法制審議会 少年法・刑事法 (少年年齢・犯罪者処遇関係)部会 第1分科会第5回会議 議事録 第1 日 時  平成30年2月13日(火)   自 午前 9時57分                         至 午前11時53分 第2 場 所  東京地方検察庁総務部会議室 第3 議 題  1 自由刑の在り方について         2 若年受刑者に対する処遇原則の明確化,若年受刑者を対象とする処遇内           容の充実,少年院受刑の対象範囲及び若年受刑者に対する処遇調査の充           実について         3 その他 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○隄幹事 ただいまから法制審議会少年法・刑事法(少年年齢・犯罪者処遇関係)部会第1分科会第5回会議を開催いたします。 ○佐伯分科会長 本日は御多忙のところ,お集まりいただきましてありがとうございます。   まず,事務当局から,資料について御説明をお願いします。 ○隄幹事 本日,配布資料として配布資料14「自由刑の在り方(検討課題等)」と配布資料15「若年受刑者に対する処遇原則の明確化,若年受刑者を対象とする処遇内容の充実,少年院受刑の対象範囲及び若年受刑者に対する処遇調査の充実(検討課題等)」を配布しております。これらの資料は,ファイルにとじずに平積みしています。資料に不足がある方は,いらっしゃいますでしょうか。   配布資料の内容については,後ほど意見交換の際に御説明いたします。 ○佐伯分科会長 それでは,審議に入ります。   本日は,施設内処遇に関係する論点である「自由刑の在り方」と「若年受刑者に対する処遇原則の明確化,若年受刑者を対象とする処遇内容の充実,少年院受刑の対象範囲及び若年受刑者に対する処遇調査の充実」について意見交換を行うこととしたいと思います。   初めに,「自由刑の在り方」についての意見交換を行いたいと思います。   この論点についても,意見交換の参考とするため,事務当局において,これまでの分科会における意見交換の内容や,部会での御意見などを踏まえて,考えられる制度の概要や検討課題等をまとめた資料を作成してもらいました。   まず,事務当局から,「自由刑の在り方」に関する資料の説明をお願いいたします。 ○隄幹事 本日,「自由刑の在り方」に関する資料として,配布資料14「自由刑の在り方(検討課題等)」を配布しております。   配布資料14について御説明いたします。   「自由刑の在り方」につきましては,これまでの部会及び当分科会における意見交換の状況等を踏まえ,「考えられる制度の概要」とともに,検討課題となると考えられる事項を記載しました。いずれについても,現時点において考えられるものを記載したものであり,もとより,御議論の対象をこれらに限る趣旨ではありません。   考えられる制度の概要や検討課題として記載した事項について説明します。   まず,「考えられる制度の概要」については,これまでの意見交換の状況等を踏まえ,「懲役刑及び禁錮刑を単一化して新たな自由刑を創設する。」「新自由刑は,刑事施設に拘置して作業を行わせることその他の矯正に必要な処遇を行うものとする。」としております。なお,「新自由刑」というのは,新たな自由刑についての便宜上の仮称として用いています。   次に,検討課題について説明します。   「1」についてですが,現行法の懲役刑及び禁錮刑を単一化して新自由刑を創設することについて,まずは,その必要性及び相当性が検討課題になると考えられます。   「2」の「新自由刑の内容」については,新自由刑を創設するとすると,その内容,すなわち,矯正に必要な処遇をどのようなものとするか,具体的には,改善更生・社会復帰を図る上で重要な処遇方法であることに異論のなかった作業及び各種指導を義務付ける必要性や,義務付けるとしても義務の履行を担保する方策が検討課題になると考えられます。   そして,矯正に必要な処遇の内容を踏まえて,作業及び各種指導を義務付けることが刑罰の目的との関係で正当化されるのかや,それと関連して,矯正に必要な処遇を義務付ける根拠規定をどの法律に置くか,すなわち,これを刑法に置くのか,刑事収容施設法に置くのかなどについても検討課題になると考えられます。   「3」の「法定刑等の在り方」については,現行法の懲役刑と禁錮刑を単一化して新自由刑を創設する場合,新自由刑の下における法定刑等の在り方が検討課題になると考えられます。   まず,この論点を検討するに当たっては,その前提として,一つ目の「○」のとおり,新自由刑と懲役刑及び禁錮刑との刑の軽重について検討する必要があると考えられます。そして,これを踏まえて,二つ目の「○」のとおり,現行法において懲役刑・禁錮刑が定められている罪の法定刑をどのように定めるかが検討課題になると考えられますが,現行法上,懲役刑又は禁錮刑が定められている罪は,懲役刑のみが定められている罪,懲役刑及び禁錮刑が選択的に定められている罪,禁錮刑のみが定められている罪の三つに分類できますので,それぞれについて検討が必要と思われます。   また,三つ目の「○」にあるとおり,新自由刑を創設するとすると,刑法総則の規定,例えば有期刑の上限及び下限の在り方や,同じく自由刑に分類される「拘留」も併せて単一化するかについても検討課題になると考えられます。   最後に「4」の「その他」として,「新自由刑の言渡し・処遇の時的限界」,具体的には,新自由刑を創設するとした場合に,新自由刑の導入前(施行前)にした行為について新自由刑を言い渡すことの可否や,導入前(施行前)に確定した判決による懲役・禁錮受刑者の処遇の在り方という新自由刑の言渡し・処遇の時的限界などが検討課題になると考えられます。   配布資料14の説明は以上です。 ○佐伯分科会長 ありがとうございました。   ただいまの御説明に,この段階で,御質問や,ほかにも検討課題等があるのではないかといった御意見のある方は,挙手をお願いいたします。   よろしいでしょうか。   それでは,「自由刑の在り方」について,配布資料14に沿って意見交換を行いたいと思います。   先ほどの事務当局の説明にもありましたが,これまでの当分科会の議論では,自由刑を単一化する方向で検討すべきとの御意見を頂いているところですし,部会第6回会議でもこの方向性自体に反対する御意見はなかったことから,今後,新たな自由刑について,その内容等を具体的に検討していきたいと思います。   まずは,配布資料14の「1 懲役刑及び禁錮刑を単一化して新自由刑を創設する必要性及び相当性」について,これまでの議論を敷えんした御意見でも結構ですし,違った視点からの御意見でも結構ですので,御意見がある方は挙手をお願いいたします。 ○今井委員 この,いわゆる新自由刑を創設する必要性,相当性ということですが,これまでも発言させていただきましたが,私は賛成したいと思っております。   以下,その理由を繰り返させていただきたいと思います。   自由刑の受刑者に対して,作業と指導を含む処遇を義務付け,受刑者の特性に応じて,必ずしも作業を必須のものとしないという制度を,これまで考えてきたところですが,こういった制度は,受刑者の改善更生,社会復帰を重視する自由刑の在るべき姿と言えるのではないかと思うところです。   自由刑受刑者に対して,改善更生,社会復帰のために重要な役割を果たしている作業と指導を,受刑者の特性,様々な犯罪経歴であったり,生育歴等があるわけですけれども,そうした受刑者の背景をも踏まえて課すべきであるということには,異論はないものと思われます。   現行法では,作業は懲役刑受刑者にのみ必須のものとし,禁錮刑受刑者には申出があった場合にのみさせることになっておりますが,受刑者に作業を行わせるか否かは,受刑者の再犯防止,改善更生のためにいかなる処遇を行うのが適当なのかという観点から決定されるべきであると考えます。そういたしますと,受刑者の特性によっては,作業を全く課さないことも可能とする制度が,自由刑の本来の在るべき姿ではないかと思います。   このような自由刑とするためには,現行の懲役刑及び禁錮刑という区別を廃止いたしまして,仮称であります新自由刑という刑罰を創設するのが望ましいと考えます。 ○加藤幹事 今井委員からも御指摘がありましたように,自由刑受刑者の処遇について,懲役刑あるいは禁錮刑という刑種により区別するのではなくて,受刑者の特性に応じた個別的な処遇を行うという方向は望ましいものであるというのが,恐らくこの場での共通認識ではないかと思われます。そのような制度の下では,受刑者の特性によっては,作業を必須のものとしないこととする自由刑も認められるということになると思われます。   もっとも,懲役刑を廃止して,受刑者に対して作業をさせないこともできるということといたしますと,一方では,受刑者に甘いのではないか,寛刑化に過ぎるのではないかという受け止め方がされることも考え得ます。それは,ひいては一般予防という刑罰の目的が損なわれることにつながらないかといった懸念もあり得るところだと考えられます。   そのような観点も踏まえながら,新自由刑の在り方について考えていく必要があるのではないかと考えます。 ○青木委員 今の加藤幹事の話にも関連するんですけれども,今,懲役刑を廃止して,作業が必ずしも義務ではなくなった場合に,寛刑化ではないかという議論があり得るというお話があったんですが,一方で,単一化をして禁錮刑についても作業が課されるということについて,どう考えるかという問題もあると思います。   今の法律上は懲役と禁錮は分かれていて,その区別は作業の有無でなされているということです。それで,実際に懲役と禁錮が選択的に定められている罪において,過失の例で考えますと,悪質であるとか,規範意識が非常に鈍麻しているという,その非難の高いものが懲役になっているという状況があって,そういう全体の法律の構造から考えますと,今の時点で作業が義務となっているというのは,必ずしも処遇としてではなくて,やはりそれは罰として,非難をする,応報的な罰として作業というのが捉えられているんだろうと思います。だからこそ,刑収法でも禁錮については義務になっていないというのが,今の法律だろうと思います。   そうすると,今度の新自由刑という中では,罰の部分をどうするのかというのは,どうしても議論しなければならないところなのではないかと思います。それを,罰としてというのをそのまま生かすのだとしますと,要するに,全部懲役刑にしてしまうということになると,今の禁錮刑というのをどうするんだという話になるでしょうし,先ほどお話がありましたように,作業というのは飽くまで処遇の一環であるということだとすると,作業というのも罰ではないということをどういうふうにして表すのか,それについて批判もあるのかもしれませんし,一方で禁錮というものがなくなることについても,先ほど言った意味で,禁錮の方が軽い刑であって,非難の程度も低いと考えられていることとの関係でどうするのかという問題が出てくると思います。 ○今井委員 ただいまの青木委員の御発言は,恐らく今回の資料14によりますと,少し論点を先取りされた御発言であり,しかし非常に重要な点だと思うのですが,先に,加藤幹事が提起された問題について,若干,コメントさせていただきたいと思います。   加藤幹事の御発言は,今までは受刑者に作業を行わせること自体が懲らしめであるという発想が強かった,犯罪を犯した者に対する報いとして作業を課すという発想が一般的にも強かったのではないかという御認識の下に,今後,懲役刑を廃止することになりますと,刑を緩くする,寛刑化ではないかという批判があり得るのではないか,という御指摘であったかと思います。   しかし,ここで考えております作業は,受刑者に対する懲らしめの手段と捉えるべきではありません。受刑者に社会復帰に向けたいろいろな社会的なトレーニングをさせ,規則正しい勤労生活を維持させて,社会に復帰した際に適応する能力を育成するという目的のために課されている手段であろうと思います。つまり,作業は,広い意味で,受刑者の改善更生,社会復帰を促進する上で重要な処遇方法として,今日では位置付けられるべきだと思いますし,実際にも,そうした理解の下で実施されているものと理解しております。   したがいまして,受刑者の個性に応じて,作業をしなくてもよいとされる特定の受刑者があるとしても,それが受刑者に対して甘い制度である,あるいは寛刑化であると考えるのは,適切でないと思います。自由刑の重要な要素といたしましては,犯罪者を刑務所に入れて社会から一時期隔離するということ,そういった,刑事施設への拘置による自由の制約という点があります。この自由刑のコアの部分は,新自由刑においても維持されているわけであります。それに加えて,作業を,作業及び指導を含む矯正に必要な処遇という概念の下で整理し,受刑者に応じて作業を課していくということは,現在の懲役刑を軽くすることにはならないだろうと思います。   若干繰り返しになりますけれども,今ここで検討されております,新自由刑は,犯罪をしたことへの応報の要素も,もちろん,含みますが,受刑者の個性に応じた能力を養い,その改善更生,社会復帰を図るための制度であって,行刑の現状にも適合する発想であると思っているところでございます。 ○佐伯分科会長 ほかにはいかがでしょうか。   この程度でよろしいでしょうか。   それでは,次に,「2 新自由刑の内容」のうち,「矯正に必要な処遇の内容」について,意見交換を行いたいと思います。これまでの御議論でも,作業と指導を「処遇」という大きなくくりで捉え,個々の受刑者に適切な「処遇」を行うべきであるという考えが示されていました。このような御意見を踏まえ,新自由刑について,考えられる制度の概要についての御意見や,「矯正に必要な処遇」の具体的な内容についての御意見,そして,これらに関連して,これまでの部会や分科会での御議論をも踏まえて,作業及び各種指導を義務付ける必要性や義務の履行を担保する方策などについての御意見を頂ければと思います。   御意見がある方は挙手をお願いいたします。 ○橋爪幹事 新自由刑,内容につきまして,1点申し上げたいと存じます。   新自由刑は,懲役刑と禁錮刑を一元化した上で,より効果的な観点から改善更生や再犯予防を図るものと理解しておりますが,このような観点から資料14の冒頭にございますが,考えられる制度の概要の文言を具体的に見てまいりますと,「新自由刑は,刑事施設に拘置して,作業を行わせることその他の矯正に必要な処遇を行う」とされております。飽くまでも必要な処遇を行うことが,新自由刑の基本的な内容でありまして,作業を行わせるというのは,その例示にすぎないと考えるべきだと思います。   そして,この「矯正に必要な処遇」における必要性につきましては,正に受刑者個人にとって,改善更生,再犯予防の観点から,何が必要かという観点から具体的に判断すべき事柄であると思います。この点につきましては,更に今後検討が必要かと存じますが,現在の行刑実務を前提に考えますに,作業と各種指導が必要な処遇の基本的な内容であることについては,疑いがないと思われます。すなわち,作業と各種指導を並列的,かつ等価的に位置付けた上で,受刑者の個別の特性に応じた処遇を実施するという方向で,新自由刑の内容について具体的に検討すべきと考えます。 ○今井委員 ただいまの橋爪幹事の御意見と同じような意見になりますが,先ほども申し上げましたが,現在の懲役刑と禁錮刑の区別をなくし,新自由刑にする際の視点でございます。現在,懲役刑において,刑の内容として作業が義務付けられておりますけれども,これを,単に懲らしめのためのものと理解するのは相当ではなく,受刑者の改善更生,社会復帰を目的とする処遇として位置付け,理解することが,議論の出発点であろうと思います。   その上で,新自由刑におきましては,受刑者の改善更生,社会復帰のためにいかなる処遇を行うのが適切かという観点をより重視しまして,受刑者の特性に応じて作業,各種指導,その他の処遇内容や割合を決めるべきであると思います。   そういたしますと,作業と指導を区別しないで,両者を含む矯正に必要な処遇というものを,新たな概念として設けて,どの程度の作業を行わせるかといった点を含めて,処遇の実際の施行の在り方につきましては,受刑者個々人の特性に応じて柔軟に決められることとするという考え方もあり得るのではないかと思います。   現行法では,繰り返しになりますけれども,作業と指導が峻別されて,その法的位置付けは異なっております。それは恐らく,作業については,改善更生,社会復帰というよりも,犯罪を犯したことに対する応報的非難の発露という点に重きが置かれていたからではないかと思われます。もっとも,現行刑法制定時から,いわゆる近代派の考え方も十分考慮されてきているところでありまして,恐らく当時の立法者の間においても,作業が有する特別予防的効果,すなわち改善更生,社会復帰の効果も想定されていたのではないかと思われますが,実際には,科学的で個別的な処遇を行う前提である知見でありますとか,データの分析等が,当時は現在のそれとは比較にならないこともありまして,作業の応報的側面が認識されやすかったのではないかと思われます。   しかし,現在におきましてはそうではないのであります。現時点において,懲役と禁錮の区別を廃止する方向で考えますに,作業と指導の法的位置付けを異にしておく特段の合理性はなく,両者を合体したようなものとして受刑者の改善更生,社会復帰を目的とする処遇を構想することが,より適切であろうと思います。   付言させていただくと,このような受刑者の特性に応じての処遇を考える際には,どのような義務をどの程度,特定の受刑者に課していくのか,あるいは作業,指導等として割り当てていくのかということは,最終的には刑事施設の長の判断によって決まっていくことになると思います。その際には,刑事施設におかれましても,これまで以上に個別の受刑者に着目したきめ細やかな調査を行うことが,前提として必要だろうと思います。また,作業及び指導のメニューを充実することも,不可欠の前提ではないかと思います。   これらの具体的な在り方につきましては,この分科会が担当しておりますが,若年受刑者を対象とする処遇内容の充実という論点,あるいは若年受刑者に対する処遇調査の充実という論点とも密接に関連しておりますので,引き続き議論をしていくべきだろうと考えております。 ○橋爪幹事 次の点になりますが,「作業及び各種指導を義務付ける必要性」の観点について,1点申し述べたいと存じます。   現行法におきましても,懲役刑については作業が義務付けられており,各種指導につきましても,刑事収容施設法によって懲役刑,禁錮刑を問わず義務付けが行われていると理解しておりますが,新自由刑におきましても,作業,各種指導については,いずれも義務付けをする必要性があると考えております。   既に申し上げましたように,作業と各種指導というのは,受刑者の改善更生,再犯防止にとって重要な処遇内容であると考えますが,仮にこれらの処遇について義務付けを行わないとした場合には,「俺は作業もしなければ指導も受けない」という受刑者が相次ぐことが懸念されます。これでは,改善更生,再犯防止のための働き掛けが不可能になり,自由刑の目的が十分に実現できず,問題があるように思われます。   この点は御異論もあるのかもしれませんが,改善更生,再犯予防に向けた処遇とは,受刑者個人の利益に資するだけではなくて,再犯の危険性を解消し,社会の安全を担保するという意味におきましては,社会全体の利益にも関わってくる事柄ではないかと考えております。したがいまして,改善更生,再犯防止の機会は,受刑者本人が自由に放棄できるものではなくて,本人の意向にかかわらず,貫徹すべき目的であると考えております。   もちろん,意欲のない受刑者に対して処遇を義務付けましても,十分な効果を上げることは難しいのかもしれません。しかし,効果がないからといって,およそ処遇を断念すべきかというと,むしろそうではなくて,意欲のない受刑者であるからこそ,一定の義務付けによって改善更生の機会を与える必要性があるのではないでしょうか。本人の意思に反してでも,各種指導等の機会を継続的に与え続けることによって,初めて本人が真摯に反省し,改善更生への意欲を持つに至るということもあり得るように思われますし,そのような働き掛けの機会を担保することが重要であると考えます。   なお,このように,作業も各種指導もいずれも義務付け得ると解した場合でございますが,懲役刑については実質的な変更はありませんが,禁錮刑については,作業が新たに義務付けられることから,厳罰化に当たり得るという御意見もあり得るかと存じます。しかしながら,新自由刑は,先ほど来議論がございましたように,常に作業を義務付けることを想定しているわけではなく,飽くまでも矯正に必要な処遇を刑の内容とした上で,必要に応じて作業を課すものだと理解しております。したがいまして,改善更生のために作業を義務付ける必要性が乏しい受刑者については,作業を課さない,あるいは作業を大幅に減らすという個別判断は,当然にこれは可能であると考えております。   このように,作業の義務付けの要否について,現行法は懲役か禁錮かという二者択一的な区別しかなかったところ,新自由刑は言わばオーダーメードの形式で,受刑者の特性に応じた柔軟な処遇を容認するものといえます。したがいまして,理論的には厳罰化の可能性があり得るとしても,それが直ちに不当であるわけではないと考えております。 ○加藤幹事 今,橋爪幹事から御発言があった,作業及び各種指導の義務付けについて,この二つ目の「・」の「義務の履行を担保する方策」という観点から発言をさせていただきます。   私も,新たな自由刑において,作業及び指導はいずれも義務付けられるべきだと考えておりますが,それを前提として,義務の履行を拒否する者を放置することが好ましいとは考えられないことから,そのような者に対しては懲罰を科すということもやむを得ない場合があるということは,これまでに分科会でも発言させていただいたとおりです。   特に,指導については,これを受けようとする自発性がない受刑者に対して,懲罰の威嚇力によってその受講を促したとしても,指導の実効性は期待できない場合が多いのではないかという御指摘があることから,今の矯正の現場においては,仮に受刑者が指導を拒否したという場合であっても,直ちに懲罰を科すのではなくて,その意義などを粘り強く指導するなどの対応を採ることが通常であると承知しています。しかし,それでも,拒否する者を放置するのが相当とは思われません。当分科会でも御指摘がありましたが,刑罰を科して受刑者を改善更生,社会復帰させることは,本人のためであるのみならず,社会全体のためでもあるわけですから,受刑者に課される義務の履行を拒否した場合に,懲罰を科することによってその義務の履行を担保するということには,合理性があると考えられます。   ただ,他方で,受刑者本人がこれらの義務を履行するに当たって,できるだけ自発的にやる気を持って行うように誘引すること,それも重要であろうと考えられます。現行法の上でも,仮釈放の要件を判断する際,あるいは受刑者に対する優遇措置の実施を判断する際に,刑事施設における作業及び各種指導への取組の状況を考慮することとされていると伺っております。   そこで,その点を確認するために,それらの現行法上の制度あるいは運用について,改めて事務当局から御説明お願いします。 ○大橋幹事 作業及び各種指導の取組状況につきましては,毎月評価を行っております。仮釈放を許すべき旨の申出をするか否かに関する審査の資料の一つとして活用しております。具体的には,仮釈放を許すべき旨の申出の基準である悔悟の情及び改善更生の意欲の程度,再犯のおそれなどを判断する際の考慮要素ということになります。   施設内における処遇において,作業及び改善指導への取組状況が考慮されるという主な制度としましては2点ございまして,一つは制限の緩和,一つは優遇措置がございます。   一つ目の制限の緩和と申しますのは,改善更生の意欲の喚起及び社会生活に適応する能力の育成という受刑者処遇の目的を達成する見込みが高まるに従い,刑事施設の規律及び秩序を維持するための受刑者の生活及び行動に対する制限を順次緩和するというものであります。具体的には,上位の制限区分になりますと,扉に鍵がない居室に収容されるなど,拘禁度の低い環境で処遇されたり,外出・外泊あるいは外部通勤作業の対象となったりするものでございます。制限区分につきましては,犯罪の責任の自覚,改善更生,勤労意欲などの程度,職業上有用な知識及び技能の習得状況,社会生活に適応するための知識及び生活態度の習得状況,受刑中の生活態度の状況などを定期的に,原則6か月ごとに,又は随時評価して指定しますところ,作業及び各種指導への取組状況は,これらの評価に影響を与えるということになります。   2点目の優遇措置につきましては,受刑者の改善更生の意欲を喚起するため,定期的に,これも6か月ごとに受刑者の態度を評価して,優遇区分を指定し,その優遇区分に応じて,外部交通の回数を増加させたり,使用できる物品の範囲を広げたりするなど,良好な受刑生活を送っている受刑者により良い待遇を与えることになっております。作業の取組状況及び各種指導への取組状況については,この評価項目の一つとなっております。 ○加藤幹事 そういった評価がなされて,制限の緩和がなされたり,あるいは優遇措置が行われるという際の根拠となるという御説明がありましたが,これと仮釈放の判断との関係というのは,関連性があるものなのかのどうかという点はいかがでしょうか。 ○大橋幹事 仮釈放につきましては,先ほど申し上げましたとおり作業及び各種指導の取組状況の評価が審査の資料の一つとして活用されておりまして,刑事施設の長が仮釈放の申出をする際の資料の一つになっておりますけれども,制度上は,制限の緩和あるいは優遇措置のものが直接仮釈放の申出に結び付くことはございません。ただし,先ほど申し上げましたとおり,その仮釈放の申出を刑事施設の長が判断する際の判断材料の一つに,作業及び各種指導の取組状況はなっているということでございます。 ○加藤幹事 今の御説明によりますと,作業あるいは各種指導への取組の状況というのが,制限緩和,優遇措置等の判断においても考慮されることとされているということです。   これらの仕組みというのは,受刑者の改善更生の意欲を喚起する,あるいは作業及び各種指導への取組にやる気を持たせるために一定の役割を果たしていると考えられ,これは,新しい制度が導入されたとしても同様であるべきではないかと考えます。 ○今井委員 ただいまの大橋幹事からの御説明,大変興味深く伺っていたのですけれども,作業と指導を含む矯正に必要な処遇を受刑者に義務付けた場合でも,これまで御議論がありましたが,受刑者が自発的にこれらに取り組むことが望ましいという点は,言うまでもないところであります。   加藤幹事,大橋幹事からも御紹介がありましたように,受刑者の更生意欲を維持,向上させるために,作業や各種指導への取組の状況を,例えば仮釈放の要件や,優遇措置等の実施を判断する際の一つの事情として考慮するという良好措置的な制度は,今後も活用されるべきであるように考えます。   他方で,加藤幹事から御指摘がありましたが,このような良好措置的な制度があったとしても,受刑者の中には作業や各種指導を拒否する者がいることは将来的にも否定できないでしょう。そういった場合に,改善更生や社会復帰を実現するためにこのような処遇を義務付けているという,新自由刑の制度の趣旨からいたしますと,橋爪幹事からも御指摘ありましたが,拒否する者を放置するのが好ましいとは思われません。   そこで,義務の履行をより確実にするには,その担保方法として,義務の履行を拒否した者に対して懲罰を科すことができる制度も,やはり併せて設けておく必要があるだろうと思います。   このように,懲罰を背景とした不良措置的な制度と,先ほど御紹介がありました良好措置的な制度を組み合わせながら,新しい刑罰体制におきましても,義務の履行をより確保していく必要があるのではないかと思った次第でございます。 ○青木委員 今までのお話を伺って幾つかあるんですけれども,一つは,義務付けをしないと従わせられない,だから義務付けをして懲罰を科さないと駄目なんだということに関しては,必ずしもそれはそうではないと思います。放置するということではなくて,飽くまで説得は続けるわけですし,動機付けをするために必要なことは何なのかということを考えたり,あるいは,先ほどお話がありましたように,良好措置的なところで,裏返せば,努力しないと報われないということになるし,努力すれば報われるということになるわけですから,何らかの形できちんと改善更生の意欲を示しているということがよく評価されるということは,逆に言うと,そういう意欲を持っていないということは不利益に評価されるというところで担保されるという部分もあると思いますので,義務付けが絶対必要だというところには,ちょっと酌みし得ないのですけれども,仮にその義務付けをするとした場合に,その義務付けの根拠は何なんだろうかという問題があろうかと思います。   先ほど,懲役に関しては既に義務付けされているからというお話がありましたけれども,その義務付けの意味合いというのは,先ほども申し上げましたように,現在の法律制度上は,処遇の一環として義務付けられているということではなくて,義務付けの根拠は飽くまで刑罰,罰として,制裁としてというところなんだろうと思います。だからこそ,懲役と禁錮の区別がそこにあるということだろうと思います。   先ほどからのお話を伺っていますと,刑罰の内容で全くなくなるかどうかというところは置いておいたとしましても,制裁として不利益を,正に苦痛を与えるために作業を課すということではなくて,処遇の一環として作業を課すんだと,だから,今まで禁錮で作業を課されなかった人も,その処遇の一環として課されるのだという説明をするのだとしますと,それは,今まで懲役刑で義務付けられていたんだから,そちらは特に説明の必要がないということになるわけはなくて,やはり処遇として義務付けられるということについての根拠が必要なのだろうと思います。   そこは,応報ということというよりは,むしろ特別予防的なところから導かれるんだろうと思いますけれども,それが刑罰の内容なのかどうかというところは,非常に問題なのだろうと思いますので,その義務付けの根拠ということに関しても,きちんと議論しておく必要があるのではないかと思います。 ○加藤幹事 今の青木委員の御発言の趣旨を教えてください。作業が処遇の一内容だとすると,応報として義務付けられるということとは整合しないのではないかという御指摘があったように思われ,その点は,いろいろな御意見があるようにも思われますが,作業以外の処遇についても,義務付けるには何らかの根拠が必要なわけであり,その義務付けの大元になっているのは,何らかの犯罪を犯したことに対する応報あるいは制裁という要素ではないかとも考えられます。   応報の要素が義務の外枠を画するといいましょうか,義務付けられる内容は,更生あるいは社会復帰に資するものでなければならないということが言えたとしても,その作業あるいは指導の義務付けと応報というものが関係なくなる,無関係なものになるわけではないように思われるわけでありますが,その辺りの御認識というんでしょうか,前提になっているお考えについて教えてください。 ○青木委員 広い意味で応報ということなのかどうか,そこは置いておいたとして,拘禁されているという,自由を奪われているということについては,それは飽くまで罰として,苦痛を与えるという意味での制裁だと思うんですね。けれども,作業は置いておいて,それ以外の処遇ということに関しては,先ほども本人の利益のためになるだけではなくという言葉が出ているように,それを苦痛と感じる本人もいるかもしれませんけれども,苦痛を与えるためにやっているわけではなくて,飽くまで社会復帰とか再社会化とか,そういう目的のためにやっていることなので,苦痛を与えるための刑罰というのとは,やはり区別される部分があるんだろうと思います。   作業も,そういう意味で,当初の懲役というのは,苦痛を与えるために,それが結果として社会復帰に役立つんだとしても,目的としては飽くまで苦痛を与えるためという位置付けがあって行われていたものなんだろうと思うんですね。そういうところで,禁錮と区別されていたんだろうと思います。   そこで,その作業の性格がそういう形でがらっと全部変わるかどうかは別ですけれども,処遇の一環だということになると,ほかの処遇と同じように,苦痛を与えるためということではないけれども,こういう形で義務付けが必要なんだという説明が,作業についても同じように必要なのではないですかということを申し上げたかったということです。   だから,そういう意味では,ほかの処遇と同じように,ほかの処遇についても,それは苦痛を与えるためのものではないと思いますので,それが刑罰の内容として義務付けられるものなのか,広い意味で刑の目的からただ導かれるということで義務付けができるのかとか,そういうような議論になるんだろうと思います。 ○加藤幹事 確認いたしますと,作業というものが義務として課されるとすると,それが処遇としてどのように有効であるかと,どういう意味を持っているかということについて,十分な説明が必要であるという御指摘でしょうか。 ○青木委員 いや,そうではなくて,今までは作業の義務付けがあったのは飽くまで,はっきりしていたのは,刑罰の中身だということが,懲役という刑があってはっきりしていたわけですよね。だけれども,それを罰として,苦痛として与えるのではない位置付けをして,処遇の一環だというんだったら,作業についても処遇の一環なのだから,ほかの処遇ももちろん説明をしなければいけないけれども,作業を今まで義務付けられていたんだから当然でしょうとはならないのではないでしょうかということを,申し上げたかったわけです。 ○加藤幹事 なるほど,おおむね分かりました。 ○佐伯分科会長 今の御議論は,刑罰の目的との関係についても入っているかと思いますので,もしほかに御意見がなければ次にいきたいと思いますが,よろしいでしょうか。   それでは,矯正に必要な処遇の内容と「刑罰の目的との関係をどのように考えるか」,及び「矯正に必要な処遇を義務付ける根拠規定をどの法律に置くか」,すなわち,そのような規定を刑法に置くこととするのか,刑事収容施設法に置くこととするのかなどは,新自由刑の内容をどのように考えるかという点で相互に関連する部分もあると思われますので,この二つの項目について,まとめて御意見を伺いたいと思います。   御意見がある方は挙手をお願いいたします。 ○橋爪幹事 刑罰の目的論は,刑法学者永遠のテーマでございまして,なかなか軽々に発言しづらいのですけれども,あえて一般的な議論を申し上げるならば,刑罰は過去に犯した犯罪行為に対する法的非難として,本人及び社会に対して否定的評価を示すものであり,そして,このような法的非難及び否定的評価を示した上で,その範囲内で一般予防と特別予防という犯罪予防を実現するところにその目的があるというのが,一般的な理解ではないかと考えております。   このような観点からは,何が罰か,刑罰かという,先ほどからの議論でございますけれども,それは,犯罪に対する否定的評価,法的非難を示す手段であり,かつ,本人の意に反してでも一定の義務を課すという側面が,正しく刑罰の本質的内容を形成するように考えております。   先ほど青木委員の方からは,刑罰は罰であって苦痛であるという観点から,刑罰と処遇を対比するような形から御意見があったかと存じますが,むしろ処遇自体が刑罰であると考えるべきだと思います。すなわち,本人にとって利益か不利益かという観点ではなくて,それ自体が否定的な評価を担っており,かつ,本人の意に反してでも,自由を制限した上で義務を課すという観点,それ自体が刑罰の本質的内容であると考えますと,処遇それ自体を刑罰の内容と考え,それを義務付けることが十分に可能であると考えます。   具体的に申し上げますと,作業,指導を義務付けるという観点,言い換えますと,本人の意に反してでも一定の義務を課し,これを受けない自由を制約するという観点が,刑罰の持つ法的非難,否定的評価に対応しますし,そして,作業,指導が本人の改善更生を図り,特別予防的効果を有することは異論がないところかと存じます。このように,作業と指導はいずれも刑罰の目的を実現する重要な要素でありますので,先ほどから申し上げますように,これはいずれも刑罰の内容を構成すると考えるべきだと思います。   そして,刑法は,犯罪と刑罰に関する基本法でございますので,新自由刑の刑罰の内容,すなわち,作業と指導を含めた矯正に必要な処遇を行うことについては,刑法に規定するのが筋であると考えます。 ○加藤幹事 今の橋爪幹事の御意見を受けて意見を申し上げます。「考えられる制度の概要」に書かれている矯正に必要な処遇に,現在の各種指導が含まれていることを前提といたしますと,これを新自由刑の一内容として刑法に規定するとした場合,現行法では刑事収容施設法上の義務として定められている指導について,その規定を刑法に移すことになるとも考えられます。その条文の位置が変わることの意味について,現在の指導の役割との関係で申し上げたいと思います。   各種指導は,犯した罪に対する反省を深めさせて,規則正しい生活習慣,あるいは健全な物の見方,社会生活において求められる協調性等を身に付けさせ,又は,犯した罪の種類等に応じた実践プログラムを実施することなどによって,改善更生の意欲を喚起し,社会生活に適応する能力の育成を図る効果を有することから,これを行わせることは受刑者の再犯防止及び改善更生という刑罰の目的に資するものです。   現行法上,指導は刑事収容施設法において,行刑の一態様として義務付けられているものの,指導プログラムの開発等により一層充実化しており,指導の果たすべき役割は今後とも大きくなっていくと思われることから,新自由刑においては,指導を作業と同等に刑罰の目的を実現する上で重要な処遇として位置付けることが相当であり,作業に並ぶ矯正に必要な処遇の一内容とすべきであると考えられます。   そうであれば,そのような形で刑法に規定することがふさわしいと考えるという点は,橋爪幹事と同意見であります。そして,そのように条文の位置を変えたとしても,指導の意味や役割をこれまでと異なるものとするという趣旨ではないと考えられると思います。 ○青木委員 質問なんですけれども,今のように,作業もその他の処遇も刑罰の内容だとした場合に,今の禁錮刑との関係で,どのような説明になるのでしょうか。今までは,作業は刑罰の内容ではなかったということで,そういう意味では,禁錮刑は廃止するという意味合いになるんでしょうか。 ○加藤幹事 禁錮刑が廃止されるかどうかということについても,ここでの議論の対象だと思うのでありますが,私の理解としては,懲役刑と禁錮刑が廃止されて,新自由刑が創設されるのだと理解しています。すなわち,ここで新自由刑をいかなるものとするかが,正にここでの議論の対象でありますが,作業を必須のものとしないのが新自由刑であるとすれば,それは懲役刑でないことは明らかであり,それから,次第によっては作業も処遇の一環として義務付けられることがあるとすれば,禁錮刑とも異なります。したがって,懲役刑とも禁錮刑とも異なる新自由刑が創設されるという理解で,議論されているのではないかと認識しております。   もちろん,ほかの委員,幹事の先生方には異なる意見がおありかもしれません。 ○佐伯分科会長 「2 新自由刑の内容」について,ほかに何か御意見ございますでしょうか。   それでは,続いて,「3 新自由刑の下における法定刑等の在り方」のうち,まずは「新自由刑と懲役刑及び禁錮刑との軽重」について,先ほどの新自由刑の内容に関する御議論も踏まえて,意見交換を行いたいと思います。   御意見がある方は挙手をお願いいたします。 ○今井委員 私も,今加藤幹事がおっしゃったような理解をしている者でありますが,現行法の下では,懲役刑と禁錮刑がありますので,想定される新自由刑を,懲役刑と禁錮刑と比較することは,大切な最初のステップだろうと思います。その上で考えますと,なかなか難しいのでありますが,新自由刑は,禁錮刑よりは重い刑でありますが,懲役刑とは同等の刑を持つものとして想定できるのではないかと思います。   まず,禁錮刑との関係でありますけれども,新自由刑は,受刑者を刑事施設に拘置することに加えて,作業と指導を含むところの矯正に必要な処遇を刑罰として義務付けるものとして想定されておりますので,禁錮刑に比べると,刑の内容としての自由の制約がより大きいということになると思います。その意味で,新自由刑は禁錮刑よりも重い刑であると考えます。   次に,懲役刑との刑の軽重でありますけれども,新自由刑と懲役刑は,いずれも受刑者を刑事施設に拘置することに加えまして,一定の義務を課する刑罰であるという点では同等のものであります。ただ,先ほど来いろいろと御意見が出ておりまして,私もそう思うのでありますけれども,新自由刑におきましては,作業と指導が義務付けられますが,作業を受刑者の特性に応じて全くさせないこともできるものが望ましいと私も考えております。そこで,新自由刑は,懲役刑における作業義務に指導を受ける義務が単純に付加された,その意味で重くなっているものとは言えないように思います。   また,指導を受ける義務というものは残るように考えたいのでありますけれども,指導を義務付けられることは,現在の作業の義務付けと比べて自由の制約が著しく大きいとも考えられませんので,新自由刑が懲役刑より重い刑とは言えないように思います。   他方で,懲役刑においては,作業は必ずさせるということになっておりますが,先ほど申し上げたように,新自由刑においてはそうではなく,作業を全くさせない余地を認めるべきだと思います。ただ,その場合も指導を受ける必要がありますので,作業と指導を含む,両者を包括した矯正に必要な処遇という意味で,一定の義務を課されるという意味では,新自由刑と懲役刑において,受刑者の負担には差異がない,つまり,新自由刑が懲役刑よりも軽い刑とは言えないと思われます。そこで,結論として新自由刑と懲役刑との間で刑の軽重に差はないのではないかと考えているところでございます。 ○青木委員 また質問です。   そうすると,今のお話だと,現在の禁錮刑と同等の重さを持つ刑というのは,消えてなくなってしまうということになるんでしょうか。 ○今井委員 そのように理解しています。 ○青木委員 それでいいのかという問題が一つ残るような気がします。   それで,ついでにある程度申し上げたいんですけれども,先ほど,刑罰の内容として作業を含む処遇も入るというようなことがあったんですけれども,やはり整理としては,今までの苦痛を与えるという意味での刑罰の中身としては,やはり拘禁であって,義務付けをするかどうかということとは別ですけれども,むしろ刑の目的との関係で,そういう,ただ拘禁されている期間を無為に過ごすわけにはいかないし,社会復帰をする権利もあれば,再社会化をされる義務もあるという意味で,何らかの義務付けというのはあるんでしょうけれども,今までの懲役で作業が義務付けられていた,苦痛としてという意味ですけれども,そういうのと同じレベルの話として,処遇が刑罰の内容になるということについては,やはり何か釈然としないものを感じます。   ですから,仮に刑法の中にそれを書くとしても,刑の中身として書くのかどうかということについても検討する余地があるのではないかという気がします。そういう処遇を行うこと,あるいは処遇を受ける義務があることを仮に入れるとしましても,ちょっとうまく言えないんですけれども,罰としてというのとはちょっと違う気がするので,そこの区別が何らかの形であった方がいいのではないかという気がします。   そういう形になると,先ほどの今の禁錮がなくなってしまうということとの関係でも,説明が少しはつきやすくなるのかなという気がします。 ○加藤幹事 今の青木委員の御発言は,現行法の下では,拘禁が一つ罰で,それから懲役については作業も罰だという御認識だと思います。   一方で,新自由刑とした場合に,作業を含む処遇を義務付けるとしても,それを罰の内容からは外して,拘禁だけが罰の内容だと整理する考え方があるのではないか,それが従来の禁錮刑との関係で一つ説明しやすくなるのではないかという御指摘がありましたけれども,そのほかに,罰の内容であるものと,刑の目的として義務付けられているものの二つを区別することによって,何らかの法的な意味合いとか効果の相違が出てくるとお考えなのかどうかという点について,御教示いただけないでしょうか。 ○青木委員 その効果のところがどうなのかというのは,ちょっとよく分からないというか,まだ考え中ですけれども,本当に感覚としてで申し訳ないんですが,罰としてというのは,やはり処遇とはどうしてもそぐわない気がするんですよね。   だから,そこら辺,多分一般的にも,先ほどとの関係で言うと,寛刑化ではないかということとも絡むのでしょうけれども,やはり罰の部分というのは拘禁であって,その中で何が行われるかというのは,やはりちょっと違うのではないかという,本当に感覚の話で申し訳ないんですけれども,それで効果がどうなるのか,どういうふうに制度を組むかということとも絡むのでしょうから,必ずしもそこでどういうふうに整理をしたから,絶対こうなるとか,そういうものでもないとは思うんですけれども,どちらかというと,罰というのは,飽くまで本人の意思と全く関わりなく行われるものという意味合いが強いと思いますけれども,処遇というのは,現在の刑収法上もそうですけれども,本人の意思を全く無視して行いなさいという意味での,全くの上からの義務付けにはなっていないわけですし,そういうふうにしたのでは意味がないわけですから,そこの区別はどうしても必要だと思うんですね。   だから,そういう意味で,単なる苦痛を与えること自体を目的としているという罰というのとは,区別された形できちんとその処遇を位置付けるべきなのではないかということです。 ○加藤幹事 ありがとうございました。 ○橋爪幹事 ただいまの点について,3点簡単に申し上げたいと存じますが,まず1点目です。義務付けと刑の内容の関係でございますけれども,私個人の意見ですが,刑の内容であるからこそ,意思に反する義務付けが正当化できるように思いますので,義務付けは可能だが刑の内容ではないということは,理論的に説明が難しいような印象を受けました。   この点に関連して,2点目ですが,禁錮については,先ほど青木委員からも御指摘ございましたように,現行法の理解としては,刑罰の内容は専ら自由の制限であって,各種指導は刑の内容ではないけれども義務付けが行われていると理解する余地もあるのかもしれません。ただ,この点についても私個人の意見を申し上げますと,各種指導を受けることも,禁錮の刑の内容として理解すべきだと思います。明治の時代においては,刑罰は罰,苦役という観点が強く,指導を受けるということが刑罰の内容であるという発想が必ずしも十分ではなかったために,刑法典においては,刑の内容が拘禁に尽きるような規定ぶりになっているのかもしれませんが,各種指導を受けることを義務付ける以上,それは,現行法の解釈としても,刑罰の内容として理解すべきだと,個人的には考えております。   3点目ですけれども,仮に専ら自由の制約,拘禁自体のみが刑罰の内容であると考えますと,それは,確かに応報という観点からは正当化可能だと思うのですけれども,刑罰の特別予防的側面を重視するのであれば,やはり処遇を行うことを刑罰の内容から切り離すべきではないようにも思いました。 ○佐伯分科会長 私も橋爪委員と同じ意見を持っていまして,青木委員におかれては,仮にということでおっしゃったんですけれども,再社会化される義務,あるいは処遇を受ける義務というものがあって,それは刑罰の内容ではないという立場をもし採るとすると,では,義務付けの根拠は何かということになって,私はやはり,犯罪を犯したことを根拠として,刑罰の内容として義務付けられると説明せざるを得ないのではないかと思っているんですが,もしその点について何か御意見ございましたら,御教示いただければと思うんですが。 ○青木委員 要するに,意見が違うということなんです。   それは,ちょっと質問の形で申し上げたので,回りくどくなってしまったかもしれないんですけれども,むしろそういうことだから,刑罰にはしないで,そういう意味では,義務付けといったとしても,法的な意味で刑罰としての義務付けとはむしろならないのではないかと。だから,処遇ということだとすると,拘禁が刑罰であって,社会復帰だとか再社会化ということに関しては,刑事施設としてはそういうことに努力する義務はあるでしょうし,それから,もちろん中に入っている人についても努力する義務はあるのかもしれませんけれども,飽くまでそれは,そういう働き掛けをして,それを受けるという関係であって,そこは,刑罰として義務付けするべきものではないと考えるのが,本来の筋なのではないかというのが意見ではあります。   ただ,その意見は,それを置いておいたとして,仮に義務付けをするとしても,どういう形で規定をして,どこにどういうふうに規定をするのかということとの関係で,今,橋爪幹事が言われたように,現在の刑収法の指導について,禁錮について義務付けされているということについて,本当に根拠があるのか,本当にそれでよいのかと,刑法にも書かれていないものについてという議論はもちろんあるんでしょうし,だから,それは本来義務付けすべきものではなかったという整理の仕方もあるわけですね。   ただ一方で,ヨーロッパ諸国で,刑罰としては拘禁刑だけれども,行刑法上の義務ということで義務付けをしているところもあるわけですから,そういう形もあり得るのかもしれないし,刑法に仮に書くとしても,今までと同じように,懲役は作業を課するみたいな形ではなくて,刑としては拘禁刑,それとは別にこういうこともできますよという書き方もあるでしょうし,いろいろな形があるのではないかということも,申し上げたかった中身です。 ○佐伯分科会長 どうもありがとうございます。   ほかにはいかがでしょうか。 ○今井委員 1点,青木委員に質問ですが,今後教えていただければと思います。   ヨーロッパ諸国で,拘禁刑をベースとして,行刑法上の義務としていろいろな義務付けをしているという点は,私も概括的には知っているのですが,今のお話を聞いていて,刑罰の内容でないものをなぜ行刑法で義務付けることができるのだろう,行刑法は,刑罰の内容を具体化し執行するための法律ですから,その辺がちょっともやもやしておりますので,今後お分かりになりましたら,是非御教示いただければと思います。 ○佐伯分科会長 ほかにはいかがでしょうか。   この程度でよろしいでしょうか。   それでは,次に,「現行法において,懲役刑・禁錮刑が定められている罪の法定刑をどのように定めるか」について,新自由刑と懲役刑及び禁錮刑との軽重に関する先ほどの御議論も踏まえて,意見交換を行いたいと思います。   御意見がある方は挙手をお願いいたします。 ○加藤幹事 この論点は,青木委員が整理されたように,刑の内容は拘禁だけであるという刑を創るのかどうかによって,結論が変わってくるのかもしれないのですが,先ほど今井委員が整理されたように,仮に新自由刑は禁錮刑より重い刑であると,懲役刑との間では軽重に差はないということを前提として考えますと,懲役刑のみが規定されている場合は,新自由刑とするに当たって,その罪の法定刑の長期及び短期を改める必要はないと,一応考えられます。   他方で,禁錮刑が規定されている罪,すなわち,この二つ目の「○」の中にある三つの「・」の下の二つである,「禁錮刑のみが定められている罪」と,「懲役刑及び禁錮刑が選択的に定められている罪」については,新自由刑とするに当たって,その罪の法定刑について,下方に改める必要があるかどうかを検討する必要があるということになると思われます。   一つの考え方としては,それぞれの法定刑の長期及び短期を改めるべきだという考え方があり得ます。特に,禁錮刑だけが定められているものについては,禁錮刑よりも新自由刑が重い刑であるとすれば,法定刑の長期及び短期を下方に改めるという考え方があり得ることになると思われます。ただ,仮に改めるという考え方を採るにしても,法定刑の長期,短期をどの程度引き下げればよいのかというのは,困難な問題であろうと考えられます。   一方で,長期及び短期を改める必要はないという考え方もあり得ると思われます。現行刑法は,懲役刑及び禁錮刑を選択刑として定める罰条において,懲役刑と禁錮刑の間で,期間という意味では法定刑に差を設けずに,一律に長期及び短期を定めております。刑事施設への拘置に加えて,刑の内容として一定の義務を課すか否かによって,法定刑の長期及び短期に差を設けていないということを重視すれば,新自由刑とするに当たっても,法定刑の長期及び短期を改める必要はないという考え方も成り立つのではないかと考えられます。   ここからは実務的な量刑感覚でありますが,刑期が同じ懲役刑と禁錮刑の間に,事案として大きな軽重の差はないと思われているのではないかという点からいたしますと,2番目の説,改める必要はないということによるということも,十分に考えられるのではないかと考える次第であります。 ○橋爪幹事 ただいまの加藤幹事の御発言に関係して,1点申し上げたいと存じます。   新自由刑は,作業を義務付ける契機を含むという意味におきましては,現行法の禁錮刑よりも重い刑であることは否定し難いと思います。したがいまして,現行法の禁錮刑を新自由刑に変更するに際しては,新自由刑が重い刑であることを考慮した上で,法定刑の長期及び短期を改めるべきかについては,犯罪ごとに個別に検討するという理解も十分にあり得るとは思います。   もっとも,現行法でも,禁錮刑については,各種指導は義務付けられております。そして,指導と作業はともに,改善更生,社会復帰のために必要な処遇の内容を構成するわけでありまして,両者は基本的には同等に取り扱うというのが,新自由刑の基本的な理念であると理解しております。   そのような意味におきましては,作業の義務付けが加わったとしても,その不利益性は実質的にはそれほど重大ではないという理解もあり得るように思います。更に申しますと,自由刑の実質的な不利益性を考える上では,先ほど加藤幹事からも御指摘ございましたように,飽くまでも自由剥奪の期間の長短が決定的な要素であるようにも思われます。これらの観点を重視するのであれば,禁錮刑を新自由刑に改める場合についても,あえて法定刑の長期,短期を変更する必要はないという理解も,十分にあり得るように思います。 ○青木委員 結論が出ているわけではなくて,むしろ疑問のままでとどまっているんですけれども,先ほど申し上げましたように,この懲役刑と禁錮刑が選択的に定められているものについて,懲役を選択するのか,禁錮を選択するのかというのは,悪質性だとか,そういうことについて非難の程度が違うというふうな形で今までやられてきたと思うんですね。そういうものについて,区別ができなくなってしまうのではないかと。それについては,どういう手当をするんでしょうかというのが,よく分からないところなんですけれども,教えていただけますでしょうか。それは,法定刑で区別できるんでしょうか。 ○佐伯分科会長 これまでの議論で一本化がおおむね賛同を得ていた一つの理由としては,そういう非難の程度で懲役刑か禁錮刑かということを区別するのは適当でないという御意見があったと思いますので,それがもし支持されるとすれば,今後はそういう非難の程度を刑の種類として表す必要はないということになるのではないかと思うんですけれども。 ○青木委員 実務感覚でどうなんでしょうというのを,できれば裁判所にも伺いたいんですけれども,やはりかなり,特に自動車運転の関係では,懲役なのか禁錮なのかというところで,いろいろな形で実際にはどうするかということを検討して,懲役が選択されたり,禁錮が選択されたりしていると思うんですけれども,今後そういうものがなくなったとして,その非難の程度の差というのは,もう無視していいんですよと割り切れるものなのかどうか,ちょっとよく分からなかったんですけれども,どんなものなんでしょうか。 ○福島幹事 何ともお答えの難しい御質問でありまして,新しい制度が始まったらどんな運用になるかというのを想像するのは難しいところであり,ちょっと固いお答えになるかもしれませんが,仮に今,御議論されているような新自由刑が設けられるということになると,裁判所としては,その刑の中身,それからその立法に至る御議論や趣旨等を踏まえて,個別の事件ごとに刑責にふさわしい量定をしていくということに尽きるのでありまして,今の御質問の中にあったことで申し上げられることとすると,事案によって悪質性が違うのではないかと,そこを無視するのかということについては,そこは,無視はしないんだろうと。量定する中で,その事案の中身がどういうものであったのかということについては,当然見ていくことになるのではないかと思います。   現時点で申し上げられるのは,この程度ということになるかと思います。 ○橋爪幹事 1点申し上げますと,刑法第10条第1項ただし書は,刑の軽重の比較において,有期の禁錮の長期が,有期の懲役の長期の2倍を超えるときも,禁錮を重い刑とすると規定しておりまして,あたかもこれは,懲役の方が禁錮よりも2倍重たい自由刑であるかのような規定内容になっているわけですが,このような理念が刑法典全体を貫徹しているとは到底思えません。多くの犯罪類型につきましては,懲役,禁錮は並列的に規定されておりますので,刑法第10条第1項ただし書の規定にかかわらず,現行法においても懲役と禁錮の刑の軽重については,それほど大きな相違があるとは考えられてこなかったように思います。 ○加藤幹事 付け加えてなのですが,今,御指摘のあった懲役と禁錮に,同じ刑期であれば2倍の差がある,逆に言えば,同じ罪に対して,懲役を科するか,禁錮を科するかという際に,懲役であれば刑期を半分にするというのが実務感覚でないことは,多分共通理解ではないかと思われます。   その点は,改正刑法草案の際にも御議論があったようで,現在の刑法第10条に当たる規定については,改正刑法草案の第33条に規定があり,懲役と禁錮は,基本的にはその前の条,第32条に規定した順序に重いということで,懲役の方が禁錮よりは重いとする一方で,しかしながら,有期の禁錮の長期が有期の懲役の長期を超えるときも禁錮の方が重いとなっていますので,禁錮の長期が長ければ,短い方の懲役よりは重いとなっていて,要するに,刑期での比較になっていますので,現行法の2倍というような差はないのではないかという考え方に立っていたようでございます。   この刑法の現行法の第10条ですとか,改正刑法草案における第33条というのは,いわゆる処断刑を形成する際等に適用される規定で,実際の言渡し刑にこの規定が反映されているというわけではないのではないかとも思われます。一方で,懲役と禁錮とは,この分科会でのこれまでの御議論でも,確かに非難の有様によって区別が今まではされていたのではないかという御指摘がありましたけれども,破廉恥犯か非破廉恥犯かという種類の違いという面が大きいようであり,禁錮の方が軽いとしても,懲役に比べて,同じ刑期であれば,大きく軽い刑であるとは認識されていなかったのではないかと思う次第です。 ○佐伯分科会長 ほかにはいかがでしょうか。   この程度でよろしいでしょうか。   それでは,次に,「刑法総則の規定について」について,これまでに出た刑の軽重や法定刑等に関する議論も踏まえて,意見交換を行いたいと思います。   御意見のある方は挙手をお願いいたします。 ○橋爪幹事 この点について,幾つか論点となり得ることを申し述べたいと存じます。   懲役刑と禁錮刑を廃止して新自由刑に一元化する場合でございますけれども,これは,法定刑に関する先ほどの議論とも関連いたしますけれども,新自由刑についても有期と無期の区別を設けるか,有期の新自由刑の上限と下限をどのように設定するか,有期の刑の加重減軽の限度をどのように規定するかなど,関連する問題が生じてまいります。基本的には,実質的な変更は必要ない気もいたしますけれども,いずれにしましても,この点につきましては十分な検討が必要であると考えます。   さらに,懲役,禁錮を一元化した場合ですが,刑法第16条の拘留についても一元化するのか,あるいは拘留は新自由刑とは別個に存置するのかという点も問題になろうかと思います。   個人的な意見を申し上げますと,拘留と申しますのは,軽微な犯罪について,言わばショック療法として短期自由刑を科すものであると理解しておりますので,新自由刑が想定するような改善更生,再犯防止に向けられた処遇を本格的に実施することは時間的制約から,困難であるように思われます。このような観点からは,拘留については,あえて新自由刑に一元化するべきではなく,存置する必要があるように考えておりますけれども,この点につきましても,更に今後検討が必要かと存じます。 ○佐伯分科会長 ほかにはいかがでしょうか。   「刑法総則の規定について」は,この程度でよろしいでしょうか。   「新自由刑の下における法定刑等の在り方」についてはいろいろ御意見伺ったわけですけれども,今後更に具体的な検討を進めるに当たっては,現行法においてどのような罪に禁錮刑が定められているのかを勘案しつつ,議論を行うことが有益であると思われますので,次回以降に事務当局において説明をお願いできますでしょうか。 ○隄幹事 承知いたしました。 ○佐伯分科会長 それでは,今の点をお願いすることにして,最後に「4 その他」の「新自由刑の導入前(施行前)にした行為についての新自由刑の言渡し・処遇の時的限界」について,意見交換を行いたいと思います。   御意見がある方は挙手をお願いいたします。 ○加藤幹事 まず,先ほど申しました,懲役刑及び禁錮刑を廃止して新自由刑を創設することとするという私の認識に従いますと,施行前にした行為について,新自由刑の言渡しや処遇の時的限界を検討する必要があるという,立案技術的な問題を含む問題がございますので,立案を担当する立場から,論点提起をしておきたいと思います。   禁錮刑は,新自由刑より軽い刑であるということを前提にすると,法定刑として禁錮刑が定められた罪を新自由刑の施行前に犯した場合に,新自由刑を科すということは,憲法第39条前段の趣旨に反し許されないことになりそうです。むろん,刑期をより短くすれば,許容され得る余地があるという議論はあるかもしれませんが,少なくとも同じ刑期の新自由刑は科し得ないと考えられると思います。   これに対して,懲役刑は,新自由刑との間で刑の軽重に差はないとすると,法定刑として懲役刑が定められた罪を新自由刑の施行前に犯した場合に,新自由刑を科すことは必ずしも禁じられていないとも考えられます。新自由刑の施行前にした行為について,新自由刑の言渡しや処遇の時的限界についてどのように考えるかは,その観点から問題になり得ると考えられます。   その考え方の一つは,行為時を基準とする考え方であり,新自由刑の施行前にした行為について懲役刑に処す場合には懲役刑を言渡し,新自由刑の施行後にした行為については新自由刑を言い渡すとするものという考え方です。   もう一つは,判決時を基準とする考え方であり,判決が新自由刑の施行前に宣告されるときは懲役刑を言い渡す,新自由刑の施行後に宣告されるときは,施行前にした行為についても新自由刑を言い渡すという考え方があり得るのではないかと思われます。どちらがよいかという点については,今のところ意見を申し上げられる状態にないので,論点の提起だけをいたしたいと思います。   他方で,処遇の観点なのですが,新自由刑の施行前に判決が確定した受刑者というのは,いずれにしても懲役刑を言い渡されているわけですが,そのような懲役刑受刑者については,全て新自由刑の処遇をするものとするという考え方もありそうでありますし,一方で,懲役刑受刑者については従来の懲役刑を執行するという考え方もありそうであります。   こちらの問題についても,新自由刑の内容あるいは刑の軽重と密接に関連する事柄でありましょうから,併せて御検討いただきたいと考えています。 ○今井委員 今,加藤幹事がおっしゃった最後の部分について少し申し上げます。懲役刑が判決で確定いたしまして,その後に新自由刑が施行された場合に,対象者に対して,どちらの刑を実際に処遇段階で実施するのかという問題でありますけれども,このような新自由刑の施行前に判決が確定した懲役刑受刑者に対して,新自由刑を適用することは,新自由刑を施行することによるメリット,今私たちが考えているような,処遇効果を十分踏まえて新自由刑を創設するという趣旨には合うわけではありますけれども,検討すべき点も残っていると思います。   理論的には,確定判決で言い渡されていた刑,懲役刑につきまして,その刑の内容である処遇を執行段階で変更するということが,仮にそのような趣旨を定めた法律が存在したとしても,可能なのだろうかという点を検討する必要がありますし,また,実態面といたしましても,本日いろいろ御議論があるところでしたが,懲役刑の処遇が新自由刑の処遇に変わるということになった場合に,新たなセットとしての処遇を課すことで,受刑者にとって本当に不利益性に変化がないのかという点は,先ほども申しましたが,これからどのようなオプションを考えていくかということを踏まえて,具体的に検討されるべきではないかと思うところであります。 ○佐伯分科会長 ほかにはいかがでしょうか。   この程度でよろしいでしょうか。   それでは,ここまでで配布資料14に記載されている1から4までの検討課題について,一通り意見交換を行いましたが,その他,「自由刑の在り方」について,現時点で御意見がある方は挙手をお願いいたします。   現時点ではないということでよろしいでしょうか。   それでは,「自由刑の在り方」についての本日の意見交換はこの程度といたしまして,本日の二つ目の論点である「若年受刑者に対する処遇原則の明確化,若年受刑者を対象とする処遇内容の充実,少年院受刑の対象範囲及び若年受刑者に対する処遇調査の充実」についての意見交換を行いたいと思います。   この論点についても,事務当局において,考えられる施策等の概要や検討課題等をまとめた資料を作成してもらいましたので,まず,事務当局から若年受刑者に対する処遇原則の明確化等に関する資料の説明をお願いいたします。 ○隄幹事 本日,若年受刑者に対する処遇原則の明確化等に関する資料として,配布資料15「若年受刑者に対する処遇原則の明確化,若年受刑者を対象とする処遇内容の充実,少年院受刑の対象範囲及び若年受刑者に対する処遇調査の充実(検討課題等)」を配布しております。   配布資料15について御説明いたします。   若年受刑者に対する処遇原則の明確化等につきましても,これまでの部会及び当分科会における意見交換の状況等を踏まえ,第1から第3までの「考えられる施策・制度の概要」とともに,それぞれについて検討課題となると考えられる事項を記載しました。   「少年院受刑の対象範囲」は,「若年受刑者を対象とする処遇内容の充実」のための方策の一つとして,若年受刑者を対象とする処遇内容の充実に含めています。   そして,「若年受刑者に対する処遇原則の明確化」については,若年受刑者に対してどのような処遇等を行うのかということを踏まえて検討する必要があると考えられるため,意見交換の順番を考慮し,最後の第3としています。   いずれについても,現時点において考えられるものを記載したものであり,もとより,御議論の対象をこれらに限る趣旨ではありません。   考えられる施策・制度の概要や検討課題として記載した事項について説明します。   まず,第1の「若年受刑者を対象とする処遇内容の充実」については,施策・制度の概要としては,「若年受刑者の改善更生のため,若年受刑者の特性に応じた処遇の充実を図る」というものが考えられ,検討課題として,A案とB案の二つの案を記載しております。   A案としている「刑事施設において,少年院の知見等を活用して,若年受刑者に対する処遇の充実を図る」という案については,必要性のほか,具体的内容や法整備の要否が検討課題になると考えられます。   B案としている「一定の年齢の成人受刑者を含めて,少年院において刑の執行をする制度(少年院受刑)を導入する」という案については,少年院受刑という制度を設ける必要性及び相当性のほか,少年院において受刑者に対して行う処遇の内容が検討課題になると考えられます。さらに,少年院に受刑者と保護処分対象者とを収容することになるため,受刑者と保護処分対象者の分離の在り方についても検討課題になると考えられます。   第2の「若年受刑者に対する処遇調査の充実」については,施策・制度の概要としては,「個人の特性に応じた適切な処遇を選択するため,若年受刑者に対する処遇調査の充実を図る」というものが考えられます。   この施策・制度の検討に当たっては,必要性のほか,具体的内容や法整備の要否が検討課題になると考えられます。   第3の「若年受刑者に対する処遇原則の明確化」については,制度の概要として,「若年受刑者に対する処遇原則に関する明文規定を設ける」というものが考えられます。   この制度の検討に当たっては,必要性のほか,処遇原則として規定する内容が検討課題になると考えられます。さらに,若年であること以外の特性に応じた処遇原則の要否についても検討課題になると考えられます。   配布資料15の説明は以上です。 ○佐伯分科会長 ありがとうございました。   ただいまの御説明に御質問や,この段階で,ほかにも検討課題等があるのではないかといった御意見のある方は,挙手をお願いいたします。   よろしいでしょうか。   それでは,若年受刑者に対する処遇原則の明確化等について,配布資料15に沿って意見交換を行いたいと思います。   「第1 若年受刑者を対象とする処遇内容の充実」については,これまでの議論を踏まえ,刑事施設において,少年院の知見等を活用して,若年受刑者に対する処遇の充実を図るA案と,一定の年齢の成人受刑者を含めて少年院受刑を導入するB案が示されているところ,まずはA案の検討課題についての意見交換から行いたいと思います。   A案の必要性,A案で実施されるべき処遇の具体的内容,そしてこれを踏まえた上での法整備の要否について,いずれの項目についてでも結構ですので,御意見のある方は挙手をお願いいたします。 ○加藤幹事 必要性あるいは具体的内容の観点からなのでありますが,若年受刑者の特性に応じた処遇の充実を図ると言っても,具体的にどういったことがし得るのかという観点から考えてみる必要があると思われます。   これまでの分科会等においては,少年院における処遇の内容,あるいはその成功例といったものを参考として,少年刑務所等の刑事施設における処遇内容について,より一層の充実が図られるべきではないかとの御意見や,現在少年院で行われているような教育的な処遇が有用である場合には,刑事施設においても同様の処遇を行うことが考えられるのではないかとの御意見,さらには,現在刑事施設において実施されている少年受刑者に対する処遇を若年受刑者に拡大して実施することが考えられるのではないかとの御意見などがございました。   これらの意見を基に,より具体的にどういった形での処遇の充実が考えられるのかを検討してみる必要があると存じますが,その際,どのような方策が考え得るのかという点を実務的観点から事務当局において御説明の用意があれば伺いたいと存じます。 ○大橋幹事 このA案に基づいて,どのような処遇内容が検討できるかということで,若年受刑者の中には,教育的な内容を多く盛り込んだ処遇を行うことによって,より高い処遇効果を得られる者もいると考えられますことから,このような若年受刑者を対象として,刑事施設において少年院における矯正教育の手法,ノウハウ等を活用した処遇を行うことができるのではないかとは考えております。   具体的には,例えば,教育的な処遇が効果的であると思われる若年受刑者を10名から20名程度の小集団に編成をしまして,小集団を担当する職員を5名程度で構成をして,集団指導体制及び個別担任制を導入した上で,現在少年院の矯正教育において実施されている暴力防止指導,交友関係指導をモデルとした改善指導,あるいは,矯正教育によって同じく実施されております職業生活設計指導をモデルとした就労に関する指導,また,個別担任制による個別指導,日記指導のほか,必要に応じて夜間,休日においても集会活動,その他の生活指導を実施することなどが検討できるのではないかと考えております。   また,既存の刑事施設の枠組みではその特性に応じたきめ細やかな処遇が難しいと考えられる者,例えば,知的障害あるいは発達障害を有している者,あるいは対人スキルに問題を有している者などのうち,特に手厚い処遇が必要となる者について,既存の少年院の設備・建物等を活用した刑事施設に収容しまして,職員との密接な関係をベースとした落ち着いた環境を構築し,より個別のニーズに応じて社会生活に必要となる基本的な生活習慣,生活技術,対人関係等を習得させるための指導を中心とした処遇を実施するということも検討できるのではないかと考えております。   女子の問題は,この分科会等でも取り上げられることがございましたけれども,女子の若年受刑者については,男子と比べると数がかなり少ないと見込まれます。今申し上げましたとおり,小集団を編成しての処遇の実施についてどうするかという問題については,慎重に検討する必要がありますけれども,女子の若年受刑者についても,既存の少年院の設備・建物等を活用した刑事施設での処遇が実施できるかどうかというような検討をしていきたいと考えておりますし,職業生活設計指導をモデルとした就労に関する指導,あるいは個別担任制による個別指導,日記指導など,実施可能と思われる処遇充実策について,女子の若年受刑者に対しても積極的に実施していくことを考えたいと思っております。 ○佐伯分科会長 ありがとうございます。   今の御説明についての御質問,あるいは御説明を踏まえた御意見等がありましたらお願いいたします。 ○今井委員 ただいまの大橋幹事の御説明,大変私も興味深く伺っていたのですが,A案は,具体的に施行し得るものではないかと思った次第でございます。   現状,少年院におきましては,ただいまの御説明にもありましたが,非行,犯罪をした少年や若年者に対する非常にきめの細かい処遇実績を有しておられると認識しております。例えば,対象者の成長や身体的,肉体的な発達の度合いを踏まえたきめの細かい処遇もなされていると思いますし,あるいは,被害経験を負った者に対しては,そういうトラウマを除き,自尊感情を高めるような働き掛け,心理学,人間諸科学を使った様々な取組がなされていると理解しております。そのような処遇は,特に若年者の犯罪者に係る再犯,再非行防止のためには,今後とも効果的であり続けると思っております。   そのように考えますと,刑事施設において若年受刑者に対する処遇を今後より充実させていく際には,少年院がこれまで培ってこられたノウハウ,経験をより積極的に活用していくことが,極めて現実的な選択肢ではないかと思いました。   ただ,現在の刑事施設と少年院とを比べますと,施設の規模,構造,あるいは収容人員,職員の体制,処遇の方法などが相当異なっております。それは当然のことでありますので,現在の刑事施設の設備,建物等では,少年院のそういったノウハウが十分にいかしきれない場合があるのかもしれません。そうした際には,これも大橋幹事から御説明がありましたけれども,女子も含めまして,少年院の設備,建物等を活用した刑事施設を設けるといった取組などもお考えになっていただければよいのではないかと思った次第でございます。 ○橋爪幹事 ただいま大橋幹事から御説明ございましたように,少年矯正の人的・物的資源を活用した処遇内容は,若年受刑者に対する処遇の充実という観点からは極めて有益であると思われますので,是非積極的に御検討いただければと存じます。   ただ,あえて1点申し上げますが,今伺った検討内容は,従来の処遇内容とは異なる内容も含んでいるようにも思われますので,これらの処遇が,どのような者に対して実施するのが効果的かという観点,さらに,いかなる対象者に対して実施することが相当といえるのかという観点から,更に具体的な検討が必要であるような印象を持った次第です。   このような意味において,この問題は第2の論点にも関係してまいります。すなわち,対象者の合理的な選定に際しましては,十分な判断資料の収集が不可欠でございますので,第2の論点,すなわち「若年受刑者に対する処遇調査の充実」につきましても,処遇内容の多様化の御方針を踏まえた上で,これらの処遇を選択する上でいかなる情報が必要になるかという観点から,更に検討が必要かと存じます。 ○加藤幹事 確認なのですが,ただいまの大橋幹事から御説明のあった内容ですとか,御意見のあった内容について,仮に実現をしていくという際に,現在の刑事収容施設法の下で実施可能でない,逆に言うと,新たに法整備を必要とする内容が含まれているのかどうかという点について,現時点で事務当局の方に知見があれば教えてください。 ○大橋幹事 先ほど御説明した内容については,現在の刑事収容施設法において,その中で実施可能とは考えておりますけれども,今後,若年受刑者に対する処遇内容について検討が進められていく中で,法整備の要否についても併せて検討していく必要はあると考えております。 ○佐伯分科会長 ほかにはいかがでしょうか。   この程度でよろしいでしょうか。   それでは,次にB案,すなわち,一定の年齢の成人受刑者を含めて少年院受刑を導入する案の検討課題についての意見交換を行いたいと思います。   B案については,少年院受刑の制度を設ける必要性及び相当性,少年院において受刑者に対して行う処遇の内容,受刑者と保護処分対象者の分離の在り方について御意見を伺いたいと思います。また,先に議論したA案とこのB案は,採り得る方策としては両立するものですが,A案との対比など,その議論を踏まえた上でB案についての御意見がありましたら,それも伺いたいと思います。   いずれの項目についてでも結構ですので,御意見がある方は挙手をお願いいたします。 ○橋爪幹事 B案につきまして,思うところを申し上げたいと存じます。   以前の当分科会におきまして,私の方から,少年院受刑についても検討する必要があると申し上げた次第ですが,それは,発達障害等の問題を抱える若年者,あるいは女子若年者につきましては,少人数できめ細かい処遇が必要であり,そのためには,少年院の人的・物的資源を活用することが有益であると考えたからでございます。   もっとも,今御説明を伺っておりますと,A案の立場からも,障害を抱えた受刑者や女子については,個別に手厚い処遇について,現行の少年院の設備等を転用する形で御検討を進められていると伺いました。仮にこのようにA案からもこの点が十分に解決できるのであるならば,B案を積極的に推進する必然性は,後退するようにも思われます。   また,B案につきましては,既に以前の分科会で青木委員からも御指摘がございましたけれども,少年院と同一の施設におきまして,保護処分対象者である少年と受刑者である成人が混在することになります。この混在の弊害をどのように解消するか,さらに,両者をどのように分離するかという課題についても,更に検討が必要でしょう。   B案の導入につきましては,これらの検討課題についても十分に考慮する必要があると考えます。 ○今井委員 ただいまの橋爪幹事とほぼ同じ意見でございますけれども,今の御発言も,B案の検討課題としての三つの「○」の最初の二つ,あるいは全てに関連しているかと思いますが,私も,橋爪幹事がおっしゃったように,B案は,知的障害があったり,発達障害を有するような方との関係では,少年院という場を使うことが,より現実的で効果的ではないかと思っておりました。   ただ,本日,大橋幹事のお話を聞きますと,A案においても,同様の実施体制が見込まれるであろうと思いました。   また,B案を今後,仮に検討していく際には,そうした対象者の選定と,その前提として,対象者との関係で,どのような情報,非行に係る,あるいは犯罪のバックグラウンドに関する情報を集め,客観的に分類し,いわゆる少年院受刑に適する方か否かを判断するのかという点が一番大事なところでありますので,その点のより具体的な検討が,今後も必要であろうと思いました。   B案を考える際の問題点として,改めて指摘させていただきました。 ○佐伯分科会長 ほかにはいかがでしょうか。   A案で十分ならば,B案について詳細な検討をする意味がなくなるのかもしれませんけれども,とりあえず,この程度で今のところはよろしいでしょうか。   それでは,続いて「第2 若年受刑者に対する処遇調査の充実」について,意見交換を行いたいと思います。   処遇調査を充実させる必要性,充実させるとすると,その具体的内容,そしてこれを踏まえた上での法整備の要否について,いずれの項目についてでも結構ですので,御意見のある方は挙手をお願いいたします。 ○加藤幹事 この点についても先ほどと同様なのですが,これまでの分科会等において様々な意見が出ております。個人の特性に応じた適切な処遇を実施し,受刑者の改善更生を図るため,高度の専門的知識及び技術を活用して調査を行うために,各矯正管区ごとに指定された調査センター施設による精密な処遇調査の対象者を拡大してはどうかとか,少年鑑別所における鑑別を参考にしつつ,処遇調査の内容を充実させること等が考えられるのではないかといった御意見もございました。   これらの意見を基に,具体的にどのような方策が現時点で考えられるかということについて,御説明の用意があれば事務当局からお願いしたいと存じます。 ○大橋幹事 この分科会でも御説明しましたけれども,現在,一定の要件を満たす若年受刑者につきましては,刑執行開始時に精密な処遇調査を実施しているところでございますけれども,この要件の見直しによりまして,精密な処遇調査の対象者を拡大することができるのではないかとは考えております。   具体的には,執行すべき刑期が16歳以上20歳未満は1年以上,20歳以上26歳未満は1年6月以上である者を現在は対象としておりますけれども,その刑期の下限,例えば,それぞれ6月以上と1年以上に引き下げること,今現在では20歳以上26歳未満は暴力団員を対象から除外しておりますけれども,その暴力団員につきましても対象とすること,これまで対象外でございました女子も対象とすること,それから,受刑歴のある者を対象から除外しておりましたところ,必要に応じてこれも対象とするということなどが検討できるのではないかと考えております。   また,精密な処遇調査の実施要領を整備・充実させたり,若年受刑者について,現行の少年受刑者処遇要領に準じた処遇要領を作成したりするなど,内容の充実についても検討していけるのではないかと考えております。 ○佐伯分科会長 ありがとうございます。   今の御説明についての御質問あるいは御意見等ございますでしょうか。 ○橋爪幹事 1点意見を申し上げます。   ただいま伺った方針というのは極めて有益であると感じますし,是非その方向でお進めいただければと考えております。   繰り返しになりますが,この問題については論点第1と第2が連動することになりますので,両者を関連付けつつ検討することが重要であるということをあえて申し上げたいと存じます。すなわち,処遇内容の多様化の御方針を踏まえた上で,必要となる処遇調査の内容や対象者についても御検討いただければ,と存じます。 ○加藤幹事 鑑別の対象とする受刑者の年齢の観点なのでありますが,受刑者に対する矯正処遇は,受刑者ごとに定められている処遇方針に基づいて行われているところでありますけれども,刑の執行開始時のみならず,執行の途中段階においても,適時適切に必要な調査を行って,矯正処遇の効果,受刑者の心身の状況などを把握して,必要に応じて処遇方針の見直しを図ることは,可塑性に富む若年受刑者の出所後の社会復帰を見据えた矯正処遇を行う上で重要なことだと考えられます。   刑執行開始時における精密な処遇調査は,調査専門官等の専門性を有する職員を要する調査センターにおいて行われているとのことでありますが,その後に若年受刑者が移送されて処遇を受ける刑事施設は,調査センターと比較すると,必ずしも十分な調査を行うことができる人的体制が備わっている施設ではない場合もあると思われます。そこで,全国の少年鑑別所の鑑別機能を活用するということも,検討してはどうかと考えます。   具体的には,現行少年鑑別所法において,20歳未満の少年受刑者が鑑別の対象として規定されていますが,この鑑別の対象となる受刑者の年齢の上限を引き上げて,一定の年齢まで成人受刑者について刑事施設の長が必要と認める場合には,少年鑑別所の鑑別機能を活用できるようにすることが考えられるのではないかと思います。   このように,刑執行開始時における精密な処遇調査の対象者を拡大することに加えて,執行の途中段階,すなわち,処遇過程における再度の調査の充実も図っていくことが,若年受刑者の処遇の充実,そのための処遇調査の充実という観点から望ましいのではないかと思われます。 ○佐伯分科会長 ほかにはいかがでしょうか。   第2については,この程度でよろしいでしょうか。   それでは,最後に,「第3 若年受刑者に対する処遇原則の明確化」について意見交換を行いたいと思います。   これまでの「第1」の「若年受刑者を対象とする処遇内容の充実」と「第2」の「若年受刑者に対する処遇調査の充実」についての議論を踏まえ,若年受刑者に対する処遇原則の必要性,処遇原則の内容について,また,若年であること以外の特性に応じた処遇原則の要否について,御意見がある方は挙手をお願いいたします。 ○今井委員 明文規定を設けた方がよいかということに関して,一般的には,その必要があるという観点から一言申し上げたいと思います。   これまでも御議論があったところですけれども,少年受刑者を含めた若年受刑者は,一般的には,やはり可塑性に富んでいることが大きな特徴でありまして,その方々の個別の特性に応じた矯正処遇を適切に行うことによりまして,犯罪に及んだ資質的,環境的な要因が解消され,健全な社会人となって社会復帰が可能になる場合が非常に多いと思われます。   そのような方であるということを踏まえた処遇原則を,法律,これはやはり刑事収容施設法であろうと思いますけれども,同法上明文化することによって,積極的にそのような特別な処遇を実施することが可能になるのではないかと考えるところであります。   現在でも,周知のように受刑者一般に係る処遇原則がございます。しかしながら,全国の刑事施設に収容されている方,約5万人ほどと伺っておりますが,彼らについて処遇指標に基づいて収容する施設を分けてはいても,各施設ごとにいろいろな特徴があります。いろいろな年齢層の方が数百人規模で収容されている場合も多いわけであり,その上で,各受刑者に対して公平かつ適切な処遇をすることが必要です。そのような受刑者一般の処遇の均等化,平等化ということに加えて,若年受刑者の特徴に応じた処遇をするためには,やはりその旨を,例えば,刑事収容施設法に明文で書き込むことが,現場の混乱をなくすことにも資するのではないかと思うところであります。 ○橋爪幹事 次の「○」の内容に関して,若干申し上げたいと存じます。   「内容」につきましては,これは,既に議論されました論点第1,第2の議論を踏まえた上で,これらの処遇を実施するための指導理念を明確に規定することが重要であると考えます。したがいまして,この点につきましては,飽くまでも論点第1,第2の議論を尽くした上で,その帰結と連動させつつ,具体的な内容を確定する必要があると考えますが,あえてこれまでの議論を踏まえた上で,幾つかのポイントになることを申し上げたいと存じます。   例えばでありますが,若年受刑者については,可塑性に富む場合があることから,処遇の充実によって高い効果が期待できること,あるいは,若年受刑者固有の問題性を十分に把握する必要があること,取り分け,その年齢,性格,心身の状況,家庭環境等の個別の事情を十分に斟酌した処遇が必要であることなどの内容を盛り込むことが,現在の議論の方向に沿うものではないかと考える次第です。 ○加藤幹事 私は,「○」の三つ目の「若年であること以外の特性に応じた処遇原則の要否」に関する意見と,その関係で1点御提案申し上げたい点がございます。   若年であること以外の特性,例えば,高齢でありますとか,障害の有無等に応じた処遇について,それぞれ処遇原則を設けるということも,一考の余地のある施策であると思われますが,この点について様々考慮をしてみますと,高齢受刑者,障害を有する受刑者等は,特性,心身の状況,配慮すべき事項等が個々によって大きく異なっており,統一的な要素を盛り込んで処遇原則を規定することは,なかなか難しい面もあるのではないかとも思われます。   もとより,若年受刑者のみならず,高齢受刑者,障害を有する受刑者等も含めた受刑者一般の処遇の充実を図っていくことが重要であることに異論はないはずでありまして,平成29年12月に閣議決定されました「再犯防止推進計画」等も踏まえますと,施設内における処遇を通じて,受刑者の改善更生の意欲を喚起し,社会生活に適応する能力を育成することに加えて,出所後を見据えて,その住居,就業先,その他の生活環境の調整等を行い,社会生活への円滑な移行に資する支援を行うということは,受刑者の改善更生及び円滑な社会復帰を図るために非常に重要であると考えられます。   刑事施設においては,現在も関係機関と連携して,高齢又は障害により特に自立が困難な者の円滑な社会復帰を図る特別調整の実施,受刑者の雇用を希望する事業主に対する情報提供等により,就労支援を行う矯正就労支援情報センター,「コレワーク」の設置などの取組を行っていますが,刑事収容施設法には,受刑者の社会復帰支援に係る規定はなく,これらの取組は,通達などを根拠として行われているものと承知をしています。   そこで,以下,この点に関する一つの提案なのでありますが,高齢受刑者,障害を有する受刑者等も含めた受刑者一般の円滑な社会復帰を支援する取組をより一層推進していくためには,刑事収容施設法に社会復帰支援に関する規定を設けて,刑事施設の長の責務として社会復帰支援を実施していくということを明確にすることが考えられるのではないかと思われます。   具体的には,平成26年に制定された現行の少年院法第44条において,少年院の長は,在院者の円滑な社会復帰を図るため,出院後に自立した生活を営む上での困難を有する在院者に対しては,その意向を尊重しつつ,社会復帰支援を行うという規定がございます。これを参考にすることが考えられるのではないかと思われます。この点は,直接今議論になっております処遇原則に係る事項ではございませんけれども,現在政府において重視している取組の根拠となる規定を,法律に明確に規定して取組を確実に推進していくという意味において,類似の点を持っていると考えられますので,この「若年受刑者に対する処遇原則の明確化」の部分で申し上げたものでございます。 ○佐伯分科会長 ほかにはいかがでしょうか。   この程度でよろしいでしょうか。   それでは,ここまでで配布資料15に記載されている検討課題等について,一通り意見交換を行いましたが,その他「若年受刑者に対する処遇原則の明確化,若年受刑者を対象とする処遇内容の充実,少年院受刑の対象範囲及び若年受刑者に対する処遇調査の充実」について,現時点で御意見がある方は挙手をお願いいたします。   現時点では特にないということでよろしいでしょうか。                 (一同異議なし)   それでは,若年受刑者に対する処遇原則の明確化等についての本日の意見交換は,この程度としたいと思います。   本日は,「自由刑の在り方」及び「若年受刑者に対する処遇原則の明確化,若年受刑者を対象とする処遇内容の充実,少年院受刑の対象範囲及び若年受刑者に対する処遇調査の充実」について意見交換を行いましたが,本日の意見交換としてはこの程度でよろしいでしょうか。                 (一同異議なし)   ありがとうございます。   次回は,当分科会第4回会議,第5回会議での委員・幹事の方々からの御意見を踏まえ,更に議論が必要と考えられる検討課題等について,引き続き意見交換等を行っていきたいと思います。   このような検討の進め方でよろしいでしょうか。   それでは,本日の審議はこれで終了いたします。   今後の予定について,事務当局から説明をお願いいたします。 ○隄幹事 今後の予定について申し上げます。   次回の第1分科会の会議は,3月7日水曜日午後1時30分から予定されています。場所は,この建物の15階にある会議室となります。 ○佐伯分科会長 本日の会議につきましては,特に公表に適さない内容に当たるものはなかったと思われますので,発言者名を明らかにした議事録を公表することとさせていただきたいと思いますが,よろしいでしょうか。                 (一同異議なし)   それでは,そのようにさせていただきます。   本日はどうもありがとうございました。 -了-