法制審議会 第185回会議 議事録 第1 日 時  令和2年1月15日(水)   自 午後5時03分                        至 午後5時40分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律の一部改正に関する諮問について 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○丸山司法法制課長 ただいまから法制審議会第185回会議を開催いたします。   本日は,委員20名のうち16名に御出席いただいておりますので,法制審議会令第7条に定められた定足数を満たしていることを御報告申し上げます。   初めに,法務大臣挨拶がございます。 ○森法務大臣 法制審議会第185回会議の開催に当たり,一言御挨拶を申し上げます。   委員及び幹事の皆様方におかれましては,御多用中のところ,本日御参加いただきまして,ありがとうございます。また,日頃,法制審議会の運営に関して御協力を頂きまして,ありがとうございます。   さて,本日御審議をお願いする議題は,「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律の一部改正に関する諮問」についてでございます。   いわゆる「あおり運転」は,悪質・危険な運転行為であり,こうした運転行為による悲惨な死傷事犯等が少なからず発生しております。また,近時,「あおり運転」の厳罰化を求める国民の声も高まっているところでございます。   そこで,事案の実態に即した対処をするため,自動車運転による死傷事犯の罰則整備について御検討をお願いするものでございます。   この諮問については,速やかに審議に着手していただきたいということで,本日臨時の会議を開かせていただきました。本当にお忙しいところ,お集まりいただき,御苦労様でございますが,国民の皆様のために,本日,是非,御審議,御議論を尽くしていただきますようにお願いいたします。どうぞよろしくお願いいたします。 ○丸山司法法制課長 法務大臣は公務のため,ここで退席させていただきます。           (法務大臣退室) ○森法務大臣 それでは,失礼します。よろしくお願いいたします。 ○丸山司法法制課長 ここで報道関係者が退室しますので,しばらくお待ちください。           (報道関係者退室) ○丸山司法法制課長 では,岩原会長,お願いいたします。 ○岩原会長 岩原でございます。本日は,どうぞよろしくお願い申し上げます。   まず,前回以降,本日までの間に,新たに就任された委員の御紹介をさせていただきます。   東京高等裁判所長官の今崎幸彦氏が委員に御就任になりました。 ○今崎委員 今崎でございます。どうぞよろしくお願いいたします。 ○岩原会長 それでは,本日の審議に入りたいと思います。   先ほどの法務大臣の御挨拶にもございましたように,本日の議題であります自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律の一部改正に関する諮問について,御審議をお願いしたいと存じます。   初めに,事務当局に諮問事項の朗読をお願いいたします。 ○鈴木刑事法制企画官 刑事局刑事法制企画官の鈴木でございます。   諮問事項を朗読させていただきます。   諮問第109号   自動車運転による死傷事犯の実情等に鑑み,事案の実態に即した対処をするため,早急に,罰則を整備する必要があると思われるので,別紙要綱(骨子)について御意見を賜りたい。   別紙,要綱(骨子)   次に掲げる行為を行い,よって,人を負傷させた者は15年以下の懲役に処し,人を死亡させた者は1年以上の有期懲役に処するものとすること。   一,車の通行を妨害する目的で,走行中の車(重大な交通の危険が生じることとなる速度で走行中のものに限る。)の前方で停止し,その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転する行為   二,高速自動車国道又は自動車専用道路において,自動車の通行を妨害する目的で,走行中の自動車の前方で停止し,その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転することにより,走行中の自動車に停止又は徐行をさせる行為   以上でございます。 ○岩原会長 続きまして,この諮問の内容,諮問に至る経緯及びその理由につきまして,事務当局から説明をお願いいたします。 ○川原幹事 諮問第109号につきまして,諮問に至りました経緯及び諮問の趣旨等について御説明申し上げます。   いわゆる「あおり運転」は,悪質・危険な運転行為であるところ,こうした運転行為による死傷事犯等が少なからず発生しており,この種事犯に対して厳正な対処を求める国民の皆様の声も高まっています。   この種事犯に対しては,自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律第2条第4号の危険運転致死傷罪が適用されることがありますが,同号に掲げる行為は,「人又は車の通行を妨害する目的で,走行中の自動車の直前に進入し,その他通行中の人又は車に著しく接近し,かつ,重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為」と規定されており,加害者車両が「重大な交通の危険を生じさせる速度」で走行して「著しく接近」することが要件とされているため,例えば,通行妨害目的で,走行中の被害者車両の前方に進入して自車を停止し,被害者車両が追突するなどして人が死傷したとしても,「著しく接近」したときの自車の速度が「重大な交通の危険を生じさせる速度」との要件を満たすことがなければ,同号に掲げる行為には該当しないこととなります。   しかしながら,こうした行為は,被害者車両の走行速度や周囲の交通状況等によっては,重大な死傷事故につながる危険性が類型的に高く,現行の危険運転致死傷罪に規定されている行為と同等の当罰性を有するものと考えられます。   そこで,自動車運転による死傷事犯の実情等に鑑み,事案の実態に即した対処をするため,早急に,罰則を整備する必要があると考え,今回の諮問に至ったものであります。   次に,諮問の趣旨等について御説明申し上げます。   今回の諮問に際しましては,事務当局において検討した案を要綱(骨子)としてお示ししてありますので,この案を基に,具体的な御検討をお願いいたします。   まず,要綱(骨子)の一について御説明申し上げます。   これは,「車の通行を妨害する目的で,走行中の車(重大な交通の危険が生じることとなる速度で走行中のものに限る。)の前方で停止し,その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転する行為」を行い,よって,人を負傷させた者は15年以下の懲役に処し,人を死亡させた者は1年以上の有期懲役に処することとするものです。   すなわち,先ほど申し上げたとおり,現行の危険運転致死傷罪においては,加害者車両が「著しく接近」したときに「重大な交通の危険を生じさせる速度」で走行していることが要件とされているのに対し,要綱(骨子)の一は,加害者車両が「重大な交通の危険を生じさせる速度」で走行していない場合であっても,被害者車両が「重大な交通の危険が生じることとなる速度」で走行しているときは,通行妨害目的で,その前方で停止するなど両車両が著しく接近することとなる方法で自動車を運転すれば,被害者車両が追突するなどして死傷の結果が発生する危険性が類型的に高いことから,こうした行為を実行行為として捉え,よって人を死傷させた場合には,危険運転致死傷罪の対象としようとするものです。   次に,要綱(骨子)の二について御説明申し上げます。   これは,「高速自動車国道又は自動車専用道路において,自動車の通行を妨害する目的で,走行中の自動車の前方で停止し,その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転することにより,走行中の自動車に停止又は徐行させる行為」を行い,よって人を負傷させた者は15年以下の懲役に処し,人を死亡させた者は1年以上の有期懲役に処することとするものです。   すなわち,高速自動車国道や自動車専用道路において,加害者車両が,通行妨害目的で,走行中の被害者車両の前方で停止するなど被害者車両に著しく接近することとなる方法で自動車を運転し,被害者車両を停止又は徐行させた場合には,そのような道路を走行中の他の運転者としては,そのような事態を想定して回避措置をとることが通常困難であるため,後続の車両が追突するなどして死傷の結果が発生する危険性が類型的に高いことから,こうした行為を実行行為として捉え,よって人を死傷させた場合も,危険運転致死傷罪の対象としようとするものです。   諮問に係る要綱(骨子)の概要は,以上のとおりです。十分御審議の上,できる限り速やかに御意見を賜りますよう,お願いいたします。   以上でございます。 ○岩原会長 どうもありがとうございました。   それでは,ただいま御説明のございました諮問第109号につきまして,まず,御質問がございましたら承りたいと存じます。いかがでしょうか。 ○岩間委員 ありがとうございます。   諮問の趣旨に関しては,特に疑問はないんですが,そもそもこの法律の成り立ちについて,よく分からないところがあるので,お尋ねします。この危険運転致死傷罪というのが,特にアルコールの関係で出てきたことは記憶しているんですが,まず,なぜこれが,今までの道路交通法でなくて,別立てになっているのか。一般の人にとっては,やはり法律がなるべく分かりやすいように作ってある方が良いと思いますので,これが別立てになっている理由がを教えてください。   あとは,そもそもの第2条の第4号,第5号,第6号に,全て「重大な交通の危険を生じさせる速度」という要件が入っているんですけれども,これも,特に何キロ以上とか,そういう決まりがあるわけではないと思いますので,重大な危険を生じさせる速度という要件が入った理由について,教えていただければと思います。   あと一つは,実際この危険運転致死傷罪,既に運用されていると思うんですけれども,現実の判決では,どれくらいの量刑が下されているのか。もし分かりましたら,教えていただけますでしょうか。 ○保坂関係官 まず,この法律の成り立ちという1点目の御質問でございます。   元々,自動車による死傷事犯といいますのは,いわゆる過失犯ということで,刑法に業務上過失致死傷罪という形で規定がございました。   その後,自動車による死傷事犯に対して,厳正な対処を求めるという声もありましたし,過失でとどまらないような,言わば故意の危険な運転行為によって人を死傷させる,先ほど言及がございました,例えば飲酒運転によって,言わば酩酊運転によって人を死傷させるという事犯もございまして,そういった故意の危険な運転行為によって人を死傷させる行為について,これをいわゆる過失犯,業務上過失致死傷罪とは別の類型として,故意による暴行,その結果的加重犯と同様の,それに準ずるような類型として,法定刑を重く設けて,危険運転致死傷罪として処罰対象にしました。   その後,幾つか改正はございましたけれども,自動車の運転による死傷事犯の処罰規定については,そのための一つの法律とする方が理解もしやすいだろうということで,平成25年の改正をもちまして,刑法から独立をさせて,元々刑法にあった処罰規定を移しつつ,処罰規定を追加するという形で改正を行いました。   したがいまして,現状におきましては,刑法にあった危険運転致死傷罪や通常の自動車運転過失致死傷罪が,先ほど来出ております自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律の中に規定されております。   この法律は,人が死傷した場合に,それに対してどういう処罰をするという法律でございまして,いわゆる交通違反といいますのは,道路交通法上のルールであり,それに対する罰則というのは,道路交通法において定められております。  法律のすみ分けというか立て付けにつきましては,今申し上げたようなところでございます。   それから,2点目の「重大な交通の危険を生じさせる速度」という要件についてでございます。ちょっと違う書き方ですけれども,今回の諮問の要綱(骨子)の一にも,「重大な交通の危険が生じることとなる速度」という要件がございますし,先ほど言及がございました,後ほどまた配布資料の説明はさせていただきますけれども,配布資料の刑2というところに参照条文がございます。参照条文に,現行法の危険運転致死傷罪の条文を掲げておりますけれども,この中で,例えば現行法の第4号,あるいは現行法の第5号,第6号に,「重大な交通の危険を生じさせる速度」という要件がございます。   これは,先ほど岩間委員もおっしゃったように,具体的に何キロというものではなく,そのような速度で走っていると,一般的に重大な死傷事犯に至るような速度,あるいは相手方車両が回避することが通常困難であると認められる速度と,言わば評価的に判断されるわけでございますが,先ほど申し上げた赤色信号の殊更無視の第5号につきまして,最高裁の判例がございます。これも事例判断ではあるかと思われますけれども,時速約20キロメートルであっても,この速度に該当するといった判断を示したものがございます。   この速度の要件が設けられている趣旨ですが,例えば,今回の諮問の要綱(骨子)と同様に通行妨害目的が要件とされている,現行法の第4号について申し上げますと,例えば渋滞中に,直前に割り込んでいくということもあるわけでございます。ただ,渋滞中の場合には,速度というのは全体的に遅いわけでございますので,その場合に,重大な死傷事犯に至る類型的危険性が低いであろう考えられます。そこで,重大な交通の危険を生じさせる速度で走行しているときに,相手方車両の直前に進入して,接近すると重大な死傷事犯に至る類型的危険性が高いであろうということで,,処罰範囲をより危険な行為に限定するために,そのような要件が設けられたものと承知しております。   それから,最後に,この危険運転致死傷罪の対象になった場合の量刑ということでございますが,配布資料の説明の中に,現行法の適用の量刑の資料がございますので,それを後ほど説明させていただきながら,参照いただければと存じます。 ○岩原会長 岩間委員,よろしいでしょうか。   それでは,配布資料につきまして,事務当局から説明をお願いしたいと思います。 ○鈴木刑事法制企画官 配布資料の御説明をいたします。   まず,番号刑1は,先ほど朗読いたしました諮問第109号です。   番号刑2は,本諮問に関連する参照条文です。   番号刑3は,基礎的な統計資料です。そのうち,第1表は,交通事件の検察庁終局処理人員の処理区分別構成比です。第2表は,危険運転致死傷による公判請求人員の態様別構成比です。第3表は,危険運転致死傷(妨害運転)による公判請求人員です。第4表は,危険運転致死傷罪の科刑状況です。   番号刑4は,近年のいわゆる「あおり運転」の警察における取締りの状況です。そのうち,第1は,近年のいわゆる「あおり運転」の警察における取締りの状況をまとめたものです。 なお,「1」は,全てがいわゆる「あおり運転」によるものというわけではなく,車間距離保持義務違反等の取締り件数を示したものです。   第2は,平成30年1月16日付け警察庁交通局交通指導課長等通達「いわゆる「あおり運転」等の悪質・危険な運転に対する厳正な対処について」であり,あおり運転等の悪質・危険な行為を原因とする悲惨な交通死亡事故が発生したほか,同種の悪質・危険な運転に対する厳正な対処を望む国民の声が高まっていることを受けて,悪質・危険な運転に対する厳正な捜査の徹底等を求める内容となっています。   番号刑5は,地方議会から法務大臣に提出された要望書等の要旨です。   番号刑6は,本諮問に関する主要国の法制です。   配布資料の御説明は,以上です。 ○岩原会長 どうもありがとうございました。   それでは,諮問第109号につきまして,ほかに御質問はございますでしょうか。御質問はございませんか。   それでは,続いて,御意見がございましたら承りたいと存じます。いかがでしょうか。 ○橋本委員 ありがとうございます。   この度の諮問は,社会的に問題になっているあおり運転のうちで,現行法の危険運転致死傷罪では捕捉できない一定の態様のものについて,構成要件を追加したいというものだと理解を致しました。   そこで,要望がございます。申し上げるまでもないことではございますが,危険運転致死傷罪は,重大な結果を招来する,特に悪質危険な運転行為に対して,厳しい罰則で対処するというものでございますので,できる限り,その適用範囲が明確になっていることが強く求められると思います。   その意味で,構成要件が過不足なく規定されているかどうかがポイントとなると思われますが,どうしても条文の文言は抽象的で,定型的な表現になります。例えば,今回の要綱の文言がそのまま構成要件になるかどうかはともかくとして,その第一号,第二号を見ますと,これが今御説明を頂きました典型的な行為態様を想定して規定されたという点はよく理解できるのですが,果たしてその外縁がどこまで及ぶものなのか。   特に一号について,どうなのかなという感じがしないでもありません。また,現行法の第2条第4号と諮問の第一号,第二号との三者の関係がどういうものとして整理されるのかなどについては,具体的な事案を想定しながら,それに即した検討を行って,事前に明確化をするということが求められているのではないかと思いました。   短い期間で検討することが予定されているということではございますが,後で議題として出てくると思いますが,部会においては,その点を是非しっかり深掘りをしていただいて,答申を頂くことをお願いしたいと思います。 ○岩原会長 ほかに御質問,御意見ございませんでしょうか。 ○内田委員 本来,質問としてお尋ねすべきことだと思いますが,要綱(骨子)の一で,先ほど話題になった重大な交通の危険が生ずることとなる速度の話なのですが,要綱の一でいう重大な交通の危険が生じることとなる速度というのは,これは被害車両について言っておられるのだと思います。   現行法の第2条第4号の重大な交通の危険を生じさせる速度,これは加害車両のことだと思うのですが,渋滞していない高速道路で,流れている高速道路の追い越し車線で,非常に低速で走るということは,重大な交通の危険を生じさせる速度には当たらないのでしょうか。   何か先ほど判例で,時速20キロでもこの速度に該当するという事例があったということですので,必ずしも高速でなければいけないわけではないと理解したのですが,この概念の今までの読み方と,そして,なぜ今回改正が必要とされたのかの理由について,少し補足していただければと思います。 ○保坂関係官 「重大な交通の危険が生じることとなる」という,この要綱(骨子)の一に書かれている,この速度の限定要件というのは,おっしゃるとおり,妨害する側ではなくて,妨害される側の速度が,「重大な交通の危険が生じることとなる速度」ということでございます。   この速度要件は,加害者車両の速度は重大な交通の危険を生じさせる速度に至っていない場合であっても,言わば妨害される被害者側の車両が,それと同じような速度に至っている場合には,追突した場合の危険性,あるいは回避が困難であるという点では現行法の第4号と同じであろうということで,要件として設けたものでございます。   したがいまして,場所が,例えば高速道路でございましても,被害者車両,すなわち,妨害される側の車両が,「重大な交通の危険が生じることとなる速度」で走行している場合に,加害者車両,すなわち,妨害する側の車両が,重大な交通の危険を生じさせる速度に至らない場合,例えば,もっと遅い速度で走っているような場合に,妨害する側の車両が妨害される側の車両の前方で停止した場合には,要綱(骨子)の一の行為の対象になってくると考えております。 ○岩原会長 内田委員,よろしいですか。 ○内田委員 それはそうだと思うのですが,しかし現行法上も,重大な交通の危険を生じさせる速度が,必ずしも高速であるということを意味しないのであるとすると,流れている高速道路で超低速で走ることも,やはり重大な交通の危険を生じさせる速度に当たるのではないか,そういう読み方はできないのかということです。   そう読めると,現行法の第4号でカバーできそうにも思えるものですから。ただ,民事法的にはそういう柔軟な解釈もあり得るかもしれないけれども,刑事法的にはそんなことはしないんだということであれば理解できますけれども,重大な交通の危険という,かなり抽象的な表現なものですから,みんなが高速で走っているところに超低速で入っていくということ自体が,重大な交通の危険を生じさせる速度といえないのかどうかについて,教えていただければと思います。 ○保坂関係官 今言及がございました現行法の第4号といいますのは,飽くまで妨害する側の加害者側が重大な交通の危険を生じさせる速度という要件,これは先ほどおっしゃったように,いわゆる超高速というものでなくても,それ相応の速度であれば満たすという場合は,当然あろうかと思います。   他方で,今回の要綱(骨子)の一については,自車の速度,要するに加害者側,妨害する側の速度がそれを満たさない場合というのがございます。例えば,今,超低速とおっしゃいましたけれども,妨害する側が,割と速く走っている車の前で急に止まるというような場合には,自車の速度,接近時点での加害者側,あるいは妨害する側の速度としては,重大な交通の危険を生じさせる速度という要件を満たさないが,被害者車両が後ろから来て,著しく接近するということになるわけですが,その時点の被害者車両の速度というのは,重大な交通の危険を生じさせる速度という要件を満たしている。そこをこの要綱(骨子)の一で捕捉しようと,こういう趣旨でございます。 ○岩原会長 内田委員,よろしいですか。 ○内田委員 それは理解できるのですが,現行法の第4号の解釈で対応できない理由をお尋ねしたかったということなのです。結局,重大な交通の危険を生じさせる速度というのは,やはり,ある程度速いということが飽くまで前提であるというふうに理解してよろしいのでしょうか。 ○保坂関係官 速度の要件,どちらがその要件を満たさなければならないかというところで切り分けているということでございまして,加害者車両が「重大な交通の危険を生じさせる速度」という要件を満たすのであれば,現行法の第4号で対応できますが,加害者車両が必ずしもその要件を満たさない,けれども,被害者車両が重大な交通の危険が生じることとなる速度で走行している場合,被害者車両はスピードは速いけれども,加害者車両のスピードがとても遅いという場合には,平たく申し上げますと,現行法の第4号では,必ずしも実行行為としては捕捉できていないということがございますので,自車の速度はスピードは遅いけれども,相手方,被害者側の速度が速いという場合を,この要綱(骨子)の一で切り取ろうということでございます。したがって,現行法の第4号を満たさない場合も,要綱(骨子)の第一号で捕捉していこうという,そういう関係で考えております。 ○内田委員 私の質問の仕方が悪くて,十分趣旨がお伝えできなくて申し訳ないのですが,非常に遅いスピードも,重大な交通の危険を生じさせる速度に当たる場合があるとはいえないのかという質問です。 ○早川委員 同じ趣旨の御質問なのですけれども,要するに,速ければ安全だけれども,遅いとかえって危険だという場合があるとすれば,それはこれに当たるのではないかということを伺いたいと思います。遅い方がむしろ危ないという場合はないかということです。 ○内田委員 みんなが速く走っているところに,非常に遅いスピードで入ること自体が,非常に危険な行為なので,遅いことが重大な危険を生じさせるという場合があるのではないかということです。 ○保坂関係官 御質問の趣旨を理解いたしました。   この速度要件というのは,運転する速度を問題にしておりますので,例えば,ちょっとでも動いていれば,速度はゼロではないわけですけれども,少なくとも停止をするという行為は,速度はゼロでございますので,この速度を「重大な交通の危険を生じさせる速度」といえるのかどうかということになりますと,なかなかこれは難しかろう,少なくとも疑義が残ると思います。   今まで考えられてきた加害者車両の「重大な交通の危険を生じさせる速度」というのが,第5号の類型でございますが,時速約20キロという判例がありますので,現行法における解釈として,自分の速度が速いから危険だという考え方に立つ,すなわち,自分の速度が遅いけれども,危険を生じるという考え方を採らないとしても対応できるように,この要綱を提案させていただいているということでございます。 ○岩間委員 私も今のところが,すごく分かりにくいと感じるんですけれども,要綱(骨子)の一は一般道というふうに理解していますので,そうすると,20キロって,車にしたらとても遅いですけれども,歩行者にとっては十分,けがや,いろいろなことが起こり得る速度ですので,特にこの括弧書き,すなわち「(重大な交通の危険が生じることとなる速度で走行中のものに限る。)」という部分がなくても,「走行中の車の前方で停止し」のみで全然問題ないのではないかという気がするのですが,既に条文の方にこの表現があって,更に,今度は被害者側の要件として入ってきているので,この辺りちょっと,普通の人が読むと,とても混乱を感じる表現なのではないかという気がいたします。 ○岩原会長 ほかに御質問,御意見ございますか。   ほかの御質問,御意見はないようでございますので,ここで,諮問第109号の審議の進め方について御意見があれば,承りたいと存じます。 ○佐伯委員 先ほど,橋本委員からも御指摘のあった点ですけれども,諮問第109号につきましては,専門的・技術的な事項が相当含まれていますので,通例に倣い,新たに部会を設置して,そこで審議し,その結果の報告を受けて,更に総会で審議することとしてはいかがかと思います。 ○岩原会長 ただいま佐伯委員から,部会設置等の御提案がございました。   これにつきまして,御意見ございますでしょうか。よろしいですか。ほかに御意見はございませんでしょうか。   それでは,特に御異議もないようでございますので,諮問第109号につきましては,新たに部会を設けて,調査・審議することとしたいと存じます。   次に,新たに設置する部会に属すべき総会委員,臨時委員及び幹事に関してでございますが,これらにつきましては,会長に御一任いただきたいと思いますが,御異議ございませんでしょうか。   (「異議なし」の声あり)   どうもありがとうございます。   それでは,この点は会長に御一任願うことといたしたいと存じます。   次に,部会の名称でございますが,諮問事項との関連から,諮問第109号につきましては,「刑事法(危険運転による死傷事犯関係)部会」という名称にしたいと思いますが,いかがでございましょうか。よろしゅうございましょうか。   (「異議なし」の声あり)   それでは,特に御異議もございませんようですので,そのように取り計らわせていただきたいと存じます。   ほかに,部会における審議の進め方も含め,御意見ございませんでしょうか。よろしゅうございますか。   それでは,諮問第109号につきましては,「刑事法(危険運転による死傷事犯関係)部会」で御審議いただくこととし,部会の御審議に基づいて,総会において,更に御審議願うことといたしたいと存じます。   これで本日の予定は終了となりますが,ほかに,この機会に御発言いただけることがございましたら,お願いいたします。何かございませんでしょうか。よろしゅうございますか。   それでは,ほかに御発言もないようでございますので,本日はこれで終了させていただきたいと存じます。   本日の会議における議事録の公開方法につきましては,審議の内容等に鑑みて,会長の私といたしましては,議事録の発言者名を全て明らかにして公開することといたしたいと存じますが,いかがでしょうか。よろしゅうございましょうか。   (「異議なし」の声あり)   それでは,本日の会議における議事録につきましては,議事録の発言者名を全て明らかにして公開することといたします。   なお,本日の会議の内容につきましては,後日,御発言を頂きました委員等の皆様に議事録案をメール等にて送付させていただき,御発言の内容を確認させていただいた上で,法務省のウェブサイトに公開したいと存じます。   最後に事務当局から,何か事務連絡がございましたら,お願いいたします。 ○金子関係官 次回の会議の開催予定について御案内申し上げます。   法制審議会は,2月及び9月に開催するのが通例となっております。次回につきましては,本年2月21日の14時から御審議をお願いする予定でございます。   委員,幹事の皆様方におかれましては,御多忙とは存じますけれども,今後の御予定につき御配意いただきますよう,よろしくお願い申し上げます。 ○岩原会長 どうもありがとうございました。   それでは,これで本日の会議を終了いたします。本日はお忙しいところ,お集まりいただき,熱心な御議論を頂き,誠にありがとうございました。 -了-