法制審議会 少年法・刑事法 (少年年齢・犯罪者処遇関係)部会 第1分科会第9回会議 議事録 第1 日 時  平成30年6月26日(火)   自 午前 9時56分                         至 午前10時57分 第2 場 所  東京地方検察庁会議室 第3 議 題  1 刑の全部の執行猶予制度の在り方について         2 自由刑の在り方について         3 その他 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○玉本幹事 ただいまから法制審議会少年法・刑事法(少年年齢・犯罪者処遇関係)部会第1分科会の第9回会議を開催します。 ○佐伯分科会長 本日は御多忙中のところ,お集まりいただきましてありがとうございます。   本日は,保坂幹事が所用のため,欠席されています。充実した審議のため,いつもは事務当局の役割を担っていただいている保坂幹事の役割は,羽柴幹事に御出席いただいた上で,お願いしています。   次に,事務当局から資料について説明をお願いします。 ○玉本幹事 本日,配布資料として配布資料28「刑の全部の執行猶予制度の在り方(考えられる制度の概要)」,配布資料29「自由刑の在り方(考えられる制度の概要)を配布しています。これらの資料はファイルにとじずに平積みしています。資料に不足がある方はいらっしゃいますでしょうか。   配布資料の内容につきましては,後ほどそれぞれの議論の際に御説明します。 ○佐伯分科会長 それでは,審議に入ります。   本日は,「刑の全部の執行猶予制度の在り方」及び「自由刑の在り方」の各論点について,部会に報告する制度概要案等の作成のための詰めの検討を行うこととしたいと思います。   はじめに,「刑の全部の執行猶予制度の在り方」についての検討を行います。   当分科会第7回会議の結果を踏まえて,事務当局に,各論点について,検討のたたき台となる資料を作成してもらいましたので,まずは,事務当局から,資料の説明をお願いします。 ○玉本幹事 本日,「刑の全部の執行猶予制度の在り方」に関する資料として,配布資料28「刑の全部の執行猶予制度の在り方(考えられる制度の概要)」を配布しています。配布資料28について御説明します。   配布資料28は,事務当局において,これまでの当分科会における御議論を踏まえつつ,現時点において考えられる制度の概要や検討課題を整理し,部会への報告に向けて,最終的な詰めの検討に資するための資料として作成したものです。   もとより当分科会における御検討の参考とする趣旨で作成したものであり,分科会の御議論を方向付けるといった趣旨のものではございません。   まず,「第1 保護観察付き執行猶予中の再犯についての執行猶予」の枠囲みの記載は,従前の配布資料における制度概要の記載を整理したもので,内容に実質的な変更はなく,「第2 再度の執行猶予を言い渡すことができる刑期」についても従前のものと同じ内容を記載しています。   これまでの御議論を踏まえますと,「第1」の点については,保護観察付き執行猶予の期間中に再犯に及んだ者について,処遇の選択肢を広げて,より適切な処遇を可能にするとともに,保護観察付き執行猶予の期間中の再犯について再度の執行猶予を言い渡すことができないことが,裁判官が初度の執行猶予を言い渡す場合に保護観察に付することをちゅうちょする一因となっているとの指摘があることを踏まえ,保護観察付き執行猶予の活用を図るため,保護観察付き執行猶予の期間中の再犯についても,再度の刑の全部の執行猶予を言い渡すことができることとするのが相当であるという点で,おおむね意見の一致があったように思われます。   また,「第2」の点についても,執行猶予の期間中の再犯について,現在の量刑傾向からすると,1年を超える刑とせざるを得ない場合であっても,改善更生及び再犯防止の観点からは,保護観察付き執行猶予を言い渡して社会内処遇を行う方が適当な場合があると考えられることから,その上限を2年に引き上げるのが適当であるという点で,おおむね意見の一致があったように思われます。   そのため,「第1」と「第2」については,それらの意見の一致のあったところを枠内に記載し,そのほかに検討課題は記載していません。   次に,「第3 執行猶予を取り消すための要件の緩和」については,当分科会第7回会議において,「遵守事項違反があった場合,情状が軽いときを除き,執行猶予の言渡しを取り消すことができるものとする」案をベースに検討を進めることとされましたので,その内容を枠囲みの中に記載しています。   その上で,必要性及び相当性や,併せて別の仕組みを設けるかという点については,いずれも,更に検討を要すると考えられることから,検討課題として記載しています。   「第4 猶予期間経過後の執行猶予の取消し」については,事務当局において,これまでの御議論を踏まえて技術的観点から検討を行い,現時点で考えられる制度の概要を枠囲みの中に記載しています。   この点については,いまだ必要性・相当性に関して必ずしも御意見の一致がないものとも思われますが,仮にこの制度を設けるとするならば,その趣旨は,猶予の期間の経過前に再犯に及んでも,その罪の裁判の確定時期や執行猶予の取消し手続の状況如何によって,執行猶予の取消しができなくなるという不公正な事態を解消するとともに,猶予期間の満了が近付くにつれて,執行猶予の取消しによる心理的強制により再犯防止を担保するという執行猶予制度の機能が低下することを防ぐという点に求められるものと考えられます。   その上で,まず,「1」では,猶予期間経過後の執行猶予の取消しについて,禁錮以上の刑を言い渡された場合には,現行法におけるのと同様に,必要的に取り消されるものとして記載し,「2」では,罰金を言い渡された場合にも,現行法におけるのと同様に,裁量的に取り消されるものとして記載しています。   また,「3」では,猶予期間中に再犯があっても,執行猶予が取り消されずに猶予期間が経過した場合には,刑の言渡しの効力が失われることとされている刑法第27条との関係を整理するとともに,その後,執行猶予が取り消された場合には,将来に向かって資格制限規定を適用し,また,執行猶予の規定が適用されないようにすることが相当であると思われることから,「猶予期間経過後の執行猶予の言渡しの取消しについては,刑法第27条の規定にかかわらず,その取消しの時から刑の言渡しが効力を有する」ものとしています。   「4」では,これまでの御議論を踏まえ,いつまでも執行猶予の言渡しの取消請求が可能であるとすると,執行猶予者の地位が著しく不安定になりかねないことから,猶予期間経過後の執行猶予の言渡しの取消請求を一定の期間内に行わなければならないものとしています。この「一定の期間」につきましては,実務的な観点からの調査を十分に行った上で,確定する必要があると考えられることから,現段階では具体的な記載とはしていません。   検討課題については,従前から挙げられていたものの記載を整理したほか,施行前に犯した罪に関して本制度の適用範囲が問題となると考えられることから,「本制度の対象及び適用の範囲」の二つ目の「○」として,「施行前後にまたがる以下の場合も執行猶予を取り消して刑を執行することができるものとするか」を掲げた上で,具体的な内容を記載しています。   最後に,「第5 資格制限の排除」については,枠囲みの中で,従前の制度概要の記載を整理するとともに,改正刑法草案を参考にして,「必要と認めるときは」との要件を加えたものをお示ししています。   その上で,検討課題には,「必要性及び相当性」のほか,「要件等」として,「「必要と認めるときは」との要件は排除するか否かの判断基準として適切か」を記載しています。   配布資料28の説明は以上です。 ○佐伯分科会長 ただいまの御説明にこの段階で御質問や,ほかにも検討課題等があるのではないかといった御意見のある方は,挙手をお願いします。   よろしいでしょうか。   それでは,配布資料28に沿って,「刑の全部の執行猶予制度の在り方」についての検討を行います。   まずは「第1 保護観察付き執行猶予中の再犯についての執行猶予」及び「第2 再度の執行猶予を言い渡すことができる刑期」についてですが,これらはいずれも再度の刑の全部の執行猶予を言い渡すことができる対象者の拡大に関するものであることから,併せて検討を行いたいと思います。   「第1」と「第2」のいずれに関しましても,これまでの議論において,制度概要に記載された内容の制度を導入すべきことで意見が集約されてきているものと理解していますが,これまでに加えての御発言がある方は挙手をお願いします。   この時点で追加の御意見はないということでよろしいでしょうか。   それでは,次に「第3 執行猶予を取り消すための要件の緩和」についての検討を行います。   枠内に記載の制度の概要,検討課題のいずれの点からでも構いませんので,どの点かを明示していただいて,御発言を頂ければと思います。御発言がある方は挙手をお願いします。 ○青木委員 「必要性及び相当性」のところですけれども,「第1」と「第2」のところは保護観察付き執行猶予を活用しようと,なるべく社会内処遇を増やしていこうという方向の議論で,それに対して,「第3」の方はむしろ,今の状況よりは場合によると社会内処遇が縮小される方向,逆方向ではないかという御趣旨の発言が前に福島幹事からもあったかと思うのですけれども,やはり社会内処遇の有用性ということを考えますと,社会内処遇が改善更生のために効果を発するような状況であれば,なるべく社会内処遇を継続するということが必要だと思いますし,多少の失敗をしてもそのような状況というのがあるということが「第1」と「第2」というような制度を設ける前提だと思いますので,そういうことで考えますと,どちらかというとその逆方向になる「第3」の要件の緩和というのは,必要性も相当性もないのではないかと思いました。 ○佐伯分科会長 ほかにはいかがでしょうか。   よろしいでしょうか。   それでは,次に,「第4 猶予期間経過後の執行猶予の取消し」についての検討を行いたいと思います。   枠内に記載の制度の概要,検討課題のいずれの点からでも構いませんので,どの点かを明示していただいて,御発言がある方は挙手をお願いします。 ○加藤幹事 まず,検討課題の「1 刑法第27条との関係」について申し上げます。刑法第27条は,猶予期間を経過した場合の法的効果として刑の言渡しが効力を失うという規定をしています。これは,刑の言渡しに基づく法的効果が将来に向かって消滅するという意味であると理解されているところです。今回の制度概要案は,猶予期間の経過によって刑の言渡しが一旦効力を失ったにもかかわらず,その後,有罪判決の確定によって執行猶予を取り消すことが理論的に可能なのかという点について,当分科会第4回会議で橋爪幹事から御発言があった二つの考え方の,いずれからも説明できるものになっているのではないかと考えます。   すなわち,刑法第27条は執行猶予期間中に公訴提起された事件について有罪判決が確定しないことを前提とした,言わば条件付きの規定であると考えた上で,その旨の明文の規定を置くのであれば,一旦効力を失った刑が事後的に復活すると考えることもできるという考え方からも説明することが可能でありましょうし,また,刑法第27条は刑の言渡しに伴う不利益を解消するための規定であって,有罪判決に基づく刑の執行可能性それ自体を全面的に排除する規定ではないと理解した上で,刑の執行を受けることがないという法的効果は,執行猶予期間の経過のみならず執行猶予の取消しがあり得ないという事態が確定した場合に初めて生ずるという考え方からも説明することは可能であるように思われるところです。この後,要綱を条文の形で整理していくという際にも,いずれの考え方からも理解可能なものとしていくのが適当なのではないかと考えております。 ○今井委員 私も,検討課題「1」につきまして,加藤幹事と同じように理解しておりますが,その上で,一言申し上げたいと思います。既にこの分科会で何度か発言がなされているところですけれども,ここで考えております,再犯を理由とする執行猶予の取消しということを考える際に本質的に重要なものは何かといいますと,猶予期間の経過前に罪を犯したこと,そして,その事実が裁判によって確定されたことであると考えられます。そのように考えますと,再犯を理由として猶予期間経過後に執行猶予が取り消された場合についても,猶予期間経過前に執行猶予が取り消された場合と同様に,取消しによって刑が執行できるものとするほかに,刑に処せられたことによって生じる各種の制限も課すべきであろうと考えます。   そのように考えた場合,猶予期間経過時から刑の言渡しが遡及的に効力を失っていなかったものとすることも考えられますが,そうしますと,それまでの間,対象者が行っていた資格に基づく行為の効力等にまで影響が生じることとなってしまい,対象者の地位の安定,あるいは社会の法的安定性が大きく損なわれることとなり,望ましくないように思います。   そこで,執行猶予が取り消されたことによる法的効果については,取消しのときから将来に向かって生ずるようにすることが適切であると思われ,その観点からも,ここで示されている制度概要案が適切であろうと思うところです。   引き続きまして「2」のところです。今検討されている制度とのバランスにおいてどのように検討すべきかということについて,一言申し上げたいと思います。   まず,刑の一部執行猶予は,宣告した刑期の一部を実刑にするとともに,その残りの刑期の執行を猶予することにして,施設内処遇に引き続き社会内処遇をする,すなわち,必要かつ相当な期間,執行猶予の取消しによる心理的強制を課した上で,社会内において対象者の改善更生及び再犯防止を促すことを可能にするために設けられた制度であると理解しております。   そうした制度の趣旨に鑑み,一部執行猶予においても,その猶予部分については基本的に全部執行猶予と同様の規律がなされており,現行法においてですが,再犯に及んでも,一部執行猶予を取り消されることなく猶予の期間が経過しますと,実刑期間を刑期とする懲役又は禁錮に軽減され,もはや執行猶予を取り消すことができなくなるものとされています。   そうしますと,一部執行猶予についても,全部執行猶予の場合と同様に,再犯の罪の有罪判決の確定時期や,執行猶予の取消し手続の状況次第では,執行猶予期間経過前に執行猶予の取消し決定をすることができなくなる場合があるという望ましくない事態を解消する必要があろうかと思います。そして,そのことによって,猶予期間の満了が近付くにつれて心理的強制によって再犯防止の担保機能が低下してしまうということを防ぐ必要が,やはりここでも妥当するように思われます。したがって,一部執行猶予の猶予期間経過前の再犯についても,全部執行猶予の場合と同様に,猶予期間経過後も執行猶予を取り消して刑を執行できるものとすべきではないかと考えます。   仮釈放との関係でも,同じような理解が妥当するかにも思えますが,なお理論的,実務的に検討すべき課題があるように思われます。仮釈放の場合も,仮釈放の期間経過前に更に罪を犯した者について,手続の状況次第では期間経過前に仮釈放の取消しをすることができなくなる場合が想定し得るところです。したがって,仮釈放の期間経過後の取消しも認めるべきという考え方も当然あろうかと思いますが,以下のように,更に検討すべき点があるのではないかと思われます。   第1に,仮釈放の性格の理解によると思いますけれども,例えば,仮釈放を,判決により言い渡された本来の刑の内容を変更するものではなく,言い渡された刑の執行を継続しながら,その執行の態様を施設内処遇から社会内処遇に変更するだけのものであると理解した場合には,仮釈放の期間が経過しますと,執行が終了して執行力は一旦消滅していることになりますので,その後,仮釈放を取り消して改めて刑を執行すると説明することには難点があるように思われます。   他方で,仮釈放の理解として,判決により言い渡されていた刑の内容を事後的に変更し,仮釈放中である残刑部分の執行を猶予する制度であると理解することも可能であろうと思います。こうした理解に立った場合は,仮釈放期間が経過した場合においても残刑部分の執行を受けていないことになりますので,一部執行猶予の場合と同様に,期間経過後にその取消しを認めることは理論上可能であると思われますが,問題は,このような理解が,現行法において可能かということです。つまり,仮釈放の判断主体は行政機関である地方更生保護委員会ですが,そういった行政庁による事後的な刑の変更という理解をとり得るのか,現行法上の仮釈放制度の全体の理解や運用にも影響が生じてくるのではないか,検討が必要であるように思われます。   更に考えますと,仮釈放中は必要的に保護観察が付されておりますので,その仮釈放中に更に罪を犯した場合には,再犯の有罪判決の確定を待たなくても,遵守事項違反を理由として仮釈放を取り消すことが可能です。その上,仮釈放の取消しは,行政機関である地方更生保護委員会によって行われており,仮釈放者の意見を聴く必要がなく,口頭弁論を経る必要もないなどと,執行猶予の取消しよりも迅速な対応が可能であることを踏まえますと,新たな制度的対応をしなければならない実際の必要性も,執行猶予の場合とは異なるのではないかとも考えられます。   このように,仮釈放につきましては,期間経過後の取消しを認めて刑を執行できるものとするかについては,理論的課題と運用上の検討課題があるのではないかと考えております。 ○加藤幹事 今井委員から御発言があった次の「○」の,施行前後にまたがる場合についてです。   ここには二つの「・」が挙げられていますが,まず2番目の方,施行前に執行猶予の言渡しを受けて,猶予の期間中に新法が施行され,施行後に再犯に及んだ場合については,被告人が裁判時に旧法によって,執行猶予経過後の取消しはできないものとして執行猶予の言渡しを受けたものとなり,事後的に猶予期間経過後の取消しを可能とするということは,その被告人にとっての予測可能性を害するということになりますので,それは適切ではないのではないかと考えられます。施行前に執行猶予の言渡しを受けて,その猶予の期間中に新法が施行され,施行後に再犯に及んだ場合については,したがって,執行猶予期間経過後に執行猶予を取り消して刑を執行することができるものとすることは,慎重に検討する必要があるように思われるところです。   これに対して,最初の「・」ですが,施行前に犯した罪について施行後に執行猶予の言渡しを受け,その猶予の期間中に再犯に及んだ場合についてですが,これは施行前の行為について,執行猶予経過後であっても取消しが可能な新法による執行猶予を言い渡すこととするかという問題であろうかと思います。執行猶予期間経過後の執行猶予の取消しというのは,執行猶予期間の満了が近付くにつれて執行猶予の取消しによる心理的強制によって再犯防止機能を担保するという執行猶予の機能が低下することを防止するものであることからしますと,施行前の行為についても新法による執行猶予を言い渡して,猶予期間経過後の執行猶予の取消しを可能とするという必要性そのものはあるとも思われます。   その許容性については,この場合,行為時には,執行猶予期間経過後であっても執行猶予を取り消す制度は存在していないことになりますが,当該犯罪により執行猶予付きの有罪判決を受けてその猶予期間中に再犯に及んでも,執行猶予期間が経過すれば取り消されることはないかどうかということを考慮して,取り消されることがないことを期待して当該犯罪の実行に及ぶというようなことは実際には考え難いでしょうし,そもそもそのような期待は,当初から執行猶予期間中に再犯に及ぶということを前提とするものであって,執行猶予の取消しによる心理的強制により再犯防止を図るという執行猶予制度の趣旨に照らしても,保護に値するものではないともいえると考えられるところです。さらに,その後,被告人が裁判で執行猶予を言い渡された場合には,新法の下において,期間経過後であっても取り消される可能性があるものとして執行猶予の言渡しを受けるのですから,期間経過後の執行猶予の取消しが可能であるとしても,被告人に予期せぬ不利益を与えるわけではないと見る余地もあり得るように思われます。   もっとも,行為時には猶予期間経過後の執行猶予の取消しができなかったにもかかわらず,事後的にそれを可能とすることは,それが刑の変更といえるかどうかはともかく,被告人に不利益な制度の変更という側面があることも否定し難いというところです。この点に関して,最高裁判所の昭和23年の判例は,行為時には2年であった執行猶予を言い渡すことができる刑期の上限が裁判時には3年に引き上げられたということが,刑法第6条にいう刑の変更に当たるかが争われた事案において,刑の執行猶予の条件に関する規定の変更は,特定の犯罪を処罰する刑の種類又は量を変更するものではないから,刑法第6条の刑の変更には当たらないという判示をしていると承知しています。今検討している問題については,この最高裁判所の判例の意義や射程の検討を経た上で,今検討している制度も刑の種類や量を変更するものではないとして新法を適用することが許容されるかどうか,更に慎重な検討をする必要があると考えます。 ○福島幹事 検討課題の「3」について,この分科会の第6回会議で少し述べさせていただいたところですが,なおその後の議論を踏まえてもよく分からないところがあるので,少し申し上げたいと思います。   そもそも猶予期間が一定期間経過すると,なぜ刑の一部の執行を免除すべきなのかということ自体,なお曖昧なように思われます。これまでの議論を伺っておりますと,執行猶予の心理的圧力の下で生活していた負担や,保護観察を受けながら生活していた負担を考慮すべきということなのかもしれませんし,あるいは,一定期間再犯に及ばずに生活していたということは,その者の改善更生が一定程度進んでいるということなのだから,このことを考慮すべきということなのかもしれませんが,いずれにしても,刑の一部の執行を免除する理由をはっきりとさせた上で,その理由が行為責任に基づいて定められた刑の一部の執行を免除するに足る理由なのかどうかということについて,慎重に検討する必要があるのではないかと感じたところです。   また,その理由をどこに求めるかということによって考慮要素も当然,変わってくるわけですが,例えば執行猶予の心理的圧力の下で生活していた負担や,あるいは保護観察を受けながら生活していた負担,さらには改善更生の進み具合などといったことを考慮要素と仮にするのであれば,それらについてどのように把握して評価するのか,それから,免除するか否かや免除する具体的な期間について適切な基準が立てられるのかといった点もなかなか難しい問題でありまして,これらの点についても慎重に検討する必要があると考えたところです。 ○佐伯分科会長 ほかにはいかがでしょうか。   この程度でよろしいでしょうか。   それでは,最後に「第5 資格制限の排除」についての検討を行います。   枠内に記載の制度の概要,検討課題のいずれの点からでも構いませんので,どの点かを明示していただいて,御発言がある方は挙手をお願いします。 ○青木委員 資格制限の排除に関しては,そもそも執行猶予になる場合の資格制限の必要性ということで考えた場合に,今の資格制限というのは,むしろ不必要な資格制限も相当数あるのではないかというのが問題意識の一つとしてはあります。それについては,確かに個々の法律を見直して,全ての,例えば,禁錮以上の刑だったら全ての罪を犯した人について資格制限があるということではなくて,あるいは特定のこの種の罪を犯した人については資格制限があるというような規定の仕方もあるのでしょうし,執行猶予になった場合にはそれを適用しないというようなやり方も恐らくあるのだろうと思います。ですので,執行猶予になった人が社会の中で立ち直っていくために,必要のない資格制限を掛けられることのないような見直しというのを,もちろんそれぞれの法律でやっていただくということは当然必要だと思っていまして,それも一つの方向性だと思います。   一方で,それはそれでなかなか大変なことだと思うので,刑の執行猶予の場合に,もう一律に資格制限の規定は適用しないという方向も考え方としてはあり得ると思うのです。確かに裁判所が一つ一つについて必要性があるかどうかというのを全ての法律にわたって判断するというのは,それは無理なのだろうと思います。そういう意味で,前にも少し引用させていただいた,平野先生たちの刑法研究会改正刑法試案の未定稿では,「刑の執行を猶予された者は,人の資格制限に関する法令の適用に関しては,刑に処せられたことのないものとみなす。ただし,法令に特別の規定がある場合,又は裁判所が特に人の資格制限に関する法令の適用を言い渡した場合はこの限りでない」となっていまして,一応,一律に適用しない,刑に処せられたことのないものとみなすとした上で,法令に特別の規定がある場合ということで,法令で執行猶予の場合であっても資格を制限すると規定すれば資格が制限されるという案になっています。その法律ごとにこのような犯罪については執行猶予の場合であっても資格制限が必要であるかということをきちんと判断した上で資格制限を付ければ,適切な形になるのではないかと思います。裁判所が特に人の資格制限に関する法令の適用を言い渡した場合というのは,恐らく検察官が,これについてはこの資格制限をしないと執行猶予であっても問題があるというようなことで立証された場合に資格制限を付けるということを想定していると思われ,このような方向というのも,考えられる制度としてはあり得るのではないかと思っております。   それが大きな一つの点なのですが,もう1点,今のは年齢に関わらない話なのですけれども,前にも少し申し上げましたし,部会でもそのような意見が出ていたと思いますけれども,もし,余り言いたくないですけれども,少年法の適用年齢が引き下がった場合の18歳,19歳について,今の時点では資格制限のないものが,成人とされた場合に資格制限にかかってくるというようなものについて,何らかの手当てが必要なのではないかと思います。資格制限一般についての排除は,それはそれとして考えるとしても,仮にそれは入れないとしても,若年者について,起訴猶予になる場合は新たな処分を検討しているのと同じように,執行猶予になる場合についても,若年者についての特則のようなものを考えなくてもいいのだろうかという問題がもう1点あると思っております。 ○福島幹事 今の青木委員の御提案は,今回の資料28で示されている制度案とは少し前提が違うのかなという感じもしたのですけれども,私の方からは,資料28の枠囲みの制度案について,特に,今回新たに「必要と認めるときは」という要件が提案されましたので,その点について意見を申し上げたいと思います。   資格制限の排除を考える際には,その被告人の改善更生という刑事政策的目的と,資格制限を定めているそれぞれの法律の行政目的という二つの目的が出てくるのだと思うのですが,以前に橋爪幹事もおっしゃっていたように,改善更生という刑事政策的目的が資格制限を定めているそれぞれの法律の行政目的よりも常に優先するということにはならないのだろうと思われます。そうしますと,資格制限を排除するかどうかを判断する際には,当該被告人の改善更生という刑事政策的目的と,資格制限を設けているそれぞれの法律の行政目的という,相反する二つの目的を比較考量する必要が出てきますので,どちらにどの程度の重きを置くのか,あるいはどのような場合にはどちらを優先させるのかといった判断の基準がなければ適切に判断できないということになります。このような観点から,今回提案されている「必要と認めるときは」という要件を見ますと,要件として甚だ不十分でありまして,これで判断せよと言われてもなかなか難しいというのが正直なところです。   では,どのような要件にすればいいのかということになりますけれども,資格制限を定めている法律は多数に上り,それぞれ行政目的が異なるわけですから,そのようなそれぞれの法律の趣旨や目的の違いを捨象して一律に適用可能な要件を立てるということは,これもまたかなり困難な作業のように思われ,少なくとも私には今すぐには思い付かないというところです。そういう意味では,前回,加藤幹事からも御指摘があったように,資格制限を定めているそれぞれの法律において,刑事政策的目的との調整を規定するというのが本来の姿のようにも思われます。   なお,要件の話から若干外れますけれども,仮にこの資格制限の排除のような制度が導入された場合には,先ほど申し上げましたように,当該被告人の改善更生という刑事政策的目的と,資格制限を設けているそれぞれの法律の行政目的のどちらを優先させるのかという点についても判断する必要が生じ,この点についてそれ相応の審理を行う必要が出てきます。このように刑事裁判の中に,言わば行政訴訟的な審理も取り入れることになりますから,刑事裁判の判決に至るまでにそれなりの時間を要するということにもなろうかと思いますので,そういうことがいいのかどうかという観点からも検討する必要があるのではないかと感じたところです。その点も少し付言させていただきます。 ○佐伯分科会長 ほかにはいかがでしょうか。青木委員から,一律に適用しないという方向もあるのではないかという御意見を頂きましたけれども,この点についても何か御意見はございますでしょうか。   よろしいでしょうか。   それでは,ここまでで配布資料28に記載されている事項について一通り検討を行いましたが,そのほか,「刑の全部の執行猶予制度の在り方」について,御意見がある方は挙手をお願いいたします。   現時点ではないということでよろしいでしょうか。   それでは,「刑の全部の執行猶予の在り方」についての検討はこの程度とし,本日の二つ目の論点である「自由刑の在り方」についての検討を行います。   まずは事務当局から資料の説明をお願いいたします。 ○玉本幹事 本日,「自由刑の在り方」に関する資料として,配布資料29「自由刑の在り方(考えられる制度の概要)」を配布しています。配布資料29について御説明します。   配布資料29は,事務当局において,これまでの当分科会における御議論を踏まえつつ,現時点において考えられる制度の概要や検討課題を整理し,部会への報告に向けて最終的な詰めの検討に資するための資料として作成したものです。   もとより分科会における御検討の参考とする趣旨で作成したものであり,分科会の御議論を方向付けるといった趣旨のものではございません。   これまでの御議論を踏まえますと,破廉恥な犯罪か否かを明らかにするなどの意義があるとされる懲役と禁錮との区別に合理性は乏しく,例えば,教育等を十全に行うべき若年者に対しては作業を大幅に減らし,又は全くさせずに各種指導を行うなど,受刑者の改善更生及び再犯防止のために,その特性に応じた適切な処遇を行うことを可能とすべきであることから,懲役と禁錮を単一化して,このような処遇を行うことを可能とする新たな自由刑を創設することについては意見の一致があったと思われます。そこで,考えられる制度として,冒頭に,「懲役及び禁錮を単一化して新たな自由刑を創設する」と記載しております。   「1 刑の種類」は,刑法第9条に対応するものであり,刑の種類について,「死刑,新自由刑,罰金,拘留及び科料を主刑とし,没収を付加刑とする」ものとしています。拘留については,これまでの御議論を踏まえて,新自由刑に一元化せずに,引き続き存置するものとしています。   「2 新自由刑」は,新自由刑の内容に関するものであり,「(1)」では,懲役及び禁錮を新自由刑として単一化すること,「(2)」では,刑法第12条第1項及び第13条第1項に対応するものとして,新自由刑の期間について,現行の懲役及び禁錮と同じく「無期及び有期とし,有期新自由刑は,1月以上20年以下とする」ものとしています。また,「(3)」では,新自由刑については,刑事施設に拘置して,作業を行わせることその他の矯正に必要な処遇を行うものとすることではおおむね意見が一致しているところであり,刑の内容とするかや規定ぶりについて,意見が一致するには至っておらず,なお検討課題ではありますが,これまでの分科会の配布資料と同様,差し当たり,「新自由刑は,刑事施設に拘置して,作業を行わせることその他の矯正に必要な処遇を行う」ものとしています。   「3 各罪の法定刑」は,新自由刑の下における各罪の法定刑の長期及び短期に関するものであり,新自由刑が禁錮より重い刑であるとしても,その軽重の差は大きいものとはいえないことなどから,新自由刑の下における各罪の法定刑の長期及び短期は,懲役・禁錮が定められている罪のそれらと同じとする考え方が示されているところ,これに特段の異論は示されていないと思われることから,「無期懲役及び無期禁錮は,無期新自由刑に改め,有期懲役及び有期禁錮は・・・長期及び短期を現行のものと同じくする有期新自由刑に改める」ものとしています。   次に,検討課題について御説明します。まず,「1 新自由刑の内容及び規定の在り方等」においては,これまでの御議論を踏まえ,主要な検討課題を「○ 新自由刑の内容」,「○ 規定の在り方」,「○ 義務の履行を担保する方策」の三つに整理した上,それぞれに具体的な内容を記載しています。   「2 新自由刑の下における加重・減軽の在り方」においては,新自由刑を創設する場合の制度の在り方を具体的に検討するに当たっては,枠の中に記載したところのほか,他の総則的事項,すなわち新自由刑の「加重減軽の限度」,「累犯」の取扱い,「法律上の減軽の方法」についても,新自由刑の趣旨や懲役・禁錮との軽重等に関するこれまでの議論を踏まえつつ,詰めの検討を行う必要があると考えられることから,それらを,刑法総則の規定の順序に従って,検討課題として記載しています。   「3 改正法施行前にした行為の処罰の在り方等」に記載している事項は,これまでも「新自由刑の導入前(施行前)にした行為についての新自由刑の言渡し・処遇の時的限界」として検討課題に掲げられていた内容と同じものですが,いずれについても更に検討を要すると考えられることから,内容をより明確化する観点から記載を整えた上で,引き続き検討課題としています。   配布資料29の説明は以上です。 ○佐伯分科会長 ただいまの御説明にこの段階で御質問や,ほかにも検討課題等があるのではないかといった御意見のある方は挙手をお願いします。   よろしいでしょうか。   それでは,配布資料29に沿って「自由刑の在り方」についての検討を行います。   まずは「1 新自由刑の内容及び規定の在り方等」についての検討を行います。   枠内に記載の制度の概要,検討課題のいずれの点からでも構いませんので,どの点かを明示していただいて,御発言のある方は挙手をお願いします。   よろしいでしょうか。   それでは,次に「2 新自由刑の下における加重・減軽の在り方」についての検討を行います。   検討課題のいずれの点からでも構いませんので,御発言がある方は挙手をお願いします。 ○加藤幹事 新自由刑の下における加重・減軽の在り方全般について,意見を申し上げたいと思います。これまでの分科会の議論では,新自由刑は禁錮よりは重い刑であるが,懲役との間に刑の軽重はないという理解の下で,禁錮が定められている罪の法定刑を新自由刑とするに当たって,法定刑の長期及び短期を改める必要はないという考え方に特に御異論はなかったように思われます。   この考え方を採るとした場合,法定刑の長期及び短期を改めないのであれば,新自由刑の下における加重・減軽の在り方についても,現行法で懲役と禁錮とが区別されていないところについては,「懲役」,「禁錮」あるいは「懲役又は禁錮」といういずれの文言を用いて規定されていても,それを新自由刑と改めることによって,加重・減軽の限度や方法を現行のものと同様のものにするのが相当なのではないかと考えられます。   具体的に申し上げると,検討課題「2」の最初に書いてある「加重減軽の限度」,刑法第14条の規定ですとか,それから,法律上の減軽の方法,刑法第68条の規定については,現行法でも懲役と禁錮とが言わば同列に規定されていますので,これをそのまま新自由刑と置き替えるという方向での改正が可能ではないかと考えます。   一方,「累犯」についてでありますが,刑法第56条あるいは第57条の関係です。現行法上は,「懲役に処せられた者がその執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に更に罪を犯した場合において,その者を有期懲役に処するときは,再犯とする」と規定して,前に禁錮に処せられた者及び更に犯した罪について禁錮に処する場合については,再犯加重の対象からは除外されています。このように再犯加重の対象から禁錮が除外されたのは,性質上,比較的累犯的傾向が少なく,もしそれがあるにしても,必ずしも危険性や悪性の継続ありと認められない場合が多いからであると説明されているものと承知していますが,懲役と禁錮との間に累犯的傾向や危険性などの差があるとしても,再犯加重の可否を決する上で決定的なものとまではいえず,懲役と禁錮を単一化した新自由刑の下においては,現行法の禁錮に相当する罪について再犯加重の例外とする扱いを維持するまでの必要性はないのではないかと考えます。   懲役と禁錮との区別を存置した改正刑法草案においても,再犯加重については,前刑による警告を無視した点で責任が重いと考えられることなどを理由として,懲役と禁錮とを区別せずに再犯加重の対象とするとしており,理論的に再犯加重の対象から禁錮を除外する必然性まではないといえるのではないかと思うところです。そこで,懲役と禁錮とを単一化して新自由刑を創設するに際しては,再犯加重の要件について懲役の文言を新自由刑と改めるということでよいのではないかと考えます。   なお,一言付言しますと,当然のことではありますが,改正法施行後において,前に懲役に処せられた者は再犯加重の対象となり得るわけですが,前に禁錮に処せられたにすぎない者については,改正法施行後においても再犯加重の対象とはならないと考えております。 ○橋爪幹事 私もただいまの加藤幹事の御意見に同感でして,私も「2」の「新自由刑の下における加重・減軽の在り方」については,現行法の「懲役」,「禁錮」の文言を単純に「新自由刑」に置き替えるという方向で問題がないと考えますが,1点だけ,刑法第56条の再犯加重の問題について付言しておきたいと存じます。   端的に申し上げますと,刑法第56条の文言が現行法では懲役に限定されていることについては,必ずしも十分な理由はなかったと考えます。すなわち,再犯加重の根拠は,既に罪を犯して刑に服している者は,言わば自分の罪を悔いた上で再犯防止を強く期待できる状況にあるにもかかわらず,改善更生の機会を無にして再犯に至ったという点において,やはり法的非難が高まり,その行為責任を加重するものとして理解できると思います。このような観点からは,初犯の刑が懲役か禁錮かということは重要な相違ではないと思われますので,現行法の規定が禁錮刑を再犯加重の対象から外していることについては,理論的には問題があったように思われます。   先ほど加藤幹事からも御紹介がありましたように,改正刑法草案が再犯加重の対象に禁錮刑を含めていることは,やはり十分な理由があったと思われます。このような理解からは,再犯加重の対象は自由刑全般に及ぶと解すべきですので,刑法第56条についても,「懲役」という文言を全て「新自由刑」に置き替える方向で検討することが妥当と考えます。 ○佐伯分科会長 ほかにはいかがでしょうか。   よろしいでしょうか。   それでは,最後に「3 改正法施行前にした行為の処罰の在り方等」について検討を行いたいと思います。   検討課題のいずれの点からでも構いませんので,御発言がある方は挙手をお願いします。 ○今井委員 私の方からは,最初の「○ 改正法施行前にした行為の処罰の在り方」について,一言申し上げたいと思います。以前の分科会でも問題点として指摘させていただいたところですけれども,新自由刑は,今日の話にも出ておりますが,禁錮より重い刑であり,懲役との間では刑の軽重に差はないと私も理解しております。   そのように理解しますと,現在法定刑として禁錮のみが定められている罪に該当する行為が改正法施行前に行われた場合,その法定刑の長期及び短期を改めないということを前提に,新自由刑を適用して処罰しますと,これは憲法第39条前段の遡及処罰の禁止の趣旨に反して,許されないと思われます。そこで,改正法施行前にした,法定刑として禁錮のみが定められている罪に該当する行為の処罰については,行為時法を適用し,禁錮を言い渡すべきではないかと思います。   他方で,法定刑として懲役のみが定められている罪に該当する行為の処罰については,懲役と新自由刑との間で刑の軽重に差はないと理解しますと,改正法施行前にした行為に新自由刑を科すことは必ずしも禁じられていないとも考えられます。しかし,更に考えますと,刑法は一定の行為を犯罪とし,これに一定の刑罰を科すというもので,そのことによって犯罪行為に対する個別の法的な否定的評価を明らかにするものです。そうした刑法の性質を考えますと,改正法施行前にした行為について,改正法によって設けられる新自由刑,すなわち,犯行当時にはまだ定められておらず,かつ刑罰としての評価も必ずしも同一,全く同じとはいえない刑罰を適用することは,国民の予測可能性を担保するという観点からは望ましくないと考えられます。このように考えますと,改正法施行前にした,法定刑として懲役のみが定められている罪に該当する行為の処罰については,行為時法を適用し,懲役を言い渡すものとすることが考えられます。   さらに,このように考えますと,法定刑として懲役及び禁錮が選択的に定められている罪に該当する行為の処罰についても,行為時法を適用し,懲役又は禁錮を言い渡すべきことになるのではないかと考えられます。   いずれにしても,改正法施行前にした行為の処罰については,行為時法を適用するのか,あるいは改正法を適用するのかを明確にするのが望ましく,経過規定の存在があってしかるべきではないかと考えられるところです。 ○加藤幹事 「懲役・禁錮受刑者に対する処遇の在り方」について申し上げます。新自由刑を創設する趣旨は,改善更生及び再犯防止のために受刑者の属性に応じた適切な処遇を行うことを可能とするというものであり,その趣旨は,全ての懲役受刑者及び禁錮受刑者に対して妥当するものと考えられます。このような刑事政策的な観点からは,懲役受刑者及び禁錮受刑者に対して新自由刑と同様の処遇を行うということも考え得るところです。   しかし,今井委員からも御指摘がありましたが,刑法は一定の行為を犯罪として,これに一定の刑罰を結び付けることによって犯罪行為に対する個別の否定的評価を明らかにするというものです。さらに,個別具体的な行為について判決によって具体的な刑が言い渡されて,これが確定した場合には,刑事手続を経て,刑種の選択も含めて一定の刑罰を言い渡すことにより,その行為の否定的評価が明らかにされたというものである以上,改正法施行後に懲役又は禁錮が確定した者を含めて,確定判決による懲役受刑者及び禁錮受刑者に対して,改正法施行後に確定判決によって定められた刑と異なる新自由刑を執行するということはできず,従前どおり懲役受刑者及び禁錮受刑者として処遇するのが相当であると考えることもできるように思われます。   また,改正法施行前にした行為に対して,仮に行為時法を適用して,新自由刑ではなく懲役又は禁錮を言い渡しておきながら,その執行の際には新自由刑の処遇を課すこととしますと,言い渡された刑とその執行との間の整合性に疑問が生じるのではないか,それは妥当ではないのではないかと考えることもできるように思われます。   そうしますと,懲役受刑者及び禁錮受刑者に対しては,従来どおり懲役又は禁錮を執行する,そのように処遇をすることとすべきとも考えられるところです。もっとも,そうした場合でも,新自由刑を創設した趣旨に照らすと,懲役受刑者及び禁錮受刑者の処遇についても運用上可能な限りの配慮がなされて,それぞれの特性に応じた処遇を目指すということが望ましいのは言うまでもないと思っております。 ○佐伯分科会長 ほかにはいかがでしょうか。   「3」につきまして,この程度でよろしいでしょうか。   それでは,ここまでで配布資料29に記載されている事項について一通り検討を行いましたが,そのほか,「自由刑の在り方」について現時点で御意見がある方は挙手をお願いします。   よろしいでしょうか。   それでは,「自由刑の在り方」についての本日の検討はこの程度としたいと思います。   本日は「刑の全部の執行猶予制度の在り方」及び「自由刑の在り方」について検討を行いましたが,この機会に当分科会で取り扱うこととされている全ての論点,すなわち,前回の会議で検討を行いました「社会内処遇に必要な期間の確保」及び「若年受刑者に対する処遇原則の明確化,若年受刑者を対象とする処遇内容の充実,少年院受刑の対象範囲及び若年受刑者に対する処遇調査の充実」を含め,全体について,更に御発言を希望される方は挙手をお願いします。   現時点では御発言はないということでよろしいでしょうか。   それでは,本日の議論を終了したいと思います。   次回の部会に向けての当分科会での検討は本日で最後となります。皆様にはこれまで各論点について幅広く活発な御議論を頂きました。皆様の御尽力のお陰で,具体的な制度概要案等の検討が進み,部会に十分な成果を報告できるものと思います。本当にありがとうございました。   部会に報告する制度概要案等については,本日の議論を踏まえて,まずは私の方で案を作成させていただきます。そして,できる限り速やかに,事務当局を通じて,その案を皆様にお示しし,皆様から頂いた御意見を踏まえて更に内容を検討しますが,飽くまで部会で更に議論を深めていただくための資料であることや,7月26日の次回の部会まで余り時間的余裕もないことから,最終的な取りまとめは分科会長である私に御一任いただきたいと思いますが,よろしいでしょうか。                 (一同異議なし)   ありがとうございます。それでは,部会に報告する内容については分科会長である私に御一任いただいたということで,私の責任において,報告の内容を取りまとめて,部会に報告したいと思います。   以上で本日の審議は終了します。   今後の予定について,事務当局から説明をお願いします。 ○玉本幹事 今後の予定ですが,部会第8回会議が,7月26日木曜日午前10時から予定されています。場所は,この建物の15階の会議室となります。 ○佐伯分科会長 本日の会議の議事については,特に公表に適さない内容に当たるものはなかったと思われますので,発言者名を明らかにした議事録を公表することとさせていただきたいと思いますが,よろしいでしょうか。                 (一同異議なし)   それでは,そのようにさせていただきます。   本日もありがとうございました。 -了-