法制審議会 少年法・刑事法 (少年年齢・犯罪者処遇関係)部会 第23回会議 議事録 第1 日 時  令和元年12月25日(水)   自 午後3時01分                         至 午後4時44分 第2 場 所  東京保護観察所会議室 第3 議 題  1 少年法における「少年」の年齢を18歳未満とすること及び非行少年を含む犯罪者に対する処遇を一層充実させるための刑事法の整備の在り方について         2 その他 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○玉本幹事 ただいまから,法制審議会少年法・刑事法(少年年齢・犯罪者処遇関係)部会の第23回会議を開催します。 ○佐伯部会長 本日も御多忙中のところ,お集まりいただきましてありがとうございます。   本日は,奥村委員,手嶋委員,羽間委員,吉田委員,くのぎ幹事におかれては,所用のため欠席されています。   それでは,初めに,事務当局から資料について説明をお願いします。 ○玉本幹事 本日,配布資料として,配布資料31「検討のための素案〔改訂版〕」を配布しています。資料の内容については,後ほど説明があります。   また,参考資料として,A3判の「犯罪者に対する処遇を一層充実させるための刑事の実体法及び手続法の整備─検討のための素案〔改訂版〕─」,「部会第8回会議から第20回会議までの意見要旨(年齢関係)」,「部会第21回会議及び第22回会議における意見要旨(「別案」関係)」を配布しています。そのほか,「部会第8回会議から第18回会議までの意見要旨(制度・施策関係)」を参考資料として,机の上に置いています。 ○佐伯部会長 それでは,審議に入ります。   本日は,事務当局を通じて事前にお知らせしたとおり,配布資料31「検討のための素案〔改訂版〕」を用いて,非行少年を含む犯罪者に対する処遇を一層充実させるための刑事法の整備の在り方について意見交換を行いたいと思います。   まず,事務当局から,配布資料31「検討のための素案〔改訂版〕」について説明をお願いします。 ○玉本幹事 配布資料31「検討のための素案〔改訂版〕」について御説明します。   なお,以下の説明では,この資料を単に「素案改訂版」と呼んで御説明します。   素案改訂版は,事務当局において,部会長の御指示に基づき,配布資料21「検討のための素案」について,これまでの部会の御議論を踏まえて,変更を加えたものです。   以下,実質的な変更点について御説明します。   まず,全体的な変更点として,素案改訂版においては,これまで「考えられる制度・施策の概要」の欄外に記載されていた「分科会で示された検討課題等」を削除する一方,各制度・施策の名称の横に「※」を付して,参考資料「部会第8回会議から第18回会議までの意見要旨(制度・施策関係)」の該当ページを記載することとしております。   これは,「分科会で示された検討課題等」の記載内容は,当部会におけるこれまでの御議論を通じて,既に十分に共有されており,また,当部会において示された御意見の内容は,「意見要旨」を参照することにより確認できると考えられたことによるものです。   その上で,1ページの「1 自由刑の単一化」に関しては,拘留についても作業を行わせることその他の矯正に必要な処遇を行うものとすべきとの御意見があり,それに対して特段の御異論は示されなかったことから,考えられる制度の概要の「二 拘留に関する規定の整備」として,その旨の記載を加えています。   次に,8ページの「7 刑の執行猶予中の保護観察の仮解除の活用促進」については,これまで「考えられる制度の概要」に,「二 刑の執行猶予中の保護観察の解除」として,「刑の執行猶予中の保護観察を,一定の場合には,解除することができるものとする」との記載がされていたものを削除しています。   これは,当部会第14回会議において,保護観察のいわゆる本解除については,まずは保護観察の仮解除の主体を変更する制度改正を行い,その運用状況を踏まえた上で,別の機会に改めて検討することとしてはどうかとの御意見があり,それに対して特段の御異論がなかったことを踏まえたものです。   次に,12ページ以下の「9 若年者に対する新たな処分」については,「考えられる制度の概要」は従前のままとした上で,18ページ以下に「別案」として,甲案及び乙案の二つの案を記載しています。   これは,当部会第21回及び第22回会議において,「若年者に対する新たな処分」の対象事件,対象者を拡大する,いわゆる「別案」についての検討が行われたことを踏まえて,部会長の御指示に基づき,「別案」の各論点について,考えられる選択肢の組合せの案を作成したものです。   これらは,「別案」について,全体的な仕組みとしてどのような形になるのかがイメージしやすいよう,飽くまでも御参考までに,考えられる組合せの一例をお示しするものであり,もとより,各論点について,これらの案と異なる選択肢をとったり,これらの案とは異なる選択肢の組合せをとることを否定する趣旨のものではなく,また,当部会の今後の御議論を方向付けようとする趣旨のものでもありません。   このうち,甲案では,「一 家庭裁判所への送致」において,検察官は,一定の事件について,家庭裁判所に送致せずに公訴を提起することができるものとしています。その上で,このように,言わば「直接起訴事件」を設ける場合には,その範囲によっては,家庭裁判所から検察官への逆送について特別の仕組みを設ける必要は乏しくなる旨の御意見があったことを踏まえ,「二 手続・処分」の「2 終局決定」の「(一) 検察官送致決定」においては,全ての事件又は一定の事件について,必要的に逆送する仕組みは設けないものとしています。   また,「三 刑事事件の特例等」のうち,「2 家庭裁判所への移送」については,このような仕組み自体は設けることを前提としつつ,直接起訴事件まで対象とするかについて,積極・消極の両方の考え方があり得るとの御指摘があったことを踏まえ,直接起訴事件を移送の対象から除外するA案と除外しないB案とを併記しています。   さらに,刑事事件の特例等については,個々の規律ごとに,その趣旨に沿って採否等を検討すべきである旨の御意見があったところですが,飽くまで一つのモデルをお示しするという趣旨で,甲案では,「三 刑事事件の特例等」の「3 その他」に記載された事項については,いずれも少年法と同様の規律を設けないものとしています。   以上のほか,当部会での御議論を踏まえ,おおむね異論がないのではないかと考えられたところを記載しているところです。   次に,乙案では,「一 家庭裁判所への送致」において,検察官は全ての事件を家庭裁判所に送致しなければならないものとしています。その上で,この場合には,刑事処分をもって臨むべき事件には逆送によって対応することとなり,現在の少年法上の制度では不十分であるとすれば,更に特別の仕組みを設けることも考えられるとの御意見や,全ての事件について逆送を義務付けるものとすることには課題が多いとの御意見があったことを踏まえ,「二 手続・処分」の「2 終局決定」の「(一) 検察官送致決定」の「イ」において,「一定の事件」について,必要的に逆送する仕組みを設けるA案と,そのような取扱いを設けないB案とを併記しています。   また,「三 刑事事件の特例等」のうち,「2 家庭裁判所への移送」においては,先ほど甲案について申し上げたのと同様の観点から,仮に必要的に逆送する事件,言わば「必要的逆送事件」を設けるとした場合に,必要的逆送事件を移送の対象から除外するA案と除外しないB案とを併記しています。   さらに,乙案では,一つのモデルとして,「三 刑事事件の特例等」の「3 その他」に記載された事項について,いずれも少年法と同様の規律を設けるものとしています。   最後に,22ページの「10 起訴猶予となる者等に対する就労支援・生活環境調整の規定等の整備」については,これまで「考えられる制度の概要」に,「三 検察官による関係機関に対する協力依頼」として,「検察官は,被告人又は被疑者が身体の拘束を解かれる際に,その者の改善更生及び再犯防止を図るため必要があるときは,公務所又は公私の団体に対し,必要な協力を求めることができるものとする」との記載がされていたものを削除しています。   これは,当部会第17回会議において,いわゆる入口支援に係る検察庁と関係機関との連携・協力関係の構築は着実に行われており,現時点で運用に支障が生じている状況にはないことなどからすると,このような規定の新設は今回は見送りとしてもよいのではないかとの御意見があり,それに対して特段の御異論が示されなかったことによるものです。   なお,以上の素案の改訂に合わせて,A3判の参考資料「犯罪者に対する処遇を一層充実させるための刑事の実体法及び手続法の整備─検討のための素案─」についても改訂を行っており,本日配布していますので,必要に応じて御参照いただければと存じます。   資料の御説明は以上です。 ○佐伯部会長 配布資料の内容や,ただいまの御説明に対しまして,御質問のある方は挙手の上,御発言をお願いいたします。   よろしいでしょうか。   それでは,意見交換に入りたいと思います。意見交換の進め方としましては,まずは配布資料31「検討のための素案〔改訂版〕」に記載されている制度・施策の横断的・全般的な在り方等の総論的事項について御意見をお伺いし,その後,制度・施策を四つのまとまりに分けて,順次,意見交換を行うことが円滑な議事に資するのではないかと思われます。   各制度・施策のまとまりにつきましては,資料の目次に沿って申し上げますと,従前と同じく,一つ目として,「1 自由刑の単一化」から「4 外部通勤作業及び外出・外泊の活用等」まで,二つ目として,「5 刑の全部の執行猶予制度の拡充」から「7 刑の執行猶予中の保護観察の仮解除の活用促進」まで,三つ目として,「8-1 保護観察における新たな処遇手法の開発,特別遵守事項の類型の追加等」から「8-4 更生保護事業の体系の見直し」まで,四つ目として,「9 若年者に対する新たな処分」及び「10 起訴猶予となる者等に対する就労支援・生活環境調整の規定等の整備」の四つに分けて議論したいと思います。   以上のような進行とすることで,よろしいでしょうか。              (一同異議なし)   それでは,そのような形で進めたいと思います。   最初に,総論的事項について意見交換を行います。御意見がある方は挙手の上,御発言をお願いします。 ○小木曽委員 「検討のための素案〔改訂版〕」に記載されております各制度・施策は,少年法における少年の年齢が仮に18歳未満となり,その年齢層の者が少年法の適用から外れるといった場合を想定して,検討されてきたものだと思いますが,改めて見直してみますと,これらは18歳及び19歳の者に限らず,より広く,一般的に罪を犯した人々の改善更生や社会復帰に効果が期待できるものであるように思われます。   と申しますのも,平成28年の再犯者率は48.7%で,これは,現在と同様の統計を取り始めた昭和47年以降,最も高い水準で,このことなどを背景としまして,政府の施策としても,再犯防止の必要性・重要性が意識されていると承知しております。   平成28年12月には,再犯の防止等の推進に関する法律が制定され,これを受けて,平成29年12月には,再犯防止推進計画が作成されたところです。   この計画を少し引用しますと,再犯防止のための指導等を効果的に行うためには,犯罪・非行の内容はもとより,対象者一人一人の経歴,性別,性格,年齢,心身の状況,家庭環境,交友関係,経済的な状況等の特性を適切に把握した上で,その者にとって適切な指導等を選択し,一貫性を持って継続的に働き掛けることが重要であるとされており,そのような現状認識の下で,同計画には様々な具体的施策が示され,少なくとも5年ごとに計画に検討を加えて,再犯防止策の一層の充実・推進に取り組むこととされています。   そのことを前提としますと,少年年齢を引き下げた場合を前提に検討されてきた「若年者に対する新たな処分」はともかくとして,それ以外の素案改訂版に盛られている制度・施策については,18歳及び19歳の者に限らず,罪を犯した人々一般の改善更生,社会復帰にとって意義あるものとして,少年年齢についての議論の帰すうにかかわらず,再犯防止の観点から,積極的に検討を推進されるべきものではないかと考えます。 ○川出委員 直接には,後ほど出てきます,「若年者に対する新たな処分」に関わることですが,今回の配布資料である「検討のための素案〔改訂版〕」に示された制度全体の枠組みにも関わってくるものですので,ここで,犯罪を行った18歳及び19歳の者の刑事司法制度の中での位置付けという観点から,意見を申し上げたいと思います。   今回,「検討のための素案〔改訂版〕」の18ページ以下において,「若年者に対する新たな処分」の「別案」として,甲案と乙案という二つの組合せ案が記載されております。前々回の部会の際に申し上げましたように,従来の「検討のための素案」は,少年法の適用対象年齢が18歳未満に引き下げられた場合に,18歳及び19歳の者は成人となるので,それらの者が犯罪を行った場合には,20歳以上の者と同様に,刑事処分を科すのが原則であって,そこからこぼれ落ちることになる起訴猶予処分となった者につき,18歳及び19歳の者の特殊性を考慮して,新たな処分の対象とするという考え方を基礎とするものでした。   これに対し,「別案」は,全件を家庭裁判所に送致する乙案はもちろんですが,一定の事件が送致の対象から除外される甲案であっても,20歳以上の者であれば起訴され,刑罰が科されることになる事件が家庭裁判所に送致され,家庭裁判所において調査,審判を経た上で処分の選択が行われるという点において,18歳及び19歳の者には,20歳以上の者とは大きく異なる取扱いをすることになります。   他方で,いずれの案においても,18歳及び19歳の者は,少年法の適用対象から外れたことにより,ぐ犯が対象外とされ,また,家庭裁判所による処分についても,行為責任の範囲内という制限が掛かるなどの点で,18歳未満の者とも異なる取扱いを受けることになります。   こういった点から考えてみますと,「別案」に示された制度の枠組みは,18歳及び19歳の者を,刑事司法制度上,20歳以上の者とも,また18歳未満の者とも異なる,それらの中間層ないし中間類型として位置付けるものにほかならないといえるように思います。   これまで本部会では,少年と成人の二区分という現行少年法が採用する年齢区分を前提として,成人年齢を20歳から18歳に引き下げるか否か,言い換えますと,18歳及び19歳の者を少年と成人のいずれとするかという観点から議論が行われてきました。しかしながら,先ほど申し上げましたように,18歳及び19歳の者を20歳以上の者と18歳未満の者との中間類型であるというふうに捉えれば,これらの者を少年とするか成人とするかといった議論をするのではなく,端的に,年齢区分自体を三区分とすることも考えられます。その上で,各年齢区分にいかなる名称を付するかということについては,国民の意識ですとか社会通念等も考慮して,広く受け入れられるものを選択すればよいということになろうかと思います。   そのように考えますと,「若年者に対する新たな処分」の内容や手続はもちろんですが,「三 刑事事件の特例等」の「3 その他」に挙げられている刑事事件の特例に関する規律につきましても,18歳及び19歳が20歳以上とも18歳未満とも異なる年齢区分であることを前提に,20歳以上の者との類型的な差異を踏まえて,その改善更生,再犯防止のためにどのような制度にするのが望ましいのかという観点と,18歳未満と異なり,少年法の適用を受けない者であることによりどのような制約があるのかという観点の双方を考慮して,その在り方を検討すべきであるということになると思います。 ○佐伯部会長 次に,「1 自由刑の単一化」から「4 外部通勤作業及び外出・外泊の活用等」までの制度・施策について意見交換を行います。   いずれの点からでも結構ですので,御意見のある方は挙手の上,どの制度・施策に関するものかを明示していただいた上で,御発言をお願いします。 ○太田委員 「3 刑の執行等の初期段階における被害者等心情等伝達制度」について,用語の問題について,改めて御意見を申し上げたいと思います。   「検討のための素案〔改訂版〕」では,現在,「被害者等心情等伝達制度」という名称になっておりますけれども,この制度の目的は,これまで議論されてきましたように,刑の執行初期段階で,犯罪被害者等から心情を聴取した上で,それを矯正処遇やその後の保護観察にいかすことにありまして,受刑者等への心情伝達は,そのうち,犯罪被害者等が受刑者等に伝えたい事項のみを伝達するというものです。そうした制度を,「被害者等心情等伝達制度」という名称にしてしまうことで,聴取の目的や範囲というものを,本来の趣旨から狭めてしまうおそれがあるので,適当ではないと考えます。   一案としましては,「刑の執行等の初期段階における被害者等聴取制度」,あるいは「被害者等心情聴取及び伝達制度」とすることが考えられるかと思います。 ○青木委員 「1 自由刑の単一化」について,意見を申し上げたいと思います。   ここでは,今まで作業だけが刑法に書かれていたところを,そうではなく,恐らく矯正に必要な処遇を行うということについても,刑法に記載することになる前提で考えられているのであろうと思います。   作業を行わせることその他の矯正に必要な処遇を行うということが,刑の内容なのかどうかということに関しては,今まで意見を申し上げてきたところで,その意見が変わるわけではないのですけれども,結論として,懲役と禁錮を単一化して,作業以外の矯正に必要な処遇というものが充実していくということに関しては,是非そうしていただきたいと思っております。   もう10年以上前になりますけれども,法制審議会被収容者人員適正化方策に関する部会に出席していた当時は,刑務所は過剰収容状態で,単独室に2人いるのは当たり前であり,共同室も定員オーバーしており,今まで教室として使っていた場所も居室にするというような状況でした。作業以外の矯正に必要な処遇というものがどのような中身かということも問題だとは思うのですけれども,恐らく考えられているのは,改善更生に必要であり,社会復帰に必要であるという処遇だろうと思いますが,そういう処遇を行うということが,当時は人員的にかなり困難な状況だったのであろうと思います。   それと比べますと,現在は,刑務所の中に入っている方の数は大きく減少していて,空いている部屋もたくさんあるという状況です。一方で,1人の刑務官の方が見ている人員というのが,作業についてはそれなりに多くても大丈夫だったわけですけれども,よりそれぞれの受刑者の問題性に応じた処遇を行おうと思えば,現在の職員数ではおよそ足りず,刑務所職員の人員が増えないと,充実した処遇というのは行えないと思います。   そのような意味で,作業以外の処遇というものも含めて,充実させていくということであれば,とにかく人員を増やさなければ,絵に描いた餅になってしまうであろうと思いますので,刑務所の職員数も充実させたものにしていただけたらと思っています。   そして,処遇に関しては,部分的にはとあえて申し上げますけれども,現在は,その当時と比べれば,それぞれの施設が工夫していることなども含めて,充実した処遇が行われていて,その中では受刑者自身が,正に自覚を持って,主体的に参加をしているという処遇をあちこちで見てまいりました。しかし,これがもっと広がった形で,多くの受刑者に対してそのような処遇を行うようになるとした場合にも,本当に受刑者が主体性を持って関われるようなものになっていくのだろうかということに関しては,かなり困難な問題があるのではないかと思います。   これは直接つながるかどうか分かりませんが,団藤先生の教科書の一節を読み上げたいと思います。「行刑の問題は,ある意味では,刑法の問題のクライマックスである。不幸にして有罪とされ,しかも自由刑という重い刑を科せられた者に対して,どういう態度をもって処遇に臨むかということは,刑法の本質問題に対する基本的な見解の端的な表明だからである。受刑者は「社会復帰の権利」をもつ者であり,主体的な地位(それは単なる有形的・物理的自由の形における主体性だけでなく,より根本的に精神的な自由を内蔵する主体性でなければならない)を保持しながら,しかも矯正施設において社会復帰に役立つような処遇を受ける権利と義務を有する」と書かれています。   その権利とか義務とかというものを,どういう概念として捉えるかによって,必ずしもそのとおりかどうかは,何ともいえないところがありますけれども,いずれにしても,主体性が尊重されるという形で処遇が行われるということが必要なのであろうと思います。   そういうことで考えますと,ここには,新自由刑は,刑事施設に「拘置して」,「作業を行わせることその他の矯正に必要な処遇を行う」ものとするという二つの種類のことが書かれているわけですけれども,「拘置して」という部分は,主体性がどうということはないのでしょうけれども,「作業を行わせることその他の矯正に必要な処遇を行う」という部分に関しては,やはり主体性が守られるということが必要なので,仮にこれが刑の内容だとしても,ここに書かれている二つのことは,かなり種類の違うものなのだと思います。   ですので,これは前から申し上げているところですけれども,拘置するということと後半の部分とは項を分けるとか,あるいは,新自由刑は刑事施設に拘置するとした上で,受刑者を主体にした形で,拘置された者は作業を行うことその他の矯正に必要な処遇を受けるものとするという規定にするとか,規定の仕方で変わるかどうかというのはありますけれども,いずれにしても,作業以外の処遇のところで,現在充実した形で行われているものが,刑の内容が広がったとしても,刑の執行をしなければならないからということで形骸化してしまうというようなことがないようにしていただきたいと思っております。   それから,もう一つ,作業報奨金に関して,以前にも意見を申し上げましたけれども,作業の割合が減れば,当然,作業報奨金は減るわけです。作業の対価として払われているものでは元々ありませんし,その意味合いとしては,社会復帰のためというような側面もありますし,あるいは,その中から被害者に対する損害賠償に充てるためというようなものでもあるわけです。報奨金という名前が適切かどうかは別としまして,何らかの形で,同じような手当というのか,あるいは社会復帰の準備金というのか,被害者に賠償するためのものというのか,いろいろ工夫はあり得ると思いますけれども,処遇を積極的に受けるインセンティブにもなるものですし,そういうものも,むしろ本人のためというだけではなくて,処遇を受け,きちんと更生して社会復帰をしてくれるということが,社会の利益にもなるということでもありますし,被害者との関係をきちんとするという意味もありますので,やはり法律上きちんと手当てをするべきであろうと思います。 ○今井委員 ただいまの青木委員の御発言で,大変共感するところもあります。また,青木委員も,従前,同様の議論を紹介してくださっておりますので,これから申し上げることも繰り返しになってしまうかもしれません。まず,私が青木委員の御意見に大変共感するところは,矯正に必要な処遇を行うということは,その処遇効果を上げるために,対象者である受刑者の方に対して,自主的に主体的に行動してもらうということがとても大切で,基本であるという点です。   第一分科会におきまして,矯正局から御説明も頂きましたが,矯正の現場では,受刑者の方の主体性を尊重して,自発的に行うことが自分自身のためになり,再犯も防止し,社会復帰に役立つのだということをしっかり理解していただいた上で,処遇が実施されているとの説明を受けました。ですから,処遇の効果を図る上での基本的な心構えといいますか,あるいは現状認識について,青木委員と違うところはないと思います。   とはいえ,いろいろな方がおられますので,拘置をした上で矯正処遇を受けることについて,批判的な方,あるいはその趣旨を理解されない方もいらっしゃるのではないかと思います。そうしたときに,先ほど団藤先生の教科書を引用された範囲では,受刑者の方が処遇を受けるのは権利であるとともに義務であるというところが,大変含蓄が深いと思います。   一般社会のルールに違反して,他人の法益を侵害したと認められて受刑しているわけですから,受刑者の方は,拘置されているときには社会から隔離され,その後,社会復帰のために再犯が防止できる状態になって出所される義務を負っている方であります。   この点を,刑罰を科す目的から考えますと,受刑者の主体性を損なうことがあってはいけないのですが,処遇を受けることが義務付けられているということは,揺るがすことができない基本であろうと思います。   この点を踏まえますと,現在行われている処遇の在り方を踏まえて,個々の対象者にはどのような義務があり,それを自発的に行うことが社会復帰に効果的であり,自分のため,社会のためになるのかということを説明しつつ,処遇を行うことが肝要であり,そのことが,「考えられる制度の概要」の記載に書かれていることにも反映されているのではないかと思っている次第です。 ○山下幹事 「2-3 若年受刑者に対する処遇原則の明確化等」のうち,若年受刑者に対する処遇原則として明文規定を設けることについて意見を述べます。   これまでも二度ほど意見を述べておりますが,若年受刑者に対する処遇原則の明確化ということについては,既に刑事収容施設法において,受刑者の処遇原則が規定されていることとの関係で,やはり若年受刑者を具体的に定義をしなければいけないと思います。既に若年受刑者の処遇原則が書かれているわけですので,それと違う取扱いをするための基準となるためには,若年受刑者の定義を,例えば,おおむね何歳から何歳までというように定義をし,明記する必要があると考えます。   また,第8回の会議におきまして,酒巻委員から,若年受刑者だけではなくて,高齢者など,いろいろなタイプの受刑者がいるので,若年受刑者だけを取り上げて書くことに問題がないのかという御指摘がございました。   私も,高齢者とか知的障害者とか,幾つかのグループがあると思うので,若年受刑者についてだけ処遇原則を受刑者一般の処遇原則とは別に設けるということについては,やはり違和感があるところです。こういう規定を設けるのであれば,それ以外の高齢者や知的障害者といったグループについても規定を設ける必要はないのかということについても議論をする必要があり,この点については,まだ十分な議論が尽くされていないと考えます。 ○今井委員 今,山下幹事から,「2-3 若年受刑者に対する処遇原則の明確化等」に関して,年齢についての御意見がありました。   私は,実質的には同じ問題意識だと思いますが,その一つ前の「2-2 若年受刑者に対する処遇調査の充実」に関して,若年受刑者とは一体何歳ぐらいのことをいうのかについて,意見及び質問させていただきたいと思います。   この施策に関し,若年受刑者に対して充実した処遇を行うに当たりましては,その前提として,彼らの問題性を的確に把握することが重要であるということは,既に何度も説明されております。   そこで,少年鑑別所の長が刑事施設の長の求めにより行う鑑別の対象となる受刑者の上限年齢を20歳未満から引き上げることも含めまして,処遇調査の充実を図るということでありまして,そのような方向につきましては,これまで当部会においても,特に御異論がなかったものと私は理解しております。   ただ,ただいまの山下幹事の御質問とも関連するのですけれども,具体的にどの程度の年齢まで引き上げるということにするのかにつきましては,「検討のための素案」におきましても,少年鑑別所の組織体制にも関わる事柄であるため,実務的な観点からも調査検討を行った上で確定する必要があるとされておりました。また,今回の資料にも,その点は記載されていないように見受けられます。   そこで,今後の検討の参考とするために,現時点におきまして,鑑別の対象となる受刑者の上限年齢につきまして,実務的な観点からどのような検討が必要となるのか,事務当局から御示唆を頂ければと存じます。 ○小玉幹事 現在検討されている刑事政策的措置のうち,少年鑑別所の鑑別機能の活用が検討され,少年鑑別所にとって新たな業務となる可能性がある事項について,まず整理させていただきますと,今お話のあった鑑別対象となる受刑者の上限年齢の引上げのほかに,「検討のための素案〔改訂版〕」の項目でいいますと,「8-3 保護観察における少年鑑別所の調査機能の活用」のほか,「9 若年者に対する新たな処分」などの制度・施策において取り上げられているものがあると認識しています。   これらの制度・施策については,この部会で検討いただいているものでありますので,飽くまで,現在の部会における検討状況を前提として,少年鑑別所における現在の運用に当てはめて考えますと,まず,「若年者に対する新たな処分」において活用が検討されている鑑別については,現行の少年審判手続における観護措置対象者に対する業務に相当するものになるのではないかと考えています。   次に,保護観察において活用が検討されている鑑別については,現在,地域援助として行っている業務に相当するものになると考えられますが,これが鑑別に位置付けられるとすると,更なる活用も想定されますので,対象件数という点では,相当程度,増加する可能性があると考えています。   これらの点も踏まえて,鑑別対象となる受刑者の上限年齢の引上げについて申し上げますと,まず,少年鑑別所におきましては,従来から審判鑑別として,少年院における処遇内容も想定した上で,調査・分析や処遇指針の策定などを行っているほか,成人に達した少年院在院者に対する処遇鑑別や,地域援助としての成人の対象者に対する心理検査やカウンセリングなどを相当数実施しておりますので,少年だけでなく,成人についても,対象者の問題性の把握や処遇指針の策定などに関して,相応の知見やノウハウを持っていると考えています。   他方で,刑事施設では,全ての受刑者に対し,処遇に必要な基礎資料を収集するための処遇調査を実施しているところです。そのため,鑑別を活用することとする場合,その受刑者には,処遇調査と鑑別がいずれも行われることになりますので,鑑別を依頼する刑事施設側や鑑別を実施する少年鑑別所側から見た実務的観点からは,どのような場合に処遇調査に加えて,更に鑑別を実施する必要性や有用性が認められるのかという点が明らかとなることが望ましいと思います。   そのため,鑑別対象者の上限年齢の引上げの検討に当たりましては,どのような範囲の受刑者について,鑑別の知見やノウハウを活用することにより,それらの者の処遇内容の充実に資することになるのかという観点や,最初に述べましたような,現在検討されている他の制度・施策との関係でも,少年鑑別所の業務が相当程度増加すると考えられる点も含めて,御議論いただければ有り難いと存じます。 ○今井委員 御説明ありがとうございました。   ただいまの御説明を参考としまして,まず,鑑別の知見やノウハウを活用することでその処遇内容の充実に資することになるのは,どのような範囲の受刑者なのかという観点から,鑑別対象となるべき受刑者の年齢層について検討いたしますと,今後,若年受刑者に対しては,少年院処遇の知見・施設を活用する形で,その処遇の充実化が図られるということが見込まれますので,若年受刑者については,その前提として,少年院処遇を想定した調査・分析や処遇指針の策定等を行う少年鑑別所の鑑別の知見あるいはノウハウを活用する有用性が高いと考えられます。   そういたしますと,鑑別の対象となる受刑者の上限年齢を設定する場合には,そのような若年受刑者が,おおむね,その対象の中心となるような年齢を上限とすることが妥当ではないかと思われます。   また,ただいまの御説明にもありましたけれども,現在検討中の刑事政策的措置の全てが実施された場合,それだけでも,少年鑑別所の業務が相当増加してしまうのではないかと思われます。鑑別の対象となる者の範囲を考える際には,そのような現実的な,マンパワーがどこまで対応可能かという運用可能性の観点も考慮に入れる必要があるのではないかと思います。   具体的な上限年齢について,「検討のための素案」では,矯正実務において,26歳未満の者を対象として,一般的に可塑性に富む場合が多いことから,若年であることによる特性に応じた処遇を行うことが必要であり,高い効果を期待できるとして処遇が行われてきていると書いてありますけれども,その点を踏まえまして,少なくとも26歳未満の者までは含まれるようにしてはどうかとの意見があったことが紹介されております。   そういたしますと,先ほど申し上げましたが,新たに少年鑑別所による鑑別の対象とする年齢層を,若年受刑者が対象の中心となるように年齢の上限を設定するという場合は,「検討のための素案」でも紹介されておりますけれども,矯正実務において,処遇の指標とされている26歳という基準を用いることが一つの考え方であり,現在の実務との連続性を考えても,合理性があるように思います。   とはいえ,このように上限年齢を画一的に設定してしまいますと,処遇の対象者とすることが望ましい受刑者について,一律に年齢だけを理由に鑑別の対象とできない場合もあるかと思われます。これは不都合ですので,この点も考慮に入れた施策の検討が必要だろうと思います。   そうしたことを考慮いたしますと,仮に鑑別の対象となる受刑者について,年齢の上限を設けるとすれば,26歳という年齢を軸にしまして,一定の幅を持ち得るように,おおむね26歳未満とするような案が現実的ではないかと考えています。 ○池田幹事 ただいまの点と,先ほどの山下幹事の御指摘の点も踏まえまして,「2-3 若年受刑者に対する処遇原則の明確化等」につきまして,その対象として考えられる若年受刑者の範囲について,意見を申し述べたいと思います。   この点については,先ほど山下幹事からも,特定の年齢層が明記されていないという御意見があったところですけれども,この処遇原則が設けられる趣旨につきましては,若年受刑者に対して,若年であることに焦点を当てた処遇の充実のための取組が確実に推進されるようにするため,その処遇の原則について明文の規定を設けるというところにあるとされる一方で,個々の受刑者によって,年齢,精神的な成熟の程度等の事情も,問題性とその改善を図るための処遇の手法及び内容も様々であり得ることから,「検討のための素案」においては,一律にその対象を年齢で区切るということはされておりませんでした。   私自身も,受刑者それぞれの個別の事情を踏まえて,適切な処遇が行われるということが可能となるように,ある程度柔軟に対応し得る規定としておくべき必要があると考えており,その点では,ただいまの今井委員の御指摘にも通じるところがございます。   また,若年受刑者に対する処遇原則そのものは,対象となる若年受刑者に新たに義務を課したり,あるいは,その権利を制限したりするものではありませんので,その対象範囲をあえて厳格に定義する必要もないと考えられます。   ただ,他方で,若年受刑者に対する処遇原則というものが,現在の刑事収容施設法に規定のあります一般の処遇原則に加えて,若年受刑者を想定しての更なる処遇原則を規定するものである以上は,その対象とすべき若年受刑者の範囲についても,既に一定の目安があると考えられますし,それを示すのも適切であるように思われます。   この点につきまして,第一分科会での御議論を確認いたしましたところ,そこでの事務当局からの御説明によりますと,矯正の実務においては,26歳未満の若年者は,一般的に可塑性に富む場合が多い年齢層であって,その特性に応じた処遇を行うことが必要であり,かつ,高い処遇効果を期待できると考えられており,職業訓練や各種指導を重視した処遇が行われているということでありました。   そこで,そのような実務の知見も参考としますと,先ほどの幅を持ってということも考え合わせまして,26歳未満を目安とし,若年受刑者に対する処遇原則の対象とする若年受刑者につきましては,例えば,おおむね26歳未満とすることも一つの案ではないかと考えます。 ○武委員 「3 刑の執行等の初期段階における被害者等心情等伝達制度」についてですが,これは私たちが望んでいたことなので,とてもうれしいことなのですが,伝達した後のことも少し考えていただきたいと思います。   心情伝達して,一方通行になってはいけないと思うので,伝達をした後に,それをどういかしたのか,どう矯正教育に使われたのか,そういうことを被害者に情報提供していただきたいのです。また,加害者の状況はどう変わったか,それとも全く変わらないとか,そういう情報も,一方通行にするのではなくて,被害者にも提供していただきたいと思います。   そのことは,加害者のためでもあると思います。加害者が被害者から目をそらさないで被害者のことをしっかり認識するということにも役立つと思うし,被害者に加害者の状況を伝えてくれたなら,被害者側の回復にもつながると思うのです。だから,是非そのことも考えていただきたいと思います。 ○山﨑委員 先ほどの若年受刑者に関する点に戻りますけれども,「2-1 若年受刑者を対象とする処遇内容の充実」について意見を述べたいと思います。   これまで,この論点については,少年法の適用年齢引下げとの関連において,少年院の矯正教育との対比といった観点で意見を述べてきましたけれども,今日は,その点は置きまして,適用年齢の引下げの是非という問題とは切り離して意見を述べたいと思います。   そういう観点に立ちますと,若年受刑者への処遇内容を充実させるという方向性それ自体は,相当であると考えています。刑事施設において,少年院の知見を活用して,若年者の特性に応じた処遇の充実を図るということは,望ましいことであろうと思っています。   ただ,先ほど青木委員から,刑務所での人員配置の問題について指摘がありましたけれども,実際に少年院における矯正教育の手法やノウハウ等を活用した処遇を行うというためには,設備等の整備というだけではなくて,やはり処遇を担う職員の方々についても,十分な体制を確保するということが必要だろうと思っています。   現行の少年院での矯正教育について見ても,刑務所と比べて,収容者に対する職員の数が,かなり多く配置されています。だからこそ,対象者の個性に応じた,きめ細やかな個別的な対応が可能になっていると考えられます。   したがいまして,若年受刑者の特性に応じた処遇の充実を図るために取り組むべき施策の中には,そういった人材を質的にも量的にも,しっかり確保できるように,職員体制の整備等についても盛り込んでいくのが相当ではないかと考えています。   もう1点,この機会に,女子の若年受刑者に対する処遇についても,しっかり考える必要があるのではないかと感じています。   女子の若年受刑者については,男子のように少年刑務所といったものもなく,高齢の受刑者らの方々と一緒に刑務所で処遇されているという現状があるかと思います。全体数が少ないということで,様々制約はあるとは思われますけれども,女子の若年受刑者についても,また独自の観点から,その特性に応じた処遇の充実策というものを具体的に検討していく必要がある段階にきているのではないかと考えています。 ○大沢委員 先ほど青木委員から,報奨金についての御指摘があり,私も以前,報奨金について発言したことがありますが,確かに,例えば教育など作業以外のものに自発的に取り組ませるために,報奨金というものを,一つのインセンティブとするのはどうかというお考えもあるとは思います。   けれども,やはり,以前申し上げたとおり,本来,刑罰というのは,本人が悔い改めて,罪と向き合って,反省悔悟を深めていくことが基本なのではないかと思うのです。ですから,刑に服している者に対し,報奨金をインセンティブにして,作業以外のものに取り組ませるとしても,やはり,本当に反省しているのですかと国民に思われてしまうのではないかと思うのです。報奨金を,そのような意味合いで設けるというのは,やはり国民の理解が得られにくいのではないかというのが正直なところです。   それから,もう一つ,仮にそういった報奨金というものをもし考えるのだとすれば,一方で犯罪被害者の方が,特に経済的な関係で,十分被害回復を得られていないというのは,非常によく聞くことだと思うのです。   ですから,少なくとも,そのような報奨金を設けるのであれば,被害者のいる受刑者については,確実に被害回復に充てるという,そういったものでも約束しない限りは,なかなか一般的な理解は得られないのではないかと感じています。 ○青木委員 今の御意見に対して,先ほどの意見に補足したいと思います。   インセンティブというのは,それが主眼ではなくて,それはインセンティブの一つにはなるであろうという程度の話でありまして,むしろ後半で言われた,例えば被害弁償に充てるようなことも含めて,ある意味,自分の罪に向き合うチャンスにもなり得ると思うのです。   例えば被害者の心情を理解するための教育を受けて,被害者に対して弁償しなければならないと思っても,現にお金がなければ,それはできないわけで,そういうものに充てるために,報奨金は払われているという意識を持ってもらうということなどを含めて,先ほど申し上げたように,改善更生,社会復帰に役立つ方向での,そういうお金の使い方というのがあるのではないかという趣旨であり,お金で釣ってやらせましょうという趣旨では全くありませんので,そこは補足したいと思います。 ○佐伯部会長 次に,「5 刑の全部の執行猶予制度の拡充」から「7 刑の執行猶予中の保護観察の仮解除の活用促進」までの制度・施策について,意見交換を行いたいと思います。   いずれの点からでも結構ですので,挙手の上,御発言をお願いいたします。 ○小木曽委員 「6 罰金の保護観察付き執行猶予の活用」について申し上げます。   これまで,「若年者に対する新たな処分」は,訴追を不要とされた者を対象として検討されてきたと思います。罰金の保護観察付き執行猶予については,少年法の適用年齢が引き下げられた場合に,「若年者に対する新たな処分」の対象とならない,起訴されて罰金刑に処せられる18歳・19歳の者に対しても,改善・更生の働き掛けをすることができるようにする必要があるという観点から,その活用についての議論がされてきたものと理解しております。   しかし,「検討のための素案〔改訂版〕」における「若年者に対する新たな処分」の「別案」では,甲案,乙案のいずれをとるにせよ,従来議論されてきた案より,対象事件,対象者が拡大されることになりますので,起訴されて罰金刑に処されることが見込まれる者のうち相当部分が,家庭裁判所による手続・処分の対象となる可能性があると考えられます。そうすると,これまでとは議論の前提が異なることになるのだろうと思います。   この罰金の保護観察付き執行猶予の活用につきましては,当部会での議論で,対象者や事案を適切に選定すれば,改善・更生,再犯防止に一定の効果が期待できるという御意見があった一方で,保護観察を受け続けるより,罰金を払って終わりにしてしまいたいと考える対象者が相当数いるのではないかといった御意見や,遵守事項に違反して,再犯リスクが高まったとしても,罰金が支払われれば処遇を終了せざるを得ないということから,その処遇効果には疑問があるといった御指摘がありました。   また,そもそも罰金の保護観察付き執行猶予は,現行法の下でも実施可能なものであるということからしますと,その活用の当否につきましては,「別案」の対象範囲についての今後の議論も踏まえた上,更に検討されるべきものと思います。 ○太田委員 今の小木曽委員の御指摘の点について,罰金の保護観察付き執行猶予の実効性でありますとか,実際の活用の可能性は,正にそのとおりでありますし,それから,「若年者に対する新たな処分」の対象事件,対象者の範囲の変更によって,罰金刑に処されることが見込まれる者が家庭裁判所の手続で処理されるようになるということは,そのとおりだと思います。ただ,実際に起訴されて,罰金を受ける者は残るわけでございますし,最近の調査によっても,例えば窃盗犯の中には罰金刑を受けた後にすぐ再犯に及ぶ者がいるということが分かっておりますので,今後とも,罰金刑を受けた者の再犯防止ということは課題として残っていくだろうと考えております。 ○橋爪委員 「5 刑の全部の執行猶予制度の拡充」について,1点申し上げたいと思います。   執行猶予期間が経過した後でも,猶予期間中に公訴を提起された罪について,実刑判決が確定した場合については,執行猶予の言渡しを取り消した上で,その自由刑を執行するという改正案につきましては,執行猶予の心理的威嚇による再犯防止の担保的機能を十分に実効化するものであり,賛成したいと思います。   その上で,このような法改正と刑法第27条の関係につきまして,考えるところを申し上げたいと存じます。   刑法第27条は,「刑の全部の執行猶予の言渡しを取り消されることなくその猶予の期間を経過したときは,刑の言渡しは,効力を失う。」と規定しております。この刑の言渡しが効力を失うという規定内容が,その後の自由刑の執行可能性とどのような関係に立つかにつきましては,以前,第一分科会でも二つの理解を申し上げました。   すなわち,同条を,再犯について有罪判決が確定しないことを前提とした上で,刑の執行可能性それ自体を否定する規定と解する立場,もう一つは,同条を刑法第25条第1項の適用の排除や資格制限など,刑の言渡しに伴う不利益の解消に向けられた規定にすぎないと理解した上で,刑の執行可能性が否定されるのは,執行猶予が取り消されなかったことに基づく効果にすぎないと考える理解です。   厳密に申し上げますと,前者の理解からは,刑法第27条の原則を修正する改正を要することになりますが,後者の理解からは,執行猶予期間経過後であっても,執行猶予を取り消すことができる旨を明文で規定すれば,刑法第27条の規定にかかわらず,自由刑の執行可能性を認めることが可能になると解されますが,いずれの理解を前提といたしましても,「検討のための素案〔改訂版〕」の「三 猶予期間経過後の執行猶予の取消し」の「1 刑の全部の執行猶予」の「(三)」のように,刑法第27条の規定にかかわらず,取消しのときから刑の言渡しが効力を有するものとする旨の規定を設けますと,猶予期間経過後の執行猶予取消しであっても,自由刑の執行が可能となることを十分に説明することができると思われます。   もっとも,大変細かい話で恐縮ですが,この機会に改めて考えますと,執行猶予を取り消すことが,どのような意味を有するのか,具体的に申しますと,執行猶予期間を経過し,言わば対象者がゴールに到達した後に,執行猶予の言渡し自体を取り消すことが観念できるかについては,若干の整理が必要かと存じます。   極めて技術的・観念的な議論になりますが,この機会に申し上げたいと存じます。   必ずしも従来の議論を正確に把握しておりませんが,刑の執行猶予は,一定の期間,自由刑の執行を先延ばしする制度でありますので,刑罰の執行方法に関するルールであり,言わば刑罰の付随的内容を構成するという理解があり得ます。   例えば,懲役2年執行猶予3年という刑罰は,懲役2年という刑本体と執行猶予3年という付随的内容が密接不可分に結合しており,懲役2年という刑罰本体が存続する限りにおいて,執行猶予3年という付随的内容も存続することになりますが,現行法の刑法第27条によって,執行猶予期間経過後,刑罰本体が効力を失うことから,付随的内容である執行猶予の言渡しについても同時に,言わば連帯して効力を失うと解されます。   このような理解からは,刑法第27条を改正し,猶予期間が経過した後でも,刑の言渡し,すなわち,刑の本体が効力を有する旨を規定すれば,刑罰本体が有効になることによって,執行猶予という付随的処分も有効になりますので,これを新たに取消しの対象とすることが観念できると思われます。   これに対して,執行猶予3年という言渡しは,飽くまでも刑罰の内容とは無関係な,刑の執行を一定期間先延ばしする別個独立の制度であるという理解もあり得るかもしれません。このような理解からは,猶予期間が経過した以上,これによって当然に,執行猶予の言渡しは失効するということになりそうです。   このような理解からは,執行猶予3年という処分が,3年間経過しますと,それ自体効力を失うことになりますので,その後は,懲役2年という刑本体のみがそのまま残り,3年後には,これを執行することができるように見えますが,現行法は刑法第27条によって,刑本体の効力を失わせることで,執行猶予期間後の刑の執行可能性を封じているという理解になろうかと存じます。   このような理解を徹底しますと,執行猶予期間経過後には執行猶予を更に取り消すことはできず,むしろ端的に,自由刑本体の執行可能性が失われない旨を規定することが適当ということになりそうです。   極めて観念的な議論であり,具体的な結論には余り影響がないことを長々と申し上げましたけれども,今後,法改正の具体的内容を検討する上では,このような点につきましても,一応考えておく必要があると思われましたので,この機会にあえて申し上げました。 ○佐伯部会長 次に,「8-1 保護観察における新たな処遇手法の開発,特別遵守事項の類型の追加等」から「8-4 更生保護事業の体系の見直し」までの制度・施策について,意見交換を行います。いずれの点からでも結構ですので,挙手の上,御発言をお願いいたします。 ○武委員 「8-1 保護観察における新たな処遇手法の開発,特別遵守事項の類型の追加等」と「8-2 犯罪被害者等の視点に立った保護観察処遇の充実等」に関連して,私たちの会の人たちの話をしたいと思います。   私たちの会の加害少年の年齢は,13歳から19歳までです。14歳以上の少年は,何らかの処分や刑罰を受けています。少年院や少年刑務所に行っており,それぞれのところで教育を受けているはずです。   でも,私たちの会の人たちが経験していることは,まず謝罪がないことなのです。そして,損害賠償請求の裁判を起こして勝訴しても支払われないという現状があるのです。それがとても大きな問題なんです。   それで,先ほど,刑の執行の初期段階において,犯罪被害者等から心情を聴取する制度ができるということは,とても有り難いので,是非それはしていただきたいのですが,それに加えて,保護観察になったときのことを言いたいと思います。   私たち犯罪被害者にとって,刑事手続で保護観察中が国と関わる最後の機会なのです。加害者と関われる最後の機会です。ここで,謝罪のことをきちんと指導してもらいたいのです。それから,損害賠償に向けた行動をしっかりと身に付けさせていただきたいです。   生活行動指針に設定するのでは足りないと思うのです。やはり特別遵守事項の中に,しっかりとそれを盛り込んでいただきたいのです。それは,いつも思うのですが,私たち遺族のためでもありますが,加害少年のためでもあると私は思うのです。   社会に出たときに,社会は厳しいです。その厳しさを,まずはそこで教えるべきなのです。自分の起こした事件に被害者がいるならば,その被害者から目を背けてはいけないわけです。目を背けることは,人として,してはいけないことなのです。社会に出たときに,まずそのことを教えているかどうかで周りとの関わり方に大きな差が出てくると思うので,特別遵守事項の中にしっかりと盛り込んでいただきたいです。   それは,何度も言いますが加害少年のためでもあるし,また,加害少年の周りには予備軍もたくさんいて,その姿を見ているのです。犯罪の抑止力になります。だから,是非そのことを考えていただきたいと思います。お願いします。              (大沢委員退出) ○池田幹事 ただいまの武委員の御意見に関連して申し上げます。   私自身も,加害者が損害賠償や謝罪に向き合うということが,被害者のためのみならず,加害者本人,あるいは,その周辺者にとっても非常に重要であるということについては,意見を同じくするところでございます。   他方で,これを特別遵守事項とすることについては,これまでも議論があったところでありまして,そちらを確認させていただきたいと思います。まず,損害賠償や謝罪に関しては,特別遵守事項とするためには法改正が必要であるとされておりますけれども,第三分科会の議論におきましては,損害賠償に関して,被害弁償それ自体を遵守事項として義務付けることが,対象者の置かれた環境,能力や保護観察期間等によっては,不可能を強いることにもなるおそれがある,あるいは,遵守事項違反時の不良措置を威嚇として用いて,本来は民事の手続で解決されるべき債務の履行を強制する面があるということから,適当ではないという御意見もあったところであります。   他方で,そうかといって,被害弁償に努めることという規定にいたしますと,努めたのかどうかということが不明確となってしまって,違反したかどうかが分かりにくくなるため,どの程度努力をすれば努めたことになるのかの判断も難しいですし,これを遵守事項として設定したときに,結果的に努めていないということで,執行猶予や仮釈放が取り消されて,施設に収容される可能性があるとすると,本人にも不利益になり過ぎるため,慎重にすべきではないかという御意見もあったものと承知しております。   また,謝罪についてですが,違反時に,同様に不良措置の対象とするという形で担保すると,謝罪の強制という側面が生じることになりますが,その内容によっては,意思決定の自由あるいは内心の自由の保障との関係で,適当かが問題となる面もあり得ようかと思います。   加えて,特別遵守事項を謝罪することとするか,あるいは謝罪に努めることとするか,いずれとするにしても,それらが謝罪を行う者の内面に関わるものでありますことから,何をもって謝罪したことになるのか,あるいは努めたことになるのかということを明確に判断するのは難しいという面がありまして,違反したかどうかが分かりにくく,そのことは,不良措置を実施するかどうかの判断に際しても,相当の困難をもたらすことにもなり得るものと考えます。   分科会も含めました当部会での議論では,遵守事項にはできなくとも,賠償を果たすことをきちんと認識してもらうということが重要だとすれば,実務において,生活行動指針として,具体的な賠償の状況や資力等を考慮した指導を徹底していくという方向で,ある程度意見がまとまっているものと認識しておりますので,被害者の方々へ,現実的に賠償や謝罪が徹底されるように,まずは運用を見直すということから始めるのが適当ではないかと考えております。   それでも不十分な点があるということでありましたら,改めて対応を検討するということといたしまして,そのことを当部会の意思として明記しておくということが考えられようかと思います。 ○太田委員 特別遵守事項をめぐるこれまでの議論については,今,池田幹事から,正に御説明を頂いたとおりだと思いますけれども,遵守事項に設定できるようにするかどうかということとは別に,実際に,被害者に対する損害回復の実効化というのは,非常に重要な命題でありますので,例えば,保護観察において,保護観察対象者の資産や収入の状況がきちんと捕捉されているかどうか,損害賠償についての指導や実際の支払状況が確認されているかどうかということについては,現在の実務を踏まえながら検討していくべきだと思います。例えば,現在の一般遵守事項の中にも,保護観察対象者の収入に関する報告義務というのが課されていますし,支出に関しても報告義務が課されておりますので,こういう規定を活用することによって,対象者がどういった収入を得ているのか,支出として被害者に対して損害賠償を行っているのかということを確認することもでき,僅かながらの効果かもしれませんが,保護観察期間中の損害回復の実効化に向けての力になるのではないかと考えております。そういうことも含めて,保護観察の実務における損害賠償の実効化ということについて,今後も検討していただければと思います。   また,特に重大事件の場合は,仮釈放後の保護観察ということになりますので,この期間が数か月しかないということでは,損害賠償の支払に向けた指導にしても何ともし難い面があろうかと思いますので,この問題も将来の課題として検討していただければと思っております。 ○田鎖幹事 「8-1 保護観察における新たな処遇手法の開発,特別遵守事項の類型の追加等」の「三 更生保護施設における宿泊の義務付け」について述べたいと思います。   これまでにも,この点について発言しておりますので,繰り返しになりますが,ごく簡単に述べさせていただきます。   これについては,運用の問題ということで,既に更生保護法第51条第2項第5号があり,この新たな運用として可能であるという御説明を受けてきているわけでございます。ただ,この第51条第2項第5号が他の号と異なるのは,居住移転の自由という重要な権利に直接的に関わる点であると考えます。   仮釈放の受刑者の場合には,刑の執行を受けているという地位にあるわけでございますが,保護観察付執行猶予者の場合は,まだ,飽くまでも執行猶予が取り消されない時点においては,自ら住居を定めて,それを保護観察所長に届出をし,その届出に係る住居に居住する必要があるものの,その限度で自由が制約されているという点で,やはり仮釈放者と質的な違いがあるであろうと考えます。   以前にも申し述べましたけれども,今回,分科会で示された検討課題等は省略されましたけれども,そこにもありましたように,3号観察と4号観察の場合では,宿泊の義務付けが想定される場面も異なるということでございましたので,どうしてもこの義務付けの対象を保護観察付執行猶予者にも拡大しなければならないということであれば,繰り返しですが,第51条第2項第5号の対象というのは仮釈放者にした上で,別規定をもって,保護観察付執行猶予者については,要件も異にして,この際,規定すべきと考えます。 ○山﨑委員 私も,「三 更生保護施設における宿泊の義務付け」について意見を述べます。   この点に関しましては,第18回会議において,20歳未満の若年者に関してはこの対象から除外すべきだと発言しましたが,その点を若干補足して考えを述べたいと思います。   まず,いわゆる1号観察,少年法に基づく保護観察処分の対象者について見ますと,その対象者は,飽くまで在宅の保護処分である保護観察処分を受けた者であって,仮に遵守事項の違反があった場合でも,保護観察所の長による警告,さらには,それに対して,更なる遵守事項違反といった少年法に定める要件を満たす場合に限って,施設送致申請がなされ,その上で,家庭裁判所の審判において,その必要があると認められた場合に限って,新たに施設収容処分が下されると,こういう可能性があるというにすぎません。保護観察の不良措置として,身体拘束処分が予定されているものではないということになります。   そして,実際に施設送致申請事件というのは,毎年大体数件程度と思われますので,遵守事項違反から施設収容に至るという事案は極めて例外的であるというのが,実務の現状だろうと思います。   こういった点からしますと,同じ保護観察の中でも,仮釈放の対象者とは,その置かれた法的地位が大きく異なるというのはもちろんのこと,執行猶予の取消しによって自由刑の執行も想定される保護観察付執行猶予者とも,その法的な地位は大きく異なるといえると思います。このような対象者について,仮釈放者などと同様に宿泊義務付けの対象とするというのは,やはり相当でないと考える次第です。   他方,少年院からの仮退院の対象者である,いわゆる2号観察の場合について考えてみましても,今,宿泊義務付けの必要性が検討されている刑務所からの仮釈放者などとは異なり,更生保護施設において宿泊の義務付けをした上で,いわゆる濃密な処遇を行う必要性のある者ということが,現実には,ほとんど想定し難いのではないかと考えています。また,仮退院者に関しては,不良措置として,いわゆる戻し収容の制度もございますので,それとの関係をどう考えるのかということも問題になってくるであろうと思います。さらに,更生保護施設の現状を前提とした場合には,成人の,例えば累犯受刑者などからの悪風感染といった弊害も,やはり懸念されるところではないかと思います。   以上から,20歳未満の者を中心とする2号観察の対象者についても,やはり宿泊義務付けの対象とするのは,相当ではないのではないかと考えています。   なお,仮釈放者の,いわゆる3号観察について考えますと,現実には20歳未満の者が仮釈放されるということは,ほとんど想定し難いと考えられますけれども,理論的には,先ほど2号観察の中で述べたようなことが同様に当てはまるという意味で,やはり宿泊義務付けの対象とすることには問題があると考えています。   以上のように考えまして,20歳未満の者については,この施策の対象からは除外すべきだと考えた次第ですが,更に言えば,そもそも更生保護法第51条第2項第5号の対象者から,少なくとも1号観察あるいは2号観察の対象者は除外するような法改正ということも必要ではないかと考えておりますので,そういった検討も必要ではないかと思います。 ○武委員 先ほどのことに戻るのですが,私たちが経験したことは,例えば少年審判,刑事裁判の中で,加害者は必ず一生償うと言います。本当に申し訳なかった,被害者に謝り続けると言います。必ずそういうことを言っているにもかかわらず,それは守られない現状があるのです。   一般の人たちにその現状を話したときに,謝らないのですか,賠償金を払わないのですかと,みんなびっくりします。当然,あるものだと思っているのです。でも,現状は,謝罪もない,賠償金も払わない,逃げ得になっているということがあるわけです。   私は,国の機関である裁判所で言った言葉を守らせないということは,国としてやってはいけないと思うのです。国が逃げ得をさせてはいけないと思います。だから,謝罪や損害賠償を特別遵守事項に入れていただきたいのです。   その特別遵守事項をどう守らせるかということには,教育が関わっていると思うので,少年院,少年刑務所等で細やかな教育,やはり被害者の視点を取り入れた,その加害少年に合った教育を行って,そして,保護観察になったときには,謝罪や損害賠償が特別遵守事項の中に入っているよと,守らなければこうなるよと教えることが,私は大事だと思うのです。加害者は,社会に出たときに,一般の人たちと一緒に人として生きていかなければいけないのです。その原点は,やはり悪いことをしたら謝る,約束事は守るということだと思います。裁判所で一生償うと言ったのであれば,やはり一生償い続ける行動を起こすということが,人として大事なことなのです。それをやはり考えていただきたいと思います。   裁判で加害者が言ったこと,少年審判で加害者が言ったことを,初めから被害者は信じていないわけではないのです。信じたいのです。けれども,現状は,裏切られるのです。では,被害者は何を信じて生きていったらいいのでしょうか。絶望の中で生きていくわけです。   私は,もう少し,被害者が生きていきやすいようになってほしいと願っています。考えてください。お願いします。 ○太田委員 先ほど,田鎖幹事と山﨑委員から「更生保護施設における宿泊の義務付け」について発言があり,以前にも同様の意見が示されたときも発言いたしましたけれども,改めて,そのことについて発言したいと思います。   更生保護法におきましては,保護観察対象者の類型に応じて,個別に適用される各則といった規定も設けられているにもかかわらず,宿泊を伴う指導監督を含む特別遵守事項の規定につきましては,全ての類型の保護観察対象者に適用される保護観察の通則に置かれているわけであります。すなわち,宿泊を伴う指導監督については,更生保護法の立法時の制度設計としましては,保護観察対象者全般に適用があるということを意味しております。   それはなぜかといいますと,刑事施設から仮釈放された者であろうが,全部執行猶予の判決を受けた者であろうが,はたまた,その他の保護観察対象者であろうが,不健全な環境でありますとか,不安定な生活を予防ないしは遮断をした上で,濃密な指導監督を行う必要がある者がいるからでありまして,それ故に特に保護観察対象者の類型で区別せずに設けられたというのが,正に立法趣旨であろうかと思います。   保護観察付き全部執行猶予についてですけれども,これは身柄の拘束を受けるものではありませんけれども,懲役又は禁錮の言渡しを受けているのでありまして,保護観察による指導監督と補導援護を受けながら,特別遵守事項を守ることを条件として,社会の中での更生を許されたものであります。したがいまして,社会の中で自由に生活をしていてよい,好き勝手に生活してよいというわけではないと思います。   そもそも,どの保護観察対象者でも,定住が義務付けられて,転居をする際には許可が必要とされているのでありますし,それは保護観察付全部執行猶予対象者でも全く同様であります。特に不健全な環境から遮断する必要があったり,不安定な生活を予防したりする必要がある場合には,当初から,あるいは途中から,更生保護施設に宿泊した上で指導監督を受けることを遵守事項とすることが必要かつ相当であるという場合があろうかと思います。   以上のことから,更生保護法第51条第2項第5号の特別遵守事項を仮釈放者に限定したり,それから,個々の類型ごとに,別異の要件を設ける必要はないと考えます。   また,これも以前にも申し上げましたけれども,更生保護施設に宿泊をして指導監督を受ける場合でありましても,保護観察対象者は施設外で就労したり,余暇時間には社会内で過ごしたりしているわけでございまして,いわゆる社会生活を送っているということは正しく認識する必要があります。   ただ,先ほど山﨑委員から最後にお話が出ました,現行法における少年に対する更生保護施設での処遇の在り方ということは,やはり今後,実務において検討していくべきだろうと考えます。   加えて,保護観察に一番関わりの深いここで申し上げたいことが1点ございます。   それは,満期釈放者の問題でございまして,これは今回,部会の検討事項ではございませんけれども,満期釈放者の再犯率というのは非常に高くなっておりますし,また,仮釈放者におきましても,保護観察期間が満了した後の間もない間に再犯を犯して,再び事件になるといった者が相当数おります。   そのために,この部会におきましても,これまで社会内処遇に必要な期間を確保するという制度の必要性を述べてきたわけであります。この点に関して以前,大沢委員から,18歳・19歳の者に限らず,満期釈放者全般からの相談に保護観察官が応じるようなことができないかという発言があったかと思います。   現在でも,保護観察期間を経過した者が,かつて保護観察を担当していた保護司などに対して,社会内で生活を営む上での相談を求める場合が,かなりあると承知しております。   社会内において息の長い処遇を実施するという点で,十分でないにしても,当面は保護観察の終了者であると思いますが,満期釈放者からの求めがあった場合に,保護観察官の専門性をいかして,保護観察所がこれに応じて相談に乗ったり,適切な支援団体による支援につなげたりするということができるような仕組みが有益ではないかと思っておりますので,御検討いただければと思っております。 ○山﨑委員 「8-3 保護観察における少年鑑別所の調査機能の活用」について意見を述べます。   この点についても,少年法の適用年齢引下げの是非の問題とは切り離した上で意見を述べます。   従前も,仮釈放者や保護観察付執行猶予者について,鑑別のために特に必要があると認めて,その者を少年鑑別所に収容するということを考えた場合には,観護措置で収容されている少年たちに悪影響を与えないように,対象者の範囲をどうするか,あるいは,仮に少年鑑別所に収容する場合には,居室の分離等に関して十分な検討が必要ではないかという点を申し上げました。   この点を改めて考えますと,言うまでもなく,少年鑑別所に収容されている少年たちというのは,年齢的に20歳未満の非常に未成熟な者たちでありますし,基本的には,審判を受ける前の,いわゆる未決の状態にある者ということになります。このように,未成熟な年齢で,かつ,未決の状態にある者につきましては,その情操の保護及び心情の安定といったことに,十分な配慮が必要になるということだろうと思います。   これに対して,刑事裁判で有罪判決を受けて,いわゆる既決の立場にあって,中には受刑を繰り返しているような者も含まれる,少年とは年齢層も離れた成人と,仮に同じ施設に収容するということになれば,やはり問題は大きいと思われます。   したがって,このような調査機能の活用,収容も含めた鑑別ということを考えるのであれば,少年鑑別所に収容することができる対象者については,その範囲を限定して明示をするですとか,収容中の少年たちとの分離を徹底する旨の規定を設ける,あるいは施設整備面でしっかりとした対策を講じるということが,少なくとも求められるであろうと考えます。 ○田鎖幹事 「8-3 保護観察における少年鑑別所の調査機能の活用」の「二」の保護観察の処遇を見直す場合の鑑別について意見を述べます。   これも以前の意見と繰り返しになりますが,やはり仮釈放者と保護観察付執行猶予者では,置かれた立場が違うということ,かつ,一つの規定に当初から規定してしまいますと,運用において差別化していくということが現にあったとしても,難点が生じないともいえないことから,やはりこれは,きちんと最初から,対象者ごとに書きぶりを分けるということについて,改めて意見として述べたいと思います。 ○佐伯部会長 次に,「9 若年者に対する新たな処分」及び「10 起訴猶予となる者等に対する就労支援・生活環境調整の規定等の整備」の制度について,意見交換を行いたいと思います。御意見がある方は,挙手をお願いいたします。 ○山下幹事 「9 若年者に対する新たな処分」についてですが,本日,総論的な議論のところで,川出委員から,「別案」を採用する場合には,この「若年者に対する新たな処分」に関する位置付けといいますか,法的性格が変わるというお話がございました。   確かに,これまで,この「若年者に対する新たな処分」というのは,18歳・19歳が成人になったことを前提に,刑事処分にならなかった対象者について,改善更生とか再犯防止のために新たな処分を課すという制度設計であったのが,今回は,前回,前々回の議論にもありましたが,18歳・19歳というのは未成熟で可塑性があるということで,20歳以上の成人とは区別して,先ほど中間層という言葉がありましたけれども,そのような者に対する新たな処分ということで考えるので,従来とは法的性格が変わるということでございます。それは正に,そのとおりだと思います。   そうなりますと,これまで「考えられる制度の概要」ということで,何度も議論をしてきたところではありますけれども,その性格が変わることによって,当然その内容についても変わらざるを得ないと思います。   取り分け,調査とか鑑別とか,その辺りの論点についても,当然変わらざるを得ないと思うのですけれども,それについて,まずは「別案」である甲案と乙案というものが今日示されたのですが,この甲案,乙案というのは,一つのモデルといいますか,両方の極端なモデルを示していると思うので,中間層である18歳・19歳について,個別の問題ごとに,成人に近いものと考えるのか,少年に近いものと考えるのかをそれを決めた上で,改めて検討する必要があると考えます。 ○池田幹事 私も,「若年者に対する新たな処分」に関して意見を申し上げたいと思います。   「別案」が今,示されているところですけれども,これまでの会議でも,橋爪委員から御指摘があったとおり,対象者の再犯防止や改善更生を図るという処分の目的には変更はないということに鑑みますと,基本的には,これまでの「若年者に対する新たな処分」についての意見,議論をいかしながら,対象事件や対象者を拡大することに伴って,異なる考え方をとるべき点はどこかという観点から,検討を加えることが効率的であろうと思います。   このような観点から,「検討のための素案〔改訂版〕」12ページ以下の,これまでの制度概要案において記載されている幾つかの項目について検討いたしますと,まず,「二 手続」の「2 鑑別」についてですけれども,鑑別のために特に必要があると認めるときに限り,10日間,少年鑑別所に収容する措置をとることができるものとされておりますし,また,同じ項目の「4 罪証隠滅又は逃亡の防止を目的とした身体拘束の措置」については,そのような措置はとることができないものとするA案ととることができるものとするB案とが併記されて,B案においても,更新が1回に限られるという点で,少年法の観護措置よりも制限的な仕組みとされております。   これは元々,「若年者に対する新たな処分」の対象者が比較的軽微な罪を犯した者であることから,過剰な手続負担を課すことは適当ではない,あるいは,類型的に罪証隠滅又は逃亡のおそれが低いと考えられるといった御意見があったことによるものと理解しております。   しかし,「別案」におきましては,処分の対象事件や対象者が拡大されることになりますので,類型的に行為責任が重い者も対象者に含まれるということが想定され,手続的負担に配慮すべき要請,あるいは罪証隠滅,逃亡のおそれも異なってくると考えられることからしますと,従来の制度概要案に記載された措置にとどまらず,少年法の定める観護措置と同様の身体拘束にまで及び得る措置を設けるということが,むしろ適当ではないかと考えられます。   次に,「6 検察官・弁護士の関与」についてですけれども,ここでは,「(一)」の付添人となる者の資格について,これを弁護士に限るA案と,弁護士に限らず,少年法と同様の仕組みとするB案とが併記されております。この点については,「若年者に対する新たな処分」の対象事件,対象者の拡大に伴って,直ちにいずれかに結論が定まるというものではないと考えられますので,更に検討が必要な点であろうと思います。   また,「(二)」の検察官関与の制度と「(三)」の裁量的な国選付添人の制度についても,それぞれ少年法の仕組みと同様とするA案と制度を設けないB案とが併記されております。   それぞれについてですが,検察官関与の制度は,家庭裁判所の審判における事実認定手続の一層の適正化を図るという観点から設けられた制度でありまして,「別案」においても,事実認定手続の適正化を図るという観点から,検察官関与の制度の当否を検討すべきであろうと考えます。   そうしますと,別案において,その観点からは,採用しないこととする理由はないと思われまして,少年法と同様の検察官関与の制度を設けることとするA案を採用するのが適切であろうと考えられます。   他方で,これまで新たな処分について,起訴猶予者を対象として検討してきたところ,検察官関与制度は現状,対象となる犯罪が死刑又は無期若しくは懲役3年を超える懲役若しくは禁錮に当たる罪に限られており,「若年者に対する新たな処分」の対象となる事件の中に,検察官関与制度の対象となる事件が少ないという御意見もあったところですけれども,そのような考え方を前提としても,これまでより対象事件,対象者が拡大する「別案」においては,その前提が異なることになりますので,A案を採用するのが適切であると考えることになろうと思われます。   他方で,裁量的な国選付添人の制度は,死刑又は無期若しくは懲役3年を超える懲役若しくは禁錮に当たる罪の事件であって,観護措置という身体拘束がされたことを前提とされているものであります。   これまで検討されてきた「若年者に対する新たな処分」は,起訴猶予者が対象で,身体拘束の措置も限られたものでありましたので,対象となる事件が少ないと考える余地もありましたが,これまでより対象事件や対象者を拡大する「別案」においては,先ほども述べましたように,少年法の観護措置にも匹敵する身体拘束の措置を設けることが適当であるとすると,死刑又は無期若しくは長期3年を超える懲役若しくは禁錮に当たる罪の事件において,少年法の観護措置と同程度の期間,身体拘束がされる対象が出てくることになりますので,弁護士である付添人の援助を受けることが相当と考えられる対象者が生じることになると思われます。そうしますと,「別案」においては,少年法と同様の裁量的な国選付添人の制度を設けることが適当であろうと考えられます。   さらに,「四 犯罪被害者等の権利利益の保護のための制度」の「5 被害者等による審判の傍聴」に関しましては,少年法の仕組みと同様のものを設けるA案と設けないB案とが併記されておりますけれども,これも従前の「若年者に対する新たな処分」が起訴猶予者のみを対象とするもので,少年法の被害者等による審判傍聴の対象となる事件が限定されていることとの関係で,両論併記とされているものと理解されます。   しかし,「別案」の甲案におきまして,被害者等による審判傍聴の対象となる被害者を死亡させ又は重傷害を負わせた事件が,直接起訴対象事件として家庭裁判所に送致されないこととなる場合は別といたしまして,「別案」においては,対象事件,対象者が拡大しますので,家庭裁判所において,被害者等による審判傍聴の対象となる事件も相当程度取り扱われることになると考えられますから,少年法と同様の仕組みを設けることとするA案を採用するという意見が適切だということになろうと考えます。 ○佐伯部会長 本日のところは,このぐらいでよろしいでしょうか。   それでは,本日の審議はここまでとさせていただきます。今後の具体的な議事につきましては,本日の議論状況も踏まえて,私の方で早急に検討し,日程も含めて,事務当局を通じて,皆様にお知らせするということにさせていただきたいと思いますが,それでよろしいでしょうか。              (一同異議なし)   引き続き,よろしくお願いいたします。   なお,本日の会議の議事につきましては,特に公表に適さない内容に当たるものはなかったと思われますので,発言者名を明らかにした議事録を作成し,公表することとさせていただきたいと思いますが,よろしいでしょうか。              (一同異議なし)   議事録の取扱いにつきましては,そのようにさせていただきます。   それでは,本日の会議はこれで終了といたします。   どうもありがとうございました。 -了- - 1 -