法制審議会 民法・不動産登記法部会 第6回会議 議事録 第1 日 時  令和元年7月30日(火)自 午後1時00分                     至 午後5時56分 第2 場 所  東京地方検察庁総務部会議室 第3 議 題  民法・不動産登記法の改正について 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○山野目部会長 法制審議会民法・不動産登記法部会の第6回会議を始めます。   委員の異動がありましたから,御紹介をいたします。   法務省民事局長の異動に伴い,小野瀬厚委員が退任され,新しく小出邦夫委員が任命されました。簡単に自己紹介をお願いいたします。 ○小出委員 16日付で法務省民事局長に異動になりました小出でございます。どうかよろしくお願いいたします。 ○山野目部会長 よろしくお願いいたします。   本日は,財務省から波戸本関係官が出席しておられます。簡単に自己紹介をお願いいたします。 ○波戸本関係官 財務省の理財局国有財産調整課長の波戸本と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 ○山野目部会長 よろしくお願いいたします。   引き続き委員の異動について,御案内を差し上げます。   法務省大臣官房審議官の異動に伴い,筒井健夫委員が退任され,新しく竹内努委員が任命されました。   竹内委員,御挨拶をお願いいたします。 ○竹内委員 法務省大臣官房審議官の竹内です。どうぞよろしくお願いいたします。 ○山野目部会長 よろしくお願いいたします。   なお,本日は阿部委員,市川委員,宇田川幹事,衣斐幹事が御欠席でいらっしゃいます。   事務当局から,本日用いる配布資料の確認を差し上げます。 ○有本関係官 では,事務当局から御説明させていただきます。   今回,部会資料9「不動産登記制度の見直し(2)」を事前送付しております。また本日は,前回配布いたしました部会資料8「不動産登記制度の見直し(1)」も併せて使用いたします。   本日,部会資料9につきましてはお手元に配布させていただいておりますが,部会資料8も含め,お手元にないようでしたらお知らせいただければと存じます。   よろしいでしょうか。   当該資料の趣旨や内容につきましては,後ほど御説明させていただきます。  ○山野目部会長 本日は部会資料8の残った部分を取り上げ,その後,部会資料9に進むとことにいたします。   それでは,早速,部会資料8の前回審議未了の部分,部会資料8「不動産登記制度の見直し(1)」をお手元に御用意いただきたく存じます。本日の審議は前回取り残しておりました「第2 相続の発生を登記に反映させるための仕組み」のうちの「2 相続登記の申請人となるべき者からの申請がなくとも採り得る方策」という審議事項からとなります。この部分について,事務当局から資料の説明を差し上げます。 ○有本関係官 それでは,御説明させていただきます。   前回の部会で取り扱いました第2の1まででは,相続登記の申請人からの自発的な行為に基づいて,相続の発生を不動産登記に反映させる方策について御議論を頂きましたが,申請人の負担を軽減するという観点からも,自発的な申請がなくても,登記所において情報を取得する方法等により,相続の発生を不動産登記につなげていく方策を構築することはできないかという観点から御検討を頂くものでございます。その方策として,例えば登記所が他の公的機関から死亡情報を取得するといった方策を御検討いただくべく御紹介をしております。   ただ,このような方策を講ずるに当たっては,資料にも記載いたしましたとおり,情報の取得先の問題,取得先の情報と不動産登記上の情報との紐付けの問題,公示方法や公示に至る手続の問題を含めて多くの課題がございます。また,死亡情報の公示だけではそれほど大きな効果は期待できず,法定相続人の情報が登記所において取得され,又は公示されることによって初めて実効的な効果が期待できるものとも考えられますが,これを実現するためには,更に様々な課題について検討する必要があるものと考えられます。   今後目指すべき仕組みの全体像や,それに伴う様々な課題について,幅広く御議論いただければと考えております。   第2の2に関する御説明は以上です。 ○山野目部会長 ただいま第2の2の部分について資料説明を差し上げました。この範囲で御意見を承ります。いかがでしょうか。 ○蓑毛幹事 部会資料18ページ以下を拝見して,登記所の保有する情報と戸籍情報との連携を図ることを念頭に置き,そのために,これまでは登記所が保有していない情報を新たに保有することを提案しているものと理解しました。   現時点で,この点について,私は賛成とも反対とも考えておらず,更に検討する必要があると思っております。そして,検討に当たっては,登記と戸籍を連携させることで所有者不明土地問題の解決に向けてどのような効果があるのか,登記所が戸籍との紐付けのために当該情報を取得する必要性,登記所が当該情報を取得する許容性という3つの観点が重要だと考えます。  まず,登記所が新たに保有する情報と戸籍情報とを連携することによって,所有者不明土地問題の解決に対してどのような効果があるのか,意義があるのかということを明確にする必要があると思います。少し具体的に申し上げますと,所有者不明土地問題の解決に対する効果としては,部会資料の19ページにある,既存の戸籍副本データ管理システムを活用・発展させて新たなシステムを構築し,この連携を図るとあります。この点については,前回,私から御質問差し上げ,事務当局からも回答がありましたが,この新システムにおいては,戸籍に記載されている者の死亡情報までは分かるけれども,法定相続人が分かるような仕組みにはならないということでした。また,この新システムでは戸籍の情報がデータベースとなって,それが整理されるということであって,住所に関する情報は入らないということです。そうすると,不動産登記と他の情報との連携と言っても,戸籍の新システムとだけ連動を図ったのでは,不動産所有者の死亡情報しか分からず,かつこの新システムとの連動は,部会資料によれば,10年単位の時間を掛けてやっていくということであり,効果は非常に限定的ではないかという印象を持っております。   次に,登記所が新たな情報を保有する必要性については,この部会資料では,具体的にいかなる方法で登記情報と戸籍情報との連携を図るかが明らかになっておらず,情報取得の必要性が,今一つ分かりません。登記所が当該情報を取得する必要性があるか否かを検討するために,具体的な連携方法を示して頂きたいと思います。なお,部会資料によれば,実際に連携を図るのは,10年単位が経過した後ということであり,仮にそうであれば,その間にIT技術の進歩,AIの進歩によって技術も相当変わりますので,いかなる情報を登記所が保有しておけば連携に資するかについては,将来を見据える必要があると思います。   最後に,登記所が新たな情報を保有することの許容性に関しては,個人情報の保護,あるいはプライバシーの侵害についてどのような配慮をするかということを検討すべきだと思います。このプライバシー,あるいは個人情報の保護については,更に三つの局面があると思います。   一つ目は,登記所が,登記事項ではない,連携のための情報を保有すること自体が個人情報の保護,プライバシーの侵害に当たらないかということです。具体的には登記所の保有する当該情報に対して誰がアクセスできるのか,あるいは,登記所が例えば本籍地の情報を取得するとして,本籍地が分かるような書類が附属書類として登記所に置かれることになるのかどうか,それを利害関係人は閲覧することができるのか否か。つまり所有者としての登記をすると,本籍地が第三者に分かるようなことになるのか,ならないのか,ということを検討すべきだと思います。   二つ目は,部会資料8での提案は,登記所が連携のために新たな情報を保有すると言っても,その方法は,バックデータとして保有するという趣旨だと理解しましたが,本日審議が予定されている部会資料9では,登記事項自体の見直しという事項もありますので,仮に連携のために登記所が新たに取得する情報が,バックデータでなく登記事項になるということであれば,そのこととの関係,広く公示されてしまうことの影響を検討すべきだと思います。   三つ目は,戸籍情報と不動産の登記情報との連携方法です。どのような連携方法をとるかによって,個人情報との抵触の度合いが変わりますので,その意味でも,連携方法を具体的に,明確にしていただいたうえで,検討する必要があると思っております。 ○山野目部会長 種々の観点から御指摘を頂きました。また,制度の運用の姿について,お尋ねにわたる部分も若干含まれていたかと考えます。現時点では法務省のみで定めることができない事項もあり,関係する府省との協議を今後進めなければいけない領域が非常に広く横たわっておりますところから,確たるところを申し上げることが事務当局の方からなかなか難しいかもしれません。   現時点で何かお話しなることは,村松幹事からおありでしょうか。 ○村松幹事 ありがとうございます。   蓑毛幹事から今御指摘いただきました。この論点を考えるに当たっては,個人情報の保護も含めて議論しなくてはいけないというのはこちらも認識しているところです。そういう意味で,今正に御指摘いただきましたけれども,部会資料9の方で附属書類の議論を,研究会の方では全然出ておりませんけれども,この機会に議論した方がいいかなといった辺りも,正に今おっしゃったような問題意識がございますので,今回取り上げているという趣旨になっております。   ただ,戸籍との連携に関して言いますと,基本的には新しい情報を持たないことには検索が掛けられず,連携できないということになりますから,本籍,あるいは生年月日といったものを新しく保有するということでの連携というのが,一つはまずは考えられるというところを御紹介しておりますけれども,部会長もおっしゃいましたように,また詳しく制度化,システム的な面での詰めをしていく中で,具体的にどのような情報を新たに持たないとならないのかといった部分と,またそれから死亡情報を得ることで,どういう施策に更につなげていけるのかといったところは正にポイントだと思っておりますので,そういったところ,こういう政策があり得るのではないのかといった御指摘も是非承りたいと思っております。 ○山野目部会長 藤野委員,どうぞ。 ○藤野委員 ありがとうございます。   死亡した事実の公示だけでどれだけ実効性があるのかという御指摘も出ているところではございますが,会社で実務に携わっている方に話を伺いますと,死亡した事実が公示されるだけでも相続人調査の必要性が早期に分かり,その後の手続きの準備を進めやすくなる,という意見が多数出てくる,ということはお伝えしておきたいと思います。もちろんシステム整備にかかるコストとの見合いの話にはなってまいると思いますので,効果に比して連携に要するコストがあまりに過大になるということであれば,何が何でもやらなければいけないという話ではないと思いますが,全く効果がないというわけではないということは申し上げておきたいと思います。 ○松尾幹事 少し長期的な視点に立っての話になるかもしれませんけれども,不動産登記において,その不動産についての情報と人についての情報の紐付けをどこまで,どのように行うべきかということが重要な論点になっているかと思います。   その際に,不動産に関する権利を行使することによって国民の権利を保全して,不動産の取引の円滑に資するという不動産登記法の理念に照らして,不動産についての情報と人についての情報が,一体どこまで連携させていくことが日本の不動産登記法の将来の在り方としてふさわしいのかという視点の下で議論をしておくことも大事なのかなと思っています。   今日の部会資料8の13ページ辺りにも,新たに登記申請をするというときに提供すべき情報として,戸籍謄本とか住民票とかいうことが上がってまいりますけれども,不動産についての情報と人についての情報をリンクさせるということになってくると,技術的には可能になっているマイナンバー情報などとのリンクを,将来においてどのように考えていくのかということを,所有者不明土地問題はじめ,不動産登記制度が現在直面している問題の解決コストも考慮に入れながら,長期的な視点から,様々な可能性を議論しておく必要があるのではないかと思います。   不動産登記制度が情報管理の技術革新をどのようにフォローすべきかという問題もあります。IT化の傾向が不可避的な形で進むということを考えますと,技術的には可能であるものをどこまで紐付けるかということと,それと同時に,情報の紐付けを進めれば進めるほど,その公示の範囲とか方法,情報保護の方法をどうするかということは,一層慎重に考える必要も出てくるのは当然ですが,将来的に日本の不動産登記法がどういう方向に行くのが望ましいのかという観点から,検討が必要ではないかと思います。例えば,今日出ております戸籍謄本,住民票等は,単に死亡情報を把握するというだけでなくて,将来,法定相続人が誰かを特定する手掛かりにもなり得るのではないかということも,資料の中には示唆されておりますので,そういうことまで情報として把握する必要があるのかどうかということも,併せて議論しておく必要があると感じました。 ○道垣内委員 この死亡した人に何かの印を付けるということの,この制度の根本的な正当化原理は何なのかということについて発言したいのです。つまり,法人格を既に有していない名称がそこに記載されているということになると,その不動産登記は明らかに誤りであるという状態になる。しかしながら,それを正確なように直すということは,相続人を確定したりしないとできない。そこで,間違えていますよ,という印だけを付けるというものである。このように考えるならば,それはそれでもおかしくないのかなという気はするわけです。   ところが,例えば私が何かの建物の最初の所有者として登記をしたというとき,登記申請のときに名前を書き間違えちゃった,あるいは,私はきちんと書いたのだけれども,登記官の方で間違えちゃったといったときに,更正しなければいけないということになるわけですが,現在の不動産登記法のシステムにおいて,登記所が,間違えていると思ったら勝手に直せるのかというと,これは直せないのではないですか。   仮に直せるのであるならば,それはそれで平仄がとれていて大変結構であるという話になります。ところが,仮に直せないということになると,誤りであるということが分かったらといって何かの印を付けるということが,当然には正当化できるという制度設計には不動産登記法はなっていないということになるのではないかと思うのです。私の現行不動産登記法についての理解そのものが間違えているのかもしれませんが,間違いのときに間違えたという印を付けて,しかしながら,正しいのは何か分からないから,間違えたという印だけ付けているという制度を考えるということになるわけであり,現行不動産登記法との関係で,そのような制度の正当化根拠は何なんだろうということについて,御説明があればお聞かせいただければと思います。 ○山野目部会長 権利に関する登記について,登記名義人の氏名の表示に誤記があった場合に現行法上,申請又は職権で登記がされる可能性について,事務当局から説明を差し上げます。 ○村松幹事 登記の更正については不動産登記法67条に条文がございまして,登記官は,権利に関する登記について錯誤などがあったときには,遅滞なく,これを登記権利者,義務者に通知するということになっておりまして,それで更正につなげていくというのが原則かと思います。その上で,その過誤が,登記官が原因でそういった過誤が起きていますということになりますと,許可を得た上でということになりますけれども,登記官の方で更正をするというような形にはなっております。なので,間接的な形ではありますけれども,登記の更正につなげていくということにはなっております。ただ,間接的だということなのかと思います。   死亡情報の公示について,ちょっと私も今直ちに頭の整理がよくできておりませんけれども,これを登記する理屈として考えていたのは,正に道垣内先生が今おっしゃいましたように,この登記自体は,名前を書き間違えたとか,そういうレベルではないのかもしれませんけれども,既に存在しない人格というのがそこに存在することになっておりますので,実質的にもあり得ない状態になっているものを公示しているという部分が強いです。その点について,むしろ誤解を招かないような形で公示を付け加えるというのが,その公示の観点からも望ましいから,死亡されているというようなことを公示するという説明が一つあるのかなというぐらいに考えておりましたけれども。 ○山野目部会長 道垣内委員から引き続きお話を伺いますが,ただいま村松幹事から御説明があったように,現行法で言いますと67条の規定に基づいて,登記名義人との間の若干のコミュニケーションを前提とした上で手続を進めることが,仕組み上は想定されております。その延長上で今日の議論をお願いしている部分がございますから,部会資料の22ページのところで甲案,乙案,丙案という形で選択肢をお示しし,例えば死亡情報のようなものを登記上,公示する際に,登記名義人の側の人々との間で全くコミュニケーションがないということでよいか否かということについてもお諮りしているところでありますから,この点についても,もちろん他の前提の議論に依存する部分が大きくございますが,何か御意見がおありでいらしたら委員,幹事から承りたいと考えております。   道垣内委員,お続けになることがあったらお話しください。 ○道垣内委員 別に特に続けなくてもいいのですが,所有者不明土地問題の解決のためにどうしたらいいのかというふうな話としてこれを議論するというだけでは恐らく足りなくて,不動産登記法全体が,そういうふうな明らかに過誤といいますか,おかしな状況になっているものに対して,どのような処理をするということになっているのかということと平仄を合わせながら整備していくという観点が必要なのではないかというだけの話です。検討を甲,乙,丙でしていただくというのは大変結構なことかなと思います。 ○山野目部会長 御意見の趣旨は承りました。   平川委員,どうぞ。 ○平川委員 ありがとうございます。   この情報連携の方向性は良いとは思いますが,先ほど発言したように,マイナンバーと紐付けする場合には,その費用対効果の問題というのは当然,出てくるのかなと思います。ただ,ここに書いてあるのは,取得することができる者,というような意味合いでありますので,必ずしもマイナンバーだけではないのかな,という感じもします。その辺は,どうなのかなと思いました。   そのうえで,戸籍情報から情報を取る根拠というのは,何があるのでしょうか。戸籍は戸籍法によって,その目的があるかと思います。けれども戸籍から情報を取ることができる根拠であるとか,もしくは法務局の職員が職権を行使する場合,現状の制度では戸籍情報があり,それが戸籍情報で死亡していることを根拠に,登記簿情報を書き換えることができる何らかの根拠というのは,どういうものがあるのかというのを教えていただきたいと思います。   やはり現実問題,一般国民としては実際,亡くなっていることが明らかにもかかわらず,登記簿情報を修正しないということ,死亡情報を知る根拠は,いろいろありますけれども,やはり修正できるということについては,前向きに捉えていく必要があるのではないかなと思いました。 ○山野目部会長 根拠とおっしゃるものは,実質的根拠のお尋ねだというふうに理解してよろしいですね。 ○平川委員 はい。 ○山野目部会長 何かおありですか。 ○村松幹事 そういう意味では,実質的根拠としては,基本的にはその必要性の部分で説明をしていくということになる,つまり,この死亡情報に関してだけであれば,公示の低下を補うため,それをやらないことによって所有者不明土地問題がより大きくなっていますと,こういうような説明になろうかと思います。死亡情報を取得することに加えて,更に別の施策を加えて追加していくということになりますと,最終的には被相続人,あるいは相続人本人のためにもなってくるのでという説明が付け加わる可能性はあるのではないかなという気がしています。 ○山野目部会長 沖野委員,どうぞ。 ○沖野委員 ありがとうございます。   22ページの4,あるいは更に5に関連してなんですけれども,一つ気になっておりますのは,相続登記の申請の義務化の話との関係です。   一方で,取り分け義務化について12ページの甲案ということになりますと,法定相続分での相続登記の申請義務を一旦発生させた上でということになります。乙案でも問題としては出てくるわけなんですけれども,それとの関係なり位置付けということが出てこないかということでして,読んで,具体的に法定相続人と考えられる人とのコミュニケーションですとか,さらには5で提案されておりますような職権により法定相続分での相続登記をするということまでいきますと,相続登記の申請についての義務化という問題との関係というのが出てくるように思われますし,また逆に,義務付けるということであれば,それを促すための最初の一歩というのを登記所の方から出すというようなことの手掛かりとして,更にこれを併せて位置付けていくということも考えられるように思います。   それで,恐らく今のところはそこまでも考えていられないのかなと思うんですけれども,職権により法定相続分での相続登記をするということまでいきますと,職権でやってもらえるなら置いておいた方がいいということになるのかといった問題もありますし,他方で,法定相続が当然ではない可能性もかなり,遺言などがある場合もありますので大丈夫かという問題もあり,少し義務化との関係も考えておく必要があるのではないかということです。 ○山野目部会長 沖野委員から御指摘いただきましたとおり,前回御議論をお願いした登記,取り分け相続登記の義務化と,ここでお願いしている,一言で言いますと職権による登記との関係について引き続き考えていかなければならず,御指摘のとおり,これは今後また検討が深められるべきであると感じます。   御参考に申し添えますと,現行の制度で,権利に関する登記ではなくて表示に関する登記になりますけれども,例えば建物を新築したときの建物の表題登記は,1か月以内に申請しなければいけないという義務付けがされているとともに,職権でそれそのものをしてしまうことができるという組合せになっておりまして,義務化と職権登記の可能性というものは,論理的に当然には排斥し合う関係ではないということが,そこから看て取ることができますとともに,話の大きさといいますか,意味合いが,建物の表題登記とこちらの相続登記とではかなり異なってくる,様相が異なる部分も大きいものではないかというふうに感じられます。そのことから,沖野委員から御注意いただいたことを今後更に検討していかなければならないとも感じます。ありがとうございました。 ○佐久間幹事 今,部会長がおっしゃったことに関連して教えていただきたいんですけれども,表題の登記について,建物でしたっけ,その義務化がされていると同時に職権でされることもあるというときに,その職権でされるときに費用を取るのか取らないのかはどうなっているのでしょうか。なぜそういうことを伺うかといいますと,仮にこの22ページからあるような職権による法定相続分での登記が行われることになり,そこでもし,職権で以て登記をただでしてあげるというのでありましたら,登記の申請を義務化するか,しないかはともかく,申請がされた場合に費用を取るということは何だか,取っちゃいけないというわけではないですけれども,そんなことが分かっていたら誰も法定相続登記の申請をしなくなるのではないかなと思いましたので。法定相続登記の申請を義務化した場合に,義務違反となると実は過料があるんだとかというのもあるのかもしれませんが。そこで,表題の登記の場合にどうなっているかを,ちょっと教えていただければと思います。 ○山野目部会長 例えば,熊本県益城町で多くの建物が滅失し,熊本地方法務局による職権による建物の滅失の登記が広範囲に多数の件数にわたって行われています。費用は全部,国の負担であります。登記名義人や関係者からは収受していません。裏返して申しますと,そのような非常のときにしか,建物の滅失の登記や,更に表題登記などについての職権による登記というものが行われていない制度運用の実情があります。理論的には表題登記が義務付けられているところの申請を怠っていても,まあ,いつかは職権でしてくれるかもしれないと期待して,それを待って得する人がいるのではないかということが何か頭に思い浮かびますが,現実には登記官が職権でしてくれることはほとんど想像されません。ですから,やはりあなたはしなければ駄目なんだよということが言えるし,それほど可視的に得をしていた人がいるではないかということにはなっていないと思います。   けれども,先ほど申し上げましたように,相続に関する登記について,だから同じようにいくよということになるかというと,その職権によってされる登記の運用も,今まで制度がないことであって,どのような姿で臨むかということが分かりませんし,関係する私人の側が,仮に義務付けをしたときにどういうふうに動くかということも分かりませんから,表示に関する登記がそうなっているから,こちらも同じようにいくのであって,そのように理解すればよいということには単純に議論が進みません。ですから,沖野委員から御注意いただいたことを考えていかなければいけないということになるものではないでしょうか。   佐久間幹事,お話があったらお続けいただきたいと思います。 ○佐久間幹事 法定相続登記を職権でするということになった場合は,やはり所有者不明土地問題が深刻であるというふうに受け止められて,そのようにしましょうということになるのかなと思うんですね。そうすると,先ほどの熊本のような大災害ではないけれども,社会全体としてはもう放置することができないのでという理屈からすると,やはり無償でといったらおかしいですけれども,費用なしにやりましょうということになるのかなというふうに勝手に想像いたしました。   その想像が間違っていれば,先ほど申し上げたことですけれども,法定相続登記を申請しなければいけませんというふうに力んだところで,されないようになってしまう。しない人は,もうどんどんしないようになるのではないかなというふうに考えたという,それだけのことでございます。 ○村松幹事 この職権で,法定相続分の登記をすることなどが考えられると,23ページのところに少しだけ記載しておりますけれども,これはインセンティブの付け方の一つとして,一応論理的には考えられなくもない選択肢の一つかなということで書いております。   ただ,全体として申しますと,こういった法定相続分での相続登記をするためには,まず第一に紐付けがされている必要がございます。紐付けに関してはいろいろな考え方があり得るとは思いますけれども,現状の私どもの方での検討ですと,結局個別に,この土地の所有者ですという方から一度は申出を頂かないと,やはりちょっとその正確な把握は難しいということになっておりますので,結局のところそういった,一度,被相続人の立場になりますけれども,被相続人の方から何がしかのアクションを頂いくことになる。その上で,それを前提に,何か更にその情報を頂いているもので本当にその情報が足りているのであれば,場合によっては法定相続分での登記というものに結び付けていくことができなくはないのかもしれないというようなニュアンスで考えておりますので,本当にフラットなところから職権で何か登記をしようというものということよりは,どちらかというと,今日の資料にも若干関連するかもしれませんけれども,義務は掛かっていて,個人でやるのも可能だけれども,ある程度,事前に何か申出を頂いているケースについては,職権という形に,そういう意味では整理学上はなりますけれども,事前に申出を頂いていれば,場合によっては職権でやるという形での簡略化策というのもあり得るのかなというぐらいのところかと思います。そういう意味で,本当に何もないところでの職権での対応というのは,御指摘のようになかなか難しいのかなと思っております。 ○中田委員 公示をする場合に,そうしますと,死亡情報が登記されるものと,それから死亡はあったんだけれども,登記されていないものとが混在している状態になるわけですよね,恐らく。それがかなり長い期間続くことになるわけですが,それに伴う問題点も検討しておく必要があると思います。正確に反映されていれば,それはそれで価値があると思うんですが,部分的には不正確になっているということをどう評価するか。あるいは,相続登記をした場合には,死亡情報の登記はされないということになりますと,相続登記をしないことに対するサンクションとまでは言わないですけれども,何かあそこでは相続があったのに登記がされていないんだなということが分かるようになるわけでして,そういった混在に伴う問題点というのも洗い出しておく必要があるかと思いました。 ○山野目部会長 混在のことは余り今まで意識して議論されてこなかったように感じますから,そのことに注意を払ってまいります。   ほかにいかがでしょうか。   22ページの甲案,乙案,丙案というものは,そもそもは死亡情報などの登記上の公示をするという政策選択をしたときに限って問題になることですけれども,今日の段階で何か御指摘があったら承っておきます。いかがでしょうか。 ○吉原委員 23ページの論点から少し離れてしまうかもしれないのですが,登記所がほかの公的機関から所有者の死亡の事実を把握して登記記録に反映させるという点について,公示の範囲などは今はちょっと置いておいて,システムということに限定して考えてみますと,戸籍と連携させるという方法のほかに,住民基本台帳ネットワークと結び付けるということも有効だと思います。先ほど蓑毛先生から,この新システムでは住所は分からないとか,システムを作るのに随分長い時間が掛かるだろうという御指摘がございました。住民基本台帳ネットワークであれば,既に住民票と戸籍の連携ができていて,しかも全国的なネットワークが構築されています。そこと不動産登記制度を何らかの形で結び付けることができれば,効率的になるのではないかと思った次第です。登記所が自ら情報を保有するというよりは,情報連携をしやすくするということが要かと思っております。   その上で,21ページの3ですが,死亡情報を登記記録に記録して公示することが考えられるという提案がございまして,これは基礎自治体が不在地主の死亡を把握をする上で非常に役立つと思います。通常,自治体では,住民票のある住民の死亡情報は把握できますが,住民票は置かず,土地だけ持っているという不在地主については死亡が把握できません。その場合,もし相続登記が行われれば,法務局から異動情報のデータが定期的に届きますので,それによって相続による権利移転を把握できますが,相続登記が行われなければ法務局から異動情報のデータも届きません。そのため,例えば固定資産税の課税などにおいては,不在地主の死亡が分からないまま死亡者に課税を続けるということが起きてしまいます。   そこで,もし死亡情報が登記記録に記録され,それが異動情報の一環として定期的に法務局から自治体に通知されるようになれば,自治体としては固定資産税の課税・徴収のために相続人調査を行う必要性がありますので,死亡把握後,相続人調査を行い,相続人に相続登記を促していくことにつなげられるのではないかと思います。 ○山野目部会長 吉原委員からヒントを頂きました。住民基本台帳ネットワークとの連携の可能性も,今後,事務当局において,住民基本台帳の制度を所管している主務省との協議を進めてもらえるものと考えます。御指摘いただいたことは,土地の問題もそうでありますが,例えば空き家の問題などの解決の見通しを得る上でも重要な観点であり,その御指摘を頂いたものと受け止めます。   ほかにいかがでしょうか。   それでは,まだ少し関係府省との協議を待たなければいけない事項等が多々ございますけれども,本日,委員,幹事の皆様から基本的な観点として大事な御指摘を数々頂きましたから,それらを踏まえて検討を深めてまいるということにいたします。部会資料8についての御審議を頂きまして,ありがとうございました。   部会資料9の方をお取り上げいただくようにお願いいたします。   部会資料9の最初のところ,「第3 相続以外の登記原因による所有権の移転を登記に反映させるための仕組み」,この部分につきまして事務局から資料説明を差し上げます。 ○佐藤関係官 それでは,お手元に部会資料9「不動産登記制度の見直し(2)」を御準備ください。1ページ目に目次を記載しておりますが,本部会資料では第3以降の論点について取り上げております。   それでは,資料2ページの「第3 相続以外の登記原因による所有権の移転を登記に反映させるための仕組み」について御説明します。   ここでは,相続以外の原因による所有権の移転が生じた場合に,その当事者に対して,必要となる登記申請を公法上義務付けることについて取り上げております。  売買等の契約に基づいて所有権の移転が生じた場合には,私法上の義務が発生し,対抗要件主義の下で,当事者において必要な登記がされることが通常であるため,これに加えて,当事者に対して必要な登記の申請を公法上義務付ける必要は必ずしも高くないとの指摘が考えられます。また,契約関係にない二当事者間において所有権の移転を生じるようなケースでは,一方当事者には登記申請をするインセンティブが働くものの,他方当事者に登記申請をするインセンティブが働かない場面が少なくないと想定されるため,当事者に対して必要な登記の申請を公法上義務付けても,直ちに義務が履行されないのではないかとの指摘もあり得ます。   もっとも,実体法上の権利関係を不動産登記に反映させることは,不動産登記制度の公示機能を高める観点から望ましいことなどから,所有者不明土地の発生を防止する方策の一つとして,義務違反の効果を強いものとはしないことを前提に,あるいは訓示的な規定として,相続以外の原因により所有権の移転が生じた場合についても,正当な理由がある場合を除きといった条件を付すなどした上で,当事者に対して必要となる登記申請を公法上義務付けることも考えられるところです。   以上の点を踏まえ,相続以外の原因による所有権の移転が生じた場合における登記申請の義務付けについてどのように考えるか,御意見を賜りたく存じます。   なお,資料にはございませんが,登録免許税について御紹介すると,相続による所有権の移転の登記の場合は,不動産の価額の1000分の4とされておりますが,売買等による所有権の移転登記については,登録免許税法上の原則としては1000分の20とされているところです。もっとも,売買等の場合には,租税特別措置法等において様々な特例措置が設けられておりまして,一例を紹介いたしますと,租税特別措置法第72条第1項第1号では,個人又は法人が,平成25年4月1日から令和3年3月31日までの間に,土地に関する売買による所有権の移転の登記を受ける場合には1000分の15とされているところでございます。   第3についての御説明は以上です。 ○山野目部会長 前回審議いただきましたのは,相続を原因とする所有権の移転の登記について,公法上の義務付けをするかどうかという問題でありましたが,本日,ただいまの説明で問題提起を差し上げているものは,それ以外の贈与や売買を原因とする所有権の移転の登記に係る公法上の義務付けの適否,その内容という事柄でございます。これについて意見を頂きます。いかがでしょうか。 ○今川委員 我々は相続登記の申請義務化について,その実効性の観点から直接登記申請を義務付けするのではなく,登記名義人が死亡した旨を法務局に申請することを義務化して,死亡があったことを付記登記する方法を提唱しております。そういう立場であることを前提として,仮に相続登記を義務化するとして,その根拠を土地所有者の社会的責務であるとか,また,登記情報を最新の情報に更新することが非常に重要なことであるとすると,そこからは他の原因についても義務化を導入するというような流れになるということは一応あるかもしれません。   そこで,この3ページに書いてあるように,訓示的な義務付けということであれば認められるのかという気はしております。ただ,司法の分野に公法上の義務付けをするというのは,それだけのやはり公益的な根拠が必要だと思っております。相続登記がなされないというのは,これは非常にそのパーセンテージも高く,不都合があるということから例外的に認めるものだというふうに理解していまして,相続以外,特に売買等については,そのような不都合がそれほど問題とされていないと思います。そのような状況で義務化をするのは,やはり慎重であるべきではないのかと。本来,登記の義務化については,相続等のように必要性が特に高い,特殊な問題があるというもの以外については,やはり根本的な不動産登記の在り方,例えば効力要件主義を導入してはどうかというようなところから議論をすべきなんだろうとは思っております。   それから,時効取得については,この資料にあるように,そもそも時効を援用して自己の時効取得を主張しているのであり,登記をしないということは普通は考えられませんし,強いインセンティブが働きますので,これは登記義務を課さなくてもよいのではないかというふうに考えております。   それから,所有権以外の担保権や用益権については,これは登記権利者は登記をすべき要求がそもそも契約を締結したときには強いわけでして,担保権については債権者側に主導権もありますので,これは登記はまず普通はやるのではないかというふうには思っております。これも所有権と同様に訓示的であれば考えられるかもしれませんが,特に義務化を入れるということは慎重に考えるべきだと思っております。 ○道垣内委員 これは,現在の背信的悪意者とかの議論には影響を及ぼすものなのでしょうか。というのは,今までは別に登記をしていない人に対して,マイナスの評価要素はなかったわけですよね。ところが,二重譲渡の典型的な例を考えてみたときには,先に所有権を取得したのだけれども,登記をしていないという人に対しては義務違反であるということになるわけですね。そうすると,その人についてマイナス評価が付きますので,次の人の悪意であろうが,信義則に反しようが,今までよりも変わった基準が適用されてき得るような気がするのですが,そういう意図はここにはあるのでしょうか。 ○村松幹事 余りそこに影響をさせようということを念頭に置いたという点はございません。飽くまでも公法上の義務ですので,そこでの義務違反が私法上の法律関係に,もちろん変則的あるいは間接的に影響を及ぼすこともあるのかなという気もいたしますけれども,ちょっとその辺りの影響の出方も含めて,余りちょっとそこは意識して議論をしていた部分ではないかと思います。 ○山野目部会長 部会資料は影響をもたらす意図はないと思いますし,元々部会資料というものはそのような意図を持って作るものではありませんが,この規律を入れたときに影響がないかということは何か少し気になりますね。道垣内委員の御発言も,そうしたいろいろなことをお考えになっての問題の指摘を今頂いたというふうに受け止めます。 ○佐久間幹事 別に義務化に積極的なわけではないということをまず申し上げた上で発言させていただきたいんですが,登記へのインセンティブが働くというのと,働かないというのは,義務化と余り,私は関係がないのではないかと思っております。むしろインセンティブがあるのにやらない人が,社会においては所有者が誰であるかということを登記簿上表してもらわなければ困るのに,それに協力しない人が無罪放免になり,インセンティブのない人が何らかの不利益を公法上受けるというのは,何となくバランスがとれていないのではないかなという気が私はする,ということが1点でございます。   もう1点,だから義務化をした方がいいということではないのですが,仮に義務化をするということになったときに,それを定める規定が訓示規定だったら,今から申し上げることは問題にならないのですけれども,何か実際上の効果を持たせるという場合に,その効果が過料ですと,前回の相続登記の義務化と同じ効果だということになると思うのです。そして,相続登記の義務化のところで効果として考えられたものの中で過料以外のものは,実は必ずしも相続登記に限られないか,相続登記の場合にだけ--要するに対抗の問題なんですが--欠けているものを補うということでした。相続登記の義務化の効果がこれで尽きているかどうか分かりませんが,現状,メニューとしては今のところこれぐらいだということが前提となるといたしますと,義務化について--この相続以外のところですけれども--焦点になるのは,過料を相続のときに科すときにこちらをどうするかということか,相続登記のところも過料を科さないで,結局,訓示的なんですよということになった場合に,こちらも訓示的なものとして含めるかということなのかなと思います。そうだとしたら,義務化というふうに抽象的に言うのではなくて,どういう効果を伴ったものとして考えるのかを意識して議論というか,検討した方がいいのではないかと思います。 ○山野目部会長 登記名義人に通知さえすればよくて,登記をしていないと手続上,無視されることになりますよというようなものを,相続登記の義務化について先に審議をお願いした際に話題にいたしまして,佐久間幹事からは,そのような効果を入れる,あるいはそこに効果をとどめるということであるならば,もう既にその時点で話の射程には,相続による所有権の移転の登記のみではなく,売買や贈与による所有権の移転の登記も入ってきているではないかという意見をいただいております。そのことを確認した上で,相続の方について過料を入れる,入れないということに対応して,こちらの議論も論点整理をしてほしいという明快な問題の整理の指摘を頂きました。   沖野委員,どうぞ。 ○沖野委員 ありがとうございます。   確かに土地所有者の責務として,公示の充実のために一定の協力をしなければならないという点では相続に限らないということは,そのように言えるのではないかと思います。ですので,むしろ入れるとすれば訓示的な規定というか,努力義務というか,そういった形であると,それなりに分かるという気がしております。そういう中で,相続登記だけ何か特別の,むしろ努力規定でない形にするとか,そういう切り分けはあり得るのかもしれないと思っておりますけれども,他方で,売買等の意思表示による場合ですとか,あるいは取得時効による場合というのは,私法上も登記をしないことに伴う効果がかなり大きいものがあります。対抗できないということで,競合するものが先に登記をすれば負けてしまいますし,取得時効の方は,逆に完成前ということになると,そもそも時効取得の方で登記はできないわけで,完成後に登場したものであれば,先に登記をすれば勝つということですので,私法上の局面で,もうそういう効果面がセットになっているわけです。   逆に第三者としても,そういう行動をとれば,むしろ十分ではないかというふうにも考えられるわけですので,あえて公法上の登記申請義務があるというところまでもたらさなければいけないのかどうかというのはかなり疑問に思いますし,かつ逆に,今まではそういう効果があってなお,そのリスクを採るという選択が私法上はできたけれども,また私法上は相変わらずできるけれども,公法上は本来できないのですよということだと,そういうことは十分あり得るわけなんですけれども,その両者の間でやはり若干緊張関係が出てきます。そういう緊張関係を生じさせるほどのものがあるのかと。   一方,相続登記も,最終的な権利の状況ということになりますと,似たような話にはなってくるのですが,逆に法定相続分ということになると,ここは登記なくしても主張ができるというものですので,むしろ逆にしっかり公示してもらった方がいいというような話も出てくるかもしれません。だから,多少違いが説明できるところもあるのかなと思われまして,長々言いましたけれども,努力義務的な形であれば一般化してもいいのかなと思いますけれども,そこから更に一定の効果を伴ってということになると,果たしてどうだろうかと疑問に思います。 ○道垣内委員 すみません,2回目になるのですが,努力義務ならばともかくというふうに沖野さんがおっしゃったので,努力義務でもまずいのではないですかという話をしたいと思います。補足説明の(注)ではないところの下から3行目に「正当な理由がある場合を除き」と書いてあり,例えば売買があったのだけれども,まだ同時履行の抗弁があるといったりするときには登記を移さなくてよいというのは,それはそのとおりでありまして,こういった点については,ここにいう「正当な理由がある場合を除き」ということで尽きているといえば尽きているようにも思われます。  しかしながら,例えば売買の場合を考えてみると,当事者って売り主,買い主の2人なわけですよね。そうすると,では,例えば売り主の側が,まだこういうふうな義務が買い主から果たされていないので登記を移転する必要はないはずだと思ったときに,それでは,その正当な理由というのは,後からそう信じることに過失がなかったのかという話になってきて,過失があったということになると,公法上の義務に違反したということになるのかというと,何かそれも変な話で,売り主の側に登記を移転しないという権利があるかどうかというのは,それは民事訴訟で争ってくださいという,そういう話なのだろうと思うのです。  そして,民事訴訟で争ってもらって,それで結論が出たというときには,それで意思表示を擬制して登記を移すことはできるわけですから,そこからさらに,いや,事訴訟の結果にもかかわらず登記を移転しなかったので,正当理由がないことがはっきりしたので,過料でも何でも科しましょうか,あるいはそうではなくたって,公法上の義務にあなたは違反したのですよ,というふうなことを考える必要ないと思うわけでして,そうなりますと,私は,訓示規定であっても入れるべきではないと思います。 ○山野目部会長 中村委員,どうぞ。 ○中村委員 ありがとうございます。   日弁連ワーキンググループで,この相続登記の義務化の問題と売買等の登記の義務化を分けて考えるのか,それとも同様に考えるのかということについて,どのような議論があったのか御紹介しておきたいと思います。相続登記を義務化するかどうかということ自体に慎重な意見もありますが,それはそれとして議論するとして,仮に何らかの義務化の方向性を採るとした場合に売買等も同様に扱ってもよい,国民の目から見たときに,相続登記は義務だけれども,売買等は義務ではないというのは分かりにくいのではないかという指摘もありました。   他方で,前回の部会資料8の1ページ目の最後から2ページのところに,不動産登記簿で所有者等の所在が確認できない土地のうち,売買等については,僅か1%だという数字を挙げていただいておりますように売買などに関しては,まず通常どおり登記がなされているという事実があるわけですから,これに無理をして義務化ということをかぶせていく必要はないのではないかという意見もございました。   ですので,ここではまず相続登記の義務化をどうするのかということがある程度煮詰まりませんと,それとの対比で,これをそもそも議論の対象とするのか,そうではないのかということはなかなか話を進めていけないのではないかというのが私どもの議論の方向でございました。  ○山野目部会長 弁護士会の先生方の御意見の状況を承りました。   ほかにいかがでしょうか。 ○潮見委員 相続登記の義務化ということが問題になる場面と,それ以外の場面というのは,私は少し切り分けて考えた方がいいのではないかなとは思います。相続登記の場合には基本的に,典型的にという形で申し上げますけれども,登記名義人である権利主体が死亡によっていなくなったときに,その承継先がどこになるのかということを公示させるということ必要性があるといえば,あるのかなと思います。ただ,前回も申し上げましたように,それに対してどのような効果を結び付けるのかというのは慎重に考えていただきたいとは思いますけれども,少なくともそういうニーズはあり,インセンティブはあると思うんです。   それに対して,それ以外の場面というのは,今申し上げたような権利主体がいなくなったとかという問題というのは,正面からは出てくることはないわけであって,そういう場面で無理をして,あるいは先ほど訓示規定という話も出たようですけれども,そんな訓示規定などというようなことも含めて規定を設けるということについては,少し慎重に場面を切り分けて考えていただきたいなと思っているところです。 ○藤野委員 ありがとうございます。   他の先生方から既に出ている意見と大体共通するところはあるのですが,やはり相続に関しては,実態として法定相続が繰り返されて,どんどん名義人が増えていくというような問題がありますし,そういったところが今回非常に問題になっているのだと考えております。これに対し,それ以外の登記原因による所有権の移転の場合には,そういった問題がダイレクトに出てくるケースというのは少ないというところもございますので,そこは区別して議論してもよろしいのではないかなと思っております。   また,仮に相続以外の登記原因についても登記申請の義務化を検討するとなった場合,例えば100年前の土地の売買の登記が全然されていなくて,でも,実質的には買ったと主張している者が今土地を占有している,といった場合も想定されるわけでありまして,そこで義務化という話になるとすると,登記申請義務をどうやって履行するんだという話は必ず出てきてしまうのではないかと思います。共同申請が原則で,かつそれがすぐに履行できるかどうかはかなり怪しい,というような類型まで義務化の対象に含められてしまうと,実務的にはハレーションが大きいのではないかというふうに考えております。   あと,共同申請主義がとられていないいわゆる一般承継の類型,相続もそうですし,例えば会社の合併のようなものもこれに該当すると思うのですが,この場合,承継人が登記を申請すること自体はできるとしても,それにかかる費用的な側面に関する問題は,相続でも価値が高い土地であれば当然出てくると思いますし,会社の合併の場面のような話であれば,より出てきやすくなります。そこはやはり例えば登録免許税を免除するとか,一律に低額にするとか,そういったインセンティブ施策とセットでやっていただかないと,なかなか難しい面があるのではないかと思います。義務化された場合,真面目なところは一生懸命やろうとするんですけれども,コストを気にしてやらないという動きも出てくるようだと,ちょっと不公平感が生じるのかなというところはございますので,その点は申し上げておきたいと思います。 ○山本幹事 相続の関係と,それ以外の場合との関係ですけれども,確かに一方では,義務化が土地の権利関係を明らかにして,公示を正確にして,土地の有効活用につなげるという,公法上の趣旨を持っているとすれば,区別をすべきではないのではないかということにもなると思うのですが,他方で相続の場合には,まず権利変動があることは明らかであると。法定相続人に義務を課す場合であれば,誰に義務を課すかも一応明らかなのですが,売買等の場合は,結局当事者間の契約,あるいは法律関係によって,いつの時点で,誰が登記義務者になるか等のことがいろいろ変わってきますので,義務を課すことが非常に難しくなるような気がいたします。公法上の義務と,私法上の法律関係は分けて考えることができるとは思うのですけれども,この場面で本当に切り分けられるのかが,ちょっとよく分からないところがありますので,そこは慎重に検討した方がよろしいのではないかと思います。 ○山野目部会長 ありがとうございます。   ここのところの論点について今日の段階のものを承ったというふうに受け止めてよろしゅうございますでしょうか。   ありがとうございます。それでは続けます。   「第4 登記名義人の氏名又は名称及び住所の情報の更新を図るための仕組み」の部分について,事務局から資料説明を差し上げます。 ○有本関係官 それでは資料の3ページ,第4を御覧ください。   部会資料8の第1のところで御覧いただきましたとおり,国交省の地籍調査における調査結果を参考にしますと,所有者不明土地問題が発生する原因としては,相続登記がされないことに次いで,氏名又は名称及び住所を変更しても,その旨の登記がされないことが挙げられます。   そこで,氏名等の変更の登記を促進するため,まず,第4の1におきまして,申請人自身からの登記申請を促すための方策として,氏名等の変更の登記の義務化に関し,対象となる権利の種別や対象となる財産の範囲,過料による制裁を設けるかどうかなどについて御議論いただきたく存じます。   また,7ページの補足説明5にありますとおり,近時,国際化の進展の下で,登記名義人が国外に居住するケースも増えてきていると指摘されておりまして,このようなものの所在の把握についても新たな課題が生じているのではないかとも考えられます。具体的にどのようなケースで困難が生じているのかや,所在把握を行うための新たな工夫なども含め,幅広く御意見を頂戴できればと考えております。   次に,7ページの2は,氏名等の変更の都度,自発的な申請がなかったとしても,登記所において氏名等の変更の情報を取得する方法等により,その情報を不動産登記に反映させることができないかという観点から御検討いただくものであります。   その方策として,登記名義人が法人である場合には,例えば登記所が商業・法人登記から情報を取得する方策が考えられまして,この方策を実現するためには,法人ごとの会社法人等番号を紐付けのための情報として利用することができるのではないかと考えておりますが,個別の不動産登記との紐付けをどう行うかといった課題があることは,相続登記の義務付けの議論と同様の状況であると考えられます。また,登記名義人が自然人である場合には,戸籍や住民票との連携が考えられますところ,戸籍との連携については,先ほど冒頭で御議論いただきました。住民票との連携については,個人情報保護の観点から住民基本台帳を閲覧できる事由を限定している住民基本台帳制度の趣旨を踏まえながら,連携の方策について検討していく必要があると考えられます。これらの連携策を含めて,氏名や住所等に関する情報の更新策に関して御議論いただければと考えております。   第4に関する御説明は以上です。 ○山野目部会長 ただいま説明を差し上げた部分について御意見を承ります。いかがでしょうか。 ○今川委員 まず,資料4ページの1段落目の4行目ですけれども,登記名義人の氏名等について変更が生じているにも関わらず,その変更登記がされないと,所有者の所在を容易に把握できないという指摘ですけれども,これは登記簿上からは直ちに把握することはできませんけれども,普通は住民票等で把握はできることになっていまして,今までそこに大きな支障があったのは,何といっても住民基本台帳法における住民票の除票の保存期間が5年であったということが,我々からすると大きな問題であったというふうに理解してます。そこで,今年の6月に住民基本台帳法施行令が改正されまして,その除票の保存期間が150年に延長されていますから,立法上も所在を追跡する方法,変更を追跡する方法というのは大きく解消はされているということは,まず前提としてあると思います。   そこで,法人が所有者である場合は法人等番号を登記情報とすれば,義務化をしなくても,その所在の把握は解消されると思います。先ほども言いましたけれども,土地所有者の社会的責務,それから登記情報を最新の情報に更新することは必要であるということ自体は否定するものではありませんので,その観点からは,そのほかの権利と同様,一般的に最新の情報に登記を更新する義務があるんだという考え方はありますけれども,変更を追跡することは容易であるということと,それから住所変更は所有権の移転等と違ってかなり頻繁に行われる場合もありますので,これを義務付けするというのは慎重に検討すべきと思っております。   それから,対象となる権利ですけれども,所有権以外の物件や賃借権等も含めるという点についても,これは所有権の住所氏名と同じように考えます。それと関連して,現在,不動産登記の取扱いでは,所有権登記名義人になるもの以外の申請人の場合には,住所を証する情報の提供はなくてもよいということになっておりますけれども,この際ですので,虚無人名義の登記を防止する,あるいは将来,所在不明になることを防止するためにも,所有権の仮登記を含めて全ての登記名義人に対して,登記を申請する際には住所を証する情報の添付を義務付けるべきであるというふうに考えます。   それから,対象となる不動産ですけれども,建物を除外する理由はないというふうに考えます。   それから,公的機関から登記官が情報を取得することについてですが,登記官が情報を取得するということについて,個人情報の取扱いの問題は別として,その連携がうまくいけば,登記情報と住民票情報,住所情報の連携がうまくいけば,最終的には職権でやることも可能となりますので,紐付けをするというのは意味があるのかなとは思っております。   それから,外国に居住するものについてですけれども,これは国外における住所の変更を,例えば附票に反映していくような仕組みを何とか作れないかなとは思います。ただ,外国人の場合は,いい方策がなかなか考えられないというのが,現状ではないのかなと思います。 ○山野目部会長 お出しした論点について,網羅的な御意見の開陳を頂きました。   國吉委員,どうぞ。 ○國吉委員 ありがとうございます。   住所,それから会社の住所ですけれども,これについて,これから先,不動産登記といろいろな情報との紐付け作業ができるということを前提として考えると,申請について別に義務を課すということではなく,それらの紐付けから職権で住所移転をすればいいというような,安易な方法かもしれませんけれども,そういうことが考えられるのではないかなと思っています。   先ほどもありましたけれども,やはり登記に対する国民の信頼というのが一番大事なところなのかなというふうに私どもは考えておりまして,今まで,これまで登記に関しては国民それぞれがやはり信頼を持っていたんだと思います。ただ,今回この所有者不明土地問題というものが明らかになった途端に,やはり登記がちょっと不十分ではないかというような議論になってきましたので,基本的には,やはり登記に関する国民の信頼をきちっと継続的に勝ち取るということを考えていただきたいと思っております。   それから,私どもで一番気にしているのは,やはり外国人の登記名義人の場合のことなんですけれども,我々の業務は特に,隣地の方が外国籍の方ですとか,そういった方とのアクションがなかなか難しい。ましてや,外国の住所の方に対するアプローチというのが非常に難しくて,ほぼ不可能と言っていいほどの問題があります。我々としては,やはり外国籍の方,若しくは外国に在住の日本人の方については,できれば,ちょっと大きな考え方かもしれませんけれども,日本国内のいわゆる管理人みたいな形の何か一つ手立てを作っていただけないのかなというようなことを考えております。少なくとも,例えば所有者ときちっとした連絡が取れるようなシステムができればいいのかなというふうには考えております。   一番は,やはり登記の信頼というのを前提に考えていただきたいと思っております。 ○山野目部会長 外国人全てに管理人を置いてくれというお話になりますか,どうですか。 ○國吉委員 不可能かもしれませんが,そういった方向性を採っていただければと思っています。 ○山野目部会長 用いる人は用いてくれるような環境整備をすれば,有益であるというお話でしょうか。 ○國吉委員 そうですね,はい。 ○山野目部会長 ありがとうございます。   藤野委員,どうぞ。 ○藤野委員 ありがとうございます。   登記名義人の表記の関係ですけれども,法人に関しては,先ほども御指摘ありましたとおり,基本的には商業登記の方で必ず変更がなされていますので,仮に不動産登記の方の本店住所などが昔のままになっていても,それで実際に困るということはあまりないのかなと思います。ただ一方で,会社法人等番号との紐付けで登記名義人を特定することができ,かつ名称や住所等が変わったら商業登記とリンクして不動産登記の方でも自動的に情報が更新される,という提案に関しては,少なくともそれを希望する法人に対して適用するという限りにおいては,いろいろな会社や業界から,賛成する意見が多く出されている,ということもお伝えしておきたいと思います。   あと,法人と個人の違いに関して申し上げますと,個人の方の住民票は,法人の商業登記とは異なり,簡単に入手できるものではないので,そういった観点から,不動産登記簿上,住所等が正確に反映されていた方がいいのではないかという意見は出ているところです。ただ,ここは個人だけ義務化するという話にもなかなかならないと思いますので,そこは個人と法人とで平仄を合わせつつ検討を進めていただければと思います。また,対象に関しては,土地だけではなく,やるのであれば建物も一緒にやってほしいという意見が出ていたということも,併せてお伝えしたいと思います。 ○平川委員 ありがとうございます。   9ページの住民基本台帳ネットワークシステムですけれども,この辺の連携について,今先ほどもマイナンバーの話がありましたが現在,年金,それから医療保険,税制に関して紐付けがされているという状況です。この紐付けの根拠は,いずれも社会保険は皆保険でありますし,強制保険,もしくは税も強制力はありますけれども,強制力を伴う範囲の中で,マイナンバーや住民基本台帳ネットワークとの連携がされているという状況になるのかなと思います。   そういった意味で,この間も登記に関しての義務化の問題がありました。やはり情報連携をするという意味合いにおいては,義務化ということが前提にならないと情報やシステムの連携という根拠も,ということにならないし,根拠が薄いような気がいたします。その辺,少し深く検討していかないといけないのではないかと思います。先ほど戸籍の方で発言しましたけれども,住民基本台帳は住民基本台帳の目的がありますし,戸籍も,その根拠がある中で,プラス,そこの情報と連携するということに関しての根拠というのは,深く検討していく必要があると思います。その意味で基本的には,登記に対しての義務化は,しっかりと対応していく必要があるのではないかなと思っているところです。   また登記簿情報との関係で,商業・法人登記における連携ですけれども,この商業・法人登記そのものの正確性はどうなっているのか,というのが疑問に思っておりまして,その点について質問させていただきたいと思います。 ○村松幹事 それなりに正確なものになっているはずだと思いますが,いかがでしょうか。 ○平川委員 ありがとうございます。  私,この審議会に出て思うのは,登記簿情報は本当に正確なものかどうかということに対しての検証が,どうもよく分からない面があります。これは,本当に素人考えなのですけれども,土地の登記簿も建物の登記簿にしても,本当に正確なのかどうか。例えば,その住所に全部郵送して調べたらどうですか,ということまでをして知りたいということであります。これは,別に答えは要りませんけれども,それだけ感想として取りあえず言わせていただきます。 ○山野目部会長 平川委員の問題意識に対し,上手に即応することを申し上げるというものではないかもしれませんけれども,御参考までに御案内します。既に御高承でいらっしゃるかもしれません。商業・法人登記の制度と不動産登記制度とを比較したときに,例えば運用上の違いとして認識することができることは,どちらの法制にも,これこれの登記を怠ったときには過料に処しますよという規律の装備は整っております。けれども,一方において,商業・法人登記の場合には過料を科されている実例があります。   それに対して,不動産登記の領域においては,表示に関する登記の領域において,制度上は過料に処せられることがあるという規律の装備自体はされていますけれども,運用上,過料が課せられた実例というものをあまり側聞しません。   そうすると,その限りでは,商業・法人登記の制度というものについて,主管当局がそのような仕方で熱意を持って運用してきた制度であるということは間違いなく言えるものであります。今ここで御審議をお願いしているものは,不動産登記の制度について,国民から見て信頼性に疑問符が付けられている側面が多々話題とされる事象が増えてきたということを受け,そのような商業・法人登記の運用を,言わばその一つの先輩としてにらみながら,それと似たくらいの運用や制度の整備というものが要るではないかという御議論をお願いしているという側面がございます。このことを参考として御案内申し上げた上で,もし平川委員,何か更におありでしたらおっしゃってください。 ○平川委員 とりあえず二つ目の質問は,特に補足的な質問ということでありまして,私が言いたいのは,マイナンバーとの連携をどうしていくかという観点について,主に発言させていただきました。 ○山本幹事 9ページの先ほどの住民票との連携の話でございますけれども,もしこれを正当化するとすれば,要するに住所の変更があった場合には,それを登記に反映させるべく申請をするべきであると。義務とまで言わなくても,それを本来すべきであるということを言った上で,他方で住民基本台帳の方についても,こちらは義務ですけれども,住所が変更されれば,それは届け出をしなくてはいけないことになっていると。二重に届け出を本来しなくてはいけないところを,言わば一本にする形で整理できるのではないかと思います。   戸籍と住民基本台帳も趣旨は違うのですけれども,しかし,連携は行われているわけでして,そういった制度は可能かと思います。ただ,もちろんこれは関係省庁と十分話をして,実際にシステムができるのか,個人情報保護のためのきちんとしたシステムができるのかというところは十分検証しなくてはいけないと思いますけれども,およそ不可能な話ではないと思います。 ○山野目部会長 ありがとうございます。   平川委員及び山本幹事から御発言があり,9ページで話題提供を差し上げている不動産登記と住民基本台帳ネットワークシステムとの連携に関しましては,既に今のお二人の御発言で論点整理がかなり深められているところでございます。論点の性質上,今後,法務省がこの制度を扱う主務省との緊密な協議を重ねた上で解決策を見いだして欲しいと考えます。技術的には可能であって,だからすればいいではないかというふうにも印象としては映る事項であるとともに,実際にそれについて実地に制度整備を考え始めると,論点が幾つか多岐にわたって存在していると感じます。   一つ前の論点で,蓑毛幹事から類似の論点整理を頂きましたけれども,一つは,このネットワークシステムを不動産登記と連携させることが,いかなる実質的正当化根拠によるかということの説明は求められるものでありまして,私たちの側から言えば,所有者不明土地対策などの政策的要請があるということになりますが,ネットワークシステムを所管しているお立場から言えば,これはこれとして,非常に慎重な取扱いを必要とする制度でありますから,きちっとした根拠付けがなければいかがなものかというお話になるであろうと予想します。その観点から言うと,一定の範囲で登記というものはしなければならないものに制度上はなっていますということを言っていかないと,なかなかここを乗り越えることはできないものではないかという予測を抱きます。   それから,仮に連携させることになったときに,このネットワークシステムに含まれている情報を扱う法務省の職員の体制,それについて,不適切な取扱いがあったときのそれに対する制裁や監督の仕組みも考えなければなりせん。誰が,このネットワークシステムに格納されている情報を受け取った場合において,それに誰がアクセスすることができるのかといったようなことについて,かなりきちっとした検討を深めることが要請されるであろうと感じます。それと同時に,平川委員,山本幹事から,そういう課題を認識しつつ検討してほしいという御要請もあったところでありまして,事務当局の方で対応してもらうことがかなうものであろうと予測いたします。   ほかにいかがでしょうか。 ○蓑毛幹事 この論点については,今,部会長から適切にまとめていただいたとおりだと思いますが,少しだけ補足して,私の意見を申し上げたいと思います。   住所等の変更があった場合に,その登記申請を義務化する正当化根拠があるのかについて,部会資料8の1ページにあるように,所有者不明土地の原因として,相続による所有権の移転登記がされていないものが66.7%,それから住所の変更の登記がされていないものが32%あるということで,これが所有者不明土地問題の大きな原因になっているといえるのかもしれません。ただし,今川委員からありましたとおり,相続登記がされていない,特に数次相続が起こっているのに登記がされていないケースと,住所移転の登記がされていないケースを同列に論じるべきなのかどうか。今後は住民票の除票の保存期間が150年になるので,住所移転については比較的容易に追えるようになります。また住所の移転は,部会資料にもありますように頻繁に行われることもありますので,住所変更等の登記の義務化については,充分な検討がなされるべきだと思っています。   それから,部会資料9の9ページで,登記名義人が特に自然人である場合に,住民票の情報と不動産登記を連携させることについては,個人情報保護の観点から慎重に検討する必要があると思います。  まず,住民票情報と不動産登記情報の連携の方法として,仮に住民基本台帳ネットワークシステムと連携させるというのであれば,具体的な連携方法を示していただき,個人情報保護との観点から充分な検討がなされるべきだと思います。   そして,登記所が不動産所有者の最新の住所を取得した場合に,それをバックデータとして情報を持つだけなのか,それとも,その最新の住所を直ちに職権で登記してしまうのか,この点も,個人情報保護との関係で問題になると思います。つまり,現時点では個人の場合に氏名と住所が登記事項になっているわけですけれども,住民票の情報と不動産登記情報を連携させると,常に個人の最新の住所が公示されることになるのか,果たしてそれは正しいのか。これは,後ほど議論される部会資料9・22ページの住所情報の公開の見直しと併せて考えるべき問題だと思います。 ○山野目部会長 蓑毛幹事が後半でおっしゃった住民基本台帳ネットワークシステムとの連携の問題の論点整理は御指摘のとおりであると感じます。あわせて,登記所が入手したものを単に登記所の中にとどめるか,登記上,公示するかという論点があります。ちょうど7ページの前半の,そこまで続いている1の論点が登記所が入手をできるかという話で,7ページの下半分,2のところが,それを登記上どういうふうに扱うかという問題であって,もしかしたら登記上,公示するということになるかもしれないというお話です。それぞれお諮りしているということです。いずれにしても,蓑毛幹事から重要な御指摘を頂きました。   それから,蓑毛幹事がおっしゃった前半の方が,部会資料4ページの上から4行目,5行目辺りに関わることですが,住所の変更の登記がされていなくてもさほど困難がないということもあるかもしれないというお話は,実はしばらく前の今川委員の御指摘でここのところを問題にしておられて,余り困難が生じないという,かなり記憶にとどめなければならない発言がありました。そうだったら,では,ここの話は何なのですかということになるわけでありまして,そこのところは更に蓑毛幹事から問題提起を頂きましたから,いささか考え込んでみなければなりません。   村松幹事から,何かもし問題提起がおありでしたらおっしゃってください。 ○村松幹事 問題がないのであれば,確かにこの議論をする必要はないものですから,どうしようかなと思っておったんですけれども,先ほどおっしゃったところでは,結局,今まで大きな問題は5年で廃棄されていますというルールがあったのだけれども,それは今後はそういうことはしなくなっていくということではありますけれども,まずそれ自体,今後の話ですので,もう既に廃棄されているものが回復できるというものではありませんけれども,そういう意味で難しかったという事実はあるのかなというのが恐らく1点と,また,それは今後の問題としてはということはあると思うんですが,あとは,結局住民票は,では,誰でも見られるのかというところだと思いまして,資格者の方であれば別かもしれませんが,そうではないというケースに関して実務的にどういうご苦労があるのかというところかなと認識しております。もし全く住所把握にして何の苦労もないですよということであれば確かにこの論点は不要ということになるんですけれども,恐らくちょっとその辺り,実務的にどうなのかなというところをまた伺えればという感じでおりますけれども。 ○今川委員 今,課長がおっしゃったとおり,住民票は誰でも取れるというものではありませんので,私が住所変更を追跡することは比較的容易だというのは,当然そこに利害関係なり公共事業のために所有者を探索するということを前提としているものではあります。ですから,取引に入ろうという人にとっては,その登記名義人の住所を常に把握するということは,登記上からは難しいという状況はあることはあると思います。追跡は可能だということで申し上げました。 ○横山関係官 なかなか答えにくい部分もあるんですけれども,公共事業を用地取得の立場でやっているという意味では,もちろん今川委員がおっしゃっていたというのは一つの認識なのではないかなと思う面もございます。   ただ一方で,国土交通省としては,一般的な民民関係のことも含めて土地基本法の議論なんかでは,できる限り土地の所有者の情報というのが公示されていることが,土地取引の円滑化とかという観点,あるいは土地の利用管理がそれによってうまくやっていただける方に受け渡されていくという,環境整備上は望ましい方向性ではないかと。もちろん対立する問題として個人情報の保護の問題であるとか,いろいろそういうバランスは考えなければいけないんだけれどもという議論をさせていただいていますので,今,村松幹事がおっしゃったように,そのことともちろん関係はしてくるんだと思いますけれども,一方でその登記情報が,できる限りインフラとして真正になっているような方向でどこまでできるのかという御議論をしていただきたいなというふうには思っているというようなところでございます。 ○山野目部会長 増田委員,どうぞ。 ○増田委員 申し上げたいのは,住所についての探索は,住民票の附票が150年になったので非常にやりやすくなったということは言えると思いますが,これまで,先ほども課長さんから御指摘あったように,捨てられたものがありますので,そこは事態は変わっていないということ。   それから,あと,この前の論点のところでも,相続のときは非常に難しいのですが,売買は件数が少ないということと相通ずる論理かもしれませんけれども,これから自治体の職員が,2040年に向けて大体半減するというのが総務省の今のところの見方です。要は,したがって,AIとかロボティクスとかいろいろな技術を使わないと,自治体の業務自身がこれから回っていかないのではないかということもあって,それで様々なネットワークなどを駆使して業務をできるだけ合理化していきたいという一方で,そういう流れがございますので,こういう住所について,やはりできるだけ義務化をするだとか,それからその探索を容易にする。私は,それにしても,住所の移動というのは相当いろいろな場面でこれからも出てくると思うので,所有権者が誰かということと,それから住所ということでは少し重きが違うと思いますが,住所情報については,システムを駆使することによって探索を容易にするというやり方を今後考えていかなければいけないのではないかと,こんなふうに思っております。 ○山野目部会長 今川委員から,最初に除票の保存期間についての制度変更があったことの重要性の御指摘を頂き,そのことを忘れてはいけないと感じますとともに,村松幹事との意見交換において,多少それを相対化して受け止めなければいけないということも明らかになったのではないかと感じます。   今,増田委員から,そういうことを踏まえた全体の見方について参考となる御指摘も頂きました。 ○今川委員 7ページ以降は,これは職権で登記官が登記をすることについてというところだと思うんですけれども,法人の場合はいろいろ今までも出てきました会社法人等番号を登記情報とすることで紐付けもできますし,その情報に基づいて職権登記をすることも可能かと思います。   それと,会社法人等番号については,バックヤードで持っているだけではなくて,登記情報として公開をしても別に問題はないと思っております。   それと,新たな登記申請の際に,これからは会社法人等番号を提供するということ,これは問題はないと思います。それと加えて,もう既に登記されている名義人である法人から自発的に会社法人等番号を申し出るという方法もあり得るというふうに書かれてはいるんですが,これはもちろんないことではないと思うんですけれども,通常,所有権の登記名義人が登記申請を行う場合は,本人確認の方法として印鑑証明書,実印に加えて登記識別情報の提供を求めた上で,その登記名義人と何らかの申請をしたり,申出をした人間との本人確認,同一性の確認をしていますので,多分かなり厳格な方法をとらないといけないのかとは思いました。   それと個人の場合は,これもいろいろ今まで出ていますように,個人情報の取扱いもありますので制度設計を慎重に検討しないと,その情報を登記官が入手するということは,これは簡単には導入できないかなと思いますけれども,それはそれとして置いておいて,それを前提とした上で,紐付けする場合は,やはり住所と氏名だけではなくて生年月日というのも,その同一性の一つの検索項目として入れていくということはあると思います。もちろん生年月日は公開しない情報として持っておくということであると思います。   それと,職権登記をする場合ですけれども,イメージとして,先ほども少し申し上げましたが,所有権移転とは違って頻繁に住所移転をされる場合があるんですが,これにはどのような形で対応されるイメージなのかなというのも,ちょっとお尋ねをしたいなと思います。 ○村松幹事 恐らくどれぐらいの頻度で情報を取得してくるかという御質問でよろしいですか。 ○今川委員 それと随時情報が入ってくるとして,それに即時対応していくのか,一定程度,置いておいてという意味なのか。 ○村松幹事 そもそも情報の取得自体の頻度も,これからの制度設計の中で決めていく問題ではないかと思います。正に今おっしゃいましたけれども,随時,24時間連携するということになると,恐らくシステム的な負荷は大きくなる方向になりますので,そこまで厳密にやらなくても,ある程度,一定の期間を置きながら,その間に住所の変更があったのかというのを確認して,そういったものを反映させていく手立てを考えるというのが,基本的には想定されるところではないかなという気がしています。それほど毎日,毎日とか,毎時間,毎時間とか,そんなようなものでの連携策ということにはなりにくいのではないかなという気はしています。 ○今川委員 これから検討されることだろうとは思うのですが,一方で,取引,売買契約を締結するような場合,逆に言うと,住所氏名で相手方を確認し,あるいは所有権移転登記をするときにも,本人確認というときに印鑑証明書等のチェックとか入れるわけで,そこへいつ職権登記が入るか分からないということになりますと,実際に所有権移転登記をする前提登記としての住所変更登記のタイミングが,いつどこでどんな形で入るのかなというのが,少し売買契約における代金決済に立ち会う立場としてはちょっと気になったので。でも,これは今後細かいところは検討されていくのだろうとは思いますが。 ○村松幹事 おっしゃったことはよく分かりました。急に住所変更が入ってしまうと,「あれっ」ということになるというところは,確かに御指摘のとおりだと思います。 ○山野目部会長 確かに決済の場面を考えると,かなりせわしないですね。お気持ちは分かりました。これから考えていくことであると考えます。 ○道垣内委員 これからお話しする問題は第5の3のところで話すことになっているので,今ここで話すべきではないのかもしれませんが,この時点でも一言しておきたいと思います。つまり,先ほどから住民票を見ることができる人は制限されているということを前提にして,だから不動産登記において住所の変更がなされるというのには一定の意味があるという話なのですが,その議論がよく分かりません。住民票を見ることが制限されているのはどういう理念によるのでしょうか。そして,そこに何か一定の理念があるときに,不動産登記簿ならば見ることができるというふうにしてよいのでしょうか。そこの関係がよく分からなかったのです。つまり,片方では住民票を見ることはできない,それはプライバシーだと言って,片方では登記簿を見て分かるようにするといいよねというのが,どういう議論なのというのがよく分からない。これが第1点です。   第2点は,これは確認だけなのですが,除票を150年か何か知りませんけれども,100年又は150年やるようになって,しかし,もう捨てられちゃったものもあるよねという話で,その部分は問題が残るのだという話ですが,その部分はこの制度を入れても解決しないのですよね。だから,それはもう仕方なかったという話になるという話ですね。確認です,後半は。 ○村松幹事 今,御指摘いただいた後半の部分は正にそのとおりで,私も先ほどその趣旨で申し上げたつもりではいるんですが,問題としてなくなったわけではないのではないかという御指摘をしたつもりです。現状でも引き続き過去の住民票が追いにくいという問題はあるというところだと思います。   前者に関して言いますと,今,御質問の範囲を超えているのかもしれませんが,現行でも不動産を所有している方の氏名と住所については,これは公開していくんだという制度にはなっておりますので,それはやはり土地を所有している方の権利というものを公示するという中には,その方の氏名だけでは特定もできない,分からないので,氏名と住所は必要なんだという制度になっていると思いますので,一応の説明としてはそういうところなのかなと思います。ただ,昨今非常に個人情報の保護ということに対する必要性が高くなっているのではないかという,こういう指摘がございますので,そういったところとの兼ね合いの調整はあるという,そういう一応の整理なのかなと思います。 ○道垣内委員 そのことに反対をするという趣旨ではないのですけれども,住民票は見ることができないから,制限されているから,登記簿のところはやりましょうというのには,やはりそれなりの説明が必要で,片方でせっかく押さえているのに,片方は筒抜けになるような状況にして,どうしてそれが正当化できるのかというのは,やはりきちんと議論をしなければいけないのではないかなという気がいたします。   結論して,不動産登記においては,誰が所有しているか,その人が今どこに住んでいるか,どういう郵便上の住所にあるのかということについては公示すべきであるというのは,これは分からないではありません。もちろん,第5の3のところでももう一回お話をしたいとは思いますが,例外にすべきなのはDVだけではないだろうという気もするものですから後で発言したいと思いますが,片方は駄目だけれども,片方ならいいよねというのを,それを何が正当化するのかという議論もなしに,すうっと話を続けていくのには若干気を付けた方がいいのではないかと思います。結論に反対しているわけではありません。 ○山野目部会長 御要望の趣旨を理解しましたから,説明が調うよう事務当局の方に努力をしてもらいます。 ○水津幹事 登記名義人の氏名や住所等について変更があった場合において,氏名や住所等についての変更の登記の申請を義務付けるにあたって,所有者不明土地問題の解決から離れて,土地所有者の責務であるとか,不動産登記の情報を最新のものに保つといった,抽象的ないし一般的な観点から,これを正当化しますと,それでは,売買等による所有権の移転がされたときにも,所有権の移転の登記の申請を義務付けるべきではないか,という話になりそうです。つまり,第4について,その義務化をどのように正当化するかという問題は,第3について,その義務化をどのように考えるかという問題にも影響を及ぼします。したがって,氏名や住所等についての変更の登記の申請を義務付けるのであれば,そのことを正当化する理由について,慎重に考えたほうがよいように思いました。 ○橋本幹事 ちょっと感想的な意見になるんですが,土地所有者の責務というのが国交省の方でも議論されて,土地基本法の改正の話がされているので,土地を所有しているということによる責務ということで,最新の登記にすべきだろうと思っておりまして,在り方研のときには,住所氏名変更登記を義務化するのは当然であろうという意見を述べました。   ところが,ちょっと考えが変わってきまして,先ほど来,皆さん出ているように,やはり個人情報保護についてしかるべき配慮をすべきだろうと。それで,住所の話が盛んに出ていますが,氏名も,例えば離婚をしたと,それでまた再婚をしたと,それを義務付け,あるいは職権でそのまま登記されてしまうと,道垣内先生がおっしゃったように,そういったことは,住民票などの方では普通の人には知られないはずの情報がだだ漏れになってしまうと,それはおかしいのではないかというふうにやはり私も思い始めまして,個人情報保護について異論はないような形で,やはり考えていく必要があろうと思って,義務化するのは当然だという考えはちょっと変わってきています。少なくとも過料の制裁というのは行きすぎではないのかなというふうに考えています。 ○山野目部会長 承りました。   ほかにいかがでしょうか。   よろしければ,今お尋ねしているところをここまでといたしまして,休憩といたします。           (休     憩) ○山野目部会長 再開いたします。   部会資料9の第5の「1 登記手続の簡略化」について事務局から資料説明を差し上げます。 ○有本関係官 資料の9ページ,「第5 その他の不動産登記制度の改善に関する検討」のうち,「1 登記手続の簡略化」では,大きく分けて(1)から(4)までの論点を挙げておりますので,これらを順次御説明させていただきます。   まず,「(1)時効取得を原因とする所有権の移転の登記手続の簡略化」のアでは,登記義務者の所在が知れない場合に,時効取得を原因とする所有権の移転の登記を,現在よりも簡易な手続を経ることにより,登記権利者が単独で申請することができるものとする方策についての御検討をいただくものでございます。   現在は,時効取得を原因とする所有権の移転の登記は,共同申請により行うものとされておりまして,登記義務者の所在が知れずに共同申請をすることができない場合には,訴訟を提起してその認容判決に基づき単独申請をすることとなっています。このような手続に係る負担を軽減するための方策が何か考えられないかといった観点から,甲案と乙案という二つの方法を提示しております。   なお,ここで言う登記義務者の所在が知れない場合とは,10ページの(注)にありますとおり,不動産登記法第70条において用いられている概念を参考にすることが考えられます。   また,11ページの(注3)にありますとおり,これも不動産登記法第70条と同様ですが,甲案,乙案ともにそれぞれの手続で所有権の移転の登記をしたとしても,そのことのみによって私法上の権利義務関係を変動させるものではないということを前提としておりますが,それぞれの案について慎重に検討すべき課題などにも触れているところでございます。   また,これらの案の検討に当たっては,12ページの補足説明5のとおり,部会資料6で御検討いただきました特定の財産のみを管理対象とした財産管理制度の活用の可能性についても配慮する必要があると考えられます。   資料の13ページ,イでは,取得時効の起算日前に所有権の登記名義人が死亡した場合に,現在の登記実務ですと起算日前までに発生した相続に係る登記を行う必要があることとされておりますが,この相続関係の調査等には困難を伴うこともありますため,登記名義人から直接時効取得者への所有権の移転の登記をすることができないかということについて,御検討いただくものでございます。   資料にありますように,時効起算日までの間の所有権の移転が,全て法定相続分による移転であるのであれば,それが所有権の帰属の言わば過渡的状態であるという性質に着目して,その相続登記を省略することができないかとの考え方もあり得るところです。   次に,資料の14ページ(2)では,法人としての実質を喪失している法人を登記名義人とする担保権の登記の抹消手続の簡略化を検討しております。   実際には被担保債権が既に消滅していても,その古い担保権の登記のみが残存しているというケースが一定数存在し,円滑な取引の支障となっているとの指摘がございます。不動産登記法第70条第3項後段は,登記義務者が知れない場合において,被担保債権の弁済期から20年の経過及び被担保債権等の全額の供託により単独での抹消を認めるという特例を設けておりますが,登記義務者が法人の場合に,その所在が知れない場合というのは限られたケースであると解されておりまして,必ずしも使いやすい特例ではないというふうに考えられます。   そこで,解散の登記がされた法人,法人に関する根拠法の廃止等に伴い解散することとされた法人,休眠法人として解散したものとみなされた法人など,法人としての実質を既に喪失していると思われる類型のものを念頭に置きまして,それぞれ解散の登記等がされた日から例えば30年が経過し,また弁済期からも同じく30年経過したような場合,すなわち被担保債権が時効消滅している可能性が極めて高いと考えられるような場合には,単独での抹消を可能とする案を御提案しております。   これも,先ほどと同様に,登記を抹消したとしても,実体法上消滅の効果が発生するというわけではなく,事後的に訴訟で争うことができるということを前提としております。   この案につきましては,幾ら年数が経過しているとはいえ,時効が中断されている可能性も否定できないことなどとの関係で,どのような要件を設けることが適切と考えられるかなどについて御議論いただきたく存じます。   次に,資料の17ページ(3)では,買戻しの特約の登記の抹消手続の簡略化を検討しています。買戻し期間が経過しても,買戻しの特約の登記が抹消されずに残存しているケースがありまして,これも円滑な取引の支障となっているとの指摘がございます。そこで,法律上,買戻しの期間は10年を超えることができないとされていることに着目しまして,登記義務者の所在が知れない場合に10年を経過したときは,単独での抹消を認めることができないかとの御提案をしております。   また,資料の18ページ(4)では,登記記録に存続期間が記録されている地上権等の権利について,その記録された存続期間が満了している場合の抹消手続の簡略化を検討しています。買戻しと異なる点としては,登記された期間を経過しても実体法上は権利が存続している可能性があることでありまして,この点についてどのような配慮が必要かが課題となります。   ここでは,存続期間経過後に一定期間が経過することを要求しておりますが,それで足りるのかどうか,簡単に登記を抹消することができるとすることは相当ではないとの考え方もあり得るところでありまして,特にこの点についてどのように考えるか御議論いただきたく存じます。   第5の1に関する御説明は以上です。 ○山野目部会長 松尾幹事,お願いします。 ○松尾幹事 ありがとうございます。   今の第5の1の登記手続の簡略化の中で,時効取得を原因とする所有権の登記手続の簡略化についてですけれども,既にこれについては共有のところで,第3回だったと思いますけれども,部会資料4の11ページで,共有者の全部又は一部が不明のときに,どうやって不明者の持分の時効取得について登記をするかということを議論したと思います。   そのときには,大きく分けて二つ方法が提示されました。一つは,登記名義人を被告として訴訟する方法で,もう一つは,管理者を選任して,管理者を相手方に訴訟するという方法だったかと思います。今回はその続きに当たると理解しております。   ただ,今回の第5の1の(1)は,訴訟を提起する前の段階で,取得時効を原因とする登記ができないかという点で,一歩進めるものと思われます。訴訟を提起する前に資格者代理人の証明を得て,登記所に時効取得による登記申請をするということができないかということで,非常に重要な提案だと思いますが,ここにも指摘されているように,本当に時効取得の要件を満たしているのかということについて,十分に実体的な判断ができるか,特に登記官の審査権限が限られている中で,それが可能だろうかということも指摘されております。私としては,やはり裁判所の判断を得る必要があるのではないかと思います。   その意味では,甲案,乙案のうちでは,乙案が妥当ではないかと考えます。その場合も,どういう形で裁判所の判断を得るべきかということについて,既に共有のところで一度議論しましたように,一つは登記名義人を被告とし,手続的には公示送達の手続で行うという方法と,もう一つのオルタナティブとして,管理者を選任して,その者を被告として手続を進めるという方法が示されましたが,その議論との関連を再確認したいと思います。   今回は,訴訟を提起する際に公示送達を申し立てる方法もあるというふうに補足説明の1の6行目に出てまいりますけれども,民事訴訟法110条以下の話かと思いますけれども,公示送達が常にできるかというと,相手方は誰か分かっているが住所を知らないときにはできるけれども,誰が相手方かに疑問があったり,相手方が特定できないときにも使えるかは,疑問もあるように思いました。   その意味では,乙案の管理者の選任という方向が妥当ではないかと考えております。   それからもう1点,13ページのイの方で,取得時効の起算日前に所有権の登記名義人が死亡した場合の扱いについてですけれども,私は提案に賛成したいと思います。その理由付けになるかどうか分かりませんけれども,時効取得の起算日前に登記名義人が死亡していた場合と,起算日後に死亡した場合とで比べてみたときに,相続登記の手続をしなかった場合の方が,時効取得の手続負担が重くなるという結果になるのは,妥当ではないと思われますし,相続登記をするインセンティブを高めるという方向にも反しているようにも思われます。ここで提案されているように,登記名義人から直接に移転登記できる手続を設けることには,十分意味があるのではないかと思います。そして,そのためにも,訴訟手続のうえでは管理者を選任してこれを相手方とすることで,何れの場合も一貫させることが妥当であると考えます。 ○山野目部会長 ありがとうございます。   時効取得と登記について,乙案を更に磨いた上で,という御指摘を頂いたというふうに理解しました。甲案,乙案いずれもこのままだと少し慎重を期さなければいけないということもおっしゃっていただいたと感じます。   乙案で登場してくる公示催告は,民事訴訟法の公示送達の規定が参考になる部分もございますけれども,どちらかというと,現在の制度で近いものを挙げるとすれば,非訟事件手続法が手順を用意している除権決定の手続を参考にして,それを一つのヒントとする新しい制度として乙案のようなものが考えられないかというお話であろうというふうな,そういうつもりで恐らく部会資料では出していると思われます。   しかし,除権決定というものは,読んで名前のとおり,今ある権利を除くという変更の裁判をするものですけれども,ここはそうではなく,時効で権利を取得する人が権利を取得するという,そちらの側面でこの制度を用いようとしていますから,除権という言葉を使うことは変であり,設権決定という言葉はありませんけれども,権利を設けるという方向で,しかし類似性を説明することができる範囲で除権決定の仕組みを参考にしようというふうに見える部分もあるものではないかと感じます。   松尾委員から,しかし甲案,乙案の特徴を踏まえた上で方向としてお考えのことを今御披瀝いただきました。ありがとうございます。   引き続きいかがでしょうか。   中村委員,お願いします。 ○中村委員 ありがとうございます。   日弁連の議論では,甲案賛成はなく,乙案賛成意見と,いずれにも反対の意見というのが多かったと思います。それは,今松尾先生からも御指摘がありましたけれども,取得時効の成否の判断というのはやはり裁判手続に適しているというのが前提の理解としてあるだろうと思います。時効取得を理由とする移転登記手続請求訴訟では,要件である所有の意思ですとか,それから占有形態などについて,双方の主張に基づいてかなり熾烈な戦いが展開されまして,証拠調べを踏まえての事実認定ということになることが多いですので,やはり裁判所の判断を経ないと本当のところ実体的にどうなのかというのは決まらないのではないかという理解が前提にございます。もちろん,そのことは御承知の上でこういう簡易な手続というものの御提案があることは承知しているのですが,特に部会資料の11ページの一番下の(注)の3に書かれているのですけれども,この手続によって移転登記が行われたとしても,そのことのみによって私法上の権利義務関係を変動させるものではないことを前提としていると。   つまり,権利義務関係を変動させる手続としては設計されていないということは,ここで分かるわけですけれども,そうしますと,実体的な権利変動を確定させるものではないのに,時効取得を登記原因として登記が移るということを,制度的に認めることになります。登記というのはそもそも形式審査しかしていないわけですから,実態と離れる場合があるというのは避けられないことではあると思いますが,実態と離れる可能性がかなりあるものを,登記制度として認めるということになりますと,それでよいのかという問題点が一つです。それから,そうなりますと,今後は,登記原因が時効取得であるような物件について,取引に入ろうとする第三者は,これは大丈夫なのだろうかという目で見なければならない。いろいろな登記原因の中でも要注意物件であるということになりはしないかというような,実際的な危惧もございますので,こういう点をどのようにクリアするのかということもあって,乙案賛成ないしはいずれにも反対ということになっているかと思います。   それから,13ページのイにつきましても,日弁連では賛否両論出ておりましたので,御報告いたします。 ○潮見委員 今,直前に中村委員がおっしゃったこととダブりますので,簡単に申し上げますけれども,この部分について特に甲案,乙案等々が出てきたアの部分については,単独申請という方向で考えるのは少し慎重にお願いしたいというのが私の意見です。   先ほどもおっしゃっておられましたように,もちろんこれは継続占有という事実とか,あるいは主観的な当事者の対応とか,そうしたものが絡んで,時効の場合には問題となりますから,そのようなものを,単独という,判決に特によらない形でやるような場合には,あらぬ問題が出てくるかなとも思いますので,そこは是非お願いしたいところです。   あと,先ほど(注)の3の話も出ましたが,仮に甲案を採る場合でも,これでいいのかというところが少し気になりました。このような手続を経て,登記官において時効取得したものと認定し,時効取得を原因とする所有権の移転の登記が行われたとしても,そのことのみによって私法上の権利義務関係を変動させるものではないことを前提としている。おっしゃりたいことは分かるんですけれども,むしろここで書くべきなのは,時効による取得を登記原因とする実体的な権利変動についてどのような申請手続をとるのかという問題であると思います。   そして,登記手続をどのようにするのかというところで,従来とは違う形で単独申請というように簡略化していくと,先ほど中村委員のお話にもありましたけれども,実態と登記とが食い違っているということはあり得るわけで,実体上の権利関係というのはそれではないんだということを主張したい人は,それは裁判を起こして主張もしていくわけですから,それがこの文脈とそれ以外の文脈で変わるということはあり得ないことですから,殊更に何か(注)の3のところをこのような形で表現していくというのが,かえって先ほど中村委員がおっしゃったような意味でのあらぬ誤解ということを生じるところにも向かわせかねないと思いますから,少しこの書きぶりというものも,仮に甲案を採るのであれば,再考していただきたいなと思います。 ○佐久間幹事 第5の(1)のアとイですか。アとイが大体話題になっているわけですよね。   まず,アなんですけれども,甲案,乙案がありますけれども,甲案であれば当然ですけれども,乙案であっても,登記義務者はその所在が知れないので,本人が出てくることはないわけですけれども,登記義務者の方の立場に立って,何というのか,主張を展開する機会は与えられないということになっておるわけですよね。それは,やはり先ほど来皆さんがおっしゃっているとおり,時効の成否に関わる場面で適当ではないと思います。乙案も,裁判所が関与するにしても,ちょっと適当ではないのではないか。むしろ12ページから書かれているこの,結局導入されるかどうか分かりませんけれども,特定の財産のみを管理対象とした財産管理制度をなるべく導入することにし,そちらを活用することが私は望ましいと思っております。それがアです。   イなんですけれども,イは賛成ですが,説明がよく分からないなと思いましたところがございまして,14ページの例えば2のところなんですが,実体法上,占有開始よりも前に登記名義人が死亡している場合には,実際の権利変動の過程を正確に反映しないことになってよろしくないんだというふうな,このまま一気に登記できるとなるとですね。そういう説明がされているんですけれども,そうなのかもしれませんが,占有が開始された後に名義人が死亡したときだって,本当は一旦所有者は変わっているわけですよね,登記がされていないだけで。その後に時効が完成したら,遡及効があるので,その遡及効を重視するなら実態とも合わないわけではないですよね,というふうに説明するんだと思うんですけれども,それって,遡及効にものすごく頼った議論ですし,どこの場面だったか,錯誤による何か更正の登記にするというところで,今とは違うような発想で何か説明していたところが確かあったと思うんです。   そうすると,何かこう便宜的なつまみ食いの説明になっているようなところがあるので,これはどうなのかなと思ったのが一つです。これも単なる説明の問題ですけれども。だから,こんなことを気にしなくていいのではないか,ということです。   もう一つは,これは法定相続のときだけだというふうに念押しがされているんですけれども,占有開始前に既に登記名義人が死亡しており,その死亡した者によって特定財産承継遺言がされていたとか,遺贈がされていたというのは,それがされていたと分かったら,ということなんでしょうか。法定相続だったら,調べればすぐというか,分かるんだと思うんですが,これらについて,分からなければこの簡略化ができるし,分かってしまうとできませんということにするのか。分かる,分からないって,私,申し上げたんですけれども,それがどうやって決まるのかとか,あるいはそのことによって誰のどういう利益を守るのかというのが少しよく分かりません。よく分からないので,だからこそ乱暴なことを申しますけれども,このイのようなことをするのであれば,別に特定財産承継遺言であったって,遺贈であったって,その前があろうと,このような簡略化した手続をすることも考えられるのではないかなと,やはり駄目だなというところを思い付くかもしれませんが,今のところはそう素朴に思っております。 ○村松幹事 今御指摘いただきましたこの部分ですけれども,不動産登記の所管部局のということも含むかもしれませんが,そのような目線からいいますと,やはり遡及効で処理するという部分,確かにございますけれども,その手前の物権変動についてはしっかりと登記に反映させるというのを,これまで少なくとも原則的にはやってきているというところで,そういう指摘があり得るのではないかということを書いております。   恐らく先ほど,ちょっと別の文脈でというふうにおっしゃったのは,法定相続分で登記をした後に遺産分割登記を入れるケースで,でも,そこも遡及効の方を重視してという議論だったかなという気もいたしますけれども,そういう部分でございまして,法定相続以外の特定財産承継遺言等のケースについても,まあということでございますが,そうすると,考え方のベースとしては,では売買等々の場合はどうなんだという話になるんです。ある程度この部分は理念的な問題に結局はつけてしまうのかなという部分はあるんですけれども,恐らく,こと法定相続に関して言いますと,ある程度判明してしまう部分がありますので,その際には法定相続の登記を入れなければいけないですよというふうに登記の手続上言わなければいけないのかというところに影響してくるので,この部分については,多分物事の整理をつけておくことに実益があるのではないかなというふうには感じておりますけれども。 ○山野目部会長 甲案・乙案のところについては,かなり多くの,いずれについても採用は慎重に,という御意見を頂いています。   イの自己占有開始前の登記名義人の死亡については,先ほど御議論があったところであります。恐らく,法定相続に限定しているのは,佐久間幹事が御指摘のとおり,法定相続と遺贈を比べると同じに扱ってもよいように感じますが,では,死因贈与でも同じですかと問われ,更に贈与でも同じですか,それなら贈与と売買でも同じですか,ええ,ええ,どうなんだというふうに,詰められてくると,従来の不動産登記制度の所管当局の思考というか頭脳では,なるべく占有開始までの間の権利変動の過程を忠実に反映させることの方に寄せて問題解決を図りたいという保守的な思考が働くものと思います。   反面,佐久間幹事が御示唆になったように,時効取得は,何と言ったって原始取得だから,その前の過程のところを忠実にプロセスを登記上反映させることについて,仮に時効取得による権利変動があったというふうに決まったときに,一体どれほどの意義があるのかとも感じます。登記経済を考えたら,そのことにこだわるのは意味のないことに固執しているものではないですかという御疑問が出てくることも当然でありまして,それらの議論に注意をしながら議論を深めていくことになると予想します。   引き続き,時効取得について御意見をおっしゃっていただいても結構ですし,(2)から後の論点についても,どうぞ御意見がおありでしたらおっしゃってください。 ○中田委員 時効取得について申したいと思います。   まず,アについて,乙案の方が甲案よりもまだ可能かもしれないけれども,最終的には無理だろうということだったと思います。つまり,移転登記であることを前提として,かつ実体的な権利変動の確定をしないという制度は難しい。実体的権利変動の確定を伴わせようとすると,結局それは財産管理制度に吸収されると,こういうことだったのかなと思いました。   多分,本質的な問題は,実体的権利変動の確定について,時効取得を登記原因とする所有権移転登記の請求をするのか,それとも原始取得であることを強調して,所有権確認の請求をすることにするのか。それによって,しかし被告となるべき者が変わるのかというと,変わらない可能性が高いのかなと思いました。   ただ,この辺り,訴訟法の方にお伺いしたいと思いますけれども,仮に所有権確認の方が被告適格が少し柔軟にできるというのであれば,それを管理者との関係でつなげていくことができるのかもしれないと思ったんですが,そこは同じだったら結局は財産管理人制度の当否と申しますか,一体誰のために財産を管理するのかという,そのときに議論された問題に吸収されるかと思います。   イの方については,既に御議論があったとおりなんですけれども,これは確認なんですが,これも当然訴訟によって登記がされるという前提だというふうに理解しておりまして,そうすると,アによってどのような訴訟になるのかということを前提とした上で,その場合の緩和策としてイのようになるんだというように理解いたしました。   そのときに,法定相続分でない場合について,その訴訟で誰かが争う余地があるのかないのか,もし争う方法が可能であるんだったら,そこに統合できるのかなとも思ったんですけれども。後半については,訴訟の構造との関係にもなると思いますので,ちょっとそれ以上は私には判断はつきません。 ○垣内幹事 11ページから12ページにかけての甲案と乙案の問題につきまして,既に多数意見が出ておりまして,私自身は,甲案の当否については特に論評する用意がありません。登記官にどのような判断ができるのかという観点から,既に出されている意見はそれなりにもっともなのだろうというふうに受け止めております。   乙案の実現性と申しますか,妥当性についてですけれども,これも慎重にという御意見がこれまで幾つか伺ったところですけれども,私自身は,確かに最後に移転登記が控えているというところが,従来予定されている不動産登記法70条で予定されている制度などとは違うというところなのだろうというふうには思いますけれども,しかし,手続保障等の観点を考えたときに,登記上の利益を失うと,移転されてしまうというものとの関係で,従来の不動産登記法が予定していたものと実質どれほど異なることを導入することになるのかといえば,それはそう大きな距離はないのではないかという感じもしておりまして,そうだといたしますと,取得時効の事実が裁判所で認定できるという場合に,もちろん所在が知れないということが前提で,認定できるということが前提ですけれども,それに加えて取得時効も成立しているということが認定できる場合に,そうすると,その効果として登記名義人は権利を失っているはずであるというところまでは言えそうなわけです。   その上で,移転登記を単独申請で認めるかどうかということは,これはこの裁判手続そのものの効果の問題と,いかなる場合に移転登記の単独申請を認めるかという問題が複合しているところがあるかと思われまして,その後半の部分,いかなる場合に単独申請ができるのかという点について,従来単独申請を認めてきた場合との均衡上,そのような裁判があるということで認めていいのかどうかということを,これは不動産登記法の問題として議論をされることになるのかなと,私自身は理解をしておりまして,手続としておよそあり得ないということでは必ずしもないのではないか,その裁判手続そのものについてですね。という感じが今のところはしております。   それから,前にも議論がありました,財産管理人の選任の可能性を考慮する必要があるということはそのとおりかと思いますけれども,他方で,仮に財産管理人を選任するという制度が導入されることになったといたしましても,この取得時効が完成しているという主張をしている者がいるという局面において,財産管理人の果たすべき役割というのが専らこの訴訟の被告になるというだけであって,およそ実質的に財産を管理処分するということが,訴訟追行ということ以外に何も想定されていないのだということだといたしますと,その場合に実体法上の管理処分権を持った財産管理人,フルの財産管理人というものを出現させることにどの程度の意味があるのかという疑問が別途あり得るところなのかなという感じもしております。大は小を兼ねるということからすれば,重い手続でもよいのであれば,そちらの方が重厚だし慎重だしそれでよいでしょうということはあるのかもしれませんけれども,それで満たされない,あるいは十分に満たされないニーズがあるということであれば,このような簡易な手続というのも引き続き考える余地というのは,私自身はあるのかなと考えているところです。   民法の理解が不十分なものですから,的外れかもしれませんけれども,現在における考えを述べさせていただきました。 ○山野目部会長 ありがとうございました。   引き続き,お諮りしている登記手続の簡略化についての御意見を承ります。   (2)から後の論点についても御意見があったらお出しください。 ○蓑毛幹事 それでは,14ページの(2),(3),(4)について意見と,質問を申し上げたいと思います。   まず(2)ですけれども,ここに書かれているように解散の登記等がされていて,更にそこから30年,かつ被担保債権の弁済期からも30年経っているという状況であれば,消滅時効が完成している可能性が高く,現実的にも登記義務者である当該法人において何らかの権利行使をする可能性は極めて低いと思いますので,このような場合には登記の抹消手続の簡略化を認めていいと思います。   (3)も,10年が経過していれば,実体法上,買戻し権は消滅していますので,この場合も登記の抹消手続の簡略化を認めていいと思います。   ただ,(4)の場合は買戻し特約と違って,地上権等の存続期間が更新されている可能性がありますので,簡単に登記を抹消させていいのだろうかという気がしています。ところで,(4)について,事務当局あるいは民法の先生方に伺いたいことがあります。民法の本を読んでも分からなかったのですが,土地所有者と地上権者との間で借地権の存続期間の更新がされたけれども,そのことが登記に反映されていない場合,当該登記すなわち登記記録に記載された存続期間が満了している地上権の登記というのは,第三者に対する対抗力はあるのでしょうか。そもそも記録されている存続期間が過ぎれば,当該地上権の登記には対抗力がないというのであれば,登記の抹消手続の簡略化を認めていいと思うのですが,対抗力があるということであれば,そうでもないということになりますので。存続期間経過後の地上権の登記の効力がどうなるかを教えていただければと思うのですが。 ○村松幹事 私どもの方の検討の経過では,正に今おっしゃいましたように,第三者に対する対抗力があるのかどうかで,随分と物の見え方は変わるなというところはございます。ただ,正直申し上げて,期間も含めてある意味対抗力があるといいますか,存続期間がもう経過しているのになお用益権,用益物権などが存在していると言えるのか,こういった点については,なかなかはっきりしないという部分がございまして,例えば一つこういう考え方もあるかなというところを書かせていただきました。   存続期間も登記事項ですので,それ自体意味のあるものだというふうに考えれば,こういった考え方はあり得るのではないかというところです。もし仮にそうでないとしますと,基本的には恐らく用益物権なりの権利の特定のための登記事項なんだというふうな理解になるかと思うんですけれども,本当にそうなのかという部分があるかなというところでございます。   ただ,そういう考え方もあるのではないかと申し上げておきながらではありますけれども,(注)の3のところに記載しておりますが,これは全然別の文脈の登記先例ではあるんですけれども,地上権を2個同じ土地に設定できないという登記上の取扱いがございますが,それとの関係で,登記上の相続期間が満了したものが既にある。それに対してもう1個重ねられるかという,この登記の部分の先例は,重ねられませんということを言っていますので,そのときの登記先例の考え方は,はっきりはしませんけれども,恐らく存続期間が登記上は経過していても,なお意味があるものとして存在しているのではないかというふうに判断したのではないかと思われます。説明上も,存続期間が経過しているけれども,実体法上もしかしたら権利が引き続き存在している可能性があるので,そのことに配慮して,後続の地上権の設定はできないというような言い方をしておりますので,そこの部分とは考え方としては恐らくは整合しないのかなというようなところもございまして,大変恐縮なんですが,ちょっとそこまでが事務局としての検討の結果でございます。 ○山野目部会長 民法の先生方というお声がけがありました。どなたか御発言がありますか。   道垣内委員,お願いします。 ○道垣内委員 ちょっと私,違うところなのですが,流れに乗っていないわけではない。 ○山野目部会長 流れに乗ってください。 ○道垣内委員 じゃあ,流れに乗るということで,まず,抵当権のところ,担保権のところなのですが,被担保債権の弁済期は登記事項ではないので,分からないのではないかと思うんですけれども。例えば30年経過したというのが。 ○山野目部会長 被担保債権自体は登記事項ですが,御指摘のとおり,弁済期は登記事項ではありません。不動産登記法の70条の運用を始めるに当たって,いつを弁済期として扱うかについて場合ごとに取扱いが明らかにされております(民事局第三課長依命通知昭和63年7月1日民三第3499号・部会資料12,6頁)から,そのような考え方で一応は進められているというお話を紹介申上げます。 ○道垣内委員 そうですか。分かりました。ではその点はそういうことで構わないですが,先ほどの地上権等については,よく更新というふうな言い方をしますけれども,存続期間が経過した段階で実体権は消滅しているので,それは更新ではなくて,再度の設定なのではないかなと個人的には理解しております。個人的な見解ですが。 ○山野目部会長 民法学者から定説の御紹介があれば別ですけれども,蓑毛幹事の御話を受けて審議を進めなければいけないところから,なければ簡略に御案内しますが,おそらく定説はないものではないかと思われます。というのは,幾つかの難しい要因が関連しておりまして,前提として債権譲渡登記と動産譲渡登記は,登記そのものの存続期間というものが法制上整えられていて,あの期間が過ぎれば,登記が効力を失うということは,法文を読んだ理解として動かないところであろうと考えますが,こちらの方は,された地上権の設定の登記そのものの効力を失うとか,それそのものの存続期間ということが定められているものではありません。登記自体は依然として形式的には適法に続いていて,ただ,そこに記録されている内容の存続期間が既に過ぎているという場合ですから,これらの二つの事象は区別をしなければなりません。   その上で,ではこの地上権の設定の登記に記録されている存続期間が過ぎたときの扱いをどう考えるかということを考え始めると,そこから先,民法学者の間に対立があるというよりは,余り議論されていないことであると考えますけれども,一方にはこういう考え方があると思います。存続期間が過ぎていても,借地借家法その他の法制によって更新されていることが珍しくないという法制及び実態上の制度環境があるということに留意をすれば,直ちに対抗力が否定されるというふうな解釈をとることは乱暴ではないかという結論の方に赴くものです。このような見解もあるだろうと思いますし,他方には,いやいや,そういう借地借家法のような法制があることは知っているけれども,しかし,登記した存続期間が過ぎたのなら,もう一回登記をすべきであって,変更の登記かあるいは再設定の登記をすべきであって,それを怠っているなら,対抗力の面で不利益に扱われても仕方がないではないですかという観点,その方向での解決も大いにあり得て,今,道垣内委員からは,一番後ろのところにほぼ近しい御意見をおっしゃっていただきました。それはあり得る見解ですが,ただし,みんながそうだよということを議論している状況かというと,恐らくそうではないであろうと感じます。   民法の先生方から御異論があれば別ですが,ひとまずそのように御案内申し上げ,もし蓑毛幹事がお続けになることがあったら,お話しいただければと望みます。 ○蓑毛幹事 結構です。 ○山野目部会長 よろしいですか。   それでは,(2)以下の点も含めて引き続き御意見を承ります。 ○今川委員 まず,ここの甲では,登記手続の簡略化として時効取得による単独申請,それから担保権の抹消,買戻し権の抹消,用益権の抹消を単独で申請するということで,前提として,いずれの場合にも所在が知れない場合という要件があって,その所在が知れないことを証する情報を提供するということになっています。   11ページの(注1)を見ますと,住民票上の住所が把握できた場合には,その住所へ通知をするという記載もありますので,住民票上の住所で追跡できるというか,把握できた場合も射程に入っているということは,現在の不登法の70条の所在の不明とはちょっと概念が違うのかなという気もします。   登記手続上に一定の形式的な要件をつけて簡略化を図っていくという趣旨であろうと思うんですけれども,いずれにしても,その所在が知れないことについて,申請人の調査報告書を提供するということが前提になっていますので,その辺り,どこまで調査をするのか,所在が知れないというのはどういう場合のことなのかというのは,ある程度明確に基準を定めていくべきとは思っております。これは今後詰めていかれることだろうと思っております。   それから,取得時効の起算日前に所有権の登記名義人が死亡した場合ですけれども,現状のように所有権移転登記の方法を採るということですと,我々も登記に携わる人間として占有開始時までは一旦は相続人の所有があったんだと,相続によって相続人に所有権が移転したんだということが前提となりますので,そこで省略するというのは,やはり違和感はあります。   そこで,今,山野目先生がおっしゃったように,そもそも時効取得の権利取得の性質は原始取得であるということであれば,本来は現在記載されている権利を消滅させて,そして所有権を保存登記するべきであります。所有権保存登記をする前提としては,表示登記も一旦抹消してしまいますので,新たに表題登記,保存登記という形になるんですが,そうすると,時効取得するまでの登記事項の公示がなくなりますので,例えば表示登記はそのまま存続させた上で,所有権の消滅登記と保存登記をしていくというような,かなり今までにない新しい制度になりますけれども,そういう制度を構築するのであれば,相続登記は省略してもいいとは思いますが,現行の所有権移転登記という形でやっていくというのであれば,やはり相続登記を省略するというのは少し違和感があります。   それから,起算日前に所有権の登記名義人が死亡した場合において,これは訴訟によって取得時効を争う場合を想定しているのかということの御質問があり,そうだということの回答があったと思いますが,そうすると,取得時効をしたことを主張する者にとっては,相続人を全部探索をしているはずですので,その手間は変わりませんので,あとは代位によって相続登記をするということなんですが,それについても,そこまで争って時効取得を勝ち取ったというのであれば,相続登記をすることについても大きなインセンティブも働きますし,大きな支障は感じないのかなと思います。   それと,相続登記が仮に義務化された場合には,その実効性を確保する方策として,登録免許税の減免措置が検討されていますけれども,このような場合に代位によって相続登記をする場合も,登録免許税の減免措置を置くというようなことは検討すべきと思います。 ○水津幹事 登記名義人が死亡し,その相続登記が未了である間に第三者が占有を開始して時効取得したときに,登記名義人から直接時効取得者への所有権の移転の登記を申請することができるとする提案について,14ページでは,この提案は,所有権の帰属が過渡的な状態である法定相続分による移転に関するものであって,特定財産承継遺言や遺贈等による確定的な所有権の移転に関するものではない,とする方向性が示されています。   この理解によると,相続による権利の承継のなかでも,相続分の指定がされたときは, 特定財産承継遺言がされたときと異なり,確定的な所有権の移転が生じないため,所有権の移転の登記を省略することができることとなりそうです。この切り方が,相続による権利の承継の対抗要件について,相続分の指定と特定財産承継遺言とを等しく扱う改正相続法の規律と整合的であるのかどうかが,少し気になりました。 ○佐久間幹事 (3)のところで,18ページに,これも縦の3ですけれども,登記義務者の所在が知れない場合に限定しないことも考えられるというふうに書かれていて,しかし,別の指摘というか,それに対する疑問もあり得るというふうなことが述べられています。私は,これは登記義務者の所在が知れない場合に限るべきではないかと思っております。幾つかほかにも場面はあるのかもしれませんが,登記義務者の所在が知れない場合の登記手続の特例として全体をくくる方が望ましいのではないかと。   なぜかと申しますと,権利が消滅している蓋然性の高さに結局のところは依拠して,これらの根拠付けをしていこうということになるんだろうと思うんですが,それはやはり飽くまで蓋然性の高さ,極めて高いのかもしれませんが,高さにすぎないわけです。ですから,きちんと争おうと思ったら争えるというか,状況をはっきりさせられるのであれば,つまり登記義務者の所在が知れている場合であれば,その人を相手にきちんと手続をすればいいし,元々権利の主張,消滅の主張をすればいいし,手続もすればいいというふうに考えます。それに対し,登記義務者の所在が知れない場合は,そこまですることはもうちょっと現実として期待できないであろうということだと考えて,その場合に限るということが,実質的にも好ましいのではないかと思っております。 ○松尾幹事 細かな点で恐縮ですが,18ページから19ページにかけての(4)の地上権,永小作権,賃借権,採石権等の存続期間が満了している場合に,登記義務者が所在不明であるということを情報提供して権利の設定登記の抹消登記手続をするという話ですが,私の誤解かもしれませんけれども,この手続とこれらの権利の消滅時効との関係はどうなりますでしょうか。ここでの提案は,消滅時効の要件を満たしていなくても,こういう要件を満たせば消せますよということなのでしょうか。消滅時効との関係について,説明を補足した方がいいのではないかと思いました。   といいますのは,先ほど来問題になっております所有者とこれらの利用権者との間で,地上権等の実体法上の権利が存続しているのかいないのかということについては,なかなか決められない要素があるように思います。確かに登記できるのに登記しておかないんだから譲受人は第三者に対抗できないというふうには言えるかもしれませんけれども,実体法上の権利が残っているのかどうか,例えば,土地の賃借権の場合に,存続期間が満了してそのままということでいいのか,消滅時効がどうなっているかを考えなくていいのかどうかが少し気になる点です。ここは地上権等の権利消滅原因について,存続期間の満了と消滅時効の両者の関係についてどう整理するか,説明が必要であると思いました。   それからすみません,もう1点,先ほど重要な点について御指摘いただいた,13ページのイの起算日前に名義人が死亡しているというケースで,先ほど頂いた御指摘は非常に重要な,やはりそのときの省略には違和感があるということで,所有権消滅登記をした上で所有権保存登記をするというのが筋ではないかという御意見も,なるほどと思いました。ここはやはり理屈をどうやってつけるのかということが大事と思います。そのうえでなお,時効取得による登記として,起算日前に死亡した名義人からの移転登記が認められるかどうかが重要な点だと思います。その実体法理を説明する前提として,時効取得の機能については様々な見解の対立がありますけれども,一つには,安定した権利状態を保護するということを前面に出せば,正にそれが所有者不明土地問題に時効取得制度を活用できる場面なのではないかということも考えられます。そういう点を強調すれば,時効取得を原因とする移転登記は,形の上では移転登記であっても,正に時効取得を原因としているのだからということで,理論的にも説明が付かないかどうか,というふうに考えています。ここはもう少し検討が必要だと思いますけれども,先ほど非常に重要な御意見をいただきましたので,それに対して少し感想を述べました。 ○中田委員 別々のことを一つずつ申し上げたいと思います。  一つは,今松尾幹事のおっしゃった原始取得あるいはその安定した権利状態ということと移転登記との関係です。12ページの乙案についての説明の第2パラグラフで,取得時効による所有権の取得が原始取得であることを根拠とした説明は便宜的に過ぎ適切ではないという記述がありますが,この便宜的という言葉がちょっと,多分70条を持ってくることとの関係だと思うんですが,ここだけを取り出すと少し分かりにくいという感じがするということが一つです。   それからもう一つは,既にもう質疑があって,私が聞き漏らした可能性が高いのですけれども,先ほど今川委員から出たことなんですが,17ページ,18ページの買戻し,あるいは存続期間の満了で,所在不明であることについての情報を提供した場合というんですが,不動産登記法70条1項は,所在不明というのが公示催告の申立ての前提となっている要件であるので,そこは裁判所で判断される対象になるのかなと思ったのですが,それに対してここで(3),(4)で言われていることは,裁判所の判断がなく登記官が判断するという作りになっているのではないかなと思いました。   そうすると,登記官の審査権との関係で,果たしてそれが他の制度とのバランスがとれているのかどうかということを検討する必要があるのではないかと思いました。 ○村松幹事 今,最後の点ですけれども,不動産登記法の70条,幾つか条文ございますけれども,登記所自身で行う形態が70条3項にございます。そちらとある意味同じような立て付けの制度として作るということで,そういう意味では制度間のバランスはあるかと思います。 ○中田委員 分かりました。ありがとうございました。 ○山野目部会長 ほかにいかがでしょうか。   登記制度の手続の簡略化について頂いた御意見を顧みますと,(1)の時効取得には,アとイについて,それぞれ御議論がありました。若干実例をイメージしていただくとよろしいかもしれません。大正8年に京都市北区で202名を登記名義人とする不動産の登記がされたという実例がございます(京都新聞2019年7月11日附)。今日までその登記名義のままの状態が続いておりまして,現在使用している者が時効取得していると見られる可能性が高うございますが,さあ,これをどうやって現在の占有者を登記名義人とする所有権の登記を実現しますか,さあ練習問題をやってみましょうと言われると,現在の運用であるとすると,この登記名義人202名の,その後何回か起きた相続の後を追っていって,現在の権利者全部,かなりの人数に上りますが,その人たちを被告とした上で,中田委員が問題提起されたように所有権移転登記手続請求訴訟であろうが所有権確認請求訴訟であろうが基本的には同じでありましょうが,全員を探し出してきて被告にした上で,こちらの方に時効取得を原因とする所有権の移転の登記をしてくださいという訴訟をし,それに勝ったという前提で,今度は登記手続はその間の相続を全部を占有開始時までに関しては映させた上での登記をし,その上で時効取得を原因とする所有権の移転の登記をすることになります。   これでは余りにもひどいということに実務的には痛感されますから,前の方の202人の承継人全員を探し出さなければいけないというところを何とかできませんかという問題提起を差し上げたのがアの部分であります。しかし,議論していただいたように,かなり慎重論が多うございました。財産管理の制度を組み合わせて,別な解決を探すべきではないかという御議論も有力に展開されたところでありまして,その観点との関係では,垣内幹事におっしゃっていただいたように,それはあり得るけれども,その場面でも管理人の権限をどういうふうに整理した上で訴訟の手続の円滑適正を図るかという宿題がございます。本日,中田委員と垣内幹事から訴訟の場面での財産管理制度の働き方等について問題提起を頂きましたから,事務当局においては,甲案,乙案についての問題点を精査することに加え,財産管理の制度が組み合わされることがあり得るという問題提起自体は既に部会資料でされていますけれども,もう少し,今日頂いた御指摘を踏まえてどういうふうな展開かということが説明可能なように,検討を深めてもらうことがよろしいと感じます。   イの論点につきましては,占有開始時までの相続登記を全て履践させることを求めることは大変だという問題意識は委員・幹事の間で共有されていたと感じます。その上で,今川委員からは,もうそれは実質において一旦は所有権の登記を抹消した上で,新たに時効取得をしたと認められる人を登記名義人とする所有権の保存の登記を起こすというような実態が近いわけであって,そういうふうにすることも考えられるというお話があったし,松尾幹事がおっしゃったことは,気持ちはそれはよく分かるし,その上で,しかしそれを所有権の移転の登記の形式を言わば借用してやったとしても,おかしくはないのではないかという御指摘を頂いたところであります。   イのところは,政策の方向性についてはかなり多くの,この方向で考えたらよいという御意見を頂いたところですから,改めて細部について更に検討を深めていくということになると考えます。   (2)の法人としての実質を喪失している登記名義人のケースについては,強い反対の御議論はありませんでした。   それから,(3)の買戻しの登記のところについては,これについて強い御異論はありませんでしたけれども,中田委員から御意見があったとおり,現行の70条が項を分けて規定している手続のどのタイプに寄せて,買戻しの特約の登記を今後制度化して扱っていくことがよいのかということについて,引き続き検討の必要があると感じられます。   (4)の用益的な権利についての存続期間満了の事態に関しては,蓑毛幹事から問題提起を頂いた難問のところが,きちっと整理しないとなかなか進みにくいところがあります。理論的にそういう面があると同時に,政策的な方向としては,佐久間幹事,松尾幹事がそれぞれ異なることをおっしゃいました。それらを踏まえ。もう少しここに出ているものの機能範囲を限定して要件を絞った上でこういうアイデアを育てていく可能性はあり得るものであって,更に検討してほしいという御要望もありました。そのような検討を含めていくと,恐らく要件を限定した上で,登記名義人と何らかのコミュニケーションを登記所が試みた上で,ある手続を乗り越えた場合には抹消するということがもしかしたらあり得るかもしれません。これも引き続き事務当局において検討を望みたいと考えるものであります。 ○今川委員 法人の場合の抹消登記の簡略化ですけれども,まず全体でちょっと御質問したいんですが,現行の不動産登記法70条の休眠担保権の抹消では,法人の所在が知れない場合というのは登記記録がない,そして,かつ閉鎖登記記録もないため,存在を確認することができない場合とされていますので,ここで例示されているものは全て登記記録あるいは閉鎖登記記録は残っているということが前提という理解でよろしいですね。 ○村松幹事 そうです。 ○今川委員 そして,①の解散の登記がされた法人ですけれども,これは清算人がいる場合は当然その清算人との共同申請が行われるべきであって,清算人が死亡している,あるいは清算人の所在が知れないという前提があるという理解でよろしいでしょうかという点と,あともう一つ,在り方研の報告書では,結了の登記がされた法人というふうになっていたと思うんですが,ここでは解散というふうになったのは,多分実質同じだからというようなことだろうとは思うんですが,何か特別な意味がもしあれば,教えていただきたいと思います。   それと,在り方研の報告書では,要件として供託が入っていたと思うんですが,今回は供託もしなくてもいいというふうになったわけですけれども,供託の要件を外して一定の期間というのを30年に延ばすということで,供託も不要でないかというふうに考えられたのか,その辺りがちょっと分からなかったので,本来だと弁済供託等で担保権者を保護するべきとも思うんですけれども,それを外したという理由を教えていただければなと思います。   それと,実質的に活動実績は多分ないんだろうなとは思います。特に,解散したものとみなされる休眠会社というのは,元々最後に登記があった日から12年を経過しているものでして,その日から更に30年経過ということですから,実質的な活動はないんだろうなというのは分かるんですが,弁済供託のところはちょっと担保権者の保護というのは違うのかなとも思いますので,供託を外された理由を少し教えていただきたいなと思います。 ○村松幹事 最後の部分に関しては,一応17ページのなお書,一番上のなお書のところに書いているつもりですけれども,時効消滅している可能性が高いのでと,高いというより極めて高いという言い方です。先ほども同趣旨で御発言,別のにあったかと思いますけれども,30年もたっていれば消滅時効期間が当然経過しているし,実質的に活動も行われていないんだろうから,そういう意味では時効の中断も行われないだろうしというのを前提にすれば,供託は外すということも考えられるのではないかというのが趣旨になります。   その意味ですので,そういう意味では清算人が存在していない,現にいないというようなところは,ある程度,何というか状態としては前提にしているところですけれども,それをそういった清算人の実質的にいるかいないかといった部分について要件にするかどうかというのは,そこは検討の一つの論点になり得るところではないかなとは思います。   あと,すみません,最初の登記簿,閉鎖されているかどうか。閉鎖されていない場合というふうに,ちょっと先ほど申し上げましたけれども,閉鎖されていない場合も含むという趣旨であろうかと思います。 清算結了ではなくて解散登記にした理由ですが,これだけ長い期間をとりますので,その意味からすれば,解散の登記からというふうにした方が,実質的にも清算結了の登記までされていないケースもそこそこあるのではないかという話も確かございましたので,より今簡便に実体の失われた登記を単独で抹消するという道を開くことにつながるのかなというところで,今回はそのように提案しています。 ○山野目部会長 今川委員は,例えば供託は入れるべきであるとか,何か今の答えを踏まえて御意見があったらおっしゃってください。 ○今川委員 今後も検討されるんだろうと思うんですが,供託要件は入れた方がいいという意見は,我々の中では多かったです。 ○山野目部会長 真摯でない発言をしてはいけないと自覚しつつ申上げますと,どうせ100円とか200円ですよとか,そういう議論の仕方をしてはいけないものであって,真面目に議論しなければいけません。そのように考えるとしたときに,恐らく部会資料の趣旨は相当の期間が経過していて,もう債権の消滅時効が完成していることが実態に照らして動かないだろうということで,この規律に実質的正当性があるものではないかという見方をした趣旨であろうと思います。司法書士会の方の中の御意見では,そこをなお慎重にというふうな向きもあるというふうに,こういうふうに受け止めて整理し,検討を続けるということでよろしいですか。 ○今川委員 はい。今,山野目先生がおっしゃったのは,多分昭和初期とかの時代の担保を想定されていると思うんですけれども,ここで言う30年ということになると,昭和の最後の年も30年前ですので,相当高額なものもありまして,高額だから供託大変だねというのではなくて,高額だからこそ保護しなければいけないというのもあるのかなというのと,あと,一定の要件を備えれば取戻しもできるんだよというような制度も考えられるかなという意見もありました。 ○山野目部会長 分かりました。では,御指摘を踏まえて検討を続けます。   ほかにここのところ,いかがでしょうか。   それでは,先に進めることにいたしますが,京都市北区のお話は,関係者の名誉のために申し上げますと,地租を納めている人は地方選挙の投票権がありますから,登記名義人になって選挙の投票をしたいという日本の政治に目覚めた志の若者たちが小さな家を取得して登記名義人になったという事例で,登記をした人たちは何も悪気はありませんでしたが,そのままであることによって,今日このような問題を抱え込んでいます。所有者不明問題が様々な歴史的背景があるということの一端を知らしめる事例ではないかとも感じます。   それでは,御検討を続けていただきたいと望みます。   19ページの「2 登記名義人等の特定に係る必要な登記事項の見直し」のところについて,資料説明を差し上げます。 ○佐藤関係官 御説明いたします。   まず,資料の19ページから第5の「2 登記名義人の特定に係る必要な登記事項の見直し」について取り上げております。   現在の不動産登記法では,登記名義人等を特定する事項として,自然人の場合には氏名及び住所,法人の場合には名称及び住所を登記事項としておりますが,不動産登記簿から登記名義人等の特定をより正確に行う観点でありますとか,申請がなくとも登記所が他の公的機関から死亡情報等を取得する方策等を実現する観点から,登記名義人等の氏名又は名称及び住所に加えまして,登記名義人等の特定に係る新たな情報を登記事項とすることが考えられます。   そこで,このような観点から,登記事項とすることを検討するものとして,自然人の場合には生年月日,性別,本籍又は国籍を取り上げているところでございます。もっとも,これらを登記事項としたとしても,これらの個人情報を第三者に公開することが適切かという議論が別途あり,もしこれを公開しないとするのであれば,登記事項としてそもそも整理しないという方策も考えられるところでございます。   また,国籍に関しては,現在,不動産登記において把握している情報ではありませんが,国際化の進展に合わせてこれを登記事項とするべきであるとの意見もございますので,その要否等を御議論いただきたいと考えております。   また,22ページの3におきましては,法人の場合につきまして,会社法人等番号の追加が考えられるところでございます。   以上を踏まえまして,登記名義人等の特定に係る必要な登記事項の見直しについて,ニーズの要否あるいは登記事項とすることについての課題など,御議論をお願い申し上げます。   続きまして,資料の22ページ,第5の「3 住所情報の公開の見直し」について御説明します。   こちらでは,登記名義人等の現住所を公開することが相当でない場合には,その現住所を公開しないものとすることについて取り上げております。   現在,登記名義人等がDV被害者等である場合には,所有権の移転の登記時に必要となる現住所への住所の変更の登記を不要とし,旧住所のままとすることを許容するなどの特例的な取扱いを行っているところでございますが,これらの取扱いは運用上のものにとどまることから,このような取扱いを許容する規定を設けることや,必要に応じてその取扱いの内容を見直すことが考えられます。   相続登記等の申請の義務化を踏まえて,不動産登記簿に記録されている所有権の登記名義人等の住所に宛てて通知等を発すれば足りるというルールを設ける場合には,住所情報を非公開としていることをもって,そのような不利益を与えることは相当でないと考えられることから,何らかの取扱いの変更が必要とも考えられますので,全般的にどのような制度とするのが適当かなど,御議論を頂きたいと考えております。   以上を含めまして,住所情報の公開に関して御意見を賜りたく存じます。   説明は以上でございます。 ○山野目部会長 事務当局がサービスしてくださって,22ページの3まで今説明を差し上げました。   ちょっと休憩の前に3までいくのは大変かもしれません。ひとまず議論をお願いいたします。まず2のところで,登記名義人等の特定に係る必要な登記事項の見直しの問題提起を差し上げており,この範囲で御意見を承ります。いかがでしょうか。   岩崎幹事,お願いします。 ○岩崎幹事 ありがとうございます。   登記事項の見直し,この自然人の関係なんですけれども,私ども現場の内部でも協議をしました。登記事項の公開と個人情報の保護の関係から,登記事項を追加するということについては,制度上の根拠だとか必要性について慎重な検討をお願いしたいというのが現場の声です。特に公開することについて,この資料の23ページの2などにも書かれておりますけれども,登記名義人の方からなぜ勝手に公開しているのかだとか,今の時代,個人情報は慎重に扱うべきだという,こういった声は毎日といっていいほど東京法務局に寄せられています。これは全国の法務局でも同じだと思っています。その都度,登記制度の目的を説明をして,御理解をお願いしているんですけれども,なかなかこう納得していただけない方も少なくないというのが実情です。   現在の登記事項に加えて,生年月日などを公示するということになると,やはりその経緯,それから必要性ということをしっかりと説明できるようにしておかなければならないと思っております。   ただ一方で,最近,ちょっとずれてしまうのかもしれませんけれども,報道などされておりますけれども,成り済ましだとか公文書偽造で登記をされる,これを防止するために生年月日などがあるというのは非常に有効だというふうには考えております。ですので,公開の対象としない,登記事項とはしないで登記所が保有する情報として扱うということは考えられるのかなと思っております。 ○山野目部会長 中村委員,お願いします。 ○中村委員 ありがとうございます。   今の岩崎幹事の御意見に関連する部分を先に申し上げたいと思います。   日弁連ワーキングでも,26ページの補足説明3項に関して,より一般的に住所情報を非公開とすることの検討が必要だという意見がありました。私自身も,住所情報に限らずその他の個人情報を登記事項にすることの是非,また附属書類として閲覧可能とすることの是非については,かなり慎重な検討が必要だと思っておりますし,また今の時代において,これまでの扱いを維持できるのかということについても,検討し直すべき時期に来ているのではないかと考えております。   なぜかと申しますと,情報公開法ですとか,各自治体の情報公開条例などでは,文言に多少の違いはありますけれども,趣旨として,個人に関する情報であって,当該文書に含まれる氏名,生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの又は特定の個人を識別することはできないが,公にすることによりなお個人の権利・利益を害するおそれがあるものを除いて,当該文書を開示するものとしております。   つまり,情報公開の現場では,個人情報に該当する情報については慎重に除外して開示の範囲を定めておりまして,裁判でも個人情報該当性を争うのはなかなか難しいというのが現状となっております。   また,行政文書に限らず,民間においても,取得した個人情報の取扱いについては相当な慎重を期しているという実情がございます。   このような事情の中で,不動産登記法が住所,氏名,それから登記原因,例として個人の死亡についての情報である相続ですとか,離婚したことが分かる情報である財産分与ですとか,それから借金をしている,またそのおおよその額が推定されるというような抵当権の内容ですとか,そういうものを登記事項としていること,先ほど申し上げました附属資料を利害関係を有する者には閲覧させるという取扱いをしているなどという,この制度は,現状の個人情報の取扱いとの関連で見ると,特異,特別であるとも言える状態になっていると思います。   かつては,個人情報を取得した者が自分の周りの人にそれを漏らすことはあっても,その程度の範囲に限られていた時代というのが長く続いていたかと思いますが,現在ですと,スマートフォン1台あれば,取得した他人の個人情報を世界に向かって拡散できるという時代になっておりますので,個人情報を開示するということの重さといいますか,意味というのは,もはや随分異なってきている。この状況において,登記制度における個人情報というものをどういうふうにしていくのか,登記制度の目的を達することができるようにしつつ個人情報を守るということ,今,この部会でせっかくここまでの項目を検討されるということになさったのであれば,きちんと議論をした方がいいのではないかと思います。 ○山野目部会長 今,2のところをお諮りしておりまして,2のところは,生年月日,性別,本籍,国籍などを追加することの当否等を中心に,そこに限られませんけれども,どちらかというと登記事項を増やしていくものがありますかというお尋ねであり,3のところは,それとは別に既に登記事項になっている住所について,今後もこの扱いでよいかということをお尋ねしています。相互に関連し合っており,2と3を関連させながら御発言を頂くことを妨げませんから,引き続き御意見を承りたいと考えます。 ○道垣内委員 申し訳ございません。というのは,今,中心に議論が進展しているところではありませんので,後に回していただいても構わないのですが,私が分からなかったのは,19ページ末尾の(注)のところです。まず,登記名義人についてはわかります。次に,担保権の登記における債務者,信託の登記における受託者は,多くの場合その不動産の権利者そのものですから,その場合はわかりますが,債務者は不動産所有者でないときもありますし,信託の登記における委託者,受益者等など,といわれますと,それぞれはどうして含まれなければいけないのかというのがよく分かりません。表題部所有者もそうかもしれません。少しお教えいただきたいと思います。 ○村松幹事 ここは,何と言いますか,人の特定の在り方自体を見直すのであれば,所有者不明土地問題と少しずれているかもしれませんけれども,その不動産登記における人の特定の在り方の変更ということなので,ちょっと幅広い範囲で対象は考える方向に行くのかなということでございます。ただ,それはもとより本当に登記事項を増やすのかどうかというのがまず大前提ですけれども。つまり,ちょっと意味が違います。 ○山野目部会長 「など」が含まれると書いてしまっていますが,「など」の内包も引き続き検討するという気持ちではないでしょうか。 ○道垣内委員 しかしこれだけ大風呂敷を広げられると,どこか根本的におかしいのではないという話にどうしてもなってくるので,最低限必要なところはどこなのかということを併せて検討しないと,何で債務者の性別や国籍や本籍まで出てくるのか,不要な情報ではないかという気がするものですから,「など」というふうに簡単に広げられては困るなという感じがします。 ○山野目部会長 心配を承りました。ありがとうございます。   松尾幹事,お願いします。 ○松尾幹事 ありがとうございます。   今の道垣内先生のお話とも絡むかもしれませんが,この情報公開について,22ページの(2)の最後の段落に書いてあることが私は非常に大事だと思っております。登記所が情報を把握して登記事項として公開する事項と,それから登記所が登記事項ではないけれども保有すべき情報として位置付ける事項,これらの振り分けです。   最初の発言のときに舌足らずだったんですけれども,最近登記情報についてもIT化が進み,不動産と人を紐付けるということが情報技術的には可能になっている中で,有用な情報であればできるだけ使いたいという要請は,情報管理コストが問題になればなるほど高まってくることが予想されます。一方で,それに反比例して,ますます個人情報の保護が重要かつ難しくなってくるということも不可避です。この二つの要請をどうやって調和するのかが,不動産登記システムを将来に向けて発展させていくときの一番重要な点になると思っております。情報として技術的にリンクできるものがあれば,その必要がある限り,また情報技術の進展をフォローするという観点からも,やらざるを得ない一方で,それだけに,公開には非常に慎重になる必要があって,登記事項とする,そして公開するという事項と,情報として持っているという事項は,別問題としてしっかりルール化すべきだと思います。   登記所がバックデータとして持っている事項と,登記情報として公開すべき事項とは別ではないかという議論は既に出ておりますけれども,部会資料9の22ページの(2)最後の段落で,登記事項とすべきか,そうでないけれども登記所が保有すべき情報かという,この二者択一の中間に,登記事項だけれども公開するものと非公開のもの,場合によっては登記名義人などの利害関係人の承諾を得て公開すべきものという段階付けが可能かもしれません。そういう振り分けの必要があるのではないかと思います。   その上で,先ほどまで出ておりました氏名,住所のほかに,生年月日とか様々な個人を特定する情報については,厳重に保護し,公開はしないけれども,持っていてもいいのではないかと思います。これを登記事項とすべきか,保有すべき情報とすべきかということですけれども,登記事項にしても,そう簡単には公開しないという整理の仕方もあるのではないかと思います。これは情報管理の仕方としてどういう方針が望ましいか,情報管理にかかるコストや煩雑さも絡むと思いますが,できるだけコストを節約しつつ,しっかりプライバシーを守るという方向で,積極的に情報としては持っておく,あるいは紐付け可能にしておくという考え方もあるのではないかと思う次第です。 ○山野目部会長 平川委員,お待たせしました。 ○平川委員 ありがとうございます。   今の発言と,ほとんど同じような内容です。先ほど,住民票やマイナンバーとの紐付けの話が出ました。先ほど発言したように,正確な登記情報を確保するということで言えば,大変重要なことだと思っています。一方で,プライバシーの問題も指摘がありましたので,やはり連携することでプライバシー問題が出てくるということであれば,登記情報をどこまで公開するか,という問題にたどり着くのではないかなと思います。   そういった意味で住民票であるとか,例えば選挙人名簿もそうですけれども,これらについての様々な閲覧制限というのがあるかと思います。そういう登記情報と閲覧に関しての情報をどう区分けして,プライバシーを守っていくのかというのが,大変重要なのかなと思っているところです。   閲覧できる人を,どういうふうに制限していくか,閲覧できる場合を,どういうふうに認めるか,という考え方をどう整理していくのかというのは,大きな課題かと思っています。   当然,公的団体であるとか地方公共団体が,公的な公用のために行うようなものであれば,当然認めるというのが前提でしょうし,その場合,それ以外についてもどうなのか,ということもあるかと思います。例えば,昔は本当に全ての選挙人名簿として登録されている人は,誰でも自由にコピーして外に持ち出すことができたというようなことがあったと記憶をしております。例えば,政治団体を登録していればよいとかの事例もありました。私は,これは閲覧制限が少し緩いのではないかなと思っているところです。   一方で公的な役割を検討していけば,登記簿の果たしている役割というのも考えていく必要があるかと思います。その辺,どうバランスを取っていくのかということも重要かと思います。   さらに法務局の職員に,マイナンバーや様々なデータの閲覧について,どこまで権限を持ってもらうのかということも,少し検討していく必要があるのかなと思います。現状のマイナンバーは,この春からですね,自治体の方から年金情報についての閲覧ができるようになりました。例えば精神障害者手帳について,その精神障害者に関しての障害年金が出ているか出ていないかの確認ができるようになっていますけれども,全ての情報が確認できるかというと,そうではなくて,それなりの制限があります。職員が,どの情報を見たのかという制限も,実務の面の辺も,しっかり対応していくということも必要ではないのかなと思っているところです。   以上,プライバシーの問題について発言させていただきました。 ○潮見委員 松尾幹事から平川委員の方へ流れて,同じような趣旨のことをおっしゃられておりますので,少し違ったことといいますか,先ほどの中村委員のおっしゃったことと基本的に同じことを申し上げたいと思います。   確かに22ページ,松尾幹事が御指摘になったようなところが記述にはございます。登記事項にするのかどうか,登記事項ではないものの登記所が保有すべき情報として捉えてもいいようなものがあるのではないかというすみ分け,区別,それから情報管理とかのためのコストというお話も確かそれに併せてされたと思います。   ただ,そもそも法務局が情報として個人情報を収集していいのかどうかというのが,私は最初の問題ではないかと思います。コスト以前の問題として,集めてはいけないという情報もあるのではないかと。そこを抜きにこの議論をすることは,まかりならんと思います。特にこの21ページに挙げられているような性別と本籍,この二つについては,かなり慎重に取り扱っていただきたいと思います。性別ということで,いろいろ悩んでおられる方々もいらっしゃる。本籍についても,たとえその一部を示されるということにも,いろいろ違和感を覚えておられる方々もいらっしゃいます。性別の方は自然人の基本4情報などという形で挙げられておられますけれども,こういう形で捉えていくのが本当にいいのかということも含めて,是非そこは慎重にお願いしたいと思います。御趣旨を御理解いただければと思います。 ○増田委員 一つは質問なんですけれども,登記事項とそれから登記所が保有する情報と,二つお話があるんですけれども,その登記所が保有する情報というのがちょっとよく分からなくて,登記事項をここで追加しようかどうかという,こういう投げ掛け,問い掛けだと思うんですが,登記事項でないものをどうして登記所が保有することができるのか,集められるのか。私,少し別の視点で申し上げます。せっかくのこういう場ですから,申し上げるのは,問題の所在は,所有者不明土地が出る場合に,できるだけそれをこれから増やさないというか,抑えるための方策を今検討する場だと思いますので,この登記事項はその文脈からいうと,できるだけ追加をして,それで登記簿を見ればどういう人が持っているかというのが分かるようにした方がいいというのが今必要なことだろうと思います。   ただし,性別,本籍,国籍がそれにどれだけ役立つかというと,かなり余り意味ないのではないかと,また別の議論もあり得ると思いますので,ただ生年月日については非常に有用ではないかと,こういうふうにも思っているんですが,要は,その問題と,それから先ほど来ございました登記情報,一般の方々が見られるように公開するかどうかというのは,追加するどうのこうのではなくて,今の現行制度自身が抱えている問題なので,そこは先ほどもお話ありまして,皆さんもそういうことだと思うんですが,そこは少し分けて考える必要があるということです。   所有者不明土地問題の方にもう少し引き寄せて,先ほどもちょっと申し上げたんですが,もう少しはっきり具体的に申し上げますと,これまでは,例えば登記簿を見て,もうよく分からないという場合には,問題なのは,市町村がそれを本当にきちんと把握できるかどうか,公用の場合です,公的な用務の場合把握できるか,今登記簿情報を見ただけでは通知を出しても20%ぐらいは分からないという,そういう社会的な実態が相続の場合にはあるというときに,少し前までは現地に探索とか,本当に実務を見ると有力者とか親戚に聞き回るみたいなことをやって,真の所有者にたどり着いていたんですが,もうそれは多分これからはやらないというか,できないというか,今がマックスぐらいで,実際に市町村が探索に行くということは,それはもう現実にあり得ないんだろうと,職員の体制の問題でもです。   やれることは,探索はするんですが,それは机の上でいろいろな情報,データを見て,それで探し込むというくらいが多分マックスではないかなと思うので,したがって,情報公開をするのかどうかというのは別の大きな議論で,それは大いにやられたらいいと思うんですが,今ここで所有者不明土地問題についていえば,登記事項をきちんと増やして,恐らくそれは実効性のあるのは生年月日だと思いますが,それを新たに追加をして,それでより探しやすくすると。あと,それからシステムをどうつなぐかの問題がありますが,それも今後検討するということが必要ではないかと,こういうふうに思います。   そういう意味で,できるだけ,今申し上げましたのは自然人の場合ですけれども,法人の場合も,今の事項だけではなくて,商業登記法に基づく番号等々の記載がございますが,今よりも少しでもそういう手掛かりになるようなものがあればあるほど,基本的にはよろしいのではないかと,こんなふうに思っているところであります。 ○沖野委員 かなり重複する面はあるのですけれども,19ページの2で,必要な登記事項を見直すことについてというこの登記事項となると,どういうことになるのか,どういうものをイメージするのかというのは,かなりバリエーションが出てきているように思われます。登記事項であれば当然公開なのか,そのときも,公開も一律の公開なのか,人によって何段階かになるのかとか,そうすると,登記事項を見直しはいいんですけれども,登記事項とすべきかという一律の問いは,なかなか答えにくい面があるのではないかと思われます。むしろ,ここは分節しまして,そもそも登記制度自体は,特にここでは権利者の特定ですので,権利関係について同定していくための,その情報がそこに集まるという話と,それを外に提供していくという2面がある中で,それを担う登記所がどのような情報を収集すべきなのか。さらに,それを鍵括弧付きの登記事項ですけれども,登記事項とすべきかというときに,登記事項となれば当然それは公開というのはもう当然なのか,それともそこに秘匿というか,一部公開しないとか,そういう選択肢があるのか,さらに,公開になったときにも,閲覧をどうするのか,あるいは証明書の交付をどうするのか,そういうものとして,それぞれどういう情報が対象になるのかというのを,ちょっといろいろ重複する面はあるんですけれども,分けていった方が,最終的には分かりやすいのではないかという気がしました。   最初の登記所が保有すべきかというのも,いろいろな権利関係を特定するにはなるべく多く持った方がいいという面もあるかもしれませんが,潮見委員がおっしゃったような問題もありますし,かつ,登記所が保有するということになると,その情報を保有するだけのふさわしい管理の体制といったものも構築しなければなりませんし,そうしたときに,保有している情報を何ランクかに分けてというようなことも出てきますので,集めればいいというものでもやはりないのだと思います。そうすると,少し分節をした方がよろしいのではないかと思うところです。 ○村松幹事 登記事項にすることの意味をどういうふうに理解するのかという辺りで,理解の仕方はもちろん多様にあり得ると思いますけれども,まずは,ここでは現在は氏名,住所だけですけれども,特定事項をもっと増やしていく方がいいのか,という素朴なところからお聞きしています。   もし仮に,素朴に特定事項を,ではせっかく例えば情報をもらったんだから増やしましょう,あるいは取りに行きましょうということになった場合に,基本的には登記事項とするということになりますと,まずは全面的に誰でも見ることができるということになるでしょうというのが22ページの(2)のところには書いてあります。ただ,そればかりではもちろんございませんので,ある一定の範囲の方しかそういった例えば生年月日の登記事項証明書は取得できませんとか,本籍入りのものは取得できません,こういった制度的な立て付けももちろんあり得ると思います。登記事項にするから,基本的にはそういった登記事項証明書という形での証明書の発行につながっていくということですので,逆に言いますと,そんな証明書要りますかねと,例えば生年月日,性別,本籍,国籍と書いてありますけれども,そういったものは何か正直余りニーズを感じないのかどうかというところが,実務的な観点からいかがなのかをうかがいたいというところが一つございます。   また,今申し上げたのは,登記事項としながらもというところになりますけれども,登記事項にしなくてよいというその発想を採った場合であっても,しかし登記所としてはしっかりといいますか,いろいろな過程で例えば本籍の情報を把握するということになりますと,そうやって把握した情報についての位置付けを法的にもしっかりする必要が出てくるのではないかというところで,そういった場合には,その登記には登記事項にしない,そういう意味では証明書に載せるような情報として扱わないんだけれども,新たに登記所が保有する情報というような形での,多分現行法の方ではそういった整理のものはないかと思うんですけれども,それをしっかりと法的に位置付けるということが考えられるべきだというような話につながってくるのではないかというところで,22ページの(2)のところは登記事項にするのかどうか,そうではなくても法務局として管理する,保有すべき情報,管理・保有する情報という位置付けをしっかり考えるという方向に行くのか,そういったところが考えられるべきではないかなというところで書いておりました。   その意味で,確かにもう少し個別に,これはこうではないか,ああではないかというところを,こちらの方からお示ししたのがもしかしたらよかったのかもしれませんけれども,まずはちょっと実務的に,今現在は氏名,住所というところになっているけれども,それに加えてこういった情報が必要だといったところの議論がどれぐらい,どういった情報に関してあるのかというところをまず皮切りに,御議論いただければなと思ったというのがこの資料の意図だというところになります。 ○山野目部会長 國吉委員,お願いします。 ○國吉委員 ありがとうございます。   この登記事項に関しては,今現在でも例えば所有者を特定するために,登記情報を取ると,当然ですけれども,住所氏名で本人を特定できるという形になっています。それができないというのは,実際,実態とその表示が違うというようなことなんだろうと思います。この特定をするということと,例えば所有者不明土地の問題であるとすると,管理の問題が一番重要になってくるんだろうと思うんですね。登記所で今,登記事項として取得しているもの以外に,いわゆる登記申請による附属書類ですとか図面関係もそうなんですけれども,そういった情報というのはやはり登記所の方では集めておくべきなんだろうというふうには思っています。特に,管理の問題であるとすると,境界の問題などでは,私どもが作っております調査報告書というものを添付書類として出しておりますけれども,そこには隣地との境界の立会いの経過ですとか,情報としてはものすごい情報が入っているんだと思います。   ですから,そういったものを登記の附属書類としていくというのはいいことだと思うんですけれども,ただ,どの範囲でどういう形で公開をするのかというのをやはりちょっと考えていただきたいし,また,必要であればそういった情報をきちんと公開できるような仕組みを作っていただくということが重要なのではないかなというふうには思っています。 ○山野目部会長 道垣内委員,お願いします。 ○道垣内委員 ありがとうございます。   公開対象にしない登記事項という場合に,何のために集めるのかということをはっきりさせた方がいいと思います。つまり,例えば現在の権利者の現住所が変わったら,オートマティックにその現住所を変えるようにしようとか,いろいろな話があるわけですが,そうすると,例えば同姓同名の人について,この人が本当のあのAさんなのかということをはっきりさせなければならないということになり,そのために,表には出ない情報だけれども,そのAさんという人の生年月日とか,場合によっては本籍でもいいかもしれませんが,を持っておくことによって,登記所がAさんという人の現住所を自動的に変えるときの同一性の識別のために用いるのだと考えると,現住所を自動的に変えるために同一性の識別をするのにはどのような情報が最も適しているかという観点からだけ考えればよい問題であることになります。先ほど,場合によっては公開とおっしゃいましたが,公開はあり得ない。絶対にあり得ないです。自分の買い主であるAさんというのが,これは本当のAさん,それとも別のAさんというふうなことのために,別に生年月日を見せて,向こうから戸籍を取るとか,そんなためにこの制度を作るとは私にはとても思えないわけでありまして,そうなると,先ほどの繰り返しになりますが,住所等を変えるとき,あるいは,死亡したときに,誰が死亡したのか,勝手に同姓同名の人が死亡させられてはかなわないですから,死亡したのかということを明確にするための情報は何なのか,ということであり,登記所だけが同一性の識別のために持っている。表に出るのは現住所と氏名であるということで,現在も将来も変わりはないというのが私は筋なのではないかと思います。 ○山野目部会長 先ほどから議論がもやもやしていたところ,今の道垣内委員の御発言で相当に明快に整理していただいたというふうに感じます。ありがとうございます。 ○中田委員 最初の頃に松尾委員から御発言があったことと関連しますが,その後の御発言とも関係しますけれども,幾つかに整理する必要があるだろうと思います。登記事項の中で,公開するものと限定的に公開するもの,それから登記所が保有できる情報で,これは現在だって附属書類という形で情報を持っているわけですけれども,それと別に,新たに保有情報という概念を入れるのかどうかというまず整理が必要になると思います。   一番簡単にしてしまうと,公開する登記情報と,一切公開しないその他という2種類になると思いますし,広げると4種類になると思いますが,それぞれについて何のために登記所が情報を収集するのかということを明確にすべきだと,これは今道垣内委員のおっしゃったとおりだと思います。   20ページで挙げられている生年月日の必要とする例としては,襲名があった場合とか,かなり特殊な場合を挙げておられると思うんですが,これを一般化することのメリットとそれに伴うコストあるいは社会的な悪影響というのとのバランスだと思います。恐らく,事務局の方で考えておられるのは,これはこの先のところに出てくるのですけれども,所有不動産証明書のシステムを設けるとすると,どうしたってかなり個人情報を特定していく必要があるだろうというふうなことなのかなというふうに私は想像しています。ですので,この議論というのは多分所有不動産証明書制度との関係でも考えるべきことかなと思いました。 ○山野目部会長 ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。   今まで頂いた御議論を顧みますと,自然人の場合について,性別,本籍,国籍については慎重に,という御意見が相当数ありましたし,かなり強く反対を表明なさった御意見も頂いたところであります。生年月日については,よく御意見を伺っていると,意見が分かれているという側面があるものではないかと感じます。いずれにしても,登記事項とするということの意味を掘り下げて,次元ごとに区分けして考えるなどし,今後の検討を続けなければいけなません。   法人の登記事項の見直しについては,特段の御意見を頂いておりません。よろしいでしょうか。 ○吉原委員 補足的なことで申し訳ないのですけれども,本質的な論点ではないかもしれませんが,外国人についての論点が21ページのエで挙がっておりましたので,補足まで,自治体など現場の実務上のニーズとしてどういうことがあるかということを御紹介だけしたいと思います。   外国人の住所と氏名についてはローマ字表記があると助かるという声を時々聞きます。今,不動産登記簿では外国人の方は片仮名表記ですけれども,これを所有者探索をする側から見ますと,不動産登記簿を見ても,旅券に書いてあるローマ字表記は分からないので,財産調査権を使って登記簿の附属書類の閲覧申請をして,ローマ字表記なり,あるいは本国の表記の住所・氏名を入手して,固定資産税の納税通知書などを送るという,手間というか手続があるわけです。   他方で,外国人の方の住民票はローマ字表記になっております。それを考えますと,個人情報保護の観点の問題はあるので公開するかどうかは別としても,国が管理する台帳における情報の単位の標準化という意味においては,登記簿においても外国人の方については片仮名とそれからローマ字表記を併記するということがあってもいいのかなと,そういう論点もあるのかなと思っております。   増田先生からもお話がありましたように,自治体職員の人数がこれから減っていく中で,少しでも業務の効率化をできる点があるのであれば,個人情報保護の観点とのバランスをとった上で,見直しができるところがあるのであれば,今は付属書類の閲覧申請をしなければ見られないローマ字表記の住所・氏名も登記記録に併記できる可能性を検討してもいいのかもしれないという,補足までです。 ○山野目部会長 ただいまの御提案を受け止め,事務当局において検討いたします。   ほかにいかがでしょうか。   追って,2のところにつきまして事務当局に御要請を差し上げておきます。自然人に関し,従来の登記先例において同氏,同名,同住所の場合について生年月日を添記している扱いについて,何らかの仕方で当事者を特定する必要があることは疑いがないとしても,生年月日を登記記録上に現在公開をしているという取扱いがいいかどうか,改めて検討していただきたいと感じます。   それから,法人の場合について,特段の御意見を頂いておりませんでした。ここも引き続き検討しなければなりません。会社法人等番号を登記事項とするという前提で考えたときに,本店の所在地を住所として記録することに一体どれほどの意味があるかということを改めて考える必要がありましょうし,むしろ,大規模な法人組織などに関しては,取扱支店名などの部署を登記事項とするという扱いをこれから一般的に考えていく余地もあるものではないかと感じられます。   休憩にいたします。           (休     憩) ○山野目部会長 再開を致します。   休憩前に審議をお願いした2の登記名義人等の特定に係る必要な登記事項の見直しのところで,生年月日,性別,本籍,国籍の御議論を頂いたところであります。これらのうち,国籍については余り先ほど御議論がありませんでしたけれども,社会的関心が強いという側面がございます。   国籍を登記事項にすることがよいかどうかということそのものよりも,果たして実務的に,これを登記事項にするということにどのような意義があるかというところは,前提となる経緯,事情として,確認をしておくことがよいのではないかと思われます。   これについて,もし司法書士の業務との関係で,今川委員がどのようにお感じになっているか,お教えいただくことがあったら,お話を承っておきたいと考えます。 ○今川委員 実務の感覚から,相続人の探索等を考えてみたりすると,外国人だなということは登記上分かるんですが,そこで,国籍が分かっていればいいねというような感覚は余りないですね。今現在どこに住んでいるかということは,非常に重要になってきますが,そこで,先ほど,外国人の場合は,今の住所地を把握する方法というのは,得策がないというふうには申し上げましたけれども,そこで国籍が分かっていれば住所地も分かるかという問題もありますし,準拠法もそれぞれルールが異なりますし,また,国籍が変わるかもしれないということも考えると,現住所はどうなんだという論点はありますけれども,国籍が登記情報としてあれば助かるというのは,正直,実感としてはないです。 ○山野目部会長 藤野委員,どうぞ。 ○藤野委員 ありがとうございます。   先ほど休憩前に,山野目部会長から,法人の場合の本店住所ではなく,実際に管理している支店等の部署の住所を登記事項とする方がよいのではないかという御指摘がございました。確かに,どこの会社も,実際には支店ごとに土地を管理しているとか,あるいは,土地を管理する部署が本店とは別のところにあるというようなこともあるかとは思うのですが,ここを細かく登記しろという話になってしまうと,結構大変になる会社も出てくるのではないかと思っております。あくまで,不動産の登記名義人たる法人を特定する,というのが制度趣旨だと考えておりますので,本店の住所をひとまず登記事項とした上で,あとは本店に連絡すれば,必要な部署にそれぞれの法人で取り次いでもらう,アクセスしたいときはそういう形でも実際には支障はないのかなというのが,今,お伺いして感じていたところでございます。   また,会社法人等番号が登記事項になって,どこの住所を書いてあっても,一つの法人だということが明らかに分かるというような制度になれば,そこはある程度アレンジしてもよいのかもしれませんが,例えば法人等番号が入らない状態で,同じ会社なのに,あちこちで住所表記が違うということになると,同じ会社なのか違う会社なのか,かえって分からなくなってしまうということもあるのかなということも懸念されるところでございましたので,一応申し上げておきたいと思います。 ○山野目部会長 必ずせよ,ということではなく,現行の取扱いとして民事局長通達,昭和36年5月17日がしていること(民事甲第1134号・先例集追Ⅲ548頁)が,法制上の根拠がないにもかかわらず,金融機関の現実の需要があってしていることですから,それは法制を整えることがよいであろうという趣旨で申し上げました。ありがとうございます。 ○國吉委員 外国人問題について,先ほどちょっとお話をさせていただきましたけれども,実質的な管理者というんでしょうか,そういった方を登記の,登記事項にはならないかもしれませんけれども,登記所の方で把握できるような形というんでしょうか,そういったものができればいいのかなとは思っています。 ○増田委員 せっかく座長の方で,外国人ということなので,申し上げておきますと,私,この民法の,あるいは不動産登記法のところで外国人を問題にする意味というよりは,やはりこの問題は,土地基本法など土地を扱う,そちらの方で,やはり外国人の我が国の土地の保有をどうするかというのが,一番重要な問題ではないかなと思います。   私自身は,外国人が土地を持つことについて,特に違和感はないんですが,それから,いろいろ議論を聞いておりますと,何か,いろいろ懸念事項等々も言われる方があるわけですが,法人の場合に,日本法人の形を採って,実質そういうのを支配する等々,いろいろな形態があるので,要は申し上げたいのは,土地基本法の方で,外国人の保有について,どうするかという議論があって,しかるべき対応を採るということであれば,それはそれで,立法府の判断に従うということだと思うんですが,ここの段階で,登記の問題として,いろいろ区別をすることが実際に懸念されること,あるいはここで,外国人が,例えば相続する等々については,困難さは,国籍が書いてあっても,特に軽減されるわけでもございませんので,私はそれについては,あえて国籍を記載するだとか,何かそういうメリットは非常に少ないのではないかと,こんなふうに思います。   外国人の問題ということで,あえて申し上げました。 ○山野目部会長 ありがとうございます。   外国人については,お話を承っていますと,国籍そのものを登記事項にして記録するということの有用性よりは,むしろ日本国籍を有する者と同様に,住所と,それから氏名の正確が期されていることが重要であるということでしょうか。   住所については,今川委員から御指摘がありましたし,氏名については,休憩前に吉原委員から御指摘を頂いたところでありまして,それらの点を,むしろ真剣に検討していかなければならないということであるかもしれません。   今までの外国人が登記名義人になったときの扱いでは,例えば,ジョン・F・ケネディというものを片仮名で書きますけれども,ケネディの最後のイを大きくするか小さくするかみたいなことで,登記所において登記官と申請人の間でやり取りがされて,場合によっては補正を求められたりしますが,改めて考えてみますと,余り意味のあるやり取りではないですよね。むしろ,つづりが同じだとすると,片仮名が大きかろうが小さかろうが,そんなものはどちらでもよろしいし,むしろ,チャールズとシャルルは異なっているけれども,つづりにすると同じであるということを明らかにするべきだという観点が,吉原委員の御意見の背景にありますけれども,それは重要なことであるかもしれなくて,そういった工夫を重ねて氏名,住所の正確を期し,それらのことを通じ,日本人が登記名義人である場面と同様に所有者不明土地問題の解決にも資するようにしていくというふうに,課題の実質を直視した方がよいかもしれません。   併せて,國吉委員がおっしゃっているように,全ての外国人にそれを求めるということには困難があるかもしれませんけれども,申出があった外国人については,ドメスティックな連絡先を特定し,登記事務が進むようにするというようなことも,一つのアイデアであるかもしれません。   ほかにこの点,御意見おありでしょうか。 ○道垣内委員 言わずもがななのですが,アルファベットを使わない民族の方は,パスポートを取らない限り,アルファベットは定まりませんので,そう話は簡単ではないですよ。 ○山野目部会長 ですから,検討してもらうというお話であります。検討するなというお話でしょうか。 ○道垣内委員 いやいや,検討するなとまでは言いませんけれども,一定しないわけですよね。必ずしも,パスポートとかを取らない限り。   例えば,今,韓国の人たちって,漢字での名前がなくなってしまっている人がたくさんいますが,それをどういうふうにアルファベットに起こすかというのは,微妙に皆さん違いますよね。私には尹(ユン)さんという友人が複数いますが,Yuneと書く人とYoonと書く人とがいます。それを,何を基準にするのかという問題もありますので,なかなか難しいだろうと。検討するなとは言いません。 ○山野目部会長 道垣内委員の御指摘は理解しました。   登記の現場のことを考えますと,現在までの扱いは,飽くまでも欧米の方をイメージしていいますと,片仮名で表記していて,そのことをこのまま続けることでよろしいかという話が,吉原委員の問題提起でした。   外国人住民票に記載されている事項と登記上表現されている事項との間に,齟齬があるということは事実でありますから,そのような事象の実態を踏まえ,今後の扱いを検討していこうということ自体は,意味のある問題提起であるというふうに感じられます。道垣内委員が御指摘のとおり,なかなかハードルはいろいろある問題かもしれません。事務当局において知恵を絞っていただきたいと望みます。 ○横山関係官 増田委員からちょっと御発言があったので,念のためでございますけれども,土地基本法の検討について,国交省を中心にやらせていただいていますけれども,今の話はちょっと,土地基本法という言葉が出てきましたので,ただ,土地基本法そのものの議論としては,基本的には内外無差別を前提に,日本の土地を所有していただいた方に,どういう責務を負っていただくかと。飽くまでそういう議論をしているつもりですし,増田委員にも参加していただいてですね。   土地基本法に表現されるレベルは,そういうものだと思っていまして,ある意味,関連事項を含んでいますが,特に外国人に対して,外国人がこういうふうに土地に関して責任を感じてくださいという表現を採るという議論は,少なくとも現時点ではしておりません。   恐らく,外国人の土地所有とかについては,別途与党の方では,別の議員立法等でやられるというような動きは公になっていますので,そういうような話はあるかもしれませんけれども,土地基本法そのものは,そういうような今,議論の水準にあるということでございます。 ○山野目部会長 横山関係官の御懸念はよく理解いたしました。引き続き,従来の方針に従って,国土審議会における審議を続けていただきたいと望みます。   それはそれとして,増田委員がおっしゃったことは,土地基本法の法文に書き込めとかいうようなことではなく……。 ○増田委員 いや,それではなく……。 ○山野目部会長 それを直接におっしゃっているというよりは,どちらかというと,不動産登記制度のところでするよりは,土地政策というアングルの中で考えていただくと,いろいろなことがまた進むものではないですかというふうにおっしゃったと聞きましたが,いかがですか。 ○増田委員 外国人についてはですね,はい,そのとおりでありまして,しかも,なおかつ,私自身も内外無差別で,この問題はいくべきだと,こんなふうに考えておりますので,議論自体はそちらの方で,外国人,特別に扱うかどうかというのは出てくる,出てきたら,そちらでやればいいのではないかと,こういうことでございます。 ○山野目部会長 ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。よろしいですか。   それでは,この外国人の関係も,関心が高い事項について,今,有意義な御議論を頂きました。先に進みます。   3として,住所情報の公開の見直しについてお諮りをします。   休憩前に,中村委員からも問題提起が既にされているところであります。その点も含めて,ここについての御議論をお願いいたします。 ○道垣内委員 本質的ではない細かいところから恐縮なのですが,23頁の補足説明の1(2)の「他方で」以下なのですが,「民間の取引の際において,不動産の登記名義人等の所在等を把握し,アクセスを図ろうとするときには」というのですが,これは不動産に関しては,民間の取引の際にアクセスを図れるようにするというのが,不動産登記法の不動産登記の目的の一つであるということなのでしょうか。   例えば,展覧会など行くと,「個人蔵」とか書いてあることがありますよね。私は何億円も持っていませんので,どうでもよいのですが,ある美術品が欲しいなと思ったとしても,そこに住所とかが,アクセスしやすいように書いているわけではないですよね。個人蔵の美術品は個人蔵であるという事実以上はわからないのだけれども,土地については,民間の人が取引のためにアクセスしやすくするという目的を持って,住所等を開示しているのでしょうか。   もちろん同一性の識別とか,いろいろなこと,対抗要件の問題とかのために書かなければいけないというの,それは分かります。そして,私は同様の発言を,何回も繰り返しておりますので,もう聞き飽きたと言われるかもしれませんけれども,民間の取引をアクセスしやすくするために何かするというのは,この部会の目的,あるいは,不動産登記法の理念の一つなのかというのが,ずっと気になっています。 ○村松幹事 不動産登記法自体の目的の中には,取引の安全と円滑に資するというのがありますけれども,そこでいう取引の円滑というのが,どういう射程なのかという御質問だと理解しております。   一般的には,所有者不明土地問題の大きな障害あるいは問題の一つというところで,公共事業だけではなくて,民間の取引,取引といってももちろん,本当の経済取引から,また,細かく言っていけば,恐らく隣地間でのもめごと的なところでの紛争といいますか,そういうものを契機にしたものも含まれるかもしれませんけれども,広く私人間での法律関係に関して,所有者が分からないということが,結局,いろいろな形で問題を引き起こしているという指摘はされております。   その意味で,所有者不明土地問題という中で,民間の取引,あるいは民間同士の問題,あるいは,場合によっては管理不全の土地の問題,そういったことも含めて,完全に公的なものだけではなくて,民間同士,民間ベースでのものというものの解決をしにくくしているということがございまして,その意味では,不動産登記法の取引の安全・円滑というところを多少,もしかしたら広目にというところになっているのかも分かりませんけれども,そういったところも,一つの目的の中に入っているのかなという理解はしておりましたけれども,そこはいろいろ御意見が分かれるところかも分かりません。 ○道垣内委員 様々おっしゃって,その中には非常に,そのとおりであるというものも含まれるのですが,その中で,村松さんがおっしゃったことを,「取引」という言葉で代表させて,ここに書くということに,私は違和感を覚えるわけであります。私人間の法律関係においても,というくらいならば,それは分かりますが,民間の取引の際において,と書かれますと,これまでも,売却あるいは取得しやすいようにとかというふうな,たとえば,共有のときには,「あなた方,共有不動産は使い方がよくないから売りましょう。売った方がいいですよ」というのを,買主からアクセスできるようにする制度を法が準備するという,私からしてみれば,それは認め難いような話が何回も出てきたのですが,その件について,私は譲るつもりはありませんし,したがって,ここで取引の際というふうに書かれることに,私は違和感を持ちます。 ○松尾幹事 今,道垣内先生がおっしゃったことは,私も本質的に大事な点であると思っております。そのこととの関連で,例えば,部会資料9の26ページの3の,より一般的に住所情報を非公開とすることの是非の(2)のところで,利害関係を示すというときの例として,不動産の買い受けを検討しているということでも利害関係があるといっていいかどうかという例示がございます。   それから,後の附属書類の閲覧請求に関して,部会資料9の34ページの真ん中辺りの3の4行目,5行目のところにも,当該不動産について,取引関係に入ろうとする者という記述があります。こういう人たちも使えるように,不動産登記簿には住所が載っているんだというふうに考えるべきなのか,ぎりぎりのところはどこかを明確にする必要があると思います。   例えば,公共事業に関しては,所有者不明土地については,所有者不明土地利用円滑化法の方で,公的な機関に情報アクセスできるという道も開かれました。そういう点に鑑みると,この土地を誰が所有しているか,その者の住所を知りたい,その者にアクセスしたいということが,どういう範囲の人たちに許されていて,情報提供すべきなのか。登記所自体はマーケットそのものではありませんが,登記が取引を促進するというときに,登記がどういう機能を果たすべきなのかということは,しっかり考えるべきであると思います。   一方で,例えば,ある土地が管理不全の状態で,周囲の者が困っていて,一体所有者は誰なのかということが問題になるときには,登記を調べてアクセスしたいというのは,あり得ることだと思います。そこら辺の線引きが,買いたいんだよねという人と,迷惑がかかって困っているので,所有者は誰か探している人という辺りの線引きができるかということも含めて,きちんとルール化すべきだと,私も思いました。 ○蓑毛幹事 住所情報の公開を続けるべきなのか,見直すべきなのかということについて,私自身は,どちらかというと,住所情報の公開を維持した方がいいのではないかと思っていますが,この問題については,この部会でさらに議論した方がいいと思います。   なぜ,不動産登記において,個人情報であるにもかかわらず,個人である所有者の現住所を公開すべきなのか,ということについては,先ほど村松課長からありましたように,例えば,不動産取引法の目的事項である取引の安全と円滑から導くのか,あるいは,更にもう少し大きなところで,土地所有者には土地の適切な利用管理に関する責務があるという国土審議会などでの議論から導くのか,あるいは,所有者不明土地問題などが起こっているということも併せて根拠とするのか,様々考えられると思います。   ただ,土地の適切な管理のために,本当に現住所を公開することが必要なのか。先ほど来ありますように,例えば,今までとは違う制度ですけれども,登記所が土地所有者の現住所の情報をバックデータとして持つのか,あるいは登記事項とするけれども公開でないという類型を作るのか,いずれにせよ,登記所が土地所有者個人の特定に資する情報は持ち続けるけれども,公開する範囲は何らかの形で限定するという方法で,土地の適切な管理を図ることができるのではないか,という議論もあり得ます。   私自身は,現在の取引の実務,不動産の売買であったり,金融機関が不動産に担保権を設定したりとか,様々なところで,土地の所有者が特定されて公示されていることが,実務的に非常に重要な意味をもっていると思いますので,そのような不動産取引への影響を考えると,現時点においても,なお住所情報は公開すべきだと思っています。  ただし,中村先生からありましたように,個人情報の保護が重要だと言われている現時点においても,なお住所情報の公開を維持すべきかについては,この部会で議論した方がいいと思っています。 ○佐久間幹事 今,蓑毛幹事がおっしゃったような大きな問題について,答える用意はないんですけれども,所有者不明土地問題というのは,登記簿の記録を見ても,直ちには所有者が判明しない土地ということになっておりますよね。   その問題の解決を図ろうとしている審議会部会において,住所の公開についてゼロベースで見直して,住所を基本的には公開しないんですというふうになった場合は,登記を見ても,そもそもが土地の所有者が直ちには判明しないんですよね,ということになってしまいますよね。   そんなところから議論をするのだと,ちょっと大変過ぎないかな,何のためにほかのところを神経質になって議論しているのかな,というふうな気がいたします。根本的な,何が今の世の中で正しいことなのかというのは,私はよう答えませんけれども,ここでは取りあえず,原則は少なくとも現状維持で考えておき,DV被害者が例外として挙げられておりますけれども,個別に,こういうのはDV被害者の場合と同じように扱うべきだよねという方向で,まずは議論することが望ましいのではないかと思います。 ○沖野委員 佐久間先生がおっしゃったように,確かにこの問題自体の解決からは後退化させかねないという面は,要するに情報が切り下げられますので,登記の公開で分かるという点は後退となりかねません。ただ,現在の社会において,この情報の取扱いの在り方が本当にこれでいいのかという観点は,やはり重要ではないかと思われまして,現住所というのが,氏名だけからは誰か,同姓同名の人は幾らでもいるので分からないというときに,誰が権利者であるかという同定のために必要だということであるとすると,それをどういう人に公開するのかというのは,また別の話として出てくるんだと思います。   他方で,土地の有効利用や活用や,そのためにコミュニケーションを取りたいという場合であるならば,それが現住所なのかという問題はあるかと思います。住所というのは生活の本拠ですので,そこに押しかけるということも可能な,そういう情報です。それを考えていますからということで,あらゆる人に入手させることが可能になるというのが,本当にそれでいいのか,むしろメールアドレスぐらいの方がいいぐらいではないかと思うのですね。そのためのコミュニケーションの手段であれば。   ですので,やはり目的,アクセスを求める目的との関係での開示の在り方というのは,考えられていいのではないかと。伝えるということは大事だと思いますけれども,それを結局,誰にでも伝えることになるというやり方でいいのかどうかというのは,松尾委員から言及のあった,管理不全の場合にアクセスを図ろう,しかも隣人がとかいうことで,それなりの正当な理由があると判断できるような場合は,ある程度,副次効果もあるかもしれないですけれども,それはいいにしても,別にそういう事情もない中で,買い受けたいということであれば,よいのかは疑問に思われます。実現可能かどうか,可能でなければしようがなくて,やはり現状でということになるかと思いますけれども,登記所を通じた通知とか連絡とか,あるいはその他の連絡手法を考えるとか,そういうことがなお考えられていいのではないかと思います。 ○山野目部会長 民法の規定に仮住所という概念があって,必ずしも注目されていませんけれども,ああいうふうな,何か機能的に,これこれの手続との関係では,ここを連絡先にしますというような思考が,これからもっと求められてくる場面は増えてくるかもしれません。   思い起こしますと,後見・保佐・補助が開始したときの登記というものは,不動産登記とは情報公開の仕方が異なりますけれども,あれですら,成年後見人等になった司法書士や弁護士の先生の住所については,法令に従い住所を記録せよということから,その方々が毎日寝起きする本当のお住まいの住所を記録するという取扱いは,いかにもおかしいと感じますから,事務所を登記するということが,運用として行われていかなければならないでしょう。このように,これこれの手続との関係では,ここが私の住所ですというような考え方というものが検討されてよいと感じます。民法の古典的な議論で,人が住所を複数持つことかできるかという論点がありますが,ああいう学理的な議論とはまた別に,今改めて考えてみるべき問題について,沖野委員からヒントを頂きました。 ○中田委員 御質問だけなんですけれども,執行との関係で,住所を記載することが必要なのかどうかということがもしお分かりでしたら。 ○村松幹事 そういう意味では,執行手続を続けるに当たっては,所有者に対する送達等,必要になるはずですので,分かった方がもちろんよろしいということだと思います。   別途,もしかしたら,この制度がなくなれば,別の形で,債権者が立証をすればいいということもあるのかも分かりませんけれども,基本的にはあった方が有用ですし,ちょっと先ほどの議論との関係で申しますと,例えばメールアドレスが本当にその人のものだということを,一体どのようにして立証してもらうのかといった辺りなんかは,住所ですとやはり,公的な証明書なんかで,本当にそこが住所なんですねということが,それこそ住民基本台帳法の枠組みの中で,しっかりとなされるということが確保されるわけですけれども,そうではないということになると,いろいろなところに,また波及は出てくるだろうというふうには思います。その一つの例を,多分御示唆いただいたんだと思いますけれども。 ○山本幹事 私,答えを持ち合わせているわけではないのですけれども,先ほどの議論とかなり共通するところがある,考え方として共通するところがあると思いまして,要するに,個人情報の取扱いを認める場合に,一般的に申し上げれば,まず目的が何かということ,これは公益目的等ですが,目的が何かということと,目的を達成するために,適切であり,また必要な手段として個人情報が使われるのかということ,それから,必要であるとしても,余りにも個人情報を出すことがプライバシーの侵害の度合いが高いので,相当でないかどうかという,恐らく3段階があろうと思います。   ここでの問題に関しても,まず,目的がいろいろあり得て,ここでいう不動産の買い受けを検討している事業者等について,アクセスしやすいようにするという目的を立てるのかどうかということがあり,さらに,目的を実現するために,一体どういった情報が必要なのか,あるいは,どこまでの情報を出すのが相当なのかという問題があろうと思います。それは,例えば,先ほどの執行等の場面とは,また少し目的が違ってきますので,あるいは,公表等をする事項等も区別する可能性があろうかと思います。   そういったことを考えた上で,しかし,実際上そんな区別はできないということになれば,そもそも,区別をしないで制度を立てるしかないのでしょうけれども,考えるときに,目的を分けて,ステップを置いて考える必要があるかと思います。 ○山野目部会長 ありがとうございます。   中村委員,どうぞ。 ○中村委員 ありがとうございます。   私が先ほど申し上げましたのは,今,先生方が御議論いただいたようなことをここで議論できたらいいなという趣旨でございます。本当に有り難く思っております。   先ほど佐久間先生がおっしゃいましたが,この所有者不明土地問題をテーマとする部会でそういうところまでとおっしゃるのもよく分かるんですけれども,私が申し上げましたのは,何人もアクセスできるような状態で,今の登記事項の情報を更にプラスして,更に広げるというようなことを,ここでする方向に安易に行っていいのかというところを1回しっかり見たいということであって,全くそういう情報を登記事項からも削り,全くアクセスする方法をなくしてしまうということをイメージしていたわけではございません。   先ほど沖野先生がおっしゃいました,アクセス権を誰がどこまで持つのかというご指摘によりまして,私が整理できずにいたところを分かりやすくしていただきました。例えば登記事項をAパターンとBパターンとに分け,何人もアクセスできる登記事項Aパターンと,附属書類の閲覧と同様,しっかりした利害関係というものを提示できた者だけが,Bパターンの登記事項にも触れることができるなどというようなことが,現時点では技術的に,できるようになっているのではないかと思いますので,そういうことも含め,ここで御議論いただければと思った次第です。 ○潮見委員 別のところでもよろしいですか。 ○山野目部会長 どうぞ。3の範囲で仰せください。 ○潮見委員 3のところですけれども,24ページから25ページにかけての非公開のところで,少し質問も含めて,ちょっと意見も申し上げたいと思います。   非公開とする対象の人を被支援措置者,それから犯罪被害者等,こういう形で定型的に定めるということは,登記官のことを考えると,やむを得ないところはあるのではないかとは思います。実際には,こういう形で指定されていないような被害者がたくさんいらっしゃるということは,私も把握はしていますけれども,なかなか登記のところでは難しいであろうなと思うんですが,ちょっと質問というか,お聞きしたいのは,(3)の秘匿する期間のところで,まず申出がありますよね。申出があった場合に,秘匿という形の判断がされるわけですよね。   一定期間,1年間という,要するに客観的な数字で期間を絞るということをここでお書きになられた趣旨はどこにあるんだろう。被支援措置者あるいは犯罪被害者といった場合には,期間では区切ることができないような要素もあるはずです。   そこのところが,どうして期間という形,しかも1年という,こういう形にしたのかということを一つ,お伺いしたい。それから,二つ目は,1年,仮にこういう期間を区切った場合に,有効期間と書かれていますけれども,この期間を過ぎてしまったらどうなるのか。改めて申出をさせることになるのか,それとも,言葉は変ですけれども,自動継続のような形になるのか。   さらに,その後ですけれども,その次の行,そこでの次の行を見ていますと,非公開とする必要性が失われたというようなことが書かれてございます。こうなると,一方で,こういう非公開という制度に乗ろうと思っている人は申出をし,期間が過ぎれば,これは自動継続か,更なる申出とかはともかくとして,本人の意思に基づいて,何らかの判断がされる。その後のところで,これが消える場合に,非公開とする必要性がなくなったとあるんですよね。   先ほどの犯罪被害者の場合はちょっと置いておくとしても,被支援措置者の場合には,被支援措置を採る状態が消えたというような客観的な状況だと思うんですけれども,そうなると,本人の意思,意図とは関係ない形で,客観的な必要性が消えてしまったら,もうそれで,この制度に乗ることはおしまいというような理解でよいのか,要するに,全体がどう組まれているのかということを教えていただきたいと思って発言した次第で。 ○村松幹事 ここは,もちろんやり方は,これからいろいろと御意見を伺ってというところであるんですけれども,旧住所のままでよいという状態にしてしまいますと,それこそ,ずっとそのまま放置されてしまって,しかし,それがよろしくないという文脈もありますので,旧住所のままでなくて,もしも必要性がなくなったということであれば最新の現在の住所に切り替えていくということが想定されるような手続の方がよいのではないかという,問題意識としては,そういうところを踏まえております。   一定期間と書いてありますけれども,そういった期間で,どちらかといいますと,一定期間,これで超えてしまいますけれども,これは今どういう状況でしょうかということを,そういう意味では確認した上で,引き続き支援措置を頂いておりますということであれば,継続するということになりますし,もう解決いたしました,大丈夫ですということであれば,その時点で,では,非公開であったり特殊な公開の仕方というのを改めて,普通の公開に変えましょうかと。そういう意味では,そういう手続の流れというのが,例えば,一つは考えられるのではないかというところです。   もちろん,原則・例外を何かひっくり返すとか,やり方はいろいろあり得るのかと思うんですけれども,そういった,通常のといいますか,正常な状態に戻るということも当然あり得るかと思いますので,そういったケースでは,正常な状態にうまく戻っていくような流れというのも考えてもいいのではないかという,そういう趣旨でございます。 ○潮見委員 1点だけですけれども,本人としては,住所が公開されないという形で指導して,受けられている場合に,どこかの判断で,これはそういう理由が消えてしまったと,本人の知らぬ間に公開されていたということは,個人的には避けた方がいいのかなと思います。   特に,犯罪被害者の場合については,被支援措置の場合とはちょっと違いますから,その辺り,ややこしいことになりそうな感じも直感的にいたしますので発言した次第です。どうも。 ○村松幹事 ありがとうございました。 ○山野目部会長 お諮りしている事項は,大きく二つのジャンルがあって,まず住所情報の公開一般についての基本的な考え方の整理という部分があります。それについて,盛んに今日,たくさんの御発言を頂いています。   それと同時に,現在既に運用上行われているものとして,配偶者から暴力を受けている者,虐待,ストーカー行為の被害に遭っている人たちに対する特例措置について,今後法制上,どういうふうな仕方で根拠を与えていくか,それから,具体的にどういうふうな運用をしていくかという,こちらもきちんと考えなければいけない,もう一つの問題でありまして,今,潮見委員からは,25ページのところの参照を求めながら,そちらの方の御議論を頂きました。   村松幹事からお話があったように,25ページに示されている内容は,これから更に考えていかなければいけないことがたくさんあって,まだ検討の途上であります。   部会資料が示す題材を改めて見ますと,卒然と読む限り,配偶者からの暴力を受けている人たちの身になってみると,余りフレンドリーな形になっていないかもしれません。1年ごとに期間が見直されるということは,かなりせわしなくて,その立場に身を置いたら,つらいだろうと想像します。   それから,旧住所ではなくて,一つの候補として,最小行政区画である市町村を掲げることはどうでしょうという点も,可能性として挙がっていますけれども,危ないと思いますね。最小行政区画の市町村を挙げられると,加害者は本当にしつこい者たちですから,探索し,捜し当てる可能性もあります。ここに示しているもので決めてしまうということではなくて,部会の場やそれ以外の場で,いろいろな御意見を承り,あるいは,配偶者からの暴力の被害に遭っている人たちを支援しているような法律家の先生方の活動もありますから,そういう方々から実情の聴取などもしながら,制度を作っていかなければなりません。   中村委員,どうぞ。 ○中村委員 今,潮見先生と部会長からお話のあった部分についてですけれども,犯罪被害者について,全てについて,住所を非開示とするということの必要があるとはいえないでしょうけれども,日弁連の議論でも,例示されておりますDV被害者とかストーカー被害者,児童虐待の被害者のほか,性暴力被害者とか,それから,加害者が反社会的勢力である場合などについて,被害者の住所を非公開にする仕組みをきちんと作るということについては,異論はございませんでした。   それを前提として,ここで,例えばということで書いていただいていることについて,若干申し上げたいと思います。   今,潮見先生と山野目部会長から御指摘があった部分と重なっているのですが,25ページの(2)現住所を非公開とする方法として,例えばということで,①,②,③というふうに挙げていただいているんですけれども,これはいずれも危ない可能性があるということを感じました。   例えば①ですと,ストーカーなどの場合,前の住所が生家・実家であるというような場合に,このような記載で親の家が分かるということになった場合には,実家の親が被害に遭う危険がありますし,②のように住所非公開の旨を表示するということになりますと,この方には何らかの事情があるということが分かってしまうことになりますが,それでよいのかということですとか,③の最小行政区画の表示にする案ですと,小さな区域では特定が簡単で,しかも,珍しい名前の方だと,すぐに特定に至ってしまうというような問題があるということがあります。それから,25ページの(3)の秘匿する期間,一定期間,例えば1年ということについては,先ほど御指摘がございましたけれども,1年程度でDVとかストーカー被害などが終息するという事態というのは,そう多くはないように思われますことと,このような被害者の方というのは,ぎりぎりの追い詰められた精神状態の中で,居所を転々としながら,つらい生活を送っていらっしゃるので,例えば1年で更新しなければ,本人が知らないうちに住所が公開になってしまうというようなことがありますと,むしろ,より危険な状態になりかねないということもございますので,このような制度設計でよいのかというようなことなど,大変気になるところです。   ですので,この問題を協議するときには,被害者支援の専門の方の意見を聞いて,詰めていく必要があると感じました。 ○山野目部会長 ありがとうございます。仰せのとおりであると感じます。   ほかに御意見はないでしょうか。   それでは,配偶者からの暴力を受けたケース等については,今の潮見委員,中村委員からの御注意等を踏まえ,提案する制度を更に究めるということにいたします。   住所情報の公開そのものの適否は,悩ましい問題でありまして,今日たくさんの御意見を頂きました。必ずしも,おっしゃったことが同じではありません。これはまた引き続き,本日の御議論を整理して,検討を続けるということに致さざるを得ません。   続きまして,4のところ,登記事項の新たな証明制度の創設という審議事項について事務局から資料説明を差し上げます。 ○有本関係官 それでは,資料の26ページ,「4 登記事項の新たな証明制度の創設」ですが,ここでは,いわゆる不動産登記における名寄せの制度について取り上げております。   従前,不動産登記は物的編成主義であって,人的編成主義ではないことや,プライバシーの問題があることなどを理由として,不動産登記における名寄せは行わないことと整理されてきた経緯がございました。   しかし,今般の民事執行法改正を踏まえ,債務者が所有権の登記名義人である不動産に関する情報を名寄せして,登記所から裁判所に提供するためのシステム改修を実施することとしています。   そこで,このような名寄せの機能の実装を踏まえまして,どのようなケースで名寄せを行うかといった点が検討課題となります。   なお,この名寄せの機能は,飽くまでも求められた住所や氏名に形式的に合致する者を抽出するものですが,特に所有者不明土地問題の解消との関係では,登記名義人本人が自己所有の不動産の名寄せを希望する場合や,相続人が被相続人が登記名義人となっている不動産について名寄せを希望する場合に,これを認めることで,相続登記を忘れてしまうといったような事態の防止に資するとも考えられます。   このほかに,名寄せを認めるのが適切であると考えられるケースがあるかどうかなどについても御議論いただきたく存じます。   第5の4については,以上でございます。 ○山野目部会長 御説明を差し上げた4のところについての御意見をおっしゃっていただきたく考えます。いかがでしょうか。藤野委員,どうぞ。 ○藤野委員 ありがとうございます。   この所有不動産の証明のための名寄せの話ですが,法人に関しては,会社法人等番号で特定の法人と登記情報の紐付けができるという話になってきた場合には,このような形で登記記録の一覧を証明できるような形にしていただくことについても,賛同する会社や業界は多いと思います。   このような登記記録の一覧を入手できるようになることは,それぞれの会社が,自己の所有している不動産を管理する上でも有益だと思いますし,それを誰でも見られるようにするか,それとも利害関係者等に限定するかというところは別途検討が必要だとしても,少なくとも,取引の際に相手方の要請に応じて,自社が所有している不動産の一覧を示す,といった使い方はできるようになりますので,その点に関しては,実現すれば非常にいい制度なのではないか,なかなか有益な制度なのではないかなと思っております。 ○中田委員 先ほど発言したこととの関係もあり,幾つか申し上げます。   一つは,この制度を導入するとして,登記所が取得すべき情報が,恐らく増えるんだと思うんですけれども,例えば生年月日が入ってくると思うんですが,最低限何が必要なのかという観点があった方がいいのではないかと思います。やみくもにたくさん情報を収集するということは,避けた方がいいのではないかと思います。   それから,この制度を導入することによって,実務にどういう影響があるのかということも御検討いただければと思います。つまり,本人がそれを取得するとなると,第三者が本人に対して,それを取ってこいという実務が増えるのではないかと思うんです。   例えば金融機関であるとか,あるいは保証の関係で,契約締結時の主債務者の情報提供の書面として用いられるという可能性も出てくるだろうと。そういったことが,果たして社会的に,今,どのようなメリットとどのような問題を伴うのかということを検討する必要があるかと思います。   それから,本人が取得,請求できることについて,債権者代位権の対象になるんだろうかということを考えました。被代位権利となり得るかどうかということで,恐らくなりにくいのではないかなと思うんですけれども,そのことを民法423条1項ただし書の一身専属権の解釈に委ねるのか,あるいは明文として,それは代位の対象にならないということを書くのかということが検討課題になると思います。私は,明示してもいいのではないかなと思いました。   それから,誰が請求できるのかについては,破産管財人とか遺言執行者とかがあるのかなと思ったんですが,それも含めて当否を検討すべきだろうと思います。 ○今川委員 本人又はその相続人に限定するということであれば,これは有益かなとは思います。   それから,個人情報の問題は,しっかりと検討をするとして,検索効果を上げるということであれば,生年月日も情報としてあると,効率はアップするのかなとは思います。あと,住所が最新,住所もそろっているということも前提にはなると思いますけれども,そういうことは必要かなとは思います。   それから,登記名義人又はその者の相続人以外の者について,誰かできる者が考えられないかというのが,5のその他のところに書いてありますけれども,不在者財産管理人や相続財産管理人も認めることは,事務を行う上で有用な場合もあるのかなとは思いました。 ○山野目部会長 ありがとうございます。   最後におっしゃったことは,一つ前に中田委員がおっしゃった破産管財人とかが入りますかというお話の更に続きですね。挙げていけば,成年後見人等も入りますかとかと,そういう御議論になってくることでしょう。 ○國吉委員 この名寄せの所有不動産証明というのは,やはり相続人等に限定した形で認めるというのが相当なのではないかなと思います。   実務上でも,所有者不明土地が発生する一つの要因だと思っています。私どもも,依頼者から土地の管理,境界の確認等を依頼をされるんですけれども,例えば,親御さんが突然亡くなったような場合には,相続人自体が,被相続人が持っている土地が,どこにあるのかが分からないという事案が非常に多いんですね。   例えば固定資産税が掛かってきているようなものについては,当然通知がきますので,分かりますけれども,よく問題になります道路内民有地,全く課税されないような土地は,その人本人が,所有しているのかどうかさえ分からないというような場合が数多く見られるということです。   実務的に私どもも,例えば官民,いわゆる道路境界の立ち会いを,行政から依頼されたときに,その相続人自体が,この土地どこにあるか分かりませんといったようなことが数多く見られるということもありますので,是非これは実行していただくと,所有者不明土地を発生させない一つの要因になると思いますし,また,やはり相続財産自体を把握するということでは,非常に有効だと思っております。 ○山野目部会長 この4のところは,今,國吉委員から御指摘があったように,土地家屋調査士の実務上,道路内民有地といわれているもの,あるいは,その特殊な一形態でしょうけれども,長狭物ですよね,長く狭いというふうに書いた,どういうわけか自宅の敷地そのものではなくて,それにすぐ接しているところの細くて長い土地のところが別筆になっていて,あちらの方がほったらかしにされていて困るということも見られます。   その種の問題の解決を通じて,所有者不明土地問題に資するという観点からは,そこが劇的な効果を収める制度の提案でありますから,これは是非入れるべきであるということになりましょう。   反面,中田委員から,ほかの点も併せて御指摘いただいた中で,問題提起がありましたけれども,個人保証の徴求のような場面,その他の場面で,こういう制度を入れることによって,何か思わぬ副作用が生ずることがないかということも,慎重に点検していかなければいけないと感じます。   ほかに御意見はいかがでしょうか。   今日御指摘いただいたようなところを踏まえ,この制度の作り込みを更に考えさせていただくということにして,よろしゅうございましょうか。ありがとうございます。   部会資料9は,順番でいいますと,この後,5の附属書類の閲覧制度の見直しというもののみが残っています。この5の審議事項のみ,本日は未了という取扱いにいたします。   本日,内容にわたる審議を了しました。事務的な事項について,大谷幹事から案内があります。 ○大谷幹事 本日も長時間にわたって御審議いただき,ありがとうございました。   次回は,2か月先ほどになります9月24日の火曜日です。午後1時から午後6時までということになりますが,この建物の1階の集団処遇室というところにおいでください。   テーマですが,今積み残しになりました最後の部分,こちらの御審議をお願いしますので,いつものように,すみませんが,資料をお持ちいただければと思います。   また,その他,これまで検討した論点のうち,中間試案の御審議をいただくのに向けて,再度議論を行っておく必要があると思われるものがいろいろございますので,そちらをまた準備をして,事前にお送りしたいと思います。 ○山野目部会長 民法・不動産登記法部会の第6回会議をお開きといたします。どうもありがとうございました。 -了-