法制審議会 少年法・刑事法 (少年年齢・犯罪者処遇関係)部会 第24回会議 議事録 第1 日 時  令和2年2月12日(水)   自 午前 9時57分                        至 午前11時50分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  1 少年法における「少年」の年齢を18歳未満とすること及び非行少年を含む犯罪者に対する処遇を一層充実させるための刑事法の整備の在り方について         2 その他 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○玉本幹事 ただいまから,法制審議会少年法・刑事法(少年年齢・犯罪者処遇関係)部会の第24回会議を開催します。 ○佐伯部会長 本日も御多忙中のところ,お集まりいただきましてありがとうございます。   まず,議事に入る前に,前回の会議以降,委員,幹事の異動がございましたので,御紹介をさせていただきます。   小山太士氏,白川靖浩氏が委員を退任され,新たに,川原隆司氏,小田部耕治氏が委員に任命されました。   また,大橋哲氏が幹事を退任され,新たに,椿百合子氏が幹事に任命されました。   新しく委員,幹事に任命された方々から,一言ずつ御挨拶をお願いいたします。   それでは,川原委員からお願いいたします。 ○川原委員 法務省刑事局長の川原でございます。再びこの議論に参加させていただくことになりました。よろしくお願いいたします。 ○小田部委員 警察庁の生活安全局の小田部と申します。ひとつよろしくお願いいたします。 ○椿幹事 法務省矯正局担当の官房審議官となりました椿でございます。どうぞよろしくお願い申し上げます。 ○佐伯部会長 よろしくお願いいたします。   次に,関係官として,法務省矯正局長に出席していただいているところですが,法務省における異動に伴いまして,新矯正局長である大橋哲氏に,関係官として当部会に出席していただきたいと考えておりますが,よろしいでしょうか。                (一同異議なし)   それでは,大橋関係官,引き続きよろしくお願いいたします。   なお,本日,奥村委員,幹事,井上関係官におかれましては,所用のため欠席されています。   それでは,事務当局から資料の説明をお願いします。 ○玉本幹事 本日,配布資料として,配布資料32から42までをお配りしています。   配布資料32から35までは,これまでの会議において配布した資料の統計数値を更新したものです。   具体的に申し上げると,配布資料32から34までについては,第14回会議において配布した配布資料22から24までを更新したものです。   また,配布資料35は,第16回会議において配布した配布資料25を更新したものです。この資料の3ページの「4 1号観察開始人員」の数値には,交通短期保護観察の数値を含めておりませんが,参考までに平成30年に交通短期保護観察に付された者の数値を申し上げますと,総数で4,434人,そのうち,18歳及び19歳であった者は,3,759人となっています。   その他の配布資料の内容については,後ほど御説明します。   また,参考資料として,配布資料31「検討のための素案〔改訂版〕」,A3判の「犯罪者に対する処遇を一層充実させるための刑事の実体法及び手続法の整備─検討のための素案〔改訂版〕─」,「部会第8回会議から第23回会議までの意見要旨(年齢関係)」,「部会第8回会議から第23回会議までの意見要旨(制度・施策関係)」,「部会第21回会議から第23回会議までの意見要旨(「別案」関係)」に加え,少年法の平成26年改正に関する法制審議会少年法部会議事録(抄)を配布しています。   さらに,太田委員から,御発言の際の補助資料として,「不定期刑に関する参考資料」と題する資料が提出されていますので,参考資料として,併せて配布しています。 ○佐伯部会長 それでは,審議に入ります。   本日は,配布資料31「検討のための素案〔改訂版〕」に基づいて,「若年者に対する新たな処分」の,特に「別案」を中心に意見交換を行いたいと思います。   「別案」については,甲案,乙案のいずれの案も,「一 家庭裁判所への送致」,「二 手続・処分」及び「三 刑事事件の特例等」の三つの項目により構成されているところ,このうち,「一 家庭裁判所への送致」と「二 手続・処分」は,いずれも家庭裁判所における取扱いに関する事項であることから,まとめて意見交換を行い,その後,「三 刑事事件の特例等」について意見交換を行うのが便宜ではないかと思われますが,そのような進行とすることでよろしいでしょうか。                (一同異議なし)   それでは,そのような形で進めたいと思います。   はじめに,「一 家庭裁判所への送致」及び「二 手続・処分」について,意見交換を行います。   なお,「検討のための素案〔改訂版〕」において,「考えられる制度の概要」として枠内に記載されている従来の案に関して御意見がある方も,ここで御発言いただいて結構です。   まず,事務当局から資料の説明をお願いします。 ○玉本幹事 それでは,「一 家庭裁判所への送致」及び「二 手続・処分」に関係する資料として,配布資料36及び37について御説明します。   まず,配布資料36について御説明します。   配布資料36は,家庭裁判所における原則検察官送致対象事件,いわゆる原則逆送事件の処分状況をまとめたものです。   1枚目は,平成26年から平成30年までの5年間の終局処分状況に関するものです。   上の表を見ると,当該5年間で,原則逆送事件122件のうち81件,割合にすると66.4%の事件が,検察官送致となっていることが分かります。   下の表は,非行別の処分状況で,原則逆送事件のうち検察官送致となった事件の割合は,殺人では50%,強盗殺人では100%,危険運転致死では94.7%などとなっています。   2枚目,3枚目は,それぞれ平成29年,平成30年の非行別の処分状況であり,そのうち,下の表には,行為時18歳及び19歳の者による原則逆送事件に限ったデータを記載しています。   次に,配布資料37は,刑法における主な罪名について,法定刑と,現行法における主要な罪名区分に含まれるか否かを整理した一覧表です。   制度の対象とする事件の範囲などについて検討する際に参考にしていただければと思います。   御説明は以上です。 ○佐伯部会長 配布資料の内容や,ただいまの説明に対して,御質問のある方は,挙手の上,御発言をお願いいたします。   それでは,「一 家庭裁判所への送致」及び「二 手続・処分」のいずれの点からでも結構ですので,御意見がある方は,挙手の上,どの点に関するものかを明示していただいた上で,御発言をお願いいたします。 ○山﨑委員 まず,「別案」の検討全般に関する意見を最初に述べさせていただきたいと思います。   第20回の部会において,私から,「若年者に対する新たな処分」の制度を前提に,対象範囲の拡大を検討するということですと,少年法の適用年齢を引き下げた上で,18歳・19歳を成人として扱うことが前提となってしまい,議論の幅が限られるので,もう少し幅広な検討をしていただきたいという趣旨の発言をさせていただきました。その点を若干補充して,意見を述べたいと思います。   従来検討されてきた「若年者に対する新たな処分」は,保護原理ではなく侵害原理に基づくものであり,対象者の改善更生や再犯防止を目的として,かつ,行為責任の範囲内で行うものと整理されてきました。   今回,その対象範囲を拡大する検討が進められているわけですけれども,今述べたような前提をそのまま維持するということになりますと,様々な問題が出てくるのではないかと感じています。   まず一つは,ぐ犯が対象外とされていることについてです。   これは,第21回の会議で,川出委員から,「若年者に対する新たな処分」の法的性質自体に影響が生じるものではないということが前提になっていると思われるので,対象となるのは,飽くまで犯罪が行われた場合であり,いまだ犯罪に及んでいないぐ犯は対象とならないのが当然の前提であるという趣旨の御発言がありました。   しかしながら,ぐ犯の取扱いは,児童福祉の領域でも保護されずに,社会から転落・逸脱しかねない18歳・19歳にとって,言わばセーフティーネットの役割も果たすなど,極めて重要な意義を有しています。元家庭裁判所の調査官や元少年院の院長の方々からも,そういった観点から,存続が必要であるとの意見が出されているところだと思います。   今般,18歳・19歳が類型的に,未成熟で可塑性が高い存在であることを踏まえて,刑事政策的な観点から制度を改めて検討し直すということであれば,ぐ犯が対象とならない制度では問題が残るのではないかと感じています。   次に,この新たな処分は,行為責任の範囲でのみ認められる,とされている点についてです。   仮に,この「若年者に対する新たな処分」において,当初からの施設収容処分を認めるとしても,例えば数百円の商品を万引きした事案など,行為責任が相当程度小さい事案ですと,その対象者の資質や環境上の問題が非常に大きく,その立ち直りや再犯防止という観点からは,施設内で処遇する必要性がいかに高いという場合であっても,行為責任の範囲内という制約があることによって,収容処分が認められないと考えられます。   また,行為責任の範囲内という制約があることによって,現在の少年院で行われているような,収容者の成績によって進級し,処遇の効果を踏まえて出院期間を決めるという制度や,現行の収容継続のような制度は,その採用が困難になり,被収容者のモチベーションの低下を招くなど,施設収容処分の効果が大きく減退するのではないかという点が懸念されます。   さらには,この「若年者に対する新たな処分」について,保護原理ではなく侵害原理に基づくものであり,目的についても,健全育成ではなく改善更生,再犯防止とする場合には,現行の少年法の下で,家庭裁判所の調査や教育的措置,あるいは少年院などの処遇において実践されているような,対象者の人格的な未成熟性を踏まえて,その健全な成長・発達を促し,対象者の変化に応じて働き掛けを行うといった教育的な視点が損なわれるのではないかという点が懸念されます。   むしろ,再犯防止を図るための改善更生という保安的な側面が重視され,結果的には,発達途上にある18歳・19歳への対応としては,不十分なものになってしまうのではないかと懸念しております。   このように,従来の「若年者に対する新たな処分」の基本的な考えを維持した上で,その対象範囲を拡大するという「別案」の枠組みにおける検討では,仮に乙案など,少年寄りの制度とする場合であっても,なお現行の少年法で運用されている制度とは,相当程度異なるものにならざるを得ず,そういう意味では,大きな限界があるのではないかと感じております。   今後の審議に当たっては,そのことを常に意識しながら,検討を加える必要があるのではないかと考えています。そして,最終的には,その結果を踏まえて,少年法の適用年齢引下げの是非について,改めて慎重に検討することが重要であると考えます。 ○山下幹事 「別案」についての総論的な事項について,今の山﨑委員の意見とも関連する意見を述べます。   この「別案」は,従来の「若年者に対する新たな処分」を前提としながらも,対象者を拡大して,それに応じて手続・処分の内容を見直そうとするものですけれども,その位置付けは,従来とは少し異なるものと考えられます。ただ,そうであるとしても,その議論は飽くまでも,少年法の適用年齢を引き下げることを前提とした議論であります。   18歳・19歳が成人とされることを前提に,家庭裁判所の調査・審判の機能を活用しようといっても,成人であることを前提とする以上,現在の健全育成を理念とする少年法の手続と比較すると,特に調査については,成人であることによる一定の限界があると考えられるところでありまして,家庭裁判所に送致する対象者の範囲を拡大すればよいということにはならないと考えられます。そこには,健全育成の理念に基づく保護処分を原則とする現在の少年法の調査・審判によるシステムと比べると,見劣りがする部分があると考えられます。   この間,幾つもの新聞において,少年法の適用年齢の引下げに反対する社説が掲げられておりまして,世論の動向も変化してきていると思われます。これまで,この部会においても,少年法の適用年齢引下げを前提として議論してきたわけですが,それゆえに,「若年者に対する新たな処分」についての議論が迷走してきたという点があったと思います。   「若年者に対する新たな処分」については,これまでかなり議論をしてきたわけですけれども,「別案」が提案されて,改めて議論が始まろうとしております。ただ,これによって,従来検討されてきた「若年者に対する新たな処分」には限界があるということがより明らかになったとも考えられます。   これから「別案」の検討が進むと思いますけれども,改めて少年法の適用年齢の引下げありきの議論でよいかどうかということについては,検討すべき段階がきていると考えます。 ○青木委員 「二 手続・処分」について,今の山﨑委員と山下幹事の意見にも関連して,意見を申し上げたいと思います。   「別案」は,少年法の適用年齢の引下げを前提とするものではありますけれども,18歳・19歳の者は20歳以上の成人とは違うという前提になっていると思います。しかしながら,行為責任の範囲内でとか,あるいは,ぐ犯は含まないという意味で,犯罪事実を前提とするという点では,成人扱いということになっているかと思うのですけれども,もしそういう意味での成人だとしますと,手続のところで,調査の開始に関して,家庭裁判所が蓋然的な心証で,犯罪事実が存在するということを認めただけで,教育的な措置を含むような調査,一定の負担を伴う調査を行うことができるのだろうかという問題があるような気がします。   この点に関して,やはり18歳・19歳の者は,20歳以上の者と比較して類型的に未成熟で可塑性に富むことから特別扱いをするということで正当化するのだとしますと,やはり20歳以上の成人とは違うという前提に立たざるを得ないと思います。そういう意味で,前回,川出委員が整理されましたけれども,年齢区分については3区分と考えざるを得ないのではないかと思います。   そうなりますと,成人を前提とすれば,今まで検討してきた「若年者に対する新たな処分」では,刑事処分に付すべき者は全て刑事処分にするという意味で,少なくともその範囲では,完全に成人扱いをすることになっていたわけですが,そこを変えて,18歳及び19歳の者について,「若年者に対する新たな処分」の方に回せるという制度になった場合に,行為責任の範囲内ということをどのように考えるかとか,犯罪事実が存在するということをどのような手続で認定するのかというのは,少年とも20歳以上の成人とも違うということを踏まえて,改めて検討すべきものではないかと思います。   犯罪事実についても,20歳以上の成人であれば,裁判手続で認定した上で,調査をすることになり,判決前調査というのは認められておりません。18歳・19歳に関して,以前の新たな処分では,その後,刑事処分に付されることはなかったわけですけれども,「別案」をとった場合には,刑事処分に付されることにもなり得るわけで,18歳・19歳については,判決前調査があるという形になります。   「別案」をとった場合には,犯罪事実の認定について,20歳以上とは違う柔軟な手続をとるわけですから,そもそも犯罪事実があったときということを要件にするのかどうかという部分も含めて,見直しが必要なのではないかという気がします。   それから,行為責任の範囲内でということですけれども,20歳以上の成人であれば,犯罪事実を認定して,罰金の額や刑期に表れる形で,行為責任が見える形になるわけですけれども,審判では,行為責任の範囲というのはどこまでなのか,その範囲について,どういうものが超えて,どういうものが超えないのかということも,基準が全く分からない気がします。行為責任の範囲内という限定を付けることも,18歳・19歳について,本当に必要なのかどうかを考える必要があるのではないかと思います。   このように,手続についても,処分の内容についても,18歳・19歳にふさわしい制度はどういうものかということで,改めて考え直すという視点で検討するべきだと思います。 ○大沢委員 先ほど山下幹事から,社説での取上げ方とか世論の動向というお話があったので,そのような仕事に携わっている立場から申し上げますと,確かに少年法に反対する社説を掲げた社もありますけれども,このテーマについては,私が知る限りは,新聞社の中で論調が分かれており,社説で明確に引下げをすべきだとおっしゃっている社もあると私は認識しております。   新聞社の社説というのは,各社の個性,特徴がありまして,十分それぞれ議論を重ねた上で論を構成しておりますので,それが全ての言論界の傾向というわけではないということと,一部の新聞社が掲げたからといって,世論も全てそうだということにはならないのではないかと私は感じております。 ○田鎖幹事 先ほどの青木委員の発言の最後の部分と重なる点もありますが,確認の意味で述べさせていただきたいと思います。   「別案」に示された制度の枠組みを捉える中で,先ほどもあったように,18歳・19歳の者について,20歳以上の者とも18歳未満の者とも異なる中間層ないし中間類型として位置付けられるのだと,このような整理がなされてきております。   そのような,18歳・19歳の実質を捉えて,それにふさわしい制度の設計をするということであれば,そもそも18歳・19歳を成人としては整理しないで,保護原理が排除されない法制度というものを構想することも十分に考えられるわけです。   そのような意味で,部会の第20回会議においても,「別案」の審議に先立って,山﨑委員,青木委員から,年齢の引下げを前提としない,18歳・19歳の未成熟性に着目した,それにふさわしい法制度の在り方を検討すべきという意見が述べられたと理解しております。   ですので,そのような検討作業というものが,本日は「別案」について議論をするわけですけれども,その議論によって排除されるわけにはならないということについては,確認的な意味で,意見として述べさせていただきたいと思います。 ○山﨑委員 総論的には,先ほど述べたような考えを持っておりますけれども,その上で,家庭裁判所への送致及び検察官送致に関して,意見を述べたいと思います。   まず,「別案」のうち甲案につきましては,「一定の事件」について,検察官が直接公訴の提起をすることができるという内容になっております。   この甲案に関して,一定事件をどう考えるかにつきましては,第21回会議において川出委員から,対象者の改善更生を目的とした「若年者に対する新たな処分」ではなく,応報と一般予防を基礎とした刑罰を科すべきであるということからすると,基本的には重大な事件が対象になるのではないかという趣旨の御発言がありました。   ただ,そのように考えた場合であっても,重大事件を犯した18歳・19歳の者といいますのは,一般的には要保護性も相当大きいものと考えられます。そして,その立ち直りと再犯防止に向けては,当該犯罪に至った経緯や原因について,本人の生育歴や能力,資質などに加えて,家族関係や交友関係など,背景事情も含めた詳しい調査が必要であると考えます。その上で,立ち直りと再犯防止に向けた課題を把握することが不可欠であろうと思います。   したがって,重大事件につきましては,比較的軽微な事案以上に,家庭裁判所に送致して家庭裁判所による調査,少年鑑別所による鑑別を行う必要性は大きいものと考えます。   また,たとえ調査・鑑別の結果を受けて,当該事件が検察官に送致され,起訴されるという場合を考えましても,家庭裁判所において得られた調査の結果や少年鑑別所において得られた鑑別の結果は,刑事裁判においても事案の真相解明や適切な処分決定にとって,極めて重要な資料となり得るものとなっております。   したがって,いかに重大な事件であっても,類型的に未成熟な存在である18歳・19歳の事件については,全て家庭裁判所の調査,少年鑑別所の鑑別に付する必要があるものと考えます。   また,この点は,吉田委員から以前指摘されておりますけれども,仮に甲案を採用して,「一定の事件」については検察官の直接起訴を認めるとした場合には,いわゆる認定落ちのケースなど,検察官と裁判所との間で,「一定の事件」に当たるかどうかの判断が異なったときに,相当困難な問題が生じると思われます。   本来は「一定の事件」には当たらず,家庭裁判所で処分を行うべきであった事件について,検察官が,より重い「一定の事件」に当たると判断して起訴したような場合には,刑事裁判所でそのまま刑罰を科すことは許されないと考えられますので,刑事裁判所の手続を経た上で,さらに家庭裁判所に送致して,手続をやり直すことが必要になるなど,極めて深刻な問題が生じるのではないかと考えられます。   したがって,「一定の事件」を検察官が直接起訴するという甲案につきましては,技術的に見ても,困難を抱えているのではないかと考えております。   次に,乙案についてですけれども,その中では,いわゆる原則逆送事件の範囲について,「一定の事件」の範囲をどう考えるかという問題があろうかと思っております。   この点,現行の少年法第20条第2項の,いわゆる原則逆送規定につきましては,故意の犯罪行為によって人を死亡させるという行為が,自己の犯罪を実現するため,何物にも代え難い人命を奪うという点で,反社会的で反倫理性が高いことに鑑み,設けられた制度であると説明されているかと思います。   このように,故意の犯罪行為によって人の生命を奪うという犯罪の性質・罪質に着目したこの制度の趣旨を踏まえますと,18歳・19歳に対する対象事件の拡大というのは,極めて慎重に検討される必要があると考えております。   また,現行の,いわゆる原則逆送制度に関しましては,該当事件における家庭裁判所調査官による調査について,結果として検察官送致が原則とされていることによって,少年法第20条第2項のただし書に記載された要件も含めた要保護性の分析・検討が,やや形骸化しているのではないかとの指摘もあります。   仮に対象事件を拡大するという検討をする場合には,より広範な事件について,対象者の要保護性に関する分析・検討が十分に行われなくなるなど,家庭裁判所調査官による調査全体の形骸化につながるおそれが懸念されるところですので,慎重に判断をすべきところだと思っています。 ○山下幹事 先ほど,大沢委員から社説に関するコメントがあったので,それに対する意見と,乙案における検察官送致について意見を述べます。   まず,社説に関してですけれども,主要紙等においては,この「別案」が示された後,少年法の適用年齢引下げに反対する社説が出ております。これは,「別案」の,結局家庭裁判所に送るという内容を受けて,そうであれば現状のままでいいのではないかという観点から,年齢引下げに反対していると考えられます。決してそれが世論の全てだと言っているつもりではなくて,この「別案」が出た後の状況の中で,そういう社説が出始めているということを指摘したかったものでございます。   それから,乙案の「2 終局決定」の「(一) 検察官送致決定」のうち,「イ」に,必要的逆送事件を認めるかどうかということで,A案とB案が示されております。   この必要的逆送事件は,A案を見る限り,「一定の事件」であるときには,検察官に送致するという形をとっていると考えられまして,家庭裁判所で調査したとしても,結局,家庭裁判所が独自に判断するのではなく,「一定の事件」に当たると考えれば,自動的に検察官に送致をするという案になっていると考えられます。   そういたしますと,18歳・19歳の嫌疑がある対象者の全ての事件を家庭裁判所に送致して,家庭裁判所調査官による調査をするといっても,その調査の結果を踏まえて,家庭裁判所が検察官に送致するかどうかを判断するのではなくて,自動的に検察官に送致をするということになりますので,調査の在り方が形骸化するのではないかという疑問が生じます。   この乙案については,18歳・19歳の犯罪の嫌疑がある全ての事件を家庭裁判所に送致するという点が,メリットだと思うのですけれども,そのうち,必要的逆送事件については,家庭裁判所に送致したとしても,必ず検察官送致されることになるので,結局その限度では,乙案のメリットは失われてしまうと考えられます。   そういたしますと,A案とB案がありますけれども,A案は相当ではなく,この中では,B案がふさわしいと考えられます。 ○池田幹事 ただいまの議論にも出ておりましたけれども,逆送の対象とすべき事件の範囲について,1点お尋ねと,意見を申し上げたいと思います。   山﨑委員と山下幹事の御指摘にもありましたように,逆送する事件の範囲が,刑事処分の対象となる事件を定める上で,非常に重要になってくるわけですけれども,現在の少年法に定められております原則逆送規定が,現在の検討の叩き台として参考となるものと思います。   そのため,議論の前提として,原則逆送規定について,そのような規定が設けられた経緯や趣旨,あるいは現実の実務上の運用状況について,確認しておくことが有益だろうと考えております。   そこで,事務当局に,現行法の原則逆送規定が設けられた経緯や趣旨等について,御説明をお願いできればと思います。 ○玉本幹事 お尋ねの原則逆送を定める現行法の規定が設けられた経緯や,その趣旨について,事務当局で把握しているところを御説明いたします。   まず,少年法上の原則逆送規定である少年法第20条第2項について御説明します。   同項本文は,家庭裁判所は,故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件であって,その罪を犯すとき16歳以上の少年に係るものについては,検察官に送致する決定をしなければならないと定め,また,同項ただし書は,調査の結果,犯行の動機及び態様,犯行後の情況,少年の性格,年齢,行状及び環境その他の事情を考慮し,刑事処分以外の措置を相当と認めるときは,この限りでないと定めています。   この少年法第20条第2項は,平成12年の少年法改正で導入されたものです。   平成12年の少年法改正は,少年事件の処分等の在り方の見直し,少年審判の事実認定手続の適正化,被害者への配慮の充実の3本の柱から成っており,原則逆送制度の導入は,少年事件の処分等の在り方の見直しのうち,凶悪重大事件を犯した少年に対する処分の見直しとして行われたものです。   第20条第2項の趣旨については,国会における提案者の説明によれば,故意の犯罪行為によって人を死亡させる行為は,自己の犯罪を実現するため,何物にも代え難い人命を奪うという点で,反社会性・反倫理性が高い行為であるところ,このような重大な罪を犯した場合には,少年であっても刑事処分の対象となるという原則を明示することが,少年の規範意識を育て,健全な成長を図る上で重要であると考えられたことから,故意の犯罪によって人を死亡させた罪の事件については,原則として検察官に送致する決定をしなければならないものとされたと説明されています。   そして,どのような事案が,第20条第2項ただし書により,例外的に保護処分に付されるかという点については,国会における提案者の説明によれば,例えば,少女が嬰児を分娩して,途方に暮れて死に至らしめてしまったような場合や,共犯による傷害致死等の事件で,付和雷同的に随行したにとどまるような場合には,保護処分を相当とする場合も考えられるとされております。   次に,原則逆送規定として,公職選挙法の選挙権年齢の引下げに係る平成27年の公職選挙法の一部を改正する法律の附則第5条第1項も挙げられることから,同項について御説明します。   この規定においては,18歳以上20歳未満の者が犯した連座制の対象となる選挙犯罪の事件について,その罪質が選挙の公正の確保に重大な支障を及ぼすと認める場合には,家庭裁判所は,当分の間,原則として検察官への送致の決定をしなければならないとされています。   この規定は,国会における趣旨説明によると,日本国憲法の改正手続に関する法律の一部を改正する法律の附則に定められた選挙権年齢等の引下げの措置を講ずる結果として,選挙権が18歳以上の者に付与されることとなる一方で,少年法の適用年齢は現行の20歳未満のままとされていることから,選挙の公正確保と少年保護との均衡を図る必要があるため,少年法の適用の特例を設けたものとされています。   そして,国会における提案者の説明によれば,連座制が働くような選挙犯罪をした場合には,選挙の公正に著しく影響を与えると思われるが,少年法の目的である「少年」の保護と公職選挙法における選挙の公正の確保という要請につき,どうバランスを図るべきかについて議論をした結果,その罪質が客観的に見て非常に軽微な場合もあり得るため,連座制が働く選挙犯罪をしたことに加え,その罪質が選挙の公正の確保に重大な支障を及ぼすと認める場合という要件を設けたものとされています。 ○池田幹事 ありがとうございました。   今,少年法,そして公職選挙法の改正附則のいずれにも,原則逆送規定が設けられている一方で,例外規定も定められているという御説明をいただきました。   その関連で,特に少年法第20条第2項のただし書について,重ねてお尋ねをしたいことがございます。   実際にどの範囲の事件を逆送することになるのかを考えるに当たり,この規定の解釈の在り方が,非常に重要な意味を持ってくるわけですけれども,こちらの規定の解釈としては,大別して二つの理解があると,理論上は整理されているところです。   一つの理解としては,原則逆送は,その事案の悪質性・重大性を根拠に,刑事処分相当性を原則として認めるものなので,同項ただし書に該当するためには,まず事案の内容において,少年について,悪質性を大きく減ずるような「特段の事情」がなければならないというものがあります。   こうした理解によると,この同項ただし書の該当性というのは,2段階に判断が分かれて,1段階目としては,当該事案が罪名としては重大であるものの,犯情が軽いといえるような「特段の事情」が認められるかどうか。それが肯定される場合に,第2段階として,少年個人の資質面や環境面に関わる要素も含めた諸事情を総合的に考慮して,保護処分と刑事処分のいずれが相当かを判断することになるとされております。   したがって,この考え方によれば,第1段階である犯情の面で,「特段の事情」が認められない限りは,第2段階である少年の資質面や環境面の要素を考慮して,保護処分が相当であるという判断をすることは,許されないということになります。   これに対して,二つ目の理解としては,この第20条第2項ただし書は,考慮要素を幾つか掲げておりますけれども,これらを並列的に掲げており,その間に序列を設けていないために,「犯行の動機や態様」において,犯情が軽いといえるような「特段の事情」が必ずしも認められない場合であっても,少年の資質面や環境面の要素を重視して,少年の改善や公正を図るという観点から,保護処分を選択することも許されるという考えも示されております。   こうした点について,立案段階での議論は先ほどお示しいただいたのですけれども,その後の,実際の実務上の取扱いではどのようになっているかということをお尋ねしたいと思います。   つまり,実務では,同項ただし書の該当性について,どのような考え方,あるいは基準に基づいて判断をされているのか。その適用の結果,原則逆送対象事件のうち,どの程度の割合の事件が実際に逆送されることになっているのか。また,同項ただし書に当たるとして,保護処分とされる事案には,具体的にどのようなものがあるのかということをお尋ねできればと思います。   加えて,原則逆送対象事件の実務上の取扱いに関連する点として,これまでの議論にも出てきておりますが,原則逆送対象事件の調査や審理,特に社会調査において留意されている事柄や,逆送決定後の社会記録の扱いについても,参考のため,併せて説明をお願いできればと思います。 ○澤村幹事 お尋ねのありました原則逆送の割合,それから実務上の取扱いについて御説明いたします。   まず,原則逆送対象事件の処分状況につきましては,先ほど事務当局から御説明がありましたように,配布資料36の1枚目に,最高裁事務総局で公表している数値が記載されています。   こちらからも,御説明をさせていただきますと,この配布資料36の1枚目の下の表にありますとおり,平成26年から30年までの間の原則逆送対象事件122件のうち81件,66.4%が刑事処分を相当とする検察官送致,40件が保護処分となっています。   主なものとしましては,先ほども御説明があったものも含めまして,傷害致死では45件中31件,68.9%が検察官送致,残り13件が保護処分となっています。また,殺人については,これは刑法第202条の自殺関与ですとか同意殺人を含む数値となっておりますが,44件中22件,50%が刑事処分を相当とする検察官送致,22件が保護処分となっております。   次に,実務上の取扱いについて,御説明いたします。   原則逆送対象事件において,少年法第20条第2項ただし書により,保護処分などを選択するかの判断基準については,先ほど池田幹事から,二つの考え方の御指摘がありましたが,これらの考え方については,いずれも裁判実務家の手による文献においても言及されているものと承知しています。   そこで,実際の審判書等を見てみますと,実務上は,原則逆送対象事件について,まずは犯情,すなわち当該犯罪行為自体の悪質性を検討し,動機や経緯,行為態様,共犯事件における役割の大きさなどの犯情面において,悪質性や凶悪性を大きく減ずるような事情があるかというのを検討している場合が多いようです。そして,多くの事例においては,それに引き続き,少年の資質面や環境面なども検討した上で,検察官送致とするか,保護処分等とするかの結論が出されているように見受けられます。   このような判断をするに当たりましては,他の事件と同様に,家庭裁判所調査官による調査が行われております。この場合に調査すべき事項が他の原則逆送対象事件以外の事件と特に異なるわけではないと理解しておりますが,原則逆送対象事件は,基本的に重大事件であり,少年が根深い問題を抱えている事例も少なくないことから,丁寧な調査が必要となることが多いとされています。遺族の心情の聴取など,被害の実情についての調査を実施することも一般的であります。   裁判官が処分を決定する際には,こうした調査の結果も踏まえて判断することになります。   それから,最後にお尋ねがありました記録の取扱いの件ですが,原則逆送事件に限らず,検察官送致となった場合には,少年が起訴された刑事裁判所から家庭裁判所に対して,社会記録の取り寄せの嘱託がされ,これに応じる形で,社会記録を刑事裁判所に送ることが通常であると理解しております。 ○玉本幹事 次に,事務当局から,原則逆送対象事件について,実際にどのような事案が保護処分とされているのかという点について御説明します。   この点につきましては,「「若年者に対する刑事法制の在り方に関する勉強会」取りまとめ報告書」の資料に記載がありますので,その内容を御説明します。   この報告書については,当部会の第1回会議において,配布資料4として配布しています。   お尋ねの点でございますけれども,この報告書の別添の資料5「保護処分に付された原則逆送事件及び少年院送致・公判請求された年長少年に係る事件の概況」の1ページの「第3 「原則逆送事件のうち検察官送致決定がなされなかった事件」の概要」に記載されております。   これは,平成26年1月1日から同年12月31日までの1年間に,家庭裁判所において終局処理された少年法第20条第2項本文に規定する事件のうち,検察官送致決定がなされずに保護処分に付された事件7件の概要等を記載したものとなっています。   内容について,簡単に御説明しますと,1件目は,非行歴のない審判時17歳の少年が,自ら分娩した女児を袋に入れて窒息死させたという嬰児殺の事案であり,交際相手から,胎児を殺害することを求められていたという事情があったものです。中等少年院送致とされています。   2件目は,精神障害に罹患している審判時18歳の少年が,自殺に関するウェブサイトで知り合った交際相手である被害者に,一緒に死ぬことを提案し,練炭自殺を試みた後,同交際相手に依頼されて,その頸部を絞め付けて窒息死させたという承諾殺人の事案です。医療少年院送致とされ,相当長期の処遇勧告が付されています。   3件目は,飲酒していた審判時17歳の少年が,酒に酔った被害者が何かを言いながら近付いてきたことに憤慨し,被害者を両手で1回押して後方に転倒させ,頭部に傷害を負わせて死亡させたという傷害致死の事案であり,少年は保護観察中で,かつ,特別遵守事項として飲酒しないことが定められていたという事情があったものです。中等少年院送致とされています。   4件目は,審判時16歳の少年が,酒に酔った被害者をからかったところ,被害者から追いかけられ,少年の胸ぐらに手を伸ばされたことから,被害者に対し,腹部付近を足の裏で1回押し出すように蹴る暴行を加えて後方に転倒させ,頭部に傷害を負わせて死亡させたという傷害致死の事案であり,少年は暴行後に119番通報し,少年なりに被害者を介抱したという事情があったものです。保護観察に付されています。   5件目は,審判時17歳の少年が,職場で被害者から体を触られたことを元交際相手に相談し,被害者に対する制裁を依頼したところ,元交際相手を含む共犯男子少年2名が被害者に対し,制裁目的で,無抵抗の被害者に対し,少なくとも20分間にわたって,代わる代わる頭部や顔面等を殴る,蹴るの暴行を加え,傷害を負わせて死亡させたという傷害致死の事案です。少年は,被害者の行為をやめさせるため,職場や母親に相談しましたが,事態が変わらないため,元交際相手に制裁を依頼したという事情があったものです。なお,少年自身は暴行に及んでいないとされています。中等少年院送致とされ,相当長期の処遇勧告が付されています。   6件目は,審判時19歳の少年が,夫と息子が同乗する自動車を運転中,夫の浮気を疑い,夫の制止を期待して,みんなで死のうかなどと言ったが,夫から制止されなかったため,運転する自動車を信号柱に時速約45キロメートルで衝突させ,夫に傷害を負わせ,息子を死亡させたという傷害致死の事案です。少年は犯行後,真摯な救命処置を行ったという事情があったとされています。中等少年院送致とされ,相当長期の処遇勧告が付されています。   7件目は,審判時19歳の少年が,祖母に対し,かねて金銭を渡すよう要求していたが,拒絶されたことに立腹し,同人に対し,げんこつで顔面を数回殴り,両手で同人を数回突き飛ばし,さらに同人を引き倒して,その背部及び腹部を数回蹴り,顔面を数回踏み付けるなどの暴行を加えて傷害を負わせ,死亡させたという傷害致死の事案であり,少年には軽度の精神遅滞があったという事情があったものです。中等少年院送致とされ,相当長期の処遇勧告が付されています。 ○池田幹事 ありがとうございました。   ただいま御説明いただいたところによりますと,現行少年法第20条第2項ただし書の適用において,大別して二つの考え方があると申し上げたところですけれども,特に犯情が軽いといえる場合に限って,同項ただし書の適用を認めるというような考え方が,実務上,固まっているとまではいえないという印象を受けました。   他方で,現行の対象事件は,故意の犯罪行為により人を死亡させた罪という重いものではありますけれども,おおむね3件に1件程度の割合の事件は逆送されていないということを伺ったところです。   このような,現在の原則逆送事件の運用の現状を前提とした上で,選挙権を付与されて,民法上も成年となって,自律的な判断能力を有する存在と位置付けられた18歳及び19歳の者が,重大な罪を犯した場合への対処としても,原則逆送制度が適切である,あるいは十分なものであると評価する場合には,「別案」のうち,全ての事件を家庭裁判所に送致する乙案をとった上で,原則逆送制度を設ければ足り,一定の重大事件について,一律に逆送する必要的逆送の仕組みを設けるまでの必要はないということになるものと考えられます。   その場合にも,先ほど述べた18歳及び19歳の者の立場や位置付けに鑑みますと,原則逆送の対象事件の範囲を,18歳未満の者よりも一定程度拡大するということも考えられるかと思いますが,他方で,あまり範囲を拡大しても,重大性が相対的に低い事件までが含まれるようになって,かえって逆送すべきでないと判断される事件の比率が上昇するという可能性もあるように思います。   他方で,原則逆送事件の運用の現状を前提として,18歳及び19歳の者が重大な罪を犯した場合の対処として,これでは不十分であると評価する場合には,「別案」のうち,一定の重大事件については,検察官が家庭裁判所に送致せずに起訴・不起訴を判断する甲案をとるか,あるいは乙案をとった上で,「検討のための素案〔改訂版〕」にも記載されているように,一定の重大事件について,一律に逆送する必要的逆送の仕組みを設けるということも検討に値するように思います。   さらに,加えて申し上げますと,必要的逆送の仕組みと現行の原則逆送制度との中間的な制度というものも構想し得るところです。例えば,一定の重大事件については,原則として逆送することとしつつ,例外として保護処分を選択することが許される要件を,現行の少年法第20条第2項ただし書の要件よりも厳格なものとすることによって,より逆送決定がされやすいという仕組みとすることなども,制度設計の選択肢の一つとして検討されてもよいのではないかと思われます。 ○酒巻委員 少年法第20条の改正のとき,この16歳という枠は,どこから持ってきたんでしょうか。改正前は14歳・15歳は逆送できなかったのを,刑事責任能力がある以上,逆送は可能にした上で,しかし,原則逆送の方については実行時に16歳という枠を作った,この理由について,今でなくても結構ですので,教えていただければと思います。   原則逆送というシステムを今後も使う可能性があるとすれば,立法理由として,なぜここに16歳という枠を入れたのかは,一応確認しておいた方がいいのではないかと思いました。 ○玉本幹事 ただいま御質問いただきました内容については,事務当局で調べた上で御説明させていただきたいと思います。 ○橋爪委員 個別の論点に関係するわけではありませんが,総論的な観点から1点,意見を申し上げた上で,1点御提案を申し上げたく存じます。   先ほど,新たな処分につきまして,責任主義ないし侵害原理の制約を超えた処分を課す可能性について御意見がございました。しかしながら,飽くまでも人は,他人の利益を侵害しない限り,自由に行動する可能性を保証されるべきでありまして,他人の利益を侵害しており,かつ,それに関する責任非難がなし得る限度で不利益を課すことが正当化できるという理解は,基本的な重要原理というべきであり,特段の正当化根拠がなければ,これを乗り越えることはできないと考えます。   民法上成人となっており,親権者の監護に服さず,自由に契約も締結できる人間に対して,本人のためになるという理由だけで,責任主義を逸脱する処分を課すことは,一歩間違えますと,成人一般に対しても,本人にメリットがあれば責任主義を逸脱する処分を課すべきという議論を招きかねず,個人的には若干の危惧を覚えております。   これとはまた別の話になりますが,1点,御提案を申し上げたく存じます。   新たな処分につきましては,「検討のための素案」に示された従前からの案をとるのか,あるいは,「別案」として示された甲案又は乙案をとるのかについて,今後更に検討が必要と考えますが,仮に「別案」を採用する場合,甲案については,検察官が家庭裁判所への送致を経ることなく公訴を提起できる直接起訴事件や原則逆送事件の範囲が論点となりますし,また,乙案につきましても,原則逆送事件の範囲や必要的な逆送事件を設けるか否かが論点となるかと思います。   これらは全て,18歳・19歳の者に対して,いかなる範囲で刑罰を優先的に適用するかという問題の反映といえます。すなわち,18歳・19歳の者について,刑罰によって対応すべき範囲を現行制度よりも拡大すべきか。具体的に申しますと,現行制度において,最も重いレベルの保護処分の対象とされている18歳・19歳の者について,今後,刑事制裁によって対応すべきかが検討課題となるわけです。   この問題を検討するに際しましては,現行制度において,保護処分に付されている18歳・19歳の者のうち,取り分け犯罪傾向が進んでおり,相対的に長期の少年院収容による処遇を受けている者につき,どのような罪を犯した者が多いのか。また,少年院在院中,あるいは仮退院後の保護観察における具体的な処遇内容や期間,さらに,その結果として,どの程度の処遇効果が上がっているかなど,その実態を正確に把握することが有益であると思います。そして,このような現状把握は,新たな処分における施設収容処分の収容期間などの制度設計について検討する上でも,重要な意義があると考えます。   当部会におきましては,初期の頃に少年院や保護観察の現状についてのヒアリングを実施しておりますが,その際には,今申し上げましたように,18歳・19歳で,犯罪傾向が進んでおり,長期の収容処遇を受けている者に焦点を当てた議論は必ずしも十分ではなかったようにも思われます。   そこで,もし可能であれば,このような少年の処遇の実態に絞って,改めて御説明や資料提供の機会をいただけないか,御検討をお願いしたく存じます。 ○佐伯部会長 今の御提案につきましては,事務当局の方で検討していただきたいと思います。 ○青木委員 今の橋爪委員の前半の御意見に関連して,意見を申し上げたいと思います。   橋爪委員が言われたことは,成人ということを前提とすれば,正にそのとおりで,全く異論はございませんが,今検討している制度においては,18歳・19歳の者が20歳以上の成人と同じということでは,必ずしもないものだと思います。   そのような前提にたちますと,刑罰以外の処分に関して,それをどういうものとして構築するのかということとも関連するのだと思いますけれども,本当に純粋に不利益処分という整理でいいのだろうかというところも,実は疑問があるところです。   刑罰代替ということで,刑罰の代わりに何らかの処分をするということであれば,不利益処分という整理になるのでしょうけれども,実際に何がふさわしいかという観点から考えたときに,純粋な不利益処分という整理で,そもそもよいのかという問題もあるように思います。やはり,成人と少年の2区分ではなくて,成人,少年,その中間という3区分で考えたときに,どういう制度がふさわしく,どういう理論的な考え方がよいのかということを検討していただけたらと思います。 ○川出委員 「二 手続・処分」に関しまして,従来の「検討のための素案」にも,また「別案」にも,明示的には取り上げられていない事項なのですけれども,家庭裁判所の手続における保護者の位置付けについて,意見を申し上げたいと思います。   これまでの部会では,少年法の適用対象年齢を引き下げることの当否との関連で,現行少年法における保護者の意味につき,民法上の成年となる18歳及び19歳の者には保護者は存在しなくなるのかどうかについて議論がありました。   その点について意見は分かれたわけですけれども,家庭裁判所の実務においては,民法上の成年に達した者が少年法の適用の対象となる場合には,その親に当たる者を保護者としては扱っていないという御発言がありましたし,代表的な少年法の注釈書を見ましても,民法上の成年に達した者に対して少年法が準用される場合には,法律上,保護者は存在し得ないということを前提に,実質的に保護者的立場にある者,典型的には親がこれに当たることになるかと思いますけれども,そうした者を,事実上,審判に立ち会わせるなどの運用がなされているといったことが書かれております。   このような実務の運用をひとまず前提にして考えますと,民法上の成年となる18歳及び19歳の者については,少年法上の保護者は存在しなくなるわけですが,その一方で,18歳及び19歳の者については,先ほど御指摘があったように,一種の中間層として,20歳以上の者とは異なる取扱いをするということであれば,保護者の位置付けについても,改めて考え直す必要があると思います。   その場合の対応としては,現在の実務で行われているのと同様に,18歳及び19歳の者と一定の関係を有する者,例えば親等について,一定の場面で,事実上,保護者と同様の扱いをするという方法と,それらの者について,制度として法律上の権利や義務を定めるという方法があり得ます。   後者のような制度的対応をするとした場合,一つの方法として考えられますのは,18歳及び19歳の者は,民法上の監護権の対象ではないものの,親等の親族と同居するなどして,事実上の監督や保護を受けていることが少なくないという社会的な実態を踏まえて,そういった事実上の監督・保護者に,少年法上の保護者と同様の権利を付与し,義務を課すというものです。   しかしながら,この方法については,例えば親であっても,18歳及び19歳の者に対しては,親権がない以上,対象者を監護・教育する法的義務はないわけですから,そういった者に対し,少年法上の保護者と同様の義務を課すことは,それと整合しないのではないかという問題ですとか,対象者に対して法的な監督権限を有しない者について,現行少年法上の保護者と同様の手続上の役割を果たすことを期待することができるのかという疑問があります。   そこで,もう一つの方法として考えられますのは,18歳及び19歳の者の親等につき,包括的に少年法上の保護者と同様の法的地位を認めるのではなく,少年法上の保護者が担っている手続上の役割を個別に検討し,家庭裁判所の手続に乗った18歳及び19歳の者の権利を擁護するという観点から,必要と考えられるものについて,その内容ごとに,それに適する者に適する役割を与えるという方法です。例えば,少年法では,少年本人のほか,保護者に付添人選任権が付与されていますが,18歳・19歳の者については,もはや保護者ではない親にも付添人選任権を付与するということが考えられるかと思います。   刑事訴訟法において,被疑者又は被告人の配偶者,直系の親族及び兄弟姉妹に弁護人選任権を付与されているということなどからも,こういった形での権利の付与は,対象者に対して法的な監督権限があるかどうかとは切り離して認めることができますので,この方法であれば,18歳・19歳の者が民法上成年となったということと整合する形で,その親等の地位を位置付けることができるのではないかと思います。 ○佐伯部会長 「一 家庭裁判所への送致」及び「二 手続・処分」については,この程度でよろしいでしょうか。   次に,「三 刑事事件の特例等」について,意見交換を行います。   まず,事務当局から資料の説明をお願いします。                (大沢委員退室) ○玉本幹事 「三 刑事事件の特例等」に関係する資料として,配布資料38から42までについて御説明します。   まず,配布資料38及び39について御説明します。   配布資料38及び39は,不定期刑に関する資料です。   このうち,配布資料38は,平成26年の少年法改正における不定期刑に関する改正の概要をまとめたものです。   罪を犯した18歳及び19歳の者に関する「刑事事件の特例等」として,不定期刑を設けるか否かを検討するに当たって,不定期刑制度に大きな変更が加えられた平成26年改正の内容や当時の議論が参考になると考えられることから,お配りしたものです。   ここに「改正の要点」として記載しているとおり,平成26年改正では,「不定期刑の適用要件」,「不定期刑の長期及び短期の定め方」,「不定期刑の長期及び短期の上限の引上げ」,「不定期刑の短期についての特則」の4項目について,改正が行われました。   なお,参考資料として,平成26年改正に係る法制審議会少年法部会の議事録のうち,不定期刑に関する部分を抜粋したものについても,別途配布しています。   続いて,配布資料39は,不定期刑受刑者の仮釈放時の刑の執行率を整理した資料です。   上段の図は,平成26年から平成30年までの5年間における,不定期刑受刑者の仮釈放時の刑の執行率,すなわち,不定期刑の長期に対する執行した期間の割合を,不定期刑の長期別にグラフ化したものであり,中段の表は,各年の内訳を記載したものです。   これらを見ますと,執行率69%以下の事例はなく,執行率が80%以上や90%以上となっている事例が多くなっています。   なお,参考として,下段に,平成30年における仮釈放審理開始時29歳以下の定期刑受刑者の仮釈放時の執行率をグラフにしたものを記載しています。   次に,配布資料40から42までについて御説明します。   配布資料40は,罰金刑の執行状況に関する資料です。   上段の表は,平成26年度から平成30年度までの5年度分の罰金刑の執行状況を整理したものです。件数ベースで罰金刑となっている事件の1.7から1.8%の事件について,労役場留置処分が行われています。   また,参考として,下段に,平成26年から平成30年までの5年分の略式命令請求件数を載せています。平成30年の数値で見ますと,18歳未満の者で31件,18歳及び19歳の者では1,586件となっています。   配布資料41は,勾留と勾留に代わる措置の運用状況に関する資料です。   このうち,上段の表では,「①総数」と記載した列に,検察官が逮捕し,又は身柄付きで送致を受けた人員数を,検察官による事件処理時の年齢別に記載した上で,それより右側の列に,その後の措置の内訳を,勾留請求,少年鑑別所送致,すなわち勾留に代わる観護措置の請求,釈放等といった措置別に記載しています。   例えば,平成30年では,検察官が逮捕し,又は身柄付きで送致を受けた者のうち,勾留された者は,処理時20歳以上の者で87.8%,18歳及び19歳の者で86.6%,18歳未満の者で74.2%となっており,少年鑑別所送致,すなわち勾留に代わる観護措置となった者は,18歳及び19歳の者で1.6%,18歳未満の者で10.9%となっています。   また,下段には,平成26年から平成30年までの5年間における,勾留により少年鑑別所に入所した者の数を載せています。   最後に,配布資料42は,推知報道の禁止について,旧少年法と現行少年法の関係規定を記載したものです。   説明は以上です。 ○佐伯部会長 配布資料の内容や,ただいまの御説明に対して,御質問のある方は,挙手の上,御発言をお願いいたします。   それでは,「三 刑事事件の特例等」について,いずれの点からでも結構ですので,御意見がある方は,挙手の上,御発言をお願いします。 ○橋爪委員 初めに,総論的な視点について確認しておきたいと存じます。   先に結論を申し上げますと,刑事事件の特例につきましては,18歳・19歳の者を少年として扱うか,それとも成人として扱うかという問題,すなわち,少年法の適用年齢の引下げの問題とは切り離して,別個独立に検討することが可能であり,また有益であると考えます。   すなわち,14歳以上の行為者は,そもそも刑法上,刑事責任を負い,刑罰を科すことができるところ,少年法は,対象者が成長過程であり,なお精神的に未熟であることに鑑みて,刑罰の内容を緩和する特例を設けているわけです。   そして,仮に少年法の適用年齢を引き下げて,18歳・19歳を成人として扱ったとしても,対象者の未熟な状況については変わりがないことから,政策的な観点から,言わば若年成人というカテゴリーに対して,同様の規定を設けることは可能です。   これに対して,少年法の適用年齢を引き下げず,現行法と同様に18歳・19歳を少年法上は,少年として扱うとしても,既に民法や公職選挙法においては,18歳未満の者とは法的に異なる位置付けになっていることに鑑み,言わば年長少年として,一般の少年とは区別する形で,刑事事件の特例を撤廃又は修正することも,理論的には十分可能であると考えます。   すなわち,以前の部会におきましても,「別案」は,18歳・19歳の者を中間層,中間類型として位置付けるものという御指摘がございましたけれども,正に中間層にふさわしい刑罰制度の在り方を検討することが必要かつ有益であるわけでして,この問題については,中間類型の者が成人か少年かという論点とは一旦切り離して検討することが必要であるように考えます。 ○川出委員 起訴強制について意見を申し上げたいと思います。   この点につきましては,部会第22回会議におきまして,18歳・19歳の者が成人とされることを前提とすると,家庭裁判所における調査の内容が,現行法の下での社会調査とは異なるものとなるとも考えられることですとか,健全育成の目的から外れるということなどから,起訴強制を認める必要性はないとも考えられるという御指摘がありました。   しかし,これは以前にも申し上げたことですが,健全育成と改善更生・再犯予防というのは,基本的な内容は共通しており,両者を全く異質な概念として捉えるのは適切でないと思います。そして,新たな処分における家庭裁判所の調査は,対象者を改善更生させ,その再犯を防止するためには,どのような処分が必要かということを判断するために行われるという意味において,その目的は,現在の少年保護手続における社会調査と同じですので,その範囲・内容についても,現行の社会調査と同様の調査を行い得ると考えられます。したがいまして,調査の在り方の違いを根拠として,この場合には起訴強制が適用されないと考える余地があるという御指摘は,根拠を欠くものだと思います。   その上で,起訴強制の仕組みを設けるかどうかにつきましては,これも第22回会議において指摘がありましたように,起訴猶予とされた以外の者も家庭裁判所に送致して,調査・審判の対象とする「別案」において,刑事処分相当性の判断も含めて,事件処理の判断を家庭裁判所に委ねるという考え方をとるのであれば,その判断がなされた範囲では,専門的・科学的な調査を経た家庭裁判所の判断を検察官の刑事政策的判断に優先させるとした現行の起訴強制制度の趣旨は,この場面でも同様に妥当しますので,起訴強制の仕組みを設けるのが適当であると考えるのが素直であると思います。 ○山﨑委員 不定期刑と仮釈放の特則に関して意見を述べます。   前回の部会において,平成26年の少年法改正時の議論も参考にすべきであるという発言をしたわけですけれども,今回,資料を準備していただきまして,ありがとうございました。当時の議論が詳しく,かつ簡潔にまとめられているかと思います。   その際の法制審議会での議論には,私も幹事として関与しておりましたけれども,不定期刑については,少年法における不定期刑の実態を踏まえて,そもそも存否も含めて検討すべきだという御意見が出された上で,検討が進められたわけですけれども,結果として,不定期刑は存続させるとした上で,長期及び短期の定め方や,上限の在り方などが議論され,長期の上限引上げ等の改正がされたと理解しております。   その改正から,現時点でもまだ約5年という短期間ですし,改正時の議論内容も踏まえて考えますと,今回の議論が,18歳・19歳の者が類型的に未成熟であり,可塑性に富む存在であるということに着目したものということであれば,やはり,少年法におけるのと同様に,前回改正された内容の不定期刑の適用を考え,仮釈放の特則も適用するのが相当ではないかと考えております。   なお,以前の部会でも指摘させていただきましたが,先ほどの資料に見られますように,不定期刑における仮釈放の運用が柔軟に行われずに,実際には長期を基準とした範囲でしか認められておらず,刑の執行率も高いという状況が相変わらず続いているように思われます。とはいえ,そういったことを理由に,不定期刑にはあまり意味がないのではないかというのは,むしろ議論の順番が逆だと思います。やはり,不定期刑を採用した上で,法が予定している仮釈放の柔軟な運用については引き続き改善に努めていただきたいと考えております。 ○太田委員 不定期刑及び仮釈放の特則について,意見を申し上げたいと思います。   不定期刑の趣旨は,少年が可塑性に富み,教育による改善更生がより多く期待されることに鑑みて,対象者の改善更生の度合いに応じて,処遇に弾力性を持たせるところにあるかと思います。   このような趣旨からしますと,不定期刑を執行する場合には,仮釈放を活用して,そして社会内で保護観察を行いつつ,最終的な更生の状況を見極めた上で,刑の執行終了時期を判断していくという形が,最も合理的であるということになります。   したがって,不定期刑の制度を採用する場合には,刑事施設からの仮釈放を早期に認める仕組みや,仮釈放された者について,その改善更生の状況に応じて,早期に刑の執行を終了することができる仕組みを併せて設けて,制度の運用におきましても,そのような仕組みを積極的に活用することが重要となります。   そこで,本日,配布資料として,不定期刑受刑者の仮釈放時の執行率等の統計が配布されておりますので,それらも踏まえまして,現状において,少年に対する不定期刑の運用がどのように行われているのかという実情と,それとともに,可能な範囲で結構でございますので,そのような運用の背景や要因として考えられているところについて,事務当局から説明をお願いしたいと思います。 ○大塲幹事 不定期刑受刑者は,刑法第28条及び少年法第58条第1項第3号に基づき,仮釈放の対象となります。また,更生保護法第78条に基づき,地方更生保護委員会が不定期刑仮釈放者の刑の執行を受け終わったものとする決定をすることがあります。   このうち,不定期刑受刑者の仮釈放の決定について見ると,平成26年から平成30年までの5年間で126件の仮釈放許可決定があり,刑の執行率について見ると,不定期刑の長期の70%未満のものは1件も認められず,不定期刑の長期の80%以上のものが126件中108件と,約86%を占めています。また,配布された統計資料に記載はありませんが,不定期刑の短期の経過前に仮釈放された者は126件中5件と,約4%です。   なお,更生保護法第78条に基づき,不定期刑の執行終了の決定がなされた者は,平成26年から平成30年までの間に1件あります。   これらの運用については,そもそも不定期刑の仮釈放事案が少ない上,各事案について,地方更生保護委員会が個別に審理した結果ですので,制度の運用について,その背景や要因を分析し,御説明することは困難です。 ○太田委員 不定期刑の受刑者について,仮釈放が許可された時点での執行率は,約8割5分の者が80%以上となっており,短期経過前に仮釈放になった者は,僅かに約4%であるということでございました。また,更生保護法第78条に基づいて不定期刑の執行を終了したケースは,直近5年間で僅か1件ということでございましたので,実際の運用においては,不定期刑の長期を刑期とする定期刑に近い扱いがなされているということが確認できたかと思います。   また,事務当局の御説明では,仮釈放の時期や,刑の執行終了の時期を個別に決定した結果であるとのことでしたけれども,実質的に長期を刑期とする定期刑に近い運用となっている背景,要因といたしましては,そもそも旧少年法制定当時は短期が責任相応刑とされていたことから,その3分の1を仮釈放の要件にしたり,短期を経過した場合には刑の執行終了を認めるということが当然に想定されていたものが,今日,長期が責任相応刑とされるに至ったことから,こうした要件や刑の執行終了が構造的にも適用しにくくなったことに加えまして,現行法上,少年については,全て家庭裁判所に送致され,調査・審判を経て,罪質及び情状に照らして,刑事処分が相当とされる者だけが選別されて刑罰の対象とされるため,そもそも不定期刑を言い渡される者の中には,早期に仮釈放を許可したり,長期よりも前に刑の執行を終了することが相当と判断される者が極めて少ないということがあるのだろうと考えます。   ですので,18歳・19歳の若年者に対して,不定期刑を設けるか否かを検討する際にも,こうした実情も十分に踏まえる必要があるだろうと思います。 ○池田幹事 私からも,不定期刑について申し上げたいと思います。   山﨑委員から,平成26年改正のときの議論も踏まえて検討すべきだという御指摘がありまして,先ほどお取りまとめいただいたとおり,当時から,不定期刑に対しては,それを存置すべきだという議論と,他方で,少年に科すことのできる刑の上限が成人に比べて軽減されているのに,更に短期を定めて早期に終了できるとすることについては,世論の支持を得難いのではないかとか,あるいは執行率が高いということから実際上の意味は失われているのではないかという指摘もある中で,平成26年の改正がされたところです。そこでは,今日お配りいただいた資料の中でも示されておりますように,幅広く活用する方向での改正がなされたものと承知しております。   また,先ほど山﨑委員から御指摘があったように,18歳及び19歳の者についても,未成熟で可塑性に富むという実態には変わりがないということを重視すれば,不定期刑の活用が今後も検討されるべきだという議論に至り得るという理解はとり得るものと思います。   他方で,それが絶対的な結論かと申し上げますと,必ずしもそうではないのではないかという見方もあろうかと思います。   平成26年の改正は,その後の平成27年6月の公職選挙法の改正でありますとか,あるいは平成30年6月の民法改正よりも以前の段階で行われたもので,それらの改正を前提に議論されたものではありませんので,18歳及び19歳の者は,それらの法改正を通じて,法的に,あるいは社会的に,平成26年の改正時とは異なる位置付けがされるに至っていますから,これらの者について,不定期刑を設けるか否かということは,このような位置付けの変化も踏まえて検討すべきであって,不定期刑を設けないとしたとしても,平成26年改正の方向性と直ちに矛盾するものではないという説明も可能であろうと思います。   このように考えますと,平成26年改正との関係については,不定期刑を設けるか否かについての,いずれの立場からも説明は可能でありまして,この論点について,結論を出す決定的な論拠となるものではないように思われます。むしろ,先ほど太田委員から御指摘があったような,不定期刑の運用の実情も含めて,様々な要素を総合的に考慮して,改めて判断すべきだろうと考えております。 ○小木曽委員 「3 その他」の「(六) 取扱いの分離」について申し上げたいと思います。   少年法は,第49条に第1項,第2項,第3項と定めを置いており,その第1項は,「少年の被疑者又は被告人は,他の被疑者又は被告人と分離して,なるべく,その接触を避けなければならない」としております。第2項は,「少年に対する被告事件は,他の被告事件と関連する場合にも,審理に妨げない限り,その手続を分離しなければならない」としております。第3項では,刑事施設等においては,少年の被疑者・被告人を成人と分離して収容しなければならない旨が,定められております。   これらの特則については,当部会の第22回会議におきまして,少年が発達途上で可塑性に富み,他から悪い影響,感化を受けやすい傾向にあることを考慮して,その情操保護の観点から,そのような定めを置いたものであるという趣旨の紹介がされております。   ただ,例えば第1項を見ますと,他の被疑者又は被告人と分離して,接触を避けなければならないと,極めて一般的な定めになっておりまして,具体的にどのような取扱いがされているのかということが,実務に就いていない者からしますと分かりにくいということがありますので,できましたら,この第1項,第2項につきましては,最高裁判所から,第3項につきましては矯正局から,具体的にどのような取扱いをしておられるのかということを御説明いただけると幸いです。 ○福家幹事 御質問があった点についてでございますけれども,少年法第49条に関する取扱いは,裁判所では主に審理の場面で問題になると考えております。   他の被告人と併合審理するか否かは,各裁判官の判断事項になりますけれども,文献によりますと,先ほど小木曽委員からも御説明があったところと重なりますけれども,少年の被告事件を他の被告事件と併合審理すると,他の被告人から悪影響を受けたり,少年が萎縮して事案の真相を述べられないなどの弊害が生じ得ることから,少年の被告事件については,他の被告事件と関連する場合にも,審理上の支障がない限り,手続を分離しなければならないとされておりますし,それは,他の被告人が成人であるか少年であるかにかかわらず,分離するということが求められていると,そのように理解しております。   実務におきましても,今申し上げた趣旨に沿った運用がされているものと,そのように承知しているところでございます。 ○小玉幹事 拘置所などの各刑事施設において,少年の被疑者・被告人を収容する場合には,御指摘の少年法第49条第1項や第3項の規定を踏まえまして,単独室に収容した上で,運動や入浴についても単独で実施しています。   少年の被疑者・被告人が複数,同一の施設に収容されることは,実際まれでありますので,少年専用の収容棟や,あるいは区画を設けることまではしていませんが,個々の施設の収容状況などに応じ,なるべく少年の居室と隣接する居室や向かい合う居室は空室にするなどの対応をしているところです。これによりまして,少年の被疑者・被告人は,成人の被収容者とは分離される上,他の少年の被疑者・被告人と接触することも,ほとんどないものと思われます。   なお,少年法第56条において,少年受刑者の執行の分離に関する規定がありますが,この点に関する実務上の取扱いは,前々回,当部会の第22回会議で御説明したとおりです。 ○小木曽委員 ありがとうございました。   そういたしますと,もし仮に,18歳・19歳を特に切り出してということになった場合ですけれども,少年法第49条第1項,第2項については,相手方を少年,成人と特に定めておりませんので,少年と,18歳・19歳を一緒に扱うのか,別に扱うのかといったような点が問題になるかもしれません。   一方で,第3項に関しましては,施設の空き状況との関係もあるということでありましたので,そのような実務上の事情と併せた検討が必要になるように思われます。 ○今井委員 「3 その他」の「(二) 換刑処分の禁止」につきまして,事務当局に伺いたいことがございます。   従前の会議におきまして,18歳及び19歳の者に換刑処分の禁止を設けるか否かにつきましては,当部会の第22回会議でも意見の交換があったところでございますけれども,その際,少年の情操への悪影響を考慮したという制度趣旨と,他方で,罰金を納めなくても済んでしまうということを認めてよいのかという双方の点を踏まえて検討する必要があるという御意見が出ていたと思いますし,私も,その両方の観点が重要だと思います。   そうしますと,検討する前提といたしまして,現在の労役場留置における処遇の実態について把握しておくことが必要であると思われますので,その点,どのような実態であるのか,事務当局の把握しているところの御説明があれば幸いでございます。 ○小玉幹事 まずは,労役場留置者の収容場所についてです。   刑事収容施設法上,労役場は,法務大臣が指定する刑事施設に附置するとされておりますが,法務大臣により,全ての刑事施設が指定されていることから,各刑事施設の建物内の指定された居室に収容するのが一般的でありまして,労役場留置のみを執行される者が懲役受刑者などと同一の居室に収容されることはございません。   次に,労役場留置者の処遇についてですが,刑事収容施設法上は,その性質に反しない限り,刑事施設における被収容者の処遇のうち,懲役受刑者に関する規定を準用するとされておりまして,労役場留置者に対し,矯正処遇として,改善指導や教科指導を義務付けることはしておりません。   他方で,労役場留置者には作業が義務付けられるところですが,労役場留置のみを執行される者については,懲役受刑者などとは別に収容されている居室内におきまして,単純作業に従事させるのが一般的であり,また,このような作業のほか,運動や入浴などについても,懲役受刑者などとは別に行っているのが通例でございます。 ○今井委員 御説明ありがとうございました。   ただいまの御説明で,労役場は刑事施設に附置されていますけれども,労役場留置者は,懲役受刑者等とは分離された収容場所で収容・処遇されているということを改めて理解させていただきました。   そうしますと,少なくとも懲役受刑者等からの影響,いわゆる悪風感染というものは遮断されるような収容・処遇環境にあるということができると思われますので,今後は,この実態を踏まえた検討が,ここでなされることが望ましいと考えております。 ○橋爪委員 「3 その他」の「(五) 勾留の特則」について,1点質問がございます。   少年法におきましては,第43条第1項におきまして,「検察官は,少年の被疑事件においては,裁判官に対して,勾留の請求に代え,第17条第1項の措置を請求することができる」と規定されており,検察官は,勾留に代えて,家庭裁判所調査官の観護や少年鑑別所送致を請求できる旨が規定されております。   さらに,同条第3項におきましては,「検察官は,少年の被疑事件においては,やむを得ない場合でなければ,裁判官に対して,勾留を請求することができない」ものとされ,また,同法第48条第1項におきましては,「勾留状は,やむを得ない場合でなければ,少年に対して,これを発することはできない」,さらに,同条第2項におきましては,「少年を勾留する場合には,少年鑑別所にこれを拘禁することができる」旨が規定されております。   これらの規定につきましては,以前の部会におきましても,少年は発達途上であり,心身ともに未熟であるため,情操を害する危険に配慮して,保護・福祉的観点から,可及的に身体拘束を回避し,拘束をする場合にも処遇上の配慮を行うものであるという御指摘がありましたが,18歳・19歳の者について,同様の特例を設けるべきか否かを検討するに際しては,現行制度の下における,これらの特例の具体的な運用状況を踏まえる必要があると考えます。   そこで,検察実務,裁判実務,矯正実務における取扱いを確認させていただきたく,検察実務につきましては,吉田委員から,少年被疑者の勾留請求や勾留に代わる措置の請求の運用の実態について,また,最高裁判所におかれましては,家庭裁判所や刑事裁判所における少年の勾留や勾留に代わる措置の許否,勾留場所の選択に関する判断の在り方の実情や家庭裁判所調査官の観護における具体的な内容について,さらに,矯正局におかれましては,少年鑑別所における,勾留された少年や勾留に代わる観護措置として送致された少年の処遇の実情について,それぞれ御説明をお願いしたく存じます。 ○吉田委員 今の御質問に対し,検察実務での取扱いについてお答えします。   少年事件において,被疑者の逮捕後,捜査期間中の身柄保全を継続するために,検察官がとり得る少年法上の措置としては,まず勾留請求,それから,勾留に代わる少年鑑別所送致請求,家庭裁判所調査官の観護に付する措置の請求の三つがあります。   いずれの措置を選択するかは,個々の事件における個別具体的な事情を総合して考慮・判断するため,その判断基準を一概に申し上げることは困難ですが,私の検察官としての実務経験や,同僚の検察官とおおむね共有している認識などから,実務の現状についてお答えしたいと思います。   まず,前提としまして,少年被疑者の逮捕に関しては,犯罪捜査規範第208条に,「なるべく身柄の拘束を避け,やむを得ず,逮捕,連行又は護送する場合には,その時期及び方法について特に慎重な注意をしなければならない」という規定があります。実務的にも,警察において,少年被疑者を逮捕し,身柄付きで検察官に送致される事件は,成人に比べると,事案の悪質性・重大性が高く,罪証隠滅や逃亡の可能性の観点からも,身柄拘束の必要性が相対的に高い事件が多いというのが,私の感覚であります。   その上で,これは少年被疑者に限らず,成人被疑者の場合でも同様ですが,逮捕後の被疑者の身柄の取扱いについて,通常,検察官がまず検討するのは,身柄拘束を継続する必要性があるか否か,言い換えれば,被疑者を釈放した場合に,罪証隠滅や逃亡により,事案の真相の解明及び適正な処分が困難となる蓋然的なおそれがあるか否かということです。   これらの点を具体的に検討した上で,少年被疑者についての身柄拘束の継続が必要と認めた場合に,次に,検察官としては,勾留請求をするのか,勾留に代わる少年鑑別所送致請求をするのかを検討することになります。   勾留請求については,少年法第43条第3項により,「やむを得ない場合」でなければ行うことができないという制約があります。   他方,勾留に代わる少年鑑別所送致請求については,そのような限定はありませんが,少年法第44条第3項により,収容期間が10日間とされ,延長が認められないほか,接見等の禁止措置を付することができないという制約があります。   検察官としては,これらの制約を踏まえ,いずれを選択するかを判断することになりますが,その際,勾留請求をする「やむを得ない場合」に当たるかどうかの具体的な考慮要素としては,例えば,少年鑑別所が遠隔地にあることなどから,取調べや現場引当りなどの捜査に支障が生じるかどうか。共犯者や関係者が多数いる,あるいは未検挙の共犯者がいるなど,通謀等による罪証隠滅のおそれがあるかどうか。内容が複雑な事案や否認事件,あるいは一括処理相当の余罪が多数あるなど,10日間という期間で捜査を終了することが見込めるかどうか。少年の年齢,非行歴,性行等から見て,成人と同様に扱った場合に,少年の情操を害するおそれの有無やその程度,そういうことなどが考慮すべき要素となります。   検察官は,これらの要素を総合的に考慮し,「やむを得ない場合」に当たると判断した場合には勾留請求を行い,当たらないと判断した場合には,少年鑑別所送致請求を行うのが一般であると思われます。   本日配布されました配布資料41「既済となった身柄事件の被疑者の逮捕後の措置別人員数」という表を見ると,平成26年から平成30年までの各年において,「やむを得ない場合」に当たるとして勾留請求された少年の人員数は,少年鑑別所送致請求をされた少年の人数を大きく上回っています。これは,先ほど述べましたように,少年被疑者については,身柄拘束の,言わば入口段階に当たる逮捕について,元々慎重な運用がなされており,対象者が悪質性・重大性の高い者に限定されていることが一因となっているのではないかと推察されます。   また,配布資料41の少年鑑別所送致請求された者の割合を見ると,例えば,平成30年において,18歳・19歳の者では1.8%であるのに対し,18歳未満の者では11.5%と,年齢層により差があることが見て取れます。   この点に関しては,一般論として,逮捕され,身柄付きで検察官に送致されてくる少年については,年齢が高くなるほど非行歴を有する者も増え,犯罪的傾向が進んでいることが多いので,そのことが,先ほど述べた,成人と同様に扱った場合に情操を害するおそれの有無及び程度の判断に影響を及ぼしているのではないかと推察されます。   次に,少年被疑者について身柄拘束を継続する必要がないと認めた場合,検察官としては,家庭裁判所調査官の観護に付する措置を請求するか,そのような措置を付さずに被疑者を釈放し,いわゆる在宅事件として扱うかを判断することになります。   この点について,一般論として,被疑者が罪証隠滅や逃亡する蓋然的なおそれがないため,身柄拘束を不要としながら,なお,家庭裁判所調査官の観護が必要な場合というのは,相当に例外な場合だと考えられます。検察官としては,釈放して,在宅事件として処理するのが通常だと思われます。   配布資料41では,家庭裁判所調査官の観護に付する措置の請求件数が極めて少ないのは,このためだと推察されます。 ○福家幹事 御質問のあった点について御説明をさせていただきます。   まず,少年被疑者の勾留の許否につきましては,各裁判官の判断事項でして,各裁判官において,検察官の請求に基づき,成人を勾留する場合の要件に加えて,少年法第48条第1項の「やむを得ない場合」の有無について,事案に即して判断しているものと承知しております。   その上で,一般論として申し上げますと,この「やむを得ない場合」とは,先ほど吉田委員の御説明にもあった,少年法第43条第3項の「やむを得ない場合」と同様のものであって,勾留が少年の心身に及ぼす悪影響と捜査の必要性とを総合考慮して,事案に即して判断されており,その基準としましては,年齢,非行歴といった少年の資質など,事案の重大さや複雑さといった被疑事件の性格のほか,関係者に少年の面通しを行う必要があるが,遠隔地の少年鑑別所への同行を求めることが困難な場合や,少年自身の引当り捜査を必要とする場合など,施設上の理由や捜査遂行上の理由などが挙げられているところでございます。   続いて,勾留に代わる措置という点についての御質問ですが,少年被疑者の勾留請求を受けた裁判官において,「やむを得ない場合」には当たらないが,勾留の要件を満たしていると認めるときは,勾留に代わる観護措置の要件が満たされているということになります。   この場合の取扱いについては,幾つかの解釈があるものと承知しておりますが,文献によりますと,実務上は,勾留請求は却下するが,勾留に代わる観護措置の予備的請求の追加を認めるという運用が比較的有力であり,事案によっては,裁判官から検察官に,勾留に代わる観護措置の予備的請求追加の意思確認や,これを促すなどの運用もあるとされているところでございます。   最後に,少年の勾留場所についてでございますが,少年法第48条第2項により,刑事施設ではなく,少年鑑別所とすることもでき,一般的には,少年の人権への配慮と捜査の必要性とを総合考慮の上,各裁判官の合理的裁量により,事案に即して勾留場所が選定されているものと承知しております。   事案ごとの判断でございますが,勾留場所の判断の一般的な基準としては,16歳未満の少年,前歴のない少年,精神的発達の遅れが目立つ少年など,影響を受けやすい少年につきましては,勾留場所を少年鑑別所とする方が相当な場合が多いと指摘されているところでございます。 ○澤村幹事 御質問のありました勾留に代わる調査官観護について,御説明を致します。   吉田委員からの御説明にありましたとおり,これは検察官の請求があったときにとることができるとされているものでして,身柄拘束を伴わない任意処分です。具体的には,家庭裁判所調査官が,家庭等にいる少年と随時接触し,人格的影響力を及ぼして一種の心理的拘束を与えることなどにより,少年の身柄の保全を図ることを想定したものとされております。   もっとも,この勾留に代わる調査官観護の請求は,近年は,実務上ほとんど活用されていないようでございます。 ○小玉幹事 私から,少年鑑別所における処遇の実情について申し上げます。   まず,少年鑑別所の全ての在所者には,情操の保護に配慮し,その健全な育成に努めるという観護処遇の原則が適用されます。そのため,勾留や勾留に代わる観護措置により入所した少年についても,この観護処遇の原則の下,情操の保護を図る観点から,単独室での処遇を原則としておりまして,所内での生活を,規則正しく静かな環境に置き,きめ細かく,その心情を把握するなどして,これらの少年の心情の安定を図っているところです。   また,在所者の健全な育成のための支援として,例えば,学習図書や就労に関する図書の整備に努めているほか,希望者に対して,外部講師による学習支援や就労に関する情報提供,教養講話などを実施するなど,学習等の機会を提供するなどしています。   さらに,本人の自主性を尊重しつつ,悩み事や心配事の相談に応じて助言を与えるほか,健全な社会生活を営むことができるように,挨拶や言葉遣いといった基本的な生活態度に関する助言・指導を行う場合もございます。   他方で,勾留や勾留に代わる観護措置により入所した少年は,家庭裁判所に送致される前の段階にありますため,家庭裁判所送致後の本来の観護措置による入所者とは異なり,鑑別が実施されないという違いがございます。   次に,少年鑑別所法上,原則として,在所者の法的地位の種別に応じて,分離して処遇することとされておりますことから,勾留により入所した少年については,先ほど申し上げたような各種支援に加え,運動や入浴などの実施に当たっては,勾留に代わる観護措置や本来の観護措置により入所した少年とは別に行っているのが一般です。   他方,勾留に代わる観護措置により入所した少年と本来の観護措置により入所した少年については,少年鑑別所法上,同じ法的地位の種別にあることから,分離は求められていないところです。   最後に,統計上の数値に関して,資料41「既済となった身柄事件の被疑者の逮捕後の措置別人員数」に記載された内容に,少し補足して申し上げますと,平成30年に,勾留に代わる観護措置として,少年鑑別所送致が許可された合計件数は,この資料にあるとおり,417件,そのうち,18歳及び19歳の件数は63件となっていますが,他方,全国の少年鑑別所において,平成30年に勾留により入所した者については,一番下の枠にあるように,合計人数が232名となっていますが,そのうち,年齢別の内訳について,補足して申し上げますと,この232名のうち,入所時18歳及び19歳であった者は89名でありましたので,その点も併せて申し上げます。 ○橋爪委員 大変勉強になりました。厚く御礼申し上げます。   今伺った限りの印象で申し上げますと,勾留に関する特則と申しましても,個別の制度ごとに,実務的な運用につきましては,ぞれぞれ固有の検討課題があるように感じました。今後,この問題につきましては,全体的・包括的な検討だけではなく,個別の内容ごとに,具体的に必要性・相当性を吟味することが重要であるように思われました。 ○佐伯部会長 まだ,「三 刑事事件の特例等」につきましては,御議論があるかもしれませんが,予定の時刻が迫ってきておりますので,本日の審議はここまでとさせていただきたいと思います。   次回の具体的な議事につきましては,本日の議論の状況も踏まえまして,私の方で検討し,事務当局を通じて皆様にお知らせするということにさせていただきたいと思いますが,それでよろしいでしょうか。                (一同異議なし)   次回の日程について,事務当局から説明をお願いします。 ○玉本幹事 次回第25回会議につきましては,3月17日午前10時から,場所は東京地方検察庁会議室を予定しています。 ○佐伯部会長 引き続き,よろしくお願いいたします。   なお,本日の会議の議事につきましては,特に公表に適さない内容に当たるものはなかったと思われますので,発言者名を明らかにした議事録を作成し,公表することとさせていただきたいと思いますが,よろしいでしょうか。                (一同異議なし)   議事録の取扱いにつきましては,そのようにさせていただきます。   それでは,本日の会議は終了します。   どうもありがとうございました。 -了-