法制審議会 民法・不動産登記法部会 第5回会議 議事録 第1 日 時  令和元年7月2日(火)自 午後0時59分                    至 午後5時52分 第2 場 所  東京地方検察庁総務部会議室 第3 議 題  民法・不動産登記法の改正について 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○山野目部会長 法制審議会民法・不動産登記法部会の第5回会議を始めます。   初めに,委員の異動がありましたから,御紹介を致します。   岡田潤一郎委員が退任され,新しく國吉正和委員が任命されました。國吉委員から一言御挨拶をお願いいたします。 ○國吉委員 皆さん,初めまして。日本土地家屋調査士会連合会,会長になりました國吉でございます。どうぞよろしくお願いいたします。 ○山野目部会長 よろしくお願いいたします。   また,本日は財務省から木村関係官が出席しておられます。同様に,木村関係官から一言御挨拶をお願いしたいと考えます。 ○木村関係官 昨日付で理財局の国有財産業務課長を拝命いたしました木村と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 ○山野目部会長 よろしくお願いいたします。   なお,本日は阿部委員,市川委員,筒井委員及び宇田川幹事が御欠席であります。   本日の配布資料の確認を事務当局から差し上げます。 ○有本関係官 今回,部会資料8「不動産登記制度の見直し(1)」を事前送付してございます。また,本日は前回配布いたしました部会資料7「相隣関係規定等の見直し」も併せて使用いたします。   本日,部会資料8についてはお手元に配布させていただいておりますが,部会資料7も含め,お手元にないようでしたら,お知らせいただければと存じます。   よろしいでしょうか。   当該資料の趣旨や内容につきましては,後ほど御説明させていただきます。   なお,部会資料8についてでございますけれども,大変申し訳ございませんが,先週,一度事前送付させていただいたものから,昨日,更に追加で送付させていただきましたが,微修正をしている部分がございます。修正が多少,内容に及ぶものといたしましては,資料の19ページの2の上の,なおから始まる段落の2行目から3行目にかけての修正がございますけれども,その他は誤記等の修正で,内容に及ぶものではございません。   資料の確認は以上でございます。 ○山野目部会長 資料はお手元にそろっておりますでしょうか。   それでは,本日の審議を始めることにいたします。   前回,部会資料7の「相隣関係規定等の見直し」についての御審議をお願いいたしました。最後のところ,少し時間がなくなりまして,ちょうどその際は,いわゆるライフラインでありますけれども,導管設置権及び導管等接続権の明文化のお話をお願いしていたところでございます。既に資料の説明は差し上げておりますし,御議論も若干頂いたところではあります。前回時間が足りなくて,この部分について御意見をおっしゃっていなかった方がおられましたならば,承っておきたいと考えるものでございます。この点について御意見がおありの方がいらしたならば,お話を頂きます。いかがでしょうか。 ○松尾幹事 ありがとうございます。部会資料7の10ページから11ページにかけての導管等設置権および導管等接続権についてですけれども,三つほど問題が含まれていると承りました。   一つは,導管等設置権や接続権の法的性質ないし内容として,承諾請求権という形で構成するか,文字どおり設置権,接続権という形にしていくかという問題が第1であります。第2の問題は,11ページの(注2)に出てまいりますが,対象土地の所有者の所在が不明等であった場合の対応として,公告等の制度を用いることができるかという問題です。それから,第3に,11ページの(注3)に該当しますが,土地の登記名義人であるということがどういう効果を持つか,登記名義人に請求したときにどういう便宜を図ることができるのかという問題も含まれているように思います。   このうちの第3番目の問題は,本日議論される予定の土地登記の問題と絡むと思いますので,そちらに譲ることとしたいと思います。それから,第2の問題として,所有者が所在不明の場合に公告でよいかどうかは,前回議論になりました,共有者の一部が不明の場合の公告の制度とも絡みますので,それとの関連も踏まえて議論する必要があると思われます。そこで,第1の問題に絞りまして,法的性質の問題ですけれども,ここでは,14ページにも説明がありますように,基本的に承諾請求権という形で構成する方向性を示しつつ,11ページの(注4)にありますように,設置権,接続権という構成もあり得るという可能性が示されております。   ちなみに,いわゆるライフラインと関連して,220条・221条は人工排水の通水権・通水用工作物の使用権を規定していますので,これとの関係をどう考えるかという問題があるように思います。人工排水や通水用工作物に関しては,恐らく放っておくと周囲の者にも何らかの迷惑が掛かるというような配慮も,通水権・使用権という構成の背景にはあるものと思われます。その一方で,いわゆるライフラインの中には専らその利用者が利益を受けるというものもあるように思いますので,同じライフラインの中でも,他人に影響を及ぼすようなものと,専ら利用者の利益になるようなものについて,区別をする必要がないか,そのことが権利の法的性質として,請求権で行くのか,それとも設置権や接続権で行くのかという問題に影響を与えるかどうか,現行民法の価値判断も踏まえた議論が必要かと感じました。   ライフラインと言われる中でも,既に下水道法等には規定がありますし,民法220条・221条の解釈で対応可能なものもあると思いますが,いわゆるライフラインの中でも,その性質について個別的検討が必要かと感じた次第です。 ○山野目部会長 導管設置権について御意見を頂きました。   ほかにこの点について御意見がおありでしょうか。 ○平川委員 導管等設置権,接続権の明文化の方向性は,議論の方向でよいと思います。  部会資料7の11ページの④では,「導管等の損害に対して償金を支払わなければならない」と書いてありますが前回,発言させていただきましたけれども,現行は,どういう形になっているのかを基本に考えていかなければ,少し混乱を招くのではないかと思います。例えば,下水道設置に際して,私道の持分のない方に負担を求めることは,聞いたことがありますけれども,全て,こういう形で実際やっているのかは,もう少し実態を見て考えていかなければならないのではないか,この辺については慎重な検討が必要だと思いました。 ○山野目部会長 償金の概念につきまして,前回若干,委員,幹事の間で御議論を頂き,ただいま平川委員からも更なる御意見をおっしゃっていただきました。平川委員から御注意いただきましたとおり,実態について見ておく必要がございますし,現在の民法の相隣関係の規定の中にも償金という概念が登場してくる場面がございます。そこについての従前の理論的理解,それから,運用の実態がどうであったかということを調べた上で,次の機会にまたお諮りをするということにいたします。ありがとうございます。   ほかに御意見はおありでしょうか。   よろしゅうございますか。   それでは,部会資料7の「相隣関係規定等の見直し」について,残余のところについて,事務局から資料説明を差し上げます。 ○福田関係官 法務省民事局付の福田でございます。どうぞよろしくお願いいたします。   それでは,資料の16ページを御覧ください。第2の「2 土地の境界標等の調査又は土地の測量」についてでございます。   土地の売却を行うに当たっては,境界標等の調査や土地の測量が必要な場合がありますが,境界標等は境界線上又は境界線に接して設置されていますため,ほとんどのケースで隣地へ立ち入る必要がございます。現状,隣地所有者に対して立ち入りの趣旨を説明し,その承諾を得て立ち入りが行われているようでございますが,隣地所有者の所在が不明であるなど,その承諾が得られない場合も想定されるところです。そこで,土地の所有者が境界標等の調査などを行う場合には隣地に立ち入ることができるとする規律を置くことが考えられ,これを本文の①において示してございます。   また,境界標等は構造物の基礎の下,又は地中に埋没していることがあり,このような場合には土地を掘り起こしたり,構造物の基礎の部分を削ったりする必要があることもあります。そこで,土地の所有者は土地の境界標等の調査などのために必要があるときには,隣地やその上の構造物の形状を物理的に改変することができる旨を規律することも考えられるとして,これを本文の②において示してございます。   本文の③につきましては,損害が生じた場合の償金に関する規律です。   隣地への立ち入りに要する時間は通常,長くても数時間程度のようではございますが,隣地所有者に対する財産権やプライバシーの制約となりますことから,立入りに当たっては,隣地所有者の承諾までは不要としつつ,事前に土地に立ち入る旨を通知するものとするとすることなども考えられ,その旨を補足説明に記載してございます。この点は,後ほど第2の4で御説明いたします隣地使用権の見直しとも関連する部分でございますので,併せて御検討いただきたく存じます。   続いて,資料の17ページを御覧ください。第2の「3 土地の境界の確定のための協議」についてです。   土地の売買等を行うに当たっては,事前に自己の有する土地の所有権の範囲を特定し,土地の境界を明確にしていく必要があります。実務におきましては,隣地所有者の立ち会いを求めた上で,現地での確認結果を書面にし,その書面の取り交わしによって紛争の発生を防止するようにしているようですが,隣地所有者が確認に応じないケースもあり,このようなケースでは円滑な取引に支障が生じることもあるようです。そこで,本文では,土地の境界が明らかでない場合に,境界に接する土地の所有者間で実効的な境界画定作業を行うための方策についての検討を行うことを提案しているものでございます。   なお,その一方策として,境界画定協議請求権について補足説明で触れてございます。これは,土地の所有者は隣地所有者に対して土地の境界を明確にするために協議を求めることができるとするものです。この境界画定協議請求権は,隣地所有者に境界の確認作業への立会いを義務付けるものとすることなどが考えられますが,例えば,遠方に居住している隣地所有者にも立会いを義務付けることが果たして相当と言えるか,立ち会った上で具体的にどのようなことを行うのかなどについて検討する必要がありますし,隣地所有者が立ち会わなかった場合の効果についても検討が必要と考えられます。   続いて,資料の19ページを御覧ください。第2の「4 隣地使用権(民法第209条)の見直し」についてでございます。   民法第209条では,土地の所有者は,境界又はその付近において障壁又は建物を築造し,又は修繕するために必要な範囲内で隣地の使用を請求することができる旨を定めてございますが,本文では,そこで列挙されている目的以外の場合においても隣地使用ができるものとすることについての検討を提案しております。   第2の1におきまして,他人の土地等に対してライフラインの導管を設置又は接続することを求める導管等設置権等について検討したところですが,ここでは,例えば,自己の土地にライフラインの導管を設置するために必要な範囲内で,隣地の使用を請求することができることについて明文化することも考えられるところです。   21ページには,隣地使用権の行使方法について記載してございます。民法第209条第1項は,隣地の使用を承諾すべきことを隣人に対して請求することができる権利,いわゆる請求権であると解する説が有力です。そこで,請求権であることを前提としつつ,現に隣地を使用する者がいない場合にも対応するため,第2の1で検討しました導管等設置権等と類似の規律とする形で,本文①から③までに案を提示させていただいております。   なお,民法第209条では,隣地使用権に係る義務を負うのは隣人であるとしており,隣地使用権の法的構成を承諾請求権と位置付けた場合には,隣地所有者でなく使用権限を有する者から承諾を得れば足りるとする点で導管等設置権とは異なることに留意が必要だと考えられます。   最後に,資料の22ページを御覧ください。「第3 その他見直すべき相隣関係に係る事項について」でございます。   ここでは,これまで取り上げられていないものの,所有者不明土地問題への対応との観点から検討すべき事項の有無について御議論いただければと考えております。   御説明は以上でございます。 ○山野目部会長 ただいま説明を差し上げた部分のうち,16ページの「2 土地の境界標等の調査又は土地の測量」の部分につきまして御意見を承ります。いかがでしょうか。 ○國吉委員 日本土地家屋調査士会連合会の國吉でございます。   この土地の測量問題というのは,単に境界の問題ということではなくて,やはり不動産の売買,当然ですけれども,今,宅地建物取引業協会の方たちにも重要事項説明書の中で,土地の境界がどういう形になっているのか,若しくは建築確認の場合でも,建築敷地の明示というのでしょうか,明らかにしなければならないというようなことも絡んでおります。   土地の測量については,特に都市部においては,やはり権利関係の意識からか,ましてや地価の高い土地の部分については,現在,境界標のみならず,例えば,工作物であるブロック塀等も,実は,通常ですと境界線上に双方の資金で立てるというような場合もあるかと思いますけれども,そうではなくて,自己所有地の中にそれぞれがブロック塀を立てるというようなケースも多く出てきています。それはなぜかというと,やはり隣地との境界を明らかにしなければ,将来的に御自身の土地を利用ができないというようなこともあるかと思います。そうなってきますと,境界自体がどこであるかということが,それぞれの土地所有者間で共通の認識を持つということが一番重要なのだろうと思いますけれども,その共通の認識を持つために境界標の調査というのがどうしても必要になります。工作物がある以上,その工作物の下であったり,その工作物の向かい,反対側であったりとか,そういったところまで,通常の測量では,土地の利用形態の調査をしなければどうしようもないというか,実態上の成果が出てこないというふうになります。   今,やはり我々が一番気にしているのは,所有者不明の土地の場合です。少なくとも,土地に立ち入ることができない,若しくは紛争の当事者同士であると,むしろ入ってはいけないのかもしれませんけれども,そういったことができるということにしていただかないと,実際の不動産の明確化というものにはなかなか対応できていないということで,できれば,それぞれの土地所有者がそれぞれの土地について調査ができるというようなことを明文化していただければと思っております。 ○山野目部会長 案文の①は,土地の所有者は,という主語になっておりますから,もちろん土地の所有者が立ち入っても構わないものでありますが,現実には土地の所有者から依頼を受けた土地家屋調査士が隣地の中に入っていって調べようというお話の進み方になる場合が多うございます。ただいま國吉委員はその観点からお話をしてくださいました。①の案文で,立ち入ることができるという規律の可能性を御提示申し上げています。土地家屋調査士が現実に土地に入ろうとすると,いろいろな目に遭います。隣地所有者の方が出てきて,あなたは何か不審な人ではないですかと言われて,一所懸命説明をします。次は,その家の犬が出てきて吠えます。様々な事象にぶつかります。加えて,國吉委員から御指摘があったように,所有者が分からないと,今度は対応に困るということにもなります。①の案文は,所有者が不明の場合に限定した案文になっておりませんけれども,不明である場合も不明でない場合も含めて,そのように隣地に立ち入っての調査を円滑ならしめようということを意図した規律の示唆でございます。このような規律が入っても,犬は出てくるのですけれども,しかし,やはりこういう規律を置いておくことによって,現場での問題処理の円滑を図ろうということを期待することができます。   それから,②は,削ったり掘ったりということの可能性についても,こういうことがあり得ないかという問題提起を差し上げております。境界標があるのを見付けただけでは境界の確認ができなくて,掘り起こさなければいけないことがございます。境界標の周りを炭で囲んで地中に埋めてある境界は,経験に照らし,なかなか動かないですけれども,そうでないものは動いてしまっている可能性があります。その辺りのところを確かめるためには,場合によっては掘ったり削ったりすることが必要になります。ここまで要らないのではないかという印象をお持ちになる向きもあるかもしれませんが,ひとまずそういうことも考慮した上で,②の案文も御提示申し上げています。実際の現場での作業のお苦しみを踏まえ,國吉委員からお話を頂きましたが,この2の点について,ほかの委員,幹事の御意見を伺います。 ○佐久間幹事 今,2だけですか,2だけでもいいのですが。 ○山野目部会長 差し当たり2をお尋ねしています。 ○佐久間幹事 まず,①の立ち入りについてなのですけれども,後で出てまいります隣地使用権と隣地を使用するという点では共通していて,隣地使用権の方の使用の要件が緩和された場合には,それと並びとする可能性は当然あると思うのです。もしそうならない場合は,こちらの方では立ち入ることができるとするならば,理由付けが要るだろうと思うのです。先ほどの御説明では,これは立ち入りの時間も恐らく非常に短いので,一般的な隣地使用権に比べて隣地の負担がさほど大きくないだろうということで区別できるのではないかというお話だったと思います。   私は,それはそれで賛成なのですけれども,その場合に②まで進むときに同じでいいかということが,気になっております。確かに,土地を掘り起こすといっても非常に大規模に掘り起こすわけでもないでしょうし,構造物を削る,基礎を削るといっても,そんな大規模にするわけではないとは思うのですけれども,一応,他人の所有物に関し変更を加えるということには変わりがないと思われますし,全面的に調査をする側に委ねきりでよいかというと,少し疑問に思います。そこで,①はすることができるで,②は承諾を得てすることができるというふうな形にすることも考えられるのではないかと思います。   それから,それとの関係で,③なのですけれども,損害を被った場合に償金を請求することができるのは,まあ,よろしいと思うのですが,当たり前だから書かないのかもしれませんけれども,原状回復をできる場合は,しなければいけないのではないかと思うのです。掘り返したのをそのままにして帰るというのはよくないのではないかと思いますので,変更する以上は原状回復が基本で,構造物を原状回復できるのかどうか,私はよく分かりませんけれども,それで原状回復か,それをできない場合には償金かというふうな形の方が,他人の所有物について変更を加えるということからすると,よろしいのではないかと思いました。   あともう1点,先ほどの所有者不明の場合はというのは,あって,私,少し意見はあるのですが,全体に関わることなので,後の方がよろしければ,後にいたしますし,今申し上げて。 ○山野目部会長 どちらでもよろしいですけれども,どうぞ,御自由にお話しになってください。 ○佐久間幹事 そうですか。全体として,所有者不明の場合に,単に請求をする場合であっても,承諾を得る場合であっても,どうするかという論点が出てきていると思うのですけれども,所有者不明の場合に,当該使用等についての緊急性が高い場合と高くない場合に分けて考える方がいいのかなと私は思っております。緊急性が必ずしも高くないというときは,前回か前々回か議論のありました,個別の土地の管理人を選ぶということがもしうまく仕組めたといたしましたら,そのルートによるのが本筋ではないかと思います。緊急性の高い場合には,時間も費用も掛かることを考えればそこまでする必要はないかもしれませんが,立ち入る側,使用する側が一方的にできますというのは,やはりどうかと思うところがございますので,中立のというか,利害関係のない第三者の立会いの下で、というふうなことをすることはできないのかなと,うまく仕組めるのかどうか分かりませんけれども,そのような形で処理することはできないのかなと思いました。 ○山野目部会長 ①について賛成,②,③に関連して,提案を含む御意見を頂きました。加えて,ここに限らず,所有者不明の場合の規律の立て方につきまして,立入り等による隣地の使用の必要が急迫である場合とそうでない場合に,それぞれ即応した規律の構想があってしかるべきであるという御意見を頂きました。   ほかに,2について,いかがでしょうか。 ○蓑毛幹事 佐久間先生と同様の意見ですが,この問題については,先ほど御説明がありましたように,土地の測量に当たって困難がある状況は理解しておりますし,何らかの規律を置いて,適切に測量が行われる実務にすべきだと思っています。ただ,一方で弊害も考えなければならず,特に②は,その土地の所有者の所有権やプライバシーの侵害になるとともに,土地の境界標等をさわることについては,実務上トラブルが起こることがあります。つまり,後になってから,境界標を動かした,動かしてないで問題が起こり得るところですので,何らかの適正さを担保できるような方法を備えつつ,規律を置くのがいいと思います。   そのような前置きを置いた上でですが,①の立ち入りは,短時間の立ち入りで,権利侵害の度合いも弱く,かつ,先ほど申し上げたような不都合も起こりませんので,ある程度柔軟に認めていいと思います。ただ,弁護士会のワーキングでは,この立入りについても,民法ではなく,特別法で,土地家屋調査士は測量に必要な範囲で土地に入れることを規定する仕組みにしてはどうかという意見もありました。   ②は慎重に考えなければいけないと思います。特に構造物の基礎を削るというのは,実務上,相手方が承諾しないのに,どのような事案で必要性が認められるかがよく分からないのですが,少なくとも規律の在り方としては,承諾請求権の形にして,相手が承諾すればいいけれども,そうでなければ,その必要性を含めて請求権の成否を裁判所が判断をするとした方がいいと思います。一方で,所有者不明土地の場合には,佐久間先生のおっしゃったような管理人を置くという方法もありますし,今回の提案の中にもありますが,催告や公告をして,明示の反対がなければ承諾があったものとみなすというような規律を併せて設けることで対応すればいいと思います。 ○山野目部会長 ありがとうございます。少し前の佐久間幹事の御意見と同一の方向の多くの御意見を頂きました。   引き続き,いかがでしょうか。 ○藤野委員 ありがとうございます。この第2の2の論点に関しまして,経団連を通じていろいろな業界の御意見等も伺ったのですが,やはり今まで委員の先生方が述べられているのと大体同じような話になっております。調査や測量のために立ち入りができることは次の段階に進むための第一歩として非常に重要だという意見がある一方で,逆の立場になったときには,むやみに立ち入られては困るというのも当然ございますし,ましてや構造物の基礎を削られたり,境界標をいじられたりというところは困るという話も出ております。そういう観点から言いますと,既に他の委員のご意見の中にも出ておりますけれども,主体のところで絞るというのも一つございますし,あるいは適用される場面で絞るという考え方もあるかと思います。急迫という要件まで求めるかどうかというのはともかくとして,例えば,やむを得ない場合とか,何かそういった関係で一定の絞りが掛かれば,もう少しバランスがよくなるのではないかと考えているところです。また,立ち入ることができるという書き方にするか,それとも立入りの承諾を請求できるという書き方にするかというところの違いも出てくるのかなと思っております。   なお,実務上は,仮に権利として立ち入ることができるようになったとしても,隣地にどなたかがいらっしゃるのであれば,当然,トラブルを避けるために同意を取ってから入るというのが通常の感覚ですので,そういう観点から言うと,権利を設けたとしても,それが本当に使われる場面というのはどうしても限られてくる,という印象を持っております。 ○道垣内委員 遅れて参りまして,今までの議論を伺っていないので,もはや出た話なのかもしれないのですけれども,気になりますので発言させてください。③ですが,209条2項というのは,隣地の使用でございますので,使用したならば損害が生じるか,生じないかの二者択一なのだと思うのですが,この③の場合には原状回復というのは,いずれにせよ最低基準ではないかという気がするのです。議論があったのですね。すみません。 ○山野目部会長 いえ,その点を重視する御意見が複数あったと受け止めます。 ○道垣内委員 ありがとうございます。 ○山野目部会長 ほかに,いかがでしょうか。 ○水津幹事 ①については,土地の境界標等の調査等のために隣地へ立ち入る時間は短く,隣地所有者の権利利益に対する影響が小さいことから,隣地所有者の承諾は,不要であるとする提案がされています。この提案について,先ほど,賛成の御意見が示されました。  しかし,隣地使用権を定める209条は,土地の所有者が障壁の修繕をするために隣地を使用するときのように,隣人の権利利益に対する影響がそれほど大きくないと考えられるケースにも適用されます。同条は,そのようなケースも含め,隣地を使用するとき一般について,隣人の承諾が必要であるとしています。そうだとすると,上記の理由のみから,①について,隣地所有者の承諾は不要であるとすることを正当化するのは,難しいのではないでしょうか。16ページの下にあるように,①も,通常の隣地使用権の一種として位置付けた上で,209条の見直しの中で,まとめて議論する方向性も,考えられるような気がします。 ○山野目部会長 ありがとうございます。   ほかに,いかがでしょうか。   そうしましたら,2のところは御意見を承ったと扱わせていただきます。   感想を添えますと,構造物の基礎の部分を削るって,少し印象がどぎついですよね。蓑毛幹事がおっしゃいましたが,建物の土台をひっくり返すみたいなことを言っているものではなく,一番典型なものは,境界線とおぼしきところの上ないし近辺にあるブロック塀が,境界の中心線の上に立っているか,一方当事者の所有地にすっぽり含まれているかを明らかにするため,どうしてもブロック塀の下のところをうっすらと,ほんの少しですけれども,削ってみないと仕事が進まない場面があります。そのことを規範にしようとしているところが,こう書いてしまうと,何ですか,これは,ということになりかねません。あるいは掘ったり削ったりと率直に書きすぎているのかもしれなくて,そこの調査のために必要な作業をすることができるとか,民事の基本法制の規律としては,もう少し何か工夫をした表現の仕方があるかもしれません。今日,委員,幹事に御心配をおっしゃっていただいたことを受け止めた上で,更に考えを深めるということにいたします。   続きまして,3のところ,「土地の境界の確定のための協議」,この審議事項につきまして御意見を承ります。いかがでしょうか。 ○國吉委員 この境界の確定のための協議ということなのですけれども,これはそもそも,いわゆる土地の境界が明らかでないときに,やはりそれぞれの所有者が立ち会いをして共通認識を得るという作業の一つだと思っています。これをやらないとというか,この経緯を経ないと,当然ながら,一筆の土地なり自己の所有地の境界が,当たり前ですが,隣地等の所有者さんとの間で共有認識として残らない,つまり境界が明らかにならないということです。例えば,国有地,国有財産法の中では,協議に立ち会わせるというのですかね,立ち会ってもらうような手続があるのですけれども,特に民地と,民地の間については何らの規定がない。つまり,土地の所有者とすれば,お願い事をしなければいけないということが一番でして,これについても,ただ,お願いをして,承諾が得られない,協議に参加していただけないと,自己の所有地の売買ですとか,土地を利用した何か工作物の建て替え等もできないということで,不動産の流通に非常に大きな痛手となっているというのが現状でございます。ですので,できれば,この協議に参加していただくための何かの方策を作っていただければと思っております。 ○山野目部会長 國吉委員の御意見を受け止めた上で,もしアイデアがありましたら教えていただきたいですけれども,民法なら民法に置く規定のイメージとして,何かお考えがおありでしょうか。 ○國吉委員 基本的には,土地の所有権といいましょうか,土地を所有する一つの義務として,できれば,自分の土地の範囲であるとか,隣地との境界はここなのだということを,自らがやはり明らかにするというようなことを,義務付けると言うとおかしいのですけれども,それを定義していただく,そうすれば,お互い様ですけれども,今度,自分がお願いをする立場になったときには,おのずと協力が得られるというような形で,今まででは,自分のことではないのでということで立会いをしていただけないという場面が多かったのかなと思っていますので,国有財産法と同じように,立ち会い,協議に参加していただけない場合には,何かの手続をとって,その境界を確定できるような形をとれればいいのかなとは思っています。 ○山野目部会長 承りました。 ○道垣内委員 土地の境界が明らかでない場合というのは,どのような場合を意味しているのですか。つまり,「土地の境界が明らかではない」と隣の人に対して主張すれば,隣の人は話合いに応じなければいけないのでしょうか。明らかでないというのが客観的に定まっているというのが,よく分からなくて,隣の人が明らかでないと言えば明らかでないということになるのかというのが,ルールとしてよく分からなかったところなのですが。 ○山野目部会長 事務当局において,御説明はおありでしょうか。 ○大谷幹事 所有権の境界の場合には,恐らく所有者にとって境界が分からないという争いになっているという状況のことをいうのだろうとは考えて,書いております。ですので,片方が。 ○道垣内委員 片方が言えば,そういう状況だとされるのでしょうか。 ○大谷幹事 ということもあり得るのではないかと書いておりますが,もちろん普通は客観的な証拠があって,境界が分かることが多いと思われますけれども,そういう場合もあるのかなとは思っております。 ○山野目部会長 土地の境界が明らかでないことについて認識が一致しているか,あるいは,土地の境界について意見の齟齬がある場合ということを部会資料は言おうとしているもでありましょう。道垣内委員,お続けください。 ○道垣内委員 分からないままに放置されているというのは,イメージとしては分かるのです。ここの境界が本当は分からないよね,というときに,自分は売るつもりはないから,別に確定されなくても構わないと言っている人に対して,きちんとしましょうよというふうなので,請求権があるというのは分かるのです。しかし,何回でも,「いや,俺の土地はもっと広い」とか何とか文句を言えば,向こうは応じなければ,一定のサンクションが場合によっては掛かってくる。そうだとしますと,そのような制度はありうるのですかというのが私の印象です。 ○山野目部会長 ありがとうございます。一つ前の國吉委員の御発言に対して私からお尋ねを差し上げ,規律の具体的なイメージとしてどういうものが考えられますかというふうな御議論をお願いしたことは,その趣旨であります。果たして,境界が分からないときに,それは問題であって,一般論としてはなるべく協議をしてもらった方がよいに決まっていますけれども,民法などの法令に規定を置く仕方として,どのような賢明な在り方が考えられるかということを引き続き御議論いただければ有り難いと感じます。いかがでしょうか。 ○中村委員 ここの「土地の境界(所有権の境界)が明らかでない場合に」という,この前置きなのですけれども,境界が明らかでないということと所有権が明らかではないということの関係については,日弁連のワーキングでも問題になりました。所有権確認をするという場面と境界確定をするという場面とでは,また用いる方法が異なりますので,ここでは所有権の問題なのか境界の問題なのかというのを分けて考える必要があるのではないかという指摘がございました。   その上で,境界確定の協議をするということを求める権利を認めることについては,ほとんど反対がございませんでした。協議をするという必要性については理解できると,ただ,それに応じなかった場合のペナルティーが,先ほどの境界の問題なのか所有権の問題なのかということも関連しますけれども,それが権利の得喪に関わるようなペナルティーということになると,幾ら何でも行きすぎではないかという意見が多かったということを御報告したいと思います。 ○山野目部会長 ありがとうございます。御意見を承りました。   部会資料の趣旨,補足を差し上げますと,括弧して所有権の境界と書き添えている意味は,ここで問題にしているものは筆の範囲,すなわち筆界ではなくて所有権の境界の方を言うものですということを明らかにしようとして,この括弧書きを入れてございます。現在も民法の相隣関係の規定の中に境界という概念が何か所かに出てまいりますけれども,全て筆界ではなくて所有権の境界を意味しているものと理解されます。ここも従来の民法の規定の建付けと同様の観点からの規律の提案ですということをお話ししようとした趣旨であります。その上で今,中村委員から,弁護士会の意見の趨勢として御紹介いただいたところを承りました。 ○佐久間幹事 よく分からないということを申し上げようと思うのですが,国有財産法というものが「参考」に挙げられておりますよね。これは,国有財産である土地と民有地の境界が明らかでないときに協議を求めることができて,協議が成り立てばそれでいいし,協議が調わないときは何もできないというふうに,31条の3の4項ですか,行政としてできないと書いているので,協議が物別れに終わったら,もうそれまでですねということですよね,多分。訴訟をすることに後でなるのかもしれませんが,その上で31条の4で,協議ができないときに境界を決めてしまいますよという手続があるということだと思うのです。これを参考にというか,これと今の民=民の問題についての御提案を見ますと,協議を求めますというところは一緒ですし,調ったらそれでいいというのはもちろん同じなのですが,協議が調わなかったときと,協議をしたけれども物別れに終わったときについて,協議をしたけれども物別れに終わったというのは,恐らく何も決まっていないという状態で,ある意味では一緒だと思うのですが,協議ができなかったというときに,国有財産法では,実際は私はよく分かりませんが,ここに書いているのを見ると,相当慎重な手続を経て境界を決めましょうと,また異議も出せますよと31条の5に書いてあるのに,民=民の間では一気に,応じなかったら境界を決めますとか,あるいは決めないまでも相当の不利益がありますというのは,バランスを失するのではないかと感じました。   もし,国有財産法の31条の4,31条の5のようなものに相当する規定が,あるいは措置が設けられたとしたら,それはそれで意味のある制度だと思いますが,設けられなかったとしたら,最初の問題に戻るのかもしれませんけれども,確定のための協議を求めるということの実質的な意味は,呼び掛け以上の何物でもない,ただ,その呼び掛けについて法的な権利としてできるので,国民一般の受け止め方としては相当重いものになることを期待する、という程度のことになってしまわないのかなと思い,それでいいのかよく分からないということです。 ○山野目部会長 佐久間幹事に手際よく問題状況を整理していただいたとおり,国有財産法の規定を参考にして,ここでの規律の考案をしていくと申しましても,おのずと国有財産法は,申すまでもないことでありますが,行政庁の行う手順を定めているものでありまして,行政庁は自ら,又は関係行政庁との連絡調整の上で,行政自身がいろいろなことをできるという建付けになっておりますけれども,反面において,こちらでは民法に設けようとしている規定の検討でございますから,特定の主体が自分でいろいろなことをどんどんしていけるという規律まで含めて,そっくりそのまま参考にすることができるということはあり得ないものでありまして,そのように整理していった際には,結局は協議を求めることができるという部分が大いに参考になるとしても,参考になるところはそこまで止まりであるかもしれないとも感じられます。仮にそういうふうに整理されるとすれば,設けられようとしている規定は訓示的な効果を持つ規定として設けられるという性格が強くなってくるであろうと感じますけれども,それでいいのならそれで置くし,それに意味がないと考えるという意見もあろうし,その辺りのところを検討してほしいという方向での整理を頂いたものであると受け止めます。誠にごもっともな整理であると感じます。 ○山田委員 3の土地の境界の確定のための協議ですが,出口に,しっかりとした効果がないのならば,これから申し上げることは意味のないことになると思うのですが,もしこれが生き残ってある程度,形を持ってきた場合に考えていただきたいということです。それは,意味を持って残してほしいということを私が意見として持っているわけでも必ずしもないのですが,一言申し上げます。   先ほど少し出てきました不動産登記法の筆界特定との関係です。別の問題だということはよく分かりました。ただ,社会的な実態として重なることは往々にしてあるのではないかと思うのです。そうすると,この17ページから18ページの制度をしっかり,もし作るならば,筆界特定の手続と相互にどういう関係になるのか,もう最後まで,どこまで行ってもこれは別ですよということなのか,それとも,似たような調査をして似たような検討をすることもあると思うので,一方が他方を参照することがあるのかどうかということです。民法の問題としての土地の境界,所有権の境界ですね,所有権の境界の確定のための協議,又はそれに引き続く制度から出てきた成果を,そのままかどうかはいろいろあると思うのですが,筆界の特定の手続に何らかの形で参考にできるというようなことを考えるのが望ましいのではないかなと思います。そういうふうに考えているということを示すことによって,これは筆界の問題ではないのだということもはっきりすると思います。先ほど部会長が口頭で説明していただきましたが,補足説明をざっくり読むと,まあ違うのだろうなと思いながらも,どうなのだろうなという疑問も残って,今日,出席しましたので,それもはっきりするのではないかと思います。 ○山野目部会長 よく分かりました。ありがとうございます。   ほかに,いかがでしょうか。 ○藤野委員 ありがとうございます。こちらの方も,いろいろな企業の方から意見を聴いていると,ここもかなり意見が分かれるところで,必要だという意見もあれば,無理矢理立ち会わせても余り効果がないのではないかという意見もございます。関心がないから立ち会わないという場合であれば,境界画定協議に関する権利,義務を設けて,こういう形で意識してもらうということには意味があると思うのですが,逆に,何か隣の人が勝手に土地の境界が確定していないと言っているけれども,自分は別に確定しているからいいではないかと思っている,だから,協議にも立ち会いたくないというような場合に,どこまで無理矢理立ち会わせるかということになると,少し難しい問題になってくるのかなという印象もございます。   あと,少し意見として出ているのは,仮に境界画定協議請求権のようなものを設ける場合の細かい点,例えば費用負担のところですね,今部会資料に書かれている確定を求める,協議を求める方の方が負担するという考え方自体はいいと思うのですが,そこが法律に明確に書かれていないと,後々また余計な紛争が惹起される可能性があるので,もしこういう形で入れるのであれば,費用負担についても明確に条文に書いておいた方がいいのではないかと考えております。 ○山野目部会長 ありがとうございます。   ほかに,いかがでしょうか。今日のところは御意見を承ったと受け止めてよろしゅうございましょうか。   そうしましたならば,3で問題提起を差し上げている事項につきましては,山田委員から御指摘があったとおり,少なくとも社会的実態,又は社会意識としては,いかにこれが所有権の境界に関する規律であって,筆界に関わるものではないとしても,二つの問題処理は相当の場面において重複するものでありますから,それとの関係について改めて,次に部会資料をお出しするときには整理を試みたいと考えます。不動産登記法の中には,反対に,筆界特定の手続は所有権の境界の問題に容喙するものではないというふうに,むしろそちらの方向からのことを表現している規定もございまして,そのような側面も含め考えてまいらなければなりません。   加えて,山田委員御指摘のとおり,この二つの境界の概念をめぐる事象は相当程度重なりますけれども,局面によっては,筆界を決めることとは別に,所有権の境界について当事者がよく話し合ってください,ということを促さなければならない場面もございます。東日本大震災の際に福島県の須賀川で,地表面が不整形な変動をして,土地の境界が,ブロック塀が真ん中のところでずれてしまって,如何ともし難い状況になった事案がありました。その事案について,土地家屋調査士が筆界を認定して欲しいと求められましたが,筆界の認定のしようがないという取扱いがされています。あのような局面においては,筆界が定まったことからの事実上の推定として所有権の境界を明らかにするという,多くの場合において行われている手法が通用せず,当事者によく所有権の境界の今後の在り方を話し合ってください,ということを促すほかないという事態に立ち至ります。そのような局面で,訓示的な効果しかないとしても規定を置くことに意味があるとすれば,ありましょうし,しかし,それに限界があると考えれば,なお引き続き規律の創設の適否を考え込んでいかなければいけないものであろうとも感じます。   3のところについての御意見を承りました。   19ページ,4ですが,「隣地使用権の見直し」について御意見を伺います。取り分け21ページの(2)のところで太字で,隣地使用権の行使方法について,考えられる規律のイメージをお出ししておりますから,これを中心として御意見をおっしゃっていただければ有り難いと考えます。いかがでしょうか。 ○蓑毛幹事 今回提案されている部会資料19ページの隣地使用権の見直しの方向について,基本的に賛成いたします。ただし,まず20ページの2の隣地使用権の拡張ですけれども,一定の拡張は必要だと思うのですが,無制限に広げるということではなくて,類型的に隣地を使用する必要性が高いものを,例示する。例えば,ここで挙げられている導管設置のために隣地を使用することが必要な場合などはこれに当たると思いますが,そのようなものを例示した上で行うのがいいと思います。20ページにある樹木の植樹や庭石を移設することまで認めるのは,広すぎると考えます。   それから,部会資料21ページの隣地使用権の行使方法ですが,現在の判例実務が,隣地使用権について,形成権説に立つのか請求権説に立つのかが必ずしも明らかでなく,その関係もあり,日弁連のワーキングでも議論されたのですが,仮処分の主文がどうなるかが裁判所によって違い,やや混乱しているところもあると思います。したがって,権利の性質,すなわち本案訴訟になったらどのような主文になるのかということを明確にした方が実務上望ましいと思います。ここで提案されているのは,請求権説,すなわち承諾を請求することができるという権利だと整理した上で,所有者不明土地問題については,(注2)にあるように,催告できないときには公告をすることで対応するものと理解しました。このような形でバランスをとって規律を設けるのがいいと思います。   ただし,これは前回も申し上げたのですが,隣人が不在で共有者多数の状態になっている場合に,どのように承諾を擬制するのか,過半数で足りるのかとか,共有者のうちの一部が明示的に反対している場合でもいいのかとかいったことについては,なお慎重に検討する必要があると思います。 ○山野目部会長 御意見を頂きました。   引き続きお伺いします。いかがでしょうか。   藤野委員,どうぞ。 ○藤野委員 ありがとうございます。209条ですけれども,先ほど蓑毛先生がおっしゃったのと同様で,基本的な考え方としては賛成する,という意見が多くの業界から出ております。また,ある程度類型化した上で認める,ということであれば,部会資料に例として挙げられている給水管のようなライフラインに関しては,確実に入るような形にしていただくのが良いと考えております。それ以上,どこまで広げるかというところは,いろいろな意見があると思いますが,やはりまず必要なのは,ライフライン的なものに関する隣地使用権である,というところだけ現時点では申し上げておきたいと思います。 ○山野目部会長 ありがとうございます。   ほかに,いかがでしょうか。   よろしいでしょうか。それでは,隣地使用権の見直しについて,蓑毛幹事,藤野委員から頂いた御注意を踏まえ,考え方の整理を続けることにいたします。   部会資料7の最後になります。22ページですが,第3として,そのほかに相隣関係に係る事項について見直すべき点がありましたならば,御提案を頂いておきたいという趣旨でのお尋ねであります。いかがでしょうか。   特段,今日の段階で相隣関係についての追加的な御意見,御提案等はおありではありませんか。そうしましたら,また,別にこれで締切というものではありませんから,現在の相隣関係規定の運用について問題点としてお気付きになったことは,随時,事務当局の方にお寄せいただくように望みます。   部会資料7について,前回と今回にまたがって審議をお願いしましたけれども,この段階での審議はここまでといたします。   続きまして,審議事項を改めます。「不動産登記制度の見直し(1)」を審議事項といたします。   部会資料8でその内容の用意を致しました。最初に,部会資料8の第1及び第2の1(1)のところまで,事務当局から説明を差し上げます。 ○有本関係官 では,お手元に部会資料8「不動産登記制度の見直し(1)」を御準備ください。   不動産登記制度の見直しにつきましては,今回及び次回の2回に分けて検討させていただく予定としておりまして,1ページ目の冒頭に,次回の分も含めた全体の目次を記載しております。今回は,このうち第1及び第2の相続登記に関するものまでを扱いまして,次回,7月30日の審議会におきましては,第3の相続以外の登記原因による場合,第4の登記名義人の氏名又は名称及び住所の変更の場合,第5のその他の不動産登記制度の改善に関する検討として,幅広い関連論点を扱う予定でございます。   それでは,順次御説明させていただきます。まず,資料の1ページ,「第1 所有者不明土地問題における不動産登記制度の問題状況」についてでございます。   ここでは,所有者不明土地問題における不動産登記制度の問題点を概観しております。既に以前の部会資料でも御紹介しておりますが,国交省の地籍調査における調査結果を参考にしますと,相続登記がされないことが所有者不明土地が発生する最も大きな原因となっておりまして,次いで,氏名又は名称及び住所を変更しても,その旨の登記がされないことが原因となっていることが分かります。そこで,相続登記については資料の第2において取り上げまして,氏名又は名称及び住所の変更については,次回取り扱う第4において検討することとしております。また,売買等による所有権の移転の登記がされないことは,それほど大きな原因となっているわけではないということが分かりますが,第2において相続登記の義務化等を検討することとしますと,相続以外の原因による場合の申請について義務化する必要があるのか,また,仮に義務化をしたとしても,相続と同じほどのものにする必要はないといったような考え方もあり得ますので,それらの論点については,次回の第3において検討することとしております。そのほか,特殊な土地として表題部所有者不明土地がありますけれども,こちらは第3回において御報告させていただきました,表題部所有者不明土地の登記及び管理の適正化に関する法律において,まず講ずべき措置について手当てがされているところでございます。   なお,所有者不明土地問題への対策として効力要件主義を採用すべきとの意見もございます。これに対しては,その実益に乏しく,採用すべきでないなどの反論もされているところですので,その採否に関して検討すべき課題はあるかということで,こちらは資料の2ページ目に(注)として記載させていただいておりますので,御意見を頂戴できればと存じます。   続きまして,資料の2ページ,第2では「相続の発生を登記に反映させるための仕組み」について,大きく分けまして,1の相続登記の申請人となるべき者に登記申請をしていただくために,これを促すための方策の検討と,18ページ以降の2のところで,申請がなくとも,例えば登記所において情報を更新する施策がないかという観点からの検討の二つに分けまして,議論をお願いしたいと考えております。   1の中でも,申請人から自発的に相続登記をしてもらう方向性としまして,まずは相続登記手続における負担を軽減する方策を講ずることが重要です。その上で相続登記の申請を義務付けることについて,その効果も含めて検討をしていくという順序で検討課題を整理しております。   第2の1(1)アでは,まず,相続登記の申請の際に添付しなければならない情報に関する負担軽減として,どのようなものが考えられるかを検討しております。相続登記の申請をするためには,戸籍謄本等の添付書面を手間あるいは費用を掛けて収集することとなります。これらの収集については現在でも様々な施策が講じられてきておりまして,一定程度の負担軽減が図られているものがありますが,更に負担軽減を図っていくことができるかどうかということは,例えば,今般の戸籍法改正により今後整備される予定の戸籍副本データ管理システム等の今後の整備状況等を見つつ,検討していく必要があるものと考えられます。資料に御紹介した方策以外に負担軽減を図る方策がないかどうか,幅広く御意見を賜りたいと存じます。   続きまして,資料の6ページ,「イ 共同申請主義の例外の新設」についてでございます。現在の不動産登記法及び登記実務におきましては,法定相続分での相続登記がされないまま,直接遺産分割や特定財産承継遺言,相続放棄の結果に基づいて登記を行う場合には,不動産登記法第63条第2項に基づきまして,登記権利者が単独で申請することができるものとされております。しかし,一旦法定相続分での相続登記がされた後に,改めて遺産分割や特定財産承継遺言,相続放棄の結果に基づいて登記を行う場合には,登記権利者と登記義務者の共同申請によりしなければならないこととされております。現状の件数として,法定相続分での相続登記はそれほどされているものではございませんが,相続登記の申請の義務化の内容によりましては,法定相続分での相続登記がされることが大幅に増えるということも想定されます。そこで,遺産分割について更正の登記によってすることとした上で,遺産分割の登記は単独申請によりすることができるものとするなど,所有者不明土地問題への対策という政策的な観点も考慮しまして,単独申請が可能な局面を増やしてはどうかとの提案をしております。他方で,遺贈の場合につきましては,実際上の弊害の懸念がありますほか,必ずしもここの(ア)から(ウ)のような相続の性質を有するものと同一であるとはいえない面もありますことから,そういったことも考慮しまして,共同申請によるものとする現行の規律を維持してはどうかとの提案をしております。それぞれの場合についてどのように考えるか,御議論いただければと考えております。   続きまして,資料10ページ,「ウ その他の軽減策」についてでございます。今までのア及びイにおきましては,添付書面の収集,提出という負担や共同申請という手続的な負担を軽減する方策について検討してまいりましたが,そのほかにも相続登記における負担を軽減する方策として考えられるアイデアがないか,ここも幅広く御意見を賜りたく存じます。   第1及び第2の1(1)に関する御説明は以上でございます。 ○山野目部会長 部会資料8の最初の部分について説明を差し上げました。これを踏まえ,まずは部会資料8の第1の部分,「所有者不明土地問題における不動産登記制度の問題状況」の部分について,御意見をお尋ねいたします。ここのところは,やや抽象的な部分でありますけれども,第2から後の検討に入るに当たって,このような事実認識,問題の把握でアプローチしていくことでよろしいかという総論的な観点について,お気付きのことがあれば御意見を承りたいと考えますとともに,2ページの下の方の注記におきましては,現在,民法177条が定めている不動産登記のいわゆる対抗要件主義を見直すことの適否等についても,個別の論点にはなりますけれども,若干の問題提起を差し上げているところでございまして,これについても御意見がありますれば承りたいと考えます。いかがでしょうか。 ○今川委員 今川です。ここに書いてあります基本的な認識のところは我々も承知しております。相続登記をされていないということが所有者不明土地,すなわち,登記簿上から所有者が直ちに判明しないことの大きな原因の一つであるということは,承知しております。そして,相続登記の申請を促すための方策が必要だということと,相続登記の申請がなくとも,取り得る方策も考えるべきだという基本的な考え方は,我々も認めるものであります。   効力要件化について,相続による物権変動について登記を効力要件とするということについては消極であります。相続財産には預貯金等の不動産以外の財産も普通は含まれているわけでして,不動産のみを登記することによって相続の効力が発生するということの説明は非常に難しいと思います。一方で,意思表示による物権変動については,登記を効力の発生要件とするということについては検討の余地があると思います。ただ,今,日本の制度にそれを取り入れるとなると,根本的な問題に及びますので,これは慎重に議論をしていかなければならないと思います。それと,意思表示による物権変動について,登記を効力要件としていないことから不都合が生じているというような事情は見当たらないと考えております。 ○山野目部会長 御意見を頂きました。   次はいかがでしょうか。   第1のところは大体このような認識で,第2から後の検討に入るということでよろしゅうございますか。   それでは,第2の方に進むことにいたしまして,初めに「第2 相続の発生を登記に反映させるための仕組み」のうちの「1 相続登記の申請人となるべき者からの登記申請を促すための方策」のうち(1)のアの部分,登記申請の負担の軽減の方策の一つとしての,添付情報の提供に関する負担の軽減,このアの部分について御意見を承ります。いかがでしょうか。 ○蓑毛幹事 これは質問というか,もし可能であれば説明をしていただければと思うことが一つあります。部会資料の4ページの終わりから5ページにかけて,現行の戸籍副本データ管理システムを拡張,発展させた新たなシステムということが書かれています。このことに関して,今年の5月24日に戸籍法が改正されて,今後,法務省で管理している戸籍副本データ管理システムを拡張,発展させ,今後5年間程度掛けて新たなシステムを作るということを法務省のホームページで見ております。その内容としては,戸籍のデータから,親子関係や配偶者関係が判定できるようなシステムになるということが書かれています。戸籍情報をどの範囲でデータとして取り込むかにもよると思うのですが,いつ誰と誰が結婚をして,いつ誰と誰との間に親子関係が生じ,いつ誰が亡くなったかという情報のデータベースができるのであれば,適切なプログラムを組めば,ある人が亡くなったときに,その人の法定相続人が誰であるかは分かるのではないかと思うのです。そこで,現時点で分かる範囲で,このシステムの概要や,どのような情報を取り込んで,どのようなことができるようになる見込みなのか,また,各市区町村にある戸籍の情報は,外字がたくさん使われていますが,今回の新システムを作るに当たっては外字をどのように処理していくのかなどについて,担当している部署はこのチームとは違うのかもしれませんが,分かる範囲で御説明いただければと思います。 ○村松幹事 今,蓑毛先生におっしゃっていただいたように,私も戸籍の関係の直接の担当ではありませんので,多少もしかしたら不正確な部分を含んでいるかもしれませんが,事前に,皆さんも御興味,御関心があると思いまして,その辺りを聞いてまいりましたので,御報告させていただきたいと思います。  まず,今御紹介いただきましたように,新しく成立した戸籍法の改正法がございますので,これに基づいて新しいシステムを稼働させるということで,5年後の施行に向けて,正にこれからシステムの開発なんかを行っていくことになっております。やりたいこと,もちろん幾つもあるわけですけれども,今御質問を受けた関係で参りますと,正にマイナンバーとの連携の結果,年金等の申請をする場合に,戸籍の方に情報を確認しに行くということができるようにひも付けの作業が行われる。その結果,戸籍の方に確認に行きますと,その情報が年金の方で取得できますと,こういうものだと理解しております。   例えば,どういう情報を取得できるようにするのかというところですけれども,基本的には親子,それから夫婦,そういう情報,あと,死亡しているかどうかという情報,こういった情報を整理整頓した形にして戸籍の方で保存しておきまして,それを照会可能な状態にしておいて,照会していただくというようなことを想定していると聞いています。そういうことですので,親子と夫婦,それから死亡と,この関係については,その情報の整理整頓という作業を,これは戸籍の方の中で,そういう意味では行われるということになるようですけれども,基本的には運用の開始時点,5年後になりますが,その運用の開始時点で,未成年の子とその親の関係に関する情報をまずは作らなくてはいけないというのが想定されておりますので,それに向けての必要な作業を行っていくというようなことで理解されているということになります。   そうしますと,戸籍の情報は,完全にテキストデータ化されているものも,そうでないものもあります。そうでないものについては画像データの状況になっていますので,これを適宜,きれいなテキストデータの形に編集していって,それをまた,先ほど申し上げた整理整頓の対象にしていくと,こういう作業をしていくことになるのですけれども,今申し上げましたように,まずはこの範囲というのがございますので,そこに向けて5年後に向けて,そういった作業を着実に実施していきながら,システムはシステムで作り込んでいくというようなことを考えているということのようです。   そうしますと,5年後には,その時点での未成年の子と親御さんの関係の情報が取れるようなことに向けた,その作業をしていくわけですけれども,その先もそういった作業を継続していけば,親子あるいは夫婦という情報が,もう少し整理整頓されていくのが広がっていきますので,そういった情報が使えるようになる範囲というのは,未来においては,もちろんどんどん広がっていく可能性はあるというところにはなりますけれども,差し当たり現状,目標にしているのはそういったところで,5年後をめどにやっているというところになるということで聞いております。 ○山野目部会長 蓑毛幹事,お続けください。 ○蓑毛幹事 戸籍の新システムを,どのように国や法務省が作っていくのか,細かな進め方はよく分かりませんが,今お話を伺った限りでは,戸籍にある親子の情報,夫婦の情報,つまり,いつ婚姻したのか,婚姻を解消したのかという関係,また死亡の情報,これが時系列,いつという情報も含めて,戸籍の新システムでデータベース化されるのであれば,そのデータをきちんとプログラムで処理をすれば,親子関係や配偶者関係だけではなく,法定相続人が誰かという情報も得られるのではないかと思います。ですので,せっかく多額の予算を掛けて新しいシステムを作るのであれば,法定相続人が誰かということも分かるようなプログラムを組むことを念頭に,システムを作ることができないのかなと思いました。 ○村松幹事 頂いた御意見については,担当部局の方に伝えたいと思いますけれども,今目標としているところをまず第一に進めていって,その先の課題として,またどういうふうに認識していくのかというところかと思いますので,そのように伝えたいと思います。 ○畑幹事 私,自分の専門に近くはないのですが,この戸籍法の改正の準備作業をした法制審議会の部会に入っておりましたので,おぼろげな記憶を若干申し上げますと,審議の過程でも大分我々も混乱したのですが,マイナンバーを通じた連携というものと,それから,戸籍事務内の連携というものが2種類,別のものとしてありまして,マイナンバーを通じた連携というものについては,結構厳しいルールがあって,いわゆる個人情報はそのルートでは流さないということでした。そのルートだと,実は相続関係を処理するのはかなり難しい。なぜかというと,誰と誰との間に夫婦関係があるとか,誰と誰との間に親子関係があるというのは,そのルートで確認しやすいのですが,相続の局面で必要になるのは法定相続人の範囲を明らかにすることで,そのためには、ほかにはいないと,ほかに子供がいないとかそういうことを確認する必要があり,それはマイナンバーを通じたルートではなかなか難しいのではないかという話だったと思います。他方,戸籍事務の中では,戸籍になっているデータのバックアップというか副本データシステムというものが存在するわけですが,これを本籍地の市町村だけではなくて,ほかの全国の市町村から,必要な範囲でということですが,読みに行けるということになり,それに伴って,今日も出てきておりますが,全国の市町村で従来,本籍地に請求しなければならなかった謄本の類いを取ることができることになるので,将来的には、1か所に行けば,従来相続関係を処理するのに必要だった戸籍のデータを得ることができるという,何というか,二本立てになっていてという,少し複雑な状況だったと記憶しております。   それから,文字の処理というのは,これは大問題だとその部会でも話をしていて,あるいは村松幹事からも補足いただけるかと思いますが,結局,今,各市町村に存在する外字を全部採用することは物理的に不可能だということで,ある程度絞った形で文字セットのようなものを作り,そこに当てはめて処理するというような話で,現在、その作業が進められているのではないかと思っております。 ○村松幹事 今,畑先生から御紹介いただきましたように,マイナンバーの関連での改正事項というのと,それから,戸籍に関する市町村間での連携の改正とは別の事項というのは,正におっしゃるとおりでございます。恐らく,マイナンバーの関係については,今御紹介がありましたように,結局,対象となるものが親子と夫婦しかないという関係がありますので,これをもっと大幅にこういった,整理整頓する作業を増やしていかないことには,法定相続人の確認にそのまま使えるわけではないので,これをもっと,本当に広げていかないと難しいということにはなるのかなと思っております。  そういった整理整頓作業を行わない状態で,確かにデータを,今,画像データなどで保管されているものがありますけれども,それを見に行くことも可能にするという手はずは考えられまして,ある意味,バックヤード連携のようなことを,戸籍と,それから登記側で行うということは,これは物理的には可能になり得るのだろうと思うのです。ただ,そうなっていきますと,今度はその登記の方で見に行く負担というのはかなり大きくなってきます。つまり,整理整頓されていない状態のものをいちいち追っていく作業をやるというのはなかなか,登記側にしますと負担が大きいので,もう少し,何といいますか,戸籍の方で見やすい形でのデータ整理がされているのであれば,そういったものを見に行くことは将来的にはあり得るのではないかと思われるのですけれども,正に後半御紹介いただいたような,今の戸籍そのままの状態のものを見に行くといった形になると,負担が大きいのではないかということを部会資料でも少し触れさせていただいておりますけれども,そういった問題状況なのかなと理解をしているところでございます。   また,文字の問題については御紹介のとおりだと認識しておりまして,これはもちろん戸籍だけではなくて不動産登記の方にも若干ある問題なのですけれども,その処理については,こういった作業の中で考えていく必要があるとは認識しております。 ○今川委員 今川です。3ページの補足説明の1の第2,第3段落目,これは添付情報の提供に関する負担の軽減という項目なのですけれども,様々な負担を伴うことから相続登記がされにくくなっていると書かれていて,そして,後半に,戸籍データシステムとか,戸籍のデータの連携という話が書いてあるので,今よりもずっと楽に戸籍データを登記官が確認できるような世界が来るというふうに多分,見えるのだろうと思うのですけれども,今お話を聞いていると,遠い将来において,ボタン一つで相続関係が瞬時に分かるという世界は,それは来る可能性はあるとは思いますけれども,現在においては戸籍データを見て確認するといっても,結局は戸籍の謄本を紙で見るのと同じ世界でして,1個1個データを持ってきて登記官が見るということですから,手間はすごくかるので,それを登記官が全てやってしまうという世界は現時点では想像できないのかなと。年間100万件近く相続登記があるわけですから,それは,すぐにはそういう世界には行かないのではないかなと思います。   それと,様々な負担を伴うので登記がされにくくなっているという点について,全く否定するわけではありませんが,これ以上,添付情報の負担を下げるというのは無理なのではないのかという気はします。添付情報収集というと,この場合は戸籍の収集が主になってくると思うのですけれども,相続人の範囲を画する上で,実体上の判断が必要な場合もありますし,戸籍情報の読み込み等で専門的な知識や経験が必要な場合もありますので,若干負担があるというのは,ある意味,当たり前のことであって,ほかの手続においてもある程度の負担はあるのではないかと思います。ただ,それでも,普通は手続を行うのだけれども,なぜ登記手続をしないのかというところを常に考えていかなければいけないのではないのかと思っております。相続人の事情,つまり,登記をしないでも占有利用に支障を来さないので,登記しないことのデメリットを感じないとか,不動産の価値が低くて利用のニーズがなくて流通に乗らないから,登記をするメリットを感じないとか,登記をしたいけれども遺産分割協議がなかなか調わないのでできないというような事情は常に考えながら,この課題について議論していくべきと思っております。当然それは考えられているとは思うのですけれども,あえてその部分だけ言わせていただきました。 ○平川委員 「相続登記の申請人となるべき者からの登記申請を促すための方策」の「登記申請の負担の軽減」で,教えていただきたいことがありますので,質問という形で発言したいと思います。部会資料8の3ページ,相続登記自体に必要となる登録免許税の税率ですけれども,不動産価格の1000分の4となっておりますが,この根拠を教えていただきたいと思います。1000分の4は,結構な高さの税率ではないかと思いますが,これが本当に適切なのでしょうか。それから4ページ,司法書士の方に依頼した場合の報酬ですけれども,「一般的に6万5000円程度」となっております。これも実際問題,答えにくいとは思いますけれども,適切な水準なのでしょうか。これらは,事実として書いてあり,この場で検討することではないと思いますけれども,どういう状況なのかを教えていただきたいと思います。 ○山野目部会長 1000分の4も6万5000円も,お尋ねになっていることは実質的根拠の方ですよね。1000分の4は法令上,根拠がありますし,6万5000円はデータ上の根拠がありますけれども,なぜこういう金額になるかをもう少し聞きたいというお話でありましょう。 ○平川委員 はい。 ○山野目部会長 1000分の4は,村松幹事にお願いします。 ○村松幹事 なかなか御説明が難しいところですけれども,1000分の4という割合ではありますが,他の所有権移転の登記に比べると低くはなっておりますので,恐らく一定,配慮はされた結果なのかなということではあろうかと思います。また,相続登記の促進ということで,後ろの方の資料に出てまいりますけれども,現在,時限的に登録免許税の軽減措置というのが作られていますので,それが今回の改正の中で,では,どうなのかといったところは,恐らくまた皆さんから御意見があり得るのかなと認識しております。報酬の面に関しては,もちろん適切なものと,当事者間でしっかり合意されているものですので,適切なのだろうと認識しております。 ○山野目部会長 1000分の4は,これでも安くなっているものであって,御存じだと思いますが,普通は1000分の20ですから,見方によっては相続登記をしてもらいたいという気持ちも込めて,パーセンテージ・ダウンしている気分があるかもしれませんが,平川委員の実感は理解して,受け止めます。   6万5000円の方について,今川委員にお尋ねをしようと思いますが,なかなか答えにくいかもしれません。御案内を差し上げると,昔は司法書士会の会則にこの報酬のことが記されてありましたが,今はそれがなくなり,簡単に言うと,どのような金額を収受してもかまいません。6万5000円というものは,統計上そういうものが,注記で示していて,ありますよということにとどまり,現実に会う司法書士は,これより高く受け取る人もいれば,安く受け取る人もいるということが理論的には言えるものであろうと想像しますけれども,その上で今川委員から何かコメントが頂けるのであれば伺っておきたいと考えます。 ○今川委員 私個人としては,幾らぐらいかというのはお話はしやすいのですが,これはアンケートの結果の平均値であるということです。このアンケートを御覧になればお分かりだと思いますが,地域によって分けておりまして,地域によって,これよりも低い地域もあれば,これよりも少し高い地域もあるという中で,大体平均これぐらいということで書かれた数値だと思います。そして多分,添付書面を全部司法書士に収集を任せ,それから,原因証明情報案の作成についても全て任せ,それに署名をする場面についても司法書士が立ち会ったり,アドバイスや確認をしながら,相続人全員にお会いして署名をもらっていく,そして,登記申請の代理も行うという,司法書士がマックスで事務を行った場合の金額であろうと思います。例えば,相続人の方が一部の添付情報,戸籍情報をそろえているとか,原因証明情報をもう自分で作ってきているというような場合は,金額が下がってくるのだろうと思います。そういう数字であると御理解を頂ければと思います。 ○山野目部会長 平川委員,お続けになることはおありですか。よろしいですか。 ○平川委員 特にありません。 ○山野目部会長 ありがとうございます。   ほかに,いかがでしょうか。 ○道垣内委員 これから申し上げることは,私の個人的な立場あるいは意見とは違います。私はマイナンバーを用いて,いろいろなこと,例えば親子関係も含めて様々なことが分かるという制度は,それでよいと思いますし,戸籍をそういうふうにするということにも反対ではありません。ただ,私が気になるのは,蓑毛さんが,もっとやったらいいのではないかと言われると,日弁連というのはどういう組織なのだろうというのがどうも気になるのです。戸籍法の改正のときには,例えば,戸籍とマイナンバーを連携させてはいけない,それはプライバシーの侵害につながりやすくて,一度にいろいろな情報が集められるようにしてはいけないのだという機関決定ないし会長声明を出し,他方で,どうしてこの場面になると,いろいろな情報が集められるとよいと弁護士の皆さんが,バックアップの委員会で一致されるのかというのが私には見えにくいところがありまして,そこら辺の関係を少しお教えいただければと思う次第です。 ○蓑毛幹事 申し訳ない。私の発言が少し誤解を招いているようですので,先ほどの発言について,少し補足・修正します。私が先ほど申し上げたのは,戸籍の新システムの側で情報を適切に整理整頓し、もっと活用できるものにしたらいかがかということであって,マイナンバーとの連携について申し上げた訳ではありません。ただし,この問題に関しては,おっしゃるとおり,マイナンバーが関わる可能性があると私も思います。今回の部会資料では,マイナンバーとの関係や具体的な方法には触れずに,登記所が戸籍等の様々な情報を収集するということが書かれていますので,どのような方法で収集するのかをお聞きしたい,明らかにして頂きたいというのが真意です。そして,おっしゃるとおり,日弁連は,マイナンバーに関連する事柄については非常に消極的な意見を持っておりますので,仮に,この部会で,戸籍と不動産の情報を連携させる方法としてそのような提案がされるのであれば,その部分については相当程度,慎重な意見を申し上げることになる可能性が高いと思っています。ただし,所有者不明土地問題というのは非常に大きな問題ですので,この問題をどのように解決するかを検討するに当たり,幹事の私も,日弁連も,戸籍と不動産登記の情報連携についてどのような方法であれば許されるかを考えていかなければいけないと思っていますので,あえてお聞きした次第です。   私の発言が,弁護士会を代表する立場で,マイナンバーによる情報連携を勧めていると捉えられたとすれば,それは誤解であり,私の発言はそのような趣旨ではありません。私としては,戸籍と不動産登記の情報連携がどのような問題をはらんでいるかを検討するため,この部会でこの問題について具体的な提案がされるのであれば,早い段階で,問題の所在がきちんと分かる形で提示していただきたいと思います。 ○山野目部会長 道垣内委員,よろしいですか。 ○道垣内委員 もちろんです。 ○山野目部会長 引き続き,いかがでしょうか。 ○松尾幹事 余り法的な発言ではないかもしれませんけれども,相続登記を促す方法ということで,一つは負担の軽減ということ,それから,もう一方では義務化という2方向から検討しようという全体の流れだと思うのですけれども,相続登記を促す方法を考えるときに,今,相続登記があまりされない理由は何なのか,何がハードルなのかということについて,やはり十分認識する必要があると考えます。今議論されている中では,費用が高いのかとか,あるいは,登記しても,土地の値段が下がっているし,負担も大きいので,メリットがないとか,そういう理由もあると思います。しかし,やはり,不動産を相続したときは登記がとても重要であること,相続登記するときに,一体どんな書類を集めて,どこに持って行けばいいのかということ,そういうこと自体についての知識や準備が,一般的というほどには,やはりまだ普及していないということも,一つの原因なのではないかと思います。実際,相続が起こったときに,精神的動揺を抱えたまま,さて何をどうすべきかに戸惑う状況の中で,一から準備を始めるというのは,ストレスが大きいかも知れません。相続が生じる以前に,相続というのは多くの人にとっていずれ起こることなので,それが起こったときには,不動産については,どういう書類をどこで集めて,どこに持って行くということが,もう少し普通に分かる状況になっているというのがよいと思います。たしかに,登記所や司法書士に聞きさえすれば,懇切丁寧に教えてくれる仕組みが整っています。しかし,問題はその前にもあるように思います。何が相続登記へのハードルなのかを考えたときに,気に掛かる要因として,誰に相談すればいいかとか,登記所ではどんなことを教えてくれるか,そもそも登記所はどこにあるかということも含めて,最初のアクションを起こすきっかけとなるような,一般的に知識を普及する手立てがあるかどうか,そういうことも少し考えてみる余地はあるのかなと感じた次第です。 ○山野目部会長 ありがとうございます。   ほかに,いかがでしょうか。添付情報に関する負担の軽減について,御意見を承ったと考えてよろしゅうございますか。   それでは,ここのところについては,ただいま委員,幹事から御議論いただきましたとおり,一方におきましては,取り分け戸籍を中心とするシステム,それと登記手続をどういうふうに連携させるかということについての実地の作業の進捗をにらまなければならない側面がございます。今後とも村松幹事初め事務当局から,そちらの方について進展があったときには部会の方に御紹介を差し上げるようにいたします。   もう1点は,添付情報の中身,その在り方についても,今川委員からその観点からの本質的な問題提起も頂いたところでありまして,本日この後に御議論いただく審議事項とも関連させながら,その理論的な側面も検討していかなければならないと考えます。   アについての検討を本日はここまでといたします。   ここで休憩を設けることにいたします。           (休     憩) ○山野目部会長 再開いたします。   部会資料8の,既に説明は差し上げている部分でありますけれども,第2の1(1)「イ 共同申請主義の例外の新設」,部会資料のページで言いますと6ページに太字の部分を掲げている審議事項でございます。ここの共同申請主義の例外の新設の点について御意見を承ります。いかがでしょうか。 ○岩崎幹事 東京法務局の民事行政部長の岩崎でございます。よろしくお願いします。   登記制度の運用を実際に担当している立場で,この問題について協議をしました。意見というか,お願いに近いところはあるんですけれども,登記官が所有権移転等の権利の登記の申請を審査する際には,形式的審査権の範囲の中で登記の真正性,正しいだろうということを確認しています。その真正性の確認においては,この共同申請による,要は共同申請主義というのは非常に重要になってきております。ですので,例外として単独申請が認められるのは,それがなくても真正性が担保できる場合に限られていると思っております。   ですので,ここで共同申請主義の例外を検討するに当たりまして,解釈によってそれが広がることがないように,法令上の手当てをしっかりとしていただきたいということをお願いしたいと思います。 ○今川委員 一旦,法定相続分での相続登記がされた後に,遺産分割が行われた場合の登記手続ということですけれども,これを当該不動産を取得した者の単独申請とすることについては,我々としては賛成であります。法定相続分での登記を経ないで遺産分割によって相続の登記を直接申請する,つまり,一本で申請するという場合は,元々単独申請でできたものであるからということが1点です。   それから,分割協議が若干難航している場合などは,一旦,法定相続分での登記を入れておくことがあります。そして,その後,成立した遺産分割協議に基づいて登記を申請する場合があります。そういう場合に,当該不動産を相続した者と,相続しなかった者との共同で申請しなければならないとなると,良好な関係でない者に申請の協力を仰ぐことになりますので,それが負担になる場合もあります。ですから,単独申請することができれば負担軽減にはつながると思います。  先ほど岩崎さんがおっしゃった真正担保の問題ですけれども,遺産分割協議があったことの証明の程度は,この場合も劣るわけではないので,真実性の担保については,問題はないと思います。それと,更正の登記によるものとすることについてですけれど,現行ですと,法定相続分での登記とその後の遺産分割による登記とでダブルで,1000分の4の登録免許税が課されることになるのを,この負担を軽減するために更正登記として登録免許税を不動産1個につき1000円とするという意味でもあると理解をしたんですけれども,この更正登記で不動産1個1000円というのはちょっと注意が必要で,山林や田畑などの評価が低い土地については,1000分の4の税率がダブルで課されても,実は,免許税はそれほど高くならない。ただ,山林,田畑を何十筆も持っておられる方がいますので,そのような方に1個1000円だと,実は何万円にもなってしまうので,そこは申請1件について幾らというような工夫も要ると思います。   それから,登記原因を錯誤とするということですが,そこについても意見を言わせていただきたいんですが,分割協議の効果は相続開始のときに遡りますので,不動産の所有権を取得しなかった相続人は,結果的には当初から権利を取得していなかったことになりますので,法定相続分による登記を訂正するという意味で更正登記で行われることは,それはよろしいと思いますが,遺産分割協議の効果が相続開始時に遡って,結果的に実体と合わない登記となるとしても,法定相続分による登記自体は申請の時点では誤っていたわけではないので,登記原因を錯誤とするには違和感がありまして,現行と同じように年月日遺産分割とすべき思います。   同様に,特定財産承継遺言があった場合も同じように単独申請でよろしいと思います。   それから,法定相続分での相続登記がされた後に相続放棄があった場合の更正登記として単独申請をするということも賛成です。ただ,遺贈を原因とする登記の場合は,補足説明に記載されているとおり,現行の規律を維持をすべきというふうに考えております。 ○中村委員 ありがとうございます。   まず,手続上の負担を軽減して登記申請を促したいという要請は理解できるところですけれども,先ほど岩崎幹事からもお話がありました,共同申請の原則を採ることによって,その登記義務者を関わらせることで,その登記の真正を確保してきたという大事な前提がございますので,それをしっかり押さえた上で,ここで挙がっている(ア)から(エ)というのはそれぞれ状況が異なりますので,それをどう見るかというところでいろいろな意見がございました。   (ア)の遺産分割につきましては,共同相続登記がなされた後に遺産分割協議が成立したということを前提とすれば,法定相続人全員が関与して遺産分割協議に関わったということですので,これに基づいて登記がされるということについても一定程度の了解が得られているはずですから,この場面においては単独申請も,あるいはあり得るかと思うのですが,(イ)から(エ)につきましてはもう少し考える必要があり,まず,特定承継遺言の(イ)と,遺贈の場合の(エ)については様々な意見が日弁連のワーキングでも出まして,これは遺産分割方法の指定なのか,それとも遺贈なのかという観点よりも,公正証書遺言であるか自筆証書遺言であるかで分けてはどうか,つまり,公証人の関与があって,被相続人の意思がそれなりに確認されていた場合と,そうでない場合を分けた方がいいのではないかという意見ですとか,遺贈についても,法定相続人に対して遺贈がなされる場合と,第三者になされる場合を分けたらどうかとか,様々な意見がございました。   なぜそういうふうになるかというと,登記義務者に当たる人の登記意思を,ある程度確保できないといけないという考慮がメンバーにあったからだろうというふうに推測いたします。ですので,遺産分割でしたら,それなりにみんなが確認をしているけれども,遺言と,それから放棄があったような場合には,確認できないうちにいつの間にか法定相続分登記が変わっているという事態になりかねませんので,どうしてもということであれば,事前通知を制度化して,登記申請の機会を知ることができるようにするとか,いろいろな手当てをする必要があるのではないかと考えます。   それから,もう一つ……,ちょっと忘れましたので後で申し上げます。 ○山野目部会長 またお願いします。   中田委員,お願いします。 ○中田委員 ただいま中村委員のおっしゃったことと関連するんですけれども,特定財産承継遺言について,公正証書と自筆証書と分けるべきではないかということだったと思います。   自筆証書の場合,現在,真正さを担保するのは,多分検認手続があり,今回自筆証書遺言の保管制度ができたということで担保しようとしているんだと思いますが,これはここで審議すべきことではないかもしれませんけれども,検認手続というのはそれほど大きな効果を持つということは余り知られていないのではないかと思います。ですので,検認手続が非常に大きな効果に結び付くんだということを周知する必要があるのかなと思っております。   それから,放棄については,これはまた別の話になるかもしれませんけれども,放棄者からの申請というのはできないのでしょうか。形式的には登記義務者に当たるんだと思いますけれども,実質的には放棄者が自分の名前を消したいということがあるのではないかと思いますので,登記法上,無理なのかもしれませんけれども,御検討いただければと思います。 ○蓑毛幹事 中村先生がおっしゃったことの補足になりますが,法定相続分をもって一旦相続による所有権移転の登記がされた後に,遺産分割協議等に基づき行う登記を,共同申請主義の例外とすることに難点があると理解しています。   ただ,部会資料の6ページから7ページ記載の問題の所在はそのとおりで,法定相続分による登記を義務化すると,その後の登記手続が煩雑になったり,登録免許税がダブルで掛かったりしてしまう事態になるのは避けたいというのは,理解できます。そこで,日弁連の検討の中で,法定相続分による相続登記を,付記登記にできないかという意見が出ました。遺産共有は,暫定的な権利関係であるという理解をベースに付記登記でできないかというアイデアです。現行では,登録免許税は権利を取得する人が負担するのに,今回の提案の立て付けでいくと,最初に法定相続登記をした人が登録免許税の負担をして,その後,実際に権利を取得する人は登録免許税の負担をしないということに違和感がありますが,付記登記にすれば,この点も解決できます。また実務的な観点から,付記登記にすると,遺産共有の状態か通常共有の状態かが見分けられるという利点もあります。 ○沖野委員 3点を申し上げたいのですけれども,ここでの考え方は,本来,元々最初からこの登記をすれば単独申請であったところを,一旦法定相続分による遺産共有を明らかにする登記をしてしまうと,そうでなくなると。しかも,その遺産共有は飽くまで本来は過渡的であり,いずれの場合もそれが明らかになれば,あるいは合意ができれば,当初から単独申請でいったはずのものであると。そういうものについては,むしろ過渡的な状態を経由したとしても単独でいこうというので線を切ってあると理解しています。   さらには,当初からそうであったはずということで錯誤に乗せるということだと理解しており,それは一つの切り分けで一つの説明である,形式的ではありますけれども,説明であり,それを実体の認識が支えているということだと思うのですけれども,ただ3点,半分以上質問ですけれども,お伺いしたいことがありまして,一つは錯誤という構成で,既に御指摘がありましたように,その時点では全く実体に合致していたものがある。ただ,実は遺言があったという場合は,実はそのときから合致しなかったということになるかと思うのですけれども,そういったことがなければ実体には合致していたというものと,それから実体に,実は元々合致していなかったというものと二つのものがあって,そして事後的に,遡及的にそうでなくなったというものも入れてくるときに,ここだけで済むのかどうか,それ以外の場面も結局錯誤というようなことが広がらないのかどうか。広がるとしたら,あるいは広がり得るものがあるのだとしたら,それで大丈夫なのか,やはりもう少し,立法するということであれば,特別な類型というのを立てた方がよくはないかというのが気になっているというのが1点目でございます。   2点目は,これも既に御指摘のあったことですけれども,共同申請になっているものを単独にするというのは,元々単独でもできたものだからということが支えているとは思いますけれども,とはいえ,一旦登記で公示をしたものを更に変更していくというときに,同じでいいのかという点は気になっておりまして,遺産分割については,協議であれば全員関与しているはず,協議でない形でも,それが担保されているはずということがありますし,相続放棄については家裁の申述で,そちらの証明を掛けてきますので,それで真正性が担保されているはずと思われるのですけれども,やはり特定財産承継遺言については,事情が少し違っています。遺贈の場合は遺言についていろいろ紛争になることが多いということで対象としない一つの理由にされていますけれども,特定承継遺言も十分紛争になることが多いのではないかと思われます。   これについては,果たして真正性が確保されているのかというのが気になっておりまして,とはいえ,当初から登記をすれば同じことではないかということがあるのですけれども,取り分け気になりますのは,例えばB,Cという2人の相続人がいるときに,Cが単独で,つまり相続であり保存行為として共同相続の登記をしたところ,その後,Bが,この遺言が発見されたということで,自分が承継することになったというので登記をすると。この場合に,Cは全く何も知らないままということになるのかどうかです。例えばそのような変更があったという通知がされるとか,そうすると,争う契機が出るとか,そういうような事後的な手当てというのがあるのかどうか,今のような場合に問題はないのだろうか。それで,事後的な手当てということを入れるならば,ここだけなのだろうかというのが2点目です。   3点目は非常に細かな点で恐縮なのですけれども,8ページに第三者との関係というのが記載されておりまして,ちょうど真ん中に(注)があるところで,その上にただし書がある,この段落ですけれども,相続開始後の分割前に,遺産分割の目的物に抵当権を設定するなどして利害関係を有するに至った第三者が先に対抗要件を具備したというときにこうこうとありまして,これは分割前に第三者が登場していて,更に言うと持分にではなくて抵当不動産全体,つまり目的物全体,共有物全体に抵当権を設定していると,そういう場合でよろしいのでしょうかというのは,ちょっと事例ですけれども,それとも持分についてなのか,何か持分なのかなという感じもしたんですけれども,いずれにせよ,ちょっと場面がこれでいいのかということもさりながら,それで,こういうことになりますという考え方が示されていまして,この第三者との関係は,他の局面では説明がされていないように思われます。それで,気になりましたのは,これ自体は遺産分割協議が調った,あるいは遺産分割という場合なのですけれども,相続放棄があったような場合,あるいは特定財産承継遺言というような場合が同じなのかどうなのかということでして,当該事項よりも前に登場していた第三者であれば遡及効制限の問題になり,遺産分割の場合と相続放棄の場合とでは違ってくるという面もあるものですから,その実体的な関係が反映してくるのか,それともそういう反映はしなくて,およそ登記法としてはこうなるので,ほかの場面でも同じような処理になりますという趣旨で資料が作られているのかどうか,これはどういうことでこうなるのかというのがやや分からなかったものですから,もし可能ならば補足していただけると有り難いと思っております。 ○村松幹事 まず,3点のうちの1点目のお話かと思いますけれども,ほかの委員,幹事からも御指摘がありましたように,更正の登記によるのかどうかといった辺りの整理,錯誤による更正の登記なのかといった辺りの整理の議論がございます。   この審議会に先行する研究会の報告書の中では,実はこの部分は解釈でいこうというようなことを前提に,現行法の下でこれを実現するのであれば,錯誤による更正の登記というのが一つ実務的な知恵としてはあるのではないのかということで,そういう整理を資料上しておりました。今回は,そういった部分は書いておりませんで,むしろ全般的に立法措置を施した方がよいかなというようなことを,実は事務当局としては考えていたところでございますので,そういう意味で,こういった特別な類型のものに関しての法律の規定を新たに作るのであれば,どういうルールを考えるべきなのかというところの選択肢の幅は広がり得るところでございます。研究会でも,そういう意味では錯誤による更正でいいんですかねという御意見は個別には頂いていたところでありますので,立法措置を講じて単独申請の特例ということを認めるかどうかを検討するに当たっては,少し幅広い目線で検討をした方がいいのかなということは考えておりました。そういった観点で,今日いろいろと御提案も含めていただいておりますので,ちょっと検討をさせていただければなというふうに考えていたところでございます。   それから,2点目ですけれども,確かに特定財産承継遺言については,実際上の問題がもしかしてあるのではないかというところで,ただ,現行だと結局同じような手続で進めてしまっているのでどうかというところですが,これも立法上の手当てをするということになりますと,また一度,本当に紛争が起きないのかといったところの目配りは必要かも分かりません。ただ,いずれにしても,沖野先生から御指摘いただいた,Cが法定相続分での相続登記をした後,Bが特定財産承継遺言でというようなケースについて,Cが知り得る措置というのは登記法上は多分ないかと思いますので,そういったものはない状態で検討をすることになるのかなということになろうかと思います。   3点目,第三者のケースについては,実体によってちょっとやはり整理が変わってくるのかなと思います。先ほど御指摘いただいたように,確かに目的物についてという部分は,持分についてというふうに理解しないと無効なものを含んでしまいますのであれかと思いますけれども,こちらの部分に関しましても,少し頭の整理をちょっとさせていただきたいと思いますので,ちょっと次回まで検討させていただければと思います。 ○山野目部会長 錯誤って,評判が悪いですね。 ○佐久間幹事 私は提案のア,イ,ウ,エのとおりにするということに賛成だということで,ちょっと意見を申し上げたいのですが,錯誤を原因とする更正の登記でいいのかというところでおっしゃった方がおられるんですけれども,ただ,全体として伺っていますと,一旦,法定相続分による共同相続登記をしてしまうと,その後は手続が違っても当然なんだ,というふうなお話が割と強かったかと思うんです。ただ,やや青くさいことを言うようですけれども,不動産登記の本来の役割からいたしますと,権利変動はそのまま記録するということになるはずであり,そして,相続が開始いたしますと,たとえ暫定的又は過渡的であっても,実体法上は法定相続人の共有になるはずですよね。その後,このア,イ,ウに挙がっているような事情で,その実体関係も変更されて登記も改められるということになるんだと思います。そうだといたしますと,本筋は飽くまで法定相続登記がされ,その後,例えば遺産分割が成ったとしたら,遺産分割を原因とする,何の登記かは分かりませんが,登記がされるということになるはずだと思うんですね。   現状,遺産分割が割と早期に成り立てば,ぱっと遺産分割の登記一本でいきますということが認められており,それは非常に簡便だと,そのことについては異論を申し上げるつもりはありませんが,それは飽くまで便法だと私は思います。その便法による場合よりも,不動産登記法では本来こうすべきなんだとされているルートをたどった方が,手続も多くなるし費用も掛かるなんていうことは,本来,私はおかしいのではないかと思います。   したがいまして,便法の方で,権利を最終的に取得した人が単独でその登記をすることができるとされているところは,法定相続登記を経たとしても単独ですることができると,私はすべきであると思います。また実は費用面も,先ほど何か山林とか農地でしたっけ,だったら1件1000円高くなるとかいうお話が出ましたが,これは実現可能かどうか分からないというか,多分駄目なんだろうなと思いますが,法定相続登記が一旦されれば,もうそこに,次の例えば遺産分割による登記の費用分も含まれているというふうな考え方をして,その後の遺産分割による登記に費用は掛からないとするのが本筋ではないかと思うんです。   登記システムを2回動かすんだから費用がその分掛かるんだよと言われたらそうなのかなと思いますが,繰り返しになりますけれども,便法の方が有利になるというのは,私はおかしいのではないかなと思っております。 ○潮見委員 先ほど佐久間さんが言われた方向でよいという点では同じ意見を持っております。   ただ,その意味としては,その一つ前に沖野委員がおっしゃられたように,基本的にアとイとウの三つについては相続による登記は単独申請である。それを拡張して考えていけば,登記手続法上はこういうふうに考えることもあり得るという理由からだと思っておりました。相続の場合は,暫定的な共有状態を登記して,しかし,最終的に遺産分割等がされた場合には,本来,被相続人から相続人に直接承継されるというとことが結果的には出現するわけで,その後については,本来であれば単独でも構わないというような枠組みです。しかし,遺贈の場合には,これは相続によるものではなく,むしろ意思表示による変動です。これは前の相続法の改正のときからずっとこの間,一貫してきた考え方ではなかろうかと思います。そういう意味では,エのところで線を引くというのは,私には理解はできます。   ただ,その上でのことですけれども,やはりこの補足説明の記述では,いろいろ細かいことが気になります。先ほど沖野委員がおっしゃった,遺言の効力が争われるケースが少なくないのは遺贈後だといい点のほかでも,特定財産承継遺言でも遺言無効とかで争われているケースをよく見ることがありますので,これは果たして理由になるのかというところもあり得ます。また,遺贈のところに,さらに10ページのところで,相続のところでの登記というのでは共同申請に公示機能というものが結び付けられると書かれています。要するに,共同申請で登記をすることによって,相続人以外の人に,特定財産承継遺言とかされているとか,遺贈だったら遺贈がされているというようなところが知らしめられるという意味がもたらされるということですが,従来,共同申請のところで,そんな公示機能とか公示させるとかは余り言われてこなかったように思うんです。この点を拡張すればするほど,先ほどの特定財産承継遺言などについても同じようなことが問題になりませんかという議論へと,展開していくようなことがあると思うんです。   そういうことを考えますと,これから先,仮にこの方向で整理するにしても,少しその理由付け,その部分については検討を,あるいは場合によっては再考をしていただきたいなと思います。 ○水津幹事 ア,イ,ウ,エの提案には,全て,法定相続分による相続登記がされた後に,という場面の限定が付けられています。これは,次のような共通の問題設定によるものと考えられます。すなわち,法定相続分による相続登記がされる前は,単独で申請することができる以上,法定相続分による相続登記がされた後も,単独で申請することができるものとすべきではないか,という問いです。しかし,このような問題設定が適切であるのは,ア,イ,ウの提案についてであって,エの提案,つまり遺贈については,そのようには言えません。遺贈による所有権の移転の登記は,法定相続分による相続登記がされる前も,単独で申請することができないからです。つまり,ア,イ,ウの提案と,エの提案とでは,問題の所在が異なります。したがって,エの提案は,ア,イ,ウの提案と並べて扱うのではなく,これらの提案から区別して扱うほうが良い気がします。 ○山野目部会長 3点ほど,今までの御発言を承ってコメントを差し上げますと,1点目は,法定相続分の登記をした後,遺産分割がされた場合,現在は持分の全部移転の登記が行われておりますところ,実体上,その持分の全部移転の登記がされたのに着眼して,課税当局が贈与税を課したケースがあります。実質を反映して問題処理をするという観点から言うと適切ではないものでありまして,それは理解が得られなかったというだけかもしれませんけれども,全部移転の登記の運用によっていることから起きた一つの事象であるという側面もあります。本日,委員,幹事からは,更正の登記などにして運用を変えていくということについて理解することができるという多くの意見を頂いたところでありました。   それから,2点目は,しかし,その持分の全部移転の登記ではなく,更正の登記を単独申請ですることができるというふうに規律を設け,あるいは運用を改めることに関して,真正担保の観点から心配であるという御指摘も若干頂いたところであります。それはごもっともであるというふうに感じますとともに,実は再三御指摘のとおり,2段階にしないで1段でやれば単独申請をすることができるわけで,その場面の真正担保というものは,現在の運用では電子認証か,又は印鑑証明がされていれば,本人性と本人の登記申請意思を推認することができるというシステムになっています。2段階方式にしたときの現在の全部移転の登記は,登記識別情報又はそれに代わる本人確認情報も出さなければならず,これを論じられている更正の登記でよいということに改めると,そこのところが,真正担保が現在の運用よりは下がる形になります。下がっても,一度にしたときと同じでしょうという理屈が,常にそれに対して反論として出されますが,元々一度でするときの真正担保が電子認証又は印鑑証明でいいかというところも,先ほどからの御心配の御指摘を受け止めていると,ひょっとしたら隠された論点なのかもしれません。   3点目ですが,錯誤を登記原因とすることについて評判が悪いですけれども,念のために申上げれば錯誤ってそれほど何か悪いことかというと,ここの錯誤は,既に御案内のとおり民法95条で言っている意味の錯誤ではなく,されるはずのなかった,あるいはされてはならない登記がされたという客観的な事象を表現している不動産登記制度に独特の表現といいますか,そこの文脈における概念なでありまして,これ以外の場面でも,例えば法律行為の取消しを原因として更正の登記をするときに,取消しは登記原因ではなくて錯誤を登記原因にしていて現在までの運用がされてきていると理解しています。それは民法121条の遡って無効になるという実体的規律の素直な受け止めとして,最初からされるべきではなかった登記であるから錯誤を登記原因としているものであろうと理解できるところです。   そういうほかの局面がありますから,沖野委員から御注意いただいたとおり,今回のここでの更正の登記の登記原因を遺産分割にした方が,何か見た目いいよというお気持ちは分かりますけれども,ほかに影響がないかということはよくよく点検していただく必要があるのではないかということも感じます。   次に御発言いただく方はどなたでいらっしゃいますでしょうか。よろしいですか,大体御意見を承りましたか。 ○道垣内委員 意見でも何でもなく私の無知だけなんですけれども,法定相続分による登記が間違えていたときは,現在,それはどうなるんですか。つまり,例えば相続欠格の人がいたとか,あるいはほかにも認知されている人がいたとか,そういうときには単独で登記の更正ができるのですか。 ○山野目部会長 登記原因が何になるかという話と,単独かという話ときっと二つあると思います。 ○江口関係官 民事第二課の江口でございます。   その場合については,錯誤を原因として更正の登記になりまして,持分が変わる場合については,その持分が増える人と減る人との共同申請という形になります。 ○道垣内委員 仮に法定相続分での登記申請を共同ではなくて単独にするということにするならば,法定相続分の登記に間違いがあったときにも単独申請を認めるということすることを意味しているのでしょうか。それは別ですよという話なのでしょうか。どっちなのでしょう。 ○山野目部会長 部会資料は含んでいない趣旨で提案しているものであろうと理解しますが,村松幹事からどうぞ,お話を。 ○村松幹事 今,方向性を示していただきましたけれども,考え方としては一応別の問題で,今の御提示のものは,確かに登記の類型としては相続なんですけれども,ここでいろいろ言っているのは,相続による登記を単独申請にするという不動産登記法の延長の問題をどう処理するかということなので,一応切り分けて,今のは本当に単純に登記を間違えたという,そういうケースだと思って,別整理かなと思っていましたけれども。 ○山野目部会長 ですから,遺産分割協議書に印がそろっていれば単独申請することができるということが,今回の提案の基本的な,最も重要なモチーフとして背景にあるものですね。それでいくと,今,村松幹事が御説明になったように,今回提案の更正の登記の,遺産分割による更正の登記は単独で申請することができるけれども,道垣内委員が話題にされた法定相続分の理解について齟齬があった場合には,江口関係官が説明したように共同申請になるという規律が今後とも維持されるという御話になります。なぜ異なるかというと,繰り返しですけれども,遺産分割協議書に印がそろっているという場面を切り出して今回は御提案申し上げていて,それ以外のところは手を触れないという趣旨です,という説明になります。   説明は一応そういうことですけれども,本当にそれでいいかということが話題になってきたときに,私が先ほどのコメントの2点目で申し上げましたように,本当に遺産分割協議書に印がそろっていると,一発でしたときについて,それで登記原因証明情報で十分であるというふうに扱ってきた今までのその運用の部分が根本的に問われることになりますから,そこを問い始めると,話はすごく重い論点になります。それはストレスは感ずる論議になりますが,ストレスを感ずるから議論するのはやめましょうというわけにいかないのであり,ここまで議論が進んできましたから,そこのところも何らか,もう一回きちんと考察は施しておく必要があるということになるかもしれません。   道垣内委員,どうぞ,お続けください。 ○道垣内委員 すいません。では,今,遺産分割のときにはみんなの印鑑と印鑑証明が調っていて,それで遺産分割協議書があるから真正性が担保されているんだという話で,だから単独でできるんだというふうにおっしゃいましたが,そういうふうな観点から申しますと,そもそも法定相続分での登記をするというときには,戸籍謄本等と住民票の写しを添付書面としていろいろ出してきている,だから真正性が保たれているんだということになりそうに思うんですね。   しかるに,それが相続欠格その他で間違えているというときには,相続欠格とかいろいろな書面を付けて出せば,また真正性が担保されているという話になるはずであって,単独でできるということになるのではないかと思うのです。何か余りその二つを切り分ける論理というのが,一応はありますというふうに村松さんも山野目さんもおっしゃいますが,本当は私には分からないままです,しかし,そういう問題もあるということで,広がり得るということで,その後の検討がされるとおっしゃったので,別に今の段階ではこれ以上は結構です。 ○山野目部会長 現在の運用において単独申請が許容されている局面を問わなくて済むか,ということは考えなければいけないのでしょうね。   道垣内委員がおっしゃったとおり,法定相続の登記をする場合には,戸籍謄本などの公務員職務上作成情報を提供することによって,公文書への信頼を真正担保の根拠として,法定相続分をもってする相続を原因とする登記がされるものでありますから,もしそういう扱いと類似の取扱いを遺産分割のところまで拡げていくのであれば,弁護士会が御苦労になって検討なさったように,公務員作成文書である公正証書遺言が提供されている場合と,そうでない場合との間に,取扱いに差等があってしかるべきではないかという御提案というか,発想に連なってくるものでありまして,その御意見は,そういう観点から見ると,一つあり得る問題提起であるというふうに感ずることもできます。幾つか,そのような観点が,今,委員,幹事から,それぞれ関連し合う形でお出しいただいていて,なかなか一筆書きで整理することが難しい状況ではありますけれども,非常に豊富に御意見をお出しいただいたものではないかと感じます。 ○中田委員 すみません,先ほどの私の発言は十分伝わっていないかもしれないんですけれども,家庭裁判所における検認手続というのは,実体法上の効果は多分ないんだろうと思うんですが,しかし,そこで相続人たちが集まって争う,あるいは遺言書の存在を知る機会になり得るのではないかと思うんです。そうすると,後の遺言があるというような場合に,前の遺言によって検認手続がされたりしたときに争う端緒になるだろうと。ところが現在のところ,その検認手続について,開封の場合には相続人を呼ぶということは必要なんですけれども,それ以外については多分実務的な運用に委ねられていると思うんですが,そこをもう少し明確にした方がいいのではないかと思います。また,検認によって,将来大きな効果につながり得るんだということを,先ほどは周知と申しましたが,もうちょっと具体的に言うと,例えば呼出状を送るときに,その説明書を付けるとか,何らかの方法で事前の真正性確保の方法として意味があるのではないかと思います。事後の真正性確保について,何人かの委員,幹事から御発言がありましたが,それはそれでやるとしても,事前の方にも目を向けていいのではないかという趣旨でございました。 ○山野目部会長 中田委員の一つ前の検認についての御発言は受け止めていたつもりでありました。今なお趣旨を敷衍しておっしゃっていただき,御注意を受け止めて,事務当局において今後検討を進めることにいたします。   次はどなたから御発言を頂くことがかないますでしょうか。   そうしましたら,貴重な御指摘がたくさんありましたから,事務当局の方で御検討してもらうということでよろしいですか。 ○村松幹事 いろいろと検討の課題を頂きましたので,整理して,またお示ししたいと思います。ありがとうございました。 ○山野目部会長 ありがとうございました。   それでは,10ページの「ウ その他の軽減策」のところについての御意見を承ります。   その他ということでお尋ねしていますから,どのような御提案,御意見を頂くことでもよろしいですが,登録免許税の軽減策というようなことに関連して何かおありでしたら,ということを例示してございます。   この点について,御意見がおありでしょうか。 ○今川委員 登録免許税を減免するというのは,一定の効果はあると思います。ただ,条件は付けなければならないなと思います。   死亡の日から,例えば一定の期間の間に登記申請をする場合は減免をするという規律を置いて申請を促すということが一つだろうと思います。あと,不動産の価格も見ないといけないと思います。評価の高い不動産というのは一般的に利用価値も高く,流通もしやすいので,普通は相続登記はされるわけです。その価格に関わらず減免するということになると,結局,高額の資産を持っている人ほど優遇されてしまうということになってしまいます。資料にもありますが,10ページの参照条文の租税特別措置法の84条の2の3の2項では10万円以下というふうに価格でもって基準を定めているんですけれども,例えばそういう基準が必要だと思います。 ○山野目部会長 今川委員は,そういうふうな基準とおっしゃいましたけれども,発想として,租税特別措置法84条の2の3の第2項のような規律をヒントにして,何か考えていくべきだという御意見であろうというふうに受け止めました。   10万円の1000分の4を免じたから減免策は講じられている,ということになるものであるとすれば国民を愚弄するものであると叱られてしまいますから,まさかこの10万円という数字までそうだという趣旨ではないですよね。ありがとうございます。   次はいかがでしょうか。平川委員,どうぞ。 ○平川委員 これは,手続上の話でしかないと思いますが,他の官庁でも様々な手続の簡素化が進められています。例えば,精神障害者手帳の申請は,郵送で事件が済んだりしているところもあります。もちろん本人確認であるとか,手続の確認ということは絶対に簡素化できない部分もあります。けれども,ある意味,手続に不備があって,何回も手続をやり直さなければならないことに対する負担感も,かなり強いと思います。したがって郵送であるとか,もしくはウェブ上で何らかの確認ができるとかなどの工夫も検討していただければ,と思います。これは,意見として言わせていただきます。 ○蓑毛幹事 もう既に意見が出ているところでもありますが,個人でも簡単に登記申請ができるような仕組みや制度を作るべきだと思います。例えばオンライン申請をもう少し簡単にできるようにし,そのことを周知することが考えられます。現在個人が簡単に登記申請できない理由を分析し,個人でも登記しやすい環境を整備することが大事だと思います。   登録免許税等の減免等についてもありますが,これは,登記の義務化との関連がありますので,またそのときに申し上げたいと思います。 ○山野目部会長 ありがとうございます。   登録免許税のお話と,手続環境の改良整備というお話とを頂きました。大体このようなところを受け止めておくということでよろしいでしょうか。吉原委員,どうぞ。 ○吉原委員 ありがとうございます。   ほかの先生方のおっしゃったこととほとんど重なる部分ばかりなのですけれども,今までお話を伺っていて,この登記の申請を促進する策,あるいは負担を軽減する策というものは大きく二つあるのだなと思いました。一つは,法律で解決をする部分,もう一つは,情報基盤の整備によって手続を簡素化,円滑化していく部分です。   1点目の法律で解決する部分につきましては,もし可能であれば,過去の古いままの登記を何とかしたいと思っている方にも役に立つような促進策,簡便策があればと思います。これから登記をしようという人に使える方策というのは,ここにたくさん出てきているわけですけれども,実は亡くなったおじいさんの名義のままの畑を持っているんですというような方もいるわけでして,そういう方が,登記をする意欲はあるんだけれども,なかなか法定相続人も増えてしまっていて,お金も手続も面倒くさそうだし,連絡が付かないような人もいる,何とかならないのかというときに相談できる窓口があったり,あるいはここまでの部会の検討で出てきました財産管理人や,あるいは公告制度が使えるのか分かりませんけれども,そうした方法もあるんだよということを知る機会があれば,過去のものに対して使える法的な方策というものも少し提示されたらなと思ったところです。   それから,2点目の情報基盤の整備については,もう各先生方のおっしゃったとおりだと思いますし,具体的には手続がワンストップでできるようになったら,すばらしいと思います。そのときには法務省や各法務局のお力だけではなくて,各自治体の窓口の協力というものが必要になると思います。政府の方では,前半の議論でも出ましたけれども,デジタル手続法が成立して,デジタル化による行政の効率化に向けた検討も進んでいるわけでして,その流れの一環として,この登記制度の在り方を大きな枠組みの中で検討するということが,みんなのエネルギーを一つの方向にしていくということで有効なのではないかと思います。   特に,人が死亡したときに発生する手続というのは登記だけではなく,年金や保険など様々なことがあるわけですので,そうした中での一つとして合理的に進められるような情報基盤整備が進めばと思ったところです。 ○山野目部会長 吉原委員から御指摘いただいた1点目に関連しては,取り分け昭和22年から前に開始した相続が関係する事案については,どういう実体的規律が相続法制上適用されるかということへの知見の提供を含め,申請する側に混乱が生じないように,様々な支援が講じられていくということが求められて当然であろうと感じます。   それから,後半につきましては,ワンストップを追求していく必要というものは,御指摘があったデジタルに関する新しい法制の趣旨も踏まえ,不動産登記の領域についても考えていかなければなりません。自動車を取得したときについては,国土交通省への登録と,都道府県税の納税と,警察における保管場所標章の交付の手続がなるべくワンストップで実現することが可能になる方向で,現在,関係する審議会等における準備が進められているところでありますけれども,同様のことは不動産についても考えていかなければならないであろうと感じます。ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○山田委員 登録免許税について一言申し上げたいと思います。   登録免許税については専門的な知識を持っておりませんので,もう何か床屋談義のような発言をさせていただきますが,相続に関する登録免許税,所有権移転登記の登録免許税をゼロにするというのを積極的にこの部会で意見をまとめられればいいのではないか,そして発信できればいいのではないかと思っております。   今回いろいろな問題を検討しておりますが,国民の中には,これで利益を受ける人もいますが,何か負担を受ける人も,やはり出てくるだろうと思います。所有者不明土地を新たに生じさせない,これまで生じているものを解消していくという,その政策目的は私は賛成ですが,そのために様々な,利益だけでなく負担を国民のそれぞれの立場の人たちに求めようとしているわけですので,登録免許税について政府として,それは減免ではなくて免除するというような考え方があっていいのではないかと思います。   租税特別措置法,ここに10ページから11ページまでにあります。拝見しましたが,登記をする時期の制限はもちろん付けないという意見です。また,不動産価格についての条件は付けた方がいいという御意見がありましたが,基本は付けない方がいいのではないかなと思います。   そして最後に,相続が起きてから期間制限をしたらいいのではないかと。それは確かに登記を促進するための仕組みはいると思うのですが,期間制限がある場合,その期限までに登記をしないと,今度,登記したくない理由にもなるんだろうと思います。したがって,期間制限についてはどちらかというとない方がいいのではないかなと思います。ただ,登記の義務化という問題がその後に控えていますので,それとうまく組み合わせた方がいいのだろうと思いますが,義務を課したからといって,みんなが義務を果たすわけではないということも考えると,ちょっと何年ぐらいを想定されての御発言か分かりませんが,仮に10年というふうに考えたときに,10年放っておいたら,その後は登記しなくなるだろうなという,免除が10年間だとすると,何かそういうふうに思いますので,そこは余り,期間制限を設けることについては消極であります。 ○山野目部会長 山田委員から,登録免許税について,今,核心に関わる御提言を頂きましたから,少し現時点の見方でお述べいただくことができる範囲で,村松幹事の御意見,見通しを伺っておこうというふうに考えますけれども,確かに山田委員が御指摘のとおり,現在の1000分の4という登録免許税は,不動産の価格に連動して定められておりますところ,自分が相続によって承継取得した財産について,価格に連動して課税をされるという局面は,既に相続税という形で設けられていて,あれと並行して登記をすると,殊更そこに担税力を見いだして登録免許税を課するということは,ダブルタックスになっている疑いがあります。   登録免許税の制度が今後もこれでよいかということは,したがって考え込んでいかなければいけないところでありますけれども,考えていくに際しては,恐らく少し異なる方向性が二つあって,一つはそもそも登録免許税全体を,従来から言われてきたことですが,不動産の価格に連動させるのではなく,手数料的な性格のものに改めていくというアプローチをとるか,それとも,そうではなくて,もう一つあるアプローチとしては,ここでの所有者不明土地対策に対する,その対策という政策的な対応として考えるかという,そちらの行き方もあり得て,両方並行することもあるかもしれません。これらの二つの考え方のモデルのどちらでいくかということは,法制上,登録免許税法の改正で対応するか,租税特別措置法で対応するか,それから山田委員が御指摘になった期間の制限と連動させるか,させないかといったようなことと関わってくるところがありまして,観点がどちらでもいいではないですかということにはならないかもしれません。登録免許税の制度は,法務省と財務省の協力連携の下に構築していかなければならない制度でありまして,なかなか見通しを単純化して語ることは難しい部分があるかもしれませんから,現時点のものでよろしいですけれども,村松幹事からお話があったら頂きたいと思います。 ○村松幹事 ちょっと今の段階で私の方から何か申し上げるというのは難しい状況でございますので,ただ,今日はいろいろと御指摘いただいているところは審議会での議論だということで,受け止めをしっかりさせていただきたいと思っております。 ○山野目部会長 山田委員から御提言があったことを今後もこの部会の審議の中でその留意をして,この論点の検討を続けていくということにいたしましょうか。   ほかに,ウについて御発言はおありでしょうか。よろしゅうございますか。   それでは,先に進むことにいたします。   11ページの「(2)相続登記の申請の義務化」という問題提起をさせていただいております。これについて,事務局から資料説明を差し上げます。 ○佐藤関係官 それでは,続きまして,資料11ページの第2の2「(2)相続登記の申請の義務化」の「ア 登記申請の義務付け」について御説明します。   相続登記の未了につきましては,これまで御検討いただきました登記手続に係る負担のほか,登記申請が義務とされておらず,登記をしないことが法律上許容されていることも,その要因ではないかとの指摘がされています。また,国土審議会土地政策分科会特別部会の取りまとめにおきましても,土地所有者の責務の一つとして,所有者は不動産登記手続を適時にする責務を負うものとすべきではないかといった観点からの議論もされております。   そこで,所有者不明土地の発生を防止する方策の一つといたしまして,相続による所有権の移転が生じた場合に,その相続人等に対して,一定の期間内に,必要となる登記申請を義務付けることについて,御議論いただきたく存じます。   議論となり得るポイントにつきましては,補足説明2以降で,大ぐくりでございますけれども,論点の提示をさせていただいております。   まず,資料12ページの補足説明2では,どのような場合に登記申請を義務付けるかという論点について,登記申請義務の発生原因として記載してございます。相続による権利の承継は,法定相続分による遺産共有状態にとどまる場合には,相続人において登記申請をする必要性に乏しい一方,法定相続分を超える遺贈や遺産分割等がされた場合については,自発的な登記の申請を期待することができるという観点を強調いたしまして,申請義務の発生を狭くする甲案が考えられるところでございます。   これに対し,実際上,所有者が不明な土地の発生はそれに尽きないのではないかといった観点を考慮し,登記名義人が死亡しているのに登記が死亡人名義になっていることが所有者不明土地問題であると広めに理解をいたしまして,より広く登記申請義務を課す乙案が考えられます。   甲案との対比でございますけれども,乙案からは,相続を契機とする物権変動は,権利を取得する者の希望によって発生したものではなく,その点で,売買など物権変動を望んで生じさせたケースと異なり,登記をするインセンティブが働かない定型的な蓋然性が高いといった説明をすることになるかと考えております。   次に,資料13ページの補足説明3でございますけれども,対象となる権利の種別について,まずは所有権に限るとすることも考えられる旨を記載しておりますが,所有権以外の権利についても対象とすべきとの御意見があるか,承りたいと考えてございます。   また,補足説明4の義務違反となる時期につきまして,登記申請義務の内容なども考慮する必要があることから,今回の部会資料では具体的な期間を提示しておりませんが,例えば,熟慮期間との関係や主観的要件との関係について留意すべき事項も,こちらの補足説明の方に提示してございます。他に留意すべき点などもございましたら,御意見賜れればと存じます。   さらに,資料14ページの補足説明5では,対象となる財産の範囲につきまして,土地のみとする甲案のほか,不動産登記法上の不動産,すなわち土地及び建物を対象とする考え方を乙案として提示してございます。その他,資料に記載のない論点も含めて,相続登記の申請の義務化について,活発な御議論をお願い申し上げます。   次に,資料14ページの第2の1(2)「イ 義務化の実効性を確保するための方策」につきまして御説明します。   相続登記の申請を義務化した場合には,その実効性をどのように確保するかといった点が重要となります。まず,(ア)では,登記申請義務の履行に利益を付与する方策について論点を提示しております。補足説明では,一つの考え方を紹介してございますけれども,そのほか登記申請義務の履行に利益を付与する方策として考えられるアイデアがございましたら,広く御意見を賜りたく存じます。   次に,資料15ページの(イ)において,過料による制裁について記載しております。過料の制裁につきましては,実際の制裁の実施の可能性に関わらず設けるべきであるとの御意見と,むしろ申請を控えさせるおそれがあるとの御意見などがあるかと思います。また,(ウ)におきましては,罰則以外の不利益について,それぞれ論点を提示しております。(ウ)では,登記申請義務違反の直接の効果と位置付けられる過料の制裁とは異なり,登記申請義務が課せられていることを前提に,登記申請がされていないことによって不利益を被り得る利害関係者に一定の便益を与え,他方で,相続人に不利益を与えることは許容され得るのかといった観点からの検討になるかと考えてございます。   まず,①通知方法等による不利益につきましては,登記申請を怠っている場合には,不動産の所有権の登記名義人の氏名及び住所に宛てて通知等を発すれば足りる旨などの規律を設け,真の所有者の特定や所在の探索をする必要がないものとするといった規律を設けるという提案について御紹介しております。もちろんこれをどのような法律関係に設けることが許容され,あるいは必要かといった点につきましては,個々的な検討が必要になると考えられます。   また,②費用負担につきましては,登記申請義務を怠っている者に登記申請がされなかったことによって発生した損害,例えば,探索に要した費用等を賠償する責任を負うものとするとの提案を御紹介してございます。   ③その他の民事実体法上の不利益として,例えば,法定相続人が登記申請を既に怠っている状況にあることを前提に,その状況下で法定相続人の1人が他の相続人に無断で単独所有の旨の虚偽の相続登記をした場合には,登記申請義務を怠っている者は,その不実の登記を信頼して買い受けた第三者に対して,自己の法定相続分すら主張することができないとする規律を設けるという提案について御紹介をしております。   各論点について,また,資料に記載したもの以外に考えられる実効性確保策についても,併せて御意見を賜りたく存じます。   第2の1(2)に関する説明は以上でございます。 ○山野目部会長 ただいま説明を差し上げました範囲のうち「(2)相続登記の申請の義務化」の中の「ア 登記申請の義務付け」の部分について,まず意見を承ります。いかがでしょうか。 ○蓑毛幹事 意見の前に,確認の趣旨での質問ですが,登記申請が義務化された場合,改正法の施行前に発生している相続についても,この義務化の対象になるのか,仮にそうだとして,登記名義人が被相続人ではなく,既に数次相続が起こっていて,2代前,3代前の人の名義になっているものについても,相続登記の義務化の対象になるのかという点について,教えていただければと思います。 ○村松幹事 今の点に関しましては,恐らく論理的な,といいますか,その選択肢は両方あり得るんだろうと思います。どちらを選択するということも考え得ると思うんですけれども,ただ,既に所有者不明土地が相当程度存在しているということへの対処方法としていろいろな施策を打っていくということを考えますと,もう既に相続が発生しているというようなものに関しましても,ある程度適用対象に入れていかないと,なかなか解消というものにつながりにくいのではないかと,こういう議論になると思います。そうした場合には,恐らく,仮に適用するといたしましても,相続のときから何年といったようなルールではもちろんなく,経過措置という中では,恐らく法施行後というような形で,起算点はもちろん変わってくるというような配慮なんかはしなくてはいけないのかなということに,方策として考えるならば,そういったことが考えられるのかなという気がいたします。   あと,数次相続を生じているような場合についても,その適用の対象に入れるのかどうかというのを,ここもまた今後の審議での御判断かと思いますけれども,これもあえてなかなか除外しにくいというところはあるのかなというふうには思いますので,ただ他方で,自分がそういった財産の相続人になっているということはよく分からないといったケースが実際上は想定されますので,そういった部分,主観的な要件を設けることが必要になるかもしれませんということは今回の資料でも申し上げておりますけれども,そういった辺りの検討とリンクしてくるような論点なのかなというふうには考えております。 ○山野目部会長 蓑毛幹事,お続けください。 ○蓑毛幹事 今のご説明を踏まえた上での意見ですけれども,アナウンス効果も含めて,相続登記の義務化には,所有者不明土地問題の解決に向けて効果があると思いますので,一応賛成です。   ただし,これは,部会資料14ページにあるように,義務を負う者に,インセンティブを与えることで義務履行を促すという形であれば,という条件付の賛成です。これに対し,過料による制裁を与えるというのは,特に法改正の前に生じた相続であるとか数次相続が起こっているもの,そのようなものも対象になるとすると,制裁の範囲が非常に不明確になると思いますので,そのような効果が伴うのであれば,相続登記の義務化には反対です。 ○山野目部会長 蓑毛幹事から,ただいま経過措置について問題提起を頂きましたから,一言申し上げます。   今ここで扱っている論点そのものについての経過措置の規律をどういうふうに考えたらよいかということについては,蓑毛幹事もおっしゃったし,村松幹事も確認していただいたとおり,二つの方向があると感じます。   一方には,ここのところの複数回の民法の相続関係規定の見直しはおおむねそれを基本原則にしましたが,新しい規定の施行後に開始した相続について適用し,それ以前に開始していた相続はなお従前の例によるとされてきた,そういう姿が見られているところでありまして,そのような方向でいくという考え方がもちろん一方にあると思います。他方におきまして,今回扱っている事象は,単に相続関係の実体的規律を見直すということではない,それとはかなり異なる所有者不明土地問題に対する対策という意味合いを持ちます。   実は,明治に民法を作ったときの民法施行法の規律の中には,そういう単純な経過措置ではなく,民法施行後何年以内にこれこれのことをしてくださいという,正に日本の近代化が始まった明治の息吹を感じさせるような規定が幾つも見受けられて,あれと同じような発想で今回の経過措置を組むということは十分に考えられるものではないかと感じます。   そのような意味で,今後とも二つの考え方があるということを念頭に置いて検討を進めていくことになりますが,さらに議事運営の関係で御紹介しておかなければいけないことは,従前の法制審議会における調査審議の運用の慣行上,どのような実体的規律を設けるかについては,この部会が最終的に答申案を作って総会に上程しますけれども,法律案にするときの目的規定と経過措置と関係法律整備については答申の中に盛り込まないで,答申を受け取った法務省が行政判断でそれらを補って立案した上で,内閣提出の法律案にするということが行われてきました。そういう考え方を厳格に踏襲すると,経過措置はこの部会の調査審議の範囲外だということになりかねませんけれども,しかし,そうはいっても,従来もここでお出しいただいた意見を参考にして経過措置の規律を考えてきたような例がございます。取り分け,申し上げたように今回の扱っている論点の性質上,経過措置が単なる経過措置の問題で済まないような側面を持っていますから,この点を内容としてもどうするか,またこの部会の調査審議の進め方としてもどうするかについて,なお,蓑毛幹事の問題提起を受け止めた上で検討してまいりますと考えますから,引き続き,また折々に御意見をお出しいただければと望ます。ありがとうございます。   引き続き御意見を承ります。 ○今川委員 私は義務化そのものについても,少し意見を述べさせていただきたいと思います。   不動産登記簿から直ちに所有者が判明しない土地が多数あって,相続登記が未了であるというのがその大きな原因であるというのは,これはデータが示していることです。それから,国土審議会の方で,土地所有者には土地の利用管理に関する責務があると,そして管理には法的な管理を含んでいて,その法的な管理として,登記を適時に行う責務を負うと,この議論も承知しております。   そこから導き出されるものとして,所有者不明土地の発生を防止するということで,相続登記の申請を法律上義務付けるというのは一つの選択肢であることは,理解はしておりますけれども,ただ,基本に立ち返って,現行の日本の不動産登記制度では,権利に関する登記は私的自治の原則に従って,自らの意思で登記の申請を行うというのが大原則としてあると,これは補足説明にも書いてありますけれども,相続登記も同じだということでして,その原則に今回変更を加えることが提案として出ているわけですけれども,そういう原則に変更を加えるわけですから,やはり,例えば公共的な目的に従って,例外的にというか,抑制的に行うという観点も必要でありましょうし,実効性があるのかという視点も忘れてはいけないと思っております。もちろん実効性については,いろいろとここで提案されていますけれども。   というのは,実務の感覚としまして,表示に関する登記は法律上,義務化されているんですけれども,これは土地家屋調査士さんの方のお仕事ですけれども,表示に関する登記と権利に関する登記というのは連動しておりますので,表示登記を視野に入れながら,権利登記を受託するということが多いので我々も肌感覚として感じているんですけれども,表示登記について,義務だから登記をするんだとか,登記をしないと過料に処されるからといって登記をしている人がいるようには余り認識できない,そういう感覚を持っています。   それと,もう一つは,株式会社における変更の登記というのは義務付けされているわけですけれども,長期間登記をしないことによってみなし解散となる会社も相当あるというふうに感じておりますので,義務化については実効性の確保というのが非常に重要になると思います。   それで,実効性の確保なんですけれども,義務を課した場合に,義務が履行されていない相続人に履行を促すということも必要になると思うんですけれども,そうすると,相続が発生していることを,登記所が察知しなければいけませんし,その登記を促す相手として,相続人を探索する必要もあるということになりますけれども,現状では登記簿から相続人を探索することは難しいということが言えます。それと,将来,登記記録と戸籍の情報が連動して,登記官も自動的に死亡情報も入手することができるというようなひも付け作業が完備した後は,その促しもできるとは思うんですけれども,このようなシステムを整備するには非常に時間が必要なのかなと思っております。   そこで,補足説明の14ページに,実効性の確保の一つの方法として,相続人の1人が登記所に対して死亡の事実を申し出るというのはどうかというのが,提案されております。それから,後で議論されるわけですけれども,18ページの「相続登記の申請人となるべき者からの申請がなくとも採り得る方策として」という項目で,例えば登記所が他の公的機関から所有権の登記名義人が死亡した事実や年月日の情報を取得することができるようにして,その死亡した旨を所有権の登記に付記することができるということ,こういうことも提案されております。これは義務化を前提として,例えば実効性を持たせるためのインセンティブであるとか,あるいは登記所が死亡情報を取得する方法として説明がされていることは理解しています。そこで,司法書士会では一つ提案がありまして,相続登記自体を義務とするのではなく,登記名義人が死亡した場合には,その死亡の事実を登記所に申請することを相続人の義務としてはどうかという提案です。それで,その不動産に対して相続開始の付記登記をしていくということです。付記登記がされた後,一定期間経過した場合には,登記官が,例えば相続登記を促していくとかいうようなことで,実効性を持たせることができるのではないかという提案です。   付記登記をしておくことによって,登記所が,その相続の発生を把握するための端緒にまずなりますし,それから,当該不動産に対して公共事業を実施しようとする者や利害関係者などにとって相続の開始が分かるということと,申請時に提供された情報を閲覧することができるのであれば,相続人の探索の端緒も容易に入手できるということであります。   いずれにしても,登記申請自体を義務化する,あるいは我々が今提案しておるような死亡の事実があったことについて申請することを義務化する,どちらにしても,義務化すれば事足りるということでありませんので,実効性を確保するためのいろいろな制度を組み合わせていくということが必要だとは思うのですが,死亡の事実を申請するということについては,役所への死亡届は必ずされますので,それと同時に行うということですと漏れは少ないのではないかということと,相続登記を申請することから比べるとハードルが低いのではないかというふうに考えます。   それから,所有者不明の円滑化に関する特別措置法においても,現在,相続人調査を実施し,その死亡に係る情報を付記登記するという制度がありますので,これとも類似する,連続する制度であると思っておりまして,そういう提案をここで意見として出させていただきたいと思います。 ○山野目部会長 司法書士会のお立場を確認するためにお尋ねいたします。   ただいまの御提案は,土地のみではなくて,土地と建物の両方を含むというふうに受け止めてよろしいでしょうか。それから,対象となる権利は所有権を主に念頭に置いていて,地上権とか抵当権とかは考えないというような辺りで線を引こうとしていらっしゃるかどうか辺りについて,何か補足があったらお教えください。 ○今川委員 今おっしゃったとおり土地建物両方ということと,所有権に関するものを前提としております。 ○山野目部会長 ありがとうございます。   そうしますと,12ページの補足説明2のところに登記申請義務の発生原因のところに甲案,乙案が挙がっていますが,司法書士会からお出しいただいた意見は言わば丙案であって,甲案が一定期間内に法定相続分の登記,乙案が一定期間内に相続による権利移転の登記,丙案は一定期間内に死亡した旨の登記官への申述をしてほしいということをおっしゃっていて,対象となる権利は所有権,対象となる不動産の範囲は土地建物の両方を含む趣旨での御提言を頂いたというふうに聞きました。   引き続き御意見を承ります。 ○松尾幹事 ありがとうございます。   今の部会資料8の12ページの甲案,乙案のところですが,相続による登記申請義務が,「一定の期間が経過することで」発生するということが,甲案と乙案の両方に挙がっております。この一定の期間ということの意味についての確認ですが,既に議論しました,遺産分割に期間制限を設けるかどうかという議論における期間とどういうふうに関わってくるのかという点の確認です。   乙案の方の「一定の期間が経過することで」というときの一定の期間は,遺産分割に期間制限を設けるかという議論とかなり関わってくるのではないかという気もいたします。他方で,甲案の方の一定の期間というのは,少し性質が違って,とにかく相続が生じたら,相続が生じたということを明らかにするために登記をしてくださいね,という義務になるかと思いますので,その期間の性質も少し違うのかなという気がいたしました。   仮に甲案の方でいくと,とにかく相続が生じたら,登記面でも義務としてその情報を提供してもらってということになれば,その後出てくる遺産分割等々による権利の移転については,当然予定されるので,先ほど出てまいりました不動産登記法2条16号の錯誤による更正の手続で本来いいのかどうか,疑問があります。一連の相続登記のシステムとして,相続が生じたらとにかくまずは登記をし,その後遺産分割が予定されるということであれば,やはりそのことを予定した不動産登記の仕組みと手続を正面から設けていくというのも一つのあり方ではないかという気がいたします。恐らく甲案の方でいけば,この登記義務というのは,不動産登記法上の公法上の義務ということで理解してよいか,確認したい点です。   もう一つ,乙案の方でいきますと,一定の期間が経過することで,権利移転についての登記義務が発生するということになると,先ほどの遺産分割に期間制限を設けるという議論とどう連動してくるのかが気に懸かります。加えて,それが登記法上の,公法上の義務だけの問題にとどまるかどうかということについても,少し登記法の領域を出る部分も生じてくるのではないかという気もいたしまして,確認させていただければと思いました。 ○村松幹事 一定の期間については,ちょっとまたいろいろ効果も見ながらというふうにお話をさせていただいておりますけれども,甲案と乙案では,そもそも義務を発生させるフィロソフィーみたいなところが少し違うのかなというので整理をさせていただきました。いずれにしても,私どもの提案としては,公法上の義務としてのもちろん整理というところではあるんですけれども,ほかのといいますか,遺産分割の期間制限を設けた場合に,その期間をどういうふうに設定するのが実際上最も効果的かといったところの議論は,またそういったものは出てくるような気はしておりますけれども,整理としては,一応,公法上の義務の問題として,両方とも整理枠としては一応立ち得るのかなとは思っておりましたけれども。 ○山野目部会長 よろしいでしょうか。 ○松尾幹事 はい,分かりました。 ○佐久間幹事 当たり前のことをまず申し上げますけれども,所有者不明土地問題を解決するためにこの部会はあるはずなので,所有者不明土地問題を解決するためには,登記簿を見て,誰が所有者であるかということが分かるようにしておかなければいけないわけですよね。そうであるときに,今,分からないようになっている一番の原因は何かといえば相続登記がされないことだということであるとすると,私はやはり義務化といったときの内容はいろいろ考えられると思いますけれども,相続登記を義務化しないでこの部会を終わるというのは,ちょっとまずいのではないかなというふうに,思います。   また,死亡の事実を現在の登記名義人について記録するというのは,それはしてもいいとは思うんですが,数次相続の場合には全然問題の解決にならないのではないかと思っています。   では,登記を括弧付きでもいいんですが「義務化」するとして,今出ている甲案,乙案と,先ほど丙案というのがあったんですかね,あるかもしれません,私は丁案を提案したいと思うのですが。いや,別に今のしゃれでも何でもありません。松尾さんがおっしゃったのが,私は同じように考えているなと思ったのですが,甲案と乙案というのは排斥し合うものでは,元々ないと思っているんですね。排斥し合うものではないから両方置いておくかというと,何だかそれは二段階の登記をいかにも強制するかのようにも見えて面白くないというか,よくないのではないかと。それで,私の発想は,前回の部会で申し上げたことでお分かりいただけると思いますが,遺産分割の期間を設けたらいいんだというふうな考え方なんですね。それと連動させるかどうかはともかくとして,所有者不明土地問題の解決を図るには,法定相続登記だけがされたままの状態は全くもって好ましくないと思うんですね。法定相続登記が数次にわたってされていたら,共有者の名義がただ並んでいくというだけのことであって,遺産分割がやはりきちんとされることが大事だと思っています。   したがって,遺産分割をしてくださいねというのを期間制限というかどうかはともかくとして,一定の期間までに遺産分割ができたら,その結果を登記してくださいということを表に出すべきだと思っています。しかし,例えば調停に掛かっているというときも含めてですけれども,その期間内に遺産分割を終えて登記をすることができないことだって、もちろんあるわけですね。そうであるときは,本来望ましい状態よりは長い期間掛かりますというのであれば,せめて法定相続登記はしてくださいという考え方にするのが好ましいのではないかと思っています。ですから,仮に遺産分割の期間制限を設けるということになったら,その期間内に遺産分割登記又は法定相続登記,遺産分割登記が期間制限を設けても終わっているとは限りませんので,法定相続登記をするということがいいのではないかと思っております。遺産分割の期間制限が設けられない場合も,例えば5年,10年の間に遺産分割の登記,それができなくても法定相続登記をしろという形にするのがいいのではないかと思っています。   それから,効果はまた後でちょっと申し上げた……。 ○山野目部会長 実効性確保の方策は,後でまたお願いします。 ○佐久間幹事 では,すいません,取りあえず以上です。 ○村松幹事 ちょっと私どもの資料があれなのかもしれませんし,ちょっと今私が誤解したかも分かりませんが,こちらの出している乙案は,私が今聞いている限り,佐久間幹事のおっしゃったところと同じものを,一定の期間内に最低でも法定相続分での相続登記をする義務を課す。しかし,遺産分割まできちんといけた場合には,遺産分割登記にするということなので,ちょっと括弧の外と中が多少入れ替わって見えたかも分かりませんけれども,そういうことなのかなという。 ○佐久間幹事 すいません。括弧の中で「含む」というのは三つのことを指しているというのではなくて,法定相続登記がまずあって,それで括弧内も,それも含んで相続等によると,権利の移転というふうに呼んでいますということですか。申し訳ありません。では,すいません,乙案に賛成です。申し訳ありません。 ○村松幹事 資料で言いますと,下から2段落目のところに,今,私ちょっと読み上げたところが書いてありますので,12ページの下から2段目ですね。そこの部分の……。 ○佐久間幹事 なるほど。ごめんなさい,ずいぶん時間をとってすいませんでした。 ○山野目部会長 確かに,この乙案の理解が,もしかしたらうまく伝わっていない可能性がありますから,佐久間幹事と村松幹事のやり取りで明瞭に理解を共有することができたと考えます。ありがとうございます。   平川委員,お待たせしました。 ○平川委員 義務化の問題意識は,佐久間幹事の御発言のとおり,この検討会の役割が登記簿情報をいかに正確にして,所有者不明土地をなくしていくかだと思っています。そういった意味で義務化は,大変重要なポイントです。私的自治を原則としつつも,それだけでは限界があるのは,この間の議論でも明らかになっていますので,ここで一つ義務化を置くべきではないかと思います。   義務化の先にあるのは,例えば登記簿における住所情報を正確にしていくために,登記官などが何らかの権限にもとづいて,住民票情報にもとづいて登記簿情報を適正化していくための一つの権限を持つことになるのではないかというイメージがあります。   また,戸籍情報を使うにしても戸籍には,別な目的があるわけです。その戸籍情報を活用する時も,義務化の仕掛けがないと,安易に戸籍情報を使うところに関しては,問題があるような気がしますし,専門家の御見解もお聞きをしたいと思います。そういった意味で,何らかの行政側の権限付与が,これから必要になってきます。そのことからしても義務化は,大きなポイントとしてあるのではないかと思っておりました。   さらに言えば,具体的に今の登記簿情報が,どのくらい正確で,どのくらい不正確なのかが,地籍調査にもとづいてでしか示されていないのが少し不安です。何らかの形で,例えば今の登記簿情報が,どれくらい正確かを根本的に調査していかないといけないのではないかと思いました。   意見として言わせていただきます。 ○村松幹事 今,最後の部分でおっしゃっていただきました,地籍調査の結果しかない。なかなか実際のところ,今の所有登記名義人に当たって,その所有関係を確認するということが簡単になかなかできないというところがございますので,そういう意味では地籍調査とか,そういったところでの確認結果ぐらいしか今のところ数字はないんですけれども,ただ,今おっしゃいましたように,例えば法務局の中でも地図の作成作業,14条地図と呼んでおりますけれども,そういった登記所備付地図の作成作業なんかをやっておりますので,そういったところで,大体実際どんな割合だったのか,所有者不明土地の割合,あるいは原因ですね,少しそういうところもこちらの方でも収集できないかなというようなことでちょっと考えておりますので,そういったところがうまく出てくれば,また部会の方にすぐお示しをさせていただきたいとは思っております。 ○道垣内委員 佐久間さんがおっしゃった中ですごく気になることがあるので,御趣旨を教えていただきたいのですけれども,法定相続分での登記が行われて,更に法定相続分での登記が各人について行われてというふうにしたら,所有者不明土地問題は解決しないではないかとおっしゃったんですが,なぜですか。というのは,それは多数の人が現在共有しているという状態になっているというだけの話ですよね。そして,遺産分割を促進しなければならないというわけですが,遺産分割というのは単独所有になるということが確保されている制度ではありませんので,たくさんの人が共有するという状態に遺産分割でなることは避けられないですよね。ちょっとおっしゃっている趣旨が分からなかったんですが。 ○佐久間幹事 いや,おっしゃるとおりのところはあると思います。ただ,きちんと遺産分割の機会を持ち,明確に法定相続分に従って共有しましょうという合意をされた,あるいは棚上げしましょうという合意をされた。取りあえず義務化した暁に,法定相続分に従って,しかし,義務づけられた登記をしました、ということが起こった。それが数次の相続において起こったと。そうすると,確かに所有者不明ということにはならないし、仕方ない。そうではなくて,法定相続分で共有しようと合意するのでもなく、義務だから法定相続の登記だけはしました。それが数次にわたった。その場合、その土地は結局,名義は今と違ってはっきりしているけれども,きちんとした形で管理,利用される基礎が整ったかというと,そうでないことが多かろうと。そうなるのは困るので,遺産分割を促進してください,早くやってくださいというのと,もう一つ,申し上げませんでしたけれども,もう無理なんだったら,所有権を手放す仕組みを整備して,そちらへ持って行くなり何なりしてもらったらいいと。   だから,メッセージとしては遺産分割を一定の期間内にしてください。それで繰り返しますが,それで法定相続分で共有しましょうということだったら,それはもうそれで何も言うことはないと思うんですが。私が申し上げたのはそういう趣旨でございます。 ○山野目部会長 道垣内委員,お続けください。 ○道垣内委員 いや,続けることは……。 ○山野目部会長 特にないですか。 ○道垣内委員 ないですが,納得はできない。 ○山野目部会長 分かりました。納得はできないと続けていただきました。ありがとうございます。   では,國吉委員,お待たせしました。 ○國吉委員 先ほど平川委員の方から,登記簿の名義人と実態がどれだけ違うのかというお話と併せて,実際に相続が起こっていることをどうやって知るかということなんだろうと思うんですけれども,今,地籍調査の問題もありましたけれども,実は私ども土地家屋調査士というのは,その部分に多分一番関わっている職種なんだろうと思います。例えば,1筆の土地の測量調査を依頼されますと,当然ながら周り数筆の土地の全部調査をするということで,私自身も実務の中で,例えば分筆登記を一気にやりますと,周り全部調べますと,全てが全て,現住所と実際の住所氏名が一致しているなんていうケースはほぼまれです。必ずそこで,やはり相続が発生している場合があったり,当然ながら住所移転しているというようなことがあるのが,もう通常です。ですので,もしかしたら土地家屋調査士が,そういうところへ接するのが多分一番多い職種なのかなと思っています。   一つの提案なんですが,そういう情報を,例えば登記所の方でも何か利用ができるとかいうようなシステム,誰かが知ったときに関係者が相続が発生していますよみたいなことを提供できるようなシステムができればいいのではないかなとは私は思っているんですけれども。 ○山野目部会長 所有者不明土地問題の現場に行くと,確かに所有者が誰か分からないという問題と並行して,その土地は現地でどこにありますかという問題があり,この二つが複雑に絡み合って事象を形成していることが多うございます。平川委員や國吉委員がその観点を御心配になっておっしゃっておられることは事実です。事実ですが,いささかお願いがあり,それはそうですけれども,地図整備の話はすごく大事な話ですから,それをしていくと,盛り上がります。そこで盛り上がるよりは,この部会資料のアのところについて少し御議論をお願いしたいというふうに考えているものですから,できればそちらの方についての御意見を頂きたいと考えます。 ○潮見委員 話を戻してすみません。先ほど佐久間幹事と道垣内委員の話しているところは,恐らく所有者不明土地の概念が双方で違うのだと思います。道垣内委員がおっしゃっているのは,相続が生じ,その場合に共同相続が生じたら,それは共同相続人がその遺産を共有しているわけで,所有者は不明ではないではないかということになる。他方,佐久間幹事がおっしゃっている意味の所有者不明土地というのは,今回の部会資料の8の最初のところに「所有者不明土地(不動産登記簿により所有者が直ちに判明せず,又は判明しても連絡が付かない土地)」とあるのを前提にして,所有者不明土地というものをイメージされていて,この意味での所有者不明土地の問題を解消するためにはどうしたらいいのかということを考えましょうということだということだと思います。   そのときに,権利に関する登記というのは,基本的にその権利主体が誰かということを反映した形での登記という性格を持っているわけだから,そのときに権利主体というものがこの世の中からいなくなってしまった場合に,もはや権利主体ではなくなった人の名義での登記というものが残っているというのが,果たしてこうした所有者不明土地,ここで提示されている所有者不明土地問題を解消する上で,果たしてよいことなのだろうか。むしろ,相続が生じたならば,しかるべき形で法定相続という形を採るにしても,あるいは特定財産承継遺言等々による承継という形を採るにしても,現在の所有者というものを登記上に反映させる形での促進策を考えるべきではあるまいか。こうした観点から,登記の申請義務を認めていけばいいのではないかというので,先ほどの話につながっているのかなと。だから,食い違って当然かなという感じもしないわけではありません。   ただ,それはそれなんですけれども,個人的な意見としては,いろいろおっしゃっておられる意味での登記申請義務というものを認めるという方向での検討というのは進められていいと思いますが,これは後で議論されるということですので,ここで言うべきことではないかと思いますけれども,どうしても義務というものを考える場合には,義務に,あるいはその義務に違反した効果にどういうものを持ってくるのか,それとの関連で,義務というものを認めるべきか,認めないのか,あるいはその内容をどうするのかというのが決まってしかるべきだと思うんです。抽象的に,その義務が在るべきでしょうか,認めるべきではないでしょうかかという,それだけの議論で終わるべきではないというような感じがします。   登記の申請義務というのは,飽くまでも公法上の義務であるという観点から,こうした方策を考えようということであるのならば,それは公法上の効果というものに結び付けて,あるいはそれに限定した形で問題を捉えていくべきであって,ちょっと先走りになりますけれども,後ろの当たりに書いてある,16ページの③のような民事実体法上の不利益,こんなものをここの議論に結び付けるというのは,私は在るべき方向としてはふさわしくないのではないかという感じがいたします。と同時に,そういう公法上の効果というものと結び付けた場合でも,やはり登記簿上に登記がされるというものは,その後の私法上の法律関係に様々な形で解釈上,影響を及ぼしますから,その部分も少し慎重に考えながら,またこれから先,整理をしていっていただきたいと望むところです。 ○山野目部会長 新聞記者の中にも勉強していらっしゃる方はいますけれども,しばしば報道関係から取材を受けると,とにかく相続登記を義務化するのですよねというお尋ねを受けます。それに対していつも答えを返すことは,義務が遵守されなかったらどうなるのですかということについて,どう考えますか,これをお話しすることにしていて,そうすると,いや,それはよく分かりませんが,とにかく義務化するのですねというふうに皆さんおっしゃる実状が観察されます。ですから,今,潮見委員に御注意いただいたことを十分に踏まえ,ここでの審議もしていかなければいけないであろうというふうに感じます。 ○松尾幹事 すいません,先ほどちょっと一つ確認し忘れたんですけれども,今議論になっていた部会資料8の12ページの甲案,乙案の表現なんですが,相続開始後一定の期間が経過すると,相続登記の申請義務が発生するという表現になっています。これについては,相続が発生したら登記義務,ここで言う公法上の登記義務が発生するけれども,一定の期間内にやってくださいねという言い方と,一定期間が経過したら登記義務が発生するという言い方と,甲案,乙案の表現は後者のようにも受け取れますが,そう理解してよいでしょうか。何かちょっと形式論のようにも思えますけれども,相続が起こった直後はいろいろごたごたがあって,登記どころではないから,一定期間は登記義務はないけれども,ある程度時間がたったら整理を付けて登記をしてくださいねという趣旨で,あえてこういう表現を用いているのか,それとも,公法上の義務とはいえ,一種の行為規範と言っていいかどうか分かりませんけれども,とにかく相続登記されないことが所有者不明土地発生原因なんだから,一定の期間内に登記を済ませてくださいねという趣旨なのか,そもそも一般的に相続が発生したら登記するということを,どういうスタンスで説明するのか,もしあえてお考えがあるのであれば伺っておきたいと思います。 ○山野目部会長 その二つの言い方は,論理的には同じことですが,最終的にはどのような効果と結び付くかが見定められてきたならば,それにふさわしい規律表現を選択して書くことになりましょうから,今は取りあえずこういう形で規律表現を示唆として差し上げているということではないでしょうか。何かありますか。 ○村松幹事 恐らく同じことだと思いますけれども,義務違反の効果をどういうふうにするのかということで,過料あるいは民事実体法上の問題,こういったような御提案をしておりますけれども,そういったものをある程度想定しつつ,義務がもう既に発生しているのを前提に規定を置くという問題と,義務違反があるので過料を科す,過料の方は正に義務違反の効果ですね,過料を科すという問題と,何かちょっと整理学としては分かれ得る部分はあるのかなというふうには考えています。今回は1回目の議論ですので,余りそこまでは詳しく書いておりませんけれども,そういった部分,効果との見合いでの整理というのが,効果がある程度固まってきたところでといいますか,必要にはなるのかなと思ってはおりましたけれども,まだ,余りただよく詰めたわけではないんですが,何となくそういう印象を抱いていたというところです。 ○山野目部会長 よろしいでしょうか。 ○松尾幹事 はい,分かりました。 ○水津幹事 乙案における遺贈の扱いについて,意見を申し上げます。遺産分割や特定財産承継遺言による権利の移転の対抗要件は,それによる権利の移転が相続による権利の承継に当たるため,899条の2第1項で扱われるのに対し,遺贈による権利の移転の対抗要件は,それによる権利の移転は相続による権利の承継に当たらないため,これまでどおり,177条等で扱われることとされています。また,登記申請手続の簡略化について,遺産分割や特定財産承継遺言がされたときは,法定相続分による相続登記がされた後も,単独申請を認めるようにする旨の提案がされているのに対し,遺贈がされたときは,これまでどおり,共同申請を維持する旨の提案がされています。その理由としては,遺贈は,相続の性質を有しないことなどが挙げられていました。これに対し,乙案は,登記申請義務の発生原因について,遺産分割・特定財産承継遺言・遺贈を同列に扱っています。そこで,この問題における遺贈の扱いと,他の問題における遺贈の扱いとのバランスがとれているのかどうか,少し気になりました。   また,遺贈を登記申請義務の発生原因とするときは,別途の検討が必要になります。遺贈については,共同申請を維持するとされています。そのため,登記権利者だけではなく,登記義務者も登記申請義務を負うのかどうかという問題や,登記義務者の協力が得られないまま,義務違反となるまでの期間が経過したときは,どのように扱われるのかという問題等が生じるものと考えられます。 ○中田委員 ただいまの水津幹事と同じ問題意識でございます。   質問なんですけれども,遺贈による権利承継についても登記する義務を負わせるという場合に,それは受遺者が相続人である場合に限るのか,相続人以外の者である場合も含むのか,これはどうお考えなんでしょうか。 ○山野目部会長 資料作成の意図をまず村松幹事にお尋ねしますか。 ○村松幹事 この乙案の考え方として,恐らくどちらもあり得るのかも分かりませんけれども,私どもの方で考えておりましたのは,まず,所有者不明土地問題で相続が原因でと,こういう言い方をされておりますけれども,結局登記を見たら,亡くなった方がそのまま登記されていて,相続が起こっているはずなのに,それが反映されていないという問題というふうにざくっと捉えるということになりますと,恐らく問題状況としては遺贈も含めて捉えた方が,包括的な解消につながっていくのかなというような感じはしているところです。ただ,そこで遺贈を入れてしまうと,今お話ありましたように,ちょっとほかの整理と若干違ってくる部分もあるのかなという部分が気になるところではあります。   では,そもそも相続周りの登記に関して,どうしてこの登記申請義務を課すのか。大きくは,恐らく登記申請にインセンティブが掛かるか掛からないか,というようなところを一つの切り口にするのかなとは思うんですけれども,これも一つの考え方ですけれども,物権変動を,自分で望んで物権変動を起こしているような方については,それは物権変動を自分で起こしたんだから,登記も備えるであろうというようなことが抽象的には言い得るのかもしれないけれども,物権変動の発動を望んでいないというケースに関しては,ある程度インセンティブが働かない可能性もある。つまり,私は欲しくて取得したわけではないのに・・というようなことがあり得るかもしれないので,こういった申請義務を課すということのある意味補強材料といいますか,その相当性というものが認め得るのではないかなという整理もできるのではないかということで,ここではその意味で,まず第一に,所有者不明土地問題での相続未登記だというところの未登記の中には,一応,そういう遺贈も実際上入って,皆さん議論されているのではないかというところを一つの契機に,そこも含めて切り取る,そういう切り取り方の説明が一応可能なのではないかということで,試みにこういった提案をさせていただいているんですけれども,それがほかとの整理でどうなのかというところが出てくるとは思います。   恐らく死因贈与を,では,何で入れていないのかとか,そういった御指摘を多分すぐに受けると思うんですけれども,そこは先ほど申し上げたような違いが一応あるのかなというところで,法律行為の形式の中での差異と,それから義務の範囲を考えるということも一つあり得るのかなというところで,事務局としてはそういう考え方を採ってみたというところです。 ○中田委員 ありがとうございました。   単純な質問をしたつもりだったんですが,丁寧にお答えくださいまして,御趣旨を伺うことができました。ありがとうございました。   仮に相続人に限るとすると,法定相続分を超える部分については対抗問題にするという今回の相続法改正の考え方とどのように整合するのかということが出てくると思います。仮に相続人以外のものにも及ぶとすると,それでは売買などにも及ぶのではないかという,また別の問題が出てくると思います。ですから,背景事情はよく分かったのですけれども,これをどこまで及ぼすのかということは,正に甲案,乙案を支えている,先ほどフィロソフィーということをおっしゃいましたけれども,それとも関係することですので,そこは明確に議論した方がいいのではないかと思います。   ついでに申しますと,12ページの2の(3)というところで,「もっとも,【甲案】に対しては」というところから,この乙案に至る叙述があるのですけれども,これは各パラグラフごとに御趣旨がいろいろなものが入っていて,一直線の議論ではないなという印象を受けました。 ○橋本幹事 次の効果との関係で,どうしてもなってしまう話だと思うのですが,日弁連のワーキングとしても,実はこの義務化についてはまだ賛否両論ある状態です。その賛否の内訳はどれだけの効果を与えるべきかというところとセットになってしまうので,やはり抽象的に義務化すべきかどうかという議論もしなければいけないんですけれども,やはり効果との兼ね合いで,それで甲案,乙案もやはり変わってくるのだろうと思うんです。   毎回この部会に来る前に資料を頂いて,在り方研究会の最終提言とどこが変わっているかなというところからチェックし始めるんですけれども,先ほど来,村松さんから公法上の義務ですよという確認は頂いているんですが,部会資料の中では公法上の義務としてというのは必ずしもはっきり書いていないように思って,そこはやはりそうなんですよね。という前提じゃないと,何か民事実体法上の義務としてなのかなというふうな読み違えも起こってしまうと議論が錯綜してしまうのかなという気もしないでもなくて,要望です。 ○村松幹事 確かに今見ると書いていないかもしれない。11ページの補足説明の冒頭のところで,公法上の義務を負わせることとはしていないというところからスタートして,負わせますなので,ちょっとすいません,はっきりとしておりませんが,趣旨としては公法上の義務ということになります。ただ,そういったものを前提に,あるいはそれを下敷きにして,民事実体法上の問題をどう考えるかというのは,また個別,個別,検討が必要だというのは最初に申し上げたところでございます。 ○山田委員 先ほどちょっと議論になったところに関連した話をしたいと思います。   所有者不明土地の解消ということで,具体的に何を考えていくべきかということですが,一つは,先ほどもどなたかが御発言されましたように,登記上の情報から今の所有者を知ることができるようにするということだと思うんですね。そうしますと,何が必要かという問題がまだもう一歩進んでいくだろうと思います。   しかし,それとともに,私の断片的な経験にすぎないのですが,地目で言うと山林で,そして昭和のある時代までは,いわゆる村落共同体に共同的に帰属していた土地で,そして登記は村落共同体が登記名義人になれませんので,その構成員の一部が登記名義人になっているという土地があって,それは所有者不明土地問題の一つの例だと思います。そういう土地についてこれから制度を組んでいって,この土地は,この筆はですか,250人の人たちの共有になっていますということが明らかになっても,その問題は解決するかというと,やはり半分しか解決していないんだろうと思います。それは何が足りないかというと,関心を失われてしまっている土地がやはり放置されるということで,管理不全の問題は解決しないのだと思います。ただ,そこまで民事基本法で抱えるのかということは大きな問題で,どうもよく分からないところがあります。   今の話に関わった例でいくと,250人で共有されているということが登記に表れればそれでいいではないかと,不動産登記の仕組みとしてはそれでいいではないかということはあるのかなと思うんです。しかし,この部会でどこまでできるか分かりませんが,この部会が立ち上がった,そのスタートとなっている事実には,それではやはり解決していない問題が残るということは,私は確かではないかなと思います。   そのときには,やはり森林を扱う法律がどういう特別法を作るかというようなことと関連してくるのではないかと思います。それが,この場で議論するわけではないのですが,事務当局同士で御連絡をしていただいて,どういう民事実体法,そして,あるいは不動産登記法も含めてどういうものを作ると,いま申し上げました森林の村落共同体に帰属してた土地の解決が進むかという発想があると良いと思います。昭和20年代に共同相続になって,70年ぐらいたちますから,2回か3回ぐらいは相続が,2世代か3世代ぐらい相続が起きているのだと思います。それで今の共有者は,250人ではなくて,50人でもいいのですが,相互にはほとんど知っている人はいない,50人の中の2人か3人は兄弟だったり,家族だったりで知っているけれども,それ以外はもう一度会ったことがあるという人が何人かいて,そのような山林の管理不全をやはり解消できる方向に,進むと良いと思います。この部会で扱うことで100%答えが出ないにしても,ほかの法律,ほかの省庁が所掌している施策の基礎となるような,また,それらとともに進められるような民事基本法は何かというようなことも考えていただけるといいなと思います。時間が限られているこの作業ですので,無理なことを申し上げているかもしれませんので,できませんでしたというのでも結構ですが,ちょっと早い段階で,一度申し上げておきたいと思ったことです。 ○山野目部会長 農地や林地について設けられている台帳の制度をもっと機能的なものにし,正確性の向上を図ろうとする施策は,林野行政と農地行政の領域においても進められているところでありますが,山田委員から御注意いただいたとおり,この部会の調査審議と,それらの行政諸部門の動き等を連携させながら進めていくということは当然でありまして,関係閣僚会議からも要請されているところでありますから,御指摘いただいたところに留意をして,事務当局においても進めてもらえるものと考えます。ありがとうございます。   引き続きいかがでしょうか。   アのところの範囲は御意見を伺ったという扱いにしてよろしゅうございましょうか。   先ほどから再々,このアの論点自体ももちろん検討しなければいけないけれども,イで御提案申し上げ,いろいろ題材を御提示申し上げているとおり,実効策の確保,効果の内容如何ということと十分な連携を見て考えなければいけないという御注意があり,ごもっともなことであります。   そう考えますと,アとイの間に休憩を入れることがいいかどうかという論点は,あるいは非常に問題かもしれませんが,しかし,お疲れでいらっしゃると想像します。休憩にいたします。           (休     憩) ○山野目部会長 再開いたします。   引き続き,部会資料の(イ)実効策の確保について,幾つかのメニューを御提示申し上げているところでございます。   この点について,御意見を承ります。いかがでしょうか。 ○道垣内委員 誠に申し訳ございません。(ア)について,もう一言だけ言わせてください。   13ページの3の対象となる権利の種別というところについて,二つ話を申し上げたいのです。一つは,中田さんがひょっとして,フィロソフィーというか,目的が若干,一貫していないのではないかという話をされていたことに関係するのかもしれませんが,死亡者という法人格がない人の名前が書かれているというのは,それは変ではないかという観点からすると,それは抵当権者のところに死亡者の名前があるといったりするのも変である,という話になるんだと思うんですね。   したがって,しかし,今回抵当権,質権,そういうところまでやらないんだという話ですと,死亡者の名前が残っているのは不動産登記上おかしいという論理ではなくて,やはり所有者不明土地の話なんだという形で,やはり整理をしていかなければならないんだろうというふうに思います。   2番目なんですが,この文章,実は分からなくて,3の(1)の2段落目の「なお,このような配慮が必要になるのは,権利発生等については,登記をしない限り,第三者が対抗することができないことに鑑みると,基本的に各種権利は・・・・・・」という話なんですが,私がここで思ったのは,別に抵当権が設定されたのに,抵当権の登記がされないまま放置されているというのがここでの問題ではなくて,抵当権者の名前が,AさんならAさんと書かれているけれども,Aさんが死亡したのに,Aさんのままになっているというのが問題になっているのではないかという気がするんですが,そうすると,なお以下の文章の意味がちょっと,私にはよく分からなかったのです。第1は意見であり,第2については,一言御説明いただければと思います。 ○山野目部会長 後半の御質問は,何かちょっと不注意で,なお書のところを書きましたとお詫びして済む話かもしれません。   ここでの話の関係では,要らない1センテンスかもしれないですね。ですから,そこにエネルギーを割いて,ということも考えるものですから,いかがいたしましょうか。休憩前に潮見委員からも御指摘いただいたように,どういう方向でいくかということと並行して,補足説明が時々,ちょっと筆が滑っているところがありますから,それは様々な機会に御注意いただきながら正してまいりましょう。今の道垣内委員のお話も,そういうランクの話かもしれないというふうには感じましたけれども。 ○道垣内委員 指摘した後で,褒められるのかと思ったら,そういうことに時間掛けると言われたら,結構悲しい思いが……。 ○山野目部会長 いえ,御指摘いただいたことは有り難いというふうに受け止めます。ありがとうございました。   ほかにいかがですか。   それでは,(ア)のところの補足の御発言を頂きました。(イ)のところに進みますが,ただ,再々御指摘いただいているように,(ア)と(イ)は密接に関係していますから,ただいまの道垣内委員の御意見もそうですが,(ア)に関わることをおっしゃっていただくことも妨げられません。いかがでしょうか。増田委員,どうぞ。 ○増田委員 ありがとうございます。   正に(ア)と(イ),セットの話だと思いますし,(イ)のところを実際にどうするのかということによって,制度を作っても,むしろそのことが登記の義務化を阻むような形になってもいけませんし,非常に法律論としては難しいところ,公的な効果がきちんとしないといけないと思うんですが,先ほど(ア)のところで,実は法律論の議論が,この本件の問題に鑑み,登記の申請の義務化ということを前提に,いろいろ法律論が進んでいたので,私は特に申し上げることはないなと思っていたんですが,たまたま最後の方で,山田先生から,戦前の村落共同体が持っている山林の話等もありましたので,ちょっと私も,少し原則論ぽい話ですが,(イ)の議論をするときに,こうなったら困るなという,要は,(イ)の議論によって,なかなか過料とか実効性あることがないということによって,登記の申請の義務化が見送られては困るなという思いで,あえてこういうことを申し上げるんですが,実は今回の問題が,やはり一番片付けなければいけない,こういう事態を避けなければいけないというのは,間もなく大量の相続が発生するという,ボリューム的には,いわゆる団塊世代,単年度で270万人ぐらいが生まれていますので,それが数年続く,ものすごく大きな塊があって,それで,今現在の出生数って,僅か90万人ですから,今よりも年間に3倍も生まれている。そういう時代の大きな塊が,間もなく大量相続に突入すると。したがって,相続登記の件数が,これから非常に大きく急増していって,全員が土地を持っているわけではありませんけれども,全員が相続にぶち当たるということでは決してありませんけれども,非常に多くのものがこれから出てくる,相続の案件としてはですね。   それが登記されないということになると,ただでさえ,今までの累積によって,登記簿を見てもなかなか分からないのが,今後は更に,その事態が急速に進んでいってしまう。これをどうするかというのが,ここでの議論の一番大きな焦点ではないかなと私は思っております。   したがって,大変,公的な意味合いで,実効性をどう担保するかというのは,大変悩ましいところではあるんですが,少なくともやはり,相続についての登記申請を義務化するということによって,法機関,規範性を高めるという意味合いが非常にあるのではないかと。それを法律論的にどうするかというのが,ここでの一番重要な議論だと思っておりまして,その関係では,戦前から存在するような問題も,できれば解決できれば,大変いいことであるんですが,当面は,これからの相続登記の大量のものをどういうふうに処理するかということを念頭にやっていくことが非常に重要ではないかと。   また,これ以上登記簿が,見てもなかなか権利が分からないということになると,結局,一つは登記簿以外の制度で,何か考えていかなくてはいけないということになる。これはこれで一つのやり方かと思いますし,それからもう一つは,根源的な問題として,所有権が全ての土地について判明していないといけないのかどうか,利用権だけ利用が可能であればいいのではないかという整理もあるかと思いますが,それはそれで,また大変な整理が必要だと思います。   今の議論とすると,登記制度を前提に,そして各地にいる登記官の築き上げてきた制度を前提に,これからの問題をどう解決していくかということですので,余りにもちょっと,元に戻ってというか,全体的な話ですが,私は相続登記の申請を義務化していくという,その大前提の下に法律論を,是非(イ)の方についても整理をしていただきたいなと,こんなことを思います。 ○蓑毛幹事 先ほど来申し上げていますが,日弁連のワーキングでの弁護士の意見の大半は,基本的な方向性として,部会資料14ページの登記申請義務の履行に利益を付与する方策を,具体的にどのような形で出せるかが大事だというものです。その中でも,強い意見は,登録免許税を免除すべきというものです。   さらに,出てきているアイデアとして,部会資料にも書いてありますが,本来であれば,相続人の1人が登記所に対して,被相続人の死亡の事実を申し出れば,あとは登記所が手続を進めてくれる,このような仕組みができれば一番よいのですが,残念ながら,現時点ではそれが出来ない。出来ないから,どうするかというと,法定相続人が,登録免許税も支払い,また登記手続を自分でするのは難しいので,専門家の費用も支払って、登記手続をしなければいけない。このように、手続や費用面での問題が,相続登記がなされることを妨げていることからすれば,ハードルは高いと思うのですが,相続人が容易に自分で相続登記の申請ができるような環境を整えるとともに,しかしながら,数次相続が起こっているようなものもターゲットに入れるとなると,その登記手続を自分1人でやるのは到底無理でしょうから,そのような場合は,専門家の費用について,国庫が負担することはできないだろうかという意見もありました。   更にインセンティブを考えるのであれば,ハードルが上がりますが,相続登記をした場合には,固定資産税について,一定期間減免をするであるとか,あるいは,相続税の申告時期との関係もありますが、早いタイミングで相続登記を行った場合には,相続税について何らかの利益があるようにするとか,様々,そういうような税務面での思い切った施策と一緒に,相続登記の義務化を国民に示すのがいいのではないかというのが,弁護士会の大半の意見です。   次に,部会資料15ページの(イ)の過料ですが,これは弁護士会としては大反対です。   先ほど,数次相続が起こったときのことを申し上げましたが,そうでなかったとしても,今の制度のもとでは,例えば相続が起こったことや被相続人が不動産を持っているということを,相続人が知らない場合も多々あり,そのような場合にも過料が課されるのか否かがはっきりしません。あるいは,過料の要件の定め方の問題で,主観的要件でうまく切れるかもしれませんが,その辺りが不透明です。また,現時点では,登記官は,相続の事実や相続人が誰かを把握できない状況ですので,過料の制裁が,一部の者にだけ恣意的に適用される可能性がある,このような状況からすると,過料による制裁を課すことは適切ではないと思います。   また,(ウ)の罰則以外の不利益に関してですが,公法上の義務を課すことの効果として,様々な民事実体法上の不利益を課すというのは,論理的に整合性を欠くと思いますので,このような不利益を課すことについては反対です。 ○道垣内委員 利益,不利益の問題で,利益はどういうふうに課すのかという話でございますけれども,それはそれで結構なんですが,私は,その利益は,法定相続分による相続登記がされても与えられるべきだと思います。遺産分割を早くした人だけが利益を得られるというのは,根本的におかしいと思います。   共同相続人間のもめごとを早く解決したら褒められて,長く権利を争っていると叱られるというのは,私は根本的に制度としてはおかしいと思いますので,法定相続分の登記がされたとしても,それは,きちんと登記したねということで利益が与えられるという制度にすべきであろうというふうに思います。 ○山野目部会長 佐久間幹事,何かおありですか。今のは,だって,佐久間,道垣内論争の続きですよね。 ○佐久間幹事 いや,私は,法定相続登記は最低限されるべきであるということをまず申し上げたのと,今日の大分前ですが,実現するかどうかはともかくとして,法定相続登記がされれば,そこで費用を取り,その後の費用負担はないというふうに,少なくとも手続費用だけです,申請費用,その方がいいのではないかというふうに申し上げておりますので,法定相続登記がされれば,利益を与えるというのには反対ではございません。   法定相続登記を省略して,いきなり遺産分割の結果を登記するというのも,それは同じように扱いましょうというのでいいのではないかと思っております。   ついでに申し上げてよろしいですか。何だか過料による制裁以下は評判が悪いようなんですが,私は過料による制裁は,どちらでもいいかなと思っているといいますか,実効性が必ずしも見込めるわけではないと思われるので,象徴的意味で入れるかどうかを決断すればいいだけのことかなと,かなり無責任ですが,思っております。   申し上げたいのは(ウ)でありまして,公法上の義務と民事上の義務がつながらないというのは,それは論理的にはつながりませんが,公法上の義務になったのだから,民事上も一定の場面では不利益を被ることはあり得るというのは,おかしくないのではないかと私は思っております。   その点で,①から③まであるんですが,①については,法律上問題となる通知方法について,全部こうしますというのだったら,それは余りにも乱暴だと思うんですが,補足説明にも書かれているように,これについてはどうか,あれについてはどうか、と一つ一つ検討して,導入してもいいというものがあれば,私は広げてもいいのではないかと。前例もないわけではないですよね,仮登記担保に関する法律のように。   だから,これがあるわけですし,広がることがあっても,私はいいのではないかと思っています。   それから,②の費用負担はちょっと,登記を怠っている場合に,名義人というか,本当の所有者は誰かというのを捜すことは,捜す方が好き勝手にやるというか,自分のためにやるというのが普通であろうと思いますので,損害というものに当たる場合が出てくるのかなというのが疑問です。当たるのであれば,排除する必要はないと思うんですが,当たる場合があるんだろうかというのが疑問に思っております。   それから,③については,確かに法定相続分については,現在は,177条にいう第三者が現れることがないということから,登記をせずとも,第三者というか,全ての人に対抗することができるとなっておるわけですけれども,だからこそといいますか,法定相続登記はしなくたって,放っておいたって何も不利益がないというふうになっているわけですよね。これに対して,登記義務を課し,その義務が果たされない場合のある種のサンクションとして,一定期間経過したならば,何かその点でも不利益があり得るんだということにすることは,あってもいいのではないかと思うんです。そこで,こちらの③にあるような登記を信じた第三者というふうに,信頼という要件を盛り込むことによって,これが認められることはあってもいいのではないかと私は思っています。   加えて,時間が多分ないんだろうと思うんですが,そもそも94条2項類推適用の法理について,現状,判例によって,いろいろ積み重ねられてきているわけですけれども,こんなに登記が大事だという状況になったときに,意思的関与といわれますけれども,要するに,虚偽の表示を自らしたというのに極めて類する事態でしか,94条2項類推適用法理が働かないというのが,果たしていいことなのかという,それでいいのかということも,考えてもいいのではないかと思っております。 ○山野目部会長 ありがとうございます。 ○潮見委員 14ページの(ア)のところの履行に利益を付与する方策というのがありますが,これを推し進めていくのであれば,登記申請義務というものを認めるか認めないかにかかわらず,インセンティブを与えましょうねという形で制度を組むというのも,ありかとは思います。   それから,過料は,私は佐久間さん以上に定見ありません。   罰則以外の不利益ですけれども,通知方法等による不利益,これも,実体法上の効果かということを言われたら,民事上の効果の中でも,その要件のところで,実体法上の実体的な要件と手続的な要件があって,その手続な要件に属する部類で,その部分を緩和しようということですから,①は,そういう説明の仕方はできるのかなと思います。   それから,②は,正直言って,どっちの方向を向いているのか分からなかったということを一言だけ申し上げます。要するに,登記申請義務の違反によって生じた損害を賠償するべきというルールという形で組むのか,それとも,登記申請をしなかったことによって費用が生じたときに,その費用を誰にどのように負担させるのが適切かというルールで組むのかによって,ちょっと違ってきますよね。   前者だと,義務違反と相当因果関係のある損害というものであれば,費用に限らず,それ以外にも及び得るし,逆に,費用だからといって,損害というところに入らないような場合も,状況によっては出てくるかもしれない。   後者だと,登記申請義務を怠った結果として費用が生じていますから,その生じた費用というものを,さあ誰にどのように分配しましょうかという話になります。   このように,どちらを採るのかによって違ってくるところがあります。その意味では,説明資料の中での法定の賠償責任というふうにお書きになっている部分は,やや,決め撃ちすぎかなという感じがいたしました。   それから,③については,私自身は,こういう定型化をすること自体が,むしろ若干問題があるかなという感じはいたします。その後で佐久間幹事が,④と言われた方向であれば,賛成したいというところがあります。   というのは,先ほど本人の意思的関与とか,本人の帰責性という話が出ましたが,従来の94条2項の類推適用関連での話というものは,公示を信頼した人を保護するという,ことのみならず,本人側の帰責性とか,本人の意思的関与とかを個別の状況ごとに判断をしています。ある程度は類型化はされていますけれども,本人の意思的関与,帰責性要素というものは,今のところは厳然として残っているのではないかと思います。   そういう中で,ここで登記申請義務を怠ったというのは,公法上の義務を怠った意味ですが,公法上の義務を怠ったということから画一的に,このような第三者保護というものを持ってくるというのは,いかがなものかと思います。   ただ,逆に,94条2項の類推適用の枠組みを何らかの形で条文にしてはどうかというのは,前の民法(債権関係)部会以降,ずっとくすぶってきた問題ですので,③のような方向性が,方向としては正しいのではないかということであれば,少しここに書かれているものを,文章を工夫することによって,現在蓄積されて,ある程度類型的には命題化することができるようなものをここに書き込むという方向で,ここでいう登記申請義務とは切り離した形で,何か私法上の実体法上のルールを組めないかという検討をしていただければ,有り難いかなと思うところです。 ○道垣内委員 ②について,一言だけ申し上げますけれども,これは,買いたいと言ったら,もうそれで,この土地買いたいなと言って,それが不明であると,お金がもらえるという制度ですか。 ○山野目部会長 ②は,すこし御案内を補う必要がありますね。 ○道垣内委員 結論からすると,あり得ない制度ですね。 ○山野目部会長 あとで補足の御案内を差し上げます。 ○中田委員 ③との関連で,今,潮見委員から94条2項の類推適用の明文化についての御提案がございましたが,これは,民法(債権関係)部会において,かなり議論をした結果,見送られたということが,確か経緯としてはあったのではなかったでしょうか。   それをもう一度やり直すというのであれば,それなりの時間を掛けて,慎重に検討する必要があるだろうと思います。 ○山野目部会長 15ページの中ほど上の(イ)過料による制裁に関して,少し経過の御紹介をしておきたい事項がございます。   2018年5月22日の衆議院国土交通委員会が参考人の意見陳述を求めまして,政府参考人ではなくて,私人たる参考人の意見陳述を求める機会でありましたが,罰則をもって登記を義務付けるべきではないかという質問が議員からされました。その折の参考人から,以下の4点ないし5点の意見が述べられました。   1点目は,罰則の内容は,建物の表題登記がされない場合を参考にすると,10万円以下の過料になるのというのが穏当なところであろうが,それで果たして実効性があるか。   2点目は,違反事例の効率的な補捉の見通しが得られるか。たくさんの違反事例が予測されるが,国のどの機関がどのようにして摘発の任に携わるか,そのマンパワーがあるかという問題であります。   それから,3点目が,刑事罰になぞらえていいますと,真性不作為犯の罪数の問題というものがありまして,例えば10万円と決めたときに,10万円は1回納めれば,それで済まされるか。それとも,その状態が継続している限り,再度それが問われるようなことがあり得るかといったようなことについて,理論的な整理が必要である。   4点目が,遺産分割の期限との関係が整理を要し,不明瞭なままで過料化することに問題があるかもしれない。   それから,5点目,数次相続の場合の解決が不明確で,誰に対して,どのような要件で過料が科されるかといったようなことは明確にされる必要があるといったような論点が考えられるところでありまして,これらの点のうちの大部分について,御案内した参考人に対する質疑で,このような観点が指摘されたことを受け,翌日の5月23日のやはり衆議院国土交通委員会で,対政府質疑において政府側から,昨日の参考人が述べたとおりであるという答弁がありました。   したがいまして,これから過料を何か法制化していく際にも,昨年5月の衆議院国土交通委員会における質疑を議員は記憶しておりますから,これに照らして,その難度を乗り越えるような規律の整備とその説明がされたかということが質されたときに,立ち往生しないような準備が必要でありまして,過料のところは弁護士会から強い反対があるということを承りましたし,仮に進めるとすれば,これらの点についての検討を欠かすことができないというふうに感じられるところでございます。   15ページの下の方の(ウ)罰則以外の不利益の①のところについてですけれども,佐久間幹事と潮見委員から,あり得るであろうという評価を頂いたところでありまして,実は本日,不動産登記制度の最初の審議をお願いしていますが,ここに至るまでの前回までの実体的な規律の見直しの関係でも,様々な場面で,登記簿上の住所に宛てれば足りるというふうに扱ってよいではないかというふうな構想を御提示申し上げていたところであります。あのような各場面の規律と組み合わせることによって,①を育てていくということは,ただいまの委員,幹事の御指摘を踏まえれば,あり得るかもしれないと感じられます。   16ページにいって,②でありますけれども,こういうことがメニューとして考えられるところから,ひとまず部会資料でお示ししているということであります。②を何か強く推して実現するという,何か背景,経過があるものではございません。   1955年1月4日付デクレというものが,フランスの不動産登記に関する制度を定めている法典でありますけれども,その30条4項で,登記の義務付けがあるにもかかわらず怠った場合には,損害賠償責任を負うという規定がございます。外国法資料として,この部会の第1回会議で机上配布したものでも御紹介している制度であります。   ところが,30条4項の規定を読んでも,賠償義務を負うと書いてあるにとどまり,一体どのような局面において,誰が誰に対し賠償義務を負うかが分かりません。フランスの不動産登記法の本を見ても,法文と同じ説明しかなくて,これまた分からないのですね。   1週間前に,フランスの公証人実務に精通している人に問い合わせました。これはどういうときに用いられるか,具体例を挙げよと求めましたら,やや調べてみてくれた上で,お答えを先日電子メールで頂き,余り使われている場面を見たことがないということでした。公証人は,一定の局面において,登記をしなければならない義務を当事者に教示する義務があって,怠った場合のサンクションと関連して,こういうものが働くということは考えられる,けれど,教示してあげる義務を怠る公証人は実際上考えられず,余りそれが現実に問われている場面というものは見たことがないということでした。きわめつけは,「君が日本の法制審議会におけるミッションを果たすにあたり何か重要な意味をもつ制度ではない」という所見も添えられました。   私が個人的に収集した情報ですけれども,そのくらいで理解していいものであるかもしれないという見通しの一つの傍証にはなるであろうと考えます。   繰り返しますが,メニューとしてお出ししているものでありまして,ただいま,必ずしも成り立つ話ではないのではないかという御意見も頂いているところでありますから,それを踏まえて検討を続けることになります。   ③につきましては,既に御指摘が再々ありましたとおり,民法(債権関係)部会において,94条2項の類推解釈を規律上表現することの適否が,一切ならず何回か,議事録を見ていただくと話題になっておりまして,議論の対象になりました。賛否が分かれた論点ですが,あの話とここの話は,ぴったり同じではありませんけれども,その経緯を十分点検した上で,改めて考えなければいけないという御注意は,潮見委員,中田委員から頂いたとおりでありまして,佐久間幹事からは,むしろしかし,これをヒントにして,積極に考えるべきであるという御意見も頂いているところでありますから,これらを踏まえ整理をしていかなければならないと感ずるものでございます。   引き続き,御意見を承ります。吉原委員,どうぞ。 ○吉原委員 ありがとうございます。   (ア)と(イ)に関連して,私は法律の専門家では全くないので,大変感覚的な発言になるかもしれませんが,不動産登記簿などの台帳を見て,現在の所有者が直ちに判明するようにしたいというのは,関係者全員の一致した思いであろうと思います。   では,台帳を見てすぐに分かるようにするためには,どうしたらいいのか。今は登記は任意で,任意の反対は恐らく義務だろうから,義務にしましょうという発想が,例えばマスコミや,あるいは自治体の方などから,任意では登記がされないから義務化すべきだということをよく聞きます。   ただ、任意だと登記がされないから義務にしましょうという発想で本当にいいのだろうかというのが,素人の正直な感想でして,先生方のいろいろお話を聞いて,義務というのもあるんだなと,今日思っているところなのですが,本当に義務ということが実効性を持つのか,また,多くの人々の理解を,納得感を得られるのかというところについては,慎重な議論が必要であると感じます。   台帳を見てすぐに分かるようにしたいという,その目標という山に向かう,山の登り方というのは恐らくいろいろあって,それをここで議論するわけですけれども,台帳を見てすぐに現在の所有者が分かるようにするために,国が強制的に登記をしなさいといって,それが実現するものなのか。義務化をしたところで,人々の納得感がなければ,幾ら手続を簡便化しても,費用の削減を図っても,ついてこない人はついてこないのだろうと思います。   では,どうやったら義務を守ってもらえるのかというところは,迂遠でありますけれども,丁寧な説明が必要で,前半で松尾先生が,日頃から登記について手続を知る機会なども必要だということをおっしゃっていましたけれども,そうした日頃からの地道な周知・広報という促進策とセットでの,こういう強制的な手段なのではないかと思うところです。   ちょっと長くなって申し訳ないのですが,橋本先生が休憩の前に,いつも部会資料と在り方研究会の報告書と対比してみるとおっしゃっていて,私もそうだなと思ったのですけれども,在り方研究会の報告書の第2章では,記述の順番が,まず不動産登記の申請義務化がありまして,その次に登記手続の簡略化という順番でした。それが,本日の資料では,まず登記申請を促すための方策として,登記申請の負担の軽減というものがありまして,次に,登記申請の義務化という順番になっております。   すなわち,今回の見直しは,公法的な観点から登記制度が重要であるという立場から,登記を促進していきましょうということなので,まずは国の方で,できるだけの工夫や制度の見直しを進めた上で,国民に義務負担を求めていきましょうという流れに変わったのだなと私は受け止めまして,この順番の変更というのは,非常に大きいものであると感じたところです。   あとは,短く済ませますが,14ページの(ア)で,登記申請義務の履行に利益を付与する方策で,これは潮見先生もおっしゃいましたが,登記を義務化するか否かにかかわらず,登記をすることの利益を付与する方策というのは大事であろうというふうに,素人ながら思っております。   これは質問になってしまうのですが,例えば,登記をしていてよかったなと思える局面を増やすということは,法律的にあり得るのでしょうか。全く素人なので分からないのですけれども,例えば,空き家撤去の補助金を申請する際には,相続登記を行っていることを要件とするとか,そういうプラスの要件を設けるということは考えられるのでしょうかということが一つ質問です。   それから,最後1点ですが,(イ)の過料による制裁のところで,本当に過料を適用するという意識で,最初からこれを作るのかどうか。それとも,未登記家屋の罰則適用事例もほとんどないし,そういう規定はあるけれども,ほとんど実施されていないものもあるのだから,これは,罰則規定があることで,ここに書いてあるような自発的な履行を促す効果があればよしとするのか。これも分からないのですが,そういう作り方で,本当に法律としていいのか。   国民に法律違反が生まれるということになるわけですよね,義務化をすれば。義務を課して過料を適用するという,そこまで本当にやるのか。登記官の方の負担を増やし,国民の負担も増やし,そこまで本当にエネルギーをここに掛けるのか。それとも,もうちょっとほかに限られたエネルギーの掛け方があるのかどうかということも,非常に迷っているところです。 ○山野目部会長 吉原委員から,根本的な観点の指摘を意見としておっしゃっていただいたとともに,若干の御質問が含まれていたと受け止めます。   質問は事務当局に対する質問でしょうね,きっと。 ○村松幹事 相続登記をしていることに様々な便宜を与えるという方策自体は,それぞれの所管,所管で,これはそういう必要性があるということになれば,考えられるのかも分かりませんけれども,相続登記の促進のために何かというのは,なかなかそう簡単なことではないのではないか,直感的にはそう思っております。   あと,過料の問題に関していいますと,今回は過料の制裁を課すかどうかから,御質問というか,議題ということにさせていただいておりますけれども,過料の金額も含めて,どうなのかという部分がありますし,また,過料の制裁の要件,ちょっと蓑毛幹事からもお話ありましたけれども,具体的にどういう要件にするかによって,結局のところ,要件判断が複雑になればなるほど,そうそうは,なかなか義務違反の認定が難しいという,そういうことも当然出てまいりますので,要件立てとの関係で,どれだけ過料の制裁をもって,効果的なのかという部分の違いは出てくると思います。   そこは制度の作り込み次第だとは思いますけれども,ただ,恐らく少なくとも,ドイツなんかではそうだと聞いておりますが,過料の金額200万円とか300万円とかいうふうにして,本当に過料の制裁一本で登記の申請を促すというのは,多分,恐らく皆さんも思っていないだろうなということでしている提案でございます。 ○吉原委員 すみません,一言だけ付け加えたいと思います。   佐久間先生から,この部会で登記の義務化ということは,やはり実現するのがとても重要だろうという御意見がありまして,やはり部会としての成果を出すということは必要だと思います。しかしながら,法改正をした,義務化を実現したという実績は残っても,5年後,10年後に振り返ったときに,本当に問題の解決につながったのか,国民の共感を得て,登記というものの意義や必要性が広く浸透するようになったのかという局面から見たときに,形骸化するかもしれないという一抹の不安を抱えたままで進めてしまうのはいけないと思っているということは申し上げたいと思います。 ○山野目部会長 今,吉原委員から,登記の義務化という形で問題提起をさせていただいている事項について,かなり本質的な問題提起を頂きました。その御指摘を踏まえた議論は続けていただければよろしいと考えますが,一つ二つ御案内を差し上げておくとしますと,まず諮問107号は,登記の義務化の是非について検討してほしいというふうに,法制審議会に対し,そしてこの部会に対して求めておりますけれども,義務化をする,かなりラジカルな義務化をするという結論を必ず出さなければいけないというものではありません。   2019年4月4日に参議院決算委員会において,議員から,登記の義務化をした方がよいのではないかという質問をされたのに対して,政府の答弁として,その問題については今,法制審議会において審議をお願いしているところであるから,その成果を見たいという,それを超えるものでもそれ未満でもない答弁がありました。ここでは,そのような趣旨を踏まえ,きちんと議論していただくことが大事であって,何か特定の方向が示唆されているというものではありません。   その上で,中身の方に踏み込んで申し上げますと,確かに佐久間幹事から,この部会は登記の義務化をしなかったら,そもそもレゾンデートルに関わるというふうにおっしゃっていただまきしたけれども,吉原委員は今,本当にそのように受け止めてよいでしょうかというふうにおっしゃっていただきました。しかし,お二人がおっしゃっていることを受け止めていえば,義務化という言葉を用いるかどうかはともかくとして,相続登記をしてもしてなくても,どちらだって構わなくて,ほったらかしにしておけばよいですよという考え方で,今後の日本の土地法制を進めてはいけないということは,考えられません。このことは,恐らく吉原委員にも御同意いただけるし,佐久間幹事がおっしゃられたことも,そこのところを民事基本法制の関係から,何も手を打たないという結論に,ここの答申案がなったのでは困るではないかということをおっしゃってくださっているものであろうと受け止めますから,そのように改めて整理し直せば,お二人の間に大きな齟齬はないであろうというふうに考えます。   その上で,別して吉原委員にお願いするとすれば,並行して国土審議会の土地政策分科会特別分科会で審議が進められておりまして,あそこで吉原委員,増田委員などがおられるところで,こういう議論があったと思います。   今,所有者不明土地問題を解決せよ,ということで,国民世論が割とそちらの方向で沸騰していますけれども,世論の動向というものは注意して見なければいけないのであって,国が一旦,権威的で抑圧的な土地政策を打ち出そうとしているというふうに見られたときの世論の潮目の変化というものは,怖いものがあるであろうと想像します。   民事基本法制の専門的見地からは,ここで今日,部会資料でお出ししているような観点の審議を引き続きお願いしますけれども,それと同時に,最終的に義務化というラベルを貼って,とにかくこれをやるという打ち出し方をしていくかどうかということについては,国土審議会における土地政策の成果物の出来上がりと,それの国民への周知・説明の動きとも十分な連携を取った上で,進めていかなければいけないことではないかというふうに考えておりまして,吉原委員から御指摘いただいたことは,そのような観点からの御注意も含むまことに重要な指摘であると受け止めます。ありがとうございました。   お待たせいたしました。平川委員,次,増田委員,お願いします。 ○平川委員 義務化のところですけれども,例えば18ページの2の「申請がなくとも採り得る方策」の中で,「登記所が他の公的機関から所有権の登記名義人が死亡した事実及び死亡年月日の情報を取得することができるものとした上で,」と書いてあります。「できるものとした」という根拠は何かが知りたいところです。例えば,住民票もしくは戸籍情報であるとか,ただ単純に知りたいから戸籍情報見よう,ということでは,まずい話になると思います。その辺の根拠を,どうしていくのかが必要です。   私は,先ほど言ったように,一方で義務化があり,その効果として他の情報を知り得るという効果があるという意味で,義務化が考え方としてあるのではないかと発言したのですけれども,もう1回その辺について,「取得することができるものとした上で,」という根拠を教えていただきたいと思います。 ○村松幹事 19ページの資料の補足説明の,19ページの2の上の部分に,ちょうど平川委員御指摘の部分について,少し触れてございますけれども,取得先はいろいろあるかもしれませんけれども,死亡情報を取得するということがなぜ許容されるのかという議論は,やはり避けて通れない議論なのかなというふうには考えております。その際に,登記の義務化がされているので,それに対する登記所としての対応が必要だから取得をするのです,ということは,取得の必要性を根拠付ける一つの根拠には十分になるかなというところでございます。   そういったものなしですと,なぜ登記所はしなくてもいい相続登記に関して情報を収集しようとするのかという問題も,確かに出てくるところではないかなというふうには考えられますので,説明ぶりはもしかしたら,いろいろあるかもしれませんけれども,義務化はある意味,端的な一つの答えだということにはなるのかなと認識はしております。 ○平川委員 ありがとうございました。その辺,引き続き検討をお願いしたいと思います。   それと18ページの2では,「付記する」という形になっています。これは私の感覚ですけれども,死亡情報を付記するだけで済むのでしょうか。その方が亡くなっていることが分かっているのであれば多分,国民は,その先も調査をしたらよいのではないですか,という感覚が出てくると思います。最悪でも,やはり自治体との連携を含めて,どうしていくのかということも少し考えないといけないのではないかと思いました。これは意見です。 ○山野目部会長 意見として承りました。   平川委員,そこはまだ事務局の資料説明をしていないところですから,今の御指摘は意見として承りました。ありがとうございます。 ○増田委員 ちょうど吉原委員からお話があったので,その関係なんですが,山野目先生の方でまとめられたので,そういうことだなと私も思っているんですが,ちょっと繰り返しになってしまうかもしれませんけれども,過料を科すことによって誰も守らないと,そういう何か新たな形骸化を生み出すような措置,そして,登記所なんかにいろいろ負担を掛けるような措置を,国民の意識がなかなか伴わない中で,やっていいかどうかという,そういう御指摘,重要な御指摘であったと思うんですが,そもそも,正に山野目先生おっしゃったように,登記してもしなくてもいいという意味で,登記制度自身が私は形骸化をしていると。そこをどう直していくかというのが,今回の議論の出発点だったのではないかなと,そんなふうに私は思いました。   それで,その際に,やはり重要なのは,今もお話ありました,土地基本法,国土交通省で,土地全体をつかさどる土地基本法の今,改正の議論をしていますので,そこで,土地所有者の責務というのをどの程度のものとして考えるか。そこがやはり非常に重要なところであって,それがあった上で,こちらの方でも,しからばどういう相続登記制度を仕組んでいったらいいのかという,そことの関係で,土地についてはやはり,かなり,ほかの相続については別ですが,土地については,かなりそこの議論を意識しながら,こちらも議論していかなくてはいけないということ,そこは非常に慎重な議論をしていかなければいけないと思います。   それから,あと,ここでインセンティブの措置,それから過料の,要するにそういう義務化をするようなやり方,制裁色が強くなります。様々なやり方があると思うんですが,私自身は,この際,過料を科すということに賛成なんですけれども,ただそれは,先ほどの土地所有者の責務との関係もあると思いますが,要は,ちょうどたまたま,先ほど山野目先生が御紹介された,昨年の国交委員会の中で,その点についてのやり取りがあって,論点が五つでしたですかね,示されたわけです。   ですから,それをクリアすることが必ずマストであって,それをすることによって,過料ということが可能だと,そんなふうに思っていますので,ちょうど論点の御指摘があったので,それをまたこちらサイドでも,この場でもいろいろ議論した上で,こういう過料の制度,インセンティブ,(ア)のインセンティブと,それから(イ)のこういう過料ということを,両方やはり考えていくべきではないかと,そういうことでございます。 ○山野目部会長 ありがとうございます。   増田委員に今おっしゃっていただいたとおり,土地基本法との関係が非常に重要であります。   道路運送車両法は,軽自動車を除く自動車の登録が,民法上の権利変動の対第三者対抗要件であると定めていると同時に,変更登録,移転登録をしなければいけないと規定していて,それを50万円以下の罰金で強制しています。   民事法制上の効果付与と警察的規制が同時に自動車登録について並立して成り立つ,言わば思想的背景は,道路運送車両法それ自体が自動車の保安基準の確保という公益の要請と民事上の所有権の確認ないし公証という役割の二つがありますということを,きちんと法制上宣言しているからですね。   ところが,不動産登記制度については,今川委員からはるか前に御指摘があったように,権利に関する登記については私的自治の原則が働くということで今までやってきていて,卒然とここで,十分な説明もなく,相続登記を必ずしなければいけないものにしますということにするということは,理論的・法制的に,非常に飛躍のある説明になってしまうであろうと怖れます。   そこのところは,土地基本法についての議論をしっかりして,そこで登記制度について,土地所有者が負うべき責務はどうなのか,そしてそのことをどういうふうに表現するかということをにらんだ上で,話を進めていかなければいけないということになるものでありますし,その意味で増田委員のおっしゃったとおりではないかと感じます。   引き続き,御意見を承ります。 ○水津幹事 16ページの通知方法等による不利益について,他の方の御意見と重なるところがございますけれども,意見を申し上げます。  まず,仮登記担保法5条3項のような規定がすでに設けられている以上,この扱いが不当であると評価するのでない限り,通知方法等による不利益を課することを正当化するために,登記申請義務を観念する必要は,必ずしもないものと考えられます。次に,2の(3)で①から③までに挙げられている場面を議論するに当たっては,登記申請義務に違反するかどうかよりも,それぞれの場面でそのような不利益を課することが正当化されるかどうかという観点から,検討していくべきであるように思います。 ○今川委員 皆さんと同じで,繰り返しで申し訳ないんですけれども,過料を科すということについては我々も消極です。   それで,もし,今度でいいんですけれども,データがあればお願いしたいんですけれども,表題登記がされない件数とか,その率というのは,例えば把握はできるのか。 ○山野目部会長 できないのではないですか。それは,だって暗数を把握せよと求めているものですから,事務当局に尋ねるまでもなく,できないと想像します。 ○今川委員 罰則以外の不利益について,①ですけれども,登記簿上の住所氏名に宛てて通知をすればいいということで,これは登記の重要性とか登記情報を最新のものにすべきという意識付けにおいては,一定の効果はあると思うんですけれども,一律にやるというのは,ちょっと乱暴かと思っております。共有物の管理行為についての同意取得の方法においては,検討されていいかとは思うんですが,登記関係訴訟まで広げるのは,ちょっと抵抗があります。   それと,住所氏名と死亡の事実の探索あるいは確認で,最もネックだったのは,住民票の除票の保存期間が5年であったということだったと思うんですけれども,それが住民基本台帳法施行令の改正が,今年の6月に施行されていますけれども,除票の保存期間150年に延長されていますので,そういう意味で,住所氏名,それから死亡の有無の調査・探索は,かなり改善されていますから,それもやはり考慮はすべきかと思います。 ○山野目部会長 お尋ねに留意します。また,ご意見をいただき,ありがとうございます。   実効性確保に関わる(イ)の部分,それから,場合によっては関連して,その前の(ア)と結び付けながらのお話でも結構ですが,一当たり伺ったというふうに受け止めてよろしゅうございましょうか。   大変重い論点でございますから,今日結論が出る話でないことはもちろんのこと,更なる御意見をいろいろな機会を設け,この部会の今後の調査審議で承っていかなければいけないと考えておりますけれども,本日のところは御意見を承ったというふうに考えてよろしゅうございますか。よろしいですか。   部会資料8で用意している題材といたしましては,この後,18ページのところに太字がある2の相続登記の申請人となるべき者からの申請がなくとも採り得る方策というところが一つ残っております。無理に審議をお願いすることもできなくはありませんけれども,あまり急くことは、宜しくないでありましょう。   したがいまして,この18ページ以下の2の部分を,本日は未了という扱いにさせていただきますから,次回の審議におきましても,どうか部会資料8をお忘れなく御持参くださいますようにお願いいたします。   このような進行でお許しいただけるといたしますならば,本日のところは,内容にわたる議事を了しました。   この際,法務省民事局長を務めておられる小野瀬委員から,一言御挨拶をお願いいたします。 ○小野瀬委員 お疲れのところ,大変申し訳ありません。次回の部会までの間に,恐らく私,民事局長を退任することになると思われますので,ちょっと一言お礼の御挨拶を申し上げます。   本当にこれまで,御熱心に御審議いただきまして,誠にありがとうございました。今回の部会のテーマ,論点も,非常に多岐にわたっておりますし,非常に重たいものでございます。要綱案の取りまとめに向けまして,まだまだ大変でございますけれども,引き続き充実した御審議をよろしくお願い申し上げますとともに,これまでの御尽力に対しまして,重ねて御礼を申し上げます。誠にありがとうございました。 ○山野目部会長 小野瀬委員におかれましては,誠にありがとうございました。御礼申し上げます。   事務当局から,次回会議の案内を差し上げます。 ○大谷幹事 御説明いたします。   次回の日程は,7月30日火曜日の午後1時から午後6時までということでございますが,場所は,ようやく法務省の会議室が取れました。大会議室でございます。地下1階の大会議室で行いたいと思います。   テーマは,今日の部会資料8の最後の18ページ以下と,それから,さらに,不動産登記制度の見直し(2)というものを今準備中でございます。目次が部会資料8の最初に付いておりますけれども,第3から第5までというところを準備して,お送りいたします。よろしくお願いします。 ○山野目部会長 本日の議事への御協力に御礼申し上げます。第5回会議を散会といたします。どうもありがとうございました。 -了-