法制審議会 民法(相続関係)部会 第26回会議 議事録 第1 日 時  平成30年1月16日(火)自 午後3時01分                      至 午後4時07分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  民法(相続関係)の改正について 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○大村部会長 それでは,定刻になりましたので,法制審議会民法(相続関係)部会第26回会議を開催いたします。   まず最初に,事務当局より配布資料の説明をお願いいたします。 ○倉重関係官 それでは,配布資料について説明をさせていただきます。   本日は,要綱案(案)として部会資料26-1を,それから,その補足説明として資料26-2を配布させていただいております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   今,御説明がございましたけれども,本日は要綱案,部会資料の26-1,それから要綱案に関する補足説明,同26-2につきまして,御審議を頂きます。    お手元の資料に基づいて,検討を進めていきたいと思いますが,まず,第1の「配偶者の居住権を保護するための方策」という部分につきまして,事務当局より御説明をお願いいたします。 ○倉重関係官 それでは,「第1 配偶者の居住権を保護するための方策」について説明させていただきます。   まず,これまでは,第1の各権利の名称を「短期居住権」及び「長期居住権」としておりましたが,常に長期居住権が短期居住権より長いという関係にはありませんことから,両者を対比させるような名称は相当でないと考え,権利の名称を「配偶者短期居住権」及び「配偶者居住権」と改めました。   それでは,「配偶者の居住権を短期的に保護するための方策」について御説明します。   まず,配偶者短期居住権につきまして,配偶者が相続放棄をした場合の相続期間の在り方等について御審議いただいてきたところですが,これまでの議論を踏まえ,(1)と(2)の区分の方法と,それぞれに適用される規律内容を一致させる観点から,(1)を,「居住建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産の分割をすべき場合」,(2)を「(1)以外の場合」と整理することとしました。   次に,配偶者短期居住権については,これまで譲渡を禁ずる明文を設けていませんでした。しかし,配偶者短期居住権は,配偶者の居住建物における居住を短期的に保護するために創設するものですし,無償で取得されるものですから,譲渡を認める必要性に乏しいと考えます。また,後に述べますとおり,配偶者居住権も譲渡を禁ずることとしましたこととの均衡上,配偶者短期居住権は譲渡できないこととして,その旨の規律を置くこととしました。   次に,「配偶者の居住権を長期的に保護するための方策」について御説明します。   これまで,配偶者居住権は,居住建物所有者の承諾がある場合には譲渡することができることとしていました。しかし,配偶者居住権は,配偶者自身の居住環境の継続を保護するためのものですから,第三者への譲渡を認めることは,制度趣旨との関係で必ずしも整合的とはいえません。   この点につきまして,これまで譲渡を認めることとしていたのは,配偶者が配偶者居住権の取得時に想定していたよりも早期に居住建物から転居せざるを得なくなったような場合に,その後の生活費等を取得するために,配偶者居住権を売却することができるようにする必要があると考えていたためでした。しかし,配偶者居住権は,配偶者の死亡によって消滅する不安定な権利ですから,実際には売却は難しいと考えられますので,その点も考慮して,配偶者居住権は譲渡できないこととしたものです。   なお,この場合におきましても,配偶者としましては,居住建物所有者の承諾を得て,居住建物を賃貸することなどができますことから,それによって投下資本を回収することができます。   第1についての説明は以上です。 ○大村部会長 ありがとうございました。   用語の修正の問題ですとか,(1)と(2)の切り分けといった問題がございましたけれども,実質的な点といたしましては,譲渡の禁止を明文化するという御提案がございました。この点を中心に御意見を頂ければと思います。   いかがでございますでしょうか。 ○窪田委員 実質的な中身にわたる部分ではないのですが,補足説明の方の2ページの下から6行目,7行目の辺りでしょうか,「回収が問題になるが」ということで,「従前どおり,建物所有者に買い取ってもらうことのほか」と書かれてはいますが,ちょっと正確に私自身が理解できなかったのですが,ここであるのは,本来は終身の期間認められている利用権を,言わば放棄することによって,その対価をもらうというようなことのイメージなのではないかと思います。それについて,配偶者居住権を買い取ってもらうという言い方が適当なのかどうか,特に,上の方で譲渡禁止と言っていますので,それは所有者との関係でも同じことがあるのではないかなと思いましたので,ちょっと説明の仕方ということになりますが,言葉を考えていただければと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   今の表現の点は,お考えいただくということでお願いをしたいと思います。   そのほか,どうぞ,上西委員,沖野委員の順でお願いいたします。 ○上西委員 5ページの(2)エ(ウ)のところについてです。「配偶者は,居住建物の所有者の承諾を得なければ,居住建物の改築若しくは増築をし,又は第三者に居住建物の使用若しくは収益をさせることができない。」とあります。まず,配偶者居住権は譲渡することができないとすることについて,以前は譲渡することまでも排除するものではないとされていたところです。現実に配偶者居住権のみの譲渡の事案が少ないであろうことから,譲渡することができないことにしてもよいとも考えられます。それでは,譲渡できないことになった場合に,第三者に対してではなくて,所有者に使用収益させることも可能なのかどうかです。つまり,配偶者居住権で制約をされた所有者に使用収益させることができるのかどうかです。その点は,明示的に記載しなくとも,この(ウ)の記載の中でも読み込まれていると考えてよろしいのでしょうか。 ○堂薗幹事 もちろん「第三者」ですので,文言上は,居住建物の所有者がここに入るというのは,当然には読めないわけですけれども,所有者の同意を要するとした趣旨からいって,所有者がこの居住建物に一時期無償で住み,その後一定の期間経過後に,配偶者の方で再び配偶者居住権を根拠に居住するということは,当然否定されないということになるのではないかと思います。 ○上西委員 念のため,配偶者居住権を譲渡することができないとなりますと,配偶者居住権で制約された所有権者と配偶者居住権者とが,両者そろって第三者に丸ごと売るということもできなくなると考えてよろしいのですか。 ○堂薗幹事 それは,居住建物の所有権自体を売却するということですか。 ○上西委員 そうです。 ○堂薗幹事 居住建物の所有権自体については,居住建物の所有者の方で任意に処分はできますので,ここでは飽くまで,配偶者居住権という,新たに作った権利自体の譲渡はできないということです。 ○上西委員 配偶者居住権に制約された条件での,残りの所有権だけが譲渡できるということですね。 ○笹井幹事 配偶者居住権も一つの債権ですので,これまでも申し上げてきたとおり,放棄をすることが可能です。もし,配偶者と所有者が配偶者居住権の負担のない所有権全体を譲渡したい場合には,配偶者が放棄することによって配偶者居住権を消滅させた上で,負担のない所有権全体を移転することができるということになろうかと思います。 ○上西委員 配偶者居住権を放棄して,完全な所有権にしてから,所有者が譲渡するという流れになるわけですね。 ○大村部会長 上西委員,よろしいですか。 ○上西委員 了解しました。 ○沖野委員 譲渡禁止について2点確認をさせていただきたいことがあります。   譲渡禁止の今回の御説明の趣旨から,強制執行による換価も当然できないということになるかと思われますけれども,そういう理解でよろしいかというのが一つです。   もう一つは,投下資本回収の道が狭められるということになりますと,そもそも最初の入り口の段階での評価額に関わってきますので,それは,譲渡も自由にできたという場合と比較して,より低い評価になるというのが,論理的には自然ではないかと思われますが,そのような理解でよろしいかということです。 ○堂薗幹事 まず,強制執行の点については,御指摘のとおりだと思います。一般に,強制執行の対象財産については,譲渡性があることが要件とされておりますので,配偶者居住権については,所有者の意思にかかわらず,譲渡することができないということになりますと,強制執行の対象からは外れるということにはなろうかと思います。   それから,評価額については,倉重の方から御説明いたします。 ○倉重関係官 評価額の点について御説明をさせていただきます。   まず,部会資料19-2で紹介させていただきました簡易的な評価方法についてですが,これは,例えば,存続期間を10年間とする配偶者居住権であれば,建物及び敷地の現在価値から10年後の建物及び敷地の価値を現在価値に引き直した価格を引いた額を配偶者居住権の価格とするものでございました。したがいまして,この方法の場合には,元々配偶者居住権が譲渡可能であるということを評価上考慮しておりませんでしたことから,譲渡禁止にしたことで,直ちに額が下がるということにはならないと考えております。また,第19回部会で提出された参考人公益財団法人日本不動産鑑定士協会連合会の意見書の中で示されました算定式につきましては,同連合会に問い合わせましたところ,まず,譲渡できない権利は鑑定評価基準でいうところの正常価格として求めることはできないという前提での御回答ではございましたが,同資料中に示されております,賃料から配偶者居住権の価値を算定する方法を採用するのであれば,配偶者居住権の価格は,建物の賃料相当額から配偶者負担の必要費を引いたものに年金現価率を乗じたものであるという基本的な考え方は,変更するものではないという返答を頂きました。   その上で,御指摘のとおり譲渡禁止となった場合には,この年金現価率を算定する際の要素であります割引率に影響することとなること,しかしながら,元々配偶者居住権というのは流動性が高い権利ではないということを前提に算定されていたものですから,その影響というのは比較的限定的なものではないかというようなお答えも,同時に頂いているところでございます。   したがいまして,委員御指摘の点につきましては,確かに評価額が下がるということにはなろうかと思いますが,それが従前の想定に比べて大きく下がるというものではないのかもしれないと考えているところでございます。   以上,お答えとなります。 ○沖野委員 ありがとうございます。 ○大村部会長 よろしいでしょうか。 ○沖野委員 はい。 ○大村部会長 そのほかいかがでございましょうか。 ○水野(紀)委員 言葉の問題だけでございます。   これは,変えていただきたいという趣旨ではないのですが,一応念のためにということで,どこかにお書きいただいたほうがよいかもしれないと思う点です。   つまり,配偶者という言葉についてです。死亡の時点で婚姻は解消しておりますので,正確に言うと,生存配偶者ないし元配偶者ということになります。死亡時だとぎりぎり配偶者と言ってもいいかもしれませんが,居住権は,死亡後のことになりますので,配偶者という言葉をずっと使い続けることについて,自覚はしているという趣旨を,どこかでちょっと一言付け加えていただくほうがいいかという気がいたしました。 ○大村部会長 ありがとうございます。   それは,説明等御検討いただくということでよろしいでしょうか。 ○堂薗幹事 はい。 ○大村部会長 水野委員,それでよろしいでしょうか。では,説明等を検討させていただくということにさせていただきたいと思います。   そのほかにいかがでしょうか。 ○山本(和)委員 先ほどの沖野委員の御質問でやはり気になったんですが,そうすると,これは,遺産分割で差し押さえることができない財産が作り出されるということを認めるという,そういうことになるという理解でよろしいんでしょうか。 ○堂薗幹事 そうですね,先ほど御説明したとおり,配偶者居住権については差押えができないという整理になろうかと思います。ただ,従前から,所有者の承諾がないと譲渡できないということにはなっておりましたので,実際上は配偶者居住権が設定されるとそれを換価することは難しいということにはなっていたのではないかと思います。譲渡が禁止されることを明文化することによって,従前は事実上換価が難しかったにすぎなかったものが,そもそも法律上差押えすることができなくなるということにはなろうかとは思います。 ○山本(和)委員 そうすると,相続債権者としては,遺産分割がされる前と比べると,責任財産が遺産分割によって減少する結果になるかもしれないけれども,それは,何か詐害行為取消権とかそっち側の方で対処をすると,そういうような形になるということと理解していいんでしょうか。 ○堂薗幹事 まず,配偶者居住権の登記の前に差押えがされれば,そちらが優先するということではあろうかと思いますので,そういった意味では,言わば対抗関係のような形で処理されるということになるのではないかと思います。   もちろん,詐害行為ということもあり得るとは思います。 ○大村部会長 よろしいですか。   そのほかいかがでございましょうか。   よろしゅうございますか。   それでは,この第1の「配偶者の居住権を保護するための方策」につきましては,説明等若干の手直しを加えていただくということはございますけれども,この内容どおりで御承認を頂いたということで先に進めさせていただきたいと存じます。   続きまして,第2の「遺産分割に関する見直し等」と第3の「遺言制度に関する見直し」につきまして,事務当局の方から御説明をお願いいたします。 ○満田関係官 それでは,関係官の満田の方から,第2及び第3の関係で簡単に説明をさせていただきます。   まず,「第2 遺産分割に関する見直し等」につきましては,一部字句等の修正を施した箇所はございますが,実質的な変更はございません。   続きまして第3でございますが,第3についても,いずれの項目についても,前回の部会資料からの特段の変更点はございません。   もっとも,4の「遺言執行者の権限の明確化等」につきましては,前回の部会におきまして指摘された事項がございましたので,この点について事務当局内で検討した結果を,補足説明の資料の5ページに記載しております。ここでは,特定遺贈の場合と特定財産承継遺言の場合とで規律の内容が異なっておりますが,これは,特定遺贈の場合は受遺者が遺贈の履行を請求すべき相手方を明確にした規定ということになりますし,他方で,特定財産承継遺言の場合は,遺言執行者の権限を定めた規定であることになりまして,このような趣旨の違いから規律の違いが生じているということになります。   なお,このような規定を置いたとしても,特定遺贈の場合において,遺言者が預貯金債権の払戻し権限について別段の定めをすることは否定されないものと考えております。   御説明としては以上です。 ○大村部会長 ありがとうございます。   第2と第3のいずれについても,字句の修正等のほかは変更点はないということでした。ただ,第3の4につきましては,前回の部会で御指摘を頂きました点につきまして,(注)を付け加えたということでございます。   この第2と第3をまとめまして,御意見等があれば頂きたいと思います。いかがでございましょうか。 ○藤原委員 第3の,今一番最後に御説明を頂きました預貯金の払戻し権限のところについて,もう少し詳しく御確認をさせていただければと思っております。   この第3の4の(2)のところでございますけれども,まず,ちょっとまだ御説明を頂いても分かりにくいかなと思っているところがございまして,それが,今御説明を頂いた「遺言者が遺言で別段の意思を表示したときは,その意思に従う」という規定が,イの特定財産承継遺言がされた場合には入っているのだけれども,アの特定遺贈がされた場合には入っていないと,前回潮見委員から御指摘を頂いた部分なんですけれども,ここで,今回の御説明をもってしても,特定遺贈のケースで本当にその反対解釈がされないかと,特に預金が対象になった場合の金融機関,第三債務者である金融機関との関係において,反対解釈がされないのかという懸念がまだ払拭できていないというところでございます。   具体的には,特定遺贈の方の規定について,遺言執行者と受遺者の関係においては,今回の御説明のとおり,遺言者が遺言で別段の意思を表明したときはその意思に従うという規定を置くことができないということは理解をしておるんですけれども,遺言執行者と第三債務者である金融機関との関係においてはどうなるのかということです。先ほど一番最後の口頭の御説明では,その場面においては遺言者が遺言で別段の意思を表明すればその意思に従うということでしたけれども,今回の御説明の書面の方にはそこが落ちていなかったものですから,その点につき,イの特定財産承継遺言がされた場合の方には,(イ),(ウ)のところで,対金融機関に対する遺言執行者の権限というところできちんと規定があるのに対して,アの特定遺贈のところでは,対金融機関に対する権限のところの規律が全くないという中で,遺言者が遺言で別段の意思を表明したときはその意思に従うという規律もないとなると,本当に遺言者が遺言の中で遺言執行者の金融機関に対する払戻しや解約の請求権限を記載したときに,それが有効か否かというところの解釈にどう影響を与えるのかというところについて,御提案側の御趣旨を伺いたいところでございます。   さらに具体的に,よくあるケースを三つ想定しております。   例えば,X銀行の預金をAに遺贈する,遺言執行者にはBを指定するという特定遺贈をもって,受遺者AがX銀行に相続預金の払戻しを請求してきた場合,今回の御提案によって,受遺者Aの払戻し請求は特に制限されないと,有効であるという理解でよろしいでしょうか。   2番目のケースとしては,今のような遺言で,遺言執行者Bの方が払戻しを請求してきた場合,現在は預金の特定遺贈の場合の遺言の執行の余地については,確定的な解釈がなく,各金融機関において個別に対応していると思われますけれども,そのような解釈及び実務に,今回の御提案がどういった影響を与えるかというところ。   3番目のケースといたしましては,特定遺贈の場合で,遺言執行者にBを指定し,さらに預金の払戻し解約の権限をBに与えるという,払戻しの権限までが明記されていた場合,この場合は,現在の金融機関の実務では,この遺言に従って遺言執行者に相続預金を払い戻すということが一般的であると思われますけれども,今回の御提案では,先ほど来申し上げているとおり,特定遺贈の場合には,あえて遺言者が遺言で別段の意思を表示したときはその意思に従うという規定がされていませんけれども,特定遺贈の場合であっても,このように遺言で遺言執行者の第三債務者に対する権限を定めるということは,当然に可能であって,現在の実務どおり金融機関はそれに従って払い戻せばよいと,御提案の趣旨としてはこういった理解でよろしいでしょうかということを,この三つのケースに従って御回答いただければ有り難いです。 ○堂薗幹事 それでは,御回答いたします。   まず,1番目の御質問でございますが,(2)のアの規律というのは,一つ目の事例で言いますと,基本的にはAと遺言執行者であるB,あるいはAと相続人との関係を規律するもので,X銀行とAの関係を規律するものではないということになろうかと思いますので,債務者であるX銀行が,Aが権利者であるということを自ら承諾した上で支払をするということは,当然できるという理解でございます。   それから,2番目の御質問ですが,こちらは,特定財産承継遺言とは異なりまして,明確には書いていないというところがございますので,最終的には解釈ということにはなりますが,ただ,特定遺贈について,その遺言執行者の権利を明確にできない理由というのは,資料26-2のところに書いたとおりでございますので,この特定財産承継遺言のイの(イ)のような規律を置くことによって,同じ趣旨が特定遺贈にも当てはまるということになりますと,そこは類推解釈ということにはなろうかと思います。ただ,遺贈の場合には,遺言執行者がいないと相続人がその義務を履行するということになりますので,相続人に本当に払戻し権限まで認めていいのかという問題は別途生じるように思います。したがって,そこは,最終的には解釈ということにならざるを得ないとは思いますが,少なくとも現行法と比べて,払戻しが認められにくくなるということにはならないのではないかとは考えております。   それから,最後の御質問ですが,遺言執行者Bに払戻し権限を与えるということが書かれていれば,Bには払戻し権限があるということになると考えております。この点につきましては,飽くまで特定遺贈というのは法律行為で,遺贈義務の内容については遺言者の意思に従うということになりますので,遺言者がそういう意思を示している場合には,それによるということになろうかと思いますので,この点については,疑義はないのではないかと考えております。   御説明は以上でございます。 ○大村部会長 藤原委員,よろしいですか。 ○藤原委員 はい,ありがとうございます。   できますれば,今御回答いただいたことについて,今後御執筆されるであろう解説等でお示しいただければ,幸いでございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   そのほかいかがでございましょうか。   よろしいでしょうか。   それでは,第2,第3につきましても,特に御意見はなかったということで,先に進ませていただきたいと存じます。   第4になりますけれども,「遺留分制度に関する見直し」という部分につきまして,事務当局からの御説明をお願いいたします。 ○神吉関係官 それでは,「第4 遺留分制度に関する見直し」につきまして,関係官の神吉の方から御説明させていただきます。   第4の「遺留分制度に関する見直し」につきましては,1点変更がございます。   部会資料26-2の7ページを御覧ください。   具体的には,今回の部会資料におきましては,1(3)の規律を修正しております。すなわち,これまでの案におきましては,金銭請求を受けた受遺者又は受贈者の利益に配慮する観点から,受遺者又は受贈者の請求により,遺贈又は贈与の目的である財産のうち,その指定する財産により給付する制度を設け,その請求がされた時に,指定財産の価額の限度で金銭債務が消滅するとともに,指定財産に関する権利移転が生じることとし,また,不要な財産の押し付けにならないよう,遺留分権利者による指定財産の放棄を認めることとしておりました。   もっとも,この規律につきましては,当部会におきましても,受遺者又は受贈者が不要な財産を押し付ける懸念がなお存在するとして慎重な検討を求める意見もあったことから,要綱案の策定に当たって再度慎重に検討を行ったところ,まず,この規律につきましては,特に③の指定財産の放棄の制度が他に類を見ない特殊な制度でありまして,③のような規律を設けると,遺留分権利者の権利を現行法より相当に弱めることになり,放棄がされることを狙って,現物給付の意思表示をするといった濫用的な運用がされるおそれがあるのではないかと考えられます。   他方,指定財産の放棄の規律のみを削除することにつきましては,当部会におきましても,受遺者又は受贈者が遺留分権利者にとって現に不要な財産を指定し,それが権利の濫用とはいえないような場合に,遺留分権利者において,その管理の負担のみが課せられることになって不当であるとの指摘が複数の委員からされてきたところであります。   このように,③のような規律を設けますと,一方で,受遺者等の濫用を誘発するおそれが相当程度存在するにもかかわらず,他方で,このような規律を設けなければ,かえって遺留分権利者の利益に反するおそれがあるというジレンマが生じることになりますが,そのこと自体,この規律に法制上の問題があることを示すものといえることができるように思われます。   そこで,この間,別案を含めて検討を行いましたが,まず,指定財産の権利の放棄があった場合には,金銭債務が復活するとの規律につきましては,単に受遺者又は受贈者が指定する財産を受領することについて,遺留分権利者が同意をしなければ,金銭債務が消滅しないということにほかならず,当事者が合意によって金銭債務の支払に代えて別の物で給付することができるという代物弁済とほぼその効果が異なることがなく,あえて制度を新設する理由に乏しいものと考えられます。   次に,不要な財産の押し付けを回避しつつ,最終的には遺留分権利者の意思にかかわらず現物給付を実現するため,現物給付の申出をするか否かは受遺者等の判断に委ねることとした上で,受遺者等が現物給付の申出をした場合には,指定財産の範囲について一定の制限を設けることを前提として,第一次的な指定権を遺留分権利者に認め,遺留分権利者がその指定権を十全に行使しなかった場合には,その指定権が受遺者等に移転するといった制度を設けることも考えられます。しかし,これにつきましては,かなり複雑な制度となる上,例えば,遺贈の対象財産の中に受遺者等の生活の基盤となっている財産,例えば居住用不動産や事業用財産などが含まれている場合につきましては,受遺者等が現物給付の申出を事実上できないということになりまして,金銭の調達に困難が生ずる可能性があるといえ,このような案を採用することも困難といえるかと思います。   現物給付の制度につきましては,金銭請求を受けた受遺者又は受贈者が,直ちには金銭を準備することができず不利益を被る可能性があるため,これらの者の利益に配慮したものであったところ,その利益に配慮する必要性自体はなお否定されないものと考えられます。そこで,借地借家法13条2項や民法196条2項などの先例を参考といたしまして,金銭請求を受けた受遺者又は受贈者の請求により,裁判所が金銭債務の全部又は一部の支払につき,期限の許与を付与することができることとしたものでございます。その余の点につきましては,字句等の修正を施した箇所はありますが,実質的な変更点はございません。   以上につき,御審議のほどよろしくお願いしたいと思います。   なお,本日は御欠席ではありますが,潮見委員からこの1(3)の規律につきまして,以下のようなメッセージが寄せられておりまして,事務当局において読み上げさせるよう御指示を頂いておりますので,私において読み上げさせていただきます。  「私は,これまで本部会発足後の第1ステージから,第3ステージまで,自らの意見として,遺留分権利者の有する請求権を金銭請求権に一本化すべきである旨の主張を続けてまいりました。追加試案を経た昨年後半の部会会議でも,同様の主張をしました。理論的にも,実務的にも,この考え方を採用するのが適切であると考えていたからです。   そのような中で,今回,最終段階での議論と検討を経て示された要綱案では,金銭請求を受けた受遺者又は受贈者において,直ちに金銭を準備できない場合に生ずる不都合に対応するため,現物給付の規律ではなく,裁判所の判断による期限の許与を付する制度が採用されました。これにより,金銭請求権の一本化構成に対して当初より指摘されていた懸念は,基本的に解消されるのではないかと思います。   以上のように考え,私としては,遺留分に関する今回の案に対して,全面的に賛成したいと思います。」   以上が潮見委員のメッセージとなります。   そのほか,委員,幹事の皆様からも御意見を頂戴できればと存じます。どうぞよろしくお願いいたします。 ○大村部会長 ありがとうございます。   遺留分権利者の権利の取扱いにつきましては,金銭請求権にするというのを原則としつつ,現物給付をどう扱うかということにつきまして,部会の中では長く議論を重ねてきたところでございます。従来,一定の調整案に落ち着いていたわけですけれども,それを改めて見直すとなお問題があるのではないかということで,今回新たな提案がされたと理解をしております。そのプロセスの中で,幾つか別の考え方も御検討いただいたところでございますけれども,最終的にはここでお示ししている案でいかがかということで,今日御説明を頂いたと受け止めております。   この点につきまして,皆様の方から御意見を頂ければと思います。 ○上西委員 指定する財産により給付する制度が従前において検討されていたところ,それについて懸念を申し述べたことがございました。   従前の案は,受遺者又は受贈者が遺留分権利者に対して指定する財産を給付することを請求することができるというものでした。このときは,当初の1年間の請求期間が設けられていたかと思います。その後,遺留分権利者は,その請求を受けたときから3か月内に放棄する旨の意思表示をすることができるという骨子でした。まず,時間を要するということに加えて,常に評価が伴うわけです。しかも,評価しづらい物件であったり,その物件が遠方の場所にあることもあるわけです。そして,評価が伴うということは,その評価額の金額について,また争いが生じる危険性があることから,懸念を申し述べていました。今回の案は,金銭債権に一元化・一本化され,簡素な制度になることから,歓迎したいと考えております。 ○大村部会長 ありがとうございました。   そのほかいかがでございましょうか。 ○増田委員 私も,金銭債権一本というのは以前から述べてきたとおりでありまして,基本的に賛成いたします。   ただ,期限の許与につきまして,幾つか質問したいと思います。   まず,一つ目ですが,この期限の許与がされる場合というのは,どのような場合を想定されたのかという質問です。これは,単なる手元不如意ではなくて,恐らくは金銭を手元に準備することができないことに何らかの客観的に相当な理由がある場合が考えられているのではないかと思うので,質問する次第です。   それから,二つ目ですが,恐らくは,住居だとか事業の基本財産などを処分しなければ調達ができないような場合が,典型例として考えられるのではないかと思いますが,条文化の際にはそのようなものを例示することが考えられないかどうかということです。条文上に全く要件がなく白紙ですと,どういう場合にどういうことを主張,立証していいのかもよく分からないわけで,確かドイツ民法などでは例示があると思いますので,それが考えられないかということです。   三つ目ですが,仮に期限を許与すると裁判所が判断し,かつ,その期限が口頭弁論終結後に到来すると考えた場合,判決主文はどのようになるのかということです。訴えの変更がないことを前提にお答えいただきたいと思います。 ○神吉関係官 それでは,事務当局の方から御回答させていただきます。   3点御質問を頂きまして,順に御回答させていただきます。まず1点目の期限の許与について,どのような場合を想定したものなのかということでございますが,この点につきましては,部会資料26-2の7ページにも説明を加えてありますとおり,この第4の1(3)の規律につきましては,遺留分権利者から金銭請求を受けた受遺者又は受贈者におきまして,直ちに金銭を準備できない場合の不都合を解消する場合の規律でございますから,主に受遺者又は受贈者の資力や,贈与又は遺贈された財産などを考慮して,その請求を受けた受遺者又は受贈者において,直ちに当該金銭請求に対して弁済することができない場合,そういった場合を想定した規律ということでございます。   2点目に,期限の許与についての基準というものを,条文化の際に例示することが考えられないのかということで,なぜ第4の1の(3)の規律につきましてはそういった基準を明示していないのかと,そのような御質問と受け止めております。この点につきましては,御指摘のとおり第4の1の(3)につきましては,裁判所が期限を許与するかどうかについての具体的な判断基準は明示していないのですが,これは,期限を許与するかどうかの判断につきましては様々な事例が想定されるため,一義的にその考慮要素を書き切るというのがなかなか難しいのではないかということで,期限の許与を付するかどうかは裁判所の裁量に委ねると,そういった趣旨でございます。   もっとも,第4の1の(3)の規律につきましては,遺留分権利者から金銭請求を受けた受遺者又は受贈者において,直ちにその資金を調達することができない場合に生ずる不都合を解消するための規律でございますから,実際の裁判におきましては,受遺者又は受贈者の資力や,遺贈や贈与の目的財産等を売却するなどして資金を調達するのに要する通常の期間,そういったものが典型的には考慮される事情となるのではないかと思われます。   3点目が,期限を許与した結果口頭弁論終結後に期限が到来する場合の判決主文はどうなるのかという御質問をいただきました。この点につきましては,裁判所が期限を許与した場合,当該期限を許与した債務の全部又は一部につきましては弁済期が到来をしていないことになりますので,裁判所としては,遺留分権利者の請求をそのまま認容することはできないということになるかと思います。   もっとも,遺留分権利者の無条件の給付請求に対して,裁判所が期限付きの判決をすることにつきましては,その期限が受遺者等の資金調達に要するまでの間であり,通常長期間先にはならないと,そういったことを考えますと,通常は,将来給付の要件も満たし,期限付きの一部認容判決をするということを許容するというのが,現在の多数説ではないかと考えられます。また,最高裁の平成23年3月1日判決,これは再生計画におきまして弁済期が変更されたと,そういった事案でありますが,この判示内容からいたしますと,遺留分権利者の請求には,通常裁判所が期限を許与した場合には,その期限到来時の給付を求める請求も包含されていると,そのように解することもできるのではないかと考えているところでございます。   そういたしますと,遺留分権利者の給付請求に対しまして,裁判所が期限の許与を付した場合につきましては,一般に期限付きの判決をすることができると考えられ,例えば,裁判所が,遺留分の額が500万円で,平成32年4月まで期限を許与するとの判断をした場合につきましては,「被告は,原告に対し,平成32年4月1日が到来したときは,500万円及びこれに対する平成32年4月2日から支払済まで年5分の割合による金員を支払え。原告のその余の請求を棄却する。」といった判決になるのではないかと思われます。   以上3点,御回答させていただきました。 ○大村部会長 よろしいでしょうか。ありがとうございます。   そのほかいかがでございましょうか。 ○水野(紀)委員 今の御回答への質問,確認だけでございます。   期限の許与は,そうすると,利息がかからず,そこから先に初めて利息がかかるという設定でお考えになるのでしょうか。それとも,期限を許与していながら,その期限の間から利息が付くということもあり得るのでしょうか。 ○神吉関係官 遅延損害金につきましては,裁判所が付与した期限が到来した後に遅延損害金が発生する,それまでの間は遅延損害金は発生しないと考えているところではございます。 ○大村部会長 水野委員,何かございますか。 ○水野(紀)委員 いえ。誠実に遺留分弁済請求権の債務を支払おうと思うためには,利息が付く必要がある場合もあるかという気がしたものですから。 ○神吉関係官 ただ,裁判所の判断によって弁済期が変更されるということですので,弁済期が到来するまでの間は,遅延損害金は付かないということでよろしいのではないかなと考えているところでございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   そのほかいかがでございましょうか。 ○垣内幹事 期限許与の手続に関してなんですけれども,部会資料では,裁判所が期限を許与することができるということが書かれているわけですが,実際には,裁判所が何らかの裁判をすることによって許与するということかと思われますけれども,これについては,基本的には何か形成の訴えのようなものを想定すればいいということでよろしいのでしょうか。その点,御理解を確認させていただきたいと思います。 ○神吉関係官 お答えさせていただきます。   まず,遺留分権利者と受遺者との間で金銭債務の額については争いがなく,遺留分権利者が金銭請求訴訟を提起しないと,ただ期限の許与のみを求めていると,そういったケースにつきましては,受遺者が遺留分権利者を相手方として訴訟を提起して,期限の許与のみを求めることができると,これはいわゆる形成の訴えになるかと思います。   次に,遺留分権利者がその金銭請求訴訟を提起している場合におきまして,受遺者等がその期限の許与を求める場合に,抗弁として主張すれば足りるのか,それとも別訴又は反訴の提起が必要なのかという問題があろうかと思います。この点につきましては,これは同様の制度が現行法上に,民法196条2項ただし書や借地借家法13条2項などがございますので,これらの制度においてどのように考えられてきたのかということを考えれば,おのずから結論が出てくるのではないかと思われます。この点,裁判例としては必ずしも多くはありませんでして,当事者の期限の許与の請求を抗弁として位置付けている例もある一方で,独立の訴えの提起が必要であると判示している例もございまして,必ずしも解釈が固まってはいないのではないかとは思いますが,期限の許与を独立の訴訟物と考える必要があるのであれば,抗弁としてではなく,別訴又は反訴としての訴えが必要だと,独立の訴訟を提起しなければならないという結論になるのではないかと思います。   もっとも,当事者が抗弁として主張していたところも,実は裁判所が,やはり独立の訴えが必要であると判断した場合につきましては,適切な訴訟指揮の行使などによりまして,当事者に別訴又は反訴の提起を促すと,そういった運用も考えられるのではないかなと思っているところでございます。 ○大村部会長 よろしいでしょうか。 ○垣内幹事 はい,ありがとうございます。 ○大村部会長 そのほかいかがでございましょうか。 ○西幹事 すみません,細かいことで大変恐縮なのですが,しかも,今頃気が付いて大変申し訳ないのですけれども,資料の補足説明の8ページの下から4行目から6行目にかけて,ドイツ法では,2009年に支払猶予可能とする法改正が行われたと書かれていますが,2009年以前からこの制度はあったように,私,記憶しております。2009年で範囲が広がったというのは事実ですけれども,制度自体は,それ以前からあったように思いますので,御確認いただけないでしょうか。   ドイツ法以外にも,例えば,フランス法にもある制度です。 ○神吉関係官 分かりました。諸外国の例については改めて調査をしておきたいと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   そのほかいかがでございましょうか。 ○上西委員 部会資料16ページの「2 遺留分算定方法の見直し」のところ,少し教えてください。   (1)のアで,「民法第1030条に次の規律を加えるものとする」として,「相続人に対する贈与は,相続開始前の10年間にされたものに限り,その価額を,遺留分を算定するための財産の価額に算入する」とあります。これを付け加えるのは,1030条の前段部分ですね。その結果,(注1)のようになるという考え方でよろしいでしょうか。   そうしますと,(注1)の最後に「原則として算入する」とあります。現行の条文には「原則」という文言はなく,ここで「原則」というのを入れられたのはなぜかなというのが,質問でございます。 ○神吉関係官 お答えいたします。   御指摘のとおり,(1)のアの規律を採用すると,結局は(注1)のようになるというのは,御指摘のとおりでございます。また,「原則として」と入れた理由につきましては,(注2)で民法第1030条の後段の規律は維持をするということで,害意がある場合につきましては,1年前,それから10年前の日より前にされたものも含まれるということになりますので,こういった場合は別であるということを示すために,「原則として」と記載させていただいた次第です。 ○上西委員 前段部分を原則と考えて,害意がある場合は後段の部分になるので,「原則」を説明的に入れたということですね。 ○神吉関係官 はい,そのとおりでございます。 ○大村部会長 よろしいでしょうか。   そのほかいかがでございましょうか。 ○西幹事 期限の許与は,裁判所がということになっていますけれども,合意による期限の許与,支払期日の設定というのは認めないという趣旨でしょうか。 ○神吉関係官 当然当事者の合意によって弁済期を変更するということは,それは特段排除する必要もないかと思います。 ○西幹事 フランス法のようにそれを書く必要はないということですか。 ○神吉関係官 当事者の合意によって弁済期を変更するということであれば,当然できてしかるべき話かと思いますので,あえて法文で書く必要はないのかなと思っているところでございます。 ○大村部会長 そのほかにいかがでございましょうか。   よろしいでしょうか。   期限の許与につき,実際の運用をどうするのかということにつきまして,幾つかの御質問を頂きましたけれども,今回の提案の基本的な方針については御異論はなかったと受け止めております。御提案のとおりとするということで,取りまとめさせていただきたいと存じます。   それでは,次に進ませていただきますが,第5の遺言制度に関する見直しにつきまして,事務当局の方から御説明を頂きます。 ○満田関係官 それでは,第5について説明をさせていただきます。   まず,第5の1の関係ですが,前回の部会資料から,1(2)については変更をしておりますので,この点について説明させていただきます。   前回の部会資料におきましては,1(2)の受益相続人の単独通知の方法につきまして,遺言書等の書面の交付を必須の要件としておりましたが,この点については,他の相続人のプライバシー保護等の観点から問題があるのではないかとの指摘を頂きましたので,遺言書等の交付を必須の要件とまではせず,債務者において,客観的に遺言の内容を判断することができる方法による通知によっても,対抗要件具備を認めることとするため,遺言の内容を明らかにして通知をしなければならないと,その内容を変更しております。   なお,ここでいう「遺言の内容を明らかにして」といいますのは,この規定が対抗要件を定める規定であることからしますと,客観的にその遺言の内容を明らかにする必要があるものと考えておりますので,具体的には,単に遺言の内容を通知するというだけでは足りず,例えば,受益相続人が遺言書の原本を提示し,債務者の求めに応じて,債権の承継の記載部分についての写し等を交付するというような方法をもって通知するということを想定しておるところでございます。   2及び3につきましては,字句等の修正を施したほかは,特段の変更点はございません。   説明については以上でございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   第5につきましては,1の(2)につき,従前は遺言書等の書面の交付が求められておりましたけれども,それを,「遺言の内容を明らかにして」と改めたということで,その内容を明らかにするということの具体的な意味につき,御説明があったところでございます。   この点につきまして,何か御意見があれば頂きたいと思いますが,いかがでしょうか。 ○藤原委員 今の第5の1の(2)の今回の変更点につきましては,金融機関といたしましては,以前申し上げたとおり,対抗要件の観点での遺言書等の原本の交付には特にこだわるものではありませんので,今回の変更そのものについては特段の意見はございません。   ただ,ちょっと実務の観点から,今後の誤解を生まないために,1点だけ御確認をさせていただければと思っております。   金融機関としては,対抗要件具備の観点とは別に,そもそも預金債権の債務者として,債権者を正確に特定,把握する必要があると。そういった趣旨から,遺言書等の原本のまず全部を提示していただいて,預金債権の債権者の特定に必要な箇所についてコピーをとらせていただくというような実務が一般的でございます。   今回,この実務につきましては,補足説明の方に,遺言の内容を明らかにする方法の例として,受益相続人が遺言の原本を提示し,債務者の求めに応じて債権の承継の記載部分について写しを交付する方法というのを記載していただいておりますので,誤解はないとは思うんですけれども,実際に条文化されたときに,書面の交付が要件から外れるということによって,相続手続に当たって,相続人等が金融機関に対して遺言書等の原本を一切見せる必要がないといったような誤ったメッセージを与えてしまうのではないかということだけが,やや危惧されますので,この遺言等の内容を明らかにするというからには,遺言書等の客観的な資料をきちんと示す必要があって,それが示されないうちは,金融機関が払戻しに応じなくても債務不履行にはならないということについて,改めてこの場で御確認をさせていただくとともに,今後出されるであろう解説においても,それを記載していただければと思っております。 ○堂薗幹事 ただ今の点につきましては,藤原委員の御指摘のとおりと考えておりまして,基本的には,債務者の方で明らかに債権の承継があったということが分かる資料を提示していただく必要があるものと考えております。その点を明らかにする趣旨で,「遺言の内容を明らかにして」という表現にしたものでございまして,その点は,基本的には,従前の考え方から変更はないという整理です。ただ,従前の考え方のように,遺言書の原本そのものを交付しなければ対抗要件を具備したことにならないという厳格な解釈がされないように,若干表現振りを修正させていただいたという趣旨でございます。 ○大村部会長 よろしいでしょうか。 ○藤原委員 ありがとうございます。 ○大村部会長 そのほかいかがでございましょうか。   御発言ございませんでしょうか。   それでは,この第5の「相続の効力等(権利及び義務の承継等)に関する見直し」につきましても,特段御異論はなかったということで,先に進ませていただきたいと存じます。   最後になりますけれども,第6の「相続人以外の者の貢献を考慮するための方策」,この点につきまして,事務当局の方から御説明をお願いいたします。 ○秋田関係官 関係官の秋田より御説明いたします。   第6については,2点の変更を新たに加えております。   1点目の修正点としましては,従前の部会資料における1のただし書前段にありました規律を削除し,これに代わり,1の本文に「無償で」との文言を加えております。これは,従前,特別寄与者が対価を得ていないことという要件をただし書において表現してきましたが,本文において請求権発生の要件として示したほうが,国民にとってより分かりやすく,またそのように表記することに特段の弊害もない,このように考えられたことから,表現に修正を加えたものでございます。したがって,規律の実質的内容に変更を加える趣旨ではございません。   2点目の修正点としましては,従前の部会資料における1のただし書後段の被相続人が反対の意思を表示したときは,この限りではないとの規律を削除しています。   前回の部会の議論におきまして,請求権者の範囲が被相続人の親族と定められ,従前より広がったことに伴いまして,本方策の制度趣旨としては,被相続人の推定的意思よりも,実質的公平を図るという色彩がより強くなったものと考えられました。そこで,規律を改めて検討しましたところ,従前の1のただし書後段の規律は,被相続人の一存をもって特別の寄与をして,被相続人の財産の維持又は増加に貢献した者の請求を否定することを認めるというものであり,場合によっては,この規律が実質的公平という方策の制度趣旨に反する場面もあると考えられました。   また,この方策は,実質的には寄与分の主張権者を拡大することを意図するものですが,現行法の寄与分に関する規律におきましても,今までの1のただし書後段に相当する記述は設けられておりませんので,この方策におきましても同様の整理をすることには,一定の合理性があると考えられました。   これらの点を考慮して,今回の御提案では,1のただし書前段,後段とも削除することとしております。   御説明は以上でございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   ただ今御説明いただきましたけれども,1のただし書というのが従前ございましたが,その前段,後段,それぞれ違う理由で,削除するという御提案でございます。いかがでございましょうか。   御発言ございませんでしょうか。   よろしいでしょうか。   それでは,この「第6 相続人以外の者の貢献を考慮するための方策」につきましては,ただ今御説明があったような理由によってただし書を削除し,表現に一定の修正を加えたという形でまとめさせていただきたいと存じます。よろしいでしょうか。   ありがとうございます。   これで,第1から第6まで御意見を頂いたということになります。この部会における審議結果といたしまして,民法(相続関係)の改正に関する要綱案につきまして,本日の部会資料26-1の内容で取りまとめるということにしたいと思いますが,いかがでございましょうか。   ありがとうございます。   御異論がないようですので,民法(相続関係)部会といたしまして,全員一致をもって部会資料26-1の内容で要綱案を決定したということにさせていただきたいと思います。どうもありがとうございました。   この要綱案につきましては,今後,法制審議会総会に報告をすることになります。それまでの間に誤字等の修正,その他実質的な内容の変更にはわたらない細かい表現,あるいは字句等の修正がなおあり得るかと思いますが,そのような意味での形式的な修正につきましては,部会長と事務当局に御一任を頂きたいと思いますけれども,よろしゅうございますでしょうか。   ありがとうございました。それでは,今の点につきましては,そのような取扱いにさせていただきたいと思います。   では,今後の予定につきまして,事務当局の方から御説明を頂きます。 ○堂薗幹事 どうもありがとうございました。   本日の会議で御決定いただきました要綱案を報告する法制審議会の総会は,今年の2月中旬に開催される予定でございます。この総会におきましては,大村部会長の方から要綱案の内容について御報告をしていただいた後に,総会の委員の皆様に御審議を頂くということになります。総会における御審議の結果,要綱の決定がされますと,直ちに法務大臣に答申がされるという運びになる予定でございます。   なお,この民法(相続関係)部会で御決定いただきました要綱案につきましては,いずれも必要な点検作業などを行った後,速やかに法務省ウエブサイトで公表したいと考えております。この点は,総会において要綱の決定がされた場合も同様でございます。   私からの説明は以上でございます。 ○大村部会長 ありがとうございました。   以上で,この部会の議事を終えることができましたので,最後に事務当局を代表いたしまして,民事局長の小野瀬委員に御挨拶をお願いしたいと思います。 ○小野瀬委員 それでは,一言御挨拶申し上げます。   本日は,部会としての要綱案の取りまとめをしていただきまして,誠にありがとうございました。事務当局を代表いたしまして,委員,幹事の皆様のこれまでの御尽力,御協力に心から感謝を申し上げます。   この部会では,高齢化社会が進展し,また家族をめぐる価値観が多様化するという社会経済情勢の変化を踏まえて,民事基本法である民法のうち,相続法の分野について,昭和55年以来の抜本的な見直しを行うという困難なテーマに取り組んでいただきました。   このため,平成27年2月の諮問を受けてこの部会が設置されて以来約3年間,合計26回の部会を開催させていただき,毎回長時間にわたり,大変熱心に御議論を重ねていただきました。この間,委員,幹事の皆様からは,現行の実務において問題となっている点等について,積極的に問題提起や改正提案をしていただき,その結果として,本日お取りまとめいただいた要綱案における改正項目はかなり多岐にわたるものとなりました。そのため,部会における審議期間も当初予定したものより長期間を要することとなりましたけれども,委員,幹事の皆様におかれましては,それぞれ大変御多忙である中にもかかわらず,部会の審議に御尽力,御協力を賜りまして,本当にありがとうございました。   また,この部会の取りまとめ役を担っていただきました大村部会長におかれましては,その卓越した御見識と周到な心配りによりまして,適切な議事の運営に当たっていただきました。審議の過程では,議論も白熱することが多くあったように思いますけれども,そのような場合でも,適切に論点を整理され,問題の所在を明確にした上で議論を進めていただいた結果,本日要綱案の決定に至ることができたものと考えております。心より厚く御礼申し上げます。   この間の議論におきましては,最終的に要綱案に盛り込まれなかった論点も含め,様々な案が検討されてきましたけれども,この部会において展開されてきました議論は,この要綱案が法律として結実した後の実務の発展にも大いに寄与するものと確信しております。   今後は,先ほど堂薗から御説明いたしましたとおり,来月中旬に開催予定の法制審議会総会への報告と要綱の決定,法務大臣への答申というスケジュールが予定されております。私ども事務当局におきましては,その後,関係法案をできる限り速やかに国会に提出するとともに,早期の成立を目指してまいりたいと考えております。もっとも,今度の通常国会では,民事局関係の法案だけを見ましても,多数の法案の提出が予定されておりまして,審議日程もかなりタイトになりますので,この法案の成立までには,なお紆余曲折があるのではないかと認識しております。皆様方には,是非引き続いての御支援,御協力を賜りますよう,どうかよろしくお願い申し上げます。   委員,幹事の皆様,関係者の皆様,本当にありがとうございました。 ○大村部会長 続きまして,私からも一言御挨拶をさせていただきたいと存じます。   ただ今の小野瀬委員のお話にもありましたように,本部会は,2015年4月に第1回会議を開催いたしまして,本日まで3年近くにわたりまして,合計26回の会議を重ねてまいりました。   これもお話がございましたけれども,本部会で審議の対象といたしました民法の相続法部分は,1980年の改正によって,配偶者相続分の引上げ等が図られて以来,改正がなされるということがございませんでした。今回,被相続人の財産形成等に貢献した配偶者等の保護という観点からの見直しが行われ,短期,長期の居住権が導入される等の改正案が取りまとめられました。   また,遺言の方式,保管,そして遺留分,あるいは遺言執行者の権限など,遺言による相続のウエートが増してきたことに伴う諸問題につきましても,社会の変化に対応した改正案が得られたと思います。さらに,仮払いなど,遺産分割に関わる重要問題についても,一定の解決を与えることができたのではないかと思います。   相続法は,理論,実務の双方に様々な難問を抱える領域であるため,審議が難航したこともございましたが,それにもかかわらず,無事に要綱案の取りまとめができましたのは,事務当局の周到な準備,とりわけ委員,幹事,関係官の皆様の熱心な御議論のたまものであります。   相続は,全ての国民にとって重大な関心事であります。それゆえに,相続法改正に対する国民の関心は非常に大きいものと思われます。補足説明はもちろんでございますけれども,様々な形で要綱案の内容の周知を図っていくということが重要であろうと考えております。この点は,委員,幹事,関係官の皆様も恐らく同様にお考えのことと思いますので,この場を借りまして,事務当局にお願い申し上げるとともに,皆様にも御助力をお願いする次第でございます。   最後になりますが,委員,幹事,関係官の皆様に改めて御礼を申し上げまして,私の御挨拶とさせていただきます。どうもありがとうございました。   それでは,以上をもちまして,法制審議会民法(相続関係)部会の審議を終えることとさせていただきます。どうもありがとうございました。 -了-