法制審議会 少年法・刑事法 (少年年齢・犯罪者処遇関係)部会 第2分科会第3回会議 議事録 第1 日 時  平成29年11月22日(水)   自 午前 9時55分                          至 午前11時34分 第2 場 所  東京地方検察庁会議室 第3 議 題  1 宣告猶予制度について         2 罰金の保護観察付き執行猶予の活用について         3 若年者に対する新たな処分について         4 その他 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○羽柴幹事 ただいまから法制審議会少年法・刑事法(少年年齢・犯罪者処遇関係)部会第2分科会の第3回会議を開催いたします。 ○酒巻分科会長 本日も,御多忙のところ,お集まりいだたきましてありがとうございます。   議事に入る前に,前回の本分科会以降,部会の委員に異動がございましたので御紹介いたします。   中里智美氏が委員を退任され,新たに伊藤雅人氏が委員に任命されました。   委員の異動は以上です。   本日も当分科会における審議の中で,家庭裁判所の実務の実情等について御質問があったとき等に適切に対応していただくため,村田委員に御出席をお願いしております。   次に,本日の配布資料について,事務当局から御説明をお願いいたします。 ○羽柴幹事 本日,参考資料として,「『宣告猶予制度』についての意見要旨」,「『罰金の保護観察付き執行猶予の活用』についての意見要旨」,「『若年者に対する新たな処分』についての意見要旨」を配布しております。   各参考資料は,本分科会第1回及び第2回会議での御意見を事務当局においてまとめたものです。本日の会議における意見交換の御参考としていただくため,事務当局の責任において,各委員・幹事の御意見の要旨をまとめたものでございます。 ○酒巻分科会長 ただいまの御説明に何か御質問ございますでしょうか。   御質問はないようですので,審議に入ります。   初めに,本日の審議の進行についてですが,第1回及び第2回会議におきまして,論点表の大項目の2に掲げられた論点のうち,「宣告猶予制度」,「罰金の保護観察付き執行猶予の活用」及び「若年者に対する新たな処分」について,それぞれ1巡目の意見交換を行いました。また,「少年鑑別所及び保護観察所の調査・調整機能の活用」につきましては,これら三つの論点を検討する中で,関連する点について意見交換を行ったところです。   これで本分科会が担当する四つの論点についての1巡目の議論が終わりましたが,ここまでの各論点に関する制度の在り方・意義などに関する議論を前提にして,更に具体的な制度・活用の在り方について議論を深めるべき点もあると思われますので,本日は,引き続き各論点につきまして2巡目の意見交換を行いたいと思います。   各論点について,前回配布した三つの論点に関する検討項目案を再度配布しております。   今回も,論点相互に関係のある事項に及ぶ場合には,他の論点に関して適宜御発言を頂いてよろしいかと思います。無論,各論点について,これまで述べられていない御意見等を追加的に発言していただくことも差し支えないと考えております。   以上のような進行方法で2巡目の議論を行いたいと思いますが,よろしいでしょうか。             (一同異議なし)   なお,今後,12月19日に,部会第6回会議が予定されております。部会第5回会議におきまして,分科会における検討状況は,逐次,部会に報告することとされております。部会第6回会議におきましては,本日までの分科会での検討状況について中間報告を行うこととなります。本日の会議では,中間報告に向けて,今後検討すべき論点が適切に顕出されるようにするという観点からも,御意見をよろしくお願いします。   それでは,2巡目の意見交換を始めたいと思います。   本日は,各論点について,論点表に掲げられた順序に従い,「宣告猶予制度」,「罰金の保護観察付き執行猶予の活用」,「若年者に対する新たな処分」の順序で2巡目の議論を進め,「少年鑑別所及び保護観察所の調査・調整機能の活用」につきましては,これら三つの論点を検討する中で,必要に応じて,関連する点について議論することとしたいと思います。   まず,「宣告猶予制度」について,2巡目の意見交換を行いたいと思います。   「宣告猶予制度」についての検討状況を若干まとめますと,1巡目の議論では,制度の枠組みとして,現在は起訴猶予や罰金になっている者を対象者とする制度と,裁判所が実刑とするか執行猶予とするかを迷うような場合に,刑の宣告を猶予して猶予中の行状を考慮して刑を決める制度が考えられるとの御意見,これに関し,起訴猶予となっている者に被告人の地位を負わせることになるとの御指摘や,宣告猶予中の行状を考慮して刑を量定することは現在の量刑判断と整合するのかとの御指摘等もあり,また,宣告猶予や宣告の要件・手続,宣告猶予中の処遇等についての御意見等がありました。   お手元には,これらの御意見等を事務当局がまとめた「意見要旨」が配布されておりますので,それも参考になさりつつ,更に検討課題や問題点などについて議論を深めていきたいと思います。もちろん,それ以外の新たな御意見があれば,更に御発言いただきたいと思います。   前回の議論におきましては,川出委員から,現在は起訴猶予や罰金になっている者を対象とし,再犯防止の観点から判決又は刑の宣告を猶予するという仕組みや,裁判所が実刑か執行猶予かを迷うような場合に,刑の宣告を猶予し,宣告猶予中の行状を考慮して量刑を決めるという仕組みについて御提案があり,これらの案について,様々な意見がありました。それを前提として,今回,付け加えて議論する点などがあれば,まずこの点から始めたいと思いますが,いかがでしょうか。 ○川出委員 前回,御紹介がありましたように,刑法の全面改正作業の段階でも宣告猶予の導入が議論され,そのための具体案も示されたのですが,その際は,既存の起訴猶予と執行猶予に加えて,新たに宣告猶予という制度を設ける必要性はないということが主たる理由となって,改正刑法草案には採用されなかったという経緯があります。そこで,そうであるならば,その時の案とは違う内容のもので,起訴猶予と執行猶予では賄うことができない場面を対象とするような宣告猶予制度というのがないだろうかという趣旨で,前回二つの制度枠組みを提示させていただきました。   そのうちの一つとして,裁判所が実刑か執行猶予かを迷うような場合に,刑の宣告を猶予して,被告人を保護観察等の社会内処遇に付し,その間の行状を考慮した上で実刑か執行猶予かを決めるという枠組みが考えられるのではないかということを申し上げたのですが,裁判所の立場から見て,それに適するような事例があるのか,言葉を換えて言えば,こうした制度を設ける必要性があるのかという点について,この段階でお答えいただけることがあれば教えていただきたいと思います。 ○福島幹事 前回の会議でも申し上げたところでございますが,現在の裁判実務においては,行為責任の原則を基礎とした量刑がなされているということで,犯罪行為そのものの重さによって量刑の大枠は決まる。一般予防や特別予防に関する事情は,調整要素として二次的に考慮されるにすぎないとされているところであり,再犯可能性や更生可能性という特別予防に関する事情が量刑に与える影響は限定的になるのではないかと思います。したがって,再犯可能性等が実刑か執行猶予かという大きな判断を左右する事例,別の言い方をしますと,再犯可能性等の評価が難しいために実刑か執行猶予かを迷う事例というのは,そもそもかなり限定的なのではないかと思われるところです。   さらに,再犯可能性や更生可能性については,刑事裁判の中で,前科関係,被告人の反省状況,家族等の更生環境などが手厚く立証されるのが通常でありますので,これらの証拠で十分な場合が多いとも思われます。   このように考えてきますと,裁判所が実刑か執行猶予か迷うために判決までに一定期間社会内処遇を行い,その行状を基に再犯可能性等を見極めた上で最終的な量刑判断をするのが相当な事案というものが,果たしてどれほどあるのか疑問であるというのが,私の実務的な感覚であります。   また,川出委員が御提案の制度は,実刑か執行猶予か迷う事案で,一定期間刑の宣告を猶予して,社会内処遇に付した上で,順調に推移すれば,執行猶予に処して社会内処遇を継続し,逆に,再犯や遵守事項違反があれば,実刑に処して刑事施設に収容するという制度であると理解しておりますけれども,これは,少なくとも現象面や効果という点においては,現行の執行猶予制度とさほど変わらないようにも思われます。すなわち,現行の執行猶予制度は,社会内処遇に付した上で,順調に推移すれば社会内処遇だけで終わりとし,逆に,再犯や遵守事項違反があれば,執行猶予を取り消して刑事施設に収容するという制度でありますので,これは,今回新たに提案されている制度と効果等の点で相当似ているようにも思われます。   したがって,御提案の制度については,現行の執行猶予制度に加えて新たな制度を導入する必要があるのか,また,二つの制度の使い分けが適切にできるのだろうかという観点からも,慎重に検討する必要があるように思われます。 ○川出委員 もう一つの,現在であれば起訴猶予や罰金となるであろう者を対象として,再犯防止の観点から,刑の宣告を猶予して保護観察に付すという枠組みですが,その導入の必要性については,起訴猶予に伴う再犯防止措置がどのようなものになるか,それから,この後議論される罰金の保護観察付き執行猶予がどのように利用されるかというところと関わってきますので,それと併せて考えることになろうかと思います。この枠組みについては,導入の必要性とは別に,この制度の下では,有罪を認定してから量刑までに一定の期間を置き,その間の事情を考慮して刑を決めることになりますので,その点について,量刑実務の観点から見て,何か問題となる点があるのか,つまり,制度の相当性という点で問題と感じられる点があるのかについてはいかがでしょうか。 ○福島幹事 御質問の趣旨ですが,それは,実体的な判断として相当なのか,あるいは量刑の行為責任を基礎とした判断と整合するのかという視点の御質問なのか,あるいは手続的な,実務の運用として回るのだろうかという観点の御質問なのか,どちらでございましょうか。 ○川出委員 最初の実体的な判断に関しては,行為責任の枠内で刑を決定することが大前提になっていますので,そのように運用していただくことになろうかと思います。お伺いしたかったのは,後者の方で,有罪認定と量刑が時間的に離れ,かつ,その間の事情を考慮するとした場合に,何か手続的な問題が出てくるのかという点です。 ○福島幹事 一つ目は,質問の御趣旨ではないということではありましたが,若干そこを付言させていただきますと,そのような制度を導入することになりますと,宣告猶予までしてその間の行状を観察することになりますので,それは宣告猶予期間中の行状をそれなりに重視して量刑することが前提になっているようにも思われますが,その点は,繰り返しになりますが,それが果たして今の行為責任の原則を基礎とした量刑という実務,あるいは今の実体法の考え方なのかもしれませんが,それと整合するのかという点は,やはりもう一度よく考えてみる必要があるのではないかと思います。   後者の手続的なといいますか実務の運用としてという点は,今はない制度ですので,私の頭の中で考えただけということにはなりますけれども,恐らく裁判所としては,犯罪事実,それから,一般情状に関する事情について一通り審理を行って,一定の心証を形成し,宣告猶予後,一定の期間が経過した後に,改めて以前審理した犯罪事実及び一般情状について心証をとり直した上で,更にその宣告猶予期間中の行状を追加して考慮して判断することになると思いますので,ただいま述べたようなプロセスを経ることになると,やはり量刑に関する心証形成や判断がやりにくくなることは否定できないのではないかと思います。   また,これも改正刑法草案のときにも指摘されていたと思いますけれども,現実問題として,そのようなプロセスの間に担当する裁判官が交代してしまうという事態も,現実問題としては起こり得るかと思うところです。 ○酒巻分科会長 ほかに,この基本的な枠組み,あるいは対象者等につきまして御意見ございますでしょうか。 ○滝澤幹事 あえて申し上げるまでもないように思うのですけれども,意見要旨1の(1)で②という一つの考え方のお示しがありました。論理的にこういうものもあり得るということだとは思うのですが,第1巡目の際も申し上げたとおり,実刑の可能性があるような事件というのは,かなり重いものもたくさん含まれてくるという中で,有罪と認められるかどうか分からないような状態が続いているということになります。さらに,その間の行状次第で執行猶予が言い渡される可能性があるという制度を設けること自体が,被害者や国民の方々の御理解を得られるのかどうかについては,やはりどういうものを対象とするかということなども含めて,あるいはこの②という考え方があり得るのかを考える際にも,慎重に御検討いただく要素の一つかと考えております。 ○山﨑委員 川出委員から宣告猶予制度を今新たに設ける目的として二つの場合があるというお話を頂きまして,さらに,前回の会議では,罰金の保護観察付き執行猶予の活用という方向性についても検討してきたわけですけれども,これらの議論を通じて私が考えたところですが,今日の意義を考えたときに,宣告猶予制度というものには,比較的軽微な罪を犯した者のうち社会内処遇がふさわしい者について,裁判所が関与して早期に社会内処遇に付すことができる仕組みとなり得るのではないかと考えておりまして,そういったところで今日的な存在意義があるように思いますので,今後の議論でも積極的に検討していくべきテーマではないかと考えているところでございます。   この点に関して,裁判所が関与して成人の対象者に社会内処遇を付することができる制度としては,現状では,実質的に保護観察付きの刑の執行猶予しかないわけですけれども,これは,単純執行猶予よりも重い処分という位置付けになっているかと思います。そこで,これとは別に,社会内処遇がふさわしい事案については,その対象をより早く,早期の段階で社会内処遇に付することができる仕組みとして,この宣告猶予というものが位置付けられるのではないか。そうすると,かつての改正刑法草案の部会案で想定された具体的な制度にとらわれずに,例えば公判請求とは別のより簡略な手続での宣告猶予といったことも含めて,柔軟に制度の設計を検討していったらよいのではないかと考えているところです。   この宣告猶予制度は,裁判所が関与しながらも,前科による資格制限ですとかラベリングといったものを回避しつつ社会内処遇を可能とする制度でありますので,こういった点については,対象者が社会内処遇について真摯に取り組む強い動機付けになり得るものと考えています。つまり,社会内処遇がうまくいけば,起訴されなかったのと同じとして裁判所が扱うというような制度として,宣告猶予制度については,現状を踏まえて,今の再犯防止上必要な対象者を想定しながら積極的に検討していくことが必要ではないかと考えております。 ○池田幹事 今,御指摘がありましたように,起訴された者について,社会内処遇のバリエーションを増やす,可能性のバリエーションを増やすことに意義が認められるというのは,そのとおりだろうと思います。他方で,特に意見要旨の1で示されている①の類型のうち,起訴猶予となっていた者を念頭に置くと,これは刑事処分の対象とならないので必要な処遇が行われないという懸念に対応する趣旨が含まれているものと思うのですが,宣告猶予にするためには,その前提として公訴提起をしなければなりません。ただ公訴提起は,本来的には処罰,すなわち刑事処分を求めるための制度です。しかし,そのような本来の目的とは異なり,刑事処分ではなくもっぱら社会内処遇の機会を設けるために公訴提起をすることを想定するのは,制度の在り方として若干不自然ではないかという疑問を私自身は持っております。とはいえ,そのような疑問はありますけれども,その他の可能性も含めて,引き続き検討に値する論点ではないかと思っております。 ○酒巻分科会長 基本的な枠組み,対象者のほか,宣告猶予の要件・手続等の項目もございますが,これについて何か御意見ございますでしょうか。 ○加藤幹事 前回,山﨑委員からお話のあった点と,先ほど御発言のあった点に関して,趣旨を確認させていただきたい点があります。前回の会議での山﨑委員の御発言と先ほどの御発言の趣旨とを私なりに理解しますと,重大とは言えない犯罪に対するダイバージョンの在り方という観点からの御発言であったように思われます。   先ほどの御発言ですと,宣告猶予の制度を導入する際に,公判請求ではなく,略式あるいは即決と同様の簡略な手続も併せて検討したらどうかという御提案であったように思われるわけですが,一方で,前回の御発言の中に,例えば,若年者のほか,薬物自己使用者ですとか,あるいは窃盗・無銭飲食を繰り返す高齢者などの類型ごとに対処方法や処遇方法を考えていくことも有益ではないかという御発言があったように認識しております。これに関して,検討事項の一例として,ドラッグコートですとか,前科要件の在り方ですとか,そのアセスメントの在り方,さらにはアセスメント前にその働きかけをすることなどについても挙げられておられたと思われるわけでございますが,そうすると,一部,必ずしも宣告猶予の枠にとらわれない御提案もされていたように思われるわけです。認識としてはそれでよろしいのでしょうか。 ○山﨑委員 宣告猶予の中でどういうことができるかという考え方と,そこから漏れるものであっても他の制度でできることがあるか,両方あるかと思いますが,主には,宣告猶予という枠組みを使いながら何ができるのか。ただ,その中では,従来の改正刑法草案の手続にはとらわれずに考えていいのではないかという趣旨でございます。 ○加藤幹事 そうしますと,今後,以前の法制審議会の刑事法特別部会で議論された案にとらわれない制度としてどんなものがあり得るかといった点についても,可能であれば具体的にお示しいただければ,今後の議論に有益なものになるのではないかとも思われますので,その点も御検討いただきたいと存じます。   なお,1点,前回の山﨑委員からの御発言の中で,今のようなことを前提として,宣告猶予を導入する場合においても,被告人の同意あるいは自認をその要件とすべきかどうかが検討の対象となり得るという御指摘があったと思います。被告人の同意や自認という要件が,どういう観点から必要となり得るとお考えになっているのか,これは要件を検討する上での御質問なのですが,現時点でそのお考えがあれば承りたいと存じます。 ○山﨑委員 被告人の同意を要件とするかどうかを検討した方がよいのではないかと考えましたのは,一つは,まず,諸外国の制度を見ましても,宣告猶予あるいはそれに類する制度については,被告人の同意を要件とするものがあるようですので,そういった点がございます。   もう一つは,改正刑法草案の部会案についても,判決書を作成した上で,被告人に閲覧させ,異議の申立てを認めることになっていたかと思いますので,そういった,被告人が異議を述べる余地を認めていることもあったと理解しております。こういったことを踏まえますと,宣告猶予制度を考えるに当たって,被告人の同意という要件が持つ意味として,一つは,適正手続からの要請として,迅速な裁判あるいは正式な裁判の手続を受けるのとは違う手続を受けることに関する被告人の同意という意味合いがあるのではないかと思っています。   もう一つとして,その手続は社会内処遇に向けられたものですので,そういう社会内処遇という一定の制約を受ける点についても被告人が同意するところに意味があるのではないかと考えております。   さらに,社会内処遇ですと,それに対する対象者の自発的な取組がやはり必要になりますので,そういった自発的取組を促す意味からも同意を求めることには意味があるのではないかと思います。   そういった観点から,今後の検討に当たっては,同意の要否,これは異議申立てという手続も含めてということになると思いますけれども,そういった点を検討する必要があるのではないかと考えているところです。 ○加藤幹事 自認事件に限るかという点もおっしゃっていたように思われるのですが,これはいわゆる自白事件に限るという御趣旨だと思われるのですけれども,その点について現時点でお考えは何かございますでしょうか。 ○山﨑委員 この点も,諸外国で,被告人が有罪を認めたことが要件となっている制度もあるようですし,また,先ほど少し申し上げましたけれども,通常の公判請求とは異なる何らかの簡易な手続も含めて検討する場合には,やはり自認事件,自白事件に限るということも考えられようかと思いましたので,そういった観点から,自認事件に限るかどうかという点について検討の必要があるのではないかという考えでございます。 ○加藤幹事 先ほどの,同意が必要とされる,あるいは自認が必要とされる理由として御指摘いただいた点のうち,訴訟手続における権利保障という点は,主として,通常の公判手続とは違う簡易な手続をとる場合に,被告人の権利保障をどうするかという観点からの御意見であったように思われますので,それは当然,そういう手続を導入するのであれば検討すべき点となるのだろうと思われます。ただ,実際にそういう手続を導入するかどうかという点が,むしろ先決問題になるのではないかと思うところです。   一方で,保護観察にすることが一定の権利制約を伴う,あるいは保護観察を実効的なものとするためには同意を要するのではないかという御指摘もあったのですが,この点は,現行法上,裁判所が被告人に対して執行猶予を付けて保護観察を言い渡す場合に,保護観察に付することについての同意を得る手続とはなっていない点との均衡なども考慮する必要があるのではないかと思われます。これは,裁判所が被告人の改善更生などの観点から保護観察を付すことが適当かどうかを判断するべきものだと考えられているからであるとも見られますので,被告人を保護観察に付するという観点から,その同意を要するのかどうか,その必要まであるかどうかという点は,慎重な検討を要する点ではないかと感じた次第です。 ○酒巻分科会長 手続あるいは要件に関して,ほかに御意見あるいはこういう点を検討すべきだということがございましたら御意見を頂きたいと思いますが,いかがでしょうか。よろしいですか。   「(3)宣告猶予中の処遇」,「(4)刑の宣告の要件,宣告する刑,宣告の手続,上訴,宣告猶予期間経過の効力」,「(5)他の制度との関係」という項目もございます。一般的な御意見あるいはこれまで出た議論に付け加える御意見があれば頂きたいと思いますが,いかがでしょうか。 ○山﨑委員 他の制度との関係や次の制度の要否にも関わるかもしれないのですが,今回の諮問の趣旨で,再犯者率が高いということで再犯防止の必要性があるということがあり,類型としては薬物事犯ですとか高齢者の犯罪について,それらに対する対応が課題になっていると認識しているのですけれども,例えば薬物の自己使用事案で,同種前歴のないような方に,今だと単純執行猶予になるケースが多いと思うわけですが,そうではなくて,むしろ必要な社会内処遇を早期に付して,それがうまくいけば,起訴がなかったことと同じように扱うという中で本人の取組を促すことには,意味があり得るのではないかと思っているのが1点です。   もう一つは,高齢者で少額な財産犯を繰り返してきているような方を考えたときも,必ずしも執行猶予とするには要件を満たさないのだけれども,やはり福祉的な支援をすれば再犯が防止できるような類型で,こういった宣告猶予あるいはそれに準じたような制度が意義を持つということもあり得るのではないかということは考えております。 ○酒巻分科会長 宣告猶予制度の仕組みといたしましては,川出委員御提案によるもののほか,法制審議会刑事法特別部会の改正刑法草案,いわゆる部会案の仕組みが,結局は採用されなかったわけですが,存在します。この仕組みについては,前回,事務当局から御説明があったところですが,改正刑法草案の部会案について御意見のある方はございますでしょうか。 ○加藤幹事 部会案に関することについても意見を申し上げたいのですが,その前に,直前の山﨑委員の御発言に関して一つ申し上げたいと思います。   山﨑委員が挙げられた典型的な対象者として考えられている者の中に,高齢者で軽微な犯罪を繰り返す方という御指摘があったのですけれども,犯罪を繰り返す者についてまで,この宣告猶予が適切なのかどうかという観点です。普通は,犯罪を繰り返せば,その刑は段階的には重くなっていって,実刑となっているものが多いのではないかと思われるわけですが,その場合,刑務所において改善指導を受けることになり得るわけです。そのような者について,宣告を猶予して社会内処遇をすることの方が,刑務所に入れて指導をすることよりも処遇の充実に資するのかという点は,検討が必要になるのではないかと思っておりますし,犯罪を繰り返していて,以前に執行猶予になっている者が,その次の段階で宣告猶予になるというのも,これはやや違和感がある結果になるのではないかとも思われます。それでありながら,それでも宣告猶予の方が処遇として有用であるという御指摘であれば,その辺りのお考えを承りたいと存じますが,いかがでしょうか。 ○山﨑委員 刑務所での改善指導が充実されるべきであることは,私もそう考えておりますけれども,やはり刑務所は社会から隔絶された環境ですので,そこで社会とのつながりがより切れることによるマイナス面も同時に出てきてしまうであろうと。そういうものを考えたときに,その対象者の福祉的支援の必要性が仮に刑務所に入った後に判明して,社会内でこういう手当てをすれば再犯は防げるのではないかという場合に,仮に,一回失敗したからといって,また刑務所というのが果たしてよいのだろうかという問題意識がございます。それはケース・バイ・ケースだとは思いますけれども,刑務所の中での処遇も充実させた上,そこから出口で何が支援できるかということはした上で,同時にこういう制度も高齢者を対象とした制度として想定していくと,更に充実するのではないかと今のところ考えております。 ○加藤幹事 犯罪を繰り返した上で,更に宣告猶予という,言わば量刑としてはより軽いと考えられる刑に処するのが適当かという点と併せて,刑事政策的には,できれば犯罪を繰り返す前に,言ってみれば初期のうちに,どのように介入できるのかという点も併せて検討する必要があるのではないかと感じた次第です。   続いて,部会案に関しての意見を申し上げます。   いわゆる部会案につきましては,第1回の会議で事務当局からの説明がありましたように,法制審議会において,以前に採用しないということになっております。採用に反対する意見としては,執行猶予あるいは起訴猶予などの現行の諸制度を活用すれば,宣告猶予の制度の目的は達せられるのではないかというものや,あるいは宣告猶予制度に不当な起訴に対する救済の効果があるとしても,そのための方法としては,公訴権の行使を厳しく規制するという行き方を採用すべきであるなどというものがあったと承知しています。   そのような当時の意見のうち,後者,宣告猶予を不当起訴の救済に用いるという点については,検察官の立場としては,改正刑法草案の当時の議論と同じ議論が現在にも妥当するとは想定しにくいと思うのでありますが,他方,前者の点,すなわち執行猶予あるいは起訴猶予といった現行の諸制度を活用することで目的は達せられるのではないかという問題は,当時の議論が現在も妥当すると思われますので,当時提起されたこの問題について,今もこの宣告猶予を採用するかどうかということを検討する上では,十分に検討する必要があるのではないかと考えられます。 ○酒巻分科会長 ほかに御意見ございますでしょうか。よろしいですか。   過去の部会案と川出委員から御提示のあった二つの案については,制度の枠組みあるいは対象者,宣告される刑などいろいろなものがあり得るわけですが,想定される犯罪の重さという観点から分ければ,現在は起訴猶予や罰金になっている軽微な犯罪を対象とするものとして部会案と川出委員の一つ目の案が考えられ,それよりも重いものとして,実刑かどうかの境目になるような犯罪を対象とする川出委員の二つ目の案が考えられるということになろうかと思います。   いずれにつきましても,様々な御意見がありますし,これとは別に簡略な手続も設けるかという検討課題もあるわけでございまして,宣告猶予制度につきましては,いずれにせよ,これからも議論を続けるという方向でよろしいでしょうか。             (一同異議なし)   それでは,宣告猶予につきましてはこの程度とし,次に,「罰金の保護観察付き執行猶予の活用」についての2巡目の意見交換に移りたいと思います。   罰金の保護観察付き執行猶予につきましては,1巡目の議論では,保護観察付き執行猶予の活用に適する事案は相応に認められるだろうとの御意見,対象者の改善更生のための積極的な処遇の手段として,罰金の保護観察付き執行猶予というものの活用は正当化されるであろうという御意見,略式手続での活用を踏まえて運用上の工夫を検討すべきであるとの御意見,これらに対して慎重な検討を要するとの御意見等がありました。   これらの御意見を事務当局がまとめた「意見要旨」も御参考になさりつつ,罰金の保護観察付き執行猶予の活用の意義や検討課題などについて更に議論を深めていきたいと思います。もちろん,それ以外にも新たな御意見があれば,更に御発言を頂きたいと思います。   御意見のある方は挙手をお願いいたします。 ○池田幹事 今,お取りまとめいただきましたように,これまでの議論において,罰金の保護観察付き執行猶予について,活用に適する事案があり,相応に活用が望まれるということについて根本的な問題があるという意見はなかったかと存じております。   他方で,今後の議論の前提といたしまして,なぜ罰金の執行猶予のような制度が設けられているか,あるいは保護観察付き執行猶予が設けられているかについて,その趣旨ないし意義を確認しておくことが有益と考えられます。そこで,これは御質問になるのですけれども,事務当局において,これらの制度が設けられてきた法改正の経緯やその意義について,御説明をいただけないでしょうか。 ○酒巻分科会長 罰金の保護観察付き執行猶予は現存する制度であり,立法理由を確認することは重要だと思いますので,事務当局から経緯を御説明いただきたいと思います。 ○羽柴幹事 ただいまの点について御説明いたします。   明治40年に現行刑法が制定された際には,刑の執行猶予を認める刑の範囲としては「2年以下の懲役又は禁錮」であり,罰金に執行猶予を付すことは認められていませんでした。   その後,昭和22年の刑法の一部を改正する法律によって,執行猶予を付すことができる刑の範囲について,「2年以下の懲役又は禁錮」から「3年以下の懲役又は禁錮」に拡張されるとともに,罰金についても執行猶予を付すことができることとされました。   昭和22年の刑法一部改正法の提案理由説明によれば,この改正の趣旨は,刑事政策的制度の拡張を目的としたものであり,刑罰をその必要な限度にとどめ,無用な刑罰の弊害を避ける趣旨を徹底するなどと説明されているところです。   その後,昭和28年の刑法等の一部を改正する法律によって,執行猶予中の者に対して一定の要件の下,再度の懲役刑又は禁錮刑について執行猶予を付すことができることとされるとともに,必要的に保護観察に付すこととされていたところ,昭和29年の刑法の一部を改正する法律によって,初度の刑の執行猶予の場合に,保護観察に付すことができることとされ,この改正より,罰金の執行猶予の場合にも保護観察に付すことができるようになりました。   罰金に保護観察付き執行猶予を付すことができることとした趣旨について特に言及した説明等は見当たらないところではありますが,改正法の提案理由説明によれば,これらの改正全体の趣旨については,執行猶予中必要のある者に対しては裁判の言渡しにより保護観察に付し得ることとし,刑政の目的を達成し,犯罪対策に寄与することにあるなどとされているところです。 ○加藤幹事 改正刑法草案が議論されたときにもこの問題が取り上げられており,刑事法特別部会の小委員会の議論の中では罰金の執行猶予については廃止すべきだという御意見もあったやに伺っていますので,この間の議論についても併せて説明をお願いできますか。 ○羽柴幹事 法制審議会刑事法特別部会の小委員会の議論においては,罰金の執行猶予について,これを廃止すべきとの立場から,短期自由刑の弊害を避けるという執行猶予制度本来の目的から見て積極的な意義があるとは考えられない,罰金について執行が猶予されるのは犯情が極めて軽い場合に限られるであろうが,そのような場合には罰金額を低くすれば足りるなどの意見もありましたが,罰金の執行猶予を維持すべきとの立場から,執行猶予制度の意味は短期自由刑の弊害を避けるという点のみにあるのではなく,猶予期間中の自発的な更生を促すという効果は罰金の場合にも期待することができるし,保護観察との結びつきによって刑事政策的な意義も大きくなるなどの意見があり,採決の結果,罰金の執行猶予を維持する意見が多数であったものと承知しております。   また,罰金の執行猶予を維持する場合に,保護観察に付し得ることとすべきか否かについても議論され,これに反対する立場から,保護観察が犯人にとって負担でもあるという面を否定することができない以上,罰金に処せられるような軽い刑についてまで保護観察に付するのは行き過ぎではないかなどの意見もありましたが,他方,罰金に処せられた者についても,保護観察によって再犯防止を図る必要がある場合もあり,保護観察に付するのは裁判所が必要と認めた場合に限られるのであるから,全くこれを許さないとするのは適当ではないとする意見があり,改正刑法草案では,罰金の執行猶予の場合に保護観察に付し得る法制を維持することとされたものと承知しています。 ○池田幹事 御説明いただきましてありがとうございました。これまでの議論の中では,罰金の執行猶予に保護観察が付されると,かえって負担が重いという感覚があって,そのことが活用されてこなかった背景の一つにあったのではないかという指摘もあったように理解しております。もっとも,制度の趣旨としては,刑政の目的を達する,すなわち刑罰の執行の弊害を回避するだけではなくて,執行猶予,そして保護観察を通じて,社会内の積極的な処遇の手段となることを想定して立法され,かつ,維持されてきたということが分かりました。   このような刑事政策的な意義がある制度だということについても,おおむね受け入れられているのではないかと考えられます。そのような観点に鑑みますと,改善更生に向け充実した処遇を図るための手段として,罰金の保護観察付き執行猶予を活用していくことは,検討に値するのではないかと考えます。 ○山﨑委員 私は前回の会議でも申し上げたのですけれども,やはり現実的に余り活用されてこなかったということは,現場の感覚としても,なかなか違和感といいますか難しいところがあるなというのが率直なところでして,あと,特に手続的には略式手続という今の手続構造の中で,果たして保護観察の要否を適切に判断できるのか,資料の収集を含めて疑問があるという感は否めないところです。   この罰金の保護観察付き執行猶予を活用しようというのは,感覚的に言いますと,保護観察のための手段として罰金の執行猶予を利用しようというもののように感じられてしまうのでして,むしろ先ほど議論しましたような,宣告猶予制度ですとか,それに類したというか,簡略な手続における宣告猶予も含めて,そういった制度も他方で検討しながら,両制度のメリット,デメリットを考えていった方がよいのではないかと考えております。 ○加藤幹事 今,山﨑委員から,この罰金の保護観察付き執行猶予の活用が,保護観察のために罰金刑を利用するように感じられないかという御発言があったわけですが,そこは若干異論がありまして,この活用を図るとしても,罪責として罰金刑に相当するものに関して,罰金刑を科した上で,更にその上で執行猶予,保護観察を活用しようと考えているわけでありますので,御指摘は当たらないのではないかと感じられるところです。   一方,罰金の保護観察付き執行猶予を活用するためには,御指摘のあったように,今まで活用されてこなかった原因を踏まえて考える必要があるだろうと考えられます。意見要旨の2のところに幾つかその原因が掲げられておりますが,前回も,罰金相当の事案であっても,対象者の改善更生のための積極的な処遇手段として保護観察付き執行猶予を活用していくこと自体は正当化できるのではないかという御発言があったところです。一方で,現在の実務上は,罰金の保護観察付き執行猶予を活用するという発想がなかったとも考えられるところであり,この点に関して言えば,刑事手続あるいは再犯防止に携わる者の間で,刑事政策的な観点からこれを活用することに適する事案については,刑事政策的措置の選択肢の一つとして考え得ることを共通認識とすることができるように,周知するなり,その認識を共有するなりということが考えられるのではないかと考えるところです。   また,略式手続との関係で,罰金事案の多くが略式手続によって処理されている中でこの活用を検討する契機がなかったのではないかと考えられる点につきましては,仮に略式手続でこの保護観察付き執行猶予を活用するためには,裁判所が活用に適する事案を書面で審理が行われる略式手続の中で適切に把握,判断することができるように,検察官においても必要な資料を提出できるようにする必要があるだろうと考えられます。その具体的な方策は検討する必要があるものだろうと考えております。   その一方で,略式手続が簡易・迅速な事件処理を図るための制度であることに鑑みまして,保護観察付き執行猶予相当事案は,それならば公判請求することも手続的には考えられるところですが,言わば重い手続を選択することが適切であるかどうかといった観点から,そのこと自体の当否も議論する必要があるのではないかと考える次第です。 ○酒巻分科会長 ただいま,加藤幹事から,意見要旨3の罰金の保護観察付き執行猶予制度を活用するとすればどういう方向があり得るかという検討課題についての御意見があったところですが,この点に関連してほかに御意見はございますか。 ○山﨑委員 今の加藤幹事の御発言で,私の発言がちょっと説明不足だったのかもしれないですけれども,言わばちょっと利用しているように感じられると申し上げたのは,罰金刑を利用しているのではなくて,罰金の執行猶予を利用しているふうに感じられるということでございます。罰金に当たるような罪責なのですが,それを執行猶予にしておきながら保護観察というのが,違和感があるということを申し上げているところでございます。 ○川出委員 今後,罰金の保護観察付き執行猶予を活用していくことを考える場合には,これまで何度も指摘がなされているところですが,やはりどのような事案にこれを適用していくかを的確に判断することが重要になるだろうと思います。その場合,様々な考慮要素が想定されますが,その一つとして,前回も御指摘があったように,対象となる被疑者に改善更生の意思がどれくらいあるのかということが挙げられるかと思います。   もっとも,保護観察というのは刑の付随処分ですから,現在の懲役・禁錮刑の保護観察付き執行猶予がそうであるように,対象者に改善更生の意思があるかどうかだけによって,保護観察付き執行猶予とするかどうかが決まるものではありません。そうではなく,やはり事案ごとに保護観察の必要性とか有用性,実効性等を十分考慮して,決定することになろうかと思います。ですから,被疑者・被告人としては,保護観察付きの執行猶予よりは罰金を払ってしまった方がよいという考えだったとしても,裁判所として,この被告人は保護観察付き執行猶予にした方がよいと判断したのであれば,罰金の保護観察付き執行猶予を言い渡すことは十分あり得るだろうと思います。   ただ,それを言い渡したとしても,被告人が,罰金で保護観察付きの執行猶予になることの意味を十分に理解していないと,結局,安易に遵守事項に違反して,罰金を払うことになってしまうことも考えられますので,やはり被疑者・被告人に対して,罰金で保護観察付き執行猶予になることの意味をどこかで説明しておく必要があるだろうと思います。   公判手続であれば,当然裁判官がそのことを執行猶予にした段階で述べることになると思うのですが,略式手続ですと書面審理ですから,その部分がありませんので,そういう場合については,検察官が,略式請求をする前の段階で,被疑者に対して,この事案は保護観察付き執行猶予になる可能性がある,検察官としてそのような求刑をするということを説明し,被疑者が納得するような形まで持っていかないと,罰金の保護観察付き執行猶予を活用しても,余り意味がないかと思います。運用の問題ですが,その点について十分配慮する必要があるだろうと思います。 ○酒巻分科会長 この点に関しまして,あるいは全体について,ほかに御意見ございますでしょうか。 ○福島幹事 ほかの論点はどのような立法措置が考えられるかという立法論の議論ということになっているわけですが,この罰金の保護観察付き執行猶予の活用については,現行制度の運用論みたいな話になっておりますので,ちょっと申し上げさせていただきたいのです。   改めて申し上げるまでもないのですが,個々の事件でどんな刑とするかということは,これはもう担当する各裁判体が判断するものでございますので,裁判所としては,この点,改めて申し上げておきたいと思います。 ○酒巻分科会長 個別具体的な事案における個々の裁判については,おっしゃるとおりだと私も認識しております。   ほかに,この項目について御意見はございますか。   ないようですので,続いて「若年者に対する新たな処分」について2巡目の意見交換を行いたいと思います。   1巡目の議論では,「若年者に対する新たな処分」の制度を設けることを検討する目的は,比較的軽微な罪を犯した18歳及び19歳の者について必要な処遇や働きかけを行うことを可能にすることであるという御意見,この制度は,行為責任の範囲内で,要保護性に応じた処分を行うものとすることが考えられるという御意見,処分の内容あるいは手続に関する様々な検討課題の御指摘等がございました。   「意見要旨」は,これらの御意見を事務当局がまとめたものですが,これも参考になさりつつ,更に議論を深めていきたいと思います。もちろん,新たな御意見,御指摘があれば,更に御発言いただきたいと思います。   御意見のある方は挙手をお願いします。 ○池田幹事 意見要旨には目的から並んでおりますけれども,目的と対象者が相互に関連いたしますので,両方について述べさせていただきます。   今回,少年法の少年の年齢の上限が引き下げられることになりますと,引き下げられた18歳及び19歳の者に対しては,刑事処分によって対応することが原則となります。これらの者は,これまで保護処分の対象となってきたわけですけれども,刑事処分の対象となることによって,起訴猶予となり,あるいは罰金となるといった形で,これまで行われてきた処遇が行われなくなる,またそのことによって,改善更生に向けた必要な働きかけが欠けることになるという懸念が生じるという指摘があるところであります。   今回,「若年者に対する新たな処分」について検討が求められておりますのも,そのように少年の上限年齢の変更に伴って,処遇が欠けることになる者に必要な処遇を行う,またこれを通じて,改善更生に向けた働きかけを行うことを可能にするというのがこの制度を設けることを検討する目的と考えられます。そして,そのような理解からは,この制度の対象となる者も,まずは,少年の上限年齢の引下げの影響を受けることになる18歳及び19歳の者が念頭に置かれることになると理解しております。 ○酒巻分科会長 基本的な枠組みの理解として,池田幹事から今のような御意見が述べられたわけですけれども,これに対してほかの方から御意見ございますでしょうか。   御意見もないようですので,次の検討項目に移りたいと思います。   「若年者に対する新たな処分」は,現存しない新たな処分というものを構想するわけですので,特に法律的な性質や正当化の根拠について更に議論しておいた方がいいと思うのですが,どなたか御意見ございますでしょうか。 ○池田幹事 意見要旨にも示されておりますが,「若年者に対する新たな処分」は,民法上成年とされる者に対して行われることになりますので,従来,少年法の適用を正当化してきたとされている保護原理に関わるパターナリスティックな介入という観点から正当化することは,もはやできないと考えられます。その帰結としましては,成人ですから,行為責任の範囲内で介入する,そういう性質の制度になるものと思います。   従前,成人に対して,犯罪に至った者に対して刑罰をもって臨むことが許されるとされてきたことの根拠としては,法益を侵害した者に対して,その限度で国家が介入することが正当化されるという考え方があったわけでありまして,「若年者に対する新たな処分」も,その行った行為の責任に対応する限度であれば処分を行うことは正当化し得るものと考えられます。 ○川出委員 今の点に関連しまして,前回,「若年者に対する新たな処分」と刑罰とはどう違うのかという御指摘もありましたので,私の考えを申し上げたいと思います。   刑罰の正当化根拠ですとか目的については様々な意見がありますけれども,現在の通説とされている相対的応報刑論によると,刑罰というのは,犯罪を行ったこと,法益を侵害したことに対する非難を前提として,犯罪行為に対する応報として科されるというのが基本になります。そこから,刑罰というのは行為者の責任に対応したものである必要があるとされております。いわゆる「罪刑均衡の原則」と呼ばれるものですが,その上で,犯罪の予防という点は,その枠内で考慮されるにとどまることになります。   また,前回,現在の実務では行為責任の原則に基づく量刑がなされているという御説明がありました。一般には,量刑は,犯情に基づいて定められた枠内で,特別予防に関わる事情を含む狭義の情状等を考慮して決定されると言われております。つまり,実務上は,行為責任が行為の上限だけではなく下限をも画することになっているわけでして,その意味では,現在の実務も基本的に相対的応報刑論に立つものと理解してよいのではないかと思います。   他方,「若年者に対する新たな処分」ですけれども,これも,対象者が犯罪を行ったこと,法益を侵害したことに対する非難を前提とする点においては刑罰と共通しています。そうであるからこそ,非難が可能な限度,つまり責任を問い得る限度で介入ができるという意味で,先ほど池田幹事がおっしゃったように,行為責任の枠内という制限が掛かることになるのだと思います。   その点は刑罰と共通しているのですが,これも池田幹事から御指摘があったように,この新たな処分を設ける目的は,18歳,19歳の者が少年法の適用対象から外れた場合に,比較的軽微な罪を犯した者について,刑事処分それ自体又はそれを科す手続の過程においては,これまでであれば行われていた改善更生のための処遇ですとか働きかけが行われなくなってしまう懸念があるので,そういう場合においても必要な処遇や働きかけを行うことができるようにするという点にあります。   そうだとしますと,この新たな処分というのは,対象者が行った罪に対して応報として科されるわけではなくて,その者の改善更生を図る,つまり特別予防を目的としたものだということになります。したがって,いかなる処分を科すかということも,行為責任に応じてではなくて,要保護性に応じて決定されることとなります。以上の点において,新たな処分は刑罰とは異なることになろうかと思います。   もちろん,刑罰を純粋に教育刑と捉える立場もありますので,そういう立場であれば,この新たな処分も一種の刑罰だという整理になるのでしょうが,先ほど申し上げましたように,現在の実務はそう考えていないわけでして,そうすると,この刑罰と「新たな処分」とは異なるという整理になるのではないかと思います。 ○山﨑委員 今の川出委員からの御説明に対する質問ですけれども,私もまだ全然そしゃくできておりませんので,質問なのですが,そうしますと,今おっしゃられたような新たな処分の性質からすると,現実の局面で現在の保護処分とどのような点で違い得る,どの点は共通することになるのでしょうか。 ○川出委員 保護処分の正当化根拠についてもいろいろ議論があるところで,それを一元的に侵害原理によって説明する見解もありますが,現在の実務は,そうではなく,保護原理を少なくともその根拠の一つとしていると思います。そして,保護原理が処分の正当化根拠であるとすれば,保護処分については,行為責任を超えた処分を科すことができることになります。他方で,この新たな処分は保護原理が根拠にならず,飽くまで侵害原理が根拠ですから,行為責任の枠内という制約が掛かる点で,保護処分とは異なります。ただ,実際にどういう処分を科すかを決めるときには,行為責任の枠内という前提ではありますが,対象者の要保護性が基準になるという意味では,保護処分と共通しているということになります。 ○酒巻分科会長 枠内というのは,行為責任によって上限は画されるけれども,下の枠はないという趣旨ですね。 ○山﨑委員 もう一つよろしいですか。   言葉として要保護性という言葉が使われるのですけれども,それは対象として18歳,19歳という,これまで少年法の対象だったから,それゆえの要保護性という意味なのか。要保護性といいますと,使われ方によってはもう少し広く,福祉的な措置が必要な方とか,年齢に限らずいろいろな障害を持っていたりということも含めて広がり得る概念かと思うのですが,その要保護性というのはどうお考えなのでしょうか。 ○川出委員 要保護性という言葉は,対象者の改善更生にとって必要であるかどうかという意味で使っています。この新たな処分というものがどういう内容になるかはこれから検討することですけれども,対象者の改善更生にとって,その処分に付すことが必要かどうかということになります。その意味では,少年法において保護処分との関係で用いている要保護性と同じ意味になりますし,刑罰との関係であれば特別予防上の必要性と同趣旨となろうかと思います。 ○酒巻分科会長 意見要旨の項目ですと,目的,処分の正当化根拠,法的性質,対象者について議論してきましたが,これらの点について他に御意見がなければ,意見要旨の4番目の処分の具体的な内容・手続の基本的枠組みに進みたいと思います。   御意見がある方は挙手をお願いいたしたいと思います。 ○山﨑委員 先ほど御説明いただいた川出委員の正当化根拠に関する御説明,処分の性質からすると,そこから導かれる処分決定の手続は,どういうことが必要だったり,あるいは現実的にどういう裁判所が適切なのかということとか,お考えで,可能な範囲でお話しいただけると大変有り難いのですが。 ○川出委員 現時点でお答えできるようなことはないのですが,新たな処分は,非難を前提とした制裁であるという点では刑罰と共通していますので,例えば,その手続が,少年審判と同様に非公開であってよいのかといった問題は当然出てくるだろうと思います。申し訳ありませんが,現時点では,刑事手続と少年審判手続とを比較して,どこまで刑事手続に近づけていく必要があるのかという観点から検討していく必要があるのではないかということぐらいしか申し上げられません。 ○酒巻分科会長 意見要旨には,「処分の内容・手続の基本的枠組み」の一番最初に,「少年院送致に準ずる処分に関する検討課題」という項目が上がっていますが,これについて何か御意見がございましたら頂きたいと思います。 ○川出委員 「若年者に対する新たな処分」というのは,行為責任の範囲内で言い渡されるものであり,かつ,池田幹事が指摘されたように,その対象者は比較的軽微な罪を犯した者ということになろうかと思います。他方,仮に少年院送致に準ずる施設収容処分を設けた場合,これは刑務所への収容とはもちろん違うのですが,対象者の自由・権利の制約が大きい処分ですから,それ相応の犯罪を行った者が対象になるだろうと思います。そうしますと,仮にこうした処分を設けたとしても,その対象となる者は,現行法の下で,18歳,19歳で少年院送致になっている数と比べると大幅に少なくなる,あるいはほとんど考えにくいということになるようにも思います。   もちろん理屈の上では,行為責任に応じた処分ということで,少年院に準ずる施設への極めて短期の収容ということも考えられます。しかし,あまりに短期の処分では対象者の改善更生の観点から有効性があるとは考えにくいように思います。「若年者に対する新たな処分」の内容を検討する際には,そういった点からの検討,考慮も必要になるだろうと思います。 ○加藤幹事 今の御指摘は,新たな処分として施設収容処分を設けるとしても,行為責任の上限がかぶっているので,想定としては極めて短いものなら論理的には考えられるけれども,それは有効かどうかという観点から検討しなければならないということだったと思います。   一方,前回の会議で山﨑委員からも,行為責任を上限として収容期間を決めるとすると,保護処分における少年院の効果を発揮できるかどうかが問題になるという御指摘があったように記憶しているのですが,この御指摘は,今の川出委員の御発言と同じ趣旨のものと考えてよろしいのでしょうか。あるいはもう少し別の意図がおありなのか,その辺をお聞かせいただけないでしょうか。 ○山﨑委員 実は余り理論的に詰めて発言したわけではなかったのですけれども,改めて考えますと,今,川出委員が言われたように,短期でありすぎるために効果が上がらないというようなことが一つ考えられるかと思いますし,また,刑期が決まっているということは,現在の少年院教育の保護処分と大きく異なる点があり,成績評価によって進級していって,それによって施設を出る時期が異なるということがないということですと,それは収容された人の処遇を受けるモチベーション,進級に対する意欲がまた異なってくるのではないか。つまり,中での処遇に積極的に取り組まなくても,出る時期はもう見えているというようなところが,今の少年院とは異なってくるのではないかという面も含めた意見でございます。 ○加藤幹事 ありがとうございました。よく分かりました。これは,仮に御知見があればということで山﨑委員に教えていただきたいのですが,そうすると,少年院のような施設に収容して矯正教育を行う場合に,その必要な期間はどの程度のものと想定したらよいのかという点については,何かお考えがございますか。 ○山﨑委員 これは本当にケース・バイ・ケースだと思いますし,私たち弁護士が付添人として見ている少年の問題性と,実際に施設に入ってみたら,もっといろいろな問題が出てきたというケースも多々ありますので,そこは一概には言えないところかと思います。むしろ現実の少年院の現場の方からお聞きするのが適切なのかと思います。   少年院に送られている者を考えるときには,当然のことで御理解いただいていると思いますが,要保護性が高く,犯罪自体は非常に軽微ではあるけれども送られている子が想定されなければいけませんし,その一方で,例えば覚せい剤の自己使用という件ですと,初犯であっても少年の場合は少年院に行くことがほとんどかと思いますが,成人であれば執行猶予になっているという意味で,いろいろなケースによって重い,軽いといいますか,行為責任の重さや処遇期間が様々ですので,そういった面は具体的に検討する必要があるかとは思いました。 ○酒巻分科会長 これまで少年院送致に準ずる処分ということに関連して議論してきましたが,次に,保護観察に準ずる処分に関する検討課題について,何か御意見はございますか。 ○池田幹事 保護観察に準ずる処分に処せられる者は,この新たな処分の対象となる者でも,それほど重い罪を犯した者ではなくて,起訴猶予になることが想定される者が多く含まれていることになると思います。   そのような者を対象とした処分において考えられる不良措置についてなのですが,現状では,保護観察の遵守事項に違反すると執行猶予は取り消されて施設収容に至る,あるいは少年であっても施設収容される余地があるわけですけれども,この処分の不良措置として施設収容ということを想定するのが果たして適切かと考えますと,やはり取り得る措置にはある程度限界があるかと思っております。問題意識だけですけれども,指摘をさせていただきます。 ○酒巻分科会長 そうですね。   ほかにこの点に関連して御意見がございますでしょうか。   それ以外に,意見要旨の中には手続問題が出てきますが,この手続の基本的な枠組みに関連しても御意見があれば承りたいと思います。 ○加藤幹事 前回申し上げた検討事項に関する意見の言わば追加です。前回,この意見要旨の手続のところの最初の○にありますように,判断事項ごとにそれを判断するにふさわしい判断主体を検討する必要があると述べたのですが,今回,仮に少年の上限年齢が引き下げられたとして,18歳,19歳を含む成人が罪を犯したときに,その罪を犯した者に刑罰を科す必要があるのか,それともこの新たな処分で対応するのかということ,この判断が必要になる場面が出てくるのではないかと思われます。   一方で,その新たな処分の制度の対象とした場合に,先ほどから御指摘のある行為責任の範囲内で要保護性に応じて,実際にどういう処分をするのかを判断することも必要になると思われるわけです。   現在の少年法においては,家庭裁判所に全件送致して,刑事処分相当であるかどうかということと,どういう保護処分に付するかということを併せて家庭裁判所が判断しているという仕組みなのですが,これは少年が罪を犯した場合であります。   成人を対象とする場合に,池田幹事が指摘されたように,刑事処分によって対応することが原則となると考えられることを踏まえて,刑罰を科すべきかというものの判断主体としてふさわしいのがどういう機関であるかということは,この制度の趣旨との関係で大きな検討課題になるのではないかと思っております。   一方で,要保護性に応じて処分を行うことについても,誰が判断主体となるべきかということは,その検討課題ではないかと考えているところです。 ○酒巻分科会長 確かに大きな検討課題だろうと思います。   この点に関連して,あるいはほかの点でも結構ですが,「若年者に対する新たな処分」の論点について,ほかに御意見あるいは御質問はございませんか。   以上でこの分科会が担当する全ての論点について,2巡目の意見交換をしたことになりますが,現段階でこれらの論点につきまして,更に付加して御意見がある方がいらっしゃいましたら,承りたいと思います。いかがでしょうか。   それでは,御意見もないようですので,2巡目の意見交換はこれで終了ということにいたしたいと思います。   ここで,本日の会議の冒頭で申し上げた中間報告についてお諮りしたいのですが,本分科会は,本日も含めて3回にわたり,四つの論点について,関係する従来からの制度,運用あるいはこれらに対する評価や問題点等を把握しつつ,各論点に掲げられた制度の意義,在り方などについて,意見交換を行いました。   本分科会で行われた意見交換の内容について,その要旨を中間報告として取りまとめ,12月19日に予定されている部会第6回会議において報告することにしたいと思います。   中間報告の際に用いる資料は,事前に皆様にお示ししたいと考えておりますが,最終的には,中間報告の内容及び資料の内容につきましては,分科会長である私に御一任いただきたいと存じますが,よろしいでしょうか。             (一同異議なし)   どうもありがとうございました。   それでは,部会に報告する中間報告の具体的内容につきましては,分科会長である私に御一任いただいたということで,私の責任において,中間報告の内容を取りまとめて部会に報告したいと思います。   以上で本日の審議は終了いたします。   今後の予定につきまして,事務当局から御説明をお願いいたします。 ○羽柴幹事 今後の予定についてですが,部会第6回会議が12月19日火曜日,午前10時から予定されています。場所は東京高等検察庁の会議室となります。 ○酒巻分科会長 本日の会議の議事につきましては,特に公表に適さない内容に当たるものはなかったと思いますので,発言者名を明らかにした議事録を公表することとさせていただきたいと思います。よろしいでしょうか。             (一同異議なし)   それでは,そのようにさせていただきます。   本日もどうもありがとうございました。 ―了―