法制審議会 会社法制 (企業統治等関係)部会 第10回会議 議事録 第1 日 時  平成30年 2月14日(水)   自 午後 1時30分                          至 午後 4時27分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  会社法制(企業統治等関係)の見直しについて 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○神田部会長 それでは,予定した時刻が参りましたので,法制審議会会社法制(企業統治等関係)部会の第10回会議を開会させていただきます。   本日も皆様方には,大変お忙しいところを御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   それでは,まず事務当局から,本日の参考人の御紹介をお願いいたします。 ○竹林幹事 参考人の御所属等は,議事次第に記載させていただいているとおりでございますが,本日は,取締役等の欠格条項の削除に伴う規律の整備の要否の審議の関係で,佐久間教授及び山野目教授に参考人として御参加いただいております。どうぞよろしくお願いいたします。 ○神田部会長 両参考人,お忙しいところ,ありがとうございます。よろしくお願いいたします。   それでは,いつものように,本日の会議の配布資料の確認をさせていただきます。事務当局からお願いいたします。 ○竹林幹事 お手元には,議事次第,配布資料目録,部会資料16及び17,参考資料40及び41,委員等名簿を配布させていただいておりますので,御確認ください。   なお,本日は,岡田幹事,齊藤幹事は御欠席でございます。 ○神田部会長 ありがとうございました。   よろしいでしょうか。   それでは,本日の審議に入らせていただきたいと思います。   本日でございますけれども,まず,中間試案の取りまとめをさせていただきます。その取りまとめが終わりました後で,取締役等の欠格条項の削除に伴う規律の整備の要否について御審議を頂きたいと思います。   それでは,まず,お手元の部会資料16につきまして,事務当局からの御説明をお願いいたします。 ○竹林幹事 それでは,部会資料16,中間試案の取りまとめ案について御説明をさせていただきます。   中間試案のたたき台としてお示ししたものから,形式面の修正や趣旨の明確化のための修正等もしておりますが,本日は,特に重要と思われる修正に絞って,簡単に御説明をさせていただきます。   まず,第1部におきましては,「第1 株主総会資料の電子提供制度」において,6ページ,(第1の後注3)でございますが,イを追加させていただいております。会社法第299条第3項の承諾をした株主については,インターネットの利用が困難であるとは認められないともいえます。そのため,そのような株主が書面交付請求をした場合であっても,株式会社は書面の交付をすることを要しないものとすることも考えられるところです。   もっとも,そのような規律とすることで,書面交付請求に係る実務に負担が生ずるということもあるかもしれません。そこで,取りまとめ案におきましては,この問題についても,なお検討するものとさせていただいております。また,(第1の後注4)のいわゆるウェブ開示によるみなし提供制度に関しても,たたき台についての御議論を踏まえ,表現を修正させていただいております。   そして,「第2 株主提案権」でございますが,6ページ,第2の「1 提案することができる議案の数」に関しまして,たたき台についての御議論を踏まえ,A1案を追加させていただいております。また,7ページの(第2の後注)といたしまして,同様に,たたき台についての御議論を踏まえ,株主提案権の行使要件及び行使期限の見直しに関する注を追加させていただいております。   第2部におきましては,まず,第1の「1 取締役の報酬等」において,9ページ及び10ページでございますが,第1の1「(5) 情報開示の充実」につきまして,④を追加させていただいております。情報開示の充実の方向性として,業績連動報酬のKPIの達成率等が分かるような開示の充実を図るべきであるという御指摘があったことなどを踏まえ,追加させていただいたものでございます。   また,13ページ,第2の「2 監査役設置会社の取締役会による重要な業務執行の決定の委任」のA案について,委任することができるための要件を,取締役の過半数が社外取締役であることその他一定の要件を満たす場合とさせていただいております。その上で,(注)におきまして,その他一定の要件の例として,①から④までの要件のいずれにも該当することとさせていただいてございます。   第3部におきましては,まず,第1の「1 社債管理補助者」において,たたき台におきましては,14ページ,「(3) 社債管理補助者の義務」の③とさせていただいていた社債管理補助者の報告義務でございますが,こちらを「(4) 社債管理補助者の権限等」の④とした上で,「委託の趣旨に従い」とあったのを,「委託契約に従い」というふうに修正させていただいております。   また,16ページ,(10)の④の社債権者集会の決議の執行につきましても,たたき台におきましては,原則として,全ての社債権者集会の決議について,社債管理補助者が執行するものとしていたのを,たたき台についての御議論を踏まえ,原則として,社債管理補助者の権限に属する行為に関する事項を可決する旨の社債権者集会の決議に限って,社債管理補助者が執行するものとさせていただいております。   そして,「第2 株式交付」におきましては,17ページの1①の(注)と18ページの2②の(注)におきまして,想定している子会社の範囲を明確化する修正をさせていただいております。  なお,以前にも御案内申し上げましたとおり,中間試案につきましては,パブリックコメントの手続をとる際に,民事局参事官室の責任で作成する中間試案の補足説明も併せて公表させていただく予定でございます。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   それでは,皆様方から御質問,御意見等がございましたら,お出しいただきたく思います。どなたからでも,どの点でも結構です。いかがでしょうか。古本委員,どうぞ。 ○古本委員 ありがとうございます。   今回取りまとめていただいた中間試案につきましては,議決権行使書面閲覧等や株式会社の代表者の住所が記載された登記事項証明書など,経団連からお願いした論点を中間試案に反映していただいたことに,まず感謝申し上げたいと思います。   一方で,これまで申し上げてきましたことを反映いただいていない論点,なお検討すると注記にとどまっている論点もあります。私どもといたしましては,部会資料に記載の内容を中間試案として取りまとめることに反対するものではありませんが,今後,パブリックコメントに向けて,経団連としての提言を取りまとめてまいりたいと考えております。   この場では,現時点で特に強調しておきたい点につきまして,簡潔にコメントさせていただければと思います。   まず,株主総会資料の電子提供制度については,この制度を上場会社に一律に導入するという方向性について,異論があるわけではありません。しかし,電子提供措置開始日,それから招集通知の発送期限,こういった点も含めて,是非実務が回る仕組みとしていただきたいと思います。実務が回る仕組みであるということが,一律導入をする上での,私どもとして譲れない前提であるということを再度申し上げておきたいと思います。   また,現在注記にとどまっておりますけれども,書面交付請求権の定款による排除と電子提供制度導入後のみなし提供制度の取扱い,更にはEDINETを利用できることとした上での電子提供措置に関する調査の免除,こういった点については,パブリックコメント後も実務の実態を踏まえた十分な議論をお願いしたいと思っております。   株主提案権につきましては,提案することができる議案の数に上限を設けていただくことは歓迎ですが,上限の数としては,5でもまだ多過ぎると考えておりますので,パブリックコメント後も適切な上限について,更に検討していただきたいと思います。   また,上限を超える提案があった場合の取扱いについては,実務の混乱を避けるためにも,そうした場合には全て提案が無効となるという方向で検討いただけないかと考えております。   今回の取りまとめでは注記にとどまっておりますけれども,議決権300個の行使要件の削除ないし引き上げと行使期限の見直し,これに加えまして,業務執行事項に関する株主提案の排除につきましても,株主提案の実態と株主総会実務を踏まえて,更に議論を深めていただきたいと思います。   特に300個の議決権保有要件につきましては,この部会でも御紹介いたしましたが,100分の1%にも満たない議決権しか保有していない株主から多数の提案がなされているという事例もあります。そうした株主提案のために株主総会の相当な時間を割いているということが株主の共同の利益にかなうことなのか,御検討いただきたいと思います。   次に,取締役等への適切なインセンティブの付与のうち,取締役の報酬等については,再一任する場合の総会決議の要件化,再一任に関する事項の開示,個人別報酬の開示につきましては,そうした規律を設ける必要性がなく,また,実務に及ぼす影響が大きいことから,経団連として強く反対であるということを再度申し上げておきます。また,株式報酬等につきましても,現在の実務である相殺構成で特段の不都合はありませんので,新たに規定を設ける必要はないと考えております。   さらに,会社補償とD&O保険につきましては,そもそも規律を設ける実務上のニーズがないこと,さらには,インセンティブの付与としては,不十分というよりもマイナスですらあり,かえって会社補償やD&O保険が利用しづらくなることを懸念しております。パブリックコメント後も,こうした規定を設けることの必要性,仮に規定を設けることとなった場合でも,開示すべき事項,対象となる保険の定義など,十分慎重な議論をしていただきたいと考えております。現行規律の下で問題なく実務が定着している中で,特にD&O保険の保険金額を新たに開示するといったようなことによって,訴訟を誘発するなどの弊害も懸念されます。   株主代表訴訟につきましては,和解の際の手続のほかは,中間試案では論点として記載されておりません。しかしながら,何度も申し上げましたけれども,一度不適切な代表訴訟が提起されますと,訴えられた取締役は訴訟対応に追われて,本来注力すべき業務に専念できないといった大きな負担を負うことになります。我が国の制度は,国際的に見ても,余りに訴訟が起きやすい仕組みになっておりますので,パブリックコメント後の議論継続を是非ともお願いしたいと思います。また,会社補償の文脈でも議論となりました業務執行取締役の責任限定,これにつきましても,議論を深めるべきであると考えています。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。小林委員,どうぞ。 ○小林委員 どうも御発言の機会を頂き,ありがとうございます。   これまで1年近くにわたりまして,全国125万の会員事業者により構成される商工会議所としての意見を申し上げてきております。   中間試案の案文を拝見いたしますと,我々の意見を反映していただいた箇所も多いと思っておりますけれども,残念ながら,一部に反映されていない項目ですとか,強く反対をしている項目も含まれているところでございます。案文の内容に全面的に賛成しているわけではございませんけれども,現時点で,これを中間試案として取りまとめ,広く世の中の意見を問うことに反対はしないということでございます。   取りまとめに当たりましては,試案と我々の意見が異なる主要な論点については,パブリックコメントを求める際の説明文書を作られるということでございますので,これを記録として,しっかり残していただくことを要望させていただきたいと考えます。   また,何点か留意していただきたい点がございますので,以下,申し述べさせていただきます。   まず,株主総会資料の電子提供制度のところで,全体として,株主総会資料を電子的な方法で提供できる制度を整備する方向については,基本的には賛成でございます。ただ,市場の第2部,あるいは新興市場など,株主数が数百程度の上場会社からは,電子提供制度のメリットを十分に享受できないことに加え,現時点の考え方だと,電子提供の際に早期の情報開示を迫られる,招集通知の発送期限が早まることにより,招集通知と株主総会資料を同時に送付できなくなる懸念があること,電子提供措置の対応費用や,中断調査の費用負担が発生するなど,電子提供の対応が負担となることから,義務付けには反対という意見が寄せられているところでございます。   上場会社の電子提供の義務付けについては,商工会議所としては,任意で企業が選択できるようにしていただきたいということを繰り返し申し上げてきておりますので,今後も十分な検討・議論を尽くす必要があるものと考えております。   各論でございますが,電子提供措置のところで,電子提供措置を開始する期限について,総会4週間前を期限とする提案につきましては,会社実務の現状を踏まえると,働き方改革に逆行するように,実務的には非常に厳しく,対応のための労働時間が増えるというようなこともございますし,例えば,監査法人に対しての業務が集中して,監査が間に合わない場合も考えられるということから,自社だけの努力ではコントロールができないこともございまして,商工会議所としては,この4週間という期限については反対でございます。規定としては引き続き,総会2週間前の期限をと考えておりまして,この点は議論を続けさせていただきたいと考えております。   それから,株主総会参考資料の書面交付請求につきましては,商工会議所としては,議論開始当初から,電子提供措置を導入する実務的なメリットとしては,定款の定めにより書面交付を行わないことも選択可能にすべきであると申し上げてきております。これもパブコメ後の審議再開時には,是非丁寧に前向きな検討をお願いしたいと考えているところでございます。   もう一つ,電子提供措置の調査についてでございます。電子提供措置の期間は電子公告よりも長いので,調査費用が大きく,売上げ規模にかかわらず,固定費用として発生すると考えられます。規模の小さな上場会社にとっては,電子提供の義務付けの中でも負担感が大きいかと思っております。よって,EDINETを使用して情報開示する場合には,電子提供措置を採ったものとみなす設計とすることが大変重要であると考えておりまして,(第1の後注2)に記載がございますが,パブコメ後の審議再開時には,関係省庁・機関を巻き込んだ積極的な検討をお願いしたいと考えております。   次の第2の株主提案権でございますが,内容による提案の制限についてのところで,この制限を定めることには当然賛成でございます。ここで,濫用につきまして,「専ら」とか「著しく」という文言が挿入されていることで,権利濫用に該当すると判断できる範囲が著しく狭くなってきて,実用に耐えられない可能性があるものと考えております。特に提案株主の内心に専ら不適切な目的があることを立証することは難しいと考えておりまして,不適切な株主提案を不採用とすることができなければ,結果として,この法の趣旨が実現されないと考えております。   商工会議所としては,ここでいう「専ら」,「著しく」の文言を削除するか,又は,「専ら」を「主として」,「著しく」を「特に」と置換すべきであると申し上げてきておりますので,引き続き検討が必要であると考えております。   それから,取締役等への適切なインセンティブ付与の,取締役の報酬等でございますが,(1)の取締役の報酬等の内容に係る決定に関する方針のところで,現行の規律を見直す必要はないと考えております。取締役報酬等の決定方針について,上場会社においては,CGコードが策定されたことによって,各社工夫しながら対応,情報開示を行っていると考えております。   一方で,非上場会社の多くを占める中小企業につきましては,株主が社長,あるいは非常に狭い同族の関係者に限定されることも多く,不特定多数の株主が株式を所有しているケースは非常に少ないと考えておりますので,この報酬等の決定方針を策定した理由,実際の報酬決定の判断,関係性等を説明することには余り意味がないと考えておりますので,ここについても議論は重ねさせていただきたいと考えております。   情報開示の充実についてですけれども,商工会議所としては,これまでどおり,この規律は見直す必要はないと考えております。仮に規律を見直すということになりました場合には,取締役の個人別の報酬の内容の開示については,日本企業の風土ですとか,あるいは個別の報酬額が判明することによる弊害を考えれば,開示項目としては適当ではないため,本来は削除していただきたい旨を申し上げてきております。   こちらは,(5)の(注)で,個人別開示をなお検討すると記載されておりますけれども,ここには強く反対でございますので,再開後の審議においても,ビジネスの現場の実態を十分に踏まえた慎重な検討がなされるように期待しております。   それから,2の会社補償でございます。商工会議所としては,これまで現行の仕組みの中で適切に運用されてきており,特段の問題もないことから,制度の見直しは不要というふうに意見を申し上げてきております。   制度化を検討すると仮にしたところでも,現在の中間試案の案文では,第三者に対する損害賠償金について,株式会社が役員等について補償できるケースが極めて限定されていたり,和解がしにくくなったりする懸念があると考えております。そこで,業務執行取締役等と企業が責任限定契約を締結できるようにすべきであって,また,損失の補償の要件についても,悪意又は重過失が明白である場合にと修文すべきであると申し上げてきております。   もう一つ,補償内容の決定については,取締役会非設置会社の多くが中小企業でございまして,これらの会社の会社補償の際に総会決議が要求されるということは,負担感があるということで,利用されない制度になりかねないと考えておりますので,取締役会非設置会社については,取締役の過半数の賛成による決定を可能とすべきであると申し上げてきております。   情報の開示につきましても,株主から無用な疑念や訴訟リスク,企業が役員等に正当な補償を行うことを妨げるというデメリットも生じ得ると考えておりますので,開示はこれらのおそれがない程度の範囲にとどめるべきであると考えております。特に費用や損失の額,相手方等は,開示項目としては適切ではないと考えております。   概要についても,細か過ぎる規定にならないようにすべきであると考えておりまして,先ほど申し上げたように,これを制度化する必要がないのではないかという意見ではございますが,仮に設ける場合についても,もう少し議論を重ねさせていただきたいと考えております。   それから,3の役員等賠償責任保険契約につきましては,現時点で経産省の解釈指針や国税通達によってで,実務上問題なく運用されていることなどから,規律を見直す必要はないと申し上げてきております。   リスク対処方法の根幹をなす保険契約は,企業経営における最高レベルの企業秘密事項であると位置付けている企業も非常に多くあると考えております。仮に制度化を検討する場合でも,保険契約の内容が情報開示規定によって不用意に外部に示されることは,経営ノウハウの外部流出と同じであるということと,結果として,悪意を持った者による攻撃先の選別を容易にすることになります。保険金額が大きな被保険者から訴訟を提起されることになれば,本来のD&O保険の趣旨から逸脱すると考えておりまして,この保険内容の開示に関する規律を設けることには,これまでも商工会議所として強く反対してきているところでございます。この点についても,慎重に議論を重ねさせていただきたいというのが要望でございます。   それから,第3のその他の株式交付でございまして,こちら,株式交付について制度を設けることについては歓迎でございます。ただ,せっかく制度を創設するのであれば,企業に活用されるように,利用しやすい制度設計としていただきたいと考えております。試案に示された会社法施行規則第3条第3項第1号の範囲にとどまらず,同項第2号,100分の40以上の株式を取得し,実質的に支配権を有する場合も加えるべきであると考えていること,また,追加的に取得する場合のニーズに対応できるようにすべきであることを,これまでも申し上げてきております。   加えて,実務上は,外国企業の買収先が,LLCとかLLPといったケースも増えると考えておりまして,持分会社の扱い方も含めて検討すべきであると考えておりますので,引き続き,俎上に上げて検討いただきたいと考えております。   長くなりましたが,以上でございます。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。沖委員,どうぞ。 ○沖委員 ありがとうございます。   何点か,趣旨を明確にするための質問をさせていただきたいと思いますので,よろしくお願いいたします。   3点ございまして,まず1点目は,「第1部 株主総会に関する規律の見直し」第1の「1 定款の定め」に関する質問ですけれども,電子提供措置として,会社法施行規則第222条第1項第1号ロに掲げる方法のうち,インターネットに接続された自動公衆送信装置を使用するものによる措置によるものとされていますが,ここで確認なのですけれども,株主にID,パスワード等を付与して,株主だけがインターネット回線を使用してアクセスすることができるような措置を採ることも,この電子提供措置の内容として含まれているというか,認められるのかというのが1点目でございます。   2点目は,株式交付に関する質問でございまして,「第2 株式交付」の「1 定義等」(①の注)と「2 株式交付計画」②の(注)におきましては,今回いずれも,その範囲を明確にするという意味で,会社法第2条第3号に規定する基準のうち,会社法施行規則第3条第3項第1号に掲げる場合に限るということで,これは,譲り受ける株式交付子会社の株式数の下限を定める子会社も,下限を定めるに当たり算入される株式を保有する子会社の範囲も,両方とも議決権割合に基づく会社法施行規則第3条第3項第1号に定める基準で判定するということで,明確化されているのだと思います。この点に関する確認ですが,第1号の中で,自己の計算に応じて所有している議決権の,その自己の中に,子会社及び子法人等,この子法人等には,また括弧の中で,「会社以外の会社等が他の会社等の財務及び事業の方針の決定を支配している場合における当該他の会社等をいう。」を含むとなっておりまして,この第1号の中の自己の範囲に,第2号,第3号を併せた実質基準で定まるような規定があるんですけれども,そうしますと,第1号のこの部分についても,全て議決権割合で決まるように定義をするという趣旨なのかどうかというのが2点目であります。   三つ目は,株式交付親会社の手続につきまして,21ページの⑧に提訴権者が列挙されておりますけれども,全部で五つあるかと思いますが,このうち一つ目のものが,「株式交付の効力が生じた日において株式交付をする株式会社の株主等であった者」とありますので,これは効力発生日の株式交付親会社の株主等を意味しているのではないかと思われます。三つ目に,「株式交付をする株式会社の株主等」とありますが,これは株式交付親会社の現時点の株主等を意味していると,そういう理解でよいのかどうかという点であります。よろしくお願いいたします。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。 ○竹林幹事 まず,最初の御質問でございますけれども,株主の方だけが見られるようにIDとかパスワードを設定した上で電子提供措置を採るということは,問題なく認められると考えております。 ○青野関係官 2点目の御質問ですけれども,御質問いただいたのは,会社法施行規則第3条第3項第1号の「自己」の計算においてに関する「子会社」については,どう判断するのかということかと思います。この「子会社」については,必ずしも過半数の議決権を所有している場合に限るという趣旨ではございません。こちらについては,既に実質基準で子会社になっているものについては,「自己」に含まれるという前提で考えております。   御質問いただいた3点目は,提訴権者についての御質問だったかと思います。先ほどおっしゃっていただいた整理は,そのとおりでございまして,株式交付時点で株主であった者と,株式交付後に,現時点において株主である者という形で,過去と現在について書き分けております。 ○沖委員 ありがとうございます。   3点目について,ちょっと補足なのですけれども,提訴権者の二つ目に,「株式交付により株式交付親会社に対して株式交付子会社の株式を譲り渡した者」というのがございますが,私の理解では,今回の御提案では,このような者は必ず株式交付親会社の株主になるのであるというふうに理解しています。そうすると,もしその理解が正しいとすると,一つ目に包摂されてしまうんですけれども,念のため,二つ目は独自の利益があるということで,提訴権として明示しているという理解なのかどうか。私がもし勘違いしておりましたら,すみません。 ○青野関係官 御指摘のとおり,対価として,株式交付親会社の株式が交付された場合については,現在において,株式交付親会社の株主ということになるかと思いますけれども,対価の一部に株式が含まれていれば,例えば金銭など,その他の種類の財産についても,対価とすることはできるということを想定しておりますので,対価として金銭を受け取ったような方についても,子会社の株式を譲渡した方については提訴権者に含めるものとすることを考えており,二つ目の提訴権者のカテゴリーには,一つ目の提訴権者のカテゴリーに包摂されない,少し範囲が広がる部分があるという整理になろうかと思います。 ○沖委員 分かりました。ありがとうございました。 ○神田部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。坂本幹事,どうぞ。 ○坂本幹事 この度,コーポレートガバナンス改革に向けた取組の深化,あるいは経営資源の効率的な活用のための大胆な事業再編を後押しするという観点から,役員に対する株式報酬に関する規律の整備,あるいは,今も御議論がありました株式交付に関する規律の創設,そして,株主と会社の間のコミュニケーションの質の向上に資する株主総会資料の電子提供制度など,今回,中間試案の中に盛り込んでいただいた項目については,産業政策の観点からも有意義なものであるというふうに考えております。   他方,幾つか,今後に向けた継続的な検討課題ということで,お願いをできればというふうに思っております。まず,株式交付については,非常に有意義な事業再編の手段ということでもございますので,なるべく幅広く活用できるようにという観点から,子会社株式の買増しなども含めまして,多様な再編のケースに対応できるようなものとしていただくということも,是非継続的に御検討いただければと思います。会社補償に関しましても,役員に対して適切なインセンティブを付与するというそもそもの趣旨,意義に鑑みまして,今後詳細を詰める中で,主観的要件の在り方,あるいは損失の範囲といった点についても,そうしたそもそもの意義が発揮され,実務上活用できるようにという観点から,詳細な御検討をいただければというふうに思っております。   全体として,中間試案については賛同いたします。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。特に,よろしゅうございますでしょうか。   それでは,そのほか,特に御質問,御意見等はないようですので,この度の中間試案につきましては,お手元の部会資料16の内容で,今日の会議において取りまとめをするということにさせていただきたいと思いますけれども,御承認いただけますでしょうか。   ありがとうございました。それでは,御異論がないようですので,部会資料16の内容で中間試案の取りまとめということとさせていただきます。どうも,これまで大変積極的また建設的な御議論を多数いただきまして,ありがとうございました。   なお,中間試案の内容の確定に当たりましては,実質的な内容の変更にわたらない表現ですとか,てにをはというか,字句等の変更につきましては,大変恐縮ですけれども,部会長の私と事務当局に御一任いただきたいと思いますけれども,よろしいでしょうか。   ありがとうございます。それでは,そのように進めさせていただきます。   それでは,以上が中間試案の取りまとめということにさせていただきまして,冒頭申し上げましたように,続きまして,取締役等の欠格条項の削除に伴う規律の整備の要否についての御審議をお願いしたいと思います。   まず,お手元の部会資料17につきまして,事務当局に御説明をしていただき,その後,山野目参考人からお話をしていただくということにさせていただきます。   では,事務局からお願いいたします。 ○福永関係官 それでは,部会資料17「取締役等の欠格条項の削除に伴う規律の整備の要否」について御説明いたします。   部会資料17は,仮に,成年被後見人及び被保佐人が取締役,監査役,執行役及び清算人となることができない旨を定める規定を削除する場合において,これに伴って要する規律の整備について,どのように考えるかを問うものです。   現在,成年被後見人等について,多数の欠格条項があると指摘されているところであり,これらについては,補足説明の①から④までに記載するような問題点が指摘されています。このような状況を踏まえ,成年後見制度の利用の促進に関する法律第15条に基づき,成年後見制度利用促進基本計画案の作成に当たっての意見具申や成年後見制度の利用の促進に関する基本的な政策に関する重要事項に関する調査審議等を行うための機関として内閣府に設置された成年後見制度利用促進委員会は,現行の欠格条項を削除し,例えば,「心身の故障により,業務を適切に行うことができない者」といった個別的かつ実質的な審査の規定を整備するという基本方針を示しています。   現行法上,会社法第331条第1項第2号等において,成年被後見人等は取締役等となることができないものとされています。これは,成年被後見人等は取締役等として職務を果たすことが適当でないと考えられるからであり,先ほどの補足説明の②の民法上の事理弁識能力と取締役等に求められる能力とは質的なずれがあるのではないかという指摘に関しては,取締役等については,取締役等として求められる能力と民法上の事理弁識能力との間で質的なずれがないという考え方もあり得るところです。   しかし,現行法は,成年被後見人等と同等の事理弁識能力を有する者が取締役等となることを一律に禁止しているものではなく,同等の事理弁識能力を有する者であっても,成年後見制度を利用している者のみが各資格,職種,業務等から一律に排除され,能力を発揮する機会が失われているのではないかという③の指摘は妥当すると考えられます。さらに,成年後見制度を理由することにより,逆に社会的排除という影響を被ることになるのではないかという①の指摘や,欠格条項の存在により成年後見制度の利用をちゅうちょする影響が出ているのではないかという④の指摘のような懸念もあります。もっとも,株式会社の取締役等の選解任については,一般的に,国又は地方公共団体による監督等は存在せず,上記基本方針が示す個別審査規定を設けることが難しいという問題があります。   成年後見制度利用促進委員会は,取締役等については,このような事情があることから,本欠格条項を削除するものとした場合における会社法制上及び実務上の影響等を踏まえた代替措置の必要性及びその内容等について,当部会において議論を行うことを求めているところです。   仮に,本欠格条項を削除する場合において,これに伴って要する規律の整備を検討するに当たっては,幾つかの論点に分けて検討することが考えられます。   補足説明に沿って御説明させていただきますが,一つ目の論点としては,2ページ目「1就任に関する論点」が考えられます。   まず,一つ目の項目である「就任承諾の取消し」の可否についてですが,本欠格条項を削除するものとする場合には,成年被後見人等である者であっても取締役等に就任することは禁止されないものとなりますが,就任承諾は取り消し得るものとなります。ただし,民法第21条によれば,「制限行為能力者が行為能力者であることを信じさせるため詐術を用いたときは,その行為を取り消すことができない」こととなります。また,成年被後見人等がした就任承諾について,成年後見人又は保佐人が追認した場合や民法第20条第2項に基づき追認が擬制される場合も,取り消すことができないこととなります。   次に,二つ目の項目である「就任承諾の取消しが職務の執行の有効性に与える影響」についてですが,成年被後見人等が就任承諾を取り消した場合には,民法第121条により,就任承諾は初めから無効であったものとみなされます。したがって,例えば,成年被後見人等が代表取締役としてした第三者との取引等の代表行為は,無権限者による取引とみなされることとなります。また,成年被後見人等が取締役として議決に参加した取締役会決議は,取締役でない者が議決に参加した取締役会決議とみなされ,当該決議に瑕疵が生ずることとなり,取締役会決議が無効となる可能性があります。もっとも,会社法第908条第2項や表見代表取締役規定の類推適用,民法第93条の類推適用などにより,第三者は保護されるものと考えられます。   続いて,4ページ目冒頭「2 職務の執行に関する論点」について御説明いたします。   まず,一つ目の項目である「職務の執行の取消しの可否」についてですが,成年被後見人である取締役等が行った職務の執行について,行為能力の制限によって取り消すことができるかどうかが問題となります。補足説明に記載しておりますとおり,民法第102条の適用又は類推適用という考え方があり得るかとは存じますが,本欠格条項を削除するものとする場合におきまして,特段の手当てを講じないときは,職務の執行を取り消すことができるかは,その個々の行為の性質を踏まえ,個別に決定せざるを得ないこととなり,法的安定性を害することが懸念されます。また,取締役等の職務の執行を行為能力の制限によって取り消すことができるものとすること自体に,取引の安全を害する懸念があります。   そもそも就任承諾を取り消す場合は別として,成年被後見人等が就任承諾を取り消さず,又は取り消すことができない場合において,個別の職務の執行を取り消すことまでを認める必要は,必ずしも高いものとはいえないとも考えられ,取引の安全を重視すべきであるとも考えられます。そこで,本欠格条項の削除に伴い,成年被後見人等が取締役等としてした行為は,行為能力の制限によっては取り消すことができないものとする規定を設けるものとすることなどが考えられます。   次に,二つ目の項目である「法定代理人による職務の執行の可否」についてですが,取締役等はいずれも,その個人の能力に着目して選任されるものです。また,成年後見人又は民法第876条の4第1項の審判に基づき代理権が付与された保佐人は,株式会社の承諾なく交代する可能性があり,会社法上の取締役等の責任も負いません。そこで,本欠格条項を削除する場合であっても,会社法上,成年被後見人等が取締役等であるときに,成年後見人又は同項の審判に基づき代理権が付与された保佐人は,職務の執行を代理することはできないものと解すべきであると考えられます。   続いて,5ページ目「3 終任及び解任に関する論点」について御説明いたします。   まず,一つ目の項目である「後見開始の審判と終任」についてですが,会社法第330条等において,株式会社と取締役等との関係は委任に関する規定に従うものとされ,民法第653条第3号では,受任者が後見開始の審判を受けたことによって終了するものとされています。民法第653条は任意規定とされていますが,本欠格条項を削除する場合には,会社法上も,取締役等が後見開始の審判を受けたことは終任事由になるものと解されます。もっとも,会社法上,株式会社と取締役等との間において,取締役等が後見開始の審判を受けたことを終任事由としない旨の特約を締結することができるか,また,これができる場合には,どのような手続を要するものと解されることとなるかは明らかではありません。そこで,本欠格条項の削除に伴い,取締役等が後見開始の審判を受けたことを終任事由とする旨の規定や,その例外に関する規定を設けることが考えられます。   次に,二つ目の項目である「解任の可否」についてですが,本欠格条項を削除するものとする場合には,その趣旨に鑑みると,成年被後見人等であるということのみを理由とした解任は,会社法第339条第2項の「正当な理由」があるものと解すべきではないものと考えられます。しかし,心身の故障により客観的に職務の執行に支障を来すような状態となったことという実質的かつ個別的な理由に基づく解任は,本欠格条項を削除した場合であっても,引き続き「正当な理由」に該当するものと解すべきであると考えられます。   続いて,6ページ目「4 会社法上の責任に関する論点」について御説明いたします。   この論点につきましては,三つの項目を挙げております。   まず,一つ目の項目である「就任承諾の取消しによる免責」についてですが,成年被後見人等が就任承諾を取り消した場合には,民法第121条により,就任承諾は初めから無効であったものとみなされます。成年被後見人等は,初めから取締役等ではなかったものとみなされますので,取締役等として会社法上の責任を負わないものと解する考え方があると思われます。   次に,二つ目の項目である「制限行為能力者であることによる免責」についてですが,民法上,成年被後見人等は,民法第117条第2項により,無権代理人としての責任を負わないものとされていますが,会社法上の責任についても,これと同様の手当てをすべきかどうかが問題となります。取締役等の一般的な義務である善管注意義務の水準は,当該地位や状況にある者に通常期待される程度のものとされており,株式会社との契約によって,これを軽減等することはできないと解されています。会社法上の責任について,制限行為能力者であることによる免責を認めることは,この解釈との関係で問題が生ずる可能性があります。また,成年後見人等が就任承諾を取り消した場合は別として,就任承諾を取り消さず,又は取り消すことができない場合において,成年被後見人等であることをもって会社法上の責任を免れることができるものとする必要性は,必ずしも高くないものとも考えられます。   以上からすれば,制限行為能力者であることのみを理由として会社法上の責任を免れることはできないものとし,民法第117条第2項のような規定を設ける必要はないという考え方があると思われます。   さらに,三つ目の項目である「責任能力の規定の適用の有無」についてですが,責任能力の規定である民法第713条が民法の債務不履行責任に適用があるかどうかについても,解釈上争いがあります。この問題は,現行法上も存在する問題であって,解釈に委ねられているものであり,本欠格条項を削除する場合であっても,責任能力の規定の適用の有無については,引き続き解釈に委ねるものとすることも考えられます。   最後に,7ページ目冒頭「5 他の取締役等の義務に関する論点」について御説明いたします。   この論点につきましては,二つの項目を挙げております。   まず,一つ目の項目である,「心身の故障により職務を執行することができないと認められる者を取締役等の候補者とする議案を提案することの可否」についてですが,取締役等の候補者が心身の故障により,客観的に取締役等としての職務の執行に支障を来すような状態であった場合には,その者を候補者に推薦した取締役は損害賠償責任を負う可能性があるものと考えられます。そのため,取締役等の候補者が成年被後見人等であった場合には,そもそもその候補者が心身の故障により客観的に取締役等としての職務の執行に支障を来す状態ではないかを確認したり,その候補者が取締役等に就任後に就任承諾が取り消される可能性を考慮し,就任承諾について追認を得るなどの措置を採ることが要請され,これを怠った場合には,善管注意義務違反として損害賠償責任を負う可能性があるものと解することができると思われます。   次に,二つ目の項目である,「在任中の特定の取締役等が心身の故障により職務を執行することができないことを知った場合における義務」についてです。例えば,特定の取締役が心身の故障により客観的に職務の執行に支障を来すような状態となったことを他の取締役等が知った場合には,当該他の取締役は,心身の故障がある取締役の解任のために株主総会を招集したり,一時取締役の選任の申立てをしたり,監査役に報告するなどの措置を講ずることが求められると考えられます。また,これを知ったのが監査役である場合には,取締役会に報告をしたり,一時取締役の選任の申立てをするなどの措置を講ずることが求められるものと考えられます。   私からの御説明は以上になります。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   それでは,山野目参考人,よろしくお願いいたします。 ○山野目参考人 どうもありがとうございます。早稲田大学の山野目と申します。   本日は,このような意見陳述の機会を与えていただきまして,ありがとうございます。本日,この部会で話題となっております事項につきまして,内閣府に設けられた成年後見制度利用促進委員会の委員を務めておりますところから,そこでの審議の様子や,それを機縁として,いささか感じますところなどにつきまして,お話をさせていただきたいと考えます。どうぞよろしくお願い申し上げます。   政府が平成29年に決定いたしました成年後見制度利用促進基本計画におきましては,事務当局からも紹介がありましたとおり,成年被後見人や被保佐人,これから後,「成年被後見人等」と呼ぶことにいたしますが,その資格制限の撤廃という方針が示されております。   後見や保佐が始まりますと,それのみで国家公務員や地方公務員を失職したり,ある種類の営業をすることができなくなったりするなどの支障が生じ,成年後見制度の利用を阻害しているところから,これらの資格制限を撤廃するというお話ですが,高齢化と多様化を迎える社会の課題といたしまして,民事の制度も無関係ではございません。民法の委任,組合,更に信託,一般社団法人,特定非営利活動法人,そして会社などの制度について,改めて考えてみるべき課題があると感じます。   2025年,平成で数えますと平成37年には,認知症高齢者の人々が約700万人に上るという予測がされており,このほかに知的障害者及び精神障害者の人々がいることを踏まえますと,申し上げましたような民事の諸制度が21世紀においても普遍性を保って,社会における役割を受け止めていくことがかなうか心配であります。このような観点から,現在の法制の理解といたしましても,改めて意義を確認されてよいものがございます。   一つの例といたしまして,平成29年法律第44号による改正の後の民法,これから後,簡単に「民法の新しい規定」と呼ぶことにいたしますが,その102条,更に670条の2によりますと,組合員が組合代理の規律に従ってした代理行為の効果は組合に帰属するとされ,その組合員は成年被後見人等であっても差し支えありません。   このような例も参考として,当然の資格制限を廃することが基本指針とされるべきであると考えますが,もとより各種の制度は性格が様々であり,資格制限の撤廃を直ちにすることに困難があると認められるものもございます。その際は,本人が支障なく職業を営むなど,社会的な活動をすることができるよう支援する見地から,欠格規定の単純な廃止にとどまらず,関連する制度整備が必要である事項について,主務の府省において,その制度整備を必要とする理由,それを進める手順及びそれを達成して欠格規定を廃止することを見込む時期を明らかにすることが相当であると考えている次第でございます。   もとより申し上げようとしていることは,成年被後見人等の心身の状況がどうでもよいというようなことではございません。成年被後見人等は,心身の健康を保ち,それを確かめながら社会的な活動を続けてほしいと願うものです。やはり民法の組合を例にとって申し上げますと,組合員は後見開始の審判がされるならば,一旦組合を脱退していただくことになり,この規律は理解が可能なものであります。また,やはり行為能力が制限される未成年者は,ここにおられる皆様でいらっしゃれば御高承のとおり,常に職業活動が許容されるものではございません。   成年被後見人等が法人の活動に参画すると申しましても,特定非営利活動法人などであれば,見通しが得られやすくございますが,大規模一般社団法人や,あるいはそうでなくても,理事会設置一般社団法人などにつきましては,運用上,何か特別の考慮を要するものではないかと悩む部分がございます。   大きく顧みますと,平成11年に整備された成年後見制度は,間もなく20年を経ます。この折の成年後見制度改革は,同じ年の社会福祉基礎構造改革と連動してされたものでありますが,その後,社会福祉の分野においては,平成24年の社会保障と税の一体改革を受けた地域包括ケアシステムの考え方の導入など進展が見られます。これに即応するためには,成年後見制度につきましても,制度創設後の運用において認知された諸課題や社会情勢の変化の予測を踏まえ,見直しをすべき時期に来ていると感じます。その際は,成年後見人の同意権や成年被後見人の職業許可といった仕組みを導入したり,改めて保佐人の同意事項を整理したりするなどのことは,いとわずに検討してみるべき課題となりましょう。   いろいろ申し上げてまいりましたが,この話題は印象として,成年後見制度の政策に民事の諸制度がお付き合いをさせられていると映りがちであります。そうではないと考えます。むしろ,高齢化と多様化に向かう日本の社会において,民法の組合や信託,更に法人の制度が,特定の人々を排除することにより,自らが脆弱なものになっていくことを避け,むしろその人々を包摂することを通じ,普遍的な制度であり続けることができるか,そのことが問われていると感ずるものでございます。   ひとまずの意見陳述を以上とさせていただきます。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   それでは,部会資料17につきまして,御質問,御意見等をお出しいただければと思います。また,今の山野目参考人のプレゼンテーションについての御質問,御意見につきましても,併せて御発言いただければと思います。どなたからでも,どの点でも結構でございます。古本委員,どうぞ。 ○古本委員 ありがとうございます。御説明いただきまして,どうもありがとうございました。   成年被後見人,被保佐人の社会参画の機会を広げようという御趣旨はよく分かるのですが,会社法の取締役等について,欠格条項を削除するのが適当なのかどうかということについて,そもそもの疑問を感じております。したがって,この問題は,慎重に検討すべきではないかと思っております。   部会資料の1ページ目の下,補足説明の②に,民法上の事理弁識能力は財産管理能力を基準として評価されるものであり,多様な法令に基づく多様な資格や職種,業務等に求められる能力とは質的なずれがあると指摘されております。しかしながら,取締役について考えてみると,取締役は,株主などの第三者から資金を調達して,これを基に企業価値を向上すべく,会社の業務執行の監督を担っているわけですから,取締役には自らの財産を管理する以上の高度な財産管理能力が求められることは明らかではないかと思います。   民法上の事理弁識能力と取締役に求める能力との間には,取締役については,質的なずれがあるということではなくて,むしろ,更に高度な財産管理能力が求められていると思います。仮に欠格条項を削除した結果,一定の場合に契約が事後的に取り消されるとか,取締役としての責任を追及することができなくなるというようなことになると,取引安全の観点から,企業としては,そういったことは容認し難いと感じますし,そのようなことは,社会経済全体のためにも必ずしも好ましいことではないと考えます。   逆に,成年被後見人等から見ましても,仮にそういう懸念から,会社や第三者に対して責任を免れないということになりますと,巨額の債務を負うことになる可能性もありますので,そうなると,かえって成年被後見人等の保護につながらないおそれもあると思います。   したがいまして,取締役等について,欠格条項の削除を行うということにつきましては,そもそもの必要性も含めて,慎重に議論するべきではないかと思います。 ○神田部会長 ありがとうございました。前田委員,どうぞ。 ○前田委員 本欠格条項を削除するのがいいかという問題はさておきまして,仮に本欠格条項を削除するということになりますと,補足説明で整理してくださっていますように,いろいろな問題が出てくることになりますけれども,それに対処するための措置として,会社法で明文の手当てをするのがいいのか,それとも,むしろ解釈に委ねておく方がいいのかが検討課題になってくると思います。   そのような観点からいたしますと,1の「就任に関する論点」のところ,就任承諾が取り消された場合の取引安全の問題については,補足説明にあるような解釈に委ねておくのがいいのではないかと思います。これと類似の取引安全の問題は,補足説明にありますように,取締役選任決議の取消しが確定した場合に取引安全をどう図るかなどの,ほかの場面でも起こり得るわけですけれども,これまでずっと解釈で対応をし,合理的な解釈が積み重ねられてきたところです。ですから,今回,成年被後見人等の場面についてだけ特に明文規定を設けるのは,適切ではないと思います。もし明文規定を置くのであれば,類似のほかの場面でも明文規定を設けないと,バランスが悪いことになるのであって,ここはむしろ解釈に委ねておく方がいいように思います。   他方,2の「職務の執行に関する論点」の(1),取締役会での議決権行使のような職務の執行の取消しのところだけは,補足説明にありますように,就任承諾を取り消さずに個別の職務執行を取り消すことを認める必要性は乏しいように思いますし,取締役以外の者が取締役会決議に影響を及ぼすのも適切でないと思われるところで,しかも,そのことを解釈で導くのは容易ではないと思いますので,ここだけは,個別の職務執行は取り消すことができないという明文規定を設けるのが良いのではないかというように思います。   あとは,3,4のところも,解釈が分かれ得る問題を含んでおりますけれども,既に類似の問題について解釈で対応してきたところではないかと思いますので,今回も特に明文の手当てをせずに,解釈に委ねておくことで良いのではないでしょうか。   そういたしますと,結局のところ,本欠格条項を削除することにしましても,それに伴って会社法の明文で手当てをすべきところは,相当に限られることになるのではないかと思います。 ○神田部会長 ありがとうございました。   松井幹事,藤田委員の順でお願いします。松井幹事,どうぞ。 ○松井(智)幹事 ありがとうございます。   少し大きな話になるかと思いますけれども,7ページ目の取締役の候補者が心身の故障により客観的に取締役としての職務の執行に支障を来すような状態というのが,成年被後見人であるかどうかということにかかわらず,他の取締役の責任に直結するというような現行法の解釈としての立場というのが一つあるのかなということでありまして,それはなぜかといいますと,この問題の提起の裏には,恐らく判断力が十分でなくなった取締役というものが,あえて成年被後見制度というものを使わずに業務執行をしているという実態があるのであれば,それは後見制度というものを使っているかどうかにかかわらず,ある程度,きちんと規律を働かせる必要があるという考え方にのっとって,このような形になっているのではないかというふうに思ったからであります。   そのような考え方だとすると,ノーマライズというのは,成年後見の制度を使っているかどうかにかかわらず,判断力が衰えてきた人たちというのが,ある程度社会や会社に負担を掛けつつも活動するということを認めるのだという政策判断なのだと思うんですけれども,一方で,そういった人たちが,古本委員の御指摘のとおり,他人の資産である会社を運営すると。かつ,それが,例えば,一族財産のようなものであった場合には,相続なんかにも非常に密接に関係し,紛争の種になってしまうということを考えますと,会社の運営の中で,どこかの段階で,取引の拡大とか取引先との取引の継続という話よりも,資産の保全を重視した経営に切り替えるということを,会社の運営上やっていくということが必要になるのかなというふうに思いました。   そうだとすると,こちらに書かれていること以外なんですが,例えば就任に際して,やってはいけない取引をリストアップして,解任要件として,そういったことをしてしまった場合には解任されるとか,何かそういった人たちが取引を行っていくうちで,安全装置といいますか,出ていくときの出口のようなものというのを会社法の方である程度考えてあげて,どうですかという形で活用を求めるというようなことが必要なのかなというふうに思いました。   また,負担ということでは,誰が,判断力の落ちている取締役という人たちが業務執行していく上での附随的な損害であるとかいったようなものを最終的に負うのかということを考える必要があって,就任の際に株主に取締役の能力について説明をするとか,あるいは,必ず取締役会の会議体を必要として,事前に,ある程度のことについての同意というものを必要とするとか,そういったような組織的な手当てというのも考え得るのかなというふうに思いました。   最後に,少し分からないのが,この会社の運営の仕組みの中で,後見人という人がどういう役割を果たすことになるのか。また,もしかすると,それに附随する責任を負う可能性があるのかといったことについて,参考人の御感触を伺えればと思います。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   参考人に質問がありましたけれども,もし御発言があれば,佐久間参考人か山野目参考人,いかがでしょうか。佐久間参考人,どうぞ。 ○佐久間参考人 同志社大学の佐久間でございます。本日は,このような場に同席させていただき,誠にありがとうございます。   後見人の役割について,明示的に参考人という御指名でしたので,そこだけお話をさせていただきますと,後見人が直接会社の運営に関わることは,成年後見制度の枠組みから言って,ないだろうと思っております。また,少し話はずれるかもしれませんが,例えば法定代理の場合なども,あるいは委任の場合も,成年被後見人が受任をしたり,普通はないんですけれども,他の人の法定代理人になったりしたというような場合に,代わって後見人が代理行為をするということとはされておりません。   取り分け,関連する委任に関して申しますと,委任について,民法653条第3号は,後見開始の審判があったことを終任事由というか,終了事由としておるんですね。なぜ終了事由とされたかといいますと,もちろん,まともな事務処理はできないだろうという判断はあったわけですが,そのまともな事務処理をすることができない人について,後見人が付いているではないか,その人が代わりに出てくることも論理的にはあり得るのではないかということが,既に120年前の民法の立法時に考慮されまして,しかし,それはおかしいと。そもそも本人は,当該の受任者を選んで事務処理を委ねたのであるから,その代理人が出てくるということを予定しているものでは当然ない。そこで受任者の法定代理人に事務処理をさせることはできないということで,委任は,今でいう後見開始の審判があると,終了するということにされたわけでございます。会社なんかですと,この趣旨がもっと強く妥当することになると思われますので,後見人が何か関与してくるということはないということになるはずでございます。   では,後見人が関与しないところで,成年被後見人が何か職務執行だとか,あるいは会社の代表行為をした,それによって会社が損害を被った,その場合に責任を一体誰が負うのかということですけれども,これは後でも,細かいところでは取り上げられているところですが,必ずしも明確な答えはないと言わざるを得ないのかと思います。先ほどの資料の御紹介でいいますと,責任無能力についての規定が債務不履行にも適用があるのかということと,論点としては関わってまいります。両論ございますが,現在の考え方では,責任無能力の規定は直接には適用がないという方が強かろうと思います。しかしそれは,成年被後見人は責任無能力であるにもかかわらず,債務不履行の責任をおよそ免れないということではなくて,別途免責事由を考えればいいということとなっております。   責任無能力についての規定が適用される,あるいは類推適用されるということになりますと,可能性としては,後見人が責任を負うということは,昔でしたらあり得ました。しかしこれも,ごく最近の判例で,成年被後見人が責任無能力者であるとして不法行為の責任を免れるときに,後見人は監督義務者としての責任を負わないという判例が出ておりますので,債務不履行についてこの規定の適用又は類推適用がありましても,今では後見人は責任を負わないことになります。成年被後見人についてそのほかの何らかの免責事由が働いた場合に,では後見人が代わりに責任を負うかといいますと,その根拠になるものはございません。ですから,結論を申しますと,基本的には,後見人が直接何か会社の運営に関わることはないし,成年被後見人が何か会社にとって損害を加えるような行為をしたとしても,成年被後見人の責任は別途考慮されるかもしれませんが,後見人に対して何か責任を追及できるという可能性は極めて低いということだろうと思います。 ○山野目参考人 部会の皆さんも,JR東海事件というのを覚えておられると思いますが,新聞で大きく報道された事件でありまして,鉄道事故の損害賠償,成年被後見人のような責任弁識能力に疑いのある人が行為者であった場合の,関係する家族等の賠償責任が民法714条に基づいて追及された事案でございます。あの最高裁判所の判例の中で,成年後見人等が法定の監督義務者,714条にいう監督義務者に当たらないということが一般論として示され,準法定監督義務者に当たるということはあり得るかもしれないが,というふうな問題提起を引き続き投げ掛けられていたところでございます。   結論として,今,佐久間参考人がお話ししたとおりに私も感ずるものでございまして,松井幹事のお尋ねの後半の責任の部分については,成年後見人等が何か責任を負うことは考えにくいところです。責任がないという論理の構造は,そもそも成年被後見人等の取締役としての行為に民法713条の適用がないというふうに考えるから,そうなるという可能性もございますし,713条の適用があるとしても,714条の適用がないということから,そうなるという可能性もあり得て,いずれにしても,しかし結論は,そちらの方に赴くのではないかと感じます。   それから,松井幹事のお尋ねの前半の部分の成年後見人等が会社の職務執行に当たるような行為をしてしまうことも,もしかしたらあるかもしれないから,その点をきちんと検討しておきなさいという御指摘は,もとより重要な議論でございまして,部会資料17,5ページの中ほどに,2の(2)として問題提起を頂いていることでございます。   この問題提起を頂いているとおりの御心配があるということを理解いたします。それと同時に,ここで提示されている考え方は,成年後見人等が職務執行を代理することはできないものと解すべきであるというふうに言い放っていますが,それは,会社法制の運用上不都合だから,できないものと解するという裸の理由付けをしていただいているという印象も抱きます。これでは法制上の説明がうまく成り立たないと思うものですから,このお気持ちというか,この要請を受け止めた上で,どういうふうに考えるかということを申し上げれば,今,佐久間参考人がお話ししたとおりでありまして,成年後見人等が会社について何かをしてしまうということはあり得ない。その理由は,恐らく,成年後見人の場合でいいますと,民法859条1項が,成年後見人が代理権を行使することができる事柄は被後見人の財産に関する行為であるというふうに言っているものでありまして,会社の財産,その他の業務執行に関する行為というものは,文言上,これからは外れるということになります。   それから,被保佐人についても,民法の規定で,家庭裁判所が代理権を付与する旨の審判をした事項については代理権を行使することができますが,家庭裁判所は,どの事項について代理権を付与する旨の審判をすることができるかといえば,被保佐人に効果が帰属する行為,民法876条の4第1項の文言に照らしていいますと,被保佐人のための法律行為について,代理権を与えることができるとされているところでございます。会社に効果が帰属する事項について,家庭裁判所が,普通そういう審判はしないと想像しますが,何かの間違いでそういう審判をしたときには,それは抗告審において是正を免れない事柄になるものでありまして,そのような観点などに留意しながら,先ほど佐久間参考人が申し上げたとおり,成年後見人等が会社の業務について何かをしてしまうということは考えられないというふうに申してよろしいのではないかと考えます。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   松井幹事,よろしいでしょうか。 ○松井(智)幹事 ありがとうございます。 ○神田部会長 それでは,藤田委員,野村委員の順で。藤田委員,どうぞ。 ○藤田委員 やや細かな問題に関して,部会資料に書かれていることについて,事務局及び参考人の方の意見を伺いたいと思います。   そもそも前提として,私もこういう成年被後見人に取締役就任の資格を認めることの是非について疑念もないわけではないのですが,それはさておいた上で,仮に取締役就任の資格を認めた場合の法律問題について伺いたいと思います。   部会資料17の6ページの4の(1)に書かれている点ですけれども,就任承諾を民法9条によって取り消した場合,遡及的に取締役でなかったこととされるから,会社法上の責任は負わないことになると書かれています。ただ,選任決議に瑕疵があったり,あるいはそもそも選任がなかったというケースであっても,取締役として行動した者については,会社法上の責任はないとは考えられていないと思います。   会社法429条の対第三者責任に関しては,昭和47年,62年,あるいは63年の有名な最高裁判決がありますが,就任登記に承諾をした者,あるいは辞任登記をしないことに明示的な承諾をした者は,そもそも取締役ではなかったり,あるいは取締役でなくなった者であっても,会社法908条2項の類推適用により,第三者責任を負うとされています。また,62年,63年の最高裁判決は,辞任後に積極的に業務執行すれば,やはり会社法429条の責任を負うとしていますが,これは登記とは無関係な責任だと思いますので,このような場合には恐らく会社法423条の責任も肯定される余地があると思います。実際,取締役でないにもかかわらず,現に業務を執行していた者について,会社法423条の責任を肯定した下級審裁判例もございます。このように,現在の判例学説上は,選任決議に瑕疵があったり,そもそも選任がないという場合であっても,取締役として現に職務執行した場合には,取締役としての責任が一切ないとは考えていないと思います。   そこで,この6ページの4(1)の記述が,いかなる意味だろうかというふうな疑問が出てくるのですけれども,登記簿上の取締役や事実上の取締役の責任という会社法上の考え方は,成年被後見人の取締役への就任承諾が民法9条で取り消された場合にも適用され,その結果取締役としての責任を負うということはあり得るということなのでしょうか。もちろん責任能力の問題は,また別に考慮するとして,そもそも会社法上の責任を負う可能性があると考えるのか。それとも,民法9条の取消権は成年被後見人の保護のための権利なので,登記簿上の取締役や事実上の取締役の責任といった考え方は,ほかのケースだと認められているにしても,このケースについては認められないというふうに考えているのか。6ページ4(1)の記述は,いずれの趣旨,いずれの前提でお書きなのかというのが事務局に対する質問で,資料の記載の趣旨はともかく,民法的に考えるとどうなるのかということが参考人への質問です。   もし,事実上の取締役の理論のようなものがそのまま適用されるというのでしたら,それほど違和感はなく,その結果どの範囲で責任を負うかは解釈に委ねるということでいいのですが,後者,つまり民法9条による取消しの場合には,事実上の取締役だとか登記簿上の取締役の責任という考え方はおよそ適用がないというふうに考えるのが,民法の通常の発想だとすると,業務執行しながら,後で就任承諾を取り消すことで一切責任を負わないという形での取締役への就任の仕方が認められるということになって,いろいろな意味で深刻な問題だという気がします。取り分け,取締役は一人でも良いというのが今の会社法の仕組みですので,誰も取締役として責任を最終的に負わなくなるような形で,現実の業務執行がなされることを認めることになりかねず,そういう前提だと,果たしてこういう形で取締役の就任の資格を無条件に認めていいだろうかという疑問にもつながっていくかと思います。   ただ,そもそも資料4(1)の御趣旨がよく分かりませんので,まず事務局にお伺いし,もし可能でしたら,参考人の感触も頂ければと思います。 ○神田部会長 ありがとうございます。 ○竹林幹事 御意見,大変ありがとうございます。   実は私どもも,ここに「解する考え方があると思われる。」というふうに書かせていただいたように,はっきり責任を負わないということを考えていたわけではございません。事実上の取締役の責任の問題ですとか,判例等の考え方を前提とすれば,責任を負うという考え方もあるのかなと,今御意見を伺って思いました。ここは,決して責任を負わないという前提での問題提起ではなく,むしろ,どのように考えればいいのかということ,こういう考え方もあり得るのではないか,その場合に,違う考え方というのは,どのように考えられるのかという問題提起の趣旨で書かせていただいたものです。 ○神田部会長 ありがとうございました。   佐久間参考人,山野目参考人,もしございましたら。佐久間参考人,どうぞ。 ○佐久間参考人 2段階でお答えさせていただきたいと思います。2段階というのは,会社法上どう考えるかというのは,私には手に余るところがございますので,その手前にある民法がどう考えているか,その民法のルールとは違うルールを会社法が用意しているのであれば,そこはちょっとお考えいただきたいということでお答えさせていただきたいと思います。   民法の場合にこれを置き換えますと,結局のところ,まずは制限行為能力者が任意代理の受任をした。その後,代理行為をした。しかる後に,委任を取り消したという場合に相当するんだろうと思うんですね。この場合に,民法の規定は,例えば,成年被後見人,被保佐人,どちらでもよろしいんですが,行為能力の制限を受けていることによって代理行為の効力は影響を受けないとしています。民法102条でございます。この効力は影響を受けないというのは,要するに代理人の行為能力の制限を理由として代理行為を取り消すことはできないということです。このようにされているのはなぜかといいますと,制限行為能力による取消しというのは,正に制限行為能力者を保護するためであるところ,代理行為の効果というのは本人に生ずるのであるから,この保護の規定の趣旨が及ばない。また,任意代理の場合には,本人が適性を判断して代理人を選んでいるので,その適性判断の結果は本人が負うべきである,というふうに考えられているからです。   もっとも,制限行為能力者が後に委任を取り消すことはあり得るわけです。,この取消しには二つの意味があります。一つは,将来効です。受任者としての行為はここでやめておきますというのが当然あるわけです。もう一つは,既往に遡っての効力です。そして,委任の取消しの狙いがどこにあるかといいますと,代理人は,自分はその行為の効果に全く関係がないわけですから,代理行為の効果を否定することに狙いがあるわけでは全くないんです。ただ,代理行為の効果が残りますと,結局,善管注意義務をあなたは負っていたではないか,その義務の違反があるので,あなたは責任を負わなければいけませんよねという,そういう責任の追及を受けることがあり得るので,では委任を取り消しますと,こういうことを認めるというのが民法の立場です。   したがいまして,例えば,民法9条による取消しの趣旨は,民法の限りでいいますと,成年被後見人は,その行った行為の責任を一切免れる,それが制限行為能力者に対する保護であるということに,答えとしてはなると思います。それが会社法に引き直された場合に,どこまで趣旨が及ぶのかといいますと,民法の立場からというか,少なくとも制限行為能力者の制度の趣旨からいたしますと,会社法の世界でも,私は同じではないかというふうに思うのですが,そこにどういう会社法上の特殊な考慮が入っていくかについては,ちょっと私にはお答えすることができません。 ○神田部会長 どうもありがとうございます。山野目参考人,どうぞ。 ○山野目参考人 今,藤田委員からお尋ねを頂いたことは,部会資料17の4の論点のところでございますけれども,4で一連の論点として取り上げられていることを踏まえて,論点の見取り図を整理いたしますと,いずれにしても,ここで扱われている場面というものは,会社と成年被後見人等と,それから取引の相手方という3人が出てくる三角形の法律関係状況になっており,三角形の1辺ずつ検討しなければいけないということになります。加えて,三角形が2枚あり,その三角形で始まった法律関係が,しかし今,佐久間参考人が問題としたように,就任のための委任の法律関係が取り消されてしまった場合はどうなりますかということについて,三者間の関係を検討する,三角形を1辺ずつ検討していかなければいけないということになりますし,もう一つ,更に発展させて考えますと,就任承諾の委任に準ずる法律関係が覆らなかったとすると,そのまま成年被後見人等が取締役として職務執行を継続した場合に,どういう法律関係が展開していきますかという場面でも,関係者が3人おりますから,やはり三角形になりまして,三角形が2枚で,合計合わせて六つの三角形の辺を検討していかなければいけない。   今,藤田委員からは,その6個あるうちの一つの局部についてのお尋ねを,心配であるということで御質問を頂いたと受け止めました。この1枚目の三角形の就任承諾に係る原因たる委任関係が取り消された場合を考えてみますと,まず会社と成年被後見人等との関係は,遡って委任に準ずる法律関係がなかったということになりますから,それは遡及的無効になって,その始末の問題処理が求められるということになります。   民法は,取消しに伴う原状回復として,民法121条の2第3項後段という規定を置いておりまして,意思能力がないということで取り消された場合の後始末について,若干の例外的な規律を置いております。成年被後見人等が取締役になって報酬等を収受した場合において,それをしかし,取消しになったときどうするかという問題は,この規定の通則的な処理によって扱われることになるか,それとも会社法上,特別の手当てをするかという問題になってくるのではないかと考えます。   それから,三角形の二つ目の辺でございますけれども,会社と取引の相手方との関係は,遡って取り消されるということになる前は,外見上,取締役のような様子を呈して法律行為を行っておりますから,その相手方となった取引の相手方の保護が問題になるものでありまして,ここでは部会資料でも御紹介いただいているように,表見代理や表見代表の問題が登場してくると考えるところです。最後に,今,藤田委員がお尋ねの三角形の三つ目の辺の取引の相手方と成年被後見人等との間は,佐久間参考人が問題にしたような,民法でいいますと,民法117条の2項3号の規定に基づいて,責任能力がない者が一律に無権代理人としての責任を免責されるという民法の考え方を踏まえて,それを当該会社法上の問題処理において,どう考えるかという問題になってくるであろうと考えます。   民法の御紹介した117条の規定は,代理に関する規定でありまして,それを一概に法人や会社に類推するということが,果たして理論的に正当であり,かつ,適正な法律関係をもたらすかということを,ここから先は佐久間参考人や私には意見はございませんから,当部会を始めとする会社法の研究者や会社の実務に精通しておられる皆さん方で,なおしかるべく御検討いただくという事柄ではないかと感じます。   それから,更に参考として,自分が考えていることを申し上げますと,三角形がもう一つございまして,就任承諾に係る委任に準ずる法律関係が覆らず,そのまま成年被後見人等が取締役として職務を続行した場合の法律関係がどうなるかということでございますけれども,これは,まず三角形の一つ目の辺として,会社と成年被後見人等との間の関係においては,受任者としてしっかり仕事をしてくださいということが問題になり,それに落ち度があった場合には責任を負ってくださいということになるものでありまして,ここの局面については,債務不履行責任について,民法713条の類推ないし適用があるかということが問われるものでありまして,部会資料が提示するとおり,解釈に今後とも委ねられていく問題ではないかと考えております。   それから,会社と取引の相手方との関係のところは,これは取締役として代表権を行使して,していただいた行為でありますから,その効果は覆らないということになるものでありまして,佐久間参考人がおっしゃったように,民法102条の考え方を類推すれば,そのような結論になると考えます。   しかしながら,民法102条本文の類推解釈の考え方が,本当に今後,会社の法律関係を営んでいく上に当たって,安定したものとして受け止められるかということについては,なお論議の余地があるところでございますから,それは前田委員が御指摘になったとおりでありまして,そこのところについては,恐らく部会資料が示唆しているとおり,規定を設けた方が良いのではないかというお話であり,私はその点については,もちろん会社の問題として,この部会でお考えいただくことではありますけれども,規定を置くということは大いにあり得る解決ではないかと考えております。   それから,三角形の最後の辺ですけれども,取締役として成年被後見人等が仕事をしていく過程においては,第三者に対しても責任を負うということが,法人法制上,会社法制上,予定されているところでございます。これについて,通常の通則どおり責任を負ってもらうということになるか,それとも民法713条の適用があって,責任弁識能力がないといったような理由で免責されるということになるかということは,これは論議のあるところでございまして,民法713条が民法709条以外の場面で,どこまで,いろいろ登場してくる損害賠償責任に適用ないし類推されるかということは,ここのみではなく,いろいろ論点が様々議論されているところでありまして,そういう論点の一つを今般追加するということになるものではないかと考えているところでございます。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。よろしいでしょうか。   それでは,野村委員,中東幹事,それから神作委員の順でお願いしたいと思います。野村委員,どうぞ。 ○野村委員 今日はありがとうございます。いろいろなことが分かりまして,勉強になっております。   ちょっと大きな話でございますけれども,基本的に今回,取締役の欠格事由を外すということが,社会に対して,成年被後見人の方を社会において包摂するという理念を実現するのはどの範囲なのかということを考えてみますと,一応,取締役に就任した後,成年後見開始の審判を受けるというようなことになれば,そこは終任という形になりますので,結局のところ,選任の段階でそれを承知した上で,会社の役員に就任していただくということを包摂すると,この社会の中で認めていくということですから,全部が全部,会社が,株主が嫌がっているのに,取締役にみんなが就任するんだということをやっているわけではないということは大前提だろうというふうには思います。そうなりますと,結果的には,そのことを承知の上で,会社の中で業務執行に携わっていただいた人についての法律関係について,一定程度の手当てが必要なのかということが今議論されているということで理解しているところであります。   ただ,他方において,成年被後見人の保護というのが,民法の場合には最上位の事柄になっていますけれども,このことが,もし貫徹されるということになってしまいますと,今も藤田委員の方からお話がありましたように,責任が全く負わされない,最初から就任のときから,最終的に取消しをすれば,一切責任は負わなくてもよいという形の就任を認めてしまうということになりますので,果たしてこれが許容されるのかどうか。あるいは,出てまいりました会社法429条,第三者に対する責任というのは許容されるのかという問題はあると思います。   といいますのは,前者の方でいきますと,株主は実は多様でございまして,本人ではあるんですけれども,本人は法人格を持った会社ですが,実質的な本人は株主でございまして,株主は多様であって,その中には少数派の株主ももちろんいるわけです。しかし,会社法の世界の中では,一旦取締役が選任されますと,自分たちの財産も無条件で,その方に管理を委ねるという形になっていて,個別的には,自分は納得していない取締役に財産を委ねているという法律関係が生まれると。こういう段階の中で,果たして先ほどの,本人が選んだんだからという佐久間参考人からお話があったロジックが完全に妥当するのかというと,やや難しい問題があると。それは,松井幹事が先ほどおっしゃられたように,非公開会社なんかの場合には,財産管理などのようなセンシティブな問題も存在していて,少数派の株主というのは,会社の形態を採ったことによって,親族間の中から自分の財産管理についての権利を奪われてしまっているという,そういう状況が生まれることがありますので,果たしてこれでいいのかということは考える必要があると思います。   そうだとすると,先ほどちょっと松井幹事が示唆されておりましたけれども,取締役会設置会社でなければいけないとかというような形で,複数の取締役がいるということが前提で,そのほかに責任を負う人がいるというような体制の中で包摂していくということも一案なのかなというふうには,ちょっと思った次第でございます。   他方におきまして,民法ですと,未成年者については,未成年者保護も実は貫徹されていませんで,御案内のとおり,釈迦に説法ですけれども,営業の許可があったりとか,あるいは,持分会社の無限責任社員になったような場合については,これは行為能力者とみなすという形になっていますので,実は保護は貫徹していなくて,その地位に就いたことによって,保護の方が後退しているという可能性があると思います。   このような形のものが,今回の成年後見人の制度のところで,どの程度許容されるのかということが少し整理されないと,我々の方だけのキャッチボールでボールを受けても,なかなか判断できないところがありますので,それは成年後見制度の活用,在り方の中で,成年後見制度自体は100%保護が貫徹されるものとして,社会の中で包摂してほしいという御意向なのか,それとも,多様な成年被後見人がおられますので,その方々の中で,一定の社会的責任を負いながらも社会の中で活躍したいという人たちを包摂しようというお考えなのかということは,少し整理していただいた方が良いかなというふうに思います。   そういう意味でいきますと,例えば,先ほど出てまいりました持分会社の会社法584条というのは,これは未成年者が持分会社で無限責任社員になりますと,社員の資格に基づく行為に関しては,行為能力者とみなすという規定がございますけれども,今でも成年被後見人の方は無限責任社員になることはできるんですが,この規定は今ないわけですね。こういうものを,今は無限責任社員になれますけれども,一定の保護を受けているという形になっていますが,これを同じように,未成年者と並びで考えていくのかどうかというのも検討の材料だと思います。といいますのは,これも御案内のとおりでございますけれども,無限責任社員は原則として業務執行者でございますので,ある意味では取締役としての業務について,ここでの検討をしなければいけないというのと同列の議論があるのではないかと思います。   これとちょうどリンクしていますのは,民訴法の31条だと思いますけれども,訴訟能力についてもどうするのかということは検討していただくことが必要でありまして,会社法429条の被告という形になった場合等も考えた場合,本人自身が訴訟能力者として置かれるのか,そうではないのかという,そういう話も検討の材料かなというふうに思っている次第でございます。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   両参考人,もし何かございましたら。佐久間参考人,どうぞ。 ○佐久間参考人 何点か申し上げたいことがございまして,まず,会社の場合に,私が先ほど申し上げたような,本人が選んだではないかということをそのまま言えるんですかということですけれども,なるほど,総会での議決であって,反対者もいるということだとは思います。けれども,成年被後見人の方は,前提としましては,自らの利益を守るための判断をすることができない人であって,他方,会議体の方は,確かにいろいろ意見はあるのかもしれませんけれども,最終的にはルールにのっとって一つの意思決定をするということだといたしますと,基本は余り変わらないのかなというふうに思っております。   ただ,未成年者との比較でどうなんだということは,確かに非常に重要な点で,それが多分,先ほど,冒頭で山野目参考人がおっしゃった成年後見人の同意権のようなものを導入することはどうなのかということなんだろうと思います。   私は山野目参考人が出られている会議とは全く関係ございませんので,ここからは勝手な推測ですけれども,現在の成年後見制度は,開始の審判があるのは,ほとんどが成年後見開始の審判でございまして,保佐開始,補助開始はほとんどないんですね。ではその成年後見開始の審判というのは,判断能力がまだある程度はある人に対してされるかというと,そうではなくて,こういったら何ですけれども,ほぼ判断能力はありませんねという人にしかされないんですね。   ただ,今,保佐開始の審判,補助開始の審判は使われないことでいいのかということが問題になっております。そこで将来のことを展望いたしますと,一つの方向として,あるいは後見開始の審判にある意味で一本化すると。その中で,例えば,今保佐人には同意権がございますので,後見人に同意権を与えて,言わば保佐開始の審判を取り込んだ形での後見制度というのを構想することもあり得べしだと思うんですね。そうなりましたら,野村委員が先ほどおっしゃった未成年者と同じ仕組みというのは作りやすいんだろうと思います。   そういうような同意を与えて本人に行為をさせるということは,現在の成年被後見人に対しては恐らく無理でしょうが,今よりも幅を広げた成年被後見人がもし実現しましたら,このぐらいだったらやらせていいということを判断する保護者が後ろにいるということになりますと,野村委員がおっしゃったとおりの構想は可能になるんだろうと思います。現時点で誰かが何かをはっきり見通して進めているわけではないと思いますが,こういったことも含めて,目下の話が進んでいる最中なのではないかというふうに思っております。   もう1点,ちょっと申し上げたいことがございまして,会社法429条の責任でございます。確かに会社法429条の責任を免れていいのかというのは,そのとおりだと思うんですが,実は先ほども出てまいりましたが,代理の世界では,民法117条2項という規定がございまして,無権代理にさえしてしまえば,成年被後見人は責任を一切負わないことになります。そこで,先ほどの委任の取消しの話に戻るんですけれども,委任の取消しというのは何のためにするんだ,成年被後見人が責任を免れるためだということでした。今のところは,代理人が制限行為能力者であることは代理行為の効力に影響しないことになっておりますので,委任の取消しは制限行為能力者である代理人が内部的な責任を免れるためだけにするものなんだということになっておるんですけれども,もし会社法429条の責任は,それと別に負うんだというようなことになりますと,委任の取消しの効力は実は外部にも当然及んで,代理行為が無効になるんだ,遡って無権代理になるんだ,こういう主張を恐らく成年被後見人側は,したいというふうに考えることがあり得るんだろうと思うんです。そうすると,別に私は,会社法429条の責任も制限行為能力者は当然に負いませんなんていうことは言うつもりはございませんけれども,制限行為能力者の保護のために会社法429条の責任を負う前提そのものもなくしてしまおうというような発想での議論というのが,場合によっては起こる可能性もあるということだけ,ちょっと申し上げたいと思います。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。山野目参考人,どうぞ。 ○山野目参考人 時折,時代劇を見ておりますと,病気のお父さんが長屋で寝ていて,小さな子供がシジミを笊に入れて持って歩いて,お父ちゃんが病気なので,僕はシジミを売って歩かないとお金が稼げないと叫ぶと,何か長屋のほかの大人たちが,坊主偉いな,と励まして,シジミを買ってあげるという場面が出てまいります。   私,いつもあの場面を見ていると,それは変ではないか,未成年者であると取り消すことができるものではないかというふうに一瞬思いますが,しかし,その次にすぐ思い浮かべることは,いや,未成年者であれば,少なくとも,時代劇の時代はいざ知らず,現在の日本であれば,職業許可の制度があるものであります。あるいは,個別の法律行為についての同意権の制度もあります。   野村委員から御示唆いただいて,佐久間参考人にも触れていただいたとおり,将来的には,成年後見制度の抜本的な見直しということをイシューにした上で,成年被後見人等の職業許可の制度や個別の法律行為に対する同意権の制度を導入すべきであろうと考えます。そのようなことをお願いしたい,というふうに申し上げたく感じますが,しかし前に座っておられる竹林幹事をはじめ,その右側の席におられる関係官の皆様にそれを言っても,それは御無理をお願いするばかりであって,諮問事項の範囲外であるということになりますから,どちらかというと,部会長を挟んでその反対側に席が設けられている皆様に向け,明瞭にお話を差し上げておきたいと痛感するものでございます。   ですから,野村委員から,こちらの会社の検討にばかり投げないで,成年後見制度の改良も大事ではないか,二つパッケージだよとおっしゃっていただいたことは,私,全く同感でありまして,そのようなことを,今お話ししたように,申し上げたい気持ちで参りました。   ただし,それと同時に,そちらの職業許可の制度などが入らないと,こちらの諮問事項の範囲内のことが全く動かすことができないという論理的関係になっているかというと,そこは必ずしもそうではないと考えますから,誠に会社法の先生方,実務の皆さんに御心労をお掛けしますが,引き続き御検討いただきたいと望みます。   なお,成年被後見人等を自ら欲して選んだとは限らない株主もおり,言わば法定代理ないし法人代表のときは,少し特殊な側面があることに注意したい,というふうにおっしゃっていただいた野村委員の感覚も十分理解しますが,現行法において,平成11年の改革以降,被が付かない成年後見人とか,あるいは保佐人,つまりお世話をする側に,成年被後見人等自身がなるということは妨げられないというふうに制度改革が行われましたから,あの並びでいくと,しばしば,自分の財産を管理できない者が人の財産を管理することができるかという非常に分かりやすい議論がありますけれども,必ずしもそのフィロソフィーで,従来法制が一貫して出来上がっているものでもないであうと感じます。   しかしながら,野村委員が御心配になったことは,全体としてよく理解をすることができますから,成年後見制度の改革の可能性も見据えつつ,引き続き御審議を頂ければ有り難いと考えるものでございます。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。野村委員,どうぞ。 ○野村委員 恐らく,我々が感覚として持っていますのは,多数決で決めてはいるんですけれども,構造的に資本多数決ということになっていて,決定している人が特定の人なんですね。それ以外の人たちは,幾ら議決権を行使しても自分の意思が反映できないという仕組みの中で,財産管理をお願いするという仕掛けになっているので,何となく,みんなで決めて頼みましたというロジックが成り立たないところが,ちょっと難しいところかなというふうに思っているところです。   シジミ売りの話はよく分かりました。 ○神田部会長 ありがとうございました。   それでは,中東幹事,それから神作委員,そして加藤幹事の順で。中東幹事,どうぞ。 ○中東幹事 私自身も,藤田委員,あるいは野村委員がおっしゃった点に賛成でして,部会資料17の4の会社法上の責任の(1),(2)について,屋上屋を架すようでありますが,必ずしも理解が共有されていないような気がいたしますので,発言させてください。   取締役等の責任についてですが,二つの局面があります。一つは会社が不利益を被る場合,つまり取締役等に任務懈怠があって,会社が不利益を被る場合に,成年被後見人等である取締役等の責任についてはどうかという局面でございます。   これについては,佐久間参考人と野村委員とで,意見が余り合っていないような気もいたしましたが,私自身は,株主総会で選んだ以上,会社が,ひいては株主が不利益を被っても仕方がないのではないかと思います。通常,成年被後見人等を取締役等に選ぶのは同族会社でしょうから,仮に責任が発生しても総株主の同意で免除できる,こういう立て付けになっているので,これはこれでいいだろうと考えています。   ただ,問題なのは,もう一つの局面でして,藤田委員もおっしゃいましたように,取締役等の対第三者責任についてでございます。つまり会社法429条の責任でして,例えば,成年被後見人が取締役になった,ところが財産管理を全然せずに,その会社が潰れてしまったという場合に,本当に誰も責任を負わなくていいのかということです。取り分け,有限責任の下で会社債権者にリスクを課しているような会社については,本当にこれでいいのかということでございます。   つまりは,参考人の意見をお借りいたしますと,会社法は単純な三角形ではないということです。つまり,取締役等が会社を代表して,取引の相手方がいる,これだけでは済まない世界に会社関係者はいるわけでして,会社に関係する人たちには,会社とは直接的な取引関係がなくても,会社に対して債権を持っている者がいます。取締役等の任務懈怠によって会社が倒産することになると,この第三者は会社の財産によっては十分に保護されなくなります。そういった場面を想定して,やはり一定の場合には会社法429条で取締役等に責任を負わせるという枠組みに,現在の会社法制はなっています。そういう意味では,代理と同じように考えることはできないと思います。藤田委員もおっしゃいましたように,最近の判例等の動向を踏まえても,仮に就任承諾を取り消したとしても,遡及的に責任が発生しなくなるべきものではないと考えます。所定の責任を免れることになれば,会社法制そのものが破綻するということだと考えております。   制限行為能力者の責任については,ここでは民事責任だけを問題にしておりますが,例えば,特別背任に該当する行為をしてしまっているという場合に,当然に刑事責任能力がなくて責任が阻却されるかというと,そうとは限らないと思います。こういった問題もあるわけでして,会社法の世界に1回入れば,特別刑法の世界に入っていただくことになりますので,その点でも懸念が残ろうかと思います。   今申し上げましたように,会社法429条については,これは直接取引がない債権者も含めて,責任を誰かがとらないといけない場面における法定責任と最高裁は位置付けていると理解されます。刑事責任等も考えましても,成年被後見人等であっても欠格事由ではないとした瞬間に,古本委員がおっしゃいましたように,本当に成年被後見人等に迷惑が掛からないかどうかと,懸念されます。成年被後見人等の活躍を後押しするどころか,逆に責任を重くしているのではないかという気もします。   思い付きで申し訳ないのですが,参考人がおっしゃった点で,民法上の組合も検討されているということでして,会社法上,これになじむのであれば,野村委員も少しおっしゃいましたけれども,合名会社の社員となる,その上で業務執行に携わること,このような形でしたら全部自分が責任を負う話ですので,これはこれでいいのかなとは思っております。 ○神田部会長 ありがとうございました。神作委員,どうぞ。 ○神作委員 ありがとうございます。   松井幹事の御質問に関連してお答えになった点について,まず1点,御質問させていただいた後,私の意見を申し上げたいと思います。   御質問は,先ほど,例えば,取締役の地位について,後見人が出てくるようなことはないということでございましたけれども,民法859条1項の解釈として,確かに「被後見人の財産を管理し」と書いてあるのですが,先ほどの事務局からの御報告の中で,委任の終了事由として後見開始の審判を受任者が受けたことが挙げられていますが,そもそも民法653条3号は任意規定であると伺いました。   もし,後見開始の審判を受任者が受けたことが委任の終了事由には当たらない旨の別段の定めが置かれていて,委任契約が続く場合には,後見人が委任契約上の事務を遂行することになりそうですが,民法653条3号は,任意規定であるというのが確立した解釈であるのかどうかお伺いさせていただきます。   私の意見は,古本委員の意見に近くて,そもそもこの問題については慎重に考えるべきだというものです。取締役は刑事罰も付いている会社法において,会社という組織を運営監督する権限と責任を負っており,会社法自身,取締役が遵守すべき強行法的な様々な規律を置いています。取締役は,会社という組織を運営監督するために専門性・職業性が強いといいますか,そのような地位にふさわしい,すなわち会社の経営を専門にするような人たちが会社の経営を担っていくという方向が,コーポレートガバナンスの向上に取り組んでいる現在の日本にとっては大事なことであると思われます。この部会でもコーポレートガバナンスの向上が一つの論点になっていますが,取締役の能力と資質について適格性がない者はそのような地位につくことができないという現行法の規律が前提となっており,本日の提案は,それに逆行するようなイメージを受けています。したがって,そもそも根本のところから慎重に考えた方がいいというふうに思うのですけれども,しかし,それを前提に議論するということですので,その場合の私の意見を申し上げさせていただきます。   部会資料17の5ページの終任のところでございます。もし,委任に関する規定に従うという民法の規定が任意法規であると考えられているとすると,場合によっては,取締役等が後見開始の審判を受けたときにも,そのまま続けられるということになると思われます。そのことは,非常に問題ではないかと思います。特に,会社法346条の役員等に欠員が生じた場合の措置で,任期の満了になると,当然には終任にならないで,役員等の権利義務を有し続けるということになる場合には,いろいろ問題が生じると思います。   したがって,少なくとも,取締役等が後見開始の審判を受けたときには,一旦終任事由として,それで,新しく株主の判断を仰ぐという規律にする方が良いと思います。   また,終任事由とするかどうかという立法論とは別に,部会資料には挙げられていない論点として,会社法346条1項は取締役等が後見開始の審判を受けた状態で任期を満了し又は辞任した場合に,どのように適用されるのかが問題になるように思いました。   以上,1点御質問と1点御意見を申し上げさせていただきました。 ○神田部会長 ありがとうございました。   御質問は参考人に向けられているように思うんですけれども,いかがでしょうか。佐久間参考人,どうぞ。 ○佐久間参考人 まず,先ほど松井幹事がおっしゃり,今,神作委員も御確認いただいたのだろうと思いますが,委任の効力がなおあるというときは,成年被後見人自身がやはり行為をするのであり,後見人が行為をするということは予定されていない。民法859条1項というのは,正にそのとおりであるというふうにお答えできるかと思います。   それから,2点目の民法653条3号が任意規定かというのは,私は大変疑問に思っております。まずは,また任意代理の場合について説明させていただきますと,こういうことでございまして,後見開始の審判を受けますと,取締役の場合は終任事由,委任の場合は終了事由でございます。委任が終了するということは,それはとりもなおさず,代理権がなくなるということです。その後,行為を致しましても,それは無権代理行為だということに当然なりまして,無権代理だとなると,成年被後見人は責任を追及されるかと申しますと,先ほどの民法117条2項によりまして,無権代理人として責任を追及されることはないということになっております。   これは,何度かお話にも出てまいりましたとおり,結局この終任事由,終了事由となっているということには,成年被後見人を保護するという面も確かにあるわけでございます。そうすると,その保護の放棄,自分が将来成年被後見人になったときに,そのような保護を受けませんという意味を持つような特約を,なお意思能力などがあるときに有効にすることができるかというと,その時点ではとやかく言うことはないのかもしれませんが,いざ問題となったときに,これ有効ですなんていうのは,私にはちょっと信じられないという感じがします。民法の通説だということのようですので,私が異説だということになるんだと思いますが,少なくとも私は,その特約が簡単に有効であると本当にされるのだろうか,という感覚を持っております。 ○山野目参考人 神作委員のお尋ねの前半は,ただいま佐久間参考人が述べた意見のとおりであると私も感じまして,付け加えることはございません。   後半の方でおっしゃった,委任契約関係が後見開始の審判があったことによって終了するという民法の規定は任意規定ではないかという御心配の見地からの御意見は,なるほどと理解することができます。それと同時に,本当にピュアな任意規定であって,それと異なる特約がかなり随意に許されるということは,やや疑問に感じますという佐久間参考人の御意見も,共感する部分は大いにございます。   共感する部分が大きいと申し上げても,多分会社法の先生方は,いや心配であるという感覚がお残りになられるであろうというふうなことも想像いたします。そう考えますと,今,会社法制のことをここで議論しておりますけれども,隣接する法分野として信託法の領域がございまして,現行法は信託法7条で,成年被後見人等は受託者になることができないという規定があると同時に,信託法の56条の1項2号で,受託者が成年後見に係る後見開始の審判を受けたときには受託者の任を終了するという規定がございます。   こちらで差し上げているものと似たようなお願いを,信託の法制の方にも差し上げることになると予想しますが,しかし,恐らく見通しとして,7条は削除するということになるかもしれませんが,終任事由の56条1項2号をなくしてしまって,後見開始の審判があっても,引き続き受託者としての仕事を続けることができますということで,それをやめさせるためには,解任の手続などいろいろ煩瑣に踏まなければなりませんという,そういう振り合いは多分ないと考えますから,信託法でいうと,7条を削除して56条1項2号は存置するということが,穏やかな法制の在り方の見通しであるということで,そちらの方の施策の遂行が見通しが得られるならば,一つのアイデアとしては,会社法制の方に関しても,取締役であっても成年被後見人等がなることができるとするところは,現行規定の見直しをお願いするとしても,しかし一旦,既になっていた取締役に対して,後見開始審判がされたときには,それは当然の終任事由になるという規定を法律関係の明確化のために会社法制に設けていただくということは,それは大いにあり得る解決ではないかと考えます。その意味では,神作委員がおっしゃった御意見というか感覚に,私は共感するところがございます。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。加藤幹事,どうぞ。 ○加藤幹事 ありがとうございます。   2点意見を述べさせていただきます。   1点目は,先ほどの藤田委員と参考人のやり取り及びただいまの神作委員と参考人とのやり取りに関連するのですけれども,部会資料17の6ページにあります「会社法上の責任に関する論点」に関する意見であります。   藤田委員からの御質問に対して,参考人は,民法上,無権代理人としての責任を成年被後見人は負わないということを強調されたように思うのですけれども,会社法の問題状況に照らして考えますと,無権代理人としての責任を,例えば,代表取締役に選定された成年被後見人が負う状況というものが存在するのか疑問があります。そもそも会社法上は,代表取締役が行った行為が会社に帰属しないということ自体はまれであります。むしろ,藤田委員の御質問の趣旨というのは,例えば,財産の管理を委託された成年被後見人が財産の管理を誤って損害を生じさせてしまったような場合に,委任契約を解除すれば,管理を誤ったということについての損害賠償責任も免責されると民法では考えられているのか,そういう御質問だったかと思います。   つまり,無権代理人としての責任と会社法上の責任をパラレルに考えて,この問題を検討していくのは適切ではないと思います。   2点目は,先ほどの野村委員とのやり取りに関連するのですが,参考人から,本人が成年被後見人を選任したように,株主が選任したのであるから,問題とする必要はないとの御意見があったかと思いますが,そのように考えることが妥当なのか検討の余地があると思います。   成年被後見人が取締役になる場合というのは,上場会社というよりは,非上場会社で問題になると思います。そして,取締役が成年被後見人になるというよりは,株主が成年被後見人で,その株主が51%の議決権を持っている場合が問題の発生する典型例だと思います。この場合,成年被後見人である株主が自分を取締役に選任するということになりますが,株主によって選任されたということと会社に対する免責を結び付けることが妥当であるか疑問を持っております。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   それでは,3時半頃になっておりますので,札を立てていただいているのは尾崎委員,北村委員,沖委員の順番なのですけれども,一旦休憩を取らせていただきたいと思います。3時45分を目途に再開させていただきたいと思います。よろしくお願いします。           (休     憩) ○神田部会長 それでは,再開させていただきます。   それでは,尾崎委員,北村委員,沖委員の順で御発言をお願いしたいと思います。尾崎委員,どうぞ。 ○尾崎委員 発言の機会を頂きまして,ありがとうございます。   事務局の方からこの資料を頂いたときに,要するに,現行規定の該当箇所を削除することを前提として,会社法的にどういう問題があるかのシミュレートをしろという趣旨だと私は受け止めまして,これは大変大きな宿題を課されたなというのが素朴な感想でございます。   この問題に関して,削除してしまいますと,幾つかの視点で物事を考えないといけないということで,このペーパー,大変分かりやすくできていると思うのですが,私なりに考えますと,選任した方の側,こういう人でもいいから取締役に選任したという側と,選任された側,それは正に成年被後見人のような人,そういう座標があろうかと思いますが,これを分けて考える必要があると思います。それと,我々会社法を勉強したときに,これの私法上の効力はどうなるかという問題と,その行為をした場合の責任はどうなるかとを分けて考えるべきだろうと思います。先ほど来から,正に責任という議論が出てきているわけですが,もう一つは,やはり私法上の効力,有効か無効かと,そういう議論になってくるかと思います。   結論からいいますと,私も,そういう人を選んだ以上,リスクは会社が負えということに恐らくなるのだろうと考えます。選任というか,就任した以上,成年被後見人も責任をとれというのが筋だろうと思うのですが,この後ろの方は,恐らく成年後見制度と抵触する結論なのかもしれません。つまり,成年被後見人等については,やはり保護しないといけない,財産を保護しないといけない。こうなってくると,責任限定ということが出てくるということですが,先ほど来出ておりますように,民法117条の議論であるとか。こういうふうな形の議論が出てくるというふうに私も理解しております。   この私法上の効力というのは,有効か無効かということで,もし無効や取消しになりますと,つまり遡って全部なかったことにしてしまうという前提の下で,何とかしなければいけないことになります。あるいは,それとも,これを前提としては私法上の効力を有効としながら,その後どうするかと,こういう,恐らく解釈論になってくるのだろうと思います。ですから,選任手続に瑕疵があった取締役による行為の効力であるとか,そういうような従来からある解釈の議論を様々参考にしながらやっていくということになるのでしょう。   ところが,議論がそういう取引の安全とかいうことになったときに,通常は「取引の相手方が注意せよ」みたいなところが前提にあって,その人,つまりその取締役はそういうものを持っている人であるということを,例えば,登記制度であるとか様々なもので公示するのが伝統的な手法だと思います。そのときに,成年後見の場合は,その人が成年被後見人であるということをあらかじめ明らかにすることは,例えば,選任手続においてもなかなか難しいでしょうし,就任した後においても,その人はそうであるということを登記するというのは,なかなか制度化しづらいと思います。こうなってくると,多くの場合,取引の相手方は,成年後見など付されていない取締役だろうとの前提で取引などをすることになるのでしょう。つまり,取引の効力は,基本的に有効化していくような解釈論になるのだろうなと,素朴にそう感じた次第です。   ところが,そういう人を選んだ以上,リスクは会社だという,先ほど野村委員からあったのですが,その会社というのは一体誰と考えればいいのかがそもそも問題です。多数派でやってしまうのはどうかという議論も先ほど出てきたかと思うのですが,リスクはやはり会社が負うべきであって,それは基本的に,こんな人を選んだのだから,それに伴う様々なものは会社自身が負担する。そして,会社に損害が発生しても,先ほど中東幹事がおっしゃったように,同族会社だと会社法423条の責任はクリアできてしまう可能性はある,つまり会社法424条で,総株主の同意で免責してしまう。ところが,会社法429条は残ってしまう可能性があるわけです。第三者責任というのは残ってしまう。   こういう場合に,リスクは会社にというのだから,それはそれでいいかもしれませんが,こういった点で,会社のリスクとともに,今度逆に,会社法429条の責任という取締役のリスクも出てきてしまうわけで,その取締役のリスクは,先ほど来から出ております,成年後見制度からいくと救済してあげないといけない。こうなってくると,先ほど藤田委員おっしゃったように,責任のない経営者というのが生まれてくる危険性があると思います。こういう責任のない経営者というものをどうしますかというのは,会社法学では抵抗がある議論になると感じます。   つまり,やはり経営する以上,責任をとってくださいという話だと思うのです。持分会社の議論が出てきているように思いますが,やはり経営に当たる以上,基本的に無限責任になるのだろうなと思います。それならば責任制限をどうするかという,こういう議論は,ちょっとまた別の議論としてあるわけですけれども,ところが,成年後見制度の方から見ていくと,責任は制限しないといけない,場合によっては免除しないといけないとなるのでしょうね。   ここのところをどう調整していきますかというところで,会社法的に,いろいろと宿題を投げ掛けられたわけですが,成年後見制度の方においては,そういう場合まで100%救済しないといけないのですか。こういうふうな形で就任してしまったわけですよね。ですから,山野目参考人がおっしゃったように,同意権という形で,就任しないでくれとか,こういうふうな形で止めておかないといけないとしても,してしまった後はどうなりますかと,ここがちょっと私の疑問点なのですが,ちょっとこの点,よろしくお教え願いたいと思うのです。 ○神田部会長 ありがとうございます。   いかがでしょうか。佐久間参考人,どうぞ。 ○佐久間参考人 山野目参考人にお答えいただいた方がいいのかもしれませんが,まずはまた,露払いで私の方から。   取消しによる救済のことについて,もう一度,尾崎委員がおっしゃった制限行為能力者の保護というのは,民法の立場からするとそこまでなのかということについて申し上げますけれども,ここで取消しが認められるのはなぜかといいますと,基礎になるのは結局,適切な判断をすることができない結果として就任を引き受けた。その適切な判断をすることができない結果である就任の効果,不利益な効果を免れさせよう。その免れさせるための手段が取消しである,ということになるんですね。その取消しで実現しようとすることは,不利益な効果を免れさせるということなんですが,その不利益な効果というのは,法律行為の効果に限られるわけではなく,債務不履行の責任も含めた事実上の効果も含まれたものというのが,制限行為能力者の保護の考え方であるはずです。   もう1点,強調しておきたいのは,これは法律行為の効果に関わることですけれども,最近行われました民法の改正におきまして,契約や意思表示が無効になった場合,取消しも含めてですが,無効になった場合について,第三者保護規定が相当拡充されたんですね。民法93条,心裡留保の場合についても,これは昔から民法94条2項の類推適用だといわれていたんですが,それが条文化されましたし,錯誤による取消しについても,第三者保護規定が置かれたんです。でも,伝統的に,制限行為能力による取消しについては,第三者保護規定はありません。それは,改正民法でも変わりませんし,第三者保護規定を置くべきであるという考え方が出てきたことは聞いたことがございません。   無効の効果を貫徹しますと,どこかに結局しわ寄せがいくんですけれども,それは取引社会のどこかで吸収すべきものだ,仕方がない,仕方ないというと,ちょっと語弊があるかもしれませんが,そのようなものだというのが,少なくとも制限行為能力者の責任ということでいえば,民法の考え方であろうと思います。それが会社の経営の責任とどう接合するのかというのは,私の判断できる範ちゅうを超えておりますが,ただ経営の責任というのも,もし就任を引き受けたことに端を発しているのであるとすると,その就任自体について,繰り返しになりますが,適切に判断することができなかったことによるものなのだから,そこを救済してあげましょうというのは,なお,成り立たないわけではないのではないかなというふうに感じてはおります。 ○神田部会長 ありがとうございます。山野目参考人,どうぞ。 ○山野目参考人 尾崎委員の御心配はよく理解することができますし,就任に当たっては,就任させた会社が責任を負いなさい,一旦就任したら,成年被後見人といえども,自らの責任を自覚しなさいという振り合いでしょうというお話も,大変明快で,竹を割ったような,非常に,こちらはこうで,こちらはこうでしょうというお話だというふうに受け止めて,よく理解することができます。   民法の規定の基本的な骨格といいますか思想は,今,佐久間参考人が申し上げたとおりです。民法の規定は,法律行為法の領域になり,責任の方ではないですけれども,例えば21条の規定は,詐術を用いた場合には制限行為能力を理由とする取消しをすることができないといった規定もございまして,民法自身の体系の中に,制限行為能力者が自ら,ある範囲で自覚的に振る舞ったときの後始末については,問われる局面はありますよという思想の部分を全く含んでいないというものではありません。   本日,佐久間参考人と私から,民法の基本的な考え方については,今,私が申し述べたことも含めて,御説明に任じましたから,そこから先,会社法制の立て付けや,その運用を考えていくに当たって,今申し上げている以上に,何か民法の方から,絶対こうしていただいては困るというものを申し上げているものではありません。しかるべくまた,この部会の委員,幹事の皆様方において,誠に御心労をお掛けいたしますけれども,良い解決を見付けていただければ有り難いと存じます。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。北村委員,どうぞ。 ○北村委員 発言の機会を頂き,ありがとうございます。   この問題につきまして,成年被後見人制度をもっと使いやすくするべきであり,成年被後見人にはいろいろな欠格規定があるから制度利用がちゅうちょされるのであればそれを解消し,高齢者や障害者が支障なく職業を営み,社会的な活動をできるようにすると,こういうことが山野目参考人の参考資料には述べられております。   一方で,佐久間参考人からは,そもそも成年被後見人制度というのは,行為の効果あるいは責任から成年被後見人を守るものであり,このことは取引の安全よりも重要視され,そのために生じる不利益というのは取引社会が受容しなければならない,という御説明がございました。   しかし,会社法から欠格規定を削除することが会社法制のメカニズムにぴったりと合うかというと,かなり問題が多いという印象を持っております。何人もの委員,幹事の方がおっしゃいましたことと重複いたしますけれども,私の意見を少し述べさせていただきたいと思います。   藤田委員がおっしゃいました事実上の取締役制度との対比でこの問題を考えるということについて,まず申し上げます。ある者が取締役としての職務権限を行使しながら責任を負わないというのであれば,会社法が用意した利益調整メカニズムが破壊されることになるのであれば,事実上取締役として行動した者は法律上も取締役としての責任を負わなければならないということが,事実上の取締役理論の基本的発想であろうと思います。そういたしますと,成年被後見人が取締役として行為したけれども責任を負わないということになってしまいますと,会社法の利益調整メカニズムにそもそも合わないのではないかという懸念がございます。   そして,成年被後見人である取締役は会社との関係では責任を負わないというのは,株主が納得しているのでいいのかもしれませんけれども,第三者に対する責任まで負わなくてよいのか,ということについては問題が大きいと思います。取締役の対第三者責任が問題となる状況では,会社は既に責任を負えない状態になっています。第三者は,会社の取締役を相手に,あるいは,こういう人が取締役だからということでその会社と取引したにもかかわらず,取締役の方は責任を負ってくれないと,こういう状況はある意味深刻な問題かもしれないと思っております。   部会資料17の6ページの4(2)の3段落目には,「また,成年被後見人等が,就任承諾を取り消した場合は別として,取り消さ(なかった)場合において・・責任を免れることができるものとする必要性は必ずしも高くない」のではないかと述べられています。そうすると,取り消せば責任は免れて,取り消さなければ責任は免れないということになりますが,同じ成年被後見人であるにもかかわらず,このような違いを認めることに合理性があるのかどうか,疑問がございます。   次に,行為の効果の問題ですけれども,確かに取引の安全という観点につきましては,前田委員がおっしゃいましたように取締役選任決議が取り消された場合などに関して判例あるいは学説の蓄積があって,それによると取締役への就任が取り消される場合にも取引の安全は守られるであろうということは確かにそうだと思います。もっとも,ここでいう取締役等には,部会資料17の1ページにありますように,例えば監査役も含まれます。そうすると,監査役が行った監査報告は就任が取り消されると,監査がなかったことになりそうですが,このように今まで余り議論がなかった問題がいろいろと生じてくるわけでございます。このように考えますと,支障なく職業を営むなどの社会的な活動をするように支援するという観点は非常によく分かるのですけれども,会社法に当てはめていくと,かなり超えなければいけないハードルがたくさん出てくるだろうと思っております。   最後に,細かな点でございますけれども,部会資料17の5の(1)でございますが,ここでは二つのことが述べられています。前段は,欠格事由に該当する者を選任することにより会社に損害が生じたら,そういう人を故意又は過失によって候補者にした他の取締役は損害賠償責任を負うものと解されるということです。そして後段で, このことは,取締役等の候補者が心身の故障により客観的に取締役等としての職務の執行に支障を来たすような状態である場合も「同様に」解することができるとされています。結論はそれでいいのかもしれませんが,前段と後段は,「同様に」で結び付けるものではないと思うわけです。   前段は,欠格事由がある者を選任してしまったら,決議内容の法令違反となって株主総会決議が無効になりますから,被選任者はそもそも取締役になれないので,そのことによって何らかの損害が生じるという場合です。後段は,選任についての株主総会決議には法令違反がないのだから取締役を選任する株主総会決議は有効であるという前提で,その者が取締役候補者として不適切であったために何らかの損害が生じた場合ということになります。したがって,後段を前段と「同様に」解するという形ではつながらないのかなと思います。   以上,意見だけ申し上げました。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。沖委員,どうぞ。 ○沖委員 ありがとうございます。   会社の経営に当たる取締役等について,成年後見を欠格事由から廃した場合,ほかの資格の分野におけるような個別的かつ実質的な審査ができないということから,非常に難しい問題が起きるということは,冒頭で古本委員から御指摘があったとおりですし,また,会社に対する責任という点で,非常に会社法上も難しい問題が起きるということは,多くの委員から御指摘があったとおりだと思います。   ここでは,その責任の点は,成年被後見人の保護といいますか,民法上の政策との難しいバランスが必要ですので,その点以外に,仮に欠格事由として廃止する場合に必要な代替措置について意見を述べたいと思います。   2点あります。1点目は,成年被後見人が取締役等に就任することから生ずる影響に,会社が適切に対応できるような措置が必要だということです。2点目は,第三者との関係で,取引の安全を害しないような措置が必要ということであります。   まず,最初の就任の点ですけれども,就任の際には,会社が本人から成年後見登記の登記がないことの証明書の提出を受けるであるとか,あるいは逆に,成年被後見人になっているということが明らかであれば,取締役就任の際に成年後見人から同意を取得するというような対応が可能だと思いますし,もし,あえて成年被後見人を取締役に就任させるということであれば,それは会社の責任で対応するということになってくるかと思います。   ただし,任期中に成年後見が開始された場合,この場合は,会社には分かりませんので,本人から申告させるというふうな措置が必要かと思いますが,いずれにしましても,民法653条3号の規定を前提に,成年後見の開始の審判を受けたことが取締役の終任事由になるという規定は,会社法上も置く必要があるのではないかと考えます。   次に,2点目は,取引の安全との関係であります。成年被後見人が就任の承諾を取り消した場合に,過去に行った取引の効力についてでありますが,部会資料では,会社法908条2項の不実の登記や表見代表取締役,民法上の心裡留保の規定の類推適用によって保護がされるということが指摘されておりますけれども,これらはいずれも,相手方の善意を要件にした規定だと思います。   この善意,悪意を何に基づいて判断するかということですが,例えば株主総会や取締役会の決議の取消事由についてであれば,そういった取消しの事由があるということについての善意,悪意だと思います。これが成年被後見人との関係で見ますと,その方が,代表者が成年被後見人であるということ以外に,余りないのではないかと思うんですね。そうすると,成年被後見人であることを知っていれば,悪意が認定されるとか推認されると,可能性が高くなるということになりますと,これは相手方は,代表者が成年被後見人であれば,取引を避けるということになってくるんだと思うんですけれども,そういうことであれば,せっかく欠格事由から外したというその趣旨が,かなりの程度失われてしまうのではないかというふうにも思います。   したがいまして,もし欠格事由を廃止するということであれば,相手方の主観的対応とは別に,代表行為については有効性を確認する規定を置くことを検討すべきではないかと。つまり悪意重過失の判断の点が,ほかの第三者の保護規定とは少し意味が違いますので,そういった規定を置くことにも整合性はあるのではないかというふうに考えました。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   それでは,梅野幹事,田中幹事の順で。梅野幹事,どうぞ。 ○梅野幹事 発言の機会を頂戴し,ありがとうございます。   全く勉強不足で大変恐縮ですけれども,3点ほどコメントさせてください。   1点目は,この問題は,非常に大事な問題で,弁護士会等でも検討しなければいけないと思いますので,お伺いさせていただきたいのですが,今回の部会資料17の規律の整備の要否については,中間試案として,パブリックコメント等に付される予定はないというふうに理解しておりますが,その理解に誤りはございませんでしょうか。その上で,今年度末にわたって,要綱案等の作成等がなされる中で検討されていくというように理解しておりますが,そういった理解でいいかどうかという点につきましても,お伺いさせてください。   2点目は,質問を兼ねた意見となりますが,先ほど神作委員から御指摘があった部分と共通するものです。部会資料17の5ページの3(1)の最後のところに,「本件条項の削除に伴い,取締役等が後見開始の審判を受けたことを終任事由とする旨の規定やその例外に関する規定を設けることが考えられる。」という記載がございます。これについては,私の理解では,民法653条3号が任意規定であることを前提にして,会社法上,別途,強行規定として,こういった規定を設けるという必要があると理解しましたが,それで良いかどうかをお伺いさせてください。   この点に関しては,会社法制定時に,破産手続開始の決定を受けて復権していない者について,取締役の欠格事由から外したという経緯がございます。その際,その場合もやはり委任の規定が適用され終了事由になるので,会社法上は,特に手当てはしないという形,つまり,破産手続開始の決定を受けて復権しない者でも,次の株主総会で選びたいなら選べばよいという形になったと理解していますが,後見開始の審判を受けたときもそれと同じ扱いでいいのでないか。あえて規定を設けなくてもよいのではないかというように考えました。   逆に,取締役が後見開始の審判を受けたことを終任事由とする旨の強行規定を設ける,あるいは,更にその例外に関する規定を設けるということはどうなのか。例えば,例外に関する規定をあらかじめ設けることが,余り妥当ではないのではないか。つまり,その段階におけるその方の状況に応じて,個別に判断していくべきであって,例外規定を設けておくことで,終任せずに継続することを,あえて認める必要はなく,次の段階の株主の判断に任せていいのではないかというように思った次第です。   それと,もう1点は,先ほど加藤幹事が御指摘されていた事例から少し考えたことなのですけれども,このような問題が非常に深刻な問題となるのは,上場会社というよりも,オーナー企業等においてだろうと理解しています。もちろん上場会社でも,高齢の社外取締役の方が,能力を欠くような状況になったというような事例があるようなことも,知ってはおりますけれども,むしろオーナー会社で問題になるのだろうと思われます。   そこで考えてみましたのは,オーナー企業のオーナー社長が,ほとんどの株式を持たれている。そういった会社において,本来欠格事由があるにもかかわらず,オーナーが自分で役員に選任してしまったような,そういうケースを考えてみます。その場合には,後見人等の申立権者は親族のみに限られるので,他の取締役が後見の申立て等をすることはできない。そういった場合に,どうすべきなのだろうかという点です。   この部会資料の最後の,いろいろ御意見があるところだと思いますけれども,7ページ辺りを拝見すると,他の取締役が場合によっては,本来であれば欠格事由がある方の役員としての行為によって責任を負う可能性もあるとのことのようです。そうであれば,他の取締役に対してそれを防ぐための何らかの手段というのは与えなければいけないだろうと思います。   7ページには,解任のために株主総会を招集するという手段が挙げられていますが,例えば,先ほど私が述べた事例でいうと,解任決議をしようとしても,決議が成立しない可能性もあります。そういった場合に備えて,何らかの是正措置的なものを設ける必要がないのかどうか検討してもよいのではないかと思いました。   例えば,思い浮かぶのは,少数株主権としての取締役解任の訴えですが,これは不適格者の排除のために監督する手段として設けられているということのようですが,当然のことながら,少数株主権ですし,不正行為等がなければなりませんし,さらに株主総会で解任議案が否決されなければいけないということで,必ずしも先の事例では使えない。逆に言うと,そういった少数株主権としてではなくて,他の取締役等が是正措置を裁判所に求める解任の訴えのようなものを考える余地もあるのかと,これは思い付きレベルの話なのですが,思った次第です。   2ページでしたか,欠格事由を削除して,個別的かつ実質的な審査をするということを考えられるという方向性のようなので,先ほどのような場合に,裁判所の力をお借りして,是正していくということも考えられるのかと思いました。もちろん,そのような手段を設けることによって,内紛などの事例で悪用されるといった弊害も,当然あり得ることだろうとは思いますけれども,発言させていただいた次第です。 ○神田部会長 ありがとうございました。 ○竹林幹事 御質問いただいた点でございますが,中間試案に入れてパブリックコメントに付すかどうかという点につきましては,今現在,そのようなことは予定してございません。要綱に入れるかどうかというのは,諮問との関係等も含めまして,また検討させていただきたいと考えております。   終了事由を会社法に規定するかというところでございますが,この点につきましては,御指摘いただいたとおり,任意規定であるということを前提として部会資料を作成させていただいておりますが,本日,佐久間参考人や山野目参考人から頂いた御意見等も含めまして,また検討したいと考えてございます。   その他,破産手続開始の決定とのバランス等につきましては,私どもも検討不十分な点もございますけれども,本日頂いた御意見等も含めまして,また,どういった手当ての在り方が適切か検討させていただきたいと考えております。 ○神田部会長 どうもありがとうございます。田中幹事,どうぞ。 ○田中幹事 私,部会資料の照会事項に割と忠実に,つまり,欠格事由に関する規定は削除することを前提にして,会社法の規律を考えてみました。したがって,削除そのものの是非については触れないことにしたいと思います。   これまでの議論をお聞きしてますます思いを強くしたのですが,やはり基本的には,成年被後見人は,成年後見人の承諾を得て取締役になることができるということにして,成年後見人の承諾を得て取締役になった場合は,完全に取締役としての義務と責任を負う,そして権限も持つと,そういう立て付けにするのが良いと思います。   基本的に,成年後見人の承諾を得ないで取締役に就任してしまいますと,その後,就任承諾の意思表示が取り消されたときの法律関係について,非常に難しい問題が起きますから,できるだけそういうことは起こさないようにすると,それが大前提かと思います。   そして,現行法においても,例えば,未成年者が営業をするような場合には,営業をすることについて親権者の許可を得れば,営業に関する行為に関しては,完全な行為能力者としての能力を持つわけで,それと同じように考えることができると思います。また,会社法の関係でも,会社法は少数株主や第三者の保護を重視して,取締役の義務と責任は基本的に全部強行法規でありますので,その考え方からいっても,成年後見人の承諾を得て就任した以上は,完全に取締役としての義務と責任を負うということでいいのではないかと思います。   それが私の考えなんですが,ただ,この資料17は基本的に,成年被後見人が成年後見人の承諾を得ないで就任するような事態も起こり得るということで規律ができていまして,実際上も,成年被後見人であるということは完全にチェックされないことがあるかと思いますので,そういうことが起きても不思議はないと思います。   その場合に,成年被後見人が取締役になったことの承諾の意思表示を取り消すという場合,どうなるかということなんですが,これについては,今回,部会のほかの皆様の考えとちょっと違っていたんだなということが分かったんですけれども,私,基本的にその場合は,やはり成年被後見人保護という民法の原則が適用されるということではないかと思います。つまり,遡及的に取り消すことができて,取締役としての責任を負わないというのが原則ではないかと。   やはり,成年被後見人は十分な判断能力がないので,取締役としての責任についても十分に認識することなく取締役になってしまうということは起こり得るわけです。その場合,本来は会社の方が,きちんと成年後見人の承諾を得たかどうかを確認するべきであり,それに関しては,現任の取締役の義務の一部でもあろうかと思います。したがって,承諾を得ていないことを知りながら,あるいは,注意していれば容易に気付いたにもかかわらず,そのような者を取締役に選任するという議案を株主総会に提出した場合には,後に就任承諾が遡及的に取り消された場合には,現任の取締役が,後で義務違反の責任を追及されると,そういうことがあり得ると考えられます。なお,このようなケースにおける第三者との法律関係については,まず,成年被後見人である取締役が会社のために行った取引の有効性については,権利外観理論とか会社法上の外観保護規定の適用により,基本的には有効と解されることになると思います。   問題は,成年被後見人が後見人の承諾を得ずに取締役に就任し,後にその就任承諾を取り消した場合における,当該取締役の会社法429条の責任についてですが,これがちょっと,私が従来考えていることと,今回の部会の皆様の御議論が違っていたところです。私は,先ほども述べたとおり,このような場合は就任承諾の意思表示は遡及的に取り消されるため,成年被後見人は会社法429条の責任を含め,取締役の責任は負わないと考えておりました。しかし,これについては,登記上の取締役の責任とか事実上の取締役の責任により,むしろ責任を負わされることになるという御意見が出されていたかと思います。   これは確かに解釈問題になると思います。また,もし,この問題を解釈に委ねることは法的な不確実性が大きくなるので,それについて何らか明文の規定を入れるべきではないかという考え方もあると思います。ただ,そういう明文の規定を設けなかった場合の解釈について,現時点の私の考えを申しますと,まず,登記上の取締役の責任は,少なくとも現在の判例・法令によると,不実の登記をすることに対して承諾を与えたことによる責任なわけです。したがって,承諾を与えないと,原則的には責任を負わないというのが判例の解釈です。もちろんこれは,意思表示による責任ということでは必ずしもなく,むしろ会社法908条の解釈として,最高裁が,同条の責任を課すための要件として承諾を要求しているわけです。ですから,普通の契約における意思表示と全く同じように取消しができるとは必ずしもいえないかもしれません。しかしそうはいっても,判例上の登記簿上の責任は,不実の法律状態を作り出すということについて承諾を与えたことによる責任と構成されていることは確かであり,そうだとすれば,通常の意思表示であれば遡及的な取消しができる成年被後見人が,不実の登記についての承諾を与えたということについては,取消しもできず,保護もなく,責任が課されるということには,多分ならないのではないかというのが私の意見です。   問題は,事実上の取締役の責任の方で,こちらは,特に意思表示による責任とか,そういうことではなくて,事実上取締役としてやっているかどうかということが重要ですから,こちらについては,成年被後見人についてもこの責任が生じるのではないかということは,確かに難しい問題であると思います。   ただ,そのことについて,一つ申し上げたいことは,もし制限行為能力者が,事実上の取締役として会社を運営・管理したときに責任を負わされるのだとすれば,それは現行法の下でも起こることなわけです。現行法の下でも,成年被後見人が,取締役になれないにもかかわらず,事実上の取締役になって,会社を運営・管理するということはあり得るわけで,そのときに,事実上の取締役の責任を負うかということが問題になるわけです。ですから,この部分の法律関係が明確でないから,成年被後見人の取締役への欠格事由を外してはならないということには,必ずしもならないのではないかと思います。   その上で,この問題についてちょっと私の考えを申しますと,現在の判例法理における事実上の取締役の責任は,私の理解では,単に取締役になったということで負わされている責任ではなく,やはりオーナー経営者のように,完全に会社を意のままに支配してしまっているもので,そこまでいって初めて,事実上の取締役の責任を負わされていると理解しています。確かに,下級審裁判例の中には,完全に会社を意のままにしているような場合だけでなく,例えば監視義務違反の責任を認めた裁判例もありますが,私は,あれは例外的,一種のアノマリーだと思っています。本当に会社を意のままに支配しているので,これで取締役の責任が負わされなかったらおかしいではないかというときだけ,責任を負わされているというのが裁判例の傾向であると思っています。   そういうことでいえば,事実上の取締役の責任が課される場面は,かなり例外的ですので,例えば,成年被後見人が取締役に就任しましたと。しかし,精神的に不調ですから,取締役会に全然出なかったと。それで監視義務を負わされるようなことには,現在の事実上の取締役の法理からはならないのではないかなと思います。ただ,これは解釈問題ですので,分からないところもあるんですけれども,ただいずれにせよ,成年被後見人が就任承諾の意思表示を取り消した場合の取締役の責任について,4の(1)で挙げられたような論点があるから,それで会社法上,欠格事由を除外することができないというわけではないのではないかなと考えております。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   いろいろ大変貴重な御意見を頂きまして,ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。大体よろしいでしょうか。   それでは,貴重な御意見を多数頂きまして,ありがとうございました。本日はこの程度にさせていただきたいと思います。   佐久間参考人と山野目参考人には,お忙しい中,貴重なお時間と御意見を頂きまして,どうもありがとうございました。   それでは,次回の日程等について,事務当局から御説明をお願いいたします。 ○竹林幹事 今後は,お取りまとめいただきました中間試案について,パブリックコメントの手続をとらせていただくこととなります。   中間試案の最終調整や補足説明の内容の確定,その後の事務手続にどの程度の期間を要するかにもよりますけれども,本日から遅くとも2週間以内ぐらいを目途といたしまして,中間試案と補足説明を公表して,パブリックコメントの手続を開始したいと考えております。   パブリックコメントの手続の期間でございますけれども,おおむね1か月半程度を予定しております。部会につきましては,パブリックコメントの手続の期間中は休会とさせていただきたいと考えておりますので,3月7日に予定させていただいておりました会議,予備日ということでございましたけれども,取りやめとさせていただきたいと考えております。   その後の日程に関しましては,皆様には,4月25日又は5月9日のいずれかの日という形で御予定いただいておりますけれども,そのいずれにするかにつきましては,パブリックコメントの開始日等を踏まえまして,後ほど御連絡させていただきたいと考えております。御迷惑をお掛けいたしますが,どうぞよろしくお願いいたします。   次回は,パブリックコメントの手続の終了後の開催とさせていただきたいと考えております。お寄せいただいた御意見の数にもよりますけれども,可能であれば全体について,それが難しいようであれば,少なくとも次回取り上げる事項については,パブリックコメントの手続の結果の御報告をさせていただき,改めて御審議をお願いすることができるように努力したいと考えております。   取り上げる事項につきましては,これまでの御審議の状況ですとか,パブリックコメントの手続の結果等も踏まえて検討させていただきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   今御説明いただきましたような手順で進めたいと思いますけれども,よろしゅうございますでしょうか。   どうもありがとうございます。それでは,そういうことにさせていただきたいと思います。   本日も大変熱心に御審議を頂きまして,ありがとうございました。これにて閉会させていただきます。どうもありがとうございました。 ―了―