法制審議会 民事執行法部会 第1回会議 議事録 第1 日 時  平成28年11月18日(金)自 午後1時31分                       至 午後4時44分 第2 場 所  東京高等検察庁第2会議室 第3 議 題  民事執行法制の見直しについて 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○筒井幹事 予定した時刻になりましたので,法制審議会民事執行法部会の第1回会議を開催いたします。   本日は御多忙の中,御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   私は法務省民事局民事法制管理官の筒井と申します。本日はこの部会の第1回会議ですので,後ほど部会長の選出をしていただきますが,それまでの間,私が議事の進行役を務めさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。     まず,この部会で審議される諮問事項とこの部会を設置する旨の決定につきまして,簡単に御報告いたします。本年9月12日に開催されました法制審議会第177回会議におきまして,法務大臣から民事執行法制の見直しに関する諮問がされました。諮問事項は「民事執行手続をめぐる諸事情に鑑み,債務者財産の開示制度の実効性を向上させ,不動産競売における暴力団員の買受けを防止し,子の引渡しの強制執行に関する規律を明確化するなど,民事執行法制の見直しを行う必要があると思われるので,その要綱を示されたい。」というものであります。   この諮問を受けまして,法制審議会総会におきまして,その日の会議で,専門の部会を設置して調査審議を行うのが適当であるとして,この民事執行法部会を設置することを決定したものでございます。   まず,以上のことを御報告いたします。   続きまして,審議に先立ちまして,事務当局を代表して民事局長である小川委員より挨拶を申し上げる予定でございましたが,小川委員が本日は国会関係の公務のために欠席でございます。そこで,大臣官房審議官である金子委員から代読をさせていただきたいと思います。 ○金子委員 大臣官房審議官の金子でございます。民事局長の小川が国会用務のため欠席しておりますので,代わりに私が御挨拶を申し上げます。   皆様にはそれぞれ御多忙の中,法制審議会民事執行法部会の委員,幹事に御就任いただきまして誠にありがとうございます。   民事執行法は昭和54年に制定された後,社会,経済情勢の変化への対応と権利実現の実効性を高めるという観点などから,平成15年と平成16年に所要の改正が行われたところですが,その後も手続の更なる改善に向けて幾つかの個別的な検討課題が指摘されております。   第1に,債務者財産の開示制度の実効性を向上させる必要があるという指摘がございます。勝訴判決等を得た債権者のために債務者財産に関する情報開示を行う制度としては,平成15年の改正で,新たに「財産開示手続」が創設されていますが,その後の運用状況を見ますと,情報開示制度としての実効性が必ずしも十分でなく,利用件数もそれほど多いとはいえない実情にあるとして,この制度の在り方を見直す必要があるとの指摘がされています。また,この制度に関しては,養育費の支払を怠っている債務者に対する強制執行の実効性の確保といった観点からも,制度の拡充が強く求められているところです。   第2に,不動産競売における暴力団員の買受けを防止する必要があるという指摘がございます。近時,公共事業や企業活動等からの暴力団排除の取組が官民を挙げて行われていますが,民事執行法による不動産競売では,暴力団員であることのみを理由としてその買受けを制限する規律が設けられておりません。このため,暴力団員が不動産競売で買い受けた建物を暴力団事務所として利用する事例などがあると指摘されており,対策を講ずることが求められています。   第3に,子の引渡しの強制執行に関する規律を明確化する必要があるという指摘がございます。現在の民事執行法にはこの点に関する明文の規定が設けられていないことから,子の引渡しを命ずる裁判の実効性を確保するとともに,子の福祉に十分な配慮をするなどの観点から,明確な規律を整備すべきであるとの指摘がされています。平成25年には,いわゆるハーグ条約実施法によって国際的な子の返還に関する強制執行の規定が整備されたことから,国内における子の引渡しの強制執行についても,明確な規律を整備する必要性がより強く意識されるようになっているところでございます。   そこで,以上のような民事執行手続をめぐる諸事情に鑑み,債務者財産の開示制度の実効性を向上させ,不動産競売における暴力団員の買受けを防止し,子の引渡しの強制執行に関する規律を明確化するなど,民事執行法制の見直しを行うことについて,法制審議会で御検討いただきたく,今回の諮問がされたものでございます。   私ども事務当局といたしましては,民事執行法制の見直しに向けた調査審議が充実したものになるよう最大限の努力をする所存でございますので,委員・幹事の皆様にはより適切な民事執行法制の整備のために御尽力を賜りますよう何とぞよろしくお願い申し上げます。   以上でございます。    (委員等の自己紹介につき省略) ○筒井幹事 皆様,どうもありがとうございました。よろしくお願いいたします。   なお,本日は先ほど紹介いたしました小川秀樹委員のほか,岡田幸人幹事,垣内秀介幹事が御欠席でございます。   それから,この機会に関係官の出席につきまして補足して説明いたします。法制審議会議事規則によりますと,審議会がその調査審議に関係があると認めた者は,会議に出席し,意見等を述べることができるとされております。この部会におきましても,従前どおり,関係省庁に対して審議への参加を求めていこうと考えております。そのため,当省事務当局のスタッフのほか,警察庁刑事局組織犯罪対策部の奥田暴力団排除対策官と,最高裁判所事務総局民事局の小津局付に,関係官として御出席いただいております。   続きまして,部会長の選任を行っていただきます。法制審議会令によりますと,部会長は当該部会に属する委員及び臨時委員の互選に基づき,法制審議会会長が指名することとされております。この部会は本日が第1回会議でございますので,まず始めの手続として部会長を互選していただく必要がございます。   それでは,ただいまから部会長の互選をしていただきますが,自薦又は他薦の御意見などはございますでしょうか。 ○山本(克)委員 お隣に座っておられます山本和彦委員を御推薦いたします。山本和彦委員は民事執行法のみならず民事手続法の幅広くかつ深い識見を持っておられますし,また本部会以前にも多数の立法の立案過程に関わってこられておられます。そういう観点からして,最適任ではないかと思う次第でございます。 ○筒井幹事 ほかにいかがでしょうか。 ○道垣内委員 私も山本克己委員と同じく,山本和彦委員が適任かと存じます。民事執行手続を含めた民事手続法に関する造詣の深さと,様々な見解ないしは意見に対する理解,整理能力のいずれの面をとっても山本和彦委員が適任かと存じます。 ○筒井幹事 ほかにいかがでしょうか。   ただいま,山本克己委員及び道垣内委員から,部会長として山本和彦委員を推薦するとの御発言がありました。ほかに御意見がもしないようでしたら,部会長には山本和彦委員が互選されたということにさせていただきたいと思いますけれども,いかがでございましょうか。   よろしゅうございますか。   それでは,互選の結果,山本和彦委員が部会長に選ばれたことを確認させていただきます。   その上で,法制審議会の高橋宏志会長に部会長を指名していただこうと思います。高橋会長とは本日は電話での連絡ということになりますので,ここで会議を一旦休憩とさせていただき,10分後,2時から会議を再開するということにさせていただきたいと思います。           (休     憩) ○筒井幹事 会議を再開したいと思います。   先ほどの休憩時間中に,高橋宏志会長から,山本和彦委員を部会長に指名する旨の御連絡を頂きました。これをもちまして山本和彦委員が部会長に選任されました。山本和彦委員には休憩時間中に部会長席に移動していただいておりますので,以後の進行役をお願いしたいと思います。よろしくお願いいたします。 ○山本(和)部会長 ただいま部会長に選任を頂きました山本和彦でございます。一言御挨拶を申し上げます。   私の認識しておりますところでは,この民事手続法関係の部会というのは伝統的に委員,幹事の皆様に自由闊達な御議論を頂き,また建設的な御議論を頂き,そしてしかるべきときがくればその議論が収れんして取りまとめに至るということになるというのが私の持っている経験則でございます。私自身はこのような仕事に必ずしも慣れておりませんし,また力不足ではございますが,そのような民事手続法部会の伝統,本日は竹下先生にも御出席を頂いておるわけですが,その伝統にのっとりまして円滑な議事進行に誠心誠意努めてまいりたいと思いますので,委員,幹事,関係官の皆様方の御協力のほど,どうぞよろしくお願いいたします。   それでは,審議に入ります前に,当部会における議事録の作成方法のうち,発言者名の取扱いについてお諮りをしたいと思います。まず,現在の法制審議会の議事録の作成方法につきまして事務当局から御説明を頂きたいと思います。 ○筒井幹事 法制審議会の部会の議事録における発言者名の取扱いにつきましては,かつては発言者名を明らかにしない形で逐語的な議事録を作成していた時期もありましたが,平成20年3月に開催されました法制審議会の総会におきまして,それぞれの諮問に係る審議事項ごとに,部会長において部会委員の意見を聞いた上で発言者名を明らかにした議事録を作成することができるという取扱いに改められております。   御参考までに申し上げますと,この総会の決定後に設置されました民事法関係の部会におきましては,いずれも発言者名を明らかにする議事録を作成するものとされております。したがいまして,この部会の議事録につきましても,発言者名を明らかにしたものとするかどうかを御検討いただく必要があるのではないかと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,筒井幹事からの説明につきまして御質問あるいは御意見がございましたら御発言をお願いいたします。   いかがでしょうか。特段の御意見はございませんでしょうか。もし特段御意見がないようでしたら,私といたしましては当部会におきましてはその審議事項の内容等に鑑みまして,発言者名を明らかにした議事録,発言者名を記した議事録を作成するということでいかがかと存じますが,いかがでしょうか。よろしゅうございますか。   特に御異論はございませんようですので,それでは,当部会につきましては発言者名を明らかにした議事録を作成することにいたしたいと思います。ありがとうございました。   それでは,本日の審議に入りたいと思います。まず,事務当局から今回の諮問の内容及びその発出の経緯,今回の検討の対象範囲,審議スケジュール等につきまして御説明を頂きたいと思います。よろしくお願いします。 ○筒井幹事 御説明いたします。まず,お手元の資料でございますけれども,事前送付いたしました部会資料1,それから参考資料1をお手元に置いていただければと思います。   先に参考資料1の方を御紹介しておきますと,この部会の設置に先立ちまして,民間の研究会において,今回の諮問事項とされました三つの検討課題を中心として民事執行手続に関する研究が行われております。その成果を取りまとめたものが,お配りしております参考資料1の研究会報告書でございます。この研究会には,私も参加しておりましたし,本日御参加の会議メンバーのうちの何人かの方も御参加されていたものでございます。この研究会報告書は,今回の諮問に係る事項について民事執行法の見直しが必要ではないかといった問題意識をもとに,それについてどのような検討事項があり得るのかという論点整理と,その論点に関してどのような方向があり得るのかといった辺りについて,研究を行ったものでございます。この部会の今後の審議を進めていく上でも大いに参考になるものと思いますので,お配りさせていただいた次第でございます。   もとより,その内容といたしましては,基本的には論点の整理ということに尽きておりまして,一定の方向をここで既に決めているといったことでは毛頭ございませんので,飽くまで参考資料ということで御覧いただければと思います。   次に部会資料でございますが,本日の会議におきましては,この後,この部会の検討事項とされております主要な三つのテーマについて自由に御意見を述べていただきたいと考えておりますが,その議論の参考とするために,それぞれの検討テーマごとにどのような検討事項があるのか,その例を書きとめたものでございます。三つの検討課題と申しますのは,先ほど読み上げました諮問事項にありましたように,第1に債務者財産の開示制度の実効性の向上,第2に不動産競売における暴力団員の買受け防止の方策,そして第3として子の引渡しの強制執行に関する規律の明確化でございます。この部会資料1におきましては,それぞれ項目の見出しの次にその項目についてどういった制度の見直しを行う必要性があるという認識でこのような諮問がされたのかということを簡単にメモしております。その内容は,先ほど金子委員から挨拶の中で紹介があったことと多くの部分で重なっているところでございます。またそれに加えまして,それぞれの項目ごとに概括的に論点を紹介する形で記載がされております。   ごく簡単に御紹介いたしますと,まず第1の債務者財産の開示制度の実効性の向上でございますが,これは御案内のように平成15年の法改正で財産開示手続が新たに創設されましたけれども,この手続につきまして必ずしも実効性が十分でないといった指摘があり,利用件数もそれほど多いとはいえない実情にあるといった指摘がございます。そのため,この手続を含めた広い意味での債務者財産の開示制度の実効性を向上させるといった観点から,制度の全般的な見直しを行う必要があるという指摘があるところでございます。   この制度につきましては,平成15年の現行制度の制定の際にも,成案となった債務者自身の陳述から債務者財産の状況を把握するという方向のほかに,第三者から債務者財産に関する情報を取得する制度を設けるか否かが議論の対象になったわけですが,適切な情報源があるかどうかという問題のほか,情報源とすることが適当かどうかということも含めて異論もあり,債務者財産に関する情報を取得する手続を初めて創設するに当たって,まずは債務者自身の陳述から情報を得るという方向を構想すべきではないかということで現行制度が作られたといった経緯があったように記憶しております。今般その見直しをするに当たっては,改めまして資料1の見直しの方向に書いたことでございますけれども,現行の財産開示手続をより利用しやすく強力な制度にするという方向のほか,その情報を債務者以外の第三者から取得しようとする手続を新たに創設するという方向をも検討の対象とした上で,どういった問題があるのか,あり得べき制度はどのようなものかといった議論を深めていく必要があるのではないかと考えております。   次に,第2でございますが,不動産競売における暴力団員の買受けの防止の方策でございます。不動産競売における暴力団員等による執行妨害の排除というのは,もとより民事執行法の制定以来,法制度としても,それから執行の実務においても,力を入れてきたところでございまして,それによって適正な不動産競売の手続が実現されてきたという歴史があるものと認識しておりますが,しかしながら,ただ暴力団員であることのみを理由として不動産の買受けを制限するといった規律は,設けられておりません。このためか,不動産競売において買い受けた建物が暴力団事務所として利用されている実例があるといったことが報道されており,このことに対して厳しい批判が向けられていることもまた事実でございます。そういったことを踏まえまして,昨今,官民を挙げて行われている暴力団員排除の取組の一環として,不動産競売の手続に関しましても,その手続を妨げる行為の有無にかかわらず,暴力団員の買受けそれ自体を防止するための方策を検討する必要があるのではないかと考えているところでございます。   資料1では,検討の方向として,競売手続のプロセスの中で執行裁判所などの判断により暴力団員の買受けをあらかじめ排除する仕組みを構築するという方向を取り上げていますが,そのほか例えば暴力団員による買受けを刑事罰をもって禁圧するといった方向も検討課題となり得るところでございます。このような検討の方向についてどのように考えるのかといった辺りから,議論を進めていきたいと思います。   また,競売手続のプロセスの中であらかじめ買受けを排除するという手続に関して,議論を深めていくに当たりましては,資料の3ページ,2の最初の○で書きましたように,この排除の仕組みを組み込むことによって現状よりも手続の円滑性を大きく損なうおそれがあるという指摘がございますほか,暴力団員を排除するというそのルール自体が新たな執行妨害の手口に使われる懸念もあるといった指摘もあるところでございまして,こういったところも踏まえて,どのように議論を進めていくべきなのかといった辺りを御議論いただく必要があるのではないかと思います。   次に,第3,子の引渡しの強制執行に関する規律の明確化でございます。御案内のとおり,民事執行法には子の引渡しの強制執行に関する明文の規定がございません。この点につきましては,子の引渡しを命ずる裁判の実効性の確保といった観点とともに,子の福祉に十分な配慮をするといった観点から,明確な規律を整備すべきであるという指摘がされているところでございます。また,この点に関しまして,平成25年にいわゆるハーグ条約実施法が成立いたしまして,国際的な子の返還を強制するという場面につきまして具体的な規律が整備されましたことから,国内における子の引渡しの手続についても明確な規律を設ける必要性がより強く意識されているところであると思います。   ここでは,ハーグ条約実施法が想定している場面と国内における子の引渡しの一般的な規律との間には,取り扱っている場面の類似性がございますので,先行する最近の立法をどの程度強く意識するのかといったところは議論があり得ると思いますけれども,しかし,少なくともその規定を参照し,それと対比しながら議論を進めていく必要があるのではないかと認識しているところでございます。この点につきましても御意見を頂きたいと思います。   また最後に,この資料では「第4 その他の検討事項」という項目を立てております。諮問事項の中では,三つの検討項目を列挙した後に「など」という一言がございました。その「など」に当たることでございます。この部会で取り扱う審議事項といたしましては,基本的には主な三つの検討課題を念頭に置いているところでございますけれども,この見直しの機会に,民事執行法制全般の中から改正が必要なテーマがあるとすれば,審議の中でそれを取り上げていくことを一切排除するものではございません。それが「など」という言葉の意味するところでございます。ただ,具体的に検討事項として掲げられている三つのテーマにつきましては,それぞれ実務的なニーズがあり,早期の改正を求める声があるところでございますので,一定のスピード感を持って審議を進めて成案を得る必要がございます。それとの対比で申しますと,主要な三つの検討課題と少なくとも同じ程度のスピード感を持って,そして成案を得ることができる程度に議論が熟したテーマであれば,同様に取り上げていく余地がある,そのような位置付けで,その他の論点項目についても考えてみてはどうかと認識しているところでございます。   そのような観点から,先ほどの参考資料1の中でも既にその他の論点として債権執行事件の終了に関する規律について,現在の規律ではなかなか実務上不都合が生じているといった問題が取り上げられ,それについて一定の見直しの方向感が提示されているところでございますので,このようなテーマについてこの部会の審議の中でも取り上げるかどうか,論点になってくるのではないかと考えているところでございます。   そして,併せて今後の審議スケジュールについても,この機会に御説明しておきたいと思います。この部会のこれからの審議におきましては,最終的に要綱案を決定して法制審の総会に報告をする必要がございまして,その要綱案の決定の時期としてどの辺りを目指していくのかということがまず問題となるわけでございますが,この点につきましては,現時点ではなかなか先を見通すことが難しいところがございます。と申しますのは,三つの論点それぞれに検討事項として重さがあって,なかなか困難な検討課題であるということが一方にありますが,他方で,社会的な要請の強いテーマでもあることから,より早く成案を得るべきだという声が高まることも今後の可能性としてはあり得るところでございます。また,逆の方向のこととしては,例えばですけれども,この部会の審議は最終的に立法を目指すものですので,国会の状況をも視野に入れながら進めていく必要があるわけですけれども,法案を提出するタイミングとしてどの辺りが現実的にあり得るのかといったことも考慮しながら,場合によっては後ろ倒しということも可能性としてはあり得るわけでございます。   幾つかの事情を申し上げましたけれども,様々な要因があるために,この時期を目指して最終的な要綱案を取りまとめたいということを今の段階で申し上げることはなかなか困難でありますので,その点につきましては今しばらく審議を続けながら御相談をしていきたいと考えております。   もっとも,それでは審議スケジュールが立てにくいということになりますので,差し当たりは中間試案を取りまとめる時期の目標を設定することを考えたいと思っておりますが,今後1年なのか2年なのか3年なのかという審議時間の大枠が見えない中で中間試案の時期だけを先に決めるというのもなかなか難しい面がございます。本日の時点での私の提案といたしましては,今後三つの検討課題,プラスアルファがあるかもしれませんけれども,それについて一巡目の検討をまず進めていただきたいと思っております。イメージとしては次回以降の1回の会議ごとに一つの検討課題を取り上げるというテンポで,私どもとしては会議の準備をしたいと考えております。そして,議論が一巡したころを目安として中間試案の取りまとめをおおむねこの頃にしたいという提案をさせていただければと考えております。   はなはだ曖昧なスケジュールの提案となってしまいまして恐縮ではございますが,今申しましたような理由からこのような形での進行をさせていただければと考えております。   私からの説明は以上でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,これから審議の中身に入りたいと思いますが,この部会資料1をめぐる具体的な御意見等お伺いするのは後として,まずただいまの筒井幹事からの,諮問の内容あるいは今回の検討の対象範囲あるいは審議スケジュールの御説明について,もし御質問があれば承りたいと思います。 ○佐成委員 スケジュール的なところなのですが,部会資料を事前送付いただけると思うのですが,部会日程の大体どれぐらい前に頂けるのでしょうか。よく読み込まないとなかなか議論に付いていけないと思われるので,その点だけ質問させてください。 ○筒井幹事 できるだけ早く送るように努め,できる限りそれを実現していきたいと考えておりますが,一つの目安として,この部会の会議日は金曜日に固定したいと考えておりますので,その前の週の金曜日のうちには何らかの方法でお読みいただける形にしたいと考えております。 ○佐成委員 ありがとうございます。 ○山本(和)部会長 ほかにいかがでしょうか。今の段階ではよろしいでしょうか。   後の議論の中に入った段階でも適宜御質問等があれば承りたいと思います。   それでは,本日の中身の議論に入りたいと思いますが,ただ本日は第1回の会議でありますので,これからの時間については次回以降の本格的な調査審議に先立つ形で一種のフリーディスカッションのような形で御議論を頂きたいと考えております。先ほど来繰り返し出ておりますように,今回の諮問では三つの課題が取り上げられておりますので,本日のフリーディスカッションでもこれらの課題ごとに議論をするのが適当かと思います。そして,資料1では「第4 その他の検討事項」という項目もございますので,この部分についても最後に御議論いただきたいと考えております。   それでは,まず一つ目の課題といたしまして,「第1 債務者財産の開示制度の実効性の向上」という部分について御議論を頂きたいと思います。どなたからでも,そしてこの部会資料1の第1の部分の,どの部分からでも結構ですので,御自由に御発言を頂ければと思います。 ○松下委員 個々の論点に入る前に,この第1の財産開示に関する議論の仕方について,私の意見を少し申し述べたいと思います。   財産開示はこの資料にございますとおり,平成15年改正で創設されたものですが,当時の議論,私が記憶している限りでは初めてこういう制度を作るということで,濫用を懸念し控えめな設計をするというのが平成15年の法改正のときの,明示的には書かれていないかもしれませんが,関係した方々のお考えではなかったかと思います。裏返しますと,実際に作った法律を運用してみて濫用がなければ少しずつかもしれませんが,より強力な制度に改めるということは当初から想定されていたのではないか,言わば小さく産んで,以後少しずつ大きく育てるということが想定されていたのではないかと思います。   「議論の仕方」と申しましたのは,控えめに設計する際に当初考慮した点は飽くまで控えめにするための理由であって,その控えめにするという理由をこの財産開示をより強力な制度に改めることに反対する理由に使うというのは当初の想定と違うのではないか。ですから,平成15年改正当時にその当初の制度設計するときにこういう理由でこう限定をしましたという理由をそのまま鵜呑みにして制度を改める方向に反対するというのはおかしいのではないかと思います。例えばですが,財産開示の基礎になる債務名義の限定などについてもそのような議論が当てはまるのではないかと思います。ということで,議論の仕方について私の意見を申し述べました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。平成15年改正の経緯から今後の議論についての御注意を賜ったと思います。   ほかにいかがでしょうか。 ○阿多委員 今回財産開示の対象として債務者以外に第三者からの情報取得制度の創設が御提案されています。一つは民事執行法という中で考える場合には新たな制度の創設なのですが,今般法曹関係者以外の方も部会委員として御出席されていますので,一方で他の情報収集方法というのがございまして,そこで既に入手できている情報と同じことしかできないというか,そういうふうな制度創設であれば,逆に創設する実質的意味というのがかなり乏しくなるのではないかということを危惧しています。   既存の情報収集方法等について法曹関係者以外の方にも少しお時間を頂いて御説明をさせていただきたいと思っております。例えば法律でも情報公開法や更には条例,裁判の方の民事執行法に基づく調査嘱託,送付嘱託,文書提出命令,そのような法律でいろいろな情報が取得できますし,その他会社法や登記関連の法に基づく閲覧謄写制度というようなところでもいろいろな情報は入手できる場面があります。また別に弁護士会の方の23条照会という弁護士法に基づく情報収集制度もございまして,それによっても金融機関等から様々な情報を現時点で入手できている状況にあります。   そうしますと,今回制度創設をする以上,現在入手できる情報以上に広がりや深まりが実現されることが必要でありまして,そのためには今回有名義債権者がなぜその情報収集者である国民,住民,更には一般人に比べて情報収集について優位性という言葉が適切かどうか分かりませんが,より情報を入手する必要があるのかということについて御理解いただく必要があるかと思っています。なぜなら,情報を提供される第三者側のお立場からすればどういう根拠で情報を求められるかは関係なく,出さなければいけないものは出しますし出さなくていいものは出したくないと,そういうことになって,受け手の側から見るとなぜ今回の民事執行法に基づく第三者からの情報取得制度ということを特別扱いしなければいけないのかというところが問題になるかと思うからなわけです。   そこで,有名義債権者の情報取得がなぜ優位性が認められるべきであるかというところについて弁護士などが考えているのは,司法制度に対する信頼の確保ということにあります。現在自力救済が制限され,紛争解決の場としては司法制度,裁判の場ということが前提になりますが,勝訴判決を得てもそれが執行できない,実際に実現できないということになれば司法に対する信頼が揺るぎかねません。現在実務の上では債務名義を取得しても債務者財産が従前のように不動産とか動産から金銭債権,債権等に質的に変化していること,更には個人情報保護等の関係から債務者財産に関する情報が不明なことが非常に多い状況になっています。そのため,債務名義を獲得しても強制執行ができない,それが今の実情かと思っています。   したがって,今回財産開示制度の実効性の方向性として,債務者自身からの情報提供以外に第三者からの情報提供の制度創設について御提案いただいていますけれども,その執行制度の実効性確保,更にはもっと言いますと司法制度に対する信頼を維持,確保していくためには必要不可欠な制度と考えていますので,前向きに御検討いただけたらなと思っています。   さらには,その広がり深まりというところに関して言いますと,情報を持って多数確保されている機関が現状ではなかなか情報を御提供していただけないという場面もございますので,有名義債権者の優位性ということから考えて,このような場合には情報提供も実現できるような方向で御検討いただけたらなと思いますので,一言申し上げさせていただきました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。第三者からの情報取得という新たな制度について,その必要性あるいはその正当性についての一つの考え方というのを御提示いただいたかと思います。   ほかにいかがでしょうか。 ○中原委員 第三者からの情報取得により執行を可能にすることが司法に対する信頼を高めるという点は理解しています。しかしながら,だからと言って利害の対立している当事者ではない第三者からの情報の取得が無限定に許されるということにはならないのではないかと思います。そして,例えば探索的な照会が乱発されないようにする,回答者が不法行為責任を追及されないようにする,過度な負担にならないようにする,といった点について十分配慮していただき,実効性のある制度を構築していただきたいと思います。銀行業界としても頭から反対するつもりは全くございませんので,実効性があり協力できる制度に議論が集約することを期待します。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。その第三者の観点からの注意すべき点についての御指摘を頂いたかと思います。   ほかにいかがでしょうか。 ○今井委員 今,阿多委員が申し上げたことに必要性は尽きるかと思うのですが,それに付け加えることがあるとすれば,有名義債権,つまり債務名義というのは言うまでもなくこれは私人間の契約上生じた債権そのものではなくて,裁判所が関与する等で債務名義化したという,かなり公文書に近い内容になっているわけです。その債務名義は何のために取るかと言えば,当然のことながら例えば給付命令であればそれを支払いなさいというふうになっている,国の関与,つまり裁判所の関与は債務名義の取得までは非常に裁判所でしっかり審理し,主張立証し,それで判決する若しくは和解であるということなのですが,問題はそれが終わりではなくて,むしろ半分で,そこに書いてある,そこの内容である給付の命令の内容,これが実現して初めて司法の役割を果たすという,インフラとしての役割を果たしているわけであります。そういう意味では執行と債務名義というのは我々とかく債務名義と執行を分けて考えがちですが,これは国民の権利の実現という意味ではこれは全く境はないので,正に一つでありまして,債務名義は権利の実現のための力を与える,その力を持って回収等の実現をする。それについてはこれまではやはり諸外国と比較してもやや自助努力に依拠しているというそういう制度設計になっている様相が強いのではないか。そういう意味では執行まできちんと制度が完備して初めて司法における国民の権利の実現というのが具体的に実現されるわけですので,これはそういう意味では債務名義についての形成に対する寄与,関与,それは同じように執行についても同じだと。そういう意味で今回の法制審議会での御議論という中身は正にその残りの半分と言いますか,全体で一つのものの半分,それが15年改正ではこういう試みがあったわけでありますけれども,残念ながら非常にここの資料にありますとおり,それほど使われていない,つまり実効性という意味での寄与度が少ないのではないか。それを改めて今日的な立法事実という名のもとにおいてしっかり法改正ができればというようなミッションであるような気がしております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○餘多分幹事 第三者の話が出ているので,第三者からの情報取得のことについて。裁判所としても債務名義を作っている立場からすると,実効性を高めていくということについては望ましいことだと思うのですけれども,ただ一方で,第三者に財産照会をかけるということになれば,紛争の直接の当事者ではないということを踏まえると,なぜその第三者がそういう義務を負うのかということについては十分検討していく必要があるのではないかと思っております。特に第三者の中には,先ほどの話にも一部出てきたように,事業として情報を収集しているような立場の方がいらっしゃったりもしますので,そういう方にとってもなぜ情報を提供するのかということについてはいろいろ問題もあるかと思いますから,その提供する義務を負う根拠と,それがまた提供を求められる第三者の範囲ということにも影響するかと思いますので,そういうことについては十分御検討いただければと思うところでございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○道垣内委員 第三者の話がずっと出ておりますので,実体法の観点から一言だけ申し上げたいと思います。消滅時効という制度があり,債務を承認をするとそれによって時効が更新されるわけですけれども,一般的に言って,債務者に承認義務があるわけではないわけですよね。しかるに,第三者に情報提供義務を負わせ,それに基づいて当該第三者が情報提供をした場合に,それは実体法的にどういう効果を持つのだろうか,ということが気になります。承認になるというのならば,私はそれはおかしいと思いますが,それだけではなく,一般的には承認をしなくていい人がなぜ情報提供しなければいけないのか,そういった観点も加えて議論していただければと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○村上委員 今回の債務者財産の開示制度の実効性の向上につきましては,現行の財産開示手続をより利用しやすくする強力な制度にするという方向とあわせて,債務者以外の第三者からの情報取得という手続についても前向きに検討していくべきではないかと思っております。その際,実際の利用場面としては養育費の債権であるとか,研究会報告書でもありましたけれども,犯罪被害者の損害賠償債権などが想定されているところであります。この点,労働者を含めて全ての人が債権者にも債務者にもなり得るということがありますので,今日の資料1にもございますけれども,強制執行制度による実効的な権利を実現するということと,債務者のプライバシーや個人情報の保護といった債務者保護とのバランスが必要ではないかと思っております。   私ども労働債権を持つ労働者の立場としては,倒産などの事態に直面し,提訴し債務名義を取得して執行しようとしても,中小企業であるとか零細企業,オーナー企業のようなところが債務者であると,法人と個人の財産が一体となっていてなかなか回収できないという事態もありまして,そういうときに債務者財産に関する情報を第三者から取得する制度は有益ではないかと考えております。   また,養育費に関しても,現状で養育費の支払の不履行によって,お子さんを抱えている母子家庭のお母さん方が困っていらっしゃるということはありますので,そういったことを考えれば,養育費の支払を怠っている債務者側に非があるのであるから,債務者に対して強制執行の実効性を確保していくという方向は基本的には必要ではないかと思います。ただ,一方,やはりどうしても養育費を支払えないというような債務者もいらっしゃるという状況も考えれば,プライバシーの侵害であるとか,制度が債権取立ての手段として濫用されることがないようにということを留意しながら制度設計していかなければならないのではないかと考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。養育費あるいは労働債権,個別の債権との関係での制度の必要性,しかし他方では債務者のプライバシーあるいは濫用防止の必要性に鑑みて制度を組み立てていくべきではないかという御発言であったかと思います。   ほかにいかがでしょうか。 ○阿多委員 先ほどプライバシーのお話が出ましたので,少し気になっているところがあるので触れさせていただきたいと思います。   今回債務者自身からの情報提供,更には第三者からの情報提供いずれも検討するのに際してプライバシーや営業秘密の保護等との関係を考慮されているかと思います。当然考慮要素としてはあり得るかと思うのですが,情報を取得する際の考慮の問題と,取得された情報がその後どういうふうに利用されるのかというところでの考慮というのは分けて考える必要があるのではないかと。少なくとも有名義債権者が債務者自身に対する関係では現在の財産開示制度を前提にするとかなりの情報を提供する,プライバシーはそういう意味では譲っているところにあるわけで,それに対しては開示された情報は閲覧制限とかで保護するという形になっているかと思います。   第三者から情報を取得するに際しても,先ほどと同じような仮にいくのであれば,対象が先ほど中原さんから御意見ありましたけれども,探索的な形でするとかそういう問題もあるかもしれませんが,こちらとしては債務名義の実現のために必要な情報という形で考えると,情報取得の場面ではやはり先ほどの言葉で言わせていただきますと優位性で情報は広く集められる方向で御検討いただくべきではないかと。ただ,気にしていますのは,取得された情報,それに基づいて執行した後,手元に残っている情報をどうするのかとか,集めたけれども,使わなかった情報をどうするのかという情報の管理の問題はプライバシーを含めて相当議論していただいて,その結果プライバシーが侵害されるようなことがないような制度を考える必要があるかと思います。つまり,取得の段階とその後の使用管理の問題ではプライバシーの保護のレベル,内容が違うかと思いますので,そういう視点も入れていただけたらと思っています。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○今井委員 今日はフリーだということで思いつきで恐縮ですが。先ほど松下委員から冒頭お話がありました15年改正のときの濫用の懸念,小さく産んで大きく育てるというようなお話がございました。つらつら思い出してみるに,あのときの状況は初めての制度で,これは個人的な見解ですけれども,非常に画期的だと。更に言えば,これものすごい効果があるのではないかと,大変頻繁に使われて,これが執行力の実効性の向上に大きく寄与するのではないだろうかというような多くの方が当時の関係者にあったように思います。それは今日の御議論でも同じですけれども,ただそれがために新しい制度によることによる弊害なりそれに対するマイナス面,デメリット,そういうものも同時に議論されたと記憶しております。そういう意味で初めての制度でこれは非常に強力で有効だと。だとすれば,できる限り謙抑的に制度設計は慎重にというような記憶がございます。一つの端的な例とすると,そのサンクションのペナルティにつきましては罰則ではなくて過料に最終的には修正されたというのもその端的な例であるような気がいたします。   そういう意味では,今振り返ってみますと,結果的にはやはり小さく産んで大きく育てるのだというようなことは結果的にはそういう方向にあるのだというふうにポジティブに考えたいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○山本(克)委員 先ほど来プライバシーという言葉がよく出てき,かつ,このペーパーの方にもあるのですが,プライバシーの問題なのかどうか自体がそもそも疑ってかかるべきなのでは。何でもかんでも私的な情報は全部プライバシーかというと必ずしもそうではないと思いますので,果たしてプライバシーという言葉で議論するのがいいのかどうかを含めて考えていただければと思います。   他方,第三者が持っている情報との関係では個人情報であることは間違いないわけですので,個人情報保護については三つの法律との関係をやはり整合的な,法令に例外を作るのですけれども,できるとすれば,その例外を作るだけの根拠があるのかどうかということを含めて,私はそちらの方がより重要な論点なのではないか。つまり何が言いたいかというと,債務者の提供する情報についてはプライバシーというふうに私は考えないということを申し上げておるということです。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○柳川委員 私は消費者に近いところにおりますのでいろいろなお話を伺う機会があります。今回債務者財産の開示制度は司法制度の信頼そのものの確保だという御発言がありましたが,私も正にそのとおりだと考えます。と言いますのは,一般の方たちには民事訴訟も刑事訴訟もごちゃごちゃになっている場合が多く,テレビドラマで見るように判決が出ると,それは非常に強力なものであって,その内容が粛々と実行されるものだと思っている方が大変多いのではないかと思います。ところが,例えば債権回収の場合では支払がなければ自力救済することはできませんから,強制執行の手続をとるわけです。裁判所は一般の方たちにとっては非常にハードルの高いところで,できれば一生原告にも被告にもなりたくない,そう考えるところだと思うのですが,やむを得ないので訴訟を提起して,その結果勝訴判決を得たとしても,その内容が実行されなければ更にまた大きなストレスを抱えて,費用と時間をかけて強制執行を行うわけです。強制執行を行ったとしても,債務者の財産がどこにあるか分からない,支店を特定しなければ銀行でも探せない,債務者に財産開示を求めるために裁判所に呼び出したとしても,不出頭だったり,虚偽説明があったりで全く先に進まなかった,肩透かしを食らったとなると,裁判所って何なのだろうと非常にがっかりします。裁判所に行って手間ひまをかけたけれども,手に入れたものは紙切れ同然のものだったということになってしまったら,裁判をしても自分にどれだけのメリットがあるのかということになり,高いハードルがますます高くなってしまう,そんな感じがします。   ですから,冒頭に司法制度の信頼そのものの確保だという御意見があったときに,私も正にそのとおりだと思いました。大勢の方が裁判所に対して信頼性の確保を望んでいるのではないかと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。一般の国民の観点を代弁していただいたかと思います。裁判所に対する信頼を確保するためにはこのような制度が必要ではないかという御意見だったかと思います。   ほかにいかがでしょうか。 ○佐成委員 問題意識そのものは私も共有するところでありまして,法改正に向けた審議をスピーディに進めていくということなのですが,ただ,この第三者の範囲などをかなり拡張的に考えていきますと,審議のスピードも遅くなっていくような気もいたします。やはりまずは現行の財産開示制度をどのように手直ししていくかということを考えていくべきでありまして,さらに新しい制度については,15年改正のときに議論はされたとは思いますが,全く新しい制度となるわけでございますから,やはり余り大風呂敷で議論してしまうと,かなり時間もかかるかなという気もいたします。ここはスピードとの見合いかと思います。また,産業界としては,やはり先ほど中原委員がおっしゃっていたようなところも若干気になるところでありまして,具体的にまだ意見は申しあげませんけれども,やはりこの第三者というところは非常に慎重にやっていただきたいというのが一つございます。   また,本日は余りはっきり議論が出ておりませんでしたけれども,研究会報告書の中には,公的機関の保有する情報という論点がございまして,これはある意味事業者のような第三者が持っている情報以上に有用なものがあるのではないかというふうに感じております。この辺りをどうしていくのかというのも,スピードとの関係があると思いますが,御検討いただく必要があるかと思っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。第三者の範囲についての御指摘だったかと思います。   ほかにいかがでしょうか。 ○阿多委員 出たキーワードを追っかけ追っかけの発言で申し訳ありませんが,今公的機関というお話が出ましたので少しお話をさせていただきたいと思います。   債務者の財産情報に関することで,例えばですけれども,労働債権であれば同じ情報が一つは当然雇い主に照会すれば雇い主はこういう従業員がいてこういう賃金債権を持っていますよと,雇い主というのは債務者の立場ですけれども,そういう形での情報があります。一方,例えば市民税を支払っていて源泉徴収しているのであれば期ずれの問題はありますけれども,市町村の方にすればどこどこの事業者はこういう労働者がいますというのは本来分かるはずですし,同じように年金に関する部分について源泉徴収していれば年金機構に伺うとどこどこ事業者からは誰の年金として納付されていますと,更には所得税に関して言いますと,税務署その他のところであれば源泉徴収している情報としてどこどこの事業者から誰々分の賃金債権に対する所得税としてこれだけ納められていますと。そうすると,同じ情報がいろいろなところで保有されているという状況にあるわけですけれども,そうなったときにどこから情報を今回取得するのかということはあえて民間に限定する必要はなく,公的機関も含めてより情報提供をしていただく,よりたくさん情報を持っていらっしゃるところで管理をされているところから情報提供していただくというのは一つの有効な方法ではないかと思いますので,その点付け加えさせていただきたいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。公的機関に関わる問題も恐らく一つの大きな論点になるだろうと思います。   ほかにいかがでしょうか。 ○青木幹事 債務者自身に財産の開示を求めるという現行の財産開示を強力にするというものと,それからもう一つ債務者以外の第三者から情報を取得するという制度の両方が検討されていて,私はどちらも進めるべきだと考えております。   それで両者の関係ということになるのですけれども,一方で債務者に知らせずに第三者から情報を取得するという制度が認められると,債務者が財産を処分するというおそれなく情報を得られるという密行性の要請を満たすことができると思うのですけれども,他方で,財産開示を経ることによって債務者に対して第三者からの情報の取得の手続への手続関与の機会が与えられるという要請を満たすこともできるし,また先ほどから出ていますように,第三者から情報を取得するというのはやはり第三者に対して負担を,事務的負担であったり場合によっては債務者との関係で心理的な負担を与えるということもあるかと思いますので,本来であれば債務者自身が陳述すべきであるといったことも考えるべきであると考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。先ほど来,第三者が情報開示,情報提供する場合の理論的な根拠がどこにあるのかということについての御意見があったかと思います。その辺りも実際の制度を作る際にはかなり詰めて考えないといけない問題になってくるのだろうと思います。   ほかにはいかがでしょうか。   それでは,15分程度休憩ということにしまして,3時15分に再開ということにしたいと思います。           (休     憩) ○山本(和)部会長 それでは,審議を再開させていただきたいと思います。   それでは,「第2 不動産競売における暴力団員の買受けの防止の方策」についての議論に移りたいと思います。この点もフリーディスカッションということで,どなたからでも,あるいはどの点からでも結構ですので,御自由に御発言を頂ければと存じます。 ○餘多分幹事 この問題については暴力団排除というのは重要だというのはもちろん認識している一方で,やはり競売手続の円滑迅速な実現ということともバランスをとっていただきたいと思っております。特に今回の部会資料の中にもあります競売手続の過程において執行裁判所などの判断によって暴力団員の買受けを制限する仕組みを導入する場合には幾つか問題点があると思っております。   今回参考資料になっております研究会報告書にも指摘されておりますけれども,3点ほどあるかと思っておりまして,1点目が民事執行手続においては執行妨害の排除ということが法改正の度にずっと議論されてきたと思うのですけれども,暴力団員該当性を審理判断していくという枠組みが執行手続の遅延を目的とした執行妨害の手段として悪用されないかという懸念があると思っております。2点目としては,暴力団員該当性の審理判断には,やはり一定の時間を要するのではないかと思っておりまして,これが現在実務において1日でも早く民事執行手続を実現していく努力をしている中で,相当長期化を招かないかということについて懸念があるということです。それから,3点目としては,入札者の個人情報が警察に提供されて,暴力団員該当性を判断されることについて,入札者が心理的抵抗を感じるのではないか,また,入札に当たって従前は求められていなかった情報,例えば生年月日などの情報を提供しなければならないということで入札者の負担が増えることにならないか懸念しております。これらのことが競売手続に与える影響は,かなり大きいのではないかと思っております。   一方で,こうした枠組みを導入したとしても,暴力団員は,周辺者を利用するなどして潜脱することもあり得るのではないかと思われますので,その効果がどのぐらい大きいのかということについても考えていく必要があるのではないかと思っております。   こうしたことからしますと,先ほど申し上げましたように暴力団排除ということが重要であるということは十分認識しているのですけれども,その仕組みを検討するに当たりましては,執行手続内の規律を設けるという方法だけに囚われることなく,今回の部会資料にもありますような刑罰を含めた様々な選択肢について是非幅広く御検討いただければと思うところでございます。よろしくお願いいたします。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。具体的な制度を作る際の競売手続に与える影響のおそれについて御指摘を頂き,刑罰等も含めたより広い観点からの検討ということをお話しいただいたかと思います。   ほかにいかがでしょうか。 ○道垣内委員 全く無知をさらけ出すことになりまして大変申し訳ないのですけれども。例えば宅建業法上不動産の売却を宅建業者が仲介をしたり媒介をしたりするというふうな際に,買主が暴力団員であるという場合にはその仲介,媒介をしてはならないという法制度というのは現在存在するのでしょうか。 ○内野幹事 宅建業者の仲介ないし媒介業務としてそういった暴力団との取引を仲介してはいけないという規範的なものがしっかり定められているかという部分につきましては,もうちょっと正確なところを調べて何らかの形でこの部会の議論に提供したいと思います。 ○道垣内委員 ありがとうございます。もうお分かりだと思いますが,気になりましたのは,通常の売買契約において法規制がなされていないというときに,なぜ競売手続についてだけ法規制ができるのか,ということなのです。正当化は可能だとも思うのですけれども,いずれにせよ,何らかの正当化の必要性はあるだろうと思いましたので,発言させていただきました。 ○山本(和)部会長  ありがとうございます。 ○山本関係官 関連ですけれども,各都道府県で制定されている暴力団排除条例の中にはそういった不動産が暴力団事務所に利用されることを知って取引や代理等をしてはならないというような規定を設けている自治体もあると承知しております。 ○内野幹事 いずれにいたしましても,業法規制の中でそういった規範があるかどうかは,また何らかの形で御提供させていただきたいと思います。 ○山本(和)部会長 その点はまた調査の上お話を頂ければと思います。   ほかにいかがでしょうか。 ○中原委員 金融機関は,債権回収の手段として不動産競売を多く利用しています。今回の暴力団員の買受けを防止するという目的については銀行界として異論はございません。ただし,先ほどもお話しがございましたように,競売手続の円滑性や迅速性を過度に損なわないことや,新たな制度が執行妨害に利用されないような制度設計にしていただきたいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○太田委員 執行裁判所で実務をやっているところで実情と言いますか,大体こういう仕事ぶりをしているということを若干御紹介したいと思います。不動産競売は期間入札でやっておりまして,開札期日から売却決定期日まで1週間以内という規定がございます。東京地裁ですと,1期日に50件前後開札する事件があり,人気がある物件には10人20人が入札するため,かなりの量を短期間で判断しております。   ということで,先ほど餘多分幹事からもお話がありましたけれども,執行手続内で暴力団員該当性の判断をするというのは非常に難しい面があるということは御理解いただきたいと思っております。裁判所の判断を求められる部分が多いということになりますと,やはり今の制度の枠組みではできないということになります。不動産競売は,ともすれば時間がかかって見通しがないような手続と言われていたのですが,平成15年,16年の民事執行法改正辺りから手続を迅速にして使いやすいものにして,利用していただける手続になってきておりますので,是非この迅速な手続を維持していけるような制度にしていただければと思っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。実務の現状について御紹介を頂きました。 ○谷幹事 谷でございます。この不動産競売における暴力団員の排除の課題につきましては,日弁連が提言をしたということもございまして今回検討課題に挙げていただいたということだろうと認識をしております。その必要性につきましては先生方から今お話があったとおりでございまして,現実に暴力団員が,あるいは暴力団が組事務所に使う不動産物件というのは競落して取得をしたものがかなりそれなりにあるというふうな実情がございまして,これをどういうふうに適正に排除していくのかということは大きな課題だろうし,そこに必要性があるのだろうと思っております。   この制度を設けるに当たっては一方で執行手続の円滑性,迅速性,これとの兼ね合いをどうするのかというのは極めて重要な課題だということは私もそのとおりだと思いますが,なかなかそこは難しいところでありまして,今の迅速性,円滑性を維持したまま暴力団員の排除というのを的確にできるのかということもまたなかなかそうともいかないところもあるかと思いますので,そこは必要性との兼ね合いでどのような制度がよいのかということについての先生方の御意見を是非お伺いしたいところでございます。   執行手続以外の方法,例えば刑罰での防止という方策も検討すべきだという点については,それはそれで検討いただいたら結構かと思うのですけれども,私どもの考え方といたしましては,やはり現実に暴力団員が所有権を取得をするということ自体を排除するということでなければ実効性はないのではないかと思っておりまして,仮に刑罰だけということになればそれだけでは恐らく実効性は確保できない。刑罰を覚悟して競落をするというようなことが暴力団員ではあり得る話ですので,そういうことも考えますと,やはり執行手続の中で所有権の取得を排除するような方策ということが最低限必要なのではないかなと考えているところでございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○山本(克)委員 それ自体がイシューだと思いますが,暴力団員あるいは暴力団関係者による落札を何らかの形で執行手続内で防ぐとしても,その防ぐための考慮要素はできるだけ形式的であるということが望ましいと。つまり,実質審理をしていたらこんなものは,執行手続せっかく民事執行法を作って迅速な権利実現というものを果たしてきたのがそれが無になってしまう可能性が高いと思いますので,できるだけ形式的な判断で進むような形にするのが望ましいと思います。そのために若干のザル化するという懸念はあるかとは思いますが,それはもう甘受せざるを得ないのではないか。完璧な制度,完全に排除するなんていうことは現在の執行手続の仕組みからしてほぼ不可能であると思いますので,できるだけ形式的な要件で判断して,それに対する不服申立ても簡単に処理できるような形にすべきであると考えます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○餘多分幹事 先ほどの話とまたちょっと違うのですけれども,先ほど刑罰等と言ったのは刑罰だけではなくて執行手続外の研究会の議論の中にあった誓約書なども考慮の一つなのかなとは思っております。ただ,執行手続の中の規律も考えていかなければいけないということになるのだとすれば,先ほど山本克己委員からおっしゃっていただいたように,できるだけ形式的な,審査としては軽い形になっていただくのが望ましいと思っています。その意味では今回部会資料に書いていただいているような,例えば警察から暴力団員に該当しないという回答があった場合にはそれをもって判断できるというような枠組みが望ましいと思っているところでございます。   実際,ほかの取引などにおいても伺っている限りでは,国有地の入札などでも警察から落札候補者の排除要請が行われなかった場合には落札者として決定するというような扱いになっているとも伺っていますし,そういう意味で警察からの回答などに一定程度依拠するということは十分あり得るのではないかと思っております。   先ほど道垣内委員からお話もあったのですけれども,一般の民間の取引や一般競争入札と違って,競売手続は関係者も非常に多く,差押債権者と債務者だけではなくて,他の債権者も配当などに入ってくるという意味で非常に多数の利害関係人が関与する手続になっております。その意味でも余り手続が遅延することは望ましくないと思っていますので,できるだけ形式的,簡便な形で判断できるような枠組みにしていただければと思うところでございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。この辺り,今の形式的な審理事項ということで,参考資料の研究会報告書などでも一定の技術的な提案もされているところでありますけれども。そういったことも含めて何かこの際御意見を頂ければと思いますが,いかがでしょうか。 ○佐成委員 手続の迅速性という点については非常に共感するところが多く,山本克己先生が今お話しされた軽微な手続で処理するというのは非常によろしいのではないかと,ざっくりとした感想でございますけれども,思いました。産業界について申しあげますと,やはり暴排ということについては,特に平成23年に東京都の暴排条例ができたときにかなり徹底的にやっております。新規の契約・取引などについては暴排の条項を入れていってどんどん進めておりますし,既存の契約についても引き続き折衝しながら,これまでかなり改善しており,弊社のグループの場合,ほぼ大体がそういった管理をしているところでございます。そういったような民間の暴排に対する努力,取組というのは今非常に一生懸命やっているところでありまして,そういう意味では,やはり裁判所の競売手続において暴排の仕組が抜けているというのは,象徴的な意味で好ましくはないだろうと思います。ですから,確かにザルのような形に今回はなるかもしれないですけれども,やはり何かやらないとまずいだろうと思いますし,余り完璧なことを目指してしまうと,先ほどのスピードの問題もありますので,今申しあげました民間の流れからしても,やはり相当程度スピードを上げてやるべき事項ではないのかなと思います。   先ほど道垣内先生から宅建のお話もありましたけれども,民間の取引の中では自主的にどんどん暴排を進めているわけです。なので,一人裁判所だけが超然としているというのは余りよろしくないなという印象を持ちます。感想でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。貴重な御意見だったかと思います。   ほかにいかがでしょうか。 ○山本(克)委員 今の佐成委員の御発言についてちょっと御質問させていただいてよろしいでしょうか。裁判手続上で一番問題なのは,その暴力団性というものをどういうソースからどういう形で獲得するかというのが恐らく一番難しい問題なのだろうと思うのですが,今民間では進んでいるとおっしゃるときに,そのソースをどこに求めておられるのかというのを差し支えない範囲で結構ですのでお教えいただければ議論の参考になるかと思います。 ○佐成委員 排除するために何か積極的に情報を入手しているということではなくて,取引においては,先ほども餘多分幹事からございましたように,誓約書のようなものが非常によく利用されているというところでございます。取引に入るときには必ず誓約書を徴求するといった形にして,そこで担保しているということです。ですので,実態として完全に排除できているかどうかは必ずしも定かではありませんけれども,少なくともそういった取組はしているということでございます。 ○山本(和)部会長 この辺りは金融界でもかなり取組があるようですが,中原委員から何かございますか。 ○中原委員 週刊誌とか新聞といったマスコミの公開情報をストックしていき,個々に取引をするときにチェックをかけています。マスコミ報道で明確に暴力団組員と明示されていれば,暴力団員であるという確実性は高いと思いますが,断定はできません。周辺者は更に分かりませんから区別して分別管理し,取引の都度,総合的に暴力団員やその関係者,反社会的勢力の該当性を検討しています。また,預金規定や銀行取引約定書,ローン規定等にいわゆる暴排条項を入れており,事後的に暴排条項に抵触することが明らかになれば,預金口座の強制解約や期限の利益を喪失させるという対応をしています。 ○山本(和)部会長 よろしいですか。ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○太田委員 先ほど申し上げたとおり,例えば開札件数が1期日50件ぐらいあり,今の規則を前提とすると1週間以内に売却の許否を判断しなければなりません。落札者の中には毎回同じ業者さんも含まれていまして,毎回50件すべてについて暴力団員該当性を審理することになったら,恐らく今の手続は全くもたないことになると思います。非常にテクニカルな部分がたくさん多いと思いますので,ここでお話しするのもちょっと恐縮なのですけれども,例えばどういう資料に基づいてとか,それをいつ出していただくのかとか,どの範囲で出していただくのかという判断以前の資料の提出についてもあまり負担があると,手続はやはり止まってしまうので,その辺り合理的な,例えばこの法人は大丈夫だということで審理しなくてもいいとか,先ほどの誓約書というのも一つの考え方として構想していただければと思っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかに御意見御注意を頂くところがあれば承ります。 ○餘多分幹事 ちょっとまた違う話なのですけれども,今回の部会資料の中にある暴力団員に当たる範囲について御指摘があるのですけれども,元暴力団員だとか暴力団員が代表者を務めているような法人というのは対象になるのはやむを得ないと思いつつ,先ほどの話にある暴力団周辺者,関係者だとか,暴力団が事業活動を支配している法人などにまで幅広く対象にすると,先ほどお話に出ている判断が重くなっていく上,その資料の収集が難しくなるのではないかと思います。   また逆に暴力団員を判断するに当たって,例えば何か一定の法令などに基づいて暴力団が排除されている者,例えば不動産競売であれば宅建業者などが入札者に入るわけですけれども,宅建業法上では監督官庁が警察への照会を行っていて暴力団員該当性については審査しているとも伺っていますので,そういった業者については例えばこの該当性を判断するという枠組みを省略できないかといったことについても御検討いただければ有り難いと思っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○道垣内委員 既に申し上げたことの繰り返しのようになってしまうのですが,先ほど競売で購入された物件が暴力団の事務所に利用される例につき,今日の部会資料には「ある」と書いてあり,谷先生の方からは「多い」という御意見を伺いましたけれども,どうして多いのでしょうか。国が関与した手続を通じて暴力団に供給するということで国が批判されるためには,2件あったら十分なのだろうと思うのですが,「多い」というのが認識として正しければ,それはなぜなのでしょうか。先ほどの話にあったように,民間では買いにくいからなのか,安いからなのか,どちらなのでしょう。 ○山本(和)部会長 谷幹事にお答えいただいてよろしいですか。 ○谷幹事 私どもの日弁連の中では民事介入暴力対策委員会だったか何か委員会がございまして,そこでデータはそれなりに取っているところでございます。したがって,系統的な統計で何件あるから多いとか必ずしもそういう評価ができるような材料を持っているわけではございませんけれども,事例としては各地でそういう分野を担当している弁護士がそういう例に遭遇をしています。こういう意味で私の認識として多いというふうに申し上げたという次第でございます。具体的な実例も聞いてはいるのですけれども,ちょっとここで御紹介できる程度には成熟はしておりませんので,おっつけ資料は整えたいというふうに日弁連の中では準備をしているところでございます。 ○山本(和)部会長 その場合の暴力団の動機というのはなかなか分からないかと,ほかで締め出されているからなのか安いからなのかみたいな。 ○谷幹事 そうですね,御質問の点ですね。恐らく宅建業者はそういう意味では暴排の関係でもチェックをされているだろうと思いますので,正常な不動産取引で取得をするということがなかなか困難になっているという状況の下で,競落であれば制限がないので,要するに一番高く入れさえすれば取得できるということで取得をしているというのが実情ではないのかなと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。また追っていろいろ情報をお出しいただければと思います。 ○内野幹事 ただ今の問題意識に応えられるような資料づくりができるかどうかちょっと考えさせていただきたいと思います。つまり,規模感と言いますか,そういった実情を示すことができないか,努力してみたいと思います。 ○山本(和)部会長 よろしくお願いいたします。   それでは,ほかの点であればいかがでしょうか。おおむねよろしいでしょうか。   それでは,次の第3の課題,「子の引渡しの強制執行に関する規律の明確化」についての議論に移りたいと思います。これもフリーディスカッションで,また御意見あるいは御質問でも構いませんので,御自由に御発言を頂ければと思います。 ○阿多委員 質問になるのかと思いますけれども,今回の御提案は一つの物差しとしてハーグ条約の国内実施法,この規定を参考にないしは同じ規律を設けるかどうかということになっているのかと思います。ハーグの国内実施法ですけれども,法律の成立の過程で衆議院法務委員会,参議院の法務委員会いずれにおいても,衆議院は平成25年4月26日,参議院は25年6月11日だと思いますが,附帯決議がなされていて,引用間違いがあるかもしれませんが,読ませていただきますと,「政府は本法施行後当分の間1年ごとに国境を超えた子の連れ去り事案の実態及び本法の運用実態を調査し検証し,その内容を国会に報告するとともに公表すること。そしてまた,本法の施行後3年をめどとして本法の施行の状況について検討を加え,その結果に基づいて必要な措置を講ずること」というような附帯決議がなされているかと認識しています。そうしますと,施行が26年4月ということで,この29年4月には見直しということがあるのかと思うのですが,そうなりますと一つの物差しになりますハーグの国内実施法自体が変わるという形になりますと,ここでの議論も一からやり直すのかみたいなことになりかねないのかなというのを危惧しています。   したがいまして,可能な限りで結構ですが,情報をお持ちであればこの3年見直しについてどういう状況にあるのか,またそれによって特に執行の場面に関することになるかとは思いますけれども,規定の変更等があるのであれば情報提供なりをしていただけたらなと思いますので,よろしくお願いいたします。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。これは事務当局で。 ○筒井幹事 ただいま御指摘がありましたハーグ条約実施法の制定の際のことですけれども,その後もちろん国会への報告は毎年実施しておりますし,見直しの検討についてもそこに定められているとおり行っていくことになると思います。ただ,その見直しの内容は,直ちに法改正ということを意味するものではありませんので,そういったことも排除はしない形で検討が行われることになるだろうと思います。また,仮に法改正を含めた検討が行われるといたしましても,それが実現するかどうかは不透明であるわけですので,こういった状況の下で,この部会としてはやはり現行制度を前提として検討していただくことが王道であろうと思います。今後もし何か事情が変わるようなことがあれば報告させていただきたいとは思いますが,いずれにしても現行制度を前提としつつ,そしてそういった類似の場面についての制度がある以上はそれとの対比ということを常に留意しながら検討していただくことが必要ではないかと考えております。 ○阿多委員 今お答えいただきましたので,状況を理解いたしました。ただ,ここでは「施行の状況について検討を加え」とありますので,実際の運用状況についても具体的な情報がもし入手されるのであればここでどういう規律を設けるのが望ましいのかということの参考になるかと思いますので,可能な限りで情報提供の方をよろしくお願いしたいと思います。 ○山本(和)部会長 その点は,事務当局によろしくお願いいたします。ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○阿多委員 今回のテーマの一つ目が有名義債権者の情報収集ですが,実は子の引渡しとの関係でも情報収集ができずに困っている場面がございます。参考資料で頂いています1の研究会報告書の96ページの(3)のところでも触れていただいていることなので,実際今後も御議論になるかと思いますけれども。96ページの(3)の三つ目の○でございます。実務では債権者の子の所在を把握することができず,子の引渡しの強制執行を行うことができない事例があると。管轄のとり方なり今後またいろいろ議論になるかと思いますけれども,何らかの形で債務名義を有していても債務者の方が子供をどこかに連れて行方不明になったと。その場合に,例えば学校を転校しているという形で従前の学校に情報を照会して回答が得られるのであれば,転校先を知ることができるのであれば子供の所在についても何らかの端緒として情報収集が可能になるわけですが。現状先ほど来出てくる個人情報の保護,特に未成年者という形になりますと情報取得が相当ハードルが高い実情がございます。そういう意味では1番目のテーマと同じくそれがために執行ができないというところがありますので,今回制度導入について御検討いただくに際しては情報収集手段も併せて御検討いただきたいと思っていますので,よろしくお願いします。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○山田幹事 今回の子の引渡しに関しましては,子の福祉をどう考えるのかというのが様々な部分で最大の問題になるのではないかと思います。他方で,執行の場面において必ずしもそれを適切に判断できるということが制度上仕組まれているわけではないのではないかということを懸念をいたします。そういう意味ではこれは債務名義がどのような種類なのかということにもよるわけですけれども,仮に債務名義作成において家庭裁判所の関与があるという場合には,その家庭裁判所との何らかの情報提供なりあるいは連携なりということ,あるいはそれ以外の債務名義であれば子供の福祉との関係で専門的な知見をどこからか得るというようなことも念頭に置けるような,あるいは何らかその処分ができるような制度づくりということも必要なのではないかと思いまして,もし可能であれば御検討いただければと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。子の福祉の観点の検討が必要ではないかという御意見だと思います。 ○久保野幹事 今の専門的な知見あるいは機関の活用可能性が出ましたことと関係しまして,親権者の指定ですとかあるいは特に変更がそうかもしれませんけれども,実体法的に見たときにも現に監護している親権者なり監護者が不適切な何かしらのことをしているために変更ということが申し立てられているというようなことがあり,その場合には一方で変更という形で出ていながら,実質的には親権の濫用といったものですとか,あるいは児童福祉法上の何らかの措置をとるべきような場面と重なり合うといったようなことがあろうかと思います。   それを引渡しということとの関係で見ましたときに,まず事実としてその児童福祉法上の措置をとるときに子供を居所を動かすということはされているわけだと思いますので,制度的には相当に違ったものではありますけれども,何か参照になるようなことがないのかといったことがまず1点意見というか今後の検討の視点としてございます。   今のは事実上の面での運用の参照といったような視点でしたけれども,もう一つ制度的に見たときにも細かいところにはなりますが,例えば児童福祉法28条1項2号のような場合ですと,親権者でない者が保護しているときに親権者に引き渡すといったことが児童福祉法の仕組みの中でもあったりしますので,そのような制度の適用という意味でも重なることがあるのかないのかといったようなこと,重なる可能性があるとすれば何か参照の必要があるかといったようなこと。私自身,すみません,まだ細かいところで詰められているわけではないのですけれども,視点としてまずは発言させていただきます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。貴重な観点の御指摘を頂いたかと思います。   ほかにいかがでしょうか。 ○山本(克)委員 今,山田幹事から子の福祉の問題がありましたが,その子の福祉というものを二つにやはり分けて考えなければいけないのではないかと思います。というのは,債務名義上の債権者に引き渡すことが子の福祉にかなうかどうかという問題と,引渡しの方法が子の福祉にかなうかどうかという問題はやはり二つ分けるべきであろうと考えられます。前者は,これはもう債務名義作成機関の問題であって,もしそれに問題があるのであればそれは債務名義を変更を求めるなり何なりという手続法上の手段によるべきであって,その引渡しの是非というものを執行手続そのものの中で問題にするというのは,私はやはり債務名義作成機関と執行機関を分けている現行法の考え方と大きく矛盾することになるのではないかと思います。ですから,引渡しの方法が子供に心理的な傷を負わせて子の健全な生育を阻害するようなものにならないようにということを考えるのが,我々の任務ではないかと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。問題点を整理していただいたかと思います。   ほかにいかがでしょうか。 ○阿多委員 子の引渡しという執行の場面での子の福祉のお話が出ましたが,少なくとも現状の子の引渡しについては規定がないということから,執行官が関与して手続を進められているものと理解をしています。そうしますと,執行官の本来の職務から考えて,子の福祉の判断するのに適切なのかというところに疑問がありまして,執行機関として考えるときに,執行官と執行裁判所というところでその中身が違うというふうに私は理解していますので,執行機関として執行裁判所を考えて何が子の福祉にとって適切なのかというのを判断すべきではないか,そういう形で問題提起をしたいと思います。もちろん,個々の手続の法的性質によって執行官が執行するもの,執行裁判所が執行するものという手続の性質手法によって執行機関が変わるという整理があるのは研究会報告書を拝見しても理解はしているのですが,新たな制度の創設ですので,この手続だから執行官,この手続だから執行機関という区別で考えるのではなくて,別途子の福祉ということを含めて,更に先ほどお話出ました専門家の知見を共有するということも考えると,執行裁判所が適切ではないかと思いますので,主体についても併せて御検討いただけたらと思っています。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。執行機関の在り方についても先ほどの議論の影響が及ぶのではないかという御指摘かと思います。   ほかにいかがでしょうか。 ○山本(克)委員 実務的には,子の引渡しの執行が申し立てられるときの債務名義の種類はどういうものが多いのでしょうか。この点ちょっと先ほど山田幹事からもそういうお話が出たと思いますが,少しお教えいただければと思います。 ○山本(和)部会長 裁判所の方で統計などはあるでしょうか。 ○餘多分幹事 今のお話は家事審判なのか家事調停なのかといった話だと思うのですけれども,子の引渡しの強制執行が何件申し立てられたかということは把握しているのですが,その債務名義が何かというのは,この場でお答えすることはできないのですけれども。 ○山本(克)委員 何で申し上げたかというと,先ほど申しました観点から,強制執行として組むことがいいのかどうかということもやはり考えなければいけないのではないのか。もしかしたらこの部会の役割を超えてしまうのかもしれませんけれども,子の引渡しを命ずる審判の履行確保方法という形で家事審判法の中で処理するということであれば,その引渡しの当否自体,時間の経過による引渡しが子の福祉にかなうかどうかということを考えることというのは可能であると考えられますので,もうぶち壊しの議論になったのかもしれませんが,そういう観点からも検討する必要があるのかもしれないなと思った次第です。 ○太田委員 統計的にはちょっと今御用意していないので,事例を幾つか聞いた記憶なのですけれども,家裁の例が多かったようには思います。審判前の保全処分の事例もあったかなと思うのですけれども,印象としては家裁が関与していた事例が比較的多かった程度のことは言えそうかなとは思うのですが。詳細は今把握しておりませんので,この程度にさせていただければと思います。 ○山本(和)部会長 逆に言えば,家裁ではない債務名義もあったという御記憶でしょうか。 ○太田委員 やはり家裁の事例が多いので,逆に家裁でなかった事例の記憶が今はないのですけれども,全くなかったかというとちょっとはっきり申し上げられません。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○谷幹事 弁護士としての実務的な感覚なのですけれども,ほぼ債務名義としては家事審判に限定をされるのではないかなと思っておりまして,監護者変更なりと同時に子の引渡しが命じられるとかというふうな場合,それは家事審判の本案の審判の場合もありますが,同時に審判前の保全処分も申立てをされて,同時に保全処分と本案が出て,保全処分に基づいて執行するという例が一般的にはそれなりにあるのではないか。それ以外の債務名義というのは,調停だと話し合いで解決しますので執行というのはほとんどあり得ないでしょうし,あと離婚の判決の際に同時に附帯処分で子の引渡しというのはあり得るのでしょうけれども,実例としてはほぼないのではないのかなというふうな,大体弁護士としての実務感覚はそんな感じです。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。この辺りについてもし何か情報があれば,適宜お出しを頂ければと思います。   ほかの点でも結構ですので,御意見があれば更に頂ければと思います。おおむねよろしいでしょうか。   それでは,この資料では最後のところになりますけれども,「第4 その他の検討事項」というところであります。先ほど筒井幹事からの御説明もありましたが,今御議論いただいた三つの課題というのが諮問事項の中核を占めているわけですけれども,「など」というのが入っておりまして,その他の課題についても必要に応じて審議の対象になる可能性はあるということになっております。そこで,今回の諮問で指摘されている三つの課題のほかに,この部会で議論すべきであるということをお考えのところがあれば,御発言を頂きたいと思いますし,その他この機会に発言しておきたいことなどがあれば御発言を頂きたいと思います。 ○餘多分幹事 「その他の検討事項」で挙げていただいております債権執行事件の終了に関する規律というのは裁判所の方から御指摘させていただいている内容でもありますので,少し内容について御説明をさせていただきたいと思います。少し分かりにくい部分もありますので,ちょっとお時間を頂戴して御説明させていただければと思います。   債権執行事件は御存じの方も御存じでない方もいらっしゃるかもしれませんけれども,第三債務者に差押命令が送達されることによって差押えの効力が生じ,一旦差押命令の効力が生じますと,差押債権者から取立完了届や,取下書が提出されるか,満額で配当されなければ事件は終了せず,差押命令の効力は失われることなく続くことになります。そのような形で規律されていますので,実際問題となる場面として大きく二つあると思っております。   一つは,差押命令の効力が生じたにもかかわらず,陳述催告などの結果差押債権がない若しくは少額であるということが判明しますと,差押債権者としては何らの取立てもせず取下書も提出しないまま放置するような事例があるということでございます。   二つ目は,差押命令が第三債務者に送達されたけれども,債務者には送達することができず,その旨を書記官から差押債権者に通知等しても,差押債権者が再送達の申出をすることなく放置し,更には何らの連絡もとれなくなるといったことになりますと,事件が終局せず,これも差押命令の効力が生じたまま残ることになります。そうした場合に何が問題になるかと申しますと,差押債権者が差押債権の取立てをしないために,債務者は第三債務者に対する債権をもって差押債権者に対する債務の弁済に充てることができません。そのため,債務者としては執行手続上何らの対抗措置もとれないまま差押債権者に対する債務を負い続けるという不安定な地位に置かれるということになります。   一方,第三債務者としても自ら権利供託をすれば別ですけれども,そうでない限りは債務者に対する弁済が禁止されたまま債務を負い続けるという不安定な地位に置かれることになります。一方,差押命令の効力が続くことになりますと,その間は何十年であっても時効中断効が生じ続けることになりますけれども,ある意味では実質的に権利の上に眠っているような状態にある差押債権者にこのような利益を享受させるということが債務者や第三債務者の先ほどのような地位と比べたときに均衡を欠くのではないかと思われるということでございます。   とりわけ先ほど申し上げました債務者に送達ができないというパターンについては差押命令の効力が生じている一方で,債務者には差押命令が送達されておりませんので,債務者に不服申立てをする機会もなく,問題はより大きいのではないかと思っております。民事執行法上こうした事態を解消する方法はなく,裁判所にとっても事件管理などの関係で深刻な問題が生じております。裁判所ではこうした形でいつまでも終局しない事件というのが日々発生し続けておりまして,その数はかなり膨大な数となっており,その事件記録の管理をしながら定期的に差押債権者に対して連絡するなどして取下げを促したり,債務者の連絡先についての調査を促すというようなことをしております。本来,他の執行事件に振り向けることができる人的,物的な資源をこうした不誠実な差押債権者への対応に割くということは望ましくないと考えております。   したがいまして,現在の債権執行事件の終了をめぐるこうした規律について解消すべく何らかの形での見直しを検討していただければと考えている次第でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○中原委員 第三債務者の立場で一言発言させていただきます。差押えられた預金が,取立てもされずあるいは差押の取下げもなく放置されるケースは相当数あります。したがって,金融機関としても当該預金をずっと管理しなければならないという負担が生じています。では,執行供託すればいいのではないかという議論もありますけれども,基本的に金融機関は供託を行わないでそのまま凍結しているのが現状です。したがって,今回の見直しで債権執行事件の終了について何らかの規律が入るのであれば,これはたいへん歓迎することです。保全の場合にも同じようなことが起きておりますので,可能であれば仮差押えについても同様の規律を入れていただければ有り難いと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。第三債務者の立場からの御意見だったかと思います。   ほかにいかがでしょうか。今の点でも結構ですし,あるいはほかにこういうテーマも考えられるのではないかということでも結構です。 ○太田委員 裁判所のお話が出ておりますので,若干恐縮ですけれども,東京地裁の実情をお話しさせていただければと思います。   先ほど不動産の話をしましたけれども,債務者が持っている預金などの債権を差し押さえる事件の件数は,東京地裁の新受が年間1万数千件ぐらいです。去年だと1万900数件ぐらいまいります。月にならすと800件ぐらいは来るかなと。新しい事件がどんどん来るのですけれども,取立てが完了すればもちろん終わりますし,取り下げていただければ終わるのですけれども,していただけないというのが今お話の内容になっています。ということで,未済と言うのですけれども,ストックでどれだけ事件があるかというと,大体1万3,000件ぐらいが東京地裁の債権執行にあるという感じになります。餘多分幹事から御紹介があった二つの類型に分けて統計をとっていないのですけれども,不送達の方は送達できないという形で割とはっきりしていますので,ある程度の検索をかけてみると,大体1年過ぎても送達ができてない事件が700件以上あるのかなというふうな感じになっています。それについて大体住所が分からないとかそういうことなので調べていただくのですが,それもいろいろ手間がかかるし費用ももちろん掛かるので,分かってはいるけれども,やっていただけないという事案があるかと思います。   もう一つの取立てを放置しているのではないかと見込まれる方は,ちょっとはっきり切り分けができないのですけれども,先ほどの1万3,000件から700件ほど引きまして,まだ差押命令を発令していない事件が200件とか300件ぐらい常にあるということを引いたうちのどのぐらいかということなのですが,これはもう感覚的なものでしか分からないところもあるのですけれども,大体少ないところで5割ぐらいはあるのではないかという感じもするのですが,東京の実感だと7割ぐらいあるのかなという感じです。そうすると,大体9,000とかそのぐらいの,ざっくりした話ですけれども,取立てができないで動かない事件として残っております。   このような事件の管理というのは数がたくさんですので,先ほどお話に出たとおり,ものによっては債権者の方に事務連絡という形で御連絡しまして,その処理についてお願いをしているのですけれども,その御連絡をすること自体の負担というのも結構無視できないものがありますので,この辺り制度的に解決していただけると大変助かると思っております。また,債権者の立場というのはちょっと私直接は分からないのですけれども,債権の額が余り大きくないということになりますと,どのような行為をとるにしてもそれなりの手数と費用が掛かるということで,モチベーションがかからないような行為で,それをやってくださいというのは分かるのだけれども,では実際やりますかというと,必ずしもやらないというのも人間の一つの行動としてはあり得るのかなと思いますので,全部徹底的にやっていただかなければだめだという制度を作るのはなかなか難しくて,どこかの段階で効力がはっきり消滅するという制度を作っていただくのがやはり一番よろしいのかなと思っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。裁判所の実情についてお話を頂けたかと思います。 ○阿多委員 債権執行の申立てをしているのはかなりの件数,代理人弁護士が付いているかと思いますので,少し弁護士側の実情もお話ししながら,特にそれは第1に関連してつなげる話になるかなと思いますので,御紹介をしておきたいと思います。   先ほど債権の差押えをしても,二つのパターンを御紹介いただきましたが,放置しているという件の御紹介がありましたけれども,少し前の債権差押えの場合は,債務者財産についての情報がないままいわゆる債務名義を適当に割り付けて,その割り付けたところでまた債務者住所の近隣を勝手に予想しながら見込みで債権差押えを申し立てると。言わば空振りになる可能性が相当あるという前提での債権申立をしております。近時は有名義債権になりますと都市銀行等の方からどこに口座がある,更には口座残高はどれだけあるという情報を頂けますので,確度の高い債権差押えの申立ができるようになっていますけれども,それとて全ての金融機関ということではありません。したがって,有名義債権者の方としては空振りを前提とするような形でしていて,そのためにどうしても後始末に対するコストの問題が生じているということがあります。それが1点です。   もう一つは,債権差押えをする場合通常陳述催告の申立てをして財産債務者である金融機関から御回答いただくことが多いのですが,その回答内容の方に相殺予定であるというような形の御回答がありますと差押債権者としては取立てに伺ってもそれは払っていただけないということになって,そこでもまた差押命令を後始末するインセンティブというのが働かなくなると。逆に,この点は第三債務者になられる金融機関の方が実際に相殺処理をされるという形になりますともうないという形で違う処理がなるのかもしれませんが,何となくそのまま寝ているのが一定数あるのではないかなということもありますので,ちょっと状況として御紹介をしておきたいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。弁護士側からの御紹介を頂けたかと思います。 ○中原委員 空振りであれば金融機関は何もしなくてもよいのですが,少額の預金が残っていて差押えがヒットするケースですね。先ほどお話ございましたけれども,陳述書に記載されている預金額が少額であれば,債権者は放置しておくことが多いと思いますが,第三債務者は差押えの効力が及んでいる以上はずっと管理しなければならないという負担が生じています。   それから,相殺については御存じのとおり銀行取引約定書では差押命令が発送された時点で一切の債務について期限の利益を当然に喪失することが約定されています。いつまでも,期限の利益を喪失させたまま放置しているということはなく,取引状況や債権保全を見ながら今後の取引方針を判断することになりますから,取引関係を維持する場合には預金を相殺することなく,取立てに応じる場合も相応にあると思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○谷幹事 今の相殺予定の陳述が戻ってきた場合ですけれども,今阿多委員がおっしゃったように,相殺予定であれば現実には恐らくそのときにすぐに銀行は相殺をするということではないのだろうと認識をしておりますので,そうだとすれば相殺予定というのは要するに貸付金で反対債権があるというふうな場合だと思いますので,それが順次弁済をされていって反対債権の方が差押債権よりも少なくなったというふうなときには,というよりも残りの預金が出てくるというふうな状況になったときには取立てができるということでありますので,それまで置いておこうという実務的な感覚というのも恐らくあるのだろうと思うので,そこら辺りの実情と言いますか実態というか,その辺りも踏まえた議論が必要だと思います。それはそれで差押えを維持しておく利益というのは債権者側にもないことはないだろうと思います。またその辺りの実務についてもいずれおいおい教えていただけたらと思います。 ○山本(和)部会長 中原委員,何かコメントはございますか。 ○中原委員 また詳細は別途お話しさせていただきますが,例えば,預金が差し押さえられて相殺予定といった陳述をした場合,稀に差押預金の取立訴訟が起きるケースがあります。そのときには金融機関は相殺するか,あるいは取立てに応じるのかという判断をせざるを得ません。差押命令が発送された時点で,期限の利益を当然に喪失する以上,金融機関としても何らかの対応をとる必要がありますので,弁済が進み取立てに応じてもらえる預金が出るまで待つということは必要はないように思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○阿多委員 今日はフリーで余り実務の話まで立ち入らずにと思っているのですが。先ほど中原さんの方の御紹介では相殺予定であれば一定の期間のところで相殺するないしはしないという形になっている。ちょっと教えていただきたいのは,その最終処理について金融機関は差押命令が考慮がある場合には差押債権者に処理について御連絡いただけているのでしょうか。どうも私はそういう連絡は全く頂いていないような認識なのですが。 ○中原委員 金融機関側から差押債権者に対して能動的に御連絡するということはないと思います。 ○阿多委員 実情としまして差押予定という陳述催告の回答を頂くと,差押債権者代理人としては取立てに行っても窓口では払っていただけない,訴訟するのかどうか。他方,相殺されたという通知も来ないという形で,情報がその時点で止まっているというのが実情なのだと思います。そういう意味では情報の処理が変われば実際の差押命令をどう処理するのかということもあり得るのかもしれませんので,裁判所の御提案は御提案として分かるのですが,債権差押え後のその後の実際の第三債務者の対応等についての情報提供も御検討いただく一つの材料なのかなとお話を伺っていて思いましたので,触れさせていただきました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。差押債権者が差押命令を放置しているという幾つかのパターンが今伺っただけでもありそうな感じはしましたが,それぞれごとに多分考えていかなければいけないのかもしれません。いかがでしょうか。 ○山本(克)委員 先ほど餘多分幹事からの御説明の中で差押命令が放置されるとその間時効中断が継続してしまうということをお挙げになったのですが,それを根拠にするのであれば不動産の仮差押えや差押えで売却困難物件の場合とかそういう場合にも存在し得る話ですので,それは余り根拠とするのが適切なのかどうかというのはやや疑問があります。つまり問題がもっと拡散していくのではないかなという気がいたします。ですので,差押命令についてはやはり第三債務者の御不便といった辺りを中心に議論すべきなのではないのかなという気がします。   考え方としては,不熱心訴訟追行者の訴え取下げと同じような形で取下げ擬制というものがどこまでいけるのかということを考えるべきなのではないのかなと。それによって,そういう不熱心な債権者によって第三債務者が債務の管理のコストをかけ続けるということがどうなのかという観点から議論するのが望ましいのかなという気がします。   それから,今相殺についていろいろと御議論ありましたけれども,相殺をしたときにその相殺の届出みたいなものを執行手続の中に組み込むと,あるいは裁判所を介さなくて直接債権者に送るような規定を作るかどうか,あるいは破産法にあるような相殺の催告の制度を作るとかそういういろいろな選択肢が相殺についてはあるのではないかなという気がいたしました。   とりとめのない感想ばかりで恐縮ですが,以上です。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。幾つか視点を提示していただきました。 ○餘多分幹事 阿多委員などから御指摘があったようにいろいろなパターンがあるのかなと思う一方で,裁判所にある事件としては差押命令の効力が生じてから3年とか5年たっても放置されているものがかなりの数あります。先ほどの相殺の予定があるということだとすれば,さすがに銀行でも3年も5年も放置することはないような気もするので,相殺の予定があるので皆止まっているということではないように思われます。先ほど山本克己委員からお話があったような相殺に関する何らかの措置というのは必要かもしれないと思う一方で,そうではない類型というのもかなりの数に上っているということについては是非御考慮いただければと思うところでございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○阿多委員 ここの論点だけ実務的な話ですが。金融機関の方が相殺予定であるというものを長期間対応されないケースがあるのかどうかについては主観的な部分があるかと思いますけれども,これ期限の利益喪失,期失させるというのはその債権者の全ての債務についてのことになりますので,一つ差押えが入ったからといってあらゆる貸付債権等について期失させた上で対応するのかというのは金融機関としてはかなりの場合によっては決断がいるような話になるのかと思います。本当に数千円しかなくて,それについて相殺予定であるという形で御連絡いただいて,貸金は数百万,何千万もあると。ほかの取引もあると。差し押さえられるのは口座一つだけですので。そういうふうな状況で我々は逆に銀行以外の金融機関等が当該金融機関の財務状況から相殺するというお話を頂きながら一向に相殺をしていただけないということは他面経験しているところです。   それと,最初に申しましたように,既存のものについては相当問題があると思うのですが,第1の債務者財産に関して情報を取得してある程度狙い撃ちができるような形になれば御危惧されている放置されたような債権差押命令が新規に増え続けるということは余りないのではないかなと。そこも付加しておきたいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。実務的なところまでかなり立ち入って問題を深めて御議論いただいたかと思います。   この債権執行のところはほかには御意見はございますか。よろしいでしょうか。   それでは,今のような御意見を含めて,この債権執行事件の終了については,三つの課題とともに何らかの形で取り上げるということで恐らく御異論のないところかと思います。   ほかにこの本部会で取り上げるべき事項について,今の段階でもし御指摘いただけるようなことがあれば,その点もお伺いしたいと思います。いかがでしょうか。 ○谷幹事 弁護士委員と顔を見合わせながら誰が発言をするかということだったのですけれども。1点だけ取り上げていただければという課題がございますので申し上げたいと思います。   それは,今日弁連の方でも検討していて,まだ決まったもの,固まったものはございませんのですけれども,過酷執行の防止というような論点も,論点が成立するということであれば取り上げていただいたらと思っております。具体的には,給与債権については差押禁止部分というのはあるわけですけれども,それは4分の1ということになっておりまして,どれだけ給料が少なくても4分の1は持って行かれるということでございまして,それだと生活が維持できない場合もあるので,最低額というものを定めるというふうなことがどうだろうかと。給与の額が一定の限度と言いますか,給与の差押えをした結果本人のもとに,債務者のもとには一定の限度が確保できるというような意味での最低額というものを設けるという必要性があるのではないかというのが1点でございます。   それともう1点は,差押禁止債権,給与もそうですし,年金などもそうですけれども,差押禁止債権が預金に入った場合はその預金は制限なく差し押さえられてしまうという問題は実務的には私ども極めて深刻な問題でございまして,年金が入って年金そのものは押さえられないけれども,預金に入った途端に持って行かれるというふうな問題があって,そういうような場合の手当も何らかの形でできないのかと思っております。   この二つ,どこかで具体的な問題提起ができればいいかと思っておりますので,この時点で少し問題提起をさせていただいておきたいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。いずれの問題も,私が承知している限りでは,民事執行法制定のときにも議論になり,最終的には差押禁止範囲の変更の申立てによって対応するという形で,その当時は恐らく議論が収束した問題であったかと思います。それからどれぐらい経つのでしょうか,30年40年近く経って状況の変化,私も承知している限り外国法でもかなり規律の変化等があったようにも思いますが,その点について改めて取り上げて立法論として議論すべきではないかという御提案であったかと思います。   他の委員,幹事からもし御意見があればお伺いしたいと思いますが。 ○中原委員 例えば年金が預金口座に振込み入金された場合に,当該預金については差押えを禁止するかどうか。差押命令が送達された金融機関が預金口座にある預金のうち年金を原資とする部分を判断して,当該預金は差押対象預金から除外しなさいという制度設計になると,金融機関で対応することは無理です。新たな制度設計については,現実の取引状況を踏まえて十分な御議論をお願いしたいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。第三債務者の立場としては当然の御発言かと思います。 ○谷幹事 当然のことだと思いますので,差押命令の範囲というのはもう決まっていますので,それを第三債務者のところでこれは除外されるのかというそういう判断をするという制度は恐らくあり得ないのだろうと思っています。そのほかの方法でうまくできないのかなということでございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。 ○山本(克)委員 今の点ですが,単に技術的な問題だけなのでしょうか。つまり,コミングルというものをどういうふうに考えるか,金銭の抽象性との関係でコミングルというのをどういうふうに考えるかという根本問題に立ち入っていますので,技術論で済ませられるような話では私はないという気がします。例えばそういう定型的に年金等のような差押禁止債権が振り込まれる専用口座という制度を作って,そこにしか振り込めないと,ほかの入金は一切お断りというようなものが設計できればそれはそれでいいと思うのですが,それはまたここでやれる話でもなくなってしまいますので,なかなかそれは難しいような気がします。昔から磯部先生の議論があるのは承知していますが,現実的にも理論的にもハードルが高いと思いますし。それではほかのいろいろな金銭債権についての履行された金銭が分別されるのだということになってしまいますと,私今財産分与請求権を勉強しているのですが,財産分与請求権は取戻権ではないという最高裁の判例がございますが,それなども変わってくるということもあり得ることになってしまいますので,ものすごく射程の大きな話に踏み込むことになって,ちょっと難しいのかなという気がします。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○阿多委員 山本克己先生の問題が非常に大きな問題だとは認識していますが,ただ他方実務で出てくる金銭債権というのは,もちろん金銭債権は本当にいろいろなものがありまして,不法行為に基づく損害賠償請求権からいろいろあるわけですけれども。実際我々が日常的に取り扱うのは預金債権の問題,正に先ほど年金が預金口座に振り込まれた場合の預金債権がどうなるのかという形で,預金債権をどう扱うかというところに着目して制度を考えるというのはあり得るのではないかなとは思っています。金融機関だけ特別かというようなお話になるのかもしれませんが,現在の実務において,一番最初に債務者財産の性質がかなり変わったと申し上げましたけれども,やはり金銭債権になって実際は預金債権や更には金融商品とかそういうふうな形に形を変えていますので,預金に着目して制度というのを考えていただくというのもあり得るのかなとは思っていますので,今後日弁連なりが具体の提案をされる場面であればまた御議論いただけたらなと思っています。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。 ○山本(克)委員 阿多さんに,普通預金口座のように入出金が随時なされるというときに,どの部分が年金部分でありそれ以外の入金部分がどれであるかというのはどうやって特定するのでしょうか。それができないとおよそ荒唐無稽な議論のような気がしますが。 ○阿多委員 十分承知,そのために最初にここでは議論は無理だとおっしゃった専用口座というのは一つの解決策として実は考えていたところですし。また,現状ドイツの制度を参考に,特定口座をしてそこのところについては差押制限を課すというようなドイツの預金債権の処理というのも一つの参考になるのかなと思っていろいろ勉強させていただいているところです。難しいと言われれば,年金が入った途端どの部分がという,今の総合口座的な形で一つの口座で処理をしている,更には24時間お金が出入しているところで特定が難しいというのは認識しているのですが,預金になった途端の残高というのは一定の範囲で差押制限をかけるというドイツ法のような発想もあり得るのかなと思っていますので,また今後具体的に御議論できたらと思っています。 ○山本(和)部会長 私も知る限り,ドイツでもフランスでもその入金とある程度切り離して,むしろ口座の方に着目した形で差押禁止をかけるという方向になってきているのではないかと理解をしておりますけれども。ただ,ドイツやフランスでは各人が持っている口座を全面的に把握できるようなシステムが社会的にあるようですので,そういう意味では日本と状況が違うという見方もできるのかもしれませんが。 ○山本(克)委員 私もその点は言いたかったところで,やはり第1の問題で債務者が自己申告をする義務を負うと,預金口座について,それとセットにしないと,一方的にそういう口座だけを保護するというのは私はちょっと考えものだなという気がいたします。罰則付きできちんと口座を開示する義務を負うこととペアでないと納得はなかなか得られないのではないでしょうか。隠し財産があるかもしれないのに口座を保護されるというのはちょっと納得し難いところがある。 ○阿多委員 最後どちらで終わるか。御指摘のとおり,複数口座を前提に,なおかつ口座情報について債務者が必ずしも開示しないという制度ですと隠し得ということになることは承知していますので,本当に根本的な点がなるかもしれませんが,口座情報について特定のドイツのように一つに限定してそれに反すれば刑罰の対象にするとか,そういうふうなことも含めて御議論いただけたらなと。もちろんその他テーマについては時間的制約もあるのも承知ですが,全体としてのバランスを考えながら隠し得になるようなことにはならない。ただ一方で,真面目な債務者が過酷執行に瀕している場面もあると我々実務家は認識していますので,それに対する手当ても考えられたらなと思っています。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。阿多委員で終わるというのでよろしいですか。今,阿多委員からもいみじくも御指摘がありましたように,スピード感の問題,最初に御指摘ありましたようにこの三つの課題と足をそろえて走れるような課題でなければならないという一つの命題がありますので,重要な論点の御指摘であったかと思いますけれども,この点は引き取らせていただいて検討課題とできるかどうかというところから検討を今後していきたいと存じます。   ほかに何かこの点はというようなことがもしあればこの際お伺いしたいと思いますが,いかがでしょうか。よろしいでしょうか。これでもう課題はこれだけというふうに決めるわけではありませんので,今後もしこういうのがあればということをお気付きになった場合は随時御指摘を頂ければと思います。   それでは,これで一通りこの部会資料1についての審議はしていただいたように思いますけれども,最初の方に戻っても構いませんので,全体を通して,あるいはこの審議の仕方全体に関する事柄でも結構ですので,何か御指摘を頂き得るところがあればお願いします。 ○佐成委員 部会資料の今後のことなのですけれども,先ほどは送付いただく時期について申し上げましたが,中身についてお願いがございます。先ほど部会長の山本先生がドイツとかフランスとかそういう比較法の観点からお話しいただいているのですけれども,我々全くその辺りについて知見がございませんので,是非そういった資料を部会資料の中に充実して入れていただければ有り難いと思います。当然そういった外国の仕組みをコピーはできないというのは承知しておりますけれども,そういった情報も是非お願いしたいというのがお願いでございます。 ○山本(和)部会長 非常に難しい御要望であったかと思いますが,事務当局からコメントはありますか。 ○筒井幹事 まずはできるところから,その方向で努力したいと思います。 ○山本(和)部会長 努力したいということで,よろしくお願いいたします。   ほかにこの際御発言いただくことがあれば承ります。おおむねよろしいでしょうか。   それでは,今日の段階では審議はこの程度にさせていただきたいと思います。   最後に,次回の議事日程等について,事務当局から御説明をお願いいたします。 ○筒井幹事 次回会議ですけれども,第2回会議は来月12月16日金曜日,時間は本日と同じ午後1時半から午後5時半までの予定で,場所は法務省地下1階の大会議室になります。   次回の議題ですけれども,主要な三つの検討課題を順番にと申し上げました。その最初ということで,次回は債務者財産の開示制度を取り上げたいと思います。次回の会議用として債務者財産の開示制度に関する資料を御提示し,それについておおむね1回の会議で御議論いただくことをイメージしながら,実際にはその一部の議論が持ち越しになる可能性はあり得ますけれども,ひとまず次回の会議で債務者財産の開示制度に関する一巡目の議論を行うというイメージで進めていきたいと思います。よろしくお願いいたします。 ○山本(和)部会長 それでは,本部会の第1回会議はこれにて閉会にさせていただきます。   熱心な御審議を賜りまして誠にありがとうございました。 -了-