法制審議会 民法(親子法制)部会 第3回会議 議事録 第1 日 時  令和元年10月15日(火)自 午後1時29分                      至 午後5時18分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  民法第772条の嫡出推定規定の見直し         嫡出否認制度の見直し(1) ―否認権者に関する起立の見直し― 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○大村部会長 それでは,定刻になりましたので,法制審議会民法(親子法制)部会の第3回会議を開会いたします。   本日は御多忙の中,御出席を頂きまして,誠にありがとうございます。   なお,本日は山本委員が欠席でございます。   次に,本日の審議に入ります前に,配布資料の確認をさせていただきます。事務当局からお願いいたします。 ○小川関係官 今回の配布資料は,事前にお送りした部会資料3と参考資料です。 ○大村部会長 ありがとうございます。   本日から,嫡出推定制度に関する規定の見直しに関する御審議を頂く予定でございます。最初に,事務当局から今後の審議の予定についての説明をお願いいたします。 ○平田幹事 それでは,嫡出推定制度の見直しに関する今後の審議の予定について御説明させていただきます。   事務当局では,無戸籍者問題を解消する観点から,嫡出推定制度を見直す際には,大きく民法第772条の嫡出推定規定の見直しと民法第774条以下の嫡出否認に関する規律の見直しという2点から検討を加えることが有益であると考えております。また,これらの以外の方策についても有益なものがあれば検討を加えたいと考えております。   さらに,嫡出推定制度につきましては,第1回会議の際に委員,幹事から御指摘いただきましたとおり,無戸籍者問題という観点以外からも見直しを検討すべき点がございます。このような観点からの見直しにつきましても,以上の検討の際に適宜折り込んで検討したいと考えております。   嫡出推定制度については,今回を含めまして3回程度の会議で一読目の御議論を頂くことを考えております。   以上でございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   ただいまの平田幹事からの審議の進め方についての御説明につきまして,御質問あるいは御意見があれば頂きたいと思いますが,いかがでございましょうか。よろしいでしょうか。 ○棚村委員 すみません,棚村です。   生殖補助医療によって生まれた子の親子関係の問題は,取り上げる予定になっていますでしょうか。 ○平田幹事 今3回程度と申し上げたのは,基本的には,生殖補助医療に限られず,一般的に婚姻している夫婦の間に生まれた子についての検討を想定しております。その上で,更に生殖補助医療について検討する必要があるというところがあれば,また検討していくということを考えております。 ○棚村委員 分かりました。 ○大村部会長 ありがとうございました。   その他いかがでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは,今のお答えも含めまして,御説明があったような形で審議を進めさせていただきたいと存じます。   本日の分についてですけれども,本日は,民法第772条の嫡出推定規定の見直しについて御議論を頂きたいと考えております。   初めに,事務当局から部会資料の3の該当部分と,それから参考資料についての説明をお願いいたします。 ○小川関係官 それでは,部会資料3及び参考資料3-1について説明いたします。お手元の部会資料3を御覧ください。   初めに,資料全体について説明いたしますと,第1で問題の所在等について,第2で民法第772条の嫡出推定規定の見直しについて,第3で嫡出否認制度の見直しのうち否認権者の見直しについて記載しております。   資料作成に当たっては,法務省の担当官も参加した「嫡出推定制度を中心とした親子法制の在り方に関する研究会」の成果や第1回での皆様の御議論を踏まえております。   第1についてですが,問題の所在等として,嫡出推定制度を見直す必要性に当たる事情を記載しております。   まず,1は,無戸籍者問題を解消する観点からの見直しの必要性について,現行法を前提とした問題状況をまとめております。   (1)では,嫡出推定制度が無戸籍者問題の一因となっているとの指摘がございますが,こちらを敷えんして記載しております。   (2)ですけれども,民法第772条第2項の期間内に生まれた子について,推定される父子関係を否定した上で出生届を提出する方法をアからウのとおりまとめております。実務上は,子の懐胎や出生時期,父母の意向,証明手段の有無等の事情を考慮した上で,これらの方法のいずれかを選択しているものと考えられます。他方で,①から④までに記載した様々な事情から,アからウの手段をとることが困難な場合も存在するものと考えられます。   これらを踏まえまして,(3)では嫡出推定制度の見直しの方向性として,嫡出否認制度を見直す方策,それから第772条の嫡出推定規定を見直す方策とが考えられるとしております。無戸籍者問題を解消する観点から,これらの方策について検討をすることについて,御意見を頂戴できればと思います。   他方で,嫡出推定制度については,無戸籍者問題だけでなく,制定時からの時代の変化等を踏まえまして,見直しの必要性が指摘されているところであり,このような観点からの見直しについても可能な限り取り上げていきたいと考えております。   2は,そのような前提で今後の検討の進め方について記載をしております。   第2は,民法第772条の嫡出推定規定の見直しについて記載しております。   1の考えられる見直しの在り方では,この部会での議論のたたき台として,一つの見直し案を提示しております。5ページのゴシック体部分がその見直し案ですが,大きく二つの論点を含んでおります。   まず,①婚姻中に生まれた子に関する規律です。具体的には,婚姻成立の日から200日以内に生まれた子は夫の子と推定されないという現行法の規律を見直し,夫の子と推定することとしてはどうかという提案になります。   次に,②婚姻の解消等の日の後に生まれた子に関する規律です。具体的には,婚姻の解消等の日から300日以内に生まれた子は前夫の子と推定するとの規律を一部見直して,母が前夫以外の男性と再婚をし,その後に子が生まれたときは,例外的に前夫の子と推定しないこととしてはどうかという提案になります。   御議論の参考とするために,それぞれ2,3で見直しの必要性に関する事情,基本的な考え方,見直し案を採ることとした場合に検討すべき課題を記載しております。   まず,①についてですけれども,6ページから2(2)で記載しているとおり,現行法を前提としますと,婚姻の成立の日から200日以内に生まれた子は,生物学上の父子関係がないことを根拠に,親子関係不存在確認等の訴えにより,いつまでも法律上の父子関係を否定され得ることになりますが,これが子の地位を不安定にし,子の利益に反するのではないかという指摘があることから,それに基づいて提案している案になります。   無戸籍者問題の解消とは異なる観点からの見直しの案になりますけれども,この機会に併せて検討すべき論点ではないかと考えております。(3)の基本的考え方,(4)の検討をすべき課題等を踏まえ,御議論を頂きたいと考えております。   次に,②について御説明します。8ページからの3(2)で記載したとおり,無戸籍者問題を解消する観点から,②のような見直しが必要ではないかとの指摘がございます。極端な考え方をすれば,婚姻の解消等の後300日の嫡出推定をなくすことも可能性としてはあり得るかと思いますが,他方で嫡出推定制度は無戸籍者問題との関係のみで問題となるものではございませんので,この規定を見直すことの影響等についても十分配慮する必要があるのではないかという観点から,この部会資料では前夫又は再婚の夫のいずれかが父として確保されている場合に限り,嫡出推定の例外を設けるという提案をこの議論の出発点としております。こちらについても(3)の基本的な考え方,(4)の検討すべき課題等を踏まえ,御議論を頂きたいと考えております。   次に,10ページからの4ですけれども,ここでは,①,②の見直し案を採ることとした場合に,派生・関連して生ずると考えられる論点について記載をしております。   一つ目の論点は,(1)民法第733条の女性の再婚禁止期間の定めについてです。   アに記載しましたとおり,再婚禁止期間が設けられている目的は,女性が離婚後近い時期に前夫とは別の男性と再婚をし,子が生まれた場合に,前夫の嫡出推定と再婚後の夫の嫡出推定が重複することを回避することにあるとされています。①,②の見直し案を採ることとした場合には,再婚禁止期間の有無にかかわらず,女性が再婚する前に生まれた子は前夫の嫡出推定が及び,再婚後に生まれた子は再婚後の夫の嫡出推定が及ぶということになりますので,再婚禁止期間の定めがなくとも,推定の重複は生じないことになると考えられます。   ただし,5ページの1②の(注1)の記載とも関連しますが,離婚以外の理由による婚姻の解消,例えば夫の死亡による婚姻の解消や婚姻の取消しの場合に,②のような見直しをしないということになりますと,その限りで嫡出推定の重複が生ずることになります。   このように,嫡出推定規定の見直しの結果として,再婚禁止期間の定めについても一定の見直しが必要になると考えられますので,この点についても併せて御意見を頂戴できればと考えております。   二つ目の論点は,11ページの(2)ですけれども,①,②の見直しをした場合に,前夫との離婚後300日以内で,かつ再婚後に生まれた子は,再婚後の夫の子と推定されることになりますが,この推定が生物学上の父子関係と一致しないときに,法律上の父子関係を争うための規律をどうすべきかについて御意見を頂戴したいと考えております。   最後になりますが,これら以外に嫡出推定規定の見直しに関連して検討すべき論点がございましたら御指摘を頂ければと思います。   部会資料の3の第1,第2に関する説明は以上になります。   続きまして,参考資料の3-1について簡単に御説明いたします。   参考資料3-1は,昨年度,法務省の委託により実施された各国の親子法制に関する調査研究の報告書になります。ドイツ,オーストリア,フランス,イングランド,アメリカ,韓国,台湾について,研究者の方々に調査をして頂いたものになります。   部会資料3,参考資料3-1の説明は以上となります。 ○大村部会長 ありがとうございました。   これからの審議に当たりましても,広い意味での嫡出推定制度の中に含まれるところの772条の嫡出推定規定の見直しと,それから774条以下の嫡出否認の見直しということを分けて御議論を頂きたいと思っていますが,本日は,そのうちの772条関係について,まず今の御説明を基に御議論を頂きまして,多少時間が余りましたら,資料の第3の部分を御説明いただきまして,774条以下の嫡出否認の方にも入りたいと思っております。   以上,進め方についての補足をさせていただきました。資料の説明につきまして,何か御質問等がありましたら,まず伺いたいと思いますが,いかがでしょうか。   よろしいでしょうか。また不明な点がございましたら,随時御質問いただくということで,当面,御質問はないということで先に進めさせていただきたいと思います。   それでは,この資料の第1及び第2について,御意見を伺いたいと思います。第2につきましては,5ページの1のに①,②で,(注)もついておりますけれども,具体的な提案がされており,2,3というところで説明があり,最後の4で関連する論点が挙げられていることになっているかと思います。   一応順番に沿って御意見を頂ければと思いますけれども,密接に関連するところのある問題ですので,余り順序を気にされずに御発言を頂いても結構かと思います。どうぞよろしくお願いいたします。   どなたからでもどうぞ。 ○棚村委員 研究会でも大分御議論はあったと思うのですけれども,婚姻の成立から200日以内に生まれた子どもの法的な地位の問題については,ここで御提案ありますように,要するに懐胎主義というのを採っているわけですけれども,一部出生主義ということで修正をしてはどうかという御提案だと思います。これ自体は私自身も賛成していまして,最近はやはりできちゃった婚が4分の1以上になっていると言われています。要するに,子どもの懐胎を契機にして結婚を決断されるというカップルが大分増えているということと,それから,200日以内であってもやはり婚姻しているわけですから,お子さんを安定的・継続的に育てようという当事者の意思というのもかなりはっきりしているのではないかと思います。それから,懐胎の時期が多少いろいろ動いたり,婚姻の届出との関係でいろいろずれても,ある意味では結婚している夫がやはり父親である可能性というのはかなり高いような感じもしています。   このように考えますと,やはり200日以内の出生子についての法的な地位の安定という観点からは,基本的には嫡出推定を及ぼしていくということは必要になってくるのではないかと思います。ただ問題は,先ほどもご指摘があったかもしれませんけれども,やはり懐胎主義を採る場合とそれから出生主義を採る場合,韓国とかやはり台湾は日本の影響を受けていたりしますので懐胎主義ということですけれども,ドイツ,アメリカなどのように出生主義が妥当だなとは思うのですけれども,懐胎主義を採りつつ出生主義を導入したときに,その整合性というんですか,それが問題になるところは出てくるのではないかとは思います。基本的には,婚姻している夫が父である蓋然性が高く,その夫がこの父であるという嫡出(父性)推定を受けるということで,それを否定する場合には争う余地を与えていけばいいのかなという感じを持っています。あとは,また細かく問題になる点があれば意見を述べたいと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   資料で申しますと,第2の1の①の規律についてですね。このような規律が求められる理由,あるいはこのような規律が正当化される理由についてお示しいただいて,基本的にはこれについて賛成するという御意見を頂いたものと思います。 ○磯谷委員 磯谷です。   研究会の議論に加わっていないので,必ずしもちょっと十分な理解をしていないかもしれませんが,今回事務当局でまとめてくださった見直しの必要性のところ,6ページの2の(2)になりますけれども,理論的には理解ができるんですけれども,現実に一体どの程度問題が生じているのかというところが,率直に言ってちょっとよく分からないなと思いました。今,棚村委員がおっしゃったように,確かに今,いわゆるできちゃった婚という方々が多いという傾向は認識しておりますけれども,しかしながら,恐らく子の推定の背景には,いわゆる裸の蓋然性だけではなくて,法律上婚姻をしているということになると,同居義務であるとか貞操義務であるとか,そういったことがありますので,恐らくそういったことも含めて推定がなされていたのかなと思うわけです。   あと,先ほど,妊娠している女性と結婚する場合,男性は当然にお腹の子は自分の子だと考えているはずだというお話がありましたけれども,私のように児童福祉の現場で活動している人間からしますと,本当に能力の様々な方がいらっしゃって,必ずしもそのように合理的に考えているのか疑問を感じないわけではないと思います。   例えば,お腹の子は自分の子どもではないけれども,女性の境遇に同情して結婚するとか,あるいはひょっとすると,余りよく分からないで結婚することもあるかもしれません。そういった場合にも推定を及ぼすということになると,特に能力的にそれほど高くない方々が,例えば否認などハードルの高い手続を強いられることになるというのは,やはりちょっとどうなのかなと思ったりするわけです。   婚姻というのは本当にいろいろな方々がなさるものだと思いますので,ここに書いてあることだけで200日以内の子も推定していいとは言い切れないのではないかと今のところ思っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   同じく①の規律について,様々な人がいるので,慎重に考える必要があるのではないかという趣旨の御意見を頂いたと思います。 ○大森幹事 大森です。   同じ点について述べさせていただきます。棚村委員御指摘のように,妊娠が分かって,自分の子だと分かって結婚する場合が少なくないということについては,そのとおりだと思います。ただ,それを一歩進めて,夫の子と推定させる規律とするのかということについては,慎重に検討する必要があると思います。決して多いとは言いませんが,自分と血がつながっていない子を懐胎している女性と婚姻する男性は,実際おりますし,私が扱ったケースでも複数あります。そういった場合,当事者は養子として養育する考えを持っていたりします。ところが,このように当事者が元から血縁がないことが分かっている場合にも推定をさせて,実子としてよいのかという点については,部会資料では嫡出否認の手続を取ればいいのではないかと指摘があり,そうした御意見もあるとは思いますが,そうした当事者にわざわざ家庭裁判所に行って嫡出否認の調停や訴えの手続をとらなければいけないという手間や,鑑定の費用など,そういったものを負担をさせていいのかという問題はあるように思います。   現在の運用は,実情に応じて父として届け出ることもできるし,そうでない場合は父としての届出をしないということもできるようになっていますが,当事者に今申し上げたような負担を生じさせてまで変える必要性があるのかというところは,慎重に検討をした方がいいと考えます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   大森幹事からも,基本的には磯谷委員と同じ趣旨の御発言があったもの理解します。では,棚村委員。 ○棚村委員 ちょっと反論のような形になるかもしれないのですけれども,結局,婚姻を基礎として親子関係を決めるというルールとか考え方というのは,やはりかなり重要な原則であると思います。そして,先ほど,血縁と反するというようなお話もあったのですけれども,好意で引き受ける方もいるというのですけれども,法的な親子関係をどういうふうに見ていくかという,血縁とかDNA鑑定だけで決めていいのかという問題もあると思いますし,それからやはり嫡出否認の手続を誰がいつまでできるかという,それとの関係もあると考えています。かりに婚姻後200日以内に生まれた子について,嫡出推定を及ぼしても,争ったりいろいろ多様な事情があった場合には,そういうような形で推定を受けた夫についても嫡出否認を認めてゆけばよく,子どもが出生をしてから1年というのでは非常に短すぎると思うのですが,その点を少し広くするとか緩和するという方向が考え方として出ているわけですから,その辺りで十分に対応できると思います。   これは木村幹事の方が詳しいと思うのですが,ドイツでも婚姻している夫を父とするというときに,やはりその父親の確定が容易であるということと,それから父である蓋然性がかなり高いだろうということが根拠になっています。ほかの国でもちょっと調べると,そういうような形になっておりますので,やはりいろいろな事情があって,本当は親でないということもあり得ると思いますけれども,その辺りは子どもにとって父を早く与えるという利益,それから安定的な養育環境を確保するという要請を考えると,やはり私自身は200日以内に生まれた子であっても,婚姻している夫を父と推定してもよいと考えています。確か2015年だったと思うのですが,11月ぐらいに芸能人の元アイドルのカップルが,実は17,8歳になったお子さんについてDNA鑑定をやってみたら,夫の子でなく違ったということで話題になった事件がありました。ちょうど200日前という微妙なところで,推定されない子となり,DNA鑑定の結果に基づき親子関係不存在の確認判決が出てしまいまして,法的親子関係が覆された事件でした。その後,母方祖父母の下で暮らすなどやはりお子さんは非常につらい思いをして,今年に入って22歳で同居する女性への暴力で逮捕されるという事件にも発展しました。婚姻後200日以内に生まれた子で夫が父でないケースがある意味ではどれくらいあるかというのが磯谷委員のお話だったと思うのですけれども,やはり先ほど言った200日以内に生まれたお子さんというのはかなりの数に上っていて,もし嫡出推定が一方では及ぶ子と,それから及ばない子との間で,厳格な嫡出否認によらないと覆せないケースと,今は厳格すぎるという批判があって見直しが進められていますけれども,そういう中で親子関係不存在確認の訴えでいつでもということになってしまうケースとでは極端な不均衡が生じ,やはりお子さんから見ると養育環境が長らく続いたにもかかわらず血縁関係がなかったという,生物学上の関係だけで簡単にいつでもひっくり返せるということは,大きな問題があるかなとは思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○窪田委員 私も基本的にはもう①の提案でよろしいのではないかなと思っております。ただ,出生主義というのをそこで採る理由というのが一体何なのかというを考えると,多分蓋然性も根拠となるとは思いますが,意思としての側面も認められるかもしれません。さらに,ドイツ法でこういう形での出生主義が採られたということについても,基本的に蓋然性とか意思という説明をしつつも,やはりかなり規範的な判断をしているのではないかという気がいたします。   規範的な判断というのは,婚姻している夫婦において妻が産んだ子は夫の子であるというのが規範的な判断だということになると思うのですが,その意味で,いや,そうではないパターンもあるというのは確かだとは思うのですが,それを前提として議論するのが生産的なのかどうなのか,ちょっとよく分からないという気がいたします。   磯谷委員からは,実際に困っているケースはどれだけあるのかというと,よく分からないということになるのだろうと思いますし,それについての厳格な統計というのはないのだろうと思いますが,現に推定されない嫡出子というのが,身分関係として不安定だというのはやはり一般的にずっと指摘されてきていることですし,何十年たっても相続の際に期待的な相続権を前提として争うこともできるというような不安定なものであるという点は認識した上で,嫡出子としての届出も,非嫡出子としての届出もどっちもできるからというだけでは,やはり済まない部分があるのではないかと思って伺っておりました。   その上で,これは反論ということでは全然ないのですが,磯谷委員,それから大森幹事に是非お聞きしたいなと思ったのは,お二人の考えだと,むしろやはり懐胎主義というのは厳格に貫くべきだというふうなお考えでおられるということなのか,そうではないのかという点はいかがでしょうか。 ○大村部会長 何か,磯谷委員,お返事がありましたら。 ○磯谷委員 率直に申し上げて,そこまで態度を何か固めているわけでもなく,また,正直なところ,私どもは研究者ではないものですから,理論的なところというよりも,かなり実務的な関心といいますか,一般の方々に近いところにいますので,そういった感覚で今申し上げているところです。その辺り,全体的な理論的な部分については引き続き私も検討させていただきたいと思っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   今の御発言を伺っていると,立法の仕方によって生ずる不都合が両側にあるので,そのがどちらが大きくてどちらが小さいのかというのは,なかなか判断がつきかねるところがあります。   それで慎重に検討する必要があるのではないかという御議論が出てくるのだろうと思いますけれども,他方,婚姻中に生まれた子どもについては,父は夫に定める方がいいという考え方にはやはり見るべきものがあるのではないかという御意見もあり,そうではないということならば,そうではないということを理由付ける必要もあるのではないかという御指摘もあったと思います。この問題について更に御発言があれば伺いたいと思いますが,いかがでしょうか。 ○幡野幹事 気になっている点が一つあります。基本的には嫡出推定をこの場面でも及ぼした方がいいとは考えていますが,他方で,このように改正がなされた場合,200日以内に生まれた子について嫡出子の出生届しか提出できなくなり,これまでに比べると選択肢が狭められてしまいます。そこで,その点について何か手当てが必要なのかどうかということは検討する必要があると思います。例えばフランス法では,母が子の出生証書に父親の名前を書かないと,推定は及ばないというルールがあります。婚姻中に生まれた子は夫の子になるというルールを採りながらも,その推定を排除することに対するハードルは,裁判を起こす必要がないという意味で,かなり下げられています。同様の考慮が日本法でも必要かどうかという点について,検討する必要があるように思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   今の御指摘は,婚姻から200日に限らず,全てにフランス法の場合には当てはまるわけですね。 ○幡野幹事 そうですね。ただし,日本法の場合,この場面で嫡出子の出生届しか出せないということになると,新たに離婚後300日問題と同様の問題,すなわち嫡出でない子としての出生届が出せないのであれば出生届を出さないという母親の選択が出てくる可能性もありますので,この点については慎重に検討する必要があると考えています。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○木村幹事 今,皆さんの御議論を伺っていて,今回の改正が行われたときの問題点には恐らく二つのレベルがあるように感じました。一つは,今,幡野幹事がおっしゃったみたいに,今まで嫡出子については嫡出子としての出生届が出せるか,そうでない扱いができるかという意味での扱いができなくなるという問題点です。もう一つは,磯谷委員や窪田委員のご関心に通じるものだと思うのですが,同じ嫡出子として出されたにもかかわらず,嫡出否認ではなくて親子関係不存在確認訴訟になるという点をどのように解決するかという問題点です。今御提案されているところだと,嫡出子としての届出しか出せないということになり,かつ,それは否認訴訟でしか扱えないという解決になっており,二つのレベルの問題が一挙に解決されると思います。もっとも,そうではなくて,例えば,出生届については嫡出子か嫡出子として出さないという方策の両方を認めた上で,嫡出子として出した以上は否認訴訟でしか争えないというふうな選択肢も一つの可能性もあるようにも思います。このような形で問題のレベルとどのような解決策があるのかについて,整理した上で議論をした方がいいのかとも考えます。 ○大村部会長 嫡出推定が及ぶということにすると,それは他の嫡出推定が及ぶ場合と同じなので,嫡出否認の訴えでしか覆せないという前提で,そこは動かないのではないですか。その上で,嫡出推定が及ばないような解決,幡野さんがおっしゃったようなオプションを入れるか入れないかということが問題になっているのではないかと思いますけれども,そうではないのですか。 ○木村幹事 いや,嫡出推定されないという意味で,否認訴訟を使うということ自体が問題であるというご意見もあったいう理解だと思ったんですけれども,違いますか。 ○窪田委員 木村さんの理解でよろしいのではないかなと思いますが,多分二つの問題があって,現在だったら嫡出子としても届けることができるし,そうではないという形でも届け出ることができる。でも,嫡出子として届け出ても,あくまで推定されない嫡出子であって,そうだとすると,親子関係不存在確認ということでひっくり返されてしまう可能性があるという点です。   それに対して,御提案というのは,そういう不安定な状況を避けるために嫡出推定を及ぼすべきだというふうな仕組みで,婚姻成立後200日ではなくて,婚姻成立後直ちにという形に772条を適用すると,その問題は解消するのだけれど,同時に,今まで200日経過したときの子どもと同じで,嫡出子としての届出しかもうできなくなってしまうということで,何か議論が微妙にかみ合っていなかったところに対して,二つの問題をもし切り分けることができるのであれば,切り分けた方がいいという御提案だったのではないかとは思います。   ただ,結局御提案の方向というのは,嫡出子として届け出ることもできるし,そうではないこともできるんだけれども,嫡出子として届け出たときには嫡出推定されるという枠組みを実現できるかどうかということが問題になるのかなと思って伺っておりました。   かえって,何か議論が錯綜してしまったような気もしますけれども。 ○棚村委員 確かに,水野先生が前にちょっとおっしゃっていたのですけれども,やはり母親が出す出生届みたいなもので嫡出推定がうまく排除できるといいという提案もあったかと思います。これは手続法的な問題で処理はできなくはない。ただ,問題は,やはり実体的に誰との間に親子関係があるのか,婚姻によって生まれた子であるのか,夫の子とするのかという辺りの法的効果が生じてくるわけなので,それと母親による嫡出でない子,あるいは婚外子という選択肢みたいなものでの出生届はできるということについては,手続的にはそういうふうなことがなくはないのですけれども,実体法との関係で言うと,難しいのではないかと考えます。実体法では推定が及ぶか及ばないかということをかなり明確にしておかなければならず,ご提案のルールによると200日以内であっても,婚姻している夫であれば嫡出推定を及ぼそうということになるわけですよね。そうすると,フランス法というのは,多分身分占有制度とかいろいろなもので,やはりかなり届け出られた書面とかいろいろなものがあって,外観上も親子として続いていったら,できるだけそれも法的保護をしましょうという考え方なので,多分出生届のときからお母さんがかなり父親を記載するかしないかとかという形式を重視することになります。これに対して,アメリカでは,出生届のときに病院で夫の名前というか,父親の名前を書けば出生届に記載されますけれども,記載しなければ誰が父かそのまま分からないので,むしろ結婚外の父親だという者が訴えを起こすなり法的アクションを起こさないと,やはり明らかにはなってこないことになります。出生証明書の記載は事実上父を推定することになるが,一定の者が一定期間覆すことを可能にしています。   実親子関係を決定する基本的な仕組みとしては,私は,婚姻関係を基礎に決めるルールは大切であり,やはり嫡出推定というものを及ぼすか及ぼさないかというのは,子どもの地位にとても大きな差を与えてくるので,先ほどから言いますように,手続上便宜的に手当をするにしても,嫡出推定の排除みたいな重大な実体的効果を実際に親の一方による出生届とかそういうものに与えられるのかどうかというのは,問題があると考えます。なかなか戸籍の窓口の担当者の判断で,あるいはお母さんにだけそういう重大な権利を認めてしまうということは本当に平等なのかとかいう問題もいろいろ出てくるので,なかなか日本では難しいのかなというのが,ちょっと今のところで御議論を聞いて感じたところです。 ○大村部会長 ありがとうございます。   嫡出推定が及ぶとした上で,それを届出の際に外すことが可能だというのがフランス法のやり方だという幹事の御指摘がありましたけれども,それができるのだろうかという御指摘を頂いたというに思っていますけれども,木村幹事,今までの話を先ほどの枠組みで整理するとどうなるんですか。 ○木村幹事 大村部会長のお話をふまえて整理を試みてみますと,嫡出についてその推定を外すということには二つの意味があって,嫡出推定を外すということは,そもそも嫡出子ではないとして,法的父子関係が存在しないものとして婚外子として扱われるという意味と,嫡出推定を外すというのが,嫡出子という意味での地位あるいは何らかの法的親子関係は存在するのだけれども,否認訴訟で争わなければいけないという意味での嫡出推定は及ばないという意味があると言えます。今回のこの200日以内の子どもについては,この二つの意味があり,その両者が問題になっているというのが取りあえず今のところの理解です。 ○垣内幹事 大変難しい問題かなと思っておりますけれども,ちょっと御質問をさせていただきたいと思っておりまして,と申しますのは,現在問題となっている点というのは,結局現行法ですと200日以内に出生した子については嫡出推定は及ばないと。及ばないんだけれども,届出の段階では嫡出子としての届出ができるけれども,推定が及ばないので,今直線の御議論ですけれども,推定が及ばないということは,手続としては嫡出否認ではなく親子関係不存在であると。   このことが,しかし,少なからぬそういう機会に生まれた子については地位の不安定という不利益をもたらしているのではないかという問題意識から今日の御提案がされていて,その対応策として,嫡出推定の範囲に含めて考える,推定を広げるという方策を出されており,しかしその問題点として,しかしその期間内に生まれた子でも実はその夫婦間の子ではない場合があり,その場合にそれを争う手続が嫡出否認ということでは,硬直的すぎると。その点については,今日の御提案では,嫡出否認については別途手続等を緩和する方向で考えることで,対応するという方向なんだろうと思います。   それが一つあり得る方向かなと思っておりまして,他方,論理的には推定が及ばないままとしつつ,そうすると親子関係不存在ということになるんですが,親子関係不存在の方でその地位が不安定となるというその効果の部分を,何かもう少し推定が及ばない子で親子関係不存在で争われる場合であっても地位が保護されるような規律があり得ないのかというのは,論理的にはもう一つの方向としてあり得るんだろうと思うんですけれども,今日の御提案の前提としては,今日実際御提案になった方向の方が現実性があって,私が今申し上げたような親子関係不存在の方について,何か新たな立法あるいは解釈かもしれませんけれども,規律を考えていくということはなかなか難しいのであると,そういう前提に立っているというふうに理解してよろしいでしょうか。その点についてもし何か補足いただける点があればお願いしたいと思います。 ○平田幹事 垣内幹事御指摘のとおりで,方策としては,嫡出推定を及ぼすという方策と,嫡出推定を及ぼさないで親子関係不存在に制限をかけていくという二つあろうかと思いますけれども,後者の方の親子関係不存在確認を制限していくというのは,対象となる範囲の切り出し方に非常に難しい部分があるのかなというふうには考えておりまして,嫡出推定を及ぼす範囲を広げるというところで提案をさせていただいております。 ○大村部会長 よろしいですか,垣内幹事。 ○窪田委員 また少し議論を混乱させてしまうことになるのかもしれないのですけれども,今,垣内幹事からお話があったような形で,基本的には772条の規定を婚姻成立後に生まれた子についても適用するとした上で,一定の例外を認めていくという方向はあり得ると思うのですが,ただ,二通り,ちょっと異なる話が出ているのかなと思います。従前の方法をやはり積極的に評価するというのは,200日以内に関しては,基本的にはどっちで届けてもいいのだという,従前の運用を前提としたものということになろうと思います。他方,幡野さんから出ていたのは,婚姻成立後200日以内のことではなく,もっと一般的なもので,常に妻が言わば判断することができるという仕組みに関してであったかと思います。その点で,同列に扱えるのかどうなのか,むしろ切り離して議論すべきではないかと感じました。   その上でということになるのかもしれませんが,幡野さんに紹介していただいたフランス法でも,あるいは日本のこれまでの実務であったとしても,母の側で出生届を提出するときに自由に選べるんだとなった場合には,今度は父子関係を形成する場合には認知などの手続が必要になるということになるのかと思います。   磯谷委員から,一定の手続は必要だという場合に,一定の能力というのをやはり考える必要があるということではあったのですが,どちらの解決をとったとしても,何らかの形で,どっちが原則になるか,どっちが例外になるかということで,一定の手続というのはどちらかに求められることになるのではないかなと思います。そういう意味では,私自身は余り変わらないのではないか,現在の状況で二つの選択肢を残さなければいけないというふうにしなくても,同じなのではないかという気もします。そのような理解では駄目なのかというのを磯谷先生,大森幹事にもお聞きしたいと思います。 ○大森幹事 今の窪田委員のお話は,整理をしますと,嫡出として届出をしなかった場合に,結婚した夫がいや実はこれは自分の子だということで認知の手続をするということだろうと思うのですが,そういうケースは余り想定ができないように思います。血はつながっていて,しかも結婚した場合に,母親が勝手に父親の名前を書かずに出生届を出して,それに対して父親がいや自分の子だと主張するという場合ですよね。余りそういうのは想定がそもそもされないように思いますが,いかがでしょうか。 ○窪田委員 私もよく分からないのですけれども,ちょっと頭の中のベースにあったのは,むしろフランス法とかの形で,妻の方が出生届にどうやって書くか,父の欄を空欄にするかどうかで決めるというような形だと,ある意味で原則と例外がちょうど逆転するような形で,嫡出推定は働くけれども否認という形になるのか,一方的に空欄にされてしまったけれども,やはりそこのところに俺の名前が入るのだというようなケースが,出生後200日以内でも考えられるのかなと思ったんですが,大森幹事のおっしゃるのは,通常の場合だったら自分の子であって,実際結婚しているんだから,嫡出子として届けさせるだろう。にもかかわらず,嫡出子として届出をしない場合には,現に血がつながっていない場合だろうということですね。ちょっと分かったような気がいたします。 ○大村部会長 窪田委員の御発言の前提は,必ずしもそうではないだろうということですね。妻が,生まれた子どもについての父というのを知っていて,それを反映するような届出をするかというと,そうではない場合があるではないか。そのときには,夫の側から認知をするという負担が生ずるのではないかという御趣旨かと思いますけれども,大森幹事ははそういうことは余りないだろうという認識に立っているんですねという,そういうことですね。    少し前に戻りますけれども,窪田委員が今のやり取りの前におっしゃっていた話,その話は先ほどの木村幹事の整理と関わっているのかと思いますが,200日について嫡出推定が及ぶとして,その上で更に選択肢が残るということもあり得るということだったでしょうか。 ○窪田委員 積極的にそういうふうな解決をするということではないのですが,議論の立て方として,嫡出推定が婚姻成立後及ぶか及ばないかという議論をまず立てた上で,及ぶとしても例外というものを比較的簡単に認めるということであれば,ひょっとしたら議論は折り合いがつくのかなという意味で,そういう議論の立て方をした方がいいのかなということです。   磯谷委員,大森幹事から出たのは,200日以内は従前どおりにするということなのではないでしょうか。 ○大村部会長 ただ,今,窪田委員がおっしゃったようなことであれば,磯谷委員も大森幹事も多分反対はされないのでは。 ○磯谷委員 いや,本当に錯綜してなかなか難しいんですけれども,要するに,まず一つのパターンとしては,妊娠している女性がいて,男性としては自分の子ではないと分かってはいるんだけれども,いろいろ事情があって結婚をして,その後に子どもが生まれた。でも自分の子どもだということにはしたくないという場合,今度の推定を及ぼすということになると,嫡出否認の訴えをすることになる。その場合に,嫡出否認の門戸を少し広げることにすれば,それほど負担にならないのではないかという,それもひとつの解決かなと思っているんですけれども。ただ,実際にそのような場面に遭遇する方たちには能力的にさまざまなレベルの人がいて,本当に容易な話なのかなというところに疑問を感じています。能力的に十分な対応がとれないと,意に反して自分の子どもにされてしまうおそれがある。それを,「いや,それはしようがないんだよ。」と考えるのか,「いや,それはマズいのではないか。」と考えるのか,そこのところは一つ分かれ道なのかなと思って聞いていました。   私の方は,どうしてもそこが引っ掛かってしまって,棚村先生がおっしゃったように,子どもの地位の安定のために仕方がないんだという考え方もあるのでしょうけれども,ちょっと割り切れない部分があるかなと思っているところです。 ○木村幹事 すみません,磯谷委員にお伺いしたいのですが,自分の意に反して自分の子どもになってしまうという事態を避けるとすれば,その夫からすれば,そもそも嫡出子としての出生届出を出してもらわないという選択肢があったほうがいいというお話をされているのか,否認訴訟ではなく,親子関係不存在確認のような,より例外的に緩やかな形で訴える方法があればいいという御趣旨なのか,いずれも含む御趣旨なのか,どちらをイメージすればよいでしょうか。 ○磯谷委員 今の御質問については,前者の方がまず一つ可能性があるわけですよね。必ずしも自分の子どもだとして届け出なくてもいいわけですし,それが,私の理解では今はそれが可能なのかなと思っているので,そこをあえて変える必要があるのかという,そういう疑問です。 ○大森幹事 私も磯谷委員と同じでして,嫡出否認制度の門戸を広げるとしても,やはりその手続を踏まないといけないということ自体が,当事者の方にとっては結構負担になります。実際に手続を,申し立てとかをしないといけない,鑑定などの費用も払わないといけないといった手間,弁護士も場合によっては雇わなければいけないといった当事者の負担が生じます。現行制度ではそこまでしなくてもいいのに対して,そうした負担をしていかなければいけないということ自体が非常にハードルとして高くなってしまうのではないかという懸念があるということです。 ○磯谷委員 理屈からすると「こういう方策を採れば大丈夫だ」という話であっても,実際の人々を見ていると,我々が考えるほど容易ではない場合があるのだろうと思うんですよね。うつの方でなかなか動きがとれないとか,何年もアクションが起こせない人とか,経済的に非常に厳しい状態でという人だとか,コミュニケーションが難しいとか,もう本当にいろいろな方々を見ていると,ちょっとそう簡単に理屈で割り切れるのかなと。それが大きな問題を引き起こしていると思うんですね。婚姻後200日間の運用については,現場で大きな問題になっているという認識ではないものですから,それにもかかわらず,なぜここまで改正しなければいけないのかという素朴な疑問を感じているんですね。 ○棚村委員 韓国に行ったとき,お話を聞きましたら,事実婚の場合も嫡出推定の規定を及ぼしているんだということでした。割と韓国もかつて事実婚がやはり多くて,ただ問題は,事実婚の立証とかそういうので困る場合があるということでした。婚姻届ですと,やはり客観的に届出書を出したときということで,割とはっきりするわけですけれども,争われたときにやはり事実婚の立証とか主張があって,それを判断せざるを得ないというお話もありました。   やはり嫡出推定という制度をどういうふうに目的とか趣旨があるんだろうかということを考えたときに,先ほど言いましたように,確かに事実に反する届出とかあったときに,それを飽くまでも血縁で真実を明らかにしなければいけないかという,血縁主義,真実主義みたいな立場で考えていくのか,それとも,やはり社会的に親子としての生活関係長らく続いていったら,ある程度その事実の重さみたいなことを考えて,安定的な法的な親子関係みたいなものも考えていいのではないかとも思います。その辺りも,やはり事実に反する届けというのは,認知の場合も起こってきますし,それから正に嫡出子の出生届とかそういうことでも起こってくると思います。この点の認識がちょっと,先ほどからお聞きしていると違っていて,そういう事実に反する届出というのは結構多いんだというお話があって,なおかつこれに嫡出推定を与えなければいけない必要性みたいなことで,余り統計的に多いのではないのではないかという御指摘が結構あると思います。   ただ,私は,やはり子どもの立場から見ると,そういう大人の事情でもって事実に反する届出が出されたり出されなかったり,それから,子ども自身が何年もたった後に法的な親子関係がDNA鑑定等で簡単に覆されるという事態はやはり何とかしなければいけないと思っています。そうだとすると,先ほども事実の蓋然性というのはなかなか難しいのかもしれませんけれども,父親であるということを引き受けるという意思でもって届出をして,それで婚姻という枠組みがあって,そういう中で嫡出推定を及ぼした上で,それを争える人に争わせればいいのではないか。ただ日本の場合には,否認の手続がかなり夫のみで厳格な期間の制限もあるために,なかなか不都合があることは否めません。それをやはり緩やかにし,現実にぴったりしたような形に整理する,ルール作りや見直しをすることで,その弊害みたいなものは避けられるのではないかとは思っています。 ○大村部会長 ありがとうございます。   先ほどからのお話を伺っていると,磯谷委員も大森幹事も嫡出子としての届出が出されたときに,子どもが嫡出推定が及ぶという形で保護されることについては反対ではないのではないと思って伺いました。   選択肢を残したいということを磯谷委員と大森幹事はおっしゃっているのかと思って伺いました。幡野幹事がおっしゃっているのも,どのの範囲でという問題もありますけれども,何らかの形で選択肢を残すということが必要なのかあるいは可能なのか,そういう問題なのかと思って伺っておりますけれども,そういう理解でよろしいですか。 ○磯谷委員 今,大村部会長にまとめていただいたのとほとんどいいのですけれども,ただ,単に選択肢を残すというだけではなくて,デフォルトをどちらにするかというところもあって,やはりデフォルトは,基本的には親子関係を推定するというのは難しいのではないかなというところがあって,ですから,要するに一般の普通の庶民の方々の感覚からして,自分の子どもではないよね,この子は,ただそれは分かって結婚する。そういう場合には,自動的に自分の子どもにされても仕方が無いのだと,そういうふうに一般の方が大体思っているならいいのでしょうけれども,もしそう思っていないとすると,かなり不意打ちになってしまうのではないかなと思うので,そういうことからすると,やはり原則はむしろ,婚姻後200日間に生まれた子について推定を及ぼさない方が望ましいことなのかなと。そういうふうな整理かと思っています。 ○大村部会長 ありがとうございます。   磯谷委員が想定されているようなケースと,棚村委員が想定されているケースとでは違いがある。棚村委員のほうは,ずっと同居していて,自分の子どもだという場合がかなりあるのではないか,それが後になって親子関係不存在で覆るのは困るのではないのとお考えだと思うんですが,磯谷委員は,自分の子どもではないのを引き受けるというところからスタートされている。どちらを念頭に置いて考えるかというところが違っているという御指摘ですね。   なかなか悩ましい問題ですね。何かこの点について更に御発言があれば。 ○垣内幹事 すみません,もう1点質問をさせていただければと思うんですけれども,これは主として磯谷先生か大森先生に対する御質問ということになるかと思うんですけれども,先ほどの磯谷先生の御発言の中にもありましたけれども,仮に嫡出推定が拡張されて,出生主義的な取扱いがこの局面で導入されるということになった場合に,もちろん知らないで不意打ちという問題は別途あるかと思いますが,そういう制度を前提としたときに,今,そういった悩みというか状況に直面している当事者の方であれば,どういう行動をとることが一般には予想されるんだろうかということなんですけれども,選択肢の問題というのが一つあるわけですが,現在は,婚姻をしてから子どもが生まれて,その子を嫡出子として届け出するのか,そうでないのかという選択肢という形でそれが存在しているわけですけれども,仮にその制度が導入された場合には,女性の方が妊娠しているということが分かっていれば,それを承知で婚姻をして,それを嫡出子として引き受けると,二人の,夫婦の子として育てていくという選択をするのか,ですから現実的には子どもが生まれるまで婚姻を待って,生まれてから婚姻をすることによって,それは夫婦の子ではないという形をとるという行動をするということも考えられるんですけれども,後者のような選択肢の在り方というのは,余り好ましくないというか,余り現実的でないということなのかどうか,その辺りについて,もし何か御感触があれば,教えていただければと思います。 ○磯谷委員 ありがとうございます。   本当によく制度が分かっていれば,多分そういうふうな行動もとれるのかなと思いますけれども,やはりそれは大前提として,結婚した後生まれてしまうと自分の子どもとされてしまうよということが分かっている,だったら結婚を待とうかという話になるわけですよね。そこがやはり前提として分かっていないとそういう行動にならないのかなと思うことと,あと,これもやはり本当に現場感覚からいたしますと,特に福祉の現場感覚からすると,本当にそういうふうにいろいろ考えて結婚をする人ばかりではないという,そういう認識もあるものですから,そういう方々を念頭に置くと,やはり私のようにかなり慎重になってしまうのかなと思っています。 ○大村部会長 磯谷委員についでに伺いますけれども,今のように余りよく考えずに懐胎中の女性と結婚した人は,結婚後は子どもについてはどうするんですか。 ○磯谷委員 ごめんなさい,すみません,いや私も言いながら,今具体的なケースがちょっと頭の中にあるわけではなくて,いろいろな相談の中で今申し上げたような感覚を持っているというところです。すみません,ちょっとそれにストレートになかなかお答えしにくいので,申し訳ありません。 ○大村部会長 必ずしも慎重に考えて行動しているわけではないのではないかというのは,おそらくはそうなんだろうと想像できますけれども,その後,どうするのだろうかというところは,なかなか分かりにくいですね。嫡出子として扱われることになっては困るのではないかということなんですが,そうすると,そう扱われないように非嫡出子として届け出るのかというと,そうした届出をするという選択肢も思い浮かばないような気もします。その辺り,実際にはどうなのでしょうか。大森幹事,何か御経験があれば。 ○大森幹事 非嫡出子として届け出た上で,血縁のある父親に対して家裁で認知の手続をとって,併せて養育費も請求をするという場合もあれば,あとは,先ほど少し触れましたけれども,養子縁組をして,養子として養育をするというケースもあります。後者のケースでは,血縁上の父は外国籍なので,外見上実子でないことは明らかでした。そういうこともあって,嫡出子とするのはなかなか難しいというケースはあります。 ○大村部会長 ありがとうございます。   今のお話は,弁護士さんが関与してどういう手続を進めるかといういうお話ですよね。当事者がどうするかという話ではない。磯谷委員が想定されているような,一般の人たちがどのように行動するかというと,大森幹事がおっしゃったような行動をするわけではないですね。 ○大森幹事 そうですね。私が経験したケースでは,今申し上げたようなものがあります。 ○大村部会長 分かりました。   資料で申しますと5ページの第2の①について今御意見を伺っておりますけれども,ほかにはいかがでしょうか。 ○窪田委員 かえって話を混乱させるかなと思って触れないつもりだったのですが,①に関しては,もういろいろな形で議論が出ているとおりなのだろうと思いますが,恐らく①の問題というのは,②の部分でどういう構成をとるのかというのと密接不可分に関わっているのだろうと思います。①で200日以内についての推定をしないのであれば,②の方で離婚後に再婚した場合に再婚を優先させるというのも,このままの形では,やはりできないだろうなということになると思いますので,両者が関連するという点だけはやはり確認した上で議論をしていくべきだろうなと思います。   その上で,こんなことを質問するのはものすごく恥ずかしいのですが,先ほどから200日以内であれば嫡出子としての届出も非嫡出子としての届出のできるということではあるのですが,出生届って別に妻が出さなければいけないとか,父が出さなければいけないとかいうことではないですよね。そうすると,現在,例えば当事者の選択が認められているとはいっても,一体誰の選択がどのように認められているのかなというのはよく分からないなと思って,どういう前提で議論したらいいのかというのを,どなたにお聞きしたらいいのかなと思いながら伺っておりました。選択肢があるとはいうのですが,例えばこれ,妻が一方的に出したのでも構わないし,出生届は,別に父ではなくても出すことはできますよね。だから,選択肢を認められているというのは,実はそれほど明確な形での制度として保障されているわけではないのではないかなという点です。   それと,更に言うと,多分部会長が先ほどから指摘されていたのはそうなのだろうと思いますが,200日以内は嫡出子としても非嫡出子としても出生届を出すことができるというのは,多分普通の人はみんな知らないですよね。いや,みんな知っているのでしょうか。多分法学部の学生でも知らない人は結構いるのではないかなと思いますので,先ほどから出ているケースでは,もっと知らないのではないかなと思ったのですが,ちょっとひとり言みたいなことで申し訳ありません。 ○大村部会長 ありがとうございます。   2点御指摘いただいて,一つは,①の問題について,先ほどの事務当局の説明はこれだけを切り出した説明になっていましたけれども,②は①を前提とした規律を含んでいますので,①は②と関わってくるところがあるという御指摘だったかと思います。そうなると,②も含めた形で議論をする中で,①をどうするかということも議論しなければいけないということになる。①そのものについての議論について,一段落がしましたら,②の方も含めて議論をするということかと思います。   あわせて,括弧付きで選択肢があるというように言っていますが,それの中身は何なのかということも確認しておいた方がいいと思います。 ○杉浦幹事 御指摘のように,余りそれほどはっきりした取扱いになっておりません。昭和15年の大審院の判例が出た際に,戸籍の通達においてもこの大審院の判例の趣旨に沿って取り扱うという内容のものが出ております。そこでは,父から届け出なければならないとはなっていないものですから,実際上,父からでも母からでも,出生届を届け出ることができるというような扱いになっているところです。   一方で,嫡出でない子の場合には,先例が8ページの(注3)のところにあったと思いますけれども,こちらでは,母から嫡出でない子として出生届をすることは差し支えないと,母からということが明確になっています。 ○大村部会長 母からは嫡出でない子としての届出はできる。それは嫡出子ではないからということで,嫡出子として届け出るときには,父からになるということですか。 ○杉浦幹事 父からでも母からでも可能です。そこは,先例上はっきりしておりませんけれども,限定がないということは,そういうことかと理解しております。 ○大村部会長 父から届け出られると,それは嫡出子という届出になる。 ○杉浦幹事 父から届け出て,父母欄がきちんと埋まって,嫡出子として届け出れば,それは嫡出子としての出生届ですし,同じ内容を母からしてはいけないというようなことにもなっていないものですから,母からも届け出られるのかなというのが実際上のところかと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○水野委員 先ほどから磯谷委員や大森幹事がおっしゃっている一般の人の認識ということなのですけれども,もしかするとという想像なのですが,嫡出推定制度について,一般の方々がそれほど認識をしていないことを含んでおっしゃっているように思いました。最高裁が,DNA上夫の子ではないと分かっているケースについても,外観説を採って父子関係を崩させなかった判決の後,どうしてそんな結論になるのですか,誰一人当事者は幸せにならないし,どうして民法学はこういう結論が多数説なのですか,という質問をマスコミからかなり受けました。そして,嫡出推定制度の存在意義,この制度が守っているものについては,一般には余り知られていないらしいと認識しました。つまり,その事件では確かに誰も幸福にはならないという結論なのかもしれませんが,そこにふたをしておくことによって,多くの子どもが夫の子であるという地位を奪われずに育てられるというところに,実は大きな意味があるように思います。   ただ,その上でなのですが,先ほど棚村委員が私の名前も出されましたけれども,学説としても,それからこれに先立ちます研究会でも,私は,母が出生届を出すときには,非嫡出子という出生届を出すことによって嫡出推定を外せることにしないと,無戸籍の問題は根本的には片が付かないのではないかと言い続けておりました。しかし,フランス法のようなそんな大きな決定権限を母に与えてしまうことと,嫡出推定は大切だという私の意見との間に齟齬があるという非難を浴びておりました。そして,研究会としては,結論的にはやはりその結論は採られませんでした。主観的には,母の非嫡出子届を認めても,嫡出推定の意義を否定するものではないと思うのですけれど。  一般の人がと,磯谷委員や大森幹事が言っていらっしゃるのは,嫡出推定についての理解が恐らく一般の方にはないという趣旨ではないかと勝手に想像をしているのですが。違いますでしょうか。 ○大村部会長 何か御発言があれば。 ○磯谷委員 そうですね,ですから一般の方々の理解の程度とか,そういったところについては,やはり十分ではないところもあるんだろうと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   嫡出子とされるべき子,父も母も嫡出子としたいという子について,その父子関係が後で覆るということを望まないというのは,皆さんその限度では多分共通なんだろうと思いますけれども,そういう仕分けが親の側でできるのかどうかということと,それから,仮に一旦何かの効果が生じたとして,それを覆すことの負担というのをどのように考えるのかというところで,どういう制度を設けるのかということが問題になる。現状がいいのか,あるいはここに書かれているような提案をそのまま立法するのがいいのか,あるいはまた現状に配慮しつつ,ここに書かれている提案に何らかの例外的な措置を加えるのがいいのか,そうしたことが今ここで挙がっている御意見なのかと思って伺いましたが,取りあえず,この①についてはこんなところで先に進ませていただいてよろしいですか。   先ほど窪田委員から御指摘もありましたけれども,②との兼ね合いで①を考えるということも必要になってくるかと思いますので,①についての御発言はこの後も出てくると思いますけれども,そういう留保の下に,②も含めて御議論を頂きたいと思います。   ②の方につきまして,いかがでしょうか。 ○棚村委員 ②も窪田委員がおっしゃっていたように,①の扱いと非常に連動するというか,非常に関係をしていると思います。これもやはり300日以内に生まれた子ども,いわゆる離婚後300日問題ということで,今回問題になっている無戸籍問題の大きな一因になっているという御指摘もあり,実態を把握した結果もある程度こういうことが制度的に障害になって出生届が出されないということが言われています。すしかも,先ほどもおっしゃったように,基本的には300日以内は前夫の子という推定がされるのだけれども,ただ,再婚をしているような場合には,その再婚の夫の子という推定を導入しようということですので,他の国の先ほど比較法の一覧表等を見せていただいたりしても分かりますけれども,こういうような形で少し例外的に,再婚をしていれば再婚の夫,先ほども言いましたように,婚姻をして自分の子どもであるということを引き受けようという意思も持っているし,そういうような形でむしろ事実の蓋然性という点からも,再婚をしている以上再婚の夫が父である可能性も結構高いのではないかと考えます。こういうようなことで,離婚後300日以内は前夫の子というものについて,再婚ということを条件に推定から外すというか,この後のまた否認の制度の制度設計とか見直しとの関係もあるわけですけれども,私も②についても現状からみて,この改革あるいは見直しのご提案を支持したいというふうに考えています。 ○大村部会長 ありがとうございます。   ①のルールを導入すると,前項の嫡出推定が及んでいるとしても,再婚後に生まれた場合には後の夫の子どもとしての推定も及ぶということになって,推定が重なるという状況が出てくることになると思います。それは,重なってしまったらどうするかという話で,現行法を前提にするとすると,父を定めるか何かによって解決するということになりますけれども,棚村委員の御意見は,後の婚姻の推定の方を優先させるのだという規律が望ましい,②はそういう趣旨であろうという御意見かと思いますが,いかがでございましょうか。   窪田委員の先ほどの御発言とも関わりますけれども,①をとっただけでも,後の婚姻の嫡出子として届出はできるのでしょうか。 ○窪田委員 ①をとって…… ○大村部会長 ①のルールをとって②はとらない。推定が重なる規律した場合です。。 ○杉浦幹事 要は嫡出推定が重なるということですので,父未定の子として,父を定めるような,出生届は出す必要があります。父は,父を定める訴えを提起していただいて決めることになるのではないでしょうか。 ○窪田委員 父親欄は一方的に入れられないということですよね。 ○杉浦幹事 今でも再婚禁止期間に違反して再婚してしまったような場合ということもありますけれども,戸籍法の中で父未定の子の出生届というのがありまして,このときは母が届書に父が未定であるということを記載した上で届け出るというような,そういう規定もございますので,届出はしなければならないことになります。 ○大村部会長 分かりました。   そうすると,仮に①のルールだけを導入すると,父未定という状態で届出はされて,あとは父を定める訴えで決するということになるということですね。②を導入すると,後の方の夫が父と推定されることになる。こういう2段階の議論になっているだろうと思いますけれども,後の方の夫の子どもとして届け出るという規律の方がよいのではないかというのが棚村委員の御意見かと思いますが,いかがでしょうか。 ○大森幹事 先ほどのお話に負けないぐらい非常に難しいと感じております。今,300日以内でも推定は維持した上で,再婚の場合のみ外すという御提案がされていて,それも一つの解決策とは思うのですが,部会資料5ページの(注2)にもありますとおり,再婚に限って除外するとするのか,そもそも離婚後は推定をさせないとするのかというところは,非常に大きな点と考えております。   この法制審,無戸籍の解消ということが出発点になっていますけれども,第1回の部会のときにも御紹介いただきました無戸籍に関する調査によりますと,無戸籍になっているケースの約57%が離婚後300日以内の出産になってて,無戸籍の全体の約78%が,無戸籍の理由として推定を避けるためという結果になっています。この現状からすると,無戸籍の解消という点では離婚後は推定しないと考えるということも一つ出てくるのではと思います。   また,部会資料にも指摘されていますとおり,無戸籍に限らず広く嫡出推定制度については考える必要があると思います。その中で,部会資料9ページの(4)のアですけれども,前夫の子である蓋然性がどの程度あるのかどうかといったところも検討の要素として必要だということが指摘されておりますけれども,確か研究会のときに御紹介されていました厚労省の人口動態統計の中で,離婚をしたケースの78%が離婚前5か月で既にもう別居をしているという結果になっていまして,離婚前の段階で夫婦の実態が失われていることが先行しているという状況が明らかになっていました。そういうことからすると,離婚する場合に血縁があるという蓋然性は決して高くはないのではないかとも言えるのではないかと思います。   先ほど,海外法令の調査の御紹介もしていただきましたけれども,今回の調査研究業務報告書でドイツの法のところで,この調査報告書では44ページになりますが,ドイツでは離婚後は推定をしないという規律になっていますが,その理由として,蓋然性がないということが指摘されていました。そういうところからしても,そもそも再婚に限らず推定はなくすということも重要な検討になってくるのではと思います。 ○窪田委員 ちょっと2点,今の御指摘について発言させてください。先ほど磯谷委員,大森幹事に懐胎主義を厳格に維持するのかとお聞きしたのは,今の点にも関わっているんですが,懐胎主義を原則維持するのであれば,恐らく300日推定というのは枠組みとしては残るということなんだろうと思います。   その上で,今大森幹事から出ていたのは,蓋然性が乏しいからということではあったのですが,これについては木村幹事から詳しく御説明いただいたらよろしいかと思いますが,ドイツの場合には蓋然性が乏しいといっても離婚のそもそも要件として別居が必要ですので,これは制度的に別居があった上での離婚なんだということです。それと,人口動態調査でやってみたところ七十何%別居している人もいるよねというのは,全く違うのではないかなと思います。5か月間の別居というのであれば,その前の妊娠の可能性もあるわけですよね。ですから,それをもって蓋然性がないというふうにするのは,少なくとも懐胎主義をとりつつ,そのぐらいの説明で蓋然性がない,したがって300日推定を外すというのは,私自身は必ずしも十分な説明になっていないのかなと思います。 ○木村幹事 今,窪田委員に御指摘いただいたとおり,ドイツにおいては基本的に裁判離婚がデフォルトルールになっていますので,裁判離婚するに当たっては,その要件で定められている法定の一定期間の別居期間が必要になっています。ですので,それを踏まえた上で,法律上一つ最初に別居期間があった前提で,離婚後出生した子については前の夫の子どもでないという蓋然性が高いということが法律上基礎付けられるということになっています。   例外的に,法定の別居期間がなく離婚が認められる場合もありますけれども,その場合においても,およそ共同生活を営むことができないような特別な事情がある限りというふうになっていますので,いずれにしても法律上,親子関係についての蓋然性が高いとは認められないということが離婚法上基礎付けられているという点で,日本法とはかなり状況が違っているということを認識した上で議論した方がいいと思います。 ○大村部会長 実際問題として,離婚前に別居しているカップルはたくさんあるだろうけれども,しかし,全てがそうであるとは言えない。ドイツ法は,少なくとも法律上の制度として別居しているという状態を作り出して,それを前提にして婚姻解消後の推定を外しているという御指摘だったかと思いますけれども,この御指摘を踏まえつつ,御議論をしていただくということになろうかと思います。何かありますか。 ○平田幹事 1点だけ,今,大森幹事から御紹介いただいた統計の関係につきまして,第1回に配布させていただいた参考資料1-2の11ページにございますけれども,記載の要旨としては,厚生労働省の人口動態統計によると平成29年中に離婚した夫婦のうち,離婚前1か月以内に同居をやめた夫婦は約52.8%,離婚前5か月以内に同居をやめた夫婦は約78.1%であったというところでございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   今のような日本の統計とそれからドイツ法の状況を踏まえて,この問題について更に御意見を伺いたいと思いますが,いかがでしょうか。 ○井上委員 ありがとうございます。   すみません,10ページの4の派生・関連する論点のところから少しお話をさせていただきたいと思います。こちらの論点の(1)に女性の再婚禁止期間の定めがあります。そこと関連して発言をさせていただきたいと思います。   まずですが,先ほどからその嫡出推定を含めて法制度が分かりづらいという話がありますけれども,やはりその法制度は国民にとって分かりやすい内容であるということが望ましいと思っています。そして,複雑な区別をすることは避けるべきであるというふうに考えています。もう一つは,大切なのは子の利益の保護であって,早期に父子関係を確定し,子の地位の安定を図ることではないかというふうに考えています。   このような観点で見た場合,②なのですけれども,離婚による婚姻の解消の場合のみが想定をされています。その上で,11ページのイですが,①,②の見直しをこのとおり行ったとしても,死別による婚姻の解消の場合や婚姻の取消しの場合のために再婚禁止期間の定めを設ける必要性はなお残るというふうにされています。これでは,ただでさえ複雑な制度がより複雑にならないかというふうに考えています。   また,婚姻の解消等の態様によって父子関係の確定に要する手続及び期間に差が生じるであろうことが想定されますけれども,子の利益の保護という観点ではどうなのかというふうに考えています。   先ほどから離婚のケースの話が出ていますが,離婚の場合でも,離婚前の一定期間は夫婦関係の実態がなかったとは言い切れないこともあると思います。また,死別の場合や婚姻の取消しの場合も同様に事情は様々あるのではないかというふうに考えます。そのため,離婚の場合に限定する必要はないのではないかと考えています。   また,そもそも女性のみに再婚禁止期間が設けられていることについては,これは1回目のときに大森幹事が発言されましたかね,国連の自由権規約委員会や女性差別撤廃委員会から遅滞なく廃止すべきという旨が繰り返し勧告をされているというのが,どなたかが発言されたか,私の記憶だったらすみません,間違いだったらすみませんが,そういう指摘が,国連から勧告がされているというところがあると思います。   それでいきますと,②につきましては離婚の場合に限定せず,死別の場合並びに婚姻の取消しの場合も含めた例外として設けるとともに,再婚禁止期間の定めを廃止するべきであるというふうに考えています。 ○大村部会長 ありがとうございます。   今,再婚禁止期間のことからお話を頂いたのですけれども,5ページの②には,現在(注)の1と(注)の2がついていますが,(注)の1をなくすと例外なしのルールということになる。離婚とその他を区別しないというルールになる。離婚とその他を区別しないというルールにした上でこのルールに従うと,再婚禁止期間の廃止が可能になるので,再婚禁止期間は廃止するということでいいのではないか。そういうことですね。   死別ということになると,いろいろな事情があって,離婚とは同じに考えられない場合がありますけれども,しかし,そのようにせざるを得ないという御意見かと思います。   そのほか,今の点,再婚禁止期間の話も出ていますので,それも含めていかがでしょうか。 ○窪田委員 今の御発言とはちょっと違う観点からになるかもしれませんが,やはり11ページのところ,少し気になったものですから発言させていただければと思います。   今御指摘があったように,離婚後再婚の場合に関しては,推定は重なる状態にはなると思いますが,②のルールを設ければ後婚が優先するという形になるので,もう重複の問題は生じない。それ以外の場面では,嫡出推定の重複の問題が生じるということなのですが,①を前提とすると,重複の範囲は多分広がりますよね。今だと,離婚後300日と婚姻成立後200日以内の部分が外れるということですので,100日間の再婚禁止期間でいいのですが,再婚したとき,離婚後ではなくて死別後再婚の場合であれば,再婚したときから推定が働くのだとすると,死別後300日間は重複が生じるという可能性になるだろうと思います。だから再婚禁止期間を延ばせというつもりは全くないのですが,重複を避けるという観点から再婚禁止期間を位置付けてしまうと,かえって,特に①のルールを採った場合には再婚禁止期間が長くなりかねないということが考えられるんだろうと思います。   その上で,ではどうしたらいいのかというと,一つの方向としては,嫡出推定の重複が生じるということともう再婚禁止期間の話は切り離してしまって,重複は生じればその都度それに関してのルールを考えていくという形で,再婚禁止期間とリンクさせないという方向があり得るだろうと思いますし,恐らく世界のすう勢としてはそっちの方向に向かっているのかなと思います。 ○大村部会長 窪田委員がおっしゃっているのは,今の②の問題をどうするかということと関わりなく,再婚禁止期間を廃止するということは考えられるということですね。②を作ると重複しないということになるけれども,重複しても再婚禁止期間を設けないという解決もあるのではないかという御指摘でかと思います。   ほかにいかがでございましょうか。 ○木村幹事 すみません,9ページの辺りについてですが,再婚後に生まれた子どもについては,その再婚後の夫の子どもと推定するという結論については理解しているのですけれども,その説明の仕方について若干お伺いしたいと思います。大村部会長が整理されたお話ですと,前婚の夫が300日以内についても推定が働いて,かつ再婚後に生まれた子どもについても①の規定をベースにすると推定が及ぶので,推定の重複があった上で後婚についての推定が優先するという形での結論であるというふうな御説明をされたと思います。他方,9ページの書きぶりだと,例えば(3)によれば,まず再婚があったという状況を踏まえて,前婚の夫の推定がそもそも働かない,排除をされるとした上で,更にそれに①の規定が加わることで,後婚の夫として推定されると読むこともできると思います。この9ページの記述は,今申し上げたどちらの理解を採っておられるのか,あるいはどちらの理解もあり得るという前提で話を進めていけばいいのかという点について教えていただけますでしょうか。 ○平田幹事 結論から申し上げると,どちらもあり得るというふうには考えております。特に,嫡出推定が重複すると考えるか,しないと考えるかについては,前婚の解消後300日以内に出生した子が後婚の夫の子と推定された場合において,後婚の夫との推定が否認されたとき,どのように取り扱うかという点にもつながっているように思いますので,今のところどちらもあり得るというふうには考えています。 ○大村部会長 ありがとうございます。   今,御指摘ありましたけれども,後の夫の子どもだという推定が優先する,そちらの推定でいくということになったとしても,それを覆して前の推定が戻るのだとすると,推定が重複していたという説明にならざるを得ないという,あるいは推定が重複していたという説明がより説得力を持つという御指摘だったかと思います。 ○髙橋委員 ちょっと今の話と関連するかもしれないんですけれども,後婚の方が割と早く離婚してしまったと,今の仕組みでいくと,後婚の方に離婚後300日の推定があるんだろうと思うんですね。その後,出生したと。その期間が前婚の離婚期間の300日と重なっている部分がもしかしたらどこかで出るかもしれないと。そうした場合,どっちが優先するんだという話に多分なってきて,後婚が優先するんだと,つまり後からできた男女関係で生まれたと,それは後婚の子だよと,そういう考え方をするんだったら,離婚しても養育意思がなくても後婚の300日推定が優先するんだというふうになるのではないかと。もうそうではなくて,後婚の方に養育意思があるからだと,後婚の婚姻中に生まれたからだということにするのであれば,離婚したら別に後婚は優先されないので,もしかしたら前婚の300日と重なってきた場合に,どっちを優先するかという話になって,そこはまた父を定める訴えになるのかという,そういう問題が出うるのではないかなと思うんですけれども。 ○平田幹事 髙橋委員御指摘のとおり,再婚が更に解消された場合にどういうふうに取り扱うかというのも,ルールとして問題になると考えております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   細かい解釈問題は髙橋委員御指摘の問題も含めて,いろいろ出てくると思います。そこは,一律に割り切れるのか,それともそうではないのかということも問題としてあるのかと思いますけれども,考えなければいけない問題は確かにあると思います。立法の際に対応を考えておくべき問題と,レアな問題として選択肢は幾つかあるので,どれがよいかは解釈に委ねざるを得ない問題と,割り振りが必要かと思いますけれども,貴重な御指摘だと思って伺いました。   そのほか,いかがでしょうか。 ○中田委員 実質についてはまだ今日の段階で一致していないと思いますが,形式的なことを一つ。772条2項の改正がされますと,1項の方も当然改正が必要になってくると思うんです。その1項の書き方によって,懐胎というのをなくしたときに,出生の方だけにフォーカスされてしまうのか,あるいはそれ以外の考え方もあり得るんだということを残し得るかどうかというのは,772条の書き方によっては後に影響してくるのではないかと思います。具体的にどのような表現になるのかということも意識しておいた方がいいかなと思いました。 ○大村部会長 ありがとうございます。   どういう規定を書くかということによって説明も違ってくるのだろうと思います。御指摘は,どういう規定なのかということと,その書き方がどういう影響を及ぼすのかということ,両方を考えて立案する必要があるだろうということとして,受け止めました。   現在提案されているようなルールを採ったときに,これが出生主義なのか懐胎主義なのか,説明の仕方は両様あるんだろうと思います。両様あるけれども,規定の書き方によってそれが影響を受けることがあるかもしれないという御指摘と思います。説明を統一する必要があるのか,両論あるので両様の読み方ができる方が望ましいのか,その辺も考えていく必要があるかと思います。ありがとうございます。 ○棚村委員 それで,今の中田委員の御指摘ともちょっと関係するのですけれども,出生主義を採って婚姻ということで,婚姻中の夫が父親と推定をされるというルールですね。窪田委員の説明だと,やはりサブルールみたいなものでどういうものを置いていくかというときに,やはり懐胎主義に基づくような一定期間の懐胎期間とか出産を目安として300日ルールみたいなものが,特に離婚のときは再婚とかいろいろな関係が起こってきますので,離婚とか再婚という例外規定が必要になります。ただ,死亡解消のときは,アメリカのUniform Parentage Actも,統一親子関係法ですけれども,そこもやはり死亡解消のときは離婚と違って,アメリカも協議離婚とかはないので,裁判離婚で一定の別居期間が前提になることが多いので,結局,ただ死亡解消の場合には,夫婦としての実態とかそういうものが残っている場合もかなりありますから,やはり300日ルールみたいなもので推定をすることになる。推定といっても,日本のような強い推定ではなくて,緩やかな推定で,例えば出生証明書の先ほど父と記載ある者とか,あるいは2年間同居して子どもを養育した者とか,いろいろなそういうような形で推定される父の範囲というのは広くなっています。   そういう中で,一定の期間内には父子関係を否定する権利も持つわけですけれども,日本の場合に,懐胎主義というのを採りながら,出生主義も導入をし,かつ,今言ったような形で死亡解消とか婚姻の取消しの場合も,先ほど言ったように婚姻の実態がかなり残っているケースと,取消しの原因によってはそうではないという場合もありますので,やはりその辺りの300日の推定ルールみたいなものをある程度サブルールとして残しておく必要があるのではないかと思っています。   ですから,そういう意味で,これまでのルールを180度なくすとか,変えてしまうというよりは,維持しながら不適切な部分,あるいは支障がある部分について修正を加えていくというやり方というのは,十分考えられるし,研究会でもそういう議論がかなり多かったのではないかと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   最後におっしゃった点は現在のルールを前提にして,不都合なところを変えていくという考え方が適当なのではないかという御指摘ですね。それから,その前におっしゃったのは,離婚と死別では,実態はケース・バイ・ケースではあるけれども,全体として見た場合にかなり違いがあるのではないか,違いがあるのならば,それを反映させることも考えた方がいいのではないかという御指摘だったかと思います。   先ほど井上委員から,ルールは明確な方がいいというお話があったわけですけれども,またその前に一般の人々がどういう意識を持っているのかというお話もありましたけれども,一般の人が離婚の場合と死別の場合とでどのように考えているのかというのはなかなか難しいところがあって,どちらも同じだと考えているのではないかという見方ももちろんあるんでしょうが,他方で,やはり離婚と死別は違うのではないかという意識があるかもしれない。もちろん一般的な方向としては単純なルールが望ましいわけですけれども,違うものは違うように扱うことも望ましいことなので,その辺のバランスをとるべきだという御指摘として伺いました。 ○久保野幹事 ②について直接意見というわけではないんですけれども,今話題になっておりました離婚の場合と死別の場合の区別について,現実の夫婦関係がどうだったかという実態に立ち入ると難しいというのは,御指摘のとおりだと思うんですけれども,民法の中で死別と離婚はかなり効果が違う形で定められていて,やはり氏とか姻族についての規定を見ますと,デフォルトの方が効果が続く方で設計されているというような違いもあるので,その点からは区別してということには十分理由があるように思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   今の御指摘のように,現行法との整合性も考慮に入れて考える必要があるのだろうと思います。   そのほかいかがでしょうか。 ○窪田委員 ものすごく中身の薄い抽象的な話になってしまうのですが,今日の議論の中でも,個別具体的なこういうケースではどうだ,ああいうケースではどうだという話は出ていたんですが,ただ,特に300日問題との関係,無戸籍問題との関係でいうと,嫡出推定というのが言わば障害を起こしていてということにどうしても焦点が当てられてしまうのですが,ただ一方で,嫡出推定制度というのは,やはり原則として父親がいるという形の仕組みを確保するという積極的な役割は担ってきたということは十分に認識した上で議論していかないと,無戸籍問題のみに対応するためでというふうに考えてしまうと,何か主従が逆転してしまうのかなと思います。   それともう一つ,やはり非常に一般的なことになるのですが,先ほども出ていた何をもって明確なルールとするかというのは,いろいろな考え方があると思うのですが,基本的には父を定める関係に関しては,原則のルールはやはり明確であるということが基本的には要請されているだろうと思います。明確であるから死別と離婚を区別しないとか,そんな話ではなくて,区別したってそれが明確であればいいのだろうと思います。いや,こんな微妙なケースがある,こんな微妙なケースがあるというふうな形で個別のケースに対応するような形でのルールというのは,事実上作ることができないか,非常に不透明なルールが作られるという可能性があると思いますので,全体の議論の仕方として,やはりそれは十分に意識して進めていくべきではないかなと思って伺っておりました。 ○大村部会長 ありがとうございます。   最初の点は,先ほど水野委員がおっしゃった嫡出推定という制度が多くの場合に子どもを守っているということを過小に評価してはいけないのではないかという御指摘と共通しますね。特定の問題を解決するために,この制度に手直しを加えようとしているわけですけれども,バランスを見定める必要があるだろうという一般的な,しかし重要な御指摘として承りました。   それから,2番目も,これは父子関係に限りませんけれども,母子関係も含めて親子関係はまず第1次的には明確に決まるということが,それ自体が価値を持っているだろうということですね。その後の争い方についてどうするかということについては,様々な選択肢はあるしょうが,出発点は,カテゴリーを幾つに分けるかはともかくとして,それぞれのところで明確なルールが望ましいという御指摘だったかと思います。   今,3時半なので,窪田委員の御発言を中間的な総括ということにさせていただいて,ここで休憩を入れさせていただきたいと思います。3時40分まで休憩ということにさせていただきます。   では,休憩します。           (休     憩) ○大村部会長 それでは,時間になりましたので,議論を再開させていただきたいと思います。   5ページの②について御意見を頂いておりますけれども,①との関係,あるいは後ろの再婚禁止期間との関係も含めた形で,更に御意見を頂ければと思いますが,いかがでしょうか。 ○山根委員 法律の仕組みが本当に難しくて,素人の私には本当に苦労の多い議論で困っているところなんですけれども,この制度の意義は広く認めるとしても,やはり父親が誰かということよりも,子に1人の人間としての位置付けを与えるというのか,出生のあかしを認めるという,それからその子を支えていくということがとても大事で,この検討会もそこから議論していると理解しているんですね。   そういう意味では,父親が未定であっても,幅広く,まず子どもの権利が認められて,その後,個別に様々なケースがあるわけですから,個別に環境の安定のためにいろいろ,先ほどサブルールを設けてというお話もあったと思うんですが,そういったルールの下で,それが活かされて手当てができるような,そういうふうに進んでいくことが必要なのではないかと思っています。   それと,あともう一つ,御提案なんですけれども,私も一般の生活者というか消費者という立場で出ておりますけれども,具体的にこういった問題で悩んでいる母親ですとか父親ですとか子どもさんですとか,そういった方と面していろいろお話を伺ったりというような機会は,ほとんど記憶がないものですから,そういった方にヒアリングというのか,何かお話を聞く機会が持てないかということも,お考えいただければと思いました。   すみません,まとまりませんで。 ○大村部会長 子どもが戸籍に登録されるということ自体に意義がある。だからこそ,無戸籍問題を何とかしなければいけないというのが共通の前提で,無戸籍状態が生じないという目的に少しでも近づけるような改正が考えられないだろうかということで,検討しているということだろうと思いますが,その上で,どのようなルールを作ることが望ましいのかということを,御議論いただいているものと了解しています。   様々な人々が関係する,もちろん無戸籍問題の当事者もそうですし,そうではなくて,先ほどから例に挙がっていますけれども,推定されない嫡出子で父子関係が覆ってしまうことによる紛争もあります。嫡出推定制度の在り方によって影響を受ける人々というのは,多種多様であると思いますので,そうした方々の声を,適切な形で受け止めることができればよいと思います。その方向でヒアリングのようなことは,今の時点で何か考えられますか。 ○平田幹事 今日御指摘受けましたので,ちょっと検討させていただきたいとは考えておりますが,ちょっとそのタイミングですとか,どういうことをというのは,考えさせていただきたいと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   タイミングもありますし,それから,誰から何を聞くのかも含めて,いろいろな問題があると思いますけれども,何が可能なのかということについては,事務当局の方で御検討いただくということにさせていただきたいと思います。そのほかにいかがでございましょうか。 ○大森幹事 今,ヒアリングの話出ましたので,そのことについて申し上げさせていただきたいと思います。   どのタイミングでヒアリングを行うのかということについて,私としては,また日弁連としては,できるだけ早期に,試案の前にヒアリングをお願いしたいと考えております。   無戸籍解消が出発点で,統計的なものはいろいろお示しいただいているものがありますが,実際の当事者の方々の生の実態を把握した上で,どういう制度設計があり得るだろうかということを議論し,試案に取りまとめて国民の皆様にお示しをするというのが適当ではないかと考える次第です。 ○大村部会長 ありがとうございます。できるだけ早くという御希望を承りました。   ただ,いろいろ準備もあろうかと思いますので,可能な範囲で可能なヒアリングを,できれば早いうちにということでお願いしたいと思います。   それから,先ほどからいろいろな数字が出ておりますけれども,有益な統計があるようならば,是非議論の前提として出していただきたいと思いますので,これも事務当局の方で,可能ならば統計も探していただければと思います。   そのほかいかがでしょうか。 ○棚村委員 先ほど井上委員から,再婚禁止期間を廃止するかどうかというところで,少し問題提起あったと思うのですけれども,私も窪田委員と同じように,一旦切り離しても議論できるんではないかと考えています。特に,嫡出推定制度についての一定の見直しというのができるとなってくると,先ほど言いましたような推定の重複みたいなものをどう解消するかというほかに,再婚禁止期間というものを設けて,婚姻それ自体を禁止しなければいけない必要性とか合理性がどれくらいあるかということになってくると思います。特に,海外を見ると,お隣の,韓国も2005年に嫡出推定制度を改めると同時に,特に否認期間とか否認権者に母親を加えるというようなことで,再婚禁止期間はやはり必要ないだろうということになりました。特に憲法との関係で,男女平等に反するという点もあって,先ほどの国連の女性差別撤廃委員会等の勧告もありますように,やはり婚姻をする権利みたいな重大な基本的な権利を制約してまで,父子関係とか親子をめぐる紛争,これをうまく解決するような明確なルールとか,その推定のルール,それから否認するルールみたいなものがきちっと決まってくると,むしろ再婚禁止期間の必要性はなくなってくるということになると思います。   それと,もう一つは,フランスとかドイツも10か月間という待婚禁止期間というか,そういうものを定めていたわけですけれども,今回,民法の改正と同時に,医師の非懐胎証明みたいなことで,即再婚はできるという方向での運用上の見直しというのですか,そういう取扱いもできていますので,結局,ほかの国が,実質形骸化したものを残す必要性がないという方向で廃止ということになっていくと思いますので,今回の嫡出推定否認制度の見直しということがある程度功を奏してくれば,再婚禁止期間というのは要らないということで,細かく問題が出てくる場合には,嫡出推定や否認制度,それから認知も関わってくるかもしれませんけれども,親子関係不存在とか,それから裁判認知とか認知制度の対応みたいなものは,解釈や運用の問題としてやはり残っていく可能性あると思います。親子関係をめぐる紛争については,父を定める訴えとか,そういう既存の制度やルールでいろいろ解決する手立てというのが増えてくると,再婚禁止期間そのものは廃止という方向で検討できるのではないかと考えています。 ○大村部会長 ありがとうございました。   今回,ここに再婚禁止期間の話が出ているのは,5ページのようなルールを採ると,少なくともある部分については再婚禁止期間が不要になるのではないかということかと思います。不要のところを残しておく必要はないかと思いますが,再婚禁止期間は要らないところが増えていくのであれば,他の部分についてもなくなるという方向に向かうだろうという御指摘ですね。   ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。   これまで,5ページの②のルールに対してどういうスタンスを採るのかということで,様々な御意見を頂いておりますけれども,今日の資料を拝見しますと,②については,9ページの「(4)検討すべき課題」に検討課題がいくつか挙がっております。それから,再婚禁止期間の話も出ておりますけれども,他の派生,関連する論点というところで,11ページの(2)ですが,「例外的に再婚後の夫の子と推定される子の嫡出否認に係る規律について」ということで,先ほど多少話題になりましたけれども,やや立ち入った個別問題が出ております。こうした問題も,基本的な考え方を定める上で検討すべき課題として資料に挙がっておりますけれども,これらについても,何か御意見があれば承りたいと思いますが,いかがでございましょうか。 ○木村幹事 すみません。   9ページの「検討すべき課題」,(4)のイの点ですけれども,先ほど来話題になっている離婚の場合と死亡解消による場合の相違についてです。確かにこの9ページで御指摘いただいているように,離婚の場合と違って,死亡解消の場合については,婚姻が解消される前に夫婦の実態関係があるということが考えられて,実際その解消後に生まれた子どもも,生物学上の蓋然性が,前の夫の子どもについてある程度認められるということ自体は,御指摘のとおりだと思います。もっとも,例えば,ドイツ法は,そういった理解を踏まえた上で,ただし,死亡解消後に更に妻が再婚している場合については,やはり後婚の場合の父性推定を優先するというような規定を設けていますので,生物学的な蓋然性の話だけではなくて,子どもが実際出生した状態を踏まえた上での評価も踏まえると,単純に前婚の夫の父性推定が働く,あるいは単純な重複状態に陥るという解決だけではなくて,この場合についても,後婚の父性推定の方が優先されるという規定を設けることも,一つあり得るのかなと思った次第です。 ○大村部会長 ありがとうございます。   血縁の存否の蓋然性ということには尽きない要素を考えると,死亡の場合についても,後の婚姻についての推定を認めるという余地もあるという御指摘だったかと思います。   この場の議論全体として,今出ている血縁の存否の蓋然性という要素と,それから,子どもに父が必要であるということ,あるいは婚姻というものが,父親が子どもを引き受けるという意思によって支えられていることなど,血縁以外の要素と,その両方の要素のどちらをどの程度まで重視するかということで,制度設計が分かれるのだろうと思いますが,皆様からは様々な重み付けの御議論を頂いていると理解しています。   木村幹事のおっしゃっているのは,ドイツ法は,一般的には血縁主義的な色彩が強いと言われているのだけれども,必ずしもそれだけではないという御説明だったかと思います。   そのほかいかがでしょうか。 ○窪田委員 もう,先ほど出たことというか,先ほど木村先生が指摘されたのがそうだったのだと思いますが,やはり,離婚後再婚の場合に,再婚の夫の方の嫡出推定が優先するというときも,やはり説明の仕方をどうするのか,嫡出推定が両方とも働いた上で,重複で優先させているというのか,いや,そうではなくて,再婚した場合には,前婚の嫡出推定は消えているんだという説明をするのかというのは,やはり9ページの下のほうでしたでしょうか,どこかに出ていたと思いますけれども,後婚の方で否認がされた場合に,その扱いがどうなるのかという部分に影響してくるだろうと思います。仮に,離婚後再婚の場合だけではなくて,死別後再婚に関しても同じような問題が考えられるとすると,やはりその部分の説明が重要になってくるのだろうなと思いながら,聞いておりました。   ただ,死亡後再婚というのを考えると,例えば,母親の側から見ても,この子のためにとって何がいいのかというのを考えたとき,離婚後再婚だと,比較的これからの問題が中心になると思うのですが,死亡後再婚だと,前婚に関していうと,胎児であったとしても相続人ではありますので,相続の利益といったものと,これから将来の扶養の利益といったようなもの,そんなことで判断すべきではないのかもしれませんが,難しいような判断が求められるんだろうと思います。その上で,後婚の方で否認した場合にどうなるのかということは,やはりきちんと検討しておかないと,結構難しい問題だろうなと思いました。   その点では,説明として,どちらも考えられるのですが,その説明が結構重要な意味を持ってくるのかなという気がいたします。 ○木村幹事 すみません。それとの関係で,例えば,ドイツ法の説明ばかりで申し訳ないのですけれども,ドイツ法においては,死亡解消の場合については,飽くまで前婚の父性推定と後婚の父性推定は重複している状態について,後婚の父性が優先するという規定を設けられているという前提をとっていますので,仮に後婚の父性推定が否認をされると,前婚の父性推定が復活するという形で,前婚の父性推定についても一定の蓋然性であり,存在理由があるというふうな理解がとられています。   これに対して,離婚による解消の場合については,父性推定の重複で,それを後婚の場合に優先させているという理解はとられておらず,離婚解消の場合については,そういった事情があれば,前婚の父性推定自体がそもそも排除されるという形になっています。これによると,後婚の父性推定が否定された場合についても,前婚の父性推定は復活しないという形で,一応の区別を設ける法制度もあり得るのかなと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   ドイツ法の場合には,婚姻が解消された場合には,そもそも前婚の父性推定が及ばないとなっているからですね。 ○木村幹事 そうですね,離婚の場合はそうです。 ○大村部会長 そこが違うので,後婚の嫡出推定が否定された場合の帰結も違ってくるということですね。 ○木村幹事 はい。 ○大村部会長 同じような制度を作って,違う説明が可能かどうかというと,またそれは別の問題かもしれません。 ○窪田委員 別に補足することはないのですが,木村先生から御説明あったのは,正しくドイツ法の場合には,離婚の場合には別居要件があるので,そもそも300日推定みたいなのを働かせる前提がないという仕組みになりますので,日本の場合ですと,離婚と死別に関して,同じような区別をすることができるかどうかというのは,ちょっと区別するのが難しいのかなという気もします。 ○木村幹事 そうですね。一つの説明の仕方として,妻が再婚したような場合については,およそ前婚についての父性推定の蓋然性もなかったと見ることができるとの説明しかないのかなと考えてはいるのですけれども,やはりドイツ法との違いを踏まえると,そういった説明はなかなか苦しいのかなとも思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   ルールをどうするのかということと,説明をどうするのかということは,どちらも難しい問題ですけれども,問題は取りあえず共有されたかと思います。   その問題についてでも結構ですし,その他の問題についてでも結構ですので,更に御発言を頂ければと思いますが,いかがでしょうか。   大枠が定まらないと,細かい問題議論しにくいという事情が一方であると同時に,細かい問題を見据えないと,大枠についても何がいいかが定まらないというところもありますので,今日の段階では,細かな問題であっても,大枠を考える上で影響のありそうな問題を御指摘いただけるとありがたいと思っておりますが,更に御指摘あれば伺いたいと思います。いかがでしょうか。 ○澤村幹事 部会資料第2の1①のところで申し上げるべきだったことかもしれないのですけれども,②の場合でもそうなのですが,後婚の成立後200日以内に生まれた子についての嫡出推定を覆す手段として,11ページに,嫡出否認の手続によることが考えられると記載されています。現行法の下で,外観説の考え方によって前夫の推定が及ばない場合,親子関係不存在確認の手続をとることができるとされています。   これとは逆のパターンになりますけれども,①の見直しをした場合において,後婚の関係にある者との間での懐胎の可能性が外観上なかったという場合に,親子関係不存在の確認の手続がとれるのかどうかということについても,検討しておく必要があると思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   今おっしゃったように,逆のパターンで,後の方の実質が欠けている場合に,親子関係不存在でいけるのかということも,選択肢としては検討する必要があるという御指摘ですね。ありがとうございました。   そのほかいかがでしょうか。 ○水野委員 ずっと,これは伺ってはいけないのかと思ってためらっていたのですが,今,御質問が出ましたので。親子関係存否確認訴訟については,どのような前提で考えればよいのでしょうか。現行の親子関係存否確認請求訴訟がそのまま認められるものという前提で,外観説が維持されるという前提で議論をすればいいのでしょうか,それとも,今回いろいろ嫡出否認に手が入った段階で,外観説のような従来の判例法理は,当然のことながら一定の範囲で立法的に解決をされることになるのだと思いますが,そのときに,親子関係存否確認請求訴訟という判例法理は,どのようなものと考えられることになるのでしょうか。いずれにせよ,議論をする必要があるように思います。 ○平田幹事 御指摘のとおり,今回の改正がどのような改正になるかに従って,外観説にどのような影響を与えるかというところについて,今後,御議論いただければと思っていたところです。改正内容によって,外観説に与える影響は恐らく異なるでしょうし,場合によっては,何らかの内容を明文で定めるなどしてその影響を回避する方策を検討する必要があるかもしれないと考えておりますけれども,ちょっとまだ,そこまで議論が詰まっていないといいますか,またその辺も含めて御議論いただけると有り難いと考えております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   問題自体は意識されているということで,どのようにするのかということについては,また今回の立法がどうなるかとの見合いで,何か手当てが必要なのかどうかを考えるというお答えかと思いますが,水野委員,今のところはそれでよろしいですか。 ○水野委員 そのほかにも,最高裁の判例法理は,例えば権利濫用の法理などもございますし,それらの判例法理との整合性,どこまで判例法理は生きることになるのかということも,一応,アンタントは作っておく必要があるかと思っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   新しい制度を立案したときに,従来の判例法理がどうなるであろうかということについて,検討して見通しを示すということと,それから,何か規定を置くのかということと,その間にはまた少し落差があるかと思いますけれども,必要に応じて検討し,さらに,必要に応じて規定を置くならば置くということなのかなと思って,今のやり取りを伺っておりました。   そのほかいかがでしょうか。   特定の論点に言及したりいたしましたので,発言を制約することになったかもしれませんが,第2全般,あるいは第1も含めて,事務当局から冒頭で説明があった範囲の事柄につきまして,今の時点でさらに御発言を頂けることがありましたら伺いたいと思いますが,いかがでしょうか。   よろしいでしょうか。   それでは,第2の民法第772条の嫡出推定規定の見直しということにつきまして,考えられる見直しの在り方,それから,それに派生,関連する論点について,一応御意見を伺ったということにさせていただきまして,さらに御意見を踏まえて事務当局の方で御検討いただきまして,再度御提案を頂くということにさせていただきたいと思います。   残った時間を使いまして,12ページ以下の「第3 嫡出否認制度の見直し(1)-否認権者に関する規律の見直し-」という項目に進ませていただきたいと思います。   この点につきまして,まず事務当局の方から御説明を頂ければと思います。 ○小川関係官 それでは,御説明いたします。   第3では,嫡出否認制度の見直しのうち,否認権者に関する規律の見直しについて記載しております。   1では,否認権者を夫のみとしている民法第774条を見直し,否認権者を拡大するという方策について,この部会の議論のたたき台として,(1)で子に否認権を認めた上で,親権者である母又は未成年後見人による代理行使を許容することを提案しております。他方で,母の否認権については(2)でその必要性や根拠について留意した検討が必要であると考えられることから,この部会資料では,積極的な提案はしておりません。   次に,2は,子に否認権を拡大する方策についてです。   (2)の見直しの必要性に記載したとおり,無戸籍者を解消するという観点からは,民法第772条の推定を否定して出生届を提出するために,母等のイニシアティブで嫡出否認の手続をとることを認めることが有益であるとの指摘がございます。これを実現するための方策としては,子に否認権を認め,親権者による代理行使を許容するという方法と,母に否認権を認めるという方法の二つが考えられますが,父子関係の当事者は父と子であると考えられることから,ここでは,子に否認権を認める方策を提案しております。   (3)の基本的な考え方,(4)の検討すべき課題,特に,親権者たる母が子の否認権を代理行使することが,利益相反に当たるのではないかという点等を踏まえまして,子に否認権を認めることの当否や,認めることとした場合の制度の在り方について,御議論を頂きたいと考えております。   次に,15ページの3ですが,3では,母に否認権を拡大することについて記載しております。   母の否認権については,(2)の検討すべき課題のアで,必要性という観点から,子の否認権を代理する権限を親権者である母に認めた場合に,母に否認権をなお認める必要があるのかどうか更に検討する必要があると考えられますので,その旨を記載しております。   また,イでは,母の否認権の基礎付けとして,母は父子関係の当事者ではないものの,子の利益を最もよく代弁できること等から,母に否認権を認めるべきであるとの考え方と,父子関係は父と子の1対1の関係ではなく,婚姻している夫婦とその子という関係であると捉えることで,父子関係について,母にも固有の利益があると言えるのではないかという考え方があり得るとの指摘がございますので,その旨記載しております。   これらの点を踏まえまして,母に否認権を認めることの当否について,御議論を頂きたいと考えております。   次に,16ページの4で,生物学上の父,遺伝上の父に否認権を拡大することについて記載しております。   こちらは,1の(注2)に記載しているところですけれども,生物学上の父を否認権者とする考え方もあり得るところかと思います。生物学上の父については,法律上の父子関係を否定するために,否認権を行使したいと考えることは十分にあり得るというところですけれども,他方で,生物学上の父の意思のみによって法律上の父子関係を否定することが,今存在する夫婦の家庭の平穏や子どもの利益に反するおそれが高いとの指摘などもございます。   これらの点を踏まえて,生物学上の父に否認権を拡大することについて,御意見を賜われればと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   嫡出否認制度については,その利用について幾つかの制約があるわけですけれども,そのうちの否認権者に関する規律の見直しというのが,今日の資料の内容になっております。   現行法は,父のみに否認権を認めるということになっていて,そのことについての問題点が指摘されています。それを踏まえて,この資料では,まず第一に,子どもを否認権者とする,その上で,親権者である母などによる代理行使を認めるというのが提案されています。母を固有の否認権者とすることについては,なお検討する必要があるのではないか。さらに,そのほかの者というのも考えられますけれども,生物学上の父というのもあり得るかもしれない。これは,(注)という形で記載されている。このように三つに分けて御提案がされているものと理解しました。   2,3,4が,その三つに対応しているかと思いますが,順に御意見を頂ければと思います。   まず最初に,子に否認権を拡大する方策の部分について御意見を頂ければと思いますが,いかがでしょうか。 ○棚村委員 子どもは父子関係の当事者でもありますし,一番,誰に育てられるかというようなことで利害関係も非常に強いということになりますので,子ども自身がやはり否認権を持つということについては,割と肯定したいとは思います。ただ,問題は,小さいときには,母親がそれを代わりに行使せざるを得ないという問題になります。それは,コンフリクトの問題もありますけれども,やはり一番子の利益や立場を代弁するのに適切なのは誰かという観点から言うと,やはり母親ではないかということになると思います。   それで,かなり難しいなと思うのは,子どもがどれくらいになったら自分自身で判断できるかということ,例えば,15歳で意思能力みたいなのがあるんだということになると,その本人が否認権を行使できるということになると思うんですけれども,そのときのやはり本人の意思の確認とか年齢の線引きの仕方みたいなところで,国によってもやはり随分違うと思いますので,日本でも,どれくらいの年齢の子どもが独自に否認権というか,お父さんではないということを主張できるのかということを議論しなければいけないと思います。   それから,否認権を誰が持つか,今度は,今日の提案の対象にはなっていないかもしれませんけれども,期間制限の問題も,やはり親子関係や身分関係の法的安定性ということを考えると,余り長く延びるということは適切ではありませんし,他方,真実はやはり明らかにしたいということについて,余り大きな制約をつけてしまうとことも問題になります。要するに,短期間でやってしまうと,今,議論になっているような,やはりちょっと硬直しているんではないかとか否定する機会が失われてしまうのではないかという問題も出てくるので,両面からバランスをとって,否認権者の問題と,それから,やはり否認の期間の問題というのは密接不可分に関係し連動しているところもあるので,今日は時間がないのでそこまでいかないと思うんですが,やはり関連させながらの議論をする必要があると思います。   とりあえず,子どもの否認権というのは認める方向で賛成ですけれども,特に小さいときに母親が代理行使するということを,どういうふうに正当化していくかという,そういう説明の問題と,それから,もう一つは,子どもが一定の年齢になった場合に,独自に自分自身で権利行使ができるのか,それをどういう条件で認めていくかということを具体的に詰める必要があると思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   基本的には,子どもの否認権について賛成であるという御意見を頂きました。問題点として,母の代理行使についての説明であるとか,あるいは,子自身が自ら否認権を行使できるのはいつからかといった御指摘を頂きました。特に最後の問題は,期間制限をどうするかという問題と関わっている。15歳になれば行使できるいった規律を考えるするとと,15歳になった後に,さらに,否認権を行使できる期間を設定するということになります。   棚村委員御指摘のように,今日の資料では,期間の問題は否認権者の問題と切り離した形でできておりますけれども,期間の問題と否認権者の問題は,連動するところがあります。ですから,期間に関する御発言は全部次回に回していただきたいとは申しませんけれども,取りあえずは子どもの否認権を認めるかどうかという点につきまして,御意見を頂ければと思います。   ほかの委員,幹事の方々,いかがでしょうか。 ○幡野幹事 親権者である母が代理行使するという場合について,気になっている点があります。まず,子と利益相反が生ずる場合にどうなるのかという点です。もう一点は,推定の及んでいる夫について,夫も親権者であるという推定が働くものと思われますが,その点と関係します。,14ページの資料ですと,(3)見直しの基本的な考え方の3段落目のところで,「夫は訴えの相手方となるため,否認権を代理行使することはできず」とあります。しかし,例えば,この子の父親は自分ではないということを知っている夫が,推定は及ぶけれども,その子の福祉のために,この場合に否認権は行使するべきではないという考えを持っていたときに,その夫の意見は親権者の意見として反映することはできるようにも思われます。つまり,母は,夫との関係で無制約に否認権を行使できない場合があるのかということについても議論が必要で,仮にそうだとした場合に,やはり母独自の否認権というものを考慮する必要があるようにも思われます。   そのような意味で,夫はどういう権限を持つのかという点について,御議論いただければと思っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   今の幡野幹事の前提は,夫の側からは否認権の行使を差し控えている。夫が子どものために,あるいは自分と子どものために,望ましくないと考えているから,自分の側からは行使しないというときに,子どもの側から行使するかどうかを考えるときに,親権者として夫が何か言うことはできないのだろうかということですね。   妻だけが親権者として行使するということで,説明として十分なのだろうかという御指摘かと思いますが,何かその辺りについて御意見があれば伺いたいと思いますが,いかがでしょうか。 ○棚村委員 結局,これは本当に難しい話になると思うのですけれども,否認をする根拠とか対象というは一体何なのかという問題です。つまり,血縁関係がないということを確定するのか,もちろん,法律上の親でないということの最終的には確定になると思うのですけれども,結局,先ほど言いましたように,夫が子どもに対して持っている利益とかいろいろなものを考えると,実質的にはやはり,単に否認の相手方になるというだけではないんだという捉え方もできると思います。ただ,最終的には一体何を確定しようとするのが否認の訴えの目的なのかというときに,血縁関係がないということを否定をしたいということに絞るとすれば,やはりその相手方は,子どもが起こせば夫になってくるし,それから,それを代理行使するとしたら母親しかいないのかなということになります。   コンフリクトということを考える場合には,特別代理人とか子どもの手続代理人とかということもなくはないと思うのですけれども,ただ,少なくとも子どもを通した三者の関係でいくと,お母さんが子どもの利益を守っていかなければいけないし,血縁がないということを明らかにする以上は,相手方は,父親ということになるのかなと思います。   ただ,アメリカの例を先ほども出しましたけれども,推定される人が何人も出てきて競合することが起こるわけですね。そうすると,お母さんも含めて,父子関係を否定するということの可能性というのは出てくるのです。この場合は,親子関係不存在の確認の訴えとほとんど同じような形になっていて,ただ,一定の範囲で利害関係を法的にもつ者に認めますが,一定の縛りはあって原告,申立権者というのは制限をされてくるということになっています。   ただ,今回の見直しの議論でも,嫡出否認の目的を,一体何を確定しようとしているのかという議論の中で,血縁が中心だけれども,それ以外の要素も入れるということになると,夫にも否認権を認めてもいいんではないかということになると思いますし,ただ,父子関係,要するに,遺伝的な父子関係というものがないんだということを考えてくると,これはDNA鑑定の利用とか,いろいろなこととも関わってくると思いますけれども,それに絞ってくると,どちらかというと,夫が消極的に,要するに,認めてもいいんだという意思や利益を持った,むしろ,先ほど澤村委員から御質問があって,合意に相当する審判とか,それから嫡出否認と親子関係不存在確認の訴えの外観説の位置付けもそうですけれども,既存のルールなり,そういうものをある程度維持するのかしないのかとか,そういう辺りのこととも関わってくるのかなと,ちょっとお話を聞いて考えました。 ○大村部会長 ありがとうございます。   血縁関係だけではなく,子の福祉,子の利益を考えるとすると,ここに書かれているのとは違う考え方になるかもしれないという御指摘でしょうか。   何かほかに,この点について御指摘,御意見おありでしょうか。 ○木村幹事 すみません。先ほどの幡野幹事の御意見だと,基本的に親権者が父である場合を想定して,その立場から何か主張できないのかという御趣旨だったと理解しました。もっとも,離婚後,単独親権者として母親がなっていた場合であったとしても,法律上の父として,親子関係に対して何かしらの利益を持っている状態は変わらないのかなとも,考えることができるのではないかなと思います。そうすると,父親が親権者であるかどうかの立場から,何か権利とか権限があるのかという議論をするのか,もう少し幅広く,父親の利益なども踏まえた上で,子どもの福祉とか利益というものを重視した上で,初めて子どもの否認権の代理行使が認められるといったような形の処理をするのが,もう一つの解決方策なのかなとは思います。   ただ,今のところは,民法上は,子どもの利益に反するような場合に,否認は認められないという帰結を導くための直接的な規定がないように思いますので,仮に子どもの福祉の観点から否認を認めないとすれば,そういった形の規定をもう一つ加える必要があるのかなと考えます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   父親が父子関係を否定しないことが望ましいと考えている場合に,父親を被告とした訴訟の中で父子関係を維持する主張をすることはできるでしょうが,今問題になっているのは,その入口で,子どもが提訴するときに,提訴すること自体を親権者ないし親として阻むということが考えられるのかどうなのか,それを制度化するとしたら,どのように制度化し,どのように正当化するのかということかと思います。 ○窪田委員 幡野さんが先ほどおっしゃっていたのも,そういうことなのかなと思いながら伺っていたのですが,幡野さんも別に,法定代理人として,親権者相互の関係をもっと厳密に詰めてということよりも,むしろ法定代理人,親権者という構成でいくことが適切なのかどうなのかという点を含めて,問題とされていたんではないかなと思って伺っておりました。   私自身も同じような印象を持っていて,親権者という枠組みでいったら,では,父親も親権者だったときどうなるのか,利益相反になるのだったら特別代理人が必要だとといったことになるのですが,特別代理人になじむ問題なのかというと,やはりそうではないのではないかなという気がします。そうやって見てくると,実は,(1)の問題と(2)の問題というのは,これも幡野さんが御指摘になっていたと思いますけれども,それほどきれいに実は分かれないのかもしれません。つまり,(2)の方であったとしても,母について,やはり子どもの利益の代弁者という位置付けは可能ですし,(1)の方を採ったとしても,別に親権者,法定代理権だという構成ではなくて,母が子どもに代わってその権利を行使するという説明もできると思いますので,確かに代理ということでいくと,親権ということにこだわることになりそうなのですが,必ずしも,何かここで新しい枠組みを考える場合には,従来の親権の仕組みを前提にしなくてもいいのかなという感想を持ちました。 ○大村部会長 ありがとうございます。   幡野幹事は,窪田委員が御指摘のように,母の固有の否認権をむしろ検討する必要があるのではないかという方向で,最終的には御発言になっていたと思いますので,窪田委員がおっしゃったように,関連する形で議論をする必要があるのかと思います。   代理構成をする場合には,少なくとも考え方としては,やはり本人の利益のためにというのが入らざるを得ないでしょうか。 ○窪田委員 代理なんですかね。 ○大村部会長 代理ではないと考えれば,母が否認権を行使することができる。その否認権を行使するための事情としては,いろいろなものがあるだろうけれども,子の利益のことも,もちろん考えているだろうねといった説明になるのかもしれません。   母の否認権と絡めた形の方が,議論がしやすいということであれば,そちらも含めてでいただいて結構です。 ○窪田委員 特にこだわりはないのですが,ちょっと気になったのは,利益相反の話が出るときに,子どもの利益という話が出るのですけれども,実際に父親ではない人を否認するというのは,それ自体として,別に子どもの利益だという説明は成り立つのではないかなという気もするのですが。子の利益に反するかどうかというときに,具体的に皆さんがどういう趣旨で議論されているのかなというのが,ちょっと分からなかつたんですが。 ○大村部会長 窪田委員がおっしゃっているのは,血縁と異なる父子関係が現在存在する。それを否定すること自体が,子の利益にかなっているということでしょうか。 ○窪田委員 はい,そういう説明はできるのではないかと思います。   例えば,父とされる者が大変にお金持ちであるというときには,それを否定することができないのかというと,そうではないだろうと思うのですが,それはおかしいでしょうか。 ○大村部会長 今の点について,皆さんの御感触を伺えればと思いますが。 ○窪田委員 先ほどから利益相反の話で出ている,利益相反が問題となるのが具体的にどんな場合なのかを知りたいというだけです。 ○大村部会長 何か御発言があればと思いますけれども,いかがでしょうか。 ○垣内幹事 私は,民法は専門でないので素人考えですけれども,今日の前半でも議論があったところかと思いますけれども,そもそも嫡出推定という制度があって,これは,父が血縁上の父で本当はないかもしれないとしても,非常に厳格な否認の手続を経なければ,それは否定されない制度になっており,そして,そのことが子の利益を守るものという側面を持っているという理解で,前半の議論はされていたのかなと思います。   そこで想定されているのは,否認権がある人がいたとしても,したがって,その否認権があって,血縁上の父ではないという事実があったとしても,当然にそれが実現されるべきかどうかというと,それは,法は否認権者にその判断を委ねていて,判断を委ねることによって,正に子の利益が守られる場面があると考えているようにも思われまして,そうしますと,その血縁がないということから,直ちにその父子関係が否定されるべきであって,それが維持されることについて,子の利益を考える必要はないという前提には,必ずしも立っていない可能性もあるのかなというふうな印象を持ったんですけれども,ちょっと的外れかもしれませんが。 ○窪田委員 当然否定されるべきだと考えているわけではないのですが,母が否定されるべきだと判断したら,その判断は尊重してもいいのではないかなという趣旨でのことです。それを,例えば,客観的な,お父さんどういう人だからとかという話を持ち出してきて,利益に反するかどうかという議論の仕方は,そもそも実親子関係において,親子関係存否の話のときの議論になじまないのではないかなという気がしております。   それが1点と,もう一つは,確かに垣内さんがおっしゃるように,現行制度というのは,血縁関係がなかったとしても,親子関係を,父子関係を認めることによって,子の利益を保護しようと。嫡出否認に関してもそういう側面があるというのは,恐らく嫡出否認について期間制限とか,いろいろな形で制約を掛けることによって,一定の期間が経過したら,もう法的に安定させようと。ただ,一方で,その期間内では,父親は自由に多分判断することができて,それを止めることはできない。そのときの父親の判断というのは,嫡出否認をするということに対して制約を掛けるという意味で民法があるのですが,よし,わしが父親になろうと思ったら,それを尊重してあげるための仕組みではないのではないと,私自身は思っています。あくまで子の地位を守るためのものであって,父の恣意的判断というのを保障するためのものではないと思いますので,その意味では,もちろん子どもの地位を安定させるということはあるんだけれども,それは,否認権者の判断に委ねるというよりは,否認権者の判断を一定のところで制約するという部分で表れているのかなと思いました。   ちょっと十分な説明ではないかもしれませんが。 ○大村部会長 それでは,垣内幹事,それから棚村委員。 ○垣内幹事 今のお答えについて,私は特に異論は全くありません。   今のお答えから考えて,先ほどの幡野幹事の御発言に関しては,実は,広い意味では,現行法の下で存在している問題をも指摘された側面があるのかなと思っておりまして,現行法では父がその否認権者であって,その判断に委ねられているんだけれども,しかし,それが子の利益に反する形で行使されるというときに,例えば,親権者である母は何も言うことができないのかというようなことは,潜在的な問題としてはあるわけでしょうけれども,しかし,恐らく現行法の下では,それは否認制度というのはそういうものであるということで,それを否認権者が拡大された場面でも同じように考えれば,今窪田委員が言われたようなことになるのかなと受け止めました。どうもありがとうございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   今のやり取りで明らかになったことはいろいろあると思いますが,しかし,子どもは自由に否認権を行使できるという話ですね。 ○窪田委員 そうですね。 ○大村部会長 父が制限期間内で自由に否認権を行使できるのならば,子どもも自由に行使できる。母が自由に行使できるものが,子どもが自由に行使できるものと等値できるかという問題を,子の利益という形で議論しているということかと思って,伺っていました。 ○棚村委員 コンフリクトの問題なんですけれども,これは法律上,利益相反というか,事実上のものではないか。例えば,父親が血縁がないのに法的親子関係を維持したいと考えるけれども,母親の方は切りたいということは起こりえます。そのときに,子どもにとっては一番どうすることがいいのかという意味で大変難しいことになります。双方が親子関係をめぐり異なる主張をした場合に,やはり事実上は深刻な対立が起こってきます。そのときに,やはりお母さんの判断を優先させるとか,そういう政策的な判断の問題は出てきてしまうので,その辺りをどう説明するかというのは,私は先ほど,説明の仕方を気を付けないとかなり苦しいのではないかと考えます。先ほど言った嫡出否認というのは一体何を目的としているのか,何を確定をしているのかということと,それから,やはりお母さんに判断させるのは,窪田委員は適切だと言ったんですけれども,要するに,早く親子関係を決めるという意味では,お母さんに代弁させたり,お母さんの意向を優先させることが子の利益になる場合ありますけれども,父母の間では,やはり子どもをめぐって対立状態は続いているんだと思うんですよね。その辺りのところで,一体何をもって子どもの利益とするのか,何もって嫡出否認の目的とするのかというのは,私はやはり,法律上は,血縁とは必ずしも一致しない親子関係が出ることを想定しているんだということも,前提としていますし,説明もされるんですけれども,最終的には,そこの辺りで政策的な判断をしていかないと,やはりこの議論はなかなかうまく説明ができのではないかと思っています。 ○窪田委員 反論ではなくて,単に質問なのですが,今の棚村先生がおっしゃったのは,父とされる者と母との間のコンフリクトの話ですよね。子どもの利益に関しての,子との利益相反の話ではないように思います。つまり,子どもの利益とか将来の在り方について,子の監護をめぐって父と母が争っているのと同じタイプの紛争なのだろうと思いますので,少なくとも利益相反の話ではないということになるように思いますが,そのような理解でよろしいですか。 ○棚村委員 というよりは,先ほどから子どもの利益とかって言ったとき,どういうふうに育てる環境があるかとかという話にいってしまうと,正に親権とか監護とかの問題になると思うのです。我々が今議論しなければいけないのは,法的に親となるのは一体誰であって,それを確定,推定するルールなり,争う手続なり,そういうものをどう制度設計するかということなので,要するに,子ども自体は親を持つという一般的な利益というのは,多分あると思うんです,権利なりも。   ただ,問題になっているのは,小さいときにはそれが行使できないし,自分自身ではなかなか判断もできない。そのとき誰がやるかというときに,幡野委員も多分,それを意識して父親の利益とか,親子関係を維持したい利益というのを出されたとは思うのですけれども,そのときはやはり,事実上のコンフリクトみたいなのが起こっている状態になっているのではないかと思います。そのときに,私は,説明として,とにかく早く親を決めなければいけないので,そのときに,形式的には誰が相手になって,誰が,子どもが訴える場合だったら,子どもの代理をするのはお母さんということで,私は全然構わないと思います。ただ,その説明の仕方を工夫しないと,事実上のコンフリクトが起こって,お母さん自体が,夫と仲が悪くなったり,別の人との関係して子どもを産んでいたりすれば,父子関係を切りたいと思うのことが比較的多いと思います。お父さんの方は,育てた以上は,あるいは自分が親になるって決めた以上はということもあるし,意地でもという方もおられるかもしれません。否認にもちろん,あっさりと同意をすれば,合意に相当する審判みたいなことでできるとは思うのですけれども,対立状態が続いたときに,やはり,私自身は,コンフリクトは事実上は起こり得るのかなと思ったのですけれども。 ○窪田委員 しつこいですけれども,コンフリクトがあるということは,私,全然否定しておりません。ただ,今の問題は,母親に特別代理人を選任しても,問題は解決しないですように思います。ですから,その意味での利益相反ではないのではないかということを確認したかったという趣旨です。   それと,もう一つは,父が父となると決心した場合にということがありましたが,私としても,やはり札幌ケースとか大阪ケースと呼ばれるものを想定しながら考えているのですが,血縁関係はないけれども,よし,俺が父親になろうと決意したら,それが尊重されるというのは,本来の嫡出推定制度の役割ではないのではないかと,私自身はそういうふうに理解しております。 ○棚村委員 その点については,特に異論はありません。   ただ,私自身が考えているのは,説明の仕方をやはり少し工夫しないと,分かりにくいんではないかなという点です。つまり,一方では,血縁関係の存否みたいなことを言いながら,もう一方では,法的な安定性みたいなことを言いながら説明をすると,最終的には,どっちかというグレーゾーンみたいなのが,一番深刻な対立になってくるわけです。そのときに,やはり親を早く決めるということと,親でありながら,やはり血のつながった人を確保するという利益というのが,ぶつかってはくると思うので,その辺りの説明の仕方を工夫する必要があるという意見です。   窪田委員の先ほどのお話には,特に異論はありません。私はどっちかというと,少数意見の方を支持したわけですけれども。 ○大村部会長 ありがとうございます。   子どもの側に否認権を認めること自体には,皆さん異論はないというか,原理的に子どもの側に否認権を認めるということについて,特に反対の意見はないように思いますが,母親が子どもに代わって行使するという場合,大体の場合はそれでいいのかもしれないけれども,それでは説明し切れない場合というのがあるのではないか,それをどのように説明するかということが,様々な形で出ているのかと思います。   この点をうまく説明するのが難しいならば,幡野幹事がおっしゃるように,むしろ母親の固有の否認権というのを認めたほうがいいのではないかという御議論になってくる。窪田委員も,あるいはそういうお考えかもしれません。   そうすると今度は,母親の固有の否認権を認めるとした場合に,それに伴ってどのような難点があるのかということが,反対の問題として出てくるように思いますけれども,その辺りについては何かおありでしょうか。   子どもの否認権だけではなくて,次の,母に否認権を拡大することについても含めての議論になっていますけれども。 ○棚村委員 ちょっと質問があるのですけれども,その場合,子どもの否認権を認めた上で,母の独自の否認権も併せて認めていくということになるんでしょうか,それとも,立法例でいくと,どっちかというのもあれば,両方というのもあって,いろいろ制度の組み方によって違ってくると思います。   多分,議論は,これからになると思うのですけれども,結局子どもを代理して母親がやる,小さい場合ですけれども,それと,母親自体が固有の権利をもち独自にやる場合とでダブルということは起こらないのかというようなことは,一体どういうふうにお考えになる,整理されるのか,ちょっと質問させていただきたいと思います。 ○大村部会長 資料の考え方について,まず確認していただいて,その上で,違う考え方ももちろんあろうかと思いますので,そうしたお考えがあれば御議論をいただくということかと思いますけれども。 ○平田幹事 資料につきましては,まず,否認権者について,現行法上,父のみとされている部分について,まず子に拡大するかというところを検討した上で,更に母にも拡大していく必要性があるかというところで,作らせていただいてはおります。   ○大村部会長 ベースは子どもに認めるというところから出発しているという御説明だったかと思いますけれども,ただ,棚村委員も先ほど御指摘のように,母だけ認めるという考え方もあり得る考え方だろうとは思いますけれども。   いかがでしょうか。   先ほどの窪田委員の御発言は,子どもに否認権を認めるとして,母については,どのように考えるということになりますか。 ○窪田委員 全然意見が固まらないまま,中途半端に発言してしまったので,混乱させてしまったということなのだろうと思います。私自身,(1),(2),両方ともあり得るのだろうなと思いつつ,法定代理という仕組みがうまくいくのかなということで,問題を提起したということでした。   (1)であるとしても,親権者である母が,子の利益を代弁するという説明の仕方もあり得るのではないかと思います。ただ,そういった場合には,先ほど棚村先生から御指摘あったように,(1)と(2),両方とも作るのかという,多分問題になってくる,どっちだって同じではないかということになってくるのだろうと思います。   ただ,やはりちょっと気になっているのは,(2)を,母を否認権者として独自に認めるとしても,母がいない場合にどう扱うのかという,(1)の問題は,それを未成年後見人という形で位置付けるかどうかはともかくとして,やはりあるのかなという気はします。   私自身は,(1)ではなくて,全部(2)に吸収しましょうという考えているわけではございません。 ○大村部会長 ありがとうございます。   確かに,母がいない場合もあるので,そのときに,父は否認権を行使しないけれども,否認権を行使する必要はなお残らないかということを考えなければいけないという御指摘かと思います。   いかがでしょうか。 ○中田委員 (1)について,子を否認権者にするということで,これは大体そういう方向になるんだろうなと思います。そうだとすると,親権者である母というのを,窪田委員のように,単に母にするということは,イメージとしてはあり得るんですが,ただ,やはり代理権の根拠がないと,なかなか制度としては組みにくいのではないかと思います。だとすると,親権者でない母について,親権変更の手続を経ない限りはできないということになると,(1)で選んだ方向とややそぐわないのではないかなという感じを持っております。 ○平田幹事 そこは,御指摘のとおりで考えております。   ただ,親権者として父がいる場合については,親権の問題をまず解決するということが一つ考えられるかとは思っております。 ○中田委員 変更で処理するということですか。 ○平田幹事 はい。 ○中田委員 なるほど。 ○大村部会長 ほかにいかがでしょうか。   中田委員,今の段階で確定的な御意見をいただきたいというわけではないのですけれども,親権の変更ということをしなくて,母に争わせたほうがよいと考える余地もあるという含みでしょうか。 ○中田委員 (1)について,子を否認権者にするということで,これは大体そういう方向になるんだろうなと思います。そうだとすると,親権者である母というのを,窪田委員のように,単に母にするということは,イメージとしてはあり得るんですが,ただ,やはり代理権の根拠がないと,なかなか制度としては組みにくいのではないかと思います。だとすると,親権者でない母について,親権変更の手続を経ない限りはできないということになると,(1)で選んだ方向とややそぐわないのではないかなという感じを持っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   全体としてどういうセッティングをするのかということになるだろうと思いますけれども,選択肢が幾つかあって,いろいろ考えることができます。その得失につきまして,現段階で何か御指摘があればと思いますが,いかがでしょうか。 ○木村幹事 すみません,もう一度確認させていただきたいんですけれども,母親が親権者でない場合で,例えば,父親が親権者である場合については,子どもの方から否認権を行使することは,およそできないという御回答だったんでしょうか。例えば,親権者である父親の代わりに別の,母親でもない特別代理人が選任されるというような可能性も,およそ排除されるという御理解ですか。 ○平田幹事 失礼いたしました。そのような可能性はあり得るとは思います。 ○木村幹事 そうしますと,子どもの利益の観点からの代理行使自体は,可能性としては全く否定されてはいないということですよね。 ○平田幹事 おっしゃるとおりです。 ○木村幹事 ありがとうございます。 ○大村部会長 特別代理人のようなものをというのは,先ほども御発言もあったかと思いますけれども,母が子の代理人として権利を行使する,否認権を行使するのが望ましくないとすると,誰か別の人に,子の利益を代弁してもらうことになる,そう考える余地あると思いますが,では,どういう人を選んで争ってもらうのがいいのかというのは,なかなか悩ましいところではありますね。 ○垣内幹事 今の点ですけれども,どういう人を選ぶのかという問題もありますけれども,誰が代理人の選任を申し立てるのかという問題もあろうかと思いまして,その場合に,親権者でない母には,その申立権はあるということなのか,その辺りも併せて検討する必要が出てくるのかなという感じがいたします。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○磯谷委員 すみません,私もまだ何か決めているわけではないんですが,手続を想像すると,仮に母親や子どもも申立権がある否認権者だとした場合に,実際,例えば母親が嫡出否認の訴えをやるという場合に,相手方が父親だとしますと,父母だけではなく子どもも訴訟に参加して,何か合一的な確定の要請があるのかという問題がありますよね。もし子どもも参加するとなりますと,代理人をつけなければいけないとのか。その辺りは,手続的にどうなるのかと思ったんですが。 ○平田幹事 御指摘の点については,問題が生じ得るとは思いますけれども,今の段階では,どういうふうに制度設計をするかについて,特定の考えを持っているわけではございません。 ○大村部会長 ほかにいかがでございましょうか。 ○水野委員 昔,フランス法を勉強したときには,子どもの提訴権というのは自明ではなかったのですが,それが時代とともに子どもの権利ということで表に出てまいりました。以前は,父子関係は,写真のポジとネガのようなもので,お父さんがきちんと父親として育てたということだと,子どもの提訴権はないという議論がなされていた時代があります。それから考えますと,子どもの提訴権は全くの異論のない大前提であって,その大前提の代理権という形で,母の提訴権が正当化されるという枠組みは,ちょっと偏っているような気がいたします。子どもの提訴権を認める論理と,それから母の提訴権を認める論理というのは,それぞれ別々に成立してもいいように思います。   そういう意味で,ここに書かれている書き方なのですが,13ページの2のアの見直しの必要性のアのところで,無戸籍者問題の原因になっていることからということで書かれております。私は研究会で,母に否認権を認めるということで,無戸籍者問題が解決するとは思えない,母に自由な出生届を認めないと,この問題は解決しないと,繰り返し申し上げました。それが,母に届出の段階で,嫡出推定を否定する権利を与えるのは,与えすぎだと反論されてきたわけですけれども,でも,少なくとも子の理由だけではなくて,もっと母固有の権利として提訴権があるということも,十分に考えられるのではないでしょうか。 ○大村部会長 ありがとうございます。   親子関係に関わる事柄について,子どもを当事者とすることが妥当かどうかというのは,前の親権法の改正のときにも話題になった事柄ですけれども,今回,先ほどの12ページの第3の1の(1)の提案との関係でいうと,皆さんの間では,これを原理的に否定するという考え方はなかったように思いましたが,水野委員は,必ずしもこれには賛成ではない。むしろ,母の固有の提訴権を認めた方がよいというお考えだということですね。 ○水野委員 はい。 ○大村部会長 資料の中にも書かれているでしょうが,水野委員のお考えでは,正当化の根拠というのはどういうことになりますでしょうか。 ○水野委員 ここに,15ページの3,(2)のイですね,ここに両方ともきれいに整理してくださっています。両方あるということで,それぞれの反論も全部書き込まれていますけれども,子どもの利益を母が実質的に代理するという側面も,もちろん否定はできないと思いますけれども,母固有の利益もやはり否定はできないだろうと,今のところは考えております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   ほかにこの問題につきまして御発言があれば伺いたいと思いますが,いかがでしょうか。 ○磯谷委員 子ども自身が,血縁上の父を戸籍上も父親としたいという思いを抱くという場合もあるのではないかと思うんですね。早期に親子関係を確定する,父子関係を確定するという利点がとても強調されて,一般論として否定するつもりはないんですけれども,それが常に正しいのか。というのは,例えば子ども自身も長くその「父」に育てられたけれども,「この人は本当の父親ではない,自分は本当の父親を戸籍上も父親にしたい。」と思うようなケースというのは,例えば,虐待などにより父子間の信頼関係がきわめて薄いというようなケースのもあるのではないのかなと。   そういう場合に,子ども自身がどこかの段階で,血縁上の父を戸籍上も父としたいという思いを抱くことは,無理からぬことかなと思うんですね。そうすると,やはり子ども自身が否認権を持つという意味は,決して小さくはない。特に母親が亡くなっているケースもあり得るとしますと,やはり子どもに否認権を認める必要があるんではないかなと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○久保野幹事 まとまってない中で申し訳ないんですけれども,ちょっとその子どもの否認権を認めるに当たって,今出ましたような,ある程度の年齢に至っている子どもが,自らの判断で,血縁がつながっていない法的な父とされている者と,法的な父子関係を否定するというのと,13ページに書かれている,無戸籍につながるような状態を防止するために,なるべく出生の直後,短い期間でということが述べられているような場面において否定するということは,ごめんない,この先が言語化できていないので,本当は発言するのを控えていたんですけれども,本当に同じことを指しているのかというところが,もう少し考えてみたいという気がしています。   出生直後のときにおける,先ほど来議論になっている子どもの利益とは何かとか,それを誰が何を判断しているのかというところは,先ほど指摘のあった血縁のない親との法的な父子関係を切るのは,すなわち子の利益であるという大前提を採るかどうかというようなところと関係して,もう少し詰めが必要かなという気がいたします。   すみません,ちょっと中途半端な発言ですけれども。 ○大村部会長 ありがとうございます。   子どもが生まれた直後の子の利益については,子ども自身に何か意思があるわけではないので,子どもがどう考えているのかということとは別に考えなければいけないと思いますが,他方,磯谷委員がおっしゃったに,一定の年齢に達した後は,子ども自身がどう考えているのかということを考慮して,訴えを提起するかしないかが分かれてくるかと思いますけれども,その辺りに関する御発言,御指摘をされているわけですね。   前に議論したときに,子どもの利益と言っているけれども,それは客観的な意味での利益なのか,子どもの意思に依存するのかということが,多少話題になったと思いますが,そのこととも関わる御指摘として,伺いました。  ○久保野幹事 ちょっと1点,今さらながらの確認かもしれないんですけれども,否認権者に当たる人が,嫡出否認の訴えというか否認権を行使したときには,行使された以上,血縁関係があるかないかは確認されるということが前提で,血縁関係がないという事実が判明すれば,父子関係は否定されるという前提で議論がされているということでよろしいでしょうか。つまり,嫡出否認権を持っている人が否認権を行使したけれども,何らかの考慮により,そもそも血縁の検査というか,血縁の有無という事実についての判断はしない可能性とか,あるいは血縁の有無について判断した結果,ないということは分かったけれども,なお否定しない可能性ですとか,そういう余地はないという理解で,否認権者を議論しているということでよろしいですか。   途中で少し出たような気もするんですけれども,重複していたら申し訳ございませんが。 ○大村部会長 それは,棚村委員が御発言になったところと関わると思いますけれども,御提案自体は特に何かを差し挟むという趣旨ではないですよね。 ○平田幹事 提案自体は,何かを差し挟むという趣旨ではございません。現行法の理解の下で,御提案させていただいているところではございます。 ○大森幹事 私も,今の段階で何か考えが固まっているわけではありませんが,今,久保野委員からも御指摘ありましたように,立法をどうするかという話でもありますので,否認権者の話と否認事由の話について整理したほうがいいのではと思いました。   今,平田幹事の御指摘のように,現行法では,血縁があるかないか,これだけで否認権の結論が決まるわけですけれども,先ほど来,母に代理行使を認めるのかというところで利益相反の話であったり,また,血縁のある父からも認めるのかということについても家庭の平穏といった要素が出てきたりしています。例えばその当事者,父子関係の当事者である父と子に関しては,否認事由は血縁のありなしで決めるとしても,父子以外の者の場合には,裁量棄却というか,血縁が仮にないとしても,子の利益に反するような場合には棄却できるというような,否認権者と否認事由の整理が何かしらできるかということも検討の一つとしてあり得るのではないかと今の議論をお聞きしながら少し考えました。 ○大村部会長 ありがとうございます。   棚村委員がずっとおっしゃっているところに関わる問題だろうと思いますけれども,実質的に,今ここで出ているような,大森幹事がおっしゃったような裁量でコントロールするということが望ましいのかということを考える必要があるということを,棚村委員はおっしゃっていると思いますが,もしそうだということならば,それを正面から取り込むようなことを考えればいいのではないかという御指摘だろうと思います。 ○棚村委員 すみません。まとまるか,かえって混乱させるか分からないのですけれども,先ほどからちょっとお話を聞いていても,比較法的に見ても,夫,それから母,子で,子どもにだけ認めるところも,夫と子どもで,妻だけに認めるところもあれば,三者全体に認めていくという国もあります。それぞれの説明の仕方が,やはりちょっと違うのではないかと思うのですが。細かく各国のを見たわけではないのですけれども,そのときに,ここの15ページのところでいくと,例えば,父子関係について,母の方が正確に判断できるとか,それから,子どもの養育を主体として,誰が望ましいかを考えられるとかって,そういう話になると,先ほどの話ですけれども,出生の時点での子どもの利益という話と,それから,それを更に将来にわたって育てられる適格者かどうかというかなり異質の配慮が入ってくるわけですね。そういうのを見ていると,どうもやはり,イメージとして子どもの利益といったときに,いろいろ将来にわたるものも含めてイメージをしたり,説明したりしている部分があって,この説明の仕方をきちっとしないと,混乱が生ずるし,納得が得られないのではないかとも考えます。   私が漠然と考えるのは,やはり血縁だけで決めているわけではなく,社会的な要素も考慮しないといけない。だけれども,やはり血縁がベースなって,それ以外の何かファクターをどれくらい考慮できるかというのは,各国でいろいろ歴史的な背景やいろいろな経緯もありますし,悩ましいところだと思います。最近圧倒的に言われているのは,やはり社会的親子関係という考え方であり,血縁重視の考え方に対して,それを修正する原理として,やはりかなり強く出てきていると思われます。そういう中で,日本はどういう親子関係の確定制度の選択をし,制度設計をし,説明をしていくかというのは,正に問われていると思うんですね。それで,右か,左か,白か,黒かというルール作りは,なかなか難しいんですけれども,どこか中間のところで落ち着くほかないかもしれませんと。   私自身は,ちょっと揺れ動いているのですけれども,当初はやはり,窪田委員の提案なんかにかなり影響を受けたということがあって,やはり子どもにも母にも独自の否認権というのは認めていいのではないかと思います。ただ,先ほど中田委員からも言われたように,ダブってしまうとか,説明の仕方が,どういうふうにすればいいのかというところで悩ましいものですから,少なくとも,子どもが小さくて,それを代理というか代わりにやっている母親の立場と,それから母親独自のものは,少し整理しながら,母親が,要するに子どもにとってこれが足りなくて,母親独自にやはり認めないと目的を達せないというようなケースがあるのであれば,それについては,やはり母親の独自のものを認めていいのではないかということを漠然と考えているところです。ただ,その辺りのところは,先ほど言ったように,母親が代理行使とか代わりにやってあげられるし,母親が決められるんだったら,その期間やその条件での母親の独自のものは要るのかなというのが,ちょっと疑問があります。,他方で,先ほどから言うように,母がいないケースだとか,あるいは子どもにとって代理行使する人がいなかったような場合とか,それから母親が親権を持っていないということの場合には,やはり必要なのかなということを漠然と考えている次第です。   ですから,その辺りも,生物学上の父親に認めるかどうかというところまで来ると,余りにも多様なものを入れ込むということになるので,難しいんだろうと思うのですけれども,子どもと母との関係でいうと,その辺り,子どもができない部分を,母が固有に補えるとか,あるいは母自身が固有に否認をする利益を持っているという説明をうまくつけることで可能かなとも考えています。   すみません,ちょっとまとまっていないのですけれども,私も,子どもだけではなくて,子どもの代わりに母親がやはり何かをやれるところもあるし,それから,もう一つは,母固有の利益として否認をする利益なり,やはり権利というのを説明できるのではないかと現段階では思っています。ただ,それがダブってしまって不要なんだというふうな説明が,研究会の報告書とか,そういうところにもありましたので,その辺りの説明をきちっとしたほうがいいのではないかなと思います。   それから,血縁主義を徹底させるということでいくと,否認権者も限りなく広がるという可能性もあるので,やはりその辺りの説明や,根拠づけがかなり重要になってくるかなと思っています。 ○大村部会長 ありがとうございます。   なかなか問題が難しいですけれども,ほかに御発言があれば。 ○垣内幹事 大変難しい問題で,定見がないんですけれども,今,否認原因をそもそもどう考えるのかというレベルでの議論も話題になっておりますが,そちらの方はとりあえず置くとしまして,否認権者について拡大する場合に,子と母と,あるいは双方なのか,いずれかなのかということに関してですけれども,大変これも難しい問題ですが,私自身は,子に否認権を認めるということについては,やはり子が父子関係の一方の当事者であるという観点からすると,説明はしやすい面はあるのかなという感じはしております。その行使の実際の仕方について,代理がどうなるかという辺りは,なお整理が必要なところはあるだろうと思います。   他方,母については,確かに法律関係の主体だということではないわけですので,そこでハードルが若干上がるというところはあるのかなと思いますけれども,少し異なる例になりますが,現行法で,これは研究会の報告書でも若干,途中で引用されていたかと思いますけれども,父を定める訴えに関しては,明文で母に原告適格が認められているということもありまして,局面は若干異なるとはいえ,父を定める訴えでも,母が正に誰が父になるかについて密接な利害関係を持っているということを根拠にして,当事者適格が認められるというのが,説明が従来はされてきたのかなと思います。そうしますと,同様のことは,ある程度この嫡出否認の場合にも当てはまり得るところですので,子と母に共に原告適格を認める,否認権を認めるという考え方も,あながちあり得ないものではないのかなと思っているところです。   そのときに,先ほど磯谷委員の方から,被告適格等の関係をも含めて少しお尋ねがあったのかなと思うんですけれども,父を定める訴えの場合ですと,母が原告になった場合に,子は特には被告とはされないという前提で制度が仕組まれているわけでして,それをそのまま子の場合に当てはめて考えますと,母が固有の否認権者として訴えを提起する場合でも,子は被告とならないという考え方も,あるいはあり得るのかなという感じもいたします。   ただ,父を定める訴えの場合には,そもそも父が未定の状態で,新たに父子関係を樹立するということで,子にとっては父子関係がないよりもあるほうが,どちらが父になるにせよ利益だという見方ができるのかもしれませんけれども,嫡出否認の場合には,既存のと申しますか,既に推定されている父子関係を形勢的に覆すということだとしますと,そこは,子にとっては,現在ある地位を失うという側面を伴ってくることになりますので,同列には論じられないという議論もあり得るのかなと思われまして,その辺りはなおちょっと考える必要があるかなと考えているところです。 ○大村部会長 ありがとうございました。   現行法に存在する制度との対比で,共通に考えられるところと,それから事情が違うところを仕分けて検討すべきであるという,非常に貴重な御指摘を頂いたと思います。   窪田委員,先ほど手が挙がっていましたね。 ○窪田委員 大した発言ではないのですが,先ほど大森幹事から,父と子に関しては,非常に単純に考えて,母に関しては裁量棄却ということで,ああ,なるほどなとも思いつつ,やはりよく分からないのが,子の利益のために,子の嫡出否認を認めるべきかどうかという判断を裁判官がするのは,実はものすごく難しいのではないかと思います。つまり,否認というのは父子関係を否定するものですから,一般的に言ったら,子どもにとって父を失わせることになって,利益にならないとされてきました。これは一般論ですが。ただ,正しく札幌ケース,大阪ケースがそうだったわけですけれども,それを否定しないと,血縁上の父親と暮らしているのに,そこで実親関係を形成することができないという意味では,そういう暮らしが始まっていないとしても,それを始めるチャンスを作るという意味では,やはり利益あるのかもしれない。だから,その意味では,裁量といっても,今のお父さんがどんな人とかっていうのを比べても,なかなか難しいのかなという気がします。   棚村先生がおっしゃることも分かるのですが,その意味では,結局最後は血縁で見ていかざるを得ないのかなとも思います。そう言うと,何か私,血縁主義一辺倒みたいな印象を与えそうですが,本来は,やはり嫡出推定制度というのは,血縁主義だけではなくて父子関係を形成する仕組みだと思っています。そのうえで,その例外としての鍵を,父親だけではなくて,子なり母も持つというイメージで捉えたらいいのかなと考えています。現行制度の父というのは,その人がお父さんだったら本当にすごくいいかもしれないけどれど,一方的に俺の子ではないということを言える仕組みになっていますので,そうした意味での鍵は,複数の者が持っているという仕組みがあっていいのかなと思って,ぼんやりと聞いておりました。   裁量棄却とか子の利益の実質的判断というのは,結構難しいのかなという感想みたいなものです。 ○垣内幹事 今の点に関連しまして,裁量棄却というのは,私は全くアイデアとしてなくて,なるほどと思って伺ったんですけれども,恐らく,違っていれば訂正していただければと思いますけれども,そこで想定されているのは,裁判官が広い裁量権を行使して,血縁の有無にかかわらず,その結論を決めていくというようなことではなくて,血縁関係がないとしても,かなり例外的な場合について,なお否認請求を棄却するというような場面を,限定的な形で明らかに認めてしまうと,それが子の福祉に反することが明白だというような場合を想定されているのかなと伺っておりました。   ただ,そうなりますと,そういった規定が適用されるべき場面というのは,あるいは,一種の権利濫用的な形での処理ということも考えられることなのかもしれませんので,その辺りで,どこまで必要性があるのかということを検討する必要もあるのかなと伺ったところです。 ○大村部会長 ありがとうございます。   本当に悩ましいのですが,窪田委員がおっしゃったこととの関係でいうと,それから大森幹事がおっしゃったこととも関係しますが,否認事由というか,否認の要件は,ヨーロッパではかつては厳格なものがあったわけですね。期間とか提訴権とは別に,一定の事由に当たらないと否認権を行使できないとされていたわけですけれども,そういうものがなくなってきて,今は提訴権者が期間内に提訴すれば,あとは血縁をめぐって争える。かつては外部的,客観的な事情によって血縁を争わせないという形で子の利益が確保されていたのに対して,その制約が徐々に緩くなって今日に至っていて,緩くなった要件を満たせば,父親は少なくとも血縁を証明して覆せることになってきている。   緩くなりすぎているとしたら,何かまた別の制約を掛ける必要があるのではないかというのが,大森幹事がおっしゃっている裁量棄却ということかと思いますが,それは,行きすぎを止めるという点では,その必要があると思うのですけれども,制度化はなかなか難しくて,個別的に判断するしかないということになると,垣内幹事がおっしゃったようなアドホックな救済措置に委ねるということも考えられる。皆さんの御議論はこんなことかと思って伺いましたが,更に御発言があれば伺いますが,いかがでしょうか。   今日のところは,まとまらないんですけれども,御意見を伺ったということでよろしいでしょうか。   それから,既に多少御発言がありましたけれども,生物学上の父に否認権を拡大することについてという項目が残っていますが,これは,次回に議論するということでいいですね。   この項目だけ積み残しということになりますけれども,次回は,嫡出否認制度の見直しの続きということで,否認権の期間の問題等について御議論を頂くということにさせていただきたいと思います。   次回の議事日程等について,事務当局の方から御説明を頂ければと思います。 ○平田幹事 それでは,次回の日程について御説明させていただきますが,11月26日火曜日,午後1時半から午後5時30分までを予定しております。場所につきましては,東京地方検察庁1531号会議室になります。   テーマとしては,嫡出推定制度の見直しの,本日あったお話の続きと否認権の行使期間等について,御議論いただければと考えております。   なお,場所につきましては,ちょっと建物の入り方が難しいところがございますので,次回の出欠確認の御連絡の際に,併せて御案内させていただきたいと思っておりますので,どうぞよろしくお願いいたします。 ○大村部会長 ありがとうございました。   次回については,今御案内があったとおりですけれども,会議室への入り方が難しいということで,御案内に御注意を頂ければと思います。   それでは,中途半端なところで切ることになりましたけれども,法制審議会民法(親子法制)部会の第3回会議をこれで閉会させていただきます。   本日も熱心な御審議を賜りまして,ありがとうございました。閉会いたします。 -了-