法制審議会 少年法・刑事法 (少年年齢・犯罪者処遇関係)部会 第1分科会第8回会議 議事録 第1 日 時  平成30年6月5日(火)   自 午前 9時56分                        至 午前11時11分 第2 場 所  東京地方検察庁刑事部会議室 第3 議 題  1 社会内処遇に必要な期間の確保について         2 若年受刑者に対する処遇原則の明確化,若年受刑者を対象とする処遇内           容の充実,少年院受刑の対象範囲及び若年受刑者に対する処遇調査の充           実について         3 その他 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○玉本幹事 ただいまから法制審議会少年法・刑事法(少年年齢・犯罪者処遇関係)部会第1分科会の第8回会議を開催します。 ○佐伯分科会長 本日は御多忙中のところ,お集まりいただきましてありがとうございます。   本日は,加藤幹事が所用のため,欠席されています。加藤幹事からは,本日議論される予定の論点について,保坂幹事が出席し発言することが充実した分科会の審議に資するとの申出がありましたので,本日は加藤幹事に代わり,保坂幹事に議論への参加をお願いしております。   また,充実した審議のため,いつもは事務当局の役割を担っていただいている保坂幹事の役割は,羽柴幹事に御出席いただき,お願いしております。   それでは,事務当局から,資料について説明をお願いします。 ○玉本幹事 本日,配布資料として配布資料26「社会内処遇に必要な期間の確保(検討課題等)」,配布資料27「若年受刑者に対する処遇原則の明確化,若年受刑者を対象とする処遇内容の充実,少年院受刑の対象範囲及び若年受刑者に対する処遇調査の充実(検討課題等)」を配布しています。これらの資料は,ファイルにとじずに平積みしています。資料に不足がある方はいらっしゃいますでしょうか。   配布資料の内容については,後ほどそれぞれの議論の際に御説明します。 ○佐伯分科会長 それでは,審議に入ります。   本日は,あらかじめ事務当局を通じて皆様にお伝えしたとおり,「社会内処遇に必要な期間の確保」及び「若年受刑者に対する処遇原則の明確化,若年受刑者を対象とする処遇内容の充実,少年院受刑の対象範囲及び若年受刑者に対する処遇調査の充実」の各論点について,部会に報告する制度概要案等の作成のための詰めの検討を行いたいと思います。   はじめに,「社会内処遇に必要な期間の確保」についての検討を行います。   前回の会議の結果を踏まえて,事務当局に,各論点について,検討のたたき台となる資料を作成してもらいましたので,まずは,事務当局から資料の説明をお願いします。 ○玉本幹事 本日,「社会内処遇に必要な期間の確保」に関する資料として,配布資料26「社会内処遇に必要な期間の確保(検討課題等)」を配布しています。   配布資料26について御説明します。   配布資料26は,事務当局において,これまでの当分科会における御議論を踏まえつつ,技術的な観点から,現時点において考えられる制度の概要や検討課題を整理し,更なる検討に資するためのたたき台として作成したものです。   まず,「考えられる制度の概要」については,当分科会の前回会議において,いわゆる「B案」,すなわち,「残刑期間が社会内処遇のために最低限必要と考えられる法定期間に満たない場合には,仮釈放の期間を当該法定期間とし,その間,保護観察に付するものとする」案をベースとして検討を進めていくこととされましたので,その内容を「1」及び「2」に分けて記載しています。   次に,検討課題についてですが,「1」は制度概要に記載した制度に関する検討課題として,現時点で考えられるものを記載しています。   「(1)法定期間の在り方」については,「法定期間の長さ」に関し,具体的に三つの項目を掲げており,1点目については,法制審議会刑事法特別部会における議論を参考にして,差し当たり「6月」と「1年」の二つの案を記載し,2点目及び3点目については,残刑期間の長短に応じた期間とすべきかや,一律の法定期間の全部の必要がない場合にどう対応するかを検討課題として記載しています。   「(2)保護観察が不要な場合の対応」については,本来の満期日を超える形で一律の法定期間を設けるため,保護観察が不要な場合の対応として,仮解除の仕組みの要否が問題となり得ると考えられることから,これを検討課題として記載しています。   「(3)仮釈放の取消しの在り方」については,現行法と異なり,本来の満期日の経過後にも仮釈放が取り消される可能性があるため,現行の刑法第29条第3項の改正の要否が問題となり得ると考えられることから,その点を検討課題として記載しています。   「(4)仮釈放の期間経過の効果」については,本来の満期日を経過した後,仮釈放の処分が取り消されることなく,法定期間が経過した場合の刑の執行の終了時期について,資料記載のとおりの二つの選択肢があり得ると考えられることから,これを検討課題として掲げています。   「(5)刑の一部の執行猶予制度との関係」については,このような制度を設けるとした場合,刑の一部の執行猶予制度の趣旨からすると,二つの制度の適用関係を整理する必要があるのではないかと考えられることから,この点を検討課題として記載しています。   「(6)制度の必要性及び相当性」については,これまでの当分科会での御意見を踏まえ,「必要性」と「相当性」,それぞれの観点から,検討課題を整理して記載しています。   次に,検討課題の「2」については,当分科会の前回会議における配布資料と同じ内容のものです。   配布資料26の説明は以上です。 ○佐伯分科会長 ただいまの説明に,この段階で御質問や,ほかにも検討課題等があるのではないかといった御意見のある方は,挙手をお願いします。   よろしいでしょうか。   それでは,配布資料26に沿って,「社会内処遇に必要な期間の確保」についての検討を行います。   「1 仮釈放の期間についての考試期間主義」のうち,「(1)法定期間の在り方」における,三つ目の「仮釈放の期間として法定期間の必要がない場合にどう対応するか」と,「(2)保護観察が不要な場合の対応」は関連する問題になることから,「(1)」と「(2)」を併せて検討を行いたいと思います。   その上で,まずは,期間の点から,「(1)」の一つ目の「期間はどの程度か」と,二つ目の「残刑期間の長短に応じた期間とすべきか」について,御発言がある方は挙手をお願いします。 ○今井委員 この問題を検討する前提ですけれども,現状を踏まえた議論が必要だと思いますので,現在の実務における仮釈放の期間,現行法ではこれは保護観察期間の長さであると思いますけれども,その実情を改めて踏まえておく必要があろうかと思います。そこで,可能でしたら,事務当局から仮釈放者の保護観察期間について,現状を御説明いただけますでしょうか。 ○今福幹事 仮釈放者の保護観察期間の現状ですけれども,当分科会第2回会議でお示しをいたしました資料8「統計資料3(仮釈放に関するもの)」の5ページをお開きいただきたいと思います。   3-5「仮釈放者に対する保護観察開始人員・構成比,保護観察期間別」の表の一番下の欄を御覧いただきたいと思いますが,平成28年の数値でして,累計の構成比について申し上げますと,保護観察期間が3月以内の者が39.9%,累計で6月以内の者が79.4%,そして1年以内の者が97.7%です。他方で,全体の3.7%に当たる492名は保護観察期間が1月以内となっています。 ○今井委員 御説明ありがとうございました。改めて,この資料を確認させていただきましたけれども,今考えております「A案」ないし「B案」というもので,法定期間を考えますと,残刑期間を超えるものを含むものも想定されております。保護観察に付されますと,対象者にとっては,それがよりよい社会復帰に向けて有益な処分という面もあるのですけれども,一定の負担が課せられているということも否定できませんし,また,特に仮釈放の取消しがありますと再収容されるという可能性もあります。   先ほど御説明がありました,この保護観察期間,すなわち仮釈放の期間の実情を踏まえますと,仮に,法定期間を1年とした場合には,基本的には先ほど1年以内の方が97.7%とのことでしたので,ほぼ全員の仮釈放の期間が延びることにもなります。しかも約8割の方は2倍以上となるように思われます。その場合には,仮釈放者の不利益,又は事実上の負担というものが現在よりも増すという点は無視できない要素ではないかと思います。   他方で,従来ここでも議論が重ねられておりますけれども,保護観察を付するということは,対象者の再犯防止と改善更生の効果を期待してでありますので,そのための期間が余りに短期間では,所期の目的,すなわち,再犯防止と改善更生の効果が期待できないのではないかと思います。ですから,例えば先ほど,3月以内の方の数値,39.9%というのもありましたけれども,例えばそういうものを踏まえて3月と法定期間をした場合には,やや短いのではないかと思った次第です。   そうしたことを踏まえますと,部会に報告する制度概要案としては,差し当たり法定期間として6月というのが適当ではないかと感じたところです。 ○保坂幹事 私も結論から申しますと,今井委員と同じく,部会に報告する制度概要案としては6月としておくのが適当ではないかと考えます。すなわち「A案」が妥当ということです。   検討課題にもありますように,社会内処遇に必要な期間を確保するということになりますので,改善更生とか再犯防止の効果が得られる期間が確保される方が望ましいとすると,それは期間を長くとるという方向に行くわけですけれども,他方で,やはり先ほどもありましたが,満期釈放者について保護観察に付されるということはないわけですので,仮釈放者についてこの仕組みを採るとしますと,残刑期間が法定期間より短いと,本来の満期日を超える期間を保護観察に付され続けるということになるわけで,この後の議論ですけれども,保護観察を途中で仮解除するという仕組みを設ければ,その負担はその部分については軽減されるのかもしれませんが,仮釈放の期間を短縮するというのは,なかなか難しいだろうと思われます。そうすると,取り消され得る期間,再収容の可能性がある期間というのは,法定期間をつないだ分だけ増えるということになり,満期釈放者とのバランスという問題が出てくると思われますので,それを最小化しつつ,改善更生も図られる期間というと,やはり「A案」としておくのが適当かなと思うところです。 ○今井委員 私も「A案」と思っておりますけれども,「1」の「(1)」の検討課題の「・」の二つ目,「残刑期間の長短に応じた期間とすべきか」という問題も,やはり重要な問題だと思いますので一言申し上げたいと思います。   仮に,例えばこの「A案」のようなものを採った場合ですけれども,その対象者の方の残刑期間が5月の場合と1月の場合とで考えますと,対象者の方にとって,残刑期間と仮釈放の期間の比率が大きく異なるということになりますので,そのバランスをどうとったらいいのか,やはり検討の課題にはなると思います。   現在,現行法の下では仮釈放の期間と残刑期間とが一致しておりますけれども,新たな制度を作って,仮に法定期間を「A案」に沿って6月としますと,残刑期間が5月の者に対して6月の社会内処遇をする。他方で残刑期間が1月の者に対しても同様に6月の社会内処遇をするということになりますと,対象者の方にとって,その6月の持つ意味合いが違ってくると思われます。   ただ,このような制度が仮にできた場合,どういう実務の運用になるのかを想定しますと,裁判所は,そういった新しい制度を前提として判決を言い渡すことになると思われます。そうした場合の量刑は,裁判時に後の仮釈放時の残刑期間を予測することはできませんので,刑期終了直前に仮釈放がなされた場合をも想定して,そうした場合でも当該被告人に不当な不利益が生じないような範囲で選択されたものと考えることができるのではないかと思います。したがいまして,仮に短い残刑期間で仮釈放がなされた場合であっても,そのことによって全体として見ますと対象者が不利益を被るわけではないように思われます。   また,再犯防止と改善更生を図るというのが,ここで考えられている期間を法定する趣旨ですので,先ほども申しましたが,残刑期間が短いからといって法定期間を連動して短くする,あるいは不要にするということにはならないのではないかと思われます。したがいまして,部会に報告する制度概要案としては,法定期間と残刑期間の長短とのバランスを重視する,そして残刑期間の長短に応じて法定期間の区分を設けるということは考えなくてもよいのではないかと思っているところです。 ○佐伯分科会長 今,事務当局に御提案いただいた「A案」と「B案」の中では,「A案」が妥当ではないかという御意見,それから,残刑期間の長短に応じた期間とすべきかについては,する必要はないという御意見を頂いておりますけれども,ほかの御意見はありますでしょうか。   この二つの点については,このぐらいで当面よろしいでしょうか。   それでは,次に,「(1)」の三つ目の「仮釈放の期間として法定期間の必要がない場合にどう対応するか」及び「(2)保護観察が不要な場合の対応」についての検討を行います。御発言がある方は挙手をお願いします。 ○保坂幹事 仮釈放の期間というのを,この法定期間とする仕組みを採る場合には,当然のことながら個別の受刑者の事情というのを考慮するのではなくて,あらかじめ一律の期間として設定されることになるわけですので,仮釈放がされて保護観察が進んでいったときに,その個別の事情を踏まえることができるように保護観察を途中で仮解除する仕組みというのは必要なのだろうと思われますが,他方で,仮釈放期間を法定期間から更に短縮するということについては,また別の問題があるように思われるところです。   すなわち,法定期間の仮釈放期間が不要である人というのは,元々問題が少なくて,割と社会内でも生活基盤が整っている人だと考えられます。そうしますと,実際仮釈放は割と早目に行われ,刑がすごく短期な人を除けば,相当の期間の仮釈放の期間というのが元々仮釈放の段階で確保されているということになり,結局,その法定期間による伸長がない,つまり法定期間を超えるような仮釈放期間が元々ある人ということになろうかと思われますので,したがって,実際のニーズとしても,仮釈放期間の短縮の措置というのを設ける必要はあるかという点は慎重に考える必要があるのだろうと思います。 ○橋爪幹事 私の方からも1点意見を申し上げますが,両者の問題には共通する側面があるように思いますので,併せて意見を申し上げたいと思います。   法定期間を確保することは,対象者の改善更生,社会復帰を支援するという意味におきましては,本人にメリットになる点も多いわけですけれども,本人に保護観察の負担を課すこと,また遵守事項違反があった場合については再収容の可能性があることに鑑みますと,飽くまでもその本質は刑の執行の継続でありまして,本人にとって不利益な処分であることは否定し難いように思います。そうしますと,この処分は,対象者の改善更生,社会復帰の必要性が高い場合に限って初めて正当化され得るように思われますので,必要性が失われた場合には,それを打ち切ることが望ましいということが,両者について共通の議論の出発点となるように思います。   もっとも,法定期間の必要がない場合の期間の短縮については,法的根拠との関係で課題が生ずるように思われます。すなわち,法定期間も飽くまでも仮釈放の期間の一部である以上,法定期間の短縮は刑事裁判によって確定された刑の執行期間の短縮を意味します。そうしますと,このような法定期間の短縮,すなわち刑期の事後的な変更,短縮の余地を認める場合には,誰が,またいかなる手続によってこれを判断するのかという問題が生ずるように思われます。これが刑の事後的な変更であることを重視するのであれば,やはり裁判所が関与することが望ましいと考えますが,裁判所が法定期間の短縮,打切りの要否を判断するということは,事実上困難であるように思われまして,前回まで検討してきた「A案」と同様の問題点が生ずるように思います。法定期間の短縮の可否については,このような観点を含め,慎重な検討が必要になると考えます。   これに対して,保護観察が不要な場合の対応ですけれども,これは,法定期間それ自体は存置した上で,保護観察のみを仮に解除する措置と理解しました。そうしますと,これは刑罰内容それ自体の変更,短縮ではありません。また,現行法においても,具体的には刑法第25条の2第2項,あるいは第27条の3第2項ですけれども,執行猶予の保護観察については行政官庁の処分によって仮解除することができることになっておりますので,本件制度の場合にも同様に,裁判所が介入することなく,専ら行政機関の判断によって保護観察の仮解除は可能であると思います。このような観点からは,保護観察の仮解除については積極的な方向での検討が可能であると思います。 ○保坂幹事 私も,保護観察が不要になってきた場合については,先ほど橋爪幹事がおっしゃったように,裁判所が関わらなくても行政官庁の判断で行うことができるのだろうと思います。法定期間を仮に6月ということで「A案」でいきますと,残刑期間を超える期間はそれほど長くなることはないのだろうと思われますので,本当に保護観察を打ち切らなければいけない事案というのがそれほど多くはないのかもしれませんが,先ほど御発言があったように,やはり負担が生ずる制度ですので,この一律の期間という仕組みを採る以上は,個別に応じてそれを仮解除するという制度を設けておくというのがやはり適当でしょうし,そういう良好措置があることによって改善更生の意欲が高まっていくという,副次的な効果もあろうかと思われますので,そういう制度の仕組みを設けておくことは必要だろうと思われます。 ○佐伯分科会長 ほかにはいかがでしょうか。この程度でよろしいでしょうか。   それでは,次に「(3)仮釈放の取消しの在り方」についての検討を行いますので,御発言がある方は挙手をお願いします。 ○保坂幹事 「(3)」の刑法第29条第3項の条文の定め方ですけれども,資料に書いていますように,「仮釈放の処分を取り消したとき・・・釈放中の日数は,刑期に算入しない」という規定になっているわけです。前提として,仮釈放が取り消された場合,現行法の下では残刑がその期間分執行されるということになっていますので,この法定期間を設ける仕組みの下でも仮釈放の取消しがあった場合には,残刑がそのまま,その期間執行されるという,そういう仕組みとすることを前提としますと,今の第29条第3項というのは,先ほど申し上げたように仮釈放中の日数は刑期に算入しないとなっていますが,これは仮釈放の期間と残刑の期間が一致しているから,こういう書き方によって,残刑がその期間全て執行されるという効果を生むのだと思われますけれども,この新たな仕組みで法定期間を作るということになりますと,残刑期間よりも仮釈放期間が長くなる場合,つまり仮釈放期間の日数と残刑期間の日数が対応しないということもありますので,第29条第3項の文言を何らか修正,改正するということが必要になってくるのではないかと思われます。 ○佐伯分科会長 ほかにはいかがでしょうか。   よろしいでしょうか。   それでは,次に「(4)仮釈放の期間経過の効果」についての検討を行いますので,御発言がある方は挙手をお願いします。 ○今井委員 資料の中で,この問題についての検討の回答として二つ,刑の執行の終了時期について,そのときとするか,あるいは残刑期間の末日とするかという御提案があるのですけれども,後者の方の考えでよいのではないかと思いますので,一言申し上げたいと思います。   仮釈放を取り消されることなく仮釈放期間を経過した場合,刑の執行の終了時期については,今申し上げたように2案が考えられると私も思いますが,今考えている法定期間というのは,仮釈放者の再犯防止と改善更生を目的として設定しようとしているものであります。そこで,社会内処遇の期間が確保されるのであれば,刑の執行の終了時期まで法定期間の末日に合わせる必要はないと思われます。また,残刑期間を超えての仮釈放の期間経過後に刑の執行を終わったことにしますと,その期間中の本人の負担に加えて,これまでも議論がありましたけれども,資格制限ですとか,あるいは執行猶予の適用,再犯加重の関係等でも,現行法の下よりも更に対象者に不利益なことがあり得るとも思われますので,そういったことを勘案して,政策的な観点ではありますが,仮釈放の期間経過時点において,将来に向かって残刑期間の末日,すなわち本来の満期日をもって刑の執行が終了するという整理がよいのではないかと考えております。 ○佐伯分科会長 ほかにはいかがでしょうか。刑の執行の終了時期については残刑期間の末日にするという御意見を頂きましたけれども,それと異なる御意見はございますでしょうか。   よろしいでしょうか。   それでは,次に「(5)刑の一部の執行猶予制度との関係」についての検討を行いますので,御発言がある方は挙手をお願いします。 ○今井委員 「(5)」のところで,資料に書かれているような制度を設けることの要否という問題提起ですが,私は基本的には要らないのではないかと思っておりますので,一言申し上げたいと思います。   御案内のように,刑の一部の執行猶予制度というものは,刑のうち一定期間を執行して施設内処遇を行った後に,猶予期間中は猶予の取消しがあるという心理的強制の下で社会内処遇を実施し,もって対象者の再犯防止,改善更生を図ろうとするものです。猶予の期間中に保護観察に付される場合は,既に一定期間,社会内で再犯防止及び改善更生を促すための期間が確保されているということになります。しかも,その期間は1年以上の期間とされておりますので,仮釈放について新たにここで法定期間を設けてまで社会内処遇を行う必要性はないのではないかと思われます。   また,実務的には,既に御説明があったかと思いますけれども,刑の一部の執行猶予の期間中は,幅広く,ほぼほとんどの場合だと思いますが,保護観察に付されているということですので,仮に保護観察に付されていない場合には,それは裁判所において自力での更生が期待できる対象者だと判断されている場合であろうと思います。したがいまして,そのような場合まで法定期間を設けて社会内処遇を行うという制度を設ける必要はないのではないかと思います。そのため,仮にこのような制度を設けるとしても,刑の一部の執行猶予が言い渡される場合について,この制度の対象とする必要があるかについては疑問があると思っております。 ○佐伯分科会長 ほかには御意見ございますでしょうか。   よろしいでしょうか。   それでは,「(6)制度の必要性及び相当性」についての検討を行います。   資料に掲げられたいずれの点からでも構いませんので,どの点かを明示していただいて,御発言がある方は挙手をお願いします。 ○青木委員 制度の必要性及び相当性についての意見ではないのですけれども,それについて意見を述べるに当たって,今議論されてきた,この制度の中身についての質問をしたいのですけれども,先ほど保坂幹事の方で満期釈放者とのバランスみたいなことを言われましたが,これは,満期釈放になる人に関しては,結局社会内処遇の期間は一切設けられないという前提の制度だという理解でよろしいでしょうか。 ○保坂幹事 そのようになろうかと思います。つまり,残刑が全く残っていないので仮釈放という余地がないわけです。そうしますと,延ばす,延びる法定期間も発生しないということになるので,満期釈放者には対応できないということになるかと思います。 ○青木委員 それから,仮釈放が取り消された場合についてなのですけれども,仮釈放が取り消された場合に再収容されるわけですが,そこで務める刑期というのは残刑期間という理解でよろしいのでしょうか。 ○保坂幹事 先ほど申し上げたとおり,現行法も残刑期間は残刑期間として残っていて,その期間執行されるということになっていますので,取消し可能期間は増えますけれども,残刑期間は別に増えるわけではなくて,元々ある残刑期間が執行されるという仕組みとする前提で先ほど御発言申し上げました。 ○青木委員 そうしますと,例えば1か月残して仮釈放になった人が,1か月を過ぎたところで遵守事項に違反して取り消されてしまえば,1か月務めたら,もうそこで満期釈放になって,その後社会内処遇は受けなくて済むということになる制度だという理解でよろしいのでしょうか。   要するに,「必要性」,「相当性」にも関連するのですけれども,例えば今の案でいうと,6か月間社会内処遇の期間を設けたいと思って仮釈放の期間を延ばすとしましても,結局その対象者が何らかの違反をして取り消されてしまって,残刑期間を務めて,それについてはもう満期釈放になるということになれば,結局社会内処遇の期間というのを確保するということにはならないのではないか。そういう制度だという理解でよろしいのでしょうかという質問です。 ○保坂幹事 今,青木委員がおっしゃったストーリーだとそうなるのですが,多分,この仕組みを考える趣旨というのは,青木委員が今挙げられた1か月の残刑ということで言うと,現行では1か月しか仮釈放期間がないわけですね。ところが,法定期間,仮に6か月としますと,1か月プラス5か月,トータル6か月の間,社会内処遇の期間が取れるということなので,その間,社会内処遇はできるという仕組みにはなるのだと思いますので,その違反があった場合に入ったら同じではないかという意味ではそうかもしれませんが,違いとしてはそこは違うのかなと思います。 ○青木委員 と申しますのは,結局,残刑期間が短い人というのは,仮釈放が認められにくかった人ということになるわけですよね。そういう人が違反をしないで6か月間,きちんと社会内処遇を受けるのだろうかというところもあって,そういう意味で,一応社会内処遇の期間を確保する制度と言いながら,満期釈放の人については適用にならないし,社会内処遇に素直に従わない人というんですか,そういう人についても余り効果はないという制度になってしまうのではないかという,「必要性」,「相当性」ということなのかもしれませんが,そういう制度になってしまうのではないかなという疑問を持ちましたということです。もっと根本的な疑問はありますけれども,それは置いておいて。 ○保坂幹事 では,「必要性」,「相当性」の私の意見を申し上げたいと思いますが,もとより採否は部会で決していただくので,分科会のマンデートというのは,その制度の概要を作るということだと思うのですが,「相当性」を考える上での材料を分科会できちんと課題として整理しておくという観点から申し上げますと,先ほど青木委員もおっしゃったように,満期釈放者については,対応できないわけですが,そのこととの比較で言いますと,やはり満期釈放者については保護観察に付されなくて,仮釈放者については,特に残刑期間が短ければ短いほど法定期間が増える部分とのバランスというのが,やはり負担感として出てくるのだろうと思われます。そういうことを考えますと,実情はよく分かりませんが,受刑者の人からすると,今の時点で仮釈放になるより満期まで務めた方が負担が少ないのではないかというようなことを考え始めてしまいますと,改善更生の意欲をそいでしまうという,そういうおそれもあるのではないかという点も踏まえて「相当性」を,その制度の採否については検討する必要があるのだろうと思われます。 ○橋爪幹事 私の方からも今後の検討のための大枠のようなことを申し上げておきたいと思いますけれども,本件制度は,社会内処遇に必要な期間を十分に担保することによりまして対象者の社会復帰を支援,促進し,もって再犯防止を図るというメリットを実現するものですけれども,同時に残刑期間を超える期間について保護観察を付すわけですので,対象者にとっては負担,不利益の要素を含むものです。   このように相反する利益の対立,拮抗状況が存在するわけですので,本制度の導入の可否については,何と申しましても前者の利益,すなわち社会復帰,再犯防止の利益が上回ることが必要になると思いますので,本件制度を導入するに当たっては,そもそも社会復帰,再犯防止が十分に実現され得る前提状況が整備されていることが不可欠の条件になってくるように思われます。   この点,あえて私見を申し上げますけれども,単に社会内処遇の期間を延長すれば,それだけで再犯防止等の効果が上がってくるわけではないように思います。飽くまでも社会内処遇の充実を図り,また社会内の十分な受け皿を担保することが,不可欠な前提として重要であるように思います。これらの前提条件が十分に整備されて,初めてこれらの制度の導入を検討することが可能になると考えます。   先ほどから問題になっていますように,本件制度の導入に際しては,満期釈放者とのアンバランスという問題も生じます。つまり,改善更生が困難であって,最も社会内処遇が必要とされるはずの者が,帰住先などを確保することができず,結果的には満期釈放になってしまって本件制度による支援を図ることができないという問題が生ずるわけです。個人的には,満期釈放者についても一定の法定期間を定め,社会内処遇を可能にするような制度が好ましいようにも思いますが,本件制度の枠組みの中ではやはり困難であるように思いますので,満期釈放とのアンバランスという課題が残ることについては今後も留意する必要があるかと思います。   本件制度の導入の当否については,これらの観点から更に慎重な検討が必要と考える次第です。 ○佐伯分科会長 ほかにはいかがでしょうか。   よろしいでしょうか。   それでは,次に,「2 現行の仮釈放制度の積極的活用」についての検討を行います。   これまでの議論を敷衍した御意見でも結構ですし,違った観点からの御意見でも結構ですので,御発言がある方は挙手をお願いします。   これまでの分科会で御発言いただいた御意見以外に,本日の時点では御意見はないということでよろしいでしょうか。   それでは,配布資料26に記載されている検討課題について一通り検討を行いましたが,そのほか,「社会内処遇に必要な期間の確保」について現時点で御意見がある方は挙手をお願いします。   よろしいでしょうか。   それでは,「社会内処遇に必要な期間の確保」についての検討はこの程度としまして,本日の二つ目の論点である「若年受刑者に対する処遇原則の明確化,若年受刑者を対象とする処遇内容の充実,少年院受刑の対象範囲及び若年受刑者に対する処遇調査の充実」についての検討を行います。   まずは,事務当局から,資料の説明をお願いします。 ○玉本幹事 本日,若年受刑者に対する処遇の明確化等に関する資料として,配布資料27「若年受刑者に対する処遇原則の明確化,若年受刑者を対象とする処遇内容の充実,少年院受刑の対象範囲及び若年受刑者に対する処遇調査の充実(検討課題等)」を配布しています。   配布資料27について御説明します。   配布資料27は,事務当局において,これまでの当分科会における御議論を踏まえつつ,技術的な観点から,現時点において考えられる制度の概要や検討課題を整理し,更なる検討に資するためのたたき台として作成したものです。   第1の「若年受刑者を対象とする処遇内容の充実」については,若干の記載ぶりを整理したほかは,前回会議における配布資料と同じ内容のものとしています。   第2の「若年受刑者に対する処遇調査の充実」については,これまでの当分科会の御議論を踏まえ,「考えられる施策・制度の概要」の「1」の「①」及び「②」として「処遇調査の充実」の具体的な内容を記載しています。   また,「考えられる施策・制度の概要」の「2」の「少年鑑別所の鑑別機能の活用」については,若干の記載ぶりを整理したほか,前回会議における配布資料と同じ内容ですが,年齢の上限について,具体的な上限年齢をどうすべきか,上限に幅を持たせて柔軟な運用を可能とするかの2点が問題となり得ると考えられることから,これらを検討課題として記載しています。   第3の「若年受刑者に対する処遇原則の明確化等」については,これまでの当分科会の御議論を踏まえ,「考えられる制度の概要」の「1」では「若年受刑者に対する処遇原則」について,「2」では「受刑者に対する社会復帰支援」について,検討のためのたたき台として記載しています。その趣旨などについては,それぞれの検討の際に改めて御説明します。   検討課題についてですが,「1」の「若年受刑者に対する処遇原則」については若年受刑者の範囲や,処遇原則の具体的な内容が,「2」の「受刑者に対する社会復帰支援」については,支援の内容や実施方法が,それぞれ検討の対象となると考えられることから,これらを記載しているところです。   配布資料27の説明は以上です。 ○佐伯分科会長 ただいまの御説明に,この段階で御質問や,ほかにも検討課題等があるのではないかといった御意見のある方は挙手をお願いします。   よろしいでしょうか。   それでは,配布資料27に沿って,若年受刑者に対する処遇原則の明確化等についての検討を行います。   「第1 若年受刑者を対象とする処遇内容の充実」については,当分科会第7回会議で,その内容と法整備が不要であるとの点について,差し当たり当分科会としての結論を出しましたので,本日は,「第2 若年受刑者に対する処遇調査の充実」から検討を行いたいと思いますが,それでよろしいでしょうか。                 (一同異議なし)   それでは,「第2 若年受刑者に対する処遇調査の充実」について,考えられる制度の概要,検討課題いずれの点からでも構いませんので,どの点かを明示していただいて,御発言がある方は挙手をお願いします。 ○橋爪幹事 1点申し上げます。「1」については,法整備は不要であると前回伺ったと思いますので,ここでは「2」の問題につきまして一言申し上げたいと思います。   精密な鑑別調査を実施することによって個々の受刑者の問題点を適切に把握することは,若年受刑者に対する処遇の充実を図る上で重要な意義があると思いますので,このように対象年齢の引上げそれ自体については恐らく御異論はないように思います。   問題は,具体的に何歳まで引き上げるべきかという点であるかと思います。この点について,私自身が以前の分科会で,現行法上の法令上の根拠を一つの目安として,23歳,あるいは26歳という線引きがあり得ることを申し上げたところですが,本日の検討課題の中にも23歳,26歳という数字を御提示いただいております。この問題については,理論的な観点からだけではなくて,現在の矯正実務の現状を踏まえた検討が必要であるかと思いますので,まずは,23歳,26歳という年齢の持つ意義について,実務的な観点から御説明いただければと思います。 ○大橋幹事 刑事施設においては,現在,可塑性を期待した矯正処遇を重点的に行うことが相当と認められる26歳未満の成人を「Y指標」に指定して処遇をしております。また,少年院においても,適用例は極めて限られておりますけれども,精神に著しい障害があり,医療に関する専門的知識及び技術を踏まえて矯正教育を継続して行うことが特に必要であるため,収容を継続することが相当であると認められる場合に,26歳まで収容継続が可能であるとされております。   一方,少年院においては,心身に著しい障害があり,又はその犯罪的傾向が矯正されていないため収容を継続することが相当と認められる場合には,23歳になるまで収容継続が可能となっております。こちらの例については,先ほどの26歳までの収容継続と異なり,実務上も比較的行われているものです。   矯正実務においては,26歳未満の若年者については,一般的に可塑性に富む場合が多い年齢層であるということから,若年であることによる特性に応じた処遇を行うことが必要であり,かつ,高い処遇効果を期待できると考えまして,再犯防止や社会適応力の育成等のため,職業訓練や各種指導を重視して処遇に当たってきた経緯があります。   このような処遇を効果的に実施していくためには,犯罪に結び付く資質面及び環境面の背景事情等を明らかにすることが重要であると考えられますけれども,受刑者が処遇を受ける刑事施設については,少年鑑別所と比較すると,詳細な調査を行うための体制が十分に備わっていない場合があります。   また,刑事施設と少年鑑別所とでは蓄積されているノウハウや実例に違いがありまして,特に若年受刑者に対する調査については,少年鑑別所が豊富に実績を有する若年者の調査・分析の知見・技術等を活用することによって,その者の問題性等を詳細に明らかにし,その結果を踏まえた処遇を実施することが可能になると考えられます。 ○橋爪幹事 ありがとうございました。   今のお話を伺っておりますと,23歳,26歳いずれも重要な基準であると理解しましたけれども,飽くまでも現在,若年受刑者に対する処遇調査の問題を議論しているわけですので,刑事施設における矯正処遇の指標とされている26歳という基準が重要であるような印象を持ちました。   また,今伺ったように,26歳未満の者については一般的に可塑性に富んでおり,その特性を重視した処遇の必要性が高いこと,したがって少年鑑別所の調査・分析のノウハウを活用する必要性が高いことに鑑みますと,やはり26歳を基準とすることに一定の合理性があると考える次第です。   また,別の観点から1点申し上げますけれども,対象年齢の引上げ自体が正当な方向にあると考えるのであるならば,その範囲を余り限定的に考えることは好ましくないように思われますので,このような観点からも,少なくとも26歳の者までは含み得るかたちで,引上げを検討することが適切であると考えます。 ○保坂幹事 私も,26歳程度が対象に入るようにするというのは,それが適当なんだろうと思いますが,他方で,現行法では20歳未満ということになっていますので,6歳程度年上の人までが対象になるということになりますと,少年鑑別所での実務から見た場合,それに対する対応というのが可能なのかどうか,この点を事務当局の方から御説明いただければと思います。 ○大橋幹事 少年鑑別所においては,従来から,成人の少年院在院者に対する処遇鑑別,あるいは成人の保護観察対象者に対する心理検査,カウンセリング等を相当数実施しておりますので,既に成人の若年者に対する鑑別の知見やノウハウ等を有しています。鑑別の対象年齢の上限を御指摘のように引き上げたとしましても,その対応に支障が生ずることはないと考えております。 ○佐伯分科会長 ほかにはいかがでしょうか。   よろしいでしょうか。   それでは,次に「第3 若年受刑者に対する処遇原則の明確化等」のうち,「1」の「若年受刑者に対する処遇原則」についての検討を行います。   議論の参考とするため,まず,たたき台を作成した事務当局から,「考えられる制度の概要」に記載されている内容の趣旨等について,御説明をお願いします。 ○大橋幹事 配布資料27の「第3」,「1」の「若年受刑者に対する処遇原則」ですけれども,これまでの当分科会での御議論を踏まえて,検討のたたき台として,案をお示ししております。現在ある受刑者一般の処遇原則においても,個々の受刑者の資質及び環境に応じて処遇を行うこととする,いわゆる個別処遇の原則を採ることとされております。しかしながら,受刑者全般について考慮すべき「資質及び環境」の具体的内容としては,年齢のみならず,極めて多種・多様な要素が含まれ,この「資質及び環境」に応じて処遇するという受刑者一般の処遇原則のみでは,若年であることに焦点を当てた処遇の充実を図る上で必ずしも十分とは言えないのではないかと考えております。そのため,若年受刑者に特化した処遇の原則に関する明文規定を設けることにより,刑事施設において若年受刑者に対する処遇を充実させる取組が確実に推進されるのではないかと考えております。   「若年受刑者」の範囲については,対象とする年齢を明確に規定する内容とはしておりません。これは,若年受刑者に対する処遇については,年齢のみならず,その者が有する個々の事情に応じて様々な手法及び内容が考えられるため,上限となる年齢のみをもって一律に対象範囲を画すると,柔軟な運用に支障を生ずるおそれがあることなど,若年受刑者の処遇充実の観点から相当ではないと考えているためです。   「その者の資質及び環境に応じた処遇を行うに当たって」としていますのは,刑事収容施設法の受刑者一般の処遇原則である,「受刑者の処遇は,その者の資質及び環境に応じて行う」という点を踏まえたものです。   処遇に当たって踏まえるべき考慮事項としては,「その者の年齢,精神的な成熟の程度その他若年であることに伴う個々の事情」としています。   考慮事項を踏まえて選択する「その者の問題性の改善に資する手法及び内容」については,例えば職業訓練や各種指導を優先的・重点的に実施することなど,これまでの当分科会で御議論いただいた処遇内容が考えられるというところです。 ○佐伯分科会長 ただいまの御説明に対する御質問でも結構ですし,考えられる制度の概要,検討課題いずれの点からでも構いませんので,どの点かを明示していただいて,御発言がある方は挙手をお願いします。 ○今井委員 ただいまの大橋幹事の御説明,私も基本的に賛成ですが,「若年受刑者」ということについて一言申し上げます。   大橋幹事の御説明の中で,「若年受刑者」の範囲については,特に明確に規定する内容とはなっていないということと,その理由について御説明がありました。基本的に私も賛成するものです。そもそも今考えているのは,個々の対象者に着目した処遇を適切に更に運用していくことでありますけれども,対象者の方の年齢,精神的な成熟の程度等の個々の事情はそれぞれ様々であるということは,容易に想像できるところです。そうした個々の問題,個々人の問題性と,その改善を図るための処遇の手法,内容もまた様々であろうと思いますので,一律に今,入口で対象を年齢で区切ることは必ずしも適切ではないと考えます。   本原則は,若年受刑者に対して特別な処遇を充実させていこうということ,それに加えて,若年受刑者の抱えている個々の事情を踏まえた処遇の手法,内容を選択可能にすることを規定するものですので,そういった趣旨を考えますと,対象者に関して明確にその年齢を規定してしまうよりは,ある程度外延に幅を持たせるような規定ぶりでも問題はないだろうと思いますし,繰り返しになりますが,年齢で一律に画さず,柔軟な処遇ができるような入口を設けておくことが趣旨に合うのではないかと思います。   したがって,先ほど大橋幹事の御説明にあったように,若年受刑者の範囲を年齢で明確に区切らない方がよいのではないかと思う次第です。 ○青木委員 趣旨としてはこのとおりで結構だと思うのですが,若干引っ掛かりますのは,今の案の中の最後の部分,「その者の問題性の改善に資する手法及び内容とするように努めるものとする」というのがあるのですけれども,これは別に若年受刑者に限らず必要なことなのだろうと思うのですね。今の受刑者の処遇の原則として,先ほど言われた条文の中にはこの部分はなくて,この「若年受刑者に対し」ということでこれを入れてしまいますと,では,それ以外の人については,問題性の改善に資する手法及び内容とするように努めるものとしなくてよいのかとなってしまっても困りますし,実際には今もそういう観点で処遇をされていると思うので,この書き方として「その者の年齢,精神的な成熟の程度その他若年であることに伴う個々の事情を踏まえ」はいいのですけれども,それがここの「問題性の改善に資する手法及び内容とするように努めるものとする」というところに掛かる形ではない形の規定の方がよいのではないかと思いました。   例えば,今の刑収法の中に,むしろ「問題性の改善に資する手法及び内容とするように努めるものとする」ということを入れてしまって,その若年受刑者に対しては,特にこういうことについての個々の事情を踏まえるべきだというような書き方にするとか,まだ具体的なところまでは考えていませんけれども,もう少し書き方を変えた方がよいのではないかと思いました。 ○橋爪幹事 別の観点でよろしいでしょうか。あえて細かい解釈論を申し上げたいと思いますけれども,この明文規定の2行目以下ですけれども,具体的に考慮すべき事項として,「その者の年齢,精神的な成熟の程度その他若年であることに伴う個々の事情を踏まえ」という文言があります。この文言の意義・解釈につきまして2点御質問申し上げたいと思います。   第1点ですが,あえて年齢や精神的な成熟の程度について明示的に列挙している趣旨です。年齢を特に明示することは当然ですけれども,精神的な成熟の程度を特に掲げた趣旨について御説明をお願いします。   第2点ですけれども,今度はその他事項ですが,「その他若年であることに伴う個々の事情」という包括的な条項です。この「個々の事情」として具体的に想定されている内容についてお教えいただけますと幸いです。 ○大橋幹事 ここに掲げております「精神的な成熟の程度」については,若年受刑者には,その精神面の発達の程度や社会生活上の経験の多寡などに応じ,類型的に自主的・自律的に行動する能力,自己の感情等を制御する能力,適切なコミュニケーションにより人間関係を築く能力などが未熟な者が相応にいると考えられる一方で,必ずしも未熟とは言えない者もいると考えられますので,処遇に当たり,それらの能力等の程度についても考慮要素の一つとすることが必要ではないかと考えたものです。   次に,「その他若年であることに伴う個々の事情」ということについては,性格,経歴,身体の状況,犯罪の状況,家庭環境,交友関係などの事情が挙げられると考えております。例えば,その場の状況や交友関係によって流されやすいこと,他者の評価を過度に気にすること,社会的経験の不足により,社会人として必要な常識,知識,技術などが身に付いていないこと,身体の発達・発育段階にあること,それから経済的に自立していないこと,家族関係が及ぼす影響が大きいことなど,個々の具体的事情を考慮することを考えております。 ○橋爪幹事 ただいまの御説明を伺いまして,1点感想を申し上げます。   ここでは飽くまでも若年受刑者全般に広く当てはまる処遇原則の規定ぶりが問題になっておりますところ,ただいまお伺いしましたように,個別の対象者にとって重視すべき要素は当然異なってくるわけです。したがいまして,原案のように重要な観点のみを明示した上で,それ以外の要素については包括的に規定するという規定形式には十分な合理性があると思いました。   また,今伺いましたように,精神面の発達や成熟の程度が処遇方針を決定する上では最も重要であることは明らかでしょうから,これを特に明示することについても十分な理由があると考える次第です。 ○保坂幹事 先ほど青木委員からも指摘のあった「その者の問題性の改善に資する手法及び内容とする」というところですけれども,先ほど事務当局からの御説明では,今の処遇原則の一般的な原則の中で,個別処遇として資質及び環境に応じた処遇を行うとなっているところを前提として,この今の明文の規定のたたき台が示されているということでしたので,ここに「問題性の改善に資する手法及び内容とする」と書いたからといって,ほかの受刑者にそれをしないという反対解釈を生むことはないのかなと思われますが,いずれにしても,「問題性の改善に資する手法及び内容」というのがどのようなものを想定するのかというところを共通認識として持っておいた方がよろしいかと思われますので,先ほど職業訓練とか各種指導を優先的・重点的に実施するというお話がありましたが,もう少し具体的に,それぞれ手法とはどのようなイメージで,内容とはどのようなイメージなのかを御説明いただけるとよろしいかと思いますので,お願いします。 ○大橋幹事 ここに示しております「その者の問題性の改善に資する手法及び内容」ということのうち,採り得る「手法」としましては,この配布資料27の「第1」にあります「若年受刑者を対象とする処遇内容の充実」の中に考えられる施策の概要としても入っておりますけれども,例えば,少年院と同様の建物・設備を備えた施設に収容して,小規模の集団において職員との信頼関係をベースとした少年院のような処遇を行うこと,それから,少年刑務所等においても,教育的処遇が効果的であると思われる若年受刑者を小集団に編成して,きめ細やかな指導が可能な体制の下で,個別指導や日記指導などを含めた処遇などを行うことなどが考えられます。   また,採り得る処遇の「内容」としましては,例えば,少年院の矯正教育において実施されている「暴力防止指導」,「交友関係指導」,体系的に実施されている職業生活設計指導等をモデルとした改善指導のプログラムや,就労に資する指導を実施するなど,改善指導や職業訓練の充実を図ること,生育歴などから,健全な社会生活を送るために必要な基本的な生活習慣,生活技術,対人関係等が身に付いていない者に対しては,それらを習得させるための指導を中心とした育成的な処遇を実施すること,知的障害や発達障害を有する者,対人スキルに問題を有する者に対しては,少年院において実施している能力開発指導・治療的指導をモデルとして特性に配慮した処遇を実施すること,修学を希望する者に対しては,高等学校卒業程度認定試験の合格に向けた集中的な教科指導を実施するなど,学習の継続・学歴の取得に向けた指導・支援を実施すること,家族との関係調整が円滑な社会復帰を果たす上で必要な者に対しては,親,配偶者などとの家族関係の調整に係る指導のほか,父親・母親教育等,家庭内での適切な役割を果たしていくための指導を実施することなどが考えられます。 ○佐伯分科会長 ほかには御質問,御意見等ありませんでしょうか。   よろしいでしょうか。   それでは,最後に「2」の「受刑者に対する社会復帰支援」についての検討を行います。   議論の参考とするため,まず,たたき台を作成した事務当局から,「考えられる制度の概要」に記載されている内容の趣旨等について,御説明をお願いします。 ○大橋幹事 「第3」の「2」の「受刑者に対する社会復帰支援」について御説明申し上げます。   まず,この規定を設ける趣旨ですけれども,これまで当分科会で御議論いただきましたとおり,刑事収容施設法制定以降,釈放後に自立した生活を営む上での困難を有する受刑者に対して必要な支援等を行うことの重要性が高まっておりますことから,刑事収容施設法に社会復帰支援に関する規定を設け,刑事施設の長の責務として社会復帰支援を実施していくことを明確にすることにより,刑事施設において受刑者に対する社会復帰支援の取組をより一層推進しようとするというものです。   これについては,もちろん若年受刑者もそうですけれども,受刑者一般に適用される規定と考えております。これまでの当分科会での御議論を踏まえまして,現在,少年院法第44条にこのような規定がありますけれども,この規定を参考にしながら検討のたたき台としてお示ししているものです。   まず,その内容といたしまして,その「(1)」のところで「その意向を尊重しつつ」とありますのは,社会復帰支援はその性質から強制的に行うということにはなじまないものですので,受刑者本人の意向を尊重しつつ行うという趣旨です。   社会復帰支援の内容として,「①」から「④」まで四つ掲げております。   まず,「①」の「適切な住居その他の宿泊場所を得ること及び当該宿泊場所に帰住することを助けること」というような,出所後の居住の確保の支援をするということです。   それから,「②」の「医療及び療養を受けることを助けること」としては,例えば釈放後に通院等が可能な医療機関を見つけることや,精神障害者保健福祉手帳や療育手帳の取得に必要な手続を執ることができるように援助することを想定しております。   「③」の「就業又は修学を助けること」としては,例えば,就労を希望する受刑者に対するキャリアコンサルティング,公共職業安定所との連絡調整,事業主による面接の便宜を図ることなどの就労支援を行うこと,また,入学試験,あるいは高等学校卒業程度認定試験を受けさせるための便宜を図ること,学習の継続のため在籍学校との調整を行うことなどを想定をしております。   これら以外の「④」の「受刑者が健全な社会生活を営むために必要な援助を行うこと」としては,例えば,福祉サービスを受けることを助けること,あるいは,釈放後に参加予定の民間支援団体との必要な連絡調整に便宜を図るなどを想定しています。   これらの社会復帰支援は,基本的に刑事施設内で行われることとなると考えられますけれども,刑事施設内のみでは適切な社会復帰支援を行うことができない場合がありますので,「(2)」として,「その効果的な実施を図るため必要な限度において,刑事施設の外の適当な場所でこれを行うことができる」としております。   また,社会復帰支援は保護観察所の長による受刑者に対する生活環境の調整と重なり合う部分があることから,保護観察所の長と連携を図るように努めるということで「(3)」をお示ししております。 ○佐伯分科会長 それでは,「2」の「受刑者に対する社会復帰支援」について,ただいまの御説明に対する御質問でも結構ですし,考えられる制度の概要,検討課題のいずれの点からでも構いませんので,どの点かを明示していただいて,御発言がある方は挙手をお願いします。 ○今井委員 意見というよりは,大橋幹事から御説明がありましたたたき台について賛成する旨でして,その趣旨を重ねて述べたいと思います。   この案の中で,対象者が釈放後に自立した生活を営む上での困難を有する受刑者とされていることについては,基本的には私もこれで結構だと思います。また,その後に引き続きまして,その意向を尊重しつつ,以下の支援を行うものとされていることも適切だと思います。   受刑者は,多かれ少なかれ困難を抱えていると思いますので,彼又は彼女の意向を十分尊重して幅広く支援を行っていくということが,やはり基本的に採るべきスタンスだろうと思います。   その上で,この案では「①」から「④」まで,「④」は包括的なものですけれども,「①」から「③」まで,とても重要と思われる支援対象が規定されております。4点目のところでまとめてというものもあるのでしょうが,受刑者が健全な社会生活を営むために必要な援助を行うことと規定されております。大体これで,「①」から「③」に仮に欠けるものがあっても,「④」で救えるのであろうと思いますし,適切だろうと思います。   ここに書かれております案は,先ほども言及されましたけれども,社会復帰支援を規定した少年院法第44条と同趣旨だと私も理解しました。少年院法第44条と,今回考えております受刑者とでは,基本的に支援をしていく際の行い方,あるいは目線というものは同じであろうと思います。その上で,ですが,若年受刑者の方の社会復帰を支援するに当たっては,少年院において行われてきましたきめ細やかな支援内容を十分参考にして,処遇内容の充実ともあいまって,実際上の効果が上がることを期待しているところです。 ○保坂幹事 少年院法の第44条を御参考になさったということでしたので,こういう規定が適切なのだろうと思うわけですけれども,「(2)」のところで,刑事施設の外の適当な場所で支援を行うことが必要な限度でできるということでして,先ほどの御説明の中でも,基本的に施設内なのだけれども,施設内では適切な社会復帰支援を行うことができない場合もあるので,こういう規定をたたき台としてお示しになったということでした。その刑事施設の外の適当な場所での支援というのは,イメージとして,どこでどのようなことが想定され得るのかという点も併せて御説明いただければと思います。 ○大橋幹事 刑事施設の外で行う社会復帰支援としましては,例えば釈放後の帰住先,更生保護施設にもし帰住するとすれば,その更生保護施設に赴かせる,あるいは就職を予定している場合については,その就職予定の事業所に赴かせて,釈放後の生活設計に必要な具体的な情報を入手,あるいは確認をさせるということ,また,公共職業安定所に赴かせて,就労に向けたいろいろな準備を行わせるというようなことなどが考えられると思います。 ○保坂幹事 社会復帰ということですので,先ほどおっしゃったような帰住地とか就職予定の事業所に赴くなど,実際に行ってみるということは社会復帰にとっては重要だろうと思いますので,もとより対象者の資質なども踏まえる必要があろうかと思いますが,そういう施設外でこういう支援を実施するという機会があった方が,効果的な社会復帰支援に資するのだろうと思われます。 ○佐伯分科会長 ほかにはいかがでしょうか。この程度でよろしいでしょうか。   それでは,ここまでで配布資料27に記載されている検討課題について一通り検討を行いましたが,そのほか,若年受刑者に対する処遇原則の明確化等について現時点で御意見がある方は挙手をお願いします。   現時点ではないということでよろしいでしょうか。   それでは,「若年受刑者に対する処遇原則の明確化等」についての本日の検討は,この程度としたいと思います。   本日は,「社会内処遇に必要な期間の確保」及び「若年受刑者に対する処遇原則の明確化,若年受刑者を対象とする処遇内容の充実,少年院受刑の対象範囲及び若年受刑者に対する処遇調査の充実」について検討を行いましたが,これらの論点について,現時点で更に御意見がある方がいらっしゃれば挙手をお願いします。   よろしいでしょうか。   それでは,本日の議論はこれで終了としたいと思います。   次回は,「刑の全部の執行猶予制度の在り方」や「自由刑の在り方」などの論点について検討を行うこととしたいと思います。   次回の日程について,事務当局から説明をお願いします。 ○玉本幹事 次回の日程について申し上げます。   次回の当分科会の会議は,6月26日火曜日午前10時から予定されています。場所は,この建物の15階にある会議室となります。 ○佐伯分科会長 本日の会議の議事については,特に公表に適さない内容に当たるものはなかったと思われますので,発言者名を明らかにした議事録を公表することとさせていただきたいと思いますが,よろしいでしょうか。                 (一同異議なし)   それでは,そのようにさせていただきます。   本日は,どうもありがとうございました。 -了-