法制審議会 民事執行法部会 第20回会議 議事録 第1 日 時  平成30年6月29日(金)自 午後1時30分                      至 午後5時29分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  民事執行法制の見直しについて 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○山本(和)部会長 それでは,所定の時間になりましたので,法制審議会民事執行法部会第20回会議を開会いたします。   本日も御多忙の中御出席を頂きまして,誠にありがとうございます。   本日は,全ての委員,幹事が御出席と承っております。   本日の審議に入ります前に,配布資料の確認を事務当局からお願いいたします。 ○内野幹事 事前送付資料といたしまして,部会資料20-1から20-4までを送付させていただいております。   また,本日の休憩後のところでは,いわゆるハーグ条約実施法の整備の在り方につきまして,部会としての一定の試案の取りまとめを目指す進行を考えておりますので,是非よろしくお願いいたします。 ○山本(和)部会長 それでは,本日の審議に入りたいと思います。   本日は,まず,部会資料20-1「民事執行法の見直しに関する要綱案の取りまとめに向けた検討(3)」,それから,本文部分に補足説明を加えたものである部会資料20-2「民事執行法の見直しに関する要綱案の取りまとめに向けた検討(4)」についての御審議をお願いしたいと思います。   まず,事務当局から御説明をお願いいたします。 ○内野幹事 それでは,本日も前回に引き続きまして,部会資料20-1にゴシック体で記載されている部分を中心に御議論いただきたいと思っておりますので,この部分についての御検討を頂くために,専ら前回の部会資料19-1からの変更の有無等を中心に,その概要の御説明をさせていただきます。   まず「第1 債務者財産の開示制度の実効性の向上」のうち,「1 現行の財産開示手続の見直し」に関しましては,部会資料19-1と同内容でございます。   続いて,「2 第三者から債務者財産に関する情報を取得する制度の新設」につきましても,基本的な方向につきましては,部会資料19-1と同様でございます。   ただし,前回の部会の議論等におきましても問題意識が出ておりましたが,この制度は,専ら情報の提供を求められる第三者の実務対応能力等を考慮しながら御議論をいただいてきたところでありますので,そういった観点から細目的事項を下位規範,部会資料では具体的なものとして最高裁判所規則を挙げておりますが,こういった下位規範に委ねるという規律を提案している点が前回の部会資料19-1においてゴシック体で記載されていた部分との違いでございます。   具体的には,債務者の不動産に係る情報の取得に関しまして,この手続による情報提供を担当する登記所の範囲や,この手続により取得する情報に関する細目的事項につきまして最高裁判所規則に委ねる旨の御提案をしております。   ただ,今申し上げましたような専ら技術的な面での実務対応能力という観点からいたしますと,情報提供に必要なシステムを管理しているのは登記所でございますので,場合によると,下位規範としては,最高裁判所規則ではなく,例えば法務省令や政令といったものとするという考え方もあり得るため,部会資料20-2の説明においては,その点を(注)で若干触れさせていただいているところでございます。   あわせまして,債務者の給与債権に係る情報取得に関しましても,最高裁判所規則に委ねるという規律を提案しております。   また,他の細目的事項といたしましては,部会資料20-1の第1の2(5)イ辺りでございますけれども,回答書の送付方法等について,これを最高裁判所規則に委ねるという規律を提案しております。   その他の部分は,冒頭に申し上げましたとおり,部会資料19-1と基本的に同内容となっております。   各部会資料の「第1」についての御説明は,以上でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,ただいま御説明がありました「第1 債務者財産の開示制度の実効性の向上」の部分につきまして,どの点でも結構ですので,御意見,御質問があれば承りたいと思います。 ○阿多委員 部会資料20-1の4ページ,中段下の「(5)第三者の陳述」のイの部分なのですけれども,質問と確認--まあ,意見等なのですが,このイを読みますと,「前記アの陳述がされたときは,執行裁判所は,最高裁判所規則で定めるところにより,申立人に前記アの書面の写しを送付し,かつ,債務者に対し,前記アに規定する決定に基づいてその財産に関する陳述がされた旨を債務者に通知しなければならない」ということで,「債務者」が2か所出てきていると思うのですが,このような記述でいいのですかというのが,まず質問でございます。   あと,この読み方として,債権者への写しの送付と,債務者にへの通知の二つの場面があり得るのが一つの文章で書かれているのですが,そうしますと,この「陳述がされたときは」というのが「かつ」以下の後半にも掛かるように思うのですが,どのタイミングで債務者に送るのかというのは,これまでも議論があったところだと思うのです。   ほかのところは債務者に送ること自体が財産開示前置等でそれほど問題にならないので,「債務者に送達しなければならない」というのは独立の文章として入っているのですが,債権者と債務者が一つの文章に書かれていますと,言わば同じタイミングで送るのではないかというような形でミスリードされることがあるのではないかと。まあ,部会のこれまでの議論からすれば,そんなことはないということは理解しているのですが,この「イ」は二つに分けていただいた方がいいのではないかなと思っておりまして,それが意見になります。 ○山本(和)部会長 では,事務当局から御説明をお願いいたします。 ○内野幹事 御指摘ありがとうございます。「債務者」の記載が重複しているといった表現ぶりに関する御指摘につきましては,今後検討してまいりたいと思います。   部会のこれまでの議論についての確認の御質問がございましたが,事務当局といたしましては,申立人に対して回答書の写しを送るタイミングと債務者に対して手続が行われた旨を通知するタイミングというのは必ずしも同時ではないという方向で議論がされてきたものと認識しております。   その上で,債務者に通知するタイミングとしてどのようなタイミングが適切かという点につきましては,個別の事案における具体的な事情によって様々であるといった御指摘がされたものと認識しております。   いずれにしましても,御指摘を踏まえまして,次回の部会資料を作成する際に考えてまいりたいと思っております。 ○山本(和)部会長 よろしいでしょうか。 ○阿多委員 はい。   では,別のところについてよろしゅうございますか。   続けて部会資料20-1の5ページの「(6)第三者からの情報取得手続に係る事件の記録の閲覧等の制限」に関する部分なのですが,今回整理していただいて,アについても「(オ)当該陳述をした者」,イについても「当該陳述をした者」が閲覧等の請求をすることができる主体として入っているのですが,その場合の閲覧等の範囲なのですけれども,これは陳述をした者は自ら陳述した内容の部分だけの閲覧等をすることができるというふうに読めばいいのですか。それとも全体について閲覧等をすることができるということになるのでしょうか。 ○松波関係官 部会のこれまでの議論におきましては,全体について閲覧等をすることができるという前提で御議論いただいていたかと思います。 ○阿多委員 そうなりますと,部会資料20-1の5ページの中段の「(7)第三者からの情報取得手続に係る事件に関する情報の目的外利用の制限」のところの目的外利用の制限が掛かっているものが(6)ア,イでありまして,このうち(6)ア(オ)やイ(エ)の者に関しては目的外利用の制限の対象になっていないと思うのです。自ら出したものだけしか見られないのであれば目的外利用というのはあり得ないのですけれども,例えば金融機関が預貯金について回答して,言わば自らの預金者である債務者に関する与信情報を入手することができるということで,なおかつ制限が何も掛からないような目的外利用ができるということで制度上はいいのかと。本来自分が出したものしか見られないというのであれば,そのような問題は起こらないかと思うのですが,範囲と義務者のところを少し御検討いただいた方がいいのではないかと思います。 ○内野幹事 御指摘ありがとうございました。書きぶりも含めて検討させていただきたいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○中原委員 部会資料20-2の9ページに関連して一言お願いというか,強調をしておきたい点がございますので,お話をさせていただきます。   「(4)債務者の特定の方法」の「ア 申立書に記載すべき事項」の第二段落に記載されている預貯金者の氏名に振り仮名を記載する点です。銀行界で最も懸念があったのは振り仮名が本当に付くのかという点です。預貯金債権の内容について回答するという御協力をさせていただいても,振り仮名が記載されていないと,該当なしと回答した場合に,債権者から,検索における読み方が違うのではないかという苦情を受けたり,あるいは別の読み方で預金があったときに,金融機関の不法行為であるとして損害賠償請求訴訟等が起こされることも考えられますので,このような事態だけは是非避けていただきたいと思います。   金融機関が預貯金債権の有無や内容を検索するためには,振り仮名が必須ですから,必ず振り仮名を記載していただき,かつ金融機関は記載された振り仮名をもって検索し,それで検出されたものを回答すればよいということを明確化していただきたいという点でございます。 ○内野幹事 部会のこれまでの議論を踏まえますと,執行裁判所から情報の提供を命じられた第三者としては,執行裁判所の命令において示された債務者の財産に関する情報を提供することを念頭に置いていたかと思います。すなわち,執行裁判所の命令の趣旨をおもんぱかって金融機関側で債務者本人の同一性を自ら検索するようなことを前提とした制度設計とはしない方向で御議論いただいてきたものと認識しております。   その前提として,債権者において債務者の氏名についての振り仮名を金融機関側に提供した上で執行裁判所の命令がされるものとするのかという点につきましては若干運用に関わることではございますけれども,もし別の考え方がございましたら次回以降の部会資料において規律の書き方等を工夫していく必要があるものと思っておりますが,事務当局としましては,この部会では,今の御指摘に沿うような制度設計が支持されてきたものと考えております。すなわち,債権者から債務者の氏名についての振り仮名を提供していただいた上で,それを前提に,執行裁判所が情報提供命令―どのようなネーミングがよいかは措くとして―債務者についての情報の提供をすべき旨を命ずるという制度が目指されているものと認識しております。 ○道垣内委員 中原委員が「はい,結構です。」とおっしゃったので,別に言う必要もないのですが,ある人についての預貯金債権があるか否かというときに,法的に見て,当該振り仮名と合致している預金者が存在するか否かということをリーガルに意味するのだろうかという問題なのだろうと思うのです。振り仮名というのが金融機関の検索のための便宜のものであるというふうに考えると,執行裁判所から特定されているのはその人であって,その振り仮名の人ということにはならない可能性があるのではないかという問題ではないかという気がします。   したがって,「執行裁判所から指定された人について」と言っても駄目で,本当は方法というか,「その情報に合致した者について」というふうに言わないといけないので,それを本文に書けるのか,それとも運用ないしは説明のところで丁寧にするのかというのは別問題として存在するのですけれども,御検討いただければと思います。 ○内野幹事 御指摘ありがとうございました。 ○阿多委員 振り仮名の件です。   金融機関が危惧される点は十分理解できるのですが,損害賠償のうんぬんについては,少なくとも執行裁判所から照会されたもの以外のものを答えないからといって義務違反というような形で,責任があるというような形で--まあ,訴える方はいろいろいるかもしれませんが,認められることはないと思っているのです。   ですから,むしろ,執行裁判所からの発令の際に振り仮名に関する情報を債権者側で提供するのですが,もちろん可能なことはしますが,正確な振り仮名については必ずしも債権者としても入手できるとは限らない。今でも住民票でも振り仮名が載っている,載っていないというのはここの部会の議論でもいろいろ情報の御提供がありましたけれども,必ずしも分からない部分がありますので,まあ,先ほどの規則での運用になりましたけれども,債権者として振り仮名が違ったから回答ができないとかというようなところについての債権者側の負担とのバランスも少し考えた上で,この点についての御議論をしていただけたらと思います。入手できるものを書かないと。意図的に書かないというのは別ですけれども,分からない,ないしは特殊な読み方をするということはあり得るのかなと思います。その点だけちょっと危惧しますので,一言残しておきたいと思います。 ○道垣内委員 阿多委員のおっしゃった前半と後半のつながりが私はよく分からなかったのですが,前半は振り仮名が合っていない人について情報提供をしなくても不法行為になるわけではないとおっしゃり,後半では,いや,債権者も振り仮名が分からないときがあるから何とかしてくれとおっしゃる。前半と後半の関係が私はよく分からなかったのですが。 ○阿多委員 金融機関のお立場としては賠償責任を負われるということを危惧をされる必要はないのではないかということを前半で申し上げて,後半の方は債権者側の立場で申し上げさせていただいて,そこは別の話ということで御整理いただいたらと思います。 ○中原委員 金融機関の立場とすれば,何をもって検索すればいいのか,それを明確にしていただきたいということです。読み方は,この前の議論でも少しお話ししましたが,基本的には,預金者が預金口座開設申込書に記載した振り仮名をそのまま登録します。その読み方が正しいかどうかは金融機関には分かりません。しかしながら,預金者の情報の検索は,振り仮名で行っているので,照会に際しても振り仮名を記載していただかないと検索のしようがないという点であります。   金融機関は,当事者の債権・債務関係には全く関係ない第三者の立場で御協力するわけですから,金融機関に負担をかけることなく,素早く回答できるような仕組み作りに十分御配慮いただきたいということです。 ○谷幹事 金融機関が何を基準に検索をされるのか。これはシステムとの関係で極めて重要な問題,金融機関にとっては重要な問題だというのは理解をしております。その一つとして振り仮名というのが出てきているということだと思います。   その際に振り仮名が正確でないというのも前回の御議論で御紹介を頂いたところで,仮に振り仮名ということを基準に検索をするという仕組みに運用としてなるのであれば,法律でそれを書き込むというのはなかなか難しいと思いますので,運用として仮になるのであれば,債権者側としては信用のないところもあるし,あるいは最近私の経験したところでいくと,家事事件の申立書には振り仮名を書くことにはなっているので,例えば,ある1文字を「これは濁るのですか,濁らないのですか」と依頼者本人に聞いたら,「いや,どちらでもいいのです」と,「どちらも使っているのです」ということを言うのです。つまりは,本人にとっても,なかなかはっきりしているものでもないし,ましてや公証するものもないというようなことでいくと,そういう実情を踏まえるならば,仮に,この照会の制度を運用するに当たっては,振り仮名の複数の読み方というものを債権者側から提示をして,その複数のいずれかに当たるというようなことで検索をしていただくというような運用も十分検討していただく必要があるのかなと思っているのが1点でございます。   それともう1点質問させていただきたいのは,本人の特定との関係でいきますと,今金融機関では預金保険の関係で名寄せがほぼ短時間でできるようになっているというふうに認識をしているのですけれども,その場合の名寄せで本人と同一人物の預金者だということを,むしろ,どういう基準で判定をしておられるのか,その辺りの実情をお聞かせいただいて,それを参考に議論したいなと思います。 ○山本(和)部会長 中原委員,いかがでしょうか。 ○中原委員 預金保険機構が名寄せを実施するためのデータは,個人の場合は預金者の氏名,生年月日,住所,法人の場合は商号,設立年月日,所在地等です。金融機関は,これらのデータ整備をすることになっていますが,各金融機関のシステム設計により管理方法は異なっていると思います。金融機関におけるCIFの整備については,個人については,基本的には,振り仮名で名前を検索し,氏名,住所,生年月日,が一致しているものを,同一人取引であると認識していると思います。 ○谷幹事 そうしますと,振り仮名,同じ人が別の読み方で別の支店で口座を作った場合には,それはヒットしないということになるのでしょうか。 ○中原委員 例えば「ヤマダジロウ」という名前で検索したアウトプットは,氏名は同一でも住所,生年月日が異なるものも出てきます。名前,住所,生年月日の一致により同一人か別人なのかを確認します。 ○谷幹事 例えばですけれども,下の名前が--まあ,これは全然架空のケースですけれども,「キヨフミ」と「キヨブミ」を本人が両方使っているというふうな場合に,ある支店では「キヨフミ」という名前で口座を作り,ある支店では「キヨブミ」という名前で口座を作るというふうな場合には,ヒットしないということになるのでしょうか。 ○中原委員 その場合には,住所や生年月日を手掛かりとして同一人かどうかの蓋然性を判断すると思います。ただし,それが本当に同一人かどうかというのは,その段階では確定的には分かりません。 ○谷幹事 すみません,これで余り時間を取ることもないのですけれども,その場合の,どの情報とどの情報を突合するのか。つまり,漢字情報で同じだから,これは同一人ではないかというふうに調べていくのか。振り仮名自体は違うわけですから,突合しても同じに,要するに出てこないわけです。そこら辺りはどうなっているのでしょうか。 ○中原委員 検索は振り仮名で行いますが,アウトプットは漢字で出てきます。したがって,その漢字と住所と生年月日が合致するのであれば,それは同一人だろうと思います。   今我々が言っているのは,何を手掛かりに検索すればいいのかということであって,検索を「キヨフミ」で行えばよいのかを確定してもらいたいということです。 ○山本(和)部会長 これは,恐らく実際上の運用においては非常に重要な問題だと思います。もっとも,この点について,どの範囲まで法律事項としてこの部会において一定の方向を出せるかという問題は別途あろうかと思いますが,事務当局の方から何かあればお願いします。 ○松波関係官 金融機関側の検索の便宜のために振り仮名が有益であるというのは,これまでも御指摘を頂いていたところで,それを否定するつもりはないのですけれども,この場面における振り仮名の位置付けを検討するに当たっては,例えば,債権差押命令が発令される場面でも,債務者の特定のために振り仮名が要求されているわけではないこととの関係も留意する必要があるかなと思っております。   いずれにしましても,本日の御指摘を踏まえて,引き続き検討したいと思います。 ○山本(和)部会長 それでは,この点については,引き続き事務当局の方で検討いただければと思います。   ほかにいかがでしょうか。 ○道垣内委員 その件について1点だけ言わせていただきたいのですが,金融機関が内部で管理するために,誰と誰が同一人物であると判断するかということはオウンリスクの問題です。これに対して,この制度は,他人のためにやるというか,命じられて行うことであり,オウンリスクの問題とはいえません。ほかの人の口座について回答してしまいますと,今度は当該他人に対する守秘義務違反になります。したがって,名寄せのときにこうやっている,内部の管理としてこうやっているから,ここでもそれはできるのだというふうにはなりません。是非その点には御注意いただければと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   部会資料20-1の「第1」の点で,ほかにございますか。 ○村上委員 部会資料20-1の2ページの(3)は,債務者の給与債権に係る情報取得の問題ですが,前回の部会では対象になる債権を広げることもあり得るとか,制限,更に限定していくこともあり得るという両方の御意見が出たところです。しかし,この部会では,養育費確保など必要性の高い債権に限るということでコンセンサスを得ていると思っておりますので,改正法成立後においては,解説書等できちんと書いていただいて,拡大解釈されないようにしていただきたいという,気の早い話ですが,申し上げておきたいと思います。 ○成田幹事 ここでお話しする話ではないのかもしれませんが,先ほど事務当局からも御説明がありましたとおり,最高裁判所規則なのか法務省令等の下位規範なのかという問題がありまして,その関係で第1の2(2)ア,イのところの登記所ですとか,「土地又は建物その他これに準ずるものとして」という話ですと完全に登記所の方の事項でして,そのシステム次第というところがありますので,これはむしろ最高裁判所よりは法務省の方が多分詳しいはずですので,システムの変更等の関係に対応するという意味では法務省令の方が望ましいのかなと思っているところであります。 ○山本(和)部会長 どの下位規範に委ねるかという点は法制的なところも大きいので,今後,事務当局において引き続き御検討いただければと思います。   ほかにはよろしいでしょうか。   それでは,基本的には部会資料20-1の「第1」の部分については御了解を頂けたかと思いますが,これまでに御意見が出された幾つかの点につきましては,引き続き事務当局において御検討をお願いしたいと思います。   それでは,続きまして「第2 不動産競売における暴力団員の買受け防止の方策」についての御審議をお願いしたいと思います。   事務当局から部会資料の御説明をお願いいたします。 ○内野幹事 まず「第2」の「1 買受けの申出をしようとする者の陳述」につきましては,実質的な内容に変更はないものと考えております。   ただ,部会資料19-1との関係で申しますと,ここも「最高裁判所規則で定めるところにより陳述しなければ」ということで,陳述の方法につきましては,実務上の運用により対応していくことが想定される細目的な事項であることから,最高裁判所規則に委任することを前提とした規律を御提案しております。   続いて,「2 執行裁判所による警察への調査の嘱託」に関しましても,基本的な規律の構造につきましては前回の部会資料19-1の考え方を維持しているものと考えております。   この中では,警察への調査の嘱託の前提事項として,例えば,対象者の特定のための情報としてどのようなものを買受けの申出人から執行裁判所に提供してもらうかという点につきましては,買受けの申出に当たっての細目的な事項と整理することができるため,最高裁判所規則に委任することを念頭に,この「2」のところでは具体的な記載をしておりません。   そして,あわせて部会資料19-1との関係での違いでは,2(1)のただし書の部分でございますけれども,執行裁判所が警察への調査の嘱託をする義務を負わない場合として,どのような場面が考えられるかという点につきましては,これまでの部会資料では個別の裁判体の裁量に委ねるような形で記載しておりましたけれども,これを規律として明らかにしていく工夫をする観点から,「暴力団員等に該当しないと認めるべき事情があるものとして最高裁判所規則で定める場合」という形で調査の嘱託をする義務を負わない場面を特定することを提案しております。   これは,規律の明確性や,個別の事務処理の円滑性を確保する観点からの考慮に基づくものでございます。   続いて,「3 執行裁判所の判断による暴力団員の買受けの制限」の部分でございますが,前回の部会の議論におきましても,この買受けの制限を受ける者の該当性を判断する基準時といいますか,その時点をいつにするのかという問題がございました。部会の大方の御意見に鑑みまして,買受けの申出の時点において暴力団員等に該当すれば売却不許可の対象となるとともに,売却決定期日の時点においても,これに該当するのであれば同様に売却不許可の対象となる,すなわち,買受けの申出と売却決定期日のいずれかの時点で暴力団員等に該当するのであれば,売却不許可の対象とし得るという規律を提案しております。   前回の部会資料19-1との比較で更にもう一言申し上げれば,自己の計算において最高価買受申出人に買受けの申出をさせた者,いわゆる背後者が存在するという場面につきましては,これまで,専ら買受けの申出の時点でその暴力団員等への該当性を判断することを実質的な内容とする規律を前提に議論が推移してきたかと思われますけれども,部会のこれまでの議論において,最高価買受申出人については今申し上げましたような買受けの申出の時点か,売却決定期日の時点のいずれかの時点で暴力団員等に該当すれば売却不許可の対象とするという考え方が支持を得ているものと思われますので,いわゆる背後者につきましても,いずれかの時点で暴力団員等に該当するのであれば,それによって売却不許可の対象とし得るというような規律を提案させていただいております。   ここは,部会のこれまでの議論を踏まえて,規律の内容を整理し直したものということができるかと思います。   各部会資料の「第2」についての御説明は,以上でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,この「第2」の部分について,御意見,御質問を承りたいと思います。 ○阿多委員 部会資料20-1の6ページ,「2 執行裁判所による警察への調査の嘱託」のうち「(1)最高価買受申出人について」のただし書の位置付けで,先ほど御説明がありましたとおり,最高裁判所規則に委任するということでした。そもそも嘱託の義務というのをどういうふうに位置付けるのかというところに関連するのかとは思いますけれども,嘱託するかどうかというのは本来裁判事項なのかなと思っていまして。それがただ義務としてしなければいけないと。それを今度逆に最高裁判所規則で裁判事項のことをしなくていいという免除という整理で,何となく,余り経験がないものですから。最高裁判所規則でしなくていいというふうにしていいのか。それは個々の義務だけれども,裁判所が判断して,しなくていいというふうにするのかというところが,すみません,自分自身の中でうまく消化できていないものであれなのですが。   結局,ここで一方で義務となっているわけで,義務に基づく嘱託事項も暴力団に該当するか否かというのが,この嘱託自体が義務なのですよという形になって,これは当然それ以外の情報が必要であれば,裁判所は職権で別途嘱託はできるという,規定自体はそういう整理でいいのですよね。   前半のところは,何となく規則でできるのかなという素朴な疑問だけです。 ○内野幹事 御指摘を踏まえて,更に検討してみたいと思いますが,法律において義務を免除する旨を規定し,その免除の要件を下位規範に委任するということに特に問題があるとは現時点では考えておりません。 ○青木幹事 第2の3(2)のところですが,買受けの申出の時点と売却決定期日の時点のいずれかの時点で暴力団員等に該当すれば不許可とするということだったかと思うのですが,「(2)法人でその役員のうちに(1)に掲げる者があるもの」については,この書きぶりだと売却決定期日で判断するというように読める。すなわち,買受けの申出時の役員に暴力団員等があっても,それを交代させればこれには該当しないということになりそうですが,それもあり得るとは思うのですが,一応確認ということで,そのように理解してよろしいかどうかということを教えていただけますでしょうか。 ○内野幹事 実質においては買受けの申出の時点においてそのような者がいれば,売却不許可事由に該当するということを念頭に規律を検討してきましたが,文言に若干の疑義があるという御指摘でしょうか。 ○青木幹事 そうです。(1)にも括弧書きがあって,(2)にも括弧書きがある方がいいのかなと思いました。 ○山本(和)部会長 「買受けの申出がされた時に役員であった者を含む」といった形で書かなければならないのではないかということですかね。 ○内野幹事 御指摘を踏まえ,規律の書きぶりにつきましては引き続き検討させていただきたいと思います。 ○山本(和)部会長 実質としては,買受けの申出と売却決定期日の両方の時点における役員を対象としているという考え方を前提にした規律ということです。 ○青木幹事 なるほど,分かりました。その方がよいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。では,事務当局において規律書きぶりについては引き続き御検討いただければと思います。 ○山本(和)部会長 ほかにいかがでしょうか。   特段よろしいでしょうか。   最高価買受申出人と,自己の計算において最高価買受申出人に買受けの申出をさせた者のいずれについても,買受けの申出の時点と,売却決定期日の時点の双方の時点において,暴力団員等に該当するか否かを判断するという考え方については,おおむね異論はないと承ってよろしいでしょうか。   ありがとうございました。それでは,規律の書きぶりにつきましては幾つか御指摘を頂いたと思いますので,事務当局において精査いただくということにして,この「第2」の部分については基本的には御了承を得たものと考えさせていただきます。   続きまして,「第3 子の引渡しの強制執行に関する規律の明確化」の部分についての御審議に移りたいと思います。   まず事務当局から部会資料の御説明をお願いいたします。 ○内野幹事 それでは,まず「第3」のうち「1 子の引渡しの強制執行」の部分でございますが,部会のこれまでの議論では子の引渡しの直接的な強制執行を中心に議論されてきましたが,子の引渡しの強制執行としては,このような方法と,間接強制という方法があることを示す観点から規律を整理したものでございます。   次に,「2 子の引渡しの直接的な強制執行」につきましては,基本的には部会資料19-1と比較して,書きぶりは若干異なっておりますが,実質的には同内容の規律を提示しております。   このうち,第3の2(1)の部分は,従前から御議論をいただいておりました間接強制を前置することを要さずに直接的な強制執行をする必要性や相当性があるということができる場面を類型的に抽出する観点から第3の2(1)アからウまでの規律を議論してまいりましたので,その規律をそのまま維持した形で提示しております。   また,第3の2の「(2)債務者の審尋」に関しましては,債務者の審尋をしないでよい場合の要件をただし書で示すという部会での議論の方向を踏まえ,そのような場合の一つといたしまして,前回の部会での御議論を踏まえ,「子に急迫した危険があるときその他の」というような例示を加えておりますが,規律の内容を実質的に変更するものではございません。   続いて,「3 執行官の権限等」でございますけれども,債権者又はその代理人による執行の場所への出頭に関する要件につきましては,前回の部会での御議論を踏まえて,文言の修正をしておりますが,規律の実質についての変更はございません。   また,前回の部会において御議論のありました,例えば休日夜間執行の許可との関係や,「代理人」という文言を用いることの当否につきましては,部会資料20-2の22ページ以下において若干の検討結果をお示ししております。   部会資料20-1のその他のゴシック体で記載された部分につきましては,部会のこれまでの議論を踏まえ,従前の規律の内容を維持した上で,若干文言を修正しているという程度でございます。   部会資料20-2の26ページの「4 その他の検討課題」につきましては,前回の部会資料の中では取り上げておりませんでしたが,部会のこれまでの議論を踏まえますと,例えば,子が債務者と共にいることという同時存在の要件についてはこれを不要とし,債権者本人の出頭を原則化するといった規律が検討されておりますけれども,そのような形で執行の条件に関する規律がこれまでの実務の運用とは異なる内容のものとなることが想定されるところでございます。   このような状況を踏まえまして,現在検討している規律を前提とした場合に,強制執行が子の心身に与える負担という面からみても,適切な実務運用が行われるのかという観点からの懸念を表明する御意見もございました。   そこで,そのような御意見があったことなども踏まえまして,今回,「4 その他の検討事項」として,部会資料20-2の26ページ辺りですが,実務の運用において,執行裁判所や執行官に対して子の心身への配慮を求めるといった規律を設けることも考えられるのではないかといった御提案をさせていただいております。   本日の部会におきましては,このような子の心身への配慮に関する規律の要否などにつきましても広く御意見を賜れればというふうに考えております。   各部会資料の「第3」についての御説明は,以上でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,ただいま御説明がありました「第3 子の引渡しの強制執行に関する規律の明確化」の部分について御質問,御意見をお願いできればと思います。 ○阿多委員 審尋の部分なのですけれども,部会資料20-1の7ページ下からのところで,今回この記述は原則例外の形になっていて,確かに「その他の」とありますので,その前の部分のただし書が例示で,それ以外の「審尋することにより強制執行の目的を達することはできない」と,民事保全法第23条第3項と同じような表現が入っているのですが,私の認識では,もう少し,一体ここで何を審尋するのかということが前回ないしは前々回の部会で議論されていて,例えばその上の(1)のイなどでも審尋の前の債務者,債権者間のメールのやり取りとか,そういうふうなもので引き渡す意思がないと。それは任意の状況で強制執行の場面ではありませんけれども,任意の状況で引き渡す意思がないというようなことがあれば,この上の要件が満たして,直接的な強制執行の可能性を考えているのだというのでイが入ったのですけれども,さらに,原則審尋の形にして,裁量的に審尋を入れる入れないではなくて,必要的審尋にして,一体何を聞こうとしているのか。むしろ,逆に原則例外の形にしてしまって,ただし書の判断が強制執行の目的を達することができないとなってしまいますと,どんな場面が,例示されている「急迫した危険がある」とかということを除いて,我々が考えるのは隠匿されるとか,どこかに行ってしまうということを考えるのですが,それはかなり,その前のやり取り等で渡す意思がないということとは距離がある,差があって,むしろ気にしているのは,そういう審尋を要することによって時間が掛かって迅速に実現されるべき目的が遅れるということが先般来必要的審尋ではなくて裁量でいいのではないか。ないしは審尋して聴くこともないのではないかということで議論してきたように思うのですが,一つは裁量的審尋にできないかというのが意見でありまして,もう一つは,仮にただし書にするにしても,例外要件をもう少し,「目的を達することができない」,まあ,よく使われている表現ですけれども,もっと例外が認められるようなものにできないか,そういう意見です。 ○内野幹事 部会のこれまでの議論を踏まえてこのような規律を御提案しているところですが,この点に関連して他の委員・幹事の方々から御意見があれば伺えればと思います。 ○山本(和)部会長 いかがでしょうか。   元々このただし書はなかったわけですが,部会のこれまでの議論において様々な御懸念が指摘されたことを踏まえ,このただし書を付加するという方向で議論がされてきたように認識しているのですが。 ○阿多委員 おっしゃるとおりですが,ただ,その前に必要的審尋にするかという点についての一時期の議論としては,聴く内容も何を聴くのですかということも含めて,審尋の中身なども含めて議論していて,山本克己委員などは,私の記憶ではもう裁量的でいいのではないかという御発言まで頂いていたように記憶するものですから,そういうふうに振っているのですけれども。 ○山本(和)部会長 いかがでしょうか。委員,幹事から何か御意見はございますでしょうか。 ○内野幹事 では,事務当局からなのですが,部会のこれまでの議論の中では,正に阿多委員もおっしゃったような方向の御指摘があったかと思いますが,部会資料20-1の第3の2(1)のうち,例えば「イ」ないし「ウ」の要件を検討するに当たって関連する事情を執行裁判所が具体的に認識するためには,債務者の審尋が有用な場面があるのではないか。むしろ,(1)の「イ」ないし「ウ」の要件というのは,子の引渡しの直接的な強制執行を行うことにより子がその心身に一定のダメージを受けることがあり得ることを前提に,やはり一定の必要性や相当性がある場面に限って直接的な強制執行を認めるべきであるとの考え方に基づいて,子の利益の保護を図る観点から設けられた要件ですので,その要件該当性を確かめるための手段として債務者の審尋が必要であるとの御意見がございました。   また,具体的な強制執行の場面においては,子の利益に配慮する観点から,個別の事案に応じた様々な具体的事情を把握する必要があるのではないかという御指摘があり,執行裁判所が債務者の審尋により一定の情報を得た上で的確な判断をするといった規律が望ましいとの御意見もございました。   このようなところを踏まえまして,今回の部会資料20-1に記載した規律を提示するに至っております。   なお,以上とは別の観点からの御意見といたしましては,債務者の審尋の要否を全面的に執行裁判所の裁量に委ねてしまうと,執行裁判所においてどのような基準でその要否を判断すればよいのかが不明確であるとの御示唆もあったように認識しておりまして,そのような御示唆をも踏まえたものがこのような規律になっているものと認識しております。 ○阿多委員 もう1点だけですが,従前の議論として,例えば再度任意の引渡しの可能性を確認するとか,そういう意味では債務者審尋の意味があるのかなというふうに私も審尋の積極的な意味は理解しているのですが,例えば先ほどイを挙げましたけれども,アは従前から間接強制前置の実行,意味がないからというので,言わば経時的証拠方法というか,2週間経過すれば,もうそれで直接的な強制執行できるのですよと。そういう意味で例外を広げるためにアというのが位置付けられていると,そういう整理をしたと思うのですが,にもかかわらず,言わば手続がもちろん大分前の間接強制もありますけれども,従前から同時申立ても含めていろいろな可能性を議論していて,アの少なくとも間接強制の際も書面とはいえ審尋をして,それで2週間経過をして,更に直接的な強制執行のために審尋をしなければいけないのかというところで,その場合だと,このただし書では読み切れないので,しなければいけないということになってしまうと思うのですが,本当にそういうことを考えているのかと。むしろ,戻りますけれども,裁量的な形の,極端な例で言えば,もちろん審尋の例外がアのときはそもそも要らないというぐらいになれば別ですけれども,それはまた間があいてしまうような場合があるのであれでしょうが,「強制執行の目的を達することができない」というのは,子が隠匿される可能性がある場合だけしか例外が認められないというようなのではなくて,もう少し広げる。先ほど言いましたように,時間が相当経過して迅速な実行が実現できないとか,強制執行の目的は達することはできるけれども,それが遅くなるとかというようなことも含めた広い事情を考慮してもらえる,するような例外を考える,そういうことも御検討いただけないかなというのが意見ということになります。 ○谷幹事 すみません,弁護士会の中で多様な意見があるという意味で紹介をさせていただきたいのですけれども,そういう懸念があるというのは,我々弁護士の中でも,要するに審尋を経ることによって時間が延びるというような懸念があるというのは弁護士会の中でも認識は共有しているところではありますけれども,執行裁判所による授権決定という仕組みを作る以上は,相手方の意見を聴くというのは原則だと思っておりまして,そこで今までの法制度と余り違ったものを作るというのは,他の今後の法制への影響等をいろいろ考えますと,やはり問題があるだろうという意味で,原則は債務者の審尋をしなければならない,そして例外要件を定めた上で一定の場合には審尋なしで発令できるという仕組みが原則としてはいいだろうと思っております。   あとは要件の立て方ですけれども,これが厳しすぎるかどうかというふうなことなのですけれども,「子に急迫した危険があるときその他の」という,この要件というのは,保全処分の発令,家事事件手続法に基づく保全処分の発令の場合に審尋をしないでいい例外要件とほぼ同じような要件だと思いますし,従前の法制に照らしても,こういうやり方というのは十分あり得るのではないのかなとは思っているところでございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○垣内幹事 私も基本的な考え方としては,今,谷幹事がおっしゃったように,原則は債務者の審尋が必要だけれども,一定の場合に例外を設けるということでよろしいのではないかというように考えておりますけれども,表現ぶりについて若干申し上げます。部会資料20-1ですと,8ページの冒頭のところで「子に急迫した危険があるときその他の審尋をすることにより強制執行の目的を達することができない事情」ということになっているわけですが,子に急迫した危険があるかどうかということと引渡しが実施できるという意味で強制執行の目的を達することができるかどうかという問題というのはややずれるところもあるようにも思われまして,というのは危険はあるのだけれども,引渡し自体はできるだろうというような場合も想定はできなくもないように思われまして,その場合に審尋をしなければならないということになるのだとすると,それはここで議論してきたことの趣旨から見ると,少し狭すぎるのではないかという感じもするところです。そう考えますと,ここで「強制執行の目的を達することができない」という表現というのは,いろいろな理解の仕方はあるのだと思いますが,少し広めのものとして理解をしておく,つまり,引渡しは実現されるかもしれないけれども,子に危険があるような状況でされてしまうとか,あるいは子の福祉から見て余り好ましくないほど遅れてしまうであるとか,その種のことも含めたものとして考えるのがいいのではないかと思っておりまして,そうしたときにこの表現ぶりでいいのか,あるいはもう少しほかの工夫が考えられるのかという辺りについて,今のところ私自身は妙案がありませんけれども,そういった観点も含めて,表現ぶりについて少し御検討いただくということは考えられるのではないかと感じております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○谷幹事 議論を深める意味で,今の御発言に少し関連して発言をさせていただきたいと思います。   表現ぶりを工夫いただくのは,検討いただいたらいいかと思います。   先ほど御指摘のあった強制執行の目的。目的というものをどういうふうに捉えるかということなのですけれども,例えば現状のままでは子に急迫な危険があるのだということで引渡しが命じられたような場合には,それを迅速に実現するということ自体が強制執行の目的ということにもなるだろうと思いますので,そういう意味で子に急迫した危険があって,子の引渡しを迅速に実現するというような場合はこれに当たるというふうな理解ということも十分可能だろうと思っておりますので,そういうことも含めて表現については検討いただけたらと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。   それでは,この第3の2(2)のただし書につきましては,幾つかの御意見を頂きましたので,その文言について事務当局において再度御検討を頂いて,次回の部会においてその検討結果についての御審議を頂きたいと思います。 ○久保野幹事 部会資料20-2の方で最後に御提案といいますか,その他の検討課題として挙げられております26ページから27ページの子の利益に対する配慮といったものについて規定を置くかという点についてなのですけれども,このような趣旨を明らかにするということは基本的に望ましいことだとは思いまして,反対ということでもないのですけれども,1点,もしこのような明示的な条文を置かなかった場合にどう考えられるかということについて,児童福祉法の3条で「すべて児童に関する法令の施行にあたって,」児童に関わる理念ですとか原理は「常に尊重されなければならない」という条文が置かれていまして,そこで尊重すべきとされているものが1条,2条となっており,そこには心身の健やかな成長・発達ですとか,年齢・発達の程度に応じて最善の利益を考慮するとか,心身ともに健やかに育成するということが入っていますので,仮に御提案のような条文を入れなかったとしても,児童に関わる強制執行の場面でもそのような考え方は表わされているということになることは確認しておきたいと思いました。 ○谷幹事 配慮規定を設けるかどうかということなのですけれども,基本的には私としては消極に考えているところでございます。   と申しますのは,懸念として考えられるのは,配慮規定を置くと,この配慮の方向性自体はもちろん執行手続において子の心身への影響というのは配慮しなければならないと,そのこと自体反対をするものではないのですけれども,規定を置くことによって,逆に執行に対してそれを妨げるような方向での使われ方がしないかどうかという点についての懸念があるということでございます。   直接的な強制執行が子の心身に有害かどうかは別として一定の影響を与えるということは,これは否定し難い事実でありまして,そのことを捉えて具体的な執行の場面で債務者等がこれは子供の心身に影響があるではないかというようなことで抵抗を示す,あるいは先ほどの授権決定の際の審尋というような手続を経るということになれば,その際に様々な抗弁なり主張なりが出てくるというような懸念があるのではないかと思います。そういう懸念には配慮する必要があるだろうと思っております。   元々今回の立法におきましては,前提として,取り分け子と債務者との同時存在の原則は採らないという方向で取りまとめられつつありますけれども,これは元々国内の子の引渡しではハーグ条約実施法ができる前は,子と債務者との同時存在という運用というのはされていなかったわけですが,ハーグ条約実施法ができて,債務者との同時存在というものが事実上運用の中では求められるようになった。しかし,そういう運用というのは問題があるのではないかという共通の認識の下に債務者との同時存在は採らない,債権者が出頭したときに限り執行できるというのを原則にしようというふうに,ある意味で運用を変えるような立法をするということになったわけで,そこで子の心身に対する影響というのを十分配慮した立法をするというこれまでの議論の流れがあるのだろうと思うのです。   したがって,そういう意味では,当然のことながら,子の心身への影響というのは配慮しているし,さらに,そういう状況の下でこの規定を置くということになれば,先ほど申し上げたような懸念が顕在化するのではないかと思っている。   仮に何らかの文言を置くとしても,「子の心身に有害な影響を及ぼさないように」というふうな文言というのは極めて問題があると思っておりまして,それは先ほど申し上げた懸念からですけれども,むしろ,仮に規定を置くのであれば,「子の心身に有害な影響を及ぼさないように」ということではなくて,「子の福祉,あるいは子の利益の実現のために適切な方法を用いる」とか,そういうふうなむしろ積極的な方向での文言の方がいいのではないか。消極的にこういうことをしたら駄目だよということではなくて,むしろ子の利益の実現のために適切な方法というような積極的な方向の文言がいいのではないのかなと思っております。 ○垣内幹事 私自身はこうした配慮規定を置くことについては積極的に考えていいのではないかという考えを今のところ持っております。部会のこれまでの議論の中で同時存在の問題とか間接強制前置の問題との関係で,いずれについてもハーグ条約実施法と比較しますと,大幅にそれを緩和すると。同時存在については要求しないというような形での議論がされてきたわけですけれども,その際,それであれば,例えば債務者のいないところを殊更に狙って強制執行するというようなことになるのかどうかといったような懸念が何人かの委員,幹事からも御指摘があったように記憶しております。その際には子の福祉等を考えれば,当然にそういうことになるわけではないということについておおむね一致した理解があったように思いますし,そのことについて民事執行法の規定として明確にしておくということにも積極的な意義があるのではないかというふうに考えているところです。   逆方向に働いてしまう,これが何か執行妨害のための一つの道具,手立てになってしまうのではないかという御懸念が先ほど御指摘あったわけですけれども,子の心身に有害な影響がどのような形で及ぶかということを考えたときに,もちろん,執行が子に直接威力を及ぼすとか,様々な有害な方法でされるということもあり得ますけれども,円滑,迅速に執行がされないということによって子の心身に有害な影響が及んでいくというようなことも同時にここで考慮されるべきことかなと思いますので,そういうふうに理解すれば,必ずしも執行を妨げる方向にだけこの規定が理解されるということにはならないのではないか。また,そういう理解にふさわしい文言とそうした説明をしていただくということは重要ではないかというふうに考えております。   また,児童福祉法に趣旨を共通にする部分の規定があるという御指摘がありましたけれども,それであれば,なおさら強制執行の場面でも,殊更,子の心身に影響が大きい可能性がある手続ですので,そのことを改めて確認しておくということにも独立した意義があるのではないかというふうに考えております。 ○栁川委員 私も配慮規定は是非置いていただきたいと思います。これまで子供の福祉,子供の利益を大事にということで長い間検討してまいりました。   ここに参加している方等は当然よく分かって,そういうことだと読み取ると思うのですけれども,一般的にはなかなか分からないことが多いですし,明文化されているということは,大勢の方に法律を作った趣旨,背景等が伝わると思いますので,是非配慮規定は置いていただきたいと思います。 ○村上委員 私も同意見になりまして,部会資料20-2の26ページの辺りにあるような漠然とした不安を述べてきた一人でありますので,子の福祉への配慮規定を置いていただくということは安心感につながるのではないかと思っております。   こういった規定を置くことによって実務の様々な段階においても,関係者の皆さんが子供のことを考えていく,心を配っていただくということになるのではないかと思いますし,また民事執行法はどうしても動産と不動産の引渡しのような話が多いわけですけれども,今回対象にするのは子供,人間ということであるので,そういったことから配慮が必要なのだということを明文化していただくということには大きな意味があるのではないかと思います。 ○山本(克)委員 私も27ページの括弧書きのようなことを書き込むことについては積極的なのですが,ただ,ここで直接的な強制執行だけをあげつらうというのはどうなのかと。つまり,先ほど垣内幹事が御発言になりましたように,早く引き渡されるということがもう既に債務名義作成段階で子の福祉に沿うと言っているわけですから,間接強制についても同じ配慮はあるのではないか。つまり,例えば虐待されているような子供を間接強制を待ってやると--待つということ自体が子の心身に悪い影響を及ぼすわけですから,やはり強制執行手続全体についてのそういう配慮義務を定めるのが私は適切なのではないかと。直接的な強制執行だけに限ってこういうことを書くというのは,私は直接的な強制執行というのは子の心身に非常に悪い影響を与える手続であるということを法律自らが認めているという印象を与えかねませんので,これはもう少し幅を広く取って,射程は全部子の引渡しの強制執行全体だという方向でやっていただければと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。おおむね御意見は出たと理解してよろしいですか。 ○山田幹事 私もこのような文言を置くということについては,積極的に考えてよいと思います。   垣内幹事も言われましたように,ハーグ条約実施法に比べまして大分緩やかにしたということもございますし,今山本克己委員が言われたことと関連しますが,授権決定においても非常に広い裁量的な判断をしていただかなければいけないというときに,一定の方針を示すという明文規定があるということは重要なのではないか。   それから,執行官の行為についても,執行官が様々迷うのではないかという御議論が今までありましたけれども,それとの関係でも,このような明文規定があった方が,裁量の指針というものがあった方がよろしいのではないかということでございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,おおむねよろしいですか。   こういう規定を置くこと自体については賛成する意見が多数であったというふうに理解しました。ただ,文言についてはこのままでよいという御意見もあったかと思いますし,直接的な強制執行に必ずしも限定する必要はないのではないかという御意見もあり,あるいは子の心身に有害な影響を及ぼさないようにという文言よりも,むしろ子の福祉や利益の実現のために適切な方法を用いるというような文言の方が適切ではないかというような御意見もあったように伺いました。   文言につきましては,今回は初めてこういう形で出していったので,引き続き事務当局において本日寄せられた御意見を踏まえて御検討を頂くということにしたいと思います。 ○今井委員 今,部会長から子の福祉という提案があったのですけれども,私はこういう文言を入れることは賛成でございますし,子の引渡しの何が大事なのかという本質のところを突いているところだと思いまして,直接的な強制執行だけというわけではないという山本克己委員の御指摘はそのとおりで,子の心身に有害な影響を及ぼさないようにするということが子の引渡しの強制執行の一番大事なところということだろうと。それから,迅速性だと思うのです。   そこに今まで福祉という議論が割と重なって入ってきたと思うのですが,福祉というのはむしろ国内法で言う子の引渡しで言うと,むしろ,それは実体法の問題であって,福祉はどう在るべきかということの決着があるから子の引渡し命令が出ているわけで,それを引渡しという執行する場面というのは大きな意味では福祉なのですけれども,その場面というパーツでは,これは心身の影響と,それから執行の実効性と,これに特化すべきだと思うのです。そういう意味では,一番大事なところがここに宣言してあるというところでは,この執行全体のコンセプトを宣言している意味として大きいのではないかと。   そして,またそのために制度が柔軟でいろいろあるわけですから,間接強制だけではないですよという意味では,山本克己委員がおっしゃったように直接的な強制執行だけを入れる必要もないのではないか。それも賛成でございます。 ○阿多委員 規定を置くことの議論ももちろんあるのですが,どこに置くのかという議論もあり得るのかと思うのですけれども,従前,いわゆるこの規定ぶりから見ますと,解釈規定というか,考慮しなければならないという考慮規定といいますか,というような規定が設けられているのは余りきっちり探し切れていないですけれども,民事執行規則の例えば100条などで読みますと,「執行官は,差し押さえるべき動産の選択に当たつては,債権者の利益を害しない限り,債務者の利益を考慮しなければならない」というような形で規則事項になっているかと思うのです。独立の法律ができるのであれば別ですけれども,今回,子の引渡しの強制執行に関する規定が入るときに,それだけ重要だというのは認識しているのですが,本当に法律に入れるのがいいのか,ほかの規定とのバランスを考えると,規則事項ということもあり得るのではないかということもありますので,全体の法体系を考えて御議論いただけたらと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。それでは,今の両委員の御意見も踏まえて,事務当局において御検討いただき,次回の会議でまた案を出していただければと思います。   子の引渡しの強制執行に関する規律の明確化に関する論点について,ほかにいかがでしょうか。 ○山本(克)委員 私は,大分前の部会で「引渡し」という言葉をやめることも考えてほしいということを申し上げましたが,その点についての御検討は何かなされておりますでしょうか。 ○内野幹事 御指摘の点に限らず,規律全体についてもそうなのですが,文言の法制的な検討は続いているという状況にございます。ただ,「子の引渡し」という文言自体は家事事件手続法第171条などで用いられているところもございまして,現段階では,部会のこれまでの議論との連続性も踏まえて,「子の引渡し」という文言を用いているというのが本日までの検討状況でございます。 ○山本(和)部会長 いかがでしょうか。他の法令でも使われているというところですが。 ○山本(克)委員 家事事件手続法の文言も一緒に考えてもらいたい,のような気がします。   一つの考え方としては「監護の移転」というような言葉で,前も申し上げましたが,人についての引渡しという言葉を使われるのは,多くの場合犯罪者の引渡しですので,それと同等のものを強制執行手続で実現する,あるいは民事法の世界で実現するというのは私は避けた方がよいかと思います。そういうイメージの悪い言葉,私は本当は言葉を選択するのは余り好きではないのですけれども,イメージの悪い言葉を法文に書くということ自体がこの制度の,今回せっかく考えた制度の定着に対してネガティブな作用を及ぼすのではないかということを危惧しております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。それでは,この点については引き続き事務当局において御検討をお願いします。 ○内野幹事 法制的な観点を含めて検討させていただきます。 ○垣内幹事 部会資料20-1で申しますと,8ページから9ページにかけての執行場所の占有者の同意,あるいは同意に代わる許可の点に関しまして若干の御質問と申しますか,意見と申しますか,発言させていただければと思っております。   具体的には,9ページの「ア 許可の要件」のところで拝見しますと,同意に代わる許可の裁判というのは債権者の申立てによってする裁判だということですので,裁判があれば,申立人である債権者に対しては告知をするということになるのかなというふうに理解をしておりますが,本来であれば,占有者の同意がなければ,その場所で執行ができないという出発点に立ちつつ,裁判をすることによって同意があったのと同じ効果をもたらすと。そういう意味で本来同意をしないことによって執行を拒絶することができる地位にある占有者の地位を制限すると申しますか,不利益を課するという側面がある裁判というふうに鑑みますと,債権者だけでなく占有者に対しても何らかの告知というのが必要だということに一般的に考えればなるのではないかというふうに感じております。   ただ,これも部会資料20-2の方でも御説明ありますけれども,密行性等の観点もありますので,事前に告知が必要だということではなかなか問題があるだろう,実効性が失われてしまうだろうということですから,事前に告知をしないでも,その場所での執行はできるという規律が実質としては望ましいように考えておりまして,今部会資料20-1の9ページですと,「イ 執行官による許可証の提示」というのがあるのですけれども,「職務の執行に当たり,文書を提示する」というのは,これは必ずしも占有者がいなくても,誰かそこにいる人に必要があれば提示するというようなことであって,必ずしも告知の問題と,1対1では一致していないのかなと思いますが,告知の点について事務当局の方で現在の御検討,あるいはどういう理解をされているのかという点についてお伺いできればと存じます。お願いします。 ○吉賀関係官 御指摘ありがとうございます。告知の問題につきましては,一般的には民事執行規則第2条において整理がされているところかと思います。   許可証の提示というものにつきましては,部会資料に書いたような趣旨,つまり職務の執行の適正を確保するという観点から規律を設けることを御提案しているところですけれども,それとは別に,特に占有者に対して告知をすべきかどうかという問題につきましては,当然検討すべき論点であると認識しております。   ただ,密行性等の観点があるということに加えまして,そういった民事執行規則の中に規定が設けられているというところもございますので,法律の中でどこまでそういった規律を設けていくかという点も含めて,本日の御指摘も踏まえて引き続き検討してまいりたいと思っております。 ○山本(和)部会長 それでは,その点も引き続き御検討をお願いします。 ○道垣内委員 二つ戻ってしまって恐縮なのですが,先ほどの子の心身に有害な影響を及ぼさないように配慮しなければならないというところについて一言だけ発言をさせてください。   今井委員がおっしゃったことにも関係するのですが,逆の方向になるのかもしれません。というのは,この文言について谷幹事が懸念されるのは一方のことしか書いていないということなのだと思うのです。つまり,子の心身への負担の配慮と強制執行の実効性の確保の調和の観点ということであり,実際には例えば虐待等を受けていて,執行しないことが子の心身に有害な影響を及ぼしている場合だってあるわけです。ところが,強制執行手続において強制執行が有害な影響を及ぼさないという面だけ書きますと,強制執行は,一定程度は常に有害な影響を及ぼすのかもしれず,その面だけが強調されてしまいかねない。もちろん,そこは「できる限り」という文言で何とか調和を図っているのだろうとは思うのですけれども,やはり子の福祉の観点から監護の移転が行われるべきであると判断されて,そのために執行がなされるわけですから,両方の要素が出るというふうな文章にした方がいいのかなと思います。   私は「福祉」という言葉は,その面ではよくできている言葉ではないかという気がしておりまして,目指すところは皆さん変わらないのだと思いますが,どういうふうにするのかということについて検討の方向として一つの参考にしていただければ幸いです。 ○山本(克)委員 多分今道垣内委員がおっしゃったことは,私が先ほど申し上げたこととほぼ同じようなことをおっしゃっているのですが,先ほど御紹介いただきました児童福祉法の文言,「健やかな成長」という言葉が--まあ,「福祉」よりはそちらの方がよりいいのではないのかなという気がいたします。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。おおむねよろしいでしょうか。   それでは,「第3」の部分につきましても,債務者の審尋の問題や同意に代わる許可の告知の問題,あるいはそもそも「子の引渡し」という文言を使うかという問題などが御指摘されました。 ○山本(克)委員 ちょっと補足的に申し上げてよろしいですか。「引渡し」という文言の話ですが,今回の部会資料等では,もう「監護を解く」という言葉が使われており,「占有を解く」ということは一切使われていないわけです。やはり引渡しというのは占有を解いて占有を移転するという言葉なので,「監護を解く」と書いた以上,それにふさわしい名詞と動詞を作っていただきたいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。文言の問題についても幾つか御指摘を頂きました。それから,最後の配慮規定の部分については,これを置くこと自体については大方の御賛同があったということかと思いますので,文言や規定の範囲も含めて幾つか寄せられた御意見も踏まえて,事務当局において具体的な案を次回お出しいただければと思います。   子の引渡しの部分はよろしいでしょうか。   それでは,引き続きまして,部会資料の「第4 債権執行事件の終了をめぐる規律の見直し」の点ですが,これもまず事務当局の方から御説明をお願いします。 ○内野幹事 第4の部分について御説明いたします。   まず,第4の1の部分につきましては,事前の部会資料の中で紹介してまいりました規律におきまして,差押命令を取り消す決定をする前における事前の事務的な連絡につきましての規律を取り上げておりました。ただ,その後の部会の議論を振り返りつつ,その規律をどこに置くべきか,具体的には法律事項なのか規則事項なのかという点を含めて検討及び整理をしてまいりましたところ,この部会においては,事前の事務的な連絡について,直接的に何らかの法的効果を付与するという方向で議論が推移してこなかったというところがございますので,専ら最高裁判所規則で定めるべき事項なのではないかという整理をいたしまして,部会資料20-1からは記載を落としております。   また,前回の部会資料19-1との関係では,第4の1の(3)に相当する部分についての変更がございます。いわゆる差押命令を取り消す旨の決定がされた場面において,この決定を覆すための規律に関する部分でございます。   部会資料19-1では差押債権者が今回規律されております届出義務について,どうしても失念してしまうということがあるだろうという御指摘があり,これに対する対応策の一つといたしまして,差押命令が取り消されたという場面でも,取消決定後に差押債権者が取立ての届出などをしたことを理由として執行抗告をすることができるという方法で当該決定の効果を覆すという規律を提案しておりました。   ただ,前回の部会におきましては,このように上級審の判断を求めるような重い手続が必要なのかという根源的な問題や,その法的位置付けに関する御指摘も頂いたところでございます。   そこで,今回の部会資料20-1におきましては,前回提案させていただいた規律よりも簡易な方法によって,この取消決定の効力を覆す方法等があり得るのではないかという考え方の下,第4の1の(3)に記載したような規律を提案しております。   次に,第4の2の部分につきましては,変更は具体的にはございません。   前回の部会におきましては,不動産執行事件の開始決定を送達することができない場合の取扱いも話題になっておりまして,この点につきましては,部会資料20-2の30ページに記載しておりますとおり,従前の裁判例と同様に,引き続き解釈によって対応するということが考え得るのではないかと考えております。   今回の民事執行法の改正によって債権執行事件の終了についてのみこういった規律を設けたとしても,そのことは不動産執行事件における解釈に実質的な影響を与えるものではないものとも考えられるところでございまして,このような観点も踏まえますと,具体的な規律として不動産執行事件について同様の規律を設けることまではしなくてもよいのではないかという方向で検討をしております。   したがいまして,不動産執行事件に関する規律については,部会資料20-1の本文において具体的な提案をしておりません。   各部会資料の「第4」についての説明は,以上でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   それでは,第4の部分について御質問,御意見を頂ければと思います。 ○中原委員 第4の1の(2),(3)に関する運用がどうなるのかについて御質問をさせていただきたいと思います。   差押債権者の事後的な届出による救済措置,すなわち差押命令の取消決定があった後に事後的な救済を設けるということ自体は異論ありませんが,この場合,第三債務者に対する差押命令の取消決定の通知というのはどの段階で行われるのでしょうか。つまり,(2)で差押命令の取消決定がされたときに通知があり,(3)で1週間の不変期間内に届出があったときには,取消決定を取り消しますという通知が来るのか。それとも,1週間の不変期間経過後に第三債務者に取消決定が送達されるのか。この点の運用はどうなるのでしょうか。 ○松波関係官 ただいまの御指摘は,この第4の1の規律によって差押命令の取消決定がされた場面において,第三債務者に対して,取消決定の効力が存続しているのか,失われたのかという点を明確に伝えないと,第三債務者の二重払いの危険等が生ずるのではないかという御懸念に基づくものと認識しております。   その前提といたしまして,まず,取消決定の効力がいつ生ずるのかという点を検討する必要があるわけですが,前回の議論でも話題に上がりましたように,民事執行法の規定によれば,差押命令を取り消す旨の決定は,それが確定したときにその取消しの効力が生ずることになるものと考えております。そのため,(2)の規律によって取消決定がされた後に(3)の規律によって取消決定がその効力を失い,言わば差押命令の効力が維持されるというような場合につきましては,取消決定はいまだ効力が生じない段階であったというような状況になろうかと思います。   このことを前提としまして,第4の1の規律によって差押命令が取り消された旨をどの段階で第三債務者に対して通知するのが適切かを検討するに当たっては,執行裁判所における運用上の問題もあろうかと思いますけれども,民事執行規則第136条第3項の規律や運用が参考になるかと思います。同規則第136条第3項では,「債権執行の手続を取り消す旨の決定がされたときは,裁判所書記官は,差押命令の送達を受けた第三債務者に対し,その旨を通知しなければならない」とされておりますが,こういった通知をどのタイミングでするのかという点につきましては,手続の混乱が生じないように適切なタイミングでされる必要があると考えております。 ○中原委員 第三債務者の立場からすれば,差押命令の取消決定の効力が確定的に生じた段階で通知を頂くのがよいだろうと思います。   それに関連して,差押債権者に対する取消決定はいつ債務者に送達されるのでしょうか。といいますのは,債務者に取消決定が行き,第三債務者が預金の払戻しを求められたときに,第三債務者に対して取消決定がまだ届いていなかった場合には,預金払戻しでトラブルが生じることがあり得ますので,債務者に対する取消決定の送達時期については,第三債務者への送達後にしていただいた方がいいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。かなり運用に関わるところだと思いますが,事務当局において御検討を頂きたいと思います。 ○谷幹事 今のと同様,私も中原委員と同じ質問をしようと思ったのですけれども,今のやり取りを踏まえて,実務的な取扱いとしてこういうのが可能かどうか,もし御検討であれば教えていただきたいと思うのですが。   (2)で差押命令の取消しの決定が発令されるということで,それに対して(3)で届出があれば,取消しの決定の効力が失われるということになりますので,もし取消しの決定があって直ちに通知をしないということであれば,届出の後,効力を失った後に通知をするかどうかという問題になると思うのですけれども,この場合は既に取消決定自体が効力を失っているわけなので,それを通知する意味というのはないということになるのだろうと思うのです。しかし,一応法律上は取消決定がなされたときは第三債務者に通知をするということになっているので,これとの関係で,もう取消決定は効力を失っているので通知をしないでいいというふうな扱いが可能なのかどうなのか。もし,可能であれば,そういうふうにするのが一番便宜だと思いますし,混乱も生じないと思いますので,そういう方向で御検討も頂けたらと思います。もし,今の時点で何か検討されていることがあれば教えていただいて,今後,その点も含めて検討いただいたらと思います。 ○松波関係官 御指摘いただいたのは,民事執行規則の解釈に関わるものだと思いますけれども,そういった実務上の混乱が生じないように処理すべきであるとの御指摘を踏まえて,引き続き検討してまいりたいと考えております。 ○阿多委員 先ほど御説明いただいたので,規則事項になったのは理解をしているのですが,部会資料20-2の19ページの真ん中下の(3)の,いわゆる事務的な連絡に関する規律で,最終的に現時点では下から4行目で,本文ではこのような影響を踏まえ,このような事務的な連絡に関して,最高裁判所規則に定めるものと想定して提案しないという形になっているのですけれども,ほかにもあるのだとは思うのですが,今日配られたものも含めて規則事項にするというのは,その旨書いてあるのですけれども,元々の議論は法律事項にするか,むしろ場合によっては事務的な事実上の連絡にするかというような議論があったところを載せないというのであれば,規則事項にするのであれば,規則事項にする旨の記載をしていただいた方がはっきりするのではないかと。この本文のところには載っていないのだと思うのです。その確認なのですけれども。 ○山本(和)部会長 記載というのは,部会資料20-1のゴシック部分のことですか。 ○阿多委員 20-1の方にですけれども。 ○山本(和)部会長 これは恐らく法制審議会の今までの答申の仕方にも関すると思うのですが,規則事項にすることを要綱案の本文に記載するということは余りやっていないのではないかと思います。「最高裁判所規則の定めるところにより」といった形で法律に記載するという提案をするのであれば,その点はもちろん要綱案の本文に記載するのですが,記載事項自体が最高裁判所規則になるようなものについては本文には記載しないという取扱いかと思うのです。 ○阿多委員 分かりました。ただ,ここの部会資料20-2のところで規則事項としては入ると,そういう説明なのですか。 ○山本(和)部会長 この法制審議会民事執行法部会として,その点についての共通理解が得られるのであれば,最高裁判所においても,規則の制定に際して尊重していただけるのではないかという理解なのだろうと思います。 ○阿多委員 説明は理解しました。 ○山本(和)部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○松下委員 先ほどの差押命令の取消しの話で細かい話なのですが,部会資料20-1の10ページの第4の1の(3)で1週間の期間が不変期間になっていますけれども,不服申立て使われる不変期間でなければならないのでしょうか。   確かに,これは不服申立てに関係するような気もするのですけれども,御検討いただければと思います。 ○山本(和)部会長 効果が差押命令の失効を内容とするものですから,そのような規律について不変期間というと,確かに御指摘のような問題もあり得る気はいたしますが。 ○松下委員 元々執行抗告の議論が基になっているからなのだと思いますが。 ○山本(和)部会長 そうですよね。ありがとうございました。この点も事務当局において御検討いただければと思います。   ほかにいかがでしょうか。おおむねよろしいでしょうか。   それでは,「第4」につきましても,幾つかの御指摘を頂いたかと思いますけれども,基本的にはこの規律全体については御理解を得られたと思いますので,事務当局において,御指摘いただいた点を踏まえて,次回までに更に御検討を続けていただければと思います。   それでは,部会資料20-1及び20-2の最後になりますが,「第5 差押禁止債権をめぐる規律の見直し」につきまして事務当局から御説明をお願いします。 ○内野幹事 第5の部分につきましては,部会資料20-1において提案しております規律の枠組み自体は部会資料19-1で提示いたしました案と実質的に同内容のものでございます。   第5の1の(4)の配当等の実施時期に関しましては,前回の部会において,差押債権者のうちの一人に例えば扶養義務等に係る請求権を有する者が含まれているといった場面については,どのような帰結になるのかという御指摘がございました。   この点につきましては,実質において配当等の時期を後倒しにするのは権利保護の観点から適切でないのではないかとの御指摘も併せて頂きましたので,今回の部会資料の中では差押債権者のうち少なくとも1人以上が扶養義務等に係る請求権を有する者である場合には,配当等の時期を後倒しにはしないということを規律上明らかにしております。   このほか,「2 手続の教示」の部分につきましては,教示をすべき内容については細目的な事項と整理することができるものと考えまして,具体的には最高裁判所規則に委任することを規律として提示しているところでございます。   各部会資料の「第5」の部分についての御説明は,以上でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   それでは,この部分につきまして,御質問や御意見を頂ければと思います。 ○阿多委員 意見というほどのことでもないのです。最後の「手続の教示」の教示の内容なのですけれども,部会資料20-2でも御説明いただいていますように,一方で一律に定めることが法律上困難なものを--まあ,規則になれば一律に定めることができるのかどうかは問題なのですけれども,むしろ,従前から村上委員,栁川委員などからも御提示がありましたように,規則にするにしろ,何にするにしろ,債務者の方が理解できるような内容にするためには,規則にするのに際して弁護士会等とも意見交換して,内容について御議論していただけたらと思いますので,それだけお願いしたいと思います。 ○山本(和)部会長 最高裁判所において規則を制定するに際しての御要請ということかと思います。   ほかにいかがでしょうか。   おおむねよろしいでしょうか。この規律の内容自体は,先ほどもお話がありましたように,複数の差押えがあった場合の規律を追加しているわけですが,それ以外は特段の変更はないということですので,原案のとおりでよいということと理解させていただいてよろしいでしょうか。   ありがとうございました。それでは,この第5の部分について特段の御異論はなかったということにさせていただければと思います。   それでは,ここで休憩とさせていただければと思います。再開は3時半ということでお願いできればと思います。           (休     憩) ○山本(和)部会長 それでは,審議を再開したいと思います。   この後の審議ですけれども,本日も含め,これまで行われてきた国内の子の引渡しの規律の明確化に関する御議論を踏まえて,「ハーグ条約実施法に基づく国際的な子の返還の強制執行に関する規律」につきましても,その見直しの要否や内容等について御審議を頂ければと考えております。   その審議に当たりまして,法制審議会議事規則によりますと,「部会において議長が必要と認めたときは,委員又は議事に関係のある臨時委員でない者の出席を求め,その説明又は意見を聞くことができる」という規定が設けられております。   「ハーグ条約実施法に基づく国際的な子の返還の強制執行に関する規律」につきまして御審議を頂くに当たりましては,私としましては,国際的な子の返還の実務に精通しておられる大谷美紀子弁護士及び芝池俊輝弁護士を参考人としてお呼びし,御議論に御参加いただきたいと考えておりますけれども,いかがでございましょうか。よろしいでしょうか。   それでは,本部会として大谷美紀子弁護士及び芝池俊輝弁護士を参考人として招致する旨の決定をしたいと思います。   大谷参考人は現在,他の場所での御講演の質疑応答が若干延びており若干遅れてこられるという御連絡が今ございましたが,芝池参考人にはこれからの御議論に御参加いただきたいと思います。   それから,本日は同じく「国際的な子の返還の強制執行に関する規律」についての審議ということでございますので,外務省領事局ハーグ条約室の圖師執二室長にも関係官として御参加を頂いております。    (参考人等の自己紹介につき省略) ○山本(和)部会長 それでは,審議に入りたいと思いますけれども,部会資料20-3「ハーグ条約実施法に基づく国際的な子の返還の強制執行に関する規律の見直しに関する検討」について御審議を頂きたいと思います。   まず,事務当局から御説明をお願いいたします。 ○内野幹事 まず,部会資料20-3と20-4の関係でございますが,内容については本日の御議論次第であるとは思いますが,部会資料20-4は部会資料20-3においてゴシック体で記載されている部分を試案のたたき台という体裁で抜き出したものでございます。   それでは,この部会資料につきまして,ゴシック体で記載された部分を中心に御説明を申し上げたいと思います。   本日の休憩前に御議論いただきました国内の「子の引渡しの強制執行に関する規律の明確化」についての検討を踏まえまして,現行のハーグ条約実施法との間で規律の異なる点について,国内の規律に合わせて見直すこととする御提案をさせていただいているのがこの部会資料20-3及び20-4のゴシック体で記載されている部分でございます。   具体的には,いわゆる間接強制前置の点,子と債務者の同時存在の点,そして執行の場所を占有する第三者の同意に関する点のほか,細かいところでは必要的審尋の例外に関する点も含まれてくるところでございますけれども,こういった各論点につきまして,国内の子の引渡しの強制執行に関する規律の在り方として御検討いただいてきた部会資料20-1の内容に合わせて規律を見直すことを御提案しております。   若干繰り返しになるかもしれませんが,本日の部会において取り上げることを予定している点につきまして付言させていただきます。   まず,現行のハーグ条約実施法と国内の子の引渡しの強制執行に関する規律が異なる点の一つ目は,「1 間接強制の前置に関する規律の見直し」でございます。国内の子の引渡しの直接的な強制執行に関する規律につきましては,その申立てを認める必要性や相当性があると考えられる点を類型的に抽出して要件化を図ってきたところでございます。これに対応させる形で,いわゆる子の返還の代替執行の申立てに当たって間接強制の前置を必ず要求している現行のハーグ条約実施法の規律を見直しまして,おおむね同様の要件の下で,子の返還の代替執行の申立てを認めるといった規律に見直していくことを御提案しております。   そして,「2 債務者の審尋に関する規律の見直し」に関しましては,国内の子の引渡しの強制執行に関する規律に対応させる形で,債務者の審尋をしないで子の返還の代替執行における授権決定をすることができるといった規律に見直すことを御提案しております。   先ほど,休憩前の御議論におきましては,債務者の審尋の例外規定の在り方に関しまして,「強制執行の目的を達することができない」との文言については広く要件を満たす方向で解釈される余地を認めるべきではないかとの御指摘も頂きました。   こういった御指摘もございましたので,部会資料20-4の内容が一つの試案として取りまとめられるということになりますれば,その補足的な説明の中で,御指摘の点についても具体的に明らかにしていくことが考えられるところでございます。   そして,「3 子と債務者の同時存在に関する規律の見直し」につきましては,債権者本人の出頭により強制執行が可能になるとの規律のほか,執行裁判所による一定のスクリーニングが前提となりますけれども,債権者の代理人による出頭によっても強制執行が可能になるといった方向での規律の見直しを御提案しております。   部会資料20-4では債権者が返還実施者として出頭するという場面を提示してございますけれども,ハーグ条約実施法は,常に債権者と返還実施者が一致するということを必ずしも前提としておらず,両者が異なることを許容しておりますので,この点を重視いたしますと,債権者が「返還実施者として」出頭することを必ずしも要しないという形で規律を設けることも一つの選択肢であろうと思われますので,そういった考え方も考慮した上で,この「3 子と債務者の同時存在に関する規律の見直し」について御検討を賜れればと考えております   なお,国内の子の引渡しの強制執行におきましても,「代理人」という言葉の使い方については御議論があったかと思いますが,部会のこれまでの議論を踏まえたたたき台といたしましては,いわゆる債権者の代わりになり得る者という実質を念頭に,今回の部会資料におきましては「代理人」という文言を差し当たり提示させていただいております。   債務者の占有する場所以外の場所における第三者の同意の部分につきましては,国内の子の引渡しの強制執行に関する規律と合わせた形に見直す方向での規律を,部会資料20-3及び20-4において御提案させていただいております。   あわせて,国内の子の引渡しの強制執行に関する規律と同様に,部会資料の20-3の8ページの「3 その他の検討課題」というところになりますけれども,国際的な子の返還の強制執行に関する規律におきましても配慮規定を設けるという考え方を提示しております。   まずは,休憩前の御議論を踏まえまして,この配慮規定の要否についての御意見も伺った上で,ハーグ条約実施法に基づく子の返還の強制執行に関する規律の見直しの在り方全体について御議論いただければというふうに考えてございます。   部会資料の御説明は,以上でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それで,本日の審議の趣旨ですが,このハーグ条約実施法に基づく子の返還の強制執行に関する規律の見直しにつきましては,本部会におきましても常に念頭には置かれていた問題かと思いますが,正面から御議論を頂くのは今回が初めてということになるかと思います。   他方で,ハーグ条約実施法の規律の見直しが非常に重要な問題であることは言うまでもありませんので,本部会において何らかの決定をするということになるとすれば,その前にパブリックコメントの手続を行う必要があろうかと思います。   そこで,もし可能であれば,本日の部会での議論におきまして,大筋で御意見の一致が見られるような状況になれば,追加試案という形で取りまとめを頂いて,それに基づいてパブリックコメントを行い,そのパブリックコメントの結果を踏まえて更に御議論いただくという形で審議を進められればと思っております。   そのような点も踏まえて,本日の御審議をお願いいただければと思います。   具体的な審議に入ります前に,ハーグ条約実施法に基づく子の返還の強制執行の実情につきまして,外務省領事局ハーグ条約室の圖師関係官から御紹介を頂ければと思います。よろしくお願いいたします。 ○圖師関係官 よろしくお願いします。本日は,この部会に出席して,また発言させていただく機会を頂きまして,ありがとうございます。   外務省は,ハーグ条約上の中央当局としまして,ハーグ事案の援助申請を受け付けたり,あるいは事案の当事者に様々な支援を行うといった活動を行ってきております。   そして,実際の事務を行っておりますハーグ条約室ですけれども,そこにはケースオフィサーと言われます担当官がおりまして,その担当官が事案の援助申請の段階から援助終了に至るまで一貫してフォローするという形をとっております。その結果として,ハーグ条約室にはハーグ事案に関する知識といいますか,経験が蓄積されてきているというのが現状でございます。   今般,このハーグ条約実施法の改正がこの部会で検討していただけるということでございますので,委員の先生方の検討に資するような形で外務省からハーグ事案に関する情報提供を行わせていただければと思っております。   まず,一般的なハーグ条約の実施状況についてでございますけれども,御承知のとおり,ハーグ条約は日本では2014年の4月1日に発効しております。そして,条約発効から今4年2か月ほどでございますけれども,条約発効から4年間,すなわち今年の3月末までの数字ですけれども,日本から外国へ子供の返還を求めるという事案については計87件の申請がございました。そして,そのうち74件について中央当局が援助を行うという決定を行っております。そして,そのうちの58件につきまして返還,又は不返還という結論に至って案件が終了しております。そして,そのうち32件が返還という結論になっております。さらに,32件のうち25件につきましては,実際に子供が外国に返還されているという状況でございます。   こうした援助申請の数でありますとか,あるいは子の返還に係る実績につきましては,外務省のホームページに最新情報を載せておりまして,また毎月更新しておりますので,是非御参照いただければと思います。   次に,日本から外国への子供の返還に関するハーグ事案につきまして,裁判所の返還命令が確定した後の,いわゆる強制執行につきまして,これまでの実績,そして実態について御説明いたします。   御承知のとおり,ハーグ条約実施法におきましては間接強制が前置されておりますけれども,間接強制の段階,すなわち代替執行に至る前の段階で子供の帰国が実現したというケースはトータルで5件ございます。   このように件数は限られておりますので一般化はできないわけですけれども,これら5件の特色としましては,まず第1に子供の帰国先の国,これは5件全てばらばらとなっております。   そして第2ですけれども,いずれの事案でも残された親,我々は「LBP」,レフト・ビハインド・ペアレントと言いますけれども,残された親(LBP)は父親,そして連れ去った親,これを「TP」,テーキングペアレントと言いますけれども,このTPは母親となっております。   第3に,このTP,母親は全て日本人となっております。   第4,にLBP,TPともに日本人という事案が2件ございました。   続きまして,間接強制の決定後,代替執行まで進んだ事案,これについては7件ございます。そのうち6件については執行不能で終了しておりまして,1件については申請者が申立てを取り下げております。   そして,代替執行の現場には,原則として中央当局から児童心理の専門家,それから担当のケースオフィサーを派遣しております。彼らの報告によりますと,執行不能の主な原因としましては,まず第1に子供あるいはTP(連れ去り親)の強い抵抗によるものがあります。   第2には,子供あるいは連れ去り親のいずれか,あるいは両方が不在である場合。このように,同時存在の原則が不成立というケースもございます。   そして,実際の運用ですけれども,解放実施におきましては,通常連れ去り親(TP)の出勤,あるいは子の登校の前の早朝,あるいは帰宅後の夜に行うことになっております。そして,事前に日時を通告しますと,当然のことながら,同時存在を満たさないという形で簡単に執行妨害できてしまいますので,通常は臨場は不意打ちで行います。したがいまして,子供と親がいるだろうという想定の下に現場に向かうわけですけれども,その読みが外れると執行不能という結果に終わります。   代替執行ですけれども,これも件数が限られておりますため一般化はできませんけれども,この7件の特色につきましては,まず第1に子供の常居所地国につきましては米国が3件ございますけれども,そのほかは比較的分散しております。   第2に,LBP(残された親)が父親であるケースが4件,母親であるケースが3件となっております。   第3に,LBP,TP,両方ともに日本人であるというケースは2件ございます。   それから,連れ去り親,TPは全て日本人となっております。   このいずれの事案におきましても,返還実施者につきましてはLBP(残された親)が指定されております。そして,全ての事案におきまして,LBPは執行現場に臨場しているという状況です。   最後になりますけれども,これまで申したように,日本では現状,ハーグ事案におきまして強制執行によって子の返還命令が実現できてはおらないわけですけれども,そのことの影響としまして,一部の外国からは日本の条約実施体制の実効性に疑念の目が向けられているのも事実であります。現に米国国務省の子の連れ去り問題に関する年次報告書におきましては,ハーグ条約の発効後,初めて日本が不履行国に分類されております。そのこと自体,日本の対外的なイメージという意味ではゆゆしき問題であるわけですけれども,それ以上に深刻な問題と我々考えておりますのは,そういったイメージがあるがゆえに,海外に住む離婚をした日本人が子供を連れて一時帰国しようとする際,通常でありますと他方の親の同意を得るということが必要になるわけですけれども,それが得られない場合には,それに代わる裁判所の許可を得ようとするわけですが,裁判所の許可が得られないと。なぜならば,日本ではハーグ条約はうまく機能していないらしいではないか(との印象から,裁判所が許可を出すことを躊躇する)というケースが複数報告されております。   こうした事態というのは,我が国がハーグ条約を締結した意味を没却しかねない非常に深刻な問題だと考えております。したがいまして,今回こういった形でハーグ条約実施法の改正について御議論いただけるということは,そういった状況を改善する上でも一助となるのではないかと我々としては期待しておるところでございます。   簡単ですが,以上になります。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,今の御発言も踏まえて御議論いただきたいと思いますが,大谷参考人が到着されましたので,大谷参考人にもこれからの議論に加わっていただきます。    (参考人の自己紹介につき省略) ○山本(和)部会長 それでは,この部会資料20-3及び20-4について御議論を頂きたいと思います。特に場所は区切りませんので,どの点についてでも,どなたからでも結構ですので,御質問,御意見を自由にお出しいただければと思います。 ○佐成委員 今,外務省の圖師関係官から御説明いただきまして,件数的な部分がはっきりしたということで,非常にイメージがつかめました。しかも日本で代替執行7件が全て不能というか,失敗に終わっているという現実があり,部会資料20-3の3ページの「実際」という段落,中ほどから下のところで書かれてある,ハーグ条約実施法は3年を目途に検討すべきであるとか,こういったような事情だけではなく,今,実態として実効性が非常に損なわれているというところがあります。また,私がこの資料を読んでいて一番気になったのは,4頁の(注3)で,ハーグ条約第2条で締約国として利用可能な手続のうち,最も迅速なものを用いるとなっている点で,今回我々が議論したものが一番迅速になるということですから,ここを手当てしないというのは条約違反ということになりかねず,条約が国内法秩序の中でも,憲法の上といいますか,そういう位置付けになりますものですから,もう絶対にやらざるを得ないなというのは感じております。元々この議論をしたときに,私は実定法として既に存在しているハーグ条約実施法というものを前提にいろいろ議論をしてきたのですが,今回そういった実態を十分お聞きし,弁護士会からはかなり詳細なお話は聞いていましたけれども,改めてそういった数字をお聞きしまして,これはやらざるを得ないだろうというのが実感でございます。   それから,いろいろな方から言われることがあるのですが,あるマスコミの方からお話を聞いたときにも,外国では日本は子供の連れ去り天国だみたいなことを言われているとか,そんな話まで聞いておりまして,これはかなり深刻だと感じております。もしこの部会の権限の範囲内でできるのであれば,そういった手当ては是非お願いしたいと思います。 ○村上委員 今の佐成委員の御意見とちょっと違う方向なのですが,今回は民事執行法の見直しということで,国内の子の引渡しの強制執行に関する規律について議論してきました。その上でハーグ条約実施法についても見直すということについては,正直やや違和感というか,戸惑いは感じているところです。ただ,そういった議論をしていく必要性が世の中にあるということであれば,少なくとも多様な関係者や専門家が入った中で検討されるべきであると思っておりますし,ハーグ条約実施法に関わっていらっしゃる皆様も入った中で,ハーグ条約実施法の固有の価値観も踏まえた上での議論をしていただく必要があるのではないかと思っております。   また,先ほど外務省の圖師参考人から御紹介いただきましたように,現行のハーグ条約実施法の手続によっては子供の返還が実現していないというお話であり,それはそれで何か手当てしていく必要があるのかもしれませんが,もっと根本的にある子供を奪い合うことの背景も考えていく必要があると思います。そういうことを解決しないと,この問題はずっと引きずっていくような気もしております。国境を越えるときだけの話ではなく,夫婦の関係が終わって婚姻関係が解消したとしても子供にとっては親は親で,親子関係というのは続くわけですが,なぜか単独の親権になると,面会交流もなかなか難しかったり,離婚によってどちらかの親の元にいくと,もう今生の別れになってしまうようなところがあることが問題の出発点としてあるのではないかという感じもしておりまして,共同親権というようなことも何かしら考えていく必要もあるのかなという,これは感想ですけれども,そういったことも考えているところであります。 ○今井委員 今,村上委員のお話がありましたけれども,多分ハーグ条約実施法以前のハーグ条約全体のいろいろな考え方や思想の問題と,それから今回テーマになっているハーグ条約実施法,それは今回御説明ありましたとおり,国内の子の引渡し,若しくは監護の移転についての問題とは,条約には条約の思想やら考え方はあると思うのですが,子の監護の移転なり引渡しのその部分だけ取り上げますと,それはそのパーツだけを取り上げますと,やはり重なるというか,ほとんど同じ場面ではないかと思うのです。   監護の移転をするのだということが決まっていて,その移転について先ほどこういう一般条項を入れるのはどうかという御議論の中で強制執行がというふうには書いてありますが,子の心身に有害な影響を及ぼさないように配慮するということと,それから監護の移転なり引渡しがより迅速で実効性がある。これは短い方がやはり影響は少ないと思いますので,ここ自体は,全体とすると福祉かもしれないけれども,これ自体は子の福祉というものとはちょっと違うのかなと。子の福祉は本来どう在るべきかという問題であり,債務名義や命令について監護の移転をするということそれだけのミッションから言えば,やはり実効性,迅速性,子の心身の影響,ここが全てではないかと,そういう意味ではこの審議会でも早くから間接強制の前置,それから同時存在の原則というハーグ条約実施法の規律を横に置きながら御議論させていただいたけれども,そこを深掘りすればするほど,すんなり一律に決められるようなものではなくて,より柔軟に,より適切に,それで最終的にどうなるかは分かりませんけれども,子の引渡しのところの全体の枠組みはものすごい議論をして,2年近く議論して固まってきて,そして一番困難なテーマだと思われてきたことが随分収れんされてきたと思います。私は佐成委員の意見に全面賛成でございまして,そうだとすれば,国際的に見て日本におけるハーグ条約実施法についての実効性に非常に疑問が持たれている中,今までの議論はそこのパーツだけ言うと全く重なると思いますので,この成果をハーグ条約実施法の方にも取り入れて,同じような規定ぶりになっているというふうに受け止めてございます。せっかくのこの機会での,この審議会の一つの大きな成果だというふうに個人的には考えておりますので,是非これを一緒に要綱案としてまとめていただければなと。個人的な意見ですが,これまでの審議会の御議論ないし全体の流れの中で,これはごく自然であるし,在るべき方向だというふうに強く感じております。 ○圖師関係官 ちょっと事実関係の訂正をさせていただきたいと思うのですけれども,すみません。先ほど裁判所から御指摘を受けまして,私が申し上げた点で一つ訂正がございます。   私は子の返還の代替執行の場で返還実施者は全てLBP,すなわち残された親だというふうに申し上げたのですけれども,一つのケースでは返還実施者はLBP(残された親)ではなくて,どうやらその父親のような方であったというケースがあります。ただ,その場合でも執行の現場にはLBPは臨場しております。ですが,返還実施者としてはLBPとは別の方がおられたというのが一つございます。   それからもう一つのケースでは,LBP(残された親)も返還実施者だったのですけれども,更にそれに加えて,その人の母親,すなわち子供のおばあさんも返還実施者として指定されていたというケースがございます。その2人が,また2人とも現場に臨場しておったというケースがございました。   以上,訂正になります。 ○谷幹事 中身の点についての意見と,これはむしろ実情につきましては参考人の方にもいろいろ教えていただきたいなと思いますので,その辺りを含めて発言をさせていただきます。   まず前提としまして,これはもう言わずもがなのことなのですけれども,この問題を考えるに当たってのハーグ条約というものについての基本的な考え方をおさらいをしておく必要があるのかなと思いまして,そこが国内における子の引渡しと違うところがたくさんありますし,それを踏まえた上で立法の内容を考えていかないといけないということだと思いますので,その点について,少し前提部分もお話をさせていただきます。   ハーグ条約の考え方というのは,子供が元いた国,常居所地国において父母に監護に関する争いがあった場合には,元いた国,常居所地国でその監護について裁判手続を含めて決着を付けるということが子の福祉にとっていいのだという基本的な考え方に立って,それを妨害するような一方的な国際的な連れ去りがあった場合には元の国に戻して,そして元の国で監護についての争いについて決着を付けるという,そのために子を常居所地国に返還をするということだったかと思います。   したがって,その点では国内における子の引渡しとは全く違うわけでございまして,国内における子の引渡しの場合には,どちらで監護されるのがいいのかということについての実体判断がなされた上で,それを実現すると。債権者の元に子供が行くということが子の福祉にとっていいのだという判断が既になされていて,それを実現するわけですけれども,ハーグ条約における常居所地国への返還はそうではなくて,それも含めて,常居所地国で判断をするために常居所地国に返還をする。この点の違いを意識して立法について考えていかないといけないということだと思います。   その点で私が少し疑問に感じたのは,部会資料20-4の「1 間接強制の前置に関する規律の見直し」の(3)なのですけれども,間接強制の前置がハーグ条約実施法に規定されていることによる弊害というのはこれまで既に様々語られてきたところでございますけれども,それを見直すためにこういう(3)というのを,これは国内で今取りまとめをしようとしているのとほぼ同じ中身で,こういう見直しをハーグ条約実施法でもすればいいのではないかという御提案なのですが,ここで定められている「子の急迫の危険を防止するため直ちに子の返還の代替執行をする必要があるとき」というのは,先ほど申し上げた国内の引渡しの場合には適合的な場合があるでしょうし,国内の子の引渡しの要件としては十分意味がある要件だと思うのですけれども,ハーグ条約実施法に基づく常居所地国への返還は元々子供を返還することが例えば子供の危険を防止するためだとか,子供にとってよりよい環境をもたらすためということではなくて,適切な監護に関する判断をさせるために常居所地国へ返還するわけですので,その要件として「子の急迫の危険を防止するために代替執行する必要があるとき」というのは,条約の考え方からすると少しそごするのではないかというふうに感じるところです。   むしろ,ハーグ条約の考え方からすれば,例えば連れ去りからかなりの期間が経過をして速やかに返還をしないといけないとか,むしろそちらの方こそが考慮されるべきではないかと思います。   そこで,参考人の方にお伺いしたいのは,仮に「(3)子の急迫の危険を防止するため直ちに子の返還の代替執行をする必要があるとき」というふうなことが国際的な連れ去りの場で,特にハーグ条約実施法に基づく返還手続で具体的に想定をされるのか。こういう規定を定めて,これが発動されるような場面というのは想定されるのか。つまり,こういう規定を,この要件を定めることによる意味というものはあるのかどうかということについての実情を踏まえて,御意見もお伺いしたいなと思っているところでございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。今のは参考人に対する御質問という形でのあれでしたが,それに限らず,両参考人も是非御自由に御意見を述べていただければと思います。 ○芝池参考人 谷幹事の話と同じだと思うのですけれども,基本的に審判前の保全処分であれば保全の要件として急迫の危険というのがあってという話ですけれども,ハーグ事案の場合には必ずしもそこが前提となるわけではありません。かつそういった危険がない場合であっても返還を急ぐ必要はあるわけです。なので,私も同じような違和感は感じております。   他方で,直ちに,要するに執行裁判所としてこれで部会資料20-4の1の(1)か(2)か(3)かを選ばなければいけないときに,私たちが申し立てるときに(3)の要件に基づいて申立てを出すことって基本的にないのだろうなと思っています。(2)であって間接強制では返還する見込みがあるとはいえないというふうに使うことが一般的だと思うので,(3)はほぼ使われないのではないかなと思います。   もちろん,他方でTPの方で監護が適切になされていなくて,急遽緊急に返さなくてはいけないという事態,全く想定できないわけではないですけれども,そういった判断は返還拒否事由の中でされている話であって,そこは基本的には,そこの判断ではなくても執行の場面に移っている以上は,こういった急迫の危険があるかどうかというところの判断がなされるべきではなく,時間がたっていることが一番問題なので,時間がたっていることイコール直ちに代替執行をする,つまり間接強制を飛ばすということの方がしっくりくるなと思っています。 ○大谷参考人 今の御質問に限らずとおっしゃってくださったので,すみません,何点か発言させていただければと思います。   外務省から御説明があったことに若干関連して,諸外国からは日本は条約の実施をきちんとしていないという評価を受けているということに関して,外務省としては,それは大変不名誉なことと思われると思いますし,その後に続けておっしゃいましたように,実際そのことによる弊害として,子供が外国から日本に帰りたい,子供が帰るために,それについて他方親の同意を得なくてはいけない,あるいは裁判所の許可を得なくてはいけないのに,その許可が出ないという例をおっしゃいました。それは正に日本がハーグ条約に入る前に多数あったことで,それが子供の日本とのつながり,日本に,一時でも帰国をして,祖母や,日本国籍の子の場合,日本とのつながりを持つ上でも,それが阻害されるという意味で非常に懸念がされて,またそのことが一旦解消されたかに見えたのが,また困難な事例が出てきているということについて非常に憂慮を覚えます。   そうした事例において我々弁護士がよく外国での裁判で子供を返してもよいかどうかについての証人として意見を求められることがあるのです。そのときに我々ハーグ条約事案を扱っている専門的な知見を有する者が呼ばれますと,法律はこうなっている。だけど外務省も数値を発表されていますので,実際には返還ができていないということがもう諸外国には分かっていますので,そこは説明は非常に困難で,何とか手当が必要だなと思っていたことを付け加えます。   加えてもう1点,そのことによる弊害としまして,日本にこれから子供を連れて帰りたいのだけれどもという御相談を私どもが受けることがあります。それから,帰ってきたのだけれども,ハーグ条約実施法に基づく返還命令の申立てを受けた。どうしたらいいか。あるいはこれから受ける可能性があるけれども,どうしたらいいかという相談を受けることがあります。ここも非常に苦しいところで,私どもは条約の理念を説明し,こういう法のルールになっていますということのほかに,子供を迅速に返すことが子供の最善の利益の観点から好ましいということを説明しましても,今のような実情が広く知られている中で,当事者によっては結局最後まで--言い方はおかしいのですが,抵抗すれば返さなくて済むのですねみたいなことをお考えになってしまう。実際がそうなってしまっていますので。そうすると,どうなるかというと,代替執行まで行って,今の同時存在の原則の中で,修羅場という言葉がいいかどうか分かりませんが,そういう状態にまで行ってしまうことがあると。この辺りの弊害は,恐らく国内の議論の中でもされたと思いますので繰り返しませんが,そういうことが起きてしまう方に誘導されてしまう今の作りになっているというところについては,実際に実務を現場でやっている者としては非常に苦しい思いをしているということをお伝えしたいと思います。   それから,村上委員がおっしゃった,元々前提にあること自体も検討していく必要があるのではないかという御指摘は全くそのとおりでして,先ほど離婚がこの世の別れではなくて,面会交流の在り方とか,あるいは共同親権とおっしゃったのですけれども,もう一つは外国に住む,外国で生活している親の一方。特に外国にいる日本人,母親が日本に子供を連れて帰らざるを得ないと思ってしまうことの背景についても,そこへの支援というのは非常に必要で,その意味では私はハーグ条約実施法の審議にも関わりましたけれども,最終的に中央当局は外務省になられて,それで領事局の下にハーグ条約室が置かれて,外国にある,特に日本人母親の支援というところについてもきめ細やかに手を入れておられるということは,今日の在るべき姿として本当によかったなと思いますし,そういったことも併せてやっていく必要があると思っております。   すみません,あと長くならないように。迅速について,もう1点だけ。   諸外国から言われていることは,日本は裁判所が決定したことを守らないというふうに今見られてしまっています。なぜそうなるのかがどうしても理解されない。裁判所が決定したことを守らなくても済んでしまうという,この状態を幾ら聞かれても,なかなか説明できないので,とにかく実効性ということが重要で,やはり決められたことを守る。それは諸外国に対する信頼もありますし,私は,裁判所が子供を返せと言ったことを子供が知っているのに,返さなくて済んでしまうと,子供自身に裁判所が言ったことでも守らなくてもいいということを教えてしまっていることになると言われたことがありました。こうした観点からも,裁判手続によって決まったことは守らなくてはいけないのだということを子供が関わる場面で実際に担保していくことの重要性ということを感じました。   迅速性ということに関しますと,本当にこれは国内も,国境を越えても同じことで,子供に関わる問題については,これもハーグ条約に関する専門家の会議でも言われたことなのですが,特に大人の視点ではなくて子供の視点で考えたときに,子供にとって流れる時間というものは大人と尺度が違うのだと。子供にとって,例えば3か月とか1年とかを子供の成長の中で見たときに,それはものすごく長いことだということを指摘された外国の裁判官がいらして,そういう視点が本当に必要だと思いましたことと,あとこれは国内も国際も同じかもしれませんが,子供の環境を変えるということに対する私たちの抵抗があるわけです。子供の最善の利益の観点から考えたときに,子供がなじんで,その社会に根を下ろして,学校に通い,友達ができるというところを,そこを変えるということに対して,それは子供の最善の利益からいかがなものかということは常に感じるわけですが,ですから,そういう状況ができてしまわないうちに返すというのであれば,そういうことがどんどん進んでいった後に帰ってくださいということではなくて,決まったことを本当に実行すべきであるならば,そこは本当に迅速にすること自体が子供の視点,子供にとっての時間の流れとか,子供にとっての最善の利益という観点からも必要であると思います。もちろん,その中で子供の最善の利益を具体的なやり方の中で守っていくということは,これはもちろん絶対に求められるわけなのですけれども。   ということを申し上げさせていただきたいと思います。   谷幹事からの御質問の点なのですが,どんな場合があるか,これはやってみないと分からないのですけれども,今申し上げたように迅速にというところからすれば,そもそもそれ以上に急迫の危険を防止するという要件が出てくる場合が具体的にどうあるか分からないのですけれども,考え付く話としましては,更にどこかの国に連れ去ろうとしている再連れ去りの可能性があるとか,あるいは国内でも更に居所を変えようとする可能性が考えられる場合とか,それから連れ去った方の親による子供に対する虐待とか不適切な監護があるような場合に,もちろん,そういう事情がなくても,当然もう返すようにという話になっていて,それを迅速に実行しなさいというのはあるにしても,更に加えて子供の保護,子供の福祉の観点から,更に急迫の危険防止とか急迫性が出てくる場合というのが私はゼロではないと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○芝池参考人 すみません,議論の前提として,情報として,圖師関係官から御紹介のあった数字に加えて申し上げたいのですけれども,先ほど32件返還が決まっていて25件実際に戻っていると。執行の関係で7件が戻っていない。6件,7件が失敗しているという話にクローズアップしているわけですけれども,では,27件が実際どうやって戻っているかというと,はい,帰りますって戻っているわけではなくて,裁判所,日本の特徴として審判,審理の中で調停ということを挟んで,裁判所の中で話合いをして任意に帰る条件を決めて帰っているわけです。国によってはそういうことはせずに,とにかく審判,審理を早くして,裁判の結果が出て,その後執行に入り,執行段階で話合いをしたりとかということもありますけれども,日本の場合には執行がそもそも機能しないという前提もあるのですけれども,とにかく話合いをすると,調停をする,任意の合意をするというところが特徴と言われています。   ただ,私たち代理人として,それでとにかく執行にならないようにというふうに,むしろこれまで頑張ってきたところですけれども,それは実態として執行まで行ってしまったらこうやって逃げられてしまうというところがLBP側にはありました。   あとTP側からすると,なかなか条件を決めて戻らないと,子供だけ執行で戻してしまってもどうにもならないというところがあります。知っていただきたいのは,執行の問題に限らず返還のところで引っ掛かるのが,仮にお母さんがアメリカに戻った場合には,アメリカでは逮捕状が出ているだとか,アメリカに戻った瞬間に捕まってしまう,そんな危険があって,そこを十分クリアしない限り,安心して帰れない。それから,先ほどの執行妨害の中でも,本質的に子供を返したくないというのもありますけれども,戻るに戻れないという状況もあるというところも御理解いただいた上で議論いただけたらなと思います。 ○谷幹事 今の参考人の御意見も踏まえて,先ほどの1の(3)の要件なのですけれども,これはもっと広く捉えるべきだろうなと思っております。取り分け迅速性というのが要求されて,こちらに連れてこられた環境に長期間いるというふうな状況ということ自体が問題だということであれば,期間ということも要件の中の考慮要素ということにすべきだろうと思いますし,先ほどおっしゃったような再連れ去りとか居場所を隠すとか,こういうような場合も含めて,単に国内において想定されているような子の急迫の危険という場合だけに限定するのは狭すぎるだろうなというふうに感じているところでございます。 ○山本(和)部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○勅使川原幹事 「3 子と債務者の同時存在に関する規律の見直し」についての話でもよろしいでしょうか。   同時存在,今国内の方の子の監護の移転のところでは同時存在を緩めて,代わりに債権者等を同道させるということで,その横並びで,こちらにもそれが提案されているというふうに理解をしておりますが,1点だけ確認をしておかなければいけないのが,前回の部会資料19-2で債権者を同道させるということの趣旨として,「債権者は,債務名義作成段階において,債務者による子の監護を解いて自己にその子を引き渡すことを求めることができると認められた者であり」と,ここまではいいのですが,「その子を債務者より適切に監護することができると認められた者であることを考慮したものと思われる」ということが書かれていて,このところだけを取り出してしまうと,厳密に言えば,こちらで言う債権者はそういう属性では多分ないので,異なるという可能性が出てくるわけですけれども,ただ,そもそもなぜ債権者を同道させるかというところの趣旨自体は,「子が事態を飲み込むことができずに恐怖や混乱に陥るおそれがあることなどに対応するためである」ということであるので,よく見知った肉親であるとか,それに近い人をという趣旨であったかと思いますので,そういう趣旨からすれば,この債権者という並びでもよろしいのではなかろうか。まどろっこしいですけれども。たまたま国内では,「より適切に監護する者と認められた」というのは,有名義債権者,国内ではそういう属性を持っているということにすぎない結果だというふうな理解でよろしいかどうかというところの確認でございます。 ○内野幹事 事務当局といたしましては,国内の子の引渡しにおける我々の考慮要素というのがハーグ条約実施法においてどのように還元され得るかというところに一定の言換えの余地をはらみつつ今回の御提案をしているところでございます。   そういたしますと,今,正に勅使川原幹事がおっしゃったような形で,ハーグ条約実施法に基づく子の返還の代替執行の場面において,子が執行の現場で恐怖や混乱に陥ることを最大限抑えることができる者としましては,債権者を挙げることができるのではないかということで,このような御提案をさせていただいているところでございまして,実質におきましては,今御指摘いただいたような発想に基づいて今回の部会資料20-4の規律をたたき台として提案させていただいております。 ○勅使川原幹事 分かりました。 ○久保野幹事 今の点と同じ点ですけれども,確かに監護権の所在が債務者よりも債権者が適切だという内容を伴って債務名義によって認められているという点と比べたときに,ハーグ条約では常居所地国で返還された後に監護をめぐる権利義務関係を最終的に決める裁判などの手続が予定されているという点が違い,そこが説明との関係で問題が生じ得るというのは確かにそのとおりだと思います。ですが,他面で,先ほど同時に指摘が出ましたとおり,ここでの基準とすべき考え方というのが監護権の所在ですとか,それが裁判所等の手続で定められているということのみではない観点ですので,そこは絶対的な意味を持つと捉える必要はないという点にまず賛成いたします。   ただ,実体法的に見た監護権の所在という点に関しましても,この部会資料20-3の7ページの(注3)に事務当局の方が整理をしてくださっているとおりではないかという気がしておりまして,つまり,確かにハーグ事案では常居所地国で最終的な,終局的な判断が想定されているということではありますけれども,しかし,ハーグ事案におきましても返還請求できる地位にあるのは監護権を侵害された者となっており,またその者が現に監護をしていなかったということが,原則として返還拒否事由となるといったようなこともあり,ほかの返還拒否事由の審査も経て結論が出されるということになりますので,返還を請求する者が実体法上,監護権者であり,それが--ちょっと言葉は難しいのですが,言わば形骸化していないといいますか,子供を積極的に害するような監護権者ではないといったようなことについては前提として考えてよいのではないかと思います。   このように考えますと,先ほど債務者よりも積極的に子供の利益のためになる監護者だと考えられているというのが国内事案だという整理と比べると,そこまでの積極的な根拠付けにはならないとしても,債務者と債権者を比べたときに,少なくとも債務者の方とともにあるということをより重視すべきだという理由はないように思いまして,この先は私自身は迷っていますが,債務者,又は債権者がともにあればよいとまでは言えるのではないかと思います。   迷っていると申し上げましたのは,更に進んで,御提案のように債権者が同道する,出頭するのを原則として立てて,一般的に債務者の同時存在を外すのか,それとも債権者が同道しているときには債務者はいなくてよいとするような案にするのかということは,個人的には,まだもう少し考えてみたいと思っております。 ○谷幹事 私も今の点は,同じような問題意識を持っております。取り分け勅使川原幹事がおっしゃったような問題意識と共通なのですけれども,ハーグ条約においては債権者に渡すわけではないということは基本になるだろうと思うのです。   したがって,債権者が出頭した場合に限りという,この規律というのが,その条約の考え方に適合的かどうかというと,やはり疑問があるというふうに言わざるを得ないということでございまして,ただ,この場面で,これはハーグ条約実施法の見直しですので,債務者との同時存在を見直すという方向性自体は私ども,私も必要性があるというふうに考えており,是非緊急に見直すべきであるというふうに考えておりますけれども,具体的にどういうふうに見直すかという場合に,国内と同じような規律でいいのかどうかというのは根本的に考える必要があるだろうと。   ここで規律を設ける趣旨は,子供が混乱しないようにというようなことをどういうふうに確保するのか。そのための手段としてどういう制度を設けるのかということだと思います。そのためには,債権者が来た,出頭したときというのも一つの場面ではあるでしょうけれども,しかし,それは一つの場面でしかないわけでありまして,それ以外の場合でも子供が混乱しないで円滑に執行が実施できるというふうな場面というものが具体的に私は何かこういう場面があるのではないかというふうにはすぐ申し上げられないのですけれども,そういう場面も含めて規定をすべきだろうというふうに考えております。   そういう意味から言いますと,何かそういう海外の制度も含めてこんな工夫があるのではないかというようなことで,もし参考人の方にも御意見があればお聴きしたいと思いますし,それと今回の規律であれば,債権者が出頭した場合に限りというのが部会資料20-4の3(1),それから(2)が代理人ですけれども,ここで言う「代理人」というのは国内の場合には債権者と,あるいは肉親であるとかというような形で子供と非常に親しい関係にある人というものが想定されていたと思います。いわゆる弁護士のような任意代理人というのは適格ではないというふうな前提で議論がされていたわけですけれども,そういうふうに仮に同じように考えるとすれば,ハーグ事案の場合には債権者というのはLBPで海外にいるわけですので,必ず海外から来ないといけないのか,あるいは債権者が来られなくても肉親--肉親もほとんどの場合は海外にいると思いますので,海外から来ないといけないのかということになるわけでして,そういう仕組みを仮に改正法で立法するとした場合に,これが実効性にとって弊害を生じさせないかどうかという点も心配,懸念のあるところでございますので,この点も含めて,もし海外の実情,あるいは国内の実情でも結構なのですけれども,踏まえて参考人の方の御意見もあれば,何かお聞きしたいなと思います。 ○大谷参考人 大谷でございます。   まず債権者が来なくてはいけないということになった場合に,それがハーグ条約実施法の作りの中で債権者側に非常に負担を課すのではないかとおっしゃる点は,実際そのとおりだと思います,現実的には。仕事を休んでお金をかけて来なくてはいけないわけで,それは負担になります。   実際には来られることが多いのですけれども,来ることができない場合があります。実際私もそういう経験がありました。なので,部会資料20-4の3(1)の要件だけだと正直厳しいなと思いますが,(2)があることで,そこは緩和されるのかなと思いますが,今,谷幹事から御指摘があったように,「代理人」というのがいわゆる弁護士,法的手続の代理人が想定されているのではなくて,むしろ親族とかということだとすると,基本的には親族も外国にいることが多いわけで,似たような困難があるのは間違いない。では,それ以外の場合に,子の混乱を緩和できるようなことが何か考えられるかといいますと,今の時代,現実にその場に債権者がいるというだけではなくても,実際にはインターネット電話やテレビ電話ですぐに話ができるような環境を作るとかということは十分に可能です。そういうことも緩和という意味で言えば有効な手段だと思います。   それから執行官も十分にいろいろなことを事前に情報を集めて工夫をされていまして,子供が常居所地国でなじんでいたようなものですとか,あるいは写真だとか,いろいろなことを,すぐに子供がその場でそこにアクセスできるように情報を収集して,それを用意したりとか,あるいはそういうものを私たち代理人が用意するようにということを言われることがあります。また,あるいはその子供さんとその前の常居所地国とのつながりの深さとか,子供さんの年齢によると思いますけれども,場合によっては大使館の職員の方が話しかけることで落ち着いたりといったようなことも十分あり得ると思います。   ですから,子供が混乱しないようにということは,実際の執行の現場ではいろいろな方法が考えられて,必ずしも債権者がそこに具体的に,物理的に存在するというだけではないということは現実に感じております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○芝池参考人 私も実例を追加したいと思います。   その前に,実際お父さんが日本に入ってこられない事情としては,お金の問題もありますけれども,人によってはビザが出ないという問題がありまして,国によっては特定活動のビザですら簡単には出ないと,申請して数か月待たなくてはいけないということもあるので,入ってこられないということもあることは御理解ください。   私も4件ほど子供を戻したことがあるのですけれども,お父さんが立ち会っていなくて,その子供のお兄ちゃん,20歳ぐらいのお兄ちゃんが立ち会って引き取っていったこともありましたし,あるケースでは,先ほど圖師関係官からあった,中央当局の方に加えて,その地域の面会交流支援機関の方に同席いただいて,その方と子供さんが随分長い時間をかけてお話をしてというところで,一旦その方にお渡しをしたということもありました。なので,そこに同行,同席する方は複数いるということを知っていただきたいと思います。   ただ,実際問題,返還実施者として指定されるのは,基本的には債権者ないしそれに準ずる者だと思いますので,実際に飛行機に乗せて連れて帰らなくてはいけない以上,その身内の方がいることは実際基本的にはなりますが,解釈の例外--例外というか,運用の問題だと思うのです。部会資料20-4の3(2)の要件について,場合によってはここでいう「代理人」に債権者の代理人弁護士が入るということも全くないではないかなと思うので,そこの辺りをどこまで柔軟に解釈できるかなというところだと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかに,今の点でも,別の点でも結構ですが,御意見を頂ければと思います。 ○大谷参考人 部会資料20-4の3(2)について質問なのですが,谷幹事がおっしゃったように,代理人として想定されているのがこの書きぶりから,あるいは目的からしても,むしろ親戚とかのような方が想定されているとしても,この代理人としてこの2に当たるということで認めてもらうためには,執行裁判所の決定が必要なわけです。そうすると,今の芝池参考人の御発言との関係で確認をしたいのは,弁護士,代理人,法的手続のための代理人であっても,場合によっては執行裁判所が適当と認めれば,それは可能性としては排除されていないと読んだのですが,それでよろしいでしょうか。 ○内野幹事 国内の子の引渡しの強制執行に関する規律についての議論においては,実際に執行の現場で子を安心させることができる者は誰なのかという観点から検討してまいりましたので,国内の子の引渡しの強制執行に関する規律についての議論を念頭に置いた場合,部会資料20-4の3(2)の「代理人」についても,例えば,債権者の親族といった者がその典型であるということはいえるかと思います。ただ,ここで考えられていたのは,やはり執行の現場における子の恐怖や混乱を抑えるためにどのような者がその現場にいるのが望ましいかという点ですので,最終的にはこの部会での御議論の結果によるところかと思いますけれども,規律の文言自体としましては,そういった債権者の代理人弁護士を類型的に除くというようなことを規律として明示しているわけではございませんので,3(2)に掲げられている事情を総合考慮した結果,ここでいう「代理人」に当たり得るような代理人弁護士がいるのかどうかという点は問題かとは思いますけれども,少なくともこの規律における「代理人」の概念としては排除しているわけではないということかと思います。事務当局としましては,ハーグ事案において想定される子の心身への負担を念頭に,執行裁判所が3(2)に掲げられている事情を総合考慮して,「子の利益の保護のために相当と認める」との要件を満たすか否かが核心であると思っておりまして,議論のたたき台としては,そのような実質を中心とした規律を提示させていただいているところでございます。ですので,正にハーグ事案としての特徴を念頭に,子の利益の保護のために相当と認められるか否かが判断されるものという前提に立った上で試みに規律を提示しているところでございます。 ○山本(和)部会長 よろしいでしょうか。   ほかにいかがでしょうか。 ○山本(克)委員 国内事案とハーグ事案の違いをそれほどフレームアップする必要があるのかどうか疑問です。というのは,今年の通常国会で外国裁判が債務名義である場合について日本でも承認して執行する仕組みもきちんと出来上がりましたので,一般に海外に居住している者が執行債権者として現れてくる可能性というのははるかに飛躍的に今後増大していくわけですので,余りそこを強調するのはいかがなものかと思います。   その際に執行裁判所に柔軟な対応をしていただくということについても,ハーグ事案においても国内事案の場合と同じように存在しているということですので,どちらについてもそういうふうにお考えいただくということです。   それと,私が非常に不思議に思うのは,なぜハーグ事案の方が緊急に引き渡さなければいけないということを殊更に言わなければならないのかと。確かに条約加盟国として条約上の義務違反というようなそしりを免れるという必要性があるというのは日本が国際社会におけるプレゼンスを保つ上で非常に重要なことだということは理解しますけれども,基本的に,むしろ本来債務名義で最終的に引き渡すことが決まっている方が,より緊急性は高いのではないかと思われます。   ですから,こちらの場合だけ殊更に一般の規律よりも緊急性が高いなんていう言い方は私は到底承服しかねるところがあり,最低限でも同等に扱うということでよろしいのではないのかなという気がしております。   ただ,御提案の趣旨については,私は基本的に賛成です。   それで,仮に1の(3)の文言を変えるのであれば,それは国内の子の引渡しの強制執行に関する規律についても同じように変えるべきであると思いますし,(3)がこのハーグ条約実施法の局面で問題にならないということ自体がちょっと理解しかねるのですが。というのは,最終的には常居所地国の裁判所が決める。何を決めるかというと,最終的に子の福祉にかなった監護の在り方を決めるわけなので,間接的には子の福祉を実現するための手続なのです。ですから,明らかに子の福祉に反する状態があるときには早くというのは,それなりに説明はできるので,基本的に横並びでいいという考え方です。 ○大谷参考人 参考人がこれがいいとか悪いとか,意見を述べていいかどうか私には分からないのですが,すみません。今の山本克己委員の御発言に関して,もし意見を言ってもいいのであれば,私は横並びでいいと思っています。   殊更にハーグ条約実施法についてだけ規律を変えなくていいと思っていますが,なぜハーグ事案のときに迅速性を殊更に強調するのかについてだけ1点だけ申し上げたいのですが,国内でも監護状況が固定化してしまって,そこからまた変えるということが問題だという点は共通なのですが,それから山本克己委員が強調された,むしろ国内の方が監護権が確定しているではないか。そこもよく分かります。   ただ,ハーグ事案の場合の迅速性に関して1点だけ付け加えたいことは,国境を越えて子供が連れ去られた場合に,連れ去り先の国でその状態が継続することによって何が違うかといいますと,まず言葉がもう話せなくなります。文化的にも非常に違う国に,もうしっかり根を下ろした状況になってから,そこからまた違う環境に戻すということの大きさというのは,国内と国境を越えた場合とを比べてどちらがどうと言うつもりはないのですが,実際には例えば言葉の点というのは非常に大きいです。あっという間に失って,戻しても,また社会への再統合といいますか,もう1度インテグレーションする,それから親との関係を取り戻すのに,まず言葉からして話せなくなったりということで,子供に対する害が非常に大きいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。確認ですが,参考人のお二人には「必要と認めたときは,その説明又は意見を聞くことができる」という規定に基づいてお越しいただいておりますので,是非御意見を頂きたいと考えております。   ほかにいかがでしょうか。重要な問題ですので,是非ともできるだけ多くの委員,幹事及び参考人からの御意見を頂戴したいと思います。 ○芝池参考人 部会資料20-3の8ページの「3 その他の検討事項」のところでもよろしいでしょうか。配慮規定についてです。   私個人の立場として--まあ,日弁連で今意見をまとめたところなのですけれども,個人的なところで申し上げますと,当然配慮が必要だということは問題ないのです。全く争いがないところですけれども,一つは,書きぶりとして「配慮しなければならない」と,「有害な影響を及ぼさないように」というふうに書いてしまった場合に,それが海外からどう見えるかということをすごく気にしています。そういった文言が義務規定のように読まれてしまうと,海外からすると,そこで骨抜きになってしまったと,結局執行がうまくいかなくなるような,執行妨害を是認するのではないかというふうに見られるのではないかということを懸念しております。   そうすると,実際何がこういった場面で必要かというと,例えば有害な影響にとどまらず,その子供さんが日本語が分からない場合には当然通訳さんが同行しなくてはいけないだとか,あるいは先ほど私が申し上げた支援機関の方が同席するだとか,そういったことを事前のプランニング,あるいは執行の途中で配慮することが求められるわけです。   そういったことで,「有害な影響」にとどまらず,いろいろな「子供の福祉に照らした配慮をすること」を努力目標というか,「配慮することに努める」だとか,そういった文言の方がより望ましいですし,海外から見た場合に,変な義務規定のように見えないのではないかなと思っております。   ただ,こういった文言を入れること自体がどうかという議論がもちろんあるところでして,国内とあえて違うふうにするならば,ハーグ条約実施法にはこれを入れないという意見も当然あるかなと思ってはいるところです。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。1点だけ私から補足をしておきますと,参考人がおいでになる前に国内の子の引渡しの強制執行に関する規律について議論をしました。その中でも同様にこのような配慮規定が必要ではないかということが指摘され,先ほどの私の取りまとめでは,何らかの形でこのような配慮規定を国内の子の引渡しの強制執行に関する規律の中に設けるべきであろうという議論状況であったと認識しております。ただ,その文言については部会資料に記載されている文言のままでよいのかという点に関しては,今,芝池参考人が言われたような「有害な影響」に限るのか,あるいは「配慮しなければならない」という義務的な文言にするのかということについての御異論も多くございましたので,その点は今後,事務当局において検討することとなっています。   そのような意味では,国内の子の引渡しの強制執行に関する規律においても何らかの形で配慮規定が設けられる方向になっていることを補足させていただきたいと思います。   ほかにいかがでしょうか。 ○垣内幹事 これまでの御議論では,部会資料20-4で申しますと1(3),それから3(2)のところが主として議論の対象になってきたかと思われます。   先ほど山本克己委員からも御発言がありましたけれども,私自身も基本的にはいずれも国内事案とハーグ事案の規律については横並びということでよろしいのではないかというように結論としては考えております。   ただ,1の(3)が現在「子の急迫の危険を防止するため」というふうになっておりますけれども,これは元々この部会での議論の経緯として,ハーグ条約実施法は例外なき間接強制前置であるということを前提とし,取り分け必要性は顕著に高いと。明らかにこれは前置ではおかしいと言える場合について何とか穴をあけようという努力の結果,こういう要件立てにしたという経緯があろうかと思いまして,今ハーグ条約実施法も併せて見直すと考えたときに,先ほど御指摘のあった子の急迫の危険を防止するためだけでなく,子の利益の観点から直ちに子の返還を実施する必要があるということは実際あり得るだろうと思われまして,同じことは翻って考えますと,国内でも同様に急迫の危険に限らず,子の利益を考えたときに直ちに強制執行すべきだという場合は十分あり得ると思われますので,例えば一案としては子の急迫の危険を防止するためというのは,そういったものの例示として掲げることとし,それ以外の場合であっても,直ちに子の返還の代替執行をする必要があるときというものについては間接強制を前置することを要しないというような規律も考えられるのではないかという感想を持っております。   3の(2)につきましては,これは実質的な考慮は国内に債権者がいるという場合とハーグ事案を含め,国外,外国に債権者がいるという場合ではやや事情が異なる点があって,後者の場合には債権者本人の出頭というのはかなり困難の度合いが増すと思われますので,運用として後者の場合に,より柔軟な形で代理人を起用していくということはあり得るように思っておりますけれども,それは部会資料の規律を前提にしても,その運用面で解釈としてどういう場合が相当かというレベルで解決が可能だということであれば,同じような規律ぶりでも対応ができるのではないかなと考えているところです。 ○山本(克)委員 債権者の出頭,同道ですが,私は来られない方がおられるということも一つ重要なポイントですけれども,来たのに空振りに終わったということが極めて日本の制度に対する信頼を海外で失わせることになるということなので,私はむしろ,これを入れることによって執行裁判所,執行官にも,あるいは中央当局を務めておられる外務省にも頑張っていただくインセンティブが増すのではないかなと思っておりまして,私はこれは入れることは本当に性根の入った執行をしていただくための前提としても意味のあることではないのかなと思っております。   ただ,そういうことを公的に法務省がお出しになるのは無理だと思いますが,そういうふうな考え方もあり得るということだけ議事録にとどめさせていただいて。 ○宇田川幹事 債務者の同時存在との関係で,今債権者,若しくはその代理人の出頭の場合に執行することができるという話になっていますけれども,そのときに代理人の範囲について,ハーグ条約実施法の場合には,より柔軟に解釈できるのではないかという,そういう御指摘もあるところなのですけれども,条文の文言上,若しくはこの要綱案の上では民事執行法でも,ハーグ条約実施法でも同じ文言になっていて,もし,運用でハーグ条約実施法の解釈は柔軟にやってくれればいいというふうに言われても,裁判所の立場としては,なかなか同じ文言の中でそういった柔軟な運用が果たしてできるのかということについて疑義も生じかねますので,その要件をより明確にしていただくのか,若しくは解釈としてはこう考えられるのではないかというようなコンセンサスをこの法制審の部会の審議で頂かないと,裁判所の立場としてはなかなか難しいなと思われるところです。その点も含めて御審議いただきたいと思います。 ○大谷参考人 今の点ですけれども,確かに文言が同じなのに運用でといって,それが難しいとおっしゃるのも分かるなと。では反面,これをハーグ条約実施法の方に何か書きぶりを変えるのかといいますと,今すぐに思いつかない上に,今改めて読んでみましたところ,「当該代理人と子との関係」,ここは正に親族とか,そういう場面がすぐに思い浮かびますが,次の「当該代理人の知識及び経験」,ここに親族でなくても,これは国内でもあるかもしれないのですが,例えば児童心理の専門家,ソーシャルワーカーのような方が入り得る規定だと思うのです。そういう意味では,このままでも私はよいのではないかということです。ただ,ハーグ条約実施法の方だけ広がるのかと言われると,逆に私は国内事案であっても,そういう場合もあり得るのではないかと思いますので,明らかにハーグ条約実施法の方だけここは緩めにという必要がそもそもあるのかどうかが逆に疑問になりました。 ○谷幹事 3の(2)なのですけれども,ハーグ事案の実情で御説明いただいたように,様々な方が関与されるというようなことで,外務省,中央当局のケースオフィサーですか,というような方も関与される。場合によったら,必要な場合には通訳も関与される。そういうふうな代理人以外の出頭状況というのも一つの判断要素には入ってくるのだろうと思います。したがって,ハーグ条約実施法については,そういう国内とは違った特別な事情がありますので,今申し上げた「関係者の出頭状況」とか,こういうような文言を入れていただくということが望ましいのではないかと思います。 ○青木幹事 実情に合わない,ピント外れの話になってしまうかもしれませんが,ハーグ条約実施法の下では,債権者への監護の移転が義務の内容ではないということとの関係でやや気掛かりがあります。部会資料20-4の「3 子と債務者の同時存在に関する規律の見直し」の債務者が出頭するのが原則であるということについての話です。   机上の空論かもしれませんが,ハーグ条約実施法の下での裁判で,債権者とか債務者以外の第三者が連れて帰るというか,返還するというような和解というか,合意がされたとして,債権者もそれでよいということで認めている。しかし,債務者の方がそれを履行しない。債権者の方で当該第三者を返還実施者とするような申立てがされたという場合も,理論上あり得ると思うのですが,そういう場合も想定して,3の(2)では,そういう場合は当該返還実施者でもよいということも考えておいた方がよいと思うのですけれども,いかがでしょうか。 ○内野幹事 恐らく3(2)の「代理人」をどのように理解するかという点に関連するのかもしれませんが,概念的にはそのような第三者もここでいう「代理人」になり得るということは排除していないものとして規律を提示しております。やはり核心は子供の利益の保護を図るという趣旨から執行裁判所が相当と認める者であるというところが最後の判断要素になっていると思っております。 ○山本(克)委員 今の青木幹事が提示された場合は,執行債権者が第三者になるという考え方もあり得るのではないですか。つまり,第三者を入れた,関与させた和解は成立して,第三者が執行法上の意味における債権者になっているという和解だというふうに読めばいいような気もするのですけれども。 ○青木幹事 債権者が申立てをしない。 ○山本(克)委員 その人が申し立てればいいのではないのですか。 ○青木幹事 第三者としては申立てまではしないという場合です。 ○山本(克)委員 そういう変なことを考える必要があるのかどうか。それは引き受けた以上は申立て込みで--まあ,裁判所がその辺りは和解手続においてきちんとコントロールされて,家裁の方で「あなたが債権者ですよ」と,「申し立ててくださいね」ということを込みで和解をすればいいのではないですか。 ○内野幹事 今私が申し上げたのも,そういうふうなものを排除する趣旨で申し上げたわけではないように思っています。 ○道垣内委員 細かいことにかみ付くようで大変恐縮なのですが,まず谷幹事がおっしゃったことなのですが,それは通訳が来ますよ,本国のソーシャルワーカーが来ますよ,ということにしますと,その人が来なかったらどうなるのかという問題を生じさせます。つまり,それの人に対して,決定のときにそういう人に義務を負わせるということはできなくありませんかというのがまず第1の疑問です。   次に,青木幹事に対する疑問は,和解というのを想定するから,何となく和解があったら何でもありみたいな感じがするかもしれませんが,訴訟を考えたときに子供という生ものと言ってはいけないのですが,子を適当な人に引き渡すといった決定を書けるのですか。国によって違うかもしれませんが,それは無理ではないですか。 ○青木幹事 例えば,債務者の親です。親が連れて帰るということを和解した。 ○道垣内委員 債務者の親ですか。 ○青木幹事 そうです。 ○道垣内委員 債務者の親に何の義務や権限が・・・・・・。 ○青木幹事 債務者の親が子を常居所地国に連れて帰る。だけど,債権者には渡さないということで合意されたということを想定しているのですが。 ○道垣内委員 和解でも,そのような別人格者に対して義務を負わせる和解をほかの人たちができるのですか。実体法の解釈として難しいのではないかという気がしながら伺っていたのですが。 ○垣内幹事 私の理解では実情は十分に把握できていないと思いますが,和解で飽くまで債権者がいる国に返すのだけれども,その返す方法として,この人が連れていくというようなことを和解の中で定めるということは,おおよそあり得ないというわけではないのではないかと思われます。その場合に,債権者はやはり債権者なのであって,その債権者に対する履行の対応として誰それが同伴するというような形になるので,それは山本克己委員が言われたような,実際に来る人が債権者だと理解するのは,ちょっと難しい場合も考えられるかなという気はいたします。   それで,3の(2)の規律ですけれども,そういうことを考えたときに,確かに誰が代理人として許されるかという点については,いろいろ解釈の余地がかなりあるような規律ぶりになっているのですけれども,大前提として債権者が執行の場所に出頭することができない場合というものをどう解するかということについて,これは少なくともこれまでの部会の議論ですと,仕事の調整が難しくてぐらいのことで認めるべきではないというような御意見がかなり強かったように記憶しております。   そのような厳格な解釈を全体としてこの文言について採るということであると,それは国外に債権者がいるという場合については,必ずしも出頭できないとまでは言えないけれども,出頭を期待するのが余り相当でないというか,来ないことにも相当な理由があるという程度のものについて対応することができるのかという懸念は確かにあるのかなと思われまして,その点については民事執行法とハーグ条約実施法を両方横並びで文言を少し調整するのか,あるいはハーグ条約実施法に特有の文言を検討するのか。まあ,しかし,これも先立って御指摘ありましたように,国内の規律が適用される債務名義であっても外国に債権者がいるというような場合は今後あり得ることも考えますと,その点も踏まえて少し検討する必要があるのかなという感じを持ち始めているところです。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   先ほどの谷幹事の御発言についての道垣内委員の御指摘についてはいかがでしょうか。 ○谷幹事 通訳なり,ケースオフィサーなりが出頭しないというときはどうするのかという御質問の趣旨は,恐らく執行裁判所が判断するときにそういった方が出頭するという前提で判断したのだけれども,それで来る予定だったのだけれども現実に来なかった場合に問題が生じるではないか,そういう御質問の趣旨だと受け取ったのですけれども,うなずいておられるので,その理解の下で言います。   それは裁判所が判断する材料として出頭予定だということが提供されて,それを前提に判断をしていただくしかないだろうと。そういう場面というのはたくさんあるわけでございまして,そもそも執行に当たっては,いろいろな場面で執行裁判所が執行の方法も含めて,あるいは第三者の同意に代わる許可も含めて判断するに当たって,こういうことでありますからという前提で判断される。それがそのままそのとおりに実行されなかったから,それは問題ではないかって,それは問題ですけれども,しかし仕組みとしてはそういう仕組みとしてもう作らざるを得ないだろうと思います。 ○道垣内委員 おっしゃることはよく分かるし,いろいろな人がいるという事情を考慮すべきだと思うのですが,法律の条文に書けることと書けないことがあるような気がして,書くということになりますと,それはどういうふうな位置付けを持つのかという話になります。実際問題として,そういう考慮があって,子供に負担が掛からない形で実施できるようにするのは当然だろうと思うのですけれども,そこが私は若干気になったところです。 ○谷幹事 一言だけ。   元々ハーグ条約実施法では,外務省,中央当局の職員も含めて関与するという前提になっておりますので,それを前提にした規定ぶりというのは全然問題はない,おかしくはないだろうと思います。   したがって,文言として具体的に先ほど申し上げたのは,「関係者の出頭状況」というふうに言いましたけれども,その「関係者」という文言がいいのかどうか,もっとハーグ条約実施法に使われているような言葉でいくべきではないかというのを,それは法制的な問題もあるのでしょうけれども,そこはクリアできるのかなとは思います。 ○大谷参考人 今の通訳とかソーシャルワーカーとか中央当局の関係職員の出頭状況の話ですが,私は今の文言でも,「その他の事情」のところに読み込めばよく,それ以上に細かく書き込むことは難しいし,また見え方の問題としても,こちらとしては,そういう場合ならいいよということでむしろ広げるような意味合いが仮にあるとしても,見え方としては逆に何かそういうものが整わないと,債権者以外の場合の要件をクリアしないというふうに見えるかもしれず,今のままの「その他の事情」でよいのではないかと思います。   むしろ,今の御議論を伺っていて気になったのは,その前の「債権者が執行の場所に出頭することができない場合」が国内の場合にかなり厳格に読むのだということを踏まえて,この文言が御議論されていて,ハーグ条約実施法の方も横並びである以上,同じ解釈なのだと言われますと,そこはなかなかハーグ事案の方に関しては難しい。仕事の場合,それから経済的なこと,いろいろなことで来られない場合というのは,ビザで来られないとか,あるいは国外から出国できないとか,様々な本当にできない場合以外にも来るのは困難な場合というのはありますので,そこは読み方としてどのぐらい厳しく読むのかなというのは今伺っていて,逆に確認したく思いました。 ○山本(克)委員 今の点ですが,私が多分厳格なことを国内の規律で言っていたような気がするので一言申し上げますが,これは債権者の属性と相対的に考えざるを得ないということなのだろうと思います。国内にいる場合に,債権者が国内に居住している人間の場合にできないということについて,ある程度厳格な枠をはめようということを私は多分申し上げたと思うのですけれども,しかし,債権者の属性によって,特にどこに居住しているか,生活の本拠がどこにあるかという点と相対的に考えざるを得ないので,「できないことに正当な理由があるとき」とか,そういうような形に文言を変えれば,その辺がより正確になるのかもしれませんが,そういうことでやればいいと。   先ほども申しましたように,一般の強制執行の場合でも債権者が海外に居住していることはあり得ますので,その場合も射程に入れて今言ったような相対的な解釈が可能であるというような文言を考えればよろしいのではないのかなという気はします。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○阿多委員 関連ですが,私も「出頭することができない」の要件について,仕事で出頭できないという例が出て,その際にまず実例としてありませんよという話をさせていただいたのですが,飽くまで「出頭することができない」って,主観的な事情で出頭することができないと,仕事で行けないというのはいかがかという議論だという。先回出ていたのも病気で出頭できないから代わりの方が出るとか,出頭できない事情がある程度,それは正当な理由というか,対外的に納得できるものであれば,それは出頭できないというふうな解釈を前提に国内でも議論していましたので,ビザが出ないというのは,もう客観的に出頭できないわけですから,さほど支障が出る話にはならないのだと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。   おおむね議論は,1の(3)の問題,それから3の(2)の問題,それからいわゆる配慮規定の問題に集中しているわけですが,ほかの点は特段の問題はないという理解でよろしいでしょうか。   先ほど冒頭に,この議論の冒頭に私から申し上げましたように,この点について本部会で最終的な要綱案の決定をするに当たってはあらかじめパブリックコメントで意見を伺う必要があるだろうという認識を持っております。そして,今,御議論を伺った限りにおいては,村上委員からは,やや慎重に考えるべきだという御意見が出されましたが,本部会の委員,幹事の全体の雰囲気といたしましては,この際,このハーグ条約実施法についても改正を考えるべきであるという意見が大勢を占めているように認識をしました。   そうすると,パブリックコメントをする必要があり,そして本部会の今後の審議日程を考えると,本日,そのパブリックコメントの手続に付すべき追加試案というものが取りまとめられるのであれば,それをまとめて直ちにパブリックコメントの手続に入っていただくということが望ましいのではないかというふうに考えているわけです。   そして,その試案につきましては,私の認識では何人かの委員,幹事からは,基本的には国内の子の引渡しの強制執行に関する規律と横並びに考えるべきではないかという御意見が提示されたように思います。そして,本日のたたき台も基本的にはそのような考え方にのっとって作られたものであるというふうに理解をしておりますので,恐らくこのたたき台というのが基本になるということについては余り異論はなかったのかなというふうに認識をしております。   ただ,個々の点につきまして,先ほどの1(3)や3(2)の論点については,運用で対処できるのではないかという御意見も多かったと思いますが,国内事案についての規律も含めて,文言自体を変えた方がよいのではないかという意見が提示されました。   もし,本日,試案を取りまとめるということであれば,文言がここでまとまればいいのですが,国内にも波及するということを考えると,直ちにまとまる案ができるのだろうかという気がいたしております。   もし,可能であれば,飽くまでもパブリックコメントに付する試案ということにおいては,この原案を維持し,ただパブリックコメントを付す際には当然中間試案がそうだったように補足説明を付けますので,その補足説明の中で本日の御議論を御紹介し,そして代替する案として,こういうような案も提示されたということも示して,そしてパブリックコメントの手続において寄せられた意見の状況も鑑みて,そして場合によっては国内事案についての規律にもそれは跳ねるということも考えながら審議を進めていくということが可能であれば一番現実的ではないかと思う次第ですが,いかがですか。 ○山本(克)委員 今の部会長の御提案に全面的に賛成で,補足説明の在り方は事務当局と部会長に御一任するということでよろしいのではないかと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○阿多委員 私も,今の案でパブリックコメントの手続に付していただいて,補足説明でいろいろ御指摘いただいたらと思います。   なお,補足説明で,先ほど1(3)や3(2)の論点についてのお話が出ましたけれども,国内の子の引渡しの強制執行に関する規律においても,ハーグ条約実施法について言えば,部会資料20-4の2のただし書についての議論がございましたので,そこも併せて御議論していただければ。 ○山本(和)部会長 失礼しました。指摘し忘れておりましたが,部会資料20-4の「2 債務者の審尋に関する規律の見直し」におけるただし書についても,国内の子の引渡しの強制執行に関する規律の関係で先ほど文言についての若干の議論がございましたので,先ほどの横並びということからすれば,この試案の補足説明についてはその点を当然説明するということになりますし,部会資料20-3に記載された配慮規定というものにつきましても,先ほどのように,国内の子の引渡しの強制執行に関する規律においては何らかの形でそのような規律を設けるという御意見が大勢であったかと思いますので,ハーグ条約実施法においても横並びで考えるとすれば,何らかの形ではこのようなものを入れる方向になろうかと思います。そうだとすれば,追加試案に掲げて一般の方々の御意見を伺った方がよいのではないかという印象を私としては持っております。   この配慮規定の文言につきましては,先ほど芝池参考人などからも御指摘がありましたように,なお考えていかなければいけないところがあるということですので,補足説明の中でかなり詳細に問題点等も指摘をしていただき,その代替案等も示していただきながら,パブリックコメントにこの点も本文に含める形で付すのがよろしかろうという感じがしておりますが,その点もよろしいでしょうか。 ○今井委員 阿多委員の意見ともども,部会長の御提案に全面的に賛成です。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○内野幹事 それでは,部会のこれまでの議論を踏まえまして,部会資料20-4の3(1)及び(2)につきましては,「返還実施者として」という文言を削除した案で,いわゆる追加試案として取りまとめることとさせていただければと思いますので,改めてその点だけ確認をさせていただきたいと思っております。   具体的には,部会資料20-4の3(1)の3行目でございますが,「債権者が返還実施者として」との文言のうち「返還実施者として」の部分を削除するというのが一点目でございます。   次に,3(2)の1行目の「債権者が返還実施者として」との文言のうち「返還実施者として」を削除するというのが二点目でございます。   同じく2行目の「債権者以外の者が」との文言を「その代理人」とするというのが三点目でございます。   そして,その次にある「返還実施者として」との文言を「債権者に代わって」とするのが四点目,その次の行の「当該者」との文言をいずれも「当該代理人」とするのが五点目でございます。   続けて2ページの1行目にまいりまして,「当該債権者の申立てにより」との文言のうち「当該」を削るというのが六点目,その次にある「当該者が」との文言を「当該代理人が」とするのが七点目,その直後にある「返還実施者として」との文言を削除するというのが八点目でございます。   以上のような修正をしたものを追加試案として取りまとめさせていただくものと認識しております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。それでは,今のような修正をしたものを追加試案として取りまとめ,それに先ほどのような形で補足説明を付してパブリックコメントに付すということでよろしゅうございましょうか。   ありがとうございました。   なお,細かな字句等の修正,実質的な内容にわたらない表現ぶり等の修正につきましては,大変恐縮ではございますが,部会長である私と事務当局に御一任を頂ければと思いますが,よろしいでしょうか。   ありがとうございます。   それから,もう1点,今後の進行との関係ですが,配慮規定の問題も含めまして,先ほど来の議論において子の心身に与える負担についての配慮の在り方といった問題が出てきております。この点について充実した議論を行っていくためには,児童心理の専門家の持つ知見を活用することが有用ではないかと思われます。ですので,今後,本部会の会議において児童心理の専門家の方を参考人として招致し,御意見を聞いてみるということがあってもよいのではないかと思われますが,いかがでしょうか。よろしいでしょうか。 ○内野幹事 特段,御異論がございませんでしたので,仮に御意見を伺うとした場合の人選につきまして事務当局から若干の補足をいたしますと,例えば国内の子の引渡しの強制執行や国際的な子の返還の強制執行の手続を実際に経験したことのあるような児童心理の専門家を参考人としてお招きするというのが一つの方法論として考えられるところかと思われます。 ○山本(和)部会長 それでは,どのような方を参考人としてお招きするかという人選につきましては,部会長である私に御一任を頂くということでよろしいでしょうか。   おそらく,専門家として現在も御活躍されている方を参考人としてお招きすることになるかと思いますので,本部会の日程とうまく合うかどうかという問題が出てくる可能性はあるのだろうと思います。もし,どうしても日程が合わないという場合には,恐縮ですけれども,事務当局においてヒアリングをしていただいて,そのヒアリングの結果をこの場で御報告させていただくということになるかもしれませんけれども,その点も含めて御一任を頂ければと思います。   本日の会議全体を通して何かございますか。よろしいでしょうか。それでは,本日の議論は,この程度にさせていただければと思います。   次回の議事日程等につきまして,事務当局から御説明をお願いいたします。 ○内野幹事 次回の日程は,平成30年7月20日金曜日,午後1時半から午後5時30分までを予定しております。場所は本日の場所と異なりまして,法務省地下1階の大会議室を予定しております。   次回は,今回に引き続きまして民事執行法制の見直しに関する要綱案の取りまとめに向けた御議論とハーグ条約実施法に基づく国際的な子の返還の強制執行に関する規律の見直しにつきまして御審議をお願いしたいと考えております。   なお,8月につきましては,既に予定されております8月31日金曜日に加えまして,8月9日の木曜日の午後を予備日とさせていただいておりますが,この予備日に部会を開催するか否かという点につきましては,次回の部会での進行を踏まえて検討させていただきたいと考えております。 ○山本(和)部会長 続けて,パブリックコメントについての見通しについても御紹介いただければと思います。 ○内野幹事 本日,追加試案を取りまとめていただきましたことを踏まえまして,規律の実質の変更にわたらない細かな字句の修正につきましては皆様から御一任いただきましたので,事務当局と部会長においてその要否を検討して追加試案を整理させていただき,あわせて,事務当局において補足説明を作成した上で,来週中をめどに,通常どおり,30日の期間を念頭に,パブリックコメントの手続を実施する方向で準備を進めてまいりたいと考えております。 ○山本(和)部会長 それでは,これで本日の会議は閉会にさせていただきます。熱心な御審議を頂きまして,誠にありがとうございました。また参考人の両先生も,ありがとうございました。 -了-