法制審議会 民法(親子法制)部会 第5回会議 議事録 第1 日 時  令和元年12月24日(火)自 午後1時30分                      至 午後4時27分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  民法第772条の嫡出推定規定の見直しに関する更なる検討         嫡出推定制度に関するその他の見直し 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○大村部会長 それでは,予定しておりました時刻になりましたので,法制審議会民法(親子法制)部会の第5回会議を開催いたします。   年末で御多忙の中,本日も御出席を頂きまして,誠にありがとうございます。   なお,本日は,山本委員と木村幹事は御欠席と承っております。   議事に入ります前に,配布資料の確認をさせていただきます。事務当局の方でお願いいたします。 ○小川関係官 今回の配布資料は,事前にお送りした部会資料5と席上配布の議事次第,資料目録になります。 ○大村部会長 よろしいでしょうか。   それでは,議事に入らせていただきますが,本日は,前半で,嫡出推定制度に関する規定の見直しのうち,民法第772条の嫡出推定規定の見直しに関しまして,更に検討を要する事項につき御意見を頂き,そして,後半では,今般の嫡出推定制度の見直しにおいて,検討しておくべきその他の論点について,御意見を頂く予定でございます。   その他の論点というのは,具体的に申しますと,推定の及ばない子に関する規律の明文化,あるいは合意により父子関係を否定する方策,さらに,人事訴訟法の関連規定の見直し等でございますけれども,また該当箇所で詳しくは説明をさせていただきたいと存じます。   進め方といたしましては,更なる検討ということにつきまして,まず御意見を頂きまして,その後,嫡出推定制度に関するその他の見直しという点に入りまして,その途中で休憩を挟ませていただこうと思っております。   そこで,まず最初に,嫡出推定規定の見直しに関して,更に検討が必要となる事項について,御議論を頂きたいと思います。   最初に,事務当局の方から,本日の部会資料5の該当部分につきましての御説明をお願いいたします。 ○小川関係官 それでは,御説明いたします。   部会資料5の第6を御覧ください。   嫡出推定規定の見直しについて御議論いただいた第3回会議の際には,前婚の離婚の日から300日以内に生まれた子は,出生時に母が前夫以外の男性と再婚していたときは,再婚の夫の子と推定するとの例外的な規律を設けるという案について御議論を頂きました。   ここでは,この規律を嫡出推定の例外規定と呼ばせていただきますが,この嫡出推定の例外規定に関して,今回,更に二つの論点について御議論いただければと思っております。   まず,再婚の嫡出推定が否認された場合の効果について御議論いただきたいと考えております。   (2)のゴシック体部分で記載したとおり,再婚の嫡出推定は否認によって遡及的に消滅するとともに,出生の時から,前夫の子であったものと推定するとの案を御提案しております。   ここでは,前夫の子と推定すべきか否かという部分が問題になりますが,嫡出推定の例外規定の法的性質の理解とも強く関連するものと思われます。   まず,㋐は,母の再婚後も前婚の嫡出推定が存在し続けていると理解するものです。この理解からすると,再婚の嫡出推定が否認されたときは,依然として存在していた前婚の嫡出推定が前面に出てくることになりますので,再婚の嫡出推定の否認により,出生の時から前夫の子であったものと推定するという考え方と親和的であると考えられます。これがⓐの考え方になります。   ㋑は,再婚によって前婚の嫡出推定は排除されているという理解で,この理解からしますと,再婚の嫡出推定が否認されたときであっても,前婚の嫡出推定はもはや存在せず,復活もしないという考え方につながると考えられます。これが考え方のⓑとなります。   次のページのイの項目では,このような理解を前提に,どちらの考え方を採るべきかについて検討を加えています。   まず,法的性質についてですが,前夫の子である蓋然性の有無という観点から見た場合には,一般的には前夫の子である蓋然性がないとはいえないが,再婚の嫡出否認がされたときは,他の男性と比べると前夫の子である蓋然性が高いと考えられることから,㋐の理解が相当であるとも考えられます。   また,否認の効果の帰結としても,ⓑの考え方を採った場合には,再婚の嫡出否認がされて,前夫の子と推定されないということになり,子が嫡出でない子となることになります。特に前夫が否認権を行使したときに,前夫の子ともならないとすると,前夫が濫用的に否認権を行使して,子の福祉を害するおそれがあるということも考えられますので,否認の考え方についても,ⓐの考え方が妥当であるとも考えられます。   そこで,1ページのゴシック体部分のとおり,再婚の夫の嫡出推定を否認したことにより,再婚の嫡出推定は否定され,前夫の子と推定するとの案を提案しております。   このような考えについて,御議論いただければと思っております。   次に,2ですが,再婚の嫡出推定に対して前夫の否認権を認めるべきかどうかという点について,御議論いただければと思います。   まず,前夫の否認権を認める必要性としては,前夫が子の生物学上の父である場合に,前夫から再婚の嫡出推定を否定し,自ら父となることができる方法を用意しておく必要があるのではないかということが考えられます。   また,3ページの(3)の基本的な考え方のアにも記載しているとおり,前夫は単なる生物学上の父とは異なる法的地位に立つとも考えられます。具体的には,先ほどの㋐の理解からは,劣後はしているものの,前夫の嫡出推定が及んでいるということから,再婚の嫡出推定を否定する利益というものが前夫にあるというふうにも考えられるかと思います。また,㋑の理解からであっても,前夫は母が再婚するまでの間は,前婚の嫡出推定が及んでいたことになりますので,再婚がなければ前夫が父となっていたということですから,一般の生物学上の父とは異なる地位に立つと考えることもできます。   次に,イは,ゴシック体の①に対応する部分ですけれども,前夫による否認権の行使の相手方と,その行使期間について説明をしています。   また,ウは,ゴシック体の②に対応する部分ですけれども,嫡出否認の実体要件について説明しています。   さらに,エは,ゴシック体の③,④について,補足して説明をしておりまして,特に④では,前夫が再婚の嫡出推定を否認した場合には,前夫は,前夫と子との間の嫡出推定を否認することはできないこととしています。   これは,前夫は通常,再婚の嫡出推定を否認することで,自ら子の父になろうとしており,わざわざ認知をしなくても父とすることが相当であると考えられること,また,前夫が再婚家庭による養育を妨害するといった濫用的な目的で,再婚の嫡出推定を否定する事態を防止する観点からも,前夫が当然に子の父となることとすべきであるとも考えられるため,このような提案をしております。   次に,5ページの(4)では,検討すべき課題について記載しております。   3ページのゴシック体で記載した規律を前提としますと,前夫が再婚の嫡出推定を否認した後,さらに,子や母等が前婚の嫡出推定を否認することも可能となります。しかしながら,このような帰結に対しては,子に推定される父が1人もいなくなってしまうということ,場合によっては,再婚の嫡出推定の否認訴訟と前婚の嫡出推定の否認訴訟と,二度の訴訟が行われることとなることから,このような事態を防止するために,何らかの手当てが必要ではないかとの指摘も考えられるところです。   そのような観点から,イに記載しているとおり,先行する手続,すなわち再婚の嫡出否認の手続の中で,前夫と子との間の生物学上の父子関係の有無等も含めて審理をした上で,いずれを父とすべきかを定めるという方策も考え得るところかと思います。   もっとも,このような方策については,要件をどのように定めるかという問題などがあることから,慎重に検討する必要があるとも考えられます。   以上を踏まえまして,前夫に否認権を認めること,それから,その具体的な規律について,御意見を頂戴できればと思います。   第6の説明は以上となります。 ○大村部会長 ありがとうございました。   前回は,先ほどもご説明がありましたけれども,再婚の後200日までに生まれた子どもについても,再婚の夫の子とするという規律を前提にして,前婚の嫡出推定が外れるという提案されておりましたが,それに伴う問題が幾つかあるのではないかとの御指摘を頂いていたところでございます。   今回は,それを受けまして,今御説明がありましたけれども,後の方の婚姻に基づく嫡出推定が否認されたら,その後どうなるのだろうかというのが,最初の第6の1だったかと思います。   それから,第6の2は,後の方の婚姻に基づく嫡出推定について,前婚の夫,前夫に否認権を認める必要があるのではないか,一般論として,生物学上の父に否認権を認めるかという議論はあるわけですけれども,それはさておき,前婚の夫は特別な関係があるのではないかということだったかと思います。   これとの関連で,更に検討すべき問題が出てくるということで,手続による一回的な解決があり得るだろうかという問題提起がされていると理解を致しました。   以上の御説明につきまして,まず御質問があれば伺いまして,それから御意見を頂きたいと思いますけれども,御質問いかがでございましょうか。 ○大森幹事 御説明いただいた内容に対する質問というわけではありませんが,今の論点は,婚姻後200日以内に推定を及ぼし,かつ,離婚後300日以内も推定を及ぼすということを前提とした場合に,両者の重複,推定が重複する部分に関する問題点を整理したものと理解していますし,書いていただいている内容については,そういう意味で,検討する必要があるとは思っております。   他方で,まだ第1読の途中という段階で,論点を絞っていないかということを素朴に感じております。婚姻後200日以内について,今の現行法の規律を変えて,推定するとするのかという点に関しては,第3回のときに様々御意見があったところでもありますし,離婚後300日以内に推定を及ぼすという今の規律を維持するかという点についても,皆さんの意見が一致していたわけではなかったと記憶しています。   そうすると,議論の整理として,それぞれの相関関係,重複が生じるのか生じないのかといったこと,また,この問題と再婚待機期間との関係,つまり現行法は重複が生じないように再婚禁止期間を設けて対処しているわけですが,今回の論点は重複することを前提に,再婚禁止期間を置く以外の方途で調整しようということになっていて,再婚禁止期間はどうなってくるのかといったこと,まずはこうした全体的なところの整理をした上でということが必要ではと思ったのですが,その辺りは,どのようにお考えなんでしょうか。 ○大村部会長 ありがとうございます。   資料の個別の内容というよりも,今回これが出てきていることの位置付けについての御質問であると理解しました。   幾つかおっしゃっていただきましたけれども,再婚禁止期間の問題は,あるところで議論をする必要があるかもしれませんが,大森幹事御指摘の他の選択肢との関係で,今回これを御検討いただくということの位置付けはどうなるのか,その点につき,まずお答えいただきたいと思いますが。 ○平田幹事 基本的に,現段階で案をどれかに絞るといった趣旨で,今回のテーマについて御議論いただきたいわけではございませんし,もちろん,大森幹事のおっしゃるとおり,まだ選択肢は絞られていないということを前提にしております。   ただ,前の会議で,嫡出推定の例外の規定を設けた場合というところは議論していただいたところではあるのですが,この案については,かなり問題が錯綜しているというか,なかなか難しい問題が出てくるというところがあったので,それらの問題について更に御議論いただきたいというところで,提案させていただいた次第でございます。 ○大村部会長 今の御説明は,この案でいくという前提で審議するというのではなくて,前回出してあった案について,疑義が残っているところがあるので,さらに,その点について再度説明をするということで,前回の話がいわば続いているということだと承りましたけれども,今日のところの整理はそれでよろしゅうございますでしょうか。ありがとうございます。   そのほかについて,御質問があれば,まず伺いますが,よろしいでしょうか。   それでは,また後で御質問もあろうかと思いますけれども,質問も含めまして,御意見を頂ければと思いますが,いかがでございましょうか。 ○窪田委員 現時点では,多分,こういうふうなアプローチを採った場合には,どういう問題が考えられるかということで,ここで何か決めるということではないと思うのですが,ただ,やはり気になりましたのが,5ページの(4)のアで扱われている問題です。ここで,前夫が再婚の夫についての父子関係について否認権を行使した場合に,その後,自分自身の推定される嫡出推定については,否認権を行使することができないという点については,ものすごく丁寧に説明していただいていると思うのですが,否認権者を子にも拡大した場合に,子どもの否認権も行使することができないという部分の説明は,ここでは,父子関係をめぐる紛争を一回的に解決するということは述べられているものの,必ずしもそれだけでは十分ではないのではないかという気がします。   つまり,自ら再婚の夫の父子関係を否定しておきながら,自分に関しては父になるつもりはないと。この言い分はやはり,いろいろな法律構成で否定することはできるのだろうと思います。しかし,それでは,前の夫について,嫡出推定がされるという場合に,しかし,やはり子ども自身も当事者として,否認権を持っているのだという観点からすれば,なぜ子どもが否認権を行使することができないのか,現に血縁関係がない場合にどうなのかという問題は,もう少し丁寧に議論していただいた方がいいのかなという印象を持ちました。 ○平田幹事 再婚の夫の嫡出推定が否認された場合に,前婚の夫の嫡出推定が及ぶとしたときに,子が否認権を行使できなくなるのか否かについては,課題があるということで御提案させていただいたところです。実際,もちろん,子の否認権を制限することなく,否認訴訟を2回やって,子の方で否認するということも十分あり得るというふうに考えているところではございます。 ○大村部会長 先ほどもちょっと触れましたけれども,今回,1,2の二つの案が出ていますが,こういうやり方でやると,二つ否認がされるということが生じるので,その複雑さを何らかの形で解消する必要があるのではないかという意見が出るかもしれない。それについて考えるための指針ということで,ここに(4)が出ているということですね。   太文字になっていないのは,ここで何か具体的な提案があるというわけではなくて,論点として,こういうことを御検討いただきたいということかと思います。   ほかにいかがでしょうか。 ○中田委員 今のと関連する御質問なんですけれども,再婚の父子関係が,再婚の夫又は子によって否認された場合には,前婚の推定が復活するということになりますが,その場合には,前婚の夫の否認権があることは前提となっていると理解したんですが,それでよろしいでしょうか。   つまり,前婚の夫が再婚の父子関係を否認した場合には,今お話しになったような規制が掛かってくるとしても,そうでない場合には残るという理解でよろしいでしょうか。 ○平田幹事 おっしゃるとおりでございます。 ○中田委員 そうだとしますと,その点に関して,やはり明確にしておく方がいいのではないかと思いますし,それから,例えば期間制限をする場合の起算点などの問題もありますので,もしもそうだとすれば,そこは,最終的にどうなるか分かりませんけれども,復活するのであれば,規律を置いておいた方がよかろうと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   なかなか難しいルールになってきますので,もしこのようなもので定めるということになると,原則的な考え方と,それから具体的にどうなるのかということについて,中田委員御指摘のような点について,手当てできるものは手当てをした方がよいのではないかという御意見として承りました。 ○棚村委員 今のに関連して,中田委員の御質問で,結局,再婚の夫の子という推定が否認をされてしまったというときに,どういうふうになるかという点です。何か,元々の推定はやはり残っていて,ただ優先するだけだという記述がありますよね。それと,もう一方では,推定が排除されてしまったので,もうなくなっているというようにも読めます。この二つに,白と黒に分けているのが,ちょっと私には理解ができないところがあります。つまり,先ほど,復活という言葉が中田委員からも出たように,そのときは復活するという考え方もあり得るし,続いているものが,優先順位でもって後退してしまっているという理解もあり得ます。その辺りも少し整理しないと,右か左か,白か黒かではなくて,子どものために父のいない子を作らないとか,そういう民法の立場あるいは政策的な判断みたいなのがあって,推定は残るのだけれども,優先をするということであるのか,それとも,また復活させるということだってあり得るわけです。一旦推定が排除されたのに,父親を決めるときに,推定が幾つも重複していると,非常に複雑な関係になります。   その辺りのところも,恐らく説明の仕方だと思うのですけれども,二者択一の考え方というよりは,そういう意味では,子どものために親を早く確保するとか,それから,余り紛争が複雑化長期化しないようにするとか,そういう説明の中で,前夫の子という推定が否認された場合に,どういうふうに扱うかということで,取りあえず2通りの考え方があるというのでは,納得はするんですけれども,説明の仕方としては,いろいろなものが実はあるのではないかと思います。   ほかの国をちょっと見ていても,やはり解釈上,かなり微妙な問題があって,それをやはり紛争の一回的な解決というところで,どこかで遮断するとかいうことも,政策的には出てくると思います。   窪田委員がおっしゃったように,考え方としては,いろいろな多様なものが存在し得るので,一つの法的構成なり,提案としてはいいと思うのですけれども,説明のときにはちょっと工夫しないと誤解を招くかもしれません。考え方としては,こちらしか採れないというよりは,推定が排除されていても,復活させるということもあり得るので,そのときには,事実上,同じようなことになるわけです。   この推定ルールが一応働いているときは,ほかの推定ルールがむしろ,劣後しているというだけで,前夫の出てくる余地がないというよりは,前夫だってやはり,お子さんについては,関わっていた可能性もかなりあるわけなので,全く生物学上の単なる父というわけではないと思います。そうなると,ちょっと説明を工夫された方がよいかもしれません。推定がこちらの方は,前夫の推定は残っているというのと,残らないということで,それは構わないんですけれども,復活するのであれば,余りそれを強調しなくても,何のために復活させたり,推定を続けさせているのかということの説明をすれば,再婚の夫の方がむしろ,現に婚姻しているわけですから,前夫よりも強いとか,優先させた方がいいというような考え方に立てば,両者の関係の説明については,むしろ前夫を復活させて,子どもの地位をやはり守るんだというようなことで説明は付くと思うんですね。   すみません,ちょっと長くなりましたが、その点の指摘だけです。 ○平田幹事 御指摘ありがとうございます。   基本的に,いろいろな考え方があるというのは御指摘のとおりだと思います。ただ,我々としても,この㋐の理解と㋑の理解というのを示した上で,これは飽くまでもイメージとして,それぞれⓐとⓑの考え方に親和的ということで,整理させていただいたものになります。㋑の理解で,一度推定がなくなったものが復活するという説明もあり得るとは思いますけれども,そこも含めて工夫できるようであれば工夫していきたいというふうに…… ○棚村委員 特に気になったのは,2ページのところのⓐとⓑというところで,すぐ,推定が否定されると,前夫の子と推定するという考え方と親和的であるとか,要するに,ⓑを採ると,嫡出でないことになるという考え方と親和的であるとかというので,論理的にこういうふうに結び付けていってしまうと,こちらの立場を採ってしまうと,もうこちらしかないとなるわけではない。こちらの立場を採れば,こちらにいくんだということではないのではないかというものを,確認だけしたいのですが。 ○平田幹事 そこは別に完全に論理的に結び付いているという趣旨ではなく,飽くまで親和的だというところで表現させていただいたつもりでした。 ○棚村委員 その確認だけです。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○垣内幹事 先ほど窪田委員の御発言もあった点と,少し関係するかと思うんですけれども,紛争の一回的解決という問題に関してなんですが,ここで御提案いただいている考え方というのは,紛争の一回的解決という観点からしますと,例えば,父を定める訴えのような形で構成して,その訴訟で父が確定的に定まるということが,一回的解決には資するということですが,ここで前提となっているのは,飽くまで再婚の夫に関する嫡出推定だけが,現実には効力を生じているという状況の下では,父を定める訴えということではなくて,嫡出否認という訴えの方が,現行法の枠組みでは適用されるべきものだろうということを前提にされて,しかしそうすると,前婚の夫の嫡出否認という問題が第2段階に控えることになるので,どうなんだろうかということを問題提起されているのかなと思うんですけれども,その点に関して,これは㋐のイメージ,㋑のイメージとも関係するかなとも思うんですが,およそ子とか再婚の夫の側に,前婚の夫の嫡出否認を主張する機会がないままに,主張ができなくなるということは,およそ承認し難い事態だと思いますので,仮に一回的解決を図るのだとしますと,再婚の夫について,例えば前婚の夫が提起した嫡出否認訴訟の中で,例えば,前婚の夫の嫡出否認も主張できるようにするというようなことが必要なのではないかと,何らかの形でですね。   それは例えば,嫡出否認の反訴というようなことになるのかもしれないんですけれども,そのときに,㋐のイメージの方が説明がしやすくなるのかなというところがありまして,というのは,全く嫡出についてはなくなっているということだとしますと,否認の対象がその段階ではないということになるので,条件付きの否認とかいえば,いえるのかもしれませんけれども,ややちょっと説明は難しいところがあるのかなと思われますが,そういう形で,1回の訴訟で双方の嫡出推定を消すということをするという関係では,㋐のイメージの方が説明がしやすいところがあるのかなというようなこともちょっと感じまして,単なる感想ですけれども,申し上げました。 ○大村部会長 ありがとうございます。   立法するということになると,例えば,1ページのものであれば,案と書かれているものを決めるということになりますけれども,それについて,どのように説明するのかということを考えたときには,幾つかの説明の仕方があるであろうかと思います。それは,棚村委員御指摘のように,2パターンだけでなくて,それ以上のものがあり得るのだろうと思いますけれども,差し当たり,思考の整理のために,二つのパターンで整理をしているということなのかと思います。   その二つのパターンについて,手続的な面から見て考えたときに,どちらの方で考えた方がいいということが出てくるのではないかという御指摘として,垣内幹事の今の御発言を伺っておりました。   ほかにいかがでございましょうか。 ○髙橋委員 ちょっと,頭の整理がまだ付かないところがあるんですけれども,例えば,前夫と,それから再婚の夫がいますけれども,実はその子はそうではないCという男性の子だったと。ただ,それは後になって分かって,まだ紛争になっているときは,どちらも分からない。前の夫は自分の子だと思っているし,再婚の夫も自分の子だと思っていたと。   ちょっとここから話が,うまく説明できるか分からないんですけれども,再婚の夫が何か疑念を持って嫡出否認をしたと,自分は父子関係から抜けたとしますね,実際,Cの子だったとしますね。そうすると,今度,嫡出推定が前の夫のところに戻ってきて,前の夫からすると,自分の子になってしまったと。そうしたときに,いや,自分の子であるはずはないと思ったら,嫡出否認ができて,それはCの子だったから,自分は父親ではないと,これができるというわけですよね。   ところが,再婚の夫が父親ではないということを,前夫,前の夫が嫡出否認訴訟を起こして,Cの子だったから,そこは否認されたと。そうしたら,自分の子になってしまうと。そうしたら,自分は嫡出否認できなくなってしまうと,ああ,これはちょっと想定外だったと。つまり,自分の子だと思って,後夫の父子関係を否認したら,審理の中で,どうもCの子だということが途中で分かってきたと。こうしたときに,抜けられないようにしないと,Cの子を自分の子だと推定されて,それに関して,自分は嫡出否認できないということになってしまわないかと。ちょっと……はい,そんなことがあるかなと。   ちょっとここに,(注)の中に,裁判官が棄却するのか,何とかするのかというような所が……6ページの(注4)で,父を定める訴えについては,前夫と再婚の夫,いずれもが子の父ではないという心証に至った場合,これ,裁判官に委ねられていて,却下するのか,棄却すべきなのか,いずれも父でないというかと,こんな選択肢があると,こんなことが書いてありますけれども,こういう整理も含めた整理が必要になってくるのかなというふうに,ちょっと感想ですけれども,思ったんですけれども。 ○大村部会長 ありがとうございます。   先ほど,最初の方で窪田委員から,後の方の婚姻の嫡出推定を前婚の夫が争ったという場合に,前婚の夫が,自分について働く嫡出推定を否定するのはおかしい,それは分かるという御指摘がありましたけれども,必ずしもそうではない場合があり得るのではないかというのが,今の髙橋委員の御指摘でしょうか。   後の嫡出否認を争っているというのは,自分の子だという前提で争っているのだとすると,そうではないということに気付いたら,それを止めるということがないと,自分の子でないと思っているのに,嫡出否認の争いを続けなければいけないということになってしまうが,それは困るのではないかという御指摘ですね。   そのような場合について何か。垣内幹事,どうぞ。 ○垣内幹事 今,御指摘の点というのは,この資料で申しますと,5ページの下半分の方に書かれている話と関係するのかなと思われまして,というのは,そもそも前婚の夫の嫡出否認権というのは,当然に認められるべきものかどうかというのは,いろいろ考え方があり得るところだろうと思います。   認められるべきだとすれば,それはやはり嫡出推定の予備的な対象になっていて,最終的に父として確定されるべきものであるという前提が満たされれば,これは,その結果を実現するために,否認権の行使が認められるということはあり得ると思いますけれども,自分は生物学上の父でないという場合について,最終的には自分も父でなくなるという前提ですと,そのような立場の者に,あえて再婚の夫に係る嫡出推定の否認権を行使させることを認めるべきかというのは,ここで指摘されているように,重要な論点かなと思われまして,私自身は,その場合には否定すると。   ですから,生物学上の父でないことが判明した場合については,原告適格ということなのか,否認の他の要件なのか,それはまた整理の問題かと思いますけれども,いずれにしても,前婚の夫の否認権行使は認められないという立場を採るということは考えられるのかなと思っておりまして,そうなりますと,この資料の示唆している,そういった考え方からすると,先ほど御提示のあった問題についても,Cの子だということになった場合には,前婚の夫との父子関係がない,生物学上ないことが判明した場合に当たりますので,当該否認の訴えは認められないことになるということで,一応の解決というのは,この資料,内在的には想定されていたのかなと思いましたけれども,もし間違っておりましたら,御指摘いただければと思います。 ○平田幹事 御指摘のとおり,そういう解決の方法があるというところは想定しております。   ただ,ちょっと難しい部分があるのが,生物学上の父ということを否認権行使の要件等にすると,血縁的なものを前面に考えざるを得なくなるというところで,そこが他の生物学上の父との関係で説明が付くかというところは,懸念しているところではございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   どのような構成を採るのかということは,幾つかの要素を考えて,決めていかなければいけないけれども,もしこの考え方を採るとしたときには,実質的な判断としては,今,垣内幹事がおっしゃってくださったような考え方になるのではないかということを,垣内幹事はおっしゃり,それから髙橋委員もおそらく,それを前提に御発言をされたと思いますが,この点につきましてでも結構ですし,あるいは他の点につきましてでも結構ですので,御意見を頂ければと思いますが,いかがでしょうか。 ○幡野幹事 生物学上の父が,前の夫でも再婚後の夫でもなく,別の人が真実の父親だというときに,再婚の夫が嫡出否認の訴えを提起して,再婚後の嫡出推定が否定された後,前夫の嫡出推定をあらゆる場合に自動的に及ぼす必要があるのかという点が気になっております。自動的に前夫に推定が及ぶとなると,2回嫡出否認の手続をしなければいけないのですが,そこまでする必要があるのでしょうか。   前夫が嫡出否認の訴えを,自分が父親だという形で,最初の再婚後の夫の推定を否定するために提起した場合に,前夫が父親になるという点はいいと思うのですが,それ以外の場合も,自動的に推定を及ぼすことは,かえって手続の煩雑さを招いてしまうのではないかという点に懸念を抱いております。   もし何らかの,よりシンプルな解決策があれば,それも模索する必要があるというのが私の意見です。 ○大村部会長 ありがとうございます。   確認させていただきたいのですけれども,前夫が後の婚姻に基づく嫡出推定を覆す訴えを起こした場合を除くと,前婚の嫡出推定は復活しないと考えてはどうかということですね。 ○幡野幹事 はい,そのように考えております。   仮に,先ほど垣内幹事がおっしゃったように,前夫からの嫡出否認の訴えで,そこでもう親子関係,前夫との生物学上の父子関係があることを,実体法上の要件とするのであれば,そこだけ例外的に,そういう場合だけ前夫に提訴権者を広げると。別にそれは,嫡出推定というテクニックから説明をする必要がなくなってくると思うんですけれども,そうであれば,その場合以外は,再婚後の夫だけに嫡出推定を及ぼして,その後,それが否認された場合には,もう推定が及ぶ者はいないという構成も可能であろうと,そのように考えております。 ○大村部会長 今のような御意見が出ておりますけれども,これにつきまして,何か御発言があれば伺いたいと思いますが,いかがでしょうか。 ○大森幹事 今の話そのものではないんですが,翻ってこういう場合だけ生物学上の父に否認権を認めるという考え方を採るかということについても,慎重に考える必要があるのではないかということを,先生方の議論をお聞きしながら感じた次第です。   再婚夫も,自分と血がつながっていないかもしれないけれども,実子として養育していこうと思っている,子も自分のお父さんだと考えているという場合に,前夫という立場であるがゆえに,それを覆せるということを認めてよいかということは,必ずしも前夫だからという理由では説明が付かないような気もして,そういう意味では,ほかの生物学上の父の場合と変わることではないようにも思いました。 ○大村部会長 ありがとうございます。   大森幹事の今の御指摘は,幡野幹事が例外とされたところについて,必ずしも例外としないという解決が一方であるかもしれないし,他方で,生物学上の父に否認権を認めるのならば,一般的に認めるという解決もあるだろうという御指摘でしょうか。そうではなくて,前者だけをおっしゃったということですか。 ○大森幹事 そうですね。 ○大村部会長 前者だけですね。分かりました。では,御意見は前者ということで承ります。   ほかにいかがでしょうか。 ○窪田委員 今,幡野幹事から出た点というのは,恐らく最後の㋐のイメージと㋑のイメージというので,どれを前提とするのかという問題なのですが,私自身も,それほどはっきりした考えがあってということではないのですが,むしろ幡野先生にお聞きしたいなという点も含めて,自分の迷っている部分というのをお話しさせていただきたいと思います。基本的には,再婚がなければ,離婚後300日というルールは生きるというのが全体の仕組みなわけですよね。   再婚というのは,ある意味で,その後出てきた新しい事実ということなのですが,新しい出来事があると,なぜ元々あった300日の推定ルールというのが消えてしまって,もはや復活しないのかというのが,私自身が,やはり㋐のイメージに近いものをどこかに持っているからなのかもしれませんが,やはり,まだちょっとよく分からないなという気がしています。もちろん,嫡出推定というのは,新しい嫡出推定が働いたら,古い嫡出推定という仕組みはなくしてしまうというのが単純なんだというような政策的なものであるとすれば,説明が付くのかなという気もするのですが,なぜ,その後の出来事によって,元々あった300日に関しての嫡出推定のルールが変わるのかというのは,やはり私自身は,まだちょっとよく分からない気がするものですから,もし幡野先生の方で何か,いや,こういうふうな説明ができるのだよといったお考えがあれば,お聞きしたいなと思いました。 ○大村部会長 幡野幹事,もしよろしければ。 ○幡野幹事 やはり政策的な要請,先ほど申し上げたとおり,二つ推定が及ぶことによって,二度,嫡出否認の訴えを提起させるということが,当事者に大きな負担になるでしょうし,それが子にとって望ましいとは思えないという理由で正当化をするしかないかと思います。   他方で,私自身も,必ずこうすべきと思っているわけではなく,こういう選択肢もあり得るのではないかというのが先ほどの提案でした。  もっとも,日本の場合,離婚の要件というのが,ほかの国に比べると大分緩やかであるため,前夫が父親であるという蓋然性は,ほかの国に比べて,はるかに高いということになります。   その意識があるからこそ,㋐のイメージを持たれる方が大勢いらっしゃると思います。それは十分理解できることではありますが,他方で,その㋐のメージを維持することによる複雑性というものは,十分考えなければいけないですし,先ほどのような,もし,前夫との生物学的な親子関係の証明というのが,提訴要件あるいは実体法上の要件と課されるのであれば,㋑のイメージを採ることの弊害というのも少なくなるのではないかと考えております。 ○窪田委員 私自身が多分,まだ十分に理解できていないのだろうと思いますが,嫡出推定が重複するかどうかというのは,棚村委員からもありましたけれども,重複するとして,優先関係あるというのか,取りあえずは消えるけれども,また復活するというのかというのは,どちらの説明も可能なのだろうと思います。ただ,紛争の一回的解決ということに関して,ちょっと気になりますのは,確かに再婚の夫との嫡出否認をして,そうすると,前夫との嫡出推定が働いて,またそれも否定しなければいけない,二度手間になるということはあったのですが,別に前夫の嫡出推定を否定しない場合は,それで終わるわけですね。   むしろ,再婚の夫の嫡出推定を否認するだけであれば,親子関係を形成するためには,また新たに認知なり何なりの手が一つ入らなければいけませんので,2回手間が掛かるというのは,実は同じか,あるいは,取りあえず嫡出推定を働かせてしまった方が,ひょっとすると簡単なのかもしれないというような感じがしたということだけ,感想として申し上げたいと思います。 ○棚村委員 確かに,幡野幹事がおっしゃるようなことはあるのかなと思ったのですけれども,ただ,私も,婚姻ということによって実親子関係を推定するという仕組み,それ自体が,やはり現状では,かなり重要な役割を果たしており,原則なのではないかと考えています。再婚ということがあった以上は,離婚と再婚ということが連続している場合に,やはり再婚の夫の子という推定を働かすというのは,かなり大きな意味があると思います。   それで,お隣の韓国なんかですと,事実婚の場合でも嫡出推定を働かすという運用をしたり,そういうこともあるわけです。ただ,問題は,やはり事実婚の認定,これが難しくかなり争われるということも起こり得る。そういう意味でいうと,婚姻ということを基礎にして,父性推定を置いて実親子関係を早く確実に決めていくという原則と,それから,今,海外では,やはり事実婚というか,そういうものが非常に増えていますので,基本的には社会的親子関係というような考え方,つまり,子どもを自分の子として受け入れたとか,養育費払ったとか,一緒に暮らしてきた,そういう社会的要素まで盛り込んで決めるということもあり得るわけですよね。   ただ,今回のもやはり,再婚の子であれば,再婚の夫に,婚姻を基礎として推定を働かせるということで,ちょっと複雑な関係は確かに生じ得るんですけれども,その処理については,例えば第三者の子だったということが明らかになれば,その認知を認めるかどうかとか,どの段階で,父性推定を排除できるのか,それから,否認権者として誰を認めるかというのは,議論が錯綜していると思われます。私もどちらかというと,御提案のような形で,前夫,それから再婚の夫というのがあれば,そちらが一応優先するような形で父性推定がされて,そこの中で,利害関係があるというか,そういう人たちの間で,否認の訴訟とか,否認権みたいなことを認めることで手続や権利者の範囲の整理をしていくことが望ましいと考えています。このように考えますと,子どもに早くお父さんを与えていくという観点,それから,婚姻をベースとした親子関係の決定というのも,ルールとしては尊重する必要があると思います。もちろんこれから家族関係も多様化していって,いろいろな状況になれば,親子関係決定のルールの全面的な組み換えもありえます。しかし今の段階では,やはり婚外子の出生率もまだ低い状況になっていますし,やはり再婚した夫で,その父性推定が否定された場合に,前夫というものをどう位置付けるか。前夫の推定もやはり婚姻を基礎にして,一応法的関係を持っていた,かなり密接な関係を持っていたということだとすれば,否認の権利というものを認める可能性もかなり強いと思います。   それと全く別に,生物学上の父,単に母親とあるいは妻と関係を持った人を登場させるかどうかとかいう話は区別して考えるべきではないか,現段階では,そのように議論をしていった方がいいのではないかと思っています。 ○大村部会長 ありがとうございます。   いろいろな可能性がありますので,考え始めますと,様々なバリエーションが出てきて,難しくなりますが,基本的な筋として,婚姻に基づく父子関係の推定というのに基礎を置いた組み方にすべきではないか,再婚に基づく推定が優先するとして,次に前婚の推定がくるというのを基軸に据えるのがよいのではないかいう御意見だと承りました。   ほかにいかがでしょうか。 ○垣内幹事 今のやり取りに関してなんですけれども,幡野幹事の問題提起も理解できる部分はあるかと思うんですが,ただ,結論としては,やはり現在,嫡出推定という制度そのものが,推定の基礎を一定の蓋然性ということに置いているのだというふうに理解したといたしますと,やはりこの場合についても,前婚の夫が父である蓋然性というのは,再婚の夫が父でないということが確定した段階では,相当に高いものだということになるのではないかと思われますので,一回的解決ができないで,二度手間になる問題というのが,どちらの方面で,より多く生ずるのかといえば,それは,幡野幹事の言われるのとは逆の方向で,やはり前婚の夫が本当の父であったという場合の方が実際上多いという見通しの上に,現行制度が成り立っているのかなと思われますので,そういう前提に立つ以上は,そちらの方向で考える,窪田委員のおっしゃるような方向で考えるようになるのかなという印象を持ちました。   そのことと直接には関係しないんですけれども,資料でも出ておりますし,今日の議論でも何回も言及されている紛争の一回的な解決ということに関しまして,確かに何回も訴訟をやったりするということは手間ですから,一回的に解決されることは非常に重要ではあるのですけれども,どこまで絶対的な価値かということは,慎重に見極める必要があると思いますし,また,一回的な解決が可能であると,解決したい人がいた場合には,解決できるかどうかという問題と,解決しなければいけないかと,その訴訟でやらなければ,後で失権しますというお話とは,分けて考える必要があるのかなと思われますが,今日取り扱われている問題は,そもそも一回的解決ができるのかどうかがはっきりしないという問題も含まれており,さらにその先に,一回的解決がなされずに,もう1回されるようなことが起きるかもしれないけれども,本当にそれでいいのかと。ですから,一回的解決しなければいけないのではないかという問題と,両方が出てきているように思いますので,今後この問題について,更に議論を進めていくという場合については,少しその辺りも整理していただけると,問題の性質がはっきりしてくるのかなというふうに感じました。 ○大村部会長 ありがとうございます。   5ページの(4)は,一回的な解決ということについて,御意見が出るであろうということを前提に書かれていると思いますけれども,今の垣内幹事の御指摘は,一回的解決といっても,その中身について考える必要があるのであり,一回的な解決必ず図るべきなのか,あるいは,望む場合に,一定の要件を満たす場合に一回的解決が図れる制度を作るということも考えられるということで,どこを目指すのかということについて,どこかの段階で整理が必要ではないかという御指摘として承りました。   ほかはいかがでございましょうか。 ○井上委員 すみません,基本的なところで恐縮でございます。   第3回会議のところに出ていたものと今回の書かれているもので,ちょっと両者の整合が,どう考えればいいのかというところで,発言をさせてください。   今回の資料の2ページのイなのですが,その上で検討すると,の段落のところです。相当であるとも考えられるところで,母が再婚していた場合であっても子が前夫の子である蓋然性がないとはいえないことや,再婚の嫡出推定が否認された場合には,他の男性に比べて前夫の子である蓋然性が一般的に高いといえることからすると,と書いてあります。   第3回会議のときの母の婚姻の解消又は取消しの日の後に出生した子に関する規律のところでは,離婚の場合には,離婚前の一定期間,これ,前の資料でいくと,8ページから9ページのところに書いてあると思うのですが,離婚の場合には,離婚前の一定期間は夫婦関係の実態がなく,子が前夫の子である蓋然性がないと考えた場合であっても,夫の死亡の場合には必ずしも夫婦関係の実態が失われているとは言えないのではないか,婚姻の取消しの場合も,婚姻の取消しは様々な原因によって行われること等からすると,一律に夫婦関係の実態が失われるとは言えないのではないかが問題となると考えられるという記載があるのですね。   その整合性を,どう考えればいいのか,素朴に分からないのが一つ。それから,4ページのエなのですけれども,ここに否認権行使の効果,それから,5ページのイに関して,前夫に否認権を求める場合には,記載のとおり,前夫に子を養育する意思があるかどうかが重要となるとあります。   その意思を,どういうふうに確認をするのか。何かそういう方法がもう既にあるのか,あるいは,現時点で何らかの考え方があるのであれば,お聞かせいただきたいということで,素朴な質問で恐縮でございますが,よろしくお願いします。 ○平田幹事 まず,前者の関係についてですけれども,第3回の資料で御指摘のあった記載については,婚姻の解消が前夫の死亡ないしは婚姻の取消しによって起きた場合について,前夫の子である蓋然性がそれなりにあるのではないかと。離婚の場合とは,ちょっと別に考える必要があるのではないかというところで記載させていただいたものです。今回の記載については,一応,そこの部分については,1ページ目の最初の案のところの(注2)で記載しておりますけれども,死亡による前婚の解消及び前婚の取消しの場合については,嫡出推定の例外規定を設けるか否かも含めて,引き続き検討するというところで,そこはちょっと置かせていただいて,離婚によって前婚が解消された場合であっても,ほかの人よりは,前夫の子である蓋然性が高いのではないかといったことを記載させていただいております。   2点目が,意思の確認というところにつきましては,そこの部分について,どのようにやるかというのは,まだ特定の方法を考えているわけではございませんので,訴訟の中なり,様々なことは考えられるというふうには考えております。 ○大村部会長 1点目,井上委員の御質問に答えた形になったでしょうか。 ○井上委員 何か,すみません,また頭の体操で整理します。 ○大村部会長 私は,先ほどの井上委員の御質問を伺ったときには,前の説明では,離婚の場合に,前夫の子どもである蓋然性が,必ずしも高くないという前提に立っていたのではないか。ところが今回は,蓋然性が高いという前提に立っているのではないか。そういう御疑問だったと理解したのですが,違いますか。 ○井上委員 そうです。 ○大村部会長 それに対するお答えですが,多分,前回の議論は,仮に一般には蓋然性は高くないとしても,死別の場合や取消しの場合には,蓋然性が高いということもあるので、同じように考えることはできないのではないかという,仮の議論だったのではないかと思うのです。   この前提のところについては,前に議論したときに,高いという考え方と,いや,そうでもないんだという考え方,いろいろな考え方が出ましたけれども,それは先ほど幡野幹事から御指摘ありましたが,日本の離婚制度は諸外国に比べると規律が緩いことから,割合高いのではないかという意見が出ていて,それも踏まえて,今回,このような御説明になっているということかと思いましたけれども,それだと一応,井上委員の御疑問に答えたことになるのではないかと思いますが,よろしいでしょうか。 ○井上委員 ありがとうございます。 ○大村部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○中田委員 資料の確認だけなんですけれども,1ページの下の方に㋐,それから,2ページの1行目に㋑というのがありまして,そこで,母の再婚の日から「前婚の解消又は取消しの日」と書いてあるんですけれども,ただいまの井上委員の御質問との関係からすると,1ページの下から2ページにかけて,これは前婚の離婚という趣旨だと理解してよろしいでしょうか。 ○平田幹事 そういう趣旨でございます。正確に申し上げますと,解消又は取消しの部分を引き続き検討するというところがございますので,離婚はもちろん入っているんですけれども,その他の部分はペンディングというところではございます。失礼しました。 ○大村部会長 よろしいでしょうか。   ここで主として考えているのは,確かに中田委員御指摘のとおり,離婚の場合ですが,しかし,他の場合についても同様に考えるかどうかという問題はある。それは先ほど,井上委員の御質問に対し,事務当局の方からお答えしたところであると思いますけれども,ただ,取りあえず書き方としては,一般的な形として書いてあって,離婚以外の場合については,別途考える余地があるという整理になっているということですね。 ○中田委員 はい,ありがとうございます。 ○大村部会長 ほかはいかがでございましょうか。   いろいろ御意見を頂いておりますけれども,後の嫡出推定が覆ったときに,前の嫡出推定が戻るという考え方について,これを支持するという方が比較的多いかと思いますが,しかし御異論もあるという状況かと思います。   それから,一回的な解決については,もちろん一回的な解決が図れるに越したことはないのかもしれませんけれども,それがどのくらいの要請なのか。あるいは,一回的解決を図るということの意味について,更に考える必要があるのではないかという御指摘を承っていると理解しております。   それらにつきまして,あるいはその他の点につきまして,更に御意見があれば,頂ければと思います。 ○澤村幹事 一回的解決を必ずしも図らないということを認めた場合ということになるのですが,㋐のイメージでいった場合に,後婚の方の嫡出推定が覆った後に,前婚の夫が嫡出否認の訴えを起こしたいと考えたときに,その提起期間の起算点がどうなるのか,あるいは,それを前婚の夫がどうやって知ることになるのかといった,完全に手続的なことではありますが,その辺の検討も必要になってくるのではないかと思います。似たようなことは,一回的解決を図るとした場合でも起こるのかなと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   そのほか,いかがでございましょうか。   第6については,特にそれ以上,御意見ございませんでしょうか。 ○棚村委員 すみません,ちょっと今のところで,中田委員も先ほど言っていた,誰が否認できるかというときに,否認できる起算点とか期間の問題ですよね。   それで,前回までの議論ですと,否認権については,主観的,客観的というと,ちょっと誤解が出るかもしれませんけれども,出生を知ってから何年というものと,それから,自分の子でないとか,否認すべき事実を知ってから何年ということだという整理がありました。少し,どちらが長いか,なかなか難しいところはあるんですけれども,こういうふうな形で,玉突きみたいな形が起こっていって,否認しなければいけないというときには,事実をどのレベルで,どういう形で知ったかということで,権利を行使できるか,できないかということが決まってくるように思います。   その辺りも,やはり明確にしながら,前だと,どちらかというと,余り主観的なものを入れると,紛争が非常に長引いてしまうので,客観的に決まる日から,たとえば出生を知ったときから一定期間ということを検討する必要もある。もちろん,期間の長さは少し延びる可能性はあると思うのですけれども,ほかの国もいろいろ工夫して,苦労されているようです。日本も,知ったときからという当事者の認識をベースに,こういう複雑な父性推定を置いて,子どもを守ろうとするのであれば,先ほど言いました,権利を行使する人に十分な否認の機会を与えるということも必要ですし,それからやはり,不意打ちみたいなことで,権利行使の機会が失われるということにも配慮しなければならないのではないか。紛争の一回的解決という要請だけでは,十分な説明にならないと思うので,嫡出推定と否認制度というのは,正にそういう,真実の親子関係を明らかにすることと,子どもの早期の地位の確定や紛争の解決の両者が密接に結びついているので,連続的に議論して,最終的にはどう落ち着かせるかということになると思うので,今回の否認権者を誰に認めるかの問題と,否認できる期間の問題とは,認められた人の置かれた状況に応じて,少し弾力的に考えないといけないのかなということをちょっと,意見みたいな形になりますけれども,確認させていただきます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   少し前に,垣内幹事からも御指摘があったと思います。手続保障の問題があって,十分な機会が確保されるような制度を作っておく必要があるという御意見として承りました。   それから,先ほどから,棚村委員からも何度か,諸外国でも複雑な制度で,どのように調整するかという苦心がされているという御指摘がございました。   言うまでもないのですけれども,嫡出推定という制度自体が,なかなか分かりにくいところを持っている制度ですが,それを否認するというのがまた難しい,また更に複雑になります。二つの推定が重なるということになりますと,そこでさらに難しさが出てくるということで,かなり細かい,例外的な場合に進めば進むほど,込み入ったことになってくるのではないかと思います。原則というのが何であって,それに対して,どういう例外があり,さらに,どういう例外の例外があるかということで,だんだんケースとしては少なくなっていくのだろうと思いますけれども,その辺りについて,めり張りのある説明をするということが,広くこれを理解していただく上で必要なのかと,御指摘との関係で思いました。   事務当局も,御説明に当たっては,そういう点も御留意を頂ければと感じております。   そのほか,いかがでございましょうか。 ○久保野幹事 すみません,特段新しいことを付け加えるわけではないんですけれども,やはり私も,紛争の一回的解決という側面に着目するときに,余り,前夫と子との生物学上の父子関係があることを,実体法上の積極的な要件としたり,提訴権者の要件として求めたりですとか,あるいはさらに,養育する意思の有無というものを問うというようなことを入れていきますと,一見,紛争の中での子どもの利益の実現のためという意味では,適切なように見えつつも,やはり先ほどから議論がありますように,再婚という,前夫と関わりのない事実が発生したことによって,ここで前提として,離婚後300日の間は嫡出推定というものを採用するといいつつ,そこで言っている嫡出推定というのは,実はやはり,一般論で言っているところの嫡出推定とは異質なものを言っているということにもなりかねないと思いますので,慎重に考えるべきだという方に賛成をします。すみません,同じことですけれども。 ○大村部会長 ありがとうございました。   先ほど,棚村委員から,婚姻という制度をベースに考えるべきだという御指摘がありましたが,それと共通の御指摘であると承りました。ありがとうございます。   そのほか,よろしいでしょうか。さらに,何か御意見があれば。 ○山根委員 子どもの地位を守るということが,早期に父親を決定するということであるとするならば,そして,子が不安定な場がなるべく短くてということであれば,裁判が何度も起こらないようにするであるとか,ルールをとにかくシンプルにして,使い勝手のよいものにするという必要があると思います。   それと,ちょっととんちんかんな話かもしれないんですけれども,今の議論の中で,母親の希望とか考えとか望みというのが,言葉としては出てこないわけなんですけれども,それは,子どもに今回広げて,否認権を認めるということで,母の意見がそこに,母の意見というかな,母が登場するという理解でよろしいわけですよね。ということを確認したい。 ○平田幹事 そこはおっしゃるとおりで,子どもに否認権を認めた場合は,子の代理人として親権者である母の意見が出てくるというところではございます。 ○山根委員 分かりました。 ○大村部会長 ありがとうございます。   そのほか,いかがでございましょうか。   それでは,この点につきましては,御意見を承ったということにさせていただきまして,更に御検討いただきたいと思います。大森幹事から最初に御発言ありましたけれども,この方向で行くとした場合に,こんなことが考えられるということで,他の可能性についても,なお検討のテーブルに残っていると理解しております。   それでは,第6が終わりましたので,第7に進ませていただきたいと思います。   部会資料5の第7は,幾つかに分かれておりますけれども,このうちの6ページの1と,それから9ページの2,ここまでをまず御説明を頂きまして,御意見を伺いたいと思います。   まず,事務当局の方でお願いいたします。 ○小川関係官 それでは,御説明いたします。   1,2については,嫡出推定制度の見直しが,父子関係不存在確認や強制認知に関する実務に与える影響を踏まえながら,例えば,無戸籍者問題を解消するという観点から,有効な手段となっているとの指摘がある強制認知の手続を,この見直し後も可能とする方策について,その必要性も含めて,御議論いただければと考えて,今回,取り上げさせていただいております。   まず,1についてですが,推定の及ばない子に関する判例法理を明文化することによって,嫡出推定制度の見直し後も,これらの手続が認められることを明らかにするという方策になります。   具体的には,7ページの(2)に記載したような,民法第772条第2項所定の期間内に妻が出産した子であっても,夫の懐胎を不可能とすることが明らかな事情があるときは,同条第1項の推定が及ばないものとするという案を提示しております。こちらを叩き台として,現行法で認められている推定の及ばない子に関する規律を明文化することの当否について,御議論を頂きたいと思っております。   検討に当たっては,8ページの(4)に掲げた点についても,踏まえて検討する必要があると考えております。特に,イにも記載したとおり,推定の及ばない子を明文化した上で,更に何か,現行法とは違った手当てが必要ではないかという点についても,御意見を頂戴できればと考えております。   次に,9ページの2についてですけれども,現行法の下で,判例・通説が採用しているものではございませんが,嫡出推定制度によって保護されている利益というのは,当事者の処分を許さないものではなくて,当事者の合意があるときは,推定が及ばないということとするという考え方がございます。いわゆる合意説と呼ばれる考え方ですが,この考え方を参考に,夫及び子の合意があるときは,嫡出推定が及ばないものとするとの案について,御議論いただければと考えております。   (3)の基本的な考え方の部分を補足しますと,ここでいう合意は,必ずしも裁判手続においてされることを要しないと考えております。また,合意は,嫡出否認の手続によることなく,父子関係不存在確認や強制認知の手続をとることができることとするもので,具体的には,嫡出否認であればかかってくるような否認権者の制限や否認権の行使期間の制限,これにもかかわらず,裁判上,父子関係を否定する手段を認めることの合意であるというふうに考えております。   1,2,いずれについても,事務当局として,具体的な提案をしているものではございませんが,嫡出推定制度の見直し後も,現行法の規律の一部を維持するために,このような,1,2のような規律を設ける必要性があるかどうかも含めて,御意見を頂戴できればと思っております。   第7の1,2の説明は以上となります。 ○大村部会長 ありがとうございます。   ただいま説明があったとおりですけれども,今回,嫡出推定・否認の制度というのを改めるということで,この制度が従前よりも合理的なものになるとすれば,この手続の外で行われていたものについては,必要性が減じるということになるだろうと見込まれるわけですが,しかしそれでも,なお必要な場合というのが残るのではないかという御懸念も示されているところでございます。   その御懸念に対応するために,何か明文の規定を置いておく必要があるのかどうか。必要があるとした場合には,どのような規定を置くのが望ましいのかということにつきまして,1,2,二つの問題に分けて,問題を提起していただいたと受け止めております。   特に何か,この方向でということで,具体的な案をお示ししているわけではございませんけれども,皆様の方から御意見を頂ければと思っております。1,2併せて御意見を頂ければと思いますが,いかがでございましょうか。 ○棚村委員 質問なんですけれども,この外観説の明文化というふうにいったときに,これは,判例で,例えば最高裁の判例なんかで示されている,外観説の具体的な判示,例えば,妻が子の懐胎すべき時期に,既に夫婦が事実上の離婚をして,夫婦としての実態を失っているとか,遠隔地に居住して,性的関係を持つ機会がないことが明らかであるなどの事情が存在する場合というような,こういう細かいことを考えているわけではないと思います。そこで,明文化のイメージなんですけれども,例えば夫の子を妻が,客観的に見て懐胎する事情がない場合とか,非常に簡略化してしまうと,それを具体化する解釈みたいなことが問われます。   その辺りで,ここでの明文化というのは,どのくらいのイメージをしているのでしょうか。外観説といっても,実際の運用とか適用の場面では,個別ケースに応じて,いろいろな事情が斟酌をされたり,総合的に判断されたりしているので,明文化したから,これで何かが明らかになるとか,争いがなくなるという感じは持ってません。   つまり,明文化することのイメージをお聞きしたいのと,それからもう1点が,やはり,合意によって父子関係を否定する,可能とする方策というので,多分,合意説とか,合意に相当する審判をイメージされていると思うのですが,合意による対策では,実体的なルールとして,こういうものを制度化しようとしているのか,それとも現在あるような,手続的なレベルでの父子関係の否定という合意を考えているのかをお聞きしたいと思います。要するに,実体レベルだと,積極的な効果を合意に認める形になってしまうんですが,手続でそれが否定できないとか,そういう話だと,消極的な効果なので,割とそれほどハードルが少ないかと思います。むしろ実体的ルールでの合意をすれば,親子関係や身分関係についての処分ができる話になってくると,どこの国もそうですけれども,非常に微妙な問題があって,当事者の意思で身分関係を左右していいんだろうかという問題が出てきます。合意で親子関係を否定できる方策は正に,何が確定する法律関係の対象なのかとかいうことで,手続的な合意をイメージするのか,それとも,かなり踏み込んだ実体的な合意を作るルール,方策,制度かという,その2点を,今回の外観説の明文化というのと,それから,当事者の合意に一定の効果をもたらすという制度作りを,実体的なレベルでの効果を与えるようなルール作りだと,かなり,いろいろ問題あるかなというので,ちょっと二つ教えていただければと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   棚村委員から今,質問の形で御発言を頂きましたけれども,御意見としては,1,2について,必ずしも積極的ではないというニュアンスですか。 ○棚村委員 そうですね。両方とも,実務ではある意味では運用でかなりうまくいっていたりやっているので,お隣の韓国に行って調査をしましたときに,合意に相当する審判という類型がないため苦労しているという話を伺いました。その結果,日本とほとんど実体法の規定は同じだったので,何が起こっているかというと,事実上,慣れ合いみたいな形で,裁判を起こして争わないというやり方が採られる。そこで確定させると,そういうようなことが行われていましたので,合意に相当する審判は非常に便利な制度で是非導入したいみたいなお話も伺ったりしたので,そうすると,ある意味では,そういうツールとか手段とか方法というのは,余り固定的に条文化してしまうとよくないように思えます。このような条文を実体上のルールとして置けばそれで済むというものではなくて,窪田先生も前回言っていましたけれども,改正により事件は大分減るとは思いますし,変わってくるとは思うのですけれども,現時点ではどうなるか予測もつきません。手続的には置いておいた方が判例がこういう立場を採ったということがわかりやすい,特に合意に相当する審判とか,外観説を明確なものにしようとしても,むしろなかなか難しいのかなということで,解釈の余地を残しておいた方が,制度としては運用しやすいのかというので,この点での制度化に現段階では余り積極的ではありません。 ○大村部会長 ありがとうございます。   御意見は今のような形で承りましたけれども,何か,先ほどの御質問について,お答えがあれば。 ○平田幹事 明文化のイメージ,具体的なものというところではありませんけれども,一応部会資料に書かせていただいているとおり,やはり具体的に全部書き込むというのは難しいので,夫の子の懐胎を不可能とすることが明らかな事情があるときというように,ある程度抽象化したものをイメージしております。   ただ,御指摘のとおり,その場合,事案の解決を阻害するのではないかといったところが懸念としてあると思われますので,御議論いただければというふうには考えてはおります。   2点目の,合意によって父子関係を否定することを可能とする方策というところについてですけれども,基本的には手続的なものをイメージしておりまして,ここで御提案しているのは,この合意をすることで,嫡出否認の訴えによることなく,父子関係を争えるようにすることができるといったようなことを想定しております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   今,一応の考え方をお答えいただきましたけれども,何か積極的な,具体的な案をお示ししているというわけではございませんので,他の考え方も含めて,自由な形で御意見を頂ければと思います。 ○窪田委員 今,最後にお答えいただいた部分で,棚村委員からの御指摘について,10ページに書かれていることだろうと思うのですけれども,この合意というのは,飽くまで嫡出推定の否認権者や行使期間についての手続的な制限を解除する合意であり,実体法上のものではないということではあったのですが,でも,本来,嫡出推定の否認権者は限定されているし,否認権の行使期間も限定されているというのは,やはり単に手続の話ではなくて,それに基づいて,やはり実体法上の父子関係というのを確定させるという意味を持っており,やはり単に手続上の合意だというふうにはいえないのではないかなと思います。   さらに,当事者の合意ということに関しても,結局,この場合の合意というのは,夫や子らのということではあるのですが,子ども自身については,実際には考えられませんので,夫と母との合意ということになるのですが,それによって,やはり父子関係が決まるということに対しては,やはり,かなり慎重に検討した方がいいのではないかなと感じました。絶対に駄目だという趣旨ではありませんが,やはり,かなり慎重に検討した方がいいのではないかなと思いました。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○久保野幹事 すみません,合意の点で質問なのですけれども,今回,裁判手続の外で行うことができるものとして御提案がされていて,その合意の存在を前提に,認知の訴えなどで,合意の存在を前提に判断ができるとなっていますときに,生物学上の父子関係が存在しないことを要件としているのか,していないのかというところについて,すみません,ちょっときちんと読み取れなかったので,確認のために教えていただければと思います。 ○小川関係官 親子関係不存在確認の実体的な要件として,生物学上の父子関係がないことが必要となってくると考えております。 ○久保野幹事 こちらで誤解していたら申し訳ないんですけれども,裁判手続の外で合意があって,嫡出推定は及ばないというふうに,あるいは嫡出否認の手続を経ずに,否定できるというふうに合意をする,その後,生物学上の父に対して認知の訴えを提起する,生物学上の父というのは,最終的には訴えを経て初めてわかる,何というんですか,当事者は,その人が生物学上の父だと思って合意をして,訴えを提起するかもしれませんけれども,それは裁判によって,認知の訴えで,初めて明らかになることだと思いますので,それが明らかになる前の段階において,合意だけをしていることにはどのような意味があることになるでしょうか。合意はされているけれども,生物学上の関係が本当にあるかどうか分からない状態で,認知の訴えを起こすことができるといったときには,その合意によっては,まだ完全には推定は排除されていないけれども,ペンディングの状態で,認知の訴えができ,認知の訴えで,実はやはり生物学上の関係がなかったことが確定されると,追完のようなことがされて,合意によって,元の父子関係が排除されたということが確定するといったようなことになるのでしょうか。 ○平田幹事 そのようなイメージでは考えております。 ○久保野幹事 分かりました。ありがとうございます。 ○垣内幹事 先ほど窪田委員がおっしゃったことと重なるところがあるんですけれども,やはり一方で,ここでの合意は,手続的な制限を解除する合意であるといわれるわけですが,しかし,その効果として,嫡出推定がなくなるということで,だからこそ,親子関係不存在確認の訴え等ができる状態になっているということで,確認の訴えができるというのは,実体法の状況がそうなっているということですよね。   ですので,正に親子関係が,もちろん本当になくなっているのかどうかは,生物学上どうなのかということが判定して,裁判上は確定されることにはなるんだと思いますけれども,しかし理論的には,実体法上,もし生物学上の父でなかったなら,なくなっているということで,その結果は,合意によって直ちに生じているということではないかと思いますので,何か,こういう説明が本当にできるのかなというのは,少し疑問に感じるところがあるということが一つと,他方で,もし本当に手続的な意味しか持たない合意であるというふうに考えるのであれば,説明の仕方として,父子関係を否定することを可能とする方策とかいった言い方は避けた方がいいのではないかと。   嫡出否認の訴えによらずに,父子関係を否定する手続をとることができるようにする方策とか,何かそういうお話なのかなという感じもいたしまして,その辺り,さらに,もしこういうものを考えていくのであれば,検討が必要なところがあるのかなという印象を持ちました。 ○大村部会長 ありがとうございます。   今,2番目の方策,合意によるというのが話題になっておりますけれども,こちらについて,更に御意見があれば。 ○中田委員 手続か実体かということで教えていただきたいんですけれども,合意があって,合意に相当する審判があった後,利害関係人の異議申立てによって争われたときに,その後どうなるんでしょうか。合意の効力は,後の訴訟でも生きるのかどうか。   先ほどの垣内幹事の御質問とも関係するんですけれども,単に手続的な効果にはとどまらないのではないかなという気がしたものですから,お聞きしている次第です。 ○大村部会長 手続の問題なのか,実体の問題なのかについて,少し整理が必要ですね。 ○平田幹事 ちょっと検討させていただきたいと思います。 ○大村部会長 今のところ,2番目の方策については,先ほどの事務当局からの説明を前提にするにしても,純粋に手続的なものであると説明するのは,なかなか難しいのではないか,手続的なものに純化して組み立てるためには,別途,表現も含めて考える必要があるのではないかというのが,皆様のほぼ共通の御指摘かと思って伺いました。   そうなるとこれは,もし何か規定を置くのだとした場合には,工夫が必要なのかと思いました。皆様の御指摘も踏まえて,少し整理をしていただく必要があるかと思います。   この第2点について,更に御意見があれば伺います。今のところ,実体についてルールを設けるのはいかがという御意見が強いと思っておりますけれども,そういうお考えだということで,その点はよろしいでしょうか。   その上で何か,もしできるのならば,考えてみるということで,それも難しいということであれば,少なくとも規定を置くのは難しいということになるかもしれないと思います。他方,もう一つ,1の方がございますけれども,これについてはいかがでしょうか。 ○大森幹事 6ページ,第7の表題が,嫡出推定制度に関するその他の見直しとされていることとも関連して,お聞きしたいことがあります。   この明文を置く必要があるかどうかは,父子関係について推定という概念を維持するかどうかにも大きく関わっているようにも思われます。   先生方の先ほどの議論は,推定概念を維持することを恐らく前提として,及ばないという概念を用いて,解釈によって従前どおりいけるのではないかといったことがあったかと思います。しかし,現行法の推定が,特殊な推定だともいわれている中で,また,諸外国の法制度でも,端的に父とすると規定していることも含めて,今回法改正するに当たっては,推定という概念を維持するのかどうかということが,順番としてはまず検討する必要があるように感じています。そして,仮に端的に,父とする,母とすると規定し,推定という概念を使わないとするのであれば,推定が及ばないという概念は使えないことになりますので,そうすると,何らかの明文を置かないと,外観法理が解釈上も出てこないとも思います。そのため,外観説の明文化を検討するに当たっては,そういった関係からも,まずは嫡出推定制度の見直しの中で,推定をどうするかということについても,議論,検討をさせていただいた方がいいのではないかと思います。   あと,進行の関係で,もう一つ伺いたいことがあります。その他の見直しということで今回,3点ほどの論点が挙げられていますが,ほかにも嫡出という用語を使うのかという問題や,母子関係の規律をどうするかという問題について,これまで指摘があったものの,今日の資料では出ておりません。これらについては次回以降,この第1読会のどこかで検討するのかどうかについて,併せて質問させてください。 ○平田幹事 まず,推定という概念を維持するのかというところについては,ちょっとどうするか検討させていただきたいと思いますが,この際,できれば1点伺いたいのですが,先生のお考えとしては,これは,父とするとした方がよいというようにお考えでしょうか。その上で,外観説の部分を明文化した方がよいのではないかというお考えをお持ちということなのでしょうか。すみません,質問で返すようで。   また,嫡出の用語と母子関係をどうするかというのは,ちょっと今後の進行を含めて検討させていただきたいというふうには思っております。 ○大村部会長 三つ御質問を頂きましたけれども,あとの2点については,今,平田幹事からお答えがあったとおり,今日はこのテーブルに上がっておりませんけれども,問題としては御指摘を頂いているところで,ここでも議題に挙がっていたことですので,どこかで何らかの形でということになるのだろうと思いますけれども,それがどこなのかと,どんな形なのかというのは検討したいということかと思います。   それから,1点目については,用語を変えるかどうかという問題と,実質が何か変わるのかという問題があり,実質が変わるとすると,判例法理との関係について,何か言わなければならない。では,用語が変わるだけの場合はどうなのかといった幾つかの問題があろうかと思います。   用語をどうするかは,どこかでまた考える必要があるのかもしれませんけれども,大森幹事としては,ここで出ている問題については,どういう規律が望ましいというお考えですか。 ○大森幹事 棚村先生おっしゃるように,柔軟な解決ができる余地を残すという意味では,解釈ができる方が望ましいのではという考えが一方ではあるのですが,この推定が及ばないという概念を維持するために,推定という概念を残すというのは,何か本末転倒的な気もして,まずは父子関係の規律の在り方として,どういう規律があるべきなのかということを議論した上で,それを踏まえて,では,推定が及ばないという概念については,規律によってどういう影響があるかを確認し,補完すべきところは補完していくと考えるのが筋だろうとは思っているのですが。 ○大村部会長 ありがとうございます。   十分理解できているかどうか分からないのですけれども,これを何らかの形で明文化するということをまず議論するというのはおかしいということですか。 ○大森幹事 もし端的に,父とするというような規律に変え,推定という規律にしないというのであれば,正に明文を置かないと,従前の解釈もできない方向に論理的にはなると思います。そのため,推定という規律を維持するのかどうかが分からないまま,議論することに躊躇感があります。 ○大村部会長 ありがとうございます。御趣旨は分かったような気がいたします。   どういう書き方になるかによって,推定という言葉を変えるか変えないかによって影響が出るので,今の段階で,そのことを決めずに議論するのは難しいという御発言であると承りましたけれども,何らかの新しい制度ができた後に,従来外観説といわれていたものが維持されるのか維持されないのか。何も書かないと分からないという状況になって,今後の実務に委ねられるということになるかと思いますけれども,それでいいというお考えの方々も,委員,幹事の中にはいらっしゃるのではないかと思いますが,いや,従前のものが維持されることは明確に確保されないと困るというお考えの方もおられて,確保されないと困ると考えるのだとしたら,何か規定を置くということが考えられるだろうかというのが,多分,今日の問題提起なんだろうと思います。今後の見通しとして,嫡出推定・否認,言葉の問題はともかくとして,そういう制度ができて,その外で父子関係が争われるということについては,従来どおりの争い方が残るということを,言葉の問題とは別に,書き表した方がいいとお考えでしょうか。それとも,そこは今後の運用に委ねればいいのだというお考えでしょうか。そこはいかがでしょうか。 ○大森幹事 実務の経験から申し上げると,今回の改正によって,解釈の余地が狭まるような結論,結果になることは避けたいと考えております。   そのため,推定概念の維持の有無によって影響が生じることになるのか,ならないのかという点が非常に気になっていて,まずはそこをはっきりさせたいという思いがあります。   その上で,解釈が従前より狭まっていく可能性があるとした場合には,何らかの形で補塡,補完することを検討していく必要があるだろうと思います。その一つとして,明文化ということも,選択肢として出てくる余地はあるのだろうと思います。   ただ,その場合に,ほかの先生方も御指摘のように,適切な言葉があるかというところは,非常に私も頭を悩ませています。明文を置かなくても,従前の解釈によって柔軟に対応できるというのであれば,わざわざ,逆に足かせになるような明文は置かない方がいいとは思うのですが,果たしてそうなるかを見極めながら,明文化の内容について考える必要があると考えています。 ○大村部会長 ありがとうございます。   新しい制度ができるということを前提にして,その後,今後の実務がどうなるかということを考えつつ,今議論していますので,出来上がる新しい制度がどうなるかに依存するところがあって,なかなか今の段階で,確定的にどうするかというのを決め難い。そういうところは,確かにあるのだろうと思います。   そういう前提で,棚村委員は,しかし,なかなか明文化するのは難しいのではないかという御感触を示され,大森幹事も,狭くならない方がいいというか,可能性は残った方がいいけれども,しかし,書くのはなかなか難しいかもしれないという御意見であったということで,取りあえずよろしいですか。 ○窪田委員 私も別に,書いた方がいい,書かない方がいいということで,確たる考えがあるわけではありませんが,先ほど棚村委員から,要件をどうやって書くのかという問題があるというご指摘がありましたが,私自身は,嫡出推定の及ばない子というのを明文化した場合には,それ以外の問題もあるのかなという気がしています。   まず,現在の理解ですと,嫡出推定の及ばない子という形になりますと,あとは親子関係不存在確認訴訟ということになりますので,確認の利益さえあれば,期待的な相続権があれば,訴えが提起できるというようなことになるわけですが,仮に外観説を前提としても,当事者は別に争っていないし,これで親子関係に関しては構わないと言っているときに,なぜほかの人が口を出せるのだろうかというのは,やはり私自身は,かなり気になっております。   また,3の問題とも少し関連しますけれども,一般的にも嫡出推定の及ばない子だという形になれば,親子関係不存在確認ですので,普通の手続になってしまうと。その意味で,少なくとも,そこの部分までを含めたものを明文化するということに対しては,やはり慎重であってほしいという気がします。   もちろん今回,嫡出否認制度の否認権者を見直すということによって,ある程度は,従来,いわゆる300日問題とかでいわれてきたことに対しても対応できると思います。もちろんそれでは足りなくて,嫡出推定の及ばない子という概念を前提としつつ,認知訴訟の訴えが提起できるような仕組みを残しておいた方がいいのだということもあり得るのだろうとは思いますが,それを正面から,その部分をいかすために,制度を正面から認めてしまったときに,非常に強い,大きな制度になるのではないかなという,その点をやはり,私自身は少し懸念しております。   繰り返しになりますが,当事者が親子関係に関して,これでいいと思っているにもかかわらず,ほかの者が確認の利益があるからということで争える仕組みというのは,必ずしも当然ではないのではないかなという気がしております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   現状を明文化すればいいのかということも考える必要があるのではないかという御指摘として伺いました。特に,誰が争えるのかということについて,問題を含んでいるのではないかというご指摘がありました。   現在は,嫡出否認の訴えで争われる場面が狭過ぎるので,それを救済するために一定の役割を果たしているとしても,それらについては,新制度が吸収,少なくとも相当程度は吸収できるのだとすると,現行制度を明文化するのは,むしろ弊害があるのではないかという含みの御発言かと思って伺いました。   ほかに,この点いかがでしょうか。 ○久保野幹事 今の御意見に賛成で,言い方を変えるだけではありますけれども,推定の及ばない子に関する判例法理によって,今,実現されようとしていることというものを確保した方がいいのかという問題の立て方も先ほど示されましたけれども,その「確保した方がいいもの」が,新しい嫡出否認制度ができたときに,どのぐらい残るのかというのが,今のところ,私もまだ,余り見えないような気がしております。   といいますのは,ちょっと遠回りな言い方になりますが,先ほどの論点で,私は,一方で婚姻制度というものに引き付けた嫡出推定の捉え方に基づいて発言をしましたけれども,そちらを重視して,嫡出推定を考えた方がいいとまでは,思っているわけではありません。今回の検討というのは,婚姻制度という性質の嫡出推定の要素と,蓋然性ですとか血縁というものを,どううまくバランスをとっていくのかということを,具体的な制度のレベルで実現しようということをやっているというふうに捉えておりまして,推定の及ばない子に関する判例法理というのは,嫡出否認の提訴権者や期間が限られているという,婚姻制度的な嫡出推定制度が,ある種,強過ぎるといいますか,現代の感覚からすると,もしかすると行き過ぎているかもしれないということを緩和するために編み出されてきたものではないかと思っています。今回,上記のバランスを変えていくことによって,判例法理で担われてきたことの大部分が,吸収されるといいますか,解消される可能性もあるのではないかというように思います。   新たなバランスのとり方において,どのぐらい解消されるかを見極めた方がよく,見極めた後には,従来の判例の法理を何かの形で確保し,明文化するという余地は,かなりなくなるのではないかとも思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   先ほど,2について,どちらかというと消極的な意見が続きましたが,今,1についても,余り積極的な声は聞かれないように思いますけれども,他の委員,幹事,いかがでございましょうか。もちろん,消極的な意見を更に続けていただいても構わないのですが。 ○髙橋委員 従前の判例で,7ページの下の方に,判例といいますか,失踪中とか出征中とか刑務所在監とか外国滞在とか,これらが,夫の子の懐胎を不可能とすることが明らかな事情ということで,例示というか,紹介されていて,従来はそうだったんだろうなと思うんですが,やはり生殖医療技術がいろいろ発達してきています。体外受精が可能になってきていますので,人間同士が近くにいなくても,精子と卵子,どこかに預けておけば,当人同士が別,夫婦が別のところにいても,今,子どもを作ること,可能なわけですね。   別居をしているときに,病院,不妊治療で預けていた精子が使われて,子どもができたと。それって外観があるのとか,ないのとかという議論になると,別居していたんだから外観ないのかなと。いやいや,今は生殖医療技術を使うのはあるでしょう,外観がないとはいえないのではないとか,ちょっとそんなことを考えると,私,ちょっとよく分からなくなって,なかなか体外受精なんていうことも念頭に置くと,書き方がとても難しくなるのかなという印象をちょっと持っています。 ○大村部会長 ありがとうございます。   従前の要件の書き方でよいかどうかも分からなくなる,そういう場合が出てくるかもしれないという御指摘ですね。ありがとうございます。   ほかにいかがでございましょうか。 ○幡野幹事 今後,出訴期間の制限が長くなることに伴って,嫡出推定制度の意味も変わってくる部分があると思います。   例えば,提訴権者が広がり,そして,提訴期間が長くなったときに,先ほど窪田先生もおっしゃったことですけれども,それでも誰も否認権を行使しないというときに,結局,提訴期間の間,親子としての生活を行っていて,その事実状態によって,その親子関係が承認されるという趣旨が付与できるように思われます。これまでの1年という短い提訴期間だと,事実状態の尊重という趣旨は見出されてこなかったのですが,これからはそのような趣旨も,出訴期間制限が過ぎたということの意味に与えられてくるように思います。   そうなりますと,7ページにある,子の懐胎を不可能とすることが明らかな事情があったとしても,10年なり何なり期間がたった後に,やはり親子関係を否定したいと夫が考えたとしても,いや,それはできませんという判断をすることはあり得るのではないかと思います。そのような意味で,現行法と同じ基準で嫡出推定を覆すということにはならないのではないかと思います。   そういう意味で,今回,明文化をするということには,私は,新たな趣旨が嫡出推定に与えられる可能性もあるという理由で,消極的な考え方を採っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   新しい制度を作ると,従来の外観説というのも変わってくるのではないかということで,もし考えるのであれば,そういうことも織り込まなければいけないということになるので,従来のものをそのまま明文化するということでは対応できないのではないか。むしろ,従来のものを明文化するという方策は採らない方がよいのではないか。そういう御意見ですね。ありがとうございます。   ほかに,いかがでございましょうか。 ○棚村委員 先ほど,要件とするときに,なかなか難しいだろうという意見も言ったのですけれども,今,各委員や幹事の皆さんからも出ていたように,新しく改正した場合の制度がどういうふうに機能するか,問題の解決についてどのように役立つか,あるいはどんな形でもって使われるんだろうかと考えています。そういうところを見ないで,従来のものをただ明文化して置いておくというのは,やはり非常に危険な感じを私も考えています。   特に,最初のところから出ていますけれども,要するに,法的な親子関係,実親子関係は血縁で決まるのか,それ以外の要素もどこまでカバーするのかというのは,実はどこの国でも悩んでいますし,我々も苦しんでいるところなんだと思います。ただ,血縁から出発しましょうとか,あるいは婚姻制度というものを大事にしましょうという政策的判断でしかありません。各要素の中で,どこまで広げられるかということで,制度の目的とか趣旨も随分変わってくると思います。   そのときに,従来の外観説,要するに,妻が夫の子を懐胎するが客観的に困難な事情とかといった場合に,飽くまでも原則は血縁ベースを前提にしています。性関係の可能性があるかないかとかというレベルのものを積み上げながらやっていますから,その考え方と異なるような形で親子関係を決めるということが,新しい改正法の中には,要素としては入ってくる可能性もあるとは思います。   ただ,限られた中で,先ほど大森幹事もおっしゃったんですけれども,推定という仕組みを置かないで,であるというふうにした場合も,結局,推定というのは一体何を推定しているんだという問題があって,それで,先ほどから言うように,事実の蓋然性とか,そういうようなことを基礎にしながら,可能性の高いものを推定しておいて,一定の人が一定の期間まで,それを覆せるという構成が大切です。こういう法律の規定というのは,財産分与のルールもそうですけれども,それをどれくらいの証明によって覆すことが可能かどうかという,反証をどの程度あげさせるかということによって,実は,かなり平等分割に近いものになったりもするわけですよね。それから,どれくらい,どういう反証をどんな形で上げれば,それが覆るかということに応じて,ちょっと強力さも違うわけです。   今まで嫡出推定というのは,嫡出否認とセットになって,余りにもちょっと硬直化してというか,厳格に過ぎて,それを抜けるルートして,親子関係不存在とか強制認知みたいなことが出てきてしまうと。その中で不整合が生じているので,それを少し修正をして,どこまで修正できるかというのが,私も第1回に御質問したのですけれども,結局,嫡出子と嫡出でない子という枠組みをそもそも変えましょうという流れが世の中にあるわけですけれども,それも全てやると,全面的な建て替えみたいなことになって,取壊しになるわけです。   それが,今の現状の中で可能かどうかということを少し考えながら,理想に向かって,少し動くんだけれども,ここまで修繕なり大きく変えることによって,少しでもよくできるということであれば,それもいいだろうとは思います。少しいい加減な話になるのですけれども,推定という仕組みを使って,それを否認できたり否定できる人をどこまで認めるかということに応じて,その推定の強さみたいなものも決まってくると思いますので,これはかなりテクニカルな話だと思っております。   それで,今回も結局,これらの明文化という提案を,外観説をそういう形で置いたとしても,むしろ古い皮袋みたいなものでできたもので,それに新しいブドウ酒というわけにはなかなかいかないのではないか。つまり,新しいブドウ酒というものがあって,新しい皮袋みたいなものをもし少し作っていこうとしたら,既存のものはそれをまたどういうふうに維持できるのか,使えるのかどうかも含めて検証した上で,次のステップとして,それを維持できるか。むしろそれは,維持する必要がないということで,運用上も変わってくるかもしれません。それを頼りにしなくてもいいのかなというのが,実は外観説の明文化について否定的に思っています。 ○大村部会長 ありがとうございます。   幾つかの御発言がありましたけれども,先ほどの大森幹事の御発言との関係でいうと,「子とす」というのと「推定す」というのは,両極なのですけれども,現実には,その間の効果が採られていて,そこは説明の問題になるのではないかというお話が一つと,それから,これは先ほど,何人かの委員,幹事から御発言があったところですけれども,今回の制度改正によって,新しい要素が盛り込まれる,あるいは盛り込まれ得るということになるときに,従前のものを前提にしたものをそのまま置くというのはやはり問題ではないかというお話がもう一つあったかと思います。   しかし,それに代わる新たな制度を何か作るというのも,直ちには難しいだろうから,しばらくはこの状況でやってみて,必要があれば,更に次のステップで考えたらいかがということですね。ありがとうございます。   ほかに,この問題について,いかがでしょうか。 ○髙橋委員 ちょっとそれてしまうんですけれども,8ページの(4)のエの性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律に関する記述なんですけれども,これは外観説で説明できるかという話がまずあるんだと思うんですが,今日のレジュメでは,必ずしも明らか,説明できることができるかどうかは,必ずしも明らかではなくとありまして,別途対応が必要か否かを検討する必要があるとも考えられるとあるんですけれども,私としては,こういうことについて,きちんとした対応を考える必要があると考えています。 ○大村部会長 ありがとうございます。   生殖補助医療関係については,一般的な自然生殖を前提にしたルールを作ったときに,支障が生じないのかどうかということについて,どこかでチェックをするということが必要かと思いますけれども,8ページのエというのは,そういう問題があるということを指摘しているものかと思います。   髙橋委員の御発言は,どこかで,こういう問題を検討する必要があるのではないかという御指摘として承りました。   先ほど棚村委員から,嫡出推定というのは必ずしも血縁をベースにしないのではないか,そういう説明もあり得るという御発言がありましたけれども,このエの問題は,それとも絡む問題なのかと思います。   生殖補助医療をどのように扱うかという問題とも関わってまいりますけれども,問題提起として受け止めさせていただきまして,必要に応じて,必要な機会に議論をするということにさせていただくということかと思います。   ほかにいかがでしょうか。 ○井上委員 また素朴な質問で,すみません。   9ページの2のところなのですけれども,9ページの(1),検討の必要性の2段落目のところに,そして,現行法について,判例・通説が採用するものではないが,夫や子等の当事者の合意があれば,嫡出否認の訴えによることなく父子関係を争うことができるとする見解があるというところと,その次の段落のところ,上記のような指摘を踏まえ,合意説を前提に,形式的には民法第772条が適用される子について,当事者の合意があるときは嫡出推定が及ばないとの規律を置くことを検討することが有益であるとも考えられるという部分なのですけれども,この場合なのですが,現在検討中の否認権の行使期間とは関係なく合意ができるということなのか,ちょっと基本的なところですが,そこについて教えていただければと思います。 ○平田幹事 そこの部分は,否認権の行使期間とは関係なく合意ができるということで考えております。 ○大村部会長 ほかにいかがでございましょうか。   それでは,1,2について,取りあえず御議論を頂いたということにさせていただきたいと思います。   1についても2についても,なかなか難しい問題があるのではないかという御指摘が多かったと理解いたしました。その御指摘を踏まえて,更に何か方策を講ずる必要があるかどうかということを,事務当局の方で考えていただくということにしたいと思います。   もしかすると,まだ御発言あるかもしれませんけれども,ちょうど中間の時間を過ぎておりますので,ここで休憩を入れさせていただきたいと思います。今,3時40分ですね。3時55分まで休憩いたしまして,再開して,もし何か御発言があれば伺いまして,ないようでしたら,次の3に進ませていただきたいと思います。休憩を致します。           (休     憩) ○大村部会長 それでは,再開したいと思います。   先ほどは,部会資料5の6ページ以下,第7の嫡出推定制度に関するその他の見直しのうち,1と2について御意見を頂きました。大体御意見を頂いたかとは思うのですけれども,何かもし追加の御発言があれば,承りたいと思いますが,いかがでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは,この点につきましては,先ほど申し上げたような形で,更に検討させていただくことにいたしまして,本日残りました最後の論点になりますが,資料の10ページ,3の人事訴訟法第41条の見直しという点につきまして,事務当局の方から説明を頂きます。 ○小川関係官 それでは,御説明いたします。   部会資料5の10ページを御覧ください。   本日のこれまでの議論とは少し毛色が異なるのですが,第3回会議でも御議論いただきました嫡出否認の否認権者の範囲に関連しまして,更に御検討いただきたい論点ということになります。   人事訴訟法第41条では,10ページの3の(1)に記載しておりますとおり,否認権者である夫が否認期間内に嫡出否認の訴えを提起することなく死亡した場合等に,夫の一定の範囲の親族について,嫡出否認の訴えの提訴権を認めています。この規定の趣旨につきましては,(2)のアのとおり,死亡した夫の意思とは無関係に,これらの者にも否認の訴えを提起する利害関係があるということが指摘されております。   しかしながら,否認権者の範囲を定めるに当たって,父が確保されることによる子の利益を保護することが重要となってくると思われますところ,夫の一定の範囲の親族に,子の利益に優先するだけの否認のための利益があるのかどうかというところを,改めて検討する必要があるのではないかと考えております。   そこで,人事訴訟法の第41条第1項を見直すことについて,御議論を頂ければと思っております。   併せまして,(2)のイのとおり,人事訴訟法第41条第2項の方は,夫が否認訴訟を提起した後,死亡した場合に,第1項を前提に,夫の一定の範囲の親族に訴訟の受継を認めております。この規定についても,第41条第1項を見直すのであれば,併せて検討する必要があると思いますので,御議論いただければと思っております。   部会資料の第7の3の御説明は以上となります。 ○大村部会長 ありがとうございます。   今,御説明がありましたとおり,人訴の41条について,併せて見直しが必要なのではないかということにつきまして,御意見を頂きたいと思います。   先ほど,窪田委員の御発言の中に,親子関係の当事者以外の人が争えるということについては,どう考えるのかという御指摘もありましたが,それにも関わる問題になっているかと思います。   どうぞ,まずは御質問があれば,御質問を伺います。   では,御質問と併せて,意見の方も伺えればと思いますので,御質問,御意見,どちらでも結構ですので,お願いを致します。 ○棚村委員 これについても,結局,嫡出推定,それから嫡出否認という権利というものが,一体どういうもので,誰に対して,どういう趣旨で与えられているかということと関わってくると思います。   特に,親子関係が認められると,相続とか扶養とか,いろいろなこれに付随する権利義務関係が認められてきてしまう。そういうことで,今回,ここの規定なんかを見ましても,やはり相続ということを中心にして,法律上の利害関係がかなり強く及びそうな人たちの範囲を一定程度限定しながら,死亡した場合とかそういう立て付けになっていると思います。   ただ,これについても,余り大きな変更することによって,否認という権利が誰にどういう形で認められて,どれくらいの期間認められるかという,そういう話と少し連続するというふうに考えています。その上で,正に嫡出推定が及んだ場合に,それを誰がいつまで否定できるかとか,そういうことと関わる人事訴訟法の規定ですので,現段階でこれをある程度クリアな見通しが立ってクリアな位置付けができた場合には,可能かもしれないのですけれども,少なくとも,それができた上で議論をした方がはっきりしてくるのかなという感じを持っています。   というのも,お隣の韓国も台湾も,日本の嫡出推定・否認制度を当初導入をして,その上で当該規定を改正をしたり,変えているのですけれども,韓国でもこの部分は残ってしまっているようです。   ここでも,大きく問題になるのは,やはり相続や財産的な問題みたいなことがあるようなので,特にいじっていないところを見ますと,今後どんなふうな形でこの規定が使われているのかというのを検討する必要があると思います。今回の改正をして,嫡出推定や否認の制度の趣旨とか目的みたいなものがある程度見えてきたときに,この人事訴訟法の規定についての改正とか改廃みたいなことをしたほうが良いように思います。   順番でいくと,外観説みたいなものを明文化するという提案とか,合意説に沿った何らかの方策みたいなものを検討したときも,少しお話ししましたが,嫡出推定,嫡出否認制度が,ある程度明らかになってきたときに,死亡した場合の手続的な規定,誰が訴訟を引き継ぐとか,どこまでの人がどんな形でもって訴えを起こせるか検討してはどうか。ステップとしては,むしろ本体を少し整理して見通しを付けた上で,それに付随するあるいは関連する手続的な問題として,この議論をした方がよいように思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   先ほど,1,2の論点について御意見を頂きましたけれども,それらと比べて,やはりこの点の優先順位というのは相対的に後なのではないかという御指摘ですね。   考えるべき事柄というのはあるかもしれないけれども,なかなか前提が定まらないところでは難しいという御指摘かと思って伺いました。   ほかにいかがでしょうか。 ○窪田委員 制度の基本的な部分を先に決めた上で議論するという棚村委員の御指摘は,そのとおりだろうと思います。ただ,私自身は,ここで問題を提起していただいたということは,むしろ有り難いというか,やはり大事なポイントなのではないかと思っております。   一つは,人事訴訟法41条をそのまま維持するとしても,否認権者が増えますと,否認権者が増えた部分に対応してのルールというのが必要になります。そのときに,本当にこれを前提としてやるのかということが問題になると思いますし,ここから後は,純粋に私の個人的な意見,先ほど述べたことにも重なってしまうのですが,やはり相続権を害されるとかという話で,親子関係を決めるということについて,訴えを提起できるということ自体について,私自身は,かなり違和感を持っております。   本来,親子関係に関しては,親子関係の当事者が否認であるとか,そうした枠組みの中で判断をすることができるというものであり,その意味では,やはり大変,属人的な権利なのではないのかなと思いますので,当然に誰かに承継されるようなものではないだろうと思います。   また,相続に関しても,本来,身分関係が先に決まっていて,その身分関係に基づいて相続ということが考えられるのであって,血縁関係を前提とした上で,観念的な親子関係なりを考えて,そして自分の相続権を害される,だからこれは,親子関係認めないのだというのは,それはやはり論理が逆転しているのではないかなという印象を持っております。   だから,その点では,棚村委員がおっしゃるように,最終的にもっと詰めた上で検討するというのは,それでよろしいと思いますが,こうした論点があるということについては,私自身は共感を感じます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   先ほどもちょっと触れましたけれども,窪田委員の基本的な考え方からすると,このような問題について,対応するということが望ましいのではないかという御発言だったかと思います。   その前に,今回,制度を手直しして,否認権者の範囲が広がるということとの関連について,御発言がありましたけれども,41条1項は,否認権者が拡大されたことに伴って,何かやはり修正はしなければいけないだろうという前提ですか。 ○窪田委員 今,夫になっていますけれども,夫は否認権者だから夫になっているだけで,これが否認権者が拡大された場合にどうするかという問題は,当然あるのではないでしょうか。 ○大村部会長 取りあえずは子ですね。 ○窪田委員 はい。 ○大村部会長 もし,否認権者の拡大に伴って,この規定を見直さなければいけないということになるのだとすると,それと併せて修正をするということが,必要にはなってくるということになるのかと思いますけれども,そこは何か…… ○小川関係官 もし,そういった方向になった場合には,現行の規定でいいますと,3親等以内の血族ということになりますので,例えば,生まれた子のお兄さんだったりに提訴権を認めるのかというところも,検討する必要が出てくるのかなと思います。   ですので,現時点では,現行法のとおり否認権者が夫に限られていることを前提に,この規定について御議論いただきまして,一定の方向性がもし出るのであれば,今後の検討のためにも有り難いなと。そういう意味で,この段階で検討をスタートさせていただければなというふうなところです。 ○棚村委員 その上で質問なんですけれども,要するに,相続権を害されるということについては,財産的な利益を中心に見ているわけです。多分,家制度とか,そういうときから少し想定されていることなので,財産の承継とか,家の承継とかが重要な時代の名残みたいなのがあるのだと思います。   ほかの国とも少し比較しながら考えなければいけないのですけれども,本当に属人的なものとして,一身専属的な身分関係のところに限定をして考えていくのか,それとも,相続も含めた財産上の利益みたいなものについても一定範囲でもって訴えを起こせると考えるのか。身分関係を否定することによって,例えば,相続人になれなかったり,あるいは相続分が減少するとかという説明が今までされてきていますので,そういう辺りの利害関係の強さとか内容についてどういう人たちを考えるのか。   それから,窪田先生も先ほどちょっとおっしゃっていましたけれども,本人限りでもって,身分的なものに特化してくると,一身専属的なものなので亡くなれば,争えなくてもいいかなということもあり得ると思います。それから,訴訟の承継の問題も,新しい訴えを起こすのか,あるいは,それを引き継がせて続けてやらせるのかというのも,どちらの利益なり権利としての性格みたいなものを意識するかで,大分変わってくるように思います。   その辺りのイメージを具体的に共有しないままに議論していいのかというのが私自身の素朴な疑問でした。確かに変える可能性は出てくるのですけれども,イメージしているものが,身分的な地位とか身分的な権利を念頭に置くと,余り広げなくていいだろうとか,3親等なんていうところまで広げなくていいのではないかということにもなってきます。しかし,そうではなくて,財産的なものになると,かなり広がってきてしまうのかなと思います。   今,相続を考えれば,ある意味では代襲相続で,生前関わりがなかった人たちまでたとえば,3親等なので兄弟姉妹とか,余りお付き合いがない人たちまで出てくる可能性もあり,限定してもよいようにも思えます。恐らく,韓国が見直していないというのは,余り否認権者を増やしたり,否認期間を調整することによって,血縁的な要素やDNA鑑定とかで強くしていくのか,それとも,血縁以外の社会的関係を少し重視するのかでかなり対立というか,あるようですので,なかなか,すぐ結論が出るような問題なのかなとも思います。ということで,窪田委員の御意見を否定するわけではなくて,論点として,当然考えておく必要があるだろうと思うのですけれども,考える方向性というのが真っ二つに分かれそうなので,その辺りをちょっと御質問したかったというのが発言の趣旨です。 ○大村部会長 ありがとうございます。   問題はあるけれども,議論をすると,意見が分かれるのではないか。親子とは何か,要件の面でも効果の面でも,これに関わるような対立に直接結び付くことになって,なかなか結論を導くのは難しいのではないかという御指摘ですね。ありがとうございます。 ○水野委員 窪田委員がおっしゃるように,身分行為の婚姻というものと,それと財産的なものは違うという感覚は,私も共有しており,婚姻はとても重いものだと思います。ただ,現実の日本の戸籍の運営を考えますと,その重さにふさわしい手続きになっておりません。今問題になっていますのは,婚姻や養子縁組の危うさです。本来であれば,区役所とか裁判所に本人が出向いて行われるべき身分行為が,日本では,届出だけで行われることになっています。たとえば,独り暮らしの御老人が亡くなった後,遺族が集まってみると,後妻業の女が戸籍に入っているとか,あるいは養子が入っていて、まったく知らなかった遺族が驚くことが見られます。遺族と争いになると,確かにおじいさまは,もうろくはしておられましたけれども,意思能力はありました,と主張されます。法律行為はできなくても,身分行為は意思能力さえあればできるというのが民法の理論ですが,それは重たい手続をもって身分行為をやる国で出来上がった理論です。でもそういう民法の理論を盾に,そういう人々が権利を主張することになっています。たしかに,遺族は相続権しかないのですが,それでも争う必要がある場合もあろうかと思います。   日本のこういう特殊な戸籍の運用は,先ほどの嫡出推定の外観説の問題でも,影響しています。例えば7ページの下から3行目に書かれている,夫が出征していたときに出産した子どもの例です。外観説でいえば,誰からでも身分を争える子なので,この人も,40年以上たってから身分を奪われています。身分を奪われる側は,権利の濫用を主張したのですが,最高裁が不存在確認請求を権利の濫用で封じた平成18年の判例以前の事件で,認められませんでした。もっとも権利の濫用を最高裁が入れなかった一つの理由は,この事案の特殊性もあったかと思います。その子の血縁上の身分は,出征中に誕生している夫の子になっているのですけれども,実は実の父は分かっていて,実の父親の養子になっているのですね。従って,事案としては,まあいいだろうと裁判所も考えたと思われるケースです。   こういうふうな戸籍特有の問題がありますので,そのところまで,配慮した上で,いろいろと議論をする必要があるかと思いました。 ○大村部会長 ありがとうございます。   争いを認めることが必要な場合も出てくるのではないかというお話でしたが,それと戸籍との関係というのが必ずしも十分に理解できなかったのですけれども。 ○水野委員 つまり,家族法の領域で,西欧法を参考にして議論をいたしますけれども,そのときに西欧法の前提になっていることが,日本法にはない場合が少なくありません。例えば,西欧法では,婚姻が非常に重く,離婚は全て裁判離婚であり,養子縁組も裁判所で作られるという制度を前提としている様々な制度設計があります。しかし日本の場合には,私人が届出だけで行い,しかも,その届出意思が本当にあるのかどうかも危ういという制度の下で運用されていることを常にどこかで考えながら,議論をする必要があるのではないかということです。 ○窪田委員 特に反論するつもりはないのですが,今の例というのは,基本的には身分行為で,養子縁組だとか婚姻だとかという例で,なおかつ,そのケースに関しては,軽率だとかいろいろ言っても,だからといって,相続分があるからといって,争えるわけではないケースだったのではないかなと思います。   ここでのケースというのは,基本的に,嫡出否認,嫡出推定が及んでいる場面ということが前提となりますので,婚姻が一般的に重いと考えているというよりは,やはりこういうふうな嫡出推定が働く中で,嫡出否認についても制限がされているという,この制度が重いという意味で,そこの部分に関して,相続分が期待されるんだということで争えるということに対しての違和感ということを申し上げたものです。 ○水野委員 おっしゃることはよく分かりますけれども,私に,そういう問題意識があったものですから,たとえば,若い後妻業の女が,おじいちゃんが亡くなった後,すぐ子どもを産んだときに,本当におじいちゃんの子なのだろうかと遺族が思ったような場合を,ふと想像してしまったので,こういう発言をする気になったということです。 ○大村部会長 なるほど。 ○中田委員 ここで,否認権を認める利益という言葉が出てくるんですが,その言葉と,確認の利益の具体的な内容を分析しておく必要があるのではないかと思います。   今,相続権が出ているわけですけれども,それ以外に何があるんだろうか。例えば扶養義務だとか,婚姻障害だとかということを否認によって導くとか,あるいは,水野委員のおっしゃったこととちょっと違うかもしれませんけれども,戸籍上の記載をどうするのかとか,相続権以外の利益として何があるのかということの分析が必要だと思います。   それから,当事者について,先ほど窪田委員から,否認権者が拡大することによって,人事訴訟法41条をそのままにしておくと,広がり過ぎるのではないかなというような方向の御意見があったと思うんですが,他方で,子を否認権者にすることによって,夫が亡くなった後も,子が否認できれば,それでいいのではないかというふうに考えると,むしろ狭くなる可能性もあるかなと思いました。 ○大村部会長 ありがとうございます。   一つ目は,相続のことを中心に議論をしがちなのですけれども,ほかの利益がないだろうかということを確認する必要があるだろう。それから,二つ目は,先ほど話題になった,否認権者が拡大して,一体どういうことになるんだろうかということについて,見方は一通りではないのではないかという御指摘かと思います。   いずれも,ごもっともな御指摘かと思いますけれども,ほかにいかがでしょうか。 ○垣内幹事 私自身は,この人訴法41条の見直し本体について,何か確たる方向性を持っているということではないんですけれども,今,中田委員からも御指摘のあった,その周辺に関係する問題としまして,今御指摘のあった,子が父の死後に嫡出否認の訴えを提起できるかというような問題も出てくると思いますし,また,それの延長線上として,係属中に子が原告となっている嫡出否認訴訟で,被告である父が死亡した場合の取扱いと,逆に,父が通常どおり原告になっている場合に,子が被告となっている,それで,子が死亡した場合の取扱いとの均衡をどう考えていくかとか,その辺りについても,もし子に否認権者の資格が認められるということになれば,併せて検討していく必要があるのかなというふうに感じております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   対比して,どのように変わっていくのかということを具体的に見据えて,検討する必要があるという御指摘かと思いますが,ほかにいかがでございましょうか。   この点については,そうすると,少なくとももう少し整理が必要だというう御指摘でしょうか。   何か今日のところで,この問題について,こういう問題を考えるべきではないのかという御示唆が得られればと思いますが,御発言はありませんか。よろしいですか。   それでは,この第7の1,2につきまして,また3についても,御意見を頂いたということにさせていただきたいと思います。   本日予定していた議事はここまでですけれども,何かほかに御意見等ございますでしょうか。よろしいでしょうか。 ○山根委員 ごめんなさい。   誰の子であるかということで争いがあるときに,DNA鑑定というのが行われることもあると思いますけれども,そのDNA鑑定というものが,どういった場で,どういうふうになされているのか。積極的になされているのかというのを知りたいというのがあるんですけれども,どこに直接関わってくるか分かりませんけれども,今の現状として,どういうふうに扱われているのかというのが,何か分かることがあれば,教えていただきたいなと思うんですが。 ○大村部会長 今の御質問は,例えば,裁判所ではDNA鑑定はどのような扱いになっているかというようなこと,例えばそんなことをお考えでしょうか。 ○山根委員 そうです。20年前と今と大分違うのかとか,その辺りも,何かヒントを頂ければと,ちょっと思ったんですが。 ○大村部会長 もしこの場で,どなたか簡単に,こんな具体に運用されていますという御発言があれば御発言を頂き,そうでなければ,次回以降に持ち越すということにしたいと思いますが,いかがでしょうか。 ○千葉委員 詳細については,今,何のデータも持っていませんので,お話しできるわけではないですけれども,特に過去との比較ということでは,全く分かりませんので,必要であれば,きちんとしたこと,調べられるかどうかということもありますので,やれる範囲でやりたいとは思います。   現状では,基本的には,親子関係が争われたような事件では,DNA鑑定をかなりの率で行っていると思われます。ただ,DNA鑑定自体は,当然,試料を提供してもらわないとできないわけで,全ての事件について,強制的に鑑定ができるわけではありませんので,試料の提供を頂いて,こちらで鑑定としてやる場合,それから当事者間で,しかるべき業者に行って,こういう結果が出ましたというのを,鑑定書を,私的な鑑定書を持って,判断の資料にしてほしいというふうに上げてくるようなケースがございます。   そういう意味では,かなりの事件で,当事者間,当事者が試料を提供してくれているとは思いますが,全ての事件でというわけではないので,そういう提供がないまま,何らかの判断をしなければならないというようなケースもございます。   そういうケースは,非常に苦慮するところもあります。それから,鑑定の結果が出れば,それで決まりというわけでもないというのは,外観説一般には,一定の鑑定の結果が出ても,外観上それを認めていいのかどうかというようなところは判断をしなければいけませんので,そういう中で判断を行っているという状況でございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   今のお答えで,差し当たりよろしゅうございますか。 ○山根委員 ありがとうございます。   また何か新しい情報があれば,教えていただければ。 ○大村部会長 ありがとうございます。   また,そのことが論点になったときには,千葉委員を始め,関係の方々に御発言ないし資料の提供を頂くということはあるかもしれませんけれども,本日のところは,今の御説明を頂いたということで感謝しております。   そのほか,よろしいでしょうか。   それでは,本日の審議については,ここまでにさせていただきたいと思います。次回の議事日程等について,事務当局の方から御説明を頂きます。 ○平田幹事 それでは,次回の議事日程についてですが,日時が令和2年2月4日の火曜日,午後1時半から午後5時30分までを予定しております。場所は,法務省の7階共用会議室7,8になります。   次回のテーマについてですが,懲戒権の見直しについて御議論いただきたいと考えております。   また,御議論いただくに当たりまして,従前お話がございましたヒアリングを行いたいと考えております。具体的には,児童相談所の関係者,精神医学の専門医,子育て支援をされている方の合計3名の方からヒアリングを行うことを予定しております。   また,フランス,ドイツ,イギリス,アメリカの法制度について,当部会の委員等を含む研究者の先生に,御報告を頂きたいというふうに考えております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   次回は2月4日ということでございますけれども,懲戒権の見直しにつきまして,ヒアリングも含めて御検討いただくという予定でございます。   今日は,予定していた時間よりも大分早く終わりましたけれども,年末ですので,早く終わるということでよろしいのではないかと思います。   本日も大変熱心に御審議を賜りまして,ありがとうございました。また,本年は,いろいろ貴重な御意見を頂きましたが,来年も引き続きまして,どうぞよろしくお願い申し上げます。   ということで,本日の会議を閉会したいと思います。どうもありがとうございました。 -了-