法制審議会 刑事法 (危険運転による死傷事犯関係)部会 第1回会議 議事録 第1 日 時  令和2年1月24日(金)   自 午後1時30分                        至 午後3時55分 第2 場 所  東京地方検察庁1531号室 第3 議 題  1 部会長の選出等について         2 諮問の経緯等について         3 自動車運転による死傷事犯の実態に即した対処をするための罰則の整備について         4 その他 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○鈴木幹事 予定の時刻となりましたので,ただいまから法制審議会刑事法(危険運転による死傷事犯関係)部会の第1回会議を開催いたします。 ○川原委員 法務省刑事局長の川原でございます。   本日は,御多忙中のところ,いわゆる「あおり運転」による死傷事犯の実情等に鑑み,事案の実態に即した対処をするための罰則整備についての御審議のためにお集まりいただき,誠にありがとうございます。   部会長が選任されるまでの間,慣例により,私が進行を務めさせていただきます。   最初に,私から,この度部会が開催されるに至った経緯等につきまして,御説明申し上げます。   去る1月15日,法務大臣から,法制審議会に対し,「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律の一部改正に関する諮問」(諮問第109号)がなされ,同日開催された法制審議会第185回会議において,この諮問については,まず部会において審議すべき旨の決定がなされました。そして,同会議において,この諮問を審議するための部会として,「刑事法(危険運転による死傷事犯関係)部会」を設けることが決定され,同部会を構成する委員及び幹事が法制審議会の一任を受けた会長から指名され,本日ここに御参集いただいたところでございます。   お集まりの委員や幹事の方々におかれましては,初対面の方も少なくないかと存じます。そこで,まず,簡単に御所属,お名前等を伺えればと存じます。   また,後ほど出席承認の手続をお願いいたしますが,関係官も出席しておりますので,併せて自己紹介をお願いいたします。   それでは,恐縮でございますが,安東委員から,着席順にお願いいたします。 ○安東委員 最高裁の刑事局長をしております安東でございます。よろしくお願い申し上げます。 ○井田委員 中央大学の法科大学院で刑法を教えております井田と申します。よろしくお願いいたします。 ○今井委員 法政大学の今井と申します。どうかよろしくお願いいたします。 ○岩﨑委員 最高検察庁刑事部検事の岩﨑でございます。どうぞよろしくお願いいたします。 ○合間委員 弁護士の合間と申します。よろしくお願いいたします。 ○北村委員 警察庁交通局長,北村でございます。どうぞよろしくお願いいたします。 ○くのぎ幹事 内閣法制局参事官,くのぎでございます。よろしくお願いいたします。 ○早川幹事 警察庁の交通企画課長の早川と申します。よろしくお願いいたします。 ○福家幹事 最高裁刑事局で第一課長をしております福家と申します。よろしくお願いいたします。 ○久保委員 弁護士の久保と申します。よろしくお願いいたします。 ○塩見委員 京都大学で刑法を専攻しております塩見と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 ○島田委員 東京地裁刑事部の裁判官の島田と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 ○橋爪委員 東京大学で刑法を担当しております橋爪でございます。どうぞよろしくお願いします。 ○和氣委員 全国被害者ネットワークの和氣でございます。犯罪被害者でもあります。よろしくお願いいたします。 ○井上関係官 法務省特別顧問を務めております井上でございます。元々は学者で,刑事訴訟法専攻でございます。 ○保坂委員 法務省で刑事局担当の官房審議官をしております保坂と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 ○吉田幹事 法務省刑事局刑事法制管理官の吉田でございます。どうぞよろしくお願いいたします。 ○鈴木幹事 法務省刑事局刑事法制企画官の鈴木と申します。どうぞよろしくお願い申し上げます。 ○川原委員 どうもありがとうございました。   次に,部会長の選任に移りたいと存じます。   法制審議会令第6条第3項により,部会長は,部会に属すべき委員及び臨時委員の互選に基づき,会長が指名することとされております。   そこで,早速,当部会の部会長を互選することといたしたいと存じますが,御質問等は何かございますでしょうか。   御質問等はないようですので,皆様の御意見を伺いたいと存じます。どなたか,御発言をお願いいたします。 ○今井委員 私は,本部会の部会長には,井田良委員が適任であると考えております。   井田委員におかれましては,法制審議会で委員を務めておられますし,また,刑事法の分野における御経歴,御実績,特に自動車運転に関する犯罪に関しても,多くの御業績がありますので,適任ではないかと存じております。 ○川原委員 ただいま,今井委員から,井田良委員を部会長に推薦する旨の御提案がありましたが,この御提案に対して,御意見はございませんか。 (「異議なし」の声あり) ○川原委員 ほかに御意見もないようでございますので,部会長には井田良委員が互選されたということでよろしいでしょうか。井田委員におかれても,よろしいでしょうか。 それでは,互選の結果,井田良委員が部会長に選ばれたものと認めます。その上で,岩原法制審議会会長に部会長を指名していただきたいと思います。   本日は電話による指名となりますので,岩原会長と連絡をとるまでの間,一旦会議を休憩とし,午後1時50分から再開したいと存じます。   では,一旦休憩といたします。 (休     憩) ○川原委員 皆さんおそろいですので,再開をしたいと思います。   ただいま,岩原会長と電話で連絡をとりまして,岩原会長から,井田良委員を部会長に指名する旨の御連絡を頂きました。これをもって,井田良委員が部会長に選任されました。   井田良委員には,休憩時間中に部会長席に移動していただいておりますので,この後の進行をお願いしたいと存じます。   井田部会長,よろしくお願いいたします。 ○井田部会長 ただいま部会長に選ばれました井田でございます。   本部会に検討を付託されておりますこの事項は,社会的関心が高く,取り分け,迅速な対処が要求されているものであります。と申しましても,新たな処罰規定を作ろうというわけですので,専門的な見地からの深く,中身の濃い,掘り下げた検討が行われなければならないと思います。   この部会で,効率的で,かつ内容の濃い,充実した検討ができますよう,委員,そして幹事の皆様には御協力いただき,議事を進めてまいりたいと思います。何とぞよろしくお願い申し上げます。   まずは,法制審議会令第6条第5項により,部会長に事故があるときに,その職務を代行する者をあらかじめ部会長が指名しておくこととされておりますので,指名をいたします。   私としては,今井委員にお願いしたいと思います。今井委員,どうかよろしくお願いいたします。   次に,関係官の出席の承認の件でございますが,法務省特別顧問井上正仁氏に,関係官として当部会に出席していただきたいと考えております。これもよろしいでしょうか。 (「異議なし」の声あり) ○井田部会長 それでは,井上顧問には,当部会の会議に御出席をお願いすることといたします。よろしくお願いいたします。   次に,当部会の議事録の取扱いでございますが,法制審議会の部会における議事録の作成と公表方法につきましては,平成23年6月6日の法制審議会第165回会議におきまして,発言者名を記載した議事録を作成して,原則としてこれを公表するとともに,一定の場合には発言者名等を明らかにしないことができるとされております。   その際の法制審議会での審議の詳細につきまして,事務当局から御説明いただきたいと思います。 ○鈴木幹事 法制審議会の総会における議事録の取扱い等に関する審議・決定の状況について御説明します。   平成23年4月1日に公文書管理法が施行されたことに伴い,内閣総理大臣決定として「行政文書の管理に関するガイドライン」が定められ,審議会の議事録については,発言者名を記載した議事録を作成する必要があるものとされました。その趣旨からいたしますと,法制審議会総会及び部会のいずれにつきましても,発言者名を記載した議事録を作成すべきものとなります。   その上で,同年6月6日に開催されました法制審議会第165回会議におきまして,議事録の公開方法について改めて審議がなされた結果,その公開方法については次のとおりとすることが決定されました。   すなわち,まず,総会については,発言者名を明らかにした議事録を公開することを原則とする一方,法制審議会の会長において,委員の意見を聴いて,審議事項の内容,部会の検討状況や報告内容のほか,発言者等の権利利益を保護するため当該氏名を公にしないことの必要性,率直な意見の交換又は意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれの有無等を考慮し,発言者名等を公開することが相当でないと認められる場合には,これを明らかにしないことができることとされました。   また,部会につきましても,発言者名を明らかにした議事録を公開することを原則としつつ,それぞれの諮問に係る審議事項ごとに,総会での取扱いに準じて,発言者名等を公表することが相当でないと認められる場合には,これを明らかにしないことができることとされました。   したがいまして,当部会におきましても,原則として,発言者名を明らかにした議事録を作成するものの,部会長におかれて,委員の御意見をお聴きし,ただいま申し上げたような諸要素を考慮して,発言者名等を公表することが相当でないと認められる場合には,これを明らかにしないこととすることができることとなります。 ○井田部会長 ただいまの鈴木幹事の御説明につきまして,何か御質問ございますか。よろしいでしょうか。   ただいまの御説明を踏まえて考えますと,当部会における審議の内容を国民の皆さんにも広く知っていただくという観点からも,発言者名を明らかにした議事録を公開することがよろしいのではないかと考えるところです。   そこで,私としましては,原則として,発言者名等を明らかにした議事録を作成して,法務省のウェブサイト上において公表するという取扱いにするのがよろしいのではないかと考えます。   もっとも,今の鈴木幹事の御説明にありましたけれども,審議事項の内容その他の事情を考慮して,発言者の氏名を公表するのが相当でないと考えられるような場合には,その都度,皆様にお諮りして,部分的には公表しない措置を採ることにしたいと考えますが,いかがでございましょうか。 (「異議なし」の声あり) ○井田部会長 ありがとうございます。   議事録につきましては,発言者名を明らかにしたものを作成して,これを原則として公開するという取扱いにさせていただきたいと思います。   それでは,先の法制審議会総会におきまして,当部会で調査審議するように決定のありました諮問第109号について審議を行っていきたいと思います。   まず,諮問を朗読していただきます。 ○鈴木幹事 諮問を朗読いたします。   諮問第109号   自動車運転による死傷事犯の実情等に鑑み,事案の実態に即した対処をするため,早急に,罰則を整備する必要があると思われるので,別紙要綱(骨子)について御意見を賜りたい。   別紙,要綱(骨子)   次に掲げる行為を行い,よって,人を負傷させた者は15年以下の懲役に処し,人を死亡させた者は1年以上の有期懲役に処するものとすること。   一 車の通行を妨害する目的で,走行中の車(重大な交通の危険が生じることとなる速度で走行中のものに限る。)の前方で停止し,その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転する行為   二 高速自動車国道又は自動車専用道路において,自動車の通行を妨害する目的で,走行中の自動車の前方で停止し,その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転することにより,走行中の自動車に停止又は徐行をさせる行為 ○井田部会長 次に,事務当局から,諮問の内容及び諮問に至る経緯等について説明をしてもらいます。 ○吉田幹事 諮問第109号につきまして,諮問の内容及び諮問に至った経緯等について御説明申し上げます。   いわゆる「あおり運転」は,悪質・危険な運転行為であるところ,こうした運転行為による死傷事犯等が少なからず発生しており,この種事犯に対して厳正な対処を求める国民の皆様の声も高まっています。   この種事犯に対しては,自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律第2条第4号の危険運転致死傷罪が適用されることがありますが,同号に掲げる行為は,「人又は車の通行を妨害する目的で,走行中の自動車の直前に進入し,その他通行中の人又は車に著しく接近し,かつ,重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為」と規定されており,加害者車両が「重大な交通の危険を生じさせる速度」で走行して「著しく接近」することが要件とされているため,例えば,通行妨害目的で,走行中の被害者車両の前方に進入して自車を停止し,被害者車両が追突するなどして人が死傷したとしても,「著しく接近」したときの加害者車両の速度が「重大な交通の危険を生じさせる速度」との要件を満たさなければ,同号に掲げる行為には該当しないこととなります。   しかしながら,こうした行為は,被害者車両の走行速度や周囲の交通状況等によっては,重大な死傷事故につながる危険性が類型的に高く,現行の危険運転致死傷罪に規定されている行為と同等の当罰性を有するものと考えられます。   そこで,自動車運転による死傷事犯の実情等に鑑み,事案の実態に即した対処をするため,早急に罰則を整備する必要があると考え,今回の諮問に至ったものであります。   次に,諮問の趣旨等について御説明申し上げます。   今回の諮問に際しては,事務当局において検討した案を要綱(骨子)としてお示ししてありますので,この案を基に具体的な御検討をお願いいたします。   まず,要綱(骨子)の一について御説明申し上げます。   これは,「車の通行を妨害する目的で,走行中の車(重大な交通の危険が生じることとなる速度で走行中のものに限る。)の前方で停止し,その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転する行為」を行い,よって,人を負傷させた者は15年以下の懲役に処し,人を死亡させた者は1年以上の有期懲役に処することとするものです。   すなわち,先ほど申し上げたとおり,現行の危険運転致死傷罪においては,加害者車両が「著しく接近」したときに,「重大な交通の危険を生じさせる速度」で走行していることが要件とされているのに対し,要綱(骨子)の一は,加害者車両が「重大な交通の危険を生じさせる速度」で走行していない場合であっても,被害者車両が「重大な交通の危険が生じることとなる速度」で走行しているときは,通行妨害目的で,その前方で停止するなど両車両が著しく接近することとなる方法で自動車を運転すれば,被害者車両が追突するなどして死傷の結果が発生する危険性が類型的に高いことから,こうした行為を実行行為として捉え,よって人を死傷させた場合には,危険運転致死傷罪の対象としようとするものです。   要綱(骨子)の一の「車の通行を妨害する目的」の意義は,自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律第2条第4号の「車の通行を妨害する目的」と同様です。   まず,「車」とは,四輪以上の自動車,自動二輪車,原動機付自転車,軽車両等,道路上を通行する車全般を意味します。また,「通行を妨害する目的」とは,相手方に自車との衝突を避けるために急な回避措置を採らせるなど,相手方の自由かつ安全な通行を妨げることを積極的に意図することをいいます。   「重大な交通の危険が生じることとなる速度」の意義につきましては,通行妨害目的を持つ加害者車両が,被害者車両の前方で停止するなど,被害者車両に著しく接近することとなる方法で自動車を運転した場合に,被害者車両が加害者車両と衝突すれば大きな事故を生じることとなると一般的に認められる速度,あるいは,被害者車両が加害者車両の動作に即応するなどしてそのような大きな事故になることを回避することが困難であると一般的に認められる速度を意味します。   「その他著しく接近することとなる方法」とは,被害者車両の走行速度や位置関係等を前提とした場合に,加害者の運転行為がなされることにより,両車両が著しく接近することとなる方法をいいます。例えば,被害者車両と同一の車線の前方を走行する加害者車両が急減速すること,第一通行帯に停止していた加害者車両が,第二通行帯を走行してきた被害者車両が自車を追い越していく寸前に発進して,自車前部を被害者車両が走行する第二通行帯にはみ出させることなどが,この方法に該当すると考えています。   次に,要綱(骨子)の二について御説明申し上げます。   これは,「高速自動車国道又は自動車専用道路において,自動車の通行を妨害する目的で,走行中の自動車の前方で停止し,その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転することにより,走行中の自動車に停止又は徐行をさせる行為」を行い,よって人を負傷させた者は15年以下の懲役に処し,人を死亡させた者は1年以上の有期懲役に処することとするものです。   すなわち,高速自動車国道や自動車専用道路においては,自動車を駐停車させること自体が原則として禁止されており,加害者車両が,通行妨害目的で,走行中の被害者車両の前方で停止するなど被害者車両に著しく接近することとなる方法で自動車を運転し,被害者車両を停止又は徐行させた場合には,そのような道路を走行中の他の運転者としては,そのような事態を想定して回避措置を採ることが通常困難であるため,後続の車両が追突するなどして死傷の結果が発生する危険性が類型的に高いことから,こうした行為を実行行為として捉え,よって人を死傷させた場合も,危険運転致死傷罪の対象としようとするものです。   要綱(骨子)の二においては,自転車等が高速自動車国道又は自動車専用道路を走行することは想定されないことから,通行妨害目的について,「自動車の通行を妨害する目的」としておりますが,「通行を妨害する目的」の意義は,要綱(骨子)の一と同様です。   また,「著しく接近することとなる方法」の意義も,要綱(骨子)の一と同様です。   要綱(骨子)の概要は,以上のとおりです。十分御審議の上,できる限り速やかに御意見を賜りますよう,お願い申し上げます。 ○井田部会長 ありがとうございました。   次に,事務当局から,配布資料について説明してもらいます。 ○鈴木幹事 配布資料について御説明します。   まず,資料1は,先ほど朗読いたしました諮問第109号です。   資料2は,本諮問に関連する参照条文です。   資料3は,基礎的な統計資料です。そのうち,第1表は,交通事件の検察庁終局処理人員の処理区分別構成比です。第2表は,危険運転致死傷による公判請求人員の態様別構成比です。第3表は,危険運転致死傷(妨害行為)による公判請求人員です。第4表は,危険運転致死傷罪の科刑状況です。   資料4は,近年のいわゆる「あおり運転」の警察における取締りの状況です。そのうち,第1は,近年のいわゆる「あおり運転」の警察における取締りの状況をまとめたものです。なお,「1」は,全てがいわゆる「あおり運転」によるものというわけではなく,車間距離保持義務違反取締り件数及び急ブレーキ禁止違反取締り件数をそれぞれ示したものです。   第2は,平成30年1月16日付け警察庁交通局交通指導課長等通達「いわゆる「あおり運転」等の悪質・危険な運転に対する厳正な対処について」であり,あおり運転等の悪質・危険な行為を原因とする悲惨な交通死亡事故が発生したほか,同種の悪質・危険な運転に対する厳正な対処を望む国民の声が高まっていることを受けて,悪質・危険な運転に対する厳正な捜査の徹底等を求める内容となっています。   資料5は,地方議会から法務大臣に提出された要望書等の要旨です。   資料6は,本諮問に関する主要国の法制です。   配布資料の説明は以上です。 ○井田部会長 ありがとうございます。   今回の諮問の決定を行った,先の法制審議会総会におきましては,委員の皆様から,この諮問に関する御意見も幾つか出たところであります。その意見の概要について,御紹介いただきたいと思います。 ○鈴木幹事 去る1月15日に開催されました法制審議会総会におきまして,委員の方から本諮問に関し御意見がありましたので,御紹介いたします。   まず,1点目は,危険運転致死傷罪は,重大な結果を及ぼす特に悪質・危険な運転行為に対して,厳しい罰則で臨むものであるので,その適用範囲はできる限り明確であることが強く求められる,今回の諮問でいうと,典型的な行為態様を想定した点は非常によく理解できるが,その外延がどこまで及ぶかや,現行法の第2条第4号と要綱(骨子)の一・二との関係などについては,具体的な事案を想定しながら,それに即した検討を行って明確化することが求められているのではないかと思う,部会においては,その点についてしっかり深掘りをしていただくことをお願いしたい,というものでありました。   また,もう1点は,要綱(骨子)の一について,「(重大な交通の危険が生じることとなる速度で走行中のものに限る。)」という要件がなくても問題ないのではないか,加害者側の要件として用いられている現行法第2条第4号の表現が被害者側の要件として入っているので,普通の人が読むと,とても混乱を生じる表現なのではないか,というものでありました。   御紹介は以上です。 ○井田部会長 ありがとうございます。   事務当局からの説明は以上のとおりです。   諮問事項に関する審議の進め方につきましては,皆様にもお諮りして決めたいと思いますが,この段階で,ただいまの事務当局の説明内容に関して,質問等ございましたら,よろしくお願いいたします。 ○今井委員 今の御説明を聞いて,どの段階で議論するかは,部会長の御判断にお任せしたいと思うのですが,今言われた2点は,とても大事な点を含んでいると思います。   まず,1点目ですが,この要綱(骨子)一ないし二と現行の危険運転致死傷罪に係る自動車運転死傷行為処罰法第2条第4号との関係,特に罪数関係については,今後,要綱(骨子)の一,二の内容を具体的に理解する中で,明確にする必要があろうかと私も思いました。   それから,2点目に指摘された点です。これも後ほど本格的に議論がされると思いますけれども,要綱(骨子)の一のところで,被害者車両となるべき車のスピードの要件を書いている点については,確かに初めて聞く人には,そういうふうな思いがあるのかもしれません。もっとも,これは私の意見に過ぎず,皆さんで議論されるべきものだと思いますけれども,いわゆる「あおり」といわれるものでも,被害者車両のスピードが相当出ているところに,ぱっと割り込むことによって,両者が衝突するような場合は,現行の第2条第4号が想定している,暴行罪に類似する危険性が実現し得る典型的な類型だと思いますので,これを書き込むことによって,骨子の適用の概要が明確になるのではないかと思っております。   ですから,今の御指摘二つは,とても重要なところなので,今後,議論をしていただければと存じるところです。 ○井田部会長 ありがとうございます。   1点目の現行法の第2条第4号と,要綱(骨子)の一,二の関係,罪数関係等については,この要綱(骨子)の二まで議論した辺りで,検討していきたいと思います。   また,もう1点,第2点目につきましては,大事なことでもありますので,要綱(骨子)の一の検討に入る前に,事務当局の方から御説明いただくということでよろしいでしょうか。   それでは,ほかに何かございますか。よろしければ,諮問事項の審議に,そろそろ入ってまいりたいと思います。   今回の諮問には要綱(骨子)が付されておりますので,まずは諮問事項全体について審議を行い,その後,要綱(骨子)の一,それから要綱(骨子)の二,こういう順番で審議を行っていってはどうかと考えております。つまり,3段階に分けて,諮問事項の全体,要綱(骨子)の一,要綱(骨子)の二という形で,第1巡目の審議をしていってはどうかと考えますが,よろしいでしょうか。 (「異議なし」の声あり) 〇井田部会長 ありがとうございます。   それでは,まず,諮問事項全体について御質問,御意見等,御発言のある方がいれば,挙手をお願いしたいと思います。諮問事項の全体に関するような,そういう御意見あるいは御質問,何かございますか。特によろしいでしょうか。また,審議の過程で何かあれば,そのときにもお話しいただければ,それでも結構でございます。   それでしたら,諮問事項全体については,特に今の段階では御意見がないということですので,要綱(骨子)の一について,審議を行ってまいりたいと思います。   要綱(骨子)の一の検討に入ったところですが,ちょうど先ほど,総会で出た意見が紹介されましたので,その点について,事務当局から説明していただけますか。 ○鈴木幹事 自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律第2条に規定する危険運転致死傷罪は,故意に自動車の危険な運転行為を行い,その結果,人を死傷させた者を,その行為の実質的危険性に照らし,暴行により人を死傷させた者に準じて処罰をしようとするものです。暴行の結果的加重犯としての傷害罪や傷害致死罪に類似した犯罪類型でございまして,先ほど今井委員がおっしゃったところでございます。   同条においては,そのような観点から,重大な死傷結果が生じる危険性が類型的に高い行為が規定されており,要綱(骨子)の一に掲げる行為についても,加害者車両が,重大な交通の危険が生じることとなる速度で走行している被害者車両に通行妨害目的で著しく接近することとなる方法で走行する場合には,両車両が衝突するなどして重大な死傷結果が生じるという危険性が類型的に高いことに着目して,こうした行為を実行行為として捉えることとしているものです。   これに対し,仮に,要綱(骨子)の一において,被害者車両について走行速度の要件を定めないこととした場合には,例えば,被害者車両が徐行している場合など,被害者車両が「重大な交通の危険が生じることとなる速度」に至らない低速度で走行している場合においても,加害者車両が通行妨害目的で被害者車両の前方で停止するなどすれば,要綱(骨子)の一に該当し得ることとなりますが,このような場合には,重大な死傷の結果が生じる危険性が類型的に高いとはいえないと考えられます。   したがって,要綱(骨子)の一においては,被害者車両について,「重大な交通の危険が生じることとなる速度で走行中のものに限る」こととするのが適切であると考えています。 ○井田部会長 ありがとうございました。   今の御説明に対して,何か御質問等はございますか。 ○合間委員 危険運転致死傷罪で処罰をするというのは,先ほどの御説明のとおり,当罰性がとても高いものでないといけないし,その場合に,はっきりと何が当たるかということが分からないと,やはり迷ってしまう。   私,被害者の支援をやっている弁護士なのですけれども,被害者の方が事故とか事件に遭って,これがどういう形で処罰されるのかというのが,あらかじめ法文で示されていて,それが該当すると思い,それに応じて,自分の心を準備するとは思うんですけれども,それが該当するかどうか分からないというような場合だと,やはり重い罪で処罰してほしいと思っていても,解釈とか検察官の判断で,いや,実はこれは該当しないんですとか,この場合は該当するんですというふうにされてしまうと,持っていきどころがなくなってしまうんですよね。そういうことでいえば,要綱(骨子)の一についても,やはり当罰性が高いから,この場面は当たるんだよという形が明確になっているということが,とても必要だと思うんです。   なので,もちろん過失運転傷害とか,今の罪が軽いのか重いのかとかということはおくとしても,今の危険運転の当罰性が議論されている中で,やはりそれなりに危険なものでないと,そこに該当しないというかたちで形作っていくということは必要ですし,逆にそうすることによって,何が範囲になるかということが明確になっていくと思いますので,その作業が必要なのではないかなと思います。 ○井田部会長 ありがとうございます。   従来の現行法の第4号が,言わば,加害者車両が速いことで危険が生ずる場合であるのに対して,要綱(骨子)の一は,今度は加害者車両は遅くても,被害者車両の方が速いことで危険が生ずる場合だということで,現行法の規定の足らざるところを補う形の新しい規定になるという,こういう理解だと思います。 ○今井委員 私も今の御意見と同じ考えです。部会長がまとめられたところと同じなのですけれども,最初にこれを聞いた方が,被害者車両にスピード要件を付けることに違和感を持たれるという点は,ある程度分かるのですけれども,ここで想定している,例えば前方で停止をする,それによって被害者車両も止めさせるようなことを考えると,停止させるような加害者車両の走行が,このような重大なスピードを伴っているかと言いますと,必ずしもそうではありません。加害者車両と被害者車両との関係において,被害が発生することを,現行の第2条第4号に類するものとして,結果的加重犯に準ずるものとして捉えようという趣旨,その点を明確にするための案文だと思いますので,私はこれで理解できるものだと思っております。 ○塩見委員 私も,実質的には何の異論もないですけれども,法制審での御意見では,被害者車両の要件のように書かれていると,ちょっと誤解を招くのではないかということでした。表現はもう少し,これだと,やはり走行中の被害者車両が重大な交通の危険を生じる速度で走っているようなふうに捉えられてしまうので,文言のことだけなのかもしれませんけれども,もう少し書き方を丁寧にした方が良いのではないかなと思います。 ○井田部会長 塩見委員,何か代案がございますでしょうか。 ○塩見委員 いやいや,今初めて聞いて,ちょっと何か違和感を受けるような書き方かなと思いましたので,少し配慮が必要かなということは感じました。 ○井田部会長 この括弧書きの規定振りについて,「重大な交通の危険が生じることとなる」として,従来と違って,「こととなる」としているのは,やはり被害者車両だからということだからでしょうか。つまり,別に,被害者車両それ自体が危険なわけではないわけで,加害者車両が来ることで危険になるという意味合いが含まれているわけですかね。   何か事務当局,ございますか。 ○吉田幹事 事務当局の方から,この文言を用いることとした理由について,若干補足させていただきますと,この速度要件は,加害者車両と被害者車両が衝突を起こしたときにどのような事態が生じるかという観点から限定を加えようとするものです。   「重大な交通の危険」の意味するところは,第4号と要綱(骨子)の一とで共通のものとして考えておりまして,ただ,第4号の場合には,加害者側がそれを惹起するという立場にありますので,重大な交通の危険を「生じさせる」速度と書いているのに対し,要綱(骨子)の一においては,被害者車両は,通常の走行をしてきたところ,加害者によって,そのような危険な事態に陥らせられるという立場にあり,被害者側が危険を「生じさせる」のではなく,加害者の行為に起因して結果として,被害者の速度によって重大な交通の危険が生じることとなりますので,そのニュアンスの違いを表すものとして,若干文言を変えているものでございます。 ○井田部会長 よろしいでしょうか。これ以外に,この要綱(骨子)の一,この類型について,何か御質問はありますでしょうか。議論の順番としては,最初は軽いジャブのような,そういう質問をしていただいて,その上で,だんだん細かな,深いところまでいっていただくのがよいと思うんですが,いかがでしょうか。 ○橋爪委員 それでは,まず軽いジャブのようなことを一つ,御質問させていただきます。   現行法の第2条第4号との比較という観点からの質問です。第2条第4号では,「通行中の人又は車に著しく接近し」と規定しており,現実に著しく接近する行為を実行行為として把握しているものと理解しております。   これに対しまして,要綱(骨子)の一の罪におきましては,「接近することとなる方法で自動車を運転する」という文言が用いられており,現実に接近する行為が要求されていないようにも思われます。この文言の相違について,御説明をお願い申し上げます。 ○吉田幹事 今御指摘がありましたように,現行法の第2条第4号におきましては,要件として,実際に被害者車両に著しく接近する方法で走行することが必要とされております。   これは,重大な交通の危険を生じさせる速度で走行している加害者車両が,通行妨害目的で被害者車両に著しく接近して走行する場合には,両車両が衝突するなどして,重大な死傷結果が生じる危険性が類型的に高いと考えられることによるものです。   この第4号は,加害者車両が自車の有する一定程度以上の速度によって被害者車両に接近していくという類型でございまして,その危険性は,加害者車両が実際に被害者車両に著しく接近することによって生じるというものですので,実際に被害者車両に著しく接近するに至らなかった場合には,重大な死傷結果が生じる危険性が類型的に高いとはいい難いということで,そのような,「著しく接近し」との要件が規定されているものと考えられます。   これに対して,要綱(骨子)の一におきましては,若干文言に違いがあり,「著しく接近することとなる方法」で走行することが要件として規定されております。この要綱(骨子)の一は,被害者車両の有する速度が一定程度以上であるがために,加害者車両が,被害者車両に接近していくという類型でございまして,言わば加害者のコントロール下にない被害者車両が,その速度ゆえに加害者車両に近付いていくという関係にございます。   そうした行為の特質等に鑑みますと,通行妨害目的での加害者車両の運転行為が行われた場合には,実際に被害者車両に著しく接近する前の段階であっても,そのまま走行すると著しく接近することとなるのであれば,被害者車両としては急ブレーキを踏むなどして,加害者車両との衝突を回避できない可能性が高く,重大な死傷結果を生じる危険性が類型的に高いと考えられますし,また,結果的に加害者車両に著しく接近しなかったとしても,被害者車両が衝突を回避しようとして,ハンドルを急転把するなどして,ガードレールに激突するなど,死傷結果が生じる危険性が類型的に高いと考えられます。   こうしたことを考慮して,要綱(骨子)の一におきましては,現行法の第2条第4号とは若干違う表現を用いて,「著しく接近することとなる方法で」との要件を定めることとしているものです。 ○井田部会長 いかがでしょうか,今の御説明について,更に御質問等ありますでしょうか。 ○橋爪委員 今の御説明を伺いますと,要綱(骨子)一の罪は,現実に接近することまでは必要ではなく,通常の事態が進展するならば,被害者車両が行為者の車両に著しく接近することが十分にあり得る状況における運転行為を実行行為として捕捉していると理解いたしました。   そうしますと,念のための確認ですが,現実には著しく接近していない段階であったとしても,例えば,行為者が通行妨害目的で自車を停止させたところ,被害者車両がある程度接近はしていますが,なお著しく接近するに至らない段階において,行為者の急な停止行為に動揺し,衝突回避をしようとして,ハンドル操作を誤って自損事故を起こすという事例についても,要綱(骨子)の一の罪に該当し得るという理解でよろしいでしょうか。 ○吉田幹事 そのような理解でよろしいかと思います。 ○井田部会長 だんだん犯罪のイメージが湧いてきた感じがするんですが,従来の第2条第4号というのは,自分で正に危険を直接に作り出していくという感じなのに対して,今回の要綱(骨子)の一というのは,状況を利用するかたちでもって危険な状況を生じさせるという,間接正犯ではないんでしょうけれども,ちょっと依存型,状況依存型の類型になっていると理解されます。また,条文を見ますと,従来の第4号が,「人又は車の通行」というふうに,「人」が入っているのに対して,今回は入っていないという点では,絞られているという言い方ができましょうか。   それから,現行の第4号の「直前に進入し」というのが,要綱(骨子)の一では「前方で停止し」と,ちょっと若干広がっている感じがあります。   それから,現行の第4号の「著しく接近」という部分が,要綱(骨子)の一では「接近することとなる」となっていて,ちょっと若干広い感じはあるので,現在の規定と今の新しく提案されている規定振りとを比較しながら検討していただければ,有り難いと思うのですが,何か御意見ございますか。 ○久保委員 今の点についての質問になるんですけれども,車の通行を妨害する目的といっても,いろいろな段階があると思います。本当に悪質なあおり運転の場合は当然だとしても,そうではなく,ちょっと後ろの車両を,邪魔だから妨害しようというぐらいの軽い気持ちで,ふっと前方で停止をしたりすることも,結果がたまたま重大であれば,およそ通行を妨害する目的と認定できるような場合には,全てこの要綱(骨子)の一の方に該当するような気がいたします。要綱(骨子)の一に該当するのは,特にこういう悪質な類型ですとか,通行を妨害する目的に該当するのは特にこういう正当な理由がない場合ですとか,その部分の解釈でどこで絞っていくことになるという理解になるのでしょうか。   つまり,今のお話ですと,結果がたまたま重大であれば,そういう結果から振り返って見ると重大な交通の危険が生じることとなる速度だったと評価する方向に傾くでしょうから,要綱(骨子)の一に該当すると認定されやすくなり,処罰範囲がすごく広がるような気がしましたので,その点について質問させてください。 ○井田部会長 この目的要件の理解はとても大事なところですので,御説明をお願いします。 ○保坂委員 要綱(骨子)の一の罪の「通行を妨害する目的で」というのは,現行の第4号と同じでございまして,その意義については,先ほど事務当局から御説明させていただいたとおりです。   重大な結果が生じたら目的が認定されるということはなく,飽くまで目的の要件と,重大な交通の危険が生じることとなる速度という要件と,死傷結果の要件は,それぞれ独立の要件ですので,それが全て満たされれば,一の罪が成立することにはなりますけれども,死傷結果が重大だから,ほかの要件が影響するという御趣旨の質問だとすれば,それぞれの要件が認定されるかどうかが判断されるということだろうと思います。 ○久保委員 ありがとうございます。 ○橋爪委員 ただいまの点に関連して申し上げますが,例えば前方の信号が赤色であるとか,渋滞しているなど,停止すべき正当な理由がある状況において,内心においては,あえて急ブレーキを踏んで後行車両との衝突事故を誘発しようとするなど,その通行を妨害する意図が併存しているというケースは,理論的にはあり得るとは思います。もっとも,これが法律の解釈論の問題か,事実認定の問題かは,悩ましいのですが,このような意図を本罪における「通行を妨害する目的」として認定すべきではないように思います。   実際には,あえて停止すべき正当な理由がない場合に限って,本罪の成否が問題になるのであり,正当な運転行為だが,内心ではイライラしており妨害の意図もあった,という場合まで,本罪の妨害目的が認定されるわけではないと,個人的には考えておりました。 ○合間委員 今の橋爪委員のお話で,正当に止まる場合ということだとすると,結構赤信号で,びゅーんとスピードを出して,急にがっと止まったりすることってあるではないですか。それは,後ろから何か,それこそカーチェイスではないですけれども,ずっとあおりとかの行為をしていて,でも赤信号だから急に止まって,急に止まれば,そいつはぶつかるだろうとかいう形ということも,場合としてはあり得ると思うんですけれども,そういった場合は,赤信号で止まるという意味では正当な行為ですけれども,急ブレーキを掛けて止まるという意味でいえば,今までそういう,バトっているとはいいませんけれども,いろいろ嫌がらせのように蛇行している中でぶつかったとなった場合というのは,ある意味併存するんですけれども,そういった場合というのは,どちらになるんですかね。そういう場合って,ないわけではないと思うんですよね。 ○井田部会長 ただ,赤信号で,急ブレーキ掛けないと止まれないわけですよね。 ○合間委員 はい。 ○井田部会長 そういう状況で止まらざるを得ないということになれば,目的要件が充足されるとは考えにくいですが,御説明をお願いしたいと思います。 ○保坂委員 繰り返しになりますけれども,「通行を妨害する目的」というのは,現行法にも既にございまして,いろいろ裁判例もございます。   現行の第4号における「通行を妨害する目的」については,制定当時の立案担当者の説明として,相手方の自由かつ安全な通行を妨げることを積極的に意図する,というものでございます。積極的に意図するものであれば,その目的があるということですけれども,その積極的な意図が,要するに,専らでなければいけないのかとか,そういう議論は現行の要件についてもございまして,我々としては,それと同じように考えていただければと考えております。 ○合間委員 ありがとうございます。 ○井田部会長 専らということを付けるわけではないという御趣旨なんですよね。 ○保坂委員 立案当局の意図としては,積極的に意図するということをいうということは,創設当時の理解として申し上げているとおりですが,事実関係や事案に応じて,裁判例もございますので,それはそれとして理解いただければと思います。 ○井田部会長 確定的に認識していれば,主たる動機でなくても構わないというような感じですかね。 ○保坂委員 その点についても,高裁レベルでも裁判例がございまして,個別の事案で争われて,判断がされていくということになりますので,この場では,積極的に意図することをいいますということで御理解いただければと思います。 ○橋爪委員 先ほど申し上げたことについて,若干の補充・修正をさせていただきます。確かに正当な理由があるからといって,それと併存する目的・意図が否定されるわけではないと思います。   あえて現実味のない事例を申し上げますと,赤色信号があり,停止せざるを得ない状況であっても,ブレーキのタイミング等を,あえて後方車両が混乱,動揺するようなかたちに操作することによって,衝突事故の危険性を殊更に惹起するような特殊な行為が行われたのであれば,理論上は,要綱(骨子)の一の罪に該当し得ると思います。ただ,実際には,このような事例であっても,行為者の妨害目的を認定することは困難な場合が多いように推測されます。その意味では,これは目的の認定に伴う事実認定の問題として整理した方が適切かもしれません。 ○井田部会長 それでは,目的要件についてはそのぐらいにして,ほかの点は何かございますかね。 ○福家幹事 「走行中の車の前方で停止し」という要件に関して,主観的な認識を被告人も持っているということが前提と思っているのですけれども,故意の解釈について,教えていただければと思っております。 ○吉田幹事 まず,要綱(骨子)の一では,通行を妨害する目的が必要とされております。これは,相手方に自車との衝突を避けるために急な回避措置を採らせるなど,相手方の自由かつ安全な通行を妨げることを積極的に意図することをいいまして,特定の車の通行を妨害する意図までは必要ないと考えられます。   そのため,例えば,加害者が自車の後方を走行している車の存在を認識していない場合であっても,そのような車がいるのであれば嫌がらせをしようと考えて急停止をする場合には,通行を妨害する目的の要件を満たすこととなると考えています。   その上で,故意についてですけれども,要綱(骨子)の一の罪については,行為の客観面である「走行中の車(重大な交通の危険が生じることとなる速度で走行中のものに限る。)の前方で停止し,その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転すること」が故意の対象となります。したがって,加害者は,実行行為の時点で,走行中の車を認識している必要がありますが,その認識の程度としては,通常の故意と同じく,未必的なもので足りると考えております。   この機会に,併せて,要綱(骨子)の二の罪についても申し上げますと,これについても,行為の客観面である「高速自動車国道又は自動車専用道路において,走行中の自動車の前方で停止し,その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転することにより,走行中の自動車に停止又は徐行をさせること」が故意の対象となります。したがいまして,加害者は,実行行為の時点で,走行中の車を認識している必要がございますし,その認識の程度としては,通常の故意と同じく,未必的なもので足りると考えております。 ○井田部会長 なるほど,よく分かりました。   いかがですか,よろしいでしょうか。 ○福家幹事 ありがとうございます。 ○井田部会長 検討すべきほかの論点はございますか。まだまだ時間はたくさんありますので。 ○合間委員 具体的な場面を想定されるということだったので,例えばですけれども,ちょっと御説明でもあったと思うんですけれども,渋滞中とかで加害者側の車が止まっていて,バイクが後ろから,すり抜けるような形で進んできたりすることというのはあると思うんですけれども,バイクが来る,特定のバイクではなくても,バイクが来るというのを認識して,こんな後ろから追い抜くのはよろしくないということで,ちょっとハンドルを切って前方を妨害すると,そこにぶつかるといった場合は,これは要綱(骨子)の一の予定する態様という理解でよろしいんですか。 ○保坂委員 今の例について,通行妨害目的で,相手方車両であるバイク,妨害相手となる被害者車両が重大な交通の危険が生じることとなる速度で走行しているところに,自車の前部を進入させたということであれば,自車の速度は低速だとしても,その行為自体が要綱(骨子)の一の罪に当たってくると考えております。 ○井田部会長 今の御質問は,恐らく要綱(骨子)の二との関係でも出てくるんだろうと思いますね。 ○合間委員 そうですね。要綱(骨子)の二にも重なる話だとは思うんですけれども。 ○井田部会長 どうでしょうか。ほかの論点,あるいは,ほかに,もうかなり深いところまで踏み込んでいいと思うんですけれども。 ○久保委員 漠然とした質問で恐縮ですが,今回の諮問の経緯というのは,いわゆる東名のあおり運転の事件がきっかけになったという認識です。ただ一方で,東名のあおりの事件自体は,一審でも控訴審でも,いずれにしても危険運転致死罪は成立するという認定をされていると思います。   それはやはり,その前提となる危険運転というものがあって,因果関係というのが広く認定されるということで,その当否は別としても,そこでカバーされているということだと思います。今までの従来の第4号ではカバーできなくて,これまでのそういった裁判例も踏まえてもカバーできなくて,今回の要綱(骨子)の一でしかカバーできないような類型というのは,どういうものをイメージしたらいいのか,それが単純に分からなくて,教えていただけますでしょうか。 ○井田部会長 分かりました。   御質問は二つあって,東名の事件,第一審と控訴審が出ているものとの関わりについてが一つ,もう一つは,今回のこの要綱(骨子)の一,これがないとどうしてもカバーできない,現行法では処罰できないものはどういうものかという,二つに分けることができると思うんですが,いかがでしょうか。お願いします。 ○吉田幹事 ただいま御指摘のあった東名高速道路での事件については,現行の第2条第4号が適用されているわけですが,第4号の場合には,先ほどから話が出ておりますように,加害者車両の速度の要件として,重大な交通の危険を生じさせる速度で運転するということが必要とされております。そのため,東名高速道路のあの事件とはやや事実関係が異なって,その速度要件を加害者側が満たさない,そういう速度要件を満たす行為がない事案があるとしますと,それについては,第4号は適用できないということになります。   したがいまして,そのような加害者側車両が速度要件を満たさない場合,例えば加害者車両が通行妨害目的で被害者車両の前方で停止して,被害者車両がそこに追突するなどして,人が死傷した場合であって,その著しく接近したときの加害者車両の速度が重大な交通の危険を生じさせる速度に至っていないようなケース,しかも,第4号を満たすような行為もなかったような場合ですと,やはり要綱(骨子)の一で対処する必要があるということになろうかと考えております。 ○井田部会長 いかがでしょうか。東名の事件みたいに,ずっと追っ掛けていってというのではなくて,前方でぱっと入っていって止まったというような場合ですかね。そうすると,今の第4号だと,なかなか捕捉ができないということになるということでしょうか。 ○保坂委員 ちょっと補足で言いますと,先ほど合間委員がおっしゃったような,元々止まっていて,後ろから追い越そうとしてきた車の寸前に,自車の前部を進入させる行為というのは,自車が重大な交通の危険を生じさせる速度で接近するということがないまま,被害者車両と衝突するということになりますが,そういった事例も,この要綱(骨子)の一の罪がないと捕捉できないということになろうかと思います。 ○久保委員 それが該当するということは理解できますけれども,冒頭に説明がありましたように,危険運転というのは元々,特に当罰性の高いものを類型化したというものだと思います。今のような類型というのは,危険運転として捕捉しないといけないというのが,もう少し具体的な場面として,例えば,ふっと前に出たような場合が,危険運転として捕捉しないといけないようなレベルになるのかどうかということが,ちょっとよく理解できませんでしたので,もう少しどういうものが該当し,どういうものが該当しないのかイメージを持てるよう御説明をお願いできればと思います。 ○吉田幹事 例えば,被害者車両が時速60キロメートルで,片側2車線の道路の第二通行帯,追い越し車線に相当するようなところを走っていったときに,加害者車両が歩道寄りの第一通行帯の方をゆっくり走っていて,そうした状態で,被害者車両が加害者車両を追い越すタイミングで,通行妨害目的で,あえて第二通行帯の方にハンドルを切って車の前部をはみ出させる,あるいは完全に第二通行帯の方に入るということをした場合には,現行の第2条第4号の適用対象とはならないと考えられます。   他方で,そのように被害者車両がかなりの速度で走行しているときに,加害者車両が低い速度で突然入るようなことがありますと,衝突によって重大な交通の危険を生じさせる,あるいは被害者車両として,それを避けるためにハンドルを切ったりして,ガードレールに突っ込んだりするというような危険性が非常に高いといえると考えておりまして,そこで考えられる危険性というのは,やはり第4号で想定している危険性と類型的に見て同程度のものといえますので,そのような事例が考えられるのではないかと思います。 ○久保委員 ありがとうございます。 ○今井委員 関連して,個人的な感想ですけれども,今の久保委員の御質問,ごもっともだと思います。   ただ,東名での,いわゆるあおり事件を契機として,どのような運転が現行法で捉えられないかということを確認して立法化しようという点も,恐らくは,諮問の目的なのだろうと思います。   危険運転という概念を,最初に法律に書き込んだときは,加害者車両の持つ,それ自体のスピードによって惹起される人の死傷の危険を考慮していたと思いますが,今議論されているように,低速度で少しハンドルを切るような行為であったとしても,公道でそのような行為をすること自体が,被害者車両との関係では,被害者車両中にいる人等に死傷の危険を惹起し得ることは,今回の事件を契機として分かってきました。そのため,そうした行為も捉えておく必要があるということで,今般の提案がなされたのではないかと思っております。要は,「あおり」という言葉に余り引き付けられず,何が起こり得るかということを踏まえて,検討された方がいいのではないかと思っているところです。 ○井田部会長 ありがとうございます。   随分議論してまいりましたけれども,他に御質問等ありますでしょうか。 ○橋爪委員 では,もう1点,この機会に質問させてください。文言で申しますと,停止の意義なのですけれども,要綱(骨子)の一の実行行為は「停止し,その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転する行為」と規定されておりますので,私はこの停止という行為も,「その他」以下の「運転する行為」と同質的な行為であると理解いたしました。つまり,現実に走行している段階から減速し,停車に至るという一連の運転が「停止」に該当するのであり,逆に申しますと,継続的に駐停車し続ける行為は,これに該当しないと考えました。   つまり,他の車両にとって通行妨害になり得ることを十分に分かった上で,違法に路上駐車をし続けた結果,それから数分後,数十分後に衝突事故が起きたとしても,本罪は成立しないと考えましたが,このような理解でよろしいか,御確認をお願いします。 ○井田部会長 法文の作りとしては,「その他」と規定してあって,その他こういう方法で自動車を運転する行為ということですので,前方で停止するというのは例示として考えるということでしょうか。そう考えるとすると,運転行為の一態様としてということですので,縛りがやはりそこにあるということになるかと思うんですが,いかがでしょうか。 ○吉田幹事 ただいま御指摘がございましたように,要綱(骨子)の一における停止とは,この罪が自動車の運転行為の危険性に着目して特に重い処罰をするものであることから,運転行為としての停止をいうものと考えておりまして,言い換えますと,走行している状態から止まる行為を意味すると考えております。したがいまして,停止を続けることは,運転行為としての停止には当たらないものと考えております。   その上で,今お話にありましたように,例えば,加害者が自分の車を停止させた後,そのまま停止をずっと続け,その結果,しばらく経ってから,後続の被害者車両がそこに追突してきて,人が死傷した場合に,この要綱(骨子)の一の罪が成立するかどうかですが,ただいま申し上げたことを前提としつつ,さらに,要綱(骨子)の一における「前方」という文言は,加害者車両が被害者車両の進行方向の前の方で停止したときに,通常,著しく接近することとなる位置関係,距離関係にある範囲をいうものと考えておりまして,御指摘のようなケースでは,運転行為としての停止の時点では,後にこれと衝突することになる被害者車両は,いまだ加害者車両から遠い地点を走行していることになりますので,その時点での両車両の位置関係を前提といたしますと,加害者車両は,要綱(骨子)の一にいう「前方で停止」には当たらないものと考えております。   したがいまして,御指摘のような場合には,運転行為としての停止は,前方という要件を満たしませんので,ここでいう実行行為には該当せず,要綱(骨子)の一の罪も成立しないと考えているところでございます。 ○井田部会長 運転行為としての停止となると,おのずと幅は限定があるということなんですかね。   何かそれに関連して,よろしいですか。 ○岩﨑委員 大変さ末な点になるかもしれませんけれども,この停止というところと,それから運転する行為について,今の御説明ですと,停止というのも運転行為の一態様なんだという御趣旨のことをおっしゃったと思います。   ただ,要綱(骨子)の一には,「停止し,その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転する行為」とあり,「その他」の次に「の」が入っていません。法制的には,「の」が入ると例示になって,「の」が入らないと並列というような,そういうお約束が確かあったと思うんですが,その辺りのところは,どう理解したらよろしいんでしょうか。 ○保坂委員 おっしゃるとおり,法制技術的にいいますと,「その他の」となりますと,その手前にいうところが例示でございまして,「その他」というと,並列というのが理解されています。   先ほど事務当局の方から申し上げた停止の意味というのは,この罪が捕捉しようとする危険な行為というのは何かといいますと,車の運転の危険性であり,車かどうかにかかわらず,その場にずっといるという状態の危険ではなくて,車が運転されることによって生じる危険に着目して重い処罰の行為類型として捕捉しようとしているということでございますので,したがって,ここでいう停止というのは,そういう意味での運転行為としての停止ということで説明させていただいたところでございます。 ○岩﨑委員 承知しました。 ○井田部会長 ほかに,何かございますでしょうか。それに関連して,先ほどちょっと申し上げたんですけれども,現行の第4号は「人又は」になっている,今回は「車」に限定されていますが,それは,どういう理由に基づくものでしょうか。 ○保坂委員 「走行中の車」の後に括弧を付けておりまして,重大な交通の危険が生じることとなる速度で走行しているものを妨害するということとしています。そこで考えている危険性というのは,あるいは妨害の対象というのは,重大な交通の危険が生じることとなる速度を超えるような速度が出るものということで,そういう意味として,車という形で規定させていただいているところでございます。 ○井田部会長 なるほど,よく分かりました。 ○合間委員 自分の理解のために,先ほど今井委員がおっしゃっていたことなんですけれども,要綱(骨子)の一については,当罰性という意味でいえば,従来,加害者の速度とか加害者の態様について着目していたけれども,それだけではなくて,車である以上,幾ら低速度であっても,危険な存在には変わりなくて,特に道路においては,ほかの車との関係性において,やはりそれなりに当罰性というか,すごい危険な行為があり得ると。   それが,頭をひょいと出したりとか,先ほどから例に挙がっているようなことであっても,加害者自体の行為としてはそれほど危険ではなくても,単体ではそうではなくても,関連性において,やはりそれも危険な,被害者側の車に一定の要件があれば危険なものであるだろうと。だから,そういったものについても,加害者だけではなくて,そういった全体を通して,きちんと当罰性を見ていかないといけないという観点から,要綱(骨子)の一をきちんと定めましたよという理解でよろしいんですかね。 ○井田部会長 ええ,それでよろしいんですね。 ○吉田幹事 行為の危険性は,要綱(骨子)の一に書いてある要素を全て満たすことによって生じると考えておりまして,加害者の車両が速度が低いからといって,それだけで必ず絶対的に危険性が少ないというわけではなくて,被害者車両の存在,しかも重大な交通の危険が生じることとなる速度で走行しているということを前提とすると,やはり危険性を持ち得るという考えの下に,この要綱(骨子)の一の罪を設ける必要があると考えているものでございます。 ○合間委員 それがやはり社会できちんと,今の交通の中で,そういうこともきちんと捕捉しないと成り立たないだろうというか,処罰が適正ではないだろうと,そういう考えでという理解でよろしいんですかね。 ○井田部会長 私個人は,平成13年のときに,危険運転致死傷罪の規定を作るときの部会では幹事で,平成25年の改正のときの部会では委員だったんですけれども,やはりずっと,そのときの議論は,専ら加害者の車両が速い速度で走るから危険であるということが頭の中に固定観念としてあって,今回,東名高速の事件をきっかけにして,そればかりではない,加害者の車両が遅い,場合によっては5キロとか,あるいは停止してしまうような場合であっても,被害者車両の方が速ければ,全く同じような危険が生じ得るということが初めて意識されるに至ったということかと思います。やはりそこに現行法における処罰の欠落部分があることが明らかになったのは間違いないのではないかという気がいたします。   それを埋めるという理解でよろしいんですか。 ○吉田幹事 はい。 ○合間委員 ありがとうございます。 ○井田部会長 要綱(骨子)の一について,もう少し御議論はあるでしょうか。場合によっては,要綱(骨子)の二の方に移ってしまい,それで,場合によっては帰ってくるというようなことでもよろしいでしょうか。   では,後で休憩を入れますけれども,もう少し頑張りまして,今度は,要綱(骨子)の二について審議を行っていきたいと思います。   これも,最初は易しい質問から,少し深い質問へという順番でいきたいと思うんですけれども,いかがでしょうか。   要綱(骨子)の二の理解を促進するような,何か御質問ございませんか。確認ということでも結構です。 ○橋爪委員 それでは,基本的な質問で恐縮ですが,要綱(骨子)の二の罪は,高速自動車国道又は自動車専用道路と,対象となる道路を限定しておりますが,このように対象となる道路を限定する趣旨,また,高速自動車国道又は自動車専用道路が具体的にどのような道路を指すのかについて,御説明をお願い申し上げます。 ○吉田幹事 要綱(骨子)の二において,高速自動車国道及び自動車専用道路における行為のみを対象とすることとしている理由は,次のとおりでございます。   すなわち,これらの道路においては,自動車を駐停車させること自体が原則として禁止されており,これらの道路を走行する者は,その進路上で他の自動車が停止又は徐行しているという事態を想定しているわけではないことから,加害者が,通行妨害目的で,自己の運転する自動車を被害者車両の前方で停止させるなど,被害者車両に著しく接近することとなる方法で運転し,これにより,被害者車両を停止又は徐行させた場合には,これらの道路を走行中の他の運転者としては,そのような事態を想定して回避措置を採ることが通常困難であるため,走行中の第三者車両が加害者車両又は被害者車両に追突するなどして重大な死傷結果が生じる危険性が類型的に高く,このような加害者の運転行為は,現行の危険運転行為と同等の危険性・悪質性を有すると考えられます。   これに対して,それ以外の一般道におきましては,駐停車が禁止されることは確かにありますけれども,高速自動車国道及び自動車専用道路のように,道路自体として一般的に駐停車が禁止されるものではなく,道路の部分ごとに,個別の状況に応じて,道路標識等によって禁止がなされるものである上に,道路標識等によって駐停車が禁止されている道路部分におきましても,一般に道路を走行中の者にとって,当該部分に駐停車中の車両が存在しないと想定して走行しているものではないと考えられます。   また,高速自動車国道及び自動車専用道路におきましては,道路と連結させることのできる施設に制限があるのに対し,一般道においては,そのような制限はなく,一般道と連結する道路外の施設が多数存在しておりまして,そうした道路外の施設に進入するために,道路上で一時停止し,あるいは徐行する自動車も現に多く存在いたします。   そのため,一般道においては,車両の運転手にとって,その進路上で他の自動車が停止又は徐行している事態は十分に想定し得ることでございまして,加害者が,通行妨害目的で,自己の運転する自動車を被害者車両の前方で停止させるなど,被害者車両に著しく接近することとなる方法で運転し,それによって被害者車両を停止又は徐行させた場合であっても,重大な死傷結果が生じる危険性が類型的に高いとはいい難いと考えられます。   以上のことから,要綱(骨子)の二においては,高速自動車国道及び自動車専用道路における行為のみを危険運転致死傷罪の対象とすることとしているものでございます。   そして,ここでいう「高速自動車国道」の意義についてですけれども,これは高速自動車国道法の第4条第1項に規定する道路をいいまして,例えば,東名高速道路,名神高速道路,常磐高速道路等が該当いたします。また,「自動車専用道路」とは,道路法の第48条の4に規定する自動車専用道路をいいまして,例えば,首都高速道路,阪神高速道路等がこれに該当いたします。 ○井田部会長 そうですか,首都高は前の方かと思っていましたが,違うんですね。   今の点は,橋爪委員,よろしいですか。 ○橋爪委員 はい。ありがとうございます。 ○井田部会長 何かほかに,いかがですか。 ○今井委員 先ほどの合間委員と橋爪委員の御質問と関連しますが,一言申し上げます。   先ほど私が言ったことに戻りますが,この要綱(骨子)の一も二も,やはり公道であると,道路であるということから,車両衝突の危険性が一般的に高い点に着目して,それから,先ほど事務当局からの御説明もありましたけれども,現行の第2条第4号では捕捉し切れていないけれども,結果として人の死傷が車の運転によって惹起されるべき場所があるということを踏まえて,こういう規定の整備が提案されているのだろうと思います。   そうしますと,先ほどの橋爪委員の御質問の趣旨と同じかと思いますが,要綱(骨子)の二において,より高速度での走行が通常想定されているところについては,別個の書き込みが必要でありまして,例えば,要綱(骨子)の一では車ですけれども,二では自動車となっている,そういうふうな目配りが必要であります。そこで,ここに示されたような規定になるだろうと思います。   基本的には,先ほど合間委員が言われた趣旨には,私も賛成しておるところでございます。 ○合間委員 要綱(骨子)の二の場合に,このままで普通に当てはめると,渋滞とかのろのろ運転のときでブレーキを踏んだという場合で追突をしたと。要綱(骨子)の一とは違って,被害者側にも速度要件はないので,両方とものろのろで,こつんとぶつかった場合についても,目的があれば成立し得ると思うんですけれども,この場合も,この要綱(骨子)の二に当たることになるんでしょうか。 ○井田部会長 これも重要な問題ですね。どうでしょうか。 ○吉田幹事 いわゆる渋滞の場合としては,ただいま御指摘がありましたように,同一方向に進行する自動車が徐行や停止を繰り返す場合があろうかと思います。そのような渋滞の中にいる自動車については,その運転をする者としては,自分の前方を走行している自動車が徐行や停止を繰り返すということを当然想定しながら走行しているものと考えられます。   そのため,高速自動車国道又は自動車専用道路であっても,渋滞中で,他の走行車両が徐行や停止を繰り返しているというような場合には,通行妨害目的で,自己の運転する自動車を被害者車両の前方で停止させるなど,被害者車両に著しく接近することとなる方法で運転し,これにより,被害者車両を停止又は徐行させたとしても,重大な死傷の結果が生じる危険性が類型的に高いとはいい難いのではないかと考えられます。   したがいまして,そのような行為によって,人に死傷結果が生じたとしても,要綱(骨子)の二の罪の実行行為が予定している危険性が現実化したものとはいい難いために,当該行為と死傷結果との間の因果関係が認められないこととなって,この危険運転致死傷罪の処罰の対象とはならないと考えているところでございます。 ○合間委員 今の話で,傷害結果と行為の因果関係がないというお話があったのですが,因果関係はありますよね。行為があって,傷害が起きるわけだから。今の類型,予定する危険の類型がないということは,そうすると,この条文だけからは分からないですよね。それはどう外していくんですか。 ○保坂委員 先ほど来説明しておりますように,要綱(骨子)の二の罪におきましては,高速道路等に限定をします。なぜ高速道路等にしているかといいますと,駐停車自体が原則として禁止されているわけですので,通行妨害目的で被害者車両を止めているという事態というのは,ほかの車両,ほかの通行車からすると,通常想定できず,回避措置が困難だということであり,先ほど説明したとおりです。   そうしますと,この罪が予定している,どういう危険性を捉まえようとしているかということでいいますと,やはり通常止まっていないところから生じてくる危険性を実行行為として捕捉しようとしているわけですので,我々の今の考え方としては,因果関係の判断の中で,危険の現実化として,ここで予定している実行行為の危険性というのは,そういったほかの通行車両も,重大な交通の危険が生じることとなる速度で走行している,そういうことによって生じてくる危険が現実化したという場合でなければ,事実認定のところですけれども,因果関係が認められないということによって,外れてくるのではないかというふうな考え方を持っています。 ○井田部会長 難しい問題ですね。実行行為がないと考えるのか,それとも,実行行為の危険が現実化,その部分がないと考えるのか。もし仮にこれ,未遂を処罰しているということになるとすると,そもそも実行行為がなければ処罰されないけれども,因果関係がないとすれば未遂犯になります。そういう違いも出てくるんでしょうけれども,この条文との関係では,それは問題にならない。   それにしても,どう考えるかという問題はあるかもしれませんね。深い問題ですけれども,お願いします。 ○橋爪委員 先ほど御説明いただきましたように,要綱(骨子)の二の罪の処罰の根拠は,一般的には前方車両の停止・徐行が想定されない状況において,想定に反するかたちで,走行中の車両に停止・徐行をさせた場合,他の車両が衝突を回避することが困難であり,類型的に生命に対する危険性をはらむという点に求められると考えますと,渋滞しており,前方車両の徐行・停止が十分に想定され得る状況については,衝突回避が困難な類型的状況とまではいえず,実質的な根拠を欠くことから,この場合には,本罪の成立を否定すべき場合があるという結論については賛成したいと存じます。   その上で,このような結論を導くための解釈論でございますけれども,事務当局の方からは,因果関係を否定するという御説明がございました。現在の判例通説は,実行行為の危険が現実化した場合に因果関係を肯定するという立場であると理解しております。この立場からは,実行行為に内在している危険性が,具体的に因果経過及び結果発生として現実化することが必要であると解されます。   具体的に申しますと,前方車両の停止・徐行が想定できない状況であるにもかかわらず,走行中の自動車を停止・徐行させ,他の車両の対応が困難な状況を設定することが本罪の実行行為の危険性であり,このような危険性が現実に実現したことが必要であると考えますと,このような状況が現実に生じていない場合については,実行行為に内在する危険が実現していないという意味で,因果関係を否定する理解もあり得ると思います。   あるいは,部会長が先ほどおっしゃったように,実行行為を否定するという説明もあるのかもしれません。危険運転の実行行為というのは,類型的に生命・身体に対する危険性が高い運転行為です。そして,要綱(骨子)の二の罪の危険性というのは,高速道路等で被害者車両に急停止等を促す行為であり,それが正しく生命・身体に対する高度の危険性を基礎付けることになります。   このように考えますと,渋滞の中で,行為者が少し強引な運転をして,それによって被害者車両を停止・徐行させたとしても,この行為には類型的に高度の危険性が認められないと解すると,一定の状況においては,そもそも要綱(骨子)の二の罪の実行行為に該当しないという理解もあり得るのかもしれません。   もちろん形式的には,文言に該当するわけですが,実質的な観点から限定解釈を行って,実行行為性を否定するということは,解釈論としては十分に可能だと考えます。 ○井田部会長 実行行為を実質的に考えて,否定する考え方もあり得るし,因果関係もやはり,実質的に考えて,否定する考え方もあり得るということで,そこはもうちょっと詰めていただくことが必要かもしれません。また次回にでもということでよろしいでしょうか。   ちょうど1時間半たちましたので,我々大学の教師は1時間半たつと,大体エネルギーがなくなってくるということもありますので,10分間休憩させていただいてよろしいでしょうか。では,10分間休憩したいと思います。午後3時10分に再開することにいたします。 (休     憩) ○井田部会長 会議を再開したいと思います。   要綱(骨子)の二についての議論をもう少し続けまして,それが大体収束しましたら,今度は,現行の第2条第4号,要綱(骨子)の一,二,それぞれの罪の相互関係について検討していきたいと思います。   何か要綱(骨子)の二について,さらに,御質問等があればお願いします。 ○岩﨑委員 先ほど渋滞中のお話がありましたけれども,そのことに関して,若干確認させていただきたいと思います。一般的に,渋滞中である場合に要綱(骨子)の二に該当しないことがあり得るということは,おっしゃるとおりだと思うんですが,渋滞中といっても,いろいろなパターンがあろうかと思うんです。例えば,渋滞はしていたけれども,渋滞が解消しつつあって,だんだん速度が上がっていくような状態,あるいは渋滞といっても,ある程度は動いていて,その速度がそれなりに高い場合もあろうかと思います。   そのように渋滞といっても,いろいろと多義的な中で,渋滞であるからということでも,一概に全て本件の対象範囲外になるということではないという趣旨でよろしいでしょうか。 ○保坂委員 おっしゃるとおりでございます。   先ほど事実認定の問題であると申し上げたのはその趣旨で,ただ,この要綱(骨子)の二の罪が予定している危険性というのは,周囲の車両が重大な交通の危険が生じることとなる速度を出しているということを前提として考えているということです。   現行の第4号,そして,今回の要綱(骨子)の一の罪も,加害者車両であれ,被害者車両であれ,速度要件というのが付いています。この要綱(骨子)の二の罪につきましても,それと同じ法定刑で臨んでおりますので,そういう意味では,周囲の車両は,そのような速度で衝突すれば,重大な死傷結果が生じたり,あるいは回避措置困難であるような速度で走行していることによって生じている危険性であるという趣旨でございまして,渋滞というのはまた,おっしゃるとおり多義的ですので,渋滞であるかどうかという問題ではございません。   徐行と停止を繰り返しているような状況であれば,やはり因果関係が認め難いのではないかという趣旨で申し上げました。 ○岩﨑委員 ありがとうございます。 ○井田部会長 そのほかに何かございますか。 ○塩見委員 雑っぱくな質問なんですけれども,要綱(骨子)の二の罪の危険性というのは,高速道路上で停止又は徐行しているような車両があることによって生じる危険であるとすると,単純に考えますと,別に人の車を止めなくても,自分で車を止めて,要するに,高速道路上で自動車の通行を妨害する目的で停止又は徐行するということ自体が既に危険で,そこから死傷の結果が生じれば,危険運転ともいえそうな気もするんです。限定はやはり,何か理由があると思うので,その点について御説明を頂ければと思います。 ○保坂委員 おっしゃるとおり,高速道路で停止する行為自体をそれだけで危険な行為として捉まえて,それによる死傷結果を生じた場合に処罰する,重たい処罰の対象にするという考え方はあろうかと思います。   ただ,我々が考えましたのは,要綱(骨子)の一の罪と二の罪共に,妨害目的で相手方,被害者車両といいますけれども,これを自車の速度が速くない走行方法によって危険にさらす行為,これを危険運転行為として捕捉しようとしてございます。すなわち,要綱(骨子)の一につきましては,自車の速度は停止あるいは低速度という行為ですけれども,被害者車両,妨害相手の速度はそれなりに速度が出ているところで前方で停止等しますと,被害者車両を危険にさらすということになろうかと思います。   要綱(骨子)の二の罪につきましては,妨害相手を停止させることによって,その停止させられた被害者車両の後ろから追突車両,第三者車両が現れて,これに追突することによって,そういう状況に被害者車両を置くということを被害者車両を危険にさらす行為として捕捉するということでございます。   高速道路で停止するという行為自体は,往来妨害の形態として高速自動車国道法で規律される高速道路の交通の流れを妨げるような行為であり,むしろそちらの問題だと考えまして,接近するような形で被害者車両を停止させることによって被害者車両を危険にさらす,そこを危険運転行為として捕捉しようという考え方で,要綱案としました。   したがって,要綱(骨子)の二の罪におきましては,自らの接近するような運転行為によって,被害者車両を停止・徐行させるということによって危険にさらす行為,これを実行行為として捕捉しにいこうと,こういう趣旨でございます。 ○塩見委員 危険にさらされるのは,もちろん止めさせられた車両もそうだと思うんですけれども,他の,更にそこに追突する車両の危険も考えられておられるんですね。 ○保坂委員 それは御指摘のとおりです。   捕捉しようとする一義的な危険の対象は,妨害相手を危険にさらす。その結果として,色々なところに危険が及んでいくというのはあるんですが,一義的な危険の対象は,妨害される相手の危険を一義的に考えて,この組み立てで作ってみたと,こういうことでございます。 ○塩見委員 そうすると,止めさせる行為というのが危険であるということになりますと,例えば,助手席に座っていた人間が殴って,止めろと,何か喧嘩になって,止めろと言って止めさせたと,自動車を高速道路上で。そういう場合が除外されるというのは,それは,運転行為から生じたものでなければならないからと,そういう理由で説明されるということですか。 ○保坂委員 要綱案で書いています走行中の自動車を停止・徐行させる手段として,停止あるいは著しく接近することとなる方法で自動車を運転することによりという手段に限定しており,車を物理的に接近するような形で被害者車両を停止させる行為ということになりますので,車内で人が人を殴って停止させたというのは,車の運転によって生じる停止ではないので,そういうのは当たってこないと考えております。 ○塩見委員 もちろん,要綱(骨子)の二に当たらないのは,そのとおりです。除外される理由というのがどこにあるのかなというのがありまして。そもそも止める行為が危険運転ですけれども,停車して止めさせる行為の持つ危険,さらに,それによって止めさせられる状態で惹起される危険であると。   両方要るというのが,なぜなのかなというふうにも質問してもいいと思います。限定はいいと思うんです。処罰範囲を余り広げるのはよくない。ただ,危険として同じであれば,なぜ限定するのかという,やはり説明が要るのかなと,政策的な判断でもいいですけれども。そういう質問です。 ○保坂委員 まず,危険運転致死傷罪自体が,運転行為の危険性に着目して,こういう運転行為によって生じる危険性に着目して,それを故意でやった場合に,暴行に準じた結果的加重犯の致傷・致死として重たい処罰を設けるということになっています。   そういたしますと,もちろん停止させる行為の手段としては,いろいろなものが考えられるわけでございまして,ハイビームとかパッシングとかという,あるいは口頭で命ずるといった,色々なものがございますが,ここで捕捉しようとしているのは,やはり車の運転によって,そういう危険にさらすようなことをしたという,運転行為の危険性をもって捕捉しようということでございますので,運転行為によって停止させるという形で,実行行為を規定したという趣旨でございます。 ○井田部会長 例えば,道路に障害物を置いてという話になると,往来妨害罪の成否が問題になるだろうし,高速道路に何か置けば,また特別法上の罰則があるんだろうと思うんですね。ですから,それぞれの観点から捕捉され,罰則が設けられている中で,これは飽くまでも危険運転致死傷という従来の枠の中での捕捉ということなんだろうとは思うんですが,何かもし,更に御意見があれば。 ○塩見委員 この案に特に反対しているわけでもないので,ちょっと詰めておきたいなということを思っただけなんです。自分で止まっているだけなら単なる妨害行為だろうと,そういう御趣旨だと思うんですけれども,もう1台増やしたら,それが処罰対象になるという,そういう話にはならないのかなという,ちょっとそういう印象を受けたので,質問したんです。長引かせるのは私の本意ではありませんので結構です。 ○井田部会長 いえ,時間は十分ありますので。 ○保坂委員 塩見委員がおっしゃるように,例えば高速道路であっても,例えば妨害目的を持って,その後,後ろから来るであろう車をターゲットとして停止するということになりますと,それは,後ろから来る車が重大な交通の危険が生じることとなる速度で走っている,そういう状況で妨害しようということで停止するということであれば,それはむしろ,要綱(骨子)の一の罪で捕捉することになるのかなと思います。   高速道路であれ,一般道であれ,重大な交通の危険が生じることとなる速度で走行している被害者車両の前方で停止することによって,追突の危険を生じさせるということでいえば,それは要綱(骨子)の一の罪で捕捉しているという,こういう趣旨でございます。 ○塩見委員 確認ですけれども,そうすると,特定されていなくていいという,要綱(骨子)の一の罪については,後から来る車については漠然と妨害してやろうというような場合でも対象となるのでしょうか。 ○保坂委員 補足しますと,漠然とということの意味ですけれども,妨害目的というのが必要でございますので,積極的に妨害を意図するということでございますが,そのときに妨害の対象が,こいつだというふうに特定されている必要までは,必ずしもないと考えており,例えば,次来るであろう車を妨害するということであっても,妨害目的は満たすと考えておりますので,その妨害目的の要件としては,特定されていなくても,成り立つのかなと考えています。 ○塩見委員 結構です。 ○橋爪委員 私の理解を申し上げますと,要綱(骨子)の一,二の罪は,いずれも停止・徐行行為によって危険性を創出することを処罰の根拠とするわけですが,危険の内容が異なるように思われます。   つまり,要綱(骨子)の一の罪は,行為者自身が運転している自動車の停止・徐行行為を手段として,後続車両等に対する危険性を創出する行為であるのに対して,要綱(骨子)の二の罪は,自らの停止行為だけではなく,さらに被害者車両に停止・徐行をさせることによって,それ以外の車両に対する道路交通の危険をもたらす行為であり,危険の内実が異なるように理解いたしました。   このように解しますと,塩見委員御指摘のとおり,要綱(骨子)の二については,行為者自身の停止行為によって被害者車両を停止させる場合に限定する必然性はないわけであって,要は手段を問わず,被害者車両の徐行・停止を強いる行為を処罰対象にすることも,立法論的にはあり得ると思います。例えば障害物をまき散らすとか,拡声器で脅迫をするとか,これらの行為によって被害者車両に停止・徐行を強いる場合であっても,その後の危険性が大きく異なるわけではありません。   ただ,飽くまでも今回は,危険運転致死傷罪の改正であり,運転行為をいかなる範囲で危険運転として処罰できるかという観点で議論が行われているわけです。さらに,やはり高速道路で一番類型的,典型的な妨害行為というのは,やはり自らの自動車の停止・徐行を手段として相手を停止させる行為であると思われます。   このように考えますと,自らの停止行為等を利用して被害者車両を停止・徐行させる場合に処罰範囲を限定することには,一定の理由があると考えております。 ○福家幹事 今,橋爪委員の方から,要綱(骨子)の一と二について危険の内容が違うというお話がありましたが,おっしゃるとおりかなと思っております。   あと,渋滞の話が出てきたのですけれども,要綱(骨子)の一と二で,一には当たらないけれども,二にだけ当たるという類型というのが,どういう場合なのかという辺りを少し教えていただけると,イメージが湧くように思います。   具体的には,渋滞の場合が要綱(骨子)の二に当たらないということになりますと,両方ともゆっくり進んでいる類型が二に当たるということになるのですけれども,その前に,一のような状況が起きることが多いかと思いますので,一には当たらなくて二に当たるような類型がどういうものなのかという辺りを教えていただければと思います。 ○井田部会長 せっかく要綱(骨子)の一と二の関係の問題が出ましたので,とても大事なことだと思いますから,今の点にはもちろんお答えいただいて,それ以外にも,一には当たるけれども二には当たらないという行為の類型があると思いますので,それも含めて議論できたらよろしいのではないかと思いますが,お願いします。 ○吉田幹事 今,御指摘のありました要綱(骨子)の一と二の関係でございますが,まず前提として,相互に排斥する関係にはありませんので,二というのは,一に当たらない場合にしか適用できないものではないということを前提に御説明したいと思います。   その上で,どういう事例が考えられるかということですけれども,例えば,高速自動車国道のサービスエリアの駐車場で,2台の車がそれぞれ駐車場から出発しようとする際にトラブルになって,両車両とも,重大な交通の危険を生じさせる速度に至らない,ゆっくりした速度で,そのままトラブル状態で本線車道の方に向かって,前後に連なって走行していったとします。   そのまま本線車道に進入していって,そのうちの一方の車両,これが加害者側の車両ということになりますが,これがその後も,あえて加速せず,重大な交通の危険を生じさせる速度に至らないまま,他方の車両である被害者車両の前を走行し続けて,この被害者車両もまた,重大な交通の危険が生じることとなる速度に至らない,ゆっくりした速度で走行していたところ,この加害者車両の運転手が通行妨害目的で急ブレーキを踏んで停止したために,その後ろにいた被害者車両の方もブレーキを踏んで,加害者車両に著しく接近させられて停止し,そこに後方から時速80キロメートルで走行してきた第三者車両が追突して,被害者車両の運転手等が死亡した,というようなケースが考えられると思います。   もちろん,先ほど申し上げたように,要綱(骨子)の一と二は,相互に排斥し合う関係にはありませんので,訴追する際には,検察官としては,立証の難易なども考慮して,それらの罪のうちの適切なものを訴因として選択することができると考えております。   したがいまして,要綱(骨子)の二の要件を満たす場合には,それが同時に要綱(骨子)の一の要件を満たす場合でも,二の罪によって処罰することは可能であると考えております。 ○福家幹事 ありがとうございました。 ○井田部会長 今,関係の問題にもなりましたので,もし,それとの関連で,この二つ,またさらには,現行の第2条第4号との関係辺りについても少し御議論いただけますか。 ○今井委員 冒頭に申し上げた総論的な質問を,繰り返しになりますが,させていただきます。   要綱(骨子)の一,二が排他的でないということを前提にした上で,先ほど以来,ここでも委員の方から御意見あったと思いますが,現行の第2条第4号との関係で,仮にこの要綱(骨子)の一,二が法律として書き込まれたときに,それらに該当するような事案があったとした場合,どのように罪数関係を考えたらいいのか。指針のようなものがあれば,お知らせいただきたいと思います。 ○吉田幹事 現行法の第2条第4号と要綱(骨子)の一及び二は,いずれも,それぞれ異なる観点から運転行為の危険性を捉えたものと整理しております。   具体的には,第2条第4号は,重大な交通の危険を生じさせる速度で走行している加害者車両が,通行妨害目的で被害者車両に著しく接近して走行する場合には,両車両が衝突するなどして重大な死傷結果が生じる危険性が類型的に高いこと,また,要綱(骨子)の一は,加害者車両が,重大な交通の危険が生じることとなる速度で走行している被害者車両に通行妨害目的で著しく接近することとなる方法で走行する場合には,やはり両車両が衝突するなどして重大な死傷結果が生じる危険性が類型的に高いこと,そして,要綱(骨子)の二は,高速自動車国道又は自動車専用道路においては,先ほど申し上げたように,自動車を運転している者にとって,その進路上で他の自動車が停止又は徐行しているという事態が例外的な状況であって,一般にそのような状況を具体的に想定しながら運転しているわけではないことから,加害者車両が,通行妨害目的で所定の運転行為をして,被害者車両に停止又は徐行させる場合には,その道路を走行中の他の運転者としては,そうした事態を想定して回避措置を採ることが通常困難であるために,走行中の第三者車両が加害者車両や被害者車両に追突するなどして重大な死傷結果が生じる危険性が類型的に高いことにそれぞれ着目したものでございます。   このように,運転行為の危険性を捉える際の観点がそれぞれ違っておりますので,これらは相互に排斥し合うものではなく,これら全てを満たすようなケースがあるとしますと,この全てが適用可能であると考えております。   その場合の罪数関係ですけれども,この自動車運転死傷処罰法の第2条に該当する一つの罪,一罪が成立することになると考えております。 ○井田部会長 いわゆる包括一罪というやつですね。   いかがでしょうか。今の御説明で,大分クリアになった感じがしますけれども。 ○橋爪委員 ごく簡単に申し上げますが,このような問題は,現行法でも生じ得たと思います。   例えば,飲酒で酩酊して正常運転が困難な状態で,かつ,赤色信号を殊更に無視する運転行為が行われ,かつ,その場合の速度が進行を制御することが困難な高速度である場合には,現行法でも,1つの運転行為が第1号,第2号,第5号の要件をともに満たす場合があったように思われます。   この場合,検察官が,いずれの類型で起訴することも裁量の範囲内ですし,裁判所は訴因に従って判断をすれば足りるわけです。複数の危険運転致死傷罪が競合するわけでなければ,内部で優先関係があるわけでもありません。   このように考えますと,現行法の第4号と要綱(骨子)の一,二の罪についても,確かに内容が異なる危険性を問題にしていますが,飽くまでも1個の危険運転として実現されていることから,先ほど,事務当局から御説明があったように,一罪のみが成立することになると思います。 ○井田部会長 ありがとうございます。   どうでしょうか,行為者が仮に暴行の故意を持っていたと,さらには傷害の故意を持っていたという場合だと,どういうことになるんですかね。 ○保坂委員 傷害罪,傷害致死罪と危険運転致死傷罪との関係という問題については,制定当時からある問題だと思うんですが,制定当時の立案担当者の説明によりますと,暴行の故意にとどまる場合には危険運転致死傷罪が,傷害の故意がある場合には傷害致死罪が成立し得るということが説明されています。   実際には,検察官が事案に応じて,訴因選択をしていくということになるわけですけれども,実体法の理解として,そういう説明がされているところでありまして,もとより,いろいろな解釈があり得るのだろうなと考えているところでございます。 ○井田部会長 刑は,危険運転致死傷の方が軽い部分があるので,そうすると,何で軽くなるんだという議論はあるかもしれないですね。   どうぞ,罪数関係,適用関係,もう少し詰めておきたいと思うんですけれども,お願いします。 ○橋爪委員 罪数というよりも,要綱(骨子)の一,二の相互の関係に関する問題ですが,1点質問を申し上げたいと思います。   例えば,高速自動車国道において,後続車両の進行を妨害する目的で,行為者が急ブレーキで急停止し,それによって,後続車両の方が何とか衝突を回避しようとして急ブレーキを踏むのですが,結果的に,行為者車両に衝突してしまい,後続車両の運転者が負傷した場合,これは後続車両を手段として危険を作ったわけではなく,自らの停止行為自体が手段となって危険を作ったことから,専ら要綱(骨子)の一が適用されて,二は適用できないように思われますが,このような理解でよいか,確認をお願い申し上げます。 ○保坂委員 その前提として,後続の妨害される被害者車両の速度が,重大な交通の危険が生じることとなる速度の場合と,そうでない場合とが両方あり得るのかなと思います。それで,後続の被害者車両が重大な交通の危険が生じることとなる速度で走っている場合には,それは要綱(骨子)の一の罪が成立するということになろうかと思います。   他方で,場所が高速道路上でございましても,加害者車両が前方で停止し,被害者車両が重大な交通の危険が生じることとなる速度を満たさないまま,低速度で後ろからぶつかったという場合には,場所が高速道路でありましても,そのこと自体によって,例えば,後続の被害者車両の運転手に致傷の結果が生じたとしても,それは要綱(骨子)の二の罪は成立しないと考えております。 ○合間委員 そうすると,要綱(骨子)の二の場合は,後続車両が前方の車両に衝突をして,それによって,後続の車両の運転手がけがをした場合には,二としての適用の対象にはならないということなんですか。ちょっと理解が間違っていたら申し訳ないんですけれども。 ○保坂委員 そのように考えています。   ただ,衝突によって停止させた場合に,さらにその後,第三者車両が来て,追突して,そのことによって停止させられた被害者車両に致死傷の結果が生じた,あるいはその人たちに致死傷の結果が生じた場合には,要綱(骨子)の二の罪の対象になると考えております。 ○合間委員 要綱(骨子)の二の罪が予定しているのは,基本的には後続車両を停止させて,さらに,その後ろの車,本来止まる車がないだろうと思っていた車がぶつかった場合に,ぶつかった2台目の車の運転者がけがをした場合と,それから,停止をさせられた方の車の運転者,両方ともけがをする可能性だったり,亡くなられる可能性はあると思うんですけれども,両方に被害が生じた場合,適用になるんですか。 ○保坂委員 ここで予定している運転行為によって停止させたことによって,その後,第三者車両が来て追突した結果生じたということであれば,それは要綱(骨子)の二の罪の対象として処罰されるということで考えております。 ○合間委員 では,最初の,加害者車両が停止をして,後続車両が停止をしようと思ったんだけれども,ぶつかってしまって,それだけでは要綱(骨子)の二にはならないんですよね。 ○保坂委員 その前提として,被害者車両といいますか,追突した車両が重大な交通の危険が生じることとなる速度であれば,それは要綱(骨子)の一の罪が成立しますけれども,そうでなければ,要綱(骨子)の二の罪による処罰の対象にならないと考えています。   つまり,加害者車両も被害者車両も低速度で走っていて,それで停止させたということによって生じた危険というのは,現行の第4号においても処罰の対象にしておりませんし,今回の要綱(骨子)の一においても,それは処罰対象にしておらないということとの整合性からしても,場所が高速道路であったとしても,そこは要綱(骨子)の二の罪の対象にはならないと考えております。 ○合間委員 先ほど御説明があった,サービスエリアでトラブルがあって,高速道路に出て衝突されたみたいな話のときに,最初に衝突によって停止させられ,それで,後続車の人がある程度のけがをして,さらに,追突されることによって,追突した方のけがもそうですけれども,追突された方の真ん中の車の運転者もけがをした場合って,民事的には共同不法行為みたいな形になると思いますし,傷害の結果の因果関係って,常に争いになって,分からない場合もあるんですけれども,その場合は,真ん中の車の人がけがをした場合には,そのけがに対しても,この条文は適用されるんですか。 ○保坂委員 なかなか難しい問題だと思いますが,けがが重篤化した,最後の追突によってけがが悪化したと認定できるのであれば,それは要綱(骨子)の二の罪が予定している実行行為によって生じた傷害結果という認定はできるのかなと思います。 ○合間委員 では,すみません,くどくて申し訳ないです。そうすると,この条文,要綱(骨子)の二にある走行中の自動車に停止又は徐行をさせる行為の停止というのは,衝突によって停止をさせるということは含まれないという意味なんですね。 ○保坂委員 停止させる行為に当たれば,その手段が衝突であったとしても,排除するという趣旨ではなくて,その衝突自体によって被害者車両に生じた傷害結果というのは,この要綱(骨子)の二の罪で捕捉対象にしていないと,こういう趣旨でございます。 ○合間委員 分かりました。ありがとうございます。 ○井田部会長 ハンドルを切って,ガードレールに激突して止まったと。後ろからまた突っ込んでくるということはあり得ますね。とすると,要綱(骨子)の一,二,両方の適用ありという感じにはなるんですかね。 ○橋爪委員 今の点を少し整理させて下さい。例えば,Xが高速道路で,スムーズに交通が流れている状況下で,後行のA車の通行を妨害する目的で急ブレーキを掛けた結果,Aが衝突を回避できずにX車に衝突し,停止する状況に至り,この段階で既にAが負傷したところ,さらに,後続車両のB車がまた突っ込んできてA車に衝突して,これによって,さらにA,Bが負傷するケースを考えてみたいと思います。   私の理解では,まずは,XとAが衝突する第1事故については,専ら,要綱(骨子)の一に該当する限度で処罰ができると思われます。これに対して,既にXはAを停止させていることから,その後,さらにBとAが衝突する第2事故については,要綱(骨子)の二の要件を満たすことになりそうです。   このように考えますと,理屈の上では,例えば,第1事故でAが重傷を負い,さらに,第2事故でAが死亡した場合については,重傷については一の罪を適用し,死亡については二の罪を適用することにもなりそうですが,このように適用する類型を分けるにもやや違和感があります。改めて考えてみると,第2事故も,Xの停止行為の危険実現として発生していると評価できますので,第2事故についてあえて二の罪を適用しなくても,全てを包括して一の罪で評価することも可能であるようにも思われます。もちろん,第2事故については,二の罪を適用してもよいと思いますが,既に一の罪の実行行為があり,その危険実現として第2事故が生じている場合には,全部の結果惹起を一の罪として評価することも可能だと考えたのですが,このような理解で大丈夫でしょうか。 ○保坂委員 要綱(骨子)の一の罪の要件を満たす限りにおいては,そういう理解でいいと思います。そのためには,被害者車両が重大な交通の危険が生じることとなる速度で走行していることが必要ですので,その要件を満たす限りにおいて,その後,それであれば,追突そのものによって生じた被害者車両の運転手に対する傷害は,もちろん一の罪の捕捉対象になりましょうし,それがゆえに,さらに追突という因果経過を経て死亡したということであれば,それは一の罪の因果関係による結果として,一の罪で捕捉できると思います。 ○井田部会長 なるほど。随分とクリアになった感じがします。   その点,あるいは別の点について,いかがでしょうか。 ○福家幹事 要綱(骨子)の二で,走行中の自動車に停止又は徐行をさせる行為という言い方をしているのですが,これは実際に停止又は徐行をしたということが必要なのか,停止や徐行を余儀なくさせる状態を作ったというところで足りるのかというところを,恐らく前者だと思うのですけれども,確認させていただければと思います。 ○保坂委員 前者,すなわち,実際に停車・徐行をさせたことが必要ということでございます。 ○福家幹事 分かりました。 ○井田部会長 停止させるという,それが,この要綱(骨子)の二の実行行為に当たるということですかね。   よろしいでしょうか。まだまだ時間ございますので。 ○岩﨑委員 今のお話ですと,要綱(骨子)の二の方ですけれども,その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転するという点についても,実際に著しく接近することが必要だという,そういうことになるわけですか。 ○井田部会長 お願いします。 ○保坂委員 その点は,要綱(骨子)の一の罪と同じ要件でございまして,先ほど御説明したように,実際に接近することまでは要求しておりませんで,通常であれば接近することとなるという趣旨です。先ほどの福家幹事からの御質問は,走行中の自動車を停止又は徐行させる行為というのは,実際に停止ないし徐行に至らなければいけないのかということでございましたので,しかりというふうにお答えをしたということでございます。 ○井田部会長 ほかにございますかね。何でも結構ですので。 ○橋爪委員 何度も恐縮です。   今の点,少し感想めいたことを申し上げますけれども,ただいま議論がございましたように,要綱(骨子)の二の罪については,接近することとなる方法で自動車を運転する行為は,現実の接近自体を前提としておりませんので,その行為と被害者車両が停止・徐行するに至った事態との間には,一定のタイムラグが生ずるわけです。   そうしますと,このように時間的な間隔があり,かつ,行為者自身の行為と被害者の対応という区別があるときに,被害者に一定の行為を行わせることも実行行為の一部として把握するのか,それとも,飽くまでも実行行為は自らの停止行為等に尽きており,言わば因果経過の中間項として,被害者車両が停止・徐行をすることを位置付けるべきかということが気になりました。先ほど議論がありました渋滞の事例について,実行行為を否定するのか,因果関係を否定するのかという議論とも関係するかもしれませんので,この機会に申し上げます。 ○井田部会長 ほかの処罰規定の中に,人に何かさせるということを実行行為の内容とするものがありますね。強要罪なんかどうなんですかね。すると,やはり実行行為の内容として捉えるのか,それともそれはもう,中間結果といいますか,行為と切り離す中間結果と捉えることになるのか,ちょっと理論的な問題ではありますけれども,そういう論点は出てくる気がいたします。 ○保坂委員 この要綱案を作った事務当局からしますと,「次に掲げる行為」としていますので,その行為が実行行為であって,「よって」というのが,その後の因果を示していますので,今の文言からすると,中間的な結果,あるいは中間の因果経過という読み方は,なかなか難しいかなと思います。いずれにしても,自車を停止したり,あるいは接近させることとなる方法での運転行為という自分の行為があって,それを手段として,それによって相手を停止・徐行させるということです。   つまり,相手の車両の停止が,自車が接近することとは無関係に停止した場合には,「より」という要件を満たさないということになりますので,そういう意味では,実行行為の中とはいえ,因果が流れているということかなと思います。 ○井田部会長 難しいです。恐喝罪だと,被害者側が一定の交付行為を行うというのは,それは実行行為と切り離された,因果の流れで考えてしまいますね。これに対し,強要罪だと,それは何か行為の,実行行為の内容に含めて考えるかもしれません。   いや,ちょっと私も自信がないですけれども,これも理論的には興味深い論点です。ただ,それがこの場で深く踏み込むべき議論かどうか,あるいはそれは後の解釈に任せればよいのかもしれません。   いかがでしょうか。委員の先生方,皆さんお忙しい中で,無理やり何か議論を強制するのも恐縮ですので,取りあえず今,諮問の全体,それから要綱(骨子)の一と二について,1巡目の議論は,かなり充実したものが行われたと考えていいような気がいたします。本日の審議は,取りあえず以上といたしましょうか。 ○合間委員 すみません,1点だけお願いします。終わり掛けで申し訳ないです。   先ほどの要綱(骨子)の二の関係で,ちょっとすみません,何でこう聞くかというと,この条文を,例えば,私が法律相談で条文を見て説明するときに,高速道路上で事故があったらここに該当するよ,と説明してしまいそうなんですよ。そうすると,誤った説明になってしまって,自分,弁護士なので,本当はきちんと,色々調べろという話ではあるんですが,法制審の議論結果を見て,法律相談に臨むことはまずないので,条文を見てそうだと分かる,であってほしいんですよね。   要綱(骨子)の二の現実に想定している危険の類型というのが,これだけだと,どうしても読み取れないので,というのも,高速道路って元々危険なところだという頭があるので,ちょっと疑いを持たないで,そのまま読んでしまいそうなんです,私自身が。   そうすると何か,色々なところに迷惑を掛けそうで,何より私が迷惑を掛けてはまずいので,ちょっとそこのところで,先ほどの御説明で,結局,停止をさせることによって,高速道路というのは停止をすることを予定していないから,周りの車がそういうことを予定していないので,とても危険なのだという御説明があったと思うので,今回,要綱(骨子)の一は被害者側の車の速度という危険性に着目し,二については,その周囲の車というか,第三者の車の速度に着目をしていると思うので,何かそれを条文の中に表すことができるのか,できないのか。技巧的なんですけれども,できれば,それが条文上にあると,読むだけで分かるなという気はしますので,御検討いただけないかなと思いますので,最後,ちょっと手を挙げて申し訳ないんですけれども。 ○井田部会長 何か御提案はございますか。こういうのだったら良いのではないかという。 ○合間委員 正しく同じ要件で,でも,例えば周囲の車が重大な交通,高速道路又は自動車専用道路において走行している,重大な交通の危険が生じる速度で走行中の中でみたいな感じで,駄目ですかね。 ○井田部会長 どうぞ,お願いします。 ○保坂委員 御指摘されている考えは,誠に理解できるところなんですが,改めて考えてみたいとは思うんですけれども,我々も色々検討したんですが,的確に,漏れのないように捕捉しにいくというのが,なかなか難しいところでございます。   停止と徐行が繰り返されているような状態のときに,場所がたまたま高速道路とはいえ,この罪が成立するべきものではないというところは,共有されているかなと思いますので,次回までに,そこをどうやってきちんと説明できるか,どういう形で説明するかということは,また考えて,お示しをしたいなと思っております。 ○井田部会長 条文に何か書き込むか,あるいは新法の解説といいますかね,それを説明するときに,そこで工夫するかという,どちらが良いかという問題でもあると思います。ほかにございますか。   それでは,本日1巡目の議論,かなり濃密にできたのではないかと思いますので,次回,2月4日に,この要綱(骨子)の一,二について,検討をまた継続して行って,2巡目の議論をしていきたいと思います。   今回,議論の感じを見ますと,このまま,もう1回やれば,次回の期日で,議論が熟したというところまで,どうも持っていけそうな感じがいたしますので,委員,幹事の皆様,もし賛成していただけるのであれば,次回,この諮問自体が非常に緊急性・重要性を持つものだということもございますし,次回期日で答申案の策定にまで至ればと考えております。   そこで,いかがでしょうか,この要綱(骨子)が答申案として総会に出される前に,むしろこの方が良いというような対案ないし修正案がもしあれば,ちょっと時間的にタイトではあるんですけれども,次回期日の1週間前,1月28日の火曜日までに,事務当局の方にそれを御提出いただければと思います。   では,次回期日をお願いします。 ○鈴木幹事 次回の第2回会議につきましては,令和2年2月4日火曜日,15時からとなります。場所につきましては,東京地方検察庁刑事部会議室の予定でございます。 ○井田部会長 本日の会議の議事につきましては,特に公表に適さないという,そういう内容に当たるものはなかったかと思いますので,発言者名を明らかにした議事録を作成したい,そして,それを公表したいと考えております。   また,今日お配りした配布資料につきましても,公表したいと考えておりますが,そういった取扱いとさせていただくことについて,よろしいでしょうか。   それでは,そのようにさせていただきたいと思います。   長時間にわたり,ありがとうございました。これで今日の会議は終了させていただきたいと思います。ありがとうございました。 -了- - 4 -