法制審議会 会社法制 (企業統治等関係)部会 第7回会議 議事録 第1 日 時  平成29年11月 1日(水)   自 午後 1時32分                          至 午後 4時51分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  会社法制(企業統治等関係)の見直しについて 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○神田部会長 それでは,予定の時刻になっておりますので始めさせていただきます。法制審議会会社法制(企業統治等関係)部会の第7回目の会議を開催させていただきます。   本日も,皆様方には,大変お忙しい中お集まりいただきまして,誠にありがとうございます。   それでは,いつものように,まず本日の会議の配布資料の確認をさせていただきたいと思います。事務当局からお願いいたします。 ○竹林幹事 お手元には,議事次第,配布資料目録,部会資料の10から12まで,参考資料33,委員等名簿を配布させていただいております。   資料に訂正等がございまして,まず議事次第でございますけれども,次回日程のところの場所の記載でございますが,法務省20階第1会議室と書かせていただいておりますけれども,地下1階大会議室,本日と同じこの部屋に変更されておりますので,訂正をさせていただきます。   また,配布資料目録でございますけれども,こちらは訂正と申しますか,参考資料について記載がされておりませんけれども,本日追加で参考資料33を配布させていただいています。   なお,本日は,藤田委員が御欠席,また,大竹委員が遅れて御参加になる旨,御連絡を頂いております。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   よろしゅうございますでしょうか。   それでは,本日の審議に入らせていただきます。   本日ですが,お手元の議事次第記載のとおりですけれども,第二読会として,三つのテーマを取り上げます。   一つ目が,役員に適切なインセンティブを付与するための規律の整備に関する論点の検討の続きということです。二つ目が,社債の管理の在り方の見直しに関する論点の検討,そして,三つ目が,その他の規律の見直しに関する論点の検討ということになります。これらについて御審議をお願いいたします。   そこで,まず最初に,役員に適切なインセンティブを付与するための規律の整備に関する論点の検討の続きについて,審議をお願いしたいと思います。   お手元の部会資料10について,事務当局から御説明をお願いいたします。 ○邉関係官 それでは,部会資料10の第2「会社補償に関する規律の整備」について御説明いたします。   冒頭の補足説明に記載のとおり,会社補償に関する規定を設けるかどうかということにつきましては,第一読会においては,消極的な御意見も一部ございましたが,株式会社と取締役との間の会社補償に関する契約の締結が利益相反取引に該当する,又は該当し得ることを理由に,それに代わる適切な規定を設ける必要があるという御意見や,会社補償に関する規定を設けることで,現行法上許容されない範囲についても,新たに会社補償を許容することができるようになるという御意見など,会社補償に関する規定を設けることについて,積極的な御意見も多くあったところです。   第一読会に引き続き,会社法に会社補償に関する規定を設けることについて,1以下の具体的な内容と併せて御議論いただきたいと考えております。   「1 補償契約」に記載している内容は,第一読会からは大きく変更を加えておりませんが,1点,和解金についても損害賠償金に準じて取り扱うことを明確化する趣旨で,2ページ目の②のイを新たに加えております。   なお,補足説明の1に記載のとおり,本文は,補償契約を締結しない場合であっても,会社法第330条及び民法第650条に基づき,一定の範囲で取締役に対する会社補償が認められるときがあることを否定するものではございません。   また,第一読会においては,役員等が善意無重過失であるかどうかを問わずに,役員等が防御活動に要する費用を補償することができるものとしていること及び株式会社が責任を追及する場合であっても役員等が防御活動に要する費用を補償することができるものとしていることについて,消極的な御意見も頂いたところですが,補足説明の2及び3に記載しているような理由から,これらについて,いずれも第一読会における内容に修正を加えておりません。   3ページ,「2 株主総会の決議又は取締役会の決議」についてですが,第一読会においては,A案のように,補償契約の締結と補償の実行の双方について決議を要する案について御議論いただきました。第一読会においては,このように二度にわたって決議を要するものとすることに対して,消極的な御意見も頂きましたので,今回はB案のとおり,補償契約の締結についてのみ決議を要するものとした上で,取締役会設置会社においては,補償契約に基づく補償をした取締役及び当該補償を受けた取締役は,遅滞なく,当該補償についての重要な事実を取締役会に報告しなければならないものとする案も記載しております。A案とB案のどちらがよいかなどについて,御議論いただきたいと考えております。   「3 利益相反取引規制の適用除外」及び「4 事業報告における開示」は,第一読会の内容から変更ございません。第一読会において,開示については,これを広く要求すると,役員等が会社補償制度を利用することをちゅうちょすることになるのではないかという消極的な御意見もあったところですので,第一読会に引き続き,開示の在り方について御議論いただきたいと考えております。   私からの説明は以上です。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   それでは,この部会資料10について,皆様方から御質問,御意見を頂ければと思います。どの点についてでも,また,どなたからでも結構でございます。   それでは,お願いします。   古本委員,どうぞ。 ○古本委員 ありがとうございます。   会社補償については,経済産業省が2015年7月に公表した法的解釈指針を参照しつつ,各社が,個々の場面に応じて実務対応しているところであり,経団連としては,新たな規定を設けていただくニーズ,実務的要請は,ほとんどないと考えております。   仮に規定を設けるということであれば,優秀な人材の確保,職務執行における萎縮の防止,役員等の適切な防御活動の担保,それから,それによる会社の損害の拡大抑止といった観点から,適切な範囲で補償が可能となるように制度設計すべきであろうと考えております。   この観点から,御提案の内容について,若干コメントさせていただきます。   まず,1番の補償契約ですけれども,①の費用はともかくとして,②の損害については,この規律のままでは補償の対象となる場面が極めて限定されるのではないかと思います。「第三者に加えた損害を賠償する責任を負う場合」とありますので,恐らくこれは,民法上の過失に基づく不法行為責任が認定された場合等を想定しているのだと思いますが,そういう理解が正しいかを確認させていただきたいということがまず1点です。仮にその理解が正しい場合,実際に補償が可能となるのは,会社において,役員等に過失はあったが,重過失はなかったと自信を持って判断できる場合に限られることになると思います。   それから,最後まで訴訟で白黒付けるよりも,実際には和解による解決を目指すケースが多いと思います。仮にイのような規律を設けた場合,和解の後に,補償の実行の適法性をめぐって,悪意であったか,重過失があったのかということが蒸し返される可能性があると,補償契約を活用して和解をすることが実務的には困難になるような気がします。   さらに,資料本文の括弧書きのところについては,前回も申し上げましたが,会社と役員等が連帯責任を負う場合に,会社が損害を賠償した際に,役員等が会社に対して423条の責任を負うときは,その部分を除くとなっておりますが,やはりこれでは損害についての補償の対象が大きく限定されてしまい,②の規律を設ける意味合い自体が非常に限定されると言わざるを得ないのではないかと思います。   それから,2の取締役会の決議につきましては,A案かB案かということであれば,B案とすべきだと思います。A案を採りますと,前回申し上げましたけれども,弁護士費用の支払の都度,取締役会決議が必要になるといったように,手続的に煩雑に過ぎますし,支払が取締役会で認められないかもしれないとなると,弁護士に受任してもらえないといったようなことが起こり得るという弊害も出てきますので,A案は適当ではないと考えております。   それから,4の事業報告における開示につきましては,これも前回も申し上げましたし,資料の補足説明にも記載いただいておりますけれども,役員等が会社補償制度を利用すること自体をちゅうちょすることとなるようなケースも想定されますので,開示によるマイナス面も十分に考慮すべきだと思います。仮に会社補償制度を利益相反取引規制の観点から制度設計するとしても,利益相反取引においては事業報告での開示は求められておりませんので,会社補償のみ事業報告で開示させる合理的な理由はないのではないかと思います。また,御提案の開示事項は,責任限定契約に関する開示事項と類似しているように思いますが,1の補償契約での補償対象は,少なくとも今の時点では,費用とごく狭い範囲での第三者に対する責任に限定されておりますので,責任限定契約類似の開示まで求める必要はないのではないかと考えております。   いずれにしましても,2のB案にある取締役会での決議と報告,これをベースとする取締役会の監督に委ねれば十分であろうと考えます。   繰り返しになって恐縮ですけれども,経団連で再度議論いたしましたが,会社補償の規律導入を望む声はございませんでした。仮に規定化するのであれば,対会社責任と併せた整理をすべきであって,業務執行取締役の責任限定契約についての検討を併せてするべきではないかと思います。   なお,D&O保険につきましては,資料冒頭の注に,第三読会以降に議論すると記載されておりますが,D&O保険に関する規律の新設につきましては,実務としての要請は更に小さい,ほとんどゼロと言ってもよいと思います。したがって,D&O保険については,仮に法制化するとしても,前回も申し上げましたけれども,アメリカのデラウェア州法のような簡潔な「できる規定」といいますか,確認的な規定にとどめていただきたいと思います。 ○神田部会長 どうもありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。   小林委員,どうぞ。 ○小林委員 ありがとうございます。   会社実務というところで,今,多くのことを古本委員の方から述べられておりますが,日本商工会議所の方で検討いたしました際の観点としては,大きな考え方として,役員に対して積極的にインセンティブを付与できる制度としてこのような規律を設けるのであれば,企業に利用しやすい制度としていただきたいということが入口としてございます。今回の部会提案の内容を日本商工会議所内部で検討したところ,これを利用したいという声はなかったということがございます。   現時点で,この内容であれば,あえて会社補償について規律を設ける意味はないのではないかというところが結論に近いところでございますが,内部的に検討を行ったところでは,まず,「1 補償契約」の①と②ではかなり差がございまして,①については,一定程度配慮いただいているとは思いますけれども,②につきましては,やはりかなり補償の範囲が限定されるという印象を持ちます。   括弧書きのところの,会社が求償しなければならないというふうに読める部分があると,現実には,負担割合を決めるのは非常に難しいので,以前申し上げた業務執行取締役等についての責任限定契約があればともかく,今はそれがセットで議論されていないので,まずここが非常にハードルとして高そうだと考えます。また,善意無重過失という概念が入っていますけれども,現実に会社として検討するとなると非常にハードルが高く,例えば,悪意又は重過失が明白である場合を除いては補償してもよいとか,かなり法律の案文として緩やかな形にしないと難しいと考えます。そういう意味で言いますと,挙証責任がかなり緩やかでないと厳しいと思っております。そうでなければ,事後的に様々な訴訟リスク,別な意味での責任追及リスクが出てしまう可能性があるということは,やはり懸念されます。   判決が出ていればまだしも,実務的には,この類いのものは和解で解決することが多いということになりますと,この部分についての責任割合,あるいは,善意無重過失を切り分けることは極めて難しくて,このような補償契約そのものを結んでも意味がなく,利用されない制度になってしまうと思われます。   もう一つ,株主総会の決議又は取締役会の決議については,補償時にも一定の議決を要するというところで,やはりA案は重いと考えておりまして,もし検討するとすればB案かなというところはございますが,商工会議所としては,取締役会設置会社以外の株式会社となると多くの中小企業が含まれますから,これらの企業に対して会社補償で必ず株主総会の決議が必要ということであれば,補償契約を締結することは極めて困難ということで,事実上使われない制度になってしまうと考えます。   どのくらいのニーズがあるかという問題は別にしても,メッセージ効果としても非常にマイナスであるとしか考えられませんので,そういう意味では,少なくとも取締役会非設置会社について,株主総会決議を要するということであれば,反対でございます。   事業報告における開示につきましては,やはり開示義務の萎縮効果は大きいと考えております。開示内容としての補償契約の額等を開示させるということについて,現実に即して考えたときには,これをあえてここで開示させることは適当ではないという印象を持ちました。   そういたしますと,繰り返して申し上げますと,この提案の内容では,あえて会社補償の規律は必要ないという結論になることを申し上げます。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。   どうぞ,稲垣委員。 ○稲垣委員 会社補償に関する規律の整備のところで,基本的な考え方について,前にも申し上げましたとおり,今後,社外取締役も増えていくという環境の中では,会社補償は基本的なインフラの一つだと考えております。そういった意味におきましては,現状においても,補償契約を締結しない場合であっても,一定の範囲で取締役に対する会社補償が認められるときがあることを否定するものではないとありますけれども,現状に対して,より限定的に働くような立法というのは,その方向に対しては反しているのではないかと思いますので,今いろいろな御意見も出ましたけれども,仮に立法するという場合におきましても,補償の範囲,内容について限定的に働くような立法というのは時代の流れに反しているのではないかと考えます。   補償契約の締結や補償の実行に関する決議につきましては,B案,つまり,取締役会設置会社においては,補償契約の締結についてのみ取締役会で決議するという考え方に沿ってまとめるのが妥当であろうと考えております。やはり,一度契約を結んだ以上,それにのっとった履行がなされるわけですから,補償の実行に際しても取締役会の決議を行うということは必要ではないと考えております。   最後に,事業報告における開示ですけれども,やはり限定的に考えるべきでありまして,特に③の費用等を補償した場合には,その額というのは,B案におきましても,取締役会にて補償契約の内容について決議をした上で,その履行として,実際上の経営判断として行われている以上,その額について事業報告において開示をするという必要は全くないと考えます。   私の意見は以上です。 ○神田部会長 ありがとうございました。   ちょっと戻って恐縮ですけれども,古本委員から御質問があったように思いますので,もし事務当局から何かあれば,お願いします。 ○竹林幹事 古本委員から御質問を頂きましたのは,どういった場合に賠償責任が成立することを念頭に置いているのかという点についてだったかと思いますけれども,典型的には,民法上の不法行為責任が成立するような場合を考えております。 ○古本委員 ありがとうございます。 ○神田部会長 よろしゅうございますか。どうも失礼しました。   実務の方からは大分御意見を頂いておりますけれども,ほかにいかがでしょうか,御意見等は。   どうぞ,成田幹事。 ○成田幹事 ありがとうございます。   制度創設の要否などにつきましては,こちらとしては定見がありませんが,もし制度を創設するということであれば,明確なルールを作っていただければと思います。   そういった観点で,一つ御質問があるのですが,1の①の「相当と認められる額に限る」というところがちょっと気にはなりまして,恐らく弁護士報酬等が対象になってくるのかとは思うんですが,弁護士報酬といっても,幅が相当あるところかと思いますので,裁判をする側としては,どの辺りをもって相当と見るのかというのは,なかなか悩ましいかなと思いますので,その辺り,何かお考えがありましたら,教えていただけますでしょうか。 ○神田部会長 ありがとうございました。 ○竹林幹事 基本的には額の相当性を見るということですが,例えば,どのような訴訟活動をどのようにされたのかと,なかなか典型的な例を示すというのは難しいのかもしれませんけれども,訴訟活動に応じた費用として,過分に高額でないというようなことを考えております。もちろん,個別具体的な事案に照らしてということになってこようかとは思っております。 ○神田部会長 よろしいでしょうか。   それでは,前田委員,それから松井幹事の順で,前田委員,お願いします。 ○前田委員 新たな規律を整備すべきことについては,補足説明でお書きくださっていますように,今のままでは,やはり法的に不安定な状態が続くことになると思いますので,規律の整備に向けて検討を進めるべきであると思います。   そして,1の補償契約のうち,費用の補償に関して,役員等に悪意重過失がある場合,あるいは会社,株主による責任追及の場合にも補償できるという案について,第一読会のときは,これは広過ぎないかと懸念を持っていたのですけれども,確かに補足説明で書いてくださっていますように,これらの場合にも補償を認めていい場合はあるのだろうと思います。   元々費用の方は,補償を広く認めることにしましても,賠償金の方とは違いまして,責任の抑止機能を損なうことは考えにくいと思いますので,役員等に悪意重過失がある場合,あるいは会社,株主による責任追及の場合にも,補償を法律で一律に禁止することまではしないという御提案に賛成したいと思います。   それから,2のA案,B案のところは,非常に迷うところでありまして,補償契約で細目まで具体的に定められていて,それに基づいて補償するかどうか,あるいはどれだけ補償するかについて,裁量の余地がないような場合なら,確かに二度も決議をする必要はないと思うのですけれども,補償契約の内容次第では,補償するのか,どれだけ補償するのかについて,相当に裁量的な判断が必要になってくるのだと思います。そして,補償契約の内容次第で手続を書き分けることは困難だと思いますので,ここは慎重にA案を採っておくのがいいのではないでしょうか。手続が少し重くなりますけれども,安易に補償が認められますと,責任の抑止機能が損なわれてしまいますので,ここはこれくらい慎重にしておいた方がいいのではないかと思います。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   それでは,松井幹事,北村委員の順でお願いします。   松井幹事,どうぞ。 ○松井(智)幹事 これは,前田先生がおっしゃるのと同じように,ニーズの問題ではなく,このような規制を導入しないと,現在ある法的な不安定性を解消できないという観点から,望ましいというふうに歓迎されなくても,検討すべき議題であるというふうに思います。その上で,やはり受け入れてもらえるといいますか,使って社会に困った影響が起きないということは,ある程度勘案しなくてはならないというふうに思います。   その点からですけれども,何点か御指摘ありましたが,1の②の会社が当該第三者に対して当該損害を賠償する責任を負う場合において,役員等が連帯責任を負うときという点なのですけれども,これは契約に従って履行してしまう,履行するということ自体は,それは先に決まっていたことをやっているだけでありますので,ここの責任といいますのは,補償契約を結んだ段階での判断の妥当性という問題に帰着するのだと思いますし,それほど不当な話ではないのではないかというふうに思います。   一方で,A案,B案という話は,機動性という点を考えると,B案というのもあるのかなというふうには思いますけれども,和解に関して,額が明らかになるのが嫌で,会社が和解に応じなくなってしまうというような効果がもしありますと,原告側が,例えば余り資力等がないのに,頑張って訴訟しているという場合の救済に欠けてしまうような効果もあるのではないかという気もいたしますので,額を開示することについて,どういう案件について,どういう賠償をしたのかということを,もう少し間接的にといいますか,開示できる方法がないものかというふうには思いました。 ○神田部会長 ありがとうございました。   北村委員,どうぞ。 ○北村委員 発言の機会を頂き,ありがとうございます。   前田委員と松井幹事がおっしゃったこととかなり重複いたしますけれども,この規定を設ける意味は,3のところにありますように,補償契約が利益相反取引に該当し得るため,その適用を除外するところにあります。そのため,私は新たに規定を設ける意味はあると思っております。   使い勝手については,確かに1のところをどのように工夫するかについて,議論の余地があろうかと思います。補足説明の3のところの会社が原告になる場合についての問題点を第一読会で指摘させていただきましたが,それに対するお答えとして,例えば会社の支配権に異動が生じた場合や,会社内に内紛が生じている場合は,なれ合いの懸念が必ずしも妥当しないと述べられております。しかし,私には,余り説得的ではないような気がいたします。   2のA案,B案につきましては,先ほど前田委員が,慎重にするためにはA案がよいとおっしゃいました。ただ,慎重な機関決定に基づき補償契約を締結したのであれば,ある程度,取締役の裁量で,具体的な補償をする旨の決定をすることとし,もしそれが間違っていれば,補償を決定した取締役の責任を追及するということでもいいような気がいたします。ただ,補償契約における裁量の範囲が余りにも広過ぎるときに,B案でいいのかと言われると,少し悩むところでございます。   開示につきまして,補償契約を利益相反取引とパラレルに考えますと,先ほど古本委員が指摘されたように,確かに開示すべき事項は詳し過ぎるように思います。せっかく制度を作っても,開示の問題からこの制度が余り使われなくなるのはいかがかと考えますので,学者の立場でこのようなことを述べると変かもしれませんが,開示内容をやや抑え気味にしてもよいのではないかという感想を持ちました。 ○神田部会長 ありがとうございました。   それでは,経産省の坂本幹事,どうぞ。 ○坂本幹事 ありがとうございます。   参考資料33ということで,経済産業省としての意見をまとめたものをお配りさせていただいております。かいつまんで発言させていただきます。   部会資料の1,会社補償に関してでございますが,繰り返しになりますけれども,非常にスピード感が高まっている経営環境の変化により,果断な経営判断を求められるといった状況の中で,優秀な人材の獲得競争,グローバルな競争というものに必要なインフラとして,会社補償というものの意義があると考えますので,会社法上の規律付けを考えるに当たっては,こういった観点で御検討いただければというふうに思っております。   具体的には,1の補償契約に関しまして,①の防御活動に要する費用については,御提案に賛同したいと思います。②の損害賠償金につきましては,何人かの委員からもございましたように,主観的要件,善意無重過失のところに関しましては,例えば判決が出た場合や和解が成立したような場合に,実務上,必ずしも善意無重過失であったかどうかというところが確定しないケースが想定されるということを勘案いたしますと,こういった場合に,株式会社として,主観的要件に該当しているかどうかというのを判断するのは必ずしも容易ではないという中で,過度に補償の実行が抑制的にならないように,あるいは予見可能性が十分に確保されるようにという観点は,非常に重要になってくるのではないかと考えております。   そういった点から,例えば,先ほど別の委員からもございましたように,実際に,せっかく規律付けをして使いやすくしていただくのであれば,主観的要件に関して,悪意重過失であることが明らかな場合には会社補償の対象から除外するといったような形で,会社補償が十分機能するような形での規定の形というのも御検討いただけないかということ,もう一つ,株式会社が役員に対して求償可能な部分を除外するという点につきましても,こういった内部負担の割合について,株式会社において判断するということも,必ずしも,実際には容易ではないのではないかということを考えますと,以前の部会資料にもございましたように,結局,補償する場面が極めて限定的になるといったようなおそれがあるのではないかということを考えております。   そういった点から,業務執行取締役等につきまして責任限定契約の締結を認めるといったようなことにつきましても,会社補償と密接に関連をした論点として,一体的に議論していただくということも,十分考えられるのではないかというふうに考えております。   部会資料の2の手続のところでございますが,こちらについては,適時の補償の実行という観点から,B案が適当ではないか,すなわち,適正性の担保については,補償契約の締結に関して,取締役会等の決議を経ておくということで足りるのではないかというふうに考えております。   部会資料の4の事業報告における開示事項ということにつきましても,会社補償の適切な活用を行いやすくするという観点から,特に補償した費用の額につきましては,場合によっては,例えば個別案件に係る和解金が明らかになってしまうといったようなことを考えますと,会社補償の利用をちゅうちょしてしまうというような影響も考えられるところでございますので,必要な開示事項の範囲に関しましては,そういった影響の点も含めて,慎重に御検討いただければと思います。   ありがとうございます。 ○神田部会長 ありがとうございました。   三瓶委員,田中幹事の順でお願いします。   三瓶委員,どうぞ。 ○三瓶委員 ありがとうございます。   株主,投資家の視点でお話をさせていただきます。以前にもこれについては,投資家のグループで話をしましたが,一部には,そもそも会社補償というのが必要なのかという意見もあるぐらいですが,ただ,現実的なこととか,ここに書いてある役員に適切なインセンティブを付与するためという大きな目標からすると,あっていいだろうというふうに思っています。   具体的に,補償契約のところで,①の費用については,こちらにある案に賛同します。②について,補足説明にありますが,補足説明の2の下の方に,「役員等が悪意又は重過失である場合についても補償を認めるかどうかについては,法律面で画一的に制限せず,株式会社の判断に委ねることでよいとも考えられる。」とあります。ここは,非常に興味を引く文面なのですが,これは一理あるなというふうに思います。法というよりは,取締役会に委ねられている役割を十分に果たしていただく,つまり利益相反等の監督というのをしっかりしていただくという意味では,こういった取扱いがあり得るというふうに思います。   それと,補足説明の3のところで,なれ合いというのが出てきます。ここについても,取締役会の役割として,なれ合いを見逃すようでは困りますので,それもしっかりやってもらうと。ということでいきますと,3の最後の方に書いてありますインセンティブを付与するという大きな,いわゆる攻めのガバナンスの発想ですけれども,これについては,方向性としてはよかろうと。ただ,そういう意味では,取締役会がきちんと期待されていることをしているかという意味合いからすると,2の決議については,A案が妥当であろうというふうに思います。   株式会社の判断,なれ合いの懸念等について,どう取締役会が機能しているのか。それは,期待しているところにきちんと合っているのかということで,補償の実行についても,先ほど前田委員がおっしゃったと思いますが,そこまで明確に書かれていないとすると,補償の実行についても決議が必要であるというふうに思います。   B案の場合に,例えば,取締役会が当該補償について,事後的に検証するというふうにありますけれども,その結果,万が一,当該補償の減額,取消しの必要性があるというふうになったときに,そういった決議の負荷というのは,事前に判断するよりもはるかに大きいものになると思います。これは世の常です。ですから,法令上,不可逆であるとは言えませんけれども,事実上不可逆的にはなり得るということを懸念します。   そして,開示ですけれども,ちゅうちょするというところが,かなり重きを置かれているように思いますが,ちゅうちょするということをそんなにしんしゃくする必要があるのかどうか。先ほど申し上げたとおり,取締役会が適正な判断をして監督するということを期待するのであれば,それがそうされたかどうかということは,公明正大に開示されるべきで,会社が,いわゆるネガティブ情報的なものは開示したくないというのは,常にそういうスタンスがあるようですけれども,これでは攻めのガバナンスどころか,守りのガバナンスすら足元がすくわれるということで,取締役会としては,しっかりやっているから信じてくれということだけでは済まないだろうというふうに思います。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   田中幹事,どうぞ。 ○田中幹事 既に複数の委員,幹事の方々から御意見のあったところですが,会社補償は,確かに,役員就任のインセンティブを与える等のメリットもありますが,根本的には,役員が自腹を切ってしかるべき場合に会社の財産で塡補してあげるということで,利益相反のある行為であることは否定できないので,法制面でも,単純に使いやすくするということだけでなくて,適切な規制を加えるという観点も必要ではないかと思います。   そういう観点でいうと,「1 補償契約」にある要件についても,少なくとも現行法において,この要件よりも広い形で補償契約を締結しますと,違法になる可能性がかなり高いと考えております。例えば,1の②の悪意重過失で与えた損害についても補償を会社に義務付けるような契約につきましては,確かに,学説上,職務執行上,軽過失により与えた損害については,現代の複雑な経済社会では,誠実に業務執行していても,過失で第三者に損害を与えるということはある程度避け難い部分もあるので,それについては職務執行上の費用と見て,会社の判断で補償していいという説はあるわけですけれども,そういった説も,役員が悪意の場合は,そういう考慮は全く当てはまらないし,重過失も伝統的に悪意と同視されるという解釈が行われていますので,そのようなものまで会社に補償を義務付けるのは,現行法の下で違法だと思っております。もしそのようなことが現行の実務で必ずしも明確になっていないとすれば,むしろその点については,悪意や重過失の場合は塡補はできないのだということで,規制を明確にする必要があるのではないかと考えております。   他方で,提案された規制の中には,そこまでの必要があるか疑問に思えるものもあるとは思っておりまして,特に,補償契約を結んでいた場合であっても,補償を実行するときには総会決議,あるいは取締役会決議を義務付けること(A案)関しましては,補償契約は本質的には会社に補償を義務付けるものである以上,義務であるにもかかわらず,補償を実行するときに更に取締役会の決議を要求するのは,補償契約を締結できるという,つまり会社に補償を義務付けるような契約を結べるという規制の立て付けからすれば,必ずしも平仄が合わなくなるのではないかと思います。   もちろん会社の判断で,補償を実行するときには常に取締役会の決議を要するとか,そういうことを内部規則で定めるということはあり得るかと思いますけれども,法的には,補償を義務付けられたものを,更にその実行について,取締役会又は株主総会の決議を要求する必然的な理由はないのではないかと。そういう面でいえば,B案でもよろしいのではないかと考えております。   最後に,開示に関しては,私自身も三瓶委員と同じことを思っておりまして,企業にとってネガティブイメージを招くような開示は,したくはないことは当然なのですが,投資家にとっては,そうしたものの開示も有益な情報になりますので,この点に関して,単純にネガティブイメージだけで開示をちゅうちょする必要はないかと思います。   ただ,一方で,利益相反取引との平仄でいうと,必ずしもここまで開示されていないというのは確かでありまして,その観点で見たときに,補償契約を結んでいるとか,補償の適正性を確保する措置がとられているということは,もちろん開示させて何ら差し支えないかと思いますが,補償の額に関しては,一般の利益相反取引との平仄からも,これを開示する必要が果たしてあるのかは考慮の余地があるのではないかというふうに思っております。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   それでは,沖委員,梅野幹事,齊藤幹事の順で,沖委員,どうぞ。 ○沖委員 ありがとうございます。   念のため,部会資料の内容について確認させていただきたい点がございます。   1の補償契約の中で,補足説明の部分ですけれども,今回,法律で画一的に制限せずに,会社の判断に委ねるとされている事項が二つあると思います。一つ目は,防御活動に要する費用について,役員等が悪意又は重過失がある場合,もう1点は,株式会社が責任を追及する場合でありますけれども,冒頭での法務省の御説明によりますと,前回の部会資料の案を変更していないということですので,これは法的に可能であるというふうに理解できます。他方,補足説明の内容を見ますと,例えば防御活動に要する費用について,役員等の行為の態様等が悪質である場合について,会社が金銭の返還を請求することができる旨を規定することを禁止するものではないとあります。こういう場合は,補償契約の対象とすることが妥当ではないというふうにも読めるのでありますが,御趣旨は,こういった場合も会社法上は,規定が新設された場合,補償することは可能であると。法的には認められるけれども,会社が個別の判断で,補償契約の内容で,返還請求権を認めることができることを明らかにしたものだと,そういう理解でよいかという点ですね。   同様に,株式会社が責任を追及する場合については,一定の場合に補償の対象とすることが妥当である,妥当でない場合もあるけれども,それは法的には可能なのであって,会社が任意に補償契約の中で除外することを認めることを注意的に明らかにしたものであると,そういった理解でいいかという点なのですけれども,お願いいたします。 ○神田部会長 ありがとうございます。 ○竹林幹事 大体,御指摘いただいたとおりかとは考えております。   私どもといたしまして,外枠はこういうふうに決めさせていただいて,そこから会社の御判断で除外すべきようなものがあるのであれば,態様等も含めて,除外することができるのではないか。ただそれが,どれくらい明確に決められるかどうかというのは,契約の内容次第というふうにはなるかと思いますけれども,少なくとも法律上,これは補償すべきでないということまでは言っていないということでございます。 ○沖委員 ありがとうございます。 ○神田部会長 よろしゅうございますでしょうか。   それでは,梅野幹事,どうぞ。 ○梅野幹事 ありがとうございます。   沖委員の質問と重なるかもしれませんが,今御指摘があった2ページの補足説明の部分ですが,「禁止するものではない」とございますけれども,このような規定がない以上,会社は役員に返還請求をできないものとするという趣旨であるという理解でよいのかということを,お伺いしたいと思います。   それとは別に,意見にわたる部分ですが,①の費用の補償について,悪意又は重過失の場合でも補償できるという点については,更に慎重な検討が必要なのではないかという意見を引き続き有しております。   例えば,カルテル等の嫌疑が掛けられた場合において,取締役としては,悪意・重過失があったかどうかといった点も含めて争っている状況であって,会社が弁護士費用等を負担しなければ,十分な弁護ができず,その結果,会社として不利益を被るということがあり得るということは間違いないと思います。そういった場合に,会社による補償を認めないと,会社の利益を害されてしまう。そこで,今回考えているように,相当と認められる額を限度として補償を認めるという考え方は,十分に理解できるところだと思います。   一方,先回も申し上げたと思いますけれども,モラルハザードを防ぐという観点から,悪意・重過失の場合,あるいは,もう少し要件を絞り,例えば,2ページにあるように,行為の態様が悪質な場合には,補償契約において返還請求できる旨の規定がなくても,やはり返還請求できる余地は残すべきではないかというように考えます。   解釈論の問題なのかもしれませんが,非常に態様が悪質である場合には,多分,民法上の公序良俗違反といった問題も起き,その結果,不法原因給付の問題はあり得るかもしれませんが,会社が返還請求できるという場合もあり得るのかと思っています。ただ,そのような一般論に委ねるだけで十分なのかどうかというところは,検討する必要があると思っています。   それと,3ページの「3 利益相反規定の適用除外」に関してですけれども,田中幹事が先ほどおっしゃられたとおり,やはり利益相反の場面でございますので,後に述べられている開示等との引換えで規制をしないといった考え方だけでいいのかどうかというのを,もう少し考えてみたいと思います。   部会資料4の18ページを見てまいりましたが,そこでは,各監査役の同意等を要件にするといった考え方が述べられていました。今回はそういった考え方については記載されておりませんが,そういう形で利益相反取引に対する縛りをかけていくという考え方もあると思います。 ○神田部会長 ありがとうございました。 ○竹林幹事 御質問いただいた点ですけれども,私どもが補償契約の内容として書かせていただいた,例えば,②のところで,善意かつ重大な過失がないということを要件としている場合に,この要件を満たさないようなものについては返還することは当然できる,それは契約に定めがあろうがなかろうができるとは思っているのですけれども,梅野幹事の御質問というのは,それ以上の内容として,契約に定めなくても,返還請求をすることができる場面があるのではないかという御質問でしょうか。御質問の趣旨が十分理解できなかった点があるのですけれども。 ○梅野幹事 2ページに,補償契約において,悪意重過失がある場合,あるいは役員の行為の態様が悪質である場合等について,役員等に補償した金銭の返還を請求することができる旨の規定を設けることを禁止するものではないとございますが,仮にそのような規定を設けない場合,要するに何も規定がない場合に,会社は役員に対して返還請求はできない,つまり悪意重過失がある場合でも返還請求できないという立て付けをお考えなのかどうかという点でございます。 ○竹林幹事 手続費用につきましては,こういったものを除外するということをしておかなければ,①の要件を満たしている限りは返還請求できないと考えております。 ○梅野幹事 分かりました。ありがとうございます。 ○神田部会長 よろしゅうございますでしょうか。   ありがとうございました。   それでは,齊藤幹事,柳澤委員,青委員の順でお願いしたいと思います。 ○齊藤幹事 ありがとうございます。   補償における防御費用の部分と責任の負担の問題とは,少し分けて考えてもいいのではないかと思います。前田委員の御意見の中にも,そのように分けて考えることができるという御指摘があったように思いますけれども,特に防御費用の部分につきましては,職務を行うについて発生した費用という側面が強いものでございますので,責任の場面よりは,緩い規制でもよいのではないかと。具体的には,決議の在り方や開示においても区別してもよいのではないかと思います。   特に心配をしておりますのは,特に刑事の捜査の対象になっている場合でございます。民事の訴えを提起された場合には,訴えを提起されているという事実が,ある程度公になりますが,刑事の捜査の対象になったような場合につきましては,通常は非公式で,その後,公になるのか,内密のまま終わるのか,必ずしも,その先どうなるか分からないというところもございます。こういう場合には,防御する側でも,公に知られていない段階で迅速な対応が要求されるという側面がございます。   特に,これが外国の当局が関係する問題になりますと,なおさら迅速性が求められるように思います。向こうの,例えば現地のローファームなど,適切なタイミングで,適切なところを雇うことが,会社のためにも必要でありますし,刑事手続等の手続保障の観点からも,認められてしかるべきであると思いますので,それができるような規律になっている必要があるのではないかと思っております。   そういう観点からは,例えば,決議のタイミングにつきましても,責任の分担につきましては,例えば,これは善意無重過失であるのかなどについて,取締役の間で十分に議論することも必要であろうと思いますので,実行の場面でも決議を必要とするということは一理あると思いますけれども,防御につきましては事後報告でもよいのではないかと。開示につきましても,防御については,誰々にこの年に幾ら払ったということを明らかに開示する必要はなくてもいいのではないか。逆に,補償が必要になった事態が公になっていない時点で,費用が明らかになり,この費用は何だということで,事業報告や適時開示などで,必ずしも公にすることまで要求されていない事項について,ここから詮索が深まるという形で明らかにされる必要はないように思います。それは,会社が負担すべき費用の支出について萎縮効果を生むおそれがあります。ですので,その辺りの差異化ということを考えてもよいのではないかと感じております。 ○神田部会長 どうもありがとうございます。   柳澤委員,どうぞ。 ○柳澤委員 発言の機会を頂きまして,ありがとうございます。   会社補償の事業報告における開示に関しまして,投資家としての捉え方の一例として,簡単にコメントさせていただければと思います。   会社補償につきましては,役員に対する適切なインセンティブ付与という観点から見た場合,役員就任条件として,優秀な人材の確保に資するといった効果や,役員の職務執行において,損害賠償責任を負うことを過度に恐れて萎縮することがないよう,健全なリスクテイクを促進する機能を担うといった意義が認められるとされております。こうした会社補償の意義を踏まえますと,投資家として,分析対象企業における会社補償契約の有無や当該契約の相手方及びその内容について概要を把握しておくことは,企業評価を行う上で有用な投資判断情報になり得ると考えられます。   また,設定した会社補償の条件がインセンティブ付与として適切かどうかは,企業の状況や役員の職務内容などによって異なってくると想定されますので,その契約内容が自社にとって適切であると判断する理由などについて,会社側の考え方を把握しておくことも,投資家にとって分析上の着眼点になるものと考えております。   その一方で,契約に基づいて支出された補償額まで一律に開示を求めていくのかどうか,仮に補償額が開示されたときに,その金額の妥当性などについて,どこまで分析的な整理や解釈ができるのか。恐らくは,少なからぬケースにおいて,咀嚼することが難しい情報となってしまう可能性も否定できないのではないかというように感じております。   例えば,会社側から補足的な情報として,契約に基づく補償を行うに至った経緯や,その判断と考え方,更には補償額に対する評価などに関して,相応の情報量を伴う的確な背景説明が提供されない限り,個別案件としての補償額自体が興味本位に独り歩きしてしまうといった事態も起こりかねないという見方もしております。   その意味において,部会資料の4に掲げられた①と②の内容につきましては,会社補償契約の透明性の確保といったガバナンス上の必要性及び企業評価における情報の有用性に照らして,投資家の立場から望ましい開示の方向性と判断しておりますが,③の補償額の開示に関しましては,会社法で一律に開示を義務付けるか否かについて,更に慎重に検討していくことが求められるのではないかと考えております。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   青委員,どうぞ。 ○青委員 まず,1の補償契約ですが,費用の補償に関しては,善意あるいは重過失がないときという要件は設けないこととする点について,実際の訴訟の状況を考えますと,しっかりとした防御を可能にするという意味で,今回の御提案が妥当かと思います。   それから,1の②で善意かつ重過失がないことを要件とするという点について,これを前提としますと,補償の実行の手続のところで,善意無重過失の有無の判断が難しいケースが出てくると思いますし,取締役に補償の実行の判断が委ねられるとすると,その取締役と補償対象となる人の関係が深い場合に,利益相反の懸念も出てくるという面もございますので,そうしたことも考えますと,補償の実行には取締役会決議を必要とする規律も考え得るのではないかというふうに思います。   ただし,実際の局面において,善意無重過失が判然としないというときに,うまく手続がワークするのかどうかという懸念もあるかと思いますので,この点については更に議論を深めていく必要があるのではないかというふうに考える次第であります。   それから,4の開示の関係でございますけれども,皆さんがおっしゃられたとおり,①と②につきましては,基本的に必要だと思っております。③については,種々考え方があるところかと思いますけれども,原案では,少なくとも,毎年,額についての開示が必要だということになりますけれども,係争が何年にも及ぶ場合に,その過程で毎年毎年金額を出していくということが,実務上,現実的に可能かという点については,やや疑問があると思いますので,この点については,実務の回し方も含めて,更なる検討が必要ではないかと思います。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   中東幹事,どうぞ。 ○中東幹事 各論が続いている感じがしますので,総論的なことをもう一度確認させていただければと思っております。   松井幹事が非常に良いフレーズで表現してくださったと思うのですが,今回の規定の整備はニーズの問題ではないということでございます。委員,幹事等から出されていますように,今のままだったら法的安定性を欠いているので,規定を設けて,規律を整備して安定的に運用できるようにしようと,こういう趣旨のものであるということを確認させていただければと思います。   各論的なことについては,坂本幹事,田中幹事,齊藤幹事がおっしゃったことをうまく組み合わせると,望ましいのではないかなという感覚を持っております。 ○神田部会長 ありがとうございました。   そろそろ次のテーマに移らせていただいてもよろしゅうございますでしょうか。   この部会資料10については,意見は分かれているということかとは思いますけれども,次のテーマに移らせていただければと思います。   次のテーマは,社債の管理の在り方の見直しに関する論点の検討ということになります。   部会資料11について,事務当局から御説明をお願いいたします。 ○邉関係官 それでは,部会資料11について御説明いたします。   ここでは,社債の管理に関する新たな制度として,社債管理補助者制度を設けることについて,どのように考えるかを御議論いただきたいと考えております。   なお,第一読会においては,新たな制度を担う機関の名称について,「新たな社債管理機関」とだけしておりましたが,今回は「社債管理補助者」という名称を,仮の名称ではございますが付しております。名称につきましても,御意見等あれば,併せて御議論いただければと存じます。   第一読会から変更等をしている点を中心に御説明させていただきたいと思います。   まず,「1 社債管理補助者の設置」においては,社債管理補助者を社債管理者を定めることを要しないときにおける社債の管理の補助を行う機関であると位置付けております。   社債管理者制度は,第三者である社債管理者が,社債権者のために,包括的な権限と広範な裁量を持って主体的に社債の管理をする制度でございますが,この社債管理補助者制度は,第三者である社債管理補助者が,社債権者による社債権者集会の決議等を通じた社債の管理が円滑に行われるように補助する制度と位置付けており,社債管理補助者は,社債管理者よりも裁量の余地の乏しい限定された権限のみを有するものとしております。   「2 社債管理補助者の権限等」の「(1)社債管理補助者の権限」①においては,社債管理補助者であれば必ず有する権限として,破産手続参加等をする権限を挙げております。第一読会においては,社債に係る債権の弁済を受ける権限も同様に必ず有する権限としておりましたが,本部会資料においては,そのようには整理しておりません。   社債管理補助者が社債に係る債権の弁済を受ける権限を有するものとする場合には,社債発行会社が社債管理補助者に支払をする時点で弁済があったものということになりますので,この権限を社債管理補助者には付与せずに,社債権者に対して実際に支払をする時点までは弁済はないものとする方が,社債権者にとって有利な場合があるという考え方もあり得る点を考慮したものです。   続いて,②においては,社債管理補助者は委託契約に定める範囲内において,先ほどの社債に係る債権の弁済を受ける権限などの権限を有するものとしております。委託契約において,ある権限の行使の時期,条件又は方法等を定めることだけではなく,委託契約において,ある権限を全く有しないことも許容する趣旨で,「委託契約に定める範囲内において」という文言をここでは使っております。   また,ここのアからエまでは限定列挙ではなく,そのほかの約定権限も付与することができるということを想定しております。   なお,第一読会とは異なり,社債管理補助者は,会社法第706条第1項各号に掲げる行為をする権限も有するものとすることができるものとしておりますが,他方で,後に述べますとおり,③において新たな制約を設け,また,(2)のところで,社債権者集会の招集権を制限しております。   2ページ,③においては,社債管理補助者は,ア及びイに掲げる行為をする場合には,社債権者集会の決議によらなければならないものとしております。第一読会においては,会社法第705条第1項の行為については,社債権者集会の決議による必要は必ずしもなかったところですけれども,今回の案は,そのような行為であっても,(ア)から(ウ)までに掲げるものについては,社債権者集会の決議によることが必要となります。   3ページ,「(2)社債権者集会の招集等」においては,社債管理補助者の社債権者集会の招集権等について定めております。③のとおり,第一読会とは異なり,社債管理補助者は,辞任をするために社債権者集会の同意を得る場合と少数社債権者から招集の請求を受けた場合に限って,社債権者集会を招集することができるものとしております。   社債管理補助者が社債権者による社債権者集会の決議等を通じた社債の管理を補助するものであるとする場合には,社債管理補助者が主体的に社債権者集会を招集することができるようにしておく必要性は高くないものと考えられ,③のように,社債管理補助者が社債権者集会を招集することができる場合を限定することが考えられます。   4ページ,「3 社債管理補助者の義務」においては,社債管理補助者は,公平義務,誠実義務及び善管注意義務を負うものとしております。取り分け,誠実義務に関しては,第一読会において議論がございましたが,補足説明に記載しておりますとおり,社債管理者と社債管理補助者との役割の違いからすれば,両者への委託の趣旨も異なるものと考えられ,誠実義務の具体的内容も異なるものとなろうと考えております。したがって,社債管理者であれば誠実義務違反とされる行為について,社債管理補助者がこれをした場合に,当然に誠実義務違反になるものではないと考えております。   5ページ,「5 社債管理補助者の資格」については,第一読会において,弁護士など社債管理者の資格を有する者以外の者についても資格を付与することについての御意見などもございましたが,引き続き御議論いただきたいと考えております。   「6 二以上の社債管理補助者がある場合」の①では,社債管理者とは異なり,社債管理補助者は,各自が,その権限に属する行為をするものとするとしております。   なお,第一読会においては,事務の分掌についての御意見もございましたが,本文2(1)②の権限については,委託契約の定めにより,一部の社債管理補助者についてのみ一定の権限を付与することができますので,その限りにおいて事務の分掌をするということも許容されるものと考えられます。   最後に,7(1)から(4)までは,基本的に第一読会から変更はございません。   私からの説明は以上となります。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   それでは,部会資料11につきまして,皆様方から御質問,御意見をお出しいただければと思います。どの点についてでも結構でございます。いかがでしょうか。   それでは,加藤幹事からどうぞ。 ○加藤幹事 ありがとうございます。   1点,社債管理補助者の権限と社債権者集会の招集との関係について質問させていただきます。   今回の御提案では,社債管理補助者が社債権者集会を招集できる場合というものを非常に限定的に解している,限定的に御提案いただいているわけですけれども,御提案の社債権者が社債管理補助者に対して社債権者集会の招集を請求する場合というのは,例えば,社債管理補助者の権限として,支払の請求だとか強制執行などが定められていた場合に限られるのか,若しくは,こういった約定権限が付いてない,全く何もない場合であっても,ただ社債権者集会の招集手続を実行させるためだけに,こういった請求をすることができるのか,御確認いただければと思います。 ○神田部会長 ありがとうございます。 ○竹林幹事 御質問いただいた点でございますけれども,社債権者集会がその権限の範囲内で決議を採ろうというときに,社債権者が招集の請求をして,社債管理補助者が招集するということも想定しておりますので,必ずしも法定権限あるいは約定権限の範囲に限られるというものではないと考えております。 ○神田部会長 よろしいでしょうか。 ○加藤幹事 併せてもう1点,今回の御提案では,社債権者集会の決議の執行に関する規定については,社債管理者と同じものを置かれるということなのですけれども,決議の執行ということについて,例えば約定権限以外のことについても,執行を社債管理補助者に行わせることも一応できるということで御提案いただいているのか,これも確認させていただきたいと思います。 ○竹林幹事 今現在の御提案は,そのようになっているのですけれども,そこは考える余地があるとも思っておりまして,決議執行者となる場面を,約定権限とか法定権限の範囲に限るべきなのかどうかなどにつきまして,もし委員,幹事に御意見等ありましたら,頂ければと考えております。 ○神田部会長 いかがでしょうか。 ○加藤幹事 すみません,今,すぐに披露できる意見はございません。 ○神田部会長 ありがとうございます。   それでは,前田委員,神作委員,それから,金融庁の小森関係官の順でお願いしたいと思います。   前田委員,どうぞ。 ○前田委員 社債管理補助者の権限について,第一読会のときの案では,委託契約で付与できる権限の範囲が余りに狭くて窮屈だと感じておりましたので,今回の案のように,一定の行為については,社債権者集会の決議を要求した上で,権限の範囲を広げることに賛成です。   ただ,今の加藤幹事の御質問と関連する箇所について,今回,社債管理補助者が社債権者集会を招集できる場合には,相当限定が加えられましたけれども,社債権者集会決議を要する行為,すなわち,部会資料2ページの③の行為をするために,社債管理補助者が社債権者集会を招集することは認めていいのではないでしょうか。そうしないと,会社か少数社債権者が社債権者集会を招集してくれなければ,委託契約で付与された権限を自分のイニシアチブでは行使できないことになろうかと思います。   今回の案は,裁量の余地をなくすために,それでいいという考えによっているのではないかと思うのですけれども,決定は飽くまで社債権者集会でするわけですから,決議に基づく行為について,社債管理補助者が責任を問われることは考えにくいと思います。つまり,決議ができるようにお膳立てをしてやるというのは,補助とも言えそうでありまして,この委託契約で付与された権限の行使のために社債権者集会を招集することまでは認めていいのではないかと思いました。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   神作委員,どうぞ。 ○神作委員 ありがとうございます。   社債管理補助者という新しいネーミングの下で,今回御提案された案の,特にデフォルト・ルールの部分というのは,私もこれまで発言させていただきましたように,会社法702条の社債管理者の設置強制がないという前提の下では-もっとも,設置強制の範囲については,それ自体が大きな論点になり得るかもしれませんけれども,しかし,それについては所与として考えますと-,社債権者は,大口の投資家であり,自衛できるか,あるいは,社債権者が少数で発行会社等とコミュニケーションを取ることができるという前提の下で制度が設計されているとすると,そのような社債管理者不設置債の場合には,発行会社と社債権者との問題は,基本的に社債権者が中心となって解決をしていくという考え方に基づき設定されることになると考えられます。そして,社債管理補助者は,必要な手続,例えば,債権届出など破産手続への参加その他必要な手続への参加と,社債権者集会の開催のお手伝いをデフォルトの権限にすることなどが,社債管理者制度とは異なる,先ほど申し上げたような性質をもつ社債管理者不設置債の社債管理の補助の在り方として,適切な考え方なのではないかと思います。   ただ,その際に,今私が申し上げたような観点からいたしますと,社債管理補助者の権限のうち,必須と考えられる権限というのは,発行会社と社債権者の間の情報の媒介をすると申しますか,情報のやり取りをする際の仲介者の役割であるということだと考えます。ただし,ではどのような情報を発行会社と社債権者の間でやり取りするかという中身については,結局のところ,社債契約の定めるところによらざるを得ないと思いますので,社債管理補助者の当然の権限としては,なかなか法律の規定として書くのは難しいかとは思いますけれども,そういう意味では,約定権限に含まれることになると思いますが,恐らく,少なくとも私がイメージしている社債管理補助者は,そのような役割を果たすことが専ら期待されていると考えます。   そうだとすると,例えば社債権者集会の招集についても,基本的に招集の必要がありますかということは,社債権者にやはり決めてもらうという考え方が,一つ筋の通った考え方であり,本日の資料はそのような考え方に基づいて作成されているものと理解しております。   また,社債管理補助者の義務についてですけれども,約定権限については,相当に強大な権限を付与することができるという立て付けになっていることもあって,公平・誠実義務を課す必要があると思います。もっとも,先ほど申し上げたような,ミニマムと申しますか,社債管理補助者のデフォルトの権限プラス,先ほどの情報の媒介という裁量の余地がないような形で社債管理補助者の権限を限定している場合ですと,余り利益相反について懸念が生じるということにはならないのではないかと思います。   そういう意味では,特に誠実義務違反というのが問題となる局面というのは,少なくとも約定権限が定められていなかったり,あるいは裁量の余地がほとんどない形に制限されたりしている場合には,実際にはほとんど生じないと思います。けれども,例えば,先ほどの情報のやり取りでいいますと,発行会社から伝えられた情報を一部の社債権者にしか伝達しなかったというときは,これは善管注意義務違反にも当たるかと思いますけれども,公平・誠実義務があると,そちらの義務違反として構成することがより適切であるように思います。   それから,資料の5ページの5の社債管理補助者の資格については,先ほど申し上げたようなミニマムの観点からすると,少なくとも,会社法703条各号に掲げる者でなければならないとする必要はないのではないかと思います。もっとも,他方で,約定権限によっては,相当強大な権限が付与されることにもなりますので,その場合には,約定権限に応じて社債管理補助者の資格を変えるということもあり得ないものではないとも思いますけれども,しかし,少なくとも,デフォルトの権限しかないという状況を考えると,703条各号に掲げる者でなければならないとするのは,社債管理補助者の範囲として狭過ぎるのではないかと思います。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   それでは,小森関係官,どうぞ。 ○小森関係官 どうもありがとうございます。   全般的な事柄について,2点ほど申し上げさせていただきたいと思います。   一つ目が,我が国の社債市場の現状でございますけれども,御承知のとおり,発行市場,流通市場とも規模が小さく,厚み,多様性に欠けた状況にあるところでございます。こうした状況下におきまして,議論していただいております社債管理の在り方の見直しは,投資家の運用手段や,あるいは企業の資金調達の方法の多様化にも資する大変重要な論点であるというふうに考えております。   社債権者の権利の保護の充実ということで議論いただいておりますけれども,社債市場の活性化といった観点も含めまして,引き続き前向きに御議論をお願いしたいということが1点目でございます。   2点目で,この点に関しまして,現状でございますけれども,現在の社債管理者の設置義務の規定を踏まえまして,7割から8割弱の社債は,社債管理者の設置を必要としない額面1億円で発行されているところでございます。この1億円という取引単位につきましては,投資家にとっては分散投資の対象になりにくく,投資家層が限定的になっているという声も,市場の関係者からは聞かれているところでございます。   今回の社債管理補助者,新たな社債管理機関の創設というのは,大変重要な改革であるというふうに受け止めておりますけれども,それとともに,現在の社債管理者につきまして,その権限や義務等が社債市場の状況に照らして重くなり過ぎてはいないかどうか,あるいは,社債管理者の設置を要する社債の範囲が現在の形で適切であるかという問題についても,是非念頭に置いていただいて,社債管理の在り方に関する議論を続けていただければと思っております。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   それでは,松井幹事,どうぞ。 ○松井(智)幹事 ありがとうございます。   私の意見としましては,前回の案といいますのが,社債管理者の義務にかなり似たものとなっておりまして,社債管理者の義務というものは,社債権者集会関連の義務をどの程度負うかということと関係なく定まるものというふうに理解されているものだったと思うのですが,今回の検討対象は,当初契約ベースで,FAの,今現在FAが提供しているサービスをどの程度拡充できるかということを検討する中から,実務上のニーズとして,こういった破産手続参加であるとか社債権者の代表といったことについて,手当てをしてほしいということがあって,俎上に上るに至ったものだと理解しております。   第一読会のときの意見にもありましたけれども,前回の案ですと,任意でこの制度を選択した場合に,それに漏れなく義務が加重されるというような整理で,据わりが悪いというような意見があったかと思うのですけれども,今回の整理は,当初,この改正案が俎上に上ったときのニーズに非常にストレートに対応するものになっているように思いまして,今までできていたことができないようになるということはないように配慮いただいているのではないかというふうに思います。   その点で,非常に好ましい案かと思うのですけれども,神作委員がおっしゃられていたとおり,社債権者集会の招集等に関して,約定以外のことであったとしても,法律で定まっていることを実現するためであれば裁量を与えてよいというふうにするということについて,それを本当に,そのように裁量を与えますと,これは義務なのかという問題が裏返しとして生じてしまうということを考えますと,やはり社債権者がイニシアチブをとって,自己の債権の実現を試みるというのをお手伝いするという整理にとどめた方が望ましいというふうに感じております。   また,そういった観点との関係で,社債管理補助者の義務のところで,公平かつ誠実というものの内容が,約定権限が広いかどうかによって大分変わり得るということを考えますと,この社債管理補助者として任命する方というのと別枠の契約として,FA的なサービスをお願いする方というのを置くというようなやり方もできるというのは,今回の整理だと大丈夫だと思いますので,これも非常に良いことだと思います。   このように整理した場合,5の社債管理補助者の資格に関しましては,特に社債権者の集団的な権利の実現に資するという観点から考えますと,そこの裁量は非常に狭いものでありますので,このような会社法第703条各号に掲げる者という限定は必要ないという気がいたしております。   先ほど,約定権限が非常に広くなっている場合にも,このような資格に制限がないという状況を維持してよいのかという問題があり得るという,確かにその御指摘はそのとおりだと思いますので,ここに関しては,少し考える余地があるかと思っております。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   それでは,沖委員,どうぞ。 ○沖委員 ありがとうございます。   4点ほど意見を申し上げます。   まず,社債管理補助者の権限についてでありますが,今回の御提案では,社債管理補助者が社債権者集会の決議によらなければ行えない行為として,(イ)の当該社債の全部に係る債権に基づく仮差押え又は仮処分,(ウ)としまして,当該社債の全部についてする破産手続,再生手続,更生手続若しくは特別清算に関する手続に関する行為が含まれております。   しかし,まず最初の(イ)の方ですが,これは仮差押え,仮処分,このような保全処分につきましては,緊急性や密行性等を考えますと,前提要件として,社債権者集会の決議を全て要求するということは,実際的ではないのではないかと考えられます。   また,(ウ)の方の倒産手続に関する手続ですけれども,こちらも厳格な期間の制限がありますので,そういったものも含めて,委託契約の中で特に定めることを前提に,社債権者集会の決議がなくても行うことのできる類型の行為を検討する必要はあるのではないかと思いますので,それをお願いしたいと思います。   次に,第2点目で,社債権者集会の招集権でありますけれども,今回の御提案では,社債管理補助者は,自らが辞任のために必要な場合等以外,そういう場合以外は,社債権者集会の招集権は一切ないということになっております。しかし,社債権者が必要な場合に自ら適時に社債権者集会を招集できるかというと,そのことにも限界はあるかと思います。そうしますと,必要な行為について時機を逸してしまうおそれというのもあるかと思います。   そのことを考えますと,社債管理補助者の権限として,委託契約が特に定めている場合には,社債管理補助者に社債権者集会の招集請求権を認めることも検討に値するのではないかと思います。仮にそのような規律としましても,委託契約で選択できるというふうにしておくので,職務執行に対応可能と考える者が就任する場合に限り,社債権者集会は招集権を持つわけで,そのような委託契約の定めをすればよいということですので,その責任が過剰になるとか,新しい社債管理者に就任する者が不足するということにはならないのではないかと思われますので,御検討をお願いできればと思います。   次に,社債管理補助者の資格要件についてでありますけれども,この資格要件については,先ほど来,複数の委員,幹事の先生方からも御意見が出ておりますように,その権限を行使する能力と権限に対応する義務を負担できる資質があれば,資格要件の拡大は検討してよいのではないかと思います。そのことを通じまして,より一層,社債権者が保護されるということになるのではないかと思います。   この点,弁護士と弁護士法人も,その業務の内容を考えますと,一部デイリーの弁済を受ける権限等は別とすれば,新たな社債管理機関の業務として検討されている事項そのものであるか,又は密接な親和性を有していると思います。他方,弁護士,弁護士法人は,弁護士法によって厳格な事由の下に資格を認められ,懲戒を受ける手続が定められております。これらの点に基づきまして,弁護士,弁護士法人も新たな社債管理機関の有力な候補者と言えるのではないかと考えておりますので,資格要件の拡大を検討する際には,弁護士等にも新たな社債管理機関の資格要件を認める方向で検討をお願いできればと思います。   最後に,社債管理補助者の責任についてでありますけれども,二つ以上の社債管理補助者が就任する場合には,それぞれの社債管理機関がその専門性に応じた能力を発揮することができるように,権限と責任は各自が負うことを原則にすることが望ましいのではないかと考えます。   特に,今回,もし仮に資格要件が拡大されて,金融機関と金融機関以外の者が社債管理補助者に就任した場合を想定してみますと,それぞれが専門性に応じた能力を発揮するということが期待できます。そういった場合に備えまして,今回の部会資料でも,二以上の社債管理機関,社債管理補助者がある場合に,社債管理者に関する規律と区別して,各自権限を行使することであるとか,連帯責任を負うのは,それぞれが同じ損害を与えた場合に限ると,そういった場合を原則とするという見解が示されていると思いますが,これは正しい方向性だと思いますので,その方向で是非御検討いただければと思います。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。   どうぞ,三瓶委員。 ○三瓶委員 2点だけ申し上げます。   先ほど金融庁から御説明がありましたが,社債市場ということを考えると,先ほどのコメントのとおり,そもそも1億円というロットとか,又はほとんどの場合,社債管理者がいないという現状は甚だ問題であって,そちらを是正する必要があると思います。例えば,1億円については1000万円に引き下げられるとかいうことが,現実論としては大事だと思います。   と言ってしまうと,そちらを議論した方がいいのではないかということになってしまうんですが,そこで,こちらについてコメントするのは,ある種の矛盾があるのは分かるのですけれども,今回の部会資料11にまとめていただいた内容は,前回の議論を踏まえて,要するに,社債権者集会が比較的,前回の案よりも容易に開催できるということで,前進であるとは思います。   1点だけ確認というか,明確化できればなというところではありますが,飽くまでも次善の策として,招集のときに,現状,招集を請求できる社債権者というのが,10分の1の保有者ということだと思います。ですから,単独で10分の1ない方が,請求できないというふうに思って手を挙げないという状況が放置されないように,明確にしていただきたいのは,招集の必要性の有無を聞く行為というか,10分の1未満の保有者であっても,是非とも手を挙げて,招集をされれば参加したいんだという意思表示を募る方法というか,そういったことも明確化して,それが社債管理補助者の権限として明確化されることが,より分かりやすいだろうと思います。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。大体よろしゅうございますでしょうか。   それでは,珍しく予定よりも進行が少し早いのですけれども,ここで休憩とさせていただきたいと思います。15分間休憩を取らせていただきます。3時20分に再開いたします。よろしくお願いします。           (休     憩) ○神田部会長 それでは,おそろいのようですので,再開させていただきたいと思います。   今日の三つ目のテーマなのですけれども,その他の規律の見直しに関する論点の検討の御審議をお願いしたいと思います。   お手元の部会資料12につきまして,事務当局からの御説明をお願いします。 ○青野関係官 それでは,部会資料12の第1「社外取締役の行為の業務執行該当性」について御説明いたします。   第1は,株式会社と取締役との利益が相反する状況にある場合その他取締役が株式会社の業務を執行することにより株主の共同の利益を損なうおそれがある場合において,社外取締役が株式会社の業務を執行することが相当と認めるときは,当該業務が業務執行取締役の指揮命令の下に執行する業務でなければ,株式会社はその都度,取締役の決定又は取締役会設置会社にあっては取締役会の決議によって,社外取締役に対して当該業務を執行することを委託することができるものとし,この場合において,社外取締役が株式会社から委託された当該業務を執行したことは,会社法第2条第15号イの「当該株式会社の業務を執行した」に当たらないものとする規律を設けることについて,どのように考えるかを問うものです。   第一読会においては,株式会社と取締役との利益が相反する状況にある場合のみを対象として,本文のような規律を設けることについて御議論いただいたところ,社外取締役に期待される行為について,いわゆるセーフ・ハーバーとして機能するような規律を設けることは有用であるという意見を多く頂きました。他方で,社外取締役の業務執行者からの独立性が害されないのであれば,当該規律の対象を株式会社と取締役との利益が相反する状況にある場合に限定する必要はないのではないかという意見等も頂きました。そこで,本文では,株式会社と取締役との利益が相反する状況にあるときを例示として,その他取締役が株式会社の業務を執行することにより株主の共同の利益を損なうおそれがある場合に対象を広げております。   なお,第一読会でも御説明したとおり,本文の規律は飽くまでセーフ・ハーバーであって,本文の規律を設けることによって,現行法の解釈上「業務を執行した」に該当しないと考えられている社外取締役の行為を,新たに「業務を執行した」に該当するものとすることを意図するものではございません。   次に,2ページ,第2の「議決権行使書面の閲覧謄写請求権の濫用的な行使の制限」について御説明いたします。   本文は,議決権行使書面の閲覧謄写請求権の濫用的な行使を制限するための措置として,議決権行使書面の閲覧謄写請求に関して,会社法第311条第4項の請求をする場合においては,当該請求の理由を明らかにしてしなければならないものとし,株式会社は,同項の請求があったときは,一定の拒絶事由に該当する場合を除き,これを拒むことはできないものとする規律を設けることについて,どのように考えるかを問うものです。   第一読会においては,議決権行使書面が何万通も提出される上場会社については,裁判所が選任した第三者等が議決権行使書面が適法に集計されているかなどを確認することとしてはどうかという意見も出されましたが,仮にそのような規律を設けるものとする場合には,その適用対象の線引きや,費用の分担,他の書面等の閲覧謄写請求に関する規律との整合性,株主総会検査役の選任と同様に少数株主権とするか否かなどについても検討することが必要となると考えられます。そこで,請求権の濫用的な行使への直接的な対応方法としては,議決権行使書面の閲覧謄写請求に関して,拒絶事由を明文で定めることが考えられます。   本文(2)①から④までは,拒絶事由の内容について問題提起するものです。このうち,本文(2)①では,A案とB案を併記させていただいており,A案は,請求者の範囲を除き,株主名簿の閲覧謄写請求について定めた会社法第125条第3項第1号と同様に,議決権行使書面の閲覧謄写請求を行う株主がその権利の確保又は行使に関する調査以外の目的で請求を行ったときを拒絶事由の一つとする案です。これに対して,B案は,議決権行使書面の閲覧謄写請求を行う株主が株主総会の決議の不存在確認や取消請求に関する調査以外の目的で請求を行ったときを拒絶事由の一つとする案です。   A案とB案とでは,例えば,株主が少数株主権の行使のために必要な持株要件を充足するために他の株主を募る目的や,株主総会の議案について委任状の勧誘を行う目的で閲覧謄写請求権が行使された場合などに,拒絶事由に該当するか否かの違いが生ずると考えられます。   本文(2)②から④までは,請求者の範囲を除き,株主名簿の閲覧謄写請求についての拒絶事由を定めた会社法第125条第3項第2号から第4号までと同じ事由です。   続いて5ページ,第3の「他の会社の株式等の取得と引換えにする株式の交付」について御説明いたします。   第3は,株式会社が,他の会社の株式その他の持分の取得により当該他の会社をその子会社としようとする場合に,会社法第199条第1項の募集によらずに,当該株式を取得するのと引換えに当該株式会社の株式を交付する手続に関する論点ですが,以下,当該株式会社を「株式交付親株式会社」,当該他の会社を「株式交付子会社」,当該手続を「株式交付」と呼ばせていただきます。   第一読会においては,株式交付をすることができるものとすることに賛同する意見が多く出されましたが,その具体的な規律については更に検討が必要ではないかとの御意見も頂きました。本文は,仮に,株式交付に関する規律を設けるものとする場合におけるより具体的な規律の内容について,どのように考えるかを問うもので,株式交付に関する全体的な規律の概要については別紙としてまとめさせていただいております。そして,その中で特に御議論いただきたい点について,1から5までとして,個別に本文で取り上げさせていただいております。   まず,総論としては,株式交付は,言わば部分的な株式交換として,親子会社関係がなかった株式交付親株式会社と株式交付子会社との間に親子会社関係が創設される組織法上の行為と位置付けられることを想定しています。そこで,株式交付をすることができるのは,株式交付親株式会社が,株式交付により株式交付子会社を新たにその子会社としようとする場合に限るものとすることが考えられます。また,株式交付については,基本的に株式交換に関する規律と同様の規律を設けることが考えられ,株式交換の場合と同様に,会社法第199条第3項及び同項の適用を前提とした有利発行規制も適用されないことを前提にしております。   次に,個別に取り上げている論点についての御説明ですが,6ページ,1は,別紙1(3)に記載しているとおり,株式交付親株式会社が取得する株式交付子会社の株式の数の下限は,株式交付の効力発生日において株式交付子会社の議決権の総数に対する株式交付親株式会社がその子会社等を含む自己の計算において所有している議決権の数の割合が2分の1を超えることとなるように定めなければならないものとすることについて,どのように考えるかを問うものです。   株式交付については,別紙2(9)のとおり,現物出資財産に係る検査役の調査や募集株式の引受人及び取締役等の財産価額塡補責任に相当する規律の適用はないものとすることを含め,会社法第199条第1項の募集により株式を発行する場合とは適用される規律が異なるため,株式交付に関する規律の対象となる株式の交付の範囲は,本文のように,客観的かつ形式的な基準によって定めることが考えられます。   次に,7ページ,2は,別紙1(1)⑥のとおり,株式交付親株式会社は,株式交付において株式交付子会社の株式と併せて株式交付子会社の新株予約権等を取得することができるものとすることについて,どのように考えるかを問うものです。   株式交付後に株式交付子会社の新株予約権が残存していると,当該新株予約権が行使されたときに,株式交付後に親子会社関係が崩れる結果となる可能性がありますし,公開買付規制の適用がある場合には,いわゆる全部勧誘義務及び全部買付義務が発生し,新株予約権等についても公開買付けで買い付けることが義務付けられる場合もあり得ると考えられ,このような場合に,株式交付親株式会社が,株式交付という一つの手続によって株式交付子会社の新株予約権等も同時に取得することを望む場合もあり得ると考えられます。   もっとも,株式交付は,株式交付親株式会社が株式交付子会社の株式の取得により株式交付子会社をその子会社としようとする場合を想定しており,株式交付により株式交付子会社の株式を全く取得しない場合は想定しておりませんので,本文のとおり,株式交付子会社の株式と併せて取得する場合には,株式交付において株式交付子会社の新株予約権等を取得することができるものとすることが考えられます。   続いて,3は,別紙1(1)④,⑤,⑥ハのとおり,株式交付親株式会社は,株式交付において株式交付子会社の株式又は新株予約権等を取得するのと引換えに,株式交付親株式会社の株式と併せて株式交付親株式会社の株式以外の財産を交付することができるものとすることについて,どのように考えるかを問うものです。   株式交換においては,対価が柔軟化され,無対価とすることも可能とされており,株式交付についても,この点で差異を設ける必要は基本的にないと考えられます。もっとも,株式交付は,一定の要件を満たす場合には,株式交付親株式会社において,会社法第199条第1項の募集によらずに株式を交付することができるものとするものであり,株式交付により株式交付親株式会社の株式を全く交付しない場合は想定していないため,本文のとおり,株式交付子会社の株式を取得するのと引換えに交付する対価の一部に株式交付親株式会社の株式が含まれる場合には,他の種類の財産を併せて交付すること及び取得する新株予約権等について何らの対価を交付しないことができるものとすることが考えられます。   次に,8ページ,4は,簡易手続について取り上げたものですが,別紙3(1)イ,(2)ただし書のとおり,株式交付については,部分的な株式交換として,株式交換に準じた簡易手続に関する規律を設けることが考えられます。   最後に9ページ,5は,別紙の4のとおり,株式交付子会社においては,株式交付について,株主総会の決議や取締役会の決議等の特段の手続を要しないものとすることについて,どのように考えるかを問うものです。   株式交付においては,株式交付子会社の株式及び新株予約権等が株式交付親株式会社に譲り渡されるのみであり,別紙2(2)で記載しているとおり,株式交付子会社の株主等は,自らの申込みに基づいて,自らが有する株式交付子会社の株式等を譲り渡すものとすることを想定しているため,株式交付子会社において株主又は債権者の保護に関する手続を要するものとする必要もないと考えられます。   第一読会においては,株式交付子会社の株主として残存する株主の保護を図るという観点から,株式交付子会社において株主総会の決議を要するものとしてはどうかという意見も出されましたが,この点については,別途適用があり得る公開買付規制や株式交付子会社の株式等の譲渡制限に関する規律をもって対応され得る問題であるとも考えられ,そのような手当てをすることについては,株式の譲渡等に関する従来の規律との整合性等について,慎重な検討が必要となると考えられます。   御説明は以上となります。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   それでは,この部会資料12につきましては,二つに区切らせていただきたいと思います。   まずは,第1と第2,5ページまでにつきまして,御質問,御意見を頂ければと思います。どなたからでも,どの点についてでも結構でございます。   古本委員,どうぞ。 ○古本委員 ありがとうございます。   まず,第1の社外取締役の行為の業務執行該当性についても,経団連で再度議論いたしましたが,社外取締役の行為の業務執行該当性をめぐって,実務上,何か解釈上問題になっているという認識はありませんので,少なくとも実務上のニーズはないと感じております。   今回の御提案では,セーフ・ハーバーとしての位置付けが明確化されておりますが,こうした規定を置くことによって,厳密に言えば,この手続を必要としないような行為についても,例えば,当該社外取締役が要請することによって,念のために,やはり取締役会決議を得ておこうといった方向に働くのではないかといった意見が出ております。   また,例えば,外国当局の調査に対応するといった局面で,業務執行取締役が入らないような委員会がその当局と何らかの交渉,折衝をすることが必要になるケースも考えられますが,こうした当局との折衝行為に業務執行性があるのかといったようなことについては,まだ,業務執行性が残るという考え方もあり得,どこまでいってもこういう問題は残るのではないかということからすると,経団連としては,こういう規律を是非入れてほしいということにはならないということです。   それから,第2の「議決権行使書面の閲覧謄写請求権の濫用的な行使の制限」について申し上げます。この請求権につきましては,やはり濫用的な行使の制限を目的に,請求時に理由の明示を要件化すること,それから拒絶事由を設けること,このいずれについても賛成です。   具体的な拒絶事由に関する(2)の①については,本来の制度趣旨にそぐわないような閲覧謄写についてまで権利を認める必要はないという考え方から,B案に賛成です。資料には,閲覧謄写の請求は限られた期間にされるということ,それから,現行法上禁止されているとまでは言えない株主の権利行使を制限することとなるということから,慎重な検討が必要であるという指摘もありますが,第一読会でも申し上げましたように,限られた期間内ではありますが,請求によって連日業務への影響が出る,会場準備のためのコストが掛かるといった弊害が現に生じているということもありますし,他の株主に迷惑が生じているという事例も報告されておりますので,その辺りを御考慮いただきたいと思います。   それから,資料の5ページ目ですけれども,株主の住所は議決権行使書面の法定記載事項ではないということ,それから,実務上も住所を記載しない対応がとられている例もあるということから,プライバシー保護の観点からは,会社法上の手当てをする必要性は高くないのではないかといった指摘もされておりますが,仮に住所を議決権行使書面の記載欄から外したとしても,議決権行使書面に記載されている株主の氏名を手掛かりに株主名簿の閲覧謄写請求を行って,他の株主への勧誘等を行うことは可能であり,実際にそういうことが行われている企業もありますので,やはり閲覧の目的自体を本来の制度趣旨にかなったものに制限しない限り,濫用的な権利行使の問題は解決しないのではないかと考えます。   それから,第一読会のときにも申し上げましたが,この制度自体が,上場会社については,本当に意味があるのかということに疑問を持っておりまして,責任を持ってカウントを行った株主名簿管理人をうまく活用して,制度の合理化を図るべきではないかと思います。   この点につきましては,部会資料の3ページ目の終わりから4ページ目にかけて記載がありますが,株主名簿管理人の資格は,東証の有価証券上場規程施行規則212条によって限定されております。また,株主など第三者に対しても,問題があれば,民法上の不法行為責任を負うと解釈されていると理解しておりますので,株主名簿管理人が不適切な集計を行うおそれは低いのではないか,これをうまく活用できないかと考えております。   株主名簿管理人の集計を,何らかの手続を踏んで正とするというやり方もありますし,検査役を選任して,株主名簿管理人の集計の適法性を何らかの簡便な方法によって確認するというやり方もあるのではないかと考えております。したがって,上場会社については,現行の株主による手作業での確認に委ねるよりも,そうした新たな合理的な制度設計が可能だと思いますので,この点,更に御検討いただけないかと思います。   ありがとうございます。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。   どうぞ,小林委員。 ○小林委員 どうもありがとうございます。   まず,第1の「社外取締役の行為の業務執行該当性」ですが,部会資料では,都度,取締役会の決議によってというところですけれども,社外取締役に一定の行為を委任することは頻繁にはないということでも,やはり会社によっては,社外性の要件について,どうしても保守的に取締役会の決議を得ることも考えられ,どうしても取締役会の負担が増えてしまうことはあり得ます。日本商工会議所としては,現行の解釈のレベルから見ても,あえてこのような規律を設けることまでは必要ないという感触でございます。   仮に規律するにしても,例えば,都度だとそのようなことが起こり得るので,あらかじめ委任が予想される項目について,先に基準を定めておくことも考えられます。その場合は,事前に設けた基準から逸脱していれば,事後的にガバナンスの問題になると思うのですけれども,考え方の問題として,基準を事前に定めておいて,毎回,どの取締役に委任するなどの取締役会の決議は必要ないと規定すれば,取締役会の負担増を心配される会社にとっては,そういうやり方もあるかもしれないので,ここで記述されている都度という要件は明示しないことも,検討の余地はあると思います。   ただ,やはり,あえてこの規律が必要かどうかについては,このようなことも含めて,慎重に検討いただいた方がよろしいと考えました。   まず第1は以上でございます。   第2の「議決権行使書面の閲覧謄写請求権の濫用的な行使の制限」につきましては,会社実務の観点からは,このような目的外請求に対する一定の抑止力を果たす提案をしていただいたことは有り難いと思いますし,賛成でございます。その上で,提案のA案,B案については,やはりB案を支持するところでございます。   先ほどの御発言にもございましたが,やはり,議決権行使書面の閲覧謄写請求は,株主の意思に基づかない議決権行使や,議決権行使書面による投票が採決に正確に反映されないなどの瑕疵のある処理を防いで,株主総会の決議が適法かつ公正に至ることを担保するための制度であり,その後に予定される株主総会の決議の取消し等の訴えをもって請求するために定められた権利だと考えますと,その制度趣旨と離れた目的を持って請求することは,やはり認めるべきではないのではないかと思います。   そうしますと,B案のように,そこまで株主の権利を制限する必要は高くないという意見もあるということですけれども,株主の権利の確保や行使に関する調査の請求といっても,閲覧謄写に当たって,場所の確保や従業員の立会いは,非常に負担の重いところがございますので,制度趣旨からいっても,その請求の目的は厳格に限定すべきであり,限定していただきたいというのが,商工会議所としての意見でございます。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   沖委員,どうぞ。 ○沖委員 ありがとうございます。   第1の「社外取締役の行為の業務執行該当性」について意見を申し上げます。   今回の部会資料の御提案では,株式会社と取締役との利益が相反する状況を例示として,要件を拡大していただいた点,また,セーフ・ハーバー・ルールという位置付けを明確とし,特定受託業務とされることにより,仮に業務執行に該当する場合であっても,「業務を執行した」に該当しないとする効果を明確にされた点は意義が大きいかと考えます。また,規定創設の効果として,業務執行の該当性に関する従来の解釈を変更しないことを明らかにし,反対解釈しないことを明らかにしていただくことも賛成であります。   ただ,包括的要件としての株主共同の利益という要件の部分ですけれども,業務執行に該当する場合でも除外するという重要な法的効果を認める以上,これにふさわしい何らかの要件を必要とする趣旨は十分に理解できます。しかし,株主共同の利益というこの用語ですけれども,これはどの株主にも共通する利益という意味に考えられるのでありますが,特定受託業務としての是非は,結局のところ,全株主の利益との関連というよりは,社外取締役が職務として行うことが適切か否かという観点から判断するほかないものとも考えられますので,この要件の部分につきましては,今後も継続して,より適切な要件がないか検討をお願いしたいと思います。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   ほかにいかがですか。   野村委員,どうぞ。 ○野村委員 私も,社外取締役の業務執行該当性に関してのところで,一言意見を申し上げたいと思いますが,確かにこの規律があるやなしやにかかわらず,解釈によって,これは何が業務なのかということを議論するので足りるという側面もあるのかもしれませんが,やはり私は,セーフ・ハーバー・ルールがあった方が望ましい局面というのも,今後多くなってくるのではないかなというふうに考えております。   といいますのは,例えば監査等委員会設置会社を考えてみますと,法律上,取締役会の中に最低2名の社外取締役が必要ということになっているわけでありますが,万が一社外性が争われて,社外取締役としての要件を欠いているということが争点となってしまった場合には,場合によっては,取締役会の決議そのものの効力に攻撃が加えられるという可能性も出てくるかというふうに思います。そういう中で,例えば,一方において利益相反関係が想定されます全部取得条項付種類株式を使ったスクイーズ・アウトであるとか,そういったような局面の価格の妥当性について,できれば社外取締役を有効活用して,客観性のある形の第三者委員会等を活用したいというふうに思ったときに,それをきちんと正当性を担保しつつ,法的安定性を確保するためには,社外取締役の要件を欠くことにはならないということをきちんと手続的に保証されるような形で進めていくことが,正しくいわゆるセーフ・ハーバーとして必要なわけであります。そういう意味では,従来,監査役設置会社を想定して,法律上,社外取締役が取締役会の要件とされていないという,そういう前提の下で,仮に社外性を欠いたとしても,別に問題ないではないかという議論はあるのかもしれませんが,必ずしもそうとは言えない会社も数が増えてきておりますので,そういう意味では,セーフ・ハーバーをしっかりと確立しておくということは大事ではないかなというふうに考えている次第でございます。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   田中幹事,どうぞ。 ○田中幹事 ありがとうございます。   第1及び第2について意見を申し上げたいと思います。   第1の「社外取締役の行為の業務執行該当性」ですが,前回申し上げたように,私としては,業務執行該当性については依然として解釈に不明確な部分が残っていると私は思っていますので,こうしたセーフ・ハーバーを設けることについてはよろしいのではないかと思います。ただちょっと,ほかのどなたも問題点を指摘されていないので,そういうことを問題にする必要はないのかもしれませんけれども,ちょっと私,このセーフ・ハーバーの作り方に疑問を持っております。   というのは,従来,私なども含めて,学説が主張していたのは,同じ行為であっても,業務執行取締役がすれば業務の執行になるのだけれども,社外取締役が1回的に,業務執行取締役の指揮命令を受けずに行為をするときは,それは個別の行為の委託なので,それは業務執行と解さなくていいのだという解釈を述べていたわけです。ところが,第1の(1)の文章を見ると,いずれも「業務を執行」するという言葉が使われております。   このうち,最初に使われている取締役が「株式会社の業務を執行することにより」という部分で,「業務の執行」という言葉を使うのは,これは業務執行取締役がするということが想定されていますから,ここは「業務の執行」という言葉を使ってもいいのかもしれませんが,その次の,社外取締役がこれをするときも,それを「業務を執行する」と言っているのは,一応私の解釈では,ここは「業務の執行」ではないはずであると。したがって,もしここで条文が,この部分で「業務の執行」という言葉を使うと,従来の学説の解釈を否定したというふうに受け取られるおそれがあると私は思っているのですが,ほかのどなたもそれをおっしゃっていなかったので,あるいはちょっと考え過ぎなのかもしれませんけれども,そういう問題があり得るのではないかと思います。   それでは,どうすればいいかなのですが,実はこの御提案の補足説明の中で,「業務に関する行為」という言葉が使われていまして,これを規定に使えばいいのではないかと思っております。つまり条文上は,「業務の執行」という言葉をこの部分では使わないで,「業務に関する行為」とだけしておくと。そして,この条文に当てはまる場合は,業務執行の解釈にかかわらず,とにかく会社法2条第15号イの「業務を執行した」には当たらないということを明確にすると,こうすれば,セーフ・ハーバー規定の趣旨に沿うのではないかと考えております。   それから,先ほど来,こういうセーフ・ハーバーを設けることで,かえって実務が保守的になるのではないかという御懸念が示されていました。それはもちろん,そういう懸念もあるかもしれませんが,一方で,本来社外取締役に業務執行させないとした趣旨ということも考える必要があるわけでして,社外取締役が,1回的に,業務執行取締役の監督を受けずに会社の業務に関する行為をした場合は,業務執行でないのだという解釈だけが独り歩きしますと,本来は業務執行取締役がやっても何ら問題なく,むしろすべきような業務についても,一回一回,社外取締役が委託を受けてやってしまうという可能性もありますし,さらには,別に一回一回の委任でなくて,継続的に委任を受けて,やってしまうと。しかも,それは業務執行取締役の監督もなく,したがって,誰の監督も受けずにやってしまってもよいのだというような,ちょっと野方図な実務がまかり通るおそれもなきにしもあらずでありまして,そういう意味でいえば,セーフ・ハーバー規定としては,その都度,取締役会の委任を要件とすることもおかしくないのではと思います。実際,この規定が主に念頭に置いているような,非公開化取引において,社外取締役が買収者側と交渉するとか,そういった場合を念頭に置けば,従来も当然,取締役会の委任を受けてやっていると思いますので,それほど問題はないと申しますか,この規制を置くに当たって余り保守的になり過ぎることを心配する必要はないのではないかと考えております。   それから,第2の議決権行使書面の閲覧謄写請求権に関してなのですが,ちょっと,前回御提案申し上げたように,私としては,この制度を,議決権のカウントに誤りあるいは不正がある可能性があるときに,それを解決する制度という考え方にして,裁判所が選任した検査役ないし,そういう立場の人に数えさせると。そういった制度にするということも御検討いただいてもいいのではないかと思っています。   仮に,そうではなくて,現在の提案のように,閲覧謄写請求の拒絶事由を設けるという制度にするとすれば,私としては,B案ですと少し狭すぎる,つまり,閲覧請求をする株主は,必ずしも決議取消しとか決議無効確認の訴えのみを目的とせず,例えば取締役の義務違反による責任を追及するとか,そういう目的もあり得ますから,B案だと少し狭過ぎるのではないかと思います。   ですから,現状のA案かB案かと問われれば,A案の方がいいということになるのですが,いずれの案にせよ,拒絶事由を設けますと,会社としては,まずは拒絶するという程度になる可能性がありまして,その際に,拒絶事由の有無が裁判所で争われるということになりますと,決議取消訴訟の提訴期間内に投票がカウントされなくなるおそれもありますので,少しこの点も考えた方がいいのではないかと思います。   例えば,制度として,拒絶事由は認めないけれども,会社として,株主に議決権行使書面を閲覧させる代わりに,裁判所の選任する第三者に数えてもらうということを会社に選択できるという形にして,その費用の負担は,原則は,会社がそういう選択をした以上,会社になるかもしれませんが,裁判所が事案に応じて,株主に費用を負担させることもできるというような形で制度を作ることもできるのではないかと思っていまして,その方が,あるいは,様々いろいろ派生的な論点で紛争が長引くことも避けられるのではないかなという気がしております。   それから,先ほど,株主名簿管理人を信頼していいのではないかという御意見がございましたけれども,やはり株主名簿管理人は,会社の委任を受けて選任されていますので,完全に中立的な立場と呼べるかという疑問がある。また,この制度は上場会社以外の会社にも適用されますので,その場合には,中立的な株主名簿管理人がいないということもあります。それから,上場会社であっても,議決権のカウントの仕方に関して争いがある場合は,最終的には議長の判断でカウントが行われているのではないか。特に投票の有効,無効などに争いがある場合には,そうではないかと思いますので,株主名簿管理人に任せれば大丈夫ということは,やはり少し難しいのではないかと考えております。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   お隣の坂本幹事,どうぞ。 ○坂本幹事 ありがとうございます。   参考資料33の3ページの真ん中から書かせていただいております,第1の「社外取締役の行為の業務執行該当性」について,意見を入れさせていただいております。   社外取締役の監督機能ですとか助言機能を十全に発揮して,意思決定の適法性,合理性を担保するという役割をしっかり果たしていただくために,セーフ・ハーバーとして規律を設けるということによって,これまで社外取締役が行えるとされてきた行為は引き続き特段の手続を要することなく,一方で,疑義を生じ得る行為が生じた場合には,お示しされたような手続等の要件を満たすことにより実施可能になるというような趣旨の制度整備については,有意義なものであるというふうに考えております。セーフ・ハーバーとしての規律,規定であるということを是非明確にしていただければというふうに思っております。   最後,なお書きで1点だけ,都度の委託というところについて一言入れさせていただいておりますけれども,社外取締役に求められる行為の中に,緊急性ですとか,事柄の性質上,必ずしも個別の委託を受けることを待たずに行うことが適切な場合というのも想定されるのではないかということを考えますと,こういった場合にも対応可能なような形になるように,例えば,都度の委託が不要な行為を定めるということ,あるいは,都度の委託として,一定程度,事前の包括的な委託が認められる余地がないのかという観点も併せて,より有意義なセーフ・ハーバーということにするために,御議論を頂ければというふうに思っております。   ありがとうございます。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   それでは,中東幹事,尾崎委員,齊藤幹事の順で,中東幹事,どうぞ。 ○中東幹事 私は,第2の「議決権行使書面の閲覧謄写請求権の濫用的な行使の制限」について意見を申し述べたいと思います。   先ほど,古本委員,小林委員がおっしゃいましたように,制度趣旨から考えますと,①のB案を採用するということに賛成でございます。その上で,私も直接の閲覧謄写請求という立て付けではなく,株主総会検査役のような形でということも以前の部会では申しました。ただ,補足説明で御説明いただきましたように,なかなかこれが簡単ではないのでしたら,中期的な目標にすべきかと考えております。その点で,田中幹事がおっしゃいました御提案について,賛成させていただきたいと思います。   拒絶事由という形では,必ずしもおっしゃられなかった気がするのですが,裁判所が検査役を選任するのであれば,つまり,会社が検査役の選任を裁判所に申し立てて,検査役に調査してもらうのであれば,閲覧を拒絶してもよいという立て付けにするのが適当かと思います。   これに加えて,支配権争奪の場面等においては,あらかじめ総会検査役が選任されている場合も多いでしょうし,むしろ選任しておくべきだと理解しておりますが,そういった場合については,そもそも議決権行使書面の閲覧謄写請求は認めなくてもよいと,こういう拒絶事由を書き足すということが必要であると思います。   さらに,実務で運用しやすい規定にすることが望ましいと思っておりますので,その点で,古本委員からは,目的を明確に請求株主に示させるべきであるという御意見もありまして,そのことに賛成です。ただ,株主が主張している目的が本当かどうかも,なかなかはっきりしないところもあって,対応に困ることもあろうかと思います。そこで,書きぶりについては具体的な案がないのですが,そもそも決議の瑕疵を争いようのないような場合,そういった場合は拒絶が容易になるように,もう一工夫していただけるといいのではないかと思います。例えば,議案の可否が明らかであるとか,そういった場合等も,拒絶事由にしていただけるといいかと思っております。   いずれにしても,会社法の制度趣旨に沿わない請求には,拒絶事由を活用しやすいようにして,この段階で対応を終わらせるのが望ましいと思います。議決権行使書面の閲覧等では足りず,株主名簿の閲覧等が請求されて,会社に二度手間になってしまうということがないようにすべきであり,古本委員のおっしゃることに賛成でございます。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   尾崎委員,どうぞ。 ○尾崎委員 第1と第2に関してまして,少し意見を述べさせていただきたいと思います。   第1について,セーフ・ハーバー・ルールとしてこの規定を置くということに私も賛成したいと思っております。   私の理解では,第1の(2)の表現がセーフ・ハーバーだと,こういう理解でよろしゅうございましょうか。 ○竹林幹事 (2)によってセーフ・ハーバーになるといいますか,業務執行に仮に当たるものであったとしても,(1)で取締役会の決議を採っていただければ,(2)によって業務執行に当たらないことになるという意味で,セーフ・ハーバーであるということでございます。 ○尾崎委員 ということでございますので,正に特定受託業務を委託された場合について,これは定義の会社法第2条第15号イの「当該株式会社の業務を執行した」に当たらないという,こういうことを明記するということで十分ではないかと考えております。   結局,先ほど経済産業省の坂本幹事からも言われたわけですが,委託されたという,委託の仕方はいろいろとあり得るのだろうと思うのですけれども,その委託されたというところに解釈は残るかもしれませんが,やはり株式会社から特定の受託業務と,それをやってくれと言われた場合,これに限ってだけ,社外にはならないと,「当該株式会社の業務を執行した」に当たらないという解釈を採れと,こういう御趣旨ですよね。だったら,私は賛成です。これで十分だと私は思っております。    第2の議決権行使書面の閲覧謄写請求の濫用のことでございますが,結論から申しますと,私,B案に賛成です。と申しますのは,やはり,4ページに書いてありますように,この議決権行使書面を閲覧謄写請求する趣旨というのは何であるかというふうに考えますと,先ほど田中先生がおっしゃったように,これはカウントの問題であると思います。つまり,そのとおりきちんとカウントされているかどうかが問題であって,それ以上の目的は普通余り考えられない。つまり,カウントがおかしかったら決議取消しであるとか,カウントがおかしいから解任ができなかったとか,様々な,要は議決権行使書面が記載どおりにカウントされているかどうかの問題であるという捉え方,私もそのとおりだと思っております。   そうであるとするならば,やはり,まず目的の段階におきまして,4ページのところに書かれておりますように,下のところでしょうか,株主の意思に基づかない議決権行使とか,書面による投票が採決に反映されていないとか,こういったことが確認できるということが正に制度趣旨ですので,そういう目的によって,閲覧謄写請求をしてくるということに恐らくなると思います。それでは一体,誰がカウントするのが一番理想形かという話になっているかと思うわけですが,それをその都度裁判所を動かすのか,それとも議長がするのか。これはそれぞれ,いろいろな会社の対応があろうかと思いますが,将来的にいうならば,電磁的方法による議決権行使が可能になってくる。また,カウントの仕方というのは恐らく変わってくる,これは先の話でございますが。これは,要はカウントの問題であるということを正面から捉えれば,B案というのが割と素直なことになるのではないかと考えます。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   それでは,齊藤幹事,松井幹事,梅野幹事の順で,齊藤幹事,どうぞ。 ○齊藤幹事 ありがとうございます。   既に中東幹事がおっしゃったところと重なりますけれども,議決権行使書面の閲覧の制限につきまして,私も田中幹事がおっしゃったように,総会検査役の制度に接続させるのがよいのではないか,田中幹事は必ずしも総会検査役とはおっしゃいませんでしたけれども,これまで挙がった職務は総会検査役の役割の少なくとも一部に相当することになりますので,同制度に吸収する形が,新しい制度を創設するというよりも望ましいのではないかと。   ただ,総会検査役の実務について通じているわけではありませんので,このように議決権行使書面についてだけ調査をするというような利用の仕方がそもそも可能なのかは分かりません。今までの制度ではできないのでしたら,そのような一部の調査みたいなのもできるようなオプションを用意するというのが一つの方法ではないかと思います。   検査役制度の活用が難しいということで,現在御提案のような拒絶事由の形で対応する場合には,端的に議決権のカウントを確かめるという目的以外の目的というのを拒絶事由として挙げて,さらに,利益を得て第三者に通報するというようなことが拒絶事由に挙がっていますけれども,今申し上げた目的以外の利用があったことが判明したときは,次の2年間利用できないとか,そのような形でサンクションを設けるというのも一つの方法ではないかと思いました。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   松井幹事,どうぞ。 ○松井(智)幹事 ありがとうございます。   私は,主として第1に関して,何点か気が付いたことを申し上げたいと思います。   まず第1に,(1)なのですけれども,規定に落とすときの規定ぶりの問題かとは思いますけれども,社外取締役というのは定義上,取締役である者ということになっておりまして,かつ,業務を執行するが同じように2回使われていますので,(2)のところで社外取締役の業務執行が業務執行に当たらないとされていますけれども,(1)は若干ループするような条文になっておりまして,そういう意味では,業務執行という言葉を二つ目について使わないなり何なり,条文にするときのターミノロジーは少し整理の余地があるのかしらというふうに感じました。   二つ目に,このような決定によって当該業務の執行が委託されたとしても,この社外取締役の独立性自体であるとか,あるいは,その社外取締役が交渉した結果が妥当な公平なものであるかといったようなことへの司法判断には影響がないものと考えておりまして,そのようになりますと,場合によっては,社外取締役の導いた結果というのが妥当でなかったというような結論が出てくる場合というのもあるのではないかというふうに考えるわけなのですけれども,そういたしますと,先ほど,包括的な委託との関連もあるのですが,社外取締役に就任する際に,ここでまた新たに認められることになる業務のうち,非常にリスクが高いものについて,委嘱を打診されたときに,事前の委託契約の内容には含まれないと思っていたということで,不承諾ということができるのかということがあるかと思います。   多分,今でもその問題は,この改正と関係なくあるとは思うのですけれども,このように条文化することによって,委託することができるものとするという条文によって,取締役,会社側にそのような委託を行う権限というのを与えているかのように,条文上見えてしまうという可能性はないかということについてだけ,若干懸念があります。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   それでは,梅野幹事,どうぞ。 ○梅野幹事 議決権行使書面の濫用的な行使の制限について,A案,B案がございますが,B案というのは非常に論理的に筋が通っているとは思いますものの,私としてはA案でよいのではないかと考えております。   現在検討されているのは,濫用的な行使の制限ということでございますので,例えば,3ページに,株主が議決権行使書面を見て,他の株主にコンタクトした結果,抗議がされるといったことが例として挙げられていますが,こういったことが本当に濫用なのかどうかというのは,少し慎重に考えなければいけないと思います。   といいますのは,委任状争奪戦といったことに関与する場合が多いのですけれども,そういった場面では,どうしても双方が双方の株主に対して働き掛けをする。電話を掛けて,書面を送ってということを繰り返して行うこととなります。そういう場合,通常の株主の方には迷惑になるような場面というのもあるのですが,やはり会社の支配権の帰趨を決するために,そういったことをせざるを得ないような場合がございます。そういう株主が株主にコンタクトするような事柄について,濫用みたいな形で位置付けられるのは若干違和感があるというのが,実務家としての正直な感覚でございます。   そういった意味では,5ページの8,9行目に記載されていますが,現行法上禁止されているとまでは言えない株主の権利行使を制限することを,あえてこの場面で濫用として整理することはないのではないかという感想を持った次第です。 ○神田部会長 ありがとうございました。   北村委員,三瓶委員,前田委員の順でお願いしたいと思います。   北村委員,どうぞ。 ○北村委員 ありがとうございます。   私も,第2の議決権行使書面の閲覧謄写請求権の濫用的行使の制限について,少し意見を述べたいと思います。   まず,田中幹事がおっしゃった拒絶事由以外の選択肢を考えてはどうかという御提案は,検討に値するものと考えております。その上で,部会資料に示されている拒絶事由について述べたいと思います。   実務界からの,非常に業務に差し障りのあるような閲覧謄写請求がされるから拒絶事由を設けるニーズがあるという御意見は,もっともだと思いますので,株主名簿の閲覧請求などと同じように,理由を明らかにさせるということと,拒絶事由を定めるという方向性に賛成でございます。   A案,B案についてでございますけれども,梅野幹事が指摘されたように,株主提案に賛成した人を議決権行使書面によって確認し,そのような人たちに共同提案を勧誘するということは,株主の権利行使としてそれなりに意味はあると思うのですけれども,それが会社法311条4項が本来想定していた事柄かというと,少し疑問がございます。   議決権行使書面を3か月備え置いて株主からの閲覧謄写請求に応じるという制度になっていることからも,B案には831条と830条1項が上がっていますけれども,実質的には831条が問題になるのだろうと思います。そういたしますと,私は,基本はB案なのではないかと,このように思うわけでございます。   ただ,会社法311条4項の株主は310条7項の株主とされていますから,その株主総会で決議した事項について議決権を行使できなかった株主は,議決権行使書面の閲覧謄写を求めることができません。そのような規制の下で,B案のように議決権行使書面の閲覧請求は会社法831条の請求をするためであるというルールができた場合,株主総会決議取消しの訴えを提起できる株主とはどういう株主かということに関する解釈論,すなわち議決権を行使できない株主に原告適格を認めるかどうかという,現在解釈に委ねられている問題に何らかの影響が出てしまうような懸念がないわけではありません。現在の解釈を変えるのではないというのであれば,B案でよいのではないかと思っているところでございます。   もう一点,B案のような定めが出来ますと,ほかの閲覧謄写請求の拒絶事由は株主名簿の閲覧請求の場合に準じているのに,議決権行使書面の閲覧謄写請求だけより限定されているという印象が生じ,ほかの閲覧謄写請求との整合性がとれなくなるという気もいたします。けれども,株主名簿や会計帳簿等と違いまして,委任状や議決権行使書面というのは,株主総会ごとに会社に提出され,3か月備え置いておくものですから,ほかの閲覧謄写の対象となる書類とそこは違ってもいいとも思います。以上より,若干懸念はありますけれども,B案に賛成でございます。 ○神田部会長 ありがとうございました。   三瓶委員,どうぞ。 ○三瓶委員 ありがとうございます。   第1と第2について,一言申し上げます。   第1について,まず,この件に関しては大賛成です。まず,第一読会の際に,MBOに関して,実際になかなか会社側で投資家が,又は株主が期待しているような対処がされていない,つまり利益相反が起こっているような事象がまだまだ多いという懸念を共有させていただきました。そしてまた,MBOについては,重大な利益相反を生じる可能性がある事由として,これは世界共通で,必ずいろいろなところで挙げられるものです。   そういう意味では,海外では,こういったMBOに関しては,まず独立取締役がMBOのプロセスに関して積極的に関与すべきと,そういったことが明らかに期待されています。そういう意味で,独立取締役が既存株主,既存の一般株主との利益相反が生じないように,しっかり関わるということを期待されているので,今回ここで例示として挙げられ,かつ,セーフ・ハーバーとして明確化されるのは,非常に大切,有り難いことだと思っています。そういう意味では,こうやって具体化されることによって,その意識付けというのが強調されるのではないかというふうに思います。   第2の点については,先ほど,私が申し上げたいことをそのまま全部,梅野幹事がおっしゃったので,それに賛同しますということだけにしておきます。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   前田委員,どうぞ。 ○前田委員 既に委員,幹事の方々から出されたことと,ほとんど重なるのですけれども,まず第1については,今回の案は,第一読会の案よりもセーフ・ハーバーであることが分かりやすくなって,適切な御提案であるというように思いました。   ただ,先ほど田中幹事がおっしゃいましたように,「業務を執行することが相当と認めるときは」という部分で「業務の執行」という言葉を使うのがいいのかは,検討を要するのではないかと思います。業務執行に当たるおそれのある行為について,一定の要件を満たすものは,たとえ業務執行に該当しても,社外性要件との関係では業務執行に当たるとは見ないという考え方ですので,少し規定ぶりは工夫が要るのではないかと私も感じました。   それから,第2について,新たな調査の制度を考えるのがいいかは,また別途検討が必要だと思うのですけれども,A案,B案についてだけ意見を申し上げさせていただきますと,この閲覧謄写請求の制度の目的は,株主名簿の閲覧謄写請求よりははるかに特定されているのであって,株主総会決議が適正に行われたかをチェックするための制度であるということは,異論のないところではないかと思います。   ですから,私も考え方としては,B案がいいのではないかと思いますけれども,ここも表現としては,決議の効力を争うというだけでは,既に御指摘があったように狭過ぎますので,例えば,決議の適正さを調査する目的以外の目的のときは拒絶できるなど,ここも少し規定ぶりは工夫が要ると感じました。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   大体よろしいでしょうか。なかなか意見は多様に分かれていますけれども。   青委員,どうぞ。 ○青委員 第1の方ですが,前回の御提案では,会社と取締役の利益相反の状況がある場合に限定されていた点につきまして,今回,親子会社間の取引や支配株主と少数株主の利害対立が生じるような状況についてもカバーできるような表現になったということについて,良くなったと考えております。   あと,表現ぶりとして,株主共同の利益を損なうおそれがある場合というところが,読む方から見て分かりやすいかどうかというところについては,若干疑問がなくはないと思われますので,よりブラッシュアップされた表現があればなお良いかと思いますし,あるいは解説等でより明確化していくことも必要かなという感じがいたしますので,その辺りも御検討いただければと思います。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   それでは,次へ進んでよろしいでしょうか。   それでは,第3,5ページ以降の株式交付という制度について,御質問,御意見をお願いしたいと思います。いかがでしょうか。   どうぞ,小林委員。 ○小林委員 ありがとうございます。   私の方は,第一読会で,この件については,中小企業の事業所を頭に置きまして,基準としては例えば3分の1ぐらいからで,次々買増しをするようなこともあるのではないかと申し上げたのですけれども,今回改めて御提案について意見を述べさせていただきたいと思います。   結局,株式交付子会社というところで,子会社という概念でくくられているので,3分の1というのはさすがに無理かなとは思ったのですけれども,部会資料では議決権の数の割合が2分の1を超えるときと限定されているのですけれども,組織法として規律を行うのであれば,元々会社法施行規則の3条3項2号で,例えば100分の40以上ではあっても,実質的に支配権が及ぶ場合という規定がございますので,ここを仮に要件としても必ずしも差し支えないのではないかと思われます。会社によりいろいろな事情もあるので,もう少し広目の概念を採っていただけると良いのではないか思います。   この点は,第一読会で,例えば産業競争力強化法の話とかも引き合いに出されていて,この要件も100分の40以上というようなところが,実質的な支配権の話として出ていますから,そういう意味でも,必ずしも議決権の数にこだわらなくてもよいという印象を持ちます。   もう一つ,買増しの話をさせていただきましたが,仮に今回の話で,議決権が2分の1以上が良いのか100分の40以上が良いのかは別としても,1回子会社にしたところから,次は100%の株式交換,株式での対価ということができます。しかし,40のときはなおさらですけれども,まず50に買い増して,例えば51から3分の2以上にしたいときに,初めは3分の2を株式交付により取得しようとしたけれど,事情があって少ない金額分しか買えなかったときに,後で事情が変わって買い増したいというケースも当然あり得ます。その場合,次は金銭しか使えないとなると,使い勝手が悪そうなので,子会社という前提であれば,一旦子会社にしてしまったら,その子会社の株式を買い増すときは株式交付が使えるという考え方はあり得るのではないかと思います。   そういう意味で,先ほど,元々申し上げた,事業承継などのときには,いろいろ中の支配権の事情があって,すぐに一回では買えず,徐々に買い増すときに,たまたま全て買えたときは株式交付でいけるけれども,途中までしか買えなかったときに,次は現金でないといけないというのは,どうも私どもとしては,使い勝手が悪そうな印象を覚えますので,そういう意味で,子会社になってからも,追加で親会社株式の交付ができるというところは考えていただきたいと思います。   ですので,まとめますと,これまでの仕組みに追加的に,株式交付というような規律を設けていただけるのであれば,もう少し広目に,2分の1ありきではなく,例えば,先ほど申し上げた100分の40以上の取得による実質的な支配権の場合も含める方が良いし,子会社という概念を,議決権ではなく広目に取っていればなおさらですけれども,その後の追加的な子会社の株式の取得のときに,親会社の株式の交付を認めることを考えていただく方が,企業が利用しやすい制度設計になる可能性が高いので,この点を改めて御検討をお願いします。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。   どうぞ,稲垣委員。 ○稲垣委員 まず一つ,質問なのですけれども,それと,もう一つ意見がありますけれども,まず質問の方で,7ページで,「株式交付子会社の株式等と引換えに交付する対価」とありまして,親会社の株式と併せて株式交付親会社の株式以外の財産を交付することができるとありますが,これは親会社の株式とその他の財産ということで,金銭等の場合,その割合が逆転している,つまり株式よりも現金の割合の方が大きいという場合でも問題がなく交付することができるというような考え方でよろしいのでしょうか。 ○竹林幹事 この場面におきましては,特段制限等はございません。 ○稲垣委員 このような場面では,自己株を使うという場面があるのだろうと理解しておりますが,むしろ実態としては,現金が主で,一部を株式で対価として交付を行っていくというようなことが実務としてはあるのではないかと思いますので,実務的にいろいろな場面で利用されるという意味においては,フレキシブルな形にしておいていただいた方がいいというのが私の意見であります。   特に近年,株主還元というのが非常に高まってきまして,配当性向も上がっていますし,総株主還元ということで,自己株買いということも非常に増えてきていると思います。しかし,自己株の使い方というのが非常に制約されていて,使いづらいという形になっていると思いますので,その辺は柔軟性を持った制度にしてもらえればいいなと思います。   その関係で申しますと,先ほどもちょっと御意見が出ました,6ページの1のところですけれども,株式交付子会社の株式の数の下限の定めということで,子会社化する場合に使えるという制度になっておりますけれども,いろいろ制度設計上の問題や理論的な整合性というのはあろうかと思いますが,実務としましては,先ほども御意見が出ましたように,一旦子会社化したものの,更に株式の買増しをするといった場合においても使えるなど,実際に制度化したときにはいろいろな場面で使われる機会も多いと思いますし,それでもって特段の問題があるとは余り思わないのですが,そのようなことも是非御検討いただければと思います。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。   どうぞ,坂本幹事。 ○坂本幹事 ありがとうございます。   参考資料33の4ページに書かせていただいております,株対価による買収ということでの株式交付という形での制度整備の御提案については,大変ニーズの高いものだというふうに考えておりまして,特に第4次産業革命ということで,非常にグローバルな環境変化のスピードが増す中で,大胆でかつ機動的な企業再編を促進するということが非常に重要になってきていると思います。   こうした中で,欧米では,特に新興企業の成長期あるいは大規模M&A案件において,株式を活用した再編というのが非常に重要な手段の一つということになっておりますし,以前,部会資料でもお示しいただいたような,対象会社が外国会社である,あるいは,事業上の戦略として,あえて完全子会社とすることまでは意図しないといったようなケースに加えまして,2段階買収における1段階目の取引といったような場合においても,こういった円滑な形で株対価を使った事業再編が行えるようにするということは,非常に有意義な御提案だというふうに思っております。   最後に,なお書きで一つ入れさせていただいておりますが,委員からもありましたように,例えば,子会社を完全子会社にするといったようなケースにつきましても,こういった自社株を対価として用いるニーズというのは,同じように高いものだというふうに認識をしておりますので,完全子会社というような形での新たな関係を創設するという見方をする余地がないのかといった点についても,せっかくの御提案ですので,併せて御検討いただければ大変有り難いなというふうに思います。   ありがとうございます。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。   どうぞ,梅野幹事。 ○梅野幹事 ありがとうございます。   まず,1点目は,先ほど稲垣委員がおっしゃられたところですが,株式交付で,対価として金銭の割合が多い場合を考えます。その場合には,株式交付なので,総会特別決議と債権者保護手続が必要になってきます。一方,同様の事柄というのは,公開買付けによってもできるわけで,その場合には,今述べたような手続は必要ないということになります。どのような手段を選択するかによって,手続の違いが出てくるということを問題意識としては持っております。ただし,この点については,異なる二つの制度があるということで,会社の判断によって使い分ければいいと,ニーズによって使い分ければいいということで整理できるのかと思っております。   もう1点目は,質問ですが,部会資料の10ページを拝見すると,1(1)⑥のロとハで,新株予約権を取得する場合には,ロに書いてありますが,株式交付親会社の株式を使えるとともに,ハでは,親会社の株式以外の財産も交付することができるとなっていて,柔軟な立て付けになっているものと理解しています。   株式交換の場合は,768条1項4号の定めがあって,株式交換完全子会社の新株予約権者に対しては,親会社の新株予約権のみの交付が認められるということになっていて,株式交付の場合とは,若干対価の柔軟性に違いがあるのかと思うのです。多分今回の株式交付に関する先ほどの規定の御趣旨というのは,せっかく子会社化するのに新株予約権が残ってしまう結果,後になってまた子会社ではなくなってしまうような事態を防ぐために,そういう柔軟な対応をされているということだと理解しています。   ですから,今回の改正のスコープは,飽くまで株式交付に関するものであって,例えば株式交換の際,あるいは合併の際なども関係してくるのかもしれませんが,それらの際の新株予約権の扱いについてまで,今回,改正を考えられているのではないのかどうかという点について,お伺いしたいと思った次第です。 ○神田部会長 ありがとうございました。 ○竹林幹事 御指摘のとおりでございまして,対価の柔軟化は,この場面に限って,そのように考えておりますけれども,他の組織再編手続まで修正するというようなことまでは考えておりません。 ○神田部会長 よろしゅうございますでしょうか。ありがとうございました。   松井幹事,どうぞ。 ○松井(智)幹事 ありがとうございます。   1点質問なのですけれども,株式交付子会社の株主というのは,2の手続における申込者になると思うのですけれども,この申込者が下限を超えた数の申込みをしてきたときに,減算することが(3)で認められておりますけれども,申込者間の公平性を担保する手続というのはどのように確保されているかということ,そのようなことによって,例えば,子会社になった会社において,塩漬けといいますか,若干権利を害されることになったと感じている子会社の株主は,事後的に子の組織再編の効力を何かしらの手続によって争うことができるかという点についてお伺いしたいと思います。 ○神田部会長 ありがとうございます。 ○竹林幹事 今の御質問でございますが,前半に御質問いただいた点につきましては,公開買付け等の規制が掛かるのであれば,そのような手続になるかと思いますが,そういったものが掛からなければ,基本的には割当自由というような考え方を採っております。   そして,後半の御質問でございますけれども,そちらも公開買付け等についての規制があれば,そういう手続での保護,あるいは譲渡制限株式等であれば,株主総会決議等による保護等が図られますけれども,それ以外,原則的な規律として,元々会社法が保護を予定していないというようなところにつきましては,今の規律のままという形になるということを考えております。 ○神田部会長 よろしいでしょうか。 ○松井(智)幹事 はい。 ○神田部会長 ほかにいかがでしょうか。   青委員,どうぞ。 ○青委員 今回の御提案の株式交付の手続を新たに設けること自体については賛成でございます。   ただし,先ほどから,皆様からも御意見が出ているように,どこまでその範囲を広げられるかという点について,更に検討を行う必要があるかと考えております。   また,組織法上の行為という形で整理していただいておりますが,どういったものまでが組織法上の行為と読めるのかという点について,どのように考えるべきかが論点になるかと思います。少なくとも,例えばTOBで2段階買収の前段としてやるような行為につきましては,集団的かついずれ100%化を目指すということを考えれば,かなり組織法上の行為という言葉になじみやすいかなという感じがいたします。   一方,単に100%化を目指さずにするTOBに関しましては,それより若干,組織法的な意味合いが薄れてくるという面がございますので,この点については,よく考えていく必要があるのかなという感じがいたします。   それから,先ほどもちょっと指摘がございましたように,TOB規制によって株主の保護が図られているという面がありますので,TOB規制がかからない場合には,取引の個別性がやや強くなってくるという面も出てくるかもしれないので,この点については,会社法で株式交付の手続を認めるとしても,どういった類型までを認めるかについては,十分な議論が必要かという感じがいたします。   加えて,時価があるもの同士であれば,株式交付の手続に非常になじみやすいと思われますが,時価がない場合には,どのような規制や規律が働くのかという面についても,検討が必要かと思われます。   また,2の新株予約権がある場合ですが,こちらは質問なのですが,株式交換の場合ですと,新株予約権を発行している会社を子会社にする場合につきまして,株式ではなくて,基本的に新株予約権を交付するという形になっているかと思いますが,今回の株式交付の手続について,新株予約権者に対して,株式を交付するという形で整理された背景を教えていただければと存じます。 ○神田部会長 ありがとうございました。 ○竹林幹事 今御質問いただきました点は,基本的には,株式交付子会社の株主等は,自らの申込みに基づいて手続をとっていただくということを考えておりますので,基本的には相対であるということから,対価につきましても,柔軟化を進めている,制限を設けていないという考え方を採っております。 ○神田部会長 よろしいでしょうか。   それでは,加藤幹事,それから,野村委員の順で,加藤幹事,どうぞ。 ○加藤幹事 ありがとうございます。   先ほどの松井幹事とのやり取りに関連して,1点意見を述べさせていただきます。   今回の御提案では,株式交付子会社の株主の取扱いについて,買い付ける予定株式数よりも申込み数が多くなった場合,公開買付規制が適用される場合には按分比例になるけれども,公開買付規制が適用されない場合は自由であるという立場をとっているとの御説明であったと思います。このような立場では,例えば早い者勝ちであったり,若しくは特定の大株主のみから買うということも可能になります。もちろん,このような取扱いの中には,株式交付親会社側で行われる何らかの手続によって認められないものも出てきそうですが,特に上場会社ではない公開会社を考えた場合に,そのような取扱いを認めることに不安があります。確かに,上場会社でない公開会社,つまり公開買付規制が適用されない公開会社については,現行法では保護されていないので,この制度を作る際にも保護を与えないことは,制度設計として筋は通っているのですけれども,果たしてそれで本当にいいのかと。私は当初,公開買付規制が適用されない場合でも,按分比例ぐらいは要求されるのかなと思っていました。   あと,もう1点,論点として挙げられている話ではありませんが,先ほど青委員のお話でもありましたけれども,2段階買収の1段階目として株式交付を使う場合に,2段階目にもう1回,例えば組織再編とかをやる場合に,買収者側の方で2回,株式買取請求手続を行う必要があるのかという点であります。もちろん,2段階目が簡易組織再編になれば不要なのですけれども,そうでなければ2回,株式買取請求手続をしなければいけなくて,それは必要なのかということは,ちょっと検討してもいいのかなという気がいたします。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   野村委員,どうぞ。 ○野村委員 今まで御指摘のあったものと問題意識は共有しているのですが,9ページのところの株式交付子会社の手続に関してなのですが,これは基本的に,株主総会の決議や取締役会の決議等は要らないと,個別に譲渡を意思に基づいて行っているのだからというのは,理解できますし,それでよいのかもしれません。ただ,やや概念法学的で申し訳ないのですが,基本的にこの制度のスキーム全体に,組織再編というカテゴリーを当てはめているということを前提にした場合に,結局,株式交付子会社の方の手続として,譲渡しない株主の保護というのがどのように考えられるべきなのかということは,論点として残っているのだと思います。   そのときに,株対価TOBを行っている場合とか,譲渡制限株式である場合の規律があれば,それはそれで結構なのですけれども,それがなかったケースの場合,ないケースの場合に,何の手続もなく子会社化されてしまうということでいいのかどうかというのは,ちょっと考える余地があるのかなと。   要するに,今までの組織再編というものによって株主総会を要求する根拠の中には,支配者が変更になるということに伴う株主の不利益に対しての一定の配慮というものがあったかにも思いますので,そういったような点についての手続規制は要らないのかどうか。これは,是非設けてほしいという趣旨ではないのですけれども,全体的な説明として,それは要らないのかどうかについて,確認をさせていただければと思います。 ○竹林幹事 そういう問題があるということは承知はしていたのですけれども,先ほど松井幹事からお尋ねがあったところの回答と同じようなことになってしまうのですが,現行法を前提としますと,そこに手当てをするということは,必ずしも必要ではないというように割り切ったということでございます。   他方で,組織再編,組織法上の行為という見方につきましては,私どもも,冒頭で,確かにそのような表現を使わせていただいているのですが,ある種,片面的な組織法上の行為と思っておりまして,株式交付親株式会社との関係では,組織法上の行為であると考えていたのですが,株式交付子会社との関係におきましては,先ほど申し上げたように,相対という位置付けをしておりまして,御指摘のような問題点があることは十分承知しておりまして,この辺りにつきましても,もし御意見があれば,また伺いながら考えたいと思っています。 ○野村委員 恐らく,ほぼ同じことを私が繰り返し聞いたかのようにも聞こえたと思うのですが,概念的に組織再編と整理した場合,他の組織再編手続との平仄からして子会社となる株主の保護として何らかの手当てが必要になるのではないかという点が気になったわけです。逆に言えば,概念的な整理の仕方が気になったわけで,具体的な規律が難しいことは承知していますので,それで結構でございます。 ○神田部会長 ありがとうございました。よろしいですかね。   では,前田委員,どうぞ。 ○前田委員 先ほど来,既に子会社となっている会社の株式を買い増す場合にも,この制度を使えるようにしてはどうかという御提案がございました。私も,それは十分検討に値するのではないかと思います。組織法上の行為といえるかは,さほど決定的な問題ではないと思うのですね。現に会社分割のところでは,事業の移転が要件でなくなったところですし,組織法上の行為かどうかということよりは,親会社の株主,債権者の保護が十分かという観点,あるいは制度が余りに複雑になり過ぎないかという観点から検討すべき問題であるように思います。   それから,もう1点,今もお話にありましたように,株式交付子会社側で,子会社となる会社の株主保護のために,株主総会決議など何らかの手続が必要ではないかという問題があることは分かるのですけれども,現物出資規制を外すための会社法上の手当てとしては,今回の案で必要十分なのだと思います。子会社株式の過大評価を防ぐことができればいいのですから。   現物出資規制を外すための手当てにプラスして,子会社株主保護の策を何か考えるべきかですけれども,金銭対価の場合について,特に手当てをすることは,今回は考えていないと思うのですね。それも考えるとなると,それこそ公開買付規制も含めた大きな見直しが必要になってきます。そうすると,今回の株式対価のところだけ株主保護の手当てを設けるのは,バランスが悪いように思います。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   松井幹事,どうぞ。 ○松井(智)幹事 先ほどから質問していたことをずっと考えているのですけれども,これはクリティカルなパーセンテージを持っている株主だけ,譲渡をする際に,特殊な手続を要求するというのは,株式処分という子会社の株主の観点から見ると,ちょっとバランスという点が問題になるのかなとは思うのですが,ただ,先ほど来問題だと思っているのは,塩漬けになる株主,つまり2段階買収の強圧性のようなものが問題になる局面のことでありまして,子会社になる際に提示される価格,若しくは対価として示される株式の数が少な目であるとかいったようなことであっても,子会社の株主としては,それを受け入れざるを得ないというような問題が出てくるのではないかということであります。   先ほどの自己株式の処分について,より発行という点で緩やかに運用できた方が機動性が増すというような話がありましたが,逆に,これを非常に高づかみさせるような説明をしたとしても,親会社の株主がこれを止めるというインセンティブは全くないわけでありまして,価格の適切性のようなものを説明させるであるとか,それに対して,何らかのリアクションができるような制度があった方がいいかなというふうには思いました。 ○神田部会長 ありがとうございました。   なかなか技術的で難しい感じがしますけれども。   神作委員,どうぞ。 ○神作委員 御質問が一つございます。現在提案されている他の会社の株式の取得と引換えにする株式の交付というのが,例えば,非常にシンプルな例で,Aが子会社となる会社の4割の株式を保有しており,BとCがそれぞれ3割ずつ保有していると仮定します。このとき,B,Cから一緒に取得するというときは,これは,先ほど取得の方から見ると,相対ということを言われていたと思いますけれども,二つの手続でやるのか,一つの手続で行うことができるのか,あるいは,そもそもそのようなことが可能なのかというのが一つ目の御質問です。それから,二つ目の御質問は,もしそのようなことが可能であるとすると,ちょっとAとしては,最大の持株比率を有していたのに支配権が一気に変動することになりびっくりしてしまうのではないかという気もいたしまして,何らかの形で子会社の株主に対する情報提供なり何なりが必要なようにも思うのですが,そのようなことは考える必要はないのでしょうか。 ○神田部会長 ありがとうございます。 ○竹林幹事 御質問にありました手続でございますけれども,募集といいますか,そういった手続は基本的には一つなのですが,個々のBあるいはC,それぞれに申込みをしていただくというようなことになっているかと思います。   その後の保護手続が要るかどうかということにつきましては,繰り返しの御説明になりますが,金銭で順番に譲渡されていくような場合と比較して,私どもとしましては,ここだけ保護を入れるという判断はしてはいないのですけれども,そういった御意見が先ほど来から述べられていることは重々承知しております。 ○神田部会長 よろしいでしょうか。   私も1点,親会社の方を聞きたいのですが,片面的な意味での組織法上の行為というふうにおっしゃったので,どこかに書いてあったら私の読み落としなのですけれども,株式交付の効力を争う場合は,これは新株発行の210条とか無効の訴えとか,組織法上の行為について何か特別の差止めと無効の訴えの制度を設けることになるのでしょうか。 ○竹林幹事 親会社の方の手続になるのですが,別紙の12ページのところに書かせていただいておりますが,3の(4)の中に,株式交付親会社における差止請求と株式交付無効の訴えについては,株式交換における株式交換完全親会社についてと同様の規律を設けるという手当てをすることを考えております。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。   どうぞ,齊藤幹事。 ○齊藤幹事 大変細かい点なので,後で非公式に申し上げようかと思っていたのですけれども,債権者保護手続の範囲についてだけ,1点だけ気になったところがありまして,株式交換の場合と平仄をそろえて考えておられるかと思うのですけれども,株式交換の場合,会社計算規則39条2項というところに,財産が流失しない場合についても資本金・資本剰余金の計上の仕方によっては,債権者保護手続が必要になるという規定がございますので,そこも合わせることになるのかなというふうに思いました。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。特によろしゅうございますでしょうか。   そうしましたら,今日は予定より早いのではありますけれども,大分御議論いただきましたので,この辺りにしたいと思います。   非常に多くの御意見を頂きまして,また,御意見が多様で分かれているというか,多様な御意見を頂いている項目もあって,この先どういうふうに進むかということはあるのですけれども,皆様方から非常に積極的にたくさんの御意見を頂きましたことに厚くお礼申し上げます。   それでは,次回の日程等について,事務当局からの説明をお願いいたします。 ○竹林幹事 次回の日程でございます。12月6日水曜日午後1時30分から午後5時30分まで,先ほど議事次第の方の記載を訂正させていただきましたけれども,法務省の地下1階大会議室で開催させていただく予定でございます。   次回からは,中間試案のたたき台について御議論いただきたいと思っております。 ○神田部会長 それでは,本日も大変熱心な御審議を頂きまして,ありがとうございました。   以上で散会いたします。 ―了―