法制審議会 刑事法 (危険運転による死傷事犯関係)部会 第2回会議 議事録 第1 日 時  令和2年2月4日(火)   自 午後3時00分                       至 午後4時09分 第2 場 所  東京地方検察庁刑事部会議室 第3 議 題  自動車運転による死傷事犯の実態に即した対処をするための罰則の整備について 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○鈴木幹事 予定の時刻となりましたので,ただいまから法制審議会刑事法(危険運転による死傷事犯関係)部会の第2回会議を開催いたします。 ○井田部会長 委員,そして幹事の皆様には,本日もお忙しい中お集まりいただき,ありがとうございます。   定刻となりましたので,法制審議会刑事法(危険運転による死傷事犯関係)部会の第2回会議を開催します。   本日の議論の進め方ですけれども,前回の会議におきましては,諮問事項の全体,要綱(骨子)の一,要綱(骨子)の二の順に審議をさせていただきました。それらの議論を踏まえて,それぞれの点について御意見等のある方もいらっしゃるかと思いますので,本日も改めて,諮問事項の全体,そして要綱(骨子)の一,要綱(骨子)の二の順に審議を進めていきたいと考えております。   そして,本日の議論を踏まえまして,要綱(骨子)の一及び二について,議論が熟したということで委員・幹事の皆様に御賛同いただける場合には,当部会としての意見取りまとめに移りたいと考えております。   では,まず,諮問事項の全体,あるいは今回の法整備の方向性などについて,御発言のある方には挙手をお願いしたいと思います。 ○和氣委員 前回の第1回会議で発言ができませんでしたので,ここで発言をさせていただきたいと思います。   私は犯罪被害者の遺族です。2000年7月に,当時19歳の大切な娘の命を飲酒・居眠り運転をした大型トラックを運転する職業ドライバーによって奪われました。裁判長は,「未必の故意」に準ずる極めて重大・悪質なものと断言しましたが,判決は「業務上過失致死3年6月」でした。当時の法律は,どんなに悪質な事案であっても業務上過失致死でしか裁かれませんでした。明治時代に作られた法律が現代の車社会に見直されないまま使われていることにかなりの憤りを感じました。そこで,既に活動が開始されていた全国の被害者たちと一緒に署名活動等をさせていただき,歴代の法務大臣に4回署名簿の提出をいたしました。その結果,「危険運転致死傷罪」,現行の「自動車運転死傷処罰法第2条」の成立に至りました。たくさんの命の犠牲の下に作られた法律でしたが,とてもハードルが高く,要件の問題で適用されなかった事例が多く,難儀する実情が多々ありましたので,犯罪被害者にとっては悔しく期待を裏切られたような思いをしています。   また,被害者支援センターとちぎで被害者支援に携わっている立場から申し上げますが,危険運転致死傷罪で一審の判決が出た事例で,二審で差戻しという事例があります。犯罪被害者は,終わったはずの刑事裁判がやり直しになるわけですから,心身ともに疲労困憊状態となり,元の生活には戻れませんし,被害回復もできなくなってしまっているのが現状です。私の立場からも,とても心を痛めているところです。   今回の要綱(骨子)に関しまして,感じたところをお話ししたいと思います。先に述べた場合を想定して,今回の法律は細かく規定をすることが大切なのではないかと感じているところです。   要綱(骨子)の一の「重大な交通の危険が生じることとなる速度」という部分が,曖昧ではないのかなという感じを受けています。その速度がどれぐらいのスピードなのかを議論していただければ,有難く思います。   要綱(骨子)の二ですが,「前方で停止し,その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転する」とありますけれども,文言どおりに読むと,最近問題になっている,わざと遅く走って相手を妨害する,逆あおりのやり方に対して,著しく接近するという部分が有効なのかどうか,分からないところがあります。自分が遅く走って相手に接近させる行為だからと思いますので,その辺,きちんとした文言にしていただけると有り難く思います。   この法律が成立しても,先ほど申し上げましたようになかなか適用にならなかったり,要綱(骨子)の文言の解釈によって左右されてしまうことがないように,この場で論議していただけると有り難く思います。この法律が施行されることで,厳罰化が進み,悪質運転をする者がいなくなる抑止になりますし,警鐘を促すことになります。国民が安全・安心な社会で生活できるよう期待したいと思います。 ○井田部会長 ありがとうございます。我々法律専門家が肝に銘じなければいけないことを,おっしゃってくださったと思います。   御質問が幾つか,あるいは御提案が幾つかありましたけれども,要綱(骨子)の一に関わることですので,後ほどまた,その点については議論の中で言及させていただくということでよろしいでしょうか。   ほかに,諮問事項の全体に関わることで,御発言ございますでしょうか。   今の和氣委員の御発言,御意見にもありましたように,本来この狙いとしているところは,刑罰法規による危険運転の事前の抑止でありますし,また,事後的な,その適正な処罰です。つまり,今回意図されている法改正は,あおり運転のような危険運転行為から死傷結果が発生したときに,特に重い刑を科すものでありますけれども,それにより,そうした危険運転行為,それ自体を強く抑止しようとするものであり,そして,それが抑止されることは期待できるだろうと考えるものです。また,事後的には,それにより当該事実関係に適合した,バランスのとれた,正に適正な処罰を可能とすること,それが狙いとなっていると思われます。   ただ,あおり運転の抑止のためには,事後的に結果が発生したときに対応するというだけでなく,危険運転行為それ自体を,結果の発生・不発生にかかわらず,直接に規制し,抑止するようなことも求められましょう。言い換えれば,危険運転致死傷罪の規定だけが頑張っても十分ではないので,道路交通法によるあおり運転自体の規制も必要となりましょう。他方で,刑罰とは別に,行政処分による対応というものも要請されようかと考えます。   そこで,警察庁におかれましては,そういう趣旨で道路交通法の改正を検討しているともお聞きしておりますので,よろしければ,その検討状況について,御説明をお願いできますでしょうか。 ○北村委員 ただいま,部会長御指摘のとおりでございまして,こうした危険な運転を抑止するという点では,危険運転致死傷罪の要件と見直しによる抑止力というものに併せて,そういう事故,負傷,死傷の結果に至らない場合につきましても,危険な運転を防止していくということは,極めて重要でございます。   平成29年6月の東名の事故以来,警察庁におきましては,前回の資料4の第2にも入れているのですけれども,平成30年1月に通達を発出しまして,あらゆる法令を駆使した厳正な取締りの徹底,迅速かつ積極的な行政処分,免許の取消しなどですが,これを実施するということでやってきておりまして,違反としては,車間距離保持義務違反というものにつきまして,8割方増の年間1万3,000件を検挙するとか,あと,刑法の暴行罪あるいは傷害罪を,こういう運転行為にも適用して検挙するというようなこともしてきたところでございますが,御案内のように,昨年8月にやはり常磐自動車道でのあおり運転というものが大きな問題になりまして,従来の道路交通法違反による対応だけでは不十分だと,そういう死傷の結果が生じなくても,危険な運転行為というものを一定程度類型化して,厳罰化すべしという要請が高まっていたところでございます。   また,これは,そうした運転行為を抑止していくためにも必要だろうということでございまして,現在警察庁におきましては,他の車両等の通行を妨害する目的,そういう目的を持って急ブレーキ,あるいは車間距離不保持など,現在道路交通法に定める一定の違反行為を行った場合につきまして,妨害運転罪というような形で重罰化すると。また,そういう違反を行った者には運転免許取消しを行うということができるような,道路交通法の改正案を作成して,通常国会に提出できるように検討を進めているところでございます。 ○井田部会長 ありがとうございました。   今の御発言を含めて,御質問,御意見ございますでしょうか。   特にないようでしたら,次に,要綱(骨子)の一の検討に入りたいと思います。   この要綱(骨子)の一について,御意見,御発言のある方は挙手をお願いしたいと思います。 ○保坂委員 先ほど,和氣委員から御発言があった点について,事務当局なりのお答えを,取りあえずさせていただければと思います。   まず,要綱(骨子)の一の「重大な交通の危険が生じることとなる速度」という要件について,これが一体何キロぐらいなのかという御質問ですが,以前にも御説明したかもしれませんが,この速度というのは,現行の規定の第4号にも,ちょっと書き方は違いますが,「重大な交通の危険を生じさせる速度」というものがございます。これについては,一般的に,衝突した場合に大きな事故になる速度,あるいは回避が困難な速度と言われておりまして,その時々の事案ごとの状況を踏まえて,それに当たるかどうかということを判断するものであり,一概に具体的に何キロということを申し上げることは難しいわけでございます。   最高裁の判例があるものとしましては,赤信号の殊更無視という第5号の類型がございますけれども,それについては,時速約20キロであっても,それに該当すると示したものがございます。ただ,これは,第5号である当該事案における速度としての事例判断だと思われますので,一般化はできないのかなとも思いますけれども,それぞれ各号の類型が予定している危険性に応じて,また,個別の事案に応じて,判断していかざるを得ないのかなと思っております。   それから,もう一つ,要綱(骨子)の一にも二にもございますが,「その他これに著しく接近することとなる方法」というのが,いわゆる,近時見られるあおり運転の中で,前に回り込んで,すごくのろのろ走っている行為が当たるのかということでございますけれども,つまり,前に停止する以外に,停止しないまでも,急に減速して後ろから来る車の進行を妨げるようなかたちで極めて低速で走るということになりますと,それは,後ろから来る車がスピードが出ていれば,それは「著しく接近することとなる方法」として捕捉しようというものでございます。   事務当局からは,取りあえず以上であります。 ○和氣委員 結局,要綱(骨子)は,このような文章になると思いますが,様々な事故の事案がありますので,証拠や証言が必要ではないかということだと思います。それには,ドライブレコーダーが非常に効果的なんだろうなと思います。私も車を運転します。最近車を買い換えました。自分の身を守るためドライブレコーダーを設置しようと考え,販売店に購入に行きました。そこで,店員さんに説明を受けたところ,ドライブレコーダーの機能でも,車の前後だけの記録しか撮影されないものがあり,運転席側は撮影されないということで証拠に繋がらないとのことでした。勧められたものは,360度撮影できるものが効果的だと説明を受けました。車をお持ちの方々にも知っていただいて,対策をするということも必要かなと思いました。 ○井田部会長 ありがとうございます。法律の条文というのは,紙の上に書かれているというだけでなく,実際にこれを適用できなければ仕様がありませんので,そのためには,何より証拠がきちんと集められなければなりません。そういう配慮もしなければならないという御指摘を頂きました。   要綱(骨子)の一につきまして,ほかに何か御意見ございますか。   現行の第2条第4号ですね,これにちょうど対応する規定で,現行の処罰規定の欠落部分を補うものですので,比較的問題は少ないのかなという感じはいたしますが,ほかにいかがでしょうか。 ○合間委員 意見というよりも,先ほど部会長もおっしゃられたように,処罰の欠落を埋める部分という気がとてもしていて,元々の第2条第4号では処罰できなかったものが,これによって捕捉されるということは,使いにくかったものが,より使いやすくなるのかなという気はしているので,そこは良かったのではないかなと,私は思っています。   問題になっている東名の事故についても,あれは,一応第2条第4号でやりましたけれども,先ほど和氣委員がおっしゃったように,裁判所の考え方だったり,立証だったり,構成によっては,どう該当させるかというのは,とても難しいものだと思うので,そういった個別の事案に応じて左右されるようなことというのは,やはり予測可能性もありませんし,なかなか処罰されないので,そこについてきちんと,危険な行為については,事後的にであっても,きちんと処罰できるような形にしていくという意味で言えば良いことですし,使いにくいというように,一般的に危険運転は言われていて,本当は危険運転になるはずなのに,立証がなくて,どうしてならないんだろうということは,私も耳にするんですけれども,その部分が一つでもここで,要綱(骨子)の一でクリアされるというのは,とても良いことだなと思っています。立証の問題で言えば,今まで加害者車両の動向に着目していたのが,今度被害者車両側の動向に着目するので,両方,どちらかで,より立証し易い方でいくんだろうなと思うので,そういう意味では,より立証しやすくなるというか,事故をできるだけ捉えやすくするという気もしますので,そういう意味でも,要綱(骨子)の一というのは非常に,危険運転をより使いやすくするというか,もちろん当罰性がなければいけないのですが,それにふさわしいものになるのではないかなと思っています。 ○井田部会長 今,合間委員から御賛成いただけるという御発言を頂きましたけれども,ほかに何かございますか。解釈論にもう少し踏み込んだ議論,もしあれば,是非お願いしたいと思います。   もしよろしければ,それでは,要綱(骨子)の一につきましては,二巡目の検討は,一応ここまでとして,次に要綱(骨子)の二にまいりたいと思います。   前回の第1回会議におきましては,事務当局から,高速自動車国道又は自動車専用道路であっても,渋滞のために同一方向に進行する自動車が停止又は徐行を繰り返す,そういう状況で,そのさなかに,要綱(骨子)の二に掲げる行為が行われたとしても,そのときには,その行為と死傷の結果との間の因果関係が否定されることがあるという理由で,要綱(骨子)の二の罪が成立しないこととなり得る,こういう考え方が示されましたけれども,ただ,そのように考えられる理由につきましては,事務当局において更に整理を試みるということになっていたかと思います。   また,もう一つ,前回の会議では,そのように要綱(骨子)の二の罪が成立しないことがあり得るとすれば,その趣旨をもう少し条文上明確にすることはできないかという御発言もあり,その点についても,事務当局において検討することになっていたかと思います。   その検討結果について,まず,事務当局から報告してもらいたいと思います。 ○吉田幹事 前回の会議において,要綱(骨子)の二について,高速自動車国道又は自動車専用道路であっても,渋滞のため,同一方向に進行する自動車が停止又は徐行を繰り返しているような場合には,そのさなかで,要綱(骨子)の二に掲げる行為が行われ,死傷結果が生じたとしても,当該行為と死傷結果との間の因果関係が否定されることによって,要綱(骨子)の二の罪が成立しないこととなり得ると申し上げました。   もとより,個別具体的な事実認定によるところであり,また,このような場合に要綱(骨子)の二の罪が成立しないとする考え方として,他の考え方もあり得るとは思われますが,ここでは,因果関係の問題として捉える立場からはどのような説明が考えられるかという観点から,補足して申し上げます。   前回の会議でも申し上げたとおり,要綱(骨子)の二の罪は,高速自動車国道又は自動車専用道路,以下,高速自動車国道等とまとめて申し上げますが,この高速自動車国道等における固有の危険性に着目したものです。ここにいう固有の危険性とは,繰り返しになりますが,高速自動車国道等においては,自動車を駐停車させること自体が原則として禁止されており,これらの道路を走行している者は,その進路上で他の自動車が停止又は徐行しているという事態を想定しているわけではないことから,加害者が被害者車両に停止又は徐行をさせた場合には,これらの道路を走行中の他の運転者としては,そのような事態を想定して回避措置を採ることが通常困難であるため,走行中の第三者車両が被害者車両に追突するなどして重大な死傷結果が生じる危険性が類型的に高いという点にあります。   そして,回避措置を採ることが通常困難であるのは,加害者車両及び被害者車両以外の他の走行車両が,重大な交通の危険が生じることとなる速度,すなわち,加害者車両又は被害者車両と衝突すれば大きな事故を生じることとなると一般的に認められる速度,あるいは,加害者車両又は被害者車両の動作に即応するなどしてそのような大きな事故になることを回避することが困難であると一般的に認められる速度で走行しているからであり,そうでなければ,回避措置を採ることが一般的に困難であるとはいい難いと考えられます。   このように,要綱(骨子)の二の罪は,先ほど申し上げたとおり,自動車を駐停車させること自体が原則として禁止されている高速自動車国道等においては,重大な交通の危険が生じることとなる速度で走行している他の車両の運転者としては,その進路上で他の自動車が停止又は徐行しているという事態を想定して回避措置を採ることが困難であるという固有の危険性を捉えようとするものでありますので,同罪の因果関係として,そのような固有の危険性が死傷結果に現実化したものと認められる必要があると考えられます。   そのため,例えば,渋滞のため,同一方向に進行する自動車が停止や徐行を繰り返している場合に,そのさなかで要綱(骨子)の二に掲げる行為が行われ,それによって死傷結果が生じたとしても,ただいま申し上げた固有の危険性が死傷結果に現実化したものとはいえないことから,当該行為と死傷結果との間の因果関係が認められないことによって,危険運転致死傷罪は成立しないことがあり得ると考えられます。   次に,ただいま申し上げたような趣旨を案文に明記することができないかという点について,事務当局において検討した結果を御説明申し上げます。   まず,一つ目の方法として,高速自動車国道等が停止や徐行を繰り返すような渋滞状態にないことを意味するような文言を付加することにより,高速自動車国道等の交通状況を限定するという方法が考えられます。もっとも,このような方法を採った場合には,通行妨害目的で被害者車両を停止させる行為が行われた時点において,停止や徐行を繰り返すような渋滞状態にないことが必要とされることとなります。   例えば,高速自動車国道等において,渋滞のため,停止や徐行を繰り返している場合に,加害者が通行妨害目的で被害者車両を停止させたところ,程なくして渋滞が解消し,他の車両が通常の速度で走行するようになった後に,後方から時速60キロメートルで進行してきた第三者車両が衝突して死傷結果が生じたというケースについて考えてみますと,第三者車両の運転者としては,そのような事態を想定して回避措置を採ることは通常困難であるため,重大な死傷結果が生じる危険性が類型的に高い場合であるということができ,要綱(骨子)の二の罪の成立を認めるのが相当であると考えられます。   しかしながら,このケースにおいては,通行妨害目的で停止させる行為が行われた時点では,その道路が停止や徐行を繰り返す渋滞状態にあることから,先ほど申し上げたように,通行妨害目的での危険運転行為が行われた時点における道路の状況を限定することとした場合には,そもそも実行行為に当たらず,要綱(骨子)の二の罪は成立しないこととなります。そのため,この方法は適当でないと考えられます。   二つ目の方法として,停止又は徐行するに至った被害者車両に衝突するなどして死傷結果を生じることとなる第三者車両の速度に着目し,第三者車両が重大な交通の危険が生じることとなる速度で走行していることを明記するという方法が考えられます。もっとも,このような方法を採った場合には,被害者車両が停止又は徐行するに至った後,死傷結果が生じるまでの因果経過を書き込むことになるため,全ての因果経過を網羅し得るような案文にすることが必要となりますが,死傷結果が生じるまでの因果経過としては,例えば,後方から走行してきた第三者車両が被害者車両に追突することもあれば,被害者車両の外に出た被害者に衝突することもありますし,また,第三者車両の運転者が衝突を回避しようとしてハンドルを急転把してガードレールに衝突したり,急停止したためハンドル等で頭部を強打することもあり得るなど,様々なものが想定されるところであり,これらの経過を過不足なく捕捉することは困難です。そのため,この方法も適当でないと考えられます。   三つ目の方法として,要綱(骨子)の二に掲げる行為により,ここで予定している固有の危険性が生じたことを,言わば中間結果として明記するという方法が考えられます。もっとも,実行行為が予定している固有の危険性というものを案文上表現することは,技術的にも困難であり,例えば,「危険を生じさせる状況」や「回避措置が困難な状況」などと明記したとしても,要綱(骨子)の二の罪の適用が問題となるのは,現に人の死傷結果が生じた場合であって,そのように死傷結果が生じた以上,そのような状況は生じたものと解されてしまい,同罪の成立を限定する趣旨を果たすことは困難であると考えられます。そのため,この方法も適当でないと考えられます。   以上のとおり,高速自動車国道等において,渋滞のため,停止又は徐行を繰り返している場合に,そのさなかで要綱(骨子)の二に掲げる行為が行われたとしても,要綱(骨子)の二の罪の成立が否定され得るということについて,その趣旨を案文に明記することは困難であり,また適当でもないと考えております。 ○井田部会長 今,大きく二つのことをおっしゃったと思いますけれども,特に後半の部分につきましては,これは,前回の会議で合間委員の方から御意見を頂いたところですので,合間委員からもし御意見がございましたら,よろしくお願いいたします。 ○合間委員 私のような者がこんな形でお出しするのは非常に恐縮なんですけれども,やはりちょっと,要綱(骨子)の二が渋滞の場合には適用されないというのがとても分かりにくいというのは,正直思いまして,それから,事務当局の御説明のように,因果関係がないというような説明もなかなか頭にすっと入ってこないというのが,正直なところでございました。   そうすると,やはり使いにくい条文になってしまうと,せっかく改正するのに意味がなくなってしまうということもあるので,御検討済みということで,今御回答あったというところではあるんですけれども,ちょっとこういう形で明確にする方法もあるのではないかということで,前回の部会のときに,一応,もし案があれば,28日までに出してねという話もあったので,それに引っ掛けてちょっと提案させていただいたということです。   簡単に趣旨を説明すると,明確化というところ,それから,先ほど事務当局の方で御説明いただいた,多分第1の類型になると思うんですけれども,結局は,高速自動車道の危険性に着目をするということで,それは何だということになるとすると,基本的には徐行とか停止を予定していないという道路の性質ということになると思うんですが,その当罰性は,やはり周りの車が危険な速度で一般的に走っているからだろうということで,その道路の危険性に着目をして,「他の自動車は重大な交通の危険が生じることとなる速度で走行がなされている高速自動車国道又は自動車専用道路」と書けば,渋滞の場合は外れますし,実際にそういった中で徐行なり停止なりをさせるということは,極めて危険で当罰性も間違いなくあるだろうということで,こういった形の方が,間違いなくこれが入るよねということで明確になるんではないかと考えて,提案させていただいた次第です。   これがそのままというのはなかなか難しいというのは,先ほど御説明があったような形で,明確化して駄目なのかということあるんですけれども,明確化していただくということで言えば,例で言うと,この速度が回復した場合にこれは適用されないよということになるので,これだとですね,この書き振りだと,実行行為時に道路の危険の状況があることが必要になってしまうので,その後の因果関係,因果という流れの中で,危険が生じた場合というのは入らないよという御趣旨だと思いますので,ちょっと雑な言い方で申し訳ないんですけれども,その当罰性を外すことがいいんですかということだと思います。それが駄目だということであると,やはりこういった書き振りというのは,処罰の範囲を限定してしまって,本来当罰性のあるものを逃してしまうと。そうすると,今回の改正の趣旨に反するのではないかという御意見になるのかなとは思います。そこは分かるし,そういうことなんだろうなと,私自身もお話を聞いて思ったんですけれども,やはりちょっと分かりにくいということ,つまり,再三申し上げますけれども,やはりここは,少なくともちょっと御議論いただいて,これがこういう点で駄目なんだとか,こういうふうにしていくんだということは,きっちり形に残しておいた方が良いかなと思って,出させていただきました。 ○井田部会長 今,合間委員から御発言がございましたので,この点,ほかの委員,そして幹事の方々はいかがでしょうか。少し議論といいますか,御審議いただきたいと思います。 ○橋爪委員 結論から申し上げますと,私は,要綱(骨子)を維持した上で,処罰範囲の限定の必要がある場合には,ただいま事務当局から御説明がございましたように,個別の事案ごとに因果関係の有無を判断するということが適当であると考えます。以下,理由を申し上げます。   本罪の実行行為は,高速自動車国道等において,自己が運転する自動車を停止させるなどし,これによって被害者の運転する自動車を停止・徐行させる行為です。この行為は,先ほど事務当局から御説明がございましたように,高速自動車国道等においては,車両が停止・徐行することが一般的に想定し難く,これを前提に回避措置を講ずることが困難であることから,それゆえ,重大な死傷事故が発生する危険性が,一般的,類型的に高い行為といえます。そして,実行行為の危険が結果に実現した場合に刑法上の因果関係を肯定するという現在の判例理論を前提にした場合,因果関係の内容として,本罪の実行行為の危険,すなわち,他の車両が回避措置を講ずることが一般的,類型的に困難な状況が現実化し,これに基づいて死傷結果が発生したことを要求する必要性があると考えられます。   この因果関係の判断は,飽くまでも個別具体的な判断となりますけれども,実行行為の危険の実現という観点からは,本罪の実行行為が想定する危険の実現過程として,他の車両が,前方車両が停止・徐行していることを想定することが一般的に困難な状況,換言しますと,このような想定を前提として回避措置を講ずることが一般的,類型的に困難な状況が,言わば実行行為と結果惹起の間の中間項として要求されることになると思われます。そして,この一般的,類型的に回避措置が困難な状況とは,飽くまでも類型的な判断であり,個別の運転者にとって,回避が困難であったか否かではなく,飽くまでも道路状況や速度等の客観的な事情から,類型的に回避措置が困難な状況といえるかを問う必要があると考えます。そして,このような状況,中間項が現実に発生するか否かは,実行行為段階で確定的に判断されるものではなく,その後の経緯によって異なってくる以上,この問題は,実行行為性の判断として解決するべきではなく,むしろ因果関係による個別判断が適当であると考えます。   このような理解を踏まえまして,合間委員の御発言につきまして,せん越ではございますが,1点コメントを申し上げたく存じます。   合間委員の御発言は,「他の自動車」の速度要件を要求し,これによって,渋滞中であり,速度要件を満たさない場合については,本罪の成立を否定しようとするものであり,基本的な問題意識は共通であると理解いたしました。もっとも,問題になり得るのは,このような「他の自動車」の速度要件を,いかなる段階で要求するかという点です。私の理解からは,速度要件は,高速道路で停止又は徐行している車両に第三者車両が接近する段階,すなわち,事故が発生する直前の段階で必要になると思われますが,合間委員の御提案ですと,実行行為段階の道路状況として速度要件を要求することになり,若干のずれが生ずるようにも思われます。   今の点を,具体的な事例に即して整理したいと存じます。   例えば,行為者が通行妨害目的で自車を停止させ,これによって,被害者車両Aに停止を強いた段階においては,渋滞のため,全ての車両が徐行・停止を繰り返していたが,その後,渋滞が解消し,他の車両が高速度で進行するに至った後も,更にA車の停車が継続していたため,後続のB車と衝突し事故に至った場合を考えます。   この場合,合間委員の御提案からは,実行行為段階においては,速度要件を満たしていないことから,本罪の成立を肯定することが困難であるように思われます。もっとも,この事例の場合,B車にとっては,A車が前方で停止していることを想定することは,一般的に困難であり,これを回避することも一般的に困難な状況といえますので,むしろこの場合には,本罪の成立を肯定する余地があるように思います。また,この逆の状況,すなわち,実行行為段階においては速度要件を満たしていたが,その後,急きょ渋滞が発生し,他の車両が停止・徐行を繰り返す状況に至った中で事故が発生した場合についても,同様の問題が生じ得るように思います。   なお,このように考えますと,事故発生の直前の段階で,「他の自動車」に関する速度要件を要求することもあり得るようにも思われます。しかし,事故発生の直前と申しましても,幅がある概念です。例えば,事故発生直前に第三者車両が急ブレーキをかけたため,その瞬間においては,速度要件を満たしていないからといって,本罪の成立を否定すべきではありません。結局のところ,速度要件を要求すべき時点を,一義的に明確に定義することは困難であるように思われます。したがいまして,本罪の成否につきましては,速度要件を明文で要求するのではなく,むしろ,個別の事案ごとに,実行行為後の事態の推移に応じて,因果関係の存否を個別具体的に判断することが適当であると考える次第です。 ○井田部会長 今,橋爪委員,いろいろなことを凝縮したかたちでおっしゃいましたが,簡単に言うと,こういうことでしょうか。渋滞といっても,何か継続的に渋滞の状態がずっと続いているというようなものではなくて,一瞬,その部分について見ればゆっくりなんだけれども,次の瞬間,空間ができて,後ろから速い車が走ってくる,そういうこともあるし,逆に,急に渋滞の状態になることもあるので,一律に行為者の行為の時点に着目して一つの文言で括ってしまうことができない。そういう規定にすると,運転者本人としては,今は渋滞だと思い込んでいたら,実はすぐ後ろから速い車が来たためにぶつかってしまったときに,この実行行為についての故意がないということで犯罪の成立が否定されてしまいかねない。そこで,かえって,この要綱(骨子)の二の規定の適用が逆に困難になる事態も発生しかねない。このように考えてくると,確かに橋爪委員がおっしゃったように,この要件がある以上は,基本的には危険な行為が行われているのであって,ただ,個別的に問題になる事例は,危険の現実化がないという理由により処罰範囲から外していく方がよろしいのではないか,こういう趣旨であろうと思ったのですけれども,それでよろしいですか。   合間委員,いかがでしょうか,そういうことで。 ○合間委員 ありがとうございます。   いろいろと悩みながら作ったつもりではあるんですけれども,こうやって御説明いただいて,そうなのかなとは理解したつもりです。   ただ,もう1点ちょっと気になっているのが,先ほど部会長からもお話あった故意の部分なんですけれども,今の案を前提とすると,危険性があることが前提の行為ということになると思うので,そうすると,いや,この行為は別に,渋滞もしていたし,危険だとは思っていなかったと,そんな危険な行為ではないと思っていたところで,たまたま,何か突然後ろの車がぶつかってきたんだというようになったときに,それは,この罪として故意は否定されてしまうんですかね。それとも,これは,客観的な態様を認識しているのであるから,これは認められるのか,その辺りの規範的なものが入っている分,評価の部分が,実行行為というか因果関係に入っている分,故意をどこまで要求するかということがとても難しくなってきて,先ほどの話ではないですけれども,立証の話に出てきてしまう気もするんですけれども,その辺りはどう考えればいいんですかね。 ○井田部会長 例えば,事例としては,次のようなものが考えられましょうか。二つ車線があり,自分が走っている車線も隣の車線も,いずれものろのろ走っているが,少しだけ隣の方がスムーズに走っている。そこをその車線を後ろからすっと先に行こうとする車が続くのを見て,ちょっとむかっときて,それでその車線にのろのろ移動して邪魔しようとした。ところが,後ろからかなりのスピードでオートバイが来て事故になったというケースです。これは,吉田幹事が先ほど御説明した事案だと思うのですが,そういうときに,本人がのろのろだと思い込んでいさえすれば,要綱(骨子)の二の罪の故意がないのではないかという議論ですね。結果に実現した危険性自体の認識がない以上は,故意もないのではないか,こういう議論も確かに出てくるかと思うんですけれども,その点はいかがでしょうか。 ○今井委員 私も今,井田部会長がおっしゃったような解釈をとりたいなと思っております。合間委員が懸念されていました危険の認定ということと,今,井田部会長が言われたような事例を考えると,高速道路で走行している車ということの意味の認識ですよね。自分の車両でありますとか,後続車両も一定の速度をもって走行しているという状況を認識していることによって,故意が認定されるという解釈は十分あろうかと思います。   その前提といたしまして,合間委員の御提案には感心しましたが,諮問の原文の形でも,つまり,合間委員が追加された部分がない形ですが,それによっても,高速道路等においてという枕詞がありますので,その走行中というのは,そういう高速道路において走行中と読むのが通常であろうかと思います。そうしますと,合間委員の御指摘の点は,諮問の原文の中でも読み込まれていると考えられます。客観的に高速道路での走行といえない場合には,走行は処罰対象にならないので,御懸念のような事例に対しても,原文で対応できるのかなと思って,伺っていたところでございます。 ○島田委員 高速道路で渋滞中,自動車の通行を妨害する目的で,相手車両を停止又は徐行させた場合に,渋滞の後方から走行してきた第三者車両が追突してきた事案,これが今,問題になっているわけで,その場合に,第三者車両には,回避措置が困難とはいえないので,危険運転致死傷罪に当たるとするのは,今回の立法目的,つまり重大な交通の危険が生じることとなる運転を適切に処罰対象に加えようという立法目的からすると相当でないというのは,そのとおりかなという感じがしているところです。ただ,その理論的な構成をどうするかで,今,御議論いただいているところでございますが,因果関係を否定する見解ですと,渋滞中に相手車両を停止,あるいは,更に徐行させるといった行為は,形式的には構成要件に該当すると,こういう理解をした上で,渋滞中のこのような運転行為は,後方から来る第三者車両の回避が困難とはいえず,この要綱(骨子)の二号が予定している危険が現実化して結果が生じたとはいえないと,このような理解をされていらっしゃるようにお見受けいたしました。   ただ,犯罪の構成要件は,犯罪結果発生の具体的な危険性がある行為を類型化したものでございますから,そもそも類型的に危険性がないという行為については,構成要件該当性自体,やはり否定されてしまうのではなかろうかと考えているので,御説明いただければと思っております。 ○井田部会長 理論的には難しい問題で,一つの現象をどちらから見るかという問題でもあると思うのですが,いかがでしょうか。 ○保坂委員 先ほどの事務当局からの説明とも関連をするのですけれども,もちろん,予定している危険性がないのだから実行行為に当たらないという理解を,事務当局としても否定する趣旨ではないのですが,先ほど吉田幹事からも御説明あったように,実行行為の問題だとすると,停止させた行為の時点での状況ということになって,要するに,そういう状態が止んだ後追突した場合を,当罰的でないと割り切れるかどうかという問題かなと思いまして,最終的に衝突する第三者車両からすれば,状況としては同じではないかと考えるとすると,やはり,そこも処罰の対象として捕捉しておく必要があるのではないか。そうだとすると,実行行為というよりは,因果関係,その後の経過も踏まえて,個別に判断できる方が,柔軟な解決で当罰性があるものを逃さずに済むのではないかという理解に立ったものでございましたので,理論的にどこでなければならないというよりは,当罰的なものを適切に捕捉できる一つの方法として説明させていただきました。 ○島田委員 御説明ありがとうございました。   それで,今,話題になっているのは,加害者が相手車両を停止させた後,渋滞が解消されて,第三者車両が追突してきた場合を想定しているわけですけれども,それは,相手車両を停止又は徐行させる行為を継続したことが,高速道路上における危険を現実化させたわけですから,そちらの方を実行行為として捉えていくという理解の方が,よろしいのではないかという問題意識も持っているんですけれども。   つまり,要綱(骨子)の二の中で,最後の実行行為の部分ですけれども,走行中の自動車に停止又は徐行させる行為,あるいはそれを継続させる行為と,こういう文言で規定するのはいかがでしょうか。 ○井田部会長 島田委員の御意見は,停止又は徐行を継続させるという趣旨の文言を加えるべきだという御趣旨でしょうか。 ○島田委員 はい。そうすれば,事務当局からの御説明も,疑問点が解消できるのではないのかなと,ちょっと考えたものですから,思いつきですけれども,発言させていただきました。 ○井田部会長 要綱(骨子)の一には「停止」という文言が使われていますが,止まったら,もうそれでおしまいというのではなくて,若干の継続性はあるのでしょうね。いかがでしょうか,そこのところは。 ○吉田幹事 要綱(骨子)の二の停止については,加害者が被害者車両に停止をさせ,その状態が継続することを念頭に置いておりまして,被害者車両が走行している状態から止まるに至るまでの間だけでなく,止まった状態が続いている間に第三者車両が追突した場合も処罰対象として捕捉し得るものとして考えております。 ○塩見委員 実行行為でいくか,因果関係でいくかという話で,実行行為の問題とした場合に困るのではないかということですが,島田委員からの御指摘のように,行為を特に書き込まなくても,停止がどこまで及ぶのかとか,あるいは,最近よく用いられる構成で,作為義務に違反する,不作為犯であると言ってもいいわけですから,今挙げられた事例を実行行為で構成すると,必ず困るということはないと思っております。   実行行為であるか,因果関係であるかというようなことは,保坂委員からも御説明がありましたように,後の解釈に任せれば良いことで,部会で,こうではないといけない,こういう方が望ましいというような議論をしない方が良いのではないかとは思います。個人的には,私も因果関係で考えた方が良いかなとは思っています。けれども,これは正に,実行行為の危険と,因果関係でいう行為の危険実現をどう考えるかという,学説上でも大きな問題でありますし,そこに触れる必要がない,未遂犯でもなく,結果的加重犯で基本犯を処罰するわけでもないので,今後の議論にお任せしますというのが賢明という気がします。議論するのは良いと思いますが。 ○井田部会長 ありがとうございます。この点,またはほかの点について,御意見がございますでしょうか。 ○橋爪委員 ただいまの島田委員の御提案に関連して,一点申し上げます。要綱(骨子)の二の罪の罪質でございますが,本罪は状態犯であり,継続犯として規定されていないというのが,私の理解でございます。つまり,停止に至る変化を伴う行為,若干幅はありますけれども,動いている被害者車両がブレーキを踏んで停止をするに至った変化を捉えて,構成要件が規定されていると考えております。島田委員の御提案は,恐らく本罪を継続犯的な形で理解しようという御趣旨かと存じます。言わば,監禁罪に近いような形で,被害者の車両が継続的に停車している間,実行行為が継続しており,それが実行行為の危険を構成しているということかと存じます。   確かに,被害者車両の継続的な停車行為を,実行行為後の介在事情として把握することも,島田委員御提案のように,実行行為それ自体として把握することも,十分にあり得るように思います。ただ,飽くまでも今回の諮問は,危険運転致死傷罪の改正として行われており,同罪は運転行為によって一定の変化をもたらすことを,構成要件として構成していることを前提といたしますと,やはり状態犯として要綱(骨子)の二の罪を理解することが,全体的な統一という観点からは好ましいようにも思われます。このような前提から,私個人は,要綱(骨子)の二の罪を状態犯として理解した上で,被害者車両の継続的な停車行為は,実行行為が終わった後の介在事情として把握することが適当であると考えているところです。 ○保坂委員 先ほど,吉田幹事の方から,要綱(骨子)の二の罪の「停止をさせ」というのが継続的なものなのかどうかについて説明がありましたが,補足すると,「走行中の自動車に停止をさせ」の「停止」は,動いていたものが止まるという行為として捉えているのですが,ただ,この二の罪が予定しているのは,止まっただけでは,その時点では危険はまだ生じていなくて,その後,後続車が来ることによって危険が現実化する,要するに,止まってからのタイムラグが予定されているという趣旨です。仮に,その停止が解消して動き出したら,後ろから来た車はぶつからないわけですので,ここで想定しているのは,途中の経過として,停止し続けているという事情がないと,通常は結果に結びつかないという想定でございます。 ○井田部会長 いかがでしょうか。 ○橋爪委員 先ほど,合間委員の方から御質問があった点でございますけれども,実行行為と因果関係の関係についてでございます。塩見委員から,あえて議論する必要がないという御指摘もありましたが,もう一言だけ,よろしいでしょうか。 ○井田部会長 はい,議論は御自由にしていただきたいと思います。 ○橋爪委員 確かに,実行行為とは,結果発生の危険性を有する行為である必要があると考えます。そして,結論から申しますと,渋滞中であっても,要綱(骨子)の二に該当する行為が行われた場合には,それは実行行為としての危険性を有すると解することができると思われます。と申しますのは,確かに,渋滞中であれば,その段階では具体的な危険性は顕在化しないかもしれませんが,渋滞はいずれ解消する可能性があります。あるいは,渋滞中であっても,瞬間的には高速度の進行が断発的に生ずる場合もあり得ます。そのような意味で,渋滞中に要綱(骨子)の二の行為を行ったとしても,それは全く危険性のない行為ではなく,言わば,潜在的には結果発生の危険性を内在する行為であり,その危険性が,事後的な状況に応じて,具体的に顕在化した場合には,本罪における因果関係を認めることは十分に可能だと思われます。   あえて,教壇設例を挙げますが,例えば,そのままでは人畜無害ですが,体内に摂取された後の身体状況如何においては,身体内部で毒性の物質に変化し得る可能性のある薬物を摂取させる場合を考えます。この場合,一見すると,投与する段階においては全く危険性がないように見えますが,そうではなく,この行為には,事後的には具体的な危険に発展する内容が潜在しており,これを実行行為と評価することには特段の問題がないと思われます。   要綱(骨子)の二の罪につきましても実質的には共通でして,渋滞も将来,解消し得る可能性があること,あるいは,渋滞中であっても,瞬間的には高速度の運転行為があり得ることから,これを潜在的に危険を伴う行為であり,実行行為と評価することは,十分に可能であると考えます。 ○井田部会長 御趣旨は,要するに,こういうことでしょうか。高速道路である以上,この条文の文言に当たれば基本的には危険行為だというのが原則であり,類型的に危険性は肯定されなければならないが,ただ例外的に,もはや一般道と同じような状況だというのであれば,具体的・個別的に因果関係論で犯罪の成立を否定するという方法を採った方がベターである。そうではなくて,正面から行為の時点で具体的な危険性を要求すると,それは故意の要件にもなってしまい,そうすると,要綱(骨子)の二の罪の適用が困難になる事態も生じてしまい,この規定の持つ意味が減殺されかねない。こういうように,私は理解いたしました。 ○橋爪委員 ただいま申し上げましたように,渋滞中であっても,実行行為性は否定されないと考えますと,故意の認識対象についても,一定の結論が導き得るように思われます。すなわち,本罪は,結果的加重犯でございますので,加重結果に関する過失の要否をおくとして,故意としては実行行為性の認識,すなわち実行行為の危険性の認識があれば足り,具体的な因果経過に関する認識は不要と解されます。このような理解からは,要綱(骨子)の二に該当する行為を行っている認識があれば,原則として,本罪の行為を認めることができ,仮に本人が渋滞が継続し続けると認識していたとしても,これによって本罪の故意が否定されるわけではないと,個人的には考えております。 ○久保委員 今,御説明いただいた点は正に気になっていたのですが,そうすると,高速道路を走っていて,結果としてこういう重大な事故が起こった場合は,およそ予見もできる,つまり,高速道路を走っているということだけ認識していれば,因果関係を肯定できるということにならないでしょうか。高速道路を走っているということは,いつ渋滞が解消されてもおかしくない,ゆっくり走っている時点では渋滞していたけれども,いつでも解消するかも分からないということは,高速道路を走っていて渋滞していれば,およそいつ解消してもおかしくないとはいえるので,高速道路であるということを,走っている最中にこういう行為を行って,結果として重大な危険が生じた場合には,肯定はできるということになるのではないでしょうか。 ○井田部会長 危険運転致死傷罪は,一種の結果的加重犯だと一般に理解されていますので,基本犯の行為としての危険運転行為を正しく認識していれば故意として十分であるということになります。そうすると,要綱(骨子)の二に当たる,この類型化された危険行為を認識していれば,故意の要件としては十分で,あとは危険の現実化が因果関係の有無の問題として問われるということになると思います。この点はいかがでしょうか。 ○橋爪委員 私の理解は,故意としては,高速自動車国道等において,要綱(骨子)の二に該当する行為を行う認識があれば足りるという趣旨でございます。これに対して因果関係としましては,実行行為に内在している危険が具体的に発現すること,換言しますと,一般車両にとって衝突等を回避することが困難な状況が具体化した上で,死傷事故が発生することが必要と考えますので,渋滞が解消されないままで,渋滞している最中に,第三者車両の前方不注視で衝突事故が発生するような場合には,故意の問題ではなく,そもそも因果関係を欠くとして本罪が成立しないと考えております。 ○井田部会長 久保委員,それでよろしいですか。 ○久保委員 ありがとうございます。 ○今井委員 先ほど言ったことと同じなのですが,今の橋爪委員のような御理解も十分成り立つと思います。久保委員が言われた点についてですが,例えば,高速道路で激しい渋滞になっているというときに,被害者車両を見つけて前に割り込んだという場合は,高速道路上とはいえ,ほぼ停止状態になっているような場合ですので,状況が異なると思われます。   先ほど部会長もおっしゃいましたけれども,高速道路上での走行という状況が認定できるのかという事実認定の問題かと思います。高速道路上で渋滞に巻き込まれていて,それが解消したと思っているとしても,まだ高速道路上での走行に係る危険が実際に発生し得ないような状況は,あり得ることだと思います。どの段階でこれを認定するかという問題は残るかと思いますけれども,基本的には,橋爪委員がおっしゃったように,行為の前提となる状況を考え,その後は,因果関係の問題になろうかと思います。先ほど私が合間委員にお答えしたのと同じ問題に戻るのではないかと思った次第です。 ○井田部会長 ありがとうございます。今までとは少し違った観点から,この要綱(骨子)の二について,何か御発言ございますか。 ○島田委員 実際に法を適用する裁判所といたしましては,渋滞中の高速道路などで相手車両を停止させる行為が,要綱(骨子)の二に該当しないということが明確になるような形にしていただきたいと思っております。   特に,刑罰法規ですので,国民の行為規範となるものですし,危険運転致死罪で起訴されますと,裁判員裁判の対象事件ということで,裁判官は裁判員と共に評議をするということになります。そういった場合に,できる限り条文上,結論が明確になっていることが望ましいと考えております。 ○井田部会長 それは,条文そのものを更に明確化するという方法によることもできましょうし,また,種々の媒体を通じて,言わば立法者意思というかたちで,解釈を示していくということによってこれを行うことも可能かと思います。 ○島田委員 法文化することが難しいという場合には,解釈上,疑義が生じないように配慮していただければと思っております。 ○井田部会長 分かりました。   ほかに御意見ございますか。   それでしたら,ほぼ議論も尽きたような感じもいたします。そこで,まとめの段階に進んでいきたいと思うんですけれども,この際是非御発言したいということが,全体との関係でございましたら,お願いいたします。これまでの議論や,御自身の御発言と重複しても構いませんので,お願いしたいと思います。 ○北村委員 すみません,1点だけいいですか。 ○井田部会長 お願いします。 ○北村委員 渋滞という言葉は,気を付けて使われた方が良いと思います。   先ほど来,最高裁で重大な交通の危険が生じることとなる速度について,20あるいは30キロメートルでもあり得るという話があったんですが,他方で,高速道路というのは,最低速度制限が時速50キロメートルになっておりまして,時速40キロメートル以下になると渋滞とも捉えております。したがって,渋滞という言葉を使うときには,気を付けられた方がよろしいかと。むしろ,停止又は徐行が繰り返されている状態においては,形式的に要綱(骨子)の二号に該当したとしても,よって,人を負傷させたにつながっているかどうかのところで,切れる場合があるよというふうな説明の方が,一般の方にも分かりやすくて,紛れがないような気がいたしますので,そこの言葉の使い方で,少し気を付けられたらよろしいかと存じます。 ○井田部会長 ありがとうございます。大変貴重な御指摘で,あまり軽々に渋滞という言葉は使ってはならないと思いました。   ほかに何か御発言ございますか。   もし,特に御発言がないようでございましたら,これから部会としての意見を取りまとめたいと存じます。   諮問第109号は,自動車運転による死傷事犯の実情等に鑑み,事案の実態に即した対処をするため,早急に,罰則を整備する必要があると思われるので,別紙要綱(骨子)について御意見を賜りたい,こういうものでありました。別紙として,要綱(骨子)が付されています。   これまでの当部会での議論の状況に鑑みまして,これを一括して採決の対象とさせていただきたいと存じますが,それでよろしいでしょうか。 (一同異議なし)   特に御異議ございませんようですので,一括して採決をしたいと思います。   それでは,採決に移ります。   要綱(骨子)に賛成の委員の方は,挙手をお願いしたいと思います。 (賛成者挙手)   次に,反対の委員の方,挙手をお願いしたいと思います。 (反対者挙手)   それでは,採決の結果について,事務当局から報告をお願いしたいと思います。 ○鈴木幹事 ただいまの採決の結果を御報告いたします。   賛成の委員の方が12名,反対の委員の方が0名でございました。   本日の出席委員総数は,部会長を除きまして12名でございます。 ○井田部会長 ただいま事務当局から報告がありましたとおり,要綱(骨子)については賛成多数,全員一致で可決されました。ありがとうございます。   この部会の意見としては,諮問第109号については,要綱(骨子)のように罰則を整備することが相当であるとして,来るべき法制審議会総会におきまして,部会長,私の方から報告させていただくことになりますが,これにつきましては,私に御一任いただくということでよろしいでしょうか。 (一同異議なし)   ありがとうございます。では,そのようにさせていただきます。   この際,事務当局から何かございますでしょうか。お願いします。 ○川原委員 事務当局を代表いたしまして,一言,御挨拶を申し上げます。   委員,幹事及び関係官の皆様方には,御多忙のところ,今回の諮問につきまして,非常に厳しい日程の中で熱心に御議論をいただき,厚く御礼を申し上げます。   また,井田部会長には,議事の進行,意見の取りまとめに格段の御尽力を賜りまして,誠にありがとうございました。   本諮問につきましては,本部会の第1回会議で申し上げましたとおり,近時,悪質・危険ないわゆる「あおり運転」による死傷事犯等が少なからず発生しており,この種事犯に対して厳正な対処を求める国民の皆様の声が高まっていることなどを契機として,こうした死傷事案の実情等に鑑み,事案の実態に即した対処をするため,早急に罰則を整備する必要があると考え,諮問に至ったものでございます。   本部会において,委員及び幹事の皆様方からは様々な観点から御意見等を頂戴いたしました。皆様方の御尽力により,いわゆる「あおり運転」による死傷事犯等の実態に即した対処をするための罰則整備について幅広く御議論いただけたことは,大変意義深いことであると考えております。事務当局である法務省といたしましては,本部会において御決議いただいた要綱(骨子)に沿って,必要な法整備を速やかに実現するため,その準備作業を進めてまいりたいと考えております。   今後のスケジュールでございますが,本日の部会における諮問第109号に関する御決定は,2月21日に開催が予定されております法制審議会の総会に部会長から御報告いただき,速やかに答申を頂戴した上で,法案の立案作業を進め,今通常国会に提出したいと考えております。委員,幹事及び関係官の皆様方には,引き続き,御支援,御協力を賜りますよう,よろしくお願い申し上げます。   最後となりますが,本部会におきまして熱心に御議論いただき,誠にありがとうございました。改めて,厚く御礼を申し上げます。 ○井田部会長 どうもありがとうございました。   委員,幹事,そして関係官の皆様におかれましては,前回と本日,精力的に御議論いただきまして,ありがとうございます。   危険運転致死傷罪は,元々,刑法第208条の2として,暴行罪の規定の次に挿入されたもので,暴行の故意はないけれども,暴行の故意があった場合とほぼ同じ法律効果が生じるということで,それ自体,異例の犯罪類型でありました。犯罪の構造としても,一種の結果的加重犯だと言われますけれども,相当な複雑な構造を持った犯罪類型だと思います。危険というのは,そもそも不可視的であり,明確一義的には捉えにくいものですが,それが犯罪の要件にもなっておりますし,また処罰の根拠にもなっているということで,相当に解釈の難しい条文だと思います。   実務の現場で,この規定の解釈と適用に携わる関係者の皆さんは,引き続き大変な御苦労をされることとは思いますが,今回,部会の場でかなり立ち入ったところまで詳細な議論をしていただきましたので,この議論が議事録として残り,法改正後の現場の皆さんの仕事に当たっても,重要な指針として役立っていくのではないかと思っております。その意味で,ここで議論してくださった委員,幹事の皆様には,心より御礼申し上げたいと思います。ありがとうございました。   なお,本日の会議の議事につきましては,前回と同様,特に公表に適さない内容に当たるものはなかったと思われますので,発言者名を明らかにした議事録を公表することとさせていただきたいと思いますが,よろしいでしょうか。   ありがとうございます。では,そのようにさせていただきます。   以上をもちまして,本部会を終了いたします。どうもありがとうございました。 -了-