持ったところであります。   そういうふうな感想を踏まえて申し上げますと,例えば考試期間主義をとった場合には,残刑期間に限定せず仮釈放期間を裁判所において定めるという制度・枠組みになるかと思いますけれども,それは裁判所に所定の情報が集まったとしても,情報の使い方という面においてやはりちょっと無理がありそうな気がしておりまして,現時点の感想になりますが,また随時実状等に係る情報の提供をしていただきまして,分析をし,理論的な点を踏まえて,今後,特に若年者に向けて組むべき最適な措置は何かを検討していったらどうか,と思った次第であります。 ○佐伯分科会長 ほかにはいかがでしょうか。この程度でよろしいでしょうか。   それでは,以上で第1分科会が担当いたします4つの論点について,2巡目の意見交換をしたということになりますが,これらの論点について,現時点で更に御意見がある方がいらっしゃれば挙手をお願いいたします。ございませんか。   それでは,これで2巡目の意見交換を終了いたします。   ここで,本日の会議冒頭でも申し上げました中間報告についてお諮りしたいのですが,本分科会は,本日も含めて3回にわたり4つの論点について,関係する従来からの制度,運用あるいはこれらに対する評価・問題点等を把握しつつ,各論点に掲げられました制度や措置の意義,在り方などについて,意見交換を行いました。   本分科会で行われた意見交換の内容について,その要旨を中間報告として取りまとめ,12月19日に予定されている部会第6回会議において報告することとしたいと思います。   その中間報告のための資料内容については,事前に当分科会の構成員の皆様にお示ししたいと思っておりますが,分科会として部会に報告するという資料の性質のほか,部会までの期間の問題もあることから,取りまとめにつきましては基本的に分科会長である私に御一任していただきたいと存じますが,よろしいでしょうか。                 (一同異議なし)   それでは,部会に報告する中間報告の内容については,分科会長である私に御一任いただいたということで,私の責任におきまして,中間報告の内容を取りまとめて,部会に報告したいと思います。   以上で,本日の審議を終了したいと思います。   今後の予定について,事務当局から説明をお願いいたします。 ○隄幹事 今後の予定についてですが,部会第6回会議が,12月19日火曜日午前10時から予定されております。場所は,この建物の17階の東京高等検察庁の会議室となります。 ○佐伯分科会長 本日の会議の議事につきましては,特に公表に適さない内容に当たるものはなかったと思われますので,発言者名を明らかにした議事録を公表することとさせていただきたいと思いますが,よろしいでしょうか。                 (一同異議なし)   それでは,そのようにさせていただきます。   本日はどうもありがとうございました。 -了-