裁判員制度の施行状況等に関する検討会(第11回)議事録 第1 日 時   令和2年2月10日(月)午前9時57分から午前11時55分まで 第2 場 所   東京地方検察庁刑事部会議室 第3 出席者    (委 員)大澤裕,大沢陽一郎,小木曽綾,重松弘教,島田一,菅野亮,武石恵美子,田野尻猛,堀江慎司,和氣みち子(敬称略)    (事務局)保坂和人大臣官房審議官,大原義宏刑事局刑事課長,吉田雅之刑事局刑事法制管理官,羽柴愛砂刑事局参事官兼企画調査室長,鈴木邦夫刑事局刑事法制企画官    (その他)戸苅左近最高裁判所事務総局刑事局第二課長 第4 議 題 1 検討事項に関する意見交換等について 2 その他 第5 配付資料  資料1-1:検討事項 資料1-2:裁判員の参加する刑事裁判に関する法律の一部を改正する法律(平成27年法律第37号)に対する附帯決議(衆議院法務委員会・参議院法務委員会)  資料1-3:ヒアリングにおける発言要旨  資料1-4:「裁判員制度に関する検討会」取りまとめ報告書  資料2  :最高裁判所説明資料 第6 議 事 ○鈴木刑事法制企画官 それでは,ただ今から,裁判員制度の施行状況等に関する検討会の第11回会合を開催いたします。 ○大澤座長 本日は皆様,御多用中のところ,お集まりいただきまして,ありがとうございます。   本日は,山根委員におかれましては所用のため欠席をされておられます。   それでは,まず事務当局から配付資料について,説明をお願いいたします。 ○鈴木刑事法制企画官 本日お配りしている資料は,議事次第,資料1-1「検討事項」,資料1-2「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律の一部を改正する法律(平成27年法律第37号)に対する附帯決議(衆議院法務委員会・参議院法務委員会)」,資料1-3「ヒアリングにおける発言要旨」,資料1-4「裁判員制度に関する検討会取りまとめ報告書」,資料2「最高裁判所説明資料」です。   資料に不足のある方はいらっしゃいますでしょうか。   本日配付した資料1-1から資料1-4につきましては,前回会合でお配りした資料を改めてお配りするものです。資料2は,前回会合において検討事項1「平成27年改正法により設けられた制度の在り方」に関して堀江委員から御質問いただいた事項に関する資料であり,後ほど最高裁判所から説明がございます。 ○大澤座長 ただ今の説明で触れられましたとおり,前回会合で最高裁判所から実審理期間が長かった上位3件の裁判員裁判対象事件を御紹介いただいたところ,堀江委員から,御紹介いただいた各事件における裁判員等選任手続への出席率について御質問をいただいておりましたので,この点について,最初に戸苅課長から御説明をお願いしたいと思います。 ○戸苅最高裁刑事局第二課長 前回の検討会で,実審理期間が長かった上位3件の裁判員の選任手続の状況について御説明したところですけれども,堀江委員からの御意見を受けまして,これらの事件の出席率についても調べてみました。机上に配付されております「最高裁判所説明資料」を御覧ください。こちらは前回の検討会で配付した資料に各事件の出席率関係を加筆したものでございます。各事件の出席率につきましては,表の⑤に記載したとおりとなっております。ちなみに,令和元年11月末までの令和元年の裁判員裁判事件の出席率は68.9%ですので,御紹介した各事件の出席率は,それと比べて大幅に低いものではないということが分かるかと存じます。 ○大澤座長 ただ今の戸苅課長の御説明につきまして,質問等ございますでしょうか。よろしいでしょうか。それでは早速,議事に入ります。   本日は前回会合に引き続きまして,検討事項3「公判及び公判前整理手続の在り方」のうち「公判前整理手続の充実のための運用上の工夫は適切に行われているか」から意見交換を行いたいと思います。   なお,前回会合でも事務当局から御説明がありましたが,当検討会におけるヒアリングにおける発言の要旨のうち,検討事項3に関連するものにつきましては,資料1-3の3ページから7ページまでに記載がされております。また,資料1-4の過去に行われました裁判員制度に関する検討会の取りまとめ報告書15ページから16ページ及び29ページから30ページまでに,いわゆる手続二分論に関するものを含めまして,検討事項3に関する議論が記載されております。意見交換をしていただく際には,適宜御参照ください。   それでは,検討事項3「公判及び公判前整理手続の在り方」のうち「公判前整理手続の充実のための運用上の工夫は適切に行われているか」について,御意見のある方は挙手の上,御発言をお願いしたいと存じます。前回,途中で止まったわけですが,前回は公判前整理手続の進捗状況に関する被害者への情報提供について和氣委員から御発言がありました後に,田野尻委員,島田委員を中心に,公判前整理手続の長期化の問題に関する御発言があり,最後に菅野委員からも関連する御発言を頂いて終わったということかと思います。いささか中途半端なところで終わっておりますが,いかがでございましょう。 ○菅野委員 前回,時間も押していて,1点だけ申し上げるという形で発言をさせていただいたので,弁護人として,公判前整理手続に時間がかかる実情と,もう少し工夫できたらよいと思っていることをお話しさせていただきます。   時間がかかる最初のプロセスというのは,弁護人にとっては,証拠の開示を受ける手続と,証拠の検討をすることに一番時間を要しています。例えば,証拠が総数で1000点あるとすると,最初に,検察官は,検察官請求証拠という形で,例えば100点ぐらい開示して,程なく,証拠として請求はしないけれども任意で開示する任意開示という形で証拠をまた1000点のうちから,例えば100点出してくるわけです。弁護人とすると,類型証拠開示とか主張関連証拠開示というのをすると,例えば類型証拠100点とか,主張関連証拠50点とか,手続の進捗によって証拠がたくさん出てきて,それを管理して検討していくというプロセスを公判前の特に初期の頃にこなすことになります。   とても大きな事件になりますと,今,例で1000点と言いましたけれども,例えば証拠が2000点ある,3000点あると,こういう事件もあります。一番最初に証拠の一覧表というものを頂けますので,証拠の点数自体は分かります。弁護人は,証拠の一覧表等を見ながら,証拠の開示とか証拠の整理をしていくのですけれども,証拠の一覧表というものが使いにくいところがあります。   なぜかというと,まず,紙でしか配付されません。例えば,エクセルデータだったらチェックして,人ごとにどんな証拠があるのかなとかと検索したりできますが,紙だけなので,基本的には弁護人が読み込んでデータ化していくという作業をしないと,整理するときの難しさというのが出てきます。証拠の一覧表というのは,別に日付順でも,人順でも,何順でもないので,何の順番で証拠が並んでいるのか分からないですけれども,恐らく送致された順番にただ単純に証拠の標目とかが載っているだけです。なので,その一覧表が,例えば100ページ開示されても,例えば誰々さんの供述調書が何点あるかなんて数えようとしても,例えば1ページと7ページと15ページとかと,全部見ていかないと分かりません。なので,証拠の管理やチェックをする観点から言えば,本当に証拠の一覧表のデータがもらえたらよいのにといつも思っていることです。   あと,証拠の一覧表と開示された証拠の対応関係の明示もされていません。例えば,一覧表の中に,これはもう請求証拠で何月何日に開示しましたとかと書いてあったら,もう開示された証拠だと分かりますが,一覧表の番号と実際に開示済み証拠の番号がひもづけされていないので,例えば,一覧表にある何月何日付の捜査報告書というのが開示されているのか,されていないのかも分かりません。同じ日付で捜査報告書が何通もあったときには,どれが開示されているかも分かりません。そういったことの整理がもう少し,運用で工夫できたら,一番最初に時間がかかる,証拠の管理等がスムーズに行くんじゃないかと思っています。   恐らく,証拠開示等について,大きな事件では,検察庁も困っていると思います。類型証拠開示の請求をしますと,検察官から,かなり確認しなきゃいけないことも多いので,2か月ぐらいは回答に時間をください,と言われることはそれなりにあります。実際,捜査本部があるような大きな事件ですと,2か月,3か月後にようやく確認して回答が来るなんていうこともありますし,確認したら開示すべき証拠が漏れていましたということで,ある程度終盤になってからまた追加で証拠の開示がされることもあるので,検察庁と弁護人の間ではうまく連携して,証拠の管理というものができたら,公判前整理手続,特に前半部分をスムーズに進めていけるんじゃないかなというふうには個人的に思っていることです。 ○小木曽委員 今の菅野委員の御発言について,検察庁の方ではどのような御関心というか,感想をお持ちなのかを伺いたいと思います。 ○田野尻委員 今,菅野委員から何点か御指摘がございましたけれども,一番最後の開示に時間がかかるという点は,証拠の量が多いこともありますので,時間を頂かなければいけない場合はあるんだろうと思います。また,その際に,第三者のプライバシーに関わる情報などが入っていないのかどうか,これを一点一点チェックしていく必要があるわけです。時々,残念ながら,チェックに漏れがあって,個人情報が出たということで,問題とされることもございますので,その点については,ある意味神経質に対応しているところもありまして,証拠開示に時間を要している事案があるというのは,そのとおりだと思っております。   データの問題と開示とのひもづけの問題ですけれども,一覧表の制度自体が,法律上,書面で交付するということになっておりますし,その作り方もいろいろな作り方があろうかと思いますので,なかなかそれらをお渡しできるという実情になっていないのかなというふうに思っております。開示とのひもづけの関係ですけれども,そもそもの制度趣旨として,その一覧表というのは,証拠開示の手掛かりになるようにということで,もともとの証拠開示制度よりも後に作られた制度でありまして,基本的な仕組みとしては,証拠開示請求を受けて,それらについて該当するものがあれば,それについて開示をする,あるいは開示できないものがあれば,その理由を示すという仕組みになっておりますので,そのひもづけが,検察庁の方も,うまくできるのかという問題もあるんだろうと思います。   1点,証拠開示について時間がかかるということで,これは前回も申し上げたんですけれども,特に公判での予定主張の明示がされるまでの時間が,類型証拠開示や,それに関連する任意開示で時間がかかっているというのが実態だと思っています。この証拠開示制度が導入された司法制度改革のときには被疑者国選弁護制度を同時に導入したんですけれども,その際に被疑者国選弁護制度の必要性について,捜査段階から弁護人が付くということで,被疑者,被告人の言い分を早めに把握して,どこが争点になるのか,ポイントになるのかを把握できるようになる,同じ国選弁護人が公判も引き続きやるので,手続の充実,迅速につながる,という説明がされていました。類型証拠開示に当たって,現状ですと,弁護人にもよりますけれども,ポイントを絞ってやられる方と,とにかく主張を明示する前に,できるだけ証拠を数多く集めるということを目的としているのではないかと思われるような,ポイントを絞らない証拠開示請求をされる方もいるという実情があります。やはり事件のポイントに絞って証拠開示請求をされれば,より迅速になるのではないかと思っております。 ○武石委員 実務的なことはよく分からないんですけれども,紙でやり取りしているというのを聞いてちょっとびっくりしたんですが,今,法律的に紙じゃないとできないということになっているんですか。やはり今の時代,データ化して,そういうことはできないものなのかなと,法律がそうであれば,法律を変えてもいいんじゃないかなと,すみません,物すごく一般的な者としての感想です。ちょっとびっくりしたということです。 ○保坂官房審議官 法律上,証拠の一覧表というのは書面を想定して,それを交付しなければならないとなっていますので,書面を交付すればその交付義務は果たしたということになります。おっしゃるように,データ化するというのは,この一覧表の局面だけではなくて,捜査や裁判手続全体でデータをどう取り扱っていくのかということとも関連するんだろうと思います。それと,証拠の一覧表をデータで交付するとした場合に,いろいろ問題はあるかと思うんですが,証拠の一覧表とはいえ,やはり個人の名前が書かれていたりとか,供述調書を取られたということが分かったりするものでございます。そういったものがデータで弁護人のところに行くとなりますと,行った先できちんと流出を防止できるセキュリティーは大丈夫なのかとか,そのデータで送るときの回線は大丈夫なのかということが,やはり刑事裁判の書類ということになりますと,非常にセンシティブな問題があるのではないかというふうに考えられます。 ○武石委員 セキュリティーは,ほかのいろいろな案件でも,世の中にはたくさんのセキュリティー情報がデータ化されているので,セキュリティーをかけるやり方というのがあると思います。やはり時間がかかることの一つの背景になっているのであれば,何らか対応を考えてもいいのではないかなと思いました。 ○大澤座長 関連してでも,あるいはほかでも結構ですが,いかがでしょうか。 ○菅野委員 ひもづけの話は実務上,全くやられていないわけではなくて,検察官と交渉にはなりますが,例えば備考欄のところに何月何日に開示したものですというふうに関係性を書いてくださいとお願いしたときに,備考のところに書いていただいて,それで対応関係が分かるというようなこともあります。また,例えば,内々に証拠の表紙に番号を鉛筆で書いておくから,それで突き合わせてくださいと言われて,ちょっとレトロな話なんですけれども,千葉なんかだと,証拠の表紙に事実上,番号を書くから,それで先生の方で突き合わせてくださいと言われて,検察官と弁護人の間で工夫されているところが実情ではあります。もうちょっとそれを全体に広めたり,お互いに管理しやすい方法を議論できたらよいと思っています。 ○大沢委員 少し観点が違うかもしれないんですけれども,申し上げたいと思います。公判前整理手続によって,従来の裁判に比べると,それまで公開の法廷で行われていた証拠をめぐるやり取りというのが,一部がその公判前整理手続の方に行ったものですから,言ってみれば非公開になったということだと思うんです。それは裁判当事者以外の目には触れないことになったわけですから,経緯が分かりづらくなった面はあると思うんです。私ども裁判の取材をしている者からすると,こういった公判前整理手続がきちんと行われているかもきっちりフォローしたいと思って,日々取材は試みるんですけれども,なかなか協力が得られなくて,情報量が多いとはいえないという実情もあります。   こうした面があって,でもこの整理手続というのが必要なのは,私が思うに,やはり裁判員裁判を円滑,適正に行うために非常に必要な手続だからというふうに理解しています。それだけに,この制度施行以来,ずっとこの手続が長期化している,大部分はちゃんとやっているところも多いと思うんですけれども,やはり一部に長期化しているということは,やはりちょっと問題だなというふうに日々感じているところです。   特に,このヒアリングで,被害者が記憶の維持を強いられて元の生活に戻れないという訴えがあったり,裁判員の方が目撃証人の記憶が薄れて聴きたいことが聴けなかったというような御発言があったりと,このまとめでも出ていると思うんですけれども,そういった指摘はやはり深刻に受け止めなきゃいけないんじゃないかなというふうに改めて思いました。前回の議事録や本日の議論を聞いていて,それぞれ法曹三者が努力なさっているということは分かっているつもりなのですが,是非,より協力して,迅速かつ適切な争点整理をしていただきたいなというふうに願うところです。   それから,もう一つ,ちょっとこれは言おうかどうか迷ったんですけれども,あえて言わせていただくと,個別の裁判に関わることなのであれなんですけれども,最近私が気になったのは,昨年12月の東名高速のあおり運転死傷事故をめぐる裁判で,東京高裁が一審,横浜地裁の裁判員裁判の判決を破棄して審理を差し戻したということがありました。これが非常に気になりまして,これは判決理由の記事等を見ますと,裁判官の方が公判前整理手続で危険運転致死傷罪は成立しないという見解を表明したことが越権行為ということで違法と判断されたことが理由だったというふうに理解しています。こういったことはレアケースであってほしいというふうに切に願うんですけれども,やはりこの裁判官の行為によって,真剣に審理をした裁判員裁判の結論までが否定されてしまったということになったのは,非常に残念だなというふうに思っています。ですから,こうしたことが再び起こってしまうと,司法への信頼とか裁判員への参加意欲ということに深刻な影響を与えかねないというふうに思うものですから,是非こういったことはないようにしていただきたいなというふうに希望するところです。 ○大澤座長 この段階としては,この程度でよろしいでしょうか。   それでは,「公判前整理手続の充実のための運用上の工夫は適切に行われているか」の点についての意見交換は,ひとまずこの程度といたしまして,次の,「証拠調べの充実のための運用上の工夫は適切に行われているか」の点のうち,「分かりやすい公判の在り方」について意見交換を行いたいと思います。「分かりやすい公判の在り方」という点に関連して,御意見のある方は挙手の上,御発言をお願いいたします。 ○小木曽委員 分かりやすさについて,弁護側の訴訟活動の分かりにくさを指摘する意見がヒアリングで目につきました。ある文献でも,裁判員裁判で刑事弁護に求められている課題が相当に専門的になっているのに,弁護がそれに追いついていないという弁護士さん自身の発言がありました。これを単位弁護士会だけの問題にしておいてよいのかと思います。個人の弁護士,あるいは単位弁護士会に委ねるのではなくて,やはり弁護士会全体で,お考えいただきたい問題ではないかと思います。 ○堀江委員 私も,裁判員の経験者の方のアンケート,あるいはヒアリングで,弁護人の訴訟活動の分かりにくさ,それは相対的にということかもしれませんけれども,分かりにくかったという御指摘が多々あった点は若干,懸念しております。   ただ,ヒアリングの中での裁判員の方の御発言にもあったのですが,弁護側の活動が分かりにくいことの一つの原因としては,被告人側の訴訟活動の性質というものが,検察官が,挙証責任を負っていて犯罪事実の立証を行うのに対して防御を行う,そういう形が中心だというところにもあるような気がします。どうしても攻撃に対する受け身,防御という形になりますので,その点で全体としての活動の趣旨が見えにくいというようなことがあるのかなと。ですので,アンケートの数字などがある程度低くなるのもやむを得ない面があるのではないかと思っております。   また,結果として有罪の結論になった場合には,例えば,争っていた事件で無罪主張がいれられなかったという意味で,結果的に弁護側の立証が分かりにくかったという評価,そういう印象を受けるという面もあるのではないかと思います。ですので,アンケート等での弁護側に対する数字が悪いということを,余り過剰に受け止める必要はないのかもしれません。   ただ,ヒアリングでの御意見で,これはお一人の方がおっしゃっていただけかもしれませんけれども,一つ気になったのは,被告人側・弁護側が準備不足だった,準備が足らないのではないか,そういう印象を受けたという御意見があったことです。この点は少し真剣に考えていく必要があるのではないかと思っております。この点も弁護側固有の問題といいますか,検察側に比べるとなかなか大変なところがあるのだろうということは理解しておるつもりですが,最も大きな問題点は,組織として対応する体制が作りにくいというところかと思います。   前回までの議論の中でも御紹介がありましたが,弁護士会でも研修等をされて,個々の弁護士の方たちのスキルアップに努力されている,それ自体は非常に大事なことで,今後も継続していただきたいとは思うんですけれども,そういった個々の弁護士の能力向上,あるいは単位弁護士会での研修等だけで果たして十分なのかという点は,やはり懸念を覚えます。個別の事件での,言わばバックアップ的な体制作りというものが,検察側に対抗する立場として弁護側でも重要になってくるのではないのかなと。例えば,開示証拠の検討とか,事前準備的な作業は非常に膨大なものがあるのだろうと思いますが,こういったものについて,個々の弁護士さんのスキルアップを図るということだけで果たして対応できるのか。検察サイドでは,以前に横田委員から,事務官の組織の中に中核事務官というポストを新設したというような御紹介もありましたが,そういった組織面での対応が弁護側の方でも必要になってくるのではないかと思っております。これはなかなか現実的には難しい面もあるのでしょうけれども,一つの課題として指摘させていただきたいと思います。決して弁護士会に対して批判をしたいということではなくて,課題としてそういう点があり,それに対する対応を今後検討していただきたいなと思っております。 ○菅野委員 今,小木曽委員や堀江委員からおっしゃられたところは,誠にごもっともという部分もあります。刑事事件において弁護人がもし裁判員裁判に対応できる能力がないということであれば,それはゆゆしき事態だと思っていますので,これは裁判員裁判に限るわけではありませんけれども,より一層,きちんと裁判ができる弁護士を育成していきたいということは常々考えています。   日弁連を私が仕切っているわけではありませんけれども,やはり単位会だけでは足りないときに,モデル研修プランとか,大規模単位会,中規模単位会ではこういう研修をやっていますとか,こういう名簿を作っていますよという御紹介をしたり,日弁連で研修の費用の一部を出したりとか,少しずつやらせていただいているところです。   事実上になってしまいますけれども,各地で相談ができるサービスというものもあったりはするんですけれども,相談を受ける側が誰が受けるのかとか,費用をどうするのかとか,守秘義務をどうするのかとか,事実上私もたくさん相談を受けるんですけれども,やはり記録をきちんと検討した上でないとアドバイスも的確なものではなくなってしまうと思いますので,制度的なものにしていくためには何をすればいいのかなというところは今後も検討させていただきたいとは思っています。   ただ,やはり一つは裁判員裁判は,事件数も少ないので,経験がなかなか蓄積できていない,特に,例えば年間10件ぐらいしか裁判員裁判がないですというところだと,なかなかその裁判員裁判に向けてたくさんのフォローをしてくださいというのが難しい実情もありますので,やはり日弁連全体で取り組んでいければいいのかなというふうには,私の方では考えているところです。 ○大沢委員 私は何年か前に東京地裁委員会の委員をやったことがありまして,そのときに東京地裁のいろいろな取組を教えていただいたことがあって,その中で非常に有意義だなと思ったことがあったので,ちょっと御紹介したいんですけれども,それは当時,今もやっているのか分からないですけれども,裁判員裁判の終了後に,担当した裁判官と検察官と弁護士の方で必ず反省会を開いているんですということがありました。当時はたしか原則,全事件でやっているんですというお話だったんです。そこで,要するに裁判官の方は裁判員からいろいろな話を聞いているので,ちょっとあれは分かりにくかったとか,あの弁論は分かりにくかったとか,そういったことを検察官と弁護士の方に伝えているというお話だったんです。非常にそれは有意義だなというふうに思いまして,恐らく,特に組織を持たない弁護士さんの方たちは,自分たちがどう見られているかというのをなかなか聞く機会がないのではないかなというふうに思って,こういう機会なんかを,東京地裁は非常にいいことをやっているなというふうにすごく思った経験があって,すばらしいなと思ったことがあったんですけれども,こういった機会をできるだけ作って,できれば弁護士さんが,守秘義務はあるにせよ,こういった意見があったということを共有するというんですかね,そういうふうにしていけば,少しずつ経験値が蓄積できるのではないかなと思って,是非,そういうことがあれば,裁判所の方も協力してあげると,よりよくなるのではないかなというふうに感じたものですから,一言申し上げました。 ○菅野委員 現状も各地で反省会,各地で,呼び方は一緒か分からないですけれども,終わった後に法曹三者で集まって意見交換をしているということは,恐らく,どこでもやらせていただいていて,ただ,東京は,事件に関係した弁護人以外の弁護士さんが来て,弁護士会に持って帰る,そういったパイプがあるんですけれども,東京以外はむしろ担当した人だけが参加していることが多くて,そうなると,実はそこでやられたことというのが弁護士会全体として共有できていないという課題はあるかなと感じています。今後も反省会等の意見をどういう形で共有していくのかということを検討していきたいと思います。アンケートも,例えば千葉ですと,見に来てくださいと言うと弁護人が見に来ないので,弁護人に送りつけています。ちゃんとアンケートを見てくださいと,そういう単位会の取組などもありますので,やはり裁判員にどう見られているのかというところを意識して,更に弁護活動を考えていく必要があるのは御指摘のとおりかなと思っております。 ○島田委員 東京地裁では現状でも原則として全件,反省会を行っております。裁判員の方に審理終了後書いていただいたアンケートを基に,このアンケートに書かれている意味はこういう意味だろうと思うというようなことをお伝えして,認識を共有させていただいているところです。 ○小木曽委員 通訳人の話もいいですか。 ○大澤座長 通訳人は一応,枠が違いますが,分かりやすい公判に関連する問題ですので,それでは議論を進めて,次に,裁判員裁判における法廷通訳の在り方について御意見を頂戴したいと思います。御意見のある方は挙手の上,御発言をお願いいたします。 ○小木曽委員 これは,何といいますか,こういうところでそのような発言があったということで議事録に残ればという趣旨での発言ですけれども,通訳人を養成する努力を国に求めたいと思います。これは人的資源の問題でもありますし,予算配分の問題でもあります。是非そういう配慮を,これはどこがするのか分かりませんが,求めたいと思います。 ○堀江委員 通訳人の方のヒアリングのときに,ちょっと懸念を覚えたのは,通訳人のレベルがまちまちであるとか,自己流の方が多いというようなことをおっしゃっていたことです。今の小木曽委員の御発言にも関連しますが,全体としての通訳人のレベルを向上させるとともに,均一化を図るということが必要なのではないかと思っております。通訳人の資格制度を設けるべきではないかというような議論もあり,それは逆に通訳人の確保を困難にする可能性もあって,なかなか難しいところもあるのでしょうけれども,理想としては一定の資格を前提にした制度を設計して,レベルアップと均一化を図っていくということが必要なのではないかと思います。   あともう一つ気になりますのは,大都市圏と地方とで事情が異なるのではないかということです。地方で,特に少数言語の通訳人の確保ができているのか。今はビデオリンクを用いるというようなこともあり得るのかもしれませんけれども,やはり地方での通訳人の確保という点も検討課題なのではないかと思います。ただ,今申し上げたような点は,必ずしも裁判員裁判に限った話ではないですので,刑事裁判全般の中で検討していく必要があることだと思います。   一方で,裁判員裁判に特有の問題としましては,集中審理,連日開廷ということで,通訳人の方の負担が問題になるケースもあるのではないかと思います。その点で,例えば複数通訳を活用するということも必要でしょうけれども,他方で,ヒアリングの中で,複数通訳人を用いる場合に,通訳人相互間の連携が必ずしもうまくできていないというような御意見がありました。そのあたり,実務上何か対応ができるのかということも少し気になっているところでございます。 ○戸苅最高裁刑事局第二課長 今御発言がございましたので,私の方から裁判所における適正な通訳の確保に向けた取組について若干,御紹介をさせていただきます。   通訳を要する事件というのはここ数年,増加しております。通訳人が確保できずに公判に支障が生じたという報告は接しておりません。ただ,裁判所としましても法廷通訳の充実というのは非常に重要だと考えておりまして,通訳人の質と数の確保に努めているところでございます。   通訳人の質の面では,通訳人のヒアリングでも深尾先生の方から御紹介がありましたとおり,まず研修を充実させるということに努めております。さらに,通訳人候補者名簿への登録に当たりまして面接をするんですけれども,裁判官のみならず,経験豊富な当該言語の通訳人にも面接に同席してもらって,希望者の通訳能力をじかに評価してもらう運用を一部で始めたところでございます。   また,数の面でも,通訳人確保に向けた大使館などへの広報活動や,学校などとの連携に力を入れておりまして,例えば,昨年は東京外国語大学には裁判官が出張しまして法廷通訳に関する説明会を実施し,また,少数言語の通訳人につきましても,同大学のネットワークを活用して紹介いただく協力関係を構築しているところでございます。また,今年,先月には名古屋大学でも裁判官による出張説明会が実施されたところでございます。   先ほど堀江委員から大都市圏と地方の通訳人の,例えば数の格差などというお話もありましたが,通訳人候補者名簿というのは全国のものが載っておりまして,例えば,地方の裁判所がその名簿を使ってほかの地域の通訳人の選任を試みるということも可能になっております。それから,昨年報道もございましたけれども,刑訴法上の要件を満たせば,構外ビデオリンクという制度を利用しまして,遠隔地からの法廷通訳が可能であり,現に実施された例も聞き及んでいるところでございます。   更にもう一点,今申し述べたような取組のほかに,当該事件における裁判所,検察官,弁護人の適切な配慮による適正な通訳の実現という視点も重要かと存じます。適正な通訳を確保するためには,今私の方で述べましたように,裁判所において法廷通訳人の質の確保,それから能力の向上などに今後も取り組み続けることは,まずもって重要と考えておりますが,それに加えて,個別の事件で当該事件の訴訟関係人と裁判所が,訴訟指揮や訴訟活動に当たって一般事件とは異なる配慮を心がける必要があって,例えば,検察官,弁護人,裁判所が尋問の方法などを工夫したり,通訳人にとって通訳しやすい尋問,それを行うことが重要と考えております。   また,尋問のやり取りの中で,問いと答えにちぐはぐな点とか,発言と通訳の長さに異なる点などがありましたら,審理を担当する訴訟当事者や裁判官において通訳に問題がある可能性があることに気付くものと思われますし,弁護人において被告人の言い分が適切に裁判所に伝わっていないことに気付くこともあるかと思われます。そのような場合,裁判所としましては,通訳人にその場で確認を求めて,訂正すべき点は訂正させ,曖昧な点が残るときは,いま一度検察官や弁護人に分かりやすく問いをやり直してもらうということなどをしていると承知しておりまして,このような対応を取れば,通常はその場で通訳に関する疑問というのは解消されているものと思われます。このように裁判所としましては,検察官,弁護人の協力も得ながら,通訳の正確性の確保のために必要な対応を講じているものと承知しております。   以上のほか,近時,複数の庁におきまして,法廷通訳人経験者を講師として招いて法曹三者の勉強会を開催しまして,要通訳事件における配慮の必要性とか,その方法などについて意見交換などを行うという取組もされていると聞いております。   裁判所としましては今後も,今述べましたような勉強会等の取組を継続的に行うなどして,要通訳事件における配慮の必要性等について理解を深め,認識を共有していくための取組に努めてまいりたいと考えております。具体的な訴訟における配慮の関係につきましては,また法曹三者の委員の先生方から御説明があるかと存じます。 ○島田委員 まず,通訳人の複数の依頼について,通訳人の御希望にはよりますけれども,審理の日数をお伝えして,一人でやるのは大変だという場合には,裁判所としては複数の通訳人を選任することもよくあることです。そして,その複数の通訳人相互の連絡についてですけれども,これも用語の調整などを行いたいという御希望があれば,裁判所は相手方の通訳人の承諾を得た上で,相互の連絡先をお伝えするということになります。   それから,具体的な事件について通訳の正確性を確保するための工夫として,幾つか裁判所,それから当事者が行っている点がありますので,御紹介したいと思います。まず,通訳人に書面を読んでいただく場面が多数ありますが,当事者から通訳人に対して審理の数日前にその書類をお渡しいただいて,あらかじめ通訳の準備をしてもらうということをやっております。例えば,冒頭陳述,取り調べる証拠の内容,証人尋問における主尋問,つまり,先に尋問する側の尋問事項,被告人質問における弁護人の質問事項,さらに論告や弁論についても,後に修正があるということを前提にした上で事前に概要を通訳人に渡してもらって,通訳の準備をしてもらっています。   また,弁護人には被告人との接見,面会の際,法廷通訳人を同行してもらって,被告人の話し方であるとか方言であるとか,その癖などについて事前に理解してもらった上で通訳してもらうというような対応をお願いして,実際にやってもらっています。また,裁判所は判決宣告の1時間とか数時間前に通訳人に判決の原稿をお渡しして,判決の内容がきちんと通訳できるように準備をしてもらっているところです。   なお,先ほど通訳人の予算の問題も出ておりましたけれども,通訳人の報酬について実務の扱いを簡単に御説明しておきますと,法廷通訳人の報酬額は裁判事項であって,それぞれの裁判官が個別の事件に応じて決めるということになります。金額を決める際には,通訳される言語の種類や,通訳が難しい事案であったのか,易しい事案であったのか,その事案の性質や内容,特に,複雑困難な事件であるとか,公訴事実について被告人が争っているかどうか,さらに,通訳時間の長い,短いという点を考慮して決めているところでございます。 ○大沢委員 ヒアリングで出た,堀江委員が御指摘になったところは,僕もすごくヒアリングのときに気になって,ですから,やはりヒアリングのときに出ていた,例えば論告弁論を渡す時期に余裕を持たせるとか,複数がつく場合の,今,島田委員からお話がありましたけれども,打合せ機会の確保というのをお願いしたいという御要望があったので,ああいった御要望は是非取り入れていただきたいなというふうに希望するところです。   それから,やはり私は,もう一人の方がおっしゃっていたレベルの問題とか,基本が定まっていない方がいらっしゃるという御発言は結構,深刻なんだなというふうに思っていまして,やはり,特に裁判員裁判だと法廷でのやり取りが非常に大事なので,こうした現状が放置されるということは,やはり通訳人によって差が生じかねないということになってしまうと思うので,裁判の公平性みたいなことに関わることだと思うので,是非質の確保をお願いしたいなと思っています。   それで,今お話があったんですけれども,かなり法廷通訳といってもいろいろな言語があると思うんですけれども,近時の犯罪傾向みたいなことを最高裁の方が分析されて,この言語にはこの,例えば少数言語でも意外と事件があるとかいうのもあると思うんですけれども,そういった言語別に見ても,その需給のアンバランスみたいなものはないのかどうかですね,数は何とか確保できるということなのか,ただ,確保はできるんだけれども,ちょっと質がな,みたいなところが,その辺がどうなのかということをちょっと伺いたいのと,もしそういったことで何らかの手当てが必要であれば,そういう実態を踏まえて手を打たなければいけないんじゃないかなというふうに感じた次第です。   それから,後の,人材を確保するために,やはり処遇面って結構大きいと思って,今はなかなか処遇のところは法律で,たしか裁判所が相当と認めるところによると,そういう法律で書いてあるところだけだと思うので,一般からすると分からないんですけれども,なかなか,言語によって違うのかもしれませんけれども,できればある程度はそういうことを分かった方が,やる気を出すというか,ある程度やってくれる人も増えるのではないかなという気もするので,そこら辺はなかなか難しいのかもしれませんけれども,処遇面も少し充実していかないと,なかなか人の確保って難しいのかなというふうに思ったものですから,一言申し上げました。 ○戸苅最高裁刑事局第二課長 今の大沢委員の御発言を受けてなんですけれども,少数言語を始め,通訳人が足りないことによる実際の支障というのが生じているかどうかということにつきましては,現段階では個別の事件において通訳人の選任ができずに支障が生じたというお話には接していませんので,裁判体において探して,個別事件に適した通訳人を選任して,適切に事件処理されていると思っております。ただ,裁判所としましては,やはり少数言語について,もっとより多くの通訳人を確保できるよう努めなければならないというのは考えておりまして,先ほど申し上げたような大使館とか大学とか,あるいは国際交流団体とかとの連携を深める施策を今後も実施していきたいと思っているところでございます。 ○大澤座長 私も,恐縮ながら。昔,外国人犯罪が増えて法廷通訳の確保になかなか御苦労されていた頃に聞いたお話では,例えば,比較的簡単な事件からまずは担当してもらって,それで少しずつ様子を見ながら,力がある人についてはまた,もう少し難しい事件も担当してもらってと,正にそういう実際の事件を担当しながらトレーニングをするとともに,その人の力も見極めてというやり方をされていたような記憶がございますが,今もその辺は同じようなやり方なのかどうかといったあたりと,それから,先ほど弁護人に,例えば接見に帯同してもらうというお話がありましたが,公判前整理手続がなかった時代と異なり,今のように公判前整理手続があって,そこにかなりの時間がかかるという状況の中で,ずっとある一人の通訳の人がついているのか,あるいは,どこからか替わったり,柔軟にやったりしているのか,そのあたりはどうなんでしょうか。 ○戸苅最高裁刑事局第二課長 毎年,裁判所では多数の通訳人候補者を対象にしまして,通訳言語のほかに法廷通訳経験の多寡などに応じた研修を全国の高裁,地裁で実施しております。先生がおっしゃるとおり,最初は,例えば非常に簡単な,裁判員裁判でもない自白事件から担当していただいて,研修などを受けながらレベルアップをしていただいて,次第に難しい事件,あるいは裁判員裁判などの通訳をいずれしていただけるような形まで育成していくという考えの下に,レベルに応じた研修もやっております。 ○大澤座長 公判前整理手続が設けられたこととの関係では何かございますか。 ○菅野委員 現状は,外国人事件が起訴されますと,お一人の法廷通訳人が選任されているのが実情です。公判前整理手続,公判を通じて,その方が基本的に変わるということはなくて,公判段階で日程などが決まってきたときに,どうしても通訳人の予定がつかないと,では複数にしましょうか,というようなお話が公判前整理手続の終盤で出ることが多いです。弁護人は通訳をどうしているかというと,私は法廷通訳人に同行をしてもらって,きちんと言っていることが分かるかどうかの確認が必要だと思っていますので,法廷通訳人が選任された後,何度か接見に同行していただいているというのが現状です。けれども,法廷通訳人も遠い方が選任されていたり,お忙しい時期もあるので,もともと捜査段階から何人かの通訳人に通訳をお願いしていることが多いものですから,公判前整理手続,公判を通じて,ローテーションといいますか,そのタイミングで空いている方にお願いをする,ただし,どこかで必ず法廷通訳の方に公判前整理手続の段階で同行してもらうと,このように私自身はやらせていただいているところです。   ただ,これは弁護士会で意見を聴きますと,立場が違うので,裁判所が選任した法廷通訳人を接見に同行させたくないという御意見の弁護人が一定数います。私とは立場が違うので,御説明することは難しいんですけれども,私とすれば,やはりちゃんと言っていることを分かるかどうかの確認や,最終的には公判で事実認定の基礎になるのは通訳された日本語なわけですから,同行していただくということが望ましいのではないかと考えていますが,立場の違いがあるので連れていきたくないという弁護人が一定数いるということも聞いております。 ○大澤座長 それでは,法廷通訳の在り方につきましては,取りあえずこの程度といたしまして,続きまして,いわゆる刺激証拠の取扱いについて意見交換を行いたいと思います。この点につきまして御意見のある方は挙手の上,御発言をお願いいたします。 ○田野尻委員 いわゆる刺激証拠の関係では,前任の横田からも,この検討会で検察官の考え方を申し上げているかと思いますけれども,私の方から同じように検察官の見方を申し上げても,既にこの検討会でも議論があったようですけれども,いろいろな反応が来るんだろうということは予想がつきますので,まずは共通の理解が得られそうな,一部の裁判官の行き過ぎがあるのではないかというようなあたりから,まず2点ほど申し上げたいと思います。   1点目は,凶器などの客観的な証拠物については,取り調べていただく必要があるだろうということであります。申し上げるまでもないことですけれども,オリジナルの証拠というのは,最も証明力が高くて,事実認定をする上で,ベストエビデンスだと思っております。実際の犯行に使われた凶器の現物など,これは犯行態様そのもの,あるいはその危険性がどの程度だったのか,そういったことを正確に理解していただく上で必要不可欠だと思っております。事実関係に争いがあれば当然ですけれども,事実関係に争いのない事件であったとしても,凶器がどういうものであったのかということは,犯情である行為の危険性を直接的に示す証拠でありますので,これを見る必要がないということは考えられないだろうと思っておりまして,実際ほとんどの裁判官は凶器などの客観的な証拠物については採用していただいていると承知しております。   ところが,血が付いているような証拠物,あるいはそういう写真については,一切採用しないという裁判官がいまして,凶器の現物とか,あるいは凶器の写真も血が付いているということで証拠採用されなかったという事例を承知しております。また,横田も紹介しておりましたけれども,凶器のブロック片に血が付いているということで,同じようなものを買ってきて,代わりにそれを使うよう求められた事例もあるということです。証拠として,血のついたものを採用された場合でも,裁判所で裁判官,裁判員に見せるときは血が見えないようにするよう求められたケースもあると聞いております。凶器の現物があるのに,それを見ないで事実認定をするということになりますと,では,凶器がどんなものであったのか,鋭利なものなのかどうか,どういう重さのものだったのか,そういったことをある意味,想像で判断をして事実認定をし,あるいは量刑を決めるということになりかねませんので,そういう想像で判断していて大丈夫なのか,真実の発見という刑事裁判の目的から見て,非常に疑問に思っておるところでございます。   2点目ですけれども,法医学に関する争点について,写真を見ることで適切に判断できる事案がありまして,そういった場合には,写真も取り調べる必要があるだろうと思っております。殺意や,犯行態様,死因などが争点になる事件があるわけですけれども,そういった場合,法医学の先生に証言をしていただくことになりますが,その際に,写真を見ていただければ争点について適切に判断していただけるという事案があるわけです。けれども,そういった場合に,傷口の写真,あるいは解剖写真,そういったものについて立証を制限されることがあるのが実情であります。   私が承知しておる事案ですと,解剖写真は駄目だということになりまして,イラストで対応するということになったんですが,解剖を担当した検察側の証人になった法医学の先生が作成されたイラストと,弁護人側が証人として請求された法医学の先生が描かれたイラスト,このイラスト2枚が出てきたと。そのイラストで,出血がないんだとか,いやいや,ないとはいえませんよということが水掛け論になったという事案があります。また,被害者が窒息させられた根拠として,検察官が,遺体の歯がピンク色になっていることを立証しようとした事案がありました。首を絞められて血が顔にたまりますと,歯の方に血が出てきて,歯がピンク色になる場合があるようなんですけれども,それを立証しようとしたんですけれども,写真が制限されて,イラストで立証するよう求められてしまい,弁護人の方から,このイラストに赤く,あるいはピンク色を描いているけれども,これは本物とちょっと違いますよというようなことが言われて問題になった事例があると聞いております。こういった事例では,もうお気付きだと思いますけれども,写真を見ていただければ,一目瞭然で,争点にもならずに済むだろうと思います。   検察官の方で法医学の専門家の御意見をお聴きする機会があるんですけれども,法医学の先生としてはこの写真が必要だと考えていても,裁判所の方でそれを採用されなかったということになったときに,その先生がおっしゃったのは,検察側,弁護側,どちらの法医学者の証言が信用できるか判断しなければいけないのに,実物の写真を見ないで言葉だけで判断するんですかと,結局,言葉がうまい方,声が大きい方が勝つということになってしまいませんかということを危惧された意見をおっしゃったということを聞いたことがございます。   ヒアリングにおいて,法医学の上村先生からも,イラストの場合ですと,それを描かれた方の意向というものが反映されていて,別の見方を制限してしまうという問題点を述べられたと承知しておりますけれども,これも真実を見誤るおそれを指摘されているんだろうと思っております。そういった専門家の御意見というのはきちんと受け止める必要があるだろうと思っております。   刺激証拠については,当然配慮が必要だと思っておりますが,やはり行き過ぎがあるんだろうと思っております。そういった点は,是正される必要があるだろうと思っております。   ほかにも申し上げたいことはありますけれども,まずはさほど議論にならないだろうと思われるようなあたりから申し上げさせていただきました。 ○和氣委員 被害者の立場から意見をいたしますと,裁判員の方々には,写真で事実をよく見て判断いただきたいと思います。私も娘の亡くなった状態を裁判記録の写真で見たとき,それまでの想像していた状態よりもかなりひどかったことを覚えています。裁判記録の写真を見たときには相当違う感情が湧きました。こんなにむごい悲惨な状態にされてしまったことが事実なのだと気付かされました。ですから刺激証拠ということでイラスト化されてしまうと事実が薄れてしまいかねないと感じます。事実の写真に向き合っていただき,それで判断,判決を出していただきたいということが多くの被害者の感情,心理だと思います。私は栃木県内の刑務所での矯正教育に携わっていますが,受刑者たちの話も伺っている中で,被害者の事実証拠に向き合っていないなと感じます。これでは事件・事故に向き合い反省できないのではないか,それでは再犯につながるのではないかと疑問を感じます。 ○島田委員 刺激証拠を採用するかどうかは裁判事項ですので,それぞれの事案において裁判官と当事者の間で必要性,そして相当性について十分議論をすべきだろうと思っております。刑事訴訟規則によりますと,証拠調べの請求は,証明すべき事実の立証に必要な証拠を厳選してこれをしなければならないと定めております。また,同じように取調べの場面でも,審判に必要と認めるものを取り調べるという規定が設けられているところです。したがって,刺激証拠の問題については,証拠の厳選の観点から絞り込むことに加え,立証を必要としている事実との関係で,その証拠を調べる意味合いについて十分に議論をする必要があるだろうと思っております。   先ほど,争いのある事件の場合どうかというお話がございましたけれども,仮に殺人事件で行為態様や殺意に争いがあるといった場合に,専門家でない裁判員,裁判官が写真を見ることよりも,被害者がどこにどのような傷を負ったのかという点については,実際に司法解剖した鑑定人に専門的な知識に基づいて十分な証言をしてもらうことによって,争点に対する判断が可能になるのではないかと思われます。もっとも,事案の内容や争点によっては,写真を取り調べなければならないという場合もあると思います。その場合には,証拠調べの必要性について,その証拠を調べる意味合いがどの程度あるのかという点に加えて,証拠調べをすることによる弊害の有無を検討していくことになります。   以前にもお話ししましたけれども,判断者の感情をかき立てて冷静な判断ができなくなるような証拠は弊害が大きいため,相当性の要求を満たさず,却下するということになりますし,それほどの刺激性はないものの,それでもなお裁判員に心理的な負担を負わせる証拠については,代替証拠の可能性について検討していくということが相当であろうと思います。この場合,裁判員の心理的な負担については個人差が非常に大きいため,精神的な耐性の低い人を基準にして検討する必要があります。先ほど,血が付いているかどうかという点が問題になっていましたけれども,そういった場面や,傷の色が問題になっていて,写真を調べる以外に方法がないといった場合には,オリジナルの証拠を採用して調べることになりますが,その場合にも写真の枚数や大きさ,取り調べる範囲などの工夫が必要だろうと思います。他方,白黒写真やイラストであっても十分判断可能であれば,そのような代替証拠を採用することになると思います。   証拠の採否の判断については以上になります。 ○大沢委員 お話を伺っていて,検察官のお考えと裁判所のお考え,それぞれの考えは理解できるところがあるんですけれども,やはりヒアリングで心に残ったのは,娘の写真を見てもらうことで本人が亡くなったことがきちんと伝わると思うというふうにおっしゃった被害者遺族のお話は,やはり説得力があったなというふうに個人的には感じました。また,血のついた服を見た際に,衝撃を受けたんだけれども,見る前にそのような証拠が出る旨を伝えてもらっていたため,心構えができていたんだというふうな裁判員経験者のお話もあって,やはりきちんと準備をすれば,裁判員への負担を軽減するということはある程度可能なのかなというふうにも感じた次第です。   いろいろ御意見はあると思うんですけれども,飽くまでこれは法律家ではなくて,私個人の素人としての感覚なので,そういうふうに聞いていただきたいんですけれども,裁判の立証に必要が必ずしもない場合,遺体写真は見なくても構わないのではないかと,要するにイラストや図での代替も可能ではないかというお考えもあるとは思うんですけれども,やはり人の命が奪われたことについて裁く裁判で,亡くなった人の現実を見なくていいということについては,非常に違和感を感じるというか,こういったことに,これから裁判員をやってもらう一般の国民がこれをどう受け止めるのかということは,少し考えた方がいいんじゃないかということは感じました。   ですから,これはどちらかというと裁判所にお願いなのかもしれませんけれども,真相究明という裁判の目的と,それから裁判員の負担軽減という点,それぞれあると思うんですけれども,ケース・バイ・ケースだと思うんですけれども,ぎりぎり見極めて,適切な御判断をしていただきたいなというふうに願っているところです。 ○菅野委員 私も田野尻委員の言っていることは基本的に賛同できて,必要な証拠を必要な裁判で使っていくということをきちんと法曹三者で議論していかなければいけないと,こういうふうに思っています。   ただ,ちょっと誤解がないように前提として二つだけお話しさせていただきたいんですが,例えば遺族が証拠調べをしてほしいと求める写真というものが,私どもが記録でどういうふうに写真をまず見るかというと,開示された証拠には,現場で発見された遺体の写真,例えば解剖が行われる前に撮影された遺体の写真,解剖が行われたときの写真,あるいは生前の写真というふうに,ものすごくたくさん写真が証拠の中にはあって,検察官がまず,裁判で必要なものを,特に,例えば事実認定に必要なものはこれです,あるいは量刑にとって必要なものはこれですという形で,恐らくもともとの写真の千分の一,あるいは一万分の一ぐらいの量に検察官が専門的な視点から絞っていただいているんです。なので,もともと全部の写真を調べるなどということには最初からなっていないというのが現状です。また,まず,何の証拠として調べることが必要なのかという議論が必要だなと思ったのは,ヒアリングの中でも,交通事件で遺体の損傷状況について,それが証拠として採用されなかった,だから危険運転致死が的確に判断されなかったと,こういうヒアリングの際のお話があったところですけれども,実際の担当弁護人に聞いたところ,検察官も特段当該事件の争点,特に速度の争点の関係でその遺体写真を請求したという事実はなかったと,こういうふうに聞きました。結局,検察官とすれば,遺族の御希望もあるので,損傷した結果は証拠として請求していたわけですけれども,遺族が考えられていたように争点になっている速度の関係で必要な証拠だというやり取りは,公判前整理手続では行われていなかったということを聞きました。そうすると,遺族から写真を見てほしいという要望はあるけれど,それと公判前で議論されている立証趣旨がそもそもずれていることがあります。立証趣旨をきちんと検討して,それぞれ本当に必要なのかという議論を三者が的確にしていかなければいけないと思っています。   私,田野尻委員に基本的に賛同ですけれども,写真は大部分で本当に正確なものではあるんですけれども,そうとも限らない点は感じています。例えば遺体に死後変化が生じてしまったときには,遺体で写った色が生前の損傷なのか,それが死後変化なのかとか,やはり見たときに全然関係のないところが不正確に伝わってしまうこともあるんです。私が最近経験したところでは,遺体写真を調べてもらったところ,法曹三者はもう死後変化として気にしていなかったところ,裁判員から,これは生前どういう攻撃でこういう色の変化が生じたんですかという,争点とは余り関係ないところで御質問が出たときに初めて,これが死後変化だという的確な説明をしていないと,やはり誤解を生じてしまうこともあると感じたこともあるんです。なので,写真を見たときに,我々のようにここを見ればいいという前提がなければ,情報量が多過ぎてしまって,かえって誤解を与えてしまうような出来事もあり得るのかな,こういうことを感じたので,その事件でその争点にとって最も適切な証拠は何かということは,もう少し慎重に議論していかなければいけないというふうに感じました。 ○武石委員 争点にとって重要な証拠だということになった場合に,非常に血が付いているとか,刺激証拠であったらどうなるかというような議論かなというふうに思って聞いておりました。その場合に,私も,大沢委員と同じ意見で,やはり必要な証拠だということの前提の下で,刺激証拠かどうかということの判断はかなり慎重にしていただく。ですから,必要なものは出すということが前提かなというふうに思います。やはり一般の人から見るとすごく刺激的で,とても堪えられないというものは除外することとして,何か別の代替措置があってもいいと思うんですが,やはり事実を知るということの非常に重要な証拠というのがたくさんあると思いますので,そういう観点から,必要なものを出していただきたいということです。   この検討会で刺激証拠の議論があったときに,この検討会で刺激証拠が出ますから,そういう心積もりで来てくださいと言われて,私もどんなのかなと思って来たんですが,私が見た感じ,これでも刺激証拠でイラストになってしまうんだというのが率直な感想だったんです。ですので,先ほど大沢委員もおっしゃっていましたが,刺激証拠を見るのだという心積もりで来れば,そういうものを見るんだということの心構えもできていると思うのです。そういう意味で,私はいろいろな裁判を全然知らないんですが,刺激証拠というものに関しての判断が厳しいというか,出さない方向になっているのではないかなということを懸念していて,そのあたりは課題として受け止める必要があるのではないかなということを感じています。 ○島田委員 必要性について十分吟味した上で,刺激証拠を採用するということになった場合に,先ほど御紹介があったとおり,裁判員の選任手続の段階で,今回の事件では,例えば御遺体の写真を調べる予定になっているということを告げて,心配な人については個別質問を行い,辞退の判断をしております。また,法廷でもその証拠を調べるときに事前に告知して,心構えを取ってもらっているわけです。   しかしながら,裁判員候補者が裁判員に選ばれるかどうかの時点でそのような告知をしても,具体的にどのような証拠が法廷で調べられるのか予想がつかないということがございます。その時点では大丈夫だと思っていても,実際に緊張感のある法廷で,目の前にあるモニター画面に映し出された御遺体の写真や解剖写真などを見て,大きな精神的な負担を負ってしまう方が実際にいらっしゃるということも事実です。たまたまくじで選ばれた裁判員にそのような苦痛や負担を負わせてよいとは思えません。そういった観点から,いろいろ工夫はしますけれども,慎重に必要性について判断をしたいというふうに考えております。 ○小木曽委員 これまでの議論で,立証趣旨との関係で証拠の採否が変わるということ,それから,必要のない証拠をむやみに見せる,正に必要はないということは分かったわけですが,刺激証拠の問題というのは裁判官裁判のときにはなかったことだろうと思います。裁判というのは事実を認定するもので,そうすると,裁判官であれば普通に見る,関連性のある証拠を裁判員はどうして見なくていいのかが問われなければならないのだろうと思います。   先ほどの御発言の中にありましたように,その理由として考えられるのは,証拠を見ることによって適正な判断ができなくなるという場合か,あるいは,裁判員の心理状態に一定程度の継続性のある負担が残る場合,そういうものを見れば一定程度の負担は,裁判官であろうがそうでなかろうが,負担はあるんだろうと思いますが,その程度がやはり心的外傷のレベルに至るというような場合であれば,それに配慮する必要が出てくるのだろうと思います。   恐らく,心的外傷の問題が大きいのではないかと思いますが,先ほども申しましたように,裁判というのは事実を認定するものですから,デフォルトで見ないことにしておいて,例外的に見られるのはどういう場合だろうかというふうに考えるのは,恐らく話が逆で,なぜ見なくていいのかということを個別事情に応じて厳格に判断するというのが筋なのではないかと思っております。 ○堀江委員 幾つかちょっと,前回までの議論の中で挙がったことも含めてですが,気になっている点について申し上げます。   必要性と相当性を考慮して,裁判所と当事者で議論をしてというのは,それはそのとおりだろうと思うんですけれども,一つ気になるのが当事者主義との関係です。当事者を交えて議論して,刺激証拠だから見せないと合意されるのであればいいんですけれども,検察官と弁護人の方で写真を使うということで意見が一致しているというときに,裁判所の方で,裁判員に配慮して,口を出されるといいますか,介入されるというのは,これはどうなのかなと感じております。当事者主義,当事者追行主義の中には,何を立証するかということだけではなく,どういう証拠によって立証するか,証拠方法の選択という点も,基本的には当事者がイニシアチブを取るということが含まれると思いますので,その点で,余り裁判所の側から介入するのは,そういう実態がもしあるとすれば,それはいかがなものかというのが一つです。   それから,刺激証拠といわれるものを裁判員に見せない理由として,二つ挙がっていたかと思います。一つは,過度に感情を揺さぶる,それによって事実認定,あるいは量刑の判断がゆがんでしまうという問題,もう一つは,裁判員に対する精神的負担になる,この二つの問題があるのだろうと思いますけれども,両者はいささか性質の異なるものではないか。証拠調べの必要性に対して相当性という観点で制限をするという方向では,大枠では共通するんですけれども,その意味内容は少し違っているのではないのかなと。単純に比較することは難しいかもしれませんが,どちらかといいますと後者の精神的負担の問題の方が,裁判員裁判特有の問題なのだろうと考えております。   他方,感情を過度に刺激して事実認定あるいは量刑判断がゆがんでしまうという点は,若干は,裁判員の方がそういう刺激に耐性がない,判断を誤ってしまう危険が高いということも,もしかしたら言えるのかもしれませんけれども,本質的には,裁判官の場合にも裁判員の場合にも共通した問題なのではないかと思っております。   もう一つ,両者の違いとして考えるべきなのは,感情を過度に刺激されて判断がゆがんでしまうという問題については,確かに法廷で刺激証拠を見たその時点では感情が過剰に揺さぶられるということがあるかもしれませんけれども,その後の審理あるいは評議の中で,その証拠が事実認定や量刑判断の中でどういう位置づけをされるべきなのかということを裁判官,裁判員が額を寄せ合って議論をされるわけで,その中でそういった揺さぶられた感情というのが適切なところに落ち着いていく,そういう面もあるのではないのかと思います。   これに対して,刺激証拠を見て精神的に負担になってしまうというのは,これは一旦そういう精神的ショックを受けてしまうと,なかなか除去するのが難しい,だからこそ国賠事件になったりして,問題視されてきているということなのだろうと思います。その両者は,同じく相当性の問題として検討されるべきではあるんですけれども,質は違うのかなと思っております。   では,そのうち精神的負担,心理的負担の問題,その点は裁判員裁判固有の問題として重視する必要があるかもしれないとしても,しかし,だからといって,広く刺激証拠として,いろいろなものを刺激証拠という名の下に取り込んで,なるべく見せないという運用が原則化するというのは,やはり問題があるのではないか。どちらが原則で,どちらが例外なのか,ということをきちんと意識する必要があるという点で,小木曽委員の御発言とも共通した問題意識を持っております。   もちろん,裁判員の精神的負担の観点から,証拠調べの相当性を欠くということで当該証拠を用いずに代替証拠で済ませる,そう判断すべき場合があることを否定するつもりはありません。ただ,その点は,先ほどの島田委員の御発言にもありましたけれども,裁判員の個人差がかなり大きいところだろうと思います。ですので,一律的なマニュアル化したような判断方法にはなじまないものであって,個別事件の特性,あるいは個々の事件で選任された裁判員の特性に応じて,具体的に吟味して判断していくべきものだろうと考えております。先ほど田野尻委員がおっしゃったところをお聞きした印象では,一部の裁判官で,かなり杓子定規的な対応をされる方がおられるような感じを受けましたけれども,それはいかがなものかと思います。 ○和氣委員 裁判員の方々への配慮というものは非常によくされているなというふうに感じているところですけれども,やはり裁判員の方々は,それぞれに心理や体調とかが違います。犯罪被害者もお一人お一人違うわけですから,PTSDにならない方もおりますし,出てしまう方もいらっしゃいます。特にPTSDになりますと,事故事件のすぐではなくて10年も後から出てくる事例もたくさんあったりしますので,長期にわたっての支援が必要となります。ですから裁判員の方々も長期にわたって観察やフォローが必要であると感じます。その時にカウンセリングを受けることができる体制は充実していただきたいし,予算もつけていただけると有り難く思います。今現在も配慮はされているのだと思いますけれども,やはり長期にわたっての配慮はされていないと思われますので,必要なのかなというふうに感じます。 ○田野尻委員 先ほど,共通の理解を得やすいのではないかという部分について申し上げたんですけれども,島田委員,あるいは菅野委員からも御意見がございましたので,それに関連して申し上げたいと思います。   先ほどから,刺激証拠を制限する根拠として二つ挙げられていますが,裁判員の方の精神的負担ということは私も非常に分かるところでありまして,配慮が必要だということを前提に考えております。   他方で,判断者の感情をかき立てる,あるいは揺さぶるということを根拠に挙げられたんですけれども,率直に申し上げて,瞬間的にそういう気持ちが起こるということは理解しますけれども,それが評議の中で,裁判官が,証拠によって事実認定しなければいけませんよと,量刑などについても,ほかの事件の量刑傾向なども踏まえて被告人の行った行為の責任というものを評価して決めないといけないんですよ,ということをきちんと説明した場合に,刺激証拠の影響で意見がどうしても動かなくなって事実認定を誤る,あるいは量刑判断を誤るということが本当に起こるのかというのは非常に疑問に思っております。   裁判員裁判が実際にスタートするまでに,模擬裁判であるとか,今も量刑に関する評議の実情を法曹三者で理解するということで模擬裁判のようなことをやっているわけですけれども,そういった中で裁判官が説明をされて,それに飽くまでも反して突っ走る裁判員の方というのは,そういう場面では見たことありませんし,仮にいても,ごく少数であって,多数決で事実認定,あるいは量刑が決められるという制度の仕組みからすると,結論に本当にそのことが影響するケースがあり得るのか疑問に思っておりまして,そういった点を考慮すると,判断者の感情をかき立てるおそれというものが刺激証拠を制限する根拠になるのかということには非常に疑問を持っております。   先ほど2点,申し上げましたが,先ほどより制限される裁判官が多い証拠ということで申し上げますと,犯行状況が撮影されたドライブレコーダーとか防犯カメラの動画の問題を申し上げたいと思います。これは犯行状況がはっきり映っているような場合もありまして,犯行状況がどういうものであったのか,どういう危険性のあるものだったのか,どのようにひどいものであったのか,あるいはそうでなかったのかということを理解するベストエビデンスだと思っておりますけれども,動画は刺激が強いということで証拠として採用されない事案があります。そういった場合どうするかというと,動画の場面をスチール写真で印刷して,それを裁判官に見ていただいて,裁判官がオーケーということになると証拠採用されるという実情でありまして,ある事案では弁護人の方からも,犯行状況がそれほど悪質じゃなかったことを理解してもらいたいから,同じ動画を証拠請求された事例もあったと聞いております。犯行状況をそのまま撮影しているものを見ないで事実認定をする,あるいは量刑をするということになりますと,これまた,想像で判断しているのかということにもなりますので,非常に疑問に思っております。   検察官と弁護人が,同じ証拠をそれぞれ証拠請求したところ,裁判所に却下されて,例えば検察官が異議を言うと,弁護人の意見は,異議に理由がありますと言いまして,弁護人も証拠請求を却下されて異議を言うと,検察官が異議に理由ありという意見を言うと,それでも証拠採用されないという,ちょっと笑い話としか思えないようなことも現実に起きていまして,先ほど堀江委員がおっしゃったとおり,当事者主義という観点からも疑問に思っております。   島田委員から,一番精神的に弱い人を想定しているんだという御指摘があったんですけれども,島田委員も逆方向の議論としておっしゃっているとは思うんですけれども,事前に裁判員の精神的な不安がどの程度になるのかということを見極めるのが困難だということはそのとおりで,抽象的に最も弱い方ということを想定して証拠の採否を決めてしまっていることによって,刺激証拠を採用しない方向に傾き過ぎているのだろうと思っておりまして,これが行き過ぎの原因だと思っております。   前任の横田からも紹介があったと思うんですけれども,血液を隠して証拠請求していたら,評議で裁判員が見たいという要望があって,オリジナルの証拠が証拠採用されたといった例もありますし,判決後の記者会見,あるいは意見交換会などの場面で,裁判員の方から,刺激証拠という触れ込みで,どんなものが出るのかと思って見たけれども,大したことなかったというような意見が述べられることもございます。そういった事例もあることを考えますと,必要性を吟味した結果,その必要性が認められるというときには,裁判員の選任手続において,そのような証拠が取り調べられる,あるいはその可能性があるんだということを告知していただいて,そのことについての裁判員の方の反応,不安に思うというようなことがあれば,辞退事由が認められるのであれば辞退を認める,あるいはそうでなくても当事者による不選任請求を認める,そういった方法が採られるべきだろうと思っておりますし,公判前整理手続の段階では証拠の採否は留保しておいて,公判の推移で,必要性があるのかどうか,あるいは裁判員の方にも意見を聞いて,証拠を採用するかどうか決めるというように,柔軟に運用される必要があるだろうと思っております。 ○武石委員 私はこの中で裁判員になる可能性がある数少ない人間かもしれないんですけれども,精神的な負担は確かに大きくて,これが一般的に裁判員として参加する場合に,そういう刺激証拠を見せられるみたいなことが結構流布している感じがするんです。ただ,そこはやはり裁判員制度の訴求の仕方だと思うんですが,負担はあるんだけれども,やはりその事実を見ることによって正しい判断をするんだということ,負担だけれどもきちんと判断するための必要なものだということをきちんと理解してもらえば,ちょっとつらいけれども見ようという気持ちになっていくと思うんです。刺激証拠が見せられるということだけではなくて,それが何のために必要かというと,その正しい判断をして事実を知るためにはこれが必要だということを併せて言っていただかないと,刺激証拠だけが独り歩きしてしまうので,そこの言い方は気をつける必要があるかなというのが1点です。   あと,感情に訴えるというところで,裁判員の方がどうしても被害者の方の気持ちに寄り添ってしまうという御意見がありました。でも,その後の評議できちんとした公正な判断がという御意見もありました。感情が揺さぶられるというのは,やはり裁判員裁判の一つの意義というか,一般の人が一旦そういうふうに,ああ,こんなことがあったんだなということで,被害者の方たちの気持ちとか,その遺族の方等の気持ちを自分なりに受け止めて,その後いろいろな意見を聞きながら,証拠を見ながら正しく判断するという,裁判員裁判というのはそういう一般の人の感覚を取り入れるものだと思っています。ですから,それを揺さぶってはいけないから刺激証拠を出さないというのも,もともとの裁判員裁判の意義とは違うのではないかなというような感想を持ちました。 ○大澤座長 いかがでしょうか。刺激証拠といっても,田野尻委員はいろいろ例を挙げてくださいましたけれども,遺体写真のようなものもあれば,凶器のようなものもある。最後にはドライブレコーダーという例を挙げられましたけれども,かなり刺激証拠という概念自体が拡散してきていて,どんなものを念頭に置くかによって,また議論も変わってくるところもあるのかなという感想を抱きました。大分長くなってまいりましたが,この段階で更にどうしても発言しておきたいということがございましたら,どうぞ。 ○島田委員 刺激証拠の採否については個別の事件の中で必要性と相当性を十分検討するということが必要だろうというふうに考えております。そして,裁判員の方が精神的負担を負ってしまったというようなことがなるべくないようにしたいと,裁判所としては考えておりますけれども,もし万が一そういうことがあったときに,一体どなたがどういう形で責任を取るのかというところも考えておかなければいけないのではないかと思っております。 ○田野尻委員 座長がおっしゃられたとおり,証拠の類型ごとに考える必要もあるだろうと思いますけれども,私は刺激証拠ではないと思っておりますけれども,生前写真の関係について申し上げたいと思います。   先ほど大沢委員からも御意見がございましたけれども,御遺体の写真などとは別に,生前の被害者の方の写真の問題がありまして,私は,これについては刺激証拠の問題とは区別して考える必要があると思っております。正に大沢委員がおっしゃったとおりで,人が亡くなったということは,戸籍から一人,その方の戸籍が抹消されたという話ではなくて,現に生きておられた方の命が失われたということでありまして,その方がどういう方であったのかということを正しく理解する上で,きちんとそういった写真を見るということは必要だろうと思っております。   これも裁判員の方の感情を刺激するという議論になっていますが,先ほど申し上げましたが,これは遺体のような刺激の強い話とはかなり違っていて,正に裁判官が評議で必要があれば説明されればいい話だろうと思っております。最近,児童虐待の事件が,社会的に注目を集めていますけれども,ある事件で被害者の児童の生前写真を証拠として採用するのかどうか,かなり担当の検察官が裁判所との折衝で苦労をしたと聞きましたけれども,ただ,その事件って,皆さん御案内の事件をイメージしていただければ分かると思いますけれども,テレビでさんざん,あるいは新聞でも生前の被害者の写真が報道されておりまして,裁判員の方もそれを目にしている方が少なくなかったと思うんですけれども,では,それで不公平な裁判をするおそれがあったのかというと,それはもうそんなことはないだろうと言えるだろうと思っております。この生前写真を御覧いただけないことについて,被害者御遺族の不信感というものは非常に強いと思っておりますが,そういう不信感というものは刑事司法制度の根幹に関わる問題だろうと思っておりまして,その点について重く受け止める必要があるだろうと思っております。 ○大澤座長 この段階としては,このくらいでよろしいでしょうか。   それでは,刺激証拠の取扱いについてはこのくらいといたしまして,最後に,これまで意見交換を行った事項以外の公判及び公判前整理手続の在り方に関する事項や,この検討事項に関わります全般的な事項につきまして御意見がありましたら,挙手の上,御発言をお願いしたいと存じます。 ○重松委員 裁判員に分かりやすい公判という観点から1点,意見を申し述べたいと思います。いわゆる取調べの録音・録画の記録媒体についても,実質証拠として十分に活用されるべきであるというふうに考えております。御案内のとおり,取調べの録音・録画記録媒体は,被疑者の供述内容はもとより,供述時の態度,表情などが記録されておりますことから,裁判員の皆さんにとって被告人の供述の内容,その過程,経過等に関する心証を取ることが容易であるというふうに考えています。したがいまして,供述の過程,経過等に関する心証のみならず,供述内容そのものに関する心証を取ることができるように,必要な場合には実質証拠として十分に活用されるべきであるというふうに考えております。   この点につきましては,法制審議会,新時代の刑事司法制度特別部会においても同趣旨の御意見があったというふうに承知しておりまして,記録媒体の証拠としての使い方に特段の制限はないというふうに理解をしておるところでございます。 ○島田委員 取調べ状況の録音・録画媒体については,そもそもの発想は,いわゆる郵便不正事件における捜査官の不祥事をきっかけとして,取調べや供述調書に過度に依存した捜査,公判を見直し,適正な取調べを確保すること,それと,被疑者の供述状況を客観的に記録して,自白の任意性について的確な立証を確保することの2点にあるというふうにされております。実質証拠として調べるといった問題点については,先ほどと同じですけれども,証拠調べの必要性と相当性について慎重に検討する必要があると思っております。   これは個人的な見解になりますが,まず,捜査段階の被疑者の供述について検討しますと,それは法廷での被告人の発言とは異なり,密室において,証拠の開示もされず,弁護人の立会いもないまま,被疑者という不安定な立場で,多くの場合,身体拘束されている状況の中で,法廷とは異なり,尋問のルールもなく,多くの場合,責任を一方的に追及される中でなされるものです。それを見た裁判員,裁判官にとって,被疑者がどのような心理状況で,どのような動機や理由から自白をしているのか,あるいは,それまでの取調べ状況がどういうものであって自白するに至ったのか,取調官がどのような資料をもって取調べに臨んでいるのかといった,供述しているときの背景事情というものが分かりにくいものです。この点についての事後的な検証も簡単なものではありません。   先ほど,自白しているときの被疑者の様子を見ればよく分かるというお話がございましたが,捜査官の前で黙秘を続けていた被疑者があるとき涙を流しながら供述を始めたとか,身振り手振りですらすら述べたといったような被疑者の態度や発言の様子を見て,その意味を正しく裁判体は評価することができるでしょうか。本当に反省の気持ちから流した涙なのか,意に反した真実に反する自白をせざるを得ない悔し涙なのか,その判断は難しく,かえって判断を誤らせる危険性が高いと考えられます。それにもかかわらず自白を内容とする録音・録画を法廷で取り調べた場合,一般的に無実の人が進んで自白するはずはないだろうと,このようなバイアスによって,被疑者が自発的に供述しているかどうかといった点のみに判断者が着眼してしまって,主観的,感覚的な判断を行ってしまう危険性が類型的にあるように思われます。   他方,法廷での被告人の供述は,関係する証拠を十分調べた後に,弁護人の支援を受けた検察官と対等な立場で,裁判官,裁判員の前で尋問ルールに基づいてなされる供述です。また,必要があれば裁判員や裁判官から被告人に対して直接質問して,疑問点を解消することもできます。そうしますと,捜査段階の録音・録画よりも,法廷での被告人の供述の信用性を判断するということは,比較的容易であると考えられます。こういったところから,自白の録音・録画については,必要性と相当性について十分議論し,吟味した上で採否を決めるべきであろうというふうに考えております。 ○田野尻委員 録音・録画の記録媒体については,島田委員から御指摘のあったようなところが理由になっているのだと思いますけれども,証拠採用について消極的な裁判例も一部見受けられるところです。しかし,この問題を考えるに当たっては,まず前提として,被告人の不利益供述に証拠能力が認められている理由から考える必要があると思っております。これは,元裁判官の方が刑事訴訟法のコンメンタールで指摘されていることなんですけれども,刑事訴訟法322条で被告人の不利益供述に証拠能力が認められた理由について,その制定過程の議論を紹介しているんですけれども,それによりますと,利益な供述というのは何遍でも被告人の方で言うだろうと,ところが不利益な供述というのは一度しか言わない可能性があるんだと,だから不利益な供述については全部証拠に採れることにしないといけないんだと,そのような説明がされているところであります。どうも,この不利益なことは一度しか言わない可能性があるという,当然のことだと思いますけれども,そういったことが忘れられているんじゃないかなと懸念しているところでございます。   そのことを前提に考えますと,先ほど島田委員が指摘されたように,録音・録画に映らない背景の部分,そういった部分があるかもしれないということは,一つの考慮しなければいけないことだと思いますが,他方で,その不利益供述が任意にされたのかどうか,信用できるのかどうか,こういったあたりについてできる限り客観的な証拠に基づいて丁寧に吟味をする必要があるだろうと思っております。裁判所においては,その供述の信用性を判断するに当たって,その供述がどういう経緯で,どういうやり取りの結果なされたものか,そういったことが判断材料の一つになると思いますけれども,録音・録画の記録媒体はその状況をありのままに知ることができるベストエビデンスだと思っております。   例えば事実を認めている供述をしている場面があるとしても,取調べでは犯罪事実についてだけ聴くわけではなくて,どういう理由でそのような供述をすることになったのか,今まで言っていたこととどうして変わったのか,そういったことも含めて,検察官も警察官も聴くようにしております。そういったところも含めた供述全体で,あるいはほかの証拠も含めて検討して,その供述が信用できるのかどうかということが判断されるわけで,その点について得心がいかない部分があれば,信用性が否定されることになっていくわけです。そこについては,当然,弁護人の方からも取調べでの供述が信用できない理由について指摘があると思いますし,裁判官も評議でそういったところを指摘されると思いますので,そういうことも踏まえて考えた場合に,裁判員の方が判断を誤るということが,先ほど刺激証拠のところでも申し上げましたが,本当にそういうことが起こるのかということについては非常に疑問だと思っております。   今,高検で仕事をしておりまして,仕事柄,地裁のもの,あるいは高裁のものも含めて,判決を読むことが多いんですけれども,公判廷での証言の信用性を判断するに当たって,多くの判決で,「証言態度も真摯であり,」ということを書いております。それにもかかわらず,捜査段階の供述について,その供述態度というものから,むしろ目を塞ぐということは,いかがなものかなと思っておるところでございます。 ○堀江委員 公判廷での供述と,公判外,取調べ段階での供述の性質の違いという点については,基本的には島田委員がおっしゃったことに賛同します。やはり現行法の立てつけとして,まずは公判廷の場で,法廷という厳粛な場で,公開され,弁護人もいる,そういう場で行われる供述,これを証拠とするのが原則だということであって,それと公判外の取調べでの供述というのは,質的に格段の違いのあるものだということは押さえておく必要があるかと思います。その意味で,取調べでの録音・録画を十分に活用すべきというふうな言い方をされますと,それはちょっとどうなのかという気がします。   他方で,現行法の下でも,一定の要件を満たす場合に,公判外の供述を実質証拠として用いることは認められているわけでありまして,その場合に証拠方法として,書面,調書を使うか,録音・録画記録媒体を使うかで,基本的な扱いを異にすべきだとは私は思っておりません。 ○大澤座長 今の検討事項3「公判及び公判前整理手続の在り方」に関する「その他」の事項については,ほかにも議論すべき事項が残されているように思いますが,予定時間が残すところ5分ということで,新たな項目に入ると,多分,中途半端な形になるかと思います。もしよろしければ,本日はこの程度ということにさせていただきたいと思いますが,よろしいでしょうか。   それでは,本日は3「公判及び公判前整理手続の在り方」のうちの,その他の事項に関する議論を途中まで行ったということにいたしまして,その続きから次回は議論をさせていただくということにさせていただきたいと存じます。   では,最後に事務当局から,次回の日程について確認をお願いいたします。 ○鈴木刑事法制企画官 次回,第12回会合の日程につきましては,令和2年3月2日月曜日,午後1時半から開催する予定となっております。場所につきましては,追って御案内いたします。 ○大澤座長 それでは,本日はこれにて閉会とさせていただきます。ありがとうございました。 -了-