法制審議会 少年法・刑事法 (少年年齢・犯罪者処遇関係)部会 第2分科会第10回会議 議事録 第1 日 時  平成30年6月28日(木)    自 午後 1時27分                          至 午後 4時13分 第2 場 所  東京地方検察庁会議室 第3 議 題  1 宣告猶予制度について         2 罰金の保護観察付き執行猶予の活用について         3 若年者に対する新たな処分について         4 その他 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○羽柴幹事 ただいまから法制審議会少年法・刑事法(少年年齢・犯罪者処遇関係)部会第2分科会の第10回会議を開催します。 ○酒巻分科会長 御多忙中のところ,お集まりいただきありがとうございます。本日もよろしくお願いします。   前回と同様ですが,福島幹事から,「若年者に対する新たな処分」の論点につきましては,最高裁判所家庭局の澤村幹事が出席し,発言することが充実した分科会の審議に資するとの申出がありましたので,「若年者に対する新たな処分」の論点につきましては,福島幹事に代わって澤村幹事に出席していただくことにします。   また,「若年者に対する新たな処分」の審議におきましては,刑事裁判の実務や量刑の実情等について御質問があったとき等に適切に対応していただくために,この論点についても最高裁判所刑事局の福島幹事に御出席をお願いしたいと思います。   よろしいでしょうか。それでは,初めに,事務当局から本日の資料についての説明をお願いします。 ○羽柴幹事 本日,配布資料として,配布資料21「宣告猶予制度(考えられる制度の概要)」,配布資料22「統計資料5(確定裁判における懲役・禁錮の刑期,第一審における罰金額に関するもの)」,配布資料23「罰金の保護観察付き執行猶予の活用(考えられる施策の概要)」,配布資料24「若年者に対する新たな処分(考えられる制度の概要)」,配布資料25「平成28年に起訴猶予処分となった20歳及び21歳の被疑者の事件の概要(法定刑が短期3年以上の懲役又は禁錮に当たるもの)」,配布資料26「平成28年に少年院を仮退院した者(少年院送致決定時18歳以上の者)のうち,在院期間が140日以下であるもの」,配布資料27「平成28年及び平成29年に終局した一般保護事件で検察官関与決定があった事件(ただし,検察官送致決定により終局したものを除く。)」,配布資料28「被害者等通知制度実施要領」,配布資料29「不起訴事件記録の開示について」を配布しています。   配布資料の内容については,後ほどそれぞれの議論の際に説明します。 ○酒巻分科会長 それでは,審議に入ります。   本日は,当分科会が担当します「宣告猶予制度」,「罰金の保護観察付き執行猶予の活用」及び「若年者に対する新たな処分」の各論点について,部会に報告する制度概要案等の作成のための詰めの検討を行うことにしたいと思います。   初めに,「宣告猶予制度」についての検討を行います。当分科会の第8回会議及び前回の会議の結果を踏まえて,事務当局に「宣告猶予制度」の各論点について,検討のたたき台となる資料を作成していただきましたので,まずは,事務当局から資料21についての説明をお願いします。 ○羽柴幹事 配布資料21について御説明します。   配布資料21は,事務当局において,これまでの当分科会における御議論を踏まえつつ,現時点において考えられる制度の概要や検討課題を整理し,部会への報告に向けて,最終的な詰めの検討に資するための資料として作成したものです。もとより,分科会における御検討の参考とする趣旨で作成したものであり,分科会の御議論を方向付けるといった趣旨のものではありません。   枠囲みの記載は,従前の配布資料における制度概要の記載を整理しつつ,これまでの御議論を踏まえて作成したものです。   まず,制度の大きな枠組みとしては,裁判所が相当と認めるときに判決の宣告を猶予する裁判をすることができるものとすること,その裁判は,決定で行うものとすること,宣告猶予は有罪認定が前提となることについて,いずれも意見の一致があったと思われます。   そこで,「1」には,「裁判所は,被告事件について犯罪の証明があった場合において,相当と認めるときは,決定で,所定の期間,判決の宣告を猶予することができるものとする」と記載しています。   「2」の「宣告猶予の要件」としては,前科がないことを判決の宣告を猶予する要件とするか否かについて,両方の意見があったことから,改正刑法草案部会案に倣って,禁錮以上の刑に処せられたことがないことを要件とするA案と,そのような要件は設けないB案を併記しています。   「3」の「宣告猶予期間中の保護観察」については,必要的とするか否かについて,両方の意見があったことから,保護観察を必要的とする「A案」と,裁量的とする「B案」とを併記しています。   「4」の「宣告を猶予する際の手続」については,これまでの御議論を踏まえ,改正刑法草案部会案と同様,あらかじめ判決書を作成し,これを当事者に閲覧させるものとすることにおおむね意見の一致があったため,「裁判所は,1により判決の宣言を猶予する旨の決定をするときは,あらかじめ当該判決に係る判決書を作成し,これを検察官及び被告人又は弁護人に閲覧させなければならないものとする」と記載しています。   「5」の「宣告猶予の取消し」については,「(1)取消事由」として,これまでの御議論を踏まえ,再犯及び保護観察に付すこととした場合の遵守事項違反を取消事由とすることに意見の一致があったため,「ア」「イ」を掲げたほか,取消しを裁量的とすることにもおおむね意見の一致があったと思われますので,「取り消すことができるものとする」と記載しています。   「(2)手続」については,検察官の請求により裁判所が被告人側の意見を聴いて決定する旨の手続を記載しています。   「(3)即時抗告」については,宣告猶予の取消決定に対しては,当事者から不服申立てができるようにする必要があると考えられることから,「(2)の決定に対しては,即時抗告をすることができるものとする」と記載したほか,「(4)宣告猶予を取り消す場合に宣告する判決」は,決定を取り消した場合には,あらかじめ作成しておいた判決書に従って判決を宣告すべきことに御異論はなかったため,「決定を取り消した場合においては,判決の宣告は,4の判決書に従ってしなければならないものとする」と記載しています。   「6」の「宣告猶予期間経過の効力」については,これまでの御議論を踏まえ,「判決の宣告を猶予された者が,その宣告猶予の決定が取り消されることなく,猶予の期間を経過したときは,免訴の言渡しが確定したものとみなすものとする」と記載し,「7」の「不服申立て」については,これまでの御議論を踏まえ,「検察官,被告人又は弁護人は,異議を申し立てることができるものとすること」,「異議の申立てがあったときは,裁判所は判決書に従って判決を宣告するものとすること」,「宣告猶予の決定を取り消した場合に宣告された判決に対しては,控訴をすることができないものとすること」をそれぞれ記載しています。   制度の概要は,改正刑法草案部会案におおむね倣ったものとなっていますが,判決の宣告を猶予する場合に,その判決における刑の執行を猶予することはできない旨の規定を設けるか否かについては,このような規定を設けないとすることでおおむね御意見が一致したと思われることから,考えられる制度の概要は,この点において,改正刑法草案部会案とは異なっています。   次に,「検討課題」について御説明します。まず,「1 対象となる事案の範囲」については,従前の資料にも記載していたものですが,引き続き検討課題としています。   「2 具体的な制度の在り方」においては,これまでの御議論を踏まえ,更に具体的な検討を要すると考えられる「宣告を猶予する要件としての言渡し刑の上限」及び「宣告を猶予することができる期間」などについて,引き続き検討課題として記載しています。   「3 制度の必要性及び相当性」については,従前の資料にも記載していたものですが,部会で採否の議論を行うに当たっての課題の整理として記載しています。   「4 その他」については,従前の配布資料に記載していた「その他の制度設計」について,これまでの御議論において,制度概要の作成に至ることができるような具体的な御意見がなかったことから,記載しておりません。   配布資料21の説明は以上です。 ○酒巻分科会長 ありがとうございました。まず,ただいまの説明につきまして,この段階で御質問や,ほかにも検討課題等があるのではないかといった御意見がある方は,挙手をお願いします。よろしいですか。   それでは,配布資料21に沿って,「宣告猶予制度」についての検討を行います。   「宣告猶予制度」につきましては,部会に報告する制度概要案をおおむね作成できたところですが,「検討課題」に記載のある項目につきましては,引き続き検討する必要があると思われるところです。また,枠の中でも「A案」と「B案」とが併記されているものも幾つかあります。このようなことから,本日の進行方法としては,まず,「検討課題」についての意見交換を行い,その後,枠内の項目についても意見交換を行うことにしたいと思いますが,このような進行順序でよろしいでしょうか。               (一同異議なし)   それでは,まず,「検討課題」の「1 対象となる事件の範囲」について検討したいと思います。「1」については,これまでも様々な御意見が出ていますが,この検討項目について,これまで出ている御意見のほかに,御意見のある方は,挙手をお願いしたいと思います。   特にございませんでしょうか。   それでは,御意見もないようですので,次に,「2 具体的な制度の在り方」についての検討を行いたいと思います。この点に関しましては,事務当局において,この具体的制度の在り方に関係する統計資料を作成していただきましたので,まず,その資料について事務当局から説明をお願いします。 ○羽柴幹事 宣告猶予制度に関する資料として,配布資料22「統計資料5(確定裁判における懲役・禁錮の刑期,第一審における罰金額に関するもの)」を配布しています。この配布資料22について御説明します。   配布資料21の「検討課題」「2」の一つ目の「○」である「宣告を猶予する要件としての言渡し刑の上限」については,当分科会での意見交換において,改正刑法草案部会案を参考としつつも,その後の法改正や量刑動向を踏まえて検討する必要があるとの御意見がありました。このような御意見を踏まえ,改正刑法草案が公表された昭和49年当時の確定裁判における懲役・禁錮の刑期及び第一審における罰金額と,平成28年のそれらとを比較できる資料として,配布資料22をを作成しました。   まず,「確定裁判における刑期(懲役・禁錮)」の表を御覧ください。この表には第一審・控訴審・上告審において確定裁判を受けた者の裁判の結果が懲役・禁錮であったものについて,刑期の区分別に人員及び懲役・禁錮に処せられた者全体に対する割合を記載し,「小計」として,実刑の人員と全体に対する割合を記載しています。「執行猶予」の欄には,執行猶予の付された刑の刑期で区分し,各区分の人員及びその割合を記載し,「小計」として,執行猶予が付された人員と全体に対する割合を記載しています。   次に,「第一審における罰金額」の表を御覧ください。この表には,略式命令を含む第一審の裁判における罰金刑について,罰金額の区分別に人員及び罰金に処せられた者に対する割合を記載しています。なお,刑法犯及び特別法犯の統計の中でも,道路交通法違反と自動車の保管場所の確保等に関する法律違反については,罰金に処せられた人員が極めて多くの割合を占め,人員数の変動も大きいため,これらの罰金人員を含めることは比較に適さないと思われたことから,これらの法律違反の人員を除いています。   また,昭和49年の統計については,「20万円以上」の罰金に処せられた人員の統計上の区分が「20万円以上50万円未満」の区分であったため,そのように記載をしています。昭和49年も平成28年も,罰金額の区分のうち「5万円未満」については,統計上の区分の「1万円未満」,「1万円以上」及び「3万円以上」等を合わせたものとして記載しています。   配布資料22の説明は以上です。 ○酒巻分科会長 ありがとうございました。ただいまの説明に御質問はございますでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは,今の説明も踏まえまして,御意見のある方は,挙手をお願いします。 ○加藤幹事 今,説明のありました資料22は,「検討課題」でいうと最初の「○」,「宣告を猶予する要件としての言渡し刑の上限」に関係するものだと思われますので,この資料22を参照しつつ,意見を申し上げます。   まず,懲役刑及び禁錮刑の上限について,改正刑法草案部会案では6月とされていたものです。その理由は,以前の事務当局の説明によりますと,宣告猶予が犯情の軽微な場合に対する処分であること,我が国では初めての試みであることから,適用範囲を狭く限定しておくことが望ましいとされたということであり,そのような観点から6月としていたということには相応の合理性があると思われますので,今回の検討においても参考にしてよいと思われます。そして,この制度が比較的軽い罪を対象とするとすれば,言渡し刑の上限を部会案と同様の6月とすることも,ひとまず考えられるのではないかと思われます。   もっとも,先ほどの資料22のうち確定裁判における刑期という表を見ますと,部会案の当時に「6月以下」の刑期で執行猶予になっていたものというのを見てみますと,15.51%であったとされています。これに対して,平成28年の統計を見ると,同じレンジのところは5.0%にとどまっていて,その上の刑期「1年以下」という欄を見ても,全体として「1年以下」の言渡し刑が減って,この部分だけを見ると,刑期は重い方向に推移していると言えるのではないかと思われます。そこで,部会案よりもやや広い範囲の刑期を対象とすることも考えられ,言渡し刑の上限を1年とすることも考えられるのではないかと思われます。   それから,罰金額の上限についてです。改正刑法草案部会案において罰金刑の上限が5万円とされていた理由は定かではないようですが,昭和49年の後に,経済事情も踏まえた罰金額の引上げのための刑法一部改正が行われていることですとか,そもそも物価が全く異なることを考えますと,そのまま5万円を上限とすることは必ずしも適当ではないのではないかと思われます。   そこで,罰金の方の表を見ますと,昭和49年では,66.29%ですから7割弱が5万円未満の罰金であったことが分かります。それに対して平成28年を見ると,5万円未満の罰金は0.17%ですから,ほとんどないのに等しい割合になっています。一つの考え方としては,昭和49年当時であれば宣告猶予になり得た割合と同様の割合を適用範囲にすることが考えられますが,昭和49年においては5万円未満の区分のところに7割弱の者がおり,平成28年の方の欄で下から順に,0.17%,0.95%という形で順番に足していきますと,30万円以上50万円未満のところで合計が大体86%ぐらいになるので,30万円以上50万円未満の辺りに上限を持ってくるのが一つの考え方となろうかと思われます。   30万円と50万円とのいずれが適切であろうかというのを即断できる材料も今のところはありませんが,上限30万円といたしますと,改正刑法草案当時の66%というのよりは若干低めの数字,大体50%強をカバーする形になり,50万円を上限にすると,先ほど申し上げたように86%をカバーするようになって,改正刑法草案の当時よりも多くカバーするようになるということになるようです。罰金の執行猶予が付けられる上限が50万円ですので,これとの比較なども一つの参考になり得るのではないかと思われますが,いずれにせよ,上限を30万円あるいは50万円といったところに設定するのが一つの考え方となるのではないかと思います。さらに,改正刑法草案部会案は拘留ですとか科料を言い渡す場合も宣告猶予の対象としていましたが,それらを今回,あえて外す必要はないだろうと考えられます。   そうしますと,言渡し刑の上限に関する宣告猶予の要件としては,懲役・禁錮については「6月以下」又は「1年以下」とし,罰金については「30万円以下」又は「50万円以下」という選択肢があり,これらに拘留ですとか科料を加えることが考えられると思われます。 ○酒巻分科会長 宣告猶予の要件としての言渡し刑の上限について加藤幹事から意見がございましたけれども,まず,この点についてほかに御意見はございますでしょうか。   特にございませんか。   それでは,加藤幹事から資料22を踏まえて,過去と現在の量刑状況の差異を踏まえて,宣告猶予の要件としては,懲役・禁錮については「6月以下」又は「1年以下」,罰金については「30万円以下」又は「50万円以下」とし,更に加えて拘留と科料とすることが考えられるというのが御意見でありましたけれども,ほかに言渡し刑の上限について御意見はございますか。   よろしいですか。   それでは,御意見がないようであれば,部会に報告する制度概要としては,懲役・禁錮については「6月以下」又は「1年以下」,罰金については「30万円以下又」は「50万円以下」とし,これらに加えて拘留,科料を言い渡すべき場合を宣告猶予の要件とすることとしたいと思います。このような形でまとめてよろしいでしょうか。               (一同異議なし)   それでは,この点についてはそのようにすることとし,先にいきたいと思います。   次に,「2」の二つ目の「○」の「宣告を猶予することができる期間」についての検討を行います。「宣告を猶予することができる期間」については,改正刑法草案部会案における6月以上2年以下の期間に対して,言渡し刑の範囲,処遇効果,被告人の手続的な負担,あるいは迅速な裁判の要請などの様々な点を考慮する必要があるとの御意見があり,それ以外には特段の御意見はございませんでした。   本日,言渡し刑の範囲について先ほど御意見があったわけですけれども,その点も踏まえて,これとは別の案が考えられるといった御意見がある方はいらっしゃいますでしょうか。   もし御意見がないようであれば,部会に報告する制度概要としては,改正刑法草案部会案と同様に6月以上2年以下の期間としておくことにしたいと思いますが,よろしいでしょうか。   それでは,部会に報告する制度概要としては,宣告を猶予することができる期間は6月以上2年以下とするということで,先に進みたいと思います。   次は,「2」の三つ目の「○」の「少年鑑別所や家庭裁判所調査官の活用の要否,活用場面」について,検討を行います。「少年鑑別所や家庭裁判所調査官の活用の要否,活用場面」については,宣告猶予の対象とするか否かの判断などに,少年鑑別所の調査機能を活用することは考えられるが,活用するための方策として,調査対象者の選別の在り方,調査事項,それから記録の取扱い,調査の場所,時期等が検討課題であるといった御意見がありました。具体的な活用方法や手続,そのための法整備の在り方については,特に御意見がなかったところでありました。この検討項目につきまして,ほかに御意見のある方は,挙手をお願いしたいと思います。   よろしいですか。もし特にこの点についても御意見がなければ,この点につきましては,現時点までの御議論において,何か特別,具体的な仕組みについての御意見がないという状況ですので,部会への報告におきましては,枠内には特に記載しないことが適当であると私は考えますけれども,そのようにすることでよろしいでしょうか。               (一同異議なし)   それでは,そのようにして,先に進みたいと思います。   次は,「3 制度の必要性及び相当性」についての検討に移りますが,この点につきまして,これまで出された御意見のほかに,何か更に付加したいことがあるなど,御意見がある方は,挙手をお願いします。   御意見がないようであれば,この程度にしまして,次に,「4 その他」についての検討を行います。御意見のある方は,挙手をお願いします。 ○山﨑委員 これまでの分科会,前回の部会での「中間報告(2)」におきましても,「その他」のところで,その他の制度設計として,簡易な手続によって保護観察に付する仕組みについて挙げられていましたけれども,今回,その点がこの資料には記載されておりません。そして,先ほどの御説明で,概要に至るような具体的な内容まで詰め切れなかったという趣旨の御説明がありましたが,部会に上げる際の報告には,やはり私はこの点も含ませるべきであろうと思います。   繰り返し述べておりますけれども,他の分科会での議論などを見ていますと,今後の部会において,起訴猶予も含めた軽微な対象事件について保護観察,若しくはそれに類似するような処遇を可能とするような制度がどのような形で許容されるのかということがかなり大きな論点になるのではないかと考えています。   そういった議論の中で,一つは18歳及び19歳を対象とした新たな処分については,一つの制度案になるとは思いますけれども,一方で検察官による働き掛けを年齢を問わずに行うべきだとの御意見も出ています。それぞれどのような対象年齢について,どのような対象事件を考えるかという点はありますけれども,そのような事案については,宣告猶予制度というのも受皿になり得る,あるいは宣告猶予制度としての概要案そのものではないですが,簡易な手続といったものも想定しておくことが受皿の一つとなるのではないかと思っています。   考えられている制度の概要については,歴史的な議論でも出てきたものを踏まえて,判決書を作成したりするように,かなり手続的に厳格なもので,対象者の負担も相応に重いものだといえますので,そうではない形の制度も検討する余地を残しておくべきではないかと考えています。   この後,罰金刑が相当な事案については罰金刑の保護観察付き執行猶予が活用できないかということで,略式手続はどうであろうか,公判請求もすべきではないかとの議論があるわけですけれども,罰金の場合は財産刑であることからくる様々な限界があるように思われますので,やはり司法的な手続に付しつつ端的に保護観察に付し得るような制度というものを柔軟に検討すべき必要はあるのではないかと思っています。   今後,部会で議論がされるときには,この間指摘されているように,議論が分科会によるはざまが生じないように充実した審議を行うという観点からしても,簡易な手続については報告の中に含ませるべきではないかというのが私の意見です。 ○羽柴幹事 御議論を整理させていただく関係から,事務当局の立場で申し上げさせていただきますと,山﨑委員から御提案のあったその他の制度設計につきまして,本日配布しております配布資料21において記載していない理由は,先ほど御説明させていただいたとおり,また,御指摘のあったとおりでございますけれども,これまでの御議論において,具体的な制度概要の作成に至ることができるような具体的な御意見がなかったということによるものです。部会への報告にその他の制度設計を含めるかに関しては,当分科会としてどのような内容,どのような形で報告することが適当であるのかということに関係するものと思われます。   その他の制度設計の御提案が,現在考えられる制度の概要に記載されている制度の対案として,より簡略な手続の制度を設けるべきであるという趣旨ですと,一定の具体的な制度概要案を前提とし,各案のメリット,デメリットの比較等を行うこととなると思われますけれども,今のところ制度概要案として記載できるような具体的な御発言はなく,制度設計をより深めるような議論がなされたことはないというところだと思います。   そのため,具体的な制度設計を示すことができない状況において,部会にどのように報告するのか分からず,どのように報告することが適当であるのかということについて問題となると事務当局としては考えます。 ○山﨑委員 おっしゃる趣旨も分かるのですけれども,元々分科会を設置されたときの趣旨として分科会で一つ制度案を絞って,それを部会に提供するということでは必ずしもなくて,それぞれの出た意見について,一つの案にまとまらなくても,複数の案が提示されることがあっても構わないというような事務当局からの御説明を頂いているところです。繰り返しになりますけれども,今後の部会で予想される議論を考えますと,そういった視点自体を,宣告猶予制度そのものではないかもしれませんけれども,その議論で出てきた意見としては,やはり上げていただいた方がよいのではないかと考えています。 ○酒巻分科会長 御意見は承りました。この点について,ほかの方から御意見はございますか。   事務当局からの説明にもありましたとおり,具体的な御提言がないものですから,その点がいささか問題であるところ,私としては,先ほど事務当局が述べていた問題点も踏まえつつ,最終的にはこの分科会においてどのようにまとめて部会に報告するのが適切かという点については,検討させていただくということでいかがでしょうか。 ○山﨑委員 最終的には分科会長の御判断に委ねるほかないと思いますけれども,どこまで具体化する必要があるかというのも,今後の部会における議論で,ほかにどのような案があって,どのような問題点が出てくるかということによっても変わってくる部分もあるだろうと思っています。ですので,現時点で具体化ができないからといって全く報告しないというのが相当なことかどうかというのは慎重に御判断いただきたいと思います。 ○酒巻分科会長 それでは,この点につきましては,この程度としまして,先に進みたいと思います。   次に,配布資料の枠内の記載についての検討を行いたいと思います。枠内の「2 宣告猶予の要件」及び「3 宣告猶予期間中の保護観察」については,制度の概要として枠内に「A案」と「B案」が併記されているところです。これらを含めて,枠内のどの項目でも構いませんので,御意見のある方は,挙手をお願いします。   よろしいでしょうか。   それでは,今日配布された資料21「宣告猶予制度(考えられる制度の概要)」に記載されている事項につきまして,現段階で一通り検討を行いましたけれども,最後に,宣告猶予全体について,更に御意見のある方は,挙手をお願いします。   よろしいでしょうか。   それでは,宣告猶予制度につきましての本日の検討はこの程度にしまして,次の課題,「罰金の保護観察付き執行猶予の活用について」の検討に進みたいと思います。まず,事務当局からこれに関する資料の説明をお願いいたします。 ○羽柴幹事 配布資料23について御説明します。   配布資料23は,事務当局において,これまでの当分科会における御議論を踏まえつつ,現時点において考えられる施策の概要を整理し,部会への報告に向けて最終的な詰めの検討に資するための資料として作成したものです。もとより分科会における御検討の参考とする趣旨で作成したものであり,分科会の御議論を方向付けるといった趣旨のものではありません。   枠囲みの記載は,従前の配布資料における施策概要の記載ぶりを整理しつつ,罰金の保護観察付き執行猶予の活用を図るための方策として,①及び②の方策を枠囲み内に加えています。   これまでの御議論を踏まえますと,刑事処分が必要な事案に対しては刑事処分を科しつつも,刑事政策的措置を図るという観点から,罰金刑が相当である事案で,保護観察付き執行猶予に付することが有用かつ相当であると考えられるものについては,罰金の保護観察付き執行猶予の活用を図ることが相当であり,その活用を図るための方策としては,例えば①及び②の方策をとることが考えられるという点で,おおむね意見の一致があったと思われます。   また,これまで検討課題とされてきた「活用するための法改正の要否・内容」に関しては,保護観察の良好措置の在り方や保護観察における少年鑑別所の調査機能の活用等については,第3分科会において法整備も含めて議論されていることをも考慮し,罰金の場合に特化した立法措置は要しないということに特段の異論はなかったと思われます。そこで,以上のような意見の集約が図られた内容を枠内に記載し,検討課題については記載していません。   配布資料23の説明は以上です。 ○酒巻分科会長 今の説明について,この段階で御質問,ほかに検討課題等があるのではないかという御意見のある方は,挙手をお願いします。   よろしいですか。   それでは,配布資料23に記載された内容について検討したいと思います。枠内に記載した施策の概要,いずれの点でも構いませんので,御意見のある方は,挙手をお願いします。 ○山﨑委員 前提となることで,一度私も確認させていただいたかどうか失忘したので,もう一度改めて確認なのですが,罰金の執行猶予付き判決が下された場合に,本人がそれでも罰金を納付したいと考えて検察庁に罰金を納めに行った場合は,窓口ではやはり徴収できないということになるのでしょうか。もしそうだとすると,執行猶予が取り消されなければ納めることができないということになるのかどうかの確認をさせていただければと思います。 ○羽柴幹事 今の御質問の点につきましては,山﨑委員がおっしゃいましたとおり,執行猶予に付されている状態でありますと刑を執行することはできないことから,執行猶予が取り消されてから刑を執行するという順序になると考えられます。 ○山﨑委員 そうだとすると,更に保護観察が付いた執行猶予となった場合に,保護観察に対して積極的でない人が,それだったら罰金を納めた方がよいと考えたときに,あえて遵守事項に違反して執行猶予を取り消させるというような場面がやはりあり得るのかなということを考えた次第です。   その点とは別なのですけれども,もう一つ,この中で,公判請求すべきか否かを検討するという内容が含まれていまして,これは従前の議論の中で,略式手続で果たして十分活用できるかということとの兼ね合いで入っているのかと理解しておりますけれども,従来であれば略式請求で選択していた対象者を,保護観察に付するという必要性からあえて公判請求するということであれば,そこはやはりかなり従来の実務とは違ってきますし,対象者を含めた負担が極めて大きくなるという問題が残るのだろうと思います。   もし略式手続での活用の難しさ,あるいは罰金刑が持つ財産刑としての限界ということから,保護観察に付す仕組みがなかなか難しいということであれば,やはり先ほど申し上げた,繰り返しになりますけれども,罰金の保護観察付き執行猶予に捉われないような形で,何らかの簡易な司法手続を考えるという方向性の方がよいのではないかと思います。 ○加藤幹事 今の御発言の流れからすると,簡易な手続とおっしゃっているのは,先ほどの宣告猶予のところで取り上げられたような方策ではないかと推測されるのですが,そうすると,罰金刑相当のものについて今でも,略式請求であるか公判請求であるかはともかくとして,起訴した上で審理をしているわけです。簡易な手続で仮に起訴したとしても,結果が罰金である場合,仮に山﨑委員の御発言のように,結局罰金刑になるのでは心理的強制力が働かないのではないかなどのいろいろ問題があるとしますと,簡易にした宣告猶予類似の手続を取り入れても余り解消しないのではないかとも思われるのですが,そこは,別の手立てをとることによって,何らか有効な解決策となるというお考えなのでしょうか。 ○山﨑委員 まず前提として,制度が新しくなった場合に,従来は略式相当だったものをどう扱うのかという点について,検察庁の判断において変化があるのではないかという考えがあります。つまり,ほかの制度で対応できるのであれば,従来は略式手続だったけれども,別の手続にした方がいいという判断があり得るという前提で考えていますので,必ずしもその前提で,現在の罰金相当とされる事案なので簡易な宣告猶予類似の手続をとって,駄目だった場合は結局,罰金にしかならないのかどうかというところは,少しまだ幅を持って考える必要があるかと思っています。 ○酒巻分科会長 ほかに,罰金の保護観察付き執行猶予の活用に関して,御意見はございますでしょうか。 ○山﨑委員 ②の「保護観察所及び少年鑑別所の調査機能の活用」の部分で,前回いろいろ議論させていただいたのですけれども,仮にこの活用の中に対象者との面接というものが入ってきた場合の規律をどう考えるかという課題は残るかと思っています。その点に関して,例えば,更生緊急保護の事前調整で保護観察官が対象者に会われているケースがあるという御説明をされていますが,そのことに関して何か通達などの規律が存在しているのでしょうか。 ○今福幹事 これについて,通達ではない形式で現場に周知しておりまして,その際,本人に,取調べではないことをあらかじめ明確にして,任意に調査に応じてくださいということを徹底しています。 ○山﨑委員 それは形式としては通知の形になりますか。 ○今福幹事 事務連絡によって周知しております。 ○山﨑委員 分かりました。 ○酒巻分科会長 山﨑委員,今の点について,御質問,御意見はありますか。 ○山﨑委員 今言ったような問題は一応残り得るとは思っているのですが,ここの部分は制度概要案というものではないと思われますので,どういう形で部会の方に報告されるかについて,今言ったような問題まで踏み込んで報告すべきかどうかという点は,これは分科会長にお任せすることと思っています。 ○酒巻分科会長 それでは,そこはお任せいただくこととして,「罰金の保護観察付き執行猶予の活用」について,ほかに御意見がないようでしたら,先に進みたいと思います。   続いて,「若年者に対する新たな処分について」の検討に進みたいと思います。   それでは,事務当局から資料24「若年者に対する新たな処分(考えられる制度の概要)」についての説明をお願いします。 ○羽柴幹事 配布資料24について御説明します。   配布資料24は,事務当局において,これまでの当分科会における御議論を踏まえつつ,現時点において考えられる制度の概要や検討課題を整理し,部会への報告に向けて最終的な詰めの検討に資するための資料として作成したものです。もとより,分科会における御検討の参考とする趣旨で作成したものであり,分科会の御議論を方向付けるといった趣旨のものではありません。   枠囲みの制度概要は,手続の進行におおむね沿った形で整理しつつ,これまでの御議論を踏まえて記載したものです。まず,本処分は罪を犯した18歳及び19歳の者であって,訴追を必要としないため公訴を提起しないこととされたものを対象とすること,対象者に改善更生に必要な処遇や働き掛けを行うことを可能にする目的で設けるものとすることについて,いずれも意見の一致があったように思われます。   そこで,「1対象者」には,「罪を犯した18歳及び19歳の者であって,訴追を必要としないため公訴を提起しないこととされたものについては,2の手続を行い,3の処分をすることができるものとする。」と記載しています。他方,一定の事件について本処分の手続に乗せないものとするかという点については,改めて検討を要すると考えられたことから,公判係属事件の余罪等一定の事件については2の手続に乗せないものとする「A案」と,例外を設けないとする「B案」とを併記しています。   「2」は本処分の手続に関するものであり,まず「(1)調査」については,これまでの記載を整理し,家庭裁判所は,事件について調査しなければならないものとすること,家庭裁判所は,家庭裁判所調査官に命じて,対象者又は参考人の取調べその他の必要な調査を行わせることができるものとすることをそれぞれ記載しています。   「(2)鑑別」については,これまでの御議論において意見の一致があったと思われることから,家庭裁判所は,供述を強いられることはないこと及び〔付添人〕を選任することができることを説明し,審判に付すべき事由の要旨を告げ,陳述する機会を与えなければならないものとすること,不服申立てをすることができるものとすることをそれぞれ記載しています。なお,付添人に「〔〕」を付しているのは,そのような名称に確定するわけではないものの,差し当たり,その名称を用いて議論してはいかがかという趣旨です。   「(3)呼出し・同行」については,これまでの御議論において意見の一致があったと思われる,呼出状を発することができるものとすること,同行状を発することができるものとすることをそれぞれ記載しています。   「(4)罪証隠滅又は逃亡の防止を目的とした身体拘束の措置」は,本処分の対象者には罪証隠滅又は逃亡のおそれの程度は類型的に小さいなどの観点から,同措置を設けなくてよいとする意見があった一方,なおこれを必要とする考え方もあり得ることから,鑑別の目的以外で少年鑑別所に収容する措置はとれないこととする「A案」と,罪証隠滅又は逃亡の防止を目的として,矯正施設に収容する措置をとることができるものとする「B案」を併記しています。「B案」においては,この措置を取り入れる場合に考えられる仕組みとして,勾留に関する現行刑事訴訟法第60条を参考として記載しています。   「(5)証人尋問,検証等」については,これまでの記載を整理しています。   「(6)検察官・弁護士の関与」の「ア」は〔付添人〕の資格に関するものであり,〔付添人〕に選任することができる者について,弁護士に限るとする「A案」と,弁護士に限らないものとする「B案」とが考えられるため,それらを併記しています。「B案」は,現行少年法第10条第1項に倣って,弁護士以外の者を〔付添人〕に選任する場合には,裁判所の許可を要するものとして記載しております。   「イ」は検察官関与の制度に関するものであり,本処分と保護処分との相違点も考慮しつつ,引き続き検討する必要があるとの意見があったことを踏まえ,同制度を設けるとする「A案」と,設けないとするB案とを併記しています。「A案」においては,この制度をとり入れる場合に考えられる仕組みとして,検察官関与制度に関する現行少年法第22条の2及び第22条の3第1項に倣って記載しています。   「ウ」は,裁量的な国選〔付添人〕制度に関するものであり,裁判所において処分が決まる以上,基本的にその手続に弁護士が関与すべきである上,身体拘束の措置がとられる場合は,より関与の必要性があるという観点から,このような制度を設けるとする意見があった一方で,これを設けないものとする考え方もあり得ることから,それらを併記しています。制度を設けるとするA案においては,この制度をとり入れる場合に考えられる仕組みとして,裁量的な国選〔付添人〕制度に関する現行少年法第22条の3第2項に倣って記載しています。   「(7)記録・証拠物の閲覧・謄写」については,これまでの御議論を踏まえ,現行の少年法及び少年審判規則における規律と同様の規律を含めるものとすることにおおむね意見の一致があったと思われることから,「ア」として,記録又は証拠物は,当該記録若しくは証拠物を保管する裁判所の許可を受けた場合を除いては,閲覧又は謄写をすることができないものとすること,「イ」として,〔付添人〕は審判開始の決定があった後は,事件の記録又は証拠物を閲覧することができるものとすること,「ウ」として,本処分において検察官関与制度を設けるとした場合に,検察官が事件の記録及び証拠物を閲覧し,及び謄写することができるものとすることをそれぞれ記載しました。   「(8)審判」については,これまでの御議論を踏まえ,家庭裁判所は,審判不開始決定及び不処分決定の各決定をすることができるものとすること,審判を非公開とすること並びに審判の方式について意見の一致があったため,これまでの記載を整理しつつ,「ア」から「ウ」までを記載しています。   「(9)試験観察」については,本処分においても家庭裁判所調査官の機能等を活用すべきであるとの観点から,現行少年法における制度と同様の制度を設けることが適当であるとの意見があったことから,現行少年法第25条第1項及び第2項を参考として,「家庭裁判所は処分を決定するため必要があると認めるときは,決定をもって,相当の期間,家庭裁判所調査官の観察に付すことができるものとする」と記載しました。   「3」は,本処分の制度において設けられる処分に関するものであり,「(1)処分の決定」は,更に検討を要すると思われることから,本処分において設ける処分を保護観察のみとするA案と,保護観察に加えて施設収容処分を設けるものとするB案を併記しています。   「(2)没取」と「(3)不服申立て」については,これまでの御議論においておおむね意見の一致があったことから,それぞれ現行少年法第24条の2第1項に倣って没取することができるものとすること,同法第32条を参考に,処分の決定及び没取の決定に対して,「決定に影響を及ぼす法令の違反,重大な事実の誤認又は処分の著しい不当を理由として,抗告をすることができるものとする」ことを記載しました。   「(4)保護観察処分」のうち,保護観察の期間については更に検討を要すると考えられたことから,「ア」に,「保護観察の期間は,1年ないし2年とする」ことを記載し,「イ 保護観察の処遇の見直しのための措置」については,これまでの御議論を踏まえ,少年鑑別所による鑑別をすることができるものとすることにおおむね意見の一致があったと思われることから,「(ア)」に「保護観察所の長は,(1)の保護観察に付された者について必要があると認めるときは,少年鑑別所の長に対し,鑑別を求めることができるものとする」と記載しました。   他方,処遇見直しのための収容鑑別の措置を設けるかについては御意見が分かれ,保護観察の在り方を見直すために収容鑑別が必要である事案があり得るとの観点から,この措置を設けるべきであるとの意見と,この措置が遵守事項違反があった場合のペナルティーとして用いられる懸念があるなどとして,この措置を設けることには慎重であるべきとの意見があったことから,両案を併記しています。「A案」においては,これを設ける場合の制度として,身体拘束をするに当たっては家庭裁判所の判断を経ることが適当であると考えられることから,保護観察の処遇を見直す場合において,鑑別のために特に必要があると認めるときは,家庭裁判所の許可を得て少年鑑別所に収容し,少年鑑別所の長に対して鑑別を求めるとの制度を記載し,同措置を設けないとする案を「B案」としています。   「ウ」は,保護観察の解除について,これまでの記載ぶりを整理したものです。   「エ 遵守事項に違反した場合の施設収容処分」については,行為責任を基礎とする本制度において,現行少年法第26条の4と同様の施設送致申請のような制度を設けることは難しいなどの観点から,施設収容処分は設けないとする意見があった一方,同処分を設けるものとする考え方もあり得ることから,それらを併記しています。これを設けることとした場合の考えられる制度として,現行少年法第26条の4を参考とした案を記載しました。   「(5)処分の取消し」は,これまでの御議論においておおむね意見の一致があったと思われることから,処分の継続中又は終了後に審判権がなかったこと等を認め得る明らかな資料を新たに発見したときは,家庭裁判所は,決定をもって,その処分を取り消さなければならないことを記載しました。   次に,「4 犯罪被害者等の権利利益の保護のための制度」については,これまでの御議論を踏まえ,被害者等による閲覧・謄写の制度,被害者等の申出による意見の聴取の制度,被害者等に対する説明の制度及び被害者等に対する通知の制度をそれぞれ設けることについては,いずれもおおむね意見の一致があったと思われることから,「(1)」から「(4)」までに,現行少年法第5条の2第1項,同法第9条の2,同法第22条の6第1項及び同法第31条の2第1項に倣って,それぞれの制度を設けることを記載しました。   「(5)被害者等による審判の傍聴の制度」を設けるか否かについては,この制度を必要とする考え方もあり得る一方,本処分の対象者にこの制度の対象となるものが含まれるのかなどという点で,設けることは難しいとの意見もあったことから,それらを併記することとし,A案においては,これを設ける場合の制度として,現行少年法第22条の4第1項,並びに第22条の5第1項及び第2項に倣って記載をし,同制度は設けないものとする案を「B案」としています。   「5」は,刑事裁判所から家庭裁判所への移送制度を設けるかについて,本処分と刑事処分との関係と,保護処分と刑事処分との関係とは異なるとして,この制度を設けるべきでないとの意見があった一方で,公訴提起後の要保護性の変化等に応じて刑事処分より本処分の方が適当である場合もあり得るとの観点から,この制度を設けるべきであるとの意見があったことから,それらを併記することとし,「B案」は,これを設ける場合の制度として,現行少年法第55条に倣って記載をしています。   次に,「検討課題」について御説明します。   まず,「1 対象者」については,従前の資料にも記載していた内容に加え,更に検討を要すると考えられる,「対象としないこととする事件の有無・内容」を検討課題として記載しています。   「2 手続」については,これまでの御議論を踏まえ,「(1)施設収容する鑑別」においては,更に具体的な検討を要すると考えられる「不服申立て」について検討課題を記載しています。「(2)罪証隠滅又は逃亡の防止を目的とした身体拘束の措置」については,従前の資料にも記載していたものですが,引き続き検討課題として記載しています。「(3)検察官・弁護士等の関与」については,従前の資料にも記載していた内容に加え,更に検討を要すると考えられる〔付添人〕を弁護士の中から選任するかについて,検討課題として記載しています。「(4)その他」の「手続の開始」については,従前の資料にも記載していたものですが,引き続き検討課題として記載しています。   「3 処分」の「(1)施設収容処分」については,従前の資料にも記載していたものですが,記載を整理し,引き続き検討課題として記載しています。「(2)保護観察処分」については,これまでの御議論を踏まえ,更に具体的な検討を要すると考えられる,本処分における保護観察の在り方,要件,期間,保護観察の処遇の見直しのための収容鑑別,遵守事項に違反した場合の施設収容処分及び遵守事項に違反した場合にとり得るその他の措置について,記載を整理し,引き続き検討課題として記載しています。「(3)その他」においては,従前の資料にも記載していた内容に加え,前回の御議論を踏まえ,「検察審査会制度との関係」について,検討課題として記載しています。   「4 犯罪被害者等の権利利益保護のための制度」の被害者等による審判傍聴制度及び損害賠償命令制度並びに「5 家庭裁判所への移送」については,従前の資料にも記載していたものですが,引き続き検討課題としています。   配布資料24の説明は以上です。 ○酒巻分科会長 ただいまの説明について,この段階で御質問,あるいはほかに検討課題等があるのではないかといった御意見のある方は,挙手をお願いします。よろしいですか。   それでは,「若年者に対する新たな処分」の検討に関しまして,更に事務当局において本日配布の資料を作成してもらいましたので,まず,その資料について,御説明をお願いします。 ○羽柴幹事 若年者に対する新たな処分に関する資料として,配布資料25「平成28年に起訴猶予処分となった20歳及び21歳の被疑者の事件の概要」,配布資料26「平成28年に少年院を仮退院した者のうち,在院期間が140日以下であるもの」,配布資料27「平成28年及び平成29年に終局した一般保護事件で検察官関与決定があった事件」,配布資料28「被害者等通知制度実施要領」,配布資料29「不起訴事件記録の開示について」を配布しています。順に御説明します。   なお,配布資料25,26,27及びその資料説明のうち,具体的な事件にわたる部分などは,場合によっては対象者の特定につながる可能性があります。そのことに加えまして,配布資料25については,起訴猶予となる事案が明らかになることによって犯罪の予防,捜査等に支障を及ぼすおそれがありますので,このような公表に適さない内容については,資料を非公表とするとともに,該当部分は議事録に記載せず,非公表としていただきたいと存じます。   それでは,順に御説明します。   まず,配布資料25について説明いたします。   部会及び当分科会における本処分に関する意見交換では,検察官が起訴猶予とする事案には比較的重い罪名のものが含まれているのではないかとの御趣旨と思われる指摘があったことを踏まえ,被疑者が処分時20歳又は21歳であり,起訴猶予処分となった事件のうち,比較的重い罪名のものについて調査を実施しました。   まず,全国の検察庁において,平成28年に既済となった刑法犯の事件のうち,処分時の被疑者の年齢が20歳又は21歳で起訴猶予処分となった者は4,018件でした。このうち行為責任が重い可能性が高いものとして,執行を猶予することができる懲役又は禁錮の刑期の上限が3年であることを考慮し,減軽がなくとも刑の執行を猶予することができる限界である短期3年以上の懲役又は禁錮が法定刑として定められている罪名を抽出したところ,その件数は27件でした。なお,統計上,未遂や幇助も含まれています。資料25はその概要をまとめたものです。これらの事件についてグループに分類して,事案の概要を申し上げます。<ここで不起訴事件の概要について説明がなされた。> ○今福幹事 続きまして,配布資料26につきまして御説明をいたします。   当分科会第9回会議におきまして,平成28年に少年院を出院した,出院時18歳以上の者のうち,在院期間が133日以下であるものの9名について事例の説明を既にいたしました。今回お配りした資料26は,前回,すなわち第9回会議以降,委員から,より幅広く事例を検討すべきとの御指摘があったことなどを踏まえまして,少年院送致決定時18歳以上で,平成28年に少年院を仮退院した者のうち,在院期間が140日以下であるもの71名について,決定書等の記録を確認して作成したものでございます。今回は,少年院出院時ではなく少年院送致決定時に18歳以上であった者を抽出いたしましたので,当分科会第6回会議にて配布いたしました「統計資料2(出院者の在院期間関係)」とは若干人数が異なっております。なお,今回調査いたしました71名の対象者はいずれも男性ですけれども,意図的に抽出したものではございません。また,御覧いただいている,資料の1番から8番までの事例は,既に前回説明しておりますので,説明を割愛させていただきます。   資料26の71名の事案の重さは,軽微なものから重いものまで様々ございますけれども,ここでは罪名又は被害結果などが重い事例を中心に説明をいたします。まず,主たる非行名の法定刑が比較的重いもの,具体的には法定刑が短期1年以上のものは5件ございます。このうち番号1番の強姦は前回既に御説明いたしましたので,残りの事例について御説明いたします。11番の強盗,強盗未遂は,共犯者と共謀の上,深夜,徒歩で帰宅中の被害者3名に対して暴行,脅迫を加えて反抗を抑圧し,被害者2名から現金それぞれ5,000円及び8万円を強取し,残りの被害者については強取の目的を遂げなかった事例です。29番の非現住建造物等放火は,共犯者と共謀の上,火災保険金詐取目的で,建物に放火し,全焼させた事例です。33番の強姦致傷,逮捕監禁は,元交際相手に対し,車中で手足を緊縛して監禁し,姦淫しようとしたが,抵抗されて目的を遂げず,その際,加療約14日間の傷害を負わせた事例です。65番の強盗致傷は,共犯者と共謀の上,通行人に暴行を加えて財布等,これは現金3,500円等在中,時価500円相当のものですが,これを強取するとともに,その際の暴行により加療約6週間の傷害を負わせた事例です。   次に,非行名に含まれている刑法犯の罪名として多いものは,窃盗,傷害,詐欺,恐喝でした。このうち被害結果が重い事例等について御説明いたします。まず,非行名として窃盗が含まれている事例は26件でございまして,このうち被害額が大きいものについて御説明いたします。19番は,見ず知らずの被害者に因縁を付けて,車内に連れ込んで暴行した後に,窃盗の犯意を生じて現金約5万円を窃取した事例です。21番は,換金目的で集合住宅の物置に侵入して,バッグなど時価合計約23万円相当を窃取した事例です。26番は,約1か月半の間に複数回にわたって勤務先の店舗からスマートフォン合計24台,販売価格合計約230万円相当を転売目的で窃取した事例です。40番は,出張の際に宿泊していた施設において,同僚のバッグから現金約5万円を窃取した事例です。45番は,共犯者と共謀の上,二度にわたり駐車中のトラックに取り付けられていたバッテリー合計33個,時価合計約60万円相当を換金目的で窃取した事例です。52番は,共犯者と共謀の上,自己使用目的で,駐輪場に駐車中のバイク1台,時価約20万円相当を窃取した事例です。53番は,交際相手の家から現金1,700円及び財布など,時価合計約7万円相当を窃取した事例です。59番は,民家への侵入窃盗等5件で,被害額合計は約114万円の事例です。63番は,自己使用目的で軽自動車2台,時価合計約34万円相当を窃取した事例です。   次に,非行名として傷害が含まれている事例は10件ございまして,このうち傷害結果が大きいものについて御説明いたします。8番は前回既に御説明した事例ですので,詳細は割愛いたしますが,被害者に全治約1か月間を要する傷害を負わせた事例です。34番は,飲酒の上,路上でトラブルとなった被害者に対し,顔面を足蹴りする暴行を加え,加療約56日間を要する骨折等の傷害を負わせた事例です。44番は,共犯者と共謀の上,遊び仲間であった被害者に対し,制裁目的で熱湯を腹部に浴びせるなどして,加療約3週間を要する熱傷の傷害を負わせた事例です。   次に,非行名として詐欺が含まれている事例は10件ございます。このうち8件は振り込め詐欺等の特殊詐欺の事例でございました。それは,番号でいいますと3番,23番,27番,36番,38番,39番,41番,66番でした。残り2件につきまして御説明いたします。12番は,無銭飲食3件,被害額合計約2万円のほか,万引きや侵入などを複数回行い,被害額合計は約4万円の事例です。42番は,インターネットを利用したチケット販売詐欺で2万4,000円をだまし取った事例1件のほか,ユーフォーキャッチャーの景品,時価合計4,000円相当を転売目的で窃取した事例1件です。   次に,非行名として恐喝が含まれている事例は6件ございますが,このうち2番及び4番の事例は前回,既に御説明をいたしました。残りの4事例について御説明いたします。35番は,共犯者と共謀の上,少年の交際相手と遊んだと因縁を付け,被害者から約24万円を脅し取った事例です。37番は,友人を介して知り合った被害者に家電を販売した後,被害者が代金を支払わなかったことについての迷惑料などの名目で,現金合計45万円を脅し取った事例です。49番は,共犯者と共謀の上,地元の後輩である被害者に加療約2週間を要する傷害を負わせた後,現金を脅し取ろうとしたものの目的を遂げなかった,傷害,恐喝未遂の事例,及び,同じく地元の後輩である別の被害者に加療約1週間の傷害を負わせた事例です。55番は,共犯者と共謀の上,知人である被害者を呼び出して因縁を付けて7,000円を脅し取った事例1件と,同じ被害者から更に現金を脅し取ろうとするも目的を遂げなかった事例1件です。   資料26についての説明は以上でございます。 ○羽柴幹事 続きまして,資料27について御説明します。   これは,最高裁判所事務総局家庭局の御協力を得て審判書を閲覧するなどし,平成28年及び平成29年に検察官送致決定以外の処分により終局した一般保護事件について,検察官関与決定があったものについて調査した結果をまとめた表です。対象となった事件は64件であり,処分の内容,罪名ごとにまとめています。なお,「送致罪名」欄に括弧書きをしているのは,裁判所の認定罪名が異なる場合に,裁判所が認定した罪名です。また,「証人尋問」欄は,審判書上で判明した証人の人数であり,より多くの証人が出廷している可能性は否定できません。   「若年者に対する新たな処分」において,検察官関与制度の要否を検討するに当たっては,この処分が訴追を必要としない比較的軽微な事案を対象としていることを踏まえ,現行の検察官関与制度が比較的軽微な事案について用いられているのかを明らかにすることが有用と考えられます。これら64件のうち,終局処分が非行なしによる不処分,その他の不処分又は保護観察であった事件,具体的には,表の番号1から22までの事案の概要を紹介した上で,少年院送致となった事件についても,比較的軽微であると考えられる事案について紹介します。   まず,番号1から5までの「非行なしによる不処分」の事案ですが,番号1の送致事実は,口淫等をさせた事案,番号2の送致事実は,交際相手に加療約3か月の傷害を負わせた事案,番号3の送致事実は,職場の上司に加療約4日間の傷害を負わせた事案,番号4の送致事実は,娘に全治約3週間のやけどを負わせた事案,番号5の送致事実は,自転車盗の事案2件でした。   次に,番号6の「不処分」の事案ですが,番号6は駅のホームで女性の胸をつかむなどの暴行を加えた事案でした。   次に,番号7から22の「保護観察」の事案ですが,番号7は,原付の占有離脱物横領と強制わいせつの事案,番号8は,同一被害者に対する強制わいせつ,恐喝,強要,児童ポルノ製造の事案,番号9から12は強制わいせつ事案であり,番号9,12は2件分です。番号13は,通行人に対する暴行と準強制わいせつの事案,番号14は集団準強姦,準強制わいせつの事案,番号15は,ホテルの部屋での現金盗と,引き続きその被害者に対して暴行を加えた事案,番号16は,万引きによる窃盗と,引き続き警備員に対して加療約1週間の傷害を負わせた事案,番号17は,共謀し,鉄パイプで殴るなどして全治約3か月の傷害を負わせた事案,番号18は,共謀による万引きと,引き続き保安員に対して加療約1週間の傷害を負わせた事案,番号19は,知人に全治約4日間の傷害を負わせた事案,番号20は,店舗での強盗の事案,番号21は,オレオレ詐欺の受け子役を担った事案,番号22は,大麻約0.1グラム所持の事案でした。   続いて,終局処分が「少年院送致」の事案のうち,比較的軽微と思われるものとして,番号40は,物損事故の不申告と全治約2週間の傷害事案2件,番号61は,知人に対する恐喝未遂の事案,番号64は,普通自動二輪車の無免許運転と,大麻約0.8グラム所持の事案でした。   続きまして,資料28について説明します。検察における事件処理時における被害者等通知制度については,平成11年2月9日付法務省刑事局長依命通達に基づいて運用されており,その内容については法務省のホームページに掲載しています。その写しを配布資料28としてお配りしていますので,そちらを御覧ください。検察官による起訴・不起訴等の事件処理時における被害者等通知の件数は,平成28年に,目撃者等に対するものも含めて合計5万2,097件でした。   続いて,配布資料29について説明します。検察における不起訴事件記録の開示については,平成20年11月19日付法務省刑事局長依命通達に基づいて運用されており,その内容については法務省のホームページに掲載しています。その写しを配布資料29としてお配りしています。被害者等による不起訴事件記録の閲覧請求の件数は,平成27年には1万1,042件の閲覧請求があり,そのうち,請求に係る証拠の全ての閲覧を認めたのは1万731件,一部の閲覧を認めたのは284件でした。   また,この資料とは別のものでございますけれども,前回会議において山﨑委員から,検察実務において,勾留された被疑者が釈放されてから起訴猶予処分がなされるまでの期間についての御質問がありました。そのような統計資料は存在しないのですが,被疑者を勾留した後に釈放して起訴猶予処分とした事件について,検察官による事件受理から起訴猶予処分までの期間についての統計資料がございますので,参考までにこれを御紹介いたします。   平成28年に被疑者勾留事件について起訴猶予とした件数は,合計2万4,470件でした。そのうち受理から起訴猶予処分とするまでの期間ごとの件数は,15日以内が8,507件,15日を超えて1月以内が1万1,065件,1月を超えて2月以内が3,308件,同じく3月以内が897件,6月以内が602件,1年以内が86件,2年以内が5件でした。   資料の説明は以上です。 ○酒巻分科会長 ありがとうございました。御協力いただいた関係のところもありがとうございました。   それでは,ただいまの資料に関する説明について,何か御質問はございますか。御質問のある方は,挙手をお願いします。 ○川出委員 この後に検討することになる個別の項目の話に入ってしまうかもしれないのですが,取りあえず,資料についての質問をさせていただきたいと思います。御説明があったうち,資料25と26についてですが,こうした事例を検討する意味は,最初に少し御紹介がありましたように,これまで当分科会では,新たな処分の対象となるのは起訴猶予となった事件であるので,基本的に軽微なものであり,他方で,新たな処分が行為責任の範囲内で言い渡されるものであるとすると,施設収容処分を設けたとしても,処遇効果が上がるだけの期間を確保できる事例は考えにくいということで,おおむね意見の一致があったのに対して,部会において,起訴猶予になる事件も行為責任には幅があり,それなりに重い事件もあるので,処遇効果が上がるだけの収容期間を確保できる事例もあるのではないかとの意見がありましたので,実際にそのような事案があるのかを検討するということにあるのだと思います。そのような趣旨で,この資料も出されているのだろうと思います。   その上で,資料26を見ますと,これは,少年院の短期課程の標準期間が20週であることから,在院期間が140日以下のものをピックアップしてあるのだと思いますが,裏返していえば,これらは,短期間でも処遇効果が上がると評価された事案ということになろうかと思います。そうしますと,先ほどの観点から言えば,まず,仮に新たな処分として施設収容処分が導入されたとした場合に,これらの事案の中で,行為責任という観点から,ここに挙げられた期間の収容が可能といえるものがあるのかどうかが問題となります。もちろん少年院への収容と,新たな処分としての施設収容処分は同じではないのですが,ここでは,取りあえず両者を同様に考えるという前提です。そして,次に,仮にそのような事案があるとして,18歳及び19歳が成人として扱われ,それらの事案が刑事事件として処理されたとした場合に,起訴猶予となる可能性があるのかを検討するということになります。   このうち,最初の点については,現在の少年院の在院期間は行為責任に応じて決まっているわけではありませんし,新たな処分としての施設収容処分も存在しないものですので,この段階で行為責任に応じた収容期間を想定するのは難しいかもしれません。他方,2番目の,起訴猶予になる可能性があるかどうかということは,現在の運用に照らして,ある程度の予測はつくように思います。行為責任としてはそれなりに重いけれども,起訴猶予になる場合として考えられるのは,被害者の意思を尊重するというような場合かと思います。先ほど,罪名や被害結果などが重い事例を中心に説明していただいたのですが,その中で,示談がなされて被害者が宥恕しているといった事情が認められるものがあるのかどうか,もしお分かりでしたら,教えていただけませんでしょうか。 ○今福幹事 先ほど,重い事例について合計31件御説明いたしました。そのうち,今御指摘があったような,犯罪後に示談が成立したり,弁償等がなされたと承知しているものは13件ございます。その中でも比較的高い金額の被害弁償ですとか示談等がなされていると承知しているものについて,6件御紹介をしたいと思います。まず,この表の番号4番の傷害,恐喝の事案では,被害者2名に対して共犯者と合わせて合計65万円を弁償したものと承知しております。番号11番は,対象者が自分の給料から3人の被害者に合計20万円を弁償したものと承知しております。21番は,対象者の実母が被害者に約22万円を弁償したものと承知しております。37番は,母親の交際している男性が被害者に対して60万円を支払って示談が成立したものと承知しております。45番は,共犯者間で分担をし,余罪分も合わせて全額の被害弁償をしたものと承知しており,その中で少年の負担分は45万円で,全額母親が弁償したものと承知しております。また,49番は,被害者2名に合計30万円を支払ったものと承知しております。 ○川出委員 ありがとうございました。そうしますと,今挙げていただいたような事案について,仮に,それが刑事事件として扱われることになった場合に起訴猶予になるのかどうかを検討する必要があるということになろうかと思います。   それから,資料25で挙がっている事例については,現在は起訴猶予になって,それで手続は終了しているわけですが,仮に,この事件を18歳及び19歳の者が行ったとしたら,起訴猶予になった後,新たな処分の手続に回ることになります。そうしますと,先ほど申し上げた観点からは,これらの事件が仮に起訴されていたとしたら,実刑になり得るものなのかということが問題となるわけですが,その点はいかがでしょうか。 ○加藤幹事 資料の説明は事務当局の方からしていただく方がよいのですが,川出委員の御質問の問題意識に対して,検察官としての感覚で申し上げますと,最初におっしゃっていただいた資料26に載っているもののうち,これは起訴猶予になり得るのか,あるいは,資料25の起訴猶予事案のうち,起訴したらそれはどうなるのかということの予測はいずれも本当に困難だというしかないのだと思います。つまり,起訴した後,どういう立証がなされて,どういう量刑がなされるのかというのは,起訴時点の証拠関係でそれを予測するということは通常はできませんし,それから,少年院に入っている事案についても,では,それが刑事事件であれば起訴猶予であったかどうかというのは,その当時のその立場に立ってみないと判断ができませんので,そういった予測というのはいずれも困難なのではないかと思います。   したがって,見方としては,やはり現に起訴猶予になっている事案,資料25の起訴猶予になっている事案が主としていかなる理由で起訴猶予になっているのか,あるいは,少年院送致となっている事案の中にはどの程度の重さの事案があるのかという方向での,要するに,結果が分かっているものについて類型化をするとか検討をするという方向での評価しか基本的にはできないのではないかと思います。そこは,事務当局と考えを共通にしているというよりは,私の感覚です。 ○川出委員 いずれも予測の問題なので判断は難しいというのは分かるのですが,分科会として,部会で出された意見に対する回答を求められていますので,想定されているような事例はほとんどないとか,そうではなく,一定数はあり得るといったことを,こうした事例を元に示す必要があるのではないかと思います。現段階で,はっきりしたことが言えないということであれば,なお検討課題として残されているということを確認しておく必要があると思います。 ○加藤幹事 おっしゃるとおりだと思います。今の点を検討するための検討資料ですが,今出ている資料から見ても一定のものの見方は可能なのではないかと,ここは少し後ほど,意見交換のときにまた申し上げたいと思います。 ○山﨑委員 先ほど示談の関係で,支払われた金額をおっしゃっていただいたのですけれども,全体の被害額のうちの,それがどのぐらいの割合かということも重要かと思うのですが,そこまでは分からないということになるでしょうか。今でなくても結構なのですけれども,検討する視点がやはり重要なのではないかと思いますので,全体の被害額のうち一部だけは弁償したけれども,示談,和解には至らず一部弁償でとどまっている事案と,全部弁償したので和解,示談が成立したということによっても評価は異なるのではないかと思います。 ○今福幹事 山﨑委員から御質問いただきました被害額における弁償額の割合について承知している範囲でお答えします。先ほど御紹介いたしました6つの事例のうち,21番と45番は被害額にほぼ近い弁償がなされていると承知しております。次に,被害額以上に弁償を行っている事例として承知しているものは,4番,11番,37番です。まず4番の傷害,恐喝については,被害総額36万円に対し,弁償額は共犯者と合わせて65万円であったと承知しております。11番の強盗,強盗未遂については,被害額合計8万5,000円に対し,弁償額は合計20万円であったと承知しております。37番の恐喝については,被害額45万円に対し,弁償額は60万であったと承知しております。最後に,金銭被害がない事案で弁償したと承知している事例は,49番の傷害,恐喝未遂です。 ○酒巻分科会長 ほかに,資料説明に関しての御質問はありますか。   それでは,配布資料24に沿って「若年者に対する新たな処分について」の詰めの検討を行いたいと思います。これにつきましては,部会に報告する制度概要案の作成に向けて,検討課題に記載のある項目について引き続き検討する必要があると思われるところですし,また,枠の方も「A案」と「B案」とが併記されているものがあります。本日の進行としては,まず検討課題の方についての意見交換を行うこととし,その後,枠内の項目についても意見交換を行いたいと思います。このような進行順序でよろしいでしょうか。               (一同異議なし) ○山﨑委員 今の点に関連するので,先に申し上げた方がいいかと思うのですが,それぞれの論点を検討するに当たって,確認した方がよいかなと思っているのは,枠内の「対象者」の記載で,「訴追を必要としないため公訴を提起しないこととされたもの」とされているわけですけれども,これは公訴提起をしないという処分,要するに,不起訴処分がされたものという記載になっていない点についてはどのように理解したらよいか,これは各論点の考え方によってそこが変わってくるからというような理解なのか,その辺りを御説明いただければと思います。 ○保坂幹事 配布資料24の検討課題として,6ページの「2」の「手続」の「(4)その他」というのがあります。こちらに「手続の開始」というのが検討課題になっていて,前に送致と通告とはどういう違いがあるのかということの御発言があったかと思います。それとの関連もあって,検察官が起訴猶予処分という処分をするという考え方もありましょうし,今の少年法では処分はしないで家裁に送致するという処分をするということになっています。その点をどうするかで結論を左右するというより,テクニカルな課題があるので,対象者については,検察官が公訴提起はしないという判断をしたというところで意見が一致はあったと思われますので,その趣旨で記載しております。 ○酒巻分科会長 よろしいですか。   それでは,先ほど申しました進行の順序で検討していくということでよろしいでしょうか。まず検討課題の「1 対象者」について検討を行います。対象者について御発言のある方は,挙手をお願いいたします。 ○加藤幹事 「対象者」の議論のうち二つ目の「○」の「対象としないこととする事件の有無・内容」というのが新たに検討課題に加わっていると思われます。この課題は,実務的には確かにあり得る話で,特に,例として挙げられている起訴済み事件の余罪事件などをどのように扱うかが問題となるものだと思われます。具体的にイメージしますと,多数の同種事件が同じ被疑者について送致されているというときに,起訴済みの事件だけでそれなりに量刑が確保できるという見通しが立っているような場合に,あとはいわゆる訴訟経済上の考慮ですとか,場合によっては被害者の負担なども考慮して,残りの事件を起訴猶予にするということはあり得ることだと思われます。   ところが,今検討している新たな処分というのは,そもそも少年法の適用年齢が引き下げられて,起訴猶予と判断されたために何らの処遇も受けられなくなる者に対する処遇をどうするかという議論ですので,今のように刑事処分を受ける者を対象者とするということは念頭に置かれていなかったのではないかと思われます。すなわち,公判係属中の者の余罪が起訴猶予とされた場合には,刑事処分がなされていない者について働き掛けやその処遇の機会を設けようという本処分の制度趣旨が当てはまるのかどうか,若干疑問ではないかということも言えるわけです。   そうしますと,起訴済み余罪事件について本処分の対象とはせずに,家庭裁判所における手続にも乗せないということも考えられるわけですが,考え方としてはそうであっても,一方,そういう事件をうまく切り取れるかどうかということが,また別の問題として生じるようにも思われます。また,その他にも,今のと同様に,手続に乗せないことが相当である事件という場合が考えられるかどうかというのは,少し実務的な観点も踏まえて検討する必要があるかと思います。 ○酒巻分科会長 対象者関係ですけれども,前回の会議のときに,部会第4回会議で配布された配布資料13の概要の説明を踏まえて,微罪処分相当のものをあえて検察官に送って,今検討しているこの処分を行う必要性があるのかどうかについては,やはり検討する必要があるといった御意見がありました。これに関しては現在,微罪処分とされているものが,警察においてどのように扱われているのかという点も踏まえて検討すべきだという御意見もあったところです。この点に関しまして,警察における微罪処分関係の実情を滝澤幹事から御説明をお願いします。 ○滝澤幹事 前回の分科会は欠席となり,失礼いたしました。微罪処分の運用状況の統計については,前回も事務当局から御紹介があったと伺っております。検挙人員のうち毎年3割から4割程度が微罪処分として措置をされています。また,少年のうち簡易送致をされる人員というのもおおむね同じような割合となっています。   微罪処分の対象ですけれども,犯罪事実が極めて軽微であり,かつ検察官から送致の手続をとる必要がないとあらかじめ指定されたものに限定されています。具体的には,各地の検事正による刑事訴訟法第193条第1項に基づく一般的指示に従って運用をしています。また,微罪処分を行うに際しましては,犯罪捜査規範に基づきまして,被疑者に対して警察官の方から厳重に訓戒を加えて将来を戒めるなどの一定の措置を行っているところです。なお,簡易送致につきましても同様の訓戒を行うなどの措置を実施しているところです。 ○酒巻分科会長 ありがとうございました。   ほかに,「対象者」について,御意見はございますか。   よろしいですか。   それでは,検討課題の「2 手続」について検討を行います。どの点からでも構いませんので,どの点かを明示していただいて御発言いただければと思いますが,いかがでしょうか。 ○池田幹事 「(1)施設収容する鑑別」の判断に対する不服申立ての在り方について申し上げます。   裁判所が鑑別のために少年鑑別所に収容するという旨の決定をしたことに対する不服申立制度の在り方としては,二つの方向が考えられまして,一つは家庭裁判所のほかの裁判体に対する異議申立てという方式,もう一つは,高等裁判所に対する抗告という方式が考えられるところです。   現在の少年法における家庭裁判所の観護措置決定に対する不服申立ては,異議の申立てとされておりまして,その趣旨は,可塑性のある少年事件では取り分け早期の処理,早期の保護が要請される,また,少年に対する後見的機能や福祉的機能を有する専門機関として位置付けられている家庭裁判所で判断することが適当である,との理解に基づくものとされています。また,制度は異なりますけれども,医療観察法における裁判所による鑑定入院決定等に対する不服申立ても,地方裁判所に対する異議の申立てとされています。その趣旨は,迅速な審査を可能にする,あるいは対象者の出頭の便宜を図ることにあるとされています。   これらを参考に,本処分について考えてみますと,鑑別のために少年鑑別所に収容するという決定に対する不服申立てを処理するに当たっては,対象者に対する処遇を早期に決める必要があることや,収容期間について,これまでの議論でもおおむね10日間とするという方向で検討が進められていることからしますと,早期処理が要請されるという点は同様に妥当するものと考えられますし,収容して行う鑑別の要否という専門的な判断にふさわしいのは,対象者に対する調査を行う家庭裁判所であると考えられます。   このように考えますと,少年鑑別所に収容する旨の決定に対する不服申立ての方式としては,少年法と同様に,家庭裁判所の他の裁判体に異議を申し立てる方式にすることが適切ではないかと考えます。 ○酒巻分科会長 ただいまは手続の「(1)不服申立て」についての御意見でしたけれども,それ以外の部分,次の「(2)罪証隠滅又は逃亡の防止を目的とした身体拘束の措置」について,あるいは,「(3)」「(4)」という部分でも結構ですが,何か御意見がありましたらお願いします。 ○加藤幹事 「(3)」の検察官の関与なのですが,前回もこれは悩ましいのではないかと申し上げたところです。資料27が説明されまして,平成28年,平成29年に終局した事件で検察官関与事件が64件あったという資料でした。これは検察官送致決定により終局したものが除かれていますが,検察官送致,逆送により終局したものも含めるとどのくらいの数になるのかについては,澤村幹事,お分かりでしょうか。 ○澤村幹事 御説明いたします。平成28年及び平成29年に終局しました一般保護事件で,検察官関与決定がありました事件は,検察官送致決定により終局したものも含めますと,平成28年が29件,平成29年が41件となっております。   これに関連してなのですが,二つほど申し上げたいと思います。先ほど,資料27についての御説明のところで御紹介がありましたとおり,検察官関与決定がされる事案は必ずしも多くはないものではありますけれども,その非行事実はバラエティーに富んでおります。起訴猶予となる事案がどのようなものであるかについての認識を共通にする必要があるということは以前,申し上げましたけれども,これらの事案に起訴猶予となり得るものが含まれるか,新たな処分の下において検察官関与の制度が必要か否かを決めるに当たっては,その点についての検討がやはり重要ではないかと考えているところです。   また,新たな処分の下においても,対象者が事実を争う事案というものは想定されるところです。そのような事案では,裁判所の判断の基礎となる資料が十分とはいえない場合も考えられるところです。そうしますと,裁判所がそのような事案で事実の存否を適切に判断するには,検察官による立証活動が非常に有用であると思われるところですので,その点も考慮いただければと思います。 ○加藤幹事 ありがとうございます。澤村幹事の御意見は,検察官関与の必要性がある得る事案があるのではないかという御趣旨と承りました。一方で,平成28年が29件というお話でしたが,平成28年の一般保護事件の総数が6万4,000件ぐらいだと伺っていますので,検察官関与決定というのは極めて限られた場合に行われている運用だと思われます。   先ほどの資料27に関する事務当局の説明も,検察官関与決定がなされた事案のうち少年院送致となった事案というのは,それなりに行為責任の上では重い事案のようであり,先ほど申し上げたように,処分というのは予測が難しいのですが,事案の内容だけを見ると,起訴猶予処分相当なものが余り含まれていないのではないかと思われます。   また,保護観察あるいは不処分と判断された事案というのは,平成28年と29年合わせて16件程度で,それ自体は行為責任が重いとはいえないのに検察官関与決定が必要とされる事案というのがあるのかどうかというのは検討の必要があるのではないかと思われます。その上で,先ほどの事務当局の御説明によると,そのような保護観察あるいは不処分とされた16件のうち,成人となった18歳,19歳の被疑者がこれらの犯行を行った場合,起訴猶予となる可能性があるかどうかと,これは正に可能性の問題でありますが,あるかどうかという観点で考えてみると,例えば大麻0.1グラムの所持といったような事案ですとか,自転車盗2件というのがありましたが,そういったものについては一般的には起訴猶予相当事案ではないかと思われます。こういったものにも検察官関与が必要となる場面があるか,ないかということが問題なのだろうと思われるところです。   現在の実務上,検察官が起訴猶予とするような軽微事案について検察官関与決定がなされる場面が限定的であるとすると,新しい制度について検察官関与制度を設ける必要があるかどうかという点については,そういった観点からの慎重な検討も必要ではないかと思われます。もちろん,今,裁判所から,必要な場合もあるのではないかという御示唆もありましたので,その辺も含めてもう少し検討する必要があるのではないかと思います。 ○酒巻分科会長 検察官関与の要否について,お二人から御議論の必要を提示されましたけれども,この点そのものについて,ほかに御意見はございますか。 ○山﨑委員 今の検察官関与とも関係するのですけれども,他の論点も含めて,先ほど少し申し上げた,手続の開始の仕方に関わる問題意識があります。検察官が不起訴の処分をした後での手続としてこの新たな処分を考えるのか,そうではないのかによって,例えば対象者の法的な地位を考えても,被疑者としての地位と審判の対象者としての地位が併存するというようなことを考えなければいけないか,といった点ですとか,あるいは事件記録がどこにあり,どの程度のものが家庭裁判所に提出されるのか,といったような点など,いろいろな問題がそこに絡んでくるようにも思われます。   検察官関与制度が必要な場合,先ほど澤村幹事から御発言がありましたけれども,多くは,例えば検察官の調べで否認している事件であれば,それを前提として起訴猶予として処分が下されれば,その後なお裁判所の判断で検察官関与が必要というケースがどれぐらいあるのか。場合によっては,家裁に行ってから否認に転じるというようなケースもあり得るとは思いますけれども,その時点までに集積された客観証拠によって,検察官関与の必要性が本当にあるというような事案がどの程度あるのかといったことにも関わってくるだろうと思われますので,やはり手続の開始時点において検察官が不起訴処分として終局処分をされた上で始まるのかどうかというのは,かなり重要な点ではないかと思っています。   その前提で,先ほど,送致か通告かという,前回の分科会でも出ましたが,例えば医療観察法などは不起訴処分が下った後の申立てというような仕組みになっているようですので,どういった考え方があり得るのかも含めて整理をする必要があるかなと感じております。 ○酒巻分科会長 ただいまの手続開始に関する点について,ほかに御意見はございますか。   よろしいですか。   それでは,次の「3 処分」の,まず「(1)の施設収容処分」について検討を行いたいと思います。いずれの点からでも構いませんので,どの点かを明示していただいた上で御発言いただければと思います。 ○加藤幹事 私からは,施設収容処分のうちの一番上,その必要性の関係で,今日配布された資料を参照しつつ,意見を申し上げたいと思います。   まず,資料25の起訴猶予になった者との関係ですけれども,ここに27件,事件が紹介されています。先ほどから申し上げておりますように,事件の処分が仮定的にどういう処分になっていたかということを論ずることは非常に難しいのでありますが,今御紹介を受けた事案の概要だけから正に一概に申し上げることはできないとしても,事務当局の御説明の範囲の情報だけで考えるとすると,まず,1から27で御紹介のあった事件のうち,仮に起訴されていたとしても実刑になるような事案というのは,含まれていないか,あるいは,あったとしても僅かなのではないかと思われるという印象です。   <ここで不起訴事件の概要を前提とした意見が述べられた。>   さらに,先ほど申し上げたとおり,別件の事件で起訴済みの被疑者というのが相当程度含まれているわけですが,余罪事件のようなものを本処分の対象とするのかどうかということ自体が一つ,検討の対象になるのではないかと思われ,別件起訴済みの事件の被疑者を念頭に施設収容処分を設ける必要があるかどうかも検討の対象になると思います。   さらに,被害者の意向等を考慮して起訴猶予となるという事案<ここで不起訴事件の概要を前提とした説明がなされた。>を本処分において施設収容処分の対象とすることが一般的に適当かという観点で考えますと,余り適当とは言い難いのではないかと考えられます。   そういたしますと,御紹介のあった範囲内ではありますが,起訴猶予処分となっているものの中に施設収容処分が正当化される程度にその責任が大きいというものがいる場合に備えて,この制度に施設収容処分を設けることの必要性,相当性が検討課題になると考えられると思います。そして,そのような場合に備えて収容して処遇をするための組織,施設,人員といったものを用意しておくということが現実的なのかということが問題になるのではないかと考えたところです。   もう一つの資料であります資料26ですが,少年院を仮退院した者に関するデータです。これまた,先ほど川出委員から御指摘がありましたが,これがもし成人の事案であったと想定してどのようなことになるのかというのも,これも仮定の事案でありますので,確定的にこういう処分になったであろうということを申し上げるのは難しいといえます。その上で,前回言及した大麻の事案がありましたけれども,今回は6番で,前回の9件の中にあった大麻とこれが多分,同じ事件だと思われますが,これは別として,本日御紹介のあった範囲では,御説明のあった範囲以外の様々な事情によりけりではありますけれども,事案が軽微であって,起訴猶予となると直ちに言えそうなものは余り含まれていないのではないかと思われます。   もっとも,例えば財産犯の中で,被害金額が必ずしも大きくなくて,被害弁償して示談しているというような場合であれば,それは起訴猶予となるということもあり得るわけですが,仮に起訴猶予と判断されるものがあったとしても,前回紹介分に含まれていなかった資料26の9番以降の事例,つまり,134日より長い期間を要している事例については,施設内処遇による処遇効果が上がったと判断されるまでの期間が134日以上の期間を要しているというものですし,いずれにしても1番の一番短いものでも76日以上の期間を要しているということですので,起訴猶予と判断されたようなものに対して,そういう期間,施設収容するということは,過剰な制約に当たり得るのではないかとも考えられるところだと思っています。 ○川出委員 やや細かい話になりますが,施設収容処分の相当性に関して,行為責任に対応して施設収容処分が正当化されるかということを考える場合に,仮に起訴されていたら実刑になるという場合が想定されていますが,厳密にいえば,現在の量刑実務においては,行為責任としては実刑も執行猶予もあり得るけれども,特別予防の観点等を考慮して執行猶予になるという事案もあるとされていますので,施設収容処分に対応する行為責任というのは,その意味で,起訴されたら実刑になり得るという場合も含まれることになるだろうと思います。   それから,広い意味での施設収容処分の相当性に関わることについて確認しておきたいのですが,以前の分科会で,新たな処分として施設収容処分を導入するとした場合,裁判所としては,全く蓄積のない中で,行為責任の観点から施設収容処分が認められるか否かを判断し,さらにその期間を定めることが求められるので,非常に難しい判断を迫られるのではないかという点が問題になっていました。これは実務の運用上の問題ではあるのですが,施設収容処分の導入の当否を考えるに当たっては,やはり配慮すべき重要な点だと思いますので,もし可能であれば,裁判所としてその点をどのようにお考えになっているのかをお聴かせいただけませんでしょうか。 ○澤村幹事 今,川出委員からの御指摘がありましたとおり,現在の少年事件の手続におきましては,裁判所はその要保護性に応じた処分を決めるに当たりまして,行為責任の観点のみから処分の可否を判断するというようなことはしておりません。ただ,非行事実の軽重を評価した上で,これを一つの考慮要素とはしているところです。したがいまして,行為責任の観点から収容処分の当否を判断するというような制度が設けられるということになるのであれば,裁判所としては必要な判断はしていくということになるのではないかと考えられるところです。   先ほど加藤幹事の方から,資料25を前提に,施設収容処分が正当化される程度に行為責任が大きいといえるものはないという御説明がありましたが,今回,資料として,法定刑が短期3年以上の罪名の事件に限って抽出をされた理由がもし何かおありでしたら,事務当局に御説明いただければと思います。 ○羽柴幹事 概括的なお答えになろうかと思いますけれども,起訴猶予処分となったものの中に比較的重い罪名のものが含まれているのではないかという問題関心が根底にあって,従前,御発言があったと理解をしていたところです。それに対応して考えるに際しまして,比較的重い罪名ということを考えたときに,法定刑が短期3年以上のものというのが,罪名としては比較的重くて行為責任が重いものが含まれている可能性が高いものと考えられるのではないかと考えたところです。執行を猶予することができる刑期の上限が3年であるということも考慮しまして,減軽がなくとも刑の執行を猶予することができる限界であるところの3年が法定刑の短期であるという罪名を抽出したというのが抽出した経緯です。 ○酒巻分科会長 ほかに,今までのところで御意見はございますか。   この程度でよろしければ,引き続きまして,今度は「(2)保護観察処分」についての検討をしたいと思いますが,どの点からでも結構ですので,どの点かを明示の上,御意見を頂ければと思います。 ○加藤幹事 最初の「○」の「本処分における保護観察の在り方」について申し上げます。本処分による保護観察も,現在の保護観察と同様の性格を持つもの,すなわち,裁判所の判断を経た上で,対象者に一定の義務付けを行い,その自由を制約するものであるとしますと,対象者の改善更正の実を上げ得る実効性のあるものでなければ正当化されないであろうということは共通理解だと思います。   そのような実効性を確保するためには,対象者に対する適切な心理的強制力を働かせる必要があるところ,重大な遵守事項違反があった場合等に何らの措置もとることができないものだとすると,かかる実効性を確保することができるかどうかについて疑問が生じてしまうことから,そうした場合にとり得る措置の有無,内容については検討しておく必要があります。   そうした措置が従前の保護観察におけるのと同様のものである必要は必ずしもないわけですが,一方で,指導監督に服するかどうかが対象者の任意に委ねられているようなものでは実効性の確保がされているとは言い難いわけですし,そのようなものについて裁判所の判断を経るという意味も乏しいと考えられることから,この制度にふさわしい仕組みをその点でも考えておく必要があると考えられます。   今直ちに具体的な御提案ができる状態ではありませんが,その点は十分に考慮する必要があるのではないかという意見です。 ○山﨑委員 今の御発言とも関連するのですが,今回のペーパーですと,「保護観察の処遇の見直しのための収容鑑別」という項目がありますが,前回の分科会までは,同じ施設,少年鑑別所に収容しての調査を行うことについては,遵守事項に違反した場合にとり得る措置という形で位置付けられていたものと思うのです。今回はそれと異なりこういう形で書かれたというのは,何か理由があるのでしょうか。 ○羽柴幹事 検討課題の記載の仕方としまして,御指摘のとおり,従前,遵守事項に違反した場合にとり得る措置の部分に収容鑑別というものも書いてありました。   これまでの御議論を踏まえ,その議論状況を踏まえた整理として,どのような検討課題の記述の仕方が適切かということを考えましたときに,もちろん対象者に問題性があることから収容鑑別の必要性が出てくるわけですので,前回,前々回も,状態としては遵守事項違反があるという場面を前提として事務当局の方から説明させていただいたところですが,その必要性について,遵守事項違反があるから収容鑑別をしようという説明でも直ちにはなかったのではないかと考えられまして,その必要性については,やはり保護観察の処遇の見直しのために必要な収容鑑別を行うという捉え方での御議論があったと考えましたので,このような位置付けで検討課題を記載させていただいたところです。 ○山﨑委員 この点は,制度の概要の方の要件にも当然絡む問題だとは思うのですけれども,遵守事項違反が必ずしもなくてもできるというような立て付けにしてよいのかどうかというところは問題になり得るように感じています。   少し先回りしてしまいますけれども,制度の概要でいいますと,見直しのための措置として設ける場合の「イ」の「(イ)」の「A案」ですと,「処遇を見直す場合において,鑑別のために特に必要があると認めるとき」という要件が遵守事項違反というものとどういう関係に立つかといった辺りを整理しないといけないのではないかと思っています。 ○羽柴幹事 枠の中の記載の仕方としましては,正に「保護観察の処遇を見直す場合において,鑑別のために特に必要があると認めるとき」という設定をしています。遵守事項違反がなく何ら問題がないけれども,「鑑別のために特に必要があると認めるとき」ということが認められるのかどうかということには少し疑問を感じます。この要件が判断される中において,御指摘の点は含まれるのではないかと想像していたところですけれども,改めて整理について検討させていただきたいと思います。 ○保坂幹事 山﨑委員は,「特に必要」という要件ではなくて,それとは別建てというか,「遵守事項に違反した」という要件を別に付け加えるべきではないかという御意見ということでしょうか。 ○山﨑委員 仮に収容鑑別を認めた上で,かつ,見直しのためなり,不良措置としてそれを使うという前提にも立った上でということであれば,やはり遵守事項違反ということの存在はないといけないのではないか。家庭裁判所の許可が入る前提であるとはいえ,保護観察所の長が判断して行う措置ですので,特に必要があるという要件だけでなく,そこは明確に遵守事項違反があるということを前提にした方がよいのではないか考えています。   それと関連して,前回申し上げたのですけれども,回数の制限を設ける必要はないのかどうか,余り想定はされないと思うのですが,例えば1年,2年という保護観察の期間中に,本人の状態が悪いから処遇を見直したいという機会が,仮に3回,4回とあったような場合に,収容鑑別が何回も認められてしまうのか,という問題もまだ残るのではないかと思っています。 ○川出委員 その次の,遵守事項に違反した場合の施設収容処分についてですが,この点については,以前の分科会において,この場合の施設収容処分には,行為責任の枠内という縛りがかかるため,審判時に選択し得る処分として施設収容処分を設ける場合と同様の問題があるということを申し上げました。今回は,手続の在り方として検討すべき課題について申し上げたいと思います。   こうした制度を作る場合の仕組みとして,まず考えられるのは,以前に申し上げましたように,新たな処分として保護観察が開始され,遵守事項違反があった場合に,家庭裁判所が処分の事後的な変更という形で施設収容処分を科すというものです。このような枠組みにした場合には,そのためにどのような手続を設けるべきなのかということが問題となります。新たな処分は刑罰ではないので,憲法第39条の二重の危険の禁止は問題にならないとしても,この段階でもう一回審判をやり直すというような形になりますと,対象者に対して過度な手続的負担を科すことにならないかということが問題となるだろうと思います。   それから,同じような効果を生じさせる仕組みとしては,当初の審判で保護観察処分に付す際に,遵守事項違反があった場合の施設収容処分及び期間を併せて定めておき,遵守事項違反があった場合には,あらかじめ定められた期間,施設に収容するという仕組みも考えられるかと思います。これは,実質としては,施設収容処分の保護観察付き執行猶予のようなイメージになろうかと思います。このような仕組みにした場合は,先ほどの事後的変更の場合のような問題は生じませんが,実質的に,新たな処分として,保護観察と施設収容処分に加えて,施設収容処分の保護観察付き執行猶予という三つの処分を認めることになります。そうすると,そのうちのどれを選択して,保護観察以外の場合はその期間をどうするかということを,裁判所が行為責任の枠内で決めることが求められることになります。   先ほど,施設収容処分については,そのような制度ができれば,裁判所としてはそれに沿った判断をしていくというお答えがありましたけれども,この場合には,もう一つ別の選択肢が加わることになりますので,裁判所としては一層難しい判断が求められることになるという問題もあるかと思います。 ○加藤幹事 最後の「○」の「遵守事項に違反した場合にとり得るその他の措置」に関してです。以前の分科会で,遵守事項違反があった場合について,施設収容処分によって処遇することはできないまでも,特別遵守事項を変更ないし追加して,例えば一定の施設に一定の期間宿泊して指導監督を受けることを義務付けるといったようなものはどうかという御発言がありました。これについて,更生保護施設への宿泊義務付けについては,その際も御指摘があったとおり,遵守事項違反があった場合に,例えば,その問題性が対象者や環境の交友関係等に起因していて,その環境等から対象者を切り離した上で濃密な処遇を行うことを可能とする点で,取り分け特別遵守事項の追加変更が検討される場面で有効なものなのではないかと思われます。   ただ,他方で,これも既に御指摘がありましたが,更生保護施設への宿泊義務付けによって対応するとした場合に,対象者がその義務に反して更生保護施設から出奔したといったような場合にとり得る措置がないとすると,その実行性が確保できるかという点があります。   また,遵守事項に違反した場合に更にとり得る措置がない中で,問題性の大きい者を受け入れることになると,民間法人が運営している更生保護施設の体制等の現状を踏まえると,その現実的な受入れが可能かどうかについて慎重に見極めるという必要も一方であろうかと思います。 ○酒巻分科会長 保護観察処分について,この程度でよろしいでしょうか。もしよろしければ,その他についての検討を行いたいのですが,これについても何か御意見がございましたらお願いします。   よろしいですか。   それでは,次に「4 犯罪被害者等の権利利益の保護のための制度」についての検討に移りたいと思いますが,これもどれでも構いませんけれども,どの点かを明示して御発言いただければと思います。 ○加藤幹事 犯罪被害者関係で問題になっているのは,一つ目の「○」の「審判の傍聴の制度を設けるか」についてが割と大きな問題ではないかと思います。前回,対象事件が重大殺傷事件に限定されていることなどから,必要性について検討すべきだと申し上げました。これを導入することが相当でない旨の御意見もあったところです。この制度を設ける必要性について更に検討するためには,現在の少年法の下でどのような非行事件で用いられているのか,どのような年齢の少年なのかといった点の情報について確認しておけば有益ではないかと思いますが,これは関連情報はありますか。 ○澤村幹事 最高裁判所で把握している範囲でお答えさせていただきます。平成25年から平成29年までの間に終局した被害者傍聴が実施された事件は合計235件です。そのうち非行事実として最も多いのは過失運転致死傷で,全体の約半数であります105件を占めております。これに関連しまして,危険運転致死傷でも被害者傍聴が比較的多く実施されておりまして,その件数は22件となっております。その他の比較的実施の多い非行事実としては,傷害致死の46件,殺人の20件といったものがあります。   年齢については,公表資料としては持ち合わせておりませんが,被害者傍聴が実施された事件における終局時の少年の年齢の多くが18歳又は19歳であると承知しております。 ○酒巻分科会長 自動車事故による致死傷ですけれども,さらに,死亡した事例の方が多いのかどうかは分りますか。 ○澤村幹事 申し訳ありません,そこまで今,手元にございません。 ○酒巻分科会長 どうもありがとうございました。 ○加藤幹事 今のデータも踏まえて検討すべきだと思いますが,お聞きした感想としては,自動車運転過失致死傷の事件が多く,18歳及び19歳が多いという感じです。当然,免許を持っているのは18歳以上の人が多いということや,18歳及び19歳の方が心情的に安定しているといったことも影響しているのではないかと推察されますので,その辺りの事情も踏まえて更に検討を行うべきだと思います。 ○山﨑委員 実際に,例えば交通関係の事件で,どういう場合が不起訴になって,果たしてこの新しい処分として傍聴対象になるという事例が想定されるのかという辺りは,どういった事件があり得るということでしょうか。分かる範囲でお願いします。 ○加藤幹事 どういった事件があり得るかという趣旨なのですが,もちろん一般的には,交通事故であれば,結果として,被害者のけがが軽い事案が考えられます。 ○山﨑委員 審判傍聴の対象事件を考えますと,被害者が亡くなっているか,あるいは傷害の場合であれば生命に重大な危険があったという,いわゆる生命重大危険の要件がありますので,その対象となり得るような事件で,起訴猶予になるものが果たしてあるのだろうかという辺りはいかがでしょうか。 ○加藤幹事 その点は前回も問題提起したところですが,相対的に比較的けがの軽い事件が多かろうと思われますので,この審判対象の罪名に当たるもので,こちらの新たな処分の対象となるものがどの程度想定できるか,どんなものが想定できるかというのは,もう少し頭をひねってみないと想定がしづらいとは思っています。 ○山﨑委員 結果の軽い事件でも,生命重大危険が生じたという事例ですと,かなり例外的な事案になるかなというのが感想ですが,それと,もう一つ検討する上で考えておいた方がいいと私が実務上思っていることがあります。傍聴が認められた事件では,関係者が同じ狭い審判廷に同席して手続が進む関係もあり実施に当たってはかなり慎重な配慮が家庭裁判所においてなされていると感じております。審判が始まるまでも,審判廷に行くまでの加害者側,被害者側の動きをどのようにすれば裁判所庁舎内で鉢合わせすることを防げるかとか,かなり多数の職員が配置されて,慎重な配慮がされていると思われます。そういった,家庭裁判所側の負担と言っていいのかどうか分かりませんけれども,実務上の慎重な配慮が必要な制度,そういう意味ではかなり重い制度といいますか,そういうものであるということも考慮した方がいいと考えております。また,審判傍聴の対象事件になりますと,弁護人付添人がいないケースでは国選付添人の必要的対象事件になるということも含めて,慎重に検討する必要があると思っています。 ○酒巻分科会長 今は傍聴の観点ですけれども,もう一つの「○」の,損害賠償命令制度を設けるかという検討課題につきましては,前回,この制度の趣旨を考えた場合の理論的な観点から,これは特に相当性がないという観点から,損害賠償命令そのものについて慎重な御意見がありました。これに対して,損害賠償命令制度を積極的に設けるべきであるという御意見はありますでしょうか。   特にございませんでしょうか。   それでは,次の「5 家庭裁判所への移送」についての検討を行いたいと思います。これまで,起訴された事件について,刑事裁判所から本処分を行う家庭裁判所への移送制度について,その可能性について議論がされてきたところですけれども,実際に刑事裁判を行う立場である裁判所はこのような制度についてどのように受け止められておられるか,福島幹事において,もし現段階で何かお考えがありましたら,御発言をお願いしたいと思います。 ○福島幹事 刑事裁判所として考えてみるわけですけれども,この刑事裁判所が本処分相当を理由として家庭裁判所に移送する仕組みというものは,恐らく少年法第55条の移送を念頭に,これと同様の制度を設ける必要はないのかという発想から検討課題とされていると思われます。しかし,実際に刑事裁判所として判断する場面を想像してみますと,ここで提案されている仕組みと少年法第55条の移送というのは似て非なるものなのではないかと感じました。   すなわち,少年法の保護処分については,保護処分か刑事処分かという選択関係にあると思われますけれども,今ここで議論されている新たな処分は,検察官の起訴,不起訴の判断を前提として,起訴されなかった者を対象として行う処分でありますので,刑事処分と選択関係にあるわけではないと理解されます。したがって,仮にこのような仕組みが設けられたとすると,刑事裁判所の判断対象は,刑事処分と新たな処分のどちらが望ましいかということではなく,当該事件を起訴したのが相当であったのかということになるのではないかと思われます。   しかし,このように訴追裁量を正面から判断対象とすることは,起訴独占主義,あるいは起訴便宜主義といった現行刑事訴訟法の原則との関係で大きな問題があるように思います。既にほかの委員,あるいは幹事の方からも同様の御指摘があるところですけれども,この論点についてはこういう観点からも慎重な検討が必要ではないかと思いましたので,改めて申し上げさせていただきます。 ○酒巻分科会長 公訴権行使の当否について裁判所が審査,判断することになるという問題があるということでしょうか。移送について,ほかに御意見ございますでしょうか。 ○山﨑委員 必ずしも公訴権行使の当否だけが問題になるといいますか,そこに焦点を当てた手続というイメージよりは,繰り返しになりますけれども,その後に分かった事情ですとか,要保護性の変化というのを捉えた判断をし得るようにした方がよいのではないか,という考えでおります。これは,今の刑事裁判における判断とは当然違っていて,似て非なるものだと私も思いますけれども,新たな制度を作る以上は,そういう道を残した方がよいのではないかというのが私の考えです。 ○池田幹事 基本的にはこれまでの繰り返しの意見になってしまうのですけれども,先ほど福島幹事から御指摘がありましたように,刑事裁判所が公訴権の行使についての評価を行うということが,現行の刑事訴訟法の構造との相容れない点があるのではないかというのは,そのとおりだろうと思いますし,その場合の,起訴したことが相当でないという判断の中核には,やはり,刑事処分よりも新たな処分の方が望ましいという,本来,選択する関係にはないものの間での比較に基づく判断があるのであって,この点が現在の制度設計における理解と相容れないと思われることから,移送の制度を設けるのは適切ではないのではないかと思うところです。 ○酒巻分科会長 この点につきましては,議論していただくことになるのだろうと思います。   それでは,検討課題についてはこの程度といたします。配布資料の枠内の記載についての検討に移りますが,枠のどの項目についてでも構いませんので,もし御意見がありましたら,挙手をお願いしたいと思います。 ○山﨑委員 結局,この論点に関してはまだ決まり切っていないところが非常に多いので,この後の議論が部会においてどのようになされるのだろうかという辺りのイメージとも関わるのですが,先ほど申し上げた,結局どういう手続の開始にするかによって,それで論理的に必ずそういう帰結になるというわけではないのかもしれないのですが,多くのことがそれに関わってくるのではないかと思っておりまして,検察官がもうその手を離れて,検察官から離れて記録が家庭裁判所に行って,家庭裁判所の判断を仰ぐという形になるのか,あるいは,不起訴処分までには両方が並列しているようなことも認められるのかとか,記録が全部送られるのかということも含めて,今後,どういう決め方をされるのだろうかという辺り,何かあれば教えていただければと思います。 ○加藤幹事 今の御指摘の問題が重要な検討課題であるということは,確かにそうだなと認識いたしました。今の検討課題でも手続をどうやって開始するのかというところはまだ定まっていない,そこが検討課題だとされていますので,御指摘があったことを踏まえて検討を継続するということでよろしいのではないかと思われますが,いかがでしょうか。 ○山﨑委員 では,現時点で二点だけ指摘しておきたいと思います。まず,被害者等の記録の閲覧に関してなのですけれども,今日いただいた資料を拝見しますと,不起訴事件に関しての取扱いとしては,被害者参加制度の対象事件と対象外事件とで目的の要件が異なっていて,民事訴訟の必要性に限るのかどうかというようなところが違うようですので,これを仮に新たな処分の方に入れるとした場合には,その辺は考慮する必要があるのではないかと思いました。   もう一つは,試験観察なのですけれども,私は現行の少年審判の試験観察は大変有効な機能を持っていると思っているのですが,他方で,実際行われるケースというのは,一つは,少年院送致が相当なのか,社会内処遇でいけるのかというのが微妙なケース,もう一つの類型としては,社会内処遇ではあろうけれども,すぐに保護観察にするのではなくて,家庭裁判所の調査官が関わった方がよいと思われるケースといった辺りが多いのかなと思っております。また,期間としても,住込み就労して,特に先ほどの前者のようなケースですと,住込み就労して何か月か様子を見るというケースもあれば,例えば,本当に短期の委託で数日間,福祉施設に行ってみるというようなこともあると思うので,その辺りがこの新たな処遇になったときに,試験観察ということになればどういう事例が想定されるのかということを,最高裁の方から,もし今の時点でのイメージなどがあれば,お聴きしたいと思っています。 ○澤村幹事 現在の少年事件において試験観察が利用される場合というのは,先ほど山﨑委員の方から御指摘があったような二つの場合が多いというのは,そのとおりでして,新たな処分の制度の下で試験観察を利用する場合とか,その方法というのも,ほぼ同じような形になるのではないかと考えられるところです。また,その期間につきましても,現在の運用ではおおむね3か月から4か月をめどとして行われているというものでして,先ほどお話がありました短期というのも,委託の期間は短いのですが,試験観察の期間としては数か月というものが多いと思われます。この点につきましても,新たな処分の制度の下でも大きく変わるものではないと考えられるところです。 ○酒巻分科会長 ほかに,枠の中の記載につきまして,御意見のある方は,挙手をお願いします。 ○保坂幹事 先ほど山﨑委員から発言のあった,被害者による記録の閲覧の点について,趣旨が分からなかったので,教えていただきたいのですが,枠の中には,少年法並びの閲覧制度が書いてあって,先ほどの不起訴事件記録について,被害者参加事件かそうでないかと区分けしているということを引用しつつ,それを入れるとすればという御発言があったかと思ったのですが,山﨑委員は,むしろ少年法並びではなくて,成人というか,不起訴事件の記録の閲覧と同じものにすべきではないかと,そういう御趣旨でしょうか。 ○山﨑委員 いや,私自身,結論は出ていませんけれども,両方あり得るのではないかということを指摘しておきたかったのです。それは,不起訴処分がされてから新たな処分に回されるのであれば,不起訴事件になるので,検察庁としてもその扱いが原則になるのではないかというようなことも考えますし,特に,共犯事件の場合に問題が生じないかどうか。例えば,20歳以上の成人と19歳の成人との共犯で不起訴になった事件があり,19歳の者については新たな処分の手続がとられたというときに,その記録の取扱いに差が出ても構わないのか,特に民事訴訟との兼ね合いでその辺が問題になり得ることはないのだろうかというようなことも考えております。   したがって,家庭裁判所の審判並びであれば,おっしゃるとおり,このようなことになるでしょうけれども,一方で不起訴事件としての取扱いの方からも整合性を持つような検討が必要ではないかと考えているわけですが,今のところ,私自身として結論は出ていない状態です。 ○酒巻分科会長 ほかにございますか。よろしいですか。   ここまでで資料24に記載されている事項について一通り検討を行うことができました。その他,更に若年者に対する新たな処分全体について,現時点で何か御意見があれば,よろしくお願いします。   よろしいですか。   大変充実した議論をしていただきまして,ありがとうございました。それでは,若年者に対する新たな処分について,本日の検討はこの程度にしたいと思います。   ここまでで配布資料21,23,24を本日審議しまして,一通り検討を行いましたけれども,意見交換を行った点について,ほかに現時点で御意見があれば伺いたいと思いますが,よろしいでしょうか。   それでは,本日の議論を終了したいと思います。次回の部会に向けての当分科会での検討は本日で最後ということになりますが,皆様にはこれまで本当に幅広く活発な御議論を頂きまして,ありがとうございます。具体的な制度概要等の検討が進みまして,部会に十分な成果を報告できるものと思います。ありがとうございました。   報告する制度概要案等につきましては,本日の議論も踏まえて,まず,分科会長の方で案を作成させていただき,そして,できる限り速やかに事務当局を通じてその案を皆様にお示しし,そして,皆様から頂いた御意見も踏まえて,更に内容を検討いたしたいと存じます。もっとも,目標は飽くまで部会で更に議論を深めていただくための資料であるということ,それから,部会まで余り時間的余裕もないので,最終的な取りまとめの内容につきましては私に一任いただければと存じますが,よろしいでしょうか。               (一同異議なし)   それでは,報告内容につきましては分科会長である私に一任いただいたということで,私の責任において,報告の内容を取りまとめて部会に報告いたします。   それでは,以上で本日の審議は終了いたしますが,今後の予定について,事務当局からお願いします。 ○羽柴幹事 では,先に今後の予定について御説明します。   部会第8回会議が7月26日木曜日午前10時から予定されております。場所はこの建物の15階の会議室となります。 ○酒巻分科会長 本日の会議の議事につきましては,先ほどの資料説明の一部に公表に適さない内容があったと思われますので,その点については配布資料それ自体を非公表とするとともに,議事録には記載せず,非公表にしたいと思います。非公表とする具体的部分等につきましては,分科会長に御一任いただきたいと思いますが,よろしいでしょうか。それ以外につきましては,いつものとおり,発言者名を明らかにした議事録を公表することとさせていただきたいと思いますが,以上のような取扱いでよろしいでしょうか。               (一同異議なし)   どうもありがとうございました。   それでは,本日の会議はこれで終了いたします。どうもありがとうございました。 -了-