法制審議会 少年法・刑事法 (少年年齢・犯罪者処遇関係)部会 第2分科会第9回会議 議事録 第1 日 時  平成30年6月7日(木)     自 午後 1時26分                          至 午後 4時08分 第2 場 所  東京地方検察庁刑事部会議室 第3 議 題  1 罰金の保護観察付き執行猶予の活用について         2 若年者に対する新たな処分について         3 その他 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○羽柴幹事 ただいまから法制審議会少年法・刑事法(少年年齢・犯罪者処遇関係)部会第2分科会の第9回会議を開催します。 ○酒巻分科会長 本日も,御多忙のところ,お集まりいただきありがとうございます。   本日は,滝澤幹事,保坂幹事は所用のため欠席されています。   そこで,充実した審議のため,保坂幹事に代わり,本日は,玉本幹事に御出席いただいています。   次に,前回と同様ですが,福島幹事から,「若年者に対する新たな処分」の論点については,澤村幹事が出席し,発言することが充実した分科会の審議に資するとの申出がございましたので,「若年者に対する新たな処分」の論点につきましては,福島幹事に代わって澤村幹事に出席していただくこととします。   また,「若年者に対する新たな処分」の審議におきましては,刑事裁判の実務や量刑の実情等について御質問があったとき等に適切に対応していただくために,この論点については福島幹事にも御出席をお願いしたいと思います。   それでは,まず,初めに,事務当局から,資料について説明をお願いします。 ○羽柴幹事 本日,配布資料として,配布資料19「若年者に対する新たな処分(検討課題等)(5)」,配布資料20「平成28年に少年院を出院した者(出院時18歳以上の者)のうち,在院期間が133日以下であるもの」を配布しています。   また,当分科会の第7回会議で配布した配布資料14を再度配布しています。   配布資料の内容につきましては,後ほど意見交換の際に御説明します。 ○酒巻分科会長 それでは,審議に入ります。   まず初めに,本日の進行ですが,前回の会議では,「宣告猶予制度」及び「若年者に対する新たな処分」の意見交換を行いましたが,「若年者に対する新たな処分」につきましては,毎回意見交換を行うことにいたしました。   そこで,本日は,まず,「罰金の保護観察付き執行猶予の活用」についての意見交換を行った後,「若年者に対する新たな処分」の意見交換を行いたいと思います。   このような進め方でよろしいでしょうか。               (一同異議なし)   それでは,まず,「罰金の保護観察付き執行猶予の活用」について,意見交換を行います。   本日は,第7回会議で配布した配布資料14を再度お配りしております。   議論に先立ちまして,この資料に記載された「検討課題」につきまして,第7回会議の結果も踏まえた形で,事務当局から改めて説明をお願いしたいと思います。 ○羽柴幹事 配布資料14について御説明します。   配布資料14は,「罰金の保護観察付き執行猶予の活用」について,「検討課題」を「1 活用に適する事案・対象者」,「2 活用に適する事案・対象者の判断方法」,「3 活用するための課題」,「4 活用するための法改正の要否・内容」の四つの項目に分けており,これまでに4回にわたって,各項目に記載の点を中心に御議論いただきました。   その後,第7回部会において,罰金の保護観察付き執行猶予が活用されることになるのか疑問視する意見も示されたところです。   その点も踏まえ,更にこれらの「検討課題」について議論を深めていただく必要があろうかと思われますので,本日も同じ資料を再度配布させていただいております。 ○酒巻分科会長 それでは,配布資料14に沿って意見交換を行います。   なお,先日の分科会でもお伝えしたとおり,各論点に関する検討項目の残された課題につきまして,詰めの検討を行い,部会において制度の採否,あるいは具体的内容についての議論を一層深めることができるように,制度概要案を作成するとともに,部会における議論に資するように検討課題の整理を行う必要があります。   このような点も踏まえていただき,配布資料14の「1 活用に適する事案・対象者」について,これまでの議論を敷えんした御意見のほか,違った観点からの御意見でも結構ですので,御意見のある方は,挙手をお願いします。 ○池田幹事 これまでの議論によりますと,罰金相当事案のうち,罰金の保護観察付き執行猶予の活用に適する事案については,その活用を図るということが考えられますが,その活用の対象となる者の年齢を制限する理由はないものと思います。   他方で,これは質問になるのですが,当分科会の課題であります18歳及び19歳の者が少年法の保護処分の対象とならなくなった場合の刑事政策的措置という文脈に照らして考えまして,一般的に若年者であることで,保護観察の効果が期待できるかということについて,事務当局にお伺いしたいと思います。 ○今福幹事 以前にも御説明したところではございますが,保護観察の基本は個別処遇であり,その処遇効果は対象者の資質,環境などによって異なりますし,保護観察の号種によっても異なるため,特定の年齢の対象者について処遇の効果が上がりやすいと一概に申し上げることはできません。その上で,現行の保護観察処分少年,あるいは少年院の仮退院者に対する保護観察の実情を踏まえて,実務の観点から申し上げたいと思います。部会第3回の古山氏のヒアリングにおいて,「若年者については,先のことをよく考えないで一時的な享楽のために逸脱行動に及ぶ者もいる」との御指摘もございましたが,そういった観点からしますと,保護観察に適合するか否かの判断は慎重に行う必要がありますが,一般的に申し上げますと,若年の対象者の多くは未成熟かつ可塑性に富んでいるために,こういった特性に配慮した指導監督,補導援護がなされる場合には,他の年齢層の保護観察に比べて相応の効果が見られることも,経験上少なくないと承知しております。 ○池田幹事 どうもありがとうございました。   御説明いただいたところを踏まえますと,この罰金の保護観察付き執行猶予の活用に適する事案・対象者の判断に当たっても,対象者が若年者であることは,一般的には,活用を積極的に図る方向で考慮する要素の一つだということができるように思います。 ○加藤幹事 先ほど,第7回部会の御意見の御紹介の中で,罰金の保護観察付き執行猶予が活用されることになるのか疑問視する御意見もあったという紹介がありましたが,これまでの当分科会での議論を踏まえると,罰金の保護観察付き執行猶予の活用を図る事案,あるいは対象者という観点から,例えば次のような要素について,活用を図り得る対象と考えられるのではないかとの観点から意見を申し上げます。   すなわち,一つは同種前歴を有するなど,一定の期間を掛けて指導監督を行わなければ,同種再犯のおそれが大きいと認められるものが罰金刑になっている場合だと思われます。   また,二つ目の要素として,対象者に改善更生の意欲が喚起される可能性があって,かつ犯行に至った要因等に照らして,効果的で確立した処遇プログラムがあるなど,その保護観察に付することによって処遇効果が見込まれるものが罰金刑となっている場合ではないかと思われます。   さらに,三つ目の要素として,罰金額の多寡,あるいは対象者の資力等に鑑みて,執行猶予の取消しを免れようとする心理的強制力が相応に働くと認められる,すなわち,ある程度の金額の罰金刑が科される場合に,より有効に機能するのではないかと思われるところです。   これが全部当てはまるような具体例を考えてみますと,飽くまでイメージですが,被疑者の粗暴癖が原因となっている傷害事件などで,その粗暴癖を改善しない限り,同種再犯に及ぶリスクは大きいけれども,被疑者が自身の粗暴性に気付いていて,暴力防止プログラムを実施すれば再犯リスクが低減することが期待される場合で,かつ当該事案における罰金額の多寡のほか,対象者の資力等から,相応の心理的強制力があると認められるのであれば,罰金を直ちに科すよりも,保護観察に服させて暴力防止プログラムを実施するなどしつつ,その改善更生を見守るとすれば,その保護観察が有効に機能して再犯防止に資するものがあり得るのではないかと思われます。無論これは作ってみた典型例でして,今申し上げた要素を考慮して,そこに考慮できるものがあれば,そのほかの場合でも広く活用することを考えるべきなのですが,活用できる場面というのはあり得るのではないかと考えます。 ○山﨑委員 今のお話の関連で,どこまで心理的な強制力が働くかということとの兼ね合いなのですが,今おっしゃったような,例えば暴力防止プログラムが,実際にどのぐらいの期間,回数で実施され,どういった内容のことをやっているのか,突然の質問で申し訳ないのですが,可能な範囲でお答えいただければと思います。 ○今福幹事 現在行っている暴力防止プログラムは,五つの課程からなっておりまして,それを受講していく形で進めております。その対象者は,いわゆる殺人,傷害などの暴力犯罪の対象者であり,それを繰り返している傾向がある者です。   このプログラムは,認知行動療法に基づいたものです。ワークブックを用いて,自分の暴力的傾向について,まず分析させて,怒りや暴力につながりやすい考え方,これをまず把握させて,その変容,そして暴力の将来的な防止に必要な知識の習得を促していくような中身です。また,再び暴力を起こしそうな危機場面がどういうものであるのかを特定させて,それに対する対処の方法はどうなのか,あるいは対人関係の持ち方というもののスキルの部分などについて,具体的に考えさせながら進めています。   その方法としては,ロールプレイの手法を使ったりします。現在は,個別処遇という形で進めていますけれども,対象者が多くいる状況で体制が整えば,集団処遇の形で進めることも考えられます。5つの課程を2週間に一回ぐらいの頻度で実施し,最終的には個別具体的な再発防止計画を作成させて,プログラムは終わりますが,その後も,そこで作成した計画に基づいて,具体的に指導を継続していくことになります。 ○山﨑委員 その場合,プログラム全体がどのぐらいの期間であるのかということと,それを実施する時間帯,これは対象者がそれに応じられるかどうかに関わると思うのですが,少なくとも現状がどのようなものか教えていただけますか。 ○今福幹事 大体3か月から4か月程度の目安で実施しています。実施する時間帯は,やはりほとんどの場合は,個別処遇で行いますので,本人の就業状況や生活のリズム等を見ながら,出頭日を定めて行っています。ですから,一定の時間帯で何曜日にということを,一律に本人の意向を無視して定めて行っているというものではございません。 ○山﨑委員 例えば,平日の夜とか休日に受けることも可能なのでしょうか。 ○今福幹事 実際にやられているかどうかまで把握はしていませんけれども,体制が整えばそれは可能です。しかし,保護観察所の執務時間もありますから,あったとしても少ないのではないでしょうか。 ○酒巻分科会長 今,具体的に御説明がありましたけれども,そのほか保護観察に関して何か御意見はありますか。 ○川出委員 どのような事案が罰金の保護観察付き執行猶予の活用に適するかについては,先ほど加藤幹事がおっしゃったところに尽きていると思うのですが,取り分け,罰金刑は,自由刑と比べると,遵守事項を守って執行猶予が取り消されないようにしようという方向での心理的強制力が乏しいことは間違いないところですので,保護観察付き執行猶予が有効に機能するかを判断するに当たっては,罰金額の多寡が重要な考慮要素になると思います。つまり,それが比較的多額であって,心理的強制力が相応に働く事案が,罰金の保護観察付き執行猶予により適するということになろうかと思います。   もっとも,罰金額が少額の場合はおよそ対象になり得ないというわけではなく,罰金額が少額であっても,対象者の資力等に鑑みて,心理的強制力が相応に働く事案もあると思いますので,そういうものについては活用の対象となり得ると思います。そうしますと,罰金の保護観察付き執行猶予は,刑事処分が必要な事案に対しては刑事処分を科しつつ刑事政策的な措置を図るという今回の問題意識にも十分応え得るものになると思います。 ○酒巻分科会長 この程度でよろしいでしょうか。   次に,「活用に適する事案・対象者の判断方法」につきまして,何か御意見はありますか。 ○池田幹事 一つ目の「○」の「判断資料の在り方」の点と二つ目の「○」の「保護観察所の調査機能の活用」の点について申し上げます。   活用に適する事案・対象者かどうかを判断するための資料として,現在の実務においては,罰金相当の事案と自由刑相当の事案との間で,改善更生や社会復帰に関わる事実関係について,捜査過程で収集する証拠には大きな違いはないとされていまして,そうであるがゆえに,罰金の保護観察付き執行猶予を活用するとしても,自由刑の保護観察付き執行猶予に付される事案と比較したときに,特別な判断資料が求められるとすることは相当ではないとの御意見もあり,福島幹事からもそのような御指摘を頂いていたところと承知しています。   私もそのとおりであろうと思いますが,他方で,事案によっては心理学等の更生保護に関する専門知識がある,保護観察実務に通じている保護観察所の知見を活用することが,保護観察の必要性や有用性,あるいは実効性の有無について,より適切な判断を行うのに資する場合もあり得るのではないかとも思います。   そこで,お尋ねなのですけれども,保護観察所の調査機能を活用することが,罰金の保護観察付き執行猶予の活用を図るための方策の一つとして考えられるのではないかとも思うのですが,その前提として,保護観察所が有する調査機能の具体的な内容について,事務当局にお伺いできればと思います。 ○今福幹事 更生保護法第31条第2項は,「保護観察官は,医学,心理学,教育学,社会学その他の更生保護に関する専門的知識に基づき,保護観察,調査,生活環境の調整その他犯罪をした者及び非行のある少年の更生保護並びに犯罪の予防に関する事務に従事する。」と規定されており,保護観察所は保護観察官が有するこれらの専門的知識を踏まえて対象者の調査をすることが可能です。   具体的には,保護観察所は,先ほどのような更生保護に関する専門的知識を有する保護観察官をして,対象者に関する保護観察の必要性,有用性,実効性を検討するに当たって,参考となる幾つかの事項を調査する機能がございます。その参考となる事項としては,再犯を誘発する要因,改善更生を促進する要因,そして対象者に実施することとなると考えられる保護観察の内容,ここにはプログラムも含まれます。また,対象者への保護観察の有用性の程度,プログラム等による処遇効果を上げるために必要なコミュニケーション能力等の存否,対象者を支援できる社会支援の状況などを調査する機能があると考えております。 ○池田幹事 どうもありがとうございました。   御説明いただいたような調査機能があるということを前提としますと,保護観察所の調査機能を活用することで,事案によっては検察官や裁判所が保護観察の要否を適切に判断することに資するという場合もあり得ると思われます。そこで検察官は,必要に応じて保護観察所の調査機能をも活用して,保護観察付き執行猶予の活用の適否の判断に資する証拠を収集した上で,保護観察の必要性,有用性,あるいは実効性について,その調査結果も用いながら的確に主張・立証することとすることは,罰金の保護観察付き執行猶予の活用を図る方策の一つとして考えられるところではないかと思います。   その上で,さらに,実際に保護観察官が調査を行うに当たって用いる手法として,配布資料14に示されていますが,保護観察官が面接をすることが考えられるところでありますけれども,そもそもそのような被疑者との面談を行うことが,調査の充実という観点からどのような意義を持つかについても,事務当局にお尋ねしたいと思います。 ○今福幹事 保護観察は,一人一人の対象者の性格,年齢,経歴,心身の状況,家庭環境などを十分に考慮しまして,先ほど申し上げたような様々な要因を調査して,実施することが重要です。事前に面接することによりまして,このような各種の要因を詳細に,かつ正確に把握できる場合もあると考えております。   例えば,事案の概要にもよりますけれども,先ほども御紹介いたしました暴力防止プログラムを例に挙げれば,それを実施することが必要であると考えられた場合でありましても,対象者に直接質問することや面接態度を見るということによりまして,その原因が怒りや衝動の自己統制力不足に起因しているものであって,暴力防止プログラムの適合性があるかどうか,あるいは知的能力,動機付けなどを把握しながら,暴力防止プログラムによって,処遇効果を上げられるのかどうかをより正確に判断することができる場合があると考えております。 ○池田幹事 ありがとうございました。   お伺いしたところによれば,面接を行うことで調査が充実することがあり得るとされていますので,保護観察所の調査の方法として,面接を行うことが必要であり,かつ相当であるとされる場合もあるのではないかと思います。   他方で,これまでにも指摘があったところですが,保護観察官は,保護観察を実施するとした場合の問題の存否を判断するために面接をすることから,対象者に対しては,どのような保護観察が行われ得るのかを説明することもあるだろうと思われます。そうしますと,対象者に対しては,その段階で保護観察付き執行猶予となる可能性を示唆することになるといえますので,その面接の時期や方法には一定の配慮が必要ではないかと思います。 ○山﨑委員 保護観察官の調査が必要な場合があり得るというのは,先ほどの話で理解はできたのですが,ただ,これが制度として用いるほどに一般的に必要な事例があるのだろうかということは若干疑問を持っています。といいますのは,今日,暴力防止プログラムが話題に出ていますけれども,前々回の御説明では,現実に今調査している中身としては,生活状況,就労の可能性,釈放後の帰住先,今後の生活計画などという御説明があって,基本的には1回の面接がベースであるとのことでした。これは,現在の福祉につなぐ仕組みだからそうなっているのかもしれませんけれども,調査の内容のうちかなりの部分は,検察官が取調べをしている中身と重なっているのではないかと思います。一般情状事実といいますか,そういったものを超えて,保護観察官が専門的な知見をもってして調査する必要がある事例が,どの程度あるのだろうかとの点は慎重に考える必要があるのではないかと思っています。   これは再三出ておりますように,今,池田幹事がおっしゃった面接の方法,あるいは時期の問題もありますし,そもそもその保護観察官を捜査手続上,どのような地位と位置付け,捜査官とどうやって切り分けられるのか,さらには,黙秘権の告知をするのかどうか,収集した情報が仮に証拠になり得るような場合にどう扱うのかなど,相当性,許容性の観点からはかなり難しい問題もあるかと思いますので,慎重に検討する必要があるのではないかと考えております。 ○加藤幹事 今の池田幹事,あるいは山﨑委員の御指摘も踏まえて,池田幹事が御指摘になっていた面接の時期,方法を慎重に検討すべきとの点は全くそのとおりだと思いますし,山﨑委員が以前からも御指摘のように,この面接の性質がどのようなものなのかについても,正に慎重に検討する必要があるだろうと思います。   ただ,山﨑委員から御指摘があったように,この保護観察官の面接は,およそ罰金刑になり得るもの,あるいは罰金刑の執行猶予が考え得るもの,全てについて実施することが想定されているのではなく,先ほど今福幹事から御説明があったように,面接の必要性があり得る事案もあるのではないかとの観点で,これが有用な資料収集の方策となり得るケースがあるのではないかとの観点から検討されているものですから,面接の必要性については絞りが掛かると思います。   一方で,面接をするべきではないということになるかといえば,検察官の取調べで必要な資料が収集できるケースもあるかもしれませんが,やはり保護観察官が直接面接していただいた方が,有用な資料が収集できるケースも想定し得るのではないかと思われます。   以前,当分科会でも発言したところですが,保護観察官の面接が取調べなのかとの観点から考えますと,形式的には捜査機関が発問しているわけではないので,刑事訴訟法上の取調べには当たらないと思われます。実質を見ても,先ほど御説明があったように,保護観察官による聴取は,検察官の取調べの一部を肩代わりするものではなく,検察官が保護観察所に対して,対象者が罰金の保護観察付き執行猶予にふさわしいかどうかを判断する上で,意見を求める手続の中で,その調査の一環として行われるものだと思われます。   また,保護観察官による聴取事項も,医学,心理学,あるいは教育学,社会学,その他の更生保護に関する専門的知見の観点から,保護観察の必要性,有用性,実効性の有無を検討するに当たって参考となる事項,具体的に考えてみますと,対象者の再犯リスクとかコミュニケーション能力等についてであって,刑事事件の被疑事実,あるいは公訴事実の存否に関わるものでは基本的にないと思われます。そうすると,形式,実質の両面から,取調べではなくて,刑事訴訟法が求めている黙秘権の告知を必要とする手続ではないと考えられるわけですが,他方で,次のような問題にも配慮は必要だろうと思います。   一つには,判断に資する事情を聴取する上では,犯罪事実に関連する事項について,聴取せざるを得ない場面は考えられるであろうということです。それからもう一つは,法的性質は,その被疑者,被告人の同意を前提とする面接であったとしても,被疑者,被告人からすると,取調べの一環とか,あるいは類似なものとしてなされるものであるとの誤解を生じさせかねない性質を持っていることです。さらに,家庭裁判所の調査においても,供述が強要されるものではないことについては告知する運用とされていることなどを考えると,面接をする際に,最低限,検察官の取調べとは切り離された完全に任意のものであることや,それゆえ無理に供述する必要はなくて,最終的な処分は検察官が判断するものであることについては告げることとする運用が適切なのではないかとも考えるところです。   また,面接時期についても,正に捜査が行われていて,事案の解明のための供述を得ている途中段階で,保護観察官が面接すると,被疑者に対して,自己の処分が保護観察付き執行猶予になる可能性を示唆するおそれがあるのは先ほど御指摘のとおりですので,自白調書との先後関係によって,利益誘導であるなどのそしりを受ける可能性もあるわけですから,その面接の時期,相当性については,そういった意味では慎重に検討する必要があるのは御指摘のとおりだと思います。   現在,実施されている起訴猶予者に対する更生緊急保護の重点実施等の施行においても,保護観察官による面談において,黙秘権は告知されていないのが実際の運用であるようですが,取調べではないことを説明して,処分については検察官が最終的に判断する旨を説明することとされていると聞いており,こういった配慮が必要になるのではないかと考えます。 ○酒巻分科会長 確かに刑事訴訟法の取調べそのものではないけれども,刑事訴訟法の世界に位置付けると,これは何かというと鑑定でしょうか。刑事訴訟法第223条の嘱託鑑定により保護観察所に専門的な判断を求めていることになるのでしょうか。 ○加藤幹事 鑑定の定義に当てはまるかとの観点からは,鑑定を嘱託しているというよりは,どちらかというと捜査関係事項照会に近いと考えます。 ○酒巻分科会長 公務所照会のようなものでしょうか。 ○加藤幹事 公務所照会に近いものなのではないかとイメージして意見を述べています。要するに,別の組織である保護観察所に,処分の決定に必要な意見,知見を求めているわけです。  実際の手続としても,捜査関係事項照会で保護観察所に意見を求めることは可能なのではないかということを念頭に置いて意見を述べています。 ○山﨑委員 今の議論を聞いての,飽くまで感覚なのですが,対象者が在宅で捜査を受けている場合と,身柄事件で捜査を受けている場合とも,かなり状況は違うように思われます。身体拘束を受けて取調べが行われている中で,公務所照会による任意の聴取といっても,なかなかそれはそうはならないのではないかと聞きながら感じました。   もう一つは,先ほども申し上げたのですが,今行われている,更生緊急保護の事前調整などで聞き取ろうとしている事項と,例えば先ほどの暴力防止プログラムを受ける適格性があるかという中身とでは,かなり質的に違っていて,暴力防止プログラムの対象として適格かと聞いていくと,ともすれば,例えば発覚していなかった前歴などが出てくるということもあり得るのではないかなと考えられますので,事前調整の事案と,罰金の保護観察付き執行猶予を活用する場面の違いを考慮して,保護観察官の専門的な知見を使う必要性,相当性は慎重に判断する必要があるのではないかと考えております。 ○加藤幹事 山﨑委員にお尋ねですが,恐らく今の御発言の流れからすると,保護観察官が被疑者に面会をしたり,面接をしたりする,そのプロセスについては必要性も相当性も慎重に判断されるべきだとの御意見のように承ったのですが,それを超えて,保護観察官の知見を用いることそのものについて,必要性,相当性の観点から慎重な判断が必要ではないかと最後におっしゃったようにも聞こえたのですが,どちらかというと,面接の場面の話をされているとの理解でよろしいのでしょうか。 ○山﨑委員 いえ,私は両方あり得ると思っていまして,収集した情報の取扱いという別の項目にも関わるところかと思います。先ほど言ったように,それが保護観察を受けるに適切かというような用いられ方だという整理をすればそうなのですが,それが犯罪の情状事実に関わってきて,不利益な事実を供述したことになりかねない側面もあるのではないか,あるいはそこで出てきた情報をどのように捜査資料にしていくかとの問題は残るのではないかと思っています。 ○加藤幹事 そうすると,保護観察官が収集した情報,正に事実といえるものが反映された資料が収集されているときに,それが情状に反映される,なかんずく悪情状に反映されること自体に,手続上の問題があるとの御指摘ですか。 ○山﨑委員 よく整理できていないのですが,先ほどの面会の方法ですとか,聴取が飽くまで任意であるという告知が,どこまで実質的に意味があるのかということとの兼ね合いが一番大きいのではないかと思います。そこはもう少し勉強します。 ○川出委員 四つ目の「○」の面接時における供述をどのような性質の資料として取り扱うかという点についてですが,ここまでの議論からすると,それを捜査関係事項照会の枠内のものとして考えるかどうかはともかくとして,手続としては,検察官から保護観察所に,当該対象者について保護観察が必要か,あるいはそれが有効かといった点についての意見を求め,保護観察所側で,意見を述べるための調査の一環として対象者の面接が行われ,その調査結果が,面接時の供述も含む形で,例えば報告書として検察官に提出されるということになろうかと思います。この報告書がその後の手続でどのように取り扱われるかについては,検察官自らが判断資料として用いるにとどまる場合もあるでしょうし,事案によっては,それが公判において保護観察の必要性や有効性を基礎付ける証拠として提出されることもあるかと思います。後者の場合は,その報告書は量刑に関する事実についての証拠の一つという扱いになるわけですが,その作成経緯が検察官からの依頼ないし照会によるものであることによって,その他の量刑に関する事実を証明するための資料と区別して扱われる理由はありませんので,その意味で,証拠法上の取扱いとしては,新たな法的規律を設ける必要はなく,一般的な証拠法則に従って取り扱われるということになるのではないかと思います。 ○酒巻分科会長 保護観察所の調査機能の活用について,ほかに御意見はございますか。   なければ,次の「少年鑑別所の鑑別機能の活用」について,御意見のある方は,挙手をお願いします。 ○加藤幹事 三つ目の「○」の「少年鑑別所の鑑別機能の活用」についても,今までの議論がおおむね当てはまるのではないかと思っています。   例えば,対象者に知的障害が疑われるものの,これまで診断を受けていなかった事案などを対象として,検察官が保護観察の要否を判断する上で必要に応じて鑑別技官による知能検査等を実施することが考えられます。このような少年鑑別所の調査機能の活用は,現在の実務でも事案に応じて行われているのではないかと思われるところです。その上で,これまで議論してきた保護観察官による面談と同様,鑑別技官による知能検査等も,飽くまで被疑者の承諾を得て実施しているものと承知をしていまして,刑事訴訟法上の取調べとは異なるもので,あらかじめ黙秘権を告知しなければならないものではないと考えています。   また,知能検査の結果等をどのような形で,どのような事実の認定に用いようとするのかについては,先ほど川出委員の御発言にもあったように,個別の事件の内容,証拠関係等によっても様々ですので一概には言えないのですが,証拠法との関係では,先ほど御発言があったように一般的な証拠法則によって処理すれば足りるので,特別な規制を設ける必要があるものではないと考えています。 ○山﨑委員 一般論として,少年鑑別所の専門性が,今言われた知的障害の有無の調査などにおいて発揮されることは理解しますけれども,これがこの罰金の保護観察付き執行猶予が適切かどうか,という場面で必要なケースがどれだけあるのだろうかと考えておりまして,私は保護観察官の調査以上に,この類型における少年鑑別所職員の調査の活用という必要性がどこまであるのかについては疑問に思っております。   他方で,少年鑑別所職員による調査となると,対象者のプライバシーに非常に踏み込んだ情報を収集するわけですので,それをどのように使うかとの兼ね合いで,本当にそこまでの必要性があるのかについては慎重に考えないといけないのではないかと思います。 ○酒巻分科会長 今の御意見に対してほかに御意見はございますか。   それでは,「2」はこの程度にいたしまして,今度は「3 活用するための課題」について意見交換を行いたいと思いますが,この点について,これまでの御議論を敷えんするものでも結構ですし,違った観点からの御意見でも結構ですので,御意見のある方は,挙手をお願いします。 ○池田幹事 活用するための課題については,これまでにも御指摘があったところですが,現行法上,罰金の保護観察付き執行猶予に付するのは可能であるにもかかわらず,これまで活用されていなかった現状を踏まえて方策を検討する必要があるように思います。   現在,活用されていない理由として,多くの事件を簡易迅速に処理する中で,保護観察の有効性を検討する契機が存在しなかったとの指摘や,訴訟当事者から主張・立証がされていなかったとの指摘があったことからしますと,まずは当事者から的確に主張・立証し,裁判所が十分に審理を行うことが重要になるものと思います。そうしますと,活用を図るための方策の一つとして,執行猶予の活用が相当である事案においては,検察官が公判請求をして,その十分な審理の機会を設けることが考えられます。   しかし,他方で,これは以前にも指摘されていることですけれども,公判手続ですので,それによる負担も生じるものですから,負担をできる限り回避する運用上の工夫も併せて検討されるべきだと思います。 ○加藤幹事 私も今,池田幹事から御発言があったように,保護観察付き執行猶予が有効に機能し得るかどうかを適切に判断するとの観点や,保護観察を受ける動機付けを強化する観点から,平たく言うと,公判廷に立たされる,そして裁判官から説諭を受けることとすることによって,罰金の保護観察付き執行猶予を活用することが相当な事案について,検察官が公判請求をすることを活用するための方策の一つとすることはできるのではないかと思います。   もっとも略式手続で罰金の保護観察付き執行猶予を活用することが全くできないかというと,そういうわけではないと思います。保護観察付き執行猶予の活用が有効に機能し得るかを審理する観点からは,略式手続での活用も相当である場合には,略式手続を選択することもあり得てよいのではないかと考えられますが,仮にそのようにするのであれば,これまで議論でも意見が出ていますように,検察官が保護観察の必要性,有用性について丁寧に被疑者に説明するなどの運用上の工夫を要すること,さらには,そのため裁判官の判断に必要な資料も従前同様,提供するようにすることが必要になるであろうと考えます。 ○酒巻分科会長 二通りの道があり得るということですが,この点に関してほかに御意見はございますか。 ○山﨑委員 私はやはり以前から申し上げているように,略式手続での活用はなかなか難しいのではないかと思っていますが,他方で,公判請求するという方向性についても,いろいろな負担を軽減した上で公判請求しても,検察官の請求どおりに保護観察が付くかどうかも分からず,執行猶予になるかも分からず,実刑になる可能性も単純執行猶予になる可能性もあることになるのではないかと考えておりまして,なかなかこれも難しい問題を抱えているのではないかと思います。 ○酒巻分科会長 活用するための課題に関して,ほかに御意見はございますか。 ○山﨑委員 先ほど発言したこととの関連で,「4」に移る前にここで申し上げておこうと思います。先ほどお尋ねした,暴力防止プログラムがどのような時間帯に行われているかとの問題意識と関連するのですが,保護観察を受けても構わないという意思を示している人であっても,例えば,18歳及び19歳の若年者をイメージしますと,昼間は学校に行っているとか働いている人が多いと思われ,保護観察を受けたいのだけれども,可能な時間に実施されていないとできないのではないかと思うのです。そうすると,夜間で受けるプログラムが可能なのか,休日もやる体制が可能なのかなど,実際のプログラム実施の体制も含めて検討しないと,絵に描いた餅になってしまわないかと考えております。そのような現場の体制の整備が可能かどうかという点も含めた検討が必要なのではないかと思います。 ○池田幹事 「保護観察の適切な期間の在り方」について申し上げます。   保護観察付き執行猶予を活用する場合,個別具体的な事案に応じて適切な執行猶予期間が定められることが必要であるとの御指摘がありまして,私もそのように思うところです。   ただ,適切な執行猶予期間はどの程度かについては,個別具体的な事案に応じて定められるほかないもので,活用を図るための方策として,この点について何らかの具体的な方策を示して,部会に報告をする必要はないものと思っております。 ○加藤幹事 今の御発言は期間についてでしたが,その下の「○」で「良好措置の在り方」というのがあります。もちろんこの保護観察付きの執行猶予について,良好措置は考える必要があると思いますが,現行法上は罰金刑と自由刑との間で保護観察の取扱い,あるいはその内容には区別がないところです。   第3分科会で,保護観察の充実等についてとのテーマで,「良好措置の在り方」についても含めて議論されていますので,当分科会においては第3分科会の御議論をまずは見守って,その結果を受けて,必要な点があれば更に議論をすることでよろしいのではないかと思います。 ○酒巻分科会長 活用のための様々な課題につきまして,ほかに御意見がございますか。よろしいですか。   それでは,最後の法改正の要否・内容についてですが,いかがでしょうか。   罰金刑の執行猶予は元々存在する制度ですので,ここまでどういう対象者が想定されるか,これをどうやって活用するかという議論をしてきたわけですが,運用上の課題を解決するために,直ちに立法措置が必要であるとの御意見はこれまで出ていないことからすると,当分科会としては立法措置は不要であると取りまとめるのが適当ではないかと思いますが,いかがでしょうか。 ○山﨑委員 基本は私も,それでいいと思っているのですが,先ほどの,保護観察官とか少年鑑別所の職員を活用するということについては,その中身次第によっては,法律上の手当ても必要になってくる可能性はあるのではないかと思っています。 ○酒巻分科会長 ほかに,御意見ございますでしょうか。よろしいですか。   それでは,以上で配布資料14に記載されている検討課題につきましては,一通り意見交換を行ったということで,「罰金の保護観察付き執行猶予の活用」についての意見交換としては,本日はこの程度にしたいと思います。よろしいでしょうか。               (一同異議なし)   それでは,次に,本日の二つ目の大きな論点である「若年者に対する新たな処分」についての意見交換を行いたいと思います。事務当局から,「若年者に対する新たな処分」に関する資料の御説明をお願いします。 ○羽柴幹事 配布資料19について御説明します。   配布資料19は,前回の会議で配布した資料18について,その際の御議論を踏まえ,更に具体的な検討を進めることに資するように,考えられる制度の概要及び検討課題に加筆・修正したものです。   変更した部分を中心に御説明します。   まず,「考えられる制度の概要」について御説明します。   「1」の「概要」については,変更はございません。   「2」の「処分」の内容等については,これまでの御議論を踏まえ,「(1)」の「保護観察処分」について,二つ目の「○」として,保護観察の期間は1年ないし2年とすることを追加しました。   「3」の「手続」については,これまでの御議論を踏まえ,三つ目の「○」として「家庭裁判所は,必要があるときは,少年鑑別所に鑑別を求めることができ,一定の場合には,鑑別のために,10日間,少年鑑別所に収容する措置をとることができるものとする。」ことを追加しています。   次に,「検討課題」について御説明します。   「2」の「(2)」について,保護観察の期間を決めるに当たっては,その内容を踏まえる必要があると考えられたことから,二つ目の「○」として「保護観察の内容・期間」を追加し,その下の「・」に,その検討の視点を記載しました。   次に,「3」の「(2)少年鑑別所の鑑別等」について,前回会議の御議論を踏まえ,一つ目の「○ 施設収容する鑑別」について,二つの「・」に,その検討の視点を記載するとともに,二つ目の「○」として「罪証隠滅・逃亡の防止を目的とした身体拘束の措置を設ける必要性及び相当性」を追加しました。   配布資料19の説明は以上です。 ○酒巻分科会長 ただいまの説明について,この段階で御質問,あるいはほかにも検討課題等があるのではないかといった御意見のある方は,挙手をお願いいたします。よろしいですか。   それでは,配布資料19に沿って意見交換を行いたいと思いますが,「若年者に対する新たな処分」につきましては,前回,「3 手続」の「(3)その他」の直前まで意見交換を行ったところで会議を終えましたので,本日は,前回積み残しになっている「(3)その他」から意見交換を始めたいと思います。   その上で,個々の検討課題等,相互に関係しているものもありましたし,一巡目の意見交換において出た意見を踏まえて再度議論を深める必要がある部分もあると思いますので,さらに,具体的な制度案について検討するため,「(3)その他」の意見交換の後,「検討課題」の初めに戻って,「1 概要」「2 処分の内容等」「3 手続」という順で意見交換を行いたいと思いますが,このような進め方でよろしいでしょうか。               (一同異議なし)   それでは,配布資料19の「3 手続」の「(3)その他」から始めます。「その他」には,最初の「○」の「手続の開始」から最後の「○」の「その他」まで,13の検討課題があり,数も多いので,審判が開始される前の手続と審判開始後の手続とに分けて,まずは「手続の開始」から「審判不開始」までに記載されている六つの検討課題について意見交換を行いたいと思います。   「手続の開始」から「審判不開始」までについて,御意見のある方は,挙手をお願いします。 ○加藤幹事 六つ「○」があるうち,幾つかの点について意見を申し上げたいのですが,余り長くなってもいけませんので適当なところで切らせていただきます。   まず,最初の「手続の開始」のところですが,これは今までの議論の整理ですけれども,検察官が捜査を遂げた結果,起訴猶予処分が相当であるとの判断に至った事件,事案が,この新たな処分の対象となるのは,今までの議論の上での共通認識だったと思います。すなわち現行の少年法では,一般人からの通告があったり,あるいは警察からの直送があったり,その他の受理事由が定められていますけれども,この新たな処分では,そういうものではなくて,検察官が起訴猶予とした事案が対象となっている点が,前提だと理解しています。   その上で,検察官から家庭裁判所にどうやって事件が移っていくのかが問題になるのだと思いますが,現行法ですと,例えば少年法で「送致」という手続が採られているわけです。そのほかに,現行少年法では,先ほど申し上げた「通告」などの事件受理事由,あるいは家庭裁判所にとっての端緒が定められています。それを何と呼ぶかについては本質的な問題ではないのかもしれませんが,我々の感覚からすると,「送致」とは,別の機関に事件を移し,処分権限を委ねるといった意味合いが強く,要するに,渡した側の機関,例えば,検察庁から家庭裁判所に事件が送致されれば,検察庁においては,その事案は手を離れて処分権限を失うという意味合いが強い言葉だと思われます。   そのほかに,「通告」とは,処分をする機関にとって外部の機関から,あるいは外部から職権行使を促す通知行為といったような意味が強いのではないかと思われます。御案内のとおりですが,現在の少年法第6条はその「通告」という用語を使っています。   そのほか,刑事訴訟法では公訴の提起があったり,それからそのほかの法律では,申立ての手続ですとか請求の手続があったりしますけれども,どのような仕組みにするのかについては,この新たな処分の性質,すなわちこの新たな処分が刑罰を代替する処分ではなくて,刑事処分とは全く異なる処分を行うものであることとか,刑事手続とは異なる独立の手続であること,手続の開始の要件について職権で判断する仕組みではないことなどを踏まえつつ,いずれの概念に沿ったものであると考えられるか,そのいずれとするかによって,どういう違いが生じてくるのかなどの点に留意しつつ,また後にも議論になりますが,この審判に用いられる記録はどういう形で提出されたり,引き継がれたりするのか,そのようなこととともに検討する必要がある事項であると考えています。   あと一つ,三つ目の「○」の「検察官又は弁護士等の関与」のうち,検察官関与の問題について申し上げたいと思います。   少年法における検察官関与制度の趣旨については,非行事実の認定上問題がある一定の事件について,証拠の収集・吟味における多角的視点を確保し,事実認定の適正化を図るのが一つ,それから,裁判所と少年側の対じ状況を回避して,少年審判の教育的・福祉的機能を確保するのが二つ,さらには,少年審判手続の一層の適正化により,被害者・遺族を始めとする国民一般からの少年審判手続に対する信頼を確保すること,これが三つ,そのような制度趣旨があると説明されています。   もちろん,この少年法自体,検察官関与ができる事件というのは,法定刑を基準に一定の重い事件に限っている仕組みになっています。このような制度趣旨自体は,今回作る新たな処分にも当てはまり得るものと考えられますが,本処分はその性質ですとか,それから比較的軽微な事案しか対象とならないことなど保護処分とは異なる点もありまして,この新しく作る処分において,検察官関与制度を設けるべきかどうかは,その相違点も考慮しつつ検討する必要があると思っています。   ここはなかなか悩ましい問題なのではないかとも思っていまして,検討の前提としては,現在の少年法の検察官関与制度の運用状況,特に検察官関与制度がどのような場合に用いられているのかとの点について,情報が必要なのではないかと思います。この点について,現時点で事務当局から提供できる情報があるかどうかについてお尋ねしたいのですが,いかがでしょうか。 ○羽柴幹事 検察官関与決定がどのような事案でなされているのかに関しましては,現在,調査をしているところでございます。次回の分科会で御報告できるように準備をしたいと考えています。 ○加藤幹事 ありがとうございます。   では,御報告を待って議論をすることでよいのではないかと思います。 ○酒巻分科会長 それでは,ほかの点につきまして,御意見はございますでしょうか。 ○池田幹事 二つ目の「○」の「調査又は審判への呼出しに応じない者に対する措置」についてですが,本処分の手続を行うに当たりましては,その対象者の出頭を確保することが重要であることは,これまでの議論においても確認されたところと認識しております。   議論の参考とするために,現在の少年法上,設けられている対象者の調査や審判の出頭確保のための制度について確認をしておくことが有益だろうと思いますので,事務当局から御説明いただければと思います。 ○羽柴幹事 少年法におきましては,家庭裁判所は事件の調査又は審判について必要があると認めるときは,少年又は保護者に対して,呼出状を発することができ,更に家庭裁判所は,正当の理由がなく呼出しに応じない者に対しては同行状を発することができると規定されています。これは第11条に規定されています。同行状には,対象者を指定された場所に強制力を用いて連行することができる効力があるとされております。なお,少年が保護のため緊急を要する状態にあって,その福祉上必要である場合には,呼出しを前提とせずに同行状を発することができるという,いわゆる緊急同行も第12条には設けられています。   これらの制度は,適正な調査・審判のためには少年らの出頭が確保されなければならないことなどから出頭確保のために設けられた制度であり,他方で強制的に身柄を連行する場合には,憲法の要請も踏まえて裁判所の裁判・令状によらなければならないとされたものなどと説明されているところと承知しています。 ○池田幹事 ありがとうございました。   今の御説明を伺いまして,本処分の手続においても,対象者が実際に出頭しなければできない調査も想定されるところであり,適正な調査,審判を行うために,本人の出頭を確保する必要があり,そのためには一定の強制力を有する方法を設けておく必要性があると考えられます。   そのため対象者について,家庭裁判所が発する呼出状により呼出しを行うとか,あるいは正当な理由なく応じない場合には家庭裁判所が同行状を発するという制度を,この処分との関係でも設けることが考えられるのではないかと思います。 ○酒巻分科会長 この点についてはいかがですか。ほかによろしいですか。 ○山﨑委員 最初の六つの「○」のそれぞれに関わるかもしれませんけれども,私も,今の少年審判手続をベースに考えるとこうなるかなという発想をしていたのですが,一方で,不起訴処分になった事件の扱いからするとどうなのかといった形でも考えなければいけないと思っております。この点,現状では起訴猶予相当事案について,検察官が処分を下すまでどのぐらいの期間がかかっているのか,また,不起訴となった記録の取扱いがどうなっているのか,あるいは被害者への通知がどのぐらい行われているのかなど,今分かる範囲でも結構ですが,どのような運用なのかを教えていただけますか。 ○酒巻分科会長 今の御質問について,事務当局からはいかがですか。 ○羽柴幹事 ただいま御質問いただいた点につきまして,統計資料を今手元に持ち合わせておりませんので,どこまで分かるのかということを改めて確認したいと思います。 ○加藤幹事 幾つかのお尋ねがあったと思うのですが,起訴猶予になる事案について,期間とおっしゃったのでしょうか。受理から起訴猶予処分が行われるまでの平均的な期間をお求めであるのか,それとも身柄が離れてから実際に起訴猶予という処分が確定するまでの期間をおっしゃっておられるのか,いかがでしょうか。 ○山﨑委員 後者が主です。 ○加藤幹事 その点ですと,今事務当局がおっしゃっていたように,恐らく的確な統計を取るのは難しいのではないかと思われます。実際の問題として,例えば身柄の事件であれば釈放即日,起訴猶予が確定している事案もありますし,釈放未済と実務的には申しておりますが,身柄が釈放されたことと,処分ができることは別の問題でありますので,身柄を釈放して以降,更に捜査を継続してから処分が行われる事案もあるわけです。その期間を平均することに意味があるとは思えず,全く事案の性質によるとしか言いようがないのではないかと思います。   もちろん被害者通知は釈放したとの通知ではなくて,処分が行われた段階で行われますので,処分が行われた段階ではすぐやっているというのが恐らくお答えになります。ただ,その被害者通知の時期をお尋ねになっているわけではなくて,そのほかに実際の実務がどうなっているのかを様々お尋ねなのではないかと思いますので,具体的に挙げていただければ,分かることと分からないこととして申し上げられることがあるのではないかと思われるところです。   もしかすると,実際に,処分が行われてから家庭裁判所に送るのにどのくらいの期間が必要なのかとの観点からのお尋ねなのかもしれませんが,例えば今の少年事件であれば,検察官は家裁送致という処分をした瞬間に事件を家庭裁判所に送っていますので,今の少年事件と同じやり方をするのであれば,そういう意味でタイムラグはないわけですし,医療観察法のように,一旦不起訴処分をした上で審判申立てをするという事例でも,その多くの身柄事件の場合は不起訴処分をしたのとほぼ時間差なく申立てをしているはずですので,そういう例もあると申し上げることはできると思います。もし何か更に情報として必要なことがありましたら,具体的におっしゃっていただければお答えできることがあるかもしれないと思います。 ○山﨑委員 なぜそのような点をお尋ねしたかというと,一つは,先ほど送致とか通告とか,その辺りはどうなるかとの関連で,検察官が不起訴処分をしてからの動きになるのか,通告などだと理念上は処分をするまで並行することもあり得るのかなど,そのような点を考えたものですから。今イメージされているものは,不起訴処分が決まった後で新たな処分に流れるという前提で考えてよろしいのかどうか。 ○加藤幹事 正にそこが最初に申し上げた,手続の開始はいかに在るべきかとの議論の内容だと思いますので,そこは未確定という理解でよろしいのではないかと思います。 ○山﨑委員 分かりました。 ○加藤幹事 度々申し訳ございませんが,上から四つ目の「○」の「本人等による記録・証拠物の閲覧・謄写」の点についてです。この新たな処分の手続における記録がどのようなものになるのかといった点です。   というのは,先ほど申し上げたように,本処分の手続をどのように開始するかなどを始めとする手続の内容を踏まえて検討されるべきものであるとの前提でありますが,仮に検察官の不起訴事件記録を何らかの形で家庭裁判所が引き継いで審判に用いることとした場合には,少年審判の法律記録と似たようなものが,その家庭裁判所に行くことが考えられます。   一方,少なくともこれまでの議論からすれば,本処分においては家庭裁判所調査官の調査,あるいは試験観察における観察のほか少年鑑別所の鑑別も行うことが想定されていて,そのような調査や鑑別の結果は,現在の少年審判における社会記録と同様の内容・性質を有する記録になるのではないかと思われます。要するに,現在の法律記録,社会記録と似たようなものが想定され得るのではないかと思われます。そうすると,本処分の対象者は成人ではあるものの,記録については,それが対象者本人の目に触れることを前提とすると,要保護性に係る調査について協力が得られにくくなる可能性があり,現在の少年事件の記録に似たような趣旨が妥当することもあり得そうです。   そして,当分科会第7回会議において,村田委員からの御説明で,少年審判規則に定められた閲覧・謄写制度の意義,運用状況について御紹介を頂いたところですが,それらによれば,現在の許可制については,裁判所において,記録の内容等に応じて必要性・相当性を判断した上で適切に運用がなされているとのことです。   そうしますと,この新たな処分においても,対象者の利益を考慮しつつも適切な閲覧・謄写の範囲を定めるとの観点からは,少年審判規則に定められた制度と同様に,本処分の制度趣旨を踏まえた裁判官が,個別の事案に応じて適切に閲覧・謄写を許可する制度を設けることが考えられるのではないかと思います。 ○酒巻分科会長 この点についてほかに御意見はございますでしょうか。よろしいですか。   次の「○」は,「犯罪被害者等の権利利益の保護のための制度」が並んでいます。まず,現行少年法に同様の規定がある制度の趣旨,すなわち,被害者等による記録閲覧とか意見聴取,審判傍聴,被害者等に対する説明,通知といった制度につきましては,少年法における各制度の趣旨,それから運用の実情を踏まえることが議論に資すると思われますので,まず,これらの制度の趣旨について,事務当局から簡潔に御説明をお願いします。 ○羽柴幹事 少年法の制度について簡単に御説明します。複数ございますので,まず平成12年の少年法改正において設けられた制度について御説明します。   まず一つ目は,被害者等による記録の閲覧・謄写の制度です。条文は第5条の2にございます。   この制度の趣旨は,被害者等が民事訴訟のために保護事件の記録を利用する場合などがあり,少年の健全な育成等を害しない範囲でこれを認めることが相当な場合も考えられるところ,これを法律で明定することにより,被害者等が閲覧及び謄写をより希望しやすくなるとともに,法の趣旨を踏まえた被害者等に対する配慮の徹底も期待されることから,一定の要件の下に少年保護事件の記録の閲覧及び謄写を認めることを法律に明定することとしたなどと説明をされています。また,これにつきましては,平成20年の少年法改正によって,閲覧・謄写の対象について,社会記録を除いた保護事件の記録全てを閲覧・謄写の対象とすると拡大され,また,閲覧・謄写の要件が緩和されたところです。   二つ目に,被害者等の申出による意見の聴取の制度,これは第9条の2にございますけれども,この制度の趣旨は,被害者等の意見を聴取することにより,審判が被害者等の心情や意見をも踏まえた上でなされることがより明確となり,少年審判に対する被害者を始めとする国民の信頼を一層確保することに資することとなり,また,少年に被害者等の心情や意見を認識させることも可能となって,少年の反省を深めて更生にも資することになると説明されているところです。また,平成20年の少年法改正により,意見の聴取の対象者が拡大されております。   三つ目として,被害者等に対する通知の制度,これは第31条の2にございますけれども,この制度は,少年事件においては,その審判が刑事裁判とは異なり非公開とされていることなどから,被害者等が審判の結果について十分な情報を得ることができないという指摘があり,少年法の目的である少年の健全育成の観点を踏まえつつも,事件の内容やその処分結果等を知りたいという被害者等の正当な要求に対して,一定の配慮をすることが必要であると考えられることから,導入されたものと説明されているところです。平成12年の改正で設けられた三つの制度の説明は以上でございます。 ○酒巻分科会長 それでは,引き続いて,最高裁判所家庭局の澤村幹事から,運用状況について御説明をお願いします。 ○澤村幹事 御説明できる範囲で説明させていただきます。   今ありました三つの制度ですが,まず一つ目の被害者等による記録の閲覧・謄写の制度についてです。   これは審判開始決定の後,被害者などから申出があるときには,閲覧又は謄写を求める理由が相当でないと認める場合,それから少年の健全な育成に対する影響,事件の性質,調査又は審判の状況その他の事情を考慮して,閲覧又は謄写をさせることが相当でないと認める場合を除き,記録の閲覧・謄写をさせるというものです。対象となる記録の範囲は先ほど御説明があったとおりです。   これについての平成28年の運用状況についての統計上の数値を御説明申し上げますと,平成28年にこの申出があった人数は,全国で1,080名となっておりまして,そのうち許可された人数が全国で1,051名であり,これは申出人数の97.3%に当たります。   続きまして,被害者等からの意見聴取の制度です。   被害者等から,被害に関する心情その他の事件に関する意見の陳述の申出があったときは,家庭裁判所が自らこれを聴取し,又は調査官に命じてこれを聴取させるとされておりまして,実際にも裁判官が聴取する場合と,家庭裁判所調査官が聴取する場合とがございます。   聴取の方法は,口頭による場合が想定されていると考えられますが,申出人が書面による陳述を希望しており,それが相当である場合などには書面によることも排除されないとされているところです。実際に聴取する場合には,基本的には意見を聞くだけですけれども,趣旨が不明なときにはそれを確認する程度のことはされております。意見を聴取した場合には,審判調書などに意見の要旨を記載して,被害者等から意見を聴取した旨を付添人に通知するものとされております。意見聴取において,被害者などが述べた被害感情等は,処遇選択や要保護性の判断のために利用することができます。また,少年に被害者の状況を正しく認識させ,自らの責任について自覚を深めさせるために意見聴取の結果を少年に伝えることもあります。   この制度の利用状況についての統計上の数値を申し上げますと,平成28年にこの申出をした人数は全国で244名,意見聴取を実施した人数は226名でして,申出人数の92.6%について意見聴取が実施されております。   続きまして,三番目の制度です。審判結果の通知の制度になります。   この制度で通知する内容は,少年法第31条の2に定められているとおり,少年及びその法定代理人の氏名及び住居と決定の年月日,主文及び理由の要旨となっております。この決定の理由としましては,非行事実,法令の適用,事実認定に関する補足説明,処遇の理由等が含まれております。通知の具体的な方法としましては,通知事項等を記載しました書面を作成して送付又は交付することが一般的な取扱いとなっております。   この制度の利用状況の統計上の数値ですけれども,平成28年の申出人数は全国で991名,実施人数は982名でして,申出人数の99.1%について実施されている状況になります。 ○酒巻分科会長 ありがとうございました。   少年法に設けられた,この三つの制度につきまして,今,制度趣旨と実施運用状況について御説明いただきました。かなりの高率で認められ実施されているという,運用の実情説明があったところですけれども,まずは今御紹介いただいた制度の趣旨や運用を踏まえまして,この三つの制度について御意見がある方は,挙手をお願いします。 ○池田幹事 ただいま制度趣旨,運用について御紹介いただきました被害者等による記録の閲覧・謄写の制度,被害者等の申出による意見の聴取の制度,そして被害者等に対する通知の制度については,いずれも犯罪被害者等の心情を踏まえて,少年法の制度の枠内で設けられたものであり,また運用上も実際に活用されていることを理解いたしました。   本処分の手続にも同様の仕組みを設けるべきかについては,本処分の対象者は起訴猶予相当の者ですけれども,もとよりその中には被害者がいる犯罪を犯した者も含まれ得るところです。そうである以上は,それらの被害者が事件や被疑者の処分に関心を持ち続けることはあり得ますし,意見聴取制度についても,それにより国民の信頼を確保し,対象者の更生に資することにもなるとの意義は同様に妥当するのではないかと考えられます。   また,現在,少年を対象とする手続として適切に運用がなされておりまして,特段の支障が生じていないとのことですと,これと同様の非公開の手続で,対象者の要保護性に応じて処分をする本処分においても適切に運用がなされることを期待できるのではないかと思われますので,これら三つの限りではありますけれども,設けることには問題ないのではないかと思います。 ○山﨑委員 少年法の実情については御指摘のとおりだと思っていますが,他方で,先ほど申し上げましたように,仮に18歳が少年法の対象から外れて成人として扱われ,その中で不起訴処分となる場合の特別な扱いということを考えたときには,今の不起訴事案でどういう扱いがされているのかが問題になると思われます。現状では,不起訴となった事案での被害者からの記録の閲覧・謄写ですとか,あるいは被害者への通知等についてはどのように行われているのか,説明を頂ければと思います。 ○羽柴幹事 不起訴記録の閲覧・謄写の関係についての御質問を頂きましたけれども,そのような事例は存在はするのですが,恐縮ながら,今手元に数値を持ち合わせておりません。 ○加藤幹事 今の山﨑委員のお尋ねは,現実の実務において,不起訴記録の閲覧・謄写がどのように行われているか,あるいは不起訴事件について,被害者への通知がどのように行われているかといった点についての御説明を求められたものでしょうか。 ○山﨑委員 そうですね。数値というよりは実務で,大体どのような感じかが分かればという意味です。 ○加藤幹事 そこは,例規に基づく仕組みが幾つかありますので,次回まとめて事務当局から御説明いただければと思います。 ○酒巻分科会長 では,そのようにさせていただきます。よろしいでしょうか。   次に,被害者等に対する審判傍聴と,被害者等に対する説明の制度について,事務当局から,立案の趣旨と運用状況の御紹介をお願いします。 ○羽柴幹事 では,平成20年の少年法改正によって設けられた制度につきまして,その趣旨等を御説明します。   まず一つ目,被害者等による審判の傍聴の制度でございます。第22条の4にございます。   それまで少年法においては,少年の健全な育成を期するために,少年や関係者のプライバシーやその内面に関わる事項を含め広く情報を収集して,適正な処遇選択を図る必要があるとともに,少年の心情の安定に配慮しつつ,家庭裁判所が教育的な働き掛けを行うことによって,その内省を深める必要があることから,被害者等に対しても審判が非公開とされておりました。もっとも,特に少年が被害者を死亡させたり,その生命に重大な危険を生じさせたような重大事件においては,被害者やその近親者から審判を直接見聞きして,その具体的な状況について十分な情報を得たいとの強い要望が示されていたところ,かかる心情は平成16年12月に成立した犯罪被害者等基本法の趣旨等に鑑みると十分に尊重すべきものであり,また,被害者等に少年審判の傍聴を認めることは,その立ち直りにも資するものと考えられる上,少年審判に対する被害者等を始めとする国民の信頼を一層確保することにもつながることになると考えられたことから,この制度の必要性があるとされたものと承知しています。   他方,家庭裁判所が,少年の年齢や心身の状態等を考慮し,きめ細かくその相当性を判断した上で,被害者等の傍聴を許可するものであれば,適正な処遇選択や審判を行うことができると考えられますし,少年の側からしても,被害者等が傍聴している場所でその立場や心情にも思いを致しながら審判を受けることにより,自らの非行の重大性を認識し反省を深めることにも資する場合もあると思われたことから,そこで,家庭裁判所が少年の健全な育成を妨げるおそれがなく相当と認めるときは,一定の重大事件の被害者等に傍聴することを許すことができることとされたものです。   次に,もう一つの制度でございますけれども,被害者等に対する説明の制度がございます。第22条の6です。   少年審判手続において,被害者等への配慮を充実させることは重要であり,被害者等が審判の状況について十分な情報を得たいという心情は,基本法の趣旨等に鑑みると十分尊重すべきものであり,被害者等からの申出がある場合に,適宜の時期にその審判の状況について説明を行うことにより,被害者等の要望に対しより一層,応えることができると考えられたことから導入された制度でございます。   趣旨等の説明は以上となります。 ○酒巻分科会長 運用状況につきまして,澤村幹事から御説明いただけますでしょうか。 ○澤村幹事 御説明申し上げます。   まず,被害者等による少年審判の傍聴の制度です。具体的な運用の大まかなところは次のとおりとなります。   家裁に事件が送致された後に,傍聴対象事件については,被害者等に対してリーフレットや案内文書を送付して制度を案内する運用が一般的に行われています。捜査機関において,捜査段階で傍聴の希望を把握したときには,そのことが家庭裁判所に伝達されることとなっていますので,そのような場合には,直ちに審判傍聴申出書などを送付することとしています。   傍聴を申し出るには,申出書を提出してもらう運用になっていまして,申出がありますと,付添人に対して直ちに求意見をすることになります。付添人が選任されていない場合には,少年及び保護者がこれを必要としない意思表示をしたときを除いて,家庭裁判所は弁護士である付添人を選任しなければならないとされていますので,その選任をした上で,その付添人から意見を聴くことになります。   傍聴の許可の前には,少年や保護者に対して,傍聴対象事件であることや傍聴の申出があったことについてあらかじめ説明する運用が一般的になっています。その後,裁判所において傍聴の相当性の判断を行い,許可,不許可の通知を行います。許可されたときには,併せて被害者等に対して審判の進め方ですとか留意点などを盛り込んだ説明書面を同封する運用がされています。   この審判傍聴の対象となった事件は,平成28年の統計上,全国で74件となっていまして,そのうち審判傍聴の申出があった事件が41件,申出を許可した事件は34件です。したがいまして,申出のあった事件の82.9%について許可されています。   続きまして,被害者等に対する説明の制度です。   この説明は,家庭裁判所が,少年の健全な育成を妨げるおそれがなく,相当と認めるときに行われるものです。   この説明の対象となります審判の状況とは,審判期日における客観的,外形的事実とされていまして,具体的には審判期日の日時,場所,出席者,審判の経過,少年や保護者の陳述の要旨,処分結果などが含まれることになります。説明の主体としては,書記官又は家庭裁判所調査官にさせることができるとされていますが,実務上は審判に列席して調書を作成するなど,審判の手続やその内容を公証しております書記官が行うことが多くなっています。   審判調書が作成されている事件では,審判調書に基づいて説明がされ,審判調書の作成が省略される事件では,書記官が審判状況を簡潔に記載したメモを作成し,これに基づいて説明する運用になっております。説明の方法は,被害者等の希望に添いまして,口頭又は書面のいずれかの方法によって説明する運用になっております。   こちらの統計上の数値ですけれども,これも平成28年の数値で,申出の人数が全国で362名,実施の人数が340名となっておりまして,申出人数の93.9%について実施されている状況になっております。 ○酒巻分科会長 被害者等に対する審判傍聴の制度は,先ほどの御説明の中にもありましたとおり対象事件が限定されています。他方,被害者等に対する説明の制度はそうではないとのことです。   以上が制度趣旨と運用の御説明ですが,これを踏まえまして,審判の傍聴,それから審判状況の説明について御意見はございますでしょうか。 ○加藤幹事 まず,後から説明のありました被害者等に対する説明についてですが,先ほど前のパートで池田幹事が御指摘になったように,記録の閲覧・謄写制度等と同様に,この新しい処分の手続においても,その必要がある場合もあるでしょうし,特に問題がある点もないと思われます。だから,取り入れることに大きな問題はないのではないかと考えます。   次に,被害者等による傍聴制度の方ですが,今の澤村幹事からの御説明を踏まえますと,実際にも一定程度活用がされているとのことですし,本処分の対象者が犯した犯罪の被害者が,起訴猶予処分とされた後も傍聴したいとの心情を有するに至る可能性がないとは言えないという意味で,設ける必要性が一定程度はあり得ると考えられます。もっとも今の御説明にもありましたとおり,少年法の被害者等による傍聴制度については,相当程度,対象犯罪が限られており,重大死傷事案を中心に,少年法第22条の4の第1項の各号に列挙されたものに限られている仕組みになっています。   また,本処分の手続は非公開のものとすることに今のところ御異論はなく,その非公開の手続とすることに鑑みますと,被害者等による傍聴の仕組みを設けるにしても,少年法と同様の範囲とすることが一応考えられます。ただ,そうすると,本処分が起訴猶予とされたものを対象とする制度であって,本処分の対象者に果たして被害者等の傍聴制度の対象となるようなものが含まれるのか,すなわち被害者等による傍聴制度が活用される場面があり得るのかとの点を踏まえて検討する必要があるだろうと考えています。 ○酒巻分科会長 審判傍聴と,それから審判経過の説明について,ほかに御意見はございますでしょうか。 ○山﨑委員 今の「・」の六つ全体に関してですけれども,傍聴に関しては,今,加藤幹事が言われたように,対象事件がかなり少年法でも限定されているとの趣旨から,私もこの新たな処分に関して導入するのは難しいのではないかと考えております。他の制度につきましても,先ほど申し上げましたが,現行の少年審判で行われている実情を踏まえた観点と,他方で,成人の不起訴処分となった事件で同様の制度がどのように運用されているかについても検討する必要があると考えています。20歳以上に関する取扱いも踏まえて,18歳及び19歳の対象者にどこまで,どのようなことが可能かといった検討も必要かと思っておりますので,次回,そういった観点で御説明を頂いた上で検討したいと思っています。 ○酒巻分科会長 それでは,「・」の最後にある「刑事手続に付随する損害賠償命令制度と同様の制度を設けるか。」についても現行法上の制度趣旨等を踏まえることが議論に資すると考えられますので,損害賠償命令について,事務当局から制度趣旨の御説明をお願いします。 ○羽柴幹事 犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律の損害賠償命令制度につきまして御説明します。   これは,犯罪被害者等による損害賠償請求に係る紛争を刑事手続の成果を利用して簡易迅速に解決するという基本的考え方に基づいて設けられたものでありまして,このような基本的な考え方を実現するため,例えば,裁判官が刑事に関する審理において抱いた心証をそのまま損害賠償請求に関する審理に引き継ぐこととし,被害者等による被害事実の立証を容易にし,民事上の請求に関する審理の迅速化を図っていると説明されています。   他方,制度を円滑に導入して運用していくためには,救済の必要性が強く認められ,かつ,簡易迅速な手続で審理するのが相当と思われる犯罪を対象とするのが相当であると考えられるところ,故意の犯罪行為により人を死傷させた罪や強制性交等罪,誘拐罪等,被害者等が類型的に,身体的・精神的に疲弊して,通常の民事訴訟を提起することが困難であると思われる犯罪であって,救済の必要性が強く認められ,かつ,刑事手続において認定された事実を元に簡易迅速な手続で民事上の請求について判断することができる犯罪をその対象事件とされたと承知しています。 ○酒巻分科会長 損害賠償命令は,現行少年法には存在しないわけですが,本処分においては,どのように考えるべきかという点についての御意見を承れればと思いますが,いかがでしょうか。 ○川出委員 ただいま,御説明があった損害賠償命令制度の趣旨を踏まえて考えてみますと,まず,損害賠償命令は,対象事件が被害者の生命や身体を害するような重大な犯罪による事件に限られています。それに対して,今回の新たな処分は,検察官が起訴猶予にした事件を対象とするものですから,本処分の対象となる事案は,類型的に,損害賠償命令制度の対象とはなりにくいものだと思います。その観点からは,本処分の対象となる事案について,損害賠償命令制度と同様の制度を設ける必要性は必ずしも高くないということがいえるかと思います。   他方で,損害賠償命令制度が導入されれば,本処分の対象となった事件の被害者の負担は確かに減ることになりますので,数は少ないとしても,対象事件に該当する事案が存在するのであれば,犯罪被害者の保護という観点からは,その適用を否定する理由はないのではないかとの意見も当然あり得るところですので,制度を設ける必要性の低さは決め手にはならないように思います。むしろ,考えるべきは,新たな処分の対象事件について損害賠償命令制度と同様の制度を設けるとしますと,刑事事件の場合にはなかった制度的な問題が生じるのではないかという点です。   その具体的な内容を刑事裁判の場合と比較しつつ述べてみたいと思います。まず,刑事事件の場合,被害者が通常の民事訴訟を提起するときには,刑事事件の訴訟記録を閲覧・謄写した上で,民事裁判においてその証拠調べを申し出ることになるのに対して,損害賠償命令を申し立てた場合には,刑事裁判での有罪判決の言渡し後,直ちに審理期日が開かれて,その期日において刑事事件の訴訟記録が取り調べられることになっています。建前としては,刑事事件の訴訟記録の取調べによって,裁判所が心証を取り直すことになるわけですが,損害賠償命令事件を担当する裁判所は,その刑事事件を担当した裁判所ですので,実際の証拠調べは形式的なもので,先ほども説明がありましたように,裁判所は刑事に関する審理において抱いた心証を事実上引き継ぐ仕組みになっています。   新たな処分の対象事件について同様に考えてみますと,損害賠償命令制度がない場合には,被害者は,通常の民事訴訟を提起し,審判記録を閲覧・謄写した上で,民事裁判においてその証拠調べを申し出ることとなります。ただし,本処分の手続は非公開とすることが想定されており,その趣旨としては,「審判の過程で明らかにされる対象者や関係者のプライバシーの保護」ですとか,「関係者に情報提供をためらわせないことによって,十分な情報を得て審判の適正を図る」といった少年審判の場合と同様の点が指摘されています。そうしますと,被害者による審判記録の閲覧・謄写についても,少年法の場合と同様に,いわゆる社会記録に相当するものは閲覧・謄写の対象から除外すべきであるということになるかと思います。   このことを前提に,新たな処分の対象事件についても損害賠償命令制度と同様の制度を設けた場合を考えてみますと,本来閲覧・謄写ができなかった審判記録が,損害賠償命令の手続で証拠調べの対象になるのは,新たな処分の審判手続を非公開とした趣旨に反することになり相当ではありませんので,最初の審理期日に取調べがなされる審判記録は,被害者の閲覧・謄写の対象となり得た記録に限られるべきことになると思います。そして,裁判所は,その範囲で心証形成すべきだということになるわけですが,この場合,裁判所は,その前の審判において全ての記録に基づいて心証を形成してしまっていますので,それは,裁判所に対して,損害賠償命令手続において,既に形成してしまった心証を,言わば切り分けて事実認定することを要求することになります。しかし,先ほどの御説明の中の「裁判官が刑事に関する審理において抱いた心証をそのまま損害賠償請求に関する審理に引き継ぐ」という言葉に表れていますように,そのような心証の切り分けを裁判所に要求するのは現実的には困難だと思いますので,それは,翻って,新たな処分の対象となる事件について損害賠償命令制度と同様の制度を設けることに無理があることを示しているのではないかと思います。   こうした観点から考えますと,本処分の対象となる事件について,損害賠償命令制度と同様の制度を設けることは,その必要性が必ずしも高くないということをおいても,克服しがたい制度上の問題があり難しいのではないかと思います。 ○酒巻分科会長 今,必要性及び相当性の観点から導入は難しいという御意見がありました。この点に関しましてほかに御意見はありますか。   それでは,「審判不開始」の決定について,もう既にこれは必要であろうとの議論はあったわけですけれども,審判不開始そのものについて,ほかに御意見はありますか。よろしいでしょうか。   では,この先,残りの「審判の方式」以下につきまして,更に御意見を頂きたいと思います。   「審判の方式」につきましては,手続を非公開とすることのほか,手続の冒頭で,供述を強いられることがないことを分かりやすく説明した上で,審判に付すべき事由の要旨を告げる,これについて陳述する機会を与える,さらに,少年に付添人があるときには,当該付添人に対して審判に付すべき事由について陳述する機会を与えるといった,告知と聴聞の手続を設けることが考えられるとの御発言がありました。「審判の方式」につきまして,現段階でそれ以外に設定すべきルール,規律があるというような御意見がありましたら頂きたいと思います。   いかがでしょうか。よろしいですか。   それでは,次に,「没取」以下について,御意見がある方は,挙手をお願いします。 ○池田幹事 「没取」について申し上げます。   少年法第24条の2に没取の規定が置かれておりまして,これとの関係で,以前の分科会におきましても,本処分との関係でも,社会的に危険なものや犯罪による不当な収益の保有を禁ずるとの要請があるのであれば,同様の処分をできるようしておくことも考えられるとの御指摘があったところです。   本処分との関係で考えてみますと,本処分の対象者が起訴猶予相当のものであるとしても,社会的に危険なものや犯罪による不当な収益を保有したままのものがおよそ含まれないとは言えないと思われますので,少年法において設けられている没取の制度をあえて本処分においては設けないとする理由はないのではないかと思います。本処分においても,社会的に危険なものや犯罪による不当な収益の保有を禁じるために,没取を設ける必要はあると思います。 ○酒巻分科会長 「没取」について,ほかに御意見はありますか。よろしいですか。   それでは,次に,「不服申立て」以下につきまして,御意見を頂ければと思います。 ○加藤幹事 「不服申立て」についてですが,これまでの御議論で,少なくとも処分を受けた者が,少年法と同様に,決定に影響を及ぼす法令違反,あるいは重大な事実の誤認又は処分の著しい不当を理由として抗告をすることができるとすることには特段の御異論はなかったように思います。一方,検察官による不服申立てについては,検察官関与制度を設ける場合には,その趣旨によるところですので,その議論の中で更に行うことでよろしいのではないかと思います。 ○酒巻分科会長 「不服申立て」に関して,ほかに御意見はありますか。よろしいですか。   それでは,「その他」で,「処分の効力」という項ですけれども,これについてはいかがでしょうか。 ○川出委員 「本処分の効力」については,具体的には,少年法の第46条第1項に定められている一事不再理効類似の効力を認めるかどうかが問題になると思います。取り分け,刑事処分との関係が問題となりますので,その点は,新たな処分と刑事処分との関係をどのように考えるかという観点を踏まえて検討されるべきことだろうと思います。その上で,仮に,刑事処分との関係で一事不再理効類似の効力を認めるとした場合については,検察審査会制度との関係を考えざるを得ないだろうと思います。   具体的には,検察官が起訴猶予の判断をし,事件が本処分の手続の対象となった場合に,検察審査会への審査申立ての対象とすべきなのかどうか,仮に審査申立ての対象とすることとした場合,一度本処分の効力が生じてしまった場合にも,その後起訴相当議決や不起訴不当議決がされたときに,検察官が公訴提起することができるとすべきなのか,さらには,既存の起訴議決による起訴強制を認めるのかといった点を検討する必要が出てきます。この段階では,刑事処分との関係で一事不再理効類似の効力を認めるかどうか,どのような場合にそれを認めるかの検討にあたっては,検察審査会制度との関係も併せて検討する必要があるということの指摘だけさせていただきたいと思います。 ○酒巻分科会長 それはそのとおりだと思いますが,この点について,更にどうすべきかについて議論をしていただくことになるわけで,法律上の問題,制度設計の問題としてはこれがあるとのことですね。   この一事不再理類似の効力に関して,ほかに御意見はありますか。よろしいですか。   あとは「処分間の調整」ですが,これは,要するに,この処分と刑事処分,その他様々な処分との競合をどうするか,あるいは「処分の取消し」についてどうするか,これらについて御意見がありますか。よろしいでしょうか。   「その他」について,何かほかに,今ここで御発言がございますでしょうか。 ○山﨑委員 ここがよいのかどうかは分からないのですが,一つは,この新たな処分の制度を作ったときに,簡易送致の手続との関係はどうなるのか。現在は,簡易送致の対象事件になっているような事件がどのように取り扱われることになるのか,その点について何か御説明があれば頂ければと思います。 ○酒巻分科会長 これについて,事務当局から,説明をお願いします。 ○羽柴幹事 微罪処分及び簡易送致につきましては,部会第4回会議において配布資料13をお配りしました。微罪処分・簡易送致関係資料という資料です。その資料の1ページに,平成27年における刑法犯罪種別検挙人員のうち,微罪処分又は簡易送致とされた人員に関する統計及び少年の交通業過を除く刑法犯罪種別検挙人員の年齢層別の統計を載せています。そして,3ページに,犯罪捜査規範を載せています。微罪処分ができる場合は第198条,いわゆる簡易送致ができる場合は第214条ですが,それらの該当条文を掲載しているところです。罪種別の微罪処分又は簡易送致とされた人員など,詳細につきましては,1ページ目の統計を御覧いただければと存じます。   全体の概要について少し御説明しますと,平成27年における交通業過を除く刑法犯の検挙人員は,この1ページにございますけれども,23万9,355人です。そのうち少年の検挙人員は3万8,921人で,このうち簡易送致された人員は1万2,154人でありまして,少年の検挙人員に占める簡易送致された人員の割合は31.2%です。   少年につきまして,年齢層別に分けたものがございまして,それは下の方の2という表ですけれども,その中に年長少年,18歳及び19歳の欄がございまして,この年長少年について見た場合,その検挙人員に占める簡易送致された人員の割合は34.1%でした。   他方,平成27年における成人の交通業過を除く刑法犯の検挙人員は20万434人ですけれども,このうち微罪処分となった人員は7万1,496人でありまして,成人の検挙人員に占める微罪処分とされた人員の割合は35.7%でした。   数値や根拠条文等について,御説明することで回答に代えさせていただければと思います。 ○山﨑委員 そうすると,イメージとしては,これまで簡易送致になっていたような事件については微罪処分の扱いがされて,そもそも検察官のところに事件としては来ない。それを前提にした新たな処分になる。こういうイメージになるのかなと思いましたが,そのような感じでしょうか。 ○加藤幹事 統計の数字だけから,簡易送致であったものがそのまま微罪処分になるとまで即断できるまでの確信はありませんが,ただ,御紹介のあったように,数値的には微罪処分になる人員の割合と簡易送致になる人員の割合は比較的近いということと,粗暴犯を除くと,罪名構成も比較的似たような形になっていることを考えますと,微罪処分とされ得るものと簡易送致になっているものが,要するに近しいものとして,相当程度,重なる層なのではないかといえるのではないかと思うところです。議論としては,少なくともそのような前提で議論ができる程度の重なり合いがあるのではないかと思います。   恐らく今山﨑委員が御指摘になっているのは,今度,新たな処分を設ける前提として,18歳及び19歳の者が成人とされる場合でも,それを微罪処分の対象としてよいのかどうかとの問題意識ではないかと思います。その点は,正しく検討課題なのではないかと思うところです。確かに要保護性の判断は,家庭裁判所が一元的に行うとの考え方を完徹し,かつ家庭裁判所の教育的機能についても引き続き期待することを徹底いたしますと,微罪処分の対象者も含めて,訴追の必要性がない者全員を本処分の手続の対象とするとの理解もあると思います。   ただ,この点は他方で,18歳及び19歳の者が比較的軽微な罪を犯した場合であっても,なおその処遇や働き掛けが必要な者に,処遇や働き掛けを行うことを可能とする本処分の趣旨との関係でも考える必要があると思われます。それで,検察官にも送致されずに微罪処分の対象となっている者について,検察官に送致して公訴を提起しないとの判断を経て,更に家庭裁判所における調査審判の手続を経てこの処分を行うことができるようにしたとしても,微罪処分の対象事件と簡易送致の対象事件が今のように重なっている部分が多いと考えますと,簡易送致された者の多くが家庭裁判所調査官の調査を経ることなく事案の軽微を理由として審判不開始とされている現状にも鑑み,微罪処分の対象者の多くは審判不開始,あるいは不処分となると見通せるわけです。それにも関わらず,微罪処分相当の者をあえて検察官に送致して公訴を提起しないとの判断を経て,家庭裁判所の調査・審判を更に経て本処分を行う必要性があるのかどうかについては検討の必要性がありましょうし,特にここは,微罪処分となされるものが警察においてどういう取扱いをされているかといったような点にも関わるものだと考えられます。残念ながら,本日,滝澤幹事が御欠席ですので,その御意見等も踏まえて,更に検討すべき点ではないかと思っています。 ○酒巻分科会長 微罪処分に関しては,次回に御意見を伺うこととして,ほかに御意見はございませんか。 ○山﨑委員 部会の方でも年齢の基準時について若干申し上げたのですが,今回この新たな処分で問題としている18歳及び19歳というのは,犯罪行為の時点ではなくて,処分の時点が基準ということでよろしいのでしょうか。というのは,手続の途中で18歳になった場合ですとか,20歳になった場合についても考えておかないといけないと思っていまして,今の処分時を基準とする前提に立ちますと,例えば,仮に少年法の適用年齢が18歳未満に下がった場合,少年事件として家庭裁判所に係属した17歳の少年が,手続の途中で18歳になってしまったときには,現在の成人逆送と同じように,検察官送致になると思うのですが,その上で,検察官に送られた事件が公訴提起の必要ないと判断されたときには,再び新たな処分の対象として家庭裁判所に送られるという可能性も出てくる,といったような問題もあるのではないかと思っています。   また別の問題として,18歳及び19歳,特に19歳の少年が新たな処分の対象として家庭裁判所に来たときに,途中で20歳になった場合には,これは審判条件を欠くことになり,今の逆送のような対象にはならずに不処分で終わるということでよいのか,あるいは審判不開始もあり得るのでしょうか。この辺りは,考えて整理しておく必要があると思いました。 ○酒巻分科会長 そのような事案は想定できるわけでして,それに対する法的対処は,それは考えておかなければならないと思います。   今の山﨑委員の御意見について,何か御意見はございますか。よろしいですか。   それでは,これで一巡目の議論が済んだところなのですが,先ほど申しましたとおり,残りの時間,もう一度最初に戻って意見交換を行うわけですが,ここで,休憩を入れたいと思います。               (休     憩) ○酒巻分科会長 それでは,再開します。   冒頭に戻りまして「検討課題」の「1 概要」について意見交換を行いたいと思います。   これまでの議論を敷えんした御意見でも結構ですし,違った観点からの御意見でも結構ですので,何か御意見はございますでしょうか。よろしいですか。   それでは,次に,「2 処分の内容等」のうち,「(1)施設収容処分」についての意見交換を行いたいと思います。前回の分科会で澤村幹事から,施設収容処分を設けることの相当性については,なお議論を深める必要があり,例えば,成人であれば起訴猶予となるような非行があった事案で,短期間の収容処分によってそれなりの一定の効果が生じているようなものの事例があるかどうかといった観点から検討することが考えられるとの御提案がございました。   この点について,事務当局において調査されたことがあれば御説明をお願いしたいと思います。 ○羽柴幹事 澤村幹事の御提案は,成人であれば起訴猶予となるような非行があった事案で,短期間の収容処遇によって一定の効果が生じているようなものの事例がないかといったことも踏まえて,施設収容処分を設けることの相当性について議論をすべきとのものであったと理解しています。   そこで,短期で処遇効果が上がった事例について,それが成人であれば起訴猶予相当のものといえるかとの観点から検討することが議論に資することと考えられ,この点に関しまして,当分科会第6回会議で配布しました配布資料10「統計資料2(在院者の在院期間関係)」がございます。その配布資料10の2ページの在院期間の表中,在院期間が短いものについて,より具体的な在院期間,非行事実について調査を実施いたしました。   その結果をまとめたのが,本日お配りしました配布資料20です。配布資料20と今申し上げました2ページの表の在院期間が短いものとは合致しています。この配布資料20につきまして,詳しい内容を小玉幹事から説明いたします。 ○小玉幹事 今,説明がありましたように,当分科会第6回会議におきまして配布しました「統計資料2(出院者の在院期間関係)」の中で,2ページの「平成28年に出院した者の在院期間(出院時18歳以上の者)」について,御説明させていただきましたが,この表の中の右側にありますとおり,出院時18歳以上の者は合計1,824名ですが,このうち在院期間が126日以下の者が5名,127日以上133日以下の者は4名でした。   本日お配りしている配布資料20「平成28年に少年院を出院した者(出院時18歳以上の者)のうち,在院期間が133日以下であるもの」は,これらの9名につきまして,当時の少年簿などを確認して作成したものです。本資料に基づいて,少年院の在院期間が短期間であった各事案について御説明します。   まず1件目は,元交際相手を強姦した事案でありまして,第1種少年院送致の決定がなされています。入院時,出院時の年齢はともに18歳でありまして,76日の在院期間を経て仮退院となっています。   2件目は,共犯者とともに鍵ですとか現金を盗んだ窃盗,更に住居侵入や器物損壊を行った事案であり,第1種少年院送致の決定がなされています。入院時の年齢は17歳,出院時の年齢は18歳であり,77日の在院期間を経て仮退院となっています。なお,この者については,本件以前にバイクの無免許運転について不処分決定を受けています。   3件目は,交際相手が被害者に貸した金を返済させようと考えて,被害者に暴行を加えて現金を脅し取ろうとした傷害と恐喝未遂の事案でありまして,このうち傷害の結果は,加療約20日間を要する左足の挫傷及び加療約132日間を要する歯牙破折でした。この事案につきましても,第1種少年院送致の決定がなされています。入院時,出院時の年齢はともに19歳でありまして,88日の在院期間を経て仮退院となっています。この者については,本件以前にバイクの窃盗について保護観察処分を受けて解除された非行歴があります。   4件目は,他人の親族等になりすまして現金をだまし取る特殊詐欺の現金受取役を行った事案でございまして,同種の2件の詐欺,1件の詐欺未遂により第1種少年院送致の決定がされています。入院時の年齢は19歳,出院時の年齢は20歳であり,89日の在院期間を経て仮退院となっています。   5件目は,共犯者とともに通行人に対して因縁を付けて現金を脅し取った恐喝2件の事案であり,このうちの1件では,被害者の通行人に暴行を加えて全治約2週間を要する外傷や打撲傷などの傷害を負わせております。これらの事案で第1種少年院送致の決定がなされています。入院時,出院時の年齢はともに18歳でして,103日の在院期間を経て仮退院となっています。この者については,本件以前にバイクの無免許運転について交通短期の保護観察処分を受けて解除されています。   ここまでの5件が,家庭裁判所から特別短期間の処遇勧告が付されたものです。   次に,6件目は,酒に酔って通行人とけんかをした上で,加療約1週間を要する打撲傷や捻挫の傷害を負わせ,またコンビニで万引きをした窃盗及び集団暴走による道路交通法違反を行った事案です。これらの事案について,第1種少年院送致の決定がなされています。入院時,出院時の年齢はともに18歳でして,128日の在院期間を経て仮退院となっています。この者については,本件以前に,自転車の遺失物等横領について審判不開始決定,バイクの窃盗及び遺失物等横領について保護観察処分を受け,その保護観察中に本件に至ったものです。   7件目は,無免許運転と集団暴走による道路交通法違反であり,第1種少年院送致の決定がされたものです。入院時,出院時の年齢はともに18歳であり,132日の在院期間を経て仮退院となっています。この者については,本件以前にバイクの窃盗について不処分決定,暴行について短期の保護観察処分,バイクの無免許運転について交通短期の保護観察処分を受け,これらの保護観察はいずれも本件以前に解除されていました。   8件目は,大麻を含有する植物片約4.7グラムを所持した大麻取締法違反の事案でして,第1種少年院送致の決定がされています。入院時,出院時の年齢はともに18歳であり,132日の在院期間を経て仮退院となっています。   最後の9件目は,知人に暴行を加えて全治約1か月を要する鼻骨骨折の傷害を負わせた事案でありまして,第1種少年院送致の決定がされています。入院時,出院時の年齢はともに19歳であり,133日の在院期間を経て仮退院となっています。この者については,本件以前に暴行について不処分決定,建造物侵入について審判不開始決定,無免許運転の幇助及び窃盗について保護観察処分,窃盗について保護観察処分を受けており,1回目の保護観察は解除になっていますが,2回目の保護観察中に本件に至ったというものでございます。   各事案の説明は以上でありますが,現時点で確認した結果,これらの当時の少年が,仮退院後に再度少年鑑別所,少年院又は刑事施設に収容されたとの事実はありません。 ○酒巻分科会長 ありがとうございました。   直感的にはほとんど起訴猶予にはならないものばかりという個人的感想です。大麻は違うかもしれませんが。   今の御説明について,まず御質問ございますか。よろしければ,この御説明を踏まえた上で御意見がございましたらよろしくお願いします。 ○加藤幹事 分科会長と同様の感想でありまして,従来の議論でも,保護処分の重さといいますか,保護処分の種類と非行事実の大きさはおおむね比例しているとの説明がありましたが,やはり少年院に入っている事件であるとすると,余り起訴を免れる事案ではなさそうには思われました。ただ,もちろん特別短期の勧告などがなされている個別の事案の事情はあったのだろうと思いますけれども,今の統計資料の説明等を伺いますと,現在の少年院の実務上,施設収容処分の効果が上げられたと判断されて仮退院とされるまでには,いずれも2か月以上収容されていることになるのだと思います。   その上で,今回の新たな処分について検討すると,この処分は行為責任の範囲内で改善更生が必要な限度で行うものであって,これまでの御議論では,検察官が起訴猶予とする判断を示したものが対象となることが前提となっているわけです。そのような意味で,先程紹介された事案は,今回の新たな処分の対象には,余り当たっていないのではないかと思います。あるとすれば,8番の大麻取締法違反の事案などが比較的軽い事案で,場合によっては起訴猶予になるかといったような事案であると思われます。   仮に,そのような起訴猶予になるようなものが本処分の対象者となったとして,施設内処遇による処遇効果を上げるためには,この8番の事例ですと132日となっていますが,少なくとも2か月以上の期間の処遇が必要になるようです。しかしながら,起訴猶予相当と判断されるようなものに対して,2か月程度の期間であっても施設収容処分とすると,すなわち実刑2か月に引き直すことが,その行為責任を超えていないのかどうかという点から考えますと,やはり過剰な制約になるのではないかと感じます。 ○山﨑委員 私も今の加藤幹事と同じ意見を持っておりますけれども,もう一つ,この統計は当然ながら少年院での集中的な働き掛けをした結果であると思われます。仮に新たな処分で施設収容処分を認める場合に,対象者をどこに収容し,どういった処遇をするかが別途問題になるところ,いずれにしろ健全育成目的からは外れたことになる整理のようですので,そうなると,どこまで少年院のように集中的な働き掛けが行えるか,という点もありますので,少年院処遇との単純な比較も難しいという問題もあるように感じました。 ○酒巻分科会長 ほかに御意見がなければ,保護観察処分についての意見交換に移りたいと思いますが,保護観察の内容,期間等につきまして,まず御意見を頂ければと思います。いかがでしょうか。 ○加藤幹事 「(2)保護観察処分」の関係です。この保護観察処分について,これまでおおむね現行の保護観察と同様の保護観察を念頭に置いて議論をしてきたと思われます。以前の会議でも御発言があったとおり,1年間の保護観察は類型的に正当化されると考えられ,この点については特段の御異論はなかったと認識をしています。これは,現行の1号観察における保護観察を想定して,それと同様に遵守事項等の義務付けをすることを含めて正当化されるという議論をしていたものだと思われます。   ただ,他方で,対象者が遵守事項に違反した場合にとり得る措置が,現在の1号観察と異なるものになることを考えますと,部会でも御指摘があったように,その心理的強制力が弱まって,実効性が劣ることになる可能性があるのではないかとの懸念,そういった指摘もなされていたところです。そういった観点から,遵守事項違反があったときにとり得る措置等について検討課題になっているわけですが,その措置の有無や内容等を踏まえて,本処分の保護観察が処遇効果を上げられるか,あるいは実行に当たって困難はないかなどの検討を行うとともに,実効性のある指導監督の在り方といった保護観察の内容を検討する必要があると考えられます。   期間の在り方は,その期間自体を先行して決するというよりは,そういった保護観察の内容を踏まえた上で検討が必要になるのではないかと改めて思います。 ○酒巻分科会長 前回の分科会でも,保護観察の在り方を見直す必要があり,さらに,収容鑑別が必要である場合について,いろいろな具体的な例が問われたこともあったのですが,これについて,事務当局から説明をお願いします。 ○今福幹事 ただいまの点に関しまして,幾つかの事例を御紹介させていただきたいと思います。   飲酒とか薬物の使用の上に自傷他害行為を行う場合や,暴言,脅迫などを伴って,保護観察官等の呼出しにも応じないといった問題行動を繰り返している場合がありますけれども,その背景には,過去の虐待被害によるトラウマなどの著しい心的不安定がある可能性がございます。場合によっては,保護観察を見直すことが望ましいところです。しかし,現行の保護観察の中での面接には限界がございます。例えば,薬物等によって混乱している状態で面接が難しかったり,自分の問題をきちっと認識していないとか,あるいは心理的な防衛の構えがあって自ら語ろうとしないこともあります   このような場合には,例えば薬物などが使用できない環境において,あるいは外部から遮断された,落ち着いた環境において鑑別技官などと信頼関係を築きながら,行動観察による動静の把握やフォローアップなども含めて検討した上で,面接後のフォローアップが不可欠になるような内面に踏み込んだ面接を適切なタイミングで行うことで,虐待経験等によるトラウマの問題を把握していくことが考えられます。そういったことは,やはり収容鑑別でなければ難しいのではないかと考えております。   収容鑑別を経て,問題性を把握した場合に,それを保護観察処分にいかすとの観点について申し上げますと,例えば,暴力防止プログラムの受講を義務付けて指導をしていたけれども,問題行動の背景にはもっと深い虐待被害のトラウマがあることが分かりましたら,医療機関でのトラウマ治療等,受診を促すことが適切な方法になろうかと思います。収容鑑別を経ることで,そういったことが可能になってくるものと考えられます。   なお,元々当初の審判時に収容鑑別がなされていたとしても,これらの虐待被害者等のトラウマは容易には判明しないことから,その時点で判明していない可能性も往々にしてありますので,再度の収容鑑別が必要になろうと思っております。また,精神疾患が疑われる場合も同じことがございます。現行の保護観察の面接では時間が限られていることなどから,やはり収容鑑別によらなければ,その問題行動が精神疾患の徴表であるか否かの認定までは,なかなか難しい場合があります。収容鑑別によって精神疾患が疑われ,それと問題行動とのつながりが把握できた場合には,次に保護観察でやるべき手当てとしては,医師の処方をきちっと得た服薬の指導につなげる,またそれに関する特別遵守事項を設定する,福祉施設への入所を調整するとか,医療機関への入院治療につなげるといったことで,処遇の転換を図っていくことが必要になってくる場合があります。   最後に,深夜に外出,外泊が続いているとの情報が家族等から得られた場合,保護観察官は,それが不良交友が原因かなと思うことがあります。しかし,保護観察官の面接では,表面的なところまでは把握できたとしても,不良交友と問題行動が本当につながっているのかは断定しづらいことが実際の場面としては出てきます。こういった場合は,やはり外部から遮断した,落ち着いた環境において,その対象者の自覚を促して,自分の環境とか交友関係の問題点にまず気付かせて,これを明らかにしていくことが必要になります。それが通常の保護観察の中では難しいわけですけれども,収容鑑別により,そういった問題点,すなわち,対象者が自ら積極的にそういう不良交友に参加している,あるいは脅されて抜けられずにいるといった,もう少し深い理解がそこで明らかになってきましたら,それに応じて,例えば特別遵守事項で更生保護施設等への宿泊を義務付けるといった方法も含めて,不良交友からの分離を適切に図っていくことも可能になってくると思っております。   ここまで申し上げてきたとおり,当初審判で,一旦収容鑑別で何らかの情報が得られたとしても,その後に発生する事象として,心的不安定や環境の悪化といったことも起こり得るところですから,収容鑑別が必要になる場合もあることを,事例を通じて御紹介させていただきました。 ○酒巻分科会長 ありがとうございました。   今の御説明を踏まえて,何か御意見がありますか。 ○加藤幹事 前回も申し上げたところですが,今御紹介のあったような事例からすれば,本処分について保護観察の在り方を見直すための鑑別,なかんずく収容鑑別というのを実施する必要がある事案があるのではないかと考えたところです。 ○山﨑委員 時間もないので,簡潔に今日のところは申し上げますけれども,そもそも収容鑑別自体が必要な場合があるだろうということは私も大きな異論はないのですが,改めて考えたときに,在宅処分しかない新たな処分において,検察官が訴追の必要はないと判断したような事案で,仮に10日間であっても,対象者を身体拘束して鑑別をするということ自体が,本当に理論的に許容されるのだろうか,といった点については改めて考える必要があると思っています。   例えば,起訴された人であっても,保釈をされれば,実刑にならない限り社会内でずっといらっしゃることになると思いますので,それと要保護性とは違うのだという理屈はあるかとは思うのですが,そういった場合とのバランスも含めながら,本当に身体拘束がどこまで許容されるのかとの点は慎重に考える必要があるというのが一つです。   さらに,保護観察の不良措置として収容鑑別を行うことについては,今おっしゃったような事案がありましたけれども,そのような事案だとそもそも起訴猶予になるのだろうかといった感じもしまして,当初から問題になるケースがほとんどではないかと考えております。後になって問題性が発覚する場合に備えて,あるいは不良措置として収容鑑別を位置付ける形を作っておきましても,制度が一旦できれば,なかなか縛りがなくなってしまって,単なるペナルティーですとか,威嚇的なものとして使われはしないかについて懸念しております。かつ,もし収容鑑別を認めるのであれば,果たして何回実施できるのか,回数が限りなくできれば,それは実質,収容処分になってしまうのではないかという問題もあるかと思いますので,特に不良措置としての収容鑑別については慎重に検討しないといけないのではないかと思っています。 ○酒巻分科会長 ほかに御意見はありますか。よろしいですか。   それでは,「3 手続」の中で,付加して御意見があれば頂きたいと思います。「(3)」以降は先ほどやりましたので,「(1)」,「(2)」についていかがでしょうか。 ○池田幹事 「(2)少年鑑別所の鑑別等」のうち,二つ目の「○」について中心的に申し上げます。   前回,川出委員から,逃亡や罪証隠滅防止を目的とする少年鑑別所への収容を設けないとすることが考えられるとの御意見がありました。逃亡や罪証隠滅防止を防止しつつ,適切な審判を行うことができるようにすべきであるとの考え方からは,本処分についてもそのような目的での収容措置を設ける必要性はないとはいえないと思います。   他方で,仮に,罪証隠滅や逃亡防止を目的とする収容を設けることにいたしますと,この収容期間は審判継続する間になるはずですが,これまでの家庭裁判所における実務を前提としますと,その期間は少なくとも28日間程度となると考えられます。しかし,起訴猶予の判断を示された比較的軽微な罪を犯した者について,そのような長期間,そのような期間に及ぶ収容を行うことができるとすることが相当と言えるかの問題は残るように思います。本処分を行うか否かの審判手続において,罪証隠滅,逃亡防止の目的で収容する措置を設けるか否かについては,以上の点からの検討も必要ではないかと思います。 ○酒巻分科会長 ほかに御意見はありますか。よろしいでしょうか。   それでは,「若年者に対する新たな処分」についての本日の意見交換はこの程度にしたいと思います。よろしいでしょうか。               (一同異議なし)   その他,全体として何か付加して意見のある方は,いらっしゃいませんか。   それでは,本日の意見交換はこれで終了したいと思います。   最後に,今後の議論の進め方について,お諮りいたします。   この分科会の前回会議及び本日の会議におきまして,各論点に関する検討項目について一通りの意見交換を行ったことになります。今後,各論点に関する部会に報告する制度概要案等の作成に向けて,具体的ないし技術的な検討を行うに当たりましては,まずは立案作業を担当することになる事務当局において,これまでの議論の状況を踏まえて検討のたたき台を作成してもらい,それを更に利用しながら議論を行っていくことが効率的だと考えております。   そこで,もし皆様に御異論がなければ,そのような形で進めさせていただきたいと思いますけれども,よろしいでしょうか。               (一同異議なし)   それでは,次回の分科会の議事はそういう形で進めていくことにいたします。事務当局におかれましては,検討のたたき台とする資料の作成をお願いしたいと思います。   本日の審議はこれで終了といたしまして,今後の予定について,事務当局からお願いします。 ○羽柴幹事 次回の当分科会の会議は,6月28日木曜日午後1時30分から予定されています。場所は東京地方検察庁15階の会議室となります。 ○酒巻分科会長 本日の議事につきましては,特に公表に適さない内容に当たるものはなかったと思いますので,発言者名を明らかにした議事録を作成,公表することにさせていただきたいと思います。よろしいでしょうか。               (一同異議なし)   それでは,本日はどうもありがとうございました。 -了-