法制審議会 民事執行法部会 第16回会議 議事録 第1 日 時  平成30年2月23日(金)自 午後1時29分                      至 午後5時28分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  民事執行法制の見直しについて 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○山本(和)部会長 それでは,予定した時刻,少しまだ前ですけれども,予定の方がお揃いですので,法制審議会民事執行法部会第16回会議を開会いたします。   本日も御多忙の中,御出席を頂きまして誠にありがとうございます。   なお,本日は,小野瀬委員,道垣内委員,村上委員,岡田幹事,内野幹事が御欠席であると承っております。   それでは,審議に入ります前に,配布資料の確認を事務当局からお願いいたします。 ○山本関係官 本日の会議用の事前送付資料といたしまして,部会資料16-1及び16-2をお届けしております。また本日は,前回の積み残し分を審議する関係で,前回配布させていただきました部会資料15,「子の引渡しの強制執行に関する規律の明確化に関する検討(4)」も使わせていただこうと思っております。 ○山本(和)部会長 それでは,本日の審議に入りたいと思います。   まず,前回の積み残しの部分であります部会資料15,「子の引渡しの強制執行に関する規律の明確化に関する検討(4)」のうち,「第3 直接的な強制執行の手続の骨格」の「3 執行場所」,資料でいうと14ページになると思いますが,この点について御議論を頂きたいと思います。   事務当局の方から御説明をお願いいたします。 ○吉賀関係官 御説明いたします。   執行場所の論点につきましては,14ページに記載しておりますように,意見募集の結果において,実質的には債務者の占有する場所以外の場所を占有する者の同意の要否の問題を指摘すると思われる意見はございましたが,この執行場所の論点,固有の点につきましては,部会のこれまでの議論や意見募集の結果においては,試案の提案する規律についておおむね異論はなかったように認識をしております。そのため,試案の提案する方向で検討を進めていくことについて,もし御意見があれば伺いたいと思っております。   なお,今申し上げました同意の問題につきましては,前回いろいろと御意見を頂いたところですので,また次に,子の引渡しに関する論点を扱うときに,また改めて御提案をしつつ,皆さんの御意見を伺えればと思っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   事務当局から御説明がありましたように,同意の問題は前回御議論いただいて,必ずしも方向が定まったということではないと思いますけれども,今回は,それとは切り離した形で,「3 執行場所」の点について,御議論いただきたいと思います。部会資料で提示されている規律は,ハーグ条約実施法並びの規律になっているわけですが,その点についていかがでしょうか ○阿多委員 質問なのですが,3の規律は,いずれも主語が執行官という形でいただいているのですけれども,先回のときに執行機関を執行裁判所とするというような方向でまとまりつつあったかと思うのですが,執行機関の主語とここの執行官との関係について少し御説明を頂けたらと思います。 ○吉賀関係官 御指摘ありがとうございます。   まず,この手続の執行機関を執行裁判所とする点については,前回会議において,差し当たり,ご指摘のような方向で御議論いただいたと認識しておりますけれども,「3 執行場所」の(2)の規律の主語が執行官となっておりますのは,債務者の住居以外の場所を執行場所とすることの相当性については,その現場の状況に照らして判断する必要があるということを考慮して,この点に関する判断主体を執行官とすることを御提案しているものです。 ○阿多委員 では,続けてすみません。   そうしますと,個々の事件決定の際に,どこで執行するのかというようなことについては,もう執行官の判断に委ねる形になって,執行裁判所はそれについて関与しない,判断しないという前提で考えることになるのでしょうか。それとも,例えば学校なり,同意はまた別にしまして,執行裁判所が執行場所を決めるということは想定しないということになるのでしょうか。 ○吉賀関係官 債務者以外の第三者が占有する場所における執行の条件については,前回いろいろと御意見を頂いたところでして,例えば,執行裁判所が,執行官が実際に執行場所に赴く前に,執行場所について何かしらの判断をしたほうがいいのではないかというような御意見も頂いていたかと思います。この点については,まだいろいろと議論があるところですので,事務当局の方で議論を整理したいと思います。いわゆる2段階のような手続を考え,まずは執行裁判所が大まかに執行場所を決めた上で,執行官が,執行の現場で,更に具体的な判断をするということをご示唆いただいたのかもしれませんが,そのような手続の流れも含めて,まだ議論の方向が確定していないと認識しています。差し当たり,ここで提案しておりますのは,具体的な執行場所の選択は執行官に委ねるということを前提に,執行場所が債務者の住居以外の場所である場面においては,執行官がその場所の相当性を判断するということを念頭に置いた規律です。 ○阿多委員 以上の御説明を前提であれば,正に客観的な場所の問題としてであれば御提案に賛成したいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   そういう意味では,前回の問題と切り離してと私申し上げましたのは,切り離せない部分があることは確かなのだろうとは思いますけれども,今の関係官の御説明に基づいて,なお,残されたところはあるということかと思いますが,この規律自体についてはよろしいでしょうか。ありがとうございます。   それでは,引き続きまして,もう一つ残っている点として,「第4 執行場所における執行官の権限等」という部分ですが,このうち16ページ以下の2の部分は,正に今のお話に出てきました占有者の同意のお話で,前回かなり御議論を頂いたわけですが,それ以外の部分,つまり第4の1と第4の3以降が積み残されておりますので,御議論を頂きたいと思います。まず事務当局から御説明をお願いいたします。 ○吉賀関係官 御説明いたします。   まず,資料15ページから16ページでは,その第4の1の部分につきまして,試案の概要と部会のこれまでの議論や意見募集の結果を御紹介しております。   執行官の債務者に対する説得に関する規定や,債権者又はその代理人の立入りに関する規定を設けることの要否について,若干の議論はございますけれども,全体としては試案の内容に大きな反対意見はないと認識しておりますので,引き続き試案の提案する方向で検討を進めるとすることについて,もし御意見があれば伺いたいと思っております。   また,第4の3ないし5のところにつきましても,資料20ページから21ページですが,執行官による威力の行使等の論点と執行官の債権者等に対する指示の論点について,試案の概要や部会の議論,意見募集の結果を御紹介しております。   いずれの論点につきましても,おおむね御異論がないと認識しておりますので,引き続き,試案の提案する方向で検討を進めるということについて,もし御意見があれば,こちらも伺いたいと思っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。いかがでしょうか。いずれもハーグ並びの規律ではありますが。 ○阿多委員 第4の1の(3)に関してですけれども,いわゆる占有場所の配慮については,債権者が同席していればむしろ債務者は不在であっても構わないという議論との関連があると思います。仮に,執行裁判所の判断により債権者の同席を要求するという議論になれば,債権者の立入りの可否についても執行裁判所が判断するということも考えられようかと思いますが,ここの御提案自体は,執行官が債務者の立入りの可否を判断するというものという理解でよろしゅうございますでしょうか。 ○吉賀関係官 おっしゃるとおりです。また執行場所に債権者が出頭することを必要的とするというふうな御提案も前回いただきましたので,そうした場合に,またいろいろと波及する論点等もあるかとは思うのですが,本日のところは,今,阿多委員がおっしゃった限りでの御意見を伺いたいという趣旨でございます。 ○阿多委員 その前提で,16ページの(2)の代理人の立入りに関する規定の是非についてコメントします。パブリック・コメントの意見等については,そもそも代理人が債務者の住居等に立ち入ることへの反対もあるようですが,部会において従前私が申し上げていた意見のように,それは立ち入ること自体は何らかの方法で認めるべきだと思います。そのような前提なのですが,代理人の立入りの可否を執行官の判断でするのがいいのかということについて,留保を述べさせていただいていて,先ほどの話ではないですが,執行裁判所がその点も含めて個別に判断する,ないしは許可事項になるのかなんかするというような形で,執行裁判所の関与というのを求めるべきだという意見でございますので,主体について少し留保はしますけれども,立ち入ることについては賛成したいと思っています。 ○山本(和)部会長 分かりました。今の点も恐らくこの全体の手続の枠組みに関係することだと思いますので,次回以降この問題を議論する際に,改めて御議論を頂ければと思います。   ほかの点,ほかの御意見はいかがでしょうか。特段よろしいでしょうか。   それでは,今,阿多委員からの留保の点は受け止めさせていただいて,残りの部分については特段の御異論がなかったということを確認させていただければと思います。   それでは,以上で積み残し部分についての審議は終わりまして,引き続きまして,本日の本来の審議事項でありますが,まず部会資料16-1,「不動産競売における暴力団員の買受け防止の方策に関する要綱案の取りまとめに向けた検討(1)」という資料でございますが,これについて御審議を頂きたいと思います。   まず,事務当局から御説明をお願いいたします。 ○山本関係官 部会資料16-1について御説明いたします。   1の買受けの申出をしようとする者の陳述の箇所について説明します。   まず(1)の陳述の内容等の箇所ですが,中間試案では,買受けの申出をしようとする者から,自らが暴力団員ではないことなどを宣誓の上で陳述しなければならないとする規律が提案されていました。   この提案については,部会のこれまでの議論や意見募集の結果でも特段の反対はなかったところですが,本部会資料の1の(1)では,中間試案の表現を整理した記載をしております。   なお,関連する論点といたしまして,買受けの申出をしようとする者が未成年者又は成年被後見人である場合において,誰に宣誓と陳述を求めるかという点を取り上げております。   考え方の大きな方向としては,未成年者や成年被後見人本人に宣誓の上で陳述させる考え方や,法定代理人に宣誓の上で陳述をさせる考え方,本人及び法定代理人の双方から宣誓及び陳述を求めないのだとする考え方などがあるかと思われますが,御意見を賜りたいと思います。   次に,6ページになりますが,1の(2)の虚偽陳述に対する制裁の箇所では,中間試案と同様に,真実は暴力団員などであるにもかかわらず,故意により虚偽の陳述をすることは,執行裁判所の判断を誤らせる可能性を生じさせると考えられるため,宣誓した者が虚偽の陳述をした場合に罰則を設けるとすることを取り上げております。   この点については,これまでの議論や意見募集の結果を見ても,特段の反対はなかったと認識しております。   なお,中間試案では,虚偽陳述に対する制裁として,保証の不返還という仕組みが提案されておりました。部会のこれまでの議論や意見募集の結果を見ますと,これに賛成する意見があった一方で,保証不返還とする制裁を課する合理性や必要性について疑問を呈する指摘や,競売手続の円滑に与える影響を懸念する指摘などがされていたところでございます。   本部会資料では,これまでの議論等を踏まえながら,その創設は困難ではないかとの考え方を提示しておりますが,この考え方の当否についても御議論いただければと存じます。   次に10ページになりますが,2の執行裁判所による警察への調査の嘱託等の箇所について御説明いたします。   中間試案では,執行裁判所において暴力団員に該当するかどうかなどを判断するための資料を得る手段といたしまして,警察に照会をするということが提案されておりました。これまでの議論や意見募集の結果でも,特に反対する意見はございませんでした。   本部会資料では,中間試案における規律と実質は変えずに警察への照会を調査の嘱託として位置付けたものです。また次順位買受けの申出がされた場合においても,最高価買受申出人と同様に,警察への調査の嘱託をしなければならないとすることが考えられるところでございます。   最後に,15ページの3の執行裁判所の判断による暴力団員の買受けの制限の箇所ですが,中間試案では,買受けを制限する者の範囲について,最高価買受申出人が暴力団員等又は法人でその役員のうちに暴力団員となる者のほか,これらのいずれかに該当する者の計算において,買受けの申出をした者による買受けを制限することとし,執行裁判所がこれらに該当すると判断したときには,売却不許可の決定をしなければならないとすることが提案されていたところでございます。意見募集の結果でもおおむね賛成意見が寄せられていたところでございます。   本部会資料でも,中間試案と同様に,買受けを制限する者の範囲について提案しているものでございまして,執行裁判所がその判断をする枠組みについては,民事執行法71条を参考に,売却不許可事由とする整理を提案しております。   また,買受けを制限する者の該当性を判断する基準時につきまして,部会でのこれまでの議論を踏まえて,最高価買受申出人が暴力団員等又は法人でその役員のうちに暴力団員となる者に該当するかどうかの判断については,買受けの申出時点と売却決定期日の両時点を基準時とするとの考え方を取り上げております。   一方で,最高価買受申出人が暴力団員などの警察において買受けの申出をした者に該当するかどうかの判断については,買受けの申出の時点を基準とするとの考え方を取り上げております。このような考え方の当否についても御意見を賜りたいと存じます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,ただいま御説明がありましたこの資料につきまして,適宜項目を区切って御議論を頂きたいと思いますが,まずはこの「1 買受けの申出をしようとする者の陳述」の部分,1ページから10ページぐらいの部分でありますが,この部分について御審議を頂ければと思います。   どなたからでも結構ですので,御発言を頂ければと思います。 ○今井委員 そもそも論のところで恐縮ですけれども,1の陳述の内容等の記載を拝見いたしますと,次のア又はイに該当するかどうかについて宣誓の上で陳述しなければならないと書いてありまして,このアとイを書きますと,暴力団でなくなった日から5年を経過しない者と書いてありまして,つまり暴力団員であることという記載になっているのですが,これは一般には宣誓,この(注)にありますとおり,7ページの貸金業法にありますとおり,これは誓約ですので宣誓とは表現は違うのですけれども,普通は該当しないことを誓約する。その宅建業法でも該当しないことを誓約する。また,民間の今取引の中の表明保証条項でも,暴力団でないことを表明するというネガティブ条項になっていまして,こっちの方はポジティブも入っていまして,どうしてこういう記載なのかなと拝見しますと,2ページの検討の(1)のところで,飽くまでも判断するのは裁判所であると。それはそのとおりなのですが,執行裁判所が売却不許可事由があるかどうかのための証拠調べのための資料であると,こういう位置付け,立て付けにはなっているのですが,そうなのでしょうかというそもそも論なのですけれども,そもそも,では暴力団が買受けを排除するというこの法律のそもそもの目的の第一番的な目的は,買受けをさせないというところがあると思うので,そういう意味では,ほかの法律や民間にある表明保証条項でいうと,もうこれは言わば買受けの資格条件に同じか近いと思いますので,これは私の理解ですが,そうだとすると,暴力団でないことを宣誓し陳述しなさい。法人である場合には,その役員等が暴力団員等の関係者でないことを宣誓し陳述しなさい,これが素直に考えると,こっちが正面なのではないかなという感じがして,もっと実践的なことを言いますと,このように買受けの申出をする,後に出てくる未成年者や被後見人等の問題は別とすれば,まずこれでもし暴力団員が入札,買受けをしようとする場合に,私は暴力団員ですと言うはずがないと思うのです。   ですから,万が一そうですと言ったときに調べなくていいのかというのは,この記載にありますけれども,それは極めてレアなケースなので,どうも実効性という面からしても,またこの法律のそもそもの目的からしても,このようなむしろほかの法律に合うように,資格要件が整っているということを,むしろ宣誓させて陳述させるということの方が,そしてそれが虚偽であった場合にペナルティーが科されるというほうが自然な,これは法案の立て付けになるかと思うのですが,ではないかなという印象を受けます。今日の段階ではまだ法案の枠組みまでは行っているかどうかは分かりませんが,これが法案の記載の一つの骨組みだとすると,ちょっとこのネガティブ条項,ポジティブではなくてネガティブの方から入られる一般的な記載の方が座りがいいのではないかなと,こういうことを最初に感じたわけでございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○山本関係官 今までの部会での議論ですと,執行裁判所が暴力団員に該当するかどうかなどを判断する必要があることを前提に,その判断のために執行裁判所が証拠を収集する手段として最も自身の属性について知り得る立場にある本人と,あと警察から得られた資料を基に判断をするというような,証拠収集として位置付けというような御議論もあったかと思いまして,該当するかどうかということを陳述させるというほうが,陳述のそのような性質と整合的な文言になり得るのかなと思って今回御提案したところでございますけれども,その当否につきましては,まさに御議論いただけると幸いでございます。 ○阿多委員 いろいろな意見があるという前提で,私が違うことを申し上げて申し訳ないのですが,従前の議論で言わば証拠,裁判所が事実認定する際の証拠という位置付けで議論を私自身などはさせていただいていましたので,むしろ元々のちょっと成り立ちから確認なのですけれども,これは誓約書を本来今までの裁判手続というか,執行手続でないものを導入するということの意味については,そういうものを実際に書くということによる精神的なプレッシャーと,その後のペナルティーを含めての一般予防的な効果があるではないかと。ただ,それを法的に整理すると民間でいう誓約書と違って,陳述の上,宣誓するというような形になるだろうと,こういう議論をしてきたと思うのですが,逆に今回ア,イで出ているのは,一つは証拠調べの性質,もう一つ,イの方,さらには後のウで出てくるのは,言わば申出適格要件的な形でのお話になっているのかと思っています。特にウのところで,暴力団である旨を自認する旨の陳述,供述書が出た場合には,そもそもその後の手続に進めることなく申立てができないと,言わば無効だという形の扱いをされようということになっているのですが,むしろ思いましたのは,今井委員の意見とはまた逆なのですが,証拠調べという位置付けを残しながら,本来は執行に関する改札の手順を考えますと,執行官が開封をして,中を見て最高価買受申出人も決めて,あと裁判所が決定すると。   そうすると,執行官しか手続に関与していないわけですね。執行官しか関与していないにもかかわらず,書類に暴力団員である旨の陳述をしたものが付いているからといって,それで排除していいのか問題になり得る。むしろ証拠調べというようなことを考えるのであれば,最終的にはやはり執行裁判所が,それを含めて判断するという手続が本来的な筋になるのではないかと思っていまして,ウの御提案については,ですから反対というような形,飽くまでもやはりどういうものが,このどうかというような立て付けで申出適格要件ではなくて証拠調べの資料と位置付けるのであれば,そちらの方に行くのではないかなというのが,私の理解です。 ○山本(和)部会長 そうすると御確認ですけれども,暴力団員だということを自認した者が値段としては一番上だという場合は,取りあえず執行官としては,その者を最高価買受申出人として決定し,売却許可手続に進んで,そこで裁判所が確かに暴力団員だという,その場合,照会というか嘱託を警察にするかどうかということですけれども。 ○阿多委員 するかどうかということですけれども。 ○山本(和)部会長 最高価買受申出人について,暴力団員だという,確かにそうだよねとなったら,そうしたら最高価格申出人からは排除してもう一度執行官が最高価格申出人を定めるという手続をとるということですよね。 ○阿多委員 そうすべきだということです。 ○山本(和)部会長 そのほうがよいという御意見ですね。 ○阿多委員 証拠としての証拠調べという性質を全く外してしまって,従前の議論のように誓約という意味に戻すのであれば,入札の申出資格という形になりますので,申出資格がないのだからと執行官が形式的に開封した段階で外すというのはあり得ると思うのですが,証拠調べという整理なのだとすると,言わば裁判手続に入る形の性質も持たせながら執行官の段階で排除するのはいかがなものかと,こういう理解ですね。 ○山本(和)部会長 御意見は分かりました。   では,この点について御意見を伺ったほうがいいですかね。 ○谷幹事 私も阿多委員がおっしゃったのに賛成でございまして,理論的にこれ整合的に説明をするとすれば,証拠調べであるとすれば,それを踏まえて裁判所が判断をするというのが本来あり得べき構造であって,執行官の判断で排除してしまうというのは,これはなかなか説明はできないだろうと思います。   ただ,そうした議論に対する批判としては,恐らく最終的に暴力団員として買受けできないということになるのであれば,手続経済からすれば,そこまで進ませる必要はないのではないかという御議論はあるのかも分かりませんけれども,理論的な可能性として暴力団員だと,あるいはそこから5年たっていないという表明を仮にしたとしても,様々な証拠から,それが認められないということも,理論的な可能性としては,ないこともないというようなことだと思います。   とりわけこの計算においてということも,この陳述の内容に含めるのであれば,この計算においてというのは,ある意味,規範的な要件でありますので,仮にその表明をしたとしても,それが本当に計算においてといえるのかどうかというような辺りも,実際上は問題になり得るのだろうというふうに思いますので,理論的に整合的に考えるとすれば,暴力団員であるという表明があったからといって,そこで排除するということは説明ができないのかなと思っているところです。   それと関連して,すみません,あと1点,この宣誓の上での陳述がない場合については,陳述がない買受けの申出は無効なものとすることが考えられるという記述が説明の中にございまして,2ページの2の(1)のイなのですけれども,これについても,むしろここは事務当局に考え方をお尋ねしたかったのですけれども,どういう根拠でこれが無効になると考えられるのか。   従前から議論しているように,この陳述というのが証拠の性質を有するとすれば,一定の証拠がないということを無効という法的効果に結び付けるということだと思いますが,そこの根拠の説明とか,あるいはこれ以外にそういう制度というものがあるのかどうか,一定の証拠がないということで買受けの申出という,そういう行為の無効ということが帰結するという制度があるのかどうか,ちょっとその辺りをお聞きしたいということです。   それと,すみません,もう1点だけ申し上げますと,先ほどちらっと申し上げましたが,計算においてというのが規範的要件であるとすれば,これについての陳述を計算においてというものに該当するかどうかという形で陳述をさせるということが,少しどういうふうに考えたらいいのかよく分からないところがありまして,つまり計算においてに当たるかどうかというのは,例えば暴力団員が資金を出して,実質的に資金を出して実質的に買うというようなことであれば,それは典型的に当たるのだろうと思いますし,あるいは場合によったら,暴力団が貸付けをすると。一定返すけれども,貸付けをすることによって実質的に暴力団が,その物件を利用するというふうなことも考えられる。   それは,いずれにしても,事実としては暴力団が,暴力団員がお金を出すと。その上で様々な形で支配をするという,そういう事実を基に計算においてに該当するかどうかという規範的要件の判断になるわけなので,そういう事実を聞くのであれば,まだ分かるのですけれども,結論として規範的要件としての計算においてということを陳述させるということの意味というか,どういうふうに判断をして陳述すればいいのか,ここがよく分からないので,その辺りの整理をどうされているのかということもお聞きをしたいと思います。 ○山本(和)部会長 それでは,2点の質問があったかと思います。 ○山本関係官 まず,前者の点なのですけれども,該当するとも該当しないとも陳述しない者については,このような者による買受けの申出を認めるとなると,この陳述を求めることによって執行裁判所が証拠収集しようとする目的が実現できないということで,このような買受けも申出を無効とする必要があるのかなと思っているところでございます。   現行法に同じような規律はないのかというご質問ですけれども,例えば対象となる不動産が農地である場合については,農業委員会の許可がなければ,それは最終的に民事執行法第71条第2号の売却不許可事由に該当することになるだろうとは思うのですけれども,その2号の判断のための買受適格証明書という証拠を,買受けの申出の時点で提出が求められており,その提出しなかった場合には,執行官がそのような買受けの申出を無効としていると理解をしております。もちろん完全に同じような規律だとは思わないのですけれども,類例としてはそういったものが現行法にもあると理解しているところでございます。   「計算において」が規範的な要件ではないかというご指摘については,「計算において」の意義自体は,11月の部会でも,ある程度共有できていると思われるところでもございますし,現行法でも「計算において」自体が刑罰法規の構成要件になっている例も実際にございます。そういった意味で,必ずしもそれが規範的な性質のものだからといって,買受けの申出の時点で陳述させることが不適切かどうかというのは,少し議論の余地があるのかなと思っておりますが,御指摘は受け止めさせていただきました。 ○山本(和)部会長 よろしいでしょうか。 ○谷幹事 それを前提に,そうしますと,陳述がない場合に無効というのは,これは先ほど御説明のあった農地の場合とはまた違うだろうと思います。農地の場合は,そもそも適格性がなければ私法上も権利を取得することができないということだと思います。   この場合は,暴力団は権利を取得することはできるけれども,暴力団に該当するということで買受けを認めないということだと思いますので,そこは恐らく違うのかなと思います。 ○山本(克)委員 宣誓の手続はどういうふうにやるのか,どういう手続を想定されているのですか。 ○山本関係官 ここも今後検討する必要がある点だとは思うのですけれども,実務の運用を想像しますと,宣誓書という形で,書面で陳述と宣誓を求めるというのが一つ考えられるのかなとは思っております。 ○山本(克)委員 書面宣誓というのは,ほかの法令でもあるという御理解ですか。 ○山本関係官 鑑定人が宣誓書を送付するというのが,民事訴訟規則の131条の2項にございます。 ○山本(克)委員 そうすると,この2項のような宣誓の趣旨及び罰則の告知というものを執行裁判所が何らかの形で教えて,それに対して書面で宣誓書を出させると,そういうことですか。 ○山本関係官 正に御指摘いただきましたとおり,宣誓趣旨の説明をどの段階でどのように行うのかという点は,今後検討しなければいけない課題だと思われますが,例えばですけれども,入札の公告の中でこういったものを記載するだとか,もし陳述だとかが書面で行われるという運用を想定しますと,そのひな形のところに入れておくだとか,そういったことは今後検討しなければいけないのかなとは思っております。 ○山本(和)部会長 いかがでしょうか。山本克己委員,よろしいでしょうか。 ○山本(克)委員 取りあえずは,はい。 ○阿多委員 何かばらばらな意見を言うような形で申し訳ない。理解のためのところもありますので。   私自身は,先ほどのこのアのところとイの性質は併有するものだという理解をしておりまして,申出の際に添付されていなければ無効にするということはあり得るんだろうなとは考えてはいるのですが,ただ,後のいわゆる未成年及び後見の際に,ではその書類を整えるために法定代理人や被後見人の陳述を求めて,それを整えさせた上で,そろえなければいけないのかと,そこは少し疑問を持っておりまして,まず後見や法定代理人の……,そこは後でいいですか。 ○山本(和)部会長 その点の問題は後に回していただいたほうが整理できるのではないでしょうか。 ○阿多委員 分かりました。   イに関して言うならば,一定の場合には例外事由を認めて,基本的には必要だけれども,一定の要件があれば提出しない場合も制度として考えると,そういう形のルールというのは立てられるのではないかと思っています。   それから,繰り返しお話するつもりはないですが,谷幹事が指摘したこの陳述のルール作りの問題だとは思うのですが,最初の誓約書的なところでイメージしていたのは,かなりチェックシート的なところで該当しません,該当しませんだったのが,今回どうかというような形で,特に元々これは中間試案でもイも入って計算も宣誓の対象だとなっていたのを,それも理解はしているのですが,どうかと感じます。   結局それはこの入札に際する資金はどこから調達をして,変な話,自分の手持ちなら別ですが,どこかから出してもらってするのだと,そうすると出してもらう第三者が暴力団かどうか,特にどうかですか,ではありませんということも含めて陳述というような形になってくると,実際は資金の調達方法について,私はこうこうこういう形で資金を調達します。ですから該当しない。それも思いますぐらいの話にしかならなくて,かなり規範的要件という言葉を使っていましたけれども,事実から離れた内容を求めるのか,正に裸の事実を求めるのかという意味では,非常に難しい問題があるのだなと思っていますので,その点も付加していくと。 ○山本(和)部会長 具体的にどういうような形でその陳述を位置付けるかというのは,規則レベルあるいはさらには運用のレベルの話なのかなと思うのですけれども,ここではその計算において買受けの申出をする者なのですというのか,そうではないですというかという,チェック方式かどうか分からないけれども,それについての陳述を求めるかどうかという問題で御議論いただければと思うのですが。 ○阿多委員 分かりました。   それとあと,先ほど事務当局から御説明したように,刑罰の方で,計算においてというのが定まって,ある意味では明確だというのも一方で理解するのですが,むしろ前回この計算においてを議論したときには,いろいろなシチュエーションが考えられると,そういう状況で,今これを当たる,当たらないとすることの方が,逆に暴力団関係者に知恵を与える形になるので,解釈問題も含めて限定するのは,そのときはむしろ控えたような認識です。そうするとやはり曖昧なところがありますので,先ほどの話がありましたように,計算においてという言葉だけでスタートしても,後にどう影響するのかというのは,最初やはり執行官が入り口で判断するのではなくて,裁判所の御判断と。多くの場合,警察への調査嘱託が伴うことになると思うのですが,その上での判断が望ましいと思っています。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   ちょっと整理させていただきます。今のところ幾つか1の(1)についての修正意見というのが出ていて,一つは該当するかどうかについての陳述を求めるということについては,むしろ中間試案の段階はそうだったのですかね,該当しないということについての宣誓・陳述を求めたほうがいいのではないかという今井委員の御意見がありました。   それから,阿多委員からは,この(1)のウについては,むしろ執行裁判所の判断,売却許可決定の段階の執行裁判所の判断に委ねるのが,この証拠方法としてのこの陳述の性格に適しているのではないか。まだウは削除したほうがいいのではないかということかと思いますが御意見があり,更に谷幹事の方からは,これはこの(1)それ自体には出ていないかもしれませんけれども,結局この宣誓・陳述がない買受けの申出は不適法なものであるというのが,この試案の前提になっているわけでありますけれども,そこはそういうふうに考えるべきではないのではないかという御意見がございました。   それから,アの(イ),イもそうですが,この(イ)の計算においての部分についても宣誓・陳述を求めるというのは,計算というものの概念が必ずしも明確ではないので適切ではないのではないか。これは要するに(イ)を削除するという御提案かと思いますけれども,一応かなりこれほどの修正提案が出るとは想定していなかったのですが,多くの御提案が出ましたが,是非これはほかの委員,幹事からも御意見を頂ければと思います。 ○山本(克)委員 今の部会長の取りまとめとは全然違う話なので恐縮なのですが,宣誓をさせるときは,多くの場合,私の知っている範囲では,宣誓拒絶に対する罰則があるのですが,その前提として証人尋問であれば証人尋問をするという決定を特定時に名宛人としてやっていますね。鑑定の場合だってそうですよね。そういうのをなしに,あるいは財産開示のときだって開示しろという裁判が前提になって,それを受けたものは宣誓しなければならないという義務を発生させていると。この場合は一般的に法律で書いてあるだけと,そういうものを宣誓と呼ぶと。しかも今回の規律では宣誓をしないことに対する罰則はないわけですよね。そういうものを宣誓と呼ぶことに対して,かなり私は抵抗があって,最初の今井委員がおっしゃったように,もう誓約にしてしまったらどうなのかなという,宣誓という言葉に今まで込められた意味からすると,誓約の方が,誓約書を提出させるというほうが私は何かすっきりしているような気がするのですけれども,それはもう手続要件だという位置付けにするということでどうなのかなという気がしますけれども,どうでしょうか。 ○今井委員 では,今の山本克己委員の意見に補足して申し上げます。   そもそも聞きたかったのですけれども,この場合の現段階でそこまで詰めているわけではないと思いますが,宣誓と陳述,先ほど誓約書の方がいいのではないかという,私も同じ意見なのですが,宣誓と陳述という立て付けでやった場合に,それで後の方では陳述に対する,虚偽陳述に対するペナルティーがあるわけなのですけれども,では本件のような現状におけるポジティブな,ネガティブ条項ではなくてポジティブな暴力団である,それに該当するかどうかというふうなときに,宣誓の範囲と陳述の範囲とはどう分けるのかなと。宣誓というのは偽証罪でいうと,うそを言いませんと。表明保証でいうと,私はこういう資格要件を整えていますと,非該当ではありませんと言って,それに該当したときには,虚偽だからということで後で損害賠償なり債務不履行解除ができるわけで,そういうふうにして,こういう立て付けになると,そもそも宣誓ってどういうふうにやるのかなというね。   例えばちょっといじわるな質問ですけれども,宣誓で私は暴力団員ではありません。次の陳述で私は暴力団員ですというような陳述を求めるような印象も受けますので,いやこれは勝手な解釈ですけれども,それはもうそもそもこの宣誓と陳述という分け方ができるのかどうかというのと,分けた場合に,今のような立て付けだと,うまく宣誓の部分と陳述の部分が整合しないのではないかという危惧をしたわけでございます。 ○谷幹事 よろしいですか。   今,提案されている宣誓の上での陳述というのは,宣誓は何を宣誓するかというと,陳述内容が真実であるということの宣誓だと思いますので,そういう意味でいうと,その宣誓と陳述が分けられないのではないかというのは,少し当たらないのかなと思ってお聞きしていたところです。   その上で,そうではなくて,誓約だけにすればいいのではないかという御意見もあったのですけれども,従前一定の司法手続を利用するに当たって,一定の誓約をしなければ利用できないというふうな立て付けというのはどうなのだろうということで,これは証拠調べの性質を持つ陳述とした上で,その真実性について宣誓をすると,こういう整理がなされてきたというのが議論の経過であったと思います。   その上で,ではそれが何かそういう立て付けをすることによって問題が生じるのかというと,そこはそうは考えてはいなくて,宣誓の義務がそもそもないのに宣誓させるのはおかしいのではないかというふうな点につきましても,それは別に陳述をすると,その陳述内容についての真実性について宣誓をする義務を課するということで,特段の理論的に問題が生じるというものではないのかなと思いますので,従前の議論を踏まえて,このまま宣誓の上での陳述ということで,様々な点で整合性をとる必要がありますけれども,そういう前提での制度設計を進めていくという議論がいいのではないかと思っております。 ○成田幹事 宣誓プラス陳述という証拠方法であることを前提としたときに,(1)のウの規律を削除すべきではないかという点,また,陳述がない場合に買受けの申出が不適法になるのかどうかという点について,意見を述べた上で話を進めたいと思います。まずウの規律を削除しますと,先ほど部会長がおまとめになったとおり,一度不許可になった後,また売却手続に戻るという話が出てくると。これ自体かなり執行の遅延を招くわけです。更に従前議論をさせていただいたところですが,不許可になった後,どこまで売却手続を戻すのかという問題,これは解釈に委ねられるとしますと,入札まで戻ってしまう可能性も当然あるわけで,そうなると遅延はかなり看過し難いものになるのではないかと思われます。それを防ぐためには,このウの要件はやはり必要ではないかと思っております。   また,陳述がない場合に不適法な買受けの申出にできないとしてしまいますと,やはり無責任な申出が頻発することになり,制度としての整合性はどうなのかという問題が出てくるかと思いますので,やはりこれは不適法であるとできればと思っているところです。   前者につきましては,場合によっては執行妨害の申出だということで,そもそも開札に入れないという立て方もあり得るのかなとは思っていますが,今の点が証拠方法だとすると説明がつかないとなると,山本克己委員がおっしゃったように,誓約ベースで考えたほうがすっきりするのではないかと思っております。 ○垣内幹事 宣誓の上で陳述というのがいいのか,それとも誓約という考え方の方がいいのかというところについては,私自身は判断をしかねているところなのですけれども,これまで出された御意見のうち,証拠調べの性質を有するというように考えると,(1)のウの規律と両立し難いという点についてなのですが,ウの規律というのは飽くまで結局これは自分が買受け資格がないということを,買受けの申出の段階で自認しているという者をその場で排除をするというものであって,それについてあえて裁判所の裁判がなければそういう規律が不可能なのかというと,それは仮にこの陳述が証拠調べとしての陳述の意味を持っているとしても,必ずしもそう直結するものでもないのかなという感じを持っておりまして,ちょっとそのように考える必然性があるのかどうかについては,私自身は疑問を感じたというところであります。   ただ,証拠調べの性質があるということを強調しなければならないのかという点についても,先ほど谷幹事からもありました。これまでの議論の経緯というのは確かにあるのかもしれませんけれども,事柄の実質として,このことに証拠としての価値を非常に重く認めていてという,これを執行裁判所として大いに参考にしようということなのかといえば,そうでもないようにも思われまして,この自分が暴力団員であるかどうかというようなことについては,買受申出人自身が最もよく分かっているはずであると,こういう2ページの上の方で書かれている実質はそのとおりですので,そうである以上は,買受けの申出の段階でその点について陳述を求めると。そしてその結果,買受けの申出がないということが,その段階で自認されているものについては,申出の資格もないということで排除するということは,説明の仕方についてはともかくとして,事柄の実質としては私はそれほど無理のない規律ではないかという感じがしておりますので,法制的な問題等々あるのかと思いますけれども,規律の実質的な方法については,私は大筋これでよろしいのではないかという印象を今のところ持っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。是非,多くの委員,幹事の御意見を伺いたいので,御意見がある方は出していただければと思います。 ○松下委員 私もこの部会資料の2ページにあるとおり,この陳述を証拠調べの性質ということで,原案のとおりにしたほうがいいのではないかと思います。後の方で出てきますけれども,警察への照会がを調査嘱託と位置付けることと整合するのではないかと,そういう観点からも,証拠調べという性質で説明したほうがいいのではないかなと思う次第です。 ○今井委員 今の補足になりますが,ウの点ですけれども,いずれかに該当する問題の陳述,これはもう先ほど冒頭申し上げたとおり,現実性があるかどうかというのと実効性があるかどうかという観点で申し上げたいと思うのは,確かに私はうそを言いませんという宣誓をする,そして私は暴力団員ですという陳述をする,そうすることが,その陳述書が証拠資料かどうかと売却許可決定ができるかどうかの,その資料かどうかということ,それ自体を争うわけではないのですけれども,そんなことが普通あるだろうかという実効性と,そういう人がそれでも暴力団員は買受けになれませんということがアナウンスされているわけですから,私はうそは言いません,私は暴力団員です,だけど入札しますなんていうことが,申し込みますなんていうことがあるだろうかという,非常に常識的な議論,状況を踏まえていただきたいなという感じがいたします。 ○山本(和)部会長 その点は恐らく全くそのとおりで,この(1)のウの規律というようなものは,現実には余り存在しないだろうという場面を念頭に置いているということは確かだと思いますが,ただ,そういう場面が論理的にある以上,規律を置かないわけにはいかないので,態度決定が迫られていて,それにどれだけ時間を使うのが合理的かという問題はもちろんありますけれども,そこはそういう問題かなと思います。 ○山本(克)委員 本人が宣誓・陳述して,私は暴力団とは一切関わりありませんと言って入札したと。それで警察に対する嘱託をしたときに,いやこれは真っ黒ですというお答えが返ってきたというときに,陳述の方を採用するということはあり得るのですか。 ○山本関係官 個別具体的な事案の内容にもよりますし,警察からどういった回答が来るかというところにもよるのだろうとは思うのですけれども,裁判所がどのような心証の下で判断するかという問題なのだろうと思います。 ○山本(克)委員 完全に自由心証の枠内で,警察から仮に黒だという照会が,回答が返ってきたときに,それをオーバーライドして,いや白ですと裁判所が判断するということがあるという前提なら,私は証拠調べとして,証拠方法として宣誓・陳述を認めることにやぶさかではないのですが,そんなことはあるのですかね。私はそれは…… ○山本(和)部会長 御回答は論理的にはあり得るということを言われて,論理的にはあり得ると。 ○山本(克)委員 いや,論理的にあり得るというのはどういう意味なのかがよく分からないのですが,それはどんなのでも抽象的可能性はあるのですけれども,しかし,具体的にそんなことがあるとはとても私には思えない。 ○山本(和)部会長 私もそれは思えませんけれども,論理的可能性としては…… ○山本(克)委員 いやいや,思えないのであれば,もう証拠方法というのは私はやめたほうがいいのではないのかなという気がするということです。 ○山本(和)部会長 どの程度それがあり得ない事象なのかということについては検討が必要かもしれませんけれども,山本克己委員の御意見としては…… ○山本(克)委員 結局,罰則の前提として,それを何が宣誓なのか誓約書なのかどっちがいいのかというだけの話ではないのかと思いますので,先ほど申し上げましたように,宣誓というのは従来宣誓ができないものというものも,させてはいけないものというのは一定のカテゴリーがあり,かつ宣誓ができる者が宣誓を拒絶したときには,それに対する罰則があると,それは刑罰である場合もあるし過料の場合もあると,そういう制度設計をしてきているはずなのです。   ですから,宣誓を拒絶することに対して,一切サンクションがないような宣誓なんていうものを作ることに,私はやはり非常に抵抗を感じるということです。 ○谷幹事 警察から黒の回答が返ってきたときに,最終的に暴力団員ではないという認定をすることがあるかどうかという点については,それは数は多くはないでしょうけれども,ないことはないだろうと思っています。つまり警察が暴力団と認定したのも人違いであるとか,同姓同名でそれは生年月日の問題もあるのでしょうけれども,同姓同名で別人を暴力団員として認定していて,それを回答するということだって,これは現実的には想定できるところです。数が多いかと言われると少ないでしょうけれども,そういう事態が生じて,場合によったら執行抗告の中で証拠を出し,自分はこういうことで,ここできちっと働いてきて,暴力団員に該当するという警察の判断は間違いなのだという立証するということは,それは十分あり得ることだと思います。 ○山本(克)委員 今の私の発言の趣旨をちょっと理解していただけていない御発言だと思います。   私が申し上げているのは,その際に宣誓と陳述が心証に影響を与えるのかどうかという話をさせていただきました。まだ人違いかどうかと,宣誓・陳述とは無関係に別途の資料によって判断されるべき事柄であって,宣誓・陳述とは無関係に判断される,そういうことがあり得るというのは私は何も否定していません。   宣誓・陳述書の方が証拠価値が高いと判断されるような場合があるのかということを申し上げたのです。 ○谷幹事 問題状況の想定としては,そういう宣誓の上での陳述で,自分が暴力団員ではないという,それも一つの証拠,そして本人が様々な形で出した証拠も総合して裁判所が判断するという意味で,宣誓の上での陳述の証拠としての扱いをされるということになるのだと思います。 ○山本(和)部会長 山本克己委員が言ったのは,証拠価値が非常に低い,又は証拠価値はまずないということでしょうか。 ○山本(克)委員 全くないというのが私の意見です。 ○山本(和)部会長 という御意見で,谷幹事は全体を自由心証では判断するのだという理論的なことを整理を言われたのだろうと思います。   事務当局から何かありますか。 ○山本関係官 宣誓を拒絶した場合に罰則がないではないかというところなのですけれども,今回の御提案している記述ですと,宣誓・陳述をしないという場合には,買受けの申出がそもそもできないということを想定しておりますので,その場面で罰則を科す必要がないのではないだろうかという前提で資料をお作りしているところでございます。 ○山本(克)委員 いや,宣誓をさせるというのは,司法に対する一般的な国民の協力義務を前提として,それを拒んだことに対して独自の制裁を科すわけですよね。この場合は何が本案かというのは難しいですが,本案的な部分で不利益があるというのは,何ら宣誓に対する罰則ではありません。だから,当事者尋問において負けるということが,あの場合にはちょっとあり得ますが,あれはしかし罰則だと普通考えていないのではないでしょうか。やはり過料の方が罰則だと考えているのではないのかなと思いますので,私が言う罰則というのは,そういうふうに協力義務に反するような事柄に,独自の罰則を置いていないような宣誓というのは意味がないということを申し上げているつもりです。 ○阿多委員 かなり先祖返りしたような,また誓約か宣誓かの議論になっています。裁判所がおっしゃったウに関してですけれども,ウが入らないと遅延のことをおっしゃって,現場の方としては,なるべく前さばきでされたようなのはよく理解できるのですが,何も中身によると,執行官が開封して形式的に判断をして,その書いている中身がチェックシートでその暴力団員に該当するとかチェックするだけで終わるのであれば,判断行為というのは入らないとは思うのですけれども,第三者のところがどうかとかいうような形,どういう中身になるかによるのですけれども,執行官がそういう判断をこれがこの要件を満たしているか,書類が入っていないというのは客観的に分かる話ですけれども,入っているけれども,書いている内容を執行官が法的に判断をして,それで外すということが,本来執行官の職務とうまく整合するのかという点は,やはり考えていただきたいと思います。   ウはほとんど「たられば」の話だと私も思っていましてあれですが,執行官が書類が入っているにもかかわらず,それでこれは申出適格がないという形で外してしまうことの当否というところは,やはりかなり重要なのではないかと思っています。 ○成田幹事 そこは多分に運用の世界かなと思っていますが,ウの規律が入る前提であれば,そこはもう判断が介在しないような形で,今おっしゃったようなチェックシートの形になるのかなとは想定しているところであります。 ○山本(和)部会長 かなり御議論を頂きまして,今お伺いする限りでは,なかなかちょっとここで方向を完全に取りまとめるということは難しいように思いましたので,大きくはやはり従来のこの流れで,先ほど谷幹事が整理いただきましたが,証拠調べ的方向でこの議論が流れてきたというのが,恐らく事務当局の認識で,それを基に今回原案を一応作成しようとしたというところだと思いますが,しかし,私が見たところ両側から批判を受けるような状況に今なっているように思いますので,もう一度この点については今の御議論を受けて整理をしていただいて,同じ提案になるかもしれませんけれども,ちょっともう一度お考えいただくということにしたいと思います。   もう1点この部分については,関連問題で,資料では3ページ以下で出ている未成年あるいは成年被後見人,法定代理人に基づいて入札するような場合のこの陳述の取扱いということも論点とされています。この点もあるいは証拠方法として捉えるか,そうでないのかによって違ってくる可能性はある論点かなと思いますが,取りあえずここのこの資料で示されている考え方について,やはり御意見を頂戴しておきたいと思いますが,いかがでしょうか。 ○阿多委員 では,すみません,正に御指摘いただいた証拠方法とするのか,申出適格の言わば有効性要件と考えるのかということに関連するかと思いますので,未成年及びその後見人の場合は,財産管理権の問題で有効に帰属するかどうかの問題で,アに着目するのか,イに着目するのかという形の筋で機能を整理していまして,証拠調べに着目するのであれば,別段特に専門家後見人とかを含めて,必ずしも本人が暴力団かどうかが分からない。財産帰属を有効にするかどうかの判断はできても,暴力団かどうかというような判断はできないことだってありますし,逆にそれについて調査をしろというような義務を課すことになりかねないので,私自身は宣誓能力が,宣誓のところの18歳で切るかどうかは別にして,宣誓できるできない,できなくても陳述はできるというところで,本人だけに着目をして判断すればいいのであって,できない人は付けなくても仕方がないと,戻りますけれども,あとは裁判所が判断すればいいと,そういう筋で整理してきましたので,いただいたア,イ,ウのどの記号だったか,できない場合は要らないという意見に賛成したいと思っています。 ○山本(和)部会長 そうすると,先ほど阿多委員の(1)でウはやめて,もう執行裁判所が売却許可の段階で判断するというのの延長線上で一括して参考意見であるということですね。分かりました。 ○谷幹事 私も宣誓ができるかできないかということで判断をして,それで宣誓ができないものについては,もう宣誓の上での陳述がないという入札を認めるという立て付けでいいのかなと思っております。   実際上,その宣誓できないというのは,今の仮に民訴法との整合性を考えますと,16歳未満は宣誓のルールがないとされているところでありますけれども,民訴法201条の2項ですか,というような場合を想定をいたしますと,本人がつまり入札者本人,買受けの申出者本人が15歳であったとして,その者が現役の暴力団員としてばりばり活動しているというのは余り想定できないところでございますので,そうした実情を考えれば,必ずしも宣誓の上での陳述というものを必要とする,その必要性がないのではないのかなと思います。   一方,もう一つ宣誓できない場合としては,成年被後見人ですけれども,この場合も成年後見で後見人について自ら財産管理できないというふうな人が,これもまた暴力団員としてばりばり活動しているということも考えられないと思いますので,この場合も必要性がないと思いますので,陳述を要しないということでいいのではないかと思っております。   そう考えた場合に,先ほどの論点としてあった,宣誓の上の陳述がない場合に無効とするかどうかということとも関わってくると思うのですけれども,そういう場合に,一応宣誓の上での陳述は買受けの申出に必要な書類とした上で,それはないとしても,そういう15歳未満であるとか成年被後見人の場合については,なくても無効ではないと,無効ではないとした上で,それをもう踏まえて最終的に裁判所が暴力団員に該当するかどうかを判断するという,そういう運用で十分制度としては立て付けはできるのではないかと思います。 ○山本(和)部会長 1点あれですが,その成年被後見人の場合に,この資料では一時的に事理弁識能力を回復している場合はどうかというような問いかけもなされていますが,それは定型的にもう成年被後見人であれば要らないだろうという御意見とお伺いしてよろしいですか。 ○谷幹事 そこは法律上どうするかというのはあるのですけれども,一つの案としては,先ほど申し上げましたように,一応要るとした上で,ないと,それが出てきていないとしても,成年被後見人であるかどうか,事理弁識能力が回復しているかどうかということもあるのでしょうけれども,あったとしても別に暴力団員,一時的に回復したとしても,暴力団員としてばりばり活動しているということもあり得ないと思いますので。 ○山本(和)部会長 ばりばり活動しているのはないと思うのですが,この5年以内というのを入れているので,5年前はばりばり活動していたということは,論理的にはあり得るのかなと思うのですが,いかがですか。 ○谷幹事 その点も仮に5年を入れたのは,要するにまだまだ暴力団員とのつながりがあって,あるいは暴力団員から利用されたりして,買い受けた者が暴力団に利用されるおそれがあるのではないかということだと思いますけれども,成年被後見人の場合は仮に5年たっていなかったとしても,そういう事態というのは恐らく想定されないのだろうなと思いますので,そういう意味で,もう制度としては一応書類は要求するけれども,ないならないでそれを踏まえて,ほかの事情と併せて暴力団員等に該当するかどうかを判断すればいいと考えております。 ○阿多委員 谷幹事とちょっとニュアンスが違うのは,事実上あるかないかではなくて,理屈の問題として現役の暴力団でも事故に遭って,高次脳機能障害が出て後見が開始することがあり得ると思いますので,それはあり得ることだと思うのですが,1点あと,先ほどに補足すると,未成年の場合,では営業許可が出ていた場合,どのように処理するのかと,その場合は成年扱いで,その場合は法定後見人は要らないと,そうすると,何か書式だけが営業許可があるからとか,何か大げさな話になりますので,そういう意味でも,本人の陳述を基準に考えるべきであって,未成年だからとか後見だからというような形で陳述,宣誓を付加すべきではないと,1点だけ追加しておきたいと思います。 ○今井委員 では,今の山本克己委員の意見に補足して申し上げます。   そもそも聞きたかったのですけれども,この場合の現段階でそこまで詰めているわけではないと思いますが,宣誓と陳述,先ほど誓約書の方がいいのではないかという,私も同じ意見なのですが,宣誓と陳述という立て付けでやった場合に,それで後の方では陳述に対する,虚偽陳述に対するペナルティーがあるわけなのですけれども,では本件のような現状におけるポジティブな,ネガティブ条項ではなくてポジティブな暴力団である,それに該当するかどうかというふうなときに,宣誓の範囲と陳述の範囲とはどう分けるのかなと。宣誓というのは偽証罪でいうと,うそを言いませんと。表明保証でいうと,私はこういう資格要件を整えていますと,非該当ではありませんと言って,それに該当したときには,虚偽だからということで後で損害賠償なり債務不履行解除ができるわけで,そういうふうにして,こういう立て付けになると,そもそも宣誓ってどういうふうにやるのかなというね。   例えばちょっといじわるな質問ですけれども,宣誓で私は暴力団員ではありません。次の陳述で私は暴力団員ですというような陳述を求めるような印象も受けますので,いやこれは勝手な解釈ですけれども,それはもうそもそもこの宣誓と陳述という分け方ができるのかどうかというのと,分けた場合に,今のような立て付けだと,うまく宣誓の部分と陳述の部分が整合しないのではないかという危惧をしたわけでございます。 ○勅使川原幹事 この4ページのイの②とか③のようなケースは,買受けの申入れをしようとする者が未成年者である場合ということですけれども,事柄の実際として,この者たちが暴力団の関係者であるというケースを多分想定されるのか,あるいは私も民訴法201条2項のラインで考えて,宣誓能力がない者は外していこうでいいとは思うのですが,宣誓能力がない,外されるのをいいことに,そのバックにある法定代理人だったりとか成年後見人が関係者であるというケースが,事柄の実際としては多いのではないかと。とすると,最初に宣誓・陳述をすべき者の対象の中に,こういう未成年者だとか成年被後見人の場合は,後見人であるとか法定代理人を含めて考えていくという方向をとるとかしないと,うまく意味が,実際上の意味がないのではないかなという気がちょっとしていて,この資料を出したときは一体どちら,後々見ると法定代理人等にも宣誓をさせろというのが出てくるのですが,ここで宣誓させることの意味は,私が申し上げたような意味ではなくて,飽くまでこの者の代わりにしなさいということであろうかと思うので,これは事柄の実際としては,その者自体に宣誓なり誓約なりをさせていく方向の方が,潔癖に排除という趣旨にはかなうのではないかなということをちょっと考えました。 ○中原委員 銀行実務の場合,当然宣誓という手続はありませんが,未成年者や成年被後見人と新規に取引を開始する場合の反社チェックは,本人だけでなく法定代理人についても合わせて行っています。   したがって,未成年者や被後見人が競売手続に参加する場合には,本人と法定代理人の両方から宣誓してもらう手続が実効的ではないかと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○松下委員 宣誓して陳述する内容は,本人が該当するかどうかであって,法定代理人が該当するかどうかということは,ここでは考えられていないのですか。 ○山本(和)部会長 法定代理人が該当するかどうかについては考えていなかったのですが,今の御意見は多分それも含めてということなのでしょうね。 ○中原委員 例えば,法定代理人から,私が知る限り,本人は暴力団員ではないというような形もあり得ると思います。 ○山本(和)部会長 法定代理人が暴力団員で本人は暴力団員ではないという場合には…… ○中原委員 法定代理人についても,自分も暴力団員ではないということを言ってもらう,ということが考えられると思います。 ○山本(和)部会長 という御意見です。 ○松下委員 という点が一つと,ですから今のような御指摘を踏まえると,法定代理人が入る場合には,法定代理人についても該当するかどうかということを,あたかも法定代理人について,本人として宣誓・陳述をしてもらうという考え方もあり得るのではないかというのが一つと,それから全然別の点ですけれども,仮に宣誓・陳述を証拠調べの性質を持つものだということでずっと考えていた場合には,やはり証拠価値がありそうなことを言う人に言わせれば,これは筋ではないかと。だとすると,法定代理人に宣誓・陳述をさせるというこの資料でいうと,考え方はいいですかねというのも一つの考え方かなと思います。   5ページの下の方で,弁護士等の専門家が成年後見人に選任された場合には,本人が暴力団員かどうかを確認し得ない事態もあるかもしれないと書いてあるのですが,私はそこの実態がよく分からないのですけれども,お金の出入りは,しかし排他的に把握されているわけですよね,この法定代理人が。だとすると,何らかの痕跡ってやはり出てくることがあるのではないか。お金の流れを見ていて,しかし全然気が付かないということが果たしてあるのだろうかということが私はよく分からないのですが,仮にそういうことがなかなかないのだとすると,この考え方のイというのも,全体として一つの考え方ではないかと思います。 ○山本(和)部会長 関連ですか。 ○山本(克)委員 私は証拠方法にすることについて反対ですが,今,松下委員のおっしゃったとおりで,なぜ本人にこだわるのかというのが理解できません。証拠方法だとしたら,誰がやってもそれなりにリライアブルな人が宣誓・陳述すれば,当然それが証拠として価値があるということになるはずなのに,なぜ本人にこだわり続けるのかというのがよく分からない。   それは法人である場合につきましては,代表者がやるということになっていますよね,宣誓・陳述を。民訴法の一般原則では,代表者は法定代理人に準ずるという例の民訴法37条でしたかの規定が一般的に民訴法を支配しているわけで,民事執行法もそれを準用しているということを考えると,なぜ後見人が宣誓・陳述の主体にならないのかと,あるいは親権者がならないのかというのを,私にはちょっと理解しかねるところがあります。   仮に誓約書だとしても,それも当然訴訟行為を実際にするのは後見人ですので,後見人や親権者ですし,また法人の場合は代表者ですから,その人が誓約書を書くということで十分いけるのではないか。特に本人にうんぬん,こだわる方は,結局でも買受けの申出は本人はしないわけですよね。後見代理人,後見人ないし親権者がするわけですよね。そこでなぜ本人がぽっと出てくるのかというのは,訴訟行為についての法定代理の構造上,なぜ本人がそこで出てくるのかが,もう一つよく分からない。いろいろな点で本人にこだわるのは,私はちょっと分からないなと思っております。 ○山本(和)部会長 その場合に言われるのは,法定代理人が本人がやはり暴力団員でないということを誓約するということですか。 ○山本(克)委員 もちろんそうです。 ○山本(和)部会長 法定代理人自身が暴力団員かどうかというのは関係ないということですか。 ○山本(克)委員 それは一つのイシューですが,それは考えてもいいことですが,それは別の話ですよね。 ○山本(和)部会長 別の話です。 ○山本(克)委員 私はそれもあっていいのかもしれないと思います。ただ,法定代理人の範囲がどこまで相続法上の法定代理人とされている者まで含むのかとか,いろいろと考えると難しい問題がいろいろと出てきそうですが,民法総則だけを念頭に置けばいいかもしれません。 ○阿多委員 よろしいですか。   実は石井幹事がいらっしゃれば,先ほどの後見についての,後見申立ての際に専門家後見人がどれだけの情報を得ているのかというのは,お話いただけると思ったのですが,ちょっと御不在のようですが,少なくともその時点での財産状況については把握していません。もちろん後見開始事由があるということは理解はするのですが,その方の身分関係,さらには属性についての情報が,申立ての際に専門家後見人に提供されるわけではありませんので,専門家後見人の方で,現職はともかく5年たったかどうかなどを判断するような材料は持っていないと思います。   そういう状況で後見人に宣誓をさせるという,逆に後見人は分からないから何も書けないというような状況になるのではないかと思っていまして,この発言の前に申し上げたのですが,その財産関係の帰属の問題と証人適格というか,誰がするのかというのはやはり別の話で違うのだろうと思います。   それと逆に,山本克己委員がおっしゃった,この法人との比較では,僕は逆の方向で考えていまして,法人の代表者は別段個々の取締役との関係で,法定代理権が何かあるわけではなくて,ただ事実関係として会社の代表者として,個々の取締役の方の属性については,もう取締役選任のときにいろいろ調べもしますので分かっているだろう。だから,法定代表取締役が取締役,個々の取締役が暴力団関係者でないということの言わば陳述をするということは事実上可能でしょうし,そういうことはあると思うのですが,単に財産の管理だけを委ねられている後見人等が,なぜ暴力団員ではないというようなことまで宣誓できるのか,むしろ私は逆の疑問でして,何度も申しましたが,これが証拠ではなくて誓約書みたいな申込みの有効要件と整理するのであれば,効果帰属のためにいろいろなことで法定代理人や後見人のお名前が上がることは理解はできるのですが,証拠というところがあれば別だと思います。   あと,銀行の方が後見人も含めて反社条項をされているのは十分理解はしています。ただそれは口座開設が有効で,後日それが不適法ないしは無効になることを阻止するためにされているのであって,証拠として金融機関が後見人の反社の要件を求められているのではないと思っていて,これとは区別される話だろうと思っています。 ○山本(和)部会長 分かりました。 ○成田幹事 私としては,松下委員あるいは山本克己委員と同じ見解でして,イの考え方がいいのではないかと。   まず,誰も触れていませんけれども,アの考え方はやはり未成年であればともかく,被後見人が一時的に事理弁識能力を回復したかどうかというのは,恐らく判断できないと思いますので,それはなかなか採りづらいだろうと思っております。   そうしますと,やはり法定代理人がいる場合に,法定代理人に本人のことを陳述してもらう,あるいは逆にそれを不要とするかどちらかかなとは思っておりますが,先ほど来ありましたように,実際に買受けの申出をするのは法定代理人でありますから,法定代理人において宣誓・陳述をするのか誓約なのかはともかく,してもらうほうが自然なのではないかと。全くさせないとなると,仮に陳述がその証拠方法であるとしても,やはり買受けの申出を抑止させる効果があるという前提に立っているわけですから,不要とするのはなかなか難しいのではないかと思っております。   あと,法定代理人うんぬんとその会社の代表者というような話もありましたけれども,財産開示の場合に,債務者に法定代理人がいる場合には,法定代理人が開示義務者となるという作りになっていたかと思いますが,どちらかというとそちらの方に引き付けて考えることができるのではないかと思っております。 ○谷幹事 2点意見を申し上げたいと思います。   1点目は,本人の陳述か法定代理人の陳述かという点で,特に年長少年の場合を考えてみたときに,これはやはり法定代理人よりも本人でないと分からないことがあるわけで,その場合には法定代理人に陳述をさせるということの実質的意味というのはないのだろうと思います。年長少年,具体的には18歳,19歳ですけれども,これぐらいの少年が暴力団と関わりを持っているということは,これは十分あり得ることでして,親元を離れて暮らしているような場合に親が知らないということも,これも十分あり得ることですので,そういうような場合に,法定代理人に陳述をさせてほとんど意味はないわけで,むしろ本人に陳述をさせるべきであると思います。それが1点目でございます。   あと2点目は,本人とともに法定代理人についても暴力団員ではないということの陳述も必要ではないかという御議論がありましたけれども,これは仮に法定代理人が暴力団員であったとしても,それだけで売却不許可決定ができるわけではないので,要件との関わりが出てくるのだろうと思うのです。だから,法定代理人も暴力団員であれば,これは売却不許可にすると,その別の要件を立てなければほとんど意味がないわけですので,法定代理人が暴力団員であれば,確かに未成年者なりあるいは被後見人なりの名義を利用してやるということはあるのでしょうけれども,ただ,その場合も未成年者,被後見人の財産を使うのであれば,別に計算においてということにはならないでしょうから,計算においてではない実質的な支配,暴力団の支配という類型として,法定代理人が支配するという,それも排除するというのであれば,それも要件に立てた上で,法定代理人についても陳述させるということにするというのは,それはあり得るかも分かりませんけれども,そこがないまま,法定代理人に陳述をさせるというのは必要性という点では弱いというか,ないのではないかなと思います。 ○山本(和)部会長 恐らく最後の勅使川原幹事の御意見としては,それをもう売却不許可事由として整理するということを前提にした御意見だと思いますけれども,それは今日初めて出てきた新しいイシューだということで,大体意見の対立は伺えたように思いますけれども。 ○山本(克)委員 後見人が仮に専門家,後見人で弁護士が選ばれたりする場合に,調査しようがないではないかと言われるのですが,では入札しなければいいのではないかと言えるのではないでしょうか。つまり,生活に必需,これが入札しなければ生きていけないというものではないのですから,分からなければ後見人として入札するという判断をしなければいいというだけのことであって,なぜ分からないのに入札しなければいけないのかということを,むしろ問いかけられるべきで,そういう問いが立てられるのではないでしょうか。 ○山本(和)部会長 ここは正に今おっしゃられたとおりで,現実的には仮想問題に近いので,本当に親権者が未成年者の名前で入札しなければいけないのかとか,その被後見人の名前で,あえて不動産競売で物件を売却,買わなければいけない事態というのがどの程度世の中にあるのですかということはあるということで,それはさておいて,しかし,論理的には考えておかなければいけない問題なので,事務当局としては皆さんに問いかけたという部分ではあるということなのですが。 ○山本(克)委員 いいのです。私が申し上げたいのは,結局本当に後見人がそうしたいときは,勅使川原幹事がおっしゃったような事情があるときです。後見人は金を持っていないけれども,被後見人は金を持っていると,あるいは子供は金を持っているけれども,親は金を持っていないというときに,親があるいは後見人がその物件を利用したいがために買う場合がほとんどなので,ですから売却不可決定の要件を拡張した上でというのは,十分あり得るのだろうなということを言いたかったのです。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。簡潔にお願いします。 ○阿多委員 簡潔にもちろん。この後見人に関して,我々の方もどういう場合が考えられるのかというのは当然議論はして,例えばというので出ていたのは,居住用不動産があると。その隣地が競売に出て,同様にそこを取得して改造して被後見人のために使うと。そういう場合はあり得るわけで,その場合は被後見人の財産としてするのであって,必ず後見人が被後見人を隠れみのとしてする場合だけではないというふうなことも想定して,ただ実際上はそれほどないだろうと,そういう前提です。 ○相澤委員 宣誓能力があるのに陳述のない買受けの申出は無効なものと考えるとすると,考え方ウの場合,買受けの申出の中にその陳述のあるものとないものとが混在することになってしまい,そうしますと,開札に当たって,これが有効な入札なのかどうかということをその場で判断しなければならず,それは非常に困難な場合があるのではないかと思います。未成年の場合でしたら,一緒に戸籍を出すなりして,これは陳述が必要なかったとか判断できるかもしれませんが,後見の場合,後見登記を添えて申出をするのかとか,何かいろいろ難しい問題が生ずるのではないかということが,危惧されます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。ほかにもし御意見を述べられていない方であれば。 ○青木幹事 私は証拠調べの性格を持つというよりも,買受けの申出の要件と考えるべきだと考えていて,その上で申出について責任のある代理人に陳述というか,誓約をさせるべきだと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。ほかにはよろしいでしょうか。   それでは,意見の対立及びその根拠というものは明らかになったと思いますし,また新しい後見人自身の属性というものを問題にすべきではないかという問題提起もされたと思いますが,この部分,残されているところとしては,6ページの虚偽陳述に対する制裁,罰則を設けるという提案,それから8ページ以下で,これは結局この原案からは落ちているわけですが保証の不返還というこれまで議論してきたものは,なかなか難しいのではないかということが原案となっているのですが,この辺りについて御意見がもしあればお伺いしたいと思いますが。 ○阿多委員 保証の不返還の部分ですが,御議論を頂いて相当難しいというのは理解はしたのですが,やはり元々これは先ほどの陳述・誓約書もそうですけれども,何のためにこの保証の不返還の議論が出てきたのかというと,安易に保証が返るのであれば,結局暴力団員でも名前を出して最高価で入れて不許可になってお金が返ってくると,そういうふうなものを抑止する。一般予防的なところで一旦暴力団関係者が出しても,保証は不返還,昔でいうと没収になりますよという不返還になりますよということが意味があるという形でずっと議論をしてきたのだと思うのです。そういう一般予防的な効果を否定してまで,ここで議論されていることが実現できないというお話なのかということなのです。   特に競売手続の円滑性のところについては,売却許可ではなくて保証の不返還という決定についてという手続を分けてするのであれば,競売手続自体が停滞するわけではないと思いますし,逆に保証の不返還を回避するために,売却不許可にあえて執行抗告をするということも書かれているのですが,本当にそんなことが,余りそういう実際にあるのかというので議論するのはよくないとは思うのですけれども,競売手続全体が停滞するということではないと。もちろん抗告裁判所にすれば変な事件が上がってきて,どこで認定するのだとかいろいろ事実認定では苦労されるのかもしれませんけれども,もう一度戻りますけれども,今回の不返還によって予防しようとする効果を考えたときに,安易にもうお金は返ってくるので,高値で入れればいいのだというようなことにならないようにするためには,やはり不返還の実現する方法を考えていただきたい,そういうふうに思います。 ○松下委員 この資料の趣旨の確認なのですけれども,6ページの虚偽陳述に対する制裁のところで,中間試案では括弧に入っていた「故意により」というのが,この黒い太い文字の部分からなくなっているのですけれども,これはなくても「故意により」というのは,当然読めるのだという御趣旨と理解してよろしいですか。 ○山本関係官 そのような御理解で結構でございます。 ○松下委員 ありがとうございました。 ○今井委員 阿多委員が話されたことはそのとおりで,それに加えてという話で,結局抑止効果という面がこの制度全体として非常に重要なウエートを占めると思うのですけれども,この刑事制裁もあるということはそうだと思う。それが実効性が実際にどういうふうにワークするかは別として,それは大きいと思うのです。   保証の不返還というのは,これは言わば民事の制裁と言えば制裁に準ずるようなものですけれども,刑事的には虚偽陳述の,現行では虚偽陳述といったときには罰則等があると,こういうふうな議論もありまして,また詐欺や強制執行関係売却妨害罪等も今テーマに上げられておりますが,刑事がこれだけ厳しいのだけれども,民事的にはそれほど今阿多委員が申されたとおり,駄目でも戻ってくるよねという話がやはり抑止効果からすると,刑事のペナルティーよりも私は不返還の方がはるかに抑止効果としては大きいと思っております。理屈の問題と実効性の問題は別だというようなのは御指摘のとおりですけれども,そういう意味では,彼らの立場というのは変ですけれども,から見る場合に,暴力団の側から見る場合に,刑事制裁というものの彼らは刑事制裁はなれっこですから実際に実刑になるかどうかは別として,それよりも払った2割が返らないよということの方が,はるかにこの競売に手を出すなというブレーキになるだろうと私は思っております。   その理論的な根拠につきましては,8ページにありますとおり,買受けに向けた真摯な態度がないことなどであると評価できて,民事執行法の80条ですか,こういうことからして説明が付くのではないかと。正面から説明が付くのではないかということと,いずれにしてもこの返還をするとすれば,国か債権者か,それとも本人かということになって,三択で言えば本人に返すというのは,どうもやはりこの制度全体の立て付けからいうと,いかがなものかなという感じがいたします。   さらに言えば,本人には暴力団であることがあれば,先ほどの資格要件にも関係しますが,売却できませんよと十分分かっていて,更に分かった場合には返還しませんよということを,あらかじめアナウンスするわけですから,そういう意味ではある面でルールの宣告になっているわけですから,それでやはりばれてしまったといって,返ってこないということが,それほど国なりにだまされたということには,まずならないだろうということ等々を考えますと,やはり不返還をしていただきたいと強く考えます。 ○山本(克)委員 一般予防的なものとして不返還というのは,選択肢としてあり得るのは確かだと思うのですけれども,それが売却代金に参入されるというところの根拠というのが現行の保証金の不返還の場合より更に難しい問題として出てくるのでないかと。つまり没収するなら,それは一つの筋であろうかと思うのです。没収するかどうかというのは,結局刑事手続に委ねるという選択肢はあるのだろうと思うのですけれども,取りあえず不返還にしておいて,没収するかどうか。ただ日本の起訴便宜主義を採っている国で,そういうことをやることというのが本当にうまくワークするかどうかというのは,私は疑問であるということ,それから執行手続,もちろん刑事に委ねるべきだというのは,執行手続の問題として処理するのが執行手続の執行裁判所に加重な負担を負わすだけであると。あるいは抗告審に対して加重な負担を負わすだけだということで,私は今回出てきた原案どおり,ここはもう断念するというのがよろしいのではないかと思います。 ○成田幹事 確か保証の不返還は裁判所もお願いをしていたところではあったと思うのですが,意見照会をしてみたところ,裁判所の方から実務上問題があるというところで意見が出てしまいまして,今頭を抱えているところでございます。それはそれとして,確かに一般抑止効果が非常に高いのは間違いないので,できればあったほうが望ましいのかなとは思っているのですが,やはり実務的に難しい問題があるので,裁判所として,今の時点でそれほどこだわるものではありません。ただ,もしこれを外すということであれば,やはり刑事罰の方をきちっと設けていただく必要があるのではないかと考えております。 ○中原委員 保証の不返還については銀行業界でも議論しました。確かに抑止力を考えれば保証の不返還というのはたいへん良い制度であるとの意見もありましたが,結論としては,理論的,実務的に制度として成り立たないのであれば,今回は見送りでも仕方がないのではないかということです。 ○垣内幹事 今まで御指摘ありましたように,実効性と申しますか,もしこういうのがあれば制裁としては機能するだろうということは確かかと思うのですけれども,先ほど山本克己委員から御指摘があった理論的な問題点については,私もそのような問題点があるのではないかと考えておりまして,更に御発言に既に含まれていたかもしれませんけれども,若干私なりに懸念しているというか,問題だと感じている点について述べますと,従来現行法で設けている不返還については,これは解約手付的なものであるという理解で,民事的にも不返還だということが十分に基礎付けられる性質のものだということなのですが,今回この種の規律を新たに設けたとしますと,これは純然たる制裁の性質を持つということで,この資料でも故意の場合を想定しているということかと思われますけれども,そうなりますと,何か民事手続の中で当該担当司法機関が柔軟に制裁をその枠内で課していくと。その手続としては執行抗告等の決定手続であるという話になっていて,不返還,不返還としても没収はまた別途ということであれば,それはあり得る考え方なのかもしれませんけれども,不返還で終わりの手続だと考えた場合には,なかなか現行法制上,そういった形で裁判所に柔軟な制裁権限を課しているということは,余りないのではないかという感じもするところで,そこも非常に理論的には難しいところがあるのではないか。仮に日本の司法制度全体について民事の司法機関が関係者に対して柔軟にその手続内で制裁を科していけると,それは理論的な可能性としては十分あり得るものかもしれないと思いますけれども,そういう方向に行くのであればあり得る選択肢になってくるのかなという感じがいたしますが,現在の状況でここだけということですと,なかなかその点も考慮しなければいけないのかなというふうな印象を現在では持っております。 ○勅使川原幹事 趣旨が適正な民事執行手続の実施を妨げ得る行為に対する制裁だということですが,適正な民事執行手続の実施を妨げるという意味では,民事執行法の71条の2号や3号のケースになったところで,これは暴力団員でない限りは,特段保証の不返還というのは課せられているわけではないので,暴力団員等の属性を持っていることが代金不納付の場合と同じなのだという評価に果たしてなるかどうかというところには,いささかちょっとまた抵抗感がありまして,一つの政策,法政策としてはやはり不返還を制裁にということもあり得るのかもしれませんが,先ほどるる出ていた御意見なり,ちょっと手続的にはまだ今のところは難しいかなという形で,不返還に関しては残念ながら諦めるという結論に今は賛成をしたいと思っております。 ○佐成委員 この論点は,我々として中間試案の内容でよろしいと思ってパブリック・コメントにかけたものでありまして,弁護士会の方からもございました,一般予防的な効果が大きいという点については,おそらくこの部会の皆さんで一致していると思います。しかし,本日の部会資料でこれだけ問題点が書かれておりまして,これを限られた時間内に全て潰していくというのは非常に難しいと感じております。中間試案に賛成し,この点についても非常に有益な仕組みであるとは感じておったのですけれども,皆様の御意見を伺っておりますと,法制化は難しいであろうというのが現時点での印象でございます。 ○阿多委員 すみません,それほど時間をとるつもりはありません。   1点,まず御質問なのですが,今回刑罰のところも,これは虚偽陳述に対する制裁のところの記載で,刑罰との関係に触れられているのですが,いわゆる刑法の96条の4の,7ページの一番最後の(注2)のところがあれですが,と似たような,何しろこの規定を適用してという形で,実際は個別の事件の判断になると思うのですが,例えば暴力団に該当しないという形で出して,警察への調査嘱託の結果,該当者だと,それで売却不許可にしたと。不許可にした場合でも,公正を害する行為をしたという形で,その後の手続は進んでいくとは思うのですが,それに該当するという形で刑罰の対象になるという理解でよろしいのでしょうか。まずそこを確認させていただきたいのですが,不許可決定がされても,行為をした以上,申出人としては公正を害すべき行為をしたと。それに該当するということになるのでしょうか。 ○山本関係官 ここで御提案している虚偽の陳述に対する罰則というものについては,陳述について虚偽であれば罰則が科される方向で構想したいということを前提に書いてございます。 ○阿多委員 ええ,ですから,虚偽の陳述に対する制裁と別に7ページのところでは,いわゆる刑法96条の4等を…… ○山本(和)部会長 妨害罪になるかどうかということですか。 ○山本関係官 それも個別具体的な事案によるだろうと思いまして,一概にお答えするのは困難かと思われます。 ○阿多委員 もちろん,ただ状況としてあり得るのは,不許可決定がされた,いや,実際にだまして取得したと,それを事後的にどう処理するのかというのは,事例としていろいろあると思うのですが,裁判所が警察からの回答を得て不許可にしたという場合でも,それは公正を害する行為をしたと該当するのであれば,後は起訴裁量の問題がありますけれども,かなりそういうことをすると抑止するという形になるかと思うのですが,手続的にはもう言わば許可の段階で排斥しただけで,これに当たるとまで本当にいくのかなというのが疑問がありまして,そうすると戻りますけれども,やはり一般予防的なところは,ここの陳述に対する制裁しかないようなことになりかねないのではないかと。   それと,先ほどから不納付の場合の保証金との比較でバランスがという形をおっしゃっていましたけれども,元々考えていたのは,裁判所が暴力団の不動産取得に関与しないと,裁判所としてそういうものに関わらないということを宣言するために,今回のこの不返還というものが出てきたのであって,債務者が納める納めないというような形のところではないと思うのです。裁判手続に関わらせないと,そういうのが分かったら,それについてはある意味では制裁として,私自身は国庫帰属でいいと思っているのですが,そういう形のものを想定していたのであって,実際に許可決定が出た場合の不納付とは,元々性質が違うものとして議論して,従前もだから国庫帰属の議論があったのかと思うのですが,そういうところも踏まえてやはりもう少し御検討いただく必要があるのではないかなと。   一番心配しますのは,とにかく該当しないというので,高値で入れて,それでお金は保証金は2割返ってくるのだということを対外的に宣言することの,宣言というか結果としてそれを言うことの影響がどれだけあるのかというのは,お考えいただきたいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,よろしいですか。御意見を伺いまして,この論点につきましては,御意見を伺った多数の委員,幹事からは,やはり理論的な問題点,実務的な問題点の御指摘があり,この段階においてはやむを得ないのではないか,その趣旨は正当としてもやむを得ないのではないかというような御意見もあったということですが,なお,諦めるべきではないという御意見も承りましたので,引き続き事務当局においては,この挙がっているような問題点について,解決する可能性はないかどうかということについては御検討を頂くという形で,この段階においては完全なコンセンサスはなかったと理解をさせていただきたいと思います。   それでは,よろしければ,ここで休憩をとらせていただきたいと思いますが,それでは3時35分に再開したいと思います。           (休     憩) ○山本(和)部会長 それでは,審議を再開したいと思います。   続きまして,資料10ページ以下ということになりますけれども,2の執行裁判所による警察への調査の嘱託等という部分で,これも既に若干関連で議論をしていただいている部分もあろうかと思いますけれども,この10ページから15ページの辺りまでについて御意見を頂ければと思います。どなたからでも結構ですので,お願いいたします。 ○阿多委員 記載に関する質問をまずさせていただいて,意見を述べたいと思うのですが,11ページの(2)の例えばアの(イ)の文章の末文のところでは,まずちょっと全体を読ませていただきますと,(ア)の規定にかかわらず執行裁判所は警察の嘱託をしても最高価買受申出人―括弧とばしますが―暴力団に該当すると認められないと判断される事情があるときは警察の嘱託をせずに,売却の許可又は不許可の判断をすることができるという書き振りになっています。ですから,これは多分法律用語というか,定型的な表現なのだと思うのですが,これで不許可が入っているというのが,すっと読んだときに理解できませんで,それはイの(イ)のところでも,売却の許可,不許可の判断をすることができるとなっていまして,これは前提が該当しないと認められる場合に不許可の判断をすることができるというのは,形式的な書き振りだけの話なのか,何か意味があってなのかという点を1点確認したいのです。 ○山本関係官 他の売却不許可事由がある場合に不許可とすることがあり得るのだろうと思っております。 ○阿多委員 そうしますと,これは暴力団員等に該当すると認められていないと,もうその段階で判断できるという意味で許可,不許可のことを書かれているのであって,その充当の関係で不許可になり得ることが該当しないと認められる事由があっても,他の適格等でなり得る場合があると。それで書かれているだけですか。 ○山本関係官 そういうことです。 ○阿多委員 分かりました。   今回の御提案については,元々照会というのが意味が不明なところがあって,むしろ行政機関の照会のニュアンスなのかなと思っていたのが,調査嘱託になったのは望ましいことだと思いますので賛成したいと思います。ただ,元々調査嘱託,裁判所の職権で我々は上申してするのですが,今回義務付けという形になると,表現が少し変わるのかなと思いますけれども,方法として調査嘱託によるということには賛成したいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。ほかにいかがでしょうか。 ○青木幹事 今のところですが,他の不許可事由があれば,ここで挙げられているような事情がなくても,それで不許可の判断ができるのではないかなと思うのですけれども,そうではないですか。 ○山本関係官 もちろん他の売却不許可事由があれば,売却不許可決定がされ得るということです。 ○山本(和)部会長 ほかにいかがでしょうか。特段よろしゅうございましょうか。 ○垣内幹事 今の点ですけれども,そうすると他の不許可事由がある場合には嘱託はしなくてもいいという前提なのでしょうか,この資料の案というのは。   私はどうもここで売却の許可又は不許可の判断をすることができると言っているのは,他に不許可事由がある場合であっても,一応その嘱託はするという前提で書かれているのかなとも思ったのですけれども。 ○山本関係官 誤解を与えてしまったようで,失礼いたしました。この許可又は不許可という書き方が分かりにくかったかと思うのですが,正に垣内幹事のおっしゃるとおりでございまして,他の売却不許可事由があることが明らかであったとしても,警察への調査嘱託というのは,基本的にはしないといけないということでございます。   その際に,従前の議論では,既に宅建業者だとか,法令上,暴力団員でないことが確認できるような場合には調査嘱託をしなくてもいいということを提案しております。 ○垣内幹事 私の理解では,何かほかに不許可事由が明らかにあるのであれば,直ちに不許可決定してもいいという考え方もあり得るのかなとも思ったのですけれども,しかし不許可決定をそれほど急いでするという必要があるのかと考えてみたときに,不許可の方は慎重にやってから不許可ということでも特段問題はないかなと考えて得心していたところがありまして,それで先ほどの確認の質問をさせていただいた次第です。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。いかがでしょうか,今の点でもほかの点でも結構ですか。 ○谷幹事 ちょっと論点を明確にする意味で,他に不許可事由がある場合に,なおかつ警察に調査の嘱託をしなければならない実質的な理由というのはどういうふうに考えておられるのか,ちょっとその点を教えていただけたらと思うのですが,恐らく考えられるのは,故意に虚偽の宣誓の上での陳述をしたこととの制裁との関係ということもあり得るのかなと,それを考えておられるのかなと思うのですが,あえて他に不許可事由があって,もう迅速に処理できるのに,その制裁との関係だけのために嘱託までをする必要性というのは,これはある意味では政策判断,価値判断の問題かも分かりませんけれども,論点としてはあり得るかと思います。私はどちらかというと消極ですが,その辺りどういう実質的な理由なのか,教えていただければと思います。 ○山本関係官 様々な考え方があるかとは思うのですけれども,売却不許可になった場合において,その手続がどこまで遡るのかだとか,競売手続が覆滅されるのかということは,売却不許可事由によってそれぞれ異なるかと思いますので,ある売却不許可事由があるからといって,別の売却不許可事由の有無を審査しなくていいのだということには,現行法の解釈からはならないのではないだろうかと考えられるのではないかと思われます。 ○谷幹事 そうすると,例えば暴力団員ということ以外の売却不許可事由に該当するということで不許可決定したけれども,執行抗告で,いや,その事由はないですよということで,執行抗告の中で許可されるということもあり得るようなことがあって,その場合も想定をしているというふうな理解でいいのでしょうか。その場合は,別途暴力団員に該当するかどうかというのも判断をしないといけないので,その資料を集めると,こういう実質的な意味もあるかなと思うのですけれども,そんな場合も想定しているということですか。 ○山本関係官 様々な場面があると思うので,一概に何とも言えないのですけれども,ご指摘のような場合もあり得るのだろうとは思います。 ○谷幹事 結構です。 ○山本(和)部会長 よろしいですか。ほかにいかがでしょうか。 ○山本(克)委員 単なるコメントなのですけれども,先ほどの保証金の不返還を強く言われる方は,ここは他の不許可事由があったからといって不許可にしてはいけないのではないですかと思います。それだけです。 ○山本(和)部会長 そこは恐らく効果が違う,不許可事由によって効果が違ってくるからということなのでしょうね。 ○山本(克)委員 私は違う立場です。 ○山本(和)部会長 いかがでしょうか。おおむねこの原案で特段の御異論はないと理解してよろしいでしょうか。   それでは,この部分につきましては,現在の原案の方向で要綱案の作成に向けて事務当局に作業を進めていただければと思います。   それでは続きまして,この資料の最後の部分です。15ページ以下,「3 執行裁判所の判断による暴力団員の買受けの制限」,この部分について御議論を頂きたいと思います。   この部分も今までの議論のある意味前提になっていたところであるという部分もあり,また先ほど恐らく新たな御提案として,そういう後見人等が暴力団員等に該当する場合はどう考えるかという問題提起もされたかと思いますけれども,改めてこの部分御議論いただきたいと思いますが,議論の前提に関わるものとしまして,先ほども少し出てきましたが,この暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者について,この(1)のアの暴力団員等に含める,買受けを制限する者の範囲に含めるという提案になっています。   この点に関しまして警察庁の志田関係官から,現時点までの調査に基づいて補足的な御説明があればお願いしたいと思います。よろしくお願いいたします。 ○志田関係官 警察庁の志田でございます。それでは,御説明をさせていただきます。   昨年警察庁では全国の警察を通じまして,競売を通じた暴力団事務所の取得の実態について平成29年6月末時点で調査をいたしました。その結果ですが,土地又は建物が競売の経歴を有する暴力団事務所,このうち競落人が暴力団員でなくなってから3年以上5年未満という者,こういう者による落札の実態,そのような実例が確認をされております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,この3の部分について御議論を頂きたいと思います。どなたからでも結構ですので,御発言を頂ければと思います。 ○阿多委員 何か質問ですが,すみません,今回の整理で,今,正に暴力団員等の定義のお話がありましたので,当該本人が申し出る場合があるのですが,イで,法人でその役員のうち暴力団員,ここでも等とあるので,そうなりますと当該役員が過去5年間,申出時点で5年の間に暴力団員ではなかったということが制限の範囲になって,戻りますけれども,法人代表者の方としては,当該候補者が5年間暴力団員でなかったということを,法人代表者の方は宣言すると,こういうルールとしてはなるということです。   現時点でのどうのという,つまり法人の役員の調査についての今の運用として,元々そういうのに該当する人が余り出てこないより,上場会社等ではそんなことは起こらないわけですけれども,過去5年にわたっての属性の調査というようなことは,余りイメージしていなかったものですからですが,今回のルールはもう役員についても過去5年と,こういうルールです。 ○山本(和)部会長 中間試案と特に変わっていないと思います。 ○阿多委員 すみません,私自身がきっちりそこを意識していなかっただけのことなのです。確認です,申し訳ありません。 ○山本(和)部会長 ほかにいかがでしょうか。あるいはこの資料の中では,その判断の基準時の問題ですね。16ページ以下で書かれていることですが,買受けの申出時を基準にするのか売却決定期日の時点を基準時とするのか。基本的には両時点が基準になるということだけれども,計算における買受けの申出という部分については,買受けの申出の時点が基準になるという考え方があり得るということですけれども,一応そういう整理がされているのですが,この点についてはもし御意見があれば承りたいと思います。 ○阿多委員 すみません,両方が基準になる,また宣誓・供述のところからの影響になると思うのですが,どの段階で判断するのかという,要は売却許可決定段階での判断なのか申出段階での申出要件なのかというところで,両方あり得るとして私自身はこの双方の時点でということで賛成をしたいと思います。   ただ,今御指摘のありました計算でのときのところが申出をした者という表現をするがゆえに申出時点になるのか,それとも論理必然的にそうなるのかというのは,少し疑問がありまして,あり得るとすれば,やはり後の時点というか,その時点で続けて暴力団等でない者ということは組み立てとしてあり得るのではないかということなので,このやはり申出をした者というので申出時点に限るのかというのは,違う考え方もあるのではないかと思ってはいます。 ○山本(和)部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○垣内幹事 ちょっと私は資料の内容について十分に理解できているか,自信のないところがありまして,まず確認をさせていただきたいということなのですけれども,基準時の問題に関してですけれども,この資料で考え方の①として,買受けの申出時点という見解,それから②として売却決定期日の時点という見解が挙げられていて,論理的にはと申しますか,更に売却決定期日以降をその抗告審の基準時というか,審理の最終段階までという,これは理屈から言うと売却決定がというのが確定するまでその効力を生じないということなので,その確定以前のもの全てというようなことになってくるのかと思いますが,そういう考え方もあり得るところかと思いますけれども,最後の考え方については,17ページの御説明で従来の議論を見ると,競売手続の続行に重大な影響を与えるものについては,そういうものも審理の考慮の対象としているけれども,この暴力団員等に該当するかどうかといった問題は,これには該当しないので,それは除外されていると読んでよろしいでしょうか。 ○山本関係官 そのように解釈できるのではないかと考えております。 ○垣内幹事 その上で①と②については両時点を基準時とするということなのですけれども,この両時点を基準時とするということの意味が私にはどうもつかみ切れないところがありまして,その17ページの下から2段落目のところの御説明ですと,買受けの申出の時点では,なくなった日から5年を経過しない。したがって,暴力団員等に該当するのだけれども,しかし,売却決定期日の時点では5年を経過しているという場合には,これはやはり売却は不許可であると。この場合は買受けの申出の時点が基準になると。   他方,買受けの申出の時点では暴力団員でなかったけれども,その後加入した場合も,こちらの方は今度は期日の方が基準時になってということで,不許可となるというのですけれども,できる限り暴力団員等は排除しようという政策判断からすると,そういうことになるのかなとも思うのですが,そういう片面的な規律というのがほかの場面でもあることなのかどうかというのが,暴力団員等排除という観点のみからこれが説明できるのかどうかという点が若干気になっている点がございますけれども,その点について何か更に補足頂けるようなことはございますでしょうか。 ○山本関係官 今の御指摘は両時点を基準時とすることの実質的な理由ということでしょうか。 ○垣内幹事 はい。 ○山本(和)部会長 あるいはほかに何かそういうものがあるのか。 ○垣内幹事 根本的にはできるだけ排除するという政策判断なのかなとも思うのですけれども。 ○山本関係官 何か具体的に類例というものを,特に不許可事由の中で,これだというものを念頭に置いているわけではございませんが,元々,暴力団への不動産の供給源を断つという意味で,売却決定期日で判断するというようなお考えが,従前の部会であったかと思いまして,更に買受けの申出時点で陳述を求めていることとの関係で,虚偽の陳述をした者について,売却を認める必要はないのではないだろうかという有力な御指摘もあったかと思っておりまして,そこで二つの時点ということを,今回提案させていただいたところでございます。 ○垣内幹事 後者が私の発言だったかと思いますが,私自身は買受けの申出の時点というのが素直なのかなということを,この前回議論した際には申し上げたかと思いますけれども,いずれにしても,どちらか一方が基準時,基準時というものはそういうものなのではないかというようにも感じており,もし売却許可決定の期日が基準時だというのであれば,その時点において前のところで,15ページに書かれているような事由の有無が問題になるのであって,そのときにもう5年を経過していたということであれば,それは不許可の理由とできないのではないかという気がしないでもないのですけれども,そこはこの15ページに書かれている事由自体の概念内容として,何か操作するということになるのですかね。基準時が二つあるというのが,どうも私としてはなかなか理解が難しいところがあるのですが。 ○山本(和)部会長 だから,基準時が二つあるというよりは,そのどちらかでこの要件に該当していれば売却不許可になるという事由であると整理をするということなのではないかという感じがするのですけれども。 ○垣内幹事 なるほど,それは事由の内容ということですね。 ○山本(和)部会長 まあ,そういうことですかね。そういう実質のもの,実質的な理由は垣内幹事がおっしゃった,先ほど言われたとおりのことなのだろうと思いますけれども。 ○谷幹事 この論点は,本文ではなく説明の中で指摘をされているということが前提なのですけれども,そうだとすれば,これは立法する場合には条文に入れるということを想定しているのではなくて,ある意味でいえば立法を検討したこのチームの議論を聞きたいと,こういう御趣旨だと理解をすればよろしいんでしょうか。 ○山本(和)部会長 ええ,条文的にどういうふうに表現するかというのは法制的な問題ですので,実質的な中身はこうであるとすれば,条文的には特段何もないような形で,ただ法制審ではこういう議論だったら一問一答とかにするとか書かれるのかもしれませんけれども,そういうことになるのか,あるいは条文的にもそれを表現するような形でなされるのかというのは,今後法制的な検討を経て最終的な条文ができるということで,ここでは実質を議論いただきたいという御趣旨です。 ○谷幹事 そうすると,今条文化されるということもあり得ると,こういう前提で…… ○山本(和)部会長 論理的にはあり得ると。 ○谷幹事 理解をすればよろしいですかね。   この点については,私も以前に意見を申し上げたと思いますけれども,もう売却許可決定時に統一をすべきであろうと考えております。先ほど垣内幹事の御指摘のあった,基準時が二つあるということへの違和感ということもありますけれども,とりわけ暴力団員であった者が,その後5年を経過しないという要件との関係で,これは5年というのは,ある意味では排除する必要性はありつつも,憲法論との関係で5年というのは最低限の合理性を有するだろうということで,こういう要件を定めようという議論がなされてきたかと思いますので,それとの関係でいきますと,売却許可決定の時点で既に5年を経過しているにもかかわらず,これを排除するということの合憲性の説明はできないし,また実質的にも排除する必要というのはないだろうと思いますので,ここはもう売却許可決定の時点ということに統一をすればいいのかなと思っております。 ○山本(和)部会長 分かりました。ほかにいかがでしょうか。 ○山本(克)委員 売却許可決定時を唯一のとするのか,二つ目のとするのかは別として,基準時とするということは,虚偽陳述に対する罰則とは乖離するということを認めるということですね。つまり虚偽陳述に対して刑事罰ないしは行政罰を科すとすれば,その行為の時点で虚偽であったことが必要であるということになりますので,それはもう乖離しても構わないと,そういうことを飲み込むという趣旨であるということでよろしいでしょうか。 ○山本(和)部会長 そういうことですよね。 ○山本関係官 谷幹事のお考えだとそういうことになろうかと…… ○山本(克)委員 いや,事務局のお考えでも。 ○山本(和)部会長 その売却許可決定だけで判断する場合には,そういうことになると思いますけれども。 ○谷幹事 そこはいろいろな法律上の制度としては考え得ると思います。例えば要するに売却許可決定の時点でも既に5年経過していて許可されたという場合には処罰しないというふうな,処罰阻却事由にするとか,幾つかの選択肢はあるだろうと思いますので,そこはクリアできる論点なのかなと思います。 ○山本(克)委員 いや,処罰を阻却する事由については,刑法理論上いろいろと議論があるのかなという感想を持ちました。ありがとうございます。 ○山本(和)部会長 ほかにいかがでしょうか,この点で。 ○栁川委員 買受け制限について,今,志田関係官から,元暴力団員が3年以上,5年未満で競落している事実があるというお話を伺ってびっくりしました。たくさんの法律や許可基準が5年となっているのは,いろいろなデータを集めた結果,5年となっているのだろうと思っています。一般的な感覚から言うと,暴力団員は諸悪の根源というのでしょうか,様々なことをしますので,大変怖いと思っています。この試案では3年という案もあるとありますが,少なくとも他の法律等に合わせて5年を設けていただきたいと思います。 ○山本関係官 一つ皆様にお伺いしたい点がございまして,先ほど売却許可決定時のみを基準時として考えたほうがいいのではないかというようなお考えがあったかと思うのですけれども,例えば,その場合に法人が入札人となる場合において,買受けの申出時には役員に暴力団員がいたと。それで許可決定時の直前に暴力団員である役員が退任したような場合について,どのように対応するのかというところが,なかなか難しい問題もあるのかなと思うのですけれども,その辺り,何か御意見や御指摘はございますでしょうか。 ○谷幹事 それは,裁判所が判断する資料をどう集めるかという御質問ですか。ではなくて,ちょっと御質問の趣旨がよく分からなかった。 ○山本(和)部会長   照会を受けて買受けの申出時の役員は暴力団員であったと判明したときに,その人が役員を辞めた場合には,元役員は規制の対象になっていないので,それは免れることになるけれども,要するに売却許可になってしまうけれども,それでもいいのですかという御質問だということです。 ○谷幹事 実質的にそれでいいかどうか,どう考えるかという御質問ですか。 ○山本(和)部会長 はい,そうです。 ○谷幹事 それは役員を辞めておれば,法人に対する影響力がなくなったと,法律的になって,実質的にどうかというのは,また別な話として法律的にはなるので,それは売却を認めるということになるのかなと思いますけれども。 ○山本(和)部会長 というような御意見ということですね。 ○谷幹事 はい。 ○山本(和)部会長 垣内幹事も同じような御意見でしょうか。 ○垣内幹事 私は基本的に買受けの申出の時点とするのが最も素直かなと考えておったのです。その種の問題も生ずるのではないかなということは考えております。 ○山本(和)部会長 なるほど。ほかに。 ○成田幹事 その点とも関連するのですが,今のように警察への調査嘱託の結果が一番大きな証拠となる以上,それより後の時点で暴力団員かどうかというのは判断のしようがないのですが,そこをやっぱり基準時と称するにはなかなか厳しいのかなという印象を持っております。 ○山本(克)委員 法人の場合の方が分かりやすいので,法人の場合ですが,その売却許可決定時も基準時あるいは売却許可決定時が基準時だと考えた場合に,法人登記を取り直させるとか,そういう作業は必要にならないのでしょうか。つまり,誰が役員かをまず今多分成田幹事は,そういうことをお考えになった上で御発言になったと思うのですけれども,法人登記を取り直して役員は誰かというのを見て,それで判断しないと基準時が売却許可決定時だということにはならないと。でもそれに対して,申出時だとその申出の際に添付書類として付けるわけですよね,直近のものを。それを見て判断すると。それができるけれども,もう一度取り直すということを認めるということにしなければいけないし,谷幹事のようなお考えだと,むしろ申出時にはそんなもの付けなくていいという話にもなりかねないのではないでしょうか。 ○山本(和)部会長 原案の趣旨としてはどういうふうにお考えだったのですか。 ○山本関係官 元々は,買受けの申出時点で該当すれば,それで排除できるし,許可決定時でもそこでもし何らかの事情で,通常申出時点で買受けを制限する者だということであれば,決定時も買受けを制限する者であるということが多いかとは思うのですけれども。 ○山本(和)部会長 申立時にある役員構成があったら,決定時もほぼ同じ役員構成だということが,事実上推認されるからという,そういう説明になるということですか。 ○山本(克)委員 株式会社でいって,2年の任期直前に申出を出されて,決定時において任期満了が明確であるというようなときにどうされるのでしょう。 ○山本(和)部会長 その推認が働くのかということですかね。さらにそこは検討をさせていただくということにしたいと思いますが,そうすると,この点につきましては,いわゆる基準時の点につきましては,なお,両方の御意見があったら,原案に賛成する御意見はあったのかというのが,ちょっとあれですけれども,申出時を基準にするという御意見もあり決定時を基準にするという御意見もあったということで,この点はさらにちょっと御検討いただくということになろうかと思いますが,残りの部分というか,この3の本文で書かれている部分については,特段の御異論はないと理解して,これはよろしいでしょうかね。   なお,先ほど新たに出てきたその法定代理人が暴力団員であった場合の暴力団員等であった場合の取扱いについては,今日は新たに提起された問題ですので,事務当局で少しもんでいただくとしたいと思いますが,その点についてもし何か今の時点で御意見があれば伺っておきたいと思いますが。 ○山本(克)委員 法定代理人一般というのは,ちょっと法定代理人の外縁が明確ではないので,もうここは後見人,未成年者の親権者,後見人,それから成年後見人と限定列挙にしたほうが私はいいような気がします。 ○阿多委員 後見に限った場合ですけれども,これは入札等で現金支出して不動産を取得するということになれば,後見の場合,居住用不動産の売却だけは許可不要ですけれども,それ以外は裁判所の許可という形になるのですが,そうすると家庭裁判所が後見人名義で不動産の競売に参加をする。競売参加自体が許可時点としては通常議論されていないのですが,不動産の取得の可能性のあることなので,それで家庭裁判所が一旦許可をするので,そうすると,ここは家庭裁判所が許可する段階では後見人がどうかというのは全く考えずに,その後入札する段階で後見人の属性について別途書類を出すと,執行裁判所の方に出すと,そういう流れを今お話されているのでしょうか。ほとんど考えられていない…… ○山本(和)部会長 これから考えるということだと思うのですが。 ○阿多委員 事例なのだと思うのですが,後見人の属性について私自身は,もう手続にこれは執行裁判所の手続に後見人の属性まで入れて暴力団排除の議論をするというのは,それはむしろ計算に当たらないというのは先ほど御説明がありましたけれども,本当にそれがいいのかというのは,余りに手続が広がり過ぎるような形を思っていて,飽くまで本人名義だけで考えるべきではないかなとは今は思っています。 ○山本(和)部会長 分かりました。 ○今井委員 山本克己委員の考え方に賛成です。法定代理人の範囲を一定範囲に絞るということについて,それで先ほど中原委員からの話を聞いたときに,実際にあり得るなと思ったのは,親である法定代理人が大変資産を持っていて,子供の年齢の大小にかかわらず,子供の名前で親がというようなのは十分あり得るなと思いましたので,そういう意味では,範囲を絞りますけれども,今のような典型的なケースを中心に,やはり法定代理人についてもチェックが必要かなと,こんなふうに思いました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。ほかにいかがでしょうか。 ○久保野幹事 今出ました例を中心に,弊害と申しますか,防ぐべき事案が多そうだということは十分そうだと思いますし,また実質的に考えたときに,親権者なり成年後見人が本人のために競落する必要性というか,その社会的妥当性といいますか,あるいは注意義務違反ではない適切な代理権行使というのが余り想定されないというのも,そのとおりなのだろうと思って伺っておりますけれども,ただ規定を置いていくときに,未成年者を想定してお話させていただきますけれども,親権者が暴力団員等である場合には,不許可決定をしなければならないといった形で規定を置くことについては,ある種,未成年者本人に関わらない親権者の属性というもの,親権者が暴力団員等であるということを理由に,競売手続で買受けをする権利,資格が一般的に規制されるということになりますので,そのような規定の仕方というのは,ちょっと問題があるのではないかと思いまいます。   もしそのように一般的に規定することを避けるのだとしますと,先ほど来議論されていることの実質は何かということを考えるということになると思うのですが,差し当たり私が感想として持ちましたのは,そのような申立てというのは通常,その代理権の濫用と申しますか,問題のある代理権行使だということではないかと,思って伺っていました。考えていくとしたら,そのような方向で制限を掛けることができるかという問題ではないかと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○谷幹事 私も法定代理人,とりわけ親権者ですけれども,親権者が暴力団員に該当するからといって,それで買受けを認めないというふうな制度を仮に想定するのだとすれば,それは行き過ぎだろうと思っております。具体的な場面として想定されるのは,例えば年長の少年で18歳,19歳,特に19歳の少年ぐらいになれば,当然自分の才覚で商売をするというような人も出てくるわけでして,不動産業をやるという中で,競売の買受けの申出をするということも十分あり得るわけで,たまたま子供の親が暴力団員であれば,それは入札できないという結果になるわけですから,これは行き過ぎだし,立法趣旨に照らして極めて大き過ぎる制約になるだろうと思います。ですから,法定代理人が未成年者なり被後見人なりの免許を利用してやるということを防ぐという趣旨であれば,ちょっとそれは別の何らかの要件立てをしないと,法定代理人の属性だけで判断をするというのは行き過ぎだろうと思います。 ○勅使川原幹事 私の最初の問題提起は,飽くまで民訴法の201条2項をベースにするということなので,16歳未満であったりとか,先ほどのページでいえば,②,③のケースを念頭に置いたので,今の谷幹事の御懸念は最初から問題の外側に置いている範囲だということはちょっと一つ付言させていただきます。 ○山本(和)部会長 分かりました。ほかにはよろしいですか。 ○山本(克)委員 今の御提案,谷幹事のお話は営業許可を取ればいいのではないかという感じがしなくはない。未成年者は営業許可を取れば単独で行為できますから,別にそこで後見,親権者が登場する余地はないという仕組みになるのではないのかなと思いました。   それと,それ以外の方途ですが,先ほど今井委員がおっしゃった親がお金持ちで子供の名前を使ってというのは,他人の計算においてで処理できると思うのですが,逆の場合,子供がお金,非常に資産を持っていて,誰かに遺贈を受けたりして大金持ちで親は大したことはないと。親は暴力団員であるというときに,子のお金を使ってマンションの一室を落札して,そこを事務所に使うとか,そういうような場合をどう考えるのかという問題であるので,今までそのことについては全く議論が欠けていて,それに対する適切な要件を立てられるかどうかというと,なかなか難しいのではないのかなという気がするということ。必ずしも私も積極的に法定代理人を入れるべきだとまでは思いませんが,そこの辺りをよく考えなければいけないなと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。では,簡潔に。 ○谷幹事 簡潔に,営業許可の点だけでいいますと,私の事例が非常に限定し過ぎていたから,営業許可という問題になったのですけれども,別に営業のために不動産を取得するのではなくて,自分が住むために取得するということもあり得ますので,そういう意味では営業許可が働いてこない場面もあり得るということでございます。 ○山本(和)部会長 それでは,この点は全く新しいところですので,ちょっとよく事務当局に検討をしていただいて,次回この問題を議論する際に,またもう一度原案を基に議論をしていただきたいと思います。   それでは,資料16-1の検討は以上にさせていただきまして,今日はもう一つ,資料16-2,「差押禁止債権をめぐる規律の見直しに関する検討(2)」という資料が出ておりますので,この点についても御審議を頂きたいと思います。   まず,事務当局から御説明をお願いいたします。 ○松波関係官 部会資料16-2について御説明いたします。   まず,資料の「1 見直しの方向とあり得る考え方」というところでは,差押禁止債権をめぐる規律の見直しの大きな方向をどのように考えていくのかといった問題を取り上げております。   中間試案の第5では,差押禁止債権をめぐる規律の見直しを引き続き検討するものとする課題という形で取り上げていたところですが,これまでの部会の御議論や意見募集の結果を見てみますと,この論点については,かなり積極的に見直しを求める御意見が多数寄せられているところでございまして,しかもその見直しの方向としては,現状よりも債務者を保護する方向での見直しを求めるような御意見が多数だったと受け止めております。   そこで,今回の資料の本文の1段落目では,このような方向での見直しをすることを御提案を差し上げております。   その上で,このような債務者保護での見直しをするための具体的な考え方として,これまで,大きく分けて二つの考え方が取り上げられていましたので,資料の2段落目にはこれらをそれぞれ記載しております。   このうちの一方の考え方は,中間試案の第5の1で取り上げられているように,差押禁止債権の範囲を拡大するということで,債務者が範囲変更の申立てをしなくても現状よりも保護されるというようなものでございます。しかし,このような考え方に対しては,今回の資料の2ページから5ページに記載させていただいているように,差押禁止とする一定の金額をどのように具体的には定めていくのかといった問題が指摘されているほか,債務者が複数の勤務先から給与を得ているというような事案において,どのような規律を置けば適切に対応することができるのかといった問題など,様々な観点からの問題点が指摘されていたところでございます。   他方で,もう一つの考え方は,中間試案の第5の2と3で取り上げられているように,差押禁止債権の範囲変更の制度をより利用しやすくするという方向での方策です。この考え方は,部会のこれまでの議論や意見募集の結果において,見直しの必要性の有無等をなお検討すべきであるというような御意見もないではなかったところではありますが,試案の第5の1の方向の考え方に比べれば,比較的異論が小さかったのではないかと受け止めております。   こういった状況を踏まえまして,本日は,まず見直しの大きな方向感といいますか,考え方として,どのような規律を目指していくのかといった点について,御意見を賜りたいと存じます。   続いて,資料の6ページ以降について御説明いたしますが,6ページの「2 取立権の発生時期の見直し」というところでは,中間試案の第5の2で取り上げられた考え方を深掘りするための検討を試みております。   この点につきましては,まず,取立権の発生時期を後ろ倒しにするというような考え方を採用するのであれば,転付命令や譲渡命令等を通じて換価がされていくような場合や,供託された金銭の配当を通じた手続についても,一定の見直しをする必要があるのではないのかと考えております。そこで,6ページの本文の2の(2),ア,イにおいて,一つの考え方を御提示させていただきました。   また,本文の(3)のところですけれども,取立権の発生時期を後ろ倒しにするということにするにしましても,一定の例外的な場面として,請求債権が養育費等の扶養義務に係る金銭債権である場合には,特別な配慮が必要ではないのかという問題意識を取り上げております。   最後に,資料の8ページの「3 手続の教示」の部分では,中間試案の第5の3に対応するものを取り上げております。これは,裁判所が債務者に対して適切な手続の教示をすることで,債務者が範囲変更の申立てをしやすくするという考え方ですけれども,このような考え方を採用する場合には,教示の主体や内容,方法をどのようにするのかといったことについて,更に検討を深めておくことが有益であると考えております。今回の資料では,その一例として9ページで,支払督促に関する記述などを御紹介しているところでございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,項目を区切って御議論いただきたいと思いますが,まず1,大きな方針に関わるところでありますが,この見直しの方向とあり得る考え方,基本的には現状よりも債務者を保護する方向で差押禁止債権をめぐる規律を見直すという大きな方向性については,従来余り御異論はなかったかという認識ですが,それでよいのかということ,その場合の方策として,差押禁止債権の範囲自体を見直すという考え方と,その範囲の変更によって対処すると,それをより利用しやすくするという形で対処するという大きくは二つの考え方があり,これらの考え方についてどう考えるかというこの大きな方針についての点でありますけれども,御議論を頂ければと思います。 ○阿多委員 まず,見直しの方向として債務者を保護する方向で検討すべきであると考えています。   大きく二つの方向が示されましたけれども,いずれかの選択という形ではなくて,双方の方向で考えるべきであると思っています。特に後半の第2の方向では,153条の差押禁止範囲の変更の申立てをより利用しやすくする考え方ということが出ていますが,これは,我々自身も前から提案していることですけれども,これだけで言わば解決できるのか,まずそこについてお考えいただきたいわけです。   今回の御提案は,手続教示という形で申立てはしやすくなるというか,それを認識,少なくともしてもらえる形にはなるということと思います。ただ,実際はここで挙がっています督促手続の異議での通常移行とかいう形でオートマチックになるわけではなくて,申し立てた上で当然その変更の根拠となる資料等の準備をしなければいけませんし,現状の153条でも,債務者及び債権者の生活状況,その他の事情を考慮してという形で,これがこの表現が変わるのかどうかは,また今後なのかもしれませんが,現状の手続がそのままであれば,申立てをすれば当然に債務者の差押えの範囲が変わるということにはならないわけです。実際,今回,取立権の発生時期を後ろ倒しにして,取立権の発生よりも早い段階で申立てをして変更という形になったとしても,債務者の方が自ら,まず申立てをしなければ,そのような形にならないというところにあり,なおかつ申立てても,どの程度の資料を申し立てれば,どこまで変わるのかもよく分からない。そういう意味では,最初の段階で,発令段階で債務者について,ある意味では,債務者に有利な状況に振ったような形で,保護を考えていただいて,つまり最低限度額を設けるという制度をお考えいただいたほうがいいかと思います。153条が万能ではないということをまずちょっとお話をしておきたいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。   これは既に審議がこの段階に至っていますので,仮に差押禁止債権の範囲を拡張する,見直すという考え方を採る場合に,この資料では幾つかの問題点が指摘されているところで,特に今先ほどお話がありましたが,この一定金額というのをどのように定めるのか,あるいは複数勤務先がある場合の対応の措置というものについて,少し具体的に御説明を頂く必要があるのではないかと思いますが,いかがでしょうか。 ○阿多委員 続けてで申し訳ありません。   金額の定め方より,多分重きがあるのは複数勤務先のお話かと思います。   一つは複数勤務先の場合の問題点として,最低限度額ですから,まず複数勤務先が分からない場合は,そのままそういう問題が起こらないのだと思うのですけれども,複数勤務先が分かって二重に差し押さえられても,最低限度額が二つ確保されてしまって,一つからしか給与されていない人との関係では,一つの枠しかないというところで不利ではないかという,ここで想定している場面のちょっと確定をしたいのですけれども,二重に枠が設定されるという形については,それは153条の手続の問題で対応できるかと思うのですが,分からない場合が問題だという形で指摘されているのでしょうか,すみません。 ○山本(和)部会長 阿多委員の御意見によれば,債務者が複数の勤務先から給与を得ていることが分かった場合には,債権者側から一定の申立てをさせるということになるわけですね。 ○阿多委員 我々はそういう認識で,153条は債権者側の方からも債務者の生活状況から考えて,二重に最低限度額が設定されている場合には,それがこの差押禁止の範囲の変更の問題として,片一方だけになるという,変な言い方ですけれども,単身者ですれば10万円だけになるというような形の変更で対応できると思っています。 ○山本(和)部会長 差押禁止の枠が二重に設定されることとなる不都合を回避する方法としては,債権者に範囲変更の申立てをさせればいいではないかという御意見だということですね。 ○阿多委員 そのとおりです。ですから,債務者が複数の勤務先から給与を得ていることが分かる場合には,二重に最低限度額が設定されることによる不都合を回避することが可能だと思います。問題は,これが分からない場合のお話だと思うのですが,分からないときに,ほかから給与を得ているにもかかわらず,その人はだから,差押えもなくて満額を取りながら,1か所しかない人は,一つしかないと。だから,そういう状況というのが,何が不利益,複数給与,分からない場合というのはいろいろな場合であり得るわけで,それがまず不利益だという状況だとよく理解できないですね。でも,そんなことを言ってもあれですけれども,考えられる方法が複数給与の場合に不公平が生じるということについての対処としては,むしろ複数給与を受け取っているということを知り得る方法を何か考えられないのかという形で対処すべきであって,複数給与を受け取っているから,不公平が生じるから,この制度は駄目だという形にはならないと思っています。   その複数給与を取得しているということについての情報は,まだどこまで行くか分かりませんけれども,公的機関からの情報取得というのが,元々勤務先情報の取得についてありましたし,これも例えば,今まで御提案していませんけれども,例えばということですが,財産開示の際には勤務先情報も開示するという形になっていますので,勤務先情報だけは,例えば不奏功要件等なくても開示申立てができるというというような制度を創設できるのであれば,最初の段階で複数給与の情報だって取得できるわけですので,情報がなくて不公平になるという部分については情報取得の方法で対処すべきであって,ですから,複数給与自体がこの制度の創設の障害にならないと考えております。 ○山本(和)部会長 差押禁止とする額は,国税徴収法等の規定と並びで検討するというようなことをお考えになるということですか。 ○阿多委員 一つの提案としては,それを推しているのですが,むしろここの点についてももちろん法制上は何を基準にするのかという形で,民事執行法で使っている言葉と国税徴収法で使っている言葉が違いますので,元々の前提が違う概念をどう入れるのだとかいう議論があると思いますけれども,実はそこはそれほど本質的な問題なのかとは思っていまして,いろいろな,これは政令等になるのかもしれませんけれども,金額を定めていただいて,その範囲でという形ですればいいと思います。 ○山本(和)部会長 それを丸投げされても,法務省としても対応は難しいと思うので,ここでコンセンサスがとれるような具体的な案がないかと聴いているのですが…… ○阿多委員 コンセンサスがとれるという意味では,元々日弁連の提案は,国税徴収法に準ずるような形で単身者10万円,扶養家族が出れば,今と同じであれば4万5,000円というような形の金額というので御提案したいと思います。 ○谷幹事 阿多委員のおっしゃったことと結論的には同じ意見になります。ちょっと理由について補足をさせていただけたらと思います。   まず,一定額については,定め方が問題があって,とりわけ差押禁止動産の範囲に関する規定との整合性が問題になるのではないかという御指摘があります。   これは標準的な世帯の必要生活費を勘案して差押禁止動産の範囲を決めるということになっているということだとは思いますけれども,そもそも現在の差押禁止債権の範囲の決め方というのは,それとは全く違う考え方で記述されているわけでありまして,4分の1までということですので,ですから,それは別の考え方で,もう規律をするということでも十分あり得るところではありますし,必ずしも仮に必要生活費を勘案するとしても,それぞれの差押対象の財産の性質によって異ならせるということも,これはあり得ることだと思います。現に国税徴収法では,国税徴収法の考え方で規律をされているわけでございまして,どちらかというと給与債権等については,その国税徴収法に整合させるような形で記述するというのは,法体系の整合性という観点から見ても,とりわけそれほど違和感はないのではないかと。   問題は国税徴収法の場合には,国税当局は世帯の数等を把握できるという点だろうとは思うのですが,そこは日弁連,従前,私どもが御提案していましたとおり,原則はまず10万円,そして債務者からの申立てによって家族一人当たり4万5,000円で,必要的取消しをするというふうな制度で,これは整合的にできるのではないかなと考えているところです。これが一定額の問題です。   それからもう1点,複数の勤務先がある場合ですけれども,これもそういう問題がないと私は申し上げるわけではないのですけれども,そういう問題があっても,なおかつ債務者の最低限度の生活を保障するために,やはりこの制度は作るべきであろうというのが,基本的には価値判断です。   複数勤務先の問題について,では何も手当てしないのかというと,そうではなくて,今阿多委員がおっしゃったような手当てというのをすべきだと,とりわけ勤務先の把握,勤務先情報の把握については,こちらも積極的にいろいろ御提案をしているところでございます。   この複数の勤務先に関していえば,現在の制度であったとしても,33万円以上については全て差し押さえることができるという,この制度の下でも同じような問題が生じているわけでありまして,例えば50万円の給料をもらっているところと10万円をもらっている,2か所からもらっているような場合には,現行の制度であったとしても,1か所から60万もらうのと比べて差が生じるわけでございまして,したがって,そこはもうある意味では立法としては,そういうことがあってもそれは仕方ないという割り切りの下で,153条での対応とか,様々なことで対応していくということで,もう立法的に判断をしているわけですから,この場面でも同じような立法的判断というのは十分可能だろうと思います。 ○山本(克)委員 今の谷幹事や阿多委員がおっしゃった点ですが,まず10万円は控除して差押命令を発布して,後から消していくということですね。それは153条を改正することであって,差押禁止債権を増やすと,範囲を変えるということではなくて,153条で必要的変更の場合を定めると,だんだん取り消していく部分についてはね。ということであって,差押禁止債権の範囲をそもそも法定されている範囲を変えるということではないと位置付けないと,最初の差押命令は違法だったということになりますから,それはおかしい。そういう理屈立てはおかしいので,それなら153条で必要的に変更すべき場合を定めろという提案にしないと,法制的には成り立たないと思います。それと複数勤務先の場合ですけれども,ある方が川崎に住んでいて月曜日から金曜日までのウイークデーは東京都に働きに来られて,週末にNPOとかで働かれると。それで両方から給料をもらっているというときに,差押え,両方が別々の債権者が東京の方の給与を差し押さえて片方の,もう片方の方は神奈川の方の給与を差し押さえたという場合においてどう処理するのでしょう。   そこで,両方でそうやって控除されてしまったらすごく得ですよね,そういう方は。やはり私はそれは許し難いので,どっちからからしか控除できないという仕組みを作らないとおかしい。特に破産した場合など,破産と連動してしまうわけですよね,多分それは。破産した場合にも,差押禁止財産というのは,破産財団から除外される,自由財産の範囲を定めることになりますから,そこでそんな両方から控除される人と,片方からしか控除されない方が出てくるというのは,私はやはりすごい不公平だという気がします。   なぜなら,その控除された部分は生活に必要な部分だというのに,ある方の必要な,2か所で働いている方の必要な部分は20万円,最低保証されていると。1か所でしか働けなかったら10万円しか保証されない。そういうのはやはり私はおかしいと思います。   最近テレビを見ていまして,厚労省のモデル就業規則が変わるという話が出ていまして,そこで超過勤務手当をどちらが出す,負担すべきか。つまり今の場合で東京都では超過勤務していないけれども,後ろの方,神奈川の方は超過勤務に当たってしまう場合,どっちが超過勤務手当を払うべきかという話をしていまして,それは最初のほうではなくて,どっちが労働契約を先にしたほうは払わなくていいと。後の方が基本的に払っていくべきだという議論をしていましたから,やはりそういうところでも一方から,一方を主たるものと,一方を副次的なものと見ると,従たるものと見るということが,どうも労働法制上考えられているようですので,そういうことで,やはり一本に主たるほうからだけしか控除は受けられないとしないと私はおかしいと。ただ,そこの労働法制がまだ定まっていない段階で,今やるのがいいのかどうかというと,私は余り現時点ではちょっと時期尚早ではないかなという感じがします。 ○山本(和)部会長 先ほどの御議論ではその債権者の変更申立てで調整を図るという御意見がありましたが。 ○山本(克)委員 いや,いや,それがおかしいというのが私の立場です。債権者の変更申立てではないところで,何か処理されなければおかしいというのが私の立場です。   変更申立てからすると,それは適法に差押えができていたということであって,差押禁止の範囲を変えたことにはならない。法定の差押禁止を変えたことにはならないと。法定の差押禁止財産を変えるのであれば,153条に載らない形でやらないとおかしいということですね。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかに意見はいかがでしょうか。大きな方針に関わる問題ですので,是非,多くの委員,幹事の御意見を伺いたいと思いますので,積極的に御発言をいただければと思います。   では,ほかの皆さんが考えていただく間に,谷幹事。 ○谷幹事 複数の勤務先の場合の手当てが必要ではないかという御指摘で,先ほど阿多委員が申されたような調査の方法を許可するとかいうようなことは,これは考えておったところですけれども,それ以外に何か必要だということであれば,それはそれでいろいろなアイデアが考えられるところではあるかとは思いますので,私どもは153条の変更ということを考えておりますけれども,それ以外にいいアイデアがあれば,それを採用ということについては全くやぶさかではございません。そういう意味では問題意識は共有しているところでございます。   繰り返しになりますけれども,それを言うのであれば,現在の33万についても同様に何らかの手当てをしないといけないのではないか。例えば上は50万,2か所からもらっているような場合に,両方から33万控除できるというのはおかしいのではないかとなりますので,同じような議論につながっていくのかなと思います。 ○山本(和)部会長 いかがでしょうか。 ○垣内幹事 なかなか難しい問題で,第2の方法については,それ自身としては私は望ましい方法ではないかと思っておりまして,第2の方法について賛成なのですけれども,第1の方法が採り難いものなのかどうかという点について,あるいはその第2の方法だけで十分なのかどうかという点については,なお,検討の余地があるかなという気はしております。   複数勤務先の問題なのですけれども,確かに山本克己委員のおっしゃるような問題状況はあり得るのかなとは思われるのですが,最低限差押えを禁止する額が具体的にどの程度なのかということによって,実際上の効果と申しますか,機能が大分変わってくるところがあるのかなという気もしておりまして,例えば10万円であると単身者だという想定ですね。その人があるところで8万円の給料を得ていて,もう一つのところで4万円の給料を得ていると。10万円が両方にかかれば,両方とも守られるので12万円の給与収入が守られるということになるのだけれども,この場合,そのどちらかが判明して,8万の方を差押えできないということになる。現行法だと2万円差押えができるということですけれども,その場合,12万円を守られるのがおかしいということなのですかね。   これは,どっちが分かってもそうですね,8万をどうするのですかね。確かに8万の方があると,4万の方があると分かった場合に,債権者としては両方合わせたら12万あるのだから,どっちかから2万円差し押さえられるのではないかという主張ができるはずなのに,その2万円の差押えができないというのも問題だということになるのですかね。   それは,確かに問題かなという気もいたしますけれども,差押禁止債権の範囲を拡張したということによって2万円多く差押えができなくなったということによって,厳密にいえば,不均衡が生じている面はあるかと思いますけれども,それほど致命的な不均衡と言えるのかどうか,分かれば調整が可能だという前提だと考えたときに,そこまで大きな問題なのかというのは,私は率直に言ってちょっと疑問かなという感じがしています。   ということで,第1の方向の問題点がどこまで致命的なのかというのは,ちょっとよく分からないという感じがしているのですけれども,仮に第2の方法が十分に機能するということなのであれば,よりハードルの高い第1の方法について断念するということもあり得るのかもしれないという感じはしておりますが,そこまで第1の方法が駄目だという確たる定見はまだ私自身は持つには至っていないという状況です。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○山本(克)委員 今,垣内幹事がおっしゃった例もそうなのですが,例えば30万,20万ともらっているという場合に,両方から,それが裁判所が違って債権者も違っていると。差押債権者も違っているときに連絡なしに両方から控除されてしまうというような場合があるのではないかと,それが不公平ではないかということを申し上げているつもりです。 ○山本(和)部会長 両方から10万ずつ控除されるということで…… ○山本(克)委員 そうです。 ○山本(和)部会長 20万控除されるという,最大限そうです。もっと何か所かからもらっていれば,全部から10万ずつだからという,そういうことなのでしょうね。 ○垣内幹事 その場合,その30万と20万ですと,30万の方は10万を超えているわけで,その場合の差押可能金額の計算については,弁護士会の先生方はどうお考えになっているのかよく分からないのですが,10万円を超えている限度では30万円の4分の1は差押えができるということなのかなとも思っていたのですけれども,そうすると7万5,000円とかになりますか,差押えができるのですよね。20万の方は5万円が差押えができるということで,これは10万の最低差押禁止を定めても定めなくても同じなのではないかという気もしたのですけれども,そうではないのでしょうか。 ○山本(和)部会長 10万の場合には,10万を控除した20万の4分の1ではなくて,30万の4分の1が差押禁止となるのですか。 ○山本(克)委員 4分の1と10万とで多いほうが差押禁止となるというイメージです。 ○山本(和)部会長 そうするとやはり10万,だから10万が丸々差押禁止…… ○山本(克)委員 4分の3と比べるから,ちょっと例としては不適切だったかもしれませんが,15万ずつぐらいだとちょうどいいぐらいになるかもしれない。 ○山本(和)部会長 4分の1より10万の方が多いという場面を想定して議論した方が良いようですね。   ほかにいかがでしょうか。 ○青木幹事 阿多委員,谷幹事に質問ですが,複数の勤務先から給与が出ているということが分かった場合にどうするのか。しかも異なる債権者がそれぞれ差し押さえたという場合に,どちらの裁判所にも複数の勤務先から得ているということが判明したという場合に,どうされるのかということについて教えていただけますでしょうか。 ○阿多委員 いろいろこちらでもシミュレーションはしているのですけれども,先ほどのA債権者は東京都での勤務先を押さえて,Bは神奈川で押さえたと。Aが神奈川でも収入を得ているということが分かれば,多分手続としては,そちらの方も差し押さえた上で重複にして,2か所押さえて,あとは差押え範囲の調整というような形で,153条の差押禁止範囲の変更というと表現があれですけれども,2か所のところからのつまり10万,10万両方控除される部分については,トータルで10万の控除しかならないような形での変更を,債権者の方で申し立てるというようなことを考えています。   つまり,2か所から二重,10万ずつ控除されたままというのが,そのまま残るのではなくて…… ○山本(和)部会長 別の裁判所の手続を併合するということですか。 ○阿多委員 別の裁判所というか,片方で差押え,もちろんそうですね,別の裁判所になりますよね。東京と神奈川になると思いますけれども,問題はその変更の許可を,というのは差押えをしていないにもかかわらず,収入があるからといって,東京の方の変更許可というのは,それは元々難しいのだろうとは思っていまして,東京も神奈川も逆に押さえた上で,例えば自分が東京メーンであれば東京の範囲を変更,神奈川の方で10万控除を受けているのだから,こちらの10万については…… ○山本(和)部会長 今の青木幹事の御質問は,差し押さえている債権者が違う場合をシチュエーションを念頭に置いておられているのですけれども。 ○阿多委員 ですから,新たに差押えをAとしてはせざるを得ないのだろうと。神奈川に収入があるということが判明した場合には,そこも押さえて両方で10万,10万の控除というのはおかしいではないかという形で,どちらかに寄せてこちらは10万,向こうは控除なしと。そうすると複数差押えの場合どうなるのだと。配当の問題とか,次の問題が出てくると思いますけれども,考えているのは片一方,複数あっても1か所からしか10万円の控除は及ばない。それは債権者が正に変更の申立てをして1か所に寄せるということを考えています。 ○山本(克)委員 併合するということなしに,そんなことができるとはとても思えません。 ○阿多委員 併合というのは,別に併合というのか,考えているのは,他の勤務先から収入を得ているということが判明して,多分それだけで153条で申立ての変更許可を申立てて,向こうで10万円があるのだから,こちらを外してくれというのは,これは無理な手続だろうということで,一旦両方差し押えた上で,両方から取り立ててきて,向こうで取立てできるという事情を考慮して,片方の方で変更すると。別に併合しなくても重複で押さえているという事実が判明して,両方で20万控除されているということを東京地裁で説明をすればいいと思っているのですが。 ○山本(克)委員 なぜそれが東京地裁なのですか。 ○阿多委員 いえいえ,先ほどの東京と神奈川の例でやりましたので…… ○山本(克)委員 いやいや,そうではなくて,なぜ横浜地裁ではないのかということを聞いているのです。 ○山本(和)部会長 なぜ債権者が選べるのかということですか。 ○阿多委員 債務者が1人で…… ○相澤委員 債権執行事件は,原則として,債務者の住所地を管轄する裁判所に管轄がありますので…… ○阿多委員 ああそうか。 ○山本(克)委員 債務者が管轄だからということか,ああ,なるほどね。分かりました。 ○阿多委員 ですね,第三債務者が東京,神奈川という例だったので東京地裁と横浜地裁にいくと勘違いしたのですが,債務者の住所が東京であれば,いずれの事件も東京地裁に申し立てられることとなるわけですね。 ○松波関係官 阿多委員の想定されているような手続では,債務者が複数の勤務先から給与を得ている事案を念頭におきますと,債権者からの申立てにより範囲変更の裁判があって初めて,差押えが禁止されていた10万円についての差押えがされることとなるわけですけれども,当初の差押命令の送達から範囲変更の裁判がされるまでの間,第三債務者は債務者に対して給与を支払うことができるのでしょうか,それともできないのでしょうか。 ○阿多委員 私,先ほどなんか別途差押えをしなければいけないと申し上げたのは,正に第三債務者を止める理由が全くないですし,少なくとも範囲について変更が何もなければ,元々来た命令どおりに10万円の差押禁止部分は,債務者に渡すことしかできないと思います。 ○松波関係官 差押えがされる部分については,もう債務者に対して給料の支払をしてしまっていいということですか。 ○阿多委員 はい,私はそう思います。 ○松波関係官 その後に債権者からの申立てにより範囲変更の決定がされると,既払の給与はどのように扱われることになるのですか。 ○阿多委員 範囲変更の決定の効力が遡ってということではなくて,将来に向かって効力を有するということしかできないと思います。 ○山本(克)委員 先ほど申しましたように,差押範囲の変更であって,法定差押禁止を従来のものよりに付け加えて何かするということではないのではないですか。 ○阿多委員 すみません,必ずしも酌み取れていないのですけれども,最低限度額を設定して,それを後日変更するということ自体が,差押禁止範囲の変更という概念ではくくれないというご指摘でしょうか。 ○山本(克)委員 ええ,そうです。法定の差押えというのは,もうあらかじめ決まっていて,第三債務者としても差押命令が来た段階で債務者と差押債権者が払った部分が明確に分かっているという前提に立っているはずなのです。   おっしゃるのは,後から事後的に変えるというのは,それは飽くまで差押えの範囲の禁止範囲の変更であって,ですから,それは変わった後の部分について支払う場合について第三債務者はそれに従って行動しなければいけないということになるので,やはり差押え命令時点では決まっていないとおかしいです。 ○山本(和)部会長 各給与債権ごとに10万円の差押禁止部分があると,そういうふうに,もう正面から説明するしかないのではないですかね,今の状況では。 ○阿多委員 ええ,最初はそういう前提です。すみません,ですから変更するときに153条のように,裁量で幾らでというのではなくて,債権者が申立てをすれば後行する10万円についてのそれを変更というか,取消しというか,ちょっと理屈の詰めができていないのは自覚をしたのですけれども,それについては今後差押えの対象とできるとすると。 ○山本(和)部会長 それは,複数の勤務先から給与を得ている場合には,各給与債権ごとに10万円の差押禁止部分があるという説明が,果たして世の中の理解を得られるかどうかという問題があろうかと思います。 ○阿多委員 適切なのか,むしろ債務者の10万円というのは,本来属人的なものであって,複数の給料で,それぞれ10万円という控除が,複数の給料を得ていて分からないので,10万円,10万円しますけれども,本来債務者1人としては最低限度額は10万なのだという…… ○山本(和)部会長 そういう制度なのだとすれば,その複数のものを押さえてその合計額が10万円以上となった場合には,それが違法な差押えになるということなのではないですか。 ○阿多委員 それを違法と説明するのが理論的に一貫しているのかというところについては,余り意識はしていなかったものですから,こちらは範囲として10万円というものを差押えの単位のところに取り込めるような形のものを考えたいと思っています。それが違法だという説明をしないと一貫しないのであれば,そういう説明になるのかもしれませんけれども,余りちょっとそこは考えていなかった。 ○山本(克)委員 おっしゃりたいのは,結局,現金と同じようにしろということですね。給与をトータルとして見て,その中から現金と同じ,現金の差押禁止と同じ部分を作れというお話だということでよろしいですか。全体としての10万を差押禁止にすると。本当に現金の場合,全体としての10万になっているかどうかというのは本当は怪しいのですけれども,一応理屈の上ではそうなっていますから。 ○阿多委員 そこから現金が来ている部分について,属人的に1人10万円という形でしているということで。 ○山本(克)委員 だから,それをマイナンバーを使えばできるかもしれませんけれども,それなしにできるのでしょうか。 ○阿多委員 いや,ですから先ほど申し上げたような形で,複数のところから現金を10万もらっているというのを,情報を入手する方法を作る方向で考えるべきだと思います。 ○山本(克)委員 いや,どうやって入手するかというのは,そうすると必ず入手できないと本来おかしいことになるのですけれども,今まで考えている債務者財産の開示制度は,一定の要件を満たす場合に,債権者側の申立てによって入手できるというものです。それを必ず債権者や執行裁判所が情報を入手すると評価するのは…… ○阿多委員 いや,ですから…… ○山本(克)委員 給料を差し押さえるときは,それをやった上でという話になるわけでしょうか。 ○阿多委員 これまでの議論でも,債務者の審尋を入れるとか,いろいろな形で債務者の給与情報をもっと取得しろというような,いろいろな手続が提案されていて,現状は平成15年に財産開示という制度ができて,債務者情報については別途情報を取得する制度ができているわけですので,私自身はその債務者,債権者申立てで必ずとはならない。債権者の判断だとは思いますけれども,情報取得する制度を作ればあり得るのではないかと思います。 ○山本(克)委員 そこが正義に反するのではないかというのが,私の議論です。債権者申立ての手続によってしか分からない情報で差押禁止の範囲を画するのは,私は正義に反すると,そういうことです。 ○垣内幹事 だんだん問題の所在がよく分かってまいりまして,情報が分かるか分からないかということもあるかとは思いますけれども,先ほど青木幹事の御指摘もありましたけれども,分かったとした上で,その10万円なら10万円を全体で10万円という構成を採るにせよ,各債権につき10万円であって,後で変更をするのだという考え方によるにせよ,どのように割り付けるかという問題が非常に難しくて,その割り付けの仕方によっては,どの債権を差し押さえたかによって,債権者の処遇が全く変わってしまうという問題が生じますので,その辺りが手続的には一番課題となるのかなという感じを持ちました。 ○阿多委員 よろしいでしょうか。   おっしゃるように,先ほど二つの給与で第三債務者の場所でそれぞれの債権者が押さえる。片一方が押さえて片一方が変更の許可を申立てをしてという例を申し上げましたけれども,同じような状況が今度10万円が,枠が変わることによって配当にする際の配当原資が変わってくる形になるので,今度Bも関わって,もう一人の債権者もやはりそういう形で,今度Aのところの給与について差押えをして,全体として債務者一人のところで複数債権者がどう調整するのかと,正にそういう手続で,それは不動産の共同抵当に入っている場合の配当の調整と同じで,それぞれが両方差し押さえればできることだと整理をしています。 ○山本(克)委員 なぜ両方差し押さえなければいけないのかというのが問題だということになっていると思います。 ○阿多委員 だから,それは差押えをしなくても変更できるというのが,それでいいのかというところに疑問を持っているので,一旦差押えという手続が入るのではないかと。 ○山本(和)部会長 両方に差押えという人は,言わば交互にクロスして両方を全員の債権者が押さえている状態になればということですよね。 ○阿多委員 になれば,少なくとも調整はできるかと。 ○山本(克)委員 よろしいですか。   結局破産のように包括執行型の場合には,うまくワークするのですが,個別執行の場合には,阿多委員のおっしゃっていることはとてもワークするとは思えない。 ○山本(和)部会長 是非ほかの委員,幹事の御意見を伺いたいのですが,どうでしょうか。 ○勅使川原幹事 私自身は,差押禁止債権の範囲変更制度はほとんど機能していないというところが最大の問題で,そこが機能すれば,あるいは第1の方向性の必要性はそれほど高くないのではないかと感じている立場でしたので,第1の方向がどうしても,これは必要であるというところが得心できれば賛成をさせていただくのですが,今のところまだそこまでにはちょっと至っていないということで,定見に至ったわけではもちろんないのですけれども,まだそこまでの必要性が感じられていないというところが率直なところです。 ○阿多委員 最初に,今日の発言で第2の方向が万全ではないというようなことを発言させていただいたのは,むしろ第2の方向で,本当に万全な状態ができるのかということに疑問があるのです。ですから,先ほどの御発言でも,第2の方向をこう改正すれば,こういう問題は起こらないのだという御説明があるのであればですけれども,教示という形で手続的なことだけを改正して,そういうのがあるのだと。何度も言うように意義とか違って,オートマチックに変わるわけではなくて,資料を付けてという債務者の積極的な行動をしないと変わらないわけですよね。   実際この対象となっているような債務者自身は,そんな積極的に行動をとるという人とは必ずしも限らないという前提があって,現状問題があると。なおかつ費用,弁護士を頼むにしても費用的な問題で,1か月延びたとしても,もろもろの疎明資料の準備等で,それほど第2の方法だけで全てが解決するということにはならない,そこをお考えいただきたくて,どうしても第1の方法と思っているのであって,第2の方法で十分だというのであれば,どのようなことにすれば債務者というのは本当に困らない状況になるのかについてお考えいただきたいとは思っています。 ○山本(和)部会長 阿多委員から弁護士の費用の話が出てくるのはちょっと意外でしたけれども,事実としてそういうことがあるだろうというご指摘なのだと思います。 ○谷幹事 弁護士費用の点は私も申し上げようと思っていたのですが,これは例えばですけれども,10万円の給料をもらっている人は差押えを受けて2万5,000円を持っていかれるというふうな状況になったときに,範囲変更の申立てをするということで,仮にですけれども,法テラスを使うとどうなるのかというと,もうそれはそれ,仮にそこを使ったとしても,数万,場合によったら10万近い金額を立て替えてもらって,それを返していくということになって,これも客観的に基準がありますから明らかなので,それを2万5,000円のために,もちろん2万5,000円も累積すれば金額は大きくなっていくのですけれども,10数万を負担するというようなことで,法テラスの手続をとってやるのかということになると,なかなかそこまでやらない人が,これまでもほとんどだったし,これからも出てくる,たくさん出てくるとはどういう制度にしたとしても期待はできないだろうなと思います。 ○山本(克)委員 すみませんが,阿多委員のお考えは,配当要求の終期まで完全に二つの差押えによる手続を,配当要求の終期までというか,完全に手続を併合して配当要求の終期を後ろの方にしてしまうと。片方で転付命令の申立てがあった場合,どうするのかとか,そういったものをきっちり考えないと成り立たない議論である。つまり結局債権者間の不公平をすごく生じてしまいますので,そこのところをもうちょっと制度設計を明確にしていただいたら,もうちょっと考える余地はあるのだろうと思いますが,今の限度ではとても何を,どこにまでその問題が波及するのか,私にはもう全然理解の範疇外ですので,是非御教示いただければと思います。私も別にそれが絶対駄目だと言っているわけではなくて,そういうのがあればいいかもしれないけれども,それを仕組むためには,やはりテクニカルな部分をかなり詰めないと無理だということを申し上げているつもりです。 ○山本(和)部会長 おそらく,そのご指摘が根本的な問題でして,事務当局もいろいろな検討はしておるわけでありますけれども,なかなかここで御提示できるほどの成熟した案というのは,見いだせないというところなのだと思います。この差押禁止の範囲を見直すべきだという御主張については,事務当局にも整理をしていただきましたが,山本克己委員が言われたとおり,今日の議論でも様々分からない点が出てきました。私の印象でも,こういう意見が出ればこっち側のあれを採り,そうではない意見が出ればこちらでどうかと,差押禁止ではなくて変更の問題だとか,そういう揺れ動きもあったように思います。差押禁止の範囲を見直すことを求めるのであれば,本日指摘されたような問題点の指摘を受けない固い案がないと,ここで御議論を頂くには難しいのではないかというのが,私の印象でした。 ○阿多委員 少し具体的な場合も含め,また先ほど出ました終期の問題,転付命令の問題も含めて,具体の話をちょっと整理した上で,事務当局と詰めて形になるものかどうか,そういう意味では,もう一度機会を頂けたらと思います。 ○山本(和)部会長 それでは,この部分については様々な課題があるということが確認をされたということで,その課題を解消していく方法があるかどうかということを,今後の検討で見極めていくということにしたいと思います。差押禁止範囲を拡張する方向での見直しに賛同される委員,幹事の方々においては,具体的にこういうふうにすれば何とか制度として成り立つものができるのではないかということを,テクニカルな点も含めて御提案あるいは御検討を頂ければと思います。   それでは,この本文の1の点については,基本的には大きな方向としてこの1の第1段落にあるような債務者を保護する方向での差押禁止債権をめぐる規律の見直しということについては,基本的には御異論はないと承りましたが,他方で,この試案でいえば第5の1に当たる方向については,今のような形で,更にもう少し詰めて考えていただくということにしたいと思います。また,おそらく,試案の第5の1の考え方と試案の第5の2及び3の考え方は,先ほど最初に阿多委員が言われたように,二者択一というわけではありませんので,試案の第5の2及び3の方向については考えていくべきだということについては,恐らくこれも異論はないと承りました。そこで,資料の6ページ以下の2と8ページ以下の3に記載された具体的な案について検討を進めたいと思いますが,まず,2の取立権の発生時期の見直しという点は,現在1週間であるところを4週間に後ろ倒しにし,転付命令等についてもこれと同様の対応をして,4週間を効力発生等の時期として設定するというものです。ただ(3)で,請求債権が扶養義務に係る金銭債権である場合については,このような規律は適用せず,通常の差押えと同じ取扱いをするという原案になっています。これらの点について御意見があればお伺いしたいと思います。 ○谷幹事 2の2の配当期日,債務者に対して差押命令が相当する日から4週間を経過しなければ配当等を実施することはできないとする点ですけれども,少し慎重な検討をしていただきたいと思います。   例えば(3)で扶養義務等に係る請求権については,例外の例外といいますか,原則に戻るということがあるわけですけれども,これは一般債権と扶養義務等に係る請求権が競合した場合,差押えが競合した場合,いつ配当等を実施すべきことがあるかというのは,ちょっと分からなくなったりしますので,これらの問題点を解決した上で,設けるのであれば,その点を検討した上で設けていくべきだというところでございます。○山本(和)部会長 よろしいですか。   それでは,その点は更に事務当局で御検討いただくことにしたいと思います。 ○阿多委員 この発生時期の見直しについて,基本的にいきたいと思っているのですが,1点ちょっと中身の確認をさせていただきたいのですけれども,7ページの「2 転付命令の効力の発生時期等」が,正に今の関連なのですが,2行目で第三債務者の供託についての影響について言及があるのですけれども,転付命令や譲渡命令等については御説明もあって理解はしているのですけれども,ここで第三債務者の供託が影響するようなことは,中身がちょっと余り浮かばなかったものですから,なぜ第三債務者の供託の関係が上がっているのか,ちょっと御紹介いただけたらと思います。 ○松波関係官 給与等の債権の差押えがされて第三債務者がその給与等の一部を供託したというような場合には,通常であれば,その後,配当等が実施されることになろうかと思います。この場面に置きまして,配当等の手続が速やかに進んでしまい,その間に債務者が差押禁止債権の範囲変更の申立てをすることができないこととなってしまうと,取立権の発生時期を後ろ倒しにした趣旨にそぐわない結果となってしまうのではないのかと考えまして,このような問題意識に基づいて,供託された後,配当等が現実的に実施されるまでの間に債務者が範囲変更の申立てをする機会を実質的に保障する必要があるのではないのかという観点から,資料を作成させていただいた次第でございます。 ○阿多委員 そうしますと,第三債務者の供託の供託額が影響を受けるとかいうことになるのでしょうか。それとも供託の開始時期が影響するということなのか,第三債務者への影響自体がちょっとよくイメージが浮かばないのですけれども。 ○松波関係官 第三債務者が供託をすることができる時期やその額については,現状の規律を維持するという考え方があり得ると思います。資料6ページのゴシック部分でも,供託をすることができる時期については,特段書いていないということでございます。 ○山本(和)部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○谷幹事 扶養義務については,特則を定めるという点についてなのですが,ちょっとここは慎重に検討する必要があるのかなと思っております。理由として述べられているのは,8ページの3の真ん中辺りからの①,②の理由なのですけれども,これが特則を定める理由になるのかどうか……,ごめんなさい,これは現行法の趣旨を書かれているのですかね。恐らくこういう趣旨だからその督促を設けるという,そういう内容で意味内容で書かれているのかなと理解をしましたので,そうだとするならば,この二つの趣旨が特則を設けるという理由になり得るのかどうか,ちょっとこの点が実は疑問に思っておりまして,まず①の扶養義務等に係る金銭債権は,それ以外の債権,差押債権にされている部分をも対象として実現されるべきものであるとされているというのが理由なのですけれども,しかし,仮にそうであったとしても,債務者の生活の確保という観点から,争わせる機会を保障するという趣旨が,その必要性がなくなるわけではないわけでございまして,したがって①があるからといって特則になるというふうな説明というのはないのであり得ないのではないかという点,それから②についても,扶養義務等に係る金銭債権の額は,必要生活費と資力等を主要な考慮要素として定められているものであるという。この点は毎月の扶養義務の額を定めるに当たっては,確かにこの点を考慮して定めているのですけれども,差押えの場合には,全くこれは関係なくて,つまり毎月の額が累積をして何十万かになったというふうな場合に,当然それで差押えできるわけで,毎月の額は債務者の給料の例えば4分の1であったとしても,2分の1までを差押えできるということになるわけで,2分の1まで差押えをされて債務者の生活が維持できるかどうか,これを争わせるために4週間期間を確保するというのは,これはあり得る話ですので,この二つの理由をもって,特則を設けるという説明というのは,これは少し論理的におかしいのではないか。   そういう意味で,やはり同じように争わせる機会を保障するという趣旨というのは,妥当するということも考えられますので,もう少しここは単純にこれで特則を設けるということではなくて,慎重に検討したほうがいいのかなとは思います。 ○松下委員 今の谷幹事の御指摘のあった8ページのこの①,②は理由として十分かという点ですけれども,この①,②が理由として不足かどうかについては,これでも理由になっているのかなという気はするのですが,私の理解では,扶養料等の請求権を執行債権とする場合には,民事執行法の151条の2で,弁済期未到来のものがあっても,それを基に差押えができるという規定があり,その規定の趣旨にやはり履行期が来たらすぐに履行されないと困るのが扶養料だからという発想があるのだと思うのです。   この6ページの2の(3)の特則の特則というのが一般原則に戻る理由もむしろそっちにあるのではないかと私は思うので,それも理由として付け加えることができるのではないかと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。山本克己委員も何かございますか。 ○山本(克)委員 松下委員に全部言っていただきました。①,②はそれを補強するロジックとして提案されているものだと理解すべきだということを申し上げたかったのです。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。ほかにいかがでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは,この取立権の発生時期について一般的に見直すというか,後ろ倒しにするということについては,恐らく御異論はないということかと思いますが,正に具体的なところで,配当等までそれを及ぼすかどうかという点について,更に検討の必要があるとのご指摘をいただきました。あるいは扶養義務の特則等については疑問点も示されたところで,この辺りは事務当局で詰めてお考えを頂くということにしたいと思います。 ○中原委員 第三債務者の立場とすれば,取立権の発生時期が4週間と現行どおり1週間という二つの差押命令が来ることになります。取立権の発生時期は請求債権により異なるので,第三債務者に差押命令に記載されている請求債権を見て取立権の発生時期を判断させることは極めて難しいと思います。そこで,差押命令に取立権の発生時期が4週間あるいは1週間という表示を是非お願いしたいと思います。 ○山本(和)部会長 分かりました。その点も含めて,事務当局にもう少し詰めていただきたいと思います。   それでは,最後になりますけれども,資料8ページの手続の教示の部分でございますけれども,この点について御意見をいただければと思います。 ○阿多委員 9ページの説明で教示自体は賛成というか,提案させていただいているものです。今回の資料の説明の第三段落で,仮にという形で第5の3の考え方を採用するのであれば,主体のほか,内容が問題になることを指摘されています。それで,民事訴訟法387条などを御指摘されながら御議論がされていますが,ここでこの条文を挙げられている理由がちょっとよく分からなかったのですけれども,意見を先に申し上げるならば,現状でも本人訴訟を意識して通常の民事訴訟でも答弁書のひな形が入っていて,その答弁書のひな形はチェック方式とかいろいろあるのですが,それで法的効果が答弁をするという意味での効果は生じますけれども,それで結論に影響するわけではない。そういう意味では,この支払督促の異議とかと,例で挙げられているものと違う意味で普通に書式を同封して御紹介していただいているというものがあるということを考えているものですから,なぜある意味では法的効果を伴うようなものの教示の御説明だけが挙がっているのかがちょっと分からなかったので,御質問も含めてという形になりました。 ○山本(和)部会長 事務当局からお願いします。 ○松波関係官 部会資料の説明は,飽くまでこれまでの議論などで出てきたものの一例として例示したものでして,運用上,阿多委員のおっしゃったような例があることや,民事訴訟法や民事訴訟規則等に手続の教示に関する様々な規律があるというのは認識しております。そのため,部会資料で例示しております民事訴訟法第387条に特別な意味があるというわけではございません。 ○阿多委員 結構です。分かりました。   先ほど言いましたように,これだけ見ると何となく変更申立ての許可をすると,オートマチックに変わるような形にミスリードをするのではないかと思いましたが,我々むしろ変更許可,繰り返し申し上げているように,なかなか難しいと思っているものですから,例として必ずしもオートマチックなものではないというものをイメージしていただいたほうがいいかなと思って,それだけのことです。 ○山本(和)部会長 分かりました。ほかにいかがでしょうか。 ○勅使川原幹事 先ほどの御当局の御説明で,387条をメーンとして考えているわけではないというのはよく分かったというか,そうではないほうがいいのではないかという,御存じのとおり,やはり裁判官から書記官の事務にかえる際に,その手続のバックアップとして異議を述べれば通常訴訟で裁判官の判断を受け得るということが重要であったから,その異議については,ある種警告的なこういう教示のことをやって,これが欠けていれば違法,無効になるという効果を多分387条として持っているのだと思うのですが,今回は知らないものを周知させようということでありますから,これを欠いていると違法,無効にしたいということを意識して,これを挙げたということではないのだとすれば,むしろ少額訴訟のときの手続の教示のように,規則の中で222条でしたか,規則の。内容説明をした書面を交付するという形の点もいいのではないかなと考えておりました。   その中で,先ほど谷幹事やら阿多委員,債務者がこういうのを使うのは難しいのだということであれば,内容もちょっと工夫いただいたり,この387条なりに警告のような内容にするとかは運用に委ねてもよろしいのではないかなと考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。ほかに御意見はあるでしょうか。 ○栁川委員 手続というのは分からないことが大変多いものですから,こういう形で周知徹底を図っていただくと大変よいと思います。ただし,必要な情報が必要なところに届くかという別の問題はあるのですが。一般的に言って,多重債務に陥った方の中には,長い文章を読んだり理解をしたりすることが得意ではない方がかなり大勢いらっしゃると思います。難しい言葉ではなかなか分かりにくいので,具体的に,簡潔に,図柄等を使って,視覚的に訴えることも踏まえて,受け取った人がその内容をかなり理解できるような,そういう形で作っていただけると大変有り難いと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   これは裁判所の運用にかなり期待するところが大きいのかもしれませんが,いかがですか。 ○成田幹事 この部分で言われていることは重々承知をしているところですが,なかなか悩ましいのは,教示をしたことによって過度な期待を与えることも,場合によってはあるということもありますので,この辺りは慎重に運用を検討したいと思います。 ○山本(克)委員 これは,被差押債権の種類に限定なく,債権差押えの場面では全部教示するということになるのでしょうか。 ○山本(和)部会長 今回の資料では,152条1項各号の債権が差し押えられた場合はということが示されていますが…… ○山本(克)委員 ああそうか,そこにもう限っているわけですね,失礼,読み落としていました。それが一番現実的なのですが,難しいのは定期金賠償なんかの場合をどこまで考えなければいけないのかという問題がなきにしもあらずかなと前から,それはもうむしろ152条の立法論なのかもしれませんけれども,基本的にはそういう差押禁止があり得るものに限定するということですね。 ○松下委員 手続の教示のところで152条1項各号とありますけれども,152条2項の退職手当については,もう手当てはしないということを積極的に意味しているのでしょうか。 ○松波関係官 現時点では,152条2項の退職手当の差押えの場面でも手続の教示をするかどうかについて,特定の見解を持っているわけではありません。もし,本日の御議論で,これらに限らず,この点についても教示が必要だというような御意見が多数あり,皆様のコンセンサスが得られるのであれば,このゴシックの3のところだけではなくて,2のところも多分同じ議論だとは思うのですけれども,今後検討したいとは思います。差し当たり今回の資料は,中間試案で取り上げられましたところとして,152条1項各号の債権のみを記載してみたところでございます。 ○山本(和)部会長 松下委員としては,2項の退職手当の差押えの場面でも,手続の教示が必要であるとのお考えでしょうか。 ○松下委員 金額が大きくて,しかし毎日の生活を支えるという度合いは低いので,差を付けることに理由はあるとは思いますけれども,でも何か毎月の給料と退職金,それほど截然と分けていいのかということです。毎月入ってくるもので教示するのだったら,退職手当も教示して,何かいけないわけでもないような気がして,その辺はちょっと私も考えてみたいと思いますが,取りあえず資料の趣旨の確認だけさせていただきます。 ○成田幹事 運用と言っておきながら,これを言うのはどうかちょっと悩ましいところなのですが,範囲変更の申立てがよく出る類型としては,預金債権でありまして,入っている原資が年金だとか生活保護費だということがあると。その辺りを考えると,152条1項各号に限定するのがどうなのかなというところが,気にはなるところではあります。そこも含めて書き振りは,運用にお任せいただくほうがいいのかなという気はしております。 ○松波関係官 御指摘をそれぞれ受け止めさせていただき,また御相談させていただきたいと思います。 ○山本(克)委員 152条の2項の話ですけれども,公務員共済等の貸付け,特に住宅ローンの住宅資金の貸付け,退職金で既に返済が予定されているものもあり,もしそれでこの差押禁止部分が広がらない,変更がないとすると,退職金で返し切れない部分が出てくるということがあり得ますので,その辺りもちょっと,それが決定的な理由になるとまでは申し上げませんが,ちょっとお考えいただいて,公務員のことしか考えていませんけれども,そういうことがあるということをお含みおきください。 ○山本(和)部会長 貴重な情報をありがとうございます。ほかにはよろしいでしょうか。   それでは,この手続の教示をすること自体については,基本的に異論はなかったと思いますけれども,その対象範囲,特にこの対象債権等については,もう少し考えてみる必要があるところがあるという御指摘はいただいたかと思いますので,更に御検討を頂ければと思います。   以上で本日予定しておりました部分については,御議論は終えられたと思います。特にはございませんでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは,最後に次回の議事日程等につきまして,事務当局の方から御説明をお願いします。 ○山本関係官 次回の日程ですが,平成30年3月30日金曜日午後1時半から午後5時半までを予定しております。場所は未定でございます。次回の検討課題でございますが,現時点では,債務者財産の開示制度の実効性の向上などの課題について御審議をお願いしたいと考えております。 ○山本(和)部会長 よろしくお願いいたします。本日はこれで閉会をさせていただきます。本日も熱心な御審議を賜りまして,ありがとうございました。 -了-