法制審議会 少年法・刑事法 (少年年齢・犯罪者処遇関係)部会 第2分科会第7回会議 議事録 第1 日 時  平成30年3月28日(水)    自 午後 1時33分                          至 午後 4時16分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  1 宣告猶予制度について         2 罰金の保護観察付き執行猶予の活用について         3 若年者に対する新たな処分について         4 その他 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○羽柴幹事 ただいまから,法制審議会少年法・刑事法(少年年齢・犯罪者処遇関係)部会第2分科会の第7回会議を開催いたします。 ○酒巻分科会長 本日は,御多忙中のところ,お集まりいだたき,ありがとうございます。   本日は,加藤幹事は,所用により,途中で退席される予定です。加藤幹事からは,本日議論される予定の論点について,退席後は保坂幹事が発言することが充実した分科会の審議に資するとの申出がありましたので,退席後につきましては,加藤幹事に代わり,保坂幹事に議論への参加をお願いしたいと思います。   また,本日も,当分科会における審議の中で,家庭裁判所実務の実情等について御質問があったとき等に適切に対応していただくため,村田委員に出席をいただいています。   それでは,まず初めに,事務当局から,資料について説明をお願いします。 ○羽柴幹事 本日,配布資料として,配布資料13「宣告猶予制度(検討課題等)(2)」,配布資料14「罰金の保護観察付き執行猶予の活用(検討課題等)(2)」,配布資料15「統計資料4(観護措置関係)」,配布資料16「若年者に対する新たな処分(検討課題等)(3)」を配布しております。   なお,これまでの部会及び当分科会の会議における配布資料は,ファイルにとじて机上に置いております。   配布資料の内容については,後ほど意見交換の際に御説明します。 ○酒巻分科会長 それでは,審議に入ります。   初めに,本日の審議の進行についてですが,まずは,前回の会議で意見交換を行っていない「宣告猶予制度」について意見交換を行い,その後,「罰金の保護観察付き執行猶予の活用」,それから,「若年者に対する新たな処分」という順に,意見交換を行いたいと思います。このような進め方でよろしいでしょうか。              (一同異議なし)   それでは,そのような進行としたいと思います。   今後の予定として,4月26日に,部会第7回会議が予定されております。分科会における検討状況は,逐次,部会に報告することとされており,部会第7回会議においては,本日までのこの分科会での議論の状況について,中間報告として報告をしたいと思います。本日の会議では,中間報告に向けて,当分科会が担当する論点に関する検討項目について,考えられる制度概要案を作成し,そのために検討すべき課題が適切に顕出されるようにするという観点からも,御意見をお願いしたいと思います。   それでは,初めに「宣告猶予制度」についての意見交換を行いたいと思います。   「宣告猶予制度」について,事務当局において,第5回会議における御意見も踏まえ,考えられる制度の概要や検討課題等を整理して,第5回会議の際に配布した資料を改訂したものとして,配布資料13を作成してもらいましたので,事務当局から説明をお願いいたします。 ○羽柴幹事 配布資料13について御説明します。   配布資料13は,前回「宣告猶予制度」について意見交換を行った第5回会議において配布した配布資料8について,その際の御議論を踏まえ,考えられる制度の概要及び検討課題に加筆・修正したものです。   現時点において考えられるものを記載したものであり,考えられる制度の概要を確定する趣旨のものでも,検討課題を資料に記載したものに限る趣旨のものでもありません。   変更した部分を中心に御説明します。   まず,「考えられる制度の概要」について御説明します。   「1」から「3」までを通じて,判決の宣告を猶予する仕組みと刑の宣告を猶予する仕組みの両論を記載しています。   「1」については,前回の御議論を踏まえ,その対象として「一定の比較的軽微な事案」,宣告を猶予する要件として「相当と認めるとき」をそれぞれ追加するとともに,宣告猶予は「量刑を行った上で」することを追加して,宣告猶予期間中の行状は量刑上考慮しない旨を明らかにしています。   また,前回の御議論を踏まえ,新たに「2」として,宣告を猶予された者について,一定の事由があるときは,宣告猶予の裁判を取り消して,「判決を宣告する」あるいは「刑を宣告する」こと,「3」として,宣告を猶予された者について,「その宣告を受けることなく,猶予の期間を経過したときは,免訴の言渡しが確定したものとみなす」ことを追加しています。   次に,「検討課題」について,御説明します。   「1 対象となる事案の範囲」については,前回の配布資料と同じ趣旨で,対象とするかが検討課題となる五つの事案を掲げた上で,前回の御議論を踏まえ,更に具体的な検討項目があるものについては,「・」として記載しております。   なお,三つ目の「○」の「単純執行猶予相当の事案(初犯の薬物事案を含む)を含むか。」の下に記載した三つの「・」については,二つ目の「○」の「罰金相当の事案を含むか。」についても同様に検討項目になるという趣旨で記載しております。   次に,「2 具体的な制度の在り方」の「(1)」として,「有罪及び刑の言渡し(判決の宣告)を猶予する」A案と,「有罪だけを言い渡して刑の言渡し(刑の宣告)を猶予する」B案を掲げました。   「(2)」の要件については,一つ目から三つ目までの「○」について,更に具体的な検討項目を「・」として記載したほか,「(3)」の宣告を猶予する期間については,考慮すべき要素を「・」として記載しました。   「(4)」の宣告を猶予する際の手続については,前回の御議論を踏まえ,一つ目の「○」には,「簡略な手続」として御意見があったものの概略を記載し,二つ目の「○」には,事前の同意を要するか,異議申立てができるものとするかという点を掲げています。   「(5)」においては,宣告猶予期間中の保護観察を必要的とするA案,裁量的とするB案を掲げるとともに,それぞれの案の下に「・」として,それぞれの理由を記載しました。   「(6)」の宣告猶予の取消しについては,これまでの御議論を踏まえ,一つ目の「○」として「再犯をしたときのほか,保護観察の遵守事項を遵守せずその情状が重いときに宣告猶予を取り消すものとするか。」,二つ目の「○」として「宣告猶予の取消しを必要的とするか裁量的とするか(裁量的とする場合にはどのような要件・基準を設けるか)。」と記載しました。   「(7)」の宣告猶予を取り消して言い渡す刑については,実刑のみとするA案,執行猶予を付すこともできることとするB案を掲げました。   「(8)」については,変更はありません。   「(9)」の不服申立てについては,「○」として記載した「宣告猶予の裁判に対する不服申立て」と「宣告猶予取消し後の裁判に対する不服申立て」とについて相互に関連させつつ検討する必要があり,更に具体的な検討項目を「・」に記載しました。   「3 その他」については,変更はありません。   配布資料13の説明は以上です。 ○酒巻分科会長 ただいまの説明に御質問や御意見のある方は,挙手をお願いいたします。 ○山﨑委員 検討課題の中の「2」の「(4)」についてですけれども,宣告を猶予する際の手続として,一つ目の「○」で,簡略な手続を設けるかという論点がございます。   これは,第5回会議で私が申し上げた二つの制度,選択肢ということかと思いますけれども,これが全体の宣告猶予の中の簡略な手続という位置付けにとどまるのか,という点があるように思われます。むしろ,それからははみ出していて,宣告猶予というよりは,裁判所が関与するダイバージョンの一つの手続という位置付けの方が正しいとも考えられ,特に一つ目の「・」に関しては,そういう位置付けかなと思っております。   ですので,どういう形で,どこで議論するかはお任せいたしますけれども,そのような位置付けを踏まえていただければと思います。例えば,宣告猶予の制度とはここが矛盾するのではないか,という点もあり得ることで,議論が混乱するかもしれませんので,一言最初に申し上げておきたいと思います。 ○酒巻分科会長 今の山﨑委員の御趣旨は,理解しました。   次に整理する段階で,その点を踏まえた整理をしたいと思います。   ほかに,御質問等のある方はいらっしゃいますか。   よろしいでしょうか。   それでは,「宣告猶予制度」について,配布資料13に沿って意見交換を行いたいと思います。2巡目の意見交換となりますので,1巡目の意見交換を踏まえて,この検討項目全体について御意見がある事項から適宜御発言をいただき,この検討項目全体について議論を進めていくのがよろしいのではないかと思います。   そこで,いずれについてからでもよいので,どの点かを明示していただいた上で,御意見がある方から御発言をお願いしたいと思います。   御意見のある方は,挙手をお願いいたします。 ○福島幹事 この検討課題で申しますと,「1」が一番近いかと思いますので,最初に発言させていただきたいと思います。少し長くなりますけれども,2点申し上げたいと思います。   「1」にも,例えば真ん中の辺りに,「執行猶予とは別に設ける必要があるか」ということが記載されておりまして,そのような点と若干重複する意見にはなるわけですけれども,現行制度で既に起訴猶予制度が設けられておりますし,また,起訴された場合であっても,懲役刑,禁錮刑,罰金刑,それぞれに幅広い法定刑が定められている上に,いずれについても執行猶予が可能であって,さらに,執行猶予とする際には,保護観察を付けることも可能ということになっています。   このように,量刑について既に幅広いバリエーションが認められている中で,どのような場合に宣告猶予にするのか,例えば,執行猶予とどのように使い分けるのかということについては,これまでの御議論を伺っていても,全く分からないというのが率直な私の感想であります。   このように考えていきますと,どのような事案を対象とすべきかということを個別に検討する以前に,そもそも現行の起訴猶予制度や執行猶予制度に加えて宣告猶予を導入する必要性や相当性についても,慎重に検討する必要があるのではないかと思いましたので,申し上げる次第です。   あと,もう1点ですが,前回も少し申し上げましたように,宣告猶予の効果という観点から,その対象となる事件を仮に考えてみますと,宣告猶予の対象となる事件は,宣告猶予期間中の行状に問題がなければ免訴とみなされて,刑罰を科さずに刑事裁判を打ち切って,前科も残らない,そういうことがふさわしい事案ということになるのですから,素直に考えると,これは起訴猶予が視野に入る非常に軽い事案ということになると思われます。   この点,少し脇道に入りますが,例えば,薬物事犯を宣告猶予の対象にすべきかという議論もこれまでにあったように思いますけれども,覚せい剤の自己使用の罪であれば,現在でも,初犯であっても懲役1年6月執行猶予3年などにされることが多いわけで,決して軽い犯罪ではないわけであります。したがって,薬物事犯について,例えば社会的評価が大きく変わって,覚せい剤取締法の法定刑も大幅に引き下げられるといった状況になれば別なんでしょうが,そういう状況にない中で,薬物事犯なども宣告猶予の対象になるというのは,正直どうしてなのかなという,ちょっと疑問があるという感じがしています。   少し話を戻しまして,先ほど申し上げたように,宣告猶予の対象を起訴猶予が視野に入る非常に軽い事案になると考えるとすると,このような制度については,既に起訴猶予となるべき事案を起訴するというのは対象者の負担が重いのではないかという問題が指摘されていますけれども,このほかにも,次のような問題があるのではないかと思いました。   つまり,宣告を猶予した場合,宣告猶予期間中に遵守事項違反等があれば,例えば懲役の実刑判決,あるいは執行猶予判決が言い渡されて,執行猶予判決となった場合であっても,執行猶予期間中に遵守事項違反などがあれば,収監されることに最終的にはなると。つまり,本来,起訴猶予が視野に入る非常に軽い事案であったはずなのに,宣告猶予期間中の行状などといった犯罪後の事情によって収監までされてしまうというのは,これは妥当なのだろうかという気がいたします。宣告猶予制度が行為責任を基本とした現在の量刑の考え方と整合するのかどうかという点についても,慎重に検討する必要があるのではないかと考えた次第です。 ○川出委員 私は,次の「2」の「(1)」について意見を申し上げたいと思います。   宣告猶予について,判決の宣告猶予とするか,刑の宣告猶予とするかという議論は,改正刑法草案の当時にもあり,その際にも両方の意見が出ておりました。それを見てみますと,そこで主張されていた刑の宣告猶予の具体的な内容は,宣告猶予を言い渡す時点では刑の量定をせず,有罪のみを言い渡して,その後,宣告猶予が取り消されることになった場合に,宣告猶予期間中の行状も考慮して刑の量定を行い,それを宣告するというものでした。   判決の宣告猶予と刑の宣告猶予を比較した場合の,刑の宣告猶予のメリットの一つとして,宣告猶予が取り消された場合に,どのような刑が言い渡されるか分からないという心理的な強制効果によって,対象者が猶予期間中に再犯や遵守事項違反をしないように促すという点があるとされていますので,恐らくそれを考えて,こういった仕組みが提案されていたのだろうと思います。   その上で,今回検討している制度を見てみますと,制度概要の「1」に記載されているとおり,量刑を行った上で宣告を猶予するという枠組みになっています。つまり,猶予が取り消された場合に,猶予期間中の行状は量刑上考慮されないわけですから,そうすると,先ほど申し上げた刑の宣告猶予のメリットは働かないということになります。   そうしますと,宣告猶予を言い渡す段階で量刑が行われることを前提として,刑の宣告猶予とするメリットがあるのかどうか,言葉を換えて言いますと,判決の宣告猶予とするのと刑の宣告猶予とするのとで,どういう違いがあるのかということが問題になってきます。   この点について考えてみたのですが,違いが出てくるとすれば,それは,被告人が公訴事実を争った上で有罪となった場合に,なお宣告猶予とする余地を認めるかどうかという点だろうと思います。   具体的に言いますと,刑の宣告猶予とした上で,宣告猶予の裁判の時点で有罪を宣告し,それに対する上訴を認めて,その段階で有罪を確定させるという仕組みにした場合には,公訴事実を争い,上訴をしたものの,有罪が確定した被告人についても,刑の宣告を猶予した上で保護観察に付すことが可能になります。   それに対して,改正刑法草案当時の判決の宣告猶予の案のように,宣告猶予の裁判に対して,前提となっている有罪認定の部分を含めて異議申立てができるという形にした上で,異議が申し立てられた場合には直ちに判決が言い渡されるという仕組みにしますと,有罪であることを争った被告人については宣告猶予とする余地はないということになります。そうしますと,刑の宣告猶予の方が,判決の宣告猶予よりも,宣告猶予とできる場合が広くなるというメリットがあるようにも思えます。   しかしながら,今回検討されている宣告猶予制度というのは,対象者の改善更生のために積極的な社会内処遇を行うということを目的としたものです。そうだとしますと,有罪であることを争っている者に対して,処遇を行ったところで効果は上がらないでしょうから,そもそも,そういう者を宣告猶予の対象とするのは妥当でないと思います。   そうすると,この観点からも,刑の宣告猶予とする必要はないと思いますので,宣告猶予の裁判の段階で量刑を行うということを前提とするのであれば,判決の宣告猶予という形にするのがよいのではないかと思います。 ○池田幹事 今,川出委員から御指摘があったとおりであり,宣告猶予期間中の行状を刑の量定に考慮しないということになっていることに加えて,両案の違いを考えてみても,事実を争っている者について,宣告を猶予して保護観察に付するという必要は乏しいと考えられますので,そのようなことのために刑の宣告猶予を採用する必要はないのではないかと考えます。   また,付け加えて申し上げますと,刑の宣告猶予という制度とする場合には,事実認定と量刑を分離して別個に宣告するという,現在の我が国にはない手続を採用することになるわけですけれども,あえてそうするまでの必要がないということであれば,A案の判決の宣告を猶予するということでよろしいのではないかと思います。 ○酒巻分科会長 判決の宣告猶予とするか刑の宣告猶予とするかという点につきまして,ほかに御意見はございますか。   これまでの御意見を踏まえますと,判決の宣告猶予とするA案を採用することが適当であるという御意見がある一方,積極的に,刑の宣告を猶予するB案を採用すべきとの御意見はないところですが,「考えられる制度の概要案」としては,A案の判決の宣告猶予とすることでよろしいでしょうか。御異論ございませんか。              (一同異議なし)   それでは,A案を前提として進めることとしたいと思います。   引き続き,ほかの項目について,御意見のある方は,挙手をお願いいたします。 ○山﨑委員 「検討課題」の「1 対象となる事案の範囲」に関して,先ほどの福島幹事からの御発言も含めて,意見を述べたいと思います。   まず,起訴猶予相当の事案を含めるべきかどうかという点についてです。   この点は,これまで議論してきている宣告猶予と,それに類した簡易な手続とによっても違うのかもしれませんけれども,簡易な手続も含めて考えた場合に,起訴猶予相当の事案であっても,それに対して再犯防止策が必要な事案というのはあるのではないかという認識が共通にあるかと思います。それに対して,第3分科会の方で,検察官が働き掛けを行う制度ということが検討されているということだと思うのですが,重ねてこの間も申し上げておりますとおり,それが果たして現行刑事訴訟法の中で許容される制度として成り立つのかどうかという点は,今後も部会で議論されることだろうと思っております。   そのように考えますと,起訴猶予相当の事案であっても,検察官だけで処遇するのではなくて,裁判所が関与する形で社会内処遇を行うという選択肢も,やはりしっかり考えておいた方がよいのではないかというのが私の意見でございます。   その場合に,当然,これまでの制度とは異なる,新たな制度も含めて検討することになりますので,この検討課題の「○」の一つ目の「・」に書かれておりますとおり,現行の公訴提起の在り方と整合するかという問題についても,今までの公訴提起とは,またちょっと違う類型での簡易な公訴の提起というような枠組みとして,これまでの検察実務とは違った形で,それを利用するということも含めて,考えた方がよいのではないかと思っております。   また,それに伴って,対象者の負担が増えるという点も,当然,十分考慮しなければならないと思っております。   他方で,捜査,取調べをいかにスリム化するのか,身体拘束の期間をより短くできないか,さらには,公訴提起後の手続についても,どこまで迅速化・簡略化できるのかといったことも含めて,現行刑事訴訟法の中でどこまで可能であり,検察官による働き掛けと比べて,どのようなデメリット,メリットがあるのかということを,総体として考えて評価をした方がいいのではないかということを考えております。   つまり,これまで起訴されなかった方が,仮に簡易な制度ができたことで,それによる公訴提起を受けるとしても,トータルとしては,それで負担が軽くなるというようなこともあり得るのではないかという観点が必要かと思っております。   もう一つ,単純執行猶予相当の事案に関しても,これまでの議論では,そういった事案に対しては,第1分科会の方で,保護観察付き執行猶予中の再犯について,再度の執行猶予を付せるようにという制度が検討されているということとの関係で,重ねて宣告猶予制度を設けることの意義があるのかといった御意見があったかと思います。   これについても,仮に,保護観察付き執行猶予中の再犯に再度の執行猶予が付せるようにするという制度を作ったとしても,これは部会の第6回会議でも裁判実務に基づく御発言としてありましたが,調査制度ですとか判断方法という枠組みが相当組み替えられるということにならないと,当初想定するほどに,保護観察付き執行猶予の活用というのが広がらないのではないか,という問題もあろうかと思います。   先ほどの福島幹事の御発言も踏まえて,行為責任に基づいて量刑がされているという今の枠組みからしますと,確かに執行猶予制度の枠内での改善を図ろうとしたときでも,どこまで実効性があるかというのは,ちょっとまだ未知数な部分があるのではないかとも考えております。   そういう可能性も考えますと,執行猶予制度の改革はそれとして,しっかり検討しながら,あわせて,宣告猶予制度,あるいは,それに類した簡易な制度といったことについても,単純執行猶予相当の事案を対象とすることを排除しないで,一応検討しておくべき必要が認められるのではないかと考えているところです。   最後に1点,それとの関係で,私の発言で以前,資格制限に関しては,やはり執行猶予と宣告猶予で大分違うのではないかということを申し上げたのに対して,川出委員の方から,宣告猶予にも資格制限が掛かることも理論上はあり得るということを御指摘いただいたんですけれども,基本的にはやはり,資格制限があるかないかというのは,特に若年者の更生にとっては,非常に重要だろうと私は思っております。   定職について真面目に働くということが,再犯防止にとって重要だという認識は一致しているかと思うのですけれども,そういった意識で,私もこの間,法令上の資格制限がどの程度あるのか調べてみたのですが,やはり相当な数に上っているなというのが実感です。   この点に関して,昨年8月に新聞に載っていた記事が,私はすごく印象に残っているのですけれども,傷害事件を起こして,18歳で少年院に入ったという方が,その後立ち直って,現在では社長さんとして,非行少年を雇って,立ち直りを支援していると。協力雇用主にも登録して,保護司さんも務められているという方の記事でして,その方としては,もし自分が成人として事件を起こして,前科が付いたり,資格制限を受けていたら,今のような立場にはなれなかったであろうということをお話しになっていました。   そういったことも含めて考えますと,資格制限の問題というのは,やはり非常に重要だと私は思っているわけです。この点は第1分科会の方で議論はされるところだと思いますから,そちらで積極的に検討していただきたいと思うのですが,さらに,宣告猶予制度と執行猶予制度を比べたときには,やはり宣告猶予は,そもそも判決の宣告をしないということであれば資格制限を伴わないということにより親和的であるということは少なくともいえるのではないかと思います。宣告を猶予された期間,社会内処遇を受ける際に,資格制限を伴わないという点は,やはり大きなメリットとして考えられるのではないかということを考えております。   そういった資格制限の観点からしても,宣告猶予制度,あるいは,それに類した簡易な手続は,より積極的に考えた方がよいのではないかというのが私の意見であります。 ○酒巻分科会長 御意見はいずれも,制度設計のやり方にも関わることですし,幾つかの分科会にまたがる事柄でもあり,そういう意味で,全体の部会でも十分議論していただくのに相当な御意見だと思います。今の山﨑委員の御意見に対して,あるいは,ほかの点でも結構ですけれども,どなたか御発言はありますか。 ○池田幹事 今の御指摘の中にも出てきたことなのですが,「2」の「(4)」の最初の「○」の簡略な手続について意見を申し上げたいと思います。   先ほど山﨑委員からも御指摘があったように,これらはいずれも,従来の宣告猶予制度に必ずしもとらわれることなく,簡略な手続による制度を検討するという御趣旨によるものと理解しているのですが,「簡略な」とありますけれども,通常の公判手続による場合と比べて,簡略化することになるのかという観点から見ますと,若干,疑問なしとしないところもあるのではないかと思っております。   まず,一つ目の制度について,起訴や有罪認定を簡略な手続で行うというものですけれども,事実認定を即決裁判手続と同じような手続で行うということになりますと,公判廷において,さらには,当事者の主張・立証に基づいて,裁判所が心証形成するということになる以上は,通常の公判手続とさほど変わらないということもいえるのではないかと思います。   また,保護観察中の行状に問題がなければ,検察官が公訴を取り消すということになっております。その場合,決定で公訴が棄却されることになるのだと思いますけれども,通常の公判手続によって宣告猶予されるという場合は,猶予期間が経過すれば,免訴の言渡しが確定したものとして扱われますので,簡略化という観点から,被告人の負担という点では,いずれとの関係でも,公判期日を設けて出頭を求められることになるわけではないという意味で,違いはないのではないかと思います。他方で,行状に問題があれば,通常の公判手続に移行するとありますので,こちらは正に違いがないということになろうかと思います。   二つ目についてなのですが,家庭裁判所で有罪認定をするということになる以上は,被告人が出頭して公判審理を行って,証拠に基づいて心証形成をすることが必要になりますので,これも通常の手続に比べて簡略になるとはいえないのではないかと思います。加えて,社会調査を実施して,その結果を踏まえて保護観察に付するということになると,その期間と宣告猶予の期間を加えれば,公判に係属している期間のトータルでは,通常の手続による場合と比べて,必ずしも短縮されることにならないのではないかとも思われるわけです。そうだとすると,こちらの方も,簡略というのは難しいのではないかというのが私の考えです。   いずれにしても,これらの手続が,いかなる意味で簡略といえるかということについて,なお検討の余地があるのではないかと思っております。 ○川出委員 私も,この簡略な手続の御提案について,意見を申し上げたいと思います。このうちの一つ目の制度についてですが,これは,検察官が保護観察相当と考える者を起訴して,それでうまくいったら公訴を取り消すという仕組みですので,保護観察に付すために起訴をするという意味で,いわば,公訴提起を保護観察に付すための手段として使う形になります。   そのような目的での公訴提起については,それが公訴提起の在り方として妥当なのかという疑問も提起されているわけですが,そうした批判がある中で,こうした制度を提案される意図は,要するに,保護観察を付すに当たって,検察官限りの判断ではなく,裁判所における有罪認定をかませるというところにあるのだろうと思います。   それ自体はあり得る考え方だと思いますが,ただ,そこまで裁判所の関与を重視する一方で,その有罪認定を簡略な手続で行うというのは,考え方にそごがあるようにも感じられます。簡略な手続にするのではなくて,通常の手続で有罪認定を行うとした方が,元々の意図には合うのではないかと思います。 ○山﨑委員 先ほどの対象者のところに,また戻ってしまうんですけれども,最後の「○」の「軽微な犯罪を繰り返す高齢の累犯者」を対象にするかどうかという点に関してでございます。   確かに言われているような御批判というか,対象にすべきでないという御意見も十分理解しておりますけれども,私が実は,実際経験した事案がございまして,数年前にやった被告人国選の事件であったのですけれども,多数回,無銭飲食をして,受刑を繰り返しているという高齢の方が,出所して,すぐまた少額の無銭飲食をしたというケースでした。起訴後に私が選任されたのですが,話をいろいろ聞いていると,どうも知的な能力に問題がありそうだということで,いろいろ調べていきましたら,過去に事故によって脳の障害を受けていらっしゃったことがあり,やはりかなり能力的には問題があるということが公判中に判明したということがございました。   結果としては,やはりもう起訴されていますし,前科もたくさんありますので,当然実刑となってしまったのですが,私はその方に,出てくるときには連絡を下さいということで,私の名刺なども差し入れしたんですけれども,結局そのままになってしまっておりまして,非常に残念なケースでした。   何を申し上げたいかといいますと,捜査段階で知的障がいの問題等が判明して,前回の議論のときに加藤幹事がおっしゃっていたような,福祉につなぐということにうまく乗る方は,それでいいと思うのですけれども,そうではなくて,起訴をされたけれども,そこで知的障がいの問題が判明したような場合にも,何か対応できるような制度というのは考えなくてよいのだろうか,というようなことを少し考えておりました。その意味では,宣告猶予のような制度が,そういった場合でも,対応する可能性というのがありはしないかなと思っております。   また,宣告猶予のような制度であれば,そういう方を福祉につないだ後も,裁判所の関与の中で,保護観察による補導援護が可能になるということも考えられないだろうかということを思っている次第です。 ○加藤幹事 山﨑委員から,対象者の範囲に関して様々な御提言があり,今初めて伺ったことも多いので,今後よく整理してみたいと思いますが,その御発言の中で一つ,起訴猶予相当の者も対象にすることが考えられるのではないかというお話がありました。   その中で,「検討課題」の「1」の最初の「○」にもあるところで,「現行の公訴提起の在り方と整合するか」という観点からすると,公訴提起の実務そのものも考え直してみる契機にあるのではないかという御指摘もあり,どこを考え直すかというのも一つの問題なのですが,私の認識では,我が国の実情として,起訴されるということそのものが相当大きなスティグマになるということは,事実の問題として否定できないだろうと思っています。   もう一つ,それゆえにともいえますが,有罪判決の高度の蓋然性が認められる場合に限って起訴するというのは,実務上の言わばセントラルドグマでありまして,ここも動かした方がよいのだという御意見があるとすれば,それはまた議論の対象なのかもしれませんが,有罪判決の高度の蓋然性がないものを起訴するということそのものが許されていないというのが,言わば検察官の職業倫理みたいなものであり,一般にもそのように理解されているのではないかと考えています。   それを前提にすると,捜査の方も,例えば,事案に即して簡略化できるのではないかという御発言もありましたが,確実に有罪であるということが検察官自身に確信できなければ起訴できないという基準であるとすると,捜査の方も簡略化するというのは難しいと思われます。この点については,新時代の刑事司法の在り方の中などでも近い議論がありましたが,捜査段階を簡略化して,身柄の拘束期間もなるべく短くするということは,一つの方策としてあり得るとしても,そのためにどのようにすればいいのかということは,なかなか具体的な方策が見当たらないところなのではないかと思っています。   それらのことに鑑みると,川出委員の御発言の中にもありましたが,起訴猶予相当事案を処遇のためにあえて起訴するということがふさわしいのかどうかということは,相当大きな疑問があるのではないかと考えます。   その他の点も,山﨑委員からは,いろいろ御発言がありましたが,またそこは意見を整理した上で申し上げたいと思います。   次に,「2 具体的な制度の在り方」のうちの「(9) 不服申立ての在り方」について,これまでにも発言したことがありましたが,若干付加して申し上げたいと思います。   「不服申立ての在り方」については,宣告猶予制度の一連の手続を踏まえて検討する必要があり,判決の宣告猶予を念頭に置いた不服申立ての在り方としても,幾つかの仕組みが考えられると思います。   改正刑法草案の際の部会案においては,先ほども御紹介がありましたように,判決書をあらかじめ当事者に閲覧させた上で宣告猶予の裁判をし,それから,裁判書の内容に不服があるときは異議申立てができることとして,異議申立てがあったときは判決書に従って判決を宣告することとし,この判決に対して上訴することができるものとしていました。一方で,宣告猶予が取り消されて判決が言い渡されたときには,その判決に対しては上訴をすることはできないとされていたわけです。   この仕組みは,いろいろな問題点について多角的に検討されたものだったと思われますが,当分科会の第5回会議においても申し上げたように,裁判所が判決の宣告前に判決の内容を当事者に知らせることが前提になっており,それは現行の刑事裁判にはない手続であるところ,それが適当なのかというところが一つ,ひっかかりとしては残るように思われます。   一方で,そういう判決書を事前に閲覧させるというような仕組みをとらずに,被告人は宣告猶予の裁判時に判決の内容を知ることがないという仕組みというのも考えられます。そうすると,宣告猶予の当否についてのみ,その段階で異議申立ての対象となって,異議申立てがあったときは,その後に言い渡される判決に対しては上訴を認めるということとなる一方,異議申立てがなくて宣告が猶予されたときには,宣告猶予が取り消されて宣告される判決に対しても上訴することができるという仕組みというのも,一応考えられるわけです。   ただ,このような形で不服申立ての仕組みを設けると,既に指摘があったように,宣告猶予の裁判から上訴するまでに,一定の期間が空くことが避けられないということになって,要するに,控訴審が非常に遅れるということがあり得るわけで,その点が適当であるかどうかという問題についても,既に御指摘のあったところです。部会案のような仕組みをとると,この問題は回避できるわけですが,先ほど申し上げたような問題もあろうかと思われます。   いずれにしても,不服申立ての在り方,宣告猶予の裁判についても,それから,その後に言い渡される判決についても,何らかの形で不服を申し立てられる形にしておかなければいけないことではありますが,そうであるとしても,いずれの仕組みも一長一短あるように思われるため,いかなる事情を重視するのかという観点から,検討しなければならないと思われます。   もしかすると,宣告猶予の裁判そのものを被告人及び検察官の同意に係らしめることによって,宣告猶予の裁判そのものについては,不服を申し立てることを許さないという仕組みもあるのかもしれませんが,それらも含めて,なお検討を要するのではないかと考えます。 ○川出委員 検討課題の「(7)」についてですが,ここでは,宣告猶予を取り消した場合に言い渡す刑に執行猶予を付すことができるかという問題設定になっています。しかしながら,先ほどの議論の中で,今回は,宣告猶予期間中の行状を量刑上考慮しないという前提で,刑の宣告猶予ではなく,判決の宣告猶予を検討対象にするということになりましたので,そうしますと,この検討課題は,宣告猶予を取り消す段階の問題というよりは,宣告猶予の裁判における量刑の在り方という位置付けになります。ですから,検討課題の位置としては,もっと前の方に持ってくることになるのではないかと思います。   次に,その内容については,ここでは,実刑のみとするA案と,執行猶予を付すこともできることとするB案が挙げられています。しかし,これについても,宣告猶予の裁判における量刑の在り方の問題であるとしますと,その量刑に当たって,対象者に対する強い心理的強制効果を持たせるという観点から,刑の執行を猶予することができないという規定を設けるのか,それとも,そういう規定は設けないで,通常どおりの量刑を行うのかという問題設定になると思います。そのような形に,A案とB案の書き方を変えていただいた方がよいのではないかと思います。 ○酒巻分科会長 検討課題の書き方と位置付けについての御意見ですね。御趣旨は分りました。 ほかに,宣告猶予全体について,御意見はございますか。   「宣告猶予制度」についての本日の意見交換としては,この程度にしたいと思いますが,よろしいでしょうか。   それでは,引き続き,「罰金の保護観察付き執行猶予の活用」についての意見交換を行いたいと思います。   「罰金の保護観察付き執行猶予の活用」についても,前回の分科会における意見交換の内容を踏まえて,考えられる制度の概要や検討課題等を整理し,前回会議の際に配布した資料を改訂したものとして,配布資料14を作成してもらいましたので,事務当局から説明をお願いいたします。 ○羽柴幹事 配布資料14について御説明します。   配布資料14は,前回の会議で配布した配布資料9について,その際の御議論を踏まえ,検討課題に加筆・修正したものです。現時点において考えられるものを記載したものであり,考えられる制度・施策の概要を確定する趣旨のものでも,検討課題を資料に記載したものに限る趣旨のものでもありません。   変更した部分を中心に御説明いたします。   「考えられる施策・制度の概要」については,変更はありませんので,「検討課題」について御説明します。   まず,「1」の「活用に適する事案・対象者」について,前回の意見交換において,保護観察が有効に機能すると判断する要素,保護観察付き執行猶予が相当でないと判断する要素に関してそれぞれ御意見があったことから,各要素を追加しています。   次に,「2」の「活用に適する事案・対象者の判断方法」については,前回の御議論を踏まえ,「判断資料の在り方」,「保護観察所の調査機能の活用」,「少年鑑別所の鑑別機能の活用」について,それぞれ具体的な検討事項を「・」に記載しております。また,四つ目の「○」については,保護観察官及び少年鑑別所職員による面接等に関して,その説明の在り方や,面接時に得た対象者の供述の取扱いが検討課題となると考えられることから,新たに検討項目として追加しました。   次に,「3」の「活用するための課題」については,前回までの御議論を踏まえ,「略式手続を経る場合」,「公判手続を経る場合」,「保護観察の適切な期間の在り方」,「良好措置の在り方」について,より具体的な検討事項を「・」として記載しました。   「4」の「活用するための法改正の要否・内容」については,変更はございません。   配布資料14の説明は以上です。 ○酒巻分科会長 ありがとうございました。   ただいまの説明内容に,この段階で,御質問や,ほかにも検討課題等があるのではないかといった御意見のある方は,挙手をお願いいたします。   よろしいでしょうか。   それでは,「罰金の保護観察付き執行猶予の活用」について,配布資料14に沿って意見交換を行いたいと思います。   なお,部会における中間報告に向けて,これまでの意見交換を踏まえて,検討項目全体について議論を進めていきたいと思いますが,本日の時点で特に議論を深めるべき点や,これまでの分科会で御発言いただいた意見以外の御意見を中心に御発言いただくのがよろしいのではないかと思います。   御意見のある方は,挙手をお願いいたします。 ○山﨑委員 これは,「罰金の保護観察付き執行猶予」に限った話ではないのかもしれないのですが,前回この関係で,保護観察官の面接がどのように行われるかということを御説明いただきました。その後,その点を考えておりまして,捜査期間中に保護観察官の方が被疑者と面会をするというのが,法的にいうと,どういった位置付けになるのか。捜査官ではない方の面接というものが,どのような位置付けになるのかという点,これは少年鑑別所の鑑別技官の方も一緒だと思うのですけれども,また,その際に,黙秘権の告知をしなくていいのかどうかという点が,やはり気になっております。   というのは,そういう調査の中で,例えば,対象者の方が,これは自分のためにいろいろ調べてくれる人であって,捜査官とは別の立場の方だというふうに思って話したことが,本人にとって,ある意味,悪い情状になるような事実であるというような場合に,面接した方はその事実を捜査官へ伝えるのではないかと思うのです。そういった供述内容の扱いというものが,どのように整理されるのだろうかということが気になっております。   現状は当然,少年鑑別所の職員の方は,少年の捜査が終わった後で,家庭裁判所の決定に基づいて鑑別を行って,それに基づく資料を作成されているわけですけれども,それが捜査段階に入ってこられた場合に,これまで説明されている心理テストとか,そういう客観的な結果であれば,また別かもしれないのですが,法的な位置付けや得られた情報の取扱いについては,整理が必要なのではないかと考えています。 ○加藤幹事 今の点なのですが,今御指摘を受けて考えたものなので,正しいかどうかについては,特に刑事訴訟法の先生方に教えていただきたいのですが,恐らく,保護観察官や,その他の方が面談をされ,そこで被疑者が話をしたとしても,それは捜査機関に対する供述ではなく,捜査機関による取調べではないので,それ自体が刑事訴訟法上の捜査活動だとはいえないのではないかと思いますし,そういう意味で,取調べとして,刑事訴訟法が求めている黙秘権の告知を必要とする手続ではないのではないかと考えられるのではないかと思います。   そうすると,捜査機関が情報として取得するのは何かというと,結局,第三者に対する被疑者の供述を,仮に,保護観察官なりが捜査機関に報告するとすると,そこで捜査機関が情報として獲得をして,それは証拠になり得るということなのではないかと思うところであり,そうすると,捜査機関がそもそも保護観察官なりに元々お願いしているのではないかというところが問題になるのではないかとは思いますが,鑑定の場合と似たような状況が生じると思われます。   鑑定書については,被疑者が鑑定されるお医者さんに語ったことが,そのまま書いてある場合というのもよくあり,それは捜査機関にフィードバックされてきますが,それ自体として,黙秘権を告げて得られた供述ではないという性格を持っています。そして,そこに書いてあることが,証拠としての使用が制約されているかというと,少なくとも現状では,そうはなっていないのではないかと理解しています。   そうなると,山﨑委員の御指摘は,そのように獲得された供述というものの使用とか利用について,まず,捜査機関に報告をする内容であるとか,あるいは,報告されたものの捜査官における利用について,何らかのルールなりが必要なのではないかという御指摘ではないかとも思われるわけですが,少なくとも法的に,黙秘権を告げないとできない作業,供述を求めることができない作業ではないのではないかというようにも思えます。 ○酒巻分科会長 獲得した内容を犯罪事実の認定に使ってよいかどうかという問題はあり,それについては憲法や刑事訴訟法の解釈問題に関わる議論はあり得るようにも思いますが,ここはこの程度でよろしいでしょうか。 ○山﨑委員 集めた情報をどうやって扱うかということもそうなのですが,そもそもそういった面接ができるのかという意味でいうと,鑑定でしたら司法的なチェックがあるわけですし,少年鑑別所や家庭裁判所の鑑別・調査も,裁判所の観護措置決定があって行われるものですので,やはり,そもそもそういうことが,どういう条件で許されるのかということも問題になり得るのではないかと考えております。   現行で家庭裁判所調査官の面接に黙秘権告知が必要かどうかという点についてさえ,それ自体,議論があるところだと思いますので,そういったこととの対比から,どこまでが可能なのかということは,慎重に考える必要があるのではないかと思っています。 ○酒巻分科会長 罰金の,執行猶予の活用について,ほかに御意見はございますか。御意見がないようであれば,「罰金の保護観察付き執行猶予の活用」についての本日の意見交換としては,この程度でよろしいでしょうか。   それでは,一旦ここで休憩とします。              (休     憩) ○酒巻分科会長 会議を再開します。   次に,「若年者に対する新たな処分」について,意見交換を行いたいと思います。   「若年者に対する新たな処分」の手続について,前回までの会議で,少年鑑別所の鑑別の必要性,相当性等が議論されましたが,更に議論を深めるためには,現行少年法の下における,「少年鑑別所に送致する観護措置」の実情,すなわち,観護措置の件数や,観護措置がとられた少年についてどのような処遇選択が行われているのかなどを確認することが有益であると思われます。   そこで,意見交換に入る前に,事務当局から,少年鑑別所に送致する観護措置に関する統計資料である配布資料15についての説明をお願いしたいと思います。 ○羽柴幹事 配布資料15「統計資料4」について御説明します。   この資料は,平成28年に終局した一般保護事件について,少年鑑別所に送致する観護措置の有無で分類し,観護措置がとられた場合には更に終局決定の種別ごとに,それぞれ非行内容で分類して,各人員数を示したものです。   一番上の「総数」の行を御覧ください。   左から申し上げると,一般保護事件の終局総人員が2万7,708人,そのうち,観護措置がとられていない者は2万1,411人,観護措置がとられた者は6,297人となっています。   少年鑑別所に送致する観護措置がとられた6,297人に対する終局決定について主なところを申し上げると,検察官に送致された者が121人,保護観察に付された者が3,351人,1列飛んで,少年院へ送致された者が2,313人,また1列飛んで,不処分が230人となっております。   「総数」より下の行は,非行内容別の人員です。   配布資料15の説明は以上です。 ○酒巻分科会長 ただいまの説明について,御質問等がある方は挙手をお願いします。   よろしいでしょうか。   次に,「若年者に対する新たな処分」について,前回の会議における意見交換を踏まえ,事務当局において,考えられる制度の概要や検討課題等を整理し,前回会議の際に配布した資料を改訂したものとして,配布資料16を作成してもらいましたので,事務当局から説明をお願いいたします。 ○羽柴幹事 配布資料16について御説明します。   配付資料16は,前回の会議で配布した配布資料12について,その際の御議論を踏まえ,更に具体的な検討を進めることに資するように,考えられる制度の概要及び検討課題に加筆・修正したものです。   現時点において考えられるものを記載したものであり,考えられる制度の概要を確定する趣旨のものでも,検討課題を資料に記載したものに限る趣旨でもありません。   変更した部分を中心に御説明いたします。   まず,「考えられる制度の概要」について御説明します。   「1」の「概要」については,変更はありません。   「2」の「処分の内容等」については,前回の御議論を踏まえ,「(1)」の「保護観察処分」について,二つ目及び三つ目の「○」として「保護観察処分に付された者に対しては,保護観察処分少年に対する保護観察と同様の保護観察を行うものとする」こと及び「保護観察所長は,保護観察を継続する必要がなくなったと認めるときは,保護観察を解除するものとする」ことを追加するとともに,「(2)」として「不処分」を設ける旨を追加しています。   「3」の「手続」については,これまでの御議論を踏まえ,一つ目から三つ目までの「○」において,「検察官が訴追を必要としないため公訴を提起しないとの判断を示した者について,その全てを本処分の手続の対象とする」こと,「家庭裁判所は,少年保護事件における家庭裁判所調査官による調査と同様の調査等によって要保護性の判断に必要な資料を収集する」こと及び「家庭裁判所は,証人尋問等を行うことができることとする」ことを追加しています。   次に,「検討課題」について御説明します。   「1 概要」については,変更はありません。   「2 処分の内容等」の「(1)」の「施設収容処分」については,御議論を踏まえ,収容期間について,具体的な検討の視点として,「処遇効果を上げるために必要な収容期間はどの程度か」,「比較的軽微な罪を犯し法益を侵害したことについて非難が可能な限度内の処分として正当化される収容期間はどの程度か」を記載しています。   「(2)」の「保護観察処分」については,一つ目の「○」の「要件」として,「審判条件があること」,「犯罪事実が認められること」,「要保護性が認められること」及び「保護観察処分に付することが相当と認められること」を記載しています。   二つ目の「○」の保護観察の期間については,「保護観察期間を法定する」というA案,「法律上は上限を定め,個々の事案ごとに家庭裁判所が保護観察期間を定めるものとする」というB案を掲げるとともに,期間について「1年」という案と「2年」という案が示されたことを踏まえ,それぞれ2案を記載しています。   「(3)」の「不処分」については,不処分とする場合として,「処分に付すことができないとき」及び「処分に付す必要がないとき」を記載しています。   「3 手続」の「(1)」及び「(2)」については,内容に変更はありません。   「(3)」の「その他」については,二つ目の「○」の「調査又は審判への呼出しに応じない者に対する措置」について,具体的な検討項目として,「呼出状又は同行状を発することができることとするか」を追加したほかは,内容に変更はありません。   配布資料16の説明は以上です。 ○酒巻分科会長 ありがとうございました。   ただいまの資料の説明に,この段階で,御質問や,ほかにも検討課題等があるのではないかといった御意見のある方は,挙手をお願いいたします。   よろしいでしょうか。   それでは,「若年者に対する新たな処分」について,配布資料16に沿って意見交換を行いたいと思います。   なお,前回会議における意見交換は,検討課題の「3 手続」の「(3)その他」の途中で終わっていますが,積み残したのは「手続」のうちの「その他」の後半であり,項目が多数あるわけでもありませんので,資料に沿って,まず,処分の内容等について意見交換を行った上で,手続についての意見交換を行い,その中で積み残した分の項目の意見もお伺いしたいと思いますが,そのような進行順序でよろしいでしょうか。              (一同異議なし)   それでは,配布資料16に沿って意見交換を行いたいと思います。「若年者に対する新たな処分」については今回が3巡目の意見交換ですが,部会への中間報告に向けて,更に詰めた議論を要すると思われるので,各項目ごとに御意見を伺うことにしたいと思います。   まず,「1 概要」について意見交換を行いたいと思います。「概要」,すなわち「趣旨・目的」や「対象者」に関連する事項であれば,検討課題となっている事項以外の事項でも結構です。   御意見のある方は,挙手をお願いいたします。 ○山﨑委員 検討課題の方の概要で,20歳以上の者も対象とするかという点が,まだ残されているわけですが,重ねて,これまで私は申し上げてきましたけれども,やはり20歳以上の者と18歳,19歳の者とでは,これまでどういう処分の対象であったかという意味で,置かれている状況が全く違いますので,そこははっきり区別する必要があるだろうと思っています。   そして,この間の議論で,「考えられる制度の概要」として,趣旨・目的がかなりはっきり整理されてきておりまして,それに基づいて,各制度の在り方というのも,かなり詰めた議論が進んでまいりましたところ,かかる制度の対象者を更に20歳以上の者も含むかということになりますと,議論が根本的に,また変わってきてしまうのではないかと感じております。   したがって,他の分科会での議論との兼ね合いもあるという趣旨は理解しつつも,検討課題として,20歳以上の者も対象とするかという点を残すべきかどうかについては,改めて考えていただいた方がいいかなと思っております。私としては,残す必要はないのではないかという意見です。 ○加藤幹事 今の山﨑委員御指摘の20歳以上の者も対象とするかという点について,20歳以上の者を対象とするべきではないという理由なのですが,理論的に,18歳,19歳の者と20歳以上の者が異なるとする,ここで線が引けるという理由は,必ずしも見当たらないのではないかと思われるところです。今までの御発言を伺っていると,現在の制度との比較といいましょうか,連続性を意識されているのではないかとも思えるのですが,なぜ20歳以上の者と未満の者を区別して議論する,そして,ここで対象とすべきは20歳未満の者であるのかという点について,詳しいところを再度お伺いできれば,論点とすべきかどうかということを考えるについても有益かと思いますが,いかがでしょうか。 ○山﨑委員 必ずしも,まだ検討が整理できておりませんので,その範囲でということになりますが,おっしゃったように,現行,そもそもの趣旨・目的といいますのが,今は保護処分の対象となっている者が,仮に引き下げられた場合に,働き掛けができなくなるという状況が,18歳,19歳しかないであろうということが基本だと思います。   それに対して,20歳以上の者は,現在,刑事処分の対象になっておりまして,働き掛けは基本的に,その意味ではないということですから,そこにあえて働き掛けの余地を,むしろ認める方向での必要性,許容性というのが,どういったものがあるかというのが,また別途議論されなければいけないのではないかという問題意識でございます。   更に加えると,仮にそのラインがないとすると,次のラインはどこになるのかということ自体が,恐らく決められないのではないか。22歳,23歳,26歳,30歳,そのどこで線を引くということが可能なのかという問題も出てくるのではないかと思っています。 ○加藤幹事 御趣旨は分かりました。   ただ,そういたしますと,18歳及び19歳の者に対して,新たな処分を作ろうとするときに,私も強いて,20歳以上の者について,新たな処分が現時点で必要だという意見を持っているわけではないので,そういう意味で,18歳及び19歳の者を中心に議論をすべきだと考えているという点では一致していると思っています。   ただ,18歳及び19歳の者にある制度を作ったときに,それは20歳以上の者には妥当しないのだというところは,逆に説明が必要になるのではないかと思われ,そういたしますと,20歳以上の者については,議論の対象からは外すべきだとして,現時点で外してしまうというのは,かえって適当ではないのではないかと思われるところです。   その上で,他の論点に関する議論との関係も見つつ,議論を進めなければならないということを考えますと,現時点で論点としても,ここは落としてしまうべきだという山﨑委員の御意見だったと思いますが,その必要はないのではないかと考えます。 ○酒巻分科会長 当分科会の使命は,検討課題等をまとめて部会に御報告することであり,そして,最終的な議論をしていただくのは部会ですので,そこへ上げるという観点からは,当分科会の段階において,20歳以上の者を対象にするかという論点を一切取ってしまうというのは,適切でないように思います。いずれにしろ,このような議論があるということ自体は,やはり部会にお伝えしなければならないでしょう。そういう意味では,検討課題の書き方は中間報告をするときにまた検討したいと思いますが,記載をやめてしまうということはしない方がいいのではないかというのが,分科会長としての私の意見です。   最終的に取りまとめて部会に報告する前に,皆様から御意見を承っていきたいと思っております。よろしいでしょうか。              (一同異議なし)   ほかに,御意見はございますか。   御意見がなければ,次に,「2 処分の内容等」のうち,「(1)施設収容処分」について意見交換を行いたいと思います。   「施設収容処分」については,「必要性及び相当性」,「収容の期間」,「どの施設に収容するか」及び「被収容者にどのような処遇を行うか」が検討課題として記載されていますが,この「施設収容処分」に関連する事柄であれば,これ以外の事項でも結構です。   御意見のある方は,挙手をお願いします。 ○池田幹事 ここで示されている項目のうち,主に最初の二つについて意見を申し上げたいと思います。   本処分の対象者は,比較的軽微な罪を犯して,訴追の必要性がないと判断された者でありまして,その多くは,要保護性も比較的軽微であると考えられるわけですけれども,中には要保護性が大きいものも含まれますので,施設収容処分を設けることの必要性は,大きくはないとしても,ないとまでもいえないと思います。   そうすると,施設収容処分を設けることが相当かということが問題となるわけですけれども,収容期間が長くなりますと,それだけ対象者の権利制約の程度も大きくなりますので,相当性と収容期間というのは連動する問題ということになるだろうと思います。   仮に,施設収容処分を設けて,その処遇として,少年院における矯正教育と同様の処遇を行うとした場合,前回御説明いただいたところによりますと,そのような処遇が効果を上げるのは,対象者が施設内での生活に慣れ,改善更生に前向きに取り組む意欲を持ち,処遇を行う側との信頼関係が構築される必要があるということであって,それには一定の期間を要するということでございました。   収容期間は,施設収容に見合う成果を得るために必要な期間が確保される必要があるわけですけれども,今の御説明を踏まえますと,その期間は,処遇の効果が上がり始める前であるとか,あるいは,処遇効果が上がり始めて間もないうちに終わってしまうということがないものとして設定される必要があるという点に留意する必要があるのではないかと思います。その上で,そのような期間として,施設収容処分を設けることが正当化されるかということの検討が,なお必要となると考えております。 ○加藤幹事 今の池田幹事の施設収容処分を設けることの相当性と収容期間の関係という観点からの御指摘は,なるほど,そのとおりだと思います。   処遇効果を上げるために,少なくともどのくらいの期間が必要なのかということについては,もちろん個々の対象者の資質,特性あるいは問題性等に応じて様々だと考えられますが,この検討に資するという観点から,少年院の出院者の在院期間というものについて確認をしておくのが有益だと思います。   前回の会議で配布された配布資料10「統計資料2」の3ページの説明を見ると,少年院における矯正教育課程の基準期間は,仮退院後に引き続き保護観察が行われることを前提として11月又は12月であると,「※」のところに書いてあります。   一方,家庭裁判所が少年院送致決定をする際に,短期処遇勧告を行った者については,その基準期間は20週又は11週とされているようです。   短期課程が指定された出院時18歳及び19歳の者については,その割合は,平成28年においては16.3%であるというのが,右下の数字に表れます。そして,実際の在院期間を見てみると,これが2ページの表ですが,在院期間20週以下,すなわち140日以下で出院した18歳及び19歳の者の割合というのは,5.3%にとどまっているようです。   さらに,犯した罪が比較的軽微である者が,少年院送致が必要なほど要保護性が大きいと認められる場合として,本人の資質,環境等に問題がある場合が考えられるといたしますと,そのような者が短期課程の対象者で,その者の持つ問題性が単純又は比較的軽く,早期改善の可能性が大きい者に該当するということは,比較的少ないのではないかと考えられるところです。   こうした在院期間の実情を踏まえて,施設収容処分を設けるかどうか,相当であるかということについては,更に検討する必要があるのではないかと考えます。 ○川出委員 私も,施設収容処分の必要性及び相当性と収容期間の関係について意見を申し上げたいと思います。前回,少年法上の非行事実と要保護性の関係について,最高裁判所家庭局から説明がありましたように,非行事実の重大性と要保護性の高さというのは,一般的には対応すると考えられます。そうしますと,今回の新たな処分というのは,比較的軽微な罪を犯した者を対象としたものですから,そもそも,要保護性が大きいために施設収容処分が相当であると判断される者は多くはないだろうと考えられます。   もっとも,多くはないにしても,それに当たる者がいないわけではないと思います。ただ,他方で,加藤幹事から御紹介がありましたように,現在の少年院における在院期間の実情を見ると,短期課程の基準期間で出院した18歳及び19歳の者は約5%ということですから,やはり,少年院に入るような者については,ある程度の期間がないと十分な教育効果が上がらないということを,この数字は示していると思います。加えて,これも加藤幹事がおっしゃったように,犯した罪は比較的軽微でありながら,少年院送致となる者は,深刻な問題を抱えている場合が多いでしょうから,その要保護性を解消するためには,やはり短期間の収容では足りないだろうと考えられます。   そうすると,今回,新たな処分を設けたとして,その対象となる者のうちで施設収容処分が相当と考えられる者の大半は,恐らく,短期課程による教育では不十分で,通常の基準期間である11か月とか12か月程度かけないと,要保護性は解消できないということになるのではないかと思います。   もちろん,前回の分科会において事務当局から御回答があったように,11か月や12か月より短い期間であっても,ある程度までは処遇効果が認められることもあるとは思いますが,そうはいっても,例えば,その半分以下といった短い期間ですと,処遇効果を上げることは難しいのではないかと思います。   他方で,新たな処分の対象者は,比較的軽微な罪を犯して,訴追の必要がないと判断された者であるわけですので,行為責任の枠内での処分ということからは,そういう者に対して,長期の施設収容をすることは正当化できないだろうと思います。そうすると,施設収容処分を設けたとしても,施設収容を行うことが正当化される期間は,かなり限定されたものにならざるを得ないだろうと考えられます。   行為責任に照らして正当化できる収容期間がどれくらいなのかについて,現段階ではっきりと申し上げることはできませんが,現在の基準期間である11か月とか12か月はもちろんのこと,その半分としても半年ですので,かなり大きな権利制約を伴います。比較的軽微な罪を犯した者について,行為責任の枠内で言い渡す処分として,それが正当化できるのかについては,やはり疑問があります。   結論としましては,新たな処分の対象となる者について,処遇効果を上げることができ,かつ,行為責任に照らしてそれが正当化される施設収容期間というのがあり得るのかについては疑問があると言わざるを得ないように思います。 ○酒巻分科会長 この程度でよろしいでしょうか。   次に,「(2)保護観察処分」の方について意見交換を行いたいと思います。「保護観察処分」については,「どのような要件を満たすときに保護観察処分を行うものとするか」,「保護観察の期間をどの程度とし,どのように定めることとするか」及び「対象者が保護観察の遵守事項に違反したときにとり得る措置」が検討課題として記載されていますが,「保護観察処分」に関連する事項であれば,これ以外の事項でも結構です。  御意見のある方は,挙手をお願いします。 ○加藤幹事 保護観察処分については,期間の定め方,二つ目の「○」ですが,これが,実務的には大きな問題になるのではないかと思います。   配布資料16に記載されている保護観察の期間の定め方で,A案とB案があるうち,B案は,家庭裁判所が個々の事件ごとに保護観察の期間を個別に定めるというものですけれども,このような保護観察の期間の定め方は,前の会議でも御発言があったとおり,これまでに存在していなかった法的性質あるいは内容の処分が新しく設けられ,実際にその処分が行われたことも,処遇が行われたこともない中で,いかなる犯罪行為をしたときに,いかなる期間までなら保護観察を行うことが正当化されるのかということが,にわかに判断が付かないのではないかという問題があります。そのような中で,個別の事案ごとに適正に保護観察の期間を決するということは,実務的に見て,かなりの困難が伴うのではないかと思われます。   理論的に個別事案について判断ができないと即断できるというわけではありませんが,現実の実務においては,相当の困難が伴うものではないかと思われ,したがって,保護観察の期間を法定するというA案が現実的であり,相当なのではないかと,まず思います。   次に,保護観察の期間を法定するとした場合における,その保護観察の期間がいかほどのものであるかということですが,類型的にその期間であれば,本処分の対象者に保護観察処分を行うことが正当化され,かつ,先ほどから御議論があるように,保護観察が処遇効果を上げるために意義のある期間であるという必要があると考えられます。   類型的に正当化される期間という観点からは,これも前回にも御議論がありましたが,保護観察付き執行猶予の最低期間であります1年であれば,比較的軽微な罪を犯した者について,本処分として保護観察処分に付すことも,類型的に正当化されるのではないかと考えられます。   もう一つ,処遇の効果を上げるために意義のある期間という観点から述べますと,現行の更生保護法における18歳以上の者についての1号観察の期間は,2年と法定されております。2年という案は,そういう意味では,処遇期間としては十分であるということになると考えられます。   他方,A-1の1年という案については,1年という保護観察期間が,保護観察の処遇効果を上げるために意義のある期間であるかどうかという点が問題となるわけです。   そこで,1年という期間が十分であるのかどうかということについて,実務的な観点から資料をお持ちであれば,事務当局の方から御紹介をお願いしたいと思います。 ○今福幹事 保護観察が処遇効果を上げるために意義のある期間については,対象者の資質や特性等によっても異なりますし,保護観察の号種によっても異なりますから,本処分の保護観察の内容が必ずしも定まっていない現時点においては,一概にお答えすることは難しいと思います。   その上で,現行の1号観察,すなわち保護観察処分少年に対する保護観察の実情を申し上げますと,18歳以上の者の保護観察の期間が2年と法定されている趣旨は,先ほど加藤幹事がおっしゃられたとおり,保護観察の期間として,2年間あれば十分であるという趣旨であると考えられます。   前回の会議でもお示しした配布資料11「統計資料3(保護観察処分少年に対する保護観察の実施期間関係)」に基づき申し上げれば,2年以内に解除に至らずに,期間満了で保護観察が終了する者も一定数存在しますけれども,1号観察のうち,一般保護観察については,保護観察の開始から1年を経過した時点で解除を検討する運用としており,統計でも,12月以上15月未満で解除される者が約50%を占めております。また,短期保護観察及び交通保護観察について見ましても,その多くが1年未満で解除されていることなどを考えますと,1年が経過した時点で,保護観察を継続しなくとも,確実に改善更生することができる状態にまで至る対象者は相当数存在すると考えられます。   なお,保護観察開始後おおむね1年を経過した時点で解除が検討されるものの,結果的に解除に至らなかった者について,その時点での保護観察の効果については,個別事例に関する事項でございますので,一般的なことをお答えすることは困難ですが,経験に即して申し上げれば,その時点においても保護観察の効果が上がっている者が相当数いたと記憶しているところです。   こういったことからしますと,本処分の保護観察に必要な期間については,一概には申し上げづらいのですが,仮に保護観察の内容が現行の1号観察と同様のものとなるのであれば,1年という期間の中で,現行の1号観察と同等の効果とまではいかないまでも,相応の処遇効果を上げることもできるのではないかと考えられます。   いずれにしましても,保護観察を担う立場から申し上げれば,これまでどおり,定められた保護観察期間の中で,できるだけ処遇効果を上げられるように処遇に取り組むということになろうと思います。 ○池田幹事 期間の定め方について,今,両案が挙がっているところですけれども,B案について,更に検討課題があると思いますので,追加しておきたいと思います。   こちらにお示しいただいているところでは,B案について,1年以下あるいは2年以下という案が示されております。他方で,保護観察期間が余りにも短いと,保護観察を有効に実施することができないと思いますので,家庭裁判所がここに示された範囲内で保護観察期間を定めることとするという場合であっても,一定の下限は必要であって,それをどのように定めるかも併せて検討しておく必要があるのではないかと思います。   いずれにしても,保護観察期間及びその定め方については,基本的には加藤幹事と同意見でありまして,期間を法定するという定め方の方が適当ではないかと考えております。 ○酒巻分科会長 この点について,裁判所の方から何か御意見,お考えがありましたら,お願いします。 ○村田委員 この点について,今,A案,B案が示されているわけですけれども,A案の方は,上限を法定期間として定めて,具体的には,保護観察所が個別の事案に応じて解除することを検討するということですと,今,少年審判でやっているものと基本的に同じ枠組みですから,仮にこういう制度になったとしても,裁判実務上,何か支障を生ずるというようなことはないと思いますので,裁判所の立場からしても問題のない案と考えられると思います。   他方,B案につきましては,これは,前回の川出委員,それから,今回の加藤幹事の御指摘のとおりでありまして,裁判所は,この事案で必要な保護観察の期間はどのぐらいだろうかというようなことは全く考えていない,やっていないわけですので,新しい仕事を命ぜられるということになる制度になります。   かつ,B案であっても,一応法律の上限は定めるという案になっておりまして,さらに,仮に保護観察所が,やはり目的を達すれば解除するということも想定されるのだとすると,裁判所がその中で,中2階といいますか,非常に狭いところの間で,この事案の上限はここだろうというところを見極めるのは,なかなか厳しいのではないかとは考えられるところです。 ○酒巻分科会長 ありがとうございました。   ほかに,保護観察に関して,何か御意見はございますか。   よろしいでしょうか。   それでは,保護観察についてはこの程度にしまして,次に,「(3) 不処分」について意見交換を行いたいと思います。   「不処分」については,「どのような場合に不処分とするか」が検討課題として記載されていますが,「不処分」に関連する事項であれば,これ以外の事項でも結構です。御意見のある方は,挙手をお願いいたします。   よろしいですか。   それでは,次に,「3 手続」のうち「(1)対象及び判断主体」について意見交換を行いたいと思います。   「対象及び判断主体」については「家庭裁判所が刑事処分相当を理由として検察官に送致する仕組みを設けるか」及び「刑事裁判所が本処分相当を理由として移送する仕組みを設けるか」が検討課題として記載されていますが,「対象及び判断主体」に関連する事項であれば,これ以外の事項でも結構です。   御意見のある方は,挙手をお願いします。 ○加藤幹事 私は,この「対象及び判断主体」について,これまでも何回か発言させていただきましたが,今申し上げたいのは,2番目の「○」の「刑事裁判所が本処分相当を理由として移送する仕組みを設けるか」という点であります。   これについて,本処分と刑事処分との関係を改めて確認するという観点からも考えを述べたいと思います。   少年法は,罪を犯した少年に対する処分の選択肢として,刑事処分のほかに保護処分を設けて,事案に応じて,いずれかふさわしい処分を行うということにして,保護処分がされたときには,審判を経た事件については,刑事訴追を行うことができないとしています。つまり,保護処分は,刑事処分に代替する処分であるともいわれるところです。   少年法は,まずは家庭裁判所において,保護処分の対象とするか,刑事処分の対象とするかを判断することとした上で,家庭裁判所が刑事処分相当と判断して検察官に送致し,検察官が起訴したものについても,要保護性に変化が生じ得ること等を考慮して,刑事裁判所が保護処分相当を理由に家庭裁判所に移送する制度を設けております。いわゆる55条移送といわれる仕組みです。   このような,家庭裁判所が刑事処分相当を理由として事件を検察官に送致する判断と,刑事裁判所が保護処分相当を理由として事件を家庭裁判所に移送する判断とは,言わば表裏の関係にあると考えられるのではないかと思います。   これに対して,成人が罪を犯し,刑事処分が必要な場合には刑事処分を行うというのが,現行法における罪を犯した成人の取扱いであり,今設けようとしている本処分は,そのような現行法における罪を犯した成人の取扱いを前提として,訴追の必要がないと判断された者に対して,改善更生に必要な処遇を行うことを目的とするものでありますので,刑事処分に代替するという趣旨のものではないと考えられます。   そういう意味で,少年法の保護処分と,今新たに作ろうとしている処分というのは,位置付けが異なるのであり,要保護性に変化が生じるからといって,刑事処分の必要性が変化したわけではないのですから,地方裁判所が家庭裁判所に送致をするという仕組みを設けるというのは,適当ではないのではないかと考えます。   これは,もし似たような運用を考えるとすると,仮に,裁判をやっている間に刑事処分の必要がなくなってしまったとすると,この仕組みの中で,刑事処分の必要性を判断するのは,これは検察官の役割とされているわけですので,強いて言えば,公訴を取り消すという方向の話になるのではないかと思われますが,いずれにせよ,裁判所において刑事処分の必要性を判断されるというのは,今の仕組みとも異なりますし,今設けようとしている仕組みとしても,適当ではないのではないかと考えるところです。 ○池田幹事 私も,2点目について申し上げたいと思います。   刑事裁判所が,刑罰よりも本処分の方が相当であるとして,事件を家庭裁判所に移送するという仕組みは,刑事裁判所の方で二つの処分を比較して,いずれが適切かということを判断することが前提になるわけですが,成人である18歳及び19歳の者が罪を犯し,その犯罪行為について,刑事責任を負わせるという必要がある場合に,その者の改善更生にとっては,刑事処分よりも本処分の方が適切であるという理由で,本処分の対象とし,刑事責任を問わない仕組みを設けることは,必要ではないし,相当でもないと考えられます。   その理由として,一つには,今加藤幹事からの御指摘があったところと重なりますが,成人の犯罪行為については,刑罰の対象とすることによって,その刑事責任を負わせるとされているにもかかわらず,改善更生を専らの目的とする,刑罰を代替するものではない本処分の対象とすることによって,その責任を問わない扱いとするということが許されるかということに疑問があるからです。更に言えば,そうした取扱いについて,被害者を始めとして,国民の理解も得難いのではないかとも思われます。   加えて,罪を犯して刑事処分を科された成人の改善更生や再犯の防止というものは,受刑者を対象とする処遇によって図ることができ,この点については,処遇の一層の充実の措置に向けた検討が行われているところですので,これに代えて,あえて本処分の対象とする仕組みを設ける必要も乏しいのではないかと思います。 ○山﨑委員 今のお二方からの御発言で,特に加藤幹事からの,今回の新たな処分については,保護処分と刑事処分の関係とは違うのではないかという点は,私も理解しているつもりです。その上でということなのですけれども,まず,今池田幹事の方からも出されました,刑事責任を問わないということが国民の理解が得られるかという観点についていえば,その当該対象者が再犯をしないということも含めて,有効な処分で,社会にとってもそれがよいというような制度ができれば,あえて,それが刑事処分だから皆さんが理解するけれども,新たな処分という名前だから理解しないということではないのではないかと思われます。結局は,対象者が起訴されたときに刑事処分として受ける処分の内容と,新しい処分で受け得る処分の内容をやはり比較しないといけませんし,それによっては,国民が新たな処分に付すことに理解を示すということもあり得るのではないでしょうか。   つまり,一見して厳しい処分とはいえないけれども,実際には,家庭裁判所の調査等を踏まえて,再犯をしないように有効な処分が新たな処分ということでできるということであれば,実質的にそちらの方がいいという国民の判断は,十分あり得るのではないかと考えています。   そうしますと,新たな処分の対象にはならず,公訴提起をされる18歳,19歳に対して,刑事手続において,どういった処分を科し得るのかという,これまた,ほかの分科会で議論されている制度において,どういうことが可能かということとの関係になってくるかと思います。収容された場合に刑務所でどういうことができるか,さらには,執行猶予にどこまで保護観察を付し得るかということなどとの対比ということになると思いますので,そこで一律に,刑事裁判所による選択の可能性を排除するまでの必然性はないのではないかというのが今の私の考えです。   先ほど加藤幹事の方からは,刑事処分の必要性がなかったら公訴の取消しになるのではという趣旨の御発言もありましたが,公訴の取消しとか公訴権濫用論というのは,現実には非常に厳しく,現実的な問題ではなかなかないということを考えますと,前回も申し上げたように,検察官が訴追する段階では刑事処分相当と考えた事案であっても,その後の出てきた資料によって,あるいはその後の対象者の要保護性の変化によって,必要な処遇として新たな処分の方がいいという状況が生ずる可能性は否定できないのではないかなと思いますので,そのような余地を残すということは,検討されてよいのではないかと考えております。 ○保坂幹事 事務当局として,議論の整理のために,山﨑委員に1点伺いたいのですが,この配布資料でもありますように,先ほどの,山崎委員の御意見は,二つある「○」のうちの下の方について,検討する必要があるという御指摘でしたが,先ほど加藤幹事からの発言の中で,上「○」の仕組み,いわゆる検送,逆送というものと,下の「○」の55条移送に相当するような仕組みとは,少年法では表裏関係に立っていると。   つまり,刑事処分と保護処分とをてんびんに掛けて,どちらがふさわしいかという判断を前提にしているので,裁判所がどこであれそれを考えるということだという意見であったわけですが,山﨑委員がおっしゃる下の「○」について検討するべきというのは,上の「○」も当然に検討するというのか,それとも,上の「○」とは切り離して,下の「○」だけ必要なのではないかという御意見なのか。もしお考えがあれば,お伺いしたいと思います。 ○山﨑委員 私は,切り離して考えてよいのではないかというのが前提です。   今の保護処分と刑事処分との関係とは違いますし,前回,訴追を相当としない事案については全部家庭裁判所に送致すべきだというところでも,検察官は要保護性についての判断をこれまでされてきていないし,そのための調査機関も持たないという御説明があったと思うのですが,そのような点も踏まえますと,検察官が訴追をした事案であっても,要保護性についての評価がその後で変わり得るということがあり得るので,そこから新たな処分の方に移送するということはあり得るのであって,必ずしもその逆がなければ成り立たないというものではないのではないかと今の時点では考えております。 ○酒巻分科会長 ほかに御意見はありますか。よろしいでしょうか。   次は,「(2) 少年鑑別所の鑑別」についての意見交換を行いたいと思います。   「少年鑑別所の鑑別」については「在宅による鑑別」及び「施設収容する鑑別(観護措置)」が検討課題として記載されていますが,「少年鑑別所の鑑別」に関連する事項であれば,これ以外の事項でも結構です。   御意見のある方は,挙手をお願いします。 ○池田幹事 少年鑑別所の鑑別について検討する上で必要と思われることから,最高裁判所に,調査の目的及び範囲について確認をさせていただきたいと思います。   少年保護事件においては,家庭裁判所の調査官の調査や少年鑑別所における鑑別によって,少年の要保護性に関する資料が収集され,要保護性に応じた処遇選択が行われていると伺っておりますけれども,ここでの調査は,処遇選択に必要な資料の収集を目的として,それに必要な範囲で行われているということなのか,そうではなくて,より広い目的で,より広い範囲で行われているのかというところをお尋ねできればと思います。 ○村田委員 今のお尋ねで,端的に申し上げると,基本的に後者ということにはなろうかと思います。   要保護性の調査は,少年が非行に及んだ原因を明らかにした上で,再非行を防止するために,少年にとって適切な処遇は何かということを明らかにすることを目的としていまして,その中には,もちろん処遇の選択は入るわけですけれども,それにはとどまらないと考えられます。   少年がどうして非行に及んだのか,その背景となった要因も含めて分析をした上で,再非行に及ぶ危険性を判断するためには,何が非行を促進する要因になって,非行を本来抑止する要因があるはずなのに,どうしてそれが働かなかったのかというような辺りも明らかにするわけです。かつ,それを面接,あるいは裁判所が行っている保護的措置を通じて,非行を促進する要因を減らすような,さらには,抑止する要因をより生かせるような働き掛けを行って,働き掛けの結果,何か変化があったかなかったか,この辺りも見極めた上で,再非行に及ぶ危険性がどの程度残っているのか,かつ,それを防止するためには,どういう処遇を行うことが適切かを明らかにします。   その中身としては,処遇の選択のみならず,処遇機関ではどういう処遇があり得るかということも含めて考えられるような調査をしているわけで,その調査に当たっては,もちろん家庭裁判所調査官の調査も用いますけれども,少年鑑別所の鑑別結果がある場合には,これも十分活用させていただいているというところです。   ですので,池田幹事のお尋ねは,この新たな処分の中で,少年鑑別所の鑑別の有用性・必要性について検討するための材料ということでお聞きになったのかと思いますけれども,そういう観点からしますと,仮に新たな処分における調査が少年事件における調査と基本的な目的は同じだと考えるのであれば,比較的軽微な罪を犯して起訴猶予となった者を対象に行われるものであるとしても,対象者の中には,資質に問題を抱えていたり,環境に問題があったりする者なども含まれる可能性がありますので,そういった者が再犯に及ぶ危険性と,それから,再犯を防止するために,どういった処遇がいいかということを的確に見極めるためには,収容鑑別というものが必要になる場合もあるのではないかと考えられるところです。 ○池田幹事 ただいま御説明いただいたところによりますと,より広い範囲といいますか,対象者の要保護性の有無や内容を明らかにするとともに,それを解消するために最も有効ないし適切な処遇の在り方を明らかにするために,必要な調査を行っていると承りました。   また,村田委員からは,収容鑑別についての御指摘もありました。本処分は,改善更生に必要な処遇を行うことができるようにするという目的のものなので,調査の目的及び範囲については,少年保護事件における調査と同様であろうと考えられます。そうすると,対象者の要保護性を明らかにし,それを解消するのに,どのような処遇が最も有効・適切かということを明らかにするためには,収容鑑別が必要な場合があり得ると考えられます。そのため,必要かつ相当な場合に,収容鑑別を行うことができる仕組みを設けることが考えられるものと思います。   なお,現行少年法における少年鑑別所に送致する観護措置は,審判を行うために必要があるときに実施することができるとされておりまして,この審判を行うため必要があるときとは,収容して鑑別を行う必要があるということに加えて,勾留と同様に,逃亡のおそれや罪証隠滅のおそれがあるという場合もこれに当たると考えられております。そのため,本処分との関係でも,収容鑑別の必要はないけれども逃亡のおそれや罪証隠滅のおそれがあるという場合にも少年鑑別所に収容することができる仕組みを設けるかは,問題となるところではないかとも思います。   ただ,調査・審判への出頭の確保と,そのための仕組みとしては,同行状を発するということも考えられますので,その必要性及び相当性については,収容鑑別そのものの必要性・相当性とは別に検討するということになるのではないかと思います。 ○加藤幹事 少年鑑別所における鑑別についてですが,問題が,比較的軽微な罪を犯した者で,かつ訴追の必要がないと判断された者であるだけに,施設に収容しての鑑別を設けるかどうかというところについては悩みが多いわけですが,前回の会議の際に,在宅鑑別の実情について,事務当局から御説明がありました。   その続きで,少年鑑別所に収容して鑑別を行う仕組みを設けるか否かを検討するには,今度,収容鑑別の実情も踏まえた検討を行う必要があると考えられます。特に,収容鑑別を用いることで,在宅鑑別では得られないような要保護性に関わる判断資料を得ることができるのか,そのような判断資料を得るために,収容鑑別ではどのようなことを,どの程度の期間を掛けて行うのか,また,本処分の対象者について,収容鑑別により,在宅鑑別とは質的に異なる鑑別結果を得るには,少なくともどの程度の期間が必要となるのかなどについて,まず事務当局から,知見があれば御説明ください。   あわせて,ただいま村田委員から御説明を頂いたところによると,家庭裁判所におかれては,対象者の要保護性を明らかにして,それを解消するのに,どのような処遇が最も有効・適切かを明らかにするために調査を行っているという趣旨で承りましたが,現在,保護観察においては,調査の結果,特に少年鑑別所の鑑別結果をどのように活用しているのかという観点からも,事務当局から御説明をお願いいたします。 ○小玉幹事 最初の点についてですけれども,収容鑑別と在宅鑑別の違いとしましては,まず,収容鑑別の場合,収容期間中の生活全般にわたって,職員による綿密かつ継続的な行動観察を行うことが可能になるという点が挙げられます。所内での生活,課題への取組,家族等との面会など,各場面での行動の傾向ですとか,在所期間を通じた変化に着目することによりまして,面接や各種心理検査などとは異なる側面から,知的能力,対人態度,情緒や意欲等に関する特徴を把握することが可能となります。   これらは,非行の背景要因に当たる資質上や環境上の問題性,具体的には,保護者などの家族との関係性,学校や職場などへの適応力,攻撃性等の統制力等がありますが,これらを明らかにするための判断資料となり,再非行等の可能性の程度,鑑別対象者の問題性の程度や教育上の必要性を踏まえた処遇指針を作成することが可能となります。   特に,鑑別対象となる若年者は,18歳,19歳であっても,一般には言語表現が稚拙でありますので,行動に着目することは,職員からの働き掛けへの反応や態度等に関する特徴を把握し,その者の特性に配慮した働き掛けの手掛かり等を得る上でも極めて有用です。   また,収容鑑別に当たりましては,例えば,家庭裁判所調査官との事例検討,面接や各種心理検査等に加え,今申し上げた行動観察によって得られた情報に基づき,法務省式ケースアセスメントツール,これはMJCAと呼んでおりますけれども,これらを用いて,再非行及び教育上の必要性の程度,再非行防止に必要な処遇目標等を定量的に把握した上で,再非行防止に焦点を当てた処遇指針を提示しているところです。そのため,収容鑑別を実施することによりまして,より効果的なMJCAの活用が可能となります。   これらに対して,在宅鑑別の場合,綿密かつ継続的な行動観察を行うことができず,鑑別に必要な情報収集に制約がありますので,どうしても鑑別対象者の特性を大まかに把握・理解し,特定の事項に焦点を当てた調査・分析にとどまらざるを得ないというのが実情です。   さらに,収容鑑別の場合,少年鑑別所の体制上,虐待やいじめ,その他の被害体験を持つ鑑別対象者について,その被害体験等に踏み込んだ詳細な調査を行うことが可能となるという点も挙げられます。   このような鑑別対象者の場合,非行の背景要因等の分析におきましては,面接時にこれらの被害体験等を取り上げ,本人の認識等を把握する必要があります。しかし,鑑別対象者によりましては,過去の被害体験等を詳細に聴取されることによって,心情が不安定になり,その後,自傷,器物損壊,他害等の行動化に至ることもあります。   その場合,在宅鑑別の場合は,どうしても面接終了後の動静の把握ですとかフォローアップ等には限界がありますので,心情が不安定となる可能性の高い事柄を面接で取り上げる際には,十分な配慮が必要となりますし,場合によっては,取り上げること自体を控えざるを得ないこともあります。   これに対し,収容鑑別の場合は,常時,職員による動静の把握を行っており,仮に行動化等が認められた際にも,必要な対応が可能となりますので,詳細な調査を行うことも可能となるという点も挙げられます。   次に,御質問にありました2点目についてですけれども,現行の収容鑑別では,通常,観護措置が更新されることが多く,おおむね4週間以内の観護措置期間のうちに,審判期日が指定されることになりますので,それまでの間に鑑別を行い,鑑別結果通知書を提出するという流れになります。   この間の鑑別の進め方としましては,鑑別方針に基づいて,心理技官による複数回にわたる面接や各種心理検査の実施,観護教官による行動観察,医師による健康診断,家庭裁判所調査官との事例検討,心理技官等による家族や学校の先生などとの面接などを,鑑別対象者の特性・問題性に応じまして,並行して実施するというのが一般的でございます。   また,対象者が成長発達期にあることを踏まえ,観護教官による健全育成のための支援として,学習支援などの機会提供も収容期間を通じて行っており,あわせて,こうした機会における動静等についても行動観察を行っているところです。   次に,御質問の最後の点についてです。   本処分の対象者について,在宅鑑別とは質的に異なる鑑別結果を得るために,最低限,どの程度の収容期間が必要かという点に関しましては,まず,現行の少年鑑別所法を基本とする場合,例えば,入退所に係る各種手続,食事や入浴,余暇時間等を確保する必要がありますし,さらに,家庭裁判所調査官や保護観察官による面接,家族等との面会等が複数回行われることが一般的です。このように,収容期間中とはいっても,鑑別のための調査を行うことができない時間というのも相応にあるという点を考慮する必要があると考えられます。   また,仮に,極めて短期間の収容期間の中で,長時間の面接や複数回にわたる心理検査等を集中的に実施するとした場合には,鑑別対象者の集中力が薄れ,また,職員との間で信頼関係が築かれず,鑑別対象者が拒否的・防衛的な構えを持って,面接や心理検査等に臨むこととなる結果,鑑別に有用な情報収集が困難になるといったことも懸念されますので,これらの点も考慮する必要があると考えられます。   これらの点を踏まえた上で,収容の開始に先立って,家庭裁判所等が把握する犯罪事実や家族・交友関係等,生活状況に関する事項など,鑑別の参考となる情報が得られ,速やかに鑑別方針を設定して調査に着手するということができるのであれば,本処分における鑑別の趣旨・目的などを踏まえまして,現行の収容鑑別に要する期間を相応に短縮することは可能であると思われます。   他方で,本処分の鑑別に当たりまして,面接や各種心理検査に必要な時間・回数を確保するとともに,継続的かつ密度のある行動観察を実施することにより,収容鑑別がその効果を発揮して,在宅鑑別とは質的に異なる鑑別結果を得るためには,やはり少なくとも10日間程度の収容期間が必要になるものと考えられます。   ただし,今申し上げましたのは,飽くまで鑑別に必要な調査を完了するまでの期間という趣旨ですので,鑑別結果通知書を作成して,家庭裁判所に提出するには,別途,一定期間が必要になることも申し添えさせていただきます。 ○今福幹事 保護観察における鑑別結果の活用の御質問につきまして,1号観察対象者の実情について申し上げますと,保護観察開始時に,保護観察官が改善更生のために必要な特別遵守事項の設定や生活行動指針の設定,保護司の指名などを行い,保護観察の実施計画を策定しておりますが,その前提として,個々の少年の特性について十分に把握しておくことが必要になります。   具体的には,本人の生活環境はもとより,心理・精神・健康の状態や行動傾向についての専門的な調査・分析が必要になるわけですが,取り分け,複雑な問題性を有する少年,あるいは要保護性が高い少年等に対しましては,先ほど小玉幹事からも御説明ありましたけれども,綿密かつ継続的な行動観察などを踏まえた深い分析と理解が求められます。   現在,少年鑑別所において収容鑑別が実施された場合には,鑑別結果通知書を保護観察所に送付していただいておりますけれども,そこには,対象少年の心身の発達の状況,能力,認知の特徴,心理状態等に関する詳細かつ専門的な調査・分析の結果,あるいは,それらを踏まえて判断された再犯・再非行のリスクの高さ,処遇上の留意事項等が記載されております。保護観察官は,これらを有効に活用いたしまして,先ほど申し上げました特別遵守事項の設定,保護司の指名,保護観察の実施計画の策定等を行います。その後も,保護観察の実施の中で,個々の指導等に鑑別結果を有用な情報として活用しています。 ○加藤幹事 現行少年法の下において,今日配られた資料15「統計資料4」を見てみますと,観護措置をとられた少年に対する処分の内容として,保護観察になっている方が少年院送致よりも多いわけです。そして,ただいまの事務当局の説明によると,少年鑑別所における鑑別結果を含む調査の結果を保護観察における処遇において活用しているということであり,この点は,本処分においても同様となるのではないかと考えられます。   そうすると,本処分においても,少年鑑別所における鑑別の結果を保護観察における処遇において活用するということが考えられますので,施設収容処分を設けずに保護観察処分だけを設けるとしても,鑑別の必要性はあると考えられると思われます。   そして,ただいまの,もう一つの説明によれば,収容鑑別と在宅鑑別とでは,例えば継続的な行動観察を行うことができるかどうかなどの違いがあって,そのため,鑑別の結果として得られる対象者の要保護性に関する資料にも違いがあるということですので,在宅鑑別で足り,収容鑑別は不要ということにはならないように思われます。   以上が私の現時点の意見でございますが,誠に申し訳ないのですが,ここで退席をさせていただければと存じます。              (加藤幹事退室) ○酒巻分科会長 引き続き,「少年鑑別所の鑑別」に関わる事柄で,ほかに御意見がありましたらお願いします。 ○川出委員 収容鑑別を設ける必要があるかどうかという点につきましては,私も,その必要があると思います。ただ,他方で,収容鑑別というのは対象者の身体の自由を制約するものですので,その相当性についても考える必要があります。そして,それを考えるに当たっては,やはり収容期間をどうするかということが重要だと思います。   現行少年法では,少年鑑別所に身柄を収容する観護措置の期間は2週間を超えることはできず,特に継続の必要があるときは,それを1回更新できるということになっております。また,非行事実の認定に必要な場合には,一定の要件の下で,いわゆる特別更新として,更に2回を限度として,更新を行うことができるとされています。   その上で,先ほど小玉幹事からも言及がありましたけれども,少年鑑別所に収容する観護措置をとった事件における観護措置の期間の実情はどうなっているかについて,改めて家庭局から御説明いただけませんでしょうか。 ○村田委員 観護措置の期間を細かく区切った統計は,残念ながら持っておりませんで,数字の形で御紹介することができないのですけれども,ただ,観護措置をとった多くの事件において,もう少しニュアンスを込めていうと,大多数の事件において,1回の更新はしているということと思います。   先ほど,小玉幹事から御説明にあった鑑別に必要な期間というのがあると思いますし,その段階に応じて,家庭裁判所調査官の調査も並行して行っていますので,そうした実情からすると,大多数の事件において,1回の更新をしているというのが実情かと思います。 ○酒巻分科会長 1回更新ということは,つまり,28日の枠のということですね。 ○村田委員 はい。 ○川出委員 大多数の事件で1回の更新が行われているということは,家庭裁判所における既存の手続で事件を処理するためにはそれだけの期間が必要であるということだ思いますので,それを参考にしますと,新たな処分について,収容鑑別を認めるとした場合も,原則2週間で1回更新できるとするのが,一つの考え方かと思います。   他方で,本処分は,比較的軽微な罪を犯し,訴追の必要はないと判断された者を手続の対象とするものですから,手続上の負担が過大になるのは相当ではありませんので,その観点からは,現在の制度よりも期間を短くすることも考えられるかと思います。   短期間にするとした場合に,どの程度の期間にするかが問題なのですが,先ほど小玉幹事からは,収容鑑別には最低10日間が必要だという回答がありました。他方で,現在の運用においては,大多数の事件で,観護措置の期間が4週間となっているわけですが,この期間は,鑑別だけでなく,調査官による調査,さらには審判まで含めて,少年保護手続全体を進めるのに必要な期間として捉えられます。そうしますと,先ほど池田幹事から御指摘があったように,調査・審判への出頭の確保,つまり,逃亡や罪証隠滅の防止は,別の形で図るものとすれば,観護措置とは異なり,鑑別をするための収容に純化できますので,その期間は,観護措置よりも短くすることが可能になるはずです。そうした観点から,その期間を10日間とすることも考えられるかと思います。 ○山﨑委員 この問題,非常に悩ましいなというのが率直な感想です。   説明されたように,現行の手続きにおいて,少年鑑別所で行動観察を含めた集中的な鑑別をされていることが非常に効果を発揮しているというのは,評価をすべき点であろうと思っています。ただ,他方で,川出委員がおっしゃったように,やはり今回想定するような制度の対象となる事件が比較的軽微であるという点についても,考慮しなければならないということだと思います。   現行では,集中的な鑑別をしている中で,半分ぐらいが保護観察,半分ぐらいが少年院ということですけれども,今後,仮にその対象年齢を下げた場合には,行為責任が大きいという評価によって鑑別を受けられなくなる対象者が出てくることの影響は,やはり大きいとは思っています。その点はおくとしましても,私の付添人としての実感でも,やはり2週間で収容鑑別が終わったという例は,基本的にないというのが実情です。年齢が20歳に切迫しているような少年の場合に,例外的に急いでやってもらうということはあるとしても,やはり4週間がほぼ原則になっているわけですので,今回検討している新たな処分が比較的軽微な事件を対象としていることに照らすと,やはり長いという評価にはなるのではないかという感じがしております。   特に,私たち大人にとっての時間と,この世代の子供たちにとっての時間はかなり違いますので,その重みというのも考えなければいけないのではないかと感じています。   仮に,新たな処分の制度ができ,これまでとは違って,少年院送致等の収容処分がないという前提になると,保護観察をいかに効果的に行うかというための鑑別ということになりますので,その点で,これまでの鑑別とは多少異なってくる内容もあるのではないかという点も考えられます。そういったことも含めて,収容鑑別の要否,認める場合の期間というのは,慎重に考える必要があるというのが1点です。   もう一つは,裁判所がそれを適切に判断することが可能なのだろうかという点があります。収容鑑別の要否を裁判所が判断するという,今の枠組みと同じような形にした場合に,現行の観護措置決定については,私の実務感覚からすると,身柄で勾留されていて,身柄付きで家裁送致された少年は,ほぼ9割方といいますか,観護措置が採られるのが実情だと思います。よほど在宅にする必要性が認められれば,そこで在宅扱いになりますが。   他方,身柄ではなく在宅事件として送致はされたけれども,収容鑑別等の必要性があるということで,いわゆる身柄引上げで観護措置がとられるということもありますが,大多数は身柄付きで送致をされて,そのまま少年鑑別所に入るという,この今の実務に照らしたときに,これから新たな処分ができたときの対象者が,どの程度の割合が身柄付きで家庭裁判所に送致をされて,そのような場合に,どのようにして裁判所が当該少年の収容鑑別の必要性の判断をなし得るのか,という点も,検討しないといけない課題ではないかなと思っています。   つまり,捜査機関の捜査の中で,どこまで収容鑑別の要否が分かるような資料が収集されるのか,されないのかですね。そういった点も課題になるのかなと感じています。 ○酒巻分科会長 ほかに御意見ございますでしょうか。この程度でよろしいでしょうか。   それでは,次に,「(3) その他」について意見交換を行いたいと思います。   「その他」には,「調査の端緒」から「その他」まで検討課題が掲げられていますが,前回同様,まずは「調査の端緒」から「審判不開始」までについて意見交換を行いたいと思います。   御意見のある方は,挙手をお願いします。 ○保坂幹事 「その他」の四つ目の「○」の「本人等による記録・証拠物の閲覧・謄写」というところに関し,最高裁判所家庭局から教えていただければと思うのですが,少年審判規則によりますと,本人も含めて,付添人以外については,裁判所の許可があったときにだけ閲覧・謄写ができるとされていますけれども,少年事件について,記録の閲覧・謄写を少年本人に許可する場合の運用,どういう場合に許可し,どういう場合には許可しないといった運用について,教えていただければと思います。 ○村田委員 少年事件で,少年本人による記録の閲覧・謄写について,裁判官の許可が必要だというのは,今,保坂幹事からお話のあったとおりであります。   そうした制限がされている趣旨は,一般的な秘密の保持という点もありますけれども,さらには,情報提供者からの信頼を確保するという点,あるいは,記録の中にある情報を見た際に影響を受ける少年の情操の保護という点,こういった要請から,裁判官の許可に係らしめられていると考えられるところです。   個々の裁判官が,こういった趣旨を踏まえて,閲覧・謄写を許可するか否かを判断しているというところですので,なかなか,必ずこうですとは申し上げられないのですけれども,一般論として,あえて申し上げますと,少年事件の記録は一度,この部会でも記録を見ていただいたとおり,法律記録と社会記録の二つに大きく分かれております。法律記録は,主として捜査記録など,非行事実の認定に関する資料で構成されている記録でして,他方,社会記録は,家庭裁判所調査官による調査の結果ですとか少年鑑別所による鑑別結果など,少年の要保護性に関わる資料からなる記録ということができるかと思います。   このうち,社会記録の閲覧・謄写につきましては,少年や保護者のかなり個人的な秘密,プライバシーに関わるところが記載されているという情報の性質上,先ほどの許可の趣旨として述べた要請が非常に強く働いていると考えられますので,基本的には,いずれも許可していないというのが実情と思われます。   他方,法律記録の場合につきまして,非行事実の認定に関わる情報は,個別事案によりますけれども,各裁判官において,閲覧・謄写の可否を適切に判断して,少年に,防御等の観点も含めて,必要な情報は開示をしていると考えられるかと思います。 ○保坂幹事 少年事件記録については,家庭裁判所の適切な運用によって,法律記録,社会記録という,それぞれ必要性と相当性に違いがあるかと思われますが,それに対応して,少年本人に許可する,許可しないという判断を適切に行っておられると理解いたしました。   そういたしますと,本処分において,本人に対して記録の閲覧・謄写をどのように認めるのか,認めないのかについても,こういった運用も踏まえて,更に検討する必要があろうかと思われます。 ○酒巻分科会長 調査の端緒から審判不開始までについてほかに御意見ございますか。  よろしいですか。   それでは,前回積み残しになっている「審判の方式」から「その他」までの検討課題について意見交換を行いたいと思います。これらの項目について御意見のある方は,挙手をお願いいたします。 ○保坂幹事 審判の方式というところの「・」ですが,第1回期日冒頭における告知につきまして,少年審判規則においては,冒頭において,供述を強いられるということがないことを分かりやすく説明した上で,審判に付すべき事由の要旨を告げ,これについて陳述する機会を与えること,少年に付添人があるときは,当該付添人に対して,審判に付すべき事由について陳述する機会を与えることというのが規定をされているわけです。   こういう規律自体は,本処分の手続におきましても,適正手続の要請からも重要であると考えられるので,こういった規定を何らか設けることは必要だろうと思われます。他方で,今申し上げたように,少年審判については規則に定められていますが,刑事訴訟法では法律の方に定められているということがありますので,技術的な話かもしれませんが,どこに規定するのかということも考えておく必要があろうかと思われます。   次に,一つ後の「没取」のところですが,少年法におきましては没取というものがあって,刑法の没収と同じように,付随処分として,犯罪事実と一定の関係にあるものというものを剥奪して国庫に帰属させるという,そういう処分があるわけですが,この本処分におきましても,そういった社会的な危険なものですとか犯罪による不当な収益,この保有を禁ずるという要請があるのであれば,同様の処分というものをできるようにしておくということが必要になってこようかと思われます。 ○池田幹事 不服申立てについて申し上げます。   手続の適正という観点からは,不服申立制度を設けることも重要だろうと思います。その場合には,誰が,また,どのような理由で不服を申し立てることができることとするかについて,検討が必要となるものと思います。   少なくとも,処分を受けた者が,少年法と同様に,決定に影響を及ぼす法令の違反,重大な事実の誤認又は処分の著しい不当を理由として不服を申し立てることができるとすることは,特に問題がないのではないかと思います。   また,検察官による不服申立てについては,検察官関与制度に相当する制度を設ける場合における趣旨・目的等を踏まえて,検討する必要があると思います。   続けて,処分の効力について申し上げます。   少年法による保護処分については,少年法第46条第1項が,その効力として,保護処分がなされたときは,審判を経た事件について,刑事訴追をし,又は家庭裁判所の審判に付することができないとしています。   この規定の趣旨について,最高裁判所の判決は,保護処分が身体の自由を制約する場合がある点において,刑罰類似の性質を有することなどを考慮して,特別に設けられた規定であるとしています。その趣旨が本処分にも及ぶかということが問題となります。ただ,その際には,本処分と保護処分とで,様々な点に違いがあるということを踏まえておく必要があるように思います。   例えば,それぞれの処分と刑事処分との関係についてですけれども,これは先ほども出てきた話ですが,保護処分については,それで対応することが適切だというものについては保護処分で対応し,刑事処分は回避するという関係があって,先ほど述べた少年法第46条第1項も,このような取扱いを担保するものとして設けられているものと考えられます。   これに対して,本処分は,本処分で対応可能なものについて,なるべく刑事処分を回避すべきだという関係はないので,保護処分と同様の取扱いとする必要は,この観点からはないのではないかと思われます。   また,処分の内容として,保護処分には少年院送致があるわけですが,仮に本処分に施設収容処分を設けないとすると,さきに述べた最高裁判所判決が挙げる,保護処分が身体の自由を制約する場合がある点において刑罰類似の性質を有するという趣旨が本処分に当てはまるかについても,検討を要すると思います。   加えて,本処分の効力を考えるに当たっては,以上の少年法第46条第1項の趣旨が当てはまるかということのほかにも,対象者に負担や不利益が生じないかといった点について,検討する必要があるのではないかと思います。 ○保坂幹事 次の「○」の「処分間の調整」という,やや技術的な話ですが,少年法においては,刑事処分と保護処分というのが競合した場合ですとか,保護処分と保護処分が競合した場合に,保護処分を取り消すことができるという規定が設けられていたりとか,あるいは,保護処分の継続中に自由刑が確定した場合の執行に関する刑の執行に関する規定というのが,調整の規定として置かれているわけです。   本処分が新たにできるということになりますと,更に処分の種類が増えることになりまして,刑事処分と本処分,保護処分と本処分,本処分と本処分,それぞれ競合するという場合が出てきますので,それを一体どのように調整・解決するのかということを考えておかなければいけないと思われます。 ○川出委員 その次の「処分の取消し」ですが,これについては,本処分が確定した後に,犯罪事実の不存在が明らかにされたというような場合,本処分を取り消すことができるという制度を設けることが考えられると思います。   少年法では,保護処分終了前については,判例によって,少年法第27条の2第1項を適用して,非行事実を行っていないにもかかわらず,誤って保護処分に付された少年を救済することが認められ,それが確立したものになっています。また,平成12年の改正により,保護処分終了後の取消しも認められることになりました。ただし,本人が死亡した場合には,取消しは認められないとされています。   保護処分終了後の取消しについて,こうした限定が付されたのは,平成12年改正が,保護処分の取消しというのは,誤った非行事実の認定に基づいて保護処分に付された少年の名誉の回復を目的とするものではないとした判例を前提にしたものであったからです。つまり,保護処分の取消しは,少年の健全育成という少年法の趣旨に照らして,誤って保護処分を受けたことにより傷付いた本人の情操の保護,回復を図ることを目的とした制度であり,そうだとすると,死亡している場合は,情操の保護や回復を図る余地がないので,除外するとしたわけです。   これに対し,今回の新たな処分というのは,保護処分とは法的性質や正当化根拠等を異にするものですから,本処分が確定した後に犯罪事実の不存在が明らかにされたという場合について,それを取り消し得る制度を設けるとした場合には,その目的や要件は,少年法の保護処分の取消しとは異なるものとなるのではないかと思います。 ○酒巻分科会長 今の点は,刑事の再審に近いものということになるようにも思われます。   ほかに,御意見ございますでしょうか。よろしいですか。   ここまでで,配布資料16に記載されている検討課題について一通り意見交換を行いました。「若年者に対する新たな処分」についての本日の意見交換としては,この程度でよろしいでしょうか。              (一同異議なし)   その他,本日意見交換を行った全ての論点について,ほかに現時点で御意見があれば伺いたいと思います。   よろしいでしょうか。   それでは,本日の意見交換は終了としたいと思います。   冒頭で申し上げましたとおり,本日までの分科会での議論の状況については,その要旨を4月26日の部会第7回会議において,中間報告として報告したいと思います。   その中間報告のための資料内容については,事前に当分科会の構成員の皆様にお示ししたいと思っておりますが,最終的な取りまとめにつきましては,基本的に分科会長である私に御一任いただきたいと存じますが,よろしいでしょうか。              (一同異議なし)   それでは,部会に報告する中間報告の内容については,分科会長である私に御一任いただいたということで,私の責任において,中間報告の内容を取りまとめて部会に報告したいと思います。   以上で,本日の審議は終了いたします。   今後の予定について,事務当局から御説明をお願いします。 ○羽柴幹事 今後の予定について御説明します。   部会の第7回会議が,4月26日木曜日午前10時から予定されています。場所は,法務省大会議室となります。 ○酒巻分科会長 本日の会議の議事につきましては,特に公表に適さない内容に当たるものはなかったと思われますので,発言者名を明らかにした議事録を作成し,公表することとさせていただきたいと思いますが,よろしいでしょうか。              (一同異議なし)   それでは,そのようにさせていただきます。   本日は,どうもありがとうございました。 -了-