裁判員制度の施行状況等に関する検討会(第12回)議事録 第1 日 時   令和2年6月29日(月)午後1時30分から午後3時16分まで 第2 場 所   東京高等検察庁第二会議室 第3 出席者    (委 員)大澤裕,石山宏樹,小木曽綾,小林篤子,重松弘教,島田一,菅野亮,武石恵美子,堀江慎司,山根香織,和氣みち子(敬称略)    (事務局)保坂和人大臣官房審議官,大原義宏刑事局刑事課長,吉田雅之刑事局刑事法制管理官,羽柴愛砂刑事局参事官兼企画調査室長,鈴木邦夫刑事局刑事法制企画官    (その他)市原志都最高裁判所事務総局刑事局第二課長 第4 議 題 1 検討事項に関する意見交換等について 2 その他 第5 配付資料  資料1−1:検討事項 資料1−2:裁判員の参加する刑事裁判に関する法律の一部を改正する法律(平成27年法律第37号)に対する附帯決議(衆議院法務委員会・参議院法務委員会)  資料1−3:ヒアリングにおける発言要旨  資料1−4:「裁判員制度に関する検討会」取りまとめ報告書  資料2−1:最高裁判所説明資料  資料2−2:事務当局説明資料  資料3−1:「平成19年改正刑事訴訟法等に関する意見交換会」における議論の概要  資料3−2:最高裁判所説明資料  資料3−3:石山委員説明資料  資料3−4:重松委員説明資料  資料3−5:和氣委員説明資料 第6 議 事 ○鈴木刑事法制企画官 予定の時刻となりましたので,ただ今から裁判員制度の施行状況等に関する検討会の第12回会合を開催いたします。 ○大澤座長 4か月半ぶりの開催になりましたが,本日は,皆様,御多用中のところ,また,このような状況の下にもかかわらず,御出席をいただきまして,ありがとうございます。   武石委員には,本日,ウェブ会議システムにより御出席をいただいております。   議事に入ります前に,前回の会合以降,委員等の異動がありましたので,御紹介をさせていただきます。   田野尻猛氏,大沢陽一郎氏が委員を退任され,新たに石山宏樹氏,小林篤子氏が委員となられました。また,戸苅左近最高裁判所事務総局刑事局第二課長に替わりまして,市原志都最高裁判所事務総局刑事局第二課長に新たに当検討会に御出席いただいております。   初めて当検討会に御出席いただいた石山委員,小林委員及び市原課長から順番に自己紹介をいただきたいと存じます。 ○石山委員 最高検察庁検事の石山でございます。どうぞよろしくお願いいたします。 ○小林委員 読売新聞の論説委員をしております小林と申します。よろしくお願いいたします。 ○市原最高裁刑事局第二課長 最高裁刑事局第二課長の市原でございます。どうぞよろしくお願いいたします。 ○大澤座長 ありがとうございました。これからどうぞよろしくお願いいたします。   次に,事務当局から配布資料について説明をお願いいたします。 ○鈴木刑事法制企画官 本日お配りしている資料は,議事次第,資料1−1「検討事項」,資料1−2「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律の一部を改正する法律に対する衆議院法務委員会及び参議院法務委員会の附帯決議」,資料1−3「ヒアリングにおける発言要旨」,資料1−4「裁判員制度に関する検討会取りまとめ報告書」,資料2−1「最高裁判所説明資料」,資料2−2「事務当局説明資料」,資料3−1「平成19年改正刑事訴訟法等に関する意見交換会における議論の概要」,資料3−2「最高裁判所説明資料」,資料3−3「石山委員説明資料」,資料3−4「重松委員説明資料」,資料3−5「和氣委員説明資料」です。   それでは,各資料につきまして,その概要を御説明いたします。   本日配布した資料1−1から1−4までの各資料につきましては,第10回会合以降,毎回お配りしている資料を改めてお配りするものです。   資料2−1及び資料2−2は,検討事項「5 上訴審の在り方」に関するものであり,検討事項5について意見交換を行う際に,資料2−1については最高裁判所から御説明いただき,資料2−2については事務当局から説明いたします。   資料3−1から資料3−5までは,検討事項「6 犯罪被害者等に対する保護・配慮の在り方」に関するものであり,検討事項6について意見交換を行う際に,資料3−1については事務当局から説明し,資料3−2から3−5までについては最高裁判所,石山委員,重松委員及び和氣委員から,それぞれ御説明いただく予定です。 ○大澤座長 ありがとうございました。   それでは早速,議事に入らせていただきます。   前回会合では,検討事項「3 公判及び公判前整理手続の在り方」のうち,「公判前整理手続の充実のための運用上の工夫は適切に行われているか」について意見交換を行った後,「証拠調べの充実のための運用上の工夫は適切に行われているか」に関しまして,「分かりやすい公判の在り方」,「裁判員裁判における法廷通訳の在り方」,「いわゆる刺激証拠の取扱い」の各項目について意見交換を行い,その後,検討事項3に関するその他の事項として,「録音・録画の記録媒体の実質証拠としての使用」に関する問題提起を受けて,意見交換をしている途中で終わったと記憶しております。   そこで,今回は,「録音・録画の記録媒体の実質証拠としての使用」から引き続き意見交換を行い,その後,いわゆる手続二分論に関する事項を含め,検討事項に関するその他の事項について意見交換を行いたいと思います。   なお,前回会合でも御紹介いたしましたが,検討事項3に関するその他の事項に関する議論につきましては,資料1−4の「『裁判員に関する検討会』取りまとめ報告書」29ページから30ページまでに,いわゆる手続二分論に関する議論の概要が記載されておりますので,意見交換の際には適宜御参照ください。   それでは,「録音・録画の記録媒体の実質証拠としての使用」について,御意見のある方は挙手の上,御発言をお願いいたします。 ○石山委員 本日の会合に出席するに当たり,前回会合の議事録を読ませていただきましたが,取調べの録音・録画を実質証拠として使用することにつきまして,島田委員が,黙秘していた被疑者が涙を流しながら供述を始めた場合に,その意味を正しく評価することができるか疑問で,本当に反省の気持ちから流した涙なのか,意に反した,真実に反する自白をせざるを得ない悔し涙なのか,その判断は難しく,かえって判断を誤らせる危険性が高いと考えられるという趣旨の御意見を述べられたと承知しております。   しかし,このような御意見を前提としますと,録音・録画の記録媒体は,被疑者の供述の任意性を判断するための証拠としても,その判断を誤らせるおそれのある危険な証拠ということになってしまうのではないか,そうしますと,任意性は取調官の証人尋問により,供述の内容は供述調書によって立証するということになりかねず,平成28年の刑事訴訟法改正において,供述の任意性を立証するベストエビデンスは録音・録画であることが共有され,それを前提として立法がなされた制度趣旨に反することになってしまうのではないかという疑問を持ちました。   被疑者供述の信用性は,供述態度のみならず,供述内容の客観証拠との整合性や変遷の有無,具体性,迫真性ないし合理性,自然性の有無などを総合的に考慮して判断されるべきものでありますから,島田委員が御指摘のとおり,被疑者の供述態度のみに着目して供述の信用性を判断するようなことは妥当でないと考えますが,他方,前回会合で,田野尻委員が,公判廷における証言の信用性判断の在り方とも絡めて指摘していたとおり,被疑者の供述態度も供述の信用性の判断材料の一つになることは否定できないように思われます。   私としましても,事実認定に関し,公開の法廷でなされた供述を証拠とすることが原則であるという点について異論を述べるものではなく,まずは法廷で真実の供述を得る努力をすべきであると考えておりますが,他方,被告人が捜査段階の供述を覆し,その供述経過なども争われ,立証上も捜査段階の供述を証拠とすることが必要不可欠である場合などもあるのであります。そして,刑事訴訟法は,一定の要件の下で被告人の捜査段階の供述を証拠とすることを認めております。捜査段階の供述を証拠として使用することができる場合に,被疑者の供述調書による方法も考えられますが,供述調書が基本的にはその調書作成時点での被疑者の供述のみが記録されているものであるのに対し,録音・録画の記録媒体は,それまでの取調べの経過や,取調官のどのような発問に対して,被疑者がどのような言葉で,どのような態度で供述したのか等がありのまま記録されているものであります。よって,捜査段階での供述内容等に争いがある場合は,録音・録画の記録媒体により立証することが正確かつ,争いが生じない最良の方法であると考えます。 ○島田委員 前回は,取調べDVDを犯罪事実の実質証拠として取り調べることに関して,証拠調べの相当性の観点から,その問題点についてお話をさせていただきました。本日は,実質証拠として取り調べることに関して,証拠調べの必要性の観点から私の考えを述べさせていただきます。   取調べDVDが犯罪事実の実質証拠として証拠請求される場合として,おおむね次のような四つの場合が考えられます。一つ目は,被告人が犯人であるかどうかが問題となっていて,直接の証拠は被告人の自白を録音・録画したものしかない場合。2番目として,犯行の態様に争いがあって,直接の証拠は被告人の自白の録音・録画しかない場合。3番目として,故意や目的など主観的な要素に争いがあって,直接の証拠は被告人の自白の録音・録画しかない場合。4番目として,被告人の責任能力に争いがあって,その認定に被告人の捜査段階の供述状況が有効と考えられる場合があります。   ところで,裁判員裁判を含めて,現在の刑事裁判実務においては,故意や目的などの主観的要件を含めて,客観的な証拠による立証や認定が重視されています。被告人の供述についても,公判における被告人質問からその心証を取る方法が中心となっています。   そこで,個別に検討していきますと,まず一つ目の,被告人が犯人かどうかが争いになっている場合は,検察官が一番,自白の録音・録画を実質的な証拠として利用したい場面であると思われます。しかしながら,被疑者が,犯人しか知らない秘密の暴露を含めて,犯行の内容や犯行に至った経緯,動機,犯行前後の行動などについて具体的に自白したときには,捜査官はその裏付け捜査をきちんと行っているはずです。そうだとすると,法廷における審理は,その裏付け捜査によって得られた客観的な証拠や関係者の証言によって,被告人が犯人であるといえるのかどうか立証するのが基本になると思われます。   ある殺人事件について,被疑者が詳しい自白供述をした。その結果,例えば,被告人が埋めたと言う場所から被害者の遺体が発見された。その遺体には,被告人が供述した暴行の態様に符合する傷があった。また,被告人が捨てたと言う凶器が発見され,そこに被害者のDNA型と一致する血痕が付着していた。更にいろいろな捜査をした結果,例えば,携帯電話の位置情報を分析した結果,被害者の推定死亡時刻頃,被告人と被害者が同じ場所にいた,被告人と被害者の間には以前からトラブルがあったといったような客観的な事実を,証拠あるいは関係者の証言によって立証することが可能になってきます。   検察官は,被疑者から自白を獲得した場合にも,このような裏付け捜査によって得られた証拠に基づいて間接事実を構成して,その間接事実による立証を目指すべきであると考えます。したがって,被疑者の自白を内容とするDVDがあるときも,その映像を法廷で映す必要はないのではないかと考えております。   また,2番目の犯行の態様についても,客観証拠を重視すべき点は同様です。その上,そもそも,録音・録画の中でしか述べていない犯行態様まで認定しないと本当に犯罪事実の認定や量刑判断に困難を生じるような事案であるのか,十分に吟味する必要があると思います。   3番目の故意や目的といった要素については,客観的な事実から認定できるかどうか検討すべきであり,実際にそのような審理が行われています。録音・録画を調べる必要性は通常ないものと考えられます。   最後の4番目ですね,責任能力に争いがあるとき,精神鑑定を行う鑑定人が犯行直後の被疑者の様子を鑑定資料として見ることはとても有用であると考えております。他方,精神医学の専門家ではない裁判官や裁判員は,鑑定人の報告を中心にした証拠に基づいて責任能力の有無について判断すればよいのであって,法廷で録音・録画を見る必要はないと考えられます。   このように,個別に検討してみると,取調べDVDを実質証拠にしなければ犯罪事実が認定できない場合はほとんどないのであって,取調べの必要性が乏しいものと考えております。取りあえず,必要性の観点からの私の意見でございます。 ○山根委員 まずは法廷ということも分かりますし,取調室の自白の様子よりも客観的事実が優先されるということも理解できるのですけれども,裁判員にとっては,その取調室での自白のときの様子を判断材料として是非知りたいという状況があるのではないかという気もするのですが,どういう場面でそういう必要性を感じるのかということもちょっと知りたいというふうに思いました。 ○島田委員 私の考えによりますと,裁判員の方が取調べ状況における被疑者の様子を見て,一体何を判断されるのかなというところがとても気になるところです。前回お話ししたとおり,例えば涙を流して自白を始めたといった場合に,その解釈というのはとても難しいだろうと思っております。   なお,田野尻委員から,前回,裁判所も法廷では被告人や証人の供述態度をその信用性の判断として考慮しているのではないかという御意見を頂いたところです。しかしながら,裁判所が信用性の判断に当たって考慮している供述態度というのは,例えば証人や被告人が記憶していることとそうでないことをきちんと区別して供述しているかどうか,あるいは,経験した事実と推測による部分とをしっかり区別しているかどうか,反対尋問でもはぐらかしたりごまかしたりしないで誠実に述べようとしているかどうかといった,供述内容に関して正確に述べようとしているかどうかという点に着目したものであり,これをもって,証人や被疑者の供述態度というふうに裁判所は考えております。これに対して,証人や被告人の顔色であるとか表情の変化といったものは個人差がとても大きいものです。その理由を的確に把握することは難しいため,基本的には信用性の判断材料としては取り上げないことが一般的です。 ○石山委員 私が供述態度も供述の信用性の判断材料になると申し上げましたのも,まさに島田委員が,裁判所が信用性の判断に当たって考慮している供述態度としておっしゃったことと同じようなことなのです。ただ単に,被疑者が自白した際の顔色や表情の変化がどうだったかとかそういうことだけではなくて,取調官のどのような発問に対して被疑者がどのような答え方をしたのか,その際の供述態度や供述内容の一部始終が録音・録画を見ることによって分かりやすくなるのではないかという趣旨で申し上げた次第でございます。 ○堀江委員 先ほどの島田委員の御発言は,録音・録画を使う必要性というよりも,その前提として,そもそも被告人の供述自体が,四つ挙げられました事項の立証に必要なのかという観点からの御発言なのかなというふうに感じました。そこで,石山委員にお尋ねしたいのですけれども,それでもやはり被告人の供述が必要な場合というのは少なくないとお考えになるのか,その点についてお聞かせいただければと思います。 ○石山委員 先ほど島田委員が例に出された,被疑者の自白の裏付け捜査によって得られた客観証拠や関係者の供述から認定される間接事実によって犯人性を立証できるような事案であれば,捜査段階の自白に頼る必要はそもそもないのだと思うのですけれども,客観的な証拠や関係者の供述はあるものの,それだけでは犯人性が十分には立証できず,被告人の捜査段階の自白もあり,その自白の信用性が認められることによって合理的な疑いを越える立証に至る場合というのも,実務上,相当数あるのではないかと考えております。そのような場合には捜査段階の自白を証拠として出す必要があるのですが,その出し方として,被告人が公判廷で捜査段階の自白の内容自体を争っている場合には,録音・録画で立証するのが一番クリアな方法ではないかという趣旨で申し上げたものでございます。 ○大澤座長 おおむね出るべき議論は出てきたのかなという気がいたしますが,いかがでしょう,更に重ねて御発言ございますか。よろしいでしょうか。   それでは,「録音・録画の記録媒体の実質証拠としての使用」についてはこの程度といたしまして,更にそれ以外の事項につきまして,いわゆる手続二分論が以前に挙がっていたかと思いますが,その点も含めて,御意見のある方は御発言をお願いしたいと存じます。 ○菅野委員 前回少し二分論についてお話しさせていただきましたけれども,ごく簡単にもう一回,どういうことを考えているのかを発言させてください。   手続二分論というのは,法曹以外には聞き慣れない言葉かもしれませんけれども,犯人であるかどうかが争いになっている,いわゆる否認事件は,まず,犯人かどうかということを裁判で決めると,こういうプロセスが行われます。逆に,犯人で間違いないとなった場合には,続いて量刑の判断を行うことになります。裁判というのは,争いがあるかどうかでテーマも変わってきますので,私どもが提案したい二分論というのは,事実認定に争いのある事件につきましては,まずは事実認定に関する証拠を集中的に取り調べていただいて,まず犯人かどうかを判断していただく,それで,今,制度的にはないのですけれども,犯人かどうか,これは犯人でないとなれば無罪となりますし,犯人ですとなった場合には,中間判決で有罪という判断をし,その上で量刑の審理を続ける,このようなものを二分論と御紹介させていただいているところです。   現行の刑事訴訟法の下でも,刑事訴訟規則第198の3には,犯罪事実に関しないことが明らかな情状に関する証拠の取調べは,できる限り犯罪事実に関する証拠の取調べと区別して行うよう努めなければならないという規定がございまして,実務では,争いのある事件については,前半に書証や人証,要するに,犯人かどうかとか,その争いのある事柄に関して証拠を集中的に調べ,大体,後半ですね,中間判決というのはないのでそのまま流れていくのですけれども,最後の方に量刑に関する証拠をまとめて取り調べていくというのが今の実務での運用になっていると思います。   それで,私どもが問題だと感じているのは,せっかく分けているのですけれども,実は,評議の前には,まさにそのように分けたがゆえに,専ら量刑に関する証拠が連続して出てきて,その後に評議となりますので,むしろ,分けた結果,事実認定に関する評議の直前に,かなり集中して量刑に専ら関係する証拠が調べられると,こういう現状がございます。もちろん,そこは,適切な裁判官の説明とかで区分けして評議が行われると思っているところではありますけれども,可能であれば手続を二分して,一旦事実認定が終わったら,そこで判断していただく。そうしていただくことによって,弁護人も,やはり争っている事件で量刑に関する主張を当初からするというのはとても難しい状況ですが,有罪だとなれば量刑に関する主張も出し得ることになりますし,そういった弁護人側のジレンマというところもクリアできるのではないかと考えているところです。 ○島田委員 菅野委員から御紹介のあったとおり,刑事訴訟規則第198条の3は,「犯罪事実に関しないことが明らかな情状に関する証拠の取調べは,できる限り,犯罪事実に関する証拠の取調べと区別して行うよう努めなければならない」と規定しております。   そこで,公判前整理手続において採用した証拠の取調べ順序を定めるに当たって,裁判所,検察官,弁護人は,相談をした上で,犯罪事実に関する証拠を先に取り調べることとし,専ら情状だけに関する証拠の取調べはその後になるように審理計画を立てています。そして,事件によっては,犯罪事実に関する証拠調べが終わった段階で中間的な論告と弁論を行ってもらうという工夫例もあります。   菅野委員からは,犯罪事実に関する証拠調べだけでなくて,専ら情状だけに関する証拠も調べた後,評議に入るため,その点が問題ではないかという御指摘がありました。裁判所としましては,この犯罪事実に関する証拠調べと専ら情状だけに関する証拠調べの区別をしてもらうために幾つかの工夫をしています。   例えば,犯罪事実の証拠調べと専ら情状だけに関する証拠調べの間に休廷時間を設けて,物理的に分断するという方法があります。また,裁判員にお渡しする審理予定表の中にその区別を書いている例もあります。また,私は,情状証拠の取調べに入る際,法廷で裁判員に対し,これから調べる証拠は専ら刑の重さだけに関する証拠であって,犯罪事実の認定に使うことはできませんということを説明した上で,情状証拠の証拠調べに入っております。さらに,評議を始める際に,犯罪事実の認定に使える証拠の範囲をきちんと説明して,ここからここまでの範囲の証拠で有罪か無罪かの判断をしましょうということを説明しております。   先ほど菅野委員から言われたとおり,被告人が自分は犯人ではないと主張しているとき,これが最も重要かと思いますけれども,このようなときに,被告人に同種の前科や余罪があることを理由に有罪にすることはできないという原則を説明することはとても重要だと考えております。また,同じように責任能力が激しく争われているときに,例えば被害者の処罰感情も厳しいといった場合に,この処罰感情をもって責任能力の判断にすることはできないといった説明も重要です。これらのことは,それぞれの制度趣旨に遡って丁寧に説明しているのが通常です。   私の経験では,以上のような工夫をすることで,現行の運用においても,裁判員が,犯罪事実の認定に関する証拠と専ら情状だけに関する証拠とを混同することなく,意識的に区別して評議で意見を述べ,判断することができていると感じております。   なお,手続二分論を採用した場合の問題点としましては,犯罪事実の認定と情状事実のうち重要な行為責任の要素,例えば犯行態様や犯行の結果,動機などは重なっているため,そもそも切り離すことができないといった問題があります。また,被害者や目撃者などの証人に2回に分けて出廷してもらう必要があるなど,その負担も大きいものがあるように感じております。 ○大澤座長 今,現状における運用の工夫について御説明があったと思いますけれども,菅野委員の問題提起といたしましては,二分するところのミシン目として,どういうものが現在の運用とは違うものとして必要だという問題提起になるでしょうか。 ○菅野委員 やはり,島田委員から,実務の工夫として中間論告と中間弁論が行われるケースがあると御報告があったとおり,私もそのようなケースがあるとは知っているのですけれども,その中間判決というものがないために,引き続き審理を行っているという形だけで,もう有罪になるのか無罪になるのか,どんな犯罪事実が認定されたのか分からないまま訴訟活動をしていくことになるので,一番大きな違いというのは,やはりその核となる犯罪事実に関する中間判決があるかないかということになると思います。 ○大澤座長 中間判決をきちんと入れるという御提案だということですね。 ○菅野委員 はい。 ○大澤座長 承知しました。 ○堀江委員 意見ではなくて質問なのですけれども,先ほど島田委員が紹介された実務での工夫の中で,少し聞き漏らしたのかもしれませんが,実際やっておられる例として,中間論告と中間弁論ということをおっしゃったのですかね。その上で更に中間評議,事実上の評議みたいなのをされることはあるのでしょうか。 ○島田委員 私自身は中間評議まで行ったことはありませんけれども,ほかの裁判体でそういった例があったことは聞いております。 ○堀江委員 それがどれくらいの頻度で行われるのか,もしお分かりであれば,教えていただきたいのですが。 ○島田委員 ほかの裁判体の評議の具体的件数まで全部把握しているわけではございませんので,私には分かりかねます。 ○堀江委員 分かりました。ありがとうございました。 ○小木曽委員 私も質問です。菅野委員の御発言の中に,量刑に関する証拠が評議の直前に出てくるという,そこが問題であるという御発言がありましたけれども,その趣旨は,これから評議に入ろうというときに,事実認定を争っているのに量刑の証拠がぞろぞろ出てくると,その量刑の証拠が事実認定に影響するおそれがあると,そういう御趣旨でしょうか。 ○菅野委員 御指摘のとおりでして,争いがある事件ですと,例えば1週間,2週間,前半は争点を固める証拠調べが行われて,それが終わった後に,今度は量刑に関する証拠調べが大体ずっと続いて,そうすると,事実認定に関する評議の前には,生々しい証人尋問とか犯人性とかの関係でやったものよりも,刑の重さに関する証拠が順番的に出てきてしまうところがもったいないなと正直感じます。もちろん,島田委員から御説明があったとおり,この証拠の射程とか範囲が説明されるとはいえ,むしろその犯人性に関する証拠が終わったところで中間評議していただいて,そこで事実認定をしていただく方が効率的ではないかと,このように考えて先ほど申し上げた次第でございます。 ○小木曽委員 もう一つ質問です。今度は島田委員に教えていただきたいのは,いわゆる犯情に関する証拠は,先ほど御説明がありましたように,事実認定と量刑の双方に関係するのだろうと思うのですが,規則の198条の3には,犯罪事実に関しないことが明らかな情状に関する証拠というふうに書いてあります。そこで,何が明らかに犯罪事実に関しない証拠で,何が犯罪事実と量刑双方に関する証拠だという,そこのところをはっきり分けられるものなのか,教えていただけるでしょうか。 ○島田委員 犯罪事実に関しない,専ら情状だけに関する証拠としては,例えば被告人の前科に関する証拠,被告人が被害者に宛てた謝罪文,被告人と被害者との間の示談書,それから,被告人に対する指導監督や更生に協力してくれる情状証人の尋問などがこれに当たります。また,被害者の心情に関する意見陳述,刑事訴訟法292条の2によるものですが,これについては犯罪事実の認定のための証拠とすることができないと定められていますので,被害者の心情に関する意見陳述は,犯罪事実に関する証拠調べが終わった後に行っています。   他方,犯罪事実の認定及び情状に関する証拠として重なっているものとしましては,例えば行為態様であるとか,犯行の結果であるとか,犯行の動機であるとか,こういったものは重なっている部分だと考えております。 ○小木曽委員 ありがとうございます。 ○小林委員 菅野委員の問題意識は,非常によく分かるのですけれども,裁判所の方の工夫で何とかそこは乗り越えられるかなと,,今お聞きしていて思いました。一つ教えていただきたいのは,弁護側が無罪を主張していて中間的な判決で有罪となった場合,量刑に関する主張はどうされるのかということです。あくまで刑を科すべきではないという主張になるのか,それとも,有罪であるのであればここまでは量刑としては許されるというような主張になるのか,そこはどういうふうにされるのでしょうか。 ○菅野委員 これは,私の今の考えにすぎないのですけれども,まずは,依頼者である被告人と相談をして,この時点でこういう主張もできますよと,量刑に関する主張についても,有利な証拠もあるが,どうしようと,恐らくそこで相談させていただいて,先生,じゃ,罪は争っているけれども,民事上の示談はしてあるから,それについて出してくれとか,あるいは,もともと心神喪失を争っているような事件ですと,有利な事情はそれなりにあったりしますので,その関係で量刑に関する主張を依頼者から了解を得た上でやるという選択はあり得ると思います。ただ,やはりその依頼者から,先生,私は犯人ではないので,情状というのはやめてくれと言われれば,第2ステージにおいて中身のある量刑上の主張はしないと,こういう選択になると思います。 ○小林委員 分かりました。ありがとうございます。 ○堀江委員 質問ばかりで恐縮なのですけれども,菅野委員にお尋ねします。先ほどの御意見は,立法論として,例えば否認事件に関して一律に手続二分で中間評議,中間判決をやるという制度を作ってほしいという御趣旨なのか,それとも,そこまでは行かずに,現状で実際どうされているかよく分かりませんけれども,例えば,弁護人の方が手続二分的運用をしてほしいというような申入れをされても,裁判所が全然対応してくれないので,先ほど島田委員が運用面での工夫とおっしゃったようなことをもう少し拡大してもらいたいという御主張なのでしょうか。   私自身としては確たる意見があるわけではないのですけれども,先ほど小林委員がおっしゃったのと同じで,裁判所の運用上の工夫で何とかならないものなのかなという感覚でおります。先ほど島田委員がおっしゃったような弊害の問題もありますので,手続二分を画一的にやってしまうと,そのあたりの調整がなかなか難しくなってくるのかなと,そういう観点からの質問です。 ○菅野委員 私の意見は,いずれもです。もちろん実務で工夫できることはさせていただきたいと思いますし,弁護側からも申し入れたいと思っております。島田委員が御報告されたような,実際の手続二分論的な運用をされている事件は,私どもが把握している限りではかなり数が少なくて,極めて重い事件で,争いが非常にシビアな事件で,やはり例としては多くないのが現状ですので,引き続き私たちとすれば,刑訴規則の趣旨にのっとって,できる限り区分した運用を求めていくと,これは運用の問題として一つ,求めていきたいことでもございます。   ただ,やはり,中間判決という制度がない中では,先ほど申しましたとおり,ある程度事実認定の中間論告と中間弁論をやった後,答えが分からないまま,引き続き審理を行いますという形でお互いに次のステージに移ることとなり,結局はっきりしないままやるものですから,依頼者との相談も,確たる前提がなく,中間判決なく協議するのが難しいところもあるので,将来の検討課題としては,やはり立法課題にも取り上げていただきたいと,このように考えているところでございます。 ○山根委員 二分することで丁寧な流れになるのかなと素人ながら思いますけれども,一方で弊害という言葉も出ました。裁判が長期になるのではないかとか,裁判員の負担が増える心配がないかということではどういうふうにお考えか,教えていただければと思います。 ○菅野委員 現状の裁判で一連の流れでやっているものについて,順番を入れ替えるというようなイメージで考えていましたので,特に今やっているものが2倍,3倍になるというようなイメージはございません。各委員から御指摘があったとおり,犯罪事実と量刑の両方に関係する証拠はどうしてもあるものですから,それについては,恐らく前半部分でかなりの部分が,取り調べられることになると思いますし,それを2回同じようなことをやることは予定していませんので,私どもが考えているのは,純粋に量刑だけに影響するような,先ほど例が挙がりましたけれども,前科であるとか心情意見陳述であるとか,法律上も量刑のみに影響するものを第2ステップに移すことを考えていくならば,今まで流れとしてやっていたものについてちょっと順番を組み替えるだけで,トータルの時間はさほど変わらないと。ただ,全く同じかというと,中間的な論告と弁論,量刑に関する論告と弁論,これが分かれますので,若干その時間は延びるのかなと,このように考えています。 ○大澤座長 負担としては,裁判員というよりは証人が問題で,証人が2回出てくる必要があるケースが生じるかもしれないと思います。それから,量刑のみに関する事情といったときに,恐らく現在の量刑の実務は,行為責任,行為に関わる犯情を中心にして行われており,いわゆる量刑のみに関わる一般情状はかなり限定的な形でしか使われていないのかなという気もいたしますが,そのような事項のために,わざわざ二分した手続を制度として作るということまですべきかについては,考え方が分かれるところかとも思います。 ○菅野委員 御指摘のとおり,座長が指摘したような問題点はあると思います。ただ,私たちは有罪・無罪を決める手続は,その有罪・無罪だけを決める証拠をもって純化して行われるべきだと考えていますので,その関係で,若干お手間をかけることになったとしても,それは裁判という制度上,仕方がない側面なのではないかと考えています。ただ,できるだけ負担を減らすためにどういったことができるのかについては引き続き検討したいと思っております。 ○石山委員 島田委員に質問なのですけれども,先ほど,評議の過程で裁判員に適宜説明するなどして,菅野委員が懸念されているような,専ら一般情状に関する証拠を犯罪事実の認定に使わないようにする工夫もされていると聞いたのですけれども,評議の中で裁判員に対してそういうことを説明するなどの工夫をしてもなお,裁判員が犯罪事実の認定に当たり,専ら一般情状に関する証拠の内容に影響されているのではないかという懸念は実際にあるのでしょうか。 ○島田委員 そうですね,私の評議の中では,そこは区別しているつもりですが,例えば裁判員の方の意見の中で,被告人には同じような前科がありますよねということが有罪・無罪の判断をする際に出てきたときは,そこは,前にも説明したとおり前科があることをもって有罪の判断はできないことを説明し直すということはきちんとやっているつもりでございます。 ○大澤座長 手続二分論に関しまして,ほかにいかがでしょうか。この段階としてはよろしゅうございますか。   そのほかにこの「3 公判及び公判前整理手続の在り方」について御発言等ございますでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは,「3 公判及び公判前整理手続の在り方」についての意見交換はひとまずこの程度といたしまして,次の検討事項であります「4 評議・評決の在り方」について意見交換を行いたいと思います。   この検討事項4について意見交換を行うに当たり,参考といたしまして,事務当局から,平成27年改正法の国会審議や附帯決議で指摘された事項,当検討会におけるヒアリングでの発言の要旨のうちこの検討事項に関連するもののほか,過去の検討会におけるこの検討事項に関連する議論の概要について,説明をお願いいたします。 ○鈴木刑事法制企画官 まず,検討事項4についての御説明の前提として,現行法における評議・評決の規定の概要を確認しておきたいと思います。   裁判員制度における評議については,裁判員の参加する刑事裁判に関する法律第66条において,裁判員の関与する判断のための評議は構成裁判官及び裁判員が行うとされております。また,裁判員は評議に出席をして意見を述べなければならないとされております。そして,裁判長は必要と認めるときは,評議において構成裁判官の合議による法令の解釈に係る判断及び訴訟手続に関する判断を示さなければならないとされ,裁判員はこの判断が示された場合,これに従ってその職務を行わなければならないとされています。   また,裁判長は評議において,裁判員に対して必要な法令に関する説明を丁寧に行うとともに,評議を裁判員に分かりやすいものとなるように整理し,裁判員が発言する機会を十分に設けるなど,裁判員がその職責を十分に果たすことができるように配慮しなければならないとされております。   次に,裁判員制度における評決については,同法第67条において,構成裁判官及び裁判員の双方の意見を含む合議体の員数の過半数の意見によることとされています。   次に,裁判員制度における評議・評決の在り方については,平成27年改正法の国会審議の際にも指摘がありました。具体的には,裁判員制度における評議については,裁判官によって進め方が異なるのではないか,裁判官の意図によって評議が進められていくとすれば,国民の声を広く集めるという目的に適っていないのではないかなどの疑問があり,これを払拭するため,評議について一定のルールやマニュアルを定めるべきではないか,法曹三者による調査委員会を設置することも考えられるのではないか,公判前整理手続に関与し,その間に事件の情報を得ている裁判官が公判も担当することで,裁判官と裁判員の間に情報の格差が生じ,その結果,裁判員よりも裁判官の意向が反映されやすくなっているのではないか,有罪を言い渡す場合には,評決の要件を加重すべきではないか,特に,死刑を言い渡す場合には評決要件を全員一致とすべきではないかなどといった指摘がありました。   また,ヒアリングにおける発言の要旨のうち,検討事項4に関するものについては,資料1−3の8ページから9ページまでを御覧ください。この検討事項のうち,「評議の充実のための運用上の工夫は適切に行われているか」という項目に関しては,裁判員経験者等の方々から,裁判官が言いたいことをうまく聞き出してくれて,疑問があれば素直に聞ける雰囲気を作ってくれたので,評議では十分に話し合うことができた,法的概念や量刑の考え方について,裁判官から最初にしっかりと説明をしてもらったので,十分に理解することができたなど,評議に十分に参加できたことや,評議の際の裁判官の説明等について評価する御発言があり,また,裁判員は有罪か無罪かは決めることができても,具体的な量刑の年数は分からないので,その判断に当たっては量刑データベースに頼らざるを得ないが,それでは結局前例主義ではないか,量刑データベースについて研究者等に公開するなどして,その設計等について検証する場が必要ではないかなど,量刑データベースについての御発言もありました。   また,犯罪被害者等の方々からは,この検討事項について,裁判員制度は裁判官がリードし過ぎるのではなく,一般人が直情的に感じたものを反映するための制度だと思う。裁判員の判断の重みがとても軽い,結局は裁判官の判断で決まる仕組みを目の当たりにしたなどの御発言もありました。   評議・評決の在り方については,過去に行われた「裁判員制度に関する検討会」においても議論がなされました。その議論の概要につきましては,資料1−4の16ページから20ページに記載されています。同検討会では,「評議の充実のための運用上の工夫」については,当時の運用状況に特段の問題はないとの共通認識が得られました。また,「被告人に不利な判断をする場合,特に死刑判決を言い渡す場合における評決要件」という事項については,要件を加重すべきではないかとの意見が示されましたが,これらの点については,様々な消極意見が述べられ,消極意見が大勢を占めたところです。   検討事項4についての説明は以上です。 ○大澤座長 ありがとうございました。   ただ今の事務当局の説明について,質問等ございますでしょうか。よろしいでしょうか。   次に,この検討事項については,意見交換を行うに当たり,評議において使用されるいわゆる量刑データベースの概要について,最高裁判所市原課長から発言があると伺っております。市原課長,よろしくお願いいたします。 ○市原最高裁刑事局第二課長 最高裁から,量刑データベース,これは量刑検索システムと呼んでいるシステムでございますが,このシステムについて簡単に御説明いたします。   量刑検索システムは,裁判員裁判において,行為責任の原則にのっとった量刑評議を行うための資料として,同種事例の大まかな量刑傾向を把握することを目的として開発されたものです。裁判員裁判対象事件の判決を集約してデータベース化したものでございまして,任意の条件で検索をすることにより同種事例の量刑情報をグラフ化又は一覧表化することができます。   データにつきましては,事件を担当した第一審裁判所の裁判官によって判決宣告後に登録が行われますが,登録内容につきましては,裁判長が必ず確認すべきこととされております。令和2年6月の時点で1万5,000件以上のデータが検索可能であり,裁判員制度が施行された平成21年5月以降に第一審で判決が言い渡された裁判員裁判対象事件の判決は全て登録されています。   実際の評議での利用方法などは,事案や裁判体によって異なると思われますが,その一例につきましては,後ほど島田委員から御紹介いただきたいと思います。 ○大澤座長 ありがとうございました。   ただ今の最高裁判所の説明について,御質問等ございますでしょうか。よろしいですか。   続けて,島田委員から御発言がございますか。 ○島田委員 議論の前提として,量刑検索システムの利用方法について御説明をいたします。   まず,量刑の考え方の基本ですが,刑罰の重さを決めること,すなわち量刑の本質は,被告人の犯罪行為にふさわしい刑事責任の分量を明らかにするところにあります。この犯罪行為にふさわしい刑と言えるためには,二つの意味があると一般的に理解されています。  殺人事件を例に取って説明します。   1点目は,被告人の犯罪行為,殺人行為そのものですね,その事件自体に関する具体的事情から見て相当であるという意味です。殺人罪の法定刑は,死刑又は無期懲役,5年以上20年以下の有期懲役刑と決められています。このように幅の広い法定刑の中で,例えば動機について,保険金目当てであるのか介護疲れが理由であるのかによって,どのくらいの刑を科すべきかは当然異なってくるはずです。このような犯罪自体に関する具体的事情を踏まえて刑罰の重さを決めていくことが相当であるというのが1点目です。   2点目は,同じような殺人事件の中で,ほかの事案と比較して公正で公平であるという意味です。確かに全く同じ事件はありませんが,同じような類型の事件について,合理的な理由がないのに,ある裁判所では懲役15年を言い渡したが,別の裁判所では懲役5年を言い渡したというのでは不公平です。また,本件よりも一層悪質な事件と同じ刑罰を科すことや,本件よりも大きく酌むべき事情がある事件と同じ刑罰を科すことも不公平であると考えられます。やはり,そこには相対的な比較が必要です。   このような二つの意味で,被告人が犯した今回の殺人罪についてふさわしい刑の重さを探ることになります。  それで,量刑検索システムを利用する目的ですが,先ほど市原課長から説明があったとおり,量刑検索システムに基づく量刑資料は,このような量刑の本質を踏まえて,主として犯罪事実に関する基本的な事情,例えば犯行の動機,被害者との関係,犯行の方法,凶器の有無・種類,被害の程度,共犯者の有無などといった検索条件,それから,一般的な情状に関するもの,反省の有無,被害弁償の有無といった検索条件,これらを整理して,その事件が属する類型の事例群について大まかな量刑傾向を示すものです。   量刑検索システムは,被告人が犯した罪にふさわしい刑を考えるための参考資料として,大まかな量刑傾向を把握する目的で作られています。参考資料ではありますが,先例が多数集積されてきていることから,量刑,責任の大まかな枠ですね,それを決めるための目安となり,評議に当たっては,これまでの大まかな量刑の傾向を裁判体の共通認識として,議論を深めていくことになります。   実際どのように使っているかという点ですが,それぞれの裁判体においていろいろな工夫はありますが,私自身の利用方法として一例を御紹介いたします。まず,評議では,先に,被告人が有罪か,無罪か有罪であるとしてどのような罪を犯したのかという事実認定が行われます。そして,有罪の結論になった場合に,量刑の評議に移ります。量刑の評議では,行為責任の考え方を裁判官が裁判員に対して説明いたします。そして,検察官の論告,弁護人の弁論を参考にしながら,犯罪行為に関する事情の中で,今回のこの事件について重視すべき事情は何であろうかということを,裁判官と裁判員がその根拠と併せて議論していきます。そして,今回の事件ではこの点とこの点が重視すべき事情だねといった意見がある程度まとまった時点で,その量刑因子を入力して,量刑検索システムのグラフを示します。   例えば,殺人事件を例に取ります。被告人が被害者に対する恨みを晴らすために事件を起こしたという動機,それから,刃物を凶器に使っているという犯行の態様,そして,計画性があったという,この3点を重視すべきということになった場合には,これらの三つの検索条件を入力します。そうすると,山の形をしたグラフが画面上に表れてきます。このグラフを基にして,本件がグラフの中で重い部類に属するのか,中間的な部類に属するのか,軽い部類に属するのか,こういったことを議論していきます。   その検討に当たっては,もう少し情報が必要になるので,重い部類の事件,中間的な部類の事件,軽い部類の事件として,それぞれどのようなものがあるのか,数件程度,事案の概要を見ていきます。その結果,例えば重い部類には被害者が複数いる事件が多いとか,軽い部類では精神障害があって責任能力が低下していたことがあるとか,そういった事情が分かってきます。そのような傾向を把握した上で,本件について相対的な位置付けについて議論をします。その結果,例えば,中間的な部類に属し,おおむね何年から何年ぐらいの幅の中になりそうだということが裁判官・裁判員の共通の認識となります。その上で,今度は一般的な情状,例えば被告人の反省の有無,被害弁償の有無,被害者の処罰感情,前科の有無,こういったものについて検討して,最終的な量刑を決める段階に移っていきます。   少し長くなりますが,量刑検索システムの利用方法として,裁判体によって工夫している例もありますので,それも幾つか御紹介いたします。例えば,量刑評議を始める最初の段階で,罪名だけでどのようなグラフになるのかを見てもらうという例もあります。全ての殺人事件のグラフを見てもらって,全体的にはどうなっているのだろうかということを裁判員に理解してもらった上で,次に,相対的な比較をするという観点から,違う類型のグラフ,例えば,動機が保険金目的の場合はどうだろうかとか,けんかの場合はどうだろうかとか,介護疲れの場合はどうだろうかを示すと,随分違いがあるということが分かってきます。さらに,裁判員から,検察官の求刑に当たるような事件,例えば20年の求刑がされている事件ってどんなものなのですかという質問があったときには,では,求刑20年の例を見てみましょうというような形で見たり,弁護人から懲役10年が相当であるといったような意見が出ている場合には,懲役10年の事件ってどんな事件なのでしょうかという質問を受けて,それに基づいて幾つか事例を示すこともあります。   なお,量刑検索システムを示す場合,裁判官は,裁判員に対して次のような説明を留意事項として行うのが一般です。量刑のグラフは飽くまでも参考資料であって,これに拘束されるわけではないこと,従来の傾向と違う結論を出すこともできるが,そのためには特別な事情があるなど不公平にならない説得的な理由が必要であること,たくさんの事例がありますが,全く同じ事案はないこと,また,事例一覧表に載っている事情が全てではなく,そのほかにも考慮された要素があるかもしれないこと,そして,グラフを見てもらうのは大まかな位置付けをするためであって,本件と似たような事件を探すものではないこと,このようなことを裁判員の皆さんに説明をしております。 ○大澤座長 ありがとうございます。   それでは,「評議・評決の在り方」について意見交換を行いたいと思います。この検討事項4については,先ほど事務当局からも説明がありました,平成27年改正法についての国会審議の過程での御指摘,ヒアリングでの御発言等を踏まえて,「評議の充実のための運用上の工夫は適切に行われているか」という事項及び「有罪を言い渡す場合,特に,死刑を言い渡す場合には,評決要件を加重すべきではないか」という事項を検討事項としていることから,これらの事項について順次意見交換を行い,その後,この検討事項に関するその他の事項について,意見交換を行うこととしたいと思います。そのような進め方とさせていただくことについて,よろしゅうございますでしょうか。   それでは,まず,「評議の充実のための運用上の工夫は適切に行われているか」について,意見交換を行いたいと思います。御意見のある方は,挙手の上,御発言をお願いいたします。 ○島田委員 評議の実情については,評議を経験した者でないとなかなかお分かりいただけないかと思いますので,評議の実情,あるいは裁判所として工夫している点を御紹介したいと思います。   まず,法律に関する予備知識のない裁判員がその職責を果たすためには,検察官及び弁護人が,争点を中心にした分かりやすい証拠調べや論告・弁論を行うことが前提です。その上で,裁判長は,評議において裁判員に対し必要な法令に関する説明を丁寧に行うことが求められています。一方,裁判官と裁判員の合議は,事実の認定,法令の適用,量刑の判断の三つの点について行うことになります。裁判官としては,多様な経験を持っている裁判員の意見を十分に引き出して,充実した評議ができるようにするため,話しやすい雰囲気作りをすることはもちろんですが,そのほかにも様々な工夫をしております。以下,御紹介いたします。   まず,裁判官が裁判員に対して法律概念を説明する場面と,裁判官・裁判員が議論して結論を決める場面,この二つがあることを理解して,それぞれの場面で適切に対応するように心がけております。まず,法律概念を説明する場面ですが,分かりやすい言葉を用いてその法律の本質に遡った説明をすること,事件に沿った柔軟な説明をすること,説明の時期や方法について配慮をすること,その説明を聞いた裁判員の反応を見ながら,時には説明内容を変えることなどの工夫をしております。また,具体例を紹介する場面もあるのですけれども,余りに詳しい説明をし過ぎますと,無意識のうちに結論を示してしまうことになります。したがって,具体例を紹介する場合には,イメージを持ってもらう限度にとどめるようにしています。   続いて,意見交換の場面では,裁判長は基本的にファシリテーターの役に徹するようにしています。そして,論告と弁論を参考にしながら,法律的な枠組みを意識して,裁判長から裁判員に対して質問をしたり,発言を促したりします。また,議論を進める上で適切な視点を示すこと,裁判員の意見を十分に引き出すこと,議論の仲介役を果たすことなどを心がけています。裁判官ももちろん意見を述べますが,裁判員に対する影響力が大きいため,まずは裁判員に意見を十分に述べてもらって,その後,裁判官が意見を述べるようにしています。また,その内容についても配慮することなどを心がけております。   先ほど事務当局から御説明があったとおり,ヒアリングでも,裁判員経験者から,裁判官が言いたいことをうまく引き出してくれた,疑問があれば素直に聞ける雰囲気を作ってくれた,法律概念や量刑の考え方について裁判官に最初にしっかり定義付けをしてもらったので,十分に理解することができたという意見があったところです。   なお,裁判官としては,裁判員との実質的な協働を実現できるようにするため,評議の在り方について引き続き研究や検討を行って,実践していこうと考えているところでございます。   まず総論的な部分は以上でございます。 ○大澤座長 ありがとうございます。運用上の工夫につきまして御紹介いただきましたが,ほかにいかがでございましょうか。 ○堀江委員 先ほど事務当局からも御紹介がありました,この検討会での裁判員経験者の方のヒアリングで伺った限り,おおむね問題ない形で評議が行われているのかなという印象を受けました。特にほかに何か具体的に問題になった事例があるというようなことも私自身は耳にしておりませんし,全般的に適切に行われているのだろうと感じております。   ただ,いかんせん評議室の中を見ることができないこともあって,先ほど御紹介がありました国会審議での,裁判官がリードしてしまうのではないかといったような懸念も出てき得る。そうした懸念との関係では,先ほど島田委員がおっしゃったことですけれども,まずは検察官と弁護人が争点を中心に分かりやすい主張・立証や論告・弁論を行うことが,評議がスムーズにかつ適切に行われるためにも重要なことなのだろうと思います。つまり,評議の問題ではありますけれども,それ以前の公判審理の段階から争点中心の分かりやすい審理をすることが,評議の充実,適切さにもつながるのだと思います。   それにも関連して,少し質問させていただきたいのですけれども,前にもお聞きしたことがあるのですが,論告や弁論の際にそれぞれの当事者からペーパーが出ることが多いと聞いております。そういったペーパーは,争点を整理して評議に臨んでもらうという点では有効な面があるのでしょうけれども,それが実際に評議の場に持ち込まれたときに,どのような使われ方がされているのか,争点の確認という限度,あるいは公判審理での記憶を喚起する程度であればよろしいのですが,そのペーパーが独り歩きすることはないのか。   なぜこういうことをお聞きするかといいますと,ある雑誌の座談会で,ある弁護士さんが懸念を述べておられて,それが実情どうなのかを伺いたいという趣旨です。論告ペーパーや弁論ペーパーが評議室でどういうふうに使われているのかが外からは見えないこともあって,例えば,当事者の手を離れて,評議室で両者のペーパーを突き合わせる形で,どちらが優勢なのかというような使われ方がされるのか,もしそういう使われ方だとすると,当事者としてはそこにいろいろ書き込んでおきたいという気になるのではないか,そうすると,書面中心の審理にまた戻ってしまうのではないか,そういった懸念も一部ではあるようですので,その辺りの実情を教えていただければと思います。 ○島田委員 まず,論告・弁論のペーパーですけれども,多くの事件ではそれぞれ1枚ないし2枚程度のコンパクトな要旨にまとめられていると考えております。その論告と弁論を評議でどのように使うのかということですけれども,評議の検討方法として,検察官の主張を採用しますか,弁護人の主張を採用しますかという,こういう二者択一では決してないということです。立証の対象は,飽くまでも立証責任を負っている検察官が主張している公訴事実です。この公訴事実について,証拠によって,常識に照らし,間違いなく認められるのかどうかを判断してもらうようにします。特に重要な争点については時間をかけて,裁判員の方がどう考えているのか,その意見と根拠を尋ねるようにしています。もちろん,その意見や根拠については,論告や弁論に書いてあることを自分も納得できたということであれば,それを述べることもあるでしょうけれども,そこに書いていないことを述べることもたくさんあります。   その際,裁判官,裁判長としてはどのような尋ね方をするかということですが,この問題となっている事実関係について,どのような証拠がありますか,その証拠は信用できるでしょうか,信用できるとしたらなぜでしょうか,その証拠から何をどこまで認定できるのでしょうか,認定できた事実にはどのような意味がありますか,そして,それらを総合するとどうなるでしょうかと,このような問い掛けをしていくようにしています。   そして,弁護人の弁論については,検察官の主張に対するカウンターパートとして位置付けて,検察官はこう言っているけれども,そして,我々の認定も今のところそれにかなり近付いているけれども,弁護人が主張している疑問は残らないだろうかと,常識に照らして判断したときに,弁護人が言っているような場面というのも,もしかしたらあるかもしれないねという意見が出てくることもありますし,他方,弁護人の意見を検討してみても,検察官が主張している公訴事実については,我々の常識に従って間違いないと言えると,このような最終的な結論にだんだん意見が集約していくことになります。   したがって,先ほど申し上げたとおり,検察官の主張と弁護人の主張とを比較して,どちらが分かりやすいかという観点で二者択一的に判断するわけではないということになります。   なお,立証責任の説明についてですが,立証責任は検察官が負っているということを,裁判員選任の手続の後にまず1回説明します。それから,私の場合には評議の冒頭,それから議論の中で意見が錯綜してきたときなど,そして,最後に事実認定の結論を決める投票を行うときなど,繰り返し立証責任は検察官が負っていることを説明しているところです。 ○菅野委員 堀江委員から御指摘のあった,論告や弁論のペーパーのボリュームの点についてだけ,実情を御報告します。私自身は,冒頭陳述や弁論では,基本的にはA4,1枚に,そこでお話しすることのエッセンスだけ記載して,骨の部分だけを記載させていただいています。例えば,図とか登場人物の関係性とかを示したいときは,それ以外に,例えばパワーポイントで登場人物図を1枚スライドにしておいて,それを配布するときもございます。ただ,最近の傾向とすると,私は,紙1枚派ではあるのですけれども,重大事件で否認事件などをやっていますと,検察官側から,論告の際に,例えばA3で3枚,みっちり文字が書かれているようなものが配布されたりすることも実際増えておりまして,基本的には,レジュメの形にはなっているのですけれども,ほぼ読み上げ原稿に近い情報量がある事件もあって,そういったケースでは,個々に終わった後にちょっと,これだと書面がボリューム的には多過ぎるのではないかという意見交換がされることも多くございますし,弁護側が逆に従来の読み上げ原稿のようなものを出しているケースもあると聞きますので,私どもとすればやはり,その場で見て聞いて分かるようなエッセンスをどう分かりやすく伝えていくか,そのためのメモの在り方も考えていくべきではないかと研修等では伝えているところでございます。 ○小木曽委員 評議については,裁判所が御苦労されて適切に行われているという印象を受けておりますが,資料1−3のヒアリングにおける発言要旨の8ページ・9ページを見ますと,先ほど御説明のありました量刑データベースについて,前例主義ではないかという意見もありましたので,それについて一言申しますと,これも先ほどの御説明の繰り返しになりますけれども,日本の刑法の量刑の幅は,恐らく比較法的に見てもかなり広いだろうと思うのですね。そうすると,その幅の広い刑の中で個別の事案がどの辺りに位置するのかは,やはりまずは大まかに決めた上で,更に個別の犯情や一般情状を加味して絞り込んでいく作業が必要になるだろうと思います。   世の中に全く同じ量刑事情の事件はないだろうと思いますが,しかし,裁判体によって似たような事件で言い渡される刑が大きく異なるのは,やはり法の下の平等という考え方にも反することになるだろうと思います。同じような事案は同じくらいに処罰するというのは不合理なことではないと思いますし,量刑不当は上訴理由でもありますので,そのツールとしてガイドラインが適切に用いられるのは健全なことなのではないかと考えます。 ○小林委員 私は今日から参加させていただいたので,ヒアリングの内容は聞いていないのですけれども,裁判員経験者ネットワークの方や裁判員裁判が終わった後の記者会見なんかでお話を伺っていますと,評議の進め方や難しい法律用語の説明の仕方,自分がどのように参加できたかについての満足度は非常に高いという印象を受けています。一方で,量刑の決め方については少し疑問を呈される方もいらして,量刑検索システムの使い方が改善できる一つのポイントなのかなと思っています。その点についてもし分かれば教えていただきたいのが,裁判員制度の導入の前後で比較すると,性犯罪で量刑が少し重くなる傾向があったと思うのですけれども,この種の事件の評議の際に量刑検索システムの結果がどのように示され,どのような議論を経て,従来の量刑傾向に縛られない結果が出たのかということです。あとは先ほど,裁判員制度導入から10年たった今,1万5,000件が登録されているというお話がありましたけれども,今の評議では,裁判員制度の導入前との比較というよりは,裁判員時代のみの結果が示されているのでしょうか。もう1点は,量刑検索システムで出た結果そのものがおかしいのではないかというような議論が生じている犯罪類型が,性犯罪以外にもあれば教えていただきたいと思います。つまり,性犯罪だけではなく,時代によってその犯罪に対する世の中の考え方が変わることはあり得るので,公平性の観点は当然大切なことだとは思うのですけれども,検索結果に引っ張られ過ぎると「自分たちの感覚が量刑にどう反映されるのか」という裁判員の方の疑問につながってくるような気もするものですから,その辺りはどのような議論があるのかを教えていただきたいと思います。 ○大澤座長 量刑傾向の変化は,裁判所がおまとめになられたものでしたか。 ○島田委員 最高裁がまとめた資料だと思います。 ○大澤座長 その点についてお答えいただけますか。 ○島田委員 裁判所の方で,もう一回,どのような資料でまとめたのか確認した上で,次回,御説明したいと思います。 ○大澤座長 それでは,そのようにお願いします。2点目はデータベースの資料の範囲ということですかね。これはよろしいですか。 ○島田委員 裁判員裁判が始まった当初は,裁判官だけの裁判で同じ罪名で判決が出たものについてもデータベース化されておりましたが,現在では,裁判員裁判のものだけになっていると私は理解しております。 ○大澤座長 最後の点は,データベースによる検索結果自体が軽過ぎないかとか重過ぎないかということも含めて議論しているのかというお話だったと思いますが,何か御発言いただけることはございますか。 ○島田委員 確かに性犯罪の量刑について,実刑判決を言い渡す場面で徐々に重い刑が言い渡されるようになっていることが,グラフからも読み取ることができます。評議の中で,実際に裁判員から,どうして従来のグラフはこんなに軽いのでしょうかという意見が出ることもあります。そのときに,裁判官としては,先ほど小木曽委員から御指摘があったように,やはり公平性の観点も必要だろうということを御説明して,その範囲内で裁判員・裁判官が議論を尽くした上で,少しずつ重い方向への推移が出てきているのかなと私は思っております。 ○堀江委員 量刑の関係なのですけれども,先ほど小木曽委員がおっしゃったことと同じような意見を持っております。また,量刑検索システムを使う場合,分布のグラフが出てくるということですけれども,幅のあるものが出てくるのでしょうし,その幅の中で,当該裁判体,裁判員を含む裁判体が選択をしていく,さらに,その分布の幅から若干下に,あるいは上にはみ出ることも許されないわけではないと思いますので,そのシステムを使うことが,直ちに前例主義という批判を受けるべきものとは思いません。また,量刑検索システムに検索条件を入力してグラフを得るわけですが,どの量刑因子を認定して,どの因子にどの程度のウエイトを置くかを評議,議論する中で,裁判員固有の考え方とか意識を十分反映させることはできるのだろうと思いますので,そういう意味でも,このシステムを活用して量刑評議を行うことが,前例踏襲主義と批判されるべきものではないと思っております。 ○大澤座長 「評議の充実のための運用上の工夫は適切に行われているか」という点について更に御発言ございますでしょうか。 ○山根委員 質問なのですが,裁判官が法的概念や量刑の在り方等を説明するということなのですけれども,その中に海外の量刑制度の紹介もあるのでしょうか。それは,質問があれば紹介するということになりますでしょうか。 ○島田委員 海外の量刑の実情について説明することは余りないと思っております。もちろん,質問があれば,御説明する場面はあろうと思いますけれども,我々も海外の量刑についてそれほど詳しい知識を持っているわけではありません。不十分な知識のままお話しするのは適当ではないと思います。 ○菅野委員 評議の問題と直接関係するか分からないのですけれども,私どもは評議の中身は見ることができず,その評議の結果は判決書という形でのみ知ることができます。評議では,様々な量刑傾向とかを参照しながら議論を深め,最終的な量刑に至った道筋,エッセンスが判決文に書かれると思うのですけれども,判決を見ていますと,参照した量刑傾向がかなり書いてあるものから,余り書いていないものまで,分かれているように見えます。そうすると,その評議の筋道が,私たちの唯一のヒントである判決文からは余りうかがえない場合もあるように思っていて,その評議の在り方を判決文に反映させる工夫についてどう取り組まれているのか,もし何かお考えのところとかがあればお聞かせいただきたいなと思いました。 ○島田委員 私の考えを申し上げますと,判決書は主文と理由からなっています。そして,有罪判決の場合には,主文で懲役何年という刑罰の重さが言い渡されますので,なぜそういう刑になったのかを量刑の理由の中できちんと説明するのが判決書の機能かなと私自身は思っておりますので,なるべくそのような,今回重視した事情が何なのかということを量刑の理由の中に示す努力をしているところでございます。ただ,御指摘のように,そこがよく分からない判決があるということであれば,また裁判所の内部でも議論して,工夫をしていかなければならないところだろうと思っております。 ○菅野委員 参照した量刑傾向の,例えば検索条件とかまで記載のある判決と,そういったものまでは余りない判決とがあると思うのですが,何か内部で,どういうときは示すとか,どういうときは示さない,みたいなものはあるのでしょうか。 ○島田委員 特にそういう議論をしたことは私自身はないので,分かりませんけれども,仮に検索条件として何を挙げたかが書いていなくても,量刑の理由の中に,我々裁判体はこういった点を重視しましたということが書いてあるのではないでしょうか。 ○菅野委員 もちろん,恐らく犯情と罪となるべき事実は必ず記載されていますので,恐らくこの量刑を参照したであろうということは,私どもも見れば分かるのですけれども,何となく,例えばこの量刑傾向,動機は何々,被害者何名,この傾向を参照したところ,例えば犯情は4年から7年ぐらいに位置するのだけれども,この事件はこういう位置付けだ,みたいに書いてあると,なるほどその評議の経過が非常に分かるなと思うときがあるものですから,何かそういう評議の経過が分かるような判決文の在り方は,今後も是非検討していただきたいなと感じます。 ○島田委員 御意見承りまして,判決書の在り方についてもまた工夫をしていきたいと思っております。 ○武石委員 1点だけ,評議はやはり非常に重要な部分だと思うのですけれども,この運用上の工夫という言葉を聞いていてよく分からないのが,つまり,裁判官の努力に委ねられる部分と,裁判所の制度として,これは最低限やろうねという,何となくガイドライン的なものと,多分レベル感があると思うのです。今の菅野委員とのやり取りもそうなのですが,島田委員のお話を聞いていると,非常に工夫をして丁寧にやっているのは分かるのですが,そうできないというか,しない裁判官がもしいるとしたら,その人たちのミニマムスタンダードみたいなところをやはりきちんと決める必要があって,そのあたりの,要は運用上の工夫と言うときに,裁判官の努力を委ねるという部分を越えた,もう少しきちんとしたスタンダードを作っていくというところが,どこまでできているのかよく分かっていないでの発言なのですが,その辺りが必要なところがあるのかなという印象を持ちました。 ○大澤座長 多分,運用上というのは,法制度上に対して言っているのだと思いますが,その中にも,個々の裁判官に委ねられる部分と,もう少しガイドライン的なものがある部分とがあるのではないかという御指摘なのかもしれませんけれども,何かお答えいただけることはございますでしょうか。 ○島田委員 評議の在り方について,今,裁判所では,裁判官と裁判員が実質的に協働していくためにどのような工夫をしたらよいだろうかということを毎年のように司法研修所の研究会などを通じて議論しているところでございます。そういった議論が個々の裁判官に還元されていくことによって,ある程度共通の土台ができてくればいいのかなと思って,今努力をしているところでございます。 ○武石委員 ありがとうございます。多分,そこが皆さんにきちんと浸透していけばいいのだと思うのですが,それが,研修でいいのかなというのはちょっとよく分かりませんけれども,もう少し踏み込んだやり方も,もしかしたらあるのかもしれないということを感じました。 ○大澤座長 更に御発言ございますでしょうか。   それでは,この評議の部分ですけれども,もう一つ,「有罪を言い渡す場合,特に,死刑を言い渡す場合には,評決要件を加重すべきではないか」という論点が挙がっておりますので,この点について意見交換を行いたいと思います。御意見のある方は,挙手の上,御発言をお願いいたします。 ○石山委員 現行の裁判員の参加する刑事裁判に関する法律第67条第1項では,構成裁判官及び裁判員の双方の意見を含む合議体の員数の過半数の意見によるものと定められており,裁判官と裁判員が責任を分担し,協働して裁判内容を決定するという裁判員制度の趣旨を生かし,同時に公平な裁判を受ける権利を保障する憲法の趣旨にも鑑みて,裁判官又は裁判員のみの多数では判断できないこととされたものであって,適切な定めとなっているものと考えます。裁判員裁判の場合にのみ有罪判決の評決要件が加重されるのは不合理であると思います。また,被告人に不利な判断をする場合にのみ評決要件が加重されるのは不合理であると考えております。 ○菅野委員 石山委員の見解に基本的に実は私も反対ではございません。ただ1点,死刑だけは全員一致というのはあり得るのではないのかなと考えていまして,恐らく実際の事件でも,4対5で分かれて,じゃ,決めますなんていうことはなくて,徹底的に議論して,恐らく実質的には皆さん一致した上で判断されているのであろうと私自身は思っているのです。ただ,やはり死刑だけは,多数決で決めていい重みというのは,やはり,本当に人の命を奪うという究極の刑ですから,恐らく実質的にも皆さん,ほぼ一致でその判断をされたときのみ言い渡されているとは思うのですけれども,制度的にも,そこは全員一致のときに初めてたどり着ける,重大でかつ重い判断なのだというような評決要件の特別扱いはあり得るのではないかなと,私の意見として述べさせていただきました。 ○島田委員 私自身は裁判員裁判で死刑判決を言い渡したことはありませんが,通常の事件を念頭に置いて考えたときに,例えば,実際の評議で有罪か無罪かが真剣に争われているときに,5対4ですぐ結論を出すかというと,そういうことはしないだろうと思っておりますし,実際にやっていません。どういうことかというと,仮に意見を出してもらったときに5対4で意見が分かれていたら,まだ議論が熟していないと考えて,それぞれの立場から,その疑問点や,相手側に対する意見であるとか,こういったことを出してもらって,更に議論を尽くすということになるのだろうと思います。   死刑の選択が問題になる場合にも,やはり今,菅野委員から言われたとおり,死刑が人の生命をはく奪する究極の刑罰であることから,その適用は慎重に行う必要があって,公平性の確保にも十分に留意する必要があります。したがって,死刑の宣告が問題になる場合には,これまでの裁判例の集積から,死刑の選択に当たって考慮すべき要素や,その要素の重みの程度,根拠を十分に検討して,その検討結果を裁判官・裁判員の共通認識として,その上で更に議論をすることが不可欠だろうと思っております。死刑の選択が真にやむを得ないかどうかについては,慎重さと公平性の確保が求められる,こういった観点を踏まえて,裁判体の皆が十分納得できるまで議論を深めた上で結論を出すのだろうと考えております。 ○小木曽委員 私も,実務上の運用として,菅野委員がおっしゃったように,恐らく全員一致に近い形で死刑の判断はされているのではないかと推測しますし,また,この判断はどうしても納得できないというような事案がこれまであれば,また問題であるかもしれませんが,現状,一般の社会の認識と裁判で出た結論が余りにも乖離しているケースはないのではないかと,具体的なその裏付けはありませんが,そのような印象を受けております。   死刑の場合,確かに究極の刑罰なので,その場合は全員一致でというのは考え方としてはあると思うのですが,ただ,制度としてそういうふうにした場合,一人でも反対していると刑罰が決まらないという事態が発生するかもしれないということは,これまでの議論の中でも言われていることでありまして,その辺りをどう考えるかが,なかなか制度設計としては難しいのではないかと考えます。 ○堀江委員 まず,一般論としまして,現行の評決のルールは過半数ですが,ちょっと変則的な過半数になっているわけです。この制度を初めて目にしたときは,ちょっと奇異な感じを抱いたのですけれども,よくよく考えると,一般ルールとして過半数となっている,それを維持しながら,裁判官と裁判員の協働の趣旨を取り入れるものとして,うまく設計されている制度だなと今では思っております。   それから,死刑に関してですが,菅野委員がおっしゃったように,確かに,死刑の重みということから全員一致という考え方も理解できないわけではないのですけれども,その理由として,菅野委員は先ほどおっしゃらなかったとは思うのですが,裁判員の心理的な負担を軽減するために全員一致にすべきだという議論もあるやに聞いております。ただ,それはちょっと違うかなという気がしています。むしろ,各々の裁判員・裁判官の責任と負担において判断するということに尽きるのではないかと。   また,他方で,負担軽減という観点からしてみても,全員一致にすると全員の意見が分かってしまう,これはかつての検討会でも指摘されていたことかと思いますが,こういう問題も生じる。いずれにしましても,死刑に関して全員一致とすることについては,個人的にはなお躊躇を覚えるところでございます。 ○大澤座長 ほかにいかがでしょうか。   それでは,検討事項「4 評議・評決の在り方」に関し,その他の事項について御意見のある方がございましたら,挙手の上,御発言をお願いしたいと存じます。いかがでしょうか。   評議・評決の在り方については,この段階ではこの程度でよろしゅうございますでしょうか。   では,検討事項「4 評議・評決の在り方」についての意見交換はこの程度にさせていただきます。 本日は,若干時間を残しておりますが,切りのよいところで,ここまでにさせていただきまして,「5 上訴審の在り方」以降につきましては,次回にさせていただきたいと存じます。   それでは,最後になりますけれども,事務当局から次回の日程について連絡をお願いいたします。 ○鈴木刑事法制企画官 次回,第13回会合の日程等につきましては,今後,事務当局を通じて早急に皆様に御案内申し上げることとさせていただきたいと思います。 ○大澤座長 それでは,本日はこれにて閉会といたします。どうもありがとうございました。 −了−