法制審議会 刑事法(逃亡防止関係)部会 第1回会議 議事録 第1 日 時  令和2年6月15日(月)   自 午前10時00分                        至 午前11時58分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  1 部会長の選出等について         2 諮問の経緯等について         3 公判期日への出頭及び刑の執行を確保するための刑事法の整備について 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○鷦鷯幹事 予定の時刻になりましたので,ただいまから法制審議会刑事法(逃亡防止関係)部会の第1回会議を開催いたします。 ○川原委員 法務省刑事局長の川原でございます。   本日は,御多忙中のところ,保釈中の被告人や刑が確定した者の逃亡を防止し,公判期日への出頭や刑の執行を確保するための刑事法の整備についての御審議に御出席いただき,誠にありがとうございます。   部会長が選任されるまでの間,慣例により私が進行を務めさせていただきます。   最初に,私から,このたび部会が開催されるに至った経過等について,御説明申し上げます。   本年2月21日,法務大臣から,「公判期日への出頭及び刑の執行を確保するための刑事法の整備に関する諮問」(諮問第110号)がなされ,同日開催された法制審議会第186回会議において,この諮問についてはまず部会において審議すべき旨の決定がなされました。そして,同会議において,この諮問について審議するための部会として,「刑事法(逃亡防止関係)部会」を設けることが決定され,同部会を構成する委員及び幹事が法制審議会の一任を受けた会長から指名され,本日御出席いただいたところでございます。   委員・幹事の方々におかれましては,初対面の方も少なくないかと存じます。そこで,まず,簡単にお名前,御所属等を伺えればと存じます。   また,後ほど出席の承認の手続をお願いしますが,関係官も出席しておりますので,併せて自己紹介をお願いいたします。自己紹介をしていただく順番ですが,まず,この法務省会場に御列席の委員・幹事の方々に,安東委員から時計回りで着席順に自己紹介をお願いいたします。その後,ウェブ会議を通じて御出席の委員・幹事の方々に順番にお声掛けをいたしますので,五十音順に自己紹介をお願いいたします。   それでは,恐縮でございますが,法務省会場の安東委員からお願いいたします。 ○安東委員 最高裁の刑事局長をしております安東でございます。よろしくお願いいたします。 ○小木曽委員 中央大学法科大学院で刑事訴訟法を担当しております小木曽と申します。よろしくお願いいたします。 ○酒巻委員 早稲田大学の酒巻でございます。専門は刑事訴訟法です。 ○佐藤委員 慶應義塾大学で刑事訴訟法を担当しております佐藤と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 ○髙井委員 弁護士の髙井でございます。よろしくお願いいたします。 ○くのぎ幹事 内閣法制局で参事官をしておりますくのぎでございます。よろしくお願いいたします。 ○重松幹事 警察庁刑事企画課長の重松でございます。よろしくお願いいたします。 ○福家幹事 最高裁刑事局で第一課長をしております福家と申します。よろしくお願いいたします。 ○田中委員 警察庁刑事局長の田中でございます。よろしくお願いいたします。 ○角田委員 日大の法科大学院で教員をしております角田と申します。経歴は裁判官の出身です。よろしくお願いいたします。 ○向井委員 千葉地方裁判所で裁判官をしております向井と申します。よろしくお願いいたします。 ○森本委員 最高検察庁の森本でございます。どうぞよろしくお願いいたします。 ○井上関係官 後ほど御承認いただきますけれども,法務省特別顧問を務めております井上と申します。よろしくお願いします。 ○保坂幹事 法務省で刑事局担当の官房審議官をしております保坂と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 ○吉田幹事 法務省刑事局刑事法制管理官の吉田と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 ○鷦鷯幹事 法務省刑事局刑事法制企画官の鷦鷯昌二と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 ○川原委員 それでは,ウェブ会議で参加されておられます委員・幹事の方々,お願いいたします。 ○天野委員 神奈川県弁護士会所属の弁護士の天野です。よろしくお願いします。 ○小笠原幹事 幹事の弁護士の小笠原です。岩手弁護士会所属です。よろしくお願いいたします。 ○北川委員 早稲田大学の北川です。刑法が専門です。よろしくお願いいたします。 ○笹倉幹事 慶應義塾大学で刑事訴訟法を担当しております笹倉です。よろしくお願いいたします。 ○菅野委員 千葉県弁護士会に所属している弁護士の菅野といいます。よろしくお願いします。 ○和田幹事 東京大学の和田でございます。専門は刑法です。どうぞよろしくお願いいたします。 ○川原委員 どうもありがとうございました。   なお,本日,大澤委員は御都合により御欠席でございます。   次に,部会長の選任に移りたいと存じます。   法制審議会令第6条第3項により,部会長は,部会に属すべき委員及び臨時委員の互選に基づき,会長が指名することとされております。   そこで,早速,当部会の部会長を互選することといたしたいと存じますが,御質問等はございますでしょうか。   御質問等はないようですので,皆様の御意見を伺いたいと存じます。どなたか,御発言をお願いいたします。 ○小木曽委員 酒巻委員を推薦したいと思います。御経歴,御業績からして適任であると考えます。 ○川原委員 ほかに御意見はございますでしょうか。 ○北川委員 私も,部会長は酒巻委員にお願いするのが適当であると考えます。酒巻委員はこれまでも刑事司法制度において重要な役割を果たす検討会・審議会の委員を務められてきておりますので,そのような御経歴に照らしても,部会長を酒巻委員にお願いするのが適当と考えます。 ○川原委員 ただいま小木曽委員,そして北川委員から,酒巻匡委員を部会長に推薦する旨の御提案がありましたが,この御提案に対して御意見はございませんでしょうか。   ほかに御意見もないようでございますので,部会長には酒巻匡委員が互選されたということでよろしいでしょうか。酒巻委員におかれても,よろしいでしょうか。 (一同異議なし) ○川原委員 ありがとうございます。それでは,互選の結果,酒巻匡委員が部会長に選ばれたものと認めます。その上で,井田良法制審議会会長代理に部会長を指名していただこうと思います。   本日は電話による指名となりますので,井田会長代理と連絡をとるまでの間,一旦会議を休憩とし,午前10時20分から再開したいと存じます。   では,一旦休憩といたします。 (休 憩) ○川原委員 それでは,会議を再開したいと思います。   井田会長代理と連絡をとることができ,井田会長代理により,酒巻匡委員が部会長に指名され,これをもって酒巻匡委員が部会長に選任されました。酒巻匡委員には,休憩時間中に部会長席に移動していただいておりますので,この後の進行をお願いしたいと存じます。   酒巻部会長,よろしくお願いいたします。 ○酒巻部会長 ただいま部会長に選ばれました酒巻でございます。この部会は,被告人等の身体行動の自由と,刑事司法制度の健全・的確な作動に関わる大変重要な事項を審議することとなります。議事が適正円滑に進みますよう部会を運営してまいりたいと存じますので,皆様方の御支援と御協力のほどをよろしくお願い申し上げます。   まずは,法制審議会令第6条第5項によって,部会長に事故があるときにその職務を代行する者をあらかじめ部会長が指名しておくこととされておりますので,私が指名をしたいと思います。   本日は御都合により御欠席でありますけれども,大澤裕委員に代行をお願いしたいと思います。   次に,関係官の出席の承認の件でございますが,先ほども御紹介がありましたとおり,法務省特別顧問井上正仁先生に,関係官として当部会に出席していただきたいと考えております。皆さん,よろしいでしょうか。 (一同異議なし) ○酒巻部会長 それでは,井上先生には当部会の会議に御出席願うことといたします。よろしくお願い申し上げます。   次に,当部会の議事録の取扱いについてお諮りしたいと思います。   法制審議会の部会における議事録の作成・公表方法等につきましては,平成23年6月6日の法制審議会第165回会議におきまして,発言者名を記載した議事録を作成して,原則としてこれを公表することとするとともに,一定の場合には発言者名等を明らかにしないことができるとされております。   その法制審議会での議事録に関わる審議の詳細等につきましては,重要なことですので,まず,事務当局から御説明をお願いしたいと思います。 ○鷦鷯幹事 法制審議会の総会における議事録の取扱い等に関する審議・決定の状況について説明します。   平成23年4月1日に公文書管理法が施行されたことに伴い,内閣総理大臣決定として,「行政文書の管理に関するガイドライン」が定められ,審議会の議事録については,発言者名を記載した議事録を作成する必要があるものとされました。その趣旨からいたしますと,法制審議会総会及び部会のいずれにつきましても,発言者名を記載した議事録を作成すべきものとなります。   その上で,同年6月6日に開催された法制審議会総会第165回会議におきまして,議事録の公開方法について改めて審議がなされた結果,その公開方法については次のとおりとすることが決定されました。   すなわち,まず,総会については,発言者名を明らかにした議事録を公開することを原則とする一方,法制審議会の会長において,委員の意見を聴いて,審議事項の内容,部会の検討状況や報告内容のほか,発言者等の権利・利益を保護するため当該氏名を公にしないことの必要性,率直な意見の交換又は意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれの有無等を考慮し,発言者名等を公開するのが相当でないと認められる場合には,これを明らかにしないことができることとされました。   また,部会につきましても,発言者名を明らかにした議事録を公開することを原則としつつ,それぞれの諮問に係る審議事項ごとに,総会での取扱いに準じて,発言者名等を公表するのが相当でないと認められる場合には,これを明らかにしないことができることとされました。   したがいまして,当部会におきましても,原則として,発言者名を明らかにした議事録を作成するものの,部会長におかれて,委員の御意見をお聴きし,ただいま申し上げたような諸要素を考慮して,発言者名等を公表するのが相当でないと認められる場合にはこれを明らかにしないこととすることができることとなります。 ○酒巻部会長 ただいまの説明に対して,何か御質問はございますか。   もし御質問がなければ,ただいまの事務当局説明,経緯も踏まえて考えますところ,この部会における審議の内容は,先ほど申したとおり大変重要な事柄ですので,広く国民の皆様にも知っていただくという観点からも,発言者名を明らかにした議事録を作成し,これを公開するというのが相当ではないかと考えるところでございます。そこで,私といたしましては,原則として発言者名を明らかにした議事録を作成して,法務省のウェブサイト上において公表するという取扱いにしたらよいのではないかと考えるところです。   もっとも,今の説明にありましたけれども,審議事項の内容その他の事項を考慮して,発言者名等を公表するのが相当でないと考えられるような場合には,例外的にその都度,皆様にお諮りした上で,部分的に公表しない措置を採るということにしたいと考えますが,このような取扱いでいかがでございましょうか。 (一同異議なし) ○酒巻部会長 それでは,御異議がないということですので,議事録につきましては,原則として発言者名を明らかにしたものを作成して,これを公開するという取扱いにさせていただきたいと思います。   それでは,さきの法制審議会総会におきまして,当部会で調査審議するように決定のありました諮問第110号につきまして,審議を始めたいと思います。   まず,この諮問を朗読していただきたいと思います。 ○鷦鷯幹事 それでは,諮問第110号を朗読いたします。   近時の刑事手続における身体拘束をめぐる諸事情に鑑み,保釈中の被告人や刑が確定した者の逃亡を防止し,公判期日への出頭や刑の執行を確保するための刑事法の整備を早急に行う必要があると思われるので,その要綱を示されたい。 ○酒巻部会長 次に,事務当局から,諮問に至った経緯及び諮問の趣旨等について説明をお願いします。 ○吉田幹事 諮問第110号につきまして,諮問に至りました経緯及び諮問の趣旨等について御説明申し上げます。   平成21年から平成30年までの直近の10年間の統計を見ますと,刑法犯を始めとする犯罪の認知件数は毎年減少し,勾留状を発付された被告人の人員も減少を続けていますが,その一方で,保釈を許可された被告人の人員は,約1.4倍に増加し,保釈率,すなわち,勾留状が発付された被告人の人員に対する保釈を許可された被告人の人員の割合も,約2倍に増加しています。保釈されたものの公判期日に出頭せず,あるいは所在不明となるなどして,保釈が取り消される者の数も,先ほど申し上げた10年間に,約3倍に増加しています。   昨年来,保釈中の被告人や保釈を取り消された被告人,刑が確定した者などが逃亡し,その間,近隣の住民に多大な不安を与える事態となった事案が相次いで発生し,また,外国人の被告人が保釈中に国外へ逃亡する事案も発生しました。このような逃亡事案は,ひとたび発生すると,国民の間に多大な不安を生じさせるばかりでなく,適切な対処がなされなければ,公判審理の遂行や刑の執行を危うくし,刑事司法制度に対する国民の信頼を損なうことにもなりかねません。そのため,それらの者の逃亡を防止する適切な方策を講じることは,喫緊の課題であります。   そこで,こうした近時の刑事手続における身体拘束をめぐる諸事情に鑑み,関係する刑事法の整備を早急に行う必要があると考え,今回の諮問に至ったものであります。   次に,諮問の趣旨等について御説明申し上げます。   今回の諮問は,近時の刑事手続における身体拘束をめぐる諸事情に鑑み,保釈中の被告人や刑が確定した者の逃亡を防止し,公判期日への出頭や刑の執行を確保するための刑事法の整備について御審議をお願いするものであります。   これらの者の逃亡を防止し,公判期日への出頭や刑の執行を確保するための方策については,近時の身体拘束をめぐる様々な事情を踏まえながら,第一審の公判中,上訴審の公判中,判決の確定から刑の執行に至るまでといった刑事手続における各場面ごとに,対象者の立場や手続の性質の違いを考慮しつつ,有効かつ適切な方策の在り方について,幅広い観点から御検討いただきたいと考えております。   この問題は喫緊の課題であり,必要な法整備の具体的内容等について,十分に御議論いただいた上で,できる限り速やかに要綱をお示しいただきますようお願い申し上げます。 ○酒巻部会長 引き続きまして,本日の配布資料について事務当局から説明をお願いします。 ○鷦鷯幹事 配布資料について御説明いたします。   資料1は,先ほど朗読させていただきました諮問第110号です。   資料2は,本諮問に関連する刑事訴訟法及び刑法の参照条文です。   資料3は,近時の主な逃亡事案の概要を記載したものです。   資料4は,事務当局からの説明の中で概要を申し上げた,平成21年から平成30年までの直近10年間の各種統計です。   第1表は,刑法犯の認知件数の推移を表したグラフであり,刑法犯の認知件数は,毎年減少しています。   第2表は,同じ期間の通常第一審における勾留状発付人員,保釈許可人員,保釈率の推移を表したグラフです。   まず,一番上のグラフのとおり,勾留状が発付された被告人の人員は,平成21年には7万68人であったものが,減少傾向が続き,平成30年には4万8190人となっています。   次に,その下のグラフは,保釈を許可された被告人の人員の推移を表したグラフであり,保釈を許可された被告人の人員は,平成21年には1万924人であったものが,平成30年には,約1.4倍の1万5493人となっています。   そして,その下のグラフは保釈率,すなわち,勾留状が発付された被告人の人員に対する保釈許可人員の割合を表したグラフであり,平成21年に15.6%であった保釈率は,平成30年には,約2倍の32.1%となっています。   第3表は,通常第一審における保釈取消人員を表したグラフであり,平成21年に40人であった保釈取消人員は,平成30年には,約3倍の127人となっています。   資料5は,諸外国における未決拘禁・保釈,刑の執行に関する制度の概要をまとめたものです。   条文を中心に調査したものであり,各国の制度の全容を表し尽くせているものではないという点は御容赦いただきたいと思います。末尾に添付いたしました,本文の内容を要約した二つの表に沿って御説明いたします。   まず,第1表は,諸外国,具体的には,アメリカ(連邦),イギリス(イングランド及びウェールズ),フランス,ドイツの逮捕等,未決拘禁,代替措置により未決拘禁から解放する制度,保釈中の逃亡等の防止策について記載しています。   いずれの国におきましても,罪証隠滅のおそれや逃亡のおそれがあると認められるときに未決拘禁がなされ得るものとされていますが,その一方で,別の措置を講じることにより未決拘禁から解放する制度も設けられているようです。   このような制度として,アメリカ・イギリスでは保釈,フランスでは司法監督,ドイツでは勾留状の執行猶予という制度がありますが,いずれの国の制度においても,条件の設定等によってもなお未決拘禁の目的が阻害されるおそれがある場合には,未決拘禁からの解放が認められないことがあるものとされているようです。   これらの制度により未決拘禁から解放する場合において,逃亡を防止するために被告人にどのような条件を課しているかという点については,各国それぞれにバリエーションがあり,保証金の納付,住居の制限や関係者との接触禁止など,我が国においても保釈の条件とされるもののほか,外出禁止,電子監視,治療・入院,裁判官等が指定する官署への出頭など,様々な条件を課すことができることとされており,また,アメリカやイギリスにおいては,理由のない公判期日への不出頭について罰則が設けられているようです。   2枚目の一覧表をご覧ください。   第2表には,アメリカ,イギリス,フランス,ドイツの刑の執行制度について記載しています。   これも条文を中心に調査したものですが,いずれの国においても,拘禁刑や罰金刑の執行を確保するため,様々な制度が設けられているようです。   なお,この資料5の本文では,フランスの電子監視付居住指定について,条文から把握し得た範囲で比較的詳細に記載しておりますが,アメリカ,イギリス,ドイツにおいても,保釈中の被告人の逃亡を防止することなどを目的として,GPS機器を装着させる制度や運用があるようです。その点について,本日配布した資料には入れておりませんが,今後,各国のGPS機器を装着させる制度や運用の詳細については調査を進める予定であり,取りまとめが出来次第,紹介させていただきたいと考えております。   配布資料の御説明は以上です。 ○酒巻部会長  事務当局からの説明は以上のとおりです。   諮問事項に関する審議の進行方法につきましては,後ほど皆様にお諮りして決めたいと思いますけれども,現段階で,ただいまの事務当局の説明内容に関して質問等がございましたら,お願いしたいと思います。   それでは,御質問等,現段階ではないようですので,早速諮問事項の審議に入りたいと思います。   先ほど事務当局からも説明がありましたとおり,今回の諮問は,引用しますと,「近時の刑事手続における身体拘束をめぐる諸事情に鑑み,保釈中の被告人や刑が確定した者の逃亡を防止し,公判期日への出頭や刑の執行を確保するための刑事法の整備を早急に行う必要があると思われるので,その要綱を示されたい。」というものであります。   この諮問の趣旨・内容に鑑みますと,本日第1回目の会議の審議におきましては,今後の個別具体的な議論を行う前提として,まずは御列席の委員,幹事各位の問題意識を相互に理解し共有するために,この諮問事項に関連して,概括的・包括的な審議を行うこととするのが今後の議論に有益なのではないかと思います。   特に皆様に御異論がなければ,そのように本日の審議を進めたいと思います。よろしいでしょうか。 (一同異議なし) ○酒巻部会長 ありがとうございます。それでは,今申しましたような形で審議を進めさせていただきたいと思います。   この諮問事項に関して御意見,御質問,御感想等ある方は,どのような点からでも結構ですので,手を挙げていただき御発言をお願いします。いかがでしょうか。 ○小木曽委員 諮問に至る経緯や事務当局の御説明を踏まえて,総論的な意見を申し上げたいと思います。   配布の統計資料4によりますと,平成21年から平成30年までの間,勾留状が発付された被告人の数が減る中で,保釈許可人員,保釈率ともに,ほぼ右肩上がりで増加しています。これが身体拘束要件ないし保釈要件の実質的,具体的判断が促進された結果を反映したものであれば,そのことを肯定的に捉えるのが一般的であろうと思います。   他方,資料3の「近時の主な逃亡事案」を見ますと,保釈中の被告人が国外に逃亡し公判を開くことができなくなった事案や,保釈を取り消された被告人の逃亡事案,刑が確定した者の逃亡事案が相次いで起こっています。この中には,その被告事件自体が社会の注目を集めるものであるにもかかわらず,公判が開始できなくなるものがあったり,逃亡した者が発見,確保されるまでの間,地域住民を不安にさせる事案があったりして,そうしたことから,関係機関の対応への疑問や制度自体の十分さへの関心が寄せられることになったと認識しております。   被告人の保釈の在り方については,これまでも議論があり,取り分け権利保釈の除外事由の一つである罪証隠滅のおそれの認定や,裁量保釈の判断に当たっての考慮事由の明確化等について検討されてきたわけですが,そこでは,保釈の判断に当たって,例えば逃亡のおそれをどのように認定するかといった点が主要な関心であったと思います。したがいまして,対象者の逃亡防止については,恐らく事案の少なさもあって,保釈条件や保証金額の設定という運用上の問題として考えれば足りるとされて,法制度自体として現行法制が被告人等の逃亡を防止するのに十分であるかという点についての関心は薄かったように思われます。   保釈率,保釈許可人員が増加していることと関連して興味深いのは,地方裁判所,簡易裁判所における保釈取消人員も増加していることです。保釈許可人員の増加と保釈取消人員の増加は,ある程度は正比例するのかもしれないとは思いますものの,取消事由に当たる事情はなかろうと判断されて保釈されるのが本来の有様だとしますと,取消人員が増加している理由には注目すべきであると思います。保釈やその取消しの判断については,取り分け裁判所が御苦労されていると思いますけれども,実務の状況について当部会の議論の中で御教示いただければ幸いです。   被告人が逃亡して刑事裁判を開くことができないとか,確定した刑が逃亡により執行できないという事態は,人々の裁判や司法制度への信頼を揺るがすのみならず,自ら公判期日に出頭する被告人との公平感にも悪影響を与えると思います。それが資力の有無に由来するというようなことがあるとすれば,なおのことです。この機会に,対象者の逃亡を防止し,公判期日への出頭確保や刑の執行確保の法制度を見直すことは大変有意義であると考えます。 ○角田委員 今,総論的な観点での御意見がありましたので,私も総論的な問題に絞って少し申し上げたいと思います。今回の課題の中心は,保釈の問題がかなりウエートを持っているのはそのとおりだろうと思います。そして,この保釈を始めとする身柄拘束に関する運用の現状をどう評価するかという点が,今回のこの諮問事項に対する検討をする前提問題になると思われますので,ある程度共通の認識を持っておいた方がいいということで申し上げます。古い時代には,保釈を非常に積極的に運用していた時代があると思いますけれども,犯罪現象の変化だとか犯罪件数の関係で次第に保釈の運用が厳格になり,なかなか保釈の件数が伸びない,こういう時代がかなり長い間,続いてきました。これについては,御承知のとおり,裁判員裁判の実施もにらんで,大阪地裁の松本芳希判事の論文を契機に大きく運用が変わり始めて,現状は,先ほど統計で御紹介いただいたような形で,勾留状発付の人員は右肩下がり,それから保釈許可人員,保釈率などは右肩上がりと,こういう運用になっております。   私は裁判所で仕事をしていた期間が長いので,その感覚で見ますと,何が変わってきたかというと,実質的には,罪証隠滅のおそれの判断をある程度類型的,抽象的にしていたものを,より具体的に個別事案ごとの証拠構造などに踏み込んで判断するようになったことの反映だというふうに考えておりまして,これは正しい方向性だったと考えております。恐らく裁判所だけでなくて,弁護士サイド,あるいは検察官サイドでもある程度共通の認識を持っていただいているのではないでしょうか。というのは,保釈というのは,何か高度に類型的な判断をするというよりは,本来,一件一件の個別事案の個別判断なのですね。その積重ねが結果としての統計に出てくるということだと思いますので,そういう方向性は正しかったし,特に裁判員裁判の対象事件などについては,争点整理を公判前整理手続の中でやる場合に,身柄拘束状態にある被告人と弁護人の間の意思疎通というのは非常に困難だろうと外から見ても思いますので,その点からもあるべき変化だったと思います。ただ,先ほど御紹介があったように,結果的に保釈の取消件数が増えてきているというようなことが一つの大きな問題なわけですけれども,だからといって,制度的な手当てや今後の運用を検討する際にも,保釈をある程度積極的に考えていこうという方向性自体は変えない方がいいと私は考えております。   ただ,これに伴い被告人の逃亡の増加といった問題が出てきたために,これへの対応が求められるわけですが,それには運用面の改善と制度的な手当が必要です。まず,運用の問題については,多分,裁判所からの委員より意見があると思いますが,罪証隠滅のおそれの判断というのはかなり踏み込んだ判断ができるのだけれども,逃亡のおそれの判断というのはやや類型的な判断になりやすい面があって,そこのところの工夫が,今後は,裁判所だけでなくて法曹全体に求められているというのが一つの課題かと思います。   その上で,今述べましたように勾留や保釈を柔軟に運用していこうという運用は正しい方向で,あまり変えるべきでないとする以上,これに伴って生じる被告人の逃亡や保釈取消しの件数が増加するというような不都合については,裁判所を中心とする運用上の工夫に加えて,この部会で議論する制度的手当とを組み合せて,この保釈の取消し等の問題をなるべく減らしていくということで考えられればいいのではないかと,総論的にはそういうふうに感じております。 ○髙井委員 先ほど来,お二人の委員が話されていることと重複する部分もありますが,保釈が拡大傾向にあるということ自体は,これは前向きに捉えていいことだと思います。私は昔,検事をしておりましたが,弁護士になってみると,検事のときの保釈判断が厳しすぎたかなと思うこともあり,裁判員裁判制度等を考えると,保釈が緩和されていくということはいいことで,この傾向を押し戻すということがあってはいけないと思っています。   一方で,保釈が緩和されれば当然,罪証隠滅及び逃亡をする事例というのは,必然的に出てくるということを考えなければいけない。先ほど角田委員がおっしゃいましたが,従来は,逃亡はしないものだと,私も検事のときに保釈判断をするときに,逃亡のおそれを真剣に考えることはほとんどありませんでした。被告人が暴力団であるとか,あるいは強固な組織に属しているという場合は,逃亡のおそれを具体的に考えましたが,それ以外は,ほとんど逃亡のおそれというのは,もう保釈金で担保されると。日本のような人間関係が濃密で狭い国土で最後まで逃げ切れるはずがないと,最後まで逃げ切れると思う人間がいるはずがないという前提で保釈を考えていたわけです。ですから,罪証隠滅のことは一生懸命考えましたが,逃亡のことはほとんど考えなかった,逆に言えば,考える必要もなかった,そういう運用でもあまり逃亡されたという覚えがないのですね。   しかし,最近は世の中が変わってきていて,社会構造もかなり緩やかになっている。隣近所の関係も,ほとんど何をしているか分からない。さらに,外国からもいろいろな方々が入ってきていて,従来の日本人的な思考が通用しない部分がかなり出てきていると思います。昨今の逃亡事例も,検察事務官が収容に行くときに,それに対して刃物などを持って暴れるということは到底昔は考えられなかったわけで,そういう意味では,特に逃亡に関して従来の言わば性善説に立った法制度の在り方というのは早急に改めなければいけないと思います。その性善説に立った考え方を改めた制度を導入しつつ,保釈は現在のように緩和していくというのが今後の新しい,また国際的にも理解される法制度の在り方だと考えております。 ○菅野委員 私も,保釈が少し増えてきているとは思っていますけれども,まだまだ保釈がこれから増えなければいけないと考えています。特に,私としては2点,保釈が現状では十分機能していないと思う点がございまして,1点目は,やはり公訴事実を争う場合,あるいは黙秘などしていた場合に非常に保釈が許可されにくいのが実情です。何度も保釈請求をして準抗告をして,それでもなかなか保釈が認められない。むしろ裁判を準備するのは否認事件の方が,当事者と弁護人とでいろいろとやらなければいけないことがあるのですけれども,否認していると保釈がなかなか許可されにくい実情というのは,問題だと考えております。   もう1点は,保釈がなかなか使えないのは,お金がない人,頼れる親族がいない方というのも一定数いらっしゃいます。そうした条件で身体拘束が継続してしまうのがいいのかという点の問題意識は持っているところです。   これからお話しするのは,事務当局へのお願いになるかもしれませんけれども,議論の前提として,もう少し細かい統計情報などを出していただくことはできないのかということを感じております。といいますのは,例えば10年間の保釈率などが出されておりますけれども,先ほど,ほかの委員の先生からも御指摘があったとおり,1970年代には保釈率は50%を超えていたわけです。その中で保釈の取消しというのがどれぐらいなされていたのか,逃げている人などがどれぐらいいたのかというところもやはり把握して,実際に逃亡を防止するための取組を弁護人はどうしていたのだろうということがもう少し細かく見られたらな,などということを感じています。   それと,やはり保釈の取消しの件数は出ていますけれども,これは,実は逃亡だけではなくて,再犯をしてしまったがゆえに逮捕されてしまった,あるいは事情があってほかの理由で取り消されているケースもありますので,保釈の取消しの件数だけ見ても,逃亡したのかどうかということが分からないのです。こちらは最高裁へのお願いになるかもしれませんけれども,保釈の取消しのもう少し細かい中身であるとか,仮に逃亡して取消し,あるいは公判に出ないから取り消されたとして,何が問題だったのか,結局は公判への出頭の担保措置というのは採られたはずなのですけれども,それがどう機能しなかったのかというようなことを知りたいです。逃亡事例の中には勾留執行停止の事例もありましたけれども,そういう保証金のない勾留執行停止事案で逃亡してしまう人がいるのか,いないのかというようなことも,もう少し議論の前提として幅広い情報を頂きたいと思っています。   最後に,事務当局から,各国制度,GPS制度はこれから取りまとめられるというお話でしたけれども,各国で保釈率というものがどうなのかとか,電子監視をした結果,逃亡防止がどれぐらいできているのか,そういったことも今後併せて御報告いただけたら助かるなと思っています。 ○酒巻部会長 保釈取消人員が最近増えていることについては,いろいろな見方もあるでしょうし,それ以外にも,そもそも大前提として,まず勾留があり,その勾留請求に対する裁判所の対応等も,前提になる資料だと思います。いろいろ難しいところはあるかもしれませんけれども,関係機関より統計資料を御提供いただくということについて,見通しはいかがでしょうか。 ○鷦鷯幹事 どのように対応できるかも含めて検討させていただき,できる限りの準備をさせていただきます。 ○和田幹事 保釈中の被告人の逃亡防止について,各論的意見を一つ申し上げたいと思います。   保釈を広く認めつつも保釈中の被告人の逃亡を防止するために,逃亡行為に対して新たな罰則を設けるということについて検討する価値があるかと思います。現行法上も保証金の没取が用意されているわけではありますけれども,そのような経済的な制裁だけでは不十分だということがあり得ますので,具体的には,保釈中の被告人などが正当な理由なく公判期日に出頭しない不作為を処罰対象にする罰則であるとか,あるいは,保釈が取り消された被告人が検察官が勾留のために呼び出すのに応じない不作為を処罰対象にする罰則,これらを新たに設けたり,あるいはまた,単純逃走罪の主体を拡張しまして,勾留状の執行を受けた者にまで主体性を認めるというような改正も考えられるかもしれません。   その際には,犯人自身による自己蔵匿行為や自己隠避行為が,一般的には期待可能性の欠如を理由にしていると説明されますが,犯人蔵匿罪や犯人隠避罪の処罰対象から外されているということとの関係を整理する必要があるでしょうし,それから,証人の出廷については,勾引による直接強制とともに刑事罰による間接強制も規定されているわけですけれども,それに対して被告人の出廷についてはあえて刑事罰が設けられていないということとの関係も整理する必要があるかと思います。   そのような課題はあるものの,今述べましたような新たな罰則を設けることについては検討する価値があると考える次第です。 ○酒巻部会長 現在の刑法の定めについても,一般の方は,保釈中の人が逃走しても処罰規定がないというのを聞くとびっくりされるでしょう。刑法の教科書を勉強すると,刑法理論からいろいろと説明がなされております。この機会に,それが本当に根拠があるのかどうかというのを検討するのは大いに意味があると思いますので,今後活発な御議論をよろしくお願いできればと思います。 ○小笠原幹事 私もこれまで多分100件以上,刑事弁護をやっていて,そのうち保釈取消しになったのは2,3件はあると思うのですけれども,ほとんどが再犯というか,一つは弁護人にももちろん裁判所にも分からない余罪について再逮捕されて,こちらの方から,では,保釈しても意味ないよねといって取消しをお願いしたケースがあります。もう一件は保釈条件違反でして,実際は再犯というか,似たような行為をしてしまったということで逮捕勾留されたというもので,逃亡の事案ではないのです。なので,先ほど来,何人かの委員がおっしゃられたとおり,保釈取消人員は平成30年に127人と増えているのですけれども,それらについてどういった理由で,というのは非常に重要なのかなと思いました。   私の方ではもう一つ,逃亡事例で,どうして逃亡したのかという,その逃亡した人たちの話というのを聞いてみたいと思っておりました。というのも,先ほど,逃亡事例が増えてきたと思われるのは,社会の変化であるとか,人間の考え方の変化というけれども,本当にそうなのかどうかというのが一つと,それと,今,部会長がおっしゃられたとおり,社会の人って逃げたときに罰則がないというのは普通,知らないですよね。逃げた人はそれを知っていて,要は,自分は逃げても罰則がないから逃げたのか,それとも,それは知らなくて,捕まったら当然,新たな罰則は来るけれども,やはり逃げたくて逃げたのか,あるいは,そうすると,では,どういった条件があったら逃げないのか,GPSなのか,それとも保釈金以外の何らか,例えばスマホを預けられるとか,そういうふうなものの方が実は逃げなかったのかとか,実体験ではないですけれども,そういったものに基づいて検討することが必要ではないかと今のところ思っています。 ○森本委員 先ほど和田幹事から,逃亡した場合の罰則のお話がありましたので,保釈の話のときに申し訳ないのですけれども,実刑判決が確定した後にも収容ということが必要になり,同じような場面があって,そこでも収容を拒んだ場合に刑事罰などがほぼ適用できない状況にありますので,そのことも付け加えさせていただきたく,手を挙げさせていただいた次第です。   禁錮以上の実刑判決が確定した場合,拘禁されていないときは検察官がこれを呼び出して収容する,もし対象者が呼出しに応じないとき,あるいは逃亡したときは,検察官が収容状を発付して収容するということになりますが,この収容の業務も検察事務官の仕事でございます。この収容の業務は,保釈が取り消された場合,あるいは勾留執行停止の期間満了後など,いろいろな場合に同じような業務がございます。   先ほど事務当局から,近時の逃亡事案ということで5つほど御説明がございましたが,このうちの1件が,保釈中に実刑が言い渡されて確定した後,収容時に逃亡した事案,2件が保釈取消しの収容の際の事案です。これらの事案については,地域住民の方々に大きな御心配,御迷惑をお掛けしたものでございまして,検察庁としては再発防止に努め,現在は周到な準備をして万全の体制で臨むということで,保釈取消しの場合も,あるいは実刑判決確定後の収容の場合も,大変な努力を続けているところです。   ただ,先ほど事務当局から御説明がありましたように,件数自体が大変増えていまして,元々勾留が付かない事案も増えておりますので,要するに,実刑判決が確定した場合に拘束されていない人というのが増加しています。特に,一審判決で禁錮以上の実刑判決が言い渡されて,そのときには保釈が失効しますが,最近,再保釈が増えてございますので,控訴審判決の場合には判決期日に被告人の出頭義務がなくて,判決期日に保釈が失効してもその場で収容することができない,そうすると,再保釈された被告人の場合には,どうしても多くの場合,判決期日に収容できずに,その後,本人を呼び出すということになります。そういう意味でも,収容の業務は大変増えておりまして,地域住民の方に御迷惑をお掛けしないということで,神経をすり減らして検察事務官が努力しているところでございます。   このような現状を少しお話しさせていただいて,その上で,先ほど和田幹事のお話にもありましたけれども,実刑判決確定後の収容の場合につきましても,逃亡した場合,抵抗した場合などについて,公務執行妨害罪などが適用されない限りは,なかなか刑法犯などは成立しない,罰則がないという状況にございますので,そういう場合も含めて,そのような手当てができないかと考えているところでございます。   何よりも,速やかな収容によって地域住民に御迷惑をお掛けせず,そしてまた,収容担当者の身体,生命を守るという観点からも,なるべくスムーズに対象者が呼出しに応じて出頭してくるような状況になるように,そういう意味でも,罰則などについて検討していけないだろうかと考えているところでございます。   保釈の話と場面が共通すると思いましたので,発言させていただきました。 ○安東委員 髙井委員から,昔なら考えられないような逃亡事例が起きているとか,あるいは角田委員から,罪証隠滅のおそれは踏み込んで判断するようになったけれども,逃亡のおそれはどうだったのかという御指摘がございまして,それから,小木曽委員からは,実務の状況について裁判所はどういうふうにしているのかというお話もございました。今日は第1回ですので,飽くまで概略になりますが,裁判所での議論の状況ということで少しお話ししたいと思います。   裁判所では,これまでも,身柄の問題については,個々の裁判官が判断するわけですので,裁判官の間で議論しながら適正な運用を図るということでやってまいりました。今日御紹介もありましたとおり,保釈された被告人の逃亡事案が昨年相次いで発生しましたので,それを受けまして,裁判官の間で保釈の運用に関する議論が行われているところでございます。   まず,昨年の秋に開催されました司法研修所の裁判官の研究会では,ある地裁における保釈取消しの実例を素材とした保釈の運用に関する議論の状況が紹介されまして,これを受けて各庁で議論を行ったということになります。年が変わりまして,本年の1月から2月にかけて各高裁単位で裁判官の協議会がありまして,そこで保釈の運用に関する協議が行われました。   そこでは,逃亡のおそれについてきめ細かな検討を行う必要があるという意見が多く出されまして,具体的には,保釈保証金や身柄引受けなどの逃亡防止を担保するための保釈条件等の設定の在り方や,逃亡のおそれの程度や保釈条件の設定に係る具体的な情報や意見を当事者から聴取して,これらの点について当事者双方と十分に意見交換する必要があるといった審査手続の在り方について議論がなされたところであり,さらに,この協議結果を各庁に還元した上で,それぞれの事例も踏まえて議論と実践を繰り返していく必要があると,そのような議論がされたものと承知しているところでございます。 ○酒巻部会長 今,「身柄引受け」という言葉が出てきました。刑事訴訟法の条文には,そういう言葉は出てきませんけれども,保釈のときの身柄引受人というのは,御親族とか勤め先の上司とか,そういう人のことですか。 ○向井委員 今,少し実務の運用の話が出てまいりましたので,その点を若干補足しながら御説明したいと思います。   身柄引受書につきましては,多くは親族ですとか,それから職場の上司であるとか雇用主,あるいは事実上の知人ということも場合によってはあり得るのですけれども,そういった方々に,事実上の措置ということにはなりますが,監督,必ず出頭させます,罪証隠滅などさせませんというようなことについて誓約をしていただいて,被告人の身柄を監督しますと,そういった形で誓約書,署名,指印してもらったものなどを出していただくというようなことをして,逃亡防止やそのほかの保釈条件に反しないように,その実効性を担保するというようなことをしているところでございます。   今,安東委員から裁判所内での議論の状況の御説明があったところですけれども,その協議会の議論の場には私も参加しておりまして,その中では,保釈の判断に当たりまして,これまで罪証隠滅の有無や程度を中心に議論,検討してきたという面があったわけですけれども,これは具体的にやっていこうということで,先ほど角田委員からも御紹介がありましたように,そういったことについてやってきたわけですが,今後さらに,逃亡のおそれの有無,程度や保釈条件の設定などについても,これまで以上に具体的かつ丁寧に検討していく必要があるといった意見が多く出されておりました。   私としましても,これまで以上に逃亡のおそれに関する判断等の精度を高めていくことが重要であると感じているところでございまして,現在,実際の事件におきまして合議体として保釈を判断する際には,右陪席裁判官や左陪席裁判官にそのような観点から具体的に考えてもらい,情報収集といったことを以前より,これは当事者から実際に行うわけですけれども,そういったことを積極的に行うなどした上で,議論を尽くして判断の精度を高める工夫というものを実践するように心掛けているところでございます。   逃亡のおそれの判断や保釈条件の設定などに当たっては,従前から判断に必要な事情を当事者から聴取し,事案の性質,予想される処分,さらには被告人の身上経歴などを総合的に考慮して,個々の事案ごとに,逃亡の可能性がどの程度あるのか,それを防ぐための保釈条件,また,先ほど少し出てきました身柄引受人はどういう人になっていただくのが適切なのかということについて具体的に検討し,このような検討をよりきめ細かく行っていく必要があると考えているところでございます。   ○酒巻部会長 これまで,勾留を前提とした保釈一般のお話と,先ほど森本委員の御発言の中に再保釈という表現で出てきましたけれども,第一審有罪の実刑判決宣告後については,刑事訴訟法が343条あるいは344条という条文で,禁錮以上の刑に処する実刑判決の,確定ではなくて宣告があったときには,そこから先は少し世界が変わる,つまり,保釈は失効する,それから,権利保釈はなくなるという定めになっています。   第一審の有罪判決宣告を境にしてどうしてこうなっているかについてはいろいろな説明があるのですが,手続段階として,第一審をやっている最中の被告人の保釈と,それから,第一審で有罪判決が宣告された,確定前でも宣告された時点で,やはり扱いを変えているわけです。そこでもう一回,再保釈がされることがある。   この辺のところが一般国民から見ると少し分かりにくいところかもしれません。有罪判決が出ているのに,何で保釈・釈放するのか。普通は,有罪判決が出ると,逃げるおそれが高まるので,それにもかかわらず再保釈というのは不思議だなと思う人もいるかもしれません。そこで不出頭とか逃亡になったとき,控訴審は更に -これも一般にはあまり知られていないかもしれない- 被告人に公判出頭義務がありませんので,控訴審に固有の問題もありそうです。この辺り,刑事訴訟法の先生方で何か御意見のある方はいらっしゃいますか。 ○佐藤委員 第一審実刑判決後の再保釈や控訴審段階の問題に移られる前に,先ほど,「身柄引受人」に関わる話題が出ておりましたので,保釈中の被告人の動静把握に関わる手段について,ここで発言することをお許しください。   御案内のとおり,保釈は,逃亡すれば保証金を没取するという威嚇によって被告人の逃亡を防止する制度ですけれども,逃亡防止という目的を達成する上で,現在の制度の枠組みで十分か,なお改良の余地があるとすれば,保釈保証金没取の威嚇に加えて,更にどういった方策があり得るのか,といった観点から検討することが有益であろうと考えます。   その場合に,保釈中の被告人の動静を把握する仕組みを整える,という対応が選択肢の一つとなるように思います。具体的には,まず,先ほど言及のありました「身柄引受人」の位置付けを明確化することが考えられます。この「身柄引受人」につきましては,すでに御発言がありましたように,近親者や雇主等が保釈中の被告人を監督すること,あるいは裁判所に出頭させることを誓約し,裁判所も保釈を適当と認める一事情としてこれを評価する場合があるという形で,被告人の出頭を確保する手段として用いられ,一定の効果も挙げてきたと理解しております。ただ,これはあくまで事実上の措置であって,身柄を引き受けた側に法的な義務まではない,という点で,逃亡防止の効果に限界があるようにも思われます。今回,この点を改め,法的な制度として設計することにより,監督を実効的なものにしていくことを検討してはいかがかと考えております。   被告人の動静把握,監督について,更に話を続けさせていただきますと,保釈を許可された被告人は,通常は公判期日に出頭する以外は裁判所との接点がなくなってしまう,特に,控訴審以降においては公判期日への出頭義務もない,ということから,仮にこの間に被告人が逃亡してしまうと,そのことが長期間発覚しないといった事態にもなりかねません。こうした,裁判所等との接点が乏しい状態は,被告人に逃亡の動機を与えることにつながり,また逃亡した被告人の所在の把握をより困難にしてしまうのではないかと思われます。   この点,現行法の下でも,実務家の方の書かれたものに,保釈の条件として,「毎月1回裁判所に出頭して動静を報告する」等の条件が付されることがある,といった記述がみられますけれども,今述べました,被告人と裁判所等との接触の機会を確保するという観点から,被告人の動静を定期的に報告させるといったことが逃亡の防止に資する場合があるとしますと,これを制度化し,保釈保証金没取の威嚇に加えて,被告人に対し,裁判所や他の公的機関等に出頭し,その動静について報告する義務を課すことにより,被告人と裁判所等の接触の機会を確保して,逃亡の防止を図る,また裁判所においても保釈中の被告人に関し必要な情報を収集していくという対応も考えられるのではないかと思います。 ○角田委員 各論的なことについて幾つか出ましたので,2点申し上げたいと思います。一つは,部会長が先ほど指摘された,実刑判決宣告後の再保釈の問題です。これは確かに条文の上では,実刑判決があると,もう権利保釈の適用はなくなるしということで,全然違う世界になるし,無罪推定というのも非常に弱まるのか,なくなるのかよく分かりませんけれども,変化するということになります。ただ,これは法90条の職権保釈によって,再保釈というのは運用しているわけですけれども,職権保釈は一審の段階でもあるわけなので,裁判官の意識の中にはやはり,職権保釈の運用としては要件も変わらないし,という頭も一方であり,また,保釈しないということは勾留を続けていくわけですけれども,勾留は別に犯罪に対するサンクションそのものではないということがどこかにあって,少なくともこれまでは,やや錯綜した基準で判断がされていた面があるように思われます。こういったことものあるので,これはむしろ統計的なものがもし何か示されるのであれば,それを見て議論する方がいいのではないかと思います。  そういうことで,ここでの議論の対象としては,実刑判決宣告後における再保釈の保釈要件の限定のようなことを制度的な手当てとしてするのがいいのか,悪いのか,もし仮にやるとすればどんな要件が考えられるのか,そういうことがテーマの一つになり得るかなと思います。   それから,もう一つ,先ほど複数の方が御指摘になったことで,私も高裁で仕事をしていたときの経験で,控訴審における判決宣告期日への被告人の出頭義務の問題は,高裁で仕事をしているとかなり深刻な問題です。先ほどの御意見は,再保釈された被告人が出てこない場合に収容になかなか手間が掛かるということでしたが,それだけでなくて,例えば,私の経験でも,一審が事実認定を間違えて無罪判決をしました,それで検察官控訴で,これは証拠評価がどうも間違っているので,破棄自判で実刑にするという事件がありました。この場合,記録を検討して,そのようになる可能性があると思ったときから,一体どうやって身柄を確保しようかということが,まず頭に浮かぶのです。   具体的な事件を一つだけ御紹介しますと,一審で無罪になって,せっかく身柄が解放されているのに,判決宣告期日に出頭すれば,実刑をもらって刑務所に行くことになるかもしれないということになると,被告人は一般的に出てきたくないですよね。ただ,これは条文を見れば分かりますけれども,出頭命令という制度があって,基本的には出頭義務を免除していますが,裁判所が出頭命令をかければ出廷義務が出てきます。その事件では,それをかけた記憶です。召喚状の記載も変えるわけなのですけれども,被告人は出頭してきましたが,これはスリの常習犯でしたから,実刑になったらやはり逃げるタイプの人で,本当に裁判長が判決宣告をしている間中,後ろを何度も振り返って逃げよう,逃げようとしていました。ただし,勾留状を準備していて,これは再勾留ですね,それを準備してありました。そして,検察官控訴をしているぐらいですから,検察事務官の勾留状執行のセクションの人でしょうね,3人ぐらい来られて,法廷の出入口とバーの出入口に立っているのです。だから,被告人は,何度も振り返っていましたけれども,諦めて,そのまま勾留状の執行を受けて,逃げる機会もありませんでした。   これは一例ですが,多分,控訴審で出廷義務を免除しているのは,被告人には弁論能力がないものだから,権利は与えても出廷の義務は要らないと,こういうことで判決宣告期日も一貫しているのでしょうけれども,考えてみると,判決宣告期日はどうも審理の期日と全然性質が違って,刑事手続の中の被告人という一番枢要な立場の人は,やはり出てきてくださいという説明もできないだろうかなというのが,高裁で実務でやっていた時代の感覚でした。ですから,少し長くなりましたけれども,控訴審における判決宣告期日への被告人の出頭の義務付けが可能かどうか,これもテーマとして考えていただければと思います。   一つだけ付言しますと,裁判所の立場では,出廷義務までかけてしまうと,出てきてくれないときに判決宣告ができないと嫌だなということはあるのです。一審は被告人の出頭を開廷要件に基本的にしていますから,出てこないとそもそも言い渡せないわけですけれども,被告人の出頭を宣告の要件にすると問題があり得るかなという気が,元裁判所の人間としてはしますけれども,ただ,これはこれからの議論なので,問題提起だけにとどめます。 ○酒巻部会長 今御指摘の点と,もう一つは,権利保釈はないですけれども,裁判所の裁量に基づく再保釈の要件,一審の場合と有罪判決宣告後の場合でどう考えるか,運用の問題か,さらに法制度上の問題として検討すべきか,そういうことですね。 ○角田委員 そういうことです。 ○佐藤委員 ただいま御発言のありました控訴審公判期日への被告人の出頭義務付けについて,まず,本日配布された資料の内容は,通常第一審における各種の統計ですが,議論の前提として,控訴審関係の統計も提供していただけると有り難いと思います。   また,角田委員から,第一審で無罪となった被告人に対する控訴審の判決宣告期日における対応について実例の御紹介がありましたけれども,被告人に控訴審の公判期日,特に判決宣告期日への出頭義務がなく,被告人が在廷しているとは限らないという現状において,検察庁がどのように対応されているのか,実際に刑の確定後の収容に支障を来すことはないのかなど,控訴審判決後の身柄確保の実態について,今後,御紹介いただければと思います。   前置きが長くなりましたが,第一審においては,50万円以下の罰金又は科料に当たる事件以外の事件について,被告人に判決宣告期日への出頭が義務付けられているのに対し,控訴審においては,公判期日への出頭は義務付けられておりません。そのために,控訴審の判決宣告期日以降において被告人の身柄を確保することに困難を来す例があるということであれば,被告人の公判期日への出頭について,第一審と控訴審とでは取扱いが異なる理由をも踏まえながら,控訴審においても,第一審と同様に,禁錮以上の実刑判決の宣告によって保釈が失効した被告人を,判決の宣告直後に確実に拘束することができるように,保釈中の被告人に控訴審の判決宣告期日への出頭を義務付けることについて,ここで検討していただければと思います。 ○小木曽委員 先ほど保釈保証金についての言及もありましたし,また部会長が刑訴法344条に言及されましたので,それに関連して申し上げたいと思います。   刑訴法の96条3項ですが,保釈された者が刑の言渡しを受け,その判決が確定した後,執行のための呼出しに応じなかったり逃亡したりしたときには,検察官の請求で保釈保証金の全部又は一部を没取すると定めております。   これについて,最高裁判所の平成22年12月20日決定という判断があります。これは,詐欺事件で懲役2年6月の判決を受けた者が控訴する一方,保釈許可決定を受けて釈放され,その後に控訴棄却の裁判を受けまして,上告したのですが,その後の保釈請求が却下されたにもかかわらず,勾留のための呼出しに応じないまま約4か月半,所在不明になったという事例です。その後,この者は身柄確保・収容されて,上告を取り下げて判決が確定したという経緯です。   検察官は,刑訴法96条3項の適用ないし準用によって保釈保証金の没取を求めたのですが,最高裁判所は,同項は実刑判決が確定した後の逃亡防止を目的とする規定であるから,保釈された者が逃亡したとしても,判決確定までにそれが解消されていれば,判決確定後における逃亡の事実はないので,同項によって保釈保証金を没取することはできない,と判示しました。つまり,現行法上は,保釈中に逃亡しても,刑が確定した後の逃亡でなければ保証金の没取はできないということで,これについては同決定に関する調査官解説も,法の不備であると解説しています。   言うまでもありませんが,保釈保証金は逃亡した場合はそれが没取されることの威嚇力に期待して,被告人の身体の自由を拘束せずに裁判への出頭を確保する手段です。としますと,実際に逃亡しているにもかかわらず,それが裁判確定前であるからとの理由で保証金が没取されないとすると,威嚇力への期待が働かないことになりはしないかと思われるわけで,これについては検討の必要があるように思います。   また,関連して申しますと,刑訴法96条は,被告人が正当な理由なく出頭しないときと,逃亡する疑いがあるときを同じように保釈の取消事由とし,また,保釈取消しや,その際の保証金の没取の判断を裁判所の裁量に委ねています。つまり,保釈に関しては,相当に柔軟な実務が運用されることを予定しています。これは,先ほど来,御発言がありましたように,対象者の出頭見込みや保釈条件が個別の事案に応じて様々であることから,一律の取扱いをしないという立法趣旨であろうと推測します。   しかし他方,刑訴法344条では,禁錮以上の刑に処する判決の宣告があれば権利保釈の定めを適用しないこととされていまして,これは,そのような刑の言渡しがあれば,類型的に逃亡のおそれが高まるということを前提としたものと思われます。近時の逃亡事案も含めて,このような刑訴法の定めの一貫性についても検討の必要があるように思います。つまり,出頭を約束して身体拘束を解かれる,約束に反することに対しては保証金没取の威嚇力をもってその抑止力とするというのが制度の枠組みであるとすれば,実際に対象者が逃亡した場合には,必要的に保釈が取り消されて保証金が没取されるという強い抑止手段を考える余地があろうと思います。 ○酒巻部会長 逃亡防止,あるいは不出頭の防止については,今までは,高額の保釈保証金を設定しておけばまず逃げないだろうということだったが,例えば,保証金の没収をものともせず外国人が国外に逃げてしまったという近時の事案では,一般論としても,日本国内で逃げて不出頭になっている場合と違って,国外まで行かれてしまいますと,日本国の刑事司法作用が及ばないという問題が出てきますね。外国にまで逃亡してしまうというような事案との関係もまた検討しなければならない問題があるようにも思います。 ○笹倉幹事 ただいま,外国人の逃亡について言及されましたけれども,海外渡航が非常に容易になっておりますので,日本人であっても同じ問題が起こり得るところです。国外への逃亡は手続のあらゆる段階で起こり得るわけですけれども,取り分け,先ほど来お話がありましたとおり,刑が言い渡された,あるいは実刑が確定した段階になりますと,逃亡のおそれは強まります。国内での逃亡であれば,我が国の関係機関が権限を行使して何とか見付け出して連れ戻すことができるかもしれませんが,外国に行ってしまいますと我が国の当局としてはおよそ手が出せなくなります。そこで,その点について,この際,手当てをすることが考えられます。   それから,先ほど,裁判所の内部で,逃亡のおそれの判断の在り方について御検討を重ねられているというお話がございましたが,保釈を許可する際には海外渡航禁止の条件を付けることが多いと承知しています。ただ,その条件に違反して海外渡航を企てる具体的な動きが生じた場合,入管法上の出国確認留保の制度がうまく機能する場合は別として裁判所がそれを察知することは必ずしも容易ではありません。また,勾留されていない在宅の被告人については,裁判所が渡航を制限するすべがもともとありません。刑の言渡しないし確定の段階になりますと逃亡のおそれは高くなり,なおかつ国外に出られてしまうと見付け出すことも難しい,手が出せないということでありますから,そのような段階に至った被告人が国外に出ようとする場合に裁判所が適切に介入し得る仕組みを整備することを検討してはどうでしょうか。   これに関連して,外国人の場合には入管法との関係ということも考慮する必要があります。入管法には刑事手続との調整規定がありますが,その運用上,身柄拘束されていない限り,退去強制事由がある場合は刑事手続の終結を待たずに退去強制手続が進行すると聞いています。もちろん,入管としては出入国秩序の維持という観点から法律上与えられた任務を遂行されていて,しかも,それには非常に重要な公益がかかっているわけですが,他方で,罪を犯した人がたまたま外国人であるばかりに刑事手続の進行中に退去強制になって刑法が実現されないという事態は,それはそれで別の重要な公益に関わるわけです。そこで,二つの重要な公益が衝突する場面の調整の在り方として,現状のままでよいのかという観点から制度を検討してみてはどうかと考えます。   また,先ほど若干お話がございましたが,在宅の被告人について自由刑を執行する場合,呼び出した上で,それでも来なければ収容することになるわけですが,収容するためには,前提として,被告人の所在を把握しなければなりません。そのための手続としては,刑訴法上は公務所や公私の団体への照会という手段が定められているのみです。罰金刑については民事執行法等の規定に基づいて強制執行することになっておりますけれども,徴収するためには,当然,財産の把握などが必要です。ところが,それについても照会の権限しかないのです。   捜査段階であれば様々な強制処分が用意されていていろいろなことを調べることができるわけですが,刑を執行する段階になると途端にその手段が大幅に制約されるというのは,不備というか均衡を欠く感がいたします。収容に応じない人が増えてきている,あるいは罰金を払わずに逃げてしまう人が増えているということであるとしますと,刑の執行を確保する観点から,そのために必要な調査権限を関係機関に付与することも検討に値するのではないかと考えます。 ○酒巻部会長 最後の,執行のための調査というのは,刑訴法上,今は「照会」があるだけですね。更に何か強制処分のようなものを考えるということですか。 ○笹倉幹事 一例としては,捜査と並びで捜索や差押えの権限を設けることがあってもいいのではないかと考えております。 ○髙井委員 今おっしゃった意見と重複するのですが,やはりこの逃亡の問題というのは,逃亡意欲をいかにして生じさせないか,あるいは,既に生じている逃亡意欲をいかにして減殺するかという観点の問題と,逃亡すると決めた被告人をどうやって捕まえるか,あるいはどうやって逃亡自体を結果的に防止するかという両面から考えないといけないと思うのです。   先ほど部会長がおっしゃった外国人の逃亡事案は,何が何でも逃げてやるぞという強い覚悟の上でやっている行為で,しかもプロ集団と組んでやっているわけですから,あそこまで固い決意を持って逃亡を計画した者をどうやって国外逃亡する前に押さえるかというのは,今回のこの問題の究極的な形だと思うのです。果たして最終的にそういう覚悟を持った人間を100%取り押さえる制度ということができるかどうか,疑問の部分もあるのですが,やはりできる限りそういう事案が起きないようにするためにはどうすればいいかという観点からの議論も必要ではないかと思います。そういう意味では,入管行政と全く切り離して議論するということはなかなか難しいのかなとも思います。 ○佐藤委員 入管法のお話が出ましたので,関連する事柄について意見を申し上げたいと思います。   今回の諮問の経緯等に照らしますと,「刑の執行を確保する」という観点からまず想起されるのは自由刑の執行の確保ということになると思います。ただ,裁判の執行に関する情報収集に関連して,先ほど,罰金刑についての言及がありましたが,近時の法令の中には,法定刑として1000万円以上の罰金を定めるものも少なくありませんし,実際に高額の罰金が言い渡される事例も存在していることに鑑みますと,罰金刑の執行の確保という観点からの検討も,この際行う必要があるのではないかと思います。   罰金につきましては,その言渡しを受けた者がこれを完納することができないときは,換刑処分としてその者を労役場に留置することとなります。ここで,罰金の言渡しを受けた者が退去強制事由のある外国人である場合のことを考えてみますと,出入国在留管理当局は,退去強制手続の対象者が刑事手続の対象となっているときでも,刑事手続において身体を拘束されていない限り,退去強制手続を進めて強制送還をすることとされています。そのため,罰金の言渡しによって勾留状がその効力を失い,釈放された被告人が,その裁判が確定するのを待たずに国外に出されてしまうこともあり得る,ということになるわけです。   もちろん,裁判所は,罰金の言渡しをした後も,その裁判が確定するまでに,被告人に逃亡のおそれがあるということであれば,勾留状を発することは可能ですけれども,刑事訴訟法345条の趣旨に照らしますと,身体拘束の必要性が類型的に減少しているこの場面での勾留というのは例外的な措置とならざるを得ず,また,退去強制手続によって強制送還され得ること自体をもって,果たして逃亡のおそれありといえるのかについても,いろいろな議論があり得るところだろうと思います。   さらに,現行法上,労役場への留置は,罰金の裁判が確定した後30日以内は本人の承諾がなければ執行することができないとされていますので,裁判が確定しているため,勾留はできず,また,罰金を完納することができないことが明らかな者であっても,その承諾がなければ労役場留置の執行もできず,結局,そのまま出国してしまうという事態が生じ得る,ということとなります。   こうした次第で,現行制度には,労役場留置の執行を確保する手段について,特に,罰金の言い渡しを受けて釈放され,直ちに退去強制手続が進められる者との関係で手当が必要であり,出国によって罰金刑の執行を免れることを防止するための方策も検討の課題に含めるのが適当ではないかと考えております。 ○北川委員 先ほど来,国外逃亡というお話が出ていますので,刑法との関係で,どの程度必要性があるのかはよく分からないところがあるのですけれども,刑が確定した者が国外に逃亡してしまったときの刑の時効を停止する措置を検討する必要があるのではないか,そういう検討をしてはどうかという提案です。   この点に関しましては,一方におきまして,公訴時効については,犯人が国外にいるときには時効はその進行を停止するという,刑訴法255条の規定があるわけですが,他方,刑法には同様の規定はないので,そうなりますと,在宅事件であるとか,保釈が許可された者が,刑が確定した後にまだ身柄が拘束されておらず,刑を執行するときにはもう国外に逃亡してしまっていて,それで刑が執行できないということが一応,想定され得るということになるわけなのですけれども,そのような状況を防ぐために,阻止するための手段というか,法整備も考えておく必要があるのではないかと思います。   ただ,最初に言いましたように,必要性がどの程度あるのかということについてはよく分からないところがありますので,もし可能であれば,事務当局で何かそのような実態であるとか必要性を裏付ける資料があるかどうかを調査いただければ有り難いと思います。 ○天野委員 細かいことかもしれないのですが,今日も皆さんからお話があったように,保釈の取消しの理由が何なのかというところを一番知りたいと思っていました。   私は,被害者の関係で多く支援をしているのですけれども,やはり最近,保釈が増えたという印象は実際に持っています。統計を見ても,性犯罪の,強制わいせつとかそういったところでも結構,保釈が増えているということもありますので,被害者の関係で,例えば保釈取消しの理由として被害者との接触などがあったのかどうかといったところも知りたいと思っていました。今回は逃亡防止ということで,このような観点がどこまで重要なのかというところはあろうかと思いますけれども,逃亡がされれば,先ほど社会不安という話もありましたが,被害者へ与える影響というのもかなり大きいものがありますので,その点もどこかに入れて,検討する際には何らか,視点としてお持ちいただければと思いましたので,最後に発言させていただきました。よろしくお願いします。 ○菅野委員 私からは,逃亡防止の観点で,人とお金と条件と,という問題があると思うのですけれども,お金の話で少し生々しいところをお話ししますと,自己資金が用意できる方というのは残念ながらそれほど多くなくて,保釈が増えた原因の一つは,保釈金を貸してくれる,そういった事業が開始されたことによる影響も非常に大きいです。具体的には,親族などが保釈金を貸してくれる業者等に申込みをしまして,逃げて没取されたら支払うという内容の連帯保証をしまして,それで保釈金を用立てているケースがかなり多くあります。お金を借りる場合と,全弁協でやっている保証書発行事業とあるわけですけれども,実際に逃亡されているケースで,要するに自己資金か借入れかなどでその差があるのかどうか,今後,裁判所にも少しお話を聞きたいと思っています。   というのは,やはり裁判所は自己資金を多めに入れてくださいと言うことも多く,自己負担金が増える議論となってしまうと,保釈が利用しにくくなってしまう場合もあります。最近,保釈金を貸す事業者も,せっかく許可が出ても,お金は貸せません,逃亡される可能性があります,みたいな形で結構厳しくなっているのです。なので,せっかくいい形で保証金が用意できるところが少しインフラとして整ってきているので,そういったことと逃亡との関係などは少し議論していただければなと思います。アメリカなどではクラウドファンディングなどで保釈金を集めているなんていう話も聞きますので,どこからお金が来ているかと逃亡との関係というのは本当に相関関係があるのかというところもお聞きしたいと思っていました。 ○酒巻部会長 被告人に代わって保証金を用立てるという件についてはあまり詳しくありませんが,現在の日本国の状況については分かることがあれば,またいろいろ教えていただければと思います。 ○小笠原幹事 先ほど,どなたかの御発言で,保釈の条件ですね,それを制度化してはどうかというようなお話があったのですけれども,実際,この逃亡についての保釈条件につきどういった運用がなされているのかというのは知りたいと思いました。というのは,逃げても没取がなかったという平成22年の最高裁決定を御紹介いただいたのですけれども,それも保釈条件の設定によっては条件違反で没取ができたのではないかとも思ったものですから,それらが運用の中でそういう保釈条件をいろいろ付けることで防止できるのか,それとも,制度というか法改正までしなければならないような立法事実があるのか,そちらの方が裁判所としてはいいというような話なのかどうかとか,その辺も議論につながっていくのかと思いますので,逃亡防止のための保釈条件をどのように考えられているのかということについても,裁判所の方ではいろいろと研修されたということですので,そういったことの成果も教えていただくと助かります。 ○酒巻部会長 そろそろ予定の時間が迫ってきましたが,ほかに御意見はございますか。   それでは,本日の審議はこの辺りでよろしいでしょうか。   次回以降の審議の進め方についてお諮りしたいと存じます。本日,委員・幹事の皆様から,諮問事項に関連して,大変多様な御意見あるいは御要望を頂きました。それらの御意見を十分に踏まえさせていただいた上で,今後の審議をより充実したものにするという観点から,事務当局におかれましては,本日の審議にあらわれた御意見,様々な方策・制度に関する御提案,関連する議論すべき論点を整理して取りまとめた,今後の議論の土台になるような資料を準備していただきたいと思うところでございます。   その際,本日頂きました御意見・御提案,いろいろ具体的なものもたくさんありましたが,そうした御意見そのものでなくても,その趣旨を踏まえつつそこから敷衍して考えられる対処策ですとか,あるいは,整理の過程で更に関連する論点等があれば,そうした点についても幅広く資料に加えていただくことが今後の議論にとっては有益だろうと思っております。そこで,次回の審議におきましては,その事務当局で用意していただいた資料に沿って更に議論を深めることが今後の効率的で充実した審議に資すると考えるところです。   皆さんにお諮りしたいのは,次回までに,部会長である私の最終的な責任の下で,事務当局に対して,今述べたような資料を準備してもらい,次回以降はその資料に沿って審議をするということにしたいと思うのですが,いかがでしょうか。 (一同異議なし) ○酒巻部会長 よろしいでしょうか。それでは,今述べたように準備をさせていただきたいと思います。事務当局におきましては,次回までに本日の議論を整理し,次回の審議における議論の土台になるような資料を準備していただきたいと思います。よろしくお願いいたします。   それでは,本日の審議はこれで終了したいと思います。   次回以降の日程につきましては,本日の御議論の状況を踏まえ,そして,今申した議論の土台を作成する準備も考えて,早急に検討して,事務当局を通じて皆様にお知らせしたいと思います。なお,本日の議事につきましては,特に公表に適さない内容に当たるものはなかったと思われますので,発言者名を明らかにした議事録を作成し,これを公表するということにさせていただきたいと思います。また,配布資料につきましても公表することとしたいと思いますが,そのように取り扱わせていただいてよろしいでしょうか。 (一同異議なし) ○酒巻部会長 それでは,そのようにさせていただきます。   では,今日の審議はこれで終わりたいと思います。不慣れなもので,いろいろ手間取りましたが,今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。ありがとうございました。 -了-