法制審議会 刑事法(逃亡防止関係)部会 第2回会議 議事録 第1 日 時  令和2年7月6日(月)   自 午前10時03分                       至 午前11時59分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  1 公判期日への出頭及び刑の執行を確保するための刑事法の整備について         2 その他 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○鷦鷯幹事 予定の時刻になりましたので,ただ今から,法制審議会刑事法(逃亡防止関係)部会の第2回会議を開催いたします。 ○酒巻部会長 本日は,御多忙中のところ,お集まりいただきありがとうございます。本日は,前回欠席された大澤裕委員が御出席ですので,自己紹介をお願いします。 ○大澤委員 東京大学の大澤でございます。どうぞよろしくお願いいたします。 ○酒巻部会長 それでは,審議を始めます。事務当局から,配布資料について説明をお願いします。 ○鷦鷯幹事 本日,配布資料として,配布資料6「検討のためのたたき台・その1」,配布資料7「勾留請求と勾留状の発付数等(地簡裁総数)」,配布資料8「勾留の執行停止人員」,配布資料9「通常第一審終局裁判後の保釈許可人員及び再保釈人員」,配布資料10「とん刑者について」をお配りしています。配布資料の内容については,後ほど御説明します。配布資料の不足がある方は,いらっしゃいますでしょうか。 ○酒巻部会長 では,審議に入ります。   前回の会議においては,諮問事項について概括的・包括的な議論を行いました。本日は,その際に皆様から示された御意見を踏まえつつ,より具体的な形で議論を行いたいと思います。そのような議論に資するものとして,前回の会議で皆様に御了承いただいたとおり,前回の会議における委員・幹事の皆様の御発言を踏まえて,検討のためのたたき台を事務当局に作成してもらいました。   そこで,まず,事務当局から,配布資料6「検討のためのたたき台・その1」について説明をお願いします。 ○鷦鷯幹事 配布資料6について御説明いたします。   配布資料6「検討のためのたたき台・その1」は,部会長の御指示に基づき,前回の会議における委員・幹事の皆様の御発言を踏まえ,考えられる対処策・制度の案と,それに関連する論点を整理したものです。この資料は,その表題にもあるとおり,飽くまで検討のためのたたき台として作成したものであり,もとより,検討すべき項目を限定したり,議論を方向付けようとする趣旨のものではありません。   前回の会議においては,第一審の公判係属中から刑の執行に至るまでの刑事手続の各場面について,保釈中の被告人等の逃亡の防止や,刑が確定した者に対する刑の執行の確保といった観点から,様々な御意見・御提案を頂きました。それらを整理したところ,対処策・制度の案としては,12の検討項目に分けることができ,さらに,それらは,その内容に照らして,大きく三つのグループ,すなわち「第1 保釈中・勾留執行停止中の被告人の逃亡を防止するための方策」,「第2 判決宣告後の被告人の逃亡を防止するための方策」,「第3 確定した裁判の執行を確保するための方策」に分類できると考えられたことから,配布資料6には,12の検討項目を三つに分類して記載しています。その上で,各検討項目について,前回の会議における御発言を踏まえ,考えられる論点を「検討を要する事項」として記載しています。   まず,第1のうち1及び2では,保釈中あるいは勾留執行停止中について,逃亡防止の観点から,その対象者を含む関係者に対し一定の行為を義務付ける仕組みを設けることについて記載しています。また,3及び4では,保釈中等の逃亡行為を対象とする罰則の新設ないし改正について記載しています。   次に,第2のうち1及び2では,実刑判決宣告後の逃亡防止の観点から,逃亡を招きやすい事態を生じさせないようにするものとして,裁量保釈について慎重を期すための改正と,控訴審の判決宣告期日への出頭の義務付けについて記載しています。また,3では,実刑判決宣告後に逃亡した場合の制裁の強化について記載しています。そして,4では,実刑判決を受けた者の出国による逃亡を特に防止するための仕組みを設けることについて記載しています。   続いて,第3のうち1では,裁判の執行を確保するため,その対象者等の所在を調査する権限の整備について記載し,2では,実刑判決宣告後の逃亡行為を対象とする罰則の新設について記載しています。また,3及び4では,刑が確定した者が国外に出国することによって刑を免れることを特に防止するものとして,対象者が国外にいる間は刑の時効を停止することと,罰金の裁判の告知を受けた者が出国により労役場留置の執行を免れることを防止するための仕組みを設けることについて記載しています。   配布資料6についての御説明は以上です。 ○酒巻部会長 ただいまの説明内容に関して,御質問はございますか。 ○菅野委員 このたたき台に沿って議論することに全く異論はないのですけれども,例えば,ここに入らなかった事項などについては,後に取り上げられる余地があるのかどうかを伺いたいと思いました。 ○鷦鷯幹事 配付資料6は,飽くまで検討のためのたたき台として作成したものであり,もとより検討すべき事項を限定するものではありませんし,更にここに付け加えることについても,当然ながら予定しているものと御理解いただければと思います。 ○菅野委員 ありがとうございました。分かりました。 ○酒巻部会長 私からも付け加えますと,審議中の適切な時機に,ほかにも付け加えるべきことがないかどうか皆さんにお諮りするつもりでございました。もしありましたら,その際にでも,御意見を頂ければと思います。   ほかに御質問ございますか。よろしいですか。   次に,それ以外の本日の配布資料についても御説明をお願いします。 ○鷦鷯幹事 配布資料7から10までについて御説明いたします。   配布資料7から10までは,前回の会議においてお求めのあった各種統計等です。   配布資料7は,平成21年から平成30年までの地方裁判所及び簡易裁判所における勾留請求の数や勾留状の発付数等の推移を示すものです。勾留請求の数は,平成21年には12万9326件であったものが,平成30年には10万4720件に減少しているのに対し,勾留請求の却下の数は,平成21年には1504件であったものが,平成30年には6169件に増加しています。その結果,勾留請求の却下率は,平成21年には1.16%であったものが,平成30年には5.89%にまで上昇しています。   配布資料8は,平成21年から平成30年までの勾留の執行停止人員の推移を示すものです。年間269人から424人の間で推移しており,その大多数は,通常第一審の終局裁判前に勾留の執行停止がなされています。なお,勾留の執行停止の取消人員に関する統計はございません。   配布資料9は,平成21年から平成30年までの通常第一審終局裁判後の保釈許可人員及び再保釈人員の推移を示すものです。各年次ごとに,それぞれ2段に分かれていますが,その上段は保釈を許可された人員を,下段は上段の人員のうち実刑判決により保釈が失効した後に再保釈を許可された人員を示しています。裁判所の別につきましては,どの裁判所が保釈を許可したかを示しています。なお,欄外の二つ目の※にもありますとおり,この表は,最高裁判所事務総局の資料に基づき,法務省刑事局が作成したものですが,平成25年から平成30年までの「通常第一審(地簡裁)」の数については,現在,最高裁判所において調査中であり,今後,「総数」とともに見直される可能性があるとのことですので,後ほど,この点について最高裁判所から御説明いただきます。   配布資料10は,とん刑者の数や事例についての資料です。ここにいうとん刑者とは,「1」の二つ目の※にもありますとおり,罰金以上の刑に処せられた者のうち,その刑の執行を受け終わっていないものであって,その所在が不明となったものをいい,刑の全部の執行を猶予されている者などは除かれます。各検察庁においては,全国的規模によるとん刑者の迅速な発見を可能とするため,全ての検察庁でとん刑者の情報を共有する仕組みを整えています。飽くまで事務当局において把握し得た限りの暫定値ですが,平成2年6月末現在で,懲役・禁錮刑のとん刑者は41人,罰金刑のとん刑者は208人でした。   この資料には,懲役・禁錮刑のとん刑者の事例をまとめた一覧表を添付しています。これは,事務当局において,平成30年末時点及び令和元年末時点でのとん刑者の状況について調査した結果があったことから,それを事務当局において一覧表にしたものです。この一覧表には,左から順に,裁判時における身柄の区分,罪名,確定した刑,刑の確定時期,参考事項を記載しており,刑の確定時期が古いものから順に並べています。また,参考事項として,とん刑の理由を記載しているほか,出国が確認できている者については出国の時期を記載し,また,備考欄には,外国人についてはその旨を,刑の時効が完成したり収容に至った者についてはそれぞれその旨を記載しています。とん刑の理由については,10人が出国であり,その出国時期は,控訴審係属中が最も多くなっています。この10人のうち,番号8,9,10の3人は,本邦から出国した後に,刑の時効が完成しています。   配布資料7から10までについての御説明は以上です。 ○酒巻部会長 資料のうち保釈許可人員及び再保釈人員について,最高裁から補足の説明をお願いします。 ○福家幹事 配布資料9に関して補足をさせていただきます。   司法統計年報の通常第一審終局後の保釈に関する数値に誤りが生じている可能性を把握しましたことから,先ほど御説明にもあったとおり,平成25年以降の数値につきまして調査を行っているところでございます。平成30年分につきましては調査を終えましたので,修正後の数値をお伝えいたしますと,平成30年の通常第一審(地簡裁)終局裁判後に保釈を許可された人員,上段でございますけれども,上段について,正しくは1497人となり,そのうち実刑判決により保釈が失効した後に再保釈を許可された人員,下段でございますが,下段については,正しくは1414人となります。数値に誤りがありましたことをおわびいたします。   平成25年から平成29年までの数値につきましては,調査中ですが,平成30年と同様,通常第一審終局裁判後の欄につきまして,下段の数値が上段の数値にかなり近付く形で修正となる可能性がございます。次々回の部会までには調査を終えて,正しい数値をお伝えしたいと考えておりますので,御理解賜りますようお願いいたします。 ○酒巻部会長 ありがとうございました。   それでは,先ほど事務当局から説明のありました配布資料6「検討のためのたたき台・その1」を用いながら議論を進めていきたいと思います。   進め方といたしましては,この資料に沿って,資料の順に議論を行っていくのが効率的で,かつ,充実した審議に資すると考えられますが,そのような議論の進行の方法でよろしいでしょうか。             (一同異議なし) ○酒巻部会長 それでは,そのように順次進めさせていただきたいと思います。   まず,配布資料6の「第1 保釈中・勾留執行停止中の被告人の逃亡を防止するための方策」から順に議論を行いたいと思います。   第1には,1から4まで四つの項目が記載されていますが,前回の会議で,予定した時間を全て使い切る形で審議を行ったところでもあり,時間の都合上御発言いただけず,その結果として,この資料に反映されていない御提案・御意見があるかもしれないと考えております。また,今回のたたき台に載せた事項に議論の範囲を限る趣旨ではありませんので,現段階で,「第1 保釈中・勾留執行停止中の被告人の逃亡を防止するための方策」に関連する事柄で,この資料に直接記載されていない事項について,もし御提案・御意見があれば,この段階で伺いたいと思います。 ○髙井委員 第1の1から4に記載されていることは,非常に大きく言うと,保釈中の被告人に逃走意欲を発生させない,あるいはそれを弱めることを目指したものだと,また,効果としてもそういうものと思うのです。   しかし,例えば,カルロス・ゴーンの例を見ると,あれは明らかに固い決意の下に逃亡を図っているわけで,最終的には,そういう逃走意欲の発生抑止に失敗して,逃走を決意した人間を,どうやって捕まえるか,どうやって逃走させないかという観点からの議論も必要だと思うのです。ですから,物理的に逃走を防止する方策というものも,最終的には検討すべきであって,その中の小項目としては,一つは,GPSの装着を考えると。GPSの装着も逃走意欲の発生を抑止する効果があることはもちろんなのですが,その抑止に失敗したときに,物理的に阻止するという観点からの効果も期待できる。このGPSの議論は,ゴーンの逃走事例を考えると,これは必須であろうと思います。   もう一つは,これもカルロス・ゴーンの例ですが,ゴーンは,パスポートを押収されていたはずなのですが,保釈中にそれを還付されているというか,もらっているわけです。報道によると,非常に簡易な装置があってパスポートを簡単には使えないようになっているということではあったのですが,使おうと思えば幾らでも使える状態で手元に戻されている。もし,ゴーンがあのときにパスポートを持っていなかったら,果たして逃走しただろうか。箱に隠れて出ればパスポートは要らないわけですが,向こうの国に入るときにはパスポートを使って入っているようなので,パスポートを持っていたことが逃走をより物理的に簡単にしたとも思われるわけです。したがって,物理的に阻止するという大きな項目の中の議論として,外国人を保釈にしたときに,入管法との関係でパスポートの扱いをどうするか,要するに,パスポートを戻さなくても入管法に違反しないような法的仕組みを作って,パスポートは持たせないとすることが重要なのではないかと思います。   その観点からも,そのほかにも入管法絡みの話があるのかもしれませんが,まずこの2点を,物理的に阻止するという観点からのテーマの小柱として提案させていただきたいと思います。 ○酒巻部会長 ありがとうございました。今の髙井委員の御提案の後半の方は,外国人の出国に関わる御提案でした。前半はGPS装着ですね。   第1の「保釈中・勾留執行停止中の被告人の逃亡を防止するための方策」に関連して,ほかに議論すべきテーマ等について御意見がある方はいらっしゃいますか。 ○笹倉幹事 ただいま髙井委員から御発言があった点のうちGPS装着について,私も若干,考えていることを申し上げます。   現在の制度は,保釈保証金の没取の可能性による威嚇で逃亡を防止するか,あるいは刑事施設に閉じ込めてしまうかという二者択一,つまり,物理的に閉じ込めるか,専ら精神的な働き掛けによるかという二者択一になっているわけですけれども,GPSのような技術手段が発達し,簡単に使えるようになっておりますので,二者択一ではなくて,もう少しオプションを増やすことは考えられてよいでしょう。   取り分け,保釈保証金の没取,あるいは保釈の条件に違反した場合の収監の可能性による精神的な働き掛けだけでは逃亡の抑止力とならない,さらには,出国確認手続を不法な方法で擦り抜けるような人もいるとすると,GPS端末を保釈中の被告人に装着させて逃亡を防止するという仕組みを導入する方向で検討することは価値があることだろうと考えます。   しかしながら,社会に出した上でGPS端末を装着して位置情報を取得するとなりますと,プライバシーの観点も考慮しなければなりません。前回の事務当局の御説明でも,諸外国では採用例があるということでしたので,それらの例も参考にしつつ,手続や要件について,適正なものを設定し得るかどうかについて検討を進めるべきではないかと考えます。   現実的には,四六時中位置情報を常に監視するわけにはいかないでしょうから,例えば,一定の地域に入らない,あるいは一定の地域から出ないという条件を付けた上で,それに違反した場合には位置情報を感知でき,それで所在を把握して保釈等を取り消して身柄を押さえるといった方法が考えられます。ただ,保釈される人の大多数に付けるというわけにもいかないでしょうから,逃亡防止の観点からGPSを用いることが有効で,なおかつその必要性が高い人をターゲットにすることがひとまず相当ではないかと考えております。技術的な点も含めて,詰めるべき点がたくさんあるかと思いますが,基本的には今申し上げたような方向で検討してみてはどうかと提案させていただきます。 ○酒巻部会長 GPSについて比較的具体的な内容まで御提案いただきました。この点については,今後,たたき台の中に含めて,一層突っ込んだ議論をしたいと思います。   今の件以外に,現時点で何か御提言がありますか。   それでは,「検討のためのたたき台・その1」の第1の1から順番に議論を進めていきたいと思います。   第1の「1 被告人に,公判期日外における裁判所その他の公的機関への定期的な出頭や報告をする義務を課すこと」について,検討事項として,「必要性・相当性」,「課す義務の内容」,あるいは「義務の履行を確保する仕組み」を項目として挙げてあります。この点について御意見・御指摘を頂ければと思います。 ○佐藤委員 前回もこの点について発言させていただいたのですけれども,保釈を許可された被告人,勾留の執行が停止された被告人は,公判期日に出頭する以外には裁判所あるいは裁判手続との接点が乏しくなるところがございます。例えば,事件が長期間,公判前整理手続に付されている場合や,控訴審や上告審の場合は,裁判所において被告人の所在を確認する機会がない期間が長期に及ぶことになり,被告人が逃亡してもそれが長期間発覚しないという事態が生じ得ることとなります。裁判所との接点が乏しい状態が続くことが被告人に逃亡の動機を与えることもあると思いますし,また,実際に逃亡してしまった場合には,その所在を把握することも困難になると思います。そうした観点からは,裁判所が公判期日と公判期日の間において被告人と接点を持つ機会を増やすことによって,逃亡を抑止することが考えられます。   そこで,具体的には,被告人に対し,裁判所その他の公的機関への定期的な出頭や報告をする義務を課すことが,選択肢の1つとなるように思います。裁判所への定期的な出頭や報告につきましては,現行法の下でも,これを保釈条件として定めることによって義務付けは可能ですけれども,義務違反行為に対して,保釈等の取消しにとどまらない制裁の仕組みをも伴うならば,実効性のある逃亡防止策になるのではないかと思われます。   課す義務の内容につきましては,裁判所が被告人と接点を持つ機会を増やすことで逃亡を抑止するといった趣旨からいたしますと,裁判所が被告人の出頭確保のために必要と認めて定めた日時,場所に被告人が出頭する,あるいは,裁判所が同じく必要と認めた事項,例えば,居住状況や家族関係,職業関係等に関して,定められた期限までに被告人が裁判所に報告をする,といったものが考えられると思います。   この義務の履行を確保する仕組みにつきましては,保釈等の取消しや保釈保証金の没取にとどまらず,先ほど制裁の仕組みと申しましたけれども,義務違反行為を罰則の対象とすることも考えられると思います。「検討のためのたたき台・その1」の第1の3では,被告人が公判期日に出頭しない場合にこれを処罰の対象とすることが掲げられておりますけれども,公判期日以外における出頭や報告を義務付ける場合,その義務の違反に係る犯罪の保護法益や法定刑などについては,公判期日への不出頭の場合と同様に,ほかの制度において設けられている出頭・報告義務違反の罪をも参考としながら検討することが適切であろうと考えております。 ○酒巻部会長 裁判所への出頭を求めるということは,現行法でも保釈の許可条件として付すことができるだろうという御指摘がありましたが,そういう実例はありますか。向井委員,いかがでしょうか。 ○向井委員 私は,任官して約25年ほどになるのですけれども,これまで私自身が公判期日外における裁判所その他の公的機関への定期的な出頭や報告を求めるという条件を付したことはございません。また,そのような運用をこれまで耳にしたこともないのが実情でございます。その理由としましては,一概には言えないのですけれども,第一審では,おおむね2週間から1か月に1回程度,公判期日が定期的な間隔で開かれておりまして,被告人にはその期日への出頭が義務付けられていますので,各期日において被告人の所在を把握できることから,それとは別の日にわざわざ裁判所などに出頭させて所在を確認する必要性は乏しいと理解されていたのではないかと,そういうことが背景にあるのではないかと思われます。 ○髙井委員 公判前整理手続が行われない裁判については,おっしゃるとおりだと思うのです。しかし,最近は,重大事件はほとんど公判前整理手続に付されて,公判前整理手続は本当は短期間で終わるはずだったのに,それがもう2年,3年と掛かる。カルロス・ゴーンなんかいまだにやっている。そういうことを考えると,ゴーンは公判前整理手続に出頭しているようなのですけれども,公判が開かれるまでの間にも定期的に出頭を求めることは,それなりに逃走抑止になろうかと思います。   問題は,出頭して顔だけ見せればいいのか,あるいは出頭した上で何らかの報告を求めるのかということになろうかと思うのですが,基本的には,単に顔見せ興行をすればいいというわけではなくて,その間の生活ぶりなり何なりについての報告を求めるということになろうかと思います。そういうことを考えると,不出頭したときに義務違反だというのと同時に,虚偽報告をしたという場合に,それを処罰の対象にしなくていいのかという問題も出てこようかと思います。   それから,逃走抑止という観点から考えた場合に,裁判所に顔を出すというのは確かに抑止になると思うのですが,例えば,メールで報告をするのだとすると,果たして逃走抑止になるのかという気もします。ですから,こういう制度を導入するのなら,やはりメールや電話で報告すればいいという話ではなくて,出頭させるべきだと,それで一定の説明を求めるべきだと考えます。 ○角田委員 いろいろな御意見が出ましたので,それぞれについて申し上げたいと思います。 まず,保釈条件として,例えば,月1回裁判所に出頭する義務を課す,あるいは報告義務を課すというのは,私自身,そういう運用を知りませんでしたし,44期の元刑事裁判官に聞いても知らないと言われていました。ただ,昭和37年任官の中山善房さんという元刑事裁判官によると,そういう運用が現にあったと,月1回保釈条件で裁判所に出頭しなさいというような運用を自分もやったことがあるということでした。それがどうも廃れて,そういう運用がなくなってしまい,この50年ぐらいはそういう例を誰も知らないということになっているようです。廃れてしまった理由は,結局,月1回出頭しなさいと言っても,公判期日を忘れる被告人はいませんけれども,報告だけのために出頭する日は忘れてしまうことがある。その場合,理屈の上では,保釈を取り消して,保証金を一部没取するということが考えられるわけでしょうが,それは本筋とは少し違う付随的な手続での義務違反で,しかも,やや軽微な義務違反を理由に没取までするのはちゅうちょしてしまい,結局そこまではやらない。そうすると,サンクションのない保釈条件というのは実効性がないではないかということで,結局全く使われなくなったと,こういう話をされていて,なるほどと思いました。   それと,髙井委員の御意見にも関連しますけれども,当時の運用は,起訴から判決まで2年を超えるような事件が,例えば3000件とか,年によって5000件とかあり,しかも,五月雨式の審理であり,1か月以上公判期日が空くようなことも少なからずあったので,そういうことを考えたのだと思います。しかし,現在は,裁判迅速化法の運用が完全に定着し,2年以内に判決をするという前提で期日をかなり詰めて入れるようになっています。特に,刑事事件について言いますと,平成17年11月の公判前整理手続の施行以降は,継続審理とか集中審理が徹底され,裁判員裁判であれば連続開廷を実施し,一般の事件でも月に恐らく複数回は公判期日を入れる運用が確立されているので,公判期日の間に被告人を出頭させたり,報告させるということの意味が昔より大分低下してきているのは間違いないと思います。   もう一点,確かに公判前整理手続の長期化ということがあるので,そういう事件の被告人についてはどうか,ということがあるわけなのですが,私も公判前整理手続は大分使いましたが,そういう目で見ると,この手続においては弁護人が,被告人との間で非常に密な連絡を取ると思います。すなわち,かなりの回数被告人と会って相談をして,公判前整理手続に臨んでくるわけなので,言わば弁護人が被告人の所在を監督しているような側面があるように思います。以上のようなことで,特に報告義務だけを課すことの意味はやや乏しいかなと思います。   まとめて言いますと,なるべくメニューは多い方が確かにいいので,佐藤委員の御提案も理由があるとは思うのですけれども,ただ,今申し上げたような公判期日の入れ方の現状だとか,かつての運用が廃れていったような事情を考えると,裁判所への出頭・報告ということについては,その必要性は高くはないという感じがいたします。 ○菅野委員 佐藤委員に少しお伺いしたいと思います。これは,基本的には保釈後の被告人の義務ということになろうかと思いますけれども,通常は弁護人が付いていて,何らか支援していくということで実際は動いていくと思うので,弁護人に何らかの義務とか,倫理的なものも含めて,出てくるのかどうかが少し気になりました。   加えて,私の少し気になっているところは,やはり報告であるとか,裁判所に会いに行くというのは,起訴状一本主義との関係で,審理が始まった後であればそれほど気にする必要はないと思うのですけれども,起訴後,第1回公判まで,あるいは公判前整理手続,そういったときに報告をするといっても,恐らく担当裁判官にはまずいということになって,そうすると別の裁判官が実際見ることになるわけですけれども,常にそういうことだけやっている裁判官がいるわけでもないところだと,現実にどうワークしていくのか,別に保釈管理官みたいな人がいないと回っていかないのではないのかという感想を持ちました。後者の部分は感想です。 ○酒巻部会長 前半は御質問でしたが,佐藤委員,この点についてはいかがですか。 ○佐藤委員 被告人の出頭や報告の義務につきまして,弁護人との関係で特別なことを考えていたわけではなく,まずは裁判所と被告人の関係で考えてみてはどうかという趣旨で,御提案をいたしました。   なお,このお話は,第1の2の身元引受人の問題にも関係するかと思いますので,併せて検討する必要があるだろうと考えております。 ○髙井委員 第1の1の問題は,むしろ定期的に裁判所に出頭することの心理的負担によって逃走意欲の発生を防止するところに力点があると思うのです。ですから,そういう観点から,こういう出頭義務を課すことが心理的な逃走意欲の阻止あるいは回避につながるものかどうかというところの議論をある程度しないといけないかなというのと,先ほど来,公判期日の間ということを言われておりますが,やはり私としても,確かに第1回公判が始まってしまえば,期日が密に入っていって,わざわざその間に出頭する必要はないと思うのですが,やはり長期の公判前整理手続が想定されるような事件については,何らかの方法は考えないといけないのではないかと思います。カルロス・ゴーンは公判前整理手続に出廷していますが,私が経験した例では,被告人は基本的には公判前整理手続に出廷しません。それから,確かに公判前整理手続においては密に被告人と打合せをしますが,我々でもその被告人が我々の事務所から出てどこへ帰るかは全く分からないわけです。国内にいるだろうなということは分かるのですが,今後どうするかも,次の打合せに出てくる保証もないわけです。ですから,結果的に弁護人との打合せは,私の場合はできているわけですが,それは結果的にそうだったというだけであって,仮に私の被告人が逃げたときに,あるいは逃げようとしているときに,それを阻止できたかというと,到底阻止はできないと思うのです。ですから,そういうような現状も踏まえた上での議論がやはり必要ではないかと思います。 ○小笠原幹事 今の点について,既に出てきた意見についての私の意見なのですけれども,まず,単に顔を見せるだけではなくて,何か報告を求める必要があるのではないかということと,あとは処罰も必要ではないかという話があったのですけれども,それだと確定判決前に何か執行猶予中の保護観察だけ先行しているような感じがして,それは理論的にどうなのだろうかと思います。既に保釈の条件としては付けられるので,没取とか,あるいは保釈の取消しとか,そういうサンクションがあるのだとすると,それに加えて何か刑を科すというのが,被告人の防御権もそうだし,無罪推定もそうですけれども,その点でどうなのかと思います。   あと,出頭しないというのは,先ほど言ったとおり,出頭しない理由がいろいろあったりして,それが連絡忘れだったのか,あるいは期日忘れなのか,言わば過失みたいなところまで全て罪になるというのは,何か行きすぎな感じはします。ただ,先ほどの公判前整理手続が長くなるような場合に出頭させるというのが,それなりに心理的には効果があり得るのかなと思っているので,それを1回目,いきなり没取ではないのかもしれないですけれども,そこら辺を柔軟にできるような形で,保釈条件の一例みたいな形で考えるというのはあり得るのかと,法定のところまで付けるかどうかはあるかと思いますけれども。 ○酒巻部会長 第1のところで皆様に活発な御意見を頂いて大変うれしいのですけれども,そろそろ次の項目に進みたいと思います。   第1の「2 身元引受人が被告人を監督して逃亡を防止し公判期日への出頭を確保する仕組みを設けること」について御議論いただければと思います。いかがでしょうか。 ○菅野委員 裁判所にお聞きしたいと思っているのですけれども,法は,権利保釈と裁量保釈という二つの枠組みを用意しているわけです。権利保釈の場合は,権利として保釈が許されるということになっているはずです。他方で,身柄引受人がいませんかというお話は,権利保釈,裁量保釈に関わりなくあります。私たち弁護士も身柄引受人を用意して行く形になっていますし,裁判所としても,やはりその人がいた方が安心だということにはなるのですけれども,本来,権利保釈の場合,条文にもない身元引受人を付けなければいけないのかどうか。そこは裁量保釈や権利保釈との関係でどう位置付けられているのかというところを,お伺いしたいと思っておりました。 ○向井委員 権利保釈であっても裁量保釈であっても,保釈の条件として適切なものを考えていくことは当然やるという考えでございますので,適切な身柄引受人がいらっしゃるのであれば,是非そこはお願いしたいということでやっていると思います。もちろん,裁量保釈と権利保釈において考えるべき考慮要素,考慮事情は当然異なってきますので,そういう中できめ細かく考えていくことにはなりますし,どうしても身柄引受人が用意できない方についてどうするかについても,その事案に応じて考えていくことになると思います。 ○笹倉幹事 身元引受人については,条文上それについての定めがあるわけではないけれども,裁量保釈の場合はもとより,権利保釈の場合も,条件として適切であれば付けることは多いというお話でありました。それでうまくいけばよいわけですけれども,仮に身元引受人が必ずしもしっかりと期待した役割を果たしてくれないという実例が一定数あるのであれば,条文上きちんと書いた上で,身元引受人にもそれなりの義務を負っていただくことも,対処のための選択肢としては,考えられるのではないかと思います。   勾留の執行停止の場合には,親族,保護団体,その他の者に委託するということで明文があるわけですけれども,それと同様に制度化した上で,もう少ししっかり見ていただくことを担保するような仕組みを構築することを検討してみるのも一案だということです。   当然,義務を負うということになりますと,監督をする人の合意がなければならないわけですが,それはそもそもお引受けいただく時点で御本人は承知だと思いますので,そこはクリアできます。   具体的には,身元引受人として把握できた事柄,例えば被告人の居場所が変わったといった事情があって,これは裁判所にも知っておいていただいた方がいいのではないかということがあれば報告をするといった義務を課すことが考えられます。   そして,義務の履行の担保ですが,現在も保釈をする場合には,保釈保証金を被告人自身が納付するということに代えて,被告人以外の者が保証書を差し入れることがあって,被告人が実際に逃走してしまったという場合には,その保証書に基づいてお金を取られることになります。これは飽くまでも被告人が払うべきものが払われるわけですけれども,それとは異なって,身元引受人について,責任を持って監督しますということで引き受けた以上は,義務違反があった場合には身元引受人自身との関係で同様の,あるいはお金に限ることなく何らかの制裁があることを通じて,一旦引き受けた以上はしっかりと監督していただくということを制度化することもあり得るのではないかと考えます。   もとより,これは,実務の経験のない者が,「たたき台」を前提にとりあえず考えてみたものにすぎません。制度化して義務を課するまでの必要はなく,かえって,身元の引受けをちゅうちょさせるのではないか,あるいは逆に,制度設計次第では引受けをさほどちゅうちょさせることなく一定の効果が期待できるのではないかといった見方は当然あり得るものと存じます。実務の観点からのお考えを是非教えていただきたく存じます。 ○酒巻部会長 保釈された被告人でなくて別人の身元引受人からお金を取りたてるような仕組みにすると,身元引受人になろうとする人が限られてしまわないかという点は,確かに検討する必要がありそうですね。 ○小笠原幹事 正に今,部会長がおっしゃったことがまず1点です。   あとは,実務ですと,被告人自身がお金を用意したり保証金を払ったりということはまずなくて,身元引受人になる人は,イコール保釈金を準備した人という,そんな感じが多いのかなと思います。私は,ここ2件,連続して保釈の許可を得ておりますけれども,いずれも身元引受人はお父さんでした。1件はきちんと出たし,毎日のように会いに行った方もいます。もう一人は,同居されていた方ですけれども,余りに監督が強すぎて,それでまたそれがストレスになってみたいな,そういう人間関係を見ながらでないと,なかなかできないのかと思います。そういう意味では,サンクションという点では,お金を取られるのはその身元引受人本人であるというのがほぼ現実的なところかと思います。   むしろ,人間関係がごちゃごちゃとか,自分の言うことを聞いてくれないとか,言ったけれどもなかなか捕まらないとかといったときに,身元引受人が相談できるのが弁護人しかいないのが現実で,他方,弁護人としては,裁判所に,被告人がいないという報告をするのをためらわれるとすると,実務上,身元引受人に対する保釈の説明などの中で,そういったことがあれば連絡してくださいという,先ほどの出頭義務ではないですけれども,そういうバックアップの体制を全体的に見ていくことが必要ではないかと思います。   もう一つ,お金の関係で言うと,保釈支援協会のようなところからお金を借りる例もあるのですが,これらもいずれも,その親族というか身元引受人になる方が借受人になっているので,支払義務はその方にあるのが現実です。 ○髙井委員 この身元引受人については,端的に,現状はほとんど実効性のあるものにはなっていないと思うのです。   身元引受人になる人が保釈金を出している場合,被告人の方で,逃げたら,例えば親なら親,あるいは知人なら知人に迷惑が掛かるという心理的な抑制効果が働く場合は,一応,身元引受人を付けることに意味があると思うのですが,そういう関係がない,あるいは関係が希薄な人が身元引受人になっている場合もそれなりにあって,そういう場合は,この身元引受人を付けるということがある意味,形式化している状況だと私は思っています。   もう一つ,身元引受人にいろいろな義務を課したとして,それを果たして身元引受人の側で履行できるのかと。例えば,親が身元引受人になった場合でも,大人になった子供が暴れることだってあるわけで,それを押さえることもできない。元々監督ができるのだったら犯罪者になっていないのだろうというようなことも言えるわけで,なかなかこの身元引受人に実効性のある逃走抑止を期待するのは難しいのではないかと思います。 ○角田委員 今まで出た御意見に賛成とか反対ということではなく,感想のような話になってしまいますけれども,身柄引受人にどういう人になってもらうかというのは実務的にはなかなか難しい問題で,やはり適任者を得られれば非常に効果的ですし,得られなければ,一部の御意見にあったように,ただ付いているだけという形式的なものにもなります。ただ,裁判所は,特に最近の運用としては,より適切な身柄引受人を探したり,なるべくそういう人を選任する方向の努力を強めているというふうに聞いておりまして,それは非常に意味があることだと考えています。   問題は,制度的なものとして身柄引受人が被告人を監督して逃亡防止等を確保する仕組みを設ける,制度化するということについてですが,身柄引受人を選任することに関して何か制度化するのは非常に困難ではないかという気がします。もし何か制度的なものを考えるとすると,身柄引受人が被告人を監督するための権限というか,裏付けになるようなことがもし何か考えられるのであれば,それは制度化する意味があるのではないかと思います。   これまでの議論でも,身柄引受人に義務をうんと負わせるようなことになると,どうも本末転倒ではないかとか,うまくないのではないかという議論があったわけですけれども,確かにそのとおりで,そうではなくて,身柄引受人が被告人を監督する局面で何かその支えになるようなことの制度化が考えられれば,それが適切だと思います。   現時点では,具体的に何か提案があるわけでもないのですが,例えば,身柄引受人の方で,被告人に,悪い友達とは付き合うなとか,あるいは公判期日に行くときには自分が一緒に行くから,一緒に行けるようにきちんと調整しなさいとか,そういうことについて,直接権限を付与するということはもちろんできないでしょうけれども,裁判所に対する保釈条件の変更の申請権限のようなことで,今言ったような内容を保釈条件に加えてくださいということを権限化するというようなことが,イメージとしては考えられるかもしれません。何か例を挙げないと説明にならないので申し上げているわけですけれども,何かそういう方向のものが考えられれば,制度化する意味があろうと思います。   まとめますと,身柄引受人の選任については,裁判所があらゆる事情の総合判断,裁量で行っていますので,ここに何か制度的なものを入れるのはなかなか難しいけれども,選ばれた身柄引受人が適正な監督をするための何か支えになるような仕組みがもし考えられるのであれば,それは意味があるのではないかという意見であります。 ○酒巻部会長 用語の問題につきましてひとこと申し上げます。角田委員は現在の実務で用いられている「身柄引受人」という言葉をずっと使っておられますが,「たたき台」で「身元引受人」という言葉を使っていることには,何か意味があるのか。この点について,事務当局としてはどうですか。 ○鷦鷯幹事 「身柄引受人」という言葉も使われていることは認識しておりますが,同様の趣旨のものとして「身元引受人」という言葉を使っています。 ○小笠原幹事 「身柄引受人」というと,正に身柄を引き受けるので,同居をしたりというときに使っているのかと思いました。なので,少し広めで「身元引受人」,例えば雇用主とかそういった人もやるときは,私は身柄ではなくて身元とするので,そちらの方が広くて,そちらの方が適切ではないかと思います。 ○酒巻部会長 用語につきましては,改めて考えるということにしましょう。 ○大澤委員 身元引受人,身柄引受人に義務付けをするのはなかなか難しいのではないかというお話もありましたけれども,先ほどの角田委員の御発言との関係で申しますと,何を義務付けとして考えるのかというところで,例えば,保釈について制限住居等の条件が付くことがあるのだろうと思いますけれども,条件に違反してそこから移動してしまったら,それはきちんと報告してくださいとか,具体的に義務付ける事柄はもう少しいろいろと考えられるのかと思います。義務付けが果たして難しいかどうかは,それとの関係で,個別具体的に考える余地があるように思った次第です。 ○酒巻部会長 身元引受人についても,議論は尽きないかと思いますが,先に進めさせていただきます。   第1の「3 保釈中の被告人等が正当な理由なく公判期日に出頭しない不作為などを対象とする新たな罰則を設けること」について議論をしたいと思います。御発言があれば,お願いします。 ○和田幹事 この点については,前回も簡単に挙げましたけれども,大きく分けて二つの新たな犯罪類型を新設することが検討に値すると考えております。   まず第1は,公判期日への不出頭を対象とする罪です。保証金の没取が逃亡の抑止力として十分に機能しないことがありますので,保釈中の被告人の公判期日への不出頭を直接の対象とした罰則を設けることが被告人の逃亡防止との関係で有効であると考えられます。   それから,第2の犯罪類型といたしまして,勾留の裁判の執行としての収容を妨げる行為を対象とする罪です。保釈の取消し後,あるいは勾留執行停止の期間満了後の収容の場面に着目いたしまして,ここには出頭を促す仕組みが現行法上用意されておりませんので,保釈を取り消された後の検察官の呼出しに応じない不作為ですとか,あるいは勾留執行停止期間の満了後に出頭すべき場所に出頭しない不作為を対象とした罰則を設けることが逃亡防止,それから公判期日への出頭を確保するために有効であると考えられるところです。   それぞれについての必要性,相当性その他について,もう少し踏み込んで検討したいと思います。まず第1の犯罪類型につきましては,現行の刑事訴訟法上,保釈された被告人ですとか,あるいは勾留の執行を停止されている被告人が正当な理由なく公判期日に出頭しないとき,あるいは逃亡したときは,保釈を取り消すとともに保証金を没取することができるとされているところです。そのような保釈の取消しや保証金の没取というマイナスのインセンティブによって不出頭や逃亡を防止する,そして公判期日に出頭することを確保することが狙いとされているわけですが,個別具体的な事情に着目いたしますと,金銭に対する価値観は個々人によって違いますし,それから,保有資産の大きさ等も事情によって異なるわけですし,それ以外の個別具体的な事情に着目したときに,納付した保証金を放棄してでも刑罰を逃れる,あるいは刑事手続そのものから離脱したいと考えて逃亡に及ぶことはあり得るわけですし,現にそういう事件は起きているわけでして,そのような者を対象として,先ほど述べたような新しい罰則を用意して制裁を科す必要があるのではないかということです。それが,まず第1の犯罪類型の関係です。   それから,第2の犯罪類型の関係では,保釈を取り消す決定があったとき,あるいは勾留の執行停止期間が満了したときは,勾留状の謄本,それから保釈の取消決定謄本を被告人に示した上で,刑事施設等に収容することが刑事訴訟法に定められていますけれども,さらに,実務上は,保釈の取消しの場合には,被告人を検察庁に呼び出した上で収容する,それから勾留の執行停止期間満了の場合には,釈放時に指示した出頭場所に出頭させた上で収容することが一般的に行われていると理解しています。   ただ,そういう場面におきましては,その対象となる者の出頭を促す仕組みが現行法上用意されていません。つまり,保釈を取り消された被告人につきましては,その取消し自体に伴って既に保証金が没取されることになりますので,その後の出頭を促すマイナスのインセンティブがなくなることになりますし,それから,勾留の執行停止期間満了後の被告人については,勾留されることを除けば,出頭しなかった場合の制裁が用意されていないことになります。したがいまして,そのような収容を妨げる行為を対象とした新たなマイナスのインセンティブとしての罰則を設けることが被告人の逃亡防止との関係で必要であろうと考えられるところです。   基本的に,必要性については余り議論の余地はないようにも思われるのですけれども,罰則を新設するといたしますと,その罪質あるいは保護法益をどう考えるのかが問題になります。単なる義務違反,秩序違反と考えるのであれば,形式的な犯罪として処罰することができますが,余り重い刑罰は用意できないだろうという問題がありますので,基本的には実質的な犯罪として,それなりの重さの刑罰を用意することが求められるのではないかと思います。その場合には,実体のある保護法益を考える必要がありますが,そこで考えられる保護法益は,被告人の身柄を確保するという国家の刑事司法作用であろうと考えられます。 そうしますと,そのような被告人の身柄確保の作用を直接保護している犯罪類型として,既に犯人蔵匿罪,犯人隠避罪がありますが,これらの犯罪においては,犯人自身が逃げ隠れする行為を処罰対象から外していることとの調整を考える必要があることになります。   この際には,二つのことを考える必要があると考えております。第1が,犯人自身との関係でも,現行法上,既に身柄拘束作用は保護に値するものと考えられているということです。では,なぜ自己蔵匿,自己隠避が処罰されないのかということですけれども,自己蔵匿行為,自己隠避行為を処罰することにいたしますと,直ちに自首する場合を除いて,ほとんど全ての犯人について犯人蔵匿罪,犯人隠避罪が成立してしまうという問題があります。そこで,自己蔵匿,自己隠避行為を処罰する方法を採るのではなくて,むしろ,自首がなされた場合に刑の裁量的減軽を用意することで国家の身柄拘束作用を保護しようとしているのが現行法の立場だと理解しております。しかし,刑法42条1項に定められている自首は,捜査機関に発覚する前に適用対象が限定されていますので,それ以降の手続段階におきましては,減軽による自首の奨励ではなくて,不出頭等の処罰による対応をすることに理由があると考えます。   それから,第2に考えるべきことは,自己蔵匿,自己隠避が処罰されないことの根拠といたしまして,一般的には逃げ隠れしないことの期待可能性が定型的に低いということが挙げられていることをどう考えるかという問題です。ここで注意が必要だと思いますのは,ここにおける期待可能性というのは,犯罪成立要件としてのそれではなくて,立法政策の理由としての期待可能性が問題とされていることです。つまり,理論的に処罰できないことを意味するわけではなくて,犯人が自ら逃げ隠れしないことを国家が期待しないことにした,その方が適切であると政策判断したということです。現行法において,自己蔵匿,自己隠避行為との関係では,そのような政策判断をしたということにすぎないと考えられますので,その一般的な場面からは切り離された,今ここで問題としているような特定の場面に限っては出頭することを期待するという政策判断をするのであれば,不出頭を処罰することも理論的に十分可能だと理解されます。   そこで,期待できるかどうかということについて簡単に確認してみますと,第1の犯罪類型との関係では,保釈,それから勾留執行停止の制度の趣旨を考えてみますと,これは,勾留の裁判の効力を維持しながら,出頭確保を目的とする保証金の納付あるいは制限住居等の条件を遵守させることを通じて,勾留による身柄拘束と同等の効果を確保しようとする制度だと考えられますので,そのような制度の下で保釈を許可された被告人につきましては,その特別の立場に着目いたしますと,逃亡せず公判期日等の裁判所指定の日時,場所に出頭することが国家の側から期待できると考えられます。   さらに,そうであるとすれば,保釈等の前提として,あるいは保釈の条件として課された義務に違反したために保釈を取り消された者,あるいは勾留の執行停止期間が満了した被告人につきましても,逃亡せず召喚に応じて収容されることを国家の側が同じように期待することができるでしょうし,その期待に反して逃亡した行為について責任非難の対象にすることは十分に可能であろうと考えております。   最後に,法定刑について簡単に触れます。そういう具体的な犯罪類型を作る場合の法定刑について,現時点で明確な意見を述べることはできませんが,判例によりますと,犯人自身につきましても,他人を教唆して蔵匿してもらったり隠避させてもらったりする行為につきましては,犯人蔵匿教唆,あるいは犯人隠避教唆で処罰されます。その場合,上限が懲役3年ということになりますので,それがここでの限界かと思います。それ以下のどの程度の刑にするかについては,更に関係するほかの犯罪類型とも比較しながら慎重に検討する必要があると考える次第です。  ○酒巻部会長 ただ今の綿密な御意見を踏まえて,まずは不出頭について処罰する,それから,収容を妨げる行為を処罰することにつきまして,ほかに御意見等ございましたらお願いします。   ○北川委員 今,和田幹事が,公判期日への出頭を確保する仕組みとして,公判期日に出頭しない不作為を処罰する制度を考えるに当たっては,二つの類型を念頭に置くのがいいのではないかと御提案されました。   その一つが,そもそも保釈中の者が公判期日に出頭してこないということであるのに対して,もう一つの類型が,勾留の執行を受けた後保釈され,あるいは勾留執行停止をされたのだけれども,その保釈の取消しをされたとか,勾留執行停止の期間が満了したのにやってこないと,こういうものも新たに処罰の対象にすると言われたのですけれども,まず問題にしたいのは後の類型の方です。これは,第1の4の単純逃走罪の見直しの検討とも絡むと思うのですけれども,そもそも保釈の取消しであるとか勾留執行停止の期間満了後に収容しなければいけないのにやってこないといった類型は,近時の主な逃亡事案として,前回配布資料で頂きました事案の中には,保釈を取り消された被告人が地検に出頭した後,収容される前に逃げるであるとか,車両で護送される途中で逃げてしまったものについて,刑法上の単純逃走とか加重逃走に当たらないので処罰できないという不具合が紹介されていた事例と連なるように思います。   つまり,後者の類型は,近時の主な逃亡事案で刑法の97条なり98条の対象にされなかったものをフォローするのか,それとも,もっと広く,出頭に応じないことに処罰を広げることで対応するのかというところで,新たな不出頭の罪と,国家の拘禁作用そのものを保護法益としている98条,97条との関係をどういうふうに調整していくのか,両者は関連しているようにも見えますので,その点をもう少し詰めて検討しなければいけないのかなと思う点が第1点です。   さらに,もう一つは前の類型で,公判期日への不出頭を対象にする罪ということで,飽くまで出頭を確保することを前提にこういった新たな罰則を設けることになりますと,身柄の確保のためではなくて,むしろ出頭確保のためなのかなという気もするのですけれども,在宅起訴されて出頭に応じない者を対象にしなくていいのだろうか,保釈中の者だけに限るのだろうかというところも検討の対象になるかと思います。 ○酒巻部会長 最後のところは,在宅被告人も公判期日に出頭しない場合には処罰されるとしないと一貫しないのではないか,そういう話ですか。 ○北川委員 いえ,私は,その点を賛成しているわけではなくて,むしろ,公判期日に出頭しないという不作為に真正面から取り組んだときに,どこまでその罰則というか対象を広げるべきなのかという議論の中において検討すべき事項なのではないかと思った次第です。 ○小笠原幹事 まず,和田幹事が指摘された第1の類型の不出頭なのですけれども,これは故意犯なのか過失犯なのかというのが今一つよく分からなくて,前回配られた資料5の中では,アメリカとイギリスがこれらを作っているとあって,それらは正当な理由がなく不出頭ということだったので,多分,和田幹事もそういったことを前提にお話ししているのかなと思ったので,そこの確認と,保護法益の関係で,イギリスなどは1年と非常に短いのですけれども,これらの国は法廷侮辱罪のような形で処罰をしているのではないかということを聞いたことがあるのですが,日本の場合は法廷侮辱罪がないのに,ほかを処罰せずにここだけ処罰することの整合性はどうなのかと思いました。   それから,和田幹事が指摘された第2の類型について,北川委員とも重複するのですけれども,逃走以外の何かといったときに,その構成要件が具体化できるのかということです。もし具体化していったときに,逃走例の中であった,刃物を持ち出してとか,いわゆる公務執行妨害ですね,公務執行妨害で処罰できないものまで処罰する趣旨なのか,偽計を用いたりとかですかね,そういうのは現在ある法律の中で処罰できるものではないのかが疑問に思いました。 ○和田幹事 第1の点,正当な理由の点については,そのとおりです。新たな犯罪類型を作るとして,その点も含めて故意犯という前提だと思います。その他の点については,北川委員に頂いた御指摘も含めて,今後,議論を深めていくことになると思いますが,1点だけ申し上げるとすれば,先ほど公務執行妨害という話が出ました。広く言えば,公務の妨害行為について,どういう範囲で処罰対象にするのかという話になっているわけですけれども,公務執行妨害罪という一番基本的な公務妨害の犯罪類型においては,暴行・脅迫だけが処罰対象になっていて,それより軽い妨害手段については処罰対象にしていませんし,それから,判例の立場では,業務妨害罪においても,強制力を行使する権力的な公務については処罰対象から外すということになっていて,条文上処罰が可能であるものについても,かなり謙抑的な立場が採られているわけです。   結局,今問題になっているのは,正に強制力を行使して身柄を確保するという国家作用を刑罰まで持ち出してどこまで保護するのかという話なわけですが,基本的な態度としては,やはり謙抑的に行くべきだということで現行法は作られていますので,新たにこれまで処罰対象にしていないところに踏み込むという場合には,そういう大きな枠の中で,ほかの処罰される部分とも見比べながら,正にここに限っては処罰することは可能であり,そこで罰則を用意したとしても刑事司法の矜持が害されるわけではないと言える範囲を特定していくために議論を積んでいく必要があるだろうと思っている次第です。 ○菅野委員 「正当な理由」というのは,これから考えていくということではあると思うのですけれども,実務で実際に経験していると,「先生,体調が悪いのです。」と急に連絡が来ることなどは一定数ございます。私は,割と体育会系なので,「気合で来てください。」と言うのですけれども,インフルエンザであればやはり困るので,早めに分かれば裁判所に期日を変更していただいたりということも考えるのですが,直前に判明することというのも一定数あるのです。これがなかなかデリケートで,例えば,お子さんが体調悪くて今日は難しいのですと言われたときに,正当な理由があるのかとか,その辺り,刑罰となった場合に,どんなことが正当な理由になるのかということは少し御議論いただいておかないと,私どもとしてもなかなか困ってしまう事態があるのかなと,その辺の懸念を1点,述べさせていただきました。 ○酒巻部会長 ほかに御意見がなければ,先に進んで,もう一つの刑罰規定,逃走罪の方に話を移したいと思います。逃走罪の主体を拡大することというのが4番目の議題になっておりますが,これについて御意見をお願いします。  ○北川委員 先ほどの発言の中で近時の逃亡事案に触れましたが,その関連で逃走罪の主体の拡大についての検討ということで,少し話をさせていただきます。具体的には,前回配布された資料3に,保釈を取り消された被告人が地検に出頭した後,収容される前に逃げてしまったという事案がありまして,こうした場合は何らかの対応というか,処罰の可能性を考えておくことが,不出頭の場合よりもより強く求められるところではないかと思うのですけれども,現在の刑法97条の主体が限られており,単純逃走の方を見ますと,その主体は,裁判の執行により拘禁された既決又は未決の者ということで,拘禁されたという要件が刑法97条にはかかっていて,近時の逃亡事案では単純逃走には当たらないこととなる。他方,刑法98条の対象に当たるかというと,勾引状の執行を受けた者が主体に加わるので,対象者は97条よりも広いのだけれども,98条には加重要件として器具を損壊したり暴行・脅迫を加えたり,複数名で通謀することなどが規定されていて,これらの行為がないと,加重逃走罪に当たらないという限界があり,やはり処罰の間隙が生まれてきてしまう。ここのところを見直して,近時の逃亡事例の3番目であるとか4番目のものを刑法上も処罰の対象に加えるべきなのではないかと思います。   もう一つ,個人的にはまだ判断が付いていないのですけれども,学説の中には,97条の対象に,逮捕状で逮捕された者も含むべきなのではないかという議論もあります。これも併せて,慎重にですけれども,検討すべきかと思います。というのは,平成7年の口語化のときには,逮捕された者は除くという趣旨で97条は改正されたものであると聞いているのですけれども,それが合理的なことなのかどうなのかを,今回検討すべきなのではないかと思います。 ○酒巻部会長 御指摘のとおり,逮捕状により逮捕された者については,表現を平易化した刑法97条の「裁判の執行により拘禁された」者には当たらないという前提だと思いますが,98条の「勾引状の執行を受けた者」という言葉には含まれるのかという議論もありますし,さらに,令状によらず現行犯逮捕された者や緊急逮捕の場合についてはどうなのだという議論もあります。問題提起ありがとうございました。   ほかに御意見ございますか。   それでは,第2に入りたいと思います。第2の「判決宣告後の被告人の逃亡を防止するための方策」の「1 禁錮以上の実刑判決の宣告後の裁量保釈(再保釈)について,同判決の宣告前の場合と比較して,要件を厳格なものとすること」について,御意見を伺いたいと思います。 ○安東委員 裁判所における実刑判決後の保釈の運用の実情が御議論の前提になるかと思いますので,私の方から,裁判官の協議会で議論されていることをごく簡単に紹介させていただきたいと思います。   前回の部会でもお話ししましたけれども,今年の1月から2月にかけて,高裁単位で裁判官の協議会が開かれ,保釈の運用について議論があったわけですけれども,実刑判決後の保釈の運用の在り方についても,第一審判決前の保釈と比べてということで議論が行われました。この協議会では,実刑判決後は,法律上,権利保釈の規定が適用されないとされていることや,逃亡のおそれや刑の執行確保の要請が高まることなどから,実刑判決後の保釈については,第一審判決前の保釈とは異なる考慮が必要である,すなわち慎重な判断が必要であるといった意見が多く述べられたところでございます。 ○菅野委員 質問なのですけれども,やはり,実刑判決後の保釈になりますと,保証金の上増しが大体求められる形になりますし,判決後も身元引受人が機能するかという話も裁判官とさせていただくことが多いのですけれども,現状,例えば,それ以外に条件が付いていることがあるとか,保証金の金額や裁判官の判断要素以外に何か実刑後の保釈について具体的な取組が進んでいれば,教えていただきたいと思いました。 ○向井委員 保釈の保証金の積み増し以外に何か具体的に考えていくというような運用例というのは,私の知る限りではありませんが,実刑判決後の保釈の実情,現実の今の運用に関する考え方は,先ほど安東委員に述べていただいたとおりです。実際,第一審時に保釈がされていて,現に出頭してきているという被告人の実績を重視して再保釈を認める運用例がそれなりにあったところではあるのですけれども,昨年来の裁判官同士の議論などを通じまして,実刑判決後の保釈については,逃亡のおそれや刑の執行確保の要請が格段に強まっていることを踏まえて,その段階における状況を改めて慎重に考えて,保釈の必要性や逃亡のおそれ等を吟味,検討する必要があるだろうという理解が現状としては広まりつつあって,そういった議論が実務にも反映されつつあると私は理解しているところでございます。 ○酒巻部会長 一審の間,きちんと出頭したからごほうびで再保釈を認めやすいというのは,何となく自然な感じもしますが,元来は,逃げないのが当然で出頭義務があるのだから,それで再保釈が認められやすくなるというのは変であるように思いますね。 ○向井委員 逃亡しなかった実績があるということは,飽くまで一事情として考慮するにとどまり,そのこと自体は当然のことということにはなりますでしょうが,また,審理が進んだことにより罪証隠滅のおそれなどに関しては低下しているという事情などもあるのだろうと思います。ですけれども,一方で実刑判決によって被告人が受ける心情の変化など,実刑に直面するということ,あるいは自己の言い分が採用されなかったというようなことによって,心理的には全くその事情が変わってきていることは当然,影響してくるでしょうし,言い渡された刑期の長さも当然踏まえつつ考えていかなければならないと,そういう大きく局面が変わるという認識でございます。 ○小木曽委員 関連で質問があるのですが,今,保証金の上増しというお話がありましたが,どういうふうに額を設定するのかを,今日でなくてもいいので,そもそも上増しの元になっている一番初めの保証金の額の設定の仕方も含めて,お教えいただければと思います。 ○安東委員 先ほど言及した協議会での議論ということで申し上げますと,保釈保証金の金額については,結局,逃亡のおそれの判断や,ほかの保釈条件の設定と共通するところがあるわけですけれども,犯罪の性質,見込まれる刑の重さ,被告人の身上や生活状況の安定度等を念頭に置いて個々の事案ごとに判断することとなりますところ,昨今は,当事者とよく意見交換をしながら具体的・実質的に判断していくことが必要だという意見が多く述べられております。   保釈金額につきましては,例えばですが,当事者に対して,被告人の資力がどのくらいなのか尋ね,これを把握するための具体的な資料を出してくださいとお願いする,それから,先ほど身元引受人の話もありましたが,保釈保証金を被告人以外の者が負担する場合には,その者とどういう関係にあるのか,そういったところについてもお聞きし,それらを踏まえて具体的に検討しましょうと,そういった意見が協議会では述べられておりました。 ○向井委員 今の保釈保証金の決め方について若干補足いたしますと,確かにこれまでは,同じような類型の罪の被告人については同じような金額を設定するという要素も,公平の見地から一定程度望ましいという点を重く見ていた面もあると思われますが,安東委員が述べられた裁判官の間の議論を通じて,保釈保証金額の設定については,類型的にのみ考えるのではなく,個別の事案ごとに,逃亡防止等の観点から十分な担保機能を果たし得る金額を慎重に検討する実務が広まっている状況でございます。   具体的に申しますと,保釈保証金の実質的拠出者,誰が出しているか,被告人本人なのか,親族なのか,知人なのか,先ほど来,いろいろなパターンがあるということがありましたけれども,それから,その出している者と被告人との関係を考慮した上で,保釈保証金の没取ということが後で予定されているわけですが,それがどの程度被告人に心理的な威嚇となるかという点を適切に把握した上で,保釈保証金額を決定するようにしております。   実刑判決後の保釈保証金の積み増しにつきましては,当然,先ほどの,実刑判決後に様々な事情が変わってきていることを考慮して,果たして保釈するのが適当かどうかをまず考えるわけですけれども,それでもなお保釈が適当だということになりました場合には,その新たに変わった事情として,一番大きいのは刑期の長さだとは思いますけれども,そういったことも踏まえながら,更に実効的に逃亡防止をするためにはどのぐらいの金額が適切かを更に慎重に判断するために,一定の積み増しを求めるということだと思います。 ○森本委員 既にいろいろ御指摘がありましたとおり,一審で実刑判決が宣告された後は,逃亡のおそれが高まるという状況にございますが,結局のところ,裁量保釈という同じ刑訴法90条の条文を使って裁判所が御判断されるという状況にございます。   そうしますと,逃亡のおそれが飛躍的に高まる以上は,裁量保釈の適用はより制限的であるべきと,例えば,新たに保釈を許可すべき特段の事情がある場合に限り保釈を許可すべきであるという考え方も採り得ると思うのですが,条文上はそれが書き込まれていない立て付けになってございますので,実刑判決の宣告があった後の裁量保釈については制限的に適用していくべきだということを明文化することが一つの方策として考えられるのではないかと思うところです。 ○佐藤委員 裁判所の運用の実情について御紹介があり,禁錮以上の実刑判決後の裁量保釈についても,裁判官の協議会で議論が行われ,第一審判決前の保釈とは異なる,慎重な判断が必要であるといった認識の広がりがあることについて理解いたしました。ここで,禁錮以上の実刑判決後においては,類型的に保釈に関する判断の在り方が異なり得るという理解が可能であるとすれば,ただいま,森本委員から,新たに保釈を許可すべき特段の事情を要求するという考え方について言及がございましたけれども,裁量保釈の要件をいわば確認的に規定し,判断の指針を明確にすることによって,逃亡の防止や刑の執行の確保を図ることも,あり得る選択肢ではないかと考えます。   現段階で,その内容に言及するのは,踏み込み過ぎかもしれませんが,議論のきっかけとして,更に発言させていただきますと,刑事訴訟法90条は,現在,保釈を許すことが適当かどうかについて判断する際の考慮事情として,保釈された場合に被告人が逃亡するおそれの程度と,保釈されなかった場合に被告人が受ける種々の不利益の程度等を規定しており,裁判所は,これらの事情を比較考慮した上で保釈の許否の判断を行うものとされております。   禁錮以上の実刑判決後においては,実刑判決によって一般的・類型的に逃亡のおそれが高まっているということとなりますので,例えば,それを上回るほどに,保釈されなかった場合の不利益の程度が著しく大きいとか,個別具体的な事実関係を前提とすると保釈された場合の逃亡のおそれの程度が著しく低いとか,そうした場合であれば,保釈を許すことが適当と認められる,ということを明示的に規定することも考えられるものと思います。 ○大澤委員 実刑判決後の再度の保釈,裁量保釈については,十分に慎重にやらなければいけない,そのことは共有されているということがお話にございましたけれども,現在の保釈の積極化の流れの中では,この裁量保釈というのがよく使われているといいますか,裁量保釈の要件をしっかりと判断していくことによって,現在の保釈の積極化の流れが出てきているということだろうと思うのです。   そして,その判断の中身をより明確にするということで,刑事訴訟法90条には判断要素が挙げられることにもなったわけです。ところが,実刑判決後になると,法律は,類型的に逃亡のおそれが高まっていて刑の執行確保の必要も高いということで,権利保釈の対象からは除外し,かつ,実刑判決の宣告があった時点で保釈も取り消されるという立て付けにしているということで,それ以前の公判段階とは少し違うので,その辺りの一般的な法の立場も踏まえて,実刑判決後については,それに即した判断基準を明確化するということが,佐藤委員が言われたように,一種の確認といいますか,法律の規定を分かりやすくするという意味合いでも,一つ考えられるところかなと思う次第です。 ○角田委員 今の大澤委員の意見と同じ方向性の意見になるかと思いますが,確かに裁判所としては,実刑判決後の再保釈の運用は,厳格にするということを共通認識でやっているのは間違いないと思います。ただ,その根拠条文が,刑事訴訟法90条ということで,これは,平成28年改正で現在の表現になったと思いますけれども,特別部会での議論では,私も関与していましたけれども,当時の裁判所の運用を踏まえて,それをそのまま条文にしようという思想で改正されたわけです。   ただ,よく考えてみると,この条文自体は,やはり一審での再保釈でない場合を主として念頭に置いているのは間違いありません。それを裁判官の方である程度修正して理解して,趣旨を踏まえて運用しているということなので,確かに明文でもって両者は異なる枠組みの問題だと示してやるのは一つの有力な考え方だと思います。その場合,重要なのは,それほど細かいことまで規定するわけにいきませんから,考慮要素の主要なものを指摘して挙げるという定め方になると思います。その点の意見としましては,先ほどの思想,つまり,現状で裁判所がどういうことを考慮して再保釈を運用しているかという点が肝要で,まず刑期の長短という要素が非常に大きいと思います。要するに,実刑判決の長さですね,懲役5年なのか,3年6月なのか,あるいは10か月なのか。この刑期の長短,長期になればなるほど逃亡のおそれが高くなるという説明も可能でしょう。それから,事案の性質で,要するに,ある程度組織的な背景がある人や余裕のある人でないと逃げることはできないわけなので,組織性ということを抜き出すか,あるいは事案の性質ぐらいの表現にするのか,ワーディングとしてはいろいろ考えなければいけないのでしょうけれども,この二つを裁判所は考慮していると思います。さらに,実刑判決後でも保釈を必要とする状況という点も裁判所は考えて,以上三つぐらいの点を,実刑判決前の保釈に比べると,ある程度考慮に入れて判断していると思います。そこで,別枠の条文にするとか,何か立て付けをきちんと明示した上で,今の考慮要素を明文化してやるというのが一つの考え方かなと現時点では思います。 ○酒巻部会長 活発な御提案・御議論ありがとうございました。予定の時刻が迫ってきているのですが,先ほど,第1のところでも,今日のたたき台には記載されていない事項について更に御提言があればということをお尋ねし,GPS関係のことを提言していただきました。ここで,「第2 判決宣告後の被告人の逃亡を防止するための方策」に関しても,資料に記載されていない事項で,現時点で御意見・御提案がありましたら伺いたいと思います。   ○小木曽委員 会議の冒頭で髙井委員からも御発言があったのですけれども,入管行政との調整をどうするかという論点があろうかと思います。つまり,現在の実務ですと,刑事訴訟の対象になっている者について,身体拘束がされている場合は退去強制令書の執行は停止されることになっていると思いますが,身体拘束をされていないと手続が進むことになっていて,そうすると,仮に刑事裁判で実刑判決が出た場合でも,そのときには強制送還されてしまっている場合があるのではないかと思います。そういう場合をどうするかということについて,入管行政と刑事訴訟法の調整をどうするかというのも論点にはなるのではないかと思います。 ○小笠原幹事 今の関連で,今日出された資料にも出国というのがあったのですけれども,この出国者の出国時の在留資格はどうなっていたのかが少し気になっていました。要は,実刑判決を受けて,また再保釈とか,あるいは執行猶予中のときに,在留資格が取り消されているのかどうかが分からないのと,もし在留要件が取り消されているとなると,不法在留になるような感じがするのですけれども,そういったときに刑事裁判を受けることだけで特別な在留資格が付与されているかとか,その辺が分からなかったので,資料の追加という形で,分かる範囲でお願いしたいと思います。 ○吉田幹事 今,御指摘のあった点について,どのような資料が準備できるか,事務当局において検討させていただきたいと思います。 ○酒巻部会長 時間が来ましたので,本日の審議はここで終了致します。次回は,「たたき台・その1」の第2の2の「控訴審の判決宣告期日への出頭を被告人に義務付けること」から審議を行うことにしたいと思います。   次回会議の日程につきまして,事務当局から説明をお願いします。 ○鷦鷯幹事 次回,第3回会議は,令和2年7月30日木曜日,午後1時30分からを予定しています。場所は,本日と同じ,法務省地下1階大会議室です。 ○酒巻部会長 本日の会議の議事につきましては,特に公表に適さない内容に当たるものはなかったと思われますので,発言者名を明らかにした議事録を公表することとさせていただきたいと思います。また,本日の配布資料につきましても公表することとしたいと思います。そのように取り扱わせていただいてよろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○酒巻部会長 それでは,そのようにさせていただきます。本日はどうもありがとうございました。                                       -了-