法制審議会 少年法・刑事法 (少年年齢・犯罪者処遇関係)部会 第15回会議 議事録 第1 日 時  平成31年3月26日(火)   自 午前10時00分                         至 午前11時59分 第2 場 所  東京地方検察庁会議室 第3 議 題  1 少年法における「少年」の年齢を18歳未満とすること及び非行少年を含む犯罪者に対する処遇を一層充実させるための刑事法の整備の在り方について         2 その他 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○羽柴幹事 ただいまから法制審議会少年法・刑事法(少年年齢・犯罪者処遇関係)部会の第15回会議を開催します。 ○佐伯部会長 本日は,御多忙中のところをお集まりいただきまして,ありがとうございます。   まず,議事に入る前に,前回の当部会以降,委員・幹事の異動がございましたので,御紹介させていただきます。   これまで幹事であられた橋爪隆氏が,幹事の任期満了に伴い,委員に任命されました。引き続きよろしくお願いいたします。   本日は,奥村委員,小山委員,白川委員,猪原幹事におかれましては,所用のため,欠席されています。また,酒巻委員は所用のため,遅れて出席される予定です。   まず,初めに,事務当局から資料について説明をお願いします。 ○羽柴幹事 本日,参考資料として,「部会第8回会議から第14回会議までの意見要旨(制度・施策関係)」を配布しています。  この資料は,事務当局の責任において,当部会第8回会議から第14回会議までにおける各委員・幹事の御意見の要旨をまとめたものです。   また,第12回会議で配布した配布資料21「検討のための素案」及び参考資料「犯罪者に対する処遇を一層充実させるための刑事の実体法及び手続法の整備-検討のための素案-」並びに第14回会議で配布した参考資料「遵守事項に違反したときの施設収容についての課題」を再度机上に置いています。   さらに,太田委員から,「若年者に対する新たな処分」に関する意見交換の中で御意見を述べられる際の補助資料として,「若年者に対する新たな処分の仕組み」と題する資料が提出されていますので,参考資料として,併せて配布しています。   なお,本日も,前回までの配布資料はファイルにとじて,机上に配布しております。              (酒巻委員 入室) ○佐伯部会長 それでは,審議に入ります。   前回部会におきましては,「検討のための素案」に盛り込まれている制度・施策のうち,「若年者に対する新たな処分」について意見交換を行い,他の制度・施策についても,まだ検討課題が多く残されている事項や,検討に時間を要する事項について,意見交換を行いました。   これらの事項につきましては,前回までの部会での意見交換を踏まえ,更に議論を深めていく必要があると考えられますので,本日も,前回と同様の進め方で,意見交換を行いたいと思いますが,よろしいでしょうか。              (一同異議なし)   それでは,最初に,「若年者に対する新たな処分」について,意見交換を行いたいと思います。配布資料21「検討のための素案」の該当部分は,24ページ以下になります。   まずは,前回と同様,全般的な在り方について,総論的な意見交換を行いたいと思います。   御意見がある方は,挙手の上,御発言をお願いします。 ○池田幹事 全般的な在り方ということで,特に対象者の年齢の設定について,意見を申し上げます。   意見要旨の14ページによると,前々回,また前回の議論の中では,新たな処分の対象として,18歳及び19歳の者だけを取り出すことが正当化されるかという点について,なお検討が必要ではないかという御指摘がなされています。   対象者の年齢をどのように設定するかということは,これまでの議論でも,必ずしも論理的に決まるものではなく,政策論の問題とされてきたわけですけれども,そのような観点に鑑みて,18歳及び19歳の者だけを対象とするのは,次のような理由から正当化することができるのではないかと考えます。   まず,前提として,新たな処分は,罪を犯し,法益を侵害した者に対して,法益を侵害したことを非難できる限度で国家が介入することが正当化されるという侵害原理を正当化根拠としていて,その範囲内で,対象者の改善更生を図って,再犯を防止することを目的とするものと位置付けられてきました。   そのような処分の対象とすべき者の年齢を設定するに当たりましては,18歳及び19歳の者が20歳以上の年齢の者よりも,相対的に見て可塑性に富むことが多いと考えられるという事情は,考慮に値するものといえます。   そして,これを前提にしますと,軽微な犯罪に及んだけれども犯罪傾向が進んでいないという段階で働き掛けを行うことによって,その改善更生を図る余地が,その年齢層については,これもまた,相対的には大きいと考えられます。   これを逆に言えば,そのような段階で対象者を放置すると,犯罪傾向を強めてしまうおそれもあることから,改善更生のために働き掛けることの重要性が,当該の年齢層については比較的高いということもできます。   他方で,新たな処分の手続では,家庭裁判所における調査・審判を行い,必要がある場合には,少年鑑別所の鑑別を行うものとされていますけれども,それらの機関はこれまで,20歳以上の年齢の者には当たらない,18歳及び19歳の者を扱ってきた実績があり,この段階の年齢に属する者の改善更生のために働き掛けるための必要な知見を十分に備えているものといえます。以上から,一方において改善更生・再犯防止のために働き掛ける必要性が特に大きい,他方で,従前の制度の存在に照らしても,処遇の効果が見込まれるといえることから,18歳及び19歳の者を新たな処分の対象とすることの合理性は十分に認められるものといえます。   もとより,新たな処分やそのための手続の対象となることによって,一定の負担が生じることにはなるわけですけれども,特に18歳及び19歳の者については,さきにも述べたように,このような手続及び処遇が効果的であると考えられることに加えて,侵害原理によって正当化される範囲内でのみ処分が許容され得る仕組みとすることが前提となっていることからしますと,その負担も十分に正当化することができるものと思います。 ○山下幹事 今と同じように,年齢の問題でございますけれども,確かに今御説明いただいて,20歳以上と,それから18歳,19歳とは,少し違うという御説明があったのですけれども,今回は,同じ18歳,19歳といっても,その中で,検察官が公訴の提起をしない,比較的軽微な事案だけをその対象にしているという点が,やはり大きな問題であると思っております。   つまり,それよりも重い罪を犯した人は起訴されて,家庭裁判所には送致されない。比較的軽微な事案で,公訴提起されなかった事案だけが家庭裁判所に送致されて,新たな処分を受けるということで,18歳,19歳を一応成人と扱った上での手続ではありますけれども,なぜ,比較的軽微な事案を犯した18歳,19歳だけが新たな処分の対象になるのか。そこについては,やはりまだ,正当化する根拠が十分説明されていないと考えられます。   むしろ,介入する必要とか,再犯を犯さないようにするとか,更生を図るとか,そういう観点であれば,やはり,もう少し重い罪を犯した18歳,19歳に対しても,家庭裁判所においての調査・審判という方が適切なのかもしれませんし,それを経た上で,現在と同様に,逆送して起訴するということもできるわけでありまして,そこを外して,18歳,19歳のうち,比較的軽微な事案で公訴提起しなかった事案だけが新たな処分の対象になっているということについては,やはりまだ十分な正当化根拠が説明されていないと考えられますので,今のままでは,この制度というのは,20歳以上の成人と18歳,19歳が成人になった場合の成人とを,その間の,それを分ける正当化根拠というものがまだ十分説明されていない。そういう意味で,非常に不完全な制度ではないかと考えられるところでございます。 ○山﨑委員 年齢とはまた別の観点ですけれども,前回の部会で私から,法制審議会の総会でなされた指摘を踏まえて,「若年者に対する新たな処分」と保安処分との関係について,十分整理して検討する必要があるのではないかと発言させていただきました。   これに対して,事務当局からは,改正刑法草案に規定された保安処分の内容を挙げられた上で,そこでの保安処分は,行為責任の有無及び軽重に関わりなく,対象者の将来の危険性を基礎として処分を行うものとされていたのに対して,今回の新たな処分は,行為責任の範囲内で処分を行うものとされているので,その点が改正刑法草案の保安処分とは異なるという趣旨の御説明がありました。   しかしながら,私は,今回の新たな処分が改正刑法草案で規定された保安処分と異なるというだけでは,総会で示された懸念に対しては,十分に応えていないのではないかと考えています。   我が国の刑事法制度では,これまで,犯罪防止のために科す刑罰以外の保護,教育,矯正,治療などの強制処分は,正面からは採用されてこなかったとされているところ,今回の新たな処分は,成人すなわち自律性が認められる大人に対して,その犯罪危険性に着目して,刑罰以外の強制処分を科すということになります。そのような刑罰以外の処分を認めるのは,私が国で初めてということになるものと思われますので,それだけの必要性・相当性があるのかという点が,慎重に検討されなければならないと考えております。   そして,この保安処分に対する懸念としては,保安上の必要性が優先され,犯罪危険性の予測が実際には困難であることとあいまって,人権侵害のおそれがあるという点が問題にされるものと理解しておりますけれども,若年者に対する新たな処分についても,その目的が特別予防や再犯の防止ということであれば,実質的には治安や社会防衛上の観点が優先され,行為責任を超えるような処分まで課されてしまうなど,人権侵害を引き起こすことにならないかという点について,特に考慮して議論をする必要があると考える次第です。 ○青木委員 今の山﨑委員の話にもありましたけれども,今,18歳,19歳を対象にしているとはいえ,成人を対象とする制度として,この新たな処分というのが考えられているわけです。そのように考えますと,そもそも訴追を必要としないような比較的軽微な罪を犯した成人一般に対して,刑罰ではない,改善更生に必要な処分というものを行うことができるのかという問題があると思います。   仮に,成人一般に対しては駄目だけれども,18歳,19歳についてだけはいいということだとしますと,先ほどの説明だけで足りるのかどうかという問題もあると思います。   今まで,成人に関して,起訴するか,不起訴にするか,刑を決める際,あるいは刑を決めるに当たって,最終的に保護観察に付するかどうかとかいうことについても,今言われている要保護性,要するに犯罪的危険性と矯正可能性ということだと思いますけれども,それを詳細に調査するという制度は,この国にはないわけです。   仮に,そのような調査が許されるとしますと,それは罪を犯したということが前提でなければならないと思います。起訴後のことを考えれば,はっきりしているとおり,起訴後,有罪認定がされる前に,そのような詳細な調査をするということはできないと考えられていると思います。   そうすると,起訴されない人については,検察官が罪を犯したと判断して,今の制度枠組みからいうと,家庭裁判所裁判官が罪を犯したことの蓋然的心証を得られれば調査はできるという制度が,成人の制度として成り立ち得るのかということも,検討の必要があるのではないかと思います。   新たな処分に関しては,このような要保護性の判断というのは,検察官は基本的にはできないという前提で,家庭裁判所の調査官による調査が用いられるとなっているのですけれども,罰金の保護観察付き執行猶予に関しては,保護観察を付けるかどうかということについて検察官が保護観察の有効性をある程度判断できるという前提で,18歳,19歳についても特にほかの成人と区別することなく,家庭裁判所調査官の調査を経ることもないというアンバランスも生じています。   公判請求される場合に関しても,執行猶予に保護観察を付すかどうかということについて,軽微な罪を犯した18歳,19歳については行われる家庭裁判所調査官の調査というのはないまま,裁判所が判断するということになっていて,軽微な罪を犯した18歳,19歳についてだけ,今までの少年法に近いような特別の制度を設けるというのは,それ自体問題ですし,しかも,そのような形で,しかも成人だという前提なので,新たな処分自体が,今までと同じような少年法と同様の機能を有するかというと,それも不十分であり,なおかつ,成人の制度として見た場合に,全体としての整合性がとれないというような制度になっているのではないかと思います。 ○佐伯部会長 全般的な在り方については,この程度でよろしいでしょうか。   それでは,次に,「一 対象者」について,意見交換を行いたいと思います。   御意見がある方は,挙手の上,御発言をお願いします。 ○田鎖幹事 既に対象者について,全般のところで御意見が出ましたので,その繰り返しになるかもしれませんけれども,青木委員から先ほど御意見がありましたように,そもそもこのような,訴追を必要としない者に対して一定の処遇を行うということが,成人一般に対してできるのかどうかという議論を踏まえた上で,仮にそれができる,あるいはできないとなった場合に,18歳,19歳について正当化できるのか。その点について,先ほど池田幹事から御説明があったようなことで足りると言えるのか。こういった論理の段階を踏まえた検討が,私も必要であろうと考えます。 ○橋爪委員 ただいまの議論をお伺いしながら,ずっと考えておりましたけれども,仮に18歳,19歳に限らず,成人一般について新たな処分を導入するとしても,理論的には説明がつくように思います。飽くまでも,行為責任を上限とした範囲での処分であり,責任を超えた処分を課すことにはなっていないわけですので,侵害原理ないし行為責任の枠内で,少なくとも理論的には,正当化が可能だと思います。   したがいまして,この問題は,立法政策の問題としまして,特に再犯予防の効果が高く,また,特に働き掛けの必要性が高い18歳,19歳に限って新たな処分を導入することの当否という観点から,検討する必要があると考えます。 ○今井委員 今の橋爪委員と同じ感想ですけれども,私も池田幹事が言われたことに賛成であります。   これまでは,成人年齢の変化に伴いまして,18歳,19歳の方にとって,どのような処遇が一番有効かつ適正かということに焦点を当てて議論していますので,その前提として必ずしも成人一般についての問題が出てくるとは限らず,出てきたとしても,橋爪委員のような理解が可能だと思っております。 ○佐伯部会長 ほかにはいかがでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは,次に,「二 手続」について,意見交換することとします。   「二」のいずれの点からでも結構ですので,御意見がある方から,挙手の上,どの点かを明示していただき,御発言をお願いします。 ○山下幹事 「3 呼出し・同行」に関して,質問と意見を述べたいと思っております。   まず,前回の部会だったと思いますが,澤村幹事から,呼出状を発することができるとありますけれども,その前提としては,まず,呼出状を発した上で,その上で,応じない者には同行状を発することができるということなのですけれども,現在,少年法の手続においては,行方不明になったような場合には,呼出状が送達できず,同行状を発付できない場合があるので,そのことを想定して,次の罪証隠滅又は逃亡の防止を目的とした身体拘束の措置について検討する必要があるというような御発言があったかと思います。   そこで,まず一つは,現在の少年法の手続において,行方不明とか所在不明,そういう理由で呼出状が送達できず,同行状を発することができなくて,大変困っているような事態が実際発生しているのかどうかということに関して,統計データがあるのかどうか分からないのですが,現在の少年法上の手続で,何かそこで大変困っていることがあるのかどうか,そういう実態が存在しているのかどうかということについて,まずお聞きしたい。そのことを踏まえて意見を述べたいと思います。 ○澤村幹事 お答えいたします。   現在の実務におきましては,家出や逃走などにより,少年の所在が分からない場合には,少年法第12条第1項に規定されている緊急同行状を発付して,警察などに執行を依頼した上で,少年を裁判所まで連れてくることができれば,その後,観護措置などの措置をとっていると思われるところです。   今お尋ねの,このような事件がどの程度あるかということにつきましては,申し訳ありませんが,統計をとっておりませんので,その数を具体的にお答えすることはできません。 ○山下幹事 今の答えを踏まえて,意見を述べたいと思います。   今,どのぐらいあるか分からないというお話があったのですが,今のお話ですと,緊急同行状で対応しているというお話がありました。   いずれにせよ,そういうことであれば,逆にそういうところをきちんと整備すればいいのであって,そのために,次の逃亡の防止を目的とする身体拘束ということをする必要はないのではないかと考えられます。   また,実際には,この段階に至っている,つまり新たな処分の前提としては,逮捕・勾留等があって,検察官が公訴提起をしないという後に,この手続に入るわけですが,そこでは10日又は20日間の勾留がされた上で,比較的軽微な事案が送致されてくるわけでございますので,そういうことについては,逃亡のおそれとか,今のような理由で身体拘束をするということは不必要であるし,やはりそれは過剰な権利制約として,設けるべきではないと思います。   今の話からすると,むしろ緊急同行状とか,そういうものを整備することで,対応できるのではないかと考えます。 ○廣瀬委員 澤村幹事がおっしゃったのは,緊急同行状で家庭裁判所に連れてくるということだけではなく,その後,必要な場合には観護措置をとって対応しているということだと思います。ですから,家庭裁判所に連れてくるところだけで足りるというわけにはいかないと思うので,ただいまの山下幹事の御意見は,澤村幹事の御意見とかみ合っていないのではないかと思います。   緊急同行状で連れてきた後に,調査・審判するための期間を確保することは必要なわけですから,山下幹事の御意見だと,結局,そこをどう解決するのかということが問題として残ることになるはずです。 ○山下幹事 確かにそうだと思いますが,ただその場合に,今,2週間又は延長して4週間という,現在の観護措置と同じ期間を身体拘束できるという案が提示されているわけですが,それほど長期のものが,比較的軽微な事案において,新たな処分をするために必要なのかは疑問に思いますので,そういう意味で,もしそういうことが必要であるということであれば,本当にもっともっと短い期間であるべきではないか,元々今回,収容鑑別は10日といっているわけですから,なぜこれが2週間及び4週間という極めて長い期間が設定されているのかということについては,疑問を感じているところでございます。 ○山﨑委員 私も,同行状の点について意見を述べます。   前回の部会で,澤村幹事から御説明があったのは,現行少年法の同行状の仕組みでは,定まった住居がない場合や所在不明などによって呼出状の送達ができないという場合には,同行状の方法をとることができないので,調査・審判への出席確保の手段としては不十分である,という御趣旨だったかと思います。   この点,裁判所職員総合研修所の「少年法実務講義案」を改めて読ませていただいたのですけれども,裁判所が調査・審判のために,少年や保護者などに出頭を求める手段として,実務においては,呼出状を刑事訴訟法に定める手続で送達する正式の呼出しというものと,それ以外の普通郵便等の方法によって,名宛人の任意の出頭を期待する意思を通知するという簡易の呼出しという手続があるところ,実務上では,むしろ簡易の呼出しが原則として行われていて,同行状が発付される事例は少ない,とされているかと思います。   さらに,関係者からお聞きしたところでは,実務上では,同行状を発するというところまでする事案というのは,比較的重い事件に限られていて,軽微な事案については,少年が所在不明である場合などには,実際には審判不開始で事件を終了することもあると伺っています。   そうしますと,今回の「若年者に対する新たな処分」が,公訴提起の必要がないと判断された軽微な事案,基本的には現行の審判不開始・不処分といった事案に相当する者を対象としているということからしましても,現行法の呼出し・同行と同様の制度で基本的には足りるように思われ,これに加えて,更に別途,調査・審判への出席確保の手段を講じるというまでの必要性があるのかという点については,疑問が残るところです。   なお,現実の実務では,事実上,親権者などの保護者を通じて,少年の出頭が確保されているということも少なくないと考えられますけれども,「若年者に対する新たな処分」の制度においては,そのような保護者の対応が期待できないという点が,もし問題となるのであれば,そもそもそういった保護者との関係での問題を生じ得ることも踏まえて,少年法の適用年齢引下げの是非自体を慎重に考えるべきことではないかと考えています。 ○廣瀬委員 ただいまの山﨑委員の御意見の中で,新たな処分が,不処分・審判不開始の者のみを対象にする前提であるかのような御指摘がありました。確かにそういった者も含まれるのでしょうが,当然,現行であれば,保護処分の対象となっている者,つまり,保護観察となる者や少年院送致となる者などといった少なくともそれなりの処分になる者も新たな処分の対象に含まれ得るということは,前提となる共通認識としておかないと,議論がすれ違ってしまうと思います。   今,非常に軽微で,公訴提起の必要性が乏しい事案の例として,不処分・審判不開始ということをおっしゃいましたけれども,新たな処分の対象に含まれるのはそういった事案だけではないということは,やはりきちんと確認しておかないといけないと思いますので,一言申し上げておきます。 ○田鎖幹事 私は調査と,それから鑑別の関係で,主に述べたいと思います。   先ほども,既に青木委員から御指摘があったところですけれども,まず調査については,犯罪事実の認定に先立って,早い段階から調査を行うという点についてです。   ここでの調査というものは,少年事件と同様に,対象者あるいは参考人の面接調査ですとか,学校,職場等への照会調査,学校等への訪問等による環境調査ですとか,あるいは各種のテスト,検査といったものが行われると想定されていると思います。   こういった幅広い対象者に対して,プライバシーに深く立ち入ったような内容についても行われるという点,それから,調査の結果が終局決定にも直結する重要なものであるといった点で,捜査機関が一般的に情状面に関して行うような調査とは,目的においても異なりますし,質的にも全く異なるといえます。また,少年に対する社会調査においては,文字どおりの調査だけではなく,家庭裁判所調査官からの働き掛けによって,一種の処遇が行われていると言われております。   こういった調査を想定した場合に,これを健全育成目的の働かない自立した成人に対して,かつ,犯罪事実が裁判所によって認定される前に行われるということをどう見るべきかということでございますが,まず,調査に応じるかどうかは,対象者にとって,法的には任意であるといたしましても,その対応次第でその後の手続の展開が大きく変わる,そういった可能性があるという状況で,調査に応じないという選択は,実際上は難しいと思われますし,事実上の強制も働くと思われます。かつ内容的にも,プライバシーに深く立ち入る調査が行われるということを考えますと,やはりこれは,犯罪事実を認定した後に行うということにせざるを得ないのではないかと考えます。   そうしますと,調査もそうですし,さらに,この手続の関係でいきますと,「2 鑑別」についても同様に,事実の認定後にすべきではないかと考えます。その上で,さらに,「2 鑑別」との関係について申し上げますと,特に必要があるときには,少年鑑別所に収容した上での鑑別が想定されておりまして,身体を拘束するという大きな自由の侵害を行った上で,対象者の意思に反してでも行い得るような制度設計になっております。しかし,事実の認定が行われていない段階において,鑑別の必要性という点だけで収容を正当化することができるのかについては,相当疑問があります。   少年ではなくて,飽くまで成人に対する手続として見た場合に,異議の申立てなどの手続を整備して,収容期間を限定するとしても,なぜ鑑別のための収容というもの,それ自体が正当化されるのか。その点が明らかにできないということであれば,制度としては設けるべきではないと考えます。   さらに,同じ手続の「9 試験観察」についても,同様の観点から,犯罪事実の認定に先立って処遇を実施し得るような内容となっておりますので,この点についても,同じような問題点があると考えます。 ○山﨑委員 私も調査について,今の田鎖幹事の御意見と重なる部分もありますけれども,意見を述べます。   前回の部会で,これも澤村幹事から,現在の少年審判手続における非行事実の認定と社会調査の関係について,法的調査に基づいて,非行事実が存在する蓋然的な心証が得られた場合に,社会調査が行われるという旨の御説明がありました。   しかし,今回検討されている「若年者に対する新たな処分」は,現行少年法とは異なり,その対象は少年ではなく,自律性が認められるとされる成人であります。また,健全育成という目的もないという中で,犯罪事実に関する蓋然的な心証が得られたというだけで,成人に対する調査を行うことができるのかという点で,やはり無罪推定等の適正手続の上から問題はないのか,なお慎重な検討を要すると考えます。   特に,家庭裁判所調査官による社会調査では,少年法及び少年審判規則に基づいて,少年については,家庭及び保護者の関係,境遇,経歴,教育の程度及び状況,不良化の経過,性行,事件の関係,心身の状況などについて調査が行われ,さらには,少年の家族及び関係者についても,その経歴,教育の程度,性行及び遺伝関係等についても,できる限り調査を行うものとされています。   このように,家庭裁判所調査官による社会調査は,対象者や関係者のプライバシーに深く関わるものであるということをも踏まえると,成人による事件について,犯罪事実に関する事実認定手続よりも前に,そのような調査を実施してよいのか,どのような根拠によりそれが正当化されるのかという問題は残るものと思われます。   さらには,家庭裁判所調査官による面接調査に関しましては,専門的判断を導くための生の情報や資料を収集する方法として,最も重要であるとともに,教育的働き掛けを行って,自己理解を深めるなどの保護的措置としての意味をも有している,とされております。   健全育成という目的がない中で,成人に対して,さきに述べたような,現行少年法と同様にプライバシーに深く関わるような内容の調査や,こういった教育的な働き掛けを行うことが,どのような正当化根拠によって許されるのか。そして,許される調査の範囲や程度についても別途検討する必要があると考えますし,仮にそのような調査に対象者が応じない場合,どのように扱われるべきなのかという点についても,検討が必要になるのではないかと考えます。 ○橋爪委員 25ページ,「6(二)」でございますけれども,検察官関与の問題につきまして,一言申し上げたいと存じます。   検察官関与制度の導入につきましては,今後,処分の対象者あるいは処分の具体的内容等を詰めた上で,特に実務的な必要性を踏まえて,さらに検討すべき課題であると考えますので,現段階では,具体的な結論について申し上げることは控えたいと存じます。   もっとも,前回の部会におきまして,新たな処分は軽微な犯罪のみを対象としており,また,検察官が起訴猶予と判断した事件に限定されていることから,検察官関与を導入することはあり得ないという趣旨の御指摘があったかと存じますが,そのような御指摘は必ずしも当たらないように思いますので,本日は議論の前提としまして,この点に限って意見を申し上げたいと存じます。   まず,軽微な犯罪に限定されており,検察官関与の対象者がほとんどいないのかという点でございますけれども,現在の「A案」の「イ」では,現行の少年法と同じく,死刑又は無期若しくは長期3年を超える懲役・禁錮に当たる罪を対象としております。したがいまして,窃盗,傷害,詐欺,恐喝など,18歳,19歳の対象者が犯すことが多い犯罪類型が含まれておりますので,新たな処分の対象者の中でも,検察官関与の対象となり得る者は一定数含まれ得るように思います。   さらに,検察官が起訴猶予とした事件について,更に関与することがあり得るかという問題でございますが,この点も,現行少年法の検察官関与の趣旨に立ち返って考えた場合,その趣旨は,非行事実の認定に問題がある事件について,証拠の収集・吟味における多角的な視点を確保し,事実認定の適正化を図ること,裁判所と少年の対峙状況を回避し,少年審判の教育的機能を確保すること,審判の一層の適正化を図り,被害者を始め国民一般の信頼を確保することにあると言われております。これらの趣旨は,新たな処分についても同様に当てはまり得るようにも思われます。   したがいまして,一旦起訴を見送った事件について,検察官が再度関与することも,直ちに矛盾するわけではないと考えます。   このように,検察官の関与を正当化することは,理論的には可能でありますので,この問題につきましては,むしろ可否のレベルではなく,要否や当否という政策的な観点から,更に検討を加える必要があると考えます。 ○大沢委員 先ほど,事実認定をする前に調査をするというのはどうなのかという御意見があったのですけれども,その点について,質問というか,教えていただきたいのですが,事実認定をしてから調査をするということになると,検察官が起訴猶予にした人を今の少年審判のように,家庭裁判所でもう1回事実関係を調べ直して,その上で,またそういう調査をするということをおっしゃっているのか,あるいは,そもそもそういう事実認定の前に調査するというのは難しいので,そもそもこの制度は難しいという,そういうことをおっしゃっているのでしょうか。そこを教えていただければと思います。 ○山﨑委員 私は,今回検討の対象になっている新たな処分については,現状の少年審判と同じような形で,まず犯罪の蓋然性について心証を取った後に,調査を行って,最終的に審判で事実認定を行うという制度として提案されていると理解していますので,そのように最終的な事実認定手続の前に調査を行うという制度は,難しいのではないかという考えでおります。 ○田鎖幹事 まだ議論の途中ですので,恐らく,それほどすっぱりと,見方が明確に提示できることではないと思いますけれども,少なくとも,私が申し上げたのは,検察官が犯罪であると認めたと,それだけでは不十分であるという前提の上です。   御指摘があったように,では,事実の認定を先にしっかりするということになると,ただでさえ,今,少年審判と同じような,かなりしっかりとしたというか,一定の段階を踏んだ,対象者にとってはそれなりの重い負担があるわけなのですけれども,仮に私が指摘したような点を踏まえて,事実認定を先行させるとなると,更に手続的には複雑化しますし,長期化するでしょうと。そうすると,今度は,制度そのものとして,訴追を必要としないというような人に対して,そういった手続を行うということ自体の相当性という問題にもなってくると思います。 ○武委員 手続のことですが,少年法が何十年も続いて,とてもいい少年法だということをずっと言われてきました。そして,今回年齢が引き下げられることになった場合,そうしたら,やはり18歳,19歳の軽微な犯罪の人たちを,今までは保護処分であったり,家庭裁判所が丁寧に扱っていたのに,それでは,一気に大人扱いではいけないのではないかといわれています。やはり歴史があるから,18歳,19歳に限ってするということは,とても大事なことだし,意味があると思います。   それから,18歳,19歳の軽微な犯罪の人に調査をする,いろいろなことを調べたら,プライバシーに関わると言われますけれども,すごく大事なことだと思います。私たちは,死亡事件なのですが,経験していることは,加害少年たちは,段階を踏んでいるんです。軽微な犯罪から少しずつエスカレートして,死亡事件を起こしている人が結構多いのです。だから,軽微な犯罪に力を入れていただきたいのです。   18歳,19歳の軽微な犯罪,例えば不起訴になったなら,それで,はい終わりです,と今までなったようなものを,丁寧に調査をして,その少年に何がいいのかというのを考えるということは,とても大事なことだと思うのですが,どうしてそれがいけないのかが分からないです。そういうことを踏まえることは,その少年が,これから先,社会できちんと生きていくため,再犯をしないために大切なことだと思います。そこでしっかりやっていただきたいです。   そして,2週間から4週間,拘束してはいけないのではないかと言われますが,場合によっては,やはり必要だと思います。少年というのは,うそもつきます。それにごまかしたりもしますし,いろいろな複雑なこともあるので,やはり期間が掛かる相手もいると思うのです。だから,2週間から4週間が決して長いものではないと思います。その先,何十年もある将来のためだと思うからです。   今回いろいろ考えられているのですが,私はいつも思います。とても丁寧に,若年の人たちのことを考えておられるなと思うのです。だから,それが決してプライバシーを侵害するとか,加害少年が悪くなったらいいと思って考えていることではなくて,犯罪を起こした若年者のために何が大事で何が必要なのかと思って考えていることなので,それほど悪いことなのかなと,いつも思ってしまいます。   だから,調査にしても必要だし,収容,長く拘束するということも必要であればしてほしいと思いました。 ○佐伯部会長 ほかに御意見はございますでしょうか。もしありましたら,前に戻っていただいても結構ですので,次に,「三 処分」について,意見交換を行います。   「三」のいずれの点からでも結構ですので,御意見がある方から,挙手の上,どの点かを明示していただき,御発言をお願いいたします。 ○川出委員 私からは,「4 保護観察処分」の「(四) 遵守事項に違反した場合の施設収容処分」につきまして,改めて意見を申し上げたいと思います。   前回と前々回,遵守事項違反があったときに施設収容を行う制度を設けるとした場合の基本的な仕組みとして,本日再配布していただいた参考資料に記載されていますように,①遵守事項違反があったときに,審判で保護観察処分を施設収容処分に変更する仕組みと,②当初の審判において保護観察に付すとともに,遵守事項違反があったときは施設に収容し得ることを内容とする処分をする仕組みがあり得るということを申し上げました。   このうち,①の仕組みにおいては,当初の審判では,保護観察に付することができるか,そして,その必要があるかということのみを判断し,その後,遵守事項違反があった際の審判において,行為責任として施設収容が許容されるか,そして,その必要があるかということを判断することになります。   これに対して,②の仕組みでは,当初の審判において,犯罪事実を認定した上で,行為責任として,遵守事項違反があったときに施設収容を行うことが許容されるかどうかということが判断され,その後,遵守事項違反が現実にあったときに,家庭裁判所が審判を行い,収容するか否かを決定するということになります。その際の審判において審理の対象となるのは,遵守事項違反の有無と,施設収容の必要性であり,この段階では,行為責任に関して審理する必要はないことになります。   それぞれの仕組みにおける審理内容を比較しますと,①の仕組みにおいては,当初の審判の段階では,行為責任として施設収容が許容されるかという観点からの犯罪事実の認定はなされていませんので,遵守事項違反があったときに行われる審判で,犯罪事実の認定からやり直すに等しい審理をする必要が生じ得ます。①の仕組みには,これ以外にも,対象者の地位が不安定になるといった問題もあり,これらの点を考えますと,私自身は②の仕組みの方が合理的であるように思います。   そこで,次に,仮に②の仕組みをとることとした場合を念頭に,その場合の収容期間をどのように定めるのかという問題について,検討課題を述べたいと思います。   前回申し上げましたように,②の仕組みをとる場合にも,遵守事項違反があった場合の施設収容を,それ自体によって対象者の問題性を解消する機能を果たすものと位置付ける考え方と,そうではなく,保護観察の継続が一時困難となった者を施設に収容し,問題に応じた処遇を集中的に行うことによって,効果的に保護観察を継続し得る状態に至らせる機能を果たすものと位置付ける考え方があり得ます。   このうち,後者の考え方による場合には,そのために必要と考えられる特定の収容期間をあらかじめ法定しておくという制度も考えられるかと思います。こういった制度にした場合には,当初の審判では,遵守事項違反があった場合に,法定された期間の施設収容がなされ得るということを裁判所が言い渡すことになります。   これに対して,施設収容の期間に幅を設けるとした場合には,家庭裁判所が,法定された上限期間の範囲内で,行為責任として許容され,かつ必要な施設収容期間を個別に判断する仕組みとすることが考えられますが,その場合には,収容期間について,どの段階でどのような判断を行う制度とするかということを更に考える必要があります。   具体的に申し上げますと,一つの方法は,当初の審判で収容期間を決定しておき,遵守事項違反があったときの審判においては,専ら,施設収容する必要性があるかどうかのみを判断するというものです。   ただ,こういった制度に対しては,行為責任として許容される期間というのは,犯罪事実の認定を行う当初の審判において判断することが合理的であると考えられる一方で,社会内処遇に戻すための処遇をするのに必要な収容期間については,遵守事項違反があった後の審判であれば,そのときの対象者の状況を踏まえて判断することができるため,そちらで決定する方が適当であるという考え方もあろうかと思います。そのように考えますと,当初の審判においては,家庭裁判所は行為責任の観点から許容される収容期間の上限のみを定め,遵守事項違反があった後の審判において,その範囲内で収容期間を定めるという制度が妥当であるということになります。   遵守事項違反があったときの施設収容につきましては,こういった点も含めて,引き続き議論することが必要であると思います。 ○太田委員 今,川出委員がお話をされた施設収容期間,特に遵守事項違反があったときの不良措置としての施設収容の期間の定め方について,意見を述べさせていただきたいと思います。お配りさせていただいた配布資料の図に沿って,幾つかパターンがあるように思いましたので,これに沿って,お話をさせていただきたいと思います。   基本的な制度の在り方としては,組合せが二つありまして,一つは,今の川出委員の方からもありましたように,施設収容期間の上限というものを個別に定める場合と定めない場合の二つのバリエーション,若しくは法定だけしておくという場合も含めれば,三つあるのかもしれませんけれども,この制度の軸と,それから,もう一つの組合せの軸としましては,不良措置をとる場合に,その段階で家庭裁判所が施設収容を決定するようにした場合に,施設収容期間をその段階で設定するのかしないのかという,この二つの軸の組合せによって,私が考えますと六つ,本当に細かく分ければもっとあると思いますけれども,基本的には六つのバリエーションができるように思いました。   その組合せごとに見ていくと,まず「第1案」として考えられますのは,1ページ目の図1のものですけれども,保護観察の期間だけは,例えば1年なら1年と法定しておいて,不良措置としての施設収容の上限は特に法定もしない,また個別にも設定しないで,保護観察の期間の範囲内においてのみ,施設収容を可能とする方法であろうかと思います。   家庭裁判所は当初,遵守事項違反の場合には,保護観察の期間の限度内で施設収容があることを併せて決定しておいて,これは川出委員の仕組みですと,②の方になろうかと思いますけれども,不良措置をとるときには,家庭裁判所は施設収容とすることだけを決定するということになります。この場合には,施設収容中も,保護観察の進行は停止しないで,進行していくとしておく必要があろうかと思います。   この方法ですと,施設を出た後に,また遵守事項違反があって,社会内での自立更生が難しいという場合には,再度の施設収容も,この保護観察の期間内ならば認められるということになろうかと思います。   この方法は,施設内での本人の状況に応じて施設収容期間を調整できるという点では,最も優れており,個別予防に重点を置いた制度ということになりますし,施設収容後の保護観察中に不良措置をとることができなくなるという事態も生じません。しかし,その反面,施設内での本人の状況が改善されない場合に,長い施設収容が行われる可能性があるという問題があろうかと思います。   施設収容の期間は,法定しないとはいいましたけれども,結局,保護観察の期間と同じ1年を施設収容の上限としているとも言えるかと思います。したがって,余りにも施設収容の期間が長くなると,本来新たな処分は社会内での処分のみだとすることとの整合性もとれなくなる可能性もあります。しかし,もし原処分として,施設収容処分があってしかるべきだと考える立場からすれば,そうした長い施設収容も,本人の状況によってはあり得るのだということを認めやすいということはあるのかもしれません。   今度は図2ですけれども,これは,「第2案」と呼ばせていただきますけれども,「第1案」のように,施設収容は保護観察期間の範囲内で行うとしておいて,不良措置をとるときに,今度は施設収容の期間を,具体的に家庭裁判所が決定するという方法が考えられます。この方法でも,保護観察が続いていながら,不良措置をとることができないという事態は生じません。   加えて,遵守事項違反の内容とか動機,本人の状況を勘案しながら,施設収容の期間を決定できるという利点がありますし,上限がないとすると,行為責任をどう評価するかという問題はあるかもしれませんけれども,「第1案」と同じように,施設収容が長くなる可能性はありますし,実際,不良措置をとる場合に,果たして家庭裁判所が,どれぐらい施設収容が必要かということを合理的に判断できるだろうかという疑問もなくはありません。結局,やっていくうちに,定型的な期間設定になってしまうという可能性もあります。   後から申し上げますように,行為責任で上限を決めておいて,その中で必要な期間を決めるのだという考え方もあろうかと思いますけれども,その場合には,この後も述べさせていただくような問題があろうかと思います。   そこで,もう一つの図,「第2案」のバリエーションとして,保護観察の期間の範囲内で施設収容ができるとはしておいて,実際に家庭裁判所が施設収容をとると,不良措置として施設収容をとると決定した場合に,1回の施設収容の期間を,例えば2月と法定しておくといいますか,固定していくという方法もあろうかと思います。   いずれにしましても,家庭裁判所が決めた期間や法定された収容期間より早い時点で,本人の状況が改善されれば,もちろんその段階で仮退所とするということができるようにはしておく必要があろうかと思います。   次,2ページ目の「第3案」です。図3になりますけれども,これは,保護観察を最初言い渡しておくわけでありますけれども,法律で保護観察より短い施設の上限というものを法定しておく,例えば6か月なら6か月と法定しておいて,その範囲内で施設収容を行うというものであります。不良措置をとるときに,施設収容の期間は設定しないで,施設収容の上限の範囲内で処遇を行って,施設収容の必要がなくなれば,退所させて保護観察に戻すということになります。   再度の施設収容も,施設収容の法定期間の範囲内ならば認められるということになります。図3には二度目の不良措置が書いてありますけれども,この6か月の範囲内ならばできるということになります。   この6か月という施設収容期間の上限の意味でありますけれども,不良環境からの遮断とか本人の生活の安定などの理由から,施設収容する場合でも,社会内処遇が基本であるという処分の趣旨を損なわないために,政策的に決定したということになろうかと思います。   この方法によれば,保護観察期間に占める施設収容の期間を抑えることができますけれども,早い段階で法定の上限の施設収容を行ってしまった場合には,その後の保護観察において,不良措置はとり得なくなるという問題はあります。これは,施設収容の期間に保護観察より短い施設収容の期間の上限を設けるという場合に,全てに共通した問題であります。   「第4案」は「第3案」のように,保護観察期間より短い施設収容期間の上限を設けておいて,その範囲内で,今度は施設収容決定の際に,また個別に家庭裁判所が決定するというものであります。この場合にも,やはり施設収容の上限を使い切ってしまうと,不良措置が使えなくなるということと,不良措置の際に,個別に不良措置の期間決定に多少難があるということになろうかと思います。   次の3ページの「第5案」と「第6案」でありますけれども,これは,当初の家庭裁判所の決定で施設収容の総枠を決めるもので,先ほど川出委員から話がありました,最初に総枠を決めてしまっておくという方法でありますが,「第5案」と「第6案」の違いは,「第5案」の方は,不良措置の際には収容期間は設けない,この総枠の中で処遇をするという方法でありますし,「第6案」は,総枠の中で,しかも不良措置の度に,家庭裁判所が収容期間を決定するという方法であります。   不良措置の際に期間を決めるかどうかの違いはありますけれども,当初の家庭裁判所の決定の際に,施設収容期間の上限を対象者ごとに個別に定めるという点は共通でありまして,この場合には,次の図8に書いてありますように,施設収容の上限を使い切ってしまいますと,もはや不良措置がとれなくなるという問題があろうかと思いますけれども,最大の問題は,当初の施設収容の上限をどのような基準で決めておくのかということだろうと思います。   社会内での更生を期待して保護観察処分とするのに,不良措置としての施設収容に必要な処遇の期間をあらかじめ想定して,上限を設定するということはできないと思いますので,考えられることは,やはり被疑事実についての行為責任の程度であろうと思います。   これまでの部会等におきましても,新たな処分というのは,行為責任を上限とした中で処分を決するということで議論が進んできました。こうした考え方というのは,従来の刑事政策で言われてきましたような,刑罰と処分に分けた場合の処分という制度の考え方とは異なるものではありますけれども,行為責任を上限とする行為責任の重さと処遇の必要性に応じて処遇の内容,期間を決めるという制度も,第3の制裁の在り方として考えられなくもないと考えて,私も議論に参加してまいりました。   ただ,このように個別,施設収容期間の上限を設ける際に,刑罰の概念である行為責任を持ち出して,それによって,具体的な上限の期間が一義的に決まるかのような前提で制度設計をするということについては,やや問題があるように思われて,もう少し検討した方がいいのではないかと思います。   といいますのは,刑罰の場合には,言うまでもありませんけれども,法定刑を基に加重とか減軽とかして処断刑を作って,犯情とか一般情状も考慮して宣告刑を定めるというように量定していくわけでありますけれども,以前の第2分科会の方で,最高裁判所から説明がありましたように,刑罰においてでさえ,行為責任に基づく刑の量定が,具体的にどういう期間のことを意味しているのか,説明は容易ではないというような話があったかと思います。そうした行為責任が,「若年者に対する新たな処分」における不良措置としての施設収容期間の上限を決める際にどのように妥当するのかというイメージがはっきりしないものです。それで,意見を申し上げたいと思いました。   もちろん新たな処分は,起訴猶予となるような事案ですから,刑罰が科されないような軽微な事案が中心でありますし,一般論として,施設収容が課されるとしても,相当短いものでなければいけないということは分かっても,具体的に家庭裁判所が不良措置としての施設収容期間を決める際の基準となると,そこでいう行為責任とは何であるのか,刑罰と同じような概念なのか,それとも違うものなのか,この部会においては,必ずしも明らかにされていないように思います。   また,仮に保護観察期間が1年だとすると,不良措置の施設収容の上限を設けるとしても,例えば3月とか6月でしょうから,そうした極めて限られた範囲内で定めざるを得ないような,しかも漠然とした量定になってしまうおそれがあるように思います。   例えば,若年者がスーパーで初めて2,000円程度の万引きをしたけれども,本人の態度が非常に悪いとして検察官に送致されて,でも起訴猶予になったということで,こういう場合の不良措置の施設収容の上限は何月ということになるのでしょうか。   また反対に,この間からも議論が出ておりますように,性犯罪でも,被害者が裁判を望まないため,若しくは協力を期待できないために起訴猶予となったという場合には,行為責任でもかなり重いという部類に入りますけれども,この場合の不良措置とする施設収容期間は何月にするということでしょうか。   法定されている施設収容期間が1月以上6月以下ということであれば,前者の万引きの場合は1月と,後者の性犯罪は6月ということになるのかもしれませんけれども,これが行為責任に基づいて定められたと,決めたということを意味するということなのでしょうかというのが私の疑問でありまして,余り細かい3月10日といった,細かいことを設定することは想定されていないために,行為責任を基準とすることについても,かなり限界があるように思われます。   私としても,新たな処分の対象者に対して,必要性の観点において,無制限に施設収容できるというようなことを申し上げるつもりは全くありませんし,政策判断,価値判断として,新たな処分の施設収容の期間の在り方として,行為責任を上限として考慮するという枠組みは考えられると思います。   例えば,新たな処分で想定されている対象者との関係で,起訴されていたら刑罰として科される可能性のあった程度の度合いを大きく超えるような処分はおかしいのではないかという価値判断はあるでしょうし,行った行為の重さから見て,逆転現象が起きるようなことがないような量定を心がけるべきだという程度の政策判断は考えられると思いますので,この被疑事実の大小を収容期間に反映させていく仕組みということは,あり得ると思います。   ただ,パターナリスティックな制約とされる新たな処分において,刑罰の概念である行為責任について,絶対的な基準であるかのように,処遇の必要性を後回しにして,収容期間の上限を厳格に画してしまうという仕組みについて,そもそもこの制度を設ける趣旨に沿うのかという問題もないわけではありませんし,そういった仕組みでの上限設定を可能とするような仕組み作りが本当にできるのかという問題もあるのではないかと思います。   この辺りは,余り正面から議論されてきていなかったように思いますので,今後裁判所の御意見もお伺いしながら,考えていく必要があろうかと思います。   また,本人の処遇の必要性が高いが,行為責任はものすごく軽いという場合には,1月とか2月といった施設収容の上限を決めてしまうことになろうかと思います。そうすると,早い段階で不良措置をとって,この期間の施設収容がなされてしまった後,残りの例えば10か月,11か月の間では,何があっても不良措置はとり得ないということになってしまうかと思います。   これは,先ほどの「第3案」とか「第4案」のような,保護観察期間よりも短い施設収容の上限を設定して法定しておく場合も起こり得る問題ですし,個別に設定する場合も起こる問題であります。ただ法定する場合,6か月ぐらいにしておけば,それを最初から全部使い切ってしまうということは余りないように思いますけれども,行為責任から上限を決める場合には,1月とか2月とかという非常に短い施設収容の期間を設定する場合もあるでしょうから,その場合には,不良措置がとれなくなるという問題は起きるかと思います。   実際に,これを施行された場合に,保護観察官や保護司の言うことを何も聞かなくても何もできないというような,非常に実施しづらい,困難が予想されるような制度というのは,結局処遇の効果も上がらずに,制度の意義も否定されかねないために,実務に携わる者が実施しやすいかどうかという観点からも,制度の在り方を検討していく必要があるように思います。こうした点も含めて,新たな処分の制度を検討していただければと思います。 ○池田幹事 ただいまの御指摘の中で,遵守事項違反があった場合の施設収容について,収容期間の上限を行為責任によって画することには,なかなか定まり難いといいますか,疑問があるという御指摘があったところですが,この点については,第2分科会で議論しておりまして,新たな処分は,その正当化根拠からして,いわゆる行為責任の範囲内で許容されるという前提の下で検討され,さらに,その点については異論がなかったと認識しておりまして,改めてですけれども,第2分科会における議論を御紹介させていただきたいと思います。   今日申し上げたことの繰り返しになるのですけれども,新たな処分は,少年法の「少年」の上限年齢が引き下げられて,18歳及び19歳の者が保護処分の対象から外れることとなった場合に設ける制度で,いわゆる保護原理によって正当化されるものではなく,その正当化根拠は,罪を犯し,法益を侵害した者に対して,法益を侵害したことを非難できる限度で国家の介入が正当化されるという,いわゆる侵害原理に求められると議論されてきました。   そして,刑罰についての通説とされている相対的応報刑論によれば,刑罰は法益を侵害したことに対する非難を前提にして,法益を侵害したことを非難できる限度で科すことができるものとされていて,侵害原理をその正当化根拠とするものと考えられます。また,実務上は,その限度は行為責任によって画されるというのが,これまでの議論でも出てきたところです。   これと同様に,侵害原理を正当化根拠とする新たな処分においても,法益を侵害した者に,それに対する非難が可能な限度での介入が正当化され,その限度も刑罰と同様に,行為責任の範囲内で行われると整理されるものと承知しております。   そして,そのような理論的な整理を前提として,実務上の対応としても,行為責任の観点から施設収容の可否や,その期間を判断することが可能かという点については,行為責任の観点から収容処分の当否を判断する制度が設けられた場合に,裁判所としては必要な判断をしていくことになるのではないかという御意見があったところです。   部会におきましては,新たな処分として施設収容処分を設けるかどうかといったことや,あるいは遵守事項違反があった場合に施設収容を設けるか否かについて,様々な御意見があるところですけれども,いずれについても,正当化根拠をいわゆる侵害原理に求めるほかないとすると,法益を侵害したことを非難できる限度でのみ介入が正当化される。つまり,行為責任によって処分の上限を画されるという考え方が維持されなければならないように思います。   仮に,そうでないという趣旨の御指摘だったとすると,これまでとは根本から異なった検討が必要になってしまうように思われます。 ○太田委員 今の点ですけれども,行為責任に基づいて,施設収容期間の上限を画するべきでないと言っているわけでは全くなくて,そういう行為責任の範囲内で処遇を考えるという,そういう第3の制度もあるというのは,先ほど申し上げたとおりであります。   ですから,原理論とか,そういう大上段の議論をしているわけではなくて,不良措置としての施設収容の期間を個別に設定するときに,これは,原処分として収容処分というのを設ける場合も同じような問題があるかと思いますけれども,行為責任の大小に応じて逆転現象が起きない程度に収容期間の大小を決めることぐらいはできるように思うのですけれども,何か個々の犯罪行為の行為責任に基づいて,一義的に特定の期間が決まるような量定ができるかのような議論であるように聞こえましたので,その辺り,きちんと確認した方が良いと思ったまでであります。   しかも,不良措置として施設収容というものを設ける場合に,期間はかなり限られた範囲になるわけでありまして,また,そうでなければならないと思います。私など,3月ぐらいが上限かなと思っていたのですけれども,そうなりますと,施設収容の,不良措置としての施設収容は1月から3月まで,ですから,中途半端な期間設定はできませんので,1月か2月か3月というこの3パターンしかないことになりますし,6月を上限とした場合でも,1月から6月までの6パターンしかないわけであります。   これを犯した罪の大小に従って,ある程度の差が出る,どれかに決めますということが,行為責任の大小に応じた期間設定ということになるのであるならば,そういう制度もあるのかなとは思います。ただその場合でも,刑罰による行為責任と考える,要するに刑の量定のときに行われるような行為責任とは違う概念で捉えることになるのではないかなと思っております。   それから,もう一つ,先ほど言わなかったことでありますけれども,施設収容の総枠なり,個々の不良措置の際に期間なりを決めてしまう場合に,仮にその期間が経過するまで,本人の施設の行状が非常によくない場合でも,そこから保護観察に戻さなければならないということになりますけれども,こういう制度は,矯正とか保護の方から見てどうなのかという点からも検討していく必要があると思います。施設収容から悪いままの状態で出して,保護観察に持って行くという制度は,これまでなかったわけでありまして,あるとすれば,今度できました一部執行猶予の実刑終了後に保護観察をやるという場合でしょうが,このように施設収容の上限を画しておくと,上限一杯の後社会に出す段階で,保護観察に持って行くということに対して,どう考えるかということも考えておく必要があると思いました。 ○廣瀬委員 川出委員からは理論的な枠組みについて,太田委員からは実際の運用も想定した精緻が御意見があり,大変有益だと思います。御意見について正確に理解できていない点もあるかと思いますが,感じたことを述べさせていただきます。   まず,太田委員が御発言の最後で述べられていた,処遇が不十分なまま退所させることになってしまうというのではないかという御指摘についてです。この点は,現行の刑罰や保護処分でも同じことが生じ得るわけです。刑務所であれば,もう少し処遇したいけれども刑期が満了してしまうということが生じます。少年院であっても,基準どおりに処遇していって特別な反則等がなければ,ある時点で仮退院となるわけです。このように,現行でも制度の枠組みとしての限界はあるわけですからその前提で考えていかざるを得ないと思います。   次に,新たな処分の制度設計の総論として,成人になったということで全く放任するのがいいのか,それとも100点ではないかもしれないけれども有効だと思われる働き掛けをやれる限度でやっていこうということを考えるのかについて,後者で考えるべきであることがこの部会において既に共有されていると思います。。つまり,「100点の処遇ができない,いろいろ問題点がある」という御指摘は分かるのですが,やれる限度の中でできるだけ処遇の点数が上がるように努力していくべきだという話であって,一定の点数以下の処遇しかできないから駄目なのだという話ではないのだと思います。   次に,川出委員の御説明について感じたことを申し上げますと,制度の分析や理論的検討としては優れたもので,大きな異論はありません。ただ,実際に私も少年審判を十数年やってきた経験に照らして申し上げさせていただくと,やはり,理論的分析として2つの仕組みについて御説明いただきましたが,実際の処分が決定される場面を考えたときに,それほど違いが出てくるのだろうかということは感じました。当初の審判において保護観察処分を判断する際にも,「処分」をするわけですから,当然,裁判所としては,事実認定はきちんとした上で,どのぐらいの行為責任の重さがある事案であるかも十分検討した上で処分を決定するわけです。   そうすると,先ほどの御説明で触れられていたような,①の仕組みについて,「遵守事項違反があった場合の施設収容を判断するときに,犯罪事実の認定から全部やり直しになる」というような受け止め方は,理論的にはあり得るかもしれませんが,実務の実際を考えると,②の仕組みと比べてそれほどの違いは生じないと思います。そういうこともあって,私は従前から申し上げてきたように,むしろ①の仕組み,つまり処分の事後的変更型の方がいいのではないかと考えています。   この点は,どちらも理論的には成り立ち得ると思うのです。また,太田委員がいろいろ御指摘された問題点も含め,理論的枠組みとして制度設計するといろいろなパターンができると思うのです。   その上で,できるだけ有効な制度を作ることを考えていくと,今の少年法のシステムが大枠だけを定めてうまく運営されているように,上限は行為責任,私は「罪刑均衡」といった方がいいのではないかと考えておりますが,そういった上限の枠内で処分を決定するとしても,その範囲内で有効な処遇を行っていける制度を作っていくことが可能なはずです。この点は,先ほど橋爪委員からも御指摘があったところです。   そうだとすると,制度としては大枠,重要なところだけを決めて,あとは現場の裁量・運用にできるだけ任せていくということにしていかないと,なかなかうまく機能しないのだろうと思います。   その意味では,理論的な検討やケース事例も含めた想定問答的な検討は有益なもので結構だと思いますが,それと同時に,やはり,制度を運用すると思われる家庭裁判所,保護観察所,矯正施設などといった,関係するそれぞれの現場の職員のノウハウ・意見・感覚を踏まえて,制度趣旨をいかして実効的に働くようなシステムにしていく,そういう観点からの検討をする必要があると思います。その上で,理論とのマッチングをどうするかということを詰めていくべきで,初めから理論上一番すっきりしたものを目指すと,制度の運用がなかなかうまくいかないということになりかねない気がするのです。   非常に精緻な議論をされた後で,ラフなことを申し上げて申し訳ないのですが,やはり,法制度の改革論ですから,私は実務の方が長いので,そういう観点は非常に大事なのではないかと思い,申し上げさせていただきました。 ○酒巻委員 先ほどの川出委員に整理していただいた案の実務,技術的運用可能性について,現在の家庭裁判所の実務を担当している方にお聞きしたいのですけれども,要するに,②の仕組みの中で,いろいろなやり方はあるけれども,最初にまず枠を判断していただいて,具体的に,大枠を判断していただいて,その上で,遵守事項違反があった場合には再度,その前提の資料に基づいて,今度は収容についての判断を家庭裁判所に決定でやってもらうと。   この仕掛け自体,私はこれが一番すっきりしていると思うのですけれども,こういう枠組みで,実際に家庭裁判所の裁判官が,第1段階,それから第2段階,具体的に判断ができるのかどうかという点だけ感触を聞きたいのですが,いかがでございますか。 ○澤村幹事 今やっている少年審判と,枠組みがかなり異なってきますので,直ちにできるかどうかということは,お答えが難しいところはありますが,今,川出委員から示されております二つ目の枠組みの中の第1段階として,行為責任の限度で,どの程度の期間かということの大枠を決めておき,その後で,収容に必要な期間をどの程度とするかを判断するということ自体は,不可能ではないと思います。   ただ,2段階目の方につきましては,今議論されている仕組みですと,社会内処遇につなげるために必要な処遇を行うものとしての期間ということになりますので,そこは処遇機関からの情報をかなり頂いた上での判断ということにはなると思いますので,その点は,最初の方の判断とは,大分内容が異なってくると思われます。 ○酒巻委員 2段階目は,それまでの経緯,処遇機関からの資料がいくということは,当然の前提だろうと思っていますけれども,ありがとうございました。 ○山下幹事 この処分の中の施設収容処分,それから遵守事項に違反した場合の施設収容処分についてですけれども,この間ずっと,施設収容処分という形で,その施設がどういう施設なのかということについて,具体的に余り言及されたことがないように思うのですけれども,刑事処分ではない,保護処分でもないという制度として考えられている新たな処分の中で行われる施設収容処分でいうところの施設とは何なのか。刑事施設ではないということでしょうし,少年院でもないということだと思うのですけれども,第3のそういう施設とは,何を想定されているのか。   また,施設収容処分というのは,これまでの議論の中でも,恐らくそれほど数が多くはないだろうというような話もあったところで,もちろん一部,重大なものも含むとしても,基本的には,検察官が公訴を提起しなかった比較的軽微な事案が多いわけですから,施設収容処分というのは,行為責任で上限を画することからすると,少ないことも予想されるわけで,そういう場合,施設というのはどの施設に収容するのか。そういうことについて,施設収容処分をやるべきだと言っている方々は,是非とも具体的な施設のイメージを是非主張していただきたいと思うのです。   それがないと,何か非常に,漠然と抽象的に,施設収容処分とずっと言っていますけれども,それを議論しないで,果たしてそれが,現実的にそれが可能なのかとか,そういうことも含めて,やはり制度を議論する上においては,そこが重要だと思いますので,施設収容処分が必要であるという主張をされている方におかれましては,是非とも具体的な施設のイメージを語っていただきたい。その上で,これについて意見を述べたいと思います。   基本的に,私は,施設収容処分はすべきではないと考えておりますけれども,具体的な提案なくして議論ができないように思いますので,その点を是非お願いしたいと思います。 ○佐伯部会長 もちろん,これから議論していくべき問題かと思いますけれども,今の時点で,何か具体的なイメージがおありでしたらお願いします。 ○太田委員 イメージといいますか,幾つか選択肢があるとは思っております。ただ,新たに施設を作るというような提言というのは,現実的ではないだろうと思います。例えば,一つの選択肢としては,矯正施設,例えば少年院に近いところに設けるというのが一つはあるでしょうし,もう一つは,少年鑑別所であろうかと思います。少年院の場合,数が少ないので,家庭裁判所ごとに処分が決まってくるとすれば,少年院のような遠いところに行ってしまうというのは,社会内処遇との連携がうまくできないとすると,全国にある少年鑑別所に,新たな別の建物を作るというようなイメージで,私は考えております。 ○山﨑委員 今,太田委員からあった,まず収容場所の関係についていいますと,少年鑑別所は確かに,比較的町中にあるという点では,社会内処遇につなげやすいという趣旨であろうかと思うのですけれども,そうした場合に,今少年鑑別所で行っている鑑別の業務と今回考えられている処遇というものが,どこまで同じものであるのか。そういった処遇まで扱うことが,果たして,実際に可能であるのか,他の鑑別業務に影響を及ぼさないのかといったところは,慎重に考えられなければいけないのではないかと感じました。   また,この遵守事項違反の場合の施設収容を認める保護観察については,意見の要旨をまとめていただいている資料ですと,26ページからになるのですが,処分を設ける必要性に関しては,必要であるという方向の意見しか挙げられていないのですけれども,私としては必要性自体に疑問を感じております。   繰り返し申し上げていますけれども,今回の新たな処分の対象は,基本的にはかなり軽微な事案になると考えられますので,そういった事件を起こした対象者の要保護性というのも,相対的には一般的に低いであろうということを踏まえるべきですし,また,私がこれまで実務で担当し,保護観察を受けた少年たちは,18歳,19歳の者でも,良好解除を目指して頑張って保護観察を終了しているのがほとんどですので,そういったことからすると,制度全体として,施設収容を不良措置とする保護観察処分を設けるほどの必要性については疑問を持っている,という点は指摘しておきたいと思います。   さらに,その許容性といいますか,相当性に関してですけれども,先ほどから議論がありましたとおり,この処分を侵害原理から見るのか,太田委員の御発言の中には,パターナリスティックな制約というお言葉があったように,保護原理的なものも含めて考えるのかということによっても変わってくるのかもしれないのですが,基本的には行為責任の下でという説明がされておりますので,単なる保護観察,不良措置のない保護観察にしか付し得ない行為責任に相当する犯罪を行った者について,不良措置として施設収容のある保護観察処分の対象とすることはできないと思います。   遵守事項違反があったときという条件付きとはいえ,施設に収容できるだけの行為責任が必要であると。これは前々回,川出委員が整理されたとおりだと思うのです。そう考えますと,18歳,19歳で起訴猶予が相当とされるような軽微な事案について,遵守事項違反の場合に施設収容を認めるという保護観察処分を新たに設けるとなりますと,これは現行の少年法上の1号保護観察よりも重い保護観察処分ということになると考えられますので,そうなるとやはり,行為責任の範囲を超えるものではないかという疑問があります。   この点に関して,従来から,起訴猶予相当とされる事案には,それなりの行為責任のものが含まれるという御意見もありますけれども,そういったことがあるのかどうか。あるとしても極めて例外的な場合ではないかと私は考えておりますので,そのような事案を想定して新たな制度の処分を考えるというのは,行き過ぎではないかと感じています。   特に,前回質問させていただいたのですが,新たな処分において,不良措置としての施設収容を含む保護観察一本で考えるのか,あるいは,不良措置のない保護観察も選択肢として設けるのかという問題もあるように思います。   仮にこれを,遵守事項違反の場合に収容を認める保護観察一本だけにするとなりますと,現行の1号保護観察よりも重い保護観察処分を新たに作ることになりますので,繰り返しになりますが,基本的には現行では不処分ですとか審判不開始となっているような軽微な事案が対象とされる制度の処分としては,やはり行為責任の観点から問題を生じるのではないかと考えます。行為責任の観点で考えた場合,そういった重い保護観察を付すのが相当でないとなれば,不処分という選択肢しかなくなってしまいますので,そうなると実務上,不処分が相当増えるということにもなりかねないという問題もあるように思います。   ですので,施設収容を不良措置として設ける保護観察処分が,果たして軽微な犯罪に対する処分として許容されるかという点は,やはり慎重に議論する必要があると考えています。 ○青木委員 施設収容について,遵守事項違反の場合も,そもそもの処分の場合も,今言われたように,新たな処分で設けるということ自体については,非常に疑問があるのですが,それはさておき,施設収容の施設,どういう施設かというのは,どこの場所にどう設けるかということ以上に,その施設の中で何をやる施設と想定するのかというのが重要だと思います。   今の,刑事施設でないことは明らかなわけですし,少年院でもないことは明らかなわけですから,新たな施設法といいますか,処遇法といいますか,そういうものが恐らく必要になるんだろうと思うのですね。   そのときに,少年院に近いような枠組みでやるようなものなのか,あるいは少年鑑別所に近いような枠組みでやるようなものなのか,あるいは,刑罰ではないけれども,成人の制度だからということで,刑事施設に近いようなものになるのかとか,それによっても考えられる制度の中身というのは,かなり変わってくるのではないかと思います。   例えば,施設に収容するといっても,例えば外出する機会だとか,それがどの程度どうなるのかということによっても,恐らく違ってくるのでしょうし,だから施設収容がいいというつもりはないのですけれども,そういう施設の場所とか,そういうことではなくて,その施設で何をやるのかと,どういうことをやる施設として想定するのかということも前提に置いて議論しないといけないのではないかと思います。   その場合に,処分としての施設収容で何を行うかということと,遵守事項違反があった場合の施設収容で何を行うかというのも,必ずしもイコールではないと思いますので,その辺りも区別して,きちんと議論する必要があるだろうと思います。 ○廣瀬委員 ただいま,「新たな処分における保護観察が現行の1号観察より重い処分になる」という御指摘がありました。しかし,現行の1号観察は,警告を経るというプロセスや再度の遵守事項違反があってその情状が重いという限定は付いていますけれども,長期間の処遇も含めて,通常の少年院送致ができるわけです。そうすると,新たな処分における保護観察は,実質的な制約の重さという意味では,1号観察より軽い処分となるのではないかと思います。   ですから,「1号観察より重い処分になる」という御指摘は,少なくとも処分の実質を考えた場合には,適当な指摘とは言えないのではないかと思います。 ○山﨑委員 現行の少年法上の保護観察は,御承知のとおり,遵守事項違反があった場合には,施設収容処分申請という新たな別事件として施設収容が判断されるという作りになっていますので,元々の保護観察処分の不良措置として,無制限の期間の少年院送致まで含むというものではありませんので,その点で,明らかに私は異なると思いますし,実際に施設収容申請がされている件は毎年極めて少ないわけです。それまでの保護観察における保護司さん,保護観察官の指導によって改善されたり,警告のレベルで終わるというケースもあり得ます。そういったことを考えたときには,やはり今回の,言わば執行猶予付きのような,施設収容が不良措置として常に含まれている保護観察というのは,今の1号観察よりは重い処分であろうという認識でおります。 ○佐伯部会長 「三 処分」については,この程度でよろしいでしょうか。   それでは,最後に「四 犯罪被害者等の権利利益の保護のための制度」及び「五 家庭裁判所への移送」について,意見交換を行いたいと思います。   いずれの点からでも結構ですので,御意見がある方は,挙手の上,どの点かを明示していただき,御発言をお願いします。   「四」及び「五」の点については,今の段階では御意見はないということでよろしいでしょうか。   それでは,「若年者に対する新たな処分」についての本日の意見交換はこの程度といたします。   次に,その他の制度・施策について,意見交換を行いたいと思います。   前回と同様,「若年者に対する新たな処分」以外の制度・施策のうち,これまでの議論を踏まえ,まだ検討課題が残されている事項や,検討に時間を要すると考えられる事項について,新たな御意見,あるいは,これまでの御意見を敷えんした御意見等を中心に,御発言いただきたいと思います。   最初に,前回の部会について,更生保護施設での少年の受入れ状況について御質問がありましたので,事務当局から御説明をお願いいたします。 ○古田幹事 前回の御質問といたしましては,少年を受け入れている更生保護施設の数,このうち少年のみを受け入れている施設の数,それから,更生保護施設における少年の受入れ実績の3点であったと承知しております。順に御説明させていただきます。   なお,少年の保護観察対象者の種別としては,主に保護観察処分少年及び少年院仮退院者がございますが,以下の説明においては,これらをまとめて,「少年」と略して申し上げさせていただきます。   まず,更生保護施設は,全国に103施設ございますが,このうち,定員に少年が含まれており,少年を受け入れることが可能な施設の数は,84施設です。この84施設のうち,定員の半数以上を少年向けとしている施設の数は7施設です。さらに,この7施設のうち,定員の全てを少年向けとしている施設の数は2施設です。   最後に,受入れ実績ですが,平成29年に更生保護施設に新規委託した少年の保護観察対象者数は,合計で230人です。   内訳は,保護観察処分少年が52人,少年院仮退院者が178人です。 ○佐伯部会長 それでは,ただいま御説明があった点についての御質問や御意見でも結構ですし,その他の点についてでも結構ですので,「若年者に対する新たな処分」以外の制度・施策について御意見がある方から,挙手の上,どの点かを明示していただき,御発言をお願いいたします。 ○山﨑委員 今の御説明をありがとうございました。   その点とは別なのですが,犯罪者処遇施策の検討全般に関わる点について意見を述べます。   前回の会議において,従前配布されていた資料の内容を更新するという部分以外に,新たに追加した資料として,資料番号4-11が提出されました。そこでは,出所受刑者の刑事施設への2年以内の再入率について,年齢層別に明らかにされており,事務当局からは,平成28年に出所した受刑者で,出所時の年齢が29歳以下であった者のうち,2年以内に再び刑事施設に入所した者の割合は10.7%であったことが分かります,という御説明がありました。あわせて,資料番号4-12に基づいて,これも事務当局から,同じ平成28年に少年院を出院した者のうち,2年以内に少年院に再入院し,又は刑事施設に入所した再入者の割合も10.7%であったことが分かります,という御説明がありました。   この点に関して,第11回会議においては,今井委員からも,「若年者の刑事法制の在り方に関する勉強会取りまとめ報告書」の資料6で示された再犯の状況及び平成29年度の犯罪白書で示された再入率の数値を挙げられた上で,少年院を出た者と刑事施設出所者の数値には大きな差はなく,むしろ後者の再入率の方が若干低いとされ,現在においても,刑事施設における処遇も再犯防止に相応の効果を上げているということを議論のスタートに置くべきである,という御指摘があったところです。   しかし,私は,これらの統計数値から,少年院を出た者と刑事施設出所者の数値には大きな差はないと評価することには疑問があります。   まず,そもそも10代の後半以降の者は,年齢を重ねるごとに犯罪に及ぶ者が少なくなる,という点が考慮されなければならないと思います。この点,犯罪白書や警察庁が毎年公表している犯罪情勢に関する統計資料を見ますと,各年齢の者,10万人当たりの刑法犯検挙人員は,15歳若しくは16歳をピークとして,それ以降は減少していくことが明らかになっています。   よって,施設内処遇の効果という観点から再犯率・再入率を見るときには,元々20歳未満の者の方が20歳以上の者より犯罪に及ぶ割合が高い,逆に言えば,刑事施設に入っている20歳以上の者は,少年院にいる20歳未満の者よりも犯罪に及ぶ割合がそもそも低いということを考慮した上で,それぞれの施設を出た者の再犯率・再入率を比較し,評価する必要があると考えます。   次に,今井委員が挙げられた「若年者の刑事法制の在り方に関する勉強会取りまとめ報告書」の資料6についてですが,この資料で示された再犯状況の調査においては,対象者が犯した罪の種別,すなわち罪種が考慮されておりません。特に窃盗は再犯が多い罪種であるところ,この資料の対象者の特徴欄にもあるとおり,窃盗を犯した者が占める割合は,刑事施設出所者に比べ,少年院出院者の方が高く,このことによって,少年院出院者の再犯率も高く出てしまう傾向があります。   このような収容者の罪種構成を考慮してデータを補正すると,少年院出院者と刑事施設出所者の再犯率では,資料6で示された数値よりも大きな差が生じるという試算結果となります。   さらに,犯罪白書あるいは前回提出された資料番号4-12で示されている少年院出院者の再入率については,問題となっている18歳,19歳だけでなく,18歳未満の者も含む年齢層の出院者に関する数値であることに注意する必要があります。   例えば,法務総合研究所の研究部報告58「青少年の立ち直り(デシスタンス)に関する研究」によれば,平成25年に少年院を出院した者の4年内の再入率を見ますと,18歳以上の年長少年は12.0%であるのに対し,16歳,17歳の中間少年は26.2%,15歳以下の年少少年では34.7%となっており,年齢層が低いほど再入率が高いことが明らかにされており,18歳未満の者の再入率が少年院出院者全体の再入率を引き上げているということが分かります。   そして,この報告書で示された18歳以上の者に関する4年内再入率12.0%という数値は,矯正統計で示された同じ平成25年に刑事施設を出所したY指標の者,すなわち26歳未満の受刑者の4年内再入率が29.9%であることと比べれば,相当に大きな差があるといえ,これに,さきに述べたような対象者の罪種を考慮した補正を掛ければ,更にその差は大きくなると考えられます。   以上に述べたような点からすれば,今井委員が指摘された二つの統計数値,さらには,前回提出された資料番号4-11及び4-12に基づき,少年院出院者と刑事施設出所者の再犯・再入の数値に大きな差はないと評価することには疑問があります。さらに,その評価と両施設における処遇の効果とを結び付けることは,ミスリードにつながるのではないかと考えます。   今後,少年法の適用年齢の引下げの是非について,改めて議論されるわけですが,その際にも,少年院と刑事施設の処遇効果について,正確な比較が可能となる資料を不足なく提出していただいた上で,その評価についても十分議論を尽くすべきであると考える次第です。 ○今井委員 資料の見方については,いろいろあると思いますので,まず,山﨑委員におかれましては,例えば今,法務総合研究所の資料のお話がありましたけれども,18歳以上の者,それ未満の者,そういった人数の母数ですね,それが分かるデータをもう一度示していただけますと,データの読み方としては正確になろうかと思います。   その上で,20歳を超える者にしても,罪種,あるいは人数,年齢層を区切ることが合理的であるならば,そのような処理を施した上でデータを出されますと,今よりも分母が複数に分かれていって,統計の見方が正確になろうかと思います。しかし,法制度を作る際に統計資料のどの点に着目するかは,また別の問題であろうと思います。   今の場合のように,成人,成人でないという区切りがあるときに,それを踏まえてどのような制度を持って来るべきかは,御指摘のあった点を踏まえた上で,合理的にまず,何がなし得るか,現行法で何がなし得ており,現行制度とは異なる制度の中で,何がなし得るかを踏まえ,相対的に決まるものであろうと思います。そう考えますと,山﨑委員からの資料の御提供をお待ちいたしますが,第11回部会で申し上げたことが必ずしも不正確であったとは思えないというのが現在の感想でございます。   是非統計的な分析を御教示いただければと思っております。              (大沢委員 退室) ○吉田委員 私からは,「罰金の保護観察付き執行猶予の活用」について意見を述べさせていただきます。意見と言いましても,新しい内容を提案するというのではなく,前任の川原委員が述べた意見に補足して申し上げたいと思います。   第13回部会において,川原前委員は,部会資料として配布されている一般保護事件の終局人員に関する司法統計において,18歳,19歳の者の保護観察処分人員の数が最も多いのは窃盗罪,2番目に多いのが傷害罪,3番目に多いのが「特別法犯その他」ということを指摘しております。   この「特別法犯その他」というものの中に,具体的にどのような罪名が含まれているかについては,統計上は不明であったことから,川原前委員の検察官としての実務経験に基づくものとして,若年者に比較的多いと思われる犯罪を四つ挙げていました。   すなわち,一つ目が,痴漢や盗撮,客引きなどの,いわゆる迷惑防止条例違反,二つ目が,18歳未満の者とみだらな性行為をしたという青少年保護育成条例違反,三つ目が,ごみの不法投棄をしたという廃棄物の処理及び清掃に関する法律違反,四つ目が,児童ポルノの単純所持などの児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反の四つを挙げていました。   私自身の検察官としての実務経験に照らしても,これらの四つの特別法違反が若年者に比較的多い,司法統計の「特別法犯その他」の多くを占めている犯罪であるという点は,川原前委員の意見と同じです。   ただ,私や川原前委員の意見が一致したというだけでは心もとないものがありますので,前回配布された統計資料に基づいて補足したいと思います。   机の上のファイル②の第14回の配布資料としてつづられている「統計資料5」,通し番号としては資料23とされているものを御覧ください。   資料23の中に,「5-1」として,「罪名別 公判請求人員・略式命令請求人員等(処理時年齢20歳及び21歳)(H28)」,と書いてある表があると思います。この表は,20歳及び21歳を対象としていますけれども,若年者ということで,18歳及び19歳についても同様の傾向を示すものと考えられます。   この「5-1」の表の2枚目の下に,特別法の欄があると思います。この真ん中辺りに,児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律というものがあり,終局処分の総数が138人,うち略式命令請求,罰金になった者ですけれども83人,構成比は60.1%となっています。   次に,同じページの一番下に,廃棄物の処理及び清掃に関する法律というのがあり,終局処分の総数が163人,うち略式命令請求は89人で,構成比は54.6%となっています。   1枚めくっていただいて,下から3番目に,地方公共団体条例(青少年保護育成条例)というのがあり,この終局処分の総数が476人,うち略式命令請求は141人で,構成比は29.6%となっています。   最後に,その下に,地方公共団体条例(公安条例及び青少年保護条例以外の条例)というのがあり,実務上,この大半は迷惑防止条例違反であると思われます。この終局処分の総数が439人,うち略式命令請求は265人で,構成比は60.4%となっています。   川原前委員が第13回部会で説明した司法統計の罪名と,この統計資料5-1の罪名とを比較対照すれば,司法統計において,「特別法犯その他」としてまとめられている罪名の大部分が,ただいま見た四つの特別法違反によって占められていることが確認できると思います。   したがいまして,実務経験に基づいて,川原前委員が司法統計上,「特別法犯その他」を構成し得る犯罪として,四つの特別法違反を挙げていましたが,これは今見た「5-1」の統計資料とも整合するという関係になると思います。また,これら四つの特別法違反は,罰金となる比率が比較的高く,それなりに件数もあるということが,今,統計資料で確認できたと思います。   川原前委員は,これら四つの特別法違反において,罰金となる場合の罰金額は,経験上,20万円以上であることが通常と思われるという認識を示されましたが,私自身の経験からも,20万円以上になるものが多いと考えています。   したがいまして,「特別法犯その他」に分類される大部分の事案については,罰金額の点からしても,社会内処遇における心理的強制として,相応の効果があるということを期待してよいと思われます。 ○羽間委員 ただいまの御説明をお聞きしていて,2点気になったことがございましたので,質問させていただきたいと存じます。   1点目は,ただいまの御説明,それから川原前委員の御説明の中に,罪名として,道路交通法違反等の交通事犯についての御検討が含まれていなかったと思います。   御承知のとおり,現行の1号観察には,交通保護観察,それから交通短期保護観察といった交通事犯者に対する保護観察の類型が含まれているのですが,先ほど御紹介いただいた御検討の中で,交通事犯が抜けていることについて,何らかの理由,例えば,罰金の保護観察付き執行猶予は,明らかに交通事犯になじまないというような御事情があれば,教えていただきたいというのが第1点目でございます。 ○羽柴幹事 ただいま吉田委員から御紹介いただきました資料23の「統計資料5」につきましては,一定の罪名が含まれていない統計でございます。これは,何らかの意図があって交通関係を抜いたということではなく,元々交通関係が含まれていない資料から作成した統計でございまして,そのため,そのような統計になっているものでございます。 ○羽間委員 できましたら,交通事犯の統計もお出しいただけると議論の充実に資するかと思います。   もう一つ,ただいまの御発言を聞いていますと,吉田委員におかれましては,罰金の保護観察付き執行猶予について,処遇効果が認められる有用な制度とお考えであるということが分かりました。   前任の川原委員におかれましても,同様に,この制度が有用であるという趣旨の御発言をされていたところからすると,実務に長く携わってこられた検察官のお立場から見ると,この制度は有用と見えるのかなと理解を致しました。   他方で,実際の運用というところで見ますと,以前の事務当局の説明では,罰金の保護観察付き執行猶予は,全くといっていいほど活用されていないということでございました。   この制度は法改正が不要でございますので,すぐにでも活用ができると思うのですが,この部会等において有用性についての指摘がなされて以降も,実務において活発に活用されるようになったとは聞いておりません。この点について,もし間違いがあるようでしたら御指摘ください。もし活用されていないのだとすると,検察官のお立場から見て,罪名や想定される罰金額などといった,総論的な検討においては有用と思いながらも,実際の実務の場面においては,「使いづらい」と感じる何らかの問題があるのではないかとも考えられます。しかし,この部会において,その実務における使いづらさという点は必ずしも明らかになっていないのではないかと不安になってしまったところがございます。   そこで,吉田委員御自身の御経験に照らしてということでお伺いしたいのですけれども,この罰金の保護観察付き執行猶予が,実務において,全くといっていいほど活用されていない原因として考えられる実務上の問題点,使いづらさのようなものについて,教えていただけないかというのが2点目でございます。 ○羽柴幹事 前提としまして,第2分科会における議論の御紹介からさせていただきたいと思います。   部会においても御紹介したことがあったかもしれませんけれども,第2分科会において,罰金の保護観察付き執行猶予がこれまで活用されてこなかった理由につきましては,罰金刑が科される事案の多くが略式手続により処理されており,事案に即して保護観察の有用性を検討する契機が存在しなかったという指摘や,訴訟当事者から的確に,そのような有用性・相当性に関する主張・立証がされていなかったという指摘などがありました。   そのため,第2分科会において検討された罰金の保護観察付き執行猶予の活用のための方策としまして,例えば,公判請求をすべきかどうかを検討して,その後,裁判手続において,有用性・相当性の判断に資する事実を主張・立証するなどの方策があり,そのような方策が検討されているところですけれども,この方策自体が現在,実務で行われているものだとは承知しておりません。 ○吉田委員 私の実務経験に照らしてとのお尋ねですけれども,罰金刑についての考え方そのものが,納付させることに感銘力があり,払えなければ労役場留置で処遇するという建前で運用されているために,執行猶予そのものが少ないということだと思います。現在はそのような運用がされているため,執行猶予を前提とする保護観察付き執行猶予というのも当然少ないということになると思います。   ただ,ここで議論されているように,18歳,19歳の者について,不起訴になる者に対して新たな処分をしていくことになると,18歳,19歳の者で罰金刑になる者がそれ相応に生じるということを考えたときに,新たな処分とのバランスを考えて,保護観察付き執行猶予にどういう効果があるのかということをここで議論し,それを提示して実務に反映させていくということはあり得るのではないかと思います。   先ほど申し上げた特別法犯の四つに関しても,盗撮とか痴漢といったものは常習性が顕著なものもあって,放っておけば強制わいせつや強制性交等に発展してしまうというようなものを含んでいるような罪質であれば,そのような一定の者について保護観察処分をしていくというのは,意味があるという考えを,私自身は個人として持っております。 ○羽間委員 よく分かりました。   頂いた御意見も踏まえまして,この制度の実効性等については,引き続いて検討させていただければと思います。 ○佐伯部会長 まだ御意見あるかと思いますけれども,そろそろ予定した時間が近づいておりますので,先ほどの再入率のデータの問題,あるいは今の問題等も含めまして,今後,更に意見交換をしていただければと思います。   本日の審議は,これで終了したいと思います。今後の具体的な議事等につきましては,私の方で検討いたしまして,事務当局を通じてお知らせすることにさせていただきたいと思いますが,それでよろしいでしょうか。              (一同異議なし)   次回の日程について,事務当局から説明をお願いいたします。 ○羽柴幹事 次回の会議につきましては,部会長と御相談させていただきまして,その上で,追って皆様に確定した日程をお知らせします。 ○佐伯部会長 引き続き,どうぞよろしくお願いいたします。   なお,本日の会議の議事につきましては,特に公表に適さない内容に当たるものはなかったと思われますので,発言者名を明らかにした議事録を作成し,公表することとさせていただきたいと思いますが,よろしいでしょうか。              (一同異議なし)   議事録の取扱いにつきましては,そのようにさせていただきます。   それでは,本日の会議は終了いたします。   本日はどうもありがとうございました。 -了-