法制審議会 少年法・刑事法 (少年年齢・犯罪者処遇関係)部会 第1分科会第4回会議 議事録 第1 日 時  平成30年1月29日(月)    自 午後 1時28分                          至 午後 3時28分 第2 場 所  東京地方検察庁総務部会議室 第3 議 題  1 刑の全部の執行猶予制度の在り方について         2 社会内処遇に必要な期間の確保について         3 その他 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○隄幹事 ただいまから法制審議会少年法・刑事法(少年年齢・犯罪者処遇関係)部会第1分科会第4回会議を開催いたします。 ○佐伯分科会長 本日は御多忙中のところ,お集まりいただきましてありがとうございます。   まず,議事に入ります前に,第6回の部会以降,部会の委員,幹事に異動がございましたので,御紹介いたします。   林眞琴氏が委員を退任されまして,新たに辻裕教氏が委員に任命されました。また吉田研一郎氏が幹事を退任されまして,新たに宮田祐良氏が幹事に任命されました。委員,幹事の異動は以上です。   次に,事務当局から,資料について説明をお願いいたします。 ○隄幹事 本日,配布資料として,配布資料12「刑の全部の執行猶予制度の在り方(検討課題等)」,配布資料13「社会内処遇に必要な期間の確保(検討課題等)」を配布しております。これらの資料はファイルにとじずに平積みしています。資料に不足がある方は,いらっしゃいますでしょうか。   配布資料の内容については,後ほど意見交換の際に御説明いたします。 ○佐伯分科会長 それでは,審議に入ります。   初めに本日の審議の進行について確認しておきたいと思います。   部会第6回会議において,これまでの分科会における検討状況について中間報告を行い,当分科会に属さない委員・幹事の方々からの御意見を伺いました。今後の分科会では,部会でのこれらの御意見も踏まえながら,更に専門的・技術的な検討を加え,考えられる制度の概要案等を作成するとともに,検討課題を整理していきたいと思います。   論点表に掲げられた四つの論点について,それぞれの検討課題の検討に要する時間等に鑑み,まず,本日の会議においては,社会内処遇に関係する論点である「刑の全部の執行猶予制度の在り方」及び「社会内処遇に必要な期間の確保」について意見交換を行い,そして,次回の第5回会議において,施設内処遇に関する論点である「自由刑の在り方」及び「若年受刑者に対する処遇原則の明確化,若年受刑者を対象とする処遇内容の充実,少年院受刑の対象範囲及び若年受刑者に対する処遇調査の充実」について意見交換を行うこととしたいと思います。   このような検討の進め方でよろしいでしょうか。                 (一同異議なし)   それでは,本日は,初めに「刑の全部の執行猶予制度の在り方」についての意見交換を行いたいと思います。   今後の意見交換においては,検討課題を整理しながら具体的な制度の概要案を作成していく必要があることから,その参考とするため,事務当局において,これまでの分科会における意見交換の内容や部会での御意見などを踏まえて,考えられる制度の概要や検討課題等をまとめた資料を作成してもらいました。まず,事務当局から,「刑の全部の執行猶予制度の在り方」に関する資料の説明をお願いいたします。 ○隄幹事 本日,「刑の全部の執行猶予制度の在り方」に関する資料として,配布資料12「刑の全部の執行猶予制度の在り方(検討課題等)」を配布しております。配布資料12について御説明いたします。   「刑の全部の執行猶予制度の在り方」につきましては,これまでの部会及び当分科会における意見交換の状況等を踏まえ,第1から第5までの「考えられる制度の概要」とともに,それぞれについて検討課題となると考えられる事項を記載しました。いずれについても,現時点において考えられるものを記載したものであり,もとより,御議論の対象をこれらに限る趣旨ではありません。   考えられる制度の概要や検討課題等として記載した事項について説明します。   まず,第1の「保護観察付き執行猶予中の再犯についての執行猶予」については,保護観察付き執行猶予の活用との観点から,「保護観察付き刑の全部の執行猶予の期間内に犯した罪について,再度の刑の全部の執行猶予を言い渡すことができるものとする」ことが考えられます。   この制度の検討に当たっては,必要性のほか,現行法上保護観察付き執行猶予の期間内の再犯について執行猶予が言い渡せないとされている趣旨との関係で相当性があるか,さらに,再度の執行猶予を言い渡すことが適当な事案としてどのようなものが考えられるかが検討課題になると考えられます。   また,「要件」については,現行法上,再度の執行猶予が1回に限られ,かつ,「情状に特に酌量すべきもの」があることが要件とされていますが,保護観察付き執行猶予の期間内に犯した罪について再度の執行猶予を言い渡すことができる回数や具体的要件をどのように定めるかについても検討する必要があると考えられます。   さらに,この制度を設けることにより,どのような事案について裁判所が初度の保護観察付き執行猶予を言い渡すことになると想定されるか,判断の在り方はどう変化するかなど,「運用に与える効果・影響」も検討の対象になると考えられます。   第2の「再度の執行猶予を言い渡すことができる刑期」については,保護観察付き執行猶予の活用との観点から,「再度の刑の全部の執行猶予を言い渡すことができる刑期の上限を引き上げる」ことが考えられます。   この制度の検討に当たっては,必要性のほか,現行法上再度の執行猶予を言い渡すことができる刑期の上限が1年とされている趣旨との関係で相当性があるかが検討課題になると考えられます。   そして,刑期の上限を引き上げるとすると,引上げの程度について,これまでの意見交換を踏まえると,2年とする案と3年とする案が考えられますので,この両案を記載しました。   第3の「執行猶予を取り消すための要件の緩和」については,保護観察の効果的な実施との観点から,「刑の全部の執行猶予の期間内に遵守事項違反があった場合の執行猶予の取消しの要件について,『情状が重いとき』との要件を緩和する」ことが考えられます。   この制度を検討するに当たっては,必要性のほか,執行猶予の取消し要件を緩和するとしてもどのような要件とするのかが検討課題になると考えられます。   また,当分科会で御意見があったように,このような制度に併せて,「以下の仕組みを設けるか否か」の下に記載した三つの仕組みを設けるか否かが検討の対象となると考えられます。   第4の「猶予期間経過後の執行猶予の取消し」については,猶予期間内に更に罪を犯した場合に裁判の確定時期によっては執行猶予が取り消せなくなるという事態を解消するため,「刑の全部の執行猶予の期間内に更に罪を犯した場合について,猶予期間経過後であっても,執行猶予の言渡しを取り消して刑を執行することができるものとする」ことが考えられます。   この制度を検討するに当たっては,必要性のほか,その要件をどうするか,具体的には,当分科会において御意見があったように,他の罪についての有罪判決の確定と猶予期間内の公訴提起などを要件とするかが検討課題になると考えられます。   また,猶予期間を経過したときは刑の言渡しの効力を失うとしている刑法第27条との関係をどのように考えるかを検討する必要があると考えられます。   加えて,執行猶予の取消しの在り方として,必要的取消しとするか,裁量的取消しとするか,さらに,資料に記載した二つの仕組みを併せて設けるか否かも検討の対象となると考えられます。   最後に,第5の「資格制限の排除」については,社会復帰の促進との観点から,「裁判所が刑の全部の執行猶予判決を宣告する際,刑の言渡しに伴う資格制限を排除する旨を言い渡すことができるものとする」ことが考えられます。   この制度を検討するに当たっては,必要性のほか,当分科会で御意見があった多数の資格についての前科による様々な制限の趣旨や行政官庁と裁判所の役割や,資格制限を排除するための要件やその判断の在り方も検討課題になると考えられます。   配布資料12の説明は以上です。 ○佐伯分科会長 ありがとうございました。   ただいまの御説明に,この段階で,御質問や,ほかにも検討課題等があるのではないかといった御意見のある方は,挙手をお願いいたします。   よろしいでしょうか。   それでは,「刑の全部の執行猶予制度の在り方」について,配布資料12に沿って意見交換を行いたいと思います。   まずは,配布資料12の「第1 保護観察付き執行猶予中の再犯についての執行猶予」について,意見交換を行いたいと思います。   御意見がある方は挙手をお願いいたします。 ○今井委員 この資料12の第1の中の「○」の一つ目と二つ目と最後のところに関しまして,従前の発言と重なることもありますが,意見を申し上げたいと思います。   現在の刑法におきまして,保護観察付き執行猶予の期間内に犯した罪が再度の執行猶予の対象外とされた理由を考える際には,まずは,保護観察付き執行猶予が何のために作られているのか,その制度趣旨が及ぶ範囲を確定する必要があろうかと思いますけれども,私が理解するところ,保護観察付き執行猶予は,再犯の防止と改善更生を期したものだと考えられます。   そういたしますと,そのような再犯防止,改善更生に失敗したとはいえない人につきましては,改めて保護観察付き執行猶予に付することが許されるのではないかと思います。また,検討課題の最後の「○」に係るところですが,現在でも,裁判所におかれまして,初度の執行猶予の言渡しの際に保護観察に付することをちゅうちょしているとは必ずしも思われないのですが,再度の保護観察付き執行猶予を可能にする制度を作った場合には,それがより効果的に使われるという方向に判断が動くのではないかと想像されます。   もう少し具体的に申し上げますが,例えば保護観察付き執行猶予による再犯防止,改善更生を期していたが,失敗した,その制度趣旨が及ばなかったというのではなく,実刑に処するよりも,社会内処遇を継続する方がより良い場合としては,例えば次のようなものが考えられるのではないかと思います。   第1に,例えば保護観察付き執行猶予中の方が,交通事故のような過失犯を犯した場合が考えられます。これは初度の執行猶予を言い渡された罪と比較しますと異種のものであり,相対的には軽微な罪を犯したという場合でありますから,このことだけを理由にして,社会内処遇を断念してしまうというのは,保護観察付き執行猶予の趣旨から合わないのではないかと考えられます。   他の例といたしましては,薬物事犯を考えることができるでしょう。例えば覚醒剤自己使用の罪を犯して,保護観察付き執行猶予中の方が,覚せい剤事犯者処遇プログラムを熱心に受講されており,覚醒剤の使用を絶っていたのですが,プログラム修了前に,衝動的に覚醒剤を自己使用してしまい,その後直ちにこれまでのプログラムの受講経験などを踏まえて,真摯に反省して自首したという場合には,特別遵守事項に係る専門的処遇プログラムを真摯に受講して,改善更生が図られている最中での事故とも考えられますので,こういった場合には,再度保護観察付き執行猶予の対象としてもいいのではないかと考えられるところであります。   これらの事案以外にも,先ほど以来申し上げておりますが,保護観察付き執行猶予の趣旨,すなわち再犯防止と改善更生という,その制度趣旨の実現に失敗したとは言い難く,直ちに実刑に処するよりも,社会内処遇を継続する方が,保護観察付き執行猶予の趣旨に合致するという類型があろうかと思いますので,そのような類型に該当する方には,現行法を変えることによって,再度の保護観察付き執行猶予を言い渡してよいのではないかと思うところであります。 ○橋爪幹事 三つ目の「○」についてなのですが,要件のうち,執行猶予を言い渡すことができる回数に関して,若干思うところを申し上げたいと存じます。   結論から申し上げますと,これは1回に限ると考えざるを得ないと思います。   まず,現行法の規定を確認しておきたいのですが,現行法は,再度執行猶予を付ける場合には,刑法第25条の2第1項により,必要的に保護観察が付されますので,刑法第25条第2項但書の規定に基づいて,これ以上執行猶予は付すことはできないという形で回数制限が行われております。このような回数の制限には十分な合理性があると考えます。   すなわち,自由刑の執行猶予には,執行猶予の取消しがあり得るという心理的強制によって,再犯防止を担保するという側面があると思われます。したがいまして,執行猶予期間中に再犯に至るというのは,心理的強制が十分に機能しなかったことを意味する以上,再犯については,再度執行猶予を付さないことが原則になるように思われます。   つまり,再度執行猶予を付す場合は,飽くまでも例外的な措置と考えるべきでありまして,先ほど今井委員から御発言がございましたように,偶発的,突発的な事態といえる場合に限って,例外的に再度執行猶予の余地があるように思います。   しかしながら,繰り返し,数回にわたって再犯を重ねる者については,それはもはや偶発的,突発的な犯行とは言い難いわけですので,例外的に執行猶予を付すべき前提を欠いているように思われます。   また,執行猶予判決を受けた者につきましては,再犯を犯した場合には刑務所に収容されることがあり得るという,緊張感を持った上で改善更生を図るところに重要な意味があるように思われます。このような観点からは,再度の執行猶予について過剰な期待を与えることは,本人の更生にとっても適切ではないと思われます。このような理解から,再度の執行猶予は1回に限ると考えるべきであるように思います。 ○青木委員 「運用に与える効果・影響」というところに関連してなんですけれども,今は,保護観察付きの刑の全部の執行猶予中の犯罪については,次は実刑しかないという前提ですから,裁判所では刑の重さとして,単純執行猶予が一番軽くて,保護観察付き執行猶予はその次に重くて,その後実刑というように実際には運用されていたように思います。   今回このようにすることによって,今まで単純執行猶予だった人について,行為責任としてはそれほど重くないけれども,再犯防止という点では,単純執行猶予ではなくて保護観察付き執行猶予にする必要があるというときに,保護観察付き執行猶予を言い渡しやすくなるという側面があると思うのですけれども,そのようにするためには単純執行猶予と保護観察付き執行猶予とを比べて,行為責任の観点では,保護観察付き執行猶予の方が単純執行猶予となる場合に比べて必ずしも重いとは限らないという前提で運用されるべきなのだろうと思うのです。   そうだとすると,そういう趣旨なのだということが何らかの形で表される必要があるのではないかと思います。今までの運用と,恐らく,変わらざるを得ないというか,変わることを目的にしているのではないかと思いますので,実際の運用が今までどうだったのかということと,今までの会議の中でも若干そういう話は出ていたかと思いますけれども,こういうふうにすることによって,今まで単純執行猶予だったものについて保護観察付き執行猶予が付けやすくなるのかどうかということについても,現実的な今後のことを考えて,運用はどうなりそうか,どうなるべきかということについて,是非裁判所の御見解も伺いたいと思います。   あと,若干言いたいことがあるのですけれども,この部分に関して先に質問も兼ねて申し上げました。 ○福島幹事 今回議論されているような内容の見直しが仮になされた場合にどういうことになるのかという御質問と理解したのですが,そこは何とも申し上げにくいところがございます。少し固いことを申し上げるようですが,やはり量刑判断は個々の事件ごとの各裁判体の判断事項ということになってまいりますし,そもそも量刑という判断が,前にも申し上げたかもしれませんが,様々な事情を総合して判断するという性質のものでもございますので,仮に今回議論されているような見直しがされた場合に,量刑判断がどうなっていくのか,最初の執行猶予のときに保護観察を付す事案が増えるのかどうか,どれほど増えるのかという点について,私の方から,多分こうなるのではないかというような予測を申し上げるのは難しいということになろうかと思います。 ○青木委員 先ほど今井委員が言われた再度の執行猶予が考えられるということについて,大枠ではそのとおりかなと思うのですけれども,今までの議論との関係でいうと,保護観察付き執行猶予中の再犯について,それ以上社会内処遇を続けても更生を図ることが無理だというような事案で再度の執行猶予ということはないのだろうと思いますが,逆にいうと,引き続いて社会内で更生を図ることが適当であるというような事案であれば,必ずしも偶発的だとか事故といえるようなものということでなくても,再度の執行猶予というのもあっていいのではないかとも考えるのです。   と申しますのは,例えば薬物の自己使用で,先ほど挙げられた例は非常に優等生的な対応をされていた方が,たまたま誘惑に負けてしまったというものでしたけれども,そもそも薬物事犯などは,離脱するまでに非常に時間もかかるし,現実には失敗を繰り返しながら,試行錯誤を繰り返しながら,立ち直っていくという過程をたどっていくのだと思うのです。あるいは今いろいろ問題になっておりますクレプトマニアなどに関しましても,やはり非常に立ち直るには時間がかかると思います。もちろん社会内処遇が全く意味をなしていないというような事案について,再度執行猶予を認めるということはないのでしょうけれども,そこで一旦刑務所に入れてしまうことが必ずしもよいとも限らない場合もあると思いますので,基本的には社会内で更生を図ることが適当である,引き続いて社会内で更生を図ることが適当であるという事案であれば,広く執行猶予を,再度の執行猶予を認めてもよいのではないかという気がいたします。   そうしますと,再度の執行猶予の要件とも絡むのですけれども,今の再度の執行猶予というのは,先ほど橋爪幹事が言われていましたように,正にかなり例外的に「情状に特に酌量すべきものがあるとき」というのが要件になっていますから,非常に例外的だと捉えられているでしょうし,現実にも余り使われていないというのは,そういう趣旨だろうと思います。   ただ,そこで社会内処遇の有効性,保護観察付き執行猶予の再犯防止効果というのですか,そういうものを重視して続けていこうというのであれば,この要件も必ずしも「情状に特に酌量すべきものがあるとき」ということに限らず,例えば刑の一部の執行猶予の要件に近付けたような形のものもその中に含まれる,含まれ得るような要件にするというようなことも検討したらどうなのかと思いました。 ○加藤幹事 今,青木委員からこの検討課題等で申しますと,「○」の三つ目の要件のところ,特に具体的要件について,現行の刑法第25条第2項の要件を改めることも検討したらよろしいのではないかという御指摘がありましたので,まずこの関連について意見を申し上げます。   私は,結論としては,保護観察付き執行猶予中の再犯に対し,再度の執行猶予を言い渡すにつき,「情状に特に酌量すべきものがあるとき」というのと別の要件を設けるという必要は必ずしもないのではないかと考えています。   「情状に特に酌量すべきものがあるとき」という要件が,現在どう理解されているかという観点で申しますと,犯罪の情状が特に軽くて実刑を科す必要性に乏しく,かつ更生の見込みが大きいことを意味すると理解されているようです。   一方で,先ほどから御意見があったように,初度の執行猶予が保護観察付きのものである場合に,再度の執行猶予を言い渡すことが考えられる事案として,例えば,保護観察付きの執行猶予による再犯防止及び改善更生に失敗したとは言い難く,実刑に処するよりも社会内処遇を継続する方が,執行猶予者の再犯の防止あるいは改善更生に資すると考えられる事案を念頭に置くとしますと,保護観察付き執行猶予による再犯防止あるいは改善更生に失敗したとは言い難く,あるいは保護観察を継続する方が再犯防止や改善更生に資するか否かという,そういう判断をする必要が生じるわけですが,この判断は,この今ある刑法の要件の当てはめの中で適切に行うことができる範囲のものではないかと考えられると思うのです。   そのため,結論としては,「情状に特に酌量すべきものがあるとき」という要件を改める必要はないのではないかと考える次第です。もちろん青木委員の御指摘のような,個々のケースで再度の執行猶予を付する方が適切なケースというのもあり得るのかもしれませんが,執行猶予を付するかどうかという判断に当たって,本人の改善更生,いわゆる特別予防という観点の考慮も必要ではありますが,一般予防ないし,それが応報として適切であるかという観点も見落とせないということから考えますと,初度の執行猶予との間に,要件において差があるということは合理的であろうと考えられるところでもあります。   さらに,「運用に与える効果・影響」の点についても一つ申し上げたいのですが,保護観察付きの執行猶予中の再犯について再度の執行猶予を言い渡すことができるようにしようという,この議論の契機となりましたのは,これまで裁判所が執行猶予事案のうち再犯防止あるいは改善更生の観点からは保護観察に付することが望ましいと考えられるものの,保護観察に付すると再度の執行猶予を言い渡すことができないということを考慮すると保護観察に付することをちゅうちょしていたものがあったのではないかという指摘があったというのが契機でございました。   そのような事案については,保護観察付き執行猶予の期間内に犯した罪について再度の執行猶予を言い渡すことができることとすることによって,ちゅうちょがあったとすれば,そのちゅうちょなしに初度の保護観察付き執行猶予を言い渡し得ることになるのではないか,それが基本的な実務に与える一つの効果・影響ではないかと考えられるところです。   また,証拠の収集ですとか裁判における判断の在り方という観点から考えますと,保護観察に付するかどうかという判断には,現行法の下で裁判所において適切に行われているものですので,保護観察付き執行猶予の期間内に犯した罪について再度の執行猶予を言い渡すことができることとしても,その判断方法あるいはその判断のための資料という意味では,大きな変化が生じることはないのではないかと考えるところです。   ただ,青木委員から御指摘のあったもう一つの点,実際には保護観察付き執行猶予というのは,現在の単純な執行猶予よりも責任においても重いものとして理解されているのではないか,その運用が新たな制度の下では変わるというか,考え方が変わるとすれば,その点も明らかにされるべきではないかといったような点については,確かに理論的に一つ検討してみなければいけない事柄であろうと考えた次第です。 ○保坂幹事 事務当局の立場から,青木委員に御発言の趣旨を確認したいことがございまして,先ほど「情状に特に酌量すべきものがあるとき」という要件を見直してみてはどうかという御発言があったわけですが,第1の制度概要というのは,1回目の執行猶予が保護観察付きだったときに2度目の執行猶予の要件をどうするかというテーマですが,青木委員がおっしゃった趣旨というのは,1回目が保護観察付きだったかどうかを問わず,つまり再度猶予の要件そのものを,今の「特に酌量すべきものがあるとき」から改めよというのか,それとも1回目が保護観察付きだったときについて2度目に執行猶予にしますというときの要件は,これとは違うものにすべきという,どちらの趣旨かを御確認したいと思います。 ○青木委員 余り厳密に考えたわけではないのですけれども,再度の執行猶予をするかどうかというところの判断に当たって先ほどから出ているように,社会内で更生を図ることがふさわしいというか,再度であってもふさわしいかどうかという観点がこの中に十分に入るのであれば,別に変える必要はないのだろうと思いますけれども,今まで,そもそもそういう制度がなかったわけですから,余りそういう観点で考えていなかったのかもしれませんが,引き続き社会内で処遇するのがふさわしいというものも含まれるということであれば,あえて変更する必要はないと思います。   要するに今考えられているよりは,もう少し,再度の執行猶予の趣旨が,社会内処遇がふさわしいと,継続して社会内処遇をすることがふさわしいという観点が,より強く入ってくるのではないかということを,この中に読み込めるのであれば,それでよいと思います。 ○保坂幹事 そうすると,この第1の制度を導入する場合の要件について,という趣旨ですか。つまり1回目が保護観察付きだったときは,再度の執行猶予の要件を別建てにすべきではないかという御意見でしょうか。 ○青木委員 そういう別建てという趣旨ではないですけれども,例えば刑の一部の執行猶予の要件は,「再び犯罪をすることを防ぐために必要であり,かつ,相当であると認められるとき」というような文言が入っていますよね。だから,そういう趣旨もある程度考えて,再度執行猶予するかどうかというのを恐らく判断することになると思うのです。だから,そういう趣旨がこの中に入るのであればいいですけれども,要するに今まで単純な執行猶予はある意味,威嚇力で更生を図るということなのでしょうけれども,保護観察付きの方は,何らかの処遇があって,それでさらにもう一回,その処遇を続けるかどうかということなので,そこの判断の中には,今刑の一部の執行猶予の要件で述べたようなことが入ってくると思います。そういうことは,必ずしも,やったことの重い軽い,責任の問題とはちょっと違う観点もあるのかなと思いましたので,そういうこともこの中に含まれているということであれば,それはそれでいいのですけれども,より明確にする意味では,何らかの形でそういうことも入れたらどうかという趣旨で,そういう意味でいうと,保護観察付き執行猶予中の再犯についてということになるかと思います。 ○保坂幹事 分かりました。ありがとうございます。 ○佐伯分科会長 ほかにはいかがでしょうか。   第1の点については,このくらいでよろしいでしょうか。   それでは次に,「第2 再度の執行猶予を言い渡し得る刑期」について意見交換を行いたいと思います。   御意見がある方は挙手をお願いいたします。 ○橋爪幹事 検討課題冒頭の必要性,相当性について申し上げたいと存じます。   まずは,必要性でございますが,これにつきましては,既にこの分科会でも議論がありましたように,必要性は十分にあると考えております。   現在の量刑傾向を前提としますと,懲役1年を上限とするのでは,余りに再度の執行猶予の可能性が限定されすぎるように思いますし,実際1年を超える刑を科すべき事件についても,実刑を回避して社会内処遇を選択することが,本人の改善更生・再犯防止に資する場合は十分に存在するように考えております。これが必要性に関する意見です。   次に相当性です。現行法の1年という上限ですが,これに理論的な必然性があるわけではないと考えておりますので,これを修正することについても十分に相当性はあると考えております。すなわち再度執行猶予を科す刑期の上限につきましては,行為責任の関係あるいは刑罰目的との関係において,実刑を回避することが,いかなる範囲で正当化し得るかという観点から検討すべき問題ですので,この点は議論があり得るかもしれませんが,初度の執行猶予と再度の執行猶予の間に,本質的な相違といったものは存在しないように考えております。   このような意味で,現行法における初度の上限である3年を超えない範囲であるならば,上限の刑期を1年から引き上げることに,相当性,許容性があると考えております。 ○加藤幹事 私からは,第2の検討課題のうち,「再度の執行猶予を言い渡すことができる刑期の上限の引上げの程度」について申し上げたいと思います。   どちらがいいという結論が直ちには出ないのでありますが,既に第3回の会議で資料10という資料を参照しながら申し上げたように,刑期の上限について,少なくとも2年とする限度においては,再度の執行猶予を言い渡すことができるようにしても,現行法の考え方と矛盾するものではないと考えられますし,それが許される状況になってきているのではないかと考えるものであります。   もっとも,この点について検討するには,実際の量刑事情が重要な観点なのであるのは間違いありませんが,そのほかに初度に執行猶予を付する場合と,執行猶予中あるいは保護観察付き執行猶予中であるにもかかわらず再犯に及んで再度の執行猶予を付すかどうかということを考える場面とで,その執行猶予中である,あるいは保護観察付きの執行猶予中であるということ自体が,その犯した行為の行為責任の重さに影響を与える事柄なのか,すなわち,初度の場合と再度の場合とでは,行為責任の重さに違いがあるのかどうかでありますとか,その違いが執行猶予を許容する刑期の上限の在り方に影響を与えるのか,どう関係するのかなどの理屈の面からも整理をする必要があるのではないかと思われ,その上限を3年にすることができるかどうかという議論についても,それらの点を検討する必要があるのではないかと考えている次第です。 ○橋爪幹事 私もこの点に関して,1点思うところを申し上げますが,A案かB案かは非常に悩ましいところでございまして,正直,どちらもあり得るのかなと考えておりました。   先ほど申し上げましたように,執行猶予に付するか否かの判断におきましては,初度も再度も本質的な相違はないという観点を徹底するのであれば,B案も十分あり得ると思うのです。ただ,現行法からいきなりB案に修正するというのは,余りにも変化が大きすぎるという御懸念もあり得るのかもしれません。また,執行猶予による心理的強制が功を奏さず再犯に至ったという事情は,再度の執行猶予を付すか否かの判断においても,行為者の責任を加重し,したがって執行猶予を回避する方向で機能すると考える余地がありますので,このような観点からは,執行猶予の要件を加重し,A案を選択することにも十分に理由があるように考えております。   いずれにしましても,理論的に一義的に決まってくる問題ではないと考えておりますので,むしろA案,B案で実務的にどのような影響が生じ得るかという観点からの検討が必要であるような印象を持ちました。   例えば,執行猶予期間中の再犯について,実刑判決を受けたもののうち,例えば懲役2年超3年以下の刑となった事案が,どのような事案なのかなど,実際の量刑傾向を検討した上で,再度の執行猶予の対象とすべき事案がどのようなものか,イメージを共有することが,今後の議論においては有益であるように考える次第です。   このような観点から1点お願いがございますが,もし可能であれば,事務当局の方で,執行猶予期間中の再犯の事案につきまして,特に懲役2年超3年以下の実刑になったケースを中心としまして,どのような事案についてどのような刑が選択されているかという観点から,現在の量刑の状況について調査いただけますと,それを前提に更に議論が深まるように考えております。 ○隄幹事 御趣旨は理解しましたので,検討させていただきます。 ○佐伯分科会長 ほかにはいかがでしょうか。   第2の点については,この辺でよろしいでしょうか。   それでは続いて,「第3 執行猶予を取り消すための要件の緩和」について意見交換を行いたいと思います。   御意見がある方は挙手をお願いいたします。 ○今井委員 検討課題として掲げられております「○」の最初の「必要性」というところにつきまして,私なりに,その必要性を考える際の視点を申し上げたいと思います。   この問題につきましては,当分科会の第1回の会議で,事務当局から現状について御説明を受けました。その際には,対象者の方の複数回の遵守事項違反を理由として当局において執行猶予の取消しを請求しても,「情状が重いとき」との要件が厳格に解釈されていて,これを満たさないとして請求が認められない事案があるということ,あるいはそのような経験があるからでしょうか,そもそも取消しの申出や請求に至らない事案があるということで,保護観察の実効性を確保していく上で,現場においては苦労されているという御説明を受けたところであります。   そういたしますと,この情状が重いときというのが,ボトルネックになっているので,これを緩和してはどうかという発想に行きやすいわけでありますけれども,これは最終手段としての不良措置を導くためのものでありまして,保護観察を取り消してしまうということになりますから,直ちにそうした結論に至るのではなく,まずは,社会内処遇の効果的な在り方全般について,現在検討されている案を包括的に視野に入れた上で,必要性について精査すべきだろうと思います。   具体的には,今第3分科会におかれて,「社会内処遇における新たな措置の導入」を検討されているところでありますけれども,それとの見合いによって,現行のこの要件だけで運用がうまくいくものか,あるいは更に条文の書換え等によって,もう少し,最終手段であっても使うべきことがあるのかどうかを考えていかなければいけないと思っているところであります。   補充させていただきますと,この保護観察の実効性を確保するという観点からいたしますと,遵守事項違反があるということで,執行猶予の取消しにすぐ行ってしまうことが必ずしもいいわけではありませんで,対象者,保護観察付き執行猶予者の方の社会内処遇の効果を上げるための複数の施策,今後の施策の組合せによって,改めてこの要件を見直してはどうかと思っているところであります。 ○青木委員 今のこととも若干関連するかと思いますけれども,やはり保護観察を続けていても,意味のないものまで続けるのは確かに問題でしょうから,何らかの形でそういう趣旨が明確になる必要があることはあるのかもしれませんけれども,一方で,この「○」の三つ目の「・」の最後の部分です。刑期の一部についてのみ執行猶予を取り消し得る仕組みに関してなんですけれども,仮に取消し要件を緩和するとした場合も含めてなんですけれども,今は取り消せば全部実刑になるわけですよね。それが本当にいいのかどうかという問題もあるように思います。   と申しますのは,もともと執行猶予というものの趣旨の中には,できるだけ拘禁による弊害を減らすという側面があるわけで,それとの関係でいっても,あるいは一方で保護観察付き執行猶予の場合は,実質的な刑罰そのものではありませんけれども,一種の制裁的な形で自由の制限があったりするわけですから,そういうことについて,実際ある程度拘束されていたというようなことをどう評価するかというような問題もあって,刑期の一部について執行猶予を取り消し得るというのか,あるいは仮に取り消したとしても,全部実刑にするのではなくて,刑の執行の一部を免除するとか,そういうような形で,取り消された場合にも全部実刑にはならないというような仕組みも考えた方がいいのではないかと。   要するに全部について実刑にするのではない形で取り消すということも検討した方がいいのではないかということです。 ○加藤幹事 私からは,この第3にある検討課題のうち,「要件」の点についてまず意見を申し上げたいと思います。   軽微な遵守事項違反であっても直ちに執行猶予を取り消すものとするということは,かえって保護観察による改善更生を阻害するということになり得るので相当ではないということ,それは共通認識だと思っております。そこで,例えば遵守事項違反があれば,原則として執行猶予を取り消すことができるとしつつ,逆に例外的に遵守事項違反が軽微なものであるにすぎないような場合には,取り消すことができないというふうに,言わば原則と例外を置き換えるとすると,この執行猶予を取り消すための要件の緩和という要請には,一部応えるのではないかとも考えられるところです。   もっとも,そういう定め方をいたしましても,執行猶予が取り消されるのは,結局重大な遵守事項違反がある場合に限られると解釈されたり運用されたりするのであれば,現行法の下の運用と大差はないことになるのではないかとも考えられますので,その当否については御検討いただきたいと考えています。   また,「併せて以下のような仕組みを設けるか否か」について,ただいま青木委員からも御発言があったところですが,これらの仕組みについて考えてみますと,まず一番上にあります「保護観察期間を執行猶予期間よりも短期間にし得る仕組み」という点については,その改正刑法草案で示されておりましたように,保護観察期間の上限を例えば原則3年と決めてしまうとするという方法が一つ考えられるわけでありますが,そういう方法をとろうといたしますと,その保護観察に要する期間はケース・バイ・ケースであると考えられることや,そうすると,その一定の年数の決め方が難しいと思われるという問題があろうかと思われます。   一方,個々の事例ごとに裁判所が判断して,執行猶予期間とは別に保護観察期間を定めるとしようといたしますと,執行猶予期間でありながら保護観察を行わない期間というものが生じるわけですが,それをどのような要件の下で,どういう要素に基づいて判断するのかという,また難しい問題があるのではないかと考えられるところであります。   次に,2番目の執行猶予期間中の行状を考慮して,早期に保護観察を終了させ得る仕組みについて申し上げますと,これについては第3分科会における議論を見守る必要があるのではないかと考えられるところです。   第3分科会においては,保護観察の仮解除の手続の簡素化などについて議論が行われているところであり,その結論を受けても,なお,今ここに検討課題に掲げられているようなものについて,仕組みを設ける必要性があるのか否かが問題となると思われます。すなわち,これらの仕組みは保護観察付き執行猶予の良好措置の在り方の検討の中で,その必要性が検討されるべきものであろうかと考えられ,第3分科会における「保護観察・社会復帰支援施策の充実」の議論を注視する必要があるのではないかと思います。そしてその結果によっては,今ここで検討しようとしている仕組みを設ける必要性が乏しくなることもあるのではないかと考える次第です。   さらに,青木委員からも御指摘のあった刑期の一部についてのみ執行猶予を取り消し得る仕組み等についてですが,判断権者を仮に裁判所とするにしても,刑期の全部を取り消すのか,あるいは一部を取り消すにとどめるのか,そういう判断をしなければならなくなりましょうし,刑期の一部を取り消す場合,その取消部分の期間の決定に当たって,執行猶予の経過期間をどのように考慮するかなどの問題点もあって,当然でありますが,様々慎重な検討を要する問題が含まれているのではないかと考える次第です。 ○佐伯分科会長 裁判所の関与について言及がありましたので,第3の関係で,もし福島幹事から何か御意見がおありでしたら,御発言願えますでしょうか。 ○福島幹事 第3について,これまで議論を伺っていて,ちょっと気になるところがあったので,1点だけ発言させていただきたいと思います。   それは,資料12で言うところの第1の論点との関係でございます。第1では,保護観察付き執行猶予中の再犯について,再度の執行猶予を認めるべきではないかということが議論されているわけですけれども,その趣旨は,私の理解では,保護観察には改善更生に向けた指導や援護が受けられるという利益性がある一方で,再度の執行猶予を受けられないなどといった不利益な面があるところ,再度の執行猶予を可能としその不利益性を小さくすることによって,現状よりも保護観察付き執行猶予を活用しやすい環境を整備するということなのかなと理解しているところです。   そういう観点から見てみますと,この第3の執行猶予取消しの要件の緩和ということにつきましては,これはむしろ不利益性を増加させることになる方向の見直しであろうと思いますので,第1の論点の現状よりも保護観察付き執行猶予を活用しやすい環境を整備するという方向性とは逆方向の見直しになるのではないかなというのが,前から少し気になっていたところです。   もちろん,その点も踏まえて最終的にこの執行猶予取消要件を緩和するかどうかというのは,これは政策的な判断になろうかと思いますので,どちらが正しいというようなことを申し上げる趣旨では全くないのですけれども,第1の論点との関係も意識して検討を進めた方がいいのではないかと気になっていたものですから,その点を申し上げたいと思います。 ○加藤幹事 ただいまの福島幹事の御指摘はごもっともだと思うのですが,考え方の問題として,第1のような形で執行猶予を言わば付けやすくするという方向で改正をした場合に,その分,場合によってはその執行猶予の本来の目的であります,執行猶予が取り消されるかもしれないという心理的な強制の下で社会内処遇を図るという効果全体が弱まりはしないかという問題意識も考えられるわけであり,したがって,執行猶予を付けやすくする一方で,問題があれば執行猶予を取り消すということも的確にできるようにするという考え方もあり得るのではないかと思われます。第3が第1のような施策と同時に提案されているというのは,そういう考え方が背景にあるのではないかと認識しているところです。 ○佐伯分科会長 第3につきまして,このくらいでよろしいでしょうか。   それでは次へいきまして,「第4 猶予期間経過後の執行猶予の取消し」について意見交換を行いたいと思います。   この制度については,検討課題の項目数が多いので,まずは「必要性」と「要件」,「執行猶予期間経過後の効果との関係」について意見交換を行い,その後に残りの検討課題について意見交換を行いたいと思います。では,「必要性」と「要件」,「猶予期間経過の効果との関係」について御意見がある方は挙手をお願いいたします。 ○加藤幹事 第4の検討課題のうち,「必要性」と「要件」の点について申し上げたいと思います。   まず,考えられる制度の概要に書いてあるような仕組みの必要性としては,端的に執行猶予の期間内に罪を犯した場合に,裁判の確定時期によっては執行猶予が取り消せなくなるという事態を解消する必要があると考えられることによると思っています。   また,次の要件については,これまでの分科会において御意見が述べられていましたように,再犯を理由とする執行猶予の取消しにおいて実質的に重要なのは,執行猶予の期間内に罪を犯したという事実であり,かつ,そのことが裁判において認定確定されたことなので,その有罪判決の確定が執行猶予期間経過後であっても執行猶予を取り消すものとすることが考えられることになろうと思われます。   もっとも,執行猶予が取り消され得る状態が余りに長期にわたることによって執行猶予者の地位が著しく不安定となることは防止しなければなりませんので,政策的に執行猶予を取り消すための時的限界を画する条件を設ける必要があろうと思われます。   そして,その再犯について猶予の期間内に公訴提起がなされることを要するものとすれば,そういった要請を満たすこともできると考えられますので,そのような要件を設けるのが相当ではないかと考えます。 ○今井委員 ただいまの加藤幹事とほぼ同じ意見でございますが,「必要性」については重なりますので割愛させていただきまして,「要件」の点で,少し意見を申し上げたいと思います。   今御指摘もありましたように,このような制度を作ることは必要だと思いますけれども,他方で対象となる方を,いつか執行猶予の言渡しが取り消されるのだろうかという不安定な状態に長期間置いておくことは相当ではないと思います。   そこで考えられますのが,裁判所あるいは検察官の主導によりまして,このような結果を導くという制度なのであります。例えば裁判所が執行猶予を取り消すことができるという期間を制限するということは,理屈の上では考えられるわけですけれども,先ほど福島幹事からも一般的なお話があり,私も,執行猶予の当否等を考えるのは極めて個別の事案に即した判断であろうと思いますので,裁判所が執行猶予を取り消すことができる期間を一律に制限してしまうということは適切ではないと思われます。   そもそも執行猶予の取消しは,裁判所の職権判断によるものではなく,検察官の請求に基づいて行われているものですから,検察官がそのような請求をできる期間を一定のものに限定することによって,対象者の方をいつまでも不安定な状態に置くことを回避するのが,現行法を踏まえた上での考えられる制度ではないかと思います。そのような形で検討されてはどうかと思うところでございます。 ○橋爪幹事 私の方からは3点目ですが,猶予期間経過の効果の関係で1点申し上げたいと存じます。   刑法第27条との関係が重要な問題になってくるかと存じます。刑法第27条によれば,執行猶予期間の経過によって,刑の言渡しは効力を失うことになっておりますので,猶予期間中に公訴が提起されても,有罪判決の確定に至らない場合については,猶予期間の経過をもって刑法第27条が適用されまして,刑の言渡しは効力を失います。このように,刑の言渡しが一旦効力を失ったにもかかわらず,その後,有罪判決の確定によって執行猶予を取り消すことが理論的に可能かということが問題になると思われます。   この点につきましては,既に本分科会の第1回の会議で,改正刑法草案に係る法制審議会刑事法特別部会の議論におきまして二つの方向の議論があったことの御紹介があったかと存じます。すなわち,第1に執行猶予期間の満了によって,一旦刑の言渡しの効果は消滅するが,執行猶予の取消しによって,これが復活するという考え方。第2に,公訴提起によって執行猶予期間が延長されるという考え方でございました。この点につきまして,私なりに更に考えたことを申し上げたいと存じます。   まず,後者の理解でございます。公訴提起によって猶予期間が延長するという理解でございますが,やはり公訴提起の段階においては,無罪推定が及ぶ以上,公訴提起を根拠として執行猶予期間の延長という不利益処分を科すことを正当化することは困難であると考えます。   では,前者のように執行猶予期間経過後であっても,執行猶予の取消しによって刑の言渡しの効力が復活するという理解が可能でしょうか。これについては,一旦効力を失ったものが事後的に復活するという説明に若干の違和感はありますが,刑法第27条は執行猶予期間中に公訴提起された事件について,有罪判決が確定しないことを前提とした,言わば条件付き,留保付きの規定であると考えた上で,かつその旨の明文の規定を置くのであれば,一旦効力を失った刑が事後的に復活するという説明も可能であるようにも思います。もっとも個人的には次のような説明も可能であるように思いますので,問題提起としてこの機会に申し上げたいと存じます。   言わば,刑法第27条の趣旨を限定する解釈です。すなわち刑法第27条は,刑の言渡しに伴う不利益の解消に向けられた規定,具体的には刑法第25条第1項第1号の該当性を否定し,また資格制限の効果を否定するための規定であって,有罪判決に基づく刑の執行可能性それ自体を全面的に排除する規定ではないという理解です。   このような理解によれば,執行猶予期間が満了したとしても,それは執行猶予の取消しがない限りにおいては,刑が執行されることがないことを意味するにすぎないことから,事後的に有罪判決が確定した場合については,刑法第27条の規定にかかわらず執行猶予を取り消し,刑を執行することが可能になると思われます。すなわち,刑の執行を受けることがないという法的効果は,執行猶予期間の経過だけではなく,執行猶予の取消しがあり得ないという事態が確定した場合に,初めて生ずるという理解です。   やや技巧的な印象もございますけれども,理論的にはこういった説明も十分に可能であると考える次第です。   ただ,この場合には,刑法第27条の規定形式,内容について修正が必要ではないかという点も問題になるようにも思われますので,一つの考え方として,この機会にあえて申し上げる次第です。 ○佐伯分科会長 「必要性」,「要件」,それから「猶予期間経過の効果との関係」について,ほかにはいかがでしょうか。   それでは,今の三つの項目以外の検討課題について御意見がある方は挙手をお願いいたします。 ○青木委員 そもそも,このような必要性がないとは言いませんけれども,こういう制度がいいのかどうかということに関しては,それこそかつての議論でもいろいろ問題があったところだろうと思いますので,それの良し悪しはちょっと置いておいての話なのですけれども,必要的取消しか裁量的取消しかという点に関してですけれども,そもそも再犯の場合に必要的取消しである必要があるのかというのも,本来は考えるべきところなのだろうと思います。平野先生が書かれている本などを読みましたところ,必ずしも猶予されていた刑の執行をしない法制もあるということが書かれておりまして,これでいいますと執行猶予中の再犯は刑務所,施設収容になるとしても,執行猶予は取り消さずにその部分に関して,例えば猶予期間が残っていた場合には,猶予の残期間がその刑期より長いときには出所後に施設外処遇をすることもできるのではないかというようなことを,平野先生が述べられているのです。   それをそのままとることはどうなのかなと,理屈の上でもどうなのかなと思いますけれども,必ずしも必要的取消しと,そもそも期間経過後に限らず再犯の場合に必要的取消しとしないで,先ほどの申し上げたこととも絡むのですけれども,仮に取り消したとしても,全部実刑にして,その期間全部服役しなければならないという制度ではなくて,例えばその一部を免除するとか,あるいはその一部について執行猶予にするとか,それは今の一部執行猶予のように,施設収容の後に執行猶予するという意味ですけれども,そういう制度もこの際考えたらどうかということを,ちょっと平野先生の書かれたものを読んで思いました。   と申しますのは,先ほども申し上げたのですけれども,そもそもの執行猶予制度というのは,施設収容による弊害をなくすという側面ももちろんあったわけで,ただそれがうまくいかないから施設に収容するということなのでしょうけれども,その収容期間が非常に長くなってしまうと,ますます社会復帰しにくくなるという側面があるわけです。   そういうことを考えますと,再犯防止という観点で考えたとして,全部について実刑にして,取り消した上でもう一回刑務所に入れ直すと言うと変ですけれども,特に猶予期間経過後に確定するような件は,一定程度その猶予期間が経過しているのでしょうから,その上でさらにその実刑の刑期を務めさせて,なおかつその再犯についての刑期も務めるということになると,ある程度長期になってしまうということ。それと,先ほど申し上げました保護観察付き執行猶予だった場合には,実質的に不利益を受けているということなども考えて,早期に仮釈放を行うという以上に,一部免除するなり,先ほど申し上げましたように,一部執行猶予にするなりというような形で,それを理屈付けると,そういう形で取り消した後の効果をそういう形にするというようなことを考える必要もあるのではないかと思いました。   そういうこととセットで,この猶予期間経過後の取消しもすると,取消しもできるという制度というのは検討する必要があるのではないかと思いました。 ○今井委員 今の青木委員の御発言,大変興味深く伺ったのですが,私も平野先生の御趣旨を,全部理解しているわけではないのですが,現在は,当時と比べて,施設内処遇における処遇方法の科学性や客観性,つまり諸科学を使った処遇の方法がかなり違ってきていることを踏まえる必要があろうかと思います。青木委員の言われることは,理屈としては分かるのですけれども,仮に必要的取消しをして施設内処遇に戻したとしても,そこからまたそのような経緯を経た人であることを踏まえて個別な指導がなされるので,必ずしもそのような御説だけが妥当するのではないのでは,と思います。   その上で,現行法の枠組みを踏まえますと,私はどうも必要的取消しの方が筋が合うのではないかと思います。どういうことかと申しますと,現行法では今青木委員からもお話がありましたように,猶予期間内に禁錮以上の刑に処せられた場合には,執行猶予が必要的に取り消されます。そして再犯を理由とする執行猶予の取消しにおいて,実質的に重要なのは,これまでも何度も議論されておりますし,合意があると思いますけれども,猶予期間内に罪を犯したという事実であるということを踏まえますと,再犯については有罪裁判の確定時期が猶予期間経過の前後いずれかによって,結論を異にするというのは合理的ではないように思います。   実質的にも,先ほどその要件のところで議論がありましたけれども,猶予期間内の公訴提起を要件とする限りは,その後有罪判決が確定するまで長期間を要するわけではないと思われますので,執行猶予の取消しまでに執行猶予者を苛酷なあるいは不安定な状況に置くことは回避できるのではないかと思います。また,様々な刑事政策的な考慮を踏まえて裁量的取消しをするという制度を考えた場合ですけれども,執行猶予が取り消されるか否か,あらかじめ明らかではありませんし,猶予の期間内の再犯について,量刑を行う裁判所としても執行猶予が取り消されるかどうか,いずれを想定して量刑を行ってよいか,判断を迷われるのではないかなとも思われるところであります。   そこで,私としては猶予期間満了間際に罪を犯した者については,裁判所が再犯の量刑を決める際の情状として考慮するということにして,他は現行の制度に合わせるのがよいのではないかと思うところです。 ○青木委員 先ほどちょっと二つのことを一度に申し上げてしまったので,必要的取消しか裁量的取消しかというのは,今のお話はそれで分かりました。一方で,取り消したとした場合に例えばその刑を一部免除するとか,そういうことについては,また一方で今の話とは別に検討したらいいのではないかと思います。一部免除というのは完全にその部分がなくなってしまうわけですけれども,場合によったら,その後の議論に絡みますけれども,社会内処遇,ソフトランディングのために社会内処遇が必要だというようなことも考えますと,その部分,免除してしまうのではなくて,むしろ一部執行猶予にして,社会内処遇として付するというようなこともあり得るのではないかと思っております。 ○加藤幹事 まず,今青木委員が補足してというか,付け加えておっしゃった点で,恐らく青木委員は最初に御発言になったときに,執行猶予の取消しの問題については,執行猶予期間経過後の問題だけではなくて,本来執行猶予を取り消す場合にどういう制度であるべきかというお考えからの御発言になったものだと受け取ったのではありますが,一方で第4のテーマとの関係で,執行猶予期間経過後に執行猶予を取り消すことになる場合と,執行猶予期間中に,その執行猶予を取り消すことになる場合で,その二つの間に執行猶予を取り消した場合の効果に違いを設ける必要があるかという観点で見ますと,そこを区別する合理性はないのではないか。恐らく今井委員も同趣旨のことをおっしゃっていたと思われますが,それはそのように考えるべきではないかと思われます。   むしろ,執行猶予の期間を経過したことによって,同じく執行猶予期間中に再犯を犯しているにもかかわらず,取り消されるか取り消されないか,あるいはその取り消した後の効果に相違を設けるかどうかという点に,差を設ける合理性はないのではないかと考えるところでございます。   それからもう一つ,検討課題の「○」の四つ目,「併せて以下の仕組みを設けるか否か」というところの最初の「・」ですが,再犯を理由とする執行猶予の取消しにおいて,実質的に重要なのは,その執行猶予の期間内に罪を犯して,かつ,そのことが裁判によって確定認定されたという事実であるということだということが,繰り返し指摘されています。実はそのことは,刑の全部の執行猶予であっても,刑の一部の執行猶予であっても同様なのではないかと考えられるところであります。   また,再犯を理由とする仮釈放の取消しについても,実質的に重要なのは,仮釈放の期間内に罪を犯して,かつそのことが裁判によって認定確定されたということではないかと考えられます。   そのように考えていきますと,一部執行猶予あるいは仮釈放についても,今ここで刑の全部執行猶予について議論されているのと同じ問題が生ずるのではないか。すなわち,その期間内について,さらに罪を犯した場合に全部執行猶予の場合と同様に,期間経過後であっても刑を執行することができる仕組みを設けるかどうかということについて,全部執行猶予の場合との共通点,相違点を踏まえて,どのように整理するのが合理的かということを今後議論する必要があるのではないかと考えます。   今のところどうしたらよいかという結論めいたものについて意見が申し上げられる状態にないのでありますが,議論は必要なのではないかと考えている次第です。 ○青木委員 また,補足なのですけれども,前に猶予期間経過後の執行猶予の取消しに関して全て経過した後だということになると,二重処罰というのがより言いやすくなる,言われやすくなるというような趣旨の発言をしたかと思いますけれども,それはそれであると思うのですが,先ほど申し上げました取り消した場合に,全てその部分を実刑として科すかどうかという問題に関しては,確かに猶予期間経過後の取消しなのか,どうなのかによって変わる必要もない話だと思いますので,検討できるとすれば,ある程度猶予期間を経過した後に取り消された場合に,その猶予期間をどう見るかとか,あるいは実刑期間が長くなってしまうことによる社会復帰が困難になるというようなことをどういうふうに見るかとか,そういう観点で,その取り消した場合に全部実刑しかあり得ないという制度の見直しというのは,執行猶予期間経過後の取消しに限らず検討した方がよい課題だと思っております。 ○橋爪幹事 ただいまの青木委員の御指摘でございますけれども,確かに猶予期間のほとんどの期間を無事に過ごしていながら,最後の最後になって初めて再犯を犯したというケースにつきましては,本人が更生に向けて頑張ったことをある程度有利にしんしゃくする必要はあると思うのです。ただ,それは論点第1,第2で既に検討しましたように,再度の執行猶予を付するべきかという観点から検討が可能であるような印象を持ちました。   さらに,先ほど今井委員の方から御指摘がございましたように,執行猶予期間中の再犯について実刑を科す場合については,執行猶予期間中の本人の改善更生に向けられた努力を,一定の限度では,量刑判断として有利にしんしゃくすることは十分に可能であるような気がいたしますので,特別な措置,仕組みを設けることにつきましては,いささか屋上屋を重ねるような感覚がございまして,やや消極的な印象を持ってございます。 ○佐伯分科会長 ほかにはいかがでしょうか。   それでは,第4につきましては,このぐらいにさせていただきまして,最後に「第5 資格制限の排除」について意見交換を行いたいと思います。   これまでに「必要性」や「資格制限の趣旨,行政官庁と裁判所の役割」などについて御意見がありました。これらに付け加えての御意見を述べていただいても構いませんし,あるいはこれまで御意見が述べられていない要件及びその判断の在り方についての御意見でも構いませんので,御意見がある方は挙手をお願いいたします。 ○青木委員 資格制限に関しては,もちろん必要だという趣旨があって設けられている部分もあると思いますけれども,起訴猶予の場合には資格制限というのはないわけで,起訴されて執行猶予になったら一律に法律に書かれている場合ですけれども,資格制限があるという制度に今はなっているわけです。起訴猶予の場合と執行猶予の場合で境界的な部分でいえば,百とゼロほどの差は実際はないのではないかという気はいたします。   そういう意味で,執行猶予の場合に資格制限を外すということができる制度にするというのは,それはそれで意味があるのではないかと思っております。もちろんこの資格制限の問題は,その執行猶予の部分だけで検討するべきことではなくて,それぞれの法律の制度について本当に必要な制度なのか,それがむしろ再犯防止のネックになっていないかどうかという検討は,一方でする必要があるでしょうし,公務員の問題に関してもそれぞれ条例などでカバーしているところもあるわけで,いろいろなところで資格制限については再犯防止,社会復帰という観点で見直す必要があるのだろうと思いますので,それはそれで別途必要だと思います。   ただ,その執行猶予のことに関していうと,先ほど申し上げましたように,必ずしも全てについて資格制限をしなければならないというようなものではないと思いますし,それがかえって社会復帰に逆方向に働く場合もあると思いますので,何らかの形でその資格制限を外す方向というのもあり得るのではないかと思います。   原則として,資格制限なしという,執行猶予の場合はなしということも考えられるのでしょうけれども,そこまで行かないにせよ,裁量的にあるいはその裁量の中身が問題なのかもしれませんが,どちらかというと資格制限を本来なしにして,それぞれ特別に規定がある場合には,個別に人について必要な資格制限をするというのが本来あり得べき姿なのかなという気はしますけれども,そこはなかなかハードルが高いと思いますので,裁量で排除できるという制度は検討していただけたらと思います。 ○橋爪幹事 この点につきましては,前の分科会のときにも申し上げましたが,行政処分として資格制限を行っているところ,刑事裁判において裁判所が資格制限の排除を決定するということが,行政官庁と裁判所の権限分配の関係で問題が生ずるように思われます。このことを別な観点から若干敷えんして申し上げますと,刑事法の目的と行政上の目的に優劣があるわけではないので,常に刑事法の目的を優先させることはできないという観点で言い換えることができるかと思います。   すなわち確かに刑罰の目的と申しますか,再犯予防,改善更生という観点からは,資格制限が障害になることはあると思うのです。しかし,行政官庁の判断としては,一定の行政目的を達成する上では,資格制限が必要になる場合は当然に存在すると思うのです。そのときに,行政目的と改善更生などの刑法の目的の間に,どちらかを絶対的に優先すべきというルールがあるわけではないと思いますので,場合によっては行政目的を重視し,資格制限を行うべき場合も当然に存在するように思われます。 ○佐伯分科会長 ほかにはいかがでしょうか。   大体この問題については以上でよろしいでしょうか。   それでは,このぐらいにいたしまして,次に本日の二つ目の論点であります「社会内処遇に必要な期間の確保」についての意見交換を行いたいと思います。   この論点についても,事務当局において考えられる制度の概要や検討課題等をまとめた資料を作成してもらいましたので,まず事務当局から「社会内処遇に必要な期間の確保」に関する資料の説明をお願いいたします。 ○隄幹事 本日,「社会内処遇に必要な期間の確保」に関する資料として,配布資料13「社会内処遇に必要な期間の確保(検討課題等)」を配布しております。配布資料13について御説明いたします。   「社会内処遇に必要な期間の確保」につきましても,これまでの部会及び当分科会における意見交換の状況等を踏まえ,「考えられる制度の概要」とともに,検討課題となると考えられる事項を記載しました。いずれについても,現時点において考えられるものを記載したものであり,もとより,御議論の対象をこれらに限る趣旨ではありません。   考えられる制度の概要や検討課題として記載した事項について説明します。   まず,「社会内処遇に必要な期間の確保」について考えられる制度の概要として,「仮釈放の期間についての考試期間主義」に関するこれまでの御意見を踏まえ,二つの案を記載しました。A案は,仮釈放の期間について,残刑期間ではなく,裁判所が改善更生に必要な期間として定め,その間,保護観察に付するという案であり,B案は,仮釈放の期間について,残刑期間が社会内処遇のために最低限必要と考えられる法定期間に満たない場合には,仮釈放の期間を当該法定期間とし,その間,保護観察に付するという案です。   その上で,A案の制度の検討に当たっては,必要性のほか,宣告刑の残刑期間にかかわらず,裁判所が仮釈放期間を定める制度であることから,刑法の責任主義との関係,確定した裁判・刑を変更することの効果と実務への影響,裁判所が判断する際に用いる要件及び判断要素等が検討課題になると考えられます。   また,「現行の仮釈放制度との関係」,具体的には,この新たな制度を,行政官庁の決定によるものとされている現行の仮釈放制度に代わるものとするのか,並存させるのかなどを検討する必要があると考えられます。   さらに,残刑の執行を猶予する制度とするという考え方も提案されているところ,A案の制度とどのような違いがあるのかも検討の対象になると考えられます。   次に,B案の制度の検討に当たっては,必要性のほか,法定期間をどのような考え方で定めるかや,法定期間の保護観察が,そもそも必要でないと考えられる場合,又は仮釈放期間中に必要でなくなった場合に,仮釈放期間を短縮するなどの措置を設けるかが検討課題になると考えられます。   続いて,「2」の「(1)」の「保護観察付き刑の一部執行猶予制度の見直し」及び「(2)」の「現行の仮釈放制度の積極的活用」については,これまでのところ,特に,現行の要件等を見直すべきとの意見はなかったところ,いずれについても,まずは,その要否・当否が検討課題であると考えられます。   次に,「2」の「(3)」の「仮釈放中の保護観察について刑法に規定すること」については,前回の部会において,仮釈放の期間中保護観察に付する旨を刑法に規定するべきとの意見がありましたので,その必要性や相当性について検討する必要があると考えられます。   配布資料13の説明は以上です。 ○佐伯分科会長 ただいまの御説明に,御質問や,この段階で,ほかにも検討課題等があるのではないかという御意見のある方は挙手をお願いいたします。   それでは,「社会内処遇に必要な期間の確保」について,配布資料13に沿って意見交換を行いたいと思います。   まず,配布資料13の「1 仮釈放の期間についての考試期間主義」について意見交換を行いたいと思います。この資料の検討課題「1 仮釈放の期間についての考試期間主義」については,A案とB案の二つの案が示されているところ,これまで指摘されてきた様々な課題や制度を設計するために必要な事項について,A案,B案ごとに,それぞれ御議論いただき,それを踏まえた上で「必要性」について御議論いただくことが有益だと思います。制度の「必要性」については,A案,B案に共通する内容もあると思われますので,まとめて意見交換を行うこととしたいと思います。このように一応分けて意見交換を行いますが,関係のある内容は,適宜のときに御発言いただいて結構です。   検討に当たって,B案に関連して,刑法改正草案に関する法制審議会刑事法特別部会における議論が参考になると考えられますので,事務当局から説明をお願いいたします。 ○隄幹事 仮釈放の期間について,残刑期間が社会内処遇のために最低限必要と考えられる法定期間に満たない場合には,仮釈放の期間を当該法定期間とし,その間,保護観察に付する制度に関連し,改正刑法草案に関する法制審議会刑事法特別部会における議論の概要を御説明いたします。   まず,法務省刑事局内に設置された刑法改正準備会によって作成され,昭和36年に公表された改正刑法準備草案においては,仮釈放を許された者は,これを保護観察に付し,ただし,仮釈放を許した行政官庁においてその必要がないと認めるときは,この限りでないこととされた上で,保護観察の期間は,残刑期間とし,ただし,残刑期間が6月に満たないときは,6月とすることとされていました。   その理由については,仮釈放者は,仮釈放後も,事実上変形された刑の執行を受けているものと考えられるとすれば,保護観察の期間は,残刑期間に限られるべきであるということ,しかし,余り短期間ではその効果を上げることは不可能であるということ,保護観察の期間が残刑期間を超える場合を認めたことについては問題がないとはいえないが,保護観察は実質的に本人の利益となる面もあり,また,6月の短期間であれば,それ程不当な人権侵害ともいえないので,刑事政策上の必要性を優先させたということ,もっとも,行政官庁において必要がないと認めるときは,保護観察に付さないことができるから,この点からも苛酷な取扱いは避けられるということなどが説明されていました。   その後,昭和38年に諮問を受けて設置された法制審議会刑事法特別部会及び小委員会において,この仮釈放中の保護観察の期間についても議論が行われました。   問題点の整理・検討,参考案等の作成が行われた小委員会では,改正刑法準備草案を支持するか否かについて見解が分かれ,保護観察の最低期間を設けることを疑問とする立場からは,自由の拘束を伴う保護観察を残刑期を超える期間にわたって行うのは,実質的には刑を重く変更するのと同じであるとの意見,保護観察の期間が延長されることになれば,特に残刑期の短い受刑者など,仮釈放を望まない者が増加するとの意見などがありました。また,最低期間を「6月」とすることを疑問とする立場からは,「6月」では短すぎるので,最低1年とするべきであるなどの意見もありました。   改正刑法準備草案を支持する立場からは,刑期そのものの短い累犯者に対しては,満期近くになって仮釈放するしかない場合があり,そのような場合には特に,保護観察に付する必要があるとの意見,仮釈放及びこれに伴う保護観察は,刑事施設における刑の執行と全く同じではないから,執行猶予の場合と同じく,残刑期を超える保護観察に付しても刑を重くすることにはならないとの意見,ただし,保護観察には不利益処分としての面があることを否定できない以上,この最低期間を余り長くするのはゆきすぎであるとの意見などがありました。   小委員会において,仮釈放に伴う保護観察の最低期間を6月とすべきか,1年とすべきかなどを含めて更に議論が行われた結果,小委員会の案としては,仮釈放の期間は,残刑期間とし,ただし,残刑期間が法定期間に満たないときは,当該法定期間とし,法定期間については「6月」とする案と「1年」とする案の両案が併記され,そして,仮釈放を許された者は,仮釈放の期間中保護観察に付し,ただし,行政官庁においてその必要がないと認めるときは,この限りではないこととされました。   しかし,この小委員会の案については,部会における採決の結果,最低期間を設ける部分の文言が削除されました。その理由については,「改正刑法草案の解説」において,短い残刑期間を残して仮釈放になった者にとって不利益にすぎるとの意見があったことが説明されています。   そして,法制審議会において取りまとめられた改正刑法草案では,仮釈放の期間は残刑期間とすること,仮釈放を許された者は,仮釈放の期間中保護観察に付し,ただし,行政官庁においてその必要がないと認めるときは,この限りではないこととされました。 ○佐伯分科会長 ただいまの御説明で,何か御質問はございますでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは,まずA案について資料の検討課題の「1」の「(1)」に掲げられた「責任主義との関係」から,「刑の執行中に裁判所の判断により残刑の執行を猶予するという考え方」までの事項について,意見がある方は挙手をお願いします。 ○橋爪幹事 私の方からは,A案につきまして,責任主義の関係で思うところを申し上げたいと存じます。   例えばですが,懲役1年の実刑判決と懲役1年プラス2年間の保護観察付き執行猶予の判決を比べた場合,当然に前者の方が重たいと解されていることから,残刑期間1年を猶予した上で,2年間の保護観察付きの考試期間を設定しても,これが不利益変更には該当せず,責任主義にも反しないという理解があり得るところかと存じます。確かにこの事例であれば,保護観察付きの考試期間を2年間設定しましても,これは不利益な変更には該当しないと思います。   それでは,残刑期間が3月のところ,3月の刑を猶予した上で3年間の考試期間を設定する場合はどうでしょうか。この場合には,3月の猶予の代わりに3年間の保護観察を付すことになりますので,判断は微妙ですが,むしろ不利益な変更に該当するように思います。   このように,A案を採用する場合,刑の事後的な変更によって行為者にとって有利になる場合も不利になる場合も生じ得るところ,A案それ自体の論理からは不利になる場合の可能性を排除し得ない点が,A案に内在する問題であるように考えております。   もちろんこの点につきましては,実質的に不利益な変更にならないように,考試期間の上限に関して,一定の制約を設けるということもあり得るのかもしれません。しかしながら,残刑期間の猶予と考試期間の設定との関係については,単純に数値化して換算できるものではないようにも思われますので,明文の規定を設けることも必ずしも容易ではないと思います。   このように考えますと,やはりA案の論理それ自体は,責任主義との関係において,なお課題が残るように考えます。 ○今井委員 A案について,1の(1)に「○」が六つございますが,特にこの三つ目と四つ目辺りのことに関連して,一部執行猶予とのアナロジーが効くかという観点と,A案,B案に共通する必要性について,若干意見を申し上げたいと思います。   まず,この三つ目のところ,「確定した裁判・刑を変更することの効果,実務への影響」というところでは,今までそういう主張をされている方の御論文等で見ますと,一部執行猶予が始まりまして,裁判所において被告人の再犯防止,改善更生を図る特別予防の観点が従前よりも重視されてきて,判決言渡しの段階で,それらを踏まえた実刑と一部執行猶予の切り分けがなされていると,そういった現在の判断枠組みを使うことによれば,このA案のように裁判所が残刑期間ではなく,仮釈放期間を決めるという制度も組めるのではないかという御指摘があるところだと思います。   ただ,それら二つの制度ないし制度案の間には,大きな違いがあることに,注意が必要だろうと思います。一部執行猶予の制度は,判決確定までに裁判所に提出された資料に基づいて,その段階での予測可能性に基づく特別予防の観点が組み込まれるものだと理解しています。この点は,一部執行猶予制度を検討した際に議論したことでありますが,現行の日本の法制度の延長上といいますか,枠内でできる対処法であります。   ところが,このA案で示されているようなお考えですと,施設内でこれまで対象者に対してどのような処遇が行われてきたのか,施設内処遇から社会内処遇に切り替えるのはいつか,切り替えてどのようにするかということを,裁判所が積極的に判断をするという思考がとられているように思います。このような制度は,フランス等にはございますけれども,日本の制度と適合するのかという点については,やはりまだ大きな疑問があるところであります。   むしろ日本の現行の制度との関係では,仮釈放の時期や仮釈放期間を比較し,それが今どのように使われているかということを踏まえて検討していけばよいのだろうと思いますから,この1の検討課題の三つ目の「○」につきましては,結論として一部執行猶予制度とのアナロジーは余り効かない問題群ではないかと思います。   他方で,次の4番目の「○」のA案を採った場合の要件,期間設定の判断要素というところについて考えますと,今申し上げたような疑問があるわけですけれども,A案に沿って考えていった場合には,一部執行猶予の運用の経験を分析することが必要だと思いますが,まだ時間が足りていないように思います。当分科会の第2回でも,統計等でお示しがあったところでありますが,一部執行猶予制度が開始されて1年ちょっとでありますが,その対象者の方は,9割以上が薬物事犯者であったということであります。薬物事犯者の方には特有の制度がありますが,薬物事犯以外の適用可能な初入者に係る刑の一部執行猶予についても,その適用を受けた者の9割ほどが薬物事犯者であったということであります。   ということは,そういった特定の事例群,処遇が必要な方がいらっしゃることは確かなのでありますが,いかなる措置が,彼らの社会復帰,再犯防止に役立っているのかということを,十分科学的,統計的に精査した上で,この四つ目の「○」,要件や期間設定を組み上げていくことが,科学的な刑事政策に資する制度の枠組みではないかと思いますので,まずその一部執行猶予制度の事例,成功等を踏まえた検討が必要であって,今はやや時期尚早かなと思います。   最後に,A案,B案に共通する「必要性」の点でございます。A案,B案は,いずれも一部執行猶予制度を超えた,裁判所に更なる積極的な関与を要求するような御提案だと思います。その前提としては,科学的,統計的な資料に基づく政策判断が必要だと思いますので,やはり,もう少し時間をとった着実な分析が望ましいのではないかと思います。   具体的には,例えば現在でも社会内処遇におきまして,対象者の方の就労先や居住場所の確保,あるいは福祉との連携ということが鋭意なされているわけでありますが,そのような社会内処遇を行う広い意味での社会的受け皿を広く深く掘っていくということをしながら,制度の検討を進めることが望ましいのではないかと思った次第であります。 ○橋爪幹事 私からも,今井委員の御発言に関連して,期間設定の判断要素について申し上げたいと存じます。   A案からは期間設定の判断において,恐らく改善更生の状況や再犯の危険性が判断資料になるかと存じます。しかし,これらを判断資料として明確に考試期間を設定することは困難ではないかという印象を持っております。   もちろん現在の刑事裁判におきましても,被告人の改善更生の必要性や再犯の危険性は,量刑判断において考慮されているかと存じます。しかし,飽くまでも量刑判断のベースラインは行為責任であり,罪刑均衡の観点から基本的な判断が示された上で,特別予防的な観点は,その範囲内の調整要素にすぎないと理解しております。   もっとも,A案から考試期間を設定する際には,この調整要素が正に本質的な判断要素になるわけですが,再犯の危険性といっても,その存否や程度を合理的に測定することは困難である以上,これ自体を判断基準として取り出して,考試期間を設定するというのは,かなり困難ではないかという印象を持つ次第です。 ○加藤幹事 私は,1の(1)の検討課題のうち,下の二つについて申し上げます。   まず,現行の仮釈放制度との関係なのでありますが,考試期間主義を採用することとした場合,それが現行仮釈放制度に置き換わる制度であるのか,それとも現行の仮釈放制度と並存させるのかという点は,確定させておかなければいけない問題です。ただ,すなわち残刑期間主義に基づく現行の仮釈放制度と並存させる場合,裁判所が判断する考試期間主義による仮釈放制度と,現在の行政官庁が判断する仮釈放制度とをどのように使い分けるのかという点の検討が必要となると思われます。   これは,判断者や仕組みが違うので,単純に両方を並存させればよいという話では多分なくて,その趣旨が同じ制度であれば,やはりどちらが望ましいあるいは優れた制度なのであるかという観点から,選択がなされなければなりませんし,二つの制度を並存させられるとなると,制度の趣旨が異なるという説明を要することになると思われますが,一体その違いはどこにあるのかといった点で検討が必要となろうかと思います。   また,その現行の仮釈放制度に換えて,この考試期間主義による仮釈放制度としてA案のようなものを設けるといたしますと,もちろん現行制度を大きく変更することになるのですが,この制度変更に伴う実務上の課題は様々であり,正に今御指摘がありましたように,どういう判断資料を用いるのか,判断基準はどうなるのか,あるいは当事者,なかんずくその受刑者というのか被告人側の手続的負担がどのようなものになるのかなどについても,検討が必要となるものだと考えられます。   それから,最後の刑の執行中に裁判所の判断により残刑の執行を猶予するという考え方についてでございますが,これも今までの分科会で検討すべきであるという形で御提案のあったものでございますけれども,これまでの当分科会の議論におきましては,仮釈放期間を残刑期間にかかわらず裁判所が定める考試期間主義を採用した仮釈放制度,A案はそういったものを志向されていると思いますが,そういう仕組みと比較して,今ここに書かれている残刑の執行を猶予するという考え方がどのように違うのか,明確にその仕組みとして違いがあるのかという点が若干疑問です。   むしろここで御提案のある残刑の執行を猶予するという考え方というのは,考試期間主義に関する検討課題として,まとめて検討することで足りるのではないかとも思う次第です。 ○福島幹事 考試期間主義について前回私が申し上げたことの延長みたいなことになるのですが,仮にこの制度を導入した場合に,どのような手続で考試期間を定めるかという,その手続部分のことについて,申し上げたいと思います。   本人,被告人をどう関与させるかというところも難しいところだと思いますが,前回申し上げたように一度確定したものを変更するということですので,仮にかなり被告人も深く関与するような形にし,さらには弁護人,それから検察官なども,刑を変更する以上は関与させるというような,そういう仮に重い手続にするとしますと,その手続の中でどこまでのことをやるのかにもよるわけですが,場合によっては一度確定した裁判の蒸し返しのような様相を呈するということもあるのかなという気がいたしますので,そのような観点からもこの問題については考えていく必要があるのではないかということを指摘しておきたいと思います。 ○佐伯分科会長 ほかにはいかがでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは次に,B案について資料の検討課題の「1」の「(2)」に掲げられました「法定期間の在り方」及び「法定期間の保護観察が必要でない又は必要でなくなった場合の措置」について意見交換を行いたいと思います。御意見がある方は挙手をお願いします。 ○今井委員 法定期間の在り方についてでございますが,先ほど申し上げたことと同じような感想なのですけれども,なかなかこれをぴしっと法律で決めるというのは困難ではないかという感想を持っております。このような期間というものは,当然のことではありますが,対象者の方の社会内処遇にとって必要なものという観点から,本来ならばテーラーメイドで個別具体的に判断されるべきものなのでありますけれども,そうなりますと裁判所の権限との関係で困難ではないかということで,法定期間という選択肢がとられているのだろうと思います。   しかしながら,そのような選択肢をとった場合,先ほど事務当局から改正刑法草案の議論の御紹介もありましたけれども,そこで指摘されたような問題は,やはりまだ解明されていないし,解決するのは非常に難しいのではないかと思いました。どの程度の期間が過度の不利益を課さず,対象者の方の社会復帰に向けた気持ちも損なわず再犯防止,改善の効果を上げられるのかということについては,繰り返しになりますけれども,科学的,統計的な知見を持って解決されるべき事項でありまして,慎重な検討が必要ではないかと思った次第であります。 ○橋爪幹事 私も今井委員と同意見でございます。確かにB案は一律に法定期間を規定するわけですので,考試期間の設定に関する問題は生じません。もっとも全員に一律に法定期間を設定するというのでは,個別の対象者にはマッチしないという弊害が生じるおそれもあるように思います。   すなわち,もちろんこれは法定期間の長短に依存しますけれども,常に法定期間全般について保護観察が必要とまでは言えない対象者も存在し得るように思いますので,仮にB案を前提に制度設計する場合には,保護観察の必要性が乏しい場合については,保護観察期間を短縮する余地,あるいは仮釈放期間それ自体を短縮する余地を認める必要があるように考えております。   もっとも,このように短縮の余地を認める場合は,例によりまして誰がどのような手続によってどのような判断資料に基づいて短縮の可否を判断するかという問題が,やはり生じてまいります。このような意味において,B案もA案と同様の問題が生じうる点に,留意する必要があると考える次第です。 ○佐伯分科会長 ほかにはいかがでしょうか。   それでは,ここまで述べられましたA案,B案についての御意見も踏まえつつ,A案,B案の制度の「必要性」について意見交換を行いたいと思います。   御意見がある方は挙手をお願いいたします。 ○橋爪幹事 若干論点がずれてしまうかもしれませんけれども,「必要性」に関して1点関連することを申し述べたいと存じます。   恐らくA案,B案いずれにしましても,単に保護観察として十分な期間を設定するだけで目的が達成されるわけではなくて,その期間を有効に活用することが是非とも必要になってくると思うのです。このような意味では,保護観察の内容それ自体の充実・改善が重要であることはもちろんですが,同時に遵守事項違反や再犯があった場合の取扱いについても十分に検討する必要があると考えております。   この点に関係して1点申し上げたいのですが,例えば残刑期間3月のところ,1年間の考試期間を設定した場合を想定いたします。そして,この場合に,3月の考試期間を経過した段階で遵守事項違反があった場合を考えてみたいと存じます。   仮釈放も飽くまでも刑の執行の一形態でございますので,3月を経過すると,既に刑の執行自体が終了しているようにも思われます。そうしますと,この事例の場合,3月を超えてから遵守事項違反があっても,再収容ができない,ということになるのでしょうか。しかし,これでは保護観察を継続するといっても,その実効性が十分担保できないという問題が生ずるような印象を受けました。   それでは逆に残刑期間を経過した後についても再収容が可能であるとする場合,この場合には,保護観察の実効性を担保できると思われますし,おそらく,従来もこのように理解されてきたように思うのですが,本来の刑期が満了した後,さらに再収容の可能性が残るということをどのように正当化するかという観点から,更に検討が必要であると思います。   いずれにしましても,このようにA案,B案の必要性を考える上では,このような論点も問題になり得ると思い,あえて1点申し上げる次第です。 ○佐伯分科会長 ほかにはよろしいでしょうか。   それでは,「2」に移りまして,「2 その他」の「(1)保護観察付き刑の一部執行猶予制度の見直し」について意見交換を行いたいと思います。   御意見がある方は挙手をお願いいたします。                 (一同意見なし)   現在の時点では特に付け加える意見はないということでよろしいでしょうか。   それでは次の「(2)現行の仮釈放制度の積極的活用」について意見交換を行いたいと思います。   御意見がある方は挙手をお願いいたします。 ○青木委員 まだ自分の考えが固まっているというわけではないのですけれども,現在の仮釈放の要件としては,改悛の状ということが要件になっていますけれども,今のこれまでの議論からしますと,必ずしもその改悛の状というよりは,社会内へのソフトランディングといいますか,そういう観点で仮釈放期間をどう確保するかというようなところが議論されているように思います。   その改悛の状というのを変えれば,それがうまくいくのかというのはよく分からないですし,改悛の状が全くないという人に仮釈放を認めるということでもないと思いますので,見直すべきかどうか,では見直すとしたらどうするかというところまで固まっているわけではないのですけれども,もしその改悛の状というようなワーディングであるために,仮釈放が今議論されているような意味で,ソフトランディングのために必要な仮釈放というのができないというような状況がもしあるのであれば,少しその要件について書き換えるなりして,少しでも今本当に必要な仮釈放が広く認められる方向になるというのも検討する価値はあるのではないかと。何がいいかと,まだちょっと分からないのですけれども,検討はした方がいいのではないかと思いました。 ○佐伯分科会長 今の御意見について何か事務当局の方でございますか。 ○今福幹事 現在の改悛の状の要件につきましては,平成20年に施行された更生保護法を受けて省令にて,改善更生の意欲,悔悟の情,再犯のおそれなしなどが規定されており,これまでも御説明いたした点でございます。   その要件の下で保護局と矯正局で連携をとりまして,必要な人には適正に,また積極的に仮釈放が適用されるために,必要な手当てがなされるように,現在取り組んでいるところでございます。 ○青木委員 改善の意欲,更生の意欲というようなのがやはり入るわけですよね。満期釈放になる人は,むしろ更生の意欲がないとか,あるいは実際問題として意欲が湧く前提もないというのですか,うまく言えないのですけれども,今現に問題になっている本来仮釈放で社会内処遇が必要な人が満期釈放になってしまっているということの関係で,今言われたような改悛の状の中身も含めてですけれども,それでカバーできているのだろうかというところでいうと,やはり必ずしもそうではないのかなと思います。   極端にいいますと,本人は仮釈放をされたくないと言っているけれども,仮釈放が必要な人というのもいるのだろうと思うのです。そういう人について,要するに社会内処遇が必要な人について仮釈放ができるというような中身が,何らかの形で入る必要はないのだろうかと。要するに仮釈放の趣旨の中に必ずしも改悛の状の枠の中に全くないというのは,ちょっとどうかとは思うのですが,もう少し広い枠で捉えられるような書き方はできないのだろうかという問題意識なので,そこはまだ固まっていませんけれども,もうちょっと考えてみたいと思います。 ○佐伯分科会長 それでは,またこの点については検討させていただくことにいたしまして,次に移らせていただきたいと思います。   最後に,「2」の「(3)仮釈放中の保護観察について刑法に規定すること」について,意見交換を行いたいと思います。   この検討に当たっては,仮釈放中の保護観察等に関する規定の制定・改正経緯を踏まえて御議論いただくことが有益と考えられますので,事務当局から説明をお願いいたします。 ○隄幹事 仮釈放中の保護観察について刑法に規定するか否かの議論の御参考として,仮釈放中の保護観察等に関する規定の制定・改正経緯の概要について,御説明いたします。   前提として,現行法の規定について御説明しますと,仮釈放の期間中に保護観察に付する旨を規定しているのは「更生保護法」,刑の執行猶予の期間中に保護観察に付する又は付することができる旨を規定しているのは「刑法」及び「薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律」,少年法上の保護処分として保護観察に付する旨を規定しているのは「少年法」,少年院の仮退院の期間中に保護観察に付する旨を規定しているのは,仮釈放と同様に「更生保護法」となっています。   まず,仮釈放については,明治13年制定の旧刑法において,仮出獄を許すことができることとされ,明治40年制定の現行刑法においても同様とされていますが,昭和24年までは,仮出獄者一般について「保護観察」に付する旨の規定はありませんでした。旧刑法において仮出獄者一般を警察による「特別監視」に付することが規定されていましたが,現行刑法が明治41年に施行されたことに伴い,旧刑法にあった「特別監視」は廃止され,同年制定の監獄法において,仮出獄者の遵守事項として警察官署の監督を受けることが規定されました。   そして昭和24年に,監獄法にあった遵守事項の規定は削除されるとともに,仮出獄者を「保護観察」に付する旨や仮出獄者に対する保護観察の実施内容が規定されましたが,その規定は新たに制定された犯罪者予防更生法に設けられました。   その後,平成19年に,犯罪者予防更生法と執行猶予者保護観察法が整理・統合されて更生保護法が制定されたところ,仮釈放者を「保護観察」に付する旨の規定が同法に引き継がれております。   次に,刑の執行猶予については,明治38年制定の刑ノ執行猶予ニ関スル法律に規定され,明治40年制定の現行刑法にも規定されていましたが,昭和28年までは,執行猶予者一般について「保護観察」に付する又は付することができる旨の規定はありませんでした。   昭和22年の刑法改正により,執行猶予の言渡しができる刑期の上限が引き上げられ,昭和28年の刑法改正により,再度の執行猶予の言渡しが可能とされるなどの改正が行われたところ,この昭和28年の刑法改正の際に,再度の執行猶予者は必要的に「保護観察」に付する旨が刑法に規定され,保護観察の実施内容については,犯罪者予防更生法に規定されました。さらに,昭和29年の刑法改正により,初度の執行猶予者について「保護観察」に付することができる旨が規定され,この際,初度の執行猶予者と再度の執行猶予者を合わせて保護観察の実施内容について定める執行猶予者保護観察法が制定されました。   次に,少年法上の保護処分としての保護観察については,大正11年制定の旧少年法において,刑罰法令に触れる行為をなした少年等は「少年保護司の観察」に付する処分を行う旨の規定があり,昭和23年制定の現行少年法においても,保護観察所の「保護観察」に付する旨が規定されました。   これに対し,少年院からの仮退院については,まず,旧少年法に,刑罰法令に触れる行為をなした少年等は「矯正院」に送致する処分を行う旨の規定が設けられるとともに,同じ大正11年に制定された矯正院法において,矯正院からの仮退院者を「少年保護司の観察」に付する旨の規定が設けられました。そして,昭和23年に現行少年法が制定された際,「矯正院」は「少年院」に改められ,昭和24年に犯罪者予防更生法が制定された際,少年院からの仮退院者を「保護観察」に付する旨の規定は,仮出獄者の保護観察と同様に,同法に設けられ,その規定が平成19年制定の更生保護法に引き継がれております。 ○佐伯分科会長 今の御説明について何か御質問等はございますでしょうか。   それでは,意見交換に入りたいと思いますが,いかがでしょうか。 ○橋爪幹事 率直に申し上げますと,仮に今から明治に戻って,一から刑法を編纂するのであれば,これも刑法典に書いた方がすっきりするとは思うのです。ただ,現在,既に刑法典があり,また,更生保護法があるわけです。しかも今御説明がございましたように,これらの規定が更生保護法にあることについては,これまでの経緯があり,一定の合理性もあるように思いますし,これによって何らかの不都合が生じているようにも思われません。したがいまして,現時点において,これを更生保護法から刑法に移し替えることについて,喫緊の必要性があるとまではいえないように思います。 ○今井委員 ただいまの橋爪幹事と同じ意見でございますけれども,このような御提案の趣旨は,保護観察の積極的意義を基本法典である刑法にも書くべきだという,かなり政策的なメッセージを含むものかと思います。その趣旨はよく分かるのでありますけれども,保護観察は制裁ではなく,今日も議論されてきましたが,対象者の方の社会復帰や再犯防止のための措置であるということを考えますと,それを刑法典に書き込みますと,かえって逆の効果もありはしないかと危惧しております。つまり,保護観察が不利益性を伴う制裁に非常に近いものであるということを,立法において認めたと誤解されては困りますので,そのようなことがないようにするためには,このような御提案はどうか,と思っているところでございます。 ○佐伯分科会長 お二人から御発言があったのですが,ほかにいかがでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは,「社会内処遇に必要な期間の確保」についての本日の意見交換はこの程度としたいと思います。   本日は,「刑の全部の執行猶予制度の在り方」及び「社会内処遇に必要な期間の確保」について意見交換を行いましたが,本日の意見交換としてはこの程度でよろしいでしょうか。                 (一同異議なし)   それでは,本日の審議は,これで終了いたします。   今後の予定について,事務当局から説明をお願いいたします。 ○隄幹事 今後の予定について申し上げます。   次回の第1分科会の会議は2月13日火曜日午前10時から予定されています。場所はこの建物の15階にある会議室となります。 ○佐伯分科会長 本日の会議の議事につきましては,特に公表に適さない内容に当たるものはなかったと思われますので,発言者名を明らかにした議事録を公表することとさせていただきたいと思いますが,よろしいでしょうか。                 (一同異議なし)   それでは,そのようにさせていただきます。   本日はどうもありがとうございました。 -了-