法制審議会 第180回会議 議事録 第1 日 時  平成30年2月16日(金)   自 午後2時02分                         至 午後3時42分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題    民法(相続関係)の改正に関する諮問第100号について 第4 報告事項   1 信託法部会における審議経過に関する報告について   2 会社法制(企業統治等関係)部会における審議経過に関する報告について 第5 議 事 (次のとおり) 議        事 ○吉川司法法制課長 ただいまから法制審議会第180回会議を開催いたします。   本日は,委員20名及び議事に関係のある臨時委員1名の合計21名のうち,18名に御出席いただいております。法制審議会令第7条に定められた定足数を満たしていることを御報告申し上げます。   初めに,法務大臣挨拶がございます。 ○上川法務大臣 法制審議会第180回会議の開催に当たりまして,一言御挨拶を申し上げます。   委員及び幹事の皆様方におかれましては,御多用中のところ本会議に御出席いただき,誠にありがとうございます。また,この機会に法制審議会の運営に関する皆様方の日頃の御協力に対し,厚く御礼を申し上げます。   さて,本日は御審議をお願いする議題が一つ,部会からの報告事項が二つございます。   まず,御審議をお願いする議題は,平成27年2月に諮問いたしました「民法(相続関係)の改正に関する諮問第100号」についてでございます。   この諮問につきましては,民法(相続関係)部会において調査審議が行われた結果,要綱案が取りまとめられ,本日,大村敦志部会長から報告がされるものと承知をしております。   この諮問事項については,高齢化の進展等の社会経済情勢の変化への対応を図るため,配偶者の死亡により残された他方配偶者の生活への配慮等の観点から相続に関する規律を見直すものであり,部会においても,精力的に調査審議をしていただいたと伺っております。   委員の皆様方には,慎重に御審議の上,速やかに御答申くださいますようお願い申し上げます。   次に,部会からの報告事項は,信託法部会及び会社法制(企業統治等関係)部会における部会審議の途中経過でございます。   信託法部会におきましては,平成28年6月以降,精力的な調査審議が行われ,昨年12月12日に中間試案が取りまとめられました。また,会社法制(企業統治等関係)部会におきましても,平成29年4月以降,同様に調査審議が行われ,2月14日に中間試案が取りまとめられました。今後いずれの部会においても,中間試案についてのパブリック・コメントの手続を経て,更なる調査審議が進められるものと伺っております。   本日は,これまでの審議の経過につきまして,信託法部会の中田裕康部会長と会社法制(企業統治等関係)部会の神田秀樹部会長から報告がされるとのことでございますので,これらに関しましても委員の皆様方から御意見をお伺いしたいと存じます。   それでは,これらの議題等につきまして御審議,御議論をよろしくお願い申し上げます。 ○吉川司法法制課長 法務大臣は,公務のためここで退席させていただきます。           (上川法務大臣退席) ○吉川司法法制課長 ここで報道関係者が退室いたしますので,しばらくお待ちください。           (報道関係者退室) ○吉川司法法制課長 それでは,井上会長,お願いいたします。 ○井上会長 井上でございます。本日もよろしくお願いいたします。   議事に入ります前に,まず,本日から御出席になります委員の方々を御紹介したいと思います。   まず,前回の第179回会議までに委員に就任されました井田良氏が本日から御出席でございます。 ○井田委員 井田でございます。よろしくお願いいたします。 ○井上会長 次に,前回以降,本日までの間に就任されました委員お二方の御紹介をさせていただきます。   JXTGホールディングス株式会社取締役副社長執行役員の川田順一氏です。 ○川田委員 川田でございます。よろしくお願いいたします。 ○井上会長 東京高等裁判所長官に御就任になられました林道晴氏です。 ○林委員 林です。どうぞよろしくお願いいたします。 ○井上会長 それでは早速,本日の審議に入りたいと思います。   審議事項は,先ほど法務大臣からの御挨拶にもありましたように,「民法(相続関係)の改正に関する諮問第100号」についてでございます。   初めに,民法(相続関係)部会における審議の経過及びその結果につきまして,同部会の部会長を務められました大村敦志臨時委員から御報告いただきたいと思います。   それでは,大村部会長,御報告をお願いいたします。 ○大村部会長 民法(相続関係)部会の部会長を務めました大村でございます。どうぞよろしくお願い申し上げます。   民法(相続関係)部会では,平成27年2月の諮問第100号について3年にわたり調査審議を重ねてまいりましたが,先月16日に開催されました第26回会議におきまして「民法(相続関係)等の改正に関する要綱案」を決定いたしましたので,本日は,その概要等について御報告をさせていただきます。   諮問第100号は,高齢化社会の進展や家族の在り方に関する国民意識の変化等の社会情勢に鑑み,配偶者の死亡により残された他方配偶者の生活への配慮等の観点から,相続に関する規律を見直す必要があると思われるので,その要綱を示されたいというものでございました。   これを受けまして,民法(相続関係)部会が設置され,これまで審議を行ってまいりました。この部会における審議の途中経過につきましては,平成28年9月の法制審議会総会におきまして,部会長代理の窪田教授より中間報告をさせていただきましたが,本日は,改めて要綱案の決定に至るまでの審議経過を簡単に御説明した上で,最終的に取りまとめました要綱案の概要について御報告をさせていただきます。   民法(相続関係)部会では,民法第5編について,昭和55年以来,約40年ぶりの見直しに向けて検討を行ってまいりましたが,この間,判例や学説,さらには,実務の運用の積み重ねもありまして,改正をすべき項目及びその改正内容につきまして慎重に検討を行ってきたところでございます。   第1回会議を開催いたしました平成27年4月から平成28年6月までの間,各論点につきまして,第1読会,第2読会と議論を重ね,「民法(相続関係)等の改正に関する中間試案」を取りまとめまして,平成28年7月から9月までの間,パブリック・コメントの手続を行いました。   その後,パブリック・コメントに寄せられました意見や,平成28年12月の預貯金債権に関する最高裁の判例変更等を踏まえまして,更に調査審議を行い,平成29年7月に「中間試案後に追加された民法(相続関係)等の改正に関する試案(追加試案)」を取りまとめまして,2回目のパブリック・コメントの手続を行いました。   さらにその後,平成29年10月以降,追加試案のパブリック・コメントに寄せられた意見も踏まえまして,技術的な論点等を含め更に調査審議を行い,最終的な意見の調整を進めました。このような審議経過を経まして,先月16日の会議におきまして,全会一致で要綱案を決定するに至ったものでございます。   それでは,次に,要綱案の概要を御説明いたします。   基本的には項目番号の第1から順番に御説明をいたしますが,時間の関係もございますので,重要な改正項目を中心に,適宜ポイントを絞って御説明をさせていただきたいと存じます。   まず,要綱案の1ページ目の「第1 配偶者の居住権を保護するための方策」のうち,「1 配偶者の居住権を短期的に保護するための方策」について御説明をいたします。   これは,配偶者が相続開始時に被相続人所有の建物に無償で居住していたという場合に,配偶者の短期的な居住の利益を保護するために,遺産分割によりその建物の帰属が確定するまでの間又は相続開始の時から6か月を経過する日のいずれか遅い日までの間,無償でその建物に住み続けることができることとするものでございます。これは,このような場合に使用貸借契約の成立を推認するという判例の考え方を参考にしたものでございます。   もっとも,この判例の考え方は,契約の成立を推認するという構成を採っているために,被相続人が反対の意思表示をしていた場合,あるいは居住建物を第三者に遺贈等していた場合については保護がなされないということになりますけれども,要綱案では,このような場合につきましても,最低6か月間は配偶者短期居住権を認め,配偶者の居住の利益を保護するということとしております。   次に,要綱案4ページ目の「2 配偶者の居住権を長期的に保護するための方策」について御説明をいたします。   これは,要綱案では配偶者居住権と呼んでいるものでありますけれども,配偶者が相続開始時に居住していた被相続人の所有の建物を対象として,終身又は一定期間,配偶者にその使用を認めることを内容とする法定の権利を新設し,遺産分割における選択肢の一つとして配偶者居住権を取得させることができることとするほか,被相続人が遺贈等によって配偶者居住権を取得させることもできるようにするものでございます。配偶者が居住建物の所有権を遺産分割で取得するということになりますと,その評価額が高くなる場合には,遺産分割においてそれ以外の財産を取得できずに,老後の生活資金を十分に確保することができないといった事態が生じ得ますので,所有権ではなく,居住建物を使用収益することができる権利,これが配偶者居住権ということになりますが,このような権利を創設し,その評価額を言わば圧縮して,その余の財産を取得することもできるようにするというものでございます。遺産分割におけるオプション,選択肢を一つ増やし,高齢配偶者の生活保障を図るということを目的としております。   具体例を一つ挙げさせていただきますけれども,相続人が妻と子供一人のみで,遺産が2000万円の価値のある自宅不動産と現金3000万円,合計5000万円であるといった場合,妻が自宅を取得しますと,それだけで2000万円ですので,預金は500万円しか取得できないということになります。その結果,その後の生活費に困るといった可能性も出てまいりますけれども,妻が例えば1000万円の価値の配偶者居住権を取得し,子供がこの配偶者居住権の負担の付いた所有権,これは1000万円の価値があると仮定して,これを取得するということにいたしますと,妻は残りの預金から1500万円を取得することができ,その後の生活費もより多く確保することができることとなります。   なお,今,御説明した設例では,分かりやすさという観点から,配偶者居住権の評価額が居住建物の所有権の半額となる例を設定しておりますけれども,配偶者居住権の実際の評価額は,その存続年数等によって大きく異なることになると思われます。   次に,要綱案9ページ以下の「第2 遺産分割に関する見直し等」について御説明をさせていただきます。   まず,「1 配偶者保護のための方策(持戻し免除の意思表示の推定規定)」についてでございます。   婚姻期間が20年以上の夫婦間で居住用不動産の贈与等が行われた場合に,いわゆる持戻し免除の意思表示があったものと推定するという規定を設け,遺産分割においてより多くの財産を取得するということができるようにする,というものでございます。民法上,相続人に対して贈与等が行われたという場合には,原則として,その贈与を受けた財産も遺産に組み戻した上で相続分を計算し,また,贈与を受けた分を差し引いて遺産分割における取り分を定めることとされています結果,居住用不動産の生前贈与等を受けた配偶者は,遺産分割においては少ない財産しか取得できないということになります。もっとも,被相続人が遺産分割において贈与を受けた財産を持ち戻さなくてもよいという意思を表示した場合は,その意思に従うということとされております。   そこで,民法上新たな規定を設けまして,婚姻期間が長期間にわたる夫婦間で居住用不動産の贈与等が行われた場合には,遺産分割において持戻し計算をしなくてよいという旨の被相続人の意思表示があったものと推定するということといたしまして,配偶者が遺産分割においてより多くの財産を取得することができるということにしております。   次に,「2 仮払い制度等の創設・要件明確化」について御説明をいたします。   平成28年12月に最高裁判所において判例変更がございまして,共同相続された預貯金債権は遺産分割の対象となり,遺産分割までの間は,相続人単独での払戻しは原則としてできないということとなりました。もっとも,そういたしますと,被相続人の葬儀費用の支払ですとか医療費の支払などに困るという事態が起きるということも予想されますので,これらの資金需要に簡易かつ迅速に対応できるよう,家事事件手続法及び民法に規定を設けまして,預貯金債権の仮払い等を得られるようにするということでございます。   少し敷衍して説明をいたしますと,「(1)家事事件手続法の保全処分の要件を緩和する方策」につきましては,現行法上,家事事件手続法第200条第2項により,遺産に属する財産を仮に分割するという仮処分を行うことができ,この規定によっても,遺産分割の対象とされた預貯金を特定の相続人に仮に分割するということは可能ではあるのですけれども,現行法の仮分割の仮処分については,「事件の関係人の急迫の危険を防止するため必要があるとき」という,文言上厳格な要件が付されております。   そこで,要綱案においては,預貯金債権の仮分割の仮処分に限り,その必要性が認められ,他の共同相続人の利益を害しない場合にはこれを認めるということとしておりまして,現行法の要件を緩和するということにしております。   また,「(2)家庭裁判所の判断を経ないで,預貯金の払戻しを認める方策」についてでございますけれども,今申し上げました(1)の方策しか認めないことといたしますと,遺産分割前の預貯金の払戻しを求める相続人といたしましては,常に家庭裁判所の審判を経ないと預貯金の払戻しが得られないということになりまして,不便でございますことから,一定の範囲の預貯金につきましては,裁判所の判断を経ることなく金融機関の窓口において,自身が被相続人の相続人であること,そして,その相続分の割合を示した上で,預貯金の払戻しを得られるようにするという規律を設けることとしております。   具体的には,相続開始時の預貯金債権の額の3分の1に当該払戻しを求める相続人の相続分を乗じた額,例えば,預貯金が600万円で,相続分が2分の1の配偶者につきましては,100万円ということになりますが,この額については,他の共同相続人の同意を得ることなく,単独で払戻しを得られるようにするということでございます。   なお,他の共同相続人の利益を害することがないよう,必要最小限の払戻しに限定するという観点から,被相続人が同一の金融機関に複数の口座を有している場合には,その金融機関から払戻しを受けられる金額について,法務省令でその上限額を定めるということとしております。   続きまして,要綱案10ページの「3 一部分割」について御説明をさせていただきます。   現行法上も,当事者間の協議による遺産の一部の分割につきましては,しばしば行われているところでありますけれども,これを法文上も明確にするという観点から,まず,(1)におきまして,当事者間の協議で遺産の全部又は一部の分割をすることができるとしております。また,審判においても,遺産の一部のみの分割を可能にするという観点から,続く(2)において,当事者間に協議が調わないときは,各共同相続人は,遺産の全部又は一部の分割を家庭裁判所に請求することができることとしております。もっとも,遺産の一部のみの分割をすることによって,他の共同相続人の利益を害することもあり得るところでございますので,一部分割の限界として,このような場合には一部分割をすることできないこととし,その請求を受けた裁判所としては,これを却下するということとしております。   次に,「4 遺産の分割前に遺産に属する財産を処分した場合の遺産の範囲」に関する規律についてでございます。   相続開始後に共同相続人の一人が遺産に属する財産を処分したという場合,処分をしなかったという場合と比べますと,最終的な取得額が多くなるという計算上の不公平が生ずることがあります。そのため,このような不公平を是正する方策を設けるというものでございます。その前提として,現行法上も行われているように,遺産分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても,共同相続人全員の合意によって,処分された財産も遺産分割の対象財産とすることができるという規律を(1)で設けた上で,これを受けて,(2)におきまして,その処分を行ったのが共同相続人の一人又は数人である場合には,当該共同相続人の同意を得る必要はないという規律を設けることにより,遺産分割の対象に含める旨の共同相続人間の合意が成立しやすいようにし,可及的に相続人間の公平を図ることができるようにしております。   引き続き,要綱案11ページの「第3 遺言制度に関する見直し」について御説明をさせていただきます。   まず,「1 自筆証書遺言の方式緩和」についてでございますけれども,これは,現在は全て自書,自分で書かなければいけないとされている自筆証書遺言について,その財産目録部分については,自書を要しないこととするというものでございます。被相続人が田畑など多数の不動産を所有しているという場合には,その全部事項証明書などを用いまして遺言の対象となる財産を特定することができるようになり,高齢の方でも遺言がしやすくなるものと考えられます。   次に,「2 自筆証書遺言に係る遺言書の保管制度の創設」について御説明いたします。自筆証書遺言に係る遺言書については,これを保管する公的な機関がないため,自宅等で保管されることが多く,遺言書が紛失,亡失するおそれや,相続人による遺言書の破棄,隠匿,改ざん等が行われるおそれがあり,相続をめぐる紛争が生じ得るという問題がございます。この問題への対応策として,遺言者からの遺言書の保管申請に応じて,公的機関である法務局が遺言書を保管する制度を創設することといたします。このような制度ができますと,遺言書の紛失や隠匿などが防止され,遺言者の死後に相続人が遺言書の存在を把握することが容易になり,遺言者の最終意思が実現されるとともに,遺言書の閲覧や写しの取得のために法務局に来た相続人に対して,直接相続登記を促すといった取組も可能となるなど,相続登記などの手続が円滑に行われるという効果も期待されます。   さらに,要綱案の12ページになりますが,「3 遺贈の担保責任等」については,債権法改正を踏まえまして,贈与の担保責任等に関する規定とほぼ同様の規律を設けるものでございます。   次に,「4 遺言執行者の権限の明確化等」について御説明いたします。遺言執行者は遺言の執行を職務とする者でありますけれども,民法上その権限が明確ではなく,争いの原因となっているという指摘がございますので,規定を設けて,その権限の内容を明確にするということとしております。具体的には,民法第1012条及び第1015条の規律を改めて,遺言執行者の一般的な権限を明らかにした上,特定財産承継遺言がされた場合等について,対抗要件の具備や預貯金の払戻しに関する具体的な権限などを定めることにしております。   引き続き,要綱案の15ページですが,「第4 遺留分制度に関する見直し」について御説明をさせていただきます。   現行法上,遺留分減殺請求権を行使いたしますと,遺留分権利者と遺贈等を受けた者との間で複雑な共有状態が発生し,事業承継の障害となるといった指摘もございますので,その点を改め,遺留分に関する権利の行使により金銭請求権が発生することとする,というものでございます。もっとも,その請求を受けた者が金銭を直ちには準備できないということもございますので,受遺者等は,裁判所に対し,金銭債務の全部又は一部の支払につき,期限の許与を求めることができる,ということとしております。   なお,部会におきましては,先ほど述べた,金銭を直ちには準備することができない受遺者等の不都合に対応するため,金銭債務の全部又は一部の支払に代えて,遺贈又は贈与を受けた物で給付をする制度,すなわち現物給付制度についても検討を行ってまいりましたけれども,現物給付の内容を誰がどのように指定をするのかが問題となりました。裁判所がこれを指定することとする,これは中間試案の甲案の考え方でございますけれども,そういたしますと,当事者の予測可能性を欠き,法的安定性が害されるということになります。また,受遺者等がこれを指定することができるといたしますと,これは追加試案の考え方でありますけれども,不要な財産の押し付けが生ずるといった弊害が生ずるということで,これらは結局,採用されなかったという経緯がございます。   さらに,遺留分の算定方法を見直すとともに,その規律を明確化するという観点から,現在は明文の規定がない遺留分侵害額を求める計算方法を法文化するとともに,遺留分を算定するための財産の価額に算入する相続人に対する贈与の範囲に関する規律,あるいは遺産分割の対象財産がある場合における規律,さらには,相続債務がある場合の遺留分の算定における取扱いについての規律などを設けるということとしております。   次に,要綱案19ページになりますが,「第5 相続の効力等に関する見直し」について御説明いたします。   まず,「1 相続による権利の承継に関する規律」についてでございますけれども,現行法上,特定の相続人に特定の財産を相続させる旨の遺言がされた場合や,相続分の指定がされた場合には,判例上,登記なくして第三者に対抗することができるとされておりまして,取引の安全を害するという指摘がされているところでございます。そこで,この規律を見直し,遺贈の場合と同様,法定相続分を超える権利の承継については,登記などの対抗要件を備えなければ第三者に対抗することができないこととする,というものでございます。   また,その承継に係る権利が債権である場合の特例といたしまして,遺言の内容を明らかにすることを条件として,受益相続人による権利の承継の通知を認めることとしております。   次に,「2 義務の承継に関する規律」についてですけれども,相続分の指定があった場合には,民法第899条の規律によりますと,指定された相続分の割合でその義務を承継することになりますが,被相続人の債権者,相続債権者といたしましては,遺言の存否やその内容を知り得ないことが多いことから,その利益を保護するために,相続債権者は法定相続分で各共同相続人に対して権利行使をすることができるとしております。これは,基本的には現行の判例の考え方を明文化するものでございます。   また,「3 遺言執行者がある場合における相続人の行為の効果等」についてでございますけれども,ここでは民法第1013条の規律を改めて,遺言執行者がある場合において,相続人がした相続財産の処分の効果等についての規律を明確にしております。   具体的には,相続人がした遺言の執行を妨げる行為は無効であるとする現行の判例の考え方を明文化するとともに,遺言の有無及び内容を知り得ない第三者の取引の安全を図るという観点から,善意の第三者にこれを対抗することができないこととし,さらに,この規律は,相続債権者や相続人の債権者が相続財産に対して権利行使をすることを妨げる趣旨ではないということを明確にすることとしております。   長くなりましたが,最後に,要綱案20ページの「第6 相続人以外の者の貢献を考慮するための方策」について御説明をさせていただきます。   現行法の下では,被相続人を療養看護等する者がいたという場合に,その者が相続人であれば寄与分による調整が可能になってまいりますけれども,その者が相続人ではないというときには,相続財産から何らの分配も受けることはできません。このような結果は,被相続人の療養看護等を全くしなかった相続人が相続財産から分配を受けることと比較して不公平ではないかという指摘がされてきたところでございます。このため,相続人以外の者,例えば相続人の配偶者が療養看護等の貢献を行った場合には,その相続人の寄与分として評価されるということも実務上しばしば行われておりましたけれども,当該相続人が既に死亡しているといったような場合にはこのような手段を採ることもできません。   そこで,要綱案では,相続人以外の親族が被相続人に対する療養看護その他の労務の提供により被相続人の財産の維持又は増加について寄与をしたという場合には,相続人に対して金銭請求をすることができることとしております。   なお,請求権者の範囲を限定すべきであるか否かということにつきましては,部会において最後まで意見の対立がございました。具体的には,請求権者の範囲を限定すべきであるとの立場からは,被相続人に対して療養看護等をした者全員について相続人に対して金銭請求をすることを認めると,相続をめぐる紛争が一層複雑化,長期化するおそれがあるなどの意見が述べられ,請求権者を一定の範囲の親族に限定すべきではないかということが主張されました。他方で,請求権者を限定する必要はないという立場からは,被相続人の療養看護に尽くした者であれば,等しくこの方策による請求を認めるべきであるという主張がなされました。最終的には,部会において合意が得られた最も広い範囲の人に請求権を認めるという趣旨で,被相続人の親族という形で範囲を画するということで,全会一致で要綱案が取りまとめられたという次第でございます。   「民法(相続関係)等の改正に関する要綱案」の概要は,以上のとおりでございます。   御清聴いただき,どうもありがとうございました。よろしく御審議のほどをお願い申し上げます。 ○井上会長 大村部会長,御報告ありがとうございました。   それでは,ただいまの御報告及び要綱案の全般的な点につきまして,御質問及び御意見を承りたいと存じます。まず,御質問がございましたら,お伺いしたいと思います。 ○竹之内委員 竹之内でございます。私は,弁護士として日常的に相続事件なども扱っておりますけれども,そういう実務的な立場から2点,御質問いたしたいと思います。   なお,私は,今回の要綱案には賛成でございますので,あらかじめ申し上げておきます。   1点目は,配偶者居住権についてでございまして,これは新しい権利ということになりますので,これをどのように評価するのか,これが実務的には極めて重要だと考えております。部会におきましては,「長期居住権の簡易な評価方法について」という資料も配布されておって,それから,不動産鑑定士の方の御意見も伺ったと承知しておりますけれども,今回の要綱案の評価の方法というのが前提になるということでもあろうかと思いますので,評価の在り方について,どう在るべきだということについて,概略の御説明が頂ければ有り難い,これが1点目です。   もう1点,申し上げますのは,内縁配偶者の居住権についてでございます。今回の要綱は飽くまでも相続法に関するものであることから,内縁配偶者の居住権の点は,言わば射程外ということになったのかと推察をしますけれども,諮問にあります配偶者の死亡により残された他方配偶者の生活への配慮,こういう視点からしますと,内縁配偶者についても同様で在るべきかとは考えています。これは要綱案とは別の話になりますけれども,内縁配偶者の居住権について,部会としてのお考えがある程度あったということであれば,お伺いしておきたいと,このように存じます。   以上,2点です。よろしくお願いいたします。 ○筒井関係官 関係官の筒井でございます。   配偶者居住権の財産評価額の算定についてのお尋ねがございました。この配偶者居住権の財産評価の方法につきましては,部会におきまして,簡易な評価方法として,配偶者居住権の負担付所有権の価額は配偶者居住権消滅時の建物及び敷地の価額を現在価値に引き直した価額であるとみた上で,建物及び敷地の所有権の価額から配偶者居住権の負担付所有権の価額を減じたものを配偶者居住権の価額とするという考え方が示されましたほか,公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会から,配偶者居住権の発生から消滅までの建物賃料相当額から配偶者負担の必要費を控除した価額に年金減価率を乗じた額を配偶者居住権の価値とすると,こういう基本的な考え方も示されたところでございます。この点につきましては,相続税制との関係も考慮する必要があるとの指摘などもありますことから,今後も慎重に検討する必要があるものと考えております。   なお,税法上の評価につきましては税務当局において検討することになりますけれども,本日もし答申が得られ,要綱に基づいて立案された法案が成立しました場合には,より具体的な検討が今後されるものと承知しておりまして,法務省としても必要な協力などをしてまいりたいと考えております。 ○井上会長 1点目は,それでよろしいですか。 ○竹之内委員 結構です。 ○井上会長 では,2点目についてお願いします。 ○大村部会長 二つ目の御質問についてでございますけれども,配偶者居住権及び配偶者短期居住権は,相続の場面で問題になる制度でございますけれども,相続権の有無というのは法律婚と事実婚の最も大きな違いの一つであると考えられているところであろうかと思います。現行の判例におきましても,事実婚の相手は相続人となることができないとされ,また,死別による事実婚の解消についても,財産分与の規定を類推することができないとされているところです。これらの点を踏まえまして,配偶者居住権及び配偶者短期居住権を取得することができる者を法律婚の配偶者に限定したということでございます。   また,配偶者居住権は登記ができる権利として制度化されておりますので,その成否について登記所において形式な判断ができるということが必要になってまいります。配偶者短期居住権につきましても,裁判所の判断や当事者の意思表示なくして成立する権利でございますので,やはりその成否が形式的に判断できるということが望ましいのではないかと考えております。   そうなりますと,事実婚に該当するかどうかという判断は形式的にしにくいところがございます。様々な要素を総合的に判断して考えるということが必要になってまいりますので,配偶者居住権等を取得することができる者を事実婚の相手に拡大いたしますと,その成否を形式的に判断するということが難しくなるという問題もございます。   なお,事実婚の相手方は配偶者短期居住権を取得することはできないということになりますけれども,被相続人が事実婚の相手方を引き続き自宅に住まわせたいというときは,例えば,被相続人と事実婚の相手方との間で被相続人の死亡を始期とする使用貸借契約を締結するといった方策を用いまして,被相続人の意思に基づいて事実婚の相手方の居住権を保護するということは一定程度は可能なのではないかといった議論をしておりました。 ○井上会長 よろしいですか。御意見はまた伺いますが。 ○竹之内委員 私の質問の趣旨は,今回は相続法ですので,それがもう外れるということはそれで理解しているつもりです。ただし,相続法以外の部分で,こういうことをしたらどうかとか,部会での意見なんかでも,諮問された内容だけでなくて,関連して答申するということもあろうかとは思うわけですけれども,そういう内縁配偶者のことについて,一定の何か御議論をされたのかということを伺いたかったという趣旨でございます。 ○大村部会長 御質問に直接に答える形になるかどうか分かりませんけれども,今回,出発点におきまして,配偶者に対する一定の保護を図るということを考えておりましたけれども,その「配偶者」の中に内縁の配偶者を含めることができるかどうかということにつきましては,この問題に限らず様々な場面で議論をしたところでございます。その結果といたしまして,居住権については,このような解決がなされたということでございますけれども,御指摘のように議論自体は様々な場面でさせていただいたとお答えをさせていただきます。 ○井上会長 ほかに御質問はございますでしょうか。 ○岩間委員 同じく配偶者居住権についての質問なんですが,配偶者が死亡したときは消滅するということが書いてあるんですが,これは,例えば配偶者が何年間かその家に居住したけれども,高齢になって一人で生活が困難になって施設等に移った場合に,居住の実態がなくなった後でも権利というのは死亡までは存続するのでしょうか。 ○大村部会長 御指摘のように配偶者の居住権については,死亡によって消滅するということです。では,配偶者が実際には使っていないという状態になったときにこの権利をどうするのかという問題については,様々な形で議論をしたところでございます。最終的にはこの権利については譲渡等はできないという取扱いをさせていただいておりますけれども,そのような権利としてその価値が評価されることになるのではないかと考えております。 ○岩間委員 結局,存続するということなんですかね。 ○井上会長 権利としては,存続するということですよね。 ○大村部会長 そうです。 ○岩間委員 意見は別ということですね。 ○井上会長 ええ。   ほかに御質問はございますか。   それでは,御意見を賜りたいと思いますが,岩間委員,御意見がおありですか。 ○岩間委員 いや,そこのところが少し分からなかったので,現実を考えても,居住の実態がなくなった後,長期にわたってその配偶者居住権というのが存続するのであれば,最近やはり所有者の不明な不動産の問題等も生じておりますので,その辺りで,そういう状態が生じ得るということに対する対策も必要になるのではないかという気がいたします。 ○井上会長 御意見として伺っておくということでよろしいですね。 ○岩間委員 はい。 ○井上会長 ほかに御意見はございますでしょうか。   よろしいですか。特に御意見,御異議がございませんでしたら,原案につきまして採決に移りたいと思いますが,それでよろしいでしょうか。           (「異議なし」の声あり) ○井上会長 それでは,採決に移ることにさせていただきます。   諮問第100号につきまして,民法(相続関係)部会から報告された要綱案のとおり答申することに賛成の方は,挙手をお願いします。           (賛成者挙手) ○井上会長 ありがとうございました。   それでは,採決の結果について報告をお願いします。 ○吉川司法法制課長 それでは,採決の結果を御報告申し上げます。   議長及び部会長を除くただいまの委員数は16名でございますところ,全ての委員が御賛成ということでございました。 ○井上会長 ありがとうございました。   ただいま報告がありましたように,採決の結果,全員賛成でございましたので,民法(相続関係)部会から報告のありました要綱案は,原案のとおり採択されたものと認めます。   採択されました要綱につきましては,会議終了後,法務大臣に対して答申することとさせていただきます。   大村部会長におきましては,約3年にわたり,多岐にわたる論点につきまして調査審議をしていただきました。ありがとうございました。   本日の議題は以上ですけれども,先ほどの法務大臣の御挨拶にもありましたように,引き続きまして,現在調査審議中の部会からその審議状況等を報告していただこうと思います。   本日は二つの部会からの御報告を予定しておりまして,信託法部会の部会長である中田裕康臨時委員,そして,会社法制(企業統治等関係部会)の部会長である神田秀樹臨時委員のお二人にお越しいただいておりますので,両部会における審議状況等を御報告していただき,委員の皆様から御質問等をお伺いできればと存じます。   まず,中田部会長から御報告をお願いします。 ○中田部会長 信託法部会の部会長を務めております早稲田大学の中田でございます。   本日は,信託法部会における調査審議の状況につきまして,御報告させていただきます。資料民2の表紙の次にあります図を御覧になりながらお聞きいただければと存じます。   まず,現在の公益信託制度の概要を申し上げます。委託者が受託者に対し契約や遺言によって金銭を信託し,受託者がそれを学生や研究者などの受給権者に奨学金や助成金として給付するというのが公益信託の代表例です。公益信託は,主務官庁の監督に服すると定められており,その目的が奨学金の支給であれば文部科学省,自然環境の保全であれば環境省といった主務官庁が公益信託の許可や監督を行っています。このほか,信託管理人という制度もあり,弁護士等が信託管理人として信託目的がきちんと達成されるよう,内部で監督することが多くなっていますが,これは公益信託法上は必置とはされていません。   このような公益信託に関する規律は大正11年に制定された旧信託法の中に既にありました。旧信託法は平成18年に全面的に見直され,新信託法となったのですが,公益信託については次のような経緯で改正が先送りになりました。   すなわち,信託法改正につきまして,平成16年9月に法務大臣による諮問第70号を受けて信託法部会が設置されました。同年10月から30回にわたる調査審議が行われ,平成18年2月の法制審議会第148回総会において信託法改正要綱が決定されました。もっとも,当時,民間の資金を利用して公益活動を行うという点で公益信託と社会的に同様な機能を営む公益法人制度の全面的な見直し作業が並行して進んでいました。このことから,公益信託の改正については,公益法人制度の改革の内容の確定や実施状況を見た上で取り組むこととされました。このため,信託法改正要綱は私益信託に関する制度の部分について答申するものとなりました。これに伴い,信託法部会は公益信託制度について将来調査審議を行うために休会するという取扱いがされました。   その後,平成18年5月に公益法人制度改革3法が成立し,同年12月には新信託法が成立しましたが,旧信託法のうち公益信託に関する部分については,ただいま申し上げました経緯から実質的な改正がされませんでした。そこで,衆・参両院の附帯決議において,公益信託制度について,公益法人制度改革の趣旨を踏まえつつ,遅滞なく所要の見直しを行うこととされました。こうして公益法人制度改革が先行しましたが,平成25年11月に旧制度下で設立された公益法人が新制度下での公益社団法人,公益財団法人に移行する期間が満了するなど,新制度が定着してきました。このような状況の下,信託法部会は,平成28年6月に再開し,昨年12月までの間,おおむね月1回程度,合計17回にわたって公益信託に関する調査審議を行い,昨年12月12日の第47回会議で公益信託法の見直しに関する中間試案を取りまとめました。   これを受けて,本年1月9日に中間試案とともに事務当局の作成した補足説明を公表し,2月19日までの間,意見公募の手続を実施し,広く国民各位からの意見募集を行っているところです。   続きまして,中間試案のポイントについて御説明いたします。中間試案は資料民2の図の次にとじられています。ポイントは3点ございます。   1点目は,「公益信託の信託事務及び信託財産の範囲の拡大」です。現行公益信託法の下では,主務官庁による許可の指針として,「公益信託の引受け許可審査基準等について」という平成6年の公益法人等指導監督連絡会議の決定があります。この基準があることなどから,公益信託の利用は,委託者が金銭を信託財産として,受託者である信託銀行に拠出し,信託銀行がそれを用いて不特定多数の学生に対する奨学金の支給や研究者等に対する研究費の助成を行うというものに事実上限定されています。   これを見直し,公益信託の信託財産として,金銭以外の財産,例えば不動産や有価証券も許容し,公益信託の受託者が奨学金の支給や研究費の助成等に加えて,美術館や学生寮の運営等の公益信託事務を行うことを許容することを提案しております。この点につきましては,中間試案の第9の2及び3(1)が主に対応しています。   2点目は,「公益信託の受託者の範囲の拡大」です。これまでの公益信託の受託者は,許可審査基準等の存在により,ほぼ信託銀行に限られてきました。しかし,公益信託の信託事務や信託財産を拡大する場合には,それを遂行する能力を有する多様な受託者を確保するため,受託者の担い手を信託銀行以外の法人や企業にも拡大する必要がある,このことについて信託法部会では異論がありません。他方,公益信託事務が適正かつ安定的に実施されることも重要であります。   そこで,公益信託事務の担い手としての受託者の範囲をどのように画するべきかが問題となり,法人に加えて自然人を受託者とすることを認めるかどうかが論点となっています。この点につきましては,中間試案の第4の1(1)が主に対応しています。法人受託者に限定する甲案と,法人受託者に加え自然人受託者を許容する乙案の両論併記の形で提案しています。   3点目は,「主務官庁による許可・監督制の廃止」です。現行公益信託法の下では,先ほど申しましたとおり,奨学金支給なら文部科学省,自然環境保全なら環境省というように,それぞれ所管の主務官庁が公益信託の許可や監督をする仕組みが採られています。しかし,公益法人制度において平成18年改正により主務官庁制が廃止されたこととの整合性を図り,公益信託においても主務官庁制を廃止することについて,信託法部会では異論がありません。   新たな公益信託の成立の認可やその監督は,民間の有識者から構成される委員会の意見に基づいて,特定の行政庁が統一的に行うものとすることを提案しています。それに伴い,新たな公益信託においては,信託管理人を法令上の必置機関とし,信託内部の自律的ガバナンスを行政庁が補完する仕組みとすることを想定しております。この点につきましては,中間試案の第2の3,第5の1及び第7が主に対応しています。   以上のポイントとなる点のほか,中間試案においては,新たな公益信託が利用者にとってより使いやすい仕組みとなることを重視する観点から,税法や信託業法等の関連法令も視野に入れつつ,様々の提案をしています。すなわち,公益信託の成立の認可や監督,ガバナンスの具体的な仕組み,公益信託の変更及び併合,分割,公益信託の終了等の幅広い事項について,現時点における信託法部会の議論を集約した案を提示しております。   また,現行公益信託法の法律名,条文が大正時代の片仮名文語体のままとなっていることも改善する必要があります。これらを現代語化することにつきましても,信託法部会において異論はございません。   最後に,今後の予定ですが,先ほど申し上げましたとおり,中間試案についての意見募集の期間は今月19日までとされています。信託法部会ではパブリック・コメントの結果を踏まえ,本年3月以降,調査審議を再開し,要綱案の取りまとめに向けた検討を行っていくことを予定しております。   私からの説明は以上でございます。 ○井上会長 中田部会長,ありがとうございました。   ただいまの中田部会長からの審議経過等の報告につきまして,御質問,御意見がございましたら,こちらの方はまとめてで結構ですので,御発言いただければと思います。どなたからでも御遠慮なく。 ○大塚委員 受託者の範囲の拡大の部分について,まず質問なのですけれども,自然人の場合は自然人のみということも想定されているのでしょうか。 ○中田部会長 甲案,乙案がございまして,甲案は法人受託者に限ると,乙案は法人受託者でもよいし,自然人受託者でもよいということですので,乙案を採った場合には自然人のみでもよいということになります。 ○大塚委員 仮に自然人のみとなった場合に,第3の主務官庁制の廃止のところに書いてあるように,自律的なガバナンス体制の構築というところが,自然人のみで果たして可能なのかどうかという素朴な疑問があります。かなり高い倫理観が求められると思いますので,その辺のところをどう担保するかという議論は進んでいるのでしょうか。 ○中田部会長 はい,大変議論が活発にされております。内部的なガバナンスというのは,もちろん受託者だけではないわけでございまして,今回申し上げましたものの中では信託管理人という制度を必置機関とすると,現在は公益信託法上は必置ではないわけですが,それを必置機関とするというようなこと,あるいは,もちろん受託者や信託管理人の資格要件についても定めるというようなことによってそれを担保するというのが,乙案を支持する場合に考えられることかと存じます。 ○井上会長 よろしいですか。   ほかの方,いかがでしょうか。ほかに御質問,御意見はございませんか。 ○高山委員 同じくガバナンスのことについてお尋ねします。ただ今,信託管理人を必置することによって,かなりガバナンスを利かせられるのではないかという御説明を頂いたと思うのですけれども,この受託者の範囲を拡大した場合は,やはり委託者と受託者はかなり関係性が深くなります。そして,信託管理人も同様になりがちではないか思うのですけれども,この信託管理人の独立性はどのようなことで判断をされるのか,その辺の議論はございましたでしょうか。 ○中田部会長 信託管理人の独立性は非常に重要なことだと認識しております。そこで,認可基準の中で信託管理人についての資格を設けておりまして,例えば,受託者などと特別の関係にないというようなことを求めてございます。さらに,先ほどの大塚委員の御質問とも関連することでございますが,もちろん内部的ガバナンスを中心にするわけでありますけれども,更にそれを補完するという形で,行政庁も更に監督をするという制度を考えてございます。 ○井上会長 ほかにございませんでしょうか。   御発言がないように見受けられますので,中田部会長の御報告についての御質問,御意見を承るのはこのくらいにさせていただければと思います。   中田部会長,どうもありがとうございました。引き続き部会において精力的な審議をお願いしたいと思います。   続きまして,会社法制(企業統治等関係)部会の審議状況等につきまして,神田部会長から御報告をお願いします。 ○神田部会長 会社法制(企業統治等関係)部会の部会長を務めさせていただいております,学習院大学の神田と申します。どうぞよろしくお願い申し上げます。本日は,会社法制(企業統治等関係)部会,ちょっと長いものですから,省略して部会と呼ばせていただきますけれども,この部会における審議の状況について,簡単に御報告をさせていただきます。   この部会ですけれども,昨年の2月9日の法制審議会第178回会議における諮問第104号を受けて設置されました。部会における審議は,昨年の4月から約1か月に1回の間隔で行われまして,2月14日に開催されました第10回会議において,中間試案が取りまとめられました。   皆様方のお手元には資料民3として,中間試案の概要を説明した2枚ものの資料と,それに続けて,第10回会議で使用させていただきました部会資料16,「会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する中間試案(案)」を配布させていただいております。第10回会議では,この案のとおり中間試案を取りまとめることとされましたが,パブリック・コメントの手続を実施するに当たり,更に必要な形式等の修正につきましては,部会長である私と事務当局に一任された次第であります。   それでは,中間試案の概要を最初の2枚ものの概要資料を用いて簡単に御説明をさせていただきます。   一つ目の大項目は,株主総会に関する規律の見直しであります。   まず,株主総会資料の電子提供制度についてです。現行の会社法におきましては,株主総会参考書類,事業報告等の株主総会資料は,原則として書面によって提供しなければならないこととされており,株主総会資料を電磁的方法により提供するためには,株主の個別の承諾が必要とされております。株主総会資料の提供にインターネットを活用することができれば,株式会社における印刷及び郵送の費用の削減だけでなく,株主に対する早期の情報提供の促進,また,株主に対して提供される情報の充実等も期待することができると指摘されております。   そこで,株主総会参考書類,事業報告等の資料をウェブサイトに掲載し,株主に対してそのアドレス等を書面により通知した場合には,株主の個別の承諾を得ていないときであっても,これらの資料を適法に提供したものとする制度を創設することが提案されております。   主要な論点としましては,インターネットを利用することが困難な株主の利益にどのように配慮すべきかという点がございます。この点につきましては,書面の交付を希望する株主が会社に対して,ウェブサイトに掲載された資料を書面によって交付することを請求することができるようにするということが提案されております。また,株主にとっての分かりやすさやインターネットを利用した株主への情報の提供を促進するなどの観点から,上場会社に対して,この制度の利用を義務付けることも提案されております。   次に,株主提案権の濫用的な行使についてです。近年,一人の株主が膨大な数の議案を提案するなどの濫用的な行使と思われる事例が発生していることが問題として指摘されております。そこで,株主提案権について,提案することができる議案の数を10又は5までとする上限を新たに設けることや,不適切な内容の株主提案についての制限を新たに設けることが提案されております。   二つ目の大項目は,取締役等に関する規律の見直しです。   まず,取締役の報酬に関する規律の見直しについてです。取締役の報酬についての現行の会社法の規律は,取締役又は取締役会による,いわゆるお手盛りを防止するためのものであると一般的に理解されております。しかし,近年,このようなお手盛り防止の観点からの規律に加えて,報酬が取締役に対し適切な職務を執行するインセンティブを付与するための手段として適切に機能するような観点からの規律も会社法に設ける必要があると指摘されております。   そこで,報酬の決定に関する方針についての株主総会における説明義務を新たに設けることや,報酬として自社の株式を付与する場合における株主総会の決議事項を見直すこと,また,事業報告における報酬に関する情報開示を充実させることなどが提案されています。   次に,会社補償に関する規律の整備についてです。現行の会社法には,いわゆる会社補償に関する規定がなく,どのような手続により,どのような範囲のものを株式会社が補償することができるかなどが不明確であると言われております。とりわけ,この会社補償につきましては,構造上の利益相反性が認められることから,濫用的に利用される懸念も指摘されており,会社法に規定を設けて,適切な運用がされるようにすべきであると指摘されております。   そこで,部会におきましては,会社が補償することができる費用等の範囲や,そのために必要な手続に関する規定を会社法に設けることが提案されております。そして,会社補償が認められる範囲としては,役員等が防御に要する費用については相当と認められる範囲に限定すること,また,賠償金については,株式会社への賠償金は除外し,第三者への賠償金は,役員等が善意でかつ重大な過失がないときに限定することが提案されております。   続きまして,役員等賠償責任保険契約,いわゆるD&O保険に関する規律の整備についてです。D&O保険は,既に我が国においても上場会社を中心に広く普及しておりますが,現行の会社法には,株式会社がD&O保険に係る契約を締結することに関する定めはなく,株式会社がD&O保険に係る契約を締結するためにどのような手続が必要であるかなどについての解釈は必ずしも確立されてはおりません。株式会社がD&O保険に係る契約を締結することについては,会社補償と同様に,構造上の利益相反の問題があることなども指摘されておりまして,D&O保険についても会社法に規定を設け,適切な運用がされるようにすべきであると指摘されております。   部会においては,D&O保険に係る保険契約を締結する場合には,取締役会の決議を得ることや,また,加入しているD&O保険に関する情報開示等に関する規定を会社法に設けることなどが提案されております。   最後に,社外取締役を置くことの義務付けについてです。部会におきましては,平成26年改正法の附則第25条の趣旨に沿い,改正法の施行後の情勢の変化等を踏まえて審議がされておりますが,社外取締役を置くことの義務付けにつきましては,資料に記載してございますとおり,積極及び消極それぞれの意見がございます。中間試案におきましても,両論を併記する形で取りまとめられております。   次に,三つ目の大項目になりますけれども,社債の管理その他に関する規律の見直しということであります。   まず,社債管理補助者制度についてであります。現在,我が国で公募されている多くの社債については,社債管理者設置義務の例外規定を利用することにより,社債管理者が設置されていないのが実態であると言われております。このように多くの社債で社債管理者が設置されていない原因としては,社債管理者の権限が広範であり,また,その義務,責任及び資格要件が厳格であることなどから,なり手の確保が難しいことなどが指摘されております。もっとも,近年このような社債管理者が設置されていない社債については,社債管理者よりも簡易な形で社債の管理に関する事務を第三者に委託することができるような制度を設けるべきであると指摘されております。   そこで,部会においては,社債管理補助者制度というものを創設し,社債権者において自ら社債を管理することを期待することができる社債については,新たに社債管理者よりも裁量の余地が限定された権限のみを有する社債管理補助者という者に社債の管理の補助を委託することができるものとするということが提案されております。   次に,株式交付制度の創設についてです。現行の会社法におきましては,株式会社が自社の株式を対価として他の株式会社を買収しようとする場合において,対象会社,すなわち買収の対象となる会社を完全子会社とすることまでを企図していないときなどは,いわゆる株式交換という,現在用意されている制度を用いることはできず,買収会社は対象会社の株式を現物出資財産として会社法第199条第1項の募集をする必要があるということになります。   しかし,このような手法を用いることにつきましては,原則として検査役の調査が必要となるため,その手続に一定の時間を要し,費用が発生することや,引受人である対象会社の株主及び買収会社の取締役等が財産価額塡補責任を負う可能性があることなどが障害になると指摘されております。   そこで,部会におきましては,株式会社が他の株式会社を買収して親子関係を円滑に創設することができるようにするために,株式交換という現在存在しております制度を参考にして,新しい制度を設けることが提案されております。   最後に,その他についてでございますけれども,議決権行使書面の閲覧謄写請求の拒絶事由に関する規定を新たに設けること,また,株式会社の代表者の住所が記載された登記事項証明書の交付請求を制限する規定を新たに設けることなどが提案されております。   後者の点について若干敷衍させていただきますけれども,現行の会社法においては,株式会社の代表者の住所は登記事項となっております。しかし,個人情報保護の観点から,これを登記事項から削除し,又はその閲覧を制限すべきであると指摘されております。ただ,登記事項から削除することにつきましては,代表者の住所が民事訴訟法上の裁判管轄の決定及び送達の場面で重要な役割を果たしていることを踏まえますと問題があるという指摘もされておりまして,部会におきましては,住所は登記事項とはしつつも,住所が記載された登記事項証明書につきましては,住所の確認について利害関係を有する者に限って,その交付を請求することができるものとすることが提案されております。   最後に,今後の予定についてでありますが,今月中,2月中をめどにパブリック・コメントの手続を開始し,その後,部会においてパブリック・コメントの手続の結果を踏まえた審議が行われることが予定されております。   御報告は以上でございます。 ○井上会長 ありがとうございました。   それでは,ただいまの神田部会長からの審議経過等の報告につきまして,これも御質問,御意見まとめてで結構ですので,御発言をお願いしたいと思います。 ○小杉委員 質問をしたいんですけれども,社外取締役のことなのですが,最近,報道でもいろいろデータの改ざんとか,会社の経営の信頼性についてかなり疑問を持つような事件が起きているところだと思います。そうした中で,社外取締役について,既に東証一部上場企業では99.6%まで置かれているというような,こういう状態の中で,消極的な意見というのは一体どういう背景で出てくるのか,そこがちょっと理解できないところがございまして,どのような論拠で消極的な意見が出ているのか,それを教えていただければと思います。 ○神田部会長 幾つか意見はあるのですけれども,大きく言うと二つではないかと思います。一つは,26年改正と,その後のコーポレートガバナンス・コードというものが施行された結果,今御指摘がございました社外取締役を設置する会社は,上場会社ではほとんどになっているのですけれども,それが企業にとって何らかのプラスの影響を与えているのかどうかということについての因果関係というんでしょうか,そこのところをもう少し確かめたいと,そういう確かめるのを待ってからであって,そういう意味で,消極論といっても,もう少し時間を置くべきではないかという意見が一つあります。   それから,もう一つは,実務的な御意見だと思うのですけれども,残りの数%に強制するかという議論です。その残りの数%の会社というのは,やはり何か理由があって結局,設置していないわけで,そこはコーポレートガバナンス・コードではエクスプレインといっているんですけれども,説明をしているわけです。そうだとすれば,そこを強制するというのはいかがなものかという意見も,これは主として実務の観点から出されていると承知しております。 ○小杉委員 どうもありがとうございます。 ○白田委員 社債の管理等に関する規律の見直しの件で少々お尋ねしたいと思います。   「社債権者集会の決議で金利を減免することができる旨の明文の規定」というところです。当然に社債権者集会に出られる方は社債を購入している方ということになろうかと思いますが。全員が書面若しくは電磁的記録で同意をすれば金利を減免する,金利を下げることができると読むことができるのですが,この議論がなされた背景を教えていただきたいと思います。   というのは,御存じのとおり,社債の金利というのは低ければ低いほど安全性が高いというのが社会の認識でございますので,発行されてから以降に金利が変更になるということは,この社債を持っていらっしゃる方はその背景は認識するとしても,社会的な発行体企業に対する評価や債権に対する評価が誤認されてしまう可能性があるのではないかとちょっと懸念しているわけです。このことから,この議論に至った背景を教えていただければと思います。 ○神田部会長 割と形式的な法律論だと私は承知しておりまして,社債の場合には株式などと違って純粋な債権ですので,元本というものがありまして,利息というものがあるわけです。それが一旦発行された後に事後的に変更,具体的に言いますと,例えば利息を年5%払いますと約束していたけれども,なかなか払えなくなってきたというので,利息を3%に下げようとか,あるいは元本が,仮にですけれども,一人当たり1万円だとしますと,その1万円の元本を4割カットしてくださいというのは,当然,債権者である社債権者の同意が必要になるというのが従来の考え方なのですね。それは債権であるから当たり前で,もし1対1であれば,その契約の内容の変更ですから,相手方の同意が要ると。ただ,社債の場合には結局,普通は社債権者が多数いることを想定していますので,一番典型的な場合は,企業の調子が悪くなって,リストラクチャリングと一般に呼んでいるのですけれども,大口債権者で,例えば銀行と交渉して,その銀行の貸付金の内容を変更してもらう,利息を,今,元利金という言葉を使わせていただきますと,その減免について同意を得て,それで企業を立て直していこうと思っても,社債権者は結局,個別の同意が得られないと変更はできないということになっているというのが問題の所在でして,現在の会社法の規定は,必ずしもそれが社債権者集会の多数決でできるかどうかは明確でないのですね。一部に解釈によってそれが可能だという解釈はあるのですけれども,これをどう考えるのか,なかなか難しいところだと思います。今回の中間試案は,それは社債権者集会の多数決で,言葉を換えて言いますと,反対した人が少数であれば全社債権者に効力を生ずるという形での変更というのを認めていいのではないかと。ただし,裁判所の認可ということが要件にされていますので,そういうことで,実務上の要請というのでしょうか,それと,社債権者の保護というもののバランスを図り,かつ,現在の社債法というか現在の会社法上の規定が明確でない部分について,明確な規定を設けようという趣旨ということになります。   今御指摘のように,その結果どういう影響があるかということは確かにあり得ると思うのですけれども,それはケース・バイ・ケースで,非常に状況が悪くなっている会社,あるいは,何か恐らく,御懸念だとすれば濫用的にというのですかね,表現は良くないかもしれませんけれども,そういう使われ方がされるのではないかというようなことが,ひょっとすると御心配なのかもしれませんけれども,考え方の筋は非常に,ある意味,単純な法律論ということだと思います。 ○白田委員 追加してよろしいですか。手続的なことを今回,検討されていることは非常によく分かるのですが。一方で社会的な影響ということを考えますと,やはり大変懸念される点がたくさんあるわけですね。日本は間接金融が普通ですから,銀行と交渉して,経営内容が少し悪化したから金利を免除してもらうということは多々あると思います。ちなみに,日本では破綻した企業については,社債が償還されなかったケースというのは非常に少ない。これは金融機関が買取りをして,社債を購入した人には償還しているというケースが多々あることは御存じだと思います。   ただ,社債というのは,先ほど言いましたような,同じ会社が発行した社債であっても金利が違うことがあるように,償還期間によって金利は違うわけですから,金利がその企業の評価に非常に利用されているわけですね。そうしますと,銀行との相対の中での交渉は余り外には見えないところですが,社債というものの金利が変化してきますと,社債を持っていない人がモニタリングしていて,危ないのではないかと思っていたら,金利が下がってきたから,これは経営内容が回復したんだというような誤解を与える可能性があるという点でちょっと心配をしているわけです。是非何か部会の方でその辺も御議論いただければと思います。 ○井上会長 それでは,これは御意見として承り,部会の審議の中で,その点も含めて御議論いただければと思います。 ○神田部会長 はい。 ○井上会長 ほかに,御質問はございませんか。 ○高山委員 私自身,上場会社に長く勤務し,現在,複数の社外役員を兼務している立場から,実務上感じていることをちょっとコメントさせていただきたいと思います。   平成27年以降,この3年間に,先ほどもありましたけれども,改正会社法とコーポレートガバナンス・コードによって,企業統治のレベルというのは格段に前進したとはもちろん認識しておりますが,非常に進んだ企業がある反面,上場会社といっても,やはり取りあえず形式的,表面的対応にとどまらざるを得ない会社が多数あると認識しております。やはりその原因というのは,経営トップの意識の問題,それと,もう一つやはり大事なのは,企業内部のリソースの問題というのも少なからず私は影響していると思います。そういう観点から,既に部会の中でいろいろ議論はあったことと思いますけれども,3点ほど気になっている点を申し上げたいと思います。   一つ目は,総会資料の電子提供制度の創設についてです。株主総会の資料の電子提供制度は大変歓迎すべきことだと思うのですけれども,やはり書面交付請求への個別対応の煩雑さ,あるいは電子提供の開始日や招集通知の発送期限の早期化という点については,かなりリソースの少ない企業にとっては相当の負担が掛かるということを懸念しております。   二つ目に,株主提案の件ですけれども,濫用的行使の防止の対応というのは大変よいと思うのですけれども,権利行使の要件,これは見直さないということになったとのことですが,やはり全体的に見ますと,濫用的行使の制限はもう当然のことであって,そうでないものを差し引いたとしても,やはり若干,個々の株主への権利尊重というほうにバランスが傾いていないだろうか,その辺もちょっと懸念しているところでございます。   それから,3点目に,取締役へのインセンティブということを目的に,報酬,それからD&O保険等々について,実務上既に行われていることに関して説明義務あるいは情報開示を求めるということですけれども,こういった細かい規律を法制化するということにおいて,果たして取締役がリスクテイクで攻めの経営判断を行っていくインセンティブとして働くのかどうか,これも実務上,気になっている点でございます。公開会社全てに当てはめることによって,やはり企業の実務負担というのも増えますし,取りあえずの形式的な対応をする企業も増えると,これがやはり現実ではないかと私は懸念しているところでございます。   持続的な成長と中長期的な企業価値の向上というのが,企業にとっても望むところであり,そして株主にとっても望むところだと思うのですけれども,今回の改正の各項目を見ますと,その辺が若干見えにくく,どちらかというと,細かい規律を設けるということで企業の実務負担が増える,そして形式的対応をする企業が増える,その辺をやはりちょっと懸念をしております。これは企業側の見方の一側面にしかすぎないかもしれませんけれども,御検討を改めてお願いできればと思っているところでございます。 ○井上会長 これも御意見として承って,部会の審議の中で御議論いただければと思います。 ○岩原委員 2日前に決定された中間試案なので,今ここで読んだばかりで,的確にまだ理解してないため,御質問等が的外れかもしれませんが,御容赦いただきたいと思います。今の高山委員の御発言には反するかもしれませんが,細かいことを質問させていただきたいと思います。   まず,第一の質問ですが,第2部の第1の2の会社補償でございますが,会社補償に関する規定を次のとおり設けるということですが,①のアの(イ)の,「当該役員等が,その職務の執行に関し,法令の規定に違反したことが疑われることとなったこと」により要する費用というのは,会社法360条の差止めの訴え等を起こされたときの応訴の費用等を想定されているのでしょうか。   第二に,2①イの2行目にある「善意でかつ重大な過失がないとき」というのは,これは第三者に加害を与えることについての善意,重大な過失ということと理解してよろしいのでしょうか。会社法429条に関しては任務懈怠に関する悪意,重過失が問題にされますので,同じ言葉を使うと,どちらの意味か分かりにくかったのです。   第三に,一番気に掛かったのは,2①の,特にアのところです。これは,取締役に職務の執行に関し結果的に責任があるとされた訴訟,あるいは違法行為があるとされた訴訟についても,その訴訟費用は会社が負担するという会社補償の契約を結ぶことができるということを意味しているのでしょうか。今までの会社法の解釈としては,取締役に責任がないような訴訟であれば,当然会社がその訴訟費用を負担すると解釈されていたと思うのですけれども,取締役に責任があるとされたときは,取締役が自分でその訴訟費用等を負担しなければならないと,一般に解釈されていたと思うのですが,この文章を読むと,そういう場合も会社がその訴訟費用を負担する会社補償契約を締結できると読めるのですが,そういう趣旨なのでしょうか。もしそういう趣旨だとしたら,私は疑問があると思います。   さらに,2①イの方には「善意でかつ重大な過失がないとき」という要件を課していますが,アの方には課していないわけです。せめて,取締役に責任がある場合でも,そういうことをやったことについて善意で重大な過失がないときならば,まだ訴訟費用を会社が負担してやるということは考えられると思うんですけれども,イのような善意かつ重大な過失がないときという要件をアに課していないというのは,非常に疑問ではないかという感じがしましので,その点,御質問申し上げます。 ○井上会長 御質問は大きく3つですね。一番最後のところは御意見に当たる部分もあるということですが。では,順次,お答えをお願いします。 ○神田部会長 非常に細かい話なので,分かりにくいお答えになってしまうかもしれませんで大変恐縮ですけれども,まず,御指摘いただいた点は,いずれの点につきましても部会でそれなりに議論がされた点だと私は理解しております。それで,部会の大方の意見がどうかということは,なかなか私はそれを代弁できないのですけれども,中間試案に書いてあるところが大体どうかということについての私の理解を簡単に申し上げます。   第1点につきましては,法令の規定に違反したことが疑われることとなったというのは,確かに,差止めというのが一番典型的なケースですけれども,それに限定されるわけでは必ずしもないということではないかと思います。   それから,イの方ですけれども,善意でかつ重大な過失がないというのは,職務を行うについてなのか,第三者に損害を与えたことについてなのかという御質問なのですが,これは,御指摘のとおりなのですけれども,現在の429条1項についての解釈にあるとおり,結論から申しますと,解釈に委ねられるということと理解しております。私の理解が間違っているかもしれませんけれども。   それで,3点目は非常に大きな御指摘なのですけれども,なかなかうまくお答えできないのですけれども,アとイの大きな違いは,アは費用だということです。それで,アに対する制約というのは,括弧書きがあるのですが,「相当と認められる額に限る」と,これを制約にしています。イの方は費用ではなくて,「損害を賠償する責任を負う場合において」なので,損害賠償金ということになります。ただし,会社に対する損害賠償金は除いています。かつ善意,無重過失を要件にしているということになります。   ですから,典型的なケースで言いますと,私が会社の取締役であって,私が会社の仕事で外回りをしていまして交通事故を起こした,第三者にけがをさせて,私個人が損害賠償責任を負いました。そのときに,そこに費用もかかりますし,例えば,そのけがで100万円,病院に行って治すのにかかると,私が100万円の損害賠償責任を負うことになります。この場合に,費用だけでなく,この100万円の損害賠償金も,今言った要件がありますけれども,会社が事後的にというのでしょうか,払っていいという話になります。補償という概念が余りいい日本語ではないのですけれども,その考え方は,会社の業務をしていたわけですので,かつ,善意で重過失がないというような場合には,そういうものは会社が持つということもあっていいのではないでしょうかと。   今の例はちょっと交通事故の例を挙げてしまったので,よくないかもしれませんが,先ほどの高山委員から御指摘のあった言葉で言えば,取締役というのはリスクをとって経営をするわけですから,そのプロセスにおいて第三者に対して損害を与えてしまった場合には,費用だけではなくて損害賠償金も補償することがあるという,そういう考え方です。   ベースになった考え方は,現在,委任契約について既に民法に規定がありまして,費用についてと,それから損害,これはちょっと規定の仕方は違っていて,過失なくという条件にはなっているのですけれども,その民法の規定は現在も適用されるという前提の下に,会社法的なというのでしょうか,規律を更にそれに付け加えて設けようということで,中間試案の考え方になっています。   そういう意味で,いろいろな御議論があるところですけれども,中間試案の考え方は,アは費用,これは善意で無重過失という要件ではなくて,相当な額というところで絞りをかけていると。それから,イの方は費用ではなくて,損害賠償責任を負った場合の,その賠償金額,ただし,繰り返しになりますけれども,対会社のものはもちろん除きまして,対第三者というものであり,かつ,善意で重大な過失がないというでこと絞りにかけていると,そういうことになっております。 ○岩原委員 よろしいですか。相当と認められる額という制約は,会社法852条1項が定めるように,代表訴訟の原告株主等が負担する弁護士費用などの必要な費用を会社に請求することができるが,その額が過大にならないように,相当と認められる額の支払請求をすることができるというような,支出した費用の額の過大さをチェックするための制約であって,取締役に悪意・重過失がある場合を補償の対象から除くための制約になるとは考えにくいのです。先ほど申しましたように,取締役に悪意があって行った行為で,取締役に責任があるということが裁判所に認められたときでさえ,その訴訟費用は会社が負担してやるということは,私はおかしいと思っています。この中間試案の書き方ではそういう問題をカバーできないのではないかという疑問があります。私の意見として申し上げます。 ○神田部会長 今の点につきましては,私も個人的にはおっしゃることはよく分かるというか,賛同できるのですけれども,中間試案の書き方は,そこは更に取締役会が判断することになりますので,そこの取締役会が,例えばですけれども,今の表現で,悪意がある場合にまで,相当だから費用を払うという判断をするかという,そういうふうに立て付けとしては作られているということでありまして,代表訴訟の場合はまたちょっと別になると思っております。 ○井上会長 今の点も御意見として承るということでよろしいですか。   ほかに御質問,御意見はございませんか。   御発言がないようですので,神田部会長の御報告についての御質問,御意見はこのくらいとさせていただきたいと思います。   神田部会長,どうもありがとうございました。引き続き,部会において御審議のほどよろしくお願いします。   本日予定しておりました事項はこれで終了となりますけれども,この機会に何か御発言を頂くことがございましたら,承りたいと思います。   よろしいですか。   それでは,御発言もないようですので,本日の会議はこれで終了とさせていただきます。   本日の会議における議事録の公開方法につきましては,審議の内容等に鑑み,会長の私といたしましては,議事録の発言者名を全て明らかにして公開することにさせていただきたいと思いますが,いかがでしょうか。           (「異議なし」の声あり) ○井上会長 では,そのように取り扱わせていただきます。   それでは,本日の会議はこれで終了といたします。   なお,本日の会議の内容につきましては,後日,御発言を頂いた委員等の皆様には議事録の案をメール等で送付させていただきまして,内容を御確認いただいた上で,法務省のウェブサイトに公開するということにさせていただきたいと思います。   最後に,事務当局の方から事務連絡がございましたら,お願いします。 ○小出関係官 次回の会議の開催予定について御案内申し上げます。   法制審議会は,2月と9月に開催するのが通例となっておりまして,次回の総会の開催日程につきましても,現在のところ例年どおり本年9月に開催予定ということになっております。具体的な日程につきましては後日改めて御連絡,御相談させていただきたいと存じます。   委員,幹事の皆様方におかれましては,御多忙とは思いますが,今後の御予定につき御配意いただきますようお願い申し上げます。 ○井上会長 それでは,これで本日の会議を終了させていただきます。   本日もお忙しいところをお集まりいただき,熱心な御議論を頂きまして,誠にありがとうございました。 -了-