法制審議会 少年法・刑事法 (少年年齢・犯罪者処遇関係)部会 第13回会議 議事録 第1 日 時  平成30年12月19日(水)   自 午後1時28分                          至 午後3時36分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  1 少年法における「少年」の年齢を18歳未満とすること及び非行少年を含む犯罪者に対する処遇を一層充実させるための刑事法の整備の在り方について         2 その他 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○羽柴幹事 ただいまから法制審議会少年法・刑事法(少年年齢・犯罪者処遇関係)部会の第13回会議を開催します。 ○井上部会長 本日も御多用中のところお集まりいただきまして,ありがとうございます。   本日は小木曽委員,奥村委員,白川委員,くのぎ幹事,戸苅幹事におかれましては,所用のため欠席されておられます。   また,辻委員は所用のため少し遅れて出席されるとのことです。   初めに,事務当局から資料について説明をお願いします。 ○羽柴幹事 本日,前回会議で配布しました配布資料21「検討のための素案」及び参考資料「犯罪者に対する処遇を一層充実させるための刑事の実体法及び手続法の整備-検討のための素案-」並びに第11回会議で参考資料として配布しました「部会第8回会議から第10回会議までの意見要旨」をそれぞれ再度机上に置いています。   また,太田委員から,「若年者に対する新たな処分」に関する意見交換の中で御意見を述べられる際の補助資料として,「若年者に対する新たな処分 対象者イメージ図」と題する資料が提出されていますので,参考資料として,併せて配布しています。   なお,本日も前回までの配布資料はファイルにとじて机上に配布しています。 ○井上部会長 それでは,審議に入ります。   前回第12回会議におきましては,事務当局が用意していただいた「検討のための素案」に盛り込まれている制度・施策について,ひとわたり意見交換を行い,今後は,残された検討課題の多い制度・施策を中心に議論を行うこととしたところです。   これまでの議論を振り返りますと,特に「若年者に対する新たな処分」については,検討課題がなお多く残されていると考えられますので,本日は,まず,「若年者に対する新たな処分」について,意見交換を行うこととさせていただきます。   その後,他の制度・施策についても,これまでの議論を踏まえて,検討課題が比較的多く残されている事項,あるいは検討に時間を要すると考えられる事項があれば,それについて御発言いただく時間を設けたいと考えております。   このような進め方でよろしいでしょうか。               (一同異議なし)   ありがとうございます。   それでは早速,「若年者に対する新たな処分」について,意見交換を行いたいと思います。配布資料21「検討のための素案」で申しますと,24ページから35ページまでが該当部分になります。   最初に,「若年者に対する新たな処分」の全般的な在り方について,総論的な意見交換を行いたいと思います。各論につきましては,その後で時間を取って意見交換を行いたいと思いますので,まず,全般的な在り方について御発言がある方は,挙手をお願いします。 ○太田委員 対象者について,意見を申し上げたいと思います。これは,ある意味では各論的な問題とも言えますけれども,以後の各論の問題の全てに影響してきますために,全体的な意見という形でお話しさせていただければと思います。机上には,私が作りましたカラーのイメージ図を配布していただいておりますので,これを御覧いただきながらお聞きいただければと思います。   現在,「若年者に対する新たな処分」の手続に乗せる対象は,検察官が起訴猶予処分とした全ての者にするという「B案」と,それから,起訴猶予としたうちの起訴済みの事件の余罪など一定の事件など,ごく一部の事件については対象から除外するという「A案」となっておりまして,お配りいたしました私のイメージ図でいいますと,「B案」というものが左上の図で,「A案」というものが右の方の上の図のとおりになっているかと思います。   以前にも申し上げましたとおり,検察官が起訴猶予とする事案の中には,要保護性といいますか,それとも予防の必要性といいますか,こういったものがないか極めて低い事案というものも含まれているわけでありまして,これを全て家庭裁判所に送致するまでもないような,そういう事案が相当数あるであろうと思われることから,左上の「B案」のように起訴猶予の事案を全て家庭裁判所に送るというのではなく,検察官が新たな処分を必要と判断した事案に限って家庭裁判所に送致するということも考えられるのではないかと思っております。仕組みとしては,先ほどの「A案」にも似ておりますけれども,「A案」が起訴済みの事件の余罪など一定の事件など,ごく一部の事件については対象から除外するものであるのに対して,検察官が刑事処分はもちろんですけれども,新たな処分も必要ないと判断したものも含めて送致しないとすることから,このイメージ図でいいますと右の図の下の「A’案」のようになろうかと思います。言い換えますと,検察官に,公判請求するか,略式起訴にするか,起訴猶予にするか,そして,新たな処分のための支援に乗せるための家裁送致にするかの中から処分を選択する裁量を認めるという制度になりますけれども,家庭裁判所に送致した後の手続については「B案」と同じということになります。こういう制度の可能性も含めて検討していただければと思います。ただし,以前にも申し上げましたけれども,「A’案」の検察官限りで起訴猶予とする層の中には,予防の必要性は高いけれども,被害者が非協力的であるために起訴猶予となる事案まで含めてしまうことについては,「若年者に対する新たな処分」の制度趣旨との整合性という点も含めて,なお検討を要するかと思います。   次に,もう一つ仕組みが考えられるのではないかと思っておりまして,便宜上ここでは「C案」と呼ばせていただきますけれども,このイメージ図でいいますと左下に掲げておきました。「B案」などのこれまでの案では,略式起訴の事案はこの「若年者に対する新たな処分」の手続に乗せるということは想定されておりませんでした。しかし,行為責任としては起訴も不起訴もあり得るのではないかという事案とか,あるいは,これまでであれば新たな処分がなかったために略式罰金にしていたとか,法定刑に罰金がないために公判請求されていた無銭飲食のような事案については,刑事処分の必要性と,新たな処分による特別予防の必要性を比較衡量した上で,より適切な方の処分が選択される制度とする必要があるのではないかと思います。   この点,前回も申し上げましたとおり,「若年者に対する新たな処分」ができることによって,個々の検察官のそれぞれの判断の中で自然と起訴と不起訴の判断が変わっていき,例えば,これまでであれば略式罰金にしていたような事案のうち,刑事処分の必要性よりも特別予防の必要性が高いものについては起訴猶予にして,「若年者に対する新たな処分」の手続に乗せるということも考えられるのであろうと思います。ただ,検察官において特別予防の必要性という観点をどこまで厳密に判断できるのかという懸念もあろうかと思います。   そこで,「C案」のように,検察官において行為責任の観点で刑事処分しか考えられないという事案は公判請求にしつつ,18歳,19歳のそれ以外の事案については一旦全て家庭裁判所に送致をして,調査官の調査等によって特別予防の必要性が高いと判断されれば新たな処分を行い,やはり刑事処分が相当だと思えば,例えばですけれども,検察官に逆送して,検察官において略式請求だとか公判請求を行い,逆に,それらの処分のいずれも必要ない,あるいは家庭裁判所の調査の過程で特別予防の必要性が解消されたという場合には不処分にするというような制度という可能性もあるのではないかと思います。あるいは,逆送するというような手続がもし複雑だということであれば,罰金が相当である場合には家庭裁判所において罰金を直接言い渡すことができるようにするということも考えられないわけではないと思います。   これまでの分科会とか部会の議論におきましては,こういった観点からの検討が必ずしも十分になされていなかったのではないかと思いますので,今後は,今申し上げたような制度も含めまして,更に「若年者に対する新たな処分」の対象者像とか対象者の選定手続について検討していただければと思います。 ○井上部会長 ありがとうございました。   この資料の出発点を「A」にしないで,右を「A」にしたのは,「A」の方が望ましいので,そのようにしたということでしょうか。 ○太田委員 そういうわけではありません。「A」と「A’」が似ており,そこを縦に並べるために右にし,「B」が全部を送致するという点では一応,包括的,総合的なので,左にしました。 ○井上部会長 「A」と「A’」の違いは,起訴猶予のところの量が違うということでしょうか。 ○太田委員 そうですね,この間の川原委員からの,起訴猶予の中でこういった類型については,場合によっては,この送致するのにはなじまないような,こういう可能性もあるというような,いろいろな類型を出していただきました。そういうものに限ってだけ起訴猶予にして,あとは全部送致するとして,「A’」の方は広く検察官が判断をするということです。              (辻委員 入室) ○井上部会長 分かりました。そういう御意見ということですね。   今の点でも結構ですし,ほかの点でも結構ですが,全般にわたって御意見のある方は,挙手をお願いします。 ○廣瀬委員 今の太田委員のお話を伺い,非常に重要,大切な御指摘ではないかと思いました。これまで制度の各論についてはいろいろな議論をしてきたわけですけれども,そもそも対象者の範囲についての考え方が違ってくると,それは制度の在り方に相当な影響が出てくるので,十分に検討していくべきだろうと思います。今お話を伺い,制度案を拝見したばかりなので,ゆっくり考えたいと思います。特に,これまで,起訴猶予となる層については「若年者に対する新たな処分」の対象とすることを検討してきましたが,罰金に当たる層については,事前の調査や保護観察を付けての処遇などが検討されましたが,相当問題点が残っているのではないかとの御指摘がありました。この点について「C案」のような考え方をとると,家庭裁判所での調査,調整などもできるようになりますので,それらの点もかなり改善が図れるのではないかと感じました。印象的なことでありますけれども,これは十分検討すべきことではないかと思いました。 ○山下幹事 全般的なということですが,これまで度々指摘させていただいていますけれども,「若年者に対する新たな処分」の法的な性質については,保護処分でもない,刑事処分でもない,中間的な処分というような説明がされていたかと思います。今回,この後の各論的な制度を検討するに当たっては,今回の提案では現行の少年法に似た制度が提案されて,幾つか「A案」,「B案」というのはありますけれども,そうなりますと,そもそも現行少年法というのは保護処分について定めたものですので,なぜ保護処分ではないとされる「若年者に対する新たな処分」について,保護処分について定められた制度と似たような制度を取り入れようとしているのか,また,その新たな処分については,少年法の少年年齢の引下げを前提に,成人となった18歳,19歳を対象とするために,どうして成人に対して保護処分に類する制度を取り入れることが可能なのか,そもそも許容されるのかということについては慎重に検討する必要があると考えます。   各論としてこれから議論する手続や処分については本来,やはり「若年者に対する新たな処分」の法的性質からその制度設計を議論する必要があり,法的性質の議論抜きに制度をより良いものだということで選択するというだけではなくて,やはり法的性質論を前提に理論的な検討をすべきであると考えます。 ○井上部会長 今の点については,何度か山下幹事から御発言がありましたけれども,これについては御承知のように第2分科会でも検討され,また,当部会においても今井委員から,「非難可能な行為がなされたことをきっかけとして,対象者の特別予防を目的として行う処分と理解できるのではないか」という御意見が出されているところです。   それに問題があるということであれば,別の考え方を採るべきだということになるのだろうと思うのですが,山下幹事も,できれば御自身の具体的なお考えを示していただければ,もっと議論がかみ合ったものになっていくのではないかと思いますので,可能ならばお考えを御披露いただきたいと思います。 ○山下幹事 各論のところでまた述べさせていただくつもりですけれども,基本的に,私は,この制度は非常に,出来の悪い制度といいますか,そのように考えておりますので,そういう前提で意見を述べているということでございます。 ○井上部会長 そうすると,出発点の法的性質については,それにふさわしいものは考えられないということですか。 ○山下幹事 この制度自体がよく分からない制度になっており,この制度をより良いものにしようというつもりはないので,そういうことになりますね。 ○井上部会長 それでは,今井委員が言われたような御意見に対する反論にはやはりなっていないと思うのですよね。一つの考え方が提示されているわけですので,それがおかしければ,具体的にその考え方のどこがおかしいのかということを指摘していただかないと,議論にならないと思います。法的な性質がどういうものなのかということを前提ないし出発点にして各論を検討すべきだというのは山下幹事御自身が言われたことですよね。その出発点について,一つの考え方が示されているのに,具体的にそのどこがおかしいとも,自らのお考えを積極的に示すこともされないで,ただ疑問があるということを言われるだけでは,議論する余地がないのではないでしょうか。 ○山下幹事 この制度は,今までなかった新しい制度として提案されていると思うのですけれども,私としては非常に中途半端なというか。 ○井上部会長 それは分かったのですけれども,今井委員のような考え方を採られている方は,ほかにもいらっしゃったと思います。行為責任の範囲内で特別予防的な措置をとるということは刑罰論としても十分可能であるという御意見もあったと思うのですが,それがおかしければ,そのどこがどういう理由でおかしいのかということをおっしゃっていただかないと,議論にならないでしょう。 ○山下幹事 それは分かるのですけれども,今回の保護処分的な現行の少年法の規定と似たようなものを作ろうとしているので,今の刑罰というのですか,許容性の問題と少し違うというか,なぜ保護処分的な制度を成人となった18歳,19歳に適用できるのかというところの説明にはなっていないように私は思うのですけれども。 ○井上部会長 そうでしょうか。一つの考え方ではあると思いますね。私がそれに賛成するかどうかは別として,そういう説明について,説明になっていないと断定するだけで,どこがどうして説明になっていないのかということを具体的に示していただかないと,議論のしようがないでしょう。 ○山下幹事 それは各論でまた述べたいと思います。 ○井上部会長 ほかに,この点について何か御意見はございますか。 ○山﨑委員 今の議論とも若干関連するとは思うのですけれども,もしこの制度を設ける場合の法律の目的の定め方という観点で意見を述べたいと思います。   この新たな処分の内容については,これから更に議論をしていくということだと思いますけれども,いずれにしても現在の刑事訴訟法で定められている手続や処分とはかなり異なる制度にはなろうかと思われます。そうしますと,これらの制度を定める際の法律の形式としては,刑事訴訟法の中に設けるというよりも,新たな法律を作る必要があると考えるのが自然かと思っております。そうした場合には,冒頭の目的規定というものを,各条文の解釈指針を示すためにも,置くことが望ましいと思われますけれども,その内容についてどのように規定するかということも併せて検討していく必要があるのではないかと思っています。御承知のとおり,少年法はその第1条で健全育成,あるいは性格の矯正,環境の調整に関する保護処分を行うといった目的規定があるわけですけれども,これに代わるような目的をどのように規定するのかという点が問題になろうかと思っています。   その点で言いますと,配布資料の「検討のための素案」の29ページになりますけれども,この枠の外で,分科会で示された検討課題等というところの「1」の「(2)」に今回のこの制度の目的ということが書かれております。すなわち,少年法における「少年」の上限年齢が引き下げられ,18歳及び19歳の者が保護処分の対象から外れることとなった場合に,比較的軽微な罪を犯し刑事処分がなされないこれらの者に対して改善更生に必要な処遇や働き掛けを行うことを可能とすることを目的とする,と。これをそのまま法律の条文として目的規定にするということが可能かどうか,あるいは,どの部分が目的規定として定めるのにふさわしいということになるのか,そういった観点でも並行して検討していく必要があるのではないかということでございます。   特にそういう問題意識を持っていますのは,18歳,19歳の者について,少年法上では少年ではなく成人であるということで扱うことになりますと,同じ成人として扱われる20歳以上の者たちとの間での手続や処分が大きく異なるということになった場合に,それが,憲法で定めています平等原則ですとか適正手続という観点から,果たして許容されるのかという問題が生じる可能性があると考えられるからでして,その点がクリアされるような合理的な目的規定というものが必要ではないかと考えている次第です。 ○井上部会長 法律を分ければ今の問題はクリアするのでしょうか。同じ法律の中に書いても,立法趣旨というのはそれぞれの規定ごとにあり得るわけですから,同じことのように思うのですけれども。目的規定をきちんと書いて性質を分ければ,今おっしゃられた平等原則などといった問題はクリアするというお考えでしょうか。 ○山﨑委員 分けて書けばクリアできるとは思っておりませんけれども,中身からすると別の法律を作ることが自然ではないか,というのがまず前提としてありまして,その場合に,先ほど申し上げた,他の20歳以上の成人との違いというものを正当化するような目的規定が必要ではないのかという考えでございます。 ○井上部会長 分かりました。   ほかの方はいかがでしょうか。 ○田鎖幹事 今,山﨑委員が言われたことと重なる部分もあるのですけれども,18歳,19歳を対象として,行為責任の範囲内で改善更生のための働き掛けを行うといった制度それ自体の相当性とは別に,今指摘があったように,それが18歳,19歳だけを対象として,20歳以上とは異なる取扱いをするということについての理論的な説明をしっかりしなければいけないだろうと考えます。第2分科会におきましても,これは対象とも関わる問題ですけれども,年齢を18歳,19歳に限るのか,あるいはそうでないのかといったことが繰り返し議論されていたようでありますけれども,そういった議論の中でも,18歳及び19歳の者に対して制度を作ったときに,それは20歳以上の者には妥当しないのだというところについては説明が必要になるのではないかというような御意見も出されておりました。ただ,結局,拝見していた限りでは,分科会段階では,それ以上の,正になぜ20歳以上には妥当しないのかというところについての検討は,恐らく時間の関係もあってなされず,部会での議論の課題となっているように私は理解しておりました。そのような観点からも,20歳以上である者にはない,ある意味ではその負担が18歳,19歳の者にのみ課されるということを理論的に正当化する根拠ということについても審議が必要だと考えます。 ○青木委員 最初の太田委員の御意見にも関係するところなのですけれども,この「若年者に対する新たな処分」の正当化根拠などについて考えていきますと,そもそも,検察官が起訴しないと決めたものに関しても,起訴することはできるものであるという前提で,刑罰を科すこともできるけれども,行為責任の範囲内で刑罰ではない処分をするということは許されるのであるということが恐らく前提にあるのだろうと思うのです。そういう理屈で正当化するのだとしますと,起訴猶予事案に限るかどうかということも問題になるでしょうし,18歳,19歳に限るかどうかということも問題になるのだろうと思います。また,そのように,起訴することはできるのだから刑罰以外の処分もできると言えるのだろうかということがそもそもの問題として,一つあると思います。仮にそれができるとして,その場合に,刑罰を科すこともできるような状況であること,有罪認定をすることはできるという前提だとして,そのような手続を誰がどういう手続でやるのかということも問題になるだろうと思います。それから,起訴して有罪になるようなものについて,あえて刑罰を科すのではない選択もできると抽象的に考えるとしますと,起訴猶予となるような軽微事案でもできるのか,逆に起訴猶予となるような軽微事案だけできるのかということも問題になるように思います。   今の「若年者に対する新たな処分」として出されている案は,どちらかというと,18歳,19歳の者に限ってということではありますが,対象としているのは起訴猶予となるような軽微事案に限ってということで,今,一応,起訴基準があるという前提で,起訴猶予とならないものについてはもう刑事処分になるのですということをある意味,決めてしまった上で,それから外れるものを対象とすることとなっていますが,それが本当にいいのかどうか。特に18歳,19歳の者ということで考えますと,太田委員,廣瀬委員が言われたことにも絡みますけれども,起訴猶予になるような対象者についてだけ,成人ですから,括弧付きでしょうけれども,要保護性があるという判断がなされて,刑罰以外の処分がなされるけれども,起訴されたものに関しては,そういう判断を得ることなく刑罰が科されていくということでよいのだろうかとかいうことを含めて,理論的な問題,あるいは実際に何が適切かという問題,いろいろ問題があるように思います。   起訴猶予となるような事案だけではなくて,罰金になるようなものについても対象とするというのが先ほどの太田委員の御意見だったと思いますけれども,それも一つの考え方としてはあるのでしょうし,広い意味でのダイバージョンというようなことでこの問題を捉えることもできるのだと考えると,そういう方向での検討もあり得るのかなと思います。そして,先ほど田鎖幹事が言われましたけれども,今ここで出されている「若年者に対する新たな処分」という提案に限って言えば,なぜ18歳,19歳の者についてだけこのような処分ができるのか,そして18歳,19歳の者のうちでも起訴されないものについてだけこのような処分ができるかという説明は,今までのところ余りはっきりした形で出されていないように思いますので,その辺りも詰める必要があるのではないかと思います。 ○井上部会長 ほかに御意見はございますか。総論的な議論はこのぐらいでよろしいでしょうか。各論のところにも密接に関連すると思いますので,出し遅れた,あるいは出し忘れた御意見があれば,またそこで発言していただければと思います。   それでは,次に進ませていただきます。   「若年者に対する新たな処分」の各論についてですが,配布資料21の制度概要案のうち,「二 手続」,「三 処分」につきましては特に議論を深める必要が大きいのではないかと思われますので,まずは,「二」及び「三」と順次御意見をお伺いし,その後,それ以外の「一」,「四」,「五」について意見交換を行いたいと思います。   最初に「二 手続」,これは資料では該当部分は24ページ以下でございますけれども,御意見がある方は挙手の上,その中のどの点についての御発言かを明らかにしていただいた上で,御発言をお願いします。 ○山﨑委員 まず,質問というか確認なのですけれども,「1」の「調査」の点についてです。ここで「(一)」,「(二)」の規定がありますけれども,これは現行の少年法第8条とほぼ同様の規定ぶりになっているかと思います。そうしますと,「(一)」の,「調査しなければならない」という「調査」の意味としては,少年法第8条と同じように法的調査と社会調査を含むという理解でよろしいのでしょうか。 ○羽柴幹事 第2分科会において検討されておりました「調査」につきましては,御指摘のように,少年法第8条の調査をそれぞれ意味するものとして議論がなされたと認識しています。 ○山﨑委員 そうしますと,事件が家庭裁判所に来たときには調査をするということであれば,現行の少年法と同じように,事件が来た時点で記録も一緒に家庭裁判所へ来て,裁判所としてそれをまずは調査をし,調査命令を発するかどうかを判断する,という手続が想定されまして,手続としては,現行少年法と同じように,職権主義の下で全記録をまずは裁判官が見られるような制度がイメージされるのですが,そういう前提でよろしいでしょうか。 ○保坂幹事 少年法でこのような手続になっているということで,それと同様でよいのではないかという御意見が第2分科会であったことを踏まえて,このような案になっているかと思いますので,おっしゃるとおりだろうと認識しております。 ○山下幹事 同じく「調査」の部分につきましてですけれども,この「調査」については30ページの解説のところに,「要保護性判断のための資料を収集する」ための調査であるという説明があります。ほかのところにもあるのですが,「要保護性」という概念が使用されているのですけれども,本来これは保護処分について定めた現行少年法において伝統的に使われてきた概念であり,第2分科会の議論においても,「要保護性」という概念をこの新たな処分において使用することについての疑問が呈されたということもありました。第2分科会においては,これは特別予防と同じような意味であるという説明もあったところですけれども,保護処分ではない,成人となった18歳,19歳の者に適用される新たな処分について,あえてこの「要保護性」という概念,言葉を使うということについては,非常に混乱を招くので適当ではないと考えます。   また,現行少年法の運用上では審判前調査については,少年の性格や環境上の問題点を明らかにし,非行メカニズムを解明するために少年の私生活の領域に深く立ち入るということが不可避であるということで,調査の段階で黙秘権を告知する必要があるのかどうかという議論があるところでございます。現在の運用上では黙秘権が告知されている場合もあるということのようですけれども,今回,保護処分ではなくて,成人となった18歳,19歳の者に適用される「若年者に対する新たな処分」については,憲法第31条が要請する適正手続の保障や憲法第38条第1項の趣旨から,より強い意味において黙秘権の告知が不可欠であり,その点が明記される必要があると考えます。 ○山﨑委員 私も「調査」に関する意見です。まず,犯罪事実の認定というものがどの段階で行われるかということを考えますと,最初に裁判所として事実の調査は行い,調査命令を発するかどうかを考え,その上で審判を開いて最終的に事実認定するということになろうかと思います。そうしますと,少年法の対象外とした場合に,最終的な事実認定の手続の前に調査官の調査を行うという点が,無罪推定の原則との抵触という問題が生じないかどうかという点は検討が必要なのではないかと思っています。   また,実際に家庭裁判所調査官の方々から御意見を伺いますと,これまでは少年法の健全育成という目的の下での調査であったのが,その健全育成という目的がなくなった中で,その調査の内容といいますか,考え方が変質してしまう可能性はないのかといったような懸念も聴かれておりますし,さらには,実際上の問題として,18歳,19歳の者を成人として扱った場合に,調査の過程におけるいわゆる教育的な働き掛け,教育的措置が現行法と同じように可能なのかどうかといった問題も出てくるように思われます。   特に,例えば公園での清掃活動を親と一緒に行うといったような教育措置が行われていて,効果を上げていると認識しておりますけれども,そういったことまで果たして成人となる18歳,19歳の者に可能なのかという問題は検討する必要があろうかと思っております。関連しますが,更に言いますと,これまでは少年の親が保護者として少年法で位置付けられて,裁判所の調査における働き掛け,指導の対象になっていたというわけですけれども,今後,18歳,19歳の者で,実際に子供を監護している親に対する現行法のような対応というのが果たして可能なのかどうかといった問題点も出てくる可能性があるかと思っております。   結局,もしこの制度ができますと,家庭裁判所の調査官が行う調査が,18歳未満の少年に対する現行少年法下の健全育成目的での調査,保護者への働き掛けといったもののほかに,18歳,19歳の者に対する調査というものがあり,それには健全育成目的がなく,かつ,保護者という概念もないということで,かなり異質なものになってしまって,現場に混乱を生じることはないのかという点も検討する必要があるのではないかと思っています。 ○田鎖幹事 同じく「手続」のところで,「2」の「鑑別」に関してですけれども,収容鑑別について一言だけ申し上げたいと思います。   ここでは,家庭裁判所が特に必要があると認めるときに少年鑑別所に収容する措置をとることができるということで,ここは特に「A案」,「B案」ということもなく,そのような概要となっているわけなのですが,先ほども述べました制度それ自体の理論的な根拠とも関連いたしますけれども,やはり起訴猶予相当という軽微な行為責任の事案であるという点はもちろんのことですが,それに加えて,やはり20歳以上の成人が起訴猶予とされた場合との均衡ということを考えざるを得ないと思います。飽くまで18歳,19歳の者が成人であるという前提で制度を構築するということでありますと,18歳,19歳の者だけが処分の対象とされること自体,手続負担があるわけなのですけれども,鑑別の目的とはいえ,また収容されるということになると,さらに,20歳以上との比較で考えますと,かなり不均衡に重い負担ということになりますので,その点も考えて,再考の余地があるのではないかというのが意見です。 ○山﨑委員 「手続」で残っている点をまとめてお話しします。   まず,罪証隠滅又は逃亡の防止を目的とした身体拘束の措置についてですけれども,私は結論として,不要だと考えています。検察官が訴追を必要としないと判断した事案であることからすると,類型的に見てこういった必要性は乏しいと思いますし,審判までの期間の身体拘束となると,かなり長期間になって,過剰な権利制約であろうと思います。   次に,「A案」と「B案」の書き分け方についての意見なのですけれども,「A案」の方は,鑑別の目的以外で少年鑑別所に収容する措置となっていまして,「B案」の方では,矯正施設に収容する措置となっております。もし二者択一として案を並列するのであれば,「A案」の方も矯正施設となるのが理論的なのではないかと考えましたので,その点は御検討いただければと思っております。   さらに,試験観察についても意見を述べたいのですが,実務上,現行の少年法の手続で試験観察が非常に有効に機能しているというのは私も実務経験で強く感じているところですけれども,現行法でこれが活用されている場面といいますのは,少年院送致の可能性もあるけれども,在宅処分でいいかどうかを見極めるというような場合が主だと思われますし,また,例えば中学生が,学校との関係などがまだ不安定な場合に試験観察で様子を見るというようなケースなどがあると思っています。ただ,18歳,19歳の者を対象としたことを考えた場合に,果たしてそういった場面がどの程度あるのか,さらに,保護観察処分という在宅処分しかないという前提に立ったときに,試験観察がどれぐらい,どういった形で使われるのだろうかという点は,率直に言って,イメージがしづらいかとは思っています。あわせて,保護観察処分のみが選択肢ということであれば,試験観察自体がかえって権利制約になるという側面も出てくるのではないかと思いますので,入れるべきではないという意見ではないのですけれども,この18歳,19歳の者という対象に照らして,どういう必要性や相当性があるかを慎重に考えるべきだろうと思っています。 ○山下幹事 「2」の「鑑別」の収容鑑別の関係です。これまでもこの対象について,どういう事件があるので収容鑑別が必要かという議論はされていたかと思うのですが,このうち,今回私の方からは,期間を10日間とするという点についての意見を述べたいと思います。   第2分科会においてこの10日間ということが提案されて,この案になっていると思うのですが,なぜ10日間なのかということがございます。現在の少年法では観護措置は2週間で,更に延長して4週間,通常,大部分は審判までの3週間程度行っていることが多いと思うのですけれども,この10日間というのは,そういう意味では非常に,もちろんその前に10日ないし20日間の勾留があることが前提で,かつ,公訴提起をしないという比較的軽微な事案ということを考慮して決められたとは思うのですけれども,非常に中途半端な,なぜこの10日なのかということの説明が十分されていないと思いますので,そういう意味でも,もちろん私は収容鑑別というのは必要ないと考えておりますけれども,要するに,鑑別をするために必要だということだとしたら,現在の少年法の運用から見ても10日間というのは少し中途半端な期間になっているという点で問題があろうと思います。   また,もう1点,「4」の罪証隠滅又は逃亡の防止を目的とした身体拘束の措置ですけれども,先ほど,田鎖幹事からも御意見がありましたが,基本的にはそういう比較的軽微な公訴提起がされなかった事案で,かつ,収容鑑別も必要ないという立場からすれば,こういうものも認めるべきではない。非常に負担が大きいといいますか,不利益処分としては程度が大きいということで,このようなものは認めるべきではない。そして,そういうものは「3」の「呼出し・同行」というところの呼出状とか同行状によって対処することで,この逃亡のおそれについてはそれで対処できるということと,罪証隠滅についても,基本的には捜査段階においてある程度その捜査が尽くされていると考えられますし,そのためにわざわざ身体拘束までするというのは必要ないと,そのように考えています。 ○羽柴幹事 ただいま収容鑑別を10日間とすることの理由について御疑問があるとのことでしたので,この点について第2分科会においてどのような議論があったかを御紹介します。   この点につきましては,まず,本処分が,比較的軽微な罪を犯し訴追の必要はないと判断されたものを手続の対象とするので,余りその手続上の負担が過大になるのは相当でないため,期間を短くする方向で検討するということが考えられるという御意見があったことや,収容鑑別の必要性,相当性が認められる収容期間について,今申し上げたような観点から,現行の少年法上の観護措置よりも手続上の負担を軽減させる必要があるということ,それから,事務当局から,鑑別の実情からして,継続的かつ密度のある行動観察を実施することによって,収容鑑別がその効果を発揮して在宅鑑別とは質的に異なる鑑別結果を得るためには,少なくとも10日間程度の収容期間が必要となるのではないかという説明があったことを踏まえて,10日間というのが必要かつ相当な収容鑑別の期間として考えられるという御意見があったこと,また,この収容鑑別については,少年法とは異なり,逃亡や罪証隠滅の防止というものを含めて考えているものではなく,現在の観護措置とは異なって,鑑別をするための収容に純化したものとして考えることから,観護措置よりも短くすることが可能になるとの観点から10日間とすることが考えられるという御意見があったことから,10日間という案となっているところでございます。 ○今井委員 ただいまの事務当局から御説明いただきました分科会での議論とほぼ同じことでありますけれども,1点申し上げますと,先ほど山下幹事から,この収容鑑別の措置につきましても,例えば期間の設定に明確な基準がない,あるいは現行の少年法の運用と照らしてどうなのかという御意見があったと思います。その点については,部会長も最初に御指摘されていたと思いますけれども,やはり「若年者に対する新たな処分」というものを作るときの制度趣旨,あるいは目的を決めておかないと,議論がすれ違ってくるだろうと思います。   私は,先ほど御紹介いただきましたが,これは,非難可能な行為をしたことをきっかけとしまして,対象者の方の特別予防を目的として行う処分であると思っております。そのような処分をする際にも,対象者の方の改善更生に向けて様々な資料の収集,評価が必要となりますので,そういった意味で,対象者に対する適切な処分決定をするために特に必要な場合には収容鑑別をするということは,この「若年者に対する新たな処分」の制度の趣旨から当然導かれるものだと思います。他方で,その処分による手続的な負担,身柄拘束の期間を最低限にするというのは当然,別途出てくる要請でありますけれども,その期間が10日間というのは,今の分科会での御説明でもありましたように,過度の負担ではありませんし,また,10日間ということで明確な基準が示されておりますから,この案で適切なものだと考えているところであります。 ○酒巻委員 叩き台となる案を提示した第2分科会長として議論に際しての用語法について述べさせていただきます。叩いていただくのは一向に構わないのですが,「出来の悪い」とか,「中途半端な」と言われていましたが,具体的な意味内容のある適切な表現で議論をしていただければと思います。10日が中途半端ではないという理由は,先ほど事務当局と今井委員から説明があったとおりです。中途半端という用語で非難するのであれば,どこが中途半端なのか理由を述べなければいけないと思います。また,先ほどから何人かの委員・幹事より「理論的に」との表現が用いられていますが,「理論的」というのは何を求めているのかもよく分かりませんので,議論を深めるため用語を適切に使っていただきたいと思います。 ○井上部会長 ほかに「手続」について御発言がなければ,次に「三 処分」についてに移りたいと思います。該当ページは26ページ以下です。「1 処分の決定」から「3 不服申立て」までが特に相互に関連しているため,そこまでを一つの区切りにして意見交換をしたいと思います。その他は,その後ということにさせていただきたいと思いますが,「1」から「3」までについて,どの点からでも結構ですので,御意見がある方は挙手の上,どの点についてかを明示していただき,御発言をお願いします。 ○池田幹事 「1 処分の決定」について意見を申し述べます。   今日お配りいただいております「部会第8回会議から第10回会議までの意見要旨」の15ページに記載のある内容と関連いたしますが,部会第10回会議において川原委員から御紹介いただいた,犯罪事実自体は重大であるものの起訴猶予とされる場合に考慮される要素について,六つ挙げられていたところです。これらについて川出委員からは,それらが行為責任にどのように影響するかという点について整理がなされておりまして,被害回復や被害者の宥恕があること,又は自首がなされたことを理由として起訴猶予とされる事例の行為責任については,そのような事情が行為責任にどのように影響するかの考え方によるとの整理がなされています。また,仮にこれらの要素が行為責任には影響しないという考え方によるとしても,起訴猶予とされる理由に照らして,これらの事例を施設収容処分の典型的な対象と見ることが相当かということは,更に考える必要があるのではないかと思います。   施設収容処分の対象とするかどうかを考慮する際に,先ほど述べた意見要旨に掲げられた要素のうち,④の要素,すなわち被害回復や被害者の宥恕があることが要素となって起訴猶予とされる事案につきましては,仮に被害回復等が行為責任を軽減させるものではないと見るとしても,前回会議においても川原委員から御説明いただいたわけですけれども,⑤の要素,すなわち,性犯罪で被害者がその精神的負担のゆえに捜査公判への協力が困難であることが理由の一つとなって起訴猶予となる場合は別といたしまして,④の事案が18歳又は19歳の者によって犯されることが余り想定されないということは理解できるところでした。また,18歳又は19歳の者が,仮に④の要素が考慮されて起訴猶予とされたという場合であっても,その背景として被疑者の真摯な反省の態度が被害回復や被害者の宥恕につながっていることも多いものと考えられまして,そうであるとすれば,それが施設に収容した上で行う処遇によらなければその者の改善更生及び再犯防止を図ることができない類型である,あるいはそれがその典型であるとは言い難いように思われます。   他方で,その場合に,必ずしも被疑者の真摯な反省の態度等があるとはいえない事案があり得るとしても,被害者が訴追を望んでいないことが明らかな事案を施設収容処分の対象とするべき典型的な事案と考えることが相当か,また,被害回復の促進という観点から見て,起訴猶予とされる時点で既に損害賠償がなされている事案を施設収容処分の対象とするべき典型的な事案と考えることが相当かについては,検討する必要もあるように思います。   加えて,⑥の要素,すなわち自首がなされたことを理由として起訴猶予とされる事例について考えますと,自首は捜査機関に対して自発的に犯罪事実を申告することでありまして,通常は被疑者の真摯な反省の態度がその動機となっているものと考えられます。そうであるとしますと,そのような者について,施設に収容した上で行う処遇によらなければその改善更生及び再犯防止を図ることができないとまではいえないように思われます。そうしますと,この類型の事案についても施設収容処分の対象とするべき典型的な事案と考えることも相当ではないのではないかと思われます。   このように,「若年者に対する新たな処分」における施設収容処分につきましては,行為責任のほかに起訴猶予となった理由や事情に照らして,施設収容処分の典型的な対象となる事案であると考えることが相当かという観点からも検討する必要があるように思われます。 ○廣瀬委員 前回申し上げているので,できるだけ重複しないようにお話ししたいと思います。今の池田幹事の御発言は,川原委員の御意見を前提にして,あるいは施設収容処分とできるのは実刑相当事案に限られるというようなことも恐らく前提にしているのではないかと思います。まず,この点については,前回私が申し上げ,それから先ほど太田委員からも御指摘があったように,「若年者に対する新たな処分」の対象者の範囲が変わる可能性が十分あると思っているわけです。ですから,そういう前提が変わるということも含めて考えていかなければいけないだろうと思います。   それから,前に申し上げたように,起訴猶予対象者の中に行為責任の観点から見て施設収容処分が相当な事案が少ない,あるいはほとんどないというような御指摘については,私の実務感覚に照らして,非常に違和感を抱いています。この違和感について,私が独断的に抱いているのかと思って,知り合いの実務経験のある人たちといろいろ話してみましたけれども,皆さんほとんど同じような感覚を持っています。私の知り合いは元裁判官の方が多いですけれども,元検察官の方とも話しております。皆さんやはり起訴猶予事案の行為責任の幅は広くて,その中には施設収容が許容される事案が相当数含まれているという感覚でした。決して私一人の実務感覚で言っているわけではありません。   では,なぜそういうことになるのかということを少し考えてみますと,以前,実刑か執行猶予かの判断は微妙であり,実刑だけではなくて執行猶予相当事案も施設収容が許容される対象に含めるべきだと申し上げました。もう一つ,今の刑事裁判実務でどういう場合に実刑にしているかを思い返してみますと,道路交通法違反など法定刑自体が軽い事件では短期の3か月とか6か月といった実刑も行われています。けれども,そうではない窃盗,傷害,詐欺,恐喝などという事件では,実刑には一応の最低基準みたいなものがあって,刑期が1年とか1年半ぐらいにならないと実刑にしていません。恐らく短期刑の弊害を避けるということを考えているのだと思います。ですから,そのくらいの刑期で執行猶予にしているような事案が行為責任の観点から見て施設に収容できないのかというと,それはそうではないと思うのです。これは恐らく刑事裁判をやっている方には共感していただけるのではないかと思いますし,検察官の方にもお分かりいただけるのではないかと思います。そうだとすると,施設収容処分も,今の少年院のように1年,あるいは更に長期間というのであれば話は別でしょうけれども,私は3か月とか6か月ぐらいの施設収容処分で十分実効性は保て,そういう処分を考えていく余地はあるのではないかと思っております。そうすると,やはり執行猶予相当で起訴猶予となるような事案の中でも相当数,施設収容処分が許容されるものが出てくるのではないかと思います。   それから,先ほどの池田幹事の御意見は,分析的に要素をお考えになっているのだと思います。けれども,川原委員もおっしゃったように,そもそも起訴猶予の判断自体が分析的な要素はあるにしても総合判断です。刑事裁判ももちろんそうです。そのため,そこまで細かく分析して,しかも,更に新たな要件設定をするような議論は,特別予防や再犯防止,改善更生のための適切な処遇決定をするというシステムを考えたときに,果たして有効なのか,信頼性を持つのかについて,私はかなり疑問を持たざるを得ないと思いますので,対象者をどう考えるかということも含めて,更に検討していただきたいと思います。   続けて,前回,山﨑委員から,「若年者に対する新たな処分」の施設収容処分はどのようなものなのか,明らかにしてもらいたいというお尋ねがありました。恐らくどのような施設・処遇内容なのかということだと思いますので,その点について述べさせていただきます。   この点に関しても,今申し上げたように,対象者がまだ固まっておらず,処分とか処遇は,どういう対象者かで違ってくるわけですから,確定的なことは申し上げられないのです。けれども,まず,施設については,現状で見ていきますと,今でも少年事件が減っていることによって少年矯正施設の統廃合が行われているわけです。仮に少年法の適用年齢が引き下げられ,単純に18歳,19歳の者が少年院に行かなくなる場合には恐らく4割ぐらいは少年院に行く人が減るだろうと思います。当然,施設は相当余り,法務教官も手が空くことになるわけですから,施設の問題は少年院の空きスペースを活用するということで十分対応できるのではないかと考えています。それから,期間については,現在の短期間とか特別短期間という3か月や6か月程度の処遇課程が行われているわけでありますから,そういう形で対応できるのではないかと考えてます。   この点について,3か月や6か月の収容期間では,今の少年院に比べて短すぎて,うまくいかないのではないかという御指摘も出ていますけれども,前回,池田幹事がおっしゃったとおり,今の保護処分における少年院と比較検討するのは,正しくないのだと思います。飽くまで18歳,19歳の者が成人となった場合,行為責任の範囲内で,できるだけの有効な働き掛けをしていくということを考えるわけです。そうすると,施設収容して有効な働き掛けをしていくことがいいのか,それとも,そういうことはやめてしまう方がいいのかと,そういう選択・判断をしていくべきなのだろうと思うのです。   そう考えていくと,短期間の収容でも有効性はあるわけなので,やらないよりは短期間であっても施設収容する方が良いことは間違いないと思います。それから,これは前に羽間委員がおっしゃったことですけれども,やはり保護観察との連携をより強化することによって,施設内での教育の目標を,問題性を収容中に完全に直すというよりは,社会内処遇に移行できるというところまで,というように,目標を少しずらしていくことも考える,要するに,矯正と保護との連携強化,コンバインドを強める,というようなことを考えていけば,有効な処遇を行うができるのではないかと思います。 ○大沢委員 この施設収容処分の件ですけれども,仮に施設収容処分というものを設ける場合でも,今は「若年者に対する新たな処分」が行為責任の範囲内で正当化されるという立て付けだと思いますので,そうすると,私などが理解するのは,犯した行為というのはそれなりに重いのだけれども起訴猶予になったケースというのが対象になってくるのではないかなと理解するところです。ですから,現在,少年院などで,犯した行為自体は逆に軽いのだけれども,要保護性の観点から収容されているというようなケースについては,やはり「若年者に対する新たな処分」では,行為責任はそれほど重くないわけですから,施設収容の対象からは外れていくのかなと感じています。   ただ,前回私が質問して,今福幹事から丁寧に説明していただいた事例の中で,例えば,<事件の内容や対象者の経歴等についての説明の引用がなされた。>食料品を万引きしてしまった人とか,それから,<事件の内容や対象者の経歴等についての説明の引用がなされた。>自転車を盗んでしまったというような人も収容されていたと思うのですけれども,こういう方については,やはり悪い環境からある程度引き離して丁寧に働き掛けをすることも必要なのではないかとは感じます。   ですから,少年法の適用年齢が引き下げられれば,今言ったようなケースがどうなるかはケース・バイ・ケースでしょうけれども,起訴には至らずに「若年者に対する新たな処分」に回ってくることもあるのではないかと私などは考えるわけです。その場合,施設収容処分というのはないにしても,例えば保護観察処分の中で特別遵守事項で,更生保護施設とかそういった適切なところへの宿泊を義務付けて丁寧に働き掛けをしていくと,そういったようなことはやはり求められるのではないかと感じています。   今の発言で個別事例に言及しましたので,この点の議事録については後で調整をしてください。 ○井上部会長 今の最後の点は,前回の議事録について非公表とする方向ですので,今の大沢委員の御発言も議事録においてはしかるべき措置をとらせていただきたいと思います。 ○羽間委員 先ほどの池田幹事の御発言に関連しまして,前提となる情報を共有する趣旨で幾つか申し上げたいと思います。   まず,起訴猶予となる事案の整理については,これまで川原委員が御説明をされていますけれども,第3分科会において事務当局から20歳,21歳の者の起訴猶予事案を御紹介いただいた際に,<不起訴事件の概要についての説明の引用がなされた。>という御説明がございました。若年者について,こういった事案が起訴猶予になり得るということについては,川原委員の御説明の中には含まれていなかったのではないかと思います。恐らく川原委員は,こういった類型は既に事務当局において紹介されていたので,重ねて説明する必要はないということで,それ以外の事案を御紹介いただいたのだと思いますけれども,「若年者に対する新たな処分」の対象者を検討していく際には,今申し上げたような事案についても,起訴されずに「若年者に対する新たな処分」の対象となり得ることを前提として検討しておく必要があると思われますので,その点をまず申し上げます。   もう1点,先ほどの池田幹事のお話の中で,被害回復や被害者の宥恕があることをもって被疑者の真摯な反省があったかのように捉え,そういったケースでは施設収容処分が不要であるというような御発言がございました。この点,非行少年や若年犯罪者の実情を見てきた立場から申し上げますと,必ずしもそうとはいえないというのが実情でありますため,そういった事情についても指摘をさせていただきたいと思います。非行少年や若年犯罪者の中には,当面の不利益を回避するために示談や謝罪をするという者もおります。自己の犯罪性あるいは問題性と向き合って更生をするという意欲は,実は余り持っていないのに,当面の不利益回避のために示談や謝罪をし,結局,社会に出た後にすぐに再犯,再非行に至ってしまうというケースは,非行少年や若年犯罪者の処遇に関わっている方であればありふれたケースであると実感されているのではないかと思います。池田幹事の御発言は,こういった事案において施設内での処遇までは不要であるというようなことであったかと思いますけれども,そういった少年,若年者について,その問題性が何ら解消しておらず,再犯のおそれがなお高いという状況であるにもかかわらず,何らの措置もしない,あるいは不十分な措置しかしないということであれば,制度の在り方としては必ずしも適当とはいえないのではないかと考えております。もちろん示談等がなされても検察官の前で反省の態度が全く見られないというようなケースは,検察官において起訴を検討するのでしょうけれども,他方で,表面上反省しているように見えるけれども,実は問題性が根深いというようなケースもございまして,検察官限りの判断よりも,家庭裁判所調査官や少年鑑別所の調査も活用した判断がなされるべきであり,その判断を踏まえた家庭裁判所の処分の選択肢には幅を設けておくべきではないかと思います。   私も,仮に少年法適用年齢が引き下がって18歳,19歳の者が成人となった場合に,その者たちに行為責任を超えた処遇をせよということを申し上げているわけではございません。示談や宥恕がなされた点をどう考えるのかということが非常に難しい問題であるということも承知しております。ただ,こうした理論面での許容性が認められる以上は,示談等を経てもなお問題性が高い者について,少年院と同じとはいえないまでも,問題の大きい元の環境から引き離して,短期間でも施設内で密度の濃い処遇を行うことができる制度を設けておくということは重要ではないのかと思いますので,この点については,引き続き,少年や若年者の実情に即した検討が必要であろうと考えます。 ○井上部会長 今の御発言につきましても,非公表の部分と重なるところについては調整をさせていただきます。 ○山﨑委員 今までの御意見に関連してなのですけれども,起訴猶予となる事案の中に,例えば,被害者の協力が得られないという類型に関しましては,それによって手続の中で事実認定が行えない可能性があるということから起訴猶予になるというケースも入っているのではないかと思われますので,その点は考慮する必要があるのではないかと思っています。   もう一つ,被害弁償,示談の関係で議論がされておりますけれども,これも,いつ被害弁償,示談をするかによって結論や対応が変わってくるという問題が生じ得るのではないかと考えております。例えば,捜査段階で被害弁償して示談したのだけれども,起訴猶予相当とされて「若年者に対する新たな処分」の対象になり,そこで収容処分まであり得るということになりますと,むしろ起訴をされてから被害弁償した方が,執行猶予となり収容されない可能性が高くなるのではないかといったような事態も想定され,弁護実務の感覚からすると,そういうねじれたといいますか,少しおかしなことも生じかねないのではないかと思っています。   基本的にはやはり,再三申し上げておりますように,現在想定されている「若年者に対する新たな処分」の対象というのは,検察官が公訴提起の必要なしと判断するような軽微な事案,現行の少年審判でいえば審判不開始とか不処分の事案であることがほとんどであるということに立ち返って,やはり収容処分を選択肢として設けるというのは行きすぎではないかというのが私の意見です。 ○井上部会長 ほかに御意見はございますか。   それでは,先に進ませていただきます。   次に,残りの「4 保護観察処分」及び「5 処分の取消し」,これを一括りにして御意見を伺うことにいたします。どの点からでも結構ですが,御発言があるときは,どの点についてかを明示した上で御意見をいただきたいと思います。 ○川出委員 「4 保護観察処分」のうちの「(四) 遵守事項に違反した場合の施設収容処分」について,ここでは「A案」と「B案」が示されていますが,そのうちの「B案」に立って,仮に施設収容処分を設けるとした場合の検討課題となると考えられる点を申し上げたいと思います。   遵守事項に違反した場合の施設収容処分につきましては,この部会で何人かの方から,「若年者に対する新たな処分」としての保護観察の実効性を確保するという観点から,施設収容処分を設ける必要性があるのではないかという御意見がありました。保護観察の実効性を確保するための何らかの措置を設ける必要性があるというのは,そのとおりだと思いますけれども,それに応える制度として遵守事項に違反した場合の施設収容処分を考えるとしても,その処分の目的ないし性質をどのようなものとするのかは,それとは別の問題です。具体的には,この場合の施設収容処分を,端的に保護観察の実効性を担保するための措置と見るのか,それとも遵守事項違反に表れた対象者の要保護性に応じて課される改善更生のための措置と見るかによって,施設における処遇の内容,収容期間,収容場所などが変わってくる可能性がありますので,まずはこの点を明確にしておく必要があると思います。   その上で,施設収容処分の目的や性質を後者のように捉えた場合には,具体的な制度の仕組みとしては,分科会でも申し上げましたように,大きくは,二つのものが考えられるかと思います。その一つは,遵守事項違反があったときに改めて審判を行い,当初の審判で決定された保護観察処分を事後的に施設収容処分に変更するという仕組みであり,もう一つは,当初の審判において保護観察処分に付す際に,遵守事項違反があったときには施設に収容されることを併せて言い渡しておくという仕組みです。このそれぞれについて,検討すべき課題があります。   まず,前者の仕組みについては,この制度の下では,当初の審判で言い渡された処分が事後的に変更されることになりますので,裁判の安定性を害することにならないのかが問題になります。さらに,この仕組みは,遵守事項違反に表れた対象者の要保護性の変化に対応して,当初の処分を変更し,新たに施設収容処分に付すというものですから,そうした処分に付すことが許容される者は,行為責任の観点から見て,当初から施設収容処分が許容される犯罪を行ったものでなくてはならないということになると思います。そうしますと,先ほどの当初からの施設収容処分のところで問題になりましたように,それに該当する対象者がどれほどいるのかということが問題になってきます。加えて,この仕組みの下では,処分変更の審判において,行為責任の観点から施設収容処分が許容されるかどうかを判断することになりますので,処分を変更する審判の時点において,行為責任を基礎付ける事実について改めて事実認定をして処分決定を行うものとするとともに,それに対する不服申立てを認める必要があるのかという検討課題もあろうかと思います。以上が,前者の仕組みに係る検討課題です。   次に,後者の仕組みにつきましては,まず,その対象者につき,この仕組みの下では,対象者が直ちに施設収容されることはなく,遵守事項違反等がなければ施設収容されずに処分が終了しますので,そうすると,前者の仕組みによる場合とは異なり,その対象には,当初から施設収容処分に付する場合よりも軽い行為責任に相当する犯罪を行った者も含まれると言えるのかが問題となります。そして,仮にこのように考えることができるとした場合には,具体的にどの程度の行為責任のものであればこの処分が適用されると言えるのか,例えば,刑事で考えると罰金相当のものをこの処分の対象とすることができるのかといった点が検討課題になろうかと思います。それから,遵守事項違反があったとき等に収容するということであるとして,具体的にどのような場合に収容するものとするのか,例えば,遵守事項違反の程度を考えるかどうかということも検討課題になります。さらに,審判において,遵守事項違反があった場合の収容期間をどのように定めるのか,具体的には,定期にするのか,一定の幅を持たせる形にするのかといった課題もあると思います。   遵守事項違反があった場合の施設収容処分を設けるとした場合には,以上のような点について検討する必要があると思います。 ○山﨑委員 前回も保護観察の様々な論点のところで,「若年者に対する新たな処分」の場合の保護観察はそれに含まれるのだろうかという質問をさせていただきましたけれども,今回新たな処分として保護観察処分が設けられた場合に,その法的な性質が現行の保護観察とはどのように違っているのか,あるいは同じなのかという,その点についてはやはり検討する必要があるだろうと思っています。刑罰の付随処分ということではなくて,独立して言い渡される処分ということになると思われますけれども,かといって現行法で認められている1号観察のような保護処分でもないということになりますと,全く新たな性質を持った処分ということになるのではないかと思います。その点が各論的なところにも影響してくるのではないかと思っておりますので,十分な検討が必要なのではないかと思っております。   あわせて,その観点から,今,川出委員がおっしゃった,遵守事項違反の場合の施設収容処分が,そもそも処分として施設収容処分が認められるかどうかということと関連をした論点ではあると思うのですけれども,遵守事項違反の場合にだけ施設収容処分が認められるということになりますと,当初の犯罪行為の行為責任としては保護観察が妥当であったという判断が,その後の遵守事項違反という行動によって,その責任が大きく,重い方向に変わってしまうということになるように思われまして,これは宣告猶予などで議論されていたときの行為責任の考え方と矛盾するところがないのかというところが気になっております。先ほどの川出委員の御説明をまだ十分理解できていませんので,おっしゃった二つの立場によって変わるのかもしれませんけれども,そういった点の検討が必要ではないかと感じているところです。 ○井上部会長 川出委員,今の点について何か補足はありますか。 ○川出委員 先ほど申し上げた二つの仕組みについては,どちらであれ,単なる保護観察にしか付せない行為責任に相当する犯罪を行った者は対象になりません。後者の仕組みの場合でも,遵守事項違反があったときという条件付きとはいえ,施設に収容できるだけの行為責任が必要ですので,遵守事項違反があったことによって当初の行為責任よりも重い処分を課すというものではありません。 ○羽間委員 川出委員の御発言を十分理解しているかと反すうしているところでございますけれども,今御指摘のあった課題というのは非常に重要な課題でございまして,引き続き検討が必要なのだろうと感じました。「若年者に対する新たな処分」における保護観察につきまして,遵守事項違反の際の施設収容処分を設けることについての必要性については,これまでの部会でも申し上げてきました。重ねて詳細に申し上げることはいたしませんが,「若年者に対する新たな処分」において,処分の内容に保護観察というものを設ける以上,遵守事項違反の際の施設収容処分は不可欠であり,セットとして導入する必要があるものと考えております。今後の議論によるのだと思いますけれども,もし遵守事項違反に対する措置が何ら行えないという結論になるのであれば,そこでなされる保護観察というのは,もはや「保護観察」とは呼べない,すなわち今の保護観察と呼べるだけの実効性を備えないもの,例えて言えば任意で行う更生緊急保護と同程度の実効性しかないものになってしまうと考えておりますので,その点だけ改めてここで指摘させていただきたいと思います。 ○井上部会長 川出委員の御発言については,議事録を読んでいただき,また疑問のところをただしていただければと思います。   ほかにこの点について更に付け加える御意見がなければ,次に進みたいと思いますが,よろしいですか。   それでは,「三 処分」についてはここまでとしまして,次に,「若年者に対する新たな処分」のうち「二」及び「三」以外の,「一 対象者」,「四 犯罪被害者等の権利利益の保護のための制度」,「五 家庭裁判所への移送」について,まとめて意見交換を行いたいと思います。この点も,今までと同じですが,御意見がある場合には挙手の上,どの点について御発言いただくのかということを明らかにしていただいて,御意見を頂ければと思います。 ○山下幹事 28ページの「四」の「5 被害者等による審判の傍聴」と,それから「一 対象者」の件について,意見を述べます。   まず,被害者の傍聴の件ですけれども,これは少年法第22条の4と同様の規定を設けようというものでございますけれども,「若年者に対する新たな処分」の対象者というのは,これまでにもあったように比較的軽微,先ほどから少しその対象についてはいろいろ議論がございますけれども,比較的軽微で検察官による公訴提起しないとされたものであることからすると,対象となる事件に当たるとしても非常に少ない,ほとんど少ないと考えられることからして,さらに,対象者の負担や他の成人とのバランスから見て,この制度については,「若年者に対する新たな処分」においてこのような制度を設ける必要はないと考えます。   また,対象者につきましては,今日の冒頭に太田委員から議論が少しございました。それで,24ページの「一 対象者」の「A案」の中には,起訴済みの事件の余罪等一定の事件というのは例外にするというようなことが書いてありますけれども,これについては,先ほど太田委員の話もありましたが,川原委員から従前,捜査に協力が得られないということで起訴猶予にするようなケースがあると,こういうものについては「若年者に対する新たな処分」にも乗せないというような提案といいますか,そういう御意見があったかと思います。ただ,そうなりますと,どういう事件を「若年者に対する新たな処分」の対象にするのかということについては,検察官の非常に広い裁量を認めることになる。また,非常にその基準が曖昧になるという,そのような問題もありますので,そういう例外を作るのであれば,どういう場合にそれを例外とするのかということについて明確な基準がなければ,非常に検察官の判断について裁量が広くて曖昧になってしまうおそれがあるので,これについてはその点を慎重に検討する必要があると考えます。 ○青木委員 「一」と「五」に関連して意見を申し上げたいと思います。   まず,すごく細かいことなのですけれども,「一」のところで「A案」として,「起訴済みの事件の余罪等一定の事件については,二の手続に乗せないものとする。」というのがあるのですけれども,これとの関連で,実際,一度この手続に乗ったものがあったとして,家庭裁判所に送られた後に,今度は起訴相当の犯罪を行った場合,家庭裁判所の手続がどうなるのか,あるいは「行った」ではなくて,発覚していなかったものが発覚したということも含まれると思いますけれども,家庭裁判所の手続と,刑事手続が並行するようなことになった場合に,どのように対象者を考えるのか,対象者というのか,家庭裁判所の手続をどう考えるかだと思いますが,そういう問題もあるのではないかと思います。   それから,「五」と「一」に絡む話ですけれども,「五」のところで「A案」,「B案」というのがあるというのは結局,この「若年者に対する新たな処分」というのが起訴猶予相当のものについてだけ,先ほど申し上げましたように,括弧付き「要保護性」を判断する仕組みになっているので,起訴されて,刑事裁判中にその要保護性が高いということが分かって,むしろこの手続に乗った方が良いというようなものをどう考えるかという問題を,B案ではこういう形で実現することができるということなのだろうと思いますけれども,そもそも「若年者に対する新たな処分」で起訴猶予相当についてだけ18歳,19歳の者について,その「要保護性」に基づいて何らかの対処をするということそのものをどのように解消するのがいいのか,こういう家庭裁判所への移送という形でするのがいいのか,そもそも対象者の段階でもう少し広く見た方がいいのかということも検討する必要があるのではないかと思います。 ○山﨑委員 欄外になっているところの意見になりますけれども,まず,先ほどから制度全体を考えていますと,「若年者に対する新たな処分」については,検察官において起訴猶予が相当だと判断した事件を,特段検察官としては処分をせずに,家庭裁判所に事件を送って処分を求めるということになりますので,現行の送致という手続が一番近いのではないかと考えておりますけれども,そのような場合に検察審査会との関係がどのように整理されるのかという点は検討しておく必要があるかと思っています。つまり,不起訴処分をした件に対しては審査の申立てができるわけですが,不起訴処分はされずに家庭裁判所に事件が行った場合に,新たな処分が決まった場合はともかく,処分がなく終わった場合にどういう扱いになり,検察審査会の対象にはならないという整理でよいのかどうか,という点があるかと思います。特に,20歳以上の者と18歳,19歳の者との共犯事件などで起訴猶予相当と思われる場合などには,その扱いの違いというのが問題になり得るかと思いますので,結論としての意見は持っておりませんけれども,検討の必要があるのではないかというのが1点でございます。   それと,被害者側からの記録の閲覧謄写に関しましても,ほぼ同じような問題が生じ得ると思われ,不起訴処分で終わった事件の場合と「若年者に対する新たな処分」として家庭裁判所に来た事件での記録の取扱いの均衡といいますか,取扱いの差異というものを検討する必要があるのではないかということを考えております。   それと,また別の観点なのですけれども,以前から「若年者に対する新たな処分」を考える際に,分科会での議論で,簡易送致というものについてどう考えるかという論点があったかと思います。一方で微罪処分の対象になっている犯罪の類型,あるいはその割合と簡易送致はほぼ同じであるという御説明の中で検討していたわけですけれども,「若年者に対する新たな処分」の場合に,微罪処分という前提でその対象に一切しなくてよいのかどうかというところは改めて検討する必要があると思っています。家庭裁判所調査官の方々からの意見などをお聴きしますと,簡易送致であっても,これは少し問題があるという事案については,しっかり調査をして審判に回るという事案もあるということのようですので,そういった可能性を確保しなくてよいのかという点も問題になるかと思っています。   最後に,先ほど「処分」のところで言い忘れましたが,処分の取消しについて,簡単に申し上げます。処分終了後の取消しに関する規定については,刑罰の場合の規定と保護処分の場合の規定が異なるということになっていると思いますけれども,2000年の少年法改正で処分終了後の取消しについて新設された際に,刑罰と保護処分の違いということを前提に,扱いが異なることの説明がされていたかと思います。今回の「若年者に対する新たな処分」については,そのいずれともまた異なる性質の処分ということになりますので,そこをどう説明するかという点も課題になるのではないかと考えています。 ○青木委員 「その他」の部分で,今の御意見にも関連しますけれども,一事不再理効がどのような場合に生ずるのかということについても,少年の保護処分の場合と刑事裁判の場合とに照らして検討しておく必要があるのだろうと思います。分科会の中ではそういう御議論もあったと思うのですけれども,何らかの形できちんと結論付けておく必要があるのではないかと思います。 ○山下幹事 「二 手続」のところで,言うべき意見を言う機会がなかったので,今言います。   25ページの「6 検察官・弁護士の関与」の「(二)」のところの,いわゆる検察官関与の問題でございます。これは,少年法第22条の2と似たような規定を設けようという「A案」と,それを設けないという「B案」があるわけですが,そもそも対象となる犯罪というのが非常に重い,死刑又は無期若しくは長期3年を超える懲役若しくは禁錮に当たる罪の犯罪という形で法定刑が重いものを想定しているということでございまして,平成26年改正によって対象犯罪が少し拡大されておりますけれども,「若年者に対する新たな処分」については比較的軽微な犯罪で,検察官が訴追を必要としないということで公訴を提起しないことにしたものについてということですので,これに当たる可能性は非常に少ないということと,それから,今回は一応,検察官がこれを公訴提起しないと判断した上で送致をしているということを考えますと,現行法のように単に送致しているというのではなくて,一旦そこでは公訴提起しないという検察官としての判断をしているので,それにもかかわらず,再び検察官がその審判の場に出て関与するというのは,やはり少し制度として不適当ではないかと考えますので,検察官の関与の制度というのは設けるべきではないと考えます。 ○川原委員 先ほどの山﨑委員の御意見の中で微罪処分のことがありましたので,微罪処分を「若年者に対する新たな処分」の対象にするかという点について御意見を申し上げます。   これまでの部会での御説明,あるいは分科会での御議論を踏まえますと,現在,微罪処分の対象となっているものについてあえて検察官に送致して,公訴を提起しないという判断を経て,更に家庭裁判所における調査審判の手続を経て,この処分を行うことができるようにしたとしましても,微罪処分の対象事件と簡易送致の対象事件が重なっている部分も多いところ,簡易送致されたもののうち,一部は先ほど山﨑委員がおっしゃったようなものがあるのかもしれませんが,その多くは家庭裁判所調査官の調査を経ることなく,事案軽微を理由として審判不開始とされているということでありますから,微罪処分の対象者の多くは審判不開始となるものと考えられます。それにもかかわらず,微罪処分相当のものをあえて検察官に送致して,公訴を提起しないという判断を経て,家庭裁判所の手続に乗せることとする必要があるかは,私は疑問でございます。   すなわち,微罪処分というのは軽微な罪について警察限りの手続で終結させることによって被疑者を早期に手続から解放し,捜査機関の資源をより重大な事案に集中させることができるという合理性があると思われます。これは少年事件のいわゆる簡易送致におきましても,定型的な軽微事案について少年に対して早期に一定の措置を講じて手続から開放した方が,結果的に改善更生にも資する上,捜査機関や,あるいは家庭裁判所の処理能力をより実質的な事案に集中できるメリットがあるとされているのと,ある意味では共通するところだと思われます。   分科会における警察庁の幹事の御説明によりますと,警察においては犯罪捜査規範に基づいて,微罪処分とする際,被疑者に対して厳重に訓戒を加えて将来をいさめるなど,一定の措置を行われているということでありまして,これにより軽微な罪を犯した者に対して必要かつ適切な再犯防止の措置がとられていると言えるところでありますので,微罪処分の対象となるような軽微な犯罪を行った者に対する措置としては,この微罪処分が相応の効果を上げているのではないかと考えられることから,18歳及び19歳の者をあえて微罪処分の対象から外す意味は乏しいのではないかと考えます。 ○武委員 被害者等の傍聴のところなのですけれども,設けないという意見もありますが,是非これは設けていただきたいです。被害者が存在するときには,たとえ小さな事件であったとしても,その被害者にとってはとても大きなことだったりするので,傍聴したいという人も多分出てくると思います。だから,これは是非設けていただきたいです。   それと,先ほどから健全育成とか要保護性,少年法ではそういうのをうたっているから,それとごちゃごちゃになってはいけないというようなことを言われていますが,少年法というのは長い歴史があって,何十年もの間18歳,19歳の少年たちは守られてきたわけです。だからこそ,いきなり年齢を引き下げたからといってその子たちのことを考えないのはいけない,考えなくてはいけないということで,この新しい制度ができると思うのです。だから,この18歳,19歳の者に限るということは,私はとても普通のことだと思うし,限られて当然だと思っています。そして,健全育成ができないのではないかということをおっしゃいますが,例えば18歳,19歳の者が事件を起こして,それが軽微であったとしても,まず,あなたたちは大人なのですよということ,だけれども,あなたたちにはまだ,軽い犯罪なのだから可能性がある,だから家庭裁判所に送りましょうと,そして,そこで事実認定をすること自体が健全育成になると思います。たとえ言葉が書かれていなくても,そのように事実認定をすること自体が,そこをしっかりやること自体が健全育成になると思いますので,健全育成ができないということにはならないと思います。   そして,「要保護性」を使う,使わない,言葉の上だけでやり取りするのは違うと思うので,やはり軽微な犯罪は,これからがあるということで手厚くいろいろなことを工夫しながら考えるというのは大事なことだと思います。それが「要保護」,「保護ではない」という言葉でやり取りするのは私はおかしいと思っています。大事なことをすればいいと思います。18歳,19歳の者に限るのは大事だし,そして,先ほど,遵守事項を守らなければ施設に入れた方がいいのではないかということも言われています。私は大事だと思います。それは,再犯防止につながると思うからです。私たちの加害者少年を見ると,やはり保護観察中に犯罪を起こしていたりするのです。だから,約束事を守らなければ,そこできちんと施設に入れたり,きちんと指導するということはとても大事で,それが再犯防止につながると思います。考えていただきたいです。 ○井上部会長 この点はよろしいでしょうか。   それでは,「若年者に対する新たな処分」については,本日のところはこのぐらいにさせていただきます。   次に,それ以外の,その他の制度・施策について意見交換を行いたいと思います。冒頭に申しましたとおり,「若年者に対する新たな処分」以外の制度・施策のうち,これまでの議論を踏まえまして,なお検討課題が残されている事項,あるいは検討に更に時間を要すると考えられる事項について,できればこれまでと同じような意見の繰り返しではなくて,新たな御意見,あるいは,これまでの御意見を更に敷えんするような御意見を賜れれば有り難いと存じますので,御発言をお願いします。 ○川原委員 「罰金の保護観察付き執行猶予の活用」に関しまして,以前申し上げました意見を補足して申し上げたいと思います。この罰金の保護観察付き執行猶予の活用の対象につきまして,私は以前の部会で,部会資料として配布されている統計を参考にいたしまして,18歳,19歳に関する終局人員中,保護観察処分人員の数が多い罪名として,窃盗,傷害,恐喝,詐欺を取り上げて意見を申し上げましたが,前回の部会におきましてこの活用に適する事案についての御意見が出されましたところでありますので,補足して意見を申し上げます。   一般保護事件の終局人員に関する司法統計において18歳,19歳の者の保護観察処分人員の数が多い項目を見ますと,最も多いのは窃盗罪,2番目に多いのは傷害罪でありますが,その次は「特別法犯その他」となっております。この「特別法犯その他」に該当する罪名は,統計上は不明でありますが,特別法犯のうち,私の実務経験上,若年者に比較的多いと思われるものを挙げますと,一つ目は痴漢や盗撮,客引きなどのいわゆる迷惑防止条例違反,二つ目が18歳未満の者と淫らな性行為をしたという青少年保護育成条例違反,三つ目が廃棄物,すなわちごみの不法投棄をしたという「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」違反,四つ目が児童ポルノの単純所持などの「児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律」違反などであります。   これらの特別法違反につきましては,起訴した場合,相当部分は罰金となっているのが実情でありまして,その際の罰金額は経験上,20万円以上であるのが通常と思われるところですが,仮にこれらの特別法違反の罪で保護観察処分と現在なっています18歳,19歳の者が成人として取り扱われたとして罰金となる場合であっても,この罰金額等の処分と同様になると思われます。このような罰金であるならば,社会内処遇における心理的強制として相応の威嚇力があるものと思われまして,個別の事案における処遇の必要性を踏まえ,保護観察が適する事案については罰金の保護観察付き執行猶予が活用されると期待してよいと考えられます。 ○池田幹事 私も「罰金の保護観察付き執行猶予の活用」に適する事案について意見を申し上げたいと思います。   この点については,第2分科会におきましても活用対象をめぐって議論がされてきたのですけれども,それを踏まえますと,一般論としては,前回,橋爪幹事からも御指摘があったように,罰金相当の事案のうち,本人の資質や環境等に問題があって,保護観察に服させればその問題の解決が図られ,改善更生,再犯防止につながる可能性があるなど,保護観察に付することに積極的な処遇手段としての意義が認められる事案で,対象者本人にも改善更生に向けた意思がある場合などが活用に適すると考えられます。また,対象者が若年者であるということは,一般的には活用を積極的に図る方向で考慮する要素の一つとなるものと理解しております。このような理解は「検討のための素案」の14ページの概要にも示されておりまして,対象者が若年者で可塑性に富んでいることや,効果的な処遇プログラムがあることは,一般的には活用を積極的に図る方向で考慮する要素の一つであるという理解も示されております。   こちらも参考にしながら,更に具体的な事例のイメージを申し上げますと,例えば,これはこれまでにも挙げられている例なのですけれども,罰金相当の傷害事案で,粗暴癖が原因となっているものであるために,暴力防止プログラムが有効に働くということが期待できる場合が考えられますし,あるいは,犯行の背景に共犯者との交友関係があり,対象者にその交友関係を見直す意思があるなど,改善更生に向けた意欲があるような場合も考えられます。こうした場合には,罰金刑を直ちに執行するよりも,保護観察に付した方が,交友関係の見直しも含めて,処遇の機会を設けることが改善更生につながるため,保護観察付き執行猶予とすることが有用かつ相当なものとなり得ると考えられます。ほかにも,例えば罰金相当の万引き事案で,対象者がパチンコにのめり込んで生活に困窮したということが犯行の原因であって,対象者本人にはパチンコをやめるなど改善更生に向けた意欲があるような場合には,これも罰金の実刑よりも,その執行を猶予して保護観察に付し,処遇を行うことが改善更生,再犯防止につながり得るものと考えられます。付け加えて申し上げますと,例えば,いわゆる盗撮による迷惑防止条例違反を繰り返しているような事案で,対象者に改善更生に向けた意思,意欲があって,性犯罪者処遇プログラムで実施される認知行動療法による効果が見込まれるような場合にも,これまで述べたところと同様に,罰金刑を直ちに執行するよりも,保護観察付き執行猶予に付してそのプログラムを実施するなどした方が再犯防止につながる場合もあるものと思われます。   以上は飽くまで一般論ではあるのですけれども,申し上げたようなケースでは罰金の保護観察付き執行猶予の活用に適するものと考えられます。 ○太田委員 「検討のための素案」の18ページの「8-1」の「三 更生保護施設における宿泊の義務付け」について,質問と意見を申し上げたいと思います。前回の部会において,この宿泊の義務付けにつきまして身体拘束の処分というような表現を用いて意見が述べられたかと思います。しかし,私が理解している宿泊義務付けの制度というのは身体拘束とは全く異なるものでありまして,この点について前提をはっきりさせておくために,まず,事務当局に二つほど質問させていただきたいと思っております。   一つ目は,そもそも保護観察の号種を問わず,保護観察は対象者に対して特定の住居等への居住を義務付けて行っていくものではないかと思っていますけれども,その点について制度の実情を御説明いただければと思います。二つ目は,そのことを前提に,特別遵守事項で宿泊の義務付けが設定された対象者というのは,保護観察対象者一般に課されるものを越えて,例えば部屋に鍵を掛けて閉じ込めるというような身体を拘束するようなことを行っているのかどうかということについても,制度の実情を説明いただければと思います。 ○今福幹事 特定の住居等への居住の義務付けは,号種を問わず保護観察を実施する上では基本のことです。保護観察対象者の行状全般を把握し,往訪や呼出しなどを適切に行うためには,保護観察官が保護観察対象者の住居を把握しておくことは不可欠です。そこで,更生保護法では「一般遵守事項」という,全ての号種の保護観察対象者が守るべき事項として,届出等によって特定された住居に居住することを義務付けております。また,同じく一般遵守事項として,転居又は7日以上の旅行をするときは,あらかじめ保護観察所の長の許可を得ることを義務付けております。こういった遵守事項に従わず,例えば,更生保護施設を住居として届け出たのにその場所から出奔,つまり勝手に飛び出して所在をくらませたような場合には,遵守事項違反として,執行猶予取消しなどの不良措置を受け得ることとなります。   次に,現行の更生保護法第51条第2項第5号で特別遵守事項として定めております宿泊義務付けの制度について申し上げます。まず,この制度の趣旨は,保護観察対象者によっては特定の施設での宿泊を伴う濃密な指導監督が必要な者もいることから,そのような者に対して一定期間,指定した宿泊場所に宿泊をさせて必要な指導監督を行うというものです。ただし,ここで想定されている宿泊義務付けや,その間の指導監督は,飽くまでも保護観察対象者に通常の社会生活を営ませることを前提として,実社会の中で社会生活技能を向上させたり,就労先を確保するなど社会資源を活用するなどして,必要な処遇を行っていくものです。したがいまして,宿泊義務付けの対象となった者に対して,特定の場所に保護観察対象者を拘禁,すなわち閉じ込めておくようなことですとか実社会から隔離するようなことは,制度として予定されておりませんし,実際にも行っておりません。 ○太田委員 今,御説明がありましたとおり,保護観察というのは社会内処遇としての性質上も,対象者が一定の場所に居住して,保護観察官や保護司が必要な場合に連絡を取ったり面接をしたりすることができる状態にあることが当然に必要なわけでありまして,どこに住んでいるのか分からないとか,そもそも連絡も付かないというような状態では保護観察というものが全く実効性を持ち得ないわけです。しかも,そもそもそういったどこにいるのか分からないような生活をしているようでは更生もままならないというべきであります。保護観察を受けている者は,そもそも刑罰とか保護処分を受けた者でありまして,保護観察付き執行猶予も,懲役,禁錮を言い渡されながら,それを一時的に猶予してもらっている状態であり,それから仮釈放後の保護観察というものも,本来なら刑事施設に収容しなければいけない者を仮に釈放しているという状態にあるわけであります。そうした保護観察対象者に対しては,きちんと定住をして保護観察官や保護司が常に連絡のつく状態にいなければならないわけでありまして,そのために保護観察対象者については全ての者に住居を定め,その住居に居住するということが一般遵守事項として義務付けられているわけです。住居を定めるか,定められることにより,そこに居住することが求められてはいますけれども,全ての保護観察対象者は当該住居に身柄を拘束されているわけではなく,当該住居に居住しながら,就労とか就学とか,その他の社会活動を自由に営むことができるわけでありまして,それは決して身体拘束と称されるようなものではないと思います。   この宿泊義務付けは,他の保護観察対象者が自宅や一定の住居に居住するように義務付けられるのと同じように,ただ,本人の更生や再犯防止の観点から,今,濃密な処遇というお話がありましたけれども,特定の場所に宿泊をして指導監督を受けた方がよい者に限って,現在は自立更生促進センターを居住場所に指定されているにすぎないということであります。もちろん施設からの出入りは自由ですし,自立更生促進センターでプログラムに参加したりする時間以外は,社会に出て就労したり社会での活動を行うことができます。施設の管理や本人の規則正しい生活を維持するために,施設ごとに門限のようなことを定めてはありますけれども,その時間帯でも,夜間の仕事があるとか,それから学業などの正当な理由がある場合には外出することもできます。   今回のこの運用の見直しというものは,保護観察対象者に遵守事項違反が見られるといったように乱れた生活を安定させ,規則正しい社会生活を送らせる必要がある場合などに,その改善更生のために特に必要と認められるときに,現在,宿泊先として義務付けが認められている自立更生促進センター以外に更生保護施設をその宿泊先として認めようというものであり,こうした運用の改善が必要かつ適切であると私は考えます。また,こうした運用が可能になることで,原処分の取消しによって刑事施設に収監せずとも,社会の中で更生の努力を続けさせるということが可能になる場合もあるでしょうし,また,従来であれば,安定した住居もなく保護観察付き全部猶予や仮釈放が今一つちゅうちょされるというような場合でも,遵守事項として宿泊義務付けをすることによって,そういった処分が可能になるということも考えられます。   先ほど酒巻委員から用語の話がありましたけれども,こういった宿泊の義務付けを身体拘束というような表現をするのは,少なくとも現行の宿泊義務付けの制度や実務からは掛け離れた表現であるかと思いますので,議事録を後で読む人に不要な誤解を与えないように,併せて指摘させていただきたいと思います。 ○大沢委員 「検討のための素案」の「8-3」の「保護観察における少年鑑別所の調査機能の活用」ということに少し関わるかもしれないのですけれども,まず,現行の保護観察付き執行猶予の場合は,保護観察に付せられた場合に,保護観察所がどのくらい対象者の情報を持っているかというと,いわゆる1号観察の保護観察処分になる少年の場合は少年審判で作成された詳細な資料があるのに比べると,やはり少ないのかなと感じます。一方で,起訴猶予の方が対象になると今想定されている「若年者に対する新たな処分」では,家庭裁判所による少年審判に似た手続が予定されているので,ある程度対象者に対する情報は多いと思うのです。そうすると,起訴されて保護観察付き執行猶予になるという人の方が,起訴されずに新たな処分により保護観察になった人よりも,例えば特別遵守事項を決める上での手掛かりが,少なくなってしまうのではないかということを感じます。   ですから,そのときにやはり大事になるのは,「保護観察における少年鑑別所の調査機能の活用」がここではうたわれていて,保護観察所は保護観察付執行猶予者等に関して,少年鑑別所に鑑別を求めることができるということもあると思いますので,家庭裁判所の調査官と同じ調査ではないかもしれませんけれども,少年鑑別所の心理技官の心理検査等のアプローチというのも非常に有効な情報が得られるのではないかと思いますので,こういった少年鑑別所の活用をしっかりやっていくということは必要だと思います。特に適用年齢が下がった場合,執行猶予になる18歳,19歳の者に保護観察をある程度付けていくということはいろいろな面で出てくると思いますので,これを有効に是非活用してほしいと期待しています。 ○山﨑委員 私からは,「8-1」の,先ほど太田委員が御意見を述べられた,宿泊の義務付けに関する意見になります。   先ほど太田委員からは身体拘束ではないという御説明がありましたけれども,19ページに書かれている趣旨の説明を拝見すると,ここの運用については,矯正施設から出所した後の生活環境に適応させることが困難な場合ということで,主に仮釈放となった方を中心に考えられた制度であろうと思われますし,仮に保護観察付執行猶予者をも対象とするという場合でも,1号保護観察の処分を受けた少年とはやはり,執行猶予の取消しによって刑罰,服役する可能性の有無という点で大きな違いがあると思われます。さらには,検討されている「若年者に対する新たな処分」の保護観察についても,やはり法的な性質,置かれた対象者の立場というのは違いますので,そのような1号観察や新たな処分の保護観察も含めた制度として運用するべきなのか,そこはやはり区別をして考えるべきではないのかといった点も検討する必要があると思っています。私は,1号観察の少年ですとか,「若年者に対する新たな処分」で保護観察が設けられたときには,この運用の対象とは考えないというような切り分けも必要ではないかと考えています。 ○田鎖幹事 今の点とも関連する点について,まず述べたいと思います。確か前回の部会でも同じような問題意識が示されたかと思うのですけれども,実際,特にこの「8-1」から「8-3」までの論点について,分科会で議論をしているときは,主として念頭に置いていたのは3号,4号の保護観察対象者でありまして,ただ,更生保護法の規定としては,特別遵守事項の定めについては,特則もありますけれども,基本的に全号種についてカバーするような規定になっています。ですので,あえて除外しなかったので,1号,2号も対象となるというような見方もできるかもしれませんけれども,一方で山﨑委員が今,指摘されたように,特に「若年者に対する新たな処分」というものを考えたときは,現行の保護観察処分少年と,それから,有罪判決に伴って,刑罰に付随して保護観察を受ける者でも,やはり地位が違うわけですので,これは,新たな処分で仮に保護観察を行うという場合であっても,では,その保護観察の中身がどのようなものかということについては,一つ一つ丁寧に,それが新たな処分の中身として適切なのかというものを検討する必要があると思います。結果的に重なるということであれば,それはいいわけなのですけれども,過程としてそういった作業というのは欠かせないであろうと考えます。   それとの関連で,もう1点,「8-1」の,素案の表でいきますと上から三つ目の黒い「○」のところですね,民間施設が行うプログラム・ミーティングの受講を特別遵守事項の類型として追加するという,これは制度を新たに設けようという部分でありますけれども,以前にも申し上げた点と重なりますが,若干敷えんして述べたいと思います。   元々,現行の更生保護法では,保護観察所において保護観察官が行う特定の犯罪傾向を改善するための専門的処遇が行われているわけでありまして,これは更生保護法第57条第1項第3号において指導監督の一方法として規定されていて,かつ,特別遵守事項として定められるようになっているということでありまして,ここでの専門的処遇というのは指導監督であるために,これを民間に委託して,これ自体を行うということは当然にできないというわけであります。だからこそ今度,新たな遵守事項として追加しようという議論なのでありますが,これは前にも指摘したと思うのですけれども,このプログラム等の提供は援助として行われるわけですが,指導監督は保護観察官が行うということであります。これについては確か前回も,民間施設,主として更生保護施設側と保護観察官とが連携を密にすることによって有効に実施していくことができるのだといった御意見もあったと承知しております。ただ,現実問題として考えたときに,保護観察所と更生保護施設,民間施設というのは当然ながら,物理的にも別の場所でありますし,やはり機能の分担をしつつ密接に連携していくということは,そう簡単にできるものではないということと,やはり指導監督というものがあるのだと,そういう後ろ盾があるのだという意識の中で行われる援助の提供というものが,実質において強制的な性質というものを帯びるようなことになってしまっては,これはいけないわけですので,ここは,仮にこういった制度を新たな遵守事項として追加するとしても,かなりその点が明確になるように,従来の専門的処遇との違いが明確になるように,慎重な書き方をしなければいけないと考えます。 ○井上部会長 その点についても,更に検討する際に是非アイデアも出していただければと思います。 ○太田委員 先ほどの宿泊の義務付けでございますけれども,19ページの「3」の表現では少し分かりにくくなっているかもしれませんが,分科会でも,特に仮釈放に限らず,保護観察付き執行猶予などその他の保護観察も含む趣旨で議論されたと思います。実際の実務の現状から必要性を考えますと,例えば保護観察付き執行猶予だと約25%だったと思いますが,4分の1ぐらいの者が遵守事項違反等をして取り消されて再処分を受けているという現状を考えますと,懲役,禁錮を受けながら,それを一旦猶予してもらっている状況の中で非常に生活がまた乱れてきて,問題を起こして遵守事項違反すれすれになっている,若しくは違反をしているけれども,取消しの前にきちんと生活を立て直すという点で,こういった更生保護施設で生活を義務付けて規則正しい生活を送らせるということが正に必要だと思っておりますので,4種類の保護観察の対象者について,この宿泊義務付けというものは共通に必要性があり,かつ,相当であると考えます。   それから,保護観察の号種による差別化を図るというのは,具体的にどのようにされたいのかということをお話しいただければとは思うのですけれども,立法経緯から考えますと,元々戦前,戦中,戦後の経緯から,保護観察を別の法律で規定していたものを,執行猶予者保護観察法を改正し,指示事項しかなかったものを特別遵守事項を設定可能とし,最終的にそれでも不便であり,必要性もあるということで,統一的な更生保護法の中で保護観察の遵守事項制度を作ってきたという経緯を考えますと,保護観察自体の実施の過程における統一性といったものを設けておくというのはやはり意義があると思っておりますので,これについては改めて立法経緯などの説明を事務当局からいただけるといいのかもしれませんけれども,そういう点からも,あえて号種としてこれを区別するという必要性はないと思っております。   それから,田鎖幹事が御発言された民間施設で行うプログラム,ミーティングの受講の件でございますけれども,次回以降で結構でございますので,現在こういった民間更生保護施設を始め,様々な施設で様々なプログラムが行われていることについて,羽間委員もよく御存じなので,羽間委員からでも結構なのですけれども,そういった実情といったものを更に御教示いただければと考えております。 ○山﨑委員 今の太田委員の御発言は,私の発言に関するものですけれども,更生保護法までの法律の改正経緯があったのだという御説明だったかと思います。私もその点,若干勉強させていただき,この部会の委員も務めていらっしゃる先生の論文を読ませていただきました。そこでは,一連の法改正については保護観察の法的性格に関してどのような理解に基づいていたのかは必ずしも明確ではない,と評価されていまして,それぞれの類型の保護観察において,保護観察所がいかなる目的でどこまでの権利制限を伴う特別遵守事項を設定できるのか,さらには,その事項を設定できるとして,それには明文の根拠規定が必要なのかという点も曖昧なままにしているように思われる,という指摘もございました。さらに,今回,「若年者に対する新たな処分」ということも検討しているわけですので,本当にこの宿泊義務付けというような制度が,仮釈放者,あるいは執行猶予者をも越えて,1号観察や新たな処分の対象者にも必要かつ相当か,という観点は,改めて検討する必要があるのではないかと考えています。 ○井上部会長 更に付け加えての御発言がなければ,その他のところについてはこのぐらいにしたいと思います。   本日の審議は,これで終了とさせていただければと思いますが,本日の議論で,残された検討課題について様々な御意見が出されたところですので,今後の具体的な議事等については,今日の議論状況も踏まえて,部会長である私の方で検討し,事務当局を通じてなるべく早めに皆様にお知らせをするということにさせていただきたいと思いますが,それでよろしいでしょうか。               (一同異議なし)   ありがとうございます。   次回の日程について,事務当局から説明をお願いします。 ○羽柴幹事 次回第14回会議は,1月30日水曜日の午後1時30分からです。場所は東京地方検察庁の会議室を予定しています。 ○井上部会長 本日の会議の議事につきましては,大沢委員と羽間委員のお二人の御発言の一部について,以前の議事録で非公表とする部分に重なるところがありますので,その点については,先ほど御了承いただいたように,私の方で調整させていただきたいと思います。   その点を除き,それ以外につきましては,いつものとおり発言者名を明らかにした議事録を作成し,公表することとさせていただきたいと思いますが,そのような取扱いでよろしいでしょうか。               (一同異議なし)   それでは,そのようにさせていただきます。   本日はどうもありがとうございました。 -了-